IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティーの特許一覧

特表2023-527359改変インターロイキン-10ポリペプチド及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-28
(54)【発明の名称】改変インターロイキン-10ポリペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/24 20060101AFI20230621BHJP
   C07K 14/54 20060101ALI20230621BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230621BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230621BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230621BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230621BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230621BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230621BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230621BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230621BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20230621BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230621BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230621BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230621BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20230621BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230621BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230621BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230621BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20230621BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230621BHJP
   A61P 37/06 20060101ALN20230621BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20230621BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20230621BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20230621BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C12N15/24 ZNA
C07K14/54
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 K
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/76
A61P35/00
A61K38/20
A61K47/60
A61K47/62
A61K47/68
A61K39/395 Y
A61K39/395 W
A61K48/00
A61P43/00 107
A61P43/00 105
A61K47/46
A61K35/76
A61P37/06
A61P29/00 101
A61P29/00
A61P19/02
A61P3/10
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572570
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 US2021034580
(87)【国際公開番号】W WO2021243057
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/031,186
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ケナン クリストファー ガーシア
(72)【発明者】
【氏名】ロバート アンドリュー サクストン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG03
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA94
4C076CC03
4C076CC04
4C076CC09
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE57
4C076EE59
4C076EE59M
4C076FF02
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA41
4C084BA42
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA12
4C084NA03
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA961
4C084ZB031
4C084ZB081
4C084ZB111
4C084ZB151
4C084ZB211
4C084ZB221
4C084ZB261
4C084ZC351
4C085AA35
4C085BB42
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA03
4C087NA12
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA96
4C087ZB03
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB15
4C087ZB21
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZC35
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA02
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は概して、インターロイキン-10(IL-10)に媒介されるシグナル伝達を調節するための組成物及び方法に関する。本開示は特に、インターロイキン-10受容体サブユニットベータ(IL-10Rb)に対して改変された結合親和性を有する、新規IL-10ポリペプチドバリアントを提供する。また、このようなIL-10ポリペプチドバリアントを製造するために有用な組成物及び方法、並びに、IL-10媒介シグナル伝達を調節するための、及び/又は、IL-10に媒介されるシグナル伝達の撹乱と関連した状態の治療のための、方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列を有するインターロイキン-10(IL-10)ポリペプチドに対して、少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、
さらに、配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X24、X28、X74、X90、X92、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つ又は複数のアミノ酸置換を含む、
組換えポリペプチド。
【請求項2】
前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、配列番号1又は配列番号16のX25及びX96からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである、請求項1に記載の組換えポリペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、さらに配列番号1又は配列番号16のX21、X22、X32、及びX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項4】
前記組換えポリペプチドが、前記1つ又は複数のアミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10受容体ベータ(IL-10Rβ)に対する改変された結合親和性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項5】
前記組換えポリペプチドが、前記基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する低下した結合親和性を有する、請求項4に記載の組換えポリペプチド。
【請求項6】
前記組換えポリペプチドが、前記基準IL-10ポリペプチドと比べ、STAT3シグナル伝達を刺激する能力が低下している、請求項4~5のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項7】
前記組換えポリペプチドが、前記基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する増加した結合親和性を有する、請求項4に記載の組換えポリペプチド。
【請求項8】
前記組換えポリペプチドが、前記基準IL-10ポリペプチドとの比較において、IL-10を介した下流シグナル伝達の細胞型偏向性シグナル伝達(cell-type biased signaling)をもたらす、請求項4~7のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項9】
前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、アラニン置換、アスパラギン酸置換、ヒスチジン置換、グルタミン酸置換、リジン置換、セリン置換、トリプトファン置換、チロシン置換、バリン置換、及びこれらのいずれかの組み合わせ、からなる群より独立に選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項10】
前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、配列番号1又は配列番号16の、D25、H14、N18、R24、D28、E74、H90、N92、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである、請求項1~9のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項11】
前記1つ又は複数のアミノ酸置換が、配列番号1又は配列番号16のD25及びE96からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである、請求項10に記載の組換えポリペプチド。
【請求項12】
前記アミノ酸配列が、さらに配列番号1又は配列番号16のN21、M22、R32、及びS93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む、請求項10~11のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項13】
配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:
a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;
b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;
c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;
d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;
e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び
f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;
に対応するアミノ酸置換を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項14】
配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:
a)D25A;
b)D25K;
c)E96A;
d)E96K;
e)D25A/E96A;
f)N21A/R104A;
g)N21A/D25A;
h)N21A/D25A/E96A;及び
i)N21A/M22A/D25A;
に対応するアミノ酸置換を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項15】
請求項1~14及び23のいずれか1項のポリペプチドのアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んだポリペプチドをコードする核酸配列を含む、組換え核酸分子。
【請求項16】
前記核酸配列が、異種核酸配列に作動可能に連結している、請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
前記核酸分子が、発現カセット又は発現ベクターに組み込まれている、請求項15~16のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項18】
a)請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;及び/又は
b)請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;
を含む、組換え細胞。
【請求項19】
前記組換え細胞が真核細胞である、請求項18に記載の組換え細胞。
【請求項20】
前記真核細胞が哺乳類細胞である、請求項19に記載の組換え細胞。
【請求項21】
少なくとも1つの、請求項18のいずれか1項に記載の組換え細胞;及び
培地;を含む、細胞培養物。
【請求項22】
a)1つ又は複数の、請求項18のいずれか1項に記載の組換え細胞を提供すること;及び
b)前記1つ又は複数の組換え細胞を、培地中で、前記細胞が前記組換え核酸分子にコードされるポリペプチドを産生するように培養すること;
を含む、ポリペプチドの製造方法。
【請求項23】
製造された前記ポリペプチドを単離及び/又は精製することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
製造された前記ポリペプチドを構造的に改変することによって半減期を延長することをさらに含む、請求項22~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記改変が、ヒトFc抗体断片への融合、アルブミンへの融合、及びPEG化からなる群より選択される1つ又は複数の改変を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項22のいずれか1項に記載の方法によって製造される、組換えポリペプチド。
【請求項27】
薬理学的に許容される担体;並びに、
a)請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;
b)請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;及び/又は
c)請求項18のいずれか1項に記載の組換え細胞;
を含む、医薬組成物。
【請求項28】
前記組成物が、請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;及び、薬理学的に許容される担体;を含む、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物が、請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;及び、薬理学的に許容される担体;を含む、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記組成物が、請求項16~20のいずれか1項に記載の組換え細胞;及び、薬理学的に許容される担体;を含む、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項31】
対象におけるIL-10媒介シグナル伝達を調節する方法であって、前記対象に、
a)請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;
b)請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;
c)請求項18~20のいずれか1項に記載の組換え細胞;及び/又は
d)請求項27~30に記載の医薬組成物;
を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項32】
健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、前記対象に、
a)請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;
b)請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;
c)請求項18~20のいずれか1項に記載の組換え細胞;及び/又は
d)請求項27~30のいずれか1項に記載の医薬組成物;
を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項33】
前記投与組成物が、前記1つ又は複数のアミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドとの比較において、IL-10を介した下流シグナル伝達の細胞型偏向性シグナル伝達をもたらす、請求項31~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞型偏向性IL-10シグナル伝達が、B細胞、T細胞、及びNK細胞におけるSTAT1又はSTAT3媒介炎症誘発機能の低下を含み、その一方で、単球及びマクロファージにおけるSTAT3媒介抗炎症機能を実質的に保持する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記STAT3媒介シグナル伝達が、遺伝子発現アッセイ、ホスホフローシグナリング(phospho-flow signaling)アッセイ、及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)からなる群より選択されるアッセイにより測定される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記STAT3媒介炎症誘発機能が、サイトカイン産生、ケモカイン産生、免疫細胞増殖、及び免疫細胞動員からなる群より選択される、請求項34~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記STAT3媒介炎症誘発機能が、約20%~約100%低下する、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記投与組成物が、前記対象における、IFN-γ、グランザイムB、グランザイムA、パーフォリン、TNF-α、GM-CSF、及びMIP1αから選択される炎症誘発性遺伝子の発現を誘導する能力を低下させる、請求項32~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記投与組成物が、CD8+ T細胞内のインターフェロンガンマ(INFγ)の発現を刺激する、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記健康状態が癌である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象におけるIL-10媒介シグナル伝達を調節するための、又は、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための、キットであって、系が、
a)請求項1~14及び23のいずれか1項に記載の組換えポリペプチド;
b)請求項15~17のいずれか1項に記載の組換え核酸;
c)請求項18~20のいずれか1項に記載の組換え細胞;及び/又は
d)請求項27~30のいずれか1項に記載の医薬組成物;
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された契約番号AI51321の下で政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2020年5月28日に出願された米国仮特許出願第63/031,186号に対する優先権の利益を主張するものである。上述の出願の開示は、いずれの図面も含め、その全体が参照により明示的に本明細書に援用されるものとする。
【0003】
配列表の援用
添付の配列表における材料は、参照により本願に援用されるものとする。078430_520001WO_Sequence_Listing.txtという名前の添付の配列表テキストファイルは、2021年5月20日に生成された53KBのものである。
【0004】
本開示は概して、インターロイキン-10(IL-10)に媒介されるシグナル伝達を調節するための組成物及び方法に関する。本開示は特に、インターロイキン-10受容体サブユニットベータ(IL-10Rβ)に対して改変された結合親和性を有する、新規IL-10ポリペプチドバリアントを提供する。また、このようなIL-10ポリペプチドバリアントを製造するために有用な組成物及び方法、並びに、IL-10媒介シグナル伝達を調節するための、及び/又は、IL-10に媒介されるシグナル伝達の撹乱と関連した状態の治療のための、方法も提供する。
【背景技術】
【0005】
バイオ医薬、又は、健康状態及び疾患の治療のための治療用タンパク質を含む医薬製剤の利用は、製薬及びバイオテクノロジー企業の中核的な戦略の一つである。例えば、サイトカインファミリーのいくつかのメンバーは癌の治療に有効であることが報告されており、癌免疫療法の開発において主要な役割を担っている。したがって、サイトカインファミリーは、その投与とバイオアシミレーション(bio-assimilation)を改善するために多大な臨床研究と努力が投入されてきた。
【0006】
しかし、サイトカイン類を含む既存の治療アプローチの臨床的な成果は限定的である。これらのアプローチの制約は、サイトカインのオフターゲット毒性と無効性とに起因することが多い。その大きな原因は、サイトカイン類が望ましい応答細胞(responder cells)及び望ましくない応答細胞の両者に受容体を持ち、それら細胞が互いにバランスを取り合って望ましくない副作用をもたらすという事実にある。近年、有望な戦略としてサイトカインエンジニアリングが登場した。この戦略では、サイトカイン類の調整により、より望ましい活性と低下した毒性とを有する組換えサイトカインを実現するために、様々な試みが行われている。
【0007】
特に、インターロイキン-10(IL-10)は、癌及び自己免疫疾患などのヒトの疾患において調節不全となっていることが多い、重要な抗炎症性サイトカインであると考えられてきた。組換えIL-10の薬物としての使用は長年にわたって興味を持たれてきたが、IL-10は高度な多面発現性を示し、多くの異なった免疫細胞サブタイプに作用し、互いに対立的である場合も多い種々の生物学的効果を生じさせる。自己免疫疾患に関しては、IL-10治療は、マウスモデルにおいて高い効果をもたらすことができる。これは、IL-10が単球及びマクロファージによる炎症誘発性サイトカイン産生及びMHCクラスII発現を抑制する能力によるものである。しかし、IL-10はまた、CD8+ T細胞による、炎症誘発性サイトカインであるインターフェロン-ガンマ(INFγ)の産生も刺激する。これは抗炎症効果を打ち消すため、IL-10の治療的及び臨床的有用性は限定的である。
【0008】
したがって、治療薬として使用するためのIL-10の特性を改善する、さらなるアプローチに対する需要が存在する。特に、何らかの下流機能や作用を他のものよりも選択的に活性化しうるIL-10のバリアント、例えば、IL-10の多くの有益な特性を保持しつつも、その公知の炎症誘発性副作用を持たず、抗腫瘍剤又は免疫調節剤として、癌、自己免疫疾患、及び炎症性疾患などの各種関連疾患の治療において改善された使用が可能なバリアント、に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【0009】
本開示は概して、免疫学の分野、特に、インターロイキン-10(IL-10)に媒介されるシグナル伝達経路の調節を、それを必要とする対象において行うための、組成物及び方法に関する。理論に拘束されるものではないが、より詳細に以下に説明するように、IL-10媒介シグナル伝達は、STAT3媒介シグナル伝達の部分的アゴニスト作用によって調節されうる。より具体的には、一部実施形態において、本開示は、インターロイキン-10受容体サブユニットベータ(IL-10Rβ)などのIL-10の天然リガンドへの結合親和性を調節した、新しい種類のIL-10ポリペプチドバリアントを提供する。本開示のいくつかの実施形態は、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達をもたらすIL-10部分アゴニストを提供する。本開示のいくつかの実施形態は、細胞傷害性CD8 T細胞機能を刺激することなく単球及びマクロファージの活性化/サイトカイン産生を抑制することにより、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達をもたらすIL-10部分アゴニスト、例えば、ヒトPBMCにおいて強力な単球偏向性シグナル伝達効果を示すIL-10部分アゴニストを提供する。本明細書でより詳細に議論されるように、これらのIL-10部分アゴニスト性バリアントは、IL-10の多面発現性を克服し、改善された治療可能性を有することができる。本開示は、また、このようなIL-10ポリペプチドバリアントを製造するために有用な組成物及び方法、対象におけるIL-10媒介シグナル伝達を調節するための方法、並びに、受容体IL-10Rβの下流のシグナル伝達の撹乱と関連した状態の治療のための方法も提供する。
【0010】
一態様において、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列を有するインターロイキン-10(IL-10)ポリペプチドに対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含み、さらに、(b)配列番号1のX25、X14、X18、X24、X28、X74、X90、X92、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位の、1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む、組換えポリペプチドが本明細書において提供される。
【0011】
開示される組換えポリペプチドの非限定的な好ましい実施形態は、次の特徴のうちの1つ又は複数を含みうる。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;並びに、(b)配列番号1又は配列番号16のX25及びX96からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位における、1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、さらに、配列番号1のX21、X22、X32、及びX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X21、X22、X24、X28、X32、X74、X90、X92、X93、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、前記1つ又は複数のアミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10受容体ベータ(IL-10Rβ)に対する改変された結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する低下した結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、基準IL-10ポリペプチドと比べ、STAT3シグナル伝達を刺激する能力が低下している。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、基準IL-10ポリペプチドの結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する増加した結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、基準IL-10ポリペプチドとの比較において、IL-10を介した下流シグナル伝達の細胞型偏向性シグナル伝達(cell-type biased signaling)をもたらす。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記1つ又は複数のアミノ酸置換は、アラニン置換、アルギニン置換、アスパラギン酸置換、ヒスチジン置換、グルタミン酸置換、リジン置換、セリン置換、トリプトファン置換、及びそのいずれかの組み合わせ、からなる群より独立に選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記1つ又は複数のアミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、D25、H14、N18、R24、D28、E74、H90、N92、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のN21、M22、R32、及びS93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)D25A;(b)D25K;(c)E96A;(d)E96K;(e)D25A/E96A;(f)N21A/R104A;(g)N21A/D25A;(h)N21A/D25A/E96A;及び(i)N21A/M22A/D25A;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。
【0015】
一態様において、本開示のいくつかの実施形態は組換え核酸分子に関し、核酸は、本開示のポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸配列は、異種核酸配列に作動可能に連結している。いくつかの実施形態において、核酸分子は、発現カセット又は発現ベクターに組み込まれている。
【0016】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は組換え細胞に関し、組換え細胞は、(a)本開示の組換えポリペプチド;及び/又は(b)本開示の組換え核酸;を含む。いくつかの実施形態において、組換え細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態において、真核細胞は哺乳類(例えばヒト)細胞である。関連する一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、少なくとも1つの本開示の組換え細胞及び培地を含む、細胞培養物に関する。
【0017】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、ポリペプチドを製造するための方法に関し、方法は、(a)1つ又は複数の本開示の組換え細胞を提供すること;及び(b)前記1つ又は複数の組換え細胞を、培地中で、細胞が組換え核酸分子にコードされるポリペプチドを産生するように培養すること;を含む。いくつかの実施形態において、方法は、さらに、製造されたポリペプチドを単離及び/又は精製することを含む。いくつかの実施形態において、方法は、さらに、製造されたポリペプチドを構造的に改変することによって半減期を延長することを含む。いくつかの実施形態において、改変は、ヒトFc抗体断片への融合、アルブミンへの融合、及びPEG化からなる群より選択される1つ又は複数の改変を含む。
【0018】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、薬理学的に許容される担体と、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;及び(c)本開示の組換え細胞;のうちの1つ又は複数と、を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の組換えポリペプチド及び薬理学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示のポリペプチドをコードする核酸配列を含んだ組換えウイルスベクター、及び薬理学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示のポリペプチドをコードする核酸を含んだ組換え細胞、及び薬理学的に許容される担体を含む。
【0019】
一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、対象におけるIL-10媒介シグナル伝達の調整のための方法であって、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;(c)本開示の組換え細胞;(d)本開示の核酸を含む組換えウイルス又は非ウイルスベクター;及び(e)本開示の医薬組成物;のうちの1つ又は複数を含んだ組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0020】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;(c)本開示の組換え細胞;(d)本開示の核酸を含む組換えウイルス又は非ウイルスベクター;及び(e)本開示の医薬組成物;のうちの1つ又は複数を含んだ組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、前記1つ又は複数のアミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドとの比較において、IL-10を介した下流シグナル伝達の細胞型偏向性シグナル伝達をもたらす。いくつかの実施形態において、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達は、B細胞、T細胞、及びNK細胞におけるSTAT1又はSTAT3媒介炎症誘発機能の低下を含み、その一方で、単球及びマクロファージにおけるSTAT3媒介抗炎症機能を実質的に保持する。いくつかの実施形態において、STAT3媒介シグナル伝達は、遺伝子発現アッセイ、ホスホフローシグナリング(phospho-flow signaling)アッセイ、及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)からなる群より選択されるアッセイにより測定される。いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘発機能は、サイトカイン産生、ケモカイン産生、免疫細胞増殖、及び免疫細胞動員からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘発機能は、約20%~約100%低下する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、対象における、IFN-γ、グランザイムB、グランザイムA、パーフォリン、TNF-α、GM-CSF、及びMIP1αから選択される炎症誘発性遺伝子の発現を誘導する能力を低下させる。いくつかの実施形態において、投与組成物は、CD8+ T細胞内のインターフェロンガンマ(INFγ)の発現を刺激する。いくつかの実施形態において、健康状態は癌である。いくつかの実施形態において、健康状態は自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、健康状態は慢性感染症である。
【0021】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、対象におけるIL-10媒介シグナル応答を調節するための、又は、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための、キットであって、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;(c)本開示の組換え細胞;及び(d)本開示の医薬組成物;のうちの1つ又は複数を含むキットに関する。
【0022】
上述の概要は単なる例証にすぎず、何らかの制限を意図したものではない。本明細書に記載の例証としての実施形態及び特徴以外にも、本開示のさらなる態様、実施形態、目的、及び特徴が、図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲から充分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは、IL-10、IL-10Rα、及びIL-10Rβを含む、IL-10受容体複合体の分子モデルの上面図である。 図1Bは、IL-10、IL-10Rα、及びIL-10Rβを含む、IL-10受容体複合体の分子モデルの側面図である。
【0024】
図2A-B】図2Aは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10、IL-10Rα、及びIL-10Rβを含む、IL-10/IL-10Rα/IL-10Rβ三元複合体の図。水素結合及び塩橋(salt-bridges)を黒い点線で示す。親和性成熟した(affinity matured)IL-10(スーパー10(super-10))における変異残基をイタリックで示す。 図2Bは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10、IL-10Rα、及びIL-10Rβを含む、IL-10/IL-10Rα/IL-10Rβ三元複合体の図。水素結合及び塩橋を黒い点線で示す。親和性成熟したIL-10(スーパー10)における変異残基をイタリックで示す。
図2C-E】図2Cは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10/IL-10Rβ結合界面をクローズアップした図。水素結合及び塩橋を黒い点線で示す。親和性成熟したIL-10(スーパー10)における変異残基をイタリックで示す。 図2Dは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10/IL-10Rβ結合界面をクローズアップした図。水素結合及び塩橋を黒い点線で示す。親和性成熟したIL-10(スーパー10)における変異残基をイタリックで示す。 図2Eは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10/IL-10Rβ結合界面をクローズアップした図。水素結合及び塩橋を黒い点線で示す。親和性成熟したIL-10(スーパー10)における変異残基をイタリックで示す。
図2F図2Fは、IL-10による受容体結合のための構造的基盤を説明する実験結果の、模式的な概略である。IL-10Rβ界面の変異はIL-10シグナル伝達活性を低下させる。WT IL-10又は図示されたバリアントで20分間刺激し、フローサイトメトリーによって分析された、Daudi細胞におけるホスホ-Y705-STAT3の用量反応曲線。データは2回の独立した反復における平均±SDであり、WT IL-10の極大シグナルに対する百分率として示す。
【0025】
図3A図3Aは、IL-10Rβ親和性のチューニングによって細胞型間で異なったIL-10シグナル伝達の可塑性(signaling plasticity)が見られることを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10Rβ結合変異体は、Daudi及びTHP-1細胞において異なったシグナル応答を示す。細胞株を100nMのIL-10又は図示された変異体で20分間処理し、フローサイトメトリーで分析した。データは2回の独立した反復における平均±SDである。
図3B-C】図3Bは、IL-10Rβ親和性のチューニングによって細胞型間で異なったIL-10シグナル伝達の可塑性が見られることを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10ヘリックスα1及びα3の図に、高親和性スーパー10及び部分アゴニスト10-DE(D25A/E96A二重変異体)における変異残基を示す。 図3Cは、IL-10Rβ親和性のチューニングによって細胞型間で異なったIL-10シグナル伝達の可塑性が見られることを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。図3Dに示すS字用量反応曲線から算出した、ホスホ-Y705-STAT3に対する、正規化したEmax値。データは、3回の反復における平均±SDである。
図3D図3Dは、IL-10Rβ親和性のチューニングによって細胞型間で異なったIL-10シグナル伝達の可塑性が見られることを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。L-10変異体「スーパー10」及び「10-DE」は、細胞型間で異なったシグナリングプロファイルを示す。WT IL-10、スーパー10、D25A/E96A変異体(10-DE)で20分間刺激し、フローサイトメトリーにより分析した、図示された細胞株におけるホスホ-Y705-STAT3の用量反応曲線。データは3回の反復における平均±SDであり、その細胞株におけるWT IL-10の極大シグナルに対する百分率として示す。
図3E図3Eは、IL-10Rβ親和性のチューニングによって細胞型間で異なったIL-10シグナル伝達の可塑性が見られることを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10シグナル伝達の可塑性はIL-10Rβ発現と相関する。フローサイトメトリーにより分析した、図示された細胞株上での、表面染色されたIL-10Rα(左)及びIL-10Rβ(右)の蛍光強度を示すヒストグラム。
【0026】
図4A図4Aは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10Rβはヒト初代免疫細胞において異なった発現を示す。図6Aに示すようなゲーティング戦略を用いてフローサイトメトリーにより分析された、ヒトPBMCにおける図示された細胞型上のIL-10Rβの蛍光強度を示すヒストグラム。
図4B図4Bは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10バリアント10-DEは、ヒトPBMCにおいて単球偏向性シグナル伝達を生じさせる。10nMのWT IL-10又は図示したバリアントで処理したヒトPBMCの図示した細胞型における、正規化されたホスホ-Y705-STAT3シグナル応答を、フローサイトメトリーにより分析したもの。データは2回の反復における平均±SDであり、異なるドナーのPBMCを用いて3回行われた代表的な実験のものである。
図4C-D】図4Cは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。10-DEはバルク(bulk)PBMCにおける炎症性サイトカイン産生を抑制する。PBMCを1nMのLPS単独で、又はさらに10nMのWT IL-10、10-DE、もしくはスーパー10を添加して、24時間刺激した。上清におけるTNF-α、IL-6、及びIL-8の濃度をELISAによって分析した。データは3回の独立した反復における平均±SEMである。 図4Dは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。10-DEは、活性化された単球上でMHC-II表面発現を下方制御する。PBMCを1nMのLPS、及びPBS、10nMのWT IL-10、10-DE、又はスーパー10で24時間刺激し、単球(CD14+)の表面HLA-DR発現の分析をフローサイトメトリーによって行った。
図4E図4Eは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。10-DEは、ヒト単球由来マクロファージにおける炎症性サイトカイン産生を抑制する。単離されたヒトマクロファージを、1nMのLPS単独で、又はさらに10nMのWT IL-10、10-DE、もしくはスーパー10を添加して、24時間刺激した。上清におけるTNF-α、IL-6、及びIL-8の濃度をELISAによって分析した。データは3回の独立した反復における平均±SEMである。
図4F図4Fは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。10-DEは、CD8+ T細胞によるIFN-γ又はグランザイムB産生を増強しない。ヒトPBMC由来の、あらかじめ活性化されたCD8+ T細胞を、抗CD3抗体単独で、又はそれと10nMのWT IL-10、10-DE、もしくはスーパー10との組み合わせで、3時間刺激した。上清におけるIFN-γ及びグランザイムBの濃度をELISAによって分析した。データは3回の独立した反復における平均±SEMである。
図4G図4Gは、例示された骨髄偏向性部分アゴニストがIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを説明する実験結果を、模式的に概説したものである。IL-10バリアント10-DEの細胞型偏向性シグナル伝達が、どのようにIL-10の免疫抑制機能と免疫賦活機能とを切り離すかを示すモデル。
【0027】
図5A図5Aは、ランダム化の標的とした7つの残基、ライブラリー生成における各部位のコドン、並びに、クローン5.1、5.2、及び5.3(それぞれ配列番号2、3、及び4)のそれぞれの位置に存在するアミノ酸を示す表である。
図5B-D】図5Bは、親和性成熟したIL-10バリアントが、IL-10Rβに対して強化された結合を示すことを示す図である。SA-647-IL-10Rβの、WT単量体IL-10又は親和性成熟クローンを提示する酵母に対する結合力価測定。酵母は500nMの未標識IL-10Rαとあらかじめ結合させた。 図5Cは、固相化された親和性成熟IL-10クローン5.1単独(図5F)に対する可溶性IL-10Rβの結合を示す表面プラズモン共鳴センソグラム(sensogram)である。K:解離定数。 図5Dは、飽和可溶性IL-10Rαとあらかじめ結合させた(図5D)、固相化された親和性成熟IL-10クローン5.1に対する、可溶性IL-10Rβの結合を示す表面プラズモン共鳴センソグラムである。K:解離定数。
【0028】
図6A図6Aは、図4A~4BにおけるPBMCホスホ-フローサイトメトリーシグナリング実験のゲーティング戦略である。
図6B図6Bは、WT IL-10又は10-DEで20分間刺激したヒトPBMCにおける、ホスホ-Y705-STAT3の用量反応曲線である。分析はフローサイトメトリーで行った。データは2回の反復における平均±SDであり、WT IL-10の極大シグナルに対する百分率として示す。異なるドナーのPBMCで少なくとも3回行った代表的な実験を示す。
【0029】
図7A-D】図7Aは、LPS及び図示したIL-10バリアントで処理したバルクヒトPBMCからの、IL-1βの濃度である。測定はELISAによって行った(平均±SEM、n=3、N=2、**P<0.01、Studentの両側t検定)。 図7Bは、LPS単独によって、又はそれと10nMの図示したIL-10バリアントとの組み合わせによって活性化した単球上の表面HLA-DRを、フローサイトメトリーによって分析したものである(平均±SD、n=4、N=2)。 図7Cは、LPS単独によって、又はそれと10nMの図示したIL-10バリアントとの組み合わせによって活性化した単球上のCD86表面発現を、フローサイトメトリーによって分析したものである(平均±SD、n=4、N=2)。 図7Dは、抗CD3抗体単独で、又はそれと図示したIL-10バリアントとの組み合わせで、72時間刺激したバルクPBMCからのIFN-γの濃度である。測定はELISAによって行った(平均±SEM、n=3、N=3、**P<0.01、Studentの両側t検定)。
図7E図7Eは、LPS(15mg/kg)と、PBS、WT IL-10、又は10-DEとの組み合わせの腹腔内注射後の生存である(n=8マウス、N=2、**P<0.01、ログランクMantel-Cox検定)。
図7F-G】図7Fは、LPS(4mg/kg)及び図示したIL-10バリアントの注射後のマウス血清における、TNF-α及びIL-6の濃度である。測定はELISAによって行った(平均±SEM、n=3、N=2、P<0.05、**P<0.01、Studentの両側t検定)。 図7Gは、LPS(4mg/kg)及び図示したIL-10バリアントの注射後のマウス血清における、ハプトグロビンの濃度である。測定はELISAによって行った(平均±SEM、n=3、N=2、P<0.05、**P<0.01、Studentの両側t検定)。
【0030】
図8A-B】図8Aは、10nMのWT又は変異IL-10で処理した初代免疫細胞におけるホスホ-STAT1活性化を、フローサイトメトリーによって分析したものである(平均±SEM、n=3、N=2)。 図8Bは、10nMのWT IL-10、スーパー10、又は10-DEで処理したCD4 T細胞からのホスホ-STAT3に対する、正規化されたMFI値である。分析はフローサイトメトリーによって行った(平均±SEM、n=4、N=2)。
図8C図8Cは、図示したIL-10バリアントで24時間処理した活性化CD8 T細胞における、IL-10によって調節される選択された遺伝子の変化倍率である。分析はRNA-seqによって行った(n=2 生物学的反復)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は概して、対象における、インターロイキン-10(IL10)に媒介されるシグナル伝達経路を選択的に調節するための組成物及び方法に関する。より詳細に以下に説明するように、IL-10媒介シグナル伝達は、STAT3媒介シグナル伝達の細胞型偏向性アゴニスト作用によって調節されうる。本開示のいくつかの実施形態は、IL-10がどのように同族受容体(cognate receptors)、特にIL-10Rβと相互作用するかということに関する新たな見識に基づいて設計された、新規IL-10ポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態は、インターロイキン-10の天然受容体、例えばインターロイキン-10受容体サブユニットベータ(IL-10Rβ)に対する調節された結合親和性を有するIL-10ポリペプチドバリアントのクラスを提供する。本開示のいくつかの実施形態は、細胞型選択的IL-10シグナル伝達を有するIL-10部分アゴニスト、例えば、バルクPBMC、B細胞、T細胞、及びNK細胞におけるSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらす一方で、単球及びマクロファージにおけるSTAT3媒介機能を実質的に(例えば90~110%)保持するIL-10部分アゴニストを提供する。本開示は、また、このようなIL-10ポリペプチドバリアントを製造するために有用な組成物及び方法、対象におけるIL-10媒介シグナル伝達を調節するための方法、並びに、IL-10受容体の下流のシグナル伝達の撹乱と関連した状態の治療のための方法も提供する。
【0032】
より詳細に以下に説明するように、完全なIL-10受容体シグナリング複合体のクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)構造を決定することにより、構造に基づいたアプローチを用いてIL-10の作用を解析した。これにより、骨髄選択的アゴニストの設計が可能になる。IL-10受容体シグナリング複合体の星形六量体構造は、どのようにIL-10とIL-10Rαとが複合表面を形成し、共有する受容体サブユニットIL-10Rβを結合するかを示すものであり、それによってIL-10部分アゴニストの設計が可能になる。様々なIL-10Rβ結合親和性を有するように設計された一連のIL-10変異体の特徴付けによって、IL-10シグナル伝達の可塑性が細胞型によってどのように異なるかが明らかになった。特に、本明細書に示した実験データは、IL-10-Rβに対するIL-10の結合部位の変異により、炎症誘発機能及び/又はSTAT3媒介シグナル伝達を選択的に、細胞型に依存する様式で抑制する能力のある偏向性アゴニストが得られることを明らかにした。本明細書に開示されるいくつかのIL-10偏向性アゴニストは、バルクPBMC、B細胞、T細胞、及びNK細胞においてSTAT3媒介機能の低下をもたらしうる一方で、単球及びマクロファージにおけるSTAT3媒介機能を実質的に保持する。このようなIL-10偏向性アゴニストの例として、炎症性マクロファージ活性化の抑制などの骨髄偏向活性を有するがインターフェロンγ産生は促進しないIL-10バリアントが、実施例5~6に示した実験結果に記載されている。
【0033】
これらの結果は、IL-10の多面発現性のメカニズムに対する知見を提供し、また、IL-10シグナル伝達の可塑性をどのようにIL-10の機能の調整のために利用しうるかということを示すものである。
【0034】
定義
他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語、表記及びその他の科学用語又は術語は、本開示と関連する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの例では、一般的に理解される意味の用語を、明確性のため及び/又は参照を容易に行うために本明細書において定義する。本明細書にそのような定義が含まれることが、必ずしも当該技術分野において一般に理解されるものとの実質的な相違を表すものと解釈されるべきではない。本明細書に記載されるか、又は参照される技術及び手順の多くは、当業者に充分に理解され、従来の方法論を使用して一般に利用されている。
【0035】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに別のことを規定していない限り、複数形としての言及を含む。例えば、「細胞(a cell)」という語は、1つ又は複数の細胞を包含し、細胞の混合物も包含する。本明細書で用いられる「A及び/又はB」は、次の選択肢のいずれをも含む:「A」、「B」、「A又はB」、並びに「A及びB」。
【0036】
本明細書で用いられる「約(about)」は、「およそ(approximately)」という、その通常の意味を有する。その概算の度合いが文脈から明らかでない場合、「約」は、提供された値のプラス又はマイナス10%以内であるか、又は、最も近い有効数字に四捨五入されたものであることを意味し、いずれの場合においても、その提供された値を含む。範囲が提供される場合、それは境界値を含む。
【0037】
本明細書で用いられる「投与」及び「投与すること」という語は、口腔、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内、及び局所投与、又はその組み合わせを含むがそれらに限定されない投与経路による、生物活性組成物又は製剤の送達のことを指す。この語は、医療専門家による投与及び自己投与を含むが、これらに限定されない。
【0038】
「細胞」、「細胞培養物」、及び「細胞株」の語は、特定の対象細胞、細胞培養物、又は細胞株だけではなく、このような細胞、細胞培養物、又は細胞株の子孫もしくは潜在的な子孫のことも指し、この場合、移植(transfers)や培養における継代の回数は問わない。全ての子孫が親細胞と完全に同一であるわけではないことを理解すべきである。これは、突然変異(例えば、意図的又は偶然の突然変異)又は環境の影響(例えば、メチル化又は他のエピジェネティックな修飾)のいずれかが原因で、後に続く世代において何らかの変化が生じ、子孫が実際には親細胞と同一ではなくなる可能性があるためである。しかし、子孫がもとの細胞、細胞培養物、又は細胞株と同一の機能性を保持する限り、本明細書で使用される語の範囲内に依然として含まれる。
【0039】
本開示の対象の組換えポリペプチドの「有効量」、「治療的有効量」、又は「医薬的有効量」という語は、概して、ある組成物が、その組成物無しの場合との比較において所定の目的を達成する(例えば、組成物投与の目的の効果を達成する、疾患を治療する、シグナル伝達経路を弱める、又は、疾患もしくは健康状態の1つもしくは複数の症状を低減させる)のに充分な量のことを意味する。「有効量」の一例は、疾患の1つ又は複数の症状の、治療、予防、又は低減に寄与するのに充分な量であり、それは「治療的有効量」と呼ぶこともできる。症状の「低減」とは、症状の重症度又は頻度を低下させること、又は症状を無くすことを意味する。「治療的有効量」を含む組成物の正確な量は治療の目的によって異なりうるが、当業者はそれを公知の技術を用いて確認することができるであろう(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992);Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999);Pickar, Dosage Calculations (1999);及び、Remington:The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと)。
【0040】
本明細書で用いられるIL-10ポリペプチドの「バリアント」という語は、野生型IL-10ポリペプチドなどの基準IL-10ポリペプチドのアミノ酸配列と比較した際に、1つ又は複数のアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入が存在するポリペプチドのことを指す。したがって、「IL-10ポリペプチドバリアント」という語は、IL-10ポリペプチドの天然のアレルバリアント又は選択的スプライシングバリアントを含む。例えば、あるポリペプチドバリアントは、親IL-10ポリペプチドのアミノ酸配列における1つ又は複数のアミノ酸の、類似もしくは相同アミノ酸又は非類似アミノ酸への置換を含む。
【0041】
本明細書で用いられる「作動可能に連結された」という語は、ポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列などの2つ以上のエレメントが、意図された通りの様式で作用できるように、互いに物理的又は機能的に連結されることを意味する。例えば、目的とするポリヌクレオチドと調節配列(例えば、プロモーター)との間の作動可能な連結は、目的とするポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的な結合である。作動可能に連結されたエレメントは、連続するものであっても、不連続なものであってもよいことを理解すべきである。ポリペプチドに関しては、「作動可能に連結された」という語は、ポリペプチドの記載された活性を提供するための、アミノ酸配列間(例えば異なるドメイン間)の物理的な連結(例えば、直接又は間接的な結合)のことを指す。本開示では、本開示の組換えポリペプチドの各種ドメインを、細胞内における組換えポリペプチドの適切なフォールディング、プロセッシング、ターゲティング、発現、結合などの機能的な特性が保持されるように作動可能に連結することができる。本開示の組換えポリペプチドの作動可能に連結したドメインは、連続するものであっても、不連続な(例えば、互いにリンカーを介して結合した)ものであってもよい。
【0042】
本明細書で2つ以上の核酸又はタンパク質と関連して用いられる「パーセント同一性」という語は、同一の2つ以上の配列又は部分配列(subsequences)のことを指すか、あるいは、BLASTもしくはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを用いて下記のデフォルトパラメータで測定した場合に、又は手作業によるアラインメントと目視で測定した場合に、同じヌクレオチドもしくはアミノ酸を特定の割合(比較ウィンドウ又は指定された領域において最大の一致となるように比較及びアラインメントを行った場合に、特定領域において、例えば約60%の配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれよりも高い同一性)で有する2つ以上の配列又は部分配列のことを指す。例えば、ncbi.nlm.nih.gov/BLASTのNCBIウェブサイトを参照のこと。そして、このような配列を「実質的に同一」と言う。この定義は相補配列のことも指し、定義を相補配列へ適用してもよい。この定義にはまた、欠失及び/又は付加を有する配列、並びに、置換を有する配列も含まれる。配列同一性は、公開済の技術、及び、広く利用可能なコンピュータプログラム、例えばGCSプログラムパッケージ(Devereux et al, Nucleic Acids Res. 12:387, 1984)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul et al., J Mol Biol 215:403, 1990)などを用いて計算することができる。配列同一性は、配列分析ソフトウェア、例えばSequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group at the University of Wisconsin Biotechnology Center (1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)などをデフォルトパラメータで用いて測定することができる。
【0043】
本明細書で用いられる「薬理学的に許容される賦形剤」という語は、対象に目的の化合物を投与するための薬理学的に許容される担体、添加剤、又は希釈剤を提供する任意の適した物質のことを指す。したがって、「薬理学的に許容される賦形剤」は、薬理学的に許容される希釈剤、薬理学的に許容される添加剤、及び薬理学的に許容される担体と呼ばれる物質を含みうる。本明細書で用いられる「薬理学的に許容される担体」という語は、医薬の投与に適合した生理食塩水、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張化剤、吸収遅延剤(absorption delaying agents)、及び同種のものを含むが、それらに限定されない。補助的な活性化合物(例えば、抗生物質及び追加的な治療剤など)も組成物の中に組み込むことができる。
【0044】
本明細書で用いられる「組換え」もしくは「改変」核酸分子又はポリペプチドという語は、ヒトの介在によって変えられた核酸分子又はポリペプチドのことを指す。非限定的な例として、cDNAは組換えDNA分子であり、in vitroポリメラーゼ反応によって生成した任意の核酸分子、リンカー配列を取り付けた核酸分子、又は、クローニングベクターもしくは発現ベクターなどのベクターに組み込まれた核酸分子も同様に組換えDNA分子である。非限定的な例として、組換え核酸分子は、1)化学的もしくは酵素的な技術などを用いてin vitroで合成もしくは改変された組換え核酸分子;2)天然では結合していないヌクレオチド配列が結合している組換え核酸分子;3)天然の核酸分子配列と比べて1つもしくは複数のヌクレオチドを欠くように、分子クローニング技術を用いて改変された組換え核酸分子;及び/又は、4)天然の核酸分子配列と比べて1つもしくは複数の配列変化もしくは再構成を有するように、分子クローニング技術を用いて操作された組換え核酸分子;でありうる。非限定的な例として、cDNAは組換えDNA分子であり、in vitroポリメラーゼ反応によって生成した任意の核酸分子、リンカー配列を取り付けた核酸分子、又は、クローニングベクターもしくは発現ベクターなどのベクターに組み込まれた核酸分子も同様に組換えDNA分子である。組換え核酸及び組換えタンパク質の他の非限定的な例として、本明細書に開示のIL-10ポリペプチドバリアントが挙げられる。
【0045】
本明細書で用いられる「個体」又は「対象」には、動物、例えば、ヒト(例えば、ヒト個体)及び非ヒト動物が含まれる。いくつかの実施形態において、「個体」又は「対象」は、医師による治療を受けている患者である。したがって、対象は、目的の疾患(癌など)、及び/又は疾患の1つもしくは複数の症状を有する、有するリスクのある、又は有する疑いのある、ヒト患者又は個体でありうる。対象は、目的の状態のリスクがあると診断された、診断時又は診断後の、個体であってもよい。「非ヒト動物」という語には、あらゆる脊椎動物が含まれ、例として、哺乳類、例えば齧歯類、例えばマウス;非ヒト霊長類;ヒツジ、イヌ、ウシ、及びニワトリなどの他の哺乳類;並びに、両生類及び爬虫類などの非哺乳類;などが含まれる。
【0046】
本明細書で用いられる「ベクター」という語は、他の核酸分子を導入又は輸送することのできる、核酸分子又は配列のことを指す。導入核酸分子は一般に、ベクター核酸分子に連結、例えば挿入、される。一般に、ベクターは、適切な制御エレメントと関連付けられた場合に複製が可能である。「ベクター」という語には、クローニングベクター及び発現ベクター、並びに、ウイルスベクター及び組み込みベクター(integrating vectors)が含まれる。「発現ベクター」は、調節領域を含むベクターであり、この調節領域によってDNA配列及び断片をin vitro及び/又はin vivoで発現することができる。ベクターは、細胞内で自律的な複製を指示する配列を含んでいてよく、あるいは、宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに充分な配列を含んでいてよい。有用なベクターの例として、プラスミド(DNAプラスミド又はRNAプラスミドなど)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、及びウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターの例としては、複製欠損レトロウイルス及びレンチウイルスが挙げられる。いくつかの実施形態では、ベクターは遺伝子送達ベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは遺伝子を細胞内に導入するための遺伝子送達媒体として用いられる。
【0047】
本明細書に記載される開示の態様及び実施形態には、態様及び実施形態を「含む」場合と、態様及び実施形態「からなる」場合と、態様及び実施形態「から主になる」場合とが含まれると理解される。
【0048】
本明細書で用いられる「含む」は、「包含する」、「含有する」、又は「特徴とする」の同義語であり、包括的又は範囲を設定しないものであって、記載の無いさらなる要素又は方法の工程を排除するものではない。本明細書で用いられる「からなる」は、権利を請求する組成物又は方法において特定されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外するものである。本明細書で用いられる「から主になる」は、権利を請求する組成物又は方法の、基礎的かつ新規な特徴に実質的に影響しない材料又は工程を、排除しないものである。本明細書において「含む」という語が記述される場合には、いずれも、特に組成物の成分の記述又は方法の工程の記述における場合には、記載された成分又は方法から主になる組成物及び方法、並びに、その成分又は方法からなる組成物及び方法、が包含されると理解される。
【0049】
(a)、(b)、及び(i)などの見出し記号は、単に明細書及び請求項を読みやすくするために示されている。明細書又は特許請求の範囲における見出し記号の使用によって、工程又は要素が英字又は数字の順番で行われたり、表示された順番でそれらが行われたりすることが必要となるわけではない。
【0050】
当業者が理解するであろうように、書面の提供などに関するあらゆる目的において、本明細書に開示される全ての範囲には、ありうる全ての部分範囲、及び部分範囲の組み合わせも含まれる。記載のいずれの範囲についても、それが充分な記述であることや、その同じ範囲を少なくとも同等な半分、1/3、1/4、1/5、1/10などに分割できることを容易に認識できる。非限定的な一例として、本明細書で論じられている各範囲は、下位の1/3、中央の1/3、及び上位の1/3などに容易に分割できる。当業者が理解するであろうように、「まで」、「少なくとも」、「超」、「未満」及び同種のあらゆる語は、記載されている数字を含み、そして、上述のように引き続き部分範囲に分割できる範囲のことを指す。そして、当業者が理解するであろうように、1つの範囲には個々の要素それぞれが含まれる。したがって、例えば、1~3個の要素を有する群は、1個、2個、又は3個の要素を有する群を意味する。同様に、1~5個の要素を有する群は、1個、2個、3個、4個、又は5個の要素を有する群を意味し、以下同様である。
【0051】
ある範囲は、「約」という語の後に続く数値を用いて本明細書に示されている。本明細書において、「約」という語は、その語に続く数字そのものに対して、及び、その語に続く数字に近い又は近似的である数字に対して、字義通りの支持を提供するために用いられる。ある数字が、ある具体的に記載された数字に近い又は近似的であるかどうかを決定する際、その近い又は近似的である記載されていない数字は、それが提示された文脈において、具体的に記載された数字の実質的な等価物を提供する数字でありうる。
【0052】
明確化のために複数の実施形態によって記載される本開示のいくつかの特徴は、単一の実施形態において組み合わされて提供されてもよいことが理解される。一方、簡潔さのために単一の実施形態によって記載される本開示の各種特徴は、別々に提供されてもよいし、あるいは任意の適切な部分的組み合わせ(sub-combination)で提供されてもよい。本開示に関連する実施形態のあらゆる組み合わせは、1つ1つの組み合わせが個々に、かつ明示的に開示された場合と同等に、本開示に具体的に包含され、本明細書に開示される。さらに、各種実施形態及びその要素のあらゆる部分的組み合わせも、1つ1つのこのような部分的組み合わせが個々に、かつ明示的に本明細書に開示された場合と同等に、本開示に具体的に包含され、本明細書に開示される。
【0053】
インターロイキン-10及び炎症性免疫応答
サイトカインであるインターロイキン-10(IL-10)は、抗炎症特性及び免疫賦活特性の両者を有しており、ヒトの疾患において調節不全となっていることが多い。これは、約37kDaの非共有結合ホモダイマーとして発現する多面発現性サイトカインであり、T細胞、B細胞、マクロファージ、及び抗原提示細胞(APC)に対する作用を通じて複数の免疫応答を制御している。主にその抗炎症特性が広く報告されている。IL-10は、活性化された単球及び活性化されたマクロファージにおいて、IL-1、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、GM-CSF、及びG-CSFの発現を阻害することによって免疫応答を抑制することが報告されている。IL-10は主にマクロファージで発現しているが、活性化されたT細胞、B細胞、肥満細胞、及び単球においても発現が検出されている。免疫応答を抑制することに加え、IL-10は、IL-2及びIL-4で処理された胸腺細胞の増殖を刺激することや、B細胞の生存率を増加させることや、MHCクラスIIの発現を刺激することなど、免疫賦活特性を示す。
【0054】
IL-10の様々な免疫賦活特性が報告されている。IL-10は、B細胞活性化を共刺激し、B細胞の生存を伸ばし、B細胞におけるクラススイッチに貢献することができる。さらに、IL-10は、ナチュラルキラー(NK)細胞の増殖とサイトカイン生成とを共刺激することができ、CD8+ T細胞のいくつかのサブセットの増殖を刺激する増殖因子として作用する。IL-10をヒトにおいて高用量で用いると、INFγの産生が増加しうることが報告されている。IL-10は、IL-10受容体1(IL-10Rα)及びIL-10Rβのそれぞれ2コピーからなる二受容体複合体を介してシグナル伝達を行う。IL-10RαはIL-10と比較的高い親和性(約35~200pM)で結合し、IL-10Rβの受容体複合体へのリクルートはリガンドの結合に対してほとんど貢献しない。しかし、複合体へのIL-10Rβの結合は、リガンド結合に続くシグナル伝達を可能にする。したがって、機能的な受容体は、IL-10Rα及びIL-10Rβのヘテロダイマーの二量体からなる。ほとんどの造血細胞は恒常的に低濃度のIL-10Rαを発現しており、受容体発現は各種刺激によって劇的に上方制御されることが多い。一方、IL-10Rβはほとんどの細胞上に発現している。IL-10が受容体複合体に結合すると、IL-10Rα及びIL-10Rβとそれぞれ関連したヤヌスチロシンキナーゼ(Janus tyrosine kinase)JAK1及びTyk2が活性化され、受容体の細胞質テール(cytoplasmic tails)がリン酸化される。その結果、STAT3がIL-10Rαにリクルートされる。STAT3のホモダイマー化の結果、それが受容体から放出され、リン酸化されたSTATホモダイマーが核内へと移動して、そこで各種遺伝子のプロモーター内のSTAT3結合エレメントへと結合する。これら遺伝子の1つがIL-10自身であり、STAT3によって正の調節を受ける。STAT3はまた、サイトカインシグナリング3(SOCS3)のサプレッサーを活性化する。これにより、STAT活性化の質と量が調節される。SOCS3はIL-10によって誘導され、各種サイトカイン遺伝子に対して負の制御効果をもたらす。
【0055】
IL-10は、その多面発現活性の結果、広範な疾患、障害、及び状態と関連があり、その中には炎症状態、免疫関連障害、線維性障害、及び癌が含まれる。IL-10関連疾患、障害及び状態の有病率と重症度の観点から、新規IL-10薬剤及びその改変物は、IL-10関連疾患、障害、及び状態の治療及び予防において、極めて大きな価値を持つと考えられる。
【0056】
IL-10受容体シグナリング複合体は、アルファ及びベータサブユニットからなり、これらはそれぞれ、IL-10R1及びIL-10R2、又は、IL-10Rα及びIL-10Rβとも呼ばれる。受容体の活性化には、アルファ及びベータの両者への結合が必要である。より詳細に以下に記載するように、構造に基づいたアプローチを用いて、多面発現性などのIL-10の作用を、IL-10受容体シグナリング複合体の3.5Åクライオ電子顕微鏡構造を決定することによって解析した。本明細書に記載する放射状(例えば星形)六量体構造は、どのようにIL-10とIL-10Rαとが複合表面を形成し、共有する受容体サブユニットIL-10Rβを結合するかを示すものであり、それによってIL-10部分アゴニストの設計が可能になる。より詳細に以下に記載するように、広範なIL-10Rβ結合親和性(例えば強度)を有する、一連の設計されたIL-10バリアントの特徴を明らかにすることにより、IL-10シグナル伝達の可塑性が細胞型によってどのように異なるかを明らかにし、シグナル伝達及び遺伝子発現応答の閾値に免疫細胞集団間でかなりの違いがあることを発見した。これは、IL-10細胞型選択性を操作する手段を提供することにつながる。いくつかのバリアントは骨髄偏向性の活性を示し、炎症性CD8 T細胞の機能を刺激することなく単球及びマクロファージの活性化を抑制し、それによって、IL-10の主要な対立する機能を切り離すことが分かった。これらの結果は、IL-10の多面発現性のメカニズムに対する知見を提供し、また、IL-10シグナル伝達の可塑性をどのようにIL-10の機能の調整のために利用しうるかということを示すと同時に、IL-10の多面発現作用の調整のための構造的及び機構的な青写真を提供するものである。
【0057】
IL-10又はIL-10ポリペプチドという語は、それが天然のものであるか組換えのものであるかに関わらず野生型IL-10のことを指し、そのホモログ、オルソログ、バリアント、及び断片、並びに、例えばリーダー配列(シグナルペプチドなど)などを有するIL-10ポリペプチドも包含する。したがって、限定されるものではないが、IL-10ポリペプチドには、組換えによって製造されたIL-10ポリペプチド、合成によって製造されたIL-10ポリペプチド、及び細胞又は組織から抽出されたIL-10-ポリペプチドが含まれる。本開示のIL-10ポリペプチドの非限定的な例として、成熟ヒトIL-10のアミノ酸配列を配列番号1に示す。他の哺乳類の種由来のIL-10ホモログ及びその改変型の例としては、ラット(アクセッション番号NP_036986.2;GI 148747382)、ウシ(アクセッション番号NP_776513.1;GI 41386772)、ヒツジ(アクセッション番号NP_OO 1009327.1;GI 57164347)、イヌ(アクセッション番号ABY86619.1;GI 166244598)、及びウサギ(アクセッション番号AAC23839.1;GI 3242896)由来のIL-10ポリペプチドが挙げられる。本明細書に記載のアミノ酸置換の導入に適したIL-10ポリペプチドのさらなる例としては、限定されるものではないが、サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)、リンホクリプトウイルス(Lymphocryptovirus)、マカウイルス(Macavirus)、ペルカウイルス(Percavirus)、パラポウイルス(Parapoxvirus)、カプリポックスウイルス(Capripoxvirus)、及びアビポックスウイルス(Avipoxvirus)の各属に由来するIL-10ポリペプチドなどの、ウイルスにコードされたIL-10ホモログが挙げられる。サイトメガロウイルスIL-10ポリペプチドの非限定的な例としては、ヒトサイトメガロウイルス(アクセッション番号AAR31656及びACR49217)、ミドリザルサイトメガロウイルス(アクセッション番号AEV80459)、アカゲザルサイトメガロウイルス(AAF59907)、ヒヒサイトメガロウイルス(アクセッション番号AAF63436)、ヨザルサイトメガロウイルス(アクセッション番号AEV80800)、及びリスザルサイトメガロウイルス(アクセッション番号AEV80955)に由来するものが挙げられる。リンホクリプトウイルスIL-10ポリペプチドの例としては、エプスタイン-バーウイルス(アクセッション番号CAD53385)、ボノボヘルペスウイルス(アクセッション番号XP_003804206.1)、アカゲザルリンホクリプトウイルス(アクセッション番号AAK95412)、及びヒヒリンホクリプトウイルス(アクセッション番号AAF23949)に由来するものが挙げられる。ウイルスIL-10ポリペプチド、及びそれらの宿主免疫機能の制御に関するさらなる情報については、例えばSlobedman B. et al., J. Virol. Oct. 2009, p. 9618-9629;及びOuyang P. et al., J. Gen. Virol. (2014), 95, 245-262を参照することができる。
【0058】
野生型ヒトIL-10前駆体ポリペプチド(例としてシグナルペプチドを有するプレタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号16に示す。これは178アミノ酸残基のタンパク質であり、N末端の18アミノ酸のシグナルペプチドが除去されることにより配列番号1の160アミノ酸の成熟タンパク質を生成することができる。しかし、成熟タンパク質が組換えポリペプチドコンストラクトを生成するために用いられることが多い。したがって、本開示の目的において、全てのアミノ酸番号は配列番号1に記載のIL-10タンパク質の成熟ポリペプチド配列に基づく。
【0059】
炎症は、感染から生物を保護し、組織の恒常性を促進するために不可欠である。しかし、免疫細胞の活性化が過剰になると、バイスタンダー組織(bystander tissues)に損傷を与え、結果として臓器不全、慢性炎症、及び自己免疫疾患を引き起こす。IL-10は、炎症反応の制御や停止に中心的な役割を担う重要な抗炎症性サイトカインである。いくつかの例において、IL-10は自己免疫疾患、癌、及び慢性感染症において調節不全となっている。炎症中には各種免疫細胞がIL-10を産生する。これにより、主に、活性化された骨髄性細胞によるサイトカイン産生及び抗原提示が阻害されることで、強力な抗炎症効果が発揮される。この役割と一致して、IL-10又はIL-10受容体のいずれかの遺伝子の喪失は、マウス及びヒトの両者において、炎症性腸疾患(IBD)などの深刻な炎症及び自己免疫疾患を引き起こす。さらに、IL-10機能の調節不全は癌及び慢性炎症とも関連している。
【0060】
これらの重要な抗炎症機能にも関わらず、IL-10は高度に多面発現的でもあり、多様な、一見して互いに正反対に見える生物学的効果を引き起こす。特に注目すべきことに、IL-10はTCR刺激CD8+ T細胞活性も増強し、炎症誘発性サイトカインであるインターフェロンγ(IFN-γ)、及びグランザイムBなどの細胞溶解因子の産生を強化する。実際、ヒトの臨床試験においては、外因性IL-10の投与によって血清IFN-γ濃度が上昇し、おそらくIL-10の抗炎症効果を弱めたであろうことが示されている。
【0061】
IL-10は分泌型ホモダイマーとして機能し、高親和性の固有受容体サブユニットIL-10Rαと、低親和性の共有受容体サブユニットIL-10Rβとからなるヘテロダイマー受容体複合体を2コピー結合することにより、受容細胞においてシグナル伝達を開始させる。IL-10はIL-10RαとIL-10Rβとの二量体化を促進し、結果として転写因子STAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子3)の、そしてSTAT1に対してもある程度、リン酸化及び活性化を引き起こし、これによってIL-10の多様な機能的な効果が媒介される。
【0062】
下流シグナル応答を切り離す、機能的に選択的な、すなわち「偏向性の」アゴニストが、Gタンパク質共役受容体(GPCRs)に対して広く特徴づけられている。最近の研究では、このようなアゴニストがサイトカイン受容体についてもありうることが示唆されている。しかし、これらのアプローチは大規模な構造情報に基づいており、そういった情報は現時点でIL-10受容体複合体には無い。IL-10Rβを含む完全なIL-10受容体シグナリング複合体の構造情報があれば、設計されたバリアントを用いてこれを軸に分析を行うことができるが、その情報は欠如している。この構造情報の欠如は、IL-10が、その共有受容体サブユニットIL-10Rβに対して極めて親和性が低く、in vitroで複合体の集合が妨げられることに主に起因している。
【0063】
以下の実施例に記載のように、指向性進化法(directed evolution approach)を用いて、IL-10Rβに対する増強された親和性を有するIL-10バリアントを作出し、これによって、六量体のIL-10/IL10R1/IL-10Rβ複合体のクライオ電子顕微鏡構造を3.5Åの解像度で解明することが可能になった。IL-10における、IL-10Rβ界面を標的とした、構造に基づく変異(structure-guided mutations)の結果、in vivoで細胞型選択的シグナル応答を引き起こす偏向性IL-10バリアントが得られた。特に、IL-10バリアント10-DEは、B細胞、T細胞、及びNK細胞におけるIL-10シグナル伝達を低下させ、その一方で、単球及びマクロファージにおけるIL-10シグナル伝達を実質的に保持し、それによってin vivoでIL-10の免疫抑制機能と免疫賦活機能とを切り離すことができる。
【0064】
サイトカイン類は宿主免疫応答の制御及び組織恒常性の促進における重要な役割を多数担っている。しかし同時に、それらの治療薬としての使用を限定しうる、多面発現的な、又は逆の効果も発揮することが多い。結果として、サイトカイン及びサイトカイン受容体アンタゴニストは臨床的に大きな成功を納めたのに対し、サイトカイン受容体アゴニストについてはこのような例は極めて少ない。サイトカインIL-10は、組織及び疾患の状況によって有益な機能と有害な機能との両者を発揮しうるサイトカインの良い例である。より詳細に以下に記載するように、構造に基づくアプローチを用いて、IL-10の機能的に選択的なバリアントが開発さた。このバリアントはIL-10の免疫抑制機能と免疫賦活機能とを効果的に切り離し、IL-10がどのようにこれらの異なった機能を発揮するのかについて新たな知見を明らかにするとともに、サイトカインをベースとする改善された治療薬の開発のための道筋を示した。
【0065】
以前のIL-10受容体複合体の構造的特徴づけを阻んでいた主な障壁は、サブユニット間、特にIL-10とIL-10Rβとの間の、極めて低い親和性相互作用の存在であった。この障壁は、リガンドエンジニアリング法を用いて三元受容体複合体へのアクセスが可能になったことで克服された。
【0066】
より詳細に以下に記載するように、IL-10/IL-10Rβ結合部位の分析により、細胞型偏向性アゴニスト作用をもたらすアミノ酸置換をIL-10のIL-10Rβ結合界面に有する一連のIL-10バリアントの生成が可能になった。偏向活性を有する改変サイトカイン受容体リガンドは、以前の例では受容体のトポロジーの改変に依存していたが、以下に示す実験結果によれば、偏向性アゴニスト作用を生成するためには、天然サイトカインの、その受容体に対する親和性の調節を行うだけでも充分でありうることが示唆された。
【0067】
いずれの特定の理論にも拘束されるものではないが、本明細書に記載する実験データは、IL-10Rβに対する親和性とIL-10Rβの発現量との組み合わせが、任意の細胞上でIL-10によって誘導されるシグナル伝達の種類を決定するというモデルを支持している。STAT1及びSTAT3に対して、異なる免疫細胞集団において異なる活性化を行うことにより、本明細書に記載する改変IL-10バリアントは、T細胞の機能を刺激することなく単球及びマクロファージの活性化を抑制する能力を保持し、それによってIL-10の免疫抑制機能と免疫賦活機能とを切り離す。
【0068】
IL-10による受容体結合の構造的基盤は、IL-10のシグナル伝達の可塑性及び機能的多面発現性のメカニズムに関する重要な知見を提供する。特に注目すべきことに、この構造は、詳細な分子的観点から、IL-10がその共有の低親和性受容体サブユニットIL-10Rβとどのように相互作用するかについて示し、この界面を撹乱する変異を構造に基づいて設計することを可能にする。これらの改変IL-10アゴニストの分析により、(i)IL-10シグナル伝達の可塑性は細胞型によって異なること;(ii)IL-10のIL-10Rβに対する親和性を調節することにより、これらの相違を利用することができ、その結果、細胞型特異性の改変が可能なこと;及び、(iii)これらの細胞型偏向性アゴニストによって、IL-10機能の重要な特徴を切り離すことが可能であること;が明らかになった。本開示の一態様において、免疫細胞集団間でIL-10Rβ発現が異なっていることは、さもなくば多面発現的であるIL-10媒介応答に機能的な特異性を提供するための天然のメカニズムを意味している可能性があり、この特徴は本明細書に示すように改変アゴニストを用いて利用することが可能である。部分アゴニスト10-DEがCD8+ T細胞を刺激することなく炎症性マクロファージ活性化を抑制できる能力は、自己免疫及び炎症性疾患などの関連のある健康状態の治療において、IL-10受容体を標的とすることに重要な意味があることを示している。
【0069】
本開示の組成物
より詳細に以下に記載するように、本開示の一態様は、IL-10受容体の下流のSTAT3シグナル伝達を調節するように改変された新規IL-10ポリペプチドバリアントに関する。また、(i)このようなIL-10ポリペプチドバリアントをコードする組換え核酸;及び、(ii)IL-10ポリペプチドバリアントを発現するように改変された組換え細胞;も、本明細書に開示のように提供される。
【0070】
A. 組換えIL-10ポリペプチド
概要を上で述べたように、本開示のいくつかの実施形態は、IL-10受容体の下流のSTAT3シグナル伝達を調節するように改変された、例えば、細胞傷害性CD8+ T細胞機能を刺激することなく単球及びマクロファージの活性化/サイトカイン産生を強力に抑制することによって、ヒトPBMCにおいて強力な単球偏向性シグナル伝達効果を示すことが可能な、新たな種類のIL-10ポリペプチドバリアントに関する。これらのIL-10バリアントは、したがって、IL-10の多面発現性を克服し、改善された治療能力を有する。他のいくつかの実施形態では、本開示のIL-10ポリペプチドバリアントは、IL-10受容体の下流の細胞型偏向性STAT3シグナル伝達をもたらす。
【0071】
一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列を有するインターロイキン-10(IL-10)ポリペプチドに対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含み、さらに、(b)配列番号1又は配列番号16の配列における1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む、組換えポリペプチドに関する。
【0072】
本明細書に開示される組換えポリペプチドの限定されない好ましい実施形態は、次の特徴のうちの1つ又は複数を含みうる。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X21、X22、X24、X28、X32、X74、X90、X92、X93、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X24、X28、X74、X90、X92、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含み、(b)配列番号1又は配列番号16のX25及びX96からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位における1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び、(b)配列番号1又は配列番号16の部位X25におけるアミノ酸置換;を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び、(b)配列番号1又は配列番号16の部位X96におけるアミノ酸置換;を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX21、X22、X32、及びX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1、2、3、又は4個のアミノ酸置換を含む。この態様によるIL-10ポリペプチドバリアントの例においては、配列番号1又は配列番号16の配列中に、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、又はそれよりも多いアミノ酸の置換を含みうる。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X24、X28、X74、X90、X92、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、又は少なくとも7個のアミノ酸置換を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX21、X22、X32、及びX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つ又は複数の追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX21からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX22からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1のX32からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つの追加のアミノ酸置換を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、X25、X14、X18、X21、X22、X24、X28、X32、X74、X90、X92、X93、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、さらに、配列番号1又は配列番号16のアミノ酸残基X21、X22、X32、及びX93に対応する部位におけるアミノ酸置換の組み合わせを含む。
【0076】
本開示によると、IL-10ポリペプチドにおけるこのような置換は、いずれも、IL-10Rβ及び/又はIL-10αに対する結合親和性が、これらの置換の無い親IL-10ポリペプチドの結合親和性と比較して改変されたIL-10バリアントを生ずる。例えば、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントは、IL-10Rα及び/又はIL-10Rβに対して増加した親和性又は低下した親和性を有しうるか、あるいは、これら受容体に対して、対応する野生型IL-10と同じ又は類似の親和性を有しうる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントは、IL-10の他の部位に、保存的改変及び置換(例えば、IL-10バリアントの二次構造又は三次構造に対して、ごくわずかな効果を有するもの)を含んでいてよい。このような保存的置換としては、The Atlas of Protein Sequence and Structure 5 (1978)においてDayhoffによって記載されたものと、EMBO J, 8:779-785 (1989)においてArgosによって記載されたものが挙げられる。例えば、次の群のうちの1つに属するアミノ酸は保存的な変化を示す:グループI:Ala、Pro、Gly、Gln、Asn、Ser、Thr;グループII:Cys、Ser、Tyr、Thr;グループIII:Val、Ile、Leu、Met、Ala、Phe;グループIV:Lys、Arg、His;グループV:Phe、Tyr、Trp、His;及び、グループVI:Asp、Glu。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドのアミノ酸配列におけるアミノ酸置換は、アラニン置換、アルギニン置換、アスパラギン酸置換、ヒスチジン置換、グルタミン酸置換、リジン置換、セリン置換、トリプトファン置換、及びそのいずれかの組み合わせ、からなる群より独立に選択される。本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドにおけるアミノ酸置換の限定されない例を、以下の表1に提供する。
【表1】
【0078】
したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に記載するIL-10部分アゴニストポリペプチドは、SPGQGTQSENSCT(H/A/D/E/I/K/L/M/N/Q/R/S/T/Y/V)FPG(N/F/A/D/E/L/V/S/T/I/V/M/H)LP(N/A/R/Q/H/KSVIL/M/T)(M/A/V/I/L/N/Q)L(R/E/D/N/Q/A/S/T)(D/A/N/H/I/K/L/V)LR(D/A/E/L/V/S/T/I/V/M/H/K/R)AFS(R/A/D/E/L/V/S/T/I/V/M/H)VKTFFQMKDQLDNLLLKESLLEDFKGYLGCQALSEMIQFYL(E/A/D/L/V/S/T/I/V/M/H/K/R)EVMPQAENQDPDIKA(H/A/D/E/I/K/L/M/N/Q/R/S/T/Y/V)V(N/Q/E/H/K/S/V/I/L/M/T/A)(S/E/A/R/N/D/Q/E/I/L/K/M/V)LG(E/A/N/D/Q/H/K/S)NLK(T/V/E/A/R/N/Q/E/I/L/K/M/S)LRL(R/A/W/Y/F/H/D/E/N/Q/S/T/I/L/V/M)LRRCHRFLPCENKSKAVEQVKNAFNKLQEKGIYKAMSEFDIFINYIEAYMTMKIRN(配列番号32)を含んでいてよく、少なくとも1個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、又はそれよりも多い個数)の可変部位については、配列番号1の対応する部位にある野生型アミノ酸ではない。各部位における選択肢を括弧内に示す。
【0079】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、D25、H14、N18、R24、D28、E74、H90、N92、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、D25及びE96からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、D25の部位のものである。いくつかの実施形態において、配列番号1又は配列番号16の部位D25のアミノ酸置換は、D25A置換である。いくつかの実施形態において、配列番号1又は配列番号16の部位D25のアミノ酸置換は、D25K置換である。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16の、E96の部位のものである。いくつかの実施形態において、配列番号1又は配列番号16の部位E96のアミノ酸置換は、E96A置換である。いくつかの実施形態において、配列番号1又は配列番号16の部位E96のアミノ酸置換は、E96K置換である。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、配列番号1又は配列番号16のN21、M22、R32、及びS93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位のものである。
【0080】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W又はR104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W又はR104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W又はR104A;(d)N18Y/D25A又はD25K/N92Q/T100D/R104W又はR104A;(e)N18Y/D12A又はD25K/N92Q/T100D/R104W又はR104A;及び、(f)N18Y/D25A又はD25K/N92Q/E96A/T100D/R104W又はR104A;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104A;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104A;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104A;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104A;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;及び(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;及び(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104Wと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104Aと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0083】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104A;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104A;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104A;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び、(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;及び、(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104Wと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104A;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104A;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104A;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;及び、(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104Aと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)D25A;(b)D25K;(c)E96A;(d)E96K;(e)D25A/E96A;(f)N21A/R104A;(g)N21A/D25A;(h)N21A/D25A/E96A;及び(i)N21A/M22A/D25A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)D25A;(b)D25K;(c)E96A;(d)E96K;(e)D25A/E96A;(f)N21A/R104A;(g)N21A/D25A;(h)N21A/D25A/E96A;及び(i)N21A/M22A/D25A;に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)D25A;(b)D25K;(c)E96A;(d)E96K;(e)D25A/E96A;(f)N21A/R104A;(g)N21A/D25A;(h)N21A/D25A/E96A;及び(i)N21A/M22A/D25A;に対応するアミノ酸置換を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、又は少なくとも7個のアミノ酸置換を含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号1又は配列番号16の配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、又は少なくとも7個のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のN21、M22、R32、及びS93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、本明細書に記載のアミノ酸配列に1つ又は複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個の)ミスセンス突然変異(例えば、保存的置換)、ナンセンス変異、欠失、又は挿入などの変異を有するものを含みうる。本明細書に開示されるいくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、配列番号2~15からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号10のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号11のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号12のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号14のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、配列番号15のアミノ酸配列に対して90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドの配列におけるアミノ酸置換は、IL-10Rβに対する組換えIL-10ポリペプチドの結合親和性の調節をもたらす。IL-10ポリペプチドの結合活性との関連において、「調節」という語は、IL-10Rβに対するポリペプチドの結合親和性の変化のことを指す。調節には、増加(例えば、誘導や刺激)及び減少(例えば、低下や阻害)、あるいは、ポリペプチドの結合親和性に対するそれ以外の影響、が含まれる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドの配列におけるアミノ酸置換は、組換えIL-10ポリペプチドのIL-10Rβ結合親和性を、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドと比べて低下させる。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、組換えIL-10ポリペプチドのIL-10Rβ結合親和性を、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドと比べて増加させる。
【0089】
本明細書に記載のIL-10ポリペプチドバリアントを含め、本開示の組換えポリペプチドの結合活性は、当該分野において公知の任意の適した方法によって測定することができる。例えば、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントとその受容体(例えば、IL-10Rα及び/又はIL-10Rβ)の結合活性は、スキャッチャード分析(Munsen et al. Analyt. Biochem. 107:220-239, 1980)によって測定できる。特異的な結合も、競合ELISA、Biacore(登録商標)アッセイ、及び/又はKinExA(登録商標)アッセイを含むがそれらに限定されない、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。標的タンパク質に優先的に結合する、又は特異的に結合するポリペプチドは、当該分野でよく理解されている概念であり、このような特異的又は優先的結合を測定するための方法も当該分野で公知である。
【0090】
各種アッセイ様式を用いて、目的のリガンド(例えば、IL-10Rα及び/又はIL-10Rβ)と特異的に結合する組換えIL-10ポリペプチドを選択することができる。例えば、同族リガンド(cognate ligand)又は結合パートナーと特異的に結合する受容体又はそのリガンド結合部位に対して特異的に反応するポリペプチドを同定するのに用いることができる数多くの測定法の中には、固相ELISA免疫測定法、免疫沈降法、Biacore(商標)(GE Healthcare, Piscataway, NJ)、KinExA、蛍光活性化細胞選別(FACS)、Octet(商標)(ForteBio, Inc., Menlo Park, CA)、及びウェスタンブロット分析が含まれる。一般に、特異的又は選択的結合反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より典型的にはバックグラウンドの10倍超、バックグラウンドの20倍超、さらに典型的にはバックグラウンドの50倍超、バックグラウンドの75倍超、バックグラウンドの100倍超、さらに典型的にはバックグラウンドの500倍超、さらに典型的にはバックグラウンドの1000倍超、さらに典型的にはバックグラウンドの10,000倍超であってよい。
【0091】
当業者は、結合親和性を、2つの分子、例えばIL-10ポリペプチドとIL-10Rβ受容体との間の、非共有相互作用の強さの尺度としても用いることができることを理解するであろう。いくつかの例においては、結合親和性を用いて1価の相互作用(固有活性)が記述される。2個の分子の間の結合親和性は、解離定数(K)を求めることで定量できる。そして、Kは、表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore)を利用して、複合体の形成及び解離の速度を測定することによって求めることができる。1価複合体の会合及び解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数k(又はkon)及び解離速度定数k(又はkoff)と呼ばれる。Kは、式K=k/kによってk及びkと関連している。解離定数の値は、周知の方法によって直接求めることができ、複合体混合物に対しても、Caceci et al.(Byte 9:340-362, 1984)に記載の方法などによって計算することができる。例えば、Kは、Wong & Lohman (1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5428- 5432)に開示されているような二重フィルターニトロセルロースフィルター結合アッセイを利用して定めることができる。標的受容体に対する本開示のIL-10ポリペプチドバリアントの結合能を評価するための他の標準的なアッセイが当該分野において公知であり、その例として、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、フローサイトメトリー分析、及び、実施例に例示されている他のアッセイが挙げられる。IL-10ポリペプチドバリアントの結合速度と結合親和性は、当該分野で公知の標準的なアッセイ、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)などにより、例えばBiacore(商標)システム又はKinExAなどを用いて、評価することもできる。いくつかの実施形態において、IL-10Rα及び/又はIL-10Rβに対する本開示のIL-10ポリペプチドバリアントの結合親和性は、固相受容体結合アッセイ(Matrosovich MN et al., Methods Mol Biol. 865:71-94, 2012)によって求められる。いくつかの実施形態においては、IL-10Rα及び/又はIL-10Rβに対する本開示のIL-10ポリペプチドバリアントの結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイによって求められる。
【0092】
いくつかの実施形態においては、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換の結果、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドとの比較において、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達がもたらされる。より詳細に以下に記載するように、本開示のIL-10ポリペプチドバリアントの一例である10-DEは、ヒトPBMCにおいて単球偏向性シグナル伝達を示す一方で、バルクPBMCにおける炎症性サイトカイン産生を抑制し、それによって、in vivoで細胞型偏向性シグナル応答をもたらす。10-DEバリアントはまた、LPS刺激単球上での表面MHCクラスIIの発現を、強力に下方制御することが分かった(例えば以下の実施例6及び図4を参照のこと)。重要なことに、10-DEバリアントはまた、単離された単球由来マクロファージにおいて、自己免疫及び自己炎症性疾患におけるIL-10のキーターゲットである、LPS誘導TNF-α、IL-6、及びIL-8産生を完全に抑制した(図4E)。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、NK細胞、B細胞、CD4+ T細胞、及び/又はCD8+ T細胞におけるIL-10シグナル伝達を低下させる一方で、単球及びマクロファージにおけるIL-10シグナル伝達を実質的に保持する、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達をもたらす。
【0093】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換の結果、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドとの比較において、例えばSTAT3のリン酸化によって判断される、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達がもたらされる。いくつかの実施形態において、偏向性IL-10シグナル伝達は、B細胞、T細胞、及び/又はNK細胞などの1つ又は複数の細胞型におけるSTAT3のリン酸化が、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドと比べて少なくとも10%、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%低下することを含む。いくつかの実施形態において、投与組成物は、活性化CD8+ T細胞の活性を増強しない。いくつかの実施形態において、投与組成物は、CD8+ T細胞によるIFN-γ産生及び/又はグランザイムB産生を増強しない。
【0094】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、1つ又は複数の細胞型において、1つ又は複数のSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらす。アッセイに適したSTAT3媒介機能は特に限定されない。適したSTAT3媒介炎症誘発機能の非限定的な例としては、サイトカイン産生、ケモカイン産生、及び免疫細胞動員が挙げられる。いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘発機能は、B細胞、T細胞、及び/又はNK細胞において、約20%~約100%低下する。いくつかの実施形態において、STAT3シグナル伝達は、遺伝子発現アッセイ、ホスホフローシグナリングアッセイ、及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)からなる群より選択されるアッセイにより測定される。いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、1つ又は複数のSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらし、これは、ポリペプチドが炎症誘発性遺伝子の発現及び/又はMHCクラスIIの発現を誘導する能力に基づき判断される。炎症誘発性遺伝子の非限定的な例として、IFN-γ、グランザイムB、グランザイムA、パーフォリン、TNF-α、GM-CSF、及びMIP1αが挙げられる。いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘発機能は、アミノ酸置換の無い基準IL-10と比較して、約20%~約100%、例えば、約20%~約50%、約30%~約60%、約40%~約70%、約50%~約80%、約40%~約90%、約50%~約100%、約40%~約80%、約30%~約70%、約20%~約80%、約20%~約70%、約20%~約60%、約30%~約80%、約30%~約90%、又は約30%~約100%低下する。
【0095】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、B細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、及びNK細胞から選択される細胞型におけるSTAT3媒介炎症誘発機能を低下させる一方で、単球及び/又はマクロファージにおけるそのSTAT3媒介機能を実質的に保持する。いくつかの実施形態において、STAT3シグナル伝達は、遺伝子発現アッセイ、ホスホフローシグナリングアッセイ、及び酵素結合免疫吸着法(ELISA)からなる群より選択されるアッセイにより測定される。
【0096】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、基準IL-10ポリペプチド(例えば野生型IL-10)の結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する増加した親和性をもたらす。より詳細に以下に記載するように、このようなIL-10ポリペプチドバリアント(例えば「スーパー10」バリアント)の、IL-10Rβに対する増加した結合親和性は、CD8+ T細胞におけるINFγ発現の刺激を引き起こす。いずれの特定の理論にも拘束されるものではないが、増加した結合親和性を有するこのようなIL-10バリアントは、関連のある増殖性疾患、例えば癌などの治療方法において有用でありうる。
【0097】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、基準IL-10ポリペプチド(例えば野生型IL-10)の結合親和性と比べ、IL-10Rβに対する低下した親和性をもたらす。より詳細に以下に記載するように、このようなIL-10ポリペプチドバリアント(例えば部分アゴニスト10-DE)の、IL-10Rβに対する低下した結合親和性は、STAT3シグナル伝達を刺激する能力の低下、及び/又は、炎症性マクロファージの抑制をもたらす一方で、CD8+ T細胞を刺激しない。いずれの特定の理論にも拘束されるものではないが、低下した結合親和性を有するこのようなIL-10バリアントは、関連のある健康状態、例えば自己免疫及び炎症性疾患などの方法において有用でありうる。
【0098】
B. 核酸
一態様において、本開示の組換えIL-10ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む各種核酸分子が本明細書において提供され、その例として、組換えIL-10ポリペプチドの発現をin vivoで宿主細胞内において、又はex vivo無細胞発現系において可能にする制御配列などの異種核酸配列に作動可能に連結したこれらの核酸分子を含む、発現カセットや発現ベクターが挙げられる。
【0099】
「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」という語は、本明細書において互換的に用いられ、RNA及びDNA分子の両者のことを指し、例として、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、又は、核酸類似体を含んだDNAもしくはRNA分子、を含む核酸分子などが挙げられる。核酸分子は二本鎖又は一本鎖(センス鎖又はアンチセンス鎖など)であってよい。核酸分子は、通常とは異なる、又は修飾されたヌクレオチドを含んでいてよい。本明細書で用いられる「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」という語は、互換的に、ポリヌクレオチド分子の配列のことを指す。本明細書に開示されるポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、WIPO標準ST.25(1998)、付表2、表1~6を参照により援用している、37 CFR §1.82に記載のヌクレオチド塩基とアミノ酸に対する標準的な略号を用いて示されている。
【0100】
本開示の核酸分子は任意の長さの核酸分子であってよく、例として、一般的に、約0.5Kb~約20Kbの間、例えば約0.5Kb~約20Kbの間、約1Kb~約15Kbの間、約2Kb~約10Kbの間、又は、約5Kb~約25Kbの間、例えば約10Kb~15Kbの間、約15Kb~約20Kbの間、約5Kb~約20Kbの間、約5Kb~約10Kbの間、又は約10Kb~約25Kbの間の核酸分子が挙げられる。
【0101】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、本明細書に開示される組換えポリペプチドのアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列を有するIL-10ポリペプチドに対して、少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含み、さらに、(b)配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X21、X22、X24、X28、X32、X74、X90、X92、X93、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位の、1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、(a)配列番号1又は配列番号16のアミノ酸配列を有するIL-10ポリペプチドに対して、少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列;を含み、さらに、(b)配列番号1又は配列番号16のX25、X14、X18、X24、X28、X74、X90、X92、X96、X100、及びX104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位の、1つ又は複数のアミノ酸置換;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、さらに、配列番号1又は配列番号16のX21、X22、X32、及びX93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、N21、M22、R24、D28、R32、E74、H90、N92、S93、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、配列番号1又は配列番号16のD25、H14、N18、R24、D28、E74、H90、N92、E96、T100、及びR104からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、さらに、配列番号1又は配列番号16のN21、M22、R32、及びS93からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する部位に、1つ又は複数の追加のアミノ酸置換を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W又はR104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W又はR104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W又はR104A;(d)N18Y/D25A又はD25K/N92Q/T100D/R104W又はR104A;(e)N18Y/D12A又はD25K/N92Q/T100D/R104W又はR104A;及び、(f)N18Y/D25A又はD25K/N92Q/E96A/T100D/R104W又はR104Aに対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104A;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104A;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104A;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104A;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;及び(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;及び(b)N21A;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104Wと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104Aと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、又は少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104A;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104A;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104A;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104A;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104A;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに次のアミノ酸置換:(a)N18Y/N92Q/T100D/R104W;(b)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;(c)N18Y/N21H/E96H/T100V/R104W;(d)N18Y/D25A/N92Q/T100D/R104W;(e)N18Y/D25K/N92Q/T100D/R104W;及び(f)N18Y/D25A/N92Q/E96A/T100D/R104W;に対応するアミノ酸置換を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、アミノ酸置換:a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104W;及び(b)N21A;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、アミノ酸置換:a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104Wと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、アミノ酸置換:a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104A;及び(b)N21A;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号1又は配列番号16に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、さらに、アミノ酸置換:a)N18Y/N21H/N92Q/E96D/T100V/R104Aと;(b)D25A、D25K、及びD25A/E96Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異と;を含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0105】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号2~15からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号2又は配列番号17のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号3又は配列番号18のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号4又は配列番号19のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号5又は配列番号20のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号6又は配列番号21のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号7又は配列番号22のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、本開示の核酸分子は、配列番号8又は配列番号23のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号9又は配列番号24のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号10又は配列番号25のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号11又は配列番号26のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号12又は配列番号27のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号13又は配列番号28のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号14又は配列番号29のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号15又は配列番号30のアミノ酸配列に対して、90%、95%、96%、97、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を含む。
【0107】
配列番号1~15に対する、対応する前駆体ポリペプチドのアミノ酸配列を、配列表の配列番号16~30に提供する。
【0108】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列は、発現カセット又は発現ベクターに組み込まれている。発現カセットは、コード配列と、in vivo及び/又はex vivoで受容細胞においてコード配列の適切な転写及び/又は翻訳を指示するのに充分な制御情報と、を含む遺伝物質の構築物を一般的に含むと理解される。一般に、発現カセットは、所望の宿主細胞及び/又は個体を標的とするベクターに挿入されてよい。したがって、いくつかの実施形態において、本開示の発現カセットは、プロモーターなどの発現制御エレメントに作動可能に連結した、本明細書に開示される組換えポリペプチドのコード配列と、任意に、コード配列の転写又は翻訳に影響する他の核酸配列のいずれか又は組み合わせと、を含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列は発現ベクターに組み込まれている。「ベクター」という語は一般に、宿主細胞間の運搬のために設計された組換えポリヌクレオチド構築物のことを指し、宿主細胞への異種DNAの導入などの形質転換の目的のために使用されうることが、当業者に理解される。したがって、いくつかの実施形態において、ベクターは、他のDNA断片を挿入して挿入断片の複製を行わせるための、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンであってよい。いくつかの実施形態において、発現ベクターは組み込みベクターであってよい。
【0110】
いくつかの実施形態において、発現ベクターはウイルスベクターであってよい。当業者が理解するであろうように、「ウイルスベクター」という語は、典型的には核酸分子の運搬又は細胞のゲノム中への組み込みを促進するウイルス由来核酸エレメントを含んだ核酸分子(例えば運搬プラスミド(transfer plasmid))、又は、核酸の運搬を媒介するウイルス粒子、のいずれかを指すのに広く用いられる。ウイルス粒子は典型的には、核酸に加え、各種ウイルス成分と、場合により宿主細胞成分とを含む。ウイルスベクターという語は、核酸を細胞内へ導入することができるウイルス又はウイルス粒子、あるいは、導入された核酸そのもの、のいずれかを指す場合がある。ウイルスベクター及び運搬プラスミドは、ウイルスに主に由来する構造的及び/又は機能的遺伝因子を含む。いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、バキュロウイルスベクター、レトロウイルスベクター、又はレンチウイルスベクターである。「レトロウイルスベクター」という語は、レトロウイルスに主に由来する構造的及び機能的遺伝因子又はその一部を含んだ、ウイルスベクター又はプラスミドのことを指す。「レンチウイルスベクター」という語は、レトロウイルスの一属であるレンチウイルスに主に由来する構造的及び機能的遺伝因子、又はLTRなどのその一部、を含んだ、ウイルスベクター又はプラスミドのことを指す。
【0111】
したがって、本明細書に開示される任意の組換えポリペプチド又はIL-10ポリペプチドバリアントをコードする核酸分子を1つ又は複数含む、ベクター、プラスミド、又はウイルスも本明細書において提供される。核酸分子は、例えばベクターによって形質転換/形質導入された細胞などにおいてその発現を指示することが可能な、ベクター内に含まれていてよい。真核及び原核細胞において使用するのに適したベクターが当該分野において公知であり、市販されており、また、当業者によっても容易に調製される。
【0112】
DNAベクターは、従来の形質転換又はトランスフェクション技術によって真核細胞内に導入することができる。宿主細胞の形質転換又はトランスフェクションのための適した方法を、Sambrook et al.(2012、上記)などの標準的な分子生物学実験マニュアルにおいて見いだすことができる。その例として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスフェクション、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)、ヌクレオポレーション(nucleoporation)、ハイドロダイナミックショック(hydrodynamic shock)、及び感染などが挙げられる。
【0113】
本開示で使用できるウイルスベクターの例として、バキュロウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びアデノ関連ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、シミアンウイルス40(SV40)、及びウシパピローマウイルスベクターが挙げられる(例えば、Gluzman (Ed.), Eukaryotic Viral Vectors, CSH Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照のこと)。
【0114】
発現系の正確な成分は重要ではない。例えば、本明細書に開示される組換えポリペプチドは、哺乳類細胞(例えば、COS細胞、NIH 3T3細胞、又はHeLa細胞)などの真核生物宿主において産生することができる。これらの細胞は多くのソースから入手可能であり、その例として、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection; Manassas, VA)が挙げられる。発現系を選択するにあたっては、成分同士が互いに適合したものであるように注意を払う必要がある。当業者は、このような判断を行うことが可能である。また、発現系を選択するにあたって手引きが必要な場合、当業者は、P. Jones, “Vectors: Cloning Applications”, John Wiley and Sons, New York, N.Y., 2009を参考にしてよい。
【0115】
提供される核酸分子は、天然の配列、又は、天然の配列とは異なっていても、遺伝暗号の縮重により同一のポリペプチド、例えば抗体、をコードする配列を含んでいてよい。これら核酸分子は、RNAもしくはDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、もしくは、ホスホロアミダイトを用いた合成などによって作製される合成DNA)からなっていてよく、又は、これらの種類の核酸のうちのヌクレオチドの組み合わせもしくは修飾からなっていてもよい。それに加え、核酸分子は二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれか)であってよい。
【0116】
核酸分子は、ポリペプチド(例えば、IL-10ポリペプチドバリアント)をコードする配列に限定されず、コード配列(例えば、IL-10ポリペプチドバリアントのコード配列)の上流又は下流にある非コード配列の一部又は全部も含まれていてよい。分子生物学分野の当業者は、核酸分子を単離するための所定の手順を熟知している。核酸分子は、例えば、ゲノムDNAを制限エンドヌクレアーゼで処理することによって、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することによって生成することができる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合、分子は、例えばin vitro転写によって作製することができる。
【0117】
他の一態様において、本明細書に開示される少なくとも1つの組換え細胞、及び培地、を含んだ細胞培養物が提供される。一般に、培地は、本明細書に記載の細胞の培養に適した任意の培地であってよい。幅広い種類の上述の宿主細胞及び種を形質転換するための技術が当該分野で公知であり、技術的、及び科学的文献に記載されている。したがって、本明細書に開示される少なくとも1つの組換え細胞を含んだ細胞培養物も、本出願の範囲に含まれる。細胞培養物を生成及び維持するのに適した方法及び系が、当該分野において公知である。
【0118】
C. 組換え細胞及び細胞培養物
本開示の組換え核酸を、例えばヒトTリンパ球などの宿主細胞に導入し、核酸分子を含んだ組換え細胞を製造することができる。細胞への本開示の核酸分子の導入は、ウイルス感染、トランスフェクション、接合(conjugation)、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション(nucleofection)、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション(direct micro-injection)、ナノ粒子媒介核酸送達、及び同種の方法などの、当業者に公知の方法によって達成することができる。
【0119】
したがって、いくつかの実施形態においては、核酸分子を公知のウイルス又は非ウイルス送達媒体によって送達することができる。例えば、核酸分子は、安定に宿主ゲノム内に組み込むことができ、又は、エピソーム的に複製することができ、又は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え宿主細胞中に存在することができる。したがって、いくつかの実施形態において、核酸分子は、エピソーム単位として組換え宿主細胞内に維持及び複製される。いくつかの実施形態において、核酸分子は、組換え細胞のゲノム内に安定に組み込まれる。安定した組込みは、古典的なランダムゲノム組換え技術を使用するか、又は、ガイドRNA主導(guide RNA-directed)CRISPR/Cas9ゲノム編集、もしくはNgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)を用いたDNAガイド(DNA-guided)エンドヌクレアーゼゲノム編集、もしくはTALENsゲノム編集(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(transcription activator-like effector nucleases))などの、より正確な技術を用いて達成することができる。いくつかの実施形態において、核酸分子は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え宿主細胞中に存在する。
【0120】
核酸分子は、ウイルスキャプシド又は脂質ナノ粒子中に封入してもよく、あるいは、ウイルス又は非ウイルス送達手段及び当該分野で公知の方法、例えばエレクトロポレーションなどによって、送達してもよい。例えば、核酸の細胞への導入は、ウイルス形質導入によって達成されてもよい。非限定的な一例においては、バキュロウイルス又はアデノ関連ウイルス(AAV)を改変し、ウイルス形質導入によって核酸を標的細胞に送達してもよい。いくつかのAAV血清型が記載されているが、全ての公知の血清型は、複数の様々な組織型に由来する細胞に感染することができる。AAVは、明らかな毒性を伴わずに広範な種及び組織にin vivoで形質導入することができ、比較的穏やかな自然及び適応免疫応答を生成する。
【0121】
レンチウイルス由来ベクター系も、ウイルス形質導入による核酸送達及び遺伝子治療に対して有用である。レンチウイルスベクターは、遺伝子送達媒体として、いくつかの魅力的な特性を提供する。その例として、(i)宿主ゲノムへの安定したベクターの組み込みによる持続的な遺伝子送達;(ii)分裂中の細胞と分裂していない細胞の両方に感染する能力;(iii)遺伝子治療及び細胞治療の重要な標的細胞型を包含する幅広い組織親和性;(iv)ベクター形質導入後にウイルスタンパク質が発現しないこと;(v)ポリシストロニック配列又はイントロン含有配列などの複合的な遺伝因子を送達する能力;(vi)組み込み部位のプロファイルの潜在的な安全性が高いこと;及び、(vii)ベクターの操作と作成のための系が比較的容易であること;が挙げられる。
【0122】
いくつかの実施形態においては、本願のベクター構築物などを用いて宿主細胞を遺伝的に改変(例えば、形質導入、形質転換、又はトランスフェクション)することができ、このベクター構築物は、例えば、ウイルスベクター、もしくは宿主細胞のゲノムの一部と相同な核酸配列を含んだ相同組換え用ベクターであってもよく、又は、目的のポリペプチドの発現のための発現ベクターであってもよい。宿主細胞は、形質転換されていない細胞、又は、すでに少なくとも1つの核酸分子でトランスフェクトされた細胞、のいずれであってもよい。
【0123】
いくつかの実施形態において、組換え細胞は原核細胞又は真核細胞である。いくつかの実施形態において、細胞はin vivoである。いくつかの実施形態において、細胞はex vivoである。いくつかの実施形態において、細胞はin vitroある。いくつかの実施形態において、組換え細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態において、組換え細胞は動物細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は哺乳類細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は非ヒト霊長類細胞である。いくつかの実施形態において、組換え細胞は、例えば、リンパ球(例えば、T細胞もしくはNK細胞)又は樹状細胞などの免疫系細胞である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、B細胞、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞、好塩基球、好酸球、好中球、樹状細胞、マクロファージ、制御性T細胞、ヘルパーT細胞(T)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、又は他のT細胞である。いくつかの実施形態において、免疫系細胞はTリンパ球である。いくつかの実施形態において、細胞は、対象から得られた試料に対して白血球除去を行うことで得ることができる。いくつかの実施形態において、対象はヒト患者である。適した細胞株の非限定的な例として、Spodoptera frugiperda(Sf9)、Trichoplusia ni(Hi5)細胞、Expi-293F細胞、Expi-CHO細胞、及びHEK-293T(ATCC CRL-3216)が挙げられる。
【0124】
他の一態様において、本明細書に開示される少なくとも1つの組換え細胞、及び培地、を含んだ細胞培養物が提供される。一般に、培地は、本明細書に記載の細胞の培養に適した任意の培地であってよい。幅広い種類の上述の宿主細胞及び種を形質転換するための技術が当該分野で公知であり、技術的、及び科学的文献に記載されている。したがって、本明細書に開示される少なくとも1つの組換え細胞を含んだ細胞培養物も、本出願の範囲に含まれる。細胞培養物を生成及び維持するのに適した方法及び系が、当該分野において公知である。
【0125】
D. IL-10ポリペプチドを製造するための方法
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、本開示の組換えポリペプチドを製造するための各種方法に関し、方法は、(a)1つ又は複数の本開示の組換え細胞を提供すること;及び、組換え細胞を培地中で、細胞が組換え核酸分子にコードされるポリペプチドを産生するように培養すること;を含む。したがって、本明細書に開示される方法によって製造される組換えポリペプチドも、本開示の範囲に含まれる。
【0126】
組換えポリペプチドを製造するための、開示される方法の非限定的な好ましい実施形態は、次の特徴のうちの1つ又は複数を含みうる。いくつかの実施形態において、方法は、さらに、製造されたポリペプチドを単離及び/又は精製することを含む。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドの製造方法は、さらに、製造されたポリペプチドを単離及び/又は精製することを含む。いくつかの実施形態において、本開示のポリペプチドの製造方法は、さらに、製造されたポリペプチドを構造的に改変することによって半減期を延長することを含む。
【0127】
いくつかの実施形態において、改変は、ヒトFc抗体断片への融合、アルブミンへの融合、及びPEG化からなる群より選択される1つ又は複数の改変を含む。例えば、本明細書に開示される組換えポリペプチドはいずれも、組換えポリペプチドと異種ポリペプチド(例えば、IL-10又はそのバリアントではない、ポリペプチド)とを含んだ、融合物又はキメラポリペプチドとして作成することができる。異種ポリペプチドは、例えば、in vivoにおける組換えポリペプチドの循環半減期(circulating half-life)を延長することができ、したがって、本開示の組換えポリペプチドの特性をさらに増強することができる。各種実施形態において、循環半減期を延長する異種ポリペプチドは、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン、又は、IgG重鎖可変領域を欠く抗体のIgGサブクラスのFc領域であってよい。Fc領域は、例えば、補体結合及びFc受容体結合を阻害する変異を含んでいてもよい。あるいは、Fc領域は溶解性(lytic)であってもよく、例えば、補体に結合することができてもよく、抗体依存性補体溶解(antibody-dependent complement lysis)(ADCC)などの他のメカニズムで細胞を溶解できてもよい。
【0128】
いくつかの実施形態において、「Fc領域」は、IgGをパパインで消化することで産生される、IgGのC末端ドメインに相同な天然又は合成ポリペプチドであってよい。IgGのFcは、約50kDaの分子量を有する。本開示の組換え融合ポリペプチドは、Fc領域全体を含んでいてもよく、あるいは、その小部分であって、それが含まれる融合ポリペプチドの循環半減期を延長する能力を保持する部分を含んでいてもよい。さらに、完全長又は断片化したFc領域は、野生型分子のバリアントであってもよい。すなわち、それらはポリペプチドの機能に影響する、又は影響しないであろう変異を含んでいてもよい。さらに、以下に記載するように、あらゆる場合に本来の活性が必要とされる又は所望されるわけではない。いくつかの実施形態において、組換え融合タンパク質(例えば、本明細書に記載されるIL-10部分アゴニスト又はアンタゴニスト)は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のFc領域を含む。
【0129】
Fc領域は、「溶解性」又は「非溶解性」であってよいが、典型的には非溶解性である。非溶解性Fc領域は、典型的には、高親和性Fc受容体結合部位及びC’1q結合部位を欠く。マウスのIgG Fcの高親和性Fc受容体結合部位は、Leu残基をIgG Fcの235位に有する。したがって、このFc受容体結合部位は、Leu235を変異又は欠失させることで破壊することができる。例えば、Leu235のGluへの置換は、Fc領域が高親和性Fc受容体に結合する能力を阻害する。マウスのC’1q結合部位は、IgGのGlu318、Lys320、及びLys322残基を変異又は欠失させることで、機能的に破壊することができる。例えば、Glu318、Lys320、及びLys322のAla残基への置換により、IgG1 Fcが抗体依存性補体溶解を指示できなくなる。一方、溶解性IgG Fc領域は、高親和性Fc受容体結合部位及びC’1q結合部位を有する。高親和性Fc受容体結合部位はIgG Fcの235位にLeu残基を含み、C’1q結合部位はIgG1のGlu318、Lys320、及びLys322残基を含む。溶解性IgG Fcは、これらの部位に野生型残基又は保存的アミノ酸置換を有する。溶解性IgG Fcは、細胞を、抗体依存細胞傷害性又は補体主導細胞溶解(complement directed cytolysis)(CDC)の標的にすることができる。ヒトIgGに適した変異も当該分野において公知である。
【0130】
他の実施形態において、組換え融合ポリペプチドは、本開示の組換えIL-10ポリペプチドと、FLAG配列などの、抗原タグとして機能するポリペプチドとを含んでいてよい。FLAG配列は、ビオチン化された、高度に特異的な、抗FLAG抗体によって認識される。いくつかの実施形態において、組換え融合ポリペプチドは、さらに、C末端c-mycエピトープタグを含む。
【0131】
他の実施形態において、組換え融合ポリペプチドは、本開示の組換えIL-10ポリペプチドと、IL-10ポリペプチドの発現を増強する、又は細胞局在を指示するように機能する、Aga2pアグルチニンサブユニットなどの異種ポリペプチドとを含む。
【0132】
他の実施形態において、本開示の組換えIL-10ポリペプチドと、抗体又はその抗原結合部位とを含む、融合ポリペプチドが生成されてもよい。融合組換えIL-10ポリペプチドの抗体又は抗原結合部位は、ターゲティング部分としての役割を果たしうる。例えば、それは、組換えIL-10ポリペプチドを細胞の特定のサブセット、又は標的分子に局在化させるのに使用することができる。サイトカイン-抗体キメラポリペプチドを生成する方法も当該分野において公知である。
【0133】
いくつかの実施形態において、本開示の組換えIL-10ポリペプチドを1つ又は複数のポリエチレングリコール(PEG)分子で修飾し、その半減期を延長することができる。本明細書で用いられる「PEG」という語は、ポリエチレングリコール分子のことを意味する。PEGの典型的な形態は、末端ヒドロキシル基を有する直鎖ポリマーであり、HO-CHCH-(CHCHO)n-CHCH-OHの式を有する(式中、nは約8~約4000である)。
【0134】
一般に、nは離散値ではないが、平均値周辺でほぼガウス分布を有する範囲を構成する。末端水素はアルキル又はアルカノール基などのキャッピング基に置換してもよい。PEGは少なくとも1つのヒドロキシ基を有していてよく、それは、より好ましくは末端ヒドロキシ基である。このヒドロキシ基を、ペプチドと反応して共有結合を形成するリンカー部分に付加してもよい。当該分野において、PEGには多数の誘導体が存在する。本開示の組換えIL-10ポリペプチドに共有結合によって付加されるPEG分子は、約10,000、20,000、30,000、又は40,000ダルトンの平均分子量のものであってよい。PEG化試薬は直鎖又は分岐鎖の分子であってよく、それが単独で、又は縦列に存在するものであってよい。PEG化された本開示のIL-10ポリペプチドは、ペプチドのC末端及び/又はN末端に付加された縦列PEG分子を有していてよい。本明細書で用いられる「PEG化」という語は、上記のように、1つ又は複数のPEG分子を、本開示のIL-10ポリペプチドなどの分子に、共有結合によって付加することを意味する。
【0135】
E. 医薬組成物
本開示の組換えポリペプチド、核酸、組換え細胞、及び/又は細胞培養物を、医薬組成物などの組成物に組み込むことができる。このような組成物は一般に、本明細書に記載の組換えポリペプチド、核酸、組換え細胞、及び/又は細胞培養物と、担体などの薬理学的に許容される賦形剤とを含む。
【0136】
したがって、本開示の一態様は、薬理学的に許容される担体と、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;及び(c)薬理学的に許容される担体;のうちの1つ又は複数と、を含む医薬組成物に関する。
【0137】
いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、癌などの疾患を治療、予防、緩和するために、又は、疾患の発症を減少もしくは遅延させるために、製剤化される。
【0138】
開示される医薬組成物の非限定的な好ましい実施形態は、次の特徴のうちの1つ又は複数を含みうる。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の組換えポリペプチド及び薬理学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の組換え細胞及び薬理学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態において、組換え細胞は、本開示の組換えポリペプチドを発現する。新たな治療方法として、インターロイキンを発現及び分泌するように遺伝的に改変された組換え細胞の例が、これまでに、例えば、Steidler L. et al., Nature Biotechnology, Vol. 21, No. 7, July 2003及びOh J.H et al., mSphere, Vol. 5, Issue 3, May/June 2020に記載されている。
【0139】
いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の組換え核酸及び薬理学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態において、組換え核酸は、ウイルスキャプシド又は脂質ナノ粒子中に封入されている。
【0140】
注射用途に適した医薬組成物として、滅菌済水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び、滅菌済注射用溶液又は分散液を即時調製するための滅菌済粉末が挙げられる。静脈内投与の場合、適した担体としては、生理食塩水、静菌水、及びCremophor EL(商標)(BASF, Parsippany, N.J.)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合においても、組成物は無菌であり、また、容易な針通過性(syringability)が存在する程度にまで流動性を持つ必要がある。組成物は、製造及び保管条件下で安定である必要があり、また、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用が及ばないように保管される必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、及び同種のもの)、並びにそれらの好適な混合物などを含有する、溶媒又は分散媒であってよい。適度な流動性を保つことは、例えば、レシチンなどのコーティングを使用すること、分散液の場合に必要とされる粒径を維持すること、及び、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を使用することなどによって可能である。微生物の作用の防止は、各種抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、及び同種のものによって達成できる。多くの場合は、組成物中に、等張剤、例えば、糖;マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール;及び/又は、塩化ナトリウム;を含むことが一般に好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収をもたらすため、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどを、組成物中に含有させてもよい。
【0141】
滅菌済注射用溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した成分の1つ又は組み合わせとともに、適切な溶媒中に組み込み、その後、濾過滅菌することによって調製できる。一般に、分散液は、活性化合物を、基礎分散媒体と、上記で列挙した成分のうちの必要な他の成分とを含有する、滅菌済媒体に組み込むことにより調製される。滅菌済注射用溶液を調製するための滅菌済粉末の場合、好ましい調製法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、これによって、活性成分に任意のさらなる所望の成分を加えた粉末が、予め滅菌濾過されたそれら溶液から生成される。
【0142】
本開示の対象組換えポリペプチドの全身投与は、経粘膜又は経皮手段によるものであってもよい。経粘膜又は経皮投与の場合、浸透の対象となる障壁に適した浸透剤を製剤に使用する。このような浸透剤は当該分野において一般に知られており、例として、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻スプレー又は坐剤の使用によって達成できる。経皮投与の場合、活性化合物は、当該分野で一般に知られているように軟膏(ointments)、軟膏剤(salves)、ゲル剤、又はクリーム剤に製剤化される。
【0143】
いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、当該分野で公知の方法を用いてトランスフェクション又は感染によって投与されてもよく、その方法の例としては、限定されるものではないが、McCaffrey et al. (Nature 418:6893, 2002)、Xia et al. (Nature Biotechnol. 20:1006-1010, 2002)、又はPutnam (Am. J. Health Syst. Pharm. 53:151-160, 1996, erratum at Am. J. Health Syst. Pharm. 53:325, 1996)に記載の方法が挙げられる。
【0144】
いくつかの実施形態において、本開示の対象組換えポリペプチドは、組換えポリペプチドが急速に身体から排除されないように保護する担体と共に調製され、その例として、インプラント及びマイクロカプセル化された送達系などの放出制御製剤が挙げられる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生分解性の生体適合性ポリマーを使用してもよい。このような製剤は、標準的な技術を使用して調製することができる。材料は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals, Inc.から市販のものを入手することもできる。リポソーム懸濁剤(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的とするリポソームを含む)を、薬理学的に許容される担体として用いてもよい。これらを、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載されるように、当業者に公知の方法にしたがって調製してよい。より詳細に以下に記載するように、本開示の組換えポリペプチドを、作用期間の延長を達成するために、PEG化、アシル化、Fc融合、アルブミンなどの分子への結合などによって改変してもよい。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドを、in vivo及び/又はex vivoにおけるその半減期を延長するように、さらに改変してもよい。本開示の組換えポリペプチドを改変するのに適した公知の戦略と方法の非限定的な例として、(1)組換えポリペプチドがプロテアーゼに接触することを阻止する、ポリエチレングリコール(「PEG」)などの高度に可溶性な高分子を用いて、本明細書に記載の組換えポリペプチドを化学的に修飾すること;及び、(2)本明細書に記載の組換えポリペプチドを、アルブミンなどの安定なタンパク質と共有結合又は複合体化すること;が挙げられる。したがって、いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、アルブミンなどの安定なタンパク質に融合させてもよい。例えば、ヒトアルブミンは、それが融合したポリペプチドの安定性を増大させる最も効果的なタンパク質の1つであることが知られており、このような融合タンパク質が多数報告されている。
【0145】
いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、1つ又は複数のペグ化試薬を含む。本明細書で用いられる「PEG化」という語は、ポリエチレングリコール(PEG)をタンパク質に共有結合的に付加することによって、そのタンパク質を改変することを指し、「PEG化された」という語は、PEGを付加したタンパク質のことを指す。約10,000ダルトン~約40,000ダルトンの任意の範囲のサイズのPEG又はPEG誘導体を、各種化学的性質を利用して本開示の組換えポリペプチドに付加してよい。いくつかの実施形態において、PEG又はPEG誘導体の平均分子量は、約1kD~約200kD、例えば、約10kD~約150kD、約50kD~約100kD、約5kD~約100kD、約20kD~約80kD、約30kD~約70kD、約40kD~約60kD、約50kD~約100kD、約100kD~約200kD、又は約150kD~約200kDである。いくつかの実施形態において、PEG又はPEG誘導体の平均分子量は、約5kD、約10kD、約20kD、約30kD、約40kD、約50kD、約60kD、約70kD、又は約80kDである。いくつかの実施形態において、PEG又はPEG誘導体の平均分子量は、約40kDである。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、メトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルプロピオネート(mPEG-SPA)、mPEG-スクシンイミジルブチレート(mPEG-SBA)、mPEG-スクシンイミジルスクシネート(mPEG-SS)、mPEG-スクシンイミジルカーボネート(mPEG-SC)、mPEG-スクシンイミジルグルタレート(mPEG-SG)、mPEG-N-ヒドロキシル-スクシンイミド(mPEG-NHS)、mPEG-トレシレート(tresylate)、及びmPEG-アルデヒドから選択される。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、ポリエチレングリコールである。例えば、ペグ化試薬は、本開示の組換えポリペプチドのN末端メチオニン残基に共有結合した、平均分子量20,000ダルトンのポリエチレングリコールである。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、本開示の組換えポリペプチドのN末端メチオニン残基に共有結合した、平均分子量約5kD、約10kD、約20kD、約30kD、約40kD、約50kD、約60kD、約70kD、又は約80kDのポリエチレングリコールである。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、本開示の組換えポリペプチドのN末端メチオニン残基に共有結合した、平均分子量約40kDのポリエチレングリコールである。
【0146】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、1つ又は複数のポリエチレングリコール部分によって化学的な改変、例えばPEG化、がなされているか、又は類似の改変、例えばPAS化(PASylated)、がなされている。いくつかの実施形態において、PEG分子又はPAS分子は、開示される組換えポリペプチドの1つ又は複数のアミノ酸側鎖に結合している。いくつかの実施形態において、PEG化又はPAS化されたポリペプチドは、1つのアミノ酸上にのみ、PEG又はPAS部分を有している。他の実施形態において、PEG化又はPAS化されたポリペプチドは、2個以上のアミノ酸上にPEG又はPAS部分を有している。例えば、2個以上、5個以上、10個以上、15個以上、又は20個以上の異なるアミノ酸残基にPEG又はPAS部分が付加されている。いくつかの実施形態において、PEG又はPAS鎖は、2000Da、2000Da超、5000Da、5000Da超、10,000Da、10,000Da超、10,000Da超、20,000Da、20,000Da超、及び30,000Daである。PAS化されたポリペプチドは、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基を介してPEG又はPASに(例えば、連結基なしで)直接連結させてもよい。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、約1kD~約200kD、例えば、約10kD~約150kD、約50kD~約100kD、約5kD~約100kD、約20kD~約80kD、約30kD~約70kD、約40kD~約60kD、約50kD~約100kD、約100kD~約200kD、又は約150kD~約200kDの範囲の平均分子量を有するポリエチレングリコールに共有結合している。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、約5kD、約10kD、約20kD、約30kD、約40kD、約50kD、約60kD、約70kD、又は約80kDの平均分子量を有するポリエチレングリコールに共有結合している。いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチドは、約40kDの平均分子量を有するポリエチレングリコールに共有結合している。
【0147】
部位特異的PEG化部位の組み込み
いくつかの実施形態において、本開示の組換えポリペプチド(例えば、IL-10バリアント)を、例えば米国特許第7,045,337号明細書及び第7,915,025号明細書;Dieters, et al. (2004) Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters 14(23):5743-5745;並びに、Best, M (2009) Biochemistry 48(28):6571-6584に記載にように、非天然アミノ酸側鎖を有する非天然アミノ酸の組み込みによって改変し、それによって部位特異的結合(例えば、PEG化)を促進してもよい。いくつかの実施形態において、例えば、Dozier and Distefano (2015) International Journal of Molecular Science 16(10):25831-25864に記載のように、本開示の組換えポリペプチド内の様々な部位にシステイン残基を組み込み、そのシステイン側鎖を介して部位特異的PEG化を促進してもよい。
【0148】
ある実施形態において、本開示は、本開示の部位特異的PEG化を可能にする1つ又は複数のアミノ酸(例えば、システイン又は非天然アミノ酸)の組み込みを有するIL-10バリアントポリペプチドを提供し、この部位特異的PEG化部位のためのアミノ酸置換は、IL-10と、IL-10Rα又はIL-10RβなどのIL-10受容体シグナリング複合体の成分との間の界面には位置しない。これらの例において、部位特異的アミノ酸改変の組み込みは、本明細書に記載される結晶構造で示されるIL-10Rβ結合界面を包含する配列番号1又は配列番号16のアミノ酸残基34~69、78~87、及び108~160、以外のIL-10アミノ酸部位における組み込みである。したがって、いくつかの実施形態において、本開示は、配列番号1又は配列番号16の次のアミノ酸部位:34~69、78~87、及び108~160の1つ又は複数における部位特異的結合(例えばPEG化)を可能にするための部位特異的アミノ酸置換を有するIL-10バリアントポリペプチドを提供する。
【0149】
部位特異的PEG化部位の組み込み
いくつかの実施形態において、IL-10タンパク質のIL-10Rβタンパク質との相互作用を、本明細書に記載の、IL-10界面におけるアミノ酸位置での部位特異的ペグ化の組み込みによって調節してもよい。配列番号1の13~33、70~77、及び88~107(言い換えると、シグナルペプチドを有するプレタンパク質のヒトIL-10タンパク質、すなわち配列番号16の配列、に従った番号付けによる残基31~51、88~95、及び106~125)からなる群より選択されるアミノ酸残基に対応する1つ又は複数の位置の部位特異的PEG化を促進する非天然アミノ酸(又はシステイン残基)の組み込みにより、IL-10Rβタンパク質に対する結合が調節されたIL-10バリアントポリペプチドが提供され、その結果、部分アゴニスト活性を有するIL-10/IL-10Rα/IL-10Rβ受容体複合体が形成される。PEG分子が界面に組み込まれるこれらの例において、IL-10バリアントポリペプチドのIL-10Rβ又はIL-10R1タンパク質との結合を完全に妨げて活性を排除することがないように、PEGは、典型的には、約1kDa、あるいは約2kDa、あるいは約3kDa、あるいは約4kDa、あるいは約5kDa、あるいは約6kDa、あるいは約7kDa、あるいは約8kDa、あるいは約9kDa、あるいは約10kDa、あるいは約12kDa、あるいは約15kDa、又は、あるいは約20kDaからの低分子量PEG種である。
【0150】
製剤
本開示のIL-10バリアントポリペプチドは、その治療に有効な量を単独で、又は1つもしくは複数のさらなる治療剤と組み合わせて、炎症性及び/又は自己免疫疾患に罹患した対象哺乳類に投与することで、対象におけるそれら疾患の治療及び/又は予防に対して有用となる。さらに、本開示は、治療に有効な量のこのようなIL-10バリアントポリペプチドを単独で、又は1つもしくは複数のさらなる治療剤と組み合わせて、炎症性疾患に罹患した対象哺乳類に投与することによって、対象におけるその疾患を治療及び/又は予防するための方法を提供する。
【0151】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物及び方法は、消化管(gastrointestinal (GI) tract)の炎症性疾患の治療において有用であり、その疾患の例としては、限定されるものではないが、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、及び、腸管の慢性炎症によって特徴づけられる他の形態の炎症性腸疾患(IBD)が挙げられる。クローン病は口から肛門までの腸管の領域に影響する可能性がある一方で、潰瘍性大腸炎は典型的には大腸及び直腸の炎症と関連する。
【0152】
このような腸の炎症状態のための従来の第1選択の治療として、5-アミノサリチル酸を、任意にコルチコステロイドと組み合わせたものが挙げられる。より最近開発された治療用タンパク質としては、抗TNFアルファ抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、及びゴリムマブ)、インテグリン受容体アンタゴニスト(例えば、ナタリズマブ及びベドリズマブ)、及びIL23アンタゴニスト(例えば、ウステキヌマブ)が挙げられる。慢性炎症性疾患の治療において有意な有効性を提供する一方で、このようなポリペプチドの従来の非経口(IM、IV、又はSQ)投与では、治療に対して比較的少ない割合の薬剤による全身曝露となる。これらの薬剤は炎症経路の特異的な阻害を提供する一方で、このような薬剤の非経口投与による全身曝露は、免疫抑制などの重大な全身性副作用と関連し、結核、真菌感染症、尿路感染症、及びリンパ腫などの深刻な、生命を脅かす可能性のある感染症に対する脆弱性を高める。このような重大な全身毒性により、投与される薬剤の用量は限定的なものとなり、患部組織の生物学的薬剤への曝露は最適を下回ることとなる。
【0153】
本開示のIL-10バリアントポリペプチドの選択的な特性は、非経口投与の際にこのような全身副作用を緩和するが、いくつかの例においては、IL-10バリアントポリペプチドの腸管への直接投与を提供することが望ましい場合がある。
【0154】
IL-10バリアントポリペプチドの経口投与のための製剤
本開示はさらに、対象哺乳類における消化管の炎症性疾患の治療及び/又は予防の方法であって、治療又は予防に有効な量の、本開示のIL-10バリアントポリペプチドを含む組成物を単独で、又は1つもしくは複数のさらなる治療剤と組み合わせて、対象哺乳類に投与することを含む、方法を提供する。本開示はさらに、本開示のIL-10バリアントポリペプチドを含む腸溶性組成物を提供する。いくつかの実施形態において、腸溶性組成物は、IL-10バリアントポリペプチドの薬理学的に許容される製剤を含み、このような製剤は、IL-10バリアントポリペプチドの上部消化管における分解に抵抗性であり、下部消化管において崩壊して、小腸、大腸、直腸、及び肛門を含む下部消化管へのIL-10バリアントポリペプチドの投与と、潰瘍性大腸炎を含むが限定されない下部消化管の炎症性疾患の治療とを促進する。経口投与に適したポリペプチド製剤の例が当該分野において公知であり、例として、Hamman, et al “Oral Delivery of Peptide Drugs” (2005). BioDrugs 19, 165-177及びBlichmann, P. “Oral Delivery of Peptide Drugs for Mitigation of Crohn’s Disease” (2012). All Theses. 1486や、Anselmo, et al “Non-invasive delivery strategies for biologics” (2019) Nat Rev Drug Discov 18, 19-40の総説の製剤が挙げられる。
【0155】
改変された原核細胞の送達
他の一実施形態において、本開示は、IL-10バリアントを対象哺乳類の消化管に投与するための方法を提供する。この方法は、組換えによって改変された原核細胞を含む、薬理学的に許容される組成物を、対象に投与する工程を含み、原核細胞は、IL-10バリアントが組換え原核細胞内で発現され、IL-10バリアントが組換えで改変された原核細胞からの分泌により、もしくは前記細胞の溶解により、消化管に放出されるように、又は、原核細胞の表面に提示されるように、1つ又は複数の発現制御配列に作動可能に連結された本開示のIL-10バリアントをコードする核酸配列を含む。IL-10の投与のための、組換えにより改変された細菌細胞の例が、当該分野で公知である(Steidler, et al. 2003(上記))。いくつかの実施形態において、IL-10バリアントを発現する改変細菌細胞を経口で、典型的には水性懸濁液の形態で投与してもよく、又は直腸投与(例えば注腸)してもよい。
【0156】
腸内細菌叢への原核生物ウイルス送達
一実施形態において、本開示は、IL-10バリアントポリペプチドをコードする核酸配列を含む、組換えにより改変された原核生物ウイルス(バクテリオファージなど)を提供する。他の一実施形態において、本開示は、対象哺乳類の腸管の炎症性疾患を治療する方法を提供し、この方法は、IL-10バリアントポリペプチドをコードする核酸配列を含む、組換えにより改変された原核生物ウイルス(バクテリオファージなど)の薬理学的に許容される製剤を、治療に有効な量で対象に投与することを含み、核酸配列は、原核細胞が原核生物ウイルスに感染した際に、IL-10バリアントが宿主細胞内で発現するように、ウイルスの宿主原核細胞内で機能的する1つ又は複数の発現制御配列に、作動可能に連結している。一実施形態において、バクテリオファージは溶菌性ファージであり、それにより、感染後にバクテリオファージが細菌細胞の溶菌経路を誘導し、IL-10バリアントの局所的放出と、IL-10バリアントの腸粘膜への送達とがもたらされる。
【0157】
本明細書で用いられる「原核細胞ウイルス」、「バクテリオファージ」、及び「ファージ」という語は、本明細書において互換的に用いられ、細菌に感染してその中で複製する任意の各種細菌ウイルスのことを表す。広範な細菌細胞を選択することのできる広範な種類のバクテリオファージが同定されており、科学論文において広く特徴づけられている。バクテリオファージは感染対象の細菌細胞に有意な選択性を示すため、バクテリオファージの選択は、典型的には、発現させるための腸内細菌叢の標的細菌を考慮して行われる。広範な細菌細胞の任意のものに対する、組換えによって改変されたバクテリオファージの生成のための出発材料として適したバクテリオファージの試料が、American Type Culture Collection(Manassas, VA)から入手可能である。ファージゲノムの操作は、当業者に周知の、組換え核酸の操作のための標準的な方法に従って行われる。その例として、Molecular Cloning:A Laboratory Manual (available from Cold Spring Harbor Press)に記載の方法と、各種実験用品業者から入手可能な従来の試薬が挙げられる。
【0158】
IL-10バリアントの、感染部位への送達は、対象の腸内細菌叢の原核細胞に感染できるバクテリオファージによって達成される。このバクテリオファージは、IL-10バリアントをコードする核酸配列に作動可能に連結した、標的原核細胞内で活性のあるプロモーターを含んだ発現カセットを、組換え技術を用いて導入することによって改変され、この発現カセットは、組換えによって改変されたバクテリオファージによる標的細菌細胞のトランスフェクションに続いて、IL-10バリアントポリペプチドが標的細菌細胞内で発現されるように、バクテリオファージゲノムの非必須領域中に挿入される。例えば、S. aureus細胞を標的とするバクテリオファージの場合、この発現カセットには、S. aureus特異的バクテリオファージの非必須領域中に挿入されたIL-10バリアントの発現を促進する、S. aureusプロモーターを用いる。バクテリオファージゲノムの非必須領域は、このようなファージの公知のゲノム構成及びコード配列によって容易に同定できる。広範な種類の細菌において活性のある原核生物プロモーター配列が、当該分野において周知である。プロモーター配列は天然配列から切り出して得てもよく、又は、標的細菌細胞の天然の原核生物プロモーター配列に対応する核酸配列の配列決定及び合成によって得てもよい。例えば、Estrem, et al. (1999) Bacterial promoter architecture: Subsite structure of UP elements and interactions with the carboxy-terminal domain of the RNA polymerase alpha subunit; Genes & Development 13(16):2134-2147を参照のこと。
【0159】
コドンの最適化
IL-10バリアントのアミノ酸配列及び対応するコード核酸配列を本明細書に提供する。また、当業者は、遺伝暗号の縮重に基づいて核酸配列を生成することができる。一実施形態においては、発現のために最適化されたコドンを使用することにより、IL-10バリアントの哺乳類配列を、細菌細胞での標的環境における発現に対して最適化する。細菌細胞での発現に最適化された好ましいコドンを用いてIL-10バリアントをコードする合成核酸配列を構築するための技術については、バクテリオファージゲノムの、本来のタンパク質をコードするためのコドン使用頻度の共通性と、その相対的な存在量とを、当該分野で周知の技術によって分析する計算法により決定することができる。コドン使用頻度データベース(www.kazusa.or.jp/codon)を用いて、細菌環境におけるコドン最適化配列を生成することができる。さらには、1つの生物由来の配列を別の宿主生物のための最適化コドン使用頻度に変換するために、各種ソフトウェアツールが利用可能であり、その例として、JCat Codon Optimization Tool (www.jcat.de)、Integrated DNA technologies Codon Optimization Tool (www.idtdna.com/CodonOpt)、又はthe Optimizer online codon optimization tool (genomes.urv.es/OPTIMIZER)などが挙げられる。このような合成配列は、合成核酸分子の構築のための当該分野で周知の技術により構築することができ、様々な販売業者から入手することもできる。
【0160】
ファージベクターのPAMモチーフの削除
いくつかの実施形態において、腸内細菌叢での組換えベクターからのIL-10ポリペプチドの発現を促進するため、細菌宿主細胞の防御機構を回避又は阻害するように、本発明の組換え原核生物ベクターを改変してもよい。細菌宿主は、二本鎖DNA切断を導入してファージを不活性化するCas9エンドヌクレアーゼなどの、バクテリオファージ感染に対抗する防御機構を発達させている。Cas9エンドヌクレアーゼはゲノムをサーベイし、Cas9が標的DNAに結合するために必須であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位を識別する。PAM配列はCas9の機能に必須であるため、Cas9配列を原核細胞ウイルスから排除することで、対象の腸内細菌叢の内因性Cas9エンドヌクレアーゼがIL-10バリアントをコードする侵入ファージを無力化する能力が、最小限に抑えられる。
【0161】
IL-10バリアントポリペプチドを発現する改変制御性T細胞(Tregs)
いくつかの実施形態において、本開示は、さらに、組換えによって改変されたTreg細胞を提供する。このTregは、シグナルペプチドを任意に含むIL-10バリアントをコードする核酸配列を含んだ発現カセットを含み、核酸配列は、IL-10バリアントをコードする核酸配列の転写と翻訳を指示することができる、Treg細胞において機能する発現制御配列と作動可能に連結しており、IL-10バリアントは、シグナルペプチドと結合している場合には任意に分泌型となる。当業者は、「制御性T細胞」又は「Treg細胞」という語が、エフェクターT細胞(Teff)を含むがそれに限定されない他のT細胞の応答を抑制しうる、CD4+ T細胞の一種を表すことを理解するであろう。Treg細胞は、CD4、IL-2受容体のα-サブユニット(CD25)、及び転写因子フォークヘッドボックスP3(FOXP3)の発現によって特徴づけられる。改変されたTreg細胞及びその調製方法は、当該分野において周知である。例えば、McGovern, et al. Engineering Specificity and Function of Therapeutic Regulatory T Cells (2017). Front. Immunol. 8:1517及びScott, D. Genetic Engineering of T Cells for Immune Tolerance (2020) Molecular Therapy: Methods & Clinical Development 16:103を参照のこと。Zhang, et al (2018) Frontiers in Immunology 12(9):235に記載のCAR Tregも挙げられる。
【0162】
ウイルスベクターによるIL-10の投与
いくつかの実施形態において、IL-10バリアントをコードする核酸配列を含んだ発現ベクターに対象哺乳類を接触させることにより、IL-10バリアントを対象に投与してもよい。発現ベクターはウイルスベクター又は非ウイルスベクターであってもよい。「非ウイルスベクター」という語は、自律的に複製する染色体外の環状DNA分子であって、通常のゲノムとは別個のものであり、非選択的な条件下で細胞の生存に必須ではなく、標的細胞内でコード配列を発現させることが可能な分子のことを指す。プラスミドは非ウイルスベクターの例である。標的細胞のトランスフェクションを促進するため、標的細胞を、非ウイルスベクターの取り込みを促進する条件下で、非ウイルスベクターに直接曝露してもよい。哺乳類細胞による外来核酸の取り込みを促進する条件の例は、当該分野において周知であり、その例としては、限定されるものではないが、化学的手段(例えばLipofectamine(登録商標)、Thermo-Fisher Scientific)、高塩濃度、及び磁場(エレクトロポレーション)が挙げられる。
【0163】
一実施形態において、非ウイルスベクターは、非ウイルス送達系において提供されてもよい。非ウイルス送達系は、典型的には、標的細胞への核酸カーゴ(nucleic acid cargo)の形質導入を促進する複合体であり、核酸は、カチオン性脂質(DOTAP、DOTMA)、界面活性剤、生物製剤(ゼラチン、キトサン)、金属(金、磁鉄)、合成ポリマー(PLG、PEI、PAMAM)などの薬剤と複合体化される。非ウイルス送達系の多くの実施形態が当該分野において公知であり、それらの例として、脂質ベクター系(Lee et al. (1997) Crit Rev Ther Drug Carrier Syst. 14:173-206)、ポリマー被覆リポソーム(米国特許第5,213,804号明細書;米国特許第5,013,556号明細書);及び、カチオン性リポソーム(米国特許第5,283,185号明細書;米国特許第5,578,475号明細書;米国特許第5,279,833号明細書;米国特許第5,334,761号明細書)が挙げられる。
【0164】
他の一実施形態において、発現ベクターはウイルスベクターであってよい。本明細書において用いられるウイルスベクターという語は、その従来の意味で使用され、タンパク質合成又はエネルギー生成機構を持たない任意の細胞内絶対寄生体(obligate intracellular parasites)のことを指し、一般に、哺乳類細胞に外来導入遺伝子を送達するために用いられることの多い、エンベロープを持った、又は持たない、任意の動物ウイルスのことを指す。ウイルスベクターは、複製可能(例えば、実質的に野生型)であってもよく、条件的複製可能(特定条件下で複製するように組換えによって改変したもの)であってもよく、又は複製欠損性(ウイルスの欠失した機能を補足することができる細胞株が無ければ実質的に複製できないもの)であってもよい。ウイルスベクターは、それが「選択的複製可能」となるような、すなわち、特定の細胞型、又は、例えば癌状態などの表現系細胞状態(phenotypic cell states)においてウイルスベクターが優先的に複製するような、特定の改変を有していてもよい。本発明の実施において有用なウイルスベクター系の例として、天然又は組換えのウイルスベクター系が挙げられる。本発明の実施において有用なウイルスの例として、組換えによって改変された、エンベロープを持った、又は持たない、DNA及びRNAウイルスが挙げられる。例えば、ウイルスベクターは、ヒト又はウシのアデノウイルス、ワクシニアウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ関連ウイルス、レンチウイルス(例えばヒト免疫不全ウイルス)、シンドビスウイルス、(ラウス肉腫ウイルスを含むがそれに限定されない)レトロウイルス、及びB型肝炎ウイルスのゲノムから得られたものであってよい。典型的には、目的の遺伝子をこのようなベクターに挿入することで、典型的にはウイルスゲノム配列を伴った遺伝子構築物のパッケージングを可能にし、その後、感受性宿主細胞を感染させて目的の遺伝子を発現させる。
【0165】
追加のペプチド治療剤との併用療法を促進するため、発現ベクターは、1つ又は複数のポリペプチドを、IL-10バリアントポリペプチドに加えてコードしていてもよい。本発明の実施におけるように複数のポリペプチドを発現させる場合、各ポリペプチドを発現制御配列に作動可能に連結するか(モノシストロニック)、又は、複数のポリペプチドをポリシストロニックな構築物によってコードし、複数のポリペプチドが単一の発現制御配列の制御下で発現されるようにしてもよい。一実施形態において、ターゲティング抗原(targeting antigen)をコードする発現ベクターは、1つ又は複数の免疫調節因子をさらにコードしていてもよい。本発明の実施に有用な免疫調節因子の例としては、限定されるものではないが、サイトカイン類が挙げられる。発現したサイトカイン類は細胞内で発現するように指示してもよく、シグナル配列とともに発現させて細胞外提示又は分泌させてもよい。
【0166】
発現ベクターは、任意に、「レスキュー」遺伝子(例えば、その発現により、外部因子による死滅に対して細胞が感受性となるか、又は細胞が死滅するように細胞内が毒性状態となる、核酸配列)をコードする核酸配列を含む発現カセットを提供してもよい。レスキュー遺伝子を提供することで、形質導入細胞を選択的に死滅させることが可能となる。したがって、レスキュー遺伝子は、前記構築物が対象哺乳類の細胞内に組み込まれた際に、形質導入細胞の望ましくない拡散や複製可能ベクター系の効果を妨げる、さらなる安全対策を提供する。一実施形態において、レスキュー遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子であり(米国特許第5,631,236号明細書及び米国特許第5,601,818号明細書を参照のこと)、この場合、TK遺伝子産物を発現する細胞はガンシクロビル投与による選択的死滅に対して感受性となる。
【0167】
本開示の方法
本明細書に記載される治療組成物、例えば、組換えポリペプチド、IL-10ポリペプチドバリアント、核酸、組換え細胞、及び医薬組成物などのいずれか1つの投与を用いて、関連のある健康状態及び疾患、例えば癌、自己免疫疾患、及び慢性感染症などの治療において、患者を治療することができる。一実施形態において、本明細書に記載の組換えポリペプチド、IL-10ポリペプチドバリアント、核酸、組換え細胞、及び医薬組成物を治療薬に組み込み、IL-10シグナル伝達と関連した1つもしくは複数の自己免疫疾患もしくは状態を有する、又は有する疑いのある、又は発症するリスクが高い可能性がある、個体を治療する方法において使用することができる。自己免疫疾患又は状態の例としては、限定されるものではないが、癌、免疫疾患、及び慢性感染症が挙げられる。いくつかの実施形態において、個体は、医師による治療を受けている患者である。
【0168】
したがって、一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;(c)組換え細胞;及び、(d)本開示の医薬組成物;のうちの1つ又は複数を含んだ組成物を対象に投与することを含む、対象におけるIL-10媒介シグナル伝達の調整のための方法に関する。いくつかの実施形態において、方法は、治療に有効な量の本開示の組換えポリペプチドを投与することを含む。
【0169】
他の一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、(a)本開示の組換えポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸;(c)組換え細胞;及び、(d)本開示の医薬組成物;のうちの1つ又は複数を含んだ組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。いくつかの実施形態において、方法は、治療に有効な量の本開示の組換えポリペプチドを投与することを含む。
【0170】
いくつかの実施形態において、開示される医薬組成物は、意図される投与経路に適合するように製剤される。本開示の組換えポリペプチドは経口又は吸入によって投与してもよいが、非経口経路で投与されることのほうが多いであろう。非経口経路の投与の例として、例えば、静脈内、皮内、皮下、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与が挙げられる。非経口適用のために用いられる溶液又は懸濁液は、次の成分を含みうる:注射用水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝液;並びに、塩化ナトリウム又はデキストロースなどの、張性を調整するための薬剤。pHは、一塩基性及び/又は二塩基性リン酸ナトリウム、塩酸、又は水酸化ナトリウムなどの、酸又は塩基で(例えば、約7.2~7.8、例えば7.5のpHに)調整してよい。非経口製剤は、ガラスもしくはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、又は複数回用量バイアル(multiple dose vials)に封入してよい。
【0171】
本開示のこのような対象組換えポリペプチドの用量、毒性、及び治療効果は、細胞培養物又は実験動物における標準的な製薬上の手順、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)及びED50(集団の50%で治療に有効な用量)を求めるための手順により、求めることができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数であり、これを比LD50/ED50として表わすことができる。高い治療指数を示す化合物が一般に適切である。毒性副作用を示す化合物を使用してもよいが、未感染細胞に対する潜在的な損傷を最少にすることで副作用を減少させるため、このような化合物を患部組織の位置に向かわせる送達系の設計を注意深く行う必要がある。
【0172】
細胞培養アッセイと動物研究から得られたデータを利用して、ヒトで用いるための用量の範囲を定めることができる。このような化合物の用量は、毒性がほとんど無いか又は無毒性でED50を含む、循環濃度の範囲内であることが好ましい。用量は、用いる剤形と利用する投与経路に応じて、この範囲内で変えてもよい。本開示の方法において用いるいずれの化合物についても、治療に有効な用量は、まず細胞培養アッセイから見積もることができる。動物モデルにおいて、細胞培養で求めたIC50(例えば、症状の50%抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように用量を定めてもよい。このような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量を、より正確に決めることができる。血漿中の濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0173】
本開示の対象組換えポリペプチドの治療に有効な量(例えば、有効量)は、選択されるポリペプチドによって異なる。例えば、1回量として、患者の体重1kgあたり約0.001~0.1mgの範囲で投与してもよく、いくつかの実施形態においては、約0.005、0.01、又は0.05mg/kgを投与してもよい。いくつかの実施形態においては、600,000IU/kgが投与される(IUはリンパ球増殖バイオアッセイで求めることができ、国際単位(IU)で表される)。組成物は、1日あたり1回以上~週あたり1回以上、例えば1日おきに、投与してよい。当業者は、いくつかの因子が、対象を効果的に治療するために必要な用量とタイミングに影響を与える可能性があることを理解するであろう。それら因子の例としては、限定されるものではないが、疾患の重症度、これまでの治療、対象の全体的な健康状態及び/又は年齢、並びに、他の疾患の存在が挙げられる。さらに、治療に有効な量の本開示の対象組換えポリペプチドを用いた対象の治療には、単回治療が含まれてよく、また、連続した治療も含まれてよい。いくつかの実施形態において、組成物は、5日間にわたって8時間ごとに投与された後、2~14日間、例えば9日間の休止期間をおいて、その後、さらに5日間にわたって8時間ごとに投与される。
【0174】
対象におけるIL-10媒介シグナル伝達を調整するための、及び/又は、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための、本開示の方法の非限定的な好ましい実施形態は、次の特徴の1つ又は複数を含んでいてよい。いくつかの実施形態において、投与組成物は、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドとの比較において、細胞型が偏向したILー10シグナル伝達を対象にもたらす。より詳細に実施例に記載するように、本開示のIL-10ポリペプチドバリアントの一例である10-DEは、in vivoで細胞型偏向性シグナル応答をもたらし、単球及びマクロファージにおいて完全STAT3アゴニストとして作用する一方で、CD4+、CD8+ T細胞、NK細胞、及びB細胞においては弱いSTAT3アゴニストとして作用する。特に、IL-10バリアントである10-DEは、B細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、及び/又はNK細胞などのバルクPBMCにおけるSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらす一方で、単球及びマクロファージにおけるSTAT3抗炎症媒介機能を実質的に保持し、それによってin vivoでIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離す。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組換えIL-10ポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸置換は、バルクPBMC、B細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、及び/又はNK細胞におけるIL-10シグナル伝達を低下させる一方で、単球及びマクロファージにおけるIL-10シグナル伝達を実質的に保持する、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達をもたらす。
【0175】
したがって、いくつかの実施形態において、投与組成物は、バルクPBMC、B細胞、T細胞、及び/又はNK細胞におけるIL-10シグナル伝達を低下させる一方で、単球におけるIL-10シグナル伝達を実質的に保持する、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達をもたらす。いくつかの実施形態において、細胞型偏向性IL-10シグナル伝達は、バルクPBMC、B細胞、T細胞、及び/又はNK細胞におけるIL-10シグナル伝達の低下を含む一方で、マクロファージにおけるIL-10シグナル伝達を実質的に保持する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、対象内のバルクPBMCにおける炎症性サイトカイン産生を抑制する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、活性化された単球上のMHC-IIを下方制御する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、ヒト単球由来マクロファージにおける炎症性サイトカイン産生を抑制する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、活性化CD8+ T細胞の活性を増強しない。いくつかの実施形態において、投与組成物は、CD8+ T細胞によるIFN-γ及び/又はグランザイムB産生を増強しない。
【0176】
いくつかの実施形態において、投与組成物は、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドを含む組成物との比較において、例えばSTAT3のリン酸化によって判断される、偏向性IL-10シグナル伝達をもたらす。いくつかの実施形態において、偏向性IL-10シグナル伝達は、STAT3のリン酸化が、アミノ酸置換の無い基準IL-10ポリペプチドと比べて少なくとも10%、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%低下することを含む。
【0177】
いくつかの実施形態において、投与組成物は、1つ又は複数のSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらす。STAT3媒介炎症誘発機能の非限定的な例としては、サイトカイン産生、ケモカイン産生、免疫細胞増殖、及び免疫細胞動員が挙げられる。いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘導機能は、遺伝子発現アッセイ、ホスホフローシグナリングアッセイ、及び/又は酵素結合免疫吸着法(ELISA)による測定に基づくと、約20%~約100%低下する。いくつかの実施形態において、投与組成物は1つ又は複数のSTAT3媒介炎症誘発機能の低下をもたらし、これは、ポリペプチドが炎症誘発性遺伝子の発現を誘導する能力に基づいて判断される。炎症誘発性遺伝子の非限定的な例として、IFN-γ、グランザイムB、グランザイムA、パーフォリン、TNF-α、GM-CSF、及びMIP1αが挙げられる。
【0178】
いくつかの実施形態において、STAT3媒介炎症誘発機能は(例えば、Daudi、Jurkat、又はYT-1細胞において測定した場合に)、アミノ酸置換の無い基準IL-10と比較して、約20%~約100%、例えば、約20%~約50%、約30%~約60%、約40%~約70%、約50%~約80%、約40%~約90%、約50%~約100%、約40%~約80%、約30%~約70%、約20%~約80%、約20%~約70%、約20%~約60%、約30%~約80%、約30%~約90%、又は約30%~約100%低下し、いくつかの実施形態においては、初代単球におけるSTAT3媒介機能を有意に変化させない。
【0179】
いくつかの実施形態において、投与組成物は、1つ又は複数のSTAT3媒介機能を実質的に保持する。STAT3媒介機能の例としては、限定されるものではないが、単球及びマクロファージの活性化の抑制、サイトカイン産生、ケモカイン産生、及びMHC発現が挙げられる。いくつかの実施形態において、投与組成物は、実質的に、1つ又は複数のSTAT3媒介機能を保持し、これは、ポリペプチドがIL-6、TNF-α、IL-1b、IL-8、IL-12、及びHLA-DRなどのバイオマーカーの発現を抑制する能力に基づいて判断される。
【0180】
いくつかの実施形態において、投与組成物は、前記対象における、IFN-γ、グランザイムB、グランザイムA、パーフォリン、TNF-α、GM-CSF、及びMIP1αから選択される炎症誘発性遺伝子の発現を誘導する能力の低下をもたらす。いくつかの実施形態において、投与組成物は、その、対象におけるIL-6、TNF-α、IL-1b、IL-8、IL-12、及びHLA-DRから選択される遺伝子の発現を低下させる能力を実質的に保持する。いくつかの実施形態において、医薬組成物の投与は、対象におけるT細胞活性を活性化しない。
【0181】
いくつかの実施形態において、投与組成物は、腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫を増強する。いくつかの実施形態において、投与組成物は、腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫、上皮保護、及び再生を増強する。いくつかの実施形態において、状態は、癌、免疫疾患、自己免疫疾患、又は慢性感染症である。
【0182】
いくつかの実施形態において、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、その健康状態が癌である方法が本明細書に提供される。癌という語は、一般に、制御されない増殖、不死、転移能、速い成長及び増殖速度、及び、特定の形態的特徴などの、癌を引き起こす細胞に典型的な特徴を有する細胞の存在のことを指す。癌細胞は集合して腫瘍を形成しているのが観察されることが多いが、このような細胞は動物対象内で個々に存在している場合もあり、また、白血病細胞などの非腫瘍形成性の癌細胞である場合もある。したがって、「癌」という語が表すものには、固形腫瘍、軟部組織腫瘍、又は転移巣が包含される場合がある。本明細書で用いられる「癌」という語には、前癌状態や悪性癌も含まれる。いくつかの実施形態において、癌は固形腫瘍、軟部組織腫瘍、又は転移巣である。
【0183】
いくつかの実施形態において、癌の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、癌が、急性骨髄性白血病、未分化リンパ腫、星状細胞腫、B細胞癌、乳癌、結腸癌、上衣腫、食道癌、神経膠芽腫、神経膠腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、肝臓癌、肺癌、マントル細胞リンパ腫、黒色腫、神経芽細胞腫、非小細胞肺癌、乏突起膠腫、卵巣癌、膵臓癌、末梢性T細胞リンパ腫、腎臓癌、肉腫、胃癌、癌腫、中皮腫、及び肉腫からなる群より選択される方法が、本明細書において提供される。
【0184】
いくつかの実施形態において、免疫疾患は自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、溶血性貧血、リウマチ熱、甲状腺炎、クローン病、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、多発性硬化症、円形脱毛症、乾癬、白斑、栄養障害性表皮水疱症、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主疾患、潰瘍性大腸炎、膵炎、乾癬性関節炎、及び糖尿病性足潰瘍からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、対象は哺乳類である。いくつかの実施形態において、哺乳類はヒトである。いくつかの実施形態において、対象はIL-10媒介シグナル伝達と関連した状態を有するか、又は有する疑いがある。
【0185】
いくつかの実施形態において、健康状態の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、健康状態が、細菌、微少菌類、又はウイルスなどの微生物による慢性感染症などの慢性炎症状態と関連した悪性疾患である方法が、本明細書に提供される。したがって、本開示のいくつかの実施形態は、敗血症などの細菌感染と関連した悪性疾患を治療するための方法に関する。本開示のいくつかの実施形態は、慢性ウイルス感染症と関連した悪性疾患を治療するための方法に関する。慢性ウイルス感染症と関連した悪性疾患の非限定的な例として、急性呼吸促迫症候群(ARDS)及びサイトカイン放出症候群(CRS)が挙げられる。いくつかの実施形態において、ウイルス感染症は呼吸器感染症である。いくつかの実施形態において、感染症は、ヒトOrthopneumovirus属の種、Enterovirus科の種、Coronaviridae科の種、又はOrthomyxoviridae科のサブタイプに属するウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態において、オルソミクソウイルスはインフルエンザAウイルス又はパラインフルエンザウイルスである。いくつかの実施形態において、インフルエンザAウイルスは、H1N1、H1N2,H2N2,H3N1,H3N2,H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、及びH10N7からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、パラインフルエンザウイルスは、HPIV-1、HPIV-2、HPIV-3、及びHPIV-4のサブタイプからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、感染症はコロナウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態において、コロナウイルスはβ-CoV重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。いくつかの実施形態において、コロナウイルスβ-CoV感染症は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルスSARSr-CoV(SARS-CoV、SARS-CoV-2、及びコウモリSL-CoV-WIV1などの、その全ての系統を含む)からなる群より選択されるSarbecovirus亜属、並びに、TylonycterisコウモリコロナウイルスHKU4(BtCoV-HKU4)、PipistrellusコウモリコロナウイルスHKU5(BtCoV-HKU5)、及び中東呼吸器症候群関連コロナウイルスMERS-CoV(HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-OC43、及びHCoV-HKU1の種を含む)からなるMerbecovirus亜属のうち、1つ又は複数と関連したものである。いくつかの実施形態において、ヒトオルソミクソウイルスはヒトRSウイルス(HRSV)である。いくつかの実施形態において、HRSVはサブタイプA及び/又はサブタイプBと関連したものである。
【0186】
追加の治療法
上記で議論するように、本明細書に記載の組換えポリペプチド、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び/又は医薬組成物のいずれか1つを、化学療法薬、抗癌剤、免疫抑制剤(immunosuppressive agents)、免疫抑制薬(immunosuppressants)、又は抗炎症薬などの、1つ又は複数の治療薬と組み合わせて投与してもよい。1つ又は複数の追加の治療薬と「組み合わせて」投与することには、同時(並行)投与、及び、任意の順番での連続投与が含まれる。いくつかの実施形態において、前記の1つ又は複数の追加の治療薬、化学療法薬、抗癌剤、免疫抑制薬、又は抗炎症薬は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、トキシン療法、手術、及び疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)からなる群より選択される。様々な種類の抗炎症薬を使用することができる。非限定的な例として、サイトカインアンタゴニスト、サイトカイン受容体アンタゴニスト、可溶性受容体、インテグリンアンタゴニスト、コルチコステロイド、キナーゼ阻害剤、S1Pアゴニスト、及びPDE4アンタゴニストが挙げられる。
【0187】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法は、さらに、炎症性免疫応答を抑制する組成物、例えば抗炎症薬、の投与を含む。適した抗炎症薬の例としては、限定されるものではないが、TNFアンタゴニスト(アダリムマブ及びインフリキシマブなど)、IL-23アンタゴニスト(ウステキヌマブなど)、IL-17アンタゴニスト(セクキヌマブなど)、IL-1アンタゴニスト(アナキンラなど)、IL-6アンタゴニスト(トシリズマブなど)、IL-12アンタゴニスト(ウステキヌマブなど)、IL-2アンタゴニスト(ダクリズマブなど)、インテグリンアンタゴニスト(ベドリズマブなど)、コルチコステロイド(プレドニゾンなど)、アミノサリチル酸(メサラミン、バルサアジド、及びオルサラジンなど)、メトトレキサート、アザチオプリン、レフルノミド、クロロキン、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン及びタクロリムス)、アバタセプト、リツキシマブ、JAK阻害薬(トファシチニブなど)、PDE4阻害薬(アプレミラストなど)、mTOR阻害薬(シロリムスなど)、及びS1P受容体アゴニスト(オザニモドなど)などが挙げられる。
【0188】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法は、さらに、Wntアゴニスト又はNotchアゴニストなどの組織再生因子を含んだ組成物の投与を含む。
【0189】
「化学療法」及び「抗癌剤」は、本明細書で互換的に用いられる。様々な種類の抗癌剤を使用することができる。非限定的な例として、アルキル化剤、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えばモノクローナル又はポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばメシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)又はGlivec(登録商標)))、ホルモン治療薬、可溶性受容体、及び他の抗腫瘍薬が挙げられる。
【0190】
トポイソメラーゼ阻害剤も、本明細書において使用できる他の種類の抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持するために必須の酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼの阻害により、DNAの適切なスーパーコイル形成が乱され、DNAの転写と複製の両者が妨げられる。I型トポイソメラーゼ阻害剤の例として、イリノテカンやトポテカンなどのカンプトテシン類が挙げられる。II型阻害剤の例としては、アムサクリン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、及びテニポシドなどが挙げられる。これらは、アメリカハッカクレン(Podophyllum peltatum)の根に天然に存在するアルカロイドである、エピポドフィロトキシンの半合成誘導体である。
【0191】
抗腫瘍薬としては、免疫抑制剤のダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、及びイホスファミドなどが挙げられる。抗腫瘍薬は、一般に、細胞のDNAを化学的に修飾することによって作用する。
【0192】
アルキル化剤は、細胞内に存在する条件で、多くの求核性官能基をアルキル化することができる。シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンはアルキル化剤である。これらは生物学的に重要な分子のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、及びリン酸基と共有結合を形成することにより、細胞機能を損なわせる。
【0193】
ビンカアルカロイドは、チューブリンの特定の部位に結合し、チューブリンが微小管に集合するのを阻害する(細胞周期のM期)。ビンカアルカロイドとしては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、及びビンデシンなどが挙げられる。
【0194】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される治療法は、さらに、1つ又は複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の投与を含む。いくつかの実施形態において、前記1つ又は複数の免疫チェックポイント分子としては、CTLA4、PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3、B7-H4、及びTIM3、並びに、それらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記1つ又は複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、アンタゴニスト抗体を含む。いくつかの実施形態において、アンタゴニスト抗体は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、又はアベルマブである。
【0195】
代謝拮抗薬は、プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)又はピリミジンに類似しており、細胞周期の「S」期にこれらの物質がDNAに組み込まれるのを妨げ、正常な成長と分裂を停止させる。代謝拮抗薬はRNA合成にも影響を与える。
【0196】
植物アルカロイド及びテルペノイドは植物から得られ、微小管の機能を妨げることで細胞分裂をブロックする。微小管は細胞分裂に不可欠なものであるため、それ無しには細胞分裂は起こらない。主な例としては、ビンカアルカロイド類及びタキサン類が挙げられる。ポドフィロトキシンは植物由来の化合物であり、消化を助けることが報告されているほか、エトポシド及びテニポシドという2種類の他の細胞増殖抑制剤を製造するのにも使用されている。これらは、細胞がG1期(DNA複製の開始)に入るのを妨げ、DNAの複製(S期)を妨げる。
【0197】
タキサン類のグループには、パクリタキセル及びドセタキセルが含まれる。パクリタキセルは天然の産物であり、元々はタキソールとして知られ、タイヘイヨウイチイ(Pacific Yew tree)の樹皮から初めて得られた。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサン類は、微小管の安定性を高め、後期における染色体の分離を妨げる。
【0198】
いくつかの実施形態において、抗癌剤は、レミケード、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))、ステロイド類、ゲムシタビン、シスプラチン、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、グリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標))、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、ゼローダ、CPT-11、インターフェロンアルファ、ペグインターフェロンアルファ(例えば、PEG INTRON-A)、カペシタビン、シスプラチン、チオテパ、フルダラビン、カルボプラチン、リポソーマルダウノルビシン、シタラビン、ドキセタキソール、パクリタキセル、ビンブラスチン、IL-2、GM-CSF、ダカルバジン、ビノレルビン、ゾレドロン酸、パルミトロネート、ビアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ビンクリスチン、ドキソルビシン(Doxil(登録商標))、パクリタキセル、ガンシクロビル、アドリアマイシン、リン酸エストラムスチンナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダク、エトポシド、及びそれらの任意の組み合わせから選択してよい。
【0199】
他の実施形態において、抗癌剤は、ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、ドキソルビシン、インターフェロンアルファ、レナリドミド、メルファラン、ペグインターフェロンアルファ、プレドニゾン、サリドマイド、又はビンクリスチンから選択してよい。
【0200】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法は、免疫療法をさらに含む。いくつかの実施形態において、免疫療法は、1つ又は複数のチェックポイント阻害剤の投与を含む。したがって、本明細書に記載の治療法のいくつかの実施形態は、1つ又は複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の投与をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記1つ又は複数の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、アンタゴニスト抗体を含む。いくつかの実施形態において、アンタゴニスト抗体は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、又はアベルマブである。
【0201】
いくつかの態様において、前記1つ又は複数の抗癌治療には、放射線療法が含まれる。いくつかの実施形態において、放射線療法は、癌細胞を死滅させるための放射線の適用を含んでいてよい。放射線は、DNAなどの細胞内の分子と相互作用して、細胞死を誘導する。放射線は、また、細胞膜及び核膜、並びに他の細胞小器官を損傷しうる。放射線の種類によってDNA損傷のメカニズムが異なる場合があり、生物学的効果比についても同様である。例えば、重粒子(すなわち、陽子及び中性子)はDNAに直接損傷を与え、より高い生物学的効果比を有する。電磁放射は、主に細胞内の水のイオン化によって生成される短命のヒドロキシルフリーラジカルを介して作用する、間接的なイオン化をもたらす。放射線の臨床応用には、(外部線源からの)外部照射法と、(患者の体内に埋め込まれた、又は挿入された線源を用いる)近接照射療法がある。外部照射法はX線及び/又はガンマ線を用い、一方、近接照射療法は、崩壊によってガンマ線以外にアルファ粒子又はベータ粒子を放出する放射性原子核を用いる。本明細書で意図する放射線療法には、例えば、放射性同位元素を癌細胞に向けて送達することも含まれる。マイクロ波及びUV照射など、他の形態のDNA損傷因子も本明細書において意図される。
【0202】
放射線は、1回の適用でもよいし、線量を分割するスケジュールによって、低放射線量を連続して適用してもよい。本明細書が意図する放射線量は、約1~約100Gyの範囲であり、例えば、約5~約80、約10~約50Gy、又は約10Gyなどである。総線量を、分割した様式で適用してもよい。例えば、その様式には、分割された個別の線量として、2Gyが含まれていてもよい。放射性同位体の線量の範囲は、同位体の半減期、及び放出される放射線の強度と種類によって大きく異なる。放射線療法が放射性同位体の使用を含む場合、同位体を、放射性ヌクレオチドを標的組織(例えば、腫瘍組織)に運ぶ治療抗体などのターゲティング剤に結合してもよい。
【0203】
本明細書に記載される手術には、癌組織の全部又は一部を物理的に除去、切断、及び/又は破壊する切除術が含まれる。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍の切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、及び顕微鏡下手術(モース手術)が含まれる。前癌又は正常組織の除去も本明細書において意図される。
【0204】
したがって、本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態において、組成物を、第一治療として対象に個別に投与するか、又は、第二治療を組み合わせて行う。いくつかの実施形態において、第二治療は、化学療法、放射線療法、DMARDs、免疫療法、ホルモン療法、トキシン療法、及び手術からなる群より選択される。いくつかの実施形態においては、第一治療と第二治療とを併用する。いくつかの実施形態においては、第一治療を第二治療と同時に適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療と第二治療とを順次適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療を第二治療の前に適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療を第二治療の後に適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療を第二治療の前及び/又は後に適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療と第二治療とをローテーションで適用する。いくつかの実施形態においては、第一治療と第二治療とを、単一の製剤でまとめて適用する。
【0205】
キット
本明細書に提供され、記載される、IL-10部分アゴニスト、組換え核酸、組換え細胞、又は医薬組成物を含んだキットも、それらの製造及び使用のための説明書とともに、本明細書において提供される。例えば、いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリペプチド、本開示のIL-10部分アゴニスト、本開示の組換え核酸、本開示の組換え細胞、又は本開示の医薬組成物;及び、その使用のための説明書;のうちの1つ又は複数を含んだキットが、本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、さらに、提供された組換え核酸、組換え細胞、又は医薬組成物のいずれか1つを個体に投与するのに用いる、1つ又は複数の注射器(充填済注射器を含む)及び/又はカテーテル(充填済注射器を含む);並びに、その使用のための説明書;を含む。いくつかの実施形態において、キットは、所期の目的、例えば、細胞の活性の調整、標的癌細胞の阻害、又は疾患の治療を、それを必要とする個体において行う目的のために、キットの他の成分と同時に又は順次投与してよい、1つ又は複数の治療薬を有していてよい。
【0206】
上に記載したキットのいずれも、1つ又は複数の追加の試薬をさらに含んでいてよく、このような追加の試薬は、希釈バッファー、懸濁溶液(reconstitution solutions)、洗浄バッファー、コントロール試薬、コントロール発現ベクター、ネガティブコントロールポリペプチド、ポジティブコントロールポリペプチド、及び、組換えポリペプチドのin vitro生成のための試薬から選択してもよい。
【0207】
いくつかの実施形態において、キットの各構成要素を別々の容器で提供してよい。他のいくつかの実施形態において、キットの構成要素を単一の容器にまとめてもよい。例えば、本開示のいくつかの実施形態において、キットは、本明細書に記載の組換えIL-10ポリペプチド、組換え核酸、組換え細胞、又は医薬組成物の1つ又は複数を、1つの容器に(例えば、滅菌済ガラス又はプラスチックバイアル中に)含み、さらなる治療薬を他の容器に(例えば、滅菌済ガラス又はプラスチックバイアル中に)含む。
【0208】
いくつかの実施形態において、キットは、本明細書に記載の方法を実施するためにキットの構成要素を用いるための、説明書をさらに含んでいてよい。例えば、キットは、キット内の医薬組成物及び剤形に関する情報を含む、添付文書を含んでいてよい。一般に、このような情報は、患者や医師が、同封の医薬組成物及び剤形を、効果的かつ安全に使用するための手助けとなる。例えば、添付文書には、本開示の組み合わせに関する次の情報が提供されてもよい:薬物動態、薬力学、臨床試験、有効性パラメーター、適応症と用法、禁忌、警告、注意事項、有害反応、過量、適切な用法・用量、供給方法、適切な保管条件、参考文献、製造業者/販売業者の情報、及び、知的財産情報。
【0209】
いくつかの実施形態において、キットは、さらに、方法を実施するためにキットの構成要素を使用するための説明書を含んでいてよい。方法を実施するための説明書は、一般に、適切な記録媒体に記録される。例えば、説明書は、紙又はプラスチックなどの基材に印刷してもよい。説明書は、例えば、添付文書としてキット内に存在してもよく、キットの容器又はその構成要素の(例えば、パッケージ又はサブパッケージ関連の)ラベル内に存在してもよい。説明書は、CD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなどの適切なコンピュータ可読記憶媒体上に存在する、電子記憶データファイルとして存在してもよい。いくつかの例においては、実際の説明書はキット内に存在しないが、遠隔ソースから(例えば、インターネット経由で)説明書を取得する手段を提供してもよい。この実施形態の一例として、説明書を閲覧することができる、及び/又は説明書をダウンロードすることができる、ウェブアドレスを含むキットが挙げられる。説明書と同様に、この説明書を得るための手段も、適した基材上に記録されていてよい。
【0210】
本開示で言及される全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が具体的かつ個別に参照によって援用されることが明示された場合と同程度に、参照によって本明細書に援用されるものとする。
【0211】
本明細書で引用されているどの参考文献も、先行技術を構成すると認めるものではない。参考文献に関する議論は、その著者が何を主張しているかを述べているのであり、出願人は、引用されている文献の正確さと妥当性に異議を申し立てる権利を有する。本明細書では、学術誌の論文、特許文献、及び教科書などの多数の情報源に言及しているが、この言及は、これら文献のいずれについても、当該分野に共通の一般的知識の部分を形成していると認めるものではないことが明確に理解されるであろう。
【0212】
本明細書に示す一般的な方法に関する議論は、単に説明を目的としたものである。他の代替法又は代替物も、本開示を読んだ当業者にとっては明らかであろう。したがって、それらも本出願の趣旨と範囲内に含まれる。
【実施例
【0213】
本発明の実施においては、特に断りのない限り、分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、及び免疫学における、当業者に周知の、従来の技術が利用される。このような技術は,例えば、Sambrook, J., & Russell, D. W. (2012). Molecular Cloning:A Laboratory Manual (4th ed.). Cold Spring Harbor, NY:Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook, J., & Russel, D. W. (2001). Molecular Cloning:A Laboratory Manual (3rd ed.). Cold Spring Harbor, NY:Cold Spring Harbor Laboratory (本明細書では、まとめて“Sambrook”と呼ぶ);Ausubel, F. M. (1987). Current Protocols in Molecular Biology. New York, NY:Wiley (including supplements through 2014);Bollag, D. M. et al. (1996). Protein Methods. New York, NY:Wiley-Liss;Huang, L. et al. (2005). Nonviral Vectors for Gene Therapy. San Diego:Academic Press;Kaplitt, M. G. et al. (1995). Viral Vectors:Gene Therapy and Neuroscience Applications. San Diego, CA:Academic Press;Lefkovits, I. (1997). The Immunology Methods Manual:The Comprehensive Sourcebook of Techniques. San Diego, CA:Academic Press;Doyle, A. et al. (1998). Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology. New York, NY:Wiley;Mullis, K. B., Ferre, F. & Gibbs, R. (1994). PCR:The Polymerase Chain Reaction. Boston:Birkhauser Publisher;Greenfield, E. A. (2014). Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.). New York, NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press;Beaucage, S. L. et al. (2000). Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry. New York, NY:Wiley, (including supplements through 2014);及び、Makrides, S. C. (2003). Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells. Amsterdam, NL: Elsevier Sciences B.V.などの文献に充分に説明されており、これら文献の開示は参照により本明細書に援用されるものとする。
【0214】
以下の実施例に、さらなる実施形態をより詳細に開示する。これは説明の目的で提供されるものであり、本開示又は特許請求の範囲を限定することを何ら意図するものではない。
【0215】
実施例1
全体的な実験手順
タンパク質の製造及び精製
酵母結合分析及びSPRのため、ヒトIL-10Rα(2-235)及びIL-10Rβ(20-220)のECDを、N末端GP64シグナルペプチド、C末端3C切断部位とそれに続くビオチンアクセプターペプチドタグ(BAPタグ、GLNDIFEAQKIEW、配列番号31)、及び6×Hisタグとともに、pAcGP67aバキュロウイルスベクターにクローニングした。バキュロウイルスのストックは、BestBac(商標)DNA(Expression Systems)及びpAcGP67-A DNAをSpodoptera frugiperda(Sf9)にコトランスフェクトすることによって調製した。次いで、ウイルスを用いてTrichoplusia ni(Hi5)細胞を感染させた。感染から72時間後、バキュロウイルスに感染したHi5細胞の上清からタンパク質を精製し、Ni-NTA樹脂(Qiagen)を用いて精製を行い、次いで、Superdex 200カラム(GE)上でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。タンパク質は、HEPES緩衝生理食塩水(HBS、20mM HEPES pH7.4、150mM塩化ナトリウム)中で維持した。IL-10RβECDを、BirAリガーゼを用いて、C末端BAPタグにおいて部位特異的にビオチン化し、サイズ排除クロマトグラフィーによって再精製した。
【0216】
クライオ電子顕微鏡構造分析のため、IL-10Rβ ECDの糖変異体(glyco-mutant)バージョン(図6A)を、N末端GP64シグナルペプチド及びC末端6×HisタグとともにpAcGP67aバキュロウイルスベクターにクローニングし、上記のように発現及び精製を行った後、Superdex 200カラム(GE)上でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。親和性成熟したIL-10(「スーパー10」、クローン5.1)及びIL-10Rα ECDを、N末端HAシグナルペプチド及びC末端6×Hisタグを含むpD649哺乳類発現ベクターにクローニングした。DNAの、Expi-293F細胞(Thermo Fisher Scientific)への一過性トランスフェクションを、Expifectamineトランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。トランスフェクションのおよそ72~96時間後、細胞上清を回収し、タンパク質をNi-NTA樹脂(Qiagen)を用いて精製した後、HEPES緩衝生理食塩水(HBS、30mM HEPES pH7.4、150mM塩化ナトリウム)中において、Superdex 200カラム(GE)上でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。SECの後、個々のタンパク質を、1:1:1.2のモル比のIL-10:IL-10Rα:IL-10Rβで一晩インキュベートし、SECによりS200カラム(GE)上で再精製した。
【0217】
シグナル伝達及び機能実験のため、IL-10バリアントを、N末端HAシグナルペプチド及びC末端6×Hisタグを含むpD649哺乳類発現ベクターにクローニングした。DNAの、Expi-293F細胞(Thermo Fisher Scientific)への一過性トランスフェクションを、Expifectamineトランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。トランスフェクションのおよそ72~96時間後、細胞上清を回収し、タンパク質をNi-NTA樹脂(Qiagen)を用いて精製した後、HEPES緩衝生理食塩水(HBS、30mM HEPES pH7.4、150mM塩化ナトリウム)中において、Superdex 200カラム(GE)上でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。
【0218】
表面プラズモン共鳴
親和性成熟したIL-10クローン5.1を単独で用いた際の、又は、可溶性IL-10Rαにあらかじめ結合した際の、IL-10Rβ結合の解離定数(K)を、BIAcore T100装置(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって求めた。まず、ビオチン化IL-10Rβを、ストレプトアビジン被覆(SA)センサーチップ(GE Healthcare)上に、100レゾナンスユニット(RU)の範囲の固定化密度でキャプチャーした。同様に、リファレンス減算(reference subtraction)用に、コントロールフローセルをオフターゲットタンパク質(EpoR)で作成した。結合速度を、25℃において、50μl/分の流速で測定した。IL-10又はIL-10/IL-10Rα複合体を、0.005% P20界面活性剤(GE Healthcare)を添加したHBS緩衝液中で段階希釈し、SAチップ上に注入した。解離速度を、リガンド親和性に基づき、必要に応じて100~500秒間測定した。定常状態親和性(steady state affinity)を、BIAcore T100評価ソフトウェアを用いて求めた。動的結合曲線(kinetic binding curves)を、Prism 8(GraphPad)で時間依存反応単位(time-dependent response units)をプロットすることにより、生成した。
【0219】
細胞培養
THP-1(ATCC TIB-202)、YT-1(RRID:CVCL_EJ05)、Jurkat(ATCC TIB-152)、及びDaudi(ATCC CCL-213)細胞を、いずれも、10容量%のウシ胎児血清、ペニシリンーストレプトマイシン、及び、2mMのGlutaMAX(商標)(Gibco)を添加した、RPMI(ダルベッコ改変イーグル培地)中で増殖させた。細胞を37℃にて、5%CO中で維持した。Expi293F細胞を、無血清Expi293発現培地(Thermo Fisher Scientific)中で増殖させ、37℃にて、5%CO中で維持した。
【0220】
細胞株におけるホスホフローシグナリングアッセイ
THP-1、YT-1、Jurkat、及びDaudi細胞を96穴プレートにプレーティングし、WT又は変異型IL-10で20分間、37℃にて刺激した後、パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences)で10分間、室温にて固定した。細胞内染色のための、細胞の透過処理を、氷冷メタノール(Fisher)を用いて30分間、-20℃にて行った。その後、細胞を、1:50希釈のAlexa Fluor 647結合抗Stat3(pY705)抗体(BD Biosciences)とともに、autoMACS緩衝液(Miltenyi)中で1時間、室温にてインキュベートした。非刺激試料のバックグラウンド蛍光を、全ての試料から減算した。データは、CytoFlexフローサイトメーター装置(Beckman Coulter)を用いて取得した。MFI値を、各実験における極大のWT IL-10値に対して正規化し、Prism 8(GraphPad)でプロットした。用量反応曲線を「シグモイド用量反応」分析を用いて生成した。
【0221】
autoMACS緩衝液中に生細胞を再懸濁し、Human TruStain FcX(Biolegend)とともにインキュベートした後、抗ヒトIL-10Rα AlexaFluor 647(BD Biosciences)及び抗ヒトIL-10Rβ AlexaFluor 488(R&D)抗体とともに30分間、4℃にてインキュベートすることにより、受容体の表面発現を分析した。蛍光強度を、フローサイトメトリーによってAccuri C6サイトメーター(BD Biosciences)上で測定し、データをFlowJoソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。
【0222】
ヒトPBMCにおけるホスホフローシグナリングアッセイ
加温した培地内でPBMCを融かし、0.5×10生細胞/mLで再懸濁した。96穴のディープウェルプレート内に、細胞をウェルあたり200μlプレーティングした。37℃で2時間静置後、細胞を各種濃度のWT又は変異型IL-10で刺激し、37℃で20分間インキュベートした。PBMCをパラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences)で10分間室温にて固定し、細胞内染色のための透過処理を、氷冷メタノール(Fisher)を用いて-20℃で30分間行った。細胞を、autoMACS緩衝液(Miltenyi)を用いて洗浄し、ヒトTruStain FcX(Biolegend)とともにインキュベートし、その後、次の抗体で染色した:CD3 Pacific Blue(BD)、CD4 PerCP-Cy5.5(BD)、CD20 PerCp-Cy5.5(BD)、CD33 PE-Cy7(BD)、pSTAT-3(Y705) AlexaFluor 647(BD)、及びIL-10Rβ AlexaFluor 488(R&D)。その後、試料を洗浄し、autoMACS緩衝液中に再懸濁した。データをCytoFlexフローサイトメーター装置(Beckman Coulter)を用いて取得し、FlowJoソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。MFI値を、各細胞型における極大のWT IL-10値に対して正規化し、Prism 8(GraphPad)でプロットした。用量反応曲線を「シグモイド用量反応」分析を用いて生成した。細胞を、前方対側方散乱(forward versus side scatter)プロファイルに基づいて生細胞に対してゲーティングし、次いで、先に記載のように細胞サブセット特異的ゲーティングを行った。
【0223】
ヒトPBMC、単球、及びマクロファージのLPS刺激
バルクPBMCの刺激のため、加温した培地内でPBMCを融かし、2回洗浄して、1×10細胞/mlで完全RPMI内に再懸濁した。細胞を、24穴培養皿に、500μl/ウェルでプレーティングし、37℃で2時間静置した。その後、細胞を、1nMのLPS(Sigma)単独とともに、又はさらに10nMのIL-10(WT又は変異型)を加えて、24時間インキュベートした。サイトカイン測定のため、細胞上清を単離し、TNF-α(Thermo Fisher Scientific)、IL-6(R&D)、及びCXCL8(R&D)の濃度を、ELISAによって使用説明書に従い測定した。
【0224】
単球のHLA-DR発現については、細胞を洗浄してautoMACS緩衝液中に再懸濁し、ヒトTruStain FcX(Biolegend)とともにインキュベートし、CD14 PE-Cy7(BD)及び抗HLA-DR BV605抗体で4℃で30分間染色した。蛍光強度をCytoFlexフローサイトメーター装置(Beckman Coulter)を用いて測定し、FlowJoソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。細胞を、前方対側方散乱プロファイルに基づいて生細胞に対してゲーティングし、次いで、単球特異的ゲーティング(CD14)を行った。
【0225】
初代ヒトマクロファージの分析のため、加温した培地内でPBMCを融かし、2回洗浄して、完全RPMI内に再懸濁し、6穴組織培養皿に1×10細胞/ウェルでプレーティングし、20ng/mlのヒトM-CSF内でインキュベートした。細胞を37℃で24時間インキュベートし、単球をプレートに付着させた。培地を吸引して非接着細胞を除去し、細胞を、20ng/mlのM-CSFを含んだ新鮮な培地中で、37℃にて6日間インキュベートした。その時点で目視により、大部分の接着細胞が明確にマクロファージの形態を有していることが認められた。その後、細胞を、1ng/mlのLPS単独により、又はさらに10nMのIL-10(WT又は変異型)を加えて、24時間刺激した。細胞上清を単離し、TNF-α(Thermo Fisher Scientific)、IL-6(R&D)、及びCXCL8(R&D)の濃度を、ELISAによって使用説明書に従い測定した。
【0226】
CD8+ T細胞による、IFN-γ及びグランザイムB誘導
MACS LSカラム(Miltenyi)を用いた磁気活性化細胞選別(MACS)と、ヒトCD8+単離キット(Miltenyi)とを組み合わせて、ヒトPBMCからのCD8+ T細胞の単離を使用説明書に従って行った。IL-10によるIFN-γ及びグランザイムB産生の増強を、先の記載のように行った。簡単に述べると、単離されたCD8+ T細胞を、抗CD3抗体(クローンOKT1)であらかじめ被覆された6穴組織培養皿に、2×10細胞/mlで播種し、可溶性抗CD28抗体(5μg/ml)とともに3日間インキュベートした。その後、細胞を回収し、10nM組換えIL-10(WT又は変異型)を添加した、又は添加しない、24穴組織培養皿の新鮮な培地中に、1×10細胞/mlで再播種し、さらに3日間インキュベートした。その後、細胞を、可溶性抗CD3(クローンOKT1、1μg/ml)で4時間再刺激した。その後、上清を単離し、IFN-γ(Thermo)及びグランザイムB(R&D)の濃度を、ELISAによって使用説明書に従い測定した。
【0227】
実施例2
六量体IL-10/IL10R1/IL10Rβ複合体のクライオ電子顕微鏡構造
この実施例には、六量体受容体複合体IL-10/IL10R1/IL10Rβの結晶構造を決定するために行った実験の結果を記載する。これは、ヘテロマー受容体複合体の、それぞれのサイトカイン-受容体相互作用が、どのように化学的に駆動されているのかを解明する手助けとなる。
【0228】
IL-10/IL-10Rβ結合界面の詳細な観察によって明らかになったところによると、中心接触(central contact)がループL3の10Rβ-Tyr82によって形成され、これは、IL-10ヘリックスα1及びα3の間に挿入されて、主に、IL-10のヘリックスα1のMet22とのファンデルワールス接触を促進する(図2D)。以前の変異誘発及びモデリング研究においても、10Rβ-Tyr82が、IL-10RβとIL-10との間の相互作用に必要であることが示唆されていた。この鍵となる疎水性接触は極性及び静電相互作用のネットワークによって囲まれており、これは10Rβ-Gln63及び10Rβ-Lys81をそれぞれ結合する、ヘリックスα1のIL-10残基Asn21及びAsp25によって部分的に媒介されている(図2D及び2E)。L3の直上では、IL-10RβのループL2の10Rβ-Tyr59が、同様にIL-10ヘリックスα2及びα3間に挿入されて、α2のいくつかの残基を結合しており、一方、IL-10のα3のGlu96は10Rβ-Lys65を結合している(図2E)。IL-10の先端においては、IL-10RβのD2のループL5が「親指」様突起を形成してIL-10ヘリックスα1の前面に沿って伸長しており、10Rβ-Tyr140とIL-10残基Arg32との間の見掛け上のパイスタッキング接触、及び、10Rβ-Asn147とIL-10のAsn21との間の水素結合接触を促進している(図2C及び2D)。
【0229】
スーパー10の、IL-10Rβに対する増加した親和性は、主に、N18Y及びR104W変異の結果であることが分かった。これらの変異は両者ともMet22に隣接しており、10Rβ-Tyr82が存在するこの中心接触部位の疎水性を増強している(図2D)。一方、N92Q及びT100D変異はそれぞれ、10Rβ-Gln63及び10Rβ-Ser80との水素結合接触を促進し、WT IL-10複合体中に存在する接触を増強していると思われる(図2D及び2E)。
【0230】
いずれの特定の理論にも拘束されるものではないが、全体として、スーパー10における親和性増強変異は、新たな接触部位を生成するのではなく、主に、WT IL-10とIL-10Rβとの間にある既存の極性及び非極性接触を向上させているようである。
【0231】
実施例3
IL-10受容体部分アゴニストの、構造に基づく設計
この実施例には、上記実施例3に記載のヘテロマーIL-10/IL10R1/IL10Rβ複合体のクライオ電子顕微鏡構造に基づいてIL-10受容体部分アゴニストを設計するために行われた実験を記載する。
【0232】
IL-10シグナル伝達における、上記したIL-10/IL-10Rβ接触の重要性を評価するため、IL-10Rβとの相互作用を弱めると予想されるWT IL-10内の一連の変異を設計し、STAT3のリン酸化を介したシグナル伝達を開始する能力についてそれらを評価した。Asp25の、アラニン(D25A)又はリジン(D25K)への変異は、B細胞由来Daudi細胞において、WT IL-10と比べ、STAT3活性化のかなりの低下をもたらすことが観察された(図2F)。同様に、E96K、D25A/E96A、N21A/R104A、及びD25A/N21A/R104Aをそれぞれ含むIL-10バリアントは、いずれも、これらの細胞上で、わずかなSTAT3リン酸化しか引き起こさなかった(図2F)。しかし注目すべきことに、E96K以外のこれらのバリアントは、いずれも、単球由来THP-1細胞において強力なSTAT3活性化を誘発し、D25A/E96Aバリアント(すなわち「10-DE」)及びD25Kバリアントは、THP-1及びDaudi細胞株の間で最大の活性の違いを示した(図3A)。
【0233】
実施例4
IL-10バリアント10-DE及びスーパー10は細胞型選択的シグナル伝達を引き起こす
この実施例には、本開示のいくつかの限定されない実施形態による偏向性IL-10バリアントの一例(10-DE)が、細胞型選択的シグナル伝達活性を引き起こすことを証明するために行った実験を記載する。
【0234】
IL-10/IL-10Rβ相互作用の安定性を変化させることが、細胞型間でどのようにIL-10シグナル伝達活性に影響するのかについて、より完全な全体像を描くことを目的として、さらなる実験を行い、(i)WT IL-10、(ii)高親和性アゴニストスーパー10、並びに、(iii)低親和性部分アゴニスト10-DE及びD25Kについて、免疫細胞の異なるクラスを代表する4つのIL-10応答細胞株のパネルで活性の比較を行った(図3B)。10-DEバリアント及びD25Kバリアントは、B細胞由来Daudi細胞又はT細胞由来Jurkat細胞のいずれにおいても活性を引き起こさなかったが、約50%の活性を、ナチュラルキラー(NK)細胞由来YT-1細胞で誘発し、完全に近いSTAT3活性化を骨髄THP-1細胞で誘発した(図3A~3D)。一方、スーパー10は、Daudi及びJurkat細胞の両者において、WT IL-10と比較してかなり高いEmaxを示したが、YT-1及びTHP-1細胞においてはWT IL-10と類似のシグナル伝達を示した(図3A~3D)。したがって、スーパー10の、10-DEに対する比率では、STAT3のEmaxは、THP-1細胞における約1:1からDaudi細胞における20:1超まで大幅に変化し、これら細胞株間でシグナル伝達の可塑性が大きく異なることが明らかになった。
【0235】
これらの多様な細胞株間でIL-10RαとIL-10Rβの表面発現を比較したところ、IL-10RαとIL-10Rβの濃度は、改変IL-10バリアントによって誘導されたSTAT3シグナル伝達の相対強度とよく相関していることが明らかになった(図3E)。いくつかの細胞株上で、スーパー10が、WT IL-10と比べてシグナル伝達のEmaxを増加させることができるという発見は、これら細胞上におけるIL-10シグナリング複合体の集合が、低いIL-10R発現によって制限されており、それがIL-10-IL-10Rβ相互作用の親和性の増強によって補われうるということを示唆している。逆に、他の細胞型は、IL-10R発現が上昇していることから、10-DE及びD25Kなどの低親和性IL-10部分アゴニストに対しても強いSTAT3応答を維持することができる(図3C)。この観察は、狭いIL-10細胞型特異性を達成するために、改変されたアゴニストを用いて活用することのできる、機能的な手段が存在することを示唆している。
【0236】
これらの多様な細胞株間でIL-10RαとIL-10Rβの表面発現を比較したところ、IL-10RαとIL-10Rβの濃度は、改変IL-10バリアントによって誘導されたSTAT3シグナル伝達の相対強度とよく相関していることが明らかになった(図S6、D及びE)。したがって、IL-10濃度が飽和している場合のSTAT3活性化の程度は、受容体の発現とリガンドの親和性との組み合わせによって調節することができる(図3C)。いくつかの細胞株上で、スーパー10が、WT IL-10と比べてシグナル伝達のEmaxを増加させることができるという発見は、これら細胞上におけるIL-10シグナリング複合体の集合が、低いIL-10R発現によって制限されており、それがIL-10/IL-10Rβ相互作用の親和性の増強によって補われうるということを示唆している。逆に、他の細胞型は、IL-10R発現が上昇していることから、10-DE及びD25Kなどの低親和性IL-10部分アゴニストに対しても強いSTAT3応答を維持することができる(図3C)。この観察は、狭いIL-10細胞型特異性を達成するために、改変されたアゴニストを用いて活用することのできる、機能的な手段が存在することを示唆している。
【0237】
実施例5
IL-10バリアント10-DE及びD25Kは、IL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とをex vivoにおいて切り離す
この実施例には、偏向性IL-10バリアント10-DE及びスーパー10がIL-10の抗炎症機能と免疫賦活機能とを切り離すことを証明するために行った実験の結果を記載する。これらの実験は、IL-10シグナル伝達の可塑性の天然の違いを利用して、初代免疫細胞集団内のIL-10の機能的多面発現性を「調整」することができるかという問題に取り組むために設計された。
【0238】
上記で説明した通り、IL-10は多くの免疫細胞型においてシグナル伝達を開始する能力を有することから、in vivoで抗炎症効果及び免疫賦活効果の両者を誘発する。IL-10の抗炎症効果は、主に単球及びマクロファージ活性の抑制によるものである。一方、IL-10は、CD8+ T細胞の刺激により、炎症誘発性IFN-γ産生を促進する。下記の実験は、IL-10シグナル伝達の可塑性の天然の違いを利用して、初代免疫細胞集団内のIL-10の機能的多面発現性を「調整」することができるかという問題に取り組むために行われた。
【0239】
フローサイトメトリーによるヒト末梢血単核球(PBMCs)の分析によって、IL-10Rβが初代単球に高度に発現していること、そして一方で、NK細胞、B細胞、及びT細胞においては極めて低発現であることが明らかになり、単球はより強いIL-10シグナル応答を示す可能性があることが示唆された(図4A)。実際、IL-10Rβに対する親和性の大きな違いにも関わらず、10-DE及びスーパー10バリアントは、初代単球においてWT IL-10と同等のSTAT3活性化水準を示すことが明らかになった(図4B及び6B)。対照的に、10-DEバリアントは、NK細胞、B細胞、及びT細胞において有意に低下したシグナル伝達を示し、これらの集団においては、WT IL-10と比較して、35%から50%の間のSTAT3活性化の誘発が見られた(図4B及び6B)。しかし、スーパー10はNK細胞において増強されたSTAT3活性化を誘発することが分かったが、B及びT細胞においてはわずかに上昇したシグナル伝達しか示さず、それら細胞型においては、別の因子もSTAT3活性化のさらなる増強を制限している可能性が示唆された(図4B)。全体として、これらのデータは、初代ヒト細胞において、スーパー10が中程度のNK細胞偏向活性を示す一方で、部分アゴニスト10-DEは、顕著な単球偏向性シグナル伝達を示すことを示している。
【0240】
単球における10-DE及びD25KバリアントによるSTAT3活性化の水準がIL-10の抗炎症機能を駆動するのに充分であったかどうかを試験するため、これらのバリアントの存在下又は非存在下で、ヒトのバルクPBMCを細菌性リポ多糖(LPS)によって刺激する実験をさらに行った。注目すべきことに、10-DEバリアント及びD25Kバリアントは両者とも、WT IL-10及びスーパー10バリアントと同程度に、炎症誘発性サイトカインIL-1β、TNF-α、及びIL-6、並びにケモカインIL-8の産生を阻害した(図4C及び7A)。さらには、10-DE及びD25Kは、抗CD3抗体で活性化されたバルクPBMCにおけるIFN-γ産生を抑制し(図7D)、また、末梢血単球上のMHCクラスIIと共刺激リガンドCD86の表面発現を下方制御する(図4D、7D、及び7C)能力を保持していた。重要なことに、10-DEバリアント及びD25Kはまた、単離された単球由来マクロファージにおいて、自己免疫及び自己炎症性疾患におけるIL-10のキーターゲットである、LPS誘導TNF-α、IL-6、及びIL-8産生を強力に抑制した(図4E)。
【0241】
10-DEバリアントの骨髄偏向活性がLPS誘発敗血症のマウスモデルにおける全身性炎症を抑制するのに充分であるかを評価するために、さらなる実験を行った。重要なことに、10-DEバリアントの単回投与により、このモデルにおける生存がWT IL-10と同程度に有意に促進されることが観察された(図7E)。さらには、10-DEバリアントが、全身性炎症のキーマーカーであるTNF-α、IL-6、及びハプトグロビンの上昇を抑えたことも観察された(図7F及び7G)。
【0242】
骨髄偏向性IL-10バリアントは、炎症性T細胞機能を促進する能力が低下している
IL-10は炎症誘発性IFN-γ産生を誘導することが知られており、近年の研究では、これが主にCD8+ T細胞活性の増強によって起こることが示唆されている。本明細書に記載される改変IL-10バリアントの、CD8 T細胞に対する効果を分析するため、WT IL-10、スーパー10、又は10-DEとともに24時間培養したTCR刺激CD8 T細胞に対して、RNAシーケンシング(RNA-seq)分析を行った(図8C)。
【0243】
スーパー10によって誘導された発現の変化は、WT IL-10によって観察されたパターンと大部分が一致した。ただし、いくつかのIL-10標的遺伝子、例えばGZMB、IL22、及びSOCS3については上方制御が弱まり、IFNG及びIL18RAPなど他のものについては誘導が強化された(FIG.8C)。このことは、これらの細胞において、WT IL-10と比べ、スーパー10によって、より強いSTAT1活性化が引き起こされたことを反映している可能性がある(図8A)。一方、部分アゴニスト10-DEは、上方制御及び下方制御されるIL-10標的遺伝子の両者において、大幅に弱い転写の変化パターンをもたらした。その例として、GZMBなどの炎症誘発性遺伝子の発現の低下が挙げられる(図8C)。このことと一致して、10-DE及びD25Kは、活性化されたCD8+ T細胞によるグランザイムB、IFN-γ、及びIL-9の産生を増強しなかった。これは、WT IL-10及びスーパー10とは対照的である(図4F)。したがって、骨髄偏向性IL-10バリアントは、単球及びマクロファージ活性化を抑制する能力を保持しつつも、炎症性T細胞活性を増強する能力の顕著な減少を示し、それによって、IL-10の主要な抗炎症性機能と炎症誘発機能とが切り離された(図4G)。
【0244】
本明細書に記載された実験データは、改変IL-10部分アゴニストによって誘導される骨髄偏向性シグナル伝達が、IL-10機能の重要な特徴を切り離しうることを示した。骨髄とリンパ球集団との間の異なるIL-10受容体発現は、したがって、さもなくば多面発現的であるIL-10応答に機能的な特異性を提供するための天然のメカニズムを意味している可能性があり、この特徴は本明細書に示すように改変アゴニストを用いて利用することが可能である。例えば、部分アゴニスト10-DE及びD25KはIL-10の抗炎症機能を保持しており、このことは、それらが骨髄細胞においてWT IL-10と同程度にSTAT3を活性化する能力を有することと矛盾がない(図4B~4E及び7A~7G)。一方、これらバリアントでは、CD4及びCD8 T細胞の両者における炎症性IFN-γ産生を増強する能力が有意に減少しており、このことは、これらバリアントが、これらの細胞においてSTAT3及びSTAT1の両者を活性化する能力が減少していることと矛盾がない(図4B、4F、6B、及び8A)。それに対し、スーパー10は、WT IL-10と比べ、CD4及びCD8 T細胞の両者によるIFN-γのより強い誘導を引き起こしたが、その一方で、STAT3応答については類似したものであった(図4F、6B、及び8C)。この発見は、スーパー10がこれら細胞において顕著に強いSTAT1活性化を引き起こす(図8A)という観察によって説明可能であり、STAT1がIL-10のIFN-γ誘導効果を媒介することが示唆されていることと矛盾がない。
【0245】
より詳細に以下に議論するように、IL-10は、IL-6及びTNF-αなどの炎症誘発性サイトカインの産生をin vivoで強力に阻害するという天然の能力により、いくつかの自己免疫疾患、例えば関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、及び1型糖尿病などの治療のための好適な医薬候補となる。IL-10の投与によってヒトにおいてIFN-γ濃度が上昇するという観察が、IL-10をこれらの状況で用いるための障壁となっていたとみられる。したがって、改変IL-10部分アゴニストが、CD4及びCD8 T細胞によるIFN-γ産生を刺激することなく、炎症性単球及びマクロファージの活性化を抑制する能力は、IL-10をこれらの状況で臨床的に用いるための重要な意義を持っており、IL-10による治療可能性を余すことなく活用するための青写真を提供するものである。
【0246】
本開示の特定の選択肢が開示されているが、様々な改変及び組み合わせが可能であり、それらは添付の特許請求の範囲の真の趣旨及び範囲内で企図されることを理解すべきである。したがって、本明細書に提示される要約及び開示に厳密に限定することを意図するものではない。
【0247】


図1
図2A-B】
図2C-E】
図2F
図3A
図3B-C】
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C-D】
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B-D】
図6A
図6B
図7A-D】
図7E
図7F-G】
図8A-B】
図8C
【配列表】
2023527359000001.app
【国際調査報告】