(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】成分を特徴付けるための装置に関する又は関連する改良
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230614BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230614BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230614BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230614BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230614BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230614BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230614BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230614BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N33/543 597
G01N33/68
G01N33/50 P
G01N33/50 Z
G01N33/53 D
G01N35/10 A
G01N37/00 101
C12M1/00 A
C12M1/34 F
C12M1/34 Z
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571765
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 GB2021051244
(87)【国際公開番号】W WO2021234411
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518296506
【氏名又は名称】フルイディック・アナリティクス・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】508311226
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】デベニッシュ,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ノウルズ,ツォーマス
(72)【発明者】
【氏名】コスモリアプトシス,バシリス
(72)【発明者】
【氏名】マイスル,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】プリディ,アシュリー
(72)【発明者】
【氏名】シャイト,トム
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,キャサリン
【テーマコード(参考)】
2G045
2G058
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA13
2G045DA30
2G045DA36
2G058AA09
2G058CC09
2G058DA02
2G058EA19
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB04
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ67
4B063QQ79
4B063QR66
4B063QS15
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
生体分子を特徴付けるための装置を提供する。該装置は、生体分子を含むサンプル流体を装置に導入するように構成されたサンプル入口チャネルと;補助流体を装置に導入するように構成された補助入口チャネルと;サンプル入口チャネル及び補助入口チャネルと流体連通している分配チャネル(前記分配チャネルは生体分子の分配を生ずるように適応されている)と;生体分子のシグネチャプロファイルを検出して、検出生体分子の測定データセットを取得するように構成された測定モジュールと;測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所と;そして格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュール(前記分析モジュールはさらに、相関値を使用して生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定するように構成されている)とを含む。生体分子を特徴付けるための方法も提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を特徴付けるための装置であって、前記装置は、
生体分子を含むサンプル流体を装置に導入するように構成されたサンプル入口チャネルと;
補助流体を装置に導入するように構成された補助入口チャネルと;
サンプル入口チャネル及び補助入口チャネルと流体連通している分配チャネル(前記分配チャネルは生体分子の分配を生ずるように適応されている)と;
生体分子のシグネチャプロファイルを検出して、検出生体分子の測定データセットを取得するように構成された測定モジュールと;
測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所と;そして
格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュール(前記分析モジュールはさらに、相関値を使用して生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定するように構成されている)と
を含む装置。
【請求項2】
前記装置が、格納場所から格納データセットを受け取り、分析モジュールから測定データセットを受け取って、測定データセットと関連する一つ又は複数のパラメーターをさらに調整するように構成されたコントローラーと;そして
オペレーターに更なる測定サイクルを指示する通知を出し、その結果、得られた更なる測定が、生体分子の決定された特徴に、予め決められた信頼水準を提供するように構成された、コントローラーと関連付けられた出力モジュールとをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記分配チャネルが生体分子の横方向分配を生じるように適応されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項4】
前記装置が、分配チャネルの流体を二つ以上の流れに分割するために少なくとも二つの出口チャネルをさらに含む、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記分析モジュールが、各生体分子の濃度及びアフィニティーを検出及び決定するように構成されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記分析モジュールが、各生体分子の濃度及びアビディティーを検出及び決定するように構成されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記分析モジュールがさらに、各生体分子の化学量論を検出及び決定するように構成されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記分配チャネルがT-センサーである、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
生体分子が、フルオロフォア、量子ドット又はナノ粒子で標識されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
生体分子を標識するために選択されるフルオロフォアが遠赤色スペクトル領域にある、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
電極を分配チャネルの上流に設け、電極を分配チャネルの下流に設けて、分配チャネルを横切る電界を印加するように構成されている、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
生体分子が、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、又は多糖である、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
生体分子が、抗体又はその抗体フラグメントである、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
抗体がアロ抗体である、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
生体分子が多生体分子混合物である、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
多生体分子混合物が抗体と抗原を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
抗原が標識される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
サンプル流体が生体分子を含むヒト血清である、前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
生体分子を特徴付けるための方法であって、該方法は、
サンプル流体のフローをサンプル入口チャネルに導入し;
補助流体のフローを補助入口チャネルに導入し;
サンプル流体のフローと補助流体のフローを分配チャネルで接触させて流体の層流を作り出し;
接触しているサンプルと補助流体との間で生体分子の分配を生成し;
測定モジュールを用いて生体分子のシグネチャプロファイルを検出して、検出生体分子の測定データセットを取得し;
測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所を提供し;
格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュールを提供し;そして
相関値を利用して、生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定する
工程を含む方法。
【請求項20】
格納場所から格納データセットを受け取り、分析モジュールから測定データセットを受け取って、測定データセットと関連する一つ又は複数のパラメーターをさらに調整するように構成されたコントローラーを提供し;そして
オペレーターに、コントローラーと関連付けられた出力モジュールを用いて、更なる測定サイクルを指示する通知を出し、その結果、得られた更なる測定が、生体分子の決定された特徴に、予め決められた信頼水準を提供する
工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
横方向分配が拡散によって作り出される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
横方向分配が電界の印加を通じて電気泳動的に作り出される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
生体分子の測定がマイクロ流体拡散サイジングによって決定される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
横方向分配が熱泳動によって作り出される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記分析モジュールが、各生体分子の濃度及びアフィニティー又はアビディティーを検出及び決定するように構成されている、請求項19~24に記載の方法。
【請求項26】
前記分析モジュールが、各生体分子の化学量論を検出及び決定するようにさらに構成されている、請求項19~25に記載の方法。
【請求項27】
蛍光分光法を用いて生体分子を検出する工程をさらに含む、請求項19~26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体サンプル内に存在する生体分子などの成分を特徴付けるための装置に関する。特に、本発明は、成分の少なくとも二つの特徴を同時に決定するように構成された装置に関する。
【0002】
本発明につながる研究は、欧州連合第7次フレームワークプログラム(European Union’s Seventh Framework Programme)(FP7/2007-2013)よりERC助成契約第337969号の下、及び欧州連合ホライズン2020研究とイノベーションプログラム(European Union’s Horizon 2020 research and innovation programme)より助成契約第766972号の下、資金提供を受けた。
【背景技術】
【0003】
タンパク質間の相互作用は、タンパク質自己集合;タンパク質凝集;抗体-抗原認識;筋収縮、及び細胞間コミュニケーションを含む多くの生物学的及び生理学的関連プロセスの基礎を形成する。それにもかかわらず、タンパク質間相互作用の研究は、特に複雑な媒体中の生理学的条件下では今も困難なままである。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ビーズベースのマルチプレックスアッセイ、及び表面プラズモン共鳴(SPR)分光法などの現行技術は、一方の結合パートナーの固定を必要とする。これらの技術は、偽陽性結果を招きうる表面との非特異的相互作用の可能性や偽陰性結果を引き起こすHook/Prozone効果を含むため、半定量的な分析しかすることができない。
【0004】
ヒト血清中に豊富に含まれている4500を超えるタンパク質の多くが有望なバイオマーカーと考えられている。そのようなバイオマーカーは、がん、心臓血管疾患、タンパク質ミスフォールディング病、2型糖尿病、精神障害、及び治験の検証を含む多くの疾患の診断に有用なツールであるばかりでなく、自己免疫疾患及び移植片拒絶の重要な指標となることも提案されている。バイオマーカーレベルの評価は、特に長期評価の場合、絶対的定量のために定量的かつ再現可能な手順が必要となる。特異的な生体分子の絶対的存在量と結合特性は、特定の疾患の罹患率と相関したり、潜在的な免疫学的リスクの証明として機能したりする。ヒトサンプルの絶対的定量は、診断のための新規バイオマーカーの発見を効率化するばかりか、濃度とアフィニティーの免疫応答の発生に対する相関を可能にすることを通じて有害プロセスの理解を得ることにも役立つ。
【0005】
臨床的意義を有するバイオマーカーの例として、ヒト白血球型抗原(HLA)(ヒト主要組織適合性複合体(MHC)としても知られる)に対する抗体の結合挙動は、多数の研究に適したバイオマーカーとして認定されている。HLAの特徴的でユニークな構造により、多数の病原体の認識が容易になる。従って、HLAは、自己と外来物又は悪性物、例えば病原体又は外来の細胞及び組織との間の区別に関与している。HLAは、外来臓器の認識に極めて重要で、同種移植の拒絶反応に関連しているため、臓器移植前の組織適合性スクリーニングは必須である。
【0006】
現在、臨床的なタンパク質の検出及び定量のための公知手法はいずれも、例えばELISAアッセイの場合のように、表面固定又はビーズ固定を必要とするアッセイを含む。ELISAアッセイは、比較的高感度(通常、およそ100μL中fmol単位の感度で、10,000~100,000分子に十分相当する)を達成できるが、生理学的に関連するプロセスは溶液中で起こるのに、溶液中での結合相互作用を説明する生物物理学的パラメーターを決定することはできない。
【0007】
最近、タンパク質分子を検出するために抗体ペアを使用したり、相対強度を読み出すためにフローサイトメトリー用に開発された装置を使用するなど、増強された感度を達成するための代替戦略が出現している。しかしながら、これらのアッセイもやはりビーズの表面上で実施されるため、上述の表面ベース技術に通常見られる不利益に遭遇する。
【0008】
そこで、体液中のバイオマーカーとそれらの特異的標的との間の相互作用についての具体的濃度、アフィニティー、及び正確な相互作用化学量論を完全に定量的に検出及び決定するために使用できる溶液内プラットフォームを提供することが求められている。
【0009】
本発明が生じたのは、そのような背景に対してである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の側面に従って、生体分子を特徴付けるための装置を提供し、該装置は、
生体分子を含むサンプル流体を装置に導入するように構成されたサンプル入口チャネルと;
補助流体を装置に導入するように構成された補助入口チャネルと;
サンプル入口チャネル及び補助入口チャネルと流体連通している分配チャネル(前記分配チャネルは生体分子の分配を生ずるように適応されている)と;
生体分子のシグネチャプロファイル(signature profile)を検出して、検出生体分子の測定データセットを取得するように構成された測定モジュールと;
測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所と;そして
格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュール(前記分析モジュールはさらに、相関値を使用して生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定するように構成されている)と
を含む。
【0011】
本発明の装置は、ヒト血清サンプルなどのヒトサンプルにおける生物物理学的結合パラメーターの決定を可能にする。本明細書中に開示されている技術は、解離定数又はアフィニティーKd、サンプル中に存在する抗体の絶対濃度、ならびに相互作用の化学量論の決定を可能にする。
【0012】
血清濃度ならびに標識抗原濃度を様々に変化させるグローバル分析を使用することにより、特徴付け(characterisation)をベイズ分析を用いて精密化(refine)ことが可能になる。
【0013】
一部の場合において、各生体分子の二つの特徴を同時に検出及び測定することは、ELISAなどの公知測定技術からは得られない生体分子の特性に関する更なる詳細情報を提供することになるので非常に有益でありうる。例えば、本装置は、生体分子の濃度とアフィニティーを同時に検出及び決定するために使用することができる。さらに又はあるいは、本装置は生体分子の濃度とアビディティーを同時に検出及び決定するために使用することができる。
【0014】
本発明の装置は、溶液中で生体分子とその結合パートナーの検出及び決定を可能にしうる。一部の態様においては、生体分子間相互作用が本発明の装置を用いて特徴付けできる。一部の態様において、本装置は、結合及び/又は非結合生体分子を検出及び決定するために使用できる。生体分子とその結合パートナー双方の相対濃度を変えることができる。生体分子が表面に結合されている場合、ユーザーは結合生体分子の濃度を自由に変えることができない。
【0015】
さらに、表面に固定された生体分子は、それらの自然な状態(native state)を真に反映しているとは言えない。なぜならば、表面に固定するために化学リンカーなどの固定化スピシーズが生体分子に結合されることが多いからである。このことは、表面に固定された生体分子の自然な状態又は機能的活性に影響を及ぼしうる。本発明に記載の装置は、例えば結合相互作用などを研究するために、生体分子を表面に固定する技術を必要としない。従って、生体分子間の相互作用が、溶液中でそれらの自然な状態で決定及び検出できる。
【0016】
一部の態様において、本装置は、生体分子が、タンパク質、ペプチド、エクソソーム、抗体又はその抗体フラグメント、DNA又はDNA断片、RNA又はmRNAなどのヌクレオチド、又は多糖である生体分子などの成分を特徴付けるために使用できる。
【0017】
一部の態様において、生体分子は、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド又は多糖である。一部の態様において、生体分子は、抗体又はその抗体フラグメントである。一部の態様において、抗体は、アロ抗体、自己抗体、又は外部抗原に対して生じた抗体である。本文脈における用語“アロ抗体(同種抗体)”は、臓器移植の分野で、HLAなどの外来分子を認識する抗体を指すのに使用される。
【0018】
一部の態様において、生体分子は、多生体分子混合物(multi-biomolecule mixture)である。一部の態様において、生体分子は、抗体、シングルドメイン抗体又はアプタマーなどのアフィニティー試薬でありうる。一部の態様において、多生体分子混合物は、抗体及び抗原を含む。一部の態様において、多生体分子混合物中の一つの生体分子を標識できる又は少なくとも二つ以上の生体分子を標識できる。一部の態様において、目的とする他の生体分子を検出するために抗体を標識できる。一部の場合、目的抗体はサンプル中で他の抗体と混合されているかもしれないという事実のため、抗原を標識することが好ましい。
【0019】
一部の態様において、サンプル流体は、任意のタイプのヒト体液又はサンプルでありうる。一部の態様において、サンプル流体は、生体分子を含むヒト血清でありうる。
ベイズ分析は、ヒト血清サンプルなどのサンプルのアフィニティーと抗体濃度の両方を同時に、極めて正確にそして安定的に(robust manner)定量するのに使用できるため有益でありうる。
【0020】
一部の態様において、測定データセットは以下の一つ又は複数を含みうる。例えば、自己蛍光バックグラウンド測定、フロープロファイル、標識血清サンプルなどの標識サンプルの濃度、化学量論相互作用、相互作用している生体分子の分子量、全リガンド濃度、結合部位、サイズ、電荷、翻訳後修飾などの修飾、例えばメチル化、及び/又は流体力学的半径などであるが、これらに限定されない。
【0021】
一部の態様において、体液中の分子を絶対的に検出及び定量できる溶液内技術としてマイクロ流体プラットフォームが使用できる。さらに詳しくは、該プラットフォームは、ヒト血清中の抗体の存在量とアフィニティーを定量するように構成されている。それによって、抗体が反応する抗原を外から添加し、複合体の流体力学的半径の変化を血清濃度の関数としてモニターする。
【0022】
一部の態様において、本装置はさらに、格納場所から格納データセットを受け取り、分析モジュールから測定データセットを受け取って、測定データセットと関連する一つ又は複数のパラメーターをさらに調整するように構成されたコントローラーと;オペレーターに更なる測定サイクルを指示する通知を出し、その結果、得られた更なる測定が、生体分子の決定された特徴に、ユーザーによって設定された予め決められた信頼水準を提供するように構成された、コントローラーと関連付けられた出力モジュールとを含む。
【0023】
信頼水準は得られた測定に関連する統計誤差分析を含みうる。信頼水準は、予め決められた閾値としてユーザーが設定できる。初期測定セットの結果として閾値又は水準に到達しなかったら、更なるデータセットを取得して、ユーザーによって設定された予め決められた閾値又はレベルに到達するまで信頼水準を上げる。一部の態様において、信頼水準は、サンプル内の生体分子間の相互作用、例えばヒト血清サンプル中の抗体と抗原間の相互作用などを考慮に入れることができる。
【0024】
本発明の装置と方法は、反復プロセスを提供する。(時間的に)前の測定は、測定データセットと関連する一つ又は複数のパラメーターを最適化するためにコントローラーにフィードバックできる。コントローラーは出力モジュールと関連付けられているので、出力モジュールはオペレーターに更なる測定サイクルの指示を通知できる。これにより、データセットの最も情報豊富な部分において測定を実施することが可能になる。ひいては、アフィニティー及び濃度などの生体分子の決定された特徴において信頼水準の向上が提供される。これにより、生体分子のアフィニティー及び濃度の更なる測定値を得るために必要な時間が短縮される。
【0025】
一部の態様において、信頼水準は、予め決められた閾値を設定するために統計分析を用いて決定することができる。一部の態様において、信頼水準値は、許容可能な統計範囲及び/又は標準偏差内になるようにユーザーが設定することができる。
【0026】
一部の態様において、本装置はさらに、患者血清中のヒト白血球型抗原(HLA)とアロ特異的抗体との間の相互作用の量を決定及び分析するために、さらに詳しくは、同種移植片(アログラフト)拒絶反応のリスクを評価するために、マイクロ流体拡散分析(MDS)の使用を含みうる。この手法を用いると、解離定数、Kd、アロ特異的抗体の絶対濃度、及び相互作用の化学量論を同時に決定することが可能である。
【0027】
一部の態様において、本発明の装置を用いて特徴付けできる分子の濃度は未知であり、その濃度は、ベイズ分析のような異なるデータフィッティング法を使用して、測定値を得るために必要な血清の画分(fraction)とHLAの濃度を決定し、これらの測定値を分析することを通じて決定することができる。
【0028】
さらに、本明細書中に記載の装置と方法は、より広く適用可能であり、例えば自己免疫疾患において異なる抗体を検出できることにより、患者の免疫状態をプロファイリングできる手段と評することができる。
【0029】
一部の態様において、分配チャネルは、生体分子の横方向分配を生じるように適応されている。分配チャネルは、拡散による横方向分配を可能にする十分な長さ/幅でありうる。一部の態様において、分配チャネルは、2mm~100mm、例えば20mmの長さを有しうる。一部の態様において、分配チャネルは、2、10、20、30、40、50、60、70、80、又は90mmより長い長さを有しうることも、又は100、90、80、70、60、50、40、30、20、又は10mmより短いこともある。分配チャネルは、30ミクロン~3,000ミクロン、例えば20~2500ミクロン、20~2000ミクロン、20~1500ミクロン、20~1000ミクロン、20~750ミクロン、20~500ミクロン、20~400ミクロン、又は20~300ミクロンの幅を有しうる。一部の態様において、分配チャネルの幅は、20、40、60、80、100、120、150、180、200、220、250、又は280ミクロンを超過しうることも、又は300、280、250、220、200、180、150、120、100、80、60、又は40ミクロンより小さいこともある。例えば、分配チャネルは、40×40ミクロンの幅と23mmの長さを有しうる。更なる例において、分配チャネルは、50×70ミクロンの幅と10mmの長さを有しうる。
【0030】
あるいは、分配チャネルは、それにまたがる電界を有することによって電気泳動による成分の分配を可能にするように“適応”されてもよい。あるいは、分配チャネルは、生体分子を分配するために熱泳動を可能にするように構成された熱源を提供するように適応されてもよい。
【0031】
一部の態様において、生体分子の横方向(lateral)分配は、分配チャネルに沿った流体の流れに垂直である。
一部の態様において、分配チャネルは、生体分子の長手方向(longitudinal)分配を生じるように適応されてもよい。そのような態様においては、生体分子の分配は、分配チャネルを通る流れに平行(すなわち流れの方向)である。生体分子の分配は、定常状態条件下、又は反対にフロー条件下で起こりうる。
【0032】
一部の態様において、本装置はさらに、分配チャネルの流体を二つ以上の流れに分割するために少なくとも二つの出口チャネルを含みうる。出口チャネルの少なくとも一つは、測定モジュールが生体分子の一つ又は複数のシグネチャプロファイルを検出及び測定できる測定ゾーンを含みうる。
【0033】
一部の態様において、分析モジュールは、各生体分子の濃度及びアフィニティーを検出及び決定するように構成することができる。濃度及びアフィニティーの測定は、生体分子が個別に、又は例えばタンパク質間相互作用において他の成分と複合して、どのように挙動するかについての有用な情報を提供できる。
【0034】
一部の態様において、分析モジュールは、各生体分子の濃度及びアビディティーを検出及び決定するように構成されてもよい。本明細書に開示されているように、そして別に定義されない限り、用語“アビディティー”は、結合部位が二つ以上ある場合の生体分子などの成分間の相互作用の総結合強度を指す。一例として、抗体と抗原間の相互作用の結合強度が決定できる。一部の態様において、抗体-HLA相互作用の総結合強度が決定できる。用語“アビディティー”は、多数の結合部位を有する多価生体分子の結合の定量に適用できる。アビディティーの測定は、すべての利用可能な結合部位における相互作用を考慮する。一例として、IgG、IgD又はIgEのような少なくとも二つの結合部位を有する生体分子のアビディティーが定量できる。
【0035】
本明細書に開示されているように、そして別に定義されない限り、用語“アフィニティー”は、一つの結合部位における生体分子などの成分の結合測定値を指す。
任意に、分析モジュールは、以下の一つ又は複数を決定するように構成することができる。すなわち、フロープロファイル、標識血清サンプルなどの標識サンプルの濃度、化学量論相互作用、相互作用している生体分子の分子量、全リガンド濃度、結合部位、サイズ、電荷、翻訳後修飾などの修飾、例えばメチル化、及び/又は流体力学的半径。
【0036】
一部の態様において、分析モジュールはさらに、各生体分子の化学量論を検出及び決定するように構成することができる。
本発明に開示されているような装置を使用することにより、体液中のバイオマーカーとそれらの特異的標的との間の相互作用についての具体的濃度、アフィニティー、及び正確な相互作用化学量論を完全に定量的に検出することができる。
【0037】
一部の態様において、分配チャネルはT-センサーでありうる。一部の態様において、分配チャネルは、サンプル入口チャネル、補助入口チャネル、及び出口チャネルと一緒になってH-フィルターを形成しうる。本明細書の文脈において、用語T-センサーは、正確に二つの入口を有する分配チャネルを説明するために使用され、用語H-フィルターは正確に二つの入口と正確に二つの出口を有する分配チャネルである。一部のT-センサー及びH-フィルターはそれらの入口の間が180°であるが、これは必須ではない。
【0038】
一部の態様において、生体分子は、フルオロフォア(発蛍光団)、量子ドット又はナノ粒子などの標識を含む。一部の態様において、生体分子はフルオロフォアで標識される。フルオロフォアは、ユーザーが目的の生体分子を視覚的に検出することを可能にする。フルオロフォアの例は、Alexafluor(登録商標)647フルオロフォアである。適切なフルオロフォアの他の例は、これらに限定されないが、Alexa FluorTM、ATTO、DyLight、又はその他のファミリーなどで、DyLight 350、ATTO 488、DY-489XL、Alexa FluorTM 647又はAlexa FluorTM 700などの個別色素によって例示されるが、これらに限定されない。色素は可視波長の蛍光に限定されず、スペクトルのUV、可視又はIR領域で活性でもよい。
【0039】
選択される標識は、蛍光検出のために信頼できる安定な標識戦略を提供できる。
一部の態様において、標識戦略は、HLAを特異的に標識するため及び抗体-HLA相互作用の化学量論を制御するために展開できる。一部の態様において、HLAは、Alexafluor(登録商標)647などの蛍光色素で共有結合的に標識できる。これにより、タンパク質の自己蛍光(トリプトファン蛍光)が検出を妨害しなことが確保される。というのも、サンプルからの自己蛍光の複雑さは、血清中に豊富な異なるタンパク質間の区別を困難にしうるからである。
【0040】
一部の態様において、ヒト血清では自己蛍光の補正が必要になりうる。血清のバックグラウンド寄与は、測定強度からバックグラウンド強度を差し引くことによって補正できるので、測定におけるすべての結合曲線の補正が可能になる。従って、蛍光バックグラウンドの標準曲線は各サンプルについて必要になりうる。
【0041】
一部の態様において、生体分子を標識するために選択されるフルオロフォアは、遠赤色スペクトル領域にあるものである。
遠赤色スペクトル領域のフルオロフォアは、およそλem,max=665nmの波長であるのが有益でありうる。なぜならば、この領域ではヒト血清の自己蛍光の減退があるからである。つまり、生体分子の検出にバックグラウンド妨害が少ないことを意味する。
【0042】
一部の態様において、電極を分配チャネルの上流に設け、電極を分配チャネルの下流に設けることにより、これらの電極は一緒になって、分配チャネルに沿った流れの方向に垂直に、分配チャネルを横切る電界を印加する。そのような態様においては、成分の分配はフリーフロー電気泳動(FFE)によって起こりうる。
【0043】
電界の提供は、成分、例えば生体分子の分離/分配が、キャピラリーゾーン電気泳動(CE)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF,capillary isoelectric focusing)、キャピラリー等速電気泳動及びミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)などの動電学的分離技術によって、又は濃縮法もしくは血液溶解法を通じて起こることを可能にする。
【0044】
本発明の別の側面において、生体分子を特徴付けるための方法を提供し、該方法は、
サンプル流体のフローをサンプル入口チャネルに導入し;
補助流体のフローを補助入口チャネルに導入し;
サンプル流体のフローと補助流体のフローを分配チャネルで接触させて流体の層流を作り出し;
接触しているサンプルと補助流体との間で生体分子の分配を生成し;
測定モジュールを用いて生体分子のシグネチャプロファイルを検出して、検出生体分子の測定データセットを取得し;
測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所を提供し;
格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュールを提供し;そして
相関値を利用して、生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定する
工程を含む。
【0045】
一部の態様において、該方法はさらに、
格納場所から格納データセットを受け取り、分析モジュールから測定データセットを受け取って、測定データセットと関連する一つ又は複数のパラメーターをさらに調整するように構成されたコントローラーを提供し;そして
オペレーターに、コントローラーと関連付けられた出力モジュールを用いて、更なる測定サイクルを指示する通知を出し、その結果、得られた更なる測定が、生体分子の決定された特徴に、予め決められた信頼水準を提供する
工程を含む。
【0046】
出力モジュールは、リーダー装置でありうるか、又はオペレーターにデータを表示することができる任意のその他の装置でありうる。
一部の態様において、横方向分配は拡散によって作り出される。さらに又はあるいは、横方向分配は電界の印加を通じて電気泳動的に作り出される。
【0047】
さらに又はあるいは、生体分子の測定はマイクロ流体拡散サイジング(MDS)によって決定される。これは、流体フロー内でのそれらの拡散度合に基づいて生体分子のサイズを測定するために使用される方法である。一部の態様において、本発明に開示されている装置及び方法は、MDSに頼ることができる。MDSは、体液中の相互作用の濃度、アフィニティー、及び化学量論を決定できるので、臨床的評価のためにそうした生物物理学的特性の関連性に光を当てることができる。
【0048】
MDSプラットフォームの感度は高いので、すなわち良好なシグナル対ノイズ比を提供するので、低いnM範囲の濃度でサンプル中の生体分子相互作用を特徴付けるのに適した技術である。
【0049】
MDSは、マイクロ流体チャネル内の層流下で蛍光標識タンパク質の空間的及び時間的進化を追跡することによって測定されたその流体力学的半径Rhを利用することにより、結合パラメーターの決定に使用することもできる。さらに、MDSは、自然な溶液条件下でのヒト血清中の被検体を定量するための先進技術として使用できるので、さらに臨床的意味のある生理学的関連性の高い結果がもたらされる。
【0050】
さらに、体液へのMDSの使用は、洗浄工程の必要性が回避されるので、本発明に記載の装置及び方法は、サンプルロスを回避でき、偽陰性の影響を削減することができる。このことは、洗浄工程を行う必要があるがゆえにサンプルロスと偽陰性の影響を招きうる表面アッセイとは対照的である。
【0051】
さらに又はあるいは、横方向分配は、熱の印加によって熱泳動によって作り出すこともできる。そのような態様においては、装置はさらに熱源を含みうる。
一部の態様において、分析モジュールは、各生体分子の濃度及びアフィニティー及び/又はアビディティーを検出及び決定するように構成されうる。
【0052】
一部の態様において、分析モジュールは、各生体分子の化学量論を検出及び決定するように構成されうる。
一部の態様において、本方法はさらに、蛍光分光法を用いて生体分子を検出する工程を含みうる。
【0053】
次に、本発明を、ほんの一例として、添付の図面を参照しながら、さらにより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は、本発明に従って生体分子を特徴付けるための装置を示す。
【
図2】
図2Aは、HLAの結合実験を示すプロットを提供する。
図2Bは、HLAの結合実験を示すプロットを提供する。
図2Cは、HLAの結合実験を示すプロットを提供する。
【
図3】
図3Aは、ヒト血清中の抗体に対するHLAの結合曲線を示す。
図3Bは、ヒト血清中の抗体に対するHLAの結合曲線を示す。
図3Cは、ヒト血清中の抗体に対するHLAの結合曲線を示す。
図3Dは、ヒト血清中の抗体に対するHLAの結合曲線を示す。
【
図4】
図4Aは、異なるHLAバリアントに対するヒト患者血清の試験についてのデータを示す。
図4Bは、異なるHLAバリアントに対するヒト患者血清の試験についてのデータを示す。
図4Cは、異なるHLAバリアントに対するヒト患者血清の試験についてのデータを示す。
図4Dは、異なるHLAバリアントに対するヒト患者血清の試験についてのデータを示す。
【
図8】
図8Aは、本発明による共有結合標識のデータを示す。
図8Bは、本発明による共有結合標識のデータを示す。
図8Cは、本発明による共有結合標識のデータを示す。
図8Dは、本発明による共有結合標識のデータを示す。
図8Eは、本発明による共有結合標識のデータを示す。
【
図9】
図9Aは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
図9Bは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
図9Cは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
図9Dは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
図9Eは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
図9Fは、ヒト血清中の様々な濃度の標識の吸光度の測定を示す。
【
図13】
図13Aは、HLAと抗体間の相互作用の結合曲線のグローバルフィットを示す。
図13Bは、HLAと抗体間の相互作用の結合曲線のグローバルフィットを示す。
【
図14】
図14Aは、HLAに対するヒト血清の結合曲線を示す。
図14Bは、HLAに対するヒト血清の結合曲線を示す。
【
図15】
図15は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対する血清抗体反応性のアフィニティープロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明に従って、生体分子を特徴付けるための装置を提供し、一部の場合において、本装置は、抗体-抗原相互作用などの生体分子の相互作用を特徴付けるために使用できる。本装置は、生体分子を含むサンプル流体を装置に導入するように構成されたサンプル入口チャネルと、補助流体を装置に導入するように構成された補助入口チャネルと、そしてサンプル入口チャネル及び補助入口チャネルと流体連通している分配チャネルとを含む。分配チャネルは、横方向拡散などの拡散を通じて、及び/又は電界の印加による電気泳動を通じて、又は熱の印加による熱泳動を通じて、生体分子の分配を生じるように適応されている。さらに又はあるいは、分配チャネル内での生体分子の分配は、マイクロ流体拡散サイジング(MDS)によって生成させることもできる。
【0056】
溶液中の分子の絶対的定量と特徴付けのためにMDSアッセイを利用する場合、ヒト血清中で流体力学的半径Rhを決定できるため、ヒト血清中で測定された生体分子の相互作用を特徴付けることができる。なぜならば、MDSは、マイクロ流体チャネル内の層流下で蛍光標識タンパク質の空間的及び時間的進化を追跡することによって測定されたその流体力学的半径Rhを利用することにより、結合パラメーターの決定を可能にすることが示されているからである。
【0057】
本装置はさらに、生体分子のシグネチャプロファイルを検出して、検出生体分子の測定データセットを取得するように構成された測定モジュールと;測定モジュールから得られた測定データセットと関連する複数のパラメーターを含む格納データセットを格納及び維持するように構成された格納場所と;そして格納場所から格納データセットを受け取り、その格納データセットを測定モジュールからの測定データセットと相関させて、相関値を提供するように構成された分析モジュールとを含む。分析モジュールはさらに、相関値を使用して生体分子の少なくとも二つの特徴をベイズ分析を用いて同時に決定するように構成されている。
【0058】
図1を参照すると、本発明の装置と方法を示す概略図が提供されている。ヒト血清サンプルをヒト患者などの患者から採取し、次いでそれを標識HLAとインキュベートする。次にサンプルを装置100に導入する。装置100は、ヒト血清サンプルを装置にロードするためのサンプル入口チャネル102を含み、またブランク流体のフローを導入するための補助入口チャネル104も含む。サンプル流体のフローと補助流体のフローは、拡散チャネル110に導入され、分配チャネル110内で層流を生じる。生体分子でありうる成分(一つ又は複数)は、分配チャネル110内でサンプルフローと補助フローとの間で分配される。生体分子の分配は、拡散、電気泳動又は熱泳動の一つ又は複数によって起こる。
【0059】
装置100はさらに、分配チャネル110の下流に配置された少なくとも二つの出口チャネル120、122を含む。そこで分配チャネル110中のサンプルフローと補助フローを含む流体フローは二つの出口フローに分割され、一つのフローがそれぞれの出口チャネル120、122に入る。
図1に示されているように、分配チャネル110は、サンプル入口チャネル102、補助入口チャネル104及び出口チャネル120、122と一緒になって、H-フィルターを形成する。
【0060】
検出器を含む測定モジュールは、目的の生体分子を検出するために出口チャネルに配置されうる。出口チャネル120、122のそれぞれで蛍光が測定できる。両出口における蛍光間の比率からタンパク質の流体力学的半径Rhが決定できる。一部の場合において、測定モジュールは、目的の生体分子のシグネチャプロファイルを検出及び/又は同定して、検出生体分子の測定データセットを得ることができる。測定データセットはその後分析モジュールに伝送することができる。
【0061】
複合体のサイズはその後、マイクロ流体拡散サイジングによって決定され、その解離定数K
dと抗体濃度がベイズ分析を用いて評価される。
MDSは、
図1に示されているように、マイクロ流体チャネル内の層流下で蛍光標識タンパク質の空間的及び時間的進化を追跡することによって測定されたその流体力学的半径Rhを利用することにより、結合パラメーターの決定を可能にすることが示されている。
【0062】
図2A~Cを参照する。
図2Aに、拡散サイジングを用いたHLA A
*03:01の結合実験が示されている。各バーは3回測定の平均を示す。流体力学的半径の有意な変化は、HLA A
*03:01とW6/32との間の正の結合事象を示す。これに対し、HLAとOUW4F11又はBSAとの間には結合は観察できない。
図2Bを参照すると、流体力学的半径と残基の数との相関が示されている。遊離HLA及び抗体W6/32に結合されたHLAについて決定された半径は、折り畳みタンパク質の仮定とよく一致している。
【0063】
図2Cを参照すると、25nMのHLA A
*03:01と様々な濃度の抗体W6/32との結合曲線が示されている。点は、非結合及び非結合状態の割合が様々な標識HLAスピシーズについて測定されたサイズを示し、少なくとも3回繰り返されたデータの平均である。曲線は非線形結合方程式への最小二乗フィッティング(least-square fit)である。このフィッティングから、解離定数K
d=961.3±115.9pM及び結合部位濃度B
0=12.98±1.00nMが決定でき、2分子のHLAに対して1抗体の化学量論が得られる。
【0064】
図3Aを参照すると、ヒト血清(赤)及びPBS(青)中の抗体SN23OG6に対する5nMのHLA A
*02:01の結合曲線が示されている。フィッティングから、血清中でK
d=3.83±1.26nM及びPBS中でK
d=3.64±0.43nMが決定され、互いに完全に一致している。さらに、1抗体あたり2抗原の結合について結合比1対2が得られる。挿入されたグラフは、特異的抗体SN23OG6を添加したときのHLA A
*02:01のストークス半径(Rh)の増加を示している。
【0065】
図3Bを参照すると、ヒト血清(赤)及びPBS(青)中の抗体OUW4F11に対する1.2nMのHLA B
*08:01の結合曲線が示されている。フィッティングから、血清中でK
d=50.74±8.09nM及びPBS中でK
d=57.38±7.19nM、結合比n=1/2が決定され、一致を示している。挿入されたグラフは、特異的抗体OUW4F11を添加したときのHLA B
*08:01のストークス半径の増加を示している。
【0066】
図3Cを参照すると、非結合抗原の流体力学的半径の概要が示されており、
図3Dには、ヒト血清中での解離定数が純緩衝液中でのそれらの値と比較して示されており、両方の緩衝液条件下で一致した値を示している。
【0067】
複雑な媒体中での分子の絶対的定量と特徴付けにMDSアッセイが有用であることを示すために、よく特徴付けされた相互作用をヒト血清中で測定した。まず、様々な濃度の抗体SN23OG6及びOUW4F11をブランクのヒト血清に加え、それぞれHLA A
*02:01及びHLA B
*08:01とのそれらの相互作用を測定した。第一段階として、両抗原の流体力学的半径を決定する。ヒト血清中で得られた純HLAの半径は、理論値ならびに、
図3Cに示されているように、緩衝液中で得られた半径と一致し、MDSアッセイをヒト血清に適用できる可能性を示唆している。
【0068】
これはまた、ヒト血清が、調査抗原に結合することによって測定を撹乱しうる何らかのその他のタンパク質を含有していないことも示している。これら二つの抗原/抗体ペアの場合、決定された解離定数は使用された緩衝液条件に無関係である。さらに詳しくは、HLA A
*02:01に対する抗体SN23OG6の相互作用の場合、ヒト血清中の解離定数K
d=3.83±1.26nMはPBS中のK
d=3.64±0.43nMとよく一致している(
図3A参照)。同様のことがHLA B
*08:01に対する抗体OUW4F11でも観察でき、K
d=50.74±8.09nMはPBS中のK
d=57.38±7.19nMと類似している(
図3B参照)。異なる媒体条件下での異なる飽和レベルは誤差範囲内にあり、おそらくは個々の抗原間のわずかな立体配座の変化が原因である。
【0069】
図4A~4Dを参照すると、異なるHLAバリアントに対するヒト患者血清の試験についてのデータが示されている。例として、HLA A
*02:01及びHLA A
*24:02両方のサイズ増加は、タンパク質相互作用の指標になりうる。
【0070】
測定スピシーズの流体力学的半径Rhは生体分子の分子量(Mw)と相関させることができる。次にこれを用いて合計し(sum)、観測されたRh値が意味をなすかどうかを調べる。Rhは体積測定であって分子量のおよそ3分の1乗に対応するので足すことができないからである。
【0071】
図4Aを参照すると、患者血清中のHLA特異的抗体とHLA A
*02:01との結合相互作用のベイズ分析が示されている。これからナノモル範囲の抗体濃度が決定でき、最大確率値は6.02±2.66nMである。K
dはよく限定されないが(not well constrained)、上限K
d≦30nMを有する。
【0072】
図4Bを参照すると、同じ患者の血清中のHLA特異的抗体とHLA A
*24:02との相互作用のベイズ分析が示されている。ここでは、約15.27±0.24nMの抗体濃度が見出され、K
dについては、K
d≦3nMの上限のみである。
【0073】
一部の態様においては、異なる血清濃度でHLA A
*02:01及びA
*24:01に対する患者血清の平均蛍光強度を示すことができる。
図4Cに示されているように、患者血清の10倍希釈の抗体のHLA A
*02:01に対する結合相互作用のベイズ分析を示す。
【0074】
図4Dに示されているように、患者血清の10倍希釈の抗体のHLA A
*24:02に対する結合相互作用のベイズ分析を示す。
続いて、患者血清へのこのプラットフォームの適用可能性について、本明細書中でさらに説明する。この目的のために、HLA A
*02:01及びHLA A
*24:02の二つと、同じ患者血清との相互作用を取り上げる。患者は二つのHLA型に高感作可能で、LuminexプラットフォームでHLA A
*24:02に対してより高い平均蛍光強度(MFI)を示す。
図4Aに示されているように、所与の条件下でサイズの増加が観測でき、結合の発生を示している。
【0075】
ベイズ分析を使用することにより、アフィニティーと抗体濃度の両方が定量できる。血清アロ抗体とHLA A*02:01との相互作用の場合、抗体濃度は6.02±2.66nMに限定され(constrained)、Kd≦30nM、1対2の結合比が仮定される。同様に、同じ患者血清について、HLA A*24:02への抗体結合が調べられ、HLA A*02:01より高いLuminexシグナルが示された。抗体濃度は15.26±3.17nMと決定でき、アフィニティーは上限Kd≦3nMで示すことができる。
【0076】
図5A及び5Bに示されているように、目的の生体分子の標識戦略を示す。
図5Aは反応スキームを示し、
図5Bは、GE Healthcare社のSuperdex 200 increaseカラムでのクロマトグラムを示す(流速0.5mL/分、溶離緩衝液としてPBS)。シグナルを目的の蛍光とバックグラウンド寄与にデコンボリューションすることが可能である。
【0077】
図6A及び
図6Bを参照すると、サンプルの自己蛍光の分析が示されている。
図6Aに示されているように、蛍光強度は、予想通り、血清濃度の増加とともに直線的に増加している。絶対蛍光強度は、従って、異なる患者間で異なる。
図6Bに示されているように、血清の蛍光強度は12日間にわたって増加しているが、血清中の標識生体分子の半径は同じ期間不変である。
【0078】
本発明に開示されている装置及び方法を使用すると、ヒト血清中の流体力学的半径Rhを決定することができる。600nmより上でヒト血清の自己蛍光は減少しているように見えるが、シグナルはマイクロ流体プラットフォームで検出可能である。
【0079】
図7を参照すると、HLA A
*02:01に対するSN23OG6間の相互作用の結合曲線が示されている。二つの場合の解離定数は一致し、どちらも1対2という等しい化学量論を有している。抗体をドープした血清における化学量論と解離定数を緩衝液条件と矛盾なく決定することが可能である。
【0080】
図8A~8Eには、本明細書に開示されている共有結合標識戦略の概略図が示されている。
図8Aに、タンパク質上のアミンをアミド結合を用いてAlexafluor(登録商標)647に連結させる反応機構を示す。
図8BにはHLA A
*02:01の精製のクロマトグラムを示す。
図8Cには標識後のHLA A
*03:01、
図8Dには標識後のHLA B
*08:01が示されており、一つの画分にHLAの溶出を示している。
図8Eには市販のストレプトアビジン混合物の精製のクロマトグラムを示す。
【0081】
図9Aはヒト血清中、
図9Bは緩衝液中での様々な濃度のAlexafluor(登録商標)647の吸光度の測定を示し、ヒト血清で663nm付近の吸光度が増加していないことを示している。
図9Cはヒト血清中、
図9DはPBS中でのAlexafluor(登録商標)647の蛍光発光を示す。
図9Eは、ヒト血清とPBSの両方の蛍光発光の比較を示しており、差異がないことを示している。
図9Fは、ヒト血清中及びPBS中でのシグナル対ノイズのアスペクト比を示す。シグナル対ノイズ比はPBSに比べてヒト血清中でわずかに低下する。
【0082】
図10はビリルビンの構造を示す。矢印は、ビリルビンとHSA(ヒト血清の蛍光源である可能性)との複合体化によって妨害される回転を示す。
図11A~11Bを参照すると、陰性対照実験が示されている。
図11Aには、Alexafluor(登録商標)647で標識されたBSAの、純粋な場合及び異なる抗体とインキュベーション後の流体力学的半径の比較を示す。この図は、HLA特異的抗体はフルオロフォアを認識しないので、決定されるどの結合相互作用も特異的であると仮定できることを示している。
図11Bは、純粋に決定された又は200nMのIgG(ab205198)とインキュベーション後に決定された異なるHLAバリアントの流体力学的半径を示しているが、サイズ増加が示されていないので、これらのHLAバリアントと特異的アロ抗体との間の選択的相互作用を示唆している。
【0083】
図12に別の陰性対照実験を提供する。
図12に示されているのは、25nMのHLA A
*03:01と様々な濃度の抗体W6/32との結合曲線である。青点は、3回繰り返して測定されたデータに対する平均である。赤線は、Hills式によるフィッティングである。このデータから、Hills係数h=1.01±0.15が決定できる。
【0084】
図13A~13Bを参照すると、結合曲線のグローバルフィットが示されている。
図13Aには、25nM及び500pMのHLA A
*03:01と抗体W6/32間の相互作用の結合曲線のグローバルフィットが示されている。このフィッティングから、K
d=466.0±149.4pMが決定できる。
図13Bには、5nM、1nM及び82pMのHLA A
*02:01とSN23OG6間の相互作用のグローバルフィットが示されている。これにより、K
d=5.27±0.49nMが得られる。
【0085】
図14Aを参照すると、1nMのHLA A
*02:01に対する盲検ヒト血清の結合曲線が示されている。抗体濃度[AB]
cal=138.7±47.9及びK
d=961.3±115.7pMが得られた。分析後、盲検血清は110nMの特異的抗体を有していたことが明らかになり、[AB]
calの決定の有効性を示した。盲検ヒト血清のベイズ分析を
図14Bに示す。ベイズプロットは、抗体濃度とK
d間の比率がよく限定される(constrained)ことを示している。非線形フィット及びベイズ分析を用いた結合曲線が測定できる。
【0086】
MDSデータの分析
抗体と抗原間の結合平衡を確立するためのMDSデータの分析を以下に示す。1:1の結合を仮定すると、次の平衡が得られる。
【0087】
【0088】
ここで、AbHは、結合された抗体-HLA複合体を示す。
【0089】
【0090】
抗体とHLAの総濃度をそれぞれ[Ab]0及び[H]0と表すと:
【0091】
【0092】
【0093】
これを解いて:
【0094】
【0095】
マイクロ流体拡散サイジング法では、我々の反応混合物の測定流体力学的半径は、‘拡散’及び‘非拡散’チャネルの総蛍光強度(それぞれId及びIuとする)を記録することによって計算される。
【0096】
測定された半径は、遊離及び結合標識HLAの濃度と線形的に相関していないので、データの歪を回避するために、‘拡散’チャネルに到達する標識HLAの割合Id/Id+Iuが観測及び使用できる。観測された量を予測結合濃度[AbH]に関連付けるために、‘拡散’チャネルで検出される遊離及び結合HLAの割合として、それぞれρf及びρbを導入する。以下に示すように下記式が得られる。
【0097】
【0098】
【0099】
式中、κは、HLAの濃度を観測された蛍光強度に関連付ける定数である。従って、拡散チャネルに到達する予測割合fdは、
【0100】
【0101】
となる。[AbH]は上記式で決定されたとおりである。従って、拡散チャネルに到達する予測割合は、ρf、ρb、Kdならびに抗体及びHLAの総濃度の関数となり、これをfd(ρf,ρb,Kd,[Ab]0,[H]0)と表す。
【0102】
fdを観測可能量として用いると、ρf、ρb、及びKdは、以下にさらに詳細を開示するベイズ推論によって未知パラメーターとして決定することができる。抗体:HLAの実際の1:2の非協同的結合の化学量論を説明するために、一重及び二重に結合された抗体の半径は等しいと仮定する。なぜならば、それらのサイズは実験法の予期される誤差範囲内にあるからである。従って、[Ab]は単に、抗体濃度ではなく抗体結合部位の濃度を表すために使用され、従ってKdは結合部位に関する解離定数となる。各IgG抗体は二つの結合部位を含有しているので、[Ab]を得るためには抗体濃度を単に2倍すればよい。
【0103】
未知抗体濃度の決定
患者血清サンプルにおいては血清中の抗体濃度は未知である。所与のサンプル中のHLA反応性の抗体結合部位の濃度[Ab]0は、
【0104】
【0105】
によって、元の血清中の結合部位の濃度[Ab]totと、この特定サンプルで使用された血清の割合αに関連付けられる。上記式中、0≦α<1である。
これを上記式5に代入し、更新後の式を以下に示す。
【0106】
【0107】
血清の自己蛍光
この式を式8に用いると、拡散チャネルに到達する予測割合についての新たな式が得られるfd(ρf,ρb,Kd,[Ab]tot,α,[H]0)。
【0108】
ヒト血清中の測定の実施をさらに複雑にするのは血清の自己蛍光で、データの前処理を必要とする。原料チャネルの蛍光強度は測定されるので、このバックグラウンド蛍光は補正できる。HLA不在下で各チャネルにおける血清割合と強度の較正を実施することにより、各チャネルの蛍光強度と血清割合αとの間に直線関係が得られる。
【0109】
【0110】
【0111】
式中、Id,s及びIu,sは、それぞれ、血清から生じた‘拡散’及び‘非拡散’チャネルにおける強度であり、Sd及びSuは、線形回帰によって得られた定数である。
従って、データポイントyは、前処理中に、
【0112】
【0113】
によって計算される。
従って、データは、ベイズ推論により、ρf、ρb、Kd、及び[Ab]totを未知パラメーターとして用いて分析することができ、それによって、マイクロ流体拡散サイジングによる結合測定により、Kd、及び[Ab]tot両方の値が得られる。
【0114】
ベイズ推論
ベイズ推論分析法はベイズの定理を利用するもので、観測データが与えられると、以下の式により、未知パラメーターの確率分布が決定できる。
【0115】
【0116】
式中、P(パラメーター|データ)は、事後確率として、P(パラメーター)は事前確率として、そしてP(データ|パラメーター)は尤度として知られている。事前確率分布は、何らかの測定データが取得できる前のシステムに関する情報の式である。ρf及びρbについては、事前確率では線形空間でフラットと仮定されるが、Kd及び抗体の総濃度については、問題のスケール不変性を反映するためには、対数空間でフラットとする事前確率がより適切である。
【0117】
本明細書中に記載されている実験測定データは、真の値の周辺に正規分布するので、尤度関数は、理論的測定値を中心とするガウス分布である。
【0118】
【0119】
式中、fdは式8に定義され、[AbH]は式10に定義され、αi及び[H]iは、それぞれi番目の測定における血清及び抗体の濃度であり、yiはi番目の測定で得られた前処理データポイントである。各データセットについて適切な標準偏差σを定義するために、各測定の反復の標準偏差が計算され、これらの値の最大値がそのデータセットのグローバルな標準偏差として使用される。
【0120】
各実験で得られる情報を最大化するために、目的の量、例えば抗体濃度及びアフィニティーの事後分布のエントロピーが使用される。分布のエントロピーは単に、あるパラメーターが特定の値を有することを我々がどれほど確信するかの尺度と解釈することができ、エントロピーが低いほど、より確かである。従って、測定がエントロピーを下げるほど、より多くの情報が含有される。特定の血清及び抗原濃度で追加の測定が記録できると、エントロピー変化が予測又は推定できる。これは期待エントロピーと呼ばれる。
【0121】
実験によって課せられる限界内で、すべての可能な測定、すなわち血清及び抗原の濃度のすべての組合せについて期待エントロピーを計算することにより、エントロピーの最大の期待減少と関連する測定ポイントを見つけることができる。これは反復的に実施できる。すなわち、第一の測定を行った後、期待エントロピーを計算し、最善の次の測定を提案する。この測定が記録されたら、期待エントロピーは更新され、新しい最善の次の測定が提案される。このプロセスは所望の信頼水準及び精度が得られるまで繰り返される。
【0122】
図15を参照すると、COVID-19患者におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対する血清抗体反応性のマイクロ流体抗体アフィニティープロファイリング(MAAP)を示すプロットが提供されている。COVID-19患者の血清が発症後28日目及び90日目に検査されている。無症状患者から集中治療室に入院した患者まで、全範囲のCOVID-19重症度の患者が検査された。MAAP分析によれば、抗RBD抗体のアフィニティー(K
D)は、両時点で2桁に及ぶことが示され、SARS-CoV-2に対する体液性免疫のスペクトルが明らかになった。さらに、MAAP分析は、検査した患者の大部分でこの時間枠内でSARS-CoV-2に対する抗体応答の強化を示しており(1ヶ月時点と比べて3ヶ月時点でK
Dの減少)、COVID-19から回復した患者のアフィニティー成熟の直接的な証拠を提供している。
図15に示されているデータは、MAAP分析が、患者血清で直接、体液性応答の大きさ及び進化の評価を可能にし、ウイルス感染後の免疫応答の質への更なる洞察を可能にすることを示している。
【実施例】
【0123】
実施例-実験の詳細
ヒト血清中の自己蛍光の決定
ヒト血清(特異的抗HLA抗体を含まない)に、PBS(pH7.3、Oxoid錠、Thermo Fisher Scientific Inc.社、米国ウォルサム;NaN3(0.02%(w/v)、Sigma Aldrich社、米国セントルイス)が補充されている)と蛍光標識Alexafluor(登録商標)647(Thermo Fisher Scientific Inc.社、米国ウォルサム)を補充し、血清中10pM~1μMのフルオロフォア濃度を得る。比較のために緩衝液中にも同様のフルオロフォア希釈を調製する。続いて、二つの波長λex,1=481nm及びλex,2=632nmで励起して吸収スペクトルと発光スペクトルをプレートリーダー(Clariostar BMG Labtech社、ドイツ・オルテンベルク)に記録する。
【0124】
Alexafluor(登録商標)647フルオロフォアによるHLAの標識
HLA(Emory由来の異なるバリアント、米国アトランタ;NaHCO3(Sigma Aldrich社、米国セントルイス)中0.89nmol、1当量)を標識するために、Alexa Fluor(登録商標)647 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(DMSO中3当量)をHLA含有混合物に加える。反応混合物を約20℃で1時間、遮光してインキュベートする。サンプルを、Superdex 200 increase 10/300 GLカラム(GE healthcare社、米国シカゴ)で、流速およそ0.5mL/分及び溶離緩衝液としてPBS(pH7.3、NaN3(0.02%(w/v)が補充されている)を用いて、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製し、標識HLAを得る(370nM、バリアントにより0.33~2.25のDOL)。次に、コンジュゲートされたHLAは次なる使用まで4℃で保管される。
【0125】
マイクロ流体拡散サイジング(MDS)
すべてのMDS実験は、Fluidity One W(Fluidic Analytics社、英国ケンブリッジ)を用いて実施した。MDSの基本原理は他の場所で説明されている。手短に述べると、標識タンパク質を一方の側から拡散チャンバに流入させ、補助緩衝液を他方の側から流入させる。チャネルサイズが小さいため、層流が仮定できる。つまり、粒子は拡散によってのみ緩衝液流に移動でき、その場合の速度は分子複合体のサイズに依存する。拡散チャネル又はチャンバの終端で流れは再度分割され、チャンバの両側で蛍光が測定される。両チャンバの蛍光間の比率から、タンパク質の流体力学的半径Rhを決定することができる。
【0126】
結合の検証
標識されたHLA A*03:01、A*02:01、及びB*08:01をそれぞれPBS(pH7.3、NaN3(0.02%(w/v)が補充されている)中に希釈して、5nM溶液を得る。HLAコンジュゲートのサイズはMDSによって決定できる。同様に、標識されたHLAバリアントと各抗体を混合し、1μM抗体入り5nM濃度のHLAを得る。これらのコンジュゲートを4℃でおよそ1時間インキュベートした後、加熱して5分間室温にし、MDSによってサイジングした。
【0127】
陰性対照実験
標識されたHLAバリアントを、ヒトIgG ab205198(abcam社、英国ケンブリッジ)又はウシ血清アルブミン(BSA;Sigma Aldrich社、ドイツ・セントルイス)と混合し、5nMのHLAバリアントと1μMの抗体の濃度を得た。これらのコンジュゲートを4℃で1時間インキュベートした後、加熱して5分間室温にし、MDSによってサイジングした。同様に、Alexafluor(登録商標)647で標識されたBSAをPBS中に希釈し、5nMの標識BSA、ならびに250当量の抗体の溶液を得、抗体とフルオロフォアとの間に非特異的相互作用がないことを示した。
【0128】
PBS中での測定
特定バリアントの標識HLAを、様々な濃度の目的抗体と一緒にPBSに加え、希釈した。サンプルを4℃でおよそ1時間、又は室温でおよそ30分間インキュベートする。続いて、サイズをMDSによって決定した。データを、非線形結合方程式(式16)に従ってフィッティングする。この式は、GraphPad Prism(バージョン8.2)を用いて、測定された流体力学的半径Rh,mを、抗体の総濃度[Ab]0、結合部位濃度[B]0、解離定数Kd、化学量論比n、流体力学的半径の全増加ΔRh,tot、及び非結合抗原の流体力学的半径Rh,0と関連付けるものである。
【0129】
【0130】
データをHillの式にフィッティングさせる場合、以下に示すように、17が使用される。
【0131】
【0132】
実験的に、抗体結合へのHLAの非協同性が立証されたので、2対1の結合の場合、n=1/2の結合比が式16でさらに使用された。
ヒト血清における結合測定
様々な濃度の特異的抗体を補充されたヒト血清に様々なHLA型を添加する。サンプルを室温(r.t.)で30分間インキュベートした後、MDSによってサイズを測定する。データは、GraphPad Prism(バージョン8.2)を用いて、式18に従ってフィッティングされる。
【0133】
【0134】
ベイズ分析
遊離スピシーズの半径rf、及び結合スピシーズの半径rbに使用される事前確率は、線形空間でフラットであるが、Kd及び結合部位濃度についてはフラットな対数空間の事前確率が使用される。つまり、Kdが1nM~10nMにある確率は、10nM~100nMにある確率と等しい。フラットな対数空間は、桁数の限定を容易にすることができる。
【0135】
本発明の様々なさらなる側面及び態様は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
“及び/又は”は、本明細書中で使用されている場合、二つの特定の特徴又は成分の各々(他方の有無は問わない)の具体的開示と見なされるものとする。例えば、“A及び/又はB”は、各々が本明細書中で個別に示されているかのごとく、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBのそれぞれの具体的開示と見なされるものとする。
【0136】
文脈上別段の指示がない限り、上に示された特徴の説明及び定義は、本発明のいずれかの特定の側面又は態様に限定されず、記載されているすべての側面及び態様に等しく適用される。
【0137】
さらに、例としていくつかの態様を参照しながら本発明を記載してきたが、本発明は開示された態様に限定されず、代替の態様は、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲から逸脱することなく構築できることは当業者には理解されるであろう。
【符号の説明】
【0138】
100 装置
102 サンプル入口チャネル
104 補助入口チャネル
110 分配チャネル
120 出口チャネル
122 出口チャネル
【国際調査報告】