(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(54)【発明の名称】マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を生産する遺伝子改変細胞株
(51)【国際特許分類】
A61K 38/47 20060101AFI20230620BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230620BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230620BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230620BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230620BHJP
C12N 9/24 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
A61K38/47
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/26
A61P43/00 105
C12N9/24
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022564107
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 CN2021088609
(87)【国際公開番号】W WO2021213422
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/086499
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110411715.6
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518330176
【氏名又は名称】ウーシー バイオロジクス アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】シュ、リーチン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、フォンリン
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ、ヤンファン
(72)【発明者】
【氏名】ポン、ヤンズ-
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、ジェシン
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ、ウェイチャン
(72)【発明者】
【氏名】シ-、シァォブォ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ウェイウェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ティンティン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チュンシォン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ヂュェンミン
(72)【発明者】
【氏名】グゥォ、ジェレミー
【テーマコード(参考)】
4B050
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD07
4B050KK01
4B050KK02
4B050KK08
4B050KK20
4B050LL01
4C076AA12
4C076BB11
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4C076DD09E
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4C076GG45
4C084AA02
4C084AA03
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4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
4C084ZC19
4C084ZC54
(57)【要約】
本発明は、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を生産する遺伝子改変細胞株、および前記組換え糖タンパク質を生産する方法、または前記細胞、クローン又は細胞株を作製する方法を提供する。前記細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に600bp未満の挿入を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子が欠損している遺伝子改変細胞株であって、
MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に600bp未満の挿入を含む、ことを特徴とする、遺伝子改変細胞株。
【請求項9】
組換え糖タンパク質を生産する方法であって、
(1)請求項7又は8に記載の細胞株を培養することと、
(2)前記糖タンパク質を回収することと、を含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
組換え糖タンパク質を生産する方法であって、
(1)前記組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を細胞株に導入することと、
(2)工程(1)により得られた細胞株におけるマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子を突然変異させることと、
(3)前記組換え糖タンパク質を発現させることと、を含み、
前記MGAT1遺伝子はCRISPRによって突然変異され、sgRNAは、SEQ ID NO: 4の核酸配列を含むか又はそれからなり、またはSEQ ID NO: 4の核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか又はそれからなる、ことを特徴とする、方法。
【請求項20】
ゴーシェ病のようなβ-グルコセレブロシダーゼ欠損に関する疾患を治療する方法であって、
請求項19に記載のβ-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を、それを必要とする受験者に投与することを含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項27】
前記製剤のpHは5~7である、請求項22~26のいずれか一項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全体として、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を生産する遺伝子改変細胞株、および前記組換え糖タンパク質を生産する方法、または前記細胞、クローン又は細胞株を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業的に有用な糖タンパク質の1つとして、グルコセレブロシドのセラミドとグルコースへの加水分解を触媒するβ-グルコセレブロシダーゼが挙げられる。生体内のβ-グルコセレブロシダーゼの欠損に起因して、グルコセラミドが末梢マクロファージ内に蓄積することによって細胞が増大し、脾臓、肝臓、骨髄の機能不全と低下をもたらす常染色体劣性リソソーム蓄積症であるゴーシェ病を引き起こす可能性があるため、組換え発現されたβ-グルコセレブロシダーゼの外因性投与は、当分野においてゴーシェ病を治療するための魅力的な方法であると考えられている。
【0003】
ただ、胎盤由来の未改変のヒトβ-グルコセレブロシダーゼは、露出したマンノース残基がないため、マンノース受容体を介したエンドサイトーシスを介して、樹状細胞やマクロファージのような必要な細胞にほとんど取り込まれないという問題がある。そのため、例えば、N-グリカンのマンノースをブロックする残基を除去する(マンノースをN-グリカンの末端残基として露出させる)ことによって、β-グルコセレブロシダーゼのような、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え発現された糖タンパク質を便利かつ効果的に生産して、マンノース受容体を介した糖タンパク質の必要な細胞内への取り込みを促進する需要が高まっている。
【0004】
したがって、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を生産するように操作された細胞株が必要とされている。さらに、これらの操作された細胞株は、タンパク質の高生産性、高品質、高酵素活性を保ちながら、末端マンノース残基のタンパク質を安定的に生産することが望ましいとされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、挿入突然変異によってマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子が欠損している遺伝子改変細胞株を発見した。前記細胞株は、RCAによる選択により、MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に600bp未満の挿入を含む。本発明の細胞株によって生産される組換え糖タンパク質は、高タンパク質生産性、高タンパク質品質、及び高酵素活性を有する。
【0006】
本発明の様々な局面において、一の局面として、マンノシル(α-1,3-)-糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)が欠損している細胞株を提供し、前記細胞株はMGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に600bp未満の挿入を含む。一の実施形態において、前記細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に400、200、100、50、30、10又は5bp未満の挿入を含む。一の実施形態において、前記細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に1bpの挿入を含む。一の実施形態において、MGAT1をコードする染色体配列は、標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術によって改変され、標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術は、例えば、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である。一の実施形態において、細胞は動物細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一の実施形態において、前記細胞株は、1つまたは複数の末端マンノース残基を含む少なくとも1つの糖タンパク質を発現する。一の実施形態において、糖タンパク質は、β-グルコセレブロシダーゼのような酵素である。
【0007】
本発明の別の局面は、組換え糖タンパク質を生産する方法であって、
(1)前記遺伝子改変細胞株を培養することと、
(2)糖タンパク質を回収することと、を含む方法である。
【0008】
本発明の別の局面は、マンノース末端のN-グリカンを有する1つまたは複数の末端マンノース残基を有する組換え糖タンパク質を生産する方法であって、
(1)前記組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を細胞株に導入することと、
(2)工程(1)により得られた細胞株におけるマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子を突然変異させることと、
(3)前記組換え糖タンパク質を発現させることと、を含み、
MGAT1遺伝子はCRISPRによって突然変異され、sgRNAは、SEQ ID NO:4の核酸配列を含むか又はそれからなり、またはSEQ ID NO:4の核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか又はそれからなる方法である。
【0009】
一の実施形態において、細胞株は、RCAによって選択される。一の実施形態において、糖タンパク質はβ-グルコセレブロシダーゼのような酵素である。一の実施形態において、前記方法は、バッチリフィーディングアッセイ(batch refeeding assay)において突然変異細胞株を選択する工程をさらに含む。一の実施形態において、バッチリフィーディングアッセイは、生産媒体を毎日更新する工程を含む。一の実施形態において、組換え糖タンパク質は、1つまたは複数の末端マンノース残基、好ましくは1~9の末端マンノース残基、より好ましくは3~6の末端マンノース残基を有するN-グリカン、および、末端マンノース残基をブロックしない任意の1~3のフコース残基を含み、N-グリカンは、Man3、Man4、Man4+1F、Man5、Man5+1F、およびMan6からなる群から選択される。一の実施形態において、組換え糖タンパク質に結合したマンノース末端のN-グリカンの割合は、80%、85%、86%、87%、88%又は89%より高い。一の実施形態において、酵素活性は、0.5U/mLを上回る。一の実施形態において、細胞は動物細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0010】
本発明の別の局面は、本発明に係る細胞株又は方法によって生産される、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を含む。本発明の別の局面は、ゴーシェ病のようなβ-グルコセレブロシダーゼ欠損に関する疾患を治療する方法であって、本発明に開示したβ-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を、それを必要とする受験者に投与することを含む方法を含む。本発明のさらに別の局面は、前記方法によって作製される細胞、クローン又は細胞株である。
【0011】
本発明の別の局面は、治療有効量の組換え酵素、緩衝液、浸透圧調節剤、および界面活性剤を含む医薬製剤である。一の実施形態において、酵素は、含有量が50~150U/mlであるβ-グルコセレブロシダーゼである。一の実施形態において、緩衝液は、含有量が2~10g/mLであるクエン酸緩衝液である。一の実施形態において、浸透圧調節剤は、含有量が40~120g/Lであるスクロースである。一の実施形態において、界面活性剤は、含有量が0.1~1g/Lであるポリソルベート80である。一の実施形態において、前記製剤のpHは5~7である。
【0012】
上記は、要約であるため、簡潔かつ概括的な必須内容しか含まれておらず、詳細が省略されている。したがって、上記要約が例示のみを目的とし、限定を意図していないことは、当業者には理解するであろう。本明細書に記載の方法、組成物および/または装置、および/または他の主題の他の形態、特徴や利点は、本発明による教示の下で明らかになる。上記要約は、後述の発明を実施するための形態でさらに説明される概念の選択を簡潔に紹介したものである。上記要約は、クレームされた主題の主要な特徴または必須特徴を特定することを意図したものではなく、クレームされた主題の範囲を決定する際の補助として使用することを意図したものでもない。さらに、本出願に引用されたすべての参考文献、特許、及び公開された特許出願は、その内容全体が参照により本出願に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、Cas9とsgRNA5を含むプラスミドを示す図である。
【
図2】
図2は、MGAT1遺伝子が突然変異されたモノクローンのグリカンクロマトグラムである。
【
図3】
図3は、野生型MGAT1を含むコントロールプールのグリカンクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、様々な異なる形で実施され得るが、ここに開示したのは、本発明の原則を例示する具体的かつ例示的な実施形態である。本発明は、これらの具体的かつ例示的な実施形態に限定されないことが強調されるべきである。なお、本発明で使用されるいずれのセクションの見出しは文の構成のみを目的としており、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0015】
(定義)
本明細書で特に定義しない限り、本発明に関連する科学用語や技術用語は、当業者にとって一般的に理解されている意味を有するものとする。また、文脈上別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。より具体的には、単数形の「a」、「an」及び「the」は、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。そのため、例えば、「タンパク質(a protein)」の場合は、複数のタンパク質を含み、「細胞(a cell)」の場合は、細胞及びその類似物の混合物を含む。本出願において、別段の説明がない限り、「または(又は)」は、「および/または」を意味する。また、用語の「含む(comprising)」、ならびに「comprises」や「comprised」のようなその他の形態は、限定的なものではない。さらに、明細書および特許請求の範囲における範囲は、2つの端点およびその間にあるすべての点を含む。
【0016】
本発明で使用される「遺伝子」とは、遺伝子産物をコードするDNA領域(エクソン及びイントロンを含む)、および、制御配列がコード配列および/または転写配列に隣接するか否かに関らず、遺伝子産物の生産を制御するすべてのDNA領域のことをいう。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位及び内部リボソーム進入部位のような翻訳制御配列、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合部位、及び遺伝子座制御領域を含むが、必ずしもこれらに限らない。
【0017】
本発明の文脈において、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GlcAc-T I又はGnT I)、またはN-グリコシル-オリゴ糖-糖タンパク質N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIとも呼ばれるMGAT1は、成長中のN-グリカンにおけるオリゴマンノースコア(即ち、Man5GlcNAc2(Man5)部分)へのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の転移を触媒する。MGAT1の機能不全は、N-グリカンの性質に影響を与えるので、β-グルコセレブロシダーゼのような、末端マンノース残基のN-グリカンを有する糖タンパク質が得られる。本発明の文脈において、MGAT1は、GnT Iと交換可能に使用される。
【0018】
本発明で使用される用語の「モノクローン(monoclone)」とは、細胞複製を繰り返すことによって、単一の祖先細胞から生産される細胞群のことをいう。本発明のより具体的な文脈において、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を発現するモノクローンは、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を発現するプール(pool)に由来する単一細胞をクローニングすることによって作製され得る。
【0019】
本発明で使用される用語の「突然変異(mutation又はmutating又はmutated)」とは、削除突然変異又は挿入突然変異をいう。本発明のより具体的な文脈において、挿入突然変異とは、標的タンパク質をコードする遺伝子、またはタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合した制御核酸配列、例えば、プロモーターやエンハンサーにおける1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の塩基対の挿入を意味する。具体的な実施例では、細胞株におけるマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子の突然変異は、挿入突然変異によって行われる。削除突然変異とは、標的タンパク質をコードする遺伝子、またはタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合した制御核酸配列、例えば、プロモーターやエンハンサーにおける1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の塩基対の削除を意味する。当業者であれば、標的タンパク質をコードする遺伝子、またはタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合した制御核酸配列、例えば、プロモーターやエンハンサーへの削除、置換又は挿入突然変異の導入がノックアウト(knock out)に含まれ、また、突然変異によってタンパク質の不活性化などの発現レベルの低下や機能的欠損を引き起こすことを知っている。
【0020】
本発明で使用される用語の「プール」とは、混合細胞集団をいう。本発明のより具体的な文脈において、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を発現するプールは、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞にトランスフェクトすることによって作製することができる。
【0021】
用語の「組換え」とは、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換プロセスをいう。本発明では、「相同組換え」とは、例えば、細胞内の二重鎖切断の修復中に起こるそのような交換の特殊形態をいう。このプロセスは、2つのポリヌクレオチド間の配列類似性が必要とされ、「ドナー」又は「交換」分子を使用して、「標的」分子(即ち、二重鎖切断を経た分子)をテンプレート修復し、また、ドナーから標的への遺伝情報の移行をもたらすために、「非交差遺伝子変換(non-crossover gene conversion)」または「ショートトラクト遺伝子変換(short tract gene conversion)」として様々な形で知られている。いかなる特定の理論に縛られることなく、そのような移行は、切断された標的及びドナーの間に形成されるヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ修正、および/またはドナーが標的の一部となる遺伝情報を再合成するために使われる「合成依存性ストランドアニーリング(synthesis-dependent strand annealing)」、および/または関連プロセスを含み得る。そのような特殊な相同組換えは、標的分子の配列の変化をもたらし、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部又は全部が標的ポリヌクレオチドに組み込まれるようになることが多い。
【0022】
本発明で使用される用語の「配列同一性」とは、配列が比較ウィンドウにおいてヌクレオチド間又はアミノ酸間で比較して得られた同一である程度をいう。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、最適にアラインされた2つの配列を比較ウィンドウにおいて比較し、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I、U)または同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が両配列に生じる位置の数を求めてマッチング位置の数を特定し、マッチング位置の数を比較ウィンドウにおける位置の総数(つまり、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けることで、配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。本発明では、配列同一性のパーセンテージは、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%である。
【0023】
用語の「医薬製剤」とは、有効成分の生物学的活性を有効にするような形態のものであって、製剤が投与される受験者が許容できないような毒性を有する追加の成分を含まない製剤をいう。
【0024】
医薬製剤の文脈で使用される用語の「安定」とは、タンパク質が保存時に物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持することをいう。安定性は、選択された温度、および選択された時間で測定できる。製剤は、室温(約25℃)または40℃で少なくとも3ヶ月間、および/または約2~8℃で少なくとも1年間安定であることが好ましい。
【0025】
用語の「緩衝液」とは、その酸塩基共役成分の作用によりpHの変化に抵抗する緩衝溶液をいう。本発明における緩衝液は、約4~8、好ましくは約4.5~7、最も好ましくは約5.0~6.5の範囲のpHを有する。pHをこの範囲に調整する緩衝液の例として、酢酸、コハク酸、グルコース酸、ヒスチジン、クエン酸および他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0026】
用語の「浸透圧調節剤」とは、所望のレベルの浸透圧を得るように製剤に添加される試薬をいう。浸透圧は、1kgの溶液に溶解した浸透圧活性粒子の濃度として表すことができる。浸透圧調節剤の例として、糖および/または糖アルコールが挙げられる。
【0027】
用語の「界面活性剤」とは、界面活性を有する試薬をいう。本発明で使用される界面活性剤の例として、ポリソルベートおよびポロキサマー(poloxamer)が挙げられる。
【0028】
用語の「再構成」とは、タンパク質が希釈液中に分散するように、凍結乾燥タンパク質製剤を希釈液に溶解することをいう。再構成された製剤は、投与に適している。
【0029】
全体的には、本発明に記載の細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、およびタンパク質・核酸化学、並びにハイブリダイゼーションに関する用語および技術は、当分野において周知であり、一般的に使用されているものである。別段の説明がない限り、本発明の方法および技術は、全体的に、当分野で既知のもの、および本明細書で引用・議論される各種一般的及び具体的な参考文献に記載されている通常の方法によって、実施される。本発明に記載の分析化学、合成有機化学、および医薬品化学・創薬化学に関する用語や、それらの実験手順及び技術は、当分野において周知であり、一般的に使用されているものである。なお、本発明で使用されるいずれのセクションの見出しは文の構成のみを目的としており、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0030】
(細胞株)
本発明の一の局面は、マンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)が欠損している細胞株であって、MGAT1をコードする染色体配列のコーディング領域に600bp未満の挿入を含む細胞株を含む。
【0031】
一の実施形態において、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列に約1~599bpの挿入を含む。別の実施形態において、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1のコーディング領域に約1~50bp、約50~100bp、約100~200bp、約200~300bp、約300~400bp、または約600bp未満の挿入を含む。例示的な実施形態では、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列に約1bp、2bp、3bp、4bp、5bp、10bp、25bp又は50bpの挿入を含むことが、MGAT1の機能的欠損をもたらす。MGAT1をコードする染色体配列に約1~599bpを挿入することが、MGAT1の発現欠損や不活性化をもたらす。MGAT1をコードする配列は、リーディングフレームのシフトを経て、タンパク質産物の生産が妨げられる。後述する標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術によって、MGAT1をコードする染色体配列を突然変異させることができる。
【0032】
一の実施形態において、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列に約1~1300bpの削除を含む。別の実施形態において、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1のコーディング領域に約1~50bp、約50~100bp、約100~200bp、約200~300bp、約300~400bp、約400~600bp、または約600bpを上回った削除を含む。例示的な実施形態では、前記MGAT1欠損細胞株は、MGAT1をコードする染色体配列に約1bp、2bp、3bp、4bp、5bp、10bp、25bp又は50bpの削除を含むことが、MGAT1の機能的欠損をもたらす。MGAT1をコードする染色体配列に約1~599bpを削除することが、MGAT1の発現欠損や不活性化をもたらす。MGAT1をコードする配列は、リーディングフレームのシフトを経て、タンパク質産物の生産が妨げられる。後述する標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術によって、MGAT1をコードする染色体配列を突然変異させることができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、組換え糖タンパク質の生産に使用可能な細胞は、原則として、当業者に知られている、組換え糖タンパク質を表現可能なすべての細胞である。前記細胞は、動物細胞、特に哺乳動物細胞であっても良い。哺乳動物細胞の例として、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、好ましくはCHO-K1細胞、ハイブリドーマ、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、骨髄腫細胞、例えばHEK-293細胞、ヒトリンパ芽球様株細胞、E1不死化HER細胞のようなヒト細胞、例えばNSO細胞のようなマウス細胞が挙げられる。一の実施形態において、前記細胞は、動物細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。例示的な実施形態では、前記細胞株は、糖タンパク質などのような組換えタンパク質の生産に広く使用されるタイプである。例示的な実施形態では、前記細胞株は、CHO細胞株である。ATCCから数多くのCHO細胞株が得られる。適切なCHO細胞株には、CHO-K1細胞およびその誘導体が含まれるが、それらに限らない。
【0034】
一の実施形態において、前記細胞株は、1つまたは複数の末端マンノース残基を有する少なくとも1つの糖タンパク質を発現する。一の実施形態において、糖タンパク質は、β-グルコセレブロシダーゼである。
【0035】
(標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術)
一の実施形態において、MGAT1をコードする染色体配列は、標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術によって改変され、標的エンドヌクレアーゼを介したゲノム編集技術は、例えば、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である。
【0036】
細菌において適応免疫システムを形成するCRISPRシステムは、ゲノム工学用に改変されている。工学用のCRISPRシステムには、ガイドRNA(gRNA又はsgRNA)と、CRISPR関連のエンドヌクレアーゼ(Casエンドヌクレアーゼ)の2つの要素が含まれている。gRNAは、Cas結合に必要な足場配列(scaffold sequence)と、改変されるゲノム標的を定義するユーザ定義の約20のヌクレオチドスペーサーと、で構成される短い合成RNAである。本発明では、gRNAとsgRNAは互いに交換可能に使用することができる。そのため、gRNAに存在する標的配列を変更するだけで、Casタンパク質のゲノム標的を変更することができる。
【0037】
Cas9やCpf1のようなエンドヌクレアーゼと、標的とする遺伝子に特異的なgRNAを共発現することによって、CRISPRを利用してノックアウト(例えば、突然変異)細胞や動物を作製することができる。ゲノム標的は、(1)配列がゲノムの残りの部分に対して独特である、(2)標的がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直近に存在する、という2つの条件を満たせば、約20のヌクレオチドの任意のDNA配列とすることができる。このPAM配列は標的結合に不可欠だが、正確な配列はCasタンパク質によって決まるものである。一般的に使用されるCasタンパク質は、化膿レンサ球菌Cas9(SpCas9)である。発現されると、このCas9タンパク質とgRNAは、gRNA足場とCas9の表面に露出した正電荷を帯びた溝との間の相互作用によって、リボ核タンパク質複合体を形成する。Cas9は、gRNA結合時にコンフォメーション変化を経て、分子を不活性化かつ非DNA結合コンフォメーションから、活性化されたDNA結合コンフォメーションにシフトさせる。重要なことに、gRNAのスペーサー領域は、標的DNAと自由に相互作用することができる。
【0038】
Cas9は、gRNAスペーサー配列が標的DNAと十分な相同性を共有している場合にのみ、与えられた遺伝子座を切断する。Cas9-gRNA複合体が推定されるDNA標的と結合されると、シード配列(gRNA標的配列の3’末端の8~10の塩基)が標的DNAにアニールし始める。シード配列と標的DNA配列がマッチする場合、gRNAが3’から5’方向に標的DNAにアニールし続ける。Cas9のジッパーのようなアニールメカニズムは、3’シード配列内の標的配列間のミスマッチが標的切断を完全に無効にする一方、PAMから遠位の5’末端に向かうミスマッチが、多くの場合、依然として標的切断を可能にする理由を説明できる。
【0039】
Cas9ヌクレアーゼには、RuvCとHNHという2つの機能的なエンドヌクレアーゼドメインがある。Cas9は、標的結合時に2回目のコンフォメーション変化を経て、標的DNAの反対側の鎖を切断するようにヌクレアーゼドメインを配置する。Cas9を介したDNA切断の最終結果として、標的DNA内(PAM配列の上流側の約3~4のヌクレオチド)に二重鎖切断(DSB)が形成される。
【0040】
得られたDSBは、その後、(1)効率的だがエラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)経路と、(2)効率は低いが忠実度の高い相同組換え修復(HDR)経路という2つの修復経路のいずれか1つによって修復される。NHEJ修復経路は、最も活発な修復メカニズムであり、DSB部位における小さなヌクレオチドの挿入又は削除(indels)を頻繁に引き起こす。Cas9とgRNAを発現する細胞集団が多様な突然変異をもたらすから、NHEJを介したDSB修復のランダム性は、実用上重要な意味を持つ。ほとんどの場合、NHEJは、標的DNAに小さなindelsを生じさせ、その結果、アミノ酸の削除、挿入又はフレームシフト突然変異が生じ、標的遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に時期尚早の終止コドンが生じる。理想的な最終結果は、標的遺伝子内の機能喪失突然変異である。
【0041】
実施形態において、CRISPRに基づく手段によるMGAT1遺伝子のノックアウト突然変異は、例えば、Yang 2014 (Yang, et al., CRISPR/Cas9-Directed Genome Editing of Cultured Cells. Current Protocols in Molecular Biology, 2014, 107(1):31.1.1-31.1.17)に教示されているものなど、実行可能な任意のプロトコルによって実施することができる。より具体的な実施形態において、MGAT1遺伝子は、CRISPRに基づく手段によって突然変異され、ここで、sgRNAは、SEQ ID NO:4を含むか又はそれからなり、または、SEQ ID NO:4と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか又はそれからなる。
【0042】
(組換え糖タンパク質、細胞、クローン又は細胞株を生産する方法)
本発明の別の局面は、マンノース末端のN-グリカンを有する1つまたは複数の末端マンノース残基を有する組換え糖タンパク質を生産する方法であって、
(1)前記組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を細胞株に導入することと、
(2)工程(1)により得られた細胞株におけるマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子を突然変異させることと、
(3)前記組換え糖タンパク質を発現させることと、を含み、
MGAT1遺伝子はCRISPRによって突然変異され、sgRNAは、SEQ ID NO:4の核酸配列を含むか又はそれからなり、またはSEQ ID NO:4の核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか又はそれからなる方法である。
【0043】
本発明の別の局面は、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を生産する細胞、クローン又は細胞株を作製する方法であって、
(1)前記組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を細胞株に導入することと、
(2)工程(1)により得られた細胞株におけるマンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ1(MGAT1)遺伝子を突然変異させることと、を含み、
MGAT1遺伝子はCRISPRによって突然変異され、sgRNAは、SEQ ID NO:4の核酸配列を含むか又はそれからなり、またはSEQ ID NO:4の核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか又はそれからなる方法である。
【0044】
本発明で使用可能なプラスミドは、意図された目的のための市販のいずれのものであっても良い。当業者であれば、どのプラスミドがどの目的に適しているかを容易に知ることができ、使用されるプラスミドのバラツキが本発明の方法・製品による技術的効果を実質的に変化させないことを理解できる。
【0045】
一の実施形態において、CHO細胞のような細胞に遺伝子を導入するためのプラスミドは、例えば、複製起点(ori)、プロモーター、目的の遺伝子を移行するためのマルチクローニング部位、および、1つまたは複数の選択マーカーエンコーディング遺伝子(selection markers-encoding genes)などの要素をシングル環状配列に組み込むことによって、手動で調製することができる。CHO細胞のような細胞に遺伝子を導入するために従来から使用されているプラスミドの非限定的な例としては、pMX241(Addgene Cat.No.23017)などが挙げられる。
【0046】
一の実施形態において、CRISPRによるプラスミドは、例えば、複製起点(ori)、プロモーター、意図的に設計されたsgRNAを受容するためのsgRNA足場、CRISPR関連(Cas)エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子、および、1つまたは複数の選択マーカーエンコーディング遺伝子などの要素をシングル環状配列に組み込むことによって、手動で調製することができる。CRISPRによる従来から利用可能なノックアウトベクターの非限定的な例としては、pSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)V2.0(Addgene Cat.No.62988)などが挙げられる。
【0047】
本発明において、選択マーカーは、当分野で市販されているいずれのものであっても良い。例えば、選択マーカーは、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン、ブラストサイジンなどを含むが、これらに限定されない。
【0048】
一の実施形態において、細胞株は、RCAによって選択される。一の実施形態において、トランスフェクト細胞は、ヒマ凝集素-I(RCA-I)によって培養する。MGAT1欠損細胞株は、ヒマ凝集素-I(RCA-I)による培養によってさらにエンリッチすることができる。RCA-Iは、末端マンノース残基に結合しない細胞毒性のレクチンであるため、MGAT1活性が欠けている細胞(末端マンノース残基を有する糖タンパク質を生産する細胞だから)の選択を可能にする。
【0049】
一の実施形態において、前記細胞は、動物細胞であり、特に哺乳動物細胞であり、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。例示的な実施形態では、前記細胞株は、糖タンパク質などのような組換えタンパク質の生産に広く使用されるタイプである。例示的な実施形態では、前記細胞株は、CHO細胞株である。ATCCから数多くのCHO細胞株が得られる。適切なCHO細胞株には、CHO-K1細胞およびその誘導体が含まれるが、それらに限らない。
【0050】
(組換え糖タンパク質)
本発明の別の局面は、本発明の方法によって生産されるマンノース末端のN-グリカンを有する、β-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を含む。
【0051】
一の実施形態において、前記組換え糖タンパク質は、β-グルコセレブロシダーゼのような酵素である。一の実施形態において、前記組換え糖タンパク質は、1つまたは複数の末端マンノース残基を含むN-グリカンを有する。いくつかの実施形態では、前記組換え糖タンパク質は、2~9の末端マンノース残基(Man2~Man9とも呼ばれる)、例えば、3~6の末端マンノース残基(Man3~Man6とも呼ばれる)、および、末端マンノース残基をブロックしない任意の1~3のフコース残基(1F~3Fとも呼ばれる)、例えば、1のフコース残基(1Fとも呼ばれる)を含むN-グリカンを有する。本発明における例示的なN-グリカンは、Man3、Man4、Man4+1F、Man5、Man5+1F、Man6などからなる群から選択される。一の実施形態において、組換え糖タンパク質に結合したマンノース末端のN-グリカンの割合は、80%、85%、86%、87%、88%又は89%より高い。
【0052】
酵素活性は、p-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシド(Sigma-N7006)を基質として使用して測定した。放出された生成物は、プレートリーダー(MOLECULAR DEVICE,i3X)によって405nmでの吸光度を測定することによって検出された4-ニトロフェノール(Sigma-35836-1G)であった。4-ニトロフェノールの濃度を定量化するために、参照標準曲線を並行してアッセイした。酵素活性は、1mLあたりのp-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシドから放出される1ナノモルの4-ニトロフェノールを、37℃で1時間あたり触媒するために使われる酵素の量として定義される。一の実施形態において、本発明の細胞株によって生産されるβ-グルコセレブロシダーゼの酵素活性は、約0.2U/mL、約0.3U/m、約0.4U/mL、約0.5U/mL、約0.6U/mLより上回る。
【0053】
組換え糖タンパク質は精製されており、その純度は、約70%を上回り、約75%を上回り、約80%を上回り、約85%を上回り、約90%を上回る。純度は、それぞれCaliper-SDS及びSEC-HPLCアッセイによって検出できる。
【0054】
(治療方法)
本発明の別の局面は、ゴーシェ病のようなβ-グルコセレブロシダーゼ欠損に関する疾患を治療する方法であって、本発明に開示したβ-グルコセレブロシダーゼのような、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質を、それを必要とする受験者に投与することか、又は、ゴーシェ病のようなβ-グルコセレブロシダーゼ欠損に関する疾患の治療のための組成物の製造における、本発明に開示したβ-グルコセレブロシダーゼのようなマンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質の使用を含む方法である。
【発明の効果】
【0055】
本発明の方法・製品によって達成できる効果は、以下のようにまとめることができる。
【0056】
第1に、CHO細胞のような細胞におけるβ-グルコセレブロシダーゼのような組換え糖タンパク質を発現するMGAT1遺伝子の突然変異によって、本発明は、高純度・高品質・高酵素活性を有する。
【0057】
第2に、本発明は、より高い突然変異效率を有する特異性sgRNA(例えば、SEQ ID NO:4に示されるsgRNA_5)を含む新しいプラスミドを開発した。
【0058】
第3に、本発明では、MGAT1欠損細胞株は、MGAT1欠損細胞株の生産工程において、ヒマ凝集素-I(RCA-I)による培養によりさらにエンリッチすることができる。
【0059】
第4に、本発明では、細胞内のMGAT1遺伝子の突然変異の前に、組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を細胞に導入しており、このようにしたメリットは、クローンスクリーニングのための発現された組換え糖タンパク質に対する製品品質属性(PQA)及び生産性に関する要求が明確なため、マンノース末端のN-グリカンを有する組換え糖タンパク質は、従来技術の方法よりも時短かつ低コストでかつ作業効率高く生産できる。対照的に、最適な宿主細胞をスクリーニングするためのPQA及び生産性に関する明確に定義された基準がないため、MGAT1遺伝子突然変異を有する最優良宿主細胞をスクリーニングした後に、組換え糖タンパク質をコードする遺伝子を突然変異宿主細胞に導入することは難しくなる。なお、本発明の方法では、突然変異とクローニングは、同じ工程で実施されるものである。
【0060】
(医薬製剤)
本発明の別の局面は、β-グルコセレブロシダーゼの医薬製剤を含む。前記製剤は、治療有効量のβ-グルコセレブロシダーゼ、緩衝液、浸透圧調節剤及び界面活性剤を含む。一の実施形態において、β-グルコセレブロシダーゼの含有量は、50~150U/ml、75~125U/ml、80~120U/ml、90~110U/ml又は100U/mlである。一の実施形態において、緩衝液は、含有量が2~10g/mL、3~9g/mL、4~8g/mL、5~7g/mL又は5~6g/mLであるクエン酸緩衝液である。一の実施形態において、浸透圧調節剤は、含有量が40~120g/L、50~110g/L、60~100g/L、70~90g/L又は80g/Lであるスクロースである。一の実施形態において、界面活性剤は、含有量が0.1~1g/L、0.1~0.9g/L、0.1~0.8g/L、0.1~0.7g/L、0.1~0.6g/L、0.1~0.5g/L、0.1~0.4g/L、0.1~0.3g/L又は0.2g/Lであるポリソルベート80である。一の実施形態において、前記製剤のpHは5~7である。
【0061】
本発明に記載の医薬製剤は、保存期間が延長され安定性が向上されたβ-グルコセレブロシダーゼの安定な製剤を提供する。前記製剤は、2~8℃で少なくとも12週間、又は室温(約25℃)で少なくとも12週間、又は40℃で少なくとも4週間安定的である。前記製剤は、異なる保存条件下において、その物理的および/または化学的および/または生物的活性を保持できる。
【0062】
(配列表のまとめ)
本出願には、以下のように大量の核酸及びアミノ酸を含む配列表が添付されている。
【0063】
SEQ ID NO:1は、ヒトβ-グルコセレブロシダーゼのアミノ酸配列(NP_000148.2)である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_000148.2)。
【0064】
SEQ ID NO:2は、ヒトβ-グルコセレブロシダーゼの核酸配列(NM_000157.3)である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_000157.3)。
【0065】
SEQ ID NO:3は、CHO-K1細胞内のMGAT1遺伝子のゲノム核酸配列である。
【0066】
SEQ ID NO: 4は、sgRNA_5の核酸配列である。
【0067】
(略語)
Cas:CRISPR関連
CEX:陽イオン交換
CHO細胞:チャイニーズハムスター卵巣細胞
CRISPR:クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート
DSB:二重鎖切断
FACS:蛍光活性化セルソーティング
GnT I:N-アセチル-グルコサミニルトランスフェラーゼ I
gRNA:ガイドRNA
HDR:相同組換え修復
HILIC:親水性相互作用液体クロマトグラフィー
LDC:限界希釈クローニング
MGAT1:マンノシル(α-1,3-)-組換え糖タンパク質β-1,2-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ
NHEJ:非相同末端結合
ORF:オープンリーディングフレーム
ori:複製起点
PAM:プロトスペーサー隣接モチーフ
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
Qp:比生産性
RT:応答対取得時間
sgRNA:一本鎖ガイドRNA
SpCas9:化膿レンサ球菌Cas9
TALEN:転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ
UPLC:超高パフォーマンス液体クロマトグラフィー
VCD:可変細胞濃度
VIA:生存率
ZFN:ジンクフィンガーヌクレアーゼ
2-AB:2-アミノベンズアミド
【0068】
[実施例]
全体的に説明された本発明は、以下の実施例を参照するとより分かりやすくなる。以下の実施例は、例示のみを目的とし、本発明を限定する意図がない。これらの実施例は、以下の実験が実施されたすべての実験又は唯一の実験であることを表す意図がない。
【0069】
[実施例I]
(β-グルコセレブロシダーゼを安定的に発現するCHO細胞の作製)
ジェンバンクにアクセッション番号NP_000148.2で登録されているβ-グルコセレブロシダーゼ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_000148.2,SEQ ID NO:1)をコードするための、SEQ ID NO:2(NM_000157.3,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_000157.3で入手可能)に示される核酸配列を含むプラスミドと、Thermo Fisher Scientific Inc.から購入できるBM001H培地で培養されたCHO-K1細胞に、市販のリポフェクションによって、それぞれトランスフェクトされた2つの抗生物質である。
【0070】
酵素活性は、p-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシド(Sigma-N7006)を基質として使用して測定した。放出された生成物は、プレートリーダー(MOLECULAR DEVICE,i3X)によって405nmでの吸光度を測定することによって検出された4-ニトロフェノール(Sigma-35836-1G)であった。4-ニトロフェノールの濃度を定量化するために、参照標準曲線を並行してアッセイした。酵素活性は、1mLあたりのp-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシドから放出される1ナノモルの4-ニトロフェノールを、37℃で1時間あたり触媒するために使われる酵素の量として定義される。
【0071】
比較的高い酵素活性、及びバッチリフィード培養における良好な生存率を備えた安定プールを選択し、クローニングに使用した。結果は表1に示す。
【0072】
【0073】
[実施例II]
(β-グルコセレブロシダーゼを安定的に発現するプールにおけるMGAT1遺伝子の突然変異)
Cas9と、MGAT1を標的とするgRNAとを含むプラスミドを構築した。MGAT1を標的とするgRNAを設計した後に、
図1に示すCas9タンパク質を含むインハウスベクターにライゲイト(ligated)した。SEQ ID NO:4(sgRNA_5,TGACAATGGCAAGGAGCAGA)に示されるsgRNA5を、さらなる使用のために選択した。
【0074】
図1に示すsgRNA_5プラスミドは、市販のリポフェクションによって、実施例Iの方法で調製されたプールにトランスフェクトした。
【0075】
RCAI(ヒマ凝集素)は、野生型CHO-K1細胞に対する毒性が非常に高く、RCAI選択から生き残ったすべての突然変異体が機能不全のMGAT1を含んでいたため、クローンスクリーニングにも適用された。クローンが96ウェルプレートに回収したら、それらを2つのプレートに分割し、一方のプレートAを通常の培地で培養し、他方のプレートBをRCA選択を有する培地で培養される。RCAIを含む培地のプレートBから回収したクローンは、酵素活性アッセイによって選択・スクリーニングした。酵素活性スクリーニング後、酵素活性が比較的高く、単一細胞の画像からモノクローナル性が確認されたモノクローンを、通常の培地で培養したプレートAから選択し、プレートAから増殖させた。
【0076】
モノクローンは、順に96ウェルプレートから24ウェルプレートへと増殖され、その後スピンチューブに回された。増殖中に増殖不十分なクローンを廃棄した。その間に、シーケンシングによってすべてのモノクローンに対しMGAT1突然変異分析を行い、MGAT1突然変異を持つクローンをバッチリフィードスクリーニング用に選択した。接種時に、細胞培養物を、スピンチューブ内で5×105細胞/mLの濃度でフレッシュな生産培地に希釈することによって接種した。培地の大部分は、3日目から、フレッシュな生産培地で毎日リフレッシュされた。VCDが安定期(plateau)に達したとき、ブリーディングプロセス(bleeding process)を毎日行い、このプロセスにおいて、VCDが翌日にピークVCDを維持できるように調節された。消耗量に応じてグルコースも培養物に添加した。培地の大部分が頻繁にリフレッシュされたので、細胞は最適な状態で培養でき、従来のフェッドバッチプロセス(fed-batch process)と比較して、通常、VIAがよりよく維持される。その結果、バッチリフィードは、例えば、この場合の内因性プロテアーゼ又は酵素の影響を受けやすい融合タンパク質のような壊れやすい生物製剤の生産により適している。クローンのバッチリフィード上清を酵素活性分析に供した。クローンの酵素活性も、p-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシド(Sigma-N7006)を基質として使用して測定した。放出された生成物は、プレートリーダー(MOLECULAR DEVICE,i3X)によって405nmでの吸光度を測定することによって検出された4-ニトロフェノール(Sigma-35836-1G)であった。4-ニトロフェノールの濃度を定量化するために、参照標準曲線を並行してアッセイした。酵素活性は、1mLあたりのp-ニトロフェニル-b-D-グルコピラノシドから放出される1ナノモルの4-ニトロフェノールを、37℃で1時間あたり触媒するために使われる酵素の量として定義される。中国特許出願CN108588127Aに開示された方法に従って調製されたクローンをコントロールとして使用した。
【0077】
より高いβ-グルコセレブロシダーゼ酵素活性及びQpを有する最優良なクローンを選択し、それらの上清を、陽イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性相互作用クロマトグラフィーによって精製した。精製された酵素に対し、SEC、Caliper-SDS、N-グリカン分析を行った。
【0078】
最終クローンは、酵素活性、Qp、細胞培養パフォーマンス、モノクローナル性、低コピー数、および、SEC、マンノースレベル、Caliper-SDS(非還元)を含む製品品質に基づいて選択した。最終クローンは、元のMGAT1配列の機能領域に単一核酸が挿入され、当該遺伝子の機能不全を引き起こしたことを示した(表2)。
【0079】
【0080】
最終クローンは、コントロールクローンよりも高い酵素活性と優れた生産性を示した(表3)。最終クローンの平均酵素活性は、0.54U/mLであったのに対し、コントロールクローンの平均酵素活性は0.26U/mLであった。また、最終クローンの平均Qpは、コントロールクローンよりも高い0.020U/mL/細胞/日であった。
【0081】
【0082】
最終クローンで生産されたβ-グルコセレブロシダーゼの非還元純度及び還元純度のそれぞれを、Caliper-SDSアッセイによって検出し、Caliper LC90 CE-SDS ゲル技術、PerkinElmer
タンパク質を分析できる、自動化されたチップに基づく蛍光検出法を設計した。データに示すように、非還元β-グルコセレブロシダーゼの純度は87.7%であった一方、コントロールクローンの純度は70.6%であった(表4)。
【0083】
【0084】
最終クローンのモノマーと凝集体を分析するために特異性SEC方法を開発した。Agilent AdvanceBio SECカラム(300Å,7.8mm×300mm,2.7μm)を使用し、定組成溶出勾配(isocratic elution gradient)を適用して分離した。表5に示すように、最終クローンから発現したβ-グルコセレブロシダーゼモノマーのパーセンテージは、コントロールクローンよりも高かった。
【0085】
【0086】
β-グルコセレブロシダーゼのN結合グリコシル化に対するMGAT1遺伝子の突然変異の影響が特定された。UPLC法によってN-グリカンの特性(profiling)を分析した。N_オリゴ糖は、高速ペプチドN-グリコシダーゼF(PNGase F)酵素によって放出され、放出されたオリゴ糖は2-ABによって標識した。N-グリカンの分離と分量には、HILICに基づいたUPLCを適用した。野生型MGAT1遺伝子を含むプールをコントロールとして使用した。
【0087】
表6及び
図2に示すように、最終クローンから発現したβ-グルコセレブロシダーゼに結合したすべてのN-グリカンのうち、89.3%がマンノース末端のN-グリカン、即ち、N結合Man3、Man4、Man4+1F、Man5、Man5+1F、Man6などであった。コントロールプール(
図3)と比較して、最終クローンにおけるN結合Man5の割合が著しく増加し、Manレベルが遥かに高くなった。これらのデータは、β-グルコセレブロシダーゼを発現するCHO細胞におけるMAGT1遺伝子の突然変異によって、組換えβ-グルコセレブロシダーゼに結合したマンノース末端のN-グリカンの割合を著しく増加させたことを明らかにした。
【0088】
【0089】
[実施例III]
(製剤の調製)
実施例IIの最終クローンから生産されたβ-グルコセレブロシダーゼを表7のように製剤に作製した。
【0090】
【0091】
前記製剤に使用された原料には、クエン酸緩衝液20mM、スクロース8%(w/v)、0.02%(w/v)PS80、pH6.0が含まれる。
【0092】
(1kgのPS80保存溶液(10%w/w)の調製)
成分は、PS80を100g、水を900gで計量された。計量された原料を容器に入れた。すべてのPS80が溶解したと視認するまで溶液を混合した。
【0093】
(1kgの製剤緩衝液の調製)
成分は、クエン酸一水和物を0.64g、クエン酸三ナトリウム二水和物を4.81g、スクロースを77.52g、10%(w/w) PS80保存溶液を1.94g、水を915.09gで計量された。計量された賦形剤をすべて1Lの容器に移した。総重量が1000gになるまで水を入れた。すべての賦形剤が完全に溶解したと視認するまで溶液を混合した。
【0094】
(1LのDSの希釈と混合)
製剤緩衝液をDSに追加し(例えば、酵素比活性が44.5U/mgかつ酵素活性が4.1mg/mL)、タンパク質(100U/mL)の混合を完了させる。0.55LのDSを容器に注いだ後、0.45Lの製剤緩衝液も同じ容器に入れた。次に、希釈されたDSを均一に混合した。
【0095】
[実施例IV]
(製剤研究)
表8は、前記製剤の主要なパフォーマンス研究を示している。この研究は、前記製剤は、2~8℃で少なくとも12週間、又は室温(約25℃)で少なくとも12週間、又は40℃で少なくとも4週間安定的であることを明らかにした。前記製剤は、異なる保存条件下において、その物理的および/または化学的および/または生物的活性を保持できる。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
(外観)
ガラスバイアルの外壁を洗浄した後、ガラスバイアルのネックをYB-2ライトボックスのゴボの端から25cm離れたところに近づけた。色、透明さ、及び見える粒子を含むサンプルの外観を、2000~3750lxの照明レベルで白黒の背景に対して検査した。
【0100】
(浸透圧)
20μLの希釈されていないサンプルの浸透圧を、Advanced 2020によって測定した。測定の前後に、浸透圧計は、290mOsm参照溶液によって校正された。
【0101】
(pH)
pH計は、使用前に3つの異なる標準緩衝液(pH4.01,7.00及び9.21)によって校正した。その後、各サンプルに対し、ローディング量(loading volume)50μLでpHを測定した。
【0102】
(水分)
水分含有量は、Mettler Toledo C30D Karl Fischer電量計で測定した。室温は約15~30℃、空気湿度は50%以下であった。最初に分析物を添加し、相対シフトが15μg/分未満になるまで装置のバランスを取った。次に凍結乾燥粉末を開いて計量し、装置が水分含有量の読み取り値を示すまで装置に添加した。凍結乾燥粉末による空気中の水分の吸収を避けるために、開封から粉末計量までの工程を速やかに行わなければならない。
【0103】
(再構成時間)
flip-offアルミニウムキャップをガラスバイアルから取り外し、凍結乾燥サンプルに対する直接衝突を避けるために、超純水をバイアル壁から滅菌済みインジェクターで添加した。バイアルをわずかに回転させ、超純水を完全に浸透させた後、静置した。凍結乾燥サンプルが完全に溶解するまで、超純水を注入した時間を記録した。
【0104】
(タンパク質濃度)
サンプルが均一に混合された後、NanoDrop 2000分光光度計を使用してUV280測定値によってタンパク質濃度を特定した。減光係数は、1.703AU*mL*mg-1*cm-1であった。すべての測定は、毎回2.5μLのローディング量で2回繰り返され、平均値を取った。
【0105】
(CE-SDS(NR&R))
高電圧の直流電界によって駆動されるCE-SDSは、分子サイズによってサンプルを分離できるキャピラリー電気泳動法である。担体は、キャピラリー内に充填された連続ゲルであって、キャピラリー内でモレキュラーシーブを形成し、分離チャネルとして機能する連続ゲルであった。CE-SDSの場合、電気泳動前のサンプル調製には、SDSの存在下での特定濃度のサンプルの熱変性が含まれ、これにより、サンプルの固有電荷がマスクされ、すべての種(species)に対し類似の電荷対サイズ比が付与された。一定の電界を印加すると、サンプルはサイズに応じて異なる速度で陽極に向かって移動する。
【0106】
(CE-SDS-NR)
WBP108用のCE_NR法は次の実験条件下で行われた:全体積が25μLになるように、サンプル50μgを希釈溶液PB-CAに移した後、最終体積が105μLになるように1%SDSサンプル緩衝液75μLとアルキル化試薬5μLを添加して、溶液を完全に混合した。サンプルをヒートブロック(heating block)において60℃で10分間インキュベートした後、室温で少なくとも3分間冷却した。調製されたサンプル90μLをインサートに移し、インサートをバイアルに入れた。バイアルに蓋をした後、バイアルをサンプル分析用のサンプルバイアルホルダーに入れた。注射時間は40秒であった。
【0107】
(CE-SDS-R)
CE_R法は次の実験条件下で行われた:全体積が25μLになるように、サンプル50μgを希釈溶液PB-CAに移した後、最終体積が105μLになるように1%SDSサンプル緩衝液75μLと還元試薬5μLを添加して、溶液を完全に混合した。サンプルをヒートブロックにおいて60℃で10分間インキュベートした後、室温で少なくとも3分間冷却した。調製されたサンプル90μLをインサートに移し、インサートをバイアルに入れた。バイアルに蓋をした後、バイアルをサンプル分析用のサンプルバイアルホルダーに入れた。注射時間は40秒であった。
【0108】
(RP-HPLC)
逆相クロマトグラフィー(RPC)とは、非極性逆相担体を固定相とし、極性有機溶媒の水溶液を移動相として、溶質の極性(疎水性)の違いにより溶質を分離・精製する溶出クロマトグラフィーのことである。溶質は、疎水性相互作用によって固定相の表面に分布する。しかし、RPC固定相の表面は非極性基で完全に覆われており、強い疎水性を示す。そのため、極性有機溶媒(例えば、メタノール、アセトニトリルなど)又はその水溶液を使用して溶出・分離する必要がある。
【0109】
RP法は、次の実験条件下でHPLCシステムで行われた:Waters BioResolve TM PR mAb ポリフェニル,450A,2.7um,2.1mm*150mm,1/pkをカラムとして使用する;0.1%TFAを含んだ水溶液と0.1%TFAを含んだACN溶液を移動相として適用する;UV検出器の波長として280nmを選択する;カラム温度は45℃に設定する;サンプルは5℃に置かれる;アイソクラチック流量は0.3mL/分である;注射量は10μg、実行時間は27分である。
【0110】
(SEC-HPLC)
ゲルろ過法とも呼ばれるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法は、分子がカラムに充填されたSEC樹脂を通過するときに、サイズ(流体力学的半径)の違いによって分子を分離する。SEC樹脂は、分離される分子と相互作用しないように設計された球状粒子の多孔質マトリックスで構成される。カラムに適用された後、細孔よりも大きな分子はビーズに拡散できないため、最初に溶出する。細孔サイズよりも小さい分子はそのサイズに基づいてさまざまな程度で細孔に浸透できる。
【0111】
SEC法は、次の実験条件下でHPLCシステムにより行われた:Agilent AdvanceBio SEC(300Å,7.8mm*300mm,2.7μm)をカラムとして使用する;55mMクエン酸ナトリウム+ 200mM L-アルギニン(pH5.5±0.1)を移動相として適用する;UV検出器の波長として280nmを選択する;カラム温度は45℃に設定する;サンプルは5℃に置かれる;アイソクラチック流量は0.6mL/分である;注射量は30μg、実行時間は40分である。以下に示す例外を除いて、このSEC法は、本レポートにおけるすべての研究に適用される。
【0112】
(DLS)
散乱現象は、溶液中の粒子のブラウン運動により、レーザー光が粒子を通過する際に発生する。粒子の流体力学的半径は、DLSで溶液中の粒子の拡散係数を測定することによって計算及び取得できる。DLS分析は、Malvern ZEN3600で実施された。サンプル70μLを、25℃で実験するために、バイオセーフティフード内の使い捨てキュベットに添加した。
【0113】
(HIAC)
サブ可視粒子(Sub-visible particles) は、HIACシステムによって監視された。各サンプルは、4回の連続実行(1mL/実行)で実験された。最初の実行結果が破棄され、残りの3回の実行の平均値が記録された。最後に、データはソフト
数として表示された。
【0114】
(酵素活性)
希釈した酵素を、20mM p-NPGと37℃で1h混合した。グリシンを1M添加して反応を停止させた。405nmでの吸光度を測定し、サンプル中の酵素の活性に比例する信号を生成した。酵素反応生成物P-NPの標準曲線をプロットし、SoftMaxソフトウェアを使用して線形回帰モデルに従って回帰した。実験サンプルのOD値を、標準曲線と比較して実験サンプルの酵素活性を計算した。
【0115】
当業者であれば、本発明が、その主旨または中心的な属性から逸脱することなく、他の具体的な形態で具現化され得ることをさらに理解するであろう。本発明の上記説明は、その例示的な実施形態のみを開示し、他の変形例が本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。したがって、本発明は、本明細書で詳細に説明された特定の実施形態に限定されない。むしろ、本発明の範囲および内容を示すものとして、特許請求の範囲を参照すべきである
【手続補正書】
【提出日】2021-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の
β-グルコセレブロシダーゼ、緩衝液、浸透圧調節剤、および界面活性剤を含む医薬製剤であって、
前記β-グルコセレブロシダーゼは含有量が50~150U/mLであり、
前記緩衝液は含有量が2~10g/mLであるクエン酸緩衝液であり、前記浸透圧調節剤は含有量が40~120g/Lであるスクロースであり、前記界面活性剤は含有量が0.1~1g/Lであるポリソルベート80である、ことを特徴とする、医薬製剤。
【請求項2】
前記β-グルコセレブロシダーゼの含有量は
100U/mlである、請求項
1に記載の製剤。
【請求項3】
前記クエン酸緩衝液の含有量は
5~6g/mLである、請求項
1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記スクロースの含有量は
80g/Lである、請求項
1~3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記ポリソルベート80の含有量は、
0.2g/Lである、請求項
1~4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
治療有効量のβ-グルコセレブロシダーゼ、緩衝液、浸透圧調節剤、および界面活性剤を含む医薬製剤であって、
前記β-グルコセレブロシダーゼは含有量が100U/mLであり、前記緩衝液は含有量が5~6g/mLであるクエン酸緩衝液であり、前記浸透圧調節剤は含有量が80g/Lであるスクロースであり、前記界面活性剤は含有量が
0.2g/Lであるポリソルベート80であり、前記製剤のpHは5.5~6.5である、ことを特徴とする、医薬製剤。
【請求項8】
ゴーシェ病のようなβ-グルコセレブロシダーゼ欠損に関する疾患の治療における請求項1~7のいずれか一項に記載の製剤の使用であって、
前記製剤を、それを必要とする受験者に投与することを含む、使用。
【国際調査報告】