IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クウェル セラピューティックス リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図1
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図2
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図3
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図4
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図5A
  • 特表-養子細胞療法に有用なポリペプチド 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】養子細胞療法に有用なポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230619BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230619BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230619BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C12N15/62
C07K19/00 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/0783
A61K48/00
A61K35/12
A61P35/00
A61P31/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572753
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2021064053
(87)【国際公開番号】W WO2021239812
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】2007842.4
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522164226
【氏名又は名称】クウェル セラピューティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス‐ローデラ、マーク
(72)【発明者】
【氏名】ボルンシャイン、ジーモン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4C084AA13
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB08
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZB32
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB32
4H045AA10
4H045BA09
4H045BA41
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、式R1-L-R2-Stを有する配列を含むポリペプチドであって、式中、R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、Stは、前記ポリペプチドが標的細胞の表面に発現すると、R1およびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、Lは、R1のC末端とR2のN末端とをつなぐ可動性リンカー配列である、ポリペプチドを提供する。特に、前記リンカー配列は、配列番号1に記載の配列を含むQBEnd10結合エピトープを含まない。ポリペプチドは、当該ポリペプチドを発現する細胞の排除を可能にする自殺部分として機能し、養子細胞療法に有用である。本発明はまた、このようなポリペプチドをコードする核酸、このような核酸を含む細胞、およびその治療的使用を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の配列を含むポリペプチドであって、
R1-L-R2-St
式中、
R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが標的細胞の表面に発現すると、R1エピトープおよびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列(stalk sequence)であり、
Lは、R1のC末端とR2のN末端とをつなぎ、かつ、配列番号1に記載の配列を含むQBEnd10結合エピトープを含まない可動性リンカー配列である、ポリペプチド。
【請求項2】
Lが、下記(i)から(v)から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のポリペプチド:
(i)長さが25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、または21アミノ酸以下である可動性リンカー配列;
(ii)Gly残基、またはGly残基とSer残基とを、少なくとも40%含むリンカー配列;
(iii)Ser残基および/またはGly残基と、他のアミノ酸残基15以下、好ましくは他のアミノ酸残基14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下とを含むリンカー配列;
(iv)アミノ酸残基の少なくとも80%、90%、または100%がSer残基、Gly残基、Thr残基、Ala残基、Lys残基、およびGlu残基であるアミノ酸配列を有するリンカー配列;
(v)Pro残基を含まないアミノ酸配列を有するリンカー配列。
【請求項3】
Lがマーカー配列を含まない、請求項1または請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
リンカー配列Lが、Ser残基およびGly残基のみからなるGly-Serドメインを少なくとも1つと、他のアミノ酸残基15以下、好ましくは他のアミノ酸残基14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下とを含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記Gly-Serドメインが下記式を有する、請求項4に記載のポリペプチドであって、
(S)q-[(G)m-(S)m]n-(G)p
式中、qは0または1であり、mは1~8の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、または好ましくは1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である、ポリペプチド。
【請求項6】
前記Gly-Serドメインが下記式を有する、請求項5に記載のポリペプチドであって、
(i)S-[(G)m-S]n;
(ii)[(G)m-S]n;または
(iii)[(G)m-S]n-(G)p
式中、mは2~8(好ましくは3~4)の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、または好ましくは1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である、ポリペプチド。
【請求項7】
前記Gly-Serドメインが下記式を有する、請求項4から6のいずれか一項に記載のポリペプチドであって、
S-[G-G-G-G-S]n
式中、nは1以上(好ましくは、1~8、または1~6、1~5、1~4、もしくは1~3)の整数である、ポリペプチド。
【請求項8】
前記リンカー配列が、下記から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリペプチド:
ETSGGGGSRL(配列番号32)
SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号33)
S(GGGGS)1-5(ここで、GGGGSは配列番号31である)
(GGGGS)1-5(ここで、GGGGSは配列番号31である)
S(GGGS)1-5(ここで、GGGSは配列番号34である)
(GGGS)1-5(ここで、GGGSは配列番号34である)
S(GGGGGS)1-5(ここで、GGGGGSは配列番号35である)
(GGGGGS)1-5(ここで、GGGGGSは配列番号35である)
S(GGGGGGS)1-5(ここで、GGGGGGSは配列番号36である)
(GGGGGGS)1-5(ここで、GGGGGGSは配列番号36である)
6(配列番号37)
8(配列番号38)
KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号39)
EGKSSGSGSESKST(配列番号40)
GSAGSAAGSGEF(配列番号41)
SGGGGSAGSAAGSGEF(配列番号42)
SGGGLLLLLLLLGGGS(配列番号43)
SGGGAAAAAAAAGGGS(配列番号44)
SGGGAAAAAAAAAAAAAAAAGGGS(配列番号45)
SGALGGLALAGLLLAGLGLGAAGS(配列番号46)
SLSLSPGGGGGPAR(配列番号47)
SLSLSPGGGGGPARSLSLSPGGGGG(配列番号48)
GSSGSS(配列番号49)
GSSSSSS(配列番号50)
GGSSSS(配列番号51)
GSSSSS(配列番号52)
SGGGGS(配列番号53)。
【請求項9】
前記リツキシマブ結合エピトープR1およびR2が、それぞれ、以下(a)または(b)を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリペプチド:
(a)コンセンサス配列X1-C-X2-X3-(A/S)-N-P-S-X4-C(配列番号2)のアミノ酸配列であり、前記配列中、X1はAもしくは存在せず、X2、X3、およびX4は任意のアミノ酸である、アミノ酸配列;
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列、もしくは、当該アミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有し、かつリツキシマブ結合活性を保持するその変異体。
【請求項10】
前記リツキシマブ結合エピトープR1およびR2に関する前記コンセンサス配列X1-C-X2-X3-(A/S)-N-P-S-X4-C(配列番号1)において、X2がP、N、S、M、WまたはE、X3がY、F、W、AまたはH、X4がL、T、MまたはQである、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記リツキシマブ結合エピトープR1およびR2がそれぞれ、配列番号4~14もしくは配列番号15~25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、または、当該アミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有し、かつリツキシマブ結合活性を保持するその変異体を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
前記ストーク配列Stが、当該ストーク配列をR2につなぐ任意選択のリンカー配列と、細胞外ドメインと、任意選択の膜貫通ドメインと、任意選択の細胞内ドメインと、を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記ストーク配列Stが、当該ストーク配列をR2につなぐリンカー配列と、細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインと、を含む、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
前記ストーク配列Stが、CD27、CD28、CD3イプシロン、CD3z、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD18、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、CD278、CD279、IgG1、またはIgG2から選択されたタンパク質の細胞外ストーク配列に由来する細胞外ドメインを含み、任意選択的に、(i)膜貫通ドメイン、または(ii)膜貫通ドメインおよび前記タンパク質由来の細胞内ドメインを共に含み、前記細胞外ストーク配列、前記膜貫通ドメイン、および前記細胞内ドメインは、同一または異なるタンパク質由来であってもよい、請求項12または請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記ストーク配列Stが、細胞外ストーク配列、膜貫通ドメイン、およびCD8由来の細胞内ドメインを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記ストーク配列Stが、配列番号26に記載のアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項15に記載のポリペプチド。
【請求項17】
配列番号27、28、78、もしくは79に記載の配列、または、当該配列に対して少なくとも75%の同一性を有し、(i)リツキシマブと結合し、(ii)細胞の表面に発現すると、リツキシマブの存在下で当該細胞の死滅を誘導する配列を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
ポリペプチド融合パートナーに、任意選択的にリンカー配列を介して連結された、請求項1から17のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項19】
前記融合パートナーが、マーカー配列、またはキメラ受容体、好ましくはキメラ抗原受容体(CAR)、またはT細胞受容体(TCR)を含むポリペプチドである、請求項18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
前記融合タンパク質が、前記ポリペプチドとキメラ受容体またはTCRとの間に自己切断ペプチドを含む、請求項18または19に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
請求項1から17のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項18から20のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項22】
請求項21に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項23】
目的の導入遺伝子をさらに含み、前記導入遺伝子が、好ましくは目的のタンパク質(POI)をコードしている、請求項22に記載のベクター。
【請求項24】
前記目的の導入遺伝子が、抗原受容体(例えば、キメラ受容体、好ましくはキメラ抗原受容体(CAR)、またはT細胞受容体)をコードし、前記ベクターが標的細胞に導入されると、前記標的細胞が請求項1から15のいずれかに記載のポリペプチドと前記抗原受容体とを共発現するようにした、請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
請求項1から17のいずれかに記載のポリペプチドを発現する細胞。
【請求項26】
前記細胞が、前記ポリペプチドおよびPOIを当該細胞の表面に共発現する、請求項25に記載の細胞。
【請求項27】
請求項21に記載の核酸分子または請求項22から24のいずれか一項に記載のベクターを含む細胞。
【請求項28】
T細胞、好ましくはTreg細胞である、請求項25から27のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項29】
請求項25から28のいずれかに記載の細胞を作製するための方法であって、請求項22から24のいずれかに記載のベクターを細胞に導入(例えば、前記ベクターで前記細胞を形質導入またはトランスフェクト)する工程を含む、方法。
【請求項30】
請求項25から28のいずれかに記載の細胞を排除するための方法であって、前記細胞をリツキシマブの結合特異性を有する抗体に曝露する工程を含む、方法。
【請求項31】
対象の疾患を治療するための方法であって、前記対象に請求項25から28のいずれかに記載の細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
以下の工程を含む、請求項31に記載の方法:
(i)細胞の試料に、請求項22から24のいずれか一項に記載のベクターを導入する(例えば、前記ベクターで前記細胞を形質導入またはトランスフェクションする)工程;および
(ii)前記細胞を前記対象に投与する工程であり、任意選択的に、工程(ii)において、前記細胞を前記対象から単離し、前記対象へと戻す工程。
【請求項33】
養子細胞移植療法に使用するための、請求項25から28のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項34】
癌、感染症、神経変性疾患、もしくは炎症性疾患を治療するための、または免疫抑制を誘導するための、請求項31もしくは32のいずれか一項に記載の方法、または請求項33に記載の使用のための細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養子細胞療法(ACT)に有用なポリペプチドに関する。当該ポリペプチドは、自殺部分(suicide moiety)、すなわち、このポリペプチドを発現する細胞の排除を可能にするエピトープを含む。よって、当該ポリペプチドは、細胞に対し、当該細胞を「オフ」にする、すなわち、消失させることを可能にする安全スイッチを設ける手段を提供するものである。さらに本発明は、このようなポリペプチドをコードする核酸、このような核酸を含む細胞、ならびにこれらの治療的使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞療法(ACT)は、初期にその有望性が見出されて以来、悪性疾患および感染症に対する臨床応用での使用や試験が増加しつつある。CD19を認識するように遺伝子操作されたT細胞が、濾胞性リンパ腫の治療に用いられており、抗腫瘍T細胞受容体を発現するように遺伝子改変された自己リンパ球を用いるACTが、転移性黒色腫の治療に用いられている。黒色腫およびEBV関連悪性腫瘍におけるACTの成功を受け、他の腫瘍の治療のためにエフェクターT細胞を再標的化する取り組みが盛んに行われるようになり、新たな特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるようなT細胞の操作が行われてきた。
【0003】
B細胞系悪性腫瘍の免疫療法のためのCAR改変型Tリンパ球が報告されており(Kohn et al (2011) Mol. Ther. 19:432-438)、また、神経芽腫の治療のための抗GD2 CAR形質導入T細胞が報告されている(Pule et al (2008) Nat. Med. 14:1264-1270)。成人リンパ腫におけるCARの臨床研究でも有効性を示すデータが報告されており、メラノーマ抗原を認識するネイティブT細胞受容体を形質導入したT細胞は、播種性黒色腫において劇的な寛解をもたらした。
【0004】
別の種類の免疫細胞、例えば、CARを発現するように操作されたNK細胞をはじめとするNK細胞もまた、ACTに使用されているか、使用が提案されている。より最近では、ACTのための制御性T細胞(Treg)が開発されている。Tregは、免疫抑制機能を有する。Tregは、細胞障害性免疫応答を制御するように作用し、免疫寛容の維持に不可欠である。Tregの抑制特性は、例えば、炎症性障害、自己免疫疾患、および移植において、免疫介在性の臓器障害の改善および/または予防のため、治療的に利用することができる。
【0005】
養子免疫療法の有効性が高くなるほど、重篤な有害事象の報告が伴うことがわかっている。操作したT細胞の注入後におけるサイトカインストーム等の急性の有害事象が報告されている。これに加え、慢性の有害事象が発生しており、また、別の事象も動物モデルにより予測されている。例えば、腎癌により発現される抗原である炭酸脱水酵素IX(CAIX)にリダイレクトしたT細胞は、数名の患者において、胆道上皮での予期せぬCAIXの発現により、肝毒性を生じた。黒色腫に対するネイティブT細胞受容体移入の研究では、複数の患者において、皮膚および虹彩における標的抗原の発現により、白斑および虹彩炎が起こった。TCRの交差対形成(TCR cross-pairing)に起因する移植片対宿主病(GvHD)様症候群が、ネイティブTCR移入後のマウスで報告されている。共刺激を組み込んだいくつかのCARの養子移入後の動物モデルにおいて、リンパ増殖性障害が報告されている。最後に、ベクター挿入による突然変異誘発のリスクは常に存在する。急性毒性は投薬を慎重に行うことで対処できるが、慢性毒性は、細胞用量非依存性である可能性が高い。
【0006】
操作されたTエフェクター細胞は、投与後何年にもわたって増殖および存続する可能性があり、また、どのような免疫療法であっても患者への投与後に有害事象が発生するリスクは常に存在することを考慮すると、毒性が生じた場合には、養子注入したT細胞およびその他の免疫細胞の選択的排除を可能にする安全機構を備えておくことが望ましい。
【0007】
自殺遺伝子は、形質導入細胞のインビボでの選択的排除を可能にする。2種類の自殺遺伝子、HSV-TKおよびiCasp9について、臨床試験が既に行われている。T細胞に単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)を発現させると、ガンシクロビルに対する感受性が付与される。HSV-TKの使用は、このウイルスタンパク質が高い免疫原性を有することから、ハプロタイプ一致骨髄移植等、高度に免疫抑制された臨床状況に限定される。さらに、これにより、サイトメガロウイルス治療へのガンシクロビルの使用が不可能となる。誘導性カスパーゼ9(iCasp9)は、小分子医薬(AP20187)の投与により活性化することができる。iCasp9の使用は、臨床グレードのAP20187の利用可能性に依存する。さらに、遺伝子操作された細胞生成物に加えて実験的な小分子を使用することで、規制上の問題が生じる可能性がある。
【0008】
他の自殺遺伝子も開発中であり、特許文献1では、溶解性抗体リツキシマブによって認識される、抗原CD20の最小エピトープに基づく構築物が報告されている。リツキシマブは、主としてB細胞の表面に存在するタンパク質CD20に対する免疫治療用キメラ型モノクローナル抗体である。リツキシマブは、CD20に結合すると細胞死を誘発するものであり、よって、CD20を発現している細胞を標的とし死滅させるために使用し得る。リツキシマブによって認識されるエピトープを模倣したペプチド(いわゆるミモトープ)が開発されており、これらは、特許文献1において、マーカー部位としてCD34最小エピトープをさらに含む自殺-マーカー複合化構築物における自殺部分として使用されていた。
【0009】
具体的には、特許文献1は、単一のコンパクトなポリペプチド内に自殺部分とマーカー部分の両方を設けることに着目したものであり、この目的のため、特許文献1の配列番号4で表される、RQR8と呼ばれるポリペプチドを開発した。RQR8は、モノクローナル抗体QBEnd10によって認識される、本明細書中の配列番号1(特許文献1の配列番号2に相当)の配列を有する特定のCD34エピトープ(「Q」)を挟む、2つの環状ペプチドCD20ミモトープ(「R」)を含んでいる。QBEnd10抗体は、臨床現場で細胞の単離に広く用いられているMiltenyi CliniMACS磁気細胞選択システムに用いられているため、これは重要である。したがって、Qエピトープをマーカーとして含めることで、このポリペプチドを発現するように改変された細胞を、一般的に利用可能な選択システムを用いて容易に選択できるようになる。重要なことは、前記ポリペプチド中のRエピトープおよびQエピトープが、一般式St-R1-S1-Q-S2-R2で表されるスペーサー配列(「S」)によって互いに分離されていることである。スペーサー配列S1およびS2は、Qと合わせた組み合わせ長さが少なくとも10アミノ酸(前記特定の構築物RQR8では14アミノ酸)である必要があるが、ポリペプチドがリツキシマブの両方の抗原結合部位に同時に結合できないようにR1エピトープおよびR2エピトープ間を正しい距離に保ち、ポリペプチドが細胞死を有効に誘発できることを保証するために重要であると考察されてきた。特に、R1およびR2間の距離は、76.57Åより長くてもよいと記載されている。Stは、前記ポリペプチドが細胞上に発現すると、RエピトープおよびQエピトープを細胞表面から突出させるストーク配列(stalk sequence)である。RQR8では、ストーク配列はCD8由来である。
【0010】
QBEnd10 CD34マーカーシステムの使用に限定されない構築物を含む、ACTに使用するための改良型もしくは代替の自殺構築物が依然として必要とされており、本発明は、この必要性に対応しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第2836511(B)号明細書
【発明の概要】
【0012】
特に、本発明の開発において、本発明者らは、前記CD20エピトープ(前記Rエピトープ)間の物理的距離、すなわち間隔が、特許文献1で考えられている程には決定的でも重要でもないことを見出した。特に、本発明者らは、両Rエピトープの同一リツキシマブ分子への結合の防止は、物理的距離(すなわち、これらエピトープを分離させる配列の長さ)のみではなく、これらを分離させる配列の可動性に着目することによって達成され得ると判断した。よって、本発明者らは、実際に、Rエピトープ同士が特許文献1で要求されているよりもはるかに短い配列によって分離されている機能的自殺ポリペプチドを製造し得ることを示した。さらに、Rエピトープ間にマーカーを含まないことにより、ポリペプチドの設計上の制約を取り除くことができ、自殺ポリペプチド構築物のRエピトープの連結および分離に、はるかに広い範囲の異なるリンカー配列を使用することができる。このようなポリペプチドは、Miltenyi CliniMACSシステムの使用に限定されるポリペプチドと比べて、より広い範囲の細胞改変プロトコルおよび用途において有用性を見出し得る。特に、本発明者らは、前記2つのRエピトープを分離させる配列の可動性を高めることによって、構築物の細胞溶解誘導能、特に、構築物のリツキシマブまたはそのバイオシミラーに対する感受性もまた高まることを発見し、また、本発明は、高い細胞枯渇能を有する改良型の構築物の開発をさらに包含する。具体的には、リツキシマブ感受性が向上した構築物を使用することで、副作用が生じた場合に、患者へのリツキシマブの必要投与量を低減できる可能性がある。
【0013】
したがって、第1の態様において、本発明は、下記式の配列を含むポリペプチドを提供する。
R1-L-R2-St
式中、
R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが標的細胞の表面に発現すると、R1エピトープおよびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、
Lは、R1のC末端とR2のN末端とをつなぎ、かつ、配列番号1に記載の配列を含むQBEnd10結合エピトープを含まない可動性リンカー配列である。
【0014】
より具体的には、Lは、以下から選択してもよい。
(i)長さが25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、または21アミノ酸以下である可動性リンカー配列;および/または
(ii)Gly残基、またはGly残基とSer残基とを、少なくとも40%含むリンカー配列;および/または
(iii)Ser残基および/またはGly残基と、他のアミノ酸残基15以下、好ましくは他のアミノ酸残基14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下とを含むリンカー配列;および/または
(iv)アミノ酸残基の少なくとも80%、90%、または100%がSer残基、Gly残基、Thr残基、Ala残基、Lys残基、およびGlu残基であるアミノ酸配列を有するリンカー配列;および/または
(v)Pro残基を含まないアミノ酸配列を有するリンカー配列。
【0015】
したがって、代替的な定義では、本発明のこの態様は、下記式の配列を含むポリペプチドを提供するものと考えることができる。
R1-L-R2-St
式中、
R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが標的細胞の表面に発現すると、R1エピトープおよびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、
Lは、R1のC末端とR2のN末端とをつなぐ可動性リンカー配列であり、Lは、以下から選択される。
(i)配列番号1に記載の配列を有するQBEnd10結合エピトープを含まない可動性リンカー;および/または
(i)長さが25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、または21アミノ酸以下である可動性リンカー配列;および/または
(ii)Gly残基、またはGly残基とSer残基とを、少なくとも40%含むリンカー配列;および/または
(iii)Ser残基および/またはGly残基と、他のアミノ酸残基15以下、好ましくは他のアミノ酸残基14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下とを含むリンカー配列;および/または
(iv)アミノ酸残基の少なくとも80%、90%、または100%がSer残基、Gly残基、Thr残基、Ala残基、Lys残基、およびGlu残基であるアミノ酸配列を有するリンカー配列;および/または
(v)Pro残基を含まないアミノ酸配列を有するリンカー配列。
【0016】
より具体的には、本発明のポリペプチドは、式R1-L-R2-Stを有していてもよい。
【0017】
ポリペプチドは、TCRまたはCARをコードする遺伝子等の治療用導入遺伝子と共発現させてもよい。
【0018】
ある実施形態では、リンカーLはマーカーを含まない。しかしながら、これは、ポリペプチドがマーカーを含むことを除外するものではない。ある実施形態では、ポリペプチドは、L内以外にマーカーを含んでもよい。別の実施形態では、ポリペプチドはマーカーを含まない。別の実施形態では、ポリペプチドは、マーカーと共発現させてもよい。
【0019】
前記ポリペプチドは、配列番号27として示した配列を含むか、または配列番号27として示した配列に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ、(i)リツキシマブに結合し、(ii)細胞の表面に発現した場合にリツキシマブの存在下で当該細胞の死滅を誘導する、その変異体を含んでもよい。
【0020】
第2の態様において、本発明は、本明細書中に定義する本発明のポリペプチドとポリペプチド融合パートナーとを含む融合タンパク質、例えば、ポリペプチド融合パートナーに連結された、本明細書中に定義する本発明のポリペプチド、任意選択的にリンカー配列を介してポリペプチド融合パートナーに連結された、本明細書中に定義する本発明のポリペプチドを提供する。融合パートナーは、目的のタンパク質(protein of interest:POI)であってもよい。
【0021】
POIは、抗原受容体、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)等のキメラ受容体、T細胞受容体(TCR)、またはマーカーであってもよい。
【0022】
融合タンパク質は、ポリペプチドと融合パートナーとの間、例えば、ポリペプチドと目的のタンパク質との間に、自己切断ペプチドを含んでもよい。
【0023】
一実施形態では、本発明のポリペプチドは、ポリペプチド融合パートナー内、例えば、POI内に含まれてもよい。言い換えると、ポリペプチドは、融合パートナーの内部で融合、または連結されていてもよい。この態様では、本発明のポリペプチドは、例えば、CAR内、例えば、CARの細胞外ドメイン内に含まれてもよい。したがって、CARは、抗原標的部分、例えば、scFvおよび本発明のポリペプチドを含む、細胞外ドメインを含んでもよい。
【0024】
第3の態様において、本発明は、本明細書中で定義する本発明に係るポリペプチドまたは融合タンパク質をコードすることが可能なヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0025】
第4の態様において、本発明は、本明細書中で定義する本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0026】
ベクターはまた、別のコード配列またはその他の目的ヌクレオチド配列(nucleotide sequence of interest)をさらに含んでもよい。例えば、ベクターは、目的の導入遺伝子を表すヌクレオチド配列を含んでいてもよく、当該導入遺伝子は、一実施形態において、目的のタンパク質、例えば、キメラ抗原受容体、T細胞受容体、またはマーカーをコードし得る。
【0027】
第5の態様において、本発明は、本明細書中で定義する本発明のポリペプチドを発現する細胞を提供する。
【0028】
また、本明細書中で定義される核酸分子またはベクターを含む細胞も提供される。
【0029】
前記細胞は、ポリペプチドおよびPOIを細胞表面に共発現し得る。
【0030】
前記細胞は、免疫細胞、または、例えばiPSCのような多能性幹細胞(PSC)等の免疫細胞前駆体、特に、T細胞、NK細胞、樹状細胞、または骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)、例えばTreg細胞であってもよく、前駆体に由来するこのような細胞、ならびに初代細胞および細胞株が含まれる。
【0031】
第6の態様において、本発明は、本発明の第5の態様の細胞を作製する方法であって、本発明の第4の態様のベクターを細胞に導入(例えば、形質導入またはトランスフェクト)する工程を含む方法を提供する。
【0032】
第7の態様において、本発明は、本発明の第5の態様の細胞を排除する方法であって、リツキシマブの結合特異性を有する抗体に細胞を曝露する工程を含む方法を提供する。一態様において、前記方法は、インビトロ法であってもよい。
【0033】
代替的な見方によれば、本発明のこの態様は、本明細書中で定義する本発明の細胞が投与された対象の治療において、当該細胞を排除するために使用する、リツキシマブの結合特異性を有する抗体を含んでもよい。
【0034】
さらにこの態様では、本発明は、(a)本明細書中で定義する本発明のポリヌクレオチド、ベクター、または細胞と、(b)リツキシマブの結合特異性を有する抗体と、を含む、キットまたは組み合わせ製品を提供する。前記キットまたは製品は、ACTに使用するためのものであってもよい。特に、前記キットまたは製品は、前記細胞を用いたACTによる対象の治療、あるいは、本発明の細胞の使用のための製造、ならびに、その後に行われる対象からの当該細胞の排除に使用するものであってもよい。抗体は、細胞の投与後、例えば一定期間後に対象に投与してもよいし、あるいは、対象が細胞療法の望ましくないまたは有害な症状または効果を示した場合に、対象に投与してもよい。
【0035】
ある実施形態では、抗体はリツキシマブであってもよい。
【0036】
第8の態様では、本発明は、対象の疾患を治療する方法であって、本発明の第5の態様の細胞を対象に投与する工程を含む方法を提供する。前記対象は、治療を必要としている対象であってもよく、前記細胞を、その治療に有効な量投与すればよい。
【0037】
代替的な定義では、この態様は、ACTによって対象を治療する方法、または対象のACTの方法に関するものであってもよい。
前記方法は、以下の工程を含んでもよい:
(i)細胞の試料(例えば、対象から単離されるか、またはドナーから得られた細胞の試料)に、本発明の第4の態様のベクターを導入する(例えば、前記ベクターで前記細胞を形質導入またはトランスフェクトする)工程、および
(ii)前記ベクターを含む前記細胞を前記対象に投与する(例えば、自家細胞の場合、前記細胞を前記対象に戻す)工程。
【0038】
前記方法は、前記対象にリツキシマブの結合特異性を有する抗体を投与する工程をさらに含んでもよい。
【0039】
第9の態様では、本発明は、治療に使用するための、本発明の第5の態様の細胞を提供する。
【0040】
第10の態様では、本発明は、養子細胞移入による治療に使用するための、本発明の第5の態様の細胞を提供する。
【0041】
前記方法または前記使用は、癌、感染症、もしく神経変性疾患の治療、または免疫抑制のためのものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】リツキシマブ安全スイッチの設計を示す図である(A)。リツキシマブをベースとする2つのミモトープを、CD8ストーク配列に融合した。2つのリツキシマブミモトープを、異なるリンカー配列で離間した(B)。
図2】異なるリツキシマブ安全スイッチを、レンチウイルスベクターからeGFPと共発現させた。ここで、図中に示す構築物をジャーカット細胞に形質導入し、A)eGFP発現およびB)安全スイッチの発現を、フローサイトメトリーにより評価した。
図3】異なる安全スイッチを安定的に形質導入した細胞を培養し、i)幼若ウサギ補体、ii)幼若ウサギ補体およびリツキシマブ、iii)RPMI培地のみの存在下でこれらを培養することにより、補体依存性の死滅を評価した。4時間後、フローサイトメトリーにより死滅のパーセンテージを評価した。
図4】異なるリツキシマブ安全スイッチ(RQR8、RR8スモール(1×SGGGGS)、RR8ラージ(3×SGGGGS)、およびモック)を、レンチウイルスベクターからeGFPと共発現させた。ここで、図中に示す構築物でジャーカット細胞を形質導入し、eGFP発現および安全スイッチの発現を、フローサイトメトリーにより評価した。蛍光強度の中央値(MFI)を示している。
図5A】安定形質導入細胞およびモック形質導入細胞における安全スイッチRQR8、RR8スモール(1×SGGGGS)、およびRR8ラージ(3×SGGGGS)の感度を、これらの細胞を、i)幼若ウサギ補体および100μg/mlリツキシマブ、ii)幼若ウサギ補体および5μg/mlリツキシマブ、iii)幼若ウサギ補体および2.5μg/mlリツキシマブ、iv)幼若ウサギ補体および1.25μg/mlリツキシマブ、v)幼若ウサギ補体および0.625μg/mlリツキシマブ、vi)幼若ウサギ補体、およびvii)RPMI培地のみの存在下でインキュベートして調べた。インキュベート後、生存率のパーセンテージをFACSにより分析した。図5Aは、CDCアッセイにおいて、生存している形質導入細胞のパーセンテージを示す。
図5B図5Bは、細胞死滅のパーセンテージを示す。
【0043】
[詳細な説明]
本発明は、細胞の表面に発現されると、自殺構築物として使用し得るポリペプチドを提供する。これは、安全機構、すなわち安全スイッチとして有用であり、かかる安全機構とは、必要が生じた場合、あるいは、実際、より一般的には、希望または必要に応じて(例えば、細胞の治療効果が発揮されるか、もしくは治療効果が切れた後、例えば、治療用導入遺伝子が発現された後)、投与された細胞の排除を可能にするものである。
【0044】
前記ポリペプチドは、自殺部分を含む。自殺部分は、細胞死を引き起こす誘導能を有する。自殺部分の例としては、自殺遺伝子によってコードされる自殺タンパク質が挙げられるが、前記自殺遺伝子は、所望の導入遺伝子を発現させるためのベクターに含まれていてもよく、発現されると、細胞を排除させて前記導入遺伝子の発現をオフにすることができる。
【0045】
このポリペプチドでは、自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20のエピトープに基づく最小エピトープを含む。より詳細には、前記ポリペプチドは、可動性リンカーLによって離間された2つのCD20エピトープR1およびR2を含む。
【0046】
この配列を含むポリペプチドを発現する細胞は、抗体リツキシマブ、もしくはリツキシマブの結合特異性を有する抗体を用いて、選択的に死滅させることができる。前記自殺ポリペプチドは、例えば、そのコード配列のレトロウイルスによる形質導入後に、細胞表面に安定的に発現される。発現したポリペプチドがリツキシマブもしくは同じ結合特異性を有する抗体に曝露されるか、または接触すると、細胞死が起こる。
【0047】
レトロウイルス形質導入は、特に治療目的で、哺乳動物細胞に核酸を導入する一般的な方法である。しかしながら、レトロウイルスベクターにはパッケージングの限界があり、一般的には、導入する核酸のサイズをできるだけ小さく保つことが望まれる。別々のベクターを使用して自殺遺伝子と所望の導入遺伝子とを細胞に導入してもよいが、導入遺伝子と自殺遺伝子との両方を同一のベクターで導入することが望ましい、または便利な場合がある。2つのRエピトープをつなぐ可動性リンカーを含むポリペプチドを提供することにより、ポリペプチドの長さを変化させることができ、短いが可動性を有するリンカーを提供することができる。これにより、ポリペプチドと共発現させる導入遺伝子のサイズの許容範囲を広げることができる。
【0048】
一態様によれば、または一実施形態では、本発明のポリペプチドのリンカー配列Lは、配列番号1として示したアミノ酸配列を含むQBEnd10結合エピトープを含まない。代替的な定義では、本発明のポリペプチドのリンカー配列Lは、配列番号1として示したアミノ酸配列またはQBEnd10結合活性を保持するその変異体を含むQBEnd10結合エピトープを含まない。他の実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号1として示したアミノ酸配列またはQBEnd10結合活性を保持するその変異体を含むQBEnd10結合エピトープを含まない。
【0049】
配列番号1は、次の16アミノ酸配列である:ELPTQGTFSNVSTNVS。
抗体QBEnd10は、Abcam社、ThermoFisher社、Santa Cruz Biotechnology社、およびBio-Rad社を含む、様々な供給元から入手可能である。抗体の詳細は、欧州特許出願公開第3243838(A1)号明細書およびChia-Yu Fan et al. Biochem Biophys Rep. 2017 Mar; 9: 51-60に提供されている。
【0050】
さらに、ある実施形態では、前記ポリペプチド、またはそのリンカー配列Lは、CD34由来のエピトープを備えていないか、または含まない。別の実施形態では、前記ポリペプチド、またはそのリンカー配列Lは、最小CD34エピトープを備えていないか、または含まない。
【0051】
変異型QBEnd10結合エピトープは、配列番号1の配列に対する配列の改変を、改変された配列が少なくとも80%の配列同一性を保持することを条件として含み得る。エピトープのQBEnd10結合活性が保持される限り、意図的なアミノ酸の置換を、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行ってもよい。例えば、負の電荷を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を有するアミノ酸としてはリシンおよびアルギニンが挙げられ、親水性値が類似する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としてはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが挙げられる。一般的には、保存的置換を行い得る。QBEnd10結合エピトープは、例えば、配列番号1として示した配列と比較して、アミノ酸変異を5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個含んでもよい。QBEnd10結合エピトープは、配列番号1として示した配列、またはQBEnd10結合活性を保持するその変異体からなってもよい。
【0052】
本発明のポリペプチドのリンカー配列は、可動性リンカー配列である。可動性リンカーは、当該技術分野で周知であり、記載されているリンカー配列のカテゴリーに属する。リンカー配列は、タンパク質同士もしくはタンパク質ドメイン同士を連結または結合し、例えば、融合タンパク質もしくはキメラタンパク質、または多機能タンパク質もしくは多機能ポリペプチドを作るために使用し得る配列として一般的に知られている。リンカーは異なる特徴を備えることができ、例えば、可動性、剛性(rigid)、または切断可能とし得る。タンパク質リンカーは、例えば、Chen et al., 2013, Advanced Drug Delivery Reviews 65, 1357-1369において考察されており、当該文献では、可動性リンカーのカテゴリーを、剛性リンカーおよび切断可能リンカーのカテゴリーと比較している。可動性リンカーは、Klein et al., 2014, Protein Engineering Design and Selection, 27(10), 325-330、van Rosmalen et al., 2017, Biochemistry, 56,6565-6574、およびChichili et al., 2013, Protein Science, 22, 153-167にも記載されている。
【0053】
可動性リンカーとは、連結されたドメインまたは構成要素(components)間の動きをある程度許容するリンカーを指す。可動性リンカーは、一般的には、小さな非極性アミノ酸残基(例えば、Gly)または小さな極性アミノ酸残基(例えば、SerまたはThr)で構成されている。アミノ酸のサイズが小さいことにより可動性がもたらされ、つながれた部分(ドメインまたは構成要素)が移動性(mobility)となる。極性アミノ酸を組み込むことで、水分子と水素結合を形成し、これにより、水性環境下でのリンカーの安定性を維持することができる。
【0054】
最も一般的に使用されている可動性リンカーは、主にSer残基およびGly残基から構成される配列(いわゆる「GSリンカー」)を有する。しかしながら、多くの他の可動性リンカーも記載されており(例えば、前述のChen et al,.2013参照)、これらのリンカーは、追加のアミノ酸、例えば、溶解性を改善し得るアミノ酸、Thrおよび/もしくはAla、ならびに/または、Lysおよび/もしくはGlu等を含み得る。当該技術分野で公知の報告されている任意の可動性リンカーを使用し得る。
【0055】
リンカーの長さは重要ではないが、いくつかの実施形態では、より短いリンカー配列を有することが望ましい場合がある。例えば、リンカー配列の長さは、25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、または21アミノ酸以下であってもよい。
【0056】
他の実施形態では、より長いリンカー配列が望まれる場合があり、例えば、GSドメインの複数のリピートから構成されるか、またはGSドメインの複数のリピートを含んでもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、リンカーは、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、または6アミノ酸のいずれか1つから、24アミノ酸、23アミノ酸、22アミノ酸、または21アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよい。他の実施形態では、リンカーは、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、または6アミノ酸のいずれか1つから、21アミノ酸、20アミノ酸、19アミノ酸、18アミノ酸、17アミノ酸、16アミノ酸、または15アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよい。他の実施形態では、前記長さはこれらの範囲の中間、例えば、6~21、6~20、7~20、8~20、9~20、10~20、8~18、9~18、10~18、9~17、10~17、9~16、10~16等であってもよい。したがって、先に列挙した整数のいずれかからなる範囲内であってもよい。
【0058】
GSリンカー、より詳細には、リンカーにおけるGS(「Gly-Ser」)ドメインの使用により、GSドメインリピートの数を変更することによってリンカーの長さを容易に変更することができ、よって、このようなリンカーは、本発明に係るリンカーの好ましいクラスの一つである。しかしながら、可動性リンカーは、「GS」リピートに基づくものに限定されず、リンカー配列全体に分散したSer残基およびGly残基を含む他のリンカーが、前述のChen et al.をはじめとする文献に報告されている。
【0059】
したがって、一実施形態において、リンカー配列は、Gly残基、またはGly残基とSer残基とを、少なくとも40%含んでいてもよい。
【0060】
別の実施形態では、リンカー配列は、Ser残基および/またはGly残基と、15以下の他のアミノ酸残基とを含んでもよく、好ましくは他のアミノ酸残基を14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下含んでもよい。「他の」アミノ酸残基とは、SerまたはGlyではない任意のアミノ酸であってよいことが理解されるであろう。
【0061】
リンカー中のPro残基は、剛性を付与する傾向があるため、一実施形態では、リンカー配列は、Pro残基を含んでいない。ただし、これは絶対的なものではなく、配列構成によっては、可動性リンカーがPro残基を1以上含む場合がある。
【0062】
好ましい一実施形態では、リンカー配列は、Ser残基およびGly残基のみからなるGly-Serドメインを少なくとも1つ含む。このような実施形態では、前記リンカーは、他のアミノ酸残基を15以下含んでもよく、好ましくは他のアミノ酸残基を14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、6以下、7以下、5以下、または4以下含んでもよい。
【0063】
Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく、
(S)q-[(G)m-(S)m]n-(G)p
式中、qは0または1であり、mは1~8の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、特に1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である。
【0064】
より詳細には、Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく:
(i)S-[(G)m-S]n;
(ii)[(G)m-S]n;または
(iii)[(G)m-S]n-(G)p
式中、mは2~8(例えば、3~4)の整数であり、nは1以上(例えば、1~8、特に1~6)の整数であり、pは0または1~3の整数である。
【0065】
代表的な例では、Gly-Serドメインは、下記式を有してもよく、
S-[G-G-G-G-S]n
式中、nは1以上(好ましくは、1~8、または1~6、1~5、1~4、もしくは1~3)の整数である。上記式中、配列GGGGSは、配列番号31である。
【0066】
リンカー配列は、上記で説明または定義したように、1つまたは複数のGly-Serドメインのみで構成されてもよく、または、1つまたは複数のGly-Serドメインからなってもよい。しかしながら、上述の通り、別の実施形態では、リンカー配列は、1つ以上のGly-Serドメインと、追加のアミノ酸とを含んでもよい。追加のアミノ酸は、Gly-Serドメインの一端または両端、あるいは一続きのGly-Serドメインリピートの一端または両端に存在してもよい。よって、追加のアミノ酸(他のアミノ酸であってもよい)は、リンカー配列の一端または両端に存在してもよく、例えば、これらは、Gly-Serドメイン(1または複数)を挟んでいてもよい。他の実施形態では、追加のアミノ酸は、Gly-Serドメイン間に存在してもよい。例えば、2つのGly-Serドメインは、リンカー配列中の一続きの他のアミノ酸を挟んでいてもよい。さらに、上述したように、他のリンカーにおいて、GSドメインが反復して存在している必要はなく、G残基および/もしくS残基、またはGS等の短いドメインは、例えば、下記配列番号41に示すように、単に長さまたは配列に沿って分散していてもよい。
【0067】
代表的な例示的リンカー配列を以下に示す。
ETSGGGGSRL(配列番号32)
SGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号33)
S(GGGGS)1-5(ここで、GGGGSは配列番号31である)
(GGGGS)1-5(ここで、GGGGSは配列番号31である)
S(GGGS)1-5(ここで、GGGSは配列番号34である)
(GGGS)1-5(ここで、GGGSは配列番号34である)
S(GGGGGS)1-5(ここで、GGGGGSは配列番号35である)
(GGGGGS)1-5(ここで、GGGGGSは配列番号35である)
S(GGGGGGS)1-5(ここで、GGGGGGSは配列番号36である)
(GGGGGGS)1-5(ここで、GGGGGGSは配列番号36である)
6(配列番号37)
8(配列番号38)
KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号39)
EGKSSGSGSESKST(配列番号40)
GSAGSAAGSGEF(配列番号41)
SGGGGSAGSAAGSGEF(配列番号42)
SGGGLLLLLLLLGGGS(配列番号43)
SGGGAAAAAAAAGGGS(配列番号44)
SGGGAAAAAAAAAAAAAAAAGGGS(配列番号45)
SGALGGLALAGLLLAGLGLGAAGS(配列番号46)
SLSLSPGGGGGPAR(配列番号47)
SLSLSPGGGGGPARSLSLSPGGGGG(配列番号48)
GSSGSS(配列番号49)
GSSSSSS(配列番号50)
GGSSSS(配列番号51)
GSSSSS(配列番号52)
SGGGGS(配列番号53)
【0068】
当該ポリペプチドでは、リンカーの機能はR1とR2をつなぐことである。前記リンカーは、R1とR2とを直接つなぐ、すなわち、R1のC末端をR2のN末端へとつなぐ。前記ポリペプチドは、R1とR2との間に、リンカー配列L以外の他の構成要素または配列を含まない。前記ポリペプチドは、細胞表面に発現されるものであり、かつ、R1がR2につなげられてR1とR2との両方が細胞表面に発現されるようになっているため、リンカーLは切断可能リンカーでないことがわかるであろう。
【0069】
ある実施形態では、前記リンカーは他の機能を果たさないか、または他の機能的な構成要素または配列を含まない。例えば、リンカー配列は、生物学的活性を有さないか、あるいは、生物学的活性を有するいかなる配列も含まない。ある実施形態では、前記リンカーはマーカー配列を含まない。
【0070】
本発明のポリペプチドのリンカー配列は、先に定義した通り、可動性の配列であるが、本開示には、可動性ではないリンカーおよび/または先に示した定義および要件を満たさないリンカーを含む、他のポリペプチドも含まれる。
【0071】
したがって、他の態様において、ポリペプチドは、下記式のものとして提供され、
R1-L-R2-St
式中、
R1およびR2は、リツキシマブ結合エピトープであり、
Stは、前記ポリペプチドが標的細胞の表面に発現すると、R1エピトープおよびR2エピトープを前記細胞表面から突出させるストーク配列であり、
Lは、R1のC末端をR2のN末端につなげ、かつ、(i)配列番号1に記載の配列を含むQBEnd10結合エピトープを含まず、および/または(ii)長さが25アミノ酸以下、好ましくは24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、もしくは21アミノ酸以下であるリンカー配列である。
【0072】
R1、R2、およびStは、本明細書の他の箇所に定義および記載されている通りであってよい。リンカーLは、上記(i)および(ii)の制約(ならびに、リンカー配列が切断可能でないこと)を満たすことを条件として、任意のリンカー配列、すなわち、任意のアミノ酸配列を有するリンカー配列であってよい。
【0073】
このようなリンカー配列の例としては、以下が挙げられる。
SGGGSNVSTNVSPAKPTTTA(配列番号64)
SGGGSELPTQGTFSNVSTNA(配列番号65)
EAAAKEAAAKEAAAKEAAAK(配列番号66)
GGGGSEAAAKEAAAKSGGGS(配列番号67)
EAAAKEAAAKEAAAK(配列番号68)
GGLKNKAQQAAFYIGG(配列番号69)
LCKNKAQQAAFYCI(配列番号70)
KCLNDAQAAAEECI(配列番号71)
GGGLKNKAQQAAFYIGGG(配列番号72)
EAAAKEAAAKEAAAKEAAAEAAAKE(配列番号73)
GGGSEAAAKEAAAKEAAAKEGGGS(配列番号74)
【0074】
リツキシマブ結合エピトープとは、抗体リツキシマブに結合するアミノ酸配列、またはリツキシマブの結合特異性を有する抗体であり、言い換えれば、リツキシマブが結合するものと同じ天然エピトープに結合する抗体である。リツキシマブは、ヒトCD20に結合するキメラ型マウス/ヒトモノクローナルκIgG1抗体である。CD20のリツキシマブ結合エピトープの配列は、CEPANPSEKNSPSTQYC(配列番号29)である。
【0075】
リツキシマブは、欧州特許第0669836号明細書に最初に記載され(ハイブリドーマ)、重鎖配列および軽鎖配列が欧州特許第2000149号明細書に示されている(次の文献も参照されたい:重鎖配列および軽鎖配列を図1中に示すWang et al.,Analyst, 2013, 138, 3058、およびRituximab-CAS 17422-31-7, catolog number: B0084-061043, BOC Sciences)。さらに、米国特許出願第2009/0285795(A1)号明細書、欧州特許出願第1633398(A2)号明細書、および国際公開第2005/000898号パンフレットを参照してもよい。リツキシマブおよびそのバイオシミラーは、世界中の様々な商業的供給源から広く入手可能である。
【0076】
したがって、R1およびR2は、リツキシマブに結合する任意のペプチドであってもよく、または言い換えれば、リツキシマブに結合可能な任意のペプチドであってもよい。CD20に関連して述べた前記天然エピトープに加え、リツキシマブに結合する、または、より詳細には前記天然エピトープを模倣する、様々なペプチドが公知であり、報告されている。したがって、R1およびR2は、リツキシマブエピトープのミモトープであってもよい。
【0077】
このようなミモトープは、例えば、Perosaら(2007, J. Immunol 179:7967-7974)に記載されており、当該文献には、システイン拘束7塩基長環状ペプチド(cysteine-constrained 7-mer cyclic peptides)の系統が開示されており、これらはリツキシマブによって認識される抗原モチーフを有するが、モチーフの周囲のアミノ酸が異なっている。Perosaは、下記表1に示すように、配列番号15~25の11個のペプチドを記載している。表中、モチーフを挟むアミノ酸を小文字で示し、モチーフを大文字で示した。最初のアミノ酸「a」はペプチドから除去してもよく、機能的エピトープ(またはミモトープ)を保持すればよいと判断されている。最初の「a」を欠いた配列番号4から14のペプチドも、表1に示されている。
【表1】
【0078】
本発明に係るR1および/またはR2として使用し得るリツキシマブエピトープの円形(または環状)ミモトープは、下記配列番号2のコンセンサスアミノ酸配列で表すことができ、
X1-C-X2-X3-(A/S)-N-P-S-X4-C
ここで、X1はAもしくは存在せず、ならびにX2、X3、およびX4は任意のアミノ酸である。
【0079】
より詳細には、X2は、P、N、S、M、W、またはEから選択されるアミノ酸であってもよく、X3は、Y、F、W、A、またはHから選択されるアミノ酸であってもよく、X4は、L、T、M、またはQから選択されるアミノ酸であってもよい。
【0080】
リツキシマブエピトープの非円形(または非環状)ペプチドミモトープも開発されている。Liら(2006 Cell Immunol 239:136-43)にも、配列QDKLTQWPKWLE(配列番号3)のペプチドを含む、リツキシマブのミモトープが記載されている。
【0081】
前記ポリペプチドは、配列番号2、3、もしくは4~25からなる群より選択されるアミノ酸配列をそれぞれ独立して含むリツキシマブ結合エピトープR1およびR2、またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体を含んでもよい。
【0082】
2つのエピトープR1およびR2は、同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、これらは同じである。別の実施形態では、これらは異なっている。
【0083】
ある実施形態では、R1およびR2は、それぞれ、配列番号2~25からなる群より選択されるアミノ酸配列、またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体から本質的になるか、あるいはこのようなアミノ酸配列または変異体からなる。
【0084】
代表的な実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号5もしくは16として示すアミノ酸配列、またはリツキシマブ結合活性を保持するその変異体を含むか、本質的にこのようなアミノ酸配列または変異体からなるか、あるいはこのようなアミノ酸配列または変異体からなるリツキシマブ結合エピトープR1およびR2を含んでいてもよい。
【0085】
ある実施形態では、R1は、配列番号16からなるか、本質的に配列番号16からなるか、あるいは配列番号16を含み、R2は、配列番号5からなるか、本質的に配列番号5からなるか、また配列番号5を含む。
【0086】
変異体リツキシマブ結合エピトープは、配列番号3~25からなる群より選択される配列に基づくものであってもよいが、当該エピトープがリツキシマブ結合活性を保持することを条件として、前記配列に対し、アミノ酸の挿入、置換、または欠失等のアミノ酸変異を1つ以上含むものである。特に、前記配列は、一方または両方の末端において短かくなっていてもよく、例えば、1個または2個のアミノ酸分、短かくなっていてもよい。
【0087】
エピトープのリツキシマブ結合活性が保持される限り、意図的なアミノ酸の置換を、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行ってもよい。例えば、負の電荷を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を有するアミノ酸としてはリシンおよびアルギニンが挙げられ、親水性値が類似する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としてはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが挙げられる。
【0088】
保存的置換を、例えば、下記表2に従って行ってもよい。
【表2】
2列目の同一ブロックおよび3列目の同行にあるアミノ酸を、互いに置換してもよい。
【0089】
リツキシマブ結合エピトープは、配列番号3~25からなる群より選択される配列と比較して、例えば、3個以下、2個以下、または1個のアミノ酸変異を含んでもよい。
【0090】
リツキシマブ結合エピトープの変異体は、配列番号3~25のいずれか1つに対し、少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなってもよく、より詳細には、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなってもよい。
【0091】
2つの同一(または類似)のリツキシマブ結合アミノ酸配列を使用する場合、異なるヌクレオチド配列を用いて2つのRエピトープをコードすることが有利となる場合がある。多くの発現系において、相同配列は、望ましくない組換え事象を引き起こす可能性がある。遺伝コードの縮重を用い、代替コドンを使用してタンパク質配列を変更することなくヌクレオチド配列の変異を達成し、これにより相同組換え事象を防いてもよい。
【0092】
前記ポリペプチドはストーク配列(St)を含み、当該ポリペプチドが標的細胞の表面で発現すると、当該ストーク配列は、RエピトープおよびQエピトープを標的細胞の表面から遠ざけるように突出させる。
【0093】
前記ストーク配列は、RエピトープおよびQエピトープを細胞表面から十分に遠ざけ、例えば、リツキシマブまたは同等の抗体の結合を促進する。
前記ストーク配列は、前記エピトープを細胞表面から上昇させる。
前記ストーク配列は、実質的に直鎖状のアミノ酸配列であってもよい。ストーク配列は、RエピトープおよびQエピトープを標的細胞の表面から遠ざけるのに十分な長さであればよいが、そのコード配列がベクターのパッケージングや形質導入の効率を損なわない程度の長さとすればよい。ストーク配列の長さは、例えば、30アミノ酸から100アミノ酸の間であってもよい。ストーク配列の長さは、およそ40アミノ酸~50アミノ酸であってもよい。
前記ストーク配列は、高度にグリコシル化されていてもよい。
前記ストーク配列は、当該ストーク配列を上記式中のエピトープR2に連結する、もしくはつなげるリンカー配列を含んでいてもよい。
【0094】
哺乳動物細胞の表面で発現し、かつ、本明細書に記載のストーク配列を提供するために使用できる、またはストーク配列のベースとして使用できる、多種多様なタンパク質が知られている。このような表面発現タンパク質は、ストーク配列として使用可能またはストーク配列を得るために使用可能な天然型配列を含んでいる。例えば、このようなタンパク質の細胞外ドメイン(ECD)をストーク配列として使用してもよいし、あるいは、細胞外および膜貫通(TM)ドメインを使用してもよく、または細胞外ドメインと膜貫通ドメイン(ECDとTMD)に、前記ストークを膜内に保持し、前記ストークが細胞表面から突出することを可能にする細胞内アンカーとして機能する細胞内ドメイン(ICD)を設けたものを使用してもよい。
【0095】
このようなタンパク質としては、CD27、CD28、CD3イプシロン、CD3z、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD18、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、CD278、CD279、IgG1、またはIgG2が挙げられる。
【0096】
よって、ストーク配列Stは、当該ストーク配列StをR2につなぐ任意選択のリンカー配列と、細胞外ドメインと、任意選択の膜貫通ドメインと、任意選択の細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0097】
ある実施形態では、ストーク配列は、当該ストーク配列StをR2につなぐリンカー配列と、細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0098】
ストーク配列、またはその細胞外ドメインは、下記配列を含んでもよく、または下記配列とほぼ同等の長さであってもよく、
PAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号30)
当該配列は、CD8由来の細胞外配列である。
【0099】
上述のように、ストーク配列はさらに、膜貫通ドメインを、任意選択的に細胞内ドメインと共に含んでもよく、前記細胞内ドメインは細胞内アンカー配列として機能し得るものである。膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインは、細胞外ドメインと同じタンパク質由来であってもよいし、あるいは、これらの一方または両方(it/they)が異なるタンパク質由来であってもよい。膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインは、CD8から得ることができるものであってもよい。
【0100】
ストーク配列Stは、細胞外ストーク配列と、膜貫通ドメインと、CD8由来細胞内ドメインとを含んでもよい。
【0101】
膜貫通ドメインおよび細胞内アンカーを含むCD8ストーク配列は、以下の配列を有してもよいし、
【化1】
または、その配列に対して、少なくとも75%の配列同一性を有する配列を有してもよく、特に少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有する配列を有してもよい。
この配列内で、下線部分がCD8a軸(ストーク)に相当し、中央部分が膜貫通ドメインに相当し、太字部分が細胞内ドメインに相当する。
【0102】
ストーク配列中のリンカー配列は、上述したようなリンカーであってもよい。特に、Ser(S)残基および/またはGly(G)残基を含むか、またはこれら残基からなるリンカー配列であってもよい。リンカー配列(1つまたは複数)は、実質的に直鎖状であってもよい。ストークという観点では、リンカー配列は、より短い配列であってもよい。例えば、リンカー配列(1つまたは複数)は、下記の一般式を有していてもよく、
S-(G)n-S
式中、nは2から8の間の数である。
【0103】
リンカーは、配列SGGGGS(配列番号53)を含んでいてもよいし、この配列からなってもよい。
【0104】
本発明のポリペプチドの代表的な例示的実施形態としては、CD8由来の細胞外配列、膜貫通配列、および細胞内配列を含むストーク配列にリンカーを介して連結された、配列番号5および/または16のリツキシマブ結合エピトープを含むポリペプチドが挙げられる。特に、ストーク配列は、配列番号26の配列を有していてもよい。R1とR2との間のリンカーLは、上述の配列番号32~53のリンカー、またはこれらの配列に基づくリンカーのいずれかであってもよい。特に、リンカーLは、上述の配列番号32または33に記載の配列を有していてもよい。
【0105】
ストーク配列は、R2につながっているリンカー配列を含んでもよい。ストークにおけるリンカー配列は、SGGGS(配列番号53)であってもよい。
【0106】
したがって、本発明のポリペプチドは、配列番号27、28、78、もしくは79として示したアミノ酸配列、またはこれらの配列に対して少なくとも75%、特に少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、あるいはこのような配列からなってもよい。
CPYSNPSLCETSGGGGSRLCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号27)
CPYSNPSLCSGGGGSGGGGSGGGGSCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号28)
ACPYSNPSLCETSGGGGSRLCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号78)
ACPYSNPSLCSGGGGSGGGGSGGGGSCPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV(配列番号79)
【0107】
前記ポリペプチドはまた、アミノ末端にシグナルペプチドを含んでもよく、またはアミノ末端のシグナルペプチドと共に発現されてもよい。多数の異なるシグナル配列が当該技術分野で公知であり、報告されており、シグナルペプチドを選択することは日常的に行われている事項であると思われる。シグナルペプチドは、例えば、配列番号54または配列番号80として示した配列を含んでもよいし、または当該配列からなってもよい。
MGTSLLCWMALCLLGADHADA(配列番号54)
MGTSLLCWMALCLLGADHAD(配列番号80)
【0108】
配列番号54のシグナルペプチドと配列番号27のアミノ酸配列とを含むポリペプチドは、配列番号55で表される。また、配列番号55は、配列番号80のシグナルペプチドと配列番号78のアミノ酸配列とを含むポリペプチドを表すことがわかるであろう。配列番号54のシグナルペプチドと配列番号28のアミノ酸配列とを含むポリペプチドは、配列番号56で表される。また、配列番号56は、配列番号80のシグナルペプチドと配列番号79のアミノ酸配列とを含むポリペプチドを表すことがわかるであろう。
【0109】
前記ポリペプチドが標的細胞(当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が導入された細胞)によって発現されると、前記シグナルペプチドが切断され、成熟したポリペプチド産物を生じる。
【0110】
本発明のポリペプチドは、配列番号27もしくは28または配列番号78または79のポリペプチドの機能的活性を保持する限り、配列番号27もしくは28または配列番号78または79として示した配列に対して少なくとも75%(例えば、少なくとも80%、85%、90%または95%)の同一性を有する、配列番号27もしくは28または配列番号78または79として示した配列の変異体を含んでもよく、あるいはこのような変異体からなってもよい。例えば、前記変異体の配列は、(i)リツキシマブに結合し、かつ(ii)細胞の表面に発現すると、リツキシマブの存在下で当該細胞の死滅を誘発する、ものとする。
【0111】
相同性の比較は、目視で行ってもよいし、または、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ等、容易に入手可能な配列比較プログラムを利用して行ってもよい。
【0112】
ある実施形態では、ポリペプチドは、先に挙げて説明した要素R1、L、R2、およびStのみからなる。一実施形態では、マーカー配列は含まれない。しかしながら、他の実施形態では、当該ポリペプチドは、マーカー配列をさらに含んでもよい。ただし、このようなマーカー配列は、R1とR2との間のLに対する追加要素として存在させることはできない。例を挙げると、マーカー配列は、ストーク配列に含まれてもよいし、あるいはストークとR2との間に導入されてもよい。
【0113】
他の実施形態では、前記ポリペプチドを、他の部分に連結または結合してもよい。
【0114】
前記ポリペプチドは、融合タンパク質の形態としてもよく、この形態では、前記ポリペプチドは、ポリペプチド融合パートナーに対して融合するか、ポリペプチド融合パートナー中で融合するか、ポリペプチド融合パートナーに連結されるか、またはポリペプチド融合パートナー内に含まれる。融合パートナーとは、第1のポリペプチド、すなわち、本発明のポリペプチドのいずれの成分とも、その性質上共に生じることがない、別個のポリペプチド、すなわち第2のポリペプチドである。融合パートナーは、ポリペプチドに所望の特性または機能を付与する第2のポリペプチドとすることができる。例えば、融合パートナーは、マーカーであってもよいし、マーカー配列を含んでもよい。融合パートナーは、目的のタンパク質(protein of interest:POI)であってもよい。融合パートナーは、リンカー配列によってポリペプチドに連結されてもよい。ここでのリンカー配列は、前記タンパク質を融合パートナーに連結するために適切かつ機能的な任意の公知または所望のリンカー配列とすることができる。これには、前述のリンカー配列が含まれ得る。さらに、リンカー配列は、切断可能なリンカー配列であってもよい。
【0115】
融合タンパク質は、ポリペプチドと融合パートナー(例えば、目的のタンパク質)との間に、自己切断ペプチドを含んでもよい。このような自己切断ペプチドは、標的細胞内でのポリペプチドとPOIの共発現を可能にし、これに続く切断により、ポリペプチドとPOIとが別々のタンパク質として細胞表面に発現されるようにするものである。例えば、融合タンパク質は、口蹄疫2A自己切断ペプチドを含んでもよい。自己切断ペプチドの選択肢は、当該技術分野で公知である。
【0116】
目的のタンパク質は、標的細胞の表面で発現させるための分子であってもよい。すなわち、本発明のポリペプチドと共に細胞の表面に発現させることが所望されるポリペプチドであってもよい。POIは、標的細胞がインビボにある場合に、治療効果または予防効果を発揮し得る。
【0117】
POIは、抗原受容体であってもよい。例えば、それはキメラ受容体またはT細胞受容体(TCR)であってもよい。キメラ受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)であってもよい。
【0118】
キメラ抗原受容体は、抗原認識ドメイン(エクトドメイン)を、シグナル伝達分子(エンドドメイン)の膜貫通部分および細胞内部分に結合させることで生成される。エクトドメインは、最も一般には抗体可変鎖(例えば、ScFv)由来であるが、T細胞受容体可変ドメイン、またはリガンドや他の結合分子に対する受容体等、他の分子からも生成し得る。エンドドメインは、少なくともCD3-ζの細胞内部分を含んでもよい。エンドドメインは、CD28-ΟΧ40-CD3ζ三要素細胞質ドメイン(tripartite cytoplasmic domain)を含んでもよい。細胞内シグナル伝達ドメインおよび共刺激ドメインの種々の異なる膜貫通および組み合わせが、当該技術分野で公知である。
【0119】
POIは、疾患もしくは望まれない臨床状態、例えば、癌、感染、神経変性状態、または望まれない免疫応答、例えば、自己免疫応答もしくはアレルギー反応、またはGvHDもしくは移植拒絶反応に関連する抗原に対する特異性を有する受容体、例えば、CARまたはTCRであってもよい。抗原受容体を発現する細胞を用いたACTは、さらに、免疫寛容の誘導、組織修復、および/または組織再生の促進、あるいは、慢性炎症(例えば、代謝障害に続発するもの)の寛解にも使用し得る(例えば、国際公開第2020/044055号パンフレット参照)。
【0120】
受容体は、腫瘍関連抗原(すなわち、がん細胞上に発現または過剰発現しているタンパク質)に対する特異性を有してもよい。このようなタンパク質としては、乳がん患者の15%~20%において過剰発現し、より悪性度の高い疾患と関連するERBB2(HER-2/neu);ほとんどのB細胞悪性疾患において発現するCD19;腎細胞癌において過剰発現が多く見られるカルボキシ-アンヒドラーゼ-IX;神経芽腫細胞によって発現されるGD2;p53;MART-1(DMF5);gp100:154;NY-ESO-1;およびCEAが挙げられる。
【0121】
免疫異常もしくは望まれない免疫応答の治療もしくは予防、または免疫寛容等の誘導のため、CARをTreg細胞に発現させてもよく、ここで、前記CARは、例えば、国際公開第2020/044055号パンフレットに記載されているように、STAT5会合モチーフと、JAK1結合モチーフおよび/またはJAK2結合モチーフとを含む、エンドドメインを含んでもよい。臓器移植拒絶反応、例えば、肝臓もしくは腎臓移植拒絶反応の予防または治療に使用するためのCARは、HLA、例えば、移植ドナーとレシピエントの間で一致しないことが一般的であるHLA-A2に対し、特異性を有していてもよい。
【0122】
本発明の第2の態様は、本発明のポリペプチドまたは融合タンパク質をコードすることが可能なヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。
【0123】
当該核酸は、標的細胞によって発現されると、コードされたポリペプチドを標的細胞の細胞表面に発現させる。核酸が、(例えば、融合タンパク質として)ポリペプチドおよびPOIの両方をコードする場合、前記核酸は、本発明のポリペプチドおよびPOIの両方を標的細胞の表面に発現させ得る。
【0124】
核酸分子は、RNA、またはcDNA等のDNAであってもよい。
【0125】
配列番号55および56の代表的なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、配列番号57および58にそれぞれ示されている。したがって、本発明の核酸分子は、配列番号57もしくは58として示されるヌクレオチド配列、または配列番号57もしくは58に対して少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、もしくは95%)の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0126】
本発明はさらに、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターはまた、目的の要素をコードするか、または提供するヌクレオチド配列である、目的の導入遺伝子を含んでもよい。このような導入遺伝子は、POIをコードする遺伝子であってもよい。
【0127】
ベクターは、本発明のポリペプチドと、任意選択的に目的のタンパク質とを発現するように、標的細胞のトランスフェクトまたは形質導入が(例えば、単独で、または別の試薬/実体(entity)の存在下で)可能なものとする。
【0128】
ベクターは、プラスミド等の非ウイルスベクターであってもよい。プラスミドは、当該技術分野において周知の方法を用いて、例えば、リン酸カルシウム、リポソーム、または細胞透過性ペプチド(例えば、両親媒性細胞透過性ペプチド)を用いて、細胞にトランスフェクトしてもよい。
【0129】
ベクターは、ウイルスベクターであってもよく、レトロウイルスベクター等、例えば、レンチウイルスベクターまたはガンマレトロウイルスベクターであってもよい。
【0130】
哺乳動物細胞での発現のために核酸を送達するのに適したベクターは、当該技術分野において周知であり、そのようなベクターを使用し得る。ベクターは、例えば、プロモーター等の調節エレメントを1つ以上含んでもよい。
【0131】
細胞に核酸を導入するためのベクターに依存しない送達システムもまた、当該技術分野において公知であり使用されており、このような送達システムとしては、例えば、トランスポゾンに基づくシステム、CRISPR/TALEN送達、およびmRNA送達が挙げられる。このようなシステムはいずれも、本発明の核酸分子の送達に使用することができる。よって、本発明はさらに、細胞への送達のための組換え構築物を提供するものであり、前記構築物は、本明細書中に定義および記載されているような本発明の核酸分子を含んでいる。このような構築物は、別の(例えば、さらなるまたは第2の)核酸分子またはヌクレオチド配列または遺伝因子を含んでもよく、これにより、核酸分子の細胞への送達が可能となるか、または容易化する。
【0132】
ベクターまたは組換え構築物は、ポリペプチドをコードする核酸およびPOIを含む核酸を、別々の実体または単一のヌクレオチド配列として含んでもよい。これらの核酸が単一のヌクレオチド配列として存在する場合、これらは、配列内リボソーム進入部位(IRES)配列を1つ以上含んでもよいし、あるいは、下流配列の翻訳を可能にするため、2つのコード部分間に他の翻訳共役配列を含んでもよい。2A切断部位(例えば、T2AまたはP2A)等の切断部位は、特に本発明のポリペプチドと任意のPOIとの間において、本発明の核酸またはベクターまたは組換え構築物によってコードされてもよい。
【0133】
本発明はさらに、本発明の第1の態様に係るポリペプチドを発現する細胞を提供する。前記細胞は、前記ポリペプチドを発現してもよいし、前記ポリペプチドとPOIとを細胞表面に共発現してもよい。前記細胞は、標的細胞と称される場合がある。
【0134】
本発明はさらに、本発明の第1の態様に係るポリペプチドをコードすることが可能な核酸分子を含む細胞を提供する。
【0135】
前記細胞は、本明細書に記載の核酸分子またはベクターまたは組換え構築物が導入された細胞であってもよい。前記細胞は、本発明に係るベクターまたは組換え構築物で形質導入またはトランスフェクトされたものであってもよい。
【0136】
前記細胞は、養子細胞療法に適したものとなり得る。
【0137】
前記細胞は、免疫細胞、またはその前駆体であってもよい。前駆体細胞は、前駆細胞とも称される場合があり、本明細書では、これら2つの用語を同義に用いている。よって、代表的な免疫細胞としては、T細胞、特に、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、ヘルパーT細胞(HTL;CD4+T細胞)、および制御性T細胞(Treg)が挙げられる。T細胞の他の集団もまた、ここでは有用であり、例えば、ナイーブT細胞およびメモリーT細胞が挙げられる。その他の免疫細胞としては、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞、MDSC、好中球、およびマクロファージが挙げられる。免疫細胞の前駆体としては、多能性幹細胞が挙げられ、例えば、誘導性PSC(iPSC)、または複能性幹細胞を含む、分化の指向性がより高い(more committed)前駆細胞、またはある系統へと分化する細胞が挙げられる。前駆細胞は、インビボまたはインビトロで免疫細胞に分化するよう誘導することができる。一態様において、前駆細胞は、目的の免疫細胞へと分化転換可能な体細胞であってもよい。
【0138】
最も注目すべきは、免疫細胞が、NK細胞、樹状細胞、MDSC、または、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)もしくはTreg細胞等のT細胞であってもよいことである。
【0139】
T細胞は、既存の特異性を有してもよい。例えば、T細胞は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)特異的T細胞であり得る。あるいは、T細胞は、リダイレクトされた特異性を有してもよく、例えば、外因性または異種性のTCRまたはキメラ受容体(例えば、CAR)を導入することでリダイレクトされた特異性を有してもよい。
【0140】
好ましい実施形態では、免疫細胞はTreg細胞である。「制御性T細胞(Treg)またはT制御性細胞」は、細胞障害性免疫応答を制御する免疫抑制機能を有する免疫細胞であり、免疫寛容の維持に不可欠である。本明細書中で使用するTregという用語は、免疫抑制機能を有するT細胞を指す。
【0141】
好適には、免疫抑制機能とは、病原体、同種抗原、または自己抗原等の刺激に反応して免疫系によって促進される多数の生理学的効果および細胞効果の1つ以上を低減または阻害するTregの能力を指す場合がある。このような効果の例としては、従来のT細胞(Tconv)の増殖の強化および炎症性サイトカインの分泌が挙げられる。このような効果はいずれも、免疫応答の強さの指標として使用し得る。Tregの存在下でTconvによる免疫応答が相対的に弱くなることは、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。例えば、サイトカイン分泌の相対的な減少は、免疫応答が弱まることを示すものと考えられ、よって、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。Tregはまた、B細胞、樹状細胞、およびマクロファージ等の抗原提示細胞(APC)上の共刺激分子の発現を調節することによっても免疫応答を抑制することができる。CD80およびCD86の発現レベルを使用し、活性化Tregの共培養後のインビトロでの抑制効力を評価することができる。
【0142】
免疫応答の強さの指標を測定し、これによりTregの抑制能を測定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。具体的には、抗原特異的Tconv細胞をTregと共培養し、対応する抗原のペプチドを共培養物に添加してTconv細胞からの応答を刺激すればよい。Tconv細胞の増殖の程度および/またはペプチドの添加に反応してTconv細胞が分泌するサイトカインIL-2の量を、共培養したTregの抑制能の指標として使用し得る。本明細書中に記載のようにTregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、本明細書中に記載のようにTregの非存在下で培養された同Tconv細胞と比べて、その増殖が5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、または99%少ない場合がある。
【0143】
Tregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、Tregの非存在下で培養された対応するTconv細胞と比べて、エフェクターサイトカインの発現が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%少ない場合がある。エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13から選択されてもよい。好適には、エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、およびIFN-γから選択されてもよい。
【0144】
いくつかの異なるTregの亜集団が同定されているが、これらは異なる特定のマーカーまたは異なるレベルの特定のマーカーを発現する場合がある。Tregは、一般的には、CD4、CD25、およびFOXP3というマーカーを発現するT細胞である(CD4+CD25+FOXP3+)。「FOXP3」は、フォークヘッドボックスP3タンパク質の略称である。FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発達および機能における調節経路の主要制御因子として機能する。
【0145】
Tregはさらに、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連分子-4)またはGITR(グルココルチコイド誘導性TNF受容体)を発現する場合もある。
【0146】
Tregは、細胞表面マーカーCD4およびCD25を、表面タンパク質CD127の非存在下で、または低発現レベルのCD127と組み合わせて(CD4+CD25+CD127-またはCD4+CD25+CD127low)使用することで同定し得る。Tregを同定するためのこのようなマーカーの使用は、当該技術分野では公知であり、例えば、Liuら(JEM; 2006; 203; 7(10); 1701-1711)に記載されている。
【0147】
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+T細胞、CD4+CD25+CD127-T細胞、またはCD4+CD25+FOXP3+CD127-/lowT細胞であってもよい。
【0148】
Tregは、脱メチル化されたTreg特異的脱メチル化領域(TSDR)を有してもよい。TSDRは、Foxp3の発現を調節する重要なメチル化感受性因子である(Polansky, J.K., et al, 2008.European Journal of immunology, 38(6), pp.1654-1663)。
【0149】
Tregには、ナイーブTreg(CD45RA+FoxP3low)、エフェクター/メモリーTreg(CD45RA-FoxP3high)、およびサイトカイン産生Treg(CD45RA-FoxP3low)を含む、異なる亜集団が存在することが知られている。「メモリーTreg」は、CD45ROを発現するTregであり、CD45RO+であると考えられる。これらの細胞は、ナイーブTregと比較して、CD45ROのレベルを増加させ(例えば、CD45ROが少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多い)、好ましくは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが低い(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)。「サイトカイン産生Treg」とは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが非常に低く(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)、かつ、メモリーTregと比較して、FOXP3のレベルが低い、例えば、メモリーTregと比較して、FOXP3が50%、60%、70%、80%、または90%少ないTregである。サイトカイン産生Tregは、インターフェロンガンマを産生し得るTregであり、かつ、ナイーブTregと比較して、インビトロでの抑制力が低い(例えば、ナイーブTregと比較した抑制力が50%、60%、70%、80%、または90%未満である)Tregでもよい。本明細書中での発現レベルとは、mRNAまたはタンパク質の発現を指す場合がある。特に、CD45RA、CD25、CD4、CD45RO等の細胞表面マーカーに関しては、発現とは、細胞表面発現、すなわち、細胞表面に発現されるマーカータンパク質の量または相対量を指す場合がある。発現レベルは、当該技術分野で公知の方法により決定し得る。例えば、mRNAの発現レベルは、ノーザンブロッティング/アレイ解析によって決定してもよく、また、タンパク質の発現は、ウェスタンブロッティングによって、または好ましくは細胞表面発現用抗体染色を用いたFACSによって決定してもよい。
【0150】
特に、Tregは、ナイーブTregであってもよい。本明細書中で同義に用いられる「ナイーブ制御性T細胞、ナイーブT制御性細胞、またはナイーブTreg」とは、CD45RAを発現する(特に、CD45RAを細胞表面に発現する)Treg細胞を指す。よって、ナイーブTregは、CD45RA+と記載される。ナイーブTregが、一般に、ペプチド/MHCによって内因性TCRを介して活性化されていないTregを表すのに対し、エフェクター/メモリーTregは、刺激により内因性TCRを介して活性化されたTregに関する。典型的には、ナイーブTregは、ナイーブ以外のTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)よりも、CD45RAを少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多く発現しうる。代替的な見方によれば、ナイーブTreg細胞は、非ナイーブTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)と比較して、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍の量のCD45RAを発現しうる。CD45RAの発現のレベルは、当該技術分野の方法、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーによって、容易に決定することができる。典型的には、非ナイーブTreg細胞は、CD45RAを発現しないか、もしくはCD45RAを低レベルで発現する。
【0151】
特に、ナイーブTregはCD45ROを発現しなくてもよく、CD45RO-と考えられもよい。よって、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CD45ROの発現が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少なくてもよく、あるいは、代替的な見方によれば、メモリーTreg細胞と比較して、CD45ROの発現が少なくとも1/2、1/3、1/4、1/5、1/10、1/50、または1/100であってもよい。
【0152】
ナイーブTregは、上述の通り、CD25を発現するが、ナイーブTregの由来によっては、CD25の発現レベルが、メモリーTregにおける発現レベルと比べて低くなってもよい。例えば、末梢血から単離されたナイーブTregの場合、CD25の発現レベルは、メモリーTregと比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい。このようなナイーブTregは、中レベルから低レベルのCD25を発現すると考えてもよい。しかしながら、当業者であれば、臍帯血から単離されたナイーブTregでは、このような差異が見られない場合があることを理解するであろう。
【0153】
本明細書中で定義するナイーブTregは、典型的には、CD4+、CD25+、FOXP3+、CD127low、CD45RA+であってもよい。
【0154】
本明細書中で使用するCD127の低発現とは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性細胞またはTcon細胞と比較して、CD127の発現レベルが低いことを指す。詳細には、ナイーブTregは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性またはTcon細胞と比較して、CD127の発現が90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、または10%未満であってもよい。CD127のレベルは、抗CD127抗体で染色した細胞のフローサイトメトリーを含む、当該技術分野で標準的な方法によって評価することができる。
【0155】
典型的には、ナイーブTregは、CCR4、HLA-DR、CXCR3、および/またはCCR6を発現しないか、または低レベルで発現する。詳細には、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CCR4、HLA-DR、CXCR3、およびCCR6をより低いレベルで発現してもよく、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低いレベルで発現してもよい。
【0156】
ナイーブTregは、さらに、CCR7+およびCD31+を含む、さらに別のマーカーを発現してもよい。
【0157】
単離されたナイーブTregは、当該技術分野で公知の方法によって同定すればよく、そのような方法としては、単離された細胞の細胞表面における、上述のマーカーのいずれか1つ以上の一団の有無を決定することが挙げられる。例えば、CD45RA、CD4、CD25、およびCD127lowを使用して、ある細胞がナイーブTregであるかどうかを決定することができる。単離された細胞がナイーブTregであるか、または所望の表現型を有するか否かを決定する方法は、本発明の一部として実施してもよい追加の工程に関連して後述するように実施することができ、また、細胞マーカーの存在および/または発現レベルを決定する方法は、当該技術分野では周知であり、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーが挙げられる。
【0158】
前記ポリペプチドを発現させる細胞は、患者由来、すなわち治療される対象由来であってもよい。例えば、前記細胞は、対象から取り除いた後、本発明のベクターまたはその他の構築物で、エクスビボで形質導入したものであってもよい。あるいは、前記細胞は、レシピエントである対象に移入するドナー細胞であるか、あるいは、細胞株由来、例えば、NK細胞株由来の細胞であってもよい。前記細胞はさらに、所望の標的細胞型、例えば、T細胞、特にTregへと分化させ得る多能性細胞(例えば、iPSC)であってもよい。したがって、前記細胞は、治療される対象に対し、自己由来、同系、または同種異系であってもよい。
【0159】
ACTに好適なT細胞集団としては、バルク末梢血単核球(PBMC)、CD8+細胞(例えば、CD4枯渇PBMC);制御性T細胞(Treg)を選択的に枯渇させたPBMC;単離セントラルメモリー(Tern)細胞;EBV特異的CTL;ならびに三ウイルス特異的CTL(tri-virus-specific CTLs)および上述のTreg細胞製剤およびTreg細胞集団が挙げられる。
【0160】
本発明はまた、本発明に係る細胞を含む細胞集団を含む。前記細胞集団は、本発明に係るベクターで形質導入されたものであってもよい。前記細胞集団におけるある割合の細胞は、本発明の第1の態様に係るポリペプチドを細胞表面に発現し得る。細胞集団におけるある割合の細胞は、本発明の第1の態様に係るポリペプチドと、POIとを、細胞表面に共発現し得る。細胞集団は、エクスビボ患者由来細胞集団であってもよい。
【0161】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドを細胞表面に発現している細胞を排除するための方法を提供する。前記細胞は、本明細書中に定義または記載する核酸分子またはベクターまたは組換え構築物を含む細胞、すなわち、当該核酸分子またはベクターまたは構築物が導入された細胞、例えば、本発明に係るベクターによって形質導入された細胞であってもよい。前記方法は、リツキシマブ、もしくはリツキシマブの結合特異性を有する抗体(すなわち、同等の抗体)に細胞を曝露する工程を含む。
【0162】
典型的には、リツキシマブは、補体媒介性の細胞死滅を起こすことでその効果を発揮するが、他の機構、例えばADCCが関与してもよい。したがって、一実施形態では、前記細胞は、補体と、リツキシマブ、または同等の抗体とに曝露されてもよい。
【0163】
前記方法には、細胞を排除させるためにインビトロで行われる方法、例えば、培養中に行われる方法が含まれる。ただし、主な用途は、インビボで細胞を排除すること、すなわち、以前に対象に投与された細胞を排除することである。
【0164】
これは、インビボにおいて、以前に前記細胞が投与された対象、言い換えれば、前記ポリペプチドを発現する本発明の細胞を用いたACTを以前に受けた対象に、前記リツキシマブまたは同等の抗体を投与することによって達成し得ることが理解されるであろう。補体は、対象に内因的に存在してもよい。
【0165】
よって、本発明では、前記リツキシマブ、またはその結合特異性を有する抗体を、本発明の細胞と組み合わせてACTに使用するために提供してもよい。上述したように、前記細胞または核酸またはベクターまたは前記細胞の製造のための構築物と、前記リツキシマブまたは同等の抗体とを、キットで提供してもよいし、組み合わせ製品として提供してもよい。
【0166】
本発明のポリペプチドが細胞の表面に発現すると、リツキシマブまたは同等の抗体が当該ポリペプチドのRエピトープに結合することにより、細胞の溶解が起こる。
【0167】
本明細書中で使用する「排除」という用語は、「除去」または「除く」と同義である。この用語は、対象中の細胞の数を減少させ得るような、細胞の死滅、または細胞増殖の阻害を包含するものとして使用される。100%完全に除去することが望ましい場合もあるが、必ずしも達成しなくともよい。対象において細胞数を減少させるか、またはその増殖を阻害すれば、有益な効果を得るには十分である場合がある。
【0168】
リツキシマブの結合特異性を有する抗体とは、リツキシマブと同じ天然エピトープに結合することが可能な抗体である。詳細には、前記抗体は、エピトープR1およびR2に結合可能である。
リツキシマブの結合特異性を有する抗体は、リツキシマブの抗原結合ドメインまたはリツキシマブ由来の抗原結合ドメインを含んでもよい。より詳細には、リツキシマブ由来のVLおよびVHドメイン、またはリツキシマブのCDRを含んでもよい。さらに、リツキシマブの抗原結合ドメインは、リツキシマブの結合特異性が保持される限り、(例えば、アミノ酸の置換、欠失、または挿入によって)改変されてもよい。
【0169】
上述のように、リツキシマブのバイオシミラーが入手可能であり、これらを使用してもよい。当業者であれば、リツキシマブの結合特異性を有する抗体を、当該抗体のための利用可能なアミノ酸配列を使用して、日常的に使用される方法を用いて容易に調製することができる。
【0170】
ある実施形態では、リツキシマブの結合特異性を有する抗体は、従来の免疫グロブリン形式である。すなわち、前記抗体は、軽鎖と重鎖、および定常領域と可変領域との両方を含み得る。前記抗体は二価であってもよい、すなわち、2つの抗原結合部位を含んでもよい。他の抗体形式を使用してもよく、例えば、単鎖形式または1価形式を使用してもよい。このように、前記抗体は、どのようなクラスもしくはタイプ、または形式であってもよい。
【0171】
細胞表面に発現するポリペプチド1つにつき、リツキシマブまたは同等の抗体の分子2つ以上が結合し得る。ポリペプチドの各Rエピトープは、リツキシマブまたは同等の抗体の別々の分子に結合し得る。
【0172】
移入された細胞を排除するという決定は、対象において検出される、これら移入された細胞が原因と考えられる望ましくない作用を理由になされる場合がある。例えば、許容できないレベルの毒性が検出される場合がある。
【0173】
CD20発現細胞を、抗体リツキシマブを用いた治療により、選択的に除いてもよい。CD20発現は、形質細胞には存在しないため、B細胞区画を排除したとしても、リツキシマブ治療後も液性免疫は保たれる。
【0174】
遺伝子改変した、T細胞等の免疫細胞の養子移入は、抗腫瘍免疫応答のような望ましい免疫応答を発生させるため、あるいは、望まれない免疫応答を抑制または予防するための魅力的なアプローチである。
【0175】
本発明は、対象における疾患もしくは状態を治療および/または予防するための方法であって、本発明に係る細胞を前記対象に投与する工程を含む方法を提供する。当該方法は、細胞集団を対象に投与する工程を含んでいてもよい。
当該方法は、以下の工程を含んでもよい:
(i)患者またはドナーから血液試料等の細胞の試料を採取する工程、
(ii)免疫細胞、例えば、T細胞を抽出する工程、
(iii)ポリペプチドおよび任意選択的に目的の導入遺伝子をコードする核酸分子を含む本発明のベクターまたは構築物を、前記細胞に導入(例えば、形質導入またはトランスフェクト)する工程、
(iv)前記ベクターまたは構築物を含む前記細胞(すなわち、改変した前記細胞)をエクスビボで増殖させる(expanding)工程、
(v)前記細胞を対象へ投与する工程。
【0176】
前記改変細胞は、強化された腫瘍特異的な標的化および死滅または免疫抑制活性のような、望ましい治療的性質を有してもよい。当業者であれば、前記細胞は、治療される対象に対して同種異系または自己由来であってもよいことを理解するであろう。
【0177】
本発明の細胞は、癌を治療するために使用し得る。事実上全ての腫瘍は、ACTアプローチを用いた溶解に対して感受性があり、いずれの腫瘍も、腫瘍抗原に遭遇すれば、抗腫瘍リンパ球からのサイトカイン放出を刺激することができる。
【0178】
本発明の細胞は、例えば、リンパ腫、B細胞系統悪性腫瘍、転移性腎細胞癌(RCC)、転移性黒色腫、または神経芽腫を治療するために使用し得る。
【0179】
あるいは、本発明の細胞は、非癌性疾患を治療または予防するために使用し得る。前記疾患は、感染症、移植に伴う状態、またはその他の望ましくないもしくは有害な免疫応答であってもよい。前記細胞は、例えば、寛容性を誘導するため、あるいは自己免疫疾患またはアレルギー疾患を治療または予防するために、免疫抑制のために使用し得る。特に、前記細胞は、アルツハイマー病、パーキンソン病、運動ニューロン疾患等の神経変性状態、I型糖尿病、多発性硬化症、ループス(特に、SLE)、または炎症性腸疾患等の炎症性疾患を治療するために使用し得る。
【0180】
本発明の細胞は、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)もしくはGvHDを治療もしくは予防するため、あるいは、例えば、肝臓または腎臓の移植拒絶反応を予防するために使用し得る。
【0181】
ここで、本発明を、実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は、当該技術分野の通常の技術者による本発明の実施を助けることを意図したものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例
【0182】
(実施例1)
リツキシマブに基づく異なる安全スイッチを、図1に示すように設計した。図1に示す配列は、ポリペプチドのR1-L-R2部分のみに関するものであり、ストーク配列およびシグナルペプチド(リーダー)配列は示されていない。図示されているRQR8、SGGGGS-CD8a、CD8a、1×SGGGGS、および3×SGGGGS配列は、それぞれ、配列番号59、60、61、62、および63である。
スイッチ1×SGGGGSおよび3×SGGGGSは、それぞれ、配列番号55および56のポリペプチドに相当し、これらのポリペプチドは、配列番号54のシグナルペプチド(リーダー配列)とともに配列番号27および28のポリペプチドをそれぞれ含む。あるいは、上述のように、配列番号55および56は、配列番号80のシグナルペプチド(リーダー配列)とともに配列番号78および79のポリペプチドをそれぞれ含むと見なしてもよい。
前記スイッチは全て、配列番号54または80のリーダー配列と、配列番号53のリンカーとともに配列番号26のストーク配列とを備えて発現していた。
RQR8、SGGGGS-CD8a、およびCD8aの全アミノ酸配列を、それぞれ配列番号75、76、および77に示している。
【0183】
配列番号57は、1×SGGGGSのDNA配列を示し、配列番号58は、この実施例で使用する3×SGGGGSのDNA配列を示している。
SGGGGS-CD8a(配列番号60)、1×SGGGGS(配列番号62)、および3×SGGGGS(配列番号63)として特定されるスイッチ(ポリペプチド)は、本明細書中に記載の本発明に係る可動性リンカーを有している。欧州特許第2836511号明細書のRQR8(配列番号59)、およびCD8A(配列番号61)は、比較目的で含まれている。
【0184】
前記安全スイッチを、レンチウイルス発現ベクターにクローニングし、2Aリンカー配列を介してeGFPタンパク質に連結させた。ジャーカット細胞を異なる構築物で形質導入し、eGFP発現をフローサイトメトリーにより評価した(図2A)。次の工程において、細胞を、Alexa-Fluor 647にコンジュゲートさせたリツキシマブバイオシミラー抗体(クローンHU2、R&D Systems社)で染色した。染色効率は、GFP+細胞の蛍光強度中央値(MFI)として評価した(図2B)。
【0185】
前記スイッチは全て細胞の表面に発現しており、同等のレベルのeGFP発現が見られたことがわかる(図2A)。リツキシマブバイオシミラー抗体が結合したCD20エピトープの発現の検出結果からわかるように、スイッチSGGGGS-CD8a、1×SGGGGS、および3×SGGGGSは、RQR8と比較して、優れた細胞表面発現を示した。可動性リンカーを持たないCD8Aは、細胞表面でのCD20エピトープの発現が低かった。スイッチ3×SGGGGSが、特によく発現していた。
【0186】
(実施例2)
次に、異なる安全スイッチ構築物を形質導入した細胞について、補体媒介性死滅(complement mediated killing:CMC)を評価した。この目的で、細胞を、幼若ウサギ補体、リツキシマブと幼若ウサギ補体、またはRPMI細胞培養培地単独の存在下で培養した。4時間の培養後、死滅効率をフローサイトメトリーにより評価した。ここでは、GFP陽性細胞の残存率を評価した。
【0187】
図3は、全てのスイッチでCMCが見られたことを示しているが、スイッチCD8aのCMCは、他のスイッチと比べて非常に低かった。スイッチSGGGGS-CD8a、1×SGGGGS、3×SGGGGSでは、RQR8と比較してCMCが向上しており、3×SGGGGSで特に向上していた。
【0188】
(実施例3)
各種安全スイッチの感度を、補体依存性細胞毒性(CDC)アッセイにおいてリツキシマブの連続希釈液を使用して調べた。
まず、実施例1に記載したように、安全スイッチRQR8(配列番号75)、1×SGGGGS(RR8スモールともいう;配列番号55)、および3×SGGGGS(RR8ラージともいう;配列番号56)の発現を比較した。
前記安全スイッチを、レンチウイルス発現ベクターにクローニングし、2Aリンカー配列を介してeGFPタンパク質に連結させた。ジャーカット細胞を異なる構築物で形質導入し、eGFP発現をフローサイトメトリーにより評価した(図4)。次の工程において、細胞を、フルオロフォアにコンジュゲートさせたリツキシマブバイオシミラー抗体で染色した。染色効率を、GFP+細胞に関する蛍光強度の中央値(MFI)として評価した(図4)。
【0189】
前記3つのスイッチは全て細胞の表面に発現しており、ほぼ同様のレベルのeGFP発現が確認されたことがわかる(図4)。リツキシマブ抗体が結合したCD20エピトープの発現の検出結果からわかるように、スイッチ1×SGGGGS(RR8スモール)は、RQR8よりもわずかに高い発現を示し、3×SGGGGS(RR8ラージ)は、RQR8と比較して、より優れた細胞表面発現を示した(図4)。このことは、スイッチ3×SGGGGS(RR8ラージ)が特によく発現していたという、以前に確認された結果を裏付けている。
【0190】
リツキシマブ連続希釈物を、幼若ウサギ補体で調製した。配列番号75(RQR8)、配列番号55(1×SGGGGS)または配列番号56(3×SGGGGS)をコードするレンチウイルスベクターで形質導入したジャーカット細胞(実施例1と同様)をカウントし、RPMIに再懸濁させた。細胞を、各条件につき同じウェルが3つまたは2つできるように、96ウェルプレートに添加した(100,000ジャーカット/ウェル)。各リツキシマブ希釈液(最終濃度:100μg/ml、5μg/ml、2.5μg/ml、1.25μg/ml、0.625μg/ml)(幼若ウサギ補体の最終体積50%)50μLを、培地単独の条件および補体単独の条件で、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに添加した。プレートを静置してインキュベートさせ、インキュベート後に、生存率(Live/Dead NIR kit)およびQBENDのためにプレートを染色し、FACSで解析した。
【0191】
(結果)
図5Aに示す結果は、培地のみおよび補体のみの条件では、配列番号75、55、または56の安全スイッチのいずれかを発現するジャーカット細胞に対し、有意な細胞死をもたらさなかったことを示している。しかしながら、リツキシマブの添加により、配列番号55(RR8スモール)および配列番号56(RR8ラージ)を発現する細胞では、前記リツキシマブ濃度範囲にわたって有意な死滅が起こり、最も高いリツキシマブ濃度で最も高いレベルの死滅が観察されたものの、最も低いリツキシマブ濃度でも、細胞死レベルは高いレベルであった(代替的な見方によれば、生存細胞のパーセンテージは低レベルであった)(図5Aおよび図5B)。これとは対照的に、配列番号75(RQR8)を発現する細胞は、配列番号55または56を発現する細胞ほどはリツキシマブへの感受性が高くないようであり、リツキシマブ処理後に存在する、生存している形質導入細胞のパーセンテージは、全リツキシマブ濃度にわたって、配列番号75を発現する細胞ではるかに高かった。このように、驚くべきかつ有利なことに、配列番号55および56のアミノ酸配列を有する安全スイッチは、RQR8と比べてより効果的かつ高感度なようであり、細胞死の誘導に必要な抗体がより少ない可能性がある。RQR8(配列番号75)およびRR8スモールリンカー(配列番号55)は、非常によく似たGFPおよびCD20MFIを有しているため、これらの結果を直接比較することができる。図5Bからわかるように、RR8スモールは、優れた用量依存性死滅反応を示し、最も高いRTX濃度での細胞死滅能を上回らないまでも同等の細胞死滅能を示していた。RR8ラージリンカーは、CD20 MFIノレベルが有意に高く、結果はこれを反映しており、最も低い濃度であっても高レベルの死滅を示した。
ただし、図5からわかるように、RQR8およびRR8ラージの両方において、最も高いリツキシマブ濃度では、それに次ぐ濃度と比較して、生存細胞のパーセンテージがより高かった。このことは、死滅能が限界に達したことを示している可能性がある。
【0192】
本発明者らは、ACTのための細胞に使用し得る新たな安全スイッチを設計した。翻訳されたタンパク質は、レトロウイルス形質導入後、細胞表面に安定的に発現する。この構築物はリツキシマブと結合し、デュアルエピトープ設計により、高い効果の補体媒介性死滅を引き起こす。構築物は、そのサイズが小さいため、T細胞受容体またはキメラ抗原受容体およびその他等、典型的なT細胞操作導入遺伝子と容易に共発現させることができ、許容できない毒性に直面しても、既製の臨床グレードの試薬/医薬品を用いて細胞を排除することを可能にする。
【0193】
上記明細書中に挙げられた出版物は全て、参照によって本明細書中に組み込まれる。記載されている本発明の方法およびシステムに対する種々の改変および変更が、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を、特定の好ましい実施形態に関連して説明したが、請求項に記載されている発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないものと理解されるべきである。実際に、細胞療法、T細胞操作、分子生物学、または関連する分野の当業者にとって明らかな、本発明を実施するために記載された形態の種々の改変もまた、下記の特許請求の範囲内であるものと意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
【配列表】
2023527049000001.app
【国際調査報告】