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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(54)【発明の名称】抗真菌プロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230620BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230620BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/10
A61P43/00 123
A61K38/12
A61K31/506
A61K31/7048
A61K47/54
A61K47/26
A61K47/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573345
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2021064441
(87)【国際公開番号】W WO2021239992
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20305562.9
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・テシエ
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・ル・パープ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ルブルトン
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・パニエ
(72)【発明者】
【氏名】ジル-オリヴィエ・グラシアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB02
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
4C076BB29
4C076BB31
4C076CC32
4C076DD67
4C076EE30
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF36
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084AA27
4C084BA25
4C084MA05
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA31
4C084MA32
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA12
4C084NA15
4C084ZB351
4C084ZB352
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC60
4C086EA15
4C086GA07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA32
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA12
4C086NA15
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、自壊性スペーサーによってトリガー部分に連結された抗真菌部分を含む抗真菌プロドラッグに関する。トリガー部分は、グリコシル残基及びオリゴ糖から選択され、自壊性スペーサーを安定化し、好ましくは細胞外グリコシダーゼ(EC 3.2.1)である病原体加水分解酵素によって切断可能である。トリガー部分が病原体加水分解酵素によって切断されると、自壊性スペーサーは自発分解して、抗真菌部分を放出する。本発明はまた、前記プロドラッグを含む医薬組成物、及び感染性疾患の治療におけるその使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A):
【化1】
[式中、
- AFDは、抗真菌薬を指し、
- SISは、AFD及びTMに共有結合している自壊性スペーサーを指し、
- TMは、グリコシル残基及びオリゴ糖から選択されるトリガー部分を指し、前記TMは、SISを安定化し、好ましくは細胞外グリコシダーゼ(EC 3.2.1)である病原体加水分解酵素によって切断可能であり、
TMが前記病原体加水分解酵素によって切断されると、SISが自発分解して、AFDを放出する]
の抗真菌プロドラッグ。
【請求項2】
- TMが、ヘキソサミン、N-アセチルヘキソサミン、ノイラミン酸、シアル酸、及び、2~50個、好ましくは2~10個のグリコシル残基を含むそれらのオリゴ糖からなる群から選択され、並びに/又は、
- AFDが、アゾール系抗真菌薬、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、オロトミド、及びエンフマファンギンアグリコン誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項3】
TMが、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸、N-アセチルマンノサミン及びキチンからなる群から選択される、請求項1に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項4】
TMが、N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミンである、請求項1に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項5】
AFDが、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、アイブレキサフンジェルプ、オロロフィム、及びそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項6】
AFDが、カスポファンギン、ボトリコナゾール又はアムホテリシンBであり、好ましくはアムホテリシンBである、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項7】
SISが、電子カスケード又は環化を伴って自発分解する自壊性スペーサーから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項8】
SISが、式(Ia1)、(Ib1)、(Icl)又は(Id1):
【化2】
[式中、
- Xは、O、S、-O(C=O)-NH-、O(C=O)O-、-O(P=O)O-、-O(P=S)O-、NRであり、Rは、H又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3であり
- R1は、H、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、C1~C3アルキル、-CF3-NHR、-OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、Rは、H又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3、又は標的化部分であり、並びに
- R3は、H又は標的化部分であり、並びに
- R1及びR3は、同時に標的化部分ではない]
の部分を含む、又はその部分から構成される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項9】
R3が、Hであり、R1が、H、ハロゲン、-NO2、-CF3-OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、Rが、H又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3である、請求項8に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項10】
式(A2):
【化3】
[式中、
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、及びシアル酸からなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- AFDは、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、及びそれらの誘導体からなる群から、好ましくはアムホテリシンB、カスポファンギン及びボトリコナゾールから選択される抗真菌薬である]
のものである、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項11】
前記プロドラッグが、
【化4】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項12】
感染性疾患の治療又は予防における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ。
【請求項13】
前記感染性疾患が、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス属、ケカビ目、フザリウム属、セドスポリウム属、ロメントスポラ属、ブラストミセス属、ケカビ目、又はリーシュマニア属、トリパノソーマ属、プラスモディウム属の種に属する病原体によって引き起こされる、請求項12に記載の使用のための抗真菌プロドラッグ。
【請求項14】
免疫不全の対象における侵襲性真菌性疾患の治療又は予防のためのものである、請求項12又は13に記載の使用のための抗真菌プロドラッグ。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗真菌プロドラッグ及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
式1から11のいずれか1つに定義される抗真菌プロドラッグの有効量を投与する工程を含む、対象における感染性疾患を治療又は予防するための方法。
【請求項17】
前記感染性疾患が、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス属、ケカビ目、フザリウム属、セドスポリウム属、ロメントスポラ属、ブラストミセス属、ケカビ目若しくはリーシュマニア属、トリパノソーマ属、プラスモディウム属の種に属する病原体によって引き起こされ、及び/又は、前記対象が、免疫不全である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗真菌プロドラッグが、経口又は静脈内経路で投与される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
好ましくは経口又は静脈内投与のための、感染性疾患の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、請求項1から11のいずれか一項に規定の抗真菌製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、感染性疾患、特に真菌及び寄生虫疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
現在、人間や動物に感染する能力がある日和見真菌は300種以上が確認されている。全世界では、ほぼ17億人が日和見真菌種による病気に苦しんでいる。免疫不全の人々は、侵襲性真菌感染症(IFI)と呼ばれる非常に深刻な感染症に特にさらされている。侵襲性真菌感染症とは、宿主生物において日和見真菌が全身増殖して、宿主生物の生存が損なわれることを指す。IFIはさまざまな器官系に影響を与える可能性があり、状態、例えば、肺、髄膜、副鼻腔、及び/又は骨播種(osteo dissemination)の状態が挙げられる。IFIの発生率は増加しており、その主な原因は、免疫不全患者、例えば、好中球減少症、HIV、慢性免疫抑制、留置人工装具、熱傷、糖尿病である患者、広域抗生物質を服用している患者の増加である。注目すべきことに、IFIは免疫不全患者の実質的な罹患率と死亡率に寄与している。現在の治療法にもかかわらず、IFIは感染患者の半数以上を死に至らしめている。IFIに関与する主な病原体は、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス種に属する。現在、侵襲性真菌感染症(IFI)の治療に使用される主な抗真菌剤は3種類ある。すなわち、ポリエン系抗真菌薬、例えばアムホテリシンB、アゾール系抗真菌薬、例えばフルコナゾール及びボリコナゾール、エキノカンジン(echinocandin)、例えばカスポファンギンである。
【0003】
これらの化合物の中で、アムホテリシンBは、その作用スペクトルが広く、薬剤耐性の発生率が低いため、抗真菌治療では最も一般的に使用されている。アムホテリシンBは、真菌感染症、例えばカンジダ症、アスペルギルス症、及びクリプトコッカス症、並びに重篤な熱帯性真菌症、例えばブラストミセス症(blastomycosis)及びコクシジオイデス症(coccidioidomycosis)の治療に有効であることが示された。アムホテリシンBは、原虫感染、例えばリーシュマニア症に対しても有効である。アムホテリシンBは、1953年にストレプトミセス・ノドサス(Streptomyces nodosus)の培養液から分離された。他の抗真菌性ポリエンと同様に、アムホテリシンBは、エルゴステロールに結合することによって作用する。エルゴステロールは、真菌及び原生動物の細胞膜に見られるステロールであり、細胞膜を脱分極して、孔を形成し、細胞死させる。残念なことに、その広いスペクトルと低い耐性発生率にもかかわらず、人間の治療におけるその使用は、治療濃度域が狭いため、特に免疫不全患者においては、重度で、生命を脅かす感染症の管理に限定されたままである。実際、アムホテリシンBは頻繁に悪影響の原因となっており、最も重篤な副作用は腎毒性である。腎毒性は、よく知られている尿細管損傷を包含し、急性腎不全を引き起こすことさえある。アムホテリシンBによる腎毒性は完全には理解されておらず、確実に多因子性である。これには、アムホテリシンBのコレステロールに対する高い親和性が関与しており、コレステロールはリポタンパク質受容体での発現が高いため、その薬物に対する腎臓細胞の強い暴露をもたらす可能性がある。アムホテリシンB(AmB)の溶解度を改善するため、及び/又は有害な副作用を軽減するために、いくつかの戦略が開発されている。
【0004】
静脈内注射のための最初の製剤は、アムホテリシンBとデオキシコール酸ナトリウムとの錯体形成に基づいており、溶解度を改善していた。次に、いくつかのリポソーム又は脂質複合体製剤が開発され、アムホテリシンBの溶解度と耐性とが改善された。
- 脂質複合体(ABLC)は、Enzon Pharmaceuticals社とCephalon社によって共同開発され、Abelcet(登録商標)という商品名で販売された。Abelcet(登録商標)は、2つのリン脂質、すなわち1-α-ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と1-α-ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)と複合体を形成したAmBで構成される。
- コロイド分散体(ABCD)は、Three River Pharmaceuticals laboratories社によって開発され、Amphocil(登録商標)又はAmphotec(登録商標)の名前で販売されている。これは、AmBと硫酸コレステリルとが複合体を形成して、コロイド分散体を形成していた。この薬物は2011年に廃止された。
- リポソーム製剤(L-AmB)は、Gilead社とAstellas Pharma社とがAmbisome(登録商標)の商品名で開発した。Ambisome(登録商標)は、ホスファチジルコリン、コレステロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロールで作られた単層二重層リポソームからなり、AmBが膜内に挿入されている。
【0005】
これらの製剤は、最初の製剤よりも腎毒性が少なく、注入に伴う反応が少ないことが示された。ただし、これらの製剤は製造コストが非常に高く、低所得国では利用が制限される。加えて、他の大きな欠点がある。Abelcet(登録商標)は高い浄化値を示し、最初の薬剤よりも低いCmaxを示すが、Ambisome(登録商標)は腎臓と肺での拡散が限られている。
【0006】
化学修飾によるAmBの溶解度の改善も調査されている。例えば、Sedlakら(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2001, 11, 2833-2835)は、AmB-ポリエチレングリコール(PEG)複合体の合成について記載している。これらの複合体は水への溶解度が向上されていることが示されたが、in vitroで行われたバイオアッセイでは、遊離AmBと比較して抗真菌活性が大幅に低下することが観察された(Tanら、2016, PLOS ONE|DOI:10.1371/journal.pone.0152112)。他の構造を有する複合体、例えばB-カリックス[4]アレーン(Paquetら、Bioconj.Chem, 2006, 1460-3)及びアミノ基の二重アルキル化を伴うAmB誘導体(W02007096137)も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】W02007096137
【特許文献2】WO2010019203
【特許文献3】WO2016079536
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sedlakら(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2001, 11, 2833-2835)
【非特許文献2】Tanら、2016, PLOS ONE|DOI:10.1371/journal.pone.0152112
【非特許文献3】Paquetら、Bioconj.Chem, 2006, 1460-3
【非特許文献4】Schmidtら、Angew. Chem. Int, 2015, 54, 7492-7509
【非特許文献5】Gopinら、Bioorg. Med. Chem. 2004, 12, 1853-1858
【非特許文献6】Gopinら、Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 327-332
【非特許文献7】Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Lippincott Williams & Wilkins; Twenty first Edition, 2005)
【非特許文献8】Handbook of Pharmaceuticals Excipients, American Pharmaceutical Association (Pharmaceutical Press; 6th revised edition, 2009)
【非特許文献9】Le Papeら、Acta Parasitologica 2002, 47, 79-81
【非特許文献10】Le Papeら、2019, Int J Infect Dis. 2019 Apr;81:85-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、現在市場に出回っている抗真菌薬よりも、溶解度が改善され、分布が改善され、感染部位の標的化がより良好になり、及び/又は副作用が少ない、抗真菌薬の新しい誘導体が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の概要
本発明は、式(A):
【化1】
[式中、
- AFDは、抗真菌薬を指し、
- SISは、AFD及びTMに共有結合している自壊性(self-immolative)スペーサーを指し、
- TMは、グリコシル残基及びオリゴ糖から選択されるトリガー部分を指し、前記TMはSISを安定化し、好ましくは細胞外グリコシダーゼ(EC 3.2.1)である病原体加水分解酵素によって切断可能であり、
ここで、TMが病原体加水分解酵素によって切断されると、SISは自発分解してAFDを放出する]の抗真菌プロドラックに関する。
【0011】
いくつかの実施形態では、式(A)の抗真菌プロドラッグは、
- TMは、ヘキソサミン、N-アセチルヘキソサミン、ノイラミン酸、シアル酸、及びそれらのオリゴ糖であって、2~50個、好ましくは2~10個のグリコシル残基を含むオリゴ糖からなる群から選択され、及び/又は
- AFDは、アゾール系抗真菌薬、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、オロトミド(orotomide)、及びエンフマファンギンアグリコン(enfumafungin aglycon)誘導体からなる群から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態では、TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸、N-アセチルマンノサミン及びキチンからなる群から選択される。例えば、TMは、N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミンである。
【0013】
いくつかの他の実施形態では、AFDは、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン(rezafungin)、ボトリコナゾール(votriconazole)、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、アイブレキサフンジェルプ(ibrexafungerp)、オロロフィム(olorofim)及びそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0014】
好ましい実施形態では、AFDは、カスポファンギン、ボトリコナゾール又はアムホテリシンBであり、より好ましくはアムホテリシンBである。
【0015】
本発明のプロドラッグのいくつかの実施形態では、SISが、電子カスケード(electronic cascade)又は環化を伴って自発分解する自壊性スペーサーから選択される。例えば、SISは、式(Ia1)、(Ib1)、(Ic1)又は(Id1):
【化2】
[式中、
- Xは、O、S、-O(C=O)-NH-、O(C=O)O-、-O(P=O)O-、-O(P=S)O-、NRであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3であり、
- R1は、H、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、C1~C3アルキル、-CF3-NHR、-OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3又は標的化部分であり、並びに
- R3はH又は標的化部分であり、並びに
- R1及びR3は、同時に標的化部分ではない]の部分を含んでいても、又はそれらの部分で構成されていてもよい。
【0016】
好ましくは、R3はHであり、R1はH、ハロゲン、-NO2、-CF3 -OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3である。
【0017】
特定の実施形態では、式(A)の抗真菌プロドラッグは、式(A2):
【化3】
[式中、
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、及びシアル酸からなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- AFDは、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール及びそれらの誘導体からなる群から選択される、好ましくはアムホテリシンB、カスポファンギン及びボトリコナゾールから選択される抗真菌薬である]の化合物及びその薬学的に許容される塩から選択される。
【0018】
本発明の抗真菌プロドラッグの例は、
【化4】
又はその薬学的に許容される塩である。
【0019】
発明は、感染性疾患の治療又は予防のための、上記定義の抗真菌プロドラッグの使用にも関する。感染性疾患は、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス属、ケカビ目(Mucorales)、フザリウム属、セドスポリウム属、ロメントスポラ属(Lomentospora)、ブラストミセス属、ケカビ目、又はリーシュマニア属、トリパノソーマ属、プラスモディウム属の種に属する病原体によって引き起こされうる。抗真菌プロドラッグは、免疫不全対象における侵襲性真菌疾患を治療又は予防するのに特に有用である。
【0020】
本発明は、上記定義の抗真菌プロドラッグ及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物にも関する。
【0021】
本発明は、対象における感染性疾患を治療又は予防する方法にも関し、この方法は本明細書で定義される抗真菌プロドラッグの有効量を、好ましくは経口又は静脈内経路により、投与する工程を含む。
【0022】
本発明は、好ましくは経口又は静脈内投与のための、感染性疾患の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、本明細書で定義される抗真菌製品の使用に更に関する。
図面
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】本発明のAmBプロドラッグを示す図である。この化合物は、本発明の概念実証を提供し、本出願の実施例部分で評価された。
図1B】プロドラッグからのAmBの放出機構を示しており、この機構が真菌の加水分解酵素による標的部分の加水分解とそれに続く自壊性スペーサーの自発分解を含む図である。
図2】AmBプロドラッグを調製するために使用される合成経路と反応条件を示す図である。
図3】β-N-アセチルヘキソサミニダーゼとともにインキュベートしたときのAmBプロドラッグからのAFDの放出の速度論、並びに図1Bに示される中間体3及び残基5の形成の速度論を示す図である。注目すべきは、AmBプロドラッグが37℃の水性媒体中で安定であることである(酵素の非存在下)。
図4a】C.アルビカンス(C. albicans)の出芽型分生子を感染させたマウスモデルにおいて、異なる動物群、すなわち、(i)Fungizone(登録商標)で治療、(ii)Ambisome(登録商標)で治療、(iii)本発明のAmBプロドラッグ(図1Aの化合物、ここではGOGと呼ばれる)で治療、及び(iv)ビヒクルを投与(対照)についての生存を示す図である。
図4B】C.アルビカンスの出芽型分生子を感染させたマウスモデルにおいて、異なる動物群、すなわち、(i)Fungizone(登録商標)で治療、(ii)Ambisome(登録商標)で治療、(iii)本発明のAmBプロドラッグ(図1Aの化合物、ここではGOGと呼ばれる)で治療、及び(iv)ビヒクルを投与(対照)についての、安楽死させた後に測定された、腎臓における真菌襲撃(fungal charge)を示す図である。
図5A】アムホテリシンB(AmB)、本発明のAmBプロドラッグ(図1Aの化合物)及び対照で治療したハチノスツヅリガ(G.mellonella)の生存曲線を示す図である。
図5B】アムホテリシンB(AmB)、本発明のAmBプロドラッグ(図1Aの化合物)及び対照で治療したクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)に感染したハチノスツヅリガの生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
本発明者らは、アムホテリシンBよりも改善された溶解度、生体内分布、耐性、及び感染部位のより良好な標的指向性を有するアムホテリシンBの新しいプロドラッグを着想した。この新しいプロドラックは、溶解度を増加させ、抗真菌薬の毒性をマスクし、感染の非常に正確な部位での活性薬の放出を促進することを可能にするベクトル化プラットフォームに基づいている。
【0025】
このベクトル化プラットフォームは、自壊性基によって抗真菌薬に連結されたトリガー部分に基づく。トリガー部分は、自壊性基を安定化し、感染部位で病原体によって自発的に分泌される加水分解酵素によって、選択的に認識及び切断されるように選択される。トリガー部分の切断に続いて、自壊性基は自発的に再配置し、活性な真菌薬の放出につながる。
【0026】
したがって、本発明者らが着想したベクトル化プラットフォームは、病原体、例えば、真菌が感染の部位で自発的に加水分解酵素を分泌するという事実を利用する。病原体によって分泌される加水分解酵素に特異的なトリガー部分を選択することによって、真菌感染の部位での抗真菌薬の放出を制限し、患者の細胞への損傷を防ぎ、副作用を制限できる。
【0027】
本発明者らは、AmBを使用した革新的なベクトル化プラットフォームの概念実証を提供した。本発明者らは、図1Aに示すような、AmBプロドラッグを着想し、このAmBプロドラッグは、ベクトル化プラットフォームがマイコサミンのアミノ基に連結し、N-アセチルグルコサミンをトリガー部分として、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンジルアルコールを自壊性基として含む。
【0028】
実施例部分で例示するように、本発明者らは、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼの作用により、AmBがプロドラッグから迅速に放出されることを実証した。
【0029】
図1Bで説明され、図2に示されるように、加水分解酵素は、トリガー部分、すなわちN-アセチルグルコサミン基を効率的に切断し、中間体3を放出させる。中間体3は、自発的に再配置して、活性薬物AmBを放出する。
【0030】
注目すべきことに、プロドラッグは、重大な加水分解を受けることなく、37℃の水性緩衝液中で安定であることが示された。
【0031】
次に、本発明者らは、異なる真菌細胞型、すなわち、出芽胞子及び糸状の酵母並びにリーシュマニアの前鞭毛型及び細胞内無鞭毛型に対するプロドラッグの抗真菌活性を評価した。注目すべきことに、プロドラッグはこれらの異なる細胞に対してAmBと同じくらい効果的であることが示され、AmBが病原体加水分解酵素の作用によってプロドラッグから効果的に放出されることが確認された。
【0032】
更に、プロドラッグは、約23μMのIC50を有するAmBとは対照的に、HELA細胞に対して重大な毒性を全く示さない。したがって、プロドラッグはヒト細胞によって代謝されず、ヒト細胞に関して重大な毒性を全く有さない。
【0033】
本発明者らは、本発明のAmBプロドラッグが、C.アルビカンスの出芽型分生子を感染させたマウスモデルにおける真菌感染を治療するのに、Fungizone(登録商標)(AmB)及びAmbisome(登録商標)(リポソーム製剤中のAmB)と少なくとも同程度に有効であることも示した。注目すべきことに、本発明のAmBプロドラッグで治療された群は、対照群と比較して生存率の有意な改善及び腎真菌負荷(kidney fungal load)の有意な減少を示した。
【0034】
本発明者らは、AmB及び本発明のAmBプロドラッグの、活性薬物の有効性及び固有の毒性を評価することを可能にする幼虫モデルである、ハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)モデルに対する効果も研究した。本発明者らは、本発明のAmBプロドラッグがAmBより有意に毒性が低いことを示し、ヒト細胞株で得られたデータを確認した。
【0035】
更に、AmBプロドラッグは、クリプトコッカス・ネオフォルマンス及びクリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)感染に対して、ハチノスツヅリガモデルにおいて、AmBと同程度に有効であることが示された。
【0036】
まとめると、これらの結果は、本発明者らによって着想されたベクトル化プラットフォームが、薬物の抗真菌活性を損なわず、薬物の溶解度を増加させ、感染の部位付近での特異的な放出を促進する一方で、抗真菌剤の大きな拡散によって引き起こされる有害な副作用を防止するという事実を強く支持する結果となる。したがって、抗真菌薬の治療濃度域が増加する。
【0037】
いかなる理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、AmBをベクトル化するために使用されるこのベクトル化プラットフォームは、他の抗真菌薬、例えばエキノカンジンのベクトル化にも有効でありうる、と考える。
【0038】
したがって、本発明は、式(A):
【化5】
[式中、
- AFDは、抗真菌薬を指し、
- SISは、AFD及びTMに共有結合している自壊性スペーサーを指し、
- TMは、SISを安定化させ、病原体加水分解酵素によって切断できるトリガー部分を指し、
ここで、TMが切断されると、SISが自発分解して、AFDを放出する。したがって、活性AFDは、(i)TMとSISとの間の共有結合の酵素的加水分解、及び(ii)SISの自発分解を含む2段階プロセスを介して、本発明のプロドラッグから放出される]の抗真菌プロドラッグに関する。
【0039】
- 抗真菌薬(AFD)
本明細書で使用される場合、抗真菌薬(AFD)は、少なくとも1種の病原性真菌種に対して殺真菌又は静真菌活性を有する任意の薬物を指す。いくつかの実施形態では、抗真菌薬は、カンジダ属、アスペルギルス属、及びクリプトコッカス種に属する少なくとも1種の病原性真菌に対して活性である。特定の実施形態では、抗真菌薬は広域スペクトル活性を有し、これは、複数の真菌種に対して抗真菌活性を示すことを意味する。
【0040】
抗真菌薬は、通常、2 000g.mol-1未満、好ましくは1 500g.mol-1未満の分子量を有する。
【0041】
抗真菌薬は、アゾール系抗真菌薬、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、オロトミド、及びエンフマファンギンアグリコン誘導体を包含するが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される場合、アゾール系抗真菌薬は、環の一部として窒素原子及び少なくとも1個の他の非炭素原子(すなわち、窒素、硫黄、又は酸素)を含有する5員複素環部分を少なくとも1個含む抗真菌化合物を指す。好ましい複素環はトリアゾール及びイミダゾールである。アゾール系抗真菌薬は、ラノステロール14α-デメチラーゼを阻害することにより、ラノステロールからエルゴステロールへの変換をブロックすることによって作用できる。アゾール系抗真菌薬は、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、エフィナコナゾール、アルバコナゾール、ボリコナゾール、ラブコナゾール、及びポサコナゾールを包含するが、これらに限定されない。
【0043】
アゾール系抗真菌薬は、存在する場合、例えば、その水酸基を介して自壊性スペーサー(SIS)に連結されうる。
【0044】
本明細書で使用される場合、ポリエン系抗真菌薬(本明細書ではポリエン抗生物質又はポリエン抗真菌剤とも呼ばれる)は、複数の共役二重結合(ポリエン部分)を含む領域の反対側に高度にヒドロキシル化された領域を含有する大環状分子を含む抗真菌薬物を指す。ポリエン系抗真菌薬の大環状分子は、一般に、アミノグリコシド、例えば、D-マイコサミンを所持する。
【0045】
ポリエン系抗真菌薬は、一般にイオン透過孔として作用する。それらは、真菌細胞膜の主要成分である、エルゴステロールに結合して、膜に細孔を形成し、それによって、K+を漏出させ、酸性化し、真菌を死に導く。
【0046】
ポリエン系抗真菌薬は、アムホテリシンA及びB、ナイスタチン、並びにナタマイシン、レザファンギン、リモシジン、フィリピン、ハマイシン、及びペリマイシンを包含するが、これらに限定されない。
【0047】
抗真菌薬(AFD)がアミノグリコシド基を含むポリエン系抗真菌薬である場合、前記AFDは、好ましくは、前記アミノグリコシドのアミノ基を介して自壊性スペーサー(SIS)に連結される。そうでなければ、AFDは、大環状分子に存在する水酸基の1個を介してSISに連結できる。
【0048】
本明細書で使用される場合、エキノカンジンは、酵素(1→3)-β-D-グルカンシンターゼを阻害し、それによって真菌細胞壁の完全性を乱すことによって作用する大環状リポペプチド抗真菌薬を指す。エキノカンジンの構造は、通常、ペプチド性の大環状分子に連結した親油性尾部を含む。エキノカンジンは、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、エキノカンジンB(CD 101としても知られる、CAS番号1396640-59-7)、ニューモカンジンB0、ビアファンギン(biafungin)、及びアミノカンジンを包含するが、これらに限定されない。AFDがエキノカンジンである場合、その遊離水酸基又はアミノ基の1個を介して、好ましくは、存在する場合、その第1級アミノ基の1個を介して、SISに連結されうる。
【0049】
エキノカンジンの代替として、エンフマファンギンアグリコン誘導体、例えば、アイブレキサフンジェルプ(SCV 078及びMK 3118としても知られる)を使用できる。エキノカンジンと同様に、これらの化合物は真菌のベータ-1,3-D-グルカンシンターゼの阻害剤である。アイブレキサフンジェルプは、開発中の新しい抗真菌薬である(フェーズIII臨床試験が進行中)。そのCAS番号は、1207753-03-04である。対象となる他のエンフマファンギンアグリコン誘導体は、特許出願WO2010019203に開示されている。
【0050】
本明細書で使用される場合、オロトミドは、ピロール部分を含み、真菌細胞におけるピリミジンの生合成を停止することによって作用する、新しい種類の抗真菌剤を指す。オロトミドは、ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)の可逆的阻害を引き起こす。この阻害によって、菌糸の成長を順番にブロックする。
【0051】
対象となるオロトミドは、例えば、特許出願WO2016079536に記載されている。好ましいオロトミドは、現在フェーズIII臨床試験中のオロフィム(CAS番号1928707-56-5)である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「誘導体」は、その抗真菌活性を維持しながら、1種類又はいくつかの種類の化学修飾を含む任意のAFDを指す。
【0053】
いくつかの実施形態では、AFDは、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、アイブレキサフンジェルプ、オロロフィム及びそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0054】
- 自壊性スペーサー(SIS)
自壊性スペーサー(SIS)(本明細書では自壊性基とも呼ばれる)は、抗真菌薬(AFD)とトリガー部分(TM)とに連結し、TMが一旦切断されると自発分解する化学基である。
【0055】
実際、トリガー部分(TM)が放出されると、すなわち、病原体加水分解酵素の作用によってTMとSISとの間の共有結合が切断されると、SISが自発的に構造再配置して、活性な抗真菌薬が感染の部位で放出される。
【0056】
SISは、AFDの溶解度を増加させ、及び/又は対象となる加水分解酵素によるTMの認識を可能にするTMの周囲の立体障害を制限するように選択される。SISは、真菌の加水分解酵素によってTMが一旦切断されると急速に分解し、それによってAFDが放出されるようにも選択される。
【0057】
SISは、二官能性スペーサー又は三官能性スペーサーであってよい。三官能性SISが使用される場合、SISは、以下に更に定義されるように、更なる実体、例えば追加のAFD部分、溶解度を増加させるための部分、例えばPEG部分、又は下記定義の標的化部分を所持する。
【0058】
自壊性基は当技術分野でよく知られており、広く研究されてきた。Schmidtら、Angew. Chem. Int, 2015, 54, 7492-7509が参照でき、これは自壊性スペーサーに関するレビューであり、その内容は参照により組み込まれる。Schmidtらによって説明されているように、自壊性基の自発分解は、2つのタイプのプロセス、すなわち、(i)キノン又はアザキノンの形成をもたらす可能性がある電子カスケード、及び(ii)イミダゾリジノン、オキサゾリジノン又は1,3-オキサチオラン-2-オン環構造をもたらす可能性がある環化によって、主に推進される。
【0059】
いくつかの実施形態では、自壊性スペーサーは分解のために電子カスケードに依存し、O-、N-又はS-基を所持する芳香族構造を含む。
【0060】
特定の実施形態では、SISは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)又は(Id):
【化6】
[式中、
- Xは、O、S、-O(C=O)-NH-、O(C=O)O-、-O(P=O)O-、-O(P=S)O-、NRであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3であり、
- R1は、H、ハロゲン、例えば、F、Br、又はCl、-NO2、C1~C3アルキル、-CF3-NHR、-OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3又は標的化部分であり、及び
- R3は、H又は標的化部分である]の部分を含む、又はこれらの部分で構成される。
【0061】
R1は、X基のパラ、メタ又はオルトの位置にあってよい。好ましくは、R1はオルト又はパラの位置にある。好ましくは、R1及びR3は同時に標的化部分ではない。
【0062】
本明細書で使用される場合、「標的化部分」は、対象の特定の器官、組織若しくは細胞、又は特定の病原体へのプロドラッグの送達を可能にする任意の基を指す。標的化部分は、任意のタイプであってよい。通常、標的化部分は、標的とする器官、組織、細胞又は病原体によって発現される標的成分に特異的に結合できる。
【0063】
例えば、標的化部分は、抗体、抗体のフラグメント又は誘導体、例えばFab、Fab'、及びScFv、アプタマー、シュピーゲルマー、ペプチドアプタマー、並びに対象となる標的成分のリガンド若しくは基質から選択されてよい。前記リガンド又は基質は、例えば分子量が1000g.mol-1未満の小さな化学分子、ペプチド、糖、ホルモン、オリゴ糖、タンパク質、及び標的成分に結合できる受容体又は受容体フラグメントの任意のタイプのものであってよい。
【0064】
標的とされる成分は、例えば、膜タンパク質、例えば膜受容体、膜又は細胞壁の成分等であってよい。特定の実施形態では、標的とされる成分は、病原体の細胞壁の成分、又は病原体の表面に存在する成分、例えば、Asl3(凝集素様タンパク質3)、HWP1(菌糸タンパク質1)、ベータ-D-グルカン又はHSP90(熱ショックタンパク質90)の外部フラグメントである。
【0065】
したがって、標的は、Asl3、HWP1、HSP90、又はベータ-D-グルカンであってよい。ある特定の実施形態では、標的化部分は、SISのコア構造との共有結合を可能にしながら、立体障害を制限し、及び/又は溶解度を増加させるスペーサーを含む。例えば、スペーサーは、親水性のもの、例えば、PEGベースのスペーサーであってもよい。
【0066】
特定の実施形態では、SISは、式(Ia1)、(Ib1)、(Ic1)又は(Ia1):
【化7】
[式中、X、R1及びR3は上記定義のとおりである]の部分である。
【0067】
特定の実施形態では、SISは、式(Ib2)を含む、又は式(Ib2)からなる:
【化8】
[式中、R1は上記定義のとおりである。好ましい実施形態では、R1は、H、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、-CF3、-C(=O)OR、及び-SO2Rからなる群から選択され、Rは、H又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3である。R1は、オルト又はパラの位置にあってもよく、好ましくはオルトの位置にある]。
【0068】
いくつかの他の実施形態では、自壊性スペーサーは、環化機構に依存し、アルキル鎖及び/又は芳香族部分を含む。例えば、自壊性スペーサーは、式(Ie)、(If)、(Ig)、(Ih)若しくは(Ii):
【化9】
[式中、
- X1は、CH2、O、S、NRであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3であり、
- Y1は、CH2、O、NH、又は単結合であり、
- R2は、H、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、C1~C3アルキル、-CF3、-NHR、-OR、-C(=O)OR、
-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3、又は標的化部分であり、及び
- nは1~5の整数、好ましくは1又は2である]の部分を含んでいても、又はこれらの部分からなっていてもよい。
【0069】
上記のように、プロドラッグは、典型的には自壊性スペーサーによって所持される標的化部分を含んでいてもよい。自壊性スペーサーは、TM、AFD及び標的化部分を一緒に結合する三官能性リンカーであってよい。そのような、ケミカルアダプターとも呼ばれる自壊性スペーサーは、例えば、Gopinら、Bioorg. Med. Chem. 2004, 12, 1853-1858及びGopinら、Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 327-332に記載されている。
【0070】
例えば、SISは、式(Ij)又は(Ik):
【化10】
[式中、TargMは、上記定義の標的化部分である]の部分を含んでいても、又はこれらの部分で構成されていてもよい。
【0071】
特定の実施形態では、SISは、式(Ib3):
【化11】
[式中、R1は上記定義のとおりであり、R3はH又は標的化部分(TargM)である]の部分を含む、又はこの部分からなる。
【0072】
好ましくは、R1は、H、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、-CF3、-C(=O)OR、及び-SO2Rからなる群から選択され、RはH又はC1~C3アルキル、好ましくはCH3である
【0073】
したがって、本発明のプロドラッグは、式(A1):
【化12】
に示すものであってよく、R1は上記で定義したとおりであり、R3はH又は標的化部分、好ましくはHである。
【0074】
特定の実施形態では、R3はHであり、R1はNO2である。したがって、プロドラッグは式(A2):
【化13】
に示すものである。
【0075】
- トリガー部分(TM)
本明細書で使用される場合、トリガー部分(TM)は、SISを安定化する、すなわちその自発分解を防ぐことにより、保護基として作用する化学基を指す。本発明の文脈において、TMは、対象となる病原体によって発現される酵素の作用によって選択的に切断されるように、選択される。対象となる酵素は、病原体加水分解酵素、例えば真菌加水分解酵素であり、細胞外環境に分泌され、対象となる基質からグリコシル部分の放出を触媒できる。
【0076】
例えば、病原体加水分解酵素は、O-、N-又はS-グリコシドの加水分解を触媒できる細胞外グリコシダーゼ(EC 3.2.1)である。対象となる加水分解酵素は、ベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(EC 3.2.1.52)、ベータ-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(EC 3.2.1.53)、キチナーゼ(EC 3.2.1.14)、ベータ-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)、アルファ-D-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.24)、ベータ-D-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.25)、キトビアーゼ(EC 3.2.1.29)、ベータ-D-アセチルグルコサミニダーゼ(EC 3.2.1.30)、エキソ-アルファ-シアリダーゼ(EC 3.2.1.18)、エンド-アルファ-シアリダーゼ(EC 3.2.1.129)、エキソ-1,4-β-D-グルコサミニダーゼ(EC 3.2.1.165)を包含するが、これらに限定されない。
【0077】
したがって、トリガー部分は通常グリコシル基である。本発明のいくつかの実施形態では、トリガー部分は、ヘキソサミン及びN-アセチルヘキソサミンから、好ましくはN-アセチルヘキソサミンから選択される。トリガー部分は、9炭素糖、例えばノイラミン酸及びシアル酸、例えばN-アセチルノイラミン酸からも選択されうる。
【0078】
トリガー部分は、ヘキソサミン若しくは及びN-アセチルヘキソサミン、例えばキチンに基づく、並びに/又はノイラミン酸若しくはシアル酸に基づくオリゴ糖から選択することもできる。通常、オリゴ糖は、2~50個のグリコシル残基、例えば、2~10個のグリコシル残基を含んでもよい。
【0079】
本明細書で使用される場合、ヘキソサミンは、水酸基の1個がアミノ基によって置換されたヘキソースを指す。ヘキソサミンには、フルクトサミン、ガラクトサミン、グルコサミン、及びマンノサミンが包含されるが、これらに限定されない。
【0080】
いくつかの実施形態では、トリガー部分(TM)は、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルマンノサミン、キチン、ノイラミン酸及びシアル酸からなる群から選択される。
【0081】
追加の実施形態では、TMは、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルマンノサミン、及びシアル酸部分から選択される。例えば、トリガー部分は、N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミンである。このようなグリコシル残基は、真菌のベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(EC 3.2.1.52)によって切断されうる。
【0082】
- 本発明による化合物の例
いくつかの実施形態では、本発明のプロドラッグは式(A):
【化14】
[式中、
- TMは、ヘキソサミン、N-アセチルヘキソサミン、ノイラミン酸、シアル酸、及び2から50個、好ましくは2から10個のグリコシル残基を含むそれらのオリゴ糖からなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- SISは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ij)、又は(Ik)の部分を含む、又はこれらの部分で構成される自壊性スペーサーであり、
- AFDは、アゾール系抗真菌薬、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、オロトミド、エンフマファンギンアグリコン誘導体及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である]に示すもの、又はその薬学的に許容される塩である。
【0083】
いくつかの他の実施形態では、本発明のプロドラッグは式(A)に示すものであり、ここで、
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルマンノサミン残基、ノイラミン酸、シアル酸及びキチンからなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- SISは、式(Ia1)、(Ib1)、(Ic1)、(Id1)、(Ib2)又は(Ib3)の部分を含む、又はこれらの部分で構成される自壊性スペーサーであり、
- AFDは、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である。
【0084】
いくつかの実施形態では、プロドラッグは式(A)に示すものであり、ここで、
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、及びN-アセチルマンノサミン残基からなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- SISは自壊性スペーサーであり、
- AFDは、アムホテリシンB、カスポファンギン、及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である。
【0085】
SISは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(If)、(Ig)、(Ih)、(Ij)、又は(Ik)の部分を含んでいても、又はこれらの部分で構成されていてもよい。
【0086】
いくつかの他の実施形態では、本発明のプロドラッグは式(A)に示すものであり、ここで、
- TMは、N-アセチルグルコサミン残基及びN-アセチルガラクトサミン残基であり、好ましくはN-アセチルガラクトサミン残基であり、
- SISは、自壊性スペーサーであり、
- AFDは、アムホテリシンB、カスポファンギン、及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である。
【0087】
SISは、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(If)、(Ig)、(Ih1)、(Ih2)、(Ij)、(Ik)、(Ib2)及び(Ib3)のいずれか1種、好ましくは式(Ia1)、(Ib1)、(Ic1)、(Id1)、(Ib2)及び(Ib3)のいずれか1種の部分を含んでいても、又はこれらの部分から構成されていてもよい。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態では、AFDはアムホテリシンBである。
【0089】
他の実施形態では、本発明のプロドラッグは式(A1):
【化15】
[式中、
- R1はH、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、C1~C3アルキル、-CF3、-NHR、-OR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、例えばCH3であり、
- R3は、H又は標的化部分、好ましくはHである。
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、及びN-アセチルマンノサミンからなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- AFDは、ポリエン系抗真菌薬及びエキノカンジン、例えば、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、アイブレキサフンジェルプ、オロロフィム及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である]に示すもの、又はその薬学的に許容される塩である。
【0090】
追加の実施形態では、本発明のプロドラッグは式(A1):
[式中、
- R1はH、ハロゲン、例えばF、Br、又はCl、-NO2、-CF3、-NHR、-C(=O)OR、-SO2Rであり、RはH又はC1~C3アルキル、例えばCH3であり、
- R3はHであり
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、及びN-アセチルガラクトサミンからなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- AFDは、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、オロトミド、エンフマファンギンアグリコン誘導体、例えば、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、アイブレキサフンジェルプ、オロロフィム、及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である]に示すもの、又はその薬学的に許容される塩である。
【0091】
更なる実施形態では、本発明のプロドラッグは、式(A2):
【化16】
[式中、
- TMは、グルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、及びN-アセチルガラクトサミンからなる群から選択されるグリコシル残基であり、
- AFDは、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、アゾール系抗真菌薬、オロトミド、並びにエンフマファンギンアグリコン誘導体、例えば、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、アイブレキサフンジェルプ、オロロフィム、及びそれらの誘導体から選択される抗真菌薬である]に示すもの、又はその薬学的に許容される塩である。
【0092】
別の実施形態では、本発明のプロドラッグは、式(A3):
【化17】
[式中、R1はH、-NO2、-COOMeからなる群から選択され、好ましくは-NO2であり、AFDは、ポリエン系抗真菌薬、エキノカンジン、アゾール系抗真菌薬及びそれらの誘導体から選択され、好ましくはアムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、レザファンギン、ボトリコナゾール及びそれらの誘導体からなる群から選択される]に示すもの、又はその薬学的に許容される塩である。
【0093】
好ましいAFDは、ボトリコナゾール、アムホテリシンB及びカスポファンギンであり、より好ましくはアムホテリシンBである。
【0094】
例えば、本発明のプロドラッグは、以下の化合物の1種又はそれらの薬学的塩でありうる。
【化18】
【0095】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、非毒性の塩を指し、これらは、一般的に、対象となるプロドラッグ(例えば、AmBプロドラッグ)を適切な有機酸又は無機酸と接触させることによって調製できる。例えば、薬学的塩は、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ベンゾネート(benzonate)、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、臭化物、酪酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、二リン酸塩、フマル酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩等であってよいが、これらに限定されない。
【0096】
本発明のプロドラッグは、標準的な化学プロセスによって調製できる。実施例部分では、本発明の特定のプロドラッグの合成について説明し、これを適用して対象となる他のプロドラッグを得ることができる。
【0097】
- 本発明の治療的使用及び方法
本発明は、感染性疾患の治療又は予防における、上記定義のプロドラッグの使用にも関する。本発明の追加の目的は、対象の感染性疾患を治療又は予防するための方法であって、本発明のプロドラッグの有効量を対象に投与する工程を含む方法である。本発明は、対象の感染性疾患を治療又は予防するための本発明のプロドラッグの使用にも関する。
【0098】
本明細書で使用される場合、「感染性疾患」(本明細書では感染症とも呼ばれる)は、病原体、例えば、病原性細菌、酵母とカビを含む真菌、又は原生動物、又はウイルスによる対象の汚染によって引き起こされる、又は結果として生じる、任意の疾患又は障害、及びその症状を指す。好ましい実施形態では、感染性疾患は、病原性真菌、例えば、病原性酵母又はカビによって、又は病原性原生動物、より好ましくは病原性真菌によって引き起こされる。例えば、感染性疾患は、カンジダ属、アスペルギルス属、クリプトコッカス属、ケカビ目、フザリウム属、セドスポリウム属、ロメントスポラ属、ブラストミセス属又はリーシュマニア属、トリパノソーマ属、プラスモディウム属の種に属する病原体によって引き起こされうる。
【0099】
病原体として、例えば、アスペルギルス・フミーガツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、C.アルビカンスの出芽型分生子を含むカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)、カンジダ・パラプローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・アウリス(Candida Auris)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、クリプトコッカス・ガッティ、及びブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis)が挙げられる。
【0100】
感染性疾患は、全身性であってもよく、1個又は複数個の器官、例えば気管又は消化管の器官系等に関係していてもよく、又は局所的、すなわち、特定の器官又は組織、例えば脳、皮膚又は口腔に局在していてもよい。感染性疾患は、粘膜の感染症、例えば口腔、食道、又は膣感染症、又は対象の骨、皮膚、血液、尿生殖路、又は中枢神経系に影響を与える感染症である可能性があり、このリストはすべてを網羅しているわけではない。
【0101】
感染性疾患は、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス感染症、ムコール菌症、ブラストミセス症、フサリウム症、リーシュマニア症等を包含するが、これらに限定されない。
【0102】
いくつかの実施形態では、感染性疾患は院内感染、すなわち病院内感染症又は市中感染疾患であってよい。
【0103】
いくつかの実施形態では、感染性疾患は侵襲性真菌症(IFD)である。
【0104】
本発明のプロドラッグで治療される対象は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。対象は、性別及び年齢を問わず、新生児、乳児、子供、及び高齢者を含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、対象は免疫不全である。患者の免疫不全状態は、一次免疫不全(すなわち、先天性又は遺伝性欠陥によって引き起こされる)、又は、例えば手術、又は免疫抑制治療、例えば化学療法及び拒絶反応抑制剤、癌、例えば白血病、病原体、例えばAIDSを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び自己免疫疾患による二次免疫不全の可能性がある。ある特定の実施形態では、対象は、感染性疾患に罹患し易くなる疾患に罹患していてもよい。例えば、患者は糖尿病患者であってもよい。
【0106】
いくつかの他の実施形態では、患者は手術を受けた、又は受ける予定である。このような場合、本発明のプロドラッグを使用して、手術を受けた、又は手術を受ける予定の対象における感染性疾患の発症を予防できる。本発明のプロドラッグは、病原体に暴露された対象の上記のような感染性疾患を予防するためにも使用できる。例えば、対象は医療従事者であってもよい。
【0107】
特定の態様において、本発明のプロドラッグは、追加の治療薬と組み合わせて対象に投与してよい。追加の治療用化合物は、本発明のプロドラッグの投与と同時に、別々に、又は連続して投与できる。
【0108】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」とは、対象、好ましくはヒトにおいて、感染性疾患を予防、除去、減速させる、又は前記感染性疾患によって引き起こされる若しくは前記感染性疾患と関連する1種若しくは数種類の症状若しくは障害を軽減若しくは遅延させるプロドラッグの量を指す。
【0109】
本発明のプロドラッグ及びその医薬組成物の有効量、並びにより一般的には投薬計画は、当業者によって容易に決定され、適合されうる。有効用量は、従来の技術を使用し、類似の状況下で得られた結果を観察することによって決定できる。本発明のプロドラッグの治療有効用量は、治療又は予防される感染性疾患、治療される感染性疾患の重さ、投与の経路、関連する任意の併用療法、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、病歴等に応じて変化する。通常、患者に投与されるプロドラッグの量は、約0.001mg/日/体重kg~100mg/日/体重kg、好ましくは0.1mg/日/体重kg~25mg/日/体重kg、より好ましくは0.1mg/日/体重kg~10mg/日/体重kgの範囲でありうる。
【0110】
本発明のプロドラッグは、所望の治療効果が達成されるまで、連続する数日間、数週間又は数カ月間、少なくとも1日1回投与されうる。
【0111】
本発明のプロドラッグの投与は、局所、非経口又は経腸であってよい。実際、本発明のプロドラッグは、従来からある任意の経路、経口、経頬、舌下、直腸、静脈内、筋肉内、皮下、骨内、皮膚、経皮、粘膜、経粘膜、関節内、心臓内、脳内、腹腔内、鼻腔内、肺、眼球内、膣、又は経皮的経路によって投与されうるが、これらに限定されない。実際、本発明のプロドラッグの投与経路は、治療する感染性疾患及びその疾患に苦しむ患者の器官又は組織に応じて変化してもよい。
【0112】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のプロドラッグは、静脈経路又は経口経路によって投与される。
【0113】
- 本発明の医薬組成物
追加の態様において、本発明は、医薬組成物に関し、この医薬組成物は、(i)有効成分として、式(A)、式(A1)、(A2)、又は(A3)及び上記のもののいずれか1種のプロドラッグ(又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物)、並びに(ii)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0114】
本発明の医薬組成物は、
- 0.01質量%~90質量%の本発明のプロドラッグと、
- 10%から99.99質量%の賦形剤と
を含んでよく、
パーセンテージは、組成物の総質量と比較して表される。
【0115】
好ましくは、医薬組成物は、
- 0.1質量%~50質量%の本発明のプロドラッグと、
- 50質量%~99.9質量%の賦形剤と
を含んでよい。
【0116】
このような医薬組成物は、真菌、例えば、カンジダ属、アスペルギルス属及びクリプトコッカス種、又は原生動物、例えばリーシュマニア属によって引き起こされる感染性疾患の治療又は予防に好ましくは使用される。
【0117】
本発明の医薬組成物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Lippincott Williams & Wilkins; Twenty first Edition, 2005)に記載されている方法等の標準的な方法に従って製剤化できる。
【0118】
使用されうる薬学的に許容される賦形剤は、特に、Handbook of Pharmaceuticals Excipients, American Pharmaceutical Association (Pharmaceutical Press; 6th revised edition, 2009)に記載されている。通常、本発明の医薬組成物は、本発明のプロドラッグと、少なくとも1種の薬学的賦形剤とを混合することによって得られうる。
【0119】
適切な賦形剤としては、例えば、溶媒、例えば水又は水/エタノール混合物、充填剤、担体、希釈剤、結合剤、固化防止剤、可塑剤、崩壊剤、滑沢剤、香料、緩衝剤、安定剤、着色剤、染料、酸化防止剤、付着防止剤、柔軟剤、防腐剤、界面活性剤、ワックス、乳化剤、湿潤剤、流動促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。希釈剤としては、例えば、微結晶性セルロース、デンプン、加工デンプン、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム三水和物、硫酸カルシウム二水和物、炭酸カルシウム、単糖類又は二糖類、例えばラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ガラクトース、及びソルビトール、キシリトール、並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。結合剤としては、例えば、デンプン、例えばジャガイモデンプン、小麦デンプン、コーンデンプン;ガム、例えばトラガカントガム、アカシアガム、ゼラチン;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリビニルピロリドン、コポビドン、ポリエチレングリコール及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。滑沢剤としては、例えば、脂肪酸及びその誘導体、例えばステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリルステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸、又はポリアルキレングリコール、例えばPEGが挙げられるが、これらに限定されない。流動促進剤は、コロイダルシリカ、二酸化ケイ素、タルク等の中から選択できる。崩壊剤は、例えば、クロスポビドン、クロスカルメロース塩、例えばクロスカルメロースナトリウム、デンプン、及びそれらの誘導体を包含するが、これらに限定されない。界面活性剤は、例えば、シメチコン、トリエタノールアミン、レスポリソルベート(les polysorbate)及びその誘導体、例えばtween(登録商標)20又はtween(登録商標)40、ポロキサマー、脂肪族アルコール、例えばラウリルアルコール及びセチリックアルコール(cetylic alchol)、及びアルキル硫酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を包含するが、これらに限定されない。乳化剤の例は、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、ソルビタンのポリエチレングリコール及び脂肪酸エステル、又はこれらの物質の混合物を包含する。
【0120】
本発明のプロドラッグと組み合わされる賦形剤は、(i)前記活性プロドラッグの安定性を含む物理化学的特性、(ii)前記活性成分の望ましい薬物動態プロファイル、(iii)剤形、及び(iv)投与の経路に応じて変化してよいことは、言うまでもない。
【0121】
医薬組成物は、いかなる剤形であってよい。例えば、医薬組成物は、固体の経口剤形、液体の経口剤形、懸濁液、例えば静脈経路用、局所適用用の剤形、例えば、クリーム、軟膏、ゲル等、パッチ、例えば経皮パッチ、粘膜接着パッチ、又は錠剤、特に絆創膏又は包帯、坐薬、鼻腔内又は肺投与用のエアロゾルであってよい。医薬組成物により、本発明のプロドラッグを即時放出、制御された放出、又は持続放出できる。経口固体剤形は、錠剤、カプセル、丸薬、及び顆粒を包含するが、これらに限定されない。必要に応じて、前記経口固体形態は、コーティング及びシェル、例えば腸溶性コーティング若しくは他の適切なコーティング又はシェルで調製されてよい。このようなコーティング及び/又はシェルのいくつかは、当技術分野で周知である。使用できるコーティング組成物の例は、ポリマー物質及びワックスである。プロドラッグは、適切であれば、上記の賦形剤の1種又は複数種とともに、マイクロカプセル化された形態でも使用できる。経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが挙げられる。液体剤形は、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例として、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、ソルビタンのポリエチレングリコール及び脂肪酸エステル、又はこれらの物質の混合物等を含有してもよい。必要に応じて、組成物は、補助薬、例えば湿潤剤、乳化薬及び懸濁剤、甘味料、香味料及び/又は芳香剤を含んでもよい。懸濁液は、懸濁剤、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天等を含有してもよい。
【0122】
膣坐剤又は直腸坐剤は、本発明のプロドラッグと、適切な非刺激性の賦形剤又は担体、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、又は常温では固体であるが体温では液体である坐薬ワックスとを混合することによって調製できる。
【0123】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、賦形剤、例えば油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、又はそれらの混合物を含有してもよい。
医薬組成物は、吸入器システムを使用することによって肺に送達されうるエアロゾルの形態であってもよい。例えば、本発明のプロドラッグは、ナノキャリア又はマイクロキャリアの表面に吸着されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、注射可能な組成物、例えば注射用組成物、例えば筋肉内注射用、静脈内注射用又は点滴用の組成物である。
【0124】
通常、医薬組成物は、注射の準備が整った液体組成物の形態、注射前に希釈される濃縮液体組成物の形態、又は粉末、例えば、対象に投与する直前に適切なビヒクルに溶解又は懸濁される、凍結乾燥粉末の形態であってよい。
【0125】
本発明のプロドラッグは、賦形剤、例えばリン脂質、コレステロール、同様の脂質複合体を使用して、又はコロイド分散体、例えば界面活性剤及び/若しくは脂質、例えば、Abelcet(登録商標)又はAmbisome(登録商標)製剤に含まれるようなものを使用して、リポソーム組成物、脂質複合体組成物に製剤化してもよい。
【0126】
本発明は、本発明のプロドラッグ又は本発明の医薬組成物とを含み、対象への投与手段、例えば復元用緩衝液、及び/又は注射手段、例えば針及び注射器とを組み合わせた医薬品キットにも関する。キットは、本発明の治療方法を実施するための説明書を含有してもよい。本発明の更なる態様及び利点は、以下の実験部分で開示されるが、これは例示とみなされるべきであり、本出願の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0127】
酵素サンプルを含むすべての試薬は、さまざまな業者(Sigma Aldrich(登録商標)社、Fluka(登録商標)社、Alfa Aesar(登録商標)社、Acros(登録商標)社又はTCI Chemical(登録商標)社)から購入し、詳細な仕様書に従って保存した。以下の溶媒及び試薬は、使用直前にアルゴン下で新たに蒸留した:DCM、MeCN及びEt3Nは無水水素化カルシウム上で;MeOHはナトリウム上で、THFはナトリウム及びベンゾフェノン上で蒸留した。DCMは、溶媒精製システム(SPS)によって精製されることもあった。DMFはSigma Aldrich(登録商標)社から無水物を購入した。必要に応じて、検査用及び精製用の溶媒を事前にBuchi R-220-SE rotavaporで蒸留して、安定剤を除去した。
【0128】
(実施例1)
本発明のプロドラッグの合成
図1AのAmBプロドラッグを、図2に記載されている合成プロセスに従って調製した。反応条件の最適化後、AmBプロドラッグを6個の連続した工程により58%の全体収率で得た(図2)。合成プロトコルを以下に記載する。
【0129】
化合物6
【化19】
【0130】
封管中で、市販のN-アセチル-D-グルコサミン(3.000g、13.50mmol、1.0当量)を、HClgガス(15mL、210.2mmol、9.3当量)で飽和した、新たに調製した塩化アセチル溶液に溶解し、溶液を0℃に冷却した。反応混合物を温め、室温で7日間撹拌した。完了後、反応混合物をDCM(20mL)に溶解して、0℃に冷却した。有機層を飽和NaHCO3水溶液(3×30mL)及び塩水(30mL)で注意深く洗浄した。有機層を分離して、Na2SO4で乾燥したのち、濾過して、減圧下で蒸発させた。シリカゲルにおけるフラッシュカラムクロマトグラフィー(グラジエント溶出100:0~0:100のDCM/EtOAc)により粗生成物を精製して、化合物6(3.305g、67%)を空気に敏感な白色固体として得た。
1H NMR (300.13 MHz, CDCl3, 298.15 K): δH 6.19 (d, J1-2) = 3.6 Hz, 1H, H1), 5.79 (d, J7-2 = 8.7 Hz, 1H, H7), 5.30 (m, 1H, H3), 5.22 (t, J4-3, 4-5 = 9.6 Hz, 1H, H4), 4.57-4.50 (m, 1H, H2), 4.32-4.24 (m, 2H, H5, H6a), 4.14 (m, 1H, H6b), 2.11 (s, 3H, Hアセチル), 2.06 (s, 3H, Hアセチル), 2.05 (s, 3H, Hアセチル), 1.99 (s, 3H, Hアセチル) ppm.
13C NMR (75.48 MHz, CDCl3, 298.15 K): δC 171.5 (s, Cアセチル), 170.6 (s, Cアセチル), 170.2 (s, C アセチル), 169.2 (s, Cアセチル), 93.6 (s, C1), 70.9 (s, C5), 70.1 (s, C3), 66.9 (s, C4), 61.1 (s, C6), 53.5 (s, C2), 23.1 (s, Cアセチル), 21.5 (s, Cアセチル), 20.7 (s, Cアセチル), 20.6 (s, Cアセチル) ppm.
白色固体
C14H20ClNO8
分子量:365.76g.mol-1
Rf:0.63(EtOAc)
融点:122℃
収率:67%
【数1】
HRMS(ESI+):C14H21ClNO8の[M+H]+について計算されたm/zは366.0956、実測値は366.0950
FT-IR(ATR):1739、1659、1541、1348、1207、1033、860、729、593cm-1
【0131】
化合物7
【化20】
【0132】
市販の化合物4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒド(1.372g、8.21mmol、1.5当量)を新たに蒸留したMeCN(40mL)に溶解した。室温で、活性化された分子篩4Å(1.000g)及びAg2O(2.535g、10.94mmol、2.0当量)を添加した。室温で15分間、アルゴンによる陽圧雰囲気下で、反応混合物を撹拌した。化合物6(2.000g、5.47mmol、1.0当量)を添加した。遮光して室温で18時間、アルゴンによる陽圧雰囲気下で、反応混合物を撹拌し、TLC(EtOAc、UV254nm/モリブデン酸セリウムで明示された)によって監視した。完了後、反応混合物をセライトのパッドで濾過し、残留物をDCMで洗浄し、有機層を減圧下で蒸発させた。シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィー(グラジエント溶出100:0~0:100のDCM/EtOAc)により、粗生成物を精製して、化合物7(3.720g、定量的)を白色固体として得た。
1H NMR (300.13 MHz, CDCl3, 298.15 K): δH 9.97 (s, 1H, H14), 8.29 (s, 1H, H10), 8.05 (dd, J12-10 = 2.0 Hz, J12-13 = 8.2 Hz, 1H, H12), 7.49 (d, J13-12 = 8.2 Hz, 1H, H13), 5.94 (d, J7-2 = 6.5 Hz, 1H, H7), 5.81 (d, J1-2 = 7.5 Hz, 1H, H1), 5.70 (t, J3-2, 3-4 = 9.6 Hz, 1H, H3), 5.13 (t, J4-3, 4-5 = 9.2 Hz, 1H, H4), 4.34-3.17 (m, 2H, H5, H6a), 4.00 (m, 1H, H6b), 3.82 (m, 1H, H2), 2.10 (s, 3H, Hアセチル), 2.07 (s, 3H, Hアセチル), 2.06 (s, 3H, Hアセチル), 1.97 (s, 3H, Hアセチル) ppm.
13C NMR (75.48 MHz, CDCl3, 298.15 K): δC 188.7 (s, C14), 171.3 (s, Cアセチル), 170.6 (s, Cアセチル), 170.4 (s, Cアセチル), 169.6 (s, Cアセチル), 153.8 (s, C8), 141.4 (s, C9), 134.4 (s, C12), 131.5 (s, C11), 126.8 (s, C10), 119.5 (s, C13), 98.6 (s, C1), 72.6 (s, C5), 70.7 (s, C3), 68.5 (s, C4), 62.0 (s, C6), 55.7 (s, C2), 23.4 (s, Cアセチル), 20.8 (重複, Cアセチル, Cアセチル, Cアセチル,) ppm.
白色固体
C21H24N2O12
分子量:496.43g.mol-1
Rf:0.45(EtOAc)
融点:165℃
収量:適量
【数2】
HRMS(ESI+):C21H25N2O12の[M+H]+について計算されたm/zは497.1390、実測値は497.1407
FT-IR(ATR):1740、1217、1031cm-1
【0133】
化合物8
【化21】
【0134】
化合物7(4.719g、9.51mmol、1.0eq)をCHCl3(74mL)、i-PrOH(21mL)及びシリカゲル(7.608g)の混合物に溶解し、その溶液を0℃に冷却した。NaBH4(1.079g、28.53mmol、3.0当量)を添加し、0℃で15分間、アルゴンによる陽圧雰囲気下で、反応混合物を撹拌した。反応混合物を加温して、室温で10時間、アルゴンによる陽圧雰囲気下で撹拌し、TLC(EtOAc、UV254nm/モリブデン酸セリウムで明示された)によって監視した。完了後、反応混合物を0℃まで冷却した。1.0MのHCl溶液(15mL)及び塩水(30mL)で、有機層を注意深く洗浄した。有機層を分離して、Na2SO4で乾燥し、濾過した後、減圧下で蒸発させて、化合物8(5.055g、適量)を白色固体として得た。
1H NMR (300.13 MHz, CDCl3, 298.15 K): δH 7.78 (d, J10-12 = 2.1 Hz, 1H, H10), 7.46 (dd, J12-10 = 2.1 Hz, J12-13 = 8.6 Hz, 1H, H12), 7.35 (d, J13-12 = 8.5 Hz, 1H, H13), 5.85 (d, J7-2 = 8.2 Hz, 1H, H7), 5.55 (dd, J3-2, 3-4 = 9.2, 10.4 Hz, 1H, H3), 5.45 (d, J1-2 = 8.2 Hz, 1H, H1), 5.12 (t, J4-3, 4-5 = 9.5 Hz, 1H, H4), 4.71 (s, 2H, H14), 4.27 (dd, J6a-5 = 5.2 Hz, J6a-6b = 12.3 Hz, 1H, H6a), 4.20 (dd, J6b-5 = 2.7 Hz, J6b-6a = 12.2 Hz, 1H, H6b), 3.93 (dt, J2-1, 2-3, 2-7 = 8.1, 10.4 Hz, 1H, H2), 3.86 (m, 1H, H5), 2.67 (s, 1H, H15), 2.09 (s, 3H, Hアセチル), 2.06 (s, 3H, Hアセチル), 2.04 (s, 3H, Hアセチル), 1.98 (s, 3H, Hアセチル) ppm.
13C NMR (75.48 MHz, CDCl3, 298.15 K): δC 171.3 (s, Cアセチル), 170.7 (s, Cアセチル), 170.6 (s, Cアセチル), 169 6 (s, Cアセチル), 148.5 (s,C8), 141.8 (s, C9), 137.6 (s, C11), 132.0 (s, C12), 123.0 (s, C10), 121.5 (s, C13), 100.0 (s, C1), 72.4 (s, C5), 71.5 (s, C3), 68.8 (s, C4), 63.6 (s, C14), 62.1 (s, C6), 55.4 (s, C2), 23.4 (s, Cアセチル), 20.9 (s, Cアセチル), 20.8 (s, Cアセチル), 20.8 (s, Cアセチル) ppm.
白色固体
C21H26N2O12
分子量:498.44g.mol-1
Rf:0.28(EtOAc)
融点:186℃
収量:適量
【数3】
HRMS(ESI+):C21H26N2O12Naの[M+Na]+について計算されたm/zは521.1383、実測値は521.1389
FT-IR(ATR):1745、1661、1533、1364、1032、751cm-1
【0135】
化合物9
【化22】
【0136】
化合物8(1.317g、2.64mmol、1.0当量)を新たに蒸留したMeCN(20mL)に溶解した。Et3N(440μL、3.17mmol、1.2当量)及び市販の炭酸N,N'-ジスクシンイミジル(743mg、2.90mmol、1.1当量)を添加した。室温で24時間、アルゴンの陽圧雰囲気下で、反応混合物を撹拌し、TLC(EtOAc、UV254nm/モリブデン酸セリウムで明示した)によって監視した。完了後、有機層を減圧下で蒸発させて、粗生成物9を空気に非常に敏感な黄色の固体として得たが、これは不安定であるため、次の工程ですぐに使用した。更に特徴付けするため、一度、シリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィー(グラジエント溶出100:0~0:100のDCM/EtOAc)によって、粗生成物のバッチを精製して、純粋な化合物9を空気に非常に敏感な白色固体として得た。
1H NMR (300.13 MHz, CDCl3, 298.15 K): δH 7.82 (s, 1H, H10), 7.57 (d, J12-13 = 8.5 Hz, 1H, H12), 7.40 (d, J13-12 = 8.4 Hz, 1H, H13), 6.58 (d, J7-2 = 8.2 Hz, 1H, H7), 5.56 (d, J1-2 = 9.0 Hz, 1H, H1), 5.49 (d, J= 10.1 Hz, 1H, H3), 5.28 (s, 2H, H14), 5.10 (t, J4-3, 4-5 = 9.5 Hz, 1H, H4), 4.32-4.15 (m, 2H, H6a, H6b), 4.04-3.92 (m, 2H, H2, H5), 2.84 (s, 4H, H17), 2.08 (s, 3H, Hアセチル), 2.03 (s, 6H, Hアセチル), 1.95 (s, 1H, Hアセチル) ppm.
13C NMR (75.48 MHz, CDCl3, 298.15 K): δC 172.7 (s, Cアセチル), 170.9 (s, Cアセチル), 169.7 (s, Cアセチル), 168.9 (s, C16), 151.5 (s, C15), 150.1 (s, C8), 141.0 (s, C9), 134.2 (s, C12), 129.1 (s, C11), 125.6 (s, C10), 120.3 (s, C13), 99.2 (s, C1), 72.2 (s, C5), 71.3 (s, C3), 70.8 (s, C14), 68.6 (s, C4), 62.0 (s, C6), 55.0 (s, C2), 25.5 (s, C17), 23.0 (s, Cアセチル), 20.9 (s, Cアセチル), 20.8 (s, Cアセチル) ppm.
白色固体
C26H29N3O16
分子量:639.52g.mol-1
Rf:0.42(EtOAc)
HRMS(ESI+):C26H29N3O16Naの[M+Na]+について計算されたm/zは662.1446、実測値は662.1445
FT-IR(ATR):1706、1534、1369、1034、648cm-1
【0137】
化合物10
【化23】
【0138】
粗化合物9(1.040g、1.25mmol、5.0当量)を無水DMF(5mL)に溶解し、室温で15分間、アルゴンの陽圧雰囲気下で、溶液を撹拌した。市販の化合物アムホテリシンB(231mg、0.25mmol、1.0当量)及びEt3N(77μL、0.55mmol、2.2当量)を添加した。室温で23時間、遮光して、反応混合物を撹拌し、逆相TLC(15:85H2O/43:20で構成されたMeOH/MeCNの有機混合物、UV254nm/モリブデン酸セリウムで明示した)によって監視した。完了後、反応混合物をトルエンと共蒸発させた。粗生成物を超音波下でトルエンに溶解し、-18℃に置いた。沈殿物を濾過して、DCMで洗浄した後、減圧下で乾燥させて、化合物10(312mg、86%)を茶色固体として得た。
1H NMR (300.13 MHz, 2:1 DMSO-d6/MeOD, 298.15 K): δH 7.81 (d, J= 1.7 Hz, 1H, H9), 7.67-7.58 (m, 1H, H11), 7.41 (d,J= 8.7 Hz, 1H, H12), 7.23-7.05 (m, 2H, H7, H7'), 6.51-5.83 (m, 12H, H21''~H32''), 5.47-5.32 (m, 2H, H1, H33''), 5.28-5.13 (m, 2H, H37'', H4), 5.02 (s, 2H, H13), 4.95 (t,J= 9.5 Hz, 1H, H5), 4.45-4.35 (m, 2H, H1', H3), 4.35-3.92 (m, 9H, H2, H6a, H6b, H5', H3'' , H11'', H15'', H17'', H19'',), 3.65-3.51 (m, 2H, H2', H5''), 3.51-3.36 (m, 2H, H3', H4'), 3.26-3.12 (m, 2H, H8'', H9''), 3.12-2.99 (m, 1H, H35''), 2.36-2.24 (m, 1H, H34''), 2.24-2.06 (m, 2H, H2''), 2.00 (重複, 4H, Hアセチル, H16''), 1.96 (s, 3H, Hアセチル), 1.91 (s, 3H, Hアセチル), 1.78 (s, 3H, Hアセチル), 1.75-1.18 (m, 15H, H4'', H6'', H7'', H10'', H12'', H14'', H18'', H36''), 1.16 (d, J = 5.5 Hz, 3H, H6'), 1.10 (d, J= 6.3 Hz, 3H, H38''), 1.02 (d, J= 6.2 Hz, 3H, H40''), 0.90 (d, J= 7.1 Hz, 3H, H39'') ppm.
13C NMR (75.48 MHz MHz, 2:1 DMSO-d6/MeOD, 298.15 K): δC 171.4 (s, C1''), 170.8 (s, Cアセチル), 170.7 (s, Cアセチル), 170.4 (s, Cアセチル), 169.9 (s, Cアセチル), 156.5 (s, C14), 148.9 (s, C7), 141.2 (s, C8), 124.2 (s, C9), 137.2 (s, C33''), 137.1 (s, Cエチレン), 134.4 (s, Cエチレン), 134.3 (s, Cエチレン), 133.9 (s, Cエチレン), 133.8 (s, Cエチレン), 133.6 (s, C11), 133.2 (m, C10, Cエチレン), 133.0 (s, Cエチレン), 132.9 (s, Cエチレン), 132.7 (s, Cエチレン), 132.6 (s, Cエチレン), 132.0 (m, Cエチレン, Cエチレン), 129.6 (s, Cエチレン), 118.3 (s, C12), 99.5 (s, C1), 97.9 (s, C11''), 97.5 (s,C1'),78.0 (s, C35''), 75.7 (s, C3), 74.9 (s, C4'), 74.3 (s, C19''), 72.7 (s, C4), 72.1 (s, C5'), 70.6 (重複, C5'', C8'',C9'', C11''), 69.9 (s, C2'), 69.7 (s, C37''), 67.4 (s, C3''), 66.1 (重複, C15'', C17''), 64.4 (s, C13), 62.1 (s, C6), 57.5 (重複, C3', C16''), 53.7 (s, C2), 46.8 (s, C14''), 44.7 (重複, C4'', C10'', C12''), 43.2 (s, C34''), 42.4 (s, C2''), 36.1 (s, C18''), 35.6 (重複, C6'', C7'', C18''), 22.6 (s, Cアセチル), 20.6 (s, Cアセチル), 20.4 (s, Cアセチル), 20.4 (s, Cアセチル), 18.8 (s, C40''), 18.3 (s, C6'), 17.1 (s, C38''), 12.3 (s, C39'') ppm.
この13CのNMR帰属において、一部の原子は帰属していない。C36に対応する炭素のシグナルには、DMSO-d6のシグナルが重なっている。
茶色固体
C69H97N3O30
分子量:1448.53g.mol-1
Rf:0.41(逆相15:85 H2O/43:20で構成されたMeOH/MeCNの有機混合物)
融点:155℃
収率:86%
【数4】
HRMS(ESI+):C69H97N3O30Naの[M+Na]+について計算されたm/zは1470.6055、実測値は1470.6052
FT-IR(ATR):1722、1231、1044cm-1
【0139】
化合物1(プロドラッグ)
【化24】
【0140】
茶色固体
C63H91N3O27
分子量=1322.42.mol-1
Rf=0.37(逆相15:85 H2O/43:20で構成されたMeOH/MeCNの有機混合物)
融点=164℃(分解)
収量:適量
HRMS(ESI-):C63H90N3O27の[M-H]-について計算されたm/zは1320.5762、実測値は1320.5820
FT-IR(ATR):3250、1559、1401、1010cm-1
t1/2 aq,pH7.4,37℃>24時間
【0141】
化合物10(259mg、0.18mmol、1.0当量)を新たに蒸留したMeOH(1.8mL)とTHF(720μL)との混合物に溶解して、室温で15分間、アルゴンの陽圧雰囲気下で、溶液を撹拌した。K2CO3(124mg、0.90mmol、5.0当量)を添加した。遮光して、室温で22時間、反応混合物を撹拌し、逆相TLC(15:85 H2O/43:20で構成されたMeOH/MeCNの有機混合物、UV254nm/モリブデン酸セリウムで明示した)によって監視した。完了後、スルホン酸樹脂を添加して、室温で15分間、反応混合物を撹拌した。反応混合物を濾過して、樹脂をMeOHでよく洗浄した後、有機層を減圧下で蒸発させて化合物11(298mg、適量)をオレンジ色固体として得た。必要に応じて、分取液体クロマトグラフィー(LC preparative)で更に精製した
1H NMR (300.13 MHz, 2:1 DMSO-d6/CD3OD, 298.15 K): δH 7.82 (br, 1H), 7.76 (d, J= 8.9 Hz, 1H), 7.62 (d, J= 8.9 Hz, 1H), 7.43 (d, J= 8.9 Hz, 1H), 7.29-7.10 (m, 1H), 7.88 (d, J= 8.9 Hz, 1H), 6.53-6.20 (m, 10H), 6.20-6.01 (m, 4H), 5.99-5.84 (m, 2H), 5.49-5.39 (m, 1H), 5.38-5.31 (m, 1H), 5.25-5.14 (m, 2H), 5.12-5.07 (m, 1H), 5.04-4.99 (s, 1H), 4.83-4.73 (m, 3H), 4.68-4.61 (m, 2H), 4.48-4.36 (m, 3H), 4.27-4.17 (m, 2H), 4.11-3.99 (m, 2H), 2.75-2.70 (m, 1H), 2.32-2.24 (m, 2H), 2.19-2.14 (m, 1H), 2.08 (s, 1H), 1.78 (s, 3H, Hアセチル), 1.75-1.18 (m, 15H), 1.15 (d, J= 5.5 Hz, 3H), 1.11 (d, J= 6.2 Hz, 3H), 1.03 (d, J= 5.8 Hz, 3H), 0.91 (d, J= 6.9 Hz, 3H) ppm.
【0142】
(実施例2)
AmBプロドラッグの評価
- 材料と方法
酵素的放出及び水溶液中での安定性
タチナタマメ(Canavalia ensiformis)由来の市販のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼE.C. 3.2.1.52(22.8単位mg-1タンパク質、2.5M硫酸アンモニウム中の懸濁液、pH7.0)を使用して、in vitroで酵素加水分解を実施した。VWR(登録商標)Cooling Thermal Shake Touchを使用して、分析LCにより監視した。以下の表に従って、プロドラッグ1を酵素ととともにインキュベートした:
【0143】
【表1】
【0144】
抗真菌及び抗寄生虫活性(in vitro)
in vitroでの細胞増殖又は生存率の50%を阻害するのに必要な半最大阻害濃度(IC50)は、欧州委員会の抗菌薬感受性試験の勧告書(カンジダ属の種についてのプロトコルE.DEF 7.3.1)及び実験室についての認定された内部手順IICiMed(リーシュマニア属の種について)(Le Papeら、Acta Parasitologica 2002, 47, 79-81)に従って、培養液微量液体希釈法で測定した。
【0145】
使用した異なる菌株、分離株、及び細胞株を以下に列挙する:
- カンジダ・アルビカンス臨床株(IICiMed番号CAAL93)
- カンジダ・アルビカンス臨床株(IICiMed番号CAAL121)
- カンジダ・アルビカンス参照株SC5314(IICiMed番号CAAL146)
- リーシュマニア・メジャー(Leishmania major)参照分離株MHOM/IL/81/BNI(IICiMed番号LEMA1)
- A549細胞参照株、ATCC(登録商標)CCL-185(肺からの癌上皮細胞)
- HeLa細胞参照株
【0146】
増殖又は細胞生存率は、平底マイクロプレート上で実行され、最初は視覚的読み取りによって評価し、595nmでプレートの吸光度を測定するためにBio-Rad iMarkマイクロプレート吸光度リーダーを使用して、又はハロゲン光源を備えたパッカードフルオロカウントマイクロプレートリーダーBF10000により、530nmで励起した後、590nmで蛍光を測定する、レサズリン塩細胞生存率アッセイ(resazurin salt cell viability assay)を使用して、常に確認された。1種又はいくつかの種類の株について、それぞれ3回ずつ実行された少なくとも2つの独立した実験から計算された平均(±は利用可能な場合は平均SEMの標準誤差、)を、結果は示す。対応する病原体ごとに、値をμMで表す。
【0147】
結果
- 酵素的放出の評価
プロドラッグ1からのAmBの放出は、プロドラッグ1を対象となる酵素とインキュベートすることによって確認した。したがって、リアルタイム監視によって、対象となる酵素の存在下における放出動態と、この酵素の非存在下における良好な水溶液中での安定性を視覚化できた。放出の動態を図3に示す。
【0148】
- in vitroにおける細胞評価
プロドラッグは、さまざまな細胞型、出芽胞子又は糸状の酵母で試験し、抗真菌活性を測定して、リーシュマニアの前鞭毛虫型及び細胞内無鞭毛型で試験し、抗原虫活性を測定して、最後にヒト細胞で細胞毒性を検出した。結果を以下のTable2(表2)に示す。
【0149】
【表2】
【0150】
化合物1は、C.アルビカンス又はL.メジャー(L. major)に対してアムホテリシンBと同レベルの活性を示した。化合物1は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス及びクリプトコッカス・ガッティに対しても活性を示した。注目すべきは、化合物1がHela細胞に対して毒性が低かったことである。更に、化合物1は、肺細胞系A549及びヒトPBMCに対して毒性を示さなかった(CI50>50μM)。
【0151】
(実施例3)
in vivoにおけるAmBプロドラッグの抗真菌活性の評価
・材料と方法
30mg/kgのプレドニゾロンを負荷の1日前に皮下注射することにより、マウスを免疫抑制した。0日目に、C.アルビカンスの出芽型分生子にマウスを静脈内感染させた。感染の1時間後、1mg/体重kgのFungizone(登録商標)、Ambisome(登録商標)及びAmBプロドラッグ(化合物1、図1A)を1日1回、連続3日間、マウスの腹腔内に処置した。対照群には、滅菌蒸留水(ビヒクル)を投与した。接種後、14日間生存を監視した。コホートの違いは、ログランク検定によって分析した。
【0152】
14日目に、すべてのマウスを安楽死させ、それらの腎臓を摘出し、秤量した。
【0153】
組織をホモジナイズして、無菌生理食塩水で10~1000倍に段階希釈した後、サブローデキストロース寒天上に塗布して、48時間インキュベートし、CFUの数を測定した。組織の真菌負荷(fungal burden)は、CFUの対数の平均/組織のグラムとして表した。腎臓の平均CFUの違いは、事後テューキー検定による一方向ANOVAを使用して、ビヒクル対照と比較した。0.05未満のA P値は、統計的に有意であると考えた。
【0154】
・結果
図1は、ビヒクルで治療したマウスが5日目より前に死亡したことを示している。すべての治療(Fungizone(登録商標)(アムホテリシンB)、Ambisome(登録商標)(リポソーム組成物中のAmB)、及び本発明のAmBプロドラッグ(図4A及び図4BではGOGと呼ばれる)は、統計的に生存を改善した(p>0.001)。使用した治療の間に統計的差異は観察されなかった。腎臓の真菌負荷に関して、AmBプロドラッグで治療したマウスは、プラセボを投与した対照群と比較して負荷の有意な減少を示した(p<0.0079)。使用した治療の間で統計的差異は測定されなかった(p>0.05)。言い換えると、これらのデータは、本発明のAmBプロドラッグが少なくともAmB薬物と同程度に有効であることを示した。
【0155】
(実施例4)
ハチノスツヅリガモデルにおけるAmBプロドラッグの評価
・ハチノスツヅリガモデルでの毒性の評価
幼虫モデルは、活性物質の固有毒性を評価するための迅速かつ実用的なツールである。モデルの更なる詳細については、Le Papeら、2019, Int J Infect Dis. 2019 Apr;81:85-90を参照。AmB、AmBプロドラッグ(化合物1)、及びビヒクルとともに、幼虫をインキュベートした。毒性に関する結果を図5Aに示す。2mg.kg-1の用量で、AmBは非常に毒性が高く、治療群の生存率は40%であった。比較すると、同等の用量では、そのプロドラッグの毒性は、はるかに低く、生存割合は80%であった。この統計的に有意な差は、ヒト細胞でのin vitroの結果を裏付け、カルバメートプロドラッグ形態におけるAmBの毒性の低下を示した。
【0156】
・ハチノスツヅリガモデルにおけるin vivo抗クリプトコッカス活性の評価
このモデルは、スクリーニングモデルを構成し、抗真菌分子の活性を評価するためのマウスモデルよる従来の研究に代わる優れた代替手段でもある。本発明のAmBプロドラッグ(化合物1)について、クリプトコッカス・ネオフォルマンス及びCr.ガッティ(Cr. gattii)に対する抗真菌効果を評価した。図5Bは、クリプトコッカス・ネオフォルマンスに感染し、アムホテリシンB又はそのカルバメートN-アセチル-D-グルコサミンプロドラッグで治療されたハチノスツヅリガの生存曲線を示す。治療しない場合、すべての幼虫はそれぞれ6日及び5日後に死亡した。クリプトコッカス・ネオフォルマンスの場合、2mg.kg-1の用量でアムホテリシンBは50%の生存率をもたらし、そのプロドラッグも同等の用量で30%の生存割合を伴って有効であった。
【0157】
C.ガッティの場合、アムホテリシンB及びそのプロドラッグは、それぞれ30%及び20%の生存率をもたらした。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】