(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-26
(54)【発明の名称】新規なフタル酸エステル-フリーのイソシアヌレート組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 18/79 20060101AFI20230619BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20230619BHJP
C08G 18/02 20060101ALI20230619BHJP
C09D 127/06 20060101ALI20230619BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230619BHJP
【FI】
C08G18/79 010
C08G18/76 014
C08G18/02 020
C09D127/06
C09D7/63
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572757
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2021063666
(87)【国際公開番号】W WO2021239621
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・オーガスティン
(72)【発明者】
【氏名】イアン・ロクリー
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4J034AA04
4J034DP16
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA06
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC61
4J034HC71
4J034MA12
4J034QB10
4J034QB14
4J034QC03
4J034RA03
4J034RA05
4J034RA07
4J034RA08
4J034RA09
4J038CD021
4J038JA59
4J038JB36
4J038NA12
4J038NA27
4J038PC10
(57)【要約】
本発明は、イソシアネート基を含むイソシアヌレート及びフタル酸エステル-フリーの可塑剤から構成される、新規で、高度に有効な、低モノマー含量、低粘度、低揮発性の組成物を提供し、このものは、接着促進剤として使用した場合、改良された接着性を付与し、さらには、可塑化PVCをベースとするコーティング組成物を提供し、コーティングされた基材を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
a)イソシアネート基を含むイソシアヌレート、及び
b)アジピン酸ベンジルアルキル、
を含み、
a)対b)の重量比が、1:1~1:8、好ましくは1:1.2~1:4、特に好ましくは1:1.5~1:2.5の範囲である、組成物。
【請求項2】
前記アジピン酸ベンジルアルキルが、アルキル基として、分岐状若しくは非分岐状のC
6~C
16アルキル基、好ましくは非分岐状若しくは分岐状のオクチル基、最も好ましくはイソオクチル基を有している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イソシアネート基を含む前記イソシアヌレートが、2,4-ジイソシアナトトルエンと2,6-ジイソシアナトトルエンとを含む異性体ジイソシアナトトルエンの混合物を三量化することにより得ることが可能である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート基を含むイソシアヌレートが、65重量%~95重量%の2,4-ジイソシアナトトルエンと5重量%~35重量%の2,6-ジイソシアナトトルエンとの混合物を三量化することにより得ることが可能であり、ここで、前記重量パーセントはそれぞれ、ジイソシアナトトルエンの合計量を基準にしたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の合計質量を基準にして、50重量%までの希釈剤、好ましくは酢酸アルキル、好ましくは酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、N-アルキルピロリドン、N-オクチルピロリドン、N-デシルピロリドン、DMF、アセトン、安息香酸アルキル、好ましくは、安息香酸ベンジル、パラフィン、ホワイト油、及び低芳香族含量の脂肪族化合物、並びにそれらの物質の混合物の群から選択される希釈剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、可塑化ポリ塩化ビニルをベースとするコーティング組成物のための接着促進剤としての、使用。
【請求項7】
前記コーティング組成物が、少なくとも1種のPVCプラスチゾルを含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
可塑化ポリ塩化ビニルを含むか、又はそれからなるコーティングを有する基材を製造するための、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項9】
前記コーティングされる基材が、ターポリン、ビルボード、空気支持構造物及びその他の織物構造物、フレキシブルコンテナー、テントの屋根、日除け、保護衣、コンベヤベルト、フロックカーペット、又は発泡合成皮革である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記基材が、織物、織布、又は皮革である、請求項8又は9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記織布が、織物のポリエステル織布、又は織物のポリアミド織布である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を製造するためのプロセスであって、ジイソシアネートを、前記アジピン酸アルキルb)の存在下で三量化させて、イソシアネート基を含む前記イソシアヌレートa)を得る、プロセス。
【請求項13】
前記三量化反応を、40~140℃の温度範囲で起こさせ、前記反応混合物の中で使用された前記ジイソシアネートの含量が、0.8重量%、好ましくは0.6重量%、特に好ましくは0.5重量%以下となったときに反応停止させる、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
使用されるジイソシアネートが、2,4-ジイソシアナトトルエンと2,6-ジイソシアナトトルエンとを含む異性体ジイソシアナトトルエンの混合物である、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物及び少なくとも1種のPVCプラスチゾルを含む、コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着促進剤、特には可塑化PVCをベースとするコーティング組成物のための接着促進剤の技術分野に関し、接着促進剤として優れた適合性を有する、フタル酸エステル-フリーで、低モノマー含量、低粘度及び低揮発度の組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
可塑化PVCにイソシアネート基を含む接着促進剤を添加することによって、その可塑化PVCの、基材に対する接着性能を改良することが可能であるということは、公知である。そのようにして接着性能を改良することは、たとえばPVC被覆を備えた合成繊維材料を製造したいような場合には、重要である。使用される接着促進剤は、好ましくはイソシアヌレートであって、それにはイソシアネート基が含まれ、そしてジイソシアネートから、オリゴマー化、特には三量化させることによって製造することができる。この目的のために使用されるジイソシアネートは、TDI(通常は、主として2,4-ジイソシアナトトルエン(2,4-TDI)及び2,6-ジイソシアナトトルエン(2,6-TDI)からなる異性体ジイソシアナトトルエンの混合物である)であり、それらの混合物は、市場で容易に入手可能である。それらは容易に加工して、ほぼ完全に、イソシアネート基を含むイソシアヌレートとすることができる。作業場での安全性及び製品の安全性、並びにEUの規制から、ほぼ完全に転化させることが必要であるが、この理由のために、その接着促進剤組成物中でのジイソシアネートの残存含量が、0.5重量%未満に維持される。それよりも好適性が劣るのが、ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)であって、このものは同程度の良好な利用可能性を有してはいるが、TDIよりも三量化しにくく、そのために、ジイソシアネートの残存含量が高く、望ましくないものとなってしまう。MDIベースのイソシアネート基を含むイソシアヌレートはさらに、低い溶解度を示し、そして結晶化する傾向を有している。
【0003】
イソシアネート基を含むイソシアヌレート
イソシアネート基を含むイソシアヌレートは、特に、可塑剤の中の溶液の形態で使用する場合には、接着促進剤としての取扱いが容易である。TDI由来のイソシアネート基を含むイソシアヌレートは、溶媒として使用される可塑剤の中で製造するのが好ましい。これらの接着促進剤及び可塑剤を含む接着促進剤組成物、それらの製造、並びにそれらの使用は、たとえば、特許文献1(特許文献2)又は特許文献3に記載されている。
【0004】
可塑剤及び可塑化PVC
本発明の目的においては、可塑剤は、典型的には、揮発度が全くないか、又は低い揮発度を有するだけで、PVCとは共有結合しないが、そのガラス転移温度を低下させるような有機物質である。可塑剤と混合することによって、PVC(それ自体は、硬質で脆い)を、可撓性があり、強靱な材料に変化させるが、当業者はそれを、可塑化PVC又は軟質PVCと呼んでいる。室温では、その可塑化PVCは通常、可撓性がある固形物である。好適な可塑剤は、当業者には公知である。典型的な可塑剤の例としては、フタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、トリメリット酸、アルカンスルホン酸、クエン酸又は安息香酸と、アルコールとのエステルが挙げられる。可塑化PVCの中に存在させるそのような可塑剤の量は多く、通常、可塑化PVCの合計質量の、10重量%~50重量%超までの範囲である。不適切な使用条件下では、その可塑剤が、隣接している材料の表面又は内部へ移行する可能性がある。したがって、可塑化PVCを使用すると、その可塑剤による、人間及び環境の汚染の危険がもたらされる。これらの問題を考慮して、近年は、使用される可塑剤が、人間に害を及ぼさないか、そして生物蓄積性がないかといった要請の対象となってきた。
【0005】
可塑剤としての短鎖フタル酸エステル
欧州連合で適用されるREACH規制では、可塑剤のフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、及びフタル酸ベンジルブチルを、SVHC(Substances of Very High Concern:高懸念物質)リストに搭載している。さらには、可塑剤のフタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル及びフタル酸ジ-n-オクチルは、子供が口に入れる恐れがある玩具や幼児用品には、もはや使用することができない。これらの制約(消費者の中のある人たちは、不明確で心配だとみなしている)に鑑みて、多くの製造業者は、一般的に、可塑化PVCの製造において、すべてのフタル酸エステル含有可塑剤及びそれらの異性体を回避する方向へ移行しつつある。したがって、加工性及び使用時性能に関して、フタル酸エステルベースの可塑剤と同等の性能レベルを達成できる、フタル酸エステル-フリーの可塑剤が要望されている。
【0006】
フタル酸エステル-フリーの可塑剤
本発明の文脈においては、「フタル酸エステル-フリーの可塑剤」という表現は、可塑剤の含量を基準にして、1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0.1重量%未満、特に好ましくは0重量%しかフタル酸ジアルキルを含まない可塑剤について使用される。
【0007】
フタル酸エステル-フリーの接着促進剤組成物
フタル酸エステル含有可塑剤を避けることで、特に敏感な用途において、たとえば、皮膚との接触において、可塑剤を含む接着促進剤組成物が、今や必要とされるようになっている。したがって、フタル酸エステルをまったく含まないが、それでもなお、従来技術からのフタル酸エステル含有接着促進剤組成物と同等の良好な接着性を有する接着促進剤組成物に対する強い要望がある。本発明の文脈においては、「フタル酸エステル-フリーの接着促進剤組成物」という表現は、それらの合計質量を基準にして、1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0.1重量%未満、特に好ましくは0重量%しかフタル酸ジアルキルを含まない、接着促進剤組成物について使用される。
【0008】
さらなる要望は、それらの接着促進剤組成物が、無色透明であり、固形物又は沈殿物をまったく含まず、揮発性の高い成分すなわち0℃~100℃の沸点を有する有機化合物を一切含まず、そして良好な加工性を目的として、23℃で、30,000mPas未満、好ましくは10,000mPas未満、特に好ましくは5000mPas未満の粘度を有するということである。モノマーのジイソシアネートの残存含量は、0.8重量%未満、好ましくは0.6重量%未満、特に好ましくは0.5重量%以下とするべきである。これらの製品性能をすべて網羅したものは、今日まで、従来技術には記載されていない。
【0009】
たとえば、特許文献4に記載されている、フタル酸ジイソノニルをベースとする接着促進剤組成物は、敏感な用途に極めて好適という訳ではない。特許文献5及び特許文献6では、TDIベースのイソシアネート基を含み、接着促進剤として好適なイソシアヌレートを、任意選択の溶媒(これには、フタル酸エステル-フリーの可塑剤も含まれる)の中で製造することができると主張している。しかしながら、実際にはこれは正しくない。本願発明者らが実施した実験では、任意選択されたフタル酸エステル-フリーの可塑剤では、間違いなく、上記の要望すべてを満足させる接着促進剤組成物が得られないということが明らかになった。このことは、特許文献7に記載されている、フェノールのアルキルスルホン酸エステル(ASE)をベースとしMesamoll(登録商標)の商標で市販されている可塑剤についてもあてはまる。特許文献8には、接着促進剤として好適なイソシアネート基を含むイソシアヌレートの溶液が記載されているが、それらはMDIから製造したものである。これらの溶液は、上述の理由のために不適切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第2419016A1号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第1455701A号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/095569号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/70984A1号パンフレット
【特許文献5】独国特許出願公開第2551634A1号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1378529A1号明細書
【特許文献7】独国特許第102007034977号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第3041732A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、接着促進剤として、イソシアネート基を含むイソシアヌレートの好適な組成物を提供することであったが、それらは、フタル酸エステル-フリーの可塑剤を含みながらも、それらの機械的性質、たとえば接着強度の点で、国際公開第2005/70984A1号パンフレットに記載のフタル酸エステル含有接着促進剤のレベルを達成している。そのイソシアネート基を含むイソシアヌレートは、工業的に大規模で入手可能な、TDIの異性体混合物をベースとするものである。その組成物は、透明且つほとんど無色であり、それらの23℃での粘度は、30,000mPas未満、好ましくは10,000mPas未満、特に好ましくは5000mPas未満であり、そして遊離TDI(全部の異性体)の含量は、0.8重量%未満、好ましくは0.6重量%未満、特に好ましくは0.5重量%以下である。使用されるその可塑剤の揮発度は、安息香酸イソノニルのそれより高くあってはならない。
【0012】
可塑剤の揮発度
使用される可塑剤の揮発度は、安息香酸イソノニル(INB)のそれよりも不利であってはならない。INBは、揮発度に関しては、イソシアヌレートのためのキャリヤーとして、接着促進剤の中の活性物質としての性能で、全世界的に受容されている。しかしながら、それより高い揮発度は、望ましくない。物質の揮発度は、ここでは、熱重量分析(TGA)によって求める。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その目的は、以下のものを含む組成物によって達成され、したがって本発明はそれらの組成物を提供する:
a)イソシアネート基を含むイソシアヌレート、及び
b)アジピン酸ベンジルアルキル、
ここで、a)対b)の重量比は、1:1~1:8、好ましくはa)対b)が、1:1.2~1:4、特に好ましくは1:1.5~1:2.5の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい実施態様においては、そのアジピン酸ベンジルアルキルが、アルキル基として、分岐状若しくは非分岐状のC6~C16アルキル基、好ましくは非分岐状若しくは分岐状のオクチル基、最も好ましくはイソオクチル基を担持している。
【0015】
成分b)としてアジピン酸ベンジルオクチルを使用するのが、極めて特に好ましい。
【0016】
本発明の好ましい実施態様においては、その組成物が、20重量%~35重量%の、イソシアネート基を含むイソシアヌレート及び80重量%~65重量%のアジピン酸ベンジルオクチルを含む。
【0017】
また別の好ましい実施態様においては、その組成物に、その組成物の合計質量を基準にして、50重量%まで、好ましくは0.1重量%~40重量%の希釈剤を含む。これは、好ましくは、酢酸アルキル好ましくは、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、N-アルキルピロリドン、N-オクチルピロリドン、N-デシルピロリドン、DMF、アセトン、安息香酸アルキルを含む群からの希釈剤であり、好ましくは、安息香酸ベンジル、パラフィン、ホワイト油、及び低芳香族含量の脂肪族化合物、並びにこれらの物質の混合物である。
【0018】
成分a)として有利に使用することが可能なイソシアネート基を含むイソシアヌレートは、2,4-ジイソシアナトトルエン及び2,6-ジイソシアナトトルエンを含む異性体ジイソシアナトトルエンの混合物を三量化させることにより得ることができる。
【0019】
イソシアネート基を含み、そして好ましくは成分a)として使用されるイソシアヌレートは、65重量%~95重量%の2,4-ジイソシアナトトルエンと5重量%~35重量%の2,6-ジイソシアナトトルエンとの混合物を三量化させることにより得ることができるが、ここでその重量パーセントは、それぞれ、ジイソシアナトトルエンの合計量を基準にしたものである。
【0020】
成分a)の製造は、たとえば、国際公開第2005/70984A1号パンフレットに記載のタイプの公知のプロセスにより、ジイソシアネート混合物を三量化させることにより達成できる。
【0021】
その三量化は、可塑剤である成分b)の存在下に実施するのが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、本発明の組成物を製造するためのプロセスも提供するが、そこでは、アジピン酸ベンジルアルキルb)の存在下にジイソシアネートを三量化させて、イソシアネート基を含むイソシアヌレートa)を得る。
【0023】
その三量化反応は、典型的には、40~140℃、好ましくは40~80℃の温度範囲で起こさせる。その三量化反応は、その反応混合物の中のモノマーのジイソシアネートの含量が0.8重量%、好ましくは0.6重量%、特に好ましくは0.5重量%以下になった時点で停止させる。
【0024】
上述の停止反応は、たとえば、触媒を熱分解させるか、或いは反応停止剤を添加することによって、触媒を全面的又は部分的に失活させることにより実施することができる。反応停止剤としては、プロトン酸、塩化アシル、又はメチル化化合物を使用することができる。リン酸アルキル、特にはリン酸ジブチル、又はトルエンスルホン酸メチルを使用するのが特に好ましい。反応停止剤を使用する場合、その使用量は、使用したジイソシアネートの合計量を基準にして、典型的には0.22重量%~4重量%、好ましくは0.1重量%~2重量%、特に好ましくは0.2重量%~1重量%である。そうすると、その反応生成物には、典型的には3重量%~7重量%、好ましくは4.5%~6%のイソシアネート基が含まれる。
【0025】
好ましい実施態様においては、本発明のプロセスにおいて使用されるジイソシアネートは、ジイソシアナトトルエン、特に好ましくは実質的に2,4-TDI及び2,6-TDIからなる混合物であって、これは工業的に大規模で入手可能である。その混合物は、65重量%~95重量%の2,4-ジイソシアナトトルエン及び5重量%~35重量%の2,6-ジイソシアナトトルエンを含む異性体ジイソシアナトトルエンの混合物であって、触媒作用を用いて製造される。そのTDIの異性体混合物は、特に好ましくは、混合物中に75重量%~85重量%の2,4-TDIと共に15重量%~25重量%の2,6-TDIを含む。特に好適に使用されるそれらのTDIの異性体混合物の一例が、製品のDesmodur(登録商標)T80であって、Covestro AGから市販されている。
【0026】
成分a)の製造では、触媒を使用することが可能であって、その触媒が、三量化反応を開始及び加速させる作用を有し、そして比較的に高い温度で、TDIを選択的に取り込むようにする。これらの触媒は、フェノール性OH基、及び芳香族系に結合されたN,N-ジアルキルアミノメチル基(アルキル:C1~C3アルキル鎖、及び/又は1~18個の炭素原子を有し、場合によっては酸素又は硫黄によって中断されているアルキレン鎖)を有している。
【0027】
それらの基は、複数の分子に分散されていてもよいし、或いは1個又は複数の芳香環に位置していてもよい。触媒系として使用される化合物は、好ましくは、一つの分子の中に、ヒドロキシ基だけではなく、アミノメチル基も含んでいるようなものであるのが好ましい。
【0028】
C1~C3ジアルキルアミノメチル基が、芳香族のヒドロキシ基に対してオルトの位置にある系を使用するのが、特に好ましい。
【0029】
触媒として好適なマンニッヒ塩基の合成については、たとえば、独国特許出願公開第25 51 634A1号明細書及び国際公開第2005/70984A1号パンフレットに記載がある。好適に使用されるマンニッヒ塩基は、フェニル、p-イソノニルフェノール、又はビスフェノールAをベースとするものであって、これらは、たとえば、独国特許出願公開第A2 452 531号明細書又はSynth.Commun.,(1986),16,1401-9に従って、ジメチルアミンをホルムアルデヒドと反応させることにより得られる。具体的に好ましいのは、フェノール又はビスフェノールAをベースとするマンニッヒ塩基である。
【0030】
使用される触媒は、純物質として又は溶液中で、好ましくは少量ずつ複数回又は連続的に使用される。
【0031】
本発明の組成物は、透明で、無色か又はほとんど無色の液状物であって、貯蔵では驚くほど安定で、数週間貯蔵した後であってさえも、変色若しくは結晶化、又は沈殿物の形成若しくは相分離の傾向は有さない。貯蔵の前及び後でも、それらはさらに、極端に低い遊離TDI(すなわち、モノマーのジイソシアナトトルエン)含量を特徴としており、このことは、本発明の組成物が特に強みとしているところで、その理由は、この毒性学的に疑わしいジイソシアネートが、比較的に低い沸点を有しているからである。
【0032】
以下で示す比較例1~6では、したがって、本発明の底流にある目的が、任意選択されたフタル酸エステル-フリーの可塑剤で達成不可能であることが明らかになっただけではなく、さらには、本発明がさらに、接着促進剤組成物の形態にあって、必要とされる性質を与える、可塑剤とイソシアネート基を含むイソシアヌレートとの組合せを有利に作り出すことを可能とするプロセスを提供するが証明される。
【0033】
本発明の組成物の使用
本発明の組成物は、特には可塑化PVC製のコーティングのための接着促進剤として、又はPVCプラスチゾルのための接着促進添加物として好適である。当業者の理解するところであるが、「PVCプラスチゾル」という表現は、可塑剤中のPVCの液状分散体を意味しており、これは、たとえば、比較的に高い温度に加熱するとゲル化し、したがって、可塑化PVCの製造に使用することができる。本発明の組成物は、イソシアネート基と反応性の基を有する合成繊維、たとえばポリアミド又はポリエステル繊維から作られた基材と、PVCプラスチゾル又は軟質PVC溶融物との間の接着促進剤として、特に有利に使用することができる。本発明の溶液が、平面的基材の上、たとえばフォイル上への可塑化PVCの接着性を改良するのにも使用できるのは、自明である。
【0034】
本発明の組成物は、したがって、可塑化PVCをベースとするコーティング組成物のための接着促進剤として特に好適である。本発明の目的においては、「可塑化PVCをベースとするコーティング組成物」という表現には、プラスチゾルを含むコーティング組成物だけではなく、基材に適用したときに、溶融された軟質PVCを含む組成物の形態をとるコーティング組成物も包含されるが、ここでは、前者の方が好ましい。
【0035】
コーティングされる基材として特に好適なのは、織物、たとえば天然繊維、合成繊維、又はガラス繊維から作られた織布である。特に好適な合成繊維は、ポリアミド及びポリエステル繊維である。さらには、皮革も基材として使用可能である。
【0036】
本発明の組成物は、可塑化PVCを含むか、又はそれらからなるコーティングを有する基材の製造に使用することができる。そのコーティングが、可塑化PVCからなっていない場合には、典型的には、それには、PVCコーティングでは慣用されると当業者が認めているさらなる物質と共に、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、特に好ましくは90重量%~99重量%のそれが含まれる。本発明の組成物は、たとえば、印刷法、ドクターナイフ法、スクリーニング法若しくはスプレー法、又は浸漬法によってコーティングされた基材に対して適用することができる。製造される製品での必要性に応じて、そのようにして処理した基材の表面に、次いで、1層又は複数層の接着促進剤-フリーのPVC層を、たとえば、プラスチゾルの形態か、又は押出しコーティング法若しくはホットメルトロールコーティング、又は積層法により、適用する。本発明の組成物はさらに、PVCプラスチゾルを適用するより前に、それに添加するのが特に好ましい。
【0037】
本発明の組成物は、通常、そのコーティング組成物の可塑剤-フリーのPVCを基準にして、0.5重量%~40重量%、好ましくは2重量%~15重量%の、イソシアネート基を含むイソシアヌレートが存在するような量で使用する。しかしながら、本発明の溶液を、それぞれの応用分野に適した、各種その他の所望の量で使用することもできる。
【0038】
使用される適用方法とは関係なく、仕上がり層の作成、すなわち、接着促進剤のイソシアネート基と基材との反応、及びPVC層のゲル化は、慣用される方式で、比較的に高い温度で達成される。ここで使用される温度は、そのPVC層の組成に応じて、110~210℃の間である。
【0039】
本発明はさらに、コーティング及び織物又は織布のためのコーティングされる基材も提供するが、それらは、上記の接着促進剤組成物を使用して得ることができる。本発明の組成物は、可塑化PVCをベースとするコーティング組成物のため、したがって可塑化PVCを含むか、又はそれらからなるコーティングの製造のため、すなわち、特には、ターポリン、ビルボード、空気支持構造物及びその他の織物構造物、フレキシブルコンテナー、テントの屋根、日除け、保護衣、コンベヤベルト、フロックカーペット、又は発泡合成皮革の製造のための接着促進剤として適している。
【0040】
本発明の組成物は、イソシアネート基と反応性の基を有する基材をコーティングするため、特には、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維製の糸、マット、及び織布をコーティングするため接着促進性添加剤として、特に良好な適合性を有している。
【実施例】
【0041】
本発明実施例及び比較例
特に断らない限り、すべての部及びパーセントは、重量を基準にしたものである。
【0042】
パラメーターの測定
反応生成物について求めたパラメーターは、23℃での粘度(VT550回転粘度計、Haake GmbH、Karlsruhe製)及び遊離TDIの含量(ガスクロマトグラフィー、Hewlett Packard 5890、DIN ISO 55956に準拠)であった。イソシアネート含量は、EN ISO 11909に従って測定した。Mettler Toledo TGA/DSC3+ SF/1100/189、T=室温~400℃、10℃/分、N2を使用して、TGA曲線を作成させた。
【0043】
本発明実施例及び比較例のための出発物質
Desmodur(登録商標)T80:80重量%の2,4-TDI及び20重量%の2,6-TDIからなるTDIの異性体混合物、Covestro AG製。
Vestinol(登録商標)9 DINP:フタル酸ジイソノニル、Evonik製。
Adimoll(登録商標)DB:アジピン酸ジブチル、Lanxess Deutschland GmbH製。
Adimoll(登録商標)DO:アジピン酸ジオクチル、Lanxess Deutschland GmbH製。
Adimoll(登録商標)BO:アジピン酸ベンジルオクチル、Lanxess Deutschland GmbH製。
Benzoflex(登録商標)2088:ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート及びジプロピレングリコールジベンゾエートの混合物、Velsicol Chemical Corp製。
Mesamoll(登録商標)II:アルカンスルホン酸フェニル、Lanxess Deutschland GmbH製。
触媒:DABCO TMR 30(2,4,6-トリス(ジメチルアミノエチル)フェノール)
反応停止剤:リン酸ジブチル
【0044】
【0045】
表1は、PVCプラスチゾルのための通常の加工温度では、アジピン酸ジブチル(DBA)は、すでに、極めて実質的に蒸発してしまっているということを示している。このものは、環境保護及び作業場の安全性の理由から、受け入れがたい。さらに、PVC層の中でブリスターが発生している可能性があり、このことも同様に極めて好ましくない。
【0046】
比較例1:(非本発明)DINP
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、378重量部のVestinol(登録商標)9 DINPの中で、1.6重量部の触媒を用いて、55℃で三量化させた。その反応を、72時間後に、2.6重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で3時間続けた。イソシアネート含量が5.53重量%、23℃での粘度が41,400mPas、そして遊離TDIの含量が0.14重量%の、透明で無色の溶液が得られた。
【0047】
比較例2:(非本発明)DBA
最初にTGAにより、アジピン酸ジブチルの揮発度を求めた(表1参照)。
【0048】
この物質は、通常のPVC-加工温度である180~210℃では、ほぼ完全に蒸発したことが見いだされた。それにより、PVC層にブリスターが発生し、したがって、極めて好ましくない。そのため、さらなる試験は、実施しなかった。
【0049】
比較例3:(非本発明)エチレングリコールジベンゾエート及びプロピレングリコールジベンゾエート
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、415重量部のBenzoflex(登録商標)2088の中で、0.7重量部の触媒を用いて、50℃で三量化させた。その反応を、84時間後に、1.7重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で3時間続けた。イソシアネート含量が4.8重量%、23℃での粘度が200,000mPasより高、そして遊離TDIの含量が1.09重量%の、透明で無色の溶液が得られた。
【0050】
比較例4:(非本発明)2.9部のMesamoll(登録商標)II触媒
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、504重量部のMesamoll(登録商標)IIの中で、2.9重量部の触媒を用いて、55℃で三量化させた。その反応を、72時間後に、4.7重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で3時間続けた。イソシアネート含量が4.8重量%、23℃での粘度が11,600mPasより高、そして遊離TDIの含量が0.25重量%の、透明で黄色みのある溶液が得られた。
【0051】
比較例5:(非本発明)1.5部のMesamoll(登録商標)II触媒
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、378重量部のMesamoll(登録商標)IIの中で、1.5重量部の触媒を用いて、55℃で三量化させた。その反応を、72時間後に、2.6重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で3時間続けた。イソシアネート含量が5.31重量%、23℃での粘度が300,000mPasより高、そして遊離TDIの含量が0.15重量%の、透明で黄色みのある溶液が得られた。
【0052】
比較例6:(非本発明)アジピン酸ジオクチル
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、534重量部のAdimoll DOの中で、2.5重量部の触媒を用いて、70℃で三量化させた。その反応を、5時間後に、5重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で1時間続けた。透明な溶液は得られなかった。しばらくすると、沈殿物が生成した。したがって、その反応生成物は使用することが不可能で、それ以降の分析を行わなかった。
【0053】
比較例1は、欧州特許出願公開第1 711 546A1号明細書の実施例2に相当し、本発明の接着促進剤組成物の性質を従来技術と比較することが可能となる。比較例4及び5は、触媒の量を増やしても、本発明の反応生成物が自動的に得られる訳ではないことを示している。
【0054】
非本発明の比較例1~6が、さらに示しているように、可塑剤の選択が、三量化の結果に決定的影響を与える。したがって、従来技術に記述されているようなフタル酸エステル-フリーの可塑剤を使用しても、所望の性質の組合せを得ることは不可能であるか、又は、TDI三量体の濃度が、約27重量%を超えない限りにおいてのみ、これが達成できる。これらの接着促進剤はいずれも、それらの粘度が高いために、これ以上の加工は不可能であるか、又はそれらのTDI三量体の濃度が低すぎるために、十分な接着強度が得られない。
【0055】
本発明実施例1:アジピン酸ベンジルオクチル(=-K93)
180重量部のDesmodur(登録商標)T80を、414重量部のAdimoll(登録商標)BOの中で、1.6重量部の触媒を用いて、70℃で三量化させた。その反応を、12時間後に、3.2重量部の反応停止剤を添加することによって停止させ、撹拌は、60~70℃で1時間続けた。イソシアネート含量が5.3重量%、23℃での粘度が1924mPas、そして遊離TDIの含量が0.5重量%の、透明で無色の溶液が得られた。
【0056】
性能試験及び試験結果:
PVC-プラスチゾル/接着促進剤コーティングを、工業的条件を模した試験システムの中で、ポリエステル織布に施した。次いで、そのコーティングの接着強度を、標準化試験片の上で求めた。このためには、ドクターシステムを使用し、接着促進剤を含む接着コーティングを用いてポリエステル織布をコーティングした。それらのコーティングを、オーブン中でゲル化させてから、試験にかけた。接着強度のための試験においては、2枚の試験片を、(PVC側をPVC側と)相互に重ね合わせ、低い圧力で180℃でプレスして、引張試験機で試験した。
【0057】
試験装置:
秤:最小精度0.1g
スターラー:高速スターラーシャフト
Mathis Labcoaterオーブン(Mathis AG(Zuerich)製)
Ametec LR5Kplus引張試験機
ポリエステル織布:ポリエステル 1100dtex L9/9Z60標準織布
【0058】
この試験のためには、約40×25cmのサイズの織布のサンプルを使用した。
【0059】
PVCプラスチゾルの組成:
70部のPVC;Vestolit(登録商標)B 7021 Ultra paste PVC;Vestolit GmbH(Marl)製;
30部のPVC;Vestolit(登録商標)E 7031 paste PVC;Vestolit GmbH(Marl)製;
33部のMesamoll(登録商標)ASEP;Lanxess Deutschland GmbH製;
33部のVestinol(登録商標)9 DINP可塑剤;Evonik Oxeno GmbH(Marl)製;
10部のDurcal(登録商標)5 チョーク;Omya GmbH(Koeln)製;
2.5部のBaerostab(登録商標)UBZ 780 RF安定剤;Baerlocher GmbH(Berlin)製;
1.5部のKronos(登録商標)2220 二酸化チタン;Kronos TitanGmbH(Leverkusen)製。
【0060】
試験片:
接着コーティング 約140g/m2 140℃/2min
【0061】
試験片をプレスし、コーティングした後で接着させ、140℃で予備ゲル化させ、180℃で2分加熱した。
寸法:幅5cm×長さ(よこ糸方向)25cm
Ametec LR5Kplus引張試験機を用いて試験
【0062】
PVCプラスチゾルを製造するために、先に「PVCプラスチゾルの組成」としてリストした出発物質を、減圧下、ミキサー(Drais製)の中で、水で冷却しながら、最高回転速度で2.5時間撹拌することにより混合した。
【0063】
引張試験:
次いで、それらのサンプルを使用して、Lloyd M5K引張試験機で、その接着強度を測定した。そのようにして得られた接着強度の値は、5cmのコーティングを、キャリヤー織布から剥離するのに必要な力(単位、ニュートン)を示している(剥離試験、表の中では、N/5cmの単位で強度を表している)。表に記入されている数値は、少なくとも3回の個別の測定を平均することにより求めたものである。
【0064】
比較例及び本発明実施例
本発明実施例1の測定結果からも明らかなように、本発明のフタル酸エステル-フリーの組成物を接着促進剤として使用した場合には、従来技術のフタル酸エステル含有組成物(比較例1)を用いて達成されるよりも高い接着強度値が得られる。比較例3、5及び6からの接着促進剤は、それらが、過剰な粘度を有していたり、或いは沈殿物を生じたりするので、加工するにはさらに不適切である。比較例4及び5の組成物は、さらに、好ましくない黄色みのある着色を有していた。その他の思いがけない発見は、アジピン酸エステルタイプの物質の中でも、予想しなかった程の良好な有効性を示したのは本発明のアジピン酸ベンジルオクチルだけであり、このタイプの物質からの他の二つの反応生成物はいずれも、沈殿物を示すか、或いは揮発性が高すぎたということである。
【0065】
【国際調査報告】