(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】両親媒性炭水化物化合物
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20230619BHJP
A61K 31/722 20060101ALI20230619BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230619BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20230619BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20230619BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20230619BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230619BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230619BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230619BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230619BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230619BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20230619BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C08B37/08
A61K31/722
A61K45/00
A61K38/12
A61K31/706
A61K31/436
A61P37/02
A61P1/04
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P13/12
A61P27/04
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571101
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 GB2021051246
(87)【国際公開番号】W WO2021234413
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516123767
【氏名又は名称】ナノメリクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】メラー,ライアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA24
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZA66
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB15
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB22
4C086EA04
4C086EA23
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB15
4C090AA02
4C090AA03
4C090BA47
4C090BB17
4C090CA35
4C090DA23
(57)【要約】
本発明は、グリコールキトサンに基づく平均分子量1~50kDaのアセチル化両親媒性炭水化物化合物であって、アセチル化のレベルを変更することができるアセチル化両親媒性炭水化物化合物に関する。この化合物は、薬物等の疎水性化合物と共に製剤化することができる。炭水化物化合物のアセチル化の程度は、薬物の可溶化を最大にするために最適化される。この化合物は、薬物と共に製剤化され、治療において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表される平均分子量1~50kDaの両親媒性炭水化物化合物であって、
【化6】
式中、
単位Aのレベルは、0.5%から30モル%であり、
単位Dのレベルは、1%から95.5モル%であり、
単位Hのレベルは、1%から95.5モル%であり、
単位Qのレベルは、3%から97.5モル%であり、
単位Tのレベルは、0%から94.5モル%であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
10は、独立して、水素、又は、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、グルコース、ガラクトース、フルクトース、及びムラミン酸から選択される糖置換基、又は、オリゴポリオキサC
1-C
3アルキレン単位であり、任意的に、アミン、アミド、又はアルコールで置換されており、
R
5は、疎水性で、置換若しくは無置換の、直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のC
4-30アルキル基、C
4-30アルケニル基、C
4-30アルキニル基、C
4-30アリール基、アミン基、C
4-30アミド基、C
4-30アルコール基、又はC
3-30アシル基であり、
R
6、R
7、及びR
8は、独立して、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態の任意のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はアシル基であり、
R
9は、存在する場合も存在しない場合もあり、存在する場合は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアミン基、又は置換若しくは無置換のアミド基であり、
R
11は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素であり、さらに、
R
12は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基であり、
R
13は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素であり、
又はその塩である、両親媒性炭水化物化合物。
【請求項2】
以下の式
【化7】
を有し、
式中、
アセチル化単位Aのレベルは、0.5%から30%であり、
脱アセチル化単位Dのレベルは、1%から95.5%であり、
疎水化単位Hのレベルは、1%から95.5%であり、
第四級アミン単位Qのレベルは、3%から97.5%であり、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、独立して、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、グルコース、ガラクトース、フルクトース、及びムラミン酸から選択される糖置換基、又は、オリゴポリオキサC
1-C
3アルキレン単位であり、任意的に、アミン、アミド、又はアルコールで置換されており、
R
5は、疎水性で、置換若しくは無置換の、直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のC
4-30アルキル基、C
4-30アルケニル基、C
4-30アルキニル基、C
4-30アリール基、アミン基、C
4-30アミド基、C
4-30アルコール基、又はC
3-30アシル基であり、さらに、
R
6、R
7、及びR
8は、独立して、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態の任意のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はアシル基であり、
又はその塩であり、
ここで、全ての%は、モル%として与えられている、請求項1に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項3】
以下の式
【化8】
を有し、
式中、
単位a及びgは、請求項1に記載の単位Dに対応し、
単位b及びdは、請求項1に記載の単位Hに対応し、
単位cは、請求項1に記載の単位Qに対応し、
単位eは、請求項1に記載の単位Tに対応し、
単位fは、請求項1に記載の単位Aに対応し、
単位a+b+c+d+e+f+gの割合は、1であり、さらに、
A、D、H、Q、及びTの対応するレベルは、請求項1に記載の範囲内にあり、
又はその塩である、請求項1に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項4】
前記単位A、D、H、Q、及びTは(存在する場合)、ポリマーにおいて任意の配置をとっている、請求項1又は2に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項5】
アセチル化単位Aのレベルは、0.5~26モル%又は0.5~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、0.5~10モル%、又は0.5~5モル%の範囲内にある、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項6】
疎水化単位Hのレベルは、2~94.5モル%、好ましくは2~90モル%、5~80モル%、5~70モル%、5~50モル%、又は10~30モル%の範囲内にある、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項7】
第四級アミン単位Qのレベルは、1~90モル%、好ましくは2~50モル%、5~30モル%、5~20モル%、5~15モル%、又は5~10モル%の範囲内にある、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項8】
Aは2から30モル%の範囲内にあり、Hは14から24モル%の範囲内にあり、さらに、Qは6から14モル%の範囲内にあり、好ましくは、Aは2から11モル%の範囲内にあり、Hは10から24モル%の範囲内にあり、さらにQは5から10モル%の範囲にある、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項9】
部分的にアセチル化された形態のN-パルミトイル,N-モノメチル,N,N-ジメチル,N,N,N-トリメチル-6-O-グリコールキトサン(GCPQ)である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物、疎水性の薬物、及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項11】
前記薬物は、鎮痛剤、抗生物質、抗凝固剤、抗うつ剤、抗発がん物質、抗腫瘍物質、抗炎症薬、抗ヒスタミン剤、制吐剤、抗不安薬、抗痙攣物質、抗精神病剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、鎮静剤、降圧剤、又は心血管治療薬である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記薬物は、マクロライド系免疫抑制剤であり、好ましくは、前記薬物は、シクロスポリンA、タクロリムス、又はラパマイシンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
薬物の濃度が、0.01%から0.2%w/vである、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
治療に使用するための、疎水性の薬物と、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物とを含む組成物。
【請求項15】
自己免疫障害の治療に使用するための、好ましくは、関節リウマチ、乾癬、クローン病、ネフローゼ症候群、(乾性角結膜炎(KCS)としても知られる)ドライアイ症候群(DES)、春季角結膜炎(VKC)、湿疹、アトピー性角結膜炎(AKC)、シェーグレン症候群、術後屈折矯正手術、角膜移植、又はコンタクトレンズ不耐性の治療に使用するための、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
眼内投与による治療に使用するための、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項17】
経口投与による治療に使用するための、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の化合物又は請求項10乃至13のいずれか一項に記載の医薬組成物を、それを必要とするヒト又は動物の対象に投与することを含む治療の方法。
【請求項19】
前記治療は、自己免疫障害の治療であり、好ましくは、前記治療は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、ネフローゼ症候群、(乾性角結膜炎(KCS)としても知られる)ドライアイ症候群(DES)、春季角結膜炎(VKC)、湿疹、アトピー性角結膜炎(AKC)、シェーグレン症候群、術後屈折矯正手術、角膜移植、又はコンタクトレンズ不耐性の治療である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
炭水化物化合物の脱重合、
アセチル化のレベルを増やす、減らす、又は維持すること、
疎水性の側鎖を付加するための化合物と炭水化物を反応させること、及び
アミンを四級化するための化合物と炭水化物を反応させること、
を含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物の形成方法。
【請求項21】
治療に使用するための薬物の製造における、疎水性の薬物と、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の両親媒性炭水化物化合物とを含む組成物の使用であって、前記治療は、好ましくは、自己免疫障害の治療であり、好ましくは、前記治療は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、ネフローゼ症候群、(乾性角結膜炎(KCS)としても知られる)ドライアイ症候群(DES)、春季角結膜炎(VKC)、湿疹、アトピー性角結膜炎(AKC)、シェーグレン症候群、術後屈折矯正手術、角膜移植、又はコンタクトレンズ不耐性の治療である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチル化両親媒性炭水化物化合物、及びそれらを疎水性の薬物と共に製剤化することに関する。
【背景技術】
【0002】
両親媒性炭水化物化合物は、薬物、特に疎水性の薬物の製剤化に有用である。特許文献1は、例えば疎水性特性を有する化合物を可溶化するのに適した疎水性及び親水性のペンダント基を有する炭水化物ポリマーを開示している。この炭水化物ポリマーは、以下の一般式
【0003】
【0004】
この式において、Xは、任意の直鎖状若しくは分枝状、置換若しくは無置換、若しくは環状の形態のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アミン基、アミド基、アルコール基、又はアシル基であり得る。好ましくは、X基は、例えばパルミチン酸の脂肪酸誘導体である。アセトアミド等のより小さな基は、特に開示されていない。mの値は、0.01%から10.00%である。
【0005】
キトサン及びその誘導体のアセチル化については様々な研究が実行されてきた。しかし、キトサン両親媒性物質誘導体の自己集合及び薬物のカプセル化に対するアセチル化の影響については、あまり研究されていない。キトサン上のアセチル基は疎水性であり、従って、アセチル化の程度が高いほど、アセチル化されたキトサンはより疎水性になると予想され得る。疎水性は、自己集合及び薬物のカプセル化を促進するため、疎水性が高い(アセチル化の程度が高い)キトサン両親媒性物質は、より容易に自己集合し、より高レベルの疎水性化合物をカプセル化すると予想される(非特許文献1)。他のポリマーの疎水性の増加も、その自己集合する能力を増加し、疎水性化合物をカプセル化する能力も、経口経路を介して送達する能力も増加する(非特許文献2)。しかし、(水溶解度によって測定される)疎水性とキトサンのアセチル化レベルとの関係は複雑である。そのようなものとして、キトサン両親媒性物質上のアセチル化レベルが疎水性の薬物のカプセル化効率にプラスの影響を与えると予測することは可能ではない。
【0006】
上記を踏まえて、医薬品又は他の製品賦形剤として使用するために両親媒性且つ自己集合性のキトサン誘導体を調製することを望む場合には、キトサンのアセチル誘導体化と、結果として生じるキトサン誘導体の疎水性(水溶性の低下)との関係を正しく理解することが重要である。
【0007】
キトサンの水溶性は脱アセチル化のレベルの増加(~34%から~64%)と共に増加し、約半分の脱アセチル化(~50%のアセチル基)で、アセチル基によって提供される結晶化度の低下により、キトサンは水溶性になる(非特許文献3及び非特許文献4)。さらなる研究により、アセチル化レベルが42~82%のN-アセチルキトサンは水溶性であることが示されている(非特許文献5)。
【0008】
他の研究により、キトサン(0.5%w/w)は、脱アセチル化のレベルが9から55%に増加するに従い、希酢酸においてより可溶性になることが示されている(非特許文献4)。従って、50%のアセチル化でキトサンは最も水溶性が高いということ(非特許文献3)、及び、脱アセチル化のレベルが50%を下回って低下するに従いキトサンの疎水性が増加するということを示唆する文献上の証拠がある。しかし、脱アセチル化のレベルが70%を超える場合のキトサンの水溶性に対する脱アセチル化の影響は明確ではなく、明確な傾向はない。例えば、アセチル化のレベルが14%であるか、50%であるか、又は検出可能なアセチル化がない(完全に脱アセチル化された)キトサンの場合、完全に脱アセチル化されたキトサンはpH=5.8で沈殿し始め、14%のアセチル化キトサンはpH=6.0で沈殿し始め、50%のアセチル化キトサンはpH=7.4で沈殿し始め;全てが、1mg/mLで研究されている(非特許文献6)。これは、中性pH(pH=7.0)において、完全に脱アセチル化されたキトサン及び14%アセチル化されたキトサンは不溶性であるが、半分脱アセチル化されたキトサンは可溶性であることを示唆している。加えて、72%脱アセチル化されたキトサンは、水において不溶性であると報告されている(非特許文献3)。キトサンがさらに誘導体化されると、キトサンのアセチル化レベルと水溶性との関係は明らかではない。糖レベルが5%のアセチル化糖を有するキトサン(2mg/mL)は、アセチル化レベルが5から29%に及ぶ場合、及びアセチル化レベルが68%の場合に、水において不溶性であるが、糖レベルが5%で、アセチル化レベルが49%の糖を有するキトサンは水溶性である(非特許文献7)。
【0009】
加えて、アセチル化が73から92%に及ぶN-アセチル-グリコールキトサンは、水溶性であることが示されている(非特許文献8)。
【0010】
上記のことから明らかなように、疎水性化合物をカプセル化する能力が良好な疎水性キトサン両親媒性誘導体を調製するための最適なアセチル化レベルがどこに存在するのかについて、既存の文献には明確な方向性が欠けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Qu et al.,“Carbohydrate-based micelle clusters which enhance hydrophobic drug bioavailability by up to 1 order of magnitude”,Biomacromolecules 2006,7,3452-3459
【非特許文献2】Le et al.,“Polymer hydrophobicity has a positive effect on the oral absorption of cyclosporine A from poly(ethylenimine) based nanomedicines”,Pharmaceutical Nanotechnology,2013,1,15-25
【非特許文献3】Lu et al.,“Preparation of water-soluble chitosan”,Journal of Applied Polymer Science 2004,91,(6),3497-3503
【非特許文献4】Cho et al.“Preparation and solubility in acid and water of partially deacetylated chitins”,Biomacromolecules 2000,1,(4),609-14
【非特許文献5】Hirano et al.,“Water-Soluble N-(n-Fatty acyl)chitosans.”,Macromolecular Bioscience 2003,3,(10),629-631
【非特許文献6】Sogias et al.,“Exploring the Factors Affecting the Solubility of Chitosan in Water”,Macromolecular Chemistry and Physics 2010,211,(4),426-433
【非特許文献7】Park et al.“Synthesis and characterization of sugar-bearing chitosan derivatives: aqueous solubility and biodegradability”,Biomacromolecules 2003,4,(4),1087-91
【非特許文献8】Cho et al.,“Bioinspired tuning of glycol chitosan for 3D cell culture.”NPG Asia Materials 2016,8,(9),e309-e309
【非特許文献9】Godfrey et al.,“Nanoparticulate peptide delivery exclusively to the brain produces tolerance free analgesia”,J.Control Release 2017,270,135-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、両親媒性キトサン誘導体の自己集合、ひいては薬物のカプセル化に対するアセチル化の効果に関する研究に基づいている。疎水性の薬物をカプセル化するための最適化された両親媒性炭水化物化合物が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様において、本発明は、以下の式(I)で表される平均分子量1~50kDaの両親媒性炭水化物化合物であって、
【0015】
【化2】
式中、
単位Aのレベルは、0.5%から30モル%であり;
単位Dのレベルは、1%から95.5モル%であり;
単位Hのレベルは、1%から95.5モル%であり;
単位Qのレベルは、3%から97.5モル%であり;
単位Tのレベルは、0%から94.5モル%であり;
R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
10は、独立して、水素、又は、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、グルコース、ガラクトース、フルクトース、及びムラミン酸から選択される糖置換基、又は、オリゴポリオキサC
1-C
3アルキレン単位であり、任意的に、アミン、アミド、又はアルコールで置換されており;
R
5は、疎水性で、置換若しくは無置換の、直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のC
4-30アルキル基、C
4-30アルケニル基、C
4-30アルキニル基、C
4-30アリール基、アミン基、C
4-30アミド基、C
4-30アルコール基、又はC
3-30アシル基であり;
R
6、R
7、及びR
8は、独立して、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態の任意のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はアシル基であり;
R
9は、存在する場合も存在しない場合もあり、存在する場合は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアミン基、又は置換若しくは無置換のアミド基であり;
R
11は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素であり;さらに、
R
12は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基であり;
R
13は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素である
両親媒性炭水化物化合物、
又はその塩を提供する。
【0016】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様による両親媒性炭水化物化合物、疎水性の薬物、及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様によると、治療に使用するための、本発明の第1の態様による両親媒性炭水化物化合物と疎水性の薬物とを含む組成物が提供される。
【0018】
本発明の第4の態様によると、本発明の第1の態様による両親媒性炭水化物化合物の形成方法が提供され、当該方法は、
炭水化物化合物の脱重合;
アセチル化のレベルを増やす、減らす、又は維持すること;
疎水性の側鎖を付加するための化合物と炭水化物を反応させること;及び
四級アンモニウム基生成するための化合物と炭水化物を反応させること;
を含む。
【0019】
また、本発明の第1の態様による両親媒性炭水化物化合物、農芸化学剤、及び1つ以上の農芸化学的に許容される賦形剤を含む農芸化学組成物も提供される。
【0020】
また、本発明の第5の態様による農芸化学組成物を用いて真菌汚染を制御する方法も提供される。
【0021】
四級アンモニウムパルミトイルグリコールキトサン(GCPQ)等の両親媒性炭水化物化合物のアセチル化の程度を増加させると、疎水性分子とのより強い疎水性相互作用が可能になり、従って、疎水性の薬物のより優れたカプセル化が可能になると予想される。しかし、本発明者等は、意外にも反対の効果を観察した。本発明は、適切な疎水性の程度(上記の式における単位H)と組み合わせて、アセチル化の程度(上記の式における単位Aのレベル)を制御することが、疎水性化合物の可溶化を増加させる効果的な方法であることを明らかにしている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】様々な当量の無水酢酸を用いて得られるアセチル化(DA)のレベルを示した図である。
【
図2】それぞれアセチル化レベル、パルミトイル化レベル、及び四級化レベルの関数としてシクロスポリンAの可溶化レベルを示した図である。
【
図3】シクロスポリンAの可溶化レベルの観測値を、数学的モデルによる予測値に対して示した図である。
【
図4】理論的なポリマーにおけるそれぞれアセチル化レベル、パルミトイル化レベル、及び四級化レベルの関数としてシクロスポリンAの可溶化レベルの予測値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記のように、本発明は、以下の式(I)で表される平均分子量1~50kDaの両親媒性炭水化物化合物又はその塩を記載しており、参照を容易にするために以下において再現される。
【0024】
【化3】
この式において:
*は、連続するポリマー鎖を表すために使用され;
単位A(アセチル化単位)のレベルは、0.5%から30モル%であり;
単位D(脱アセチル化単位)のレベルは、1%から95.5モル%であり;
単位H(疎水化単位)のレベルは、1%から95.5モル%であり;
単位Q(第四級アミン単位)のレベルは、3%から97.5モル%であり;
単位T(第三級アミン単位)のレベルは、0%から94.5モル%である。
【0025】
全てのパーセンテージがモル%を指している。
【0026】
A+D+H+Q+Tは100%に等しくなるということが理解されたい。A、D、H、Q、及びTは両親媒性炭水化物化合物において任意の配置をとり得るということも理解されるべきである。従って、その配置は完全にランダムであってもよく、又は、ADHQADHQ等のブロック共重合体の形としてあってもよい。
【0027】
本発明は、ポリマーの変化するアセチル化レベルによって化合物の可溶化を最大にする方法を提供する。
【0028】
本発明の1つの好ましい実施形態において、単位Tは存在しない。単位Tが存在するかどうかにかかわらず、以下の好ましい範囲が適用される。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、Aは、0.5%から26モル%の範囲内、好ましくは0.5%から20モル%の範囲内、好ましくは0.5%から15モル%の範囲内、より好ましくは0.5%から10モル%の範囲内、さらにより好ましくは0.5%から5モル%、又は0.5から4モル%、又は0.5から3モル%の範囲内にある。
【0030】
代替的な好ましい実施形態において、Aは、2から20モル%の範囲内、好ましくは2から15モル%の範囲内、より好ましくは2から10モル%の範囲内、さらにより好ましくは2から5モル%、又は2から4モル%の範囲内にある。
【0031】
代替的な好ましい実施形態において、Aは、1から20モル%の範囲内、好ましくは1から15モル%の範囲内、より好ましくは1から10モル%の範囲内、さらにより好ましくは1から5モル%、又は2から5モル%の範囲内にある。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、Dは、2%から94.5モル%の範囲内、好ましくは10%から94.5モル%の範囲内、より好ましくは10%から90モル%の範囲内、典型的には20から80モル%の範囲内、又は50%から75モル%の範囲内、より好ましくは55%から75モル%の範囲内、さらにより好ましくは65%から75モル%の範囲内にある。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、Hは、2%から94.5モル%の範囲内、好ましくは2%から90モル%の範囲内、より好ましくは5%から80モル%の範囲内にある。さらなる好ましい実施形態において、Hは、5%から70モル%の範囲内、例えば、5%から60モル%、又は5%から50モル%の範囲内にある。代替的な実施形態において、Hは、10%から30モル%の範囲内、より好ましくは10から20モル%、又は20%から30モル%の範囲内にある。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、Qは、1%から90モル%の範囲内にあり、好ましくは、2%から50モル%、例えば5%から30モル%、5%から20モル%、5から15モル%、又は5から10モル%の範囲内に存在する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、Tは、0%から20モル%の範囲内、より好ましくは0%から10モル%の範囲内、さらにより好ましくは0%から5モル%の範囲内にある。一部の実施形態において、Tは、0.5%から20モル%、又は1%から20モル%の範囲内、例えば1から10モル%、又は1から5モル%の範囲内に存在する。
【0036】
A、D、H、Q、及びTに対する好ましい範囲のいずれも組み合わせることができる。
【0037】
好ましい実施形態では、以下の範囲が存在する:
Aは、2から30モル%の範囲内にあり;
Hは、14から24モル%の範囲内にあり;
Qは、6から14モル%の範囲内にある。
【0038】
さらなる好ましい実施形態では、以下の範囲が存在する:
Aは、2から11モル%の範囲内にあり;
Hは、10から24モル%の範囲内にあり;
Qは、6から14モル%の範囲内にある。
【0039】
両親媒性炭水化物は、塩を伴うことがある。例えば、塩は、塩化物、ヨウ化物、酢酸塩、又はグルクロニド塩を含み得る。
【0040】
両親媒性炭水化物化合物の分子量は、1~50kDaの範囲内にある分子量を有する。分子量は、好ましくは、ゲル浸透クロマトグラフィー-多角度光散乱検出器(GPC-MALLS)を使用して測定される。
【0041】
両親媒性炭水化物化合物は、水性媒体において自己集合してナノ粒子になることができる。
【0042】
R1、R2、R3、R4、及びR10は、独立して、水素、又は、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、グルコース、ガラクトース、フルクトース、及びムラミン酸から選択される糖置換基、又は、オリゴポリオキサC1-C3アルキレン単位であり、任意的に、アミン、アミド、又はアルコールで置換されている。好ましくは、これらの基は、独立して、水素、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は、置換若しくは無置換のアルケン基から選択される。
【0043】
典型的には、R1、R2、R3、R4、及びR10は、C1-C4の直鎖状アルキル基であってもよい。好都合なことに、R1、R2、R3、R4、及びR10は、全て-CH2-CH2-OHであってもよい。
【0044】
典型的には、R1、R2、R3、R4、及びR10は、C1-C4の直鎖状グリコールベースの基であってもよい。
【0045】
典型的には、R1、R2、R3、R4、及びR10は、以下の糖置換基:すなわち、グルコース、ガラクトース、フルクトース、及びムラミン酸のいずれかである。
【0046】
R1、R2、R3、R4、及びR10は、エチレングリコールオリゴマー等のオリゴポリオキサC1-C3アルキレン単位であってもよい。
【0047】
R1、R2、R3、R4、及びR10の全てが、CH2OCH2CH2OH又はCH2CH2OHであってもよい。
【0048】
R1、R2、R3、R4、及びR10の全てが、Hであってもよい。
【0049】
典型的には、R5は、疎水性で、置換若しくは無置換の、直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態のC4-30アルキル基、C4-30アルケニル基、C4-30アルキニル基、C4-30アリール基、アミン基、C4-30アミド基、C4-30アルコール基、又はC3-30アシル基である。
【0050】
R5基は、好ましくは、C4-30アルキル基等のアルキル基、C4-30アルケニル基等のアルケニル基、C4-30アルキニル基等のアルキニル基、C5-20アリール基等のアリール基、ステロール(例えばコレステロール)等の2つ以上のC4-C8環構造を有する多環状疎水基、2つ以上のC4-C8ヘテロ原子環構造を有する多環状疎水基、ポリオキサブチレンポリマー等のポリオキサC1-C4アルキレン基、又は、ポリ(乳酸)基、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)基、若しくはポリ(グリコール酸)基等の疎水性高分子置換基である置換基若しくは無置換基の基から選択される。R5基は、直鎖状、分枝状、又は環状の基である。
【0051】
R5基の好ましい例として、式CH3(CH2)n-CO-、又はCH3(CH2)n-、又はアルケン酸CH3(CH2)p-CH=CH-(CH2)q-CO-によって表されるものが挙げられ、ここで、nは、4から30、より好ましくは6から20であり、p及びqは同じであってもよく、又は異なっていてもよく、4から16、より好ましくは4から14である。特に好ましいクラスのR5置換基は、(式においてはペンダントNHを含む)アミド基を介してキトサンモノマー単位に結合しており、例えば、式CH3(CH2)nCO-によって表され、ここで、nは、2から28である。アミド基の例は、キトサンのアミン基に対するカルボン酸の結合によって生成される。好ましい例は、カプリン酸(n=8)、ラウリン酸(n=10)、ミリスチン酸(n=12)、パルミチン酸(n=14)、ステアリン酸(n=16)、又はアラキジン酸(n=18)に基づくもの等の脂肪酸誘導体CH3(CH2)nCOOHである。
【0052】
R6、R7、及びR8は、独立して、任意の直鎖状、分枝状、若しくは環状の形態の任意のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はアシル基である。R6、R7、及びR8は、好ましくは、独立して、C1-10アルキル基等の置換又は無置換のアルキル基から選択される。R6、R7、及び/又はR8は、直線状又は分岐状であってもよい。好ましくは、R6、R7、及びR8は、独立して、メチル基、エチル基、又はプロピル基から選択される。
【0053】
好都合なことに、R6、R7、及びR8は、親水性である四級アンモニウム基を形成する。
【0054】
親水性の基は、水によって十分に水和させられ、分子レベルで水と結合する基である。さらなる非イオン性の親水性の基が、R6、R7、及びR8がCH2O-Y(Yは親水性の置換基である)に等しいことを条件に、NR6R7R8に代わることができる。その場合、炭水化物ポリマー上の両方の親水性の置換基は、モノ及びオリゴヒドロキシC1-C6アルキル、モノ及びオリゴヒドロキシ置換C2-C6アシル、任意的にヒドロキシ基のうち1つ以上をアルコキシ基又はアルキレン基上で置換させたC1-C2アルコキシアルキル、オリゴ又はポリ-(オキサC1-C2アルキレン)、好ましくは最大120のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコール(すなわち5000の分子量)、及び、任意的にヒドロキシ置換されたC1-C4アルキル(オリゴ又はポリオキサC1-C3アルキレン)、好ましくはオリゴ又はポリグリセロールエーテルから選択されてもよく;ここで、NR6R7R8に対する置換基は、多糖類の糖類単位へのエーテル結合を介して結合している。アシル基は、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を含有してもよい。
【0055】
R1、R2、R3、R4、及びR10も、親水性であってもよい。
【0056】
R9基は、一般式において存在する場合も存在しない場合もある。R9は、存在する場合も存在しない場合もあり、存在する場合は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアミン基、又は置換若しくは無置換のアミド基である。
【0057】
存在しない場合は、キトサン骨格のモノマー単位に直接結合した四級アンモニウム官能基を提供する。R9基が存在する場合は、例えば-(CH2)n-によって表されるように、無置換又は置換のアルキル基(例えばC1-10アルキル基等)であってもよく、ここで、nは、好ましくは1から4である。R9N+R6R7R8置換基の好ましい例は、b単位のアミン置換基にベタイン(-OOC-CH2-N+-(CH3)3)を結合させて、-NH-CO-CH2-N+R6R7R8におけるもの等のアミド基を与えることによって提供される。
【0058】
R11は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素である。好ましくは、R11は、水素、及びC1-10アルキル基等の置換又は無置換のアルキル基から選択される。R11は、直線状又は分枝状であってもよい。好ましくは、R11は、メチル基、エチル基、又はプロピル基から選択され、或いは、OH置換されたアルキル基であり、好ましくは式CH2CH2OHのものである。
【0059】
R12は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基である。好ましくは、R12は、C1-10アルキル基等の置換又は無置換のアルキル基から選択される。R12は、直線状又は分枝状であってもよい。好ましくは、R12は、メチル基、エチル基、又はプロピル基から選択され、或いは、OH置換されたアルキル基であり、好ましくは式CH2CH2OHのものである。
【0060】
典型的には、R12は、C1-10のアルキル基である。R12は、直線状又は分枝状であってもよい。好ましくは、R12は、メチル基、エチル基、又はプロピル基から選択される。
【0061】
R13は、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のエーテル基、又は置換若しくは無置換のアルケン基、又は水素である。好ましくは、R13は、水素、及びC1-10アルキル基等の置換又は無置換のアルキル基から選択される。R13は、直線状又は分枝状であってもよい。好ましくは、R13は、メチル基、エチル基、又はプロピル基から選択され、或いは、OH置換されたアルキル基であり、好ましくは式CH2CH2OHのものである。最も好ましくは、R13は、水素である。
【0062】
A+D+H+Q+Tのモノマー単位の総数は、約10から100であってもよい。好ましくは、A+D+H+Q+Tのモノマー単位の総数は、約200未満であってもよい。
【0063】
両親媒性炭水化物化合物は、ポリマーが内因性受容体を標的とするのを可能にし、従って、その薬物ペイロードを病理部位のそのような内因性受容体に標的とさせるのを可能にし得るペプチド、抗体、及び他のリガンド、例えば、葉酸及びトランスフェリンリガンド等のさらなる標的化基も有し得る。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、両親媒性炭水化物化合物は、部分的に脱アセチル化された形態のN-パルミトイル,N-モノメチル,N,N-ジメチル,N,N,N-トリメチル-6-O-グリコールキトサン(GCPQ)である。これは、非晶質化合物であることが知られており(非特許文献9)、従って、アセチル化キトサンが脱アセチル化キトサンに変換されるときに観察される結晶化度の増加には縛られない。
示されているように、本明細書において記載されている置換基の一部は、当業者にはよく知られているように、無置換であってもよく、又は1つ以上のさらなる置換基で置換されてもよい。一般的な置換基の例としては、ハロ;ヒドロキシル;エーテル(例えばC1-7アルコキシ等);ホルミル;アシル(例えば、C1-7アルキルアシル、C5-20アリールアシル等);アシルハライド;カルボキシ;エステル;アシルオキシ;アミド;アシルアミド;チオアミド;テトラゾリル;アミノ;ニトロ;ニトロソ;アジド;シアノ;イソシアノ;シアナート;イソシアナート;チオシアノ;イソチオシアノ;スルフヒドリル;チオエーテル(例えばC1-7アルキルチオ等);スルホン酸;スルホン酸塩;スルホン;スルホニルオキシ;スルフィニルオキシ;スルファミノ;スルホンアミノ;スルフィンアミノ;スルファミル;スルホンアミド;C1-7アルキル(例えば、無置換のC1-7アルキル、C1-7ハロアルキル、C1-7ヒドロキシアルキル、C1-7カルボキシアルキル、C1-7アミノアルキル、C5-20アリール-C1-7アルキル等を含む);C3-20ヘテロシクリル;及び、C5-20アリール(例えば、C5-20カルボアリール、C5-20ヘテロアリール、C1-7アルキル-C5-20アリール、及びC5-20ハロアリール等を含む)の基が挙げられる。
【0065】
本明細書において使用される場合「環構造」という用語は、3から10の共有結合した原子、さらにより好ましくは、3から8の共有結合した原子、さらにより好ましくは5から6の共有結合した原子の閉じた環に関係している。環は、脂環又は芳香環であってもよい。本明細書において使用される場合「脂環」という用語は、芳香環ではない環に関係している。
【0066】
本明細書において使用される場合「炭素環」という用語は、環原子の全てが炭素原子である環に関係している。
【0067】
本明細書において使用される場合「炭素芳香環」という用語は、環原子の全てが炭素原子である芳香環に関係している。
【0068】
本明細書において使用される場合「複素環」という用語は、環原子の少なくとも1つが多価環ヘテロ原子である環に関係しており、多価環ヘテロ原子は、例えば、窒素、リン、ケイ素、酸素、又は硫黄であるが、より一般的には、窒素、酸素、又は硫黄等である。好ましくは、複素環は、1から4のヘテロ原子を有する。
【0069】
上記の環は、「多環状基」の一部であってもよい。
【0070】
本発明の好ましい化合物は、以下の式(II)を有し、
【0071】
【化4】
式中、
アセチル化単位Aのレベルは、0.5%から30モル%であり;
脱アセチル化単位Dのレベルは、1%から95.5モル%であり;
疎水化単位Hのレベルは、1%から95.5モル%であり;
第四級アミン単位Qのレベルは、3%から97.5モル%であり;
他の基は、先に定義されたとおりであり、上記の好ましいパーセンテージが適用される。
【0072】
本発明のさらなる好ましい化合物は、以下の式(III)を有し、
【0073】
【化5】
式中、
単位a及びgは共に、請求項1に記載の単位Dに対応し;
単位b及びdは共に、請求項1に記載の単位Hに対応し;
単位cは、請求項1に記載の単位Qに対応し;
単位eは、請求項1に記載の単位Tに対応し;
単位fは、請求項1に記載の単位Aに対応し;
単位a+b+c+d+e+f+gの割合は、1であり;さらに、
A、D、H、Q、及びTの対応するレベルは、請求項1に記載の範囲内にあり;
又はその塩である。
【0074】
本発明の一実施形態では、一般式(I)の両親媒性炭水化物化合物を形成する方法が提供され、当該方法は;
炭水化物ポリマーを脱重合して脱重合された炭水化物を形成するステップ;
存在するアセチル化レベルを増やす、減らす、又は維持するために、様々な当量の第1の反応性化合物と脱重合された炭水化物を反応させるステップ;
炭水化物の骨格上に疎水性の側基を形成し、従って、疎水的に置換された脱重合された炭水化物を形成するために、第2の反応性化合物と脱重合された炭水化物を反応させるステップ;及び、
より多い、より少ない、又は同じレベルのアセチル化を有する炭水化物化合物に第3の反応性化合物を添加して、アミン基を四級化し、それによって両親媒性炭水化物化合物を形成するステップ;
を含む。
【0075】
炭水化物ポリマーは、グリコールキトサンから選択されてもよい。
【0076】
炭水化物ポリマーは、以下の酸、塩基、又は酵素のいずれかを用いて脱重合されてもよい。
【0077】
炭水化物ポリマーを脱重合するのに使用される酸は、以下のHCl、H2SO、HNO3、又はHFのいずれかから選択されてもよい。
【0078】
炭水化物ポリマーは、数日間、例えば48時間脱重合され、次に単離され、必要な可溶化炭水化物ポリマーの平均分子量に応じてさらなる脱重合を受けてもよい。
【0079】
脱重合されることになる炭水化物ポリマーの平均分子量は、約2から100kDaであり、好ましくは、約5~50kDa又は5~30kDaである。
【0080】
アセチル化のレベルを増やす、減らす、又は維持するために様々な当量で使用される第1の反応性化合物は、典型的には無水酢酸である。典型的には、分解されたグリコールキトサンは、第1の反応段階において完全にアセチル化され、次に、第2の反応段階において部分的に脱アセチル化されて、所望のレベルのアセチル化が得られる。
【0081】
脱重合された炭水化物ポリマー上に疎水性の側基を形成する第2の反応性化合物は、以下の:例えばステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の任意のタイプの脂肪酸誘導体;アルキル、アルケニル、アルキニル等の有機ハロゲン化物、環状又は非芳香族ハロゲン化物、塩化アシル、無水物、N-ヒドロキシスクシンイミド、及び求核攻撃が可能な化合物によってCl炭素上で攻撃することができる他の活性化アシル化合物;のうちいずれかから選択されてもよい。求核攻撃とは、低い電子密度の原子を化合物が攻撃することを意味する。アシル基も、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基を有することがある。
【0082】
好ましくは、脱重合されたグリコールキトサン上のアセチル化レベルを増やす、減らす、又は維持する第2の反応性化合物を、以下の:ヘキサデシルブロミド、ドデシルブロミド、ミリスチン酸N-ヒドロキシスクシンイミドのいずれかから選択することができる。
【0083】
好ましくは、脂肪酸誘導体は、パルミチン酸N-ヒドロキシスクシンイミド;パルミチン酸ベンゾトリアゾールカーボネート;パルミトアルデヒド;塩化パルミトイル;及び、パルミチン酸p-ニトロフェニルカーボネートであってもよい。
【0084】
第3の反応性化合物は、有機ハロゲン化物であってもよく、ここで、有機基は、任意の直鎖状若しくは分枝状、置換若しくは無置換、若しくは環状の形態の任意のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミン基、アミド基、アルコール基、又はアシル基から選択されてもよい。
【0085】
典型的には、第3の反応性化合物は、任意の直鎖状若しくは分枝状、置換若しくは無置換、若しくは環状の形態の以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミン基、アミド基、アルコール基、又はアシル基:C1-C30;C1-C12;C1-C6;又はC1:であってもよい。
【0086】
典型的には、有機ハロゲン化物の有機基は、短鎖の直鎖状アルキル基であってもよい。
【0087】
有機ハロゲン化物の有機基は、CH3であってもよい。
【0088】
本発明の一態様では、上述の両親媒性炭水化物化合物、疎水性の薬物、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。薬学的に許容される担体は、当業者にはよく知られており、0.1M、若しくは好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液、又は0.9%生理食塩水を含むが、これらに限定されない。加えて、そのような薬学的に許容される担体は、水溶液又は非水溶液、懸濁液、及び乳剤であってもよい。
【0089】
非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注入可能な有機エステルである。水性の担体には、水、アルコール/水溶液、乳剤、又は懸濁液が含まれ、生理食塩水及び緩衝媒体が含まれる。非経口溶剤には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、又は固定油が含まれる。防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス等も存在し得る。典型的には、薬学的に許容される担体に対する炭水化物ポリマーの比は、0.05wt.%から10wt.%に及ぶ。
【0090】
疎水性の薬物とは、水等の水性媒体において難溶性の薬物である。難溶性の薬物とは、1グラムの薬物が、可溶化されるために10,000mlを超える溶媒(水)を必要とする場合を意味する。或いは、これは、水における溶解度が0.1mgmL-1未満の薬物を意味する。
【0091】
疎水性の薬物は、典型的には、両親媒性炭水化物化合物によってカプセル化される。
疎水性の薬物は、鎮痛剤、抗生物質、抗凝固剤、抗うつ剤、抗発がん物質、抗腫瘍物質、抗炎症薬、抗ヒスタミン剤、制吐剤、抗不安薬、抗痙攣物質、抗精神病剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、鎮静剤、降圧剤、又は心血管治療薬であってもよい。
【0092】
疎水性の薬物は、利尿薬若しくは抗利尿薬、変時作用物質、変力物質、うっ血除去薬、気管支拡張薬、抗コリン薬、抗血栓薬、抗菌薬、又は抗真菌薬として作用し得る。
【0093】
疎水性の薬物は、好ましくはステロイドである。好ましい薬物には、プレドニゾロン、エストラジオール、テストステロン、多環状構造を有し、且つパクリタキセル等の極性基を欠いた薬物、及びエトポシド等の薬物が含まれる。
【0094】
疎水性の薬物は、好ましくは、マクロライド系免疫抑制剤である。マクロライド系薬物は、抗菌性物質として、特に、抗細菌性物質及び抗真菌性物質として、並びに免疫調節物質として非常に価値のあるものである。この後者のカテゴリーでは、それらは、自己免疫障害の治療において特に有用である。そのような自己免疫障害は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、ネフローゼ症候群、又は自己免疫由来のドライアイ症候群を含み得る。
【0095】
好ましいマクロライド系薬物には、(シロリムスとしても知られる)ラパマイシン、シクロスポリンA、タクロリムス、及びエベロリムスが含まれ、薬物は、シクロスポリンA(CSA)、ラパマイシン、又はタクロリムスが好ましい。CSAは、角膜移植後拒絶反応、及び乾性角結膜炎及びぶどう膜炎を含む様々な眼障害の治療に対して眼科学において潜在用途を示してきた強力な免疫抑制剤である。先にさらに論じられたように、水溶性が乏しいため、CSAは現在、点眼乳剤(Restasis(登録商標))として製剤化されている。タクロリムス(TAC)は、アレルギー性結膜炎及びアトピー性皮膚炎を治療するために使用される免疫抑制剤である。ラパマイシン(RAP)は、例えば移植拒絶反応の予防又は冠動脈ステントの被覆のために使用される免疫抑制剤である。
【0096】
本発明の組成物は、統合失調症、肥満症、疼痛、及び睡眠障害、精神疾患、神経変性状態、脳腫瘍、又は感染症の治療に使用することができる。
【0097】
本発明の組成物は、(乾性角結膜炎(KCS)としても知られる)ドライアイ症候群(DES)、春季角結膜炎(VKC)、湿疹、アトピー性角結膜炎(AKC)、シェーグレン症候群、術後屈折矯正手術、角膜移植、又はコンタクトレンズ不耐性等の眼の状態の治療に使用することができる。
【0098】
本発明の一実施形態において、化合物シクロスポリンAを、可溶化に使用されるポリマーの他のパラメータを維持しながらアセチル化レベルを変化させることによって、0.18から1.57mg/mLの濃度で可溶化した。
【0099】
本発明の一実施形態において、化合物タクロリムスを、可溶化に使用されるポリマーの他のパラメータを維持しながらアセチル化レベルを変化させることによって、0.07から1.58mg/mLの濃度で可溶化した。
【0100】
本発明の一実施形態において、化合物ラパマイシンを、可溶化に使用されるポリマーの他のパラメータを維持しながらアセチル化レベルを変化させることによって、0.01から1.34mg/mLの濃度で可溶化した。
【0101】
本発明の組成物において、薬物は、好ましくは、2%w/v未満の濃度で存在し、好ましくは、0.001~1%w/vの範囲内にある。
【0102】
濃度が%w/vで表わされる場合、これは、100mLの組成物に含まれる固体の量(g)を意味する。
【0103】
典型的には、両親媒性炭水化物化合物と薬物との比は、10wt.%:5000wt.%であってもよい。
【0104】
典型的には、両親媒性炭水化物化合物と薬物と薬学的に許容される担体との比は、約1~20mg:1mg~10mg:1gであってもよい。
【0105】
医薬組成物は、以下の:錠剤、坐薬、液体カプセル、粉末形態、又は、肺性若しくは経鼻送達に適した形態のいずれかの形態であってもよい。
【0106】
錠剤が、経口投与に使用される場合、典型的に使用される担体には、スクロース、ラクトース、マンニトール、マルチトール、デキストラン、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウム等の典型的な潤滑剤、パラベン、ソルビン等の防腐剤、アスコルビン酸等の抗酸化剤、α-トコフェラル、システイン、崩壊剤、又は結合剤が含まれる。カプセルとして経口的に投与される場合、効果的な希釈剤には、ラクトース及びドライコーンスターチが含まれる。経口使用のための液体には、シロップ、懸濁液、溶液、及び乳剤が含まれ、これらは、水等のこの分野で使用される典型的な不活性希釈剤を有してもよく、加えて、甘味料又は香料が含まれてもよい。常温では固体であるが、腸内の温度で液体となり、直腸内で融解して、ココアバター及びポリエチレングリコール等の有効成分を放出するもの等、適した非刺激性賦形剤と本発明の化合物を混ぜ合わせることによって、坐薬を調製することができる。
【0107】
医薬組成物は、任意の経路、例えば、経口、非経口、経鼻による投与、吸入又は局所投与のために製剤化されてもよく、特に、局所的な眼内投与に適している。
【0108】
投与量は、年齢、体重、投与時間、投与方法、薬物の組み合わせ、臨床状態又は治療を受けている患者の実際の状態の重症度、及び他の因子によって決定することができる。1日量は、患者の状態及び体重、種類又は有効成分、及び投与経路に応じて異なり得るけれども、経口使用の場合は、1日量は、約0.1mg~2g/人/日、好ましくは0.5~100mg/人/日であってもよい。
【0109】
本発明の一実施形態において、本発明の第1の態様による両親媒性炭水化物化合物と、農業的に許容される賦形剤と共に農芸化学剤を含む農業組成物が提供される。
【0110】
農業的に許容される担体は、固体、液体、又はその両方であってもよい。固体の担体は、本質的に:シリカ、シリカゲル、ケイ酸塩、滑石、カオリン、モンモリロナイト、アタパルジャイト、軽石、海泡石、ベントナイト、石灰岩、石灰、チョーク、赤土、黄土、粘土、苦灰石、珪藻土、方解石、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、砂、粉砕プラスチック等のミネラルアース(mineral earth)、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等の肥料、並びに、穀物粉、木皮粉、木粉、及び木の実粉等の植物由来の粉砕物、セルロース粉末、又は他の固体の担体である。
【0111】
本発明に関して農芸化学剤は、農業目的での使用に適した化学物質であり、典型的には、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、又は殺線虫剤であり得る。本発明において、農芸化学剤は、好ましくは殺真菌剤である。
【0112】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
【0113】
実施例
材料
ラパマイシン(RAP)を、Cambridge Biosciences(Cambridge, UK)から購入した。タクロリムス(TAC)を、Generon Ltd.(Slough, UK)から購入した。全てのポリマーは、Nanomerics Ltd.によって供給された。
【0114】
方法
dGCのアセチル化
分解されたグリコールキトサン(dGC、MW11.4kDa)を10%v/v酢酸において16.7mg/mLの濃度まで溶解し、多数のモル当量(2、4、8、10、15、又は20)の無水酢酸を添加した。この溶液を室温で5時間振動させ、粉末NaOHでpHを8~9に調整し、24時間透析し(水に対して、透析バッグの分子量カットオフ-MWCO-=3.5kDa)、凍結乾燥した。次に、結果として生じる生成物を、0.1M KOH(30mL/g dGC)で処理し、遠心分離し(8000g、10分、4°C)、メタノール(10mL/g dGC)で二回洗浄し、水(6mL/g dGC)において溶解し、凍結乾燥した。
【0115】
dGCの脱アセチル化
分解したグリコールキトサン(dGC、MW11.4kDa)を45%w/v NaOHの沸騰溶液に添加し、1時間窒素下で反応を進行させた後、HClでpHを7に調整した。次に、その溶液を透析し(H2O、MWCO=3.5kDa、24時間)、凍結乾燥した。
【0116】
dGCのパルミトイル化
パルミトイル化は、若干の変更を加えて先に記載したように実行した。簡単に説明すると、dGCを3.7%v/vトリエチルアミン/DMSOにおいて30mg/mLの濃度まで溶解し、この溶液に、遊離アミンのモル濃度(NMRによって決定される脱アセチル化の程度)に対して0.25モル当量のパルミチン酸N-ヒドロキシスクシンイミドを添加して、反応を、16時間光から保護して進行させた。生成物を沈殿させ、アセトンで洗浄した。
【0117】
pGCの四級化
先に記載したように、四級化を実行した。簡単に説明すると、pGC、NaOH、及びNaIを、NMPにおいてそれぞれ15.1、16.3、及び18.6mg/mLの濃度まで溶解した。この溶液を、7:2:1の比で順番に組み合わせ、NaI溶液の添加後に15分間窒素でパージした。MeIを添加し(1.5mL/g pGC)、反応を、窒素雰囲気下において37°Cで2時間磁気撹拌しながら進行させた。GCPQを、6volのメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)に添加することによって沈殿させ、1volのMTBEで3回洗浄し、透析し(H2O、MWCO=3.5kDa、24時間)、IRA-410に対してイオン交換し、最後に凍結乾燥した。結果として生じるN-パルミトイル-N-アセチル-N-モノメチル-N,N-ジメチル-N,N,N-トリメチル-6-O-グリコールキトサン(AGCPQ)を、凍結乾燥粉末として回収した。
【0118】
ポリマーの改質レベルの決定
2.02~2.10ppmにおけるアセチルピークの積分(半分のアセチル基あたり1.5のプロトン)を3.44~4.40ppmにおける糖/グリコールのピーク(表示上はGC単位あたり9のプロトン)と比較することによって、1H NMRによりDA(アセチル化の程度)を決定した。同様に、パルミトイル化(DP)及び四級化(DQ)を、0.85~1.00ppm(末端メチルあたり3のプロトン)及び0.35~3.43ppm(半分の第四級アミンあたり4.5のプロトン)におけるピークを比較することによって決定した。これらの範囲は代表的であり、関連するピーク及びトラフによってより明確に定められる(
図1)。
【0119】
シクロスポリンA(CsA)のカプセル化
GCPQ(7.5mg)を、>2時間振動させながらグリセロール(3.1%w/v、1mL)において分散させた。次に、この分散液を使用して、先にメタノールにおいて溶解し、アリコートし、且つ窒素下で乾燥させたシクロスポリン2mgを再水和させた。結果として生じる溶液を>2時間振動させ、振幅5で3分間超音波処理し、一晩冷蔵した。次に、上清を採取し、HPLCによってシクロスポリン濃度を決定した。
【0120】
タクロリムスのカプセル化
TAC粉末を無水エタノール(2mg/mL、1.5mL)において溶解した。ポリマーを、50:50%v/vのエタノール:メタノール混合物(10mg/mL、1mL)において分散させた。両方の調製物を混ぜ合わせ、全ての成分の完全な溶解を確実にするように各混合物に0.4mLのメタノールを添加した。次に、薄い乾燥したフィルムが形成されるまで、有機溶媒を真空下で除去した。乾燥したフィルムを、1.5mLの蒸留水で再水和し、30分間勢いよく混ぜ合わせて、フィルムを溶媒において分散させた。この製剤を、1.0M NaOHを使用して、較正されたpH計においてpH4.0~5.0まで調整し、次に、0.22μmPES滅菌フィルターを使用してシミュレートされた滅菌ろ過ステップに供した。次に、全ての製剤を、RP-HPLC(表1におけるパラメータ)を使用して、薬物含有量について分析した。
【0121】
【表1】
ラパマイシンのカプセル化
RAP粉末を無水エタノール(5mg/mL、0.4mL)において溶解した。ポリマーを、50:50%v/vの水:メタノール混合物(7.5mg/mL、0.5mL)において分散させた。両方の調製物を混ぜ合わせ、全ての成分の完全な溶解を確実にするように各混合物に0.4mLのメタノールを添加した。全ての調製物を混ぜ合わせ、45°CのSavant Vacuum Evaporatorに置き、薄い乾燥したフィルムが形成されるまで真空下で5時間スピンさせた。乾燥したフィルムを、1mLの蒸留水で再水和し、30分間勢いよく混ぜ合わせて、フィルムを溶媒において分散させた。その後、混合物を、MSE Soniprep150ソニケーターを使用してその最大出力の30%で氷浴において3分間超音波処理した。この製剤を、1.0M NaOHを使用して、較正されたpH計においてpH4.0~5.0まで調整し、次に、0.22μmPES滅菌フィルターを使用してシミュレートされた滅菌ろ過ステップに供した。次に、全ての製剤を、RP-HPLC(表2におけるパラメータ)を使用して、薬物含有量について分析した。
【0122】
【表2】
結果及び考察
dGCのアセチル化
アセチル化のレベルは、テストした範囲(無水酢酸(Ac
2O)の2~20のモル当量)において厳密に制御することができ、5.5~16.4%のアセチル化の程度(DA)を提供し、DA=0.0059*Ac
2O+0.0449R
2=0.9976の線形相関が結果として生じ、DAを制御することができる精度が強調された(表3)。
【0123】
【表3】
シクロスポリン(CsA)のカプセル化
標的のDP及びDQは、全てのAGCPQポリマーに対して同じであったが、これらのパラメータは、アセチル化の程度が変化するに従い変化した(表4)。CsAの濃度[CsA]を、テストしているポリマーのDA、DP、及びDQに対してプロットしたところ、DAとは負の相関を示し、ポリマーの他の特性とは有意な相関を示さなかった(表5)。従って、DAがカプセル化に対して重要な影響を与えることが示された。
【0124】
【0125】
【表5】
数学モデル
DAはカプセル化に対して最も顕著な影響を与えているが、DP及びDQを、その予測力を洗練させるためにモデルに組み込んだ。各ポリマー変数と係数との積の合計並びに定数を使用して、各ポリマーは、予測値[CsA]を提供し、予測値と観測値との誤差を最小限に抑えるために係数を変化させた。DA、DP、及びDQに対する係数は、それぞれ-2.21、0.44、及び-8.07であり、モデルに対するR
2は1であり、[CsA]は、DPが増加し、DA及びDQが減少すると増加することが示唆された。
【0126】
【数1】
タクロリムス(TAC)のカプセル化
タクロリムスの濃度[TAC]を、テストしているポリマーのDA、DP、及びDQに対してプロットした(表6)。
【0127】
【表6】
ラパマイシン(RAP)のカプセル化
ラパマイシンの濃度[RAP]を、テストしているポリマーのDA、DP、及びDQに対してプロットした(表7)。
【0128】
【表7】
結論
この研究の仮説は、GCPQのアセチル化の程度を増加させると、疎水性分子とのより強い疎水性相互作用が可能になり、従ってカプセル化が増加するというものであったが、その逆が観察された。
【0129】
予想外に、N-パルミトイル,N-モノメチル,N,N-ジメチル,N,N,N-トリメチル-6-O-グリコールキトサンにおいて2から27%のアセチル化のレベルが、疎水性化合物をカプセル化するのに最良の分子を生成することができたということ、及び、アセチル化のレベルを37.6%に増加させると、薬物のカプセル化が著しく減少したということがわかった。
【0130】
DP及びDQもテストしたポリマーにおいて変化したけれども、カプセル化と特性との間に明らかな傾向がなかったため、これらのパラメータは観察結果の有力な説明としては確実に除外することができる。唯一の明確な傾向は、DAとカプセル化との負の相関であり、これに対する1つの説明は、ポリマー上のアセチル基は疎水性相互作用にほとんど寄与しないが、小さな疎水性化合物の効率的なカプセル化に必要なポリマーの折り畳みを立体的に妨害するように役立つということである。
【0131】
以前の研究では、DP及びDQが、ポリマーナノアセンブリにおける疎水性化合物のカプセル化に影響することが示されている。本願は、DAが体系的に変化し、疎水性化合物のカプセル化への影響について研究された最初の例である。DAを制御することは、疎水性化合物のカプセル化を増加させる効果的な手段であることが示されている。疎水性化合物のカプセル化の増加は、より高いレベルの化合物をこれらのナノアセンブリにロードすることができ、薬物送達をより効率的にすることを意味する。
【0132】
同じ結論は、タクロリムス及びラパマイシンで見られ、ポリマーナノ粒子にカプセル化される薬物のレベルは、ポリマーアセチル化のレベルの低下と共に増加する。
【国際調査報告】