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特表2023-526331β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法
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  • 特表-β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/09 20060101AFI20230614BHJP
   C07C 57/04 20060101ALI20230614BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20230614BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C57/04
C07C51/44
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569522
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2021063014
(87)【国際公開番号】W WO2021233839
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2005098
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510083027
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ エネルジィ アルタナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(71)【出願人】
【識別番号】511134470
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポンサー,ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】レンツ,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】カンタット,ティボー
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB02
4H006AB06
4H006AB46
4H006AB70
4H006AB80
4H006AB99
4H006AC46
4H006AD11
4H006BA02
4H006BA39
4H006BA51
4H006BB15
4H006BB16
4H006BB17
4H006BB20
4H006BB21
4H006BB22
4H006BC10
4H006BS10
4H039CA65
4H039CH70
(57)【要約】
本発明は、β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法及びその使用に関するものである。本発明の手順は、特に温度に関して穏やかな作用条件下でアクリル酸を形成させる、β-プロピオラクトンの特異的反応性に基づくものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法であって、β-プロピオラクトンを式(I):
YX ・・・ 式(I)
の触媒と100℃未満の温度で接触させることを特徴とする方法であり、
式中、Yは、
アルカリ金属のカチオン、
式[NRの第四級アンモニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリールラジカルを表し、前記アルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
式[PRのホスホニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリールラジカルを表し、前記アルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
を表し、
Xは、塩化物(Cl)、臭化物(Br)及びヨウ化物(I)から選択されるハロゲン化物アニオンである、方法。
【請求項2】
Yが、Li、Na、K及びCsから選択されるアルカリ金属カチオンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Yが、式[NRの第四級アンモニウムカチオン
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、
メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びそれらの分枝異性体から選択されるアルキルラジカル;
フェニル、ベンジル、ナフチルから選択されるフェニルラジカル;
を表し、当該アルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Yが、式[PR、R、R、R及びRのホスホニウムカチオン
(式中、R、R、R及びRは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びそれらの分枝異性体から選択されるアルキルラジカル;
フェニル、ベンジル、ナフチルから選択されるフェニルラジカル;
を表し、当該アルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)
であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
Xが臭化物アニオン(Br)又はヨウ化物アニオン(I)であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
β-プロピオラクトンの前記式(I)の触媒との接触が、以下に記載の溶媒から選択される1種の溶媒又は少なくとも2種の溶媒の混合物において行われること、即ち、
ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、THF、2-メチルTHF、ジオキサン及びジグリムによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエーテル;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエステル;
アセトン又はプロパノン、ブタノン又はメチルエチルケトン、4-メチル-2-ペンタノン又はメチルイソブチルケトン、アセトフェノン、フェニルメチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N-メチルピロリドンによって構成される群から選択される直鎖又は環状のケトン、α-ブトリオラクトン(α-butryolactone);
ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)によって構成される群から選択される直鎖又は環状のデンプン(starches);
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;
ベンゼン、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)、エチルベンゼン、クメン又はイソプロピルベンゼン、メシチレン又は1,3,5-トリメチルベンゼンによって構成される群から選択される芳香族炭化水素;
アセトニトリル、プロパニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、デカノニトリル、イソブチロニトリル、ピバロニトリル、バレロニトリルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のニトリル;
クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレンによって構成される群から選択されるハロゲン化アルキル;
から選択される1種の溶媒又は少なくとも2種の溶媒の混合物において行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
β-プロピオラクトンの前記式(I)の触媒との接触が、以下に記載の添加剤の存在下で行われること、即ち、
12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5、若しくは、ジベンゾ-15-クラウン-5から選択されるクラウンエーテル;
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロオクタデカン(ヘキサシクレン)、若しくは、ジアザ-18-クラウン-6から選択されるアザクラウン;
1,5,9,13-テトラチアシクロヘキサデカン(16-Ane-S)、若しくは、1,4,7,10,13,16-ヘキサチアシクロオクタデカン(18-Ane-S)から選択されるクラウンチオエーテル;
又は、
[2,1,1]、[2,2,1]、[2,2,2]、[2,2,2]B、[2,2,3,]、[2,3,3,]、[3,3,3]から選択されるクリプタンド;
から構成される群から選択される添加剤の存在下で行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
高吸水性材料、
層、
合成ゴム、
プラスチック材料、
被膜、
塗料、
インク、
有機ガラス、
接着剤、
アクリル繊維、
合成皮革、
医薬品、
殺虫剤、
肥料、
洗剤、
精密化学用試薬、
アクリル酸エステル製造用の中間体、並びに
アクリルポリマー及びコポリマー、
の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載のβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法の使用。
【請求項9】
高吸水性材料、層、合成ゴム、プラスチック材料、被膜、塗料、接着剤、アクリル繊維、合成皮革、医薬品、殺虫剤、肥料、洗剤、及び、モノマー合成用の中間体を製造する方法であって、当該方法は、
(i)本発明に従う方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程と、場合により
(ii)アクリル酸を、例えば蒸留により、分離する工程と
を含んでなる方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程を含むことを特徴とする、水の汚染除去用のポリプロピレン(PP)系工業用繊維品を機能化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法およびその使用に関する。
【0002】
本発明の方法は、特に温度に関して穏やかな作用条件下でアクリル酸を選択的に形成させる、β-プロピオラクトンの特異的反応性に基づくものである。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、α酸、β不飽和酸の中で最も単純で最も一般的であり、工業的規模で広く使用されている。この原料は、2014年に5.94Mt製造されており、その用途は毎年広がりを見せている。アクリル酸は、主に高吸水性材料の製造、樹脂及び塗料の配合に使用されるが、モノマーを合成するための中間体としても使用され、その用途の多様化が可能となっている。
【0004】
アクリル酸を工業的に合成する方法は、主に石油化学に由来するプロピレンの酸化に基づいている。欧州におけるアクリル酸の価格の上昇は、プロピレンの価格と相関している。後者の価格は、2013年から2014年の間に60%上昇しているため、図1に図式化されるような、新たな技術及び合成方法の開発が必要とされる。
【0005】
石油由来の生成物から脱却するために、乳酸又はグリセリンからのアクリル酸の形成に関する刊行物が増加している(非特許文献1)。
【0006】
アクリル酸を合成する他の方法が文献に記載されており、その中にβ-プロピオラクトンを使用するものがいくつかある。これらの様々な合成方法は以下の通りである。
【0007】
「プロピレンの酸化によりアクリル酸を合成する従来の方法」
現在のアクリル酸の製造では、(a)非特許文献2、(b)非特許文献3に記載されているような、気相での2工程の合成方法が主に用いられており、多くのエネルギーを消費する。第1工程は、ビスマス及びモリブデン系触媒(Bi/Mo-O)を用いた、320℃でのアクロレイン中のプロピレンの酸化に基づいている。次いで、このようにして形成された中間体を、ビスマス及びバナジウム系触媒(Bi/V-O)を用いた、280℃での第2の酸化により、アクリル酸に直接変換する。
【0008】
「ラクトン又は類似物からのアクリル酸の合成」
【0009】
・特許文献1に記載のブレンステッド酸(HPO)の使用
歴史的に、アクリル酸は、ブレンステッド酸(HPO又はP-HO)を用いてプロピオラクトンから形成された。この合成方法は、低活性、及び触媒作用のための水の添加という技術的問題(触媒腐食)に直面し、断念されている。
【0010】
・特許文献2に記載の重合とそれに続く熱分解
ノボマー社は、アクリル酸の合成を2つの工程で行う。第1工程は、プロピオラクトンを重合してポリエステルを得る工程である。次いで、これを熱分解してアクリル酸を得る。この2工程システムでは、真空下でポリマーを加熱(>150℃)することが必要である。この手順により、高純度の無水アクリル酸が得られる。しかし、この合成は2つの工程で行われ、高いエネルギー消費を伴う(真空下でのポリマーの加熱)。
【0011】
・特許文献3に記載のゼオライト(ルイス酸)の使用
ノボマー社は、β-プロピオラクトンからアクリル酸を形成するためのゼオライトの使用の有効性を実証した。しかしながら、この方法には、100℃を超える温度が必要である。二次反応を回避するために、重合禁止剤を添加して高い選択性を維持することが必要である。
【0012】
・特許文献4に記載のラクチドからの溶融塩の使用
Jakob Albertは、HXの形態の酸触媒の使用、又は、反応中間体(3-ハロゲノプロピオン酸又は2-ハロゲノプリオイオン酸)の使用と共に、YXの形態の溶融塩の使用を実証しており、ここで、Yは観客カチオンであり、Xはハロゲン化物である。しかしながら、この方法には、150℃を超える有意な加熱及び数時間から数日の長い時間が必要であり、それは、この温度であまり安定しないプロピオラクトンの使用に即したものではない。
【0013】
・特に特許文献5及び特許文献6に記載の乳酸の脱水。
アクリル酸での乳酸の脱水は周知であり、多種多様な触媒とともに、多数の刊行物及び特許出願に記載されている。この方法は、一般に高い反応温度(約300℃)で多くのエネルギーを消費する。これに加えて、選択性の問題もある(最良のシステムの選択性は80%)。
【0014】
かなりの数のアクリル酸合成方法が先行技術に記載されているにも関わらず、エネルギー、環境及び工業的観点から完全に満足できるものはない。
【0015】
したがって、効果的で、技術的及び経済的に実行可能で、工業的に安全であり、容易に入手可能で安価な原料を使用するアクリル酸の製造を可能にする方法が実際に必要とされている。
【0016】
また、効果的で、厳密な作用条件、特に高温を必要としないアクリル酸の製造方法も実際に必要とされている。
【0017】
更に、豊富に入手可能で、安価で、非腐食性の効果的な触媒を利用する、上記のようなアクリル酸の製造方法が実際に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第3176042号明細書
【特許文献2】国際公開WO2013/126375号
【特許文献3】国際公開WO2017/165323号
【特許文献4】米国特許出願公開第2018133705号(A1)
【特許文献5】米国特許第8957250号明細書
【特許文献6】欧州特許第2836476号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】R.BeerthuisらによるGreen Chemistry Journal、2015年、第17号、第1341~1361頁
【非特許文献2】K.Weissermel及びH.J.ArpeによるIndustrial Organic Chemistry、Wiley-VCH社、ヴァインハイム、2003年
【非特許文献3】H.A.Wittcoff、B.G.Reuben及びJ.S.PlotkinによるIndustrial Organic Chemicals、Wiley-VCH社、ヴァインハイム、2012年
【発明の概要】
【0020】
本発明は、とりわけこれらの必要性に応えることを目的としており、そのために、β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造するための方法であって、β-プロピオラクトンを式(I):
YX ・・・ 式(I)
の触媒と100℃未満の温度で接触させることを特徴とする方法を提供するものであり、
式中、Yは、
アルカリ金属カチオン、
式[NRの第四級アンモニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリール(aryl)ラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
式[PRのホスホニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリール(aryl)ラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
を表し、
Xは、塩化物(Cl)、臭化物(Br)及びヨウ化物(I)から選択されるハロゲン化物アニオンである。
【0021】
本発明の方法は、β-プロピオラクトンをアクリル酸の前駆体として使用することを可能にする。β-プロピオラクトンは、エチレンの酸化に由来するエチレンオキシドのカルボニル化によって製造することができ、エチレンはバイオ由来又は石油由来であり得る。β-プロピオラクトンは、ホルムアルデヒド及びセテン(仏語cetene,英語ketene ケテン)からも得ることができる。市販もされている。
【0022】
本発明の方法は、特に温度に関して穏やかな作用条件下でアクリル酸を選択的に形成させる、β-プロピオラクトンの特異的反応性に基づくものである。実際、本発明者らは、他のラクトンに適用した同じ穏やかな作用条件が、予想に全く反して完全に効果がなかったことを見出した。
【0023】
図2に示すように、本発明による作用条件下では、特に触媒、溶媒、時間及び反応温度に関して、ラクチドは全く変換されず、その構造がメチル基の存在によってのみβ-プロピオラクトンの構造と異なるβ-ブチロラクトンが、脱カルボキシル化反応を受けてプロピレン及びCOを形成する。
【0024】
本発明の別の目的は、「以下に列挙するもの」の製造において、本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法を使用することである。即ち、
高吸水性材料、
層、
合成ゴム、
プラスチック材料、
被膜、
塗料、
インク、
有機ガラス、
接着剤、
アクリル繊維、
合成皮革、
医薬品、
殺虫剤、
肥料、
洗剤、
精密化学用試薬、
アクリル酸エステル製造用の中間体、並びに
アクリルポリマー及びコポリマー
の製造において、本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法を使用することである。
【0025】
本発明はまた、高吸水性材料、層、合成ゴム、プラスチック材料、被膜、塗料、インク、有機ガラス、接着剤、アクリル繊維、合成皮革、医薬品、殺虫剤、肥料、洗剤、精密化学用試薬、アクリル酸エステル製造用の中間体、並びにアクリルポリマー及びコポリマーを製造するための方法であって、当該方法は、
(i)本発明による方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程と、場合により
(ii)アクリル酸を、例えば蒸留により分離する工程と
を含むことを特徴とするものである。
【0026】
本発明の方法は、水の汚染除去に使用することができる。
(https://surfacechemistry.nouryon.com/SiteAssets/pdfs/techbulletin-water-treatment-product-selection-guide-global-2.pdf) (https://grandviewresearchinc.blogspot.com/2017/12/polyacrylic-acid-based-polymers-to-simplify-industrial-waste-water-treatment.html)
【0027】
本発明はさらに、本発明による方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程を含むことを特徴とする、水の汚染除去用のポリプロピレン(PP)系工業用繊維品を機能化する方法を目的とする。このように機能化された工業用繊維品を使用することにより、水性環境中に存在するカドミウム、クロム、鉛、銅、亜鉛、水銀、ニッケルなどの金属微量元素を保留することができる。
【0028】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面に言及する、以下の詳細な説明を読み理解することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】以下の文献に記載されているようなアクリル酸の製造及び使用について図示したものである。 T.BonnotteらによるChemBioEng Reviews、2018年、第5号、No.1、第34~56頁、 R.BeerthuisらによるGreen Chem.,2015年、第17号、第1341頁(プロピレンからアクリル酸へ、及びその用途)、 V.MahadevanらによるAngew.Chem.Int.Ed.,2002年、第41号(15)、第2781~2784頁(エチレンオキシドからβ-プロピオラクトンへ)、 S.Rebsdatらによるエチレンオキシド、Ullmann´s encyclopedia of industrial chemistry、2012年(エチレンからエチレンオキシドへ)、 J.Miltenberherによるヒドロキシカルボン酸、脂肪族、Ullmann´s encyclopedia of industrial chemistry、2012年(セテン(Cetene)からβ-プロピオラクトンへ)。
図2】本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法の、発明上の特徴及び特異性を示す。β-プロピオラクトンからアクリル酸を得ることを可能にする作用条件(触媒、溶媒、反応時間、反応温度)は、他のラクトン、特にラクチド及びその構造がメチル基の存在によってのみβ-プロピオラクトンの構造と異なるβ-ブチロラクトンでは全く効果がないことが証明されている。ラクチドは反応せず、β-ブチロラクトンは脱カルボキシル化反応を受けてプロピレン及びCOを形成する。
図3】溶媒の存在下で本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法を概略的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[発明の詳細な説明]
本発明は、β-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法であって、β-プロピオラクトンを式(I):
YX ・・・ 式(I)
の触媒と100℃未満の温度で接触させることを特徴とする方法に関し、
式中、Yは、
アルカリ金属カチオン、
式[NRの第四級アンモニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリールラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
式[PRのホスホニウム(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~12個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~20個の炭素原子を含むアリールラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)、
を表し、
Xは、塩化物(Cl)、臭化物(Br)及びヨウ化物(I)から選択されるハロゲン化物アニオンである。
【0031】
「アルキル」(alkyl)とは、本発明の意味において、1~12個の炭素原子、例えば1~8個の炭素原子、例えば1~6個の炭素原子を含み、分枝状又は環状で飽和の、場合により置換された直鎖炭素ラジカル(基)を意味する。飽和の直鎖又は分岐アルキルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデカニル(の)ラジカル及びそれらの分枝異性体が挙げられる。環状アルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロ[2,1,1]ヘキシル、ビシクロ[2,2,1]ヘプチルが挙げられる。
【0032】
「アリール」(aryl)という用語は、6~20個の炭素原子を含む環状芳香族置換基を意味する。アリール基は、例えば、6~10個の炭素原子を含むことができる。アリール基は、例えば、6個の炭素原子を含むことができる。情報として、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、メシチル基、p-ニトロフェニル基、o-メトキシフェニル基、m-メトキシフェニル基及びp-メトキシフェニル基、o-メトキシベンジル基、p-メトキシベンジル基、m-メトキシベンジル基、o-メチルベンジル基、p-メチルベンジル基及びm-メチルベンジル基が挙げられる。
【0033】
アルキルラジカル及びアリールラジカルは、1以上のアルコキシ基(-O-アルキル);フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択される1以上のハロゲン原子;1以上のニトロ基(-NO);1以上のニトリル基(-CN);本発明の範囲で定義されるようなアルキル及びアリールを有する、1以上のアルキルラジカル、1以上のアリールラジカルで場合により置換されていてもよい。
【0034】
本発明の方法で実施される触媒において、Xは、塩化物(Cl)、臭化物(Br)及びヨウ化物(I)から選択されるハロゲン化物アニオンである。本発明の好ましい実施形態によれば、Xは臭化物アニオンである。本発明の別の好ましい実施形態によれば、Xはヨウ化物アニオンである。
【0035】
Yがアルカリ金属カチオンである場合、それはLi、Na、K及びCsから選択することができる。
本発明の好ましい実施形態によれば、アルカリ金属カチオンはKである。
本発明の別の好ましい実施形態によれば、アルカリ金属カチオンはCsである。
【0036】
Yが、式[NRの第四級アンモニウムカチオンである場合、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、1~8個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~10個の炭素原子を含むアリールラジカルを表すことができ、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によれば、Yは、式[NR(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なり、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びそれらの分枝異性体から選択されるアルキルラジカル、フェニル、ベンジル、ナフチルから選択されるフェニルラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)の第四級アンモニウムカチオンである。この実施形態では、Yは有利には[N(n-Bu)である。Yが、式[PRのホスホニウムカチオンである場合、R、R、R及びRは同一又は異なり、水素原子、1~8個の炭素原子を含むアルキルラジカル、6~10個の炭素原子を含むアリールラジカルを表すことができ、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、Yは、式[PR、R、R、R及びR(式中、R、R、R及びRは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びそれらの分枝異性体から選択されるアルキルラジカル、フェニル、ベンジル、ナフチルから選択されるフェニルラジカルを表し、このアルキルラジカル及びアリールラジカルは場合により置換されている)のホスホニウムカチオンである。この実施形態では、Yは有利には[PPhである。
【0039】
好ましい触媒の中でも、特にLiI、NaI、KI、KCl、KBr、CsI、[N(n-Bu)]I、[PPh]Iが挙げられる。
【0040】
触媒は、必要に応じて不均一な担体上に固定することにより、例えば、その触媒の容易な分離及び/又はリサイクルを確実に行うことができる。この不均一な担体は、シリカゲル又は例えば、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ-L-(リジン)(PLL)などのカチオン性ポリマー系担体から選択するか、又は多糖類に基づくことができる。
【0041】
触媒は、シグマアルドリッチ社から入手可能な参照番号Sigma-Aldrich-572942の、特にアンモニウムカチオン及びホスホニウムカチオン用の固体高分子担体、又は、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/app.35297(架橋ポリ(4-ビニルピリジン)担持ヨウ化物を使用した安定な芳香族ジアゾニウム塩のヨウ化)(Iodination of stable aromatic diazonium salt using crosslinked poly(4-vinylpyridine)-supported iodide)に記載の固体高分子担体、又は、https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.macromol.9b02266(第四級アンモニウムヨウ化触媒リビングラジカル重合のためのリサイクル可能な固体担持触媒)(Recyclable Solid-Supported Catalysts for Quaternary Ammonium Iodide-Catalyzed Living Radical Polymerization)に記載の固体高分子担体、などであり得る。
【0042】
上記のようなハロゲン化物塩である本発明の方法で使用される触媒は低価格である。これらの触媒の大部分は、毒性が低いか毒性が無く、容易に使用できる固体である。
【0043】
本発明の方法、特に、β-プロピオラクトンの、式(I)の触媒との接触は、溶媒の非存在下で行うことができる。この場合、以下に記載されるような重合禁止剤の存在が有利であることが証明され得る。
【0044】
本発明の方法、特に、β-プロピオラクトンの、式(I)の触媒との接触は、1種の溶媒又は少なくとも2種の溶媒の混合物中で行うこともできる。使用される溶媒は、無水又は非無水であり得る。
【0045】
β-プロピオラクトン又はアクリル酸と反応し得る溶媒は避けるべきである。
【0046】
本発明の範囲において、溶媒は、以下から選択することができる。即ち、
ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、THF、2-メチルTHF、ジオキサン及びジグリムによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエーテル、
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエステル、
アセトン又はプロパノン、ブタノン又はメチルエチルケトン、4-メチル-2-ペンタノン又はメチルイソブチルケトン、アセトフェノン、フェニルメチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N-メチルピロリドンによって構成される群から選択される直鎖又は環状のケトン、α-ブトリオラクトン(α-butryolactone)、
ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)によって構成される群から選択される直鎖又は環状のデンプン(starches)、
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、
ベンゼン、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)、エチルベンゼン、クメン又はイソプロピルベンゼン、メシチレン又は1,3,5-トリメチルベンゼンによって構成される群から選択される芳香族炭化水素、
アセトニトリル、プロパニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、デカノニトリル、イソブチロニトリル、ピバロニトリル、バレロニトリルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のニトリル、
クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、塩化メチレンによって構成される群から選択されるハロゲン化アルキル、
から選択することができる。
【0047】
本発明の実施形態において、溶媒は、以下から選択することができる。即ち、
ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、THF、2-メチルTHF、ジオキサン及びジグリムによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエーテル、
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のエステル、
アセトン又はプロパノン、ブタノン又はメチルエチルケトン、4-メチル-2-ペンタノン又はメチルイソブチルケトン、アセトフェノン、フェニルメチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N-メチルピロリドンによって構成される群から選択される直鎖又は環状のケトン、α-ブトリオラクトン(α-butryolactone)、
ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)によって構成される群から選択される直鎖又は環状のデンプン(starches)、
アセトニトリル、プロパニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、デカノニトリル、イソブチロニトリル、ピバロニトリル、バレロニトリルによって構成される群から選択される直鎖又は環状のニトリル、
から選択することができる。
【0048】
持続的に形成された生成物を蒸留するために高いエネルギー消費(真空下で100℃を超える温度での加熱)を伴うβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造するための現行の方法とは対照的に、本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造するための方法は、特に温度及び圧力に関して穏やかな条件下で行われる。
【0049】
実際、本発明の方法が実施される温度は、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。より具体的には、温度は、10℃~80℃、好ましくは15~55℃、より好ましくは20~45℃であり得る。
【0050】
本発明の方法の実施は、減圧を必要とせず、大気圧で行うことができる。
【0051】
この方法は、触媒の選択性及び活性に影響を与えることなく、不活性雰囲気下(例えば窒素、アルゴン)又は空気中で行うことができる。
【0052】
本方法の時間は、溶媒、触媒、触媒量、β-プロピオラクトンの濃度及び温度に応じて、1時間、さらには数時間から数日間まで変化し得る。とりわけ時間は、1時間~120時間、好ましくは1時間~80時間、より好ましくは4時間~20時間であり得る。
【0053】
反応媒体中のβ-プロピオラクトンの濃度は、数mmol.L-1から数mol.L-1まで変化し得る。濃度は、0.1~16mol.L-1、好ましくは0.1~10mol.L-1、より好ましくは0.1~5mol.L-1であり得る。
【0054】
触媒は、触媒量、すなわち化学量論量未満の量で使用される。触媒量は、ラクトンに対して0.01~20mol%、好ましくは0.05~15mol%、より好ましくは1~10mol%であり得る。触媒の濃度を高めることにより、反応時間を短縮することができる。
【0055】
豊富に入手可能、化学的に単純で、低価格、低毒性の触媒の存在は、先行技術の触媒系と比較して付加価値がある。
【0056】
アクリル酸は非常に反応性が高く、爆発的な重合を達成することができる。均質な媒体中において濃度約1mol.L-1のβ-プロピオラクトンを使用することにより、アクリル酸の爆発的な重合を回避することができ、精製を単純化することができる。本発明の方法では、必要に応じて、当業者に公知の蒸留技術によってアクリル酸を容易に精製することができる。
【0057】
触媒の性質により、反応終了時に触媒を容易に分離することが可能となり、その活性は、アクリル酸と、生じ得る不純物と、反応溶媒とを分離するための蒸留後も低下しない。触媒はまた、単純な濾過によって部分的又は全体的に回収することができる。
【0058】
本発明の方法は、さらに添加剤の存在下で行うことができる。したがって、β-プロピオラクトンと式(I)の触媒との接触は、添加剤の存在下で行われる。β-プロピオラクトンの変換のための触媒の溶解性を改善する役割を有する添加剤は、以下によって構成される群から選択することができる:即ち、
12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5、又はジベンゾ-15-クラウン-5から選択されるクラウンエーテル、
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロオクタデカン(ヘキサシクレン)、又はジアザ-18-クラウン-6から選択されるアザクラウン、
1,5,9,13-テトラチアシクロヘキサデカン(16-Ane-S)、又は1,4,7,10,13,16-ヘキサチアシクロオクタデカン(18-Ane-S)から選択されるクラウンチオエーテル、あるいは、
[2,1,1]、[2,2,1]、[2,2,2]、[2,2,2]B、[2,2,3,]、[2,3,3,]、[3,3,3]から選択されるクリプタンド、
によって構成される群から選択することができる。
【0059】
本発明の方法が添加剤の存在下で実施される場合、反応媒体中の添加剤の量は、ラクトンに対して0.01~20mol%、好ましくは0.05~15mol%、より好ましくは1~10mol%であり得る。
【0060】
本発明による方法の実施には、いかなる特定の反応器も必要としない。
【0061】
溶媒の存在下でβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する方法は、図3に概略的に表される。
【0062】
本発明の方法により、既知のシステムに少なくとも匹敵する良好な収率及び選択性を有するアクリル酸の製造が可能となる。ある場合において、本発明の方法によれば、所望の生成物の他に媒体中に存在する唯一の副生成物は、一般に二量体及び/又は三量体の形態のポリエステル官能基及びオレフィン末端を有するオリゴマーであるため、この混合物を後の用途及び作用などに使用することが可能になる。しかしながら、必要に応じて、例えば単純な蒸留によって、アクリル酸からオリゴマーを容易に除去することが可能である。オリゴマーは、2つのアクリル酸分子、又はアクリル酸分子と反応中間体との反応によるマイケル付加に由来し得ることに留意しなければならない。
【0063】
本発明の方法は、高いアクリル酸選択性を得るための重合禁止剤の存在を必要としないが、二次重合反応を回避し、したがって高い選択性を維持するために、それを利用することは考えられ得る。既に示したように、本方法が溶媒の非存在下で行われる場合、重合禁止剤の存在が有利であることが証明され得る。
【0064】
これに関して、例えば、銅粉、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル及びフェノチアジンが挙げられる。
【0065】
重合禁止剤の量は、20ppm以上、好ましくは50ppm以上、より好ましくは100ppm以上、さらにより好ましくは200ppm以上であり得る。
【0066】
本発明の方法によって開発された穏やかな条件により、特に開始試薬としてのβ-プロピオラクトン及び得られたアクリル酸の使用に関するいくつかの問題を回避することができる。
【0067】
本発明の方法の、特に温度に関する穏やかな作用条件により、β-プロピオラクトンの熱分解(162℃)を回避することができる。
【0068】
本発明の方法の、特に温度に関する穏やかな作用条件により、2つのアクリル酸分子の反応による二量体の不可逆的形成によるアクリル酸の分解を制限することができる。したがって、所望の生成物に対する良好な選択性が維持される。
【0069】
本発明の方法は、従来技術の方法よりもエネルギー消費を低くすることができる。
【0070】
溶媒の沸点未満での実施可能性、又は低沸点(100℃未満)の溶媒を使用できる可能性は、従来技術の方法では得られない利点である。
【0071】
本発明の別の目的は、本発明によるβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造するための方法を、「以下に列挙するもの」の製造において使用することである。即ち、
高吸水性材料、
層、
合成ゴム、
プラスチック材料、
被膜、
塗料、
インク、
有機ガラス、
接着剤、
アクリル繊維、
合成皮革、
医薬品、
殺虫剤、
肥料、
洗剤、
精密化学用試薬、
アクリル酸エステル製造用の中間体、並びに
アクリルポリマー及びコポリマー
の製造において使用することである。
【0072】
本発明はまた、高吸水性材料、層、合成ゴム、プラスチック材料、被膜、塗料、接着剤、アクリル繊維、合成皮革、医薬品、殺虫剤、肥料、洗剤、精密化学用試薬、アクリル酸エステル製造用の中間体、並びにアクリルポリマー及びコポリマーを製造する方法であって、当該方法は、
(i)本発明による方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程と、場合により
(ii)アクリル酸を、例えば蒸留により分離する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0073】
本発明の方法は、水の汚染除去に使用することができる。
【0074】
本発明はさらに、本発明による方法によりβ-プロピオラクトンからアクリル酸を製造する工程を含むことを特徴とする、水の汚染除去用のポリプロピレン(PP)系工業用繊維品を機能化する方法を目的とする。このように機能化された工業用繊維品を使用することにより、水性環境中に存在するカドミウム、クロム、鉛、銅、亜鉛、水銀、ニッケルなどの金属微量元素を保留することができる。
【0075】
一般に、工業用繊維品は、1つ又は複数の明確な用途(例えば、水の汚染除去)のために選択された特徴を有する、いわゆる工業用繊維で構成された織物、不織布、紐、組紐などを意味し得る。応用例によれば、繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維であり得る。
【実施例
【0076】
1. 本発明の方法によるβ-プロピオラクトンからのアクリル酸の製造
本発明の方法で及び実施例で使用される種々の試薬及び溶媒(β-プロピオラクトン、触媒など)は、一般に市販の化合物であるか、又は当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。
【0077】
(1.) 不活性雰囲気又は空気中で、触媒(xmol%)、β-プロピオラクトン(x´mol.L-1)及び溶媒(x´´mL)をRMN管に導入する。アクリル酸の収率及びβ-プロピオラクトンの転化率を監視するために、内部標準物質を添加することができる。試薬、溶媒、内部標準物質又は触媒の導入順序は、反応に影響を及ぼさない。
【0078】
(2.) 次に、RMN管を15~80℃の温度に置く。
【0079】
(3.) β-プロピオラクトンの転化率及びアクリル酸の収率は、RMN H(Bruker製Avance Neo 400MHz)又はガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)(島津製作所製GCMS-QP2010 Ultra)で監視することができる。
【0080】
本発明の方法で使用される溶媒及び種々の試薬(β-プロピオラクトン、触媒、添加剤)は、一般に市販の化合物であるか、又は当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。非無水溶媒を使用することができる。本実施例で使用される試薬、触媒、溶媒は、シグマアルドリッチ社によって市販されている製品である。
【0081】
本発明の方法の様々なパラメータを調査した。各パラメータの変化の範囲を以下に記載する。
【0082】
記載する転化率及び収率は、反応開始時に内部標準物質、メシチレンを添加することにより、RMN Hで測定される。これらの転化率及び収率は、約5%の精度で測定される。本発明の文脈においては、以下の定義を想起することが有用である。
転化率(%)=(ラクトンの初期量-反応しなかったラクトンの量/ラクトンの初期量)×100。
アクリル酸収率(%)=(形成されたアクリル酸のモル数/ラクトンの初期モル数)×100。
オリゴマー収率(%)=(形成されたオリゴマーの量/ラクトンの初期量)×100。
選択率(%)=(形成されたアクリル酸の収率/転化率)×100。
【0083】
実施例1:
ヨウ化カリウム(4.1mg、0.025mmol、0.05当量)、β-プロピオラクトン(31μL、0.500mmol、1当量)及びアセトン-d(500μL)を密閉管に加える。最後に、メシチレン(14μL、0.100mmol、0.1当量)を内部標準物質として添加する。反応物を20℃で112時間撹拌する。
【0084】
実施例2:
ヨウ化カリウム(4.1mg、0.025mmol、0.05当量)、β-プロピオラクトン(31μL、0.500mmol、1当量)及びアセトン-d(500μL)を密閉管に加える。最後に、メシチレン(14μL、0.100mmol、0.1当量)を内部標準物質として添加する。反応物を45℃で16時間撹拌する。
【0085】
実施例3:
ヨウ化カリウム(1.0mg、0.006mmol、0.05当量)、β-プロピオラクトン(7.75μL、0.125mmol、1当量)及びアセトン-d(500μL)を密閉管に加える。最後に、メシチレン(3.5μL、0.025mmol、0.1当量)を内部標準物質として添加する。反応物を45℃で16時間撹拌する。
【0086】
実施例4:
ヨウ化カリウム(4.1mg、0.025mmol、0.05当量)、クラウンエーテル(18-c-6)(6.6mg、0.025mmol、0.05当量)、β-プロピオラクトン(31μL、0.500mmol、1当量)及びアセトン-d(500μL)を密閉管に加える。最後に、メシチレン(14μL、0.100mmol、0.1当量)を内部標準物質として添加する。反応物を45℃で16時間撹拌する。
【0087】
実施例5:
ヨウ化カリウム(41mg、0.025mmol、0.05当量)、β-プロピオラクトン(310μL、5mmol、1当量)及びアセトン-d(5mL)をシングルネックフラスコに加える。最後に、メシチレン(14μL、0.100mmol、0.1当量)を内部標準物質として添加する。反応物を45℃で10時間撹拌し、転化率99%、選択率73%を得る。
【0088】
2. アクリル酸の製造における種々のパラメータの影響
【0089】
2.1. 溶媒試験
アクリル酸の製造における溶媒の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、多様な溶媒を用いて、以下のダイアグラムにしたがい20℃又は45℃で実施された。得られた結果を表1にまとめた。
【0090】
【化1】
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示す作用条件下で、試験した最良の溶媒はアセトンであることが明らかになった。しかしながら、例えばDME、アセトニトリル、THF、DMSO、DMF及び酢酸エチルなどの他の溶媒を使用することも可能である。
【0093】
2.2. 添加剤試験
アクリル酸の製造における添加剤の添加の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、添加剤としてクラウンエーテル18-c-6(18-クラウン-6)5mol%の存在下で、以下のダイアグラムにしたがい20℃(~45℃)で実施された。得られた結果を表2にまとめる。
【0094】
【化2】
【0095】
【表2】
【0096】
したがって、クラウンエーテルの添加により、反応性を実質的に高められる。しかしながら、表2に示される作用条件下では、表1においてクラウンエーテルなしで20℃及び45℃で得られた結果に対し、選択性の喪失が見られる。
【0097】
2.3. 触媒のカチオン(Y)の性質試験
アクリル酸の製造における、触媒のカチオン(Y)の性質の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、様々なカチオン(Y)を含む触媒5mol%を用いて、以下のダイアグラムに従い45℃で実施された。得られた結果を表3にまとめた。
【0098】
【化3】
【0099】
【表3】
【0100】
得られた結果によれば、カチオンが本方法の活性及び選択性に影響を及ぼすことは明らかであると思われる。表3に示す作用条件において、カリウムは良好な活性/選択率比を示した。
【0101】
2.4. 触媒のアニオン(X)の性質試験
アクリル酸の製造における、触媒のアニオン(X)の性質の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、様々なアニオン(X)を含む触媒5mol%を用いて、以下のダイアグラムに従い45℃で実施された。得られた結果を表4にまとめた。
【0102】
【化4】
【0103】
【表4】
【0104】
得られた結果によれば、アニオンが、本方法の活性及び選択性に影響を及ぼすことは明らかであると思われる。表4に示す作用条件において、ヨウ素は良好な活性/選択率比を示した。
【0105】
2.5. 触媒濃度試験
アクリル酸の製造における、触媒濃度の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、β-プロピオラクトンに対するmol%で表される様々な濃度のヨウ化カリウム(KI)を触媒として用いて、以下のダイアグラムに従い45℃で実施された。得られた結果を表5にまとめた。
【0106】
【化5】
【0107】
【表5】
【0108】
これらの結果によれば、触媒濃度を変化させることで反応時間を変化させることができる。表5に示す作用条件下では、選択性は触媒濃度の影響を受けると思われる。
【0109】
2.6. β-プロピオラクトン濃度試験
アクリル酸の製造における、β-プロピオラクトン濃度の影響を調査した。この目的のために、本発明の方法は、様々なβ-プロピオラクトン濃度を用いて、以下のダイアグラムに従い45℃で実施された。得られた結果を表6にまとめた。
【0110】
【化6】
【0111】
【表6】
【0112】
これらの結果は、β-プロピオラクトン濃度が本発明の方法に影響を及ぼすことを示している。実際、表6に示す作用条件下では、濃度が1mol.L-1を超えると選択性が急速に低下する。
【符号の説明】
【0113】
(なし)
図1
図2
図3
【国際調査報告】