(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】細胞を死滅させるための生物活性組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20230619BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230619BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230619BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20230619BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20230619BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230619BHJP
A61K 33/00 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 Z
A61P31/12
A61P31/04
A61P35/00
A61K33/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572487
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2021064108
(87)【国際公開番号】W WO2021239842
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522457737
【氏名又は名称】エージーエックスエックス インテレクチュアル プロパティー ホールディング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランダオ、ウヴェ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー、カルステン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァグナー、オラフ
(72)【発明者】
【氏名】アブル - エラ、アヤド
【テーマコード(参考)】
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA10
4C086HA21
4C086MA01
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4H011AA02
4H011AA03
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB18
4H011BC20
4H011DA02
4H011DF04
(57)【要約】
本発明は、少なくとも第1及び第2の半電池を含む、細胞を死滅させるための生物活性組成物に関し、半電池は、水及び酸素の存在下で短絡要素が生成されるように、少なくともそれぞれの表面によって互いに導電性接触している。本発明によれば、第1の半電池は、複数の酸化状態を示し、触媒活性中心によって酸化状態の変化を可能にする、少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を含み、その結果、酸素が還元され、活性酸素種が第1の半電池で生成され、第2の半電池は、半電池又は有機材料によって放出された電子を吸収する少なくとも1つの導電性銀半導体を含む。本発明による組成物でコーティングされた粒子によって、例えば大腸菌細菌を、酸化ルテニウム/塩化銀変形(a~c)及び酸化ルテニウム/硫化銀変形(d~f)の両方で効果的かつ確実に死滅させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を死滅させるための生物活性組成物であって、少なくとも第1の半電池及び第2の半電池を含み、半電池が、水及び酸素の存在下で短絡要素が生成されるように、少なくともそれらの各表面で互いに導電性接触しており、第1の半電池が、複数の酸化状態を示し、触媒活性中心によって酸化状態の変化を可能にする、少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を含み、その結果、酸素が還元され、活性酸素種が第1の半電池で生成され、第2の半電池が、半電池又は有機材料によって放出された電子を吸収する少なくとも1つの導電性銀半導体を含む、上記生物活性組成物。
【請求項2】
第1の半電池が、異なる酸化状態を有する遷移金属元素のカチオンを含むことを特徴とする、請求項1記載の生物活性組成物。
【請求項3】
第1の半電池の遷移金属化合物が、遷移金属元素の少なくとも1つの金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物及び/又は少なくとも1つの金属硫化物を含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の生物活性組成物。
【請求項4】
第1の半電池の半導体化合物の遷移金属元素が、ルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、コバルト、セリウム、モリブデン及びタングステンからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の生物活性組成物。
【請求項5】
第1の半電池の遷移金属化合物が、酸化状態VI及びIVの1つ又は両方で存在するルテニウムを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の生物活性組成物。
【請求項6】
第2の半電池の銀半導体が触媒活性を示すことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の生物活性組成物。
【請求項7】
第2の半電池の銀半導体が、水溶液への溶解度が低く、水溶液中の成分に対して化学的に安定であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の生物活性組成物。
【請求項8】
第2の半電池の銀半導体が、少なくとも1つの酸化銀、水酸化銀、ハロゲン化銀及び/又は硫化銀を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の生物活性組成物。
【請求項9】
硫化物アニオンがハロゲン化銀の半導体格子に組み込まれていることを特徴とする、請求項8記載の生物活性組成物。
【請求項10】
微生物、ウイルス、胞子、線維芽細胞及び/又はがん細胞を破壊/死滅させるための、請求項1~9のいずれか一項に記載の生物活性組成物の使用。
【請求項11】
両方の半電池が、少なくとも1つの担体材料上及び/又は互いの上に塗布され、両方の半電池が、それらが少なくともそれぞれの表面と互いに導電性接触するように塗布されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の生物活性組成物の製造方法。
【請求項12】
第1の半電池が、多孔質層の形態で第2の半電池に塗布されるか、又は第2の半電池が、多孔質層の形態で第1の半電池に塗布されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
それぞれの半電池が、電気化学堆積、化学還元堆積、電気泳動コーティング、焼成、PVD、CVD及び/又はゾル-ゲルプロセスによって順次又は同時に塗布されることを特徴とする、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
第1の半電池の塗布が、強い酸化効果を有する少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
両方の半電池が、互いに導電性接触している単一粒子の形態の担体材料の表面上に塗布されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項16】
第2の半電池がスルフィド処理によって硫化銀(Ag
2S)に変換されること、及び/又は第1の半電池の金属硫化物が金属酸化物/水酸化物又は金属ハロゲン化物のスルフィド処理によって生成されることを特徴とする、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
銀半導体が、ハロゲン化物含有水溶液中での反応によってハロゲン化銀に変換されることを特徴とする、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
両方の半電池を塗布した後、特定の酸化状態を調整するために熱的後処理が達成されることを特徴とする、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第1及び第2の半電池を含む、細胞を死滅させるための生物活性組成物に関し、半電池は、水及び酸素の存在下で短絡要素(short-circuit elements)が生成されるように、少なくともそれぞれの表面によって互いに導電性接触している。本発明はさらに、生物活性組成物の使用及び生物活性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床的に重要な細菌の抗生物質及び消毒剤に対する耐性の増加は、バイオフィルムを形成するそれらの能力と相まって、保健医療、産業及び家庭における効果的かつ永続的な細菌制御の点で深刻な問題を示している。世界保健機関(WHO)が発する、劇的な抗生物質危機の緊急警告は増加している。抗生物質で容易に制御されていた細菌感染は、もはや治療することができない。したがって、新しい抗菌解決策の探索が進められている。同様の耐性問題は、多くの殺菌有効成分にも当てはまる。しかしながら、抗菌材料は、表面上での微生物のコロニー形成、増殖及び移動を防ぐのに役立ち、したがって抗生物質及び殺生物剤の問題の解決に重要な貢献をすることができる。
【0003】
抗菌材料の最も古い例は、いわゆる微量作用金属(例えば、銀、銅、亜鉛)であり、それらは金属イオンを放出することによって作用する。しかしながら、様々な環境媒体におけるこれらの材料の抗菌効果は、例えば硫黄含有化合物による阻害によって制限されることが多い。
【0004】
WO2008/046513A2から、銀、ルテニウム及びビタミンを含有する生物活性金属コーティングが知られており、これは水又は水溶液の滅菌、消毒及び除染に使用される。銀とルテニウム及びビタミン、例えばアスコルビン酸との組み合わせは、微生物のより迅速かつより効率的な死滅をもたらす。同時に、これらの生物活性金属表面は、微生物のコロニー形成及びDNA、RNA又はタンパク質などの問題のある生体分子の付着又は安定な沈着を防止する。コーティングは自己洗浄表面を作り出し、それは水又は水溶液と接触すると、非常に迅速かつ効率的にその無菌を確立し、それを長期間にわたり維持する
【0005】
金属銀層、及びビタミン誘導体でコンディショニングされた金属ルテニウム層からなる生物活性コーティングについて、Guridi et al.(2015)は、コーティングの抗菌活性について以下の機構を仮定している:銀/ルテニウム表面上のマイクロガルバニ電池は、細菌細胞の荷電膜に作用する電界を生成する。ガルバニ電池のルテニウムマイクロカソードでは、触媒支援された酸化還元反応が活性酸素種(ROS)、例えば過酸化水素などの拡散性分子を生成し、これが微生物を死滅させ、寒天プレート上の適切にコーティングされたメッシュの周りに阻害ゾーンの形成を引き起こす。ガルバニ電池の銀/塩化銀マイクロアノードにおいて、微生物は、微生物から半導体アノード表面への電子の移動によって酸化される。
【0006】
亜鉛ピリチオン(ZnPT)又は銅ピリチオン(CuPT)などの殺生物性有機金属化合物は、産業及び医療(例えば、ヘアシャンプー中のZnPT)、船舶塗料への防汚添加剤としてのトリブチルスズ(TBT)、シスプラチン(cis-ジアンミノジクロロプラチン)、及びがんに対抗するための光増感剤として作用するトリス(2.2’-ビピラジル)ルテニウム(II)(Ru[bipy]2+)に使用されている。場合によりそれらの毒性は大きいので、それらの使用は高度に規制されており、トリブチルスズの場合のように、大部分が禁止されている。頻繁に使用されるトリクロサンもまた、発がん性であるという疑いのために禁止される恐れがある。
【0007】
さらに、金属酸化物は、UV照射及びH2O2の添加と組み合わせて抗菌効果があり、産業的に使用されている。この方法の欠点は、その有効性のために、UVランプに電気エネルギーを使用しなければならないこと、及びH2O2を一貫して添加しなければならないことである。さらに、不透明な液体ではUV照射が減少し、システムの抗菌性の無効につながる可能性がある。別の欠点は、応用分野が水消毒での使用に事実上限定されることである。UVランプはまた、寿命が限られており、システムのダウンタイム及び時々の高コストな交換は、純粋なランプコストを大幅に超えることが多い。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、先行技術、特にUVランプの使用における上述の欠点を回避し、効率的で持続的な抗菌効果を示す細胞死滅のための生物活性組成物を提供することである。
【0009】
本発明によれば、複数の酸化状態(原子価)を示し、触媒活性中心によって酸化状態の変化を可能にする、少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を第1の半電池が含み、その結果、酸素が還元され、活性酸素種が第1の半電池で生成され、第2の半電池が、半電池又は有機材料によって放出された電子を吸収する少なくとも1つの導電性銀半導体を含むことで目的が達成される。したがって、本発明は、有利には、半導体触媒活性遷移金属化合物(ガルバニ素子の半電池I)及び半導体難溶性銀化合物(例えば、酸化銀、水酸化銀、硫化銀、銀-ハロゲン化合物、又はそれらの組み合わせ;ガルバニ素子の半電池II)を含み、両方が互いに直接導電性接触している、生物活性材料システムを含む。本発明によれば、第1の半電池の遷移金属元素は、いくつかの酸化状態を示す、したがって触媒活性中心を介して(比較的容易に)酸化状態が変化できるように選択される。したがって、特に適切な半電池は、いくつかの価数を有し、高度に可逆的な酸化還元反応が広い電位範囲にわたって起こり得るものである。このような半電池の酸素還元のための高い触媒活性は、半導体表面の活性中心で優先的に起こる酸化状態の容易な変化及び酸素の容易な交換に起因する。このプロセスでは、遷移金属元素の価数のみが変化し、実際の酸化還元反応が生じる。したがって、遷移金属化合物は消費も形成もされず、酸化状態のみが変化する。遷移金属化合物は分子状酸素に結合し、それが触媒的に還元されることを可能にする。したがって、複数の原子価の存在は、触媒効果及び酸化還元反応のための前提条件である。したがって、遷移金属化合物を形成する必要はない。特殊な金属酸化物又は金属硫化物及び難溶性の銀化合物は、触媒特性、導電性及び水中での高い安定性を示す。材料の適切な組み合わせにより、2つの材料が互いに電気的に接触し、それらは異なる電気化学的電位を有し、したがってガルバニ電池を形成する。この電池が水相によって短絡されると、2つの接触材料間の短い距離(nm及び/又はμm範囲)に起因して高い電界強度が発生する。これは、細菌除去に大きく寄与する。酸化還元反応は、マイクロガルバニ素子の両方の電極で起こり、それぞれが微生物を死滅させる。第1の半電池(カソード)では、分子状酸素が酸素ラジカルに還元され、それが次いで微生物に毒性作用を及ぼす。第2の半電池(アノード)では、電子が微生物から銀半導体に移動し、それによってそれらを酸化によって破壊する。
【0010】
本発明による組成物は、その抗菌活性が殺生物剤又は金属イオンの放出ではなく、酸素ラジカルの触媒支援生成、好ましくは酸化銀/酸化ルテニウム及び/又は塩化銀/酸化ルテニウムの貴金属の組み合わせに基づき、長期の抗菌的使用中でもその組成を変化させず、殺生物剤又は微量作用金属とは異なり、殺生物剤又は金属イオンの放出を調節するデポー又は装置を必要としない。
【0011】
2つの半電池は、例えば、層システムとして、シート、ワイヤ、布地又は粒子状担体(「担体」)の表面に塗布することができ、1つの材料のコーティングが他の材料の上に載る。この場合、それぞれの上層は、特にクラスタの形態で、水溶液又は水分が両方の半電池にアクセスし、ガルバニ素子が短絡されるように、他の材料に多孔性に塗布又は堆積することができる。しかしながら、両方の材料は、代替的又は追加的に、粒子として一緒に混合され得、かつ/又はそれらが導電性接触するように表面に塗布され得る。
【0012】
本発明の特に有利な実施形態では、異なる酸化状態を有する遷移金属元素のカチオンを含む第1の半電池が提供される。本発明に従って使用される第1の半電池は、酸素(O2)への電子移動が可能であり、化学量論組成から偏向した半導体であり、好ましくは表面に異なる酸化状態を有するカチオンを含む。この状況において特に適切な半電池は、遷移金属元素の酸化物、オキシ水和物、水酸化物、オキシ水酸化物及び/又は硫化物であり、これらはいくつかの酸化状態で存在することができ、それにより大きな電位範囲にわたって高度に可逆的な酸化還元反応が起こり得、良好な導電性を有し、良好な化学的安定性を示す。例えば、金属酸化物の価数が変化するだけで、実際の酸化還元反応が起こる。したがって、酸化物は消費も形成もされず、酸化状態のみが変化する。酸化物は分子状酸素に結合し、それが触媒的に還元されることを可能にする。したがって、いくつかの原子価の存在は、触媒効果及び酸化還元反応のための前提条件である。したがって、金属酸化物を形成する必要はない。
【0013】
したがって、本発明の特に有利な実施形態では、遷移金属元素の少なくとも1つの金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物及び/又は少なくとも1つの金属硫化物を含む、第1の半電池の遷移金属化合物が提供される。したがって、本発明は、有利には、好ましくは半導体触媒活性遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物(ガルバニ素子の半電池I)及び半導体難溶性銀化合物(酸化銀、水酸化銀、硫化銀、銀-ハロゲン化合物、又はそれらの組み合わせ;ガルバニ素子の半電池II)からなる生物活性材料システムを含む。
【0014】
第1の半電池の半導体化合物の遷移金属元素は、好ましくは、ルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、コバルト、セリウム、モリブデン及びタングステンからなる群より選択される少なくとも1つの金属である。有利な様式では、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化セリウム、酸化モリブデン及び酸化タングステンは、遷移金属元素化合物として特に適しており、これらはそれらの特性によってスーパーキャパシタ(スーパーキャップ)とも呼ばれる。それらは半導体でもある。
【0015】
したがって、本発明の特に有利な実施形態では、酸化状態VI及びIVの1つ又は両方で存在するルテニウムを含む、第1の半電池の遷移金属化合物が提供される。ルテニウムは、複数の酸化状態を示し、その異なる価数により、例えば、異なる酸化ルテニウムを形成することができる貴金属である。表面酸化還元遷移、例えばRu(VIII)/Ru(VI)、Ru(VI)/Ru(IV)、Ru(IV)/Ru(III)、おそらくはRu(III)/Ru(II)は、混合ルテニウム化合物の高い触媒活性及びそれらの良好な導電率の原因である。ルテニウム化合物の非常に特徴的な触媒特性及び電極触媒特性は、酸化状態の変動に依存する。例えば、抗菌活性は、第1の半電池に酸化ルテニウム(VI)を含む本発明による組成物において特に高い。
【0016】
第2の半電池の銀半導体は、触媒活性を示すことが好ましい。例えば、ハロゲン化銀物結晶中の格子間銀イオンは、捕捉電子と反応し、反応が進行するにつれて銀クラスタを形成する。電子が捕捉された部位は、ハロゲン化銀結晶中の活性部位である。ハロゲン化銀は触媒として作用し、消費されない。電子捕捉によって還元された銀がアノード的に再酸化される場合、循環プロセスが生じるが、銀イオンはハロゲン化銀結晶から放出されない。代わりに、全ての銀イオンがハロゲン化銀結晶中で結合したままである。
【0017】
本発明の別の有利な実施形態では、水溶液への低溶解度を有し、水溶液中の成分に対して化学的に安定であるように選択された、第2の半電池の銀半導体が提供される。例えば、硫化銀は、広いpH範囲で全ての無機化合物の金属イオンに対して最も低い溶解度を有するため、銀イオンの放出は、そのような半電池の抗菌活性において役割を果たさない。
【0018】
第2の半電池の銀半導体は、有利には、酸化銀、水酸化銀、ハロゲン化銀、及び/又は硫化銀のうちの少なくとも1つを含むことができる。銀半導体はまた、例えば、銀と対応する銀化合物(例えば、表面に酸化銀又は塩化銀などの銀化合物を有する金属銀)との組み合わせを含んでもよい。
【0019】
本発明の有利な実施形態では、ハロゲン化銀の半導体格子に組み込まれる硫化物アニオンが提供される(硫化物ドーピング)。例えば、これにより、酸化還元プロセスがハロゲン化銀の半導体格子内で発生し得るので、半電池によって放出された電子の受け取りを可能にするために銀イオンを放出する必要はない。本発明による好ましいスルフィド半電池システムは、特に硫化ニッケル及び/又は硫化モリブデンを含む硫化銀又は塩化銀/硫化銀である。
【0020】
上記の本発明による生物活性組成物は、好ましくはアスコルビン酸を含まない。
【0021】
本発明はさらに、上記の本発明による生物活性組成物の、微生物、ウイルス、胞子、線維芽細胞及び/又はがん細胞を破壊/死滅させるための使用に関する。
【0022】
この目的はまた、上記の本発明による生物活性組成物を製造する方法によって達成され、ここで、両方の半電池は、少なくとも1つの担体材料上及び/又は互いの上に塗布され、両方の半電池は、それらが少なくともそれぞれの表面と互いに導電性接触するように塗布される。
【0023】
好ましくは、第1の半電池は、多孔質(クラスタ形状)層の形態で第2の半電池に塗布されるか、又は第2の半電池は、多孔質(クラスタ形状)層の形態で第1の半電池に塗布される。したがって、2つの半電池は、有利には、それらが導電性接触するように、表面、例えばシート、ワイヤ、布地又は粒子状担体に層システムとして塗布することができる。そうすることで、上層は他の材料上に、多孔質状に、特にクラスタの形態で他の材料上に塗布又は堆積することができ、その結果水溶液又は環境水分が両方の半電池にアクセスし、それによりガルバニ素子を短絡させる。
【0024】
例えば、第1の半電池は、2nm~500nm、好ましくは10nm~100nmの層厚で第2の半電池に塗布することができる。
【0025】
本発明の有利な実施形態では、それぞれの半電池は、電気化学堆積、化学還元堆積、電気泳動コーティング、焼成、PVD、CVD及び/又はゾル-ゲルプロセスによって順次又は同時に塗布される。
【0026】
焼成では、例えばアルコール(例えば、エタノール又はイソプロパノール)中の所望の遷移金属(通常は無水)を含む熱的に容易に分解可能な化合物を集中的に混合し、コーティングされる表面に塗布し、次いで空気の存在下で高温(例えば、200~500℃)で熱分解させる。このプロセスでは、2つの半電池金属の任意の所望の組成を、2つの金属塩を混合して適切な酸化化合物を得ることによって調整することができる。容易に分解可能なルテニウム化合物としては、例えば、RuCl3(一般のハロゲン化物)が挙げられる。
【0027】
本発明の特に有利な実施形態では、強い酸化効果を有する少なくとも1つの工程を含む、第1の半電池の塗布がさらに提供される。例えば、ルテニウム/酸化ルテニウムを2段階プロセスで塗布することができ、第1の工程では最初にルテニウムの再酸化が起こり、第2の工程においてのみ、再酸化されたルテニウムのルテニウム及びRuOxへの還元が達成される。強い還元剤によるRu(III)イオンの直接的な1段階還元とは異なり、この間接的な2段階プロセスは、Ru(III)イオンの酸化ルテニウム(VIII)(RuO4)への酸化に依存する。RuO4は、適切な還元剤によって酸化ルテニウム(IV)に変換され、基材を酸化ルテニウム(IV)の層でコーティングする強力な酸化剤である。例えば、酸化ルテニウム(VI)の形成は、ルテニウム堆積が強い酸化効果を用いるプロセス工程を含む場合、ルテニウムの電気化学堆積及びPVD堆積の両方で達成することができる。
【0028】
追加的又は代替的に、両方の半電池を単一粒子の形態で担体材料の表面に塗布することができる。これらは、例えば、両方の金属を含むバイメタル粒子、及び/又はそれぞれ2つの金属のうちの一方のみを含む金属粒子であってもよい。後者は、連続的に、すなわち、第1の金属の第1の粒子、次いで第2の金属の粒子(又はその逆)、又は両方の金属の粒子の混合物として同時に、それらが導電性接触するように担体材料に塗布することができる。粒子は、単一の層(並んで存在する)及び/又は少なくとも部分的に複数の層(互いに重なって存在する)で担体材料上に堆積させることができる。
【0029】
本発明の有利な実施形態では、スルフィド処理によって硫化銀(Ag2S)に変換される第2の半電池、及び/又は金属酸化物/水酸化物又は金属ハロゲン化物のスルフィド処理によって生成される第1の半電池の金属硫化物がさらに提供される。
【0030】
本発明の別の有利な実施形態では、ハロゲン化物含有水溶液(例えば、塩化物溶液)中での反応によってハロゲン化銀に変換される銀半導体が提供される。
【0031】
本発明のさらに有利な実施形態では、両方の半電池を塗布した後、特定の酸化状態を調整するために達成される熱的後処理が提供される。堆積された酸化物半電池コーティングは、基材材料が熱的に安定であるという条件で、適切な雰囲気中で熱酸化又は還元に供して、特定の酸化状態を設定することができる。
【0032】
2つの半電池は、例えば、金属、ガラス又はプラスチック、及び/又は担体粒子(例えば、ガラス粒子、銀粒子、プラスチック粒子、ナノクレイ粒子、セルロース繊維、炭素粒子又はゼオライト粉末)に塗布することができる。そうする場合、個々の半電池粒子を、それらが互いに導電性接触するように一緒に(例えば、乳鉢で)混合することができる。2つの半電池は、例えば、微孔質層システムとして、又は粒子の形態でそれらが導電性接触するようにそれぞれの材料に塗布することができる。
【0033】
本発明の特に有利な実施形態では、水吸収媒体及び酸素吸収媒体、例えばゾルゲル(例えば、シロキサン)、クリーム、ヒドロゲル、ラッカー、塗料、プラスター、プラスチック(例えば、ポリアミド)、及びセルロースに組み込まれるか、又は塗布される半電池粒子がさらに提供される。
【0034】
本発明の知覚における「半電池」はガルバニ素子の一部を指し、少なくとも1つのさらなる半電池と組み合わせて後者を形成する。この文脈において、半電池は、電解質中に少なくとも部分的に位置する金属電極を含む。
【0035】
本発明の知覚における「ガルバニ素子」は、2つの異なる金属の組み合わせを指し、その各々が共通の電解質中に電極(アノード及びカソード)を形成する。2つの金属電極が互いに直接接触しているか、又は電子伝導体を介して互いに導電的に接続されている場合、低い酸化還元電位を有するイオン化傾向の低い金属(電子供与体、アノード)は、高い酸化還元電位を有するイオン化傾向の高い金属(電子受容体、カソード)に電子を供与し、続いて電極で酸化還元プロセスを開始する。
【0036】
本発明の知覚における「電解質」は、イオンの方向性運動によって電界の影響下で電流を伝導する物質(例えば、水溶液中のイオン)を指す。
【0037】
本発明の知覚における「金属」は、金属結合によって金属格子を形成し、それによってとりわけ高い導電性及び高い熱伝導性を特徴とする巨視的に均質な材料を形成する、元素の周期表の化学元素の原子(非金属ではない全ての元素)を指す。「金属」という用語はまた、少なくとも2つの異なる金属、金属化合物、例えば金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物、金属ハロゲン化物及び金属硫化物、ならびに金属と対応する金属化合物との組み合わせを含む合金を含む。
【0038】
本発明の知覚における「粒子」、「粒子形状」又は「微粒子」は、全体として他の粒子及びその周囲から区別される個々の粒子形状体を指す。この文脈において、幾何学的形状及び質量にかかわらず、全ての可能な粒子形状及びサイズが本発明の範囲内に含まれる。粒子は、例えば、それらの形状、重量、体積及び/又はサイズ(例えば、長さ、直径、周径)によって特徴付けられ得る。
【0039】
本発明の知覚における「層」又は「層状」は、水平に延び、少なくとも2つの表面、層底及び層頂によって画定される二次元又は三次元構造を意味する。この文脈において、層は、少なくとも部分的に互いに接触しているコヒーレントな材料又は物質及び/又は粒子を含んでもよい。本発明の知覚において、層は、均質、不均質、連続的(すなわち、中断されていない)、クラスタ化、ナノ多孔質、及び/又は微小亀裂であり得る。本発明の知覚における「コーティングされた」は、その(外側又は内側)表面の少なくとも一部に「層」が設けられている場合、材料、粒子又は他の物体である(上記参照)。
【0040】
本発明の好ましい及び例示的な実施形態の説明
金属酸化物又は金属硫化物半電池I:
亜族金属の多くの酸化物は、酸素の発生もしくは還元又は有機化合物の酸化に関して高い電極触媒活性を示す。金属酸化物は半導体であり、そのいくつかは良好な導電性を有する。酸化物の非化学量論的組成は酸素還元に必須である。電極触媒特性及び導電性は、酸化状態の変化、及び特に表面付近のカチオンの易動度に依存する。固体表面に吸着された活性酸素種は、液相/固相界面における重要な中間体であり、これはいくつかの金属酸化物について特に当てはまる。これらの金属酸化物表面のケースでは、それらはその抗菌特性の役割を果たす。例えば、高反応性スーパーオキシドアニオン種は、触媒プロセスによって形成される[Anpo 1999,189]。例えば、分子状酸素が金属酸化物表面と接触している場合、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2-)が形成され得る。表面の正イオン上のアニオン種の安定化に対する静電的寄与は、基本的な役割を果たす[Pacchioni 1996]。スーパーオキシドアニオンラジカルは、金属酸化物上に形成される中間体のみではなく、H2O2及びヒドロキシルラジカルOH*でもある[Anpo 1999]。
【0041】
酸素(O2)への電子移動が可能な酸化物は、ほとんどの場合、化学量論組成から偏向した半導体であり、それらの金属酸化物表面に種々の酸化状態を有するカチオンを有する。本発明による生物活性金属酸化物-銀半導体システムに特に適した金属酸化物は、遷移金属酸化物であり、それらは、高度に可逆的な酸化還元反応が広範囲の電位にわたって起こり得るいくつかの酸化状態で存在することができ、良好な導電性を有し、良好な化学的安定性を示す(例えば、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化セリウム、酸化モリブデン及び酸化タングステン)。これらの優れた特性によって、これらの金属酸化物のいくつかは、いわゆるスーパーキャパシタ(スーパーキャップ)の電極材料として使用されている。これらの金属酸化物の酸素還元のための高い触媒活性は、表面の活性中心で優先的に起こる、軽い酸素交換など酸化状態の容易な変化に起因する。最も技術的に興味深い金属酸化物コーティング、特に金属又は半導体上のコヒーレント酸化物コーティングは非晶性である。なぜなら非晶性膜のみが十分に厚く成長することができるからである。
【0042】
幾分還元された酸化物を有する遷移金属表面での分子状酸素の還元は、遷移金属酸化物表面で起こり得る複雑な酸化還元反応において重要な役割を果たす。酸化還元反応、及び金属酸化物で起こり得る活性酸素種(ROS)への酸素の還元を持続させるためには、金属酸化物は酸素還元を触媒的に支持しなければならず、電子は下流に供給されなければならない。驚くべきことに、これは、適切な触媒活性金属酸化物又は金属硫化物を、銀半導体化合物に電気的に結合することによって確実にすることができる。電気的結合は、例えば、微生物の酸化によって銀半導体電極から金属酸化物表面に電子が送達される、ガルバニ素子を作り出す。良好な電子伝導性を有する遷移金属半導体には、いくつかの金属硫化物、例えば、H2O2などの活性酸素化合物を形成する触媒活性を有する硫化ニッケル(NiS)及び二硫化モリブデン(MoS2)が含まれる。
【0043】
銀半導体半電池II:
銀/硫化銀の相境界(Ag2S)は、電子伝導を伴う2つの相によって形成される。Ag2Sは、硫化物を含む水溶液に浸漬処理するだけで銀表面に生成することができ、続けて浸漬中に容易に暗色化することができる。硫化銀は、広いpH範囲で全ての無機化合物の金属イオンに対して最も低い溶解度を有するため、銀イオンの送達は、微量作用の抗菌銀技術におけるような半電池の抗菌活性において役割を果たさない。NiS/Ag2S相境界には三元相が発生しないため、硫黄の化学ポテンシャルはAg2Sと平衡状態にある。導電性接触している2つの金属硫化物は、驚くほど効果的な生物活性層システムであることが示されている。
【0044】
二硫化モリブデン(MoS2)は、光に曝露されると導電性、及び活性酸素種を形成する触媒活性が増加する電子伝導体である。二硫化モリブデンは、水及び希酸に可溶性ではない。アルカリハロゲン化物とは対照的に、AgBr、AgCl、AgJなどのハロゲン化銀は、高い共有結合割合を有する。銀イオンの高い分極率に基づくこの構造特性は、ハロゲン化銀(AgX)の低い溶解度(AgCl>AgBr>AgJ>Ag2S)の原因でもある。ハロゲン化銀は、別個のバンド構造を有する真性半導体と考えることができる。通常、AgXの導電性は半導体のそれの範囲内である。電子の易動度が高いため、ハロゲン化銀はn型半導体のように作用する。ハロゲン化銀(例えば、AgBr、AgCl、AgJ)は、例えば写真において使用されるが、光分解性水分解にも使用される。
【0045】
ハロゲン化銀結晶の実際の構造では、禁制帯内、すなわち価電子帯と伝導帯との間のエネルギー領域内の欠陥の結果として、局所的なエネルギー準位が生じる。エネルギー位置に応じて、これらは電子供与体又は受容体トラップとして作用することができる。加えて、実際のハロゲン化銀結晶は、歪み、段差、転位などの構造的な乱れも示す。これらは、ハロゲン化銀結晶の活性部位の形成において重要な役割を果たす[Baetzold 2001]。ハロゲン化銀の活性部位は、とりわけ、写真及び光分解におけるプロセスにとって重要である。格子間銀イオンが捕捉された電子と反応して銀クラスタを形成することは、広く受け入れられている。電子は表面の優れた部位(活性部位)で捕捉される。格子間銀イオンは、捕捉された電子に移動する。さらに、いくつかのより大きな銀クラスタが同じ反応によって形成される。臭化銀(AgBrはAgClに非常に類似している)で、例えば、光機構が不安定な銀原子から始まることを示すことができた。原子寿命の間、電子は不安定な原子に拡散し、銀アニオンを形成することができ、それは続いて格子間銀イオンを中和することができる。
Ag-(AgCl格子中)+Ag+(AgCl格子間)→Ag2(0)(AgCl格子中)
【0046】
このようにして、銀原子は電子を捕捉し、続いて二量体銀になることができる[Baetzold 2001]。電子が捕捉された部位は、ハロゲン化銀結晶中の活性中心である。ハロゲン化銀は触媒として作用し、消費されない。電子捕捉によって還元された銀がアノード的に再酸化される場合、次いで循環プロセスが生じる。この循環プロセスでは、銀イオンはAgCl結晶から放出されない。全ての銀イオンがハロゲン化銀結晶中で結合している。スルフィド処理によって、塩化銀格子中にAg2S粒子を形成することができ、それは、AgCl半導体中の電子トラップとして作用することもでき、さらに負電荷を捕捉することができる。このプロセスは、写真の基本プロセスの説明における「Ag2S熟成核」のモデルに対応する。このモデルによれば、触媒的に支援されたガルバニ半電池のAgCl/Ag2S表面を使用して、微生物から電子を受け取り、微生物を酸化的に死滅させることもできる。
【0047】
本発明は、以下の図及び例においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】銀/塩化銀上に電気化学的に調製された酸化ルテニウム膜の写真画像を示す。
【
図2】2つの培養プレートの部分的な写真画像を示す。銀/塩化銀上の酸化ルテニウム層の抗菌効率を決定するために、大腸菌(DSM498,10
7/ml)の細菌を含む懸濁培養物を50μlで沈着させた。次いで、サンプルシートをLB寒天上にプレーティングし、37℃で18時間インキュベートした。サンプルをコーティングした側を矢印で示す。 a)(a)10サイクル、(b)25サイクル、(c)50サイクル[矢印:全てのサンプルが大きな阻害ゾーンを示す]; b)(b)銀粒子と混合したルテニウム粉末[阻害領域なし]、(c)銀/塩化銀粒子***と混合した酸化ルテニウム粉末*[大きなゾーン領域](LB寒天上に200μlで沈着させ、37℃で18時間インキュベートした10exp7大腸菌(DSM498)に対する有意な抗菌活性)。
【
図3】培養プレートの部分的な写真画像を示す。K
2S処理された、銀プレート上の電気化学的に調製された多孔質酸化ルテニウム層は、非常に高い抗菌効果を示す[部分的な片側コーティング(矢印)にもかかわらず、非常に大きな阻害ゾーンは縁を包含し、酸素ラジカルの形成に起因する可能性がある];(LB寒天上に200μlで沈着させ、37℃で18時間インキュベートした10exp7大腸菌(DSM498))。
【
図4】2つの培養プレートの部分的な写真画像を示す。酸化ルテニウムで多孔性に電解コーティングした銀コーティングガラスビーズ(D=40μm)の抗菌活性、ルテニウム電解質:ニトロシル硝酸ルテニウム;細孔を通してアクセス可能なガラスビーズの銀表面の塩化銀の形成を伴う塩化物溶液中での後処理;(10exp7大腸菌(DSM498)200μlをLB寒天上に沈着させ、37℃で18時間インキュベートした)。K
2Sでの後処理及び異なるルテニウムコーティング時間(t)、同じコーティング厚について、ニトロシル硝酸ルテニウム電解質の低速堆積では、塩化ルテニウム電解質よりも著しく長くかかる: (a)サンプル42、t=1時間;(b)サンプル43、t=2時間;(c)サンプル44、t=3時間;(d)サンプル42、t=1時間、K
2S中でのインキュベーション;(e)サンプル43、t=2時間、K
2S中でのインキュベーション;(f)サンプル44、t=3時間、K
2S中でのインキュベーション。
【
図5】マウス線維芽細胞の写真画像を示す。接着性マウス細胞での酸化ルテニウム/塩化銀粒子(D=40μm)の殺菌効果:(a)開始;(b)180分後(赤色着色(ここでは白黒で見えない)はマウス線維芽細胞の死滅を示す)。
【
図6】培養プレートの写真画像を示す。銀/塩化銀又は銀/硫化銀プレート上の酸化バナジウム層の抗菌効率;10exp7大腸菌(DSM498)をLB寒天上に200μlで沈着させ、37℃で18時間インキュベートした): b)銀/塩化銀上の酸化バナジウム、1分間のコーティング時間; d)銀/塩化銀上の酸化バナジウム、10分間のコーティング時間; f)銀/塩化銀上の酸化バナジウム、30分間のコーティング時間; c)銀上の酸化バナジウム、コーティング時間1分、K
2S後処理; e)銀上の酸化バナジウム、コーティング時間10分、K
2S後処理; g)銀上の酸化バナジウム、コーティング時間30分、K
2S後処理;
【
図7】培養プレートの部分的な写真画像を示す。酸化バナジウム銀/塩化銀ガラスビーズ(D=40μm)の抗菌活性;10exp7大腸菌(DSM 498)200μlをLB寒天上に沈着させ、37℃で18時間インキュベートした)。
【
図8】培養プレートの部分的な写真画像を示す。酸化ニッケル銀/塩化銀、及び銀/硫化銀プレート上の硫化ニッケルの抗菌活性;10exp7大腸菌(DSM 498)200μlをLB寒天上に沈着させ、37℃で18時間インキュベートした)。 左:酸化ニッケル銀/塩化銀:非常に低い抗菌活性[非常に小さい阻害ゾーン]; 右:硫化ニッケル-銀/硫化銀:驚くほど強い抗菌活性[大きな阻害ゾーン]。
【
図9】1%硫化カリウム溶液中でルテニウム電極を30分間インキュベートした後、0.1M NaClO
4及び0.01M NaCl中で短絡した場合の銀及びルテニウムの電流-時間曲線を示す。
【
図10】粉末混合物の抗菌活性を説明するための、2つの培養プレートの部分的な写真画像を示す。a)K
2S中でのインキュベート後の銀/ルテニウム;b)K
2S中でのインキュベート後の銀/酸化ルテニウム;c)K
2S中でのインキュベート後の硫化銀/ルテニウム;d)K
2S中でのインキュベート後の硫化銀/酸化ルテニウム;R)参照サンプル;参照番号mB-003-2013。
【
図11】1% K
2S中でRuO
x電極をインキュベートした後に、電極の組み合わせAg/RuO
xのために形成された塩化銀層の還元についての電流-電圧曲線を示す。Ag/Ag
+(0.1M)に対する電流-電圧曲線、10mV/s;a)1時間後;b)2時間後;c)3時間後;d)4時間後。
【
図12】異なる粉末量に対して異なるルテニウム堆積法によって調製された2つのルテニウム/酸化ルテニウム//銀/塩化銀(Ru/RuOx//Ag/AgCl)粉末(AP 383及びAP 823)を使用した、MRSA細菌の増殖曲線を示す。
【
図13】サンプルRu(P01)及びRuOx(P03)をそれらの抗菌活性に関して比較した培養プレートの部分的な写真画像を示す。P01:PVDコーティングPE膜(サンプルRu)、及びP03:PVD酸化コーティング膜(サンプルRuOx);両方とも二重測定(LB寒天、30℃で3日間;大腸菌(DSM 498)を含む懸濁培養;10exp8/mlを200マイクロリットルでプレーティング)。
【
図14】電気めっきされたRu/RuOx//Ag/AgCl粉末サンプル825及び392、ならびにポリエチレン膜上のRu/RuOx//Ag/AgOx PVDコーティング(サンプルRu及びRuOx)のXPS表面分析(Ru3dスペクトル)を示す。
【
図15】サンプル825、392、Ru、RuOxのO1sスペクトルを示す。
【
図16】Ru/RuOx//Ag/AgCl粉末(825、ベース銀粒子)の、可視光照射あり(露光した)及びなし(非露光)の増殖曲線を示す。
【実施例】
【0049】
外来金属による潜在的な干渉効果を排除するために、電極での全ての実験について、純銀シート又は銀コーティングをコーティング基材として選択した。
【0050】
例1:銀/塩化銀上の多孔質酸化ルテニウム層
銀/塩化銀上の微孔質酸化ルテニウム網目の抗菌活性を調べるために、含水酸化ルテニウムを銀シート上に電気化学的に堆積させ、サンプルの抗菌効率を調べた。酸化ルテニウムの全ての堆積層は、暗い茶色がかった灰色を呈する。
図1は、10サイクル後の酸化ルテニウム層を示す。XPS分析は、電気化学的又は化学的還元的に堆積された酸化ルテニウム層において、ルテニウムが実際に全ての酸化状態で検出可能であることを示した。
【0051】
銀上への酸化ルテニウム層の堆積:水酸化ルテニウム(RuOx-nH2O)を片面を研磨した銀シート(1.0cm×2.5cm)上に堆積させた。コーティング面積は、それぞれ0.5cm×1.0cmであった。酸化物層を、NHEに対して0V~0.84Vの電位範囲での銀シートの電気化学的サイクルによって堆積させた。使用した電解質は、50℃の温度で0.005M RuCl3、0.01M HCl、及び0.1M KClからなっていた。10、25、50サイクルで堆積を行った。酸化ルテニウム層は塩化物を含む電解質由来であったので、露出した銀表面は直接塩化銀に変換された。
【0052】
全てのサンプルについて非常に良好な抗菌活性が観察された。10サイクルのコーティング継続期間の間に既に、最大に拡大した阻害ゾーンが形成された(
図2a(a))。コーティング時間を25サイクル(
図2a(b))又は50サイクル(
図2a(c))まで延長しても、抗菌効率のさらなる増加は生じなかった。サンプルの裏面はマスキングされていたが、サンプルのコーティングされた側と同様に高い抗菌活性が観察され、これは形成された酸素ラジカル及び微小電界によって説明することができる。
【0053】
驚くべきことに、酸化ルテニウムと塩化銀粒子との混合物によっても有意な抗菌効果が得られた。
【0054】
図2bは、塩化銀でコーティングされた小さな銀粒子と乳鉢で混合した酸化ルテニウム粉末*が寒天上に大きな阻害ゾーンを形成し、したがって高い抗菌活性を示していることを示す(サンプルc)。酸化ルテニウム水酸化物粉末**(図示せず)についても同様である。驚くべきことに、小さな銀粒子と混合された純ルテニウム粉末は阻害ゾーンを示さず、したがって抗菌効果を示さない(サンプルb)。この実験は、抗菌仕上げのための酸化ルテニウム形成及び半導体塩化銀の重要性を実証している。
【0055】
[(*)酸化ルテニウムの調製:
Ruthuna478溶液を水酸化カリウム(10g/l)及び過酸化水素(5%)と混合する。黒色沈殿物を遠心分離し、蒸留水及びエタノールで数回洗浄し、70℃の乾燥オーブンで乾燥させる。
【0056】
(**)酸化ルテニウム水酸化物の製造:
Ruthuna478溶液を水酸化カリウム(10g/l)と1:1比で混合する。1週間後、茶色の綿状沈殿物を遠心分離し、蒸留水及びエタノールで数回洗浄し、70℃の乾燥オーブンで乾燥させる]。
【0057】
例2:銀/硫化銀上の多孔質酸化ルテニウム層
多孔質の酸化ルテニウム網目でコーティングされた銀電極上に、1%の硫化カリウム溶液に室温で5分間浸漬することによって硫化銀層を形成した。酸化ルテニウム網目の下に露出した銀シート上に暗色の硫化銀層を形成した。30分の浸漬時間でも同じ結果が得られ、硫化銀層の着色がわずかに暗くなった。
【0058】
酸化ルテニウム-銀/硫化銀表面は、サンプルの抗菌効率が、10サイクルの電気化学的酸化ルテニウム堆積期間後の硫化物処理によって再び有意に増加したことを示した(
図3)。阻害ゾーンの直径は、酸化ルテニウム/塩化銀表面と比較して約2倍であった。硫化銀の溶解度(溶解度積:8×10exp-51(25℃))が極めて低いため、微量作用銀システムのような銀イオンの影響を排除することができる。
【0059】
多孔質酸化ルテニウムコーティングの塗布は、ガラスビーズ(D=40μm)などの微粒子担体上で電解的又は化学的に還元的に行うこともできる。
図4は、酸化ルテニウムコーティングを有する銀コーティングガラスビーズの抗菌効果を示し、そこでは、微孔質酸化ルテニウム網目を通して露出した銀コーティング表面に塩化銀及び硫化銀の両方が形成されている。この場合、硝酸ニトロシルルテニウムは、塩化物及び硫化物を含まないルテニウム電解質の塩基として機能した。塩化物溶液中での後処理によって、酸化ルテニウムでコーティングされていない微孔質堆積構造の領域に塩化銀が形成された。硫化銀は、室温で1%硫化カリウム溶液で後処理することによって形成した。
図4に見られるように、大腸菌細菌は、酸化ルテニウム/塩化銀変種(a~c)及び酸化ルテニウム/硫化銀変種(d~f)の両方で死滅する。塩化物溶液中でのインキュベート後、酸化ルテニウム/塩化銀ビーズは一貫して非常に高い抗菌効率を示す(
図4a~
図4c)。硫化カリウム溶液中でインキュベートした後、酸化ルテニウム/硫化銀システムの抗菌活性は、酸化ルテニウムの堆積時間の増加と共に増加することが分かる(図d→f)。
【0060】
酸化ルテニウム/塩化銀表面を有するガラスビーズも、マウス線維芽細胞に対して試験した。
図5が示すように、この半導体システムでコーティングされたガラスビーズはまた、蛍光顕微鏡で赤色で現れる死滅マウス線維芽細胞によって示されるように、接着性マウス線維芽細胞に対して高い殺菌活性を有する。
【0061】
例3:銀/塩化銀又は銀/硫化銀上の多孔質酸化バナジウム層
酸化バナジウムを銀/塩化銀シート上に電気化学的に堆積させた。銀シート(1.0cm×2.5cm)上に、1mA/cm
2 NH
4V
3O
8-0.5 H
2Oの電流密度でアノード堆積を行った。コーティング面積は、0.5cm×1.0cmであった。堆積は、50℃の温度でのメタバナジン酸アンモニウムの0.15M溶液から行った。堆積時間は、それぞれ1、10、30分、及び1時間であった。銀シート上に橙褐色の析出物が形成された。サンプルを300℃で24時間アニーリングすることによって、酸化バナジウムの均一な層が形成された。しかしながら、厚さが増した酸化バナジウム層は銀基材から剥離した。これは、30分及び60分の堆積時間で調製された2つのサンプルに影響を与えた。それでも、30分の堆積継続時間のサンプルを、その抗菌活性について試験した。非常に高い抗菌効率が、1分の堆積継続時間で既に得られ得る(
図6、サンプルb、d、f)。コーティングした側を矢印で記す。しかしながら、10分の堆積時間では、抗菌活性のさらなる増加がないことは明らかである(
図6、サンプルd)。
図6、サンプルfは、コーティングの大部分は剥離していたが、30分の堆積時間後のサンプルの抗菌活性を示す。それでも、このサンプルは、減少しない、高い抗菌効率を有する。したがって、銀上の非常に薄い酸化バナジウムの層であっても、高い抗菌活性を発生させることが推測され得る。多孔質酸化バナジウム網目のフリー空間に硫化銀層を形成できるように、さらなるサンプルを1%硫化カリウム溶液で5分間さらに処理した。銀/硫化銀の半電池を有するサンプルの抗菌効率を
図6、サンプルc、e、gに示す。コーティングした側を矢印で記す。酸化バナジウムでコーティングされたサンプル上にわずか1分間で硫化銀層が形成されたため、寒天上に阻害ゾーンは見えなかった(
図6、サンプルc)。堆積時間が長くなるにつれて、より厚い酸化バナジウム層が生成され、それは抗菌活性を示した(
図6、サンプルe、g)。酸化バナジウム層の厚みが増した場合でも、30分後に酸化物層の一部が綿状になり、薄い酸化バナジウム層のみが残り、これは、試験した酸化バナジウム-銀/硫化銀層の最大阻害ゾーン、したがってK
2Sでの処理後の比較的高い抗菌活性を示した(
図6、サンプルg)。この結果は、酸化物層における異なる酸化状態の重要性を示している。酸化バナジウム層のアノード堆積では、定電流操作の場合における層の厚さの増加に伴って電極電位が変化し、その結果バナジウムカチオンの異なる酸化状態を形成し、したがって触媒特性も改善することができる。
【0062】
多孔質酸化バナジウムの電着もまた、銀/塩化銀コーティング粒子状担体上で首尾よく実施された。銀コーティングガラス球を酸化バナジウムで電解コーティングするために、バレルめっき法を用いた。2.5Vの電圧でのメタバナジン酸アンモニウムの0.15M溶液からの酸化バナジウムのアノード堆積を、340rpmの回転速度及び70°の傾斜角で15分間行った。コーティングされたビーズの沈降後、電解質をデカントし、コーティングされたガラスビーズを400mlの蒸留水で4回洗浄した。次いで、ビーズを300℃の温度で24時間アニーリングし、その間に酸化バナジウムが形成された。高い抗菌活性を有する、淡い灰色がかった茶色ビーズが得られる。
図7は、調製されたガラスビーズの抗菌効率を示す。
【0063】
例4:酸化ニッケル又は硫化ニッケル-銀/硫化銀
銀シートを塩化ニッケル処理(濃NiCl
2 *6 H
2O、浸漬時間24時間、室温)した後、銀サンプル表面の変化は光学的に観察され得ない。これは、記載された堆積条件下で、銀表面上に非常に薄いニッケル汚染のみが発生したことを意味する。したがって、酸化ニッケルがほとんど形成されなかったので、サンプルの非常に低い抗菌活性しか検出することができない(
図8、左)。抗菌活性は、より厚い酸化ニッケル層を堆積させることによって著しく改善される。
【0064】
一方、ニッケル核のみを備えたこの層システムのスルフィド処理による結果は、興味深く、予想外であった。硫化カリウムで処理した後、銀表面に堆積したニッケル核上に硫化ニッケルが形成される。このプロセスでは、塩化銀で覆われた遊離銀表面領域においても、K
2S処理が塩化銀を難溶性の硫化銀で置き換える。驚くべきことに、硫化ニッケル-銀/硫化銀層システム系は、非常に高い抗菌効果を示す(
図8、右)。
【0065】
例5:硫化物イオンによる半元素(semi-element)の後処理
ルテニウム電極に対する硫化物イオンの影響をさらに調査した。したがって、研磨したルテニウム電極を1%硫化カリウム溶液中で30分間インキュベートした。続いて、ルテニウム電極と銀電極とを短絡させた。使用した電解質は、0.1M過塩素酸ナトリウム及び0.01M塩化ナトリウムであった。硫化物含有溶液中でルテニウム電極をインキュベートすると、その電位が負電位範囲に非常に強くシフトするので、電極でのプロセスが逆転する。したがって、ルテニウム電極では酸化が生じ、銀電極では還元が生じる。2つの電極における電気化学的プロセスの変化もまた、抗菌効率に影響を及ぼす。
【0066】
硫化カリウム溶液中で予めインキュベートした銀粉末とルテニウム粉末との混合物は、抗菌活性が減少しないことを示す(
図10の文字a)。対照的に、K
2S処理後に未処理銀粉末と混合した酸化ルテニウム粉末を用いてK
2S実験を実施した場合、抗菌有効性がないことが明らかである(
図10の文字b)。したがって、硫化カリウム溶液中の酸化ルテニウムの処理は、サンプル混合物の抗菌活性を完全に阻害する。
【0067】
ルテニウム又は酸化ルテニウムに加えて、使用した銀粉末も硫化カリウム溶液中で予めインキュベートした場合、同一の様相が現れる。対応する硫化銀とK
2S処理ルテニウムとの混合物は抗菌効果をもたらすが(図中の文字c)が、他方、硫化銀とK
2S処理酸化ルテニウムとの混合物は抗菌特性を有さない(
図10の文字d)。
【0068】
一方で、結果は、硫化銀の形成がサンプル混合物の抗菌特性に不利益な影響を及ぼさないことを立証している。一方、ルテニウム及び酸化ルテニウムでは、それらを用いて調製したサンプル間に差がある。明らかに、酸化ルテニウム及び硫化物イオンは反応して、銀と組み合わせた場合に抗菌物質を放出しない安定な化合物を形成する。新たに形成された物質の触媒活性の喪失に加えて、電位位置の変化又は導電性の低下も、ここで役割を果たすことができる。硫化物処理ルテニウム粉末を用いたサンプルの低下しない高い抗菌活性の説明は、
図9に示す電流-時間曲線によって提供される。ルテニウム電極を硫化カリウム溶液中でインキュベートした後、硫化ルテニウムの薄い被覆層が形成された。銀との接触は最上層を酸化的に溶解し、その結果、酸化ルテニウムの触媒活性層が電極表面上に再び形成することができ、電気化学的プロセスは最終的に逆転する。
図9によれば、電流は最初の4分以内に著しく低下する。10分後でも、定電流はない。しかしながら、この時点では、ルテニウム電極で依然として酸化が起こっている。40分後、2つの電極間の電流は測定され得ない。電極におけるアノードプロセス及びカソードプロセスは、互いに打ち消し合う。次いで、電極の極性が逆転され、その結果、銀電極はもうアノードであるが、還元はルテニウム電極で再び起こる。したがって、ルテニウムと硫化カリウムとの反応は不可逆的ではなく、4時間の短絡期間の後、銀電極で0.2μAのアノード電流を再び測定することができる。
【0069】
電極プロセスの逆転はまた、銀電極における塩化物含有電解質中の塩化銀のその後の形成から観察することができる(
図11)。短絡期間後1時間(
図11a)及び2時間(
図11b)で、塩化銀の形成は、CVダイアグラムにおいてまだ検出できない。このとき、銀電極では、非常に小さいがアノード電流が既に測定可能である。3時間後にのみ、塩化銀の還元の小さな電流波が検出可能である(
図11c)。しかしながら、4時間後、塩化銀還元についての顕著な電流信号がCV図において得られる(
図11d)。
【0070】
例6:間接的な2段階化学還元堆積プロセス後のルテニウム/酸化ルテニウム堆積による抗菌効果の驚くべき増加。
ルテニウムは、種々の強力な還元剤(例えば、NaBH4、N2H4)を用いて、例えば銀表面に直接、1段階で化学的還元的に堆積させることができ、それに応じてルテニウム/酸化ルテニウムを銀表面に塗布することができる。しかしながら、ルテニウム/酸化ルテニウムは、2段階プロセスで堆積させることもでき、そこでは第1の工程で最初にルテニウムが酸化され、酸化されたルテニウムが第2の工程においてのみ、ルテニウム及び酸化ルテニウム酸化物に還元される銀粒子上へのルテニウム/酸化ルテニウム堆積のための異なるプロセス経路は、同等の抗菌効果をもたらすと予想された。しかしながら、驚くべきことに、2段階プロセスは、直接的な1段階ルテニウム堆積プロセスと比較して、黄色ブドウ球菌(MRSA)及び緑膿菌に対する銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウムの抗菌活性がほぼ1桁高いことが分かった。強い還元剤によるRu(III)イオンの直接的な1段階還元とは異なり、間接的な2段階プロセスは、Ru(III)イオンの酸化ルテニウム(VIII)への酸化に依存する[Chen 2011]。RuO4は、適切な還元剤によって酸化ルテニウム(IV)に変換され、基材を酸化ルテニウム(IV)の層でコーティングする強力な酸化剤である。Ru(III)イオンのRuO4への酸化は、次亜塩素酸ナトリウムによって行われる。RuO4を安定化するために、プロセスはアルカリ媒体中で行われる。RuO2への還元は亜硝酸ナトリウムによって行う。
【0071】
ルテニウム堆積用の間接的な2段階プロセスを用いた銀粒子上へのRu/RuOxの化学還元堆積による、半導体銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末の調製(AP 383):
50gの銀粉末(東洋ケミカル工業、SBA10M27)を、1000mlの脱イオン水を含む超音波浴中の2000mlの三つ口フラスコ中でスラリーにした。KPG撹拌機を用いて300rpmでさらに撹拌した。2時間後、茶色懸濁液をデカンテーションによって別の2000ml三つ口フラスコに移した。超音波浴及びKPG撹拌機での撹拌中、10mlのRu(NO)(NO3)3溶液(10.83g/l)を添加した。次いで、以下の溶液の混合物を懸濁液に添加した:
NaClO溶液300ml(14%)、
NaOH溶液100ml(10g/l)、
NaNO2溶液87.5ml(10g/l)。
【0072】
銀粉末はすぐに色が暗くなった。次いで、懸濁液を超音波浴中で1時間撹拌した。コーティングされた粉末の沈降後、黄色上清をデカントした。粉末を脱イオン水に溶解し、濾別した。脱イオン水で洗浄した後、粉末をエタノールで溶解し、濾別し、60℃の温度の乾燥オーブンで乾燥させた。
【0073】
抗菌効果:
驚くべきことに、酸化ルテニウムがそれぞれ1段階及び2段階プロセスで化学的還元的に堆積された銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末は、MRSA細菌(グラム陽性菌)に対する抗菌試験において著しく大きな差を示す。強還元剤水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を使用して銀粒子上に直接ルテニウム還元によって堆積された銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP823)は、2段階法によって堆積された銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP383)よりもほぼ1桁低い抗菌活性を示した。
図12は、2つのルテニウム/酸化ルテニウム//銀/酸化銀粉末を異なる粉末量で使用した場合の、MRSA細菌の増殖曲線を示す。増殖曲線の形状から分かるように、2段階銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP383)は、2.5mgの秤量粉末量でMRSA細菌の完全な死滅を示したが、1段階銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP823)は、15mgの粉末量でのみ完全な死滅を示した。したがって、2段階ルテニウム堆積は、1段階法と比較して有意に増加した抗菌効果を有することが分かった。これは、8時間の実験期間全体にわたる完全な殺菌性に要する粉末の量が、サンプル383については2.5mgのみであり、(392と同等のRu堆積法)、サンプル823については10mg超、すなわち約1/4~6に減少するいう事実によって示されている。粉末(AP823)と(AP383)の両方のタイプの、緑膿菌PA 14(グラム陰性菌)に対する抗菌活性の研究で、抗菌活性の比較的大きな差(約1桁)が見られた。
【0074】
抗菌効果は、第1の半電池に酸化ルテニウム(VI)を含むサンプルで特に高い(表1)。明らかに、酸化ルテニウム(VI)は、ルテニウム堆積に強い酸化効果を用いるプロセス工程が存在する場合、ルテニウムの電気化学及びPVD堆積の両方で得ることができる(392及びRuOx)。XPS表面分析は、おそらくは特定の酸化ルテニウム(VI)/酸化ルテニウム(IV)比に応じて、抗菌効果と酸化ルテニウムの組成との間の相関を示す。いずれの場合でも、酸化ルテニウム(VI)の存在は、抗菌活性の増強に有益であるか、又は必要でさえある。
【表1】
【0075】
文献の結合エネルギー(eV):
・Ru(0):Ru 3d:280,2 eV;J.F.Moulder,W.F.Stickle,P.E.Sobol and K.D.Bomben:Handbook of X Ray Photoelectron Spectroscopy:A reference of Standard Spectra for identification and interpretation of XPS Data,J.Chastain and J.R.C.King,Editors,p.115,Physical Electronics Eden Prairie,Minnesota(1995)
・RuO2:Ru 3d:280,66 eV;T.P.Luxton,M.J.Eick,K.G.Schekel;Journal of Colloid and Interface Science 359,(2011)30-39
・RuO3:Ru 3d:282,5 eV;T.P.Luxton,M.J.Eick,K.G.Schekel;Journal of Colloid and Interface Science 359,(2011)30-39
RuO3:Ru 3d:282.4 eV;R.Kotz,H.J.Lewerenz and S.Stucki;J.Electrochem.Soc.130,No.4,1983,825-829.
【0076】
例7:Ru/RuOx//Ag/AgCl又はAgOx半電池の組み合わせにおける差
銀上への湿式化学的2段階Ru堆積に加えて、ルテニウム及び銀もPE箔上へのPVDコーティングによって堆積され、これには、PVDサンプル上に塩化銀が存在せず、検出され得る任意の差を、より明白にルテニウム半電池に起因するものと考えることができる、という利点がある。
(A)PVD堆積:
・(a)銀へのルテニウムスパッタリング(サンプル呼称「Ru」)。
・(b)銀及びルテニウムの反応性スパッタリング(O2)(サンプル呼称「RuOx」)。
(B)化学還元的ルテニウム堆積:
・(c)銀へのルテニウム堆積のための直接還元(サンプル呼称「825」)。
・(d)既に記載された2段階プロセス(酸化+その後の還元、でルテニウムを還元して銀上に堆積する(サンプル呼称「392」)。
【0077】
これらの4つのサンプルを増殖曲線及び表面組成(XPS分析)によって分析した。その結果、両方の調査において、XPS分析によれば、それぞれの群(A)又は(B)内だけでなく、群(A)と(B)との間でも差が生じ、表面組成の顕著な差異に対応する抗菌効率の増加が示された。
【0078】
図13は、寒天試験におけるPVDコーティングサンプルRu(P01)とRuOx(P03)との抗菌効果に関する比較を示す。阻害ゾーンの形成(二重測定)から分かるように、RuOxサンプル(P03)は、サンプルP01よりも大腸菌に対して有意に高い抗菌効果を有する。
【0079】
図14は、サンプルRu(a)、RuOx(b)及び825(c)、392(d)のXPSスペクトルを示す。抗菌試験は、上記のように、Ru/RuOx//Ag/AgCl及びAgOx半電池の組み合わせの化学還元堆積及びPVD堆積にそれぞれ有意差があることを示した。XPS分析は、顕著に差を示し、それは抗菌効果の差に対応する。Ru3dスペクトルに見られるように(
図14)、化学的還元的に調製されたサンプルの群825(c)(曲線(1))、392(d)(曲線(2))、及びPVDコーティングされたサンプルの群Ru(a)(曲線(3))、RuOx(b)(曲線(4))の両方において1つの群内、及び2つの群の間の以下の顕著な差がある。
・金属ルテニウム(BE=280.1 eV)からの狭い信号が、サンプル825(a)の曲線1に見られる。サンプルRuのスペクトルはほとんど(65%)金属ルテニウムからなり、約24%がRuO
2に割り当てられる。
・RuOx(b)サンプル(曲線(4)-PVD酸化スパッタリング)は、有意に少ないRu(0)を含有し、炭素成分をより顕著にする。最大成分(BE=284.4 eV)は金属炭化物に起因すると考えられる(Cは明らかにPE膜のPVD洗浄に由来する)。スペクトルのルテニウム成分は、BE=282.1 eVの信号が支配的であり、これは約85%を占め、RuO
3**に割り当てることができる。この成分の半値幅は非常に大きいため、信号への他の化合物の寄与を排除することはできない。スペクトルの残りのRu成分は、Ru(VI)の酸化水和物又はルテニウムのより高い酸化状態によって引き起こされる。
【0080】
サンプル392(d)の曲線(2)は、サンプルRuOx(b)の曲線4と類似し、RuO3**も有意な濃度で含有する。しかしながら、酸化水和物であり得る他の化合物がさらに存在する。しかし、より大きな原子価を有するRu化合物も可能である。Ru(0)及びRuO2含有量は少ない。
【0081】
**)文献データ(表1)によれば、282.2eV~282.6eV間にRuO3が位置する。
【0082】
酸素O1sスペクトル(
図15)では、記載したサンプルのRu3dスペクトルについてのグループ分けが見られる。Ru及び825サンプルは、実質的に同一のスペクトル形状をもたらし、これを3つの成分と一致させることができる。金属酸化物は、BE=530eVであると予想される。より大きいBEの成分は、水酸化物及び水和物を表し得る。しかしながら、これらのかなりの部分は、吸着剤に起因し得る。RuOxサンプルは、おそらく吸着剤に大きく影響される。さらに、O原子を、酸化ルテニウム中に見ることができる。サンプル392は、ごくわずかな割合の酸化物酸素原子を示す。主要部分は水和物中で結合している。その間に、おそらくは水酸化物がさらに見つかることになる。
【0083】
例8:光は抗菌効果に実質的に影響しない
図16は、本発明による粉末形態の2つの半導体半電池から構成されるサンプル(825)の、光供給の有無による増殖曲線の例を示し、それによって、光供給の有無による抗菌効果の差は、測定精度の限界内で見ることができない。5mgの非常に低い粉末重量での増殖曲線の差は、可視光照射によるものではなく、この非常に少量の粉末を秤量する場合の測定の誤差によるものである。
【0084】
例5及び
図10に示すように、K
2Sで異なるように処理されたルテニウム及び銀粉末は、導電性半電池の組み合わせにおいて異なるレベルの抗菌活性をもたらす。Ag/Ag
2S又はAg粉末の第2の半電池と組み合わせる第1の半電池としての、ルテニウム粉末ならびに酸化ルテニウム粉末の硫化物処理(1% K
2S)は、完全に異なる抗菌効果をもたらす。
・半電池の組み合わせRuOx/Sx//AgならびにRuOx/Sx//Ag/Ag
2Sは、抗菌効果を全く示さない。
・一方、組み合わせRuS
2//Ag及びRuS
2//Ag/Ag
2Sは、非常に高い抗菌効果を示す。
【0085】
したがって、RuOx及びRuS
2は両方とも半導体であるが、硫黄の添加によって酸化ルテニウム半導体のみが抗菌的に無効になることは驚くべきことである。したがって、重要なのは半導体の存在だけでなく、特に単一の半導体半電池自体の形成である。一方、例5及び
図9は、水溶液中で第2の半電池Ag/AgClと接触させたRuS
2半電池がその表面組成を変化させ、抗菌効果を回復させたことを電流-時間曲線の例によって示しており、2つの半導体半電池の組み合わせにおける複雑な相互作用を示している。異なるルテニウム堆積プロセス及び得られた異なる半導体組成物、同じく短絡された半電池とK
2Sなどの溶液成分との接触、及び結果として生じる半電池の組み合わせの抗菌効果に関する大きな差の結果は、例えばルテニウムの場合、高い抗菌効果が必要とされる場合、第1の半電池設計が重要であることを明確に示している。第2の半電池との導電性接触はまた、抗菌活性に大きな影響を及ぼす第1のルテニウム含有半導体半電池の変化をもたらす。
【0086】
XPS分析は、試験したサンプルの酸化物組成のいくつかの相違を示す。抗菌効果の増加の顕著な、おそらくは主要な原因は、RuO2及び金属Ru(0)に加えて、高い抗菌効果を有するサンプル中のルテニウムの六価酸化状態の存在であり得る。特に、AgClが存在しないPVDサンプルでは、この側面からの抗菌効果を高める影響がない可能性がある。
【0087】
【国際調査報告】