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特表2023-527194腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(54)【発明の名称】腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230620BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230620BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230620BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230620BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230620BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230620BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230620BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N5/0783
C12N5/10
C12N7/01
C07K19/00
C07K14/705
C07K16/30
C12N15/13
A61P35/00
A61P35/02
A61K38/02
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572364
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(85)【翻訳文提出日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 CN2021095107
(87)【国際公開番号】W WO2021233411
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】202010441127.2
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520272880
【氏名又は名称】重▲慶▼精准生物技▲術▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHONGQING PRECISION BIOTECH COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】No.38 Hanxing Rd, Hangu Town, Jiulongpo District Chongqing 400038 China
(71)【出願人】
【識別番号】522456165
【氏名又は名称】重▲慶▼精准生物産業技▲術▼研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHONGQING PRECISION BIOLOGICAL INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.38 Hanxing Road,Hangu Town,Jiulongpo District,Chongqing 400038,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】徐艶敏
(72)【発明者】
【氏名】梅恩典
(72)【発明者】
【氏名】趙永春
(72)【発明者】
【氏名】単娟娟
(72)【発明者】
【氏名】斉亜男
(72)【発明者】
【氏名】趙文旭
(72)【発明者】
【氏名】陳軍
(72)【発明者】
【氏名】黄霞
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA41
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は免疫治療の技術分野に属し、具体的には、腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質、腫瘍免疫抑制抵抗型CAR及び発現ベクター、免疫細胞及び使用に関する。該融合タンパク質はCEA、CD19、PSCA、BCMA等の様々な標的の異なるCAR構造に結合して腫瘍免疫抑制抵抗型CARとなり、又はこれらと併用し、CD47陽性腫瘍細胞を標的に殺傷する。前記腫瘍免疫抑制抵抗型CAR及び免疫細胞は腫瘍組織中の抑制性シグナルによるCAR-T機能への影響をなくし、CAR-T治療有効性を実現し、しかも、所定の安全性を確保することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外部分、膜貫通構造及び細胞内シグナル領域を含むSIRPγ融合タンパク質であることを特徴とする腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質。
【請求項2】
膜貫通構造はヒトCD28膜貫通領域又はヒトCD8由来膜貫通領域に由来し、好ましくは、前記細胞内シグナル領域はCD28又は4-1BBに由来することを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記膜貫通構造はアミノ酸配列がSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示され、好ましくは、前記細胞内シグナル領域はCD28に由来し、配列がSEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:38に示されることを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記SIRPγ融合タンパク質の構造はSIRPγ-CD28TM-CD28又はSIRPγ-CD8TM-4-1BBであることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記SIRPγ細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又はその機能的バリアントに示されることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD28TM-CD28のアミノ酸配列はSEQ ID NO:2又はその機能的バリアントに示されることを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのアミノ酸配列はSEQ ID NO:3又はその機能的バリアントに示されることを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD28TM-CD28のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:13に示されることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:14に示されることを特徴とする請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む発現ベクター。
【請求項11】
レンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項12】
請求項10~11のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む免疫細胞。
【請求項13】
T細胞、T細胞前駆体又はNK細胞であることを特徴とする請求項12に記載の免疫細胞。
【請求項14】
腫瘍抗原を認識するキメラ抗原受容体構造を有し、前記キメラ抗原受容体は腫瘍抗原を認識する細胞外部分、hinge領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含み、前記腫瘍抗原は、PSCA、PSMA、CD19、BCMA、CD123、CD20、CD22、CEA、EGFR、EGFRVIII、GPC3、5T4、CD33、Her2、GD2、CD70、CLL-1、Trop2、CD47、GPC3、CLND18.2、CD133、CS1、CD155、CD30、ROR1、MUC1、IL13RAα2又はmesothelinなど、腫瘍標的として認識し得る抗原分子を含むが、これらに限定されないことを特徴とする請求項13に記載の免疫細胞。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、CAR1と、を含み、前記CAR1は腫瘍抗原を認識する細胞外部分、hinge領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含むことを特徴とする腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項16】
前記融合タンパク質は多シストロン構造によってCAR1に連結され、前記多シストロン構造は自己切断性ポリペプチド又は内部リボソーム進入部位IRESであり、前記自己切断性ポリペプチドはT2A、P2A、E2A又はF2Aであることを特徴とする請求項15に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項17】
前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質又はScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質であることを特徴とする請求項15に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項18】
前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28又はScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28であることを特徴とする請求項15に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項19】
CAR1構造では、hingeのアミノ酸配列はSEQ ID NO:24又はその機能的バリアントに示され、TMのアミノ酸配列はSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示され、CD3ζのアミノ酸配列はSEQ ID NO:11又はその機能的バリアントに示され、融合タンパク質構造では、SIRPγSIRPγ細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又は機能的バリアントに示され、ヒトCD28由来の膜貫通領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:7に示され、ヒトCD28由来の細胞内シグナル領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:9に示されることを特徴とする請求項15に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項20】
前記ScFvはCD19、CD123、MOv-γ、PSMA、IL13Rα2、EGFRvIII、EGFR、EPCAM、GD2、MUC1、HER2、GPC3、CEA、Meso、CD133、NKG2D、CD138、LeY、k-Light、CD33、ROR1、BCMA、CD30、CD20、CD22、PSCA、CLL-1、CD70、CD47のうちのいずれか1種又は複数種を認識することを特徴とする請求項17又は18又は19に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項21】
前記ScFvのアミノ酸配列はSEQ ID NO:25又はその機能的バリアントに示されることを特徴とする請求項20に記載のCAR。
【請求項22】
前記CAR1は以下の複数種のうちの1種を含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
a)CAR1はCEA一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含み、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:26又はその機能的バリアントに示され、又は
b)前記CAR1はCD19一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含み、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:27又はその機能的バリアントに示され、又は
c)前記CAR1はPSCA一本鎖抗体、ヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28、CD137及びCD3ξ三重刺激シグナルを含み、前記ヒンジ領域はG4H又は7Hであり、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:28又はその機能的バリアントに示されるか、又はSEQ ID NO:29又はその機能的バリアントに示される。
【請求項23】
前記a)及びb)のCAR1構造は低酸素プロモータをさらに含み、前記低酸素調節性プロモータの核酸配列はSEQ ID NO:30に示される配列を含むことを特徴とする請求項22に記載の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項24】
請求項21又は22に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CARをコードし、前記核酸配列はSEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34又はSEQ ID NO:35に示される配列を含むことを特徴とする核酸配列。
【請求項25】
請求項15~23のいずれか1項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CARを含む発現ベクターであって、
レンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのうちのいずれか1種であることを特徴とする発現ベクター。
【請求項26】
請求項25に記載の発現ベクターを含む免疫細胞。
【請求項27】
T細胞、T細胞前駆体又はNK細胞であることを特徴とする請求項26に記載の免疫細胞。
【請求項28】
前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質を同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は
前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることを特徴とする請求項14に記載の免疫細胞の製造方法。
【請求項29】
請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項15~23のいずれか1項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR、請求項12~14のいずれか1項に記載の免疫細胞、請求項26~27のいずれか1項に記載の免疫細胞、請求項10~11のいずれか1項に記載の発現ベクター、請求項25に記載の発現ベクター又は請求項24に記載の核酸配列を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項30】
CAR発現活性を増強し得る活性化剤及び/又は治療剤をさらに含むことを特徴とする請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項31】
請求項29又は30に記載の医薬組成物の腫瘍治療薬の製造における使用。
【請求項32】
前記腫瘍は悪性腫瘍、例えば急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、結直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、肝癌、脳癌及び皮膚癌であり、前記腫瘍はCD19、CD123、MOv-γ、PSMA、IL13Rα2、EGFRvIII、EGFR、EPCAM、GD2、MUC1、HER2、GPC3、CEA、Meso、CD133、NKG2D、CD138、LeY、k-Light、CD33、ROR1、BCMA、CD30、CD20、CD22、PSCA、CLL-1、CD70、CD47のうちのいずれか1種又は複数種を高発現させることを特徴とする請求項31に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫治療の技術分野に属し、具体的には、腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質、新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR及び発現ベクター、免疫細胞及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CARは完全にキメラ抗原受容体と呼ばれ、CAR-Tはキメラ抗原受容体T細胞、すなわちキメラ抗原受容体(CAR)を発現するTリンパ球である。現在、CAR-T治療は血液系腫瘍で画期的な進展を遂げており、しかし、固形腫瘍における効果は血液系腫瘍に及ばず、その原因としては、CAR-Tが固形腫瘍の内部に入りにくい一方、CAR-T細胞が固形腫瘍の内部に入っても腫瘍微小環境のため正常に機能を発揮できず、これらはCAR-T細胞の固形腫瘍への治療効果に影響することである。腫瘍微小環境は腫瘍の発生、生長や転移と密接な関係があり、近年の臨床研究により、腫瘍微小環境、特に固形腫瘍の免疫微小環境は免疫治療(免疫細胞治療を含む)の治療効果と予後のいずれにも顕著な影響があることを明らかにした。そのため、CAR-T細胞による固形腫瘍の治療には、腫瘍微小環境抑制を解決すること、すなわち腫瘍微小環境抵抗を実施することが不可欠である。
【0003】
CD47はPD-1/PD-L1、CTLA-4に続く新たな免疫チェックポイントとして、マクロファージに「私を食べないで」シグナルを送ることで自然免疫の進行を抑制する。現在、CD47 ScFvを標的としたCAR-Tを用いて腫瘍治療を行うことが報告されている。CD47は腫瘍脱出の免疫微小環境の形成を促進することができるが、腫瘍の異質性のため、CD47単独を標的する場合、治療効果が限られ、しかも、外因性のScFvはその強い親和性によりCAR-T細胞の過剰活性化、悪い存続性、非特異性を招き、安全上の潜在的なリスクを引き起こす恐れがある。そのため、より安全で有効な手段を用いてCD47を認識して腫瘍微小環境の脱出シグナルを解除することは非常に重要である。
【0004】
シグナル調節タンパク質α(SIRPα)はCD47のリガンドの1つであり、CD47と結合し、マクロファージの貪食作用を抑制することができ、現在、CD47に関するほとんどの研究はSIRPαに関するものである。SIRPγもCD47に結合することができ、T細胞表面に存在し、細胞外領域が1つのVドメインと2つのC1ドメインから構成され、細胞内シグナルがなく、CD47を通じて単方向シグナルを伝達するため、現在SIRPγに対する改変を行う研究者は少ないが、本発明者らはSIRPγがCD47に対して腫瘍微小環境解除を行うのにもっと適するリガンドであると考えている。そのため、SIRPγタンパク質の細胞外部分について改変設計を行い、さらに腫瘍免疫抑制抵抗型CARを設計した。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、腫瘍微小環境を逆転させて、腫瘍細胞を標的に殺傷することができる腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質、該タンパク質を含む発現ベクター及び免疫細胞を提供することである。
【0006】
上記の目的を達成させるために、本発明は以下の形態を採用する。
【0007】
SIRPγタンパク質の細胞外部分について改変設計を行うことで、腫瘍組織中の抑制性シグナルをなくする腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質。
【0008】
前記融合タンパク質は構造として細胞外部分、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含むSIRPγ融合タンパク質である。
【0009】
さらに、膜貫通構造はヒトCD28膜貫通領域に、又はヒトCD8由来膜貫通領域に由来する。
【0010】
さらに、前記膜貫通構造のアミノ酸配列はSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示される。
【0011】
好ましくは、前記細胞内シグナル領域はCD28に由来し、配列がSEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:38に示される。
【0012】
さらに、前記SIRPγ融合タンパク質の構造はSIRPγ-CD28TM-CD28、SIRPγ-CD8TM-4-1BBである。
【0013】
さらに、前記SIRPγ細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又はその機能的バリアントに示される。
【0014】
さらに、前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD28TM-CD28のアミノ酸配列はSEQ ID NO:2又はその機能的バリアントに示される。
【0015】
さらに、前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのアミノ酸配列はSEQ ID NO:3又はその機能的バリアントに示される。
【0016】
さらに、前記SIRPγ融合タンパク質はヌクレオチド配列がSEQ ID NO:13に示されるようなSIRPγ-CD28TM-CD28である。
【0017】
さらに、前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:14に示される。
【0018】
さらに、前記発現ベクターを含む免疫細胞。
【0019】
さらに、前記免疫細胞はT細胞、T細胞前駆体又はNK細胞である。
【0020】
具体的には、前記T細胞はαβT細胞であってもよいし、γδT細胞であってもよく、γδT細胞は受容体γ及びδ鎖を表面に含む特殊なT細胞亜群であり、全てのtリンパ球の0.5~5%を占め、該細胞群は1987年に初めて発見された。γδTCRを有するが、その認識抗原又はリガンドが非MHC制限であるので、従来のαβT細胞と異なる。現在、CN107810267AやCN107771215Aなどの複数の特許では、γδT細胞を細胞治療及びCAR-T細胞治療に適用することが開示されている。
【0021】
具体的には、SIRPγ融合タンパク質を設計するとともに、PD-1の融合タンパク質PD-1-28TM-28、PD-1-8TM-BBを設計する。
【0022】
具体的には、前記設計されたSIRPγ融合タンパク質は、CAR1と併用する場合、単独で発現してもよいし、CAR1と共発現して作用を発揮してもよい。また、前記SIRPγ融合タンパク質は単独で免疫治療に用いられてもよい。
【0023】
具体的には、本発明では、発明者らは、SIRPγタンパク質がCD47に対して腫瘍微小環境解除を行うのにより適するリガンドであると考えている。したがって、SIRPγタンパク質の細胞外部分について改変設計を行い、腫瘍免疫抑制抵抗型CARを設計し、このため、本発明は、設計・構築した低酸素調節性プロモータとCAR-T細胞技術との組み合わせ、及び低酸素調節性プロモータとSIRPγタンパク質とCAR-T細胞技術との組み合わせを腫瘍の免疫治療に適用し、即ち、さらに従来のCAR構造を改変することで、CAR-Tの固形腫瘍に対する治療効果及びCAR-Tの安全性を向上させる。
【0024】
さらに、前記免疫細胞は腫瘍抗原を認識するキメラ抗原受容体構造を有し、前記キメラ抗原受容体は腫瘍抗原を認識する細胞外部分、hinge領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含み、腫瘍抗原はPSCA、PSMA、CD19、BCMA、CD123、CD20、CD22、CEA、EGFR、EGFRVIII、GPC3、5T4、CD33、Her2、GD2、CD70、CLL-1、Trop2、CD47、GPC3、CLND18.2、CD133、CS1、CD155、CD30、ROR1、MUC1、IL13RAα2又はmesothelinなど、腫瘍標的として認識し得る抗原分子を含む。
【0025】
本発明の目的はまた、新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR、及び前記CARを含む発現ベクターと免疫細胞を提供することである。前記新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR及び免疫細胞は、腫瘍組織中の抑制性シグナルによるCAR-T機能への影響をなくし、CAR-T治療有効性を実現し、しかも、所定の安全性を確保することができる。
【0026】
上記目的を達成させるために、本発明は以下の手段を採用する。
【0027】
前記新規腫瘍免疫抑制抵抗型CARは、目的その一に記載した腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質と、CAR1と、を含み、前記CAR1は腫瘍抗原を認識する細胞外部分、hinge領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含む。
【0028】
さらに、前記融合タンパク質は多シストロン構造によってCAR1に連結され、前記多シストロン構造は自己切断性ポリペプチド又は内部リボソーム進入部位IRESであり、前記自己切断性ポリペプチドはT2A、P2A、E2A又はF2Aである。
【0029】
さらに、前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質又はScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質である。
【0030】
さらに、前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28又はScFv -hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28である。
【0031】
さらに、前記CAR構造aは一般的な第1世代、第2世代、第3世代のCAR構造であってもよく、改良したデュアルCAR、調節性CAR構造(例えばFRB/FKBP12調節)などの新規CAR構造であってもよい。
【0032】
さらに、CAR1のヒンジ領域の配列はIgG、CD8、CD7、CD4に由来してもよく、CAR構造の膜貫通領域はCD8、CD28、CD3ε、CD4、CD16、CD137、CD80及びCD86に由来してもよく、CAR構造の細胞内シグナル領域はCD3、CD137、CD28、CD27、OX40、ICOS、GITR、CD2、CD40、PD-1、PD1L、B7-H3、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、ICAM-1、CD7、NKG2C、CD83、CD86及びCD127に由来してもよい。
【0033】
さらに、前記ScFvはCD19、CD123、MOv-γ、PSMA、IL13Rα2、EGFRvIII、EGFR、EPCAM、GD2、MUC1、HER2、GPC3、CEA、Meso、CD133、NKG2D、CD138、LeY、k-Light、CD33、ROR1、BCMA、CD30、CD20、CD22、PSCA、CLL-1、CD70、CD47のうちのいずれか1種を認識し得る。
【0034】
さらに、前記ScFvはCD47、CEA、PSCA、CD19又はBCMAを認識し得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記CAR構造はトランケートされたEGFRt調節タグを有し、いくつかの実施形態では、前記PSCAを標的としたCAR構造は汎用型CAR構造であり、いくつかの実施形態では、前記PSCAを標的としたCAR構造はiCasp9などの自殺遺伝子を持つ。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記CAR構造は天然キラー細胞受容体(NKR)の成分の1種又は複数種を含むので、NKR-CARを形成する。NKR成分はキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、例えばKIR2DL1、KIR2DL2/L3、KIR2DL4、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR2DS1、KIR2DS2、KIR2DS3、KIR2DS4、DIR2DS5、KIR3DL1/S1、KIR3DL2、KIR3DL3、KIR2DP1及びKIR3DP1;天然細胞毒性受容体(NCR)、例えば、NKp30、NKp44、NKp46;免疫細胞受容体のシグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)ファミリー、例えば、CD48、CD229、2B4、CD84、NTB-A、CRA、BLAME及びCD2F-10;Fc受容体(FcR)、例えば、CD16、及びCD64;Ly49受容体、例えば、LY49A、LY49Cのいずれかの天然キラー細胞受容体由来の膜貫通ドメイン、ヒンジドメイン又は細胞質ドメインであってもよい。前記NKR-CAR分子は適応分子又は細胞内シグナルドメイン(例えば、DAP12)と相互作用することができる。
【0037】
好ましい態様1として、前述SIRPγ融合タンパク質とCAR1とからなるCAR構造であって、前記CAR1では、hingeのアミノ酸配列はSEQ ID NO:24又はその機能的バリアントに示され、TMのアミノ酸配列はSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示され、CD3ζのアミノ酸配列はSEQ ID NO:11又はその機能的バリアントに示され、融合タンパク質構造では、SIRPγの細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又は機能的バリアントに示され、ヒトCD28由来の膜貫通領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:7に示され、ヒトCD28由来の細胞内シグナル領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:9に示される。
【0038】
さらに、前記ScFvのアミノ酸配列はSEQ ID NO:25又はその機能的バリアントに示される。
【0039】
具体的には、この好ましい態様は、新規免疫抑制抵抗型CAR:ScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-28TM-28、ScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-8TM-BB、ScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-28TM-28、ScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-8TM-BB及びScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-PD-1-28TM-28とScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-PD-1-8TM-BBを発現させる遺伝子修飾Tリンパ球を設計して、新規免疫抑制抵抗型CARの作用を検証する。
【0040】
さらに、前記CAR構造の製造方法は、前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と、前記SIRPγ融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることである。
【0041】
好ましい態様2として、前述SIRPγ融合タンパク質とCAR1とからなるCAR構造であって、前記CAR1は抗CEA一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含む。
【0042】
好ましくは、前記CAR構造aはCEA ScFv-CD8ヒンジ領域-CD8膜貫通領域-CD137-CD3ξ構造であり、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO:26に示される配列を含む。CEA一本鎖抗体をコードする核酸配列はSEQ ID NO:36に示され、CD8ヒンジ領域-CD8膜貫通領域-CD137-CD3ξ構造をコードする核酸配列はSEQ ID NO:37に示される。
【0043】
さらに、低酸素調節性プロモータを含む前記CAR構造をコードする核酸配列はSEQ ID NO:31に示される配列を含む。
【0044】
好ましい態様3として、前述SIRPγ融合タンパク質とCAR1とからなるCAR構造であって、前記CAR1はCD19一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含む。
【0045】
好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:27又はその機能的バリアントに示される。
【0046】
さらに、前記CAR構造をコードする核酸配列はSEQ ID NO:32又はSEQ ID NO:33に示される配列を含む。
【0047】
さらに、前記CAR構造の製造方法は、前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は前記SIRPγ融合タンパク質を含むCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることである。
【0048】
好ましい態様4として、前述SIRPγ融合タンパク質とCAR1とからなるCAR構造であって、前記CAR構造aはPSCA一本鎖抗体、ヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28、CD137及びCD3ξ三重刺激シグナルを含み、前記ヒンジ領域はG4H又は7Hである。
【0049】
好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:28又はその機能的バリアントに示され、又はSEQ ID NO:29又はその機能的バリアントに示される。アミノ酸配列がSEQ ID NO:28又はその機能的バリアントに示されるのはヒンジ領域がG4HであるCAR構造aであり、アミノ酸配列がSEQ ID NO:29又はその機能的バリアントに示されるのはヒンジ領域が7HであるCAR構造aである。
【0050】
さらに、前記CAR構造をコードする核酸配列はSEQ ID NO:34又はSEQ ID NO:35に示される配列を含み、SEQ ID NO:35は低酸素調節性プロモータを含む。
【0051】
さらに、前記CAR構造の製造方法は、前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と、前記SIRPγ融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させる。
【0052】
好ましい態様5として、前述SIRPγ融合タンパク質と、好ましい態様1-好ましい態様4のいずれかのCAR1とを含むCAR構造であって、前記CAR構造は低酸素プロモータをさらに含み、前記低酸素調節性プロモータの核酸配列はSEQ ID NO:30に示される配列を含む。低酸素プロモータを含んでCD19を標的としたCAR構造は、低酸素微小環境にて生体内の腫瘍を効果的に除去する役割を有し、しかも、低酸素微小環境により誘導されるプロモータは低酸素環境で目的遺伝子、タンパク質などの因子の発現を強化し、腫瘍治療薬の治療効果やCAR-T治療の有効性と安全性を向上させることができ、しかも、Tリンパ球に効果的に発現できるだけではなく、低酸素環境にてCAR分子の発現を強化し、CAR-T細胞に高いIFN-γ分泌能を付与し、腫瘍の標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷を強くし、腫瘍標的治療に有用である。
【0053】
さらに、前記低酸素調節性プロモータは、Hifla調節エレメントとミニプロモータとを連結してなり、前記ミニプロモータはサイトウィルスプロモータ、HSVチミジンキナーゼのプロモータ、サルウイルス40のプロモータ、アデノウイルス後期プロモータ及び合成プロモータから選ばれるいずれか1つである。
【0054】
さらに、前記CAR構造の製造方法は、前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と、前記SIRPγ融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることである。
【0055】
本発明の目的はまた、前記の新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR(好ましい態様1-好ましい態様5における態様及び好ましい態様以外のものを含む)のいずれかを含む発現ベクター、該発現ベクターを含む免疫細胞を提供する。
【0056】
さらに、前記発現ベクターはレンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのうちのいずれか1種である。
【0057】
さらに、前記免疫細胞はT細胞、T細胞前駆体又はNK細胞である。
【0058】
さらに、前記免疫細胞の製造方法は、前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることである。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは実質的には、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2(HIV-2)、マエディ・ビスナウイルス(VMV:visna-maedi virus)ウイルス、ヤギ関節炎-脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)及びサル免疫不全ウイルス(SIV)からなる群から選ばれる。
【0060】
いくつかの実施形態では、ベクターは左(5')レトロウイルスLTR、Psi(Ψ)パッケージングシグナル、中心ポリプリン区画/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルス導出エレメント、本発明に含まれるCARをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されるプロモータ及び右(3')レトロウイルスLTRを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、CARはB型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)又はマーモット転写後調節エレメント(WPRE)及び最適マーモット転写後調節エレメント(oPRE)を含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、前記5'LTRのプロモータは異種プロモータで置換される。
【0063】
いくつかの実施形態では、前記異種プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、ラウス肉腫ウイルス(RSV:Rous Sarcoma Virus)プロモータ又はサルウイルス40(SV40)プロモータである。
【0064】
いくつかの実施形態では、前記5'LTR又は3'LTRはレンチウイルスLTRである。
【0065】
いくつかの実施形態では、前記3'LTRは自己不活性化(SIN)LTRである。
【0066】
いくつかの実施形態では、前記CAR構造の核酸配列は最適化Kozark配列を含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、本発明に含まれるCARをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結される前記プロモータは、サイトメガロウイルス初期遺伝子プロモータ(CMV)、伸長因子1αプロモータ(EF1-α)、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1プロモータ(PGK)、ユビキチン-Cプロモータ(UBQ-C)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモータ(CAG)、ポリオーマウイルスエンハンサー/単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモータ(MC1)、βアクチンプロモータ(β-ACT)、サルウイルス40プロモータ(SV40)及び骨髄増殖肉腫ウイルスエンハンサー、陰性対照領域を欠損させた、dl587revプライマー結合部位が置換された(MND)プロモータからなる群から選ばれる。
【0068】
いくつかの実施形態では、CARを含むベクターは分泌型抗PD-1ScFvを含んでもよく、いくつかの実施形態では、CARを含むベクターはPD-1共役伝達ペプチド(例えばPD-1-CD28-CD137-CD3シグナル構造)を含み、いくつかの実施形態では、CARを含むベクターは複数のCAR、例えば異なる抗原又は同一の抗原の異なる認識部位を標的とする2つのCARを組み合わせる。
【0069】
本発明の目的はまた、医薬組成物及びその使用を提供することである。
【0070】
上記目的を達成させるために、本発明は以下の手段を採用する。
【0071】
前記医薬組成物は、前記融合タンパク質又は前記融合タンパク質を含む発現ベクターと、免疫細胞又は前記新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR若しくは前記新規腫瘍免疫抑制抵抗型CARを含む免疫細胞と、を含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質はSIRPα又はSIRPαの部分ドメインとしてもよく、融合タンパク質の構造はSIRPα-28TM-28、SIRPα-8TM-137、SIRPα-8TM-OX40、SIRPα-8TM-ICOSなどの複数種の融合タンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、上記SIRPα融合タンパク質を発現させた免疫細胞を単独で使用してもよいし、上記SIRPα融合タンパク質とCAR分子を同一の免疫細胞に共発現させ、又はSIRPα融合タンパク質、CAR分子をそれぞれ発現させた免疫細胞を所定の割合で混合してもよい。
【0073】
いくつかの特定の実施形態では、前記活性化剤及び/又は治療は、手術、化学療法、放射線療法、免疫抑制剤例えばシクロスポリン(cyclosporin)、アザチオプリン(azathioprine)、メトトレキサート(methotrexate)、マイコフェノレート(mycophenolate)及びFK506、抗体又は他の免疫除去剤(immunoablativeagents)例えばCAMPATH、抗CD3抗体又は他の抗体治療、シトキサン(cytoxan)、フルダラビン(fludarabine)、シクロスポリン(cyclosporin)、FK506、ラパマイシン(rapamycin)、マイコフェノール酸(mycophenolicacid)、ステロイド(steroids)、FR901228、サイトカインや放射線であってもよい。
【0074】
いくつかの実施形態では、前記細胞は他の活性化剤、例えば、CAR発現細胞活性を増強する活性化剤を発現させてもよい。活性化剤は抑制性分子を遮断する活性化剤であってもよい。抑制性分子例えばPD1は、いくつかの実施形態では、CAR発現細胞の免疫エフェクター反応開始能を抑制することができる。抑制性分子は、PD1、PD-L1、CTLA4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT,LAIR1、CD160、2B4、CEACAM(CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5)、LAG3、VISTA、BTLA、TIG、LAIR1、CD160、2B4、CD80、CD86、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、HVEM(TNFRSF14又はCD270)、KIR、A2aR、MHC Iクラス、MHC IIクラス、GAL9、アデノシン、TGFR(TGFRβ)及びTGFRβを含む。前記抑制性分子の細胞外ドメインは膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメイン、例えばPD1 CARに融合してもよい。
【0075】
さらに、前記の融合タンパク質のいずれか、前記CAR構造のいずれか、前記核酸配列のいずれか、前記発現ベクターのいずれか、又は前記免疫細胞のいずれかの、腫瘍治療薬の製造における使用。
【0076】
さらに、前記腫瘍は急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、結直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、肝癌、脳癌及び皮膚癌を含む悪性腫瘍である。
【0077】
本発明では、CAR構造において、ZはヒトCD3細胞内シグナルCD3ζ、BBはヒト4-1BB細胞内シグナル、BBZは4-1BB ICD-CD3ζの細胞内ドメイン、28ZはCD28ICD-CD3ζの細胞内ドメインである。
【0078】
本発明では、前記「機能的バリアント」は、通常、ある配列とは実質的に同じ機能(例えば、前記キメラ抗原受容体の性質を備えてもよい)を有し、しかも、少なくとも85%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものを意味する。いくつかの実施形態では、前記アミノ酸配列のバリアントはこの配列とは実質的に同じ機能を有する。
【0079】
本発明では、CAR構造において、CEAZは細胞内構造としてCD3ζしかないCEAを標的とするCAR構造であり、CEA-28Zは細胞内にCD28細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造であり、CEA-BBZは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造であり、BCMA-BBZは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するBCMAを標的としたCAR構造であり、SIRPγ-28TM-28は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルしかないSIRPγ融合ペプチドであり、略語としてSIRPγ-28と使用した。SIRPγ-8TM-BBは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来のシグナルしかない融合ペプチド、略語SIRPγ-BBである。
【発明の効果】
【0080】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0081】
本発明による腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質は、腫瘍微小環境を逆転させ、CD47陽性腫瘍細胞を標的に殺傷することができ、前記融合タンパク質を含む新規腫瘍免疫抑制抵抗型CAR及び免疫細胞は、腫瘍組織中の抑制性シグナルによるCAR-T機能への影響をなくし、CAR-T治療有効性を実現し、しかも、所定の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】免疫抑制解除融合タンパク質の構造図である。
図2】免疫抑制型CAR構造の概略図。
図3】CAR構築プラスミドを検証する図である。
図4】標的細胞の構築結果である。
図5a】新規免疫抑制抵抗型CAR-TのCAR陽性率である。
図5b】新規免疫抑制抵抗型CAR-Tの発現強度である。
図6a】新規免疫抑制抵抗型CAR-Tのインビトロ機能の検証である。
図6b】新規免疫抑制抵抗型CAR-Tのインビトロ殺傷率である。
図7】新規免疫抑制抵抗型CAR-Tの腫瘍抑制環境解除の検証である。
図8a】NCGマウスのCEA、PD-L1、CD47の3陽性発現である。
図8b】NCGマウスの腫瘍体積測定データで作成された腫瘍体積増加曲線である。
図9】第2世代の免疫抑制型CARのインビボ有効性である。
図10】CEA標的の各実験群の平均蛍光強度である。
図11】CEA標的の各実験群の陽性率である。
図12】CEA標的の各実験群CAR-Tのインビトロ増幅倍数曲線である。
図13】CEA標的の各実験群CAR-Tの標的細胞DLDL1-CEAへの殺傷効率である。
図14】CEA標的の各実験群のDLD1-CEA及びDLD1-CEA(CD47-)細胞のそれぞれにおけるIFN-γ分泌である。
図15】CEA標的の各実験群のDLD1-CEA及びDLD1-CEA(CD47-)細胞のそれぞれにおけるIL-2分泌である。
図16】CEA標的の各実験群のDLD1-CEA及びDLD1-CEA(CD47-)細胞のそれぞれにおけるTNF-α分泌である。
図17】CEA標的スクリーニング対照群aの生体内低酸素モデルによるマウス腫瘍成長を検証する実物図である。
図18】CEA標的スクリーニング対照群aの生体内低酸素モデルによる担癌マウス体内の生物発光量の検証である。
図19】フローサイトメトリー検出によるCD19を標的とした各実験群CAR-Tの陽性率である。
図20】CD19を標的とした各実験群の細胞殺傷である。
図21】CD19を標的とした各実験群のIFN-γ因子分泌である。
図22】CD19を標的とした各実験群のマウス体内の生物発光である。
図23】CD19を標的とした各実験群のマウス体内の腫瘍成長である。
図24】PSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図25】PSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図26】PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図27】PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図28】PSCA-28BBZ-G4H-28TM、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図29】PSCA-28BBZ-7H-28TM、PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28のIFN-γ因子分泌である。
図30】PSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28の陽性/陰性細胞のそれぞれにおける細胞殺傷である。
図31】PSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28の陽性/陰性細胞のそれぞれにおける細胞殺傷である。
図32】PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28の陽性/陰性細胞のそれぞれにおける細胞殺傷である。
図33】PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28の陽性/陰性細胞のそれぞれにおける細胞殺傷である。
図34】PSCA-28BBZ-G4H-28TM、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28における細胞殺傷である。
図35】PSCA-28BBZ-7H-28TM、PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28における細胞殺傷である。
【0083】
図10図18においては、5HCEA-BBZは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的とした低酸素CAR構造、CEA-BBZは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造、CEA-28Zは細胞内にCD28細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造、SIRPγ-28TM-28は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチドであり、以降略語SIRPγ-28を使用する。
図19図23においては、5HCD19-BBZは細胞内に低酸素プロモータ、4-1BB(略語BB)細胞内ドメインに由来の共刺激シグナルとCD3ζのCD19を標的としたCAR構造、SIRPγ-28TM-28(SIRPγ-28)は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチド、5HCD19-BBZ-SIRPγ-28は構造5HCD19-8H-8TM-CD137-CD3ζのCARであり、SIRPγ-28-5HCD19-BBZは低酸素プロモータを含むCAR融合タンパク質を2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させて得たCAR-Tである。
図24図35においては、RT4-Luc-GFPは陽性細胞、PC-3-Luc-GFPは陰性細胞、SIRPγ-28TM-28(SIRPγ-28)は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチド、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28はPSCA-28BBZ-G4H-28TM又はPSCA-28BBZ-7H-28TM及びSIRPγ-28と融合タンパク質SIRPγ-28とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させて得たものである。PSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28はPSCA-28BBZ-G4H-28TM又はPSCA-28BBZ-7H-28TM及びSIRPγ-28と融合タンパク質SIRPγ-28とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させて得たものである。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。好適な実施例において具体的な条件が明示されていない実験方法は通常一般的な条件、例えば分子クローニング実験ガイドライン(第3版、J.サムブルックら編)に記載の条件やメーカにより推薦される条件に従う。挙げられる実施例は本発明の内容をよりよく説明するために過ぎず、本発明の内容は係る実施例に制限されるわけではない。当業者が上記発明内容に基づいて実施形態について行う実質的ではない改良や調整も本発明の特許範囲に属する。
【0085】
本発明の実施例では、関連するベクター構造エレメントの配列を以下の表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
本発明の実施例(表1)では、ZはCD3ζであり、CEAZは細胞内構造にCD3ζのみを有するCAR構造(ScFv(CEA)-hinge-TM-CD3ζ)、CEA-28Zは細胞内にCD28細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造(ScFv(CEA)-hinge-TM-CD28-CD3ζ)であり、CEA-BBZは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCEAを標的としたCAR構造(ScFv(CEA)-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ)であり、BCMA-BBZは細胞内に4-1BB(略語BB)細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するBCMAを標的としたCAR構造であり、SIRPγ-28TM-28は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチドであり、以降略語SIRPγ-28を使用し、SIRPγ-8TM-BBは細胞内に4-1BB細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチドであり、以降略語SIRPγ-BBを使用する。
【0088】
本発明の実施例では、5HCD19-BBZは細胞内に低酸素プロモータ、4-1BB(略語BB)細胞内ドメイン由来の共刺激シグナルとCD3ζを有するCD19を標的としたCAR構造、SIRPγ-28TM-28(略語SIRPγ-28)は細胞内にCD28細胞内ドメイン由来のシグナルのみを有する融合ペプチド、SIRPγ-28+5HCD19-BBZは低酸素プロモータを含むCAR融合タンパク質を2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させて得たCAR-Tである。5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28は低酸素プロモータを含むCAR融合タンパク質を同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させて得たCAR-Tである。
【0089】
本発明の実施例では、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28はPSCA-28BBZ-G4H-28TM又はPSCA-28BBZ-7H-28TM及びSIRPγ-28と融合タンパク質SIRPγ-28とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させて得たものである。PSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28はPSCA-28BBZ-G4H-28TM又はPSCA-28BBZ-7H-28TM及びSIRPγ-28と融合タンパク質SIRPγ-28とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させて得たものである。
【0090】
本発明の実施例では、リン酸カルシウム法によるレンチウイルスパッケージング方法は使用され、具体的には、10%FBS(w/v)を含むDMEM培地を用いて293T細胞を良好な状態まで培養し、パッケージングプラスミド(RRE:REV:2G)と発現プラスミドとを所定の割合で1.5遠心分離管に加え、CaClと2×HBSを加え、均一に混合した後、室温で静置し、次に、処理された293T細胞培養液に加え、3~5h後、液を10%FBS含有DMEM培地10mLに交換し、48h又は72h後、細胞上清を収集し、ウイルスを精製する。
【0091】
本発明の実施例では、抗体はProtein-L-PEであり、Protein-Lは抗体軽鎖を認識することができ、CAR抗原認識領域のScFv配列の軽鎖はProtein-Lにより認識され得、このため、CAR陽性率及びCAR発現強度はProtein-Lを用いて検出可能である。SIRPγ-28の後にGFPタグが付いており、SIRPγ-28の発現はGFP陽性率によって決定される。
【0092】
本発明の実施例では、各CAR-Tの標的細胞への殺傷能力を検出する方法はACEA xCELLigence RTCA MP機器にて行われ、実験のステップは機器の取扱書に従って行われる。ACEA xCELLigence RTCA MP原理は、ウェル底部に付着した腫瘍細胞について抵抗指数データを15分間ごとに1回記録し、抵抗指数によって接着標的細胞の増殖や死亡を判断することである。抵抗指数分析結果を用いた式はCAR-T細胞殺傷率=ベースライン抵抗指数-リアルタイム抵抗指数である。
【0093】
本発明の実施例では、IFN-γ検出はBD IFN-γキットを用い、実験ステップは製品の取扱書に従って行われ、IL-2検出はinritrogen IL-2キットを用い、実験ステップは製品の取扱書に従って行われ、TNF-α検出はBiolegendキットを用い、実験ステップは製品の取扱書に従って行われる。
【0094】
本発明の実施例では、低酸素モデルの構築が終了したか否かを検証する方法として、組換えプラスミドウイルスで活性化PBMCを感染し、生体外低酸素細胞モデルを構築し、12~18h培養後、液を交換し、その後、CoClを利用して低酸素環境を誘導し、N日目まで培養すると、CAR構造の軽鎖抗体を検出することでCAR発現を検出する。
【0095】
本発明の実施例では、インビボ検証に使用されるマウスはNOD.Cg-PrkdcscidII2rgtm1Sug/JicCrlであり、NOGマウスと略称し、日本実験動物研究所(CIEA)のMamoru Itoにより飼育されたものであり、国際的にはCAR-Tインビボで関連腫瘍形成実験での最も一般的な系統である。
【0096】
本発明の実施例では、生体内低酸素モデルの検証方法としては、6~8週齢雌NOGマウスを選んで、マウスの耳に番号をマークした後、マウスの背部に標的細胞を1×10/匹の細胞量で皮下注射し、腫瘍形成12日目にマウスの腫瘍体積を測定する。
【0097】
第1部分
実施例1 プラスミドの構築
図1に示すCAR概略図に基づいて、SIRPγ及びCD47全長プラスミド、pL-CAG-2AGFP、pL-CAG-PD1-CD28-2ACherry、pL-CAG-PD1-BB-2Acherryをテンプレートとして、図2に示すCAR構造及び対応する単一標的CAR構造を構築した。ベクター:CEAZ-PD1-28、CEAZ-PD1-BB、CEAZ-SIRPγ-BB、CEAZ-SIRPγ-28、CEABBZ-P2A-SIRPγ-28、CEABBZ-P2A-SIRPγ-BB、BCMA-BBZ-P2A-SIRPγ-28及び単一標的CAR:CEAZ、PD1-28、PD1-BB、SIRPγ-28TM-28、SIRPγ-8TM-BBを構築した。酵素切断及び配列決定、アラインメントして検証した結果、図3に示すように、組換えプラスミドの酵素切断同定の結果、1-3:pL-CAG-CEAZ-PD1-28プラスミドは、順次、元のプラスミド、CEAZ(1371bp)、PD1-28(783bp)であり、4-6:pL-CAG-CEAZ-PD1-BBプラスミドは、順次、元のプラスミド、CEAZ(1371bp)、PD1-BB(798bp)であり、7-9:pL-CAG-CEAZ-SIRPγ-28プラスミドは、順次、元のプラスミド、CEAZ(1371bp)、SIRPγ-28(1374bp)であり、10-12:pL-CAG-CEAZ-SIRPγ-BBプラスミドは、順次、元のプラスミド、CEAZ(1371bp)、SIRPγ-BB(1368bp)であり、M1はDL5000DNA分子量マーカーであり、M2はDL15000DNA分子量マーカーであり、13-15:pL-CAG-SIRPγ-28-2AGFPプラスミドは、順次、元のプラスミド、SIRPγ-28(1292bp)、2AGFP(785bp)であり、16-18:pL-CAG-SIRPγ-BB-2AGFPプラスミドは、順次、元のプラスミド、SIRPγ-BB(1286bp)、2AGFP(785bp)であり、19-20:pL-CAG-CD47プラスミドは順次、CD47(974bp)、元のプラスミドであり、M3はDL5000DNA分子量マーカーである。構築は成功した。
【0098】
実施例2 標的細胞の構築
リン酸カルシウム法によってCEA、PD-L1、CD47抗原ウイルスを製造し、CHO細胞をそれぞれ感染して、CHO-CEA細胞、CHO-CEA-PD-L1細胞系及びCHO-CEA-CD47細胞系を構築した。シグナル調節タンパク質α(SIRPγ)はCD47のリガンドの1つであり、CD47に結合することができるので、CD47陽性標的細胞はCEAZ-SIRPγ-BB、CEAZ-SIRPγ-28、SIRPγ、SIRPγ-28、SIRPγ-BBを評価することに用いられる。
3つの細胞系について10世代継代培養後、その陽性率を検出した結果、図4に示すように、CHO-CEAの陽性率は97.1%であり、CHO-CEA-CD47の二重陽性率は97.6%であり、CHO-CEA-PD-L1の二重陽性率は87%であり、実験の要件を満たし、細胞系は構築に成功し、標的細胞として後のCAR-T薬効評価に用いられることを示した。
【0099】
実施例3 レンチウイルスの製造及びTリンパ球への感染
リン酸カルシウム法によってレンチウイルスをパッケージングし、実施例1における5つの単発現CAR(CEAZ、PD1-28、PD1-BB、SIRPγ-28、SIRPγ-BB)及び6つの新規免疫抑制抵抗型CAR(CEAZ-PD1-28、CEAZ-PD1-BB、CEAZ-SIRPγ-28、CEAZ-SIRPγ-BB、CEABBZ-SIRPγ-28、CEABBZ-SIRPγ-BB)ウイルス粒子を得た。
勾配遠心分離法によってリンパ球を分離し、遠心分離後、2層目の白色リンパ球層を生理食塩水で洗浄し、10%FBSを含有するRPMI 1640完全培地を加えて培養し、ヒトPBMC細胞を得た。得られたPBMC細胞を抗CD3、CD28モノクローナル抗体で24h活性化させた後、所定の感染多重度(MOI)で活性化PBMCを感染し、ウイルス感染12日目にCAR-Tの陽性率を検出し、検出方法はフローサイトメトリー検出、抗体はProtein-L-PEとし、Protein-Lは抗体軽鎖を認識することができ、CAR抗原認識領域のScFv配列の軽鎖はProtein-Lにより認識され得、このため、CAR陽性率及びCAR発現強度はProtein-Lによって検出可能である。
その結果、図5aに示すように、免疫抑制解除融合タンパク質はT細胞表面に発現させることができ、図5bに示すように、新規免疫抑制抵抗型CARは発現に成功した。
【0100】
実施例4 新規免疫抑制抵抗型CAR-Tインビトロ機能の検証
免疫抑制解除融合タンパク質を発現させていないControl T細胞を対照として、免疫抑制解除融合タンパク質SIRPγ-28TM-28、SIRPγ-8TM-BBの機能を検証した。標的細胞はCD47を発現させるCHO細胞系である。その結果、図6aに示すように、SIRPγ-28TM-28及びSIRPγ-8TM-BB融合タンパク質は全てCD47陽性標的細胞に対して殺傷作用を有する。
CEAZ群を陽性対照、Control-T群を陰性対照、CEAZ-PD1-28、CEAZ-PD1-BB、CEAZ-SIRPγ-28、CEAZ-SIRPγ-BB群を実験群、CHO-CEA-CD47とCHO-CEA-PD-L1を標的細胞として、新規免疫抑制抵抗型CAR-Tのインビトロ有効性を検証した。その結果、図6b及び以下の表2に示すように、CEAZ-PD1-28とCEAZ-SIRPγ-28群では、細胞殺傷率はCEAZ群よりも有意に高く、一方、CEAZ-PD1-BBとCEAZ-SIRPγ-BB群では、標的細胞に対する殺傷はCEAZ群に比べ明らかな向上が認められなかった。さらに、CEAZ-PD1-28、CEAZ-PD1-BB群がCHO-CEA-CD47と共培養する場合やCEAZ-SIRPγ-28、CEAZ-SIRPγ-BB群がCHO-CEA-PD-L1と共培養する場合、殺傷効率はCEAZ群に比べ明らかな差が認められず、新規免疫抑制抵抗型CAR-T群は殺傷特異性を有し、しかも、CEAZ-PD1-28とCEAZ-SIRPγ-28は標的細胞に対して有意な殺傷効果があることが示された。
【0101】
【表2】
【0102】
K562-BCMAを標的細胞、Control-T群を陰性対照として、BCMA-BBZ-P2A-SIRPγ-28の機能を検証した結果、BCMA-BBZ-P2A-SIRPγ-28は優れた殺傷機能を示す。
【0103】
実施例5 新規免疫抑制抵抗型CAR-Tによる腫瘍抑制環境解除の検証
CAR-T細胞は腫瘍組織へ浸潤した後腫瘍免疫抑制環境による影響を受けやすく、PD1、LAG-3、Tim-3疲弊分子を高発現させ、腫瘍細胞を効果的に殺傷する機能が低下し、CART細胞自体のアポトーシスが増加する。新規免疫抑制抵抗型CAR-Tが腫瘍抑制微小環境シグナルを解除できるか否かを検証するために、CEAZ、CEA-28Z、CEA-BBZ、CEAZ-PD1-28、CEAZ-PD1-BB、CEAZ-SIRPγ-28、CEAZ-SIRPγ-BB及びControl-T群のCAR-T細胞をDay7まで培養すると、CAR-T細胞とDLD-1-CEA-Luc-GFP細胞を12ウェル細胞培養板にて共培養し、48h後CAR-T細胞を収集し、抗ヒトCD3、PL、PD1、LAG-3、Tim-3フローサイトメトリー抗体を標識した後、フローサイトメトリー検出を行い、検出結果を分析し、その効果と能力を評価した。CEAZ-PD1-28及びCEAZ-PD1-BB群は、PD1の外因性発現のため、これらの群のPD1陽性率がCAR-T細胞の疲弊の度合いを評価することに用いられない。疲弊分子の検出結果、図7及び以下の表3に示すように、CD3+PL+では、CEAZ-SIRPγ-28のPD1、LAG-3、Tim-3の発現の度合いはCEAZ群よりも低く、抗原刺激後CEAZ-SIRPγ-28の疲弊の度合いが低いことが示された。
【0104】
【表3】
【0105】
同様に、BCMA-BBZ-P2A-SIRPγ-28もBCMA抗原刺激後に疲弊分子の発現が低かった。
【0106】
実施例6 新規免疫抑制抵抗型CAR-Tのインビボ機能の検証
インビボ検証に使用されるマウスはNCGマウスとした。NCGマウス30匹にDLD-1-CEA-Luc-GFP(CEA、PD-L1、CD47の3陽性発現、図8a参照)を注入して担癌させた。腫瘍が緑豆のようなサイズに成長して測定可能になると、腫瘍のサイズを測定し、実験中、実験群のマウスでは、萎靡瀕死、半身や全身麻痺が認められ、体重が20%減少し(実験前と比較)、腫瘍体積が1500mm以上になると、実験を停止した。
担癌5日後、マウス腫瘍の蛍光値を測定し、各群のマウスの体重及び蛍光度値に有意差がないように生体のイメージング蛍光値によってランダムに群分けし、体重平均値を算出した。6日目にCAR-T細胞を100μL(有効CAR-T細胞数3×10を含む)再注入し、同じ細胞総数を投与した未トランスフェクションT細胞を対照群とした。NCGマウスの腫瘍体積の測定データから腫瘍体積増加曲線を作成した結果、27~30日に、CEAZ-SIRPγ-28は腫瘍に対して顕著な抑制効果を示し、その結果は図8bに示される。
さらに、第2世代CARと融合タンパク質を組み合わせて設計された免疫抑制型CAR即ちCEABBZ-P2A-SIRPγ-28構造のインビボ有効性を検証しており、同様に、NCGマウスにDLD-1-CEA-Luc-GFP細胞を注射して担癌させ、担癌13日後、CAR-T細胞を細胞総数8×10で再注入した。その結果、図9に示すように、本発明の免疫抑制型CAR-T(CEABBZ-P2A-SIRPγ-28)はインビボで機能を効果的に発揮することができ、効果が対照群である第2世代CAR構造のCEABBZよりも優れた。
【0107】
第2部分
CEAを標的としたCAR構造(CAR1のアミノ酸配列は27)の実験部分
【0108】
実施例7 CEAを標的としたプラスミドの構築
(1)実験群プラスミドの構築
ミニプロモータminiCMVを用いて、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:1に示される低酸素開始配列5HRE-CMVmini promoterを合成した。その後、5HRE-CMVmini promoter、レンチウイルス発現ベクター、CEAScFv-CD8ヒンジ領域-CD8膜貫通領域-CD137-CD3ξ-P2A-SIRPγ-CD28(5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28)のCAR構造を二重酵素切断によりそれぞれ切断し、断片を回收し、遺伝子断片を連結して、形質転換し、モノクローナルを採取し、CEAを標的としたCAR-T細胞製剤のSIRPγ融合タンパク質含有の組換えプラスミドPBKL1-5H1P-CEA-OPRE(SIRPγ融合タンパク質)を構築し、このステップでは、CARと融合タンパク質とを同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又はCARと融合タンパク質とを個別のベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させるという2つの方法によって、融合タンパク質を含有するCAR構造を構築し、ここで、CARと融合タンパク質とを個別のベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させて得たものは略語「5HCEA-BBZ+SIRPγ-28」で表される。
(2)対照群プラスミドの構築
実施例1の(1)の方法に従って、5HCEA-BBZ-8H-8を構築した。
【0109】
実施例8 CEAを標的としたプラスミドのインビトロ機能のモデル検証
5HCEA-BBZ-8H-8、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28、SIRPγ-28はCoClを加えて、それぞれ実験群の検証用低酸素モデルとして設置され、その結果、図10及び図11に示すように、5HCEA-BBZ-8H-8、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28、SIRPγ-28では、平均蛍光強度及び陽性率は類似しており、図12に示すように、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28は、増幅倍数に関して、より優れている。
【0110】
実施例9 CEAを標的としたCAR-T有効性の検証
(1)標的細胞DLDL1-CEAへの殺傷効率
CEA陽性DLD1-CEA及びDLD1-CEA(CD47-)細胞をそれぞれ標的細胞とした。エフェクター細胞(通常のCAR-T細胞及び低酸素プロモータ含有CARを発現させたCAR-T細胞)を低酸素化した後、1:1のエフェクター・ターゲット比で標的細胞に敷き、各CAR-Tの標的細胞殺傷能力を検出した。
CAR-T添加24h後、各群CAR-Tの標的細胞DLDL1-CEAへの殺傷効率の結果、図13及び以下の表4に示すように、5HCEA-BBZ-8H-8、5HCEA-BBZ+SIRPγ-28及び5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28は高い殺傷機能を有し、SIRPγ-28群も殺傷機能を有する。
【0111】
【表4】
【0112】
(2)IFN-γ、IL-2、TNF-α分泌検出
(1)に続き、24時間殺傷後、細胞上清を収集し、CAR-T細胞の標的細胞刺激後のIFN-γ、IL-2、TNF-α分泌能力を検出した。収集した上清について、キットによりELISA方法でIFN-γ及びIL-2の分泌を検出した。
検出の結果、図14図15図16に示すように、標的細胞がDLD1-CEAである場合、5HCEA-BBZ-8H-8はIFN-γ、IL-2、TNF-αの分泌が少なく、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28は、IFN-γ、IL-2、TNF-αの分泌が5HCEA-BBZ-8H-8群よりも高く、標的細胞がDLD1-CEA(CD47-)細胞である場合、IFN-γ、IL-2、TNF-αは、少ないか、又は検出不可である。本発明の5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28は、CAR-Tの増殖や腫瘍殺傷関連因子の分泌により有利であり、このことから、CAR-Tの有効性を確実に向上できることを示した。
【0113】
実施例8 SIRPγ融合タンパク質を含有するプラスミドのインビボ機能の検証
生体内検証に使用される腫瘍形成標的細胞としてDLD1-CEA-Luc-GFP細胞を用い、ヒトCEA+固形腫瘍担癌モデルを構築した。
腫瘍体積によってControl T(CT)群、5HCEA-BBZ-8H-8、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28にランダムに群分けし、対照群をControl T群とした。腫瘍形成12日目に、各群のマウスに対応するCAR-T細胞を1*10Copies/匹で尾静脈注射し、Control T群では、812日目に、同じ数のTリンパ球を再注入した。各群のマウスの腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、実験の結果、図17及び図18に示すように、5HCEA-BBZ-8H-8は、5HCEA-BBZ-P2A-SIRPγ-28群のマウスと比較して、インビボ有効性が有意に向上し、5HCEA-BBZ-8H-8群も、腫瘍に対して顕著な消除作用を有する。
【0114】
第3部分 CD19標的CAR構造の実験部分
実施例9 CD19を標的としたプラスミドの構築
SIRPγ及びCD47全長プラスミド、pL-CAG-2AGFP、pL-CAG-PD1-CD28-2ACherry、pL-CAG-PD1-BB-2Acherryをテンプレートとして、CD19標的CAR構造を構築した。ベクター:SIRPγ-28、5HCD19-BBZ、5HCD19-BBZ-SIRPγ-28を構築した。配列決定により比較して検証した結果、構造は成功した。
【0115】
実施例10 レンチウイルスの製造及びTリンパ球への感染
リン酸カルシウム法によってレンチウイルスをパッケージングし、実施例1の3つのウイルス粒子(SIRPγ-28、5HCD19-BBZ、5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28)を得た。
勾配遠心分離法によってリンパ球を分離し、遠心分離後、2層目の白色リンパ球層を生理食塩水で洗浄し、10%FBSを含有するRPMI 1640完全培地を加えて培養し、ヒトPBMC細胞を得た。得られたPBMC細胞を抗CD3、CD28モノクローナル抗体で24h活性化させた後、所定の感染多重度(MOI)で活性化PBMCを感染し、ウイルス感染8日目にフローサイトメトリーによってCAR-Tの陽性率を検出し、結果を図19及び以下の表5に示す。
【0116】
【表5】
【0117】
実施例11 CD19を標的としたインビトロの薬効学的評価
Control Tを対照群として、SIRPγ-28群、5HCD19-BBZ群、5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28群を実験群として設置し、Nam6-Luc-GFP(CD19陽性)、K562-Luc-GFP(CD19陰性)を標的細胞として、インビトロ殺傷とインビトロ因子分泌によってインビトロ有効性を検証した。その結果、図20及び以下の表6に示すように、同一の共発現ベクタートランスフェクション免疫細胞を用いて得たもの(5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28)及び、それぞれ発現させた2つのベクター共トランスフェクション免疫細胞を用いて得たもの(SIRPγ-28+5HCD19-BBZ)は、インビトロ殺傷がSIRPγ-28群及び5HCD19-BBZ群よりも有意に高く、陰性細胞に殺傷がなかった。
図21及び表7に示すように、同一の共発現ベクタートランスフェクション免疫細胞を用いて得たもの(5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28)及びそれぞれ発現させた2つのベクター共トランスフェクション免疫細胞を用いて得たもの(SIRPγ-28+5HCD19-BBZ)は、因子分泌がSIRPγ-28群及び5HCD19-BBZ群よりも有意に高かった。
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
実施例12 CD19を標的としたインビボ薬効学的評価
NCGマウス(雌、6週齢)に、1×10Cells/匹の用量でNalm6-Luc-GFP細胞を皮下注射(s.c.)し、インビボ担癌モデルを作成し、担癌8日後、1×10CAR-T Cells/匹の用量で各群(Control T、5HCD19-BBZ、5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28)のCAR-Tを尾静脈注射(i.v.)した。生体イメージングによってインビボの腫瘍成長を観察し、各CAR-Tのリンパ腫の治療効果をインビボで評価した。その結果、図22及び図23に示すように、Control T群及び5HCD19-BBZ群と比較して、5HCD19-BBZ-P2A-SIRPγ-28は、インビボ抗腫瘍効果が明らかであり、腫瘍を明らかに除去できる。
【0121】
第4部分 PSCA標的CAR構造の実験部分
実施例13 PSCAを標的としたプラスミドの構築及びT細胞への感染
(1)プラスミドの構築
レンチウイルス発現ベクター、PSCA ScFv-G4Hヒンジ領域-CD28膜貫通領域-CD28-CD137-CD3ξ-P2A-SIRPγ-28(PSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28)のCAR構造を二重酵素切断によりそれぞれ切断し、断片を回収し、遺伝子断片を連結して、形質転換してモノクローナルを採取した。
レンチウイルス発現ベクター、PSCA ScFv-7Hヒンジ領域-CD28膜貫通領域-CD28-CD137-CD3ξ-P2A-SIRPγ-28(PSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28)のCAR構造を二重酵素切断によりそれぞれ切断し、断片を回収し、遺伝子断片を連結して、形質転換してモノクローナルを採取した。
(2)T細胞への感染
得たプラスミドでT細胞を感染し、CAR-T細胞を得た。
【0122】
実施例14 PSCAを標的としたIFN-γ因子分泌
Control Tを対照群とし、実験群としてPSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-G4H-28TM、PSCA-28BBZ-7H-28TMをそれぞれ設置して、RT4-Luc-GFP(PSCA陽性)を標的細胞として、インビトロ因子分泌によってインビトロ有効性を検証した。その結果を表8~表13及び図24図29に示す。同一の共発現ベクタートランスフェクション免疫細胞を用いて得たものPSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28及び、それぞれ発現させた2つのベクター共トランスフェクション免疫細胞を用いて得たものPSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28は、IFN-γ因子分泌が、対照群及びPSCA-28BBZ-G4H-28TM群又はPSCA-28BBZ-7H-28TM群よりもはるかに高く、陰性細胞に対して殺傷がなかった。
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
【表11】
【0127】
【表12】
【0128】
【表13】
【0129】
実施例14 PSCAを標的とした細胞殺傷
実験群としてPSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28、PSCA-28BBZ-G4H-28TM、PSCA-28BBZ-7H-28TMをそれぞれ設置して、RT4-Luc-GFP(PSCA陽性)、PC-3-Luc-GFP(PSCA陰性)をそれぞれ標的細胞とし、その結果を表14~表19及び図30図35に示す。同一の共発現ベクタートランスフェクション免疫細胞を用いて得たものPSCA-28BBZ-G4H-28TM-P2A-SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM-P2A-SIRPγ-28及び、それぞれ発現させた2つのベクター共トランスフェクション免疫細胞を用いて得たものPSCA-28BBZ-G4H-28TM+SIRPγ-28又はPSCA-28BBZ-7H-28TM+SIRPγ-28は、インビトロ殺傷が対照群及びPSCA-28BBZ-G4H-28TM群又はPSCA-28BBZ-7H-28TM群よりもはるかに優れ、陰性細胞に対して殺傷がなかった。
【0130】
【表14】
【0131】
【表15】
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
【表18】
【0135】
【表19】
【0136】
なお、以上の実施例は本発明の技術的手段を説明するために過ぎず、限定するものではなく、本発明は好ましい実施例を参照して詳細に説明されたが、当業者によって明らかなように、本発明の技術的手段の主旨及び範囲を逸脱することなく、本発明の技術的手段について修正や同等置換を行うことができ、これらは全て本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
図25
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図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
【配列表】
2023527194000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-11-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外部分、膜貫通構造及び細胞内シグナル領域を含むSIRPγ融合タンパク質であり、好ましくは、前記SIRPγ細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又はその機能的バリアントに示されることを特徴とする腫瘍微小環境を逆転させる融合タンパク質。
【請求項2】
膜貫通構造はヒトCD28膜貫通領域又はヒトCD8由来膜貫通領域に由来し、好ましくは、前記膜貫通構造のアミノ酸配列がSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示されることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
記細胞内シグナル領域はCD28に由来し、配列がSEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:38に示され、好ましく、前記SIRPγ融合タンパク質の構造はSIRPγ-CD28TM-CD28又はSIRPγ-CD8TM-4-1BBであることを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD28TM-CD28のアミノ酸配列はSEQ ID NO:2又はその機能的バリアントに示され;又は
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのアミノ酸配列はSEQ ID NO:3又はその機能的バリアントに示され;又は
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD28TM-CD28のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:13に示され;又は
前記SIRPγ融合タンパク質SIRPγ-CD8TM-4-1BBのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:14に示されることを特徴とする請求項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、CAR1と、を含み、前記CAR1は腫瘍抗原を認識する細胞外部分、hinge領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含むことを特徴とする腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項6】
前記融合タンパク質は多シストロン構造によってCAR1に連結され、前記多シストロン構造は自己切断性ポリペプチド又は内部リボソーム進入部位IRESであり、前記自己切断性ポリペプチドはT2A、P2A、E2A又はF2Aであることを特徴とする請求項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項7】
前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質又はScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ融合タンパク質であり、又は
前記CARの構造はScFv-hinge-TM-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28又はScFv-hinge-TM-4-1BB-CD3ζ-自己切断性ペプチド-SIRPγ-CD28TM-CD28であることを特徴とする請求項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項8】
CAR1構造では、hingeのアミノ酸配列はSEQ ID NO:24又はその機能的バリアントに示され、TMのアミノ酸配列はSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8に示され、CD3ζのアミノ酸配列はSEQ ID NO:11又はその機能的バリアントに示され、融合タンパク質構造では、SIRPγ細胞外部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1又は機能的バリアントに示され、ヒトCD28由来の膜貫通領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:7に示され、ヒトCD28由来の細胞内シグナル領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:9に示されることを特徴とする請求項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項9】
前記ScFvはCD19、CD123、MOv-γ、PSMA、IL13Rα2、EGFRvIII、EGFR、EPCAM、GD2、MUC1、HER2、GPC3、CEA、Meso、CD133、NKG2D、CD138、LeY、k-Light、CD33、ROR1、BCMA、CD30、CD20、CD22、PSCA、CLL-1、CD70、CD47のうちのいずれか1種又は複数種を認識することを特徴とする請求項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項10】
前記ScFvのアミノ酸配列はSEQ ID NO:25又はその機能的バリアントに示され、又は
前記CAR1は以下の複数種のうちの1種を含み、
a)CAR1はCEA一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含み、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:26又はその機能的バリアントに示され、又は
b)前記CAR1はCD19一本鎖抗体、CD8ヒンジ領域、CD8膜貫通領域、CD137及びCD3ξ二重刺激シグナルを含み、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:27又はその機能的バリアントに示され、又は
c)前記CAR1はPSCA一本鎖抗体、ヒンジ領域、CD28膜貫通領域、CD28、CD137及びCD3ξ三重刺激シグナルを含み、前記ヒンジ領域はG4H又は7Hであり、好ましくは、前記CAR構造aのアミノ酸配列はSEQ ID NO:28又はその機能的バリアントに示されるか、又はSEQ ID NO:29又はその機能的バリアントに示される、
好ましくは、前記a)及びb)のCAR1構造は低酸素プロモータをさらに含み、前記低酸素調節性プロモータの核酸配列はSEQ ID NO:30に示される配列を含むことを特徴とする請求項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質又は請求項10に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CARをコードし、前記核酸配列はSEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34又はSEQ ID NO:35に示される配列を含むことを特徴とする核酸配列。
【請求項12】
請求項11に記載の前記核酸配列又はその相補配列を含む発現ベクターであって、
好ましくは、前記発現ベクターはレンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのうちのいずれか1種であることを特徴とする発現ベクター。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項5~10のいずれか1項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR、請求項11に記載の核酸配列、又は請求項12に記載の発現ベクターを含む免疫細胞であって、
好ましくは、前記免疫細胞はT細胞、T細胞前駆体又はNK細胞であることを特徴とする免疫細胞
【請求項14】
前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質を同一のベクタートランスフェクション免疫細胞に共発現させ、又は
前記SIRPγ融合タンパク質を含まないCAR構造と前記SIRPγ融合タンパク質とを2つのベクタートランスフェクション免疫細胞にそれぞれ発現させることを特徴とする請求項13に記載の免疫細胞の製造方法。
【請求項15】
請求項1~のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項10のいずれか1項に記載の腫瘍免疫抑制抵抗型CAR、請求項11に記載の核酸配列、請求項12に記載の発現ベクター又は請求項13に記載の免疫細胞を含むことを特徴とする医薬組成物であって、好ましくは、前記医薬組成物は腫瘍治療ための医薬組成物であり、更に好ましくは、前記腫瘍は悪性腫瘍、例えば急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、結直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、肝癌、脳癌及び皮膚癌であり、前記腫瘍はCD19、CD123、MOv-γ、PSMA、IL13Rα2、EGFRvIII、EGFR、EPCAM、GD2、MUC1、HER2、GPC3、CEA、Meso、CD133、NKG2D、CD138、LeY、k-Light、CD33、ROR1、BCMA、CD30、CD20、CD22、PSCA、CLL-1、CD70、CD47のうちのいずれか1種又は複数種を高発現させることを特徴とする医薬組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023527194000001.app
【国際調査報告】