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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-23
(54)【発明の名称】ウイルス性呼吸器感染症の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230616BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230616BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230616BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61K39/395 N
C07K16/24 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022571157
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 GB2021051207
(87)【国際公開番号】W WO2021234381
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2007404.3
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522452318
【氏名又は名称】バイオシリウス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosirius Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ナッサー,サイード ムハンマド タヒア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA55
4C084MA57
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB33
4C085AA14
4C085BB31
4C085BB36
4C085BB41
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の処置のための医薬組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における、IL-18アンタゴニストおよびその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損、
を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項2】
対象が、IL-18結合タンパク質、ナチュラルキラー細胞および/または機能性ナチュラルキラー細胞の後天的な欠損を有する、請求項1に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項3】
対象がメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせを有する、好ましくは、対象がメタボリックシンドローム、ならびに任意選択で冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症および2型糖尿病の内の1つ以上を有する、請求項1または2に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項4】
ウイルス性呼吸器感染症の処置が、該ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防する、請求項1~3の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項5】
ウイルス性呼吸器感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルスまたはアデノウイルスによる感染症である、請求項1~4の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項6】
コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスまたは中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスであり、任意選択で、コロナウイルスがSARSコロナウイルス2(SARS-CoV2)である、請求項5に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項7】
ウイルス性呼吸器感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)、SARS、MERSである、および/またはウイルス性呼吸器感染症がウイルス性肺炎、ウイルス性気管支炎(bronchitis)またはウイルス性細気管支炎(bronchiolitis)を引き起こす、請求項1~6の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項8】
IL-18アンタゴニストがIL-18、好ましくは遊離IL-18に結合するタンパク質である、請求項1~7の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項9】
IL-18アンタゴニストが哺乳類またはウイルスのIL-18結合タンパク質、好ましくは、ヒトIL-18結合タンパク質である、請求項1~8の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項10】
IL-18アンタゴニストが、以下:
(i)配列番号1~9の何れか1つ、好ましくは、配列番号1~4の何れか1つに記載のアミノ酸配列;
(ii)配列番号1~9の何れか1つ、好ましくは、配列番号1~4の何れか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を持つアミノ酸配列;または
(iii)(i)または(ii)のIL-18結合フラグメント、
を含むIL-18結合タンパク質である、請求項1~9の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項11】
IL-18アンタゴニストが組み換えヒトIL-18結合タンパク質である、請求項1~10の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項12】
IL-18アンタゴニストがIL-18、好ましくは遊離IL-18に特異的に結合する抗体である、請求項1~8の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項13】
前記抗体が、ヒトもしくはヒト化抗体および/またはモノクローナル抗体である、請求項12に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項14】
前記抗体がIgG抗体である、請求項12または13に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項15】
前記抗体が抗体のIL-18結合フラグメントである、請求項12~14の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項16】
前記抗体が、Fab’、Fab、F(ab’)2、一本鎖ドメイン抗体、TandAb二量体、Fv、scFv、dsFv、ds-scFv、Fd、直鎖抗体、ミニボディ、ダイアボディ(diabody)、二重特異性抗体フラグメント、バイボディ(bibody)、トリボディ(tribody)、sc-ダイアボディ、カッパ(ラムダ)ボディ、BiTE、DVD-Ig、SIP、SMIP、DARTまたは1つ以上のCDRを含む小さい抗体模倣物である、請求項12~15の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項17】
IL-18アンタゴニストが、薬学的に許容できる希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物であって、任意選択で1つ以上の追加的な治療活性剤をさらに含む医薬組成物中に供される、請求項1~16の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項18】
IL-18アンタゴニストが非経口的に投与される、請求項1~17の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項19】
IL-18アンタゴニストが、静脈内投与、皮下投与または吸入によって投与される、請求項1~18の何れか1項に記載の使用のためのIL-18アンタゴニスト。
【請求項20】
請求項1~19の何れか1項に記載の処置のための対象を選択または同定する方法であって、
(i)対象から得た血液サンプル中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量を測定する工程;および
(ii)血液サンプル中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量と比較する工程を含み、
ここで、(a)対象の血液サンプル中の遊離IL-18の量が、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18の量よりも高い場合に、対象がIL-18アンタゴニスト、好ましくは請求項8~19の何れか1項において規定されるIL-18アンタゴニストを用いた処置のために選択される;および/または
(b)対象の血液サンプル中のIL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量が、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のIL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量よりも低い場合に、対象がIL-18アンタゴニスト、好ましくは請求項8~19の何れか1項において規定されるIL-18アンタゴニストを用いた処置のために選択される、方法。
【請求項21】
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損、を有する、必要とする対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置する方法であって、対象に有効量のIL-18アンタゴニストを投与し、それによって対象を処置する事を含む、方法。
【請求項22】
ウイルス性呼吸器感染症が請求項5~7の何れか1項において規定されるとおりである、および/またはIL-18アンタゴニストが請求項8~19の何れか1項において規定されるとおりである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
対象が請求項2または3で規定されるとおりである、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
ウイルス性呼吸器感染症の処置が、該ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防する、請求項21~23の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルス性呼吸器感染症の処置のための医薬組成物および方法に関する。より具体的には、本発明はウイルス性呼吸器感染症の処置におけるIL-18アンタゴニストおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
上気道または下気道に影響する多数のウイルス感染症が存在する。呼吸器感染症は原因ウイルス(例えば、コロナウイルス、インフルエンザウイルス)によって、または引き起こされる症候群(例えば、一般的な風邪、細気管支炎、クループ、肺炎)によって分類され得る。特定のウイルス病原体は、典型的には特徴的な臨床症状を引き起こすものであるが(例えば、ライノウイルスは典型的には一般的な風邪を引き起こし、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は典型的には細気管支炎を引き起こす)、それぞれが多数のウイルス性呼吸器症候群を引き起こし得る。
【0003】
ウイルス性呼吸器症の重症度は、ウイルス病原体および患者の特徴、例えば年齢、性別、健康状態などによって大きく異なり得る。多くの感染症では、高齢患者や乳幼児では重度の疾患になりやすい。罹患状態(morbidity)はウイルス感染から直接生じ得るか、または心肺状態などの基礎疾患の悪化や、肺、副鼻腔もしくは中耳のその後の細菌の重感染によって間接的に生じ得る。
【0004】
COVID-19の流行によって、地球規模での健康的および経済的な問題が発生している。コロナウイルス疾患2019(COVID-19)は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV2)によって引き起こされる。SARS-CoV2による感染症には2つの段階があるとされているが、大多数の個体は第1段階のみを経験する。第一段階はインフルエンザ様の症状からなり、患者は断続的な発熱、倦怠感(lethargy)および新たに発生する連続的な咳を訴える。第二段階は症状がでてから5~7日後から始まり、突然起こる呼吸困難が特徴であり、次第に悪化する。患者が通常病院に入院するのはこの段階であり、これらの患者の顕著な割合が侵襲的換気(invasive ventilation)および集中治療による支援を必要とする。
【0005】
疾患が第二段階に移行する事を防ぐ、および/または第二段階におけるこれらの患者の急性呼吸器症状を緩和する効果的な処置が存在しないため、比較的高い割合の患者が侵襲的換気を必要としている。そのため、重症型のCOVID-19を患う患者で医療機関が圧倒されないように、感染率を抑えるための、社会的距離を取る厳しい措置の執行が必要とされてきた。しかし、これらの措置は長期的に社会的および経済的な影響を与える可能性が高く、新しい効果的なCOVID-19の処置が必要とされている。
【0006】
本発明に至る研究において、本発明者らは、SARS-CoV2陽性患者における部検による組織病理学的な知見、気管支肺胞洗浄液の細胞分析(bronchoalveolar lavage fluid cellular analysis)および末梢血フローサイトメトリー分析を用いて、重症COVID-19の病因、その臨床像、危険因子および人口統計学的な死亡率(demographic mortality pattern)を説明する根本的な理由を特定した。本発明者らは、予想外にもインターロイキン18(IL-18)がCOVID-19免疫病理学的の免疫学的連関における中心的な結節点を表す事を解明した。特定の理論に拘束される事を望むものではないが、本発明者らは、重度のCOVID-19の影響を受けた患者の免疫病理と、メタボリックシンドロームおよび関連障害、例えば、冠動脈疾患、高血圧および糖尿病、特に高血圧を患う患者の免疫病理の間の関連性を同定した。特に、COVID-19は、メタボリックシンドロームおよび関連障害に起因する、または通常の加齢の過程で生じるような自然免疫系における先天的な弱さを曝露するものではないかと推測される。例えば、ナチュラルキラー細胞の機能不全、スーパー抗原の提示およびインフラマソームの活性化によってIL-18が活性型へと切断され、炎症の正のフィードバックサイクルをもたらし得る事が考えられる。
【0007】
したがって、IL-18活性の遮断は、特に、メタボリックシンドロームなどの、遊離IL-18レベルの増加および/またはナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損と関連する基礎的病理を持つ対象における、COVID-19の破局的な免疫病理学的特徴の発生を防ぐことが期待される。加えて、実施例において説明されるCOVID-19の免疫学的モデルは、IL-18が、係る対象において一般に、ウイルス性呼吸器感染症の治療標的を表すことを示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって最も広範には、本発明は(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損、を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における使用のためのIL-18アンタゴニストを提供する。
【0009】
別の観点では、本発明は(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する、必要とする対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置する方法であって、対象に有効量のIL-18アンタゴニストを投与し、それによって対象を処置する事を含む、方法を提供する。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置するための医薬の製造におけるIL-18アンタゴニストの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は、以下の非限定的な実施例および図面を参照してさらに説明される。
【0012】
図1図1は疾患重症度(最低PF比)別の年齢分布を示す。
【0013】
図2図2は、COVID-19疾患の軽症(最低PFR>300)、中等症(300<最低PFR<150)および重症(最低PFR<150)の併存疾患スコア別(0=糖尿病または高血圧症無し;1=高血圧症または糖尿病;2=糖尿病および高血圧症)の患者の割合を示す
【0014】
図3図3は、60日死亡率(Y=死亡;N=生存)と入院中に記録された最低PF比カテゴリーの関係を示す。
【0015】
図4図4は、記録された最低PFRによって決定されるCOVID-19の異なる重症度ごとの、高血圧症と60日死亡率の関係を示す。フィッシャーの正確確率検定(Fisher’s Exact Test)を使用して、高血圧症の併存疾患を患う患者の割合における、死亡者と生存者の違いの有意性を調べた。
【0016】
図5図5は、患者の疾患重症度(最低PFR)ごとのBMIを示す。最も重症のカテゴリーは、中等症カテゴリーのBMI(p=0.023)および最も軽症のカテゴリーのBMI(p=2.161x10-06)よりも顕著に高いBMIを有する。
【0017】
図6図6は、疾患重症度(最低PFR)に対する患者のBMIを、年齢層(閾値:年齢60歳)に応じて分割して示す。
【0018】
図7図7は、図7は、疾患重症度のマーカーとして、酸素吸入法(oxygen delivery method)による遊離IL18レベルを示す。挿管され、HFNOを使用している患者は、酸素化が最小限または不要であるがCOVID-19で入院している患者と比較して、統計的に有意に高いレベルの遊離IL18を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用する場合、「ウイルス性呼吸器感染症」という用語は、ウイルス性病原体による下気道および任意には上気道の感染症、すなわちウイルス性呼吸器病原体による感染症を指す。よって、ウイルス性呼吸器感染症はウイルス性病原体による気管支および/または肺の感染症である。
【0020】
本明細書で使用する場合、「ウイルス性呼吸器症候群」という用語は、特定のウイルス性呼吸器感染症および/またはウイルス性呼吸器感染症に起因するか、または誘発される疾患または障害、例えばウイルス性肺炎と関連する一連の医学的徴候(例えば、患者の体温、血圧など)および症状(例えば、咳、呼吸困難など)を指す。
【0021】
実施例においてより詳細に説明されるように、本発明者らは、いくつかのウイルス性呼吸器感染症、例えばSARS-CoV2感染症が、感染した患者において遊離IL-18レベルの全身的な増加を誘発し得る事を決定した。特定の理論に拘束される事を望むものではないが、遊離IL-18の増加、特にIL-18結合タンパク質(IL-18)刺激および/または放出の失敗に起因する増加が、ウイルス性呼吸器感染症の重篤な症状、例えば多臓器不全、リンパ球減少などを呈する患者の臨床的特徴の根底にあると仮定し得る。実施例においてより詳細に説明されるように、機能不全ナチュラルキラー細胞を持つ対象(例えば、メタボリックシンドロームまたは加齢などの遺伝的な状態または後天的障害の結果として)は、IL-18BP発現の主要なプロモーターであるインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)を、重症型の疾患において十分な量のIL-18BPの放出を刺激するために十分な量で放出することができないと考えられている。よって、いくつかの実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症は、感染した対象における遊離IL-18レベルの全身的な増加、すなわち、遊離IL-18レベルの血中レベルの増加を誘発し得るウイルス性病原体による感染症である。
【0022】
多数のウイルス性病原体が呼吸器に感染する事が知られており、および任意のそのようなウイルス性病原体は上記に規定するようなウイルス性呼吸器感染症をもたらし得る。いくつかの実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症はコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルスまたはアデノウイルスによる感染症である。
【0023】
いくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスはインフルエンザAウイルスまたはインフルエンザBウイルスである。
【0024】
いくつかの好ましい実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症はコロナウイルスによる感染症である。いくつかの実施形態では、コロナウイルス重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(例えば、SARS-CoVまたはSARS-CoV2)または中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスである。特に好ましい実施形態では、コロナウイルスはSARSコロナウイルス2(SARS-CoV2)である。
【0025】
よって、別の観点では、いくつかの実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)、SARSまたはMERSである。
【0026】
いくつかの実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症はウイルス性呼吸器症候群、例えばウイルス性肺炎、ウイルス性気管支炎(bronchitis)またはウイルス性細気管支炎(bronchiolitis)を引き起こす。
【0027】
「対象」および「患者」という用語は本明細書において互換的に使用され、哺乳類、好ましくはヒトを指す。特に対象および患者という用語は、本明細書において規定されるような、処置を必要とする、(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損、およびウイルス性呼吸器感染症を有するヒトを指す。別の観点では、対象はインターフェロン-ガンマ放出において欠損を有する。以下でさらに議論するように、対象は上記の1つ以上の欠損を生得的、すなわち遺伝的条件によって有するか、または対象は欠損を加齢および/または別の疾患もしくは障害、例えばメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病(例えば、2型糖尿病)またはその組み合わせの結果として獲得し得る。特定の実施形態では、対象は高血圧症の結果として上記の1つ以上の欠損を有し得る。
【0028】
「IL-18結合タンパク質の欠損」という用語は、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のIL-18BPの量よりも低い血液中のIL-18BPの量を有する対象を指す。上記のように、IL-18結合タンパク質の欠損は遊離IL-18レベルの増加をもたらす。よって、いくつかの実施形態では、IL-18結合タンパク質の欠損を有する対象は、高レベルの遊離IL-18を有する対象、すなわち、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18よりも高い血液中の遊離IL-18の量を有する対象として見る事ができる。よって、いくつかの実施形態では、対象はIL-18結合タンパク質および/または高レベルの遊離IL-18を有する。
【0029】
健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のIL-18BPおよび/または遊離IL-18の量は参照値であり得る。いくつかの実施形態では、この参照値は対象の特性、例えば年齢、性別および/または民族に基づいて調整される。よって、対象から得た血液サンプル中のIL-18BPおよび/または遊離IL-18の量を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象または同じもしくは同様の(すなわち、同等の)特性、例えば年齢、性別および/または民族である対象から得られた参照値と比較する。例えば、同等なコントロール対象は、試験される対象と同じ性別、民族および同じ年齢層、例えば、40~49、50~59、60~69歳などであり得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、IL-18BPの欠損とは、参照値よりも少なくとも5%低い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%低い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%低い、対象から得られた血液サンプル中のIL-18BPの量を有する対象を指す。
【0031】
いくつかの実施形態では、高レベルの遊離IL-18とは、参照値よりも少なくとも5%高い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%高い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%高い、対象から得られた血液サンプル中のIL-18の量を有する対象を指す。
【0032】
対象からのサンプル中のIL-18BPおよび/または遊離IL-18の量を測定するための方法は当分野でよく知られている。対象からのサンプル中のIL-18BPおよび/または遊離IL-18の量を測定するための任意の好適な方法が本発明において使用され得る。いくつかの実施形態では、対象からのサンプル中のIL-18BPおよび/または遊離IL-18の量を測定するための方法は、研究室で日常的に使用されている、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)および放射免疫測定(RIA)などの免疫アッセイである。
【0033】
IL-18BPおよび/または遊離IL-18の量は典型的には血液サンプルにおいて測定される。
【0034】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、細胞障害を介在し、且つ生殖系列にコードされる活性化受容体の会合後にサイトカインを産生する自然免疫系のリンパ球である。結果として、それらは長い間自然免疫系の一部と考えられてきた。NK細胞は主にウイルス感染に対する自然防御および腫瘍細胞の監視において機能するが、免疫調節、免疫の調整および自己反応の調節にも参加する。
【0035】
NK細胞は、骨髄中のCD341造血細胞から発達し、二次リンパ組織において最終成熟するリンパ球であり、自然リンパ球細胞ファミリーの主要なメンバーである。ヒトでは、NK細胞はT細胞受容体複合体がなく、神経細胞接着分子(クラスター呼称システムによりCD56と表記)が存在することで古典的に同定される。末梢血NK細胞の大部分は、低レベルのCD56とIgG Fc受容体FcgRIIIA(CD16)を発現する。少数派の末梢血NK細胞は、CD16を発現せずに高レベルのCD56を発現しており、発生的には未成熟だが機能的には有効なNK細胞サブセットを構成すると考えられる。
【0036】
「ナチュラルキラー(NK)細胞の欠損」という用語は、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のNK細胞の量よりも低い血液中のNK細胞の量を有する対象を指す。
【0037】
健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のNK細胞の量は参照値であり得る。いくつかの実施形態では、この参照値は対象の特性、例えば年齢、性別および/または民族に基づいて調整される。よって、対象から得た血液サンプル中のNK細胞の量を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象または同じもしくは同様の(すなわち、同等の)特性、例えば年齢、性別および/または民族である対象から得られた参照値と比較する。例えば、同等なコントロール対象は、試験される対象と同じ性別、民族および同じ年齢層、例えば、40~49、50~59、60~69歳などであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、NK細胞の欠損とは、参照値よりも少なくとも5%低い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%低い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%低い、対象から得た血液サンプル中のNK細胞の量を有する対象を指す。
【0039】
対象からのサンプル中のNK細胞の量を測定するための方法は当分野でよく知られている。対象からのサンプル中のNK細胞の量を測定するための任意の好適な方法が本発明において使用され得る。いくつかの実施形態では、対象からのサンプル中のNK細胞の量を測定するための方法は、研究室で日常的に使用されている、フローサイトメトリーである。例えば、上記の細胞マーカー、TCR複合体、CD56および任意にはCD16は、標識およびサンプル中のNK細胞の数を定量するために使用され得る。
【0040】
NK細胞の量は典型的には血液サンプルにおいて測定される。
【0041】
活性化の後、NK細胞は免疫防御の3つの主要な機能を果たし得る。第一の、且つ最も特徴的であるのは、標的細胞の接触依存型の殺傷を媒介する能力である。これには孔形成分子パーフォリンおよび殺傷誘導酵素、例えばグランザイムを含む、溶解性粒子として知られるNK細胞内の高度に専門化された小器官の動員(mobilization)が関与する。NK細胞における殺傷プログラムが発動すると、溶解性粒子は標的細胞との間に形成される界面へと輸送され、その内容物が標的細胞へと分泌される。この細胞障害機能は、自然免疫防御としてNK細胞活性化受容体によって利用されるか、またはCD16を介してIgG-オプソニン化された細胞を認識する事によって利用され、抗体依存性細胞障害(ADCC)を可能にする。ADCCを通じて、NK細胞は適応免疫と密接に関係し、および特定の治療用mAbの機能をも可能にする。
【0042】
NK細胞の第二の機能は、直接的に抗疾患効果を促進し、およびさらに免疫を誘導または調節する可溶性因子を産生する事である。これらには多種多様なサイトカイン、ケモカインおよびその他の調節因子を含む。特に、機能性NK細胞はIFN-ガンマを産生する。
【0043】
NK細胞の第三の機能は、接触依存性の共刺激および調節機構を介した免疫の促進および調節機能である。NK細胞は多数の関連する共刺激リガンドおよび調節性リガンドを発現するか、または発現するために誘導する事ができ、および免疫応答に対するこれらの接触依存性の寄与が影響を及ぼす事ができる二次リンパ組織を含む主要な免疫調節部位に局在する事ができる。
【0044】
「機能性ナチュラルキラー(NK)細胞の欠損」という用語は、NK細胞活性、例えば上記の活性の内の1つ以上を欠損している血液中のNK細胞を有する対象を指す。別の観点では、血液中のNK細胞の活性が、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のNK細胞の活性よりも低い。
【0045】
健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のNK細胞の活性は参照値であり得る。いくつかの実施形態では、この参照値は対象の特性、例えば年齢、性別および/または民族に基づいて調整される。よって、対象から得た血液サンプル中のNK細胞の活性を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象または同じもしくは同様の(すなわち、同等の)特性、例えば年齢、性別および/または民族である対象から得られた参照値と比較する。例えば、同等なコントロール対象は、試験される対象と同じ性別、民族および同じ年齢層、例えば、40~49、50~59、60~69歳などであり得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、機能性NK細胞の欠損とは、対象から得た血液サンプル中のNK細胞の活性が参照値よりも少なくとも5%低い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%低い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%低い、対象を指す。
【0047】
対象からのサンプル中のNK細胞の量を測定するための方法は当分野でよく知られており、任意の上記の活性がサンプル中のNK細胞の活性を評価するために使用され得る。いくつかの実施形態では、NK活性は、サンプルからのNK細胞の標的細胞の接触依存性殺傷を媒介する能力および/またはNK細胞のIFN-ガンマを分泌する能力を測定する事によって決定される。対象からのサンプル中のNK細胞の活性を測定するための任意の好適な方法が本発明において使用され得る。いくつかの実施形態では、対象からのサンプル中のNK細胞の活性を測定するための方法は、細胞から放出されたIFN-ガンマの量を測定する免疫アッセイである。NK細胞の活性は典型的には血液サンプルから得られた細胞を使用して測定される。
【0048】
よっていくつかの実施形態では、血液サンプル中のIFN-γの量は、NK細胞活性の代替として使用され得、すなわち、対象から得た血液サンプル中のIFN-γの量は、上記に規定する参照値よりも少なくとも5%低い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%低い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%低い。
【0049】
上記のように、IL-18BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の欠損は、X連鎖性SCID、常染色体劣性SCID、成長ホルモン欠損を伴うIPEX様症候群、ファンコニ貧血、チェディアック・東症候群などの遺伝子疾患によって生じ得る。よって、いくつかの実施形態では、対象は、例えば上記に規定するような遺伝子疾患の結果として、(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する。
【0050】
しかし、IL-18BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の欠損は、加齢および/または別の疾患もしくは障害、例えばメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病(例えば、2型糖尿病)またはその組み合わせの結果として獲得し得る。よって、好ましい実施形態では、対象は、例えば上記に規定するような、加齢および/または後天的な傷害の結果として(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する。
【0051】
よって、いくつかの実施形態では、本発明は、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせを有する対象、例えば高血圧症を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における使用のためのIL-18アンタゴニストの提供と見なされ得る。
【0052】
さらなる態様では、本発明は、それを必要とするメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病またはその組み合わせを有する対象(例えば、高血圧症を有する対象)におけるウイルス性呼吸器感染症の処置方法であって、対象に有効量のIL-18アンタゴニストを投与し、それによって対象を処置する事を含む、方法を提供する。
【0053】
さらに別の態様では、本発明はメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせを有する対象、例えば、高血圧症を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置するための医薬の製造におけるIL-18アンタゴニストの使用を提供する。
【0054】
「メタボリックシンドローム」という用語は、典型的には、腹部肥満症、高血圧(高血圧症(hypertension))、高血糖(例えば、糖尿病)、高い血清トリグリセリドおよび低い高密度リポタンパク質(HDL)から選択される1つ以上の状態、例えば少なくとも3つの状態を有する対象を指す。よって、いくつかの実施形態では、処置される対象は、腹部肥満症、高血圧、高血糖(例えば、糖尿病)、高い血清トリグリセリドおよび低い高密度リポタンパク質(HDL)から選択される1つ以上の状態を有する。腹部肥満症がメタボリックシンドロームの主要な徴候であるため、好ましい実施形態では、処置される対象は腹部肥満症、並びに高血圧、高血糖(例えば、糖尿病)、高い血清トリグリセリドおよび低い高密度リポタンパク質(HDL)から選択される1つ以上の状態(例えば、2、3または4つの状態)を有する。いくつかの実施形態では、処置される対象は高血圧、並びに腹部肥満症、高血糖(例えば、糖尿病)、高い血清トリグリセリドおよび低い高密度リポタンパク質(HDL)から選択される1つ以上の状態(例えば、2、3または4つの状態)を有する。
【0055】
「腹部肥満症」という用語は、胃や腹部の周囲に過剰な腹部脂肪が蓄積され、健康に悪影響を及ぼす可能性が高い状態を指す。これはまた、中心性肥満および体幹肥満(truncal obesity)としても知られる。
【0056】
「高血圧」および「高血圧症」という用語は本明細書において互換的に使用され、および動脈における血圧が持続的に上昇する、長期的な医学的状態を指す。成人では、安静時血圧が130/80または140/90mmHg以上で持続している場合、高血圧である。
【0057】
高血圧は、本態性高血圧症(primary (essential)hypertension)または二次性高血圧症に分類され得る。本態性高血圧症とは、非特異的な生活習慣的要因(例えば、食事における塩分過多、体重過多、喫煙および飲酒など)および遺伝的要因による高血圧を指す。二次性高血圧症とは、慢性腎臓病、腎動脈の狭窄、内分泌障害、または避妊薬の使用などの、特定可能な原因による高血圧を指す。いくつかの実施形態では、処置される対象は本態性高血圧症を有する。
【0058】
メタボリックシンドロームを患う対象は様々な障害、特に高血圧症、2型糖尿病および冠動脈疾患のリスクが向上する。しかし、高血圧症、2型糖尿病および/または冠動脈疾患を患う対象が必ずしもメタボリックシンドロームを有するわけではない。
【0059】
よって、いくつかの実施形態では、処置される対象は、メタボリックシンドロームを伴わない高血圧症、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化(atherosclereosis)および/または冠動脈疾患を有する。しかし、いくつかの実施形態では、処置される対象はメタボリックシンドロームを有し、並びに任意には高血圧症、2型糖尿病、冠動脈疾患、アテローム性動脈硬化およびその組み合わせから選択される1つ以上の状態を有する。
【0060】
「アテローム性動脈硬化」とは、プラークの蓄積によって動脈の内側が狭くなる疾患で、どの動脈が侵されるかに応じて、冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患、または腎臓傷害を引き起こす。
【0061】
「冠動脈疾患」(CAD)とは、心臓内の動脈へのプラークの蓄積した、すなわち、心臓動脈のアテローム性動脈硬化による心筋への血流の減少を指す。よって、CADはアテローム性心臓疾患、冠動脈性心臓疾患(CHD)または虚血性心臓疾患(IHD)としても知られる。
【0062】
「2型糖尿病(Diabetes mellitus type 2)」は、「2型糖尿病(type 2 diabetes)(T2D)」および成人発症型糖尿病としても知られ、高血糖、インスリン耐性およびインスリンの相対的な不足を特徴とする糖尿病の一種である。
【0063】
本明細書で使用する場合、「処置する」または「処置」という用語は、臨床状態または障害の管理において有益な任意の効果または工程(または介入)を幅広く指す。したがって、処置とは、処置されるウイルス性呼吸器感染症または症候群の1つ以上の症状を、処置前の症状と比較して、軽減、緩和、改善、進行を遅延する、または除去する事であり、または何らかの方法で対象の臨床状態を改善する事を指し得る。処置には、処置プログラムまたはレジメンに貢献する、またはその一部である任意の臨床工程または介入を含み得る。
【0064】
処置には、例えば処置前の症状と比較して、ウイルス性呼吸器感染症または症候群の1つ以上の症状の発症を遅らせる、制限する、軽減するまたは予防する事を含み得る。よって、処置は、ウイルス性呼吸器感染症または症候群の発症または進行の完全な予防、およびウイルス性呼吸器感染症または症候群、またその症状の進行の遅延、またはウイルス性呼吸器感染症もしくは症候群、またその症状の発症または進行についての軽減または制限の両者を明示的に含む。
【0065】
実施例においてさらに議論するように、遊離IL-18の遮断は自然免疫系および患者の炎症状態をリバランスするように機能し、これによって生体がウイルス感染を取り除く事が可能になると考えられている。よって、「処置」という用語は、必ずしもウイルス性呼吸器感染症もしくは症候群またはその症状の治癒または完全な消失または除去を意味しない。
【0066】
よって、いくつかの実施形態では、対象を処置することは、ウイルス性呼吸器感染症を患う対象における免疫病理を処置する事と見なされ得る。よっていくつかの実施形態では、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症;および
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を有する、 それを必要とする対象の処置方法であって、
有効量のIL-18アンタゴニストを対象に投与し、それによって対象におけるIL-18結合タンパク質の欠損を処置する、および/またはナチュラルキラー細胞の欠損を処置する、および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損を処置する事、例えば、対象の自然免疫系を補助または強化し、それによって呼吸器のウイルス性感染症を処置する事を含む方法を提供する事と見なされ得る。
【0067】
上記のように、コロナウイルス、例えばSARS CoV2に感染した患者の一部は、感染第一段階と関連する症状、例えば断続的な発熱、倦怠感(lethargy)および新たに発生する連続的な咳のみを示し、ならびに「軽度の(mild)」感染、例えば軽症COVID-19を有すると特徴づけられ得る。係る患者は処置を必要とせずとも回復し得る。しかし、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型のウイルス性呼吸器症候群の発症リスクを向上させる上記に定義するような基礎疾患、例えばメタボリックシンドロームにおける、または加齢による、後天的なIL-18BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の欠損を有する対象の場合、感染症の第二段階、すなわち重症型の疾患の発症を防止するために、感染症の第一段階において患者を処置する事は有利であり得る。よって、いくつかの実施形態では、患者を処置することは、ウイルス性呼吸器感染症に対する全身性の病理学的反応を防止する事と見なされ得る。
【0068】
よって、いくつかの実施形態では、本発明は、
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損
を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置おける使用のための、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防するためのIL-18アンタゴニストを提供する。
【0069】
別の観点では、本発明は、
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損
を有する、それを必要とする対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置方法であって、有効量のIL-18アンタゴニストを対象に投与する事、それによってウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防する事を含む、方法を提供する。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、
(a)IL-18結合タンパク質の欠損;および/または
(b)ナチュラルキラー細胞の欠損および/または機能性ナチュラルキラー細胞の欠損、
を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置するための、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防するための医薬の製造におけるIL-18アンタゴニストの使用を提供する。
【0071】
好ましい実施形態では、欠損は、加齢、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化、糖尿病およびその組み合わせによる後天的な欠損である。
【0072】
よって、いくつかの実施形態では、本発明は、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせを有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における使用のための、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防するためのIL-18アンタゴニストを提供する。
【0073】
別の観点では、本発明はメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせを有する、それを必要とする対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置方法であって、有効量のIL-18アンタゴニストを対象に投与する事、それによってウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防する事を含む、方法を提供する。
【0074】
さらに別の態様では、本発明は、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病またはその組み合わせ、を有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症を処置するための、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症を予防するための医薬の製造におけるIL-18アンタゴニストの使用を提供する。
【0075】
しかし、いくつかの実施形態では、処置される対象は上記に規定するようなウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群を有する。いくつかの特定の好ましい実施形態では、処置される対象は、COVID-19の重度の症状、すなわち疾患の第二段階に関連する症状、例えば呼吸困難および/または侵襲型換気の必要を有する。
【0076】
よって、いくつかの実施形態では、ウイルス性呼吸器感染症は重症型コロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。
【0077】
いくつかの実施形態では、処置される対象は、ウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症リスクの向上に関連するその他の特徴を有し得る。
【0078】
例えば、対象の年齢、民族および/または性別は、特に上記のような基礎疾患との組み合わせで、重症型ウイルス性呼吸器症候群(例えば、COVID-19)の発症リスクの増加を示し得る。
【0079】
代表的な実施形態では、重症型ウイルス性呼吸器症候群(例えば、COVID-19)を発症するリスクが高い対象には、以下の特徴の内の1つ以上を持つ対象を含む:(i)男性;(ii)50歳以上、例えば、55、60、65歳以上;および/または(iii)アフリカ系またはインド-パキスタン系の民族。これらの特徴、特に年齢は、その健全な機能がIL-18結合タンパク質の刺激に必要である自然免疫系の機能の悪化に主に起因して、IL-18レベルの上昇と関連する。
【0080】
よって、いくつかの実施形態では、対象は、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18の量よりも高い血液中の遊離IL-18の量を有し得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、対象は少なくとも50歳、例えば、55、60、65歳以上(すなわち高齢対象)である。いくつかの特定の実施形態では、予防的処置、すなわちウイルス性呼吸器感染症に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症の予防のために選択される対象は、少なくとも50歳、例えば、55、60、65歳以上である。
【0082】
いくつかの実施形態では、対象は、予防的処置について、遊離IL-18、IL-18BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の血中レベルに基づいて選択される。よって、さらなる態様では、本発明は、
(i)対象から得た血液サンプル中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量を測定する工程;および
(ii)血液サンプル中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18、IL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量と比較する工程を含む、本発明に係る処置をための対象を選択または同定するための方法であって、
ここで、(a)対象の血液サンプル中の遊離のIL-18の量が、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離のIL-18の量よりも高い場合に、対象は本明細書に規定するIL-18アンタゴニストを用いた処置のために選択される;および/または
(b)対象の血液サンプル中のIL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量が、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中のIL-BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の量よりも低い場合に、対象は本明細書に規定するIL-18アンタゴニストを用いた処置のために選択される、方法を提供する。
【0083】
よって、いくつかの実施形態では、本方法は、本発明に係る処置に対する対象の適合性を決定するものと見なされ得る。
【0084】
よって、いくつかの好ましい実施形態では、本方法は予防的処置、ウイルス性呼吸器症候群に起因する重症型ウイルス性呼吸器症候群の発症の予防のための対象を選択する(対象の適合性を決定する)ためのものである。
【0085】
健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象の血液中の遊離IL-18の量は参照値であり得る。いくつかの実施形態では、この参照値は対象の特性、例えば年齢、性別および/または民族に基づいて調整される。よって、対象から得た血液サンプル中の遊離IL-18の量を、健康なコントロール対象またはその症状が比較的軽症である同じウイルス性呼吸器感染症を患う対象または同じもしくは同様の(すなわち、同等の)特性、例えば年齢、性別および/または民族である対象から得られた参照値と比較する。例えば、同等なコントロール対象は、試験される対象と同じ性別、民族および同じ年齢層、例えば、40~49、50~59、60~69歳などであり得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、対象から得た血液サンプル中の遊離IL-18の量が参照値よりも少なくとも5%高い、例えば参照値よりも少なくとも10、15、20、25、30%高い、例えば、参照値よりも少なくとも50、75または100%高い場合に、対象は、本明細書に規定するIL-18を用いた処置のために選択される
【0087】
対象から得たサンプル中の遊離IL-18の量を測定するための方法は当分野でよく知られている(例えば、WO2016/139297であり、ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する)。WO2016/139297に開示されるものなどの、任意の好適な対象から得たサンプル中の遊離IL-18の量を測定するための方法が本発明において使用され得る。いくつかの実施形態では、対象から得たサンプル中の遊離IL-18の量を測定するための方法は、研究室で日常的に使用されている、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)および放射免疫測定(RIA)などの免疫アッセイである。遊離IL-18の量は典型的には血液サンプルにおいて測定される。
【0088】
本明細書で使用する場合、「血液サンプル」という用語は、全血またはその成分もしくは派生物、例えば末梢全血またはその成分もしくは派生物を指し得る。よって、いくつかの実施形態では、血液サンプルは全血、血清または血漿であり得る。いくつかの実施形態では、血液サンプルは全血の派生物である希釈全血である。いくつかの実施形態では、血液サンプルは抗凝固剤、例えばヘパリン、クエン酸ナトリウムまたはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の存在下で維持され得る。
【0089】
インターフェロン-ガンマ誘導因子としても知られるインターロイキン-18(IL-18)は活性化したマクロファージ、クッパー細胞およびその他の細胞によって産生されるサイトカインである。IL-18はIL-18受容体(IL-18R)に結合し、および細胞介在性免疫を誘導する。IL-18受容体またはIL-18の欠損(例えば、ノックアウト)はナチュラルキラー(NK)細胞活性の障害およびTh1応答の障害をもたらす。本明細書で使用する場合、「IL-18」は典型的にはヒトIL-18を指す。
【0090】
「IL-18アンタゴニスト」または「IL-18阻害剤」という用語は本明細書において互換的に使用され、IL-18の活性または機能、例えばIL-18シグナル伝達を直接的にまたは間接的に阻害、低下または遮断することができる剤を指す。例えば、直接的な阻害剤には、IL-18と直接的に相互作用し、IL-18の活性または機能を阻害、低下または遮断する剤が含まれる。係る剤は競合阻害、不競合阻害、非競合阻害、または混合阻害を介して作用し得る。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストはIL-18とその受容体の相互作用を妨害する。よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストはIL-18受容体と相互作用し得る。この点について、間接的な阻害剤はIL-18と直接的に相互作用しない。よって、例えば間接的な阻害剤はIL-18をコードする遺伝子の発現を低下させる事によってIL-18の活性または機能を阻害、低下または遮断する。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストはIL-18前駆体の活性型への処理を妨害し得、例えばIL-18アンタゴニストは経口プロドラッグVX-765などのカスパーゼI阻害剤である。好ましい実施形態では、IL-18アンタゴニストは、IL-18の活性または機能を直接的に阻害、低下または遮断する。
【0091】
いくつかの実施形態では、複数のIL-18アンタゴニストの組合せがIL-18活性またはシグナル伝達を阻害または遮断をもたらすために使用され得る。
【0092】
「剤」、「化合物」および「活性」という用語は本明細書において互換的に使用され、望ましい薬理学的および/または生理学的効果を誘導し得る物質を指す。これらの用語はまた、塩を含む、それらの薬学的に許容可能且つ薬理学的に活性な形態を含む。望ましい効果は、IL-18活性またはシグナル伝達の阻害または遮断、またはIL-18をコードする遺伝子の発現の阻害である。
【0093】
タンパク質性、非タンパク質性(例えば、化学的実体)および核酸分子のIL-18アンタゴニストは、本明細書に記載の処置において使用され得る。
【0094】
タンパク質性分子には、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を含む。ポリペプチドおよびタンパク質という用語は本明細書において互換的に使用される。
【0095】
非タンパク質性分子には、天然物スクリーニングまたは化学ライブラリーのスクリーニングから同定された分子と同様に、低分子、中分子または高分子の化学分子が含まれる。天然物スクリーニングは、植物、微生物、土壌、河床、珊瑚および水生環境を含む天然物の任意の適切な源からの抽出物またはサンプルを、IL-18活性またはIL-18遺伝子発現レベルに影響を及ぼす分子または分子群についてスクリーニングすることを含む。これらの分子はまた、IL-18とその受容体の間の相互作用に影響を与え得る。
【0096】
核酸分子剤(「核酸」または「ポリヌクレオチド」)はRNA、cDNA、ゲノムDNA、合成形態および混合多量体、センス鎖およびアンチセンス鎖が含まれ、当業者に容易に理解されるように化学的または生物学的に改変されている、または非天然または誘導体化されたヌクレオチド塩基を含み得る。また、水素結合および他の化学的相互作用を介して指定された配列に結合する能力において、ポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。係る分子は当技術分野で知られており、例えば、分子のバックボーンにおいてペプチド結合がリン酸結合の代わりになっているものが含まれる。
【0097】
好ましい実施形態では、IL-18アンタゴニストはタンパク質性剤、例えばタンパク質である。特に好ましい実施形態では、IL-18アンタゴニストは選択的にIL-18またはIL-18受容体に結合するタンパク質であり、好ましくは選択的にIL-18に、好ましくは遊離IL-18に結合するタンパク質である。
【0098】
IL-18に結合し、これを阻害するタンパク質は当分野でよく知られている。例えばIL-18結合タンパク質(IL-18BP)は、1:1の比で巡回するIL-18を効率的に中和する高親和性の内因性受容体である。さらに、IL-18に結合する多数の抗体が開発されており、任意の係る抗体は本明細書に記載の処置における有用性を見出し得る。特にIL-18抗体はWO2012/085015およびWO2016/139297(特にここに記載されたIL-18抗体に関して、両者共に参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、本明細書に記載の処置における有用性を見出し得る。さらに、標的タンパク質に特異的に結合する抗体の製造方法は当分野でよく知られており、以下にさらに記載する。
【0099】
天然の哺乳類IL-18結合タンパク質(例えば、ヒトのアイソフォームa~d、配列番号1~4)は、in vivoでIL-18の効果を制御するための内因性の手段として存在するが、多数の感染性物質、例えばウイルスがIL-18結合タンパク質を進化させた。例えば、IL-18結合タンパク質は、伝染性軟属腫ウイルスサブタイプ1(Molluscum contagiosum virus subtype 1)(MC51L、MC53L、およびMC54L、例えば、GenBank アクセッション番号CAB89814.1、配列番号5)、ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)(例えば、GenBank アクセッション番号CAB89842.1、配列番号6)、エクトロメリアウイルス(Ectromelia virus)(例えば、GenBank アクセッション番号CAB89805.1、配列番号7)、ランピースキン病ウイルス(Lumpy skin disease virus)(例えば、GenBank アクセッション番号AAK43555.1、配列番号8)および牛痘ウイルス(Cowpox virus)(例えば、GenBank アクセッション番号ARB50252.1、配列番号9)において同定された。
【0100】
よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは哺乳類IL-18結合タンパク質(IL-18BP)、好ましくは、ヒトIL-18結合タンパク質、またはそのIL-18-結合フラグメントもしくは変異体(例えば、IL-18BPのアイソフォーム)である。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは組み換えヒトIL-18BPである。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストはウイルス性IL-18結合タンパク質またはそのIL-18結合フラグメントもしくは変異体である。
【0101】
よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは、以下:
(i)配列番号1-9の何れか1つ、好ましくは、配列番号1-4の何れか1つに記載のアミノ酸配列;
(ii)配列番号1-9の何れか1つ、好ましくは、配列番号1-4の何れか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を持つアミノ酸配列;または
(iii)(i)または(ii)のIL-18結合フラグメント、
を含むIL-18結合タンパク質である。
【0102】
本明細書で言及するように、「フラグメント」は、それが由来するタンパク質のアミノ酸配列の少なくとも30、40、50、60、70、80、85、90、95、96、97、98または99%を含む。上記のフラグメントは配列の中央、N末端またはC末端部分から取得し得る。フラグメントの大きさは元のタンパク質の大きさに依るが、いくつかの実施形態では、フラグメントは、それが由来する配列よりも短い、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、30、40個またはそれ以上のアミノ酸残基であり得、例えばそれが由来する配列よりも短い1~40、2~35、3~30、4~25個のアミノ酸残基であり得る。
【0103】
本明細書で言及するように、配列の「変異体」または「誘導体」は、それと比較される配列に対して少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98または99%同一である。
【0104】
配列同一性は、例えば、SWISS-PROTタンパク質配列データバンクを用い、variable pamfactor、gap creation penaltyを12.0、gap extension penaltyを4.0に設定し、2アミノ酸のウィンドウを用いたFASTA pep-cmpを使用して決定することができる。好ましくは、上記の比較は配列の全長にわたって行われるが、より小さい比較ウィンドウ、例えば200、100、50、20または10個未満の連続するアミノ酸で行われ得る。
【0105】
好ましくは、係る配列同一性に関係するタンパク質、すなわち変異体または誘導体は、記載した配列番号において示されるタンパク質と機能的に等価である。同様に、該配列番号において示される配列を持つタンパク質は、ポリペプチドの配列に影響を与えることなく改変され得る。
【0106】
さらに、本明細書で使用する場合、「フラグメント」とは機能的等価物である。好ましくは、これらのフラグメントは本明細書に記載する同一性(比較可能な領域との対比)状態を満たす。
【0107】
本明細書で言及するように、「機能的等価性」を達成するために、タンパク質のフラグメントおよび/または変異体は、親の分子(すなわち、それが例えばアミノ酸置換等によって由来した分子)に比べて、機能の発揮において幾分か低下した有効性を示し得るが、好ましくは同程度に効率的であるか、またはより効率的である。よって、機能的等価性とは、IL-18、好ましくは遊離IL-18への選択的な結合、およびその機能への拮抗について効果的なタンパク質を指す。これは、フラグメントまたは変異体タンパク質の効果を、定性的または定量的な方法で、例えば当分野において知られる、およびWO2016/139297(ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する)に記載されるin vitro分析を行うことにより、それが由来するタンパク質との比較によって試験される。定量結果が得られる場合には、フラグメントまたは変異体は親タンパク質と比較して少なくとも30、50、70または90%効果的である。
【0108】
親タンパク質に関連するか、または由来する機能的に等価なタンパク質は、単一または複数のアミノ酸置換、付加および/または欠失(上記に記載の配列同一性要件を満たすように)によって、しかしその分子の機能を破壊しないように親のアミノ酸配列を改変する事によって取得され得る。好ましくは、親の配列は60個よりも少ない置換、付加または欠失を有する、例えば、50、40、30、20、10、5、4、3または2個よりも少ない係る改変を有する。係るタンパク質は、1つ以上の塩基の適切な置換、付加および/または欠失によって生成される「機能的に等価な核酸分子」によってコードされ得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、親タンパク質と比較して、変異体タンパク質中に存在する任意の置換は保存的アミノ酸置換であり得る。保存的アミノ酸置換とは、ポリペプチドの物理化学的特性を保存する別のアミノ酸によるアミノ酸の置換を指す(例えば、DはEによって置換され得る、またはその逆も然り、NはQによって、またはLもしくはIはVによって置換され得る、またはその逆も然り)。よって、一般に、置換するアミノ酸は、置換されるアミノ酸と類似の性質、例えば疎水性、親水性、電気陰性度、嵩高い側鎖などの性質を有する。天然のL-アミノ酸の異性体、例えばD-アミノ酸もまた組み込まれ得る。
【0110】
本明細書に記載のIL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)はIL-18、好ましくは遊離IL-18に選択的に結合する。「選択的に結合する」という用語は、その他の成分、例えばIL-18が存在するサンプル(例えば、血液、組織)中の他の成分よりも大きな親和性および/または特異性でIL-18に非共有結合的に(例えば、ファンデルワールス力および/または水素結合によって)結合する、タンパク質の能力を指す。よって、IL-18結合タンパク質はあるいは、好適な条件下でIL-18、好ましくは遊離IL-18に特異的且つ可逆的に結合するとみなされ得る。
【0111】
「遊離IL-18」という用語は、それぞれのIL-18結合タンパク質または受容体に未だ結合していないIL-18を指す。
【0112】
IL-18への結合は、サンプル中に存在する他の分子(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)への結合とは区別され得る。IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)は、サンプル中に存在する他の分子(ぺプチドまたはポリペプチド)に結合しないか、またはわずかに、もしくは検出できない程度に結合し、任意の係る非特異的な結合は、存在する場合には、IL-18への結合とは容易に区別され得る。
【0113】
特に、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)がIL-18以外の分子に結合する場合、係る結合は必ず一時的なものであり、および結合親和性は必ずIL-18結合タンパク質によるIL-18への結合親和性よりも低い。よって、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)のIL-18に対する結合親和性は、サンプル中に存在する他の分子(例えば、非同族分子)よりも少なくとも1桁大きいはずである。好ましくは、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)のIL-18に対する結合親和性は、その他の分子(ぺプチドまたはポリペプチド)への結合親和性よりも少なくとも2、3、4、5、または6桁大きいはずである。
【0114】
よって、選択的または特異的な結合とは、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)のIL-18に対する解離定数が約10-3M以下である、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)のIL-18に対する親和性を指す。好ましい実施形態では、IL-18に結合するタンパク質(例えば、IL-18結合タンパク質、抗体)のIL-18に対する解離定数は約10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8Mまたは10-9M以下である。
【0115】
いくつかの実施形態では、上記のIL-18結合タンパク質フラグメントおよび変異体は、それらが由来する親のタンパク質と、IL-18、好ましくは遊離IL-18への結合について競合する。よって、IL-18結合タンパク質フラグメントおよび変異体は「競合するIL-18結合タンパク質フラグメントおよび変異体」としても見なされ、この用語は親のタンパク質と、実質的にまたは本質的に同じ、または同じエピトープに結合するタンパク質を指す。「競合するIL-18結合タンパク質フラグメントおよび変異体」には、重複するエピトープ特異性を持つタンパク質を含む。よって、競合するIL-18結合タンパク質フラグメントおよび変異体は、IL-18への結合について親のタンパク質と効果的に競合する事ができる。
【0116】
本明細書に記載のポリペプチドは単離、精製、組み換えまたは合成ポリペプチドであり得る。
【0117】
「ポリペプチド」という用語は「タンパク質」という用語と本明細書において互換的に使用される。上記のように、ポリペプチドまたはタンパク質という用語は、典型的には少なくとも40個の連続するアミノ酸残基、例えば少なくとも50、60、70、80、90、100、150個のアミノ酸、例えば40~1000、50~900、60~800、70~700、80~600、90~500、100~400個のアミノ酸を含む、任意のアミノ酸配列を含む。
【0118】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストとは、(上記のように)IL-18、好ましくは遊離IL-18に選択的に結合する抗体である。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは、IL-18結合タンパク質(例えば、本明細書に記載のIL-18結合タンパク質の何れか1つ、好ましくは配列番号1~4の1つ以上(例えば全て))と、IL-18、すなわち遊離IL-18への結合について効果的に競合する抗体である。よって、いくつかの実施形態では、抗体は、IL-18結合タンパ質と、実質的にまたは本質的に同じ、または同じエピトープ、好ましくは配列番号1~4の何れか1つと同じエピトープに結合する。
【0119】
当業者に理解されるように、「抗体」という用語に包含される免疫学的結合試薬には、完全抗体、二量体、三量体および多量体化抗体;二重特異性抗体;キメラ抗体;組み換えおよび操作された抗体;およびそのフラグメントを含む、全ての抗体およびその結合フラグメントに及ぶ。
【0120】
よって、「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指し、およびこの用語には抗原結合ドメインを含む抗体フラグメント、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、TandAb二量体、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv、ds-scFv、Fd、直鎖抗体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメント、バイボディ、トリボディ(それぞれscFv-Fab融合体、二重特異性または三重特異性);sc-ダイアボディ;カッパ(ラムダ)ボディ(scFv-CL融合体);二重特異性T細胞結合因子(Bispecific T-cell Engager)(BiTE)(T細胞を誘引するためのscFv-scFvタンデム);二重可変ドメイン(DVD)-Ig(二重特異性フォーマット);小型免疫タンパク質(SIP)(ミニボディの一種);SMIP(「小型モジュール免疫医薬品」scFv-Fc二量体;DART(ds-安定化ダイアボディ「二重親和性再ターゲティング(Dual Affinity ReTargeting)」);1つまたは複数のCDRなどを含む小型抗体模倣体を含む。
【0121】
種々の抗体ベースの構築物およびフラグメントを調製し、および使用する技術は当分野でよく知られている(Kabat et al.,5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD、647-669、1991を参照し、特にここに本明細書の一部として参照により援用する)。特に、ダイアボディはさらにWO93/11161に記載され、また直鎖抗体はZapata et al.(Protein Eng.,8(10):1057-1062、1995)にさらに記載されている。
【0122】
抗体は従来技術を用いて断片化され得る。例えば、F(ab’)2フラグメントは抗体をペプシンで処理する事によって生成され得る。得られたF(ab’)2フラグメントを処理してジスルフィド架橋を還元することでFab’フラグメントを生成し得る。パパイン消化によりFabフラグメントの形成がもたらされ得る。Fab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、dAbs、TandAbs、ds-scFv、二量体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメントおよびその他のフラグメントはまた、組み換え技術によって合成されるか、または化学的に合成され得る。抗体フラグメントを製造する技術は当分野においてよく知られ、記載されている。
【0123】
抗体または抗体フラグメントは天然に産生され得るか、または全体もしくは部分的に合成する事で生産され得る。よって、抗体は任意の適切な供給源、例えば組み換え供給源からおよび/または組み換え動物または組み換え植物において、またはIgY技術を使用して卵において産生され得る。よって、抗体分子はin vitroまたはin vivoで産生され得る。
【0124】
好ましくは、抗体または抗体フラグメントは、3つのCDRドメインを含む抗体軽鎖可変領域(VL)および3つのCDRドメインを含む抗体重鎖可変領域(VH)を含む。係るVLおよびVHは一般に抗原結合部位を形成する。
【0125】
「Fv」フラグメントは、完全な抗体認識および結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。この領域は1つの非共有結合的に密着した、1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を有する。この構造内で、各可変ドメイン中の3つの超可変領域(CDR)が相互作用し、VH-VL二量体表面上の抗原結合部位を規定する。まとめると、6つの超可変領域(CDR)が抗体に抗原結合特異性をもたらす。
【0126】
しかし、抗体の軽鎖可変ドメインからの3つのCDRおよび重鎖可変ドメインからの3つのCDRの存在が抗原結合に必要ではない事が当分野においてよく文書化されている。よって、上記の古典的な抗体フラグメントよりも小さい構築物が有効である事が知られている。
【0127】
例えば、ラクダ科の抗体は幅広い抗原結合レパトアを有するが、軽鎖を持たない。また、VHドメインのみ、またはVLドメインのみを含む単一ドメイン抗体を用いた結果は、これらのドメインが許容できる程度に高い親和性で抗原に結合し得る事を示す。よって、3つのCDRは有効に抗原に結合し得る。さらに、1つのCDRまたは2つのCDRが有効に抗原に結合し得る事もまた知られている。
【0128】
注目すべきことに、2つのCDRが有効に抗原に結合し得る事、さらには親抗体が持つ特性よりも優れた特性を付与し得る事が知られている。例えば、親抗体に由来する2つのCDR(VH CDR1領域およびVL CDR3領域)が、親分子の抗原認識特性を保持しつつ、腫瘍を侵襲する優れた能力を持ち得る事が示されている。これらのCDRドメインを適切なリンカ-(例えばVH FR2に由来するもの)で結合し、CDRを天然の親抗体に似た様式で配向させる事でさらによい抗原認識が得られた。したがって、親抗体に見出される構成を維持するための適切なフレームワーク領域によって配向された2つのCDRドメイン(好ましくは、1つはVHドメインに由来し、1つはVLドメインに由来する、より好ましくは、2つのCDRドメインの内1つはCDR3ドメインである)を含む抗原に結合する抗体模倣体を構築する事が可能であることが当分野で知られている。
【0129】
よって、本発明の好ましい抗体は6つのCDR領域(3つは軽鎖に由来し、3つは重鎖に由来する)を含むものであり得るが、6つより少ないCDR領域を持つ、および1つまたは2つのCDR領域を持つ抗体も本発明に包含される。加えて、CDRが重鎖にのみまたは軽鎖にのみ由来する抗体もまた企図される。
【0130】
特定の実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、重鎖定常領域、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgE、IgMまたはIgD定常領域の全てまたは一部を含む。好ましくは、重鎖定常領域はIgG1重鎖定常領域またはその一部である。さらに、抗体または抗体フラグメントはカッパ軽鎖定常領域またはラムダ軽鎖定常領域またはその一部、の全てまたは一部を含み得る。係る定常領域の全てまたは一部は天然に産生されるか、または全体または部分的に合成される事で生成され得る。係る定常領域の好適な配列は当分野でよく知られているか文書化されている。重鎖および軽鎖に由来する定常領域の全長の相補体が本発明の抗体に含まれる場合、係る抗体は典型的に「全長(full length)」抗体または「完全(whole)」抗体と呼ばれる。
【0131】
Fc領域を含む抗体はin vivoにおける治療用途に好ましい。
【0132】
好ましい実施形態では、本発明の抗体は、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体である。この点について、ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体は一般に、ヒトの治療における使用のために少なくとも3つの潜在的な利点を有する。第1に、ヒト免疫系はこの抗体を異物として認識しないはずである。第2に、ヒトの生体内循環における半減期が天然に生じるヒト抗体と類似するため、用量を少なくし、投与頻度を減らす事ができる。第3に、エフェクター部がヒトであるため、ヒト免疫系のその他の部分とより良好に相互作用する。
【0133】
非ヒト抗体は、例えばヒト抗体のフレームワークにこの非ヒト抗体のCDR領域を挿入する事など、知られた方法で「ヒト化」される。ヒト化抗体は、Verhoeyen et al (1988)Science、239、1534-1536、およびKettleborough et al,(1991)Protein Engineering、l4(7)、773-783に記載される技術およびアプローチを使用して産生され得る。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒトの残基と交換される。一般に、ヒト化抗体はCDR領域の全てまたは大部分が、非ヒトの免疫グロブリンのそれと対応する可変領域、および、実質的にまたは完全にヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のフレームワーク領域であるフレームワーク領域を含む。
【0134】
完全にヒトである抗体は組み換え技術を使用して産生され得る。典型的には数十億の異なる抗体を含む大規模なライブラリーが使用される。例えばマウス抗体をキメラ化またはヒト化するために採用される従来の技術とは異なり、この技術は特異的な抗体を生成するために動物に免疫する事に依らない。代わりに、組み換えライブラリーは膨大な数のあらかじめ作られた抗体変異体を含み、ライブラリーは、任意の抗原に対して、特異的な抗体を少なくとも1つは有している蓋然性が高い。よって、本発明の文脈では、所望の結合特性を有する競合抗体はかかるライブラリーを使用する事で同定され得る。ライブラリーの中から効率的なやり方でよい結合物を見つけるために、表現型、すなわち抗体または抗体フラグメント、を遺伝子型すなわちコード遺伝子、と結びつける様々な系が開発されてきた。最も一般的に使用されている係る系はいわゆるファージディスプレイシステムであり、抗体断片を、表示される分子をコードする遺伝情報を同時に搭載している繊維状ファージ(filamentous phage)粒子の上でファージコートタンパク質との融合体として発現および表示する(McCafferty et al,1990、Nature 348:552-554)。特定の抗原に特異的なファージに表示される抗体フラグメントは、当該抗原への結合によって選択され得る。そして単離されたファージを増幅し、選択された抗体の可変ドメインをコードする遺伝子を、任意にはその他の抗体様式、例えば全長免疫グロブリンへと移し、および当分野で知られた適切なベクターおよび宿主細胞を用いて大量に発現させ得る。あるいは、「ヒト」抗体は、実質的にヒト免疫グログリン遺伝子を含む遺伝子組み換えマウスを免疫する事によって製造され得る(Vaughan et al (1998)Nature Biotechnol.16、535-539)。
【0135】
本発明の「ヒト」および「ヒト化」抗体は、ヒト配列においてコードされないアミノ酸残基、例えば、無作為なまたはin vitroでの部位指向的な変異、例えばin vitroクローニングもしくはPCRによって導入された変異を含み得る。係る変異の例は、保存的置換に関する変異、または抗体残基の少数、例えば抗体残基の5、4、3、2または1つまで、好ましくは抗体のCDRの1つ以上を構成する残基の5、4、3、2または1つまでにおけるその他の変異(非保存的置換、付加および/または欠失)である。係る「ヒト」および「ヒト化」抗体の特定の例には、潜在的な免疫原性部位の数を減らすための標準的な改変技術の対象とされた抗体および可変領域を含む。
【0136】
よって、本発明の「ヒト」および「ヒト化」抗体はヒトにおいて見られる配列に由来および関連する配列を含むが、in vivoのヒト抗体生殖系列レパトアにおいては天然には存在しないだろう。加えて、本発明のヒトおよびヒト化抗体は、ヒト配列から同定されたヒトコンセンサス配列、またはヒト配列に実質的に相同な配列を含むタンパク質を含む。
【0137】
加えて、本発明のヒトおよびヒト化抗体は、ヒト抗体分子中の組み合わせにおいて見られるVH、VL、CDRまたはFR領域の組み合わせに限定されない。よって、本発明のヒトおよびヒト化抗体はヒトにおいて必ずしも天然には存在しない係る領域の組合せを含む、またはそれに対応し得る。
【0138】
いくつかの実施形態では、ヒト抗体は完全なヒト抗体であり得る。本明細書で使用する場合、「完全なヒト」抗体は、上記に規定するような「ヒト」可変領域ドメインおよび/またはCDRを含み、実質的に非ヒトである抗体配列を含まないか、または非ヒト抗体配列を全く含まない。例えば、ヒト可変領域ドメインおよび/またはCDRを含み、「実質的に非ヒトである抗体配列」を含まない抗体は、5、4、3、2または1つまでのアミノ酸が、ヒト抗体配列によってコードされないアミノ酸である抗体、ドメインおよび/またはCDRである。よって、「完全なヒト」抗体は、実質的には非ヒトである可変領域ドメイン、例えば、ヒト抗体中に存在するアミノ酸によりよく対応するように特定のアミノ酸が変更されたマウス可変領域ドメインに基づくものである「ヒト化」抗体とは区別される。
【0139】
本発明の「完全なヒト」抗体は、任意のその他の抗体配列を含まないヒト可変領域ドメインおよび/またはCDR、例えば一本鎖抗体であり得る。あるいは、本発明の「完全なヒト」抗体は1つ以上のヒト抗体定常領域と一体化した、または作動可能に接続されたヒト可変領域ドメインおよび/またはCDRであり得る。特定の好ましい完全なヒト抗体はIgG定常領域の完全な相補対を持つIgG抗体である。
【0140】
その他の実施形態では、本発明の「ヒト」抗体は部分ヒト化キメラ抗体である。本明細書で使用する場合、「部分ヒト化キメラ(Part-human chimeric)」抗体とは、ラットまたはマウスなどの非ヒト種の定常領域に作動可能に付加(attached)または接合(grafted)された「ヒト」可変領域ドメインおよび/またはCDRを含む抗体を指す。係る部分ヒト化抗体は、例えば前臨床試験において使用され得、ここで定常領域は好ましくは前臨床試験において使用された動物と同じ動物種のものであろう。これらの部分ヒト化抗体は、例えばex vivo診断(例えば、上記の処置のための対象を選択するための方法)において使用され得、ここで、非ヒト種の定常領域は抗体検出のための追加的な選択肢を提供し得る。
【0141】
タンパク質性IL-18アンタゴニストが好ましいが、その他のアンタゴニストが本発明の処置において有用性を見出され得る事を当業者は理解するはずである。特に、核酸分子はIL-18活性の阻害、および/または間接的なシグナル伝達の阻害に使用され得る。例えば、IL-18またはIL-18受容体(IL-18R)の遺伝子またはmRNAを指向するセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の核酸分子はIL-18アンタゴニストとして企図される。係るセンス鎖またはアンチセンス鎖分子には、IL-18またはIL-18Rの遺伝子またはmRNAの、リーダー配列、選択されたイントロンまたはエキソンを含むコードまたは非コード領域の任意の領域にハイブリダイズする分子を含む。20~30ヌクレオチド塩基長のセンス鎖およびアンチセンス鎖分子が特に企図され、例えばIL-18またはIL18Rコード核酸を指向するsiRNA分子である。
【0142】
低分子干渉RNA(siRNA)は、miRNAと堂宇にRNA干渉(RNAi)経路内で動作する20~25塩基長の二本鎖RNA、非コードRNA分子の一種である。siRNAは転写後にmRNAを分解し、翻訳を妨害することによって相補的なヌクレオチド配列を持つ特定の遺伝子の発現に干渉する。
【0143】
よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは核酸分子である。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは核酸分子、例えばIL-18またはIL-18R、好ましくはIL-18の発現に干渉するsiRNAである。
【0144】
IL-18アンタゴニストは医薬組成物において提供されてよく、これは当技術分野において知られ、文献中で広く記載されている任意の従来技術によって製剤化され得る。よって、IL-18アンタゴニストは、任意にはその他の活性物質と一緒に、1つ以上の従来の担体、希釈剤および/または賦形剤と主に組み込まれ得る。
【0145】
本明細書に記載の医薬組成物は、医薬組成物の製剤に応じて任意の好適な方法および投与経路を使用して対象に全身的または局所的に投与され得る。
【0146】
いくつかの実施形態では、全身投与は特に有用であり得る。「全身投与」には、剤(すなわちIL-18アンタゴニスト)が生体に投与されると、その全身が投与された剤を受け取る任意の投与形態を含む。便宜上、全身投与は、経腸投与(例えば、経口)または非経口(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、気管内(intratracheal)、気管内(endotracheal)、吸入)を介して行われ得る。
【0147】
「局所投与」とは、感染の主要部位(例えば呼吸器)または感染の腫瘍部位の局所近傍における剤の投与、例えば吸入を介した投与を指す。しかし、いくつかの様式の局所投与によって全身が投与された剤を受け取り得ることが確かめられている(例えば、吸入)。よって、いくつかの実施形態では、剤は初期の局所的効果およびその後の全身的な効果を提供するように投与され得る。
【0148】
「全身投与」には、動脈内、静脈内、腹腔内および皮下注射、注入、ならびに経口、直腸および鼻腔経路を介した投与、または吸入を介した投与を含む。皮下注射または吸入を介した投与が特に好ましい。
【0149】
よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは、鼻腔内、頬、経口、経粘膜、気管内、静脈内、皮下、尿路内、直腸内、膣内、舌下、気管支内、肺内、経皮または筋肉内投与のために提供される、および/または製剤化される。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニスト(すなわち医薬組成物)は、気管支肺投与によって投与される。
【0150】
医薬組成物は、経粘膜投与、例えば、鼻腔内、頬、口腔経粘膜、気管内、尿路内、膣内、舌下、気管支内、肺内およびまたは経皮投与のための液体、液体スプレー、マイクロスフェア、半固体、ゲルまたは粉末として提供され得る。さらには、組成物は頬、口腔経粘膜および/または舌下投与のための固体の剤形であり得る。鼻腔内、頬、口腔気管支内、尿路内、膣内、経粘膜および舌下投与は、体温での口腔内での本明細書に記載の組成物の崩壊をもたらし、任意には口腔内の生体組織に付着し得る。さらには、本明細書に開示される組成物は1つ以上の賦形剤、希釈剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤(glidant)、崩壊剤、減感剤、乳化剤、粘膜接着剤、可溶化剤、懸濁剤、粘度調整剤、イオン性等張化剤、緩衝剤、担体、界面活性剤、香料、またはその混合物をさらに含み得る。
【0151】
いくつかの実施形態では、組成物は非経口、静脈内用の錠剤、丸薬、生体接着性パッチ、ドロップ、スポンジ、フィルム、ロゼンジ、ハードキャンディ、ウエハー、球、ロリポップ、ディスク状構造、座薬またはスプレーとして製剤化される。経粘膜投与は、粘膜への豊富な血管供給および表皮の角質が無いことによって一般に迅速である。係る薬剤の輸送は典型的には血中濃度の急激な上昇をもたらし、腸肝循環および胃酸による即時分解、または腸壁および肝臓代謝の部分的な初回通過効果を避け得る。典型的には、顕著な薬物の吸収が生じるためには薬物は粘膜表面へ長く曝露される必要がある。
【0152】
経粘膜投与はまた、比較的早い吸収および治療作用の発現を提供し得るため、経口経路よりも効果的であり得る。さらに、経粘膜経路は、錠剤、カプセルまたはその他の経口用の固体の嚥下が困難な患者、または疾患によって腸の吸収が損なわれている患者の処置における使用のために好ましくあり得る。
【0153】
鼻腔内または頬経路のいずれにおいても、薬剤の吸収は遅れる、または延長され得る。しかし、舌下投与は、豊富な血管供給による高い透過性によって、吸収は静脈内ボーラス投与とほとんど同じ速さであり、早い作用の発現を提供し得る。
【0154】
鼻腔内用組成物は、その形態に応じた任意の適当な方法によって投与され得る。マイクロスフェアまたは粉末を含む組成物は鼻腔用吸入装置を使用して投与され得る。これらの装置(device)の例は当分野において当業者によく知られており、Fisons Lomudal Systemのような市販の粉末システムを含む。吸入器は、乾燥粉末またはマイクロスフェアの細かく分割された霧上のものを作り出す。吸入器は、好ましくは実質的に一定量の組成物の投与を確実にする機構を備えて提供される。粉末またはマイクロスフェアは、粉末またはマイクロスフェアのためのボトルまたは容器を備えて提供される吸入器を用いて直接的に使用され得る。あるいは、粉末またはマイクロスフェアはカプセル、例えばゼラチンカプセル、または鼻腔内投与に適合したその他の単回投与装置中に充填され得る。吸入器は、好ましくはカプセルまたはその他装置を開封する機構を備える。さらに、組成物は、例えば1種類以上のマイクロスフェアまたは粉末を供する事によって、活性成分の初期急速放出に続いて活性成分の持続的放出を提供し得る。さらに、組成物を鼻腔へと投与するための好適な代替的な方法は当分野において当業者によく知られている。任意の好適な方法が使用され得る。好適な方法のより詳細な説明のためにEP2112923、EP1635783、EP1648406、EP2112923が参照される(ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する。)。本発明の1つの実施形態では、医薬組成物は経鼻的に、すなわち吸入によって投与され得、したがって鼻腔内投与に適した形態、すなわちエアロゾル、乾燥粉末製剤または液体調製物に製剤化され得る。
【0155】
好適な薬学的担体、賦形剤および/または希釈剤は当分野でよく知られており、ガム、スターチ(例えばコーンスターチ、アルファ化スターチ(pregeletanized starch))、糖(ラクトース、マンニトール、スクロース、デキストロース)、セルロース性物質(例えば結晶セルロース)、アクリレート(例えばポリメチルアクリレート)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムまたはその混合物を含むが、これに限らない。
【0156】
液体製剤用の薬学的に許容できる担体は、水性または非水性溶液、懸濁液、エマルジョンまたは油である。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルである。油の例は動物性、植物性、または合成由来のもの、例えばピーナッツ油、ダイズ油、オリーブ油、ひまわり油、魚の肝油、別の海産物の油、または乳もしくは卵からの脂質である。
【0157】
本発明はまた、医薬組成物を乾燥粉末、ガス状または揮発性の製剤として吸入する事で呼吸器を介して全身の循環へと投与する経肺的投与に関する。肺胞および血管上皮膜は非常に透過性が高く、血流が豊富であり、吸収のための非常に広い表面があるため、吸収は実質的には製剤が肺の肺胞へと送達されるのと同様に迅速である。例えば、エアロゾルは、圧力包装された定量噴霧式吸入器(MDI)から送達され得る。
【0158】
医薬組成物は一般に、選択された吸入方法および標準的な薬学的実務に関して選択される好適な薬学的賦形剤、希釈剤または担体との混合物で投与されるはずである。
【0159】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは乾燥粉末組成物として提供され、任意には少なくとも1つの微粒子状の薬学的に許容できる担体と共に提供され、担体は薬学的に許容できる担体として知られる1つ以上の物質であり得、好ましくは乾燥粉末吸入用組成物中の担体として知られた物質、例えば単糖類、二糖類、多糖類および糖アルコールを含む糖類、例えばアラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、スターチ、デキストラン、マンニトールまたはソルビトールから選択される。代表的な実施形態では、担体はラクトース、例えばラクトース一水和物または無水ラクトースである。
【0160】
いくつかの実施形態では、乾燥粉末は、乾燥粉末吸入用装置(これは単回用量または多回用量装置であってよい)における使用のためのカプセル、例えばゼラチンもしくはプラスチックカプセル中に、または発疱薬(blisters)(例えばアルミニウムまたはプラスチックの発疱薬)中に単位用量として含まれ得、好ましくはカプセルあたりの粉末の総重量を5mgから50mgにする量の担体と一緒に用量単位中に含まれ得る。あるいは、あるいは、乾燥粉末は、送達用に適合された多剤式乾燥粉末吸入(multi-dose dry powder inhalation)(MDDPI)装置内のリザーバー中に含まれ得る。
【0161】
水性の担体には、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含み、これには生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水溶液などの緩衝液、水、油/水型エマルジョンなどのエマルジョン、各種湿潤剤、滅菌溶液などを含む。係る担体を含む組成物はよく知られた従来的な方法によって製剤化され得る。好適な担体には、IL-18アンタゴニストと組み合わせた際に生物学的活性を保持する任意の物質を含む。
【0162】
経粘膜投与用の調製物には、滅菌水性溶液または滅菌非水性溶液、乾燥粉末製剤およびエマルジョンを含み得る。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油およびオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルである。水性担体には水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含み、これには生理食塩水および緩衝液を含む。経粘膜用ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル、または不揮発性油を含み得る。保存料およびその他の添加物もまた存在してよく、これには、例えば抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなどを含む。加えて、医薬組成物は例えば、好ましくはヒト由来の、血清アルブミンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質性担体を含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、医薬組成物はまた放出制御型組成物、すなわち組成物中の活性成分が投与後に一定時間にわたって放出される組成物として投与され得る。放出制御型または持続放出型組成物には、親油性デポ(depot)(例えば脂肪酸、ワックス、油)中の製剤を含む。別の実施形態では、組成物は即時放出型組成物、すなわち組成物中の全ての活性成分が投与後するに放出される組成物である。好適な製剤のさらなる例はWO2006/085983において提供され、ここに本明細書の一部として参照によりその全内容を援用する。例えば、医薬組成物はリポソーム製剤として提供され得る。リポソーム懸濁液を形成する技術は当分野でよく知られている。採用される脂質層は任意の従来の組成の脂質層であってよく、コレステロールを含むかまたはコレステロールを含まなくてもよい。リポソームは、標準的な超音波処理または均質化技術の使用によって大きさを減少させる事ができる。医薬組成物を含むリポソーム製剤は、凍結乾燥して、リポソーム懸濁液を再生成するために水などの薬学的に許容できる担体を用いて再構成し得る凍結乾燥物を生成する事ができる。
【0164】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、溶解または可溶化形態のIL-18アンタゴニストを含む「すぐに使用できる」製剤であって、そのままで、または薬学的に許容できる(例えば、静脈内)希釈剤でさらに希釈して使用する事が意図される。しかし、いくつかの実施形態では、医薬組成物は好適な溶媒に溶解されて液体製剤を提供するために、固体、例えば凍結乾燥物として提供され得る。
【0165】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニスト(例えば、タンパク質)は塩形態、すなわち薬学的に許容できる塩であり得る。例えば、IL-18アンタゴニストは酸性塩または塩基性塩の形態であり得る。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは中性塩の形態である。
【0166】
薬学的に許容できる塩は薬学的に許容できる塩基付加塩および酸付加塩を含み、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩、スルホン酸塩などを含む。酸付加塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸付加塩、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩(arylsulfonate)、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸付加塩を含む。金属塩の例は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などである。アンモニウム塩の例は、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などである。有機アミン付加塩の例は、モルホリンとの塩、ピペリジンとの塩である。アミノ酸付加塩の例は、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジンとの塩である。スルホン酸塩は、メシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩を含む。
【0167】
本明細書で言及する「薬学的に許容できる」とは、本発明の方法または本発明の使用において使用されるその他の成分と適合し、レシピエントにとって生理学的に許容できる成分を指す。
【0168】
本明細書で使用する場合、「有効量」および「治療有効量」という用語は、IL-18の活性を阻害する事によって(上記に規定するように、直接的または間接的に)、所望の治療効果または生理学的効果または結果を提供する、十分な量のIL-18アンタゴニストを意味する。加えて、効果とはウイルス性呼吸器感染症(例えば、COVID-19)の症状、関連する状況および/またはそれに起因する合併症またはその徴候の改善であり得る。望ましくない効果、例えば副作用はしばしば所望の治療効果に付随して発現する、そのため当業者は、適切な「有効量」とは何かを決定する際に、潜在的なリスクに対する潜在的な利益のバランスをとる。
【0169】
必要とされるIL-18アンタゴニストの正確な量は、対象の年齢および全身の状態、投与様式、体重、体表面咳、性別、同時に投与されるその他の薬剤などの多数のパラメーターに依存して、対象ごとに異なるだろう。よって、正確な「有効量」を特定する事は不可能であり得る。しかし、任意の個人の場合における適切な「有効量」は、当業者によって日常的な実験によって決定され得る。
【0170】
有利には、対象における遊離IL-18の量は、上記のように当分野において日常的であるアッセイ、例えば免疫アッセイを使用して決定され得る。遊離IL-18の量は、対象に投与されるべきIL-18アンタゴニストの量を決定するために使用され得る。
【0171】
よって、いくつかの実施形態では、処置方法は以下の工程:
(i)対象から得た血液サンプル中の遊離IL-18の量をアッセイする工程
(ii)血液サンプル中の遊離IL-18の量に基づいて対象に投与されるべきIL-18の量を決定する工程、を含み得る。
【0172】
上記の工程(ii)は、上記の本発明の係る処置のための対象を選択もしくは同定するための方法、または上記の本発明の係る処置に対する対象の適正を決定する方法の一部として行われ得る。
【0173】
よって、IL-18アンタゴニストは任意の好適な用量で対象に投与され得る。
【0174】
本発明の1つの実施形態がタンパク質性アンタゴニスト(例えば、IL-18結合タンパク質またはIL-18もしくはその受容体に対する抗体)の使用に関する範囲において、有効量は約10μg/kg体重から約20mg/kg体重のアンタゴニスト、例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90、100μg/kg体重、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000μg/kg体重または2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20mg/kg体重のアンタゴニストを含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の処置は、IL-18アンタゴニストの組合せ、例えばIL-18結合タンパク質およびIL-18またはIL-18Rに対する抗体、を利用してもよい。係る組み合わせ療法において、上記の量は各アンタゴニスト剤について使用され得る。
【0176】
BSA(体表面積)は、例えばMostellerの式(√([高さ(cm)x体重(kg)]/3600))を使用して計算され得る。必要であれば、これは平均的な成人の換算係数0.025mg/kg=1mg/mBSAを用いて、mg/kgに換算され得る。
【0177】
よって、いくつかの実施形態では、タンパク質性アンタゴニスト(例えば、IL-18結合タンパク質またはIL-18もしくはその受容体に対する抗体)は約0.4mg/mBSAから約80mg/mBSAのアンタゴニスト、例えば約0.4、0.8、1.2、1.6、2.0、2.4、2.8、3.2、3.6、4.0mg/mBSA、4、8、12、16、20、24、28、32、36、40mg/mBSAまたは80、120、160、200、240、280、320、360、400、440、480、520、560、600、640、680、720、760または800mg/mBSAのアンタゴニストの有効量で投与され得る。
【0178】
IL-18アンタゴニストの投与レジメンは、主治医および臨床的要因によって決定されるだろう。医療技術においてよく知られるように、任意の対象についての用量は、対象の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間および経路、全身の健康状態および同時に投与されるその他の薬剤を含む多くの要因に依存する。
【0179】
例として、本発明のいくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは毎日、または2~3日に一度投与される。いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは少なくとも3日間、例えば3、4、5、6、7、8、9 10日またはそれ以上(例えば、20、25、30日またはそれ以上)投与され得る。この投与は、1サイクルであるか、または複数サイクルの合計であり得る。
【0180】
本明細書で言及する場合、「サイクル」とは特定の処置レジメンが適用される期間であって、一般には繰り返されて臨床処置を提供する。各サイクルにおける処置は同じであるかまたは異なり得る(例えば、異なる用量、タイミング等が使用され得る)。いくつかの実施形態では、1サイクルは3~6または3~12日の長さであり、例えば、3、4、6、9または12日サイクルである。いくつかの実施形態では、1サイクルは約1~6週、すなわち約1~6、例えば、1~4または1~3週間、例えば約1または2週間にわたって毎日投与し得る。いくつかの実施形態では、サイクルは少なくとも1回繰り返される。したがって、複数回のサイクルが使用され、例えば少なくとも2、3、4または5サイクル、例えば、6、7、8、9または10サイクル(例えば、10、20、30サイクルまたはそれ以上)が使用され得る。
【0181】
いくつかの実施形態では、処置サイクルは、処置中のブレイク、例えばIL-18アンタゴニストの毎日の投与が無い期間によって区切られてもよい。いくつかの実施形態では、サイクル間の期間は少なくとも1日、例えば2、3、4日またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、サイクル間の期間は少なくとも1週間、例えば2、3、4週間またはそれ以上である。
【0182】
しかし、いくつかの実施形態では、第2のまたは後続の処置サイクルは第1のまたは前のサイクルに直ちに続き得る。例えば、第1サイクルの日用量の3回目が3日目±1日に投与された場合、第2サイクルの日用量の初回は4日目±1日に投与され得る。
【0183】
本発明のいくつかの実施形態では、患者は本発明の処置の前に、同時期に、またはその後にその他の処置の対象となり得る。例えば、いくつかの実施形態では、患者は、ウイルス性呼吸器感染症に関連する症状の処置のための他の工程、例えば当技術分野で知られた工程に従う補助換気によって処置され得る。
【0184】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストは、ウイルス性呼吸器疾患と関連する症状またはその他の基礎疾患、例えばメタボリックシンドローム、CAD、高血圧症などの処置のためのその他の治療剤と組み合わせて投与され得る。
【0185】
よって、いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストを含む医薬組成物は1つ以上の追加の治療剤を含み得るか、または1つ以上の追加の治療剤と共に投与するためのものであり得る。
【0186】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストを含む医薬組成物は、ウイルス感染症の処置に有用なさらなる治療剤、すなわち抗ウイルス剤を含むか、または共に投与され得る。例えば、オセルタミビル(oseltamivir)とザナミビル(zanamivir)はインフルエンザの治療に有効である。多くのRNAおよびDNAウイルスの複製を阻害するグアノシン類縁体であるリバビリン(Ribavirin)は、RSVによる下気道感染症を患う患者の処置おける有用性が見出され得る。RSV融合タンパク質に対するモノクローナル抗体であるパリビズマブ(Palivizumab)は、RSV感染症を処置するためのものであり得る。好適な抗ウイルス剤はウイルス感染に基づいて選択され得る。
【0187】
いくつかの実施形態では、IL-18アンタゴニストを含む医薬組成物は、呼吸困難(shortness of breath)などの感染症の症状の処置において有用なさらなる治療剤を含むか、または共に投与され得る。例えば、さらなる治療剤は、吸入気管支拡張剤(inhaled bronchodilator)および/またはコルチコステロイドであり得る。例えば、IL-18アンタゴニストを含む医薬組成物は、フォルモテロール(formoterol)などの長時間作用性β-アドレナリン受容体アゴニスト(LABA)、および/またはベクロメタゾン(beclomethasone)などのステロイドを含むか、または共に投与され得る。
【0188】
その他の治療剤は、混合物の形態で、既にIL-18アンタゴニストを含む同じ組成物の一部であり得、ここでIL-18アンタゴニストおよびその他の治療剤は、同じ薬学的に許容できる溶媒および/または担体中で、またはそれと混合されてよく、または、別々の組成物の一部として別々に提供されてもよく、部品のキットの形態で別々にまたは一緒に提供されてもよい。
【0189】
よって、IL-18アンタゴニストは、別々に、同時に、または逐次的に、その他の治療剤と付随して投与され得る。例えば、IL-18アンタゴニストは第1の追加の治療剤と同時に投与され得るか、または当該第1の追加の治療剤の投与後または投与前に逐次的に投与され得る。処置レジメンまたはスケジュールが1以上の追加の治療剤を使用する場合、各種の剤は様々な組み合わせで部分的に同時に、または部分的に逐次的に投与され得る。
【0190】
よって、いくつかの実施形態では、本発明は、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病またはその組み合わせを有する対象におけるウイルス性呼吸器感染症の処置における使用のためのIL-18アンタゴニストであって、別の治療剤(例えば、抗ウイルス剤、気管支拡張剤、ステロイドなど)との組み合わせ物において、別々、同時、または逐次的投与のためのIL-18アンタゴニストを提供する。
【0191】
別の観点では、本発明の方法は、前述の対象に別の治療剤(例えば、抗ウイルス剤、気管支拡張剤、ステロイドなど)を投与する事をさらに含み、ここで当該治療剤は、本明細書で規定するIL-18アンタゴニストと別々に、同時に、または逐次的に投与される。
【0192】
IL-18アンタゴニストと組み合わせて使用するための治療剤は、上記に規定する医薬組成物において提供され、前記に規定するように投与され得る。よって、追加の治療剤を含む組成物は、係る製剤について好適な薬学的に許容できる賦形剤、溶媒および希釈剤を含み得る。
【0193】
当業者は、任意の所与の追加の治療剤について好適な用量範囲を知るはずである。好ましい実施形態では、追加の治療剤は、その典型的な用量範囲で、医薬組成物中に存在するか、または対象に投与される。
【実施例
【0194】
実施例1-COVID-19の免疫学的モデル
SARS-CoV2による感染は、2つの段階を有すると説明されており、大部分の人は第1段階のみを経験する。第1段階はインフルエンザ様の症状からなり、患者は断続的な発熱、倦怠感および新たに発生する連続的な咳を訴える。第二段階は症状がでてから5~7日後から始まり、突然起こる呼吸困難が特徴であり、次第に悪化する。患者が通常病院に入院するのはこの段階である。集中治療において侵襲的換気を必要とするこれらの患者は、人口統計学的な特徴だけでなく臨床症状においても非常に類似する事が指摘されている。英国、サリー州の東サリー病院(East Surrey Hospital,Surrey、UK)では、集中治療支援を必要とする患者は、典型的には1つ以上のメタボリックシンドロームの状態を持つ中年から高齢の男性である。民族性も共通の特徴として指摘されており、黒人と少数民族(BAME)が不均衡に多い。生化学的症状には、リンパ球減少症、高フェリチン血症、および記録不可能な高CRPレベルが含まれ、スパイク熱、低体温症、および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)からなる臨床的特徴がある。一部の患者は肝不全、腎不全、または脳症を発症する可能性があり、多くの患者は制御不能な高血圧症を示す。
【0195】
上記の観察は広く認識されているが、その根本的な理由は認識されていない。以下に記載するCOVID-19の免疫病理学のモデルは、COVID-19特異的なデータの主要な流れ、組織病理学的部検分析、気管支肺胞洗浄液のトランスクリプトームおよび免疫分析、ならびに末梢血フローサイトメトリー分析に基づく。このCOVID-19免疫病理学の固有モデルによって、驚くべきことに、IL-18活性の遮断がCOVID-19などのウイルス性呼吸器感染症を患う対象、特に後天的自然免疫不全を持つ対象(すなわちIL-18BP、NK細胞および/または機能性NK細胞の不全を持つ対象)、例えばメタボリックシンドローム、冠動脈疾患、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病またはその組み合わせを患う対象の処置において有用である事を解明できた。
【0196】
COVID-19特異的データの主要な流れの概説
一連の研究に渡る組織病理学的分析3、4、5、6、7、8は、類似または非類似の特徴を明らかにした。類似する特徴は、びまん性肺胞疾患、肺胞浮腫、およびタンパク性滲出液の存在を含み、ヒアリン膜の形成があり、これらはすべてARDSを示唆する。炎症細胞組織浸潤の程度については全く認められない論文1、5と、少量から中程度の論文2、3、4とに分かれるが、多核合胞体細胞および剥離した、および肥大したII型肺細胞を伴うか、または伴わない肺胞腔(alveolar air space)中の単核炎症細胞は、すべての研究において確実に報告されている。特に興味深いことは、複数の研究において散在するCD8+細胞の相対的な少なさと比較して、CD4+Tリンパ球の浸潤が優勢である事4、6が言及されている事である。加えて、COVID-19の患者10人の脾臓の部検分析は、壊死や変性の徴候と共にリンパ球の減少が確認され、これはウイルスの回避機構として、リンパ球に対するウイルスの潜在的な細胞変性効果を示唆する
【0197】
6人のCOVID-19陽性患者(3人は重症;3人は軽症)の気管支肺胞洗浄液(BALF)免疫分析10は、2つの主要な発見を実証する。1つ目は、軽症者および健康なコントロールに比べて、重症者では、単球由来型から線維化促進型および肺胞マクロファージ型へのマクロファージ集団の変化を伴ってマクロファージのクローンが大量に拡大する事である。2つ目はCOVID-19の軽症では重症に比べてCD8+T細胞が優勢であり、重症ではCD4+T細胞(調節性T細胞、増殖細胞、およびCCR7+細胞)の活性化がより大きいことに関するものである。注目すべきは、軽症のCOVID-19疾患におけるCD8+T細胞の50%以上が、繰り返される抗原提示による、SARS-CoV2特異的細胞障害性T細胞を示すと思われる拡大クローンであった事である。これらのクローン性CD8+T細胞の増幅指数は、軽症COVID-19の3例全てにおいて重症例に比べて顕著に高く、このことから、本発明者らは、初期の、および急速な特異的CD8+T細胞の拡大が、ウイルス複製および活性の抑制において重要であると推察した。RNA-seq処理によるBALFおよび末梢血単核細胞(PBMC)のトランスクリプトーム分析11によってCOVID-19感染に特異的に上方制御される遺伝子を特定すると、「サイトカインストーム」型の像が明らかになり、これは上記の脾臓の部検分析とは反対にウイルスでの測定値(viral reading)がBALFでは高く、PBMCでは値が出なかった。その代わりに、PBMCはアポトーシスシグナル伝達経路遺伝子p53の顕著な上方制御の証拠を示した。まとめると、これらの発見は、プラグラム細胞死は、臨床的に観察されるリンパ球減少の主要な原因でもあり得、疾患の重症度を予測し得る12
【0198】
SARS-CoV2陽性患者の末梢血細胞のフローサイトメトリー分析13から、入院中に、軽症者は、健康なコントロールと比較してCD8+T細胞数の減少およびナチュラルキラー(NK)細胞数の保持によって特徴づけられる事、一方で重傷者は両者の減少によって特徴づけられる事が見出された。加えて、NK細胞の機能不全も見られ、COVID-19患者におけるIFN-γおよびグランザイムBの放出は健康なコントロールと比較して顕著に少なかった。細胞分析と臨床転帰を相関させた縦断的なフローサイトメトリー分析14は、軽症例とは反対に、重症例では発症3日目以前および7~9日目時点でのCD8+T細胞の減少が有意水準に達し、CD4+細胞、CD3+細胞およびNK細胞は分析期間を通じて非有意的に減少することを見出した。これはさらに延長した分析によって確かめられ15、ここでは発症10日目が重要な時点であることを見出し、リンパ球減少および臨床的な重症度の両者の程度に応じて患者を軽症、中等症および重症の3群に分類する。重症で死亡した患者は、その発症13日目以降、持続的に5%未満のリンパ球減少を示し、回復した重症例ではリンパ球の数値が9%未満への落ち込みを示す事はなかった。感染初期以降の、特定のリンパ球サブセットの分析はTh1応答を確認した16、17。重症者のCD4+Th1細胞は、GM-CSF、IL-6およびIFN-γの異常な共発現を示し、CD8+T細胞も高いレベルのGM-CSFの発現を示す。係る患者の末梢血単球は、高炎症状態の徴候であるCD14とCD16を共発現しており、これはTh1活性化によって誘導されるサイトカイン環境によるその活性化を示している。特に注目すべきことは、これらの単球はGM-CSFおよびIL-6の両方を分泌する事が可能である事である。よって、CD4+Th1細胞はGM-CSFおよびIL-6を分泌して末梢血単核細胞を誘引し、マクロファージとして肺を侵襲して、上皮障害およびARDSを仲介する一方で、単球もGM-CSFおよびIL-6を分泌して骨髄造血を刺激し、さらなる単核細胞を誘引する。
【0199】
これらの証拠の流れをまとめると、比較的一貫した像が現出する:重症の疾患は、NK細胞およびCD8+T細胞の枯渇と機能消耗、それに続くTh1応答によって特徴づけられるが、軽症の疾患は、NK細胞の数と機能は維持され、CD8+T細胞の活性化が軸(pivot)となることが特徴である。NK細胞とCD8+T細胞はウイルスの排除に不可欠であるため、これは理にかなっている。しかし、これらの事実をその正しい文脈に置くためには、ウイルスに誘導される炎症の過程を理解することが必要である。
【0200】
NK細胞の機能不全は、不十分なウイルス制御を支える
NK細胞は、細胞障害性T細胞応答のピークにさえ先行する防御の第一線を構成する。NK細胞は細胞に直接結合して溶解する事が可能であり、活性化ナチュラルキラー細胞受容体(aNKR)および抑制性ナチュラルキラー細胞受容体(iNKR)からの入力の統合によってそうするように活性化され、標的細胞の溶解を刺激するにはiNKRの消失で十分な場合がある18。iNKRは主要組織適合性クラス1(MHC-I)ヒト白血球抗原(HLA)A、BまたはCのサブセットから構成され、一方aNKRは、2つの主要な群:UL-16結合タンパク質(ULBP)およびMHC-I関連鎖(MIC)タンパク質などのNKG2D受容体;ならびにナチュラル細胞障害性受容体(NCR)NKp30、NKp44、NKp46から構成される。ウイルスに応じたNK細胞の活性化は極めて重要であり、細胞傷害性T細胞応答とその後の適応応答が立ち上がるための時間を稼ぐ。
【0201】
ウイルスの制御におけるNK細胞の重要性は、マクロファージ活性化症候群(MAS)において前面に現れる。MASは二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)の一形態であり、一次性または「家族性」HLHはパーフォリン展開における遺伝子欠損によって引き起こされる19。抗原提示細胞(APC)へのパーフォリン挿入は、NK細胞やCD8+T細胞がウイルス感染細胞を排除するための重要な手段である。いくつかの遺伝子欠損は、孔形成(PRF1)に関し、いくつかは小胞プライミング(UNC13D)、小胞融合(RAB27A)、小胞ドッキング(STX11)、またはその他パーフォリン送達および放出に関連する機能に関する。この重要な経路の破綻は、継続的に抗原の挑戦を受け続けているにもかかわらず、NK細胞やCD8+T細胞はAPCを破壊することができないことを意味する。超-抗原提示の結果として、インフラマソームが活性化されるが、その理解は、本明細書に記載するIL-18介在性の病態のモデルを理解する上で重要である。
【0202】
重症COVID-19疾患に伴う死亡危険因子の1つは、あるレトロスペクティブな研究20で、年齢の増加であることが明らかにされている。この研究では、メタボリックシンドロームの特徴、特に高血圧(48%対23%)、糖尿病(31%対14%)および冠動脈疾患(24%対1%)の発生率において、COVID-19で生存しなかった人と死亡しなかった人の間に顕著に差があることも明らかになった。NK細胞は、加齢によって、またメタボリックシンドロームの状態でも損なわれる。加齢に伴い、NK細胞の細胞傷害能およびサイトカイン分泌能の両方が低下する21。循環遊離脂肪酸レベルが高いことで特徴づけられるメタボリックシンドローム状態では、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)に駆動される脂質の蓄積の結果として、mTOR介在性の糖分解(glycloysis)の破綻を経て、NK細胞は「リプログラミング」される22。酸化的リン酸化からmTOR介在性の糖分解への切り替えが成功する事がNK細胞の活性化および、NK細胞標的シナプスへの細胞障害性機構の輸送といった関連機能に必要であり23、NK細胞のミトコンドリアへの脂質の輸送を阻害すると、細胞障害機能が回復するため、これは重要である。このことは、COVID-19の重症例が、アフリカ系およびインド-パキスタンのアジア系の背景を持つ個体に偏っているという人口統計学的観察を説明することができる。なぜなら、これらの群は特に腹部に脂肪組織を蓄積し、ヨーロッパ系の人々と比べて低い肥満レベルでも糖尿病になる傾向が大きいためである24。糖尿病の原因となる脂肪が増えると、血中の遊離脂肪酸レベルが上がり、NK細胞への脂肪酸の蓄積が進み得る。その結果、重症のCOVID-19病においてすでに証明され、引用されているように、NK細胞の増殖と機能の不全が起こり得る。
【0203】
NK細胞不全がCD8+の疲弊と機能減退を促進する一つの特定の方法は、NK細胞が果たす免疫調節の役割によるものである。直接的な抗ウイルス作用に加えて、NK細胞は、ウイルス感染に応答して、CD8+T細胞集団と機能を維持し、急激な消耗を防ぐことによって、免疫調節の役割も果たし得る。これは、リンパ球性絨毛膜炎ウイルス(LCMV)アレナウイルス、ピチンデウイルス、コロナウイルスマウス肝炎ウイルスから、ウイルス感染症の一般原理として2012年に優美な形で証明された25。このチームは、NK細胞がウイルス感染時に活性化CD4+細胞を直接溶解する事を示した。CD4+の共刺激が効果的なCD8+応答に必要であるため、結果としてCD8+応答は減弱する。ウイルス量が多い場合、急性ウイルス感染に対する応答を長引かせ、機能消耗やサイトカインストームをもたらす、二次的に起こるCD4+およびCD8+T細胞の過剰刺激による致命的な免疫病理学的症状無しに最終的にそれを除去するのに役立つため、これは重要である。ウイルス量が適度であれば、NK細胞のこの作用は宿主の応答に有害であるが、ウイルスの量は致命的となる程多くない。このように、NK細胞は宿主の自然応答を免疫調節するように働き、抗ウイルス活性と免疫病理のバランスをとる。
【0204】
NK細胞はまた直接的にCD8+T細胞を溶解し、特に後者が特に後者がウイルスに感染し、iNKRインターフェロンI活性化受容体(IFNAR)を下方制御する場合にそうする事が知られている26が、これは、証明されたように、とりわけ重症COVID-19は早期のNK細胞の枯渇および機能不全の両者に特徴付けられるため、重症COVID-19におけるCD8+T細胞枯渇の主な原因である可能性は低い。したがって、重症COVID-19では、NK細胞によるCD4+T細胞の制御の失敗がCD8+T細胞の機能消耗と枯渇の中核をなしている可能性がより高い。
【0205】
よって、加齢やメタボリックシンドロームの状態に起因するNK細胞の細胞傷害活性の不足の結果、ウイルスの制御はより不十分になる。ウイルスの逃避は、繰り返される抗原刺激と、抑制されない(unopposed)インフラマソームの活性化をもたらす。
【0206】
インフラマソーム-NK細胞相互作用は遊離IL-18を調節する
インフラマソームは、傷ついた細胞または死にかけた細胞が放出する、細菌またはウイルスの「病原体関連分子パターン」または「危険関連分子パターン」を認識した際に、樹状細胞およびマクロファージから放出されるインターフェロン(IFN)によって活性化される細胞質多タンパク質複合体である。インフラマソームには様々な種類があり、ピリン-ドメイン含有センサー(NLRP3、AIM2、ピリン)並びにカスパーゼ活性化および動員ドメイン(CARD)含有センサー(NLRC4、NLRP1b)に分類される27。インフラムソームは、ATP、細菌毒素、ウイルスのDNAまたはRNA、カリウムの流出、カルシウムの流入、さらには様々な種類の結晶など、多様な入力によって刺激される。さらに、高浸透圧という形の浸透圧ストレスも、NLRP3およびNLRC4インフラムソームの両方を誘発することが分かっている28。よって、インフラマソームは多岐にわたる細胞ストレス事象を表す多様な入力によって活性化される。インフラマソームは、細胞の膨張と破裂を引き起こすことでパイロトーシス性(pyroptotic)細胞死を誘導する、孔を形成するガスダミンD(GSDMD)の挿入に加えて、カスパーゼ1の活性型サブユニット(p10とp20)によってIL-18とIL-1βがプロ型から活性型に切断される事で終わる。中でも最もよく研究されているインフラマソームの2つがNLRP3とNLRC4であり、NLRC4の変異は、遊離IL-18を無制限に産生し、抑制されないToll様受容体9(TLR9)の活性化を介して、広範囲に炎症を引き起こすことが示されている。
【0207】
IFN-γは、マウスモデルと同様に、ヒトにおいてもIL-18BP転写の必須プロモーターである可能性が有るため、IL-18の影響下でのNK細胞からのIFN-γの放出は負のフィードバックループを構成する29。中等症または軽症例と比較してCOVID-19の重症例ではIFN-γのレベルは低いか同程度であった事30、およびCOVID-19患者のNK細胞における細胞内IFN-γのレベルは健康なコントロールと比較して顕著に低下している事31を考慮して、本発明者らは、重症型においてはるかに大量のIL-18が放出された際に、十分な量のIL-18BPの放出を引き起こすためにはIFN-γが十分に刺激されないと仮定している。その結果、IL-18が過剰に放出されない場合でも、主にその結合タンパク質の産生が崩壊するために、遊離IL-18レベルが高くなるであろう。
【0208】
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【0209】
実施例2-COVID-19を患う対象における遊離IL-18の評価
実施例1において議論されたCOVID-19の免疫学的モデルは、遊離IL18が重症型COVID-19の病因において重症な役割を果たし、および重症型の疾患を予防または処置するための新規の薬剤標的の基礎を形成することを指摘する。この仮説を調査するために、2020年10月9日から2021年1月9日の間に、英国、サリー州の東サリー病院(East Surrey Hospital,Surrey、UK)において、COVID-19の患者における疾患の重症度のすべてのレベルでの遊離IL18のレベルに関する研究が実施された。
【0210】
上記のように、IL18は内因性のリガンド:IL-18結合タンパク質(IL18BP)によって調整される。IL18BPは単核細胞によって構成的に産生され、および通常は2.5ng/mlの濃度で循環中に存在する。IL18BPはIL18に対する高い親和性を有し、その生物学的活性を効果的に抑制する。よって、循環中の内因性リガンドに結合していない遊離IL18のみが、このインターロイキンの生物学的活性型を構成する。これはIL18を測定しようとする研究にとって重要な点である;結合しているタンパク質の測定無しに、よって全IL-18における遊離部分を測定する事無しに、生物学的に活性なIL18レベルの本当の実態を知ることはできない。
【0211】
方法
概要
2020年10月9日から2021年1月9日の間に、英国、サリー州の東サリー病院にCOVID-19で入院した18歳以上の272人のルーチンの臨床血液検査から余剰血液サンプル(合計947)を縦断的に収集した。
【0212】
併存疾患データ(糖尿病および高血圧症に関する)および、60日死亡率および入院中に検出された最低PF比(PaO2/FiO2)によって決定される死亡率データを272人全員について本明細書に提示する。BMIは272人中146人のみ取得可能であった。遊離IL18の結果は、272人中116人の患者から無作為に抽出された、全947の血液サンプルのうち211のサブセットから、疾患の重症度ごとに提示されている。
【0213】
データ収集
0.5ml~1mlの余剰血液をEDTAおよび血清サンプルから分注した。EDTAおよび血清サンプルが同じ採血事象から得られる場合には、両者をサンプリングして保存した。サンプルの遠心分離は少なくとも30分間静置した後行った。遠心分離後の分注サンプルを直ちにラベリングし、-75°Cでサンプルを保存した。何れのサンプルにおいても分注と分析の間に解凍時間はなかった。
【0214】
サンプル分析に加えて、各患者の年齢、性別ならびに糖尿病および高血圧症に関する併存疾患プロファイルを記録し、併存疾患スコアを算出した(0=糖尿病または高血圧症なし;1=糖尿病または高血圧症;2=糖尿病および高血圧症)。個々の採血事象において、リンパ球数、リンパ球減少率、好中球:リンパ球比、CRP値、フェリチン値などの生化学的特徴を記録した。各採血事象において、以下の酸素化パラメーターを記録し、重症度を評価した:急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の重症度に関するベルリン基準によるPF比(Pa02/Fi02)、および酸素吸入法(自発的、鼻カニューレ、フェイスマスク、高流量経鼻酸素{HFNO}、連続または二相性陽圧換気(bi-level positive airway pressure){CPAP/BIPAP}、挿管)。PaO2が使用できない場合、文献にある等式(Sa02/Fi02=29.6+1.09{Pa02/Fi02})に従い、酸素飽和度(Sa02)の記録から算出した。集中治療において挿管された患者については、支持臓器数(バソプレッサー使用、呼吸補助、腎代替療法)、腎代替療法必要量、換気パラメーター(吸気ピーク圧{Pinsp}および呼吸終末陽圧(positive end-expiratory pressure){PEEP})、換気日数、集中治療日数を追加記録した。
【0215】
サンプル分析
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析前にサンプルを室温で解凍した。全IL18はEDTAサンプルから分析した(Human total IL-18/IL-1F4 Quantikine ELISA kit、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA);IL18BPはEDTAサンプルからから分析した(Human IL-18BPa Quantikine ELISA kit、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)およびIL18-BP-複合体は血清サンプルからから分析した(Human IL-18/IL-18BPa Complex DuoSet ELISA、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA;DuoSet ELISA Ancillary Reagent Kit 2、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)。分析されたEDTAおよび血清サンプルは常に同じ採血事象から得たものである。ELISA法は、各キットの製品データシートに記載されているELISAプロトコルに従って実施した。
【0216】
統計分析
全IL18、IL18BPおよびIL18-BP-複合体のレベルは上記の方法を使用して測定し、および遊離IL18のレベルは、0.05のKdを用いて、Novick et al.(Cytokine.2001 Jun 1;14(6):334-42)に詳述される質量作用の法則に従って計算した。統計分析はRを使用して行った。
【0217】
結果
人口統計学および併存疾患
272人全ての患者の人口統計学的分析は興味深い結果を明らかにした。
【0218】
第1に、疾患の重症度の全てのカテゴリー間で年齢は比較的均等に分布していた(図1)。男性と女性の年齢においては顕著な差はみられず、そのためここには示していない。
【0219】
第2に、図2に示すように、COVID-19の軽症者(最低PFR>300)と中等症者(300<最低PFR<150)では、併存疾患スコアが0および1にあたる患者の割合に顕著な差はないが、最も重症の患者(最低PFR<150)では非常に大きな差があり、重症者で糖尿病または高血圧(併存疾患スコア=1)を持つ割合が顕著に増加する。
【0220】
疾患重症度と(最低PFR)および死亡率の関係(図3)は、予測通りの傾向を明らかにする:60日死亡率(「Y」)は軽症(最低PFR>300)から重症に行くにしたがって増加し、その差は42.27%であった。60日死亡率および基礎併存疾患の関係(図4)に注目して、本発明者らは重症者(最低PFR<150)の死亡率上昇の主因は高血圧症であることを見出した。図4は、中等症(最低PFR300-150;47.54%;p=0.0065)および重症COVID-19疾患(最低PFR<150;45.71%;p=0.03)の患者において、疾患の60日目における死亡者と生存者の間で、高血圧症を併存疾患として有する患者の割合に大きく且つ有意な違いがあることを明らかする。
【0221】
最後に、BMIは、最も重症な疾患カテゴリーの患者と疾患重症度が軽症の患者(p=2.161x10-06)および中等症の患者(p=0.023)の間で重要かつ有意な差を示した(図5)。軽症者のBMIの平均値は25以下であったが、重症者では30以上であった。図6は、60歳を閾値とした2つの年齢カテゴリーによるBMIの内訳を明らかにしたものである。図6に示すように、軽症の(入院中ではあるが)、BMIが高い患者が若年層で多く存在し、このカテゴリーの平均BMIを押し上げていることを明らかにする。
【0222】
遊離IL18および疾患重症度
重症度のマーカーとしての酸素吸入法に対して評価した遊離IL18は、主要な群間で顕著且つ高い統計学的有意な差を明らかにした(図7)。COVID-19で入院したが酸素補助無しで呼吸ができる患者(「S」-self)、または鼻腔カニューレを用いた4L/分以下の最小限の酸素補助を必要とする患者(「NC」)はそれぞれ44.01pg/mlおよび44.15pg/mlの平均遊離IL18レベルを示したのに対し、挿管された患者(「I」)は71.31pg/mlの平均遊離IL18レベルを示した(p=0.00022 S対I; p=0.008)。同様に、高流量経鼻酸素(HFNO)の使用によってあらわされる緊急酸素補助を受ける患者は73.54pg/mlの平均遊離IL18レベルを示した(p=0.0018 S対HFNO;p=0.023 NC対HFNO;グラフ上には示していない)。
【0223】
考察
本明細書に示すデータは、高レベルな酸素補助(「HFNO」または「I」)を必要とする患者は、最小限の補助(「S」または「NC」)を必要とする患者と比べて、な遊離IL18レベルにおける高度に統計的に有意な上昇を示す。これはウイルス性呼吸器肺炎の処置モダリティとしての遊離IL18の遮断を支持するよい証拠を提供する。
【0224】
併存疾患および死亡率
本発明者らのデータは、既存研究との整合性をもって、メタボリックシンドロームと関連する併存疾患である高血圧および糖尿病が、COVID-19の予後不良と関連する事を示した。特に、図2は糖尿病または高血圧症ではない患者(スコア0)の割合が、最低PFRによって決定されるような中等症および重症の当該群の間で顕著に減少する事を明らかにし、これは45.31%から18.52%への減少であった。これは、糖尿病または高血圧(スコア1)の発症率の軽度群から重度群につれての漸増、軽度群での41.41%から重度群での62.96%への増加を反映している。
【0225】
より重症な疾患において見られる死亡率の上昇は、図4から明らかなように、高血圧性疾患との顕著な関連性を示す。フィッシャーの正確確率検定を用いると、その疾患経過の60日目までに死亡した患者と生存した患者のうち、高血圧症患者の割合が、中等症群と重症群の両方で顕著に異なる事を見出し得る。その差の大きさも顕著である(中等症:86.67%対39.13%、重症:85.41%対40%)。
【0226】
BMIは興味深い像を示し、BMIは軽症群から中等症群そして重症群へと次第に増加し、これは軽症群と重症群間および中等症群と重症群間で有意であった(図5)。年齢層(60歳を閾値として使用)によってBMIをより詳しく調べると、軽症群のBMIは高BMIの若年層が多く分布しており、上方に偏っていることがわかった。これは、年齢やメタボリックシンドロームなどの様々な危険因子の間に存在する均衡状態を示している。これらの高BMI患者は、その点では入院の危険性があるが、重症疾患から守られるのに十分に若い。さらに詳細な分析によって、60歳未満で重症の患者における、同じく60歳未満で軽症群の患者とのその併存疾患のプロファイルの違いが明らかになるかもしれない。
【0227】
遊離IL18分析
本発明者らのデータは、酸素吸入法によって表されるCOVID-19疾患の重症度と遊離IL18レベルの明らかな関係を示す。このパターンは、複数の異なる酸素吸入法の群にわたって一貫しており、NCまたはSとIまたはHFNOとの間で有意であった。
【0228】
遊離IL18についての疾患の重症度のデータの評価を、死亡率や併存疾患のデータで行ったのと同様に(図2図6)、酸素供給方法ではなくPFRを同時に用いてしなかったのはなぜか、という疑問があるかもしれない。
【0229】
その主要な理由として、人口統計学的データと併存疾患データは、947回の採血事象の全範囲にわたって、「最低PF比」について272人全員の併存疾患と死亡率の評価に関するものであって、よって疾患の重症度の包括的な評価を提供した。
【0230】
しかしながら、遊離IL18のデータは、947の全選択肢中211個、247人の全患者中116人の患者からの、無作為に選択された血液サンプルから得たものであり、そのため「最低」PFRは疾患重症度を反映しているとは限らない。実際、もし記録された「最低PFR」が遊離IL18の採血が行われる前に発生した場合、PFRは積極的に誤解を招くことになる。
【0231】
別の選択肢は、採血事象と同時のPFRであり得る。しかし、遊離IL18と同時のPFRは、選択バイアスを避けるために血液サンプルがより大規模なプールから無作為に選択されたという事実から、疾患の重症度の正確な評価を提供するものではないだろう。したがって、不完全な縦断的データセットにおける同時PFRの使用は誤解を招くであろう。PFRが高い患者において高い遊離IL18が記録され、高い遊離IL18の悪影響により、その後の数日間だけPFRが低くなり得る。係る十分な縦断的なデータセットがなければ、高い遊離IL18による、後に低いPFRを引き起こすという効果は認知されなかったはずである。同様に、人工呼吸器の長期使用による二次的なものとして、集中治療による弱体化によって依然挿管されている重症COVID-19疾患からの回復期にある患者が高いPFRを有し得る。この場合、PFRが高ければ、患者が経験した病気の重症度を明らかにするよりも、むしろ難解にすることになる。これらの理由から、酸素供給法がスナップショット値ではなく、患者の臨床経過の全体的な軌跡を表していることを考慮して、酸素供給法はより全体的な重症度の見方を提供するものと考えられた。
【0232】
無作為なサンプリングの別の重要な効果は、各異なる遊離IL18の結果は疾患の異なる時点での患者を表している事である。このことは、挿管された患者において、遊離IL18が高くは300pg/ml以上から低くは40pg/mlまで、非常に広い範囲にわたっていることを説明し得るだろう。疾患経過の異なる時点における患者ごとに遊離IL18レベルは異なり得、初期および増悪期の患者はより高い遊離IL18レベルを示し、重症疾患からの回復期の患者はより低いレベルを示す。時間経過の効果についてのこの観点はまた、平均遊離IL18レベルは低いにもかかわらず、なぜ「S」および「NC」群の患者も幅を示すのかを説明するのに役立つ。さらなる分析を行わなければ、「S」グループにおいてより遊離IL18レベルが高い人が、その採血から数日後に重大な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、「HFNO」グループや「I」群に移行するかどうかを解明することはできない。
【0233】
異なる時間経過による遊離IL18レベルへの減衰効果にも関わらず、最も高度な酸素供給を受けている患者と最低限の患者との遊離IL18レベルの差は依然として顕著であり、統計学的に非常に有意であった。縦断的に採取された947の血液サンプルのすべてについて、患者の個々の疾患の時間経過への文脈づけが完了すれば、ウイルス性呼吸器疾患の重症化を改善する新しい薬剤標的として、遊離IL18の遮断が現在よりさらに強くなるであろうと本発明者らは仮定している。
【0234】
最後に、図2、4および5で示されるように、患者の併存疾患がより重症の疾患において増加し、また、図7で示されるように、遊離IL18もより重症の疾患において統計的に有意に増加することは、特にそのような併存疾患を患う患者において、IL18アンタゴニストを用いて遊離IL18遮断を標的とする妥当な理由を提供する。
【0235】
参考文献
1. Fathi M, Vakili K, Sayehmiri F, Mohamadkhani A, Hajiesmaeili M, Rezaei-Tavirani M, Eilami O. The prognostic value of comorbidity for the severity of COVID-19: A systematic review and meta-analysis study. PloS one. 2021 Feb 16;16(2):e0246190.
図1
図2
図3
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図5
図6
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【配列表】
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【国際調査報告】