(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】合成単一ドメインライブラリー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230614BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230614BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230614BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20230614BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230614BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230614BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230614BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/00
C40B40/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570689
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2021063502
(87)【国際公開番号】W WO2021234104
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509181699
【氏名又は名称】アンスティテュ・クリー
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ペレス
(72)【発明者】
【氏名】サンドリーヌ・モーテル
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、完全ヒト化単一ドメイン抗体足場の同定、並びに合成単一ドメイン抗体の生成におけるその使用に関する。本発明は、この単一ドメイン抗体足場を含む抗原結合タンパク質、及び治療におけるそれらの使用に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1. CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な核酸を、合成単一ドメイン抗体のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、同一の合成単一ドメイン抗体足場アミノ酸配列を有する多様な合成単一ドメイン抗体をコードする核酸を生成する工程
を含む、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを生成する方法であって、前記合成単一ドメイン抗体足場が、次のアミノ酸残基: FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7を含む、方法。
【請求項2】
前記合成単一ドメイン抗体足場が、次のアミノ酸残基: FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27の少なくとも1つを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項3】
前記合成単一ドメイン抗体足場が、次の、配列番号1のFRW1、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFRW4からなるフレームワーク領域、又は各フレームワーク領域内に1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する機能性バリアントフレームワーク領域を含むが、ただし、前記合成単一ドメイン抗体足場が、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなるアミノ酸残基の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基が、次の規則:
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
により決定され、CDR3アミノ酸配列が、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数からランダムに選択される9~18個のアミノ酸を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法により得られる合成単一ドメイン抗体ライブラリー。
【請求項6】
少なくとも1.10
9の別個の抗体コード配列を含む、請求項5に記載の合成単一ドメイン抗体ライブラリー。
【請求項7】
目的の標的に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング方法における、請求項5又は6に記載の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの使用。
【請求項8】
前記スクリーニング方法が、ファージディスプレイである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
次の式: FRW1-CDR1-FRW2-CDR2-FRW3-CDR3-FRW4の合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質であって、配列番号1のFRW1、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFRW4からなるフレームワーク領域、又は各フレームワーク領域内に1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換が有る機能性バリアントフレームワーク領域を含むが、ただし、前記合成単一ドメイン抗体足場が、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなるアミノ酸残基の少なくとも1つを含み、任意選択で、フレームワーク領域が、ラマ種のVHHフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4に由来する、抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記合成単一ドメイン抗体が、次の機能特性:
i.大腸菌ペリプラズムにおいて可溶性単一ドメイン抗体として発現させることができること、
ii.大腸菌サイトゾルにおいて可溶性イントラボディとして発現させることができること、
iii.哺乳動物細胞株において蛍光タンパク質融合物として発現する場合、凝集しないこと
の1つ又は複数を有する、請求項9に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基が、
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
であり、CDR3アミノ酸配列が、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択される9~18個のアミノ酸を含む、請求項9又は10に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
プロテアソームに対してタンパク質を標的化するためのF-boxドメインを更に含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質をコードする単離核酸。
【請求項14】
配列番号1~4のフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4をそれぞれコードする次の核酸配列、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8を含む、請求項13に記載の単離核酸。
【請求項15】
i.抗原結合タンパク質の生成に適切な条件下で請求項8に記載の宿主細胞を培養する工程、及び
ii.前記抗原結合タンパク質を単離する工程
を含む、請求項6から14のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質の生成のための組換え宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に安定な合成単一ドメイン抗体足場の同定、及び合成単一ドメイン抗体ライブラリーの生成におけるその使用に関する。また、本発明は、この安定な単一ドメイン抗体足場を含む抗原結合タンパク質、とりわけ、がん治療のための、特に、治療薬としての、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去十年間で、抗体は、特に腫瘍学の分野における最も有望な治療手法のうちの1つとして、並びに研究又は診断ツールの重要なソースとなった。
【0003】
免疫グロブリンG(IgG)は、典型的抗体の基本構造であり、ジスルフィド架橋により結合する重及び軽鎖の2つのヘテロ二量体を含む。しかし、天然一本鎖抗体は、少なくとも2群の動物:ラクダ科(Camelidae)(Hamers-Castermanら、1993、Nature、363、446~448頁)及びサメ(Greenbergら、Nature. 1995、Mar 9;374(6518): 168~73頁)において発見されている。このような一本鎖抗体は、軽鎖を欠く、更なるクラスのIgGを構成する。このような一本鎖天然抗体の認識部分は、VHHと呼ばれる、重鎖の可変ドメインのみを含む。VHHは、IgGドメインの足場を形成する4つのフレームワーク(FR)及び抗原結合に関与する3つの相補性決定領域(CDR)を含む。
【0004】
VHH足場の多くの利点が報告されており、鎖間ジスルフィド架橋がなく、還元環境において一般に更に可溶性かつ安定である(Wesolowskiら、2009 Med Microbiol Immunol. Aug;198(3): 157~74頁)。また、VHHは、小型である(15kDa)ために高度な溶解性、発現収率、及び熱安定性を有することが報告されている(Jobling SAら、Nat Biotechnol. 2003 Jan; 21 (1): 77~80頁)。その上、VHHフレームワークは、IIIファミリーのヒトVHドメインとの高い配列及び構造相同性を示し(Muyldermansら、2001. J Biotechnol. Jun; 74 (4): 277~302頁)、VHHは、ヒトVHに匹敵する免疫原性を有し、これにより、治療適用のために非常に興味深い薬剤を構成する。
【0005】
VHH足場の特性は、治療における使用に多くの利点を有し、組織へのより良い浸透、腎臓におけるより迅速なクリアランス、高い特異性だけでなく免疫原性の低下をも有する。
【0006】
ラクダ科抗体ライブラリーは、例えば、米国特許出願公開第2006/0246058号(カナダ国立研究評議会)に記載されている。記載のファージディスプレイライブラリーは、ラマ抗体の断片、特に、可変重鎖の単一ドメイン断片(VHH及びVH)を含む。このライブラリーは、非免疫化動物のリンパ球ゲノムを使用して生成された(ナイーブライブラリー)。生じるファージディスプレイライブラリーは、従来のVH抗体断片の夾雑物をも含む。
【0007】
また、米国特許第7,371,849号(Institute For Antibodies Co., Ltd社)は、ラクダ類のVHH遺伝子からVHHライブラリーを生成する方法について報告している。このようなライブラリーの多様性は、ナイーブなレパトワからVHH可変領域を単離する従来の方法を改善することにより得られた。しかし、このような先行技術は、非ヒト由来抗体の免疫原性の問題には対処しない。これらの一部が目的の特異的標的に結合することが同定されても、患者に投与して、ヒト免疫系を活性化するリスクを有しない治療薬としての使用のために投与することはできない。
【0008】
ラクダ類単一ドメイン抗体をヒト化する方法は、Vinckeら、2008、JBC Vol 284(5) 3273~3284頁に記載されている。
【0009】
米国特許第8,367,586号では、合成抗体又はそれらの断片のコレクションを開示している。このような抗体は、可変重鎖及び可変軽鎖の対を含み、これらのフレームワーク領域に最適生殖系列遺伝子配列の一部を有する。ヒト配列のこの組込みにより、治療的使用に対する免疫原性のリスクの低下が可能となる。
【0010】
Monegalら(2012、Dev Comp Immunol. 36(1): 150~6頁)では、VHホールマークを有する単一ドメイン抗体が、ラマナイーブライブラリーのバイオパニング中に繰り返し同定されることを報告している。実際、VHホールマークは、VHHナイーブライブラリーから選択されるバインダー上に、VHHホールマークよりも頻繁に同定されている。例えば、Monegalらは、VHホールマークの5%がナイーブライブラリーに見出されるが、このようなVHホールマークの20%が、抗原に対するバイオパニングに続いて選択された抗体中に見出されることを示した。
【0011】
最近では、Moutelら(eLife 2016;5:e16228)及び国際公開第2015063331号において、機能性高親和性抗体をもたらすヒト化ナノボディ及びイントラボディの合成ライブラリーが開示された。
【0012】
しかし、このような知識にもかかわらず、ヒト化が向上し、その上、単一ドメインの特異性及び利点、特に、これらの高い溶解性及び発現収率を保持する、更なる単一ドメイン抗体ライブラリーを提供する必要性がなお存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0246058号
【特許文献2】米国特許第7,371,849号
【特許文献3】国際公開第2015063331号
【特許文献4】欧州特許第0 368 684号
【特許文献5】国際公開第06/030220号
【特許文献6】国際公開第06/003388号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hamers-Castermanら、1993、Nature、363、446~448頁
【非特許文献2】Greenbergら、Nature. 1995、Mar 9;374(6518): 168~73頁
【非特許文献3】Wesolowskiら、2009 Med Microbiol Immunol. Aug;198(3): 157~74頁
【非特許文献4】Jobling SAら、Nat Biotechnol. 2003 Jan; 21 (1): 77~80頁
【非特許文献5】Muyldermansら、2001. J Biotechnol. Jun; 74 (4): 277~302頁
【非特許文献6】Vinckeら、2008、JBC Vol 284(5) 3273~3284頁
【非特許文献7】Monegalら(2012、Dev Comp Immunol. 36(1): 150~6頁)
【非特許文献8】Moutelら(eLife 2016;5:e16228)
【非特許文献9】Wardら(Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544~6頁)
【非特許文献10】Holtら、Trends Biotechnol, 2003, 21(1 l):484~490頁
【非特許文献11】E. Myers及びW. Miller (Comput. Appl. Biosci. 4: 1 1~17頁、1988)
【非特許文献12】Needleman及びWunsch (J. Mol. Biol. 48:443~453頁、1970)
【非特許文献13】M. Larkinら、Bioinformatics 23:2947~2948頁、2007
【非特許文献14】D. Higgins及びP. Sharp, Gene 73:237~244頁、1988
【非特許文献15】http : //www. clustal . org/
【非特許文献16】Lindner, T., H. Kolmar, U. Haberkorn及びW. Mier. 2011. Molecules. 16: 1625~1641頁
【非特許文献17】Van den Brulleら、2008、Biotechniques 45(3): 340~3頁
【非特許文献18】Zacherら、gene、1980、9、127~140頁
【非特許文献19】Daughertyら、1999 Protein Eng. Jul;12(7):613~21頁
【非特許文献20】Georgiouら、1997 Nat Biotechnol. 1997 Jan;15(l):29~34頁
【非特許文献21】Boder及びWittrup、Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553~7頁
【非特許文献22】Zahnd C、Amstutz P、Pluckthun A. Nat Methods. 2007 Mar;4(3):269~79頁
【非特許文献23】Eldridgeら、Protein Engineering, Design & Selection 22巻 11番 691~698頁、2009
【非特許文献24】Rode HJらBiotechniques. 1996 Oct;21(4):650、652~3、655~6、658頁
【非特許文献25】Visintinら、1999 Proc Natl Acad Sci U S A 96、1 1723~1 1728頁
【非特許文献26】Philippe Bernard、1996、BioTechniques, 21巻、2番"Positive Selection of Recombinant DNA by CcdB"
【非特許文献27】F. Ausubelら、編1987 Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York
【非特許文献28】Urlaub及びChasin、1980、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216~4220頁
【非特許文献29】R.J. Kaufman及びP.A. Sharp、1982 Mol. Biol. 159:601~621頁
【非特許文献30】Moutel, S.、El Marjou, A.、Vielemeyer, O.、Nizak, C、Benaroch, P.、Dubel, S.及びPerez, F. (2009)
【非特許文献31】Yves Durocherら、2002、Nucleic acids research 30巻、2番 9頁
【非特許文献32】Remington: The Science and Practice of Pharmacy 第20版(2000)
【非特許文献33】Nizak、2005
【非特許文献34】Nizak, C.、Moutel, S.、Goud, B.及びPerez, F. Methods Enzymol. 403、135~153頁(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の一態様は、多様性が高く、特異的抗原に対する高親和性を有する高度に安定な単一ドメイン抗体を生成することが可能な、完全ヒト化組換え単一ドメイン抗体ライブラリーを提供することである。別の態様は、細胞内環境において活性な単一ドメイン抗体が豊富なライブラリーを提供することである。また別の態様は、高い熱安定性を有する単一ドメイン抗体が豊富なライブラリーを提供することである。典型的には、本開示により得られる単一ドメイン抗体は、高い発現収率をも有する。また、典型的には、この単一ドメイン抗体により、mAbの古典的な技術的問題、例えば、血中クリアランスの遅延、固形腫瘍への浸透の制限、健常組織による非特異的取込み、及び陥凹エピトープ接触不能を克服することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ヒトとは異なるアミノ酸10種では、VHHのホールマークアミノ酸4種が、VHHのフレームワーク2領域において同定されている。発明者らは、VHH特性を保存しながら、このようなラクダ類ホールマーク4種を典型的ヒトホールマーク4種により置換することが可能であることを驚くべきことに発見した。本明細書において提供する結果は、本明細書に開示の合成単一ドメイン抗体ライブラリーにより、高度に特異的なこれらの標的に対するナノ/ピコモル範囲の親和性を有する合成ヒト化sdAbを得ることが可能となることを示す。生細胞の細胞内標識のためのイントラボディとして使用できる、種々の細胞標的に向けられたsdAbを得た。このsdAbは、標的細胞を染色するために使用することができる。更に、これらは、これらの標的の下流活性化(すなわち、FGFR4経路)を阻害することが可能である。また、このsdAbは、CAR-T細胞の手法を使用して、標的細胞に搭載物を送達し、T細胞を武装させ、標的化細胞を破壊するために使用することができる。したがって、このような結果は、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーによって細胞標識、診断、及び治療適用に高度に適切な単一ドメイン抗体が提供される証拠を示す。
【0017】
本発明の目的は、
i)CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な核酸を、ヒト化合成単一ドメイン抗体(以降「hs2dAb」と呼び得る)のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、同一の合成単一ドメイン足場アミノ酸配列を有する合成単一ドメイン抗体をコードする多様な核酸を生成する工程
を含む、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを生成する方法であって、この合成単一ドメイン抗体足場アミノ酸配列が、少なくとも次のアミノ酸残基: FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14を含む、方法により達成する。
【0018】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体足場は、ラマ種に由来する。
【0019】
一部の実施形態では、本明細書に開示の合成単一ドメイン抗体(hs2dAb)は、
- FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2及びFRW4-L7、並びに/又は
- FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23及びFRW3-S27からなる群、とりわけ、次の組合せFRW1-P14、FRW2-S16、FRW3-S17、FRW3-R29及びFRW3-A30
から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を更に含む。
【0020】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7の少なくとも1つを含み、任意選択で、次の残基FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27の1つ又は複数を更に含む。
【0021】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7、FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27を含む。
【0022】
上記実施形態の一部では、合成単一ドメイン抗体は、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなる群から選択されるアミノ酸残基の少なくとも1つを更に含む。
【0023】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン抗体は、次の、配列番号1のFRWl、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFRW4からなるフレームワーク領域、又は例えば、各フレームワーク領域内に1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する機能性バリアントフレームワーク領域を含む。このような実施形態の一部では、合成単一ドメイン抗体足場は、FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14からなるアミノ酸残基を少なくとも含む。更により特定の実施形態では、足場は、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなる群のアミノ酸残基の少なくとも1つを含む。
【0024】
好ましい一実施形態では、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は、次の規則:
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
により決定される。
【0025】
前述の実施形態と組み合わせ得る一関連実施形態では、このCDR3アミノ酸配列は、9~18個のアミノ酸を含む。前述の実施形態と組み合わせ得る一関連実施形態では、このCDR3アミノ酸配列は、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択されるアミノ酸残基を含む。
【0026】
また、本発明は、上記の方法により入手可能であり、少なくとも3.109の別個の単一ドメイン抗体コード配列を含む、合成単一ドメイン抗体ライブラリーに関する。
【0027】
本発明は、目的の標的、例えば、ヒトタンパク質に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング方法、例えば、ファージディスプレイにおける、この合成単一ドメイン抗体ライブラリーの使用に更に関する。
【0028】
最終的には、本発明では、次の式: FRW1-CDR1-FRW2-CDR2-FRW3-CDR3-FRW4の合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質であって、このフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4が、少なくとも次のアミノ酸残基FRW2-V4/、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14、並びに任意選択で、次のアミノ酸残基
- FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7及び/又は
- FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27
の1つ又は複数を含む、抗原結合タンパク質を扱う。
【0029】
一部の実施形態では、抗原結合タンパク質は、少なくとも1つの次のアミノ酸残基FRW2-V4/、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14、並びに任意選択で、次のアミノ酸残基: FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7、FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27の1つ又は複数を含む。
【0030】
一部の実施形態では、抗原結合タンパク質アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7、FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27を含む。
【0031】
このような実施形態の一部では、抗原結合タンパク質は、FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14からなるアミノ酸残基を少なくとも含む。更により特定の実施形態では、足場は、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなる群のアミノ酸残基の少なくとも1つを含む。
【0032】
前述の実施形態と組み合わせ得る特定の一実施形態では、抗原結合タンパク質は、次の機能特性:
a)大腸菌(E.coli)ペリプラズムにおいて可溶性単一ドメイン抗体として発現させることができること、
b)大腸菌、酵母、又は他の真核生物サイトゾルにおいて可溶性イントラボディとして発現させることができること、
c)哺乳動物細胞において発現する場合、凝集せず、融合タンパク質(例えば、蛍光タンパク質融合物)を含むこと
の1つ又は複数を有する合成単一ドメイン抗体を含む。
【0033】
一部の実施形態では、抗原結合タンパク質のフレームワーク領域は、ラマ種のVHHフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4に由来する。
【0034】
一部の実施形態では、上に定義する抗原結合タンパク質は、配列番号1のFRWl、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFR4からなるフレームワーク領域を有する。
【0035】
前述の実施形態と組み合わせ得る好ましい実施形態では、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は、次のように配置し:
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、S、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV、
CDR3アミノ酸配列は、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択される9~18個のアミノ酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】(A)表面プラズモン共鳴分光法による組換えタンパク質に対するナノボディの親和性判定を示す図である。単一サイクルの動態解析を、デキストランに基づくセンサーチップ上の共有アミン結合による固定化FGFR4に対して実施した。解析物F8及びmChを5種の異なる濃度で注入した後、解離相に移った。最終解離工程を最後の注入工程後に加えてKoff速度を決定し、KD算出を行った。黒色の曲線は、測定したデータを表し、赤色の曲線は、BIA evaluationソフトウェアにより実施した適合解析(異種リガンドモデル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書では、合成単一ドメイン抗体又はその断片におけるアミノ酸残基の位置は、以下のtable 1(表1)に示す個々の各配列におけるこれらの位置(左から右)に従って示す。
【0038】
【0039】
本発明では、
i.CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な合成核酸を、合成単一ドメイン抗体のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、同一の合成単一ドメイン抗体足場アミノ酸配列を有する多様な合成単一ドメイン抗体をコードする核酸を生成する工程
を含む、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを生成する方法であって、この合成単一ドメイン足場アミノ酸配列が、少なくとも次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14を含み、任意選択で、次の残基FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7の1つ又は複数を更に含む、方法を提供する。
【0040】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30及びFRW2-S16の少なくとも1つを含む。
【0041】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27の少なくとも1つを含む。
【0042】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7の少なくとも1つを含み、任意選択で、次の残基FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27の1つ又は複数を更に含む。
【0043】
本発明の合成単一ドメイン抗体足場
本開示は、高度に安定な単一ドメイン抗体足場の入手、及び合成単一ドメイン抗体ライブラリー、例えば、合成単一ドメイン抗体ファージディスプレイライブラリーの生成におけるその使用のための、単一ドメイン抗体のフレームワーク領域におけるユニークな特徴の同定に関する。このユニークな足場を有する、生じるhs2dAbは、高度に安定であり、免疫原性のリスクが非常に低い。また、生じるこのhs2dAbは、高い溶解性及び高い発現収率を示し、治療的使用の促進を支持する。
【0044】
ライブラリー生成のための出発物質として、単一ドメイン抗体をコードする核酸を提供し得る。
【0045】
本明細書において使用する場合、「単一ドメイン抗体」又は「ナノボディ(登録商標)」(Ablynx社の商標)の用語は、重鎖に由来する単一の単量体可変抗体ドメインからなる、わずか12~15kDaの分子量を有する抗体断片を指す。このような単一ドメイン抗体(VHHと名付けられる)は、ラクダ類の哺乳動物に見出すことができ、軽鎖を天然に欠く。単一ドメイン抗体の概要では、上に引用する先行技術、並びに欧州特許第0 368 684号、Wardら(Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544~6頁)、Holtら、Trends Biotechnol, 2003, 21(1 l):484~490頁、及び国際公開第06/030220号、国際公開第06/003388号に関しても参照する。
【0046】
一部の実施形態では、この単一ドメイン抗体は、
- 軽鎖を欠く天然に存在する抗体の断片、例えば、ラクダ類抗体に由来する所謂VHH抗体、若しくはサメ種抗体に由来する所謂VNAR断片、又は
- ヒト抗体
に由来してもよく、アミノ酸残基: FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、並びに任意選択で、
- FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7及び/又は
- FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27からなる群、とりわけ、FRW1-P14、FRW2-S16、FRW3-S17、FRW3-R29及びFRW3-A30の組合せ
から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する。
【0047】
したがって、単一ドメイン抗体は、3つの高頻度可変CDR領域を間に挟んだ少なくとも4つのフレームワーク領域を含み、次の典型的抗体可変ドメイン構造: FRW1-CDR1-FRW2-CDR2-FRW3-CDR3-FRW4が生じる。この単一ドメインは、軽鎖抗体可変領域と相互作用して、従来のヘテロ二量体の重及び軽鎖抗原結合抗体構造を形成し、活性とする必要がない。
【0048】
本明細書において使用する場合、「合成」の用語は、このような抗体が、天然に存在する抗体の断片から得られず、人工コード配列を含む組換え核酸から生成されたことを意味する。
【0049】
特には、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、人工フレームワーク及びCDRコード配列の合成により生成されている。非免疫ラマ動物由来のナイーブなレパトワの増幅により得られるライブラリーとは対照的に、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、フレームワークの混合物、特には、VHH及び従来のVH抗体の混合物を含まない。
【0050】
有利には、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの好ましい一実施形態では、すべての単一ドメイン抗体クローンが、同一のフレームワーク領域を含み、これにより、ユニークな合成単一ドメイン抗体足場を提供する。
【0051】
本明細書において使用する場合、「足場」の用語は、本発明のライブラリーの合成単一ドメイン抗体の4つのフレームワーク領域を指す。典型的には、本発明のライブラリーのすべての単一ドメイン抗体は、同一の足場アミノ酸配列を有するが、これらのCDRは、異なり得る(すなわち、各ライブラリーの多様性は、CDR領域内に限られる)。
【0052】
本発明による合成単一ドメイン抗体足場は、アミノ酸残基: FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、並びに任意選択で、
- FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7及び/又は
- FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27、とりわけ、FRW1-P14、FRW2-S16、FRW3-S17、FRW3-R29及びFRW3-A30
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0053】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7、FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27を含む。
【0054】
このようなユニークな特徴により、免疫原性のリスクが低い、高度に安定な合成単一ドメイン抗体がもたらされる。
【0055】
特定の実施形態では、合成単一ドメイン抗体足場は、次の、配列番号1のFRW1、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFRW4からなるフレームワーク領域、又は例えば、1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換を、各フレームワーク領域内、より好ましくは、唯一のフレームワーク領域内に有する、機能性バリアントフレームワーク領域を含む。
【0056】
このような実施形態の一部では、合成単一ドメイン抗体足場は、FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14からなるアミノ酸残基を少なくとも含む。更により特定の実施形態では、足場は、FRW2-V5、FRW3-V21及びFRW4-R2からなる群のアミノ酸残基の少なくとも1つを含む。これまでに言及したように、指示位置におけるこのようなアミノ酸残基により、免疫原性の低下(とりわけ、FR2V5残基による)並びに熱安定性の向上、溶解性及び生物学的生産性(特には、FRW4-E2残基による)を有する単一ドメイン抗体を得ることが可能となる。
【0057】
保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置換するものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。このようなファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0058】
別の実施形態では、合成単一ドメイン抗体足場は、配列番号1~4との少なくとも90%、好ましくは、95%又は99%の同一性をそれぞれ有するFRW1、FRW2、FRW3及びFRW4フレームワーク領域の機能性バリアントを含む。典型的には、アミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12及びFRW2-W14は、保存される。
【0059】
本明細書において使用する場合、2つの配列間のパーセント同一性は、配列により共有される同一の位置の数の関数(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置の総数×100)であり、ギャップの数及び各ギャップの長さを考慮する。これらは、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要を有する。2つの配列間の配列の比較及びパーセント同一性の判定は、以下に記載のように、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。
【0060】
2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、E. Myers及びW. Millerのアルゴリズム(Comput. Appl. Biosci. 4: 1 1~17頁、1988)を使用して判定することができ、これは、ALIGNプログラムに組み込まれている。加えて、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Needleman及びWunsch (J. Mol. Biol. 48:443~453頁、1970)のアルゴリズムを使用して判定することができ、これは、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれている。パーセント同一性を判定するまた別のプログラムは、CLUSTAL(M. Larkinら、Bioinformatics 23:2947~2948頁、2007; D. Higgins及びP. Sharp, Gene 73:237~244頁、1988により最初に記載されている)であり、これは、独立型プログラムとして、又はウェブサーバを介して(http : //www. clustal . org/を参照)入手可能である。
【0061】
機能性バリアントは、本発明のその合成単一ドメイン足場の有利な特性を保持する能力について検査し得る。特に、これらは、次の特性:
i.大腸菌ペリプラズムにおいて可溶性単一ドメイン抗体として発現させることができること、
ii.大腸菌、酵母、又は他の真核生物サイトゾルにおいて可溶性イントラボディとして発現させることができること、
iii.哺乳動物細胞において発現する場合、凝集せず、融合タンパク質(例えば、蛍光タンパク質融合物)を含むこと
の少なくとも1つ又は複数を保持する能力について検査し得る。
【0062】
上記の特性を検査するためのアッセイは、実施例に記載する。
【0063】
例えば、参照合成単一ドメイン抗体コード配列は、参照CDRコード配列(例えば、配列番号9のクローンF8のCDR)を、検査するバリアント足場コード配列(配列番号1~4との相同配列を有する)に移植することにより構築することができる。この参照合成単一ドメイン抗体コード配列により、上記の特性について定量可能な参照合成単一ドメイン抗体を生成することが可能となる。
【0064】
選択された単一ドメイン抗体足場へのCDR多様性の導入
特に、CDRコード配列のランダム又は特異的合成による、抗体ライブラリーのCDR多様性の生成、及び対応するフレームワーク配列へのクローニングのための方法は、当技術分野において広く記載されている。
【0065】
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、例えば、Lindner, T., H. Kolmar, U. Haberkorn及びW. Mier. 2011. Molecules. 16: 1625~1641頁に記載のように、CDR高多様性を、選択されたユニークな足場配列に導入することにより、同様に生成する。
【0066】
本発明の好ましい一実施形態では、合成CDR1及びCDR2の各アミノ酸配列の位置は、ヒトレパトワにおけるCDRの天然の多様性を模倣するように合理的にデザインする。
【0067】
システインは、これらのチオール基が細胞内発現及び官能性と干渉し得るため、随意的に回避する。その上、アルギニン及び疎水性残基も、生じる抗体の凝集リスクが高いため、回避し得る。また、低プロリン率は、CDRにおいて更なる可動性をもたらすため、好ましい。好ましくは、セリン、スレオニン及びチロシンは、エピトープとの結合に関与するため、3つすべてのCDRにおいて最も高頻度の残基である。また、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩は、溶解性を高めるために、一部の位置において豊富とし得る。CDR3配列では、長さは、異なるエピトープ形状、特には、キャビティへの結合能に影響し得る。したがって、種々の長さのCDR3配列をライブラリーに導入し得る。
【0068】
特定の一実施形態では、当業者は、次の規則:
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
に従って合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基を選択し得る。
【0069】
その上、別の特定の実施形態では、CDR3アミノ酸配列は、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択される9~18個のアミノ酸を含む。
【0070】
上の出現規則は、本発明の好ましいライブラリーを生成するためのガイダンスとして使用するが、これらが本発明の有利な合成単一ドメイン抗体足場を含む限り、異なる出現規則を有する他のライブラリーも本発明の一部である。
【0071】
特定の実施形態では、ライブラリーの有意なクローン集団のみが、上の出現規則に厳密に従い得る。例えば、統計学的に、ライブラリーのクローンの少なくとも50%、60%、70%、80%又は少なくとも90%が、CDR1、CDR2及びCDR3位置におけるアミノ酸残基の上の出現規則に従う。
【0072】
アミノ酸位置のこのような出現に則り、インフレーム終止若しくはシステインの出現を回避するか又はフレームシフトを減少させるために、先進的遺伝子合成手法を好ましくは使用する。このような方法は、Van den Brulleら、2008、Biotechniques 45(3): 340~3頁に記載の二本鎖DNAトリプルブロック、トリヌクレオチド合成、又は他のコドン制御、より一般には、位置制御縮重合成手法を包含するが、これらに限定されない。
【0073】
特定の実施形態では、コドンバイアスは、例えば、宿主細胞種、例えば、哺乳動物宿主細胞発現のために、周知の方法を使用して更に最適化し得る。
【0074】
特定の一実施形態では、コード配列は、望まない制限部位、例えば、適切なクローニング又は発現ベクターへのコード配列のクローニングに使用する制限部位を含まないようにデザインする。
【0075】
生じる多様なコード配列は、抗体ライブラリーに適する発現又はクローニングベクターに導入する。特定の実施形態では、発現ベクターは、プラスミドである。別の好ましい実施形態では、発現ベクターは、ファージディスプレイライブラリーの生成に適する。2つの異なる種類のベクター:ファージミドベクター及びファージベクターをファージディスプレイライブラリーの生成に使用し得る。
【0076】
ファージミドは、プラスミドの複製起点を含む、糸状ファージ(Ffファージ由来)ベクターに由来する。ファージミドの基本成分は、プラスミドの複製起点、選択マーカー、遺伝子間領域(IG領域、通常、マイナス及びプラス鎖のパッキング配列及び複製起点を含む)、ファージコートタンパク質の遺伝子、制限酵素認識部位、プロモーター及びシグナルペプチドをコードするDNAセグメントを主に含む。加えて、ファージミドに基づくライブラリーのスクリーニングを促進する分子タグを含むことができる。ファージミドは、ヘルパーファージ、例えば、R408、M13K07及びVCSM13 (Stratagene社)との同時感染により、Ffファージと同一の形態を有する糸状ファージ粒子に変換することができる。ファージベクターの一例は、fd-tet(Zacherら、gene、1980、9、127~140頁)であり、これは、fdファージゲノム及びファージゲノム複製起点の付近に挿入するTnlOのセグメントからなる。ファージミドベクターにおける使用のためのプロモーターの例としては、非限定的にPlacZ又はPT7が挙げられ、シグナルペプチドの例としては、非制限的にpelBリーダー、gill、CATリーダー、SRP又はOmpAシグナルペプチドが挙げられる。
【0077】
他のファージディスプレイ方法では、T4又はT7のような溶解性ファージを使用する。また、細菌細胞ディスプレイ(Daughertyら、1999 Protein Eng. Jul;12(7):613~21頁、Georgiouら、1997 Nat Biotechnol. 1997 Jan;15(l):29~34頁)、酵母細胞ディスプレイ(Boder及びWittrup、Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553~7頁)又はリボソームディスプレイ(Zahnd C、Amstutz P、Pluckthun A. Nat Methods. 2007 Mar;4(3):269~79頁)のためのベクターを含む、ファージ以外のベクターをディスプレイライブラリーの生成に使用し得る。DNAディスプレイ(Eldridgeら、Protein Engineering, Design & Selection 22巻 11番 691~698頁、2009)及び哺乳動物細胞上での表面ディスプレイ(Rode HJらBiotechniques. 1996 Oct;21(4):650、652~3、655~6、658頁)も報告されている。酵母ツーハイブリッドのような非ディスプレイ方法も、ライブラリーからの適切なバインダーの選択に使用し得る(Visintinら、1999 Proc Natl Acad Sci U S A 96、1 1723~1 1728頁)。
【0078】
好ましい一実施形態では、空ベクターの生成を回避するために、自殺遺伝子を有するクローニングベクターにおける組換えコード配列の正の選択を適用する(例えば、Philippe Bernard、1996、BioTechniques, 21巻、2番 "Positive Selection of Recombinant DNA by CcdB"を参照)。
【0079】
好ましくは、抗体ライブラリーの生成のためにデザインしたCDRアミノ酸残基の可能なすべての組合せにより算出した場合の論理的多様性は、少なくとも1011又は少なくとも1012、とりわけ、1023のユニーク配列である。
【0080】
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリー及びこれらの使用
結果的には、別の態様によれば、本発明は、入手可能であるか又は従来の方法により得られる合成単一ドメイン抗体ライブラリーに関する。
【0081】
したがって、本明細書において使用する場合、「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」の用語は、高多様性を有し、任意選択で、クローニングベクター又は発現ベクターに含まれる、この合成単一ドメイン抗体コード配列を含む、核酸ライブラリーを包含する。「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」の用語は、この核酸ライブラリーを有する任意の形質転換宿主細胞又は生物、より詳細には、この核酸ライブラリーにより形質転換した細菌、酵母若しくは糸状菌、又は哺乳動物細胞、或いはこの核酸ライブラリーを含むバクテリオファージ又はウイルスを更に含む。「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」の用語は、この核酸ライブラリーによりコードされる多様な抗体の対応する混合物を更に含む。本明細書において使用する場合、「クローン」の用語は、核酸、宿主細胞、又は単一ドメイン抗体にかかわらず、抗体ライブラリーのユニークな各個体を指す。
【0082】
本発明の特定の一実施形態では、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、少なくとも1×108、とりわけ、1.6×109の多様なクローンを含む。
【0083】
このライブラリーは、目的の標的に特異的に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング方法において使用し得る。目的の標的に対する特異的親和性を有するバインダーを同定するための公知の任意のスクリーニング方法は、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーとともに使用し得る。このような方法は、ファージディスプレイ技術、細菌細胞ディスプレイ、酵母細胞ディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイ又はリボソームディスプレイを含むが、これらに限定されない。
【0084】
好ましくは、スクリーニング方法は、ファージディスプレイである。
【0085】
好ましくは、目的の標的は、治療標的であり、合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、この治療標的に特異的に結合する合成単一ドメイン抗体の同定に使用する。特定の実施形態では、目的の標的は、少なくとも抗原決定基を含む。特定の実施形態では、標的は、糖類又は多糖類、タンパク質又は糖タンパク質、脂質である。特定の一実施形態では、目的のこの標的は、植物、酵母、菌、昆虫、哺乳動物、又は他の真核生物細胞起源である。別の特定の実施形態では、目的のこの標的は、細菌、原生動物、又はウイルス起源である。
【0086】
特定の一実施形態では、「目的の標的に特異的に結合する単一ドメイン抗体」は、1mM以下、100μM以下、10μM、1μM、100nM、10nM、1nM、100pM、10pM以下のKDで目的の標的に結合する単一ドメイン抗体を指すことを意図する。これは、この単一ドメイン抗体が、他の抗原にも結合することを除外しない。
【0087】
「KD」の用語は、本明細書において使用する場合、解離定数を指すことを意図し、これは、Kd対Kaの比率(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度-1(M-1)として表す。抗体のKD値は、当技術分野において十分に確立された方法を使用して決定することができる。抗体のKDを決定するための方法は、表面プラズモン共鳴の使用、又はバイオセンサーシステム、例えば、Biacore(登録商標)システム又はProteon(登録商標)の使用による。
【0088】
本発明の抗原結合タンパク質
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの高多様性を考慮すれば、当業者は、従来のスクリーニング方法、例えば、ファージディスプレイにより、目的の標的に対する高親和性及び高特異性を有する合成単一ドメイン抗体を得ることができる。
【0089】
次いで、生じる合成単一ドメイン抗体は、適切な抗原結合タンパク質を生成するために更に修飾することができる。特には、CDR残基は、当技術分野において公知の技術(変異誘発、親和性成熟)を使用して、例えば、目的の標的に対する抗体親和性を高め、この折畳み又は生成を向上させるように修飾し得る。
【0090】
したがって、本発明の別の態様は、次の式: FRW1-CDR1-FRW2-CDR2-FRW3-CDR3-FRW4の合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質であって、このフレームワーク領域FRWl、FRW2、FRW3及びFRW4が、次のアミノ酸残基: FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14と、任意選択で、
- FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2及びFRW4-L7、並びに/又は
- FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27、とりわけ、FRW1-P14、FRW2-S16、FRW3-S17、FRW3-R29及びFRW3-A30
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基とを含む、抗原結合タンパク質に更に関する。
【0091】
一部の実施形態では、本開示のこの合成単一ドメイン足場は、アミノ酸残基FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2及びFRW4-L7並びに/又はFRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27、とりわけ、FRW1-P14、FRW2-S16、FRW3-S17、FRW3-R29及びFRW3-A30を含む。
【0092】
一部の実施形態では、合成単一ドメイン足場アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基FRW2-V4、FRW2-G11、FRW2-L12、FRW2-W14、FRW1-V5、FRW1-E6、FRW1-L11、FRW3-V35、FRW4-R2、FRW4-L7、FRW1-P14、FRW3-S17、FRW3-R29、FRW3-A30、FRW2-S16、FRW3-K18、FRW3-V21、FRW3-Y22、FRW3-L23、FRW3-S27を含む。
【0093】
一部の実施形態では、フレームワーク領域は、ラマ種のVHHフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4に由来する。
【0094】
好ましい一実施形態では、合成単一ドメイン抗体は、次の特徴:
(i)配列番号1のFRW1、配列番号2のFRW2、配列番号3のFRW3及び配列番号4のFRW4フレームワーク領域、
(ii)1、2又は3つ以下のアミノ酸の保存的置換を有し、有利な合成単一ドメイン特性を保持する、機能性バリアントフレームワーク領域、
(iii)配列番号1~4に対する少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98又は99パーセントの配列同一性をそれぞれ有し、有利な合成単一ドメイン特性を保持する、機能性バリアントフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4
のいずれかを含む。
【0095】
典型的には、フレームワーク領域内の1つ又は複数のアミノ酸残基を、同一側鎖ファミリーの他のアミノ酸残基と置換することができ、本明細書に記載の機能性アッセイを使用して、新たなポリペプチドバリアントを、有利な特性の保持について検査することができる。
【0096】
このような有利な特性は、次の特性の1つ又は複数である。
i.大腸菌ペリプラズムにおいて可溶性単一ドメイン抗体として発現させることができる。
単純な遠心分離解析を使用する場合、ペリプラズムからの発現、抽出、及び精製時に、凝集は観察されない。典型的には、1mg/Lを超える収率は、pelBリーダーペプチドにより、好ましくは、大腸菌株において得られ得る。
ii.大腸菌サイトゾルにおいて可溶性イントラボディとして発現させることができる。
単純な遠心分離解析を使用する場合、ペリプラズムからの発現、抽出、及び精製時に、凝集は観察されない。例えば、抗体は、大腸菌株BL21(DE3)において50mg/リットルを超える収率でT7プロモーターにより発現し得る。
iii.哺乳動物細胞株において蛍光タンパク質融合物として発現する場合、凝集しない。
【0097】
好ましくは、合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質が蛍光タンパク質融合物として発現する場合、凝集は検出されるべきではない。解析は、単純な蛍光イメージングを使用して行うことできる。
【0098】
好ましくは、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は、
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、S、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
であってもよく、CDR3アミノ酸配列は、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択される9~18個のアミノ酸を含む。
【0099】
したがって、好ましい一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、一般式FRW1-CDR1-FRW2-CDR2-FRW3-CDR3-FRW4の合成単一ドメイン抗体から本質的になる。
【0100】
このような実施形態では、より好ましくは、FRW1は、配列番号1、又は1、2若しくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号1の機能性バリアントであり、FRW2は、配列番号2、又は1、2若しくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号2の機能性バリアントであり、FRW3は、配列番号3、又は1、2若しくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号3の機能性バリアントであり、FRW4は、配列番号4、又は1、2若しくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号4の機能性バリアントであり、CDR1、CDR2アミノ酸配列は、次のアミノ酸残基:
CDR1の1番目: Y、R、S、T、F、G、A又はD、
CDR1の2番目: Y、S、F、G又はT、
CDR1の3番目: Y、S、S、S、F又はW、
CDR1の4番目: Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN、
CDR1の5番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL、
CDR1の6番目: S、T、Y、D又はE、
CDR1の7番目: S、T、G、A、D、E、N、I又はV、
CDR2の1番目: R、S、F、G、A、W、D、E又はY、
CDR2の2番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY、
CDR2の3番目: S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P、
CDR2の4番目: G、S、T、N又はD、
CDR2の5番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM、
CDR2の6番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK、
CDR2の7番目: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P又はV
を有し、CDR3アミノ酸配列は、次のアミノ酸: S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ又は複数から選択される9~18個のアミノ酸を含む。
【0101】
本発明の別の態様は、本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸分子に関する。したがって、本発明では、抗原結合タンパク質の少なくともこの合成単一ドメイン抗体部分をコードする単離核酸を提供する。
【0102】
核酸は、細胞溶解物中の全細胞に存在し得るか、又は部分的に精製したか若しくは実質的に純粋な形態の核酸であり得る。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsCIバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当技術分野において周知の他の技術を含む標準技術により、他の細胞成分若しくは他の夾雑物、例えば、他の細胞核酸若しくはタンパク質から精製する場合、「単離」されたもの又は「実質的に純粋とされた」ものとする。F. Ausubelら、編1987 Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New Yorkを参照されたい。本発明の核酸は、例えば、DNA又はRNAであってもよく、イントロン配列を含んでも含まなくてもよい。実施形態では、核酸は、DNA分子である。核酸は、ベクター、例えば、ファージディスプレイベクターに、又は組換えプラスミドベクターに存在し得る。したがって、特定の一実施形態では、配列番号1~4のフレームワーク領域FRW1、FRW2、FRW3及びFRW4をそれぞれコードする次の核酸配列: 配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、又は配列番号1~4のFRW1、FRW2、FRW3及びFRW4の機能性バリアントをコードする、これらの配列番号5~8に対する少なくとも90%の同一性を有する配列に対応するバリアントの少なくとも1つ又は複数を含む、単離核酸又はクローニング若しくは発現ベクターを本発明において提供する。
【0103】
上記及び実施例の抗原結合タンパク質をコードするDNA断片は、例えば、発現系における適切な分泌のための任意のシグナル配列、任意の精製タグ、及び更なる精製工程のための切断タグを含むように、標準的組換えDNA技術により更に操作することができる。このような操作では、DNA断片は、別のDNA分子に、又は別のタンパク質、例えば、精製/分泌タグ若しくは可動性リンカーをコードする断片に動作可能に結合させる。「動作可能に結合する」の用語は、この文脈において使用する場合、2つのDNA断片が、機能的に、例えば、2つのDNA断片によりコードされるアミノ酸配列がインフレームのままであるように、又はタンパク質が所望のプロモーターの制御下で発現するように、連結することを意味することを意図する。
【0104】
本発明の抗原結合タンパク質は、当技術分野において周知のように、例えば、組換えDNA技術と遺伝子トランスフェクション方法との組合せを使用して、宿主細胞トランスフェクトーマにおいて生成することができる。宿主細胞トランスフェクトーマにおける本発明の組換え抗原結合タンパク質の発現及び生成では、当業者は、抗体分子又は単一ドメイン抗体分子の発現及び組換え生成に関連する自らの一般知識を有利に使用することができる。
【0105】
したがって、本発明では、核酸、及び任意選択で、分泌シグナルを含む、本発明のこの抗原結合タンパク質の生成に適する組換え宿主細胞を提供する。好ましい態様では、本発明の宿主細胞は、哺乳動物細胞株である。本発明では、抗原結合タンパク質の生成に適切な条件下で宿主細胞を培養する工程、及びこのタンパク質を単離する工程を含む、これまでに記載の、抗原結合タンパク質の生成のための方法を更に提供する。
【0106】
本発明の抗原結合タンパク質を分泌させるための哺乳動物宿主細胞は、DHFR選択マーカー、例えば、R.J. Kaufman及びP.A. Sharp、1982 Mol. Biol. 159:601~621頁に記載のものとともに使用するCHO、例えば、dhfr-CHO細胞(Urlaub及びChasin、1980、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216~4220頁により記載)、NSOメラノーマ細胞、又はMoutel, S.、El Marjou, A.、Vielemeyer, O.、Nizak, C、Benaroch, P.、Dubel, S.及びPerez, F. (2009)に記載のInvivogen社のpFuse発現系、組換え抗体生成のための多Fc種系、BMC Biotechnol 9、14、COS細胞、並びにSP2細胞、又はヒト細胞株(PER-C6細胞株、Crucell又はHEK293細胞、Yves Durocherら、2002、Nucleic acids research 30巻、2番 9頁を含む)を含む。本発明の抗原結合タンパク質をコードするこの核酸を哺乳動物宿主細胞に導入する場合、抗原結合タンパク質は、宿主細胞における組換えポリペプチドの発現、又は宿主細胞を増殖させる培養培地中への組換えポリペプチドの分泌、及びこの抗原結合タンパク質の生成に適切な再折畳みが可能となるのに十分な期間、宿主細胞を培養することにより生成する。
【0107】
次いで、抗原結合タンパク質は、標準的タンパク質精製方法を使用して培養培地から回収することができる。
【0108】
特定の一実施形態では、本発明の少なくとも2つの同一又は異なる合成単一ドメイン抗体アミノ酸配列を含む、例えば、複合体の形態の、本発明の多価抗原結合タンパク質を本発明において提供する。一実施形態では、多価タンパク質は、少なくとも2、3又は4つの合成単一ドメイン抗体アミノ酸配列を含む。合成単一ドメインアミノ酸配列は、タンパク質融合又は共有若しくは非共有結合を介して結合させることができる。
【0109】
別の態様では、1つ又は複数の薬学的に許容される溶媒又は担体とともに製剤化した、本発明の抗原結合タンパク質の1つ又は組合せを含む、組成物、例えば、医薬組成物を本発明において提供する。
【0110】
本発明の医薬製剤は、保存のために、所望の純度を有するタンパク質を任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤と混合することにより(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 第20版(2000))、水溶液、凍結乾燥、又は他の乾燥製剤の形態に調製し得る。
【0111】
本発明の医薬組成物に利用し得る適する水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)及びこれらの適する混合物、植物油、例えば、オリーブオイル、並びに注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、コーティング物質、例えば、レシチンの使用、分散液の場合に必要とされる粒径の維持、及び界面活性剤の使用により、維持することができる。
【0112】
また、このような組成物は、アジュバント、例えば、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤を含み得る。微生物の存在の予防は、上記の滅菌手順、並びに種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等の含有の両方によって確実とし得る。また、等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム等を組成物中に含むことが望ましい場合がある。加えて、注射用医薬製剤の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの含有によりもたらされ得る。
【0113】
薬学的に許容される担体としては、滅菌注射液又は分散液の即時調製のための、滅菌水溶液又は分散液、及び滅菌粉末が挙げられる。薬学的活性物質のためのこのような培地及び薬剤の使用は、当技術分野において公知である。従来の任意の培地又は薬剤が活性化合物と不適合である限りを除いて、これらの使用を、本発明の医薬組成物において検討する。また、追加の活性化合物を、組成物に組み込むことができる。
【0114】
治療組成物は、製造及び保存条件下で、典型的に無菌かつ安定でなければならない。
【0115】
以下において、本発明は、以下の実施例及び図面により例示する。
【実施例】
【0116】
完全ヒト化s2dAb足場の検証
足場の検証を、CDR移植を使用して行った。VHH抗体のCDRを、本明細書に記載する完全ヒト化単一ドメイン足場に挿入した。種々の抗原(GFP、mCherry、アルファ-チューブリン、MUC18)を標的とする抗体を挿入し、生じたsdAbを使用して、このような完全ヒトsdAbが、抗原検出、ファージ表面における呈示、細菌ペリプラズムにおける発現、細菌サイトゾルにおける発現、哺乳動物細胞サイトゾルにおける発現に関して、これらの親VHH対応物として働くことを調べた。安定性及び堅牢性に必須であると考えられたラクダ類特異的アミノ酸の非存在にもかかわらず、これによって、還元環境における効率的生成及び安定性がこの完全ヒトsdAbにより可能となることが示された。
【0117】
本明細書に記載のデザインに基づく合成ファージディスプレイライブラリーの構築
合成かつ多様なライブラリーを構築する、いくつかの方法が存在するが、我々は、オリゴヌクレオチドに基づく手法(Twist Bioscience社により提供)をここで使用した。本明細書に記載のデザインに基づく合成遺伝子を発注し、3つのmycタグを有する修飾pHEN2プラスミドに挿入した。1.6 109クローンのライブラリーであるGimli-1ライブラリーを構築した。
【0118】
完全ヒト化sdAbの使用
完全ヒト化sdAb(CDR移植又はGimli-1ライブラリーからの選択から生じる)の実施例を検査して、免疫染色、シグナル伝達の阻害、又はCAR-T細胞発生を含む細胞標的化のような抗体に基づく種々の適用について、本明細書に開示のデザインの使用を検証した。完全ヒトsdAbは、単量体可溶性形態として使用し、ファージ上に呈示させ、Fcドメインに融合させるか又はCAR-T足場に融合させた。
【0119】
GFP特異的ナノボディのファージディスプレイ選択
GFPタンパク質を標的として使用して、天然条件下でのスクリーニングを実施した。免疫蛍光により、解析した80種のうち4種の非冗長クローンによってGFP-Rab6が検出された。重要なことには、我々は、このような抗体が、Hela細胞において発現する組換えGFPに対するイントラボディとして使用可能であることを観察した(例えば、配列番号10の抗_GFP_Gimli_D8を参照)。
【0120】
チューブリンナノボディのファージディスプレイ選択
ビオチン化チューブリン(Cytoskeleton社)を標的として使用して、天然条件下でスクリーニングを実施した(Nizak、2005、上記を参照)。3ラウンドの選択後、クローン80種を、メタノールで固定したHeLa細胞上で免疫蛍光によりランダムにスクリーニングした。71種の組換えAbにより、内在性チューブリン(34種のユニーク配列)が染色された(例えば、配列番号11の抗_チューブリン_Gimli_B1を参照)。
【0121】
FGFR4特異的ナノボディのファージディスプレイ選択
がん細胞の細胞表面を標的とする抗体の同定を、FGFR4標的sdAbのスクリーニングにより例証した。完全ヒト化sdAbライブラリーGimli-1を使用して、FGFR4結合ナノボディのスクリーニングを実施した。我々は、組換えFGFR4に対する3ラウンドのバイオパニングによりファージディスプレイ選択を実施した。FGFR4に対する結合特異性を検証するために、我々は、FGFR4ノックアウト細胞であるRMS細胞(M. Bernasconi、チューリヒ大学より)を使用し、ファージクローン80種を検査してRh4 FGFR4野生型細胞(Rh4-FR4wt)及びRh4 FGFR4ノックアウト細胞(Rh4-FR4ko)への結合についてスクリーニングした。フローサイトメトリー解析により、Gimli-1ライブラリー由来のファージクローン55種がRh4-FR4wt細胞のみに結合することが明らかとなった。ファージクローン55種のサンガーシーケンシングにより、Gimli-1ライブラリー由来の28種のユニークなナノボディが得られたことが明らかとなった。次いで、フローサイトメトリーによりRh4-FR4wtへの最良の結合を示した、Gimliライブラリー由来のファージクローン(すなわち、Gimli-1: A4、F8、F11、H2)を組換えにより発現させた。陰性対照として、我々は、抗mCherryナノボディ(mCh)を発現させた。およそ17kDaの組換えナノボディを改変して、C末端Myc/6xHisタグ、及びマレイミドカップリングのための更なるシステインを有するように発現させた。6xHisタグ精製及びサイズ排除クロマトグラフィーにより、高純度のタンパク質が生じ、細菌培養物1リットルあたり3~16mgの範囲の収率を得た。
【0122】
選択したナノボディがFGFR4発現細胞に結合する
FGFR4を発現する細胞表面への組換えナノボディの結合の検証を、Rh4-FR4wt及びRh4-FR4ko細胞を用いてフローサイトメトリーにより実施した。FITC標識抗6XHisタグ抗体を使用して、表面結合ナノボディを検出した。検査した組換えナノボディ3つは、Rh4-FR4wt細胞に対して顕著な結合を呈しなかったが(A4、F11、H2、データ非提示)、組換えナノボディF8(配列番号9)は、Rh4-FR4wt細胞に対しては特異的結合を示し、Rh4-FR4ko細胞に対しては結合しなかった。予想通り、抗mCherry陰性対照ナノボディは、Rh4-FR4wtにもRh4-FR4ko細胞にも結合しなかった。Rh4-FR4wt細胞とともにインキュベートしたFGFR4バインダーの蛍光強度中央値(MFI)は、400の範囲内であったが、抗mCherry陰性対照又は抗6xHisタグ抗体は、わずかに200のMFIを呈し、Rh4-FR4ko細胞への結合と類似した。
【0123】
FGFR4に高親和性結合するナノボディ
FGFR4に対するナノボディの結合親和性を判定するために、我々は、組換えFGFR4による表面プラズモン共鳴(SPR)分光法を実施した。既に上記のように、FGFR1及びFGFR2は、Rh4-FR4ko細胞上で発現し、フローサイトメトリー解析では、細胞へのナノボディの結合を示さなかった。FGFR4特異性を更に確認するために、我々は、組換えFGFR1、FGFR2及びFGFR3による親和性測定をも設定した。ナノボディF8及びmChを5つの異なる濃度でFGFRコーティングチップ上に注入した(補足、table 1(表1))。陰性対照mChを除いて、FGFR4結合について算出したK
D値は、ナノ及びピコモルの範囲内であった(
図1; Table 1(表1))。親和性パラメータは、1:1の結合モデルと適合させることができず、最良適合は、BIA evaluationソフトウェアの異種リガンドモデルにより得られ、各候補について2つのK
D値が生成された。受容体ファミリーアイソフォームFGFR1及びFGFR3に対する親和性の測定によって、解析物の結合は予想通り示されなかった。SPRデータにより、FGFR4へのF8の強力な結合が確認され、F8が厳密な特異性を有することを更に示唆した。
【0124】
【0125】
Table 2(表2):FGFR4に対するナノボディ結合親和性の表面プラズモン共鳴分光決定
測定したデータを異種リガンドモデルと適合させて、会合及び解離定数(kon及びkoff)を明らかとし、これを平衡解離定数KD(koff/kon)に関して親和性の算出に使用した。最大解析物結合シグナルRmaxは、決定したKDの両方についてRUにより示す。これは、結合したナノボディの総量におけるこれらの割合に類似する。
【0126】
材料及び方法
CDR移植
In silicoでのデザインを行って、公知の標的、例えば、mCherry(だけでなくGFP、チューブリン又はMUC18も)に結合するVHHのCDRを本明細書に開示の足場に移植した。合成遺伝子を発注し、pHEN2由来プラスミドにクローニングして、大腸菌における発現、及びファージディスプレイ、及び哺乳動物サイトゾルにおける発現のための蛍光タンパク質への融合を行った。
【0127】
大腸菌ペリプラズムにおける可溶性発現
単一ドメイン抗体断片をpHEN2由来細菌ペリプラズム発現ベクターにサブクローニングし、pelB分泌配列の下流で発現させ得る。新たに形質転換したコロニーを、1%のグルコース及び100μg/mlのアンピシリン抗生剤を補足したTerrific Broth培地中でA600=0.6~0.8に達するまで増殖させ得る。次いで、6Hisでタグ化した抗体断片の発現を500μMのイソプロピルP-D-チオガラクトピラノシドにより、16℃で16時間、又は28℃で4時間誘導し、次いで、遠心沈殿させ得る。遠心分離後、細胞沈殿物をTris-EDTA-スクロース浸透圧ショック緩衝液中でインキュベートし、再度遠心分離させ得る。細胞溶解物を清澄化し、ポリヒスチジンタグのためのIMAC樹脂親和性カラム上に搭載し得る。溶出した画分を透析し、タンパク質の純度をSDS-PAGEにより典型的に解析する。
【0128】
大腸菌サイトゾルにおけるイントラボディの可溶性発現
単一ドメイン抗体断片は、T7プロモーターの制御下において細菌発現ベクターにサブクローニングし得る。プラスミド構築物を大腸菌BL21(DE3)細胞内に形質転換し得る。単一コロニーは、1%のグルコース及び100μg/mlのアンピシリン抗生剤を補足したLB培地中でA600=0.6~0.8に達するまで増殖させ得る。次いで、抗体断片の発現を500μMのイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシドにより16℃で16時間誘導し、次いで、遠心沈殿させ得る。遠心分離後、細胞沈殿物を溶解し、再度遠心分離する。細胞溶解物を清澄化し、ポリヒスチジンタグのためのIMAC樹脂親和性カラム上に典型的に搭載する。溶出した画分を透析し、タンパク質の純度をSDS-PAGEにより典型的に解析する。
【0129】
哺乳動物細胞発現系における凝集アッセイ
真核生物細胞における細胞内抗体としての機能的発現
単一ドメイン抗体断片を哺乳動物発現ベクター内にサブクローニングして、蛍光タンパク質との融合物として、典型的には、CMVプロモーターの制御下において発現させ得る。哺乳動物細胞株にトランスフェクトし、トランスフェクション後24時間又は48時間、細胞内の蛍光を観察した。
【0130】
細胞株
細胞株Rh4(Research Institute at Nationwide Children's Hospital、Columbus、OHのPeter Houghtonにより寄贈)、Rh30、HEK293ft HEK293T(ATCC、LGC Promochem社より購入)を、10%のFBS(Sigma-Aldrich社)、2mMのL-グルタミン及び100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(ともにThermo Fisher Scientific社)を補足したDMEM(Sigma-Aldrich社)中に37℃の5%CO2で維持した。RMS細胞株は、2014/2015年に細胞株タイピング解析(STRプロファイリング)により検査及び立証され、正に適合した48。すべての細胞株は、マイコプラズマ検査で陰性であった。
【0131】
ファージディスプレイ選択
可溶性タンパク質に対するスクリーニングを、ビオチン化標的又はSBPタグ化標的(例えば、細胞外FGFR4- G&P Biosciences社)を用いて天然条件下で実施した(Nizak, C.、Moutel, S.、Goud, B.及びPerez, F. Methods Enzymol. 403、135~153頁(2005)に記載のように)。本明細書に開示の単一ドメイン抗体ライブラリーは、1.6×109の完全ヒト化hs2dAbから構成された。簡潔には、ビオチン化抗原又はSBP抗原を希釈して10~20nM(最終的に1.5mL)を得、ストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ(Dynal社)50μL上に十分に回収したことを確認する。参照として、10nMの100-kDaタンパク質の溶液は、タンパク質1μg/mL(したがって、1選択ラウンドあたり)を表す。次いで、結合及び非結合試料の割合を、ウエスタンブロットにより、ストレプトアビジンHRP又は抗AviTag抗体を使用して比較し得る。スクリーニングでは、十分な量のビオチン化抗原コーティングビーズを2時間、ファージライブラリー(PBS+0.1%のTween20+2%の無脂肪乳1mLに希釈した1013ファージ)とともにインキュベートする。ファージは、それまでに、空のストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ上に吸着させた(非特異的バインダーを除去するため)。ストレプトアビジンコーティングビーズに結合したファージを磁石上に回収する。10回(1ラウンド)又は20回(2及び3ラウンド)の洗浄をPBS+Tween 0.1%を使用して磁石上で行う。結合したファージは、トリエチルアミン(TEA、100mM)を使用して溶出し、溶出したファージは、1MのTris pH7.4を使用して中和する。溶出は、ビーズ上で2回行う。次いで、溶出したファージを使用して大腸菌(TG1)に感染させる。通常、2ラウンド及び3ラウンドでは、わずか1012ファージをインプットとして使用したことに留意されたい。
【0132】
タンパク質発現及び精製
ナノボディのペリプラズム発現を、C末端システイン及び6xHisタグを有するタンパク質生成が可能となるpSB_initベクターを内包する大腸菌MC1061において実施した。Terrific Broth培地(25μg/mlのクロラムフェニコール)中で増殖させた一晩事前培養物20mlを新鮮培地2000mlで希釈し、37℃で2時間増殖させた。次いで、温度を25℃に下げ、1時間後にタンパク質発現を0.02%のLアラビノースにより誘導した。細菌培養物を25℃で一晩増殖させ、細胞を遠心分離(12000g、15分)により回収した。ペリプラズムタンパク質抽出は、浸透圧ショック方法により実施した。細胞を溶解緩衝液1(50mMのTris/HCl、pH8.0、20%のスクロース、0.5mMのEDTA、5μg/mlのリゾチーム、2mMのDTT)50mlにより再懸濁し、氷上で30分間インキュベートした。氷冷溶解緩衝液2(PBS、pH7.5、1mMのMgCl2、2mMのDTT)の追加後、細胞デブリを遠心分離(3800g、15分)により回収し、タンパク質含有上清に最終濃度10mMのイミダゾールを補足した。Co2+ビーズスラリー(HisPurコバルト樹脂、Thermo Fisher Scientific社)10mlを洗浄緩衝液(PBS、pH7.5、30mMのイミダゾール、2mMのDTT)で洗浄し、上清をビーズに加えた。4℃で1時間のインキュベーション後、ビーズを洗浄緩衝液20mlで洗浄し、結合タンパク質を溶出緩衝液(PBS、pH7.5、300mMのイミダゾール、2mMのDTT)20mlで溶出した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の前に、タンパク質溶出物をPBS、pH7.5、2mMのDTTで一晩透析し、スピンフィルター遠心分離(Amicon Ultra 15、3kDa、Merck Millipore社)により濃縮した。
【0133】
フローサイトメトリー
選択したファージ、組換えナノボディの結合の検証をRh4-FR4wt及びRh4-FR4ko細胞に対して実施した。FGFR4に結合する選択したファージクローンの特異性を、96ウェルプレート(Becton Dickinson社)によるフローサイトメトリーによって判定した。Rh4-FR4wt又はRh4-FR4ko細胞の細胞表面染色を、氷上の1%FBSを補足したPBS中で実施した。ファージ80μL+PBS/1%の乳20μLを氷上の1×105細胞上で1時間インキュベートした。PBSによる2回の洗浄の後、ファージ結合を1:250希釈の抗M13抗体(27-9420-01、GE healthcare社)を用いて氷上で1時間の後、1:400希釈のA488コンジュゲート抗マウス抗体(715-545-151、Jackson ImmunoResearch, Europe Ltd社)を用いて45分間検出した。MACSQuantサイトメーター(Miltenyi社)上でのフローサイトメトリーによる2回の洗浄後、試料を解析し、FlowJoソフトウェア(BD Biosciences社、仏国)により結果を解析した。ファージディスプレイ抗mCherryナノボディを陰性対照として使用し24、陽性対照として、我々は、抗FGFR4抗体を使用した(BT53、NCI、Bethesda、MDのJ. Khan研究室より寄贈)。組換えナノボディの結合検査では、細胞をアキュターゼ(Stemcell Technologies社)で分離し、PBSで洗浄した。次のすべての工程を氷上で実施した:4×105細胞を30μg/mlの濃度のナノボディとともに1時間インキュベートし、PBSで1回洗浄して、抗HisタグFITC標識抗体(LS-C57341、LSBioscience社、1:10希釈)とともに更に30分間インキュベートした。細胞をPBSでもう一度洗浄し、解析した。細胞をPBSで2回洗浄し、アキュターゼで分離した。すべてのフローサイトメトリー測定をFortessaフローサイトメーター(BD Biosciences社)により実施し、データをFlowJo(商標)10.4.1ソフトウェアを使用して解析した。
【0134】
ウェスタンブロッティング
SDS-PAGE試料を4~12%のNuPAGE Bis-Trisゲル(Thermo Fisher Scientific社)上に分け、Trans-Blot Turbo Transfer Blot膜(Biorad社)上にブロットした。室温で1時間のブロッキング緩衝液(5%の乳/TBST)による膜のブロッキング後、一次抗体を1:1000希釈で加え、4℃で一晩インキュベートした。二次HRPコンジュゲート抗体をブロッキング緩衝液により1:10,000で希釈し、室温で1時間洗浄した膜に加えた。ChemiDoc(商標)Touchイメージングシステム(BioRad社)におけるAmersham(商標)ECLTM検出試薬(GE Healthcare社)又はSuperSignal(商標)West Femto Maximum Sensitivity Substrate(ThermoFisher Scientific社)とのインキュベーション後、化学発光を検出した。
【0135】
表面プラズモン共鳴分光法
単一サイクルの動態解析をBIAcore T200装置(GE Healthcare社)により、300mMのNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)及び50mMのEDC(N-エチル-N'-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)の混合物で活性化したCMD200Mセンサーチップ(XanTec bioanalytics GmbH社)に対して実施した。組換えFGFR1、FGFR2、FGFR3及びFGFR4(G&P Biosciences社)を活性化バイオセンサー上に固定化した後(800~12,000RU、1RU=1pg/mm2)、1Mのエタノールアミンによるブロッキング工程を行った。1チップあたり1流路を参照として使用して、バックグラウンド補正を行った。ナノボディを5種の異なる濃度で注入した後、解離相に移った。最後の注入後の最終解離工程によりKoff速度を決定した。FGFR4による測定は、強力な結合及び表面からの不完全な解離によって新たに固定化したタンパク質上で各ナノボディについて実施した。固定化流量は5μl/分であり、結合試験は30μl/分で実施した。結合パラメータは、BIAevaluationソフトウェアの異種リガンドモデル適合により決定した。黒色の曲線は、測定したデータを表し、赤色の曲線は、実施した適合解析を示す。
【0136】
【配列表】
【国際調査報告】