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特表2023-526233抗GLP1Rアンタゴニスト抗体およびその使用方法
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  • 特表-抗GLP1Rアンタゴニスト抗体およびその使用方法 図1
  • 特表-抗GLP1Rアンタゴニスト抗体およびその使用方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】抗GLP1Rアンタゴニスト抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230614BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P3/08
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568744
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 US2021031694
(87)【国際公開番号】W WO2021231366
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/023,307
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハルカ・オカモト
(72)【発明者】
【氏名】ジー・エイチ・キム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA20
4B064CC24
4B064DA07
4B065AA92X
4B065AB05
4B065AC14
4B065BA08
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC05
4C085DD63
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA27
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP1R)タンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、およびその使用方法に関する。種々の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GLP1Rに結合する完全ヒト抗体である。ある実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GLP1R活性の減衰に有用であり、これにより、ヒトにおけるGLP1Rに関連する疾患、障害または状態を処置、予防、または緩和する手段を提供する。ある実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、対象に投与される際にグルコースレベルを上昇させ、それによって、膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌を減衰させ、インスリン発現を低下させることによって、肥満手術後低血糖症(PBH)などの低血糖症を処置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP1R)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、GLP1R活性を減衰させ、血液グルコースレベルを上昇させる、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
抗体が:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b)表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて測定される、25℃において6nM未満の解離定数(K)でヒトGLP1Rに結合する;
(c)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において20nM未満のKでヒトGLP1Rに結合する;
(d)SPRアッセイにおいて測定される、25℃において20nM未満のKで単量体カニクイザルGLP1Rに結合する;
(e)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において60nM未満のKで単量体カニクイザルGLP1Rに結合する;
(f)SPRアッセイにおいて測定される、25℃において22nM未満のKで単量体マウスGLP1Rに結合する;
(g) SPRアッセイにおいて測定される、37℃において75nM未満のKで単量体マウスGLP1Rに結合する;
(h)インビトロ受容体/リガンド結合アッセイにおいて測定される、37℃において約10nM未満のIC50値でGLP1とGLP1Rの相互作用を遮断する;
(i)高血糖症を引き起こすことなく、GLP1誘導性低血糖症を軽減する;および
(j)血液グルコースを正常化レベルまで上昇させ、高血糖症を引き起こすことなく、上昇したレベルを最大2カ月間維持する
からなる群より選択される1つまたはそれ以上の特性を有する、請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項3】
抗体が完全ヒトモノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
IgG1またはIgG4アイソタイプを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
重鎖可変領域(HCVR)内に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3);および軽鎖可変領域(LCVR)内に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み:
該HCVRが:
(i)配列番号2、22、または40のアミノ酸配列;
(ii)配列番号2、22、または40のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(iii)配列番号2、22、または40のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iv)12以下のアミノ酸置換を有する配列番号2、22、または40のアミノ酸配列を含み;
該LCVRが;
(i)配列番号10、30、または48のアミノ酸配列;
(ii)配列番号10、30、または48のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(iii)配列番号10、30、または48のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iv)12以下のアミノ酸置換を有する配列番号10、30、または48のアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
配列番号2/10、22/30、および40/48からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
(a)HCDR1が、配列番号4、24、または42のアミノ酸配列を含み;
(b)HCDR2が、配列番号6、26、または44のアミノ酸配列を含み;
(c)HCDR3が、配列番号8、28、または46のアミノ酸配列を含み;
(d)LCDR1が、配列番号12、32、または50のアミノ酸配列を含み;
(e)LCDR2が、配列番号14または52のアミノ酸配列を含み;
(f)LCDR3が、配列番号16、34、または54のアミノ酸配列を含む、
請求項5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
配列番号4/6/8/12/14/16、24/26/28/32/14/34、または42/44/46/50/52/54のアミノ酸配列を含むHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含み、該HCが配列番号18、36および56からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
HCおよびLCを含み、該LCが配列番号20、38および58からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
HCおよびLCを含み、該HCが配列番号18、36および56からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;該LCが配列番号20、38および58からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
配列番号18/20、36/38または56/58のアミノ酸配列を含むHC/LCを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントとGLP1Rへの結合について競合する、単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントと同一のエピトープに結合する、単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のGLP1Rに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメント、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体のHCVRおよび/またはLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項17】
請求項16に記載のポリヌクレオチド分子を含む、単離されたベクター。
【請求項18】
請求項17に記載のベクターを発現する単離された宿主細胞。
【請求項19】
請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む第1のベクター、および請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む第2のベクターを発現する、請求項18に記載の単離された宿主細胞。
【請求項20】
抗GLP1Rアンタゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを産生する方法であって、請求項18または19に記載の宿主細胞を、抗体またはフラグメントの産生を可能にする条件下で培養すること、こうして産生された抗体またはフラグメントを回収することを含む前記方法。
【請求項21】
抗体またはその抗原結合フラグメントを、許容される担体を含む医薬組成物として製剤化することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
GLP1R関連疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を処置、予防または改善する方法であって、治療上有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む前記方法。
【請求項23】
GLP1R関連疾患または障害が低血糖症である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
低血糖症が、肥満手術後低血糖症である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
医薬組成物が、上腹部手術後に対象に投与される、請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
医薬組成物が、それを必要とする対象に予防的または治療的に投与される、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
医薬組成物が、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または筋肉内投与される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
血液グルコースレベルを上昇させる方法であって、治療上有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載の抗GLP1Rアンタゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを、それを必要とする対象に投与することを含む前記方法。
【請求項29】
対象がGLP1R関連疾患または障害を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
GLP1R関連疾患または障害が低血糖症である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
低血糖症が、肥満治手術後低血糖症である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合フラグメントが、上腹部手術後に対象に投与される、請求項28~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
抗体またはその抗原結合フラグメントが、それを必要とする対象に予防的または治療的に投与される、請求項28~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
抗体またはその抗原結合フラグメントが、皮下、静脈内、皮内、腹腔内または筋肉内投与される、請求項28~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
対象の血液グルコースレベルを正常化レベルまで上昇させる、請求項28~34のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP1R)に特異的に結合するアンタゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメント、ならびに低血糖症の処置を含むその治療的使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満手術は、重度の肥満の患者にとって代表的な有効な処置選択肢である。毎年、米国のみで約44,000件の胃バイパス手術および138,000件の胃切除術が行われる。肥満手術後の減量に成功すると、多くの場合、インスリン感受性が改善される。グルカゴン様ペプチド1(GLP1)のレベル上昇を伴うインスリン感受性の改善により、手術を受けた患者の一部で食後高インスリン血症が誘発される。低血糖症は、一般的に、症状発現時に血漿グルコースレベルが低く、グルコースレベルが上昇すると症状が緩和されることが特徴である。肥満手術後低血糖症(PBH)は、食後1~3時間後に発症する食後低血糖症が特徴である。GLP1は、食物の摂取に反応して分泌され、膵臓のベータ細胞上のGLP1受容体(GLP1R)を活性化し、インスリン分泌を誘導する。したがって、GLP1の増加は、PBHの発症において重要な役割を果たしている。肥満手術の数が世界的に増加し続けるにつれ、重度の合併症-高インスリン血性低血糖症の報告が増加している。例えば、症候性低血糖症は、胃バイパスの0.2~15%および胃切除術を受けた患者の1~7%において手術後0.5~10年で発症すると報告されている。非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6。
【0003】
GLP1は、PBHにおいて重要な役割を果たすのは、手術によって、GLP1産生L細胞が局在する小腸への食物の通過が速くなるためにGLP1の増加がもたらされるためである。一般的にGLP1の増加は、肥満患者の術後体重減少を補助する一方、低血糖症の症状、例えばアドレナリン作動性効果(例えば、振戦、動悸、不安)、コリン作動性効果(例えば、発汗、空腹、知覚異常)、および神経低糖症効果(例えば、認知障害、けいれん、および意識喪失)が特に手術後に顕著な体重喪失を達成する患者においても生じ得る。低血糖症が再発した患者は、神経低糖症の突然な発症を経験することがあり、これは、重篤な転倒、自動車事故、発作および意識喪失を引き起こす可能性がある。重度のPBHは衰弱性であり、QOLを著しく低下させる。現在、PBHの処置選択肢としては、食事の改善、アカルボース(デンプン消化遮断薬)、ソマトスタチンアナログ、ニフェジピン(Caチャネル遮断薬)、ジアゾキシド、および胃瘻管の設置が挙げられる。非特許文献7。病的肥満の割合の増加は、肥満手術の合併症としてPBH症例が増加することを示している。
【0004】
他の障害、疾患、および状態もまた、低血漿グルコースレベルにつながる可能性がある。例えば、ダンピング症候群は、上腹部(例えば、肥満学、食道または胃)の手術の高頻度の合併症であり、ここでGLP1が主要な役割を果たすと思われる。ダンピング症候群は、肥満手術患者(Roux-en-Yバイパス、またはスリーブ胃切除術)の最大40%、食道癌の処置のために食道切除術を受けた患者の最大50%、および胃癌および消化性潰瘍の処置のために胃切除術を受けた患者の最大75%において生じると推定される。ダンピング症候群の診断は、術後数カ月から数年経ってから行われることがある。炭水化物接種後のGLP1による高インスリン血症反応により、低血糖症関連症状、例えば神経低糖症(疲労、脱力、錯乱、空腹、および失神)および自律神経/アドレナリン反応性(発汗、動悸、振戦、および過敏性)が引き起こされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kelloggら,Surg Obes Relat Dis.,4(4):492-99(2008年)
【非特許文献2】Marskら、Diabetologia、53(11):2307-11(2010年)
【非特許文献3】Nambronら、WMJ、112(3):136(2013年)
【非特許文献4】Leeら、Obesity(Silver Spring),23(5):1079-84(2015年)
【非特許文献5】Gribsholtら、Ugeskr Laeger,178(44)(2016年)
【非特許文献6】Sunら,Surg Obes Relat Dis., 15(9):1439-1446(2019年)。
【非特許文献7】Eisenbergら、Surg Obes Relat Dis., 13(3):371-378(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PBHを含む低血糖症は、広範囲の重症度で起こり得る。QOLは、重症の低血糖症によって大きく影響され、そのため、罹患した患者を一人にしたり、自分自身や他の人の輸送または世話をすることができない。PBHまたは重度の低血糖症に対する、長時間作用し、高血糖症を引き起こさない、承認された、または有効な薬物療法はなく、外科的介入は、低血糖症の回復に普遍的な成功を収めていない。その結果、血液グルコースレベルを効果的に上昇させ、そのため、PBHを含む任意の起源の低血糖症に対する有用な処置として作用する治療剤に対するニーズは非常に高く、満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP1R)タンパク質に特異的に結合する抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、GLP1R抗体は、高親和性でGLP1Rに結合し、GLP1Rの結合および/または活性を遮断するか、または活性化コンフォメーションを不安定化させる完全ヒト抗体である。本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントは、とりわけ、GLP1Rタンパク質の不活性化または活性を低下させるために有用である。ある種の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、対象におけるGLP1R関連疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を予防、処置または改善するのに有用である。ある種の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、予防的または治療的に、GLP1R関連疾患または障害、例えば、PBHまたは任意の起源の他の種類の低血糖症を有する、または有する危険性のある対象に投与することができる。特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、それを必要とする対象においてグルコースレベルを上昇させるために使用される。そのような抗体またはその抗原結合フラグメントは、それを必要とする対象に投与された際に、任意の起源の低血糖症(例えば、肥満後低血糖症または食道切除術、胃癌および消化性潰瘍などのための胃切除術などの他の上腹部手術、または遺伝子異常などの固有の病因に起因する低血糖症)などの障害の療法として使用し得る。ある実施形態において、本開示のGLP1アンタゴニスト抗体または抗原結合フラグメントは、他の療法、例えば、Exendin(9-39)(Avexitide、Eiger BioPharmaceuticals)と比較して、半減期が長く免疫原性が低下している。ある実施形態において、本明細書に開示される抗体または抗原結合フラグメントは、GLP1Rに高親和性で結合し、標準治療薬剤と比較して改善された薬物動態学的特性を有する。
【0008】
本明細書に開示される抗体および抗原結合フラグメントは、GLP1Rにアンタゴニスト様式で、すなわち、GLP1Rの結合および/または活性を減衰させるか、または予防または遮断する様式で、特異的に結合する。この抗体は、それを必要とする対象に投与された場合、血液グルコースレベルを上昇させ、正常化レベルを維持する上で有効である。本開示の抗体の単回投与は、マウスにおいて46日間持続的に正常化された血液グルコースレベルをもたらした。このような抗体は、GLP1R関連疾患または障害(例えば、低血糖症)を有する対象に、より少ない投与頻度で優れた有効性を提供するために使用され得る。
【0009】
本開示の抗体は、全長(例えば、lgG1またはlgG4抗体)であっても、または抗原結合性部分のみ(例えば、Fab、F(ab’)2、またはscFvフラグメント)を含んでいてもよく、機能性に影響を与えるように、例えば宿主において残留性を上昇させるか、または残存するエフェクター機能を除去するために改変されてもよい(Reddyら、2000年、J.lmmunol.164:1925-1933)。ある種の実施形態において、抗体は二重特異性であってもよい。
【0010】
一態様において、本開示は、GLP1Rに特異的に結合する単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0011】
ある実施形態において、抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である。
【0012】
本開示のGLP1Rアンタゴニストは、とりわけ、GLP1Rの活性化を低下させるのに有用である。ある実施形態において、GLP1Rアンタゴニストは、インスリン分泌を減少させ、血液グルコースレベルを低下させることによって機能する。ある実施形態において、GLP1Rアンタゴニストは、膵臓ベータ細胞からのグルコース誘導性インスリン分泌を減衰させ、インスリンの発現を減少させることによって機能する。ある種の実施形態において、GLP1Rアンタゴニストは、対象における低血糖症関連疾患または障害(例えば、PBH)の少なくとも1つの症状を予防、治療または改善する上で有用である。
【0013】
ある実施形態において、開示される抗GLP1Rアンタゴニスト抗体および抗原結合フラグメントは、実施例5に示されるように、単回投与後45日にわたって、エクセンジン-4誘導性低血糖症を実質的にまたは完全に矯正する。
【0014】
本開示の例示的なGLP1Rアンタゴニスト抗体を、本明細書の表1および表2に記載する。表1に、典型的な抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR)(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)のアミノ酸配列識別名を記載する。表2に、典型的な抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の核酸配列識別名を記載する。
【0015】
本開示は、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0016】
本開示はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0017】
本開示はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかと対形成される表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む、HCVRとLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。特定の実施形態によると、本開示は、抗体、またはその抗原結合フラグメントであって、表1に記載する例示的な抗GLP1R抗体のいずれかに含まれるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/10(例えば、mAb36986)、22/30(例えば、mAb37639)、および40/48(例えば、mAb37645)の1つから選択される。
【0018】
本開示はまた、HCVRおよびLCVRを含む抗体、またはその抗原結合フラグメントであって、前記HCVRが、12以下のアミノ酸置換を有する表1に記載のアミノ酸配列を含む、および/または、前記LCVRが、10以下のアミノ酸置換を有する表1に記載のアミノ酸配列を含む、抗体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、本開示は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記HCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12のアミノ酸置換を有する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。他の例では、本開示は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記LCVRが、表1に記載のアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のアミノ酸置換を有する、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。一実施形態において、本開示は、HCVRおよびLCVRを含む、抗GLP1R抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記HCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、および/または、前記LCVRが、表1に記載のアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0019】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR1アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0020】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR2アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0021】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0022】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR1アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0023】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR2アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0024】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0025】
本開示はまた、表1に記載されたLCDR1アミノ酸配列のいずれかと対になった、表1に記載のHCDR1アミノ酸配列のいずれかを含む、HCDR1およびLCDR1アミノ酸配列対(HCDR1/LCDR1)を含む、抗体、または抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施形態によれば、本開示は、表1に記載の例示的な抗GLP1R抗体のいずれかに含まれるHCDR1/LCDR1アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HCDR1/LCDR1アミノ酸配列対は、配列番号4/12(例えば、mAb36986)、24/32(例えば、mAb37639)、および42/50(例えば、mAb37645)からなる群より選択される。
【0026】
本開示はまた、表1に記載のLCDR2アミノ酸配列のいずれかと対になった、表1に記載のHCDR2アミノ酸配列のいずれかを含むHCDR2およびLCDR2アミノ酸配列対(HCDR2/LCDR2)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施形態によれば、本開示は、表1に記載の例示的な抗GLP1 R抗体のいずれかに含まれるHCDR2/LCDR2アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HCDR2/LCDR2アミノ酸配列対は、配列番号6/14(例えば、mAb36986)、26/14(例えば、mAb37639)、および44/52(例えば、mAb37645)からなる群より選択される。
【0027】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対形成される表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含む、HCDR3とLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある種の実施形態によると、本開示は、表1に挙げられる典型的な抗GLP1R抗体のいずれかに含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号8/16(例えば、mAb36986)、28/34(例えば、mAb37639)、および46/54(例えば、mAb37645)からなる群より選択される。
【0028】
本開示はまた、HCVRおよびLCVを含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記HCVRが、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR1、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR2、および表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0029】
ある種の実施形態において、本開示は、HCVRおよびLCVRを含む抗体、またはその抗原結合フラグメントであって、前記LCVRが、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR1、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR2、および表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸異なるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、抗体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0030】
本開示はまた、表3に記載のHCアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似した配列のいずれかから選択されるアミノ酸を含む重鎖(HC)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0031】
本開示はまた、表3に記載のLCアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似した配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0032】
本開示はまた、表3に記載のLCアミノ酸配列のいずれかと対になった表3に記載のHCアミノ酸配列のいずれかを含むHCおよびLCアミノ酸配列対(HC/LC)を含む、抗体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。特定の実施形態によれば、本発明は、表3に記載の例示的な抗GLP1R抗体のいずれかに含まれるHC/LCアミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HC/LCアミノ酸配列対は、配列番号18/20、36/38および56/58からなる群より選択されるHC/LCアミノ酸配列対である。
【0033】
本開示はまた、表1に挙げられる典型的な抗体のいずれかに含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある種の実施形態において、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号4/6/8/12/14/16(例えば、mAb36986)、24/26/28/32/14/34(例えば、mAb37639)、および42-44-46-50-52-54(例えば、mAb37645)からなる群より選択される。関連する実施形態において、本開示は、表1に挙げられる典型的な抗体のいずれかにより定義される、HCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、本開示は、配列番号2/10(例えば、mAb36986)、22/30(例えば、mAb37639)、および40/48(例えば、mAb37645)からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有されるHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列セットを含む抗体またはその抗原/結合フラグメントを含む。
【0034】
HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定する方法および技術は、当該技術分野において周知であり、これを用いて、本明細書において開示される特定されたHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定することができる。CDRの境界を同定するために用いられる典型的な慣例は、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義を含む。一般的な用語において、Kabat定義は配列可変性に基づき、Chothia定義は、構造上のループ領域の位置に基づき、AbM定義は、KabatとChothiaのアプローチの間で妥協したものである。例えば、Kabat、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991年);Al-Lazikaniら、J.Mol.Biol.273:927~948頁(1997年);およびMartinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9268~9272(1989年)を参照。公的データベースも、抗体内のCDR配列を同定するために利用可能である。
【0035】
ある種の実施形態において、本開示は、GLP1Rに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで、その抗体または抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)内に含有されるそのフラグメントは、3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および軽鎖可変領域(LCVR)内に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含み、ここで、HCVRは、(i)配列番号2、22、および40からなる群より選択されるアミノ酸配列;(ii)配列番号2、22、および40からなる群より選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号2、22、および40からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または(iv)配列番号2、22、および40からなる群より選択されるアミノ酸配列であって、12以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み;LCVRが:(i)配列番号10、30、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列;(ii)配列番号10、30、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号10、30、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または(iv)配列番号10、30、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列であって、12以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。
【0036】
本開示は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗GLP1R抗体を含む。ある実施形態において、不所望なグリコシル化部位を取り除くための修飾が有用であるか、またはフコース部分を欠く抗体は、オリゴ糖鎖上に示して、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)機能が増大される(Shieldら(2002年)JBC277:26733頁を参照)。他の適用において、ガラクトシル化という修飾は、補体依存性細胞傷害(CDC)を修飾するために成される。
【0037】
ある種の実施形態において、本開示は、GLP1Rに対するpH依存的な結合を示す抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。例えば、本開示は、酸性pHにおいてより、中性pHにおいてGLP1Rとより高い親和性で結合する(すなわち、酸性pHでは結合が減少する)抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。
【0038】
本開示はまた、GLP1Rへの特異的結合について、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントと競合する抗体ならびにその抗原結合フラグメントも提供し、ここで、HCVRおよびLCVRそれぞれは、表1に挙げられるHCVRおよびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0039】
本開示はまた、GLP1Rへの結合について、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む参照抗体またはその抗原結合フラグメントと交差競合する抗体ならびにその抗原結合フラグメントも提供し、ここで、HCVRおよびLCVRそれぞれは、表1に挙げられるHCVRおよびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0040】
本開示はまた、HCVRの3つのCDRおよびLCVRの3つのCDRを含み、ここで、HCVRおよびLCVRが、それぞれ表1に記載のHCVRおよびLCVRの配列から選択されるアミノ酸配列を有する、参照抗体またはその抗原結合フラグメントと同一のエピトープに結合する、抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。
【0041】
本開示はまた、GLP1RのGLP1への結合を減少または不安定化させる、抗体および抗原結合フラグメントを提供する。ある実施形態において、GLP1へのGLP1R結合を遮断する抗体またはその抗原結合フラグメントは、GLP1と同一のGLP1R上のエピトープに結合するか、もしくはGLP1と異なるGLP1R上のエピトープに結合し得る。
【0042】
ある種の実施形態において、本開示の抗体または抗原結合フラグメントは、GLP1Rの第1のエピトープに対する第1の結合特異性、およびGLP1Rの第2のエピトープに対する第2の結合特異性を含む二重特異性であり、第1および第2のエピトープは別個であり、オーバーラップしない。
【0043】
ある種の実施形態において、本開示は、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;(b)表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて測定される、25℃において6nM未満の解離定数(K)でヒトGLP1Rに結合し;(c)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において20nM未満のKでヒトGLP1Rに結合し;(d)SPRアッセイにおいて測定される、25℃において20nM未満のKで単量体カニクイザルGLP1Rに結合し;(e)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において60nM未満のKで単量体カニクイザルGLP1Rに結合し;(f)SPRアッセイにおいて測定される、25℃において18nM未満のKでhdesA-GLP1_GLP1R-MMHに1結合し;(g)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において75nM未満のKでhdesA-GLP1_GLP1R-MMHに結合し;(h)SPRアッセイにおいて測定される、25℃において22nM未満のKで単量体マウスGLP1R単量体に結合し;(i)SPRアッセイにおいて測定される、37℃において75nM未満のKで単量体マウスGLP1R単量体に結合し;(j)インビトロ受容体/リガンド結合アッセイにおいて測定される、37℃において約10nM未満のIC50値でGLP1とGLP1Rの相互作用を遮断し;(k)高血糖症を引き起こすことなく、GLP1誘導性の低血糖症を軽減し;および(l)血液グルコースを正常化レベルまで上昇させる。
【0044】
他の態様において、本開示は、抗GLP1R抗体またはそのフラグメントをコードする核酸分子を提供する。例えば、本開示は、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。本開示はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0045】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR1核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0046】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR2核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0047】
本開示はまた、表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR3核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0048】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR1核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0049】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR2核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0050】
本開示はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR3核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0051】
本開示はまた、HCVRをコードする核酸分子も提供し、ここで、HCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、ここで、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に挙げられる典型的な抗体のいずれかにより定義される通りである。
【0052】
本開示はまた、LCVRをコードする核酸分子も提供し、ここで、LCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、ここで、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に挙げられる典型的な抗体のいずれかにより定義される通りである。
【0053】
本開示はまた、HCVRおよびLCVR両方をコードする核酸分子も提供し、ここで、HCVRは、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、ここで、LCVRは、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列、および表2に挙げられるLCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。この態様によるある種の実施形態において、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、ここで、HCVRおよびLCVRはいずれも、表1に挙げられる同一の抗GLP1R抗体に由来する。
【0054】
本開示は、表3に挙げられる重鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。本発明はまた、表3に挙げられる軽鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供する。本発明はまた、重鎖(HC)および軽鎖(LC)の両方をコードする核酸分子を提供し、ここで、HCは表3に記載のHCアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCは表3に記載のLCアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。
【0055】
関連する態様において、本開示は、抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現する能力を有する組換え発現ベクターを提供する。例えば、本開示は、上述の核酸分子、すなわち、表2に記載のHCVR、LCVR、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む組換え発現ベクターを含む。ある種の実施形態において、本開示は:(a)GLP1Rに結合する抗体のHCVRをコードする核酸配列を含む核酸分子であって、HCVRが、表1に記載の配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む核酸分子;および/または(b)GLP1Rに結合する抗体のLCVRをコードする核酸配列を含む核酸分子であって、HCVRが、表1に記載の配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、核酸分子を含む発現ベクターを提供する。また、このようなベクターが導入された宿主細胞、ならびに、抗体または抗体フラグメントの産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養し、こうして産生された抗体および抗体フラグメントを回収することによって、抗体またはその一部を産生する方法も本開示の範囲に含まれる。ある種の実施形態において、宿主細胞は、哺乳類細胞または原核細胞を含む。ある種の実施形態において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または大腸菌(Escherichia coli(E.coli))細胞である。ある種の実施形態において、本開示は、抗体またはその抗原結合フラグメントを産生する方法を提供する。本方法は、宿主細胞に、プロモーターに作動可能に連結された本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントのHCVRおよび/またはLCVRをコードする核酸配列を含む発現ベクターを導入すること;核酸配列の発現に好ましい条件下で宿主細胞を培養すること;および培養培地および/または宿主細胞から抗体またはその抗原結合フラグメントを単離することを含む。ある種の実施形態において、本方法は、宿主細胞(例えば、CHO細胞)に(a)プロモーターに作動可能に連結された本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントのHCVRをコードする核酸配列を含む第1の発現ベクター、および(b)プロモーターに作動可能に連結された本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントのLCVRをコードする核酸配列を含む第2の発現ベクターを導入すること;宿主細胞を、核酸配列の発現に好ましい条件下で培養すること;および培養培地および/または宿主細胞から、抗体またはその抗原結合フラグメントを単離することを含む。単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、従来技術で公知の方法のいずれかを用いて精製することができる。
【0056】
他の態様において、本開示は、治療上有効量の、GLP1Rと特異的に結合する少なくとも1つの組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。関連する態様において、本開示は、抗GLP1R抗体と第2の治療剤との組合せである組成物を特徴とする。一実施形態において、第2の治療剤は、抗GLP1R抗体-例えば、インスリンまたはインスリン受容体阻害剤、デンプン消化阻害剤(例えば、アカルボース)、ソマトスタチンアナログ(例えば、オクトレオチド、ランレオチド)、カルシウムチャネル阻害剤(例えば、ニフェジピン)、ジアゾキシド、グルカゴン、ソマトスタチン受容体5型アゴニスト、またはその組合せ、と好都合に組み合わせられる任意の剤である。抗GLP1R抗体と好都合に組み合わせ得る例示的な薬剤としては、限定されないが、GLP1Rに結合および/またはGLP1R活性を不活性化する他の剤(他の抗体またはその抗原結合フラグメント等を含む)および/またはGLP1Rと直接結合しないが、それにも関わらずGLP1R関連疾患または障害(本明細書の他の箇所において開示される)の少なくとも1つの症状または徴候を処置または改善する剤が挙げられる。本開示の抗GLP1Rアンタゴニスト抗体を含む追加の組合せ療法および共製剤は、本明細書中の他の場所に開示される。
【0057】
また、本明細書において提供されるのは、抗GLP1Rアンタゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを用いる、対象のGLP1Rに関連する疾患または障害を処置するための処置方法であって、治療上有効量の、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法である。処置される障害は、GLP1R活性の減衰によって改良、改善、阻害または予防される任意の疾患または状態(例えば、低血糖症)である。ある種の実施形態において、本開示は、GLP1R関連疾患または障害を予防または処置する方法であって、治療上有効量の、本明細書に開示される抗GLP1R抗体またはその抗原結合フラグメントを、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。ある実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GLP1R関連疾患または障害を有する、または有する危険性のある対象に、予防的または治療的に投与することができる。ある種の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、上腹部手術後に対象に投与される。ある種の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、第2の治療剤と組み合わせて、それを必要とする対象に投与される。ある種の実施形態において、第2の治療剤は、本明細書に開示する抗体またはその抗原結合フラグメントに関連する任意の可能な副作用を、そのような副作用が生じる場合、打ち消すかまたは軽減するのに役立つ剤であってもよい。抗体またはそのフラグメントは、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、経口、または筋肉内投与することができる。抗体またはそのフラグメントは、対象の体重の約0.1mg/kg~体重の約100mg/kgの用量で投与することができる。ある種の実施形態において、本開示の抗体またはそのフラグメントは、10mg~600mgを含む、1つまたはそれ以上の用量で投与されてもよい。
【0058】
本開示はまた、本開示の抗GLP1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、GLP1Rの結合および/または活性の遮断から利益を受けるであろう疾患または障害-低血糖症、例えばPBHを処置するための医薬の製造における使用を含む。
【0059】
他の実施形態は、以下の詳細な説明の検討から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本明細書の実施例5に明記されるin vivo試験で記載されるように、抗体投与後1、8、22、46、および67日目に実施した、Exendin-4チャレンジ中の血液グルコースレベル(mg/dL)を示すグラフである。
図2】本明細書の実施例6に記載されるように、Exendin-4でのチャレンジ時の本開示の抗GLP1R抗体またはExendin-9で処理されたマウスにおける血液グルコースレベルの曲線下面積(AUC)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本開示は、記載された特定の方法および実験条件に限定されず、そのような方法および条件は変化し得ることは理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためのみであることも理解されるべきであり、本開示の範囲は、添付の請求項によってのみ制限され、制限であることは意図されない。別段定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本開示が属する当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書において記載されるものと類似または均等な任意の方法および材料は、本開示の実施または試験において用いられるが、好ましい方法および材料がここで記載される。本明細書において述べられる全ての刊行物は、全体として参照によって本明細書に組み入れられる。
【0062】
定義
用語「GLP1R」は、グルカゴン様ペプチド1受容体を指し、組換えGLP1Rタンパク質またはそのフラグメントを含む。GLP1Rは、463残基の配列を有する。Donnelly, Br J Pharmacol, 166(1):27-41 (2011)。グルカゴン様ペプチド1(GLP1)は、栄養摂取に伴い腸管L細胞から放出される31アミノ酸のペプチドホルモンである。GLP1のGLP1Rへの結合により、グルコース誘導性の膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌が促進され、インスリンの発現が増加し、ベータ細胞のアポトーシスを阻害し、ベータ細胞の新生を促進し、グルカゴン分泌を減少させ、胃排出を遅延させ、満腹感の促進、および末梢でのグルコース排出を増加させる。
【0063】
本明細書において用いられる用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互結合された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合フラグメントを指すことが意図される。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)、ならびに重鎖定常領域(ドメインC1、C2、およびC3を含む)を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「V」)、および軽鎖定常領域(C)を含む。VおよびV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存される領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、高頻度可変性の領域にさらに細分される。それぞれのVならびにVは、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置された、3つのCDRおよび4つのFRを含む。ある種の実施形態において、抗体(もしくはその抗原結合フラグメント)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であるか、または天然または人工的に修飾される。アミノ酸連続配列は、2つまたはそれ以上のCDRの隣り合った解析に基づき定義される。
【0064】
1つもしくはそれ以上のCDR残基の置換、または1つもしくはそれ以上のCDRの除外も可能である。1つまたは2つのCDRを省いても結合する抗体が、科学文献において記載されている。Padlanら(1995年FASEB J.9:133~139頁)は、公開された結晶構造に基づき、抗体とその抗原の間の接触領域を解析し、CDR残基の約5分の1~3分の1のみが抗原と実際に接触すると結論付けた。Padlanはまた、1つまたは2つのCDRが、抗原と接触したアミノ酸を有していない、多くの抗体を見出した(Vajdosら2002年J Mol Biol320:415~428頁も参照)。
【0065】
抗原と接触しないCDR残基は、従前の研究において、ChothiaCDRの外側にあるKabatCDRの領域から、分子モデリングにより、および/または実験的に同定される。CDRまたはその残基が除外されるなら、それは、別のヒト抗体配列または共通のかかる配列における対応する位置を占めるアミノ酸で通常置換される。置換するためのCDRおよびアミノ酸内の置換のための位置はまた、実験的に選択される。実験的置換は、保存的または非保存的置換である。
【0066】
本明細書において開示される完全ヒト抗GLP1Rモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠損を含む。かかる変異は、本明細書において開示されるアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することにより、容易に確かめられる。本開示は、本明細書において開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合フラグメントを含み、ここで、1つもしくはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1個またはそれ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基に、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異される(かかる配列変更は、本明細書において「生殖系列変異」としてまとめて言及される)。当業者は、本明細書において開示される重鎖および軽鎖可変領域配列から出発して、1つもしくはそれ以上の個々の生殖系列変異またはその組合せを含む、多数の抗体および抗原結合フラグメントを容易に作り出す。ある種の実施形態において、Vおよび/またはVドメイン内のフレームワークならびに/またはCDR残基の全てを変異させて、抗体が由来する元の生殖系列配列において見出される残基に戻す。他の実施形態において、ある種の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内で見出される変異した残基、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内で見出される変異した残基のみを変異させて、元の本来の生殖系列配列に戻す。他の実施形態において、フレームワークおよび/またはCDR残基の1つまたはそれ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列と異なる、生殖系列配列)の対応する残基に変異される。さらに、本開示の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内の2つもしくはそれ以上の生殖系列変異の任意の組合せを含有し、例えば、ここで、ある種の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異され、一方、元の生殖系列配列と異なるある種の他の残基は、維持されるか、もしくは異なる生殖系列配列の対応する残基に変異される。一旦得られると、1つまたはそれ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合フラグメントは、結合特異性の好転、結合親和性の増大、アンタゴニスト生物学的特性の好転または増強、免疫原性の低減などのような1つまたはそれ以上の所望の特性について容易に試験される。この一般的な方法において得られる抗体および抗原結合フラグメントは、本開示に包含される。
【0067】
本開示はまた、1つもしくはそれ以上の保存的置換を有する、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む完全ヒト抗GLP1Rモノクローナル抗体も含む。例えば、本開示は、例えば、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、および/もしくはCDRアミノ酸配列のいずれかに関連する10もしくはそれ以下、8つもしくはそれ以下、6つもしくはそれ以下、4つもしくはそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有する、HCVR、LCVR、ならびに/またはCDRアミノ酸配列を有する抗GLP1R抗体を含む。
【0068】
本明細書で使用される用語「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本明細書において開示されるヒトmAbは、例えば、CDR、特に、CDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでの無作為もしくは部位特異的変異誘発、またはインビボでの体細胞変異により導入される変異)を含む。しかしながら、本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列が、ヒトFR配列に移植されている、mAbを含むことは意図されない。用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え的に産生される抗体を含む。用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生じた抗体を含むことは意図されない。
【0069】
本明細書において用いられる用語「組換え体」は、例えば、DNAスプライシングおよび遺伝子導入発現を含む、組換えDNA技術として当該技術分野において公知の技術もしくは方法により、作製されるか、発現されるか、単離されるか、もしくは得られる、抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。用語は、非ヒト哺乳類(遺伝子導入非ヒト哺乳類、例えば、遺伝子導入マウスを含む)、もしくは細胞(例えば、CHO細胞)発現系において発現されるか、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体を指す。
【0070】
用語「特異的に結合する」、または「に特異的に結合する」などは、抗体もしくはその抗原結合フラグメントが、生理的条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-8Mまたはそれ以下の平衡解離定数により特徴付けられる(例えば、Kが小さいほど、より強固な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定する方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書において記載される通り、抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)により同定され、GLP1Rに特異的に結合する。さらに、GLP1Rにおける1つのドメイン、および1つもしくはそれ以上のさらなる抗原に結合する多特異性抗体、またはGLP1Rの2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書において用いられる「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0071】
用語「高い親和性」抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)または溶液親和性ELISAにより測定される、少なくとも10-8M;好ましくは、10-9M;より好ましくは、10-10M、なおより好ましくは、10-11MのKとして表される、GLP1Rに対する結合親和性を有するそのmAbを指す。
【0072】
用語「スローオフレート」、「Koff」、または「kd」は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)により決定される、1×10-3-1もしくはそれ以下、好ましくは、1×10-4-1もしくはそれ以下の速度定数でGLP1Rから解離する抗体を意味する。
【0073】
本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、任意の天然に生じる、酵素的に得られる、合成された、または遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合フラグメント」、または「抗体フラグメント」は、GLP1Rタンパク質に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上のフラグメントを指す。
【0074】
特定の実施形態において、本開示の抗体または抗体フラグメントは、リガンドのような部分、または第2の抗GLP1R抗体、もしくはGLP1Rに関連する疾患もしくは障害を処置するのに有用な任意の他の治療部分のような治療部分(「免疫複合体」)に結合する。
【0075】
本明細書において用いられる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)が実質的にない抗体(例えば、GLP1Rに特異的に結合する、単離された抗体またはそのフラグメントは、GLP1R以外の抗原に特異的に結合するAbが実質的にない)を指すことが意図される。
【0076】
本明細書で使用される「ブロッキング抗体」または「アンタゴニスト抗体」(または「GLP1R活性を減少または減衰させる抗体」または「活性化コンフォメーションを不安定化させる抗体」)は、GLP1Rへの結合が、GLP1Rの少なくとも1つの生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すことを意図している。例えば、本開示の抗体は、それを必要とする対象への投与時にグルコースレベルを上昇させることができる。
【0077】
本明細書において用いられる用語「表面プラズモン共鳴」は、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden and Piscataway、N.J.)を用いた、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出による、リアルタイムの生体分子相互作用の解析を可能にする光学現象を指す。
【0078】
本明細書において用いられる用語「K」は、特定の抗体と抗原の相互作用の平衡解離定数を指すことが意図される。
【0079】
用語「エピトープ」は、パラトープとしても公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する、抗原決定因子を指す。単一の抗原は、1つより多くのエピトープを有する。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる範囲に結合し、異なる生物学的作用を有する。用語「エピトープ」はまた、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。それはまた、抗体により結合される抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的として定義される。機能的エピトープは、一般に構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接的に関与するその残基を有する。エピトープはまた立体構造でもあり、すなわち、非直線状のアミノ酸を含む。ある種の実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、リン酸基、またはスルホニル基のような分子の化学的に活性な表面基である決定因子を含み、ある種の実施形態において、特異的な3次元の構造的特徴、および/または特異的な変更特徴を有する。
【0080】
本明細書において用いられる、用語「交差競合する」は、抗体もしくはその抗原結合フラグメントが、抗原に結合し、別の抗体もしくはその抗原結合フラグメントの結合を阻害するか、または遮断することを意味する。用語はまた、方向の両方、すなわち、第2の抗体に結合し、第2の抗体の結合を遮断する第1の抗体、および逆も真なり、における2つの抗体間の競合も含む。ある種の実施形態において、第1および第2の抗体は、同一のエピトープに結合する。あるいは、第1および第2の抗体は、異なるがオーバーラップするエピトープに結合することで、1つの結合が、第2の抗体の結合を、例えば立体障害を介して阻害するか、または遮断するようになる。抗体間の交差競合は、当該技術分野において公知の方法により、例えば、リアルタイム、ラベルフリーバイオレイヤーインターフェロメトリーアッセイにより測定される。2つの抗体間の交差競合は、自己と自己の結合(ここで、第1および第2の抗体は同一の抗体である)に起因するバックグラウンドシグナル未満である、第2の抗体の結合として表される。2つの抗体間の交差競合は、例えば、ベースラインの自己と自己のバックグラウンド結合(ここで、第1および第2の抗体は同一の抗体である)未満である第2の抗体の%結合として表される。
【0081】
核酸もしくはそのフラグメントに言及している場合、用語「実質的な同一性」または「実質的に同一の」は、適切なヌクレオチド挿入または欠損を伴うかたちで別の核酸(もしくはその相補鎖)と最適に整列されると、以下で考察される通り、FASTA、BLAST、またはGAPのような、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムにより測定される、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド塩基のヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。参照核酸分子に対する実質的な同一性を有する核酸分子は、ある種の例において、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同一または実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0082】
ポリペプチドに適用される場合、用語「実質的な類似性」または「実質的に類似の」は、2つのペプチド配列が、例えば、デフォルトギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITにより、最適に整列されると、少なくとも90%の配列同一性、なおより好ましくは、少なくとも95%、98%、または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、残基位置は、同一でなく、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれ以上のアミノ酸配列が、保存的置換により互いに異なる場合において、類似性の割合または程度は、置換の保存的性質を補正するよう上方調節される。この調節を成す手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994年)Methods Mol.Biol.24:307~331頁を参照。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例は、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン、およびスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギン、およびグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩、ならびに7)硫黄含有側鎖:システイン、およびメチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸塩-アスパラギン酸塩、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnetら(1992年)Science256:1443~45頁において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度の保存的」置換は、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0083】
ポリペプチドについての配列類似性は、配列解析ソフトウェアを用いて典型的に測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む、様々な置換、欠損、および他の修飾に割り当てられる類似性の測定を用いて、類似の配列を一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、生物の異なる種由来の相同な諸ポリペプチドの間、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間のような、密接に関連するポリペプチド間の配列相同性または配列同一性を決定するためのデフォルトパラメーターで用いられるGAPおよびBESTFITのようなプログラムを含む。例えば、GCG Version 6.1を参照。ポリペプチド配列はまた、デフォルトまたは推奨パラメーターを用いたFASTA;GCG Version 6.1におけるプログラムを用いても比較される。FASTA(例えば、FASTA2、およびFASTA3)は、クエリーと検索配列の間の最適オーバーラップの領域の整列化およびパーセント配列同一性をもたらす(上記、Pearson(2000年))。本開示の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する上での別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを用いた、コンピュータープログラムBLAST、特に、BLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschulら(1990年)J.Mol.Biol.215:403~410頁、および(1997年)Nucleic Acids Res.25:3389~3402頁を参照。
【0084】
語句「治療上有効量」によって、投与されるものに所望の作用を作り出す量が意味される。抽出量は、処置の目的に依存し、公知の技術(例えば、Lloyd(1999年)The Art、Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照)を用いて当業者により解明可能だろう。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、のGLP1R関連疾患または障害、例えば低血糖症の改善、予防および/または処置を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置すること」または「処置」は、本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントなどの治療剤を、それを必要とする対象に投与することによる、GLP1R関連疾患または障害(例えば低血糖症)の少なくとも1つの症状または徴候の重症度の軽減または改善を指す。この用語は、疾患の進行の阻害、または症状/徴候の悪化の阻害を含む。この用語はまた、疾患のポジティブな予後を含んでいてもよく、すなわち、対象は、本開示の抗体などの治療剤の投与時に、疾患から解放されるか、または疾患が軽減されてもよい。治療剤は、対象に治療的用量で投与されてもよい。
【0087】
用語「予防する」、「予防すること」または「予防」は、本開示の抗体の投与時の、GLP1R関連疾患もしくは障害(例えば、低血糖症)発現または、そのような疾患もしくは障害(例えば、低グルコースレベル)の任意の症状または徴候の阻害を指す。
【0088】
抗体の抗原結合フラグメント
別段具体的に示されない限り、本明細書において用いられる用語「抗体」は、2つの免疫グロブリン重鎖、および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその抗原結合フラグメントを包含することは理解されるだろう。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、任意の天然に生じる、酵素的に得られる、合成された、または遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドもしくは糖タンパク質を含む。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合フラグメント」、または「抗体フラグメント」は、GLP1Rタンパク質に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上のフラグメントを指す。抗体フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、CDRを含有するフラグメント、または単離されたCDRを含む。ある種の実施形態において、用語「抗原結合フラグメント」は、多特異性抗原結合分子のポリペプチドフラグメントを指す。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、タンパク質消化、または抗体可変および(場合により)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技術のような任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から得ることができる。かかるDNAは公知であり、および/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成される。DNAは、配列決定され、化学的に、または分子生物学技術を用いることにより操作されて、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常ドメインが適切な配置に配置されるか、またはコドンが導入されるか、システイン残基が作製されるか、アミノ酸が修飾されるか、付加されるか、もしくは欠損される。
【0089】
抗原結合フラグメントの非限定的な例は:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)1本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドのような単離された相補決定領域(CDR))、または限定されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを含む。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメインが欠損した抗体、キメラ抗体、CDRが移植された抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、ミニボディ、ナノボディ(例えば、1価のナノボディ、2価のナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインのような他の操作された分子もまた、本明細書において用いられる、表現「抗原結合フラグメント」に包含される。
【0090】
抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの可変ドメインを典型的に含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であり、少なくとも1つのCDRを一般的に含み、1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列に隣接されるか、もしくはインフレームである。Vドメインと繋がったVドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VおよびVドメインは、任意の適切な配置で相対的に位置する。例えば、可変領域は、二量体であり、V-V、V-V、またはV-V二量体を含有する。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VまたはVドメインを含有する。
【0091】
ある種の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有する。本開示の抗体の抗原結合フラグメント内で見出される可変および定常ドメインの非限定的な典型的配置は:(i)V-C1;(ii)V-C2;(iii)V-C3;(iv)V-C1-C2;(v)V-C1-C2-C3;(vi)V-C2-C3;(vii)V-C;(viii)V-C1;(ix)V-C2;(x)V-C3;(xi)V-C1-C2;(xii)V-C1-C2-C3;(xiii)V-C2-C3;および(xiv)V-Cを含む。上で挙げられる典型的な配置のいずれかを含む、可変および定常ドメインの任意の配置において、可変ならびに定常ドメインは、互いに直接的に結合されるか、または完全もしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域により結合されるか、のいずれかである。ヒンジ領域は、少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個もしくはそれ以上)のアミノ酸からなり、単一のポリペプチド分子における隣接する可変および/または定常ドメイン間の可動性または半可動性の結合をもたらす。さらに、本開示の抗体の抗原結合フラグメントは、(例えば、ジスルフィド結合による)互いにおよび/もしくは1つもしくはそれ以上の単量体VもしくはVドメインと非共有結合的に会合した、上で挙げられた可変ならびに定常ドメイン配置のいずれかのホモ-二量体またはヘテロ-二量体(もしくは他の多量体)を含む。
【0092】
全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単特異性または多特異性(例えば、二重特異性)である。抗体の多特異性抗原結合フラグメントは、少なくとも2つの異なる可変ドメインを典型的には含み、ここで、それぞれの可変ドメインは、別々の抗原、または同一抗原上の異なるエピトープに特異的に結合する能力がある。本明細書において開示される典型的な二重特異性抗体フォーマットを含む、任意の多特異性抗体フォーマットは、当該技術分野において利用可能な慣例的技術を用いて、本開示の抗体の抗原結合フラグメントの文脈において使用するために適合される。
【0093】
ヒト抗体の調製
遺伝子導入マウスにおいてヒト抗体を作製する方法は、当該分野で公知である。任意のかかる公知の方法を、本開示の文脈において用いて、GLP1Rに特異的に結合するヒト抗体が作られる。
【0094】
次のいずれか1つを含む免疫原を用いて、GLP1Rタンパク質に対する抗体を作製する。ある種の実施形態において、本明細書において開示される抗体は、全長の天然GLP1Rタンパク質、またはタンパク質もしくはそのフラグメントをコードするDNAで免疫されたマウスから得られる。あるいは、タンパク質またはそのフラグメントは、標準的な生化学的技術を用いて産生されて改変され、免疫原として使用し得る。ある実施形態において、免疫原は、大腸菌またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの他の任意の真核生物または哺乳動物細胞で発現させた組換えGLP1Rタンパク質またはそのフラグメントであってもよい。
【0095】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標))、またはモノクローナル抗体を作製する任意の他の公知の方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、GLP1Rに対する高親和性キメラ抗体が、まず単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが、抗原刺激に応答して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域部位に作動可能に結合したヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有する遺伝子導入マウスの作製に関与する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に結合される。次に、DNAは、完全ヒト抗体を発現する能力がある細胞において発現される。
【0096】
一般に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは、目的の抗原を負荷され、リンパ系細胞(例えば、B細胞)が、抗体を発現するマウスから回収される。リンパ系細胞は、ミエローマ細胞株と融合されて、不死のハイブリドーマ細胞株を調製し、かかるハイブリドーマ細胞株が、目的の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するためにスクリーニングされ、選択される。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、重鎖および軽鎖の所望のアイソタイプの定常領域に結合される。かかる抗体タンパク質は、CHO細胞のような細胞において産生される。あるいは、抗原特異的キメラ抗体、または軽および重鎖の可変ドメインをコードするDNAが、抗原特異的リンパ球から直接単離される。
【0097】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、高い親和性のキメラ抗体が単離される。以下の実験のセクションにあるように、抗体は、特徴付けられ、親和性、選択性、エピトープなどを含む、所望の特徴について選択される。マウス定常領域を、所望のヒト定常領域で置き換えて、本開示の完全なヒト抗体、例えば、野生型、または修飾されたIgG1もしくはIgG4を作製する。選択された定常領域が、特定の使用に従い変動する一方、高い親和性の抗原結合および標的特異性特徴は、可変領域に存在する。
【0098】
生物学的等価物
本開示の抗GLP1Rアンタゴニスト抗体および抗体フラグメントは、記載された抗体とは異なるアミノ酸配列を有するが、GLP1Rタンパク質に結合する能力を維持するタンパク質を包含する。かかる変異体抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較された場合、アミノ酸の1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載される抗体のものと実質的に等価物である生物学的活性を示す。同様に、本開示のDNA配列をコードする抗体は、開示される配列と比較された場合、ヌクレオチドの1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本明細書において開示される抗体または抗体フラグメントに実質的な生物学的等価物である抗体または抗体フラグメントをコードする配列を含む。
【0099】
2つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば、吸収の速度および程度が、類似の実験条件下で同一のモル用量、単回用量もしくは複数回用量いずれかで投与される場合、有意な相違を示さない医薬等価物もしくは医薬代替物であるなら、生物学的等価物とみなされる。ある抗体は、その吸収の程度において等価物であるが、その吸収の速度において等価物でないなら、等価物または医薬代替物とみなされ、かかる吸収の速度における相違が意図的であり、標識において反映され、例えば、慢性的使用の際の有効な身体薬物濃度の到達に必須ではなく、研究される特定の薬物製品にとって医薬的に有意でないとみなされるので、生物学的等価物であると依然みなされる。
【0100】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質の安全性、純度、または有効性において臨床上有意義な相違はないなら、2つの抗原結合タンパク質は生物学的等価物である。
【0101】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、患者が、切り替えることなく継続される療法と比較して、免疫原性における臨床上有意な変化、もしくは損なわれた効能を含む副作用のリスクの増大を予期せずに、参照産物と生物学的産物の間で1回またはそれ以上切り替えられるなら、生物学的等価物である。
【0102】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、それら両方が、使用の条件もしくは複数の条件についての作用の通常のメカニズムまたは複数のメカニズムにより、かかるメカニズムが公知である限り、作用するなら、生物学的等価物である。
【0103】
生物学的等価物は、インビボおよび/またはインビトロの方法により実証される。生物学的等価物の測定は、例えば、(a)抗体もしくはその代謝産物の濃度が、血液、血漿、血清、もしくは他の生物学的体液において時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティデータと相関し、それを十分に予測するインビトロ試験;(c)抗体(もしくはその標的)の適切な急性薬理作用が、時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;および(d)抗体の安全性、効能(efficacy)、もしくはバイオアベイラビリティもしくは生物学的均等性を確立する、十分に制御された臨床試験、を含む。
【0104】
本明細書において開示される抗体の生物学的等価物変異体は、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を成すこと、または生物学的活性のため必要とされない末端もしくは内部残基もしくは配列を欠損させることにより、構築される。例えば、生物学的活性に必須でないシステイン残基は、欠損されるか、または他のアミノ酸で置換されて、再生の際に不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成が防止される。他の文脈において、生物学的等価物抗体は、アミノ酸変更を含む抗体変異体を含み、抗体のグリコシル化特徴、例えば、グリコシル化を除去するか、または取り除く変異を修飾する。
【0105】
抗体の生物学的特徴
一般的に、本開示の抗体は、GLP1Rタンパク質に結合し、その活性を低下させることによって機能する。例えば、本開示は、例えば、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によって測定される、20nM未満のKで(例えば、25℃または37℃において)単量体ヒトGLP1Rタンパク質に結合する、抗体および抗体の抗原結合フラグメントを含む。ある種の実施形態において、これらの抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によってまたは実質的に同様のアッセイによって測定される、GLP1Rに、約20nM未満、約18nM未満、約10nM未満、約7nM未満、約6nM未満、約5nM未満、約約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでGLP1Rに結合する。
【0106】
本開示はまた、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によって測定される、単量体カニクイザルGLP1Rに(例えば、25℃または37℃で)、60nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。ある種の実施形態において、これらの抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によってまたは実質的に同様のアッセイによって測定される、約60nM未満、約20nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでGLP1Rに結合する。
【0107】
本開示はまた、例えば本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によって測定される、hdesA-GLP1_GLP1R-MMHに(例えば、25℃または37℃で)75nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合フラグメントも含む。ある種の実施形態において、これらの抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によってまたは実質的に同様のアッセイによって測定される、25℃または37℃において、約75nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約40nM未満、約20nM未満、または約5nMのKで、GLP1Rに結合する。
【0108】
本開示はまた、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によって測定される、単量体マウスGLP1Rに(例えば、25℃または37℃で)、約75nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合フラグメントも含む。ある種の実施形態において、これらの抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書の実施例3で定義されるようなアッセイ形式を使用した、表面プラズモン共鳴によってまたは実質的に同様のアッセイによって測定される、25℃または37℃において、約75nM未満、約50nM未満、約30nM未満、約20nM未満、または約11nM未満のKでGLP1Rに結合する。
【0109】
本開示はまた、本明細書の実施例4に記載するように、37℃におけるインビトロ受容体/リガンド結合アッセイ測定において約10nM未満のIC50値でGLP1とGLP1Rとの相互作用を遮断する、抗体および抗原結合フラグメントも含む。ある種の実施形態において、これらの抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書の実施例4に記載するように、37℃でのインビトロ受容体/リガンド結合アッセイまたは実質的に類似のアッセイにおいて測定される場合、約10nM未満、約7nM未満、または約2nM未満のIC50値でGLP1とGLP1Rの相互作用を遮断する。
【0110】
本開示はまた、例えば本明細書の実施例5または6に示されるように、それを必要とする対象に投与された際に、GLP1Rに結合し、血液グルコースレベルを上昇させ、高血糖症を引き起こすことなくGLP1誘導性低血糖症を軽減する抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。ある実施形態において、本明細書に開示される抗体および抗体の抗原結合フラグメントは、血液グルコースを正常化レベルまで上昇させる。ある実施形態において、本明細書に開示される抗体および抗体の抗原結合フラグメントは、血液グルコースを55mg/dL未満の開始レベルから正常化レベル(例えば、70mg/dL超)に上昇させる。そのような実施形態では、血液グルコースを正常化レベルまで上昇させても、高血糖を引き起こすことはない。
【0111】
本開示の抗体は、1つまたはそれ以上の前述の生物学的特性、またはその任意の組合せを有することができる。本開示の抗体の他の生物学的特性は、当技術分野の当業者であれば、本明細書の実施例を含む本開示の検討から、明らかであろう。
【0112】
エピトープマッピングおよび関連技術
本開示は、GLP1Rタンパク質分子の1つまたはそれ以上の領域内に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用する、抗GLP1Rアンタゴニスト抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。抗体が結合するエピトープは、GLP1Rタンパク質分子の前述のドメインのいずれかに位置する、3個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個もしくはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなる(例えば、ドメインにおける直線エピトープ)。あるいは、エピトープは、タンパク質分子の前述のドメインのいずれかまたは両方に位置する、多数の非連続アミノ酸(もしくはアミノ酸配列)からなる(例えば、立体構造エピトープ)。
【0113】
当業者に公知の種々の技術を用いて、抗体が、ポリペプチドもしくはタンパク質内の「1個またはそれ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかが決定される。典型的な技術は、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY)において記載されるもののような、慣例的交差-遮断アッセイを含む。他の方法は、アラニンスキャンニング変異解析、ペプチドブロット解析(Reineke(2004年)Methods Mol. Biol.248:443~63頁)、ペプチド切断解析結晶研究、およびNMR解析を含む。加えて、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、および化学修飾のような方法が利用される(Tomer(2000年)Prot.Sci.9:487~496頁)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いられる別の方法は、質量分析により検出される水素/ジュウテリウム交換である。一般的な用語において、水素/ジュウテリウム交換方法は、目的のタンパク質をジュウテリウム標識すること、続いて、抗体をジュウテリウムで標識されたタンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体は水に移され、抗体複合体により保護されるアミノ酸内の交換可能なプロトンは、接触面の一部でないアミノ酸内の交換可能なプロトンより遅い速度でジュウテリウムから水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体接触面の部分を形成するアミノ酸は、ジュウテリウムを保持し、それ故、接触面に含まれないアミノ酸と比較して、比較的大きな質量を示す。抗体の解離後、標的タンパク質は、タンパク質分解酵素切断および質量分析の対象とされ、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応するジュウテリウムで標識された残基が明らかにされる。例えば、Ehring(1999年)Analytical Biochemistry267:252~259頁;EngenおよびSmith(2001年)Anal.Chem.73:256A~265A頁を参照。
【0114】
用語「エピトープ」は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、タンパク質の3次フォールディングにより並べて置かれた連続アミノ酸または不連続アミノ酸両方から形成される。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、変性溶媒への曝露の際に典型的に保持され、他方、3次フォールディングにより形成されるエピトープは、変性溶媒での処理の際に典型的に失われる。エピトープは、固有の空間立体構造において少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を典型的に含む。
【0115】
抗原構造ベースの抗体プロファイリング(ASAP)としても公知の修飾補助プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面へのそれぞれの抗体の結合プロファイルの類似性により、同一の抗原に対して向けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(US2004/0101920、参照によって全体として本明細書に組み入れられる)。それぞれのカテゴリーは、別のカテゴリーにより表されるエピトープと明らかに異なるか、または部分的に重複するいずれかの固有のエピトープを反映する。この技術は、特徴が、遺伝子学的に明確な抗体に焦点を当てられるように、遺伝子学的に一致する抗体の迅速な選別を可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する稀なハイブリドーマクローンの同定を促進する。MAPを用いて、本開示の抗体は異なるエピトープに結合する抗体の群に分類される。
【0116】
ある種の実施形態において、本開示は、GLP1Rの細胞外ドメイン内に見出される1つまたはそれ以上のエピトープと相互作用する、抗GLP1R抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。エピトープは、GLP1Rの細胞外ドメイン内に見出される、3またはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上)のアミノ酸の1つまたはそれ以上の連続した配列からなっていてもよい。あるいは、エピトープは、GLP1Rの細胞外ドメイン内に位置する複数の非連続的アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなっていてもよい。
【0117】
本開示は、表1において挙げられる特異的な代表的な抗体のいずれかと同一のエピトープ、またはエピトープの部分に結合する抗GLP1R抗体を含む。同様に、本開示はまた、GLP1Rタンパク質またはそのフラグメントへの結合について、表1において挙げられる特異的な代表的な抗体のいずれかと競合する抗GLP1R抗体も含む。例えば、本開示は、GLP1Rタンパク質への結合について、表1において挙げられる抗体の1つまたはそれ以上と交差競合する抗GLP1R抗体を含む。
【0118】
当該技術分野において公知の慣例的方法を用いることにより、抗体が、参照抗GLP1R抗体と同一のエピトープに結合するか、または結合について参照抗GLP1R抗体と競合するかどうかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が、本開示の参照抗GLP1R抗体と同一のエピトープに結合するかを決定するために、参照抗体を飽和条件下でGLP1Rタンパク質またはペプチドに結合させることを可能にする。次に、GLP1Rタンパク質分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体は、参照抗GLP1R抗体との飽和結合後にGLP1Rに結合することができるなら、試験抗体は、参照抗GLP1R抗体より異なるエピトープに結合すると結論付けられる。他方、試験抗体は、参照抗GLP1R抗体との飽和結合後にGLP1Rタンパク質に結合することができないなら、次に、試験抗体は、本開示の参照抗GLP1R抗体により結合されるエピトープと同一のエピトープに結合する。
【0119】
抗体が、結合について参照抗GLP1R抗体と競合するかを決定するために、上で記載された結合方法論は、2つの方針で行われる。第1の方針において、参照抗体を、飽和条件下でGLP1Rタンパク質に結合させることを可能にし、続いて、試験抗体のGLP1R分子への結合が評価される。第2の方針において、試験抗体を、飽和条件下でGLP1R分子に結合させることを可能にし、続いて、参照抗体のGLP1R分子への結合が評価される。両方の方針において、第1の(飽和)抗体のみが、GLP1R分子に結合する能力があるなら、次に、試験抗体と参照抗体は、GLP1Rへの結合について競合すると結論付けられる。当業者により理解される通り、結合について参照抗体と競合する抗体は、参照抗体と一致するエピトープに必ずしも結合しないが、重複または隣接するエピトープに結合することにより、参照抗体の結合を立体的に遮断する。
【0120】
2つの抗体は、それぞれが、他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)するなら、同一または重複するエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰の一方の抗体が、他方の結合を、競合的結合アッセイにおいて測定される、少なくとも50%だが、好ましくは、75%、90%、もしくは99%でさえ阻害する(例えば、Junghansら、Cancer Res.1990年50:1495~1502頁を参照)。あるいは、一方の抗体の結合を低減するか、もしくは除去する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の結合を低減するか、または除去するなら、2つの抗体は同一のエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減するか、もしくは除去する、いくつかのアミノ酸変異が、他方の結合を低減するか、または除去するなら、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0121】
次に、さらなる慣習的実験(例えば、ペプチド変異、および結合解析)を行い、試験抗体の結合の観察された欠如が、事実上、参照抗体と同一のエピトープへの結合に起因するかどうか、または立体的遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如に関与するかが確認される。この選別の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当該技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて行われる。
【0122】
ある種の実施形態において、本開示は、GLP1Rタンパク質に特異的に結合する、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、水素/重水素交換により決定される、GLP1Rの細胞外ドメイン内に含まれる1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用し、そしてGLP1Rに結合し、不活性化する、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0123】
イムノコンジュゲート
本開示は、GLP1R関連疾患または障害(例えば、低血糖症)を処置するための、治療部分にコンジュゲートさせたヒト抗GLP1Rモノクローナル抗体(「イムノコンジュゲート」)を包含する。本明細書において用いられる用語「免疫複合体」は、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質、もしくは治療剤に化学的または生物学的に結合される抗体を指す。抗体は、その標的に結合することができる限り、分子に沿った任意の位置において、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチド、または治療剤に結合される。免疫複合体の例は、抗体薬物複合体、および抗体と毒素の融合タンパク質を含む。1つの実施形態において、剤は、GLP1Rタンパク質に対する第2の異なる抗体である。抗GLP1R抗体に結合される治療部分のタイプは、処置されるべき条件、および達成されるべき所望の治療効果を考慮する。免疫複合体を形成させるのに適切な剤の例は、当該分野で公知であり、例えば、WO05/103081を参照。
【0124】
多特異性抗体
本開示の抗体は、単特異性、二重特異性、または多特異性である。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であるか、または1つより多くの標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有する。例えば、Tuttら、1991年、J.Immunol.147:60~69頁;Kuferら、2004年、Trends Biotechnol.22:238~244頁を参照。
【0125】
本開示の多特異性抗原結合分子のいずれか、またはその変異体は、当業者に公知であろう、標準的分子生物学的技術(例えば、組換えDNA、およびタンパク質発現技術)を用いて構築される。
【0126】
ある実施形態において、GLP1R特異的アンタゴニスト抗体は、GLP1Rタンパク質の別個のドメインに結合する可変領域が、単一の結合分子内に二重-ドメイン特異性を付与するよう一緒に結合される、二重特異性フォーマット(「二重特異性」)で作製する。適切には、設計された二重特異性は、特異性および結合活性両方の増大を通じて、全体的なGLP1Rタンパク質阻害性効能を増強する。個々のドメイン(例えば、N末端のドメインのセグメント)についての特異性を有する、または1つのドメイン内の異なる領域に結合する可変領域は、それぞれの領域が、別個のエピトープ、または1つのドメイン内の異なる領域に同時に結合することを可能にする、構造スキャフォールド上で対形成される。二重特異性についての1つの例において、1つのドメインについての特異性を有する結合剤由来の重鎖可変領域(V)を、第2のドメインについての特異性を有する、一連の結合剤由来の軽鎖可変領域(V)と再度組み合わせて、そのVについての元の特異性を壊すことなく、元のVと対形成させる、非同族Vパートナーが同定される。この方法において、単一のVセグメント(例えば、V1)は、2つの異なるVドメイン(例えば、V1、およびV2)と組み合わされて、2つの結合「アーム」(V1-V1、およびV2-V1)を含む二重特異性を生じる。単一のVセグメントの使用は、システムの複雑さを低減し、これにより、単純化し、二重特異性を生じるために用いられるクローニング、発現、および精製方法における効率を増大させる。例えば、US2011/0195454、およびUS2010/0331527を参照。
【0127】
あるいは、1つより多くのドメイン、および非限定的に、例えば、第2の異なる抗GLP1R抗体のような第2の標的に結合する抗体は、本明細書において記載される技術、または当業者に公知の他の技術を用いて、二重特異性フォーマットで調製される。別個の領域に結合する抗体可変領域を、例えば、GLP1Rの細胞外ドメイン上の関連部位に結合する可変領域と一緒に結合させて、単一の結合分子内の二重-抗原特異性が確かにされる。適切には、この性質の設計された二重特異性は、二重機能を果たす。細胞外ドメインについての特異性を有する可変領域は、細胞外ドメインの外側についての特異性を有する可変領域と組み合わされ、それぞれの可変領域が、別の抗原に結合することを可能にする、構造スキャフォールド上で対形成される。
【0128】
本開示の文脈において用いられる典型的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)C3ドメイン、および第2のIg C3ドメインの使用を含み、ここで、第1および第2のIg C3ドメインは、少なくとも1個のアミノ酸により互いに異なり、ここで、少なくとも1個のアミノ酸相違が、アミノ酸相違を欠く二重特異性抗体と比較して、タンパク質Aへの二重特異性抗体の結合を低減する。1つの実施形態において、第1のIg C3ドメインは、タンパク質Aに結合し、第2のIg C3ドメインは、H95R修飾(IMGTエキソンナンバリングによる;EUナンバリングによりH435R)のようなタンパク質A結合を低減するか、または消失させる、変異を含有する。第2のC3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによりY436F)をさらに含む。第2のC3内で見出されるさらなる修飾は:IgG1抗体の場合において、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、D356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合において、N44S、K52N、ならびにV82I(IMGT;EUにより、N384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合において、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、Q355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)を含む。上で記載された二重特異性抗体フォーマットにおけるバリエーションは、本開示の範囲内であると考えられる。
【0129】
本開示の文脈において用いられる他の典型的な二重特異性フォーマットは、限定されることなく、例えば、scFv-ベースもしくは二重特異性抗体二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ、knobs-into-holes、共通軽鎖(例えば、knobs-into-holesを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)body、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、ならびにMab二重特異性フォーマットを含む(例えば、前述のフォーマットの説明のため、Kleinら、2012年、mAbs4:6、1~11頁、およびそこで引用される参考文献を参照)。二重特異性抗体はまた、ペプチド/核酸結合を用いても構築され、例えば、ここで、直交性化学反応性(orthogonal chemical reactivity)を有する非天然のアミノ酸を用いて、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチド結合を生じ、次に、規定された組成、原子価、および幾何学を有する多量体複合体に自己アセンブルする。例えば、Kazaneら、J.Am.Chem.Soc.[Epub:2012年12月4日]を参照。
【0130】
治療投与および製剤
本開示は、本開示のGLP1Rアンタゴニスト抗体またはその抗原結合フラグメントを含む治療用組成物を提供する。治療組成物は、本開示に従い、輸送、デリバリー、寛容の好転などをもたらすよう製剤に取り込まれる、適切な担体、賦形剤、および他の剤と共に投与される。多数の適切な製剤は、全ての医薬化学者に公知の処方書:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAにおいて見出される。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ジェル、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオンまたは陰イオン)含有ベシクル(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ジェル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物を含む。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998年)J Pharm Sci Technol52:238~311頁も参照。
【0131】
抗体またはその抗原結合フラグメントの用量は、投与される対象の年齢および体格、対象疾患、条件、投与経路等によって異なり得る。本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントが、成人患者において疾患もしくは障害を処置するために、またはかかる疾患の予防のため用いられる場合、本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントを、通常、体重1kg当たり約0.1~約100mgの単回用量で投与することが有利である。状態の重症度に依存して、処置の頻度および持続時間は調節される。ある種の実施形態において、本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントは、少なくとも約0.1mg~約800mg、約1~約600mg、約5~約500mg、または約10~約400mgの開始用量として投与される。ある種の実施形態において、開始用量に続き、開始用量のものとおよそ同一であるか、またはそれ未満である量における第2または多数の続く用量の抗体またはその抗原結合フラグメントが投与され、ここで、続く用量は、少なくとも1日~3日;少なくとも1週;少なくとも2週;少なくとも3週;少なくとも4週;少なくとも5週;少なくとも6週;少なくとも7週;少なくとも8週;少なくとも9週;少なくとも10週;少なくとも12週;または少なくとも14週により隔てられる。
【0132】
種々のデリバリーシステムが公知であり、これを用いて、本開示の医薬組成物、例えば、リポソームにおけるカプセル封入、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現する能力がある組換え細胞、受容体により仲介されるエンドサイトーシスが投与される(例えば、Wuら(1987年)J.Biol.Chem.262:4429~4432頁を参照)。導入の方法は、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路を含むが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路により、例えば、注入もしくはボーラス注射により、上皮もしくは皮膚粘膜裏層(例えば、経口粘膜、直腸、および腸粘膜など)を通じた吸収により、投与され、他の生物学的に活性な剤と一緒に投与される。投与は全身または局所である。医薬組成物はまた、ベシクル、特に、リポソームにおいてもデリバリーされる(例えば、Langer(1990年)Science249:1527~1533頁を参照)。
【0133】
本開示の抗体およびその抗原結合フラグメントをデリバリーするためのナノ粒子の使用も本明細書において考えられる。抗体結合ナノ粒子は、治療上および診断上の適用両方のため用いられる。抗体結合ナノ粒子、ならびに調製および使用方法は、Arrueboら、2009年「Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications」J. Nanomat、2009巻、論文番号439389、24頁により詳細に記載される。ナノ粒子が開発され、細胞を標的化するための医薬組成物において含有される抗体に結合される。薬物デリバリー用ナノ粒子はまた、例えば、US8257740、またはUS8246995においても記載される。
【0134】
ある種の状況において、医薬組成物は、制御放出システムにおいてデリバリーされる。1つの実施形態において、ポンプが用いられる。別の実施形態において、ポリマー材料が用いられる。なお別の実施形態において、制御放出システムは、組成物の標的の近くに置かれ、したがって、少量の全身性用量のみが必要とされる。
【0135】
注射可能な調製物は、静脈内、皮下、頭蓋内、腹腔内および筋内注射用形態、点滴注入用形態などを含む。これらの注射可能な調製物は、公的に公知の方法により調製される。
【0136】
本開示の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジで皮下または静脈内にデリバリーされる。加えて、皮下デリバリーに関して、ペンデリバリー装置は、本開示の医薬組成物のデリバリーにおいて容易に適用される。かかるペンデリバリー装置は、再利用可能であるか、または使い捨てである。再利用可能なペンデリバリー装置は、医薬組成物を含有する置換可能なカートリッジを一般に利用する。カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与されると、カートリッジは空になり、空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新しいカートリッジで置き換えられる。次に、ペンデリバリー装置は再利用される。使い捨てのペンデリバリー装置において、置き換え可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てのペンデリバリー装置は、装置内のリザーバーにおいて保持される医薬組成物で予め充填される。リザーバーは、医薬組成物が空になると、全体の装置は廃棄される。
【0137】
有利には、上で記載された経口または非経口使用用医薬組成物は、有効成分の用量に適合するよう適した単位用量における投薬形態に調製される。単位用量におけるかかる投薬形態は、例えば、錠剤、ピル、カプセル剤、注射(アンプル剤)、坐剤などを含む。含有される抗体の量は、一般に、単位用量において;特に、注射の形態において1つの投薬形態当たり約5~約500mg、他の投薬形態のため約5~約300mg、および約10~約300mgの抗体が含有されることが好ましい。
【0138】
抗体の治療上の使用
本開示の抗体およびその抗原結合フラグメントは、GLP1Rに関連する疾患または障害または状態の処置、および/または予防、および/またはそのような疾患、障害または状態に関連する少なくとも1つの症状の改善に有用である。ある種の実施形態において、本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントは、GLP1Rに関連する疾患、障害、または状態を有する患者に治療用量で投与し得る。本開示の抗体およびその抗原結合フラグメントを用いて処置、予防または緩和し得る疾患、障害または状態の非限定的な例としては、任意の起源の低血糖症、例えばPBHまたは他の上腹部手術(例えば、胃癌および消化性潰瘍のための食道切除術、胃切除術)に起因する低血糖症、高インスリン血症(例えば、先天性高インスリン血症)、再発性低血糖症、食後低血糖症、胃バイパス後の再発性低血糖症を有する患者におけるインスリン分泌過多、および後期ダンピング症候群の症状としての低血糖症が挙げられる。
【0139】
低血糖症(例えば、PBH)は、インスリンレベルの上昇を伴うか、または伴わない低血糖によって特徴付けられる障害である。PBHでは、低血糖は、典型的には、食後1~3時間後に対象に生じる。軽度から中等度の低血糖症は、血液グルコース濃度<70mg/dLで確認される低血糖症状として発現する。重度の低血糖症は、血液グルコース濃度<55mg/dLで確認される神経低糖症として発現する。神経低糖症状としては、錯乱、集中力低下、疲労、運動失調、麻痺、癲癇、または意識喪失が挙げられる。他の症状、例えば、血管運動症状(例:発汗および震え)、および/または副腎症状(例えば、心動悸)は、低血糖症の対象において同様に発生し得る。
【0140】
ある種の実施形態において、本開示の抗体およびその抗原結合フラグメントは、低血糖症、例えばPBHまたは胃癌および消化性潰瘍のための食道切除術、胃切除術などの他の上腹部手術に起因する低血糖症、または遺伝子異常などの固有の病因に起因する低血糖症の処置、緩和、または予防に有用である。また、本明細書では、1つまたはそれ以上の本開示の抗体を、低グルコースレベルまたは低血糖症に罹患する危険性のある対象に予防的に使用することも企図される。
【0141】
一実施形態において、本抗体およびその抗原結合フラグメントは、本明細書に開示される疾患、障害または状態(例えば、低グルコースレベルまたは低血糖症)に罹患している患者を処置するための医薬組成物または医薬の調製に使用される。他の実施形態において、本発明の抗体および抗原結合フラグメントは、本明細書に開示される疾患、障害または状態(例えば、低グルコースレベルまたは低血糖症)を処置または改善するために有用な、当業者に公知の任意の他の剤を用いた補助療法または任意の他の療法として使用される。
【実施例
【0142】
以下の実施例は、当技術分野の当業者に、本開示の方法および組成物の作成方法および使用方法に関する完全な開示および記載を提供するために記載されており、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。同様に、本開示は、本明細書に記載される任意の特定の好ましい実施形態に限定されるものではない。実際、実施形態の改変および変形は、本明細書を読めば当技術分野の当業者には明らかである可能性があり、その精神および範囲から逸脱することなく行うことができる。用いた数字(例えば、量、温度など)に関する正確さを保証するよう試みられたが、実験上の誤差および自差がある程度あることは考慮されるべきである。別段示されなければ、部分は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏におけるものであり、室温は約25℃であり、圧力は雰囲気においてであるか、または雰囲気に近い。
【実施例1】
【0143】
実施例1:グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP1R)に対するヒト抗体の作製
ヒト免疫グロブリン重鎖およびκ軽鎖可変領域をコードするDNAを含む、GLP1Rタンパク質に対するヒト抗体は、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスにおいて作製した。このマウスを、安定化した全長GLP1 Rタンパク質によって免疫化した。
【0144】
GLP1R特異的イムノアッセイにより、抗体免疫応答をモニターした。所望の免疫応答を達成したら、脾細胞を回収し、マウスミエローマ細胞と融合させて生存能を保持し、ハイブリドーマ細胞株を形成させた。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して、GLP1R特異的抗体を産生する細胞株を同定した。細胞株を用いて、いくつかの抗GLP1Rキメラ抗体(例えば、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを有する抗体)を得た。
【0145】
抗GLP1R抗体はまた、抗原陽性マウスB細胞から直接単離した(米国特許出願公開第200710280945号に記載)。この方法を用いて、いくつかの完全ヒト抗GLP1R抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を取得した。
【0146】
上記で開示されたように作製された例示的な抗体をmAb36986、mAb37639、およびmAb37645とした。本実施例の方法に従って作製された例示的な抗体の生物学的特性は、以下の実施例においてさらに説明する。
【実施例2】
【0147】
実施例2:重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列およびヌクレオチド配列
表1は、本開示の選択された抗GLP1Rアンタゴニスト抗体の重鎖および軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を記載する。
【0148】
【表1】
【0149】
対応する核酸配列識別子を表2に記載する。
【0150】
【表2】
【0151】
本明細書で言及する抗体は、典型的には、完全にヒトの可変領域を有するが、ヒトまたはマウスの定常領域を有していてもよい。当業者が理解する通り、特定のFcアイソタイプを有する抗体を、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体を、ヒトIgG4を有する抗体などに変換することができる)が、いずれの場合も、表2において示した数字で表した識別名により示した可変ドメイン(CDRを含む)は同一のままであり、抗原の結合特性はFcドメインの性質に関わらず、一致または実質的に類似であると予測した。ある種の実施形態において、マウスIgG1 Fcを有する選択された抗体をヒトIgG4 Fcを有する抗体に変換した。
【0152】
表3は、ヒトIgG4 Fcを有する選択された抗GLP1R抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列識別子を記載する。
【0153】
【表3】
【実施例3】
【0154】
実施例3:25℃および37℃において表面プラズモン共鳴によって決定されるGLP1Rに結合するGLP1Rモノクローナル抗体
選択したGLP1Rモノクローナル抗体(mAb)に結合するGLP1Rについての平衡解離定数(K)を、Biacore 4000機器を使用したリアルタイム表面プラズモン共鳴を使用して決定した。全ての結合試験は、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、および0.05%v/v界面活性剤Tween-20、pH 7.4(HBS-ET)ランニングバッファ中で、25℃および37℃で行った。Biacore CM5センサチップ表面は、まずヒトFc特異的マウスmAbとのアミンカップリングによって誘導体化され、異なるGLP1R mAbを捕捉した。HBS-ETランニングバッファ中で調製した異なる濃度(100、25、および6.25nM)のヒトGLP1R-MMH(hGLP1R-MMH;配列番号59)のN末端領域、マウスIgG2a Fcと共に発現させたヒトGLP1R(hGLP1R-mFc;配列番号63)、ヒトdesA-GLP1およびGLP1R-MMHのインライン融合タンパク質(hdesA-GLP1_GLP1R-MMH;配列番号62)、カニクイザル(Macaca fascicularis)GLP1R-MMH(mfGLP1R-MMH ;配列番号60)または100nM マウス GLP1R-MMH(mGLP1R-MMH;配列番号61)を、GLP1R mAbを捕捉した表面に流速30μL/分で150秒間注入し、HBS-ETランニングバッファ中での解離を10分間モニターした。各サイクルの終わりに、GLP1R mAb捕捉表面を20mMリン酸の12秒注入を使用して再生した。
【0155】
会合速度(k)および解離速度(k)は、リアルタイム結合センサグラムを、Scrubber 2.0c曲線適合ソフトウェアを使用して質量輸送制限のある1:1結合モデルに適合させることにより決定した。結合解離平衡定数(K)および解離半減期(t1/2)は速度論的速度から次のように算出した:
【数1】
【0156】
25℃および37℃における選択したGLP1R mAbに対するGLP1Rの結合に関する結合速度論的パラメーターを表4~表13に示す。
【0157】
【表4】
【0158】
【表5】
【0159】
【表6】
【0160】
【表7】
【0161】
【表8】
【0162】
【表9】
【0163】
【表10】
【0164】
【表11】
【0165】
【表12】
【0166】
【表13】
【実施例4】
【0167】
実施例4:ヒトGLP1Rの機能的阻害
本実施例は、以下の抗GLP1Rアンタゴニスト抗体:mAb36986、mAb37639、およびmAb37645を使用した、hGLP1によって活性化されたHEK293/FSC11/pCDNA3.1+GLP1R+1nM GLP1細胞を用いた細胞ベースのバイオアッセイにおける、ヒトGLP1Rの機能的阻害に関する。
【0168】
GLP1Rは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のセクレチンファミリー(クラスB)のメンバーである。リガンドであるGLP1が結合すると、GLP1Rは、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)レベルを上昇させるGαSGタンパク質を介して下流のシグナル伝達カスケードを開始し、これによって遺伝子の転写制御がもたらされる(Donnelly, Br J Pharmacol,166(1):27-41(2011年))。抗hGLP1R抗体のGLP1Rに対する阻害を評価するために、全長ヒトGLP1Rと共にレポーター遺伝子[cAMP応答エレメント(4X)-ルシフェラーゼ-lRES-GFP]を安定的に発現するようにトランスフェクとしたHEK293細胞(ヒト胚性腎臓293、ATCC)を用いたバイオアッセイを確立した。得られた細胞株はHEK293/FSC11/pCDNA3.1+GLP1R+1nM GLP(ACL#6822、Regeneron)と命名し、以後、HEK293/CRE-luc/GLP1Rと称する。
【0169】
バイオアッセイのために、HEK293/CRE-luc/GLP1R細胞をウェルあたり20,000個、アッセイ培地(0.1%ウシ胎児血清および1Xペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミンを含むOpti-MEM培地)中で播種し、37℃、5%COで一晩インキュベートした。翌日、選択した抗GLP1R抗体またはアイソタイプ対照抗体を(試験分子を含まないアッセイ培地のみの追加ウェルと共に)アッセイ培地で1:3に、300nMから5.08pMまで連続希釈し、HEK293/CRE-luc/GLP1R細胞と共に5% CO、37℃で30分間プレインキュベートした。Exendin-3(9-39)アミド(Tocris、カタログ番号2081)を以後、Exendin-9と称し、これを(試験分子を含まない追加ウェルと共に)アッセイ培地で1:3に、500nMから8.47pMまで連続希釈し、細胞と共に、5%CO、37℃で30分間プレインキュベートした。30分後、GLP-1(7-36)アミド(Phoenix Pharmaceuticals、カタログ番号028-11)、以下GLP-1と称す、をアッセイ培地中一定濃度40pMで細胞に添加した。また、GLP1を(試験分子を含まない追加ウェルと共に)アッセイ培地で1:3に、100nMから1.69pMまで連続希釈し、抗体またはExendin-9で処理していない細胞に、リガンドの用量応答のために添加した。5%CO、37℃で5時間インキュベートした後、ルシフェラーゼ活性を、ONEGLO(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム試薬(Promega、カタログ番号E6130)の添加によって評価し、相対発光単位(RLU)をEnvision Plate reader(Perkin Elmer)を用いて測定した。結果は、PRISM(登録商標)7ソフトウェアの非線形回帰(4-パラメーターロジスティック)を用いて解析し、EC50とIC50の値を求めた。阻害パーセントは以下の式で算出した:
【数2】
【0170】
上記式中、「RLUGLP1」は、抗体なしの40pM GLPlで処理した細胞からの相対発光単位(RLU)値を指す。「RLU阻害」は、40pM GLP1と共に最大値の抗体またはExendin-9の用量応答濃度で測定された最も低いRLU値を指す。「RLUGLP1なし対照」は、GLP1、Exendin-9または抗体の非存在下において測定した細胞のRLU値を指す。
【0171】
結果:3つの抗GLP1R抗体を、40pMのGLP1で活性化したHEK293/CRE-luc/GLP1R細胞の阻害について試験した。表14に示すように、2つの抗GLP1R抗体、mAb36986およびmAb37639は、IC50値がそれぞれ1.69nMおよび6.55nMで100%阻害を示した。mAb37645はIC50値1.23nMでGLP1R活性化を73%阻害した。アイソタイプ対照のmAbは阻害を示さなかった。Exendin-9はIC50が29.4nMで100%阻害を示した。GLP1はEC50値44.6pMで細胞を活性化した。
【0172】
【表14】
【実施例5】
【0173】
実施例5:GLP1Rヒト化マウスにおけるGLP1Rアンタゴニスト抗体のExendin-4誘導性低血糖症に対する影響
本実施例は、以下の抗GLP1Rアンタゴニスト抗体:mAb36986、mAb37639、およびmAb37645を用いたインビボ試験に関する。
【0174】
GLP1誘導性低血糖症に対する抗GLP1Rアンタゴニスト抗体のグルコース上昇効果を決定するために、マウスGLP1Rの代わりにヒトGLP1Rを発現するホモ接合体の6月齢雄マウス(GLP1Rヒト化マウス)に、選択した抗GLP1R抗体を1回投与し、周期的にGLP1アナログであるExendin-4(Sigma、カタログ番号E7144)で次の67日間チャレンジした。
【0175】
試験のために、35匹のマウスを14匹のマウスの1つの群と7匹のマウスの3つの群に無作為に分けた。0日目に、14匹の群(後に第1群および第2群に分割)に、mIgG2アイソタイプ対照抗体(アイソタイプ対照と称する、用量25mg/kg)を皮下(s.c.)投与し、他の3群(n=7/群)にはそれぞれ、mAb36986(第3群)、mAb37639(第4群)、またはmAb37645(第5群)をs.c.(用量25mg/kg)投与した。翌日(1日目)、アイソタイプ対照を投与した14匹をそれぞれ7匹ずつの2つの群(第1群、第2群)に無作為に分けた。1日目のO分時点で、第1群の動物には生理食塩水を腹腔内(i.p.)投与し、第2群の動物にはExendin-4(用量0.01mg/kg)をi.p.投与した。同時点で、第3群、第4群、および第5群の動物に、Exendin-4(用量0.01mg/kg)をi.p.投与した。全ての動物について、血液グルコースレベルをハンドヘルドグルコメーターを用いて生理食塩水またはExendin-4投与直前、および投与15分後、30分後、60分後、および120分後に測定した。全ての動物は、67日目の試験完了まで、割り当てられた群に留まった。1日目に行ったExendin-4チャレンジを、8日目、22日目、46日目、および67日目に繰り返した。各時点での血液グルコースレベルの平均値±SEMを各群について算出し、表15に示した。各時点における第1群からの血液グルコースレベルのパーセント差異の平均±SEMを各群について算出し、表16に示した。統計解析は、二元配置分散分析と、それに続くボンフェローニ・ポストホック検定により、第2群、第3群、第4群、および第5群を第1群と比較して行った。
【0176】
0日目にアイソタイプ対照を投与し、Exendin-4チャレンジの日に生理食塩水を投与した動物(第1群)は、早い時点(すなわち、15分、30分および60分)で血液グルコースレベルの注射による上昇を示し、1日目、8日目、22日目、46日目および67日目に一貫していた。0日目にアイソタイプ対照、Exendin-4チャレンジ日にExendin-4を投与した動物(第2群)は、チャレンジを行ったそれぞれの日にExendin-4誘導性の血液グルコースレベルの低下を示した。0日目にmAb36986を、1日目、8日目、22日目、46日目、および67日目にExendin-4を投与した動物(第3群)は、最終日(67日目)を除き、Exendin-4チャレンジが行われた各日の各時点で、第1群の測定レベルと同様のグルコースレベルを示した。このデータにより、マウスにおいて単回の高用量のmAb36986は、GLP1誘導性の低血糖症を少なくとも46日間改善できることが示された。各日の0分時点において、第1群と第3群の間に血液グルコースレベルの差はなかった。このデータは、試験した条件下でマウスにおいてmAb36986が高血糖症を引き起こさないことを示している。
【0177】
図1に示すように、0日目にmAb37639を、1日目、8日目、22日目、46日目および67日目にExendin-4を投与した動物(第4群)は、1日目および8日目にのみグルコース正常化作用を示し、これは、mAb37639はmAb36986と比較して作用時間が短いことを示している。0日目にmAb37645を、1日目、8日目、22日目、46日目、および67日目にExendin-4を投与した動物(第5群)は、グルコース正常化作用を示さなかった。さらに、mAb36986は長時間作用型であることが示され、また、マウスにおいて高血糖症を引き起こすことなく、GLP1誘導性低血糖症を改善した。
【0178】
【表15】
【0179】
【表16】
【実施例6】
【0180】
実施例6: GLP1Rヒト化マウスにおけるGLP1Rアンタゴニスト抗体のGLP1誘導性低血糖症に対する影響
本実施例は、GLP1Rアンタゴニスト抗体mAb36986のGLP1誘導性低血糖症に対するグルコース上昇有効性および作用時間を決定するために実施した試験に関する。マウスGLP1Rの代わりにヒトGLP1Rを発現するホモ接合体マウス(以後、GLP1Rヒト化マウスと称する)にmAb36986を投与し、GLP1アナログであるExendin-4(Sigma、カタログ番号E7144)によって繰り返しチャレンジした。本実施例において、mAb36986の有効性および作用時間を、以下Exendin-9と称するペプチドGLP1RアンタゴニストExendin(9-39)(Bachem、カタログ番号4017799)と比較した。
【0181】
2.5月齢の雄GLP1Rヒト化マウス39匹を、マウス16匹1群、マウス8匹2群、およびマウス7匹1群に無作為に分けた。0日目に16匹の群(第1群および第2群)には、hIgG4のアイソタイプ対照抗体(アイソタイプ対照と称する、用量10mg/kg)を皮下(s.c.)投与した。8匹からなる1群(第3群)には、Exendin-9(用量10mg/kg)をs.c.投与し、他方の8匹の群(第4群)には、mAb36986をs.c.(用量3mg/kg)投与した。7匹の群(第5群)には、mAb36986をs.c.(用量10mg/kg)投与した。翌日(1日目)、アイソタイプ対照を投与した動物を無作為に8匹のマウスの2群(第1群および第2群)に分けた。試験物質投与24時間後(=1日目の0分時点)に、第1群の動物には生理食塩水を腹腔内(i.p.)投与し、第2群の動物にはExendin-4(用量0.01mg/kg)をi.p.投与した。同じ時点で、第3群、第4群、および第5群の動物にExendin-4(用量0.01mg/kg)をi.p.投与した。全ての動物について、血液グルコースレベルを生理食塩水またはExendin-4投与直前、15分後、30分後、60分後、120分後にハンドヘルドグルコメーターを用いて測定した。80日目の試験完了まで、全ての動物が割り当てられた群に留まった。第1群、第2群、第4群および第5群の動物には、3日目、7日目、15日目、21日目、29日目、65日目および80日目にExendin-4チャレンジを繰り返した。第3群の動物には、3日目にもう1回Exendin-9を投与し、Exendin-4チャレンジをExendin-9投与後0.5および4.5時間後に実施した。
【0182】
各Exending-4チャレンジについて、120分のチャレンジの間の血液グルコースレベルの曲線下面積(AUC)を算出した。各チャレンジにおける各動物のAUC値は、第1群の平均AUC値に正規化した。正規化AUCの平均±SEMは、各チャレンジについて各群について算出され、表17および図2に示されている。統計分析は、一元配置分散分析に続いて、ボンフェローニ・ポストホック検定によって、各チャレンジについて、第1群、第3群、第4群、または第5群を第2群と比較して行った。
【0183】
0日目にアイソタイプ対照を、Exendin-4チャレンジの日に生理食塩水を投与した動物(第1群)と比較し、0日目にアイソタイプ対照を、Exendin-4チャレンジの日に生理食塩水を投与した動物(第2群)は、チャレンジを行った各日に正規化グルコースAUCの低下を誘導した。Exendin-9を投与した動物(第3群)では、Exendin-4チャレンジを、Exendin-9投与30分後に行った場合、Exendin-4誘導性低血糖症の改善を示したが、チャレンジをExendin-9投与の4.5時間後または24時間後に実施したところ、改善は認められなかった。mAb36986を3mg/kgで単回投与した動物(第4群)では、mAb36986投与の1、3、7、15、21、および29日後にExendin-4チャレンジを行った場合、Exendin-4誘導性低血糖症の改善を示したが、チャレンジをmAb36986投与後の65日目および80日目にチャレンジを行った場合、改善は認められなかった。mAb36986を10mg/kgで単回投与した動物(第5群)は、mAb36986投与後1日目、3日目、7日目、15日目、21日目、29日目および65日目にExendin-4チャレンジを実施した場合、Exendin-4誘導性低血糖症の改善を示したが、mAb36986投与後80日目にチャレンジを行った場合、改善は認められなかった。
【0184】
このデータは、mAb36986の単回投与が、GLP1誘導性低血糖症をマウスにおいて1~2カ月間GLP1誘導性低血糖症を改善することができること、および作用期間が用量依存的であることを示しており、一方、Exendin-9の単回投与は、GLP-1誘導性低血糖症を4時間以内に改善する。結論として、本開示のGLP1Rアンタゴニスト抗体であるmAb36986は、GLP1誘導性低血糖症を長時間の用量依存的期間の作用で改善した。
【0185】
【表17】
【0186】
本開示は、本明細書に記載される具体的な実施形態により、範囲において制限されるべきではない。実際、本明細書に記載されるものに加え種々の修飾は、前述の記載および添付の図面から当業者に明らかとなるだろう。かかる修飾は、添付の請求の範囲内にあることが意図される。
図1
図2
【配列表】
2023526233000001.app
【国際調査報告】