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特表2023-527214軸方向磁束機械の制御装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(54)【発明の名称】軸方向磁束機械の制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573321
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2021064120
(87)【国際公開番号】W WO2021239849
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】2007999.2
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513039333
【氏名又は名称】ヤサ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティム ウールマー
(72)【発明者】
【氏名】リチャード フィリップス
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505JJ25
5H505LL50
(57)【要約】
発明者等は、複数のコイルに供給される交流電流が補償電流を注入して回転子の機械的共振成分を低減させる軸方向磁束機械を制御する方法および制御装置について述べる。補償電流は、回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに無効電流(Iq)成分および直流(Id)成分(交流電流がベクトル化されたDC成分として表される場合)のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分である。変調された電流成分は、回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数範囲にわたって変化する電気的周波数を有し、この周波数範囲は、回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数と、回転子の基本機械的共振周波数の位相とずれている位相とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向磁束機械を制御する方法であって、前記軸方向磁束機械は、前記機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、前記固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、前記機械の前記軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、前記機械の前記軸に沿って前記固定子から離間して前記固定子と前記回転子の間に隙間を画定し、前記機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、前記方法は、
前記複数のコイルに供給される交流電流を制御して、前記回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流を注入するステップであって、前記補償電流は、前記回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに注入され、前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれは、前記回転子のそれぞれの決定された回転速度を含む、ステップを含み、
各コイルを通る前記交流電流は、互いに直交する直流(Id)成分および無効電流(Iq)成分を含むベクトル化された直流成分として表され、
前記補償電流は、前記無効電流(Iq)成分および前記直流(Id)成分のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分を含み、前記変調された電流成分は、前記回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数の範囲にわたって変化する電気的周波数であり、前記周波数の範囲は、前記回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数と、前記回転子の前記基本機械的共振周波数の位相とずれている位相とを含む、方法。
【請求項2】
前記回転子の前記1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、前記回転子の1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数によって決まる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数は、12次の励振次数、18次の励振次数、36次の励振次数、および72次の励振次数のうちの1つまたは複数である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記回転子の前記1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、
【数1】
という関係によって定義される請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記回転子の前記回転速度の範囲のそれぞれは、前記回転子の所与の機械的共振励振次数についての前記回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づく請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記回転子の基本機械的共振周波数の前記変化百分率は、前記回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、前記補償電流の振幅は、前記回転子の前記回転速度の範囲の少なくとも一部分にわたって下側の振幅とピーク振幅の間で増大し、前記補償電流の前記ピーク振幅は、前記回転子の前記それぞれの決定された回転速度と実質的に一致する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
振動センサから振動データを受信するステップであって、前記振動センサは、前記回転子内の機械的振動を検出する、ステップと、
前記振動データから前記回転子の機械的共振成分を識別するステップと、
前記回転子の識別された機械的共振成分に応答して前記補償電流を注入するステップと
を含む請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記補償電流は、前記識別された機械的共振成分の振幅が閾値を超えるときにのみ注入される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記補償電流の振幅は、前記識別された機械的共振成分の振幅に比例する請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記振動センサは、加速度計である請求項8乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、前記変調された電流成分は、前記回転子が前記回転子の前記それぞれの回転速度の範囲内の最低の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには前記第1の周波数である周波数を有し、
前記変調された電流成分は、前記回転子が前記回転子の前記それぞれの回転速度の範囲内の最高の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには前記第2の周波数である周波数を有する請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、前記変調された電流成分は、前記それぞれの決定された回転速度に対応する前記回転子の回転速度において前記回転子の前記基本機械的共振周波数と実質的に同じ周波数を有する請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の周波数は、前記第2の周波数より低い請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の周波数と前記第2の周波数の間の前記変調された電流成分の前記周波数の範囲は、前記回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づき、前記回転子の基本機械的共振周波数の前記変化百分率は、前記回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である請求項12、13、または14に記載の方法。
【請求項16】
前記複数のコイルに供給される前記交流電流は、3相交流電流であり、IdおよびIqは、3相全ての組合せのベクトル化された直流成分を表す請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記軸方向磁束機械は、モータまたは発電機である請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
軸方向磁束機械を制御する制御装置であって、前記軸方向磁束機械は、前記機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、前記固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、前記機械の前記軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、前記機械の前記軸に沿って前記固定子から離間して前記固定子と前記回転子の間に隙間を画定し、前記機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、前記制御装置は、
1つまたは複数の電流を受けるための1つまたは複数の電気的入力と、
1つまたは複数の交流電流を前記軸方向磁束機械のコイルに供給するための1つまたは複数の電気的出力とを備え、
前記制御装置は、
前記回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流を注入するために前記複数のコイルに供給される交流電流を制御するように構成され、前記補償電流は、前記回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに注入され、前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれは、前記回転子のそれぞれの決定された回転速度を含み、
各コイルを通る前記交流電流は、互いに直交する直流(Id)成分および無効電流(Iq)成分を含むベクトル化された直流成分として表され、
前記補償電流は、前記無効電流(Iq)成分および前記直流(Id)成分のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分を含み、前記変調された電流成分は、前記回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数の範囲にわたって変化する電気的周波数であり、前記周波数の範囲は、前記回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数と、前記回転子の前記基本機械的共振周波数の位相とずれている位相とを含む制御装置。
【請求項19】
前記回転子の前記1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、前記回転子の1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数によって決まる請求項18に記載の制御装置。
【請求項20】
前記1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数は、12次の励振次数、18次の励振次数、36次の励振次数、および72次の励振次数のうちの1つまたは複数である請求項19に記載の制御装置。
【請求項21】
前記回転子の前記1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、
【数2】
という関係によって定義される請求項19または20に記載の制御装置。
【請求項22】
前記回転子の前記回転速度の範囲のそれぞれは、前記回転子の所与の機械的共振励振次数についての前記回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づく請求項18乃至21のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項23】
前記回転子の基本機械的共振周波数の前記変化百分率は、前記回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である請求項22に記載の制御装置。
【請求項24】
前記制御装置は、前記補償電流の振幅を、前記回転子の前記回転速度の範囲の少なくとも一部分にわたって下側の振幅とピーク振幅の間で増大させるように構成され、前記補償電流の前記ピーク振幅は、前記回転子の前記それぞれの決定された回転速度と実質的に一致する、請求項18乃至23のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項25】
振動センサから振動データを受信するための振動センサ入力であって、前記回転子内の機械的振動を検出する、振動センサ入力を備え、
前記制御装置は、
前記振動データから前記回転子の機械的共振成分を識別し、
前記回転子の識別された機械的共振成分に応答して前記補償電流を注入する
ように構成される請求項18乃至24のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項26】
前記制御装置は、前記識別された機械的共振成分の振幅が閾値を超えるときにのみ前記補償電流を注入するように構成される請求項25に記載の制御装置。
【請求項27】
前記補償電流の振幅は、前記識別された機械的共振成分の振幅に比例する請求項25または26に記載の制御装置。
【請求項28】
前記振動センサは、加速度計である請求項25乃至27のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項29】
前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、前記制御装置は、前記変調された電流成分を、前記回転子が前記回転子の前記それぞれの回転速度の範囲内の最低の回転速度に対応する回転速度で回転しているときに前記第1の周波数である周波数を有するように制御し、
前記制御装置は、前記変調された電流成分を、前記回転子が前記回転子の前記それぞれの回転速度の範囲内の最高の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには前記第2の周波数である周波数を有するように制御する請求項18乃至28のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項30】
前記回転子の前記1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、前記制御装置は、前記変調された電流成分を、前記それぞれの決定された回転速度に対応する前記回転子の回転速度において前記回転子の前記基本機械的共振周波数と実質的に同じ周波数を有するように制御する請求項18乃至29のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項31】
前記第1の周波数は、前記第2の周波数より低い請求項29または30に記載の制御装置。
【請求項32】
前記第1の周波数と前記第2の周波数の間の前記変調された電流成分の前記周波数の範囲は、前記回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づき、前記回転子の基本機械的共振周波数の前記変化百分率は、前記回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である請求項29、30、または31に記載の制御装置。
【請求項33】
前記複数のコイルに供給される前記1つまたは複数の交流電流は、3相交流電流であり、IdおよびIqは、3相全ての組合せのベクトル化された直流成分を表す請求項18乃至32のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項34】
前記軸方向磁束機械は、モータまたは発電機である請求項18乃至33のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項35】
軸方向磁束機械であって、
前記機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、前記固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、
前記機械の前記軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、前記機械の前記軸に沿って前記固定子から離間して前記固定子と前記回転子の間に隙間を画定し、前記機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、
前記軸方向磁束機械は、請求項18乃至33のいずれか一項に記載の制御装置に結合され、前記制御装置は、前記複数のコイルに交流電流を供給する、軸方向磁束機械。
【請求項36】
前記回転子内の振動を感知するために前記機械に取り付けられた振動センサを備える請求項35に記載の軸方向磁束機械。
【請求項37】
前記振動センサは、加速度計である請求項36に記載の軸方向磁束機械。
【請求項38】
前記固定子筐体は、前記機械の前記軸の周りに中空領域を形成する環状形状を有し、前記回転子は、前記機械の前記軸の周りに中空中心領域を有する環で構成される請求項35、36、または37に記載の軸方向磁束機械。
【請求項39】
前記固定子を挟んで第1の回転子の反対側に配置された第2の回転子を備え、前記第2の回転子は、前記固定子に向く前記第2の回転子の第1の側面上に永久磁石のセットを備え、前記第2の回転子は、前記機械の前記軸の周りで前記固定子に対して相対的に回転するように取り付けられ、前記第2の回転子は、前記機械の前記軸に沿って前記固定子から離間して前記固定子と前記第2の回転子の間に隙間を画定し、前記機械内の磁束はほぼ軸方向になっている請求項35乃至38のいずれか一項に記載の軸方向磁束機械。
【請求項40】
前記機械は、モータまたは発電機である請求項35乃至39のいずれか一項に記載の軸方向磁束機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向磁束機械を制御する方法、軸方向磁束機械の制御装置、および軸方向磁束機械に関する。詳細には、機械的共振が低減された方法、制御装置、および機械に関する。
【背景技術】
【0002】
あらゆる構造は、励振力が増幅を引き起こす固有振動周波数を有する。この増幅は、励振周波数が共振と呼ばれる状態で固有周波数と一致するときに起こる。
【0003】
回転機械は、固有周波数が回転子速度などの励振周波数である、または励振周波数に近いときに起こる共振によって誘発される機械的振動を特に起こしやすい。ポンプ、タービン、電気モータ、および発電機などの機械では、共振は、機械の動作による小さな振動力を増幅する可能性があり、深刻な、ときには破壊的な振動レベルが生じる可能性もある。
【0004】
可変速駆動装置を用いると、励振周波数は、モータ速度とともに変化し、励振高調波周波数が固有共振周波数と交差するたびに共振を生じる。共振の強さは、励振の振幅、および固有周波数に対する近接度、ならびに固有周波数に関連する対象機械構成要素の減衰、質量、および剛性とともに変化する。
【0005】
回転機械の固有共振周波数は、機械の設計の考慮事項であり、調整されることがある、すなわち最小限に抑えられ、場合によっては材料の性質、ならびに通常は固定子、回転子、および筐体などの重要な構成要素の設計に応じて周波数がシフトされることがある。
【0006】
しかしながら、材料の選択および機械的な設計によって共振をシフトさせ、最小限に抑えようとする努力にもかかわらず、その結果であるノイズ、振動、およびハーシュネス(NVH)は、完成した機械において克服すべき問題であることも多い。
【0007】
機械の設計が確定され、それにより基本共振が固定されると、残るのは、励振の周波数および強さを修正することによって共振の影響をさらに低減する機会である。
【0008】
可変速軸方向磁束機械では、面倒な共振の最大のリスクをもたらすのは、通常は、いくつかの共通の振動モードを与えるその平板で円板状の形状のために、回転子である。
【0009】
本発明において主に関心があるのは、0次モードと呼ばれることもある基本モード(0、1)、f0、f01である。これは、このモードが容易に励振されるからである。本発明は、さらに高次の固有共振モードにも同様に適用され得るが、以下の説明は、基本共振モードに影響を及ぼすことに焦点を当てる。これらの同じ技術が、さらに高次のモードにも適用され得ることは理解されるであろう。
【0010】
共振および振動の基本モードは、軸方向磁束機械が約1mmの固定子/回転子間の空隙を用いることによってパワーおよびトルクを最適化されることが多いので、軸方向磁束機械にとってさらなる重要性を有する。小さな振幅でも、共振によって誘導される振動によるノイズが厄介なものになることがある。
【0011】
逆の電流の印加による共振振動/ノイズの抑制の原理は周知であり、回転子の位置が高エネルギー状態と低エネルギー状態の間で交番する、永久磁石回転子と対向する固定子磁極の相互作用によって生成される振動およびノイズを低減するために永久磁石機械に適用されている。いくつかの例は、コギング力を低減させることによって共振の励振を低減するための磁束弱めに関する、特許文献1を含む。特許文献2は、ラジアルマシンの固定子の振動低減を教示している。特許文献3は、次数が2だけ異なる高調波電流の対を正弦基本波に印加することを教示している。特許文献4は、補償電流を印加して機械内の非対称性によって生じる振動を相殺することを教示している。
【0012】
発明者等は、軸方向磁束モータの回転子における平面共振の改善された抑制が必要とされていることを認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】豪州特許出願公開第2015/396604号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0231143号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/315818号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2015/108938号明細書
【特許文献5】国際出願公開第2012/022974号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、本明細書に添付される独立請求項による軸方向磁束機械を制御する方法、軸方向磁束機械を制御する制御装置、および軸方向磁束機械を提供する。さらなる有利な実施形態も、やはり本明細書に添付される従属請求項によって提供される。
【0015】
特に、発明者等は、軸方向磁束機械を制御する方法であって、軸方向磁束機械は、機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、機械の軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、機械の軸に沿って固定子から離間して固定子と回転子の間に隙間を画定し、機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、この方法は、複数のコイルに供給される交流電流を制御して、回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流を注入するステップであって、補償電流は、回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに注入され、回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれは、回転子のそれぞれの決定された回転速度を含む、ステップを含み、各コイルを通る交流電流は、互いに直交する直流(Id)成分および無効電流(Iq)成分を含むベクトル化された直流成分として表され、補償電流は、無効電流(Iq)成分および直流(Id)成分のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分を含み、変調された電流成分は、回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数の範囲にわたって変化する電気的周波数であり、周波数の範囲は、回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数と、回転子の基本機械的共振周波数の位相とずれている位相とを含む、方法について述べる。
【0016】
上記の方法を適用することにより、回転子内の共振の低減が観測される。
【0017】
回転子の1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、回転子の1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数、例えば12次の励振次数、18次の励振次数、36次の励振次数、および72次の励振次数のうちの1つまたは複数によって決まることがある。これらの次数は、例えば18/12トポロジなど特定の機械のトポロジで関心のあるものである。他のトポロジは、他の関心のある励振次数を有することがあり、例えば12/8機械では、上記の励振次数は、8次、12次、24次、および48次の次数であることがある。24/16トポロジでは、16次、24次、48次、および96次の次数が関心のあるものとなることがある。
【0018】
回転子の1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、
【0019】
【数1】
【0020】
という関係によって定義されることがある。
【0021】
回転子の回転速度の範囲のそれぞれは、回転子の所与の機械的共振励振次数についての回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づくことがある。回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率は、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%であることがある。
【0022】
回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、補償電流の振幅は、回転子の回転速度の範囲の少なくとも一部分にわたって下側の振幅とピーク振幅の間で増大し、補償電流のピーク振幅は、回転子のそれぞれの決定された回転速度と実質的に一致する。
【0023】
この方法は、振動センサから振動データを受信するステップであって、振動センサは、回転子内の機械的振動を検出する、ステップと、振動データから回転子の機械的共振成分を識別するステップと、回転子の識別された機械的共振成分に応答して補償電流を注入するステップとを含むこともある。このような方法は閉ループ方式であり、この方式では、補償電流が共振の存在を示す振動センサからのデータに応答して注入される。
【0024】
閉ループの方法では、補償電流は、識別された機械的共振成分の振幅が閾値を超えるときにのみ注入されることがある。補償電流の振幅は、識別された機械的共振成分の振幅に比例することがある。
【0025】
閉ループの方法では、振動センサは、加速度計であることがある。
【0026】
上記の方法のいずれかでは、回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、変調された電流成分は、回転子が回転子のそれぞれの回転速度の範囲内の最低の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには第1の周波数である周波数を有することがあり、変調された電流成分は、回転子が回転子のそれぞれの回転速度の範囲内の最高の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには第2の周波数である周波数を有することがある。
【0027】
回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、変調された電流成分は、それぞれの決定された回転速度に対応する回転子の回転速度において回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じ周波数を有することがある。
【0028】
第1の周波数は、第2の周波数より低いことがある。さらに、第1の周波数と第2の周波数の間の変調された電流成分の周波数の範囲は、回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づくことがあり、回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率は、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である。
【0029】
複数のコイルに供給される交流電流は、3相交流電流であることがあり、IdおよびIqは、3相全ての組合せのベクトル化された直流成分を表す。
【0030】
軸方向磁束機械は、モータまたは発電機であることがある。
【0031】
本発明は、また、軸方向磁束機械を制御する制御装置であって、軸方向磁束機械は、機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、機械の軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、機械の軸に沿って固定子から離間して固定子と回転子の間に隙間を画定し、機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、この制御装置は、1つまたは複数の電流を受けるための1つまたは複数の電気的入力と、1つまたは複数の交流電流を軸方向磁束機械のコイルに供給するための1つまたは複数の電気的出力とを備え、この制御装置は、回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流を注入するために複数のコイルに供給される交流電流を制御するように構成され、補償電流は、回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに注入され、回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれは、回転子のそれぞれの決定された回転速度を含み、各コイルを通る交流電流は、互いに直交する直流(Id)成分および無効電流(Iq)成分を含むベクトル化された直流成分として表され、補償電流は、無効電流(Iq)成分および直流(Id)成分のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分を含み、変調された電流成分は、回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数の範囲にわたって変化する電気的周波数であり、周波数の範囲は、回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数と、回転子の基本機械的共振周波数の位相とずれている位相とを含む、制御装置も提供する。
【0032】
回転子の1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、回転子の1つまたは複数のそれぞれの機械的共振励振次数、例えば12次の励振次数、18次の励振次数、36次の励振次数、および72次の励振次数のうちの1つまたは複数によって決まることがある。これらの次数は、例えば18/12トポロジなど特定の機械のトポロジで関心のあるものである。他のトポロジは、他の関心のある励振次数を有することがあり、例えば12/8機械では、上記の励振次数は、8次、12次、24次、および48次の次数であることがある。24/16トポロジでは、16次、24次、48次、および96次の次数が関心のあるものとなることがある。
【0033】
回転子の1つまたは複数のそれぞれの決定された回転速度は、
【0034】
【数2】
【0035】
という関係によって定義される。
【0036】
回転子の回転速度の範囲のそれぞれは、回転子の所与の機械的共振励振次数についての回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づくことがあり、例えば、回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率は、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%であることがある。
【0037】
制御装置は、補償電流の振幅を、回転子の回転速度の範囲の少なくとも一部分にわたって下側の振幅とピーク振幅の間で増大させるように構成されることがあり、補償電流のピーク振幅は、回転子のそれぞれの決定された回転速度と実質的に一致する。
【0038】
制御装置は、振動センサから振動データを受信するための振動センサ入力であって、回転子内の機械的振動を検出する、振動センサ入力を備え、制御装置は、振動データから回転子の機械的共振成分を識別し、回転子の識別された機械的共振成分に応答して補償電流を注入するように構成される。
【0039】
制御装置は、識別された機械的共振成分の振幅が閾値を超えるときにのみ補償電流を注入するように構成されることがある。補償電流の振幅は、識別された機械的共振成分の振幅に比例することがある。
【0040】
振動センサは、加速度計であることがある。
【0041】
回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、制御装置は、変調された電流成分を、回転子が回転子のそれぞれの回転速度の範囲内の最低の回転速度に対応する回転速度で回転しているときに第1の周波数である周波数を有するように制御することがあり、制御装置は、変調された電流成分を、回転子が回転子のそれぞれの回転速度の範囲内の最高の回転速度に対応する回転速度で回転しているときには第2の周波数である周波数を有するように制御することがある。
【0042】
回転子の1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにおいて、制御装置は、変調された電流成分を、それぞれの決定された回転速度に対応する回転子の回転速度において回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じ周波数を有するように制御することがある。
【0043】
第1の周波数は、第2の周波数より低いことがある。第1の周波数と第2の周波数の間の変調された電流成分の周波数の範囲は、回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づくことがあり、回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率は、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、または±20%である。
【0044】
複数のコイルに供給される1つまたは複数の交流電流は、3相交流電流であることがあり、IdおよびIqは、3相全ての組合せのベクトル化された直流成分を表す。
【0045】
軸方向磁束機械は、モータまたは発電機であることがある。
【0046】
本発明は、また、軸方向磁束機械であって、機械の軸の周りで周方向に間隔を開けて配置された複数の固定子磁極片を封入する固定子筐体を備える固定子であって、固定子磁極片のそれぞれは、磁場を生成するようにその周りに巻き付けられたコイルのセットを有する、固定子と、機械の軸の周りで回転するように取り付けられた、永久磁石のセットを備える回転子であって、機械の軸に沿って固定子から離間して固定子と回転子の間に隙間を画定し、機械内の磁束はほぼ軸方向になっている、回転子とを備え、軸方向磁束機械は、上述の制御装置に結合され、制御装置は、複数のコイルに交流電流を供給する、軸方向磁束機械も提供する。
【0047】
軸方向磁束機械は、回転子内の振動を感知するためにその機械に取り付けられた振動センサを備えることがある。振動センサは、加速度計であることがある。
【0048】
固定子筐体は、機械の軸の周りに中空領域を形成する環状形状を有することがあり、回転子は、機械の軸の周りに中空中心領域を有する環で構成されることがある。
【0049】
軸方向磁束機械は、固定子を挟んで第1の回転子の反対側に配置された第2の回転子を備えることがあり、第2の回転子は、固定子に向く第2の回転子の第1の側面上に永久磁石のセットを備え、第2の回転子は、機械の軸の周りで固定子に対して相対的に回転するように取り付けられ、第2の回転子は、機械の軸に沿って固定子から離間して固定子と第2の回転子の間に隙間を画定し、機械内の磁束はほぼ軸方向になっている。
【0050】
この機械は、モータまたは発電機であることがある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
次に、例示のみを目的として、添付の図面を参照して本発明について説明する。
図1a】2回転子軸方向磁束機械の全体的な構成を示す図である。
図1b】軸方向磁束永久磁石機械の例示的なトポロジを示す図である。
図1c】ヨークレスおよびセグメントされた電機子(YASA)の機械を示す概略側面図である。
図2図1cのYASA機械を示す斜視図である。
図3】YASA機械の固定子および固定子筐体を示す分解斜視図である。
図4】軸方向磁束機械の回転子の共振についての回転子のrpmに対する電気的周波数を示す例示的なウォーターフォールプロットである。
図5】変調された成分をId直流成分に印加したときの共振力の低減を示す図である。
図6】本発明の方法が実装される前後の回転子の回転速度に対するノイズの振幅(dB)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
複数のコイルに供給される交流電流が補償電流を注入して回転子の機械的共振成分を低減させる軸方向磁束機械を制御する方法および制御装置について、簡単に説明する。補償電流は、回転子が1つまたは複数の回転速度の範囲にわたって回転しているときに無効電流(Iq)成分および直流(Id)成分(交流がベクトル化されたDC成分として表される場合)のうちの少なくとも1つに追加される変調された電流成分である。変調された電流成分は、回転子の回転速度に応じて第1の周波数と第2の周波数の間の周波数範囲にわたって変化する電気的周波数を有し、この周波数範囲は、回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである周波数を含む。変調された電流成分の位相は、回転子の基本機械的共振成分の周波数とは位相がずれている。例えば、軸方向磁束機械が、約1kHzの基本機械的共振を有する回転子を有する場合には、使用中の回転子の機械的振動を低減するために、回転子の速度に応じて、約1kHz超および約1kHz未満の電気的周波数の範囲を有する変調された電流成分が、Iqおよび/またはIdの電流成分に追加される。
【0053】
最初に、本発明の方法および制御装置の例示的な用途である、軸方向磁束機械の構成の背景について述べる。まず、本発明者等のPCT出願である特許文献5からとった図1c、図2、および図3を参照されたい。図1cは、ヨークレスおよびセグメント化された電機子の機械10を示す概略図である。
【0054】
機械10は、固定子12および2つの回転子14a、14bを備える。固定子12は、回転子14a、14bの回転軸20の周りで円周方向に離間した別個の固定子バー(または磁極片)16の集合体である。各バー16は、回転軸20と平行に配置されることが必要というわけではないが好ましい、それ自体の軸(図示せず)を有する。各固定子バーの各端部は、コイルスタック22を閉じ込めるという物理的目的を果たすシュー18a、18bを備え、このスタック22は、高い充填率を実現することができるように正方形/長方形断面の絶縁されたワイヤでできていることが好ましい。コイル22は、モータの場合にはコイルを励磁する電気回路(図示せず)に接続され、コイルに流れる電流によって生成される磁場の磁極が隣接する固定子コイル22と反対になる。
【0055】
2つの回転子14a、14bは、固定子コイル22を挟んで互いに向かい合う永久磁石24a、24bを担持する(図示しないが、固定子バーが傾いているときには、磁石も同様である)。2つの空隙26a、26bが、シュー18aと磁石24aの対の間、およびシュー18bと磁石24bの間にそれぞれ配置される。回転軸20の周りに離間したいくつかのコイルおよび磁石、好ましくは、異なる数のコイルと磁石が存在し、これにより全てのコイルが同時に、かつ固定子に対する回転子の同じ回転位置で、対応する磁石対と位置合わせされない。これは、コギングを低減する働きをする。回転子は、円板型であることが多く、遊離して周縁部を有し、固定子の周りで浮動する態様でそれぞれの中心付近で取り付けられる(または、回転子が中心に穴を有する環状円板である場合には、それらは固定子に対して相対的に、回転子の中心回転軸となる部分の外側で取り付けられる)。
【0056】
モータでは、コイル22が励磁され、それらの極性が交番して、コイルを異なる時点で異なる磁石対と位置合わせさせる働きをし、回転子と固定子の間にトルクが印加される。回転子14a、14bは、一般には(例えば図示しないシャフトによって)一緒に接続され、軸20の周りで一緒に固定子12に対して相対的に回転する。磁気回路30は、2つの隣接する固定子バー16および2つの磁石対24a、24bによって提供され、各回転子の地鉄32a、32bが、それぞれのコイル22の反対向きの各磁石24a、24bの背面の間で磁束を連結する。固定子コイル16は、冷却媒体が供給されることもあるチャンバを画定する、空隙26a、26bを通って延びる筐体内に封入されている。
【0057】
図3を参照すると、固定子コイルが固定子筐体を形成する塑性材料クラムシェル42a、42bの間に位置する、固定子12aが示されている。これらのクラムシェルは、外部円筒壁面44と、内部円筒壁面46と、環状の径方向に配置された壁面48とを有する。図3の従来技術の例では、径方向の壁面48は、固定子12aの2つのクラムシェル筐体42a、42bが組み合わされたときに固定子バー16のシュー18a、18bを受け、固定子コイルアセンブリ16、22、18a、18bを位置付ける働きをする、内部ポケット50を含む。固定子筐体42a、42bは、コイル22の内部に空間52を画定し、コイル22の外側の周囲に空間54を画定しており、コイルの間には空間56がある。空間52、54、および56は相互に連結されて、冷却チャンバを画定する。図3には図示していないが、組み立てられたときに、固定子筐体42a、42bは、油などの冷却媒体が空間52、54、および56内に送り込まれてコイルの周りを循環してそれらを冷却することを可能にするポートを備える。
【0058】
発明者等は1固定子2回転子の実施形態について説明しているが、1固定子1回転子の変形形態を含む軸方向磁束のセグメント化された電機子の設計を有することも可能である。このような構成では、一般に、磁気リターンパスを完成させるために、除去された回転子の代わりにヨークが必要となる。ただし、この構造の残りの部分は、2回転子の変形形態と同じままである。
【0059】
軸方向磁束機械は、通常は短い軸方向長さであるが、これは、磁場が一般に軸方向となる強磁性磁極片の時計回り分布と通常組み合わされる電機子を含む短い長さの固定子と、一般に円板状の形状を有し、その上で時計回りに分布した磁石が対向する電気生成された電機子の磁場と軸に沿って向き合う永久磁石回転子とを有することによって、そのようにされている。短い固定子と円板回転子とによって、(軸方向に)短い高トルクの機械の開発が可能になる。
【0060】
上述のように、全ての固体の構造は、円板状の回転子について、比較的小さな摂動によって励振可能であることが多い機械的共振を有する。共振によって引き起こされる歪みの厳密な性質は、材料の機能、および厚さ、リビング(ribbing)、積層などの物理的構造によって決まり、特定の回転子の設計は、特定の周波数の機械的共振を有することになる。
【0061】
軸方向磁束モータでは、回転子を高い曲げ弾性率を有して硬くなるようにする努力が払われているので、それらは、回転子の永久磁石と対向する固定子とを引き寄せるかなりの曲げ力を克服する。回転子が剛性であることにより、回転子/固定子間の空隙を小さくすることができる。空隙が小さくなるということは、トルクが大きくなり、磁力の可用性が大きくなることを意味するが、動作中に回転子が固定子と接触して、破局的な故障につながる危険を冒すことにもなる。
【0062】
軸方向磁束モータについて特に関心が高いのは、より低次の共振モードである。これは、それらの次数が、回転子の寸法に対して大きな長さにわたって回転子を曲げるからである。曲げ節の数が増えるにつれて、回転子の剛性により短い距離にわたる大きな歪みが制限される傾向があり、共振の機械的悪影響が回避される可能性がある。可聴スペクトルの音響ノイズは、依然として低次および高次の共振モードで問題になる可能性がある。
【0063】
共振(0、1)の0次または基本モードが特に重要であるのは、このモードが、曲げ軸を分割することなく回転子の円板全体を利用するものであり、円板の中心が固定されていると仮定すると回転子の円板の外周をフラッピングする曲げの1つであるからである。0次モードは、容易に励振されて、振動によって厄介なノイズを生成し、また、このモードは回転子全体を利用するので、曲げ歪みの最大の可能性、および空気の大きな動きの可能性をもたらし、これがモータカバーの振動をもたらす。
【0064】
軸方向磁束機械について、回転子の円板の0次の共振モードの測定が行われることがある。関心のあるパラメータは、基本共振周波数、励振振幅および励振力、その結果得られる回転子の共振振幅、ならびに回転子の温度を含む。励振の1つの手段は、有限要素モデリングによって、回転子が構成要素となる軸方向磁束機械内にあるか、または、楽器のシンバル、音叉、もしくは鐘の共振を求めるのと同様のやり方で、基本モードおよび周波数の共振を求めるために叩くことによって回転子が励振されることがある。
【0065】
回転子は、軸方向磁束機械内のその通常の環境内で共振モードについて評価されることもある。この機械は、毎分回転数(rpm)ゼロからこの機械の上側動作範囲までで動作し、音響センサ、振動センサ、または加速度計など、適当なセンサを用いて共振が測定される。
【0066】
図4は、軸方向磁束機械の回転子の共振についての回転子のrpmに対する電気的周波数を示す例示的なウォーターフォールプロットである。図4は、電気励振周波数を縦軸に示し、回転子のrpmを横軸に示している。共振は、音響センサを用いて測定され、この情報も同じグラフにプロットされている。
【0067】
横線が、回転子の0次(基本)共振周波数に対応する縦軸上の点から引かれ、0次の共振モードの高調波に対応する線が、原点(すなわち0rpm、周波数0)からプロットされている。
【0068】
0次の共振周波数の線が、0次の共振のより高次の高調波の線と交差する場合には、これらの交差点も、共振振動を引き起こす励振領域に対応することがある。全ての共振振動がノイズ、振動、およびハーシュネス(NVH)の問題を引き起こすわけではなく、一部の共振振動は、機械の使用において重要なrpmの値では起きないこともある。ただし、機械の通常の動作モードと0次の共振モードの高調波との間に対応がある場合には、問題のある共振が起こる可能性がある。
【0069】
図4に示す例では、ある程度の重要性を有する0次の共振は、72次、36次、18次、および12次の高調波に対応して発生し、これらは、この例ではそれぞれ900rpm、1600rpm、3300rpm、および5000rpmの領域のrpmの値に一致し、これらは、明らかに十分にこの機械の動作範囲内であり、それが0rpmからその最大動作rpmまで加速されたときにはこの機械によって遭遇されることになる。本発明が低減しようと意図しているのは、これらの振動である。
【0070】
本発明の背景にある基本的な考えは、コイルの供給に追加の電流成分を導入することによって、回転子(および/またはシステムの他の部分)内の機械的共振を低減することである。以下、これについてさらに詳細に説明する。
【0071】
動作時には、磁場を生成するためにコイルに供給される電流(または機械が発電機として運用される場合にはコイルによって生成される電流)は、制御装置(制御可能な出力電流を有するインバータなど)によって供給される交流電流である。分かりやすいように、発明者等は、モータとして運用される機械について述べることとする(したがって、回転する回転子がコイル内に電流を誘導させるのではなく、磁場を生成するためにコイルに電流が供給される)が、以下に述べる方法が発電機の構成で運用される機械にも適用可能であることは、当業者の読者には明らかであろう。
【0072】
交流電流は、1つまたは複数の位相になるが、通常は、本明細書に記載する機械では、3相である。隣接するコイルには異なる位相で供給され、各コイルに順番に供給される交流電流の(ほぼ)正弦波の形状が、周囲の回転子の永久磁石と相互作用してそれらの永久磁石を引っ張る回転する磁場を提供する。
【0073】
軸方向磁束機械の制御では、コイルに入力されるこの1つまたは複数の位相の交流電流を、この分野で無効電流成分(Iq)および直流成分(Id)として知られる、互いに直交する2つのベクトル化された直流成分として表すことは一般的である。したがって、結合された3相の入力電流U、V、およびWは、直流の無効成分Iqおよび直交する直流成分Idを有する1つのベクトル化された直流として表される。これは、パーク変換など、この分野で既知の方法を用いて実現される。Iqは、電流を生成する有用なトルクを表し、Idは、永久磁石によって誘導される磁場と整列する電流を表す。
【0074】
通常は、この機械のモータとしての通常の動作状態でのIdの電流値は、Iqの10%未満である。例えば、いくつかの場合には、Iq=200アンペアであり、Idは10Aから25Aの範囲内であることがある。
【0075】
上述のように、以下に述べる方法は、1回転子および2回転子の変形形態に適しており、また、それらが単相の交流電流が給電される(または生成する)か多相の交流電流が給電される(または生成する)かを問わず、モータまたは発電機として構成された軸方向磁束機械に適用可能である。
【0076】
回転子および/または機械内の機械的振動を低減するために採用される方法は、複数のコイルに供給される交流電流を制御して、回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流を注入することを含む。
【0077】
本発明で用いられる方法では、制御装置は、変調された電流成分をIq成分および/またはId成分に追加するためにコイルに供給される交流電流の供給を制御するために制御される。制御装置は、交流電流の供給を制御し、Iqおよび/またはIdに追加される変調された電流成分が、回転子の基本機械的共振周波数と実質的に同じである電気的周波数と、回転子の基本機械的共振周波数と位相がずれている位相を含む電気的周波数の範囲を有する。上述のように、変調されたIq成分および/またはId成分が注入され、それらは互いに異なる振幅を有することがある。変調された電流をIq電流成分および/またはId電流成分に追加することは可能であるが、本発明の好ましい方式では、変調された電流成分をId電流成分のみに注入する。これは、このようにすると、Iqに追加された変調された電流成分が機械のトルク出力にリップルとして現れる可能性が低下するからである。以下、発明者等は、変調された電流成分がIdのみに追加されるものとして説明するが、これはIq電流成分および/またはId電流成分として読まれ得ることに読者は留意されたい。
【0078】
例えば、基本機械的共振周波数が1kHzであるとすると、Id直流成分に追加される変調された電流は、したがって、1kHzを中心とする電気的周波数範囲を有する。同様に、基本機械的周波数が2kHzである場合には、2kHzを中心とする電気的周波数の範囲の変調された電流成分が、Id直流成分に追加される。実際には、当該の機械の回転子は、約877Hzの共振機械的周波数を有するので、Id直流成分に追加される機械的変調された電流成分は、実際には、約877Hzを中心とする電気的周波数範囲を有することになる。分かりやすいように、発明者等は、回転子の機械的共振周波数が1kHzであるとして述べるが、本発明は、この周波数に限定されないことを理解されたい。以下、この電気的周波数範囲について述べるが、どの周波数が注入されるかは回転子の回転速度によって決まる。
【0079】
図5は、本発明による、変調された成分をId直流成分に印加したときの共振力の低減を示す図である。Idの値は、t=0からt=5の間では公称で0であり(Iq=200A)、補償電流が注入されていないことを示している。この時間期間中、軸方向の力は42Nのピークツーピーク値を有するものとして示されており、これは機械的共振成分を示している。
【0080】
t=5で、変調された電流成分(回転子の基本機械的共振周波数と同じである電気的周波数を有する)が、Id直流成分に追加される。軸方向の力のリップルは、ピークツーピーク値で約4Nというより許容可能なレベルに低下し、これは、共振力のピークツーピーク値の大幅な低下を示している。
【0081】
図6は、補償電流がない場合(濃色の線)と補償電流がある場合(薄色の線)の、回転子の回転速度に対するノイズの振幅(dB)を示すグラフである。
【0082】
分かるように、濃色の線は、回転子の72次、36次、18次、および12次の共振モードと一致する振幅のピークを含む(12次は約5000rpm、18次は約3400rpm、36次は約1800rpm、72次は約850rpm)。これは、本発明の実装なしで運用される軸方向磁束機械である。
【0083】
補償電流を印加すると、薄色の線になる。これは、同じ対応する共振モードでノイズの振幅のピークがはるかに低減されていることが分かる。本発明が、機械的共振が大幅に低減された軸方向磁束機械を提供することは明らかである。
【0084】
この方法は、この機械の所期の回転子の速度範囲の全体にわたって利用されることが可能である、つまり、回転子の全ての速度について補償電流がId直流成分に追加されるが、機械の電力要件が全範囲にわたって増大することになるので、これは実用的ではない。上に示したように、機械的共振は、特定の規定された回転子の速度で最も顕著であるので、補償電流は、回転子の動作範囲全体にわたって印加される必要がないこともある。
【0085】
したがって、制御装置は、回転子の1つまたは複数の決定された回転速度で、またはその回転速度付近で回転子が回転しているときに補償電流を印加するように構成されることがある。ここでの目的は、機械に注入される追加の電流が機械の電力要件を増大させる(電流がIq無効電流成分ではなくId直流成分に印加されるので、電力出力の顕著な利得はないため)ので電力要件を低減しつつ、依然として回転子の低減された機械的共振の利点を維持することである。
【0086】
回転子の1つまたは複数の決定された回転速度は、例えば12次、18次、36次、および72次の励振次数の1つまたは複数など、回転子の1つまたは複数のそれぞれの共振励振次数によって決まることがある。もちろん、回転子の他の励振次数も可能であり得ることは、当業者の読者には明らかであろう。本願では、これらの励振次数が、機械の動作中に最も一般的であることが分かっている。
【0087】
回転速度(単位rpm)は、以下の数式を用いて決定され得ることに留意されたい。
【0088】
【数3】
【0089】
例えば、上述の回転子の1kHzの機械的基本共振周波数をとると、決定された回転速度(補償電流を印加する)は、60000を励振次数で割った値に等しい。したがって、72次、36次、18次、および12次の励振次数についての決定された回転速度は、(それぞれ)833rpm、1666rpm、3333rpm、および5000rpmとなる。
【0090】
したがって、回転子がこれらの回転速度(これは回転子上もしくは回転子の出力上のセンサによって物理的に、または可変周波数機械における供給される電流の周波数を介して電気的に測定することができる)のうちの1つまたは複数に到達したときに、回転子の機械的共振成分を低減するために補償電流が印加されることがある。
【0091】
さらに、上述のように回転子の1つまたは複数の決定された回転速度のそれぞれについて、補償電流が、回転子の決定された回転速度それぞれを中心とする範囲の回転子の回転速度にわたって注入されることもある。この背景にある論拠は、機械的共振が、予想される回転速度を正確に中心とする狭いピークを有しているわけではないということである。機械的共振成分の振幅は、回転子の回転速度の範囲にわたって、予想される共振次数に対応する回転子の回転速度と一致するピークに向かって上昇し、その後、回転子の回転速度が共振ピークから遠ざかるにつれて次第に小さくなる。
【0092】
補償電流を印加するための適当な範囲を決定する1つの方法は、回転子の回転速度の範囲が回転子の所与の共振励振次数についての回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率に基づくことを考慮することである。
【0093】
再度数式(1)を参照すると、決定された速度は、回転子の基本共振周波数を励振次数で割った値に比例することが分かる。共振のピークを中心とする範囲を有する基本機械的共振周波数を考慮する場合には、所与の励振次数について補償電流を印加したい共振の範囲を用いて、回転子の所望の回転速度の範囲を決定することができる。
【0094】
回転子の基本機械的共振周波数の変化百分率は、例えば、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、もしくは±20%であることもあるし、またはこれより大きいことも、もしくはこれらの範囲の間であることもある。実際には、±10%の値が、補償電流を印加するのに適切な回転子の速度の範囲を提供する。すなわち、決定された回転子の速度は、900Hzから1.1kHzの間(=1kHzの±10%の間)で計算される。
【0095】
数式(1)を用いて、上述した図面を用いると、以下の回転子の速度の範囲(rpm)が得られる。
【0096】
【表1】
【0097】
複数の比較的狭い回転子の回転速度の範囲にわたって補償電流を印加することについて述べたが、1つまたは複数の異なる範囲にわたって補償電流を印加することも可能であり得る。
【0098】
例えば、注目する1つの共振次数(その機械のトポロジでNVHを低減するために最も関心があるもの)を選択することができる。この1つの共振次数で、比較的狭い回転子の回転速度の範囲にわたって補償電流が追加されることがある。(上記のように、例であるが、36次のみに注目する)。あるいは、補償電流は、例えば回転子の0rpmから最大rpmの間など、非常に広い回転子の回転速度の範囲にわたって追加されることもある。
【0099】
別の例として、補償電流は、複数のより広い(上述の範囲より広い)範囲にわたって印加されることもある。すなわち、1つまたは複数の共振次数のそれぞれを中心とする各範囲が、上述の±20%より大きいこともある。
【0100】
上述のように、Id直流成分に追加される変調された電流成分の周波数は、1つまたは複数の回転速度の範囲のそれぞれにわたって変化する。これは、つまり、それらの各範囲の最低の回転子の回転速度に対応して、第1の電気的周波数が選択されることを意味する。それらの各範囲の最高の回転子の回転速度について、第2の電気的周波数が選択される。予想されるピーク共振の回転子の速度について、回転子の機械的共振周波数と実質的に同じとなる電気的周波数が選択される。第1の電気的周波数および第2の電気的周波数は、周波数範囲内の下側周波数および上側周波数をそれぞれ表す。
【0101】
この周波数範囲は、例えば、回転子の基本機械的共振周波数の±1%、±5%、±10%、±15%、もしくは±20%であることもあるし、またはこれより大きいことも、もしくはこれらの範囲の間であることもある。実際には、±10%の値が、適当な電気周波数の範囲を提供する。すなわち、回転子の回転速度に応じて、また1kHzの基本機械的共振周波数に基づいて、電気的周波数範囲は、900Hzから1.1kHzの間(=1kHzの±10%の間)で計算される。
【0102】
上記の例示的な表または回転速度では、変調された電流成分は、したがって、回転速度の各範囲の最低回転速度で900Hzの周波数を有し、回転速度の各範囲の最高回転速度で1.1kHzの周波数を有し、予想される共振ピークの回転速度で1kHzの周波数を有する。周波数は、各範囲の全体にわたって、回転子の回転速度に応じて、この900Hzから1.1kHzの範囲内で変化する。
【0103】
回転子の回転速度の範囲にわたって補償電流を印加するだけでなく、その範囲にわたって、Id直流成分に追加される変調された電流の振幅がその回転速度の範囲にわたって変化することもある。それは、回転子の回転速度の範囲の少なくとも一部分にわたって下側振幅とピーク振幅の間で上昇することがある。この振幅は、その範囲にわたって共振の振幅に追従することが好ましく、すなわち、下側の回転速度で下側の値から増大し、共振ピークに一致するピークまで増大し、その後回転速度が回転子の回転速度の範囲の上端に到達するとより低い値に向かって次第に減少する。
【0104】
開ループ制御方式では、上記の回転子の速度の値がメモリに記憶され、制御装置によって参照され、下側の回転子の速度における補償電流の振幅の下側の値から増大し、共振状態の回転子の速度における補償電流のピーク振幅に到達し、その後それが上側の回転子の速度に到達するまで補償電流の振幅を減少させるという簡単な方式が可能である。振幅は、直線状に上昇して下降することもあるし、または適当な形状になることもある。さらに、変調された電流成分は、回転子の機械的共振成分と位相がずれていることが好ましい(制御方式が共振を低減せずに共振を強化することを防止するために)。変調された成分を回転子の機械的共振成分に対して完全に逆位相にすることが好ましいが、この制御方式は、変調された成分が回転子の機械的共振成分に対して少なくとも部分的に位相がずれていれば有効に作用する。
【0105】
開ループ方式では、位相の基準は、製造中に特徴づけられ、その値は、メモリに記憶されて、制御装置がId直流に正しい変調を印加することができるようにする。回転子の機械的共振成分に対して完全な逆位相になる応答が得られるように変調された電流成分が注入されることが好ましいが(回転子の共振の最大低減を実現するためには)、開ループ制御方式では、これは、機械の寿命にわたって可能ではないこともあることは理解される。時間経過とともに、構成要素の機械的特性が変化して、共振の位相特性のドリフトが生じることもある。注入された変調された電流成分が回転子の機械的共振成分に対して少なくとも部分的に位相がずれている限り、変調された電流成分が注入されたときに、回転子の共振のある程度の低減は起こることになる。
【0106】
開ループ制御方式では、制御装置は、基本機械的共振周波数成分などの製造業者が設定した値(これは製造時点の機械の特徴に基づくことになる)および所望の励振モードに基づいて補償電流を印加するための適当な回転子の速度を計算することがある。それらは、機械の動作中に計算されることもある。あるいは、これらの回転値は、制御装置が制御方式の動作中に参照する参照テーブルとして、製造時点で提供されることもある。
【0107】
開ループ制御方式の代替方式は、閉ループ制御方式を利用することである。この方式では、機械は、加速度計などの振動センサを備える。振動センサは、それが回転子の機械的振動、および特に回転子内の共振振動を感知することができるように、回転子に対して相対的に機械的に取り付けられる(例えば回転子の付近にある、もしくはそれに隣接するカバーに、または回転子の付近にある、もしくは回転子に隣接する別の機械的構成要素に、取り付けられる)ことが好ましい。
【0108】
閉ループ方式では、回転子の速度が変化するときに回転子の機械的共振のピークを検出するために、振動センサから提供されるデータを利用する。したがって、制御装置は、回転子の識別された機械的共振成分に応答して補償電流を注入する。さらに、閉ループ方式では、制御装置はいつ共振が起こるかが分かっているので、それは、共振の位相の基準も有することになる。したがって、適当な周波数および機械的共振成分と位相がずれている(好ましくは逆位相である)位相を有しながら、適当な変調された電流成分が、Id直流成分に注入され得る。ただし、開ループ方式に関連して上述したように、その位相が回転子の機械的共振成分に対して少なくとも部分的にずれている限り、ある程度の共振の低減は起こることになる。上記のように、変調された電流成分の周波数は、回転子の回転速度に応じて、回転子の基本機械的共振周波数を含む周波数の範囲にわたって変化する。
【0109】
補償電流は、識別された機械的共振成分の振幅が閾値を超えるときにのみ注入されることがある。この場合も、機械的共振成分を補償する必要がある場合にのみ補償電流が注入されるので、これにより、機械の電力要件が改善される。
【0110】
様々な速度で回転子において発生する共振の直接測定が行われるので、制御装置は、識別された機械的共振成分の振幅に比例する補償電流の振幅で補償電流を印加し得る。
【0111】
閉ループ方式を用いることは、機械の性能がその寿命にわたって変化する可能性があるので有利である。したがって、構成要素が経時変化するにつれて、共振ピークが移動することもある。しかし、これは、追加の構成要素(振動センサ)の追加のコスト、および振動センサのデータを監視し、共振のピークを決定し、適当な補償電流を印加するために必要な追加の計算パワーを必要とする。
【0112】
上記の説明は、18/12トポロジ(18磁極片および12磁極)を有するモータに関するものであり、12次、18次、36次、および72次の励振次数が最も関心のあるものであったが、上記の技術は、他のトポロジでも使用され得る。例えば、8次、12次、24次、および48次の次数が最も関心のあるものとなる12/8トポロジ(12磁極片および8磁極)、および16次、24次、48次、および96次の次数が最も関心のあるものとなる24/16トポロジ(24磁極片および16磁極)においても可能である。他のトポロジも、当業者には既知であることがある。上述の技術を使用して、これらの代替のトポロジを有する機械の回転子における機械的共振が低減され得る。
【0113】
もちろん、多数の他の有効な代替形態も、当業者なら思いつくであろう。本発明は、上述の実施形態に限定されず、本明細書に添付される特許請求の範囲内に横たわる当業者には明らかな変更形態を包含することは理解されるであろう。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】