(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】対象における免疫応答を同定又は特徴付ける方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230614BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571870
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 GB2021051227
(87)【国際公開番号】W WO2021234396
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド バーニッジ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ デ ロハン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ヒューズ
(72)【発明者】
【氏名】サバー パシャ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ノース
(72)【発明者】
【氏名】ロシャニ パテル
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォリス
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041JA01
2G041JA02
2G041JA06
2G041LA07
2G041LA09
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB12
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB08
2G045CB11
2G045CB30
2G045FA36
(57)【要約】
本発明は、以下を含む、対象における免疫応答を同定又は特徴付ける方法を提供する:
(a)対象由来の免疫グロブリンを含むサンプルを、支持体上に固定化した少なくとも1つの抗原と接触させるステップ;
(b)抗原に結合した抗原特異的免疫グロブリンを支持体上に残すために、非結合の非抗原特異的免疫グロブリンを支持体から洗浄するステップ;
(c)任意選択で支持体上の抗原から抗原特異的免疫グロブリンを溶出するステップ;及び、
(d)抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供して、2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプを同定するステップ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における免疫応答を同定又は特徴付ける方法であって、
(a)対象由来の免疫グロブリンを含むサンプルを、支持体上に固定化した少なくとも1つの抗原と接触させるステップ;
(b)抗原に結合した抗原特異的免疫グロブリンを支持体上に残すために、非結合の非抗原特異的免疫グロブリンを支持体から洗浄するステップ;
(c)任意選択で支持体上の抗原から抗原特異的免疫グロブリンを溶出するステップ;及び、
(d)抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供して、2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプを同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記サンプルは、少なくとも2つの異なる抗原と接触され、前記各抗原は、異なる支持体上又は同じ支持体の異なる部分上にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルを少なくとも2つのアリコートに分離し、各アリコートを異なる支持体に結合した異なる抗原と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記支持体が常磁性ビーズ及びMALDI-TOF標的から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抗原特異的免疫グロブリンの少なくとも一部が、前記抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供する前にタンパク質分解消化に供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抗原特異的免疫グロブリンの少なくとも一部が、前記抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供する前にタンパク質分解消化に供されない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
抗原特異的免疫グロブリンの少なくとも一部を、少なくとも1つの還元剤及び/又は変性剤で解離させて、免疫グロブリンを質量分析に供する前に重鎖に結合した軽鎖を分離させる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプの相対量が互いに比較されるか、又はサンプル中の2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプのそれぞれの量が決定される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
サンプル中の1つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプの量が定量される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫グロブリンクラスが、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEから選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫グロブリンサブクラスが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫グロブリン軽鎖が、ラムダ軽鎖及びカッパ軽鎖から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプル中のラムダ:カッパ軽鎖の相対量の比が決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
a)IgA及び/又はIgMに結合したJ鎖、並びに/もしくはb)IgMに結合したCD5Lのうちの1つ以上を同定することを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記支持体に結合した抗原を接触させる前に、前記サンプル中の免疫グロブリンが精製又は濃縮される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
残存する免疫グロブリンを支持体に結合した抗原と接触させる前に、サンプル中のIgGの少なくとも一部が除去される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(c)において、より低い抗原結合特異性を有する抗原特異的免疫グロブリンが、より高い抗原結合特異性を有するものよりも前に、支持体に結合した抗原から溶出される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗原又は各抗原が、ウイルス、細菌、古細菌、真菌、原虫、蠕虫、自己免疫抗原、癌抗原、又は前記対象においてアレルギー反応を誘発し得る抗原由来の抗原である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルスが、コロナウイルス、典型的にはSARS-CoV-2である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ウイルスの抗原が少なくとも、ウイルスエンベロープタンパク質、カプシドタンパク質、酵素又は血球凝集素の抗原部分である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
前記細菌の抗原が、細胞抗原、べん毛抗原、体細胞抗原、病原性抗原、フィンブリア抗原又はトキソイドの少なくとも1つの抗原部分である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、魚類、哺乳類、鳥類又は爬虫類である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳類が、ヒト、非ヒト類人猿、サル、ウマ、ヒツジ、ラクダ類、ヤギ、ウシ、イヌ、ネコ、又はげっ歯類から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプルが、生体液のサンプル、典型的には血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、涙液、痰、洗浄液、又は唾液のサンプルである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象における免疫応答の1つ以上の追加の指標がさらに決定される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記質量分析を実施する前に、イオン化対照が前記サンプルに追加される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記質量分析が、液体クロマトグラフィー質量分析又はMALDI-TOF質量分析である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
所定量のキャリブレーターをサンプルに添加することを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法により、2つ以上の異なる抗原と比較して、2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプの2つ以上の量を測定することによって、前記対象における免疫応答を特徴付けるマトリックスを製造する方法。
【請求項30】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、1つ以上のワクチン標的を選択する方法。
【請求項31】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、対象標的の免疫状態を同定することを選択する方法。
【請求項32】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、病原体、アレルゲン又はその他の抗原に対する、対象における免疫応答を特徴付ける方法。
【請求項33】
病原体によって引き起こされる健康状態の重症度又は進行度が決定される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
請求項1~18又は22~29のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、対象における自己免疫応答を特徴付ける方法。
【請求項35】
請求項1~18又は22~29のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、対象におけるアレルギー応答を特徴付ける方法。
【請求項36】
モノクローナル抗体クラス又はモノクローナル抗体特性を最適化するための請求項1~29のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、モノクローナル抗体クラス又はモノクローナル抗体特性を選択する方法。
【請求項37】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法の使用を含む、対象における免疫応答又は疾患の進行をモニタリングする方法。
【請求項38】
免疫グロブリンの中和能が、結合抗原の中和を示すサンプルバッファー中の分子を測定することにより決定される、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
受容体部位について活性化及び非活性化抗体を同定する、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
対象における免疫応答を同定又は特徴付けるためのコンピュータ実施方法であって、第1抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプについて得られた質量スペクトルを、第2抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプについての質量スペクトルと比較することを含み、前記質量スペクトルが、先行する請求項のいずれかに記載の方法によって得られる、前記方法。
【請求項41】
前記コンピュータが、コンピュータプロセッサ及びコンピュータメモリを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
請求項1~39のいずれか一項に記載の方法によって対象における免疫応答を同定又は特徴付けるための装置であって、請求項40又は41に記載のコンピュータ実施方法の使用を含む、前記装置。
【請求項43】
質量分析装置を含む、請求項37に記載の装置。
【請求項44】
請求項1~34のいずれか一項に記載の方法に使用するためのアッセイキットであって、1つ以上の免疫グロブリンキャリブレーターと組み合わせて1つ以上の基質に結合した複数の抗原を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析によって抗原特異的免疫グロブリンを定量するために、例えばトリプシン消化フラグメントを使用することによって、対象における免疫応答を同定および定量する方法を提供する。また、コンピュータ実施方法及び該方法において使用するためのアッセイキットも提供される。該方法は、例えばウイルス、真菌及び細菌感染、自己抗原、並びにその他の免疫応答に対する免疫応答の特性評価に特に有用であり、ワクチン候補の特性評価を含む。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫グロブリンは、ジスルフィド結合によって共に結合した2つの同一の重鎖ポリペプチド及び2つの同一の軽鎖ポリペプチドを含む。2つの異なる軽鎖アイソタイプ(カッパ及びラムダ)及び5つの異なる重鎖アイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgD及びIgE)が存在する。
【0003】
IgGは、侵入する病原体に対する抗体ベースの免疫の大部分を提供する。
【0004】
IgAは、腸、気道、及び泌尿生殖路などの粘膜領域に見られる傾向があり、病原体によるコロニー形成を防ぐことが多い。IgAはまた、唾液、涙、母乳にも含まれている。IgAは通常、いわゆるJ鎖ペプチドによって結合された二量体として見られる。
【0005】
IgMはモノマーとしてB細胞の表面に発現し、五量体として分泌形態で発現し、B細胞媒介性(体液性)免疫の初期段階で病原体を排除する。IgMの五量体は、J鎖ペプチドを介して互いに結合している。
【0006】
IgDは、未成熟Bリンパ球の原形質膜におけるタンパク質の約1%を占め、血清中の免疫グロブリンの約0.25%を占める抗体である。
【0007】
IgEは哺乳類に見られ、蠕虫などの寄生虫に対する免疫に関与することが多く、アレルゲンに対する多くの種類の過敏症にも関与しています。
【0008】
IgGには、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4の4つのサブクラスが存在する。これらのサブクラスは、ヒンジ領域のサイズ、鎖間ジスルフィド結合の位置、定常領域のアミノ酸配列、および分子量に基づいて区別される。
【0009】
IgG1は、主要なサブクラスIgGの60~65%を含み、タンパク質及びポリペプチド抗原に対する胸腺媒介免疫応答(T細胞媒介免疫応答としても知られている)を主に担っている。また、補体カスケードのオプソニゼーション及び活性化にも関与している。
【0010】
IgG2は主要なサブクラスの20~25%を含み、炭水化物及び多糖抗原に対する一般的な免疫応答である。すべてのIgGアイソタイプ欠損症の中で、IgG2の欠損が最も一般的であり、乳児の再発性気道感染症および呼吸器感染症に関連している。
【0011】
IgG3は、全IgGの約5~10%を占め、タンパク質又はポリペプチド抗原に対する免疫応答において主要な役割を果たす。
【0012】
IgG4は通常、総IgGの4%未満である。IgG4は多糖に優勢に結合しない。IgG4レベルの上昇はIgG4関連疾患(RD)で見られ、これは特徴的な組織病理学的外観を有する免疫介在性及び慢性線維炎症状態である。血清IgG4の定量は、現在利用可能なすべてのIgG4-RD診断ガイドラインに含まれ、IgG4-RDの膵臓症状である1型自己免疫性膵炎(AIP)を含む。ただし、IgG4の上昇はすべてのIgG4-RD患者で観察されるわけではない。最近の研究では、IgG陽性形質細胞の浸潤によって引き起こされる硬化性膵炎、胆管炎及び間質性肺炎に罹患している患者において、IgG4の血清レベルの上昇が見出されることが示されている。IgG4の正確な役割はまだほとんどわかっていない。
【0013】
表1は、ヒトにおけるIgG抗体アイソタイプ又はサブクラスの比較を示す。これには、異なる抗原に対する異なるサブクラスの応答の概要が含まれる。また、それらの補体活性化及び抗原認識に関与するFc受容体への結合の概要も含まれる。後者は、例えばBリンパ球、キラー細胞、マクロファージ、好中球及びマスト細胞の膜に位置する。前記受容体は、抗体のFcフラグメントを認識する。
【0014】
IgAは、その分泌形態(二量体として)においてsIgAとも呼ばれ、IgA1及びIgA2の2つのサブクラスを有する。IgAは補体系の活性化因子として乏しく、オプソナイズも弱くしか作用しない。IgA1は血清中で優勢である一方(約80%)、IgA2の割合は血清中よりも分泌物で高い(分泌物中の約35%)。
【0015】
IgA1は血清中に見られる主要なIgAサブクラスであり、ほとんどのリンパ組織はIgA1産生細胞の大部分を持っている。1つのアロタイプであるIgA2m(1)では、重鎖及び軽鎖はジスルフィド結合ではなく、非共有結合で結合している。腸関連リンパ組織などの分泌リンパ組織では、IgA2産生の割合は、脾臓や末梢リンパ節などの非分泌リンパ器官よりも大きい。多糖類抗原は、タンパク質抗原よりも多くのIgA2を誘導する傾向がある。
【0016】
さらに、哺乳類には見られない2つの抗体アイソタイプが存在する。IgYは鳥類や爬虫類に見られ、哺乳類のIgGに関連している。IgDはサメやガンギエイに見られ、哺乳類のIgDに関連している。
【0017】
補体を活性化し、抗体細胞の細胞毒性を媒介する免疫グロブリンサブクラスの能力の違いは、活性化される免疫グロブリンタイプ及びサブクラスの変動が、感染などの免疫応答にプラス又はマイナスの影響を与える可能性があることを意味する。例えば、IgG3は、さまざまな細胞内細菌、寄生虫、ウイルスに対する強化された制御又は保護に関連している。IgG3抗体は、他のIgGサブクラスと比較して、ADCC、オプソノファゴサイトーシス、補体活性化及び中和の増強を含む効果又は機能の強力な伝達物質である。したがって、将来の抗体ベースの治療法及びワクチンは、機能的能力の向上の特徴に基づいて、IgG3の利用を検討する必要があると考えられている。グリコシル化パターン及びアロタイプがIgG3の機能に与える影響を調べることで、IgG3応答とその治療の可能性についての理解が広がる可能性がある。
【0018】
IgG3はIgGのごく一部しか含んでおらず、近年まで比較的研究が進んでいなかった。最近の研究では、さまざまな病原体に対するIgG3エフェクター機能の重要性が強調されており、アロタイプ依存性の短い抗体半減期や過剰な炎症誘発性活性化など、IgG3関連の制限を克服するためのアプローチが提供されている。IgG3及びその他の免疫グロブリンサブクラスの分子的及び機能的特性を理解することは、改良された抗体ベースの免疫療法、及び感染症に対する免疫療法並びにワクチンの開発を促進する可能性がある。
【0019】
免疫グロブリン及びそれらのサブクラスの検出は、当業者において周知である。しかしながら、比濁分析及び濁度測定アプローチは、抗原特異的な量ではなく、全体的な免疫グロブリン量が測定される。抗原特異的定量に関するELISA法は、検出のために免疫グロブリンサブクラス特異的抗体を利用する。これらの抗体は、クラス又はサブクラスごとに異なる結合活性を有する。したがって、例えばIgGサブクラス又はIgAサブクラスアッセイの間の比較は正確ではない可能性がある。さらに、それらは異なる検量線を持ち、比較的少数の例外を除いて、異なる病原性抗原に対する抗体応答を測定するための国際標準が不足しているため、アッセイ結果間の比較は不可能である。観察される見かけの量に違いがあるため、単一のアッセイで異なるクラス、サブクラス、又は軽鎖タイプ間のいくつかの比率又は比較の可能性は妨げられる。
【0020】
Ladwig, P.M. et al., Clinical Chemistry (2014), Volume 16, page 1080-1088では、質量分析を用いたIgGサブクラスの絶対定量について議論されている。Ladwigらは、安定同位体標識された内部ペプチド標準物質およびインタクト精製ウマIgGとの血清の組み合わせについて説明している。変性、還元、アルキル化、及びトリプシンなどのペプチダーゼで消化したサンプル。彼らは、IgGサブクラス1~4および総IgGについて、LC-MS/MSによって消化血清を分析した。彼らは、LC-MS/MSを使用して総IgG及びIgGサブクラス1、2、3、及び4を定量化できることを実証することができた。重鎖及び軽鎖アイソタイプのアイソタイピングは、国際公開第2015/154052号にも記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。これは、質量分析(MS)による前記アイソタイプの検出を記載する。
【0021】
本発明者らは、例えば感染前、感染中、又は感染後に、抗体応答を同時にかつ定量的にプロファイリングする単一の方法を有することが、より良い臨床介入を可能にすることを認識した。彼らは、固相捕捉による抗原又は疾患特異的抗体の濃縮及びそれに続く質量分析による分析により、例えばELISAベースのアッセイの欠点なしに、サンプルの自動分析の実行が可能になることを認識した。これにより、臨床医が疾患に対する被験者の免疫応答を管理する能力が向上し、一般的な抗原に対する免疫応答の調査が可能になり、ワクチン及びモノクローナル抗体の産生が改善される可能性がある。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、対象における免疫応答を同定又は特徴付ける方法を提供し、以下を含む:
(a)対象由来の免疫グロブリンを含むサンプルを、支持体上に固定化した少なくとも1つの抗原と接触させるステップ;
(b)抗原に結合した抗原特異的免疫グロブリンを支持体上に残すために、非結合の非抗原特異的免疫グロブリンを支持体から洗浄するステップ;
(c)任意選択で支持体上の抗原から抗原特異的免疫グロブリンを溶出するステップ;及び、
(d)抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供して、2つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプを同定するステップ。免疫グロブリンは、本質的にモノクローナル又はポリクローナルであり得る。
【0023】
典型的には、2つ以上の異なる抗原が提供される。これらは、異なる支持体上で提供され得る。したがって、例えば、サンプルは異なるアリコートに分離され得、各アリコートは、異なる支持体上の異なる抗原と接触される。あるいは、サンプルを支持体上の異なる部分の抗原と接触させてもよい。
【0024】
支持体は、当該技術分野において一般に周知の任意の支持体であり得る。これらには、アガロース、セルロース、ガラス、常磁性又は磁性(鉄など)もしくはポリスチレンビーズが挙げられる。支持体はまた、例えば、マイクロタイタープレート上のウェル、又は実際に、例えばMALDI-TOF MSにおける使用のための標的であってもよい。典型的には、常磁性ビーズ又はMALDI-TOF標的が使用される。常磁性ビーズは、磁石によってビーズの周囲の流体から容易に分離できるため、特に有用である。抗原は、典型的には、当技術分野で一般的に周知の化学的性質を用いてビーズに共有結合的に結合する。これらには、例えば、市販のストレプトアビジン被覆ビーズの使用、及び抗原に結合したビオチン部分を介して抗原を結合させることが含まれる。前記ビーズへの抗原の結合を促進するための、市販であるその他の多くのビーズ用表面コーティングが存在し、種々のアミノ、カルボキシ、アルキル、チオール、エポキシ、ヒドラジン及びトシル基を含む。また、例えば糖鎖結合タンパク質上の糖及びRHO1D4に結合するために、例えばConAが使用され、これらは膜タンパク質の精製に効率的である。
【0025】
未結合の非抗原特異的免疫グロブリンは、場合により、適切な緩衝液またはその他の洗浄剤で洗い落とされる。前記洗浄剤は、当該技術分野において一般に周知である。このような洗浄剤としては、例えば、0.1%のTWEEN(登録商標)を含有するリン酸緩衝生理食塩水が挙げられる。2回以上の洗浄は、非抗原特異的免疫グロブリンの除去を確実にするために使用され得る。
【0026】
抗原特異的免疫グロブリンは、酸性緩衝液などの適当な溶出緩衝液を用いて抗原から溶出され得る。本発明はまた、例えば、異なる濃度の塩又は溶出洗浄におけるその他の条件を使用することによって、異なる特異性の抗体を抗原から溶出することが可能になる。したがって、非特異的結合マーカーが除去された後、より低い抗原特異性を有する免疫グロブリンを第1の溶出緩衝液を用いて取り除き、続いて第2の溶出緩衝液を用いてより高い抗原結合特異性を有するものを取り除くことが可能であり得る。これは例えば、対象の免疫系に対して異なるレベルの抗原性を有する抗原に対して、対象の抗原が異なる部分を有する場合に有用であり得る。
【0027】
あるいは、例えば抗原がMALDI-TOF標的などの質量分析標的に結合している場合、抗原結合免疫グロブリンはイオン化され、標的から直接分析され得る。
【0028】
抗原特異的免疫グロブリンは、消化された抗原特異的免疫グロブリンを質量分析に供する前にタンパク質分解消化に供してもよい。典型的には、消化に使用される酵素はエンドペプチダーゼであり、これは免疫グロブリン鎖の一端ではなく、免疫グロブリン鎖内の免疫グロブリンを断片化する。好適なエンドペプチダーゼの例には、トリプシンが挙げられる。例えば、前出のLudwigらは、質量分析を行う前に、トリプシンを水及び重炭酸アンモニウムと組み合わせて使用して、免疫グロブリンのトリプシン消化を実行する。
【0029】
トリプシン消化物と組み合わせたLC-MS/MSの使用は、Gugten, Clinical Chemistry, Volume 64, 735-742 (2018)においても実証されている。これにより、免疫ベースの診断キットが、例えば総IgG4の増加など、患者に疑わしい分析エラーを引き起こすことがあると実証された。これにより、総IgG濃度の計算に誤差が生じた。LC-MS/MSをキャリブレーターと組み合わせて使用すると、見かけ上の不一致を減らすことができた。このアッセイは、対象における非抗原特異的免疫グロブリン及び免疫グロブリンサブクラスの総量を検出するために再び使用され、例えば、免疫不全及びIgG4関連疾患の評価に使用された。
【0030】
トリプシン消化物と組み合わせたLC-MS/MSの使用はまた、Remily-Wood et al., Proteomics Clin Appl. 2014 October; 8(0): 783-795により実証されている。著者らは、血清中のモノクローナル免疫グロブリンを同定及びモニタリングするためのアイソタイプ並びにサブクラス特異的トリプシンペプチドの使用について記載した。この研究で使用したアイソタイプ及びサブクラス特異的トリプシンペプチドは表2に示される。
【0031】
表は、合成可能な同位体標識ペプチドのリストを示し、標識アミノ酸には下線が引かれ、アスタリスクは保存的アミノ酸置換がある場所を示す。この表は、タンパク質、ペプチド配列(及び同位体標識であるか、又は保存的単一アミノ酸置換によって作成された構造類似体であるか)及び遷移を示す。
【0032】
あるいは、抗原特異的免疫グロブリンの少なくとも一部は、質量分析に供される前にタンパク質分解消化を受けない。すなわち、無傷の重鎖及び/又は軽鎖は、質量分析によって検出され得る。
【0033】
典型的には、抗原特異的免疫グロブリンの少なくとも一部は、分離された免疫グロブリンを質量分析に供する前に、軽鎖を重鎖まで分離するために少なくとも1つの還元剤で解離され得る。これは例えば、使用される場合、タンパク質分解消化の前に起こり得る。これもまた、当該技術分野において一般的に公知であり、例えば、国際公開第2015/154052号及びLadwig et al.,に示されるように、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
サンプル中の抗体は抗原に結合し、それぞれのクラス、サブクラス、又はタイプに分離される。これは、検出された各クラス、サブクラス、又はタイプの相対的なピークを互いに比較して、サンプル中のクラス、サブクラス、又は軽鎖タイプの相対量を決定できることを意味する。これにより、ELISAタイプのアッセイで見られることが多い曖昧性の一部が解消される。
【0035】
あるいは、内部消化制御が使用され得る。対照は、例えば、対象に対する別の、異なる動物種の免疫グロブリンであり得る。例えばウマIgGは、ウマ免疫グロブリントリプシンペプチドが異なるアミノ酸配列を有し、したがってヒト免疫グロブリントリプシンペプチドと同等のものとは異なる質量を有するため、前出のLadwigらによって使用された。これにより、対照を免疫グロブリンピークと区別して、トリプシン消化の完了を決定するために使用することができる。予め決定された量の、合成された安定同位体標識内部標準ペプチドが、例えば質量分析の前に添加され得る。内部標準ペプチドは、アイソタイプ及びサブクラス特異的トリプシンペプチドとまったく同じアミノ酸配列を有するが、ペプチドの合成に使用されるアミノ酸中にC13及びN15などの安定同位体が付加されているためにより重くなる。内部標準ペプチドの化学的特性は、Ig由来の天然トリプシンペプチドと同じだが、その質量が異なり、それゆえ質量分析計で天然ペプチドと共にモニターできる。
【0036】
絶対定量は、質量分析計で観察された未知サンプル中の天然ペプチドの存在量に対する内部標準ペプチドの存在量の比を報告することによってもたらされる。この比を、未知サンプルと同じ方法で消化され、同量の内部標準ペプチドを含有する、異なる濃度の既知のキャリブラントで作成された標準曲線と比較する。特定の抗原に結合した免疫グロブリンの濃度は、g/Lなどの絶対濃度として報告することができる。
【0037】
それゆえ、サンプル中の1つ以上の異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプの量は、絶対的または相対的に定量され得る。
【0038】
免疫グロブリンクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEから選択され得る。サブクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2から選択され得る。軽鎖は、ラムダ軽鎖及びカッパ軽鎖から選択され得る。観察される免疫応答に応じて、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13の異なるクラス、サブクラス及びタイプが検出され得る。上述のように、IgG3は特に重要性を有し、典型的には、検出される少なくとも2つのクラス、サブクラス又はタイプが、IgG3を含む。あるいは、IgE及びIgG4は、アレルギーの研究に最も重要である可能性が高い。
【0039】
ラムダ:カッパ軽鎖の相対比が決定され得る。
【0040】
この方法は、以下のうちの1つ以上を同定することをさらに含み得る:
(a)IgA及び/又はIgMに結合したJ鎖;及び/又は、
(b)IgMに結合したCD5L。
【0041】
J鎖の検出は、例えば国際公開第2019/055632号に記載され、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0042】
CD5L(CD5様抗原及びAIM―マクロファージのアポトーシス阻害剤としても知られる)の検出は、国際公開第2019/055634号に記載され、その全体が本明細書に組み込まれる。サンプルにおけるJ鎖の検出により、溶出及び還元後、並びにサンプルの消化前に、特定の抗原に結合した免疫グロブリンに関連するIgA及び/又はIgM分子の量を迅速に定性的に評価できる。前記J鎖又はCDL5の阻害剤がアッセイされる場合、IgA又はIgM濃縮サンプルを基質上の抗原と接触させる前に、血清サンプルは、例えば抗IgA又は抗IgM抗体もしくはフラグメントを使用して、IgA又はIgMについて精製または濃縮され得る。
【0043】
サンプル中の免疫グロブリンは、支持体に結合したサンプルを接触させる前に、精製又は濃縮され得る。例えば、IgGはプロテインG又はMelonゲル等を用いてサンプル中で濃縮され得る。免疫グロブリン及びサンプルはまた、抗免疫グロブリン抗体を用いて濃縮され得る。例えば、抗IgM、抗IgG、抗IgA、抗IgD又は抗IgE特異的抗体、もしくはそれらの断片が挙げられる。抗サブクラス特異的抗体、抗-軽鎖-タイプ特異的抗体、又は実際に抗-重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的抗体もまた、サンプルから免疫グロブリンを特異的に精製するために使用され得る。抗体の断片が用いられてもよい。
【0044】
さらに、対象に結合した抗原を接触する前に、サンプルから1つ以上の種類の抗体又は抗体クラスを除去することもまた望ましい場合がある。例えば、IgGは他の抗体クラスよりも相当に多くの量で存在する。例えば、IgA又はIgMを試験する場合に、IgGの高いバックグラウンドが存在し得る。例えばプロテインG、Melonゲル、又は抗IgG特異的抗体、もしくはそれらの断片を使用することによりIgGを除去することは、望ましい場合がある。抗免疫グロブリンクラス、サブクラス、軽鎖タイプ、重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的抗体は、全て、例えばThe Binding Site Limited, Birmingham, United Kingdomから市販されている。
【0045】
サンプルから免疫グロブリンを選択的に除去又は精製するために使用される抗体又はその断片は、例えば国際公開第2015/154052号に記載されているような単一ドメイン抗体断片であり得、その全体が本明細書に組み込まれる。あるいは、本明細書に組み込まれる国際公開第2017/14490号に開示されるように、重鎖が例えば、チオエーテル結合又はビス(マレイミド)エタンなどの別の架橋化合物を介して軽鎖に架橋されている架橋抗体もまた使用され得る。SDAF及び架橋抗体の使用は、重鎖又は軽鎖を有するサンプルの抗体を精製することによる汚染を減少させ、本発明の方法によって生成されたデータに影響を与える可能性がある。
【0046】
基質に結合した抗原は、より大きな分子の抗原部分であってもよい。したがって、例えば、基質に結合した抗原は、より大きなタンパク質のサブユニット又は断片であってもよく、それにより研究対象のタンパク質の異なる部分に対する免疫応答が可能になる。
【0047】
抗原は、細胞由来の抗原、ウイルス、細菌、古細菌、真菌、原虫、蠕虫、自己免疫抗原、癌抗原、被験体にアレルギー反応を誘発し得る抗原であり得る。生物は、例えば、ワクチン又は治療の1つ等が研究され得る病原性生物であるか、またはそのような生物によって引き起こされる疾患の進行に対するワクチン又は治療の効果が追跡されている病原性生物であり得る。
【0048】
本方法はまた、受容体部位に対する活性化抗体及び非活性化抗体の研究及び同定を可能にし得る。
【0049】
本発明の方法は、感染前、感染中又は感染後に抗体応答をプロファイリングするために用いられ得る。
【0050】
病原性ウイルスの例としては、A型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス及びその他のピコルナウイルス科;B型肝炎ウイルス及びその他のヘパダウイルス科;C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス及びその他のフラビウイルス科;単純ヘルペスウイルス1及び2、サイトメガロウイルス、エプスタインバー及びその他のヘルペスウイルス科;HIVウイルス及びその他のレトロウイルス科;インフルエンザ及びその他のオルトミクソウイルス科;パピローマウイルス及びその他のパピローマウイルス科;狂犬病及びその他のラブドウイルス科;呼吸器合胞体ウイルス及びその他のパラミクソウイルス科;SARS Cov 2及びMERS並びにその他のコロナウイルス科:が挙げられる。
【0051】
病原性細菌の例としては、ブドウ球菌(例えば、黄色ブドウ球菌)、連鎖球菌、大腸菌、ナイセリア、シュードモナス、結核菌、エルシニア、バチルス、クロストリジウム(クロストリジウム・ディフィシル及びボツリヌス菌)、ヘモフィルス(インフルエンザ菌)、リステリア、ボレリア及びリケッチアが挙げられる。
【0052】
病原性真菌としては、コクシジオイデス・イミチス、ヒストプラズマ・カプスラツム、バストミセス及びニューモシスチスが挙げられる。
【0053】
抗原は、マラリア又はトリパノソーマなどの原虫由来であり得る。原虫によって引き起こされる一般的な感染症には、マラリア、ジアルジア、及びトキソプラズマ症が挙げられる。さらに、赤痢は、多くのアメーバによって引き起こされ得る。これらには、エンタメーバヒストリチカ、トリパノソーマブルーセイガンビエンセ、リーシュマニアドノバニ、三日熱マラリア原虫、マラリア原虫、熱帯熱マラリア原虫、トキソプラズマゴンジルが含まれる。このような原虫疾患は、生物が免疫系を回避するシステムを有することが多いため、ワクチンの製造が難しいことが多い。前記疾患の対象における免疫応答を研究できることは、疾患の特徴付けに役立つ可能性があり、うまくいけば、ワクチン成分候補を特定するのに役立つ可能性がある。
【0054】
サナダムシ、吸虫、回虫症、旋毛虫、鉤虫、腸内膜症、ストロンギロイド症、フィラリア症、旋毛虫症、糸状虫症、血管ストロンギリア症(ラット肺虫症)など、多くの蠕虫性疾患又は生物が存在する。
【0055】
自己免疫疾患は非常に衰弱させられることが多い。これらには、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織疾患(MCTD)、炎症性腸疾患、多発性硬化症、1型糖尿病、ギランバレー、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー及び乾癬が挙げられる。疾患を特徴付け、疾患を誘発する抗原、もしくは抗体又は抗体のサブクラスが結合する抗原を特定する能力は、治療戦略の特定、並びに実際に疾患の特徴付け及び対象における疾患の進行に役立つ。抗原は、癌抗原であってもよい。
【0056】
多くのがんは、がん抗原、例えばMHC クラスI又はクラスII分子を腫瘍の表面に発現する、又はそうでなければそれらを体内に分泌する。新抗原も癌に対して同定されている。ここでも、本発明の方法は、前記癌の特徴付け及び検出を可能にし、新規の治療法を同定することを支援する。
【0057】
対象は、例えば花粉、ハチ刺傷、又は例えばニッケルに対する抗原に感作し得る。そのようなアレルギーを有する場合、喘息、皮膚のかゆみ、又はより極端な反応、例えばアナフィラキシーショックは、対象のシステム内の、前記異なるタイプの抗体の量に依存することが多い。IgE及びIgG4は、前記状態にとって最も重要である可能性がある。
【0058】
抗原は、ウイルス抗原であってもよく、例えば、ウイルスエンベロープタンパク質、カプシドタンパク質、酵素又は血球凝集素が挙げられる。ウイルスライセート全体又は複雑な抽出物も利用することができる。酵素としては、例えば、ノイラミニダーゼまたはメチルトランスフェラーゼが挙げられる。後者は、SARS-CoV-2などのコロナウイルスに見られることが多い。マトリックスタンパク質は、しばしば「M1」タンパク質として知られる。イオンチャネルタンパク質は一部のウイルスに見られ、「M2」タンパク質としても知られる。
【0059】
同様に、細菌抗原は、細胞抗原、べん毛抗原、体細胞抗原、毒性抗原、フィムブリエ抗原又はトキソイドの少なくとも1つの抗原部分であり得る。
【0060】
対象は、任意の抗体産生生物、例えば魚類、哺乳動物、鳥類又は爬虫類であり得る。より典型的には、対象は、哺乳動物、例えばヒト、非ヒト類人猿、サル、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、イヌ、ネコ、又はマウス、ハムスターもしくはラットなどのげっ歯類である。前記哺乳動物は、ラクダ科動物であってもよい。後者は、典型的には軽鎖を欠く抗体を産生し、例えばSDAF(単一ドメイン抗体断片)を産生するためにますます使用されるようになっているため、特に興味深い。
【0061】
サンプルは、典型的には、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、涙、痰、洗浄液又は唾液等の任意の生物学的流体である。洗浄液は、例えば、気管支肺胞洗浄液であり得、これは例えば、気管支鏡検査を介して得ることができる。鼻咽頭又は中咽頭スワブサンプルもまた、追加の鼻分泌物として、使用され得る。
【0062】
イオン化対照は、質量分析を実行する前にサンプルに追加されてもよい。前記イオン化対照は、典型的には質量分析によって同定される化合物とは異なる分子量のタンパク質である。これにより、質量分析技術がサンプル間で一貫して動作することが保証される。
【0063】
本発明の方法により、例えば、本発明の方法によって同定された異なる抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス、又は軽鎖タイプによって測定される、異なる免疫応答に対する、異なる抗原のマトリックスの産生が可能になる。これにより、異なる抗原に対する免疫応答の変動を容易に同定することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、マトリックス又はプロファイルを生成する方法を提供する。
【0064】
本発明の方法は、対象における免疫応答又は免疫機能の1つ以上のさらなる指標と組み合わされてもよい。これらには、免疫調節性及び炎症誘発性サイトカイン、例えば、インターフェロン、インターロイキン、インターロイキン-1、インターロイキン-2、TNF-アルファ、血液又はその他の流体(洗浄液など)中の循環マクロファージもしくはその他の白血球の数、サンプル中の補体タンパク質の量、及びその他の前記のような因子が含まれる。
【0065】
分析に使用される機器は、例えば、質量分析計(LC-MS、LC-MS/MS)と結合した液体クロマトグラフから成ってもよい。その他の機器構成としては、非限定的に、質量分析計と結合したCZE又は質量分析計と結合したイオンモビリティー機器が挙げられる。用いられる典型的なイオン化技術には、エレクトロスプレーイオン化及びMALDIイオン化が非限定的に挙げられる。分析に使用される質量分析計は、非限定的に、四重極飛行時間型質量分析計、Orbitrap質量分析計、トリプル四重極質量分析計、イオントラップ質量分析計又は飛行時間型質量分析計を含み得る。
【0066】
本発明の方法の使用を含む1つ以上のワクチン標的を選択する方法は、本発明の方法を使用することを含む対象標的の免疫状態を同定する方法として提供される。本発明の方法の使用を含む、病原体、アレルゲン又はその他の抗原に対する、対象における免疫応答を特徴付ける方法がさらに提供される。病原体によって引き起こされる状態の重症度又は進行度もしくは治療が決定され得る。本発明のさらなる態様は、本発明の方法の使用を含む、対象におけるアレルギー反応を特徴付ける方法、又は本発明の方法の使用を含む対象における自己免疫応答を特徴付ける方法を提供する。前記方法はまた、対象における疾患の進行を観察するために使用され得る。
【0067】
本発明の方法はまた、抗原に対する最大の応答を使用又は刺激するために、最適なタイプの抗体又は抗体のサブクラスの証拠を提供し得る。例えば、これにより、モノクローナル抗体クラス又はその他のモノクローナル抗体特性の最適化が可能になり得る。
【0068】
本発明のより更なる態様では、本発明の方法の使用を含む、対象における免疫応答を同定又は特定するためのコンピュータ実施方法が提供される。前記方法は、第1抗原特異的免疫グロブリンクラス、サブクラス及び/又は軽鎖タイプについて得られた質量スペクトルを、第2抗原特異的免疫グロブリンクラス、基質クラス及び/又は軽鎖タイプについての質量スペクトルと比較することを含み得、前記質量スペクトルは本発明の方法によって得られる。前記質量スペクトルは、コンピュータによって受信され、例えば、クラス、サブクラス又は軽鎖タイプに関連する1つ以上のピークの量もしくは比を提供するために、比較され得る。
【0069】
コンピュータは、コンピュータプロセッサ及びコンピュータメモリを備え得る。
【0070】
本発明に記載の方法により対象における免疫応答を同定又は特徴付けるための、及び本発明に記載のコンピュータ実施方法の使用を含む装置も提供される。前記装置は、質量分析計を備え得る。
【0071】
1つ以上の免疫グロブリンキャリブレーターと組み合わせて1つ以上の基質に結合した複数の抗原を含む本発明の方法で使用するためのアッセイキットも提供される。
【0072】
本発明は、以下の図を参照してのみ実施例として説明される:
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】
図1は、抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗カッパ及び抗ラムダ抗体で免疫精製された免疫グロブリンの5つの質量スペクトルを示す。免疫精製後、MALDI-TOFを用いた質量分析を行う前に、還元剤ジチオスレイトールを用いて重鎖及び軽鎖を解離させた。
【
図2】
図2は、Ladwig, P.M. et al., Clinical Chemistry (2014), Volume 16, page 1080-1088から引用のものである。
図2は、個々のサブクラスペプチド、IgG総量に使用される一般的なペプチド、及びウマIgGペプチドの定量で使用されるピーク(網掛け)を示す、1:16ウシ血清で希釈したIgGサブ-ロー対照(The Binding Site Limited, Birmingham, United Kingdom)のLC-MS/MSイオンクロマトグラムが、定量に使用されたことを示す。観察される多くの非特異的バックグラウンドピークはクロマトグラフィーで分離されており、干渉しなかった。
【
図3A】
図3は、常磁性ビーズに固定化されたコロナウイルス ウイルススパイクタンパク質を使用したMALDI-TOFスペクトルを示す。スペクトルは、7000~30000 m/zの範囲(3つの電荷状態すべてを示す、A)、及び11000~14000 m/zの範囲(+2電荷状態のみのスイング、B)で提示される。モノクローナル抗体(スパイクタンパク質に特異的)をビーズに結合させて溶出し、MALDI-TOF質量分析でピーク分離した。さらに、健康なヒト血漿及び血清も、ウイルススパイクタンパク質ビーズと共に別々にインキュベートした。ウイルススパイクタンパク質(予備洗浄された)でマークされたビーズは、結合後のビーズ洗浄が固定化されたタンパク質に損傷を与えないことを実証するための対照であった。
【
図3B】
図3は、常磁性ビーズに固定化されたコロナウイルス ウイルススパイクタンパク質を使用したMALDI-TOFスペクトルを示す。スペクトルは、7000~30000 m/zの範囲(3つの電荷状態すべてを示す、A)、及び11000~14000 m/zの範囲(+2電荷状態のみのスイング、B)で提示される。モノクローナル抗体(スパイクタンパク質に特異的)をビーズに結合させて溶出し、MALDI-TOF質量分析でピーク分離した。さらに、健康なヒト血漿及び血清も、ウイルススパイクタンパク質ビーズと共に別々にインキュベートした。ウイルススパイクタンパク質(予備洗浄された)でマークされたビーズは、結合後のビーズ洗浄が固定化されたタンパク質に損傷を与えないことを実証するための対照であった。
【
図4】
図4:ウイルスSARS-CoV-2スパイクタンパク質及び細菌性肺炎球菌細胞壁多糖類(CWPS)に対して試験された、Covid-19陰性(健康)及びPCR陽性(罹患)個体由来のMALDI質量分析スペクトル。4個体の血清又は血漿サンプルを抗原結合ビーズで免疫捕捉した。個体2及び4は「罹患」であった(Covid-19の検査で陽性)。個体1及び3は「健康」のクラスであった(Covid-19の検査で陰性)。
【
図5】
図5:様々な感染特異的抗原を用いて標的感染に対して試験された、健康及び罹患個体由来のMALDI質量分析スペクトル。SARS-CoV-2ウイルス特異的抗原を、ウイルススパイクタンパク質及びヌクレオカプシドタンパク質と共にビーズに結合させた。4個体のサンプルを抗原結合ビーズで免疫捕捉した。個体のうち2つは「罹患」(Covid-19の検査で陽性、個体2及び4)であり、2つは健康であった(個体1及び3)。
【
図6】
図6:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgG1ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズを使用して免疫沈降された、血清及び血漿サンプルの溶出消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgG1ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgG1ペプチドのXICs。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図7】
図7:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgG2ペプチドGLPAPIEKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズを使用して免疫沈降された、血清及び血漿サンプルの溶出消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgG2ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgG2ペプチドのXICs。
【
図8】
図8:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgG3ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVQFKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgG3ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgG3ペプチドのXICs。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図9】
図9:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgG4ペプチドGLPSSIEKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgG4ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgG4ペプチドのXICs。
【
図10】
図10:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgA1ペプチドDASGVTFTWTPSSGKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgA1ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgA1ペプチドのXICs。
【
図11】
図11:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgA2ペプチドDASGATFTWTPSSGKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgA2ペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgA2ペプチドのXICs。
【
図12】
図12:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたカッパLCペプチドSGTASVVC(CAM)LLNNFYPRの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるカッパLCペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるカッパLCペプチドのXICs。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図13】
図13:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたラムダLCペプチドYAASSYLSLTPEQWKの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるラムダLCペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるラムダLCペプチドのXICs。
【
図14】
図14:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgGペプチドDTLMISRの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgGペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgGペプチドのXICs。
【
図15】
図15:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgAペプチドSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTC(CAM)LARの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgAペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgAペプチドのXICs。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図16】
図16:ERM-DA470k参照血清の消化物内で検出されたIgMペプチドGVALHRPDVYLLPPARの抽出イオンクロマトグラム(XIC)及びSARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合させたビーズを使用して免疫沈降された、血清および血漿サンプルの溶出物消化物。(A)ERM-DA470kにおけるIgMペプチドのXIC化。(B-E)免疫沈降した(B)COVID-19陰性血清、(C)COVID-19陰性血漿、(D)COVID-19陽性血清、および(E)COVID-19陽性血漿の溶出物消化物中におけるIgMペプチドのXICs。
【
図17A】
図17:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG1ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図17B】
図17:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG1ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図18A】
図18:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG2ペプチドGLPAPIEKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図18B】
図18:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG2ペプチドGLPAPIEKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図19A】
図19:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG3ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVQFKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図19B】
図19:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgG3ペプチドTPEVTC(CAM)VVVDVSHEDPEVQFKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図20A】
図20:消化ERM-DA470k参照血清内のIgG4ペプチドGLPSSIEKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図20B】
図20:消化ERM-DA470k参照血清内のIgG4ペプチドGLPSSIEKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図21A】
図21:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgA1ペプチドDASGVTFTWTPSSGKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図21B】
図21:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgA1ペプチドDASGVTFTWTPSSGKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図22A】
図22:SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陰性血清の消化溶出液内のIgA2ペプチドDASGATFTWTPSSGKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図22B】
図22:SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陰性血清の消化溶出液内のIgA2ペプチドDASGATFTWTPSSGKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図23A】
図23:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のカッパLCペプチドSGTASVVC(CAM)LLNNFYPRに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図23B】
図23:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のカッパLCペプチドSGTASVVC(CAM)LLNNFYPRに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図24A】
図24:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のラムダLCペプチドYAASSYLSLTPEQWKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図24B】
図24:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のラムダLCペプチドYAASSYLSLTPEQWKに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図25A】
図25:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgGペプチドDTLMISRに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図25B】
図25:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgGペプチドDTLMISRに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図26A】
図26:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgAペプチドSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTC(CAM)LARに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図26B】
図26:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgAペプチドSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTC(CAM)LARに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。*(CAM)=カルバミドメチル化システイン。
【
図27A】
図27:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgMペプチドGVALHRPDVYLLPPARに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図27B】
図27:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降したCOVID-19陽性血清の消化溶出液内のIgMペプチドGVALHRPDVYLLPPARに対応する断片化スペクトル。(A)C末端フラグメントイオン(yイオン系列)を強調した断片化スペクトル。(B)Yイオン系列の予想断片と観測結果の表。
【
図28】
図28:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降した陰性及び陽性COVID-19血清サンプルの消化溶出物内の、免疫グロブリンアイソタイプIgG/IgA/IgM、IgGサブクラス、IgAサブクラス、および軽鎖を表すマーカーのピーク面積を比較した棒グラフ。(A)IgGサブクラス、(B)IgAサブクラス、(C)軽鎖、および(D)IgG/IgA/IgM免疫グロブリンのピーク面積。
【
図29】
図29:SARS-CoV-2スパイクタンパク質と結合したビーズで免疫沈降した陰性及び陽性COVID-19血漿サンプルの消化溶出物内の、免疫グロブリンアイソタイプIgG/IgA/IgM、IgGサブクラス、IgAサブクラス、および軽鎖を表すマーカーのピーク面積を比較した棒グラフ。(A)IgGサブクラス、(B)IgAサブクラス、(C)軽鎖、および(D)IgG/IgA/IgM免疫グロブリンのピーク面積。
【発明を実施するための形態】
【0074】
IgGクラス及び軽鎖タイプは、当該技術分野において一般的に知られている技術を用いて同定され得る。
【0075】
MALDI-TOFスペクトルを用いて、異なるIgクラス及び軽鎖タイプについて得られたスペクトルを、例えば
図1に示す。これは、当該技術分野において一般的に知られているようにジチオスレイトールと解離された免疫精製免疫グロブリンを利用する。これは、異なる重鎖クラス及び軽鎖タイプを識別することが可能であることを示している。このようなアッセイを実施する方法は、例えば国際公開番号第2015/154052号に示されている。
【0076】
図2は、前出のLadwigらの実施例であり、質量分析及びそれらの定量を用いて異なる免疫グロブリンのサブクラスを決定することも可能であることを実証している。該アッセイを実施するための方法は、例えば該論文に記載されている。
【0077】
本発明における前記技術は、抗原特異的免疫グロブリンに適用される。免疫グロブリンを含むサンプルを常磁性ビーズなどの基質に付着した抗原と接触させる。次に、抗原特異的抗体を洗浄して非特異的結合を除去し、質量分析の前にビーズから溶出する。
【0078】
図3(A及びB)は、常磁性ビーズに付着したコロナウイルスウイルススパイクタンパク質の例を示す。上のパネルは、受容体部位モノクローナル抗体の活性化抗体及び非活性化抗体がウイルススパイクタンパク質ビーズに特異的に結合し、その後、免疫グロブリン軽鎖と重鎖の別個のピークとして質量分析によって溶出及び検出されることを示す。正常血清及び正常血漿免疫グロブリンはウイルススパイクタンパク質に結合しないため、ビーズから洗い流されるため、溶出では検出されない。中央のパネルは、ウイルススパイクタンパク質ビーズの予備洗浄が、固定化されたタンパク質に実質的に影響を及ぼさず、さらにモノクローナル抗体の結合を可能にすることを示す。下のパネルは、ウイルススパイクタンパク質がα-IgG特異的抗体に置換された場合、そのモノクローナル抗体がビーズに結合することを示す。このようなビーズを正常血漿又は正常血清とインキュベートすると、血漿又は血清内のIgG抗体が検出され、下のパネルでのみ観察される広い下部ピークの重なりをもたらす。
【0079】
表3は、異なるIgGサブクラス及びこの例において、異なるウイルスタンパク質に対して生じ得るIgGの典型的な量のマトリックスの例を示す。そのようなマトリックスは、他のクラス、サブタイプ又は軽鎖タイプを含むように拡張され得る。例えば、アレルギー性喘息または慢性蕁麻疹などのIgE関連慢性疾患が研究において、IgEに焦点があてられる可能性がある。
【0080】
このようなマトリックスはまた、異なる免疫グロブリンクラス、サブクラス、又は軽鎖タイプ、及び異なる抗原との間のデータの比較を可能にするために、グラフィックフォーマット又はその他のフォーマットに変換され得る。それは、適切な計算された実装方法を使用して自動的に入力され得る。
【0081】
発明者らのアプローチを説明するために、4つのサンプル(3つの異なる感染関連抗原、SARS CoV-2スパイク及びヌクレオカプシドタンパク質並びに肺炎球菌細胞壁多糖類(CWPS)に対する、2つの「罹患」(Covid-19のPCR陽性)個体及び2つの「健康」(Covid-19の検査で陰性))で免疫応答を分析した。これら4個体の血清(サンプル1及び2)又は血漿サンプル(3及び4)を、これら3抗原結合ビーズで免疫捕捉した。ビーズによって捕捉された抗体及び抗原特異的タンパク質は、MALDI-TOF MSによって溶出、還元、分析される。さらに、ビーズによって捕捉された抗体及び抗原特異的タンパク質は、トリプシン消化後にLC-MSによって溶出及び分析される。免疫応答を「プロファイリング」するために、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgG、IgA、IgM重鎖、並びにカッパ及びラムダ軽鎖のトリプシンペプチドを使用した。LC-MS分析のために、血清対照として国際タンパク質標準物質Da470kも実行した。
【実施例】
【0082】
方法
【0083】
免疫沈降及びMALDI-TOF-MS
【0084】
抗体および抗原特異的タンパク質を抗原結合常磁性ビーズに捕捉し、還元条件下で溶出して軽鎖を重鎖から分離した。簡単に説明すると、50~150μlのビーズをリン酸緩衝生理食塩水、0.1% Tween(登録商標)-20(PBST)で3回洗浄した。希釈したサンプルをビーズに加え、30分間振とうしながら室温でインキュベートした。ビーズをPBSTで3回洗浄し、標準脱イオン水でさらに3回洗浄した。還元剤を含む50μLの0.1% ギ酸(LC-MS)又は5% 酢酸(MALDI-TOF)を使用して、室温で15分間振とうしてビーズを溶出した。溶出物をMALDIマトリックス(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)でMALDI-TOFターゲットプレート上にサンドイッチ-スポットし、乾燥させた。質量スペクトルは、分析対象物(ヒトカッパまたはラムダ軽鎖)の二重荷電([M+2H]2+、m/z 10900-12300)イオンを含む、5000~80,000 m/z範囲をカバーするBruker Microflex MALDI-TOF-MS上で、正イオンモードで取得された。2+電荷状態で観察される軽鎖は、各軽鎖に特有の3つの領域;ラムダ(11200-11560 m/z)、カッパ(11570-11850 m/z)、ヘビーカッパ(11900-12400 m/z) に分割することができる。
【0085】
LC-MS/MS 及び消化条件
【0086】
溶出液を新しいマイクロ遠心チューブに移し、1M重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)を添加して中和した。サンプルを200 mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で、中性pH 60℃ 1000rpmで30分間還元した後、室温に冷却した。アルキル化は、375 mMヨードアセトアミドの添加により行い、暗所において室温で30分間インキュベートした。酵素消化は、2.5μLの1μg/μLトリプシンで行い、サンプルを37℃、1000 rpmで2時間インキュベートした。消化反応は1μLの100% ギ酸で終わらせた。液体クロマトグラフィー結合エレクトロスプレーイオン化質量分析(LC-ESI-MS)による分析の前に、水性モードで60℃の真空濃縮器を使用してサンプル量を減らした。
【0087】
サンプルは、ACQUITY I-Class UPLC system (Waters Ltd., Wilmslow, UK)と組み合わせた Xevo G2-XS QToF 質量分析計で分析した。消化サンプル10μLを、40℃、流速0.2 mL/分を維持して、ACQUITY UPLC Peptide BEH C18, 130Å, 1.7 μm, 2.1 x 150 mm column (Waters Ltd., Wilmslow, UK)に注入した。水(A)中の0.1%ギ酸(v/v)からアセトニトリル(B)中の0.1%ギ酸(v/v)へのグラジエントを用いた。(グラジエント:0~1分、1%B、1~60分、40%B、60~70分、60%B、70分、95%B、70~80分、95%B、80分1%B、80~90分1%B)。キャピラリー電圧は、40Vのコーン電圧で1.5kVに設定した。源泉温度は120℃、脱溶媒温度は250℃とした。コーンガス流量は50 L/h、脱溶媒ガス流量は600 L/hに維持された。MS
Eは、100~2000 m/zのスキャンで90分かけて取得された。スキャンは、6eVの低い衝突エネルギーを0.5秒間、及び25 eV~45 eVの高い衝突エネルギーランプを交互に0.5秒間繰り返す。LockSpray(商標)を有効にし、ロイシンエンケファリンを3kVの毛細管電圧及び30Vのコーン電圧で毎分0.25秒間測定した。MSE相対定量のためにモニターされたイオンを表5に概説する。個々の免疫マーカーペプチドの断片化スペクトルを
図17~27に示す。
【0088】
結果
【0089】
MALDI-TOF
【0090】
抗原結合ビーズに対する全体的な抗体応答は、ピーク強度(a.u.)として測定され、MALDI-MSデータからのピーク分布によって特徴付けられた。細菌多糖類に対してテストされたほとんどの個体は、低レベルの自然な抗体応答を示す(
図4)。これには、最近の細菌感染を示唆する、細菌抗原に対して有意に高い反応を示した個体3(Covid-19陽性)は除外される。全体として、細菌抗原に対して観察された軽鎖分布は主にポリクローナル及びオリゴクローナルであり、カッパ軽鎖の使用、特にヘビーカッパに偏っていた。同じ個体がウイルスSARS-Cov-2スパイクタンパク質に対してテストされた(
図4)。Covid-19陽性の個体(2及び4)は、オリゴクローナル軽鎖(鋭いピーク)を伴う、基礎となるポリクローナル軽鎖分布(滑らかなピーク)からなるスパイクタンパク質に対して、高い抗体応答を示した。「健康な」Covid-19陰性の個体(2及び4)は、ベースラインの抗体反応を示す。続いて、SARS-Cov-2ヌクレオカプシドタンパク質とスパイクタンパク質からの免疫応答とを比較して、サイズ、構造、機能、及び局在が異なる抗原に対する応答を特徴付けた(
図5)。スパイクタンパク質で観察されるように、Covid-19陽性者(2及び4)からの抗体応答もまた、ヌクレオカプシドタンパク質に対する高い応答を誘発する。ヌクレオカプシド応答は、主にオリゴクローナルピークの少ないラムダ軽鎖で構成されていた(
図5)。ヌクレオカプシドタンパク質に対する「健康な」Covid-19陰性者(1及び3)からの相対的な反応はベースラインに近い(
図5)。細菌性肺炎球菌細胞壁多糖に対する4つのサンプルすべてのκ:λ比は高いκ:λ比を有し、カッパ軽鎖バイアスを示唆した(表4)。ビーズ上のウイルスタンパク質抗原(SAR-Cov-2スパイク及びヌクレオカプシドタンパク質)に対する応答のκ:λ比は変動し、バイアスの形跡はなかった。2つのCovid-19陽性者(2及び4)は、ヌクレオカプシドタンパク質に対する応答を示し、κ:λ比は<1であり、応答がラムダ軽鎖の使用によって支配されていることを示唆している(表4)。
【0091】
要約すると、MALDI-TOF分析は、細菌およびウイルス抗原に対する抗体応答の概要を提供し、これら4個体の間の免疫応答の量と質の違いを示した。
【0092】
LC-MS/MS
【0093】
検出対象の免疫グロブリンに特異的(診断上の)な免疫マーカートリプシンペプチドを各ヒト免疫グロブリン(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgG、IgA、IgA、IgM重鎖、カッパ及びラムダ軽鎖)について選択した(表5)。これらのペプチドのアミノ酸配列及び同一性を、
図17~27に示されるようなそれぞれの断片イオンスペクトルを用いて確認した。いずれの場合も、MSスペクトル(A)に断片イオンテーブル(B)が伴う。これらのペプチドは、それらの長さ、相対存在量、及びそれらがタンパク質のポリペプチド配列において一度だけ出現することに基づいて選択された。
【0094】
これらのペプチドは、4つのヒトサンプル;3つの異なる微生物感染関連抗原;SARS CoV-2スパイク及びヌクレオカプシドタンパク質並びに肺炎球菌CWPSに対する、2つの「罹患」個体(Covid-19のPCR陽性)及び2つの「健康」(Covid-19の検査で陰性)における免疫応答のプロファイリングに使用された。いずれの場合も、抽出されたイオンクロマトグラムを取得してそのペプチドの存在を特定し、ピーク下の面積を計算して、それが由来する完全免疫グロブリンの比較測定の代理マーカーとして使用した。例えば、SARS-Cov-2スパイクタンパク質に対するこれら4つのヒト臨床サンプルについて得られた、抽出イオンクロマトグラムは、IgG1(
図6)、IgG2(
図7)、IgG3(
図8)、IgG4(
図9)、IgA1(
図10)、IgA2(
図11)、及びカッパ(
図12)並びにラムダ軽鎖(
図13)について示されている。さらに、総IgG(
図14)、総IgA(
図15)及び総IgM(
図16)のペプチドマーカーも得られる。比較のために、国際タンパク質標準物質ERM-DA470kを独立して消化し、血清免疫グロブリン対照として実行した。
図6~16に見られる相対的存在量は、健康なサンプルと疾患状態のサンプルとの間の抗体応答をプロファイリングするために比較及び使用することができ、これは血清(
図28)及び血漿(
図29)マトリックスについてグラフで示されている。これらは、簡単に比較できるように、IgG(
図28A及び29A)並びにIgAサブクラス(
図28B及び29B)、免疫グロブリン軽鎖(
図28C及び29C)並びに総免疫グロブリンIgG、IgA、及びIgM(
図28D及び29D)に分類されている。Covid陽性サンプルの免疫応答は、IgG応答によって支配されるCovid陰性サンプルの免疫応答よりもはるかに大きい。サブクラス応答に関しては、IgG1とIgA1の両方が支配的なサブクラスである。軽鎖の使用法は、カッパ及びラムダの間でほぼ同じである。これは、MALDI-TOFプラットフォームを使用して観察されたものを反映している(表4)。
【0095】
ヌクレオカプシドタンパク質及び肺炎球菌CWPSビーズによって免疫捕捉された免疫グロブリンについても同等の分析を行った。このデータは、表6のスパイクタンパク質のデータと組み合わされ、相対存在量プロファイルとして表される。予想通り、ヌクレオカプシドタンパク質抗原に対する抗体免疫応答は、Covid陽性(罹患)の患者と比較して、Covid陰性(健康)患者で低かった。2つのSARS-CoV-2抗原とは対照的に、肺炎球菌CWPSに対する免疫応答は、Covid陽性患者と陰性患者の間でよりバランスが取れていましたが、IgG2及びカッパ軽鎖応答に強く偏っていた。これはまた、MALDI-TOF-MSを使用して観察された結果を支持した。
【0096】
要約すると、トリプシンペプチドLC-MS/MS分析は、細菌及びウイルス抗原に対する抗体応答の詳細な概要を提供し、これら4つの個体間の抗体免疫応答をプロファイリングすることを可能にした。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【配列表】
【国際調査報告】