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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】熱移動流体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20230623BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230623BHJP
   C09K 5/20 20060101ALI20230623BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C09K5/10 E
C09K3/18 ZAB
C09K5/20
C11D7/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570290
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 SE2021050462
(87)【国際公開番号】W WO2021235994
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2050574-9
(32)【優先日】2020-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522448757
【氏名又は名称】バイオベース・スウェーデン・アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペール・ヴィークルンド
【テーマコード(参考)】
4H003
4H020
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA05
4H003DB01
4H003DC02
4H003EA08
4H003EA15
4H003EB05
4H003EB07
4H003EB20
4H003ED02
4H003FA07
4H003FA12
4H003FA28
4H003FA30
4H020AA04
4H020AA05
4H020AB01
4H020BA05
4H020BA07
(57)【要約】
本発明は、3:2~1:6の間隔の質量比で、グリセロール及び酢酸カリウムを含み又はからなり、55~80質量%の水分含有量であり、グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%を構成し、最大又は合計100質量%まである流体に関する。本発明の流体は、熱移動流体、除氷流体又はウインドスクリーンウォッシャー(windscreen washer)流体として有用である。本発明の流体の製造方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2:3~1:5の間の質量比で、グリセロール及び酢酸カリウムを含み、
55~80質量%の水分含有量であり、
グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%を構成し、最大100質量%まである、流体。
【請求項2】
2:3~1:5の間の質量比のグリセロール及び酢酸カリウムからなり、
55~80質量%の水分含有量であり、
グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%を構成し、合計100質量%まである、流体。
【請求項3】
前記酢酸カリウム及び/又は前記グリセロールが、生物起源である、請求項1又は2に記載の流体。
【請求項4】
防食添加剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の流体。
【請求項5】
前記防食添加剤が、
ニトレート、ホスフェート、シリケート、有機酸及びベンゾトリアゾールからなる群から選択される、請求項4に記載の流体。
【請求項6】
着色剤をさらに含む、請求項1、3~5のいずれか一項に記載の流体。
【請求項7】
7~9の範囲のpHを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の流体。
【請求項8】
pHを9~11の範囲にする緩衝系をさらに含む、請求項1、3~7のいずれか一項に記載の流体。
【請求項9】
0℃で18mPa s未満及び40℃で8mPa s未満の粘度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の流体。
【請求項10】
-45~-10℃の間に凝固点を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の流体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱移動流体、除氷流体又はウインドスクリーンウォッシャー(windscreen washer)流体の製造方法であって、
a)含水酢酸を、水酸化カリウム又は炭酸カリウムを用いて中和する工程、
b1)中和した溶液にグリセロールを加える工程、
c)容積1~1000リットルの容器に得られた溶液を入れる工程、
を含む、方法。
【請求項12】
工程b2)で、水が完全に又は部分的に蒸発している、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
緩衝系及び/又は添加剤が、工程b1)で、加えられる、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
防食添加剤が、工程b1)で、加えられる、請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記含水酢酸が、10~50質量%の濃度を有し、
前記水酸化カリウム又は炭酸カリウムの量が、前記酢酸の量に対して等モルであり、
前記グリセロールの量が、形成した酢酸カリウムの質量の20~100%である、請求項11~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
熱移動流体としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の流体の使用。
【請求項17】
除氷流体としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の流体の使用。
【請求項18】
ウインドスクリーンウォッシャー流体としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の流体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱移動流体、特に再生可能な原材料に基づく熱力学的に効率の良い流体に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の対流による熱交換が、多くの及び様々な技術的用途で使用されている。燃焼エンジンの冷却、エアコン及びヒートポンプ並びに様々な工業的プロセスの温度制御で、変圧器及び特定のタイプのコンピュータプロセッサ等の電気工学機器と同様に、使用されている。
【0003】
水は、他のほとんどの一般的に入手可能な液体よりも、より低い粘度、より高い熱容量及び熱伝導性を有するが、その凝固点及び沸点(0~100℃)の操作温度の小さい範囲のみを提供する。また、水は、腐食抑制剤として機能し得る有機化合物に対して、良好な溶媒ではない。これらの理由から、技術的に優れた熱移動流体を供給するために、水は通常、アルコール及びポリオール等の水中で高い溶解度を有する、極性の有機化合物と混合される。これにより、大幅により低い凝固点及びわずかにより高い沸点の流体が与えられる。メタノール及びエタノール等のアルコールに関する制限は、希薄溶液であっても可燃性があり、これにより、それらの使用に関して制限が課される。これらの制限は、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロール等のポリオールには適用されない。
【0004】
モノエチレングリコール(MEG)としても知られる、エチレングリコール(エタン-1,2-ジオール)の水性混合物は、その毒性にもかかわらず、操作温度範囲-40~+100℃で、最も一般的に使用される熱移動流体である。その理由は一般的に入手可能であること、低コスト及び高い技術的特性である。自動車での使用では、腐食抑制剤を加えた50体積%の水とMEGの混合物が一般的な標準である。腐食抑制剤が加えられたMEG濃縮液(通常、不凍濃縮液及び冷却濃縮液と呼ばれる)が、最終ユーザーが水で希釈するために、店頭で販売されている。50体積%の水と混合した場合、これらの濃縮液は、腐食抑制剤及び存在する他の添加剤の量及びタイプに応じて、約-36℃の凝固点を有する熱移動流体を与える。このような製品を使用することが一般的であるので、冷却/加熱系は一般的に、類似の熱力学的特性の液体用に設計されている。MEGは、工業的に非常に大きいスケールで、化石起源のエチレンから、炭化水素のクラッキングによって、エチレンを供給して、続く酸化及び水との反応によって、製造される。MEGの甘い味が、その急性毒性と組み合わさって、健康及び安全上の問題を引き起こすので、苦い味の添加剤が、通常、人間又は動物が誤って摂取することを防ぐために加えられる。
【0005】
毒性が問題である場合、比較的一般的なMEGの代替品は、プロピレングリコール(プロパン-1,2-ジオール、本明細書ではPPGと呼ぶ)である(非特許文献1)。特に、水性PPG溶液は、林業用機械及び海洋用途に使用されている。PPGは毒性がなく、食品及び飲料、医薬品並びに化粧品にも使用されている。MEGと同様に、抗菌特性及び殺菌特性を有する。低温熱移動流体でのMEGの代替品として、同一の濃度での高い粘度(図1)及びより高い凝固点が問題である。市販のPPGは通常、生物起源のグリセロールから製造できるにも関わらず、化石起源である。
【0006】
自動車の冷却での水性グリセロール溶液の使用に関する基準(ASTM D7714及びD7715)があるが、そのような溶液は、PPGよりもさらにより高い粘度を与え、かつ、より良好な代替品が使用可能である場合には、良い工学的な解決策ではない。生物起源のグリセロールは、FAMEタイプのバイオディーゼルの製造の副生成物として、大きいスケールで市販されている。MEG及びPPGと同様にそれは甘い味を有するが、無害である。
【0007】
米国特許出願第20070012896号(特許文献1)は、たとえば、1:1の間の質量比のグリセロール及び酢酸カリウムから構成され、50質量%の水分含有量であり、50質量%のグリセロール及び酢酸カリウムの合計質量である除凍組成物を開示する。しかしながら、当該文献では、-7及び+22℃での動粘性率及び凝固点(-41℃)を除き、いずれの熱力学的なデータが提供されていない。
【0008】
ポリオールは、微生物の働きによって、対応するカルボン酸に酸化され得、したがって、MEG-及びPPGベースの熱移動流体は(それらの抗菌特性にもかかわらず)、時間を経て金属に対して腐食性になり得る。この影響は、ほとんどの金属が急速に腐食されない、適切なアルカリ性の環境を確保する溶液のpHの制御によって、防止及び軽減され得る。
【0009】
自動車への適用以外で使用される低温熱移動流体では、無機塩又は有機塩を水に溶解させて凝固点を下げることが一般的である。いくつかの無機塩は極めて低い凝固点を与えるが、その代償としてほとんどの工業用金属に対する腐食性が非常に高い。代替として、通常は対イオンとしてカリウムを有するホルメート及びアセテートが使用され得、これにより顕著に低い腐食性を与える。このような溶液は、本来アルカリ性であり、腐食性の低減に寄与している。
【0010】
最も一般的な水性熱移動流体について、詳細な収集された表形式の物理的特性が記載された非特許文献2及び非特許文献3がある。また、同一の著者による有益な方法論的なモノグラフもある。
【0011】
上からわかるように、最先端の熱移動及び低い凝固点を示す一方で、同時に環境に優しく、かつ、再生可能な材料に基づく改善された熱移動流体に対する要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願第20070012896号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Iso-paraffins as low temperature secondary fluids”; Ignatowicz et al.; 5thIIR Conference on Thermophysical Properties and Transfer Processes of Refrigerants, 2017
【非特許文献2】“Properties of Secondary Working Fluids (Secondary Refrigerants or Coolants, Heat Transfer Fluids) for Indirect Systems” Åke Melinder, 2010, 2nd ed., Iif-iir - France, ISBN 9782913149830
【非特許文献3】“Thermophysical Properties of Aqueous Solutions Used as Secondary Working Fluids”; Åke Melider, 2007; Doctoral Thesis Royal Institute of Technology, Stockholm, Sweden
【非特許文献4】Handbook on indirect refrigeration and heat pump systems”; Ed. Åke Melinder, Svenska Kyltekniska Foreningen, 2015
【非特許文献5】“Freezing Points of Glycerol and Its Aqueous Solutions”; Leonard B Lane, Ind. Eng. Chem.1925, 17, 9, 924-924
【非特許文献6】“Cesium and ammonium salts as low temperature secondary fluids”; Ignatowicz et al.; Proceedings of the 25thIIR International Congress of Refrigeration: Montreal, Canada, August 24-30, 2019
【非特許文献7】“The theory of the transient hot-wire method for measuring thermal conductivity” JJ Healy et al., Physica B+C, Volume 82, issue 2, April 1976, pages 392-408
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、2:3~1:5の間の質量比で、グリセロール及び酢酸カリウムを含み又はグリセロール及び酢酸カリウムからなり、55~80質量%の水分含有量であり、グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%、たとえば20~40質量%を構成し、合計100質量%までである熱移動流体に関する。グリセロール及び酢酸カリウムの質量比の間は、2:3、1:2、1:3、1:4又は1:5のいずれかであってもよい。水分含有量は、55、56、57、58、59、60、65、70、75又は80質量%であってもよく、かつ、グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量は、20、25、30、35、40又は45質量%であってもよく、最大又は合計100質量%までである。間隔は、上の端点のいずれかを使用して、流体に含有され又は含まれる成分のあらゆる組み合わせで、構成されてもよい。流体は、水酸化カリウム又は炭酸カリウムを用いて、含水酢酸、たとえば含水生物起源酢酸の中和、それに続く中和した溶液にグリセロールを加えることを通して製造されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、50質量%MEG(非特許文献2)及び50質量%PPG(非特許文献2)グリコールの、本発明の流体(エントリー4、表2)と比較した、温度の関数としての粘度を示す。後者の動的粘度を、液体及びViscolite 700 portable viscometerのプローブを測定温度まで冷却/加熱し、測定を行う前に、プローブを使用してサンプルを穏やかに混合/均一化させることによって、測定した。この手順を、ほとんど正確に文献データ(非特許文献2)を再現する50質量%MEGにも適用した。
図2図2は、水中での酢酸カリウム(非特許文献2)、エチレングリコール(非特許文献2)及びグリセロール(非特許文献5)それぞれの含有量の関数としての凝固点を示す。
図3図3は、水中での酢酸カリウム(非特許文献2)及び本発明の流体(エントリー4、表2)の2つの異なる濃度の質量熱容量を示す。後者の曲線は、microDSC(非特許文献6)に基づく公開された手順を使用して記録された。
図4図4は、本発明の流体(エントリー4、表2)の、示された流体の文献データ(非特許文献2)と比較した、体積熱容量を示す。本発明の流体のデータは、表1の密度のデータと同一の手段で得られた温度に対する密度データを組合せた、図3のグラフの基礎となる同一のデータに基づく。
図5図5は、本発明の流体(エントリー4、表2)の、示された流体の文献データ(非特許文献2)と比較した、熱伝導率を示す。本発明の流体のデータは、非定常熱線法(非特許文献7)の適用を通して得られた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
水中でのMEGの温度に対する粘度の挙動に非常に合致する水性熱移動流体が、家庭用含水酢酸(24質量%)から、水酸化カリウム又は炭酸カリウムを用いた中和、それに続くグリセロールの一部を加えることによって、調製され得るということが、予想外に発見された。グリセロール及び酢酸の両方が、生物学的起源であってもよく、これにより、再生可能な原材料に基づく製品が製造され得る。酢酸カリウムのそれと比較して、グリセロールの弱い凝固点降下効果(図2)を考えると、この結果は、驚くべきものである。
【0017】
観察された効果の論理的根拠は、グリセロールの添加が、混合物の水分含有量をより低くし、それによって凝固点が低くなることであるが、組み合わせた2つの化合物がこの効果を与えることは、文献から明らかではない。凝固点を低くするために酢酸カリウムの溶液から水を蒸発させることと比較して、グリセロールの添加は、水の蒸発熱が非常に高いため、エネルギー的に有利である。さらに、酢酸カリウム、グリセロール及び水からなる系の熱力学的特性が、類似の凝固点の酢酸カリウムの溶液よりも、より高い熱容量を有することが分かった(図3)。
【0018】
生物起源の酢酸は、いくつかの異なる方法及び異なる基本的な(ultimate)原材料から製造され得る。これらの製造方法は、通常、水性溶液で、エタノールに対する微生物(イースト又はバクテリア)の作用を引き起こす。これは、純粋な酢酸を製造することは、必ず水の蒸発を要し、高いエネルギー投入を要することを意味する。そのため、希釈水性溶液中での酢酸の直接的な工業的な利用は、非常に有用である。
【0019】
請求されている流体は、熱移動流体、除氷流体及び自動車ウインドスクリーンウォッシャー(windscreen washer)流体として使用することができる。本明細書で使用される場合、熱移動流体という用語は、除氷流体及びウインドスクリーンウォッシャー流体をそれぞれ含み得る。
【0020】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明するが、それは、単に、本発明の実施形態を例示するものとしてみなされるべきである。当業者は、本発明の概念から逸脱することなく、調整することができることを理解する。
【0021】
先行技術は、グリセロール、酢酸カリウム及び水の1:1:2混合物を開示し、これらを熱移動流体として使用することを提案している(特許文献1)。しかしながら、当該文献では、-7及び+22℃での動的粘度並びに凝固点(-41℃)以外の、熱力学的データが開示されていない。
【0022】
先行技術との比較として、表1に示すように3つの溶液を調製した。動的粘度を、Viscolite 700 portable viscometerを使用して測定した。校正した自動ピペットを用いて、特定の温度で流体を回収し、続いて回収したサンプルの重量を測定することによって、密度を測定した。
【0023】
【表1】
【0024】
水の著しい熱移動特性により、良好な熱力学的特性を得るための制御(limiting)最小水分含有量は、50質量%とみなされ、これは、水中で、50体積%のMEGに相当する熱移動流体(52.6質量%)を製造するという観点からも妥当である。ケース1は、(特許文献1)の実施例の再現であり、凝固点を確認した。
【0025】
本発明によれば、より低い凝固点が、同一の水分含有量で、酢酸カリウムに対するグリセロールのより小さい比によって達成され得る。これは、ケース2を通して確認され、より低い温度で、ケース1よりも低い粘度を示す。
【0026】
比較のため、酢酸カリウムに対するグリセロールの比を、ケース2と比較して逆にした(ケース3を参照)。見てわかるように、0℃でより低い粘度を有するにも関わらず、ケース3で凝固点が明らかにより高くなった。さらに、ケース2の流体は、最も高い密度を示し、これは、大半の用途で熱移動流体としての明らかな利点である。他の全てが同等である場合、密度が高いほど、体積熱容量はより高くなり、つまり、所定の体積に対する熱質量がより大きくなる。高い密度は、高い熱伝導率にも寄与する。言い換えると、より高密度の流体の特定の体積を通して、より低密度のものと比較して、より多くの熱を吸収及び放散することができる。
【実施例
【0027】
共晶混合物を形成するもの以外の混合比で、凝固点の正確な測定は、混合した材料が単一の凝固温度を示さないために不可能である。言い換えると、観察されるものは、通常、凍結した材料が、液体状態と同一の分子組成を有さないスラッシュ状態である。
【0028】
流体
脱イオン化水(83.2g)中の酢酸カリウム(39.2g)の溶液に無水グリセロールの一部を加えた。表1に示す結果から、加えたグリセロールの最大量は、酢酸カリウムのモル量に等しいことが導かれた。得られた溶液を、特定の温度(+/-0.5℃)に設定した冷凍庫に、24時間置いた。その後、溶液の物理的な状態を観察した。いずれの温度でも均一な凍結固体であったサンプルはなく(cmp、ケース3、表1でグリセロールは酢酸カリウムよりも高いモル量で、存在した)、むしろ3つの異なる状態を区別することができた。最低温度及び最低量のグリセロールの添加では、サンプルはスラッシュ状態であった。スラッシュ及び液体の境界で、いくつかの孤立した針形状の結晶のみが、均一な液体上に浮いている状態が確認できた。この状態の最低温度を、その特定の混合物の凝固点としてみなした。
【0029】
【表2】
【0030】
酢酸カリウムは、酢酸ナトリウムよりも、溶解度の理由で好ましい。酢酸ナトリウム、水及びグリセロールの組み合わせは、-30℃未満までの温度範囲で、液体で留まることができるが、これらの混合物は、それぞれの遊離点に近い温度で、溶液からの酢酸ナトリウムの析出が起こることがわかった。これらの場合、サンプルの温度を再び室温まで上昇させた場合でさえ、相当な量の酢酸ナトリウムが未溶解のままである。対照的に、酢酸カリウムを含む表2の配合物は、-45℃の温度で長期間保管した後でさえ、その挙動を示さない。
【0031】
詳細な熱力学の研究を、2:1のグリセロールに対する酢酸カリウムのモル比を有する、請求されている熱移動流体(エントリー4、表2)に対して実施した。この比率では、グリセロールの添加が、凝固点に対して相乗効果を提供し、かつ、低温で、類似の凝固点のMEG/水-混合物の粘度と非常に合致する粘度を維持する(図1)。さらに、本発明の熱移動流体が、類似の凝固点で、酢酸カリウムのみをベースとする流体よりも高い質量熱容量(図3)及び、類似の凝固点のMEG/水-混合物よりも高い体積熱容量(図4)を有することがわかった。請求された範囲で、水分含有量が最も大きな影響を与えるため、グリコールに対する酢酸カリウムの2:1比からの僅かな逸脱は、これらの特性に最小限の影響を有する。加えて、より高い密度がより高い熱伝導率にも寄与するという事実は、本発明の流体に明らかにサポートされている(図5)。
【0032】
重要な観察は、本発明の流体を25℃で解放容器中に放置した場合、水の蒸発によって凝固点が徐々に下がることである。酢酸カリウム及びグリセロールの両方が吸湿性であることを考えると、この観察は非常に注目する価値がある。実用的な用途の観点から、この凝固点の低下は、流体のユーザーが、長期間の後に低い凝固点を疑う必要がないため、有益である。観察は、より希釈された混合物から開始して、蒸発(自然又は圧力の低下によって強制)により、意図する凝固点に到達することができるため、熱移動流体の製造に対する影響も有する。
【0033】
本発明による再生可能な流体の製造方法
含水(生物起源)酢酸(24質量%)を、無水水酸化カリウムを用いて中和して、-27℃の凝固点を有する溶液を得る。形成した酢酸カリウムの半分のモル量に対応するグリセロールの一部を加えることで、-34℃の凝固点、59質量%の水分含有量である混合物を得る。MEGを59質量%の水と混合した場合、-25℃の凝固点しか達成されない。-34℃に到達するためには、MEGを52質量%の水と混合しなければならない(図1)。
【0034】
代替的に、生物起源の酢酸からのアセテートのみをベースとする熱移動流体の製造のために、酢酸の中和に続いて、混合物中に含まれる水を部分的に蒸発させることができる。これは、適度なエネルギー消費で、同一の凝固点の流体を与えることができるが、その流体の電気伝導率は高くなり、腐食速度に対して悪影響を有する可能性がある。上で示す(図3)ように、この流体は本発明の流体と比較して、より低い熱容量も有する。
【0035】
水酸化カリウムによる酢酸の中和は強力な発熱反応であるが、放出される熱は、水中の酢酸(24質量%)をこのように処理した場合、グリセロールの一部の添加によって達成されるものと同一の低い凝固点の流体を作成するために、十分な水を蒸発させるために十分ではないことにも注意するべきである。
【0036】
生物起源の酢酸(12質量%)の水酸化カリウムを用いた中和により、-9℃の凝固点の流体が得られた。溶液中の酢酸カリウムのモル量の半分に相当するグリセロールの一部を加えた後、76質量%の水を含む混合物の凝固点は-15℃であることがわかった。
【0037】
このように、水中で50体積%のMEGをベースとする熱移動流体と比較して、類似の凝固点、より高い水分含有量、より高い熱容量及び温度に対する同一の粘度特性を有する熱移動流体を、再生可能な材料から、少ない量のエネルギーを使用して、製造することができる。
【0038】
本発明の熱移動流体の腐食性は、腐食抑制剤の添加及び/又は流体のpHの制御によって制御され得る。MEG又はPPGを熱移動流体の成分として使用した場合、主な腐食の問題は、ポリオールの(生体)酸化がカルボン酸の生成につながり、金属を腐食し得るということである。大半の金属の腐食速度は弱アルカリ性条件でかなり低いため、MEG/PPGベースの流体は、通常この条件に緩衝される。酢酸カリウムを含む溶液は、濃度に応じて、一般的に7~8.5の非常に有用な範囲(非特許文献4)でpHを与える。本発明によれば、緩衝剤は、一般的に、酸の存在が酢酸の形成をもたらす酸-塩基平衡に基づき得ない。しかしながら、常にアルカリ性溶液をもたらす種の平衡は、良好に機能する。炭酸カリウムと組み合わせた重炭酸カリウムは、流体を9~11の範囲のpHに緩衝することができ、特定の系で使用される金属に適したpHに変更することができる。ナイトライト(nitrite)、ホスフェート、シリケート及びベンゾトリアゾール(非特許文献4)は、2-エチルヘキサン酸及び安息香酸等の非常に高い溶解度を有するカルボン酸のアニオンと同様に、腐食抑制剤としてさらに使用され得る。
【0039】
MEG/PPGベースの流体は、通常、容易に認識するために、染料を用いて着色されている。本発明の流体に対して、同一のもの(通常は食品用着色剤)だけでなく、所定のアルカリ性pHに達した(滴定)場合に、色の変化によって製造を支援し得る、たとえば、チモールブルー、クレゾールレッド、クレゾールフタレイン、フェノールフタレイン、チモールフタレイン等のpH指示薬も使用することができる。
【0040】
箇条書きの発明
1.2:3~1:5の間の質量比で、グリセロール及び酢酸カリウムを含み、55~80質量%の水分含有量であり、グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%を構成し、最大100質量%まである、流体。
2.2:3~1:5の間の質量比のグリセロール及び酢酸カリウムからなり、55~80質量%の水分含有量であり、グリセロール及び酢酸カリウムの合計質量が、20~45質量%を構成し、合計100質量%まである、流体。
3.酢酸カリウム及び/又はグリセロールが、生物起源である、1又は2に記載の流体。
4.防食添加剤をさらに含む、1~3のいずれか一つに記載の流体。
5.防食添加剤が、ニトレート、ホスフェート、シリケート、有機酸及びベンゾトリアゾールからなる群から選択される、4に記載の流体。
6.着色剤をさらに含む、1、3~5のいずれか一つに記載の流体。
7.7~9の範囲のpHを有する、1~6のいずれか一つに記載の流体。
8.pHを9~11の範囲にする緩衝系をさらに含む、1、3~7のいずれか一つに記載の流体。
9.0℃で18mPa s未満及び40℃で8mPa s未満の粘度を有する、1~8のいずれか一つに記載の流体。
10.-45~-10℃の間に凝固点を有する、1~9のいずれか一つに記載の流体。
11.1~10のいずれか一つに記載の熱移動流体、除氷流体又はウインドスクリーンウォッシャー(windscreen washer)流体の製造方法であって、
a)含水酢酸を、水酸化カリウム又は炭酸カリウムを用いて中和する工程、
b1)中和した溶液にグリセロールを加える工程、
c)容積1~1000リットルの容器に得られた溶液を入れる工程、を含む、方法。
12.工程b2)で、水が完全に又は部分的に蒸発している、11に記載の製造方法。
13.緩衝系及び/又は添加剤が、工程b1)で、加えられる、11又は12に記載の製造方法。
14.防食添加剤が、工程b1)で、加えられる、11~13のいずれか一つに記載の製造方法。
15.含水酢酸が、10~50質量%の濃度を有し、
水酸化カリウム又は炭酸カリウムの量が、酢酸の量に対して等モルであり、グリセロールの量が、形成した酢酸カリウムの質量の20~100%である、11~14のいずれか一つに記載の製造方法。
16.熱移動流体としての、1~10のいずれか一つに記載の流体の使用。
17.除氷流体としての、1~10のいずれか一つに記載の流体の使用。
18.ウインドスクリーンウォッシャー流体としての、1~10のいずれか一つに記載の流体の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】