(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-29
(54)【発明の名称】同種異系移植のための操作された免疫細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230622BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230622BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230622BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230622BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230622BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230622BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230622BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230622BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/15
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/06
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/113 140
C12N5/0783
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572636
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2021106259
(87)【国際公開番号】W WO2022012591
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】202010679530.9
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011534699.1
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522329098
【氏名又は名称】南京北恒生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】周 亜麗
(72)【発明者】
【氏名】陳 功
(72)【発明者】
【氏名】姜 小燕
(72)【発明者】
【氏名】任 江涛
(72)【発明者】
【氏名】賀 小宏
(72)【発明者】
【氏名】王 延賓
(72)【発明者】
【氏名】韓 露
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BC37
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4C087AA01
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4C087NA05
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB31
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされ、NK細胞による前記操作された免疫細胞に対する殺傷を阻害する、操作された免疫細胞を提供する。本発明は、前記操作された免疫細胞を含む医薬組成物、並びに、癌、感染症または自己免疫疾患の治療のための薬物の製造における前記操作された免疫細胞の用途をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作された免疫細胞であって、
少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされ、NK細胞による前記操作された免疫細胞に対する殺傷を阻害することを特徴とする操作された免疫細胞。
【請求項2】
前記MHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、TAP1、TAP2、LMP2、LMP7、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の操作された免疫細胞。
【請求項3】
前記MHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項2に記載の操作された免疫細胞。
【請求項4】
前記NK活性化受容体結合分子は、NKG2C、NKG2E、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、2B4、DNAM-1、CD2及びLFA-1から選択されるNK活性化受容体に結合することを特徴とする請求項1に記載の操作された免疫細胞。
【請求項5】
前記NK活性化受容体結合分子は、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、Rae-1、H60、MULT1、B7-H6、BAG6、PfEMP1、HSPGS、AICL、CD112、CD155、CD48、CD58、CD59、ICAM1、ICAM2、ICAM3、STAT1、JAK1、IFNGR2、JAK2及びIFNGR1から選択されることを特徴とする請求項1に記載の操作された免疫細胞。
【請求項6】
前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA、MICB、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2及びICAM3から選択されることを特徴とする請求項5に記載の操作された免疫細胞。
【請求項7】
前記操作された免疫細胞は、少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含み、前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項8】
前記操作された免疫細胞の少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされており、ここで、前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択されており、前記MHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択されており、前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA、MICB、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2、ICAM3及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項7に記載の操作された免疫細胞。
【請求項9】
前記操作された免疫細胞は、CD52、GR、dCK、PD1、LAG3、TIM3、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2及びGUCY1B3から選択される1つ以上の遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項10】
前記操作された細胞は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む免疫認識受容体をさらに発現することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項11】
前記免疫認識受容体は、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体であることを特徴とする請求項10に記載の操作された免疫細胞。
【請求項12】
前記免疫認識受容体は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体であることを特徴とする請求項11に記載の操作された免疫細胞。
【請求項13】
前記免疫認識受容体は、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D及びそれらの任意の組み合わせから選択される標的と結合することを特徴とする請求項10に記載の操作された免疫細胞。
【請求項14】
前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞又はNKT細胞から選択されることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項15】
前記免疫細胞は、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞またはαβ-T細胞から選択されるT細胞であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項16】
前記免疫細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞または造血幹細胞に由来することを特徴とする請求項1~15のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
癌、感染症または自己免疫疾患の治療のための薬物の製造における請求項1~16のいずれか1項に記載の操作された免疫細胞の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法の分野に属する。より具体的に、本発明は、少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子及び少なくとも1つのMHC関連遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされ、NK細胞による殺傷を阻害する、操作された免疫細胞(Engineered Immune Cell)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、がん免疫療法の技術は急速に発展しており、特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)関連の免疫療法は、血液腫瘍の治療において優れた臨床効果を達成している。CAR-T細胞免疫療法は、腫瘍抗原を認識できるようにin vitroでT細胞を遺伝子改変し、一定数に増幅した後、患者に再注入してがん細胞を殺傷させ、腫瘍治療の目的を達成する。
【0003】
2017年に、2種の自家CAR-T療法が、米国でFDAの承認を取得して市販した。一種は、B細胞急性白血病用で、もう一種はびまん性B細胞非ホジキンリンパ腫用である。これら2種のCAR-T細胞は優れた臨床治療効果を持っているが、非常に高価で、製造期間が長いため、大規模な普及が非常に困難である。したがって、上記の問題を解決するためには、同種異系移植のためのユニバーサルCAR-T製品を開発する必要がある。ユニバーサルCAR-Tは、健康なドナーの末梢血から分離されたT細胞を利用して製造できるため、同種異系の再注入が実現し、患者の治療待ち時間が大幅に短縮される。また、健康なドナーから得られたT細胞の生存率及び機能は、患者由来のT細胞よりも優れており、CAR感染率を高め、治療効果を高めることができる。
【0004】
しかし、ユニバーサルCAR-T細胞の開発は、依然として次の2つの問題に直面している。(1)操作されたCAR-T細胞が患者に進入し、ある程度増殖した後、患者の正常な細胞または組織を攻撃し、移植片対宿主病(GvHD)を引き起こす可能性がある。(2)患者体内の正常な免疫系は、異系由来のCAR-T細胞を拒絶し、宿主対移植片反応(HvGD)を引き起こす可能性がある。現在、移植リスクは、主にTCR、MHCクラスI分子及び/又はクラスII分子(例えば、HLA、B2Mなど)をノックアウトすることにより、低減している。しかし、MHCクラス分子は、NK細胞が「自家細胞」を認識するための重要な分子であるため、B2MのようなMHCクラスI分子を完全に不活化すると、NK細胞が再注入された操作された免疫細胞を「異系」と見なして殺傷させ、最終的に再注入された細胞の生存と持続性に影響を与え、それによって治療効果に影響を与える。
【0005】
従って、レシピエント体内のNK細胞による殺傷効果を低減または阻害し、それによって同種異系移植によって引き起こされる免疫拒絶のリスクを低減または回避できる、新規の操作された免疫細胞を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
第1の形態において、本発明は、操作された免疫細胞であって、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされ、NK細胞による前記操作された免疫細胞に対する殺傷を阻害する、操作された免疫細胞を提供する。
【0007】
一実施形態において、MHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、TAP1、TAP2、LMP2、LMP7、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択され、好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択される。
【0008】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、NKG2C、NKG2E、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、2B4、DNAM-1、CD2及びLFA-1から選択されるNK活性化受容体に結合する。好ましくは、前記NK活性化受容体結合分子は、NKG2D、NKp30、2B4、DNAM-1、CD2及びLFA-1から選択されるNK活性化受容体に結合する。
【0009】
一実施形態において、前記NK活性化受容体結合分子は、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、Rae-1、H60、MULT1、B7-H6、BAG6、PfEMP1、HSPGS、AICL、CD112、CD155、CD48、CD58、CD59、ICAM1、ICAM2、ICAM3、STAT1、JAK1、IFNGR2、JAK2及びIFNGR1から選択される。好ましくは、前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA、MICB、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2及びICAM3から選択される。
【0010】
一実施形態において、前記操作された免疫細胞は、少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含み、前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択される。
【0011】
一好ましい実施形態において、前記操作された免疫細胞の少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされており、ここで、前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC及びそれらの組み合わせから選択されており、前記MHC関連遺伝子は、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択されており、前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA/B、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2及びICAM3から選択される。一実施形態において、前記操作された免疫細胞のTRACまたはTRBC、B2M及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされる。一実施形態において、前記操作された免疫細胞のTRACまたはTRBC、CIITA及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされる。一好ましい実施形態において、前記操作された免疫細胞のTRACまたはTRBC、B2M、CIITA及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされる。一好ましい実施形態において、前記操作された免疫細胞のTRACまたはTRBC、B2M、RFX5及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされる。
【0012】
一実施形態において、本発明の操作された免疫細胞は、CD52、GR、dCK及びPD1、LAG3、TIM3、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2及びGUCY1B3のような免疫チェックポイント遺伝子から選択される1つ以上の遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含む。好ましくは、前記操作された免疫細胞のCD52、dCK、PD1、LAG3、TIM3、CTLA4、TIGITまたはそれらの組み合わせが阻害またはサイレンシングされる。
【0013】
一実施形態において、前記操作された細胞は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む免疫認識受容体をさらに発現する。好ましくは、前記免疫認識受容体は、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体である。より好ましくは、前記免疫認識受容体は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体である。
【0014】
一実施形態において、前記免疫認識受容体は、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D及びそれらの任意の組み合わせから選択される標的と結合する。好ましくは、前記標的は、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD123、CD138、CD171、MUC1、AFP、Folate受容体α、CEA、PSCA、PSMA、Her2、EGFR、IL13Ra2、GD2、NKG2D、EGFRvIII、CS1、BCMA、メソテリン及びそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0015】
一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154のタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。好ましくは、膜貫通ドメインは、CD8α、CD4、CD28及びCD278の膜貫通ドメインから選択される。
【0016】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dのタンパク質のシグナル伝達ドメインから選択される。好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζを含むシグナル伝達ドメインである。
【0017】
一実施形態において、前記共刺激ドメインは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、ZAP70及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上のタンパク質の共刺激シグナル伝達ドメインである。好ましくは、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、CD134、CD137またはCD278の共刺激シグナル伝達ドメインまたはそれらの組み合わせである。
【0018】
一実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞又はNKT細胞から選択される。好ましくは、前記免疫細胞は、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞またはαβ-T細胞から選択されるT細胞である。
第2の形態において、本発明は、本発明に記載の操作された免疫細胞及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0019】
第3の形態において、本発明は、がん、感染症または自己免疫疾患に罹患している被験者を治療する方法であって、前記被験者に有効量の本発明に記載の操作された免疫細胞または医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。したがって、本発明は、がん、感染症または自己免疫疾患の治療のための薬物の製造における本発明に記載の操作された免疫細胞または医薬組成物の用途をさらに提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
特に断りがない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本発明が属する当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。
【0021】
NK細胞は、表面にさまざまな活性化受容体と抑制性受容体を発現しており、NK細胞の殺傷機能は、これら2種類の受容体によって提供される正のシグナルと負のシグナルとのバランスによって調節・制御される。正常的な場合、細胞表面のMHCクラスI分子を認識する抑制性受容体が、シグナル伝達のバランスを支配している。しかし、MHCクラスI分子が、人為的に阻害またはノックアウトされることのように、異常に発現すると、対応する活性化受容体が支配的になり、NK細胞が活性化され、それによって細胞毒性作用が発揮され、サイトカインが放出される。操作された免疫細胞を同種異系移植する場合、NK細胞のこの細胞毒性効果は、注入された治療用細胞を殺し、それによって治療効果を低下させる可能性がある。したがって、操作された免疫細胞を改造して、患者の体内に再注入する際に、NK細胞によって殺傷されるリスクを低減または回避できるようにすることで、治療用免疫細胞の生存期間を延長し、治療効果を向上させる必要がある。
【0022】
したがって、第1の形態において、本発明は、操作された免疫細胞であって、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされ、NK細胞による前記操作された免疫細胞に対する殺傷を阻害する、操作された免疫細胞を提供する。
NK活性化受容体結合分子
【0023】
本明細書で使用される「NK活性化受容体結合分子」という用語は、NK活性化受容体に結合して、NK細胞機能(例えば、殺傷機能)を活性化することができる分子を指す。NK活性化受容体の非限定的な例示には、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM)を有するか、或いは、それに結合するNK細胞表面受容体が含まれる。このような受容体は、分子構造に従ってIgスーパーファミリー及びC型レクチンスーパーファミリーに分けることができ、NKG2C、NKG2E、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、2B4、DNAM-1、CD2、LFA-1などを含むが、これらに限定されない。
【0024】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、NKG2C、NKG2EまたはNKG2Dに結合する分子である。NKG2C、NKG2E及びNKG2DはすべてNKG2ファミリーに属し、膜貫通ドメインのアミノ酸を介して調節分子に結合し、それによって下流のシグナル伝達経路を活性化する。NKG2C及びNKG2Eの発現には、CD94とのヘテロ二量体の形成する必要があり、ITAMを含むDAP12分子に結合することにより、ITAMの2つのチロシン残基が急速にリン酸化され、ZAP-70とSykが動員され、NK細胞が活性化される。NKG2C及びNKG2Eは、ヒトではリガンド HLA-Eを認識し、マウスではリガンドQa1bを認識する。NKG2Dは、ヒトのすべてのNK細胞だけでなく、大多数のγδT細胞及び活性化CD8+αβT細胞にも広く発現しており、マウスではすべてのNK細胞、一部のγδT細胞及び一部のマクロファージにも発現している。NKG2Dは、ホモダイマーの形で発現し、2つの異なるアダプタータンパク質DAP10及びDAP12に結合し、2つのシグナル伝達経路を介して異なる機能を媒介する。一方では、NKG2Dは、膜貫通ドメインの正電荷を帯びたアルギニン残基を介してDAP10に結合し、DAP10をリン酸化し、したがって、NK細胞は、PI3K依存性Ras非依存性シグナル伝達経路を介して細胞毒性作用を発揮するように活性化される。他方では、NKG2DはITAMを含むDAP12にも結合し、チロシン残基のリン酸化を介してSyk及びZAP-70のようなチロシンキナーゼを動員し、下流のシグナル伝達を引き起こし、サイトカイン及びケモカインの放出を誘導する。ヒトにおけるNKG2DのリガンドはMIC遺伝子(MICA及びMICBを含む)及びULBP遺伝子(ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5及びULBP6を含む)であり、マウスにおけるリガンドはRae-1、H60及びMULT1である。MICA及びMICBはMHC遺伝子複合体のHLA-B遺伝子座側に位置し、相同性は91%と高い。ULBP遺伝子は構造的にMHCクラスI分子と類似し、両方ともα1ドメインとα2ドメインを含むが、α3機能ドメインとβ2ミクログロブリンは含まない。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、HLA-E、Qa1b、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、Rae-1、H60及びMULT1から選択される。より好ましくは、NK活性化受容体結合分子は、MICA、MICB、ULBP1及びULBP2から選択される。
【0025】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、NKp30、NKp44、NKp46またはNKp80に結合する分子である。NKp30、NKp44、NKp46及びNKp80はすべて天然細胞毒性受容体(Natural cytotoxicity receptors、NCR)ファミリーに属し、細胞表面でのそれらの発現程度はNK細胞の機能と密接に関連している。NKp30は、NK細胞の殺傷活性の重要な要因の1つであり、その発現レベルは、さまざまな腫瘍やウイルスの感染において不均衡であり、腫瘍やウイルスの免疫逃避に関与している可能性がある。NKp30の細胞外セグメントは、V型免疫グロブリン様ドメインであり、疎水性アミノ酸配列によってアルギニンに富む膜貫通ドメインに結合している。NKp30はCD3ζに結合し、後者のITAMを介して細胞内に活性化シグナルを伝達する。NKp30の活性化リガンドには、B7-H6、BAG6(BAT3としても呼ばれる)、PfEMP1、HSPGSなどが含まれる。NKp44の細胞外領域にはV型ドメインが含まれ、膜貫通ドメインにはKAPAP/DAP12に結合する帯電したリジンがある。NKp44の細胞内ドメインにはITIMが含まれているが、抑制機能の欠如して、DAP12によって伝達される活性化シグナルを弱めることはない。研究では、NKp44がウイルスのヘマグルチニン(hemagglutinin)と結合して、NK細胞の抗ウイルス効果を発揮できることを示している。NKp46の細胞外領域には2つのC2型Ig様ドメインがあり、膜貫通ドメインには正電荷を帯びたアルギニン残基が含まれ、細胞内領域にはITAMモチーフが含まれていないため、NKp30と同様に、細胞内セグメントでITAMを含むCD3ζ及び/又はFcεRIγなどの分子と複合体を形成して、活性化シグナルを細胞内に伝達する必要がある。NKp46はすべての成熟NK細胞の表面に発現し、NK細胞の殺傷機能を開始するための重要な受容体である。NKp46はウイルスのヘマグルチニンにも結合して、NK細胞の抗ウイルス効果を発揮する。また、NKp46はHSPGSにも結合できる。NKp80は、ほぼすべてのNK細胞の表面にホモダイマーの形で発現し、そのリガンド活性化誘導のC型レクチン(activation-induced C-type lectin、AICL)に結合した後、NK細胞を迅速に活性化し、NK細胞の細胞毒性と炎症性サイトカインを分泌する能力を高める。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、B7-H6、BAG6、PfEMP1、HSPGS、AICLから選択され、好ましくはB7-H6、BAG6及びAICLから選択される。
【0026】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、2B4に結合する分子である。2B4はCD244とも呼ばれ、NK細胞、CD8+T細胞、単球、顆粒球の表面に広く発現する膜タンパク質である。2B4の細胞外領域には、V型免疫グロブリンドメイン及びC2型免疫グロブリン様ドメインがあり、膜貫通ドメインには荷電アミノ酸は含まれず、細胞内領域には免疫受容体チロシンスイッチングモチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory switch motif、ITSM)を含有し、該当モチーフは、アダプタータンパク質SAP、EAT-2、DRTなどの細胞質SH2領域によって認識される。2B4架橋はITSMのチロシンをリン酸化し、アダプタータンパク質を動員し、ここで、2B4がSAPと形成された複合体は、NK細胞を活性化することができる。2B4は独立した受容体ではなく、NK細胞のヘルパー活性化受容体として、その開始は他のNCR受容体との共同作用に依存する。2B4のリガンドはCD48であり、造血細胞株及び一部のBリンパ球で高度に発現する。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子はCD48である。
【0027】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、DNAM-1に結合する分子である。CD226とも呼ばれるDNAM-1は、NK細胞機能を開始する主要な共活性化受容体である。DNAM-1には、2つの免疫グロブリンV様ドメインの細胞外ドメイン、1つの膜貫通ドメイン及びチロシンとセリン残基の潜在的なリン酸化部位を含む細胞質ドメインが含まれる。DNAM-1は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、単球、顆粒球及び血小板を含むさまざまな血液細胞に発現する。DNAM-1は、CD155及びCD112の共通の受容体である。CD112は、ヒトネクチン(nectin)ファミリーに属する単純ヘルペスウイルス受容体であり、Ca2+非依存性IgSF接着分子であり、そのファミリーメンバーは同種または異種の形態を介して相互作用し、細胞間接着を引き起こす。CD155は、ネクチン様分子5(nectin-like molecule 5、(NECL5)とも呼ばれるネクチンと構造が似ている。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、CD112及びCD155から選択される。
【0028】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、CD2に結合する分子である。LFA-2とも呼ばれるCD2は、327個アミノ酸から構成される単鎖糖タンパク質であり、成熟T細胞、ほとんどの胸腺細胞及び一部のNK細胞の表面に発現する。CD2のリガンドには、CD58(LFA-3とも呼ばれる)及びCD59が含まれる。CD58は、非造血細胞及び造血細胞の表面に広く発現し、CD2分子との特異的認識により、イノシトール三リン酸及びジアシルグリセロールの産生を媒介するホスホリパーゼCγ1を活性化し、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させ、さらにIL-2の転写を相乗的に活性化し、T細胞の増殖とサイトカインの分泌を促進する。また、CD58とCD2分子の相互作用により、TCR-ポリペプチド-MHC三重複合体の形成も促進され、抗原伝達作用をさらに強化する。研究によると、CD58分子の発現が欠如している場合、NK細胞及びT細胞は効果的に活性化されない。CD59は分子量が20KD程度であって、GPIによって細胞膜に固定される糖タンパク質である。CD59はCD2のGly95付近に結合し、CD2分子がT細胞に結合することで、T細胞と標的細胞との接着に関与する。研究によると、CD2上のCD58とCD59の結合部位は部分的に重複し、これらは共同でCD2分子の活性化に関与し、相乗的にリンパ球の増殖を促進する。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、CD58及びCD59から選択される。
【0029】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、LFA-1に結合する分子である。LFA-1は、非共有結合によって連結された2つのポリペプチド鎖で構成される:αサブユニット(CD11a)とβサブユニット(CD18)。LFA-1のリガンドには、免疫グロブリンスーパーファミリーICAM1、ICAM2及びICAM3のメンバーが含まれ、これらは細胞間の接着分子であり、白血球を損傷部位の上皮細胞に位置決定及び接着することに重要な役割を果たす。ICAM1は、リンパ球、内皮細胞、単球、腫瘍細胞のようなさまざまな細胞で発現することができ、サイトカインによって誘導されて調節・制御される。ICAM2は白血球、内皮細胞、血小板に発現し、ICAM3は白血球にのみ発現し、どちらもサイトカイン誘導によって調節・制御されない。3つのリガンドはそれぞれ、LFA-1のαサブユニット内の異なる領域に結合する。ICAM分子とLFA-1との相互結合は、細胞毒性T細胞及びNK細胞を介した免疫殺傷に必要な共刺激シグナルを提供し、それによって免疫応答を活性化する。その中で、ICAM-1は二量体の形で発現し、LFA-1との親和性が最も高い。研究によると、ICAM-1は結腸直腸がん細胞に対するNKG2Dを介したNK細胞の殺傷効果を高めることができる。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、ICAM1、ICAM2及びICAM3から選択される。
【0030】
一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、IFNγシグナル伝達経路に関連する分子である。IFNγは、マクロファージの活性化、NK細胞の活性化、B細胞及びT細胞の分化、さまざまな細胞型におけるMHCクラスI及びMHCクラスII分子の発現のアップレギュレーションを含む、免疫応答の開始及びエフェクター段階で重要な役割を果たす。IFNγ受容体には、α(IFNGR1)とβ(IFNGR2)の2つのサブユニットが含まれ、どちらもクラスIIサイトカイン受容体ファミリーに属し、それぞれ2つの細胞外フィブロネクチンIII型ドメインを含む。IFNGR1の細胞内ドメインには、キナーゼJAK1とシグナル伝達及び転写調節因子STAT1に結合するドメインが含まれているが、IFNGR2の細胞内ドメインには、キナーゼJAK2に結合してシグナル伝達に関与するドメインが含まれる。NK細胞殺傷過程中に大量のIFNγが放出され、それは腫瘍細胞の表面のIFNγRに結合してJAK-STAT経路を活性化し、それによってNK細胞を活性化し、さらに腫瘍細胞の殺傷を誘導する。したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、STAT1、JAK1、IFNGR2、JAK2及びIFNGR1から選択される。
【0031】
したがって、一実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、NKG2C、NKG2E、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、2B4、DNAM-1、CD2及びLFA-1から選択されるNK活性化受容体に結合する。好ましくは、前記NK活性化受容体結合分子は、NKG2D、NKp30、2B4、DNAM-1、CD2及びLFA-1から選択されるNK活性化受容体に結合する。別の実施形態において、NK活性化受容体結合分子は、IFNγシグナル伝達経路に関連する分子である。したがって、一実施形態において、前記NK活性化受容体結合分子は、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、Rae-1、H60、MULT1、B7-H6、BAG6、PfEMP1、HSPGS、AICL、CD112、CD155、CD48、CD58、CD59、ICAM1、ICAM2、ICAM3、STAT1、JAK1、IFNGR2、JAK2及びIFNGR1から選択される。好ましくは、前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA、MICB、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2及びICAM3から選択される。
【0032】
一実施形態において、前記NK活性化受容体結合分子はまた、例えば、CD111、CD113、CEACAM1、CEACAM7、SMAP2、IL23R、PCGF5、DET1、PTGFRN、CD84、CADM1、CD72、CD74、BTN3A3、CD47、CTSS、NTRK2、RTP4、TLR3/CD283、TMEM140、TMPRSS3、BST2/CD317、BTN3A1、CD40、EPST11、ERAP1、ERAP2、GJD3、HCP5、IFI6、IFITM1、IFITM2、IFITM3、LGALS3BP、C1QBP、CD24、CD55、CD9、GJA1、GPRC5B、HMMR、IGSF5、SYNGR3、TFRC/CD71、CD90、TMEM68、TMEM97、ANKRD27などを含むが、これらに限定されない他の既知のNK活性化リガンドであってもよい。
MHC関連遺伝子
【0033】
主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、MHC)は元々、移植反応において主要な役割を果たすタンパク質として特徴づけられ、すべての高等脊椎動物の表面に発現し、マウスではH-2と呼ばれ、ヒト細胞ではHLAと呼ばれる。MHCは主にクラスIとクラスIIの2種類がある。クラスI MHCタンパク質は、2種のタンパク質のヘテロダイマーであり、一種はMHCI遺伝子によってコードされる膜貫通タンパク質α鎖であり、もう一種はMHC遺伝子クラスター内にない遺伝子によってコードされる細胞外タンパク質のβ2ミクロスフェアタンパク質鎖である。α鎖は3つのドメインを含み、外来ペプチドが2つのN末端の最も変化しやすいドメインα1、α2に結合する。クラスII MHCタンパク質もヘテロダイマーであり、MHC複合体内の遺伝子によってコードされる2つの膜貫通タンパク質を含む。クラスI MHC/抗原複合体は細胞毒性T細胞と相互作用し、クラスII MHCはヘルパーT細胞に抗原を伝達する。また、クラスI MHCタンパク質は、ほぼすべての有核細胞と血小板(及びマウスの赤血球)で発現する傾向があるが、クラスII MHCタンパク質はより選択的に発現する。一般的に、クラスII MHCタンパク質は、B細胞、一部のマクロファージと単球、ランゲルハンス細胞(Langerhans cell)、樹状細胞に発現する。
【0034】
ヒトクラスI HLA遺伝子クラスターは、3つの主要遺伝子座B、C及びAを含む。クラスI分子はMHCα重鎖(HLA-A、HLA-BまたはHLA-Cによってコードされる)及び軽鎖(β-2微球タンパク質、B2Mによってコードされる)で構成されるヘテロダイマーである。重鎖は膜に固定されており、約45kDaであり、8つのエクソンを含む。エクソン1はリーダーペプチドをコードし、エクソン2及び3はα1及びα2ドメインをコードし、両方ともペプチドに結合し、エクソン4はα3ドメインをコードし、エクソン5は膜貫通領域をコードし、エクソン6及び7は細胞質尾部をコードする。エクソン2及びエクソン3内の多型は、各クラスの分子のペプチド結合特異性をもたらす。したがって、一実施形態において、MHC関連遺伝子の発現が阻害されまたはサイレンシングされるとは、HLA-A、HLA-B、HLA-C及びB2Mから選択される1つ以上の遺伝子の発現が阻害されまたはサイレンシングされることを指す。
【0035】
ヒトクラスII HLAクラスターも、DP、DQ、DRの3つの主要な遺伝子座を含み、クラスIクラスター及びクラスIIクラスターの両方とも多型である。クラスII分子は、外因性ペプチドを伝達することにより免疫系で主要な役割を果たし、主に抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、樹状細胞、マクロファージ)で発現する。クラスII分子は、いずれも膜に固定されているα鎖とベータ鎖からなるヘテロダイマーであり、α鎖は約33~35kDaで、5つのエクソンを含む。エクソン1はリーダーペプチドをコードし、エクソン2及び3は2つの細胞外領域をコードし、エクソン4は膜貫通ドメインをコードし、エクソン5は細胞質尾部をコードする。したがって、一実施形態において、MHC関連遺伝子の発現が阻害されまたはサイレンシングされるとは、HLA-DPA、HLA-DQ及びHLA-DRAから選択される1つ以上の遺伝子の発現が阻害されまたはサイレンシングされることを指す。
【0036】
クラスI及びII MHCの発現は、多種の補助タンパク質にも依存する。例えば、Tap1及びTap2サブユニットは、ペプチド抗原をクラスI HLA複合体にロードするために必要なTAPトランスポーター複合体の一部である。LMP2及びLMP7プロテアソームサブユニットは、抗原タンパク質をペプチドに加水分解してHLAで表示する役割を果たす。LMP7を減少させると、細胞表面でのIクラスMHCの発現量が減少することが示された。IIクラスMHCの発現は、RFX複合体、CIITAなどのいくつかの陽性モジュレーターによって誘導及び発現される。RFX複合体は、RFXANK(RFXBとも呼ばれる)、RFX5及びRFXアクセサリタンパク質(RFXAPとも呼ばれる)の3つのサブユニットで構成されている。RFX複合体は、他の転写因子とMHCクラスII分子のプロモーターとの結合を促進し、プロモーター結合の特異性を高めることにより、IIクラスMHC分子の発現を促進する。CIITAは、IIクラスMHC発現のマスターコントローラーである。CIITAは、酸性アミノ酸に富むN末端と、Pro、Ser及びThrに富むPST領域と、中央のGTP結合領域と、Leuリピート配列(LRR)に富むC末端とを含み、N端酸性領域とPST領域は転写活性化領域である。したがって、一実施形態において、MHC関連遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるとは、TAP1、TAP2、LMP2、LMP7、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される1つ以上の遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされることを指す。
【0037】
したがって、一実施形態において、MHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2MのようなMHCクラスI分子;HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRAのようなMHCクラスII分子;及びTAP1、TAP2、LMP2、LMP7、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITAのようなMHC補助タンパク質から選択され、好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択される。別の好ましい実施形態において、MHC関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、TAP1、TAP2、LMP2、LMP7、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITAのようなMHC IIクラス分子及びMHC補助タンパク質から選択される。
操作された免疫細胞
【0038】
本明細書で使用される用語「免疫細胞」とは、免疫系の1種以上のエフェクター機能(例えば、細胞毒性細胞殺傷活性、サイトカインの分泌、ADCCおよび/またはCDCの誘導)を有する任意の細胞を指す。例えば、免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞またはNKT細胞または幹細胞由来(例えば、成体幹細胞、胚性幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞または造血幹細胞)から由来の免疫細胞であることができる。好ましくは、免疫細胞は、T細胞である。T細胞は、任意のT細胞であって、例えば、インビトロで培養されたT細胞、例えば、初代T細胞またはインビトロで培養されたT細胞株から由来のJurkat、SupT1などのT細胞または被験者から得られたT細胞であってもよい。被験者の例として、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット及びそれらのトランスジェニック種が含まれる。T細胞は、末梢血単球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸膜滲出液、脾臓組織及び腫瘍のような多種の供給源から入手できる。T細胞は濃縮されまたは精製されることもできる。T細胞はすべての発育段階にあり得、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えば、Th1及びTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞毒性T細胞)、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞、αβ-T細胞などを含むが、これらに限定されない。一好ましい実施形態において、免疫細胞は、ヒトT細胞である。T細胞は、例えば、Ficoll分離などの当業者で既知の様々な技術を使用して被験者の血液から得ることができる。
【0039】
本発明の操作された免疫細胞が免疫認識受容体(例えば、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体)を発現する場合、当技術分野で知られている従来の方法(例えば、形質導入、トランスフェクション、形質転換など)によって前記免疫認識受容体を免疫細胞に導入することができる。「トランスフェクション」は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を標的細胞に導入するプロセスである。例えば、RNAトランスフェクションの場合、RNA(例えば、in vitroで転写されたRNA、ivtRNA)を宿主細胞に導入するプロセスである。該当用語は、主に真核細胞での非ウイルス法に使用される。「形質導入」という用語は、通常、ウイルスを介した核酸分子又はポリヌクレオチドの転移を説明するために使用される。動物細胞のトランスフェクションは、通常、細胞膜に一過性の細孔又は「穴」を開いて、物質の取り込みを可能にすることに関するものである。トランスフェクションは、リン酸カルシウムを使用して、エレクトロポレーションにより、細胞を圧搾することにより、或いは、カチオン性脂質を材料と混合してリポソーム(細胞膜と融合し、その運搬物を内部に沈着させる)を製造することにより、実施することができる。真核生物宿主細胞をトランスフェクトするための例示的な技術には、脂質小胞媒介取り込み、熱ショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈殿)、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーション穿孔が含まれる。「形質転換」という用語は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の、細菌への、又は非動物の真核細胞(植物細胞を含む)への、非ウイルス性転写を説明するために使用される。したがって、形質転換とは、細菌又は非動物の真核細胞の、その周囲からの細胞膜を介した直接取り込み、それに続く外因性遺伝物質(核酸分子)の取り込みから生じる遺伝学的変化である。形質転換は、人工的手段で実現される。形質転換が起こるためには、細胞又は細菌がコンピテンスの状態になければならない。原核生物の形質転換の技術に、熱ショック媒介取り込み、傷細胞との細菌プロトプラストと無融合、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションを含み得る。
【0040】
一実施形態において、少なくとも1つのMHC関連遺伝子及び少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子の発現が阻害またはサイレンシングされることに加えて、本発明の操作された免疫細胞は、少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含むことができる。
【0041】
T細胞受容体(T cell receptor、TCR)は、すべてのT細胞の表面にある特徴的なマーカーであり、非共有結合によってCD3に結合してTCR/CD3複合体を形成し、抗原提示細胞の表面にある特異性のMHC-抗原ペプチド複合体と結合することにより、特異性抗原刺激シグナルが発生し、T細胞が活性化され、殺傷効果が発揮される。TCRは2つの異なるペプチド鎖で構成されるヘテロダイマーであり、通常はα/β型とγ/δ型の2つのカテゴリーに分けられ、末梢Tリンパ球の95%以上がTCRα/βを発現する。TCRα鎖はTRAC遺伝子によってコードされ、β鎖はTRBC遺伝子によってコードされる。TCRの各ペプチド鎖は、可変領域(V領域)、定常領域(C領域)、膜貫通領域及び細胞質領域を含み、細胞質領域が非常に短く、抗原刺激シグナルを伝達する能力をもたない。TCR分子は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、その抗原特異性がV領域に存在する。V領域には、CDR1、CDR2及びCDR3の3つの超可変領域があり、そのうち、CDR3は、TCRの抗原結合特異性を直接決定できるように変異が最も大きい。TCRがMHC-抗原ペプチド複合体を認識するとき、CDR1及びCDR2はMHC分子を認識してそれと結合し、CDR3は抗原ペプチドに直接結合する。CD3は、γ、δ、ε及びζの4種のサブユニットを含み、通常、ダイマーεγ、εδ及びζζの形で存在する。この4種のサブユニットは、いずれも保守的な免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM)を含み、そのうちの2つのチロシン残基がチロシンプロテインキナーゼによってリン酸化されてT細胞に活性化シグナルを伝達する。したがって、一実施形態において、TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択される。
【0042】
一好ましい実施形態において、本発明の操作された免疫細胞の少なくとも1つのMHC関連遺伝子、少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子及び少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされ、ここでMHC関連遺伝子、NK活性化受容体結合分子及びTCR/CD3遺伝子は上記のように定義される。一好ましい実施形態において、本発明の操作された免疫細胞の少なくとも1つのMHC関連遺伝子、少なくとも1つのNK活性化受容体結合分子及び少なくとも1つのTCR/CD3遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされ、ここでMHC関連遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択され、前記NK活性化受容体結合分子は、CD112、CD155、CD48、MICA、MICB、CD58、B7-H6、ICAM1、ICAM2、ICAM3及びそれらの組み合わせから選択され、TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択される。
【0043】
一実施形態において、本発明の操作された免疫細胞は、CD52、GR、dCK及び免疫チェックポイント遺伝子(例えば、PD1、LAG3、TIM3、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2及びGUCY1B3)から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が阻害またはサイレンシングされるものをさらに含む。
【0044】
遺伝子の発現を阻害または遺伝子をサイレンシングする方法は、当業者に周知である。例えば、アンチセンスRNA、RNAデコイ、RNAアプタマー、siRNA、shRNA、miRNA、トランスドミナントネガティブタンパク質(TNP)、キメラ/融合タンパク質、ケモカインリガンド、抗感染細胞タンパク質、細胞内抗体(sFvs)、ヌクレオシドアナログ(NRTI)、非ヌクレオシド類似体(NNRTI)、インテグラーゼ阻害剤(オリゴヌクレオチド(Oligonucleotide)、ジヌクレオチド(dinucleotide)及び化学剤)及びプロテアーゼ阻害剤を使用して遺伝子発現を阻害することができる。さらに、遺伝子サイレンシングはまた、例えば、メガヌクレアーゼ(meganuclease)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nucleases)、TALEヌクレアーゼ、又はCRISPRシステムにおけるCas酵素媒介によるDNAフラグメント化によって、行われる。
【0045】
一実施形態において、前記操作された細胞は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む免疫認識受容体をさらに発現する。好ましくは、前記免疫認識受容体は、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体である。より好ましくは、前記免疫認識受容体は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体である。
【0046】
T細胞受容体またはTCRは上記のように定義される。本発明において、TCRは、異種リガンド結合ドメイン(例えば、抗体)を含み得る組換えTCRである。
【0047】
本明細書で使用される用語「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、人工的に構築されたハイブリッドポリペプチドを指し、ハイブリッドポリペプチドは一般的に1つ以上のリガンド結合ドメイン(例えば、抗体の抗原結合部分)、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、各ドメインはリンカーによって連結されている。CARは、モノクローナル抗体の抗原結合特性を利用して、T細胞及び他の免疫細胞の特異性と反応性を非MHC制限的な方法で選択された標的に再指定することができる。非MHC制限抗原認識は、CARを発現する細胞が抗原治療とは無関係に抗原を認識する能力を提供し、腫瘍逃避の主要なメカニズムを回避できる。また、T細胞内で発現される場合、CARは有利に内因性T細胞受容体(TCR)のα鎖とβ鎖と二量体化されない。
【0048】
本明細書で使用される「リガンド結合ドメイン」は、リガンド(例えば、抗原)に結合できる任意の構造またはその機能的変異体を指す。リガンド結合ドメインは抗体構造であり得、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、キメラ抗体及びそれらの機能的フラグメントを含むが、これらに限定されない。例えば、リガンド結合ドメインは、抗体全体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、scFv抗体フラグメント、線状抗体、sdAb(VHまたはVL)、ナノ抗体(Nanobody、Nb)、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin及びDARPINなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、Fab、scFv、sdAb及びナノ抗体から選択される。本発明において、リガンド結合ドメインは、一価または二価であり得、そして単一特異性、二重特異性または多重特異性の抗体であり得る。
【0049】
「Fab」は、パパインによる免疫グロブリン分子の切断時に生成される2つの同じのフラグメントのいずれかを指し、ジスルフィド結合によって連結された完全な軽鎖及び重鎖のN末端部分からなり、ここで重鎖のN末端部分は、重鎖可変領域とCH1を含む。完全なIgGと比較して、FabにはFcフラグメントがなく、移動度と組織浸透性が高く、抗体効果を媒介することなく抗原に一価で結合できる。
【0050】
「単鎖抗体」または「scFv」は、リンカーによって連結された抗体重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)から構成される抗体である。リンカーの最適な長さ及び/又はアミノ酸組成を選択することができる。リンカーの長さは、scFvの可変領域折り畳みと相互作用に大きく影響する。実際、比較的に短いリンカー(例えば、5~10個アミノ酸)を使用すれば、鎖内の折り畳みを防ぐことができる。リンカーのサイズと組成の選択については、例えば、Hollinger et al,1993Proc Natl Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448、米国特許出願公開2005/0100543、2005/0175606、2007/0014794及びPCT出願公開WO2006/020258及びWO2007/024715を参照でき、そのすべての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。scFvは、任意の順でリンクされたVH及びVLを含み、例えば、VH-リンカー-VLまたはVL-リンカー-VHを含むことができる。
【0051】
「単一ドメイン抗体」または「sdAb」は、1つの重鎖可変領域(VHH)及び2つの従来のCH2及びCH3領域のみを含む軽鎖が天然に欠損している抗体を指し、「重鎖抗体」とも呼ばれる。
【0052】
「ナノ抗体」または「Nb」は、元の重鎖抗体と同じ構造安定性及び抗原結合活性を有し、標的抗原に結合できる既知の最小単位である、単一にクローンし及び発現されたVHH構造を指す。
【0053】
用語「機能的変異体」または「機能的フラグメント」は、基本的に親アミノ酸配列を含むが、該親アミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾(即ち、置換、欠失または挿入)を含む変異体を指す。前記変異体が親アミノ酸配列の生物学的活性を保持することを条件とする。例えば、抗体の場合、その機能的フラグメントはその抗原結合部分である。一実施形態において、好ましくは、前記アミノ酸修飾は、保存的修飾である。
【0054】
本明細書で使用される用語「保存的修飾」は、該アミノ酸配列を含む抗体または抗体フラグメントの結合特性に顕著に影響を与えたり、変更したりしないアミノ酸修飾を指す。これらの保存的修飾は、アミノ酸の置換、追加及び欠失を含む。修飾は、部位特異的変異誘発及びPCR媒介変異誘発のような当分野で既知の標準的な技術によって、本発明のキメラ抗原受容体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基によって置き換えられる置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当分野で定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。保存的修飾は、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は関与する残基の両親媒性の類似性に基づいて選択することができる。
【0055】
したがって、「機能的変異体」または「機能的フラグメント」は、親アミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、親アミノ酸の生物学的活性、例えば、結合活性を保持する。
【0056】
本明細書で使用される用語「配列同一性」は、2つの(ヌクレオチドまたはアミノ酸)配列がアラインメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する度合いを指し、通常、パーセンテージで表される。好ましくは、同一性は、比較される配列の全長にわたって決定される。したがって、まったく同じ配列の2つのコピーは、100%の同一性を有する。当業者は、Blast(Altschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402)、Blast2(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410)、Smith-Waterman(Smith et al.(1981)J.Mol.Biol.147:195-197)及びClustalWのようにいくつかのアルゴリズムが標準的なパラメータを使用して配列の同一性を決定するために使用され得ることを認識した。
【0057】
リガンド結合ドメインの選択は、認識する、具体的な病状に関連する標的細胞における細胞表面マーカー、例えば、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原によって決まる。したがって、一実施形態において、本発明のリガンド結合ドメインは、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gplOO、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、Claudin18.2、NKG2D及びそれらの任意の組み合わせから選択される1つ以上の標的に結合される。好ましくは、前記標的は、CD19、CD20、CD22、BAFF-R、CD33、EGFRvIII、BCMA、GPRC5D、PSMA、ROR1、FAP、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CAIX、WT1、NY-ESO-1、CD79a、CD79b、GPC3、Claudin18.2、NKG2D及びそれらの任意の組み合わせから選択される。標的化される抗原に応じて、本発明のCARは、抗原に特異的なリガンド結合ドメインを含むように設計することができる。例えば、CD19が標的化される抗原である場合、CD19抗体は本発明のリガンド結合ドメインとして使用されることができる。
【0058】
本明細書で使用される用語「膜貫通ドメイン」は、免疫細胞(例えば、リンパ球、NK細胞またはNKT細胞)の表面でキメラ抗原受容体の発現を可能にし、標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を指示するポリペプチド構造を指す。膜貫通ドメインは、天然のものまたは合成のものであり得、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通ドメインは、キメラ抗原受容体が標的抗原に結合するときにシグナル伝達を行うことができる。本発明において特に有用な膜貫通ドメインは、例えば、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154及び機能的フラグメントに由来し得る。或いは、膜貫通ドメインは合成のものであり得、ロイシン及びバリンのような疎水性残基を主に含み得る。好ましくは、前記膜貫通ドメインは、CD8α鎖に由来する。
【0059】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域をさらに含み得る。本明細書で使用される用語「ヒンジ領域」は、一般的に、膜貫通ドメインをリガンド結合ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを指す。具体的には、ヒンジ領域は、リガンド結合ドメインにより高い柔軟性とアクセス可能性を提供するためのものである。ヒンジ領域は、最大300アミノ酸含み得、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸を含む。ヒンジ領域は、全部または一部が天然分子に由来し得、例えば、全部または一部がCD8、CD4またはCD28の細胞外領域に由来し、或いは、全部または一部が抗体定常領域に由来する。或いは、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に対応する合成配列であってもよく、或いは、合成されたヒンジ配列であってもよい。好ましい実施形態において、前記ヒンジ領域は、CD8α鎖、FcγRIIIα受容体、IgG4またはIgG1のヒンジ領域部分を含み、より好ましくは、CD8αヒンジを含む。
【0060】
本明細書で使用される用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能的シグナルを伝達し、細胞に特定の機能を実行することを指示するタンパク質部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、リガンド結合ドメインが抗原に結合した後の一次細胞内シグナル伝達に関与し、免疫細胞と免疫応答の活性化をもたらす。言い換えれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現する免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つを活性化することに関与する。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性またはヘルパー活性であり得る。
【0061】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原受容体結合後に一緒に作用して一次シグナル伝達を開始する、T細胞受容体及び共受容体の細胞質配列、ならびにこれらの配列の任意の誘導体または変異体及び同じまたは類似の機能を有する任意の合成配列であり得る。細胞内シグナル伝達ドメインは、多数の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motifs、ITAM)を含むことができる。本発明の細胞内シグナル伝達ドメインの非限定的な例として、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するものを含む。好ましい実施形態において、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【0062】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、1つ以上の共刺激ドメインを含む。共刺激ドメインは、共刺激分子からの細胞内機能的シグナル伝達ドメインであり得、前記共刺激分子の細胞内部分全体またはその機能的フラグメントを含む。「共刺激分子」は、T細胞において共刺激リガンドに特異的に結合することによりT細胞の共刺激応答(例えば、増殖)を媒介する同族結合パートナーを指す。共刺激分子は、クラス1 MHC分子、BTLA及びTollリガンド受容体を含むが、これらに限定されない。本発明の共刺激ドメインの非限定的な例として、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM及びZAP70のタンパク質に由来する共刺激シグナル伝達ドメインを含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明CARの共刺激ドメインは、4-1BB、CD28、CD27、OX40またはその組み合わせに由来するものである。一実施形態において、本発明のCARは、4-1BB、CD28または4-1BB+CD28共刺激ドメインを含む。
【0063】
一実施形態において、本発明のCARは、シグナルペプチドをさらに含み得、これにより、T細胞のような細胞で発現される場合、新生タンパク質が小胞体にガイドされ、続いて細胞表面にガイドされる。シグナルペプチドのコアは、長い疎水性アミノ酸セグメントを含むことができ、単一のα-ヘリックスを形成する傾向がある。シグナルペプチドの末端には、一般的に、シグナルペプチダーゼによって認識および切断されるアミノ酸セグメントがある。シグナルペプチダーゼは、転座中または転座後に切断して、遊離シグナルペプチド及び成熟タンパク質を生成することができる。そして、遊離シグナルペプチドは特定のプロテアーゼによって消化される。本発明において有用なシグナルペプチドは、当業者で周知のものを用い、例えば、CD8α、IgG1、GM-CSFRαなどに由来するシグナルペプチドが挙げられる。
【0064】
一実施形態において、本発明のCARは、CARの発現時間を調節・制御するためのスイッチ構造をさらに含むことができる。例えば、スイッチ構造は、ダイマー化ドメインの形をとることができ、それと対応するリガンドに結合することによってコンフォメーション変化を誘発し、細胞外結合ドメインを露出させて標的抗原に結合させ、それによってシグナル伝達経路を活性化する。或いは、スイッチドメインを使用して、それぞれ結合ドメイン及びシグナル伝達ドメインと接続してもよく、スイッチドメインが互いに結合する場合だけ(例えば、誘導化合物の存在下で)、結合ドメインとシグナル伝達ドメインとがダイマーによって連結され、シグナル伝達経路を活性化することができる。スイッチ構造は、マスキングペプチドの形態であり得る。マスキングペプチドは、細胞外結合ドメインをマスクして、標的抗原への結合を阻止することができ、マスキングペプチドが、例えば、プロテアーゼによって切断されると、細胞外結合ドメインが露出され、「通常」のCAR構造となることができる。当業者に知られている各種のスイッチ構造も本発明に使用することができる。
【0065】
一実施形態において、本発明のCARは、自殺遺伝子を含み得、即ち、外因性物質によって誘導され得る細胞死シグナルを発現させ、必要な場合(例えば、重度の毒性副作用が発生した場合)に、CAR細胞を除去する。例えば、自殺遺伝子は、CD20エピトープ、RQR8などの挿入されたエピトープの形をとることができ、必要に応じて、これらのエピトープを標的とする抗体または試薬を加えることによりCAR細胞を排除することができる。自殺遺伝子は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)であってもよく、この遺伝子により、ガンシクロビル治療によって誘発されて細胞死を引き起こすことが可能である。自殺遺伝子はiCaspase-9であってもよく、AP1903、AP20187などの化学誘導薬によってダイマー化するように誘導して、下流のCaspase3分子を活性化してアポトーシスを引き起こすことが可能である。当業者に知られている各種の自殺遺伝子を本発明に使用することができる。
医薬組成物
【0066】
本発明は、活性剤とする本発明に記載の操作された免疫細胞及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物をさらに提供する。したがって、本発明は、医薬組成物または薬物の製造における前記操作された免疫細胞の用途をさらに包含する。
【0067】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される賦形剤」は、被験者及び有効成分と薬理学的及び/又は生理学的に適合(即ち、望ましくない局所効果または全身効果を引き起こすことなく所望の治療効果を引き出すことができる)する担体及び/又は賦形剤を指し、当技術分野でよく知られている(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences.Edited by Gennaro AR,19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company,1995を参照)。薬学的に許容される賦形剤の例として、充填剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、吸着剤、付着防止剤、流動促進剤、抗酸化剤、香味剤、着色剤、甘味料、溶媒、共溶媒、緩衝剤、キレート剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、コーティング剤、等張化剤、吸収遅延剤、安定剤および張性調整剤が含まれるが、これに限定されない。本発明の所望の医薬組成物を製造するために適切な賦形剤を選択することは当業者で周知のことである。本発明の医薬組成物に使用する例示的な賦形剤として、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース及び水が含まれる。一般に、適切な賦形剤の選択は、使用される活性剤、治療される疾患及び医薬組成物の所望の剤形に特に依存する。
【0068】
本発明による医薬組成物は、多種の経路による投与に適する。通常、投与は非経口的に行われる。非経口送達方法は、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、心室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下または鼻腔内の投与を含む。
【0069】
本発明による医薬組成物は、固体、液体、気体または凍結乾燥の形態のような各種の形態に製造することができる。特に、軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、粉末、錠剤、溶液、エアロゾル、顆粒、丸剤、懸濁液、乳濁液、カプセル、シロップ、エリキシル剤、エキス剤(extract)、チンキ剤または液体エキス抽出物の形態または必要な投与方法に特に適するの形態である。本発明の既知の、医薬品を製造するためのプロセスは、例えば、通常の混合、溶解、造粒、糖衣製造、研磨、乳化、カプセル化、包埋または凍結乾燥のプロセスを含む。本明細書に記載される免疫細胞を含む医薬組成物は、通常、溶液の形態で提供され、好ましくは、薬学的に許容される緩衝剤を含む。
【0070】
本発明による医薬組成物は、疾患の治療及び/又は予防に適する1種以上の他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。組み合わせに適する薬剤の好ましい例として、シスプラチン、メイタンシン誘導体、ラチェルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムフォトフリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロミド、トポテカン、グルクロン酸トリメトレキサート(trimetreate glucuronate)、アウリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチンおよびドキソルビシン;リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNase及びRNaseのようなペプチド細胞毒素;ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イリジウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213のような放射性核種;抗体指向酵素プロドラッグのようなプロドラッグ;血小板第4因子、黒色腫成長刺激タンパク質のような免疫刺激剤;抗CD3抗体またはそのフラグメントのような抗体またはそのフラグメント、補体活性化因子、異種タンパク質ドメイン、相同タンパク質ドメイン、ウイルス/細菌タンパク質ドメインおよびウイルス/細菌ペプチドのような既知の抗がん剤が含まれる。また、本発明の医薬組成物は、化学療法、放射線療法のような1種以上の他の治療方法と組み合わせて使用することもできる。
治療への応用
【0071】
本発明は、有効量の本発明に記載の操作された免疫細胞または医薬組成物を前記被験者に投与することを含む、がん、感染症または自己免疫疾患に罹患している被験者を治療する方法をさらに提供する。したがって、本発明は、がん、感染症または自己免疫疾患を治療するための薬物の製造における前記操作された免疫細胞または医薬組成物の用途をさらに包含する。
一実施形態において、有効量の本発明の免疫細胞及び/又は医薬組成物を被験者に直接投与する。
【0072】
他の一実施形態において、本発明の治療方法は、エクスビボ治療である。具体的には、この方法は、(a)免疫細胞を含むサンプルを提供するステップ;(b)前記免疫細胞の少なくとも1種のNK活性化受容体結合分子及び少なくとも1種のMHC関連遺伝子(及び任意のTCR/CD3遺伝子及び/又は他の遺伝子)の発現を、インビトロで阻害またはサイレンシングし、任意の免疫認識受容体(好ましくはキメラ抗原受容体)を前記免疫細胞に導入し、改変された免疫細胞を取得するステップ;及び(c)前記改変された免疫細胞を被験者に投与するステップを含む。好ましくは、ステップ(a)で提供される免疫細胞は、マクロファージ、樹状細胞、単球、T細胞、NK細胞またはNKT細胞から選択される。そして、前記免疫細胞は、当分野で既知の通常の方法によって、被験者のサンプル(特に血液サンプル)から得ることができる。また、免疫細胞は、一般に、被験者の免疫系に適合するものを選択し、即ち、前記免疫細胞は、免疫原性応答を誘発しないものが好ましい。例えば、「汎用レシピエント細胞」を使用でき、即ち、所望の生物学的エフェクター機能的を実行する、普遍的に適合し、インビトロで成長及び増幅できるリンパ球を使用することができる。このような細胞の使用は、被験者自身のリンパ球を取得及び/又は提供することが不要である。ステップ(c)のエクスビボ導入は、エレクトロポレーションを介して本明細書に記載の核酸またはベクターを免疫細胞に導入し、或いは、免疫細胞をウイルスベクターで感染させることによって実施することができる。前記ウイルスベクターは、前述のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである。他の方法として、トランスフェクション試薬(例えば、リポソーム)または一過性RNAトランスフェクションの使用もある。
【0073】
一実施形態において、前記免疫細胞は、同種異系細胞であり、好ましくはT細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、または、NK細胞、NKT細胞であり、より好ましくはT細胞、NK細胞またはNKT細胞である。
【0074】
本明細書において、「同種異系」という用語は、任意の材料が、該材料を導入する個体と同じ種で異なる動物または異なる患者に由来するものであることを指す。1つ以上の遺伝子座における遺伝子が異なる場合、2つ以上の個体は互いに同種異系のものであると見なされる。場合によっては、同じ種の各個体からの同種異系材料の遺伝子上の異なりは、抗原相互作用を発生させるのに十分である。
【0075】
本明細書で使用される用語「被験者」は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであり得るが、これらの例示に限定されない。ヒト以外の哺乳動物を、がんの動物モデルである被験者として有利に使用することができる。好ましくは、前記被験者は、ヒトである。
【0076】
一実施形態において、前記がんは、リガンド結合ドメインと結合する標的の発現に関連するがんである。例えば、前記がんは、脳神経膠腫、芽細胞腫、肉腫、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨がん、脳及びCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛膜がん、結腸がん及び直腸がん、結合組織がん、消化器系のがん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん(胃腸がんを含む)、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、肝臓腫瘍、肺がん(例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、扁平上皮がん)、黒色腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん(例えば、唇、舌、口、咽頭)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、中皮腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、睾丸がん、甲状腺がん、子宮がんまたは子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、リンパ腫(ホジキンリンパ腫及びB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中等度/濾胞性NHL、中等度びまん性NHL、高悪性度免疫芽細胞性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度小非切断細胞NHL、バルキーNHLを含む)のような非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、辺縁帯リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、形質細胞様樹状細胞腫瘍など)を含む)、白血病(急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病(未分化及び部分分化を含む)のような急性非リンパ性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、赤白血病、急性巨核球性白血病のような急性白血病と、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性単球性白血病のような慢性白血病と及び有毛細胞白血病、前リンパ性白血病細胞性白血病、形質細胞白血病、成人T細胞白血病、好酸球性白血病、好塩基性白血病のような他の特殊なタイプの白血病とを含む)、芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍、悪性リンパ増殖性疾患、骨髄形成異常、多発性骨髄腫、骨髄異形成、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)及びその他の標的発現に関連する疾患を含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の操作された免疫細胞または医薬組成物で治療することができる疾患は、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成、脳神経膠腫、膵臓がん、卵巣がん、中皮腫、乳がん、肺がん、前立腺がん、黒色腫、骨髄腫、肉腫、胃がんなどから選択される。
【0077】
一実施形態において、前記感染は、ウイルス、細菌、真菌及び寄生虫によって引き起こされる感染症を含むが、これらに限定されない。
【0078】
一実施形態において、前記自己免疫疾患は、I型糖尿病、セリアック病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、アジソン病、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、血管炎症、悪性貧血及び全身性エリテマトーデスなどを含むが、これらに限定されない。
【0079】
一実施形態において、前記方法は、1種以上の追加の化学療法剤、生物学的薬剤、薬物または治療を前記被験者に投与することをさらに含む。この実施形態において、化学療法剤、生物学的薬剤、薬物または治療は、放射線療法、外科手術、抗体剤及び/又は小分子、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0080】
以下、図面を参照しながら例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、当業者は、添付の図面及び実施例は、例示的なものにすぎず、本発明を限定するものではない。本出願の実施例及び実施例の特徴は、矛盾がない限り、互いに組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】T細胞表面のNK活性化受容体結合分子の発現レベルを示す。
【
図2】NK細胞殺傷効果に対する本発明のDKO-T細胞の阻害効果を示す。
【
図3】NK細胞殺傷効果に対する本発明のQKO-T細胞の阻害効果を示す。
【
図4】本発明のCAR-dKO及びCAR-sKO T細胞のscFv発現レベルを示す。
【
図5】標的細胞に対する本発明のCAR-dKO及びCAR-sKO T細胞の殺傷効果を示す。
【
図6】本発明のCAR-dKO及びCAR-sKO T細胞と標的細胞との共培養後のサイトカインの放出レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明のすべての実施例で使用されたT細胞は、Ficoll-PaqueTM PREMIUM(GE Healthcare、アイテム番号 17-5442-02)による白血球アフェレーシスを利用して健康なドナーから単離された初代ヒトCD4+CD8+T細胞であった。
実施例1.NK活性化受容体結合分子の発現レベル
【0083】
DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco、アイテム番号 40203D)でT細胞を活性化し、37℃及び5%CO
2条件下で、培養した。異なる培養時点でT細胞を収集し、さまざまなNK活性化受容体結合分子の発現レベルをフローサイトメトリー法で検出した。結果は、
図1に示したとおりである。
【0084】
図1から分かるように、NK活性化受容体結合分子MICA/B、CD48、CD112、CD155、ICAM1、ICAM2、ICAM3、B7-H6、CD58は、T細胞上で構成的または誘導的に発現する。
実施例2.MHC関連遺伝子及びNK活性化受容体結合分子をノックアウトしたDKO-T細胞の構築
【0085】
DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco、アイテム番号 40203D)でT細胞を活性化し、37℃及び5%CO2条件下で、3日間培養した。その後、BTX Agile Pulse Max エレクトロポレーター(Harvard Apparatus BTX)を使用して、400V、0.7msの条件下で、Cas9タンパク質10μg、B2M sgRNA 5μg及びNK活性化受容体結合分子を標的とするsgRNA 5μgを、活性化したT細胞にエレクトロトランスフェクトして、B2M及びNK活性化受容体結合分子がダブルノックアウトされたDKO-T細胞を得た。B2MのみのノックアウトT細胞(KO-T)及びノックアウトなしの野生型T細胞(NT)をコントロールとして使用した。本発明で使用されるsgRNA配列を表1に示す。
【0086】
DKO-T、B2M-KO-T及びNT細胞を37℃及び5%CO2で11日間培養した後、対応する抗体(表2を参照)を使用して、フローサイトメトリー装置により、B2M及びさまざまなNK活性化受容体結合分子の遺伝子ノックアウト効率を検出した。結果は、表3に示したとおりである。
【0087】
【0088】
注:MICA及びMICB遺伝子の高い相同性を考慮して、本実施例で設計されたsgRNAはMICA及びMICB遺伝子の両方を同時にノックアウトできる。
【0089】
【0090】
表3 DKO-T細胞における遺伝子ノックアウト効率
実施例3.NK細胞殺傷効果に対する本発明のDKO-T細胞の阻害効果
【0091】
以下の方法に従って、本発明により製造されたDKO-T細胞のNK細胞殺傷効果に対する阻害効果を検出した:Far-Red(invitrogen、アイテム番号 C34564)で本発明により製造されたDKO-T細胞及びKO-T細胞を標識した。その後、標識されたDKO-T細胞及びKO-T細胞を、1×10
4個細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートにプレーティングし、2:1のエフェクター-標的比(effector-target ratio)でNK92細胞を添加して、共培養した。16~18時間後、培養液中のT細胞の割合をフローサイトメトリー装置で検出し、NK細胞の殺傷率を計算した。結果は、
図2に示したとおりである。
【0092】
HLA(例えば、B2M)のみをノックアウトした場合、T細胞に対するNK細胞の殺傷率が80%に達することが分かる。これに対して、NK活性化受容体結合分子(すなわち、本発明のDKO-T細胞)のさらなるノックアウトは、この殺傷効果を顕著に阻害することができる。
実施例4.TCR、MHC関連遺伝子及びNK活性化受容体結合分子がノックアウトされたQKO-T細胞の構築
【0093】
DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco、アイテム番号 40203D)でT細胞を活性化し、37℃及び5%CO2条件下で、3日間持続的に培養した。その後、BTX Agile Pulse Max エレクトロポレーター(Harvard Apparatus BTX)を使用して、400V、0.7msの条件下で、Cas9タンパク質 10μg、B2M sgRNA 2.5μg、TRAC sgRNA 2.5μg、RFX5 sgRNA 2.5μg及びCD155 sgRNA 2.5μgを、活性化したT細胞にエレクトロトランスフェクトして、B2M、TCR、RFX5、CD155の4つをノックアウトしたQKO-T細胞を得た。同様の方法で、B2MをシングルノックアウトしたKO-T細胞と、B2M/CD155をダブルノックアウトしたDKO-T細胞を得た。フローサイトメトリー法でこれらの細胞における遺伝子ノックアウト効率を検出した。結果は、以下の表4に示したとおりである。
【0094】
表4 QKO-T細胞における遺伝子ノックアウト効率
【0095】
本発明により製造されたKO-T細胞及びQKO-T細胞における対応する遺伝子が効果的にノックアウトされていることが分かる。その後、実施例3に記載の方法に従って、KO-T細胞及び上記で製造したQKO-T細胞のNK細胞殺傷効果に対する阻害効果を検出した。結果は、
図3に示したとおりである。
【0096】
NK活性化受容体結合分子、TCR遺伝子及び複数のMHC関連遺伝子を同時にノックアウトされたQKO-T細胞も、NK細胞の殺傷効果を顕著に阻害できることが分かる。
実施例5.CAR-dKO T細胞の構築及びその機能の検証
5.1 CAR-sKO T細胞及びCAR-dKO T細胞の構築
【0097】
下記タンパク質をコードする配列を合成し、pLVXベクターにクローニングした(Public Protein/Plasmid Library(PPL)、アイテム番号:PPL00157-4a):CD8α シグナルペプチド(SEQ ID NO:12)、抗CD19 scFv(SEQ ID NO:13)、CD8αヒンジ領域(SEQ ID NO:14)、CD8α膜貫通ドメイン(SEQ ID NO:15)、4-1BB細胞内領域(SEQ ID NO:16)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(SEQ ID NO:17)であり、シーケンシングにより標的配列が正しく挿入されていることを確認した。
【0098】
Opti-MEM(Gibco、アイテム番号 31985-070)3mLを滅菌チューブに加えて上記のプラスミドを希釈し、プラスミド:ウイルスパッケージングベクター:ウイルスエンベロープベクター=4:2:1の比率に従って、パッケージングベクターpsPAX2(Addgene、アイテム番号 12260)及びエンベロープベクターpMD2.G(Addgene、アイテム番号 12259)を追加した。その後、120μL X-treme GENE HP DNA トランスフェクション試薬(Roche、アイテム番号 06366236001)を加え、すぐに均一に混合し、室温で15分間インキュベートしてから、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試薬混合物を293T細胞の培養フラスコに滴下した。ウイルスを24時間及び48時間で収集し、合併し、超遠心分離(25000g、4℃、2.5時間)して濃縮レンチウイルスを得た。
【0099】
濃縮レンチウイルスをsKO-T細胞(B2Mシングルノックアウト)及びdKO-T細胞(B2M/ICAM3ダブルノックアウト)にトランスフェクトして、それぞれCAR-sKO T細胞及びCAR-dKO T細胞を得た。未修飾の野生型T細胞は、ネガティブコントロール(NT)として使用した。
【0100】
37℃及び5%CO
2条件下で、11日間培養した後、一次抗体としてBiotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG,F(ab’)
2 Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch、アイテム番号 115-065-072)を用い、二次抗体としてAPC Streptavidin(BD Pharmingen、アイテム番号 554067)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen、アイテム番号 554061)を用い、CAR-T細胞でのscFvの発現レベルをフローサイトメトリー法で検出した。結果は、
図4に示されたとおりである。
本発明により製造されたCAR T細胞におけるscFvが効率的に発現されていることが分かる。
5.2 標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷能力の検出
【0101】
まず、フルオレセイン遺伝子を運ぶNalm6標的細胞を1×10
4/ウェルの濃度で96ウェルプレートにプレーティングした後、2:1のエフェクター-標的比(effector-target ratio)(即ち、標的細胞に対するエフェクターT細胞の比率)でNT細胞、CAR-sKO T細胞及びCAR-dKO T細胞を96ウェルプレートにプレーティングして共培養し、16~18時間後にマイクロプレートリーダーで蛍光値を測定した。計算式:(標的細胞の蛍光平均値-サンプルの蛍光平均値)/標的細胞の蛍光平均値×100%により、殺傷効率を計算した。結果は、
図5に示したとおりである。
【0102】
ここから分かるように、CAR-sKO T細胞及びCAR-dKO T細胞は、両方とも標的細胞に対して特異的に殺傷することができ、NK活性化受容体ICAM3をさらにノックアウトしても、CAR-T細胞の殺傷能力に悪影響を及ぼさない。
5.3 CAR-T細胞のサイトカインの放出レベルの検出
【0103】
標的細胞Nalm6を1×105/ウェルの濃度で96ウェルプレートにプレーティングし、1:1の比率で本発明のNT細胞、CAR-sKO T細胞及びCAR-dKO T細胞を標的細胞と共培養し、18-24時間後に細胞共培養上清液を収集した。
【0104】
捕捉抗体Purified anti-human IL2 Antibody(Biolegend、アイテム番号 500302)又はPurified anti-human IFN-γ Antibody(Biolegend、アイテム番号 506502)を用いて96ウェルプレートをコーティングし、4℃で一晩インキュベートした後、抗体溶液を除去し、2% BSA(sigma、アイテム番号 V900933-1kg)を含むPBST(0.1% Tweenを含む1XPBS)溶液250μLを加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、プレートを250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。50μLの細胞共培養上清液または標準品を各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした後、プレートを250μLのPBST(0.1%Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。その後、50μLの検出抗Anti-Interferon γ抗体[MD-1](Biotin)(abcam、アイテム番号 ab25017)を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートし、プレートを250μLのPBST(0.1% Tweenを含む1XPBS)で3回洗浄した。HRPストレプトアビジン(Streptavidin)(Biolegend、アイテム番号 405210)をさらに加え、37℃で30分間インキュベートした後、上清液を捨て、250μLのPBST(0.1% Tweenを含む1XPBS)を加えて5回洗浄した。50μLのTMB基質溶液を各ウェルに添加した。室温、暗所で30分間反応させた後、各ウェルに50μLの1mol/LのH
2SO
4を加えて反応を停止させた。反応停止後の30分以内にマイクロプレートリーダーで450nmでの吸光度を検出し、標準曲線(標準品の読み取り値及び濃度に従って作成されたもの)によって、サイトカインの含有量を算出した。結果は、
図6に示されたとおりである。
【0105】
ここから分かるように、CAR-sKO T細胞とCAR-dKO T細胞の両方とも標的細胞に対してCAR T細胞のサイトカインの放出レベルを顕著に増加させることができ、NK活性化受容体ICAM3をさらにノックアウトしても、CAR-T細胞のサイトカインの放出レベルに悪影響はなかった。
【0106】
なお、上記は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者にとって、本発明は様々な変更及び変化を有していてもよい。当業者にとって、本発明の思想及び原理内で行われる任意の変更、等価置換、改良などが、いずれも本発明の保護範囲に含まれるべきであることが理解できる。
【配列表】
【国際調査報告】