(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-23
(54)【発明の名称】車両の室内への外気供給を調節するための方法
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20230616BHJP
G01W 1/00 20060101ALN20230616BHJP
【FI】
B60H1/00 103H
G01W1/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572267
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021064421
(87)【国際公開番号】W WO2021244984
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】102020003282.6
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・ハヌシュキン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・スチューダー
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン・エッター
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA07
3L211BA12
3L211BA13
3L211DA04
3L211EA17
3L211EA59
3L211EA79
3L211FB08
3L211FB16
3L211GA04
(57)【要約】
本発明は、車両の室内への外気供給を調節するための方法であって、車両(1)の運転中に室内に配置された汚染物質センサ(2)の検出信号に基づいて室内の汚染物質負荷が連続的に決定される方法に関する。本発明によれば、車両(1)の前方の走行区間の外気の汚染物質負荷が予測され、予測された外気の汚染物質負荷に応じて外気供給が自動的に調節される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の室内への外気供給を調節するための方法であって、前記車両(1)の運転中に前記室内に配置された汚染物質センサ(2)の検出信号に基づいて室内の汚染物質負荷が連続的に決定され、前記車両(1)の前方の走行区間の外気の汚染物質負荷が予測され、予測された前記外気の前記汚染物質負荷に応じて前記外気供給が自動的に調節される、方法において、
前記車両(1)の前記外気の前記汚染物質負荷は、視覚情報に基づいて決定され、前記視覚情報は、少なくとも1つの車両側の視覚検出ユニット(3)の検出信号に基づいて決定されること、及び前記検出視覚情報から意味情報が抽出されること、を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記視覚情報に基づいて、前記少なくとも1つの視覚検出ユニット(3)の今後の検出信号において、汚染物質を放出するオブジェクト(O1、O2)を識別するためのフィンガープリントが抽出されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両(1)の周囲環境の前記視覚情報において、汚染物質を放出する移動オブジェクト(O1)及び静止オブジェクト(O2)が、意味情報として検出されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両(1)の現在位置が、継続的に測定されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出された意味情報、前記抽出されたフィンガープリント、及び/又は前記車両(1)の前記測定された現在位置に基づいて、前記室内の汚染物質負荷がターゲット変数として予測されるように、時間遅延モデルが、前記車両(1)で訓練されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
室内の高い汚染物質負荷と前記モデルによって抽出された原因との間の時間遅延が特定されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記訓練されたモデルは、中央コンピュータユニット(7)に供給されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記訓練されたモデルは、車両群の他の車両に伝送されることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の室内への外気供給を調節するための方法であって、車両の運転中に室内に配置された汚染物質センサの検出信号に基づいて室内の汚染物質負荷が連続的に決定される、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1により、実質的に外気のみに作用される汚染物質センサの信号に応じて自動車の室内の換気を制御するための装置及び方法が公知である。その場合、汚染物質の濃度に応じて、空気供給運転と空気再循環運転との間で切り替えが行われる。コンピュータを用いて、センサ信号、それぞれの運転モード(空気供給又は空気再循環)、所定の取得可能な経験値を考慮しながら、室内の汚染物質濃度と相関する第1の変数が決定され、センサ信号から導出される、外気の汚染物質濃度と相関する第2の変数と比較される。この比較の結果によって、空気供給運転と空気再循環運転のどちらかがオンになる。
【0003】
さらに、特許文献2により、予測された空気質に基づいて車両の室内の空気質を制御するための方法が公知である。その場合、空気質データは、当該車両に属する車両センサ、別の車両のセンサ、外部環境センサ、又は遠くに配置された情報源を用いて受信される。さらに、空気質データに基づいて、車両の周囲環境の第1の空気質測定値、車両の室内の第2の空気質測定値が決定され、空気質測定値に基づいて、制御信号が決定される。制御信号は、車両の室内の空気質を自動的に制御するために、車両の空調システムに送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE 41 06 078 A1
【特許文献2】US 2016/0318368 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、車両の室内への外気供給を調節するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、本課題を、請求項1に示された特徴を有する方法によって解決する。
【0007】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0008】
車両の室内への外気供給を調節するための一方法は、車両の運転中に室内に配置された汚染物質センサの検出信号に基づいて室内の汚染物質負荷が連続的に決定されることを企図している。本発明によれば、車両の前方の走行区間の外気の汚染物質負荷が予測され、予測された外気の汚染物質負荷に応じて外気供給が自動的に調節される。
【0009】
その場合、車両の外気の汚染物質負荷は、視覚情報に基づいて決定され、この視覚情報は、少なくとも1つの車両側の視覚検出ユニットの検出信号に基づいて決定される。特に、検出視覚情報は、外気の汚染物質負荷の決定のために、さらに処理され、評価される。
【0010】
このようにして、検出視覚情報から意味情報を抽出することができ、そのために、特にオブジェクト認識の方法などの機械学習の方法が用いられる。例えば、車両側に保存し、そのテンプレートを視覚情報で検出されたオブジェクトと比較して、どのような種類のオブジェクトが車両の周囲環境に存在するか認識することができる。
【0011】
本方法を用いることによって、走行時の車両の室内の快適度が上がり、室内にいる搭乗者の健康が保護される。特に、搭乗者の健康は、今後外気の汚染物質濃度が高くなると予想される場合に、外気供給、すなわち車両の室内換気システムの空気供給をオフにする又は少なくとも減らすことによって、保護される。つまり、本方法によって、汚染物質が外気とともに車両の室内に入る前に、室内への外気供給を減らす。さらに、可能な発展形態では、視覚情報に基づいて、少なくとも1つの視覚検出ユニットの今後の検出信号において、汚染物質を放出するオブジェクトを識別するためのフィンガープリントが抽出される。そして、フィンガープリントによって、外気供給を調節するためのモデルの開発時に定義されていない、未知の、つまり考慮に入れられてないオブジェクトを識別することができる。
【0012】
本方法のさらなる実施形態では、車両の周囲環境の視覚情報において、汚染物質を放出する静止オブジェクト及び移動オブジェクトが意味情報として検出され、例えば、車両の前方を走行するトラックや、堆肥(いわゆる肥やし)を積んだトラクターのトレーラーは、汚染物質を放出する移動オブジェクトとして認識され、室内への外気供給がオフにされる。
【0013】
本方法は、さらなる可能な実施形態では、車両の現在位置が継続的に測定されるため、例えば、その現在位置に基づいて、車両が工業地帯、例えば工業施設のすぐ近くにあることを検出することが可能であることを企図している。そのような場合にも、車両の室内への外気供給は少なくとも減らされる。
【0014】
さらに、本発明は、さらなる可能な実施形態では、現在位置に時間情報、例えば時刻及び曜日を加えることで、例えば、現在の位置と現在の曜日に基づいて、車両が特に営業日に工業地帯、例えば工業施設のすぐ近くにあることを検出することが可能であることを企図している。そのような場合にも、車両の室内への外気供給は少なくとも減らされる。
【0015】
抽出された意味情報、抽出されたフィンガープリント、及び/又は測定された車両の現在位置に基づいて、室内の汚染物質負荷がターゲット変数として予測されるように、時間遅延モデルが車両で訓練される。そのようなモデルは、車両の外気の汚染物質負荷の時間遅延と時間積分を考慮に入れる。
【0016】
さらに、本方法では、室内の高い汚染物質負荷とモデルによって抽出された原因との間の時間遅延を特定することが企図されている。そのように訓練されたモデルは、入力情報、特に意味情報、フィンガープリント、特にいわゆる知覚フィンガープリント、及び/又は車両の現在位置によって、今後予想される車両の室内の汚染物質負荷を予測するために、車両で用いられる。これによって、汚染物質が室内にできるだけ入らないように外気供給を調節し、搭乗者の健康を保護することができる。
【0017】
さらなる可能な実施形態では、特に車両側で訓練されたモデルが中央コンピュータユニットに供給され、このモデルは他の車両の少なくとも1つの他のモデルと結合及び統合することができる。
【0018】
そして、このモデル及び/又は統合されたモデルは、中央コンピュータユニットによって車両群の他の車両に伝送し、車両群の他のそれぞれの車両が外気供給を調節できるようにすることができる。
【0019】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施例をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】汚染物質センサ及び視覚検出ユニットを備えた車両、並びに車両の周囲環境の様々な静止オブジェクト及び移動オブジェクトの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
唯一の図には、汚染物質センサ2及び視覚検出ユニット3(カメラ)を備えた車両1が示され、さらに、移動オブジェクトO1としてトラック4及び自転車5、静止オブジェクトO2として工業施設6、並びに中央コンピュータユニット7が示されている。
【0022】
汚染物質センサ2は、車両1の室内に配置され、車両1の運転中に信号を継続的に検出し、これらの信号に基づいて室内の汚染物質負荷が決定される。汚染物質センサ2の代わりに、又はそれに加えて、人間が知覚できる臭いを認識するための根拠となる信号を検出するセンサを車両1の室内に配置することもできる。
【0023】
汚染物質センサ2の検出信号に基づいて決定された室内の汚染物質負荷は、車両1の外部環境、つまり外気の汚染物質負荷の時間遅延・時間積分関数を表す。
【0024】
汚染物質センサ2の検出信号に基づいて室内の汚染物質負荷が決定されると、先行技術から公知のように、車両1の室内の換気が制御される。
【0025】
車両1の室内への外気供給を調節し、室内の汚染物質負荷をできるだけ低く保ち、汚染物質負荷に関して搭乗者の健康を保護することができるようにするために、以下に記述する方法が提供される。
【0026】
その場合、車両1の前方の走行区間の外気の汚染物質負荷が予測され、予測された汚染物質負荷に応じて外気供給が自動的に調節される。
【0027】
特に、本方法では、今後外気の汚染物質濃度が比較的高くなると予想される場合に、車両1の室内への外気供給がオフにされることが企図されている。つまり、本方法によって、汚染物質が外気とともに車両1の室内に入る前に、外気供給が減らされる。
【0028】
上記のように、車両1の運転中に車両側の汚染物質センサ2によって信号が継続的に検出され、これらの信号に基づいて室内の汚染物質負荷が決定される。
【0029】
車両1は、視覚検出ユニット3(カメラ)を備え、その検出範囲は、車両1の前方を向き、それによって車両1の運転中に信号が継続的に検出され、これらの信号に基づいて車両1の周囲環境及びその周囲環境に存在するオブジェクトO1、O2が検出される。
【0030】
さらに、車両1には、衛星を利用した位置測定ユニット(詳細は図示せず)とデジタルマップが含まれ、車両1の現在位置を測定することができる。
【0031】
視覚検出ユニット3の検出信号に基づいて、視覚情報が決定され,評価される。
【0032】
その場合、視覚情報に基づき、機械学習の方法によって意味情報を抽出することができ、特に知られているオブジェクトO1、O2に関してオブジェクト認識が用いられる。すなわち、車両1の周囲環境にどのようなオブジェクトO1、O2が存在するか認識することができる。車両1の周囲環境で検出されたオブジェクトO1、O2は、特に移動オブジェクトO1と静止オブジェクトO2に区別される。
【0033】
さらに、意味情報に基づいて、オブジェクトO1、O2のうちのどちらが汚染物質を放出しているか判断することができる。例えば、車両1の周囲環境で自転車5が移動オブジェクトO1として検出されると、その自転車5の一定の特徴に基づいて、汚染物質を放出しない自転車5であると認識される。
【0034】
さらに、事前定義されたオブジェクトO1、O2を割り当てる必要なく、例えば畳み込みニューラルネットワークにより、視覚情報に基づいて、フィンガープリント、特に知覚フィンガープリントを抽出することができる。これによって、以下でさらに述べる、本方法によって作られるモデルの開発中に、フィンガープリント又はいくつかの抽出されたフィンガープリントによって、事前定義されていない、未知のオブジェクトO1、O2を識別することができる。
【0035】
意味情報、知覚フィンガープリント、及び/又は車両1の現在位置に基づいて測定された位置情報に基づいて、時間遅延モデルが車両1で機械学習の方法によって訓練される。その場合、モデルは、測定された室内の汚染物質負荷がターゲット変数として予測されるように訓練される。モデルは、例えば回帰モデルや強化学習モデルであり得る。
【0036】
同モデルでは、例えば時系列情報を用いることによって、外気の汚染物質負荷の時間遅延と時間積分が考慮に入れられる。
【0037】
そのようなモデルによって、室内の比較的高い汚染物質負荷、特に所定の閾値を超える汚染物質負荷と、モデルによって決定された、外気の比較的高い汚染物質負荷の原因との間の時間遅延を求めることが暗に可能になる。そのような高い汚染物質負荷の原因としては、例えば、トラック4や、堆肥(いわゆる肥やし)を満載したトレーラーを牽引しながら前方を走行するトラクターなどが考えられる。
【0038】
このように訓練された同モデルは、入力情報によって、特に意味情報、知覚フィンガープリント及び/又は位置情報によって、予想される車両1の室内の汚染物質負荷を予測するために、車両1で用いられる。今後室内の汚染物質負荷が比較的高くなると予測されると、予測された室内の汚染物質負荷にしたがって車両1の室内への外気供給が減らされ又はオフにされ、室内の換気が調節される。
【0039】
一実施形態では、同モデルは、車両1の開発中に予め訓練することができ、その場合、車両群の他の車両で使用者・地域固有に訓練する、及び/又はさらに訓練することもできる。
【0040】
また、例えば車両メーカーの中央コンピュータユニット7において、車両群の他の車両の経験に基づきながら、分散学習、いわゆる連合学習(federated learning)によって、一般的な使用者・地域固有のモデルが結合及び統合されることも考えられる。
【0041】
同モデルによって、例えばトラック4や工業施設6などの、地域固有の可能性がある、比較的高い汚染物質濃度の原因を認識することも可能になる。そのような情報は、例えば、国及び/又は地域ごとに車両1の周囲環境で比較的高い汚染物質濃度の発生源を特定するのに利用することができる。
【0042】
中央コンピュータユニット7によって、それぞれのモデル及び/又は統合されたモデルはその後、車両1及び車両群の他の車両が使用できるようにすることができる。
【0043】
つまり、本方法では、視覚検出ユニット3の視覚情報、地理的位置、すなわち車両1の現在位置、そして汚染物質センサ2により、特に視覚情報に基づいて、室内の汚染物質負荷、すなわち室内の汚染物質濃度を予測するモデルが訓練されることが企図されている。
【0044】
例えば、認識された移動オブジェクトO1及び静止オブジェクトO2は、外気の比較的高い汚染物質負荷と、ひいては時間的に遅れて室内の比較的高い汚染物質負荷とも、相関がある可能性があり、提示したモデルは、この相関関係を学習する。
【国際調査報告】