(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-22
(54)【発明の名称】トマト果実を増大させる方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230615BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20230615BHJP
A01H 5/08 20180101ALI20230615BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20230615BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20230615BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/29 ZNA
A01H5/08
A01H6/82
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500253
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-01-04
(86)【国際出願番号】 CN2020141384
(87)【国際公開番号】W WO2022052381
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】202010953359.6
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520465253
【氏名又は名称】浙江師範大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NORMAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.688 Yingbin Road, Wucheng District Jinhua, Zejiang 321004 China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】陳 析豊
(72)【発明者】
【氏名】馬 伯軍
(72)【発明者】
【氏名】沈 淑容
(72)【発明者】
【氏名】許 以霊
(72)【発明者】
【氏名】李 敏
(72)【発明者】
【氏名】陳 浩天
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD07
2B030AD14
2B030CA11
2B030CA17
2B030CB02
(57)【要約】
本発明は、トマト果実の増大における遺伝子の使用を提供する。トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトすることでその果実の大きさを増大させ、収量を向上させることができる。遺伝子IFW1でコードされるヌクレオチド配列は配列番号1に示される配列である。IFW1遺伝子の2つのノックアウト株はifw1-1およびifw1-2である。ifw1-1およびifw1-2植物体におけるIFW1遺伝子変異配列はいずれも配列番号2に示される配列である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト果実の増大における遺伝子の使用であって、
トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトすることによりトマト果実の大きさを増大させ、収量を向上させ、
前記遺伝子IFW1でコードされるヌクレオチド配列は配列番号1に示される配列であることを特徴とする、使用。
【請求項2】
IFW1遺伝子の2つのノックアウト株はifw1-1およびifw1-2であり、ifw1-1およびifw1-2植物体中のIFW1遺伝子の変異配列は、いずれも配列番号2に示される配列であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト果実の増大を促進する遺伝子およびその使用に関し、作物分子遺伝分野に属する。
【背景技術】
【0002】
トマト(Solanum lycopersicum)は、重要な園芸植物および経済作物として、世界中で広く栽培され、世界的な野菜および果物になっており、見た目の美しさ、味の良さ、栄養価の高さから、消費者に大変人気がある。トマトの果実の大きさと重量は、トマトの外観と収量に影響を与える重要な農業形質である。果実の直径と重量を大きくすることにより、トマトの収量が増加するだけでなく、視覚的な美学が向上し、果実の栄養含有量が増加し、市場価値と経済価値が高まる。そのため、新しい機能遺伝子を開発し、遺伝子編集技術を利用して大きいトマトの新品種を選別することは、比較的早く便利な方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする技術的課題は、トマト果実の大きさを効果的に増大させ、果実の収量を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の技術的問題を解決するために、本発明は、トマトの遺伝子IFW1(increase fruit size and weight 1)を提供し、それコードするヌクレオチド配列は、配列番号1に示される配列である。
【0005】
本発明は、上記遺伝子の使用をさらに提供する。トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトすることでその果実の大きさを効果的に増大(顕著に増大)させ、収量を向上させることができる。
【0006】
本発明のトマト果実の増大におけるIFW1遺伝子の使用の改良:
IFW1遺伝子の2つのノックアウト株は、ifw1-1およびifw1-2であり、ifw1-1およびifw1-2植物体中のIFW1遺伝子変異配列はいずれも配列番号2に示される配列である。
【0007】
本発明は、トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトする方法をさらに提供する。この方法は、以下のステップを含む。
1)CRISPR/Cas9技術により、遺伝子編集される標的sgRNA配列:5’-GATAGAGGCAGAGGCAGAGG-3’を設計する。
2)ステップ1)で得られた配列を用いてプライマーを合成し、CRISPR/Cas9ベクターに構築する。
3)ステップ2)で得られたベクターを野生型トマト品種MicroTomに遺伝的変換し、対応する遺伝子組換え植物体を得る。前記遺伝子組換えトマト植物体からIFW1遺伝子がノックアウトされた植物体を同定する。
【0008】
本発明の技術的解決策は、以下の通りである。
CRISPR/Cas9遺伝子編集技術により、IFW1遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)に基づいてIFW1遺伝子を特異的に標的とするgRNA配列を合成し、対応するCRISPR/Cas9ベクターを構築し、野生型トマト品種MicroTomに遺伝的変換し、ゲノム中のIFW1遺伝子を特異的に編集し、遺伝子組換え植物体を取得し、遺伝子組換え植物体中のIFW1遺伝子に対してPCR増幅およびシーケンシングを行い、IFW1遺伝子が得られた異なるノックアウト株ifw1-1およびifw1-2を同定する(
図1)。ifw1-1およびifw1-2植物体におけるIFW1遺伝子の変異配列は、いずれも配列番号2である。果形を比較した結果、IFW1遺伝子ノックアウト植物体の成熟果実の大きさ(
図2、
図3)および重量は、いずれも野生型対照品種(
図4)よりも顕著に高く、トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトすることにより果実中の生物量の合成の増加を効果的に促進でき、重要な育種価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態をさらに詳しく説明する。
【
図1】トマトIFW1遺伝子ノックアウト株のCRISPR/Cas9標的部位およびシーケンシング結果である。
【
図2】トマトIFW1遺伝子ノックアウト株と野生型対照MicroTomの果形との比較図である。
【
図3】トマトIFW1遺伝子ノックアウト株と野生型対照MicroTomの果実の大きさの測定である。
【
図4】トマトIFW1遺伝子ノックアウト株と野生型対照MicroTomの単一の果実の重量測定である。
図1~4において、WTは野生型対照品種MicroTomを示し、ifw1-1およびifw1-2はIFW1遺伝子の2つの異なるノックアウト株を示す。
図3および
図4における数値は平均値±標準差であり、**はトマトIFW1遺伝子ノックアウト株ifw1-1(またはifw1-2)と野生型(WT)対照MicroTomとの比較において、t検定には顕著な有意差(P<0.01)が存在することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ステップ1:トマトIFW1遺伝子がノックアウトされたCRISPR/Cas9ベクターの構築
オンラインプロフェッショナルソフトウェア(http://crispr.mit.edu/)により、IFW1遺伝子のコード配列(配列番号:1)においてCRISPR/Cas9で編集される標的sgRNA配列:5’-GATAGAGGCAGAGGCAGAGG-3’を設計し、バイオテクノロジー企業で対応するプライマー配列:5’-TGATTGATAGAGGCAGAGGCAGAGG-3’および5’-AAACCCTCTGCCTCTGCCTCTATCA-3’を合成した。CRISPR/Cas9キット(Biogle,China)により対応するCRISPR/Cas9ベクターを構築した。構築は製品マニュアルに従って操作した。
【0011】
ステップ2:CRISPR/Cas9ベクターで構築されたトマト遺伝的変換
Kimuraらの方法(Kimura S et al,CHS Protoc,2008)により、ステップ1で構築されたCRISPR/Cas9ベクターをトマト品種MicroTomに遺伝的変換し、遺伝子組換えトマト植物体を得た。
【0012】
ステップ3:遺伝子組換えトマト中のIFW1遺伝子のシーケンシング分析
遺伝子組換えトマト植物体の葉を0.1gとり、液体窒素で粉砕した後、600μl抽出液(15.76gTris-cl,29.22gNaCl,15.0gSDS粉末に超純水を1Lまで加え、pH=8.0に調整)を加え、65℃で60minインキュベートした。200μlの5M KACを加え、均一に混合した後、氷浴で10min冷却した後、500μlクロロホルムを加え、均一に混合し、10000rpmで5分間遠心分離し、上清を取り、500μlイソプロパノールを加え、均一に混合し、12000rpmで3min遠心分離し、上清を捨て、75%エタノールで沈殿を洗浄し、12000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、逆さまにしてDNAを15分間乾燥させた後、30μl純水を加えてDNAを溶解した。
【0013】
IFW1遺伝子PCR増幅用の上流プライマー5’-AACGTTCAACGGACAATC-3’および下流プライマー5’-CAATAAAGTACACCACAT-3’を合成し、遺伝子組換えトマト植物体およびその対照品種MicroTomのゲノムDNAをテンプレートとし、2×Taq PCR Master Mix(TIANGEN社)を用いてIFW1遺伝子に対してPCR増幅を行った。PCR増幅系は、2×Taq PCR MasterMix10μl、上流プライマーおよび下流プライマー(10μM)それぞれ1μl、テンプレートDNA 1μl(<1μg)、無菌水7μl(合計20μl)であった。PCR増幅プログラムは、予備変性:94℃、5分間;変性:94℃、30秒;アニーリング:55℃、30秒;伸長:72℃、35秒;35×サイクル;伸長:72℃、10分間であった。
【0014】
PCR生成物に対してシーケンシング分析を行った後、IFW1遺伝子が成功にノックアウトされた2つの株ifw1-1およびifw1-2を同定した。この2つの株の植物体におけるIFW1遺伝子コード領域にはいずれも2つの塩基が欠失することで(
図1)、IFW1遺伝子にフレームシフト変異が発生し、この遺伝子機能の喪失が引き起こされた。ifw1-1およびifw1-2株植物体におけるIFW1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号2に示される配列である。
【0015】
ステップ4:トマト果実の大きさの測定
同定されたIFW1遺伝子ノックアウト株ifw1-1、ifw1-2および野生型対照品種MicroTomを温室(25℃、照明16時間、暗所8時間)で植え付けた。トマト果実が熟した後、各品種からランダムに3株を選択し、各株から3つの熟した果実を取って果柄を除去した。ノギスを用いて各トマト果実の最大直径(cm)を測定し、各品種果実の直径の平均値を計算し、測定結果についてt検定によりifw1-1(またはifw1-2)ノックアウト株と野生型対照との間の有意性を分析した。得られた結果として、IFW1遺伝子ノックアウト株ifw1-1およびifw1-2の果実の直径はいずれも野生型対照よりも顕著に大きく(
図2、3)、それぞれ対照品種よりも23.2%および25.9%増大した。
【0016】
ステップ5:トマト果実の重量測定
ステップ4で培養したトマト果実を取り、電子天秤で各トマト果実の重量(g)を秤量し、各品種の果実重量の平均値を計算した。測定結果について、t検定によりifw1-1(またはifw1-2)ノックアウト株と野生型対照との間の有意差を分析した。得られた結果として、IFW1遺伝子ノックアウト株ifw1-1およびifw1-2果実の重量はいずれも野生型対照よりも顕著に大きく(
図4)、それぞれ対照品種よりも51.7%および57.4%増大した。
【0017】
以上の説明は、本発明のいくつかの具体的な実施例に過ぎない。本発明は、以上の実施例に限定されず、たくさんの変形例を含む。当業者が本発明の開示内容から直接導出または想到できる全ての変形は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-06-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト果実
を増大
させる方法であって、
トマト中でIFW1遺伝子をノックアウトすることによりトマト果実の大きさを増大させ、収量を向上させ
る工程を含み、
前記
IFW1遺伝子でコードされるヌクレオチド配列は配列番号1に示される配列であることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記ノックアウトにより得られるトマトIFW1遺伝子の変異配列
が、配列番号2に示される配列であることを特徴とする、請求項1に記載の
方法。
【国際調査報告】