(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】超硬合金採掘インサートの処理方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/051 20230101AFI20230614BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230614BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230614BHJP
C22C 29/08 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C22C1/051 H
B22F3/24 K
B23B27/14 B
C22C29/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568801
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2021062685
(87)【国際公開番号】W WO2021228974
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520344785
【氏名又は名称】サンドヴィック マイニング アンド コンストラクション ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リリヤ, ミルジャム
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ブロムクヴィスト, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アルバニティディス, イオアンニス
(72)【発明者】
【氏名】ホルムストレーム, エーリク
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF37
3C046FF39
3C046FF43
3C046FF50
3C046FF53
3C046FF55
4K018AB02
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BC13
4K018CA11
4K018EA11
4K018FA11
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
WC硬質相成分と、任意選択的に1つ又は複数のさらなる硬質相成分と、バインダと、を含む超硬合金採掘インサートのバインダ相を再分配する方法であって、未焼結超硬合金採掘インサートを提供する工程と、未焼結超硬合金インサートの5つの表面の少なくとも1つの局所領域のみに、金属酸化物又は金属炭酸塩から選択される少なくとも1つのバインダプラーを施用する工程と、焼結超硬合金インサートを形成するために未焼結超硬合金採掘インサートを焼結する工程と、焼結超硬合金インサートを、100℃以上の高温で、好ましくは200℃以上の温度で、より好ましくは200℃~450℃の温度で実行される乾式タンブリングプロセスに供する工程と、を含む、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
WC硬質相成分と、任意選択的に1つ又は複数のさらなる硬質相成分と、バインダと、を含む超硬合金採掘インサートのバインダ相を再分配する方法であって、
a)未焼結超硬合金採掘インサートを提供する工程と、
b)未焼結超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所領域のみに、金属酸化物又は金属炭酸塩から選択される少なくとも1つのバインダプラーを施用する工程と、
c)焼結超硬合金インサートを形成するために未焼結超硬合金採掘インサートを焼結する工程と、
d)焼結超硬合金インサートを、100℃以上の高温で、好ましくは200℃以上の温度で、より好ましくは200℃~450℃の温度で実行される乾式タンブリングプロセスに供する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
バインダプラーが、Cr
2O
3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法が、表面硬化プロセスの前に採掘インサート及び媒体を加熱する工程を含み、表面硬化プロセスが、加熱された採掘インサート上で実行される、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
表面硬化プロセス中に採掘インサートが加熱され続ける、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
熱の全部又は一部が、インサートと、タンブリングプロセスで添加された任意の媒体との間の摩擦によって発生する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
タンブリングプロセスが、「高エネルギータンブリング」プロセスであり、均一な超硬合金採掘インサートのタンブリング後に、ΔHV3%≧9.72-0.00543*HV3
bulkとなるように変形硬化されており、ΔHV3%が、バルク中のHV3測定値と比較した、表面から0.3mmにおけるHV3測定値との間の百分率差である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
採掘インサートが高温で表面硬化プロセスに供された後、採掘インサートが、室温で第2の表面硬化プロセスに供される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第2の表面硬化プロセスが、高エネルギータンブリングである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は複数の硬質相成分と、インサートの上部半分における%fcc相Co対%hcp相Coの比が>2であることを特徴とするバインダと、を含む、超硬合金採掘インサート。
【請求項10】
式中、
が、インサート先端から10mmの距離における平均hcp Co相割合であり、
が、インサート先端から0.5mmの距離における平均hcp Co相割合であり、
が、先端インサート先端から10mmの距離における平均fcc Co相割合であり、
が、インサートの先端から0.5mmの距離における平均fcc Co相割合である、
請求項9に記載の超硬合金。
【請求項11】
式中、Com
Tが、インサートの上部半分における磁気百分率の割合であり、Com
Bが、インサートの下部半分における磁気百分率の割合であり、Hc
Tが、インサートの上部半分における磁気保磁力であり、Hc
Bが、インサートの下部半分における磁気保磁力であり、Hcが、インサートを二等分に切断する前の磁気保磁力であり、Comが、インサートを二等分に切断する前の磁気百分率である、
請求項9又は10に記載の超硬合金採掘インサート。
【請求項12】
式中、%Cr
Tは、インサートの上部半分のCrの重量パーセントであり、%Cr
Bは、インサートの下部半分のCrの重量パーセントである、
請求項9から11のいずれか一項に記載の超硬合金採掘インサート。
【請求項13】
表面下150μmで測定された硬度が、バルクで測定された硬度よりも少なくとも20HV3大きい、請求項9から12のいずれか一項に記載の超硬合金インサート。
【請求項14】
焼結超硬合金採掘インサートの全高に対する百分率で、ドープされた表面とバルクとの間に配置された第1のバインダ濃度最小値の位置が、ドープされた表面の1~50%下である、請求項9から13のいずれか一項に記載の超硬合金採掘インサート。
【請求項15】
ドープされた表面に第1のクロム濃度最大値がある、請求項9から14のいずれか一項に記載の超硬合金採掘インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金採掘インサート内にバインダを再分配し、次いで焼結後の上記超硬合金採掘インサートを高温で表面硬化プロセスに供する方法、上記方法から製造された圧縮強度を有する超硬合金採掘インサート及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、高弾性率、高硬度、高圧縮強度、高耐摩耗性及び耐摩擦性と、良好なレベルの靱性との独特の組み合わせを有する。そのため、超硬合金は、採掘工具などの製品に一般的に使用されている。超硬合金採掘インサートは、一般に、タンブリング及び心なし粉砕などの焼結後のエッジのバリ取り及び表面硬化プロセスで処理される。表面硬化プロセスは、圧縮応力を採掘インサートに導入する。圧縮応力の存在は、採掘インサートの耐疲労性及び破壊靱性を改善する。その結果、採掘インサートを破壊するのに必要な閾値エネルギーがより高くなり、したがって構成要素のチッピング、クラック及び/又は破壊の可能性が低減される。したがって、インサートの寿命を延ばすために、採掘インサートに導入される圧縮応力のレベルを増加させることが望ましい。
【0003】
超硬合金採掘インサートの最大限の性能のために、これらの特性の組み合わせが望ましく、製品の異なる部分の材料には異なる要求がある。例えば、削岩及び鉱物切削のためのインサートでは、破損のリスクを最小限に抑えるためにより硬い内部と、耐摩耗性を最適化するためにより硬い外部とを有することが望ましい。
【0004】
国際公開第2010/056191号パンフレットは、硬質相及びバインダ相を含む超硬合金本体を形成する方法を開示しており、中間表面ゾーンの少なくとも一部は、本体内にさらにある部分よりも低い平均バインダ含有量を有する。
【0005】
米国特許第7258833号明細書に開示されているような高エネルギータンブリング(HET)方法は、導入される圧縮応力のレベルを増加させる方法を提供するが、損傷することなく採掘インサートにさらに高レベルの圧縮応力を導入することができる方法を提供することによって、このプロセスをさらに改善できることが望ましい。
【0006】
本発明の目的は、最適化された硬度勾配及び高レベルの圧縮応力を有する超硬合金インサートを、それらがより長く持続し、改善された動作性能を有するように作製する方法を提供することである。本方法は、非対称超硬合金採掘インサートに適用することができ、及び/又は炭素含有量に関して化学量論的にバランスがとれているか、又はバインダ引張効果を高めるために高い炭素含有量を有する標準的な炭化物粉末から開始することができることが、さらなる目的である。
【0007】
定義
「超硬合金」とは、本明細書では、少なくとも50重量%のWC、場合によっては超硬合金の製造技術分野で一般的な他の硬質構成成分、及び好ましくはFe、Co及びNiのうちの1つ又は複数から選択される金属バインダ相を含む材料を意味する。
【0008】
「バルク」という用語は、本明細書では削岩用インサートの最も内側部分(中央)の超硬合金を意味し、本開示では最も低い硬度を有するゾーンである。
【0009】
「未焼結」という用語は、硬質相成分とバインダとを一緒に粉砕し、次いで破砕紛体をプレスして、まだ焼結されていないコンパクトな超硬合金採掘インサートを形成することによって製造された超硬合金採掘インサートを指す。
【0010】
「バインダプラー」という用語は、超硬合金採掘インサートの表面に施用されると、焼結工程中にバインダをその表面に向かって移動させる、すなわち、バインダは、「バインダプラー」が施用された表面に向かう方向に引っ張られる物質を指す。バインダプラーは、通常の炭素レベルを有する領域から、炭素レベルが枯渇した局所領域にバインダを流す炭素を局所的に消費することによって機能する。バインダプラーはまた、バルクよりも小さいWC粒径を有する施用された表面に向かうバインダ移動ももたらすWC粒成長阻害剤として作用することができる。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様によれば、WC硬質相成分と、任意選択的に1つ又は複数のさらなる硬質相成分と、バインダと、を含む超硬合金採掘インサートのバインダ相を再分配する方法であって、
a)未焼結超硬合金採掘インサートを提供する工程と、
b)未焼結超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所領域に、金属酸化物又は金属炭酸塩から選択される少なくとも1つのバインダプラーを施用する工程と、
c)焼結超硬合金インサートを形成するために未焼結超硬合金採掘インサートを焼結する工程と、
d)焼結超硬合金インサートを、100℃以上の高温で、好ましくは200℃以上の温度で、より好ましくは200℃~450℃の温度で実行される乾式タンブリングプロセスに供する工程と、
を含む、方法である。
【0012】
この方法は、超硬合金採掘インサートに高レベルの圧縮応力を導入することを組み合わせて、超硬合金採掘インサートに最適な機能性を提供するために、バインダを調整された最も好ましい方法で再分配することを可能にする。焼結中に炭素を消費する酸化物を形成する金属化合物であるバインダプラーを施用する。バインダプラーは、金属酸化物又は金属炭酸塩から選択され、少なくとも1つの局所領域で未焼結超硬合金採掘インサートの表面に施用され、炭素は、焼結中にこの領域で局所的に消費され、炭素電位の形成を引き起こす。これは、通常又はより高いレベルの炭素を有する領域から、枯渇した炭素レベルを有する局所領域へのバインダ相の移動を促進する。バインダプラー化合物がWC粒微細化をもたらす場合、それはまた、化合物が添加された表面へのバインダ移動を引き起こすであろう。したがって、これは、超硬合金採掘インサートの表面の局所領域にバインダが豊富な領域を形成するであろう。バインダプラーが施用される未焼結超硬合金採掘インサートの表面は、「酸化物/炭酸塩ドープ」表面と呼ばれる。バインダが豊富な領域及びバインダが枯渇した領域は、焼結後にそれぞれ引張応力及び圧縮応力になるであろうことは周知である。通常、引張応力を導入することは好ましくない。しかしながら、本発明者らは、遠心タンブリングなどの処理後に、存在する引張応力を打ち消すために、タンブリング表面下の少なくとも1mmの深さまで高レベルの圧縮応力を導入できることを見出した。したがって、バインダプラーを施用することの利点は、引張応力を導入する有害な影響なしに得ることができる。
【0013】
「未焼結超硬合金採掘インサートの表面上の少なくとも1つの局所領域」は、バインダ含有量を増加させる要件がどこにあるかに応じて、表面上の任意の位置、例えば先端、基部又は側面にあることができる。バインダプラーは、所望の効果が靱性又は耐摩耗性の局所的な向上をもたらすことであるかどうかに応じて、超硬合金採掘インサートの表面の1つ又は複数の局所領域に施用することができる。各「局所領域」は、超硬合金採掘インサートの全表面積の0.5~85%、好ましくは3~75%であってもよい。
【0014】
焼結温度は、適切には約1000℃~約1700℃、好ましくは約1200℃~約1600℃、最も好ましくは約1300℃~約1550℃である。焼結時間は、適切には約15分~約5時間、好ましくは約30分~約2時間である。
【0015】
減少した衝突欠損と組み合わせたより高いレベルの圧縮応力は、採掘インサートの耐疲労性及び破壊靱性を改善し、その結果、インサートの寿命を延ばすであろう。この方法のさらなる利点は、以前は角に過度の損傷を受けやすく、したがって歩留まりが低かった、鋭い下部半径を有するものなどのインサート幾何学的形状を、エッジの損傷を引き起こすことなくタンブリングすることができることである。これは、以前はタンブリングに適していなかった異なる幾何学的形状を有する採掘インサート製品を開発する可能性を開く。表面処理プロセス温度を室温から約300℃などの温度まで上昇させると、圧潰強度の向上などの性能特性が改善されたインサートが得られる。超硬合金の靱性は温度と共に増加するため、高温でのタンブリングでは、マイクロクラック、大きなクラック、又はエッジのチッピングなどの欠陥は生じない。
【0016】
超硬合金は、炭化物表面ゾーンにより多くのバインダが存在する場合、及び/又はクロム濃度が表面領域でより高い場合、高温での表面硬化プロセスにより良好に応答し、したがって超硬合金の強度及び靱性を高める。
【0017】
本出願のさらなる態様は、1つ又は複数の硬質相成分と、インサートの上部半分における%fcc相Co対%hcp相Coの比が2超、好ましくは3超、より好ましくは4超であることを特徴とするバインダと、を含む、超硬合金採掘インサートに関する。
【0018】
hcp構造は、fcc構造よりも密に充填されており、hcp相中の純粋なCoの安定構造である。hcp相中のCoは、双晶を容易に形成し、結晶格子を破壊することなく転位を吸収するより多くの機構を与える。高温でのタンブリングは、fcc相を安定化させ、同時に高い圧縮強度を達成することを可能にし、その結果、掘穿中により多くの相変態が起こる場合があり、それはインサートの寿命を延ばす。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実行11(比較)及び12(本発明)の硬度プロファイル。
【
図3】実行4(比較)及び14(本発明)の硬度プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本方法の一実施形態では、超硬合金採掘インサートは、少なくとも80重量%のWC、好ましくは少なくとも90重量%のWCを含む硬質相を含む。
【0021】
超硬合金の金属バインダは、WCに由来するW及びCなど、焼結中に金属バインダに溶解する他の元素を含むことができる。存在する他の種類の硬質構成成分に応じて、他の元素もバインダに溶解することができる。
【0022】
一実施形態では、超硬合金は金属バインダ相中に硬質構成成分を含み、超硬合金中の金属バインダ相含有量は、4~30重量%、好ましくは5~15重量%である。
【0023】
バインダ相含有量は、採掘インサートの激しい挙動を提供するのに十分高い必要がある。金属バインダ相含有量は、好ましくは30重量%以下、好ましくは15重量%以下である。バインダ相含有量が高すぎると、採掘インサートの硬度及び耐摩耗性が低下する。金属バインダ相含有量は、好ましくは4重量%超、より好ましくは6重量%超である。
【0024】
一実施形態では、金属バインダ相は、少なくとも80重量%のCo、Ni、及びFeから選択される1つ又は複数の金属元素を含む。
【0025】
好ましくはCo及び/又はNi、最も好ましくはCo、さらにより好ましくは3~20重量%のCoである。任意選択的に、バインダは、ニッケルクロム又はニッケルアルミニウム合金である。炭化物採掘インサートはまた、任意選択的に、バインダ含有量の20重量%以下の量の結晶成長抑制剤化合物を含んでもよい。結晶成長抑制剤化合物は、バナジウム、クロム、タンタル及びニオブの炭化物、混合炭化物、炭窒化物又は窒化物の群から適切に選択される。炭化物採掘インサートの残りの部分は、1つ又は複数の硬質相成分で構成されている。
【0026】
1つ又は複数のさらなる硬質相成分は、TaC、TiC、TiN、TiCN、NbC、CrCから選択されてもよい。バインダ相は、Co、Ni、Fe又はそれらの混合物、好ましくはCo及び/又はNi、最も好ましくはCoから選択することができる。炭化物採掘インサートは、約4~約30重量%、好ましくは約5~約15重量%の適切なバインダ含有量を有する。炭化物採掘インサートはまた、任意選択的に、バインダ含有量の20重量%以下の量の結晶成長抑制剤化合物を含んでもよい。結晶成長抑制剤化合物は、バナジウム、クロム、タンタル及びニオブの炭化物、混合炭化物、炭窒化物又は窒化物の群から適切に選択される。炭化物採掘インサートの残りの部分は、1つ又は複数の硬質相成分で構成されている。
【0027】
本方法の一実施形態では、金属酸化物又は金属炭酸塩であるバインダプラーは、Cr2O3、MnO、MnO2、MoO2、Fe-酸化物、NiO、NbO2、V2O3、MnCO3、FeCO3、CoCO3、NiCO3、CuCO3又はAg2CO3から選択される。あるいは、焼結工程中に加熱すると酸化物を形成する未焼結超硬合金採掘インサートの表面に金属を施用することも可能である。金属酸化物又は金属炭酸塩の選択は、焼結後の超硬合金の特性、例えば変形硬化、耐熱性及び/又は耐食性に影響を及ぼし、必要な用途に最適な選択をすることができる。同等の金属酸化物が毒性であり、金属炭酸塩が毒性でない場合、金属炭酸塩が選択される。この方法では、バインダプラーが施用される場所に関して高い自由度があり、例えば、酸化物又は炭酸塩中の金属が超硬合金の耐摩耗性を改善するか否かに応じて、炭化物工具の摩耗ゾーン内又は摩耗ゾーンから離れて施用することができる。
【0028】
本方法の一実施形態では、バインダプラーはCr2O3である。バインダプラーとしてCr2O3を使用することは、タンブリング処理に対する応答が向上したクロム合金リッチ表面層が形成されるという利点を有する。したがって、より高い圧縮応力が導入され、超硬合金採掘インサートの摩耗特性が改善されるであろう。Cr3O2は、粒微細化に寄与し、したがって、Cr3O2が施用されたインサートの側で減少した粒径が測定される。
【0029】
金属酸化物又は金属炭酸塩は、約0.1~約100mg/cm2の量、好ましくは約1~約50mg/cm2の量で1つ又は複数の表面上に適切に提供される。出発超硬合金粉末ブレンドは、0.75<Com/%Co<1に相当する炭素バランスを適切に有するか、又は酸化物若しくは炭酸塩の施用による炭素減少を補償する過剰の炭素を有するべきである。Com(%)は、100*4πσ1/4πσ0に等しく、4πσ1[μTm3/kg]は、炭化物インサートの重量比磁気飽和であり、4πσ0=201.9[μTm3/kg]は純Coの重量比磁気飽和である。Comは、Foerster Koerzimat CS.1097ユニットで測定される。
【0030】
本方法の一実施形態では、バインダプラーは超硬合金採掘インサートの上部に施用される。本方法の別の実施形態では、バインダプラーは超硬合金採掘インサートの側面に施用される。したがって、超硬合金採掘インサートの特性は、用途に適するように調整することができる。バインダプラーは、最も高い摩耗にさらされる超硬合金採掘インサートの表面上の位置に施用されるように選択される可能性が高い。
【0031】
一実施形態では、バインダプラーを施用する方法は、プレス、浸漬、塗装、噴霧(エアブラシ)、スタンピング又は3D印刷から選択される。浸漬は、マスキングの有無にかかわらず行うことができる。バインダプラーは、液体分散体又はスラリーの形態で未焼結超硬合金採掘インサートの表面に施用することができる。そのような場合、液相は、好適には水、アルコール又はポリエチレングリコールなどのポリマーである。スラリーの濃度は、適切には液相中の粉末の5~50重量%、例えば10~40重量%である。この範囲は、バインダプラーの十分な効果が実現されるため有利である。粉末含有量が高すぎると、液体分散体又はスラリー内の目詰まり及び塊状化の問題が生じる可能性がある。あるいは、それらは、例えば粉末を適切な位置でプレス金型に添加することによって、固体物質として導入することができる。粉末は、硬質相粉末、例えばWC系粉末と混合することができる。バインダプラーはまた、任意の他の適切な方法で超硬合金採掘インサートに施用することができる。スラリーの組成及び濃度並びにそれが施用される方法は、バインダの再分配の制御に影響を及ぼし、したがって超硬合金採掘インサートの硬度プロファイルを制御することを可能にする。
【0032】
バインダプラーが施用される場所に柔軟性があるため、これにより、「摩耗ゾーン」の位置、すなわち強度と摩耗特性の組み合わせが最も強化された表面上の位置の調整が可能になる。例えば、摩耗ゾーンは、超硬合金採掘インサートと切削される岩石との間の相互作用が最も高い場所に応じて、インサートの上部又は側面のいずれかにあり得る。これは、それが使用されている用途及び削岩機ビット上の超硬合金採掘インサートの位置に応じて変化する。さらに、Cr合金化が耐摩耗性を改善するので、掘穿中に岩石に最もさらされるインサートの大部分の領域にドーピングを適用することができる。
【0033】
超硬合金採掘インサートは、高い圧縮荷重に供される。その結果、繰り返される断続的な高荷重によって臨界サイズまで成長する小さなクラックによって引き起こされる表面クラックは、インサート破損の一般的な原因である。圧縮応力の存在は、材料のクラック成長及び摩耗を防止することができるので、インサートの表面に圧縮応力を導入することにより、この問題を低減することができることが知られている。超硬合金採掘インサートの表面に圧縮応力を導入する既知の方法には、ショットピーニング、振動タンブリング及び遠心タンブリングが含まれる。これらの方法はすべて、本体の外面の機械的衝撃又は変形に基づいており、超硬合金採掘インサートの寿命を延ばすであろう。
【0034】
表面硬化処理は、物理的衝撃によって材料に圧縮応力を導入し、表面及びその下での変形硬化、例えばタンブリング又はショットピーニングをもたらす任意の処理として定義される。表面硬化処理は、焼結及び粉砕後に行われる。予想外にも、高温での表面硬化処理での採掘インサートの処理は、チッピング及び微小破砕の観点から炭化物から炭化物への衝突損傷を減少させるか、又は排除し、したがって製品寿命を改善することが見出された。本発明の表面硬化プロセスは、高温で行われ、この温度は、本明細書では、表面硬化プロセスの開始時の採掘インサートの温度として定義される。表面硬化プロセスが行われる温度の上限は、好ましくは焼結温度未満、より好ましくは900℃未満である。採掘インサートの温度は、赤外線温度測定などの温度を測定するのに適した任意の方法によって測定される。
【0035】
本発明の一実施形態では、採掘インサートは、100~600℃の間の温度、好ましくは150~500℃の間の温度、より好ましくは200~400℃の温度で表面硬化処理に供される。
【0036】
温度は、温度を測定するための任意の適切な方法を使用して採掘インサート上で測定される。赤外線温度測定装置を用いることが好ましい。
【0037】
一実施形態では、本方法は、表面硬化プロセスの前に採掘インサート及び媒体を加熱する工程を含み、表面硬化プロセスは、加熱された採掘インサートに対して実行される。
【0038】
採掘インサートは、表面硬化プロセス工程の前に別個の工程で加熱することができる。誘導加熱、摩擦加熱、抵抗加熱、熱風加熱、火炎加熱、高温表面での予熱、オーブン若しくは炉内、又はレーザー加熱を使用するなど、いくつかの方法を使用して採掘インサートの高温を作り出すことができる。
【0039】
代替的な実施形態では、採掘インサートは、表面硬化プロセス中に加熱されたままである。例えば、誘導コイルを使用する。
【0040】
タンブリング処理は、遠心式又は振動式であり得る。「標準的な」タンブリングプロセスは、典型的には、約30kgのインサートが約50Hzで約40分間タンブリングされる、Reni Cirillo RC 650などの振動式タンブラーを使用して行われる。代替の典型的な「標準的な」タンブリングプロセスは、上部に閉じた蓋を有し、下部に回転ディスクを有するERBA-120などの遠心式タンブラーを使用することである。もう1つの方法は、遠心式バレル仕上げプロセスである。両方の遠心プロセスにおいて、回転は、インサートを他のインサート又は追加された任意の媒体と衝突させる。遠心式タンブラーを使用する「標準的な」タンブリングでは、タンブリング操作は通常、120RPMから少なくとも20分間実行される。タンブラーのライニングは、インサートの表面上に酸化物又は金属堆積物を形成することができる。
【0041】
プロセスが行われるより高い高温に耐えることができるようにタンブラーのライニングを変更することが必要な場合がある。
【0042】
超硬合金採掘インサートに高レベルの圧縮応力を導入するために、高エネルギータンブリングプロセスを使用することができる。HETを導入するために使用することができる多くの異なる可能なプロセス設定があり、それには、タンブラーの種類、添加される媒体の量(もしあれば)、処理時間、及びプロセス設定、例えば遠心式タンブラーのRPMなどが含まれる。したがって、HETを定義する最も適切な方法は、「約20gの質量を有する、WC-Coからなる均一な超硬合金採掘インサートに特定の程度の変形硬化を導入する任意のプロセス設定」の観点からである。本開示では、HETは、少なくとも以下のタンブリング(ΔHV3%)後に、HV3を使用して測定した硬度変化を導入するタンブリング処理として定義される。
ΔHV3%=9.72-0.00543*HV3bulk(式1)
式中:
ΔHV3%=100*(HV30.3mm-HV3bulk)/HV3bulk(式2)
【0043】
HV3bulkは、超硬合金採掘インサートの最も内側(中心)で測定された少なくとも30個の押込点の平均であり、HV30.3mmは、超硬合金採掘インサートのタンブリング面の0.3mm下の少なくとも30個の押込点の平均である。これは、均一な特性を有する超硬合金採掘インサートに対して行われる測定値に基づく。「均一な特性」とは、焼結後に、異なる硬度が表面ゾーンからバルクゾーンまで1%以下であることを意味する。均一な超硬合金採掘インサート上で式(1)及び(2)に記載された変形硬化を達成するために使用されるタンブリングパラメータは、勾配特性を有する超硬合金体に適用される。
【0044】
HETタンブリングは、典型的には、媒体なしで、又はタンブリングされているインサートよりもサイズが大きい媒体でタンブリング操作が行われる場合、約150RPMで運転し、又は使用される媒体がタンブリングされているインサートよりもサイズが小さい場合、約200RPMで、約600mmのディスクサイズを有するERBA 120を使用して行われてもよい。約350mmのディスクサイズを有するRoslerタンブラーを使用して、タンブリング操作が媒体なしで、又はタンブリングされているインサートよりもサイズが大きい媒体で行われる場合は約200RPMで、又は使用される媒体がタンブリングされているインサートよりもサイズが小さい場合、約280RPMで行われる。典型的には、部品を少なくとも40~60分間タンブリングさせる。
【0045】
高温での表面硬化処理の効果は、プロセスが乾燥条件で行われる場合に増強される。「乾燥」条件とは、液体がプロセスに添加されないことを意味する。この理論によって見出されないが、液体がプロセスに導入される場合、それは部品を室温に保つであろうと考えられる。さらに、液体を含むことにより、タンブリングしている部品間の衝撃の程度が低減されるであろう。液体は、内部摩擦及び衝突熱を防止して、衝突点の温度を上昇させる。液体を使用しない場合、衝突点の温度が高くなり、衝突点に供される材料の靱性が高くなる。
【0046】
あるいは、タンブラーは、湿潤状態で高温タンブリングを行うことができるように、水が沸騰するのを防止する圧力に加圧することができる。
【0047】
タンブリングプロセスは、タンブリングされる採掘インサートの形状及び材料組成に応じて、タンブリング媒体の存在下又は非存在下で行うことができる。タンブリング媒体を添加することが決定された場合、インサートに対する媒体のタイプ及び比率は、タンブリングされる採掘インサートの幾何学的形状及び材料組成に適合するように選択される。
【0048】
任意選択的に、熱の全部又は一部は、インサートとタンブリングプロセスで添加された任意の媒体との間の摩擦によって発生する。
【0049】
任意選択的に、インサートは、第2の表面硬化プロセスにさらに供される。好ましくは、室温で行われる第2の表面硬化プロセスが行われる場合、好ましくは、第2の表面硬化プロセスは、湿潤状態での室温でのHETタンブリングである。
【0050】
本発明のさらなる態様は、1つ又は複数の硬質相成分と、インサートの上部半分における%fcc相Co対%hcp相Coの比が2超、好ましくは3超、より好ましくは4超であることを特徴とするバインダと、を含む、超硬合金採掘インサートに関する。「%fcc Co」は、面心立方相中のCoの百分率であり、「%hcp Co」は、六方最密充填相中のCoの百分率である。各相の割合は、EBSDを用いて測定することができる。インサートの上部半分における%fcc相Co対%hcp相Coの比の増加は、より高い圧潰強度を有するインサートをもたらす。純粋なCoの場合、hcpは安定相であり、fccは準安定である。最も一般的には、超硬合金における優位相は、焼結中の炭素及びタングステンの合金化に起因して、fccである。表面硬化処理は、バインダに欠損、すなわち積層欠陥及び転位を誘発する。積層欠陥を形成する傾向が増加すると、fcc Coの機械的特性が改善される。歪みが増加すると、欠損の移動度が制限され、材料中でfccからhcpへの相変態が起こる。fcc Co相がこれを安定化させることを可能にすることは、掘穿中により多くのfccからhcpへの変態が生じることを意味する。したがって、hcp Coに対するfccの比がより高い出発物質を有することが有利である。
【0051】
表面ドーピングは、焼結中にドープ領域、この場合はドリルインサート上部に向かってCoを移動させる。Crの合金化効果やCrによる粒成長阻害効果は、磁気保磁力や磁気比率にも影響を及ぼすはずである。このため、上部と下部の間で磁気特性に差が生じる。
【0052】
一実施形態では、
であり、式中、Com
Tは、インサートの上部半分における磁気百分率の割合であり、Com
Bは、インサートの下部半分における磁気百分率の割合である。Hc
Tは、インサートの上部半分の磁気保磁力であり、Hc
Bは、インサートの下部半分の磁気保磁力である。Hc及びComは、それぞれ切断前のインサートの磁気保磁力及び磁気百分率の割合である。
【0053】
一実施形態では、
であり、式中%Cr
Tは、インサートの上部半分のCrの重量パーセントであり、%Cr
Bは、インサートの下部半分のCrの重量パーセントである。インサートの先端のクロムレベルが高いほど、耐摩耗性が向上し、掘穿性能が向上する。
【0054】
一実施形態では、表面下150μmで測定された硬度は、バルクで測定された硬度よりも少なくとも20HV3、好ましくは少なくとも30HV3大きい。この硬度プロファイルは、硬質表面及び強靭なバルクを提供するので、削岩用インサートに最適である。
【0055】
超硬合金インサートの硬度は、ビッカース硬度自動測定を使用して測定される。超硬合金体を縦軸に沿って切断し、標準的な手順を使用して研磨する。切断は、流水下でダイヤモンド・ディスク・カッターを用いて行われる。次いで、3kgの荷重でのビッカース圧痕が、表面下の所与の深さで研磨された部分にわたって分布する。上部表面ゾーンの硬度は、ドームの下の表面の下の所与の距離150μmで取られた約20個の圧痕(ノンドープのインサート)又は30個の圧痕(ドープインサート)の平均である。下部表面ゾーンの硬度は、下部の下の表面の下の所与の距離150μmで取られた約18個の圧痕(ノンドープのインサート)又は24個の圧痕(ドープされたインサート)の平均である。
【0056】
硬度測定は、Euro Products Calibration Laboratory(英国)によって発行されたHV1試験ブロックに対して較正された、KB Pruftechnik GmbHによるプログラム可能な硬度試験機KB30Sを使用して行う。硬度は、ISO EN6507-01に従って測定される。
【0057】
HV3測定は以下の方法で行った。
・試料のエッジを走査する。
・試料のエッジから指定された距離に圧痕を作るように硬度試験機をプログラミングする。
・すべてのプログラムされた座標で3kgの荷重による押し込み。
・コンピュータは、ステージを各座標に移動させ、顕微鏡を各圧痕の上に配置し、自動調整光、自動焦点を作動させ、各圧痕のサイズを自動的に測定する。
・ユーザは、焦点及び結果を妨げる他の問題のために圧痕のすべての写真を検査する。
【0058】
一実施形態では、焼結超硬合金採掘インサートの全高の百分率で、ドープされた表面とバルクとの間に、ドープされた表面から1~50%、好ましくは5~40%の第1のバインダ濃度最小値(%binder-min)がある。%binder-minは、典型的には、表面の第1の部分から0.5~10mm、好ましくは0.8~7mmの深さである。
【0059】
一実施形態では、ドープされた表面に第1のクロム濃度最大値がある。
【0060】
一実施形態では、コバルトの濃度は、採掘インサートの下部半分と比較して採掘インサートの上部半分においてより高い。
【0061】
一実施形態では、クロムの濃度は、採掘インサートの下部半分と比較して採掘インサートの上部半分においてより高い。
【0062】
超硬合金採掘インサート内の化学物質濃度は、断面超硬合金採掘インサートの中心線に沿って波長分散分光法(WDS)を使用して測定される。
【0063】
一実施形態では、採掘インサートはコーティングされていない。
【0064】
本開示の別の態様は、削岩又は石油及びガスの掘穿のための、前述又は後述する超硬合金採掘インサートの使用に関する。
【実施例】
【0065】
実施例1-出発物質及びタンブリング条件
実験の設計(DOE)は、研究されたプロセスの応答を理解するために、因子空間において入力因子が体系的に変化する実験を計画するために使用された。この場合、SASによるJMPソフトウェアを使用した。ソフトウェアのカスタム設計オプションを選択し、バインダ濃度、炭素バランス、ドーピング量及びタンブリング温度の因子を変化させた。磁気保磁力(kA/m)及びコバルト磁気比率(Com%)の両方を、焼結及び粉砕後、及びタンブリング後に再び測定した。
【0066】
表1は、試験した採掘インサートの組成、ドーパント及びタンブリング温度、並びに測定された磁気特性の概略を示す。Comは、タンブリング中に有意に変化しない。
【0067】
すべての超硬合金インサートは、FSSSが粉砕前に5と18μmの間であったとして測定されたWC粉末粒径を使用して製造された。有機バインダ(プレス剤)として2重量%ポリエチレングリコール(PEG 8000)及び超硬合金粉砕体を添加したエタノールを使用して、WC及びCo粉末を湿式条件でボールミルで粉砕した。粉砕後、混合物をN2雰囲気中で噴霧乾燥し、次いで、外径(OD)が約10mm、高さが約16~20mmのサイズを有するGT7S100A採掘インサートに一軸プレスし、それぞれ約17gの重量で上部に球形ドーム(「切断エッジ」)を有した。インサートを、インサートの円筒部分の半分又は全インサート高さの約11mmに相当する深さまで先端を下向きにして、Cr2O3及びPEG300を含むスラリーに垂直に浸漬することによってドープした。表1に詳述したように、3つの異なるCr2O3濃度、15、20及び26%を使用した。15%のCr2O3懸濁液はインサート当たり8~10mgのCr2O3をもたらし、20%のCr2O3懸濁液はインサート当たり15~16mgのCr2O3をもたらし、26%のCr2O3懸濁液はインサート当たり17.5~20mgのCr2O3をもたらした。次いで、試料を、55barのAr圧力で1410℃で1時間、Sinter-HIPを使用して焼結し、次いで粉砕した。
【0068】
焼結及び粉砕の後、実験室規模で高温でのタンブリングを再現するために、「高温振盪」法が使用されてきた。高温振盪法は、最大荷重40kg及び最大振盪周波数65Hzの市販の商標Corob(商標)Simple Shake 90のペイントシェーカーを使用する。「高温振盪」法は、周波数45Hzで行った。約800グラム又は50個のインサート及び4.2kgの炭化物媒体(約7mmのボールを1560個)を、内径10cm、内部高さ12cmの円筒形の鋼製容器に入れ、高さの2/3まで充填した。採掘インサートを備えた鋼シリンダーを、炉内で媒体を用いて150℃又は300℃の高温に加熱し、採掘インサートを目標温度で120分間保持した。加熱後、鋼シリンダーをペイントシェーカーに真っ直ぐ移し、直ちに9分間振盪した。シェーカーが始まるまでの炉間の移送時間は20秒未満であった。媒体は、約1600の焼結HV20をもたらす10重量%Co、0.5重量%Cr及び89.5重量%WCを有する超硬合金グレードH10Fで作製された。振盪は乾燥条件で実施した、すなわち水を150又は300℃の振盪に添加しなかった。MIKRONによるレーザー誘導赤外線温度計M7を温度測定に使用し、インサート上の容器内の温度を取得した。25℃で行われる実行1~6の温度上昇を防ぐために、100mlの量の水をインサート及び媒体のバッチに添加した。すべての操作について、インサートを室温に冷却した後、Rosler FKS04タンブラー中の50kgの7mm H10Fタンブリング媒体を用いて、300RPMで50分間の最終湿式遠心式タンブリング操作に供した(表1のタンブリング後のHc測定値は両方のタンブリング工程の後である)。
【0069】
実施例2-エッジの損傷
最も高い収率を得るために、タンブリング後の採掘インサートのエッジへの損傷が少ないこと、好ましくは全くないことが重要である。チッピングが最も起こりやすい領域は、基部とインサートの側面との間の鋭い角にあり、典型的には約0.5mmの半径がある。
【0070】
採掘インサートをタンブリング後の損傷について目視検査したところ、150℃又は300℃で表面硬化した試料のいずれも、インサートの基部と側面との間の最も鋭い半径においてさえ、エッジ損傷を示さなかった。
【0071】
実施例3-インサート圧縮試験
インサート圧縮試験方法は、インサートが破損するまで、一定の変位速度で、2つの平面平行な硬質対向面の間でドリル・ビット・インサートを圧縮することを含む。ISO 4506:2017(E)規格「Hardmetals-Compression test」に基づく試験固定具を使用し、2000HVを超える硬度の超硬合金アンビルを用いたが、試験方法自体は削岩用インサートの靱性試験に適合させた。固定具をインストロン5989試験フレームに取り付けた。
【0072】
荷重軸は、インサートの回転対称軸と同一であった。固定具の対向面は、ISO 4506:2017(E)規格で要求される平行度、すなわち0.5μm/mmの最大偏差を満たした。試験したインサートに、荷重-変位曲線を記録しながら、破損するまで0.6mm/分に等しい一定のクロスヘッド変位速度で荷重をかけた。試験リグ及び試験固定具のコンプライアンスを、試験評価前の測定された荷重-変位曲線から差し引いた。1回の実行につき5つのインサートを試験した。各試験の前に、対向面を損傷について検査した。インサートの破損は、測定された荷重が少なくとも1000N急激に低下したときに発生すると定義された。試験されたインサートのその後の検査により、これがすべての場合において肉眼で見えるクラックの発生と一致することが確認された。材料強度は、破壊までの総吸収変形エネルギーによって特徴を明らかにした。試料を圧潰するために必要なジュール(J)単位の合計破壊エネルギー(Ec)を以下の表2に示す。
【0073】
図1は、Com/Co=0.9及び1400HV3のバルク硬度を有する6%Coグレードの圧潰強度に対するドーパント中のCr
2O
3のタンブリング温度及び濃度の影響を示す、DOE結果である表1及び2からモデル化したプロットである。
図1から、タンブリング温度の上昇及びドーピングに使用されるCr
2O
3スラリーの量(濃度)の増加の結果として圧潰強度の増加があることが分かる。バインダ中のCrによる耐摩耗性の増加と圧潰強度の増加との組み合わせは、インサート性能を増加させる。
【0074】
実施例4-硬度測定
超硬合金インサートの硬度は、上述のビッカース硬度自動測定を用いて測定される。超硬合金体を長手軸に沿って切断し、標準的な手順を使用して研磨した。切断は、流水下でダイヤモンド・ディスク・カッターを用いて行われる。次いで、3kgの荷重でのビッカース圧痕が、表面下の所与の深さで研磨された部分にわたって分布する。ノンドープの実行の場合、圧痕間の距離は、深さ0.15及び0.3mmで0.7mm、深さ0.6で0.6mm、深さ2.4及び4.8mmで1.2mm及び0.4mmである。ドープされた実行の場合、圧痕間の距離は、深さ0.15、0.3、0.8、1.3、1.8、2.3、2.8、3.3、3.8、4.3及び4.8mmで0.5mmである。
【0075】
上部ゾーンの硬度は、ドームの下の表面の下の所与の距離150μmで取られた、ノンドープのインサートについては約20個の圧痕の平均、又はドープされたインサートについては約30個の圧痕の平均である。下部表面ゾーンの硬度は、下部の下の表面の下の所与の距離150μmで取られた、ノンドープのインサートについては約18個の圧痕の平均、又はドープされたインサートについては約24個の圧痕の平均である。
【0076】
バルクの硬度は、ノンドープのインサートについては約30個の圧痕の平均であり、ドープされたインサートについては約60個の圧痕の平均であり、バルク硬度の測定は最も内側の距離で行われた。1回の実行につき2つの試料を測定した。表3は、タンブリング後の硬度測定の概略を示す。
【0077】
図2は、実行11(比較例)及び12(発明)からのインサートの先端から基部までの硬度プロファイルであり、
図3は、実行4(比較例)及び14(発明)からのインサートからの硬度プロファイルである。プロファイルは、バルクと比較して表面でより高い硬度があり、タンブリングが、ノンドープの実行4及び11を見たときに下部及び先端部でほぼ同じ硬度を増加させることを示している。
【0078】
実施例5-化学分析
試料の化学勾配は、Jeol JXA-8530Fマイクロプローブを使用して波長分散分光法(WDS)分析によって調査した。6重量%のCo及び96重量%のWCを含む超硬合金インサート、並びにドームの表面上に30重量%のCr
3O
2及び70重量%のPEG300を含むスラリーに試料を浸漬することによってドープされた11重量%のCo及び89重量%のCoを含む超硬合金(0.25~0.28mg/mm
2の濃度に対応)のタンブリングの前に、焼結材料の断面に対して中心線に沿ってラインスキャンを行い、インサート全長の約60%が酸化物スラリーに曝露された。精密カッターを使用して試料を調製し、続いて機械的粉砕及び研磨を行った。試料調製の最終工程は、1μmのダイヤモンドペーストを用いて柔らかい布上で研磨することによって行った。15kVの加速電圧を用いて、工程サイズ100μm、プローブ径100μmでラインスキャンを行った。試料あたり3回のラインスキャンを実施し、平均を報告する。
図4はコバルト濃度の化学的プロファイルを示し、
図5はクロム濃度の化学的プロファイルを示し、
図6はタンブリング前の6及び11重量%Co試料の両方のCr/Coの化学的プロファイルを示す。タンブリング処理は化学組成に影響を及ぼさないであろうし、そのためタンブリング後に同じ化学勾配プロファイルが存在するであろう。
【0079】
ASTM B 890-07に従ってMalvern Panalytical Axios Max Advanced機器を使用して、蛍光X線(XRF)を使用してインサートの上部半分及び下部半分のクロム濃度を測定した。クロム測定のために、1実行当たり1つのインサートを次に上部半分及び下部半分に直角に切断し、各部分は1mmのダイヤモンド・ディスク・カッターを使用してほぼ同じ高さ(±0.5mm)を有した。
【0080】
クロムドープされたインサートの場合、クロム比を次のように表す。
式中、%Cr
Tはインサートの上部半分のCrの割合であり、%Cr
Bはインサートの下部半分のCrの割合である。
【0081】
実施例6-磁気特性
タンブリング後に、磁気保磁力(Hc)及び磁気百分率の割合Com(%)を測定した。次いで、1回の実行当たり3つのインサートを上部半分及び下部半分に直角に切断し、各部分は1mmダイヤモンド・ディスク・カッターを使用してほぼ同じ高さ(±0.5mm)を有した。Hc及びComを各半分について再度測定した。Hc
T及びHc
Bは、それぞれインサートの上部半分及び下部半分において測定された磁気保磁力である。Com
T及びCom
Bは、それぞれ上部半分及び下部半分について測定された磁気百分率の割合である。これらの測定値は、以下の式から計算されるαと共に以下の表に記録される。
【0082】
実施例7-電子後方散乱回折(EBSD)
EBSD測定を試料に対して行い、選択された位置における試料微細構造のマップを作成した。これらのマップを、結晶学的情報を使用して評価し、相を決定した。
【0083】
インサートの上部の微細構造を表すために表面から0.5mmの深さで、及びインサートのバルク中の微細構造を表すためにインサートの表面から10mmで測定を行った。インサートは、ダイヤモンド9μmスラリーを使用してダイヤモンドサイズが1μmになるまで平面平行断面を機械的に研磨し、続いて平坦モードのHitachi IM 400でイオン研磨工程を行うことによってEBSD用に調製した。次いで、調製した試料を試料ホルダに取り付け、走査型電子顕微鏡(SEM)に挿入した。試料を水平面に対して70度、EBSD検出器に向かって傾けた。特性評価に使用したSEMは、70μmの対物アパーチャを使用したJeol JSM-7800Fであった。使用したEBSD検出器は、Oxford Instruments「AZtec」ソフトウェアバージョン4.3を使用して動作するOxford Instruments Nordlys Detectorであった。EBSDデータ取得は、研磨された表面に集束電子ビームを照射し、90μm×90μmの領域に対して0.05μmの工程サイズを使用してEBSDデータを順次取得することによって行った。使用したSEM設定は、加速電圧=2OkV、開口サイズ=70μm、作動距離=15mm、検出器挿入距離=182mm、最適化パターン:ビニング4×4、静的背景オン、自動背景オン、最適化ソルバー:最適化されたTKLモデル、バンド数8、Hough分解能60、精密化を適用する、とした。使用した参照相は以下の通りであった。
WC(六角)、41個の反射体、Acta Ctystallogr.、[ACCRA9]、(1961)、vol.14、pages 200-201。
Co(立方体)、44個の反射体、Z.Angew.Phys.、[ZAPHAX]、(1967)、vol.23,pages 245-249。Co(六角形)、44個の反射体、Fiz.Met.Metalloved、{FMMTAKJ、(1968)、vol.26、pages 140-143。
【0084】
EBSDデータを収集し、AZtec 3.4で分析した。ノイズ低減は、野生スパイクを除去し、外挿レベル3(低レベル)でゼロ溶液除去を行うことによって行った。1回の実行あたり2つの試料について測定を行った。以下の表は、インサートの上部半分及び下部半分で測定されたfcc Co対hcp Coの平均割合を示す。
【国際調査報告】