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特表2023-527105高率Naイオン電池アノードを作成するための共有結合性有機構造体の電子エネルギー準位の調整方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(54)【発明の名称】高率Naイオン電池アノードを作成するための共有結合性有機構造体の電子エネルギー準位の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 12/08 20060101AFI20230620BHJP
   C07D 257/08 20060101ALI20230620BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20230620BHJP
   C07C 47/565 20060101ALI20230620BHJP
   C07C 211/49 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20230620BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/1399 20100101ALI20230620BHJP
【FI】
C08G12/08
C07D257/08
C07D401/14
C07C47/565
C07C211/49
H01M4/137
H01M4/60
H01M4/36 C
H01M4/66 A
H01M4/1399
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558106
(86)(22)【出願日】2021-03-27
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 IB2021052553
(87)【国際公開番号】W WO2021198868
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】202021013731
(32)【優先日】2020-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】519429923
【氏名又は名称】インディアン インスティチュート オブ サイエンス エデュケイション アンド リサーチ
【氏名又は名称原語表記】INDIAN INSTITUTE OF SCIENCE EDUCATION AND RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルダール,サチック
(72)【発明者】
【氏名】バイディアナサン,ラマナサン
【テーマコード(参考)】
4C063
4H006
4J033
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4C063AA03
4C063BB01
4C063CC47
4C063DD12
4C063EE10
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB91
4H006BC10
4H006BC19
4H006BJ50
4J033EA05
4J033EA09
4J033EA18
4J033EA33
4J033EA51
4J033EB25
4J033EB27
4J033EB29
4J033EC08
4J033HB01
5H017AA03
5H017AS10
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE05
5H017EE06
5H050AA02
5H050BA15
5H050CB21
5H050CB22
5H050CB23
5H050CB25
5H050DA04
5H050DA08
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、共有結合性有機構造体および共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極に関する。本発明はさらに、高率Naイオン電池アノードを作成するために共有結合性有機構造体の電子エネルギー準位を調整する方法、および共有結合性有機構造体(COF)ベースのアノード上での電子蓄積を向上することができる機能的モジュールの包含に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび複数のテルフェニルアミン、s-テトラジンジアニリン、s-テトラジンビスピリジンを拡張された層状の共有結合性構造体中に含む共有結合性有機構造体。
【請求項2】
テルフェニルアミンは、(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミンであり、s-テトラジンジアニリンは、4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリンであり、および、s-テトラジンビスピリジンは、5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)である請求項1に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項3】
2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン;2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン;および、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)に基づく請求項1に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項4】
IISERP-COF16、IISERP-COF17およびIISERP-COF18から選択される請求項1に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項5】
(a)2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドを、テルフェニルアミン、またはs-テトラジンジアニリン、またはs-テトラジンビスピリジンと、溶媒中、酢酸の存在下、120℃から140℃の範囲の温度で、2日間から7日間の期間、反応させるステップ;および
(b)反応混合物を室温まで冷却し、粗生成物を得るステップ;および
(c)任意に、ソックスレー抽出を使用して粗生成物を精製し、共有結合性有機構造体を得るステップ:
を含む共有結合性有機構造体の調製方法。
【請求項6】
溶媒は、ジオキサン、メシチレン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、酢酸エチルまたはそれらの混合物から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の反応期間は5日間である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
Na金属でコーティングされた請求項1~4のいずれかに記載の共有結合性有機構造体からなる共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極。
【請求項9】
共有結合性有機構造体は、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)である請求項8に記載の共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極。
【請求項10】
共有結合性有機構造体は、IISERP-COF18である請求項8に記載の共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極。
【請求項11】
(a)共有結合性有機構造体をエタノール中に分散させて、共有結合性有機構造体のエタノール分散液を得るステップ;
(b)共有結合性有機構造体のエタノール分散液をカーボン紙にコーティングするステップ;および
(c)カーボン紙を真空中で12~24時間乾燥させて電極を得るステップ;および
(d)Na金属を使用して電極を製造し、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極を得るステップ:
を含む共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極の調製方法。
【請求項12】
カーボン紙は、炭素被覆アルミニウム箔である請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共有結合性有機構造体の電子エネルギー準位を調整して、ナトリウムイオン電池(SIB)の効率的なアノードとして機能させる方法に関する。具体的には、本発明は、共有結合性有機構造体および共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極に関する。本発明はさらに、共有結合性有機構造体(COF)ベースのアノード上での電子蓄積を向上することができる機能的モジュールの包含に関する。
【背景技術】
【0002】
COFは、均一なナノ細孔を持つ結晶性ポリマーである。COF層間の芳香族環の面外π-π積層により、c方向に沿って中空の円筒形チャネルが生成される。それらの細孔のサイズと形状は、所望の長さと形状のモノマーを選択することで調整可能である。一方、それらの有機骨格は、電気化学的に活性な部位を構造体に化学量論的に組み込むのに好都合である。この分子レベルの設計可能性により、円筒形の細孔の壁全体を酸化還元活性官能基で装飾する機会が得られる。それらの結晶構造は、そのような活性部位の周期的な分布を保証するが、細孔の大きなナノポーラス寸法は、そのような部位への容易なアクセスを保証する。また、COFの高い表面積は、電気二重層形成によって電荷を蓄えるのに役立つ。これらの酸化還元活性COFは、金属イオン電池の適切な電極候補になる。特に、Naのような動きの遅いイオンに必要な電子ダイナモを提供する。商用グラファイトを超える比容量を備えたリチウムイオン電池におけるCOFの優れたアノード特性は、すでに知られている。
【0003】
通常、グラファイトは商用リチウムイオン電池で最も使用されているアノードである。それは、リチウムイオンを層間空間に挿入して貯蔵する。残念なことに、Naイオンは大きすぎて、これらの強くπ積層されたグラファイト層に収まらない。これは、アノードでのイオン拡散を完全に妨げる。その代わりに、B、N、S、Pなどのヘテロ原子でドープされた硬質炭素がNaイオンのアノードとして採用され、妥当な成功を収めている(Bドープ:278mAh/g@0.1A/g、Nドープ:154mAh/g@15A/g、Sドープ:182mAh/g@3.2A/g、Pドープ:108mAh/g@20A/g)。それにもかかわらず、これらの改善されたシステムでも、電流密度の増加に伴う比容量の相対的な低下(レート特性と呼ばれる)を改善する必要がある。
【0004】
あるいは、COFのグラファイト構造は、アノード内のLiイオンの拡散速度を改善するために剥離されている。これにより、レート特性が直ちに向上する。このような剥離プロセスでさえ、ナトリウムの原子量とイオンサイズがリチウムに比べて非常に大きい(Li+:0.76A 対 Na+:1.02A)ため、拡散の問題を解決することはできない。これが3Dメソポーラス構造を持つ硬質炭素がより成功する理由である(>280mAh/g@100mA/g)。しかし、原子レベルの操作によるこのような硬質炭素の高電流密度(236mAh/g@10A/g)でのアノード特性の計画的な向上は、主にそれらのアモルファス構造によって妨げられる。ここでCOFが大きな可能性を秘めている。最近、ナトリウムイオン電池(SIB)のアノード特性を向上させたカルボニル官能化COFが、より高い電流密度(135mAh/g@10A/g)で報告された。独立して、COF層の酸剥離は、SIBにおいてより低い電流密度(200mAh/g@5A/g)で比容量を改善することが示された。しかし、そのような処理は過酷であり、COF構造を破壊する可能性がある。
【0005】
[本発明の目的]
したがって、本発明の目的は、共有結合性有機構造体ベースのアノードのエネルギー準位を原子的に操作することによって急速充電Naイオン電池を設計および開発することである。
【0006】
本発明の別の目的は、新規の共有結合性有機構造体およびその調製法を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
上記の目的に沿って、本発明は共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池アノードを提供し、ここでは、COF中のフェニル基を設計によりピリジルテトラジン単位で置換してLUMO準位を低下させ、それによってアノード特性を改善している。
【0008】
したがって、一態様では、本発明は、C3対称トリアルデヒド[2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒド]を、ターフェニルを含む3つの異なるC2対称ジアミン[(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン]、s-テトラジン[4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン]およびs-テトラジンビスピリジン[5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)]と反応させることによって形成される(3+2)骨格を有する3つのCOFを提供し、本明細書ではそれぞれIISERP-COF16、IISERP-COF17およびIISERP-COF18と称する。
【0009】
第1の態様では、本発明は、複数の2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび複数のテルフェニルアミン、s-テトラジンジアニリン、s-テトラジンビスピリジンを拡張された層状の共有結合性構造体中に含む共有結合性有機構造体に関する。
【0010】
本発明の別の態様では、テルフェニルアミンは、(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミンであり、s-テトラジンジアニリンは、4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリンであり、および、s-テトラジンビスピリジンは、5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)である。
【0011】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体は、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン;2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン;および、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)に基づく。
【0012】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体は、IISERP-COF16、IISERP-COF17およびIISERP-COF18から選択される。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、
(a)2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドを、テルフェニルアミン、またはs-テトラジンジアニリン、またはs-テトラジンビスピリジンと、溶媒中、酢酸の存在下、120℃から140℃の範囲の温度で、2日間から7日間の期間、反応させるステップ;および
(b)反応混合物を室温まで冷却し、粗生成物を得るステップ;および
(c)任意に、ソックスレー抽出を使用して粗生成物を精製し、共有結合性有機構造体を得るステップ:
を含む共有結合性有機構造体の調製方法に関する。
【0014】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体の調製に使用される溶媒は、ジオキサン、メシチレン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、酢酸エチルまたはそれらの混合物から選択される。
【0015】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体の調製におけるステップ(a)の反応期間は5日間である。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、Na金属でコーティングされた、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン;2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン;および、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)に基づく共有結合性有機構造体からなる共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極に関する。
【0017】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極中の共有結合性有機構造体は、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)に基づく。
【0018】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極中の共有結合性有機構造体は、IISERP-COF18である。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極の調製方法に関し、この方法は、
(a)共有結合性有機構造体をエタノール中に分散させて、共有結合性有機構造体のエタノール分散液を得るステップ;
(b)共有結合性有機構造体のエタノール分散液をカーボン紙にコーティングするステップ;および
(c)カーボン紙を真空中で12~24時間乾燥させて電極を得るステップ;および
(d)Na金属を使用して電極を製造し、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極を得るステップ:
を含む。
【0020】
本発明の別の態様では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極の調製方法で使用されるカーボン紙は、炭素被覆アルミニウム箔である。
【0021】
別の態様では、本発明は、低エネルギーLUMO準位を有するように調整されたビスピリジンテトラジン含有COFを使用するNaイオン電池用アノードの開発方法を提供する。より具体的には、COF中のピリジルテトラジン単位は、低エネルギーのLUMO準位を生成し、そこで電子は、印加された電位の下で好都合に蓄積する。これらの電子が注入されたLUMO準位は、そうでなければ遅いNaイオンが電解質からこのアノードCOFに流入するための余剰の駆動力を提供する。Naイオンの改善された拡散動力学は、電池の速度性能または充電-再充電速度を増加させる。
【0022】
さらに別の態様では、本発明者らは、プロトタイプの2032コイン型電池を使用して、このCOFベースのNaイオン電池の優れたアノード性能を実証した。
【0023】
より具体的には、本発明で使用されるCOFは、約37オングストロームの均一なサイズの秩序化された単一サイズのメソ細孔を有する。これらの細孔は、IISERP-COF16では炭素、酸素、および水素原子のみによって、IISERP-COF17では炭素、酸素、窒素(テトラジン)、および水素によって、および、IISERP-COF18では炭素、酸素、窒素(ビスピリジン-テトラジン)、および水素によって、主に覆われている。C/N/O/Hの比率は、モノマーモジュールの化学量論的組み合わせによって体系的に変化している。
【0024】
COFバックボーンの窒素含有量が増加すると、同様な構造のCOFの色が黄金色から茶色に変化する(スキーム1および図2B)。付随して、紫外(UV)可視吸収極大値は、1から3に進むにつれて低波長から高波長にシフトする(図2C)。各UVバンドには、高波長領域に長いテールがあり、通常、COFの色に大きく影響する。窒素芳香環の導入による色の変化についてより多くの証拠を得るために、タウク(Tauc)プロットを使用してバンドギャップを推定した(図2D)。COFの色強度の増加に伴い、2.75から2.51、2.20eVへのバンドギャップの連続的な減少が観察された。
【0025】
さらに追加するために、バンド構造とエネルギー準位を電気化学的方法、すなわちサイクリックボルタンメトリー(CV)から計算した。干渉を避けるために、CV測定を、非水系Ag/Ag参照電極と白金フラッグ対電極を使用して、非水系電解質媒体(アセトニトリルに溶解したt-ブチル-アンモニウム-ヘキサフルオロホスフェート)中で実施した(図2E)。最も高い酸化電位は、HOMOから1つの電子を取り出すのに必要なエネルギーを提供するが、最も低い還元電位は、1つの電子をLUMOに提供するのに必要なエネルギーに対応する。これらのフロンティア軌道は、NHE(通常の水素電極)に関してCOFのHOMO-LUMOエネルギー準位を正確に定義する。そして、得られた電位をAg-AgClに対して換算して算出する(図2F)。IISERP-COF16、IISERP-COF17、およびIISERP-COF18で、それぞれ2.93から2.61、2.32eVへのバンドギャップの連続的な減少が観察された。この傾向は、測定された光学バンドギャップと一致している。
【0026】
したがって、圧縮されたHOMO準位があまり変化しなくても、LUMOエネルギー準位は、COF構造体に窒素原子を含めることで、より低いエネルギー準位に安定する。LUMOエネルギー準位を下げると、比較的電子が不足しているテトラジン部分とピリジン部分が容易に還元される可能性が生じる。
【0027】
コイン型電池を使用して実施した充放電測定から、最も低いLUMOエネルギーを持つビスピリジン-テトラジンCOF、IISERP-COF18は、1A/gの高電流密度で340mAh/g、15A/gで128mAh/gの比容量を示す。電流密度を100mA/gから1A/gに上げても24%しか低下せず、これは、すべての最高性能のCOF由来のNaイオン電池アノードの中で最も低い値である。興味深いことに、バックボーンにN-ヘテロ原子を欠くフェニル類似体は、そのような高い性能を示さない。
【0028】
[略語]
[IISERP-COF16または1] 2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよびテルフェニル[(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン]に基づくCOF
[IISERP-COF17または2] 2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよびs-テトラジン[4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン]に基づくCOF
[IISERP-COF18または3] 2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよびs-テトラジンビスピリジン[5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)]に基づくCOF
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】A:(i)IISERP-COF16、(ii)IISERP-COF17および(iii)IISERP-COF18のモデル化された構造は、AA...スタッキングを伴う重なり構成を好む。(挿入図)001面の高角度回折で観察されたCOFの選択領域電子回折(SAED)パターンである。F0、F1、F2、およびF3は、IISERP-COFに存在する酸化還元活性官能基である。表1:幾何学的配置とエネルギーを最適化したCOFの総エネルギーと単位セルのパラメータである。B:実験的なPXRDパターンを使用した3つのCOFのポーリー(Pawley)フィットである。C:77Kで測定されたCOFの窒素(N)吸着等温線である。D:77KでのN脱離のモデルに依存しないBJHフィットから得られたCOFの細孔径分布プロットである。
図2】A:電子が豊富な中心と電子が不足している中心の存在を示すポリマーCOFの構造ブロックである。B:写真は可視光下でのCOFの色を示す。C:吸収極大を示すCOFの紫外可視スペクトルである。D:紫外可視吸収スペクトルを用いたタウク(Tauc)プロットによるCOFのバンドギャップの評価である。E:COFの酸化電位および還元電位を示す非水性3電極系のサイクリックボルタモグラム(CV)である。F:CV測定から評価されたCOFのHOMO-LUMOエネルギー準位とそれぞれのバンドギャップである。
図3】COF由来の半電池(SIB)の放電メカニズムを視覚的に示す。ナトリウムイオンはOCVにおいてナトリウム金属中間相の近くに存在する。電位が印加されると、ナトリウムイオンは負に帯電したCOFに向かって移動し始める。アノードに向かうナトリウムイオンの流れは、アノードに外部の負電荷が蓄積することによって引き起こされる。
図4】A:COF由来の半電池のCV測定は、COFの2段階の酸化還元を示す。B:テトラジン単位およびフロログルシノール単位の電気化学的還元とそれに続く還元電位下でのナトリウム化の機構的経路である。ピリジン-β-ケトエナミンコアは、ナトリウムのキレート化コアを提供する。C:LUMOエネルギー準位のグラフ表示は、エネルギー的に有利な電気化学的還元を示す。D:(i)、(ii)、および(iii)、100mA/gの電流密度での250サイクルのCOFの充放電プロファイル(初期SEI形成を除く)、高電流での容量保持である。E:低電流密度から高電流密度までのCOFのレート特性(白丸は放電、黒丸は充電を表す)である。F:高電流密度でのCOF18のレート特性である。G:1A/gの電流密度でのCOFのサイクル安定性と比容量の保持である。
図5】A、B、およびC:OCV、0.5Vおよび0.1VでのCOF由来の半電池の定電位インピーダンス測定から得られたナイキスト線図である。網掛け部分は、直流バイアスの増加に伴う電荷移動抵抗の減少を示す。D:COF由来のコイン型電池(0.1Vの直流電圧での)のZreal 対 角周波数(ω)の逆平方根のプロットである。近似直線の傾きは、ワールブルク係数(σ)を表す。
図6】A:DFTでモデル化されたCOFでのNaの構造は、アニオン性COFとNaイオンの間の最も近接した相互作用を示す。B:すべての活性部位は、結晶学的に同等な2つのNaサイトに挟まれている。C:構造体を覆うヘテロ原子の周囲のNaイオンの分布を示す3D構造体である。
図7】トリホルミルフロログルシノールのH-NMRおよび13C-NMRを、室温で、それぞれ、重水素化クロロホルムおよびジメチルスルホキシド(DMSO-d)中で記録した。
図8A】s-テトラジンジアミンの室温のH-NMRおよび13C-NMRを、それぞれ、重水素化クロロホルムおよびジメチルスルホキシド(DMSO-d)中で記録した。
図8B】4-アミノベンゾニトリルとs-テトラジンジアミンのFT-IRスペクトルである。
図9A】室温でジメチルスルホキシド(DMSO-d)中で記録されたビスピリジン-s-テトラジンジアミンのH-NMRおよび13C-NMRである。
図9B】373Kでジメチルスルホキシド(DMSO-d)中で記録されたビスピリジン-s-テトラジンジアミンのH-NMRおよび13C-NMRである。
図9C】6-アミノ-3-ピリジンカルボニトリルとビス-ピリジン-s-テトラジンジアミンのFT-IRスペクトルである。
図9D】ビスピリジン-s-テトラジンジアミンのHRMSデータは、[M+H]:265.19の単一の強いピークのみを示す。ビスピリジン-s-テトラジンジアミン(C1210)の正確な分子量は、266.10である。
図10A】500MHzで測定されたIISERP-COF16のCP MAS 13C-NMRスペクトルである。a、b、c、d、e、f、g、hは、NMRデータから得られた対応するピーク位置である。(*)はサイドバンドの存在を示す。
図10B】500MHzで測定されたIISERP-COF17のCP MAS 13C-NMRスペクトルである。a、b、c、d、e、f、g、hは、NMRデータから得られた対応するピーク位置である。(*)はサイドバンドの存在を示す。
図10C】500MHzで測定されたIISERP-COF18のCP MAS 13C-NMRスペクトルである。a、b、c、d、e、f、g、h、iは、NMRデータから得られた対応するピーク位置である。(*)はサイドバンドの存在を示す。
図11】IISERP-COFのFT-IRスペクトルの比較である。
図12】一般的なスキーム1は、対応するモノマーからのIISERP-COFの形成を示す。挿入図は、COF粉末の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、本発明は、その様々な態様がより完全に理解され認識されるように、特定の好ましい実施形態および任意の実施形態に関連して詳細に説明される。
【0031】
明細書に、構成要素または機能が含まれて、またはある特徴を有して「いてもよい」、「いることがある」、「いるかも知れない」、「いる可能性がある」と記載されている場合、その特定の構成要素または機能は、含まれている必要はなく、またはその特徴を有している必要はない。
【0032】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体で使用される場合、「一つの」、「その」の意味は、文脈が明確に指示しない限り、複数の参照を含む。また、本明細書で使用される場合、「中に」の意味は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、「中に」および「上に」を含む。
【0033】
ここで、例示的な実施形態が示されている添付の図面を参照して、例示的な実施形態を以下により十分に説明する。これらの例示的な実施形態は、説明を目的としてのみ提供されるものであり、この開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるものである。しかしながら、開示された本発明は、多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。当業者には、様々な変更が容易に明らかになる。
【0034】
本明細書で定義される一般原則は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の実施形態および用途に適用することができる。さらに、本発明の実施形態を列挙する本明細書のすべての記述、ならびにその特定の例は、その構造的均等物および機能的均等物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような均等物には、現在知られている均等物と将来開発される均等物(つまり、構造に関係なく、同じ機能を実行する開発された要素)の両方が含まれることが意図されている。また、使用される用語および言い回しは、例示的な実施形態を説明するためのものであり、限定と見なされるべきではない。したがって、本発明は、開示された原理および特徴と一致する多数の代替物、修正物、および均等物を包含する最も広い範囲を与えられるべきである。明確にするために、本発明に関連する技術分野で知られている技術資料に関する詳細は、本発明を不必要に不明瞭にしないように詳細に説明されていない。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明および請求するために使用される品目の量または寸法などを表す数字は、場合によっては用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態では、記載された説明および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化することのある近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、報告された有効桁の数に照らして、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示す数値は実施可能な限り正確に報告されている。本発明のいくつかの実施形態で提示される数値は、それぞれの試験測定で見出された標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含むことがある。
【0036】
本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内に入る個々の値を個別に参照する簡単な方法として役立つことを単に意図している。本明細書で別段の指示がない限り、個々の値は、あたかも本明細書で個別に列挙されているかのように明細書に組み込まれている。本明細書に記載されたすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書の特定の実施形態に関して提供されるありとあらゆる例または例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、別に特許請求される本発明の範囲を限定するものではない。明細書中の文言は、本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0037】
本明細書に開示される本発明の代替要素または実施形態のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループの構成要素は、個別に、またはグループの他の構成要素または本明細書に見られる他の要素と任意に組み合わせて、参照されることができ、および、特許請求されることができる。グループの1つ以上の構成要素は、利便性および/または特許性の理由により、グループに含まれたり、グループから削除されたりすることがある。そのような包含または削除が発生した場合、本明細書は、変更されたグループを含むと見なされ、したがって、添付の請求の範囲で使用されるすべてのグループの記述を満たす。
【0038】
本明細書の特定の実施形態に関して提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、別に特許請求される本発明の範囲を限定するものではない。明細書の文言は、発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0039】
本明細書で使用する「Naイオン電池」という用語は、ナトリウムイオン電池を指す。
【0040】
一般的な実施形態では、本発明は、共有結合性有機構造体および共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極に関する。本発明はさらに、共有結合性有機構造体(COF)ベースのアノード上での電子蓄積を向上することができる機能的モジュールの包含に関する。
【0041】
本発明の一実施形態では、共有結合性有機構造体は、IISERP-COF16、IISERP-COF17、およびIISERP-COF18である。
【0042】
本発明の別の実施形態では、共有結合性有機構造体は、IISERP-COF16である。
【0043】
本発明の別の実施形態では、共有結合性有機構造体は、IISERP-COF17である。
【0044】
本発明の別の実施形態では、共有結合性有機構造体は、IISERP-COF18である。
【0045】
本発明は、原子操作による共有結合性有機構造体(COF)の最低空分子軌道(LUMO)またはLUMO由来バンドのエネルギー準位を低下させることを目的とする非常に新規なアプローチを提供する。準位は本質的に非結合性であるため、電池の動作(電池の充電)中に印加された電位の下で電子によって満たされる。このような電子が蓄積または供与されたLUMO準位は、金属イオン電池のアノードとして、カチオン性Naイオンが電解質からアノード区画に入るための実質的な駆動力を生成し、よって電流を生成する。これにより、アノードで十分なイオン移動度が生成され、Naイオンが急速に移動し、Naイオン電池の充放電レート(レート特性)が向上する。
【0046】
したがって、本発明は共有結合性有機構造体を提供し、ここで、共有結合性有機構造体は、低エネルギーLUMO準位に有利なピリジン-テトラジン単位を使用することによって設計および開発される。
【0047】
一実施形態では、低エネルギーLUMO準位を有するこのようなCOFは、Naイオン電池またはコイン型電池のアノードとして利用されている。
【0048】
したがって、好ましい実施形態では、低エネルギーLUMO準位を有する共有結合性有機構造体は、拡張された層状の共有結合性構造体に、複数の三極配位子、すなわち、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび複数のs-テトラジンビスピリジン[5、5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)]を含む。
【0049】
別の実施形態では、本発明は、Naイオンコイン型電池用のCOFを利用することによってアノードを開発する方法を提供する。
【0050】
したがって、本発明は、急速充電Naイオン電池用の効率的なアノードとして使用される低エネルギーLUMO準位を有するこれらのCOFを調製するための化学を提供する。スキーム1(図12)は、対応するモノマーからのIISERP-COFの形成を示す。挿入図は、COF粉末の写真を示す。活性COFであるIISERP-COF18は、トリヒドロキシ-トリアルデヒドをビスピリジン-テトラジン-ジアミンと、ジオキサン(5.0mL)とメシチレン(3.0mL)の混合物中で、135℃で5日間加熱することにより、反応させることによって調製される(スキーム1)。
【0051】
このように得られた生成物は精製された。精製されたCOF(IISERP-COF16、IISERP-COF17、およびIISERP-COF18)は、CHN分析、結晶学的モデリング、熱安定性、吸収データ分析などを使用して特徴付けられた。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、
(a)2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドを、テルフェニルアミン、またはs-テトラジンジアニリン、またはs-テトラジンビスピリジンと、溶媒中、酢酸の存在下、120℃から140℃の範囲の温度で、2日間から7日間の期間、反応させるステップ;および
(b)反応混合物を室温まで冷却し、粗生成物を得るステップ;および
(c)任意に、ソックスレー抽出を使用して粗生成物を精製し、共有結合性有機構造体を得るステップ:
を含む共有結合性有機構造体の調製方法に関する。
【0053】
本発明によれば、COFの調製プロセスで使用されるテルフェニルアミンは、(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミンであり、COFの調製プロセスで使用されるs-テトラジンジアニリンは、4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリンであり、および、COFの調製プロセスで使用されるs-テトラジンビスピリジンは、5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)である。
【0054】
本発明の別の実施形態では、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドを、テルフェニルアミン、またはs-テトラジンジアニリン、またはs-テトラジンビスピリジンと反応させる温度は、130℃~135℃の範囲である。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態では、溶媒はジオキサンとメシチレンの混合物から選択される。
【0056】
さらに別の実施形態では、本発明者らは、この疎水性COFを利用して、カーボン紙上にCOFのエタノール分散液をコーティングすることによって電極を作製した。コーティングを1×1cmの領域にわたって維持した。その後、24時間真空乾燥させた。アルゴン雰囲気下、非水電解質系(アセトニトリルに溶解したt-ブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、tBuNH4PF6/ACN)中で、電極をCV測定した。非水性Ag/Ag参照電極と白金フラッグ対電極を使用した。50mV/sのスキャン速度で-1.8Vから2.2Vまでの電位窓でCV測定を行った。
【0057】
これら3つの同様な構造のCOF内のNa伝搬中の電子伝導性と抵抗の状態を評価するために、定電位インピーダンスを測定した。活性化されたコイン型電池に、10mV-rmsのAC振幅での10000Hzから10MHzのACスイープを実施した。バーサスタジオ(VERSA STUDIO)(バージョン2.61ベータ)ソフトウェアを使用するアメテック(AMETEK)バッテリーアナライザーを使用して、定電流充放電測定を行った。パースタット(PARSTAT)マルチチャンネル電気化学ワークステーションで、サイクリックボルタンメトリーおよび定電位電気化学インピーダンスの検討を行った。
【0058】
Z-ビュー(Z-view)ソフトウェア(バージョン3.4)を使用して、インピーダンスデータフィッティングを行った。
【0059】
[COFの特性分析]
溶液状態のH NMRおよび13C NMRから、すべてのモノマーの純度を確認した。COFの13C固体NMRの検討およびIRデータの分析によって、重縮合反応の完了を確認した。構造体内の窒素含有量の増加に伴い、COFの色は黄金色から濃い茶色になる(スキームS1)。
【0060】
3つのCOFすべての構造モデルを、マテリアルズスタジオ(Materials Studio)v.6.0.51-53を使用して構築した。最初のインデックス付けと空間群検索を、リフレックス(Reflex)モジュールを使用した実験的粉末X線回折(PXRD)を使用して実行した。3つすべてのPXRDパターンは、六角形のセルにインデックス付けされている。空間群検索により、P-6とP6/mの両方が許容可能な性能指数で得られた(表1)。原子操作を、より高い対称性P6/m設定を使用して構築されたセルで実行し、適切な結合性を備えたCOFの初期ポリマーモデルを取得した。最終的な構造を、周期的なタイトバインディングDFT法(DFTB)を使用して最適化した。総エネルギーを、DFTB最適化から抽出した(1:重なり形=-111080;2:重なり形=-113964;3:重なり形=-115471;kcal/mol/単位セル)。最適化されたモデルに対する実験的PXRDのポーリー解析により、すべてのCOFに優れた一致が得られる(図1B)。戦略的に配置されたフロログルシノール単位のケト基の存在により、ab平面に沿って結合するシッフ結合のエナミン型との強力なO…H-N…層内水素結合が可能になる。IISERP-COFの3次元構造は、シッフ結合によって共有結合した、レゾルシノール単位と、ベンゼン(1の場合)、s-テトラジン(2の場合)、ビス-ピリジンs-テトラジン環(3の場合)の、π積層した列を有する(図1A)。これにより、c軸に沿ってサイズが約38Å(原子のファンデルワールス半径を考慮)の細孔を持つ均一な1次元(1D)ナノチャンネルが作られ、これは、実験的に測定された細孔サイズとよく一致する。実験的なPXRDパターンは、2θに位置する高強度ピークを示す:(100)反射の場合、2.65°(1の場合)、2.55(2の場合)、2.6(3の場合)(図1B)。積層方向に沿った、(003)反射は、2θである約26.5°で明確に観察される。制限視野電子回折(SAED)パターンから、高角度の反射が見られる(図1A挿入図)。SAEDリングの直径(2R)である約6.0nmは、解析された構造の重なり形配置の平面間の分離距離(3.4Å)に対応する。これは、多結晶の共有結合性有機構造体のこのファミリーの結晶性をさらに確証するものである。
【0061】
77KでのNの吸脱着等温線は、1、2、および3の完全に可逆的なタイプ2等温線を与え、予想されるメソポーラス構造を承認する(図1C)。モデルに依存しないバレット-ジョイナー-ハレンンダー(BJH)を脱着分岐に適合させると、それぞれ1、2、および3に均一な約36.6、36.9、および36.5Åの細孔が存在することが明らかになる(図1D)。これらのCOFは、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積よりも高いラングミュア表面積(1で920m/g、2で1452m/g、3で1745m/g)を有している。粉末化したサンプルをすべて、沸騰したTHF/DMF混合物を使用してソックスレー洗浄(48時間)にかけ、可溶性オリゴマーを除去した。PXRDのデータと空隙率のデータは、異なるバッチ間でよく再現され、サンプルに重大な不純物相がないことが確認された。
【0062】
トリホルミル-フロログルシノールの特徴的なカルボニル(C=O)伸縮周波数(1718cm-1)はレッドシフト(1630cm-1)しており、第一級アミンのN-H伸縮モード(3388、3317、3196cm-1)は、COFの形成とともに消失した。IRスペクトルから、合成された1の固体粉末は、シッフ結合(-C=N-)とカルボニル(-C=O)単位の間の互変異性に由来するβ-ケトエナミン型で主に存在することが観察されるが、2と3もエノール型の存在を示す。COFの13C固体NMRスペクトルにβ-ケトエナミン型のケト基(185-190ppm)、ピリジン(143-148ppm)、およびテトラジン(168ppm)に対応する適切なピークが存在することにより、COFの重縮合ポリマー構造によって維持される官能基の完全性が明らかになる。β-ケトエナミン型の強力な層間水素結合形成により、1の化学的安定性および熱的安定性が向上する(410℃まで安定)。しかしながら、テトラジンを含有するCOFである2および3は、比較的低い熱安定性を示す(熱重量分析(TGA)における緩やかな重量減少は280℃で始まる)。すべてのCOFは、DMFで煮沸し、酸と塩基(6M)で処理したサンプルのPXRDによって確認されるように、十分な化学的安定性を示す。
【0063】
[顕微鏡による検討]
電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の下では、1は、積層された微細構造を形成している大きな滑らかな表面の薄片として現れる。一方、2は、花弁に似た微細構造にさらに集合している六角形の薄片を有する。3は、厚い繊維状の形態を有している。いずれの場合も、SEM画像は、高解像度透過型電子顕微鏡(HR-TEM)で観察された形態を確証するものである。シートの端や薄い部分を見ると、層の積み重ねが見えてくる。倍率を高くすると、COF薄片の表面全体に均一な微細孔が観察された。HR-TEMからの高解像度画像は、これらCOFの高い結晶性を示す格子縞の存在を示した。断面は、TEMグリッド上にドロップキャストされたわずかの微結晶について観察可能であり、そこから層間隔(3.3Å)が決定され、これはエネルギーと幾何学的配置の最適化構造から決定された層分離距離とよく一致した。さらに、5 1/nmスケールでのCOFの明瞭なSAEDパターンは、高角度での[001]面の回折の存在を裏付けている。低角度の反射は、SAED画像(図1A(挿入図))の明るい中心に近い、SAEDの低い直径範囲に融合されている。
【0064】
[COFの電子エネルギー準位]
COFバックボーンの窒素含有量が増加すると、同様な構造のCOFの色が黄金色から茶色に変化する(スキーム1および図2B)。付随して、紫外(UV)可視吸収極大値は、1から3に進むにつれて低波長から高波長にシフトする(図2C)。各UVバンドには、高波長領域に長いテールがあり、通常、COFの色に大きく影響する。窒素芳香環の導入による色の変化についてより多くの証拠を得るために、タウク(Tauc)プロットを使用してバンドギャップを推定した(図2D)。COFの色強度の増加に伴い、2.75から2.51、2.20eVへのバンドギャップの連続的な減少が観察された。
【0065】
さらに追加するために、バンド構造とエネルギー準位を電気化学的方法、すなわちサイクリックボルタンメトリー(CV)から計算した。干渉を避けるために、CV測定を、非水系Ag/Ag参照電極と白金フラッグ対電極を使用して、非水系電解質媒体(アセトニトリルに溶解したt-ブチル-アンモニウム-ヘキサフルオロホスフェート)中で実施した(図2E)。-1.8Vから2.2Vまでの電位窓での低速スキャン速度(50mV/s)を使用して、COFの電気化学的酸化還元を精査した。最も高い酸化電位は、HOMOから1つの電子を取り出すのに必要なエネルギーを提供するが、最も低い還元電位は、1つの電子をLUMOに提供するのに必要なエネルギーに対応する。これらのフロンティア軌道は、NHE(通常の水素電極)に関してCOFのHOMO-LUMOエネルギー準位を正確に定義する。そして、得られた電位をAg-AgClに対して換算して算出する(図2F)。
【0066】
したがって、電気化学的に測定されたバンドギャップは、光学バンドギャップと同じ傾向に従うが、絶対値にはいくらかの違いがある。興味深いことに、これらのCOFの酸化電位はほぼ同じであったが、還元電位は、s-テトラジン環とビス-ピリジン-s-テトラジン環の導入に伴い、連続的により負の値になる。したがって、圧縮されたHOMO準位があまり変化しなくても、LUMOエネルギー準位は、COF構造体に窒素原子を含めることで、より低いエネルギー準位に安定する。LUMOエネルギー準位を下げると、比較的電子が不足しているテトラジン部分とピリジン部分が容易に還元される可能性が生じる。3では、ピリジル環上の孤立電子対とテトラジン単位との結合により、電子欠乏のテトラジンとフロログルシノール単位のカルボニル単位との間の電子移動が容易になる(図2A)。これにより、3は、3つのCOFの中でLUMO準位が最も低いと考えられる。重要なことに、ピリジル窒素の位置(ヒドロキシル部分に対してベータ位置)は、最大の結合の利点を得る上で重要である。COFの1から3に移るときのLUMOエネルギーの相対的な低下は、還元電位がCVの負の軸でどれだけシフトするかによって定量的に表される(図2E)。したがって、実質的に低いエネルギーにある電子受容LUMO準位を有する3は、あらゆるイオン電池のアノードになる真の可能性を秘めている。
【0067】
一実施形態において、本発明は、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極の調製方法に関し、この方法は、
(a)共有結合性有機構造体をエタノール中に分散させて、共有結合性有機構造体のエタノール分散液を得るステップ;
(b)共有結合性有機構造体のエタノール分散液をカーボン紙にコーティングするステップ;および
(c)カーボン紙を真空中で12~24時間乾燥させて電極を得るステップ;および
(d)Na金属を使用して電極を製造し、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極を得るステップ:
を含む。
【0068】
別の実施形態では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極で使用される共有結合性有機構造体は、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび(1,1′:4′,1″-テルフェニル)-4,4″-ジアミン;2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび4,4′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ジアニリン;および、2,4,6-トリヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒドおよび5,5′-(1,2,4,5-テトラジン-3,6-ジイル)ビス(ピリジン-2-アミン)に基づく。
【0069】
本発明の一実施形態では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極で使用される共有結合性有機構造体は、IISERP-COF16、IIERP-COF17およびIISERP-COF18である。
【0070】
本発明の一実施形態では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極で使用される共有結合性有機構造体は、IISERP-COF16である。
【0071】
本発明の一実施形態では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極で使用される共有結合性有機構造体は、IISERP-COF17である。
【0072】
本発明の一実施形態では、共有結合性有機構造体由来のNaイオン電池電極で使用される共有結合性有機構造体は、IISERP-COF18である。
【0073】
[SIBの一般原則]
SIBの拡散制御された反応/挿入の過程は、Naの原子量とイオン半径が大きいため、リチウムイオン電池(LIB)と比較してはるかに遅く、したがって駆動力を強化する必要がある。化学操作によってアノード区画の負電荷を強化できる場合、これを達成することができる。
【0074】
[半電池のCV測定]
これを確認するために、COF由来のSIBを使用した半電池測定を実施した。2.75VのNa/NaのOCVを与えるNaイオン源として、Na金属板を使用した(図3)。ここで、負の電位がアノードに印加されると、電池の全体的な電位がOCVから低下し、この電位差の下でNa→Na酸化が促進され、電解質からのNaイオンがアノード表面で電子と結合する。しかし、成功は、この作用をより低い電位で発生させ、Naをアノードに向かって、そしてアノード中に急速に拡散させることにある。これは、電位源に接続されたときにアノード表面に電子を急速に蓄積させることができ、そのような負にバイアスされたアノードが、放電プロセス中に入ってくるNaイオンを迅速に引き付ける場合に達成できる。
【0075】
多孔性ナノチャネルの壁に沿った酸化還元活性官能基(ケト基、ピリジン窒素)の豊富さと、高度に電子が欠乏したs-テトラジン環の存在は、これらCOFを半電池SIBのアノードとして使用するための十分な可能性を示している(図3)。N-メチルピロリドン(NMP)溶液中に、65%のCOF(1/2/3):25%の導電性カーボン:10%のポリフッ化ビニリデンを混合して作成したスラリーを、カーボンでコーティングされたアルミホイルにコーティングし、アノードとして使用するために2032コイン型電池のサイズに切断した。参照としてNa金属を使用し、セパレータとして1:1のEC-DMC(2%のFEC)中の1(M)のNaPFに浸漬したワットマン紙を使用して、半電池装置を製造した。コイン型電池のOCVは、Na金属電極上にNa/Na界面が形成されるため、約2.65V近くになった。ナトリウム化と脱ナトリウム化の過程を理解するために、コイン型電池のCVを0.05から3Vまでの電位窓で測定した(図4A)。0.5mV/sで記録されたCOFのCVを比較すると、放電中のナトリウムの挿入は、2と3について、0.1V(R1/O1)と0.5V(R2/O2)において、2段階のプロセスを通じて起こっていることが分かった。しかし、1は、0.1V(R1/O1)の非常に低い電位でもほとんど電流出力を示さない(図4A)。2と3に対する1の唯一の分子レベルの機能的相違は、ナノチャンネル全体にs-テトラジン環のπ積層が存在しないことである。これにより、ナトリウム化プロセスに顕著な影響が残り、ナノ細孔へのNaの挿入は1が最も遅くなる。酸化還元促進ナトリウム化プロセスにおけるテトラジン環の関与は、0.5V(R2/O2)でのCVピークから明らかである。放電プロセス中、アノードは印加された電位で負に帯電し、流入する電子は、2と3のe欠乏s-テトラジン単位によって順調に収容される。2と3の電子還元は、2つの近接した電子移動ステップを経由する。したがって、最終的にそれぞれのs-テトラジン単位は、2eを収容する(図4B)。つぎに、2つのNaが電解質から負に帯電したテトラジン部分に向かって移動し、COF表面/細孔の電荷のバランスを取る。本発明者らは、アノードのCOFの還元の容易さは、LUMOエネルギー準位の安定化に確実に依存すると考えている。3では、テトラジン単位への電子の取り込みは、ピリジン環に共役させるとさらにエネルギー的に有利で容易になり、LUMO準位をさらに低下させる(図2A図2C)。COFの高い表面積は、COFでコーティングされたアノードの表面に蓄積する電子を均一に分散させる役割を明らかに有する。約410mAh/g@100mA/gに近い最高の比容量は、これら3つのCOFのうち3によって達成された。一方、2と1は、それぞれ195mAh/gと90mAh/gを示す。3は、約90%のクーロン効率を示す(図4D(i)、(ii)および(iii))。さらに、COFの定電位充放電特性は、CVで観察される0.8から0.05Vの特徴的な電圧平坦域も裏付けている。2と3は、1とは異なり、同一の電位領域で同等の電圧平坦域を備えた顕著な可逆的酸化還元活性を有している。CVの還元ピークとCOFの放電容量の完全な一致は、ナトリウム化プロセス中のナトリウムイオン取り込み数の推定に役立った。そして、結果は、3のナノチャンネルにビスピリジン-s-テトラジンバックボーンが存在するため、3のナトリウム受け入れが1と比較して約5倍、2と比較して約2倍増大することを示している。酸素が豊富なフルログルシノール環での酸化還元活性も寄与している。3では、フルログルシノールの酸素、ピリジンの窒素、およびβ-ケトエナミンの窒素の間でナトリウムイオンがより良好にキレート化する可能性がある(図3)。これにより、3では、化学的に強制された吸着部位が設けられるが、対照的に、1では、ほとんどのNaの挿入が物理吸着される。また、フルログルシノール環は、Naに対していくらかの酸化還元活性を有する可能性がある(1.7Vでピーク)。
【0076】
3つのCOFはすべて、表面積が良好であるため、優れた酸化還元活性を備えた容量性の蓄電を示すことができることは明らかであるが、拡散制御された蓄電は、ナトリウムの物質移動によって影響を受ける。これらの寄与を区分するために、可変スキャン速度でのCVピーク電流を測定し、「b」値が0.5V(R/O)で0.95、0.1V(R/O)で0.75のコットレル式に従う、べき乗側に適合させた。つまり、還元されたテトラジン環の関与に続いて、酸化還元活性ピリジン窒素とフルログルシノール環のナトリウム化が、完全な表面誘導経路を介して発生する。それにもかかわらず、非常に低い電位では、おそらく拡散制御経路を介して、細孔へのナトリウムの挿入からいくらかの寄与が生じる。
【0077】
アノードで生成される電子駆動力は、表面におけるNaイオンの急速な移動と、COFアノードの細孔へのNaイオンの急速な移動を支援する。これにより、優れたレート特性を実現できる。1A/gの電流密度のときでさえ、COF(2および3)は、100mA/gで得られた比容量の約80%を保持するが、1は高電流入力のときに保持できない(図4E)。特に3は、15A/gという非常に高いスキャン速度においても、127mAh/gの比容量を実現できる(図4F)。これらの高電流密度における高い電子蓄積と急速な酸化還元プロセスに対するCOF(3)の安定性が分かるのは印象的である。3の電気化学的サイクル安定性は、100回の充放電サイクル(@100mA/g)の後でさえも電圧平坦域の歪がなく酸化還元活性が完全に保持され、1A/gにおいて1400回の充放電サイクルを行った後でさえもその容量(340mAh/g)の98%が保持されていることから確認された(図4G)。同様に、2も優れた安定性を備えている。一方、1は、@500mA/gの容量においてさえその比容量のほとんどを失う。
【0078】
[ACインピーダンスとDC測定から与えられる3における電荷移動に対する抵抗の低下]
これら3つの同様な構造のCOF内のNa伝搬中の電子伝導性と抵抗の状態を評価するために、定電位インピーダンスを測定した。活性化されたコイン型電池に、10mV-rmsのAC振幅での10000Hzから10MHzのACスイープを実施した。1と2とは異なり、電子が不足している(テトラジン環)中心の隣に比較的電子が豊富な(ピリジン環)が存在すると、戦略的なプッシュプル機構によって3の面内電子伝導性が増加する(図2A)。これは、ナイキスト線図において、1と比べて3の半円の直径が3倍小さいことによって実証されている(抵抗が1について750Ω、2について620Ωであるのに対して、3について225Ωであることが、OCVそれ自体、図5A、5B、5Cにおいて観察されている)。これは、電荷移動抵抗が低下したことを示している。2と3のナイキスト線図における2番目の半円(0.5Vと0.1Vの低電圧で得られた)の出現は、Naが電極と電解質の界面を移動するときの拡散抵抗によるものである。アノードに電子不足の活性部位を有することの利点をさらに理解するために、COF由来のコイン型電池の定電位インピーダンスを3つの異なるDC電圧、すなわち、@Na/Na=2.6V(OCV);@0.5V(テトラジンの還元電位);@0.1V(Naの挿入電位)で測定した(図5A、5Bおよび5C)。印加電位の漸減(放電)に伴う2と3の固有抵抗の減少は、2と3の優れた応答性の電荷移動の低下を示している。予想通り、1は、印加電位の変化に対してほとんど無変化になった。ナトリウム化電位を印加した後の3の抵抗率の急激な減少は、テトラジン環に限定された電子に豊むLUMO準位における、容易な物質移動から生じる可能性が最も高い。ナトリウム化の量が多いほど、時間とともにその構造が電子的に伝導するようになる。さらに、これらのCOFの中で、0.1Vにおけるワールブルグ抵抗(σ)(Naの挿入電位後)は、3が最も低く(図5D)、Naの拡散係数(DNa+)がCOFの電子受容能力(DNa+ α 1/σに従う)とともに増加することを示唆している。3の拡散係数は、2よりも2倍高く、1よりも4倍高い。したがって、ビスピリジン-テトラジン部分の存在により、3のナノチャンネルは、電子不足のテトラジン環の電子還元中のナトリウム輸送を容易にするのに適したものになる。
【0079】
以下の実施例は、実験条件とともに本発明をさらに説明するために提示されるものであり、これらは純粋に例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0080】
[一般的な情報]
[一般的な注意事項]
フロログルシノ-ル、4-アミノベンゾニトリル、6-アミノ-3-ピリジンカルボニトリル、テルフェニルジアミンを、シグマアルドリッチから購入し;ヘキサミンとトリフルオロ酢酸(TEA)を、アブラシンセシスプライベートリミテッドから購入した。他のすべての試薬は、分析グレードのものであった。すべての化学品を、さらに精製することなく使用した。
【0081】
[粉末X線回折]
粉末XRDを本格的なブルカーD8アドバンスおよびリガクミニフレックス装置を使用して実施した。データ分析を、マテリアルズスタジオV6.0のリフレックスモジュールを使用して実施した。
【0082】
[熱重量分析]
ネッチTGA-DSCシステムで熱重量分析を実施した。TGAをN2ガス流(20ml/分)(パージ+保護)の下で行い、サンプルを5K/分で室温から600℃まで加熱した。
【0083】
13C固体核磁気共鳴(NMR)分光法]
高分解能固体NMRスペクトルを4mm(外径)のジルコニアローターを備えた標準のCP-TOSSパルスシーケンス(側波帯を完全に抑制した交差分極)プローブを使用して、ブルカーアドバンスIII分光計で大気圧において記録した。TOSSによる交差分極を使用して、100.37MHzにおいて13Cデータを取得した。13Cの90度パルス幅は、4μsであった。デカップリング周波数は、72kHzに相当した。TOSSのサンプル回転速度は、5kHzであった。繰り返し時間は、2秒であった。
【0084】
[赤外線分光法]
IRスペクトルを周囲温度において動作するニコレットID5減衰全反射IR分光計を使用して得た。固体IRスペクトルをバックグラウンドとしてKBrペレットを使用して記録した。
【0085】
[電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)]
一体型の電荷補償装置と組み込み型のEsB検出器およびAsB検出器を備えた電子顕微鏡。オックスフォードX-max装置80mm。(カールツァイスNTSゲーエムベーハー)、撮像条件:2kV、WD=2mm、200kX、インレンズ検出器。SEM画像を得るために、最初の準備として、サンプルを完全に粉砕し、エタノールに30分間浸し、2時間超音波処理した。これらの十分に分散した懸濁液をシリコンウエハー上にドロップキャストし、真空下で少なくとも12時間乾燥させた。
【0086】
[高解像度透過型電子顕微鏡(HR-TEM)]
透過型電子顕微鏡法(TEM)を200kVの加速電圧で動作するJEM 2200FS TEM顕微鏡を使用して実施した。ディフラクトグラムを20°と80°の間で毎分1°のスキャン速度で記録した。
【0087】
[吸着の検討]
マイクロメリティックス 3-FLEX細孔および表面積分析装置を使用して、吸着の検討を実施した。
【0088】
[電気化学測定]
定電流充放電測定をVERSA STUDIO(バージョン2.61ベータ)ソフトウェアを使用したAMETEKバッテリーアナライザーを使用して実施した。サイクリックボルタンメトリーおよび定電位電気化学インピーダンスの検討をPARSTATマルチチャンネル電気化学ワークステーションで実施した。
【0089】
Z-viewソフトウェア(バージョン3.4)を使用してインピーダンスデータフィッティングを行った。
【実施例2】
【0090】
[モノマーとCOF合成]
[2,4,6-トリホルミルフロログルシノールの合成]
【0091】
【化1】
【0092】
乾燥フロログルシノール(6.014g)にトリフルオロ酢酸(90mL)を加え、15分間攪拌して白色懸濁液を得た。次いで、ヘキサミン(15.098g)を懸濁液に添加した。得られた溶液をN雰囲気下、100℃で2.5時間加熱すると、懸濁液の色が暗褐色に変化した。化合物を加水分解するために、100℃で1時間加熱しながら150mLの3N HClを加えた。暗く濁った液の色が透明になった。室温まで冷却した後、セライトフラッシュカラムを通して化合物を濾過した。得られた濾過物を350mLのジクロロメタンを使用して抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、次いで濾過した。ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させ、オフホワイトの粉末(収量1.7g)を得た。化合物を高温のDMF中で再結晶し、H NMRおよび13C NMRを使用して特性分析を行った(図7)。
【0093】
[s-テトラジンジアミンの合成]
【0094】
【化2】
【0095】
4-アミノ-ベンゾニトリル(8g)をエタノール(20mL)に溶解した。次いで、ヒドラジン水和物(濃度90%、15mL)と4gの硫黄粉末を溶液に添加した。明るい黄金色の濃厚な懸濁液が観察されるまで、溶液を90℃で8時間攪拌し続けた。懸濁液を濾過し、エタノールとアセトンで複数回洗浄し、一晩真空乾燥させた。鮮やかな黄色の粉末を乾燥DMSOに攪拌して分散させ、一晩Oパージにかけた。この酸化された化合物に、蒸留水(150mL)を添加して、鮮やかな赤色の生成物を沈殿させた。ろ過して乾燥させた赤色粉末を5% H溶液に分散させて完全に酸化させた。鮮やかな赤色の生成物を遠心分離によって単離し、真空中で12時間乾燥させた。生成物をアセトンで洗浄し、H NMRと13C NMR(図8A)、およびIRの検討(図8B)によって特性分析を行った。
【0096】
【表S1】
【0097】
s-テトラジンジアミンにニトリル基のIR周波数が存在しないことから、テトラジン環の形成が確認される。
【0098】
[ビスピリジン-s-テトラジンジアミンの合成]
【0099】
【化3】
【0100】
6-アミノ-3-ピリジンカルボニトリル(8g)をエタノール(20mL)に溶解した。ヒドラジン水和物(濃度90%、20mL)と4gの硫黄粉末をそれに加えた。明るい黄金色の濃厚な懸濁液が観察されるまで、溶液を90℃で8時間攪拌し続けた。この懸濁液を濾過し、エタノールおよびアセトンで複数回洗浄し、一晩真空乾燥させた。黄色がかったオレンジ色の粉末を乾燥DMSOに攪拌して分散させ、Oを分散液に一晩パージして生成物を酸化させた。これに蒸留水(150mL)を加えて赤色生成物を沈殿させた。ろ過して乾燥させた赤色粉末を5% H溶液に分散させて完全に酸化させた。暗赤色の生成物(収率70%)を遠心分離により単離し、真空中で12時間乾燥させた。生成物をジメチルホルムアミドで洗浄し、H NMRと13C NMR(図9A図9B)、IRの検討(図9C)、およびHRMS(図9D)によって特性分析を行った。ビスピリジン-s-テトラジンジアミンの溶解度は、どの有機溶媒でも非常に低い。しかし、温度が上昇すると、(DMSO-d6)に可溶化する。規則的なシフトで2つの異なる異性体ピークが観察された。2組の異性体ピーク(a、b、c、d)および(a1、b1、c1、d1)の強度の比は、3:1である。したがって、異性体は、3:1の濃度比で混合物として共存する。HRMSデータは、単一の分子量を示したので、未反応生成物が存在する可能性は除かれた。
【0101】
【表S2】
【0102】
ビスピリジン-s-テトラジンジアミンにニトリル基のIR周波数が存在しないことから、テトラジン環の形成が確認される。
【0103】
[IISERP-COF16の合成]
2,4,6-トリホルミル-フロログルシノ-ル(65mg、0.3mmol)とテルフェニル-ジアミン(116mg、0.45mmol)を計量してパイレックス管に入れ、ジオキサン(6.0mL)とメシチレン(3.0mL)に溶解し、均一な黄色が観察されるまで攪拌した。この混合物に、1.0mLの0.6M酢酸を添加した。次に、パイレックス管を液体窒素浴で急速冷凍し、密閉した。パイレックス管をその内容物とともに135℃のオーブンに5日間入れ、12時間かけて徐々に室温まで冷却した。これにより、約140mgの明るい黄色の固体が得られ、これを加熱したDMF、ジオキサン、MeOH、アセトンおよびTHFで洗浄した(85%、単離収率)。また、この生成物を溶媒として加熱したDMF/メタノール/THFを使用するソックスレー抽出の対象とし、濾過された固体を13C固体NMR(図10A)およびIR(図11)によって特性分析した。
【0104】
[IISERP-COF17の合成]
2,4,6-トリホルミル-フロログルシノ-ル(65mg、0.3mmol)とs-テトラジン-ジアミン(118mg、0.45mmol)を計量してパイレックス管に入れ、ジオキサン(6.0mL)とメシチレン(3.0mL)に溶解し、均一な赤色が観察されるまで攪拌した。この混合物に、1.0mLの0.6M酢酸を添加した。次に、パイレックス管を液体窒素浴で急速冷凍し、密閉した。パイレックス管をその内容物とともに135℃のオーブンに5日間入れ、12時間かけて徐々に室温まで冷却した。これにより、約130mgの明るい黄色の固体が得られ、これを加熱したDMF、ジオキサン、MeOH、アセトンおよびTHFで洗浄した(70%、単離収率)。また、この生成物を溶媒として加熱したDMF/メタノールを使用するソックスレー抽出の対象とし、濾過された固体を13C固体NMR(図10B)およびIR(図11)によって特性分析した。
【0105】
[IISERP-COF18の合成]
2,4,6-トリホルミル-フロログルシノール(65mg、0.3mmol)とビスピリジン-s-テトラジン-ジアミン(120mg、0.45mmol)を計量してパイレックス管に入れ、ジオキサン(5.0mL)とメシチレン(3.0mL)に溶解し、赤色が観察されるまで攪拌した。この混合物に、1.0mLの0.8M酢酸を添加した。次に、パイレックス管を液体窒素浴で急速冷凍し、密閉した。パイレックス管をその内容物とともに135℃のオーブンに5日間入れ、12時間かけて徐々に室温まで冷却した。これにより、約175mgの明るい黄色の固体が得られ、これを加熱したDMF、ジオキサン、MeOH、アセトンおよびTHFで洗浄した(90%、単離収率)。また、この生成物を溶媒として加熱したDMF/メタノールを使用するソックスレー抽出の対象とし、濾過された固体を13C固体NMR(図10C)およびIR(図11)によって特性分析した。
【0106】
【表S3】
【0107】
COF17およびCOF18に存在するエノールのヒドロキシル基は、β-ケトエナミン型に急速に相互変換可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図11
図12
【国際調査報告】