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特表2023-526536呼吸器免疫病態の吸入型IL-1遮断治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】呼吸器免疫病態の吸入型IL-1遮断治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230614BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/14
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571335
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 IB2021000347
(87)【国際公開番号】W WO2021234457
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】63/028,494
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/072,895
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519165489
【氏名又は名称】アルタバント・サイエンシズ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ALTAVANT SCIENCES GmbH
【住所又は居所原語表記】VIADUKTSTRASSE 8,4051 BASEL,SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リング、スティーヴン、エー.
(72)【発明者】
【氏名】バラノウスキ、リン、エー.
(72)【発明者】
【氏名】クライザー、ケイトリン、アール.
(72)【発明者】
【氏名】パラシオス、ミッシェル
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA44
4C084DA59
4C084MA13
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZB11
4C084ZB33
4C084ZC42
(57)【要約】
本発明は、治療を必要とするヒト対象における下気道の炎症性疾患を治療する方法であって、有効量の組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)を、前記ヒト対象の下気道に直接投与することを含み、前記炎症性疾患はコロナウイルス感染症によって引き起こされる、前記方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とするヒト対象における下気道の炎症性疾患を治療する方法であって、
有効量の組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)を、前記ヒト対象の下気道に直接投与することを含み、
前記炎症性疾患はコロナウイルス感染症によって引き起こされる、
前記方法。
【請求項2】
前記rhIL-1Raがアナキンラである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アナキンラが組成物の成分であり、前記組成物が吸入製剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸入製剤がALTA-2530である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、229E、NL63、OC43、及びHKU1からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2及びその変異体からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記SARS-CoV-2変異体が、B.1.526、B.1.526.1、B.1.525、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.1.7、B.1.351、B.1.427、B.1.429、P.1、及びP.2からなる群から選択されるバリアントである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト対象がCOVID-19と診断されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記下気道の炎症性疾患が急性呼吸窮迫症候群又はサイトカインストーム症候群である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記rhIL-1Raが噴霧される(nebulized)、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記噴霧されたrhIL-1Raが約1μm~約15μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記噴霧されたrhIL-1Raが約3μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記噴霧されたrhIL-1Raがネブライザーを用いて送達される、請求項10~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ネブライザーが、PARI eFlowネブライザー、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、Vecturaネブライザー、及びAeroEclipse IIネブライザーからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ネブライザーがPARIネブライザー又はVecturaネブライザーである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記rhIL-1Raが、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及びインターロイキン18(IL-18)からなる群から選択される少なくとも1種の炎症誘発性サイトカインを阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
治療を必要とするヒト対象における下気道の炎症性疾患を治療する方法であって、有効量の組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)を、前記ヒト対象の下気道に直接投与することを含み、前記rhIL-1Raは、生理的な免疫調節の回復の際の内在性IL-1Raの上方制御によって引き起こされる遮断とほぼ同程度までインターロイキン1の遮断を引き起こす、方法。
【請求項18】
前記rhIL-1Raがアナキンラである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アナキンラが組成物の成分であり、前記組成物が吸入製剤である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記吸入製剤がALTA-2530である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記炎症性疾患がコロナウイルス感染症によって引き起こされる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒト対象がコロナウイルス感染症と診断されている、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記コロナウイルス感染症がCOVID-19である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、229E、NL63、OC43、及びHKU1からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項21~請求項23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV-2及びその変異体からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記SARS-CoV-2変異体が、B.1.526、B.1.526.1、B.1.525、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.1.7、B.1.351、B.1.427、B.1.429、P.1、及びP.2からなる群から選択されるバリアントである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記下気道の炎症性疾患が急性呼吸窮迫症候群又はサイトカインストーム症候群である、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
前記rhIL-1Raが噴霧される(nebulized)、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
前記噴霧されたrhIL-1Raが約1μm~約15μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記噴霧されたrhIL-1Raが約3μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記噴霧されたrhIL-1Raがネブライザーを用いて送達される、請求項28~請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ネブライザーが、PARI eFlowネブライザー、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、Vecturaネブライザー、及びAeroEclipse IIからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ネブライザーがPARIネブライザー又はVecturaネブライザーである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記rhIL-1Raが、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及びインターロイキン18(IL-18)からなる群から選択される少なくとも1種の炎症誘発性サイトカインを阻害する、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年5月21日に出願された米国特許出願第63/028,494号及び2020年8月31日に出願された米国特許出願第63/072,895号の利益及びそれに基づく優先権を主張するものであり、その内容はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
本特許開示には、著作権保護の対象となる資料が含まれている。著作権者は、米国特許商標庁の特許ファイル又は記録に掲載されているため特許文書又は特許開示を複写することに異議はないが、それ以外は、あらゆる著作権の権利を留保する。
【0003】
参照取り込み
本明細書に引用される全ての文書は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0004】
技術分野
本発明は全体として薬学分野に関する。より具体的には、本発明は、種々の下気道疾患を治療するための医薬品として有用な化合物及び組成物に関する。
【背景技術】
【0005】
患者におけるSARSの発生は、過免疫炎症反応を促進させる炎症誘発性サイトカインの過剰増殖性の過剰産生と関連している。Mehta, P. et al., COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression, The Lancet, Vol. 395 (March 2020) pp. 1033-1034を参照されたい。これらの異常なサイトカインプロファイルとしては、特に、IL-1及びIL-6の著しい上昇が挙げられる。Conti, P., et al. Introduction of pro-inflammatory cytokines (IL-1 and IL-6) and lung inflammation by COVID-19: anti-inflammatory strategies, Journal of Biological Regulators and Homeostatic Agents, Vol. 24, no. 2 (March 2020), pp. 11-15;Huang, C., et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China, The Lancet, Vol., 395 (February 2020), pp. 497-506; Shakoory, B., et al., Interleukin-1 receptor blockade is associated with reduced mortality in sepsis patients with features of the macrophage activation syndrome: Re-analysis of a prior Phase III trial, Crit. Care Med., Vol. 44, no. 2 (February 2016) pp. 275-281を参照されたい。この増強された免疫応答及び広範な調節不全を示すサイトカインストーム(サイトカインストーム症候群、CSS)は、ウイルス性トリガーによるToll様受容体(TLR)の活性化により促進される免疫応答として発生すると考えられている。Cron, R. et al. Don’t Forget the Host: COVID-19 Cytokine Storm, The Rheumatologist, (March 2020)を参照されたい。
【0006】
サイトカインストーム症候群は、コロナウイルスのSARS-CoV-2株によって引き起こされる2019年型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床的合併症に関連した広義語である。このサイトカイン反応は最終的には急性呼吸窮迫を引き起こし、治療されない場合は多臓器不全をもたらす可能性がある。Cron, R. et al. Don’t Forget the Host: COVID-19 Cytokine Storm, The Rheumatologist, (March 2020)を参照されたい。COVID-19感染者の推定20%が入院を必要とし、一部の重症感染患者は集中治療を必要とする。Pan, F. et al. Time Courses of Lung Changes On Chest CT During Recovery From 2019 Novel Coronavirus (COVID-19) Pneumonia, Radiology, (2020)を参照されたい。疾患早期は下部呼吸器に限局しているようである。CSSの早期治療を、特に疾患が呼吸器に限局している間に実施することで、転帰が良好になる可能性が高まる。Cron, R. et al. Don’t Forget the Host: COVID-19 Cytokine Storm, The Rheumatologist, (March 2020)を参照されたい。したがって、呼吸器の免疫病態を治療するための医薬組成物及び方法が依然として求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様では、本発明は、治療を必要とするヒト対象における下気道の炎症性疾患を治療する方法であって、有効量の組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)を、前記ヒト対象の下気道に直接投与することを含み、前記炎症性疾患はコロナウイルス感染症によって引き起こされる、前記方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、rhIL-1Raはアナキンラである。いくつかの実施形態では、アナキンラは組成物の成分であり、前記組成物は吸入製剤である。いくつかの実施形態では、吸入製剤はALTA-2530である。本明細書に記載されるALTA-2530は、吸入型の、遺伝子組換えインターロイキン-1α及び遺伝子組換えインターロイキン-1β(IL-1α及びIL-1β)受容体アンタゴニストタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、229E、NL63、OC43、及びHKU1からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-2及びその変異体からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2変異体は、B.1.526、B.1.526.1、B.1.525、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.1.7、B.1.351、B.1.427、B.1.429、P.1、及びP.2からなる群から選択されるバリアントである。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、COVID-19と診断されている。いくつかの実施形態では、下気道の炎症性疾患は、急性呼吸窮迫症候群又はサイトカインストーム症候群である。いくつかの実施形態では、rhIL-1Raは、噴霧される(nebulized)。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、約1μm~約15μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、約3μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、ネブライザーを用いて送達される。いくつかの実施形態では、ネブライザーは、PARI eFlowネブライザー、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、Vecturaネブライザー、及びMonaghan Medical AeroEclipse IIネブライザーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ネブライザーは、PARIネブライザー又はVecturaネブライザーである。いくつかの実施形態では、rhIL-1Raは、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及びインターロイキン18(IL-18)からなる群から選択される少なくとも1種の炎症誘発性サイトカインを阻害する。
【0009】
別の態様において、本発明は、治療を必要とするヒト対象における下気道の炎症性疾患を治療する方法であって、有効量の組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)を、ヒト対象の下気道に直接投与することを含み、rhIL-1Raは、生理的な免疫調節の回復の際の内在性IL-1Raの上方制御によって引き起こされる遮断とほぼ同程度までインターロイキン1の遮断を引き起こす、方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、rhIL-1Raはアナキンラである。いくつかの実施形態では、アナキンラは組成物の成分であり、前記組成物は吸入製剤である。いくつかの実施形態では、吸入製剤はALTA-2530である。いくつかの実施形態では、炎症性疾患はコロナウイルス感染症によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、ヒト対象はコロナウイルス感染症と診断されている。いくつかの実施形態では、コロナウイルス感染症は、COVID-19である。いくつかの実施形態では、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、229E、NL63、OC43、及びHKU1からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-2及びその変異体からなる群から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、SARS-CoV-2変異体は、B.1.526、B.1.526.1、B.1.525、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.1.7、B.1.351、B.1.427、B.1.429、P.1、及びP.2からなる群から選択されるバリアントである。いくつかの実施形態では、下気道の炎症性疾患は、急性呼吸窮迫症候群又はサイトカインストーム症候群である。いくつかの実施形態では、rhIL-1Raは、噴霧される(nebulized)。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、約1μm~約15μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、約3μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する。いくつかの実施形態では、噴霧されたrhIL-1Raは、ネブライザーを用いて送達される。いくつかの実施形態では、ネブライザーは、PARI eFlowネブライザー、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、Vecturaネブライザー、及びAeroEclipse IIネブライザーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ネブライザーは、PARIネブライザー又はVecturaネブライザーである。いくつかの実施形態では、rhIL-1Raは、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及びインターロイキン18(IL-18)からなる群から選択される少なくとも1種の炎症誘発性サイトカインを阻害する。
【0011】
以下の図は本発明の例示的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本明細書で開示される1又は複数の実施形態における、COVID-19感染症によって引き起こされる急性炎症の作用機序、及びALTA-2530が炎症を抑制する作用機序を示す模式図である。
図2】本明細書で開示される1又は複数の実施形態における、ラットへの単回投与後のELF中及び血清中のrhIL-1Raの濃度・時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
以下は、本明細書で用いられた用語の定義である。本明細書における群又は用語に与えられた最初の定義は、特に記載がない限り、本明細書中の当該群又は用語に、個別に又は別の群の一部として適用される。別途定義がない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、当業者により共通に理解される意味と同じ意味を有する。
【0014】
本明細書で使用される「下気道」又は「下部呼吸器」という用語は、肺の下部領域だけでなく、気管及び肺を含む喉頭より下側の解剖学的領域を指すか、又は説明する。
【0015】
本明細書で使用される「治療すること」、「治療」、及び「治療法」という用語は、疾患の進行、重症度、及び/又は持続時間を低減若しくは改善する試み、又は、1又は複数のモダリティ(例えば、本発明の化合物若しくは組成物などの1又は複数の治療薬)の投与に起因する、その症状の1又は複数を改善する試みを指す。
【0016】
本明細書で使用される「治療有効量」又は「有効量」とは、所望の転帰を達成又は促進するために必要又は十分な任意の量を指す。ある場合では、有効量は治療有効量である。治療有効量は、対象において所望の生物学的反応を促進又は達成するために必要又は十分な任意の量である。特定の任意の用途における有効量は、治療される疾患若しくは状態、投与される特定の薬剤、対象のサイズ、又は疾患若しくは状態の重症度などの要因に応じて変化し得る。当業者であれば、必要以上の実験を伴わず、経験的に特定の薬剤の有効量を決定することができる。
【0017】
本明細書で使用される「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用される。「対象」及び「複数の対象」という用語は、動物を指し、好ましくは非霊長類及び霊長類(例えば、カニクイザル、チンパンジーなどのサル、及びヒト)を含む哺乳動物を指し、より好ましくはヒトを指す。「動物」という用語には、これらに限定はされないが、ネコ及びイヌなどのコンパニオンアニマル;動物園の動物;野生動物;反芻動物、非反芻動物、家畜、及び家禽などの農場動物又は競技用動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シチメンチョウ、アヒル、及びニワトリ);及び齧歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ、及びモルモットなどの実験動物、並びに遺伝子操作又はその他の方法でクローン化又は改変された動物(例えば、トランスジェニック動物)も含まれる。
【0018】
本明細書で使用される「a」又は「an」は、そうでないことが明示されていない限り、少なくとも1つを意味する。「約」という用語は、特に記載がない限り、その用語が修飾している値の上下10%以内の値を指す。例えば、「約5%(w/w)」という用語は、4.5%(w/w)~5.5%(w/w)の範囲を意味する。
【0019】
本明細書で使用される「組成物」及び「本発明の組成物」という用語は、特に指示しない限り、互換的に使用される。特に記載がない限り、これらの用語は、これらに限定されないが、原薬(例えば、アナキンラ)を含有する医薬組成物及び栄養補助食品組成物を包含することが意図される。組成物は、疾患の診断、治癒、緩和、治療、若しくは予防において、又は、ヒトの構造若しくは任意の機能に影響する、薬理活性若しくはその他の直接的な効果を欠く、不活性な成分又は化合物である、1又は複数の「非薬効成分(excipient)」を含有していてもよい。
【0020】
詳細な説明
抑制のない、過剰なサイトカイン放出は、急性呼吸窮迫症候群及びサイトカインストーム症候群を引き起こし、多臓器不全をもたらす可能性がある。本明細書では、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、229E、NL63、OC43、及びHKU1によって引き起こされたウイルス感染症に続いて、特に肺の下部領域に対して生じ得る、重症化する可能性がある呼吸器損傷を治療する組成物及び方法が開示される。いくつかの実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2又はその変異体によって引き起こされ、SARS-CoV-2変異体は、B.1.526、B.1.526.1、B.1.525、B.1.617、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3、B.1.1.7、B.1.351、B.1.427、B.1.429、P.1、又はP.2などのバリアントである。いくつかの実施形態では、治療は、不適切な高度に局所的なサイトカイン放出に伴って引き起こされる、局所的な過剰炎症反応及び組織損傷を減衰又は逆転させるための、経口吸入型の、噴霧された組換えヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)の送達を含む。いくつかの実施形態では、組換えヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)はアナキンラである。
【0021】
いくつかの実施形態では、コロナウイルスなどによるウイルス感染症に伴って、患者において発生する可能性がある重症急性呼吸器症候群(SARS)を治療するために、組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)の吸入製剤が投与される。
【0022】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、肺に送達されることで、高用量連続IV注入が採用されない限りはSC又はIVで実現可能であるレベルよりも高いIL-1Raの呼吸器内レベルを達成することができる、少量の新規rhIL-1Ra製剤の組み合わせを含んでいる。
【0023】
いくつかの実施形態では、吸入型の組換えインターロイキン1α及びインターロイキン1β(IL-1α及びIL-1β)受容体アンタゴニストタンパク質(rhIL-1Ra;「ALTA-2530」としても知られる)が、肺移植後患者における閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療のために用いられる。閉塞性細気管支炎症候群は、肺組織におけるIL-1産生の増加、及びその下流での、自然免疫反応の過剰活性化を特徴とする。IL1-RAの吸入により、3人の後期疾患患者において、BOSを緩和し疾患増悪を遅らせることに成功した。
【0024】
いかなる理論にも束縛されることを意図するものではないが、ALTA-2530によるIL-1阻害によって、NLRP3インフラマソーム、Toll様受容体、及びカスパーゼ1により象徴されるような自然免疫系が遮断される[Cron, R. IL-1 Family Blockade in Cytokine Storm Syndromes, In Cytokine Storm Syndrome (pp. 549-559). Springer, Cham. (2019)]。IL-1を阻害することで、ALTA-2530は、IL-6、TNFα、及びIL-18を含む自然免疫系のサイトカインの最も上流に存在する遮断となる。そのため、IL-1を阻害することは、CSSの発生を促進する自然免疫系の重要な要素を阻害するための最適なアプローチとなり得る。
【0025】
rhIL-1Raによる皮下治療及び静脈内治療を、標準的治療が無効であった患者において、CSSの一部である、マクロファージ活性化症候群の治療について評価した。アナキンラの皮下投与(RA用に承認された投与量の4倍まで)は、同じように、状態の悪化を伴った。rhIL-1Rsの静脈内注入を開始し、投与量を1時間当たり1.5~2mg/kg(1日当たり2400mg)まで漸増させた。この投与量では、80%(4/5)の患者が急速な臨床的改善を示した。Shakoory, B., et al., Interleukin-1 receptor blockade is associated with reduced mortality in sepsis patients with features of the macrophage activation syndrome: Re-analysis of a prior Phase III trial, Crit. Care Med., Vol. 44, no. 2 (February 2016) pp. 275-281を参照されたい。しかし、高投与量のrhIL-1RAは腎臓の損傷、肝臓アミノ基転移酵素の増加、及び血球減少(白血球減少)を伴っていた。rhIL-1Ra(アナキンラ、SC用製品)の承認された皮下投与量は1日当たり100mgである。
【0026】
同様に、敗血症を伴うMAS患者における第III相臨床試験の再解析において、rhIL-1RAのIV注入(1時間当たり2mg/kg)は、28日間生存率において顕著な改善をもたらした(死亡率が47%減少)。Shakoory, B., et al., Interleukin-1 receptor blockade is associated with reduced mortality in sepsis patients with features of the macrophage activation syndrome: Re-analysis of a prior Phase III trial, Crit. Care Med., Vol. 44, no. 2 (February 2016) pp. 275-281を参照されたい。
【0027】
COVID-19の後向きコホート研究において、ICU外で非侵襲的換気によって管理されている患者への高投与量rhIL-1RaのIV投与により、72%(21/29)の患者において臨床的改善が達成された。患者は、基礎治療(SOC)単独又はアナキンラ併用(5mg/kg、IV、1日2回、又は100mg、SC、1日2回)を受けた。低投与量SC投与は、治療の7日後に臨床的改善を示さなかった。高投与量IVアナキンラを投与された患者の21日目の生存率は72%(21/29)であり、SOCを受けた患者では50%(6/12)であった。Cavalli, G. et al. Interleukin-1 blockade with high-dose anakinra in patients with COVID-19, acute respiratory distress syndrome, and hyperinflammation: a retrospective cohort study, The Lancet (May 2020) pp. 1-7を参照されたい。
【0028】
rhIL-1RAの非経口送達で問題になる可能性があるのは、組織分布が限定されていることである。実際、承認されている皮下(SC)経路では、肺組織において最適に満たないレベルしか達成されない(送達された投与量の2%)。
【0029】
いくつかの実施形態では、rhIL-1Raが噴霧されて、約1μm~約5μm、約5μm~約10μm程度、約10μm~15μm程度、又は約15μm~20μmの粒子の空気動力学的質量中央径(MMAD)が達成されてもよい。MMADは、肺の下部領域への送達と整合する、約3μmであることが好ましい。MMADが約3μmであると、COVID-19 CSSと最も関連性がある呼吸器の領域への送達量を増やすことができる。さらに、吸入による送達は、全身暴露を低減し、高投与量IV注入治療に伴う有害事象のリスクを低減する潜在的利点を伴う。
【0030】
本明細書では、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に伴う炎症及び急性肺損傷を減弱するために使用することができる、吸入型のIL-1受容体アンタゴニストALTA-2530が開示される。ARDSは、COVID-19の、命に関わることが多い合併症であり、主な死因である。図1に示されるように、ARDSの発症は、サイトカインストーム症候群(CSS)と関連しており、CSSには、過剰な炎症状態、及びそれに伴う肺組織損傷、肺胞水腫、及び酸素移動低下を引き起こす、炎症誘発性サイトカインの過剰増殖性の過剰産生が関与する。
【0031】
サイトカインIL-1βは、IL-1受容体(IL-1R1)に結合することで、自然免疫系の活性化、並びに、Toll様受容体、NLRP3インフラマソーム、及びカスパーゼ1の活性化から派生した炎症カスケードを促進するアゴニストである。ARDSの第1週目中の血漿中IL-1bの増加(>400pg/mL)は、不良な臨床転帰を予測するものとして提案されている。さらに図1に示されるように、IL-1のシグナル伝達を阻害することで(IL-1遮断)、組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra、アナキンラ)の吸入製剤であるALTA-2530は、IL-6、TNFα、及びIL-18を含む、CSS特有のサイトカイン発現増加を遮断し得る。
【0032】
重要なことに、IL-1遮断は炎症の生理的調節に寄与し、IL-1に応答して内在性IL-1Raが上方制御されて炎症反応が制限される。そのため、薬学的なIL-1遮断は、効果的且つ標的化された有望な治療法であるだけでなく、その作用機序は、生理的免疫調節の回復に近いと考えられている。
【0033】
rhIL-1Raの皮下製剤であるアナキンラは、関節リウマチ及びクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)に対して承認されている(Kineret(商標))。IL-1RaはIL-1βと同等の親和性でIL-1RI受容体に結合し、この競合的な結合性により、COVID-19に対して、肺組織で薬理学的に適切なレベルを維持する必要がある(図1参照)。高投与量の静脈内アナキンラは、COVID-19及びマクロファージ活性化症候群の死亡率を減少させたが、特に合併性を有する患者において、治療関連合併症のリスクを増大させる、腎損傷及び白血球減少を引き起こす可能性がある。肺への組織分布が限定的であるために(非臨床研究では、SC投与量の約2%のみが肺に分布)、アナキンラの高投与量IV投与が必要になる可能性がある。
【0034】
ALTA-2530は、SC治療やIV治療で可能なレベルよりも高い肺胞IL-1Raレベルを達成するように肺送達用に改質された、アナキンラと配列が同じタンパク質である。ALTA-2530を用いた非臨床研究では、噴霧された溶液として肺に送達されると、一日量が低減され、全身暴露が低減されることで、腎損傷及び白血球減少のリスクを低減することができることが示された。
【0035】
ALTA-2530原薬はキロスケールで製造される。製剤化された薬物製品は、約3μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する粒子を送達するように最適化されており、早期の炎症及び損傷の部位である、肺の遠位領域の末梢気道への送達と整合する。HPLC-UV法及びHPLC-SEC法による不純物プロファイリングにより、rhIL-1Raタンパク質が吸入投与中は安定であることが実証された。インビトロにおける細胞ベースアッセイで評価されるように、完全な生物活性が保持されていた。
【0036】
いくつかの実施形態では、ALTA-2530は、510k承認又はCE認証を受けた携帯用及び/又は人工呼吸器適合型のいくつかのネブライザーと適合し、外来COVID-19患者だけでなく人工呼吸を必要とする患者にとっても都合がよい。
【0037】
ALTA-2530は、詳細に明らかにされた作用機序、COVID-19のIV治療後の臨床効果のエビデンス、kgスケールの生産、及び規制当局に承認されたネブライザーと適合性がある、安全な分子である。
【0038】
IL-1受容体アンタゴニストの組成物
ある態様では、インターロイキン-1受容体アンタゴニストと、緩衝剤、安定剤、及び等張化剤からなる群からそれぞれ選択される1又は複数の追加成分とを含む、医薬組成物が記載される。
【0039】
いくつかの実施形態では、インターロイキン-1受容体アンタゴニストはアナキンラである。他のインターロイキン-1受容体アンタゴニストも企図される。
【0040】
いくつかの実施形態では、緩衝剤は、クエン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、グルタミン酸塩、ピロリン酸塩、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.5mM~約20mMの濃度のクエン酸塩を含む液体組成物である。
【0041】
いくつかの実施形態では、クエン酸塩の濃度は約20mMである。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約1mM~約50mM、又は約10mMの濃度のリン酸塩を含む液体組成物である。
【0042】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約5mM~約50mM、又は約10mMの濃度のヒスチジンを含む液体組成物である。
【0043】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約1mM~約50mMの濃度のグルタミン酸塩を含む液体組成物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約1mM~50mMの濃度のピロリン酸塩を含む液体組成物である。
【0044】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約10mM~約50mM、又は約10mMの濃度の4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含む液体組成物である。
【0045】
いくつかの実施形態では、安定剤は、界面活性剤、キレート化剤、糖、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij(商標)35)、ソルビタントリオレエート(Span(商標)85)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0046】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.01%~約1%(w/v)又は約0.1%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含む液体組成物である。
【0047】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.00001%~約1%(w/v)、又は約0.00001%~約0.01%(w/v)の濃度のポリソルベート20を含む液体組成物である。本明細書に記載の実施形態のうちのいずれか1つにおいて、医薬組成物は、約0.00001%(w/v)、約0.0001%(w/v)、又は約0.001%(w/v)の濃度のポリソルベート20を含む液体組成物である。
【0048】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.00001%~約0.01%(w/v)の濃度のポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij(商標)35)を含む液体組成物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.1%~約5.0%(w/v)、約0.8(w/v)、約0.85(w/v)、又は約0.86%(w/v)の濃度のソルビタントリオレエート(Span(商標)85)を含む液体組成物である。
【0049】
いくつかの実施形態では、キレート化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウムである。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.05mM~約1mM又は約0.5mMの濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウムを含む液体組成物である。
【0050】
いくつかの実施形態では、糖は、トレハロース、スクロース、グリセロール、ソルビトール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は液体組成物であり、糖の濃度は約40%(w/v)よりも大きい。
【0051】
いくつかの実施形態では、等張化剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、タウリン、ヒドロキシプロリン、プロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約120mM~約180mM、又は約140mMの濃度の塩化ナトリウムを含む液体組成物である。
【0052】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約5mg/mL~約50mg/mL、又は約10mg/mLの濃度のマンニトールを含む液体組成物である。
【0053】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約15mg/mL~約50mg/mL、又は約30mg/mLの濃度のタウリンを含む液体組成物である。
【0054】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約15mg/mL~約50mg/mL、又は約26mg/mLの濃度のヒドロキシプロリンを含む液体組成物である。
【0055】
いくつかの実施形態では、追加成分は、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート20、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ソルビタントリオレエート(Span(商標)85)、及び塩化ナトリウムを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、トレハロース、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、スクロース、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、等張化剤、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、等張化剤、及び塩化ナトリウムを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、トレハロース、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート20、等張化剤、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、スクロース、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ソルビタントリオレエート(Span(商標)85)、等張化剤、及び塩化ナトリウムを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、等張化剤、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、等張化剤は、タウリン、ヒドロキシプロリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0062】
いくつかの実施形態では、追加成分は、クエン酸塩、リン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、グルタミン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、追加成分は、クエン酸塩、トレハロース、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、追加成分は、グルタミン酸塩、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、ポリソルベート80、及び塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、追加成分は、リン酸塩、マンニトール、及び塩化ナトリウムを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、液体組成物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、固体組成物である。
【0066】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、凍結乾燥物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、凍結乾燥物から再構成される。
【0067】
別の態様において、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つに記載の医薬組成物と、医薬組成物を患者の呼吸器に直接投与するのに好適な送達用デバイスとを含む、キットが開示される。
【0068】
いくつかの実施形態では、呼吸器は、下気道又は上気道を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、吸入により有効量の医薬組成物を送達するように構成されている。いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、直接点滴注入により有効量の医薬組成物を送達するように構成されている。
【0070】
いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、ネブライザー、インヘラー、及びエアロライザーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、ジェット式ネブライザー、超音波ネブライザー、定量インヘラー、及びドライパウダーインヘラーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ネブライザーは、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、AeroEclipse IIジェット式ネブライザー、及びAerogen Solo VMネブライザーからなる群から選択される。
【0071】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、PARI eFlowネブライザー、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Go振動メッシュ式(VM)ネブライザー、Vecturaネブライザー(例えば、FOX(登録商標)振動メッシュ式ネブライザー;AKITA(登録商標)JETデバイス)、前臨床用ネブライザー(例えば、Aerogen Solo VMネブライザー)、又は任意の他の好適な振動メッシュ式若しくはジェット式ネブライザーなどのネブライザーを用いて送達される噴霧用溶液である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、PARIネブライザーを用いて送達される噴霧用溶液である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、Philips iNeb Advancedネブライザー又はPhilips InnoSpire Go振動メッシュ式(VM)ネブライザーを用いて送達される噴霧用溶液である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、Vecturaネブライザー(例えば、FOX(登録商標)振動メッシュ式ネブライザー;AKITA(登録商標)JETデバイス)を用いて送達される噴霧用溶液である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、任意の好適な振動メッシュ式又はジェット式ネブライザーを用いて送達される噴霧用溶液である。
【0072】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、前臨床試験施設及び臨床試験施設で作製することができ、且つ、投与期間中及び少なくとも24時間の使用期間中、噴霧に好適である、噴霧用の即時調製液剤である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、冷蔵温度で保管される、噴霧用溶液である。いくつかの実施形態では、GLP毒性試験及びGMP臨床試験のために開発された医薬組成物は、ブリッジング試験を回避するために、同じか同等であることが好ましい(例えば、非薬効成分に差がなく、比率がGLPの認定レベルを超えない)。いくつかの実施形態では、噴霧型GMP臨床製剤の医薬組成物の不純物プロファイルは、GLP前臨床試験で認定された不純物限界と同様であり、それを超えない。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、例えば、PARI eFlow、PARI VELOXネブライザー、Philips iNeb Advancedネブライザー、Philips InnoSpire Goネブライザー、又は任意の他の好適な振動メッシュ式若しくはジェット式ネブライザーを用いて、5分間未満で、理想的には2~3分間以内に、ネブライザーから10~40mg(ネブライザーへの薬剤充填量として表される)を送達するのに適した濃度を有する臨床製剤溶液である。
【0073】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は再現可能に送達され、肺の投与は、使用期間及び予想される投与期間に亘る化学的安定性及びエアロゾル性能安定性によって実証されるように、臨床プログラムを裏付けている。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、前臨床凍結融解試験で認定された閾値以上の忍容性を有する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、前臨床ストレス安定性試験に基づいて、安定である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、前臨床フィルター適合性試験に基づいて、純度基準を満たす。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、フィルター適合性前臨床試験に基づいて、内容物減少閾値を超過しない。いくつかの実施形態では、医薬組成物の、噴霧型GMP臨床製剤の安定性は、前臨床試験で認定された安定性閾値以上である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の、噴霧型GMP臨床製剤の使用期間は、前臨床試験で認定された使用期間と同様である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の、噴霧型GMP臨床製剤の保管条件は、前臨床試験で認定された保管条件と同様である。
【0074】
いくつかの実施形態では、医薬組成物のpH、浸透圧、及び外観は、前臨床試験で認定された測定値と同様である。いくつかの実施形態では、医薬組成物のタンパク質濃度は、前臨床試験で認定された濃度と同様である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の純度は、RPHPLC前臨床試験、SE-HPLC前臨床試験、還元型及び非還元型CE-SDS前臨床試験、並びにIEX-HPLC前臨床試験で認定された測定値と同様である。いくつかの実施形態では、医薬組成物中の外来粒状物質のレベル及び目視で見えない粒子(subvisible particle)のレベルは、前臨床試験で認定されたレベルと同様である。いくつかの実施形態では、医薬組成物中の外来粒状物質のレベル及び目視で見えない粒子のレベルは、前臨床試験で認定されたレベルと同様である。いくつかの実施形態では、噴霧型GMP臨床製剤の、NGIによる医薬組成物のエアロゾル粒径分布は、USP601に記載される粒径分布と同様となる。いくつかの実施形態では、医薬組成物の呼吸シミュレーターを用いた送達量は、投与期間全体に亘って、USP1601及びUSP601に記載される量と同様となる。いくつかの実施形態では、医薬組成物の効力は、前臨床細胞ベースバイオアッセイ研究で認定された効力と同様となる。いくつかの実施形態では、医薬組成物の、円二色性、粘度、表面張力、配合密度、液滴サイズ及び分布(例えば、Malvern Spraytec又は同等物によって測定される)、動的光散乱(DLS)、及び濁度の基準は、前臨床試験で認定された基準と同様となる。
【0075】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は液体組成物であり、送達用デバイスは液体組成物を送達するように構成されている。いくつかの実施形態では、液体組成物のpHは、約5~8である。
【0076】
いくつかの実施形態では、液体組成物の浸透圧は、約200mOsm/kg~約400mOsm/kgである。いくつかの実施形態では、浸透圧は、約300mOsm/kgである。
【0077】
いくつかの実施形態では、送達用デバイスによって生成される液体組成物の液滴サイズは、直径約0.5μm~約10μmである。いくつかの実施形態では、送達用デバイスによって生成される液体組成物の液滴サイズは、下気道を優先的に標的とするのに好適である。
【0078】
いくつかの実施形態では、送達用デバイスによって生成される液体組成物の液滴サイズは、直径約5μm~約50μmである。いくつかの実施形態では、送達用デバイスによって生成される液体組成物の液滴サイズは、上気道を優先的に標的とするのに好適である。いくつかの実施形態では、液体組成物の電気伝導率は、2.5μS/cm未満である。
【0079】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は固体組成物であり、送達用デバイスは固体組成物を送達するように構成されている。いくつかの実施形態では、固体組成物は、約0.1μm~約20μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)を有する粒子から構成される。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約5μm未満である。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約4.5μm未満、約4.0μm未満、約3.5μm未満、約3.0μm未満、約2.5μm未満、約2.0μm未満、約1.5μm未満、約1.0μm未満、又は約0.5μm未満であり、あるいは、粒子のMMADは、本明細書で開示される任意の2つの数値で区切られた範囲内である。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約2.0μm~約5.0μm、約2.0μm~約4.0μm、約2.0μm~約3.0μm、約2.10μm~約3.50μm、又は約2.10μm~約3.20μmである。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約4μm未満である。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約2.5μm~約4μmである。いくつかの実施形態では、粒子のMMADは、約3.5μm未満である。
【0080】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、約0.1μm~約20μmの質量中央径(MMD)を有する粒子を含む。いくつかの実施形態では、固体組約成物は、約1μm~約5μmの空気動力学的質量中央径(MMAD)及び約5μm~約30μmの質量中央径(MMD)を有する粒子を含む。いくつかの実施形態では、MMDとMMADの比率は、約2~約30である。いくつかの実施形態では、MMDとMMADの比率は、約5~約30である。
【0081】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、約1g/cm3未満のタップ密度を有する。いくつかの実施形態では、固体組成物は、約1~約6の粗度を有する。
【0082】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、多孔質粒子を含む。いくつかの実施形態では、固体組成物は、膨潤性粒子を含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、多孔質粒子は、生分解性高分子を含む。いくつかの実施形態では、固体組成物は、脂肪酸の塩又はその誘導体をさらに含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、塩は、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、乳酸ステアリルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、固体組成物は、均一な粒径分布を有する粒子を含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、不均一な粒径分布を有する粒子を含む。いくつかの実施形態では、固体組成物は、二峰性の粒径分布を有する粒子を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、固体組成物中のインターロイキン1アンタゴニストの質量パーセントは、約1%~約40%、約40%~約70%、又は70%超である。
【0087】
いくつかの実施形態では、固体組成物は、複数のレセプタクル(receptacle)に封入された複数の粒子を含む。いくつかの実施形態では、レセプタクルは、カプセル、ブリスター、及びフィルムカバー容器からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、医薬組成物を細気管支に直接投与するのに好適である。いくつかの実施形態では、送達用デバイスは、医薬組成物を肺胞組織に直接投与するのに好適である。
【0088】
さらに別の態様において、治療を必要とする患者に本明細書に記載のいずれか1つの実施形態における医薬組成物を投与することを含む、呼吸器の炎症性疾患を治療する方法が開示される。
【0089】
炎症性疾患及び医薬組成物の投与
いくつかの実施形態では、呼吸器の炎症性疾患は、上気道の炎症性疾患である。いくつかの実施形態では、炎症性疾患は、吸入毒性肺損傷(toxic-inhalation lung injury)、肺ランゲルハンス細胞組織球症、非嚢胞性線維症性気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、反応性気道機能不全症候群(RADS)、閉塞性細気管支炎性器質化肺炎(BOOP)、閉塞性細気管支炎症候群(BOS)、特発性肺線維症(IPF)、間質性肺炎、一次移植片機能不全(PGD)、及び再灌流傷害からなる群から選択される。
【0090】
いくつかの実施形態では、吸入毒性肺損傷は、1又は複数の化学兵器剤の吸入によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、化学兵器剤は、塩素ガス及び硫黄マスタードからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、吸入毒性肺損傷は、塩素誘導性の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)及び硫黄マスタード誘導性の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)である。
【0091】
いくつかの実施形態では、吸入毒性肺損傷は、1又は複数の環境毒物及び/又は工業毒物の吸入によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、環境毒物及び工業毒物は、イソシアン酸塩、窒素酸化物、モルホリン、硫酸、アンモニア、ホスゲン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、飛散灰、ガラス繊維、シリカ、炭塵、アスベスト、シアン化水素、カドミウム、アクロレイン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、アルミニウム、ベリリウム、鉄、綿、酸化スズ、ボーキサイト、水銀、二酸化硫黄、塩化亜鉛、ポリマーヒューム、及び金属ヒュームからなる群から選択される。
【0092】
いくつかの実施形態では、吸入毒性肺損傷は、塵肺症又は閉塞性細気管支炎である。いくつかの実施形態では、吸入毒性肺損傷は、ベイピング関連肺損傷である。いくつかの実施形態では、ベイピング関連肺損傷は、ジアセチル、α-トコフェロール酢酸エステル、2,3-ペンタンジオン、ニコチン、カルボニル類、ベンゼン、トルエン、金属、細菌内毒素、及び真菌グルカンからなる群から選択される1又は複数の薬剤の吸入によって引き起こされる。
【0093】
いくつかの実施形態では、炎症性疾患は、肺の炎症性疾患である。いくつかの実施形態では、呼吸器の炎症性疾患は、下気道の炎症性疾患である。
【0094】
いくつかの実施形態では、肺上皮被覆液(lung epithelial lining fluid)中の医薬組成物の持続暴露は、約15時間~約100時間である。いくつかの実施形態では、肺上皮被覆液中の医薬組成物の持続暴露は、24時間以上である。
【0095】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、週1回程度~1日3回程度投与される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1日1回又は2回程度投与される。
【0096】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約3分間~約20分間の吸入により投与される。
【0097】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、約0.5mg/kg~約2mg/kgの投与量で投与される。
【0098】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、内在性IL-1βリガンドと実質的に同じ親和性で1型IL-1受容体に結合する。
【実施例
【0099】
実施例1.吸入製剤のスクリーニング
吸入製剤をスクリーニングするため、肺投与経路に許容可能な標的化溶液製剤のpHは、pH5~8である。溶液の浸透圧は生理的範囲内(約300mOsm/kg)である。使用される非薬効成分は、経肺経路に「許容可能」又は「十分に特徴付けられた」ものであり、且つ、承認された肺用製品についてFDAの非活性成分リスト内に記載された濃度範囲/投与量の範囲内である。非経口グレードの非薬効成分(利用可能な場合)、並びに/又は、米国、EU、及び日本を含む主要市場で販売されている吸入用製品に現在使用されている吸入グレードの非薬効成分のいずれかとすることが好ましい。物理的安定性スクリーニング試験、苛酷安定性スクリーニング試験、及び製剤濾過試験を含む予備処方を評価するために段階的アプローチが用いられる。
【0100】
予備処方試験を行うにあたり、エアロゾル特性評価試験で使用される、処方マトリックス及び噴霧用の安定なALTA-2530溶液を特定するためのスクリーニング試験を行う。ALTA-2530はヒト組換えIL-1受容体阻害剤(hIL-1Ra)である。対照製剤(Kineret)は基準として用いられる。処方成分としては、これらに限定はされないが、緩衝剤、安定剤、及び等張化剤が挙げられる。緩衝剤としては、ヒスチジン、リン酸塩、コハク酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、PBS、及びピロリン酸塩が挙げられる。安定剤としては、ポリソルベート20及びポリソルベート80、並びにその他の適合性の非イオン性界面活性剤、EDTA二ナトリウム、グリセリン、マンニトール、及びトレハロースが挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム及びブドウ糖が挙げられる。
【0101】
物理的安定性スクリーニング試験を行うにあたり、ストレス条件(例えば、凍結融解、撹拌)を用いて、およそ10種類の処方(各種マトリックス+ALTA-2530、及びKineret対照)のスクリーニングを行って、前臨床忍容性試験で使用される候補タンパク質処方マトリックスを特定する。特性評価及びアウトプットは、1~2回の凍結融解暴露及び撹拌のサイクル後の、およそ10種類の処方(ALTA-2530を含む)の、物理的及び化学的な特性評価解析(すなわち、外観、関連物質、SEC、DSC、濁度、DLS)を含む。
【0102】
ストレス安定性スクリーニング試験を行うにあたり、GLP試験で使用するための溶液処方を、短期の温度/時間ストレスに基づく安定性を用いて評価する。
【0103】
製剤濾過試験を行うにあたり、苛酷検査スクリーニング試験でリード製剤及びバックアップ製剤を特定する(最大4種類の組成物;2マトリックス×2濃度)。最大2種類の0.2μmフィルタータイプを用いてフィルター適合性試験(すなわち、不純物及び含量損失)を行う。単一濾過及び二重濾過を用いて結果を生成する。
【0104】
実施例2.エアロゾル特性評価
実施例1の予備処方スクリーニング試験で特定された処方を用いて、使用期間(T=0及びT=24時間)の間の噴霧に対する安定性、及びInnoSpire Goネブライザーを用いた臨床投与をシミュレートするための投与期間を決定する。これらの試験のための単一ネブライザー充填量も決定する。前臨床ネブライザー(Aerogen Solo)を用いて、予想される投与期間(すなわち、前臨床試験のための投与期間中(例えば、0時間、1時間、3時間))の噴霧に対する安定性を評価するために、前臨床試験施設のエンジニアリングランからの試料を評価する。
【0105】
噴霧安定性試験を実施するために、臨床ネブライザー及び前臨床ネブライザーの両方(異なる場合)を使用して、少なくとも2種類、最大で4種類の(処方スクリーニング試験中に特定されるような)噴霧溶液を特性評価する。意図された投与期間及び使用期間に亘って前臨床ネブライザーから生成される不純物プロファイル(試料は前臨床試験施設で実施されるエンジニアリングランから提供される)を決定する。意図された投与期間及び使用期間に亘って臨床ネブライザー(Philips InnoSpire Go)から生成される不純物プロファイルも決定する。噴霧前の評価として、溶液の粘度、密度、濁度、及び表面張力のデータを収集し、分析する。また、T=0時間及びT=24時間での各処方(冷蔵条件で保存された溶液)に対し、両方のネブライザーについてのデータを収集し、アッセイ及び不純物(SEC及びRP-HPLCにより噴霧の前後);物理的特性評価(回収された噴霧溶液及びネブライザー内に残存している溶液としての、噴霧前後の外観及び濁度);Spraytec(商標)によるVMD及びGSD;液体噴霧量(LOR)を確認し、ネブライザーが空になるまでの時間、スパッタするまでの時間、又は目詰まりするまでの時間、及びこの時点でのネブライザー内のおよその残量を報告する。
【0106】
2種類のネブライザー充填量において、最大2種類の処方(低溶液濃度及び高溶液濃度、同じマトリックス)について、使用期間に亘って、少なくとも3種類のPhilips InnoSpire Goネブライザーユニットを用いて、肺投与量及び投与量変動を、3種のネブライザーからAPSD及びGSDを生成し;USP1601を用いて固定期間(スパッタのための所定の時間)においてDDデータ(n=10)を生成し;肺投与量(DD及びカットオフ値5μm及び3.5μmのAPSDを用いて)及び投与量変動を推定し;それぞれの固定されたネブライザー充填量に対する複数のネブライザー充填量の関数として肺投与量を推定することによって推定する。
【0107】
実施例3.ボーラスIV注射後の低レベル且つ一過性の暴露と比較して、ALTA-2530の吸入送達は広範且つ長期間の肺のRhIL-1Ra暴露を達成する
ALTA-2530は、いくつかの実施形態では閉塞性細気管支炎症候群(BOS)に対する、開発中の、組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)の新規の吸入製剤である。BOSにおけるIL-1の過剰発現は、慢性炎症及び線維芽細胞活性化を促し、気道リモデリング及び酸素移動低下を引き起こす。IL-1に応答して内在性IL-1Raが上方制御され、サイトカインシグナル伝達を制限するが、発現はBOSを抑制するには不十分である。薬理学的なIL-1の遮断は、生理的免疫調節の回復に近いと考えられている。
【0108】
目的:
ALTA-2530が、噴霧中に安定であるかどうか、末梢気道への分布と整合するエアロゾル粒径を達成するかどうか、及びBOSの治療に見合った肺暴露を達成するかどうかを決定する。
【0109】
方法:
Aerogen Solo振動メッシュ式ネブライザー又はPhilips InnoSpire Go振動メッシュ式ネブライザーを用いて、エアロゾル化及びインビボ試験を行った。ラット(1時点当たりn=4/群)に、ALTA-2530を、鼻部吸入(1肺当たり、0.63mg/g、1.3mg/g、及び2.1mg/g)により投与した。血清試料及び気管支肺胞上皮洗浄(BAL)試料を採取し、LC-MSMSによる分析を行った。肺上皮被覆液(ELF)中のALTA-2530はBALF希釈係数を用いて算出した。
【0110】
ALTA-2530の吸入送達は、暴露が一過性で20分未満であるボーラスIV送達後の暴露とは対照的に、齧歯類では際立って24時間を超える、肺上皮被覆液中の、広範、安定、且つ持続的な暴露を達成する。肺は、これらに限定はされないが、BOS、一次移植片機能不全(PGD)、再灌流障害、感染関連ARDS、又は化学性肺損傷を含む肺移植後状態が挙げられるが状態の治療のための標的器官である。肺組織において薬理学的に適切なレベルのrhIL-1Raを達成するには、rhIL-1Raによる高投与量のSC又はIV治療が必要となり、一部の患者では腎機能疾患及び好中球減少症が引き起こされる。IV送達は肺組織に低レベル且つ一過性の暴露をもたらすのみである。吸入送達は臨床的意義がある臓器を標的とし、持続的で高レベルの暴露を実現する。
【0111】
ボーラスIV注射後の20分間未満の一過性の暴露に対して、ALTA-2530の吸入送達は、ラットにおいて24時間を超える長期間のrhIL-1Raの肺暴露を達成する。これは、1日複数回のIV投与が肺病変の治療に必要であるのに対して、臨床において1日1回若しくは2回、又はさらに少ない頻度での投与についての予測である。さらに、ラットにおける肺上皮被覆液照射と血漿照射との比は、5時間IV注入後の肺組織:血漿が0.44倍であるのに対して、2500倍超であった。Kim et al., Kidney as a major clearance organ for recombinant human interleukin-1 receptor antagonist, Journal of Pharmaceutical Sciences, 1995を参照されたい。
【0112】
組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)暴露を、雄及び雌のスプラーグドーリーラットへの吸入送達後の肺気管支肺胞上皮洗浄液(BALF)において測定した。
【0113】
雄(M)及び雌(F)のスプラーグドーリーラットの体重を測定し、各試験群に無作為に分けた(表1)。1群は未治療のままとし、他の全ての動物は、鼻部吸入による、溶媒(生理食塩水、0.9%塩化ナトリウム)、又はALTA-2530被験物質(TA)組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rhIL-1Ra)の単回投与に暴露させた。rhIL-1Raの目標用量レベルは、目標エアロゾル濃度1.5mg/Lでの暴露期間によって調節した。
【0114】
【表1】
【0115】
暴露後のスケジュール化された剖検の際に、毒物動態(TK)分析用に、全てのTK用動物から、血液(血清)及びBALFを採取した。
【0116】
rhIL-1Raの血清レベル及びBALFレベルを、LC-MSMSにより決定した。抗ヒトIL-1RA抗体でコーティングされたストレプトアビジン磁気ビーズを用いて血清試料及びBALF試料からrhIL-1RAを捕捉し、トリプシンを用いて「オンビーズ」タンパク質分解を行い、変性、還元、及びアルキル化することで、rhIL-1RAに由来する特徴的なペプチド断片を得た。選択された固有ペプチドを、試料中のALTA-2530濃度の代替として定量化した。
【0117】
BALF中のrhIL-1Raの濃度は、Rennard et al., J Applied Physiol, 1986に記載されるように、BALF及び血漿尿素の正規化を用いて、上皮被覆液(ELF)を採集する際に導入された希釈係数に対し、補正を行った。BALF中の尿素レベルは定量下限(LLOQ)未満であったため、正規化係数はLLOQ値(1mg/dL)を用いて算出した。そのため、報告されたELF中のrhIL-1Raの値は、真の濃度よりも低く見積もられている可能性がある。性別群の血漿尿素平均値の組み合わせに基づいて、平均血漿尿素濃度を用いた。
【0118】
結果:
噴霧されたALTA-2530により、小細気管支への送達に整合する、約2.5~約4μmの空気動力学的質量中央径を有するrhIL-1Ra粒子が送達された。HPLC-UV法及びHPLC-SEC法、並びにインビトロ効力アッセイによる不純物プロファイリングでは、rhIL-1Raタンパク質が噴霧中に安定であり、完全な効力を保持していたことが実証された。
【0119】
血清及びELF中のrhIL-1Raの記述的な薬物動態パラメーターが表2に示される。図2は、ラットへの単回投与後のELF中及び血清中のrhIL-1Raの濃度・時間プロファイルを示す。
【0120】
【表2】
【0121】
考察:
ボーラスIV注射後の暴露が20分間未満と一過性であったのに対して、ALTA-2530の吸入送達は、ラットにおいて24時間を超える長期間のrhIL-1Raの肺暴露を達成した。その全体が参照によって本明細書に取り込まれるCawthorneは、[18F]IL-1RaのボーラスIV投与後の肺組織のPETイメージング及びガンマ線計測を評価している。Cawthorne et al., Biodistribution, pharmacokinetics and metabolism of interleukin-1 receptor antagonist (IL-1RA) using [18F]-IL1RA and PET imaging in rats, B.J. Pharmacology, 2010を参照されたい。
【0122】
ALTA-2530の吸入送達後の肺におけるrhIL-1Raの長期暴露は、1日複数回のIV投与が肺病変の治療に必要であるのに対して、臨床において1日1回若しくは2回、又はさらに少ない頻度での投与についての予測である。
【0123】
AUCとしての肺上皮被覆液曝露と血漿曝露との比は、5時間IV注入後の肺組織:血漿が0.44倍であるのに対して、全ての吸入量において、2500倍超であった。Kim et al., 1995を参照されたい。
【0124】
IL-1Raは、IL-1bと同等の親和性でIL-1RI受容体に結合するため、肺組織において薬理学的なレベルとなるには、約100倍のレベルのrhIL-1Raが必要となる。ヒト等価用量(肺1g当たりのmgに基づく)において、ラットのBALF中のrhIL-1ra濃度は、BOS患者のBALにおいて報告されたIL-1bの濃度を、1000倍超上回っていた。
【0125】
噴霧されたALTA-2530は、肺の末梢気道への送達のための粒径、及びBOSにおける1日1回での治療投与について予測される暴露期間において、安定で活性があるrhIL-1Raタンパク質を送達する。
【0126】
インビボ試験から得られた有効な動物投与量(例えば、上述の表2を参照)は、当該技術分野において公知の変換法を用いて適切なヒト投与量に変換できる。Tepper et al., Breathe in, breath out, it’s easy: What you need to know about developing inhaled drugs”, Int J of Tox, 2016 35(4) 376-392を参照されたい。いくつかの実施形態では、肺重量1g当たりのALTA-2530のmgに基づいて、ラット投与量をヒト投与量に変換することができる。いくつかの実施形態では、ヒト患者は、ALTA-2530を、約0.5mg/kg~約2mg/kgの投与量で吸入により投与される。
【0127】
肺の末梢気道に送達された噴霧されたALTA-2530は、薬理学的に適切なrhIL-1Raタンパク質レベルを保持しており、慢性肺同種移植片機能不全における治療投与として有望であることが示された。ALTA-2530 rhIL-1Raは、噴霧後も安定であり効力を維持することが示された。ALTA-2530 rhIL-1Raは、肺ELFにおいて安定であることが示された。ALTA-2530製剤は、ELFにおいて広範且つ長期の暴露を達成し、投与の24時間後のトラフ時に、rhIL-1RaのIC50(IC50の測定には市販のIL-1Ra効力アッセイを用いた)の29倍超であった。齧歯類試験から得られた空気動力学的質量中央径(MMAD)は、2.18μm~3.19μmの範囲であった。すなわち、吸入されたALTA-2530は、IL-1Raを、BOSの治療標的と整合する非ヒト霊長類の末梢気道に送達した。
【0128】
実施例4.噴霧用rhIL-1Raの特性評価
齧歯類に噴霧したALTA-2530を投与し、1回噴霧投与、2回噴霧投与、及び3回噴霧投与の結果をそれぞれ表3~5に示す。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
表6に示されるように、不純物プロファイリングHPLC-UV法によるタンパク質の特性評価では、rhIL-1Raが噴霧中は安定であることが示された。インビトロ阻害活性で測定された生物活性は、噴霧の前後で同様であった。
【0133】
【表6】
【0134】
実施例5.代替アナキンラ源の物理的特性評価及びエアロゾル特性評価
物理的特性評価試験及びエアロゾル特性評価試験を、代替アナキンラ源に対して行なった。物理的特性評価及びエアロゾル特性評価を、Sobi社(Kineret(登録商標))及びParas社の2種類のアナキンラ源に対して行った。Philips InnoSpire Go振動メッシュ式ネブライザーで噴霧される場合、50mg/mLでアナキンラを含有する吸入溶液を特性評価するために、エアロゾル試験法を用いた。
【0135】
この試験の結果によれば、InnoSpire Goを用いて噴霧される場合、50mg/mL吸入溶液は、SECアッセイ、RP-HPLCアッセイ、及び活性アッセイにより、噴霧に安定であることが示された。重要な結果の要約を表7に示す。Sobi社のアナキンラとParas社のアナキンラの出発純度には有意差が見られたことに。RP-HPLCで分析された場合はSobi社のアナキンラがより高い純度を示し、一方、SECで分析された場合はParas社のアナキンラがより高いアナキンラ単量体純度を示した。両タンパク質溶液から得られたMMAD値は同様であったが、目標許容基準を満たしていなかった(目標である4μm以下に対して約4.7μm)。しかし、4.7μmにおいて、確認されたMMAD値は、細気管支への局所肺送達に最適と見なされる2~5μmの範囲内であることに留意されたい。
【0136】
【表7】
【0137】
TM-286-001-05に従ってPhilips InnoSpire Goネブライザーで噴霧された場合のアナキンラ吸入溶液について、空気動力学的粒径分布を決定した。前記方法は、7段階及びフィルターからなる、次世代インパクター(NGI)内への噴霧からミストを回収することを含む。15LPMの流速を用い、NGIは試験前に少なくとも90分間、2~8℃の冷蔵庫に入れた。6.0mLの吸入溶液充填量を用いた。両方のアナキンラ吸入溶液のn=3の反復に対し、NGI試験を行った。NGI成分は試験法に従って抽出した。噴霧完了後、ネブライザー内の残存量は約0.5mLであり、ネブライザー全体に液滴が分布していた。リザーバー内に残存していた実際の量は0.5mL未満であり、取り出すことができる十分な量ではなかった。ネブライザーを希釈剤と一緒にプラスチック袋に入れ、抽出法を行った。Paras社の吸入溶液及びSobi社の吸入溶液のn=3の反復の結果をそれぞれ表8及び表9に示す。
【0138】
【表8】

【0139】
【表9】

【0140】
目標許容基準に対する、代替アナキンラ源のエアロゾル性能を表10に示す。
【0141】
【表10】
【0142】
DiscoverX PathHunter(登録商標)アナキンラバイオアッセイキット(カタログ番号93-1032Y3-00105)を用いて、試験試料のインビトロアナキンラ活性を決定するための実験を行った。DiscoverX PathHunter(登録商標)アナキンラバイオアッセイマニュアル内のプロトコルに従った。製造業者のプロトコルに従って、キット提供のバイオアッセイ用細胞を、1mLの予熱したCP5を用いて解凍し、合計19.2mLのCP5中に再懸濁し、96ウェルプレート内に80μLで播種する。これを、37℃、5%CO2、95%空気の加湿恒温器内で一晩(24時間)インキュベートする。試料をキット提供の阻害剤と共に添加し、37℃、5%CO2、95%空気の加湿恒温器内で6時間インキュベートした。10μLの検出試薬1を各ウェルに添加し、室温暗所で15分間インキュベートした。40μLの検出試薬2を各ウェルに添加し、室温暗所で60分間インキュベートした。その後、Biotech Synergy IIマイクロプレートリーダーで、プレートの化学発光の読み取りを行った。Kineretベースのプレート及びParasベースのプレートの2つの別々の実験として試験を行う。結果を以下の表11及び表12に示す。
【0143】
【表11】
【0144】
【表12】
【0145】
実施例6.アナキンラ噴霧溶液の開発及び特性評価
アナキンラの噴霧溶液を開発し特性評価した。アナキンラのIV製剤であるKineret(登録商標)から調製された噴霧溶液を特性評価し、その安定性を評価するために、スクリーニング試験を設計し実行した。本試験の結果によれば、5mg/mL及び50mg/mLに希釈され、AeroEclipse IIジェット式ネブライザーを用いて噴霧されたKineretは、SECアッセイ、RP-HPLCアッセイ、及び生物活性アッセイにより、噴霧に安定であることが示された。ネブライザー内に残存しているアナキンラ溶液の濃度は、噴霧前溶液濃度よりも噴霧後濃度の方が高かったが、これは、投与時の、ジェット式ネブライザーに関連した再循環プロセスによるものである。噴霧溶液のMMADは目標許容基準よりも大きかったが、確認されたMMAD値は細気管支への局所肺送達に最適と見なされる2~5μmの範囲内であることに留意されたい。重要な結果の要約を表13に示す。
【0146】
【表13】
【0147】
生物活性の結果(例えば、表13参照)は以下の通りに解釈される。DiscoverX Pathhunterアナキンラバイオアッセイは、IL-1BによるIL1R1/IL1RAPの二量体化誘導型活性化を測定する。アナキンラ(Kineretとしても知られる)は、関節リウマチを治療するために使用される生物学的薬剤である。アナキンラは、IL1R1/IL1RAPのIL-1B誘導型二量体化を遮断することにより機能する。この試験では、2つの実験を行った。1つ目の実験では、IL-1Bの、DiscoverX Pathhunterアナキンラアッセイの活性化に対する用量反応を評価し、また、アッセイの阻害に対するアナキンラの用量反応も評価した。IL-1Bは、0.16ng/mlのEC50でアッセイを活性化した。Kineret(登録商標)による阻害に使用するために濃度3ng/mlのIL-1Bを選択した(注射用には100mg/mLアナキンラ)。このIL-1B濃度では、Kineret(登録商標)アナキンラは0.65μg/mlのIC50でアッセイを阻害した。2つ目の実験では、3ng/mlのIL-1Bを用いて、アッセイの活性化を行った。Kineret(登録商標)アナキンラによる阻害の評価を、8つの試験試料と比較した。Kineret(登録商標)アナキンラの反復IC50は0.55μg/mlであり、これは試験1で決定されたものである0.65μg/mlに非常に近く、本アッセイの再現性が優れていることが示された。噴霧前対照(試料1)は0.45μg/mlのIC50値を有していた。各試料のアナキンラ活性に対する処理の効果は、得られたIC50に反映されている。対照と比較したIC50の増加は、アナキンラ活性の減少を表す。試験試料は、試料3の0.45μg/mlから試料6の1.10μg/mlまでの範囲のIC50値を有していた。試料2、試料3、試料4、試料5、試料7、及び試料8について表示された処理は、試料のアナキンラ活性に対する効果は無視できるものであった(試料1に対して20%未満の変化)。試料6の処理は、この試料にとっての対照である試料5と比較して、アナキンラ活性を50%減少させた。得られた実験結果は、1つの処理された試料当たり1回の測定に基づいている。
【0148】
送達量
TM-286-001-03に従ってAeroEclipse IIジェット式ネブライザーで噴霧された場合のアナキンラ吸入溶液の送達量プロファイルを決定する方法を開発した。方法は、PARIフィルターパッドへの噴霧からミストを回収することを含む。流速15LPM及び充填量6.0mLの吸入溶液を使用した。方法開発の過程で作製された送達量試料を、TM-286-001-01(分子ふるいクロマトグラフィー法)及びTM-286-001-02(逆相HPLC法)の最新版に従うHPLCにより分析した。5mg/mLの吸入溶液を用いた8回のランの結果、及び、50mg/mLの吸入溶液を用いた2回のランの結果を、それぞれ表14及び表15に示す。
【0149】
【表14】
【0150】
【表15】
【0151】
5mg/mLの吸入溶液を用いた5回のランの結果、及び、50mg/mLの吸入溶液を用いた5回のランの結果を、それぞれ表16及び表17に示す。ネブライザー試料に存在する不純物レベルは、ほとんどの場合で、第一フィルター試料に存在する不純物レベルと同等(HPLC-RP法の誤差範囲内)であった(反復1は例外であった)。第二フィルターの不純物レベルはおよそ10~15%高かったが、第二フィルター試料のアナキンラ濃度はHPLC-RP法における目標不純物濃度のおよそ1/10であったことに留意されたい。試料が低濃度であると、試料中の不純物の定量化に悪影響を及ぼし得る。
【0152】
【表16】
【0153】
【表17】
【0154】
NGIによる空気動力学的粒径分布
TM-286-001-04に従ってAeroEclipse IIジェット式ネブライザーで噴霧された場合のアナキンラ吸入溶液の空気動力学的粒径分布を決定する方法を開発した。前記方法は、7段階及びフィルターからなる、次世代インパクター(NGI)内への噴霧からミストを回収することを含む。15LPMの流速を用い、NGIは試験前の少なくとも90分間、2~8℃の冷蔵庫に入れた。6.0mLの吸入溶液充填量を用いた。開発された方法の過程で作製されたエアロゾル試料を、TM-286-001-01(分子ふるいクロマトグラフィー法)及びTM-286-001-02(逆相HPLC法)の最新版に従うHPLCにより分析した。5mg/mLの吸入溶液を用いて、合計6回のNGIランを実行した。結果を表18に示す。MMADは4.66μm~5.06μmの範囲であった。
【0155】
【表18】
【0156】
5mg/mLの吸入溶液を用いた3回のランの結果、及び、50mg/mLの吸入溶液を用いた3回のランの結果を、それぞれ表19及び表20に示す。MMADは、5mg/mLの吸入溶液の場合は4.80μm~5.09μmの範囲であり、一方、50mg/mLの吸入溶液の場合は4.62μm~5.50μmの範囲であった。
【0157】
【表19】

【0158】
【表20】
【0159】
Kineretを生理食塩水で希釈することにより調製された5mg/mL及び50mg/mLのアナキンラ吸入溶液を特性評価するための、安定性に関する、分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)法及び逆相HPLC(RP-HPLC)法を開発した。これらの方法は処方開発の支持に適格であった。AeroEclipse IIジェット式ネブライザーで噴霧される場合の、5mg/mL及び50mg/mLの吸入溶液を特性評価するための、エアロゾル試験法を開発した。また、pH、浸透圧、表面張力、及び粘度について溶液を分析した。最後に、噴霧溶液に対し活性アッセイを行った。
【0160】
本試験の結果によれば、5mg/mL及び50mg/mLに希釈され、AeroEclipse IIジェット式ネブライザー及びコンプレッサーを用いて噴霧されたKineretは、SECアッセイ、RP-HPLCアッセイ、及び生物活性アッセイにより、噴霧に対して安定であることが示された。噴霧終了時(例えば、ネブライザーがスパッタを開始したとき)、およそ1mL~2mLのアナキンラ溶液がネブライザーに残存していた。ネブライザーにおける投与溶液の濃度は噴霧後に高くなった(5mg/mL溶液及び50mg/mL溶液のそれぞれで約33%~約48%の増加)。噴霧溶液のMMAD値は目標許容基準よりも大きかったが、確認されたMMAD値は細気管支への局所肺送達に最適と見なされる2~5μmの範囲内であることに留意されたい。表21及び表22は、本試験で生成された重要なデータの要約である。
【0161】
【表21】

【0162】
【表22】
【0163】
実施例7.ジェット式ネブライザー及び振動メッシュ式ネブライザーによる噴霧に対するアナキンラの安定性の特性評価
ジェット式ネブライザー及び振動メッシュ式ネブライザーによる噴霧に対するアナキンラの安定性を特性評価するための試験を行った。現在までに、肺薬物送達のためのアナキンラの噴霧の実現可能性を評価するために、2つの別々のCMC試験が実施された。
【0164】
試験1:アナキンラのジェット式ネブライザーを用いた噴霧に対する安定性
最初の試験は、AeroEclipse IIジェット式ネブライザー及び関連するコンプレッサーを用いた、噴霧の前及び後の、アナキンラ注射剤Kineret(登録商標)の物理的性能、化学的性能、及びエアロゾル性能に注目していた。Kineret(アナキンラ)は、ヒトインターロイキン-1受容体アゴニスト(IL-1Ra)の組み換え型非グリコシル化形態である。Kineretは、そのアミノ末端に1つのメチオニン残基が付加されている点で、天然ヒトIL-1Raと異なっている。Kineretは、153個のアミノ酸からなり、17.3キロダルトンの分子量を有している。Kineretは、大腸菌細菌発現系を用いた組換えDNA技術により作製される。Kineret(1mL当たり150mgのアナキンラ)は、USP仕様注射用水中にEDTA二ナトリウム(0.12mg)、塩化ナトリウム(5.48mg)、無水クエン酸(1.29mg)、及びポリソルベート80(0.70mg)を含有する溶液(pH6.5)中に0.67mL(100mg)のアナキンラを含有する、充填済注射器内に提供された注射剤である。Kineret中の非薬効成分は肺製剤に使用されてきた。現行のそれらのレベルでは、ポリソルベート80の濃度が、吸入製品についてのIIGリストを超過している(IIG最大値である0.04重量%に対して0.105重量%)。生理食塩水又はWFIなどの希釈剤を用いて50mg/mLに希釈することで、ポリソルベート80のレベルは0.035重量%まで減少することになる。最初の課題は、噴霧溶液としての現行のアナキンラ注射用製剤のバイアビリティを評価することであった。この一連の作業の一環として、Kineretの物理的性能、化学的性能、及びエアロゾル性能を特性評価する分析法を開発した。Kineretを生理食塩水で希釈することで調製された5mg/mL及び50mg/mLのアナキンラ吸入溶液を特性評価するための、安定性に関するSEC法及びRP-HPLC法を開発した。これらの方法は処方開発の支持に適格であった。AeroEclipse IIジェット式ネブライザーで噴霧される場合の、5mg/mL及び50mg/mLの吸入溶液を特性評価するための、エアロゾル試験法を開発した。これらの試験において、ネブライザーは連続モード(非呼吸作動モード)で作動させた。また、pH、浸透圧、表面張力、及び粘度について溶液を分析した。最後に、吸入溶液に対し活性アッセイを行った。開発された方法を用いて、肺送達用の吸入溶液としての当該製剤の適合性を特性評価し、表23に示される許容基準に対して評価した。
【0165】
【表23】
【0166】
本試験の結果によれば、生理食塩水で5mg/mL及び50mg/mLに希釈され、連続モードで運転されたAeroEclipse IIジェット式ネブライザーを用いて噴霧されたKineretは、SECアッセイ、RP-HPLCアッセイ、及び生物活性アッセイにより、噴霧に安定であることが示された。噴霧終了時(例えば、ネブライザーがスパッタを開始したとき)、およそ1mL~2mLのアナキンラ溶液がネブライザーに残存していた。ネブライザー内に残存しているアナキンラ溶液の濃度は、噴霧前よりも噴霧後の溶液の濃度の方が高かった(5mg/mL溶液及び50mg/mL溶液において、それぞれ約33%及び約48%の増加)。噴霧溶液のMMADは目標許容基準の4μmよりも大きかったが、確認されたMMAD値は細気管支への局所肺送達に最適と見なされる2~5μmの範囲内であることに留意されたい。結果の要約については表12(上述)を参照されたい。
【0167】
ジェット式ネブライザーを用いて噴霧されたアナキンラは安定であることが示され、投与中にジェット式ネブライザーで発生する再循環により、デバイス内に残存していたタンパク質溶液は時間と共に濃縮された。これは、噴霧期間中の送達量の均一性に影響を与える可能性がある。振動メッシュ式ネブライザーは、投与後にネブライザーに残される溶液の量を減少させることが知られており、ジェット式ネブライザーに関連する同様の再循環問題を抱えていないため、チームは2回目の試験では振動メッシュ式ネブライザーの評価を行うことを決定した。異なるネブライザーを評価することに加えて、チームは第2のアナキンラ源の評価も行った。
【0168】
試験2:2種類の異なるタンパク質源に関する、振動メッシュ式ネブライザーにより噴霧されるアナキンラの特性評価
本試験では、Philips InnoSpire Go振動メッシュ式ネブライザーを用いて、2種類のアナキンラタンパク質源の化学的性質、物理的性質、及びエアロゾル性質の評価を行った。Paras社のアナキンラ源を、1回目の試験で使用したSobi社のKineret(登録商標)供給品と比較した。アナキンラ処方のマトリックス及び初期濃度は共に同じものとした(例えば、両処方ともKineretの処方マトリックス及び濃度を使用した)。両方のアナキンラ開始製剤を、生理食塩水を用いて50mg/mLに希釈し、外観、pH、浸透圧、粘度、表面張力、活性、送達量、及び空気動力学的粒径分布を含む全ての試験を行った。噴霧の前後に、HPLC-RP及びHPLC-SECの両方で、選択されたエアロゾル試料の不純物分析も行った。1回目の試験で使用された許容基準と同じものを、表面張力及び粘度の属性を追加して本試験に適用した。
【0169】
試験結果によると、アナキンラは、振動メッシュ式ネブライザーを用いた噴霧に対して安定であることが示された。物理的試験は、噴霧前の50mg/mL吸入溶液に対して行った。外観試験では、全ての溶液が無色透明であり、外来粒状物質を含んでいないことが示された。溶液のpHは6.3で一定であった。吸入溶液の浸透圧は、Sobi社の製剤及びParas社の製剤のそれぞれで296mOsm/kg及び303mOsm/kgであり、ほぼ等張であった。吸入溶液の表面張力は、Sobi社の製剤及びParas社の製剤のそれぞれで37.8mN/m及び32.8mN/mであった。吸入溶液の粘度は同様であった。
【0170】
これら2種類のアナキンラタンパク質供給品の化学純度の差に注目した。噴霧前のSobi社のアナキンラ吸入溶液の50mg/mLの純度は、HPLC-SECでは96%単量体であり、RP-HPLCでは90面積%であった。噴霧前のParasアナキンラ吸入溶液の50mg/mLの純度は、HPLC-SECでは99%単量体であり、RP-HPLCでは73面積%であった。送達量試料の純度は、どちらのタンパク質供給品においても、噴霧後に大きな変化はなかった。
【0171】
6mLの50mg/mLアナキンラ溶液の吸入時間は10~14分の範囲であり、噴霧後に少量のアナキンラ溶液のみがネブライザー内に残っていた。両アナキンラ源の空気動力学的特性は同様であり、MMAD値は許容基準を満たしていなかった(目標である4μm以下に対して約4.7μm)。しかし、確認されたMMAD値である4.7μmにおいて、細気管支への局所肺送達に最適と見なされる2~5μmの範囲内であることに留意されたい。結果の要約については表7(上述)を参照されたい。
【0172】
これらの2つの試験からの結果によれば、アナキンラは、ジェット式ネブライザー又は振動メッシュ式ネブライザーのいずれでも噴霧することができる。この結果は両方のアナキンラ源の場合でも確認されたが;ただし、Paras社の供給品の方がRP-HPLCによる純度が低かった。Paras社は、不純物源が、使用されたポリソルベート80であったことを示しており、この純度の問題に対処できる注射用グレードの非薬効成分を特定しており、より純度の高いタンパク質の再供給が間もなく行われる予定である。
【0173】
上述の通り、希釈製剤のMMAD値は、両方の試験で、また、両方のネブライザーで、目標許容基準である4μm以下を満たしていなかったが、得られたMMAD値は全て2~5μmの許容範囲内であり、細気管支への局所肺送達には許容可能と見なされる。Kineret製品の製剤組成に基づいて、既存製剤の非薬効成分レベルの除去及び/又は調整を行って、表面張力を増加、及び/又は粘度を増加させることで、第1相のMMAD値が小さくなることが予想される。呼吸作動式の振動メッシュ式ネブライザーも、噴霧時の損失を低減するために望ましい。これらの試験(USP<1601>)で呼吸パターンは用いられておらず、さらなる試験で実施される予定である。AeroEclipse IIジェット式ネブライザーは連続モードで使用されたが、このネブライザーから送達される肺投与量のより良好な推定を得るために、呼吸作動を使用した評価が行われる予定である。表24は、本明細書に記載の試験1及び試験2からの結果を結合し要約したものである。
【0174】
【表24】

図1
図2
【国際調査報告】