(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-29
(54)【発明の名称】車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20230622BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20230622BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502879
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2021066820
(87)【国際公開番号】W WO2022012874
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】102020118706.8
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー ローランド
(72)【発明者】
【氏名】デュマ フロリアン バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ドール クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】セルフーゼン ステファン
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241DC45Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法であって、目標軌道は、通過する区間のコースに関する情報と、それを使用してその区間を通過する動力学に関する情報とを含み、目標軌道に沿った車道の上り勾配(λ)、片勾配(η)及び摩擦値(μ
max)がセンサやマップデータにより検出又は推定され、車両のモデル式に基づいて、目標軌道の区間及び動力学の情報及び上り勾配(λ)及び片勾配(η)から、目標軌道の通過に必要な車両の各車輪の牽引力、牽引出力、操舵出力及び水平タイヤ力の各目標値が算出され、目標牽引力が所定の牽引力特性曲線を下回り、目標牽引出力が所定の牽引出力特性曲線を下回る場合、目標操舵出力が所定の操舵出力限界を下回る場合、各車輪の目標水平タイヤ力が摩擦値(μ
max)によって規定される摩擦値限界を下回る場合、目標軌道は、軌道制御に適切であると評価され、それ以外の場合、不適切であると評価される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法であって、前記目標軌道は、通過すべき区間のコースに関する区間情報と、それを使用して前記区間を通過すべきである動力学に関する動力学情報と、を含み、前記目標軌道に沿った車道の上り勾配(λ)、片勾配(η)及び摩擦値(μ
max)は、センサ及び/又はマップデータにより検出かつ/又は推定され、前記車両(1)のモデル式に基づいて、前記目標軌道の前記区間情報及び前記動力学情報から、かつ検出された前記上り勾配(λ)及び前記片勾配(η)から、前記目標軌道を通過するのに必要な、前記車両(1)の各車輪の目標牽引力、目標牽引出力、目標操舵出力及び目標水平タイヤ力の目標値が算出され、前記目標軌道は、
―前記目標牽引力が所定の牽引力特性曲線を下回り、前記目標牽引出力が所定の牽引出力特性曲線を下回る場合、
―前記目標操舵出力が所定の操舵出力限度を下回る場合、及び、
―各車輪の前記目標水平タイヤ力が前記摩擦値(μ
max)によって規定される摩擦値限界を下回る場合、
軌道制御に適切であると評価され、
前記目標軌道は、それ以外の場合、不適切であると評価される、方法。
【請求項2】
前記方法は、所定の複数の目標軌道によるすべての目標軌道上で使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不適切であると評価された各目標軌道は、無効であるとして拒絶されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記牽引力特性曲線及び前記牽引出力特性曲線は、各ルックアップテーブル(LUT)から読み取られることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記牽引力特性曲線及び前記牽引出力特性曲線は、駆動トレインの減衰現象を考慮することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記摩擦値(μ
max)を利用する定量評価が行われることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
操舵アクチュエータの減衰現象を考慮することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記車両(1)の前記モデル式は、準定常モデルアプローチに基づくことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1のステップにおいて、前記目標軌道並びに前記上り勾配(λ)及び前記片勾配(η)の変数の各車両変数への換算は、前記モデル式を使用して行われることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実施するために設置されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の、車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手動運転車両では、運転者が軌道計画の役割を担う。すなわち、運転者は、移動する経路、時間及び速度を決定する。その場合、軌道計画では、運転者は、車両前方の車道の特性と並んで、予期される車両応答について学習した知識も考慮する。この情報を用いて、運転者は、経験的に車両が追従する軌道を計画することにより、その軌道を走行することができる。
【0003】
特許文献1には、特に四輪自動車の走行動力学制御方法が開示されており、この方法では、車輪と車道面との間にあるトラクションポテンシャル(利用可能な牽引力)が検出され、同様に検出されるその時点のトラクション利用との比較によってトラクションリザーブ(牽引予備力)が特定される。この発明によれば、トラクションリザーブを特定する際、水平面で作用する力の他に、自動車車体の車輪に対向する垂直方向の動きも考慮される。好ましくは、垂直方向に向けられた車輪荷重に、推定された又はセンサを使用して検出された車輪のタイヤと車道面との間の摩擦値を乗算することによって、車輪のタイヤによって最大限伝達される水平力が算出され、これから、水平面で作用する縦力及び横力に適合する推定された現在の値を使用して、車両縦方向及び車両横方向及び垂直方向におけるトラクションリザーブが算出される。次いで、算出されたトラクションリザーブを、所望の運転操作を考慮して現在利用可能なトラクションを有効に利用する制御を行う、いわゆるトラクションコントローラーに伝送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第10050421号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、車両の軌道制御に対する目標軌道の適合性を検証するために改良された方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本課題は、請求項1に記載の、車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法によって解決される。
【0007】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0008】
車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための、本発明による方法では、目標軌道は、通過すべき区間のコースに関する区間情報と、それを使用して区間を通過すべき動力学に関する動力学情報と、を含む。
【0009】
本発明によれば、車道の上り勾配、片勾配及び摩擦値が目標軌道に沿ってセンサ及び/又はマップデータにより検出かつ/又は推定される。センサにより検出することができない値がある場合、このような値は、例えば、マップデータから読み取られる。値を直接測定することも直接マップデータから読み取ることもできない場合は、例えば、センサ情報又はマップデータを使用して値を推定する。車両のモデル式に基づいて、目標軌道の区間情報及び動力学情報から、かつ目標軌道を通過するため算出される上り勾配(上り下りを含む路面勾配)及び片勾配(路面の横傾斜)から、車両の各車輪の目標牽引力、目標牽引出力、目標操舵出力及び目標水平タイヤ力という必要な目標値が算出され、目標軌道は、
―目標牽引力及び目標牽引出力が所定の牽引力特性曲線又は牽引出力特性曲線を下回る場合、
―目標操舵出力が所定の操舵出力限度を下回る場合、及び、
―各車輪の目標水平タイヤ力が摩擦値によって規定される摩擦値限界を下回る場合、
軌道制御に適切であるとして評価され、目標軌道は、それ以外の場合、不適切であるとして評価される。
【0010】
一実施形態では、本方法は、所定の複数の目標軌道によるすべての目標軌道上で使用される。
【0011】
一実施形態では、不適切であると評価された各目標軌道は、無効であるとして拒絶される。
【0012】
一実施形態では、牽引力特性曲線及び牽引出力特性曲線は、各ルックアップテーブルから読み取られる。
【0013】
一実施形態では、牽引力特性曲線及び牽引出力特性曲線は、駆動トレインの減衰現象が考慮される。
【0014】
一実施形態では、摩擦値(摩擦値ポテンシャル)の利用の定量評価が行われる。
【0015】
一実施形態では、操舵アクチュエータの減衰現象も考慮される。
【0016】
一実施形態では、車両のモデル式は、準定常モデルアプローチに基づく。
【0017】
一実施形態では、第1のステップにおいて、目標軌道並びに上り勾配及び片勾配の変数の各車両変数への換算がモデル式を使用して行われる。
【0018】
一実施形態では、車両の重心に関して目標牽引力及び目標牽引出力が算出される。
【0019】
提案された本発明は、自律車両のための走行可能性特定の問題を解決する。
【0020】
本発明は、車両の軌道制御のために目標軌道の適合性を検証するための方法に関し、目標軌道は、通過すべき区間のコースに関する区間情報(目標位置、目標曲率、目標曲率変化)と、それを使用してその区間を通過すべきであるとされる動力学に関する動力学情報(目標速度、目標加速度)と、を含む。
【0021】
本発明によれば、車道の上り勾配λ、片勾配η及び摩擦値μmaxは、目標軌道に沿って(センサ又はマップデータにより)検出される又は推定される。更に、車両のモデル式に基づいて、目標軌道の区間情報及び動力学情報から、かつ検出された上り勾配λ及び片勾配ηから、目標軌道を通過するために必要な駆動力(目標牽引力Ftraction,demand)、駆動出力(目標牽引出力Ptraction,demand)、操舵出力(目標操舵出力Psteering,max)、及び個々の車輪の目標水平タイヤ力(目標縦タイヤ力FXT,i、目標横タイヤ力FYT,i)の目標値が算出される。目標軌道は、検証の結果、
―目標牽引力及び目標牽引出力が所定の牽引力特性曲線又は牽引出力特性曲線を下回る場合、
―目標操舵出力が所定の操舵出力限度を下回る場合、及び、
―各車輪の目標水平タイヤ力が、摩擦値μmaxによって特定される摩擦値限界(最大限使用できるトラクションポテンシャル、トラクション楕円)を下回る場合、
軌道制御に適切であると評価される。
【0022】
それ以外の場合、目標軌道は、軌道制御に不適切であると評価される。有利には、本方法は、所定の複数の目標軌道によるすべての目標軌道上で使用される。不適切であると評価された目標軌道はいずれも、無効であるとして拒絶される。牽引力特性曲線及び牽引出力特性曲線は、有利には、ルックアップテーブルから読み取られ、場合により減衰現象を考慮する。
【0023】
更に、本発明は、上記のような方法を実施するために設置されている装置に関する。特に、この装置は、データ処理装置、例えば、自動車内の制御装置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】様々な座標系を有する車両の概略側面図である。
【
図2】様々な座標系を有する車両の後方からの概略図である。
【
図3】様々な座標系を有する車両の概略平面図である。
【
図5】ロール軸、前方ロールセンタ及び後方ロールセンタが示されている、車両の概略図である。
【
図7】前車軸力及び後車軸力並びに前車軸モーメント及び後車軸モーメントを表示した車両の概略図である。
【
図8】タイヤ力、シャーシ応答力及びシャーシ応答モーメントを表示した前車軸の概略図である。
【
図11】モデルベースの走行性検証のための機能アーキテクチャの概略詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して、本発明の実施例をより詳細に説明する。
なお、全ての図面において、互いに対応する部分は同一の符号が付けられている。
【0026】
本発明は、複数の軌道候補からなる全ての所望の軌道の走行可能性の評価に関し、その軌道は、地球固定座標で水平軌道として表示されており、この場合、軌道に対する走行可能性限度は、典型的には車両変数及び車道変数として表示される。例として、到達可能な最大水平タイヤ力を限度とする摩擦ポテンシャルと、可能な加速度を限度とする駆動トレインにおける駆動力及び出力限界と、が示されている。これらの限界を検証するには、割り当てられる車両変数を所望の軌道から算出することが必要である。本明細書では、タイヤ力も駆動力及び出力要求も所定の、所望の軌道から算出するために、準定常(QSS)モデルアプローチが選択される。本明細書では、例えば、10秒の長さの1000個の数の所望の軌道候補が使用され、100ミリ秒毎に検証された。したがって、走行時間は、重要なポイントであり、例えば、動的モデルではなく、準定常モデルアプローチを選択した主な理由であり、このアプローチには、正確なサンプリングと、このモデルの通常の微分方程式を解くことと、が必要である。
【0027】
以下で使用する座標系は、ISO 8855:2011に準拠している。最も重要な座標系は、以下に示されている。関連する直交座標系、キネマティック特性、力及びモーメントに関するグラフィックによる概要が
図1、
図2及び
図3に示されている。
【0028】
車両座標系(XV,YV,ZV)は、車両弾性質量が基準範囲内に固定されている座標系であるため、XV軸は、(車両1が静止状態のとき)実質的に水平かつ前方へと方向付けられており、車両1の対称縦平面に対して平行である。YV軸は、車両1の対称縦平面に対して直角であり、左側を指し、この場合、ZV軸は、上方を指す。関連する車両座標系(xV,yV,zV)の原点は、静的基準負荷条件において前車軸の中央にある。
【0029】
地球固定座標系(XE,YE,ZE)は、慣性基準範囲内に規定されている座標系である。XE及びYEは、地表平面に対して平行である。ZEは上側を指し、かつ重力ベクトルに合わせて方向付けられている。割り当てられる地球固定座標系(xE,yE,zE)は、その原点が地表平面にある。
【0030】
挿入した水平座標系(X,Y,Z)は、そのX軸及びY軸が地表平面に対して平行である座標系であり、この場合、X軸は、地表平面上にあるXV軸の垂直投影上で方向付けられている。割り当てられる座標系(x,y,z)の原点は、車両座標系の原点と一致する。
【0031】
路面座標系(XR,YR,ZR)は、そのXR軸及びYR軸が路面に対して平行である座標系であり、この場合、XR軸は、路面上にあるXV軸の垂直投影で方向付けられている。割り当てられる車道座標系(xR,yR,zR)の原点は、車両座標系の原点と一致する。路面は、4つのタイヤ接触箇所によるベストフィットである。
【0032】
右前輪1R用のタイヤ座標系(X
T,1R,Y
T,1R,Z
T,1R)、左前輪1L用のタイヤ座標系(X
T,1L,Y
T,1L,Z
T,1L)、右後輪2R用のタイヤ座標系(X
T,2R,Y
T,2R,Z
T,2R)、及び左後輪2L用のタイヤ座標系(X
T,2L,Y
T,2L,Z
T,2L)は、そのX
T軸及びY
T軸が路面に対して平行である座標系であり、この場合、Z
T軸は、通常、路面に対して方向付けられており、この場合、X
T軸の方向付けは、車輪平面及び路面の横断面によって定義されており、この場合、正のZ
T軸は、上方を指す。
図1では、更に、ISO 8855:2011に準拠して、傾斜角度θ(負の値を表示)及び車道上り勾配角度λ(負の値を表示)が示されている。F
X R,cg、F
Y R,cg及びF
Z R,cgは、路面座標系によって方向付けられており、車両1の重心で作用する、任意の力ベクトル成分である。M
X R,cg、M
Y R,cg、M
Z R,cgは、車道座標系によって方向付けられている、任意のトルクベクトル成分である。
【0033】
図2では更に、ISO 8855:2011に準拠して、ロール角φ(正の値を表示、X
V軸周りの回転)、車両ロール角φ
V(正の値を表示、X軸周りの回転)及び路面キャンバ角η(正の値を表示、X軸周りの回転)が示されている。
【0034】
図3では更に、ISO 8855:2011に準拠して、ヨー角ψ(正の値を表示、X
E軸からX軸、Z
E周り)及び左右の前舵角δ
1L、δ
1R(正の値を表示、X
V軸から車輪平面までの角度、Z
V軸周り)が示されている。
【0035】
軌道の方向付け計画によって提供されている軌道候補の加速度及び速度は、所望の後車軸の動きの投影として、挿入したX-Y平面に表示されている。それらの軌道候補をモデルの入力変数として利用可能にするには、それらの特性を加速度及び速度に変換する必要があり、その加速度及び速度は、重心の移動をXR-YRによって与えられる路面内に記載する。座標系(x,y,z)と(xR,yR,zR)との間での関連する座標変換は、この部分に導き出される。
【0036】
図1では、関連する回転が示される。入力変数として提供される角度は、路面上り勾配λ(上り下りを含む路面勾配)及び路面キャンバ角η(片勾配、路面の横傾斜)であり、これらは、座標軸回転を求めるために必要となる回転角度とは異なることに注意されたい。
図1からは、以下の特徴を読み取ることができる。
【0037】
【0038】
【0039】
図4では、路面上り勾配角度λと路面キャンバ角ηを関連付ける座標軸の回転が示される。
1.挿入した水平座標系(X,Y,Z)をX軸周りに角度η
X Rだけ回転させることによって、結果として補助座標系(X′,Y′,Z′)が得られる。
2.補助座標系(X′,Y′,Z′)をY(!)周りに角度λだけ回転させることによって、車道座標系(X
R,Y
R,Z
R)が得られる。Y′ではなく、元のY軸周りに、通常のオイラー角又はTait-Bryan角とは若干異なる角度だけ回転させることによって、残る座標系の周りの回転が引き起こされることに注意されたい。λ及びηは、X
R、Y
Rと水平平面内のそれらのそれぞれの投影との間の角度である。このような投影によって、ベクトルの直交するペアは形成されない。
【0040】
(x,y,z)と(x
R,y
R,z
R)との間の座標変換(又はM.J.Benacquista,J.D.Romano,Classical Mechanics,Springer,Cham,CH,2018,pp.193に記載されているような受動的変換)を定義するために、内的回転行列と外的回転行列とを区別することができ(M.J.Benacquista,J.D.Romano,Classical Mechanics,Springer,Cham,CH,2018,pp.200)、それらは回転体に対して確定された座標軸(内的)によって定義されているか、又は空間内に確定された座標軸(外的)によって定義されているかのいずれかである。
図4の回転は、一連の外的回転として示されている。
1.X周りに角度η
X Rだけ回転する。
2.Y周りに角度λだけ回転する。
【0041】
M.J.Benacquista,J.D.Romano,Classical Mechanics,Springer,Cham,CH,2018によれば、これは内的回転と同値である。
1.Y周りに角度λだけ回転し、
2.X0(!)周りに角度ηX Rだけ回転する。
【0042】
したがって、(x,y,z)から(x
R,y
R,z
R)への座標変換T
IRは、内的回転のための2つの回転行列を使用して、例えば以下のように表示することができる。
【数3】
【0043】
両方の変換行列の組み合わせにより、T
IRは、以下により与えられている。
【数4】
【0044】
式(12)によるη
X Rの置換から以下が得られる。
【数5】
【0045】
地球固定座標(x
E,y
E,z
E)から路面座標(x
R,y
R,z
R)への座標変換T
ERは、式(14)の拡張によって得られる。
【数6】
【0046】
この場合、D.T.Greenwood,Principles of Dynamics,Prentice Hall,Upper Saddle River,US-NJ,2nd edition,1988,pp.357に記載されているとおり、T
ZEは、地球固定座標(x
E,y
E,z
E)から中間座標(x,y,z)への座標変換と関連付けられた、Z
E周りの角度ψの右回転の行列(
図3を参照)を示す。全変換行列を組み合わせることにより、T
ERは、以下によって得られている。
【0047】
【0048】
式(18)の行列は、読みやすくするために改行されており、この場合、改行前に第1の列並びに改行後の第2の列及び第3の列が表示されている。
【0049】
準定常車両説明のために、モデルの仮定として運動の複式トラックモデルが仮定される。
【0050】
このモデルでは、以下の観点が考慮される。
・カーブでの横加速度
・走行及び制動による縦加速度
・空力牽引
・空力揚力
・前車軸と後車軸との間のロールモーメント配分
・片勾配及び下り勾配の定常的影響
・転がり抵抗(必要なエンジントルクの影響のみ)
【0051】
このモデルでは、以下の観点は無視される。
・懸架部のロール運動及びピッチ運動
・片勾配及び下り勾配の急速な変化
・総質量とばね質量との差異
・非対称横荷重条件
・ABS、ASR及びESPの影響(すなわち、このモデルは車両性能を若干控えめに説明している)
・左右の駆動力及び制動力の違い(すなわち、トルクベクタリング及びμスプリットなし)
・低速コーナリング及び駐車操作
【0052】
図5は、X
R-Z
R平面内の車両1の概略図であり、この図では、ロール軸RA、前方ロールセンタFRC及び後方ロールセンタRRCが表示されている。h
cgは、重心の高さ、l
fは、前車軸と重心との間隔、lは、軸距を表している。F
X R,f、F
Z R,f、F
X R,r、F
Z R,rは、車軸力であり、F
X R,R1、F
Z R,R1、F
X R,L1、F
Z R,L1、F
X R,R2、F
Z R,R2、F
X R,L2、F
Z R,L2は、タイヤ力である。F
X R,cg及びF
Z R,cgは、車両1の重心において路面座標系によって方向付けられている、任意の力ベクトル成分である。M
Y R,cgは、路面座標系によって方向付けられている、任意のトルクベクトル成分である。
【0053】
図5からは、Z
R方向への均衡力が以下のとおり得られることが分かる。
【数8】
【0054】
地表レベルでの前車軸のY
R周りのモーメント均衡は、以下のとおりである。
【数9】
【0055】
【0056】
これを式(19)に代入すると、以下が得られる。
【数11】
【0057】
その妥当性は、例えば、以下を代入することによって簡単に確認することができる。
【数12】
【0058】
注記:加速中及び制動中の車輪荷重伝達は、対称性により、左右の車輪に均一に配分されると仮定される。したがって、式(21)及び式(22)においては、ピッチセンタもピッチモーメント配分も考慮する必要がない。しかし、以下の部分では、ロールモーメント配分が考慮される。
【0059】
図6は、X
R-Y
R平面における車両1の概略図である。F
X R,f、F
Y R,f、F
X R,r、F
Y R,rは、車軸力である。F
X R,cg、F
Y R,cg及びF
Z R,cgは、路面座標系によって方向付けられており、車両1の重心において作用する、任意の力ベクトル成分である。M
X R,cg、M
Y R,cg、M
Z R,cgは、路面座標系によって方向付けられている、任意のトルクベクトル成分である。
【0060】
図6からは、Y
R方向への均衡力が以下のとおり得られることが分かる。
【数13】
【0061】
前車軸中央のZ
R周りのモーメント均衡は、以下のとおりである。
【数14】
【0062】
左右の制動力及び駆動力は、均等であるとして仮定され、したがって、Z
R周りのモーメント均衡には寄与しない。したがって、式(24)から、以下が導き出される。
【数15】
【0063】
式(23)を式(25)に代入することによって、以下が導かれる。
【数16】
【0064】
【0065】
FX R,r及びFX R,fは、駆動トルク配分及び制動トルク配分によって特定される。
【0066】
図7は、Y
R-Z
R平面における車両1を前車軸力F
Y R,f、後車軸力F
Y R,r及び前車軸モーメントM
X R,f、後車軸モーメントM
X R,rと共に示す概略図である。F
Y R,cg及びF
Z R,cgは、路面座標系によって方向付けられており、車両1の重心において作用する、任意の力ベクトル成分である。M
X R,cgは、路面座標系によって方向付けられている、任意のトルクベクトル成分である。h
cgは、重心高さを示し、h
rcgは、重心のx
R位置でのロールセンタの高さRC
cgである。
【0067】
X
R軸周りのモーメント均衡は、
図7から読み取られ、この図では、前車軸力F
Y R,f、後車軸力F
Y R,r及び前車軸モーメントM
X R,f、後車軸モーメントM
X R,rだけでなく、重心において作用する任意の力及びモーメントも示されている。X
R周りのモーメント均衡を表すために、ロールセンタRC
cgが重心のx
R位置で使用される場合には、以下が導き出される。
【0068】
【0069】
M
X R,f+rの導入によって、これは以下のように置換することができる。
【数19】
【0070】
図8は、Y
R-Z
R平面の前車軸並びにタイヤ力F
Y R,1L、F
Z R,1L、F
Y R,1R、F
Z R,1R、シャーシ応答力F
Y R,1、F
Z R,1及びシャーシ応答モーメントM
X R,1の概略図である。h
rfは、前車軸FRCのロールセンタの高さを示し、b
fは、前車軸の輪距である。タイヤ力F
Y R,1L及びF
Y R,1Rは、路面座標ではまだベクトル成分として表示されているが、タイヤ座標ではF
Y T,1L及びF
Y T,1Rと一致しないことに注意されたい。
【0071】
懸架部及びスタビライザの強化の影響を集約するロールモーメント配分を導入すると、重心とロール軸との間のずれによって引き起こされる、前車軸及び後車軸のロールモーメントを得ることができる。
【数20】
【0072】
ロールモーメント配分及び車軸力が使用可能であるため、
図8に示されているように、垂直のタイヤ力を算出することができる。
【0073】
Z
R方向及びY
R方向の力均衡から、以下が得られる。
【数21】
【0074】
路面レベル上の対称軸周りのモーメント均衡から、以下が得られる。
【数22】
【0075】
ニュートンの運動の第3法則により、シャーシ応答力及び車軸力については、以下のような関係式が成り立つ。
【数23】
【0076】
それらの適用と式(32)~式(37)によって、以下が導かれる。
【数24】
【0077】
F
Z R,1L、F
Z R,1Rに関してだけでなく、F
Z R,2L、F
Z R,2Rに関しても式(41)及び式(43)を解くことによって、かつ引き続いてその結果を式(45)及び式(46)に代入することによって、以下が得られる。
【数25】
【0078】
式(22)、式(26)及び式(30)を式(49)及び式(52)に代入することによって、以下が得られる。
【数26】
【0079】
式(21)、式(25)及び式(31)を式(55)及び式(58)に代入することによって、以下が得られる。
【数27】
【0080】
車輪のリフトアップによる負の力はあり得ないため、上記の式のFZ R,1L、FZ R,1R、FZ R,2L、FZ R,2Rは、≧0の値に制限する必要がある。
【0081】
側面のタイヤ力配分及び最大水平タイヤ力を算出するには、有効車輪荷重というコンセプトを導入する必要がある。最大水平タイヤ力は、車輪荷重によって比例的に増大するものではなく、若干逓減的な挙動を示す。これは、均一な負荷がかかった2つの車輪には、不均一な負荷がかかった2つの車輪より、仮にどちらも垂直力の合計が同じあっても、高い最大水平タイヤ力が一緒に加わることを意味する。この挙動をモデル化するには、様々なアプローチがある。ここでは、R.Orend,Modelling and Control of a vehicle with single-wheel chassis actuators,IFAC Proceedings Volume 38,Issue 1,Pages 79-84,2005によるアプローチを使用し、有効車輪荷重FZT,eff,iを以下のように導入する。
【0082】
【0083】
式中、0≦kFZ≦1は経験的な車輪荷重逓減係数を示し、FZT,N,iは定格車輪荷重を示す。
【0084】
縦のみ又は横のみのタイヤ力を前提とする場合、それぞれのピーク力は、以下のとおりモデル化することができる。
【数29】
【0085】
式中、μmaxは、摩擦値ポテンシャル(摩擦値)を示し、μqlは、横グリップ対縦グリップの比率を表し、この比によって異方性タイヤ力特性がモデル化される。
【0086】
X
R方向の水平タイヤ力を算出するには、次の定義(70)及び式(27)を使用する。
【数30】
【0087】
【0088】
一緒にγ
d|bとして表される駆動トルク配分及び制動トルク配分γ
d及びγ
bが導入される場合には、前車軸力及び後車軸力がX
R方向に以下のように与えられる。
【数32】
【0089】
上記のように左右の駆動力及び制動力が等しいと仮定すると、これによって以下が導かれる。
【数33】
【0090】
YR方向のタイヤ力を算出するには、D.Ammon,Modellbildung und Systementwicklung in der Fahrzeugdynamik,Teubner,Stuttgart,DE,1997に記載されているように、以下の関数(76)を使用する。
【0091】
【0092】
D.Ammon,Modellbildung und Systementwicklung in der Fahrzeugdynamik,Teubner,Stuttgart,DE,1997で定義されているように、式中、αiは、横スリップ角度を表し、siは、縦スリップを表す。標準化された形状関数は、比較的大きな横スリップ角度に対して1で飽和状態であり、このことはその他の考察に対して唯一関心のある領域である。αmax,Nは、上記の論文ではスケーリング係数であり、他の意味はない。
【0093】
横タイヤ力F
YT,iを、以下のように、限界付近、即ち、飽和領域で仮定する。
【数35】
【0094】
このよう仮定すると、以下の仮定を当てはめることができる。
【数36】
【0095】
上記の仮定及び式(76)を使用した場合、左タイヤ力対右タイヤ力の比は、車軸毎に以下のように評価される。
【数37】
【0096】
これは、横タイヤ力が有効車輪荷重比率に基づいて配分されていることを意味する。
【0097】
Y
R方向のタイヤ力と車軸力とを関係づけた場合、以下が得られる。
【数38】
【0098】
式(78)及び式(79)を使用することによって、以下のように置換することができる。
【数39】
【0099】
【0100】
式(26)及び式(25)を代入することによって、以下のように、Y
R方向のタイヤ力が得られる。
【数41】
【0101】
最終的に、タイヤ方向X
T、Y
T及びZ
Tのタイヤ力は、以下によって与えられる。
【数42】
【0102】
これによって、タイヤ力が摩擦限界の範囲内にあるかどうかを以下の不等式(95)を用いて検査することができる。
【数43】
【0103】
図10では、組み合わされた力F
XT及びF
YTに対する接着限界が表されている、いわゆるタイヤ力楕円の概略図が示されている。
【0104】
各車輪の目標水平タイヤ力は、摩擦値μmaxによって特定される摩擦値限界(最大限使用できるトラクションポテンシャル、トラクション楕円、独国特許第100 50 421(A1)号も参照)を下回っていなければならない。
【0105】
不等式(95)が各車輪に関して成り立っている場合には、走行可能性に関する必要条件の3つのうちの1つが成り立つが、それ以外の場合、軌道は、走行不可能である。
【0106】
ここまでは、外力、重力及び慣性が考慮されなかった。その代わりに、車両1の重心において作用する任意の力ベクトル成分FX R,cg、FY R,cg、及びFZ R,cg、並びに任意のトルクベクトル成分MX R,cg、MY R,cg、及びMZ R,cgがプレースホルダとして使用された。以下では、外力、重力及び慣性が片勾配及び下り勾配の定常の影響に関して、FX R,cg、FY R,cg、FZ R,cg及びMX R,cg、MY R,cg、MZ R,cgに寄与する条件として導入される。
【0107】
重力に関しては、
図1及び
図4から、F
Z,cg,gravity=-m・gが成り立つ。
【数44】
【0108】
λは、下り坂走行時は正の値である。
【0109】
併進慣性に関しては、以下が適用される。
慣性力を表すには、路面座標に表示される加速度a
X R,cg、a
Y R,cg、及びa
Z R,cgを、挿入した座標系のX-Y平面に投影がある所望の重心軌道加速度a
X,cg及びa
Y,cgから算出する必要がある。定常の片勾配及び下り勾配という仮定を適用すると、以下が適用される。
【数45】
【0110】
したがって、残る不明値a
X R,cg及びa
Y R,cgがあり、しかも軌道の投影の一部としては与えられていない車両1の運動a
Z,cgもある。式(14)、(15)及び(99)を使用して、以下を規定することができる。
【数46】
【0111】
a
Z,cgについて式(102)を解くと、以下が得られる。
【数47】
【0112】
式(103)を式(100)に代入すると、以下が得られる。
【数48】
【0113】
式(103)を式(101)に代入すると、以下が得られる。
【数49】
【0114】
最終的に、式(99)、式(106)及び式(110)によって、併進慣性力ベクトル成分が以下のように算出される。
【数50】
【0115】
回転慣性に関しては、以下のように処理する。
回転慣性に関連する回転トルクMX R,cg,inert,rot、MY R,cg,inert,rot、及びMZ R,cg,inert,rotを算出するには、路面座標に表示されている車両1の回転加速度ωXR、ωYR、及びωZRを、所望の重心軌道に対して表す必要がある。
【0116】
D.T.Greenwood,Priciples of Dynamics,Prentice Hall,Upper Saddle River,US-NJ,2nd edition,1988,S.406を使用すれば、オイラー角と角度速度との間の比は、例えば、D.T.Greenwood,Priciples ofDynamics,Prentice Hall,Upper Saddle River,US-NJ,2nd edition,1988の表記によれば、以下のとおりである。
【0117】
【0118】
【0119】
オイラー角と角度速度との間の比は、本明細書の表記に書き換えられる。
【数53】
【0120】
低速で変化する片勾配及び下り勾配、すなわちη
XR´≒0及びλ´≒0(ただし、「η
XR´」は「η
XR」の時間微分を示し、「λ´」は「λ」の時間微分を示す。)という定常条件を仮定すると、これによって以下が導かれる。
【数54】
【0121】
角度速度誘導ω´と(ω´)rと(ただし、「ω´」は「ω」の時間微分を示す。)の間の以下の比を考慮して、慣性フレーム及び運動フレームから考察したとき以下が成り立つ(D.T.Greenwood,Priciples of Dynamics,Prentice Hall,Upper Saddle River,US-NJ,2nd edition,1988,S.392を参照)。
【0122】
【0123】
η
XR´≒0及びλ´≒0を使用して式(122)~(124)の誘導を算出することによって、角加速度を得ることができる。
【数56】
【0124】
運動についてのオイラーの式(D.T.Greenwood,Priciples of Dynamics,Prentice Hall,Upper Saddle River,US-NJ,2nd edition,1988,S.392)並びに式(122)~(124)及び(126)~(128)によって、慣性により残っている回転トルクを算出することができる。
【0125】
【0126】
空力牽引及び空力揚力に関して、地面上で発生している牽引力高さを記述する牽引力モーメントアーム高さhdを導入することによって、車両1の重心において作用する任意の力及びモーメントに対する空力牽引寄与(M.Mitschke,Dynamik der Kraftfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,5th edition,2014)を表すことができる。
【0127】
【0128】
ここで、Cdは、空力牽引係数を、Aaは、空力表面を、ρaは、空気密度を表す。
【0129】
同様に、空力揚力(M.Mitschke,Dynamik der Kraftfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,5th edition,2014)は、以下のとおり記述される。
【数59】
【0130】
ここで、Cl,f及びCl,rは、前方空力揚力係数及び後方空力揚力係数を表す。
【0131】
準定常操舵系モデルに関しては、以下が成り立つ。軌道の物理的実現可能性(=走行可能性)を評価するには、操舵力制限がより重要な観点である。上記の式(70)~(95)の背景で考察されたタイヤ力を考慮して、以下では、操舵系及び出力の制限について考察する。モデルの仮定については、上記と同様に考察する。
【0132】
軌道の走行可能性の評価は、特により高速時に行うのが妥当である。この場合、走行可能な軌道を確実に選択するために、操舵力及び操舵速度の制限を考慮する必要がある。所望の操舵アクチュエータ動作と実際の操舵アクチュエータ動作にずれが発生する場合、低速コーナリング及び駐車操作は、新規計画によって容易に取り扱うことができる。
【0133】
より高速でより小さい舵角の場合、W.Matschinsky,Radfuhrungen der Strasenfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,3rd edition,2007によれば、操舵モーメントは、横タイヤ力FY T,1L、FY T,1R、キネマティックキャスタnk及びタイヤキャスタnpによって優勢になる、と述べられている。ステアリングキネマティクスにより定義されるキネマティックキャスタは、典型的には、垂直の車輪ストロークによって変化する。タイヤキャスタは、縦タイヤスリップ及びタイヤの横スリップ角度によって変化する。タイヤがスリップ条件に近づけば近づくほど、タイヤキャスタは小さくなる。
【0134】
上述のように、左右の駆動力/制動力が等しい場合、F
XT,1L及びF
XT,1Rの操舵力への影響は、消去される。したがって、必要な操舵力は、横力F
Y T,1L及びF
Y T,1Rの寄与によって、復元トルクより優勢になる。これによって、以下が導かれる。
【数60】
【0135】
キネマティックキャスタnk及びタイヤキャスタnpは、垂直の車輪ストローク及びスリップに左右されるため、シャーシ動作、路面による共振及びスリップが考慮されない準定常モデルによって、nk及びnpの正確な値を提供することはできない。しかし、上限値Ps,max≧Psを算出することはできる。最大キネマティックキャスタnk及びタイヤキャスタnp及び平均操舵速度δ1,m´(ただし、「δ1,m´」は「δ1,m」の時間微分を示す。)を以下のように定義する。
【0136】
【0137】
上記定義によって、上限値が以下によって与えられる。
【数62】
【0138】
それにより、走行可能性検査の必要条件の3つのうちの別の1つは、Ps,maxが電動パワーステアリング(EPS)の現在使用可能な出力PEPSを下回っているかどうか検証することである。不等式Ps,max≦PEPSが成り立っている場合には、走行可能性に関するこのような必要条件が成り立ち、それ以外の場合、軌道は、走行不可能である。
【0139】
準定常駆動トレインに関しては、以下が成り立つ。
駆動トレインにおける走行可能性制限を評価するための核になる考え方は、必要な牽引力及び車輪出力を車輪で使用可能な力及び出力(供給特性曲線)と比較することである。この考え方についての定義に関する詳細は、M.Mitschke,Dynamik der Kraftfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,5th edition,2014に記載されている。
【0140】
下記の式(145)において定義されているように、以下の各ケースを区別するために、牽引力要求Ftraction,demandが使用される。
1.走行:Ftraction,demand≧0
2.エンジンブレーキ:Ftraction,hyd brake threshold<Ftraction,demand<0
3.エンジンブレーキ及び油圧ブレーキ:Ftraction,demand≦Ftraction,hyd brake threshold
【0141】
要求されかつ使用可能な牽引力及び車輪出力をモデル化するには、以下のモデルの仮定が当てはまる。
以下の観点が考慮される。
・シャーシ及びボディの加速抵抗
・駆動トレインの加速抵抗
・上り勾配抵抗
・二輪駆動、四輪駆動、独立エンジン搭載四輪駆動
・車輪スリップによる出力損失
・駆動トレインの出力損失
・電動ドライブ又は内燃エンジン
・定常条件下での手動変速機(全ギア用出力包絡線及びパワー包絡線)
・転がり抵抗(速度依存性なし)
・電動ドライブの減衰(発進出力、時間出力、連続出力)
・空力牽引
【0142】
以下の観点は無視される。
・シフト戦略及びシフトプロセス。例えば、必要な車輪出力及び牽引力を提供するために、変速機制御装置は、適切なギアを選択する、かつ変速中に著しい牽引力損失がない、と仮定する。
・摩擦ポテンシャル、すなわち、使用可能な牽引力がエンジン限界のみをモデル化し、摩擦限界は、既に縦方向のタイヤ力によって考慮されている。
・内燃エンジンの電気的補強
・エンジン/電動ドライブと油圧ブレーキとの間の混合ブレーキを前提としているが、まだ詳細がモデル化されていない。
【0143】
ケース1:走行
以下の考察では、個別の内燃エンジン又は個別の電動ドライブを前提とする。しかし、このアプローチは、駆動トルク配分係数を使用して駆動トルクを複数の車軸に配分することによって、簡単に拡張することができる。
【0144】
M.Mitschke,Dynamik der Kraftfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,5th edition,2014によれば、牽引力要求全体は、以下の式(145)によって与えられている。
【数63】
【0145】
式1の右辺の各項は、以下である。
・fR・m・g転がり抵抗、
・FX R,cg:上り勾配抵抗(96)、シャーシ慣性及びボディ慣性(111)並びに空力牽引(135)の合計、
・(λm-1)・m・aX R,cg:回転質量に関する質量係数λmによる駆動トレインの加速抵抗。
【0146】
タイヤスリップ損失を伴わない車輪出力要求は、単純に以下によって与えられる。
【数64】
【0147】
タイヤスリップ損失を伴う車輪出力は以下の式及び以下の定義によって与えられる。
【数65】
・η
T:縦スリップによる損失を表すタイヤ効率、
・s:s≒s
2L≒s
2Rと仮定した、従動軸の平均スリップ
・r
d:動的車輪半径、r
d=U/2π及びUは、自由回転する車輪が走行した地上の距離
・r
s:静的車輪半径、すなわち車輪中心から路面までの距離。
【0148】
以下の違いに注意されたい。
・2π*rd:ノンスリップホイールが地上を走行した距離、
・2π*rd(1-s):スリップを伴う車輪が地上を走行した距離、
・2π*rs:半径rsの固定車輪上の点が地上を走行した距離。
【0149】
上記のような準定常車両モデルの場合、縦スリップは不明である。アンチスリップ制御が作動している場合、縦スリップは、最悪のケースの限界スリップs
c(M.Mitschke,Dynamik der Kraftfahrzeuge,Springer,Berlin,DE,5th edition,2014)では、典型的には、約10%である。したがって、限界スリップ時のタイヤ効率は、以下のように算出される。
【数66】
【0150】
これにより、P
traction,demandの上限値評価が導かれる。より正確な評価は、例えば、摩擦限界の適用(friction limit utilisation)に基づき、値1~η
T,cでη
Tを補間することによって実現することができよう。
【数67】
【0151】
図9では、ルックアップテーブルLUT(供給特性マップ)の概観図が示されている。F
traction,supply及びP
traction,supplyは、ギア比が固定された電気モータ(実線)と手動変速機搭載内燃エンジン(破線)に関するルックアップテーブル(供給特性マップ)として表示されている。供給ルックアップテーブルには、車軸で使用可能な牽引力及び出力が記載されている。すなわち、このテーブルでは、駆動トレインの損失が既に考慮されている。手動変速機の場合、外側の包絡線が全ギアで使用される。ルックアップテーブルは、減衰DEGによりスケーリングすることができる。
【0152】
走行可能性を特定するには、
図9に示されているように、F
traction,demand及びP
traction,demandを、ルックアップテーブル(供給特性マップ)として表示されているF
traction,supply及びP
traction,supplyの包絡線と突合する。ルックアップテーブルでは、駆動トレインの損失が既に考慮されており、ギア毎に一定の効率係数としてルックアップテーブルがモデル化されていることが、その損失によって前提とされている。減衰は、例えば、エンジン温度、供給電圧などに基づく低減係数を使用することによって考慮することができる。
【0153】
不等式 Ftraction,supply≧Ftraction,demand、及び、
不等式 Ptraction,supply≧Ptraction,demand
が成り立つならば、走行可能性の第3の必要条件が満たされ、それ以外の場合、軌道は、走行不可能となる。
【0154】
ケース2:エンジンブレーキ
わずかな負の牽引力要求Ftraction,demandは、エンジンブレーキの使用のみで実現される。二輪駆動車両1の場合、これは、タイヤ力の制動が前タイヤ又は後タイヤのみで発生することを意味する。特に摩擦の少ない表面では、他の措置を講じない限り、タイヤのロックを引き起こす恐れがある。したがって、タイヤのロックを防止するために、電子スタビリゼーションプログラムの制御が必要とされる。この場合、油圧ブレーキが作動し、ケース2は、ケース3に移行する。これは、摩擦限界を除き、牽引力及び牽引力供給の制限がないことを意味し、この場合、摩擦限界は、既にタイヤ縦力(上記参照)に考慮されている。
【0155】
ケース3:エンジンブレーキ及び油圧ブレーキ
この場合、摩擦限界を除き、牽引力及び牽引力供給の制限がなく、この場合、摩擦限界は、既にタイヤ縦力(上記参照)に考慮されている。
【0156】
以下の表1には、車両パラメータの概要が記載されている。
【表1】
【0157】
図11では、自律的な車両1に対する走行性検証FPの基本原理が明確に示されている。
【0158】
入力変数は、以下のとおりである。
―走行可能性について検査対象の車両軌道。
―例えば、センサデータ又はマップデータに基づく、車両1の前方の道路の上り勾配λ及び片勾配η
―例えば、センサデータ又はマップデータに基づく、道路の摩擦値ポテンシャルμmax
―操舵アクチュエータ及び駆動アクチュエータの減衰に関する情報(使用可能な出力/定格出力、使用可能なモーメント/定格モーメント)
【0159】
出力変数は、以下のとおりである。
―走行可能性の評価(可能/不可能)
―任意選択で、摩擦値ポテンシャルの利用の定量評価
【0160】
技術的な信号処理は、以下のとおりに行われる。
第1のステップS1において、目標軌道変数(目標位置、目標加速度、目標速度、目標曲率、目標曲率変化など)並びに路面勾配及び横勾配の要求の車両変数(目標牽引力、目標牽引出力、目標操舵出力、目標タイヤ力)の要求への換算が行われる。その場合、この換算は、逆の車両モデル、例えば、上記の準定常モデルによって行われる。
【0161】
第2のステップS2において、車両変数の要求と車両1及び車道によって設定される限界との調整によって行われる。すなわち、
―目標速度のとき、目標牽引力及び目標牽引出力が牽引力特性曲線及び牽引出力特性曲線によって与えられる限界を下回っているかどうかの、駆動トレイン限界検査DTLC
―目標操舵出力が操舵出力限度下回っているかどうかの、操舵限界検査SLC
―目標水平タイヤ力が摩擦値限界を下回っているかどうかの摩擦値限界検査FLC(摩擦円)
【0162】
その際、減衰に関する情報の助けを借りて、第2のステップの限界を現在の使用可能な出力に適合させることができる。
【0163】
走行性検証の結果が最終的に集計され、評価される軌道毎に「走行可能/走行不可能」という二値文で表される。走行可能性のより正確な評価は、限界の超過又はまだ使用可能な限界までの隔たりをパーセント単位で算出することによって考えることができる。可能なサンプルフィードバックは、以下のような様相を呈していることがある。左前タイヤ力が高過ぎる、摩擦値ポテンシャルが120%利用された。このような拡張によって、軌道計画に関してより正確なサポート情報を提供できる利点が得られる。
【符号の説明】
【0164】
1 車両
1L 左前輪
1R 右前輪
2L 左後輪
2R 右後輪
bf 前車軸のトラック幅
DEG 減衰
DTLC 駆動トレインの限界の検査
FLC 摩擦値限界の検査
FRC 前方ロールセンタ、前車軸のロールセンタ
FP 走行性検証
Ftraction,supply 使用可能な牽引力
FX R,cg,FY R,cg,FZ R,cg 力ベクトル成分
FX R,f,FX R,r,FZ R,r 車軸力
FX R,R1,FZ R,R1 タイヤ力
FX R,L1,FZ R,L1 タイヤ力
FX R,R2,FZ R,R2 タイヤ力
FX R,L2,FZ R,L2 タイヤ力
FY R,1L,FZ R,1L タイヤ力
FY R,1R,FZ R,1R タイヤ力
FX T,FY T 目標水平タイヤ力
FY R,1,FZ R,1 シャーシ応答力
FZ,eff 有効タイヤ負荷
hcg 重心の高さ
hrcg 重心のxR位置でのロールセンタの高さ
hrf 前車軸のロールセンタ高さ
l ホイールベース
lf 重心と前車軸との間隔
LUT ルックアップテーブル
LTM 長期メモリ
MX R,cg,MY R,cg,MZ R,cg トルクベクトル成分
MXR,1 シャーシ応答モーメント
Ptraction,supply 使用可能な牽引出力
RA ロール軸
RCcg 重心のxR位置でのロールセンタ
RRC 後方のロールセンタ
S1 第1のステップ
S2 第2のステップ
SLC 操舵の限界の検査
vXR,cg 重心における縦速度
X,Y,Z 挿入した座標系
XE,YE,ZE 地球固定座標系
XR,YR,ZR 路面座標系、車道座標系
XT,1L,YT,1L,ZT,1L タイヤ座標系
XV,YV,ZV 車両座標系
X′,Y′,Z′ 補助座標系
δ1L,δ1R 操舵角
η 路面キャンバ角、片勾配
ηX R 角度
θ 傾斜角度
λ 車道上り勾配角度、路面上り勾配、上り勾配
μmax 摩擦値ポテンシャル、摩擦値
μql 横グリップの縦グリップに対する比率
φ ロール角
φV 車両ロール角
ψ ヨー角
【国際調査報告】