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特表2023-526273コロナウイルス感染の防止のためのフコシル化オリゴ糖
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染の防止のためのフコシル化オリゴ糖
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20230614BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230614BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20230614BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230614BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20230614BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230614BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20230614BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61K31/702
A61P31/12
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/12
A61P31/14
A61P11/00
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
A23C9/13
A23L27/00 F
A23L35/00
A23C9/152
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568920
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 US2021032283
(87)【国際公開番号】W WO2021231751
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/024,464
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513206809
【氏名又は名称】グリコシン リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モロウ アーディス エル.
(72)【発明者】
【氏名】ニューバーグ デヴィッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】マッコイ ジョン エム.
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B036
4B047
4B117
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001EC05
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE03
4B018MD31
4B018ME14
4B036LC06
4B036LH09
4B047LB08
4B047LB09
4B047LG21
4B047LG23
4B117LC04
4B117LK11
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC15
4C076CC35
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA35
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、対象の呼吸器系および/もしくは胃腸管における呼吸器病原体感染を減弱させるため、かつ/または呼吸器病原体感染からの回復を促進するため、単離されたヒトミルクオリゴ糖などのオリゴ糖を利用するための組成物および方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の細胞または組織へのウイルスの結合を防止、低減、または阻害するために有効な量の少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む、組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)が2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、またはラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
粉末、錠剤、エアロゾル、哺乳動物用飼料、砂糖のパケット、ヨーグルト、飲料、離乳食、または乳児用調製乳の形態である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
ウイルスが、
(i)コロナウイルス;
(ii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);
(iii)SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス;および/または
(iv)hCoV-NL63
を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
ウイルスが、動物の細胞または組織にあるACE2受容体に結合する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
ウイルスと動物の細胞または組織との結合がフコシル化によって媒介される、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
動物の細胞または組織が、動物の肺もしくは胃腸管の粘膜の組織または肺もしくは胃腸管の粘膜の組織の細胞を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
動物の細胞または組織が、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を発現する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
動物がヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
対象におけるウイルスの感染を防止、低減、または阻害するための、前記請求項のいずれか一項記載の組成物の使用であって、該ウイルスが該対象の細胞または組織に結合する、前記使用。
【請求項11】
少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与する工程を含む、対象におけるウイルス感染を防止、減弱、もしくは処置し、かつ/またはウイルス感染からの回復を促進する方法。
【請求項12】
少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)が2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、またはラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ウイルスが、
(i)コロナウイルス;
(ii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);
(iii)SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス;および/または
(iv)hCoV-NL63
を含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
ウイルスが、対象の細胞または組織にあるACE2受容体に結合する、請求項11~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの単離されたHMOが、細胞または組織にあるACE2受容体との結合についてウイルスと競合する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ウイルスと動物の細胞または組織との結合がフコシル化によって媒介される、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
細胞または組織が、対象の肺もしくは胃腸管の粘膜の組織または肺もしくは胃腸管の粘膜の組織の細胞を含む、請求項14~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
対象がヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである、請求項11~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
対象がフコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を有する、請求項11~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
対象がABO式血液型のA型、B型、またはAB型を有する、請求項11~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
薬学的に有効な量が、
(i)1日当たり約0.2g~20g;
(ii)1日当たり約1g~10g;および/または
(ii)1日当たり約5g~10g
の投与量に等しい、請求項11~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの単離されたHMOが対象の肺および/または胃腸管へ投与される、請求項11~21のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2020年5月13日に出願されたU.S.S.N.63/024,464の恩典を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、対象の病原性ウイルス感染を減弱または防止するため、フコシル化オリゴ糖を利用するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
世界中の何百万人もの人々に対するCOVID-19感染の最近のパンデミックのため、コロナウイルス感染を防止または減弱させることができる処置が、緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
SARS-CoV-2(COVID-19)などのいくつかのコロナウイルスは、動物対象のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合することが公知であり、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体は、多くのグリコシル化部位を有する。本発明は、フコシル化を含む組織血液型(例えば、ABO式血液型)を有する個体において、試験されたコロナウイルス株の感染が増加していること、そして宿主のフコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)分泌状態が、地方病性コロナウイルス感染に関連していることの発見に基づく。吸入、肺灌流、経口摂取、および/または注射を介した[ヒトミルクグリカンまたはヒトミルクオリゴ糖(hMOS)などの]フコシル化オリゴ糖の投与によって、SARS-CoV-2およびその他の主要な呼吸器病原体の感染を低減させることができる。これらのオリゴ糖は、ウイルスの宿主受容体への結合の競合的阻害剤として機能し、それにより、症候性感染のリスクを低減させる。フコシル化ヒトミルクオリゴ糖[例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、またはラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)]などの本明細書に記載される組成物は、(宿主によって)難消化性または部分的に難消化性であるが、複数のメカニズムのうちの少なくとも1つによって、例えば、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)ならびに/または胃腸管において、コロナウイルスなどの呼吸器病原体の受容体への結合を減弱させ、それにより、ウイルス感染を減弱させ、または阻害することによって、宿主に健康上の利益を提供する。さらに、本発明は、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)ならびに/または胃腸(GI)管における呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)感染を防止、減弱/低減、かつ/もしくは阻害し、かつ/または呼吸器病原体感染からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)などの少なくとも1つの単離されたフコシル化オリゴ糖を含む、そのような組成物を使用する方法を提供する。好ましくは、オリゴ糖は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、本明細書に記載されるその他のHMOS、またはそれらの組み合わせを含む。
【0005】
(表1)HMOSの名称および構造
【0006】
本発明の組成物は、呼吸器病原体感染を防止し、減弱させ、かつ/または処置するため、単独で、あるいは他の薬剤と共に、投与される。組成物は、任意で、薬学的に許容される賦形剤または不活性成分を含む。
【0007】
1つの局面において、本発明は、動物の細胞または組織への呼吸器病原体(例えば、ウイルス)の結合を防止し、低減させ、かつ/または阻害するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、またはラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)を含む。いくつかの態様において、組成物は、粉末、錠剤、エアロゾル、哺乳動物用飼料、砂糖のパケット、ヨーグルト、飲料、離乳食、または乳児用調製乳の形態である。いくつかの態様において、呼吸器病原体は、ウイルスである。例えば、ウイルスは、(i)コロナウイルス;(ii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);(iii)SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス;および/または(iv)hCoV-NL63を含み得る。いくつかの態様において、ウイルスは、動物の細胞または組織のACE2受容体に結合する。いくつかの態様において、ウイルスと動物の細胞または組織との間の結合は、少なくとも1つのフコシル化オリゴ糖または1つのフコシル化されたポリペプチドもしくはタンパク質などの、動物の細胞または組織におけるフコシル化によって媒介される。いくつかの態様において、本明細書に記載される動物の細胞または組織には、動物の呼吸器系の組織(例えば、肺および気管支)もしくは胃腸(GI)管粘膜、またはそのような組織の細胞が含まれる。例えば、動物の呼吸器組織には、肺、または(例えば、鼻、鼻腔、副鼻腔、咽頭、および声帯より上方の喉頭の一部を含む)上気道、または(例えば、喉頭の下部、気管、気管支、細気管支、および肺胞を含む)下気道のうちの少なくとも1つからの組織が含まれ得る。
【0008】
いくつかの態様において、本明細書に記載される動物の細胞または組織は、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を発現する。
【0009】
いくつかの態様において、動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである。
【0010】
別の局面において、本発明は、対象における呼吸器病原体(例えば、ウイルス)の感染を防止、低減、または阻害するための、本明細書に記載される組成物の使用であって、呼吸器病原体(例えば、ウイルス)が対象の細胞または組織に結合する、使用を提供する。いくつかの態様において、組成物は、対象における細胞または組織への呼吸器病原体(例えば、ウイルス)の結合を防止、低減、または阻害する。いくつかの態様において、対象は、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を発現する。いくつかの態様において、対象は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである。
【0011】
別の局面において、本発明は、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)の薬学的に有効な量を対象へ投与する工程を含む、対象における呼吸器病原体(例えば、ウイルス)感染を防止、減弱、もしくは処置し、かつ/または呼吸器病原体(例えば、ウイルス)感染からの回復を促進する方法を提供する。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、またはラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)を含む。いくつかの態様において、呼吸器病原体(例えば、ウイルス)は、(i)コロナウイルス;(ii)重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS-CoV);(iii)SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス;および/または(iv)hCoV-NL63を含む。いくつかの態様において、呼吸器病原体(例えば、ウイルス)は、対象の細胞または組織にあるACE2受容体に結合する。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、細胞または組織にあるACE2受容体との結合についてウイルスと競合する。いくつかの態様において、呼吸器病原体(例えば、ウイルス)と動物の細胞または組織との結合は、フコシル化(例えば、グリカン、オリゴ糖、および/またはポリペプチドもしくはタンパク質のフコシル化)によって媒介される。いくつかの態様において、呼吸器病原体(例えば、ウイルス)が結合する細胞または組織には、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)もしくは胃腸管粘膜の組織またはそのような組織の細胞が含まれる。例えば、呼吸器組織には、対象の肺、または(例えば、鼻、鼻腔、副鼻腔、咽頭、および声帯より上方の喉頭の一部を含む)上気道、または(例えば、喉頭の下部、気管、気管支、細気管支、および肺胞を含む)下気道のうちの少なくとも1つからの組織が含まれ得る。いくつかの態様において、本明細書に記載される対象は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、またはヤギである。いくつかの態様において、対象は、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型を発現する。いくつかの態様において、対象は、ABO式血液型のA型、B型、AB型、またはO型を有する。いくつかの態様において、対象は、ABO式血液型のA型、B型、またはAB型を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の呼吸器系(例えば、肺および気管支)または胃腸(GI)管粘膜へ投与される。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOは、吸入、肺灌流、経口摂取、肛門投与、および/または注射などの許容される経路を通して対象へ投与される。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOについての薬学的に有効な量は、(i)1日当たり約0.2g~20g;(ii)1日当たり約1g~10g;および/または(ii)1日当たり約5g~10gの投与量に等しい。いくつかの態様において、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOについての薬学的に有効な量は、1日当たり約0.01g~約20g、1日当たり約0.01g~約10g、1日当たり約0.1g~約10g、1日当たり約1g~約10g、1日当たり約1g~約5g、1日当たり約5g~約10gの投与量、または特定の対象のために有効であることが見出された任意の投与量に等しい。
【0012】
本明細書において使用されるように、「単離された」または「精製された」オリゴ糖は、ヒト乳中に天然に存在する他のオリゴ糖を実質的に含まない。精製されたオリゴ糖はまた、生合成によって生成された時、細胞材料を含まず、化学的に合成された時、他の化学物質を含まない。精製された化合物は、少なくとも50%または60%(乾燥重量)、関心対象の化合物である。好ましくは、調製物は、重量で少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上の純度で、関心対象の化合物である。例えば、精製されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものは、重量で、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、98%、99%、または100%(w/w)が所望のオリゴ糖であるものである。純度は、任意の適切な標準的な方法、例えば、カラムクロマトグラフィ、薄層クロマトグラフィ、または高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析によって測定される。オリゴ糖は、精製され、ヒトだけでなく、ペット(イヌ、ネコ)ならびに家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、またはブタ、および家禽)などの動物が消費する多数の生成物に使用されている。「精製された」とは、ヒト対象への投与のために安全である程度の無菌性、例えば、感染病原体または毒性病原体の欠如も定義する。
【0013】
同様に、「実質的に純粋」とは、天然に付随する成分から分離されているオリゴ糖を意味する。典型的には、オリゴ糖は、天然に会合しているタンパク質および天然に存在する有機分子を、重量で少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上、含まない時、実質的に純粋である。
【0014】
ヒト乳中の2'-FL、3-FL、およびLDFTの平均濃度は、以下の通りである:2'-FL=2.43g/L(±0.26)、3-FL=0.86g/L(±0.10)、およびLDFT=0.43g/L(±0.04;Chaturvedi P,et al.2001 Glycobiology,May;11(5):365-72)。従って、ヒト乳中の2'-FL:3FL:LDFTの平均比は、5.65:2:1である。複数の単離されたオリゴ糖を含む組成物、例えば、2つの単離されたオリゴ糖を含む組成物が形成されるよう、第1のオリゴ糖(例えば、2'-FL、3-FL、またはLDFT)と、第2のオリゴ糖とを、本明細書に記載される任意の比で混合することができる。いくつかの態様において、組成物は、第1の精製されたオリゴ糖(例えば、2'-FL、3-FL、またはLDFT)と、第2のオリゴ糖とを、例えば、1:1、1:2、1:5、1:10、1:10、1:100、100:1、10:1、5:1、もしくは2:1の比、またはプレバイオティック効果を得るために適当な任意の他の比で含む。
【0015】
いくつかの態様において、対象は、呼吸器病原体感染を防止するための少なくとも1つの薬剤(例えば、抗生物質)によって前処置される。そのような抗生物質には、例えば、カナマイシン、ゲンタマイシン、コリスチン、メトロニダゾール、バンコマイシン、またはそのような機能を有する当業者に公知の任意のそのような薬剤もしくは抗生物質のうちの少なくとも1つが含まれ得る。
【0016】
いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の細胞または組織への、例えば、病原体の定着および/または接着によって測定可能な、呼吸器病原体感染を減弱させる。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、対象の細胞または組織への病原体感染、例えば、病原体の定着および/または接着を、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上、減弱させる。
【0017】
本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたHMOは、2'-FL、3-FL、6'-SL、3'-SL、LNFPI、TFiLNO、またはその他のオリゴ糖を含み得る。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、2'-FLを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの単離されたHMOは、(例えば、w/wで)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、またはそれ以上、純粋である。
【0018】
いくつかの態様において、組成物中の少なくとも1つの単離されたHMOの重量濃度は、(i)約1%~約99%;(ii)約10%~約90%;(iii)約30%~約70%;(iv)約40%~約60%;または(v)約50%である。
【0019】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、または第10の精製されたオリゴ糖(前記の重量濃度)を含み得る。
【0020】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、組成物10グラム当たり0.01g~10gの、第1の精製されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものを含む。例えば、組成物は、組成物10グラム当たり0.1g~5g、0.5g~5g、1g~5g、または1.5g~3gの、少なくとも1つの単離されたオリゴ糖、例えば、2'-FL、3-FL、LDFT、または本明細書に記載されるその他のものを含む。いくつかの態様において、組成物は、組成物1グラム当たり0.01g~1gの少なくとも1つの単離されたオリゴ糖を含む。いくつかの態様において、組成物は、組成物1グラム当たり0.01g 2'-FL~1g 2'-FLを含む。
【0021】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、組成物中の少なくとも1つの単離されたオリゴ糖に加えて、第2のオリゴ糖を含む。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、精製されたヒトミルクオリゴ糖である。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、ヒトミルクオリゴ糖ではない。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、またはラクツロースを含む。いくつかの態様において、第2のオリゴ糖は、ガラクトオリゴ糖(GOS)を含む。
【0022】
本明細書に記載される対象は、哺乳動物であり得る。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は非ヒト哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は、早産児、正期産児、小児、青年、または高齢者である。
【0023】
本明細書に記載される組成物は、錠剤、カプセル、粉末、飲料、または乳児用調製乳の形態である。例えば、本発明の少なくとも1つの単離された(HMOなどの)オリゴ糖は、粉乳/ドライミルクの形態である。「乳児」とは、12ヶ月齢未満の小児を意味する。「乳児用調製乳」とは、12ヶ月齢未満の乳児用の特定栄養用途食品であって、このカテゴリーの者の次第に多様化する食事における主要な液体要素を構成するものを意味する。いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物は、ドライミルク、米粥(mashed rice)、バナナ、ポリッジ、または粥(gruels)で提供される。離乳期の乳児における疾患の急増のため、本発明のHMOSは、これらの疾患を低減させ、または寛解させるため、離乳食(例えば、米粥、バナナ、ポリッジ、およびその他の粥、調製乳等)に添加される。任意で、本明細書に記載されるHMOSは、離乳食に、製造過程で添加される。あるいは、HMOSは、離乳食に、製造過程の後、摂取前に添加される。例えば、1つまたは複数の単離された、または精製されたHMOSを含む糖のパケットが、離乳食に、乳児が摂取する前に添加される。
【0024】
本明細書に記載される組成物は、乳児、小児、および成人による消費のため、ヨーグルトまたはプロバイオティック飲料などのその他の消費可能生成物に添加されてもよい。例えば、組成物は、粉乳/ドライミルクに添加され得る。
【0025】
本明細書に記載される組成物は、呼吸器系または胃腸管へのその他の実現可能な経路を通して、局所的に、または全身的に、対象へ投与され得る。
【0026】
方法において使用するための組成物の投与は、微生物叢の多くのメンバーに影響を与えることによって、呼吸器系および/または胃腸管の全体的な健康を改善する。本明細書に記載される方法において使用するための組成物は、細胞または粘膜表面への病原体の結合を阻害し、病原体感染を減弱させることができる。例えば、本発明の組成物の投与は、咳、息切れまたは呼吸困難、発熱、悪寒、悪寒を伴う反復的な振戦、筋肉痛、頭痛、咽頭炎、味覚または嗅覚の新たな喪失などの、病原体感染に関連した少なくとも1つの症状の改善をもたらす。小児は、成人と類似した症状を有し、一般に、軽度の疾病を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される対象は、呼吸器感染、耳鼻咽喉(ENT)感染、または手術患者および危篤状態の患者における感染性合併症からなる群より選択される、病原体感染に関連している、または対象を病原体感染に対して脆弱にする疾患および障害の少なくとも1つの症状を有する。一例において、対象は、処置を必要とする哺乳動物、例えば、感染、または病原体感染に関連した感染、例えば、呼吸器感染、耳鼻咽喉(ENT)感染、または手術患者および危篤状態の患者における感染性合併症を有すると診断された対象である。
【0027】
「処置すること」および「処置」という用語は、本明細書において使用されるように、症状の重症度および/もしくは頻度の低減をもたらし、症状および/もしくはその根底にある原因を排除し、かつ/または傷害の改善もしくは治癒を容易にするための、有害な状態、障害、または疾患に罹患した、臨床症状を有する個体への、薬剤または製剤の投与をさす。「防止すること」および「防止」という用語は、特定の有害な状態、障害、または疾患に感受性である、臨床症状を有しない個体への、薬剤または組成物の投与をさし、従って、症状および/またはその根底にある原因の発生の防止に関する。
【0028】
製剤または製剤成分の「有効量」および「治療的に有効な量」という用語は、所望の効果を提供するために十分な、製剤または成分の量を意味する。例えば、「有効量」とは、対象の細胞または組織への呼吸器病原体の結合そしてその感染を防止、減弱、かつ/もしくは阻害するための、または対象における呼吸器病原体感染を処置するための、オリゴ糖の量を意味する。最終的には、主治医または獣医師が、適切な量および投与計画を決定する。
【0029】
「含む(including)」、「含有する(containing)」、または「を特徴とする」と同義である「含む(comprising)」という移行語は、包括的または非制限的であり、付加的な記載されていない要素または方法の工程を除外しない。対照的に、「からなる」という移行句は、特許請求の範囲において指定されない任意の要素、工程、または成分を除外する。「から本質的にからなる」という移行句は、特許請求の範囲の範囲を、指定された材料または工程、および特許請求の範囲に記載された発明の「基本的かつ新規の特徴に実質的に影響しないもの」に限定する。
【0030】
本発明の他の特色および利点は、その好ましい態様の以下の説明、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似した、または等価な方法および材料を、本発明の実施または試行において使用することができるが、適当な方法および材料が以下に記載される。本明細書において言及される全ての出版物、特許出願、特許、Genbank/NCBIアクセッション番号、およびその他の参考文献は、参照によりその全体が組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、赤血球(erythrocytes)(赤血球(red blood cells)またはRBC)の表面におけるA抗原およびB抗原の一方の存在、両方の存在、または両方の欠如によるABO式血液型の系を示す図である。ガラクトース(Gal)およびN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含有する前駆体オリゴ糖鎖(「前駆体鎖」)は、(H遺伝子によってコードされる)α(1,2)フコシルトランスフェラーゼFUT1酵素によって、フコース(Fuc)とさらに結合し、H抗原(H物質)を形成する。H抗原は、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素、A-トランスフェラーゼまたはB-トランスフェラーゼによって、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)またはガラクトース(Gal)によってさらに修飾され、それぞれ、A抗原(「A物質」)またはB抗原(「B物質」)を形成し得る。H抗原、A抗原、およびB抗原のうちの1つのみを有するRBCは、それぞれ、O型、A型、またはB型のRBCであり、A抗原およびB抗原の両方を有するRBCは、AB型RBCである。O型またはAB型の血液型の対象は、それぞれ、OO遺伝子型またはAB遺伝子型を有する。A型(またはB型)の血液型の対象は、AAもしくはAO(またはBBもしくはBO)遺伝子型を有し得る。
図2A図2Aおよび2Bは、ヒトの肺および気管支のパーメチル化(permethylated)N-グリカンの例示的なMALDI-TOF質量スペクトルを示す一連の図である。FUT2遺伝子は、H抗原(直接的)およびA/B血液型抗原(間接的)の両方の発現を制御する。具体的には、ヒト肺(図2A)またはヒト気管支(図2B)の表面上のABO式Nグリカンプロファイルを、C18 Sep-Pakカラムからの50%MeCN画分から得た。注釈付きの構造は、Consortium for Functional Glycomicsガイドラインによる。全ての分子イオンが[M+Na]+である。構造は、組成、タンデムMS、および生合成の知識に基づく。拡張されたLacNAcリピートを有する不均一なマルチアンテナ構造の存在のため、バイアンテナ構造を使用し、拡張部分を括弧内に記載することによって、注釈は全体的に簡略化されている。
図2B図2Aの説明を参照のこと。
図3図3は、PREVAILコホート研究において、様々な地方病性ウイルスによって感染された小児の年齢を比較した棒グラフである。
図4-1】図4A図4Dは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と中性アミノ酸トランスポーターB(0)AT1との複合体の全体構造を示す一連の図である。図4Aは、B(0)AT1と複合体を形成した全長ヒトACE2の代表的なサイズ排除クロマトグラフィ精製プロファイルを示す、線グラフおよびウェスタンブロットの画像である。mAUとは、ミリ吸光度単位をさし;MWMは、分子量マーカーをさす。図4Bは、ACE2-B(0)AT1複合体の3-DクライオEMマップを示す画像である。ACE2のプロトマーA(シアン)、ACE2のプロトマーB(青色)、B(0)AT1のプロトマーA(ピンク)、およびB(0)AT1のプロトマーB(灰色)が示される。図4Cは、ACE2-B(0)AT1複合体の原子モデルの模式図である。グリコシル化部分はスティックとして示されている。複合体はサブユニット毎に着色され、1つのACE2プロトマー内のPDおよびCLDが、それぞれ、シアンおよび青色に着色されている。図4Dは、ACE2-B(0)AT1複合体のオープン(open)コンフォメーションの模式図である。クローズド(closed)コンフォメーションにおいて相互に接触している2つのPDが、オープンコンフォメーションにおいては分離されている。
図4-2】図4-1の説明を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
コロナウイルスなどのいくつかの呼吸器病原体は、何百万人もの人々に感染し、莫大な罹患率および死亡率を引き起こす。個体の健康、具体的には、病原体感染に対して脆弱な呼吸器系および消化管の健康は、宿主の年齢、疾患、微生物感染、ストレス、栄養成分、および薬学的処置に依存する。
【0033】
対象の呼吸器系および/または胃腸管における呼吸器病原体感染を防止し、減弱/低減させ、かつ/もしくは阻害し、かつ/または病原体感染からの回復を促進するために有効な量の、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)などの少なくとも1つのフコシル化オリゴ糖を含有する組成物が、本明細書に記載される。そのようなフコシル化オリゴ糖には、例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、および本明細書に記載されるその他のものが含まれる。本明細書に記載される組成物は、対象の呼吸器系および/または胃腸管の細胞または組織への病原体の結合を、従って、感染のための侵入を、防止し、減弱させ、かつ/または阻害する。限定する意図はないが、結合および/または感染は、細胞または組織におけるフコシル化を必要とし、一方、本明細書に記載される組成物は、病原体に結合するために、病原体のための内在性の受容体と競合し、従って、病原体が細胞または組織に結合し、感染を引き起こすことを防止、減弱、または阻害する。
【0034】
以下に詳細に記載されるように、少なくとも1つの単離されたヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、対象の呼吸器系および/または胃腸(GI)管における呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)感染を防止、減弱、もしくは阻害し、かつ/または呼吸器病原体感染からの回復を促進するために有効な量で投与される。例えば、以下に詳細に記載されるように、少なくとも1つの単離されかつ/または精製された2'-FL、3-FL、LDFT、またはその他のHMOが、対象の呼吸器系および/または胃腸管における病原体の受容体への結合を選択的に防止、減弱、または阻害し、従って、病原体感染を防止、減弱、または阻害するため、投与される。
【0035】
呼吸器病原体
複数の病原体が、本明細書に記載される対象の呼吸器系および/または胃腸管に感染し得る。例えば、多くのコロナウイルス、例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2、およびhCoV-NL63を含む、表5中のものは、公知の呼吸器病原体である。
【0036】
コロナウイルスは、哺乳動物および鳥類において疾患を引き起こす、関連RNAウイルスの群である。ヒトにおいて、これらのウイルスは、軽度から致死的までの範囲の気道感染を引き起こす。軽度の疾病には、(いくつかの他のウイルス、主に、ライノウイルスによっても引き起こされる)感冒の症例が含まれ、一方、より致死的な変種は、SARS、MERS、およびCOVID-19を引き起こし得る。他の種における症状は、様々であり:ニワトリにおいては、上気道疾患が引き起こされ、ウシおよびブタにおいては、下痢が引き起こされる。
【0037】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、ヒトにおいて重症呼吸器症候群を引き起こすプラス鎖RNAウイルスである。その結果のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)の大流行は、深刻な世界的流行として出現した。SARS-CoV-2のゲノムは、SARS-CoVのゲノムと約80%の同一性を共有しており、コウモリコロナウイルスBatCoV RaTG13と約96%同一である(Zhou et al.,(2020)A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin.Nature 579:270-273)。
【0038】
CDCによると、COVID-19を有する人々は、軽度の症状から重度の疾病までの広範囲の症状を有することが報告されている。症状は、ウイルス曝露から2~14日後に出現し得る。COVID-19感染を有する人々は、咳、息切れもしくは呼吸困難、またはこれらの症状(発熱、悪寒、悪寒を伴う反復的な振戦、筋肉痛、頭痛、咽頭炎、味覚または嗅覚の新たな喪失等)のうちの少なくとも2つを有し得る。小児は、成人と類似した症状を有し、一般に、軽度の疾病を有する。
【0039】
SARS-CoVの場合、ビリオン表面上のスパイク糖タンパク質(Sタンパク質)が、受容体認識および膜融合を媒介する。ウイルス感染の際には、三量体Sタンパク質が、S1サブユニットおよびS2サブユニットに切断され、融合後のコンフォメーションへの変換中にS1サブユニットが放出される。S1は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のペプチダーゼドメイン(PD)に直接結合する受容体結合ドメイン(RBD)を含有し、S2は、膜融合を担う。S1が宿主受容体ACE2に結合した時に、S2上の別の切断部位が露出し、宿主プロテアーゼによって切断されるが、この過程がウイルス感染のためには重要である。最近の発表は、SARSCoV-2のSタンパク質の構造を報告し、SARS-CoV-2 Sタンパク質の外部ドメインが、およそ15nMの解離定数(Kd)でACE2のPDに結合することを示した[Wrapp et al.,(2020)Science eabb2507]。
【0040】
ABO式血液型
ABO式血液型の系は、赤血球上のA抗原およびB抗原の一方の存在、両方の存在、または両方の欠如を示すために使用される。ヒトの輸血においては、現在認識されている36の異なる血液型分類系の中で最も重要である。詳細な説明は、図1に示される。表面上にA型抗原を有する赤血球を含有する血液は、B型赤血球に対する抗体を血清中に有する。輸血において、A型血液を有する者にB型血液が注射された場合、注射された血液の中の赤血球は、受容者の血液の中の抗体によって破壊される。同様に、A型赤血球は、B型血液の中の抗A抗体によって破壊される。O型血液は、他の血液型の系に関して不適合性がない限り、A型、B型、またはO型の血液を有する者に注射され得る。AB型血液を有する者は、A型、B型、またはO型の血液を受容することができる。
【0041】
O血液型の名の由来となったO抗原は、α-1,2結合型フコースを有するグリカン部分であり、外分泌物中に発現された時、H抗原としても公知である。A血液型においては、N-アセチルガラクトサミンによって、このモチーフが隠され、O抗体またはリガンドによる結合を阻害する立体障害が生み出されている。同様に、B血液型においては、O抗原が、ガラクトースによって隠されている。AB血液型の場合、O抗原が、両方によって隠され、Oリガンドによる結合の最も強い阻害が提供されている(Prieto et al.(1997)Expression of human H-type alpha1,2-fucosyltransferase encoding for blood group H(O) antigen in Chinese hamster ovary cells.Evidence for preferential fucosylation and truncation of polylactosamine sequences.J Biol Chem 272,2089-2097)。
【0042】
ヒトミルクグリカンまたはヒトミルクオリゴ糖(HMO)
ヒト乳は、中性および酸性のオリゴ糖の多様な豊富なセットを含有する。例えば、本明細書に記載される精製されたHMO、例えば、フコシル化オリゴ糖、例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、およびラクトジフコテトラオース(LDFT)は、典型的に、ヒト乳中に見出される。1つのクラスとしてのヒトミルクオリゴ糖は、乳児の腸において極めて効率的に生存し、通過し、本質的に難消化性である(Chaturvedi,P et al.2001 Adv Exp Med Biol,501:315-323)。これらの分子は、乳児によって栄養のために直接利用され得ないが、にも関わらず、健康な腸内微生物叢の確立(Marcobal A,et al.2010 J Agric Food Chem,58:5334-5340)、疾患の防止(Newburg D,et al.2005 Annu Rev Nutr,25:37-58)、および免疫機能(Newburg and Walker(2007)Protection of the neonate by the innate immune system of developing gut and of human milk.Pediatr Res 61,2-8)において重要な役割を果たす。何百万年もの間、ヒトミルクオリゴ糖(HMOS)に曝されてきたにも関わらず、病原体は、標的細胞への接着を防止し、感染を阻害するHMOSの能力を回避する手段を未だ発達させていない。病原体粘着阻害剤としてHMOSを利用する能力は、急増している抗生物質耐性という現在の危機に対処する見込みがある。ヒトミルクオリゴ糖は、社会の最も困難な災難のうちのいくつかに対する治療薬の新規クラスのリード化合物となっている。
【0043】
未結合オリゴ糖および複合糖質の両方を含むヒトミルクグリカンは、胃腸(GI)管などの乳児の器官の保護および発達において重要な役割を果たす。様々な哺乳動物に見出されるミルクオリゴ糖は、大きく異なり、ヒトにおける組成は独特である(Hamosh M,2001 Pediatr Clin North Am,48:69-86;Newburg D,2001 Adv Exp Med Biol,501:3-10)。さらに、ヒト乳中のグリカンレベルは、授乳中に変化し、個体によっても大きく異なる(Morrow A et al,2004 J Pediatr,145:297-303;Chaturvedi P et al,2001 Glycobiology,11:365-372)。およそ200の異なるヒトミルクオリゴ糖が同定されており、単純なエピトープの組み合わせが、この多様性を担っている(Newburg D,1999 Curr Med Chem,6:117-127;Ninonuevo M et al,2006 J Agric Food Chem,54:7471-74801)。ヒトミルクオリゴ糖は、5つの単糖:D-グルコース(Glc)、D-ガラクトース(Gal)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、L-フコース(Fuc)、およびシアル酸(N-アセチルノイラミン酸、Neu5Ac、NANA)から構成される。ヒトミルクオリゴ糖は、一般的に、化学構造によって2つの群に分けられる:Glc、Gal、GlcNAc、およびFucがラクトース(Galβ1-4Glc)コアに結合したものを含有する中性化合物、ならびに同じ糖、しばしば、同じコア構造を含み、さらにNANAを含む酸性化合物(Charlwood J,et al.1999 Anal Biochem,273:261-277;Martin-Sosa,et al.2003 J Dairy Sci,86:52-59;Parkkinen J and Finne J,1987 Methods Enzymol,138:289-300;Shen Z,et al.2001 J Chromatogr A,921:315-321)。ヒト乳中のオリゴ糖のおよそ70~80%、例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL)および3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)は、フコシル化されている。
【0044】
ヒトミルクグリカンは、腸病原体のための細胞受容体と構造的な相同性を有し、受容体デコイとして機能する。例えば、コロナウイルスなどの呼吸器病原体は、ACE2受容体に特異的に結合する。従って、コロナウイルスの結合および感染性は、2'-FLおよびその他のグリカンによって阻害され得る。同様に、いくつかの下痢性大腸菌(E.coli)病原体は、2結合型フコース部分を含有するヒトミルクオリゴ糖によってインビボで強く阻害される。ヒトカリシウイルスのいくつかの主要な株、具体的には、ノロウイルスも、2結合型フコシル化グリカンに結合し、この結合は、ヒトミルク2結合型フコシル化グリカンによって阻害される。メキシコの母乳栄養児のコホートにおいて、これらの2結合型フコシルオリゴ糖を高レベルに有するヒト乳の消費は、ノロウイルス、カンピロバクター、大腸菌のSTに関連した下痢、および全ての原因の中等度~重度の下痢のより低いリスクと関連していた(Newburg D et al,2004 Glycobiology,14:253-263;Newburg D et al,1998 Lancet,351:1160-1164)。
【0045】
呼吸器病原体感染を減弱させ、かつ/または呼吸器病原体感染からの回復を促進するためのヒトミルクグリカンまたはヒトミルクオリゴ糖(HMO)
ヒト乳は、呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)の感染を減弱させ、かつ/または呼吸器病原体感染からの回復を促進する複雑なオリゴ糖混合物を含有する。本明細書に記載されるように、ヒトミルクオリゴ糖、例えば、2'-フコシルラクトース(2'-FL、MW=488)、3-フコシルラクトース(3-FL、MW=488)、およびラクトジフコテトラオース(LDFT、MW=635)は、そのような特性を有し、本明細書に記載されるように、呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)の感染を防止し、減弱させ、阻害し、かつ/もしくは処置し、かつ/または呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)の感染からの回復を促進するため、投与される。そのようなオリゴ糖は、重合度が2~60の短鎖炭水化物であり、ヒトまたは動物の消化器系によって難消化性である。
【0046】
本明細書に記載されるように、ヒトミルクグリカンまたはHMOSは、呼吸器病原体(例えば、コロナウイルス)が、対象の呼吸器系または消化管において、その天然受容体に結合することを防止し、減弱させ、かつ/または阻害する(従って、病原体の定着および/または接着に影響する)薬剤として機能する。本明細書に記載されるグリカンまたはHMOSは、ヒトの乳児または成人における使用に限定されない。それらは、哺乳動物の乳仔または成体にも投与され得る。哺乳動物は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ならびに食用に飼育される家畜または動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、およびヤギであり得る。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0047】
本発明は、病原体感染を減弱させるため、少なくとも1つのHMOまたはグリカンに加えて、その他のHMOSもしくはグリカンまたはその他の薬剤を使用することも提供する。そのような付加的な薬剤には、例えば、フラクトオリゴ糖(FOS)およびガラクトオリゴ糖(GOS)が含まれ得る。
【0048】
薬学的に利用可能かつ/または有効な投与経路が、本明細書に記載される(HMOSなどの)フコシル化オリゴ糖を対象へ送達するため、使用され得る。限定する意図はないが、フコシル化オリゴ糖は、対象へ局所的または全身的に投与され得、例えば、吸入、肺灌流、経口摂取、肛門投与、注入、および/または注射を介して、例えば、対象の呼吸器系および/または胃腸管へ投与され得る。投与経路には、静脈内、皮内、腹腔内、胸膜内、気管内、筋肉内、皮下、注射、および注入による対象への投与も含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0049】
投与量および投与計画は、各患者の個々の状況に応じて、医師または医療従事者によって決定され得る。一般に、2'-FLなどのHMOSは、肺の感染を低減させるため、約1~20g/日で経口で与えられ得る。2'-FLなどの経口HMOSは、錠剤もしくは粉末の形態で単独で投与されてもよいし、または少量の水もしくは別の飲料に便利に溶解させられてもよいし、または食品もしくは食物もしくは医療用栄養補助食品に含められてもよい。好ましい成人用量は、一般に、1日当たり約10gに等しいが、1日当たり約0.2g~1日当たり約20gの任意の用量が服用され得る。例えば、可能性のある投与量には、1日当たり約0.01g~約20g、1日当たり約0.01g~約10g、1日当たり約0.1g~約10g、1日当たり約1g~約10g、1日当たり約1g~約5g、1日当たり約5g~約10g、または対象にとって有効であることが見出された任意の投与量が含まれ得る。特に、2'-FLは、ヒト乳の天然成分であり、従って、無毒であるが、高い用量(即ち、1日当たり10g超)は、軽度の腸不快感および可逆的な浸透圧性下痢をもたらし得る。
【実施例
【0050】
実施例1:ウイルス感染とABO式血液型の細胞表面オリゴ糖成分との相関
COVID-19パンデミックの初期に、中国の2つの地域WuhanおよびShenzhenにおいてZhaoら(2020)によって実施されたCOVID-19入院の症例対照研究は、SARS-CoV-2による入院率がABO式血液型によって異なることを示している(Zhao et al.(2020)Relationship between the ABO Histo-Blood Group and the COVID-19 Susceptibility.medRxiv 2020.03.11.20031096;doi:htps://doi.org/10.1101/2020.03.11.20031096を参照すること)。各地域において、入院患者のABO式血液型が血液型データと比較された。それらの結果の一部の要約が、下記表2に与えられる。
【0051】
(表2)中国におけるABO式血液型別のSARS-CoV-2による入院
【0052】
Zhaoらは、報告されたA血液型との小さい関連、1.2倍増加したリスクを強調した。しかしながら、彼らのデータ分析および結論には欠陥がある。ここに記載されたZhaoのデータの再分析は、異なる結論をもたらした。例えば、Zhaoらは、彼らの結果が、A血液型は非A血液型と比較してCOVID-19に罹るより高いリスクに関連しており、O血液型は非O血液型と比較してより低い感染リスクに関連していることを示していると述べた。しかしながら、彼らの分析アプローチの誤りは、各血液型タイプを他の全てと比較した点である。このアプローチは、A血液型、B血液型、およびAB血液型の間に統計的な差がなく;全てがO血液型と比べて有意にかつ同様に上昇していたという観察を不明瞭にした。1つの血液型を選び出すべきではない。
【0053】
従って、再分析によって、O血液型のみが、他と異なっており、一貫して保護的であること、そして非O血液型のCOVID-19による入院のオッズが、約1.5倍増加していることが見出されたが、これらは、公衆衛生上、意義がある。
【0054】
SARS-CoV-2は、結合に関与するSARS-CoVスパイクタンパク質と、およそ80%のアミノ酸配列相同性を共有している。次いで、SARS-Cov-2で新たに見出されたABO式関連感染リスクを考慮して、SARS-CoVに関する過去の研究を再分析した。例えば、以前の報告、Chang Y et al(JAMA、2005)は、HK SARSインデックスケースに曝された香港の45人の医療従事者(HCW)を調査し、SARS-CoV感染リスクもABO式型によって異なることを見出した。ABO式血液型は、SARSと有意に関連しており、O血液型は、減少した感染リスクを有し、A、B、またはAB(非O)型は、約1.5倍増加した感染リスクを有する(p=0.03)。それらの結果の一部の要約が、下記表3に与えられる。
【0055】
(表3)ABO式血液型別のSARS-CoV感染
【0056】
従って、SARS-CoV感染およびSARS-Cov-2感染の両方について、非0型は、約1.5倍の保護を提供するO血液型と比較して、増加したリスクを有する。
【0057】
ABO式血液型における違いを表す、細胞表面上の脂質に付加された糖鎖の構造が、図1に示される。非O型のウイルス感染のリスクの増加は、非O血液型の個体の肺組織の細胞表面上に見出される付加的な糖(例えば、GalまたはGalNac)によって引き起こされる可能性がある。A抗原またはB抗原の提示は、フコースを前駆体鎖に付着させる能力を調節する、別の遺伝子FUT2を必要とする。図2Aおよび図2Bに示されるように、ヒトの肺および気管支の表面上には複数のフコシル化ABO式グリカンが存在する。FUT2遺伝子は、H抗原(直接的)およびA/B血液型抗原(間接的)の両方の発現を制御する。ABO式血液型とFUT2機能との相関に関する報告については、Walther et al.(2013)PLoS Pathog.9(3):e1003223.doi:10.1371/joumal.ppat.1003223;およびLi et al.(2011)APJCP 12(12):3201-3206を参照すること。
【0058】
本発明者らの再分析は、以下のように結論付けた:
1.ABO式リスクはSARS-CoVとSARS-CoV-2とで類似している。これらの2種類のウイルスについて、非O血液型は、約1.5倍の保護を享受しているO血液型と比較して、類似したリスクの増加を有する;
2.そのようなリスクは、A血液型またはB血液型の個体の肺組織の表面上に見出される付加的な糖(GalまたはGalNAc)と関係がある;
3.A抗原またはB抗原の提示は、前駆体にフコースを付着させる能力を調節する別の遺伝子(FUT2)を必要とする。
【0059】
実施例2:小児における地方病性hCoVの疫学に関するPREVAILコホート研究
進行中のCDC後援のPREVAILコホート研究(Morrow,PI)において、コロナウイルスをよりよく理解するため、地方病性hCoVが調査されている。2017年10月1日から2019年9月1日までに提供された12,000を超える鼻スワブ試料についての完了した呼吸器ウイルスパネル試験から、データを収集した。Luminexパネルは、コロナウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス、エンテロウイルス/ライノウイルス、インフルエンザ、メタニューモウイルス、RSV、およびパラインフルエンザウイルスを検出する。
【0060】
4つの例示的な世界的地方病性ウイルス(NL63、OC43、HKU1、および229E)についてのデータを以下に示す。毎週の鼻スワブを75%以上遵守した91人のPREVAILの小児のうち、70人(77%)が、何らかの時点でコロナウイルス株陽性であった。これらの70人のコロナウイルス陽性小児において、ほぼ60%の小児において2回目の感染が起こった。大部分の反復感染が、異なる株によるものであったが、2回目の感染の4分の1は、同じ株で起こった。図3および表4に示されるように、小児の年齢別の保因には系統特異的な有意差があり、NL63は乳児においてより一般的であった。具体的には、感染したことのある小児の77%において、平均して1人(0~2歳)当たり2回のエピソードがあった。感染の約10%は、症候性であり、症候性感染の3分の1は、医療に関連していた。救急科または救急病院の使用の報告はなかった。ウイルス排出/感染の期間は、株によって、約1~4週間であった(p<0.001)。排出期間が最も長いのは、NL63株であった。
【0061】
分泌状態は、地方病性hCoV保因に関連している可能性があるが、ウイルス株によって異なるという仮説が立てられている。以下の表4は、FUT2分泌状態別のPREVAILの小児における地方病性コロナウイルス感染をさらに示す。株の保因は、小児の分泌状態によって有意に異なった。NL63株による感染は、FUT2分泌者に由来する鼻スワブにおいて、非分泌者より高頻度に同定された。
【0062】
(表4)ウイルス感染とFUT2分泌状態との相関
P=0.037(フィッシャー直接法)
【0063】
hCov-NL63の結合および感染に関するPREVAILデータは、SARS-CoV-2感染についての重要な手がかりとなり得る。ヒトコロナウイルスNL63は、オランダの細気管支炎を有する乳児において2004年に同定されたグループ(group)1コロナウイルスの1種である。HCoV-NL63は、世界中で見出されており、小児および免疫不全個体に感染する傾向があり、全ての呼吸器疾患の10%もの原因となっている病原体である。このウイルスは、ACE2受容体によって宿主細胞に侵入する、エンベロープを有するプラス鎖一本鎖RNAウイルスである。Abdul-Rasool et al.(2010)Understanding Human Coronavirus HCoV-NL63.Open Virol J.4:76-84.doi:10.2174/1874357901004010076.PMID:20700397;PMCID:PMC2918871を参照すること。SARS-CoVおよびSARS-CoV-2は、グループ2Bのベータコロナウイルスであり、NL63は、グループ1のアルファコロナウイルスであるが、両方とも、付着および感染のために同じACE2受容体を利用する。他のコロナウイルス株は、他の受容体を使用する。いくつかの公知のコロナウイルス侵入受容体の概要が、表5に示される。Wilde et al.(2018)Host Factors in Coronavirus Replication.Curr.Top.Microbiol.Immunol 419:1-42も参照すること。
【0064】
(表5)いくつかの公知のコロナウイルス侵入受容体の概要
【0065】
略語:
S1-NTD:コロナウイルスSタンパク質のS1領域のN末端ドメインであって、一般的には、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、および/または5-N-アセチル-9-O-アセチルノイラミン酸(Neu5,9Ac2)などのシアル酸に結合する。1つの例外は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するI型膜タンパク質である癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)のN末端D1ドメインに結合するマウス肝炎ウイルス(MHV)S1-NTDである;
S1-CTD:コロナウイルスSタンパク質のS1領域のC末端ドメインであって、一般的には
、アミノペプチダーゼN(APN)に結合する。例外には、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合するHCov-NL63およびSARS-CoV、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)に結合するMERS-CoVおよびHKU4が含まれる;
PEDV:ブタ流行性下痢ウイルス;
PRCV:ブタ呼吸器コロナウイルス;
HCoV:ヒトコロナウイルス;
MHV:マウス肝炎ウイルス;
IBV:感染性気管支炎ウイルス;
PDCV:ブタデルタコロナウイルス;
【0066】
参考文献:
【0067】
実施例3:SARS-CoV-2とACE2との結合の構造研究
SARS-CoV-2と全長ヒトACE2との相互作用についての結晶構造が、最近報告された[Yan et al.(2020)Structural basis for the recognition of SARS-CoV-2 by full-length human ACE2.Science 367:1444-1448]。
【0068】
SARS-CoV-2のビリオン表面上のスパイク糖タンパク質(Sタンパク質)は、受容体認識および膜融合を媒介する。ウイルス感染の際には、三量体Sタンパク質がS1サブユニットおよびS2サブユニットに切断され、融合後のコンフォメーションへの変換中にS1サブユニットが放出される。S1は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のペプチダーゼドメイン(PD)に直接結合する受容体結合ドメイン(RBD)を含有し、S2は、膜融合を担う。S1が宿主受容体ACE2に結合した時に、S2上の別の切断部位が露出し、宿主プロテアーゼによって切断されるが、この過程が、ウイルス感染のためには重要である。SARS-CoV-2のSタンパク質は、宿主感染のためにもACE2を活用し得る。以前の出版物、Wrapp et al.[Science eabb2507(2020)]は、SARSCoV-2のSタンパク質の構造を報告し、SARS-CoV-2のSタンパク質の外部ドメインが、およそ15nMの解離定数(Kd)でACE2のPDに結合することを示した。
【0069】
ACE2の1回膜貫通(TM)ヘリックスが、全長タンパク質の構造を決定することを困難にするため、Yanらは、SLC6A1としても公知のアミノ酸トランスポーターB(0)AT1に結合することによって安定化された全長ヒトACE2の構造を研究するため、クライオ電子顕微鏡(クライオEM)を使用した(図4A~4Dを参照すること)。さらに、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)とACE2-B(0)AT1複合体との複合体を形成させ、その構造を、2.9Åの全体分解能およびACE2-RBD界面での3.5Åの局所分解能で分解した。
【0070】
RBD-ACE2-B(0)AT1界面の全体は、SARS-CoVとACE2との界面と類似しており、主に、極性相互作用によって媒介されている。RBDの拡張ループ領域は、ブリッジのようにACE2-PDのアーチ形のα1ヘリックスにかかっている。PDのα2ヘリックスおよび(ループ3-4と呼ばれる)β3およびβ4の逆平行鎖を接続するループも、RBDの配位に対して限定された寄与を有する。接触部は3つのクラスターに分けられ得る。ブリッジの両端は、α1ヘリックスのN末端およびC末端のみならず、α2ヘリックスおよびループ3-4の小さい領域とも相互作用する。α1の中央セグメントは、2つの極性残基を会合させることによって相互作用を補強する。
【0071】
SARS-CoV-2のSタンパク質とRBD-ACE2-B0AT1三元複合体との構造的整列化は、2つのSタンパク質三量体がACE2ホモ二量体に同時に結合し得ることを示す。さらに、宿主結合部位は高度にグリコシル化されており、ACE2およびB(0)AT1の各モノマーにそれぞれ7つおよび5つのグリコシル化部位がある。
【0072】
実施例4:フコシル化オリゴ糖の投与による、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、およびその他の主要な呼吸器病原体による感染の低減
SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、およびhCoV-NL63(地方病性コロナウイルス株)は、多くのグリコシル化部位を有するACE2受容体に結合する。これらのコロナウイルス株の各々による感染のリスクは、フコシル化を含む組織血液型(例えば、ABO式血液型)を有する個体において増加していることが、以前の実施例において示されている。ウイルスと宿主ACE2受容体との結合は、肺のA抗原、B抗原、およびH抗原によって可能にされ、または強化されるが、これらの抗原は、全て、発現のために活性FUT2対立遺伝子を必要とする。これらのコロナウイルスの結合または免疫応答におけるフコシル化の役割は、重要である。
【0073】
PREVAILコホート(Morrow,PI)からの予備的なデータは、主要な地方病性コロナウイルス株のうちの1つ、ヒトコロナウイルスNL63による感染が、フコシルトランスフェラーゼ2(FUT2)遺伝子型によって決定される「分泌型」組織血液型によって、乳児間で頻度が異なることを示している。分泌型の組織血液型は、肺、腸の表面、および分泌物におけるABO式フコシル化炭水化物の発現を可能にする。
【0074】
SARS-CoV、SARS-CoV-2、およびhCoV-NL63の3つの株は、全て、肺粘膜に結合するためにACE2受容体を使用する。ACE2受容体は、高度にグリコシル化されており、このことは、この受容体部位へのコロナウイルスの結合を可能にする重要な特色である。A抗原、B抗原、およびAB抗原、ならびにその他のフコース含有グリカンは、分泌型である個体のACE2受容体に、非分泌型より多く見出されることが、提唱されている。
【0075】
さらに、限定する意図はないが、フコシル化受容体は、呼吸器病原体の結合に関与し、またはそれを増強すること、そして可溶性フコシル化オリゴ糖構造は、その結合を阻害し得ることが示されている。PREVAILコホートからの予備的な証拠は、hCoV-NL63感染のリスクが、A型、B型、およびO型の組織血液型のFUT2+乳児において2倍に増加していることを示している。しかし、乳児がFUT2+分泌型の母親を有し、母乳栄養で育てられた場合、hCoV-NL63のリスクは4倍低減し、このことは、ヒトミルクオリゴ糖が、感染をもたらす過程を阻害することを示している。
【0076】
結論として、現在の研究は、呼吸器病原体感染の個人のリスクの理解を提供する。O血液型におけるリスクは、A血液型またはB血液型より3分の1低いようである。さらに、フコシル化受容体は、ウイルスの結合および感染において重要な補助因子であるため、そのようなウイルスの結合および感染を競合的に阻害するため、類似した可溶性フコシル化オリゴ糖を使用することができる。
【0077】
例示的な処置において、2'-FL、またはその他のHMOSのうちの少なくとも1つが、肺の感染を低減させるため、対象に1~20g/日で経口で与えられる。経口2'-FLは、錠剤もしくは粉末の形態で単独で投与されてもよいし、または少量の水もしくは他の飲料に便利に溶解させられてもよいし、または食品もしくは食物もしくは医療用栄養補助食品に含められてもよい。好ましい2'-FLの成人用量は、1日当たり10gであるが、1日当たり0.2g~1日当たり20gの任意の用量が服用され得る。2'-FLは、ヒト乳の天然成分であり、従って、無毒であるが、高い用量(即ち、1日当たり10g超)は、軽度の腸不快感および可逆的な浸透圧性下痢を引き起こす可能性がある。SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、および他の主要な呼吸器病原体による感染の低減において、2'-FLと組み合わせて使用され得る付加的なフコシル化hMOSの例には、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNF I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNF II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH I)、およびラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH II)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0078】
別の例において、2'-FL、またはその他のHMOSのうちの少なくとも1つは、細胞表面結合および感染を低減させることができる、受容体へのウイルス結合の競合的阻害剤を提供するため、粉末もしくはエアロゾルの吸入または肺への灌流によって与えられる。
【0079】
他の例において、2'-FLは、単独で、または他のhMOsと混合して、受容者の血流中への注射によって与えられる。
【0080】
さらに、2'-FL、またはその他のHMOSのうちの少なくとも1つは、対象において、COVID-19が集団内に流行している期間に感染を防止するため(予防)、症候性感染を低減させるため、または重症感染のリスクを低減させるため(二次防止)、使用される。
【0081】
(2'-FLなどの)オリゴ糖を、安全性および/または受容する個体の全体的な健康を改善するための有効性について、単独で、または組み合わせて試験するため、臨床試験が設計され、実施される。募集される個体は、健康であるか、または(COVID-19などの)腸呼吸器病原体による感染に関連する疾患および障害の少なくとも1つの症状を有するかのいずれかであり得る。例示的な疾患および障害には、少なくとも、急性感染性下痢、気道感染、耳鼻咽喉(ENT)感染、手術患者および危篤状態の患者における感染性合併症等が含まれ得る。処置のため、年齢、性別、健康状態等による、異なる個体群が設定され得る。
【0082】
hMOS、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、およびラクツロースなどの様々なオリゴ糖が、臨床試験のため、募集された個体に投与され得る。2'-FLおよびGOSなどの種々の組み合わせが、一緒に、または逐次的に、募集された個体に投与され得る。主治医が、そのような単独投与、二重または多重の組み合わせ投与のための適切な量および投与計画を決定し得る。例えば、オリゴ糖は、個体の体重によって、0.1g~10g、0.5g~5g、1g~5g、1.5g~3g、またはその他の合理的もしくは有効な量で、毎日、2日毎、3日毎、毎週、またはその他の間隔で、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、6か月、1年、またはそれ以上の期間、投与され得る。投与のための2つのオリゴ糖、例えば2'-FLと別のオリゴ糖との例示的な比は、1:1、1:2、1:5、1:10、1:100、100:1、10:1、5:1、2:1、または適切であると見出された、もしくは好ましい安全性および/もしくは有効性の読み取りをもたらす任意の比である。陰性対照(例えば、オリゴ糖なし、またはその他のプラセボ)および陽性対照(例えば、グルコースまたはその他の糖)が、比較のために使用され得る。
【0083】
投与経路は、経口、肛門、吸入、注射によるもの、または個体の胃腸管、肺、もしくは血流へのその他の公知の、もしくは許容される経路であり得る。
【0084】
例示的な臨床試験におけるオリゴ糖による処置の結果は、本明細書に記載される、もしくは当技術分野において公知の、もしくは許容される、処置された個体の糞便試料の収集、または個体の細胞もしくは組織へのウイルスの感染もしくは結合の低減もしくは阻害を検出する、またはウイルス感染に関連する少なくとも1つの症状からの回復を検出するその他の方法によって集められ得る。処置の読み取りは、呼吸器病原体の量もしくは機能、または処置された個体におけるウイルス感染に関連するバイオマーカーの量もしくは機能、または処置された個体の全般的な健康状態の評価を含み得る。
【0085】
他の態様
本発明が詳細な説明と共に記載されたが、上記の説明は、本発明を例示するためのものであって、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するためのものではない。他の局面、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【0086】
本明細書において言及される特許および科学文献は、当業者が利用可能な知識を確立する。本明細書において引用される全ての米国特許および公開済みまたは未公開の米国特許出願が、参照により組み入れられる。本明細書において引用される全ての公開済みの外国特許および特許出願が、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用されるアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBIの登録が、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用される他の全ての公開済みの参考文献、文書、原稿、および科学文献が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0087】
本発明は、好ましい態様を参照しながら、具体的に示され、説明されたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変化が、それらに施され得ることを、当業者は理解するであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4-1】
図4-2】
【国際調査報告】