(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-28
(54)【発明の名称】支持膜溶媒抽出を用いた、寿命切れのリチウムイオン電池からの重要な元素の回収
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230621BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20230621BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20230621BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/26
C22B1/00 601
C22B1/02
C22B3/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572660
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 US2021027380
(87)【国際公開番号】W WO2021242429
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513137673
【氏名又は名称】ユーティー-バットル,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ラメシュ アール.バーベ
(72)【発明者】
【氏名】サイード ゼット.イスラム
(72)【発明者】
【氏名】プリイェシュ エー.ワグ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA02
4K001CA11
4K001DB02
4K001DB16
4K001DB26
(57)【要約】
リチウムイオン電池から実質的に純粋な形態で重要な元素を回収するための単段及び多段のシステム及び方法を提供する。当該システム及び方法は、透過性中空繊維の細孔内の固定化有機相を使用する支持膜溶媒抽出を含む。透過性中空繊維は、一方の側でフィード溶液と接触し、別の側でストリップ溶液と接触し、フィード溶液由来の他の元素を排除しながら溶解したリチウムイオン正極材料からの元素の同時抽出及びストリッピングを提供する。単段及び多段のシステム及び方法は、使用済み電池の正極からコバルト、マンガン、ニッケル、リチウム、アルミニウム及び他の元素を選択的に回収でき、従来の溶媒抽出プロセスと比べて平衡制約により制限されない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池からコバルトを回収する方法であって、
Co及びLiを含有する電池材料を酸中に溶解させて、Co(II)及びLi(I)を含むフィード溶液を形成すること;
複数の中空繊維を含む膜モジュールであって、前記複数の中空繊維が、シェル側から離間している内腔側を画定する多孔質側壁を含む、膜モジュールを提供すること;
前記複数の中空繊維の前記多孔質側壁を、カチオン抽出剤及び有機溶媒を含む有機相で濡らすこと;
前記複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの一方に沿って前記フィード溶液を移動させ、同時に、前記複数の中空繊維の前記内腔側又はシェル側のうちの他方に沿って、前記水性フィード溶液のpHよりも低いpHを有するストリップ溶液を移動させることにより、膜溶媒抽出を行なうこと;
膜溶媒抽出中に前記フィード溶液に緩衝剤又は塩基を断続的に導入することによって、前記フィード溶液のpHを予め定められた範囲内に維持すること;
を含み、
前記複数の中空繊維の前記多孔質側壁を前記有機相で濡らすことが、前記フィード溶液の移動及び前記ストリップ溶液の移動に先立って行なわれ、前記多孔質側壁内の前記カチオン抽出剤が、Li(I)を実質的に排除しながら前記ストリップ溶液による回収のために前記水性フィード溶液からCo(II)を連続的に抽出する、方法。
【請求項2】
前記フィード溶液が、前記ストリップ溶液に対して1psi~5psiの正の圧力差を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィード溶液及び前記ストリップ溶液が、少なくとも30分間、前記膜モジュールを通って連続的再循環で移動する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、使用済み電池の正極から前記電池材料を分離することを含み、前記使用済み電池の正極から前記電池材料を分離することが、前記使用済み電池の正極を熱処理、酸溶解及び真空濾過にかけることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の中空繊維の前記多孔質側壁中に含まれる前記有機相が、リン酸トリブチルを実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
多段回収システムであって、
ある濃度のLi、Ni、Co及びMnを含む溶解した電池材料を含有する第1のフィード溶液を収容する第1のフィード貯蔵器と;
第1の有機相で予め濡らされた多孔質側壁を各々有する第1の複数の中空繊維を含む第1の膜モジュールであって、当該第1の膜モジュールを通しての連続的再循環において前記第1のフィード溶液を受容する第1の膜モジュールと;
前記第1の膜モジュールと流体連通状態にあり、前記第1のフィード溶液から抽出されたCo及びMnを有する第1のストリップ溶液を収容する第1のストリップ貯蔵器と;
前記第1のストリップ貯蔵器から回収されたある濃度のCo及びMnを含有する第2のフィード溶液を収容する第2のフィード貯蔵器と;
第2の有機相で予め濡らされた多孔質側壁を各々有する第2の複数の中空繊維を含む第2の膜モジュールであって、当該第2の膜モジュールを通しての連続再循環において前記第2のフィード溶液を受容する第2の膜モジュールと;
前記第2の膜モジュールと流体連通状態にあり、前記第2のフィード溶液から抽出されたCo及びMnを有する第2のストリップ溶液を収容する第2のストリップ貯蔵器と;
を含み、
前記第1の膜モジュールが、Li及びNiを排除しながら、前記第1のフィード溶液からCo及びMnを選択的に回収し、前記第2の膜モジュールが、Mnを排除しながら前記第2のフィード溶液からCoを選択的に回収する、多段回収システム。
【請求項7】
さらに、
前記第1のフィード貯蔵器から回収されたある濃度のLi及びNiを含有する第3のフィード溶液を収容する第3のフィード貯蔵器と;
第3の有機相で予め濡らされた多孔質側壁を各々有する第3の複数の中空繊維を含む第3の膜モジュールであって、当該第3の膜モジュールを通しての連続的再循環において前記第3のフィード溶液を受容する第3の膜モジュールと;
前記第3の膜モジュールと流体連通状態にあり、前記第2のフィード溶液から抽出されたNiを有する第3のストリップ溶液を収容する第3のストリップ貯蔵器と;
を含み、
前記第3の膜モジュールが、Liを排除しながら、前記第1のフィード溶液からNiを選択的に回収する、
請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のフィード溶液のpHが4以上6以下であり、前記第1の有機相がカチオン抽出剤及び有機溶媒を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2のフィード溶液の前記pHが1.5以下であり、前記第2の有機相がカチオン抽出剤及び有機溶媒を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記第3のフィード溶液の前記pHが6~7.5であり、前記第3の有機相がカチオン抽出剤及び有機溶媒を含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
電池材料を再生利用するための方法であって、
Co、Mn、Li及びNiを含有する電池材料を酸中に溶解させて、第1のフィード溶液を形成し、前記第1のフィード溶液の前記pHを4以上6以下に調節すること;
第1の複数の中空繊維を含む第1の膜モジュールであって、前記第1の複数の中空繊維がそれぞれ内腔側及びシェル側を有する、第1の膜モジュールを提供すること;
前記第1の複数の中空繊維を、第1のカチオン抽出剤を含む第1の有機相で濡らすこと;
前記第1の中空繊維を濡らした後、前記複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの一方に沿って前記水性フィード溶液を移動させ、同時に、前記複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの他方に沿ってストリップ溶液を移動させること;
を含み、
前記第1のカチオン抽出剤が、Li及びNiを実質的に排除しながら第1段の膜溶媒抽出として前記水性フィード溶液からCo及びMnを連続的に除去し、前記ストリップ溶液が、前記第1の有機相からCo及びMnを連続的に逆抽出する、方法。
【請求項12】
前記第1のフィード溶液の前記pHを調節することが、前記pHを4以上6以下に維持するために緩衝剤又は塩基を断続的に添加することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のフィード溶液が、前記第1のストリップ溶液に対して1psi~5psiの正の圧力差を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のフィード溶液を移動させ、前記第1のストリップ溶液を移動させることが、前記第1のフィード溶液及び前記第1のストリップ溶液を前記第1の膜モジュールに通して少なくとも1時間連続的に再循環させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
さらに、第2のフィード溶液としての前記第1のストリップ溶液の第2段膜溶媒抽出を行なって、Mnを実質的に排除しながらCoを回収すること、及び前記第2のフィード溶液のpHを1.5以下に調節することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記第2段膜溶媒抽出が、
第2の複数の中空繊維を含む第2の膜モジュールであって、前記第2の複数の中空繊維が内腔側及びシェル側を有する、第2の膜モジュールを提供すること;
前記第2の複数の中空繊維を、第2のカチオン抽出剤を含む第2の有機相で濡らすこと;
前記第2の複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの一方に沿って前記第2のフィード溶液を移動させ、同時に、前記第2の複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの他方に沿って第2のストリップ溶液を移動させること;
を含み、
前記第2のカチオン抽出剤が、Mnを実質的に排除しながら前記第2のフィード溶液からCoを連続的に抽出し、前記第3のストリップ溶液が前記第2の有機相からCoを連続的に逆抽出する、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
さらに、第3のフィード溶液としての前記第1の溶液の第3段膜溶媒抽出を行なって、Niを実質的に排除しながらMnを回収すること、及び前記第3のフィード溶液のpHを6.0以上6.5以下となるように調節することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第3段膜溶媒抽出が、
第3の複数の中空繊維を含む第3の膜モジュールであって、前記第3の複数の中空繊維が内腔側及びシェル側を有する、第3の膜モジュールを提供すること;
前記第3の複数の中空繊維を、第3のカチオン抽出剤を含む第3の有機相で濡らすこと;
前記第3の複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの一方に沿って前記第3のフィード溶液を移動させ、同時に、前記第3の複数の中空繊維の前記内腔側又は前記シェル側のうちの他方に沿って第3のストリップ溶液を移動させること;
を含み、
前記第3のカチオン抽出剤が、Liを実質的に排除しながら前記第3のフィード溶液からNiを連続的に抽出し、前記第3のストリップ溶液が前記第3の有機相からNiを連続的に逆抽出する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1の複数の中空繊維が、多孔質疎水性材料から形成されている、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
さらに、使用済み電池の正極から前記電池材料を分離することをさらに含み、使用済み電池の正極から前記電池材料を分離することが、前記使用済み電池の正極を熱処理、酸溶解及び真空濾過にかけることを含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省により付与された契約第DE-AC05-00 OR 22725号に基づき、政府の支援を受けてなされたものである。政府は本発明の一定の権利を保持する。
【0002】
本発明の分野
本発明は、寿命切れのリチウムイオン電池からの重要な元素のそれらの純粋な形態での回収に関し、より詳細には、支持膜溶媒抽出を用いたコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム及び/又は他の元素の回収及び分離に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン電池は、携帯用電子機器及び電気自動車におけるそれらの幅広い使用に起因して、世界中で大きな注目を集めている。リチウムイオン電池は、従来のニッケル-カドミウム(Ni-Cd)又はニッケル-金属水素化物(NiMH)電池に比べてより小型軽量であり、メモリ効果が無く、単位体積あたりより多くのエネルギーを提供する。
【0004】
コバルトは、重要材料とみなされており、リチウムイオン電池において、相当量で使用されており、その使用は増大している。現在、世界の地上コバルト資源はおよそ2500万トンと推定されている。コバルトの最も豊富な供給源は主にコンゴ民主共和国内にある。コバルトの採掘がコンゴ国内で行なわれており、現在コンゴは全世界のコバルト需要の54%を供給しており、一方、中国、ロシア及びオーストラリアが各々、全世界のコバルト需要のおよそ5%に寄与している。現在のコバルト供給量の30%がリチウムイオン電池産業によって消費されている。したがって、リチウムイオン電池は、コバルトの抽出及び回収のための重要な二次資源と考えられている。さらに、使用済みのリチウムイオン電池から生成される廃棄物中の金属汚染物質の存在は、環境に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
一次、二次及び寿命切れの電池正極材料からコバルトを回収するために、従来の溶媒抽出方法が商業的に使用されてきた。しかしながら、従来の方法には、多量の溶媒の在庫や、エマルジョン形成や、ストリッピング及びスクラッビングを含む多段階作業などの制約がある。例えばCyanex 272及びCyanex 301などの公知の抽出剤により支持液膜を使用する非分散溶媒抽出方法が、ニッケル及びマンガンの存在下でのコバルトの分離のために提案されてきた。Swainら(Chemical Engineering Journal, 2015. 271, p. 61-70)は、抽出剤としてCyanex 272を用いた中空繊維及びフラットシート支持液膜溶媒抽出によるコバルトの分離を調査した。この研究において使用されたフィード溶液は、硫酸に溶解された硫酸コバルト及び硫酸リチウムなどのコバルト及びリチウムの塩であった。しかしながら、リチウムイオン電池中のコバルトの化学的性質は、二価コバルト塩よりもはるかに複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、支持液膜溶媒抽出を用いてリチウムイオン電池からコバルト及び他の元素を回収するための改良された方法及びシステムが依然として必要とされている。特に、使用済みリチウムイオン電池中のLiCoO2及びLiNiCoMnO2(ニッケル-マンガン-コバルト又はNMC)正極から、実質的に純粋な形態で構成元素を選択的に回収するための改良された方法及びシステムが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リチウムイオン電池から実質的に純粋な形態で元素を回収するための方法及びシステムが提供される。当該方法及びシステムは、調節されたpHを有するフィード溶液から元素を選択的に抽出するための、透過性中空繊維の細孔内の固定化された有機相を使用する支持膜溶媒抽出を含む。透過性中空繊維は、一方の側で水性フィード溶液と接触し、別の側でストリップ溶液と接触し、フィード溶液由来の他の元素を排除しながら、溶解したリチウムイオン正極材料からの元素の同時抽出及びストリッピングを提供する。
【0008】
一実施形態において、当該方法は、カチオン液体抽出剤及び有機溶媒を有する有機相で複数の中空繊維の細孔を濡らすことを含む。当該方法は次に、中空繊維の一方の側面に沿って水性フィード溶液を移動させることを含み、水性フィード溶液は、溶解したコバルト含有電池材料、例えばLiCoO2又はLiNiCoMnO2を含む。当該方法は、中空繊維の他方の側に沿ってストリップ溶液を同時に移動させることを含み、水性フィード溶液は、ストリップ溶液に対して加圧(約2psig)されており、複数の中空繊維の細孔中のイオン性液体抽出剤が、ストリップ溶液による回収のために水性フィード溶液からCo(II)を連続的に抽出する。
【0009】
別の実施形態において、当該システムは、膜モジュール、フィード貯蔵器及びストリップ貯蔵器を含む。膜モジュールは複数の中空繊維を含み、中空繊維の細孔は、固定化される有機相で濡らされる(予め含浸される)。フィード貯蔵器及びストリップ貯蔵器は、それぞれ、水性フィード溶液及びストリップ溶液を収容し、水性フィード溶液及びストリップ溶液は、膜モジュールを通って連続的に再循環している、水性フィード溶液及びストリップ溶液を含む。水性フィード溶液は、中空繊維の内腔(ルーメン)側に沿って導かれ、ストリップ溶液は、中空繊維のシェル側に沿って導かれ、任意選択的に横断流(transverse flow)方向である。他の実施形態において、水性フィード溶液は、中空繊維のシェル側に沿って導かれ、ストリップ溶液は中空繊維の内腔側に沿って導かれる。水性フィード溶液は、コバルト含有電池材料を含み、ストリップ溶液に対して加圧される。中空繊維の細孔内の有機相は、有機溶媒及び、ストリップ溶液による回収のために水性フィード溶液からコバルト(例えばCo(II))を連続的に抽出するように選択されるカチオン抽出剤、例えばCyanex 272又はCyanex 301を含む。
【0010】
本発明の方法及びシステムは、中空繊維の細孔内の固定化された有機相を用いたリチウムイオン正極材料からのコバルト及び他の元素の同時抽出及びストリッピングを容易にすることができる。例えば、本開示で説明する多段システムは、使用済み電池の正極からコバルト、マンガン、ニッケル及びリチウムを選択的に回収することができる。本開示で説明するシステム及び方法は、従来の溶媒抽出プロセスに比べて平衡による制約(equilibrium constraints)によって制限されない。カチオン抽出剤を伴う支持液膜を用いた非分散溶媒抽出方法は、実質的に純粋な形態で重要な元素を回収するために実験室での実施例で発明者らによって実証され、支持膜溶媒抽出に先立って正極及び負極の前処理を含む。
【0011】
本発明のこれらの及び他の特徴は、添付の図面及び添付の特許請求の範囲を踏まえて考慮した場合、本発明の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のシステム及び方法にしたがう膜モジュールの例示である。
【0013】
【
図2】
図2は、
図1の膜モジュールを含む単段システムの例示である。
【0014】
【
図3】
図3は、
図1の膜モジュールを含む2段システムの例示である。
【0015】
【
図4】
図4は、
図1の膜モジュールを含む、前処理プロセスと膜溶媒抽出プロセスとを含む3段システムの例示である。
【0016】
【
図5】
図5は、
図1の膜モジュールを含む3段システムの例示である。
【0017】
【
図6A-6E】
図6(a)~6(e)は、実施例1についてのLiCoO
2からのCoの回収を例示する。
図6(a)は、フィード溶液の濃度を示し、
図6(b)は、ストリップ溶液の濃度を示し、
図6(c)は、フィード及びストリップ中のCoの純度(%)を示し、
図6(d)は、経時的なCo回収率を示し、
図6(e)は、経時的Co抽出率を示す。
【0018】
【
図7A-7E】
図7(a)~7(e)は、
図6(a)~6(f)に描かれているよりも高いCo初期濃度での、実施例2についてのLiCoO
2からのCoの回収を例示する。
図7(a)は、フィード溶液の濃度を示し、
図7(b)はストリップ溶液の濃度を示し、
図7(c)は、フィード及びストリップ中のCoの純度(%)を示し、
図7(d)は、経時的なCo回収率を示し、
図7(e)は経時的なCo抽出率を示す。
【0019】
【
図8A-8B】
図8(a)~8(b)は、実施例3についてのNMCからのCoの第1段の回収を例示する。
図8(a)は、フィード溶液の濃度を示し、
図8(b)は、ストリップ溶液の濃度を示す。
【
図8C-8E】
図8(c)~8(e)は、実施例3についてのNMCからのCoの第1段の回収を例示する。
図8(c)は、フィード及びストリップ中のCoの純度(%)を示し、
図8(d)は、経時的なCo回収率を示し、
図8(e)は、経時的Co抽出率を示す。
【0020】
【
図9A-9B】
図9(a)~9(b)は、実施例3についてのNMCからの第2段のCoの回収を例示する。
図9(a)は、フィード溶液の濃度を示し、
図9(b)はストリップ溶液の濃度を示す。
【
図9C-9E】
図9(c)~9(e)は、実施例3についてのNMCからの第2段のCoの回収を例示する。
図9(c)は、フィード及びストリップ中のCoの純度(%)を示し、
図9(d)は、Co抽出率を示し、
図9(e)は経時的なCo抽出率を示す。
【0021】
【
図10A-10E】
図10(a)~10(e)は、実施例4についてのNi及びLiからのCo及びMnの第1段の分離を例示する。
図10(a)は、経時的なストリップ溶液の濃度を示し、
図10(b)は、経時的なフィード溶液の濃度を示し、
図10(c)は、経時的なフィード及びストリップ溶液中のCoの純度(%)を示し、
図10(d)は、経時的なCo回収率を示し、
図10(e)は、経時的なCo抽出率を示す。
【0022】
【
図11A-11E】
図11(a)~11(e)は、実施例4についてのMnからのCoの第2段の分離を例示する。
図11(a)は、経時的なストリップ溶液の濃度を示し、
図11(b)は経時的なフィード溶液の濃度を示し、
図11(c)は、経時的なフィード及びストリップ溶液中のCoの純度(%)を示し、
図11(d)は、経時的なCo回収率を示し、
図11(e)は経時的なCo抽出率を示す。
【0023】
【
図12A-12E】
図12(a)~12(e)は、実施例4についてのLiからのNiの第3段分離を例示する。
図12(a)は、経時的なストリップ溶液の濃度を示し、
図12(b)は、経時的なフィード溶液の濃度を示し、
図12(c)は、経時的なフィード及びストリップ溶液中のNiの純度(%)を示し、
図12(d)は、経時的なNi回収率を示し、
図12(e)は、経時的Ni抽出率を示す。
【0024】
【
図13】
図13は、実施例4で正極材料から分離された酸化コバルトの走査電子顕微鏡法(SEM)の画像を含む。
【0025】
【
図14】
図14は、実施例4で正極材料から分離された酸化コバルトのエネルギー分散X線分光法(EDS)を含む。
【0026】
【
図15】
図15は、実施例4で正極材料から分離された酸化コバルトのX線回折(XRD)を含む。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示で企図され開示される本発明は、膜支援型溶媒抽出によるリチウムイオン電池からの構成元素の回収のための方法及びシステムを含む。一般的には、この方法は、1種以上の構成元素の単段又は多段抽出のための以下の工程を含む:a)複数の多孔質中空繊維を含む膜モジュールを提供する工程、b)カチオン抽出剤及び有機溶媒を含む有機相で複数の多孔質中空繊維を濡らす工程、c)複数の多孔質中空繊維の内腔側又はシェル側に沿って、予め定められたpHで、酸性水性フィード溶液の連続流量を適用する工程、及びd)複数の多孔質中空繊維の内腔側又はシェル側のうちの他方の側に沿って、予め定められたpHで、連続流量(continuous flow rate)の酸性ストリップ溶液の適用する工程。複数の多孔質中空繊維を濡らす工程(工程(b))は、ある流量のフィード溶液及びある流量のストリップ溶液を適用する工程(工程(c)及び(d))に先立って行なわれる。ある流量のフィード溶液及びある流量のストリップ溶液を適用する工程は概して同時に行われる。これらの工程については、単段分離(第I部)及び多段分離(第II部)に関連して以下で説明する。
【0028】
I.単段分離
膜モジュールを提供することは、概して、対向する管板間に延在する複数の中空の又は管状の繊維を提供することを含む。例示として、繊維束を含む膜モジュールが
図1に示されており、全体として10で示されている。膜モジュール10は、フィード入力ポート14、フィード出力ポート16、ストリップ入力ポート18及びストリップ出力ポート20を含む外側ケーシング12を含む。好適な膜モジュールとしては、膜モジュール面積が1.4m
2の疎水性ポリプロピレン膜モジュール(Membrana GmbH製のMicroModule(登録商標)又はMembrana-Charlotte,LLC製のMiniModule(登録商標))が挙げられる。複数の中空繊維22が共通の方向に延在するように、複数の中空繊維22がそれらの相対する両端で第1及び第2の管板24、26に差し込まれている。各繊維22は、内腔側28及びシェル側30を含む。内腔側28は、
図1にフィード溶液に曝露されるものとして例示されているが、他の実施形態において、内腔側28は、ストリップ溶液に曝露される。同様にして、シェル側30は
図1では、ストリップ溶液に曝露されるものとして例示されているが、他の実施形態では、シェル側30はフィード溶液に曝露される。本開示で使用される「内腔側」は、中空繊維の長さの端から端まで長手方向に延在するチャネルを画定する内部表面を含み、「シェル側」は、繊維の外表面を含み、内腔側及びシェル側は互いに膜側壁の厚さ分離間している。フィード溶液と接触している側は「フィード界面」を画定し、ストリップ溶液と接触している側は「ストリップ界面」を画定する。内腔側は、いくつかの実施形態において、フィード界面であり、他の実施形態において、ストリップ界面である。同様にして、シェル側は、いくつかの実施形態において、ストリップ界面であり、他の実施形態において、フィード界面である。
【0029】
中空繊維22は、その中に有機相を保持するように多孔質であり、フィード溶液及びストリップ溶液の酸性条件に耐えることができる材料で形成される。中空繊維22は、水性フィード溶液による繊維の濡れを防止するのを支援するとともにストリップ溶液中への有機相の移動を防止することもできる疎水性材料から形成され得る。疎水性材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンが挙げられる。細孔サイズは、抽出剤を含有する有機相が、繊維のストリップ側の圧力よりも約2psi高い圧力、任意選択的にストリップ溶液の圧力よりも5psi未満高い圧力で、加圧されたフィード溶液との接触によって置き換えられないように選択される。中空繊維は、いくつかの実施形態において、0.1ミクロン未満の平均細孔サイズを含み、一方、他の実施形態においては、平均細孔サイズは0.01ミクロン以上0.1ミクロン以下である。中空繊維は、0.1mm以上1.0mm以下の平均内径を含み、さらに、任意選択的に、0.2mm以上0.3mm以下の平均内径を含む。中空繊維は、0.1mm以上1.0mm以下の平均外径を含み、さらに、任意選択的に、0.6mm以上0.7mm以下の平均外径を含む。中空繊維は、0.01mm以上0.1mm以下の平均側壁厚さを有し、さらに、任意選択的に、0.02mm以上0.03mm以下の平均側壁厚さを有する。
【0030】
有機相で複数の多孔質繊維を濡らすことは概して、予め定められた期間(例えば1時間)フィード入力ポート14を通して有機相を誘導して繊維を有機相で飽和させることを含む。有機相の流れを、充分な期間が経過した後に停止すると、複数の繊維の細孔内に、固定化された有機相が得られる。濡らした後に、両方の入力ポート14、18を通して蒸留水を循環させて、膜モジュール10から過剰な有機相を洗い出す。固定化された有機相は、カチオン抽出剤(以下で説明する)及び有機溶媒を含む。有機溶媒としては、合成イソパラフィン炭化水素系溶媒、例えばIsopar-L(Exxon Mobile Corporation)が挙げられる。他の実施形態では、望ましい場合、他の固定化された有機相を使用することができる。任意選択的に、固定化された有機相はリン酸トリブチル(TBP)を含むが、TBPは必須ではなく、いくつかの実施形態において、固定化された有機相はTBPを含まない。これはTBPが、エマルジョンの形態で観察されるような2つの液体への有機相の分離である第3相の形成を防止するために溶媒抽出プロセスにおいて従来使用されているからである。第3相は、概して、有機希釈剤中の抽出剤の限られた可溶性と、フィード溶液及びストリッピング溶液で使用される高い酸強度に起因する。中空繊維膜の各細孔中に埋め込まれる有機相の量が非常に少ないことから、本膜溶媒抽出プロセスでは、第3相の形成は無い。さらに、希酸溶液が膜溶媒抽出プロセスで使用され、これがエマルジョン形成を防止する。したがって、有機相にTBPを含めることは必要でなく、多くの実施形態において、TBPは使用されない。
【0031】
抽出剤は、本明細書中に記載のシステム及び方法にしたがって使用される場合、他の元素を排除しながら特定の元素を回収するように選択することができる。例えば、抽出剤はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Cyanex 272、Cytec Inc.)又はメチルペンチルホスフィノジチオ酸(Cyanex 301、Cytec Inc.)を含むことができる。抽出剤は、Ni及びLiを排除しながら、4.0以上6.0以下、さらに、任意選択的に、5.0以上6.0以下のpHを有するフィード溶液からCo及びMnを抽出するために、Cyanex 272を含むことができる。同様に一例として抽出剤は、Liを実質的に排除しながら、5.0以上6.0以下、より具体的には約5.9のpHを有するフィード溶液からCoを抽出するために、Cyanex 272を含むことができる。同様に一例として、抽出剤は、Liを実質的に排除しながら、6.0以上7.5以下、より具体的には6.0以上6.5以下のpHを有するフィード溶液からNiを抽出するためにCyanex 272を含むことができる。同様に一例として、抽出剤は、Mnを実質的に排除しながら、1.5以下のpHを有するフィード溶液からCoを抽出するためにCyanex 301を含むことができる。同様に一例として、抽出剤は、Liを実質的に排除しながら、1.0以上3.0以下のpHを有するフィード溶液からCo及びNiを抽出するためにCyanex 301を含むことができる。酢酸塩緩衝剤、例えば酢酸ナトリウムを抽出プロセス中に添加することで、フィード溶液のpHの低下を制御することによって、高い抽出率が維持される。本開示で使用される「実質的に排除」とは、別段の記載の無い限り、1時間の膜溶媒抽出後の排除された元素について、受容する溶液(receiving solution)の元素モル濃度(溶液1リットルあたりのモル数)が、供与する溶液(donating solution)の元素モル濃度(溶液1リットルあたりのモル数)の1%未満であることを意味する。
【0032】
複数の多孔質中空繊維の内腔側又はシェル側に沿って連続流量の酸性の水性フィード溶液を導くことは、フィード入力ポート14を通して酸性の水性フィード溶液を導くことを含む。酸性の水性フィード溶液は、使用済みリチウムイオン電池由来の溶解した正極材料、例えばLiCoO
2正極材料及びLiNiCoMnO
2(NMC)正極材料を含む。フィード溶液は、抽出剤に基づいて選択されるpHを有する。Cyanex 272の場合、フィード溶液は、5.5以上6.0以下のpHを有することができ、これはCo(III)よりも可溶性の高いCo(II)にCo(III)を変換するために還元剤として最高で5体積%までのH
2O
2を含む0.2~4MのH
2SO
4中に正極材料を溶解させることによって達成可能である。Cyanex 301の場合、フィード溶液は、1.2~3.0のpHを有することができ、これはCo(III)をCo(II)に変換するための還元剤として最高で5体積%までのH
2O
2を含む0.2~4MのH
2SO
4中に正極材料を溶解させることによって達成可能である。酢酸塩緩衝剤、例えば酢酸ナトリウムの添加は、フィード溶液の初期pHを設定することによって、高い抽出率を維持し、これは、緩衝剤、例えば酢酸ナトリウム、及び/又は塩基、例えば水酸化アンモニウムを断続的に添加して、予め定められた範囲内に入るように、膜溶媒抽出中に調節される。フィード溶液は、代わりに、所望のモル濃度でHNO
3又はHCl中に溶解した正極材料を含むことができる。フィード溶液は、
図1に示されている複数の多孔質中空繊維22の各繊維の内腔側28に沿ってモジュール10を通って導かれ得る。代わりに、フィード溶液は、複数の繊維22の各繊維のシェル側30に沿ってモジュール10を通って導かれ得る。
【0033】
逆抽出のために複数の透過性繊維の内腔側又はシェル側に沿って連続流量の酸性の水性ストリップ溶液を導くことは、ストリップ入力ポートを通ってストリップ溶液を導くことを含む。ストリップ溶液は、Co(II)又はフィード界面からストリップ界面まで拡散した他の構成元素をストリッピングするように適応される。ストリップ溶液は、例えばフィード溶液中よりもさらに高いモル濃度でH
2SO
4、HNO
3、又はHClを含むことができる。すなわち、濃度勾配ひいては化学ポテンシャル勾配が、概して、フィード溶液とストリップ溶液の間に形成される。ストリップ溶液は、上述の
図1に示されている複数の繊維22の各繊維のシェル側30に沿って、任意選択的に、繊維22内のフィード溶液の流れに対して概して横断する方向で、モジュール10を通って導かれる。代わりには、ストリップ溶液は、中空繊維22の内部を通って導かれてその内腔側28と接触することができる。
【0034】
フィード溶液及びストリップ溶液の循環をさらに例示するために、
図2に、膜支援型溶媒抽出用のシステムを示し、このシステムは、全体として40で示されている。システム40は、フィード貯蔵器42、ストリップ貯蔵器44、膜モジュール10、フィードライン46、フィード戻りライン48、ストリップライン50、及びストリップ戻りライン52を含む。フィード溶液は、フィード貯蔵器42内に収容され、均一な濃度を確保するために機械的撹拌器による恒常的な撹拌下に保たれる。フィードライン46は、フィードライン圧力がストリップライン圧力よりもわずかに高いことを確保するため、ポンプ54、例えば蠕動ポンプを含む。いくつかの用途では、フィードは、2psig以下、任意選択的に、5psig未満に加圧されることがあり、一方、ストリップは、大気圧に維持されることがある。ストリップライン50も同様に、ポンプ56、蠕動ポンプを含み、モジュール10を通るストリップ溶液の連続流を確保する。フィード溶液及びストリップ溶液は、連続再循環状態にある。しかしながら、他の実施形態では、フィードライン及び/又はストリップラインは開回路を形成する。
【0035】
上記方法は、高純度のコバルトを回収するために、ストリップ溶液を濾過し、乾燥させ及び/又はアニールすることを含むこともできる。例えば、ストリップ溶液を、シュウ酸又は水酸化アンモニウムを用いて沈殿させた後、濾過し、室温で乾燥させ、アニールすることができる。任意選択のアニーリングプロファイルは、2時間750℃を含むことができる。ストリップ溶液の濾過、乾燥及びアニールの工程は任意選択的であるが、回収されるコバルトの意図された使用に応じて、要望どおりに置換又は変更可能である。ストリップ溶液は、代わりに、支持膜溶媒抽出モジュール10又は第2の支持膜溶媒抽出モジュールを通してリサイクルすることができる。
【0036】
II.多段分離
コバルト回収用の2段システムが
図3に示されており、全体として60で示されている。このシステムでは、第1の膜モジュール10を使用することによって、Co及びMnの第1段回収が行なわれ、第2の膜モジュール10’によってCoの第2段回収が行なわれる。第1段回収は、第1のフィード貯蔵器62、第1の膜モジュール10、フィードポンプ64、ストリップポンプ66、及び第1のストリップ貯蔵器66を含む。第2段回収は、第2のフィード貯蔵器70、第2の膜モジュール10’、フィードポンプ72、ストリップポンプ74、及び第2のストリップ貯蔵器76を含む。第1の膜モジュール10は、溶解したNMC正極材料からCo及びMnを回収するように適合された第1の固定化有機相、例えばCyanex 272が予め含浸された中空繊維を含む。第2の膜モジュール10’は、第2のフィード溶液からCoを回収するように適合された第2の固定化有機相を含む。第2のフィード溶液は、第1のストリップ溶液からのCo及びMnを含有する。より具体的には、第1の膜モジュール10は、Isopar-L中のCyanex 272を含む固定化有機相を含み、一方、第2の膜モジュール10’は、Isopar-L中のCyanex 301を含む固定化有機相を含む。この実施形態において、第1のフィード溶液のpHは5.5~6.0であり、第2のフィード溶液のpHは、およそ2.0となるように水酸化アンモニウムで任意選択的に調整される。
【0037】
使用済み正極材料からのLi、Ni、Co及びMnの回収及び分離のための3段方法が、
図4に示されており、前処理プロセス100及び多段膜溶媒抽出プロセス102を含む。この実施形態における使用済み正極材料104は、活物質とアルミニウム支持体を含む。活物質は、典型的には、微粉末状のLi、Ni、Co及びMnを含有する。微粉末は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)結合剤及びカーボン添加剤と統合される。次に、正極材料は、リチウムイオン電池に組み込まれる前に、Al支持体上に押し固められる。図示されていないが、本方法は同様に、銅支持体上に活物質を典型的に含む電池負極から銅(Cu)を回収するためにも使用可能である。さらに、正極材料中に存在するCu及びAlも、抽出剤、例えばACORGA M5640及びCyanex 801などを用いた支持膜溶媒抽出を使用して分離及び回収可能である。
【0038】
まずPVDF結合剤及びカーボン添加剤を除去するために、正極シートを熱処理106、酸溶解108及び真空濾過110にかける。正極シートを不活性雰囲気中で500℃超の温度まで加熱してPVDFを分解させ、Al支持体からの正極材料の容易な除去を可能にする。さらに、酸化物正極の伝導率を増大させるために正極材料中に存在するカーボンブラックは、正極活物質がおよそ550℃である状態で酸化還元反応を受ける。これにより、正極粉末中に存在する遷移金属の部分的還元がひき起こされ、それにより酸溶解108中に必要とされるH2O2の量が削減される。Alの融点は約650℃であることから、熱処理106は、550℃以上650℃以下の温度範囲を含む(本開示中で使用される「~以上~以下」なる表現には、上限値及び下限値の両方を含む)。より具体的には、正極シートを、10℃/分の速度で温度を徐々に上昇させることによって窒素雰囲気中で570℃まで加熱し、570℃に25分間保ち、温度を室温まで徐々に低下させる。正極シートを、次に、水で洗浄して、正極粉末からAl支持体を分離する。正極粉末の酸溶解の後、正極材料中に存在するカーボン添加剤は、真空濾過110を用いて除去される。
【0039】
多段回収膜溶媒抽出プロセス102は、
図5に例示されており、Li及びNiからのCo及びMnの第1段分離、MnからのCoの第2段分離、及びLiからのNiの第3段分離を含む。第1段分離は、第1のフィード貯蔵器112、第1の膜モジュール114、及び第1のストリップ貯蔵器116を含む。第1のフィード貯蔵器112にはフィード溶液が入っており、フィード溶液は、還元剤、例えば最高で5体積%までのH
2O
2を含む、強酸、例えばH
2SO
4中に溶解した前処理プロセス100からの正極材料104を含む。フィード溶液は、pHが4.0以上6.0以下に安定化されており、酢酸塩緩衝剤、例えば酢酸ナトリウム緩衝剤溶液を含む。第1の膜モジュール114は、カチオン抽出剤、例えば1MのCyanex 272、及び有機溶媒、例えばIsopar-Lを含む第1の固定化有機相が予め含浸された中空繊維を含む。有機相は、33体積%のCyanex 272、5体積%のTBP、及び残りの量のIsopar-Lを含み得るが、TBPは第1段の分離及び回収に影響を及ぼすことなく省略可能である。逆抽出のために、第1のストリップ貯蔵器116は、第1の膜モジュール114を通って連続的に移動する強酸、例えば0.75MのH
2SO
4を含む。ストリップ溶液からのH
+イオンの移動の結果として、フィード溶液のpHは低下するが、これは、フィード溶液のpHを4.0以上6.0以下、さらには任意選択的に5.5に調節するために、緩衝剤、例えば酢酸ナトリウム、及び/又は塩基、例えば水酸化アンモニウムを断続的に添加することで抑えられる。Co及びMnの濃度は、ストリップ溶液中で経時的に増大し、Li及びNiの移動は無視できる程度のものである。
【0040】
第2段分離は、第2のフィード貯蔵器118、第2の膜モジュール120、及び第2のストリップ貯蔵器122を含む。第2のフィード貯蔵器118には、第1のストリップ貯蔵器116から回収されたある濃度のCo及びMnを含有する第2のフィード溶液が入っている。第2の膜モジュール120は、Mnを実質的に排除しながら第2のフィード溶液からCoを回収するように適合された第2の固定化有機相を含む。フィード溶液は、緩衝剤、例えば酢酸ナトリウム、及び/又は塩基、例えば水酸化アンモニウムを添加することにより、pHが1.5以下、例えば1.2に安定化される。第2の膜モジュール120は、カチオン抽出剤、例えば1MのCyanex 301、及び有機溶媒、例えばIsopar-Lを含む第2の固定化有機相が予め含浸された中空繊維を含む。第2のストリップ貯蔵器122には、有機相からCoを逆抽出するために第2の膜モジュール120を通って連続的に移動する強酸、例えば1MのH2SO4が入っている。ストリップ溶液中のCo濃度は経時的に増大し、Mnの移動は無視できる程度のものである。
【0041】
第3段分離は、第3のフィード貯蔵器124、第3の膜モジュール126、及び第3のストリップ貯蔵器130を含む。第3のフィード貯蔵器124には、第1のフィード貯蔵器112から回収されたある濃度のLi及びNiを含有する第3のフィード溶液が入っている。第3の膜モジュール126は、Liを実質的に排除しながら第1のフィード溶液からNiを回収するように適合された第3の固定化有機相を含む。フィード溶液は、緩衝剤、例えば酢酸ナトリウム、及び/又は塩基、例えば水酸化アンモニウムを添加することにより、pHが6.0~6.5に安定化される。第3の膜モジュール126は、カチオン抽出剤、例えば1MのCyanex 272、及び有機溶媒、例えばIsopar-Lを含む第3の固定化有機相が予め含浸された中空繊維を含む。第3のストリップ貯蔵器130には、有機相からNiを逆抽出するために第3の膜モジュール126を通って連続的に移動する強酸、例えば0.75MのH2SO4が入っている。ストリップ溶液中のNi濃度は経時的に増大し、Liの移動は無視できる程度のものである。
【0042】
したがって、上記方法及びシステムは、連続的及びスケーラブルな回収プロセスの一部として実質的に純粋なコバルト、マンガン、ニッケル及びリチウムの回収及び分離を提供する。上記方法及びシステムは、平衡効果によりもたらされる除去制約を克服でき、非限定的であるべく意図されている以下の実施例によって実証されるように極めて純粋な形態で重要な元素を回収することができる。
【実施例1】
【0043】
実施例1
一実施例において、750mLの0.2M H
2SO
4中に10gのLiCoO
2(Li=663.86ppm;Co=5826.06ppm)を溶解させることによって水性フィード溶液を調製し、2体積%のH
2O
2を還元剤として使用した。pH5.2の3M酢酸ナトリウム緩衝剤溶液250mLを使用して、フィード溶液のpHを安定化し、LiCoO
2の最終フィード溶液濃度を10g/Lとした。有機相は、33体積%(1M)のCyanex 272、5体積%のリン酸トリブチル(TBP)、及び残りの量のIsopar-Lであった。ストリップ溶液は、1Lの0.75M H
2SO
4であった。フィードの初期pHを、水酸化アンモニウムを用いて5.02に調整した。Coの分離性能は、
図6(a)~6(e)に示されている。ストリップ溶液のCo含有量は、経時的に増大し、ストリップ溶液中へのLiの通過を最小限に維持しながら、92%のCo回収率が達成された(
図6(b)参照)。多孔質膜支持体中に含まれる有機相中の抽出剤としてCyanex 272を使用して、膜溶媒抽出から純度99.6重量%のCoを回収した(
図6(d)参照)。ストリップ溶液からのH
+イオンの移動の結果として、フィード溶液のpHは5.02から4.66に低下した。Coの抽出率は、フィード溶液中のCo濃度の減少に伴って経時的に減少した(
図6(a)、6(c)及び6(e)を参照)。
【0044】
実施例2
別の実施例において、フィード溶液は、より高い初期濃度のLiCoO
2を含んでいた。詳細には、フィード溶液は、0.5M H
2SO
4と2.5体積%のH
2O
2とに溶解した20,000ppmのLiCoO
2(Li=1486.25ppm;Co=11532.325ppm)を含んでいた。ストリップ溶液は0.75M H
2SO
4を含んでいた。pH安定化のため、フィード溶液に対して、250mLの酢酸ナトリウム緩衝剤を添加した。フィード溶液の初期pHを5.5に調整した。実験中のpHの低下に伴う抽出率の減少を防止するために、フィード溶液に水酸化アンモニウムを断続的に添加して、pHを5.5~6.0の範囲内に維持した。Coの分離性能は、
図7(a)~7(e)に示されている。Co濃度は、ストリップ溶液中で増大し、Liの移動は無視できる程度のものであり、91%のCo回収率が達成された(
図7(b)及び7(d)を参照)。有機相中の抽出剤としてCyanex 272を用いて、膜溶媒抽出から純度99.5重量%のCoを回収した(
図7(c)を参照)。
【0045】
実施例3
この実施例では、NMCからCoを分離し回収するために、2段膜溶媒抽出プロセスを使用した。第1段(
図3のモジュール1)において、5.5~6.0のpH範囲内でのCo及びMnの選択的抽出に有利に作用することから、Cyanex 272を用いてCo及びMnを分離した。第2段(
図3のモジュール2)では、2未満のフィードpH値で、Co及びMnを分離するために、Cyanex 301を使用した。
【0046】
膜溶媒抽出プロセスのための原材料として、1:1:1のNi:Co:Mn比でNMCを使用した。750mLの0.5M H
2SO
4中に溶解した20gのNMC(Li=1402.89ppm;Co=3698.89ppm;Mn=3626.08ppm;Ni=3630.82ppm)を使用し、還元剤として2体積%のH
2O
2を用いて、不溶性Co
3+を可溶性Co
2+原子価状態に変換させた。pH5.2の3M酢酸ナトリウム緩衝剤溶液の250mL溶液を用いて、フィード溶液のpHを安定化させ、NMC正極材料の最終フィード溶液濃度を20g/Lとした。第1段で使用した抽出剤は、Isopar L中の1MのCyanex 272であった。使用したストリップ溶液は、1Lの0.75M H
2SO
4であった。水酸化アンモニウムを用いて、フィード溶液の初期pHを5.5に調整した。ストリップ溶液中のCo及びMn含有量は経時的に増大し、Niの最小限の通過及びストリップ溶液中へのLiの通過無し(完全な排除)を維持しながら、92%のCo回収率が達成された(
図8(b)参照)。pHの低下に伴う経時的な抽出率の減少を防止するために、フィード溶液に水酸化アンモニウムを断続的に添加して、5.0~5.5のpH範囲を維持した。第1段におけるCoの分離及び回収は、
図8(a)~8(e)に示されている。
【0047】
Coのさらなる精製のために、第2段用のフィード溶液として第1段で得られた最終ストリップ溶液を用いて、第2段の分離を行なった。第2段用のフィード溶液のpHを、水酸化アンモニウムを用いて1.34に調整した。この段で使用した抽出剤は、Isopar-L中の1M Cyanex 301であった。使用したストリップ溶液は1Lの1M H
2SO
4であった。Cyanex 301は、2未満のフィードpH値でMnの共抽出を最小限に抑えながら、Co及びNiの両方を選択的に抽出する。しかしながら、ストリップ溶液から調製されたフィード溶液中のNi濃度は、無視できる程度のものであった。したがって、第2段は、Co及びMnの溶液からCoを分離し回収するために使用した。ストリップ中のCo含有量は経時的に増大し、ストリップ溶液中へのMnの通過を最小限に維持しながら、2時間で54%のCo回収率が達成された。膜支持体中に含まれる有機相中の抽出剤としてCyanex 301を使用して、膜溶媒抽出から純度99.12%のCoを回収した。フィードpH値が、実験中に1.04まで低下したが、pH値のこの変化によって、Coの抽出率が影響されることはなかった。この第2段におけるCoの分離性能は、
図9(a)~9(b)に示されている。
【0048】
実施例4
この実施例では、実質的に純粋なNi、Li、Co及びMnを使用済みのシボレー(Chevrolet) Voltリチウムイオン電池から回収するために、3段膜溶媒抽出プロセスを使用した。熱処理を用いて、部分的に酸化されたカーボンブラックと混じり合った約60gmの正極粉末を得た。750mLの4M H
2SO
4中に40gの正極材料を溶解させることによって、第1段のフィード溶液を調製した。真空濾過を用いて、フィード溶液から未溶解のカーボンブラックを分離した。還元剤として2体積%のH
2O
2を用いて、部分的に還元されたCo(III)を可溶性Co(II)原子価状態に変換した。正極材料中に存在するカーボン添加剤はH
2SO
4に不溶性である。pH5.6の3M酢酸ナトリウム緩衝剤溶液の250mL溶液を用いて、フィード溶液のpHを安定化した。およそ30g/Lの使用済み正極材料のフィード溶液濃度を得た。フィード溶液は、4M H
2SO
4、2体積%のH
2O
2及び250mLの3M酢酸ナトリウム緩衝剤溶液中に1Lの30,000ppmの使用済み正極を含んでいた。フィード溶液の初期組成は、Li(1005.0ppm)、Co(3663.9ppm)、Ni(4363.7ppm)及びMn(9721.2ppm)を含み、Alは検出されなかった。カチオン抽出剤は、Isopar-L中に1MのCyanex 272を含んでいた。ストリップ溶液は、1Lの0.75M H
2SO
4を含んでいた。水酸化アンモニウムを用いて、フィード溶液の初期pHを4.9に調整した。pHの低下に伴う経時的な抽出率の減少を防止するために、フィード溶液に水酸化アンモニウムを断続的に添加して、このランの間全体にわたり4.5以上5.0以下のpH範囲を維持した。このフィードpH範囲内で、Cyanex 272は、Ni及びLiの共抽出を防止しながら、Co及びMnの両方を抽出した。ストリップ溶液中のCo及びMn含有量は経時的に増大し、ストリップ溶液中へのNi及びLiの通過を防止しながら、98.4%のCo回収率が達成された。第1段におけるCoの分離及び回収は、
図10(a)~
図10(e)に示されている。
【0049】
MnからのCoのさらなる精製のため、フィード溶液として第1段分離からの最終ストリップ溶液を用いて第2段分離を行なった。水酸化アンモニウムを用いてフィード溶液のpHを1.2に調整した。第2段用のフィード溶液の組成は、Co(2853.6ppm)及びMn(7844.3)を含み、Li又はNiは検出されなかった。Co及びMnの濃度の減少は、pH調整のためのフィード溶液への水酸化アンモニウムの添加に起因するものであった。この段で使用した抽出剤は、Isopar-L中の1MのCyanex 301であった(50%v/v)。膜モジュールの面積は1.4m
2であった。使用されたストリップ溶液は1Lの1M H
2SO
4であった。Cyanex 301は、1.5未満のフィードpHでMnの共抽出を最小限に抑えながら、Co及びNiの両方を選択的に抽出する。しかしながら、第1段のストリップ溶液から調製されたフィード溶液中のNiの濃度はほぼゼロであり、これは、有機相によるNiの抽出はなかったことを示していた。したがって、Co及びMn両方の溶液からCoを分離し回収するために、第2段を使用した。ストリップ中のCo含有量は経時的に増大し、ストリップ溶液中へのMnの通過を防止しながら、4時間で94.3%のCoの累積的回収率が達成された。膜細孔中に含まれる有機相中の抽出剤としてCyanexを使用する膜溶媒抽出から純度100%のCoを回収した。フィードpHは、この実験中に1.13まで低下した。しかしながら、Coの抽出率は、pHのこの変化による影響を受けなかった。第2段の分離性能は、
図11(a)~
図11(e)に示されている。
【0050】
第1段のフィード溶液中に存在するNi及びLiを分離するために、第1段の後に残留する同じフィード溶液を用いて第3段の分離を行なった。第3段用フィード溶液のpHを、水酸化アンモニウムを用いて6.3に調整した。フィード溶液の組成は、Li(744.5ppm)及びNi(3467.1ppm)を含み、Co、Mn又はAlは検出されなかった。Ni及びLiの濃度の減少は、pH調整のためのフィード溶液への水酸化アンモニウムの添加に起因するものであった。この段で使用した抽出剤は、Isopar-L中の1MのCyanex 272であった(50%v/v)。ストリップ溶液は、1Lの0.75M H
2SO
4を含んでいた。膜モジュールの面積は1.4m
2であった。Cyanex 272は、6.0~6.5未満のフィードpH範囲内でLiの共抽出を最小限に抑えながら、Niを選択的に抽出する。ストリップ溶液中のNi含有量は、経時的に増大し、ストリップ溶液中へのLiの最小限の移動で、6時間で89.7%のNiの累積的回収率が達成された。膜細孔中に含まれる有機相中の抽出剤としてCyanex 272を使用する膜溶媒抽出から純度96.1%のNiを回収した。フィードpH値を、テストラン中6.0~6.5の範囲内に維持した。第3段の分離性能は、
図12(a)~
図12(e)に示されている。
【0051】
シュウ酸を用いて、回収したコバルトを沈殿させ、760℃でアニールした。次に、走査電子顕微鏡法(SEM)及びエネルギー分散X線分光法(EDS)を用いて、酸化コバルトの特性を決定した。
図13は、Co
3O
4粉末のSEM画像を示す。Co
3O
4粉末は、サイズが20~40μmの棒状粒子を含有する。正極材料から回収されたCo
3O
4のEDSスペクトルが
図14に示されている。Co
3O
4のみについての特徴的ピークがEDSスペクトルに観察された。コバルト以外、正極材料の他のいずれの構成元素についてのピークも観察されず、このことは、正極材料の他の構成元素(Li、Ni、Mn)から分離されたコバルトが、純粋な形態をとっていることを強く示唆している。最後に、
図15は、正極材料から分離されたCo
3O
4のX線回折(XRD)を含む。
【0052】
以上の説明は、本発明の現在の実施形態の説明である。均等論を含めた特許法の原則にしたがって解釈されるべき添付の特許請求の範囲に規定された本発明の精神及びより広義の態様から逸脱することなく、さまざまな改変及び変更を加えることが可能である。例えば「a」、「an」、「the」又は「said(前記)」といった冠詞を用いた単数での要素に対するあらゆる言及は、その要素を単数に限定するものとみなされるべきものではない。
【国際調査報告】