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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】カルプロテクチンアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230623BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230623BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230623BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
G01N33/574 A
C07K16/18
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568548
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021062753
(87)【国際公開番号】W WO2021229016
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】2007087.6
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2100902.2
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522403778
【氏名又は名称】ノルディック バイオサイエンス エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モーテンセン,ヨアヒム,ホグ
(72)【発明者】
【氏名】シンケビシュート,ドビル
(72)【発明者】
【氏名】マノン-ジェンセン,ティナ
(72)【発明者】
【氏名】カースダル,モーテン,アッサー
(72)【発明者】
【氏名】ベイ-ジェンセン,アン-クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,シグネ,ホルム
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,アニカ,ハマースガード
(72)【発明者】
【氏名】サンド,ジャニー,マリー,ビュロー
(72)【発明者】
【氏名】リーミング,ダイアナ,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ウィルムセン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA50
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
生体液試料中のカルプロテクチンのヒト好中球エラスターゼ(HNE)生成断片を検出及び定量するためのイムノアッセイ法;並びにそのような方法で使用するためのモノクローナル抗体及びアッセイキットが本明細書に開示される。本方法は、患者における炎症を特徴とするか、又は炎症を呈する疾患を検出し、モニターし、及び/又はその状態若しくは重症度を決定するために使用され得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HNE生成カルプロテクチン断片を検出するためのイムノアッセイ法であって、ヒト生体液試料を、HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを特異的に認識してこれに結合するモノクローナル抗体と接触させること、及び前記モノクローナル抗体と前記試料中のペプチドとの間の結合を検出することを含む方法。
【請求項2】
前記検出が定量的であり、前記方法が、前記モノクローナル抗体と前記試料中のペプチドとの間の結合量を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、患者における疾患を検出し、及び/又はその進行をモニターし、及び/又は疾患の状態若しくは重症度を決定するためのイムノアッセイ法であって、前記疾患が、炎症を特徴とするか又は炎症を呈する疾患であり、前記患者から得られた生体液試料を前記モノクローナル抗体と接触させること、前記モノクローナル抗体と前記試料中のペプチドとの間の結合量を検出及び決定すること、並びに前記結合量を、正常な健康な対象に関連する値及び/又は疾患の既知の状態若しくは重症度に関連する値及び/又は以前の時点で前記患者から得られた値及び/又は所定のカットオフ値と相関させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患が炎症によって促進される疾患である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記疾患が、炎症性腸疾患(IBD)、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、変形性関節炎である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は特発性肺線維症(IPF)である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患ががんである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、転移性黒色腫、小細胞肺がん(SCLC)又は非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体が、前記N末端又はC末端の配列を含む合成ペプチドに対して作製されたモノクローナル抗体である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体が、以下のHNE生成カルプロテクチン断片:
KLGHPDTLNQGEFKELV(配列番号1)
RKDLQNFLKKENKNEKV(配列番号2)
RKDLQNFLKKENKNEKVI(配列番号3)
EHIMEDLDTNADKQL(配列番号4)
SHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP(配列番号5)
YRDDLKKLLET(配列番号6)
WFKELDINTDGAV(配列番号7)
のうちの1つから選択されるペプチドのN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記前記モノクローナル抗体が、前記ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(配列番号1)のN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体が、HNE生成カルプロテクチン断片の前記N末端配列を特異的に認識してこれに結合し、前記N末端アミノ酸配列のN伸長延長型又は前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮型を特異的に認識せず、結合しない、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記生体液試料が血漿又は血清である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記イムノアッセイが競合イムノアッセイである、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記イムノアッセイが酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを特異的に認識してこれに結合するモノクローナル抗体。
【請求項17】
前記N末端又はC末端の配列を含む合成ペプチドに対して作製されたモノクローナル抗体である、請求項16に記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
以下のHNE生成カルプロテクチン断片:
KLGHPDTLNQGEFKELV(配列番号1)
RKDLQNFLKKENKNEKV(配列番号2)
RKDLQNFLKKENKNEKVI(配列番号3)
EHIMEDLDTNADKQL(配列番号4)
SHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP(配列番号5)
YRDDLKKLLET(配列番号6)
WFKELDINTDGAV(配列番号7)
のうちの1つから選択されるペプチドのN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する、請求項16又は17に記載のモノクローナル抗体。
【請求項19】
前記ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(配列番号1)のN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する、請求項16~18のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項20】
HNE生成カルプロテクチン断片の前記N末端配列を特異的に認識してこれに結合し、前記N末端アミノ酸配列のN伸長延長型又は前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮型を特異的に認識せず、結合しない、請求項16~19のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項21】
請求項16~20のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体と、
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート
-ビオチンに連結された前記N末端又はC末端の配列を含むビオチン化ペプチド
-サンドイッチイムノアッセイで使用するための二次抗体
-前記N末端又はC末端の配列を含むキャリブレータペプチド
-抗体ビオチン化キット
-抗体HRP標識キット
-抗体放射性標識キット
のうちの少なくとも1つとを含むイムノアッセイキット。
【請求項22】
請求項16~20のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体と、
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート
-ビオチンに連結された前記N末端又はC末端の配列を含むビオチン化ペプチド
-前記N末端又はC末端の配列を含むキャリブレータペプチド
のうちの1つ、2つ又は全てとを含む、請求項21に記載のアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生体液試料中のヒト好中球エラスターゼ(HNE)によって生成されるカルプロテクチン断片を検出し、好ましくは定量するためのイムノアッセイ方法、並びに限定されないが、患者の炎症によって促進される疾患などの炎症を特徴とするか、若しくは炎症を呈する疾患を検出し、モニターし、及び/又はその状態若しくは重症度を決定するためのそのような方法の使用に関する。本発明はまた、そのような方法に使用するためのモノクローナル抗体及びアッセイキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
背景
カルプロテクチンは、細胞内、特に好中球顆粒球において発現され、好中球顆粒球の全サイトゾル物質の約60%を占めている。カルプロテクチンは、TLR受容体のリガンドであり、比較的プロテアーゼ耐性がある。好中球顆粒球は、骨髄系細胞系列からの特殊な造血細胞であり、自然免疫系からの細胞のサブグループである。好中球顆粒球は、病原体及び細菌の侵入に対する最初の防御線としての役目を果たし、そのため炎症組織でも高度に発現する3~5
【0003】
カルプロテクチンは、炎症性腸疾患(IBD)患者の便中で測定でき(便中カルプロテクチン)、便中カルプロテクチンは、IBD患者と過敏性腸症候群の患者とを区別するためのロバストなサンドイッチELISAバイオマーカーであることが証明されている6~8。血清/血漿試料は便試料よりもはるかに取り扱いが簡単であり、便の軟度が、日々の、さらには便間の変動が大きい便中カルプロテクチンレベルにも影響を与えることが証明されているため、便中カルプロテクチンアッセイの多くが、血清/血漿試料にも適用できるかどうかを調べるために試験されている。しかし、カルプロテクチンは、血漿中の半減期が非常に短く(5時間)、血清/血漿カルプロテクチン及びIBDに適用可能なバイオマーカーとしてのその有用性に関しての現在入手可能なデータは、議論の余地がある10~15
【0004】
好中球顆粒球の活性化は、好中球細胞外トラップ(NET)を生成し、ここで細胞は、例えば、侵入細菌を捕捉し、損傷を与えようとして、全ての核及びサイトゾル物質を分泌する16。カルプロテクチン及びヒト好中球エラスターゼ(HNE)は、NET形成の結果として炎症組織に分泌される17。その結果、組織及び細胞外マトリックス(ECM)及び他の分泌タンパク質がHNEによって分解され、その結果、ネオエピトープ含有タンパク質断片が生成される18 ' 19。加えて、HNEは、IBDの組織炎症に関連していることも証明されている20。コラーゲンの分解及び形成時のネオエピトープ含有タンパク質断片は、IBD患者及び前臨床モデルからの血清中で測定されることが実証されており、臨床疾患パラメータと関連付けられる18 ' 21~25
【0005】
カルプロテクチン及びHNEの炎症誘発放出は、他の疾患においても起こる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び特発性肺線維症(IPF)は、広範な炎症及び細胞外マトリックス(ECM)のリモデリングを特徴とし、これは潜在的に時間の経過とともに肺機能の深刻な低下につながる34 ' 35。好中球は、COPDに罹患した肺に非常に豊富であり、持続的な組織損傷を引き起こす36。IPF患者は線維性変化による同様の持続的な損傷を経験し、IPF患者の気管支肺胞洗浄液中にHNE放出の増加が認められている37。好中球は炎症に対する細胞応答因子であり、プロテアーゼNEとタンパク質カルプロテクチンの両方を放出することができる38
【0006】
炎症はまた、がんの発症の素因でもあり、腫瘍形成の全ての段階を促進する。がん細胞ならびに周囲の間質細胞及び炎症細胞は、良好に組織化された相互作用に関与し、炎症性腫瘍微小環境(TME)を形成す39。限定されないが、抗PD-1療法などの免疫チェックポイント阻害剤は、転移性黒色腫などのがんを処置するために使用されるクラスの薬物である。しかし、転移性黒色腫患者における抗PD-1療法及び他のそのような免疫チェックポイント阻害剤に対する応答及び耐性に関連する末梢バイオマーカーは、アンメットメディカルニーズを表す。高い好中球活性はまた、細胞傷害性攻撃から腫瘍細胞を保護することが示されているNETの放出に部分的に起因する免疫チェックポイント阻害剤の機能不全にも関連する。上記のように、HNE及びカルプロテクチンは主要なNET構成成分である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、HNEによって生成されるカルプロテクチンのネオエピトープ含有断片が、全身炎症又は循環中の白血球ではなく、活動性局所組織炎症及び好中球を含む活性な白血球の尺度であり得るという理論を立てた。さらに、本発明者らは、血清及び血漿などの生体液中のカルプロテクチンのHNE生成ネオエピトープ含有断片を検出及び定量するためのロバストで信頼性の高いイムノアッセイを開発し、IBD、COPD、IPF、転移性黒色腫、SCLC NSCLC、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎及び変形性関節炎などの疾患における炎症及び疾患活動性の評価における前記イムノアッセイの使用を実証した。
【発明の効果】
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、HNE生成カルプロテクチン断片を検出するためのイムノアッセイ方法であって、ヒト生体液試料を、HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを特異的に認識してこれに結合するモノクローナル抗体と接触させること、及びモノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合を検出することを含む方法に関する。
【0009】
好ましくは、検出は定量的であり、本方法は、前記モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を決定することをさらに含む。
【0010】
好ましい実施形態では、本方法は、患者における疾患を検出し、及び/又はその進行をモニターし、及び/又はその状態若しくは重症度を決定するためのイムノアッセイ法であって、疾患が炎症を特徴とするか、又は炎症を呈する疾患であり、前記患者から得られた生体液試料を前記モノクローナル抗体と接触させること、モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を検出及び決定すること、正常な健康な対象に関連する値及び/又疾患の既知の状態若しくは重症度に関連する値及び/又は以前の時点で前記患者から得られた値及び/又は既定のカットオフ値と前記結合量を相関させることを含む方法である。
【0011】
疾患は、例えば、炎症性腸疾患(IBD)、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、変形性関節炎、シェーグレン症候群、又は狼瘡などの炎症によって促進される疾患であり得る。
【0012】
好ましい実施形態では、疾患は炎症性腸疾患(IBD)である。特に、イムノアッセイ法は、潰瘍性大腸炎(UC)及び/又はクローン病(CD)などの複数の種類の炎症性腸疾患(IBD)を検出し、及び/又はその進行をモニターし、及び/又はその状態若しくは重症度を決定する方法であり得る。
【0013】
別の好ましい実施形態では、疾患は、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎又は変形性関節炎である。
【0014】
他の好ましい実施形態では、疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)又は喘息であり得る。
【0015】
さらに他の実施形態では、疾患はがんであり得る。がんは、例えば、乳がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん、黒色腫、卵巣がん、腎臓がん、頭頸部がん、膀胱がんであり得る。がんは、例えば、転移性がんであり得る。特定の実施形態では、がんは、例えば、転移性黒色腫、小細胞肺がん(SCLC)又は非小細胞肺がん(NSCLC)であり得る。
【0016】
本方法が疾患の状態又は重症度を決定する方法である場合、本方法は、例えば、疾患が活動性であるか若しくは寛解中であるかを評価するため、又は可能性がある患者の生存期間若しくは無増悪生存期間を評価するため、又は1以上の薬物(1以上の化学療法剤(すなわち、細胞毒性剤)及び/若しくは免疫チェックポイント阻害剤など)による処置による可能性がある患者の生存期間若しくは無増悪生存期間などの可能性がある医学的介入に対する反応を評価するためのものであり得る。
【0017】
モノクローナル抗体は、後述の表2に列挙したペプチドのいずれかなどの、任意のHNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを特異的に認識してこれに結合し得る。しかし、ある好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、以下のHNE生成カルプロテクチン断片:
KLGHPDTLNQGEFKELV(本明細書では「NBH-222」とも呼ばれる)(配列番号1)
RKDLQNFLKKENKNEKV(「NBH-223」)(配列番号2)
RKDLQNFLKKENKNEKVI(配列番号3)
EHIMEDLDTNADKQL(配列番号4)
SHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP(「NBH-224」)(配列番号5)
YRDDLKKLLET(「NBH-225」)(配列番号6)
WFKELDINTDGAV(「NBH-226」)(配列番号7)
のうちの1つから選択されるペプチドのN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する。
【0018】
特に好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(「NBH-222」)(配列番号1)のN末端又はC末端の配列を特異的に認識してこれに結合する。
【0019】
ある好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、HNE生成カルプロテクチン断片の前記N末端配列を特異的に認識してこれに結合する。好ましくは、前記モノクローナル抗体は、前記N末端アミノ酸配列のN伸長延長型又は前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮型を特異的に認識せず、これに結合しない。これに関して、「前記N末端アミノ酸配列のN伸長延長型」は、配列のN末端を超えて1以上のアミノ酸が伸長していることを意味する。同様に、「前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮型」は、配列のN末端から1以上のアミノ酸が除去されたことを意味する。そのため、例えば、モノクローナル抗体がペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV「NBH-222」(配列番号1)のN末端配列を特異的に認識してこれに結合する場合、「N伸長延長型」はVKLGHPDTLNQ...(配列番号8)であり、「N切断短縮型」はLGHPDTLNQ...(配列番号9)である。
【0020】
ある他の実施形態では、モノクローナル抗体は、HNE生成カルプロテクチン断片の前記C末端配列を特異的に認識してこれに結合し、好ましくは、前記モノクローナル抗体は、前記C末端アミノ酸配列のC伸長延長型又は前記C末端アミノ酸配列のC切断短縮型を特異的に認識せず、これに結合しない。これに関して、「前記C末端アミノ酸配列のC伸長延長型」は、配列のC末端を超えて1以上のアミノ酸が伸長していることを意味する。同様に、「前記C末端アミノ酸配列のC切断短縮型」は、配列のC末端から1以上のアミノ酸が除去されたことを意味する。そのため、例えば、モノクローナル抗体がペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV「NBH-222」(配列番号1)のC末端配列を特異的に認識してこれに結合する場合、「C伸長延長型」は...LNQGEFKELVR(配列番号10)であり、「C切断短縮型」は...LNQGEFKEL(配列番号11)である。
【0021】
モノクローナル抗体は、好ましくは、前記N末端又はC末端の配列を含む合成ペプチドに対して作製したモノクローナル抗体である。そのため、例えば、モノクローナル抗体が、ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(「NBH-222」)(配列番号1)のN末端配列を特異的に認識してこれに結合する場合、モノクローナル抗体は、ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(配列番号1)のN末端配列を特異的に認識してこれに結合するように、配列KLGHPDTLNQ(配列番号12)を有する合成ペプチドに対して作製したモノクローナル抗体であり得る。合成ペプチドに対するモノクローナル抗体を作製するための適切な例示的なプロトコルは、後述の実施例に記載されている。
【0022】
ある例示的な実施形態では、モノクローナル抗体は、ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV「NBH-222」(配列番号1)のN末端配列を特異的に認識してこれに結合し、好ましくは前記N末端アミノ酸配列のN伸長延長型又は前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮型を特異的に認識せず、これに結合せず、モノクローナル抗体は、好ましくは、
CDR-L1:KSSQSLLNSGNQKNYLA(配列番号13)
CDR-L2:GASTRES(配列番号14)
CDR-L3:LNDHSYPYT(配列番号15)
CDR-H1:DHVIN(配列番号16)
CDR-H2:EIYPGSGSTYYNEKFKG(配列番号17)
CDR-H3:FAY(配列番号18)
から選択される1以上の相補性決定領域(CDR)を含み得る。
【0023】
好ましくは、モノクローナル抗体は、上記に列挙したCDR配列のうちの少なくとも2、3、4、5又は6つを含む。
【0024】
好ましくは、モノクローナル抗体は、CDR配列を含む軽鎖可変領域:
CDR-L1:KSSQSLLNSGNQKNYLA(配列番号13)
CDR-L2:GASTRES(配列番号14)及び
CDR-L3:LNDHSYPYT(配列番号15)
を有する。
【0025】
好ましくは、モノクローナル抗体は、CDR間にフレームワーク配列を含む軽鎖を有し、前記フレームワーク配列は、下記の軽鎖配列中のCDRの間のフレームワーク配列と実質的に同一であるか又は実質的に類似している(その中のCDRは太字で下線付きで示され、フレームワーク配列はイタリック体で示されている)。
KSSQSLLNSGNQKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYGASTRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCLNDHSYPYT(配列番号19)
【0026】
好ましくは、モノクローナル抗体は、CDR配列を含む重鎖可変領域:
CDR-H1:DHVIN(配列番号16)
CDR-H2:EIYPGSGSTYYNEKFKG(配列番号17)及び
CDR-H3:FAY(配列番号18)
を有する。
【0027】
好ましくは、モノクローナル抗体は、CDR間にフレームワーク配列を含む重鎖を有し、前記フレームワーク配列は、下記の重鎖配列中のCDRの間のフレームワーク配列と実質的に同一であるか又は実質的に類似している(その中のCDRは太字で下線付きで示され、フレームワーク配列はイタリック体で示されている)。
DHVINWVRQRTGQGLEWIGEIYPGSGSTYYNEKFKGKATLTADKSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYFCAWFAY(配列番号20)
【0028】
好ましくは、モノクローナル抗体は、軽鎖可変領域配列:
DIVMTQSPSSLSVSAGEKVTMSCKSSQSLLNSGNQKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYGASTRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCLNDHSYPYTFGGGTKLEIK(配列番号21)
(CDRは太字で下線付き;フレームワーク配列はイタリック体)
及び/又は重鎖可変領域配列:
QVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYTFTDHVINWVRQRTGQGLEWIGEIYPGSGSTYYNEKFKGKATLTADKSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYFCAWFAYWGQGTLVTVSA(配列番号22)
(CDRは太字で下線付き;フレームワーク配列はイタリック体)
を含む。
【0029】
生体液試料は、例えば、血液、尿、滑液、血清、気管支肺胞洗浄液(BALF)、又は血漿などの任意の種類の生体液であり得る。しかし、好ましい実施形態では、生体液試料は血漿又は血清である。
【0030】
イムノアッセイは、限定されないが、競合アッセイ又はサンドイッチアッセイであり得る。同様に、イムノアッセイは、限定されないが、酵素イムノアッセイ(EIA)又はラジオイムノアッセイであり得る。好ましくは、イムノアッセイは競合アッセイである。好ましくは、イムノアッセイは、特に競合ELISAなどの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である。
【0031】
第2の態様では、本発明は、HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを特異的に認識してこれに結合するモノクローナル抗体に関する。モノクローナル抗体は、本発明の第1の態様によるイムノアッセイでの使用に適しており、本発明の第2の態様によるモノクローナル抗体の好ましい及び他の任意の実施形態は、本発明の第1の態様及びその好ましい他の任意の実施形態での使用のためのモノクローナル抗体に関する前述の考察から明らかである。
【0032】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様によるモノクローナル抗体と、
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート;
-ビオチンに連結された前記N末端又はC末端の配列を含むビオチン化ペプチド;
-サンドイッチイムノアッセイで使用するための二次抗体;
-前記N末端又はC末端の配列を含むキャリブレータペプチド;
-抗体ビオチン化キット;
-抗体HRP標識キット;及び
-抗体放射性標識キット
のうちの少なくとも1つとを含むイムノアッセイキットに関する。
【0033】
好ましい実施形態では、イムノアッセイキットは、本発明の第2の態様によるモノクローナル抗体と、
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート;
-ビオチンに連結された前記N末端又はC末端の配列を含むビオチン化ペプチド;
-前記N末端又はC末端の配列を含むキャリブレータペプチド
のうちの1つ、2つ又は全てを含む。
【0034】
例えば、モノクローナル抗体がペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(「NBH-222」)(配列番号1)のN末端配列に結合する場合、適切なビオチン化ペプチドは、配列KLGHPDTLNQ-L-ビオチン(配列番号23)を有するペプチドであり得、Lは任意のリンカーである。同様に、モノクローナル抗体が、ペプチドKLGHPDTLNQGEFKELV(「NBH-222」)(配列番号1)のN末端配列に結合する場合、適切なキャリブレータペプチドは、配列KLGHPDTLNQ(配列番号12)を有するペプチドであり得る。
【0035】
定義
本明細書で使用される用語「ペプチド」及び「ポリペプチド」は同義的に使用される。
【0036】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、抗体全体と、例えば、Fab断片、Fv断片、又は当業者に公知の他のそのような断片などの抗体全体の結合特異性を保持するその断片の両方を指す。同じ結合特異性を保持する抗体は、同じ相補性決定領域(CDR)を含み得る。抗体のCDRは、Kabatら33によって記載されるものなどの、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。
【0037】
抗体は、実施例に記載のB細胞クローンから生成することができる。抗体のアイソタイプは、ヒトIgM、IgG若しくはIgAアイソタイプ、又はヒトIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4サブクラスに特異的なELISAによって決定することができる。他の適切な方法を用いて、アイソタイプを特定することができる。
【0038】
生成された抗体のアミノ酸配列は、標準的な技術を用いて決定することができる。例えば、RNAを細胞から単離し、これを使用して逆転写によってcDNAを生成することができる。次いで、cDNAを、抗体の重鎖及び軽鎖を増幅するプライマーを用いてPCRに供する。例えば、全てのVH(可変重鎖)配列のリーダー配列に特異的なプライマーを、以前に決定されているアイソタイプの定常領域に位置する配列に結合するプライマーと共に使用することができる。軽鎖は、Vカッパ又はVラムダリーダー配列にアニールするプライマーとともに、カッパ鎖又はラムダ鎖の3'末端に結合するプライマーを用いて増幅することができる。全長の重鎖及び軽鎖を生成し、配列決定することができる。
【0039】
本明細書で使用される場合、抗体のCDRの間のフレームワークアミノ酸配列は、それらが少なくとも70%、80%、90%若しくは少なくとも95%の類似性又は同一性を有する場合に、別の抗体のCDRの間のフレームワークアミノ酸配列と「実質的に同一」又は「実質的に類似」である。類似又は同一のアミノ酸は、連続していても、又は連続していなくてもよい。フレームワーク配列は、1以上のアミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。アミノ酸置換は保存的であってよく、このことは置換されたアミノ酸が元のアミノ酸と類似の化学的性質を有することを意味する。当業者なら、どのアミノ酸が類似の化学的性質を共有しているかを理解している。例えば、以下のアミノ酸のグループは、サイズ、電荷及び極性などの類似の化学的性質を共有している:グループ1 Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;グループ2 Asp、Asn、Glu、Gln;グループ3 His、Arg、Lys;グループ4 Met、Leu、Ile、Val、Cys;グループ5 Phe、Thy、Trp。
【0040】
CLUSTALプログラムなどのプログラムを用いて、アミノ酸配列を比較することができる。このプログラムは、アミノ酸配列を比較し、必要に応じていずれかの配列にスペースを挿入することにより、最適なアラインメントを見つける。最適なアラインメントのために、アミノ酸の同一性又は類似性(同一性に加えてアミノ酸種類の保存)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは、類似配列の最も長いストレッチを整列させ、そのフィットに値を割り当てる。このようにして、それぞれが異なるスコアを有するいくつかの類似領域が見出される比較を得ることが可能である。両方の種類の分析が本発明において企図される。同一性又は類似性は、好ましくは、フレームワーク配列の全長にわたって計算される。
【0041】
本明細書で使用される用語「N末端」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのN末端を指し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきではない。同様に、用語「C末端」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのC末端を指し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきではない。
【0042】
本明細書で使用される用語「競合的イムノアッセイ」は、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)が、抗体への結合について既知量のペプチドの標的(例えば、固定基質に結合されるか、又は標識される)と競合するイムノアッセイを指し、これは当業者に公知の技術である。
【0043】
本明細書で使用される用語「標的ペプチド」は、モノクローナル抗体が特異的に認識してこれに結合する、HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを含むか又はそれからなるペプチドを指す。
【0044】
本明細書で使用される用語「サンドイッチイムノアッセイ」は、試料中の抗原の検出のために少なくとも2つの抗体を使用するイムノアッセイを指し、当業者に公知の技術である。
【0045】
本明細書で使用される用語「ELISA」(酵素結合免疫吸着アッセイ)は、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)が、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼなどの酵素に結合した抗体を用いて検出されるイムノアッセイを指す。次いで、酵素の活性は、測定可能な生成物を生成する基質とのインキュベーションによって評価される。それにより、試料中の標的ペプチドの存在及び/又は量を検出及び/又は定量することができる。ELISAは、当業者に公知の技術である。
【0046】
本明細書で使用される用語「結合量」は、モノクローナル抗体と標的ペプチドとの間の結合の定量を指し、前記定量が、生体液試料中の標的ペプチドの測定値を検量線と比較することによって決定され、検量線は、標的ペプチドの既知の濃度の標準試料を用いて作成される。HNE生成カルプロテクチン断片:KLGHPDTLNQGEFKELV(「NBH-222」)(配列番号1)のN末端配列からなるHNE生成ネオエピトープを有する標的ペプチドを生体液中で測定する、後に開示する特異的アッセイでは、検量線は、N末端アミノ酸配列KLGHPDTLNQ(配列番号12)を有する(及び特にアミノ酸配列KLGHPDTLNQ(配列番号12)からなり得る)既知濃度の検量ペプチドの標準試料を用いて作成される。生体液試料中で測定された値を検量線と比較して、試料中の標的ペプチドの実際の量を決定する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「既定のカットオフ値」は、統計学的カットオフ値以上である患者試料中の標的ペプチドの測定値が、前記疾患の存在又はその前記特定の状態若しくは重症度の少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも75%の確率、より好ましくは少なくとも80%の確率、より好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、及び最も好ましくは少なくとも95%の確率に相当するという意味において、患者における疾患(すなわち、例えば、炎症によって促進される疾患などの炎症を特徴とするか、若しくは炎症を呈する疾患)又はその特定の状態若しくは重症度(活動性疾患状態又は疾患予後など)の高い可能性を示すと統計学的に決定される結合量を意味する。
【0048】
本明細書で使用される用語「正常な健康な対象に関連する値及び/又は既知の疾患の状態若しくは重症度に関連する値」は、健康であると考えられる、すなわち疾患(すなわち、例えば、炎症によって促進される疾患などの炎症を特徴とするか、又は炎症を呈する疾患)を有しない対象についてイムノアッセイ法によって決定された標的ペプチドの標準化された量、及び/又は既知の状態若しくは重症度の疾患(すなわち、例えば、炎症によって促進される疾患などの炎症を特徴とするか、又は炎症を呈する疾患)を有することが既知である対象についてイムノアッセイ法によって決定された標的ペプチドの標準化された量を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1:カルプロテクチンタンパク質S100A9及びS100A8(A及びB)の配列、並びにヒト好中球エラスターゼ(HNE)によって生成されるその断片の概要。HNE切断点を下向き矢印(↓)で示し、結果として生じるHNE生成断片の一部を灰色で強調し、NBH-222、NBH-223、NBH-224、NBH-225及びNBH-226と命名した断片のN末端ネオエピトープの全て又は最初を形成するN末端配列をより暗い灰色の影付きで強調する。
図2図2:質量分析計で試験した、HNE切断カルプロテクチン、全長カルプロテクチン又はHNEを含む試料中のCPa9-HNE(NBH-222のN末端ネオエピトープ)の相対的存在量(A);選択ペプチド、伸長ペプチド、切断ペプチド及びナンセンスペプチドに対して試験したCPa9-HNE抗体及びアッセイの反応性(B);並びにCPa9-HNE抗体及びアッセイによって検出した、HNE切断カルプロテクチン、全長カルプロテクチン又はHNEを含む試料中のCPa9-HNEの存在量(C)。
図3図3:便中カルプロテクチン(便中CP)及び好中球数に対するCPa9-HNEのスピアマンのロー相関(A及びB)。
図4図4:炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)の患者並びに健康な対象(A及びC)からの血清中のCPa9-HNEの測定レベル、並びに関連するROC曲線(B、D及びE)。データを平均と平均の標準誤差(SEM)として示す。アスタリスク()は有意差を示す:P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
図5図5:潰瘍性大腸炎(MES)及びクローン病(SES-CD)の内視鏡スコアに対するCPa9-HNE及び便中カルプロテクチン(便中CP)の相関(A~D)。R=相関係数、P=P値、SES-CD=クローン病の単純内視鏡スコア、MES=Mayo内視鏡スコア。
図6図6:健康な対象、臨床的寛解期のUC患者、及び活動性疾患を有するUC患者におけるCPa9-HNEの測定レベル並びに関連するROC曲線(A~C);臨床的寛解期のUC患者、及び活動性疾患を有するUC患者における便中CPの測定レベル並びに関連するROC曲線(D及びE);並びにCPa9-HNEと、部分的Mayoスコア(pMayo)並びにTrulove及びWittsスコア(TW-スコア)との相関(F及びG)。
図7図7:(A)COPD患者及び健康な対照におけるCPa9-HNEの血清バイオマーカーレベル。テューキーの箱ひげ図としてデータを示し、下限測定範囲(LLMR)を破線で示す。有意性が両側マン・ホイットニー検定で見出された。(B)COPD患者におけるCPa9-HNEの診断能を示すROC曲線。AUC:0.9996。
図8図8:(A)IPF患者及び健康な対照におけるCPa9-HNEの血清バイオマーカーレベル。データをテューキーの箱ひげ図として示し、LLMRを破線で示す。有意性が両側マン・ホイットニー検定で見出された。(B)IPF患者におけるCPa9-HNEの診断能を示すROC曲線。AUC:0.9813。
図9図9:ベースライン時にCPa9-HNEに関連するPD-1阻害剤によって処置した転移性黒色腫患者の無増悪生存期間と全生存期間を、75パーセンタイル(Q1+Q2+Q3対Q4)でグループ化(二分)することにより評価するためのカプランマイヤープロット。
図10図10:肺がん患者及び対照におけるCPa9-HNEの血清中バイオマーカーレベル。データを、中央値に線を付けた散布図として示し、下限測定範囲(LLMR)を破線で示す。有意性は、最初に正規性と対数正規性を検定することによって見出され、その後、ダネットの多重比較検定を適用した。
図11図11:関節疾患患者及び健康な対照におけるCPa9-HNEの血清バイオマーカーレベル。データをテューキーの箱ひげ図として示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施例
以下の実施例に記載の本開示の実施形態は、開示の理解を助けるために記載されており、その後に続く特許請求の範囲に定義される開示の範囲を決して限定すると解釈されるべきではない。以下の実施例は、記載の実施形態を作製及び使用する方法の完全な開示並びに説明を当業者に提供するために提示され、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、また、以下の実験が実施される全て又は唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確実にするための努力がなされているが、何らかの実験誤差及び偏差を考慮する必要がある。特に断らない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。以下の実施例では、以下の材料及び方法を用いた。
【0051】
方法
カルプロテクチンのインビトロ切断
タンパク質S100A9及びS100A8で構成されるヘテロダイマーである精製カルプロテクチンをエッペンドルフチューブに添加し、タンパク質:プロテアーゼ比100:1(0.1μgのHNEあたり10μgのカルプロテクチン)でヒト好中球エラスターゼ(HNE)を添加することによって、カルプロテクチン断片をインビトロで生成した。24時間後に、5mMのEDTA停止緩衝液を添加することにより、タンパク質分解反応を阻害した。プロテアーゼ緩衝液のみを含むエッペンドルフチューブ、又はHNEを含まないカルプロテクチン、又はカルプロテクチンを含まないHNEは、実験対照としての役目を果たした。
【0052】
質量分析
100μlの切断された試料又は対照を、製造業者の指示に従って、逆相Vydac UltraMicro Spin C18カラム(Harvard Apparatus,カタログ番号74-7206)で脱塩した。非標的質量分析を、Easy nano-LC 1000 system(ThermoFisher Scientific)を搭載した四重極Orbitrapベンチトップ質量分析計QExactive(Thermo Scientific)で実施した。分離を、2μm粒子を充填した75μm×25cm、Acclaim Pepmap(商標)RSLC C18キャピラリーカラム(ThermoFisher Scientific)で行った。脱溶媒のために、+2000Vの噴霧電圧を275℃の加熱イオントランスファー設定で使用した。オンライン逆相分離を、300nl/分の流速を用いて行い、85分のリニアバイナリグラディエントを用いた。グラディエントを3%溶媒Bで4分から始め、次いで、64分で35%溶媒Bにし、その後5分で45%溶媒Bにした。最後に、有機溶媒濃度を5分間で90%まで増加させ、7分間90%に保った。200m/zで70,000の分解能、1×10自動ゲインコントロール(AGC)ターゲット、及び100ms最大イオン注入時間(44)に設定したOrbitrap質量分析計でMSスキャン(400~1200m/z)を記録した。MSに続いて、15の最も強力な多価イオンで17,500の分解能、2×10の強度閾値、2m/zの分離幅及び30秒間有効のダイナミックエクスクルージョンでデータ依存的衝突誘発性解離MS/MSスキャンを行った。
【0053】
カルプロテクチン断片特定
ディスカバリーデータからの特定を、ホモサピエンスプロテオーム(Proteome Discoverer 2.1ソフトウェア(ThermoFisher Scientific)で2015年12月6日にダウンロードしたUniProt proteome ID UP000005640,n20200)を用いて行った。処理ワークフローは、次のノードからなった:スペクトル前処理用のスペクトルセレクター(前駆体質量範囲:100~10000Da;S/N閾値:1.5)、Sequest-HT検索エンジン(タンパク質データベース:上記を参照;酵素:酵素なし;Max.missed切断部位:2;ペプチド長範囲6~144アミノ酸;前駆体質量公差:10ppm;断片質量公差:0.02Da;動的修飾:酸化;静的修飾:システインカルバミドメチル化;及びペプチド検証用のパーコレーター(ペプチドq値に基づいてFDR<0.01)。ペプチド強度を、Proteome Discoverer2.1(ThermoFisher Scientific)で開発された独自のアルゴリズムを用いて定量した。
【0054】
モノクローナル抗体の生成とクローンの特徴付け
簡単に説明すると、HNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープを標的とする(より具体的には、「NBH-222」と称されるHNE生成カルプロテクチン断片の、本明細書では「CPa9-HNE」とも称されるN末端ネオエピトープを標的とする)モノクローナル抗体の生成を以下のように行った。
【0055】
4~6週齢のBalb/Cマウスに、フロイント不完全アジュバント(Sigma-Aldrich)を用いて、200μLの乳化抗原及び50μgの免疫原性ペプチド(KLGHPDTLNQ-GGC-キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)(配列番号24))を皮下免疫した。安定した血清力価レベルに達するまで、マウスを2週間間隔で免疫した。血清力価が最も高いマウスをモノクローナル抗体生成のために選択した。マウスを1ヶ月間安静にした後、100μLの0.9%塩化ナトリウム(NaCl)溶液中の50μgの免疫原性ペプチドの静脈内投与によって免疫した。3日後、脾細胞を細胞融合のために単離した。簡単に説明すると、脾細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を生成し、次いで半固形培地法を用いて培養皿内でクローン化した。クローンを96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、限界希釈を用いてモノクローン性の増殖を確実にした。上清を、ストレプトアビジンコーティングプレート(Roche,Hvidovre,Denmark,カタログ番号11940279)を用いる間接競合的ELISAにおいて、選択ペプチド(KLGHPDTLNQ(配列番号12))及び天然物質(血清及び切断物質)に対する反応性についてスクリーニングした。最高の反応性を有するクローンを、製造業者の指示に従ってプロテインGカラムを用いて精製した(GE healthcare Life Sciences,Little Chalfont,Buckinghamshire,UK)。これらのクローンを、選択ペプチド及び伸長ペプチド、切断ペプチド及びナンセンスペプチドに対する反応性について試験し(表1参照)、選択ペプチドに対して最も高い選択性を示すクローンをモノクローナル抗体生成及びアッセイ開発のために選択した。最適なインキュベーション緩衝液、時間、温度、及びビオチン化ペプチドと抗体との間の最適な比率を決定した。
【0056】
【表1】
【0057】
生成及びアッセイ開発のために選択したモノクローナル抗体も配列決定し、CDR及びアイソタイプを決定した。鎖の配列は以下のとおりである(CDRは下線付きで太字。N末端シグナルペプチド及びC末端定常領域はイタリック体):
重鎖配列(マウスIgG1アイソタイプ)
MEWRIFLFILSGTAGVHSQVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYTFTDHVINWVRQRTGQGLEWIGEIYPGSGSTYYNEKFKGKATLTADKSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYFCAWFAYWGQGTLVTVSAAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTQPREEQFNSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITDFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFVYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPGK(配列番号25)
軽鎖配列(マウスカッパアイソタイプ)
MESQTQVLISLLFWVSGACGDIVMTQSPSSLSVSAGEKVTMSCKSSQSLLNSGNQKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYGASTRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCLNDHSYPYTFGGGTKLEIKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC(配列番号26)
【0058】
イムノアッセイ(ELISA)プロトコル
試料中のHNE生成カルプロテクチン断片のN末端又はC末端の配列からなるHNE生成ネオエピトープのレベル(より具体的には、CPa9-HNE、すなわち、カルプロテクチンNBH-222のHNE生成断片のN末端ネオエピトープのレベル)を、以下のように実施する固相競合的酵素結合免疫吸着アッセイによって評価した。
【0059】
ストレプトアビジンで事前にコーティングした96ウェルプレート(Roche Diagnosticのカタログ番号11940279,Hvidovre,Denmark)をビオチン化抗原(KLGHPDTLNQ-K-ビオチン(配列番号27))でコーティングし、ビオチン化抗原と室温で30分間インキュベートした。未結合のビオチン化コーティング用抗原を廃棄し、標準化したELISAプレート洗浄機(BioTek(登録登録)Instruments,Microplate washer,ELx405 Select CW,Winooski,USA)を用いて、ウェルを洗浄緩衝液(25mM TRIZMA,50mM NaCl,0.036% Bronidox L5,0.1% Tween 20)で洗浄した。タンパク質の安定性を維持し、ブロッキングするために、試料を1%ウシ血清アルブミン(Sigma Aldrich,カタログ番号a-7906、純度98以上)を含むインキュベーション緩衝液で希釈した。試料及び対照をウェルに加え、HNE生成ネオエピトープ(CPa9-HNE)に対する一次モノクローナル抗体と共に20℃で1時間インキュベートし、300rpmで攪拌した。未結合の一次抗体及び試料を廃棄し、ウェルを洗浄緩衝液で洗浄した。続いて、HRPコンジュゲートAffiniPureウサギ抗マウスIgG二次抗体(Jackson カタログ番号315-035-045)をウェルに添加し、20℃で1時間インキュベートした。ウェルを洗浄緩衝液で洗浄することによって、未結合の二次抗体を廃棄した。化学発光基質(Roche Diagnosticのカタログ番号11582950001)をウェル(100μl/ウェル)に添加し、プレートを室温で3分間インキュベートして、プレートを読み取った。最後に、ELISAリーダー(VersaMAX;Molecular Devices,Wokingham Berkshire,UK)を用いて、440nm及び650nmでプレートから放出された相対光単位(RLU)を定量化した。標準曲線を、4パラメトリック数学的適合モデルを用いてプロットした。
【0060】
イムノアッセイ開発
上記のアッセイのロバストネスを試験するために、希釈回収率、血清中のペプチド、分析物の安定性、凍結/解凍、抗体特異性(健全性試験)、干渉(溶血、ビオチン、及び血清中に添加された脂質)、アッセイ間変動/アッセイ内変動、及び生物学的関連性(切断材料、血清及び血漿)を試験した。
【0061】
IBD患者における生物学的検証
患者の人口統計
合計29人のUC患者と72人のCD患者からなる患者コホートからの血清試料を試験した。人口統計学的データ、病歴及び治療法を、医療用電子カルテ及び質問票から得た。人体測定パラメータを組み入れ時に測定した。利用可能な場合、患者の内視鏡疾患活動性は、CD(SES-CD)の単純内視鏡スコア、及びUCのMayo内視鏡スコア(MES)に基づいた。MESスコアを、疾患の拡大に関する情報を追加するために使用した26。炎症活性はまた、クローン病活動性指数(CDAI)、部分Mayoスコア(pMayo)及びC反応性タンパク質(CRP)を用いて、臨床的疾患活動性と生化学的疾患活動性の組み合わせとしても定義された。内視鏡スコアに基づく患者の層別化を以下のように行った:SES-CD(寛解=0~2、軽度=3~6、中等度=7~15、重度>15)、MES(寛解=0~2、軽度=3~6、中等度=7~15、重度>15)。臨床的及び生化学的活動性を、CDについてはCDAI≧150又はCRP>5、UCについてはpMayo>1又はCRP>5と定義した。疾患の重症度及び拡大はモントリオール分類によって評価した。
【0062】
統計分析
正規分布を達成するために、統計分析の前にデータの対数変換を適用した。正規分布データに関してスチューデントt検定及び一元配置ANOVAを適用して統計学的差異を分析した。対数変換によって正規分布が達成されなかった場合には、マン・ホイットニーU検定及びクラスカル・ウォリスを適用した。多重比較の補正には偽発見率法(FDR=5%)を用いた。標的ペプチドレベルを、平均及び平均の標準誤差(SEM)で非対数変換データとして提示する。
【0063】
標的ペプチドの診断力を評価する目的で、受信者動作特性(ROC)曲線を計算した。0.05以下のP値を統計学的に有意であるとみなした。統計解析を、Graphpad Prism 7.03及びMedCalcを用いて行った。GraphPad Prism型7.03を用いて図を作成した。
【0064】
COPD及びIPF患者における生物学的検証
COPD患者(n=68)及び健康な対照(n=36)、及びIPF患者(n=16)及び健康な対照(n=10)からの血清中のCPa9-HNEを測定した。
【0065】
転移性黒色腫患者における生物学的検証
抗PD-1療法(ペムブロリズマブ)によって処置した転移性黒色腫患者の治療前血清中のCPa9-HNEを測定した(n=35)。インフォームドコンセントを得て、1975年のヘルシンキ宣言に準拠したデンマーク首都圏の倫理委員会による承認後に、ヘレウのコペンハーゲン大学病院で標準治療としてペムブロリズマブによって患者を処置した。血清試料を盲検で測定した。CPa9-HNEレベルと無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)との関連を、カプランマイヤー分析及びCox回帰分析によって、単独で、及びPDL1発現(1%以上)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、BRAF変異状態、及びC反応性タンパク質(CRP)に関して補正した後に評価した。
【0066】
SCLC及びNSCLC患者における生物学的検証
小細胞肺がん患者(SCLC)、非小細胞肺がん患者(NSCLC)、及び健康な対照からの血清中のCPa9-HNEを測定した。
【0067】
関節疾患患者における生物学的検証
関節リウマチ(n=15、年齢[範囲:39~47])、乾癬性関節炎(n=11、年齢[範囲:31~64])、乾癬(n=12、年齢[範囲:27~52])、強直性脊椎炎(n=11、年齢[範囲:35~53])、若年変形性関節炎(n=13、年齢<51[範囲:41~50])、高齢変形性関節炎n=10、年齢>50)の患者及び健康な対照(n=33)からの血清中のCPa9-HNEを測定した。患者のうち41人は女性であった。
【0068】
結果
カルプロテクチンネオエピトープの生成及び特定
UniProtプロテオームID UP000005640を適用するノンターゲット質量分析及びその後のカルプロテクチン断片特定により、S100A9とS100A8タンパク質の両方から、いくつかのネオエピトープ含有カルプロテクチン断片がHNEによって生成されたことが明らかになった(表2、及び図1)。5つのHNE生成カルプロテクチン断片(NBH-222、NBH-223、NBH-224、NBH-225、NBH-226)を、そのPSM、品質q値、及び品質PEPスコアに基づいて、アッセイ開発の候補物質と見なした。これらのうち、そのPSM数(表2)及びそのN末端ネオエピトープ配列の独自性により、NBH-222を、この断片のHNE生成N末端ネオエピトープ(CPa9-HNE)を標的とするイムノアッセイの開発のためのカルプロテクチン(S100A9)断片として選択した。
【0069】
【表2】
【0070】
CPa9-HNEのイムノアッセイ開発
特異性、正確さ及び精度
質量分析データから、NBH-222が全長ヒトカルプロテクチン+ヒト好中球エラスターゼを含む試料にのみ存在し、全長ヒトカルプロテクチン又はヒト好中球エラスターゼのみを含む対照試料には存在しないことが実証された(図2A)。CPa9-HNE(NBH-222のHNE生成N末端ネオエピトープ)を標的とするモノクローナル抗体(本明細書ではCPa9-HNE抗体ともいう)を開発し、上記のELISAプロトコル(以下でCPa9-HNEアッセイともいう)で使用し、このイムノアッセイに用いた場合のこの抗体の特異性を、選択ペプチド及び伸長ペプチド、切断ペプチド及びナンセンスペプチド(表1に記載の配列を有する)に対して試験した。CPa9-HNE抗体は、CPa9-HNEネオエピトープ配列に対する反応性のみを実証した(図2B)。HNE切断カルプロテクチン、又はインタクトな全長ヒトカルプロテクチンのみ、又はヒト好中球エラスターゼのみを含む試料では、CPa9-HNE抗体は、ヒト好中球エラスターゼによって切断されたカルプロテクチンが存在した場合にのみ、標的ネオエピトープ配列を特定することができた(図2C)。CPa9-HNEアッセイの最終仕様は表3に記載のとおりである。
【0071】
【表3】
【0072】
IBD患者の患者人口統計
IBD患者からの血清中のCPa9-HNEレベルは、UC患者の便中カルプロテクチンレベル(すなわち、便中のインタクトなカルプロテクチンのレベル)及び好中球数と相関することが実証された(図3A及びB)。
【0073】
IBDにおけるCPa9-HNE血清レベル
CPa9-HNEは、健康な対照と比較してIBDの血清中で上昇している
UC、CD及び健康な対象からの血清中のCPa9-HNEの血清レベルを測定した。CPa9-HNEは、健康な対象と比較してIBD患者の血清において約4倍高いことが実証された(AUC:0.92、P<0.0001)(図4A及びB)。患者をCDとUCに分けると、血清CPa9-HNEは、UC患者とCD患者で同等に上昇し、健康な対象と比較してCD患者(AUC:0.92、P<0.0001)及びUC患者(AUC:0.94、P<0.0001)において約4倍高かった(図4C、D及びE)。
【0074】
CPa9-HNEはUC及びCDの内視鏡的疾患活動性に関連する
CPa9-HNEは、CD(SES-CD:r=0.057、P<0.0001)及びUC(MES:r=0.71、P=0.0003)についての内視鏡的疾患活動性とよく相関した(図5A及びB)。便中CPは、CDについての内視鏡的疾患活動性と相関した(SES-CD:r=0.39、P=0.005)が、UCについては相関しなかった(MES:r=0.31、P=0.09)(図5C及びD)。
【0075】
CPa9-HNEはUCの臨床的疾患活動性に関連する
部分Mayoスコアに基づいて、UC患者を臨床的寛解と臨床的活動性疾患に分けると、CPa9-HNEは、寛解期のUC患者(AUC:0.88、P<0.0001)及び健康なドナー(AUC:0.93、P<0.0001)と比較して、臨床的活動性疾患のUC患者で有意に上昇した(図6A、B及びC)。CPa9-HNEの性能を便中カルプロテクチンと比較すると、CPa9-HNEは、便中カルプロテクチンと同等であるか又はわずかに優れており、AUC及び感度が増加したことが実証された(図6A~E)。CPa9-HNEはまた、UCに関して部分的Mayoスコア(r=0.51、P=0.008)並びにTrulove及びWittsスコア(r=0.64、P=0.0005)と相関することも実証された(図6F及びG)。
【0076】
CPa9-HNEは健康な対照と比較してCOPD患者で上昇している
COPD患者及び健康な対照の血清試料中のCPa9-HNEを測定した。図7Aは、健康な対照(n=36)とCOPD患者(n=68)の間の本発明の差(P<0.0001)を示す。さらに、診断能力を受信者動作特性(ROC)曲線において計算し、曲線下面積(AUC)は0.9996であると決定された、図7B。測定値は、患者のBMI、年齢、及び性別の影響を受けなかった。
【0077】
CPa9-HNEは健康な対照と比較してIPF患者で上昇している
IPF患者(n=16)及び健康な対照(n=10)の血清試料中のCPa9-HNEを測定した。図8Aは、健康な対照とIPF患者の間の本発明の差(P<0.0001)を示す。さらに、ROC曲線において診断能力を計算し、AUCは0.9813であると決定された、図8B
【0078】
高CPa9-HNEは転移性黒色腫の予後不良に関連する
転移性黒色腫患者におけるCPa9-HNEと生存転帰との関連を、カプランマイヤー分析によって評価した。75パーセンタイルカットポイントを用いると、CPa9-HNEレベルが高い患者(>75パーセンタイル)は、CPa9-HNEレベルが低い患者と比較して、PFS(P=0.011)及びOS(P=0.0002)が有意に劣ることが判明した(図9)。裏付けとして、単変量Cox回帰により、低いCPa9-HNEと比較して不良なPFS(HR=3.32、95%CI=1.25~8.82、p=0.016)及びOS(HR=11.31、95%CI=2.27~56.33、p=0.003)の予測因子として、高い(>75パーセンタイル)処置前のCPa9-HNEが同定された(表4)。多変量Cox回帰により、PDL1発現、LDH、BRAF変異、及びCRPに関して補正した場合、高いCPa9-HNEは、不良なPFS(HR=8.22、95%CI=1.30~52.14、p=0.025)及びOS(HR=76.87、95%CI=4.73~1248.57、p=0.002)の独立予測因子であることが判明した(表4)。
【0079】
【表4】
【0080】
CPa9-HNEは健康な対照と比較してSCLC及びNSCLC患者で上昇している
小細胞肺がん患者(SCLC)、非小細胞肺がん患者(NSCLC)、及び健康な対照からの血清中のCPa9-HNEを測定した。小細胞肺がん(SCLC)(p=0.0435、n=10、中央値=212.1[IQR 164.0-407.1])及び非小細胞肺がん(NSCLC)(p=0.0467、n=10、中央値=281.3[IQR 186.8-385.8])の両方を調べたところ、肺がん患者は、CPa9-HNE血清レベルの統計学的に有意な増加を経験した(図10)。
【0081】
CPa9-HNEは健康なドナーと比較して関節疾患で上昇している
関節リウマチ(n=15、年齢[範囲:39~47])、乾癬性関節炎(n=11、年齢[範囲:31~64])、乾癬(n=12、年齢[範囲:27~52])、強直性脊椎炎(n=11、年齢[範囲:35~53])、若年変形性関節炎(n=13、年齢<51[範囲:41~50])、高齢変形性関節炎(n=10、年齢>50)の患者及び健康な対照(n=33)からの血清中のCPa9-HNEを測定した。CPa9-HNEバイオマーカーは、健康な対照と比較して全ての関節疾患で有意に上昇し、強直性脊椎炎(P<0.001)、乾癬性関節炎(P<0.001)、若年変形性関節炎(P<0.001)、及び関節リウマチ(P<0.01)患者では健康な対照と比較して最大の差が観察された(図11)。
【0082】
考察
この研究において、本発明者らは、CPa9-HNEアッセイが、とりわけ、IBD、COPD、IPF、SCLC、NSCLC、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎及び変形性関節炎を検出し、疾患活動性を評価するための血清ベースのアッセイとして生物学的及び臨床的に妥当で技術的にロバストであることを実証した。さらに、本発明者らは、CPa9-HNEアッセイが転移性黒色腫の患者の予後判定において価値があることを実証した。
【0083】
表3に示すように、カルプロテクチン断片(NBH-222)を含むCPa9-HNEは、血清中で最低48時間、4℃で安定であり、これはまた、このネオエピトープ含有断片が血清及び血漿中のインタクトなカルプロテクチンよりもはるかに長い半減期を有することを意味し、インタクトなカルプロテクチンは、便中では7日間安定していることが証明されているにもかかわらず、血漿中では5時間の半減期しかない。これは、アッセイの性能がCRPと同様である10~12便中カルプロテクチンアッセイを血清/血漿に適用した場合の臨床適用性が不良であることを説明し得る。血清中でCPa9-HNE断片の安定性が高い(摂氏4度で最低48時間)ことは、それがカルプロテクチンの分解産物/代謝産物であり、断片がさらなる分解に対してより抵抗性であるという事実によって説明できる。加えて、CPa9-HNEアッセイは、マイクログラム/グラムではなくナノグラム/mLで測定するため、便中カルプロテクチンアッセイよりも感度が高い27
【0084】
メタロプロテイナーゼ(MMP)は活性化のために亜鉛イオンを必要とするため、カルプロテクチンが金属イオン、例えば、カルシウムイオン及び亜鉛イオンに結合できることにより、カルプロテクチンはMMPによる分解に対して非常に抵抗性となる。HNEは、セリンプロテアーゼであり、金属イオンによる活性化を必要としないため、カルプロテクチンを分解し、HNE由来のネオエピトープ含有カルプロテクチン断片を生成することができる ' 28~30。したがって、CPa9-HNE含有断片が、活性化好中球顆粒球及び他の活性化白血球、並びにHNEの存在のみによって生成されるため、CPa9-HNEレベルは局所組織炎症を表し得る。これは、非活性化循環中白血球によって、及びある程度はカルプロテクチンも発現する上皮細胞によって、循環中及び便中にランダムに放出され得るインタクトなカルプロテクチンとは対照的である10,31、32
【0085】
CPa9-HNEは、CD及びUC患者の血清中で非常に豊富であることが実証され、IBDの診断を助ける代理バイオマーカーとしての高い可能性が示された。これは、このバイオマーカーがIBS患者とIBD患者を信頼可能に区別できるため、便中カルプロテクチンと一致している6~8。さらに、CPa9-HNEはまた、CD及びUCに関して便中カルプロテクチン、好中球顆粒球数及び疾患活動性とも相関しており、CPa9-HNEが疾患活動性をモニターするために使用でき、CD及びUCの内視鏡的評価の代理バイオマーカーとなり得ることが示された。
【0086】
CPa9-HNEアッセイはまた、健康な対照と比較して、肺疾患COPDとIPFに罹患した患者間の有意差を解明した。CPa9-HNEアッセイは、好中球エラスターゼによって生成されるカルプロテクチン上の特異的切断部位を測定する。したがって、これらの結果は、これらの肺疾患においてNEの活性がより高いことを示す。
【0087】
CPa9-HNEアッセイは、血清CPa9-HNEのベースライン(処置前)濃度に基づいて、抗PD-1療法によって処置した転移性黒色腫患者の全生存率及び無増悪生存率を予測することも実証された。
【0088】
最後に、CPa9-HNEは、健康な対照と比較して肺がん患者(SCLCとNSCLCの両方)の血清において、並びに健康な対照と比較して関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎及び変形性関節炎の患者の血清において有意に上昇していることも示された。
【0089】
結論
CPa9-HNE ELISAは、カルプロテクチンのHNE媒介分解の新規血清バイオマーカーとして、インビトロ切断試料及びヒトIBD血清試料の両方でネオエピトープに対して高い特異性を有することが証明された。CPa9-HNEは、CD及びUC患者との関連性が高く、IBD患者と健康なドナーを区別する高い診断精度を実証した。さらに、CPa9-HNEはまた、CD及びUC、SES-CD及びMESに関してそれぞれ、内視鏡的疾患活動性とも相関した。CPa9-HNEはまた、UCの臨床的疾患活動性スコア(部分メイヨースコア並びにTrulove及びWittsスコア)とも相関した。したがって、CPa9-HNEは、CD及びUCの疾患活動性の代理バイオマーカーであり、便中CPと少なくとも同等又はわずかに優れた性能を発揮した。したがって、CPa9-HNEは、IBDの診断及び疾患活動性のモニタリング、並びに関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、変形性関節炎、シェーグレン症候群、及び狼瘡を含む他の炎症によって促進される疾患のための新規臨床関連バイオマーカーである。これはまた、例えば、TNF-アルファ、ベドリズマブ及びウステキヌマブの前向き研究において治療有効性を予測又はモニターするためにも使用され得る。
【0090】
さらに、CPa9-HNEは、COPD及びIPFなどの肺疾患、転移性黒色腫などの転移性疾患、並びにSCLC及びNSCLCなどの肺がんにおける臨床関連バイオマーカーであることが示されている。
【0091】
本明細書では、特に明示的に示さない限り、「又は」という言葉は、条件の1つだけが満たされることを要求する演算子「排他的又は」とは対照的に、述べられた条件のいずれか又は両方が満たされたときに真の値を答える演算子の意味で使用される。本明細書で使用される「含む(comprising)」という言葉は、「含む(including)」又は「からなる」を意味する。本明細書で受け入れた全ての先行教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023527702000001.app
【国際調査報告】