(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】多重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230619BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230619BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230619BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230619BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230619BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230619BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230619BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230619BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230619BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230619BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230619BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P29/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571782
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2021064427
(87)【国際公開番号】W WO2021239987
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515310984
【氏名又は名称】ヌマブ セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ペーター リヒトレン
(72)【発明者】
【氏名】ダービド ウレッヒ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヘス
(72)【発明者】
【氏名】テア グンデ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル シモナン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン バルムート
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス ブロック
(72)【発明者】
【氏名】ビティー チャタジー
(72)【発明者】
【氏名】マリーア ヨハンソン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル スナル
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
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4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
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4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)含む多重特異性抗体に関するものであり;この多重特異性抗体は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれは、SPRによって測定するとき0.5~20nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する。本発明はさらに、前記多重特異性抗体をコードする核酸配列、前記核酸配列を含むベクター、前記核酸配列または前記ベクターを含む宿主細胞、および前記多重特異性抗体を作製する方法に関する。それに加え、本発明は、前記多重特異性抗体を含む医薬組成物と、それを利用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重特異性抗体であって、
a)メソテリンに特異的に結合する、2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;
b)CD3に特異的に結合する、少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)を含み、
ここで前記多重特異性抗体は、免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、および前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.5~20nMの範囲、特に0.6~10nMの範囲の1価解離定数(K
D)でメソテリン(MSLN)に結合する、多重特異性抗体。
【請求項2】
前記MSLN-BDが、
(i)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列;またはそれぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列;および
(ii)VH3またはVH4ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;特にVH3ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;および
(iii)VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、特にVκ1またはVκ3FR1~FR3、特にVκ1 FR1~FR3と、Vκ FR4とVλ FR4から選択され、特に配列番号132~配列番号139のいずれかと少なくとも70、80、または90パーセントの配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVλ FR4、より詳細には配列番号132~配列番号139のいずれかから選択されるVλ FR4、特に配列番号132または139に従うVλ FR4である、フレームワークFR4を含む、VLフレームワークを含むVLドメイン、
を含む、請求項1に記載の多重特異性抗体。
【請求項3】
前記MSLN-BDが、
a.1)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.1)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.1)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.2)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.2)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.3)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.3)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.3)配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.3)配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.4)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.4)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.4)配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.4)配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.5)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.5)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.5)配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.5)配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.6)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.6)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.6)配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.6)配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列;
または
a.7)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.7)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.7)配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVH配列、および
d.7)配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセントの配列同一性を有するVL配列、
を含む、請求項1または2に記載の多重特異性抗体。
【請求項4】
前記CD3-BDがCD3εに結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項5】
1つのCD3-BDを含み、このCD3-BDが、SPRによって測定したとき0.5~50nM、特に1~40nM、特に2~35nMの1価K
DでCD3εに結合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項6】
前記CD3-BDが、
(i)ヒト抗体VHフレームワーク、特にVH3フレームワークの中のそれぞれ配列番号45、46、および47のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号48、49、および50のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、ここで前記VLフレームワークが、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、特にVκ1フレームワークと、Vκ FR4とVλフレームワーク4から選択されるフレームワークFR4を含む、
を含み、
特に前記CD3-BDが、
(i)配列番号51、140、141、または142のアミノ酸配列を含むVHドメインと、
(ii)配列番号52のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
を含む、請求項4または5に記載の多重特異性抗体。
【請求項7】
前記抗体は、少なくとも1つのヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)、特に1つのhSA-BDをさらに含み、特にこのhSA-BDは、
(i)ヒト抗体VHフレームワーク、特にVH3フレームワークの中のそれぞれ配列番号53、54、および55のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号56、57、および58のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、ここで前記VLフレームワークが、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、特にVκ1フレームワークと、Vκ FR4、特にVκ1 FR4とVλフレームワーク4から選択されるフレームワークFR4を含む;
または
(i)ヒト抗体VHフレームワーク、特にVH3フレームワークの中のそれぞれ配列番号63、64、および65のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号66、67、および68のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、ここで前記VLフレームワークが、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、特にVκ1フレームワークと、Vκ FR4、特にVκ1 FR4とVλフレームワーク4から選択されるフレームワークFR4を含む;
または
(i)ヒト抗体VHフレームワーク、特にVH3フレームワークの中のそれぞれ配列番号73、74、および75のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号76、77、および78のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、ここで前記VLフレームワークが、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、特にVκ1フレームワークと、Vκ FR4、特にVκ1 FR4とVλフレームワーク4から選択されるフレームワークFR4を含む;
を含み、
特に前記hSA-BDが、
(i)配列番号59のアミノ酸配列を含むVHドメインと、
(ii)配列番号60のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
または
(i)配列番号69のアミノ酸配列を含むVHドメインと、
(ii)配列番号70のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
または
(i)配列番号79または143のアミノ酸配列を含むVHドメインと、
(ii)配列番号80または144のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
または
(i)配列番号81または145のアミノ酸配列を含むVHドメインと、
(ii)配列番号82または146のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項8】
CH1領域および/またはCL領域を含まない、請求項1~7のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項9】
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号101のアミノ酸配列を含み、特に配列番号101のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号102のアミノ酸配列を含み、特に配列番号102のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号109のアミノ酸配列を含み、特に配列番号109のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号110のアミノ酸配列を含み、特に配列番号110のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号111のアミノ酸配列を含み、特に配列番号111のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号112のアミノ酸配列を含み、特に配列番号112のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号119のアミノ酸配列を含み、特に配列番号119のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号120のアミノ酸配列を含み、特に配列番号120のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号121のアミノ酸配列を含み、特に配列番号121のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号122のアミノ酸配列を含み、特に配列番号122のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が配列番号123のアミノ酸配列を含み、特に配列番号123のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が配列番号124のアミノ酸配列を含み、特に配列番号124のアミノ酸配列からなる、
請求項1~8のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体をコードする1つの核酸配列または2つの核酸配列。
【請求項11】
請求項10に記載の1つの核酸配列または2つの核酸配列を含む、1つのベクターまたは2つのベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の1つのベクターまたは2つのベクターを含む、1つの宿主細胞または複数の宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体を作製する方法であって、
(i)請求項10に記載の1つの核酸配列または2つの核酸配列、または請求項11に記載の1つのベクターまたは2つのベクターを提供し、前記1つの核酸配列または2つの核酸配列、または前記1つのベクターまたは2つのベクターを発現させ、発現系から前記多重特異性抗体を回収すること、または(ii)請求項12に記載の1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を提供し、前記1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を培養し;および細胞培養物から前記多重特異性抗体を回収すること、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体と、医薬として許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
疾患、特にヒト疾患、より詳細には、がん、特に中皮腫、膵臓がん、および卵巣がんから選択されるがん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患の治療に使用するためのものであり、
特に、
3つまたは4つの結合ドメインを含む一本鎖タンパク質、または
3つまたは4つの結合ドメインを含むヘテロ二量体タンパク質、のいずれかである、
請求項1~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)含む多重特異性抗体に関するものであり;この多重特異性抗体は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれは、SPRによって測定するとき0.5~20nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する。本発明はさらに、前記多重特異性抗体をコードする核酸配列、前記核酸配列を含むベクター、前記核酸配列または前記ベクターを含む宿主細胞、および前記多重特異性抗体を作製する方法に関する。それに加え、本発明は、前記多重特異性抗体を含む医薬組成物と、それを利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
がんの治療はかなり進歩したにもかかわらず、がんは主要な未解決の医療ニーズであり続けている。近年のがん治療においてなされた最大の実質的な進歩のいくつかは、さまざまなクラスの分子の免疫療法の登場(その非限定的な例に含まれるのは、モノクローナル抗体(mAb)、二重特異性抗体(bsAb)、組み換えタンパク質、およびキメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T細胞)療法である)によってもたらされた。このような療法は、a)免疫エフェクター細胞を腫瘍常在細胞に積極的に向かわせること、および/またはb)免疫エフェクター細胞を刺激すること、および/またはc)腫瘍を媒介とする免疫抑制を緩和することによって抗腫瘍免疫を誘導する。これらの免疫療法は一般に、その薬理活性を腫瘍外遺伝子座よりも腫瘍に向けるのに、腫瘍常在細胞(例えば悪性細胞、腫瘍血管系の細胞、間質細胞、免疫細胞など)による特定の抗原の過剰発現を利用している。これらの抗原のうちで腫瘍関連抗原(TAA)は、悪性細胞が選択的に過剰発現する細胞表面タンパク質を含む。TAAに高い親和性で結合することにより、免疫療法は、その免疫調節活性をある程度腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞の間の免疫シナプスに限定することができる。
【0003】
一般的な1つのクラスのTAA結合免疫療法は、腫瘍細胞をオプソニン化し、Fcγ受容体(FcγR)を発現している細胞(主にナチュラルキラー(NK)細胞)によって抗体依存性細胞傷害(ADCC)を始動させることによって抗腫瘍免疫を誘導するmAbである。他のTAA結合免疫療法は、悪性細胞(CAR-T細胞など)を狙った枯渇を誘導する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)のほか、同時にT細胞抗原CD3を関与させるbsAb(TAA/CD3 bsAb)を活用している。
【0004】
TAA-(リ)ダイレクトCTLと従来のTAA/CD3 bsAbの治療上の有用性は臨床で検証されたが、用量制限毒性(DLT)が、最大有効量(MED)での投与を阻んだり、治療の中断へとつながったりして、その結果として有効性が制限されることがしばしばある。
【0005】
DLTの1つの理由は、従来のTAA/CD3 bsAbが一般にサイトカイン放出症候群(CRS)とも関係していることであり、それは抗CD3ドメインの過剰な活性によると推定される。免疫療法の腫瘍外活性の結果として健康な組織で炎症促進性サイトカインが分泌され、その結果として望ましくない安全性プロファイルになる可能性がある。さらに、TAA/CD3 bsAbは、TAAを過剰発現している細胞を強力に枯渇させる一方で、そのような細胞が腫瘍-抗原を認識するT細胞受容体(TCR)(すなわち腫瘍反応性T細胞)を発現しているかどうかに関係なく、CTLをリクルートして刺激することによってそうする。したがってTAA/CD3 bsAbは、宿主の天然の抗腫瘍免疫を刺激または再活性化するというよりもCTLをいくらか無差別に刺激するため、潜在的に安全性のリスクがある。
【0006】
このようなDLTが生じる正確な経路はさまざまである可能性があるが、免疫療法関連毒性のリスクは、薬理活性の腫瘍局在化を増強することにより最少にすること、またはなくすことができる。
【0007】
ほぼがん細胞の表面でだけ発現するTAA(腫瘍胎児抗原など)はクリーンなTAAと呼ばれる。正常な非がん細胞の表面でも発現するTAA-典型的にはがん細胞と比べてより低いレベル-は、クリーンでないTAAであると見なされる。TAA/CD3 bsAbアプローチの非常に大きな効力のため、クリーンでないTAAは、TAAも発現している非腫瘍細胞にダメージを与えるという理由で難題である。メソテリン(MSLN)はクリーンでないTAAの一例である;これは、腫瘍細胞の表面だけでなく、より低いレベルだが他のさまざまな組織でも発現する。したがってクリーンでないTAAを標的とするときには、腫瘍組織に対するTAA/CD3 bsAbアプローチの選択性を改善し、腫瘍外/オンターゲット効果を最小にする新たな療法が必要とされている。これは特にMSLN/CD3 bsAbアプローチに当てはまる。
【0008】
MSLN+固形がん(中皮腫など)を治療するための標的にできる腫瘍関連抗原(TAA)として、メソテリン(MSLN)が提案されてきた。他の多くのタイプのがんもMSLN+であり、その中には、ある種の形態の卵巣がんと膵臓がんのほか、トリプルネガティブ乳がんが含まれる。中皮腫の現在の標準治療に含まれるのは、腫瘍切除、化学療法、および放射線療法のほか、緩和的措置(体液除去や疼痛管理など)である。増殖を続ける腫瘍のための免疫療法に含まれるのは、免疫系を刺激するPD-1/PD-L1ブロッカー(ペムブロリズマブやニボルマブなど)または抗CTLA4抗体(イピリムマブなど)の使用のほか、血管新生を阻止するVEGF阻害剤(ベバシズマブなど)の使用である。これらの療法は、臨床での成功を実現している一方で、全身副作用のより大きなリスクを伴っている。したがってMSLNを標的とする特別なアプローチの必要性が存在する。
【0009】
多数の臨床前研究と初期段階臨床研究が、いくつかの異なるアプローチ(その中に抗体に基づく薬とCAR-T細胞が含まれる)によってMSLNを標的とすることの実現可能性を評価するためにこれまで実施されてきた、または実施されつつある。抗体に基づく薬に含まれるのは、化学療法剤(ペメトレキセドやシスプラチンなど)とともに用いるか、PE38にカップルさせて用いる抗MSLN断片SS1P免疫毒素;ADCCを誘導するキメラモノクローナル抗体であるアマツキシマブ;腫瘍増殖を阻害する抗体薬物複合体であるアネツマブ・ラブタンシン(BAY 94-9343:抗MSLN+チューブリン阻害剤DM4)またはDMOT4039A(抗MSLN+抗有糸分裂モノメチルアウリスタチンE)などであり、MSLNを発現している細胞を標的とする。改善された半減期を持つ多重特異性エンゲージャ(抗MSLN+抗CD3+抗アルブミン)であるHPN536は、T細胞をリダイレクトしてMSLNを発現している標的をインビトロと生体内で殺傷しており、カニクイザルによってよく忍容されるように見える。いくつかの抗MSLNキメラ抗原受容体(CAR)-T療法もよく忍容されており、その中には、一過性にmRNAをトランスフェクトされたCAR-T(RNA CARTmeso)と、操作されて自殺遺伝子(iCasp9m28z)を持つCAR-Tが含まれる。大半の抗MSLN療法に対するこれまでの応答はあまりよくなく、これは固形腫瘍の治療に伴う困難を示す。
【0010】
抗MSLN療法では、この問題は、MSLNががん患者の血清の中に流入するという事実によってさらに複雑化している(MSLNは血清中では可溶性メソテリン関連タンパク質(SMRP)と呼ばれる)。MSLNに対して高親和性の抗体はSMRPにも強く結合してその活性を顕著に低下させ、がん細胞に対して有効な用量を減らす。
【0011】
したがって、腫瘍に有効に局在化させ、SMRPの存在下でT細胞応答を促進することのできる新規な分子が必要とされている。
【0012】
少なくとも3つの結合ドメイン(そのうちの2つ(MSLN-BD)はメソテリンに特異的に結合し、1つはCD3(CD3-BD)に特異的に結合し、それら2つのMSLN-BDの親和性はよくバランスのとれた範囲にある)を持つ多重特異性抗体は、理論的には安全性と有効性に関する上記の制限の多くに対処できると考えられる。このような多重特異性抗体は、理論的には腫瘍への高局在化と改善された選択性を誘導できるため、多彩ながんに対してより安全でより有効な療法を提供できる可能性がある。それに加え、このような分子は、患者の応答を促進するための追加の免疫療法を同時投与する必要性をさらに限定すると考えられるため、容易な開発と治療コストの最小化をサポートする。しかし治療用の多重特異性抗体の実現は、その分子アーキテクチャ、その構成要素である抗原結合ドメインの特性、その製造可能性、および/または乏しい生物物理学的特性に関する課題が理由で複雑化している。まとめると、腫瘍細胞への局在化が増加し、忍容できる毒性プロファイルで有効なT細胞活性化を誘導するとともに、医薬開発に適しているようにする生物物理学的特性を持つ新規な多重特異性抗体への明確な必要性が残されたままにされている。
【0013】
それに加え、MSLNおよび/またはCD3に対して特異的な多数の抗体がすでに存在するという事実にもかかわらず、そのような多重特異性抗体に対する複雑で特別な要求が、目的に適う特性を有する新規な抗体ドメインの開発を必要としている。
【0014】
そのためがんに苦しむ患者にとって多数の治療の選択肢があるにもかかわらず、有効かつ安全な治療剤の必要性と、標的をより明確にしたその好ましい利用の必要性が残されたままにされている。免疫調節生物製剤はその作用様式を理由としてがんの治療における有望なアプローチを提供するが、全体的免疫刺激と、病理学的に関連する細胞と部位に対するこの免疫調節のあらゆる制限の欠如が、多くの副作用と顕著な毒性を引き起こし、それが潜在的に患者の罹患率と死亡率の上昇につながっている可能性がある。したがって増殖性疾患(特にがん)の治療を改善する薬を提供することが、本発明の1つの目的である。
【発明の概要】
【0015】
本発明の概要
増殖性疾患(特にがん)の治療を改善する薬を提供することが、本発明の1つの目的である。特に、オンターゲットの有効性が増大した薬を提供し、そのことによって毒物学的プロファイルを改善することが本発明の1つの目的であった。
【0016】
第1の態様では、本発明は、
a)メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)を含み、
免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.5~20nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する多重特異性抗体に関する。
【0017】
第2の態様では、本発明は、特異的MSLN結合ドメインに関する。
【0018】
第3の態様では、本発明は、本発明の多重特異性抗体または特異的MSLN結合ドメインをコードする1つの核酸配列または2つの核酸配列に関する。
【0019】
第4の態様では、本発明は、本発明の前記1つの核酸配列または前記2つの核酸配列を含む1つのベクターまたは2つのベクターに関する。
【0020】
第5の態様では、本発明は、本発明の前記1つのベクターまたは前記2つのベクターを含む1つの宿主細胞または複数の宿主細胞に関する。
【0021】
第6の態様では、本発明は、本発明の多重特異性抗体または特異的結合ドメインを作製する方法に関するものであり、この方法は、(i)本発明の1つの核酸配列または2つの核酸配列、または本発明の1つのベクターまたは2つのベクターを用意し、前記1つの核酸配列または2つの核酸配列、または前記1つのベクターまたは2つのベクターを発現させ、発現系から前記多重特異性抗体を回収すること、または(ii)本発明の1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を用意し、前記1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を培養し;細胞培養物から前記多重特異性抗体を回収することを含む。
【0022】
第7の態様では、本発明は、本発明の多重特異性抗体と、医薬として許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。
【0023】
第8の態様では、本発明は、疾患、特にヒト疾患、より詳細には、がん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患の治療に用いられ、3つまたは4つの結合ドメインを含む多重特異性抗体に関する。
【0024】
第9の態様では、本発明は、疾患、特にヒト疾患、より詳細には、がん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患の治療に用いられ、3つまたは4つの結合ドメインを含むヘテロ二量体タンパク質である多重特異性抗体に関する。
【0025】
第10の態様では、本発明は、疾患、特にヒト疾患、より詳細には、がん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患を治療する方法に関するものであり、この方法は、3つまたは4つの結合ドメインを含む本発明の上記の一本鎖多重特異性抗体を投与する工程を含む。
【0026】
第11の態様では、本発明は、疾患、特にヒト疾患、より詳細には、がん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患を治療する方法に関するものであり、この方法は、3つまたは4つの結合ドメインを含む本発明の上記のヘテロ二量体多重特異性抗体を投与する工程を含む。
【0027】
以下の項目にまとめられている本発明の態様、有利な特徴、および好ましい実施形態は、それぞれ単独で、または組み合わせて本発明の目的を解決するのに寄与する:
1.a)メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの2つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)を含み、
免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.5~20nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する多重特異性抗体。
2.フローサイトメトリーによって測定するときMeT-5A細胞(ATCC CRL-9444)よりも6~8倍高いMSLN発現レベルを持つ標的細胞の殺傷に関するEC50が、前記標的細胞に対するT細胞駆動細胞毒性アッセイで求めるとき、少なくとも200ng/ml、特に少なくとも300ng/ml、特に少なくとも400ng/ml、特に少なくとも500ng/mlの可溶性メソテリンの存在下で25倍超に増加することがない、項1の多重特異性抗体。
3.フローサイトメトリーによって測定するときMeT-5A細胞(ATCC CRL-9444)よりも6~8倍高いMSLN発現レベルを持つ標的細胞を殺傷することができ、前記標的細胞と前記MeT-5A細胞に対するT細胞駆動細胞毒性アッセイで求めるとき、前記MeT-5A細胞の殺傷に関するEC50よりも少なくとも10倍、特に少なくとも20倍、特に少なくとも25倍小さいEC50を持つ、項1の多重特異性抗体。
4.前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき、0.5~15nMの範囲、特に0.6~10nMの範囲、特に0.7~5nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する、項1~3のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
5.a)メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)を含み、
免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.1~5nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する多重特異性抗体。
6.フローサイトメトリーによって測定するときMeT-5A細胞(ATCC CRL-9444)よりも6~8倍高いMSLN発現レベルを持つ標的細胞の殺傷に関するEC50が、前記標的細胞に対するT細胞駆動細胞毒性アッセイで求めるとき、少なくとも200ng/ml、特に少なくとも300ng/ml、特に少なくとも400ng/ml、特に少なくとも500ng/mlの可溶性メソテリンの存在下で50倍超に増加することがない、項5の多重特異性抗体。
7.前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.1~3nMの範囲、特に0.15~2nMの範囲、特に0.2~1nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する、項5または6に記載の多重特異性抗体。
8.前記MSLN-BDのそれぞれがヒトメソテリンに特異的に結合する、項1~7のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
9.MSLNの領域I、領域II、および/または領域III、好ましくはMSLNの領域Iおよび/または領域II、特にMSLNの領域Iに結合する、項1~8のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
10.前記2つのMSLN-BDがMSLN上の同じエピトープに結合する、項1~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
11.前記MSLN-BDが、
(i)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列;またはそれぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列;および
(ii)VH3ドメインまたはVH4ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;特にVH3ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;および
(iii)VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1またはVκ3のFR1~FR3、特にVκ1 FR1~FR3)と、フレームワークFR4(Vκ FR4とVλ FR4から選択され、特に配列番号132~配列番号139のいずれかと少なくとも70、80、または90パーセント一致するアミノ酸配列を含むVλ FR4、より詳細には配列番号132~配列番号139のいずれかから選択されるVλ FR4、特に配列番号132または139に従うVλ FR4)を含むVLフレームワークを含むVLドメインを含む、項1~4と8~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
12.前記MSLN-BDが、
a.1)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.1)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.1)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.2)それぞれ配列番号1、2(または10)、および3のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号4、5、および6のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.2)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.3)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.3)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.3)配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.3)配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.4)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.4)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.4)配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.4)配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.5)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.5)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.5)配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.5)配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.6)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.6)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.6)配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.6)配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.7)それぞれ配列番号11、12、および13のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.7)それぞれ配列番号14、15、および16のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.7)配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.7)配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む、項1~4と8~11のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
13.前記MSLN-BDが、
(i)それぞれ配列番号25、26、および27のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、それぞれ配列番号28、29、および30のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列;および
(ii)VH3ドメインまたはVH4ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;特にVH3ドメインのフレームワーク配列FR1~FR4;および
(iii)VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1またはVκ3のFR1~FR3、特にVκ1 FR1~FR3)と、フレームワークFR4(Vκ FR4とVλ FR4から選択され、特に配列番号132~配列番号139のいずれかと少なくとも70、80、または90パーセント一致するアミノ酸配列を含むVλ FR4、より詳細には配列番号132~配列番号139のいずれかから選択されるVλ FR4、特に配列番号132または139に従うVλ FR4)を含むVLフレームワークを含むVLドメインを含む、項5~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
14.前記MSLN-BDが、
a.1)それぞれ配列番号25、26、および27のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号28、29、および30のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.1)配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.1)配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.2)それぞれ配列番号25、26、および27のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号28、29、および30のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.2)配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.2)配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.3)それぞれ配列番号25、26、および27のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.3)それぞれ配列番号28、29、および30のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.3)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.3)配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む;
または
a.4)それぞれ配列番号25、26、および27のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列、
b.4)それぞれ配列番号28、29、および30のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列、
c.4)配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVH配列、および
d.4)配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100パーセント一致するVL配列を含む、項5~10と13のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
15.前記VHドメインがC51アミノ酸残基(AHo番号付け)を含み、前記VLドメインがC141アミノ酸残基(AHo番号付け)を含む、項11~14のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
16.前記MSLN-BDのそれぞれがマカカ・ファスキクラリス(カニクイザル)MSLNと交差反応し、特にカニクイザルMSLNに、SPRによって測定するとき0.2~75nMの範囲、特に0.3~60nMの範囲、特に0.4~50nMの範囲、特に0.5~40nMの範囲の1価KDで結合する、項8~15のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
17.前記CD3-BDがCD3εに結合している、項1~16のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
18.1つまたは2つのCD3-BD、特に1つのCD3-BDを含む、項1~17に記載のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
19.前記CD3-BDがCD3εに、SPRによって測定するとき50nM未満の1価KD、特に0.5~50nMの1価KD、特に1~40nM、特に2~30nMの1価KDで結合する、項1~18のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
20.前記CD3-BDが、
(i)ヒト抗体VHフレームワーク(特にVH3フレームワーク)の中のそれぞれ配列番号45、46、および47のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号48、49、および50のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列を含み、前記VLフレームワークは、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1フレームワーク)と、フレームワークFR4(Vκ FR4とVλフレームワーク4から選択される)を含む、項1~19のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
21.前記CD3-BDが、
(i)配列番号51、140、141、または142のアミノ酸配列を含むVHドメイン;と
(ii)配列番号52のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、項20の多重特異性抗体。
22.少なくとも1つのヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)、特に1つのhSA-BDをさらに含む、項1~21のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
23.前記hSA-BDが、
(i)ヒト抗体VHフレームワーク(特にVH3フレームワーク)の中のそれぞれ配列番号53、54、および55のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号56、57、および58のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列を含み、前記VLフレームワークは、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1フレームワーク)と、フレームワークFR4(Vκ FR4(特にVκ1 FR4)とVλフレームワーク4から選択される)を含む
または
(i)ヒト抗体VHフレームワーク(特にVH3フレームワーク)の中のそれぞれ配列番号63、64、および65のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号66、67、および68のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列を含み、前記VLフレームワークは、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1フレームワーク)と、フレームワークFR4(Vκ FR4(特にVκ1 FR4)とVλフレームワーク4から選択される)を含む
または
(i)ヒト抗体VHフレームワーク(特にVH3フレームワーク)の中のそれぞれ配列番号63、64、および65のHCDR1配列、HCDR2配列、およびHCDR3配列と、
(ii)ヒト抗体VLフレームワークの中のそれぞれ配列番号66、67、および68のLCDR1配列、LCDR2配列、およびLCDR3配列を含み、前記VLフレームワークは、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1フレームワーク)と、フレームワークFR4(Vκ FR4(特にVκ1 FR4)とVλフレームワーク4から選択される)を含む、項22の多重特異性抗体。
24.前記hSA-BDが、
(i)配列番号59のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号60のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む;または
(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号62のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む;または
(iii)配列番号69のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号70のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む;または
(iv)配列番号71のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号72のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む;または
(v)配列番号79または143のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号80または144のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む;
または
(vi)配列番号81または145のアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号82または146のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、項22または23の多重特異性抗体。
25.前記VHドメインがC51アミノ酸残基(AHo番号付け)を含み、前記VLドメインがC141アミノ酸残基(AHo番号付け)を含む、項24の多重特異性抗体。
26.前記結合ドメインが、Fab、Fv、scFv、dsFv、scAb、STABからなるグループから独立に選択される、項1~25のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
27.前記結合ドメインのそれぞれが、
(a)VLドメインとVHドメインのコグネイトペア(Fv断片);または
(b)オリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーによって連結されたVLドメインとVHドメインのコグネイトペア(scFv断片)
から独立に選択される、項26に記載の多重特異性抗体。
28.タンデムscDb(Tandab)、直線状二量体scDb(LD-scDb)、環状二量体scDb(CD-scDb)、タンデムトリ-scFv、トリボディ(Fab-(scFv)2)、Fab-Fv2、トリアボディ、scDb-scFv、テトラボディ、ジ-ディアボディ、CODV、タンデム-ジ-scFv、タンデムトリ-scFv、Fab-(scFv)2、Fab-Fv2、またはヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのN末端および/またはC末端に融合されたCODV、およびMATCHからなるグループから選択される形式である、項1~27のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
29.CH1領域および/またはCL領域を含まない、項1~28のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
30.scDb-scFv、トリボディ、MATCHであり、特にMATCH形式またはトリボディ形式であり、より詳細にはMATCH形式であり、より詳細にはMATCH3またはMATCH4である、項1~29のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
31.一本鎖タンパク質である、項1~30のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
32.前記一本鎖タンパク質が、下記の順番で配置された
(i)第1のVLドメイン、
(ii)第1のポリペプチドリンカー、
(iii)第1のVHドメイン、
(iv)第2のポリペプチドリンカー、
(v)第2のVLドメイン、
(vi)第3のポリペプチドリンカー、および
(vii)第2のVHドメイン
からなるアミノ酸配列を含み、前記第1のVLドメインは前記第2のVHドメインと会合して第1の結合ドメインを形成し、前記第2のVLドメインは前記第1のVHドメインと会合して第2の結合ドメインを形成し、
前記一本鎖タンパク質が、
(viii)第4のポリペプチドリンカーを通じて接続された第3のVLドメインと第3のVHドメインによって形成されていて、C末端またはN末端が第5のポリペプチドリンカーを通じて前記アミノ酸配列に融合している第3の結合ドメイン
をさらに含み、
前記3つの結合ドメインが以下の特異性を持つ、すなわち
a)前記第1の結合ドメインがヒトCD3に特異的に結合し(CD3-BD);
b)前記第2と第3の結合ドメインがメソテリンに特異的に結合する(MSLN-BD)、項31の多重特異性抗体。
33.前記一本鎖タンパク質が、第6のポリペプチドリンカーによって接続された第4のVLドメインと第4のVHドメインによって形成されていて、C末端またはN末端が第7のポリペプチドリンカーを通じて前記アミノ酸配列に融合しているhSA-BDをさらに含む、項32の多重特異性抗体。
34.第1と第2の一本鎖タンパク質を含むヘテロ二量体タンパク質であり、
前記第1の一本鎖タンパク質が、(N末端からC末端へと)
(ia)第1のVLドメイン、
(iia)第1のポリペプチドリンカー、および
(iiia)第2のVLドメイン
からなる第1のアミノ酸配列を含み、
前記第2の一本鎖タンパク質が、(N末端からC末端へと)
(ib)第1のVHドメイン、
(iib)第2のポリペプチドリンカー、および
(iiib)第2のVHドメイン
からなる第2のアミノ酸配列を含み、
前記第1のVLドメインが前記第1または前記第2のVHドメインのいずれかと会合して第1の結合ドメインを形成し、前記第2のVLドメインが前記VHドメインの他方と会合して第2の結合ドメインを形成し、
前記第1と前記第2の一本鎖タンパク質の少なくとも一方が、
(iv)第3のポリペプチドリンカーを介して接続された第3のVLドメインと第3のVHドメインによって形成されていて、第4のポリペプチドリンカーを介して前記第1または前記第2のアミノ酸配列に融合された第3の結合ドメインをさらに含み、
場合により、前記第1と前記第2の一本鎖タンパク質の少なくとも一方が、
(v)第5のポリペプチドリンカーを介して接続された第4のVLドメインと第4のVHドメインによって形成されていて、第6のポリペプチドリンカーを介して前記第1または前記第2のアミノ酸配列に融合された第4の結合ドメインをさらに含み、
前記3つの、場合により4つの結合ドメインが、以下の特異性を持つ、すなわち
a)1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)がヒトCD3に特異的に結合し;
b)別の2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)がメソテリンに特異的に結合し、前記場合による第4の結合ドメインが存在するときには、
c)残りの結合ドメイン(hSA-BD)がヒト血清アルブミンに特異的に結合する、項1~30のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
35.前記場合による第4のドメインが存在し、前記第1と第2の結合ドメインの一方がCD3-BDであり、前記第1と第2の結合ドメインの他方がhSA-BDである、項34の多重特異性抗体。
36.前記場合による第4のドメインが存在し、第3のドメインが前記第1または第2のアミノ酸配列のいずれかに融合され、前記第4のドメインが前記2つのアミノ酸配列の他方に融合されている、項34または35に記載の多重特異性抗体。
37.前記ヘテロ二量体タンパク質に含まれる任意の結合ドメインが、前記第1と第2の一本鎖タンパク質の中に配置された免疫グロブリン可変ドメインだけからなる、項34~36のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
38.前記ヘテロ二量体タンパク質が、前記第1と第2のVLドメインとVHドメイン以外の第1と第2のタンパク質相互作用ドメインのコグネイトペアを含まず、前記第1のタンパク質相互作用ドメインが前記第1の一本鎖タンパク質に含まれ、前記第2のタンパク質相互作用ドメインが前記第2の一本鎖タンパク質に含まれる、項34~37のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
39.前記第1の一本鎖タンパク質と前記第2の一本鎖タンパク質が平行な向きでヘテロ二量体化する、すなわち前記第1のVLドメインが前記第1のVHドメインと会合し、前記第2のVLドメインが前記第2のVHドメインと会合する、項34~38のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
40.前記第1の一本鎖タンパク質と前記第2の一本鎖タンパク質が反平行な向きでヘテロ二量体化する、すなわち前記第1のVLドメインが前記第2のVHドメインと会合し、前記第2のVLドメインが前記第1のVHドメインと会合する、項34~38のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
41.前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号83のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号83のアミノ酸配列を含み、特に配列番号83のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号84のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号84のアミノ酸配列を含み、特に配列番号84のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号85のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号85のアミノ酸配列を含み、特に配列番号85のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号86のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号86のアミノ酸配列を含み、特に配列番号86のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号87のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号87のアミノ酸配列を含み、特に配列番号87のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号88のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号88のアミノ酸配列を含み、特に配列番号88のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号89のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号89のアミノ酸配列を含み、特に配列番号89のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号90のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号90のアミノ酸配列を含み、特に配列番号90のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号91のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号91のアミノ酸配列を含み、特に配列番号91のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号92のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号92のアミノ酸配列を含み、特に配列番号92のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号93のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号93のアミノ酸配列を含み、特に配列番号93のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号94のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号94のアミノ酸配列を含み、特に配列番号94のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号95のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号95のアミノ酸配列を含み、特に配列番号95のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号96のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号96のアミノ酸配列を含み、特に配列番号96のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号97のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号97のアミノ酸配列を含み、特に配列番号97のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号98のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号98のアミノ酸配列を含み、特に配列番号98のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号99のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号99のアミノ酸配列を含み、特に配列番号99のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号100のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号100のアミノ酸配列を含み、特に配列番号100のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号101のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号101のアミノ酸配列を含み、特に配列番号101のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号102のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号102のアミノ酸配列を含み、特に配列番号102のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号103のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号103のアミノ酸配列を含み、特に配列番号103のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号104のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号104のアミノ酸配列を含み、特に配列番号104のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号105のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号105のアミノ酸配列を含み、特に配列番号105のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号106のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号106のアミノ酸配列を含み、特に配列番号106のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号107のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号107のアミノ酸配列を含み、特に配列番号107のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号108のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号108のアミノ酸配列を含み、特に配列番号108のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号109のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号109のアミノ酸配列を含み、特に配列番号109のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号110のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号110のアミノ酸配列を含み、特に配列番号110のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号111のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号111のアミノ酸配列を含み、特に配列番号111のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号112のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号112のアミノ酸配列を含み、特に配列番号112のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号113のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号113のアミノ酸配列を含み、特に配列番号113のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号114のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号114のアミノ酸配列を含み、特に配列番号114のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号115のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号115のアミノ酸配列を含み、特に配列番号115のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号116のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号116のアミノ酸配列を含み、特に配列番号116のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号117のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号117のアミノ酸配列を含み、特に配列番号117のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号118のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号118のアミノ酸配列を含み、特に配列番号118のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号119のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号119のアミノ酸配列を含み、特に配列番号119のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号120のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号120のアミノ酸配列を含み、特に配列番号120のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号121のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号121のアミノ酸配列を含み、特に配列番号121のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号122のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号122のアミノ酸配列を含み、特に配列番号122のアミノ酸配列からなる;または
前記第1の一本鎖タンパク質が、配列番号123のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号123のアミノ酸配列を含み、特に配列番号123のアミノ酸配列からなり、かつ
前記第2の一本鎖タンパク質が、配列番号124のアミノ酸配列と少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセント一致するアミノ酸配列を含み、より詳細には、配列番号124のアミノ酸配列を含み、特に配列番号124のアミノ酸配列からなる、項34~40のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
42.前記抗体可変ドメインの少なくとも1つが親ウサギ抗体に由来するCDR領域を含む、項1~41のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
43.前記MSLN-BDの少なくとも1つと前記CD3-BDがそのそれぞれの抗原に同時に結合することができ、特に前記MSLN-BDと前記CD3-BDの両方がそのそれぞれの抗原に結合することができる、項1~42のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
44.項11~15のいずれか1項に規定されているMSLN結合ドメイン。
45.項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体または項44のMSLN結合ドメインをコードする1つの核酸配列または2つの核酸配列。
46.項45の1つの核酸配列または2つの核酸配列を含む1つのベクターまたは2つのベクター。
47.項46の1つのベクターまたは2つのベクターを含む1つの宿主細胞または複数の宿主細胞。
48.項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体または項44のMSLN結合ドメインを作製する方法であって、(i)項45の1つの核酸配列または2つの核酸配列、または項46の1つのベクターまたは2つのベクターを用意し、前記1つの核酸配列または複数の核酸配列、または前記1つのベクターまたは複数のベクターを発現させ、発現系から前記多重特異性抗体または前記MSLN結合ドメインを回収する、または(ii)項47による1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を用意し、前記1つの宿主細胞または前記複数の宿主細胞を培養し;細胞培養物から前記多重特異性抗体または前記MSLN結合ドメインを回収することを含む方法。
49.項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体と、医薬として許容可能な担体とを含む医薬組成物。
50.疾患、特にヒト疾患、より詳細にはがん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患の治療で使用するための、項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
51.前記疾患が、がん、特に中皮腫、膵臓がん、および卵巣がんから選択されるがんである、項50による疾患の治療で使用するための、項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
52.疾患、特にヒト疾患、より詳細にはがん、炎症性疾患、および自己免疫疾患から選択されるヒト疾患を治療する方法であって、項1~43のいずれか1項に記載の多重特異性抗体を投与する工程を含む方法。
53.前記疾患ががんであり、特に中皮腫、膵臓がん、および卵巣がんから選択されるがんである、項52に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、ヒトMSLNを高レベルで発現しているH226細胞系に由来する細胞の形質膜への抗MSLN scFv PRO1783、PRO1922、PRO1925、PRO2306、PRO2309、および参照抗体アマツキシマブの結合を示す。H226細胞系へのPRO1783、PRO1922、PRO1925、PRO2306、PRO2309、およびアマツキシマブの結合は競合ELISA(「cELISA」)で調べた。cELISAにおいて、HRPにカップルしたタンパク質 LとHRPにカップルした抗ヒトIgG抗体をそれぞれ用い、H226細胞に結合したPRO1783、PRO1922、PRO1925、PRO2306、PRO2309、およびアマツキシマブを検出した。光学密度(OD
450nm-690nm)が抗体濃度(単位はnM)の関数として表わされている。値が増加していく濃度だけをフィットさせたことに注意されたい。PRO1783のEC
50値は参照抗体アマツキシマブで見られた値よりも大まかに6倍大きい。PRO1925、PRO2306、PRO2309のEC
50値はPRO1783と同じ範囲であるのに対し、PRO1922のEC
50値はアマツキシマブの値に近い。
【0029】
【
図2】
図2は、カニクイザルMSLNを発現しているCHO細胞系からの細胞の形質膜への抗MSLN scFv PRO1783と参照抗体アマツキシマブの結合を示す。カニクイザルMSLNを発現しているCHO細胞系の形質膜へのPRO1783とアマツキシマブの結合はcELISAで調べた。PRO1783とアマツキシマブの結合は、それぞれHRPにカップルしたタンパク質 LとHRPにカップルした抗ヒトIgG抗体によって検出した。光学密度(OD
450nm-690nm)が抗体濃度(単位はnM)の関数として表わされている。アマツキシマブのほかPRO1783がカニクイザルMSLNに結合することが実証された。
【0030】
【
図3】
図3は、抗MSLN scFv PRO1783、PRO1922、およびPRO1925によるヒトMSLN/MUC16相互作用の阻止を示す。PRO1783、PRO1922、PRO1925、およびアマツキシマブがヒトMSLN/MUC16相互作用を阻止する効力はcELISAで調べた。光学密度(OD
450nm-690nm)が抗体濃度(単位はnM)の関数として表わされている。PRO1783のIC
50は0.5nMであったのに対し、参照抗体アマツキシマブはMSLN/MUC16相互作用をより強力に中和した(IC
50=0.014nM)。PRO1925はPRO1783と似たIC
50を持つのに対し、PRO1922のIC
50はアマツキシマブのIC
50に近い。
【0031】
【
図4】
図4はhMSLN/mMSLNのキメラバリアントを示す。濃い灰色で強調されているドメインは、対応するマウス配列で置換されたヒトMSLN配列のセグメントである。セグメントVIは、形質膜に最も近いMSLN細胞外ドメインのC末端部に対応する。セグメントIとIIはMSLNの領域Iに対応し;セグメントIIIとIVはMSLNの領域IIに対応し;セグメントVとVIはMSLNの領域IIIに対応する。
【0032】
【
図5】
図5は異なるMATCH形式を示す。(左)反平行MATCH4形式のアーキテクチャであり、ここではそれぞれの鎖上の分割されたヘテロ二量体形成可変ドメインが、そのコグネイト可変ドメインとして相補的MATCH鎖上に、逆のN末端からC末端への順番に編成されている。(右)scMATCH3形式の代表的なアーキテクチャであり、ここでは分割された可変ドメインが単一のペプチド鎖上に位置し、組み立てられて三重特異性分子になる。代替配置(VL2-VL1-VH1-VH2-scFvなど)もscMATCH3形式の考え方の範囲内である。ドメイン間の接続に使用したGly-Serリンカーが線で示されている。表17は、作製された異なる分子に含まれるドメインと、分子内のその位置を記述している(ドメイン1~4)。請求項に規定されているように、ドメインの番号は結合ドメインの番号と相関していない。
【0033】
【
図6】
図6は、ヒト血清アルブミンの存在下におけるCD8+ T細胞活性化に対するPRO2000とPRO1872の細胞毒性の活性と効果を示す。(A)高MSLN発現がん細胞(H226細胞)の特異的殺傷。高レベルのメソテリンを発現しているがん細胞では、PRO2000で観察された標的細胞殺傷力はPRO1872よりも75倍優れている。(B)低MSLN発現中皮細胞(MeT-5A細胞)の特異的殺傷。低レベルのメソテリンを発現している健康な中皮組織(MeT-5A;ATCC CRL-9444)に由来する細胞では、1価メソテリン結合タンパク質PRO1872が最高の殺傷力を示す。(C)高MSLN発現がん細胞(H226細胞)の存在下でのCD8+ T細胞活性化と、(D)低MSLN発現中皮細胞(MeT-5A細胞)の存在下でのCD8+ T細胞活性化。同様のデータが、CD8+ T細胞活性化で観察された。ドナー#1からのPBMCを使用した。標的細胞とCD8+ T細胞を、それぞれの分子とともにインキュベートし始めてから40時間後にフローサイトメトリーによって分析し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【0034】
【
図7】
図7は、ヒト血清アルブミンの存在下におけるCD8+ T細胞活性化に対するPRO2000とPRO1872の細胞毒性の活性と効果を示す。(A)低MSLN発現がん細胞(H292細胞)の特異的殺傷。低レベルのメソテリンを発現しているがん細胞では、PRO1872で観察された標的細胞殺傷力はPRO2000よりも7倍優れている。(B)中間MSLN発現がん細胞(HPAC細胞)の特異的殺傷。中間レベルのメソテリンを発現しているがん細胞では、1価と2価両方のメソテリンバインダPRO1872とPRO2000が似た殺傷力を示す。(C)低MSLN発現がん細胞(H292細胞)の存在下でのCD8+ T細胞活性化と、(D)中間MSLN発現がん細胞(HPAC細胞)の存在下でのCD8+T細胞活性化。同様のデータがCD8+ T細胞活性化で観察されたが、例外としてPRO2000はHPAC細胞の存在下でPRO1872よりも明らかに強力であった(4倍)。ドナー#1からのPBMCを使用した。標的細胞とCD8+ T細胞を、それぞれの分子とともにインキュベートし始めてから40時間後にフローサイトメトリーによって分析し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【0035】
【
図8】
図8は、sMSLNの非存在下または存在下におけるCD8+ T細胞活性化に対するPRO2000とPRO1872の細胞毒性の活性と効果を示す。(A~C)H226標的細胞に対するPRO2000とPRO1872の細胞毒性活性。sMSLNの非存在下(A)、50ng/mlのsMSLNの存在下(B)、または500ng/mlのsMSLNの存在下(C)でのH226細胞の特異的殺傷。PRO2000の殺傷力は、PRO1872と比べ、増加していく濃度のsMSLNの影響をより受けにくい(D~F)同様のデータが、対応する条件におけるCD8+ T細胞活性化で観察される。H226細胞の存在下でsMSLNなし(D)、50ng/mlのsMLSNの存在下(E)、または500ng/mlのsMLSNの存在下(F)におけるCD8+ T細胞活性化。ドナー#2からのPBMCを使用した。標的細胞とCD8+ T細胞を、それぞれの分子とともにインキュベートし始めてから40時間後にフローサイトメトリーによって分析し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【0036】
【
図9】
図9は、100ng/mlのsMSLNの非存在下または存在下でのPRO2000、PRO2100、およびPRO1872の細胞毒性活性を示す:sMSLNの非存在下(A)または100ng/mlのsMSLNの存在下(B)におけるH226細胞の特異的殺傷;sMSLNの非存在下(C)または100ng/mlのsMSLNの存在下(D)におけるMet-5A細胞(ATCC CRL-9444)の特異的殺傷。ドナー#3からのPBMCを使用した。標的細胞を、それぞれの分子とともにインキュベートし始めてから40時間後にフローサイトメトリーによって分析し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【0037】
【
図10】
図10は、高MSLN発現がん細胞(H226細胞)、中間MSLN発現がん細胞(OVCAR-3細胞)、および低MSLN発現がん細胞(Met-5A細胞)に対するPRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660の細胞毒性活性を示す。パリビズマブを陰性対照(「対照」)として使用した。
【0038】
【
図11】
図11は、H226細胞の特異的殺傷(A)、OVCAR3細胞の特異的殺傷(B、左側)、およびMet-5A細胞の特異的殺傷(B、右側)に関するPRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、および1価参照抗体PRO1872のEC
50値のまとめを示す。
【0039】
【
図12】
図12は、50ng/mlのsMSLNまたは500ng/mlのsMSLNの非存在下または存在下でのH226細胞に対するPRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、および1価参照抗体PRO1872の細胞毒性活性を示す。
【0040】
【
図13】
図13は、50ng/mlのsMSLNまたは500ng/mlのsMSLNの非存在下または存在下でのH226細胞の特異的殺傷に関するPRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、および1価参照抗体PRO1872のEC
50値のまとめを示す。
【0041】
【
図14-1】
図14は、細胞表面で異なるレベルのメソテリンを発現している標的細胞系に対するMATCH分子の結合を示す。(A)高メソテリン発現H226細胞、(C)中間メソテリン発現HPAC細胞、(B)低メソテリン発現H292がん細胞、および(D)低メソテリン発現中皮細胞MeT-5A(ATCC CRL-9444)に対するPRO2000、PRO2100、およびPRO1872の結合と、(E)高メソテリン発現H226細胞、(F)中間メソテリン発現OVCAR-3細胞、および(G)低メソテリン発現中皮細胞MeT-5A(ATCC CRL-9444)に対するPRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660の結合をフローサイトメトリーによって評価し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【
図14-2】
図14は、細胞表面で異なるレベルのメソテリンを発現している標的細胞系に対するMATCH分子の結合を示す。(A)高メソテリン発現H226細胞、(C)中間メソテリン発現HPAC細胞、(B)低メソテリン発現H292がん細胞、および(D)低メソテリン発現中皮細胞MeT-5A(ATCC CRL-9444)に対するPRO2000、PRO2100、およびPRO1872の結合と、(E)高メソテリン発現H226細胞、(F)中間メソテリン発現OVCAR-3細胞、および(G)低メソテリン発現中皮細胞MeT-5A(ATCC CRL-9444)に対するPRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660の結合をフローサイトメトリーによって評価し、シグモイド4PLフィット(GraphPad Prism)を利用してデータをフィットさせた。
【0042】
【
図15】
図15は、分子PRO2000(biMSLN.CD3)を用いた治療の結果として対照条件と比べてH292異種移植片モデルで腫瘍増殖が阻害されることを示す。(A)biMSLN.CD3治療の存在下または非存在下での腫瘍増殖の縦断分析。線は中央値を示す。動物の皮下に1×10
7個のH292腫瘍細胞と1×10
7個のPBMCを同時に移植し、治療の静脈内投与を5日目に開始し、実験終了まで5日ごとに繰り返した。(B)散乱プロットとして示した40日目のデータ。それぞれの点は1匹の動物に対応し、データは平均値と標準偏差で表わされている。二元配置反復測定分散分析の後、テューキーの多重比較検定を実施し、各データセットの有意性を、パリビズマブ対照(Ctrl、下方の線)、または治療なし(上方の線)と比べて示してある。ns=有意でない;*、p<0.05;**、p<0.01、***、p<0.001。灰色の点線はy軸の0を示す。
【0043】
【
図16-1】
図16は、分子PRO2000(biMSLN.CD3)を用いた治療の結果として対照条件と比べてヒト膵臓がん(HPAC)異種移植片モデルで腫瘍増殖が阻害されることを示す。(A)増加していく濃度のPRO2000(biMSLN.CD3)の存在下での腫瘍増殖の縦断分析。線は中央値を示す。動物の皮下に1×10
7個のHPAC腫瘍細胞と2.5×10
6個のPBMCを同時に移植し、治療の静脈内投与を5日目に開始し、実験の終了まで5日ごとに繰り返した。
【
図16-2】(B)増加していく濃度のPRO2000(biMSLN.CD3)の存在下と、比較としての増加していく濃度のPRO1872(MSLN.CD3)の存在下での腫瘍増殖の対応する縦断分析。線は中央値を示す。パリビズマブを陰性対照として使用した。
*p<0.05;
****p<0.0001;
*****p<0.00001。(C)(B)に示されているグラフの中の最低用量だけの時間経過を示す部分図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
既知のMSLN/CD3 bsAbに基づく免疫療法は、典型的には、用量制限毒性と、生体内での限られた有効性の問題を抱えている。そこで医学分野では、現在利用できるアプローチよりも用量制限毒性が少ないか存在せず、有効性がより大きい、MSLN/CD3 bsAbに基づく新規な免疫療法が必要とされている。
【0045】
本発明により、2つのメソテリン結合ドメイン(MSLN-BD)と、CD3のための少なくとも1つの結合ドメイン(CD3-BD)の組み合わせを含んでいて、高MSLN発現標的細胞の表面への効率的な局在化を可能にする一方で、低MSLN発現の健康な中皮細胞が受ける影響ははるかに少なくなるようにMSLNに対するMSLN-BDの親和性をチューニングした多重特異性抗体が提供される。2つのMSLN-BDが存在し、それらが、免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを欠く明確でコンパクトな多ドメイン抗体アーキテクチャの中に埋め込まれていることに、よくバランスの取れたMSLNとCD3の結合親和性が組み合わさることで、これら多重特異性抗体は、大きなオンターゲット効力を示す一方で、小さな腫瘍外副作用を示す。本発明の多重特異性抗体のコンパクトな2価設計(古典的なIgGアーキテクチャに基づく2価多重特異性抗体では実現できない)のほか、そのよくチューニングされたMSLNとCD3の結合親和性は、所望の選択性と有効性のプロファイルを実現するための決定的に重要な特徴である。
【0046】
本発明の多重特異性抗体は、アビディティ効果を活用することにより抗原密度に大きく依存したやり方で2つのMSLN-BDを通じて標的細胞に結合することができる。それと同時に、本発明の多重特異性抗体は、CD3-BDを通じてCD3に結合することによりT-細胞活性化を誘導し、腫瘍細胞を殺傷することができる。本発明の多重特異性抗体は、高MSLN発現細胞に対するその増強された選択性が効率的な腫瘍局在化へとつながるため、T細胞の非特異的活性化によって起こる用量制限毒性のない治療を可能にする。
【0047】
それに加え、驚くべきことに、高MSLN発現標的細胞を殺傷する効力は、患者の血清においてしばしば観察される高レベルの可溶性メソテリンの存在下で有意に低下しないことが見いだされた。さらに、(a)2つのMSLN結合ドメインと、(b)少なくとも1つのCD3-BDを含んでいて上記の設計と抗原-結合親和性を持つ本発明の多重特異性抗体は、実施例と添付の図面に示されているようなさらに有益な特性を示した。さらに、半減期を延長する抗hSAドメインをオプションで付加すると、便利な投与が可能になるだけでなく、腫瘍微小環境への分子の送達も促進される。
【0048】
したがって本発明の多重特異性抗体は、従来の組成物および療法と比べて明確な治療上の利点を提供する。
【0049】
特に断わらない限り、本明細書で使用されているあらゆる科学技術用語は、本発明の分野に関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つ。
【0050】
「含む(comprising)」と「含有する(including)」という用語は本明細書では、特に断わらない限り、その制限がなく非限定的な意味で用いられる。したがってそのような後者の実施形態に関し、「含む(comprising)」という用語に、より狭い用語「からなる(consisting of)」が包含される。
【0051】
本発明を記述する文脈(特に以下の請求項の文脈)における「a」ならびに「an」と「その(the)」という用語、および同様の言及は単数形と複数形の両方を含むと解釈されるが、本明細書にそうでないことが示されているか、文脈と明らかに矛盾する場合は別である。例えば「1つの細胞(a cell)」という用語には複数の細胞(その混合物が含まれる)が含まれる。化合物、塩などに複数形が用いられている場合には、これは、単一の化合物、塩なども意味すると理解される。
【0052】
1つの態様では、本発明は、
a)メソテリンに特異的に結合する2つの抗体ベースの結合ドメイン(MSLN-BD)と;
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗体ベースの結合ドメイン(CD3-BD)を含み;
免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まず、前記MSLN-BDのそれぞれが、SPRによって測定するとき0.1~20nMの範囲の1価解離定数(KD)でメソテリン(MSLN)に結合する多重特異性抗体に関する。
【0053】
「抗体」などの用語は、本明細書では、抗体全体またはその単一の鎖;および任意の抗原-結合断片(すなわち「抗原-結合部分」)またはその単一の鎖;および抗体CDR、VH領域、またはVL領域を含む分子(その非限定的な例に多重特異性抗体が含まれる)を包含する。天然の「全抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2、およびCH3からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。VH領域とVL領域はさらに相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域へと分割することができ、間にフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在している。それぞれのVHとVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順番、すなわちFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で配置された3つのCDRと4つのFRからなる。重鎖と軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、宿主の組織または因子(その中に、免疫系のさまざまな細胞(例えばエフェクター細胞)と古典的補体系の第一成分(Clq)が含まれる)への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0054】
「免疫グロブリンFc領域」という用語は、本明細書では、重鎖定常領域のCH2ドメインとCH3ドメインを意味する。
【0055】
抗体の「結合ドメイン」、「その抗原結合断片」、「抗原-結合部分」などの用語は、本明細書では、完全な抗体の1つ以上の断片で、所与の抗原(例えばMSLN、CD3、hSA)に特異的に結合する能力を保持しているものを意味する。抗体の抗原結合機能は完全な抗体の断片によって実行することができる。いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗体の結合ドメインの選択は、Fab断片(VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる1価断片);F(ab)2断片(ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む2価断片);VHドメインとCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一のアームのVLドメインとVHドメインからなるFv断片;VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546);単離された相補性決定領域(CDR)、一本鎖Fv、dsFv、scAb、STAB、単一ドメイン抗体(sdAbまたはdAb)、単一ドメイン重鎖抗体と単一ドメイン軽鎖抗体、VHH、VNAR、サメからのVNAR構造に基づく単一ドメイン抗体、および代替足場(非限定的な例に含まれるのは、アンキリンに基づくドメイン、フィノマー、アビマー、アンチカリン、フィブロネクチン、および抗体の定常領域に組み込まれる結合部位(例えばf-スター技術(F-スターのモジュール式抗体技術TM)である)に基づく結合ドメインからなるグループからなされる。本発明の結合ドメインは、一本鎖Fv断片(scFv)または単一の抗体可変ドメインであることが適切である。好ましい一実施形態では、本発明の結合ドメインは一本鎖鎖Fv断片(scFv)である。特別な実施形態では、抗原結合断片の2つの可変ドメインは、Fv断片またはscFv断片におけるように、ドメイン間ジスルフィド結合によって安定化され、特に前記VHドメインは51位(AHo番号付け)に単一のシステイン残基を含み、前記VLドメインは141位(AHo番号付け)に単一のシステイン残基を含む。
【0056】
「相補性決定領域」(「CDR」)という用語は、多数ある周知のスキームのいずれかを利用して決定される境界を持つアミノ酸配列を意味する。そのようなスキームに含まれるのは、Kabat et al. (1991), “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health、ベセスダ、メリーランド州(「Kabat」番号付けスキーム);Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273, 927-948(「Chothia」番号付けスキーム);ImMunoGenTics(IMGT)番号付け(Lefranc, M.-P., The Immunologist, 7, 132-136 (1999);Lefranc, M.-P. et al., Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003))(「IMGT」番号付けスキーム)によって記載されているスキーム;およびHonegger & Pluckthun, J. Mol. Biol. 309 (2001) 657-670に記載されている番号付けスキーム(「AHo」番号付け)である。例えば古典的形式に関しては、Kabatのもとでは、重鎖可変ドメイン(VH)の中のCDRアミノ酸残基の番号は31~35(HCDR1)、50~65(HCDR2)、95~102(HCDR3)であり;軽鎖可変ドメイン(VL)の中のCDRアミノ酸残基の番号は24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、および89~97(LCDR3)である。Chothiaのもとでは、VHの中のCDRアミノ酸の番号は26~32(HCDR1)、52~56(HCDR2)、および95~102(HCDR3)であり;VLの中のアミノ酸残基の番号は24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、および89~97(LCDR3)である。CDRの定義をKabatとChothiaの両方の定義と組み合わせることにより、CDRは、ヒトVHではアミノ酸残基26~35(HCDR1)、50~65(HCDR2)、および95~102(HCDR3)からなり、ヒトVLではアミノ酸残基24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、および89~97(LCDR3)からなる。IMGTのもとでは、VHの中のCDRアミノ酸残基の番号は、ほぼ26~35(HCDR1)、51~57(HCDR2)、および93~102(HCDR3)であり、VLの中のCDRアミノ酸残基の番号は、ほぼ27~32(LCDR1)、50~52(LCDR2)、および89~97(LCDR3)である(「Kabat」に従う番号付け)。IMGTのもとでは、抗体のCDRは、プログラムIMGT/DomainGap Alignを用いて決定することができる。
【0057】
本発明の文脈では、Honegger & Pluckthunによって提案された番号付けシステム(「AHo」)を使用する(Honegger & Pluckthun, J. Mol. Biol. 309 (2001) 657-670)が、そうでない特別な言及がある場合は別である。特に、以下の残基がAHo番号付けスキームに従ってCDRと定義される:LCDR1(CDR-L1とも呼ばれる):L24-L42;LCDR2(CDR-L2とも呼ばれる):L58-L72;LCDR3(CDR-L3とも呼ばれる):L107-L138;HCDR1(CDR-H1とも呼ばれる):H27-H42;HCDR2(CDR-H2とも呼ばれる):H57-H76;HCDR3(CDR-H3とも呼ばれる):H108-H138。明確にするため、Honegger & Pluckthunによる番号付けシステムは、天然の抗体(異なるVHサブファミリーとVLサブファミリーの両方とCDR、特にCDR)に見られる長さの多様性を考慮しており、配列内にギャップを提供する。したがって所与の抗体可変ドメインでは、通常、1~149位のすべてがアミノ酸残基によって占められることはない。
【0058】
「結合特異性」という用語は、本明細書では、個々の抗体が1つの抗原決定基と反応し、異なる抗原決定基とは反応しない能力を意味する。本明細書では、「特異的に結合する」または「に対して特異的」であるという表現は、生物分子を含む異種集団の分子の存在下で標的の存在を決定づける測定可能かつ再現可能な相互作用(標的と抗体の間の結合など)を意味する。例えば標的(エピトープが可能)に特異的に結合する抗体は、他の標的に結合するよりも大きな親和性、アビディティで、より容易に、および/またはより長くこの標的に結合する抗体である。「特異的結合」は、最も一般的な形態(そして規定された基準に言及されていないとき)では、例えば本分野で知られている特異性アッセイに従って調べるときに抗体が、興味ある標的と、無関係な分子とを識別する能力を意味する。このようなアッセイの非限定的な例に含まれるのは、ウエスタンブロット、ELISA、RIA、ECL、IRMA、SPR(表面プラズモン共鳴)試験、およびペプチド走査である。例えば標準的なELISAアッセイを実施することができる。数値化は、標準的発色(例えば二次抗体とセイヨウワサビの過酸化物、およびテトラメチルベンジジンと過酸化水素)によって実施することができる。あるウエルにおける反応を例えば450nmでの光学密度によって数値にする。典型的なバックグラウンド(=マイナスの反応)は約0.1ODになり;典型的なプラスの反応は約1ODになろう。これは、プラスの数値とマイナスの数値の比が10倍以上になりうることを意味する。さらなる一例では、SPRアッセイを実施することができ、そのときバックグラウンドとシグナルの間の少なくとも10倍、特に少なくとも100倍の差が特異的結合を示す。典型的には、結合特異性の判断は、単一の参照分子を用いるのではなく、約3~5個の無関係な分子のセット(粉乳、トランスフェリンなど)を用いることによってなされる。
【0059】
本発明の抗体は単離された抗体であることが適切である。「単離された抗体」という用語は、本明細書では、異なる抗原特異性を持つ他の抗体を実質的に含まない抗体を意味する(例えばMSLNとCD3に特異的に結合する単離された抗体は、MSLNとCD3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まず、MSLN、CD3、およびヒト血清アルブミンに特異的に結合する単離された抗体は、MSLN、CD3、およびヒト血清アルブミン以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。さらに、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まない可能性がある。
【0060】
本発明の抗体はモノクローナル抗体であることが適切である。「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書では、アミノ酸配列が実質的に同じである抗体、または同じ遺伝源に由来する抗体を意味する。モノクローナル抗体組成物は、特定の1つまたは複数のエピトープに対する結合の特異性と親和性を示す。
【0061】
本発明の抗体の非限定的な例に含まれるのは、キメラ抗体、ヒト抗体、およびヒト化抗体である。
【0062】
「キメラ抗体」(またはその抗原結合断片)という用語は、(a)定常領域またはその一部が変更、置換、または交換されて、抗原結合部位(可変領域)が、異なっているか変化したクラス、エフェクター機能および/または種の定常領域に連結されるか、新たな特性をそのキメラ抗体に与えるまったく異なる分子(例えば酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬など)に連結された抗体分子(またはその抗原結合断片);または(b)可変領域またはその一部が、異なっているか変化した抗原特異性を持つ可変領域で変更、置換、または交換された抗体分子(またはその抗原結合断片)である。例えばマウス抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリンからの定常領域で置換することによって改変することができる。キメラ抗体は、ヒト定常領域で置換されているため、抗原の認識におけるその特異性を保持することができるが、ヒトでは原初のマウス抗体と比べて抗原性が低下している。
【0063】
「ヒト抗体」(またはその抗原結合断片)という用語は、本明細書では、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト起源の配列に由来する可変領域を持つ抗体(とその抗原-結合断片)を含むことが想定されている。さらに、抗体が定常領域を含む場合には、定常領域もそのようなヒト配列(例えばヒト生殖細胞系列配列、またはヒト生殖細胞系列配列の変異バージョン)に由来する。本発明のヒト抗体とその抗原-結合断片は、ヒト配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えばインビトロでのランダムな、または部位特異的な突然変異誘発、または生体内での体細胞変異によって導入される変異)を含有している可能性がある。ヒト抗体のこの定義では、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が特に除外される。ヒト抗体は本分野で知られているさまざまな技術を利用して作製することができ、その技術に含まれるのは、ファージ提示ライブラリ(Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol, 227:381 (1991);Marks et al, J. Mol. Biol, 222:581 (1991))である。やはりヒトモノクローナル抗体の調製に利用できるのは、Cole et al, Monoclonal Antibody and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p.77 (1985);Boemer et al, J. Immunol, 147(l):86-95 (1991)に記載されている方法である。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol, 5: 368-74 (2001)も参照されたい。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してそのような抗体を産生するよう改変されているが内在性遺伝子座が機能不能にされたトランスジェニック動物(例えば免疫化されたゼノマウス(例えばXENOMOUSE(商標)技術に関するアメリカ合衆国特許第6,075,181号と第6,150,584号を参照されたい))に抗原を投与することによって調製できる。例えばヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって作製されるヒト抗体に関するLi et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照されたい。
【0064】
「ヒト化」抗体(またはその抗原結合断片)は、本明細書では、非ヒト抗体の反応性を保持している一方でヒトにおける免疫原性がより小さい抗体(またはその抗原結合断片)である。これは、例えば非ヒトCDR領域を保持しつつ抗体の残部をそのヒト対応部分(すなわち定常領域のほか、可変領域のフレームワーク部分)で置き換えることによって実現できる。追加のフレームワーク領域改変は、ヒトフレームワーク配列内のほか、別の哺乳類種の生殖細胞系列に由来するCDR配列内で実施することができる。本発明のヒト化抗体は、ヒト配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えばインビトロでのランダムな、または部位特異的な突然変異誘発によって、または生体内での体細胞変異によって導入される変異、または安定性または製造を促進する保存的置換)を含有している可能性がある。例えばMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855, 1984;Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92, 1988;Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536, 1988;Padlan, Molec. Immun., 28:489-498, 1991;およびPadlan, Molec. Immun., 31:169-217, 1994を参照されたい。ヒト操作技術の他の非限定的な例に含まれるのは、アメリカ合衆国特許第5,766,886号に開示されているXoma技術である。
【0065】
「組み換えヒト化抗体」という用語は、本明細書では、組み換え手段によって調製された、発現された、作製された、または単離されたあらゆるヒト抗体を包含する(ヒト化抗体を発現するように形質転換された宿主細胞(例えばトランスフェクトーマ)から単離された抗体と、1つのヒト免疫グロブリン遺伝子の全体または一部のスプライシングにより配列を他のDNA配列にすることを含む他の任意の手段によって調製された、発現された、作製された、または単離された抗体など)。
【0066】
本発明の抗体またはその抗原結合断片はヒト化されていることが適切である。本発明の抗体またはその抗原結合断片はヒト化されていてウサギ由来のCDRを含むことが適切である。
【0067】
「多重特異性抗体」という用語は、本明細書では、少なくとも2つ以上の異なる標的(例えばMSLNとCD3)上の2つ以上の異なるエピトープに結合する抗体を意味する。「多重特異性抗体」という用語に、二重特異性、三重特異性、四重特異性、五重特異性、および六重特異性が含まれる。「二重特異性抗体」という用語は、本明細書では、2つの異なる標的(例えばMSLNとCD3)上の2つの異なるエピトープに結合する抗体を意味する。「三重特異性抗体」という用語は、本明細書では、3つの異なる標的(例えばMSLN、CD3、およびhSA)上の3つの異なるエピトープに結合する抗体を意味する。
【0068】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することのできるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常は分子の化学的に活性な表面基(アミノ酸または糖側鎖など)からなり、通常は特定の三次元構造特性のほか、特定の電荷特性を持つ。「立体的」エピトープと「直線状」エピトープは、変性溶媒の存在下で後者ではなく前者への結合が失われることにより識別される。
【0069】
「立体的エピトープ」という用語は、本明細書では、ポリペプチド鎖が折り畳まれて天然のタンパク質を形成するときに表面上に集まる抗原のアミノ酸残基を意味する。
【0070】
「直線状エピトープ」という用語は、タンパク質の一次アミノ酸配列(連続的)に直線的に沿ってタンパク質と相互作用分子(抗体など)の間で起こる相互作用の点のすべてを持つエピトープを意味する。
【0071】
「認識する」という用語は、本明細書では、対応する立体的エピトープを見つけてそれと相互作用する(例えば結合する)その抗体抗原結合断片を意味する。
【0072】
本明細書では、「親和性」という用語は、単一の抗原性部位における抗体と抗原の間の相互作用の強さを意味する。各抗原性部位内で、抗体「アーム」の可変領域は多数の部位で弱い非共有力を通じて抗原と相互作用する;相互作用が大きいほど親和性は強くなる。
【0073】
「親和性」は一般に、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)の間の非共有相互作用をすべて合計した強度を意味する。特に断わらない限り、本明細書では、「親和性」、「に結合する」、「に結合する」または「への結合」は、結合ペアのメンバー(例えば抗体断片と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の親和性を意味する。ある分子XのそのパートナーYに対する親和性は一般に解離定数(KD)によって表わすことができる。親和性は本分野で知られている一般的な方法(本明細書に記載されている方法が含まれる)によって測定することができる。低親和性抗体は一般に抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は一般に抗原により早く結合し、より長く結合した状態に留まる傾向がある。親和性を測定する多彩な方法が本分野で知られており、そのいずれかを本発明の目的で利用することができる。親和性(すなわち結合)の強度を測定するための具体的な説明的で代表的な実施形態は以下に記載する。
【0074】
「Kassoc」、「Ka」、または「Kon」という用語は、本明細書では、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を意味することが想定されているのに対し、「Kdis」、「Kd」、または「Koff」という用語は、本明細書では、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を意味することが想定されている。一実施形態では、「KD」という用語は、本明細書では、Kaに対するKdの比(すなわちKd/Ka)から得られる解離定数を意味することが想定されており、モル濃度(M)として表わされる。本発明による「KD」または「KD値」または「KD」または「KD値」は、一実施形態では、表面プラズモン共鳴アッセイを利用して測定する。組み換えヒトメソテリン(ヒトMSLN)と組み換えカニクイザルMSLN(カニクイザルMSLN)に対する親和性は段落[0168]に記載されているようにして表面プラズモン共鳴(SPR)測定によって求めた。組み換えヒトCD3に対する親和性は段落[0196]に記載されているようにしてSPRによって測定した。
【0075】
本発明の多重特異性抗体はMSLN特異性に関して2価であることが適切である。
【0076】
本発明の多重特異性抗体はCD3特異性に関して1価、2価、または多価であることが適切である。一実施形態では、本発明の多重特異性抗体はCD3特異性に関して2価である。好ましい一実施形態では、本発明の多重特異性抗体はCD3特異性に関して1価である。
【0077】
「多価抗体」という用語は2以上の価数を持つ単一の結合分子を意味し、ここに「価数」は同じ標的分子上のエピトープに結合する抗原-結合部分の数として記述される。そのため単一の結合分子が標的分子上の2つ以上の結合部位に結合することができる。多価抗体の非限定的な例に含まれるのは、2価抗体、3価抗体、4価抗体、5価抗体などである。
【0078】
「1価抗体」という用語は、本明細書では、標的分子(CD3など)上の単一のエピトープに結合する抗体を意味する。また、「結合ドメイン」または「1価結合ドメイン」という用語は、本明細書では、標的分子(CD3など)上の単一のエピトープに結合する結合ドメインを意味する。
【0079】
「2価抗体」という用語は、本明細書では、2つの同じ標的分子(MSLN標的分子など)上の2つのエピトープに結合する抗体を意味する。
【0080】
本発明の多重特異性抗体の2つのMSLN-BDは、MSLNの細胞外部分の任意の領域(例えばMSLNの領域I、領域II、および/または領域III)に結合する。本発明の多重特異性抗体の2つのMSLN-BDは、MSLNの領域Iおよび/または領域IIに、特にMSLNの領域Iに結合することが好ましい。領域Iは、MSLNの部分のうちで、MSLNが付着する細胞表面から最も遠位にある部分である。
【0081】
本発明の多重特異性抗体の2つのMSLN-BDは、MSLN標的分子上の同じエピトープまたは異なるエピトープに結合する。本発明の多重特異性抗体の2つのMSLN-BDは、MSLN標的分子上の同じエピトープに結合することが好ましい。「同じエピトープ」という用語は、本明細書では、同じタンパク質の表面にあって抗体に特異的に結合することのできる個々のタンパク質決定基で、それぞれが同じであるもの、すなわち分子の同じ化学的に活性な表面基(同じ三次元構造特性のほか、同じ電荷特性を持つアミノ酸または糖側鎖など)からなるものを意味する。「異なるエピトープ」という用語は、本明細書で特定のタンパク質標的との関係で用いられるとき、抗体に特異的に結合することのできる同じタンパク質上の個々のタンパク質決定基で、それぞれが同じでないもの、すなわち分子の同じでない化学的に活性な表面基(異なる三次元構造特性のほか、異なる電荷特性を持つアミノ酸または糖側鎖など)からなるものを意味する。これらの異なるエピトープは、重複する可能性、または重複していない可能性がある。
【0082】
本発明の発明者らは、今や驚くべきことに、例えば三重特異性分子(biMSLN高KDxCD3xhSA)PRO2000、PRO2562、PRO2565、PRO2566、およびPRO2567が、フローサイトメトリーによって求めたときに健康なMeT-5A細胞(ATCC CRL-9444)よりも約7倍大きいMSLN発現レベルを持つ標的細胞を高効率に、そして前記標的細胞と前記MeT-5A細胞に対するT細胞駆動細胞毒性アッセイにおいて求めたときに前記MeT-5A細胞の殺傷に関するEC50よりも少なくとも25倍小さいEC50で殺傷できることを見いだした(例えば表31参照)。したがってPRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567は高MSLN発現標的分子に関して非常に大きな殺傷力を示すが健康な細胞に向けられるその殺傷力ははるかに小さいため、PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567を用いた治療のための治療濃度域が潜在的に広いことを示している。それとは対照的に、前記高MSLN発現標的細胞と前記健康なMet-5A細胞の殺傷に関してPRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567のMSLN-BDよりも5倍超優れた親和性(KD)を持つ1つのMSLN-BDを含む三重特異性参照分子PRO1872(MSLN低KDxCD3xhSA)の効力は有意に異なってはいない。この知見は、がん患者の治療で本発明の多重特異性抗体を用いるための治療濃度域が顕著に広がることを示す。それに加え、本発明の発明者らは驚くべきことに、フローサイトメトリーによって求めたときに前記健康なMeT-5A細胞よりもほぼ7倍大きいMSLN発現レベルの標的細胞の殺傷に関する三重特異性分子PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567(biMSLN高KDxCD3xhSA)のEC50値が、前記標的細胞に対するT細胞駆動細胞毒性アッセイで求めたとき、50ng/mlの可溶性メソテリン(sMSLN)の存在下では6倍超に増加することがなく、500ng/mlの可溶性メソテリン(sMSLN)の存在下では40倍を超えて増加することがないことを見いだした。他方で、前記標的細胞の殺傷に関する三重特異性参照分子PRO1872(MSLN低KDxCD3xhSA)のEC50値は、50ng/mlのsMSLNの存在下でほぼ8倍に、500ng/mlのsMSLNの存在下で75倍超に増大した。したがって高MSLN発現標的細胞に対する三重特異性分子PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567の大きな殺傷力は、高濃度のsMSLNによる影響がほんのわずかである。他方、健康な細胞にとっての三重特異性分子PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567の殺傷力は、高濃度のsMSLNの存在下でさらに低下する(データは示さない)。これは、臨床でこれらを使用するための治療濃度域がsMSLNの存在によってさらに広がることを示す。これは重要な1つの知見である。なぜなら高血漿レベルの可溶性メソテリン関連タンパク質(SMRP)が患者でしばしば観察されるからである。発明者らは、PRO2000のCD8+ T細胞活性化効力に関して同様の有利な結果を得た。上記の知見はより一層の驚きである。というのも全部で4つの結合ドメインが複雑な多標的、多細胞の状況で立体的に、またはそれ以外のやり方で互いに阻害することなく機能的なままであるというのは先験的には予想できないと考えられるからである。
【0083】
本発明の多重特異性抗体で用いるのに適したMSLN-BDは、本開示に提示されている結合ドメインである。本発明のメソテリン-BDの非限定的な例に含まれるのは、表1に配列が掲載されているヒト化MSLN-結合ドメインである。
【0084】
本発明の多重特異性抗体で用いるのに適したCD3-BDは、本開示に提示されている結合ドメインである。本発明のCD3-BDの非限定的な例に含まれるのは、表3に配列が掲載されているヒト化CD3-結合ドメインである。
【0085】
本発明の多重特異性抗体は2つの異なる特異性(MSLNとCD3)を持つことが適切である。本発明の多重特異性抗体は、MSLNに関して2価の二重特異性抗体であることが適切である。本発明の多重特異性抗体は、さらなる1つの特異性(三重特異性抗体)または複数の特異性(四重特異性または五重特異性または六重特異性抗体)を含むことができる。一実施形態では、多重特異性抗体は二重特異性である(MSLNとCD3)。別の一時間形態では、多重特異性抗体は三重特異性である(MSLN、CD3、およびhSA)。
【0086】
本発明の抗体は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まないことが適切である。
【0087】
同じかより小さな分子量で特異性/機能の数を増やすには、抗体断片(Fv、Fab、Fab’、およびF(ab’)2断片や、他の抗体断片など)を含む抗体を使用することが有利である。これらのより小さな分子は、抗体全体の抗原-結合活性を保持していることに加え、免疫グロブリン分子全体と比べて改善された組織侵入と薬物動態特性も示す可能性がある。このような断片は免疫グロブリン全体よりも多くの利点を示すように見える一方で、生体内の長い半減期を与えるFcドメインを欠いているため血清からのクリアランス速度の増大に悩まされてもいる(Medasan et al., 1997, J. Immunol. 158:2211-2217)。分子量がより小さな分子はより効率的に標的組織(例えば固形がん)の中に侵入するため、同じかより少ない用量で有効性が改善される見通しがある。
【0088】
発明者らは驚くべきことに、本発明の多重特異性抗体にヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)を付加しても、他の結合ドメインがそのそれぞれの標的に結合する能力を妨害しないことを見いだした。この知見はより一層の驚きである。というのも全部で4つの結合ドメインが複雑な多標的、多細胞の生体内状況で立体的に、またはそれ以外のやり方で互いに阻害することなく機能的なままであるというのは先験的には予想できないと考えられるからである。
【0089】
本発明の多重特異性抗体はヒト血清アルブミンに対する特異性を持つさらなる結合ドメインを含みうることが適切である。一実施形態では、多重特異性抗体は、(i)2つのMSLN-BD;(ii)少なくとも1つのCD3-BD;および(iii)少なくとも1つのhSA-BDを含む。
【0090】
「hSA」という用語は特に、UniProt ID番号P02768を持つヒト血清アルブミンを意味する。ヒト血清アルブミン(hSA)はヒト血清の中に豊富な66.4kDaのタンパク質(全タンパク質の50%)であり、585個のアミノ酸からなる(Sugio, Protein Eng, Vol. 12, 1999, 439-446)。多機能性hSAタンパク質は、多数の代謝産物(脂肪酸など)、金属イオン、ビリルビン、およびいくつかの薬の結合と輸送を可能にする構造を伴っている(Fanali, Molecular Aspects of Medicine, Vol.33, 2012, 209-290)。血清中のHSAの濃度はほぼ3.5~5g/dLである。アルブミン結合抗体とその断片は、例えばそれと複合体を形成する薬またはタンパク質の生体内血清半減期を延ばすのに使用することができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、hSA-BDはモノクローナル抗体または抗体断片に由来する。
【0092】
本発明の多重特異性抗体で用いるのに適したhSA-BDは、本開示に提示されている結合ドメインである。本発明のhSA-BDの非限定的な例に含まれるのは、表4に配列が掲載されているヒト化hSA結合ドメインである。
【0093】
特に本発明のhSA-BDはヒト血清アルブミンに特異的に結合する。
【0094】
本発明の多重特異性抗体で用いるのに適した他のhSA-BDは、(i)血清アルブミンに結合するポリペプチド(例えばSmith et al., 2001, Bioconjugate Chem. 12:750-756;欧州特許第EP0486525号;アメリカ合衆国特許第6267964号;WO2004/001064;WO2002/076489;およびWO2001/45746を参照されたい);(ii)抗血清アルブミン結合単一可変ドメイン(Holt et al., Protein Engineering, Design & Selection, vol 21, 5, pp283-288、WO2004/003019、WO2008/096158、WO2005/118642、WO2006/0591056、およびWO2011/006915に記載);(iii)抗血清アルブミン抗体(WO2009/040562、WO2010/035012、およびWO2011/086091に記載)からなるグループから選択される抗体を含む、またはその抗体に由来する。
【0095】
本発明の他の可変ドメインは、変異しているがそれでも表1、3、および4に記載されている配列内に示されているCDR領域とCDR領域内で少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントが一致するアミノ酸配列を含有する。本発明の他の可変ドメインは、表1、3、および4に記載されている配列内に示されているCDR領域と比べたとき1、2、3、4、または5個以下のアミノ酸がCDR領域内で変異している変異アミノ酸配列を含有する。
【0096】
本発明の結合ドメインのVHドメインはVH3ファミリーまたはVH4ファミリーに属することが適切である。一実施形態では、本発明の結合ドメインはVH3ファミリーに属するVHドメインを含む。本発明の文脈では、「VHxファミリー(またはVLxファミリー)に属する」という表現は、フレームワーク配列FR1~FR3が前記VHxファミリー(またはVLx、それぞれ)と最大の相同性を示すことを意味する。VHファミリーとVLファミリーの例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86、またはWO2019/057787に与えられている。VH3ファミリーに属するVHドメインの特別な一例は配列番号129によって表わされ、VH4ファミリーに属するVHドメインの特別な一例は配列番号130によって表わされる。特に、配列番号129からのフレームワーク領域FR1~FR3は、VH3ファミリーに属する(表7、領域が非太字で記されている)。VH3ファミリーに属するVHは、本明細書では、配列番号129のFR1~FR3と少なくとも85%、特に少なくとも90%、より詳細には少なくとも95%配列一致するFR1~FR3を含むVHであることが適切である。VH3配列の代替例とVH4配列の例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86、またはWO2019/057787に見いだすことができる。本発明のhSA-BDは、VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3(特にVκ1またはVκ3フレームワーク、特にVκ1フレームワークFR1~3)と、フレームワークFR4(Vκ FR4とVλ FR4から選択され、特にVλ FR4が選択される)を含むことが適切である。適切なVκ1フレームワークFR1~3のほか、代表的なVλ FR4が配列番号131の中に示されている(表7、FR領域は非太字で記されている)。Vκ1配列の代替例と、Vκ2、Vκ3、またはVκ4配列の例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86に見いだすことができる。適切なVκ1フレームワークFR1~3は、FR1~3に対応していて配列番号131からのアミノ酸配列と少なくとも70、80、90、95パーセント一致するアミノ酸配列を含む(表7、FR領域は非太字で記されている)。適切なVλ FR4は、単一のシステイン残基を含む配列番号132~配列番号138と配列番号139の中に示されており、特に第2の単一のシステインが存在する場合には、ドメイン間ジスルフィド結合の形成のため、対応するVH鎖に、特にVHの51位(AHo番号付け)に存在する。一実施形態では、本発明のVLドメインは、配列番号132~配列番号139のいずれかから選択されたアミノ酸配列(特に配列番号132または139)と少なくとも70、80、または90パーセント一致するVλ FR4を含む。
【0097】
本発明の結合ドメインは、表1、3、および4に掲載されているVHドメインを含む。本発明の結合ドメインは、表1、3、および4の1つに掲載されているVHアミノ酸配列を含むことが適切であり、そこではフレームワーク配列(例えばCDRではない配列)の中の20個以下のアミノ酸が変異している(変異は、さまざまな非限定的な例として、付加、置換、または欠失である)。本発明の結合ドメインは、表1、3、および4の1つに掲載されているVHアミノ酸配列を含むことが適切であり、そこではフレームワーク配列(例えばCDRではない配列)の中の15個以下のアミノ酸、特に10個以下のアミノ酸、特に5個以下のアミノ酸が変異している(変異は、さまざまな非限定的な例として、付加、置換、または欠失である)。本発明の他の結合ドメインは、変異しているがそれでも表1、3、および4の1つに記載されている対応する配列の中に示されているVH領域(表1、3、および4に示されている配列の1つの少なくとも5~140位(AHo番号付け)、特に少なくとも3~145位を含むVHドメインが含まれる)と、VH領域内の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントが一致するアミノ酸を含有する。
【0098】
特に、本発明の結合ドメインは、表1、3、および4の1つに掲載されているVLドメインを含む。本発明の結合ドメインは、表1、3、および4の1つに掲載されているVLアミノ酸配列を含むことが適切であり、そこではフレームワーク配列(例えばCDRではない配列)内の20個以下のアミノ酸が変異している(変異は、さまざまな非限定的な例として、付加、置換、または欠失である)。本発明の結合ドメインは、表1、3、および4の1つに掲載されているVLアミノ酸配列を含むことが適切であり、そこではフレームワーク配列(例えばCDRではない配列)の中の15個以下のアミノ酸、特に10個以下のアミノ酸、特に5個以下のアミノ酸が変異している(変異は、さまざまな非限定的な例として、付加、置換、または欠失である)。本発明の他の結合ドメインは、変異しているがそれでも表1、3、および4の1つに記載されている対応する配列の中に示されているVL領域(表1、3、および4に示されている配列の1つの少なくとも5~140位(AHo番号付け)、特に少なくとも3~145位を含むVLドメインが含まれる)と、VL領域内の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントが一致するアミノ酸を含有する。
【0099】
本発明の文脈では、「本発明の結合ドメイン」という表現は、そのままの、すなわち多重特異性の文脈とは独立な結合ドメインと、多重特異性コンストラクトに含まれる結合ドメイン(例えば二重特異性、三重特異性、または四重特異性コンストラクトに含まれる結合ドメインの1つ)の両方、特に後者に関係する。
【0100】
本発明の結合ドメインは、Fab、Fv、scFv、dsFv、scAb、およびSTABからなるグループから選択されることが適切である。
【0101】
本発明の結合ドメインはscFv抗体断片であることが適切である。
【0102】
本発明の多重特異性抗体は適切な任意の形式にすることができる。
【0103】
多重特異性抗体の結合ドメインは機能可能に連結されていることが適切である。本発明の多重特異性抗体の結合ドメインはそのそれぞれの抗原または受容体に同時に結合することができる。「同時に」という用語は、この関連で用いられるときには、MSLN-BDとCD3-BDの少なくとも1つの同時結合を意味する。特別な場合、例えば細胞表面に高密度のMSLNを持つ標的細胞の場合には、3つの結合ドメイン、すなわちMSLN-BDとCD3-BDの両方が同時に結合することも可能であろう。
【0104】
本発明の多重特異性抗体は2つのMSLN-BDと少なくとも1つのCD3-BDを含み、前記MSLN-BDと前記CD3-BDは互いに機能可能に連結されている。
【0105】
「機能可能に連結された」という表現は、本明細書では、2つの分子(例えばポリペプチド、ドメイン、結合ドメイン)が、それぞれが機能的活性を保持するようにして付加していることを示す。2つの分子は、直接的に付加していても(例えばリンカーを介して、部分を介して、リンカーを介して部分に)間接的に付加していても「機能可能に連結されている」ことが可能である。「リンカー」という用語は、場合により結合ドメインまたは本発明の抗体断片の間に位置するペプチドまたは他の部分を意味する。多数の戦略を利用して分子を互いに共有結合させることができる。その非限定的な例に含まれるのは、タンパク質またはタンパク質ドメインの間のN末端とC末端のポリペプチド連結、ジスルフィド結合を介した連結、および化学的架橋試薬を介した連結である。この実施形態の1つの態様では、リンカーは、組み換え技術またはペプチド合成によって生じるペプチド結合である。2つのポリペプチド鎖が接続されるある特定のケースに適したリンカーの選択はさまざまなパラメータに依存しており、パラメータの非限定的な例に含まれるのは、2つのポリペプチド鎖の性質(例えばそれらが自然にオリゴマー化するかどうか)、わかるのであれば接続されるN末端とC末端の間の距離、および/またはタンパク質の分解と酸化に対するリンカーの安定性である。さらに、リンカーは可撓性を与えるアミノ酸残基を含有することができる。
【0106】
本発明の文脈では、「ポリペプチドリンカー」という用語は、2つのドメインを接続するペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖からなるリンカーを意味し、各ドメインはリンカーの一端に付加している。ポリペプチドリンカーは、互いに対して正しい立体配座を取って所望の活性が保持されるように2つの分子を連結させるのに十分な長さを持たねばならない。特別な実施形態では、ポリペプチドリンカーは2~30個のアミノ酸残基(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸残基)の連続的な鎖を持つ。それに加え、ポリペプチドリンカーに含めるために選択されるアミノ酸残基は、ポリペプチドの活性に顕著に干渉することのない特性を示さねばならない。したがってリンカーペプチドは全体として電荷を示してはならない。電荷があると、ポリペプチドの活性と適合しないことで、または内部折り畳みに干渉することで、または単量体の1つ以上の中のアミノ酸残基と結合を形成したりそれ以外の相互作用をしたりすることで、受容体単量体ドメインの結合を大きく妨げると考えられるからである。特別な実施形態では、ポリペプチドリンカーは構造が簡単なポリペプチドである。有用なリンカーに含まれるのは、グリシン-セリンまたはGSリンカーである。「Gly-Ser」または「GS」リンカーは、当業者にはわかるように、グリシンとセリンが直列になったポリマー(例えば(Gly-Ser)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、および(GGGS)nが含まれる(ただしnは少なくとも1の整数))、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および他の可撓性リンカー(シェイカーカリウムチャネルのための接続鎖など)と他の多彩な可撓性リンカーを意味する。グリシン-セリンポリマーが好ましい。なぜならこれらアミノ酸の両方とも比較的構造が簡単であるため、構成要素間の中性の接続鎖として機能できるからである。第2に、セリンは親水性であるため、球状グリシン鎖になりうるものを可溶化することができる。第3に、同様の鎖が、組み換えタンパク質(一本鎖抗体など)のサブユニットの接合に有効であることが示されている。
【0107】
多重特異性抗体は、免疫グロブリンFc領域を含まない本分野で知られている適切な任意の多重特異性(例えば少なくとも二重特異性)形式から選択される形式であることが適切であり、その非限定的な例に含まれるのは、タンデムscDb(Tandab)、直線状二量体scDb(LD-scDb)、環状二量体scDb(CD-scDb)、タンデムトリ-scFv、トリボディ(Fab-(scFv)2)、Fab-Fv2、トリアボディ、scDb-scFv、テトラボディ、ジ-ディアボディ、CODV、タンデム-ジ-scFv、タンデムトリ-scFv、Fab-(scFv)2、Fab-Fv2、またはヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのN末端および/またはC末端に融合したCODV、およびMATCH(WO2016/0202457;Egan T. et al., MABS 9 (2017) 68-84に記載)、およびDuoBodies(Duobody技術によって調製される二重特異性IgG)(MAbs. 2017 Feb/Mar;9(2):182-212. doi:10.1080/19420862.2016.1268307)に基づく形式である。多重特異性抗体は、一本鎖ディアボディ(scDb)-scFvまたはMATCHであることが特に適している。
【0108】
一実施形態では、本発明の多重特異性抗体はCH1領域および/またはCL領域を含まない。
【0109】
別の一実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、scDb-scFv、トリアボディ、およびトリボディからなるリストから選択される形式である。本明細書で用いるのに特に適しているのはscDb-scFvであり、特に前記MSLN-BDと前記CD3-BDの1つはscDbの形態であり、第2のMSLN-BDは前記scDbに機能可能に連結されたscFvである。
【0110】
「ディアボディ」という用語は、2つの抗原-結合部位を持つ抗体断片を意味し、その断片は、同じポリペプチド鎖(VH-VL)の中のVLに接続されたVHを含む。同じ鎖上の2つのドメイン間のペア形成が可能であるには短すぎるリンカーを用いることにより、ドメインは別の鎖の相補的ドメインと強制的にペアを形成し、2つの抗原-結合部位を生み出す。ディアボディは2価または二重特異性であることが可能である。ディアボディは例えば欧州特許第EP404097号、WO93/01161、Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)、およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に、より十分に記載されている。トリアボディとテトラボディはHudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)にも記載されている。
【0111】
二重特異性scDb(特に二重特異性単量体scDb)は、リンカーL1、L2、およびL3によって接続された2つの可変重鎖ドメイン(VH)またはその断片と2つの可変軽鎖ドメイン(VL)またはその断片を特に含み、その順番は、VHA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VLA、VHA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VLA、VLA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VHA、VLA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VHA、VHB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VLB、VHB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VLB、VLB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VHB、またはVLB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VHBであり、その中のVLAドメインとVHAドメインが合わさって第1の抗原のための抗原結合部位を形成し、VLBとVHBが合わさって第2の抗原のための抗原結合部位を形成する。
【0112】
リンカーL1は特にアミノ酸が2~10個のペプチド、より詳細にはアミノ酸が3~7個、最も詳細にはアミノ酸が5個であり、リンカーL3は特にアミノ酸1~10個、より詳細にはアミノ酸2~7個、最も詳細にはアミノ酸5個のペプチドである。特別な実施形態では、リンカーL1および/またはL3は、四個(4)のグリシンアミノ酸残基と一個(1)のセリンアミノ酸残基からなる1つまたは2つのユニットを含む(GGGGS)n(ただしn=1または2、特にn=1)。
【0113】
中央のリンカーL2は、特に10~40個のアミノ酸、より詳細には15~30個のアミノ酸、最も詳細には20~25個のアミノ酸からなるペプチドである。特別な実施形態では、前記リンカーL2は、四個(4)のグリシンアミノ酸残基と一個(1)のセリンアミノ酸残基からなる1つ以上のユニットを含む(GGGGS)n(ただしn=1、2、3、4、5、6、7、または8、特にn=4)。
【0114】
一実施形態では、本発明の多重特異性抗体はscDb-scFvである。「scDb-scFv」という用語は、一本鎖Fv(scFv)断片が可撓性Gly-Serリンカーによって一本鎖ディアボディ(scDb)に融合した抗体形式を意味する。一実施形態では、前記可撓性Gly-Serリンカーは、2~40個のアミノ酸(例えば2~35、2~30、2~25、2~20、2~15、2~10個のアミノ酸、特に10個のアミノ酸)からなるペプチドである。特別な実施形態では、前記リンカーは、四個(4)のグリシンアミノ酸残基と一個(1)のセリンアミノ酸残基からなる1つ以上のユニットを含む(GGGGS)n(ただしn=1、2、3、4、5、6、7、または8、特にn=2)。
【0115】
本発明の一実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、WO2016/0202457;Egan T., et al., MABS 9 (2017) 68-84に記載されているMATCH形式である。特にこの実施形態では、本発明の多重特異性抗体はMATCH3形式またはMATCH4形式である。
【0116】
本発明の多重特異性抗体は、本分野で知られている任意の便利な抗体作製法を利用して作製することができる(例えば二重特異性コンストラクトの生成に関してはFischer, N. & Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14を;二重特異性ディアボディとタンデムscFvに関してはHornig, N. & Farber-Schwarz, A., Methods Mol. Biol. 907 (2012)713-727と、WO99/57150を参照されたい)。本発明の二重特異性コンストラクトの調製に適した方法の具体例は、特にGenmab(Labrijn et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (2013) 5145-5150参照)技術とMerus(de Kruif et al., Biotechnol. Bioeng. 106 (2010) 741-750参照)技術にさらに含まれている。機能性抗体Fc部分を含む二重特異性抗体を作製する方法も本分野で周知である(例えばZhu et al., Cancer Lett. 86 (1994) 127-134)と;Suresh et al., Methods Enzymol. 121 (1986) 210-228を参照されたい)。
【0117】
これらの方法は、典型的には、例えば骨髄腫細胞を、所望の抗原で免疫化されたマウスからの脾臓細胞とハイブリドーマ技術を利用して融合させること(例えばYokoyama et al., Curr. Protoc. Immunol. Chapter 2, Unit 2.5, 2006参照)により、または組み換え抗体工学(レパートリークローニング、またはファージ提示/酵母提示)(例えばChames & Baty, FEMS Microbiol. Letters 189 (2000) 1-8参照)によりモノクローナル抗体を生成させ、既知の分子クローニング技術を利用して2つ以上の異なるモノクローナル抗体の抗原結合ドメインまたはその断片または部分を組み合わせて二重特異性または多重特異性のコンストラクトを得ることを含む。
【0118】
本発明の多重特異性分子は、本分野で知られている方法を利用して構成要素となる結合特異性との複合体にすることによって調製できる。例えば二重特異性分子のそれぞれの結合特異性を別々に生成させた後、互いに複合体化することができる。結合特異性がタンパク質またはペプチドであるときには、多彩なカップリング剤または架橋剤を共有結合による複合体のために利用することができる。架橋剤の例に含まれるのは、プロテインA、カルボジイミド、5-アセチル-チオ酢酸N-スクシンイミジル(SATA)、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)、o-フェニレンジマレイミド(oPDM)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)、および4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-l-カルボン酸スルホスクシンイミジル(スルホ-SMCC)である(例えばKarpovsky et al., 1984 J. Exp. Med. 160:1686;Liu, M A et al., 1985 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:8648を参照されたい)。他の方法に含まれるのは、Paulus, 1985 Behring Ins. Mitt. No.78, 118-132;Brennan et al., 1985 Science 229:81-83)、およびGlennie et al., 1987 J. Immunol. 139:2367-2375)に記載されている方法である。複合体形成剤はSATAとスルホ-SMCCであり、両方ともPierce Chemical Co.(Rockford, 111)から入手できる。
【0119】
結合特異性が複数の抗体であるとき、それらを2つの重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合によって複合体にすることができる。特別な一実施形態では、複合体化の前にヒンジ領域を改変して奇数(例えば1個)のスルフヒドリル残基が含まれるようにする。
【0120】
あるいは2つ以上の結合特異性を同じベクターにコードし、同じ宿主細胞の中で発現させて組み立てることができる。この方法は、二重特異性分子がmAb X mAb、mAb X Fab、Fab X F (ab’)2、またはリガンドX Fab融合タンパク質である場合に特に有用である。本発明の多重特異性抗体として、1つの一本鎖抗体と1つの結合決定基を含む一本鎖分子、または2つの結合決定基を含む一本鎖多重特異性抗体が可能である。多重特異性抗体は少なくとも2つの一本鎖分子を含むことができる。多重特異性抗体と分子を調製するための方法は、例えばアメリカ合衆国特許第5,260,203号;アメリカ合衆国特許第5,455,030号;アメリカ合衆国特許第4,881,175号;アメリカ合衆国特許第5,132,405号;アメリカ合衆国特許第5,091,513号;アメリカ合衆国特許第5,476,786号;アメリカ合衆国特許第5,013,653号;アメリカ合衆国特許第5,258,498号;およびアメリカ合衆国特許第5,482,858号に記載されている。
【0121】
多重特異性抗体の、その特異的標的への結合は、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(REA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば増殖阻害)、またはウエスタンブロットアッセイによって確認することができる。これらアッセイのぞれぞれは一般に、興味ある複合体に対して特異的な標識した試薬(例えば抗体)を用いることによって特に興味あるタンパク質-抗体複合体の存在を検出する。
【0122】
さらなる1つの態様では、本発明により、本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインをコードする核酸が提供される。このような核酸配列は、哺乳類細胞において発現するように最適化することができる。
【0123】
「核酸」という用語は、本明細書では「ポリヌクレオチド」という用語と交換可能に用いられ、一本鎖または二本鎖の形態になった1つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドとそのポリマーを意味する。この用語には、既知のヌクレオチド類似体を含有するか、修飾された骨格残基または連結を含有する核酸が包含され、その核酸は、合成、天然、および非天然であり、参照核酸と似た結合特性を持ち、参照ヌクレオチドと似たやり方で代謝される。このような類似体の非限定的な例に含まれるのは、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、ホスホン酸メチル、キラル-メチルホスホレート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)である。特に断わらない限り、ある特定の核酸配列には、その保存的修飾バリアント(例えば縮重コドン置換)および相補的配列のほか、明示的に示された配列も、暗黙のうちに包含される。具体的には、下に詳述するように、縮重コドン置換は、1つ以上の選択されたコドン(またはすべてのコドン)の3位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成させることによって実現できる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081, 1991;Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608, 1985;およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98, 1994)。
【0124】
本発明により、上記の多重特異性抗体のセグメントまたはドメインを含むポリペプチドをコードする実質的に精製された核酸分子が提供される。これら核酸分子によってコードされるポリペプチドは、適切な発現ベクターによって発現されると、本発明の多重特異性抗体の1つまたは複数の抗原結合能力を示すことができる。
【0125】
本発明では、表1、3、および4に示されている本発明の多重特異性抗体の結合ドメインの少なくとも1つのCDR領域をコードするポリヌクレオチドと、通常は全部で3つのCDR領域をコードするポリヌクレオチドも提供される。暗号は縮重しているため、多彩な核酸配列が免疫グロブリンのアミノ酸配列のそれぞれをコードすることになる。
【0126】
ポリヌクレオチド配列は、本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインをコードする既存の配列(例えば下記の実施例に記載されている配列)のデノボ固相DNA合成またはPCR突然変異誘発によって生成させることができる。核酸の直接的な化学合成は、本分野で知られている方法(Narang et al., 1979, Meth. Enzymol. 68:90のホスホトリエステル法;Brown et al., Meth. Enzymol. 68:109, 1979のホスホジエステル法;Beaucage et al., Tetra. Lett., 22:1859, 1981のジエチルホスホロアミダイト法;およびアメリカ合衆国特許第4,458,066号の固体支持法など)によって実現することができる。PCRによるポリヌクレオチド配列への変異導入は、例えばPCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, H. A. Erlich (Ed.), Freeman Press, NY, N.Y., 1992;PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al. (Ed.), Academic Press, San Diego, Calif, 1990;Mattila et al., Nucleic Acids Res. 19:967, 1991;およびEckert et al., PCR Methods and Applications 1:17, 1991に記載されているようにして実施することができる。
【0127】
本発明では、本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインを生成させる発現ベクターと宿主細胞も提供される。
【0128】
「ベクター」という用語は、連結されている別のポリヌクレオチドを輸送することのできるポリヌクレオチド分子を意味することが想定されている。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、中に追加DNAセグメントを連結させることのできる環状二本鎖DNAループを意味する。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加DNAセグメントをウイルスゲノムに連結させることができる。あるベクターは、そのベクターが導入される宿主細胞の中での自律的複製が可能である(例えば細菌の複製起点を有する細菌ベクターと、エピソーマル哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーマル哺乳類ベクター)は、宿主細胞の中に導入すると宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、そのことによって宿主ゲノムとともに複製される。
【0129】
さらに、あるベクターは、そのベクターに機能可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターを本明細書では「組み換え発現ベクター」(または簡単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組み換えDNA技術において有用な発現ベクターはしばしばプラスミドの形態である。プラスミドは最も一般的に用いられる形態のベクターであるため、本明細書では、「プラスミド」と「ベクター」は交換可能に用いることができる。しかし本発明は、同等な機能を果たすそのような他の形態の発現ベクター(ウイルスベクターなど(例えば複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス))を包含することが想定されている。この特別な文脈では、「機能可能に連結された」という表現は、2つ以上のポリヌクレオチド(例えばDNA)セグメントの間の機能的関係を意味する。典型的にはそれは、転写された配列に対する転写調節配列の機能的関係を意味する。例えばプロモーター配列またはエンハンサー配列がコード配列に機能可能に連結されているのは、それが適切な宿主細胞または他の発現系の中でコード配列の転写を刺激するか変化させる場合である。一般に、転写された配列に機能可能に連結されたプロモーター転写調節配列は、その転写された配列と物理的に連続である、すなわちシス作用性である。しかしいくつかの転写調節配列(エンハンサーなど)は、物理的に連続していたり、コード配列(その転写が転写調節配列によって増強される)の近くに位置していたりする必要はない。
【0130】
さまざまな発現ベクターを用いて多重特異性抗体鎖または結合断片をコードするポリヌクレオチドを発現させることができる。ウイルスに基づく発現ベクターと非ウイルス発現ベクターの両方を用いて哺乳類宿主細胞の中で抗体を生成させることができる。非ウイルスベクターと非ウイルス系に含まれるのは、プラスミド、エピソーマルベクター(典型的にはタンパク質またはRNAを発現させるための発現カセットを有する)、およびヒト人工染色体(例えばHarrington et al., Nat Genet. 15:345, 1997参照)である。例えば哺乳類(例えばヒト)細胞の中でMSLN結合ポリヌクレオチドとポリペプチドを発現させるのに有用な非ウイルスベクターに含まれるのは、pThioHis A、B、およびC、pcDNA3.1/His、pEBVHis A、B、およびC、(Invitrogen、サン・ディエゴ、カリフォルニア州)、MPS Vベクター、および他のタンパク質を発現させるための本分野で知られている他の多くのベクターである。有用なウイルスベクターに含まれるのは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスに基づくベクター、SV40に基づくベクター、パピローマウイルス、HBPエプスタイン・バーウイルス、ワクシニアウイルスベクター、およびセムリキ森林ウイルス(SFV)に基づくベクターである。Brent et al.、上記文献;Smith, Annu. Rev. Microbiol. 49:807, 1995;およびRosenfeld et al., Cell 68:143, 1992を参照されたい。
【0131】
発現ベクターの選択は、ベクターを中で発現させる予定の宿主細胞に依存する。典型的には、発現ベクターは、多重特異性抗体の鎖または断片をコードするポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターと他の調節配列(例えばエンハンサー)を含有する。一実施形態では、誘導性プロモーターを用いて誘導条件のとき以外は挿入された配列の発現を阻止する。誘導性プロモーターに含まれるのは、例えばアラビノース、lacZ、メタロチオネインプロモーター、または熱ショックプロモーターである。形質転換された生物の培養物は非誘導条件下でコード配列の集団を偏りなく増殖させることができ、その発現産物は宿主細胞によってよりよく忍容される。多重特異性抗体の鎖または断片の効率的な発現には、プロモーターに加え、他の調節エレメントも必要とされる可能性、または望まれる可能性がある。これらのエレメントは、典型的には、ATG開始コドンと、隣接するリボソーム結合部位または他の配列を含有する。それに加え、発現の効率は、使用する細胞系に適したエンハンサーを含めることによって増強させることができる(例えばScharf et al., Results Probl. Cell Differ. 20:125, 1994と;Bittner et al., Meth. Enzymol., 153:516, 1987を参照されたい)。例えばSV40エンハンサーまたはCMVエンハンサーを用いて哺乳類宿主細胞における発現を増大させることができる。
【0132】
発現ベクターは、挿入された本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインの配列によってコードされるポリペプチドと融合タンパク質を形成するための分泌シグナル配列の位置も提供することができる。より多くの場合に、挿入された本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインの配列がシグナル配列に連結された後、ベクターに組み込まれる。多重特異性抗体の軽鎖と重鎖の可変ドメインの結合ドメインをコードする配列を受け入れるのに用いるベクターが定常領域またはその一部もコードすることがときどきある。
【0133】
「組み換え宿主細胞」(または簡単に「宿主細胞」)という用語は、組み換え発現ベクターが導入されている細胞を意味する。このような用語は、その特定の対象細胞だけでなくそのような細胞の子孫も意味することが想定されていると理解すべきである。変異または環境の影響である改変があとに続く世代に発生する可能性があるため、そのような子孫は、実際、親細胞と同じではない可能性があるが、それでも本明細書で用いられている「宿主細胞」という用語の範囲に含まれる。
【0134】
本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインを取り込んで発現させる宿主細胞として、原核細胞または真核細胞が可能である。大腸菌(E. coli)は本発明のポリヌクレオチドのクローニングと発現にとって有用な1つの原核生物宿主である。使用に適した他の微生物宿主に含まれるのは、桿菌(bacilli)(枯草菌(Bacillus subtilis)など)、および他の腸内細菌科(サルモネラ、セラチア、およびさまざまなシュードモナスの種など)である。これらの原核生物宿主では、典型的には宿主細胞に適合した発現制御配列(例えば複製起点)を含有する発現ベクターも作製することができる。それに加え、任意の数の多彩な周知のプロモーター(ラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、ベータ-ラクタマーゼプロモーター系、またはファージラムダからのプロモーター系など)が存在することになろう。プロモーターは、典型的には、場合によってオペレータ配列とともに発現を制御しており、転写と翻訳を開始させて完了させるためリボソーム結合部位配列などを有する。他の微生物(酵母など)を用いて本発明のMSLN結合ポリペプチドを発現させることもできる。昆虫細胞をバキュロウイルスベクターと組み合わせて使用することもできる。
【0135】
一実施形態では、哺乳類宿主細胞を用いて本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインを発現させ、生成させる。例えばその宿主細胞として、内在性免疫グロブリン遺伝子を発現しているハイブリドーマ細胞系、または外来性発現ベクターを有する哺乳類細胞系が可能である。その宿主細胞には、動物細胞またはヒト細胞で、死ぬ運命にある正常な任意のもの、または不死である正常または異常な任意のものが含有される。例えば完全な免疫グロブリンを分泌することのできる多数の適切な宿主細胞系が開発されており、その中には、CHO細胞系、さまざまなCos細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、形質転換されたB細胞、およびハイブリドーマが含まれる。ポリペプチドを発現させるため哺乳類組織細胞培養物を使用することが、例えばWinnacker, FROM GENES TO CLONES, VCH Publishers, N.Y., N.Y., 1987の中で一般に議論されている。哺乳類宿主細胞のための発現ベクターは、発現制御配列(複製起点、プロモーター、およびエンハンサーなど(例えばQueen, et al., Immunol. Rev. 89:49-68, 1986参照))と、必要な情報処理部位(リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終止配列など)を含むことができる。これら発現ベクターは通常、哺乳類遺伝子または哺乳類ウイルスに由来するプロモーターを含有する。適切なプロモーターは、構成的、細胞のタイプ特異的、段階特異的、および/または調整可能または調節可能であるものが可能である。有用なプロモーターの非限定的な例に含まれるのは、メタロチオネインプロモーター、構成的アデノウイルス主要後期プロモーター、デキサメタゾン誘導性MMTVプロモーター、SV40プロモーター、MRP polIII プロモーター、構成的MPS Vプロモーター、テトラサイクリン誘導性CMVプロモーター(ヒト最初期CMVプロモーターなど)、構成的CMVプロモーター、および本分野で知られているプロモーター-エンハンサーの組み合わせである。
【0136】
興味あるポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを導入する方法は細胞宿主のタイプに応じて異なる。例えば塩化カルシウムトランスフェクションが原核細胞では一般に利用されるのに対し、リン酸カルシウム処理または電気穿孔を他の細胞宿主では用いることができる。(一般にSambrook, et al.、上記文献を参照されたい)。他の方法に含まれるのは、例えば電気穿孔、リン酸カルシウム処理、リポソームを媒介とした形質転換、注入と微量注入、バリスティック法、ビロソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン核酸複合体、裸のDNA、人工ビリオン、ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22への融合(Elliot and O’Hare, Cell 88:223, 1997)、薬剤で増強されたDNAの取り込み、および生体外形質導入である。組み換えタンパク質を長期にわたって高収率で産生させるには、安定な発現が望ましいことがしばしばあろう。例えば本発明の多重特異性抗体またはその断片またはその結合ドメインを安定に発現する細胞系は、ウイルス複製起点または内在性発現エレメントと選択マーカー遺伝子を含む本発明の発現ベクターを用いて調製することができる。ベクターを導入した後、細胞を強化培地の中で1~2日間増殖させてからその培地を選択培地に切り換える。選択マーカーの目的は選択に対する耐性を与えることであり、その存在により、導入された配列を選択培地の中で発現させることのできる細胞の増殖が可能になる。耐性がある安定にトランスフェクトされた細胞は、細胞のタイプに合った組織培養技術を利用して増殖させることができる。したがって本発明により、本発明の抗体またはその抗原結合断片を作製する方法が提供され、この方法は、本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸またはベクターを含む宿主細胞を培養し、そのことによって本開示の前記抗体またはその断片を発現させる工程を含む。
【0137】
1つの態様では、本発明は、本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインまたはその断片を作製する方法であって、本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインまたはその断片をコードする核酸を発現する宿主細胞を培養する工程を含む方法に関する。特に本発明は、本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインまたはその断片を作製する方法であって、(i)本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインをコードする1つの核酸配列または2つの核酸配列、または本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインをコードする1つのベクターまたは2つのベクターを用意し、前記1つの核酸配列または前記2つの核酸配列を、または前記1つのベクターまたは前記2つのベクターを発現させ、前記多重特異性抗体または前記結合ドメインを発現系から回収すること、または(ii)本発明の多重特異性抗体またはその結合ドメインをコードする核酸を発現する1つの宿主細胞または複数の宿主細胞を用意し、前記1つの宿主細胞または前記複数の宿主細胞を培養し;細胞培養物から前記多重特異性抗体または前記結合ドメインを回収することを含む方法に関する。
【0138】
さらなる1つの態様では、本発明は、本発明の多重特異性抗体と、医薬として許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。医薬として許容可能な担体は、組成物を増強するか安定化する、または組成物の調製を容易にする。医薬として許容可能な担体に含まれるのは、生理学的に適合している溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤と抗真菌剤、等張剤と吸収遅延剤などである。
【0139】
本発明の医薬組成物は本分野で知られている多彩な方法によって投与することができる。投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じてさまざまである。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下にすること、または標的の部位の近くになすことができる。医薬として許容可能な担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊椎、または表皮への投与(例えば注射または輸液による)に適していなければならない。投与経路に応じ、活性化合物(すなわち本発明の多重特異性抗体)は、その化合物を不活化する可能性がある酸の作用と他の天然条件から保護する材料で被覆することができる。
【0140】
本発明の医薬組成物は、本分野で周知であって定型的に実践される方法に従って調製することができる。例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000と;Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J. R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。医薬組成物はGMP条件下で製造されることが好ましい。典型的には、本発明の多重特異性抗体の治療に有効な用量または有効用量が本発明の医薬組成物で使用される。本発明の多重特異性抗体は当業者に知られている従来法によって製剤化されて医薬として許容可能な剤型になる。投与計画を調整して所望の最適な応答(例えば治療応答)を提供する。例えばボーラスを単回投与すること、いくつかに分割した用量を時間をかけて投与すること、または用量を治療状況の要請によって示されるようにして比例的に減少または増加させることができる。非経口組成物は、投与が容易で用量が一定になるという理由で単位剤型にすることが特に有利である。単位剤型は、本明細書では、治療する対象のための単位用量として適した物理的に離散したユニットを意味する;それぞれの単位は、必要な医薬担体と組み合わさって所望の治療効果が生じるように計算したあらかじめ決められた量の活性化合物を含有する。
【0141】
本発明の医薬組成物の中の活性成分の実際の用量レベルを変えて、特定の患者、組成物、および投与様式において、患者にとって毒になることなく所望の治療応答を実現するのに有効な活性成分の量が得られるようにすることができる。選択される用量レベルは多彩な薬物動態因子に依存しており、その中に含まれるのは、使用する本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩、またはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用している特定の化合物の排泄速度、治療期間、他の薬、使用される具体的な組成物と組み合わせて使用される化合物および/または材料、治療中の患者の年齢、性別、体重、全体的な健康、および以前の病歴などの因子である。
【0142】
本発明の多重特異性抗体は通常は複数の機会に投与される。単回投与の間隔は、週、月、または年が可能である。間隔は、患者で本発明の多重特異性抗体の血中レベルを測定することによって示される数値に応じて不規則にすることもできる。あるいは本発明の多重特異性抗体は持続放出製剤として投与することができ、その場合にはより少ない頻度で投与する必要がある。用量と頻度は、患者の体内における抗体の半減期に応じて変わる。一般にヒト化抗体は、キメラ抗体および非ヒト抗体よりも長い半減期を示す。投与の用量と頻度は、治療が予防的であるか治療的であるかに応じて変わる可能性がある。予防の用途では、比較的低用量が、比較的頻度が少なくなる間隔で長期にわたって投与される。患者によっては、残りの人生を通じて治療を受け続ける。治療の用途では、疾患の進行が減速するか停止するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または全面的な改善を示すまで、比較的短い間隔での比較的多い用量が必要とされることがときどきある。その後は、患者に予防投与計画で投与することができる。
【0143】
1つの態様では、本発明は、薬として使用するための本発明の多重特異性抗体または本発明の医薬組成物に関する。適切な一実施形態では、本発明により、増殖性疾患(特にがん)の治療を必要とする対象でその治療に用いるための多重特異性抗体または医薬組成物が提供される。
【0144】
別の1つの態様では、本発明により、増殖性疾患(特にがん)を治療するための薬の製造で使用するための多重特異性抗体または医薬組成物が提供される。
【0145】
別の1つの態様では、本発明は、増殖性疾患(特にがん)の治療を必要とする対象でそれを治療するための、多重特異性抗体または医薬組成物の利用に関する。
【0146】
さらなる1つの態様では、本発明は、増殖性疾患(特にがん)の治療を必要とする対象でそれを治療するための薬の製造における多重特異性抗体または医薬組成物の利用に関する。
【0147】
別の1つの態様では、本発明は対象を治療する方法に関するものであり、この方法は、その対象に治療に有効な量の本発明の多重特異性抗体を投与することを含む。適切な一実施形態では、本発明は、対象の増殖性疾患(特にがん)を治療する方法に関するものであり、この方法は、その対象に治療に有効な量の本発明の多重特異性抗体を投与することを含む。
【0148】
「対象」という用語にはヒトと非ヒト動物が含まれる。非ヒト動物に含まれるのは、すべての脊椎動物、例えば哺乳類と非哺乳類(非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、および爬虫類など)である。注記した場合を除き、「患者」または「対象」という用語は本明細書では交換可能に用いられる。
【0149】
「治療」、「治療している」、「治療する」、「治療された」などの用語は、本明細書では、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾患および/またはその疾患に帰することのできる有害な効果の部分的治癒または完全治癒、または疾患進行の遅延という意味で治療的である可能性がある。「治療」は、本明細書では、哺乳類(例えばヒト)における疾患のあらゆる治療をカバーし、その中に含まれるのは、(a)疾患の阻害、すなわちその発達の停止;および(b)疾患の緩和、すなわち疾患の退行を引き起こすことである。
【0150】
「治療に有効な量」または「有効な量」という表現は、疾患を治療するため哺乳類または他の対象に投与されたとき、疾患のためのそのような治療が効果をもたらすのに十分な薬剤の量を意味する。「治療に有効な量」は、薬剤、疾患とその重症度、および治療する対象の年齢、体重などに応じて変わるであろう。
【0151】
一実施形態では、増殖性疾患はがんである。「がん」という用語は、異常な細胞の急速かつ制御されない増殖を特徴とする疾患を意味する。がん細胞は、局所的に広がること、または血流とリンパ系を通じて身体の他の部分に広がることができる。「腫瘍」と「がん」という用語は本明細書では交換可能に用いられ、例えば両方の用語には、固形と液体、例えばびまん性または循環している腫瘍が包含される。本明細書では、「がん」または「腫瘍」という用語には、悪性化前のがんと腫瘍のほか、悪性のがんと腫瘍が含まれる。「がん」という用語は、本明細書では広いスペクトルの腫瘍を意味するのに使用され、その中にはすべての固形悪性腫瘍と血液悪性腫瘍が含まれる。このような腫瘍の非限定的な例に含まれるのは、良性または悪性の(特に悪性の)悪性腫瘍、固形腫瘍、脳腫瘍、腎臓がん、肝臓がん、副腎がん、膀胱がん、乳がん、胃がん(例えば胃腫瘍)、食道がん、卵巣がん、子宮頸がん、大腸がん、直腸がん、前立腺がん、膵臓がん、肺がん(例えば非小細胞肺がんと小細胞肺がん)、膣がん、甲状腺がん、黒色腫(例えば切除不能な、または転移した黒色腫)、腎細胞癌腫、肉腫、膠芽腫、多発性骨髄腫または胃腸がん(特に大腸癌または結腸直腸腺腫)、頭頸部の腫瘍、子宮内膜がん、カウデン症候群、レルミット-デュクロ病、バナヤン-ゾナナ症候群、前立腺肥大症、新形成(特に上皮的特徴のもの、好ましくは乳癌または扁平上皮癌)、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(例えばフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病)、急性リンパ性白血病(例えばフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)、非ホジキンリンパ腫、形質細胞骨髄腫、ホジキンリンパ腫、白血病、およびこれらの任意の組み合わせである。好ましい一実施形態では、がんは、中皮腫、膵臓がん、および卵巣がんから選択されるがんである。
【0152】
本発明の多重特異性抗体、または本発明の組成物は、固形腫瘍の増殖だけでなく液体腫瘍の増殖も阻害する。さらなる一実施形態では、増殖性疾患は固形腫瘍である。「固形腫瘍」という用語は特に、乳がん、卵巣がん、大腸がん、直腸がん、前立腺がん、胃(stomach)がん(特に胃(gastric)がん)、子宮頚がん、肺がん(例えば非小細胞肺がんと小細胞肺がん)、および頭頸部の腫瘍を意味する。さらに、腫瘍のタイプと使用する具体的な組み合わせに応じ、腫瘍体積の減少を得ることができる。本発明の多重特異性抗体または本発明の組成物は、がんを持つ対象における転移による腫瘍の広がりと、微小転移の増殖または発達を阻止するのにも適する。
配列リスト(AHo番号付けスキームに従って指定される変異、Numab CDRの定義に従って定義されるCDR)
【表1-1】
【表1-2】
【表2】
【表3】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表6】
【表7】
【0153】
本出願の文章の全体を通じ、明細書の文章(例えば表1~7)と配列リストの間に相違がある場合には、明細書の文章が優先する。
【0154】
明確にするため別々の実施形態の文脈で記述されている本発明のある特徴は、単一の実施形態の中で組み合わせて提示してもよいことがわかる。逆に、簡潔にするため単一の実施形態の文脈で記述されている本発明のさまざまな特徴は、別々に、または適切な任意の部分的組み合わせで提示してもよい。本発明に関する実施形態のあらゆる組み合わせが本発明によって明確に包含され、それぞれのあらゆる組み合わせが、個別かつ明示的に開示されているかのようにして本明細書に開示されている。それに加え、さまざまな実施形態とその要素のあらゆる部分的組み合わせも、本発明によって明確に包含され、そのようなそれぞれのあらゆる部分的組み合わせが、個別かつ明示的に開示されているかのようにして本明細書に開示されている。
【0155】
本発明が、本明細書に記載されている具体的な実施形態による範囲に限定されることはない。実際、本発明のさまざまな改変は、本明細書に記載されているもの以外も、上記の記述から当業者には明らかになろう。そのような改変は添付の請求項の範囲に入るものとする。
【0156】
本明細書で引用されているあらゆる特許、出願、刊行物、試験方法、文献、および他の材料は、それぞれの特許法のもとで可能な範囲で参照によって本明細書に組み込まれている。
【0157】
以下の実施例は上記の発明を説明しているが、本発明の範囲をいかなるやり方でも制限することは意図していない。関係分野の当業者に知られている現状の他の試験モデルも、請求項に記載された本発明の有益な効果を明らかにすることができる。
【実施例】
【0158】
実施例1:抗MSLN分子の生成と薬力学的特徴づけ
第1の工程では、MSLNへの中間から低い親和性を持つ抗MSLN抗体断片を同定すべきである。抗MSLN抗体断片は、多重特異性抗体形式(特にMATCH3形式とMATCH4抗体形式)で使用するのに適していなければならない。
【0159】
本発明の抗MSLN結合ドメインの同定、選択、および生成
本発明のヒト化scFv抗MSLN結合ドメインの同定、選択、ヒト化、および作製を、特許出願PCT/EP2018/064630(参照によって本明細書に組み込まれている)に記載されているscFv抗CD3結合ドメインと同様にして実施した。
【0160】
所望の特性(特に所望の親和性)を持つ同定されたモノクローナル抗体のいくつかから、以下の手続きに従ってscFv分子を作製した。
【0161】
ヒト化と発現:
λキャップ付きVk1/VH3 Fv足場へのCDR移植と場合による特定のウサギフレームワーク残基の移植により、ウサギ抗体をヒト化した。それぞれのscFvは、N末端-VL-ペプチドリンカー-VH-C末端の向き(ペプチドリンカー:(G4S)4)で設計した。
【0162】
組み換えアミノ酸配列を新たに合成し、CHOgro一過性トランスフェクションキット(Mirus)を用いてCHO-S細胞の中でscFvコンストラクトを発現させた。培養物を発現の5~7日後(細胞生存率70%未満)に37℃で遠心分離によって回収し、タンパク質を透明になった培養物上清からプロテインLまたはAアフィニティクロマトグラフィによって精製し、必要な場合にはその後にSuperdex S200カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)による最終精製工程を続けた。
【0163】
品質管理:
製造された材料を品質管理するため、標準的分析法(SE-HPLC、UV280、およびSDS-PAGEなど)を利用した。
【0164】
SE-HPLC
SE-HPLC分析サンプルを、Shodex(商標)(昭和電工、カタログ番号554-1740) KW402.5-4Fカラム(scFv分析のため)またはShodex(商標)(昭和電工、カタログ番号554-1741) KW403- 4Fカラム(MATCHタンパク質分析)のいずれかの中を、ランニングバッファー(Shodex(商標)KW402.5-4F:250mMのNaCl、50mMのNaOAc(カタログ番号A 1045)、pH6.0;Shodex(商標)KW403-4F:35mM NaH2PO4(カタログ番号A 3905)、15mMのNa2HPO4(カタログ番号A1372)、300mMのNaCl、pH6.0)とともに0.35mL/分の流速で通過させた。溶離したタンパク質はλ=280nmでの吸光度によって検出した。
【0165】
SDS-PAGE
タンパク質の素性と分解をSDS-PAGE分析によって評価し、変性したタンパク質をMiniPROTEAN TGX(商標)プレキャストゲル(Bio-Rad Laboratories、カタログ番号4569036)に装填し、電気泳動されたタンパク質をクマシーブリリアントブルー溶液で染色した。分子量基準:BioRad Precision(商標)Plus(カタログ番号161-03/04)。
【0166】
生成したscFv分子の製造データが表8にまとめられている。
【0167】
抗メソテリンscFv抗体PRO1783、PRO1925、PRO2306、PRO2309(低親和性)、およびPRO1922の薬力学的特徴づけ
ヒト化抗メソテリンscFv抗体PRO1783の主要な薬力学的特性を評価した(SPRでの組み換えヒトMSLNと組み換えカニクイザルMSLNへの結合動態と親和性の測定、cELISAでのヒトMSLN発現細胞系とカニクイザルMSLN発現細胞系の形質膜への結合の評価、およびcELISAでのMSLN/MUC16の阻止の評価が含まれる)。それに加え、ヒト化抗MSLN scFv PRO1922、PRO1925、PRO2306、およびPRO2309の主要な薬力学的特性を評価した(SPRでの組み換えヒトMSLNへの結合動態と親和性測定、cELISAでのヒトMSLN発現細胞系の形質膜への結合の評価、およびcELISAでのMSLN/MUC16の阻止の評価(PRO1922とPRO1925)が含まれる)。結果が表9~13にまとめられている。
【0168】
SPRにおけるヒトMSLNとカニクイザルMSLNに対する親和性
組み換えヒトMSLNと組み換えカニクイザルMSLNに対する(モノクローナル抗体54-01-G02由来の)scFv PRO1783の親和性をT200装置(Biacore、GE Healthcare)でSPR分析によって求めた。この実験では、組み換えヒトMSLNと組み換えカニクイザルMSLN(それぞれPeprotechとSino Biologicalから購入)を、標準的アミンカップリング手続きを利用してCM5センサーチップの異なるフローセルの表面に固定化した。次いでscFv抗体PRO1783を90~0.12nMの範囲の濃度でフローセルの中に5分間かけて注入し、タンパク質を12分間にわたって解離させた。解離(kd)と会合(ka)の速度定数と平衡解離定数(KD)は、1:1ラングミュア結合モデルを用いてBiacore T200評価ソフトウエア(GE Healthcare)で計算した。scFv PRO1922とPRO1925の親和性は上記のようにしてSPRによって評価したが、15~0.12nMの濃度範囲を使用した。scFv PRO2306とPRO2309の親和性は上記のようにしてSPRによって評価したが、90~0.35nMの濃度範囲を使用した。
【0169】
表9に示されているように、SPRにおいてPRO1783は組み換えヒトMSLNに低いナノモル範囲の親和性(KD=2.91 nM)で結合した。SPRにおいてPRO1922、PRO1925、PRO2306、およびPRO2309は組み換えヒトMSLNに大きな1ナノモル未満の範囲の親和性で結合した。SPR測定によって組み換えカニクイザルMSLNへのPRO1783の結合も実証されたが、親和性は低下した(KD=30.06nM、表10)。
【0170】
cELISAによるMSLN発現細胞系への結合
ヒトMSLNを高レベルで発現している細胞(H226細胞系)への結合
H226がん細胞でのcELISAにより、形質膜上のMSLNへの抗MSLN scFv抗体PRO1783の結合を評価した。簡単に述べると、MSLNまたはHEK293T(MSLN陰性)を発現している20’000個のNCI-H226細胞を平底組織培養用96ウエルのプレートに分配した。翌日、プレートをオーバーフローモードでウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファー(PBS、0.2%のBSA)を用いて3回洗浄し、PRO1783の各時点の段階希釈液と抗MSLN参照抗体アマツキシマブを50μl添加し、軽く撹拌しながらプレートを室温(RT)で1.5時間インキュベートした。450μlの洗浄バッファーで3回洗浄した後、HRPがカップルしたプロテインL、またはHRPがカップルした抗ヒトIgG抗体を50μl、各ウエルに添加した。章動ミキサーの上で室温にて1時間インキュベートした後、プレートをウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファーで3回洗浄してから50μlのTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、KPL)を添加した。10分間の発色の後、ウエル1つ当たり1MのHClを50μl添加することによって酵素反応を停止させ、参照波長として690nmを用いてプレートを450nmで読み取った。
【0171】
高レベルのMSLNを発現しているH226細胞系の形質膜へのPRO1783の結合を評価する実験の結果が表11に示されている。H226細胞系へのPRO1783の結合のEC
50は1.44nMの濃度であることが見い出された。これは参照抗体アマツキシマブで得られた値と比べて大まかに6倍悪い(相対的EC
50値を比較されたい、表11)。H226細胞へのPRO1925、PRO2306、およびPRO2309の結合のEC
50値はPRO1783とほぼ同じであることが見いだされた。H226細胞へのPRO1922の結合のEC
50値はアマツキシマブとほぼ同じであることが見いだされた。メソテリン陰性HEK293T細胞をcELISAで調べたときには、アマツキシマブ、PRO1783、PRO1922、PRO1925、PRO2306、およびPRO2309の結合は検出されなかった(データは示さない)。H226細胞系を用いたcELISAにおけるPRO1783、PRO1922、PRO1925、PRO2306、PRO2309、およびアマツキシマブの濃度-応答曲線が
図1に示されている。
【0172】
カニクイザルMSLNを発現している細胞(CHO組み換え細胞系)への結合
カニクイザルMSLNに対する抗MSLN scFv抗体PRO1783の交差反応性を、cELISAにおいて、カニクイザルMSLNを発現している組み換えCHO細胞系を用いて調べた。カニクイザルMSLNを発現しているCHO細胞、またはCHO-K1細胞(カニクイザルMSLN陰性)20’000個を平底組織培養用96ウエルのプレートに分配した。翌日、プレートを洗浄し、H226細胞系を用いるcELISAプロトコルに記載されているようにして、PRO1783と抗MSLN参照抗体アマツキシマブの段階希釈液を添加した。軽く撹拌しながら室温で1.5時間インキュベートした後、プレートを再度洗浄し、HRPがカップルしたプロテインLまたはHRPがカップルした抗ヒトIgG抗体を添加してPRO1783とアマツキシマブそれぞれの結合を検出した。章動ミキサー上で室温にて1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、TMBを各ウエルに添加した。発色の10分後、1MのHClをウエル1つ当たり50μl添加することによって酵素反応を停止させ、参照波長として690nmを用いてプレートを450 nmで読み取った。
【0173】
カニクイザルMSLNを発現しているCHO細胞系を用いたcELISAの結果が表12に示されている。形質膜へのカニクイザルMSLNの結合に関するPRO1783のEC
50は12nMの濃度であることが見いだされた。これは、参照抗体アマツキシマブ(相対的EC
50=0.03)よりも明らかに劣っている。他方で、形質膜へのヒトMSLNの結合と比較すると、PRO1783の半値結合濃度の上昇が明らかである。これはSPR分析の結果に合致しており、組み換えカニクイザルMSLNタンパク質に対するPRO1783の親和性が低下したことを実証している。カニクイザルMSLNを発現しているCHO細胞系を用いたcELISAにおけるPRO1783とアマツキシマブの濃度-応答曲線が
図2に示されている。CHO-K1野生型細胞をcELISAで調べたとき、アマツキシマブの結合とPRO1783の結合は検出されなかった(データは示さない)。
【0174】
競合ELISAによるMSLN/MUC16相互作用の中和
抗MSLN scFv抗体PRO1783、PRO1922、およびPRO1925がMSLN/MUC16相互作用を阻止する効力を競合ELISAで評価した。1μg/mlのMUC16を含有する50μlのPBSを4℃で一晩添加することによってELISAプレートを被覆した。翌日、プレートをオーバーフローモードでウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファーを用いて3回洗浄し、章動ミキサー上で300μlのブロッキングバッファーを室温で各ウエルに1時間かけて添加した。次いでビオチニル化されたMSLNをブロッキングバッファーの中で希釈して1 ng/mlの最終濃度に到達させた。次に、PRO1783、PRO1922、PRO1925、およびアマツキシマブをビオチニル化されたMSLNを含有するブロッキングバッファーの中で滴定し、章動ミキサー上で室温にて1時間インキュベートした。ELISAプレートをオーバーフローモードでウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファーを用いて3回洗浄し、滴定曲線の各濃度のPRO1783、PRO1922、PRO1925、およびアマツキシマブを50μl、二連でELISAプレートに添加した。軽く撹拌しながらプレートを室温で1.5時間インキュベートした。ウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファーを用いて3回洗浄した後、10ng/mlのストレプトアビジン-ポリHRP40を50μl、ELISAプレートの各ウエルに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートを450μlの洗浄バッファーで3回洗浄し、50μlのTMBを添加した後に5~10分間発色させた。最後に、1MのHClを50μl添加することによって酵素反応を停止させ、参照波長として690nmを用いてプレートを450nmで読み取った。
【0175】
競合ELISAの結果が表13に示されている。PRO1783によってヒトMSLN/MUC16相互作用を阻止するIC
50は0.5nMの濃度であることが見いだされた。これは、相対的IC
50値によって示されるように参照抗体アマツキシマブよりも小さい。したがってPRO1783は、ヒトMSLN/MUC16相互作用の中和に関しては参照抗体アマツキシマブよりも効力が小さい。PRO1922とPRO1925はPRO1783よりも有意に小さいIC
50値でヒトMSLN/MUC16相互作用を阻止できると考えられる。競合ELISAにおけるPRO1783、PRO1922、PRO1925、およびアマツキシマブの濃度-応答曲線が
図3に示されている。
【0176】
参照抗MSLN分子PRO1795の生成と薬力学的特徴づけ
MSLNに対する大きな親和性を持つ抗MSLN結合ドメインPRO1795を参照結合ドメインとして使用する。
【0177】
ヒト化参照抗MSLN結合ドメインPRO1795の同定、選択、ヒト化、および作製を、本発明の抗MSLN結合ドメインおよび本明細書に記載されている抗CD3分子と同様にして実施した。
【0178】
また、PRO1795の主要な薬力学的特性(その中には、SPRにおける組み換えヒトとカニクイザルMSLNへの結合動態と親和性の測定、cELISAにおけるヒトMSLN発現細胞系とカニクイザルMSLN発現細胞系の形質膜への結合の評価、およびcELISAにおけるMSLN/MUC16の阻止の評価が含まれる)を評価した。結果が表9~13にまとめられている。
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0179】
抗MSLNウサギIgGクローン54-01-G02(低親和性抗MSLN scFvドメインPRO1783の先駆(predecessor)クローン)のエピトープマッピング:
cELISAによるヒト/マウスMLSNバリアントへの結合
選択された抗MSLNウサギIgGの結合領域を正確に特定するため、MSLNの細胞外ドメイン(ECD)の7つのヒト/マウスバリアント(V5タグ付き)を一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞への結合レベルをcELISAによって評価した(
図4)。プレートをウエル1つ当たり25’000個の細胞で被覆して平底ポリ-Dリシン処理96ウエルプレートにした。翌日、対応するコンストラクトを細胞にトランスフェクトし、37℃、5%CO
2でインキュベートした。24時間後、細胞を450μlの洗浄バッファー(PBS、0.2%のBSA)で洗浄し、軽く撹拌しながらサンプル(250 ng/mlのrIgGまたは抗V5タグ抗体段階希釈液)を室温(RT)で1.5時間にわたって添加した。450μlの洗浄バッファーで3回洗浄した後、HRPがカップルしたヤギIgG抗体とウサギIgG抗体を50μl、各ウエルに添加した。章動ミキサー上で室温にて1時間インキュベートした後、プレートをウエル1つ当たり450μlの洗浄バッファーで3回してから50μlのTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、KPL、カタログ番号53-00-00)を添加した。10分間発色させた後、1MのHClをウエル1つ当たり50μl添加することにより酵素反応を停止させ、参照波長として690nmを用いてプレートを450nmで読み取った。抗V5抗体と比較した結合レベルを計算した。参照抗体(抗V5タグ)と比べて特定のバリアントへのrIgGの結合レベルが明確に低下したことは、それぞれのマウス配列で置換されたヒトMSLNのセグメントの中にrIgGエピトープが局在化していることを示すと考えられる。
【0180】
抗MSLNウサギIgGクローン54-01-G02(低親和性抗MSLN scFvドメインPRO1783の先駆クローン)をcELISAで調べたとき、キメラヒト/マウスバリアントV1(ヒトMSLNのECDの最も遠位領域)への結合の減少が観察された(V5参照抗体と比べて65%の結合への減少、表14)のに対し、他のあらゆるバリアントへの54-01-G02の結合は90%超であった。これらのデータは、ヒトMSLNのV1領域が54-01-G02の結合にとって重要な領域であることを示唆する。しかし54-01-G02はV1領域が非存在下であってさえヒトMSLNに相変わらず実質的に結合することができるため、ヒトMSLNのECDの他の領域も54-01-G02の結合に関与する(表14)。ウサギIgG 5422-H03(高親和性抗MSLN scFvドメインPRO1795の先駆クローン)に関しては、cELISAにおいてヒトMSLNのECDのキメラヒト/マウスバリアントを用いて結合領域を同定することはできないと考えられる(データは示さない)。
【表14】
【0181】
実施例2:抗CD3分子の生成と試験
ヒト化抗CD3結合ドメイン28-21-D09 sc04の同定、選択、ヒト化のほか、生成と特徴づけを特許出願PCT/EP2018/064630(参照によって本明細書に組み込まれている)に記載されているようにして実施した。
【0182】
実施例3:抗hSA分子の生成と試験
ヒト化抗hS結合ドメイン19-01-H04-sc03と23-13-A01-sc03の同定、選択、ヒト化のほか、生成と特徴づけを特許出願EP19206959.9(参照によって本明細書に組み込まれている)に記載されているようにして実施した。ヒト化抗hS結合ドメイン19-04-A10-sc02(PRO2155)の同定、選択、ヒト化のほか、生成と特徴づけを特許出願EP19206959.9に記載されている手続きと同様にして実施した。抗hSA scFv PRO2155の特徴づけを以下に簡単に概説する。
【0183】
抗hSA scFv 19-04-A10-sc02(PRO2155)の特徴づけ
結合親和性と種交差反応性
ヒト血清アルブミン(hSA、Sigma-Aldrich A3782)への選択されたドメイン19-04-A10-sc02の結合動態(親和性を含む)をT200装置(Biacore、Cytiva)でpH7.4とpH5.5の両方にてSPR分析によって求めた。hSA分子をカルボキシメチル化されたデキストランの表面(CM5センサーチップ、Biacore、Cytiva)に共有結合で固定化し、各scFv分子の滴定シリーズを分析物として注入した。各分析物注入サイクルの後、センサーチップ上のすべてのフローチャネルを再生させ(グリシンpH2.0)、新たな濃度のscFv分子を注入した。関連するランニングバッファー(PBS0.05%のTween(登録商標)-20、またはPBS0.05%のTween(登録商標)-20、pH5.5)の中の0.044~45 nM(1:2)の11通りの濃度でhSAへの結合動態を多サイクル動態アッセイを利用して測定した。見かけの解離(kd)と会合(ka)の速度定数、および見かけの解離平衡定数(KD)を1:1ラングミュア結合モデルを利用してBiacore分析ソフトウエア(Biacore評価ソフトウエアバージョン3.2、Cytiva)で計算し、フィットの質を相対カイ2に基づいてモニタした。結合レベルを、Rmax理論値に規格化した実現された最も安定な結合として計算した。
【0184】
選択されたscFvの結合動態も上記のようにしてカニクイザル血清アルブミン(cSA、Molecular Innovations CYSA)とマウス血清アルブミン(mSA、Sigma-Aldrich A3559)について求めたが、cSAまたはmSAをhSAの代わりに用いた点が異なる。pH5.5とpH7.4でのhSA、mSA、およびcSAに対する結合動態が表15にまとめられている。
【表15】
【0185】
生物物理学的特徴づけ
HSA-ドメイン19-04-A10-sc02(PRO2155)と19-04-A10-sc06(VL-VHジスルフィドを持つsc02ドメイン、VL-T141C/VH-G51C、AHo番号付け;PRO2317)に対して4週間安定性研究を実施した。そのときscFvは水性バッファー(50mMのNaCiP、150mMのNaCl、pH6.4)の中で10mg/mlの製剤にし、-80℃未満、4℃、および40℃の温度で4週間保管した。製剤中の単量体とオリゴマーの割合を全研究期間中の異なる時点でSE-HPLCピーク面積の積分によって評価した。表16に、d0と比べた単量体含量(単位は%)と%単量体損失がまとめられている。全研究期間を通じ、タンパク質濃度の変化を280nmでのUV-可視光測定によってモニタした。どのサンプルでもd0と比べて注目すべきタンパク質含量損失は観察されなかったため、データは示さない。熱安定性をnDSF(NanoTemper)によって分析し、アンフォールディング開始(Tオンセット)とアンフォールディングの中点(Tm)を求めた。DSFの結果が表16に示されている。
【表16】
【0186】
実施例4:本発明の多重特異性コンストラクト(biMSLN低親和性 x CD3 x hSAコンストラクト)の生成と薬力学的特徴づけ:
分子アーキテクチャ
MATCHはNumabによって発明された形式であり、マッチするドメインのペアだけの特別なペア化を可能にする異なるリンカーによって接続された可変ドメインだけからなる(Egan TJ et al.、可変ドメイン断片のモジュール式組み立てを可能にする新規な多重特異性ヘテロ二量体抗体形式。MABS 9 (2017) 68-84)。この形式は、最適な協調性にするために異なる組み合わせの抗原結合ドメインを簡単にスクリーニングするのに特によく適している。MATCHは哺乳類細胞から組み換え発現させることができる。精製には従来のアフィニティクロマトグラフィ工程を利用することができる。
【0187】
MATCH分子のアーキテクチャが
図5に示されている。MATCH4形式が必要とするのは、二量体のサブユニットが2つの分割された可変ドメインのペアのコアで構成されていて、それぞれのサブユニットが、直列に位置する2つのVLドメインまたは2つのVHドメインのいずれかを持つことであり、そのことによってその2つのタンパク質鎖のヘテロ二量体化が駆動される。それぞれのMATCH4鎖の上で二量体を形成する直列な可変ドメインは、その対応する鎖として反平行なN末端-C末端の向きに編成されている。両方の鎖が哺乳類細胞の中で同時に発現して完全に機能する四重特異性分子になる。可変ドメイン間の伝統的なGly-Serリンカーを用いて両者を
図5に示されているように接続した。典型的には、異なるリンカー長をMATCH分子で用いる(表5のMATCH分子の配列リスト参照)。さらに、反平行MATCH4形式は、
図5に示されているように、コアドメインの1つにジスルフィド架橋を導入しやすい。(示していない)対応するMATCH3形式は同様に構成されて編成されるが、MATCH4の場合のような2つのscFv結合ドメインの代わりに1つのscFv結合ドメインだけが2つの分割された可変ドメインのペアのコアに付加する点が異なる。
【0188】
MATCH4形式およびMATCH3形式と同様、scMATCH3形式は、図 5(右)に示されているように、異なるリンカーによって接続された可変ドメインだけからなる。しかしこの形式では、
図5(右)に示されているように、分割された可変ドメインは単一のペプチド鎖(sc)の上に位置し、組み立てられて完全に機能する三重特異性分子になる。MATCH4形式とMATCH3形式のようにscMATCH3分子も哺乳類細胞の中で組み換え発現させることができ、その精製には従来のアフィニティクロマトグラフィ工程を利用することができる。
【0189】
λキャップ付きFv足場でヒト化した2~3つのウサギ抗体を組み合わせることにより、高親和性MSLN-BDを1つだけ持つ本発明による反平行四重特異性MATCH4分子と、参照三重特異性scMATCH3分子を、表17にまとめられているように設計した。
【0190】
製造
CHOgro一過性トランスフェクションキット(Mirus)を用いてCHO-S細胞の中でMATCHコンストラクトを発現させた。培養物を発現の5~7日後(細胞生存率70%未満)に37℃で遠心分離によって回収し、タンパク質を透明になった培養物上清からプロテインLまたはAアフィニティクロマトグラフィによって精製し、必要な場合にはその後にSuperdex S200カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)による最終精製工程をpH6.5の50mMのリン酸塩-クエン酸塩バッファーと300 mMのスクロースの中で続けた。SEC画分の単量体含量をSE-HPLC分析によって評価し、単量体含量が95%超の画分をプールした。製造された材料の品質管理のため、標準的な分析法(SE-HPLC、UV280、およびSDS-PAGEなど)を利用した。
【0191】
生成した分子の製造に関する詳細が表18にまとめられている。
【0192】
多重特異性抗体の薬力学的特徴づけ
以下の部分に、ヒトMSLNに関して1価または2価、ヒトCD3εに関して1価、そしてヒト血清アルブミン(hSA)に関して1価である代表的な多重特異性分子の特徴づけを記述する。2価の抗MSLN抗体PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660(すなわちbiMSLNxCD3xhSA)と、1価の抗MSLN抗体PRO1872(すなわちMSLN低KDxCD3xhSA)をSPRにおいて調べ、組み換えヒトMSLNとヒトCD3εへのその結合動態と親和性をSPRにおいて評価した。
【0193】
SPRにおけるヒトMSLNに対する親和性
組み換えヒトMSLNへの多重特異性抗MSLN抗体の親和性をT200装置(Biacore、GE Healthcare)でSPR分析によって求めた。この実験では、(Peprotechから購入した)組み換えヒトMSLNをCM5センサーチップの表面に上記のようにして固定化した。多重特異性抗体をフローセルの中に注入し、結合動態のほか平衡解離定数(KD)を上記のようにして計算した。
【0194】
アビディティの非存在下での組み換えヒトMSLNへの多重特異性抗MSLN抗体の親和性をT200装置(Biacore、GE Healthcare)でSPR分析によって求めた。この実験では、専用の抗フレームワークウサギIgG(PRO2679)をCM5センサーチップの表面に上記のようにして固定化した。多重特異性抗体を20秒間注入することによってそれぞれのフローセルに捕獲した。その後、(Peprotechから購入した)組み換えヒトMSLNをフローセルの中に注入し、結合動態のほか平衡解離定数(KD)を上記のようにして計算した。
【0195】
表19に示されているように、1価の抗MSLN抗体PRO1872はSPRにおいて組み換えヒトMSLNに1ナノモル未満の範囲の親和性(KD=0.187nM)で結合した。ヒトMSLNと同様の親和性が、対応する抗MSLN scFv抗体PRO1795で見いだされた(KD=0.321nM、ドメイン54-22-H03-sc01、データは示さない)。2価の抗MSLN抗体PRO2000は低いナノモル範囲(KD=1.06nM)で組み換えヒトMSLNへの親和性を示した。これは、対応する抗MSLN scFv抗体PRO1783(KD=2.91nM、ドメイン54-01-G02-sc01、表9)で見いだされた親和性よりも優れている。PRO2562、PRO2566、およびPRO2567はこのアッセイでヒトMSLNと非常に似た親和性を示し、KD値は1.39と1.52nMの間の小さなnMの範囲である。
【0196】
SPRにおけるヒトCD3εへの親和性
組み換えヒトCD3εに対する多重特異性抗MSLN抗体の親和性をT200装置(Biacore、GE Healthcare)でSPR分析によって求めた。この実験では、ヒト組み換えCD3εタンパク質(Sino Biological)をCM5センサーチップ(GE healthcare)の表面にアミンカップリングによって固定化した。HBS-T+バッファー(10mMのHEPES、150mMのNaCl、および0.05%のTween(登録商標)20、pH7.4)の中での抗MSLN多重特異性抗体の段階希釈液をフローセルの中に30μl/分の流速で5分間注入した。CM5チップ上のCD3εから抗体を12分間にわたって解離させた。各注入サイクルの後、10mMのグリシンHCl、pH2を1回注入して表面を再生させた。見かけの解離(kd)と会合(ka)の速度定数と見かけの解離平衡定数(KD)を1:1ラングミュア結合モデルを利用してBiacore分析ソフトウエア(BIAevaluation、GE Healthcare)で計算し、フィットの質をカイ2とU値(曲線フィッティングの質の1つの指標)に基づいてモニタした。1:1ラングミュア結合モデルを利用したフィットは準最適品質の曲線フィッティングを示したため、2状態反応モデルを利用してKDを追加して計算した。このモデルは、固定化されたリガンドへの分析物の1:1結合の後に立体配座が変化して複合体が安定化することを説明する。
【0197】
表20に示されているように、抗MSLN抗体PRO1872とPRO2000は両方ともCD3εに関して1価であり、同じ抗CD3ドメイン(28-21-D09-sc04)を持ち、SPRにおいて組み換えヒトCD3εにナノモルの範囲の似た親和性(PRO1872、KD=12.1nM;PRO2000、KD=20.0nM)で結合した。PRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660は組み換えヒトCD3εに対していくらか優れた親和性を示し、KD値は2.97と6.45nMの間の小さいnMの範囲である。
【0198】
SPRにおけるpH5.5でのヒト血清アルブミンへの親和性
ヒト血清アルブミン(hSA、Sigma Aldrich、カタログA3782)への結合動態をT200装置(Biacore、GE Healthcare)でSPRによって評価した。HSAをセンサーチップ(CM5センサーチップ、GE healthcare)の表面にアミンカップリングによって固定化した。pH5.5のランニングバッファー(PBS-Tween(登録商標)20)の中で希釈した0.7~180nMの範囲の抗MSLN多重特異性抗体の段階希釈液をフローセルに5分間注入した。解離時間は12分間に設定した。見かけの解離(kd)と会合(ka)の速度定数と見かけの解離平衡定数(KD)を上記のように1:1ラングミュア結合モデルを利用して計算した。
【0199】
表21に示されているように、抗MSLN抗体PRO1872(抗hSAドメイン:23-13-A01-sc02)はSPRにおいて組み換えhSAに1ナノモル未満の範囲の親和性(K
D=0.175nM)で結合した。PRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660は組み換えhSAに対していくらか小さい親和性を示し、K
D値は5.71と8.80nMの間の小さいnMの範囲である。
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【0200】
代表的なMATCH4分子の生物物理学的特徴づけ
nDSFによる保管安定性と融点
MATCH4分子で28日安定性研究を実施した。ここでは分子を水性バッファーー(pH6.5の50mMのリン酸塩-クエン酸塩バッファーと300mMのスクロース)の中で1mg/mLの製剤にし、-80℃未満、4℃、および40℃で28日間保管した。製剤中の単量体とオリゴマーの割合を、全研究期間中の異なる時点でSE-HPLCピーク面積の積分によって評価した。表22に、0日目と比べた単量体含量(単位は%)と%単量体損失がまとめられている。全研究期間を通じ、タンパク質濃度の変化を280nmでのUV-可視光測定によってモニタした。それが表23に示されている。熱安定性をnDSF(NanoTemper)によって分析し、アンフォールディングの開始(T
オンセット)、アンフォールディングの中点(T
m)、および散乱オンセット温度を求めた。二連/三連で測定したT
mの結果が標準偏差(SD)を含めて表24に示されている。
4つのMATCH4分子のすべてが良好な安定性プロファイルを示し、28日間インキュベートした後にわずかな単量体含量損失またはタンパク質含量損失を示すだけである。温度が-80℃と4℃での単量体含量のほか、SE-HPLC/UV測定の前に28日目/-80℃のサンプルで反復して凍結-解凍(5×)実施したときの単量体含量には、注目すべき変化はない。
【表22】
【表23】
【表24】
【0201】
実施例5:細胞系の細胞表面上のメソテリン密度の測定:
緒言
1つの目的は、メソテリン結合に関して1価または2価の多重特異性分子が、細胞表面に異なるレベルのメソテリンを示している標的細胞系に結合する能力を比較することである。したがって形質膜上のメソテリン発現を異なる細胞系で定量した。
【0202】
方法
さまざまなレベルのメソテリンを発現しているがん細胞系と健康な中皮組織に関する抗体結合能力(ABC)をQuantum Simply Cellular抗ヒトIgGキット(Bangs Laboratories)を利用してFC(フローサイトメトリー)によって評価した。簡単に述べると、1mgの抗メソテリン抗体(7D9.3、Genentech)を、Lightning-Link Rapid conjugationキット(Expedeon)を製造者の指示に従って用いてAlexa Fluor 488との複合体にした。受容体の密度値は抗体結合能力(ABC)として報告される。ABC値はQuantum Simply Cellularビーズ抗ヒトIgG(Bangs Laboratories, Inc.)を用いて作成した標準曲線から導出された。これらのビーズはマイクロスフェアの4つの集団からなり、各集団は、ビーズ1個当たりの数が異なる抗ヒトIgG分子との複合体になっている。第1の工程として、Alexa Fluor 488で標識した増加していく濃度の抗メソテリン抗体を結合部位の量が最大のビーズ集団で試験して飽和抗体濃度を求め、それを製造者のプロトコルに記載されているようにして定量の間に使用した。その後、ビーズと試験サンプルを、Alexa Fluor 488で標識した対応する飽和濃度の抗メソテリン抗体で製造者の指示に従って染色し、同日に、試験サンプルと同じ光電子増倍管設定でランを実施した。ABC値を計算するため、4つのQuantum Simply Cellularビーズ集団のための幾何学的手段をNovoExpressソフトウエア(ACEA Biosciences)を用いて分析した。QuickCal v. 2.3 Excelスプレッドシートに基づく分析テンプレート(Bangs Laboratories, Inc)を使用して線形回帰により標準曲線を作成した。R自乗値は典型的には0.99以上であった。Alexa Fluor 488-抗メソテリン抗体で標識したサンプルのABC値は標準曲線から内挿した。
【0203】
結果
3つのがん細胞系(H226、H292、およびHPAC)と、健康な中皮組織に由来する1つの細胞系(MeT-5A;(ATCC(登録商標)CRL-9444(商標));供給者:ATCC)の形質膜上のメソテリン密度をQuantum Simply Cellularビーズを用いて求めた。得られたデータが表25に示されている。H226細胞は最高レベルの発現を示し、その後に発現が4倍少ないHPAC細胞系が続いた。同等なメソテリン発現レベルがH292細胞系とMeT-5A細胞系で見いだされたが、H226細胞の細胞表面で観察された発現よりも8~10倍少なかった。
【表25】
【0204】
実施例6:細胞毒性アッセイ(T細胞に駆動される標的細胞の枯渇):
緒言
biMSLN高KDxCD3xhSAが、メソテリンを発現している細胞にT細胞を選択的に向かわせて殺傷する能力をMSLN低KDxCD3xhSAと比較して評価するため、細胞表面にメソテリンを異なる密度で発現している細胞系を用いた細胞毒性アッセイをヒトPBMCの存在下で実施した。それに加え、分子の効力に対する可溶性メソテリン(sMSLN)の存在の影響もこのアッセイで評価した。がん細胞上のメソテリンとCD3εにMSLN低 KDxCD3xhSA三重特異性分子が同時に結合するとT細胞上のCD3εの架橋につながり、シグナル伝達カスケードが活性化され、T細胞活性化(CD69の上方調節、サイトカインの分泌)と細胞傷害性顆粒の放出が開始され、その結果として最終的に標的細胞が殺傷される。
【0205】
方法
血液細胞分別
リンパ球分離媒体Lymphoprep(Stemcell technologies)を製造者の指示に従って用い、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を健康なボランティアの新鮮な血液から単離した。実験のこのセットでは、異なる3人のドナーからの血液(ドナー#1、ドナー#2、およびドナー#3)を使用した。個々のドナーの血液の特性は、特にその中に含まれるCD8+ T細胞の量と反応性に関して大きく異なっている。その帰結として、これら血液由来CD8+ T細胞サンプルの間で殺傷力は広い範囲で変化する。その結果として、本明細書に開示されている実施例で観察されたように、同じ標的細胞の存在下で同じ試験分子を用いて異なる殺傷力とCD8+ T細胞活性化力が得られる。
【0206】
簡単に述べると、血液をヒトPBMC単離バッファー(PBS、2%のFCS、2 mMのEDTA)で1:2に希釈し、推奨量のLymphoprep培地を収容したLeucosepチューブに適用した。LeucoSepチューブを室温で30分間にわたって中断することなく800×gで遠心分離した。次いでPBMCを含有する細胞層を回収し、ヒトPBMC単離バッファーで2回洗浄し、赤血球細胞溶解バッファーを室温で5分間用いて赤血球細胞を溶解させた。その後、単離されたヒト細胞をそれぞれの単離バッファーで1回と、アッセイ培地(RPMI-1640、10%のFCS)で1回洗浄した。血小板を除去した後、単離されたPBMCをアッセイ培地に1ml当たり3×106個の生存細胞の密度で再懸濁させた。
【0207】
フローサイトメトリーに基づくインビトロ細胞毒性アッセイ(FCアッセイ)とCD8+ T細胞活性化:
3つのがん細胞系、すなわちH226細胞(高メソテリン密度)、HPAC細胞(中間メソテリン密度)、およびH292細胞(低メソテリン密度)のほか、健康な中皮組織に由来するMeT-5A細胞系(低メソテリン密度)を標的細胞として使用した。以前にPKH67で標識した5’000個の生きている標的細胞を75μlのアッセイ培地(RPMI-1640、10%のFCS)の中で希釈し、96ウエルのプレートに添加した。適用できるときには、50、100、または500ng/mlの可溶性メソテリンを含有するアッセイバッファーを使用した。25μlの6倍濃縮試験タンパク質をアッセイ培地で希釈し、適切なウエルに添加した。150’000個の生きているエフェクター細胞(PBMC)を50μlのアッセイ培地の中で希釈し、各ウエルに添加し(E:T比が30:1)、プレートを章動ミキサーの上で室温にて混合した後、37℃、5%CO2でインキュベートした。40時間後、細胞をトリプシン処理し、染色バッファー(PBS、2%のBCS、2 mMのEDTA)の中に再懸濁させ、非結合プレートに移した。
【0208】
細胞を異なるマーカー(CD69、CD8、CD4、CD11c、およびアネキシン-Vなど)について染色した。分析のため、アポトーシスする標的細胞と死んだ標的細胞、活性化されたCD8+ T細胞に焦点を絞った。標的細胞を緑色蛍光(PKH67)によって同定し、その生存をアネキシン-V APCによって分析した。エフェクター細胞(CD8+細胞)はその表面でCD8を検出することによって同定した(抗CD8 PerCP-Cy5.5)。CD8+ T細胞の活性化を最後にCD69発現の定量によって検出した(抗CD69 PE)。CD4を用いてCD8+ T細胞とCD4+ T細胞を識別した。CD11cを用いて単球と樹状細胞を染色し、標的細胞のゲーティングを改善した。アネキシン-Vを除くすべてのマーカーについて、細胞を軽く撹拌しながら室温で30分間インキュベートした。細胞を染色バッファーで1回、アネキシン結合バッファーで1回洗浄し、撹拌しながらアネキシン-V染色を室温で30分間実施した。細胞をアネキシン-V結合バッファーで1回洗浄し、フローサイトメトリー分析をNovocyteフローサイトメータで実施した。
【0209】
特定の標的細胞の溶解率は以下の式に従って計算した:
標的細胞の特異的溶解[単位は%]=[1-サンプルの標的細胞生存率/対照サンプルの平均生存率]×100
活性化されたCD8+ T細胞の割合はCD69+ CD8+ T細胞の比率に対応する。
【0210】
LDH放出に基づく細胞毒性:
サイトゾルからのLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)の放出は細胞死の1つの指標である。比色LDH放出アッセイ(Roche)を設定し、興味あるリード分子によって媒介される細胞毒性を調べた。2つのがん細胞系、すなわちH226細胞(高メソテリン密度)とOVCAR-3細胞(中間メソテリン密度)のほか、健康な中皮組織に由来するMeT-5A細胞系(低いメソテリン密度)を標的細胞として使用した。10,000個の生きている標的細胞を96ウエルのプレートに添加して一晩接着させた。翌日、300,000個の生きているエフェクター細胞(PBMC)をhSA含有バッファーの中の各ウエルに添加した(E:T比が30:1)。図面に示されているそれぞれの分子を50nMから開始する5倍希釈工程で添加した。適用できる場合には、最終濃度が0ng/mLのsMSLN、50ng/mLのsMSLN、および500ng/mLのsMSLNをウエルに添加した。40時間後、上清を取り出してLDH放出分析を実施し、細胞をT細胞マーカー(活性化を含む)に関して染色した。
【0211】
特異的溶解の割合は以下のようにして計算した:
1.培地バックグラウンドの平均OD値を全OD値から差し引く
2.%細胞毒性=((サンプル-自発的殺傷)/(最大殺傷-自発的殺傷))×100を計算する
注:自発的殺傷:治療なし(無治療)のエフェクター+標的細胞の平均OD値。
注:最大殺傷:1%のTritonで40時間処理した標的細胞の平均OD値。
【0212】
結果
MATCH分子PRO2000(MATCH-4:biMSLN
高KDxCD3xhSA)とPRO1872(scMATCH-3:MSLN
低KDxCD3xhSA)のCD8+ T細胞活性化に対する細胞毒性の能力と効果を、フローサイトメトリーに基づく細胞毒性アッセイを利用して評価した。高メソテリン発現細胞系H226と、健康な組織に由来する低メソテリン発現MeT-5A細胞を用いて得られたデータが表 26と27に提示され、MATCH分子の濃度応答曲線が
図6に提示されている。両方の分子が高メソテリン発現H226細胞に対して大きな効力を持つ。PRO2000を標的とする2価メソテリンは、PRO1872を標的とする1価メソテリンよりも効力が75倍大きい。逆に、低レベルのメソテリンを発現しているMeT-5A細胞に対し、1価メソテリン結合分子PRO1872は標的細胞の殺傷に関してPRO2000と比べて16倍大きい効力を示す。高発現細胞に対しては、PRO2000は0.07pMの殺傷力(EC
50)を持ち、PRO1872は5.31pMを持つのに対し、MeT-5A細胞に対しては、PRO2000は144.70pMのEC
50を示し、PRO1872は8.88pMを示す。同様のデータが、それぞれの条件でCD8+ T細胞活性化について観察される。
【0213】
さらに、PRO2000とPRO1872のCD8+ T細胞活性化に対する細胞毒性の活性と効果を、それぞれ中間レベルと低レベルのメソテリンを発現している他の2つの標的がん細胞系HPAC細胞とH292細胞で調べた(表27と
図7)。以前に観察されたように、PRO1872は、メソテリンを標的とする2価分子PRO2000よりも、低メソテリン発現の細胞に対する効力が大きい。逆にPRO2000とPRO1872は、中間メソテリン密度を示すHPAC細胞に対して似た効力を持つ。HPACに対しては、PRO2000は殺傷力が40.75pM、PRO1872は30.26pMであるのに対し、低メソテリン発現H292細胞に対しては、PRO2000は652.2pMのEC
50を示し、PRO1872は91.03pMを示す。同様のデータがそれぞれの条件でのCD8+ T細胞活性化に関して観察されたが、HPAC細胞の存在下ではPRO2000がPRO1872の4倍の効力である点が異なる。
【0214】
いくつかの研究が、がん患者で数百ng/mlという可溶性メソテリンの血清濃度を報告している。したがってわれわれは、分子が標的細胞を殺傷する効力に対する可溶性メソテリンの存在の影響を評価した。
【0215】
CD8+ T細胞活性化に対するMATCH分子PRO2000とPRO1872の細胞毒性の能力と効果を、50ng/mlまたは500ng/mlの可溶性メソテリン(sMSLN)の非存在下または存在下で高メソテリン発現H226細胞を用いて比較した。得られたデータが表28と29に示されており、分子の濃度応答曲線が
図8に示されている。両方の分子の効力は、用量に依存したやり方で可溶性メソテリンによるマイナスの影響を受けた。PRO2000を標的とする2価メソテリン(メソテリンに対してPRO1872よりも小さい1価親和性を持つ)は、500ng/mlのsMSLNの存在下ではsMSLNの非存在下で観察された効力と比べて殺傷力の17倍の低下を示す。逆に、メソテリンに対して1価でメソテリンに対してより優れた1価親和性を持つ分子PRO1872は、500ng/mlのsMSLNの存在下ではsMSLNの非存在下での効力と比べて106倍小さい効力を示す。同様のデータが、それぞれの条件でのCD8+ T細胞活性化に関して観察される。
【0216】
それに加え、PRO2000のバリアントであるPRO2100を特徴づけて、両方の分子が標的細胞の殺傷に関して同等の効力を持つことを示した。PRO2100では、潜在的なグリコシル化部位が変異してグリコシル化を阻止した。
【0217】
MATCH4分子であるPRO2000とPRO2100の細胞毒性能力を、高メソテリン発現H226細胞と低メソテリン発現中皮細胞MeT-5Aの存在下でフローサイトメトリーに基づく細胞毒性アッセイを利用して比較した。PRO1872も含めた。得られたデータは表30に示され、濃度応答曲線は
図9に示されている。試験したどの分子も低メソテリン発現MeT-5A細胞の殺傷を示さない。H226標的細胞の存在下では、PRO2000とPRO2100はsMSLNの非存在下または存在下で非常によく似た効力を示す。sMSLNの非存在下では、効力は、PRO2000では0.7pM、PRO2100では1.54pMである。100ng/mlのsMSLNの存在下では効力のシフトが2倍(PRO2100で3.56pM)と5倍(PRO2000で3.45pM)である。逆にsMSLNの非存在下では、より優れた1価親和性を持つ分子PRO1872は、PRO2100とPRO2000のそれぞれよりも効力が10倍と20倍小さい(EC
50 PRO1872=13.38pM)。さらに、PRO1872は、100ng/ml sMSLNの存在下では効力が10倍小さい。
【0218】
上で得られたデータに基づき、さらなる代表的なMATCH分子PRO2567、PRO2566、PRO2562、およびPRO2660(MATCH-4:biMSLN
高KDxCD3xhSA)の細胞毒性能力を、方法の部分に概説されているようにしてLDH放出によって評価した。PRO2567、PRO2566、およびPRO2562を調べるとき、これらの分子は、高MSLN発現H226細胞に対してPRO2660よりも大きな効力と、同様の用量応答曲線を示した(
図10)。これら分子の効力のわずかな低下が中間OVCAR-3発現細胞で観察され、活性のさらなる低下が、Met-5A細胞を低MSLN発現標的として用いたときに見られた(
図10)。これらのデータはまとめの
図11にまとめられており、そこでは実験全体でのEC
50値が、参照としてのPRO1872との比較を含めて与えられている。PRO2567、PRO2566、PRO2562、およびPRO2660のEC
50値は、H226細胞を標的として使用するとき、PRO1872で観察された値よりも小さいように見えることが観察される(
図11A)。OVCAR-3細胞に対するPRO2567、PRO2566、およびPRO2562について同様の傾向が観察される(
図11B)。平均Met-5A EC
50と平均H226 EC
50値の間のx倍差を計算することによって活性の範囲を調べるとき、PRO2567、PRO2566、およびPRO2562に関する活性の範囲がPRO1872の範囲よりも有意に広いことが観察される(表31参照)。
【0219】
リード分子の効力の変化と用量応答曲線を、50ng/mLと500ng/mLのsMSLNの存在下で調べた(
図12)。MATCH4 biMSLN
高KDxCD3xhSA分子はsMSLNの存在下でその効力を維持することが観察された。例えばPRO2566とPRO2567は、sMSLNの存在下ではPRO1872と比べ、高sMSLN濃度でさえ、その効力を維持する(0から500ng/mLまででの効力のx倍変化:14.2倍と23.8倍であるのに対して78.2倍;表32参照)。まとめの図 13では、絶対EC
50値の差が実証される。PRO2566とPRO2567のEC
50値はsMSLNの添加の影響を比較的受けないのに対し、1価PRO1872のEC
50値はsMSLNの添加による影響を比較的大きく受ける。PRO2660はsMSLNに対してより感受性であるように見えるが、それでもPRO1872と比べると感受性が劣る。これらのデータは、MATCH4 biMSLN
高KDxCD3xhS形式がsMSLNの存在下で十分な抗腫瘍効力の保持に関して優れていることを実証している。
【0220】
実施例7:標的細胞へのMATCH分子の結合
緒言
異なる細胞表面密度のメソテリンを発現している標的細胞(H226、HPAC、H292、OVCAR-3、およびMeT-5A)を用いて得られた細胞毒性データをサポートするため、これら細胞系のうちの少なくとも2つへのMATCH分子の細胞結合をフローサイトメトリーによって評価した。代表的なMATCH4分子PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、およびPRO2660を試験して両方の分子が似た結合特性を持つことを確認した。比較のためscMATCH3 PRO1872も含めた。
【0221】
方法
細胞を100μlのPBSで2回洗浄し、50’000~0.005pMの範囲の染色バッファー(PBS、2%の熱不活化BCS、2mMのEDTA)の中でのPRO1872、PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、またはPRO2660の5倍段階希釈液とともにインキュベートした。細胞を染色バッファーで2回洗浄し、MATCH4分子の結合をプロテインL-PE(2μg/ml)によって可視化した。プレートを章動ミキサー上で室温にて30分間インキュベートし、染色バッファーで2回洗浄し、200gで5分間遠心分離し、最終体積50μlの染色バッファーに再懸濁させた。ウエル1つ当たり20’000イベントのPEシグナルを、Novocyteフローサイトメータ装置を用いたフローサイトメトリーによって分析し、NovoExpressソフトウエア(ACEA Biosciences)を利用してデータを分析した。ブランク(ゼロ濃度の抗体)を差し引くことにより、MATCH分子の平均蛍光強度(MFI)値を非特異的結合に関して補正した。GraphPad Prismデータ分析ソフトウエア(GraphPad Software)を用いてΔMFIデータを4パラメータロジスティック曲線フィットで分析し、50%の標的細胞結合(EC50)に到達するのに必要な興味ある分子の濃度を計算した。
【0222】
結果
異なる細胞系へのPRO2000、PRO2100、およびPRO1872の結合をフローサイトメトリーによって評価した。半値結合が観察された濃度(EC
50)と、到達した最大結合値(MFI)が表33に示され、対応する滴定曲線が
図14(A~D)に示されている。PRO2000とPRO2100は、試験した全細胞系に対して同等な結合データを示す。PRO1872と比べると、PRO2000とPRO2100は、高メソテリン発現がん細胞H226に対して3倍多い結合を、中間メソテリン発現がん細胞HPACに対して1.5~2倍多い結合を、そして低メソテリン発現がん細胞H292に対して2倍少ない結合を示す。これらのデータは、細胞毒性アッセイで得られたデータと相関している。試験した各分子で観察された最大の結合から、細胞表面メソテリン発現に関する細胞系のランキングが確認される。
さらに、異なる細胞系へのMATCH4分子PRO2567、PRO2566、PRO2562、およびPRO2660(biMSLNxCD3xhSA)の細胞結合も上記のようにして評価した。半値結合が観察された濃度(EC
50)と到達した最大結合値(MFI)が表34に示され、対応する滴定曲線が
図14(E~G)に示されている。リードMATCH4分子PRO2567、PRO2566、およびPRO2562は、高MSLN発現H226細胞へのEC
50結合がPRO2000およびPRO2100と同等であることが実証された(表33を表34と比較されたい)。中間レベルのMSLNを発現しているOVCAR-3細胞への結合を評価したとき、全MATCH4分子(PRO2567、PRO2566、PRO2562、およびPRO2660)のEC
50結合の減少がさらに観察された。2価MATCH4分子のEC
50結合の減少は、OVCAR-3細胞上のMSLNの発現レベルがより低いことに起因しており(得られた最大MFI値によって示される)、結合強度へのアビディティ効果の寄与を減らす。低MSLN発現Met-5A細胞に関し、H226細胞およびOVCAR-3細胞と比べたときに最大MFI値が実質的に低下することが見いだされ、EC
50値は、H226細胞への結合に関して得られたEC
50値よりもほぼ5倍小さかった。PRO2000とPRO2100でも同様の結果が得られた。Met-5A細胞上のMSLNは膜マイクロドメインの中に局所的に集中することでMATCH4分子の強固でアビディティに駆動される結合につながり、その帰結として小さなEC
50値になるのに対し、これらの細胞の表面でのMSLNの発現は全体的に少ないため最大のMFI値は小さいままであると推定することができよう。
まとめると、リードMATCH4分子PRO2567、PRO2566、PRO2562のEC
50結合は、PRO2000とPRO2100で得られた細胞結合データと同等である。中間MSLN発現OVCAR-3細胞への結合強度の低下は、おそらくアビディティの損失が原因であり、細胞毒性実験でも見られ、高MSLN発現H226細胞の殺傷と比べてOVCAR-3細胞を殺傷する効力が低下することがMATCH4分子で見いだされた。
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【表31】
【表32】
【表33】
【表34】
【0223】
実施例8:PRO2000(biMSLN高KDxCD3xhSA)を用いた生体内腫瘍増殖阻害:
緒言
PRO2000(biMSLN高KDxCD3xhSA)が対照動物と比べて腫瘍増殖を効果的に制御する能力を明らかにするため、2つの生体内メソテリン発現細胞系異種移植片実験をCharles River Laboratoriesで実施した。1つの実験ではH292異種移植片モデルの腫瘍増殖阻害を調べ、別の1つの実験ではHPAC異種移植片モデルの腫瘍腫瘍増殖阻害を調べた。
【0224】
方法
動物
Charles River Laboratoriesからの雌のNCGマウスを、ヒト化マウスが機能するのに適した条件下で育て、収容した。両方の研究で動物を8~12週齢で使用した。
【0225】
研究設計
治療群の動物(H292群1つ当たりn=5~6、HPAC群1つ当たりn=10)の脇腹の皮下に1×107個のH292 NSCLC腫瘍細胞と1×107個のPBMC、または1×107個のHPAC腫瘍細胞と2.5×106個のPBMCを同時に移植した。5日後、興味ある分子を動物に静脈内投与し、実験終了まで5日ごとに追加投与した。この実験の間、定期的な間隔で、動物でキャリパー測定を利用して腫瘍の増殖をモニタするとともに体重減少をモニタした。対照群の平均腫瘍体積が800mm3になるか40日目になるかのどちらか早い方に動物を安楽死させた。Charles River Laboratoriesの動物の健康と福祉の規制に従って動物をモニタし、安楽死させた。
【0226】
結果
方法の箇所に記載されているように、PBMC/H292同時移植モデルを利用して腫瘍増殖阻害の促進におけるPRO2000(biMSLN
高KDxCD3xhSA)の有効性を評価した。H292細胞は中間レベルのMSLNを発現し、非小細胞肺癌から確立される。
図15に示されているように複数の用量レベルのPRO2000を静脈内投与した。比較として、対照IgG治療としてのパリビズマブ(抗RSV抗体)のほか、PBMCの非存在下(治療なし)で移植した腫瘍細胞を使用した。対照条件では腫瘍が増殖することが観察された(薄い灰色の線、
図15A)。PRO2000(biMSLN.CD3)分子を用いた治療では、1mg/kgと5mg/kgで対照と比べて腫瘍増殖が阻害された(
図15Aのそれぞれ黒い線と濃い灰色の線)。二元配置分散分析の後にテューキーの多重比較検定を用いて治療の有意性を調べた;40日目のデータが
図15Bに示されており、それぞれの点は個々の動物を表わす。2つのより大きな用量(1mg/kgと5mg/kg)では、パリビズマブで治療した動物(ctrl)および無治療の動物と比べて腫瘍体積が有意に小さかった。最低用量(0.2mg/kg)は次善最適であるように見えた。というのもこれらの比較はパリビズマブで治療した動物と比べて有意でなかったからである。動物の体重は実験全体を通じて比較的安定していたため、全体として動物の健康に有害な効果はないように見えた(データは示さない)。合わせると、これらのデータは、多重特異性抗体PRO2000(biMSLN
高KDxCD3xhSA)が生体内腫瘍増殖阻害活性を持ち、がん免疫療法にとっての有望な概念的候補であることを示す。
【0227】
方法の箇所に記載されているように、PBMC/HPAC同時移植モデルを利用して腫瘍増殖阻害の促進におけるPRO2000(biMSLN
高KDxCD3xhSA)の有効性をさらに評価した。HPAC腫瘍細胞はH292と比べて高いレベルのMSLNを発現する。H292モデルと同様、対照条件では増殖が観察され(
図16、パリビズマブ)、試験条件では用量に依存した腫瘍増殖阻害が観察された。二元配置分散分析の後にテューキーの多重比較検定を用いて治療の有意性を調べた。最低用量のPRO2000(biMSLN
高KDxCD3xhSA)で、1価MSLNを標的とする分子であるPRO1872(MSLNxCD3xhSA)の最低用量と比べて複数の時点で有意な腫瘍増殖阻害の結果になることが観察された。このデータは、より高レベルのMSLNを発現している細胞に対するPRO2000(biMSLN
高KDxCD3xhSA)のアビディティに基づく活性が、改善された有効性をもたらすことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】