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特表2023-526939温度インジケータを含むフルオロポリマーベースのコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】温度インジケータを含むフルオロポリマーベースのコーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20230619BHJP
   C09D 5/26 20060101ALI20230619BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20230619BHJP
   C09D 127/20 20060101ALI20230619BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230619BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/26
C09D127/18
C09D127/20
C09D7/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571094
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 FR2021050878
(87)【国際公開番号】W WO2021234284
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2005086
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PHOTOSHOP
(71)【出願人】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル トゥルギ
(72)【発明者】
【氏名】イザベル ジョウタン
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ル ブリ
(72)【発明者】
【氏名】アン テシエ
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD101
4J038CD111
4J038CD121
4J038CD131
4J038KA08
4J038PA07
4J038PB02
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、家庭用品の表面のフルオロポリマーベースのコーティングであって、その層の間またはその層内に配置された少なくとも2つの装飾(a)および(b)を含むコーティングに関し、(a)は、(Bi1-xx)(V1-yy)O4(式中、-xは0であるか、またはXは0.001から0.999であり、-yは0であるか、またはyは0.001から0.999であり、-AおよびMは、窒素、リン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貧金属、メタロイドまたはランタノイドからなる群から選択され、-AとMは互いに異なる。)型の顔料からなる粉末形態の少なくとも1種のサーモクロミック顔料組成物を含む装飾であり、(b)は、温度基準顔料組成物を含む装飾である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家庭用品の表面のフルオロポリマーベースのコーティングであって、少なくとも2つの装飾(a)および(b):
(a)(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料
(但し、式中、
- xは0に等しいか、またはxは0.001から0.999の間であり、
- yが0に等しいか、またはyが0.001から0.999の間であり、
- AおよびMは、窒素、リン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貧金属属、メタロイドまたはランタノイドからなる群から選択され、
- AとMは互いに異なる。)
からなる粒子の形態のサーモクロミック顔料組成物を少なくとも含む装飾
(b)温度基準顔料組成物を含む装飾
が前記コーティングの間または前記コーティングの中に配置されたフルオロポリマーベースのコーティング。
【請求項2】
前記2つの装飾(a)および(b)の各々が、重ならない隣接するパターンの形態で存在することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記2つの装飾(a)および(b)が部分的に重なっていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記2つの装飾(a)および(b)は、2つの部分的に重なり合うパターンの形態で存在することを特徴とする請求項3に記載のコーティング。
【請求項5】
前記コーティング中の(Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料のΔE*が、室温と150℃の間で11以上であり、ΔE*はCIELAB色空間における下記式CIE1976
【数1】
(式中、
1 *、a1 *およびb1 *値は、室温での前記化合物のL***値を特徴づけ、
2 *、a2 *およびb2 *の値は、150℃における前記化合物のL***値を特徴づける。)
によって定義されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項6】
前記コーティング中の前記(Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料のΔE*が、室温と200℃の間で15以上であり、ΔE*がCIELAB色空間の下記式CIE1976
【数2】
(式中、
1 *、a1 *およびb1 *値は、室温での前記化合物のL***値を特徴づけ、
2 *、a2 *およびb2 *の値は、200℃における前記化合物のL***値を特徴づける。)
によって定義されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項7】
装飾被膜(a)中の(Bi1-xx)(V1-yy)O4の量が、乾燥状態の前記被膜の重量に対して0.1~100重量%、好ましくは0.2~80重量%を構成する、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項8】
好ましくは1種以上のフルオロポリマーからなる1種以上の仕上げ塗りを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項9】
前記装飾は、スクリーン印刷またはパッド印刷によって塗布されることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項10】
前記(Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料が、室温で単斜晶系のシェライト結晶形態を示す、請求項1~9のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項11】
xおよびyが0に等しい、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項12】
Aおよび/またはMがLi、Na、K、RbおよびCsから選択されるアルカリ金属であり、AおよびMが互いに異なる、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項13】
Aおよび/またはMがBe、Mg、Ca、SrおよびBaから選択されるアルカリ土類金属であり、AおよびMが互いに異なる、請求項1~10および12のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項14】
Aおよび/またはMが、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、WおよびIrから選択される遷移金属であり、AおよびMが互いに異なる請求項1~10および12~13いずれか一項に記載のコーティング。
【請求項15】
Aおよび/またはMがAl、Zn、Ga、InおよびSnから選択される貧金属であり、AおよびMが互いに異なる、請求項1~10および12~14のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項16】
Aおよび/またはMがB、Si、GeおよびSbから選択されるメタロイドであり、AおよびMが互いに異なることを特徴とする請求項1~10および12~15のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項17】
Aおよび/またはMが、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択されるランタニドであり、AおよびMが互いに異なる請求項1~10および12~16いずれか一項に記載のコーティング。
【請求項18】
前記コーティングは、基材上に塗布される1つ以上の下塗りを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項19】
少なくとも1つの下塗りが、好ましくはポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、およびポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンズイミダゾール(PBI)およびタンニンを含む群から選択される1つ以上の接着用樹脂を含む、請求項18に記載のコーティング。
【請求項20】
前記基材の一方の面から次の順序で、2つの下塗り、2つの装飾被膜(a)および(b)、仕上げ塗りを含むことを特徴とする請求項18または19に記載のコーティング。
【請求項21】
前記装飾が基材上に直接塗布されている、請求項1~17のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項22】
フルオロポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテル(PFA)のコポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペン(FEP)のコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレンとポリメチルビニルエーテルのコポリマー(MVA)、テトラフルオロエチレン、ポリメチルビニルエーテルおよびフルオロアルキルビニルエーテルのターポリマー(TFE/PMVE/FAVE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)およびこれらの混合物を含む群から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載のコーティングで完全にまたは部分的に覆われた基材、好ましくは金属を含む家庭用品。
【請求項24】
前記家庭用品が調理器具であり、請求項1~22のいずれか一項に記載のコーティングが、食品を受ける面を完全にまたは部分的に覆うことを特徴とする、請求項23に記載の家庭用品。
【請求項25】
前記基材が、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、陽極酸化処理されているかもしくは陽極酸化されていない、または研磨された、ブラッシングされた、化学処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金、または研磨されたステンレス鋼、または鋳鉄もしくは鋳造アルミニウム、または鍛造もしくは研磨されたチタンもしくは銅である、請求項24に記載の調理器具。
【請求項26】
前記調理器具は、ソースパン、フライパン、シチュー鍋、中華鍋、ソテーパン、クレープメーカー、グリル、プランチャグリル、ラクレットグリル、マーマイト鍋またはキャセロール皿からなる群から選択され、前記コーティングは食品と接触することが意図されている、請求項24または25に記載の調理器具。
【請求項27】
前記家庭用品は、衣類用アイロンであり、請求項1~22のいずれか一項に記載のコーティングが前記衣類用アイロンのソールプレートを完全にまたは部分的に覆うことを特徴とする、請求項23に記載の家庭用品。
【請求項28】
ヘアストレートナーであり、請求項1~22のいずれか一項に記載のコーティングが前記ヘアストレートナーのプレートを完全にまたは部分的に覆うことを特徴とする、請求項23に記載の家庭用品。
【請求項29】
請求項23から28のいずれか一項に記載の家庭用品を使用する方法であって、以下のステップ:
- 前記家庭用品を加熱するか、または外部加熱源の存在下に前記家庭用品を置くこと、
- (Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と温度基準顔料組成物の色変化を観察すること、

● (Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と温度基準顔料組成物の色が同一であるとき,または
● (Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料および温度基準顔料組成物の色が、それぞれ、前記家庭用品の使用説明書に定義された色に到達するとき
前記家庭用品を使用すること
によって特徴づけられる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視認性を改善した機能性温度インジケータを含む家庭用品、好ましくは調理器具用の表面のコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
物体の色は実際には物理的なものではなく、光束または光源(光)、観察者(目→視覚)、および物体という3つの要素が同時に作用した結果である(図1)。
【0003】
光は波であり、その独自の特徴は、真空中および透明な媒体中を伝播することである。光源は2つのタイプがあり、1つは、それ自身が光を発する一次光源(例えば、太陽、火、ランプ、テレビ、レーザー)である。一方、二次光源は、周囲の光(一次光源からの光)を散乱する物体である。
【0004】
繊維、紙、食品、コーティングなどの光を受ける材料は、異なる様式で動作することができる。即ち、光がこれらを超えていくことができる、透明である場合、または、これらが光を通すことができず、従って不透明な場合である。
【0005】
物体が不透明であれば白色となり、この場合、物体は光エネルギーを完全に反射する。反対に、物体が黒色であれば、物体は光エネルギーを完全に吸収する。物体がグレー(濃いまたは薄い)の場合、物体は放射線の一部を反射し、残りを吸収する。
【0006】
可視光線スペクトルの特定の波長での放射線の選択的な吸収は、材料の色を特徴づける。この材料によって吸収されない放射線の残りの部分は、反射され、従って、当該残りの部分が観察者に見える。
【0007】
従って、物体の視覚的認識は、この物体によって変化され、且つ透過された光に関係付けられ、光は目で知覚され、最終的に脳によって解釈される。目は約35万色を識別することができる。
【0008】
目では、角膜が網膜上に像を作り、水晶体が焦点を調整し、虹彩が瞳孔を広げる、または縮めることによりフィルターとして機能する。受容体要素が網膜にあり、これらは錐体および杆体である。杆体は夜間視力を、錐体(青、緑および赤)は昼間の視力を提供し、光信号を神経信号に変換する。
【0009】
家庭用品の分野では、物品が熱源に曝される場合、または物品が熱くなる場合、物品の使用者が、使用中に物品の温度変化を見ることは、極めて重要である。
【0010】
調理器具の場合、食品の調理中の良好な温度制御(例えば、グリルおよびフライパンでステーキを焼くこと)は、健康および味覚に必要であるとともに、調理器具のコーティングを損傷する、時々発生する過熱を抑えるために必要である。過熱の少ない素材は、耐用年数がより長くなる。低温で調理された食品は、より健康的な官能特性を持つことになる。さらに、適切な温度で実施された調理は、エネルギー投入量を抑え、従って環境への影響抑えることを可能にする。
【0011】
衣類用アイロンまたはストレートヘアアイロン(hair straightner)の場合、温度制御は、例えば髪をもろくする効果または織物繊維を損傷させる効果など、かかる物品の使用に関連する悪影響を回避すること、あるいは火傷などの家庭内事故を回避することを可能にする。
【0012】
仏国特許出願公開第1388029号明細書(FR1388029)(特許文献1)が知られており、これは、温度の関数として可逆的に色を変える感熱性成分からなるサーマルインジケータを備えた調理器具を記載しており、このサーマルインジケータは、ノンスティックコーティングに配合されており、ポリテトラフルオロエチレンから本質的になる。熱安定性顔料(thermostable pigment)(すなわち、鉱物または有機化合物であって、所定の温度範囲に上昇された温度にさらされたときに色の変化を示さないか、またはほとんど示さない)を、サーマルインジケータの色、従って温度変化に対する変化を評価するための対照として調理器具に組み込むことも可能である。しかし、この発明では、熱安定性制御物は、ノンスティックコーティングに組み込まれておらず、従って、相対的な変化を明確に視認することはできない。
【0013】
これらの問題を改善するために、本出願人は、次に、欧州特許出願公開第1121567号明細書(EP1121567)(特許文献2)に記載されているサーモクロミック顔料に基づくサーマルインジケータを開発した。このサーマルインジケータは、少なくとも2つのパターンを含む装飾であり、一方は、温度上昇にしたがって暗くなる酸化鉄のサーモクロミック顔料に基づくものであり、他方は、温度上昇にしたがってごくわずかに明るくなる、ペリレンレッドおよびスピネルブラックの混合物を含むサーモクロミック顔料に基づくものである。その結果、あらかじめ設定された温度(これは160℃から220℃に設定可能である)において、2つのパターンの色の混同が得られ、これは、このあらかじめ設定された温度を特定する手段となる。
【0014】
これらのサーモクロミック顔料を装飾の連続した領域に同時に使用することは、調理器具の調理面の温度変化の視覚的な認知を効果的に向上させることを可能にする。しかしながら、この種のサーマルインジケータは、2つの領域がそれぞれ室温で非常に近い色値を有する赤色を有するため、使用者にとって一見して理解しにくいままである。さらに、装飾パターンの色の混同は、少なくとも50℃の熱振幅の領域で発生する。このことから、温度の変化を評価することは容易ではなく、特に特別な訓練を受けていない一般人にとって、読み取りは容易ではない。その結果、使用者はこのサーマルインジケータによって提供される情報を無視する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】仏国特許出願公開第1388029号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1121567号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、例えば、カラーサーマルインジケータ(colored thermal indicator)の場合、明確に異なる色を示すことによって、温度変化中に色および/または光学的特性を明確に変化するサーマルインジケータを提供できることに関心がある。温度変化を示すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の利点は、消費者に改善された読みやすさ、理解、知覚を提供することである。
【0018】
発明の概要
本発明の第1の主題は、家庭用品の表面のフルオロポリマーベースのコーティングであって、前記コーティングの間または被膜中に配置された少なくとも2つの装飾(a)および(b):
(a) (Bi1-xx)(V1-yy)O4
(式中、
- xは0に等しいか、またはxは0.001から0.999の間であり、
- yは0に等しいか、またはyは0.001から0.999の間であり、
- AおよびMは、窒素、リン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貧金属、メタロイドまたはランタノイドからなる群から選択され、
- - AとMは互いに異なる。)
型の顔料からなる粒子の形態の少なくとも1つのサーモクロミック顔料組成物を含む装飾、
(b)温度基準顔料組成物を含む装飾
を含むフルオロポリマーベースのコーティングに関する。
【0019】
本発明の別の主題は、本発明によるコーティングで完全にまたは部分的に覆われた基材を含む家庭用品に関する。
【0020】
本発明の別の主題は、本発明による家庭用品の使用方法に関し、以下のステップにより特徴付けられる:
- 前記家庭用品を加熱すること、または外部加熱源の存在下に前記家庭用品を置くこと、
- (Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料および温度基準顔料組成物の色変化を観察すること、
- ・(Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料および温度基準顔料組成物の色が同一であるとき、または、
・(Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料および温度基準顔料組成物の色が、それぞれ、前記家庭用品の使用説明書に定義された色に到達するとき、
前記家庭用品を使用すること。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は色に影響を与える要因である。
図2図2はCIELAB空間を表現する焦点球である。
図3図3はエネルギーバンド理論を示す図である。
図4図4は禁制帯(またはギャップ)と観測される色の関係を示す図である。
図5図5はコンピュータビジョン法の一般的な図である。
図6図6は温度インジケータ一体型コーティングの製造である。
図7図7は異なるサンプルの種類と光ブース装置+カメラを示す図である。
図8図8は粉体形態の顔料の比較である。
図9図9はフライパンにパッドプリントされた装飾の形態の顔料の比較である。
図10図10はパターン分布の図である。10Aは隣接するパターンが重なっていない状態である、10Bは部分的に重なり合うパターンである。10Cは重なり合うパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
「室温」とは、18~30℃の温度を意味すると理解される。
【0023】
本発明の意味において、「被膜(コート(coat))」は、連続的な被膜または不連続な被膜を意味すると理解されるべきである。連続的な被膜(モノリシックコートとも呼ばれる)は、それが置かれた表面を完全に覆う全固形色を形成する単一の全体物(single whole(シングルホール))である。不連続な被膜(または非モノリシックコート)は、いくつかの部分から構成されていてよく、単一の全体物ではない。
【0024】
「下塗り(primer coat(プライマーコート))」、「ボンディングコート」または「ボンディングプライマー」は,基材とも呼ばれる支持体に直接塗布される最初の被膜(この被膜は支持体によく接着し,その機械特性:硬度,耐傷性を全てコーティングに与えることが望ましい)から最初の装飾被膜の前の最後の被膜までを意味すると理解される。
【0025】
「仕上げ塗り(仕上げコート(finish coat)」または「仕上げ」は、機械的な損傷から装飾被膜を保護し、コーティングに非粘着性を付与しながら、装飾被膜を完全に見えるようにした連続的で透明な表面被膜を意味すると理解される。
【0026】
「装飾」または「装飾被膜(デコラティブコート(decorative coat))」は、顔料組成物を含むいくつかの連続または不連続の被膜を意味すると理解される。装飾は、1つまたは複数のパターン、および1つまたは複数の色の形態とすることができる。装飾は、肉眼により、家庭用品の標準的な使用距離で、使用者にはっきりと見えるものである。
【0027】
「重なった被膜(overlapping coat)」とは、部分的または完全に重なった被膜を意味すると理解される。これらの被膜は、部分的に重なった模様、例えば同心円状の円盤を有する装飾の形態であってもよい。
【0028】
「隣接する被膜」は、非重畳的な被膜を意味すると理解される。これらの被膜は、同一または異なる非重畳パターン、好ましくは均一に分布したもの有する装飾の形態で存在することができる。
【0029】
「温度基準顔料組成物」とは、所定の温度で、最適な温度に達したことを使用者に示すことを可能にする顔料を含む組成物を意味すると理解される。この表示は、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と温度基準顔料組成物の色を比較することによって行われる。色が同じになったときに最適使用温度に到達するか、または色が大きく異なったときに最適温度に到達する。
【0030】
「温度基準顔料組成物」は、以下の顔料を含むことができる:
- 最適な使用温度で、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と同じ色を有する顔料:
〇 これは、この顔料が、最適使用温度における(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料の色と同じ色を室温で有し、温度による色の変化がないものであるか、
〇 または、これは、この顔料が、室温で(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と異なる色を有し、最適使用温度で(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と同じ色に変化するものである、
- 最適使用温度において,(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と非常に異なる色を有する顔料:この顔料は温度変化によって色を変化するかどうかとは無関係である。
【0031】
温度基準顔料組成物の色が、本発明のコーティングを含む家庭用品のユーザーガイドに示された色、または当該物品とともにユーザーに提供されるカラースケールに示された色である場合に、最適な使用温度を達成することができる。
【0032】
温度基準顔料組成物は、サーモクロミック(熱変色性)または熱安定性である。
【0033】
ヘアストレートアイロンや衣類用アイロンなどの調理器具ではない家庭用品については、温度基準顔料組成物は、例えば、通常の使用温度の基準顔料組成物または燃焼の危険性の表示とすることができる。
【0034】
調理器具については、温度基準顔料組成物は、例えば、調理温度の基準顔料組成物または過熱の危険性の表示とすることができる。
【0035】
本発明は、以下の利点のうち少なくとも1つを有する。
【0036】
- 本発明によるコーティングは、例えば台所用品の周囲の食品調理温度のような、目標とする正確で中心的な温度範囲にわたって、顕著な可視性で対照的な色の変化を伴うサーモクロミック機能を有する。
【0037】
- 本発明によるコーティングは、例えば食品を調理する際に良好な温度制御を提供することができ、これは健康や味の理由のために必要であるととともに、調理器具のコーティングを損傷することから、時折発生する過熱を抑制するためにも必要である。
【0038】
- (Bi1-xx)(V1-yy)O4型化合物は、サーモクロミック特性の可逆性を有する。すなわち、熱の影響下で色が変化した後、温度が下がると、その初期状態およびその初期の色に戻り、この色変化のサイクル(可逆性)を、その特性を損なうことなく無限に繰り返すことができる。
【0039】
- 本発明によるコーティングは、温度上昇中にかなりの熱安定性を有し、それは約450℃まで安定である。
【0040】
本発明の意味において、「サーモクロミック半導体」という表現は、温度上昇中に可逆的な色変化を示す鉱物または有機化合物を意味すると理解されるべきである。これらの半導体化合物の段階的かつ可逆的なサーモクロミック特性は、材料の膨張による半導体の禁制帯の幅の減少に関連している。実際に、アニオンとカチオンのネットワークの周期性は、エネルギー準位をエネルギーバンドに集めることにつながる。より高いエネルギーを持つ充填エネルギーバンドを価電子帯、より低いエネルギーを持つ空エネルギーバンドを伝導帯と呼ぶ。この2つのバンドの間には、ギャップと呼ばれる禁制帯が存在する。半導体材料の色は、電子が同じ原子の価電子帯から伝導帯への、または一般的には陰イオン軌道から陽イオン軌道への電子の移動(原子間光子吸収)に対応する電荷移動の存在から生じうる。
【0041】
本発明について考慮される応用分野では、衣類用アイロンまたはヘアストレートアイロンタイプの家庭用電気器具は、典型的には、100℃~300℃、好ましくは100~250℃、特に好ましい様式では100~200℃の温度範囲で使用される。
【0042】
本発明で考慮される応用分野では、調理器具の場合、コーティングが食品の調理に適した温度、好ましくは100~250℃の間で構成される温度に達したときに、最適な状態に到達する。
【0043】
本発明の意味において、「サーモクロミック顔料、サーモクロミック顔料化合物またはサーモクロミック顔料組成物」は、所定の温度範囲において温度の関数として色が変化し、この変化が可逆的である顔料、顔料化合物または顔料組成物を意味すると理解される。この色の変化は、肉眼で、使用するための標準的な距離で、使用者に見えるものである。
【0044】
「熱安定性顔料、熱安定性顔料化合物または熱安定性顔料組成物」は、所定の温度範囲における温度上昇にを受けたときに色の変化を示さないか、または所定の温度範囲における温度上昇を受けたときに色相変化を示すが、それが肉眼および使用のための標準距離ではユーザーに見えないほど小さい顔料、顔料化合物または顔料組成物を意味すると理解される。
【0045】
好ましくは、熱安定性顔料は、25℃と200℃との色差ΔE*が10未満である。
【0046】
「(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料からなる粒子の形態で」とは、サーモクロミック顔料組成物の粒子が純粋に(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料で構成されていることを意味する。したがって、それらはコーティングされていない。有利なことに、それらは粗い。
【0047】
「色が同一である」とは、肉眼で、使用のための標準的な距離で使用者に見分けがつかないことを意味すると理解される。
【0048】
「家庭用品」という表現は、調理器具や家庭用電化製品を意味すると理解すべきです。
【0049】
ここで問題になっている家電製品は、熱を発生させることを指向する。
【0050】
本発明の意味において、「調理器具」は、調理を目的とした物体を意味すると理解されるべきである。この目的のために、それは熱処理を受けることが意図されている。
【0051】
本発明の意味において、「熱処理を受けることが意図された物体」とは、フライパン、ソースパン、ソテーパン、中華鍋またはバーベキューグリルなどの外部加熱システムによって加熱される物体であり、この外部加熱システムによって与えられる熱エネルギー(calorific energy)を前記物体と接触する材料または食品に伝達できるものであると理解されるべきである。
【0052】
本発明の意味において、「熱を発生させることを意図した物体」とは、衣類用アイロン、ヘアストレートアイロン、蒸気発生器、やかん、調理用電気器具など、それ自体が加熱装置を有する物体を意味すると理解されるべきである。
【0053】
「フルオロポリマーベースのコーティング」は、その被膜の1つ以上に1つ以上のフルオロポリマーを含んでいるコーティングを意味すると理解される。
【0054】
発明の詳細な説明
本発明の第1の主題は、家庭用品の表面のフルオロポリマーベースのコーティングであって、前記コーティングの間またはコーティング中に配置された少なくとも2つの装飾(a)および(b):
(a)少なくとも、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料
(式中、
- xは0に等しいか、またはxは0.001から0.999の間であり、
- yは0に等しいか、またはyが0.001から0.999の間であり、
- AおよびMは、窒素、リン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貧金属、メタロイドまたはランタノイドからなる群から選択され、
- AとMは互いに異なる。)
からなる粒子の形態のサーモクロミック顔料組成物を含む装飾、
(b)温度基準顔料組成物を含む装飾
を含むフルオロポリマーベースのコーティングに関する。
【0055】
好ましくは、装飾(a)中の(Bi1-xx)(V1-yy)O4の量は、乾燥状態の前記被膜の重量に対して0.1~100重量%、好ましくは0.2~80重量%、より好ましくは0.5~70重量%で構成される。
【0056】
好ましくは、装飾(b)中の温度基準顔料組成物の量は、乾燥状態の前記被膜の重量に対して0.1~100重量%、好ましくは0.2~80重量%、より好ましくは0.5~70重量%で構成される。
【0057】
AとMが互いに異なることを考慮すると、
- Aがアルカリ金属である場合、これはLi、Na、K、RbおよびCsから選択することができ、
- Mがアルカリ金属である場合、これはLi、Na、K、RbおよびCsから選択することができ、
- Aがアルカリ土類金属である場合、これはBe、Mg、Ca、SrおよびBaから選択することができ、
- Mがアルカリ土類金属である場合、これはBe、Mg、Ca、SrおよびBaから選ぶことができ、
- Aが遷移金属である場合、これはSc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、WおよびIrから選択することができ、
- Mが遷移金属である場合、これはSc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、WおよびIrから選択することができ、
- Aga貧金属である場合、これはAl、Zn、Ga、In、Snから選ぶことができ、
- Mが貧金属である場合、これはAl、Zn、Ga、In、Snから選ぶことができ、
- Aがメタロイドである場合、これはB、Si、Ge、Sbから選ぶことができ、
- Mがメタロイドである場合、これはB、Si、Ge、Sbから選ぶことができ、
- Aがランタノイドである場合、これはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択することができ、
- Mがランタノイドである場合、これはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択することができる。
【0058】
好ましくは、互いに異なるAおよびMは、Bおよび/またはMgである。
【0059】
一実施形態によれば、装飾(a)および(b)の各々は、重なり合わない隣接するパターンの形態で存在する。例えば、各装飾は、表面全体に均一に分布し、互いに交互に配置された異なる幾何学的パターンによって表される(図10Aを参照)。
【0060】
別の実施形態によれば、2つの装飾(a)および(b)は、部分的に重なり合っている。例えば、各装飾は、表面全体に一様に分布し、部分的に重なり合う異なる幾何学模様によって表される(図10B参照)。
【0061】
好ましくは、2つの装飾(a)および(b)は重なっており、これは、2つの装飾のうちの一方が連続したコートであり、他方の装飾がパターンの形でそれを覆うもの、または2つの装飾(a)および(b)が2つの重なったパターンの形で存在するもの(図10C参照)である。
【0062】
好ましくは、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料は、室温で単斜晶系のシェライト結晶形態(monoclinic scheelite crystallographic form)を示す。
【0063】
前記装飾は、任意選択的に、1つ以上のフルオロポリマーを含む。
【0064】
前記装飾は、任意選択的に添加剤を含む。前記添加剤は、溶媒、シックナー((濃化剤)thickener)、消泡剤、pH調整剤、湿潤剤および分散剤からなる群から選択される。
【0065】
前記溶媒は、水、アルコール、ジオール、グリコールおよびエステルからなる群から優先的に選択される。
【0066】
前記シックナーは、アクリル系コポリマーまたはポリウレタン系コポリマー、セルロース、ヒュームドシリカおよびシリコーン樹脂からなる群から優先的に選択される。
【0067】
前記消泡剤は、好ましくは、ポリシロキサン、変性ポリシロキサン、ポリエーテル-シロキサン共重合体、両親媒性ポリマー、シリコーンおよび脂肪族鉱油からなる群から選択される。
【0068】
前記pH調整剤は、好ましくは、ブレンステッド塩基:アンモニア、アミン(トリエチルアミン、トリエタノールアミン等)、水酸化物(水酸化ナトリウム、カリ(potash)等)、および炭酸塩からなる群から選択される。
【0069】
前記湿潤剤および分散剤は、好ましくは、高分子量脂肪酸誘導体、変性ポリエーテル、界面活性剤および変性ポリアクリレートからなる群から選択される。
【0070】
好ましくは、本発明によるコーティングは、装飾の上に塗布された1つまたは複数の仕上げ塗り、好ましくは1つまたは複数のフルオロポリマーを含む。
【0071】
第1の実施形態によれば、本発明によるコーティングは、基材上に塗布された1つまたは複数の下塗りを含む。その後、装飾は、最後の下塗りの上に塗布される。
【0072】
好ましくは、本発明によるコーティングは、調理器具の基材の一方の面から次の順序で、2つの下塗り、2つの装飾コート(a)および(b)、および仕上げ塗りから構成される。
【0073】
第2の実施形態によれば、装飾は基材上に直接適用される。
【0074】
装飾は、当業者によく知られた任意の方法、例えばスクリーン印刷またはパッド印刷で塗布できる。
【0075】
フルオロポリマー(複数可)は、粉末または水性分散液またはそれらの混合物の形態で存在することができる。
【0076】
有利には、フルオロポリマー(複数可)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンのコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレンとポリメチルビニルエーテルのコポリマー(MVA)、テトラフルオロエチレン、ポリメチルビニルエーテルおよびフルオロアルキルビニルエーテルのターポリマー(TFE/PMVE/FAVE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)およびこれらの混合物を含む群から選択されうる。
【0077】
有利には、フルオロポリマー(複数可)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンのコポリマー(FEP)、PTFEおよびPFAの混合物(PTFE/PFA)およびPTFEおよびFEPの混合物(PTFE/FEP)から選択されうる。
【0078】
好ましくは、フルオロポリマー(複数可)は、非粘着性コーティング組成物の全乾燥質量に対して、10~99質量%、好ましくは50~98質量%に相当しうる。
【0079】
好ましくは、xおよびyが0であること、すなわち本発明は、バナジン酸ビスマス(BiVO4)の使用に関するものである。有利には、室温で単斜晶系のシェライト結晶形態のBiVO4が使用される。
【0080】
バナジン酸ビスマスは、式BiVO4で表される黄色の無機化合物であり、その色の特性と毒性のなさから広く使用されている。カラー・インデックス・インターナショナルのデータベースにQ.I.ピグメントイエロー184として登録されており、特にホイバッハ(Heubach)(Vanadur(登録商標))、BASF(Sicopal(登録商標))、FERRO(Lysopac)、Bruchsaler Farbenfabrik(Brufasol(登録商標))の会社から販売されている。
【0081】
この化合物は、その強い色とサーモクロミズムのために、多くの研究の対象となっている。BiVO4ナノ粒子の製造には、ゾル-ゲル合成、前駆体の熱分解、水熱合成およびソルボサーマル合成、気相堆積など、多くの合成経路が考えられる。しかし、水熱合成は、加圧オートクレーブ内での急速加熱時に安定相と不安定相が同時に形成されるため、機械的観点から複雑になりうる。水熱合成で得られる生成物は相が豊富で相図が複雑であり、結晶学的な相のどちらか一方を形成し、且つ安定化させることは困難である。
【0082】
2つ目の、より一般的な合成経路は、固相焼結法である。これは、大規模な結晶性の高い粉末を低コストで容易に得ることができるという利点を有する。ビスマス塩とバナジウム塩の混合物を高温焼結法でアニールすることにより、BiVO4粒子を得ることができる。得られた微細構造(粒子径、形態学、結晶性)および任意のドーピング元素は、BiVO4のバンドギャップに影響を与え、結果として、初期の色および/またはサーモクロミズムを変更できる。
【0083】
温度基準顔料組成物は、
- チタンルチルイエロー顔料、
- ビスマスから誘導される黄色顔料、例えば安定化されたバナジン酸ビスマス(Py184)から選択されるもの
- 赤色顔料、例えばペリレンレッドまたは酸化鉄から選択されるもの、
- オキシハロゲン化ビスマスオレンジ顔料(PO85)、
- バナジン酸ビスマスオレンジ顔料(PO86)、
- スズチタン亜鉛オレンジ顔料(tin titanium zinc orange pigment)(PO82)、
- 硫化セリウムオレンジ顔料(PO75;PO78)、
- クロムアンチモンチタンイエローオレンジルチル顔料(PBr24)、
-スズと亜鉛のイエローオレンジルチル顔料(Py216)、
- 硫化錫亜鉛ニオブ酸化物イエロー-オレンジ顔料(Zinc tin sulfide niobium oxide yellow-orange pigment)(Py227)、
- スズとニオブの複酸化物によるイエロー-オレンジ顔料、
および、これらの混合物
からなる群から選択される。
【0084】
有利には、本発明によるコーティングは、前記コーティング中の(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料のΔE*が、室温と150℃の間で11以上であり、ΔE*はCIELAB色空間における式CIE1976によって定義されていることを特徴とする。
【0085】
【数1】
【0086】
但し、
1 *、a1 *およびb1 *は、室温での前記化合物のL***値を特徴づけ、
2 *、a2 *およびb2 *は、150℃における前記化合物のL***値を特徴づける。
【0087】
好ましくは、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料は、室温と150℃の間の前記コーティングにおけるΔE*が13以上、特に好ましい形態では、15以上である。
【0088】
有利には、本発明によるコーティングは、前記コーティング中の(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料のΔE*が、室温と200℃の間で15以上であり、ΔE*はCIELAB色空間における式CIE1976によって定義されていることを特徴とする。
【0089】
【数2】
【0090】
但し、
1 *、a1 *およびb1 *は、室温での前記化合物のL***値を特徴づけ、
2 *、a2 *およびb2 *は、200℃における前記化合物のL***値を特徴づける。
【0091】
好ましくは、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料は、室温と200℃の間の前記コーティングにおけるΔE*が17より大きく、特に好ましい形態では、20より大きいかまたはこれに等しい。
【0092】
有利には、温度の関数としての色変化ΔE*の漸進的変化は、線形である。好ましくは、この線形の斬新的変化は、0.05~0.1、好ましくは0.1以上からなる勾配を有する。
【0093】
色は、色の分類によって測定し、特徴付けることができる。この分類は、色が数字で定義されている場合にのみ可能であり、この変換は色空間によって行うことができる。
【0094】
「色空間は、人間や機器によって知覚でき、使用でき、再現できる色のセットを表す3次元の数学的モデルである。」正確な座標を持つ独自の色分布を持つ空間が数多く存在する(例えば:テレビシステムで広く使われているRGB空間、または目の対数応答を考慮したCIELAB空間)。
【0095】
CIELAB色空間は、様々な表面の色を特徴付けるのに役立つ。この空間は、L***値を表す直交する3軸を持つ幾何学的モデルによって表現することができる(図2)。したがって、各色は明確に指定された固有のL***座標を持ち、ここで、
- L*は、パーセンテージで表した軸に沿った明度、または黒:0から白:100までを表し、
- a* 緑:-120から赤:+120の範囲の軸、
- b* 青色:-120から黄色:+120の範囲の軸
である。
【0096】
これらの各色固有の座標は、明度差(lightness difference)ΔL*,色相差(hue difference)ΔH*,色差(colour difference)ΔE*などのいくつかのパラメータを計算することを可能にする。
【0097】
本発明で注目するパラメータは、CIELAB空間内に位置する2つの異なる色間の距離の測定値を表す色差ΔE*である。色差ΔE*には単位がない。
【0098】
【表1】
【0099】
色相および色における偏差および差の式
サーモクロミズム現象は、化合物が置かれた温度の関数として色を変化させる、化合物の能力として定義される。
【0100】
BiVO4化合物は室温では黄色であり、温度が上がると橙色から赤色に連続的に色が変化する。
【0101】
BiVO4は、半導体酸化物のファミリーの一部であり、サーモクロミック特性も担う発色機構を有する。
【0102】
実際、半導体材料は、原子の相互作用を表すエネルギーバンド理論によって特徴づけられる。この理論は、内殻電子が、所属する原子に局在し、離散的な原子軌道に存在するため、モデルのエネルギーバンドには現れないと仮定されているモデルである。一方、価電子は固体の結晶ネットワーク全体に非局在化することが可能であり、これらは価電子帯を構成する。伝導帯は、自由電子によって占められる最初の空のエネルギー帯である。価電子帯と伝導帯は禁制帯によって分離されており、その幅(ギャップとも呼ばれる)は価電子帯と伝導帯に関連するエネルギー準位間に存在するエネルギー差と等しい(図3)。
【0103】
半導体材料の色は、対象材料の価電子帯と伝導帯を分離する禁制帯の幅に関係がある。この色は、材料の色の原因となる禁制帯の幅と同じかそれを越えるエネルギーを持つ電子遷移である。1.7eVから3eVの範囲の禁制帯の幅は黒から白の色を生成し、この色は淡黄色から赤の範囲の色に伸び、従ってオレンジを経るカラーパレットを通る(赤は低エネルギー、淡黄色は高エネルギーに対応する)。(図4
【0104】
温度の影響下では、原子間のアニオン-カチオン結合が伸び、軌道の重なりの減少を引き起こす。その結果、結合の共有結合性が低下し、ギャップが減少し、2つの原子間の価電子帯と伝導帯の間で電子の移動が促進される。
【0105】
したがって、半導体材料は、温度上昇の影響下で、結晶構造の大きさを変化させ、サーモクロミック性を示す。結晶構造が変化すると、ネットワーク内の相互作用が同じではなくなり、禁制帯の幅が変化し、その結果、色が変化する。
【0106】
多くの半導体材料は、温度が上がると禁制帯の幅が狭くなる。このことは、BiVO4の色が、室温では黄色であり、加熱すると赤色に変化することを説明する。
【0107】
本発明の別の主題は、本発明によるコーティングで完全にまたは部分的に覆われた基材、好ましくは金属を含む家庭用品に関する。
【0108】
(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料の色変化は、一方では物品が高温であるため火傷の危険があることを、他方では物品の表面がその使用に適した温度に達していることをユーザーに知らせることができる。
【0109】
有利には、物品支持体は、プラスチック、金属、ガラス、セラミックまたはテラコッタとすることができる。本発明の文脈で使用可能な金属支持体は、有利には、アルミニウムまたはアルミニウム合金の支持体、陽極酸化されているかもしくは陽極酸化されていない、または研磨された、サンドブラストされた、化学処理されたアルミニウムもしくはアルミニウム合金、または研磨された、ブラッシングされた、ビーズブラストされたステンレス鋼、または鋳鉄もしくは鋳造アルミニウム、または鍛造もしくは研磨されたチタンもしくは銅の支持体が含まれる。
【0110】
本発明の文脈で使用可能な家庭用品の例は、特に、揚げ物用ボウル(deep fryer bowls)、フォンデュまたはラクレットパンまたは鍋、揚げ物器またはパン焼き器のボウル、ブレンダーのジャー、ストレートアイロンのプレートおよびアイロンのソールプレート(底板)を含むことができる。
【0111】
コーティングの接着を良くするために、支持体の表面は、例えばサンドブラスト、ブラッシングまたは化学処理によって、その比表面を増加するように処理することができ、アルミニウムについては、この処理は陽極酸化(管状アルミナ構造の生成)、化学エッチング、サンドブラストなどによって行うことができる。その他の金属基材も、研磨、サンドブラスト、ブラッシング、ビーズブラストを行うことができる。
【0112】
下塗りは、特に基板を機械的に処理する場合には、接着用樹脂(bonding resin)を含むことができる。
【0113】
好ましくは、接着用樹脂(複数可)は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルスルホン(PES)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、およびタンニンからなる群に選ばれる。
【0114】
有利には、本発明による物品は調理器具であり、本発明によるコーティングは、食品を受ける面において基材を完全にまたは部分的に覆う。
【0115】
有利には、本発明による物品はヘアストレートアイロンであり、本発明によるコーティングは、そのプレートを完全にまたは部分的に覆う。
【0116】
有利には、本発明による物品は衣類用アイロンであり、本発明によるコーティングはそのソールプレートを完全にまたは部分的に覆う。
【0117】
有利には、物品は、調理器具であり、この調理器具の支持体の一方の面は、前記調理器具の内部に置かれた食品と接触することを意図した凹状の内側面であり、調理器具の他方の支持体面は、熱源と接触することを意図した凸状の外側面である。
【0118】
好ましくは、前記家庭用品は、調理器具の物品であり、好ましくは、ソースパン、フライパン、シチュー鍋、中華鍋、ソテーパン、クレープメーカー、グリル、プランチャグリル、ラクレットグリル、マーマイト鍋またはキャセロール皿からなる群から選ばれ、前記コーティングは食品と接触することが意図されている。
【0119】
本発明で考慮される応用分野では、調理器具タイプの被加熱型物品やアイロンタイプの加熱型物品は、通常、10℃から300℃の温度範囲で使用される。
【0120】
本発明の別の主題は、本発明による家庭用品の使用方法に関し、以下のステップを有することを特徴とする。
【0121】
- 前記家庭用品を、加熱すること、または外部加熱源の存在下に置くこと、
- (Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料と温度基準顔料組成物の色の変化を観察すること、
- ● (Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料および温度基準顔料組成物の色が同一であるとき、または、
● (Bi1-xx)(V1-yy)O4顔料および温度基準顔料組成物のそれぞれの色が、前記家庭用品の使用説明書に規定された色に到達したとき、
前記家庭用品を使用すること。
【0122】
本発明によるコーティングは、(Bi1-xx)(V1-yy)O4型顔料および温度基準顔料組成物を含む少なくとも2つの顔料を含む。
【0123】
最適な使用条件は、それらの色が、本発明による物品の使用に際して、標準的な距離にいる使用者の肉眼で視覚的に同一であるときに到達することができる。一例を挙げると、本発明によるコーティングは、室温と最適使用温度との間で黄色からオレンジ色に変化するBiVO4と、オレンジ色の熱安定性オキシハロゲン化ビスマスから構成することができる。
【0124】
使用説明書は、使用者が最適な条件下で本発明による家庭用品の使用を開始することができる色を使用者に示すことができる。この指示は、例えば、アドホックカラーで満たされた幾何学的パターンまたはグラデーションカラーバー(例えば、図4を参照)の形態で存在することになる。このパターンまたはこのバーは、使用者に対して比較基準として機能し、使用者は本発明による物品のコーティングされた表面をこれに近づける。
【0125】
好ましくは、調理器具の場合、コーティングが食品の調理に適した温度、好ましくは100~250℃の間の温度に達したときに最適な条件が達成される。
【実施例
【0126】
実施例1:顔料の選択
使用した顔料は無機化合物の粉末である。
サーモクロミック顔料:
〇 BiVO4、実施例2に記載のプロセス、バッチ2bおよび2d
〇 Bi23、バリスタ(Varistor) ファイングレード、5Nプラス社から販売
〇 Sicopal(登録商標)Yellow K1120FG顔料、BASF社から販売
〇 Bayferrox(登録商標)130顔料、Bayferrox社から販売
熱安定性顔料(温度基準顔料):
〇 イエロー10C242顔料、シェファード・カラー・カンパニーから販売
〇 イエロー6716B顔料、FERRO社から販売
【0127】
これらの化合物は、単独で用いてもよく、または混合物として用いてもよい。
【0128】
実施例2:本発明によるBiVO4顔料化合物の合成方法
プロセス2.1
1M硝酸中の硝酸ビスマス(0.1M)の溶液に、1M硝酸中のバナジン酸アンモニウム(0.1M)の溶液を化学量論的に添加する。この混合物を一晩撹拌し、濾過し、水で洗浄し、次いで乾燥させる。次に、この粉末を450℃で3時間アニールする。
【0129】
次いで、バナジン酸ビスマスは、X線回折分析によって特徴付けられる単斜晶系のシェライト構造を持つ明るい黄色の粉末の形で得られる。
【0130】
このプロセスは、アルカリ剤を添加せず、pH<1で行われる。
【0131】
プロセス2.2
1M硝酸中の硝酸ビスマス(0.4M)の溶液に、化学量論的量のメタバナジン酸ナトリウムを粉末状で添加する。この混合物を80℃で2時間攪拌する。次に、沈殿物を濾過し、水で洗浄して、単斜晶系のシェライトの形態の黄色のBiVO4の粉末を得る。次に、この粉末を500℃で3時間アニールする。
【0132】
このプロセスは、アルカリ剤を添加せず、pH<1で行われる。
【0133】
単斜晶系シェルライトBiVO4は、室温から200℃の間でΔE=40を有する。
【0134】
実施例3:黒色フッ素化非粘着性コーティングへの化合物の組み込み
調理中に消費者を誘導する装飾を施した内側非粘着性コーティングを持つ調理器具を提供するために、サーモクロミック特性を改善した化合物を、数個のコーティングを有する非粘着性コーティングに導入する。
- 下塗り(複数可)、不透明色のもの。
- サーモクロミック化合物を装飾用被膜に組み込んだもの。
- 半透明の仕上げ塗り(複数可)。
【0135】
i.2つの下塗りの準備
水性PTFE分散液に基づく第1の処方剤を調製する。
【0136】
(a) プライマー1/処方1a
【0137】
【表2】
【0138】
水性PTFE分散液に基づく第2の処方剤が調製される。
【0139】
(b) プライマー2/処方2a
【0140】
【表3】
【0141】
処方剤1aおよび2aをろ過した後、エアスプレーガンで予め形成されたアルミニウム製キャップの内側に塗布する。この支持体には、少なくとも事前に脱脂と除塵が行われる。コーティングの接着をよくするために、支持体の表面はサンドブラストで処理され、その比表面を増加させる。
【0142】
プライマーは,少なくとも1回、5~50μmの厚さで塗布する。被膜を数回塗布する場合は、各被膜を乾燥させてから次の被膜を塗布する。
【0143】
ii.サーモクロミック装飾の調製
実施例1に記載したようなサーモクロミック顔料を含有するパッド印刷用ペーストを、以下に記載する処方に従って調製する。
【0144】
【表4】
【0145】
このペーストを、乾燥した下塗りの上にパッド印刷でパターン状に塗布する。
【0146】
iii.熱安定性基準装飾(thermostable reference decoration)の調製
実施例1に記載したような熱安定性基準顔料を含有するパッド印刷用ペーストを、以下に記載する処方に従って調製する。
【0147】
【表5】
【0148】
このペーストを、乾燥したサーモクロミック装飾の上にパターン状に塗布する。
【0149】
iv.仕上げ塗りの準備と養生
仕上げ塗りは下塗りと同じ方法で生成されるが、唯一の違いは、これが透明のままでなければならないことであり、したがって、これは顔料を含まないが、任意選択的に光輝材(glitter)を含む。
【0150】
【表6】
【0151】
すべてのコートを塗布し、乾燥させた後、430℃で11分間、成形品を硬化させる。
【0152】
実施例4:サンプルカラーの特徴付けの方法
制御された照明を備えた密閉された筐体からなるライトブースを使用する。カメラをブースの上に直接設置し、写真処理ソフトウェアに接続し、分析されたサンプルの色に関連する特性を得ることができる。ライトブースはD50(昼光に相当)の光源で照らされる。
【0153】
この特徴付けの原理は、分析する材料をブース内に配置し、その写真を撮影し、適切なソフトウェアを使用して写真から色データを抽出することである。
【0154】
得られたL***値により、所与のサンプルについて、基準温度(RT=25℃)に対する各温度で、色差(またはカラーバリエーション)ΔE*を得る。ここで、ΔE*はCIELAB色空間のCIE1976式を用いて定義される。
【0155】
【数3】
【0156】
但し、
1 *、a1 *、b1 *:標準温度(25℃または室温)における顔料色の座標、または基準顔料の座標
2 *、a2 *、b2 *:選択された温度(25℃/100℃/150℃/180℃/200℃/250℃)における顔料の色の座標、または選択された顔料の座標
【0157】
以下のプロトコルを開発し、ブース内で直接加熱することはできないが(雰囲気やカメラを乱さないため)、以下の点、即ち、移動相(transfer phases)の時間測定を利用して目標温度で撮影するという点で、よりよい制御が可能になる。
【0158】
i.設備
- 接触型センサー付き温度計
- ストップウォッチ
- ホットプレート
- フォトライトブース
- CANON EOS 13000D カメラ(キヤノン製28mm広角レンズ搭載)
- ガラススライド
- データ取得ソフト:Capture OneおよびPhotoshop
【0159】
ii.フライパンにパッド印刷で装飾を施した形状のサンプルのプロトコル(図7
- パッドにスタンプした顔料の円を含有するフライパンをホットプレートからブースに移動し、ブースを閉じてカメラを起動するまでの所要時間を測定する。(t=15秒)。
- サンプルを目標温度付近で加熱し、安定させる。
- 温度をテストし、これは15秒後に希望の温度に調整される。
- この温度で3回シミュレーションを行い、15秒後に得られたサンプルの温度を確認するか、またはその温度に依存して調整をする。
- 取得を開始する。
- ソフトウェアを使用して分析する写真面を選択し、L***値を読み取ることで特徴付けを実行する。
- Capture Oneソフトウェアを使用してRAW形式で画像を取り込み、その後、他の任意のファイル形式に変換することができる。
- 次いで、使用するPhotoshopでは、Rawファイルを変換(TIFF形式への変換)することが可能である。これにより、RGB色空間からD50照度でのCIE L***色空間への変換を実施することができる。
【0160】
iii.粉末状サンプルのプロトコル(図7
- フライパンに異なる粉を3回別々に盛る(ティースプーン1杯程度)。
- 粉の山をガラス板で平らにし、同じ厚さの滑らかで均質な表面を作る。
- その後、上と同じプロトコルを実行する。
【0161】
実施例5:成果の活用
i.いくつかの温度におけるサンプルのΔE*の計算
粉末状の顔料であるFe23を例にとる。
【0162】
各温度におけるFe23のL***座標とΔE*の結果は以下の通りである。
【0163】
【表7】
【0164】
100℃での例:
【0165】
【数4】
【0166】
【表8】
【0167】
ii.グラフィックの解釈
各サンプルについて異なる温度で計算されたΔE*値は、室温での色に対する色差の漸進的変化をグラフで可視化することを可能にする(ΔE*=f(温度℃))。
【0168】
グラフ(図8)は、粉末状態での各顔料のカラーバリエーションを示したものである。
【0169】
今回試験した顔料は全て、温度の関数として、かなり直線的な色変化を示す。
【0170】
「非常に良好な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が40以上であり、色差ΔE*が温度の関数として0.2以上の傾きで直線的に変化する。
【0171】
「良好な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が30から40で構成され、温度の関数として色差ΔE*が0.2以上の傾きで直線的に変化する。
【0172】
「平均的な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が10から30で構成され、色差ΔE*が温度の関数として0.05から0.2の傾きで直線的に変化する。
【0173】
熱安定性顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が10未満であり、色差ΔE*が温度の関数として0.05未満の傾きで直線的に変化する。
【0174】
グラフ(図9)は、先に述べたような非粘着性コーティングにおけるパッド印刷された装飾の形態で、各顔料のカラーバリエーションを示している。
【0175】
今回試験した非粘着性コーティングに組み込まれた着色物質は全て、温度の関数として、かなり直線的な色変化を示す。
【0176】
温度の関数としての色変化の挙動と、化合物の互いに対する分類は、粉末状の材料で行われた観察と非常によく似ている。しかし、色差の明確な減少が観察され、これは非粘着性コーティングでの組み込みに関連し、おそらく完全に透明ではない仕上げ塗りの「フィルター」効果に関連していると思われる。
【0177】
非粘着性コーティングに組み込まれた「非常に良好な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が20以上であり、色差ΔE*が温度の関数として0.1以上の傾きで直線的な変化を示す。
【0178】
非粘着性コーティングに組み込まれた「良好な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が15から20で構成され、色差ΔE*が温度の関数として0.1以上の傾きで直線的な変化を示す。
【0179】
非粘着性コーティングに組み込まれた「平均的な」サーモクロミック顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が7から15で構成され、色差ΔE*が温度の関数として0.05から0.1の傾きで直線的な変化を示す。
【0180】
非粘着性コーティングに組み込まれた熱安定性顔料は、25℃と200℃の間で色差ΔE*が7以下であり、色差ΔE*が温度の関数として0.05以下の傾きで直線的な変化を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】