(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-22
(54)【発明の名称】化粧品用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20230615BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20230615BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/98
A61Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571779
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 US2021033755
(87)【国際公開番号】W WO2021237155
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522454736
【氏名又は名称】エフイー:アイ・ビューティー・テック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FE I BEAUTY TECH, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シィー
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083AA072
4C083AB231
4C083AB232
4C083AB271
4C083AB291
4C083AB321
4C083AB322
4C083AB431
4C083AC301
4C083AD042
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB42
4C083BB44
4C083CC11
4C083CC12
4C083CC13
4C083CC14
4C083DD23
4C083DD31
4C083EE10
4C083EE12
(57)【要約】
本発明は、ユーザーの肌に適用するための化粧品に関する。化粧品には酸化鉄を含む着色剤が配合されている。化粧品はまた、化粧品に接触する外部の酸性源と反応するように、及び酸化鉄からの鉄イオンの放出を抑制するように構成された高緩衝能剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を含む着色剤と、
化粧品と接触する外部酸性源と反応するように、及び、前記酸化鉄からの鉄イオンの放出を抑制するように構成された高緩衝能剤と、を含む
ユーザーの肌に塗布する化粧品。
【請求項2】
前記高緩衝能剤が、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ケイ酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む請求項1に記載の化粧品。
【請求項3】
前記高緩衝能剤が、約0.05μmから約30μmの範囲のサイズを有する前記真珠粉を含む請求項1に記載の化粧品。
【請求項4】
前記高緩衝能剤が、約0.01%(w/w)から約10%(w/w)の範囲の量で前記化粧品に含まれる請求項1に記載の化粧品。
【請求項5】
前記高緩衝能剤が、約1%(w/w)から約2%(w/w)の範囲の量で前記化粧品に含まれる請求項1に記載の化粧品。
【請求項6】
前記高緩衝能力剤が、前記化粧品のpHレベルを6.0より高く維持するために前記外部酸性源と反応するように構成されている請求項1に記載の化粧品。
【請求項7】
コンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、又はミネラルメイク用組成物の少なくとも1つをさらに含む請求項1に記載の化粧品。
【請求項8】
前記外部酸性源が、ユーザーの肌、ユーザーの汗、酸性雨、又は酸性美容製品の少なくとも1つをさらに含む請求項1に記載の化粧品。
【請求項9】
前記高緩衝能剤が水相で調製される請求項1に記載の化粧品。
【請求項10】
1つ以上の鉄系着色剤と、
弱酸を含む緩衝剤と、
を含む化粧品組成物であって、
前記組成物が外部酸性源への暴露時に実質的に安定しているpHレベルを維持する化粧品組成物。
【請求項11】
1つ以上の前記鉄系着色剤が酸化鉄を含む請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項12】
前記緩衝剤が、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ケイ酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項13】
前記緩衝剤が、約0.05μmから約30μmの範囲のサイズを有する真珠粉を含む請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項14】
前記緩衝剤が、約0.01%(w/w)から約10%(w/w)の範囲の量で前記化粧品に含まれる請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項15】
前記緩衝剤が、約1%(w/w)から約2%(w/w)の範囲の量で前記化粧品に含まれる請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項16】
前記緩衝剤が、前記化粧品のpHレベルを6.0より高く維持するために前記外部酸性源と反応するように構成されている請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項17】
化粧品が、コンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、又はミネラルメイク用組成物の少なくとも1つをさらに含む請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項18】
前記外部酸性源が、ユーザーの肌、ユーザーの汗、酸性雨、又は酸性美容製品のうちの少なくとも1つを含む請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項19】
前記緩衝剤が水相で調製される請求項10に記載の化粧品組成物。
【請求項20】
1種以上の鉄系色素を含有する化粧品によるユーザーの肌へのダメージを抑制する方法であって、その方法はユーザーの肌に化粧品組成物を塗布することを含み、前記化粧品組成物が酸化鉄を含有する着色剤及び緩衝剤を含有し、前記緩衝剤が前記化粧品組成物と接触する外部酸性源と反応し前記酸化鉄からの鉄イオンの放出を抑制する方法。
【請求項21】
前記緩衝剤が、前記外部酸性源への暴露にもかかわらず、前記化粧品組成物のpHレベルが実質的に安定な状態を維持するように前記外部酸性源と反応する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記緩衝剤が、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ケイ酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記緩衝剤が水相で調製される請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月22日に出願された米国仮出願No.63/029,039の優先権を主張しており、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、化粧品、化粧品の製造及び使用方法、並びに人の肌の外観を向上させる方法の分野に関する。
【0003】
発明の背景
これまで多くの異なる化粧品組成が開発されてきた。ここに記載された組成物は、肌に対する改善されたアンチエイジング効果を提供する。
【0004】
発明の概要
ある実施態様では、酸化鉄を有する化粧品に高緩衝能(「HBC」)剤が組み込まれている。ある実施態様では、化粧品は、コンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、ミネラルメイク、クリーム、ローション、美容液、化粧水、マスク、及び乳液用の組成物を含む。ある実施態様では、HBC剤は、少なくとも1つの真珠粉及びその類似体(例えば、周期表の第2列の強アルカリ性陽イオン(例えばアルカリ土類金属)を含むが、弱酸性のもの(例えば、pKaは3から6の範囲))を含む。別の実施態様では、HBC剤は、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ケイ酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、及びそれらの組み合わせの少なくとも1つを含む。
【0005】
ある実施態様では、着色化粧品組成物は酸化鉄を含む着色剤及び高緩衝能(「HBC」)剤を含む。ある実施態様では、HBC剤は、少なくとも1つの真珠粉及びその類似体(例えば、周期表の第2列の強アルカリ性陽イオン(例えばアルカリ土類金属)を含むが、弱酸性のもの(例えば、pKaは3から6の範囲))を含む。別の実施態様では、高緩衝能剤は、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ケイ酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、及びそれらの組み合わせの少なくとも1つを含む。
【0006】
本発明者は、驚くべきことにそして意外なことに、酸性条件下で化粧品中の酸化鉄が可溶化され、「遊離」鉄イオンを放出することができ、それが肌に損傷を与え、早期老化を引き起こす可能性があることを発見した。ある実施態様では、肌に塗布された化粧品に外部の酸性物質が導入されると、HBC剤は化粧品のpHを中性(すなわちpH7)又はその近くに維持するように構成され、それによって化粧品に含まれる酸化鉄の可溶化及びそこからの「遊離」鉄イオンの放出を抑制する。1つの実施態様では、外部の酸性物質は、肌及び/又はそこから分泌される汗のような内因性の発生源、及び/又は酸性雨のような外因性の発生源であり得る。したがって、HBC剤は化粧品をユーザーによる使用のために安全に保つ。
本発明をよりよく理解するために、次の添付図面と併せて検討された、様々な例示的な実施態様の詳細な説明を後に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、赤・黄・黒の合成酸化鉄のマストーン及びティントトーンのカラーチャートを示す。
【
図2】
図2は、フェリチン誘発に対する水溶性FeSO
4の効果を示す実施例の結果を示す。
【
図3】
図3は、酸性化した酸化鉄の赤色及び黄色がフェリチン誘発に及ぼす効果の増大を示した実施例の結果を示す。
【
図4】
図4は、コンシーラーの酸性化がフェリチン誘発に及ぼす影響を示した実施例の結果である。
【
図5】
図5は、コンシーラーの緩衝能力を示す実施例の結果を示す。
【
図6】
図6は、酸性化がない場合のフェリチン誘発に対するコンシーラーの効果を示した実施例の結果を示す。
【
図7】
図7は、コンシーラーの緩衝能力に及ぼす真珠粉の量の変化の影響を示す実施例の結果を示す。
【
図8】
図8は、コンシーラー中の真珠粉がフェリチン誘発に及ぼす影響を示した実施例の結果を示す。
【
図9】
図9は、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)を処理する様々なコンシーラーを使用して、コンシーラー中の真珠粉がフェリチン誘発に及ぼす影響を示した実施例の結果を示す。
【
図10】
図10は、コンシーラーに含まれる真珠粉の、HaCat細胞による処理を用いたフェリチン誘発に対する効果を示した実施例の結果である。
【0008】
例示的な実施態様の詳細な説明
ここでは、本出願に添付された図面を参照して、実施態様をより詳細に説明する。開示された実施態様は、様々な形態で具体化できる開示の単なる例示であることは理解されるべきである。加えて、様々な実施態様に関連して示されたそれぞれの例は説明を意図したものであり、限定的なものではない。さらに、数字は必ずしもスケーリングされておらず、一部の特徴は特定の構成要素の詳細を示すために誇張されている場合がある(また、図に示されているサイズ、材料及び類似の数値の詳細は、説明的であり、制限的な意図はない)。したがって、ここに開示された特定の構造的及び機能的詳細は、限定的なものと解釈されるべきものではなく、単に開示された実施態様が様々に用いられることを当業者に示教するための代表的なベースにすぎないと解釈されるべきものである。
【0009】
ここで、本発明の一部を構成し、例示として具体的な実施例を示す添付の図面を参照して、本発明をより詳細に以下に説明する。しかし、本発明は、様々な異なる形態で具体化されることがあり、したがって対象となる又は主張される本発明は、ここに記載されている例示的な実施態様に限定する意図はないと解釈される。即ち例示的な実施態様は、単に説明するために提供される。とりわけ、本発明は、例えば、方法、装置、コンポーネント、又はシステムとして具体化されることがある。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味での解釈を意図したものではない。
【0010】
明細書及び/又はクレーム全体を通して、用語は、明示的に述べられた意味を超えて、文脈において示唆又は暗示されたニュアンスの意味を持つことがある。同様に、ここで使用される「ある実施態様において」という語句は、必ずしも同じ実施態様を指すとは限らず、ここで使用される「別の実施態様において」及び「他の実施態様において」という語句は、必ずしも別の実施態様を指すとも限らない。例えば、対象又はクレームされた本発明には、全体又は一部の実施例の組み合わせが含まれることを意味する。
【0011】
一般的に、用語は少なくとも文脈での用法から部分的に理解され得る。例えば、ここで使用される「and」、「or」、「and/or」などの用語は、そのような用語が使用される文脈に少なくとも部分的に依存する可能性のある様々な意味を含むことがある。通常、A、B、又はCなどのリストを関連付けるために使用される「又は」は、ここでは包括的な意味で使用されるとA、B、及びCを意味し、同様に排他的な意味で使用されるとA、B、又はCを意味する。加えて、ここで使用される「1つ以上」という用語は、少なくとも部分的に文脈に依存して、任意の特徴、構造、又は特性を単一の意味で記述するために使用されることもあれば、特徴、構造、又は特性の組み合わせを複数の意味で記述するために使用されることもある。同様に、「a」、「an」、又は「the」のような用語は、少なくとも部分的に文脈に応じて、単数形の用法又は複数形の用法を伝えるものとして理解されることがある。さらに、「に基づく」という用語は、必ずしも要因の排他的な存在を伝えることを意図していないと理解され得るし、その代わりに、再度少なくとも部分的には文脈に依存して、必ずしも明示的に記述されていない追加的な要因の存在を許容し得る。
【0012】
ある実施態様では、着色剤として酸化鉄を含む化粧品に高緩衝能(「HBC」)剤が組み込まれている。さらなる実施態様では、化粧品はコンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、ミネラルメイク用の組成物を含む。別の実施態様では、本発明は酸化鉄を含む任意の化粧品において有用である。
【0013】
ここで使用される用語「高緩衝能剤」、「HBC剤」、及び「緩衝剤」は、外部の酸の供給源又は材料と反応し、関連する化粧品中の酸化鉄からの鉄イオンの放出を抑制(すなわち、緩衝剤を含む組成物から放出される鉄イオンの量が、緩衝剤を含まない組成物から放出される鉄イオンの量よりも少なくなるように鉄イオンの放出を減少させる)し、及び/又は酸性の状態の下でのフェリチンの形成を抑制するように構成された作用物質、化合物又は材料を意味する。ある実施態様では、HBC剤はフェリチン形成を約0.2%以上減少させることができる。別の実施態様では、HBC剤はフェリチン形成を約0.2%以下減少させることができる。ある実施態様では、HBC剤はフェリチン形成を約30%以上減少させることができる。別の実施態様では、HBC剤はフェリチン形成を約60%以下減少させることができる。外部の酸性源又は材料は、化粧品自体の一部ではないが、ユーザーの肌に化粧品が塗布されるときに化粧品と混合又は接触する生物学的及び/又は環境源又は材料である。外部酸性物質の例としては、ユーザーの肌、汗、酸性雨、酸性美容製品などがある。
【0014】
化粧品では、例えば酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄などの鉄系着色剤が使用できる。より詳しくは、酸化鉄はファンデーション、パウダー、コンシーラー、その他の顔のメイクの肌の色を合わせるために使用される主要な色素である。酸化鉄はアイシャドウ、チーク、パウダー、口紅、ミネラルメイクにも含まれている。一般的に、酸化鉄には黒(Fe
3O
4、CI77499)、黄(FeOOH又はFe(OH)
3、CI77492)、赤(Fe
2O
3、CI77491)の3つの基本的な色がある。これらを異なる比率で混ぜることで、さまざまな色の濃淡を作ることができる(例えば
図1を参照)。
【0015】
本発明者は、驚くべきことにそして意外なことに、化粧品中の酸化鉄が酸性となる条件にさらされるとき可溶化され、「遊離」の鉄イオンを放出され得ることを発見した。その結果、酸化鉄系の着色料を使用した従来のコンシーラー、ファンデーション、及び他の化粧品は、肌へのダメージ及び早期老化を引き起こす可能性がある。本発明者は、驚くべきことにそして意外なことに、緩衝能力の高い緩衝液を加えることで、コンシーラーにおける鉄の可溶化及び酸化体の生成を抑制できることを発見した。
【0016】
ある実施態様では、化粧品が外部の酸性物質又は酸性源(例えば、人の肌に塗布したり、汗又は酸性の雨に触れたりしたとき)にさらされると、HBC剤は外部の酸性物質又は酸性源と反応し、化粧品中の酸化鉄からの鉄イオンの放出を抑制するように構成される。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸物質又は酸性源と作用し、同じものを中和するように構成される。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は発生源が化粧品の元のpH(例えば、外部の酸性物質若しくは酸性源にさらされる前、又は人の肌に塗布される前の化粧品のpH)に著しく影響する(例えば、pHを0.1より多く下げる)ことを抑制するように構成される。ある実施態様では、HBC剤は外部の酸性物質又は酸性源を抑制するように構成され、組成物が実質的に安定したままのpH(例えば、化粧品が外部の酸性物質若しくは酸性源にさらされる前、又は人の肌に塗布される前のpHから、外部の酸性物質又は酸性源にさらされても1pH以内を維持する)を持つことを可能にする。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は酸性源と反応しても、化粧品の元のpHを実質的に一定に維持するように構成される(例えば、元のpHの1pH以内)。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸性源又は材料と反応しても、化粧品のpHを実質的に中性(例えば、pHが約6.5から約7.5の範囲)に維持するように構成される。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は酸性源と反応し、化粧品のpHを実質的に中性(例えば、pHが約6.5から約7.5の範囲)又は中性付近(例えば、pH7から2pH内で)に維持するように構成される。ある実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は酸性源と反応し、化粧品のpHを約6.8から約7.2の間に維持するように構成される。別の実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は酸性源と反応し、化粧品のpHを約6.5から約8の間に維持するように構成される。他の実施態様では、HBC剤は、外部の酸性物質又は酸性源と反応し、化粧品のpHを約6から約10の間又は6.0より高く維持するように構成される。
【0017】
ある実施態様では、HBC剤は、真珠粉及び/又は方解石粉を含む。真珠及び方解石には高濃度の炭酸カルシウム(CaCO3)が含まれている。ある実施態様では、真珠粉は少なくとも90%の炭酸カルシウムを含み、残りの割合はタンパク質、アミノ酸、及びペプチドである。別の実施態様では、HBC剤は、真珠粉又は方解石粉の類似体のいずれかであってもよい(例えば、周期表の第2列の強アルカリ性陽イオン(例えばアルカリ土類金属)を含むが弱酸性のもの(例えば、pKaが3から6の範囲))。このような類似体の非限定的な例としては、真珠粉、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、ケイ酸バリウム、シュウ酸バリウム、モリブデン酸バリウム、マンガン酸バリウム、セレン酸バリウム、炭酸ベリリウム、リン酸ベリリウム、ケイ酸ベリリウム、炭酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、セレン酸ストロンチウム、及びそれらの組み合わせを含む。炭酸カルシウム及びアミノ酸、ペプチド、並びにタンパク質を組み合わせた真珠粉は、方解石及び他のHBC剤よりも肌に柔らかい場合がある。カルシウム系HBC剤は、真珠粉及び方解石よりも微調整されており、肌には高レベルのカルシウムイオンが含まれているため、特に適している。また、炭酸カルシウムが分解されるとカルシウムイオン及び二酸化炭素(CO2)が放出されるため、肌への影響は限定的である。
【0018】
ある実施態様では、化粧品に含まれるHBC剤の量は、化粧品の全重量に対して約0.01%(w/w)から約10%(w/w)の範囲である。別の実施態様では、HBC剤の量は、約2.0%(w/w)から約10%(w/w)の範囲である。さらに別の実施態様では、HBC剤の量は約0.5%(w/w)から約5%(w/w)の範囲である。さらなる実施例では、HBC剤の量は約1%(w/w)から約2%(w/w)の範囲である。
【0019】
ある実施態様では、化粧品は、化粧製品に含まれる従来の構成要素を含め得る。このような構成要素は、当業者であれば容易に理解することができる。このような構成要素の例は、2010年7月22日に発行された米国特許出願公開第2010/0183528 A1号、2019年4月11日に発行された第2019/0105254 A1号及び2012年10月25日に発行された第2012/0269753 A1号で開示されており、それらの開示は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0020】
ある実施態様では、HBC剤は粉末状である。ある実施態様では、HBC剤の粒子サイズは、肌に入り、高い有効性を有するのに十分に小さい必要がある。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.05μmから約30μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.1μmから約30μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.3μmから約20μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.3μmから約15μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.3μmから約10μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは0.3μmから約5μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.3μmから約2μmの範囲である。ある実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは約0.03μmから約1μmの範囲である。他の実施態様では、HBC剤の粒子のサイズは、約0.05μm、約0.1μm、又は約0.3μmより大きくかつ/又は約30μm、約20μm、約15μm、約10μm、又は約5μmより小さい。
【0021】
1つの実施態様において、HBC剤は、粉末を調製するための当技術分野において公知の任意の方法で調製することができる。例えば、真珠は、従来のブレンダー、グラインダー、ミルなどを使用して、粉砕、粉砕又は微粉末にすることができる。ある実施態様では、コンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、ミネラルメイク、クリーム、ローション、美容液、トナー、マスク、乳液などのように、目的の化粧品を形成するために、HBC剤は酸化鉄を含む化粧品組成物に添加される。ある実施態様では、化粧品組成物は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して作成することができる。例えば、酸化鉄を含む化粧品(例えば、乳剤又は水性のもの)を従来の方法で調製し、その後、HBC剤を着色剤とともに添加して、選択的に乾燥工程などの仕上げ工程を行う前に、均質化することができる。ある実施態様では、HBC剤を水相で又は乳剤として調製することができる。例えば、水相中でHBC剤を調製するには、有機溶媒中にHBC剤をあらかじめ分散させた後、水相と混合する前にペンチレングリコールなどの油相に添加する。ある実施態様では、HBC剤を水相に予め分散させ、その後油相に加えることにより、HBC剤をエマルジョンとして調製することができる。ある実施態様では、コンシーラー、ファンデーション、パウダー、アイシャドウ、チーク、口紅、ミネラルメイク、クリーム、ローション、美容液、化粧水、マスク、乳液などの目的の化粧品を形成するために酸化鉄を含む化粧品組成物に、水相又はエマルジョンとしてのHBC剤を加える。ある実施態様では、水などの溶液を含むエマルジョン又は水性の形でHBC剤を含む化粧品組成物を調製する。ある実施態様では、水性組成物中のHBC剤は、ここで説明するように、鉄イオンの形成を抑制する。
【0022】
以下に、本発明者によってなされた発見及びそれに関連する様々な例についてのより詳細な説明を提供する。
【0023】
鉱山などの天然の酸化鉄には、鉛、ヒ素、水銀、アンチモン、セレンなどの有毒金属が含まれていることが多いため、かなりの精製を行っても化粧品には適さない。その結果、酸化鉄は純度を保証するためにラボラトリーで作られるようになった。合成酸化鉄は有害金属の濃度が低いため、一般的には穏やかであることが公知である。合成酸化鉄は肌に刺激を与えないと考えられており、アレルギー誘発性は公知でない。一般に、化粧品に使用される酸化鉄(例:CI77499,CI77492,CI77491)は毒性がなく、安全であると考えられてきた。
【0024】
前述の従来の思い込みにもかかわらず、本発明者は、驚くべきことに予想外に、合成酸化鉄は、その最も純粋な形(純度100%)であっても、皮膚損傷を引き起こす可能性があり、肌への使用は望ましくない可能性があることを発見した。これは、鉄が次に示すように、Haber-Weiss反応及びFenton反応によってヒドロキシルラジカル(OH・)などの活性酸素種(ROS)を生成することができる優れた遷移金属であるためである。
反応(A):Fe3++O2
-・---------→Fe2++O2(Haber-Weiss反応)
反応(B):Fe2++H2O2---------→Fe3++OH-+OH・(Fenton反応)
反応(C):H2O2+O2
-・--------→OH-+OH・+O2(ネット、触媒としての鉄)
ROSは、DNA、RNA、タンパク質、脂質、酵素の酸化的不活性化、シグナル伝達経路の変化などの損傷を含む、細胞の代謝及び老化に対する毒性作用を有することが公知である。
【0025】
酸化鉄の表面は一般的に疎水性になるように処理され、それによって可溶化に対する抵抗性を持つ。本発明者は、このような表面処理が、ある状況下では酸化鉄の可溶化を防ぐ効果がないことを、驚くべきことに意外にも発見した。より具体的には、酸化鉄は、肌に局所的に塗布された後、及び/又は酸性条件にさらされたときに可溶化され生物学的に利用可能になる。例えば、肌及び汗のpHは酸性である。本発明者は、コンシーラーなどの化粧品に含まれる酸化鉄が、酸性条件下で可溶化され、潜在的に有毒な「遊離」鉄イオンを放出することを発見した。この可溶化は、クエン酸塩などの生体分子の存在下並びに、酸性雨及び日光暴露などの環境ストレス下で起こりやすい。上記の反応(C)によれば、鉄イオンは触媒として働き、少量の鉄イオンでも長時間(2015年1月22日に公開された米国特許公報No.2015/0024016 A1も参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられる)ROSを生成する。
【0026】
実施例1
フェリチン誘発に対する水溶性硫酸第一鉄(FeSO4)の増強効果を調べた。この例では、培養後の鉄の生物学的利用能のバイオマーカーとしてフェリチンが使用された。フェリチンは鉄貯蔵タンパク質であり、フェリチン分子あたり最大約4,500原子の鉄と結合する能力を持つ。
【0027】
初代ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)を、GlutaMAX(商標)及び10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ストレプトマイシン(抗生物質)を添加したDulbecco修正イーグル培地(DMEM)で培養した。処理の前に、細胞を12-ウェルプレート(培地1mlとウェルの表面積はウェルあたり約4.0cm
2)に一晩播種した。冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した後、HDF細胞を0.1%FBSで一晩飢餓状態にした。その後、細胞を最終濃度5μMの硫酸第一鉄七水和物(FeSO
4・7H
2O)でさらに18時間処理した。無処理の細胞を対照とした。その後、細胞をPBSで洗浄し、溶解した。フェリチン及びタンパク質のレベルは、市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キットを使用して測定され、ヒト肝臓フェリチン及びヒト血清アルブミンを標準として構築した標準曲線で定量された。結果はμgフェリチン/mgタンパク質として表され、
図2に示す。
【0028】
図2を参照すると、組織培養培地中の5μM濃度の硫酸第一鉄(FeSO
4は完全に水溶性であり、したがって完全に生物学的に利用可能である)は、対照と比較してHDF細胞中のフェリチン濃度を570%増加させた。この鉄が細胞の単層に完全に沈着すると仮定すると、0.07mgFe
2+/cm
2(6ウェルプレートで4cm
2の表面積を持つ1mlの培地で5μM Fe
2+)に相当する。以前の研究では、フェリチンは酸化促進物質であり、太陽にさらされるとUVAによって容易に分解され、酸化生成とマトリックスメタロプロテイナーゼ-1の増加を引き起こすことが示されている。そのため、フェリチンは肌の老化及び光老化の強力な指標となる。
【0029】
実施例2
酸化鉄が酸性条件にさらされると生体利用可能な鉄を放出する可能性があることを示すために、組織培養系で次の2つの酸化鉄を試験した:酸化鉄C177491ホホバ エステル レッド(Fe
2O
3)及び酸化鉄C177492ホホバ エステル イエロー(Fe(OH)
3)。2つの酸化鉄を50%(v/v)の水及びテトラエチレングリコール中で均一に予混合し、酢酸ナトリウム緩衝液(10mM、pH5.0)中で3mg/mlで一晩室温でインキュベートし、酸性雨又は汗のpHを模倣した。一晩培養(約16時間)した後、酸化鉄の懸濁液を用いて10μg/cm
2のHDFを18時間処理した。酸化鉄は水溶性ではなく、一度組織培養培地に添加すると細胞の単層に沈着するため、μg/cm
2単位が使用された。この10μg/cm
2の用量は、通常肌に塗布される量よりも少ないと考えられている。上記の処理の後、細胞を採取し、細胞内のフェリチン及びタンパク質のレベルを測定し、実施例1に示すように計算した。FeSO
4を陽性対照として使用し、その関連データを
図3に示していないが、FeSO
4による誘発は
図2に示したものと同等である。
図3は、処理した細胞のフェリチン濃度と、処理しなかった細胞(対照)のフェリチン濃度を示している。
図3に示すように、弱酸性pHに懸濁した赤色及び黄色の酸化鉄は、フェリチン形成をそれぞれ52.8%(対照群では488.4ng/mg対319.7ng/mgタンパク質)及び60.4%(512.9ng/mg対319.7ng/mgタンパク質群)増加させた。以上の結果は、弱酸性条件下で水に不溶な酸化鉄から鉄が放出され、フェリチンの生成が増加することを示している。
【0030】
実施例3
化粧品に取り込まれた酸化鉄もフェリチン生成を増加させることができることをさらに実証するために、3.88%(w/w)の黄色酸化鉄、1%(w/w)の赤色酸化鉄、及び0.42%(w/w)の黒色酸化鉄を含むTarte(商標)Cosmeticsのコンシーラーを水及びテトラエチレングリコールに予混合し、酸性酢酸塩緩衝液(pH5)中でインキュベートした後、上記の例2に記載されているようにHDF細胞で処理した。処理後、細胞を採取し、細胞内のフェリチン及びタンパク質の濃度を前述の実施例1のように測定し計算した。酸性処理を行わないコンシーラーサンプルを対照とした。
図4に示すように、上記のように弱酸性環境下で前処理したコンシーラーでは、3つの酸化鉄全体で約5%又は0.5mg/cm
2の量が含まれており、対照と比較してフェリチンが30.7%増加していた。以上の結果から、製剤中に酸化鉄を含むコンシーラーは、生体利用可能な鉄を細胞内に放出する作用が大きく、肌に有害な影響を及ぼす可能性があることが示された。
【0031】
酸化鉄の加水分解定数(Ksp)は低いであろう。しかし、酸化鉄のKspは結晶サイズ及び酸性pHの減少に伴って数桁増加する可能性がある。
【0032】
以上の研究結果から、ホホバ エステル又は油中若しくは乳剤(水中油若しくは油中水)での製剤による表面処理は、酸化鉄の酸可溶化を効果的に防止できない可能性があると考えられる。肌の構造では、細胞膜には脂溶性及び水溶性の構成要素がある。小さな粒径及び脂溶性を持つ酸化鉄は肌に容易に浸透し、肌の酸性pHは酸化鉄を可溶化させ、酸化体形成の生物学的利用能をもたらす。
【0033】
実施例4
上記のように、本発明者は、酸化鉄が弱酸性条件下で容易に可溶化されることを発見した。この実施例では、実施例3で説明したコンシーラーの緩衝能力を調べた。コンシーラーは50%(v/v)の水及び3mg/mlの濃度のペンタエチレングリコールに懸濁した。懸濁液の初期pHを記録した。続いて10mM 塩酸(HCl) 25μlを懸濁液に加えた。少なくとも1分間、振とう及びボルテックス(vortex)撹拌をして完全に混合した後、懸濁液のpHを記録し、追加の酸の量でプロットした。
図5は、HClを加えると懸濁液のpHが劇的に低下することを示している。特にコンシーラーの初期pHは5.1であった。10mM HCl 25μlを添加するとpHは4.4に低下し、HCl 25μl(又はHCl 合計50μl)を添加するとpHはさらに4.0に低下した。これらの結果は、コンシーラーが肌又は汗のような内因性のものであれ、酸性雨のような外因性のものであれ、酸性pH環境に対する保護を欠いていることを示している。これらの条件下では、コンシーラー内の酸化鉄が可溶化され、「遊離」の鉄イオンを放出して、肌に酸化及び酸化損傷を引き起こす可能性がある。
【0034】
実施例5
酸性化しないコンシーラーのフェリチン誘発に対する効果を調べた。上記の実施例3で説明したコンシーラーを水及びテトラエチレングリコールに予混合した後、上記の実施例2で説明したようにHDF細胞で処理したが、酸性化はしなかった。処理後、細胞を採取し、細胞内のフェリチン及びタンパク質の濃度を上記の実施例1のように測定し計算した。コンシーラー無しのHDF細胞を対照として用いた。
【0035】
図6に示すように、コンシーラー処理細胞のフェリチン濃度は、非処理細胞(630.3ng/mg)よりも少し低い(585.0ngフェリチン/mgタンパク質)。これらの結果は、酸化鉄を含むコンシーラー又はその他の化粧品が安全と考えられてきた理由を示唆している。しかし、これらの結果はあらかじめ設定された実験条件の人為的なものであり、コンシーラー及びその他の化粧品が使用される実生活のpH条件(例えば酸性の肌上)を実際に反映していない。具体的には、この例の細胞培養液のpHは7.4であり、これは自然に鉄の酸の可溶化を抑制するため、フェリチン値の有意な上昇を引き起こさない。この人為的な結果のため、合成酸化鉄は肌に使用しても安全であると考えられてきた。しかし、酸化鉄は実生活の状況(例えば酸性環境に曝された場合)で可溶化され得るため、これまで信じられてきたほど安全ではない可能性がある。
【0036】
実施例6
従来の真珠は市販ミルJet Pulverizerを用いて粉砕し、真珠粉(平均サイズ2.03μm、中央サイズ1.53μm、モードサイズ1.41μm、標準偏差1.72μm、累積直径(%):10%:0.82μm、50%:1.53μm、90%:3.69μm、99%:9.80μm、100%:17.36μm)を準備した。次に、上記の実施例3のコンシーラーに、0.2%、0.5%、1%、2%、5%、及び10%(w/w)の量の真珠粉を加えた。真珠粉を含まないコンシーラーサンプルを対照とする。コンシーラーを50%(v/v)の水及び3mg/mlの濃度のテトラエチレングリコールに懸濁させ、懸濁液の初期pHを記録した。その後、10mM HCl 25μlを各懸濁液に順次加え、少なくとも1分間、振とう及びボルテックス(vortex)撹拌をして完全に混合した。それぞれの量の酸を同上に加えたときの、懸濁液のpHを記録し、
図7にプロットした。
【0037】
図7に示すように、真珠粉0.2%、0.5%、1%、2%、及び5%の懸濁液の初期pHはそれぞれ6.1、7.1、7.2、7.5、及び8.1であった。10%真珠粉の懸濁液の初期pHは9に近く、緩衝能は極めて高く、塩酸を加えてもpHは大きく変化しなかった(
図7には示されていない)。一方、真珠粉を含まない対照の初期pHは5.1であった。10mM HCl 25μlを加えた後、0.2%、0.5%、1%、2%、及び5%の真珠粉の試料ではpHレベルが5.8、6.8、7.2、7.5、及び7.9に低下し、対照のpHは4.4に低下した。0%、0.2%、0.5%、1%、2%、及び5%のpHレベルの低下は、それぞれ-0.7、-0.3、-0.3、0、0、及び-0.2であった。追加のHCl 25μlを添加又はHCl 総量50μlを添加すると、真珠粉が増加する順に、コンシーラーのpHは5.3、6.4、7.2、7.5、及び7.6に低下した。真珠粉を含まないコンシーラーのpHはさらに4.0まで低下した。それぞれの初期pHと比較した場合、0%、0.2%、0.5%、1%、2%、及び5%のpHの減少は、それぞれ-1.1、-0.8、-0.7、0、0、及び0.5であった。これらの結果は、1%及び2%(w/w)の真珠粉を含むサンプルが、環境的及び/又は生理学的に適切な量の酸(例えば、HCl 約25μlから約50μl)に曝露された後、元のpHレベルを維持することができたことを示す。
【0038】
実施例7
真珠粉を含むコンシーラーが酸性条件下でフェリチンの生成を抑制するかどうかを調べるために、上記の実施例3で説明したコンシーラーのサンプルを、実施例6で説明した真珠粉の1%(w/w)及び2%(w/w)と混合した。次に、混合物を水及びテトラエチレングリコールに混合し、酢酸緩衝液(pH5)中で一晩インキュベートした後、実施例3(すなわち、10μg/cm
2で18時間)に記載されているようにHDF細胞で処理した。真珠粉を含まないコンシーラーサンプルを参考とし、対照として無処理のものを用いた。処理後、細胞を採取し、細胞内のフェリチン及びタンパク質の濃度を測定し、上記の実施例1のように計算した。
図8は、真珠粉を含まないコンシーラーサンプルが、対照(無処理)と比較してフェリチン生成を14.9%増加させたことを示している。1%及び2%の真珠粉を含むコンシーラーサンプルはフェリチンをそれぞれ33.8%及び54.7%抑制した。
【0039】
実施例8
ここに開示されている高緩衝剤を含まない酸化鉄を含むコンシーラー/ファンデーションが、コントロールコンシーラーと同様の鉄イオンを放出するかどうかを決定するために、2つの市販のコンシーラー/ファンデーションが調べられた。検討されたコンシーラーの1つがIT Bye Bye Under Eye(フルカバレッジ アンチエイジング防水コンシーラー、Tan Sand31)である。IT Bye Bye Under Eye(IT)コンシーラーの成分表を以下に示す。
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、ポリアシルアジピン酸ビス-ジグリ セリル-2、Vp/ヘキサデセン共重合体、セチルアルコール、シリル酸シリ カジメチル/シリル酸シリカジメチル、微結晶ワックス、フェノキシエタノー ル、水、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルマ グネシウム、酢酸トコフェリル、パルミチン酸アスコルビル、パルミチン酸レ チニル、ヒドロキシヒドロケイ皮酸ペンタエリスリチル、加水分解コラーゲン 、イソステアリン酸コレステリル、塩化コレステリル、ノナン酸コレステリル 、グリセリン、ステアレス-20、トコフェロール、シリカ、ジグルコン酸ク ロルヘキシジン、N-ヒドロキシスクシンイミド、安息香酸、BHT、ソルビ ン酸カリウム、パルミトイルトリペプチド-1、クリシン、パルミトイルテト ラペプチド-7。含まれ得るもの(+/-):二酸化チタン(Ci77891 )、酸化鉄(Ci77491、Ci77492、Ci7749)。
【0040】
成分表にあるように、ITコンシーラー製剤の方が脂溶性が高い。
【0041】
他に検討されたコンシーラーは、Estee Lauder Double Wear Stay-in-place Flawless Wear Concealer (3C Medium)である。Estee Lauder Double Wear Stay-in-place Flawless Wear Concealer(Estee Lauder)の成分表を以下に示す。
Water\Aqua\Eau、シクロペンタシロキサン、トリメチルシロキ シケイ酸、フェニルトリメチコン、ブチレングリコール、窒化ホウ素、セスキ オレイン酸ソルビタン、ペグ/Ppg-18/18ジメチコン、トリベヘニン 、硫酸マグネシウム、酢酸トコフェリル、ヒアルロン酸ナトリウム、エチルヘ キシルグリセリン、ジメチコン、メチコン、Laureth-7、グリセリン 、セチルペグ/Ppg-10/1ジメチコン、ペンタエリスリチルテトラ-ジ -T-ブチルヒドロキシヒドロケイ皮酸、キサンタンガム、アルミナ、トリシ ロキサン、シリル酸ジメチコン、ソルビン酸、フェノキシエタノール、クロル フェネシン、[+/-酸化鉄(Ci77491、Ci77492、Ci774 99)、二酸化チタン(Ci77891)、雲母]<ILN38896>
【0042】
成分表に示されているように、Estee Lauder製剤の方が親水性が高い。
【0043】
ITコンシーラー及びEstee Lauderコンシーラーが酸性条件下でフェリチンの生成を促進するかどうかを調べるために、ITコンシーラー及びEstee Lauderコンシーラーのサンプルを水及びテトラエチレングリコールに予混合し、pH5の酸性酢酸塩緩衝液中でインキュベートした。次に、コンシーラーを実施例3(すなわち、10μg/cm
2で18時間)に記載されているように、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)で処理した。処理後、HDF細胞を採取し、上記の実施例1に示すように、HDF細胞内のフェリチン及びタンパク質のレベルを測定し、計算した。結果はμgフェリチン/mgタンパク質として表され、
図9に示す。
【0044】
この実施例では、以前に使用した他の2つのコンシーラーを参考にした(例えば、参考コンシーラー)。1つの参考コンシーラーには、実施例3に記載されたコンシーラーのサンプルに、実施例6に記載された真珠粉を1%(w/w)混合したものが含まれていた。もう1つの参考コンシーラーには、実施例3で説明したコンシーラーのサンプルが含まれていたが、真珠粉は含まれていなかった。2つの参考コンシーラーのサンプルを水及びテトラエチレングリコールに予混合し、pH5の酸性酢酸塩緩衝液中でインキュベートした。次に、実施例3に記載されているように(すなわち、10μg/cm
2で18時間)、参考コンシーラーをヒト皮膚線維芽細胞(HDF)で処理した。処理後、HDF細胞を採取し、上記の実施例1に示すように、HDF細胞内のフェリチン及びタンパク質のレベルを測定し、計算した。結果はμgフェリチン/mgタンパク質として表され、
図9に示す。
【0045】
実施例3に記載したコンシーラーの無処理サンプルを含む第5のコンシーラーを対照(例:コントロールコンシーラー)とした。
【0046】
図9は、真珠粉を含まないコンシーラーのサンプルが、対照コンシーラー(無処理)と比較して、フェリチン生成を26.6%増加させたことを示している。さらに、Estee Lauder及びIt Cosmeticsのコンシーラーもフェリチンをそれぞれ50.5%及び23.6%増加させた。対照的に、1%の真珠粉を含む参考コンシーラーサンプルはフェリチンを19.5%抑制した。これらの結果は、これらの市販のコンシーラーが肌に遊離鉄イオンを放出する際の保護が限られていることを示している。
【0047】
その後、不死化ヒト表皮ケラチノサイト細胞株を含むHaCat細胞を上記と同じ処理条件で使用した。結果はμgフェリチン/mgタンパク質として表され、
図10に示す。HaCat細胞のフェリチンのバックグラウンドレベル(27.5μg/mgタンパク質)(
図10)は、一次HDF(651.4μg/mgタンパク質)(
図9)と比較してはるかに低いことが示されている。しかし、同じパターンが残っている。真珠粉を含まないコンシーラーサンプルは対照(無処理)と比較してフェリチン生成を38.8%増加させた。さらに、Estee Lauder及びIt Cosmeticsのコンシーラーもフェリチンをそれぞれ21.5%及び18.8%増加させた。一方、1%の真珠粉を含むコンシーラーサンプルはフェリチンを19.2%抑制した。これらの結果は、これらの市販のコンシーラーが肌に遊離鉄イオンを放出する保護作用を持たないことを示している。肌のケラチノサイトHaCat細胞においても同じことが言える。
【0048】
本明細書に記載されている実施態様は、本質的に単なる例示的なものであり、当業者は多くのバリエーション及び変更をこれらへ本発明の範囲から逸脱することなく加えることができることは、当業者及び本開示の所有者には理解されるであろう。このようなすべてのバリエーション及び変更は、本発明の範囲内に含まれるものとする。
【国際調査報告】