(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】モレキュラーシーブSSZ-120、その合成及び使用
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20230619BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20230619BHJP
B01J 29/74 20060101ALI20230619BHJP
C07D 233/61 20060101ALI20230619BHJP
C07B 37/08 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J29/70 M
B01J29/74 Z
C07D233/61 CSP
C07B37/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571136
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 IB2021054236
(87)【国際公開番号】W WO2021234551
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゾーンズ、ステイシー イアン
(72)【発明者】
【氏名】パスクアル、イエスズ
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ダン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、コン - ヤン
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA64
4G073BA80
4G073BB14
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4G073GA01
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4G169FC08
4G169ZA32A
4G169ZA32B
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4G169ZD05
4G169ZF01A
4G169ZF01B
4G169ZF05B
4G169ZF09B
4H006AA02
4H006AC27
4H006BA62
4H006BD36
4H006DA10
(57)【要約】
SSZ-120と呼ばれる、結晶サイズが小さく、表面積の大きいアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ材料を提供する。SSZ-120は、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを構造指向剤として使用して合成され得る。SSZ-120は、有機化合物の変換反応及び/または収着プロセスに使用され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成形態で、以下の表のピークを含む粉末X線回折パターンを有するアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【表4】
【請求項2】
前記モレキュラーシーブが、窒素物理吸着のtプロット法による測定で少なくとも500m
2/gの総表面積及び/または窒素物理吸着のtプロット法による測定で少なくとも100m
2/gの範囲の外表面積を有する結晶を含む、請求項1に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項3】
前記総表面積が、500~800m
2/gの範囲である、請求項2に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項4】
前記外表面積が、100~300m
2/gの範囲である、請求項2に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項5】
以下のモル関係性:
Al
2O
3:(n)(SiO
2+GeO
2)
を有する組成を有し、式中、nが30以上である、請求項1に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項6】
合成されたままの形態で、以下の表のピークを含む粉末X線回折パターンを有するアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【表3】
【請求項7】
モル比で以下の組成を有し:
【表2A】
式中、Qが、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む、請求項6に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項8】
以下のモル関係性を有する化学組成を有し:
【表2B】
式中、Qが、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む、請求項6に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ。
【請求項9】
アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの合成方法であって、前記方法が:
(1)
(a)FAUフレームワーク型ゼオライト;
(b)ゲルマニウム源;
(c)3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む構造指向剤(Q);
(d)フッ化物イオン源;及び
(e)水を含む反応混合物を提供し;
(2)前記反応混合物を、前記アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することを含む、前記合成方法。
【請求項10】
前記反応混合物が、モル比で以下の組成を有する、請求項9に記載の方法。
【表1A】
【請求項11】
前記反応混合物が、モル比で以下の組成を有する、請求項9に記載の方法。
【表1B】
【請求項12】
前記FAUフレームワーク型ゼオライトがゼオライトYである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記結晶化条件が、100℃~200℃の温度で、1日~14日間、自己圧力下で前記反応混合物を加熱することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
有機化合物を含む原料から変換生成物への変換プロセスであって、前記プロセスが、前記原料を、請求項1に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブを含む触媒と有機化合物変換条件で接触させることを含む、前記変換プロセス。
【請求項15】
以下の構造を有するジカチオンを含む有機窒素化合物。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月22日出願の米国特許仮出願第63/028,642号に対する優先権及び利益を主張する。
【0002】
分野
本開示は、SSZ-120と呼ばれる、結晶サイズが小さく、表面積の大きいアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブ、その合成、及び有機化合物変換反応ならびに収着プロセスにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
モレキュラーシーブは、明確なX線回折(XRD)パターンによって示される規定の細孔構造を備えた明確な結晶構造を有し、特定の化学組成を有する、商業的に重要なクラスの材料である。結晶構造は、特定のタイプのモレキュラーシーブの特徴である空洞及び細孔を画定する。
【0004】
本開示によれば、SSZ-120と呼ばれ、ユニークな粉末X線回折パターンを有する、結晶サイズが小さく、表面積の大きいアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブを、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを構造指向剤として使用して合成した。
【発明の概要】
【0005】
要約
第1の態様では、焼成形態で、以下の表のピークを含む粉末X線回折パターンを有するアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブを提供する:
【表4】
【0006】
焼成されたモレキュラーシーブは、少なくとも500m2/gの総表面積(窒素物理吸着のtプロット法によって決定される)及び/または少なくとも100m2/gの外部表面積(窒素物理吸着のtプロット法によって決定される)を有し得る。
【0007】
第2の態様では、合成されたままの形態で、以下の表のピークを含む粉末X線回折パターンを有するアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブを提供する:
【表3】
【0008】
合成されたままの無水形態では、アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブは、以下のモル関係を含む化学組成を有し得る。
【表2】
式中、Qは、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む。
【0009】
第3の態様では、アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの合成方法を提供し、この方法は、(1)(a)FAUフレームワーク型ゼオライト;(b)ゲルマニウム源;(c)3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む構造指向剤(Q);(d)フッ化物イオン源;及び(e)水を含む反応混合物を提供し;(2)反応混合物を、アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することを含む。
【0010】
第4の態様では、有機化合物を含む原料を変換生成物に変換するプロセスを提供し、このプロセスは、有機化合物変換条件で原料を、本明細書に記載のアルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの活性形態を含む触媒と接触させることを含む。
【0011】
第5の態様では、以下の構造を有するジカチオンを含む有機窒素化合物を提供する:
【化1】
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な記述
【
図1】例2の合成されたままの生成物の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【0013】
【
図2(A)】例2の合成されたままの生成物の、異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2(B)】例2の合成されたままの生成物の、異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2(C)】例2の合成されたままの生成物の、異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2(D)】例2の合成されたままの生成物の、異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0014】
【
図3】例3の焼成生成物の粉末XRDパターンを示す。
【0015】
【
図4】Pd/SSZ-120触媒上でのn-デカンの水素転化における転化率または収率と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な記述
定義
用語「フレームワーク型」は、the "Atlas of Zeolite Framework Types", by Ch. Baerlocher and L.B. McCusker and D.H. Olsen (Sixth Revised Edition, Elsevier, 2007)に記載されている意味を有する。
【0017】
用語「ゼオライト」とは、アルミナとシリカ(すなわち、AlO4とSiO4四面体単位の繰り返し)から構築されたフレームワークを有するアルミノシリケートモレキュラーシーブを指す。
【0018】
用語「アルミノゲルマノシリケート」とは、AlO4、GeO4、及びSiO4四面体単位で構築されたフレームワークを有するモレキュラーシーブを指す。アルミノゲルマノシリケートは、指定された酸化物のみを含み得、その場合、それは「純粋なアルミノゲルマノシリケート」と記載され得、または他の追加の酸化物も同様に含み得る。
【0019】
用語「合成されたままの」は、本明細書中では、結晶化後、構造指向剤の除去前の形態のモレキュラーシーブを指すために使用される。
【0020】
用語「無水」は、本明細書中では、物理的に吸着された水と化学的に吸着された水の両方を実質的に欠くモレキュラーシーブを指すために使用される。
【0021】
用語「SiO2/Al2O3モル比」は、「SAR」と略され得る。
【0022】
モレキュラーシーブの合成
アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブSSZ-120は:(1)(a)FAUフレームワーク型ゼオライト;(b)ゲルマニウム源;(c)3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む構造指向剤(Q);(d)フッ化物イオン源;及び(e)水を含む反応混合物を提供し;(2)反応混合物を、アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に供することによって合成することができる。
【0023】
反応混合物は、モル比に関して、表1に記載の範囲内の組成を有し得る。
【表1】
式中、Qは、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む。
【0024】
いくつかの態様では、反応混合物は、4~12(例えば、6~10)の範囲のSiO2/GeO2モル比を有し得る。
【0025】
FAUフレームワーク型ゼオライトは、アンモニウム型ゼオライトまたは水素型ゼオライト(例えば、NH4型ゼオライトY、H型ゼオライトY)であり得る。FAUフレームワーク型ゼオライトとして、ゼオライトY(例えば、CBV720、CBV760、CBV780、HSZ-385HUA、及びHSZ-390HUA)が挙げられる。好ましくは、FAUフレームワーク型ゼオライトはゼオライトYである。より好ましくは、ゼオライトYは、約30~約500の範囲のSiO2/Al2O3モル比を有する。FAUフレームワーク型ゼオライトは、2つ以上のゼオライトを含み得る。通常、2つ以上のゼオライトは、異なるSiO2/Al2O3モル比を有するYゼオライトである。FAUフレームワーク型ゼオライトは、アルミノゲルマノシリケートモレキュラーシーブを形成する唯一のシリカ及びアルミニウム源でもあり得る。
【0026】
ゲルマニウム源には、酸化ゲルマニウム及びゲルマニウムアルコキシド(例えば、ゲルマニウムエトキシド)が含まれる。
【0027】
フッ化物イオン源には、フッ化水素、フッ化アンモニウム、及び二フッ化アンモニウムが含まれる。
【0028】
SSZ-120は、以下の構造(1)で表される、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む構造指向剤(Q)を使用して合成することができる:
【化1】
【0029】
Qの好適な供給源は、ジ第四級アンモニウム化合物の水酸化物、塩化物、臭化物、及び/または他の塩である。
【0030】
反応混合物は、前の合成に由来するSSZ-120などのモレキュラーシーブ材料の種結晶を、反応混合物の0.01~10,000重量ppm(例えば、100~5000重量ppm)の量で含み得る。シーディングは、SSZ-120の選択性の向上及び/または結晶化プロセスの短縮に有利であり得る。
【0031】
反応混合物成分は、複数の供給源から供給することができることに留意されたい。また、2つ以上の反応成分を1つの供給源によって提供することができる。反応混合物は、バッチ式または連続式のいずれかで調製することができる。
【0032】
結晶化及び合成後処理
上記の反応混合物からのモレキュラーシーブの結晶化は、使用する温度で結晶化が起こるのに十分な時間(例えば、1日~14日)、100℃~200℃の温度に維持された、対流式オーブン内に配置された好適な反応容器、例えば、ポリプロピレンジャー、またはテフロン(登録商標)で裏打ちされた、もしくはステンレス鋼のオートクレーブ内で、静止状態、回転状態、または攪拌状態のいずれかの下で実行することができる。水熱結晶化プロセスは、通常、自生圧力下で実行する。
【0033】
所望のモレキュラーシーブ結晶が形成されたら、濾過または遠心分離などの標準的な分離技術によって、固体生成物を反応混合物から分離する。回収した結晶を水で洗浄し、数秒~数分(例えば、フラッシュ乾燥の場合は5秒~10分)または数時間(例えば、75℃~150℃でのオーブン乾燥の場合は4時間~24時間)乾燥させて、細孔内に構造指向剤の少なくとも一部を有する合成されたままのSSZ-120結晶を得る。乾燥工程は、大気圧または真空下で行うことができる。
【0034】
合成されたままのモレキュラーシーブを、熱処理、オゾン処理、または他の処理に供して、その合成に使用された構造指向剤の一部または全部を除去してもよい。構造指向剤の除去は、合成されたままのモレキュラーシーブを空気中または不活性ガス中で、構造指向剤の一部または全部を除去するのに十分な温度で加熱する熱処理(すなわち焼成)によって行ってもよい。熱処理には大気圧よりも低い圧力を使用してもよいが、便宜上、大気圧が望ましい。熱処理は、少なくとも370℃の温度で、少なくとも1分間、一般に20時間以内(例えば、1~12時間)行ってもよい。熱処理は、最大925℃の温度で行うことができる。例えば、熱処理は、空気中400℃~600℃の温度でおよそ1~8時間行ってもよい。特にその金属、水素及びアンモニウム形態の熱処理生成物は、特定の有機(例えば、炭化水素)変換反応の触媒作用において特に有用である。
【0035】
モレキュラーシーブ中の任意のフレームワーク外の金属カチオンを、当技術分野で周知の技術に従って(例えば、イオン交換によって)、水素、アンモニウム、または任意の所望の金属カチオンに置換することができる。
【0036】
モレキュラーシーブの特性評価
合成されたままの無水形態では、モレキュラーシーブSSZ-120は、表2に記載の以下のモル関係を含む化学組成を有し得る。
【表2】
式中、Qは、3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジカチオンを含む。
【0037】
いくつかの態様では、モレキュラーシーブは、4~12(例えば、6~10)の範囲のSiO2/GeO2モル比を有し得る。
【0038】
焼成形態では、モレキュラーシーブSSZ-120は、以下のモル関係を含む化学組成を有し得る。
Al2O3:(n)(SiO2+GeO2)
式中、nは、≧30(例えば、30~600、≧60、60~500、または100~300)である。
【0039】
モレキュラーシーブSSZ-120は、その合成されたままの形態では、以下の表3に記載のピークを少なくとも含み、焼成形態では、表4に記載のピークを少なくとも含む粉末X線回折パターンを有する。
【表3】
【表4】
【0040】
本明細書に示す粉末X線回折パターンは、銅K-α放射線を使用する標準技術によって収集した。当業者によって理解されるように、パラメータ2θの決定は、人為的及び機械的エラーの両方に左右され、それらが組み合わさって、報告された2θの各値に約±0.3°の不確実性を課す可能性がある。当然のことながら、この不確実性は、ブラッグの法則を使用して2θ値から計算される格子面間隔の報告値にも表れている。線の相対強度I/Ioは、バックグラウンド上の最も強い線の強度に対するピーク強度の比を表す。強度は、ローレンツ効果と偏光効果に対して補正されていない。相対強度は、VS=非常に強い(>60~100)、S=強い(>40~60)、M=中程度(>20~60)、及びW=弱い(>0~20)の記号で与えられる。
【0041】
粉末X線回折パターンのわずかな変動(例えば、ピーク比とピーク位置の実験的変動)は、格子定数の変化によるフレームワーク原子の原子比の変動に起因し得る。さらに、十分に小さい結晶は、ピークの形状と強度に影響を与える可能性があり、ピークの広がりをもたらし得る。焼成は、焼成前の粉末X線回折パターンと比較して、粉末X線回折パターンにわずかなシフトを引き起こし得る。これらのわずかな摂動にもかかわらず、結晶格子構造は、焼成後も変化しないままであり得る。
【0042】
本明細書に記載の合成は、小さい結晶サイズを有するモレキュラーシーブを生成することができ、その結果、材料の総表面積は、少なくとも500m2/gであり得、外部表面積は、少なくとも100m2/gであり得る。いくつかの態様では、本明細書に記載のモレキュラーシーブは、少なくとも600m2/g、少なくとも625m2/g、少なくとも650m2/g、例えば、500~800m2/g、600~800m2/g、または650~800m2/gの総外部表面積を有する結晶を含み得る。さらに、またはあるいは、本明細書に記載のモレキュラーシーブは、少なくとも100m2/g、少なくとも110m2/g、少なくとも120m2/g、少なくとも130m2/g、または少なくとも140m2/g、例えば、100~300m2/g、120~300m2/g、または140~300m2/gの外表面積を有する結晶を含み得る。本明細書に記載のすべての表面積値は、t-プロット法を使用して窒素の物理吸着から決定される。この方法の詳細は、B.C.Lippens and J.H.de Boer(J.Catal.1965,4,319-323)によって説明されている。
【0043】
産業上の利用可能性
モレキュラーシーブSSZ-120(構造指向剤の一部またはすべてが除去されている)は、吸着剤として、または存在する商業的/工業的重要性の多くを含む有機化合物変換プロセスを触媒するための触媒として使用してもよい。SSZ-120によって、単独で、または他の結晶触媒を含む1つ以上の他の触媒活性物質と併用して効果的に触媒される化学変換プロセスの例には、酸活性を有する触媒を必要とするプロセスが含まれる。SSZ-120によって触媒され得る有機変換プロセスの例として、芳香族化、分解、水素化分解、不均化、アルキル化、オリゴマー化、及び異性化が挙げられる。
【0044】
多くの触媒の場合と同様に、SSZ-120を、有機変換プロセスで使用する温度及び他の条件に耐性のある別の材料と併用することが望ましい場合がある。そのような材料には、活性及び不活性材料、ならびに合成または天然のゼオライト、ならびに無機材料、例えば、粘土、シリカ及び/またはアルミナなどの金属酸化物が含まれる。後者は、天然、またはシリカと金属酸化物の混合物を含むゼラチン状の沈殿物もしくはゲルの形態であり得る。活性のある物質とSSZ-120の併用(すなわち、新規物質の合成時にそれと組み合わせるか、または存在させること)は、特定の有機変換プロセスにおける変換率及び/または触媒の選択性が変化する傾向にある。不活性物質は、反応速度を制御するための他の手段を使用することなく経済的かつ秩序立った方法で生成物を得ることができるように、所与のプロセスにおける変換量を制御するための希釈剤として好適に機能する。これらの材料を、天然の粘土(例えば、ベントナイト及びカオリン)に組み込んで、商業的操作条件下での触媒の破砕強度を向上させてもよい。これらの材料(すなわち、粘土、酸化物など)は、触媒の結合剤として機能する。商業的使用においては、触媒が粉状物質に分解するのを防止することが望ましいため、良好な圧壊強度を有する触媒を提供することが望ましい。これらの粘土及び/または酸化物結合剤は、通常、触媒の圧壊強度を向上させる目的でのみ使用されてきた。
【0045】
SSZ-120と共に組成され得る天然の粘土として、モンモリロナイトとカオリン族が挙げられ、この族には、サブベントナイト、ならびに、一般に、Dixie、McNamee、Georgia及びFlorida粘土として知られるカオリン、または主な鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、またはアナキサイトである他の粘土が含まれる。そのような粘土は、最初に採掘されたままの生の状態で、または最初に焼成、酸処理または化学修飾を受けて使用することができる。SSZ-120との複合化に有用な結合剤には、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、及びそれらの混合物などの無機酸化物も含まれる。
【0046】
上記の材料に加えて、SSZ-120は、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアなどの多孔質マトリックス材料、ならびにシリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、及びシリカ-マグネシア-ジルコニアなどの三元組成物で組成され得る。
【0047】
SSZ-120と無機酸化物マトリックスの相対比率は、SSZ-120の含有量が、組成の1~90重量%(例えば、2~80重量%)の範囲で、広範に変動し得る。
【0048】
例
以下の例示的な例は、非限定的であることが意図される。
【0049】
例1
3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジヒドロキシドの合成
磁気攪拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに、5gの2,6-ビス(ブロモメチル)ナフタレン、3.83gの1,2-ジメチルイミダゾール、及び100mLのメタノールを入れた。次いで還流冷却器を取り付け、混合物を65℃で3日間加熱した。冷却後、ロータリーエバポレーターでメタノールを除去して白色の固体を得た。ロータリーエバポレーションから最初に回収した固体を、冷エタノールからの再結晶によってさらに精製した。再結晶化した二臭化物塩は、1H-及び 13C-NMR分光法によると、純粋であった。
【0050】
二臭化物塩を、脱イオン水中で水酸化物交換樹脂と共に一晩撹拌することにより、対応する二水酸化物塩に交換した。溶液を濾過し、少量の試料を0.1N HClの標準化溶液で滴定することにより、濾液を水酸化物濃度について分析した。
【0051】
例2
SSZ-120の合成
風袋を測定した23mLのパール反応器に、0.27gのTosoh HSZ-390HUA Y-ゼオライト(SAR=500)、0.05gのGeO2及び2.5mmolの3,3’-[2,6-ナフタレンビス(メチレン)]ビス[1,2-ジメチル-1H-イミダゾリウム]ジヒドロキシド水溶液を加えた。次いで、反応器を通気フードに入れ、水を蒸発させて、H2O/(SiO2+GeO2)モル比7(懸濁液の総質量によって決定される)にした。次いで、2.5mmolのHFを添加し、反応器を43rpmで回転させながら約7日間160℃に加熱した。固体生成物を遠心分離によって回収し、脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させた。
【0052】
合成されたままの生成物の粉末XRDは、
図1に示すパターンを示し、生成物が新しい相の純粋な形態、SSZ-120であることを示した。粉末XRDパターンのピークの広がりから、結晶サイズが有意に縮小されたことが推測される。
【0053】
図2(A)~2(D)は、合成されたままの生成物の例示的なSEM画像を様々な倍率で示す。
【0054】
生成物は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)による測定で、SiO2/GeO2モル比8を有していた。
【0055】
例3
SSZ-120の焼成
例1の合成されたままのモレキュラーシーブを、マッフル炉内で、1℃/分の速度で550℃まで加熱した空気流下で焼成し、550℃で5時間保持し、冷却し、次いで粉末XRDで分析した。
【0056】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図3に示し、構造指向剤を除去するための焼成後も材料が安定していることを示す。
【0057】
例4
Zeolyst CBV780 Y-ゼオライト(SAR=80)をFAUソースとして使用して、例2を繰り返した。粉末XRDにより、生成物がSSZ-120であることが示された。
例5
【0058】
Zeolyst CBV760 Y-ゼオライト(SAR=60)をFAUソースとして使用して、例2を繰り返した。粉末XRDにより、生成物がSSZ-120であることが示された。
【0059】
生成物を例2に記載のように焼成した。次いで、試料の表面積を窒素物理吸着を使用して測定し、データをtプロット法で分析した。測定された総表面積は693m2/g、外表面積は144m2/gであった。細孔容積は0.2666cm3/gであった。
【0060】
例6
Zeolyst CBV720 Y-ゼオライト(SAR=30)をFAUソースとして使用して、例2を繰り返した。粉末XRDにより、生成物がSSZ-120であることが示された。
【0061】
例7
ブレンステッド酸性度
例5のモレキュラーシーブの焼成形態のブレンステッド酸性度を、T.J. Gricus Kofke et al. (J. Catal. 1988, 114, 34-45); T.J. Gricus Kofke et al. (J. Catal. 1989, 115, 265-272); and J.G. Tittensor et al. (J. Catal. 1992, 138, 714-720)により公開された記載から適合させたn-プロピルアミン昇温脱離法(TPD)によって測定した。乾燥H2流中、400℃~500℃で1時間、試料を前処理した。次いで、脱水された試料を流動乾燥ヘリウム中で120℃まで冷却し、吸着のためにn-プロピルアミンで飽和させた流動ヘリウム中で30分間120℃に保持した。次いで、n-プロピルアミンで飽和させた試料を、乾燥ヘリウム流中、10℃/分で500℃まで加熱した。熱重量分析(TGA)による、温度に対する重量損失、ならびに質量分析による流出NH3及びプロペンに基づいて、ブレンステッド酸性度を計算した。試料のブレンステッド酸性度は250μmol/gであったが、これは、アルミニウム部位がモレキュラーシーブのフレームワークに組み込まれていることを示している。
【0062】
例8
拘束係数試験
モレキュラーシーブにおける形状選択的触媒挙動を測定するために、拘束係数を試験する。この試験では、競合条件下でのn-ヘキサン(n-C6)とその異性体である3-メチルペンタン(3-MP)のクラッキングの反応速度を比較する(V.J. Frillette et al., J. Catal. 1981, 67, 218-222を参照のこと)。
【0063】
例5に従って調製したモレキュラーシーブの水素形態を4kpsiでペレット化し、破砕し、20~40メッシュに造粒した。造粒された材料の試料0.6gを空気中540℃で4時間焼成し、デシケータ内で冷却して乾燥させた。次いで、0.47gの材料を、モレキュラーシーブ床の両側にアランダムを有する1/4インチのステンレス鋼管に詰めた。炉(Applied Test Systems,Inc.)を使用して、反応管を加熱した。窒素を、大気圧にて9.4mL/分で反応管に導入した。反応管を約700°F(371℃)に加熱し、n-ヘキサンと3-メチルペンタンの50/50原料を、8μL/分の速度で反応管に導入した。ISCOポンプによってフィードを送達した。原料導入の15分後にGCへの直接サンプリングを開始した。運転中(700°F)の15分後の試験データの結果を表5に示す。
【表5】
【0064】
例9
n-デカンの水素化変換
例5由来の材料を、空気中595℃で5時間焼成した。焼成後、室温で3日間、0.148N NH4OH溶液4.5gを脱イオン水5.5gと、次いで(NH3)4Pd(NO3)2溶液(pH9.5で緩衝)と混合した結果、1gのモレキュラーシーブと混合した1gのこの溶液は、0.5重量%のPdローディングを提供した。回収したPd/SSZ-120材料を脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させ、次いで300℃で3時間焼成した。焼成したPd/SSZ-120触媒を、次いでペレット化し、破砕し、20~40メッシュにふるい分けした。
【0065】
0.5gのPd/SSZ-120触媒を、長さ23インチ×外径1/4インチのステンレス鋼反応管の中央に充填し、原料を予熱するために触媒の上流にアランダムを充填した(全圧1200psig;1気圧及び25℃で測定した場合の下降流水素速度160mL/分;ならびに下降流液体供給速度1mL/時間)。すべての材料を、最初に約315℃で1時間、水素流中で還元した。生成物を、オンラインキャピラリーGCにより60分毎に分析した。GCからの生データを、自動データ収集/加工システムによって収集し、炭化水素の変換率を生データから計算した。変換率は、n-デカンが反応して他の生成物(iso-C10を含む)を生成した量として定義される。収率は、n-デカン以外の生成物のモルパーセントとして表され、生成物としてiso-C10異性体を含む。結果を
図4に示し、これは、触媒が非常に活性であり、異性化に対して特に選択的ではなく、n-デカンからかなりの分解生成物が生成されることを示している。
【国際調査報告】