IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グリコシン リミテッド ライアビリティー カンパニーの特許一覧

特表2023-526271コロナウイルスによって誘導される炎症の防止および処置のための2’-フコシルラクトース
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】コロナウイルスによって誘導される炎症の防止および処置のための2’-フコシルラクトース
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20230614BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230614BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20230614BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20230614BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20230614BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20230614BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230614BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230614BHJP
【FI】
A61K31/702
A61P1/04
A61P11/00
A61P29/00
A61P31/00
A61P37/02
A61K35/20
A61K45/00
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/12
A23L33/125
A23C9/13
A23C9/152
A23L35/00
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L27/00 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568917
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 US2021032282
(87)【国際公開番号】W WO2021231750
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/024,473
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513206809
【氏名又は名称】グリコシン リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モロウ アーディス エル.
(72)【発明者】
【氏名】ニューバーグ デヴィッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】マッコイ ジョン エム.
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B036
4B047
4B117
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001EC05
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD31
4B018ME14
4B036LC06
4B036LH09
4B047LB08
4B047LB09
4B047LG21
4B047LG23
4B117LC04
4B117LK11
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC04
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC31
4C076CC35
4C084AA19
4C084MA13
4C084MA35
4C084MA43
4C084NA05
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZB331
4C084ZB332
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA68
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB32
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB39
4C087CA14
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZA68
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB32
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、対象における呼吸器病原体感染によって誘導される宿主炎症を減弱させるため、かつ/または呼吸器病原体感染によって誘導される宿主炎症からの回復を促進するため、単離されたヒトミルクオリゴ糖などのオリゴ糖を利用するための組成物および方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置するためかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖を含む組成物であって、該少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖が2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含み、該病原体によって誘導される免疫応答が該対象の肺および/または胃腸管における炎症を含む、前記組成物。
【請求項2】
少なくとも60%、75%、90%、95%、98%、または99%(w/w)の2'-FLを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物10グラム当たり0.01g 2'-FL~10g 2'-FLを含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
2'-FLが、
(i)対象の細胞への病原体の結合を防止もしくは低減させ;
(ii)対象における病原体によって誘導される免疫応答を減弱させ;かつ/または
(iii)対象における病原体によって誘導される免疫応答に拮抗する宿主免疫応答をモジュレートする、
前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置することができかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進することができる付加的な薬剤をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
付加的な薬剤が、
(i)6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、およびジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)からなる群より選択される、別のHMO;
(ii)ガラクトオリゴ糖(GOS)もしくはフラクトオリゴ糖(FOS)を含む、非HMOプレバイオティック剤;
(iii)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、パラバクテロイデス(Parabacteroides)属、プレボテラ(Prevotella)属、もしくはクロストリジウム(Clostridium)属の少なくとも1つのプロバイオティック菌を含む、非HMOプロバイオティック剤;または
(iv)抗生物質もしくは抗ウイルス化合物、抗炎症化合物、天然もしくは合成の副腎皮質ステロイド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、オキサプロジン、エトドラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ビモボ(vimovo)、解熱薬、パラセタモール、アスピリン、およびアセトアミノフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、付加的な薬剤
を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
粉末、錠剤、エアロゾル、哺乳動物用飼料、砂糖のパケット、ヨーグルト、飲料、離乳食、または乳児用調製乳の形態である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
病原体がウイルスを含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
ウイルスが、
(i)コロナウイルス;
(ii)COVID-19ウイルス;
(iii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);および/または
(iv)MERS-CoV
を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
対象がヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
対象が乳児、小児、成人、および/または高齢者である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
対象が、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、呼吸不全、肺機能障害、低酸素血症、全身性臓器不全、感染性下痢、抗生物質関連下痢、旅行者下痢、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、およびアレルギー性炎症からなる群より選択される疾患または障害を有するか、または有する傾向がある、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与する工程を含む、対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置し、かつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進する方法。
【請求項14】
少なくとも1つの単離されたHMOが、少なくとも60%、75%、90%、95%、98%、または99%(w/w)の2'-FLを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
薬学的に有効な量が、
(i)1日当たり約0.2g~10g;
(ii)1日当たり約1g~10g;および/または
(ii)1日当たり約5g~10g
の投与量に等しい、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの単離されたHMOが対象の肺および/または胃腸管へ投与される、請求項13~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置することができかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進することができる付加的な薬剤の薬学的に有効な量を、対象へ投与する工程をさらに含み、
該付加的な薬剤が、
(i)6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、およびジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)からなる群より選択される、別のHMO;
(ii)ガラクトオリゴ糖(GOS)もしくはフラクトオリゴ糖(FOS)を含む、非HMOプレバイオティック剤;
(iii)ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、バクテロイデス属、パラバクテロイデス属、プレボテラ属、もしくはクロストリジウム属の少なくとも1つのプロバイオティック菌を含む、非HMOプロバイオティック剤;または
(iv)抗生物質もしくは抗ウイルス化合物、抗炎症化合物、天然もしくは合成の副腎皮質ステロイド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、オキサプロジン、エトドラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ビモボ、解熱薬、パラセタモール、アスピリン、およびアセトアミノフェンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、付加的な薬剤
を含む、
請求項13~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
病原体が、
(i)コロナウイルス;
(ii)COVID-19ウイルス;
(iii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);および/または
(iv)MERS-CoV
を含むウイルスを含む、請求項13~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
対象がヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである、請求項13~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
対象が、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、呼吸不全、肺機能障害、低酸素血症、全身性臓器不全、感染性下痢、抗生物質関連下痢、旅行者下痢、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、およびアレルギー性炎症からなる群より選択される疾患または障害を有するか、または有する傾向がある、請求項13~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与することを含む、対象における病原体によって誘導される免疫応答の防止、減弱、もしくは処置、および/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復の促進のための医薬の調製のための、請求項1~12のいずれか一項記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2020年5月13日に出願されたU.S.S.N.63/024,473の恩典を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、対象における病原性ウイルスによって誘導される炎症を防止し、かつ/または処置するため、ヒトミルクオリゴ糖(hMOS)を利用するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
世界中の何百万人もの人々に対するCOVID-19感染の最近のパンデミックのため、コロナウイルス感染を防止または減弱させることができる処置が、緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
SARS-CoV-2(COVID-19)などのいくつかのコロナウイルスは、宿主の炎症をもたらし得る、その感染のため、動物対象のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合することが公知である。本発明は、ヒトミルクグリカンまたはヒトミルクオリゴ糖(hMOS)が、(1)ウイルスまたはその他の呼吸器病原体が宿主の細胞または組織に結合するのを防止する活性;(2)例えば、一般的な腸内細菌の生育および/または機能を促進することにより、宿主の炎症を低減させる活性;ならびに(3)宿主の炎症を直接低減させる活性を含む、少なくとも3つの有益な活性によって、そのような感染関連炎症を防止、減弱、または処置するために使用され得るという発見に基づく。ヒトミルクオリゴ糖[例えば、6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、3'-ガラクトシルラクトース(3'-GL)、6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)、4-ガラクトシルラクトース(4'-GL)等]などの本明細書に記載される組成物は、(宿主によって)難消化性または部分的に難消化性であるが、複数のメカニズムのうちの少なくとも1つ、例えば、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)ならびに/もしくは胃腸管におけるコロナウイルスなどの呼吸器病原体の受容体への結合を減弱させることによる、ウイルス感染の減弱もしくは阻害、例えば、一般的な腸内細菌の生育および/もしくは機能を促進することによる、宿主の炎症の低減;または宿主の炎症の直接的な低減によって、宿主に健康上の利益を提供する。さらに、本発明は、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)ならびに/もしくは胃腸(GI)管における呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)感染関連宿主炎症を防止、減弱/低減、および/もしくは阻害するためかつ/または呼吸器病原体感染関連宿主炎症からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)などの少なくとも1つの単離されたフコシル化オリゴ糖を含む、そのような組成物を使用する方法を提供する。好ましくは、オリゴ糖は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む少なくとも1つの単離されたHMO、または本明細書に記載される他のhMOSとの組み合わせを含む。
【0005】
(表1)HMOSの名称および構造
【0006】
本発明の組成物は、呼吸器病原体感染を防止し、減弱させ、かつ/または処置するため、単独で、あるいは他の薬剤と共に、投与される。組成物は、任意で、薬学的に許容される賦形剤または不活性成分を含む。
【0007】
1つの局面において、本発明は、対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置するためかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(hMOS)を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、病原体によって誘導される免疫応答は、対象の肺および/または胃腸管における炎症を含む。いくつかの態様において、組成物は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、3'-ガラクトシルラクトース(3'-GL)、6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)、または4-ガラクトシルラクトース(4'-GL)を含む。いくつかの態様において、組成物は、対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置するためかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含み、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含み、病原体によって誘導される免疫応答は、対象の肺および/または胃腸管における炎症を含む。いくつかの態様において、組成物は、少なくとも60%、75%、90%、95%、98%、または99%(w/w)の2'-FLを含む。いくつかの態様において、組成物は、組成物10グラム当たり0.01g 2'-FL~10g 2'-FLを含む。いくつかの態様において、組成物(例えば、2'-FL)は、(i)対象の細胞への病原体の結合を防止もしくは低減させ;(ii)対象における病原体によって誘導される免疫応答を減弱させ;かつ/または(iii)対象における病原体によって誘導される免疫応答に拮抗する宿主免疫応答をモジュレートする。
【0008】
いくつかの態様において、組成物は、対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置することができかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進することができる付加的な薬剤をさらに含む。いくつかの態様において、付加的な薬剤は、6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、3'-ガラクトシルラクトース(3'-GL)、6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)、または4-ガラクトシルラクトース(4'-GL)のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様において、付加的な薬剤は、ガラクトオリゴ糖(GOS)もしくはフラクトオリゴ糖(FOS)などの非HMOプレバイオティック剤のうちの少なくとも1つ、少なくとも1つのプロバイオティック菌(例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、パラバクテロイデス(Parabacteroides)属、プレボテラ(Prevotella)属、もしくはクロストリジウム(Clostridium)属の細菌)、ならびに/または抗生物質もしくは抗ウイルス化合物、抗炎症化合物、天然もしくは合成の副腎皮質ステロイド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、オキサプロジン、エトドラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ビモボ(vimovo)、解熱薬、パラセタモール、アスピリン、およびアセトアミノフェンからなる群より選択される少なくとも1つの薬剤を含む。
【0009】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、粉末、錠剤、エアロゾル、哺乳動物用飼料、砂糖のパケット、ヨーグルト、飲料、離乳食、または乳児用調製乳の形態である。いくつかの態様において、呼吸器病原体は、ウイルスを含む。例えば、ウイルスは、(i)コロナウイルス;(ii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);(iii)SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス;および/または(iv)中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-Cov)を含み得る。いくつかの態様において、ウイルスは、動物の細胞または組織のACE2受容体に結合する。いくつかの態様において、ウイルスと動物の細胞または組織との間の結合は、少なくとも1つのフコシル化オリゴ糖または1つのフコシル化されたポリペプチドもしくはタンパク質などの、動物の細胞または組織におけるフコシル化によって媒介される。いくつかの態様において、本明細書に記載される動物の細胞または組織には、動物の呼吸器系の組織(例えば、肺および気管支)もしくは胃腸(GI)管粘膜、またはそのような組織の細胞が含まれる。例えば、動物の呼吸器組織には、肺、または(例えば、鼻、鼻腔、副鼻腔、咽頭、および声帯より上方の喉頭の一部を含む)上気道、または(例えば、喉頭の下部、気管、気管支、細気管支、および肺胞を含む)下気道のうちの少なくとも1つからの組織が含まれ得る。
【0010】
いくつかの態様において、本明細書に記載される動物の細胞または組織は、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を発現する。
【0011】
いくつかの態様において、対象は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである。
【0012】
いくつかの態様において、対象は、乳児、小児、成人、および/または高齢者である。
【0013】
いくつかの態様において、対象は、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、呼吸不全、肺機能障害、低酸素血症、全身性臓器不全、感染性下痢、抗生物質関連下痢、旅行者下痢、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、およびアレルギー性炎症からなる群より選択される疾患または障害を有し、有する傾向があり、または特に感受性もしくは脆弱である。
【0014】
別の局面において、本発明は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与することを含む、対象における病原体によって誘導される免疫応答の防止、減弱、もしくは処置、および/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復の促進のための医薬の調製のための、本明細書に記載される組成物の使用を提供する。
【0015】
別の局面において、本発明は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)を含む少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与する工程を含む、対象における病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置し、かつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進する方法を提供する。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、少なくとも60%、75%、90%、95%、98%、または99%(w/w)の2'-FLを含む。いくつかの態様において、薬学的に有効な量は、
(i)1日当たり約0.2g~10g;
(ii)1日当たり約1g~10g;および/または
(ii)1日当たり約5g~10g
の投与量に等しい。
【0016】
いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の肺および/または胃腸管へ投与される。
【0017】
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、病原体によって誘導される免疫応答を防止、減弱、もしくは処置することができかつ/または病原体によって誘導される免疫応答からの回復を促進することができる付加的な薬剤の薬学的に有効な量を、対象へ投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、付加的な薬剤は、6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、3'-ガラクトシルラクトース(3'-GL)、6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)、または4-ガラクトシルラクトース(4'-GL)のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様において、付加的な薬剤は、ガラクトオリゴ糖(GOS)もしくはフラクトオリゴ糖(FOS)などの非HMOプレバイオティック剤のうちの少なくとも1つ、少なくとも1つのプロバイオティック菌(例えば、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、バクテロイデス属、パラバクテロイデス属、プレボテラ属、もしくはクロストリジウム属の細菌)、ならびに/または抗生物質もしくは抗ウイルス化合物、抗炎症化合物、天然もしくは合成の副腎皮質ステロイド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、オキサプロジン、エトドラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ビモボ、解熱薬、パラセタモール、アスピリン、およびアセトアミノフェンからなる群より選択される少なくとも1つの薬剤を含む。いくつかの態様において、病原体は、
(i)コロナウイルス;
(ii)COVID-19ウイルス;
(iii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);および/または
(iv)MERS-CoV
を含むウイルスを含む。
【0018】
いくつかの態様において、対象は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである。いくつかの態様において、対象は、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、呼吸不全、肺機能障害、低酸素血症、全身性臓器不全、感染性下痢、抗生物質関連下痢、旅行者下痢、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、およびアレルギー性炎症からなる群より選択される疾患または障害を有し、有する傾向があり、または特に感受性もしくは脆弱である。
【0019】
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)または胃腸(GI)管粘膜へ組成物を投与する工程を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOは、吸入、肺灌流、経口摂取、肛門投与、および/または注射などの許容される経路を通して対象へ投与される。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOについての薬学的に有効な量は、(i)1日当たり約0.2g~10g;(ii)1日当たり約1g~10g;および/または(ii)1日当たり約5g~10gの投与量に等しい。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOについての薬学的に有効な量は、1日当たり約0.2g~約10g、1日当たり約0.5g~約10g、1日当たり約1g~約10g、1日当たり約1g~約5g、1日当たり約5g~約10gの投与量、または特定の対象のために有効であることが見出された任意の投与量に等しい。
【0020】
本明細書において使用されるように、「単離された」または「精製された」オリゴ糖は、ヒト乳中に天然に存在する他のオリゴ糖を実質的に含まない。精製されたオリゴ糖はまた、生合成によって生成された時、細胞材料を含まず、化学的に合成された時、他の化学物質を含まない。精製された化合物は、少なくとも50%または60%(乾燥重量)、関心対象の化合物である。好ましくは、調製物は、重量で少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上の純度で、関心対象の化合物である。例えば、精製されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものは、重量で、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、98%、99%、または100%(w/w)が所望のオリゴ糖であるものである。純度は、任意の適切な標準的な方法、例えば、カラムクロマトグラフィ、薄層クロマトグラフィ、または高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析によって測定される。オリゴ糖は、精製され、ヒトだけでなく、ペット(イヌ、ネコ)ならびに家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、またはブタ、および家禽)などの動物が消費する多数の生成物に使用されている。「精製された」とは、ヒト対象への投与のために安全である程度の無菌性、例えば、感染病原体または毒性病原体の欠如も定義する。
【0021】
同様に、「実質的に純粋」とは、天然に付随する成分から分離されているオリゴ糖を意味する。典型的には、オリゴ糖は、天然に会合しているタンパク質および天然に存在する有機分子を、重量で少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上、含まない時、実質的に純粋である。
【0022】
ヒト乳中の2'-FL、3-FL、およびLDFTの平均濃度は、以下の通りである:2'-FL=2.43g/L(±0.26)、3-FL=0.86g/L(±0.10)、およびLDFT=0.43g/L(±0.04;Chaturvedi P,et al.2001 Glycobiology,May;11(5):365-72)。従って、ヒト乳中の2'-FL:3FL:LDFTの平均比は、5.65:2:1である。複数の単離されたオリゴ糖を含む組成物、例えば、2つの単離されたオリゴ糖を含む組成物が形成されるよう、第1のオリゴ糖(例えば、2'-FL、3-FL、またはLDFT)と、第2のオリゴ糖とを、本明細書に記載される任意の比で混合することができる。いくつかの態様において、組成物は、第1の精製されたオリゴ糖(例えば、2'-FL、3-FL、またはLDFT)と、第2のオリゴ糖とを、例えば、1:1、1:2、1:5、1:10、1:10、1:100、100:1、10:1、5:1、もしくは2:1の比、またはプレバイオティック効果を得るために適当な任意の他の比で含む。
【0023】
いくつかの態様において、対象は、呼吸器病原体感染を防止するための少なくとも1つの薬剤(例えば、抗生物質)によって前処置される。そのような抗生物質には、例えば、カナマイシン、ゲンタマイシン、コリスチン、メトロニダゾール、バンコマイシン、またはそのような機能を有する当業者に公知の任意のそのような薬剤もしくは抗生物質のうちの少なくとも1つが含まれ得る。
【0024】
いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の細胞または組織への、例えば、病原体の定着および/または接着によって測定可能な、呼吸器病原体感染を減弱させる。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の細胞または組織への病原体感染、例えば、病原体の定着および/または接着を、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上、減弱させる。
【0025】
本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOは、2'-FL、3-FL、6'-SL、3'-SL、LNFPI、TFiLNO、またはその他のオリゴ糖を含み得る。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、2'-FLを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、(例えば、w/wで)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、またはそれ以上、純粋である。
【0026】
いくつかの態様において、組成物中の少なくとも1つの単離されたHMOの重量濃度は、(i)約1%~約99%;(ii)約10%~約90%;(iii)約30%~約70%;(iv)約40%~約60%;または(v)約50%である。
【0027】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、または第10の精製されたオリゴ糖(前記の重量濃度)を含み得る。
【0028】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、組成物10グラム当たり0.01g~10gの、第1の精製されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものを含む。例えば、組成物は、組成物10グラム当たり0.1g~5g、0.5g~5g、1g~5g、または1.5g~3gの、少なくとも1つの単離されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものを含む。いくつかの態様において、組成物は、組成物1グラム当たり0.01g~1gの少なくとも1つの単離されたオリゴ糖を含む。いくつかの態様において、組成物は、組成物1グラム当たり0.01g 2'-FL~1g 2'-FLを含む。
【0029】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、組成物中の少なくとも1つの単離されたオリゴ糖に加えて、第2のオリゴ糖を含む。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、精製されたヒトミルクオリゴ糖である。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、ヒトミルクオリゴ糖ではない。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、またはラクツロースを含む。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、ガラクトオリゴ糖(GOS)を含む。
【0030】
本明細書に記載される対象は、哺乳動物であり得る。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は非ヒト哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は、早産児、正期産児、小児、青年、または高齢者である。
【0031】
本明細書に記載される組成物は、錠剤、カプセル、粉末、飲料、または乳児用調製乳の形態である。例えば、本発明の少なくとも1つの単離された(HMOなどの)オリゴ糖は、粉乳/ドライミルクの形態である。「乳児」とは、12ヶ月齢未満の小児を意味する。「乳児用調製乳」とは、12ヶ月齢未満の乳児用の特定栄養用途食品であって、このカテゴリーの者の次第に多様化する食事における主要な液体要素を構成するものを意味する。いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、ドライミルク、米粥(mashed rice)、バナナ、ポリッジ、または粥(gruels)で提供される。離乳期の乳児における疾患の急増のため、本発明のHMOSは、これらの疾患を低減させ、または寛解させるため、離乳食(例えば、米粥、バナナ、ポリッジ、およびその他の粥、調製乳等)に添加される。任意で、本明細書に記載されるHMOSは、離乳食に、製造過程で添加される。あるいは、HMOSは、離乳食に、製造過程の後、摂取前に添加される。例えば、1つまたは複数の単離された、または精製されたHMOSを含む糖のパケットが、離乳食に、乳児が摂取する前に添加される。
【0032】
本明細書に記載される組成物は、乳児、小児、および成人による消費のため、ヨーグルトまたはプロバイオティック飲料などのその他の消費可能生成物に添加されてもよい。例えば、組成物は、粉乳/ドライミルクに添加され得る。
【0033】
本明細書に記載される組成物は、呼吸器系または胃腸管へのその他の実現可能な経路を通して、局所的に、または全身的に、対象へ投与され得る。
【0034】
「処置すること」および「処置」という用語は、本明細書において使用されるように、症状の重症度および/もしくは頻度の低減をもたらし、症状および/もしくはその根底にある原因を排除し、かつ/または傷害の改善もしくは治癒を容易にするための、有害な状態、障害、または疾患に罹患した、臨床症状を有する個体への、薬剤または製剤の投与をさす。「防止すること」および「防止」という用語は、特定の有害な状態、障害、または疾患に感受性である、臨床症状を有しない個体への、薬剤または組成物の投与をさし、従って、症状および/またはその根底にある原因の発生の防止に関する。
【0035】
製剤または製剤成分の「有効量」および「治療的に有効な量」という用語は、所望の効果を提供するために十分な、製剤または成分の量を意味する。例えば、「有効量」とは、対象における呼吸器病原体によって誘導される宿主の炎症を防止、減弱、かつ/もしくは阻害するための、または対象における呼吸器病原体によって誘導される宿主の炎症を処置するための、オリゴ糖の量を意味する。最終的には、主治医または獣医師が、適切な量および投与計画を決定する。
【0036】
「含む(including)」、「含有する(containing)」、または「を特徴とする」と同義である「含む(comprising)」という移行語は、包括的または非制限的であり、付加的な記載されていない要素または方法の工程を除外しない。対照的に、「からなる」という移行句は、特許請求の範囲において指定されない任意の要素、工程、または成分を除外する。「から本質的にからなる」という移行句は、特許請求の範囲の範囲を、指定された材料または工程、および特許請求の範囲に記載された発明の「基本的かつ新規の特徴に実質的に影響しないもの」に限定する。
【0037】
本発明の他の特色および利点は、その好ましい態様の以下の説明、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似した、または等価な方法および材料を、本発明の実施または試行において使用することができるが、適当な方法および材料が以下に記載される。本明細書において言及される全ての出版物、特許出願、特許、Genbank/NCBIアクセッション番号、およびその他の参考文献は、参照によりその全体が組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、限定するためのものではない。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
コロナウイルスなどのいくつかの呼吸器病原体は、何百万人もの人々に感染し、莫大な罹患率および死亡率を引き起こす。個体の健康、具体的には、これらの個体における病原体によって誘導される炎症は、個体の年齢、疾患、微生物感染、ストレス、栄養成分、および薬学的処置に依存する。
【0039】
対象の呼吸器系および/または胃腸管における呼吸器病原体感染によって誘導される炎症を防止、減弱/低減、かつ/もしくは阻害するためかつ/または病原体感染によって誘導される炎症からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(hMOS)などの少なくとも1つのフコシル化オリゴ糖を含有する組成物が、本明細書に記載される。そのようなフコシル化オリゴ糖には、例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、および本明細書に記載されるその他のものが含まれる。本明細書に記載される組成物は、対象の呼吸器系および/もしくは胃腸管の細胞もしくは組織への該病原体(もしくはその他の病原体)の結合を、従って、感染のための侵入を防止、減弱、かつ/もしくは阻害し、一般的な腸内細菌の生育および/もしくは機能を促進し、かつ/または宿主免疫応答を直接的に制御する(例えば、低減させる)。限定する意図はないが、結合および/または感染は、細胞または組織におけるフコシル化を必要とし、一方、本明細書に記載される組成物は、該病原体(またはその他の病原体)に結合するために、該病原体(またはその他の病原体)のための内在性の受容体と競合し、従って、該病原体(またはその他の病原体)が細胞または組織に結合し、感染を引き起こすことを防止、減弱、または阻害する。
【0040】
以下に詳細に記載されるように、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、対象の呼吸器系および/または胃腸(GI)管における呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)の感染によって誘導される宿主の炎症を防止、減弱、もしくは阻害するためかつ/または呼吸器病原体感染によって誘導される宿主の炎症からの回復を促進するために有効な量で投与される。例えば、以下に詳細に記載されるように、少なくとも1つの単離されかつ/または精製された2'-FL、3-FL、LDFT、またはその他のhMOSが、対象の呼吸器系および/もしくは胃腸管における受容体への病原体の結合を選択的に防止、減弱、もしくは阻害するため、一般的な腸内細菌の生育および/もしくは機能を改善するため、かつ/または宿主免疫応答を直接的に制御する(例えば、低減させる)ため、投与される。
【0041】
呼吸器病原体
複数の病原体が、本明細書に記載される対象の呼吸器系および/または胃腸管に感染し得る。例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2、およびhCoV-NL63は、公知の呼吸器病原体である。
【0042】
コロナウイルスは、哺乳動物および鳥類において疾患を引き起こす、関連RNAウイルスの群である。ヒトにおいて、これらのウイルスは、軽度から致死的までの範囲の気道感染を引き起こす。軽度の疾病には、(いくつかの他のウイルス、主に、ライノウイルスによっても引き起こされる)感冒の症例が含まれ、一方、より致死的な変種は、SARS、MERS、およびCOVID-19を引き起こし得る。他の種における症状は、様々であり:ニワトリにおいては、上気道疾患が引き起こされ、ウシおよびブタにおいては、下痢が引き起こされる。
【0043】
SARS-CoV-2/COVID-19
2019年、中国Wuhanにおける急性呼吸器疾病の大流行から、以前に同定された重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV)と近縁の新型の動物由来コロナウイルスが発見された。その新型ウイルスは、SARS-CoV-2と名付けられ、それがヒトにおいて引き起こす疾患には、COVID-19という名称が与えられた[Guo,Y.R.,et al.,The origin,transmission and clinical therapies on coronavirus disease 2019(COVID-19) outbreak - an update on the status.Mil Med Res,2020.7(1):p.11;Hassan,S.A.,et al.,Coronavirus(COVID-19):A Review of Clinical Features,Diagnosis,and Treatment.Cureus,2020]。2020年の最初の数週間で、SARS-CoV-2/COVID-19は、中国から拡散され、世界的なパンデミックになった。
【0044】
COVID-19患者のおよそ80%において、症状は、比較的軽度であり、インフルエンザ様であり、自己回復性である。これらの症状には、発熱、咳、咽頭炎、疲労、ならびに頭痛および/または筋肉痛が含まれる。しかしながら、COVID-19患者の20%程度は、進行して、息切れ、肺炎、および急性呼吸促迫症候群(ARDS)を含む、より重篤な肺問題を示すようになる。ARDSによる呼吸不全は、COVID-19による死亡の主な原因であり、全症例の2~5%で起こる。
【0045】
ARDS[Matthay,M.A.,et al.,Acute respiratory distress syndrome.Nat Rev Dis Primers,2019.5(1):p.18]は、肺における急性進行性炎症反応を特徴とし、COVID-19の場合、進行中のSARS-CoV-2感染によって引き起こされる。感染に応答して起こる肺炎症反応は、過剰な体液の蓄積をもたらし、結果として、肺機能障害および低酸素血症をもたらす。感染した肺組織への進行性の好中球およびTリンパ球の浸潤は、炎症を増幅し、「サイトカインストーム」、即ち、炎症性サイトカインの調節されない放出をもたらし、深刻な肺傷害、全身性臓器不全、および死亡をもたらし得る。
【0046】
SARS-CoV-2ウイルスは、新型であり、その生物学についての多くが不明なままである。COVID-19の防止および処置の戦略は、まだ始まったばかりであり、多くの進行中のアプローチ[Knip,M.and J.Honkanen,Modulation of Type 1 Diabetes Risk by the Intestinal Microbiome.Curr Diab Rep,2017.17(11):p.105]は、例えば、SARS-CoV-2ワクチン[Chen,W.H.,et al.,The SARS-CoV-2 Vaccine Pipeline:an Overview.Curr Prop Med Rep,2020:p.1-4]またはSARS-CoV-2を標的とした抗ウイルス剤[Sheahan,T.P.,et al.,An orally bioavailable broad-spectrum antiviral inhibits SARS-CoV-2 and multiple endemic,epidemic and bat coronavirus.bioRxiv,2020]の開発を通して、SARS-CoV-2感染の発生および程度を防止または低減させることを目標としている。しかしながら、COVID-19に関連した重篤な罹患および死亡の多くを引き起こす傷害性の炎症反応を防止または軽減させることを目標とする付加的なアプローチも、必要とされている。
【0047】
炎症
ヒトの免疫系は、微生物性およびウイルス性の病原体の存在に対して非常に敏感であり、感染の分子サイン、例えば、細菌細胞壁成分、細菌およびウイルスの核酸断片、または過去の感染において以前に見られた特定の病原体抗原の存在を認識するための、高度に進化した自然機序および後天機序を保有している。免疫系は、死滅後または瀕死の感染宿主細胞の存在によっても強力に誘発される。
【0048】
感染が検出された後、ヒト宿主は、侵入してきた病原体を排除し、将来の免疫を発達させるため、活発な応答を編成する。炎症は、この応答の不可欠な部分である[Chen,L,et al.,Inflammatory responses and inflammation-associated diseases in organs.Oncotarget,2018.9(6):p.7204]。炎症性サイトカインが放出され、血管のタイトジャンクションが緩んで、血漿、血漿因子、抗体、および活性化免疫細胞が、感染した組織にアクセスできるようになり、そこで、病原体の中和が起こり得る。その後、不活化された病原体および壊死組織の両方が除去され、最後に、組織修復過程が開始される。このよく調節された炎症応答は、必須であり、高度に防御的であるが、調節されない炎症応答は、極めて破壊的であり得、極端な場合には、生命を脅かす。
【0049】
微生物叢および炎症
近年、ハイスループットDNA配列決定テクノロジーの出現により、ヒト腸内細菌叢の組成および機能の理解が急激に増加した[Kho,Z.Y.and S.K.Lal,The Human Gut Microbiome - A Potential Controller of Wellness and Disease.Front Microbiol,2018.9:p.1835;Thursby,E.and N.Juge,Introduction to the human gut microbiota.Biochem J,2017.474(11):p.1823-18363]。腸内生態系の障害(腸内ディスバイオシス)は、腸炎症性疾患と関連付けられており[Rapozo,D.C.M.,C.Bemardazzi,and H.S.P.de Souza,Diet and microbiota in inflammatory bowel disease:The gut in disharmony.World J Gastroenterol,2017.23(12):p.2124-2140]、腸内細菌叢のモジュレーションは、腸炎症を緩和することが示されている(Grabinger,T.,et al.,Alleviation of Intestinal Inflammation by Oral Supplementation With 2-Fucosyllactose in Mice.Front Microbiol,2019.10:p.1385)。腸内細菌叢は、遠位臓器系の機能性とも関連付けられており、腸内ディスバイオシスは、多くの疾患、例えば、全身性炎症の状況を含む多くのものと結び付けられている。この例には、以下のものが含まれる:炎症性関節炎[Rogier,R.,et al.,Alteration of the intestinal microbiome characterizes preclinical inflammatory arthritis in mice and its modulation attenuates established arthritis.Sci Rep,2017.7(1):p.15613]、動脈硬化[Brandsma,E.,et al.,A Proinflammatory Gut Microbiota Increases Systemic Inflammation and Accelerates Atherosclerosis.Circ Res,2019.124(1):p.94-100;Bogiatzi,C.,et al.,Metabolic products of the intestinal microbiome and extremes of atherosclerosis.Atherosclerosis,2018.273:p.91-97]、アトピー性皮膚炎[Lee,S.Y.,et al.,Microbiome in the Gut-Skin Axis in Atopic Dermatitis.Allergy Asthma Immunol Res,2018.10(4):p.354-362]、およびアレルギー[Zhao,W.,H.-E.Ho,and S.Bunyavanich,The gut microbiome in food allergy.Ann Allergy Asthma Immunol,2019.122(3):p.276-282;Stefka,A.T.,et al.,Commensal bacteria protect against food allergen sensitization.Proc Natl Acad Sci U S A,2014.111(36):p.13145-50]、ループス(Azzouz,D.,et al.,Lupus nephritis is linked to disease-activity associated expansions and immunity to a gut commensal.Ann Rheum Dis,2019)、多発性硬化症(Ochoa-Reparaz,J.,et al.,A polysaccharide from the human commensal Bacteroides fragilis protects against CNS demyelinating disease.Mucosal Immunol,2010.3(5):p.487-95;Chu,F.,et al.,Gut Microbiota in Multiple Sclerosis and Experimental Autoimmune Encephalomyelitis:Current Applications and Future Perspectives.Mediators Inflamm,2018.2018:p.8168717)、および1型糖尿病[Zheng,P.,Z.Li,and Z.Zhou,Gut microbiome in type 1 diabetes:A comprehensive review.Diabetes Metab Res Rev,2018.34(7):p.e3043]。特に、肺と腸との間にクロストーク(「肺腸軸」)が存在することが見出されており(Zhang,D.,et al.,The Cross-Talk Between Gut Microbiota and Lungs in Common Lung Diseases.Front Microbiol,2020.11:p.301;Anand,S.and S.S.Mande,Diet,Microbiota and Gut-Lung Connection.Front Microbiol,2018.9:p.2147)、多くの肺疾患に付随する腸障害が認められている(Zhang et al.2020)。
【0050】
ヒトミルクグリカンまたはヒトミルクオリゴ糖(HMO)
ヒトミルクオリゴ糖(hMOS)は、成長中の乳児の健康および発達を確実にする上で重要な役割を果たす、ヒト乳中に見出される数百の糖分子の多様なセットである[Bode,L.,Human milk oligosaccharides:Every baby needs a sugar mama.Glycobiology,2012.22(9):p.1147-62]。hMOSは、ラクトースフレームワーク上に構築されており、サイズは3~およそ20糖単位(およびそれ以上)の範囲である。それらの分子構造は、単糖であるフコース、ガラクトース、グルコース、N-アセチルグルコサミン、およびシアル酸の様々な組み合わせを含む。hMOSは、乳児の腸壁に吸収されにくく[Chaturvedi,P.,et al.,Survival of human milk oligosaccharides in the intestine of infants.Adv Exp Med Biol,2001.501:p.315-23]、結果として、大多数が腸管腔内に保持され、そこで、常在微生物叢によって生育のための炭素源として利用される(即ち、hMOSは、天然のヒトプレバイオティクスである)[Yu,Z.-T.,et al.,The Principal Fucosylated Oligosaccharides of Human Milk Exhibit Prebiotic Properties on Cultured Infant Microbiota.Glycobiology,2012.23(2):p.169-77]。母乳栄養を通して、母乳中のhMOSは、hMOSを利用する共生生物の乳児腸への初期定着を導き、良好な健康を促進する、病原体の定着に対して抵抗性である、バランスの取れた腸内生態系の確立をもたらすと考えられている。
【0051】
他の微生物と比べた腸内共生生物の際立った特色は、宿主と、具体的には、宿主の免疫系と、平和に共存するよう、共進化したという点である。典型的には、侵入してくる細菌を検出し、死滅させ、排除する、強力な宿主の免疫応答および炎症応答を、健康な個体の胃腸管に生息する数十億の共生細菌は、誘発しない。この理由は、未だ十分には理解されていないが、宿主が免疫応答をダウンレギュレートするよう誘導する手段が、いくつかの共生細菌において発達していることが公知である[Mazmanian,S.K.,J.L.Round,and D.L.Kasper,A microbial symbiosis factor prevents intestinal inflammatory disease.Nature,2008.453(7195):p.620-5;Kasper,D.L.,A paradigm for commensalism:the role of a specific microbial polysaccharide in health and disease.Nestle Nutr Workshop Ser Pediatr Program,2009.64:p.1-8,discussion 8-10,251-7;Troy,E.B.and D.L.Kasper,Beneficial effects of Bacteroides fragilis polysaccharides on the immune system.Front Biosci(Landmark Ed),2010.15:p.25-34;Surana,N.K and D.L.Kasper,The yin yang of bacterial polysaccharides:lessons learned from B.fragilis PSA.Immunol Rev,2012.245(1):p.13-26]。これらの同じ共生細菌は、炭素源としてhMOSを使用して、生育し、増殖する(Yu,Z.T.,C.Chen,and D.S.Newburg,Utilization of major fucosylated and sialylated human milk oligosaccharides by isolated human gut microbes.Glycobiology,2013)。
【0052】
2'-フコシルラクトース(2'-FL)
2'-フコシルラクトース(2'-FL)は、最も単純なhMOSのうちの1つであり、α(1,2)結合型のフコースがラクトースのガラクトース部分に結合している三糖である(Bode 2012)。2'-FLは、大部分の母親の乳中に、圧倒的に最も多く含まれる単一hMOS成分であり、重量で全オリゴ糖含量のおよそ25%を占めている。最も多く含まれるhMOSとして、2'-FLは、おそらく最もよく研究されており、乳児用の調製乳および食品に含めるために大量生産された最初のhMOS分子であった。2'-FLは、呼吸器病原体感染によって誘導される宿主の炎症に対して、3つの広いクラスの有益な活性を有し得る:
(1)上皮表面上のα(1,2)-フコースが付加されたグリカンは、主に、腸内の、多様な病原体の結合部位であることが十分に確立されている。例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、毒素原性大腸菌(Escherichia coli)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、およびノロウイルス(Norovirus)は、全て、感染の最初の段階で、α(1,2)-フコースが付加された上皮グリカンに結合する[Pickard,J.M.and A.V.Chervonsky,Intestinal fucose as a mediator of host-microbe symbiosis.J Immunol,2015.194(12):p.5588-93]。2'-FLは、α(1,2)結合型のフコース部分を含み、病原体の結合を効果的に防止することができる可溶性「デコイ」分子(競合的阻害剤)として作用することが示されている[Ruiz-Palacios,G.M.,et al.,Campylobacter jejuni binds intestinal H(O) antigen(Fuc alpha 1,2Gal beta 1,4GlcNAc),and fucosyloligosaccharides of human milk inhibit its binding and infection.J Biol Chem,2003.278(16):p.14112-20;Koromyslova,A.,et al.,Human norovirus inhibition by a human milk oligosaccharide.Virology,2017.508:p.81-89;Weichert,S.,et al.,Structural Basis for Norovirus Inhibition by Human Milk Oligosaccharides.J Virol,2016];
(2)2'-FLは、ビフィドバクテリウムおよびバクテロイデスなどの一般的な腸内共生細菌によって、生育のために効率的に利用されるプレバイオティック糖である(Yu et al.,2012;Yu et al.,2013)。2'-FLによって生育するいくつかの腸共生生物(例えば、バクテロイデス・フラギリス(fragilis))も、腸内の炎症をダウンレギュレートする機序を保有することが示されている(Mazmanian et al.,2008;Kasper et al.,2009;Troy and Kasper,2010;Surana and Kasper,2012)(即ち、2'-FLは、腸内細菌叢によって媒介される間接的な抗炎症活性を有する);
(3)2'-FLは、免疫機能に対する直接的な効果を有することが示されている[He,Y.,et al.,The human milk oligosaccharide 2'-fucosyllactose modulates CD14 expression in human enterocytes,thereby attenuating LPS-induced inflammation.Gut,2016.65(1):p.33-46;Sodhi,C.P.,et al.,The human milk oligosaccharides 2'-fucosyllactose and 6'-sialyllactose protect against the development of necrotizing enterocolitis by inhibiting toll-like receptor 4 signaling.Pediatric Research,2020:p.1-13;He,Y.,N.T.Lawlor,and D.S.Newburg,Human Milk Components Modulate Toll-Like Receptor-Mediated Inflammation.Adv Nutr,2016.7(1):p.102-11;Zehra,S.,et al.,Human Milk Oligosaccharides Attenuate Antigen-Antibody Complex Induced Chemokine Release from Human Intestinal Epithelial Cell Lines.J Food Sci,2018;Cummings,R.,et al.,DC-SIGN Binds 2-Fucosyl-Lactose(2FL) at Concentrations Available in Human Milk.The FASEB Journal,2015.29(1 Supplement):p.890-10]。
【0053】
コロナウイルスによって誘導される炎症の防止および処置のための2'-フコシルラクトース
SARS-CoV-2感染によって引き起こされる重篤な罹患および死亡の多くは、肺における調節されない炎症反応の結果である。この重度の炎症反応の軽減または防止は、COVID-19疾患の臨床的な経過に好影響を与え、多くの命を救うと予想される。
【0054】
2'-FLは、直接的な抗炎症活性を有することが示されており、さらに、微生物叢によって媒介される間接的な抗炎症活性を示す。微生物叢のモジュレーションは、複数の疾患シナリオにおいて全身性炎症に影響を及ぼすことが以前に示されている。本発明は、SARS-CoV-2感染によって引き起こされる(主に、肺における)炎症を防止または低減させるための薬剤としての2'-FLの使用を企図する。2'-FLは、錠剤もしくは粉末の形態で単独で経口投与されてもよいし、または少量の水もしくはその他の飲料に便利に溶解させられてもよいし、または食品もしくは食物もしくは医療用栄養補助食品に含められてもよい。好ましい2'-FLの成人用量は、1日当たり5gであるが、1日当たり0.2g~1日当たり10gの任意の用量が服用され得る。2'-FLは、ヒト乳の天然成分であり、従って、無毒であるが、高い用量(即ち、1日当たり10g超)は、軽度の腸不快感および可逆的な浸透圧性下痢をもたらし得る。2'-FLは、COVID-19の症状の発症時に服用されてもよいし、またはCOVID-19が集団内に流行している期間に予防薬として毎日安全に服用されてもよい。
【0055】
2'-FLは、他の薬剤と組み合わされてもよく、例えば、直接的または間接的な抗炎症作用を示し得る他のヒトミルクオリゴ糖は、2'-FLの抗炎症作用と相乗的または相加的に作用することができる。2'-FLと組み合わせて使用され得る付加的なhMOSの例には、6'-シアリルラクトース(6'-SL)、3'-シアリルラクトース(3'-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)、3'-ガラクトシルラクトース(3'-GL)、6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)、および4-ガラクトシルラクトース(4'-GL)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。他の非hMOSプレバイオティクス、例えば、合成のガラクトオリゴ糖(GOS)またはフラクトオリゴ糖(FOS)の混合物も、コロナウイルスによって誘導される炎症を処置するため、2'-FLと組み合わせて利用され得る。
【0056】
他の薬学的薬剤、例えば、抗生物質もしくは抗ウイルス化合物、またはその他の抗炎症化合物、例えば、天然もしくは合成の副腎皮質ステロイド(例えば、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン)、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬、例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、オキサプロジン、エトドラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ビモボ)、およびその他の解熱薬(例えば、パラセタモール、アスピリン、アセトアミノフェン)も、コロナウイルスによって誘導される炎症の処置において2'-FLと組み合わせて使用され得る。
【0057】
2'-FLは、SARS-CoV-2感染に起因する炎症に対抗するため、前に、同時に、または後に投与されるプロバイオティック生物、例えば、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、バクテロイデス属、パラバクテロイデス属、プレボテラ属、またはクロストリジウム属のプロバイオティック菌と組み合わせて使用されてもよい。
【0058】
2'-FLは、その他のコロナウイルス、例えば、SARS-CoVおよびMERS-CoV、または肺炎症を引き起こすその他のウイルスの感染に起因する炎症を処置するためにも利用され得る。
【0059】
投与経路
薬学的に利用可能な、かつ/または有効な投与経路が、本明細書に記載されるフコシル化オリゴ糖(例えば、HMOS)を対象に送達するために使用され得る。限定する意図はないが、フコシル化オリゴ糖は、対象に局所的または全身的に投与され得、例えば、吸入、肺灌流、経口摂取、肛門投与、注入、および/または注射を介して、例えば、対象の呼吸器系および/または胃腸管へ投与され得る。投与経路には、静脈内、皮内、腹腔内、胸膜内、気管内、筋肉内、皮下、注射、および注入による対象への投与も含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0060】
他の態様
本発明が詳細な説明と共に記載されたが、上記の説明は、本発明を例示するためのものであって、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するためのものではない。他の局面、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【0061】
本明細書において言及される特許および科学文献は、当業者が利用可能な知識を確立する。本明細書において引用される全ての米国特許および公開済みまたは未公開の米国特許出願が、参照により組み入れられる。本明細書において引用される全ての公開済みの外国特許および特許出願が、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用されるアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBIの登録が、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用される他の全ての公開済みの参考文献、文書、原稿、および科学文献が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
本発明は、好ましい態様を参照しながら、具体的に示され、説明されたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変化が、それらに施され得ることを、当業者は理解するであろう。
【国際調査報告】