(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】制御された流動注入による微小血管機能障害診断および療法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20230614BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20230614BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20230614BHJP
A61M 5/172 20060101ALI20230614BHJP
A61M 5/142 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61B5/026 110
A61B5/0215 Z
A61M25/00 600
A61M5/172 500
A61M5/142 530
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571210
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 IB2021054453
(87)【国際公開番号】W WO2021234670
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518234405
【氏名又は名称】コルフロウ セラピューティクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ, ロバート エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヘム, ヨン ヘルゲ
(72)【発明者】
【氏名】フライ, ザブリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブルダウ, オリバー
【テーマコード(参考)】
4C017
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C017AA01
4C017AA11
4C017AB04
4C017AC03
4C017BC11
4C017FF05
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4C066FF01
4C066HH01
4C066QQ64
4C066QQ82
4C267AA02
4C267BB02
4C267BB40
4C267BB62
4C267CC08
(57)【要約】
微小血管閉塞症(MVO)等の微小血管機能障害の診断および/または処置のための方法およびシステムが、提供され、処置部位のまわりの側副流動の効果は、側副流動を防止するための、または無視できるようにするための注入システムを使用して、血管内に体積流動を注入することによって対処される。側副流動を無効にするために十分な動脈圧および流体流率が、診断および/または治療目的のためにMVOの存在および/または重症度を示すために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に関する血管生理学的パラメータを決定する方法であって、前記方法は、
管腔および遠位端を有するカテーテルを前記患者の動脈血管内に前進させることであって、前記動脈血管は、血流を有する、ことと、
複数の流率において、前記管腔を通して前記動脈血管内に流体を送達することと、
前記動脈血管内の複数の動脈圧を測定することであって、前記複数の圧力は、前記複数の流率に対応する、ことと、
前記複数の流率と前記複数の動脈圧との間の関係を決定することと、
前記患者の大動脈圧の測定値を決定することと、
前記大動脈圧の前記測定値および前記関係を使用して抵抗パラメータを決定することと、
前記抵抗パラメータの表現を発生させることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記抵抗パラメータの表現を発生させる前記ステップは、視覚的インジケータを表示することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の治療流率において、前記カテーテルを介して前記動脈血管内に治療剤を送達することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抵抗パラメータの表現を発生させる前記ステップは、電子的出力を発生させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の治療流率は、前記電子的出力を使用して決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の流率において流体を送達する前記ステップに先立って前記血流の第1の閉塞を開始することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の流率において流体を送達する前記ステップに続いて前記血流の前記第1の閉塞を中止することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記血流の第2の閉塞を開始することをさらに含み、前記血流の第2の閉塞を開始する前記ステップは、前記血流の前記第1の閉塞を中止する前記ステップに続いて行われ、前記治療剤を送達する前記ステップに先立って行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
動脈血管を有する患者を診断または処置するためのシステムであって、前記システムは、
カテーテルシステムであって、前記カテーテルシステムは、閉塞デバイスと、前記閉塞デバイスに対して遠位に位置している第1の圧力センサと、前記閉塞デバイスに対して近位に位置している第2の圧力センサと、管腔とを有し、前記管腔は、それを通して、前記閉塞デバイスの遠位にある前記動脈血管に流体を送達するようにサイズ決めされている、カテーテルシステムと、
コンピュータ化注入システムであって、前記コンピュータ化注入システムは、前記カテーテルシステムに結合され、
前記流体が複数の流率において注入されることを引き起こすことと、
前記第1のセンサと通信し、複数の圧力測定値を受信することであって、前記複数の圧力測定値は、前記複数の流率に対応する、ことと、
前記第2のセンサと通信し、大動脈圧測定値を受信することと、
前記大動脈圧測定値、前記複数の圧力測定値、および前記複数の流率を使用して抵抗パラメータを計算することと、
前記抵抗パラメータの表現を発生させることと
を行うように構成されている、コンピュータ化注入システムと
を備える、システム。
【請求項10】
前記コンピュータ化注入システムは、治療剤が複数の治療注入率において注入されることを引き起こすようにさらに構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記抵抗パラメータの前記表現は、電子的出力を備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の治療注入率は、前記電子的出力に基づいて決定される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記閉塞デバイスは、前記動脈血管を閉塞させるようにアクティブ化され得、
前記コンピュータ化注入システムは、前記閉塞デバイスを選択的にアクティブ化するようにさらに構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記抵抗パラメータの前記表現は、視覚的画像を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
前記コンピュータ化注入システムは、ディスプレイデバイスに結合され、前記ディスプレイデバイスは、前記視覚的画像を表示するように構成されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
動脈血管を有する患者を診断または処置するためのシステムであって、前記システムは、
カテーテルシステムであって、前記カテーテルシステムは、閉塞器と、前記閉塞器に対して遠位に位置している第1の圧力センサと、前記閉塞器に対して近位に位置している第2の圧力センサと、管腔とを有し、前記管腔は、前記閉塞器の遠位にある前記動脈血管に流体を送達するようにサイズ決めされている、カテーテルシステムと、
コンピュータ化注入システムであって、前記コンピュータ化注入システムは、前記カテーテルシステムに結合され、
前記流体が複数の流率において注入されることを引き起こすことと、
前記第1のセンサと通信し、複数の下流圧力測定値を受信することであって、前記複数の下流圧力測定値は、前記複数の流率に対応する、ことと、
前記第2のセンサと通信し、大動脈圧測定値を受信することと、
前記大動脈圧測定値、前記複数の下流圧力測定値、および前記複数の流率を使用して抵抗パラメータを計算することと、
前記抵抗パラメータによって決定される第1の注入率において治療剤を注入することと
を行うように構成されている、コンピュータ化注入システムと
を備える、システム。
【請求項17】
前記コンピュータ化注入システムは、前記抵抗パラメータによって決定される第2の注入率において前記治療剤を注入するようにさらに構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記コンピュータ化注入システムは、所定の診断インターバルにわたって前記流体が注入されることを引き起こし、前記第1の注入率において、第1の所定の処置インターバルにわたって前記治療剤を注入し、前記第2の注入率において、第2の所定の処置インターバルにわたって前記治療剤を注入するようにさらに構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記コンピュータ化注入システムは、前記閉塞器を動作させるようにさらに構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記コンピュータ化注入システムは、ディスプレイデバイスに結合され、前記ディスプレイデバイスは、前記抵抗パラメータのインジケーションを表示するように構成されている、請求項16に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張および関連出願)
本願は、2020年5月22日に出願された「Controlled Flow Infusion Microvascular Dysfunction Diagnostic and Therapy」と題する米国仮特許出願第63/029,152号の利益および優先権を主張し、米国仮特許出願第63/029,152号は、参照によってその全体が本明細書に援用される。本願は、以下、すなわち、Schwartz et al.に対する2019年6月11日に発行された「System and methods for treating MVO」と題する米国特許第10,315,016号、Hoem et al.に対する2021年3月23日に発行された「Combined stent reperfusion system」と題する米国特許第10,952,883号、Hoem et al.に対する2019年3月21日に出願された「Intracoronary Characterization of Microvascular Obstruction (MVO) and Myocardial Infarction」と題する米国特許出願公開第2019/0082976号、Schwartz et al.に対する2019年9月12日に出願された「System for Diagnosing and Treating Microvascular Obstructions」と題する米国特許出願公開第2019/0275248号、国際公開第WO2019/232,452号として2019年12月5日に公開されたBernard et al.に対する「Microfluidic Coronary Circulatory Model」と題する国際特許出願第PCT/US2019/035020号、およびSchwartz et al.に対する2020年3月26日に出願された「Method and Apparatus for Diagnosis and Treatment of Microvascular Dysfunction」と題する米国特許公開第2020/0093991号、2021年1月11日に出願された「Apparatus and Method for Determining and/or Treating Microvascular Obstruction」と題する米国仮特許出願第63/136,174号の全体も参照によって援用する。
【0002】
(技術分野)
微小血管閉塞症(MVO)を含む微小血管機能および機能不全(MVD)、ならびに、心臓を含む器官の微小血管系の他の疾患の診断および/または処置のための方法およびデバイスが、提供される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
心臓発作または急性ECG STセグメント上昇心筋梗塞(「STEMI」)は、心外膜冠動脈の突然の閉塞によって引き起こされ、典型的には、関連付けられる塞栓性プラークおよびデブリを伴って、フィブリンおよび血小板が豊富な血栓によって引き起こされる。急性貫壁性心筋梗塞(心臓発作)の心電図上での兆候は、複数の解剖学的ECGリードを横切って現れるSTセグメント上昇である。STセグメント上昇は、重度の冠動脈閉塞または狭窄の特徴であり、これは、虚血性心筋傷害および細胞死を引き起こす。大きい血管の閉塞は、多くの場合、小さい血管の重度の狭窄症または閉塞(微小血管閉塞またはMVOと称される)、血行動態的圧潰、塞栓性デブリを伴う血栓、および、血液供給を低減させる他の効果と関連付けられる。MVOは、死亡および心不全を含む後期有害イベントの独立予測因子であり、いかなる成功したMVO療法も、現在まで確認されていない。
【0004】
介入心臓学は、心臓カテーテル法検査室においてカテーテル、ガイドワイヤ、バルーン、およびステントを使用して重度に狭窄または閉塞された心外膜冠動脈を開通することに長けている。しかしながら、微小血管閉塞症は、カテーテル検査室において診断または処置されることができない。その上、MVOに関する効果的な処置選択肢は、典型的には、それが正確に診断されたときでさえ、極めて限定されている。
【0005】
心筋サルベージ(すなわち、虚血によって引き起こされる壊死から筋肉を保全すること)は、STEMIを患う患者において良好な長期の転帰を確実にするための重要な関心事である。肯定的な長期の転帰を達成する大切な構成要素は、(自宅または病院外における)冠動脈閉塞の発症とカテーテル検査室における閉塞された動脈の再開通との間のインターバルを最小限にすることを要求する。介入心臓医は、合理化された効率的な救急医療システムを実装することによって、動脈閉塞時間の持続時間を短縮することができる。そのような手順の目標は、STEMI患者を可能な限り早くカテーテル法検査室に運び、それによって、長期のSTEMI合併症を回避することである。STEMIおよびMVOからもたらされる合併症は、収縮期および拡張期心不全、不整脈、動脈瘤、心室破裂、および複数の他の深刻な合併症を含む。これらの合併症は、著しく寿命を縮め得、および/または、生活の質に対する厳しい制限を課し得る。
【0006】
急性心筋梗塞に関する現代の介入療法は、目覚ましい臨床結果を伴って時間とともに成熟してきている。近年では、イベントの30日後の心臓発作/STEMI死亡率は、30%超から5%未満に低下した。この向上は、冠動脈閉塞後に可能な限り早く、血液で心臓を再灌流することによって達成され、これは、ひいては、心臓発作の発症後に可能な限り迅速に、カテーテル法検査室において冠動脈を開通するように臨床ケアシステムを合理化することによってもたらされている。ステント留置およびバルーン血管形成術を含む緊急手順が、紛れもなく、急性心臓発作療法の早期および後期臨床結果を向上させている。
【0007】
しかしながら、STEMI患者を処置し、長期合併症を低減させることに関する大きな課題が、残っている。これらの問題は、心不全(不良の心筋機能および心拡大)、心臓/心室破裂、持続的虚血性胸痛/狭心症、左心室動脈瘤および血栓、ならびに悪性不整脈を含む。
【0008】
後期心不全は、STEMI症例の25~50%を悪化させ、不良の左心室機能および損傷した心筋から成る。典型的には、心不全は、心臓が形状およびサイズにおいてリモデリングする際に、関連付けられた機能的損失を伴って悪化する。75歳以下の患者における全ての新たな心不全のうちのほぼ半分が、STEMIに関連している。
【0009】
長年にわたるSTEMI療法の調査は、心外膜/大きい冠動脈を開通することは、心筋をサルベージし、長期の患者転帰を向上させるために不十分であることを示している。心臓発作後の不良の後期結果の非常に一般的な理由は、微小血管閉塞症(MVO)である。MVOは、小さい内部心臓微小血管における閉塞または重度の流動制限である。これらの微小血管は、非常に小さく、到達不可能であるため、微小血管のサイズおよび数に起因して、ステント留置すること、または従来の薬物/血栓溶解療法を用いて処置されることができない。したがって、広く開存している心外膜冠動脈にもかかわらず、残っているMVOは、心筋への血流を閉塞させ、虚血および組織壊死ならびに重度の長期心筋損傷をもたらす。
【0010】
したがって、MVOは、心臓学における重要な未開拓領域のままである。心臓微小血管は、小動脈、細動脈、毛細血管、および細静脈を含み、これらは、STEMI中に頻繁に圧潰され、細胞、血栓、およびデブリ(血小板、フィブリン、および塞栓性プラーク物質)で充填される。多くの場合、閉塞した微小血管(MVO)は、ステント設置後でさえ解消せず、深刻な長期の否定的な予後の暗示を提示する。
【0011】
ステント留置およびバルーン血管形成術は心外膜冠動脈を開通させることに成功しているものの、MVOは、STEMI患者において非常に一般的である。心外膜動脈の開通および新たに設置されたステントを通した良好な血流を伴ったとしても、MVOは、全てのSTEMI患者のうちの半数より多くに生じる。
【0012】
MVOの範囲は、心筋損傷の重症度および患者転帰に対して大切である。MVOは、MVOの場所、範囲、および重症度を識別する心臓MRI撮像を介してのみ正確に検出および測定され得る。しかしながら、MRIは患者が別個の撮像エリアに位置することを要求し、完了までに最大1時間を要求し得、別個の高価な手順であるため、それは、緊急時または心臓カテーテル法手順中に実施されることができない。
【0013】
MVOの重要な特徴は、以下によって要約され得る。
【0014】
1.STEMIにおけるMVOおよび微小血管機能障害は、心臓発作後の早期および後期の重大な合併症の主要な原因である。
【0015】
2.血管造影の「再流動なし」または「少ない再流動」は、MVO、すなわち、心筋内の閉塞した微小血管によって引き起こされる。重度の症例におけるMVOは、カテーテル法検査室において冠動脈処置中に可視化されるように、心外膜冠動脈内の非常に遅いX線撮影造影剤充填および流動によって蛍光透視的に特性評価される。しかしながら、X線撮影造影剤充填は、重度の再流動のない症例を診断するためにのみ可能であり、したがって、患者の大部分においてMVOを検出することは可能でない。
【0016】
3.MVOは、酸素、血流、およびグルコース等の大切な代謝栄養素の補充を組織から奪う長期の虚血から心筋細胞傷害および死滅を引き起こす。MVO顕微鏡分析は、閉塞した心筋内毛細血管に沿った、赤血球、血小板およびフィブリン血栓、死滅した心筋細胞、炎症細胞、筋細胞死、および内皮細胞死を伴う圧潰された微小血管を示す。
【0017】
4.急性MVOは、血小板およびフィブリンが豊富な塞栓、血小板-好中球凝集塊、死滅した血球および塞栓性デブリによって完全に閉塞された心臓細動脈および毛細血管、ならびに、閉塞によって引き起こされる非常に低い管腔内圧力に起因する小血管圧潰として現れる。
【0018】
5.MVOが急性STEMI/心筋梗塞を悪化させたとき、はるかにより大きい心臓/心筋損傷が、生じ、不良の心室機能が、早期に生じる。
【0019】
6.MVOは、非常に一般的である。これは、(a.)心外膜流動にかかわらず、全てのSTEMIおよび非STセグメント上昇心筋梗塞(NSTEMI)の約53%において生じ、(b.)大きい貫壁性STEMIの90%において生じ、(c.)TIMI III(正常)X線可視化流動を伴うMIの40%において生じ、(d.)MVOは、梗塞サイズに関する制御後のイベントの単一の最も有効な予後マーカである。
【0020】
7.微小血管閉塞症を伴う患者は、MVOを伴わない患者より多くの後期の重大な有害心血管イベント(MACE)を有する(45%対9%)。
【0021】
8.MVOは、急性および慢性心血管有害転帰の最良の予測因子である。
【0022】
9.MVOは、急性に後期線維性瘢痕になり、不良の心臓機能を引き起こす。
【0023】
MVOは、従来のカテーテル法検査室において効果的に診断および測定されることができない。その上、いかなる効果的な従来の療法も、現在、商業的に利用可能でない。以前に提案された療法は、本質的に効果的ではなく、ある場合には、危険であることが示されている。
【0024】
心筋梗塞からの主要な合併症は、細胞死または虚血である。心筋梗塞は、可逆的である短いが重大な虚血(「気絶心筋」)、心筋細胞が生きているが正常に収縮するために十分な酸素または栄養素を伴わないときに生じる慢性虚血(「冬眠心筋」)、または、長期の虚血を介した壊死および梗塞を引き起こし得る。梗塞は、典型的には、心内膜において始まり、心筋壁を横切って広がる波として広がる。これらのイベントの各々は、原子核、エコー、およびPET方法等の非侵襲性撮像および試験によって特性評価されることができる。ガドリニウム造影剤が微小血管閉塞症を可視化するために使用され得る心臓MRIによって、非常に良好な試験が、提供される。
【0025】
微小血管閉塞症をもたらす心筋梗塞(MI)は、重大な臨床的影響を及ぼす。心外膜冠動脈閉塞は周知であるが、微小血管系の塞栓血小板およびフィブリンによる微視的/微小血管閉栓も生じるという仮説が、立てられている。病理組織学的研究は、ヒト症例および動物モデルの両方において、フィブリンおよび血小板凝集塊を伴う内皮細胞浮腫を示している。微小血管閉栓は、赤血球、白血球、およびフィブリン-血小板凝集塊にも起因して生じ、光学顕微鏡には可視ではないものが、生じ得るが、免疫染色およびEM/SEM/TEMを介して見られることができる。現在まで、異所性血小板凝集塊が可能性として考えられているが、示されていない。
【0026】
MVOは、微小血管機能障害のより大きい分類の下のいくつかの障害のうちの1つの障害にすぎない。微小血管機能障害は、心外膜動脈閉塞を伴わない患者においても生じ、急性冠動脈閉塞(STEMI)患者群よりはるかに大きい患者集団を包含している。心外膜動脈(2mmより大きい血管)閉塞を伴わない患者における直径200ミクロン未満の血管の閉塞の効果は、長年の研究および多くの失敗の治療方略にもかかわらず、十分に理解されていない。
【0027】
したがって、より大きいMVD患者集団における微小血管機能および機能障害をより正確に評価し得る装置および方法の必要性が、当技術分野において存在する。そのような装置および方法は、より正確な診断および処置を提供することによって患者の利益になり得る。また、微小血管閉塞症を含む微小血管機能障害をより正確に診断、定量化、および処置し得る装置および方法の必要性が、当技術分野において存在する。なおもさらに、ステントが展開されている場所の下流の微小血管内に存在し得るMVOを診断し、必要な場合に処置するための装置および方法の必要性が、存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
(概要)
微小血管機能障害のより正確な評価、診断、および/または処置のための方法および装置が、提供される。種々の実施形態では、微小血管機能障害は、STEMI/NSTEMI、微小血管閉塞症、再流動なし、心原性ショック、および微小血管系の他の機能不全性疾患等の臨床症候群を含んでもよい。本発明の原理は、心臓を含む、多くの器官の診断および/または処置に対して適用可能である。より具体的には、非限定的実施形態は、微小血管機能障害を伴う血管および器官において、正常に診断すること、開存症を回復させること、流動を再開通および保全すること、および/または再灌流傷害を制限することを行うためのデバイスおよび方法を含む。用途は、限定ではないが、心臓(急性心筋梗塞-一次経皮的冠動脈介入(PPCI))、脳(脳卒中(CVA))、腸虚血/梗塞、肺塞栓/梗塞、重症四肢虚血/梗塞、腎臓/腎虚血/梗塞、肝臓、末梢血管、神経血管、およびその他を含む器官系のための療法を含む。
【0029】
本発明の一局面によると、診断および/または治療剤を送達するための特殊な注入および感知カテーテルと、制御コンソールとを含むシステムが、提供される。制御コンソールは、特殊なアルゴリズムを用いてプログラムされ、これは、微小血管閉塞症、心筋梗塞、および心筋虚血等の生理学的イベントを示すために使用され得るパラメータを決定することによって微小血管機能障害を診断および/または処置するために使用され得る。MVO等の微小血管機能障害を診断および/または処置するための発明的システムを動作させる方法も、提供される。
【0030】
微小血管機能評価を実施するように構成されているシステムおよび装置が、含まれる。発明的システムおよび装置は、微小血管閉塞症(MVO)等の微小血管機能障害を診断および処置するために使用されてもよい。本発明の一局面によると、システムおよび装置は、ステントが展開されている場所の下流の微小血管系内に存在し得るMVOを診断し、必要な場合に処置するように構成されている。
【0031】
患者のMVO等の微小血管機能障害の存在を決定するための方法も、提供される。これらの方法は、既知の流動送達率において患者の血管内に流体を送達することと、既知の送達率と関連付けられる結果として生じる圧力を測定することと、線形関係等の流動送達率と対応する動脈圧との間の関係を決定することとを含む。方法は、患者の大動脈圧を測定し、側副流率を補償することも含む。方法は、MVOの存在および/または範囲を決定するため等の診断目的のために、ならびに処置を決定するための治療目的のために使用され得る抵抗パラメータとして、側副流率を無効にするために十分な圧力および流率を使用することも含む。いくつかの方法では、処置は、抵抗パラメータによって決定される複数の送達流率における血管内への治療剤の送達を含む。
【0032】
本発明的システムは、患者の微小血管機能障害を評価し、随意にMVDの処置を提供するためのシステムまたは装置を含む。いくつかのシステムまたは装置は、カテーテルを含み、カテーテルは、閉塞システムと、閉塞システムの遠位に、および随意に近位に位置している圧力センサと、流体と随意に治療剤とを送達するための管腔とを有する。システムおよび装置は、コンピュータ化注入システムをさらに含み、コンピュータ化注入システムは、センサと通信し、MVOの存在を示すために使用され得る等の抵抗パラメータを決定するためにセンサ読取値に対応する既知の流体送達率とともにセンサ読取値を使用するように構成されている。システムおよび装置は、抵抗パラメータによって決定される送達率または複数の率において1つまたはそれより多くの治療剤をさらに送達してもよい。本発明の一局面によると、抵抗パラメータは、MVOを予測するために、MRI結果とともに使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
(図面の簡単な説明)
本明細書に記載されている本開示の前述および他の目的、特徴、および利点は、付属の図面に図示されているように、それらの発明的概念の特定の実施形態の以下の説明から明白である。図面は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、発明的概念の原理を図示することに重点が置かれていることに留意されたい。また、図面では、同様の参照文字は、異なる図全体を通して同一の部分または類似の部分を指し得る。本明細書に開示される実施形態および図は、限定的ではなく、例証的であると見なされるものであることを意図されている。
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の原理によるMVDの評価のための例示的なモジュール式システムの斜視図である。
【0035】
【
図2A】
図2A~2Cは、本発明に従って構築された注入カテーテルの代替実施形態の遠位端の斜視図である。
【
図2B】
図2A~2Cは、本発明に従って構築された注入カテーテルの代替実施形態の遠位端の斜視図である。
【
図2C】
図2A~2Cは、本発明に従って構築された注入カテーテルの代替実施形態の遠位端の斜視図である。
【0036】
【
図3A】
図3Aは、
図2A~2Dに描写されている遠位端との使用のために好適な注入カテーテルの中心部分の斜視図である。
【0037】
【
図3B】
図3Bおよび
図3Cは、それぞれ、圧力チャンバを有する注入カテーテルの遠位部分の代替実施形態の側面断面図および斜視図である。
【
図3C】
図3Bおよび
図3Cは、それぞれ、圧力チャンバを有する注入カテーテルの遠位部分の代替実施形態の側面断面図および斜視図である。
【0038】
【
図4】
図4は、1つまたはそれより多くの圧力センサ/トランスデューサを有するカテーテルの好ましい実施形態の遠位端の側面図である。
【0039】
【
図5】
図5は、本発明の原理に従って構築されたシステムの概略図である。
【0040】
【
図6】
図6は、本発明の原理に従って構築されたシステムの概略図である。
【0041】
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の原理による診断を実施するためのフローチャートである。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の原理による診断を実施するためのフローチャートである。
【0042】
【
図8】
図8は、本発明の原理による治療処置を提供するためのフローチャートである。
【0043】
【
図9】
図9は、本発明の原理による複数の診断分析および治療処置を提供するためのフローチャートである。
【0044】
【
図10】
図10は、本発明の原理による診断シーケンスの一部の例における遠位圧力、ポンプ流動、および抵抗のプロットである。
【0045】
【
図11A】
図11Aおよび
図11Bは、本発明の原理によるポンプ流動、圧力、およびそれらの線形関係、および対応するデータのグラフである。
【
図11B】
図11Aおよび
図11Bは、本発明の原理によるポンプ流動、圧力、およびそれらの線形関係、および対応するデータのグラフである。
【0046】
【
図12】
図12は、本発明の原理による側副流動を受ける血管内のカテーテルの遠位端の表現である。
【0047】
【
図13】
図13は、本発明の原理によるポンプ流動、圧力、およびそれらの線形関係のグラフである。
【0048】
【
図14】
図14は、本発明の原理による遠位圧力、平均圧力、および流率のプロットである。
【0049】
【
図15】
図15は、本発明の原理による、診断および/または治療目的のために使用され得る患者に関する抵抗パラメータおよび危険のある心筋値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(詳細な説明)
本発明は、生理学的イベントを予測するためのパラメータを決定するための技法を実装するためのデバイス、システム、および方法を対象とし、心臓を含む多くの器官の診断および/または処置に対して適用可能である。より具体的には、発明的システムおよび方法は、微小血管閉塞症、心筋梗塞、および心筋虚血等の生理学的イベントの正常な予測を可能にする。発明的システムおよび方法の用途は、心臓(急性心筋梗塞-一次経皮的冠動脈介入(PPCI))、脳(脳卒中(CVA))、腸虚血/梗塞、肺塞栓/梗塞、重症四肢虚血/梗塞、腎虚血/梗塞、肝臓、末梢血管、神経血管等の閉塞症(MVO)および組織壊死/梗塞の診断および処置を含む。
【0051】
図1を参照すると、冠動脈ならびに他のヒト/動物脈管および器官のための例示的なモジュール式コンピュータ化診断および注入システム100が、説明されている。注入システム100は、例証として、可動性コンソールとしてパッケージ化され、冠動脈圧力および流動のリアルタイムまたはほぼリアルタイムの測定、圧力/流動時間パラメータ、微小血管抵抗決定等の冠動脈生理学測定値を含む生理学的イベントの予測を可能にするようにプログラムされている。注入システム100は、コントローラ101と、ディスプレイ102と、注入ポンプ103と、圧力測定システム104とを含み、全てが可動性プラットフォーム105上に搭載されている。
【0052】
ここで
図2Aを参照すると、例示的な注入カテーテル200の遠位端が、説明されている。注入カテーテル200は、注入管腔212と流体連通している注入ポート202を含み、注入管腔212は、カテーテルの近位部分から延在し、注入ポンプ103に結合する。ガイドワイヤ管腔204は、カテーテル200を通して延在し、注入カテーテルがガイドワイヤに沿って患者の脈管内の所望の位置まで前進させられることを可能にする。カテーテル200は、拡大直径区分206を有してもよく、これは、診断目的のために流体力学的抵抗を増加させる役割を果たす。流体流動に曝されると、区分206は、身体管腔内に静水圧的圧力勾配を生み出す。カテーテル200の本体内に位置している圧力センサ208が、患者の脈管内の流体流動の圧力を決定するための圧力測定システム104に結合されてもよい。同様にカテーテル200の本体内に位置している圧力センサ207および圧力センサ209が、流体流動の圧力を決定するための圧力測定システム104に結合されてもよい。この実施形態では、圧力センサ207は、圧力センサ209に対して遠位に位置している。
【0053】
図2Bに関して、注入カテーテル、すなわち、カテーテル210の代替実施形態の遠位端が、説明されている。0.014インチの圧力測定ガイドワイヤであり得るガイドワイヤ201は、ガイドワイヤ201の遠位端がガイドワイヤ管腔退出口204から延在するように、迅速交換(RX)様式においてカテーテル210を通して挿入されてもよい。注入ポート202は、ガイドワイヤ管腔退出口204に隣接するカテーテル201の遠位端上に位置し、点線で示された注入管腔212を介して流体を送達する。
【0054】
図2Cでは、別の代替実施形態の遠位端が、説明され、注入カテーテル230は、閉塞バルーン236と、放射線不透過性マーカ238および240とを有する。注入出口ポート232が、点線で示された注入管腔242と流体連通して配置されている。ガイドワイヤ管腔234も、提供され、オーバーザワイヤまたは迅速交換使用のいずれかのために配列されてもよい。カテーテル230の本体内に位置している圧力センサ244および圧力センサ246は、流体流動の圧力を決定するための圧力測定システム104に結合されてもよい。この実施形態では、圧力センサ244が閉塞バルーン236に対して遠位に位置しているが、圧力センサ246は、閉塞バルーン236に対して近位に位置している。Schwartzに対する米国特許第10,315,016号、またはHoemに対する米国特許出願公開第2018/0280172号(それらの各々の全内容は、参照によって本明細書に援用される)に説明されているもの等の注入カテーテルの付加的実施形態が、本明細書中で使用されてもよい。
【0055】
ここで
図3Aを参照すると、本発明の原理に従って構築された注入カテーテルの中心部分が、説明されている。カテーテル310の中心部分は、例証として同軸にガイドワイヤ管腔311を囲む注入管腔312を含む。代替実施形態では、注入管腔312は、ガイドワイヤ管腔311に対して横並びに配列されてもよく、または別様に配列されてもよい。好ましい実施形態では、カテーテル310の直径は、小さく、それによって、カテーテルが、診断および療法のためにより小さい血管内に導入されることを可能にする。ガイドワイヤ管腔311は、好ましくは、圧力感知を提供するガイドワイヤを受け取るために十分な直径を有する。
【0056】
図3Bおよび
図3Cでは、ガイドワイヤ301上に配置されている圧力チャンバ306を有する例示的な注入カテーテルの遠位部分が、説明されている。圧力チャンバ306は、遠位動脈セグメント内に安定的な圧力測定の領域を提供するように設計され、カテーテル先端の近傍とも遠位とも異なる場所における圧力測定を可能にする。いくつかの好ましい実施形態では、閉塞デバイスの遠位にある第1の圧力チャンバと、閉塞デバイスの近位にある第2の圧力チャンバとを含む複数の圧力チャンバが、提供されてもよい。
図3Cに示されているように、カテーテルの外面は、カテーテルの遠位端における注入液のより良好な分散と、より精密な圧力測定とを提供するための細孔、スリット、またはスロット323を含んでもよい。細孔、スリット、またはスロット323は、特定のタイプの診断または療法に関して所望され得る場合、注入液流動パターンを向けるように配列されてもよい。流動を均一に分配することと、血管内の順行性および/または逆行性方向において、優先的に注入された流動を向けることとを行うために血管内のカテーテルの遠位端を中心に合わせるための機構を含む、血管内に流体を注入するための付加的カテーテル構成が、2019年9月20日に出願され、米国特許出願公開第US2020/0093991A1号として公開された、同時係属中の同一出願人による米国特許出願第16/577,962号(参照によって本明細書に援用される)の
図5A~7Eに関して説明されている。
【0057】
ここで
図4および
図5を参照すると、本発明に従って構築された注入システムの例示的実施形態は、好ましくは、複数の圧力センサを含む。
図4は、遠位圧力センサ/トランスデューサ402および404を含むカテーテルの好ましい実施形態の遠位端400を描写している。圧力センサ/トランスデューサ402および404は、好ましくは、長手方向において1cmを上回る距離だけ離れて搭載され、より好ましくは、1つのセンサが典型的な狭窄症の両側上に位置することを可能にするような距離だけ離されている。ガイドワイヤ406が、ガイドワイヤ管腔408内に配置されている。カテーテル本体412の遠位端410は、注入管腔と連通している複数の孔416を含有するキャップ414を含み、注入液が、複数の孔416を通して制御可能に放出され得る。圧力センサ418は、カテーテル400の閉塞システム(図示せず)に対して近位に位置している。圧力センサ418は、下記により詳細に検討されるように、閉塞デバイスの上流の圧力測定値を取得するために使用されてもよい。
【0058】
図4に示されている圧力センサ構成は、圧力センサ/トランスデューサ402および404を使用した軸方向血管内(長手方向)圧力勾配の測定を可能にする。長手方向において測定された圧力勾配は、血管/動脈取込サイズと流動との間の関係を理解するために使用され、したがって、カテーテルが位置している大きい血管の抵抗の評価を可能にし得る。例えば、血流予備量比(FFR)は、冠動脈狭窄症の血行動態有意性の評価を可能にするパラメータであり、典型的には、最大血管拡張において決定される。
図4の二圧力センサ/トランスデューサ構成は、最大血管拡張の必要性を伴わないこの測定を促進する。注入ポンプおよび圧力測定を使用した冠血流注入は、単純かつ直接的な絶対的狭窄症および血行動態の定量化を可能にする。冠血流予備量比(CFR)および本明細書中で下記に説明されるような微小血管抵抗を含む他の重要な生理学的パラメータが、同様に測定されてもよい。電解質溶液等の酸素含有量を伴わない流体注入が、アデノシン等の静脈内または動脈血管拡張剤を使用して最大血管拡張を薬理学的に誘発する必要性を回避する。これは、後続の生理学的血管拡張を伴う誘発された酸素不足状態に起因する。加えて、
図4に示されているこのセンサ構成は、絶対的流体力学的抵抗が定量化されることを可能にし、これは、ひいては、数理な変換方法を使用した血流予備量比の計算を可能にする。
【0059】
図5に関して、
図1に描写されているモジュール式可動性システムにおいて具体化され得るような、本発明の原理に従って構築されたシステム500が、説明されている。システム500は、隆起504および遠位端506を形成している局所的または全般的な直径増加を有するカテーテル502を含む。カテーテル502は、圧力感知ガイドワイヤ508を経由して患者の血管内の所望の場所に前進させられるように設置されてもよい。カテーテル502は、ワイヤ経由または迅速交換モダリティにおいてガイドワイヤ508を受け取るための内部管腔を伴って構築されてもよい。圧力センサ510および注入孔512が、遠位端506の近傍に配置されている。リザーバ514内に位置している注入液は、注入液管腔を介してカテーテル502を通して選択的に圧送され、ポンプ516によって注入孔512を通して退出する。プロセッサと、プログラムされたアルゴリズムとを含み得るコントローラ518は、圧力センサ510および圧力ガイドワイヤ508と通信し、それらのデバイスから圧力読取値を受信するように構成されている。
【0060】
コントローラ518は、ポンプ516とも通信し、ポンプ516を介して注入される注入液の流率を制御するように構成されている。下記に説明されるように、抵抗パラメータの計算からのフィードバックが、ポンプ、バルーン圧力(存在する場合)、または他のシステムコンポーネントの動作を調節し、システム機能における所望の変更を行い、診断または治療システム機能を向上させるために使用されてもよい。コントローラは、記憶媒体520をさらに含み、これは、RAM、ROM、ディスクドライブ、または他の公知の記憶媒体を含み得る。いくつかの実施形態では、記憶媒体520は、本願に開示されるアルゴリズムおよび数理計算を記憶してもよい。いくつかの実施形態では、記憶媒体520は、圧力センサ510および圧力ガイドワイヤ508から受信されたデータを記憶するためだけでなく、抵抗パラメータ、動脈圧、流率、および他の値を記憶するためにも使用される。いくつかの実施形態では、記憶媒体520は、流率を制御し、測定を実施し、結果を計算する機械学習アルゴリズムを含んでもよい。いくつかの実施形態では、コントローラ518は、記憶媒体520内のアルゴリズムを精緻化するために使用され得るデータを通信するために、インターネット522等の外部広域ネットワークおよび/またはコンピューティングデバイス524と通信してもよい。コントローラ518は、本発明のシステムおよび方法を使用して算出されたMVO値に相関し得る微小血管閉塞症機能障害を評価するために使用される、MRI画像、およびそれらの画像から導出されるパラメータ(危険のある心筋のデータ等)のデータベースにアクセスするようにプログラムされてもよい。
【0061】
図6に関して、
図1に描写されているモジュール式可動性システムにおいて具体化され得るような、本発明の原理に従って構築されたシステム600が、説明されている。システム600は、遠位端606の近傍にバルーンを含み得る閉塞デバイス604を有するカテーテル602を含む。カテーテル602は、圧力感知ガイドワイヤ608を経由して患者の血管内の所望の場所に前進させられてもよい。カテーテル602は、ワイヤ経由または迅速交換モダリティにおいてガイドワイヤ608を受け取るための内部管腔を伴って構築されてもよい。圧力センサ610および注入管腔の遠位端612が、遠位端606の近傍に配置されている。随意の圧力センサ611が、閉塞デバイス604に対して近位に位置してもよい。リザーバ614内に位置している注入液は、注入液管腔を介してカテーテル602を通して選択的に圧送され、ポンプ616によって注入管腔の遠位端612を通して退出する。プロセッサと、プログラムされたアルゴリズムとを含み得るコントローラ618は、圧力センサ610、圧力センサ611、および圧力ガイドワイヤ608と通信し、それらのデバイスから圧力読取値を受信するように構成されている。
【0062】
コントローラ618は、ポンプ616とも通信し、ポンプ616を介して注入される注入液の流率を制御するように構成されている。下記に説明されるように、抵抗パラメータの計算からのフィードバックが、ポンプ616、閉塞デバイス604、または他のシステムコンポーネントの動作を調節し、システム機能における所望の変更を行い、診断または治療システム機能を向上させるために使用されてもよい。コントローラは、記憶媒体620をさらに含み、これは、RAM、ROM、ディスクドライブ、または他の公知の記憶媒体を含み得る。いくつかの実施形態では、記憶媒体620は、本願に開示されるアルゴリズムおよび数理計算を記憶してもよい。いくつかの実施形態では、記憶媒体620は、圧力センサ610、圧力センサ611、および圧力ガイドワイヤ608から受信されたデータを記憶するためだけでなく、抵抗パラメータ、平均動脈圧、側副流率、および他の計算された値を記憶するためにも使用される。いくつかの実施形態では、記憶媒体620は、流率を制御し、測定を実施し、結果を計算する機械学習アルゴリズムを含んでもよい。いくつかの実施形態では、コントローラ618は、記憶媒体620内のアルゴリズムを精緻化するために使用され得るデータを通信するために、インターネット622等の外部広域ネットワークおよび/またはコンピューティングデバイス624と通信してもよい。コントローラ618は、本発明の流動分析方法を使用して算出されたMVO値に相関し得る微小血管閉塞症機能障害を評価するために使用されるMRI画像、およびそれらの画像から導出されるパラメータのデータベースにアクセスするようにプログラムされてもよい。
【0063】
好ましい実施形態では、
図2~6に示されているような注入カテーテルは、ポンプが既知の流率(単数または複数)において注入液管腔を介して注入液を提供するように、ポンプを制御するように構成されているコントローラと通信してもよい。コントローラは、ガイドワイヤ上またはカテーテル上の別の場所に位置し得る圧力センサとも通信する。コントローラは、患者の収縮期および拡張期大動脈圧を測定するために使用され得る公知のセンサ等の、カテーテルから離れて位置している他のセンサとも通信してもよい。下記により詳細に検討されるように、コントローラは、微小血管閉塞症を示す抵抗パラメータを決定するように構成されている。当業者は、開示される本発明が、抵抗パラメータによって決定される1つまたはそれより多くの率における治療剤の制御された放出による処置を含む、MVOを診断および処置するための装置および方法を提供することを理解するであろう。
【0064】
1つの好ましい実施形態では、システム500または600が、
図4に関して説明されているような注入カテーテルを採用している一方、他の実施形態では、
図2もしくは
図3に描写されているような、または上記に援用される米国特許出願公開第US2020/0093991A1号に説明されているような注入カテーテルが、採用されてもよい。好ましくは、システム500または600との使用のために好適な注入カテーテルは、6Fガイドシースに適合し、0.014インチの圧力ガイドワイヤを受け取るガイドワイヤを含み、5~50ml/分の範囲内の体積流率を注入することが可能である。随意に、注入カテーテルは、順応性閉塞バルーンを含んでもよい。
【0065】
本発明の原理によると、血管に対して遠位もしくは近傍にある心筋血管がMVO等の微小血管機能障害を示すかどうか、および/または、心筋梗塞もしくは虚血に関与する機能障害性血管を含み得るかどうかを評価するために、注入カテーテルが、患者の心筋に血液を供給する心外膜血管内に挿入される。診断モードでは、システムは、血管を通した血流を閉塞させ、次いで、複数の既知の流率において患者の血管内に流体を注入し、閉塞システムの遠位の対応する圧力測定値を取得する。システムは、大動脈血圧測定値も取得し、これは、いくつかの実施形態では、閉塞システムに対して遠位または近位にあるカテーテルを用いて取得される。抵抗パラメータの決定が、大動脈圧測定値、動脈圧測定値、および動脈圧測定値に対応する流率を使用して行われてもよい。抵抗パラメータに基づいて、診断が行われてもよく、処置レジメンが開始されてもよく、治療剤の流率(単数または複数)が、抵抗パラメータに基づいて決定される。
【0066】
ここで
図7Aおよび
図7Bを参照すると、方法700は、
図1~6を参照して説明されているようなシステムを利用して、本発明の局面に従って抵抗パラメータを決定するために説明されている。
図7Aから始めて、ステップ710において、カテーテルデバイスの遠位端は、患者の動脈血管内で所望の場所まで前進させられる。所望の場所は、疑われる血管閉塞症の場所に基づいて、ステントの設置のための所望の場所に基づいて、または当業者によって理解されているであろう他の基準に基づいて選択されてもよい。
【0067】
ステップ712において、動脈血管内の血流は、カテーテルシステムの閉塞器によって閉塞され、これは、いくつかの実施形態では、閉塞バルーンの拡張を通して達成され得る。他の実施形態では、閉塞は、十分な流率における注入液の流動を用いて血流を擾乱させることによって達成されてもよい。ステップ712に続いて、方法700は、
図7Aおよび
図7Bに示されているように継続する。
【0068】
図7Aを継続して、ステップ714において、流体が、既知の流率において動脈血管に送達される。流体は、好ましくは、乳酸リンゲル液等の、ある範囲において圧力と流率との間に実質的な線形関係を有するニュートン流体であってもよく、または、有益な濃度のナトリウム、塩化物、カリウム、グルコース、乳酸、および同等物を含有する他の結晶質溶液であってもよく、加えて、薬物含有溶液であってもよい。閉塞部位の下流での圧力が、ステップ716において決定される。圧力測定値は、好ましくは、流体が既知の流率において送達される際に取得されることを理解されたい。好ましい実施形態では、既知の流率および対応する圧力測定値は、コンピュータ化メモリ内に記憶され、これは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、または他の公知の記憶コンポーネントであり得る。好ましくは、既知の流率および圧力測定値は、タイムスタンプまたは他の印によって等、記憶されたときの相互に対応するものとして識別される。
【0069】
ステップ718において、付加的データを取得することが望ましいかどうかに関する判断が、行われる。好ましい実施形態では、複数の流率および圧力測定値のペアが、より正確な分析を提供するために取得される。さらなるデータが所望される場合、方法は、経路720に沿ってステップ722に進む。ステップ722において、流体流動プロパティが、修正され、これは、好ましくは、異なる流体流率を備える。方法は、次いで、ステップ714に戻り、流体が、修正された流体流率において送達される。方法は、それがステップ718に到達するまで、以前と同じ通りに継続する。経路720および続くステップは、流率および対応する圧力測定値の十分なペアが取得されるまで辿られ得ることを理解されたい。
【0070】
十分なデータが取得されると、システムは、経路724に沿ってステップ726に進み、流率と、対応する圧力との間の関係が、決定されてもよい。好ましい実施形態では、線形関係が、データ点に基づいて決定または仮定される。そのような方法は、米国特許出願公開第2020/0093991号(参照によって本明細書に援用される)に説明されているものを含む。
【0071】
着目すべきこととして、ステップ712における動脈血管の閉塞に続いて、方法700は、上記に検討されたように、ステップ714に進むだけではなく、
図7Bに示されているステップにも進む。ステップ730において、大動脈圧が、取得される。好ましい実施形態では、大動脈圧測定値を取得するために使用されるセンサの場所は、大動脈圧と下流圧力センサにおける圧力との差異が、閉塞された血管のまわりの側副流動を示すように選択される。
【0072】
大動脈圧の測定に続いて、方法は、ステップ732に進む。さらなるデータが所望される場合、方法は、経路734に沿ってステップ730に戻る。好ましい実施形態では、方法は、十分なデータ点が大動脈圧に関する平均値を計算するために取得されるまで、繰り返し、ステップ732から経路734を辿る。好ましい実施形態では、圧力測定データが、記憶され、動脈データとの比較のために、および可能性として考えられる相関のためにタイムスタンピングされてもよい。いかなるさらなるデータも所望されなくなると、方法は、ステップ732から経路736に沿ってステップ738に進み、大動脈圧値が、決定される。大動脈圧値は、単一の上流圧力測定を使用して決定され得ることが可能であるが、本発明の好ましい実施形態は、複数のデータ点を利用し、例えば、収縮周期中の平均圧力、拡張周期中の平均圧力、および/または全心拍インターバルにわたる平均圧力を計算するために使用されてもよい。方法700は、
図7Bのステップ738から
図7Aのステップ728に進み、ステップ738において決定された大動脈圧は、ステップ726において決定された流動-圧力関係とともに、抵抗パラメータを決定するために使用される。
【0073】
好ましい実施形態では、抵抗パラメータ(単数または複数)は、動脈血管内の微小血管閉塞の存在および/または程度を表してもよい。臨床医は、MVOの可能性の高い存在性を決定することによって開存症を診断するために抵抗パラメータを使用し得、抵抗パラメータに基づいて、療法の過程を決定し得る。
【0074】
コンピュータ化システムは、抵抗パラメータの表現を示すようにプログラムされてもよい。いくつかの実施形態では、システムは、ディスプレイ102上の視覚的表現としてこのインジケーションを提供してもよく、これは、画像、英数字テキスト、グラフ、チャート、色付きインジケータ、または同等物として示されてもよい。視覚的印は、代替として、または加えて、警告灯等のライトを備えてもよい。抵抗パラメータの表現を示し得る他の出力は、抵抗パラメータが所定の基準を満たしている(または満たしていない)場合の音色またはアラーム等のオーディオ出力を含み、所定の基準は、例えば、MVOの可能性の高い存在に対応するように選択される所定の閾値を超えることを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、抵抗パラメータの表現は、診断または療法を提供することを支援するために、MRIを介して取得された、危険のある心筋のデータ等の他の患者データと比較されてもよい。
【0076】
加えて、コンピュータ化システムは、例えば、デジタルデータ等のコンピュータ読み取り可能な出力として抵抗パラメータの表現を出力してもよい。好ましい実施形態では、そのようなデジタルデータは、システムによって、治療処置を決定するために使用されてもよい。本発明のいくつかの実施形態は、1つまたはそれより多くの提案される治療処置を承認のために臨床医に提供し得るが、他の実施形態は、抵抗パラメータに基づいて決定される処置レジメンに自動的に進むようにプログラムされてもよい。
【0077】
着目すべきこととして、好ましい実施形態では、システムは、診断段階中または後に閉塞システムを解除し、閉塞システムを再び従事させることと、治療処置段階におけるステップを行うこととの前の血液の再灌流を可能にする。
【0078】
ここで
図8を参照すると、治療処置の方法800が、示されている。ステップ810において、治療剤の1つまたはそれより多くの治療流率が、抵抗パラメータを使用して、またはそれに基づいて決定される。例えば、抵抗パラメータが最小のMVOを示した場合、システム100は、治療剤の最大10ml/分の治療処置流率が適切であると決定し得る。別の例として、抵抗パラメータがより有意なMVOを示す場合、システム100は、5ml/分において始まり、最大40ml/分まで進行する治療処置流率が適切であると決定し得る。
【0079】
ステップ820において、治療剤は、カテーテル内の管腔を介して、ある治療流率において患者の動脈血管に送達される。好ましい実施形態では、治療剤は、30秒インターバル等の所定の時間量にわたって送達される。例えば、1分の治療サイクルに関して、治療剤が、30秒にわたって送達され、治療剤が全く(または殆ど)送達されない30秒周期の滞留時間が、それに続き得る。
【0080】
ステップ830は、付加的治療サイクル等の付加的療法が所望されるかどうかを決定する。該当する場合、経路832は、ステップ840まで辿られ、血流が、随意に回復させられ得る。好ましい実施形態では、血液灌流が、治療剤の導入に続いて一時的に回復させられる。例えば、治療剤が30秒にわたって送達され、30秒の滞留周期がそれに続く1分の治療サイクルに関して、血液灌流が滞留時間中に行われることを可能にするために、閉塞システムが、一時的に解除されてもよい。
【0081】
ステップ850において、治療流動プロパティが、随意に修正されてもよい。好ましい実施形態では、この修正は、治療剤に関する流率を増加させることを含む。ステップ820に進むと、治療剤は、ある治療流率において送達され、これは、ステップ850によって示された任意の修正を含み得る。方法800は、ステップ830に進み、経路832が、再び辿られてもよい。当業者は、患者が、結果として、異なる流率における治療剤の複数の注入を受け得ることを認識するであろう。好ましい実施形態では、注入率は、各注入率が先行流率に等しいように、またはそれを上回るように選択される。
【0082】
ステップ830において所望の療法が送達されると、方法は、経路834に沿ってステップ860に進み、終了ステップ870に到達する前に灌流を回復させるように、血液灌流が、閉塞バルーンを収縮させることによって、または別様に血流の閉塞を中止することによって回復させられる。
【0083】
ここで
図9を参照すると、患者を評価および処置するための方法900が、示されている。ステップ910において、診断が、本明細書に開示されるように(
図7Aおよび
図7Bならびに本明細書の関連付けられる部分において等)実施される。この診断シーケンスの結果として、抵抗パラメータが、決定される。診断ステップに続いて、方法900は、ステップ920に進み、療法が所望されるかどうかの判断が、行われる。例えば、抵抗パラメータは、MVOが殆どまたは全く存在しない可能性が高く、いかなる療法も所望されないことを示し得る。そのシナリオでは、経路922が、選択されてもよく、これは、ステップ970において方法を終了させる。
【0084】
一方、ステップ922において療法が所望されると判断された場合、方法は、経路924に沿ってステップ930に進み、治療処置が、行われる。好ましい実施形態では、処置は、
図8に関して説明されているように行われる。治療処置が施される実施形態では、診断段階と治療段階との間の血液再灌流のインターバルは、好ましい。
【0085】
治療処置段階に続いて、方法は、ステップ940に進み、付加的処置を実施するべきかどうかの判断が、行われる。該当する場合、方法は、経路942に沿ってステップ950に進み、治療剤が、修正され得る。例えば、第1の治療剤が、中止され、異なる第2の治療剤と換えられてもよい。方法は、次いで、ステップ930に戻り、処置が、再開される。プロセスがステップ940に戻ると、それは、ステップ940においていかなるさらなる処置も所望されなくなるまで、繰り返し、治療剤の任意の他の所望の修正を続け得る。プロセスは、次いで、ステップ960まで経路944を辿り、さらなる診断が所望されるかどうかを決定する。該当する場合、方法は、ステップ910に戻り、上記に検討された内容を再開する。そして、該当しない場合、方法は、ステップ970において終了する。いくつかの好ましい実施形態では、療法の終了時に患者のコンディションを評価するために、最終処置ステップに続いて最終診断分析を行うことが、望ましい。そのような実施形態では、方法は、ステップ940からステップ960に進み、次いで、経路962に沿ってステップ910に進み、次いで、ステップ920に進み、次いで、経路922に沿ってステップ970に進み得る。
【0086】
本発明のシステムおよび方法は、以下の例を使用してさらに解説され得る。
【0087】
ここで
図10を参照すると、診断シーケンスの一部の例が、説明されている。本発明によるシステム100のバルーンカテーテルが、患者の動脈血管内に設置される。閉塞デバイスの遠位の圧力センサが、血管内の圧力測定値を取得するために使用され、圧力測定システム104によって取得された圧力測定値が、例えば、ディスプレイ102上でのグラフィカルフォーマットにおける閲覧のために、コントローラ101によって処理され得る。この例における圧力測定値の表現が、線1010として
図10に示されている。遠位圧力は、立て続けに増加および減少し、これは、収縮期および拡張期圧に対応していることを認識されたい。
図10に説明されているシーケンスの開始時、線1010上に示されているように、収縮期圧測定値はほぼ60mmHgであるが、拡張期圧測定値は、30mmHgをわずかに上回る。閉塞バルーンが、順行性動脈流を閉塞させるために使用された後、血圧は、低下し、「滝のような圧力」(冠動脈楔入圧としても公知である)が、測定される。P
cwpと表される冠動脈楔入圧は、閉塞デバイスが血管を閉塞させた後、流体の注入に先立つインターバルにおける平均圧力として、例えば、Q
pump=0ml/分として計算され得る。
図10では、要素1020は、例示的な冠動脈楔入圧の決定に関して考慮されるインターバルおよび遠位圧力測定値を表している。
【0088】
線1030によって描写されているように、注入ポンプ103が、5ml/分の率において乳酸リンゲル液等の流体を注入し始める。流体が注入されるにつれて、圧力測定値1010が増加することが、観察される。遠位圧力Pdと注入液流率との間の関係は、方程式:抵抗=(遠位圧力)/(注入液流率)を使用して決定され得、本例では、遠位圧力は、mmHg単位で測定され、注入液流率は、ml/分単位で測定され、抵抗は、mmHg/(ml/分)単位で測定される。抵抗の表現が、
図10の線1040によって開示される。
【0089】
線1030に示されているように注入液流動が比較的段階的な方式において増加させられるにつれて、線1010に示されているように遠位圧力は増加するが、線1040に示されているように抵抗は減少することが、観察される。注入が中止されると(30ml/分注入率の後に行われる)、遠位圧力測定値は、閉塞バルーンが収縮させられ、血液灌流が再開されることを可能にするまで、再び冠動脈楔入圧まで減少する。
【0090】
圧力測定システム104によって収集されたデータは、コントローラ101によって、1つまたはそれより多くの平均遠位圧力(P
d)値を決定するために処理されてもよい。いくつかの好ましい実施形態では、
図10を参照して説明されているように、平均遠位圧力は、複数の時間周期にわたって決定される。ここでは、注入液送達は、注入率が一定であるいくつかのインターバルを含み、平均遠位圧力は、それらのインターバルの各々にわたる平均圧力として決定された。これらの平均遠位圧力決定は、次いで、平均動的微小血管抵抗(dMVR)値をもたらすように、対応する注入液流率で除算されてもよく、ここで、平均dMVR=各流率における(P
d)/(Q
pump)である。
【0091】
例えば、要素1050は、Qpumpが5ml/分であったときのインターバルにわたる平均dMVRを表し、要素1060は、Qpumpが10ml/分であったときのインターバルにわたる平均dMVRを表し、要素1070は、Qpumpが20ml/分であったときのインターバルにわたる平均dMVRを表し、要素1080は、Qpumpが30ml/分であったときのインターバルにわたる平均dMVRを表している。
【0092】
加えて、インターバル毎の平均冠動脈微小血管抵抗が、次いで、平均冠動脈微小血管抵抗=(Pd-Pcwp)/Qpumpとして計算され得る。
【0093】
診断シーケンス中に入手されたデータは、注入率(Q
pump)と遠位圧力との間の関係を決定するために使用される。代表的なヒトSTEMI患者から取得されたデータを含むそのような関係の例が、
図11Aおよび
図11Bに関連して説明されている。例えば、0ml/分、5ml/分、10ml/分、20ml/分、および30ml/分のいくつかの注入液流率毎に、対応する平均遠位圧力が、決定され、これは、
図11Bに示されている。対応する圧力および流率のペアは、
図11Aにプロットされ、点は、CoFIデータ(Q
pump,P
d)として表されている。データ点の間の線形関係を決定するために、線形回帰技法が、利用された。全ての点が使用される必要があるわけではないことを理解されたい。この例では、10ml/分、20ml/分、および30ml/分に対応するデータ点は、これらの低い流率と関連付けられる低血管内圧力に起因して遠位微小血管抵抗を変更する可能性が高いことから、Q
pump=5ml/分におけるP
dが省略され得ると決定されたため、そのような低い流率が、使用された。
【0094】
加えて、発明者らが行った以前の観察と整合的に、
図11Aおよび
図11Bの例におけるQ
pumpおよびP
d座標のペアは、5ml/分を上回る流率において線形依存性を呈している。圧力および流動のこの特徴的な依存性は、増加する注入率に関する平均微小血管抵抗の急減および回帰線の傾きによって与えられる一定の抵抗値への後続収束(漸近的冠動脈微小血管抵抗)を示唆している。この挙動は、
図10にも図示されており、線1040によって示されている動的微小血管抵抗(dMVR)は、第1の注入ステップ中に顕著に減少し、ポンプ注入率におけるさらなる増加に関して一定の平均値に近付く。
【0095】
傾き、Y軸切片、およびR
2値を含む、線形回帰分析によって見出された
図11Aの線の特性が、
図11Bに提示されている。流体流率と、対応する遠位圧力との間の他の(例えば、非線形)関係も見出され得、それらの関係が異なる特性を含み得ることを理解されたい。
【0096】
図12および
図13に関して説明されているように、本発明によると、側副流動の存在が、認識され、考慮に入れられ得る。
図12は、閉塞バルーン1220および注入液管腔の遠位端1230を含む注入システム100のカテーテルシステム1210の遠位部分を描写している。流体、治療剤、または他の注入液が、ポンプ103によって、注入液管腔の遠位端1230を介して、Q
pumpと表される流率において血管1240に送達されてもよい。圧力感知ガイドワイヤ1270は、バルーン1220の遠位の点1260によって圧力測定値を取得するように構成されている。随意に、デバイスは、バルーン1220の近位の圧力測定値を取得するように構成されている近位圧力センサ1280を含んでもよい。いくつかの実施形態では、カテーテルシステム1210の遠位部分が、閉塞バルーン1220または他のバルーン(図示せず)の膨張を介して展開され得るステント(図示せず)を含み得ることを理解されたい。
【0097】
図12に説明されているように、閉塞デバイスであるバルーン1220の遠位および近位にある血管1240と流体連通している側副経路1250が、存在する。Q
collateralと表され得る流率における、側副経路を通したある量の血流が生じ得ることを理解されたい。故に、側副経路1250に対して遠位の点1260での流率は、注入管腔および側副経路を通した流率の組み合わせとして見出され得、これは、(Q
pump+Q
collateral)と表され得る。
【0098】
側副流動が圧力差によって駆動されることが、当業者によって理解されるであろう。側副経路の遠位端における圧力が側副経路の近位端における圧力に等しいとき、流体流動に関する推進力は、存在せず(駆動圧力勾配がゼロである)、側副流動は、停止させられる。側副流動を考慮する際、診断シーケンス中のインターバルにわたって本質的に変化しないままであり得る平均大動脈圧(Pao)を考慮することが、有用である。当業者が認識するように、平均大動脈圧を決定するための種々の方法が、存在する。例えば、平均大動脈圧は、収縮期圧および拡張期圧の平均として、または収縮期圧および拡張期圧の加重比較(拡張期圧の3分の2および収縮期圧の3分の1を考慮する等によって行う)として、または他の公知の方法によって決定されるものとして決定されてもよい。
【0099】
側副流動が存在するとき、Q
pumpとP
dとの間の関係によって以前に決定された漸近的冠動脈微小血管抵抗が、Q
collateralを考慮に入れるためにさらに精緻化されてもよい。例として、
図13は、(Q
pump,P
d)として識別されるいくつかの注入流率と、対応する遠位圧力データ点とのペアが、5、10、20、および30ml/分の流率に関してグラフ化されているグラフを描写している。
図11と同様に、線1310によって示されている注入流動と遠位圧力との間の線形関係を決定するために、線形回帰が、使用された。線1310は、点1330まで延ばされ得、点1330は、側副流率がもはや全体的流率に寄与しているデータ点(Q
pao,P
ao)に対応する。しかしながら、側副流動を考慮に入れるために、(Q
pump+Q
collateral)とP
dとの間の関係が、考慮され、これは、線1320として描写されている。線1340および線1350によって示されているように、P
dがP
aoに等しい率まで注入流率が増加するにつれて、全体的流率に対する側副流率の効果は減少することを理解されたい。点1330において、Q
paoがQ
pumpであると仮定され得る。線1320は、点1330(Q
pao,P
ao)まで延ばされ得、そこでは、側副流率は、もはや全体的流率に寄与していないと仮定され得る。
【0100】
側副流動は、バルーン1220が血管1240を閉塞している間、バルーン1220の遠位の低圧によって駆動される。
図12に実証されているように、側副流動(Q
collateral)は、診断シーケンス中の平均大動脈圧(P
ao)と遠位圧力(P
d)との差異に対応する。P
dが診断シーケンス中に変動し、P
aoが一定のままであるため、側副流動は、低いQ
pump値において比較的大きく、増加するQ
pump流率(および増加する遠位圧力P
d測定値)に関して減少する。
図12および
図13を参照すると、点1260におけるP
dとQ
pumpとの間に存在する関係より臨床的に有意な関係が、点1260におけるP
dと総流動(Q
pump+Q
collateral)との間に見出され得る。したがって、
図13の線1320によって示されている関係から利益を享受することが、望ましい。当業者は、特に、低いQ
pump注入率に関連して、線1310が、線1320と比較して圧力応答を過大に見積もっていることを認識するであろう。したがって、線1310の傾きを使用して見出された漸近的冠動脈抵抗は、線1320と比較して少なく見積もられている。この効果を補正するために、線1310は、バルーン1220を横切る圧力勾配が無視できるか、または存在しない(すなわち、P
dは、点1330において生じるP
aoと同一またはほぼ同一である)側副流動抑制の理論点まで外挿される。漸近的冠動脈微小血管抵抗の抵抗パラメータは、次いで、P
ao/Q
paoとして算出され得る。漸近的冠動脈微小血管抵抗の抵抗パラメータは、P
aoがP
cwpを有意に上回るため、抵抗が点1330において収束され、ゼロ流動圧力を無視する効果が小さいことを仮定している。
【0101】
P
aoを決定するための種々の方法が、存在する。本発明のいくつかの局面によると、P
aoは、バルーン1220が収縮させられたときの、診断シーケンスの開始時のタイムフレームにわたる閉塞デバイスの近位の平均圧力として決定されてもよい。
図12の例では、大動脈圧のそのような測定値は、圧力センサ1280を用いて取得されてもよい。Q
paoは、次いで、方程式Q
pao=(P
ao-b)/mを使用して算出されてもよく、ここで、mは、それらのデータ点のペアの間の関係を決定するときにQ
pumpおよびP
dデータ点のペアを通して線形回帰によって見出された線の傾きであり、bは、そのY軸切片である。
図13に関して、線形関係が、それぞれ、Q
pump=10、20、30ml/分に関して見出された。当業者は、線形関係が見出されると、
図11Aおよび
図11Bに示されているように、線の傾きおよびY軸切片が容易に決定され得ることを理解するであろう。
【0102】
他の実施形態では、Paoは、システム100と通信するがカテーテル本体上に位置していないセンサを使用して決定されてもよい。
【0103】
本発明の好ましい実施形態は、Qpaoを決定することに対して、経験的な解決策に依拠することを理解されたい。例えば、Paoは、本明細書に説明されている、または当業者に公知である実施形態のうちの1つによって決定され得る。次いで、診断シーケンス中、Qpumpは、Pdの測定値がPaoの決定された値またはその付近になるまで増加させられ得る。その圧力に到達すると、側副流動は、無視されることができるか、または存在しないと仮定され得、Qpaoは、ポンプ103を使用して容易に取得され得るQpumpであると仮定され得る。
【0104】
ここで
図14に目を向けると、P
aoの決定のさらに別の例が、説明されている。
図14は、
図12中で圧力感知ガイドワイヤ1270によって点1260において取得され得る遠位圧力測定値(P
d)、すなわち、線1410を説明している。Q
pumpがゼロであるとき、血管1240の閉塞に先立って、P
dとP
aoとの間に存在する差異は無視できるはずであることを理解されたい。故に、臨床医は、血管の閉塞に先立って、閉塞デバイスの遠位の圧力測定値を取得し、平均大動脈圧P
aoを表し得る平均圧力を取得し得る。
図14を参照すると、平均圧力1420は、
図12の点1260における圧力感知ガイドワイヤ1270によって等、閉塞デバイスに対して遠位で決定されてもよい。
図14のx軸上に表されている最初の10秒の間に求められた平均圧力は、
図14の点線1430として示されているP
aoを表し得る。次いで、流体は、P
dの測定値がP
aoの以前に決定された値に到達するまで、上記に説明されているようにシステム100を使用して送達され得る。その時点で、Q
paoはシステムが流体を送達している率Q
pumpに等しいと仮定され得る。
【0105】
図12、
図13、および
図14に関して説明されている例では、一方のシステム100の注入ポンプ103によって提供される複数の流率と、他方の複数の流率に対応する動脈圧との間に、ある関係が見出され得ることが示されている。この関係の例は、データ点のペアの線形回帰によって決定される線1310によって実証されている。診断シーケンス中に、インターバルにわたって考慮される平均大動脈圧等の大動脈圧が見出され得ることも、示されている。Q
pumpがQ
paoであると仮定されている注入率を決定するために、大動脈圧が、使用され得る。Q
paoおよびP
aoの値は、関係P
ao/Q
paoによって見出される抵抗パラメータを決定するために使用され得る。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態では、システム100は、診断シーケンス中のQpumpとPdとの間の関係を決定することを必要としない。むしろ、Paoは、本明細書に説明されているように取得され得、次いで、Qpumpは、Pdの測定値がPaoに近似するまで、段階的方式等の一連の増分において増加させられ得る。その時点で、QpaoはPdに対応するQpumpであると仮定される。
【0107】
抵抗パラメータは、診断シーケンス中に取得されたPaoおよびQpaoの値を使用して見出されてもよく、抵抗パラメータは、PaoをQpaoで除算することによって見出される。発明者らは、そのような抵抗パラメータがMVOの存在を予測する際に有用であることを発見した。
【0108】
図15を参照すると、(P
aoをQ
paoで除算することによって見出された)抵抗パラメータの集合を描写しているチャートが、左心室質量のパーセンテージとして患者の対応する危険な心筋(MaR)と比較されている。抵抗パラメータとMaRとの間の相関が存在することが、回帰分析を通して示され、これは、MVOの存在または不存在を示すために使用され得る。例えば、データ点1510、1520、および1530は、いかなるMVOも有していない患者と関連付けられたが、データ点1540、1550、1560、1570、および1580は、MVOを有する患者と関連付けられた。当業者は、MVOの存在を予測し、治療処置が提案されるかどうかを決定するために、本発明の診断シーケンスにおいて見出された抵抗パラメータが、(MRIを介して取得された)MaRデータとともに利用され得ることを理解するであろう。
【0109】
本明細書に説明されている実装形態は、例証的であり、本発明の範囲が、それらの具体的実施形態に限定されず、多くの変形、修正、追加、および改良が可能性として考えられることを理解されたい。例えば、機能性は、本開示の種々の実施形態において、異なるようにブロック単位で分離されてもよく、または組み合わせられてもよく、または異なる専門用語で説明されてもよい。これらおよび他の変形、修正、追加、および改良は、続く特許請求の範囲に規定される本開示の範囲内に該当し得る。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】