(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】レーザー焼結した炭水化物材料を造形する方法ならびにその組成物および使用
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20230614BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230614BHJP
B29C 69/02 20060101ALI20230614BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230614BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/153
B29C69/02
B33Y70/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571206
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 US2021033763
(87)【国際公開番号】W WO2021237163
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ミラー, ジョーダン, エス.
(72)【発明者】
【氏名】キンストリンガー, イアン, エス.
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA01
4F213AB06
4F213AC04
4F213AR12
4F213AR20
4F213WA02
4F213WA25
4F213WA43
4F213WA67
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4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL55
4F213WL67
4F213WL96
(57)【要約】
実質的に相互接続した脈管ネットワークの形態の構造を形成するのに有用な組成物。該組成物は、炭水化物粉末および固化防止剤を含む粉末を含み、上記粉末は、顆粒形態を有し、1ミリリットル当たり6ミリジュール(mJ/mL)未満の比エネルギーを有する。
【選択図】
図21A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に相互接続した脈管ネットワークを含む構造を形成するのに有用な組成物であって、炭水化物粉末および固化防止剤を含む粉末を含み、
上記粉末が顆粒形態を有し、
1ミリリットル当たり6ミリジュール(mJ/mL)未満の比エネルギーを有する、組成物。
【請求項2】
上記炭水化物粉末がデキストランまたはイソマルトのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記固化防止剤がコーンスターチ、二酸化ケイ素またはキサンタンガムのうち少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
上記粉末が自由流動する粉末となるように構成され、
上記粉末が250マイクロメートル(μm)以下の最大粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物を含む三次元構造。
【請求項6】
疎水性ポリマーを含む表面コーティングをさらに含む、請求項4に記載の三次元構造。
【請求項7】
上記粉末がレーザーを使用して固体連続フィラメントへと互いに融合されている、請求項4に記載の三次元構造。
【請求項8】
上記粉末がレーザーを使用して固体フィラメントネットワークへと互いに融合されている、請求項4に記載の三次元構造。
【請求項9】
上記構造が平滑化溶液を使用して表面平滑化を受けている、請求項4~7のいずれか一項に記載の三次元構造。
【請求項10】
平滑化された構造が、続いて疎水性ポリマー中で被覆されている、請求項4~8のいずれか一項に記載の三次元構造。
【請求項11】
実質的に相互接続した脈管ネットワークを含む構造であって、
構造材料が配置されるマトリックス材料を含み;
上記構造材料が水中で溶解または分解することができ、
上記構造材料が、エネルギービームを照射されると固体へと融合される粉末から形成され、
上記粉末が顆粒形態を有し、
6mJ/mL未満の比エネルギーを有する、構造。
【請求項12】
上記粉末がレーザーを使用して固体連続フィラメントへと互いに融合されている、請求項11に記載の構造。
【請求項13】
上記粉末がレーザーを使用して固体連続三次元フィラメントネットワークへと互いに融合されている、請求項11に記載の構造。
【請求項14】
上記構造の表面が平滑なトポグラフィーを有する、請求項11~13のいずれか一項に記載の構造。
【請求項15】
上記粉末が固化防止剤をさらに含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の構造。
【請求項16】
上記構造材料が少なくとも1種の炭水化物を含む、請求項11~15のいずれか一項に記載の構造。
【請求項17】
上記構造材料がデキストランまたはイソマルトのうち少なくとも1つを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の構造。
【請求項18】
上記構造材料が、フォトレジスト、アガロース、ゼラチン、炭水化物、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、イソマルト、デキストラン、セルロース、メチルセルロース、ポリ(乳酸)またはポリ(エチレングリコール)のうち少なくとも1つを含む、請求項11~17のいずれか一項に記載の構造。
【請求項19】
上記固化防止剤が、流れ、摩擦特性または上記構造材料の粒子充填のうち少なくとも1つを改善する1種または複数種の材料を含む、請求項15に記載の構造。
【請求項20】
上記固化防止剤が、コーンスターチ、二酸化ケイ素またはキサンタンガムのうち少なくとも1つを含む、請求項15または19のいずれか一項に記載の構造。
【請求項21】
上記粉末の粒径が250μm以下の直径である、請求項11~20のいずれか一項に記載の構造。
【請求項22】
上記構造の表面が疎水性コーティングを有する、請求項11~21のいずれか一項に記載の構造。
【請求項23】
上記疎水性コーティングが、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンのうち少なくとも1つを含む、請求項22に記載の構造。
【請求項24】
上記マトリックス材料が、ポリアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリウレタン、コラーゲン、アガロース、アルブミン、アルギナート、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリン、マトリゲル、グリセリン、グリコール、マンニトール、イノシトール、キシリトール、アドニトール、グリシン、アルギニン、生物学的ポリマー分子またはペプチド両親媒性物質、またはそれらのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーのうち少なくとも1つを含む、請求項11~23のいずれか一項に記載の構造。
【請求項25】
上記粉末が自由流動する粉末となるように構成される、請求項11~24のいずれか一項に記載の構造。
【請求項26】
実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成する方法であって、
エネルギービームを用いて融合することにより粉末を凝固してフィラメントネットワークを形成するステップであって、上記フィラメントネットワークが、水中で溶解または分解することができる複数のフィラメントを含み、空隙空間を画定している、ステップと;
マトリックス材料を用いて上記フィラメントネットワークの上記空隙空間を埋め戻すステップと;
上記フィラメントを除去して、流体チャネルを含む上記実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成するステップとを含む方法。
【請求項27】
上記マトリックス材料が生体材料を含む水溶液である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記生体材料を架橋して、上記空隙空間にヒドロゲルを形成するステップをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
上記粉末が炭水化物粉末および固化防止剤を含み、
上記粉末が顆粒形態を有し、
6mJ/mL未満の比エネルギーを有し、
上記エネルギービームがレーザーである、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
平滑化溶液を用いて上記複数のフィラメントを表面平滑化するステップをさらに含み、
上記表面平滑化が、その他の点では上記フィラメントのアーキテクチャーを変更しない、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
上記平滑化溶液が、イソマルト、デキストラン、スクロース、グルコース、ラクトース、トレハロース、メープルシロップまたはサトウキビシロップのうち少なくとも1つを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
表面コーティング材料を用いて上記複数のフィラメントを表面被覆するステップをさらに含み、
上記表面コーティング材料が上記空隙空間を埋め戻さず、
上記マトリックス材料および上記表面コーティング材料が相異なる材料である、請求項26~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
上記表面コーティング材料が、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンのうち少なくとも1つを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
上記フィラメントネットワークが三次元に分岐したパターンに配置される、請求項26~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
上記フィラメントネットワークが相互貫入した幾何形状に配置される、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
上記フィラメントが、造形中、無支持の幾何形状に構成される、請求項26~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
上記フィラメントの除去が溶解または分解によって実施される、請求項26~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
上記水溶液が生細胞の懸濁液をさらに含み、上記フィラメントを除去するステップが上記生細胞を損傷しない、請求項27に記載の方法。
【請求項39】
上記マトリックス材料が架橋した生体材料であり、上記生体材料が、ポリアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリウレタン、コラーゲン、アガロース、アルブミン、アルギナート、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリン、マトリゲル、グリセリン、グリコール、マンニトール、イノシトール、キシリトール、アドニトール、グリシン、アルギニン、生物学的ポリマー分子またはペプチド両親媒性物質、またはそれらのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーのうち少なくとも1つを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
上記粉末が自由流動する粉末となるように構成され、
上記粉末が250μm以下の最大粒径を有する、請求項26~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国において2020年5月22日に出願された米国特許出願第63/029,241号の優先権を主張する。
【0002】
連邦の援助による研究開発に関する表明
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって授与された助成金番号第HL140905号の下で米国研究サービス賞(NRSA)F31博士課程研究奨学金による政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
組織工学の分野の究極の目標は、病気の患者または負傷した患者に対して機能を復元させる患者個体別人工臓器の作製である。過去20年間にわたって、生体材料および細胞/組織生物学における重大な進歩によって、その分野において幾つかの重要な臨床的成功が得られてきた。組織工学的に作製された薄い無血管組織(例えば皮膚、角膜および膀胱)は、患者に移植され、優れた機能的回復が得られている。しかしながら、大きい寸法の固形臓器は、その内部流体ネットワーク(すなわち脈管構造)が精巧で複雑であることから、組織工学的に作製するにははるかに大きい難題を提示する。脈管構造を通る酸素および栄養素の対流輸送は、大きい組織工学的組織の内部を占める細胞の生存および機能にとって不可欠である。脈管構造を通る栄養素輸送のない状態では、数百ミクロンより厚い組織は急速に壊死性コアに発展する。したがって、多くの研究者が、対流輸送を促進するために開いた内部空隙またはチャネルを含む人工組織構築物を組織工学的に作製することに相当な努力を捧げてきた。
【0004】
幾つかのパラダイムが、対流輸送の可能性を高めた組織足場の作製のために出現してきた。広く使用される戦略において、目的の細胞は、ヒドロゲルから選択的に除去できる一時的粒子または溶存ガス(例えば塩)と一緒にポリマー生体材料で構成されるヒドロゲルに播種される。(例えば塩浸出またはガス発泡による)一時的材料の除去によって、細孔の相互接続したネットワークが得られる。そのような相互接続した細孔ネットワークはまた、臨界点乾燥やポリマーの電界紡糸により形成されている。これらの多孔質ネットワークは、組織への酸素および栄養素の対流輸送を可能にし、それらが細胞が生息するヒドロゲルへ拡散するように広い表面積を提供する。しかしながら、これらの造形戦略は、足場アーキテクチャーに対する制御がきかず、多くの場合、苛酷な細胞毒性条件または試薬を利用する。さらに、組織化されていない多孔質ネットワークは、動物モデルに移植されても、宿主脈管構造への直接的な接続を受け入れることはないであろう。
【0005】
これとは別に、針成型技法がヒドロゲル内の画定されたパターンに直線状チャネルを作製するために導入されている。ポリマー溶液が一連の針のまわりに分注され、次いで架橋されて固体ゲルが形成される。針は、ゲルが凝固した後、引き抜かれて、開いたチャネルが残る。これらの針で成型されたヒドロゲルは、脈管チャネルにおける輸送を研究するための有用なツールになったが、生理学的な脈管構造の複雑で分岐したアーキテクチャーを十分に再現することができない。脈管構造をパターン化する別の手法であるソフトリソグラフィーは、ミクロンスケールの分解能でチャネルアーキテクチャーの制御を提供するフォトリソグラフィー技法を利用する。しかしながら、そのプロセスは高価な設備を必要とし、一般に、現実的な脈管ネットワークを映し出すことができない線形のx、yまたはzベクトルとしてしかマイクロ流体導管を作製しない。全体として、ソフトリソグラフィーも針成型も、インビボの脈管構造のアーキテクチャーのフィーチャを捉えた複雑な三次元のマイクロ流体ネットワークを作製することができない。
【0006】
付加製造(AM、また三次元印刷または3D印刷としても知られる)は、生体材料内の流体ネットワークを作製するために使用されている。その目的のために、犠牲鋳型化は、1つの見込みのある造形方法である。この技法を使用して、バルク材料内に除去可能な鋳型を包むことによって、流体チャネルの画定されたパターンをバルク材料内に作製できる。
図1A~1Dは、単純な脈管ネットワークを形成する犠牲鋳型化を示す段階的な一連の模式図である。
図1Aは、既存のAM法を介して造形された鋳型101を示す。
図1Bにおいて、鋳型101はバルク材料103に包まれている。鋳型101がバルク材料103内から選択的に除去された後、
図1Cは、バルク材料103によって画定された鋳型101のアーキテクチャーを反映する単純な脈管ネットワーク105を示す。造形後、
図1D中の矢印107は、バルク材料103内の単純な脈管ネットワーク105を通る流体流を表す。
【0007】
除去可能な鋳型を形成する第1の方法において、MillerおよびBellanにおけるように、まず、水溶性炭水化物ガラスが自立格子に押し出され、生体材料ヒドロゲル中にカプセル化される。参照:J.S.Millerら,Rapid Casting of Patterned Vascular Networks for Perfusable Engineered Three-Dimensional Tissues,11(9),Nat.Mater.768-774頁(2012年)およびL.M.Bellanら,Fabrication of an Artificial 3-Dimensional Vascular Network Using Sacrificial Sugar Structures,Soft Matter.5(7),1354頁(2009年)。3D印刷された炭水化物ガラス格子がバルクヒドロゲル内から溶解すると、格子の幾何形状はヒドロゲルマトリックス中に開いたチャネルとして保持された。この方法は様々な二次元導管ネットワークを作製することができるが、得られる押し出された糖構造は脆く、該方法を多様な三次元アーキテクチャーを作製するために十分に拡張することができない。さらに、最終のネットワーク幾何形状の再現性および印刷されたフィラメントの分解能はいずれも、炭水化物ガラスネットワークを形成するための押出の使用によって制限される。
【0008】
除去可能な鋳型を形成する第2の方法は、例えばBertassoniおよびKoleskyにおける1種または複数種のポリマー足場材料と一緒に押し出される一時的な一過性インクを利用する。参照:L.E.Bertassoniら,Hydrogel Bioprinted Microchannel Networks for Vascularization of Tissue Engineering Constructs,14(13),Lab Chip,2202-2211頁(2014年)。D.B.Kolesky,3D Bioprinting of Vascularized,Heterogeneous Cell-Laden Tissue Constructs,26(19),Adv. Mater.3124-3130頁(2014年)。D.B.Koleskyら,Three-Dimensional Bioprinting of Thick Vascularized Tissues,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,201521342(2016年)。その後の一過性インクの除去によって、バルク材料中に対応する空隙空間が作製される。炭水化物ガラス印刷と同様に、多様な2Dネットワークを作製することができるが、一過性インク押出技法を使用して複雑な任意の三次元アーキテクチャーを印刷することは可能ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
幾つかの実施形態は、実質的に相互接続した脈管ネットワークの形態の構造を形成するのに有用な組成物を対象とし得る。幾つかの実施形態において、組成物は、炭水化物粉末および固化防止剤を含む粉末を含んでもよく、ここで、粉末は顆粒形態を有し、1ミリリットル当たり6ミリジュール(mJ/mL)未満の比エネルギーを有する。
【0010】
幾つかの実施形態において、炭水化物粉末は、デキストランまたはイソマルトのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0011】
幾つかの実施形態において、固化防止剤は、コーンスターチ、二酸化ケイ素またはキサンタンガムのうち少なくとも1つを含む。
【0012】
幾つかの実施形態において、粉末は自由流動する粉末となるように構成されてもよく、粉末は250マイクロメートル(μm)以下の最大粒径を有していてもよい。
【0013】
幾つかの実施形態は、炭水化物粉末および固化防止剤を含む粉末系を含む三次元構造を対象としてもよい。
【0014】
幾つかの実施形態において、三次元構造は、疎水性ポリマーを含む表面コーティングをさらに含んでもよい。
【0015】
幾つかの実施形態において、粉末系は、レーザーを使用して固体連続フィラメントへと互いに融合されていてもよい。
【0016】
幾つかの実施形態において、粉末系は、レーザーを使用して固体フィラメントネットワークへと互いに融合されていてもよい。
【0017】
幾つかの実施形態において、構造は、平滑化溶液を使用して表面平滑化を受けていてもよい。
【0018】
幾つかの実施形態において、平滑化された構造は、続いて疎水性ポリマー中で被覆されていてもよい。
【0019】
幾つかの実施形態は、構造材料が配置されるマトリックス材料を含む、実質的に相互接続した脈管ネットワークを含む構造を対象としてもよい。幾つかの実施形態において、構造材料は水中で溶解または分解することができてもよい。幾つかの実施形態において、構造材料は、エネルギービームを用いて照射されると固体へと融合される粉末から形成されてもよい。幾つかの実施形態において、粉末系は顆粒形態を有し、6mJ/mL未満の比エネルギーを有していてもよい。
【0020】
幾つかの実施形態において、粉末は、レーザーを使用して固体連続フィラメントへと互いに融合されてもよい。
【0021】
幾つかの実施形態において、粉末は、レーザーを使用して固体連続三次元フィラメントネットワークへと互いに融合されてもよい。
【0022】
幾つかの実施形態において、構造の表面は平滑なトポグラフィーを有していてもよい。
【0023】
幾つかの実施形態において、粉末は固化防止剤をさらに含んでもよい。
【0024】
幾つかの実施形態において、構造材料は少なくとも1種の炭水化物を含んでもよい。
【0025】
幾つかの実施形態において、構造材料は、デキストランまたはイソマルトのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0026】
幾つかの実施形態において、構造材料は、フォトレジスト、アガロース、ゼラチン、炭水化物、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、イソマルト、デキストラン、セルロース、メチルセルロース、ポリ(乳酸)またはポリ(エチレングリコール)のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0027】
幾つかの実施形態において、固化防止剤は、流れ、摩擦特性または構造材料の粒子充填のうち少なくとも1つを改善する1種または複数種の材料を含んでもよい。
【0028】
幾つかの実施形態において、固化防止剤は、コーンスターチ、二酸化ケイ素またはキサンタンガムのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0029】
幾つかの実施形態において、粉末の粒径は250μm以下の直径であってもよい。
【0030】
幾つかの実施形態において、構造の表面は疎水性コーティングを有していてもよい。
【0031】
幾つかの実施形態において、疎水性コーティングは、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0032】
幾つかの実施形態において、マトリックス材料は、ポリアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリウレタン、コラーゲン、アガロース、アルブミン、アルギナート、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリン、マトリゲル、グリセリン、グリコール、マンニトール、イノシトール、キシリトール、アドニトール、グリシン、アルギニン、生物学的ポリマー分子またはペプチド両親媒性物質、またはそれらのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0033】
幾つかの実施形態において、粉末は自由流動する粉末となるように構成されてもよい。
【0034】
幾つかの実施形態は、実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成する方法を対象としてもよい。幾つかの実施形態において、方法は、エネルギービームを用いて融合することにより粉末を凝固してフィラメントネットワークを形成するステップと;マトリックス材料を用いてフィラメントネットワークの空隙空間を埋め戻すステップと;フィラメントを除去して、流体チャネルを含む実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成するステップとを含んでもよい。幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークは複数のフィラメントを含んでもよく、空隙空間を画定しており、複数のフィラメントは水中で溶解または分解することができてもよい。
【0035】
幾つかの実施形態において、マトリックス材料は生体材料を含む水溶液であってもよい。
【0036】
方法の幾つかの実施形態は、生体材料を架橋して空隙空間にヒドロゲルを形成するステップをさらに含んでもよい。
【0037】
幾つかの実施形態において、粉末は炭水化物粉末および固化防止剤を含んでもよい。幾つかの実施形態において、粉末は顆粒形態を有し、6mJ/mL未満の比エネルギーを有していてもよい。幾つかの実施形態において、エネルギービームはレーザーであってもよい。
【0038】
方法の幾つかの実施形態は、平滑化溶液を用いて複数のフィラメントを表面平滑化するステップをさらに含んでもよく、ここで、表面平滑化は、その他の点ではフィラメントのアーキテクチャーを変更しない。
【0039】
幾つかの実施形態において、平滑化溶液は、イソマルト、デキストラン、スクロース、グルコース、ラクトース、トレハロース、メープルシロップまたはサトウキビシロップのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0040】
方法の幾つかの実施形態は、表面コーティング材料を用いて複数のフィラメントを表面被覆するステップをさらに含んでもよく、ここで、表面コーティング材料は空隙空間を埋め戻さず、マトリックス材料および表面コーティング材料は相異なる材料であってもよい。
【0041】
幾つかの実施形態において、表面コーティング材料は、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0042】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークは三次元に分岐したパターンに配置されてもよい。
【0043】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークは相互貫入した幾何形状に配置されてもよい。
【0044】
幾つかの実施形態において、フィラメントは、造形中、無支持の幾何形状に構成されてもよい。
【0045】
幾つかの実施形態において、フィラメントの除去は溶解または分解によって実施されてもよい。
【0046】
幾つかの実施形態において、水溶液は、生細胞の懸濁液をさらに含んでもよく、ここで、フィラメントを除去するステップは生細胞を損傷しない。
【0047】
幾つかの実施形態において、マトリックス材料は架橋した生体材料であってもよく、生体材料は、ポリアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリウレタン、コラーゲン、アガロース、アルブミン、アルギナート、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリン、マトリゲル、グリセリン、グリコール、マンニトール、イノシトール、キシリトール、アドニトール、グリシン、アルギニン、生物学的ポリマー分子またはペプチド両親媒性物質、またはそれらのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーのうち少なくとも1つを含む。
【0048】
幾つかの実施形態において、粉末は自由流動する粉末となるように構成されてもよく、粉末は250μm以下の最大粒径を有していてもよい。
【0049】
本発明の他の態様および利点は以下の記載および添付された特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図2A】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図2B】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図2C】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図2D】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図2E】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図2F】幾つかの実施形態による方法の模式図である。
【
図3】本開示の実施形態による粉末の比エネルギーのグラフである。
【
図4A】本開示の実施形態による粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4B】本開示の実施形態による粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4C】本開示の実施形態による粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5A】本開示の実施形態による選択的レーザー焼結の模式図である。
【
図5B】本開示の実施形態による選択的レーザー焼結の模式図である。
【
図5C】本開示の実施形態による選択的レーザー焼結の模式図である。
【
図5D】本開示の実施形態による選択的レーザー焼結の模式図である。
【
図6】1つまたは複数の実施形態によるフィラメントネットワークの写真である。
【
図7】1つまたは複数の実施形態によるフィラメント幅対レーザー出力を示すグラフである。
【
図8A】1つまたは複数の実施形態によるフィラメントネットワークの写真である。
【
図8B】1つまたは複数の実施形態によるフィラメントネットワークの写真である。
【
図9】1つまたは複数の実施形態による構造材料の応力対歪みのグラフである。
【
図10A】1つまたは複数の実施形態によるフィラメントネットワーク表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図10B】1つまたは複数の実施形態によるフィラメントネットワーク表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図11A】1つまたは複数の実施形態による表面平滑化の影響のグラフである。
【
図11B】1つまたは複数の実施形態による表面平滑化の影響のグラフである。
【
図11C】1つまたは複数の実施形態による表面平滑化の影響のグラフである。
【
図11D】1つまたは複数の実施形態による表面平滑化の影響のグラフである。
【
図12A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図12B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図12C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図12D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図12E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図12F】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークの写真である。
【
図13A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図13B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図13C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図13D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図13E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図14A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図14B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図14C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図14D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図14E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図15F】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図16F】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図17F】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図18A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図18B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図19A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図19B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図20A】ミューチュアルツリーアトラクション法の実施形態を示す。
【
図20B】ミューチュアルツリーアトラクション法の実施形態を示す。
【
図20C】ミューチュアルツリーアトラクション法の実施形態を示す。
【
図20D】ミューチュアルツリーアトラクション法の実施形態を示す。
【
図21A】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21B】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21C】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21D】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21E】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21F】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【
図21G】1つまたは複数の実施形態による相互接続した脈管ネットワークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図全体にわたって、同様の数字は、一般に同様の構成要素に対して使用される。
【0052】
既存のAM法の重大な制約は、様々な材料内に三次元すべてにおいて複雑なネットワークを構築することができないことである。押出によって堆積した液相材料、例えば上記AM法において用いられるものは、自重の下で変形または崩壊しやすい。さらに、液体の粘性によって、少量の正確な分注が極めて困難になる(層ごとに全方向の構造を形成するのに必要とされる場合)。これらの本質的なレオロジー的制約によって、上記のものなどの押出を用いたAM技法は、いずれも哺乳類の脈管構造の特徴である無支持のオーバーハング、アンダーハングおよび/または任意の三次元分岐を含むアーキテクチャーの形成を禁じられる。さらに、押し出された直線的ネットワークの結果として形成される90度のチャネル接合点は、自然界に見られる構造とは際立って異なる流体力学を有する。既存のAM技法を使用して形成されるネットワークの変更された流体力学は、血流動態、内皮細胞が経験する剪断応力、およびネットワークの全体的な流体抵抗に望ましくない影響を及ぼす。
【0053】
対照的に、糖アルコールイソマルトは選択的レーザー焼結(SLS)と適合することが発見され、安定な溶融遷移を受けて、連続して融合した固体フィラメントを形成する。したがって、本明細書において記載の実施形態は、様々な炭水化物粉末からの三次元構造の完全自動造形のワークフローを含むパターン化SLSを生成するために用いることができる物質の組成物および方法を対象とし得る。
【0054】
さらに、本明細書において記載の炭水化物のSLSは、この種の材料を付加製造する新規の手法である。本明細書の実施形態において開示される方法は、改善された分解能、構造の複雑さ、再現性およびスループットなど、炭水化物構造を造形する以前の方法に対して顕著な改善を提供する。
【0055】
その目的のために、幾つかの実施形態は、三次元の樹枝状炭水化物格子または固体連続フィラメントネットワークなどの固体連続フィラメントまたは固体連続三次元構造の形態のSLSパターン化構造を対象としてもよい。幾つかの実施形態において、パターン化構造がマトリックス材料を鋳型化するのに使用されてもよい。幾つかの実施形態において、パターン化構造は、脈管化した組織工学的組織をキャスティングするために使用されてもよい(例えば、構造は、埋め込まれた灌流可能な脈管ネットワークを有するマトリックスとして説明されてもよい)。さらに、本開示の幾つかの実施形態は、上記のものなどの既存の押出印刷技法の制約から開放された物質の組成物および組織工学的脈管ネットワークを造形する方法を対象としてもよい。物質の組成物の実施形態は、SLSと適合し、安定な溶融遷移を受けて、連続して融合した固体フィラメントを形成してもよい。さらに、本明細書において記載の実施形態は、様々な炭水化物粉末からの三次元構造の完全自動造形のワークフローを含んでもよい。最終的に、1つまたは複数の実施形態は、樹枝状の実質的に相互接続した脈管ネットワークを計算により生成するためのミューチュアルツリーアトラクション(Mutual Tree Attraction)と呼ばれる方法を対象とする。
【0056】
おおまかに、
図2A~2Fは、本方法の実施形態において使用されてもよい実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成するステップを簡潔に示す。
図2A~2Fにおけるように、本方法の実施形態は、エネルギービームを用いて焼結または溶融することによって粉末顆粒を凝固して、鋳型として使用される三次元構造を形成するステップと;平滑化溶液を用いて鋳型を表面平滑化するステップと;表面コーティング材料を用いて鋳型を表面被覆するステップと;マトリックス材料を用いて鋳型の空隙空間を埋め戻すステップと;マトリックス材料を架橋するステップと;鋳型を除去して、鋳型のような形状のチャネルを有するパターン化構造を形成するステップとを含んでもよい。この方法は、選択的にレーザー焼結した炭水化物の犠牲鋳型化(Selectively Laser Sintered-Carbohydrate Sacrificial Templating、SLS-CaST)と名付けられている。さらに、
図2A~2Fにおいて簡潔に示されたステップのそれぞれはまた、以下により詳しく検討する。
【0057】
幾つかの実施形態において、SLSは、粉末層上に焦点を合わせたエネルギービームを用いて2Dパターンをトレースすることによって三次元構造を形成するために使用されてもよい。粉末の実施形態は、1種または複数種の炭水化物粉末を含んでもよく、互いに融合させて構造材料を形成してもよい。
図2Aは、レーザー3を用いる焼結または溶融によってSLSシステム2を使用して互いに融合させることでフィラメントネットワーク5を形成する粉末1の顆粒を示す。レーザー3によって描かれた形状は、ステージ6の動き、レーザー3の動きまたは両方によって制御されてもよい。
【0058】
幾つかの実施形態において、SLSによって構造材料から形成された三次元構造は、鋳型として使用されてもよい。形成後最初は、三次元構造の表面は粗くてもよい。
図2Bは、3D印刷システムから除去した後のフィラメントネットワーク5を示す。フィラメント9間を含む空隙空間7が、フィラメントネットワーク5の周囲に見られる。このように、フィラメントネットワーク5は空隙空間7を画定する。フィラメントネットワーク5の表面11は粗い。
【0059】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークの表面は平滑化溶液を用いて平滑化されてもよい。
図2Cは、表面11の粗さを減少させるために表面平滑化を受けた後のフィラメントネットワーク5を示す。表面平滑化によって、フィラメントネットワーク5は平滑化構造となった。
【0060】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークの表面は、表面コーティング材料を用いて表面被覆されていてもよい。
図2Dは、表面コーティング材料がフィラメントネットワーク5の表面9にコーティング13を形成した後のフィラメントネットワーク5を示す。しかしながら、コーティング13は空隙空間7を埋め戻さない。
【0061】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークの周囲の空隙空間は、マトリックス材料を用いて埋め戻される。
図2Eは、フィラメントネットワーク5を取り囲み、空隙空間7を埋め戻すマトリックス材料15を示す。マトリックス材料の幾つかの実施形態は、フィラメントネットワークのまわりに導入した後、空隙空間内で凝固するために架橋または他のポリマー処理を必要としてもよい。
【0062】
幾つかの実施形態において、フィラメントネットワークは除去されて実質的に相互接続した脈管ネットワークを形成してもよい。最終の脈管ネットワークの形態は、フィラメントネットワークの幾何形状を反映する、マトリックス材料を通る流体チャネルを含んでもよい。
図2Fは、コーティング13およびマトリックス材料15により画定された流体チャネル19を含む実質的に相互接続した脈管ネットワーク17を示す。矢印21は、脈管ネットワーク17を通る1つの可能性のある流体流方向を表す。
【0063】
1つまたは複数の実施形態による粉末
【0064】
粉末の実施形態は1種または複数種の炭水化物粉末を含んでもよい。粉末の実施形態は、顔料、固化防止剤または両方をさらに含んでもよい。粉末の幾つかの実施形態は、比エネルギーを使用して定量化し得るように、流動する能力を有していてもよい。粉末の実施形態は、特定の幾何学的特性(例えば平均直径)を有する多数の粉末顆粒を有する顆粒形態であってもよい。粉末のこれらの因子のそれぞれは以下に詳述される。
【0065】
粉末の実施形態は、1種の炭水化物粉末または2種以上の炭水化物粉末の混合物を含んでもよい。炭水化物粉末は、例えば、フォトレジスト、アガロース、ゼラチン、炭水化物、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、イソマルト、デキストラン、セルロース、メチルセルロース、ポリ(乳酸)および/またはポリ(エチレングリコール)を含むかまたはそれからなっていてもよい。
【0066】
上で検討されたように、先行の研究では、犠牲鋳型化の溶融押出によって形成される糖を使用したが、結果は脆く、最終の三次元形状は限定的だった。対照的に、イソマルト(人工代替糖としてしばしば使用される糖アルコール)およびデキストランは、SLSと適合し、安定な溶融遷移を受けて、連続して融合した固体フィラメントを形成することが見いだされた。このように、イソマルトおよびデキストランは、脈管アーキテクチャーなどの複雑な三次元構造を含む三次元構造を形成するために使用されてもよい。このように、幾つかの実施形態において、粉末はイソマルトおよびデキストランの粉末のうち1つまたは両方を含んでもよい。
【0067】
幾つかの実施形態において、粉末は、SLS時の分注のために流動する能力を有していてもよい。比エネルギーは粉末流動性の1つの尺度である。その目的のために、本開示の幾つかの実施形態は、固化防止剤を含んでまたは含まないで、1ミリリットル当たり6ミリジュール(mJ/mL)未満(例えば、5mJ/mL未満または4mJ/mL未満)の比エネルギーを有する粉末を利用する。言い換えれば、本開示の幾つかの実施形態は、固化防止剤を含んでまたは含まないで、6mJ/mLと0.1mJ/mLの間(例えば、5mJ/mLと0.1mJ/mLの間、4mJ/mLと0.1mJ/mLの間、または2mJ/mLと0.1mJ/mLの間)の比エネルギーを有する粉末を利用する。
【0068】
固化防止剤の添加は、焼結品質を保ちつつ粉末流を効果的に増大させ得る。その目的のために、幾つかの実施形態において、1種または複数種の固化防止剤は、固化防止剤を欠いた同様の粉末と比較して、粉末の特性、例えば、流れ、流動性、摩擦特性および/または構造材料の粒子充填を改善することができる。
【0069】
このように、幾つかの実施形態によると、SLSの粉末は、1種または複数種の炭水化物粉末および1種または複数種の固化防止剤の混合物であってもよい。幾つかの実施形態において、固化防止剤は、コーンスターチ、二酸化ケイ素またはキサンタンガム、または2種以上の固化防止剤の混合物のうち1つまたは複数を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0070】
ナイロンは、都合のよい粉末レオロジー特性を有するのでSLSの標準材料であるが、例えば生体適合性が不十分であり、容易に溶解可能ではないなどの理由で、ナイロンは特定の用途に対して望ましくない場合がある。したがって、
図3は、本開示の1つまたは複数の実施形態に従って、イソマルトの比エネルギーおよびイソマルト中に30質量パーセント(重量%)のコーンスターチを含む混合物(以下、「イソマルト+コーンスターチ」と称される)の比エネルギーと、ナイロンの比エネルギーとを比較する。示されるように、イソマルト粉末顆粒は、より高い比エネルギーを有し、よって、不十分な粉末分布またはむらのある層として現れ得るナイロンなどの標準SLS材料よりもはるかに凝集性がある。
図3はまた、イソマルト+コーンスターチ混合物がナイロンと同等の流動性を有することを示す。このように、イソマルト+コーンスターチは、ナイロンのように自由流動することができる。イソマルトおよびイソマルト+コーンスターチのデータは、標本数(n)、n=3を有するt検定としてp<0.05の確率値(p値)を有する。
【0071】
図4A~4Cは、ナイロン(
図4A)、イソマルト(
図4B)およびコーンスターチ(
図4C)の走査型電子顕微鏡写真であり、異なる粉末形態を図示し、粉末流動性の差異についての説明を助ける。ナイロンは、従来のポリマーSLSプロセスにおいて使用される非常に自由流動性のある粉末である。
図4Aにおいて示されるように、ナイロンは、比較的小さく、平滑で、規則的な形態を有する。対照的に、イソマルト粉末は、
図4Bにおいて示されるように不規則で、多分散で、ぎざぎざしている。結果として、イソマルト粉末は、ナイロンと比較してより高い粉末凝集性および比較的不十分な流動性を有する。上に検討されたように、コーンスターチの添加は、粉末化イソマルトの流動性を著しく改善する。
図4Cは粉末化コーンスターチを示す。小さく平滑なコーンスターチ粒子は、大きくてぎざぎざしたイソマルト粒の間に入り込んで摩擦および流動抵抗を低減すると仮定される。
【0072】
顔料を包含することで、粉末が、SLS時にエネルギービーム(例えばレーザー)からより効率的に放射を吸収することが可能になり得る。さらに、顔料の包含はまた、可視スペクトルエネルギービームを使用して造形の成功を可能にし得る。このように、粉末の幾つかの実施形態は1種または複数種の顔料を含んでもよい。幾つかの実施形態において、顔料は生体適合性顔料であってもよい。幾つかの実施形態において、生体適合性顔料は、タルトラジン、アントシアニンおよびAllura Red AC(レッド40)のうち1つまたは複数を含んでもよい。上で検討した固化防止剤と同様に、顔料は、SLSの際に最終の三次元構造に組み込まれてもよい。
【0073】
幾つかの実施形態によると、本明細書において記載の粒径は、平均粒径、中央粒径、モード粒径、加重平均粒径、平均Feret径、Sauter平均径、粒径の確率密度関数の最大値(任意の適用可能な数学モデル、例えば、対数正規分布、ワイブル分布、Rosin-Rammler分布、対数双曲線分布、スキュー対数ラプラスモデル分布、およびそれらに由来するさらなるモデルを使用)、または粒子の直径を決定および/または定義するために使用され得る他の幾つかの統計的測定基準として定義されてもよい。
【0074】
1つまたは複数の実施形態において、粉末の粒径(例えば、上で検討されたような平均Feret径などとして測定)は、250マイクロメートル(μm)未満(例えば、200μm未満、100μm未満、50μm未満、10μm未満など)であってもよい。言い換えれば、本開示の幾つかの実施形態は、250μmと0.01μmの間(例えば、200μmと0.01μmの間、100μmと0.01μmの間、50μmと0.01μmの間、または10μmと0.01μmの間)の粒径を有する粉末を利用する。
【0075】
幾つかの実施形態において、摩砕、粉砕、機械的分離および/または篩分けが、粉末が意図した粒径および/または粒度分布を有するよう保証するために実施されてもよい。そのような粒径作業は、粉末の1つまたは複数の成分について別々に(すなわち、混合する前に)、粉末の2つ以上の成分を合わせた後に、または両方で実施されてもよい。さらに、幾つかの実施形態において、粉末は、焼結前に摩砕および/または粉砕されて粒度および/または粒径を低減した、固化防止剤を含むかまたは含まない炭水化物の粉末粒の混合物であってもよい。
【0076】
幾つかの実施形態において、粉末はまた、機械的にまたは他の手段によって分離して、閾値サイズ未満の粉末粒を選択してもよい。サイズにより粉末を分離するそのような方法の1つは、篩分けであってもよいが、別の方法も用いられてもよい。粉末が2つ以上の成分粉末(すなわち、炭水化物粉末および/または固化防止剤)を含む場合、これらの粒子処理方法は、成分粉末を混合する前および/または混合した後に実施されてもよい。
【0077】
幾つかの実施形態において、粉末の粒径は、単層の粉末層高さに影響を与えることがあり、粉末層高さは、三次元構造の最終分解能に影響を与え得る。未焼結粉末の各付加層の粉末層高さが厚すぎる(すなわち、あまりにも多くの粉末を含んでいる)場合、粉末は互いに完全に融合することができない。十分に融合されない粉末は、成長する際、三次元構造に適切に付加できず、よって、プロセスは連続三次元構造を形成することができない。対照的に、新しく付加された各層が薄すぎる(すなわち、十分な粉末を含んでいない)場合、レーザーは先の層を過剰に焼結させ得るので、最終の幾何形状を不所望に変更し得る。
【0078】
1つまたは複数の実施形態によると、粉末は、自由流動することで、焼結により構造材料へと成功裡に形成され得る粉末層高さ(顆粒形態である場合)を有する層を形成することができてもよい。幾つかの実施形態において、粉末層高さは、250μm未満(例えば、225μm未満、210μm未満、200μm未満、175μm未満、150μm未満など)であってもよい。幾つかの実施形態において、粉末層高さはまた、100μm超(例えば、110μm超、120μm超、125μm超、150μm超)であってもよい。幾つかの実施形態において、粉末層高さは、100μm~250μmの範囲(例えば、100μm~225μmの範囲;125μm~225μmの範囲;125μm~200μmの範囲;100μm~200μmの範囲;100μm~175μmの範囲など)であってもよい。
【0079】
1つまたは複数の実施形態による焼結または溶融による粉末の凝固
【0080】
SLSは、幾つかの実施形態において用いられてもよい粉末層上に焦点を合わせたエネルギービームを用いて二次元パターンをトレースすることによって構造材料を形成するために使用できる用途の広い3D印刷の形態である。本方法の幾つかの実施形態は、粉末、例えば上で検討された粉末を凝固するためにSLSを使用してもよい。幾つかの実施形態において、粉末を焼結または溶融することで、三次元構造の形状であってもよい固体構造材料を形成することができる。幾つかの実施形態において、この三次元構造は鋳型として使用されてもよい。幾つかの実施形態において、SLSに使用されるエネルギービームはレーザービームであってもよい。SLSプロセスおよび得られる構造材料の特性は以下に詳述される。
【0081】
幾つかの実施形態において、粉末は、エネルギービームによって送られた電磁放射を吸収するので、SLS時に融合して(例えば、熱により溶融または焼結されて)構造材料を形成できる。その目的のために、幾つかの実施形態において、粉末にエネルギービームが照射されると、構造材料が形成される。したがって、二次元のエネルギービームの経路によって、粉末の領域を融合させて構造材料を形成することができる。第3の次元において順次各層をパターン化することで、三次元すべてにおいて構造材料を互いに融合させて三次元構造を形成することができる。したがって、三次元構造は、このプロセスを層ごとに繰り返すことにより、粉末系の未焼結層が、先に融合した層上に広がり、エネルギービームに曝露されることでパターン化されて三次元構造に付加することによって造形することができる。
【0082】
図5A~5Dは、1つまたは複数の実施形態に係るSLSによる三次元印刷プロセスの模式図を図示する。これらのステップのそれぞれは、以下に簡潔に検討され、さらに詳述される。
【0083】
図5Aは、印刷される三次元構造のコンピュータ25により実施されるデジタルレンダリング23を示す。
【0084】
図5Bは、3つの二次元デジタルスライス27に変換されるコンピュータ25でのデジタルレンダリング23を示す。これらのデジタルスライス27は、レーザーがSLS時に粉末を三次元構造に凝固し得る場所に対応する。
【0085】
図5Cは、SLSによるフィラメントネットワークの層ごとの造形の一部として粉末の分注を示す。
【0086】
ここで、SLSシステム2は、ステージ6、粉末リザーバ29および篩31を有する。SLSシステム2はフィラメントネットワーク5を部分的に形成している。粉末リザーバ29は粉末1を保管する。篩31は、エネルギービームを用いた融合/溶融に備えてステージ6上に粉末1の粉末層33を分注する。ステージ6は、zステージ、x-yステージまたはx-y-zステージであってもよい(ここで、z方向は、篩31からの粉末リザーバ29の流動方向として定義される)。
【0087】
ここには示されていないが、篩31、ステージ6または両方が、マイクロ電子コントローラーによって制御されてもよい。マイクロ電子コントローラーはSLS2の1つまたは複数の態様、例えば、ステージ6上への粉末1の流量、または粉末1がステージ6上に分注される位置を制御することができる。そのようなマイクロ電子コントローラーは、粉末層33の1つまたは複数の態様、例えば粉末層33の厚さを制御することができる。SLSシステム2内のマイクロコントローラーのさらなる詳細はさらに議論される。
【0088】
図5Dは、SLSによるフィラメントネットワークの層ごとの造形の一部としてレーザーパターニングを示す。
【0089】
ここでは、SLSシステム2はレーザー3も含む。レーザー3は粉末層33を焼結/融合してフィラメントネットワーク5に付加する。
【0090】
ここには示されていないが、レーザー3、ステージ6または両方はマイクロ電子コントローラーによって制御されてもよい。マイクロ電子コントローラーはSLS2の1つまたは複数の態様、例えば、レーザー3の様々な特性、またはレーザー3が粉末層33を焼結する位置を制御することができる。そのようなマイクロ電子コントローラーは、粉末層33の1つまたは複数の態様、例えば粉末層33の厚さを制御することができる。SLSシステム2内のマイクロコントローラーのさらなる詳細はさらに議論される。
【0091】
SLS造形を始める前に、幾つかの実施形態において、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアを使用して3Dモデルをデジタルレンダリングしてもよい。次いで、そのようなレンダリングが、例えば、SLSシステムと名付けられたコンピュータ支援の3D印刷プラットフォームと適合するような「.STL」ファイルなどのファイルへエクスポートされてもよい。このSLSファイルは、3DモデルをCADから、上に概説されたSLSシステムの様々なタスクに必要な正確な指示へと翻訳するのを支援することができる。そのような1つのフォーマットは、幾つかの実施形態によると、ステレオリソグラフィー(.stl)フォーマットであってもよい。
【0092】
SLSファイルはまた、例えば粉末の1層をパターン化するためにそれぞれ使用することができる一連の2D断面スライスにスライスすることにより3Dモデルを変換することができる追加のソフトウェアによって処理されてもよい。幾つかの実施形態において、このスライスプロセス中に、焼結時にSLSシステムの挙動を管理するパラメーターが規定されてもよい。幾つかの実施形態において、エネルギービームの速度および/もしくは出力、ならびに/または層それぞれの高さが、1つまたは複数のソフトウェアプログラムによって設定および/またはカスタム化されてもよい。一連の2Dスライスは、幾つかの実施形態においてGコード言語であってもよい最終フォーマットに表現されるSLSシステムに対する一連の指示として表されてもよい。一連の指示は、幾つかの実施形態において、その他の指示と共に、特定の箇所にまたは特定の経路に沿ってエネルギービームを動かし、印刷プラットフォームを下げ、および/または、粉末分配器を動かすことができる。幾つかの実施形態において、SLSシステムに対する一連の指示は、SLSシステムにより適当な解釈を保証するように炭水化物粉末の特にSLSに対する指示を最適化でき、および/または、エネルギービーム出力密度/エネルギービーム走査速度の設定を規定することができるカスタム開発されたプログラムによってさらに修正されてもよい。
【0093】
本開示実施形態による、炭水化物粉末を含む粉末からの構造材料からなる三次元構造の作製は、SLSシステムを用いて実施されてもよい。このSLSシステムは、一連の指示に従って層ごとに粉末から三次元構造を作製するために付加製造を使用する自動でコンピュータ支援の3D印刷プラットフォームであってもよい。正確にエネルギービームの空間的な位置決めを制御するために、SLSシステムのエネルギービームはガントリーまたは他のそのような機構に搭載されてもよい。幾つかの実施形態によれば、SLSシステムはまた、例えば、粉末の層が焼結された後、下向きに進むことができるようにz方向に自由に動く印刷プラットフォームを含んでもよい。幾つかの実施形態において、粉末の次の層は、粉末ホッパーから計量された量の未焼結粉末を堆積させ、次いで、分配器を使用して上記計量された量の未焼結粉末を平滑化することによって、印刷プラットフォームの上に形成されてもよい。
【0094】
SLSプロセスは、様々なタスクを担っているモーター、バルブ、機構などを制御する、SLSシステムにおけるマイクロ電子コントローラーによって調整されてもよい。幾つかの実施形態において、それらのタスクは、例えば、エネルギービームの出力を位置決めし照準し制御すること;印刷プラットフォームを位置決めし動かすこと;粉末ホッパーの機構を位置決めし制御し、分配器を位置決めし係合させること;および粉末を固体へと融合させるための他のタスクのうちのいずれかを含んでもよい。
【0095】
SLSセットを使用する凝固は、幾つかの実施形態において、印刷プラットフォーム上に手動で堆積され、使用者によって平らにされる粉末の第1の層から始まってもよい。粉末の第1の層が印刷プラットフォーム上にあれば、粉末の第1の層、続いて、ホッパーから堆積されてもよい粉末の第2の層、以下同様がエネルギービーム(例えばレーザー)によってパターン化されるように一連の指示が連続して実行されてもよい。代わりに、幾つかの実施形態において、第1の層は、第1の層の分配が一連の指示の第1の指示であるように、SLSシステムによって機械的に計量され分配されてもよい。
【0096】
幾つかの実施形態において、粉末はステージの上につるされた粉末リザーバに接続された篩の振盪によって後続の層として付加されてもよい。幾つかの実施形態は、粉末を分注する(例えば篩の)振盪動作を用いてもよい。そのような振盪動作によって、粉末を通気しおよび/または粉末の圧密化を低減してもよい。つるされたリザーバから粉末を分注した後、幾つかの実施形態において、分注量の粉末は、層の厚さがほぼ等しい粉末層になるように広げられてもよい。分注量の粉末の分配は、例えば、逆回転ローラーによって実施されてもよい。最終的に、幾つかの実施形態において、過剰の粉末(粉末層を形成するために必要とされるより多い分を意味する)は、(例えば鋤機構によって)除去され、収集されて再分配されてもよい。過剰の粉末は、印刷品質の顕著な低下がなければ何度も(例えば、数十から数百回)再分配されてもよい。
【0097】
SLSシステムは、最終幾何形状が焼結されるまで、粉末の最後の層のパターン化と粉末の次の層の堆積とを交互に行ってもよい。
【0098】
SLSによって形成された三次元構造の外観および品質は、レーザー出力密度、レーザー走査速度および/または粉末層高さを含む様々な因子によって影響を受け得る。1つまたは複数の実施形態によると、これらの設定の適当な制御によって、粉末の一貫した焼結により三次元構造を作製することが可能になる。このような因子などの不適当な値(または値の組み合わせ)は、フィーチャの分解能を下げること、意図しないフィーチャを付加すること、意図したフィーチャを取り去ること、粉末が完全に融合しないこと、ボーリング欠陥を生成すること、最終三次元構造を歪めること、空洞を付加すること、および/または意図した最終幾何形状に対する他の望まれない変更によって、意図した三次元構造とは異なる最終幾何形状をもたらし得る。
【0099】
当業者ならば、レーザー出力密度およびレーザー走査速度は相互に関係し得ることを理解するであろう。例えば、低い走査速度で動く低出力レーザーは、依然として過剰の出力を領域に与え得る。過剰の出力は、意図した最終幾何形状に対して過剰焼結、歪み、空洞および/または他の望まれない変更を引き起こし得る。
【0100】
過剰焼結とは、融合されて意図した最終幾何形状を形成する意図したパターン内の粒子と共に、意図したパターンの外部にある粒子が融合される場合である。過剰焼結は、z軸(すなわち造形軸)および/またはx軸/y軸(すなわち平面軸)に生じ得る。幾つかの実施形態において、過剰焼結は、連続した粉末層間の過剰な融合を引き起こし得るので、造形軸に沿った最終幾何形状の分解能を下げ得て、ならびに/または、造形軸および/もしくは平面軸で意図しないフィーチャを付加し得る。
【0101】
レーザー出力密度が高すぎ、および/または、レーザー走査速度が低すぎる場合、過剰焼結のような最終幾何形状に対する望まれない変更が生じ得る。さらに、低いレーザー走査速度は、粉末が焼結されている間に不規則な溶融プールをもたらし得る。不規則な溶融プールは、歪みおよび/または空洞など、意図した最終幾何形状に対するさらなる望まれない変更を引き起こし得る。
【0102】
あるいは、レーザー出力密度が低すぎ、および/または、レーザー走査速度が速すぎる場合、粉末は連続的に融合した最終三次元構造を形成することができない。これらの状況は、幾つかの実施形態において、不十分に溶融した場合に、一部の粉末が、最終三次元構造を形成する代わりに分離した球体に丸まり得るという、SLSでは時々見られるボーリング欠陥を引き起こし得る。
【0103】
幾つかの実施形態において、所与の粉末にとって、フィラメントの幅はレーザー出力、並進速度または両方の関数であってもよい。したがって、幾つかの実施形態は、フィラメント寸法を制御するためにレーザー出力、並進速度または両方を制御することができる。
【0104】
幾つかの実施形態において、並進速度とフィラメント直径の間に負の相関を有するほぼ直線の関係があってもよい。
図6および
図7は、並進速度とフィラメント直径の間の関係が負の相関を有するほぼ直線である実施形態を証明する。負の相関は、レーザー速度が増加するにつれてフィラメント幅が減少するという点で、
図6および
図7において明らかである。
図6は、1平方ミリメートル当たり45ワット(W/mm
2)の一定出力密度で造形された多数のフィラメントを含む三次元構造の写真である。1分当たり500から2,750ミリメートル(mm/分)へ各連続フィラメントの並進速度を増加させると、フィラメントの直径は800から400μm(スケールバー=1mm)に減少した。
図6は、各三次元構造の造形後に撮られた5つの画像の代表的な画像である。
図7は、それら5つの三次元構造(
図6を含む)についてのフィラメント幅対レーザー速度を数値でグラフ表示している。このグラフは、45W/mm
2の一定出力密度で400~800μmにわたる領域において並進速度とフィラメント直径の間に負の相関を有するほぼ直線の関係を示す。グラフは、n=5の印刷実行での平均フィラメント幅および標準偏差を示す。
【0105】
幾つかの実施形態において、レーザー出力密度は、20~100W/mm、例えば40~60W/mm2の範囲(例えば、45W/mm2~60W/mm2の範囲、40W/mm2~55W/mm2の範囲、45W/mm2~55W/mm2の範囲、40W/mm2~50W/mm2の範囲または50W/mm2~60W/mm2の範囲)の間にあってもよい。
【0106】
幾つかの実施形態において、レーザー走査速度は、200~4000mm/分、例えば1000mm/分~2000mm/分の範囲(例えば、1250mm/分~2000mm/分の範囲、1250mm/分~1750mm/分の範囲、1000mm/分~1750mm/分の範囲、1250mm/分~2000mm/分の範囲、1500mm/分~2000mm/分の範囲、または1000mm/分~1500mm/分の範囲)であってもよい。
【0107】
1つまたは複数の実施形態によると、SLSシステムを使用して、不均一な三次元分岐、平滑な弯曲および無支持の幾何形状を示す三次元構造が造形されてもよい。例えば、
図8Aおよび
図8B(スケールバー=10mm)は、1つまたは複数の実施形態に従って、イソマルトおよび30質量パーセント(重量%)のコーンスターチ材料の混合物を含む粉末のSLSを使用して造形された構造材料から形成された三次元構造の写真である。
図8Aおよび
図8Bの構造は、いずれも哺乳類の脈管構造のアーキテクチャーモチーフである平滑な弯曲、階層的分岐および無支持のオーバーハングを示す。
【0108】
本明細書において記載の1つまたは複数の実施形態に従って作製される相互接続した脈管ネットワークなどの三次元構造の最終幾何形状の分解能は、SLSシステムの分解能によって限定され得る。SLSシステムの分解能は、1つまたは複数の実施形態に従って形成される焼結フィラメントのおよその最小径を画定し得るエネルギービームの光学器械などの因子(例えばレーザースポットサイズ)によって限定され得る。代替の光学器械が、レーザースポットサイズを減少させるために利用されてもよく、これにより、幾つかの実施形態によれば、より小さなフィラメントを含む最終幾何形状を作製できる。さらに、SLSシステムの分解能は、粉末の直径によって限定され得る粉末層の厚さによって限定され得る。したがって、より薄い粉末層、よってより細かく粉砕された粉末によって、幾つかの実施形態によれば、より小さなフィラメントを含む最終幾何形状を作製することができる。
【0109】
幾つかの実施形態において、フィラメントは、300μm(例えば、200μm、100μm、50μm、10μmまたは1μm)の最小径を有していてもよい。幾つかの実施形態において、フィラメント(エネルギービームの単一パスによって形成される)は、1mm(例えば、5mm、10mm、50mm、100mmまたは500mm)の最大径を有していてもよい。
【0110】
図8Aおよび
図8Bに示された実施形態におけるように、固化防止剤を含む粉末から形成された三次元構造は、最終構造中に固化防止剤および炭水化物粉末の両方を含んでもよい。言い換えれば、幾つかの実施形態において、炭水化物粉末および固化防止剤を含む粉末のSLS時に行われるようなエネルギービーム照射によって、最終三次元構造への凝固時に炭水化物粉末および固化防止剤の両方を焼結および/または溶融することができる。
【0111】
1つまたは複数の実施形態によれば、ここで示されるようなイソマルトまたはイソマルト+コーンスターチで造形された焼結構造材料は、押し出された炭水化物ガラスと同じ程度の大きさのヤング率を有し、剛直で脆い。そのような構造材料は、自重を支え、複数の後処理ステップに耐え、および/または研究室間で輸送されるのに十分に頑丈である。
【0112】
図9に示され、以下の表に要約されるように、焼結された炭水化物は圧縮下で剛直で脆いので、自立し、広範囲の取り扱い、複数の被覆ステップおよび粘性のプレポリマー溶液中でのキャスティングを受け入れるようになる。
【0113】
図9は、この方法の実施形態に従って中実炭水化物円柱およびマクロ多孔性炭水化物円柱の単軸圧縮時に収集された応力(メガパスカル(MPa))対歪み(伸び率(%))のグラフを示す。
図9はまた、対応する応力対歪み曲線に隣接して位置する挿入図として、各幾何形状の模式図を示す。ヤング率(MPa)は直線領域において応力-歪み曲線の傾斜として測定し、降伏応力(MPa)は破壊前のピーク応力値として測定し、降伏歪み(%)は対応する歪みとして測定した。表中に付随する結果は、3つの独立した印刷実行にわたって造形されたn=11の中実円柱および9つの円柱格子をまとめたものである。
【0114】
【0115】
1つまたは複数の実施形態によれば、凝固された三次元構造は、自重を支えることができてもよく、脆く剛直であってもよい。幾つかの実施形態において、構造材料で造形された三次元構造は、200MPa~1000MPaの範囲(例えば、500MPa~1000MPaの範囲、500MPa~700MPaの範囲)、例えばおよそ600MPaのヤング率を有していてもよい。
【0116】
幾つかの実施形態において、構造材料で形成された三次元構造は、複数のフィラメント、三次元に分岐したパターン、相互貫入した幾何形状および/または無支持の幾何形状で形成されていてもよいフィラメントネットワークの形態をとってもよい。
【0117】
本開示の1つまたは複数の実施形態によれば、材料および/または方法は、三次元構造、したがって様々な自由形状構造および/またはパターン化流体ネットワークを含んでもよい最終幾何形状を造形するために適用されてもよい。
【0118】
構造材料は、1つまたは複数の実施形態によれば、液体との相互作用で溶解および/または崩壊することができてもよい。幾つかの実施形態において、液体は、水、食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)のうち1つまたは複数を含んでもよいが、これらに限定されず、またはこれらを利用してもよい。凝固の後、三次元構造は、以下に検討される1つまたは複数の実施形態によれば、犠牲鋳型化の鋳型として使える状態にあってもよい。
【0119】
三次元構造は、1つまたは複数の実施形態において、犠牲鋳型化に使用される前に数週間保管することができるように環境的に安定であってもよい。
【0120】
1つまたは複数の実施形態による表面平滑化
【0121】
本開示の実施形態によるSLSの後、三次元構造の表面は最初は大きい表面粗さを有し得る。この表面粗さは、一部には、粉末の緩く結合した顆粒によって三次元構造が装飾されているためであり得る。これらの緩く結合した顆粒を除去し、および/または、表面粗さを低減するために、三次元構造は、平滑化溶液を用いて表面平滑化を受けてもよい。平滑化溶液は1種または複数種の炭水化物を含んでもよい。平滑化溶液は溶媒を含んでもよい。平滑化溶液と三次元表面との接触は調整できる。幾つかの実施形態による表面平滑化の後、表面トポグラフィーがより平滑になるため、三次元構造の表面粗さを低下させることができる。幾つかの実施形態において、表面平滑化は、三次元構造のサイズおよび/または質量を変更することができる。表面平滑化の幾つかの実施形態は、三次元構造の外側に追加の炭水化物コーティングを堆積させることができる。平滑化溶液の態様は以下に詳述される。
【0122】
幾つかの実施形態において、平滑化溶液は炭水化物を含んでもよい。平滑化溶液に使用される炭水化物は、幾つかの実施形態において、イソマルト、デキストラン、スクロース、グルコース、ラクトース、トレハロース、メープルシロップおよび/またはサトウキビシロップを含んでもよいが、これらに限定されない。さらに、平滑化溶液の幾つかの実施形態は、2種以上の炭水化物を含んでもよい。平滑化溶液において使用される炭水化物は、処理される三次元構造を造形するのに使用した粉末中にあってもよいし、なくてもよい。
【0123】
幾つかの実施形態による平滑化溶液は1種または複数種の溶媒を含んでもよい。溶媒は、1つまたは複数の実施形態において、水および/または有機溶媒を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0124】
幾つかの実施形態において、平滑化溶液は、平滑化溶液が三次元構造を溶解しないように、または不所望に変更しないように、平滑化溶液中に含まれる1種または複数種の炭水化物を十分に高い濃度で有していてもよい。
【0125】
三次元構造は、幾つかの実施形態において、洗浄法、噴霧法または浸漬法によって平滑化溶液と接触されてもよい。三次元構造と平滑化溶液との接触は接触時間の間継続してもよい。幾つかの実施形態において、接触時間および/または接触方法は、接触が、緩い顆粒を除去し、三次元構造の表面を平滑化するのに十分となるように調整されてもよい。幾つかの実施形態において、接触時間および/または接触方法は、接触が三次元構造を溶解しないかまたは不所望に変更しないように調整されてもよい。
【0126】
例えば、
図10Aおよび
図10Bは、本明細書の実施形態による表面平滑化前(
図10A)および表面平滑化後(
図10B)のSLSにより形成された三次元構造の走査型電子顕微鏡写真である。
【0127】
図10Aは、先に検討された1つまたは複数の実施形態による粉末のSLSにより形成されたフィラメントの形状を有する三次元構造の走査型電子顕微鏡写真である。目視検査すると、
図10Aは著しい表面粗さを示す。この表面粗さは、表面を装飾する部分的に融合した粉末顆粒が原因であり得る。スケールバーは200μm(拡大図)および1mm(挿入図)である。
【0128】
図10Bは、平滑化溶液を用いる表面平滑化の後の同じフィラメントの走査型電子顕微鏡写真である。特に、
図10Aに示されたフィラメントは、本開示の実施形態に従って、濃縮イソマルト溶液(水中に60重量パーセント(重量%)のイソマルト)からなる平滑化溶液を用いて処理した。表面平滑化の後、フィラメントを
図10Bとして再画像化した。目視検査すると、
図10Bは低から中程度の表面粗さを示す。
図10Aのように、
図10Bのスケールバーは200μm(拡大図)および1mm(挿入図)である。
【0129】
1つまたは複数の実施形態において、表面平滑化は、三次元構造を大部分は無傷にしておくことができる。1つまたは複数の実施形態において、表面平滑化は全体的なアーキテクチャーを著しく変更しないものであってもよい。1つまたは複数の実施形態において、表面平滑化は、三次元構造の各領域にわたって著しく橋架けをしないものであってもよい。1つまたは複数の実施形態において、表面平滑化は表面粗さを減少させることができる。1つまたは複数の実施形態において、表面平滑化は、三次元構造から粉末の緩い顆粒を除去することができる。上記の特徴は、幾つかの実施形態による表面平滑化前(
図10A)および後(
図10B)に撮られたフィラメントの顕微鏡写真の比較により証明される。特に、
図10Aおよび
図10Bの比較から、全体的アーキテクチャーを著しく変更したり、フィラメントにわたって橋架けをしたりせずに、表面粗さを減少させる表面平滑化が示される。
【0130】
図10Aおよび10Bにおいて見られたフィラメント表面粗さの視覚的に明白な改善に加えて、表面平滑化の幾つかの実施形態は、以下の定量可能な方法:表面粗さの低減、フィラメント幅の低減またはフィラメント質量の増加のうち1つまたは複数においてフィラメントを変更してもよい。
図11A~
図11Dは、本開示の実施形態に従って、表面粗さ(R
a)(
図11A)、フィラメント幅(
図11Bおよび
図11C)およびフィラメント質量(
図11D)に対する表面平滑化の影響を数値で示す。
図11A、
図11Bおよび
図11Dに示されたデータは、n=9(
図11A)、n=24(
図11B)およびn=7(
図11D)に対する平均値±標準偏差である。
図11Aおよび
図11Bに関しては、対応のあるt検定としてp<0.001である。
図11Cに関しては、対応のあるt検定としてp<0.01である。
【0131】
表面平滑化の幾つかの実施形態は、低減された平均表面粗さをもたらすことができる。その目的のために、
図11Aは、本開示の実施形態による表面平滑化の後のフィラメントとしてのR
aのほぼ2倍の減少を示す。
【0132】
表面平滑化の幾つかの実施形態は三次元構造の低減されたサイズをもたらすことができる。幾つかの実施形態において、
図11Bにおけるように、そのようなサイズ変化は、表面平滑化前後のフィラメントの幅の測定値を反映し得る。その目的のために、
図11Bは、本開示の実施形態による表面平滑化の後の100μmから200μmの間のフィラメント幅の減少を示す。幾つかの実施形態は、三次元構造の幾何形状に依存し得るサイズ変化を定量化するために代替の測定基準を展開してもよい。さらに、
図11Cは、レーザー速度(mm/分)の関数としての、表面平滑化によるフィラメント幅(μm)の変化のグラフである。
図11Cは、表面平滑化によって、ほぼ一定の量、およそ100μmだけフィラメントの直径が低減されることを示す。
【0133】
表面平滑化の幾つかの実施形態は、三次元構造の質量の増加をもたらし得る。その目的のために、
図11Dは、本開示の実施形態による表面平滑化の後の10%から20%の間のフィラメント質量の増加を示す。
【0134】
幾つかの実施形態において、表面平滑化によって、追加の炭水化物コーティングを三次元構造の外側に堆積させることができる。この付加された炭水化物コーティングは、表面平滑化前の三次元構造と比較して同じまたは異なる組成を有していてもよい。
【0135】
幾つかの実施形態において、三次元構造は、さらなるステップを受ける前に、上で検討されたような平滑化溶液への曝露による表面平滑化を受けてもよい。他の実施形態において、三次元構造は、さらなるステップを受ける前に表面平滑化を受けていなくてもよい。三次元構造は、1つまたは複数の実施形態によれば、上記のような平滑化された表面をさらに含んでもよいが、含まなくてもよい。
【0136】
1つまたは複数の実施形態による表面コーティング
【0137】
三次元構造の時期尚早の溶解を防止するために、および/または、三次元構造と、マトリックス材料中に含まれてもよい細胞との間の障壁を確立するために、本方法の1つまたは複数の実施形態は、表面コーティング材料を用いて三次元構造を表面被覆するステップを含む。したがって、1つまたは複数の実施形態によると、三次元構造は表面コーティング材料をさらに含んでもよい。そのような表面コーティング材料は、三次元構造の各領域間の空間を埋め戻すことなく、および/または、三次元構造の形状を実質的に変化させることなく、表面を被覆してもよい。1つまたは複数の実施形態において、表面コーティング材料は著しく空隙空間を埋め戻さないものであってもよい。表面コーティングの態様は以下に詳述される。
【0138】
1つまたは複数の実施形態において、表面コーティング材料はポリマー溶液を含んでもよい。ポリマー溶液は、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、プルロニック(登録商標)類の一員を含む両親媒性コポリマー、ポリ(エチレングリコール)分子のエステルまたはエーテル誘導体を含む両親媒性コポリマー、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、ギー、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンを含んでもよいが、これらに限定されない。1つまたは複数の実施形態において、表面コーティング材料は1種または複数種のポリマー溶液を含んでもよい。
【0139】
表面コーティング材料の幾つかの実施形態は1種または複数種の溶媒を含んでもよい。1つまたは複数の実施形態において、表面コーティング材料はジクロロメタンおよび/またはクロロホルムを含んでもよい。
【0140】
幾つかの実施形態において、表面コーティングは、コーティング技法の中でも特に、例えば浸漬法(浸漬+溶媒蒸発)によって塗布されてもよい。
【0141】
表面コーティング材料の幾つかの実施形態は疎水性材料であってもよい。幾つかの実施形態において、表面コーティング材料は表面コーティングとして疎水性ポリマーを含んでもよい。疎水性ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ゼラチン、ゼイン、シェラック、デンプン、ワックスまたはワセリンを含んでもよいが、これらに限定されない。表面コーティングは1種または複数種の疎水性ポリマーを含んでもよい。疎水性ポリマーは、ジクロロメタンおよび/またはクロロホルムなどの1種または複数種の溶媒に溶解されてもよい。
【0142】
他の実施形態において、表面コーティング材料は、親水性および疎水性官能基の両方を含む両親媒性材料であってもよい。両親媒性材料は、上記に含まれる両親媒性材料、例えば、プルロニック(登録商標)(ポリ(プロピレンオキシド)およびポリ(エチレンオキシド)のブロックコポリマー)、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)と結合した疎水性分子、例えば、PEGステアラート、PEGオレアート、PEGラウラート、PEGヒマシ油またはPEGミリスタートを含んでもよいが、これらに限定されない。表面コーティングは1種または複数種の両親媒性材料を含んでもよい。両親媒性材料は、ジクロロメタン(DCM)および/またはクロロホルムなどの1種または複数種の溶媒に溶解されてもよい。例えば、そのような溶媒は浸漬被覆に使用されてもよい。
【0143】
幾つかの実施形態において、三次元構造は、さらなるステップを受ける前に上記に検討されたような表面コーティング材料への曝露によって表面被覆を受けてもよい。他の実施形態において、三次元構造は、さらなるステップを受ける前に表面被覆を受けていなくてもよい。三次元構造は、1つまたは複数の実施形態によれば、上記に記載のような表面コーティングをさらに含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0144】
1つまたは複数の実施形態に従って凝固され、(場合によっては)表面平滑化され、(場合によっては)表面被覆された三次元構造は、脆く剛直であってもよく、したがって、継続して自重を支えることができてもよい。三次元構造は、1つまたは複数の実施形態において、使用前に数週間保管できるよう十分に環境的に安定であり得る。凝固、(場合によっては)表面平滑化および(場合によっては)表面コーティングの後、三次元構造は、以下に検討される1つまたは複数の実施形態によれば、犠牲鋳型化の鋳型として使用されてもよい。
【0145】
実施形態による空隙空間の埋め戻し
【0146】
次に、三次元構造は、マトリックス材料を用いて三次元構造を取り囲み、マトリックス材料を凝固させることによって、マトリックス材料中に包むことができる。したがって、三次元構造の空隙空間はマトリックス材料を用いて埋め戻されてもよい。幾つかの実施形態において、この三次元構造はSLS-CaST法の鋳型として機能し得る。埋め戻しの態様は以下に詳述され、例は
図12A~12Fにさらに提示される。
【0147】
幾つかの実施形態において、マトリックス材料は直交性バルク材料であってもよい。幾つかの実施形態において、マトリックス材料は、生体材料、エラストマー、プラスチック、ヒドロゲル、生体材料、シリコーンまたは他の幾つかの硬化性材料、またはこれらの材料のうち1つもしくは複数の混合物のいずれかであってもよい。
【0148】
マトリックス材料の幾つかの実施形態は、幾つかの実施形態によれば、ポリジメチルシロキサン、ポリカプロラクトン発泡体、エポキシ系マトリックス、またはそれらの材料のいずれかのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーを含んでもよいエラストマーおよび/またはプラスチックであってもよい。1つまたは複数の実施形態において、エラストマーおよび/またはプラスチックは、これらのエラストマーおよび/またはプラスチックのうち1つまたは複数を含んでもよい。
【0149】
マトリックス材料の幾つかの実施形態は、幾つかの実施形態によれば、ポリアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリウレタン、コラーゲン、アガロース、アルブミン、アルギナート、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリン、マトリゲル、グリセリン、グリコール、マンニトール、イノシトール、キシリトール、アドニトール、グリシン、アルギニン、生物学的ポリマー分子、アルブミン、ペプチド両親媒性物質、またはそれらのモノマー、ダイマーもしくはオリゴマーを含んでもよい生体材料であってもよい。1つまたは複数の実施形態において、生体材料はこれらの生体材料のうち1つまたは複数を含んでもよい。そのような生体材料の幾つかの実施形態は、凝固後に架橋した生体材料であってもよい。
【0150】
1つまたは複数の実施形態において、生体材料は溶液中にあってもよく、したがって、マトリックス材料は溶媒をさらに含んでもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は水または食塩水であってもよい。
【0151】
幾つかの実施形態において、マトリックス材料は少なくとも1種の生体材料の水溶液であってもよい。幾つかの実施形態において、この水溶液は、生細胞の懸濁液をさらに含んでもよい。
【0152】
1つまたは複数の実施形態において、脈管ネットワークは、2種以上のマトリックス材料から形成されてもよく、各マトリックス材料は空隙空間の別個の領域を占める。例えば、相異なる材料の各層は互いの上にキャスティングされてもよい。そのような実施形態の例はさらに詳述される。
【0153】
1つまたは複数の実施形態において、脈管ネットワークは、2種以上の生細胞を含むマトリックス材料から形成されてもよく、各細胞型は空隙空間の別個の領域を占める。そのような実施形態の例はさらに詳述される。
【0154】
1つまたは複数の実施形態において、マトリックス材料および表面コーティング材料は相異なる材料であってもよい。代替の実施形態において、マトリックス材料および表面コーティング材料は同様の材料または同じ材料であってもよい。
【0155】
幾つかの実施形態において、本方法は、カプセル化した細胞の生存度に悪影響を及ぼさずに、細胞を含んだ材料と適合することができる。したがって、本方法の幾つかの実施形態は、1つまたは複数の実施形態において、細胞毒性試薬または条件を使用することなく用いられてもよい。さらに、幾つかの実施形態において、マトリックス材料、構造材料、(場合によっては)平滑化溶液および(場合によっては)表面コーティング材料は、カプセル化した細胞の生存度に悪影響を及ぼさずに、細胞を含んだ材料と適合することができる。幾つかの実施形態において、マトリックス材料および/または表面コーティング材料は生細胞を含んでもよい。以下に記載の実験によって、本開示の実施形態により形成されたパターン化導管の近くで細胞が代謝的に活性であるだけでなく、細胞が導管近くの領域において経時的に増殖することが示された。
【0156】
実施形態によるマトリックス材料の凝固
【0157】
幾つかの実施形態は、単に時間の経過とともに凝固するため、追加の処理ステップを必要としなくてもよいマトリックス材料を用いてもよいが、他の実施形態は、追加の凝固処理後に凝固するマトリックス材料を利用してもよい。追加の凝固処理は、触媒添加、光硬化、熱硬化および酵素による硬化のうち1つまたは複数を含んでもよいが、これらに限定されない。追加の凝固処理によって、マトリックス材料を架橋、分岐、ネットワーク形成するか、または他の方法で化学的もしくは物理的に変化させることで、マトリックス材料を凝固し、および/または、その剛性、強度、強靭性、硬度、弾性および/または耐久性を改善してもよい。幾つかの実施形態において、マトリックス材料の凝固(任意の追加の凝固処理を含む)は、マトリックス材料が、内部に配置または埋め込まれた構造材料で形成された鋳型を有する際に成功裡に完了することができる。マトリックス凝固の態様は以下に詳述される。
【0158】
幾つかの実施形態は、単に時間の経過とともに凝固するマトリックス材料を用いてもよい。幾つかのそのような実施形態は、マトリックス材料を凝固する追加の処理ステップを必要としなくてもよい。そのような実施形態の正確な凝固機構は、マトリックス材料内の化学反応および溶媒蒸発のうち1つまたは複数を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0159】
幾つかの実施形態は、マトリックス材料の凝固のために触媒添加を用いてもよい。幾つかのそのような実施形態は、硬化前に触媒をマトリックス材料と混合することを必要とし得る。
【0160】
幾つかの実施形態は、マトリックス材料の凝固のために光硬化(光重合とも呼ばれる)を用いてもよい。幾つかの実施形態において、光硬化のために使用される電磁放射は可視光線または紫外線(UV)を含んでもよい。上に記載の1つまたは複数の実施形態によれば、構造材料で形成される鋳型の不透明性にもかかわらず、光硬化は、ポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDA)など、光重合によってマトリックス材料を凝固するために鋳型のまわりに成功裡に用いることができる。
【0161】
幾つかの実施形態は、マトリックス材料の凝固のために熱硬化(熱重合とも呼ばれる)を用いてもよい。1つまたは複数の実施形態によると、アガロースのような熱により架橋されるマトリックス材料はSLS-CaSTと適合し得る。
【0162】
幾つかの実施形態は、マトリックス材料の凝固のために酵素による硬化を用いてもよい。幾つかのそのような実施形態は、硬化の前に酵素をマトリックス材料と混合することを必要とし得る。以前の研究では、酵素で重合した絹フィブロインおよびフィブリンのゲルは、押出を用いてパターン化するのが難しいことが示された。しかしながら、絹フィブロインおよびフィブリンなどの酵素による重合を必要とするマトリックス材料は、本開示の1つまたは複数の実施形態によれば、SLS-CaST法と十分に適合し得る。
【0163】
マトリックス材料を凝固および/または架橋するための他の追加の凝固処理も、SLS-CaST法と適合し得る。
【0164】
実施形態による鋳型の除去
【0165】
構造材料で形成されてもよい三次元構造のまわりのマトリックス材料の凝固の後、1つまたは複数の実施形態において、三次元構造はマトリックス材料内から除去されてもよい。この除去によって、三次元構造の形状でマトリックス材料内に開いた空洞を生成して、マトリックス材料内に灌流可能な区画を形成することができる。そのような事例において、ここでの三次元構造は鋳型として機能し得る。構造材料は、上述したようなSLS法の実施形態によって形成されてもよい。
【0166】
マトリックス材料内からの鋳型の除去は、1つまたは複数の実施形態によれば、液体を用いた構造材料の溶解および/または分解によって実施されてもよい。幾つかの実施形態において、液体は水、食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)のうち1つまたは複数を含んでもよいが、これらに限定されず、またはこれらを利用してもよい。
【0167】
幾つかの実施形態において、鋳型を除去するステップは、マトリックス材料内の生細胞を損傷しないものであってもよい。
【0168】
実施形態による、犠牲鋳型化されたマトリックス材料内の細胞の組み込み
【0169】
犠牲鋳型化のパラダイムは、細胞の取り扱いから三次元印刷を切り離す。したがって、レーザー焼結したフィラメントネットワークを使用することで、管腔(すなわち導管の内面に沿って)および実質部(すなわち導管の外部;組織の大部分を含む)空間の両方において細胞を支持することができる天然および合成由来の生体適合性ヒドロゲルを含む様々なマトリックス材料において灌流可能な脈管ネットワークをパターン化できる。
【0170】
幾つかの実施形態において、実質細胞は、相互接続した脈管ネットワークへと均質に組み込むことができる。幾つかのそのような実施形態は、凝固前にマトリックス材料へ細胞を混合することによって、例えばプレヒドロゲル溶液へ細胞を混合することによって、形成されてもよい。
【0171】
幾つかの実施形態において、流路に近接した脈管ネットワークの領域に内皮細胞が播種されてもよい。幾つかのそのような実施形態は、相互接続した脈管ネットワークに高密度の細胞懸濁液(例えば1ml当たり30×106個の細胞)を注入して形成されてもよい。幾つかの実施形態において、相互接続した脈管ネットワークは、細胞懸濁液が相互接続した脈管ネットワークに注入された後、流路をすべて被覆するために回転させてもよい。そのような実施形態において、内皮細胞(例えばヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC))は、脈管ネットワークの管腔表面に接着し、各流路に沿って単層を形成してもよい。
【0172】
身体の健常および病変組織はいずれも、細胞および細胞外マトリックス(ECM)の空間的に画定されたゾーンを特徴とする。例えば、筋骨格系は、骨、軟骨および腱の間の界面を含み、損傷した組織は、線維性瘢痕組織の領域を有し得、組織内の腫瘍は、細胞およびECMの特有の微小環境を有する。管腔の内皮細胞と並んでの実質線維芽細胞の培養は、推定上の毛細管ネットワークなどの高次構造への内皮細胞の自己組織化を安定させる際にそのような間質細胞によって果たされる決定的な役割のために、妥当なモデルである。したがって、幾つかの実施形態は、細胞およびマトリックス材料の空間的に不均一な構成を有する相互接続した脈管ネットワークを含んでもよい。
【0173】
幾つかの実施形態は実質細胞および内皮細胞の両方を含んでもよい。幾つかの実施形態において、凝固前にマトリックス材料へ細胞を混合することにより、実質細胞を均質に組み込み、続いて、形成後に脈管ネットワークに細胞を含んだ流体を流すことによって内皮細胞を組み込むことができる。1つまたは複数の実施形態において、脈管ネットワークは、2種以上のマトリックス材料から形成されてもよく、各マトリックス材料は空隙空間の別個の領域を占める。マトリックス材料のそれぞれには、1種または複数種の実質細胞が播種されてもよいし、されなくてもよい。
【0174】
例として、管腔細胞(HUVEC(GFP))および実質細胞(IMR-90線維芽細胞(ヒストン2B(H2B)-mOrange2)、1ミリリットル当たり(/mL)2.5×106個)の細胞集団の独立した播種が、ゼラチンメタクリラート(GelMA;10重量%)マトリックス材料内にパターン化された樹枝状脈管ネットワークに対して示された。
【0175】
灌流培養(流量に勾配を付けて)の11日後、内皮層は安定であり、よく維持され、推定上の内皮芽の形成、線維芽細胞を含んだ実質区画への成長を示した。さらに、IMR-90線維芽細胞の均一な間質播種が見られた。部分的な共焦点蛍光顕微鏡検査によって、樹枝状ネットワークにおいて一連のチャネル分岐にわたるHUVECの播種がさらに示された。HUVECは、ネットワークの中央チャネルにわたって、個々のチャネルの周囲のまわりに十分に分配される。したがって、内皮化されたチャネルは、ネットワークの様々な分岐にわたって、チャネルの全周囲のまわりに内皮細胞の均一な被覆を示した。
【0176】
実質ゾーンに細胞を均質に播種することに加えて、実施形態は、単一の空間的にパターン化し相互接続した脈管ネットワークを形成するために戦略的に順次のゲル重合、別々の細胞集団および別々のマトリックス材料の組み合わせを含んでもよい。細胞および材料の空間的に不均一な構成を有するそのような相互接続した脈管ネットワークは、灌流培養下で実施される界面組織工学またはスクリーニング検査などの用途に有用であり得る。
【0177】
例えば、脈管外の組織の移行ゾーンを、共有される脈管ネットワークに沿ってキャスティングして、一体化した灌流可能な構築物を形成した。空間的な組織パターニングに対する制御が、光重合したGelMA(10重量%)中に線維芽細胞(IMR-90(H2B-mOrange2);5×106/ml)と共にがん凝集物(344SQ(H2B-mVenus));15,000凝集物/ml)を含む底部ゾーン、フィブリン(10mg/ml)と混合されたGelMA(7.5重量%)中に内皮細胞(HUVEC(GFP);5×106/ml)と並んで線維芽細胞(10×106/ml)を含む中間ゾーン、および酵素で重合されたフィブリン(20mg/ml)中に支持線維芽細胞(5×106/ml)と共に内皮細胞(15×106/ml)を含む上部ゾーンの播種により明らかとなった。個々の蛍光チャネルの画像は、ゾーン間の十分に画定された界面を示しており、分岐した脈管ネットワークへの複数日数の灌流によって、チャネル開存性および層間の頑丈な積層が示された。
【0178】
実施形態によるSLS-CaSTにおけるマトリックス材料の例
【0179】
図12A~12Fの写真は、1つまたは複数の実施形態に従ってSLS-CaST法を使用して形成された各種の組成、剛性および/または凝固機構の多数のマトリックス材料内の同様な形状のチャネルを示す。ここで、SLS-CaSTの手順は、これらのマトリックス材料のそれぞれを通る相互接続した脈管ネットワークを形成するチャネルを形成するために、フィラメントネットワークの形状の単一の鋳型設計を用いた。マトリックス材料のそれぞれは、上述した実施形態によれば、鋳型のまわりに埋め戻し凝固させ、その後、鋳型を溶解した。
図12A~12Fは、相互接続した脈管ネットワークを青い染料を用いて灌流することによって、各マトリックス材料を通る相互接続した脈管ネットワークを強調している。
図12A~12Fに見られるように、パターン化したチャネルネットワークへの灌流によって、各マトリックス材料内の相互接続した脈管ネットワークのチャネル開存性および接続性を示すことができる。さらに、
図12A~12Fは、様々な凝固方法を有する様々なマトリックス材料凝固物を示す。試料造形の詳細はさらに検討される。
【0180】
図12Aおよび12Bは、1つまたは複数の実施形態に従って、剛直なエラストマーまたはプラスチック、特に
図12Aのポリカプロラクトン(PCL)発泡体および
図12Bのポリジメチルシロキサン(PDMS)(スケールバー=5mm)内の相互接続した脈管ネットワークを示す。したがって、剛直なエラストマーまたはプラスチックは、本開示の実施形態によれば、SLS-CaST法のマトリックス材料として使用されてもよい。1つまたは複数の実施形態によれば、剛直なエラストマーまたはプラスチック内にパターン化されたチャネルは、マイクロ流体デバイスとして、または骨組織工学用の足場として、ファントムを画像化するための用途を有していてもよい。
【0181】
図12C~12Fは、1つまたは複数の実施形態に従って、各種の剛性および凝固機構の一連の天然および合成由来ヒドロゲル(例えば生体材料)を含むマトリックス材料内の相互接続した脈管ネットワークを示す。したがって、天然または合成由来ヒドロゲルは、本開示の実施形態によれば、SLS-CaST法のマトリックス材料として使用されてもよい。これらの実施形態は、様々な架橋機構、機械的性質および細胞マトリックス相互作用を用いてマトリックス材料から相互接続した脈管ネットワークを造形するためのSLS-CaSTの多用途性を強調する。特に、本開示の実施形態によれば、
図12Cで利用されたヒドロゲルはPEGDAであり、
図12Dではアガロースであり、
図12Eでは絹フィブロインであり、
図12Fではフィブリンである。
【0182】
生体材料内の相互接続した脈管ネットワークは、幾つかの実施形態によれば、灌流可能なモデル組織として使用されてもよい。したがって、
図12C~12Fに示された各相互接続した脈管ネットワークは、細胞毒性試薬または条件を使用しないで生体材料内に形成した。1つまたは複数の実施形態において、相互接続した脈管ネットワークが形成されてもよい生体材料は、生細胞の懸濁物をさらに含んでもよい。
【0183】
さらに、
図12A~12Fは、本明細書の実施形態に従って異なる追加の凝固処理を用いたマトリックス材料を示す。
図12Aは、マトリックス材料(ポリカプロラクトン(PCL))が、最初は溶媒(クロロホルム)を含むように調製され、一晩硬化させた際に大部分は溶媒蒸発によって凝固した本開示の実施形態である。
図12Bにおいて、マトリックス材料(PDMS)は、本開示の実施形態に従って、最初は触媒を含めて調製され、48時間の硬化の際に凝固した。
図12Cは、光重合が、様々な角度からの入射光を使用して光重合によってPEGDAを架橋するために成功裡に実施された本開示の実施形態を示す。
図12Dは、熱硬化が、高温への曝露によってアガロースを架橋するために成功裡に用いられた本開示の実施形態を示す。最後に、
図12Eおよび12Fは、本開示の実施形態に従って、絹フィブロインおよびフィブリン内に形成されたパターン化チャネルを示し、よって、鋳型のまわりに埋め戻すマトリックス材料に対する酵素による重合の成功を図示する。マトリックス材料が不透明であるので、
図12AのPCLを使用して形成された脈管ネットワークはマイクロコンピュータ断層撮影法(μCT)を用いて画像化された。対照的に、様々な透明マトリックス材料で形成された脈管ネットワークは、青い液体を用いて灌流し、撮影された(
図12B~12F)。
【0184】
実施形態による、SLS-CaSTにより造形された複雑なチャネルアーキテクチャー
【0185】
本明細書の1つまたは複数の実施形態はまた、天然の哺乳類の脈管ネットワークの顕著なアーキテクチャーモチーフの幾つかを包含するより複雑なチャネル構成をパターン化することができる。ここで
図13~16を参照すると、1つまたは複数の実施形態に従って、階層的に分岐し相互接続した脈管ネットワークが示される。
図13~16のそれぞれは、1つまたは複数の実施形態に従って、2重量%の低融点アガロースのマトリックス材料から上記に検討されたSLS-CaST法を使用して形成された。さらに、幾つかの実施形態において、マトリックス材料は、多数の流体的に独立した流路を有する相互接続した脈管ネットワークを画定することができる。
図17A~17Dは、2つの流路を有するそのような相互接続した脈管ネットワークを示す。
図13~17の実質的に相互接続した脈管ネットワークのための造形方法のさらなる詳細は、さらに検討される。
【0186】
チャネルの軸方向の先細りは、押出を用いた印刷には重要であるが、1つまたは複数の実施形態によれば、焼結した炭水化物鋳型に容易に組み込むことができ、したがって、マトリックス材料内に形成された相互接続した脈管ネットワークにおいて下流で実現することができる。その目的のために、
図13A~13Eは、先細りしたチャネルおよび平滑な弯曲を有するマトリックス材料内の相互接続した脈管ネットワークの実施形態を示す。
図13Aは、2つの断面の位置を示す2つの平面を含む実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図を示す。相互接続した脈管ネットワークは、10mm×20mm×4mmであり、800マイクロリットル(μL)の容積を有する。断面平面AおよびBも表示される。
図13Bは、鋳型として使用するためにSLSによって造形されたフィラメントネットワークの斜視図写真である。
図13Cは、スケールバー=2mmを示す得られる相互接続した脈管ネットワークの上面図の写真である。
図13Dは平面Aで得られる断面の写真であり、
図13Eは平面Bで得られる断面の写真である。
図13Cおよび
図13Dに示された平面でのマトリックス材料の断面は、環状プロファイルを有するチャネルを示す。示された平面でのマトリックス材料の断面は、マトリックス材料の中央に接近するにつれて直径が小さくなる環状プロファイルを有するチャネルを示す。この変化は、マトリックス材料の中央に接近するにつれて直径が小さくなる、マトリックス材料の中央により接近して生じる断面(
図13D)を、マトリックス材料の中央からより離れて生じる断面(
図13C)と比べることによってわかる。
【0187】
既存の押し出された犠牲鋳型の場合、フィラメント交差は、各フィラメントをそれぞれの上に堆積させる必要がある(すなわち、別々の平面において、冗長な材料の分注を必要とする)。したがって、押し出された鋳型でパターン化された導管間接合部は、この積み重ねられた丸太小屋形態を保持し、これは天然の導管間接合部と著しく異なる。対照的に、1つまたは複数の実施形態によると、SLS鋳型は、多くの隣接したチャネル間の接合部についてさえ継ぎ目がない分岐する移行部を提供し得る。したがって、
図14A~14Eは、単一の入口および単一の出口から4つの娘分岐に平滑な移行を示す三次元の相互接続した脈管ネットワークの実施形態を示す。
図14Aは、そのような実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図を示す。相互接続した脈管ネットワークは、7mm×13mm×7mmであり、650μLの容積を有する。
図14Bは、鋳型として使用するためにSLSにより造形されたフィラメントネットワークの上面図写真である。
図14Cは、スケールバー=5mmを示す得られる実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視図写真である。
図14Dは、同じ脈管ネットワークの上面図を示す写真である。
図14Eは、脈管ネットワークの中央近くの4つの娘分岐を通って得られる断面の写真である。
図14Eは、4つの娘分岐のそれぞれについて別個の丸いチャネルを明白に示す。
【0188】
幾つかの実施形態において、SLS-CaSTは、
図15A~Fおよび
図16A~Fに示されるように三次元すべてに階層的なチャネル分岐を有する相互接続した脈管ネットワークを作製するために使用されてもよい。対照的に、複数の分岐する反復部も、つるされたオーバーハング幾何形状も、既存の押出印刷プロセスでは容易には作製できない。そのような実施形態は、例えば哺乳類の脈管構造の複製に有用であり得る。そのような実施形態の場合、これらの例のアーキテクチャーを作製するための炭水化物鋳型は、無支持のオーバーハングおよび/またはアンダーハング、分岐、または鋳型のx、yおよびz軸に傾斜して配向した弯曲チャネルのうち1つもしくは複数を必要とし得る。
【0189】
その目的のために、
図15A~15Fは、1つまたは複数の実施形態に従って、複数の分岐する反復部およびつるされたオーバーハング幾何形状を含む三次元の階層的ネットワークの形態の相互接続した脈管ネットワークを示す。したがって、
図15A~15Fは、つるされたオーバーハング幾何形状を有する8つの娘分岐反復部を示す三次元の相互接続した脈管ネットワークの実施形態を示す。
図15Aは、そのような実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図を示す。相互接続した脈管ネットワークは16mm×25mm×8mmであり、3.2ミリリットル(mL)の容積を有する。
図15Bおよび15Cはそれぞれ、鋳型として使用するためにSLSにより造形されたフィラメントネットワークの斜視図および上面図を示す写真である。
図15Dは、スケールバー=10mmを示す得られる実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視図写真である。
図15Fおよび15Fはそれぞれ、同じ脈管ネットワークの上面図および側面図を示す写真である。
【0190】
さらに、
図16A~16Fは、1つまたは複数の実施形態に従って、ねじれた三次元の階層的ネットワークの形状を有する相互接続した脈管ネットワークを示す。さらに、
図16A~16Fの脈管ネットワークは、
図15A~15Dと比べて、三次元すべてにわたって先細りする平滑で不均一な分岐およびより高度のチャネル蛇行を有する。
図16Aは、そのような実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図を示す。相互接続した脈管ネットワークは16mm×25mm×10mmであり、4mLの容積を有する。
図16Bおよび16Cはそれぞれ、鋳型として使用するためにSLSにより造形されたフィラメントネットワークの斜視図および上面図を示す写真である。
図16Dは、スケールバー=10mmを示す得られる実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視図写真である。
図16Eおよび16Fはそれぞれ、同じ脈管ネットワークの上面図および側面図を示す写真である。
【0191】
幾つかの実施形態において、実質的に相互接続した脈管ネットワークは、マトリックス材料を通る複数の独立した流路を含んでもよい。言い換えれば、幾つかの実施形態において、マトリックス材料は、2つ以上の流体的に分離された流体路を有する実質的に相互接続した脈管ネットワークを画定することができる。そのような実質的に相互接続した脈管ネットワークは、複数の独立した流路のための鋳型として機能する複数のフィラメントを含むフィラメントネットワークを使用して形成されてもよい。
【0192】
そのような脈管ネットワークの幾つかの実施形態は、絡み合っていない複数の独立した流路を画定する複数のフィラメントを含むことができる。言い換えれば、そのような脈管ネットワークは、各流路がフィラメントネットワークによって画定された複数の独立した流路を含むことができ、フィラメントネットワークはフィラメントネットワークのいずれも壊さずに分離することができる。そのような実施形態は、SLSによって複数のフィラメントネットワークを別々に造形し、マトリックス材料の凝固の直前にフィラメントネットワークを近接して配置することによって形成されてもよい。
【0193】
そのような脈管ネットワークの幾つかの実施形態は、「絡み合った」複数の独立した流路を画定する複数のフィラメントネットワークを含んでもよく、それは、フィラメントネットワークが幾何学的に連結され、したがってフィラメントネットワークのうち少なくとも1つを壊すことなく分離することはできないことを意味する。幾つかの実施形態において、そのような実質的に相互接続した脈管ネットワークの形成は、SLSによって複数の絡み合ったフィラメントネットワークを造形し、マトリックス材料中に脈管ネットワークをキャスティングすることを含んでもよい。幾つかの実施形態において、絡み合ったフィラメントネットワークは、マトリックス材料の導入前に相互接続した脈管ネットワークにそれらの最終配置を映し出すように造形されてもよい。
【0194】
図17Aは、2つのフィラメントネットワークを有するそのような実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図を示す。相互接続した脈管ネットワークは18mm×30mm×8mmであり、4.3mLの容積を有する。
図17Bおよび17Cはそれぞれ、鋳型として使用するためにSLSにより造形されたフィラメントネットワークの斜視図および上面図を示す写真である。
図17Dは、スケールバー=5mmを示す得られる実質的に相互接続した脈管ネットワークの斜視図写真である。
図17Eおよび17Fはそれぞれ、スケールバー=5mmを有する同じ脈管ネットワークの上面図および側面図を示す写真である。
【0195】
細見すると、
図17A~Fの2つの絡み合ったフィラメントネットワークがSLSによって別々に造形してからマトリックス材料の凝固直前に絡み合わせることができなかったことがはっきりわかる。代わりに、
図17A~Fの2つの絡み合ったフィラメントネットワークは、固体マトリックス材料内でそれらの最終形態とほぼ等価な形態でSLSによって共造形された。特に、
図17Bは、本開示の実施形態に従ってSLSによって同時に造形された2つの絡み合ったフィラメントネットワークを示す。
図17Bの造形された状態のフィラメントネットワークは、マトリックス材料の導入または凝固の前の相互接続した脈管ネットワークの最終配置を映し出している。
【0196】
実施形態によるSTS-CaSTにより造形されたモデル組織
【0197】
図18A~18Bおよび
図19A~19Bは、本開示の1つまたは複数の実施形態に従って、生細胞を含む細胞外マトリックス(ECM)材料からSLS-CaSTにより造形された相互接続した脈管ネットワークを示す。そのような実施形態は、犠牲鋳型化されたモデル組織内の細胞の代謝活性を評価するために使用されてもよい。
【0198】
図18Aは概略的に脈管ネットワークを示し、
図18Bは、染色および画像化のために断面出しした後の脈管ネットワークを概略的に示す。相互接続した脈管ネットワークは6mm×15mm×6mmである。光学的画像化の前に、脈管ネットワークは、y方向(流動方向と平行)に300μm厚のスライスへ断面出しされ、染色され、
図19Aおよび19Bに示されるように光学顕微鏡検査によって画像化される。細胞染色は、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を使用して実施し、核染色はNuclear Green(商標)LCS1を使用して実施した。
【0199】
図19A~19Bは、本開示の実施形態に従って、1ミリリットル当たり10e6個の細胞(細胞/mL)(
図19A)および60e6個の細胞/mL(
図19B)の細胞密度を有するECMマトリックス材料を使用して造形された細胞を含んだ2つの脈管ネットワークの光学的顕微鏡写真である。
【0200】
各試料は、0日、3日および7日目の細胞培地を用いた灌流後の画像であった。したがって、時間が経過するにつれて、
図19A~19Bは、チャネル近くの高活性な細胞の特徴的な環状領域の発達を示す。0日目の挿入図は、拡大した領域の位置を示す破線を有する断面全体を示す。
【0201】
各図に示された紫色のシグナルは、生細胞が化合物3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を活発に代謝すると形成されるホルマザン沈殿物を反映する。
【0202】
上記を考慮して、本開示の実施形態において記載されるようなSLS-CaSTによるECM全体のワンステップキャスティングは、非常に時間がかかる細胞/ECM印刷の必要性を無くし、組織造形における専門家ではない者がパターン化した脈管ネットワークを用いて実験を実施することを可能にし、より広範囲の細胞、凝集物およびオルガノイドを用いる実験を促進することができる。実際に、押出に耐性のない細胞、および/または凝集物での培養から利益を得る細胞は、本明細書において記載の1つまたは複数の実施形態によれば、SLS-CaSTを使用して脈管化モデル組織へ成功裡に組み込むことができる。さらに、本明細書の1つまたは複数の実施形態は、実験計画から脈管アーキテクチャーの造形を切り離し、過去数十年間にわたって発展した著しい全範囲の生体材料への使用者の制約のないアクセスを提供することができる。
【0203】
実施形態による人工脈管構造のコンピュータ設計
【0204】
調整可能な導管トポロジーを用いて生体模倣脈管ネットワークを設計するために、葉脈相の数理モデルを用いて、本明細書において開示されるような分岐脈管ネットワークを計算的に育ててもよい。そして、このようにモデル化されるネットワークは、1つまたは複数の実施形態に従ってSLS-CaST法によって作製されてもよい。葉脈の形成の有力な仮説は、オーキシンホルモンの流れと葉脈の発現の間のフィードバックループとして葉脈の分化を説明するオーキシンキャナリゼーション理論である。オーキシンキャナリゼーションに着想を得た空間コロニー形成アルゴリズムは、以前にパラメトリックツリー成長のために作り上げられた。自然の脈管構造をよりよくモデル化するために、ミューチュアルツリーアトラクション(Mutual Tree Attraction)と呼ばれるモデル化骨格を開発して、単一の入口および単一の出口を有する分岐した三次元ネットワークを生成した。
図20A~20Dは、1つまたは複数の実施形態に従って、樹枝状脈管ネットワークを計算的に育てるためのミューチュアルツリーアトラクションを図示する。特に、
図20A~20Dは、本開示の1つまたは複数の実施形態に従って、ミューチュアルツリーアトラクションによる2Dアーキテクチャーを有する樹枝状脈管ネットワークのアルゴリズム成長の模式図を示す。
【0205】
1つまたは複数の実施形態において、ミューチュアルツリーアトラクション法は、
図20A~20Dに概略的に示されるように、以下を含んでもよい:樹枝状ネットワークが生成される二次元または三次元の成長領域のインスタンス化、および一連の接続したノードを生成するための開始点として機能する2つ以上のシードノードのインスタンス化;生体模倣分岐ツリー様形態で接続されるようにシードノードから始まる一連のノードおよびエッジの位置の計算;各ノードツリーからの終端ノードの接続による閉じた分岐ネットワーク(樹枝状ネットワーク)の形成;ならびにノードツリーに従う円柱状フィラメントの生成による樹枝状脈管ネットワークの三次元モデルの形成。幾つかの実施形態において、ここで検討された樹枝状脈管ネットワークを計算的に生成する方法によって、上で検討されたようなSLS-CaST法により形成された相互接続した脈管ネットワークのための樹枝状ネットワークのアーキテクチャーを生成することができる。
【0206】
幾つかの実施形態において、仮想のホルモン源が確率的に、二次元または三次元成長領域内に配置され、入口および出口から始まる一連のノードの成長経路および分岐挙動に作用してもよい。したがって、各シードノードは、1つまたは複数の実施形態によれば、ノードの分岐ツリーのルートになってもよい。一連の離散時間ステップによって、入口または出口を表す各シード点は、他のところで記載されるように、成長領域を充填するノードの分岐ツリーのルートになる。幾つかの実施形態において、分岐形態は、ホルモン源密度、および距離とともに減衰するホルモン源の誘引作用の調節により調整されてもよい。
図20Aにおいて、2つのシードノード51は楕円の成長領域53内に位置する。第1の挿入模式図は、成長領域53内の仮想のホルモン源55の誘引場を示す。第2の挿入模式図において、ルート57は、ノード51(ここではシードノード)と仮想のホルモン源55の間の平均ベクトルに沿って伸長され、第2のノード59を形成する。ノード59は、複数のノードがそれぞれの近接したホルモン源55に差次的に誘引されて形成された分岐点である。
【0207】
閉じたアーキテクチャーを形成するために、各ツリーの活発に成長している分岐先端は、対向するツリーの分岐を誘引する追加のホルモン源として振る舞ってもよい。したがって、各ノードツリーの前進する先端は、2本の成長しているツリーが成長領域の中央に接近すると、それらの末端分岐が相互に誘引されるように、追加のホルモン源として振る舞ってもよい。
図20Bは、本開示の幾つかの実施形態に従って、各ツリーが成長して他方に接近するこの中間段階を示す。各ノードツリーは、前進する先端69で終端した分岐67を含む。各ノードは、対向するツリーからのノードのためのホルモン源として機能する。したがって、先端が集まることによって、連続的な分岐が生じる。
【0208】
幾つかの実施形態において、成長領域のホルモン源は、両方の前進するツリーに作用し得るが、先端のホルモン源は対向するツリーに作用し得る(すなわち、自己誘引はツリー内では禁止され得る)。その目的のために、
図20Cは、2つのツリーが集まることで閉じたネットワークを形成したネットワーク71の状態を示す。
【0209】
最終的に、脈管ネットワークを表すノードおよびエッジのセットは、幾つかの実施形態に従って導管直径を割り当てられてもよい。また、入口および出口が付加されてもよい。したがって、典型的なデジタル造形ツールチェーンと適合するアーキテクチャーの三次元モデルが形成されてもよい。ここで、
図20Dは、導管厚さが割り当てられ、入口75および出口77が付加されれば、この方法により作製される最終ネットワーク73の例を示す。
【0210】
導管厚さは、1つまたは複数の実施形態によれば、ネットワーク成長ステップから独立して割り当てられてもよく、Murrayの法則または他の理論的な関係に由来し得る。1つまたは複数の実施形態において、フィラメントの寸法は、Murrayの法則を含むが、これに限定されない数学的な関係を通して求めることができる。完成したアーキテクチャーは、そのツリー様形態を鑑みて樹枝状ネットワークと称され得るが、これは生物学やそれを超えて遍在する自然の流動系を連想させる。
【0211】
実施形態によるSLS-CaSTを使用するモデル哺乳類脈管構造の造形
【0212】
ここで
図21A~21Gを参照すると、1つまたは複数の実施形態に従って、SLS-CaSTによってマトリックス材料内にチャネルを形成するためにSLSにより形成された鋳型を使用して複数のフィラメントで作製されたフィラメントネットワークの形状の相互接続した脈管ネットワークの造形が図示される。ここで、
図21A~21Fは、広範囲の無支持の分岐およびフィラメントの先細りを有する生成的な樹枝状アーキテクチャーを表示する。得られる穴の開いたまたはパターン化されたマトリックスにおいて、チャネルはすべて無傷であり連続している。
【0213】
相互接続した脈管ネットワークの斜視模式図が
図21Aに見られる。
図21Bは、平面CおよびDを示す同じ脈管ネットワークの上面模式図であり、平面Cは入口により近く、平面Dは脈管ネットワークの中央により近い。相互接続した脈管ネットワークは、1つまたは複数の実施形態によれば、三次元楕円領域内に計算的にモデル化した。
【0214】
図21Cは、
図21Aおよび21B(スケールバー=10mm)に示されたフィラメントネットワークまたは樹枝状脈管ネットワークの模式図の形状の相互接続した脈管ネットワークのための鋳型の写真である。
図21Aについてモデル化された相互接続した脈管ネットワークは、1つまたは複数の実施形態に従って、粉末からSLSを使用して造形した際の
図21Cに示される。相互接続した脈管ネットワークのための鋳型は、合計33本の娘導管への単一の入口と単一の出口の間の階層的分岐を特色とする。
【0215】
図21Dは、
図21Cに示される鋳型のマイクロ-コンピュータ断層撮影法(μCT)の断面である。
図21Dは、33本の娘導管の無傷性を示す。
【0216】
図21E~21Gは、1つまたは複数の実施形態に従って、
図21A~21Dの樹枝状炭水化物鋳型の犠牲鋳型化によって形成された最終の相互接続した脈管ネットワークの写真である。本開示の実施形態に従ってアガロースヒドロゲル(2重量%)中でSLS-CaSTによって形成された後、
図21E(スケールバー=10mm)に撮影された相互接続した脈管ネットワークは開存性であり、青い液体を用いて十分に灌流した。
図21Eおよび21Fに示される完成した脈管ネットワークの断面(それぞれ平面CおよびDとして
図21Bに概略的に示される)は、アガロースヒドロゲルマトリックス材料内のほぼ円形の断面を有する十分に灌流されたチャネルを図示する。
【0217】
図21Eおよび21Fの最終の相互接続した脈管ネットワークを通る流体対流の理論的および経験的な評価は、これらのネットワークが、様々な流量(Q)にわたり、チャネル区間すべてにわたって効果的に流れを分配することができることを明らかにした。アガロースゲル中に犠牲鋳型化された平面状の樹枝状ネットワークの灌流によって、分岐のすべてを通る流体流が生じた。分岐する流体の流れは娘分岐では低い速度を示したが、合流すると集まった流れは速度を増した。放物線状速度プロファイルは、ニュートン流体の層流について予想されるように、適用された流量に正比例して増加した。さらに、標準計算流体力学(CFD)を使用してこの脈管ネットワークを通る対流をシミュレーションすると、実験的に観察された速度プロファイルが同程度の大きさで再現されたので、そのようなシミュレーションが、樹枝状アーキテクチャーにおいて発生する速度プロファイルおよび大きさへの有意義な予言的洞察を提供することができることが示された。
【0218】
3つの個々の粒子画像速度測定(PIV)実験の結果を吟味すると、独立したゲル複製物は、再現可能な最大速度の大きさ(vmax)および壁剪断応力(WSS)を示し、適用された流量に正比例して予想通りに増加した
【0219】
【数1】
計算的に予測された値は同じ傾向に従い、実験値より多少大きい大きさを有していたが、このことは、実験に使用したマイクロボア管における摩擦損失によって説明することができる。速度値に比べて剪断応力値間の比較的大きい偏差は、剪断応力値が、物理的粒子がより希薄で定量アーチファクトの傾向が高いチャネルエッジで計算されるという事実によって説明することができる。最大速度および壁剪断応力は同じ軸方向の距離でチャネルにわたって一貫していたので、ネットワーク全体にわたって均一に分布した流体流が示された。さらに、ネットワークの特定区間を通る体積流量(したがって速度プロファイル)は、局所半径に強く依存しており(Q=(πΔPR
4)/(8μL))、鋳型化ネットワークにおける速度を記録する際に元の炭水化物鋳型の小さな差異が増幅され得ることを示唆している。最終的に、PIVは比較的低い流量の領域にわたってのみ扱えるが、これらのネットワークは、毎分数十または数百ミリリットルのオーダーではるかに大きい流量に(恐らく材料に応じて)耐えることができる。例えば、毎分120ミリリットル(mL/分)の流量は、このアーキテクチャーによって十分に許容されたが、これは、脈管ネットワークの中央近くで調査された領域についてv
max=1.3×10
6マイクロリットル/分(μL/分)およびWSS=148ダイン/平方センチメートル(dyn/cm
2)に理論上対応する。これらの急速にキャスティングされたゲルの一体化性は、大きい流量に耐えるこの観察された能力と直接に関連し得る。なぜなら、剪断または剥離され得るゲルの個々の層または押出されたフィラメントがないからである。3つの独立したゲルにおける複製PIV実験は、再現可能な流体対流(すなわちv
max)および壁剪断応力を示し、流量との理論上予想される正比例関係に従っていた。
【0220】
図21A~21Fより大きく複雑な樹枝状ネットワークをミューチュアルツリーアトラクションによって生成し、炭水化物鋳型として造形し、細胞を含んだアガロースゲル(25e
6細胞/mL、2重量%)を用いてキャスティングした。ゲルの中央からの切片(500μm厚)のMTT染色は、0日目で開存性チャネルおよび均一に分配された代謝活性な細胞を示す。この樹枝状アーキテクチャーの中央の脈管近接度は、MTT染色された組織切片を分割し、実質空間の各箇所から最も近い脈管チャネルまたは外表面までの距離の地図を生成することによって定量化した。ヒストグラムおよび対応する累積分布関数として地図を表すことによって、このアーキテクチャーの中央の組織体積の65%が導管の1mm以内に存在し、体積の88%が1.5mm以内に存在することが示され、このアーキテクチャーが、他のところで検討される約1mmの生存可能な距離内で細胞を成功裡に支持することができることが示唆された。より小さな導管および導管間距離をSLS-CaSTにより容易に造形することができるが、この例によって、脈管ネットワークの複雑さが組織体積のスケールに対応すること、および脈管近接度を説明する新しい測定基準を導入することの必要性が強調された。
【0221】
1つまたは複数の実施形態による樹枝状脈管ネットワークのための犠牲鋳型
【0222】
特に、上述した1つまたは複数の実施形態によれば、炭水化物のSLSによって、広範囲の三次元分岐および/または無支持の幾何形状を有するものを含む、これまで入手できなかったアーキテクチャーを有する鋳型の造形が可能になる。よって、1つまたは複数の実施形態によれば、炭水化物のSLSの1つの用途は、生体適合性マトリックス内に相互接続した脈管ネットワークを作製するために犠牲鋳型を形成することであってもよい。したがって、生体適合性マトリックス内にSLS-CaSTによって形成される相互接続した脈管ネットワークは、樹枝状脈管アーキテクチャー(例えば、上述し、
図20A~20Dおよび
図21A~21Gに示したもの)の形態をとってもよく、より正確に生物学的構造を模倣するためにこれらの新しく入手可能なアーキテクチャーのフィーチャを含んでもよい。上記を考慮して、SLS-CaSTは、自然の生理学を模倣し得る組織工学的に作製されたモデル組織を形成するための優れた方法であり得る。
【0223】
1つまたは複数の実施形態において、樹枝状脈管ネットワークの三次元モデルは、上述したミューチュアルツリーアトラクションアルゴリズムを使用して計算的に生成されてもよい。したがって、導管直径は、1つまたは複数の実施形態によれば、Murrayの法則または他の数学的な関係によって提供されてもよい。さらに、計算的に生成された樹枝状脈管ネットワークの形状を有する相互接続した脈管ネットワークは、1つまたは複数の実施形態によれば、SLS-CaSTによって生体適合性マトリックス材料内に形成されてもよい。ここに記載のSLS-CaST法は、場合によっては、表面平滑化および/または表面被覆を含んでもよい。
【0224】
1つまたは複数の実施形態による、焼結炭水化物を用いるモデル組織脈管構造の犠牲鋳型化
【0225】
1つまたは複数の実施形態において、脈管ネットワークは、レーザー焼結した炭水化物の鋳型のまわりに組織工学的組織を形成し、次いで、組織工学的組織内から鋳型を選択的に除去することによって、組織工学的組織中に作製することができる。1つまたは複数の実施形態において、鋳型は、所望の相互接続した脈管ネットワーク(例えば樹枝状ネットワークアーキテクチャー、参照:上記に概説された1つまたは複数の実施形態による樹枝状脈管ネットワークのための犠牲鋳型)の形状に焼結することによって凝固させ、次いで、マトリックス材料中に包み、相互接続した脈管ネットワークがマトリックス材料中の空隙空間として保持されるように溶け去らせることができる。使用されるマトリックス材料は、1つまたは複数の実施形態によれば、種々の組成の任意の生体適合性ヒドロゲルまたは他の生体材料であってもよい。焼結直後に、鋳型は、水中で溶解性を有することにより追加の処理から利益を得ることができる。水性プレポリマーなどの水性成分を用いたマトリックス材料中での鋳型の急速な溶解は、1つまたは複数の実施形態によれば、疎水性ポリマー(例えばポリカプロラクトンまたはポリ(乳酸))で鋳型を被覆することにより回避することができる。1つまたは複数の実施形態によると、疎水性ポリマーを用いて被覆する前に、平滑化溶液を用いる処理を、鋳型の表面を平滑化するために実施してもよい。表面被覆および/または表面処理、ならびにマトリックス材料を用いた鋳型の埋め戻しの後、鋳型は、1つまたは複数の実施形態によれば、マトリックス材料から溶かし出されてもよい。幾つかの実施形態において、マトリックス材料は、細胞を含むヒドロゲル(架橋有りまたは無し)であってもよい。本明細書に記載の1つまたは複数の実施形態によって形成されたシステムは、組織工学的に作製された組織構築物またはモデル組織であってもよい。
【0226】
さらに、本開示の実施形態は、任意の細胞型または細胞型の組み合わせを含んでもよい任意のヒドロゲルを含むマトリックス材料中に脈管ネットワークを作製するために適用されてもよい。幾つかの実施形態は、生体適合性材料中に脈管トポロジーを造形する主要な問題を解決することができる。例えば、本開示の実施形態は、腎臓、肝臓、膵臓もしくは肺の内部アーキテクチャーを再現し、および/または適した細胞型を含む組織工学的に作製された組織構築物を作製することができる。
【0227】
さらに、実施形態は、科学調査、例えば、脈管の機能および/または疾患の研究のためのモデルシステムを造形するために使用されてもよい。例えば、1つまたは複数の実施形態を使用して形成された単純な脈管ネットワークは、科学調査実験のプラットフォームとして役立ち得る。そのような実験は、導管形成およびリモデリング;血管形成;腫瘍血管内異物侵入および血管外漏出;ならびに粥状動脈硬化のようなものを調べることができる。
【0228】
さらに、本開示の1つまたは複数の実施形態によって形成される様々な種類のモデル組織は、新規の医薬品を含む医薬品の評価の助けとなり得る。
【0229】
生体造形の分野以外に、本開示の1つまたは複数の実施形態は、マイクロ流体デバイスの作製のために使用されてもよい。幾つかの実施形態において、シリコーンマトリックスが、上で検討された生体模倣例において使用されたヒドロゲルと置換されてもよい。剛直な長期持続性材料中にチャネルを形成する本開示の実施形態によるシリコーンマトリックスを使用するマイクロ流体デバイスの形成。幾つかの実施形態に従って作製されるシリコーン系マイクロ流体デバイスの1つの用途は、画像化研究のための流動ファントムの形成であってもよい。
【0230】
実施形態によるオープンソースSLSハードウェアの開発
【0231】
OpenSLS印刷機(他のところで記載)を、炭水化物材料との適合性のために修正した。要約すると、市販のCO2レーザーカッターを、切断台をカスタムの粉体ハンドリングモジュールに置き換え、オープンソース3D印刷機マザーボード(RAMBo v.3.1、Ultimachine)を用いて搭載電子装置をオーバーライドし、オープンソースMarlinファームウェア(https://github.com/MarlinFirmware)のカスタム版を実行することによって修正した。11×13×9cmの造形容積を有する粉体ハンドリングモジュールを設計し、レーザー切断したアクリルおよび3D印刷されたポリ(乳酸)(Ultimachine)フィラメントを主として使用して作製した。粉体ハンドリングモジュールコンポーネントの詳細設計は、OpenSLSレポジトリ(https://github.com/MillerLabFTW/OpenSLS)で部品表、配線図およびカスタムファームウェアとともに入手可能である。
【0232】
実施形態による3Dモデル設計および処理
【0233】
3Dモデルは、OpenSCAD(http://openscad.org)、Blender(https://blender.org)を使用するか、またはカスタムの生成的アルゴリズムを用いて設計した。Blender用のカスタムPythonアドオンは、階層的に分岐したアーキテクチャーをインタラクティブかつパラメトリックに生成するように開発し、これは腸重積の自然プロセスにおける導管分岐に着想を得た(https://github.com/MillerLabFTW/IntussusceptionAddon)。
図8AのDNAらせんモデルはjharris(https://www.thingiverse.com/thing:412973)によって作製し、
図8Bのトネリコモデルはdutchmogul(https://www.thingiverse.com/thing:1079821)によって作製した。三次元モデルは、オープンソースSlic3rソフトウェア(Slic3r.org)を使用してGコードにスライスした。モデルの各種領域に各種のレーザー速度および出力設定を割り当てるために、各領域をSlic3r内の異なる押出機に割り当てた。スライス後、Gコードは、OpenSLSモーター軸割当と適合するように、ならびに所望の速度および出力パラメーターを組み込むように、カスタムPythonスクリプトを使用して修正した。Gコードは、オープンソースPronterfaceコンソール(github.com/Kliment/Printrun)によって印刷機に送った。
【0234】
実施形態による炭水化物の調製およびレーザー焼結
【0235】
イソマルト(Decomalt、Paris Gourmet)をブレードコーヒーグラインダー(Krups(登録商標)F203)で粉砕し、次いで35番および60番メッシュ篩(60メッシュ=250μmの格子間隔)によって濾した。
【0236】
篩分けしたイソマルト粉末は、7:3の質量比で食品等級コーンスターチ(Argo(登録商標))と混合し、周囲の湿分に対する予防措置として凍結乾燥装置(Labconco(登録商標))に入れ、気密容器に室温で保管した。
【0237】
造形のために、粉末化炭水化物混合物の薄層を、ペインター用テープの層の上に造形プラットフォームにわたって手動で広げた。
【0238】
適したGコードファイルをPronterfaceにおいて開始して、層ごとの造形を始めた。
【0239】
各層の印刷のために、レーザーを用いて炭水化物粉末を選択的に溶融することによって固体幾何形状をパターン化する。
【0240】
このパターニングステップの後、造形容積の上につるされた篩リザーバを振盪させることによって、後続の層に新しい粉末を付加する。振盪動作によって、通気し圧密化を防止しつつ粉末を移動させて造形プラットフォーム上に堆積させる。つるされたリザーバからの新しい粉末の分注後、粉末の堆積物を逆回転ローラーによって平らな層へと広げる。最終的に、過剰の粉末を鋤機構によって除去し、粉体ハンドリングモジュールの下に収集する。粉末は、印刷品質の顕著な低下がなければ数十から数百回リサイクルすることができる。
【0241】
典型的な印刷は、1,000~2,000mm/分(毎秒16~32ミリメートル(mm/秒))のレーザー並進速度、および40ワット(W)レーザー管(LightObject)からの40~60W/mm2の出力密度を使用した。
【0242】
炭水化物構造はすべて、150μmの層高さを用いて造形したが、ただし
図8Aおよび8Bに示されるものは250μm層高さを用いて造形した。
【0243】
造形中、レーザー光学器械への炭水化物残査の蓄積を防止するために、窒素ガスをレーザーノーズピースを通して穏やかに流し、レーザーカッターは、窒素の絶え間ない流れを用いて絶えずフラッシングした。
【0244】
造形後、過剰の緩い粉末をブラシまたは圧縮空気で除去し、個々のフィラメントを針を用いて浄化した。
【0245】
実施形態による炭水化物粉末および造形したパーツの特性評価
【0246】
安定性および変流量試験プロトコルを使用する粉末レオメーター(FT4、Freeman Technology(登録商標))を使用して、粉末化炭水化物の流動性を調査した。純粋なイソマルト粉末を、イソマルト+コーンスターチ粉末および市販のナイロン粉末(PA650、Advanced Laser Materials)と比較した。製造業者の推奨プロトコルを使用した粉末の事前調整の後に、100mm/秒の羽根先端速度で非拘束幾何形状において7サイクルにわたって流れ抵抗を測定し、比エネルギーの測定値を得た。材料間の流動性を比較するために、比エネルギー(mJ/g)に各粉末の調整かさ密度(ミリリットル当たりのグラム(g/ml))を掛け、mJ/mlとして報告した。
【0247】
粉末化材料の形態を分析し、焼結パーツの表面特性を特性評価するために、走査電子顕微鏡法を実施した。焼結パーツの粉末粒または片は、10ナノメートル(nm)の金を用いてスパッタ被覆し(Desk V Sputter Coater;Denton Vacuum(登録商標))、Quanta400環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)(FEI Company(登録商標))で画像化した。
【0248】
焼結炭水化物の表面粗さを測定するために、走査電子顕微鏡の顕微鏡写真を閾値処理し、カスタムMATLAB(登録商標)機能を使用して各エッジのプロファイルを抽出した。式:
【0249】
【数2】
を使用して、平均表面粗さ(R
a)を計算した。式中、Z(x)はエッジプロファイルであり、Lはエッジの長さである。焼結フィラメントの幅を、Fiji ImageJ(アメリカ国立衛生研究所)においてデジタル一眼レフ(DSLR)カメラ(EOS 5DSR、Canon(登録商標))を装備した立体顕微鏡(SteREO Discovery.V8、Zeiss(登録商標))で得られた写真を使用して測定した。
【0250】
焼結炭水化物およびPCL発泡体の容積測定マイクロ断層撮影スキャンを、50キロボルト(kV)、200マイクロアンペア(μA)X線源および曝露時間424ミリ秒(ms)を使用してSkyScan(商標)1272X線コンピュータ断層撮影(CT)スキャナー(Bruker(登録商標))で得た。0.3°の増分で180度スキャンを実施した。NReconおよびCTVox(Bruker(登録商標))ソフトウェアをそれぞれ使用して、ボリューム再構成および可視化を実施した。
【0251】
ASTM規格D695-02aの修正版に従って単軸圧縮試験を行った。試料を、10キロニュートン(kN)ロードセルを装備した機械的試験システム(858 Mini Bionix、MTS)での圧縮荷重に供した。25ニュートン(N)の予荷重を印加した後、毎分0.5ミリメートル(mm/分)のクロスヘッド変位速度を用いて長軸(すなわち軸方向)に沿って試料を圧縮した。
【0252】
実施形態による炭水化物後処理および犠牲鋳型化
【0253】
濃縮イソマルト溶液を用いて処理することにより焼結炭水化物を後処理した。イソマルトを、沸騰脱イオン水に溶解し(100ミリリットル(ml)の水中に60グラム(g)のイソマルト)、室温で冷却し、濾過し(Steriflip(登録商標)、0.22μmのポリエーテルスルホン)、室温で保管した。焼結炭水化物を10~20秒間この溶液中に沈めたり取り出したりし、次いで、加圧窒素ガスの流れを用いて、またはKimwipe(商標)でのウィキングによって過剰の液体を除去した。
【0254】
幾つかの実施形態において、バルクマトリックス材料を凝固している間に炭水化物アーキテクチャーを保存するために、追加の疎水性コーティングを炭水化物鋳型に付加することが望ましいことであり得る(例えば、温かいアガロース溶液は、特に大量のゲル中で、完全に凝固する前に炭水化物フィラメントを変形し得る)。アガロースゲル(
図12D、
図13~17、および
図21)を用いるすべての例示実施形態および実証ゲル(
図12A~12Cおよび
図12E~12F)について疎水性コーティングを用いた。クロロホルム(Alfa Aesar(商標);10~25mg/ml)に溶解したPCL(CAPA(商標)6500、Perstorp AB(登録商標))またはポリ(ラクチド-co-グリコリド)(AP062、Akina,Inc.)の溶液に鋳型を浸漬することにより、疎水性コーティングを達成した。加圧窒素ガスを用いて過剰のコーティングを除去し、被覆された鋳型を5分間乾燥した。
【0255】
幾つかの実施形態において、炭水化物鋳型に対する疎水性コーティングを除外することが望ましいことがある。被覆されていない鋳型を、内皮細胞の播種および空間的パターニング(
図18A~19Bおよび
図19A~19B)を行う実験に使用した。
【0256】
犠牲鋳型化のために設計した炭水化物鋳型は、鋳型とガラスの間の界面に沿って追加のPCL溶液(クロロホルム中100mg/ml)を分注し、溶媒を蒸発させることによって、スライドガラスに接着させた。
【0257】
典型的な犠牲鋳型化実験において、上述したような後処理の後に炭水化物鋳型のまわりにピペットによってプレポリマーを分注した。
【0258】
図12Aにおいて、PCL溶液(クロロホルム中40重量%)中の塩化ナトリウム結晶のスラリーを形成し、次いで炭水化物鋳型のまわりにこのスラリーを分注し、一晩溶媒蒸発させることによって、PCL発泡体を調製した。
図12Bにおいて、10:1のベース:触媒混合物を炭水化物鋳型のまわりに分注し、48時間(h)硬化することによって、PDMS(Sylgard(商標)184、Dow Corning(登録商標))を調製した。
【0259】
図12Cにおいて、PEGDA(6kDa、20重量%;他のところで報告されるように合成)またはGelMA(10重量%;他のところで報告されるように合成)および光開始剤(Irgacure(登録商標)2959、0.05重量%;Ciba(登録商標))の混合物を炭水化物鋳型のまわりに分注し、30~60秒間光重合(平方センチメートル当たり100メガワット(mW/cm
2)、320~500nm;Omnicure(登録商標)S2000)することによって、光重合PEGDAおよびゼラチンメタクリロイル(GelMA)ヒドロゲルを調製した。
【0260】
図12Dにおいて、60℃に加熱してから37~42℃に冷却した低融点アガロース(2重量%;Gold Biotechnology(登録商標))の溶液を炭水化物鋳型のまわりに分注し、次いで4℃に冷却することによって、アガロースヒドロゲルを調製した。
【0261】
図12Eにおいて、水性絹溶液(4~8重量%;David L.Kaplan博士からの贈呈品、他のところで報告されるように調製)を1ミリリットル当たり10単位(U/ml)の西洋ワサビペルオキシダーゼおよび1ミリリットル当たり10マイクロリットル(μL/mL)の過酸化水素(165ミリモル(mM);VWR Chemicals BDH(登録商標))と混合し、炭水化物鋳型のまわりに分注し、37℃で10分(min)間重合することによって、絹フィブロインヒドロゲルを調製した。
【0262】
図12Fにおいて、フィブリノゲン(1ミリリットル当たり20ミリグラム(mg/ml);Sigma-Aldrich(登録商標))およびトロンビン(50U/ml;Sigma-Aldrich(登録商標))の混合物を炭水化物鋳型のまわりに分注し、37℃で10分間重合することによって、フィブリンヒドロゲルを調製した。
【0263】
すべてのバルク材料について、シリンジでチャネルを通して穏やかにフラッシングすることにより支援しつつ脱イオン水またはPBS中でのインキュベーションによって炭水化物鋳型を犠牲にした(溶かし去った)。
【0264】
続いて、PCL発泡体を凍結し凍結乾燥した。
【0265】
Microfil(登録商標)シリコーン注入化合物、またはゲル中に懸濁したコロイド状インクのいずれかを用いる灌流によって、犠牲鋳型化したチャネルを可視化した。着色ベース、希釈剤および硬化剤(それぞれ4、5および0.45ml)を混合し、30分間予備硬化し、次いで十分に硬化するまでシリンジポンプを使用して10分間にわたってチャネルを通して灌流することによって、Microfil(登録商標)(Flow Tech)を調製した。墨汁(10~100μL/mLの間)をPEGDA(3.4kDa、20重量%)および光開始剤(Irgacure 2959;0.05重量%)と、またはアガロース(2重量%)と混合することによって、インク懸濁液を形成した。この懸濁液をシリンジによってチャネルを通して灌流し、チャネル内にある間に光重合(様々な回転角で60~120秒、100mW/cm2)または冷却した。炭水化物鋳型および犠牲鋳型化した材料を、写真撮影のために水にヒドロゲルを沈めて、DSLRカメラを使用して撮影した。
【0266】
実施形態による細胞を含んだゲルの調製
【0267】
実施形態によるHepG2細胞を含むアガロースゲル
【0268】
10%のウシ胎児血清(FBS)(Atlanta Biologicals(商標))、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies(商標))および1x非必須アミノ酸(Caisson Laboratories,Inc.)を補ったダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、4.5g/Lグルコース;Corning(登録商標))中でHepG2肝芽腫細胞(ATCC)を増殖させた。
【0269】
適した数の細胞を完全培地中に再懸濁することによって、細胞を含んだアガロースゲルを所望のゲル容積の半分まで調製した。
【0270】
この細胞懸濁液を、等量の無菌低融点アガロース(PBS中4重量%、60℃に加熱した後、細胞と混合する前に37~42℃に冷却)と組み合わせた。
【0271】
容積式ピペッタ(Microman(登録商標) E、Gilson(商標))を使用しておよそ60秒間細胞懸濁液およびアガロースを激しく混合し、その後、炭水化物鋳型のまわりに分注し、5~10分間4℃に冷却した。
【0272】
シリンジによって培地でチャネルに通して穏やかにフラッシングすることにより支援しつつ10~15分間培地中でのインキュベーションによって炭水化物鋳型を除去した。
【0273】
実施形態による原発性肝細胞凝集物を含むアガロースゲル
【0274】
肝細胞/正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)凝集物を採取し、アガロースゲルにカプセル化し、HepG2細胞について上述したように灌流チャンバーにおいてカテーテル挿入を行った。いずれの実験も、およそ10e6個/mLの肝細胞および5e6個/mLのNHDFの最終細胞密度を使用し、無細胞アガロースゲル(「ブランク」)を陰性対照としてアルブミン測定のためにキャスティングした。
【0275】
静的なゲルと灌流されたゲルの比較のために、多チャネル蠕動ポンプを用いて20μL/分で肝細胞培養培地を用いて1セットのゲルを灌流した。
【0276】
第2のセットのゲルに同等にカテーテル挿入を行い、肝細胞培地の1mLシリンジを入口および出口で接続して、ゲルへ栄養素が拡散輸送されるようにした。
【0277】
長期的なアルブミン測定のために、流出培地をそれぞれ灌流されたゲルから収集し、静的なゲルは新しい培地を用いてフラッシングして、蓄積したアルブミンを捕捉した。
【0278】
カスタム設計した蠕動ポンプを1mL/分で使用して連続的に再循環させた50mLの肝細胞培養培地を含む流動ループ構成で高密度の樹枝状ゲルを接続した。毎日アルブミン測定のために流動ループから10~20mLの間の培地を無菌で除去し、等量の新しい培地と置き換えた。
【0279】
実施形態による内皮化GelMAゲル
【0280】
緑色蛍光塗料(GFP)で標識されたヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(Angio-Proteomie;継代数4~7)を、1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補った完全Vasculife(登録商標)培地(Lifeline(登録商標)Cell Technologies)中で増殖させた。IMR-90肺線維芽細胞(アメリカンタイプカルチャーコレクション)を、10%のFBSおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補ったF-12K培地(アメリカンタイプカルチャーコレクション)中で増殖させた。
【0281】
犠牲鋳型化されたGelMAゲル(10重量%;平面の樹枝状アーキテクチャー)を、カプセル化されたIMR-90線維芽細胞(2.5e6細胞/mL)を含んでまたは含まないで調製し、HUVEC注入前に(主要な方法の部において記載されるように)カスタム灌流チャンバー内でカテーテル挿入を行った。
【0282】
播種のためにHUVECを30e6/mLの密度に再懸濁し、カテーテルによってチャネルにゆっくり注入した。均一なHUVEC接着を促進するために、37℃で6時間ゲルを播種し、15分ごとに90度回転した。
【0283】
播種期間の後、ゲルを完全VascuLife(登録商標)培地(HUVECのみのゲル)またはVascuLife(登録商標):F12-K培地の1:1混合物(IMR-90を含むHUVECゲル)を用いて灌流した。最初の24時間は5μL/分、次の24時間は10μL/分、その後は20μL/分に流量を設定した。
【0284】
実施形態による空間的にパターン化したゲル
【0285】
上述したように、GFP-HUVECおよびIMR-90線維芽細胞を培養した。344SQマウス転移性肺腺癌細胞を、10%のFBSおよび1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補ったRPMI1640培地(Corning(登録商標))中で増殖させた。
【0286】
プロトコル662023に関するRice University Institutional Biosafety Committeeの監督に従って第二代レンチウイルスを使用し、それぞれH2B-mOrange2およびH2B-mVenusをコードするプラスミドを用いてIMR-90および344SQを安定的に形質導入した。
【0287】
他のところで詳述されるように344SQ凝集物を形成した。手短に言えば、レーザー切除したPDMS微小ウェルを、Pluronic F-127溶液(5重量%)を用いて不動態化し、穏やかな遠心分離(200×g)を用いて1ウェル当たり200個の細胞を播種した。37℃で一晩凝集させた後、穏やかなピペット操作によって凝集物を採取し、40μmの細胞ストレーナーに濾過することにより、緩い細胞を廃棄した。
【0288】
空間的にパターン化したゲルのキャスティングのために、炭水化物鋳型は、スライドガラスに1つの開放面を接着させ、対向する開放面にわたってParafilm(登録商標)を伸ばし、プレポリマーをピペッティングすることができる小さな間隙を残すことによって調製した。細胞またはビーズ(10μmの緑色、赤色および青色の蛍光ポリスチレンビーズ;MagSphere)の適した組み合わせを適したヒドロゲルプレポリマー中に懸濁し、炭水化物鋳型の容積に順次ピペッティングした。
【0289】
ピペッティング直後にGelMA含有ゲル領域を部分的に光重合(5秒の光曝露)し、全構築物をキャスティングした後、光重合が完了した(各側30秒の曝露)。
【0290】
光重合後、37℃でゲルをインキュベートして完全にフィブリンゲルを架橋した。上述したように灌流チャンバーにおいてゲルにカテーテル挿入を行い、完全VascuLife(登録商標)培地(5μL/分)を用いて灌流した。
【0291】
実施形態による細胞を含んだゲルの調製および灌流
【0292】
上述したように犠牲鋳型化したゲルを、カスタム設計した灌流チャンバーカセット内でのカテーテル挿入による複数日数の灌流培養のために調製した。
【0293】
一般に、カスタム空気圧押出印刷機(https://github.com/MillerLabFTW/ShopBot-PDMS-Printer)を使用してスライドガラス上に直接押し出された非流動性PDMS(SE1700;Dow Corning(登録商標))から、または成型されたPDMSガスケットインサートを含む3D印刷されたポリ(乳酸)から灌流チャンバーの容積を形成した。
【0294】
灌流チャンバー内に各ゲルを置き、静脈内カニューレカテーテル(脈管ネットワークアーキテクチャーに応じて14~22ゲージの間)または15~20ゲージの間の可撓性鈍先ルアーチップ(Nordson Electron Fusion Devices)を用いてカテーテル挿入を行った。
【0295】
アガロースゲルを用いる実験において、カテーテルが破損するかまたはチャネルから滑り落ちるのを防止するために、追加の無細胞アガロースの分注によってゲルを固定して、全灌流チャンバーに充填した。この追加のアガロースが凝固した後、スライドガラスを用いてチャンバーに蓋をし、スクリューを締めて組立物を固定することによって、灌流カセットを組み立てた。
【0296】
完全培地をシリンジまたは培地バッグから無菌フィルター(0.22μmポリエーテルスルホン)に通し、ゲルに通し、廃棄容器へとポンプで送り込む直線状流路において、単純な脈管ネットワークを含む内皮化ゲルおよびゲルを接続した。シリコーンマイクロボア管(Tygon(登録商標)、Cole-Parmer(登録商標))を使用して、流路の様々な構成要素を接続した。
【0297】
シリンジポンプ(NE-300;New Era Pump Systems(商標))または多チャネル蠕動ポンプ(Ismatec(商標)、Cole-Parmer(登録商標))のいずれかを使用して、25L/分の流量で培地をポンプで送り込んだ。
【0298】
樹枝状の細胞を含んだゲルを流動ループ構成で接続した。HepG2流動ループ灌流(
図6)の場合、150mlの完全培地を、ゲルと、空気でフラッシングしたPYREX(登録商標)ボトルとの間で500L/分の蠕動ポンプ(Ismatec(商標))を用いて連続的に循環させた。
【0299】
長期的な機能モニタリングを行う流動ループ灌流の場合、再循環する培地をサンプリングおよび補充することが可能な流動ループ設計を採用した。50mLのおよそ一定の体積をカスタム蠕動ポンプを使用して再循環させ、一方向のサンプリング弁を通して毎日20mLを除去し、接続した静注バッグからこの量を補充した。
【0300】
実施形態による、樹枝状脈管ネットワークを用いてパターン化したゲルの流動ループ灌流
【0301】
樹枝状ネットワークを含むゲルを、およそ500μL/分の流量で蠕動ポンプを使用して流動ループで灌流した。水平に配向したゲルと比較して、ゲルを鉛直に配向すると、アーキテクチャー全体にわたってチャネルの灌流が改善された。ゲルにわたるフェノールレッドの色の勾配から、ゲル全体にわたって利用可能な相対的な代謝産物交換が示される。最初に、フェノールレッドを含まない培地を使用してゲルをキャスティングし、フェノールレッドを含む培地を用いて灌流した。灌流を始めた直後に、灌流培地はチャネルにおいて目に見えるが、間質空間中への栄養素およびフェノールレッドの拡散は取るに足らない。2日後、灌流培地の構成成分は全ゲル全体にわたって拡散することができる。
【0302】
代謝活性な細胞を含むゲルにおいて、CO2がチャネル中へ交換され、運び去られ得る灌流チャネルの近傍に赤い色が観察される。対照的に、CO2および代謝廃棄物は、チャネルから離れて蓄積し、ゲルが酸性化され、黄色の色が生じる。生細胞を含んでいないゲルは、灌流培地が2日後にゲルの至る所に拡散することが確認され、フェノールレッドの勾配は、フェノールレッドの不完全拡散ではなく代謝産物交換の差によるものであることが実証された。
【0303】
長期的な培地サンプリングを行う流動ループ灌流の場合、栄養素を補充するために流動ループへ添加することができる培地を含むIVバッグおよび一方向のサンプリング弁を有するより先進的な設備を設計した。
【0304】
実施形態による免疫染色および蛍光画像化
【0305】
大面積スキャンを得るためにモーター駆動ステージを使用して、Zyla(商標)4.2 sCMOSカメラ(Andor(登録商標)Technology Limited)を装備したTi-E倒立顕微鏡(Nikon(登録商標))で、内皮化した空間的にパターン化したゲルの広視野蛍光画像化を実施した。
【0306】
実施形態によるゲルセクショニングおよび画像化
【0307】
染色前に、培養からゲルを外し、振動ミクロトーム(VT1000S、Leica(商標)))でスライスへとライブセクショニングした。セクショニングのために、シアノアクリラートグルーを用いて金属ステージにゲルを接着させ、室温のDMEM中に沈めた(セクショニング培地:血清を含まず、フェノールレッドを含まない、1%のペニシリン/ストレプトマイシン)。セクショニング直後、代謝産量を測定するためにMTT溶液を用いてゲルスライスを染色した。
【0308】
MTT原液を調製するために、PBS(5mg/ml)中にMTT(Bio Basic)を溶解し、無菌濾過し、-20℃で保管した。等量の解凍した原液とセクショニング培地との混合によりMTT染色溶液を調製し、ゲルスライスが完全に沈むまでゲルスライスに添加した。
【0309】
30分(または低温灌流実験では60分)後、MTT染色溶液を吸引し、パラホルムアルデヒド(4%;Electron Microscopy Sciences,Inc.)中でゲルスライスを30分間固定した。
【0310】
固定後、核染色(3μL/mL)(Nuclear Green(商標)LCS1;Abcam)でスライスをインキュベートし、次いで、画像化前にPBS(3×30分)中で洗浄した。
【0311】
DSLRカメラ(EOS 5DSR;Canon(登録商標))を装備した立体顕微鏡(SteREO Discovery.V8;Zeiss(商標))で、染色したゲルスライスを画像化した。
【0312】
本発明は、限られた数の実施形態に関して記載されてきたが、本開示の恩恵を享受する当業者であれば、本明細書において開示されるような本発明の範囲から逸脱しない他の実施形態も考案され得ることを認識する。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】