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特表2023-526537高分子の相転移特性を測定する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】高分子の相転移特性を測定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20230614BHJP
   G01N 21/53 20060101ALI20230614BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20230614BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N35/08 B
G01N21/53 Z
G01N21/27 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571338
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 GB2021051243
(87)【国際公開番号】W WO2021234410
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2007689.9
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】アーター,ウィリアム イー
(72)【発明者】
【氏名】クライナー,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ウェルシュ,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】チィ,ルンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ノウルズ,トゥオマス ピー ジェイ
【テーマコード(参考)】
2G058
2G059
【Fターム(参考)】
2G058BB03
2G058BB10
2G058DA07
2G058GA06
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB06
2G059BB09
2G059BB14
2G059CC16
2G059DD12
2G059EE02
2G059EE07
2G059EE11
2G059FF01
2G059FF03
2G059FF04
2G059FF12
2G059KK01
2G059KK04
(57)【要約】
高分子の相転移特性を測定する方法が提供され、本方法は、少なくとも1つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成することであって、少なくとも1つの構成成分のうちの1つの構成成分が高分子を含む、マイクロ液滴の流れを生成することと、マイクロ液滴内の条件を変化させることと、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の相を測定することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子の相転移特性を測定する方法であって、前記方法は、
少なくとも1つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成することであって、前記少なくとも1つの構成成分のうちの1つの前記構成成分が前記高分子を含む、マイクロ液滴の流れを生成することと、
前記マイクロ液滴内の条件を変化させることと、
前記マイクロ液滴の前記構成成分の相対濃度、及び前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の相を測定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記マイクロ液滴内の前記条件が、前記マイクロ液滴中で前記高分子を含む前記構成成分及び少なくとも1つの更なる構成成分の前記相対濃度を変化させることによって変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロ液滴内の条件が、前記マイクロ液滴の温度を変化させることによって変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ液滴の前記温度が、前記マイクロ液滴が流れる流路の温度を制御することによって変化する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロ液滴の流れが連続流である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記測定することが前記マイクロ液滴の流れに対して連続的に行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロ液滴が採取され、前記採取されたマイクロ液滴に対して測定が実行される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロ液滴の流れが、前記構成成分を含む第1の流体の流れを第2の流体の流れに注入することによって生成され、前記第2の流体が前記第1の流体と不混和性である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度が、前記マイクロ液滴の少なくとも2つの構成成分のそれぞれの流れの相対流量を変化させることによって変化する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度が、第1の光学手段によって測定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の光学手段では、前記マイクロ液滴を照明光で照明して、応答を検出する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度が、前記照明光に対する前記構成成分それぞれの応答に基づいて求められる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記相対濃度の被測定対象である前記構成成分の各々が、前記照明光に応答して、特定の波長の光を放出する別々の蛍光色素分子を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の前記相が、第2の光学手段によって測定される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の光学手段によって前記マイクロ液滴の画像が取得され、前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の前記相が、特定の相を示す前記画像の特性に基づいて求められる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の光学手段によって前記マイクロ液滴の光散乱プロファイルが取得され、前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の前記相が、特定の相を示す前記光散乱プロファイルの特性に基づいて求められる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度が、前記マイクロ液滴の前記構成成分の測定済み相対濃度、及び前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の測定済みの相に基づいて変化する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度が、前記高分子が第1の相から第2の相へと転移する条件、又はこれに略近似した条件を有するマイクロ液滴を生成するように系統的に変化する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記高分子が、タンパク質又は核酸のうちの1つ又はそれ以上を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも2つの構成成分が、PH緩衝液、相分離体、食塩水又は治療薬剤/薬剤候補のうちの1つ又はそれ以上をさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
治療薬剤候補をスクリーニングする方法であって、前記方法が、請求項1から20のいずれか一項に記載の前記方法の前記ステップを含み、前記マイクロ液滴中における前記高分子以外の少なくとも1つの構成成分が薬剤候補を含む、治療薬剤候補をスクリーニングする方法。
【請求項22】
高分子の相転移特性を測定する装置であって、前記装置は、
少なくとも1つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成し、前記少なくとも1つの構成成分うちの1つの構成成分が前記高分子を含み、かつ前記マイクロ液滴の前記構成成分の相対濃度及び/又は前記マイクロ液滴の温度を変化させるように構成されたマイクロ流体システムと、
前記マイクロ流体システムによって生成された前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度を測定するように構成された、第1の光学系と、
前記マイクロ流体システムによって生成された前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の相を測定するように構成された、第2の光学系と、
を備える、装置。
【請求項23】
前記マイクロ流体システムは、
前記少なくとも2つの構成成分のそれぞれの構成成分の流れを注入するように構成された、少なくとも2つの注入口と、
第1の流体の流れが流れるように構成された第1の流路であって、前記第1の流体が前記少なくとも2つの注入口から到来する前記少なくとも2つの構成成分を含む、第1の流路と、
第2の流体の流れが流れるように構成された第2の流路であって、前記第2の流体が前記第1の流体と不混和性である、第2の流路と、を備え、
前記第2の流路内に開口しており、前記第1の流体の流れを前記第2の流体の流れに注入して、前記第2の流体内に前記第1の流体からなるマイクロ液滴を生成するように構成されたノズルを、前記第1の流路が含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記少なくとも2つの注入口に対応する少なくとも2つのポンプをさらに備え、前記少なくとも2つのポンプが、前記生成されたマイクロ液滴の前記少なくとも2つの構成成分の前記相対濃度を変化させるように、前記それぞれの構成成分の流れの相対流量を変化させるように構成されている、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度、及び前記マイクロ液滴中に存在する前記高分子の前記相に基づいて、前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度を変化させるように前記ポンプを制御するよう構成されたコントローラをさらに備える、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記コントローラが、前記高分子が第1の相から第2の相へと転移する条件、又はこれに略近似した条件を有するマイクロ液滴を生成すべく、前記マイクロ液滴の前記構成成分の前記相対濃度を系統的に変化させるように前記ポンプを制御するよう構成されている、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記第1の光学系は、
前記マイクロ液滴を照明光で照明するように構成された光源と、
前記照明光に対する前記マイクロ液滴の応答を検出するように構成された検出器と、
を含む、請求項22から26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項28】
前記光源が、それぞれが異なる波長の光を放出するように構成された複数の発光部を含む、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記検出器が、それぞれが異なる波長の光を検出するように構成された複数の光検出部を含む、請求項27又は28に記載の装置。
【請求項30】
前記第2の光学手段が、前記マイクロ液滴の画像を取得するように構成された撮像素子を含む、請求項22から29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記第2の光学手段が、
前記マイクロ液滴を照明するように構成された光源と、
前記マイクロ液滴によって散乱された、前記光源からの光の光散乱プロファイルを取得するように構成された検出器と、
を含む、請求項22から29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記高分子を含む前記構成成分が、前記高分子自体、細胞、細胞内小器官、細胞溶解液のうちの1つ又はそれ以上を含む前記高分子を含む、請求項1から31のいずれか一項のいずれかに記載の方法又は装置。
【請求項33】
2つ又はそれ以上の高分子の前記相転移特性が同時に測定され、少なくとも1つの前記構成成分が更なる高分子を含む、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法又は装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願に至るプロジェクトは、マリー・スクウォドフスカ・キュリー助成契約第841466号の下で、欧州連合のホライズン2020研究・イノベーションプログラムから資金提供を受けたものである。
【0002】
本発明は、高分子の相転移特性を測定する方法及び装置に関する。本発明の具体例は、液-液相分離(LIQUID-LIQUID PHASE SEPARATION:LLPS)に関する。
【背景技術】
【0003】
濃縮相と希釈相とを混合した中に、高分子溶液(例えば、タンパク質、ペプチド、及び核酸などによる高分子ポリマー溶液)から自発的に脱混合する液-液相分離(LLPS)は、生物学的機能の調節において当該過程で新たに重要な事柄が実現したために、強い関心の対象となっている。例えば、相分離タンパク質(例えば、生体分子タンパク質)凝縮物は、離散して細胞空間を組織化し、生体分子を局在化させることによってマイクロリアクタとして作用する。凝縮物は、転写の調節、翻訳の調節、そして細胞ストレス応答の調節を含む多様な基本的生化学過程にとって欠かせないものである。これらの凝縮物はまた、運動ニューロン疾患及び癌の発症を含むタンパク質の誤った折り畳み疾患に大きく関与しており、治療的介入の魅力的な標的となっている。
【0004】
何百もの細胞タンパク質と、他の生体高分子(核酸及びペプチドを含む)とについて現在証明されている相分離は、イオン強度、PH、温度、分子密集、及び低分子の有無に変動が生じるなど、環境条件のわずかな変化によって引き起こされ得る。物理化学パラメータに対してこのような感受性を有するために、多くの相分離系は現在、ヒト疾患を改善するための根本的に新規な薬剤標的として、強い関心を得ている。しかしながら、現時点では、凝縮系における相分離挙動を調節する物理パラメータの定量化需要が満たされていない。
【0005】
凝縮系の熱力学を記述するための基本的尺度は、高分子濃度条件及び高分子溶液条件の関数として、LLPSが起こっているか否かを系統的に分析することによって生成される相図である。相図は、化学空間における相境界の位置を特定することにより、LLPSと均一形態との間の化学平衡の位置を解明することで、LLPS系の相挙動を明確に集約したものである。LLPS系内の溶液条件を変化させることにより、相境界を直接変化させることができ、その結果、生体分子凝縮を促進する熱力学的過程に関する知見を得ることができる。したがって、相図を生成することは、高分子の相分離挙動を理解するための重要なステップである。
【0006】
しかしながら、LLPSを経ている多種多様なタンパク質、及びそれらの挙動を調節する環境条件があることを所与とすると、LLPS相図を迅速に、かつ高分解能で特性評価することができる実験方法に対する差し迫った需要がある。典型的には、これらの実験方法は、溶液条件に必須の変化を起こすために試薬を段階的に結合させることと、顕微鏡によって個々の条件で観察することとを含む、不経済で労力を要する方法によって生み出される。マイクロ流体技術は現在、生化学実験におけるアッセイ処理量、並列化及び小型化を改善するための有効な手段として確立されており、チップ上の生体分子の相挙動を定量化する上で新たな応用が見出されている。しかしながら、LLPS相図を迅速かつ高スループットで生成するための技術は、いまだ実証されていない。
【0007】
薬剤候補の存在下でLLPS系の相挙動をアッセイする既知の方法は、手動で、又はロボット工学を活用しながら、マルチウェルプレートを使用して異なる条件下で反応を行うものである。しかしながら、この方法では進行が過度に遅い。最良の自動化/ロボット型マルチウェルプレートでのアッセイは、10万未満の条件/日に限定される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上述の課題を少なくとも部分的に解決することを目的とする。例えば、本発明の実施形態は、相分離、高分解能データ、試薬消費量の有意な減少、及びリアルタイムデータ取得からの有向フィードバックという観点から、現行の技術よりもはるかに高速のデータ取得を実現し得る。
【0009】
本発明の一態様によれば、高分子の相転移特性を測定する方法が提供され、本方法は、少なくとも1つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成することであって、少なくとも1つの構成成分のうちの1つの構成成分が高分子を含む、マイクロ液滴の流れを生成することと、マイクロ液滴内の条件を変化させることと、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の相を測定することと、を含む。
【0010】
任意選択的に、マイクロ液滴内の条件は、マイクロ液滴中で高分子を含む構成成分及び少なくとも1つの更なる構成成分の相対濃度を変化させることによって変化する。
【0011】
代替的に、又は付加的に、マイクロ液滴内の条件は、マイクロ液滴の温度を変化させることによって変化する。任意選択的に、マイクロ液滴の温度は、マイクロ液滴が流れる流路の温度を制御することによって変化する。
【0012】
本発明の一態様によれば、高分子の相転移特性を測定する方法が提供され、本方法は、少なくとも2つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成することであって、少なくとも2つの構成成分のうちの1つの構成成分が高分子を含み、マイクロ液滴が同一の構成成分を異なる相対濃度で含む、マイクロ液滴の流れを生成することと、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の相を測定することと、を含む。
【0013】
任意選択的に、マイクロ液滴の流れは連続流である。
【0014】
任意選択的に、当該測定することはマイクロ液滴の流れに対して連続的に行われる。
【0015】
任意選択的に、マイクロ液滴が採取され、採取されたマイクロ液滴に対して測定が実行される。
【0016】
任意選択的に、マイクロ液滴の流れは、少なくとも2つの構成成分を含む第1の流体の流れを第2の流体の流れに注入することによって生成され、第2の流体は第1の流体と不混和性である。
【0017】
任意選択的に、マイクロ液滴中の少なくとも2つの構成成分のそれぞれの流れが合流して、第1の流体の流れを形成する。
【0018】
任意選択的に、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、マイクロ液滴の少なくとも2つの構成成分のそれぞれの流れの相対流量を変化させることによって変化する。
【0019】
任意選択的に、これらの流れはマイクロ流体システムの流路を流れる。
【0020】
任意選択的に、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、第1の光学手段によって測定される。任意選択的に、第1の光学手段では、マイクロ液滴を照明光で照明して、応答を検出する。任意選択的に、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、照明光に対する構成成分それぞれの応答に基づいて求められる。任意選択的に、構成成分の各々は、照明光に対して異なる応答を示す。任意選択的に、構成成分の各々は、照明光に応答して、特定の波長の光を放出する別々の蛍光色素分子を含む。
【0021】
任意選択的に、マイクロ液滴中に存在する高分子の相は、第2の光学手段によって測定される。任意選択的に、第2の光学手段によってマイクロ液滴の画像が取得され、マイクロ液滴中に存在する高分子の相は、特定の相を示す画像の特性に基づいて求められる。あるいは、第2の光学手段によってマイクロ液滴の光散乱プロファイルが取得され、マイクロ液滴中に存在する高分子の相は、特定の相を示す光散乱プロファイルの特性に基づいて求められる。
【0022】
任意選択的に、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、マイクロ液滴の構成成分の測定済み相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の測定済みの相に基づいて変化する。
【0023】
任意選択的に、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、高分子が第1の相から第2の相へと転移する条件、又はこれに略近似した条件を有するマイクロ液滴を生成するように系統的に変化する。
【0024】
任意選択的に、本方法は、測定値を分析して、高分子が第1の相から第2の相に転移する時点を特定することをさらに含む。
【0025】
任意選択的に、高分子は、タンパク質又は核酸のうちの1つ又はそれ以上を含む。任意選択的に、少なくとも2つの構成成分は、PH緩衝液、相分離体、食塩水又は治療薬剤/薬剤候補のうちの1つ又はそれ以上をさらに含む。任意選択的に、治療薬剤/薬剤候補は低分子薬剤又は生物製剤である。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、治療薬剤候補をスクリーニングする方法が提供され、本方法は、先行態様による方法のステップを含み、マイクロ液滴中における高分子以外の少なくとも1つの構成成分が、薬剤候補を含む。任意選択的に、事前定義された所望の方法で相転移特性を変化させることができない治療薬剤候補は処分される。
【0027】
本発明の第3の態様によれば、高分子の相転移特性を測定する装置が提供され、本装置は、少なくとも2つの構成成分を含むマイクロ液滴の流れを生成し、少なくとも2つの構成成分のうちの1つの構成成分が高分子を含み、かつ構成成分の相対濃度を変化させるように構成されたマイクロ流体システムと、マイクロ流体システムによって生成されたマイクロ液滴の構成成分の相対濃度を測定するように構成された、第1の光学系と、マイクロ流体システムによって生成されたマイクロ液滴中に存在する高分子の相を測定するように構成された、第2の光学系と、を備える。
【0028】
任意選択的に、第1の光学系と第2の光学系とは、マイクロ液滴の流れを連続的に測定するように構成されている。任意選択的に、第1の光学系と第2の光学系とは、マイクロ流体システムの測定領域に隣接して配置されている。
【0029】
任意選択的に、マイクロ流体システムは、少なくとも2つの構成成分のそれぞれの構成成分の流れを注入するように構成された、少なくとも2つの注入口と、第1の流体の流れが流れるように構成された第1の流路であって、第1の流体が少なくとも2つの注入口から到来する少なくとも2つの構成成分を含む、第1の流路と、第2の流体の流れが流れるように構成された第2の流路であって、第2の流体が第1の流体と不混和性である、第2の流路と、を備え、第2の流路内に開口しており、第1の流体の流れを第2の流体の流れに注入して、第2の流体内に第1の流体からなるマイクロ液滴を生成するように構成されたノズルを、第1の流路が含む。
【0030】
任意選択的に、本装置は、少なくとも2つの注入口に対応する少なくとも2つのポンプをさらに備え、これら少なくとも2つのポンプは、生成されたマイクロ液滴の少なくとも2つの構成成分の相対濃度を変化させるように、それぞれの構成成分の流れの相対流量を変化させるように構成されている。
【0031】
任意選択的に、本装置は、マイクロ液滴の構成成分の測定済み相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の測定済みの相に基づいて、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を変化させるようにポンプを制御するよう構成されたコントローラをさらに備える。任意選択的に、コントローラは、高分子が第1の相から第2の相へと転移する条件、又はこれに略近似した条件を有するマイクロ液滴を生成すべく、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を系統的に変化させるようにポンプを制御するよう構成されている。
【0032】
任意選択的に、第1の光学手段は、マイクロ液滴を照明光で照明するように構成された光源と、照明光に対するマイクロ液滴の応答を検出するように構成された検出器と、を含む。任意選択的に、光源は、それぞれが異なる波長の光を放出するように構成された複数の発光部を含む。任意選択的に、検出器は、それぞれが異なる波長の光を検出するように構成された複数の光検出部を含む。任意選択的に、本装置は、照明光に対する2つ又はそれ以上の構成成分それぞれの応答に基づいて、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を求めるように構成されたプロセッサをさらに備える。
【0033】
任意選択的に、第2の光学手段は、マイクロ液滴の画像を取得するように構成された撮像素子を含む。任意選択的に、本装置は、特定の相を示す取得画像の特性に基づいて、マイクロ液滴中に存在する高分子の相を求めるように構成されたプロセッサをさらに備える。あるいは、第2の光学手段は、マイクロ液滴を照明するように構成された光源と、マイクロ液滴によって散乱された、光源からの光の光散乱プロファイルを取得するように構成された検出器と、を含む。任意選択的に、本装置は、特定の相を示す光散乱プロファイルの特性に基づいて、マイクロ液滴中に存在する高分子の相を求めるように構成されたプロセッサをさらに備える。
【0034】
いずれかの先行態様では、任意選択的に、高分子を含む構成成分は、高分子自体、細胞、細胞内小器官、細胞溶解液のうちの1つ又はそれ以上を含む。
【0035】
いずれかの先行態様では、任意選択的に、2つ又はそれ以上の高分子の相転移特性が同時に測定され、少なくとも1つの構成成分が更なる高分子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による例示的なシステムを概略的に示す。
図2】本発明による装置の例示的な測定系を概略的に示す。
図3】塩濃度及びタンパク質濃度の関数としての液-液相転移を示す相図の一例を示す。
図4】本発明による例示的なシステムを概略的に示す。
図5】種々の濃度のFUS-GFP(左)及び1,6-ヘキサンジオールを含有する液滴の落射蛍光顕微鏡画像を示し、後者の濃度は共封入されたALEXA647による蛍光(右)によって示される。
図6】タンパク質濃度及び1,6-ヘキサンジオール濃度の関数としてのFUS-GFPの相図を示し、点は、個々のマイクロ液滴(N=322)について測定された溶液条件を表し、相分離の有無が、それぞれ白丸又は黒丸で示されている一方、破線は、LLPS相境界のおおよその位置を表す識別用のガイドである。
図7】緩衝液、10容量%の1,6-ヘキサンジオール及び23ΜMのFUS溶液の流量のプロットを示す。
図8図7に示す流量プロファイルからの1,6-ヘキサンジオール及びFUSの濃度のプロットを示す。
図9】本発明による例示的なシステムを概略的に示す。
図10】変動する流量のプロットを示す。
図11】マイクロ液滴の形成を示す。
図12】相分離の有無で異なる構成成分(左、中央)及び液滴を示す蛍光画像を示す。
図13】経時的な凝縮物の境界を示す。
図14図9のシステムを使用して得られた相図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の更なる特徴について、非限定的な例として、添付の図面を参照しながら以下に説明する。
本発明による高分子の相転移特性を測定するためには、マイクロ液滴の流れが必要となる。この流れが、好ましくは略連続的であるが、その一方で断続的又は他の形態であってもよい。マイクロ液滴は、連続相を形成する流体内に分散相を形成する(ここでの「相」は、マイクロ流体システムの文脈で使用されるため、高分子の相転移の文脈での「相」と混同されるべきではない)。マイクロ液滴は一般に、1MM未満の直径を有する液滴を指し、またマイクロメートルスケールの寸法を有する液滴、及び1マイクロメートル未満の直径を有する液滴、即ちナノ液滴を含む。
【0038】
マイクロ液滴は少なくとも2つの構成成分を含む必要があり、そのうちの1つの構成成分は高分子を含むべきである。高分子がポリマーであると好ましく、またタンパク質又は核酸のうちの1つ又はそれ以上を含んでいるとより好ましい。いくつかの実施形態では、高分子は細胞、細胞内小器官(例えば、核又はミトコンドリア)、又は細胞溶解液の一部であってもよく、構成成分は細胞、細胞内小器官又は細胞溶解液を含む。更なる構成成分は、PH緩衝液、相分離体、食塩水、細胞、細胞溶解液又は治療薬剤/薬剤候補のうちの1つ又はそれ以上を含んでいてもよい。以下でさらに説明するように、構成成分(例えば、高分子を含む、相対濃度の被測定対象である構成成分)の一部又はすべては、付加的に(上述の成分に対して)光学マーカ(「バーコード」とも称される)を含んでいてもよい。PH緩衝液は、光学的に特徴付けられていなくてもよい。相分離体は、相分離を誘起する凝集剤(生物起源及び非生物起源のポリマー、例えばPEG及びデキストランである)、タンパク質、核酸、種々の塩、又は低分子を含んでいてもよい。治療薬剤/薬剤候補は、タンパク質、核酸、脂質、ペプチド、又は抗体を含むが、これらに限定されない低分子製剤又は生物製剤であってもよい。
【0039】
さらに、マイクロ液滴は、異なる相対濃度で同一の構成成分を含む必要がある。このことを達成するために、図1に示されるマイクロ流体システム1が使用されてもよい。
【0040】
図1に示される例示的なマイクロ流体システム1は、2つの主要部、即ち生成部2とインキュベーション部3とを備える。異なる相対濃度、即ち異なる反応条件で同一の構成成分を含むマイクロ液滴が、生成部2で生成される。マイクロ液滴は、インキュベーション部3を所定時間通って流れ、これにより、構成成分が反応し、場合によっては高分子が凝縮する。
【0041】
図1に示される例示的なマイクロ流体システム1では、生成部2は、マイクロ液滴の各構成成分の流れを注入するように構成された、3つの構成成分注入口21A、21B及び21Cを含む。本実施例では、3つの構成成分、即ちタンパク質(高分子)を含む第1の構成成分、薬剤候補を含む第2の構成成分、及び相分離体を含む第3の構成成分が存在する。本実施例では、これらの構成成分の各々は、異なるマーカで光学的に特徴付けられている。本実施例では、これらの構成成分の各々は、緩衝液注入口22A、22B及び22Cを介して注入されたPH緩衝液と混合される。ただし、この混合は任意選択によるものである。本実施例では、PH緩衝液は光学的に特徴付けられていない。なお、代替実施例では、異なる構成成分及び/又は異なる数の構成成分が使用されてもよい。
【0042】
図には示されていないが、生成部2は、構成成分注入口21A、21B及び21Cに対応するポンプをさらに含んでいてもよい。これらのポンプは、それぞれの構成成分の流れの相対流量を変化させ、したがってマイクロ液滴の構成成分の相対濃度を変化させるように構成されていてもよい。これらのポンプが、マイクロ流体システムでの使用に適した型式のポンプ、例えばマイクロポンプである必要があることを理解されたい。圧力制御された流体の流れを使用することにより、マイクロ液滴の条件をミリ秒の時間スケールで変化させることができる。
【0043】
図1に示されるように、構成成分は、構成成分注入口21A、21B及び21Cと連通する各副流路23A、23B及び23Cを通って流れている。これらの副流路23A、23B及び23Cは、第1の流路24に収束している。したがって、第1の流路24は、注入口21A、21B及び21Cからの構成成分のすべてを含む第1の流体の流れを搬送している。本明細書で言及しているすべての流路が、特に明記しない限り、マイクロ流路、即ち1MM未満の少なくとも1つの寸法を有する流路であることを理解されたい。当然ながら、構成成分同士を混合するために代替の構成が用いられてもよい。
【0044】
図1に示される例示的なマイクロ流体システム1では、生成部2は、第2の流体(第1の流体は、すべての構成成分を含む)の流れを注入するように構成された連続相注入口25をさらに含む。第2の流体は、マイクロ液滴が分散される連続相を形成する。第2の流体は、第1の流体と不混和性であってもよい。例えば、第1の流体は水溶液であってもよく、また第2の流体はフッ化油などの油であってもよい。第2の流体は、任意選択的に界面活性剤を含んでいてもよい。
【0045】
図1に示されるように、連続相注入口24は、第2の流体の流れが流れるように構成された第2の流路26と連通している。図1では、第2の流路26はループ状であり、第2の流体は連続相注入口25から2つの対向する方向に流れているが、第2の流路26が異なる形態を有していてもよい。例えば、第2の流路26は直線状であってもよい(即ち、第2の流体は、単一の経路に沿って流れるように制限されてもよいが、その経路は必ずしも直線ではない)。当然ながら、代わりに代替の構成が用いられてもよい。
【0046】
図1に示されるように、第1の流路24は、第2の流路26内に開口するノズル27を含む。ノズル27は、第1の流体の流れを第2の流体の流れに注入し、かつ第2の流体(連続相)内に第1の流体(分散相)のマイクロ液滴を生成するように構成されている。当然ながら、代替の構成を用いて、第1の流体と第2の流体とを混合してマイクロ液滴を形成してもよい。
【0047】
図1に示されるように、第2の流路26は開口部28を含む。図示のように、この開口部はノズル27と対向していてもよい。また一方で、代わりに他の構成が用いられてもよい。開口部28は、マイクロ流体システム1のインキュベーション部3と連通しており、マイクロ液滴が生成部2からインキュベーション部3に流入できるように構成されている。
【0048】
図1に示されるように、インキュベーション部3は、第2の流路の開口部28と連通する流入口31と、第3の流路32と、流出口33とを含む。流出口33は、マイクロ流体システム1から第1の流体及び第2の流体を排出するように構成されている。第3の流路32の測定領域34は、流出口33の上流に位置している。測定領域34は、マイクロ液滴が分析される場所である。以下で明らかになる理由により、少なくともマイクロ流体システム1の測定領域34は透明であってもよい。
【0049】
第3の流路32は、流入口31から測定領域34まで所定の長さを有するように構成されている。この所定の長さにより、第3の流路32を通るマイクロ液滴の所与の流量に対して、いずれかの測定が行われる前のマイクロ液滴のインキュベーション時間が決まる。インキュベーション時間は、例えば10MS~10分であってもよく、好ましくは例えば1~20秒であってよい。本マイクロ流体システムの寸法を最小化するために、第3の流路32は、図1に示されるように蛇行形状を有していてもよい。当然ながら、代わりに代替の構成が用いられてもよい。
【0050】
図1に示されるように、第3の流路31は直線状であってもよい(マイクロ液滴が単一の経路に沿って流れるように制限されるが、その経路は必ずしも物理的に直線ではないという点で)。当然ながら、代替の構成が用いられてもよい。例えば、第3の流路31は、任意の数の並列流路に分割されていてもよい(マイクロ液滴が並列電気回路のように各流路内を同時に流れるが、これらの流路は互いと必ずしも物理的に平行ではないという点で)。各並列流路はそれ自体の測定領域を含んでいてもよく、これによって複数の測定セットを並行して行うことができ、その結果スループットがさらに向上する。本実施例では、並列流路は流出口33の上流で収束してもよいし、又は分割されたままで、それぞれが対応する独自の流出口を有していてもよい。
【0051】
当該システムは、第3の流路32内の温度を制御するための手段をさらに備えていてもよい。例えば、インキュベーション部は、ヒートブロックなどのヒータ、又はマイクロ流体システム1用のインキュベーションチャンバを含んでいてもよい。いくつかの例示的なシステムでは、温度が唯一の変数であり得る。即ち、温度は変動し得るが、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は変動し得ない。したがって、異なる温度での高分子の挙動を測定することができる。
【0052】
本発明による高分子の相転移特性を測定するためには、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を測定することが必要になる。例えば、標準的な落射蛍光顕微鏡技術を用いて、例えば(I)当該装置が液滴生成に使用される装置と同一であるか異なっているかにかかわらず、チップ上で液滴を捕捉すること、又は(II)マイクロ流体環境の外側の、例えばマルチウェルプレート若しくはカバースライドなどのアレイ又はリザーバ内の液滴を撮像することにより、画像化が行われてもよい。また一方で、当該測定がマイクロ液滴の流れに対して連続的に行われると好ましい。このことを達成するために、図2に示される測定系4が使用されてもよい。
【0053】
図2に示される例示的な測定系4において、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、第1の光学系5によって測定される。光学手段を使用することで検出速度を高めることにより、より高いスループットの実現が促進され得る。図2に示される測定系は、マイクロ液滴の構成成分の一部又はすべてが、蛍光色素分子などの別々の光学マーカを含み得るマイクロ流体システムで使用されるように構成されている。蛍光色素分子は、低分子蛍光色素、GFP、RFPなどの高分子蛍光タンパク質、又は量子ドットなどの蛍光粒子を含んでいてもよい。各蛍光色素分子は、照明を受けると特定の波長の光を放出するように構成されていてもよい。図2に示されるように、第1の光学系5は光源51と、検出器52とを含む。
【0054】
光源51は、マイクロ液滴を照明光で照明するように構成されている。図示のように、光源51は、複数の(この場合は3つの)発光部51A、51B及び51Cを含む。発光部51A、51B及び51Cの各々は、異なる波長の光を放出するように構成されている。発光部51A、51B及び51Cはそれぞれ、略単一の波長を有する光、例えばレーザ光を放出するように構成されていてもよい。発光部51A、51B、51Cは、例えばLEDを含んでいてもよい。
【0055】
発光部51A、51B及び51Cの波長は、マイクロ液滴中の各自光学的に特徴付けられた構成成分と結合した、それぞれの蛍光色素分子によって吸収される波長に対応し得る。これらの波長は、例えば赤色、緑色及び青色の可視光に対応し得る。また一方で、任意の波長が使用されてもよい。レンズ、反射鏡又は光ファイバなどの適切な光学素子を使用して、発光部51A、51B、51Cからの放出光を誘導してもよい。
【0056】
検出器52は、照明光に対するマイクロ液滴の応答を検出するように構成されている。図示のように、検出器52は、複数の発光部51A、51B、51Cに対応する複数の(この場合は3つの)光検出部52A、52B、52Cを含んでいてもよい。光検出部52A、52B、52Cは、フォトダイオードを含んでいてもよい。光検出部52A、52B、52Cは、受光した光を検出のために異なる波長の光に分離するための1つ又はそれ以上のフィルタを、任意選択的に含んでいてもよい。光検出部52A、52B、52Cによって検出される波長は、マイクロ液滴の各構成成分と結合した蛍光色素分子によって放出される波長に対応し得る。レンズ、反射鏡又は光ファイバなどの適切な光学素子を使用して、光検出部52A、52B、52Cへと受光光を誘導してもよい。
【0057】
マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、照明光に対する構成成分それぞれの検出応答に基づいて求められ得る。適切に較正されていることを想定すると、図1に示される例によれば、光検出部52A、52B、52Cが出力する相対信号に基づいて相対濃度が求められ得る。例えばプロセッサによって行われる一部の生データの処理は、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を求めるために必要とされ得る。
【0058】
本発明による高分子の相転移特性を測定するためには、マイクロ液滴中に存在する高分子の相を測定することが必要になる。このことを達成するために、図2に示される測定系4が使用されてもよい。
【0059】
図2に示される例示的な測定系4において、マイクロ液滴中に存在する高分子の相が、第2の光学系6によって測定される。光学手段を使用することで、高いスループットの実現が促進され得る。図2に示されるように、第2の光学系6は、マイクロ液滴の画像を取得するように構成された撮像素子61を含む。当該取得は、蛍光画像及び/又は明視野画像を取得することを含んでいてもよい。撮像素子61は、例えば高速度カメラを含んでいてもよい。図2に示される実施例において、マイクロ液滴中に存在する高分子の相は、特定の相を示す取得画像の特性に基づいて求められる。当該画像処理は、プロセッサ(例えば、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を測定することに関して上述したものと同一のプロセッサである)によって実行されてもよい。当該画像処理は、パターン認識アルゴリズム及び/又は機械学習アルゴリズムを含んでいてもよい。
【0060】
図に示されていない代替実施例では、第2の光学系は、マイクロ液滴を照明するように構成された光源と、マイクロ液滴によって散乱された、光源からの光の光散乱プロファイルを取得するように構成された検出器と、を含む。例えば、第2の光学系は干渉散乱顕微鏡システムであってもよい。マイクロ液滴中に存在する高分子の相は、特定の相を示す光散乱プロファイルの特性に基づいて求められてもよい。当該画像処理は、プロセッサ(例えば、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を測定することに関して上述したものと同一のプロセッサである)によって実行されてもよい。当該画像処理は、パターン認識アルゴリズム及び/又は機械学習アルゴリズムを含んでいてもよい。
【0061】
上述の測定によって取得されるデータ、即ち、分析されるマイクロ液滴ごとに示される構成成分の相対濃度及び存在する高分子の相は、記憶装置、例えばRAMに記憶されてもよい。当該データは、行が各分析液滴を表し、列が構成成分の濃度と、高分子相の有無とを表す表形式で記憶されてもよい。
【0062】
取得されたデータを分析して、化学空間における高分子の相境界を特定することができる。即ち、高分子が第1の相から第2の相に転移する化学的条件(構成成分の相対濃度)を特定することができる。相境界は、その多くが当技術分野で周知である任意の適切な数学的方法によって特定され得る。例えば、回帰曲線は当該データに基づいて数学的に特定され得、回帰は、異なる相において密接に隣接するデータの点であるデータ点に向かって重み付けされる。
【0063】
化学空間におけるデータ点を取得するために、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を系統的に変化させてもよい。当該変化は、化学空間内の所定の経路に従って予め定められていてもよく、又は以下でさらに説明するように、リアルタイムデータに基づいて動的であってもよい。
【0064】
マイクロ液滴の構成成分の相対濃度に生じる所定の変化の一特定例では、構成成分の濃度は、最小濃度と最大濃度との間で周期的に変化し得る。さらに、少なくとも2つの異なる構成成分の濃度は、異なる周期で周期的に変化し得る。当該周期は、マイクロ液滴の時間又は数、即ちデータ点で測定され得る。当該周期は一定のままであってもよいし、又はサイクル間で変化してもよい。最小値及び最大値もサイクル間で変化してもよい。こうした変化は、マイクロ流体システムへの流体の流れを制御する流れ制御システムを予めプログラムすることによって達成され得る(例えば、シリンジドライバ又は圧力制御システムなど)。制御システムは、本装置によって直接プログラムされてもよく、又は外部コンピュータによってそれ自体制御されてもよい。当該システムは、全流量を一定に保ちながら、構成成分の相対流量を周期的に変化させるように制御されてもよい。これにより、均一な液滴生成が確実に行われ得る。
【0065】
したがって、図7及び図8に示されるように、化学空間における表面又は体積を詳細に調査することができる。図7及び図8に示されるように、化学空間におけるデータ点は、短周期で化学空間内の第1の軸(例えば、第1の構成成分の濃度)に対して、かつ長周期で化学空間内の第2の軸(例えば、第2の構成成分の濃度)に対して生成され、その結果として、化学空間における二次元表面を詳細に調査することができる。一部の異なる構成成分の濃度は、同一周期で変化させることができる。したがって、当該異なる構成成分の相対濃度が一定に保たれ得る。例えば、図7に示されるように、ジオールに対する緩衝液の相対濃度は一定のままである。
【0066】
特定された相境界を使用して、図3に示されるものなどの相図を生成してもよい。図3において、左上部分は均一液相を表し、右下部分は凝縮液相を表す。図3は、薬剤が存在することによって相境界がどのように変位し得るか(矢印の方向に)をさらに示す。
【0067】
データ処理は、プロセッサによって実行されてもよい。当該プロセッサは、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度を測定することと、マイクロ液滴中に存在する相を測定することとに関して上述したものと同一のプロセッサであってもよい。
【0068】
上述の処理はすべてリアルタイムで、即ちマイクロ液滴が生成され、次いで測定が行われるときに実行されてもよい。したがって、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、マイクロ液滴の構成成分の測定済み相対濃度、及びマイクロ液滴中に存在する高分子の測定済みの相に基づいて変化してもよい。このようなフィードバックループを図1に示す。
【0069】
具体的な一実施例において、本方法は、例えば図7及び図8に関連して上述したように、化学空間内の所定の経路に従って、所定の方法でマイクロ液滴の構成成分の相対濃度を変化させることによって開始されてもよい。データが取得され、かつ分析されると、化学空間内の経路は分析データに基づいて、特定された相境界に略収束するように修正され得る。即ち、マイクロ液滴の構成成分の相対濃度は、高分子が第1の相から第2の相へと転移する条件、又はこれに略近似した条件を有するマイクロ液滴を生成するように系統的に変化してもよい。このようにして、最も有用なデータ点、即ち相境界に最も近接したデータ点がより効率的に取得され得る。このことは、スループットの向上をさらに促進する。このことは、上述の最小濃度及び/若しくは最大濃度、並びに/又は周期的に変化する濃度の周期を調整することによって達成され得る。例えば、化学空間の特定の領域をより細かく調査するために、最小濃度及び最大濃度によって規定される濃度範囲が縮小されてもよく、かつ/又はサイクル周期が延長されてもよい。
【0070】
マイクロ流体システム1、第1の光学系5及び第2の光学系6は、単一の装置の構成要素であってもよい。本装置は、マイクロ流体システム1を制御するためのコントローラをさらに備えていてもよい。本装置は、測定データが記憶される記憶装置と、測定データを取得するために必要な処理手段とをさらに備えていてもよい。本装置は、上述のように、相境界を特定するために測定データを処理する、かつ/又は測定データに基づいてマイクロ流体システムを制御する処理手段をさらに備えていてもよい。例えば、本装置は、マイクロ流体システム1を形成するマイクロ流体チップ、及び/又は第1の光学系5及び第2の光学系6を形成する適切な電子部品及び光学部品、並びに/又は処理手段及び制御手段を形成する集積回路を備えていてもよい。したがって、本装置はラボオンチップ型であってもよい。いくつかの実施形態では、処理手段及び/又は制御手段は、コンピュータなどの別個の装置によって提供されてもよい。
【0071】
以下に、FUSタンパク質の相挙動の特性評価を実証する例示的なシステムについて記載しており、従来の実験と比較して、アッセイ処理量が大幅に改善されるため、試料消費が低減されている。記載している方法は、通常はタンパク質の液-液相分離挙動の特性評価に適用することができる。
【0072】
本方法では、液滴マイクロ流体を利用して多数のマイクロ液滴を迅速に生成し、これらの液滴の各々は、タンパク質相分離を調査するための個別のマイクロ環境と考えることができる。幅広い化学空間領域にわたってLLPS挙動をマッピングするために、注入溶液条件を変更することにより、広範囲の相分離環境が迅速に生成される。筋萎縮性側索硬化症の病態の中心となるタンパク質である、タンパク質FUSの相図(図6)の取得が実証される。マイクロ流体プラットフォームを使用して、相分離した均一なFUS溶液間の相境界が、LLPSの挙動を強力に妨害することが知られている低分子の1,6-ヘキサンジオールによって調節されるように求められる。
【0073】
図4は、種々の溶液条件下でFUS-GFP(GFP標識したFUS)をマイクロ封入するためのマイクロ流体液滴生成部102の一例を示す。生成部102は、T結合部127において、水溶性タンパク質混合物と、液滴の合一を防止するための界面活性剤を含有する非混和性フッ化油の連続相とを混合することによって機能している。結合部127に先立ち、緩衝液、タンパク質及び1,6-ヘキサンジオール溶液を異なる比率で混合して、マイクロ流体プラットフォームによって詳細に調査されるタンパク質及び1,6-ヘキサンジオールの濃度範囲を規定する。本実施例の流量制御及び混合比を図7及び図8に示す。
【0074】
色素ALEXA647(10ΜM)を1,6-ヘキサンジオール溶液と混合して、1,6-ヘキサンジオールの液滴内濃度を示す蛍光マーカを付与した。予めプログラムされたシリンジポンプ107を使用して、水溶性液滴成分の注入流量を制御することで、化学空間の自動サンプリングが可能になる。液滴生成後に急速な混合が起こる前に、封入前のアッセイ成分の混合を層流が防止する。次いで、蒸発を防止するために、鉱油層下で液滴をオフチップで採取した。蛍光画像化分析を行う前に、試料を3分間採取した。
【0075】
各液滴中に存在するFUSG156E-EGFP及び1,6-ヘキサンジオールの濃度を、それぞれ体積正規化されたEGFP(緑色蛍光タンパク質)とALEXA647蛍光との積分によって求めた。GFP蛍光に離散的な斑点を呈していることによって相分離が認められたが、一方で液滴の蛍光が均一に見られることにより、相分離が起こっていないことを示した(図5)。FUSG156E-EGFP及び1,6-ヘキサンジオールの液滴の被測定濃度と相分離の有無とを組み合わせることによって、FUSG156E-EGFP/1,6-ヘキサンジオール系の相図を生成した(図6)。
【0076】
1,6-ヘキサンジオールはタンパク質凝縮物の形成を強力に阻害することが知られており、相分離は予想通り、低濃度(1容量%未満)の1,6-ヘキサンジオールでのみ観察可能であり、FUS-GFPは、より高いジオール濃度で均一相を示した。さらに、相境界における正の勾配を観察することができ、相空間の当該領域において、より高いFUS-GFP濃度でLLPSが起こる傾向が高まっていることを示している。
【0077】
本手法を用いて、LLPS相境界の位置を、5分以内(液滴生成に3分、撮像時間に2分)にFUS-GFP挙動の300を超える独立した測定値を生成することによって推定した。このアッセイ処理量は、手動実験によって達成可能であるものよりも有意に多く、その後データポイントの数が増加することで、タンパク質相境界の位置への適合が改善され得る。
【0078】
図9は、種々の溶液条件下でFUS-EGFP(EGFP標識したFUS)をマイクロ封入するためのマイクロ流体液滴生成部202の一例を示す。液滴は、自動シリンジポンプ207によって制御される流れ集束型マイクロ流体デバイスを使用して生成され、次いで蛍光顕微鏡によってウェル230内で画像化される。液滴生成結合部227において、液滴形成前に水溶液が層流下で混合される。図10は、種々のタンパク質及び調節因子の濃度を詳細に調査できるようにプログラムされたシリンジポンプシステムによって、水溶液の流量がどのように制御されるかを示す。図11は、FUSG156E及びPEGそれぞれに対するEGFP(緑色/薄灰色)及びALEXA647(赤紫色/濃灰色)バーコードの蛍光を示す、液滴生成の明視野顕微鏡画像(左)と液滴生成の組合せ蛍光画像(右)とを示す。
【0079】
図12(左/中央)は、捕捉されたマイクロ液滴の落射蛍光顕微鏡画像を示し、EGFP蛍光とALEXA647蛍光とは、それぞれFUSG156Eの濃度とPEGの濃度とに対応する。図12(右)は、EGFP蛍光の分布状態による、分離相(破線輪郭)又は均一相(実線輪郭)としての液滴の分類を示す。図13は、液体凝縮物がマイクロ液滴内で経時的に(1時間)どのように混合されるかを示し、それらの液体特性を実証している。
【0080】
図14は、EGFP-FUSG156Eの濃度対PEG 4000の濃度の相図を示す。散布図中の赤色/薄灰色(右上)及び青色/濃灰色(左下)のデータ点は、それぞれ個々の分離相又は均一相の液滴に対応する。ヒートマップは、液滴散布図で訓練されたSVM分類器によって判定される、相分離の確率に対応する。
【0081】
各マイクロ流体液滴内に含まれる凝縮物の数、大きさ及び形状は顕微鏡を用いて測定され、液滴全体の体積と比較されて、液滴のマイクロ環境内における凝縮相の体積分率が求められ得る。これらのパラメータを使用して凝縮系を特性評価することができ、また各マイクロ液滴中で特徴付けられた変動構成成分の関数として求めることができる。
【0082】
液‐液相分離した凝縮物の合一は、液滴内で経時的に、各液滴を構成するバーコード化された化学変数の関数として観察され得る。合一時間により、表面張力や粘度などの凝縮物の物理的特性を把握することができる。
【0083】
生体分子凝縮物は、異なる分子成分からなる複雑な混合物として存在する。これらの成分を別々に標識することにより、異なる分子が同一の凝縮物内に共局在化する様子を観察することができる。そのような分子は、タンパク質、核酸、低分子などであり得る。さらに、凝縮物成分の局所濃度が凝縮物の体積によって異なる凝縮物内のマイクロ構造を観察することができる。凝縮物の内外に含まれ、共局在化する分子の相対量(即ち、分配係数である)は、凝縮相に対する分子の親和性を記述する有用なパラメータである。分配係数は、システムパラメータの関数として一滴ずつ求めることができる。
【0084】
当該システム内の生体分子凝縮物の分析に更なる光学技術を適用することができ、これには以下が含まれる(網羅的ではない列挙)。
・光退色後の蛍光回復(FRAP)。本技術により、凝縮物内の標識分子の拡散率を把握することができ、この拡散率は、凝縮物の液体状態及び局所粘度を知らせるものである。
・蛍光偏光分光法。
・フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)。
・ブリルアン顕微鏡法。
【0085】
要約:相走査パラメータの関数としての凝縮物の生物物理学的特性評価
・大きさ、数、体積分率、アスペクト比(形状)
・合一速度
・同一の凝縮物内での異なる分子の共局在化。
〇分配
〇多相特性評価
・FRAP、偏光分光法など。
・材料特性状態及び粘弾性特性
【0086】
一実施例によれば、上述の方法及びシステムは、治療薬剤候補をスクリーニングするために使用されてもよい。その場合、マイクロ液滴における高分子以外の少なくとも1つの構成成分が、薬剤候補を含む必要がある。事前定義された所望の方法で相転移特性を変化させることができない治療薬剤候補は処分される。その一方で、事前定義された所望の方法で相転移特性を実際に変化させる薬剤候補は、更なる調査のために保持され得る。具体的には、意図される治療は、運動ニューロン疾患、アルツハイマー病及び/又は一部の癌などのタンパク質の誤った折り畳み疾患の治療であってもよい。
【0087】
以上、実施例により本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、記載された実施例に対して変形又は修正を行うことができると理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】