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特表2023-527791ウイルス性呼吸器感染症を治療するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ウイルス性呼吸器感染症を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20230623BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230623BHJP
   C12N 15/27 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
A61K31/7105
C12N15/85 Z
A61K31/713
A61K48/00
A61P31/14
A61K9/19
A61K47/26
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/27
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572323
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 US2021033848
(87)【国際公開番号】W WO2021242675
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/030,214
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522278176
【氏名又は名称】グラダリス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド シャナハン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ネムナイティス
(72)【発明者】
【氏名】アーネスト ボグナー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD67
4C084AA13
4C084MA44
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA44
4C086MA55
4C086NA05
4C086ZB33
(57)【要約】
ウイルスによる呼吸器感染症を治療するための組成物と方法がここに開示されている。いくつかの実施形態では、組成物は、GM-CSF配列と、フーリンの発現を阻害することのできる二機能性shRNAとをコードするプラスミドの肺投与を含む。いくつかの実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスによって起こる呼吸器疾患の治療を必要とする個体においてそれを治療する方法であって、
a.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサート;および
b.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)をコードする核酸配列を含む第2のインサートであって、
ここで前記bi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている第2のインサート
を含む発現ベクターを前記個体に投与することを含み、
前記ウイルスは前記個体によって産生されるフーリンを利用し、前記個体の細胞の感染を前記ウイルスにより可能にし、
前記発現ベクターの投与によって前記呼吸器疾患が治療される方法。
【請求項2】
前記発現ベクターの投与により前記呼吸器疾患を起こす前記ウイルスの増殖を低下させるかなくす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のインサートが配列番号2または配列番号3に記載の核酸配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のインサートが配列番号3に記載の核酸配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記個体がヒトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記発現ベクターがプラスミドである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
投与する前に、前記発現ベクターを少なくとも1つの安定化賦形剤とともに凍結乾燥させ、そのことによって凍結乾燥粒子を生成させる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの安定化賦形剤がトレハロースである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記凍結乾燥粒子が5 μm未満の直径である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記凍結乾燥粒子が約1 μm~3 μmの直径である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
約1 mg~約4 mgの前記発現ベクターを前記個体に投与する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が肺送達を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が、吸入器または噴霧器から選択される装置を通じた前記個体への前記発現ベクターの肺送達を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスが、前記個体の細胞への前記ウイルスの侵入を可能にするため前記フーリンによる切断を必要とする糖タンパク質を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が肺胞細胞である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記呼吸器疾患を起こす前記ウイルスがコロナウイルスである、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、およびMERS-CoVからなるグループから選択される1つのメンバーである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記呼吸器疾患がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記GM-CSFがヒトGM-CSF配列である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記発現ベクターがプロモータをさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロモータがサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記発現ベクターがCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のインサートと前記第2のインサートが前記プロモータに機能可能に連結されている、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記発現ベクターが、前記第1の核酸インサートと前記第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
a.i.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサート;および
ii.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)をコードする核酸配列を含む第2のインサートであって、
ここで前記bi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている第2のインサート
を含む発現ベクター;および
b.少なくとも1つの安定化賦形剤
を含む吸入可能な剤型。
【請求項26】
前記第2のインサートが配列番号2または配列番号3に従う核酸配列を含む、請求項25に記載の吸入可能な剤型。
【請求項27】
前記第2のインサートが配列番号3に従う核酸配列を含む、請求項25または26に記載の吸入可能な剤型。
【請求項28】
前記少なくとも1つの安定化賦形剤がトレハロースである、請求項25~27に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項29】
前記発現ベクターがプラスミドである、請求項25~28に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項30】
前記発現ベクターと前記少なくとも1つの安定化賦形剤を含む粒子を含む、請求項25~29に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項31】
前記粒子が5 μm未満の直径である、請求項25~30のいずれか1項に記載の吸入可能な剤型。
【請求項32】
前記粒子が約1 μm~3 μmの直径である、請求項31に記載の吸入可能な剤型。
【請求項33】
前記粒子が凍結乾燥粒子である、請求項30~32に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項34】
前記GM-CSFがヒトGM-CSF配列である、請求項25~33に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項35】
前記発現ベクターがプロモータをさらに含む、請求項25~34に記載のいずれか1項の吸入可能な剤型。
【請求項36】
前記プロモータがサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである、請求項35に記載の吸入可能な剤型。
【請求項37】
前記発現ベクターがCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む、請求項36に記載の吸入可能な剤型。
【請求項38】
前記第1のインサートと前記第2のインサートが前記プロモータに機能可能に連結されている、請求項35~37のいずれか1項に記載の吸入可能な剤型。
【請求項39】
前記発現ベクターが、前記第1の核酸インサートと前記第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項25~38のいずれか1項に記載の吸入可能な剤型。
【請求項40】
前記凍結乾燥組成物が肺送達のために製剤化されている、請求項25~39のいずれか1項に記載の吸入可能な剤型。
【請求項41】
前記凍結乾燥組成物が装置を通じた肺送達のために製剤化されている、請求項40に記載の吸入可能な剤型。
【請求項42】
前記装置が吸入器または噴霧器である、請求項41に記載の吸入可能な剤型。
【請求項43】
凍結乾燥組成物を生成させる方法であって、
a.i.(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサート;および
(b)フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)をコードする核酸配列を含む第2のインサートであって、
ここで前記bi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている第2のインサート;および
ii.少なくとも1つの安定化賦形剤
を含む液体組成物を生成させること;および
b.薄膜凍結を利用して工程aからの前記液体組成物を凍結乾燥させて凍結乾燥粒子を生成させることを含む方法。
【請求項44】
前記第2のインサートが配列番号2または配列番号3に従う核酸配列を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記第2のインサートが配列番号3に従う核酸配列を含む、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも1つの安定化賦形剤がトレハロースである、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記液体組成物が約3%~7%w/vの前記少なくとも1つの安定化賦形剤を含む、請求項43~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記液体組成物が約5%w/vからの前記少なくとも1つの安定化賦形剤を含む、請求項43~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記発現ベクターがプラスミドである、請求項43~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記凍結乾燥粒子が5 μm未満の直径である、請求項43~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記凍結乾燥粒子が約1 μm~3 μmの直径である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記GM-CSFがヒトGM-CSF配列である、請求項43~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記発現ベクターがプロモータをさらに含む、請求項43~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記プロモータがサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記発現ベクターがCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記第1のインサートと前記第2のインサートが前記プロモータに機能可能に連結されている、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記発現ベクターが、前記第1の核酸インサートと前記第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項43~56のいずれか1項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2020年5月26日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第63/030,214号の優先権を主張するものであり、その内容はあらゆる目的でその全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、普通の風邪、重症急性呼吸器症候群(SARS)、および中東呼吸器症候群(MERS)などの病気を引き起こす可能性があるウイルスの1つの科である。SARSは2003年にアジアで初めて報告された。この病気は、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、およびアジアの24を超える国々に広がった後、2003年のSARSのこのグローバルなアウトブレイクがおさまった。SARSの症状は風邪やインフルエンザ様症状と似ており、例えばSARSに感染した人は典型的には高熱、身体痛、頭痛、空咳、寒気、疲労感または倦怠感、下痢、呼吸困難(息切れ)、および低酸素血症(血中低酸素濃度)といった症状を示す。SARSに感染した人を治療するため、上部および/または下部気道領域を治療するための薬が示唆されてきた。適切な治療法に含まれるのは、SARSに対するワクチン接種と、抗生剤または抗ウイルス薬(リバビリン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、およびコルチコステロイド(例えばメチルプレドニゾロン))の投与である。
【0003】
中東呼吸器症候群(MERS)はやはりコロナウイルスによって起こるウイルス性呼吸器病である。サウジアラビアで2012年に最初に報告され、他のいくつかの国に広がった。その中にはアメリカ合衆国が含まれる。MERS-CoVに感染した大半の人では重い呼吸器疾患が進行する。その中には発熱、咳、および息切れが含まれる。そのうちの多くの人が死亡した。MERS-CoVは病人から他の人へと密な接触(感染した人の世話や、感染した人と一緒に生活すること)を通じて広がった。
【0004】
2019年、中国を起源とするある疾患アウトブレイクの原因として、新たなコロナウイルスが同定された。このウイルスは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)として知られる。このウイルスが引き起こす疾患はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)と呼ばれる。COVID-19は世界的なパンデミックを引き起こし、感染した何百万の人で重い疾患と死を引き起こしている。
【0005】
コロナウイルスは重症の呼吸器疾患を引き起こす能力を持つため、これらウイルスによって起こる呼吸器疾患を治療する方法を見いだすことが重要である。本開示はこの要求を満たすものであり、他の利点も提供する。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施形態では、ウイルスによって起こる呼吸器疾患の治療を必要とする個体においてそれを治療する方法が本明細書に開示されており、この方法は、a.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;b.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターを前記個体に投与することを含み、前記ウイルスは前記個体の細胞に感染できるようにするのに前記個体によって産生されるフーリンを利用していて、前記発現ベクターの投与によって前記呼吸器疾患が治療される。いくつかの実施形態では、発現ベクターの投与により呼吸器疾患を起こすウイルスの増殖を低下させるかなくす。いくつかの実施形態では、第2のインサートは配列番号2または配列番号3に従う核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、個体はヒトである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプラスミドである。
【0007】
いくつかの実施形態では、投与する前に、発現ベクターを少なくとも1つの安定化賦形剤とともに凍結乾燥させ、そのことによって凍結乾燥粒子を生成させる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの安定化賦形剤はトレハロースである。いくつかの実施形態では、凍結乾燥粒子は5 μm未満の直径である。いくつかの実施形態では、凍結乾燥粒子は約1 μm~3 μmの直径である。いくつかの実施形態では、約1 mg~約4 mgの発現ベクターを個体に投与する。いくつかの実施形態では、投与は肺送達を含む。いくつかの実施形態では、投与は、吸入器または噴霧器から選択される装置を通じた個体への発現ベクターの肺送達を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、個体の細胞へのそのウイルスの侵入を可能にするためフーリンによる切断を必要とする糖タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、細胞は肺胞細胞である。いくつかの実施形態では、呼吸器疾患を起こすウイルスはコロナウイルスである。いくつかの実施形態では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、またはMERS-CoVである。いくつかの実施形態では、呼吸器疾患はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。
【0009】
いくつかの実施形態では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。ある実施形態では、GM-CSFは配列番号5を持つヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプロモータをさらに含む。いくつかの実施形態では、プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、第1のインサートと第2のインサートはプロモータに機能可能に連結されている。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0010】
ある実施形態では、吸入可能な剤型が本明細書に開示されており、この吸入可能な剤型は、a.i.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;ii.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターと;b.少なくとも1つの安定化賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、第2のインサートは配列番号2または配列番号3に従う核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの安定化賦形剤はトレハロースである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプラスミドである。
【0011】
いくつかの実施形態では、吸入可能な剤型は、発現ベクターと少なくとも1つの安定化賦形剤を含む粒子を含む。いくつかの実施形態では、粒子は5 μm未満の直径である。いくつかの実施形態では、粒子は約1 μm~3 μmの直径である。いくつかの実施形態では、粒子は凍結乾燥粒子である。いくつかの実施形態では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプロモータをさらに含む。いくつかの実施形態では、プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、第1のインサートと第2のインサートはプロモータに機能可能に連結されている。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物は肺送達のために製剤化されている。いくつかの実施形態では、凍結乾燥組成物は装置を通じた肺送達のために製剤化されている。いくつかの実施形態では、装置は吸入器または噴霧器である。
【0013】
ある実施形態では、凍結乾燥組成物を生成させる方法が本明細書に開示されており、この方法は、a.i.(a)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;(b)フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターと;ii.少なくとも1つの安定化賦形剤を含む液体組成物を生成させることと;b.薄膜凍結を利用して工程aからの前記液体組成物を凍結乾燥させて凍結乾燥粒子を生成させることを含む。いくつかの実施形態では、第2のインサートは配列番号2または配列番号3に従う核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの安定化賦形剤はトレハロースである。
【0014】
いくつかの実施形態では、液体組成物は約3%~7%w/vの少なくとも1つの安定化賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、液体組成物は約5%w/vの少なくとも1つの安定化賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプラスミドである。いくつかの実施形態では、凍結乾燥粒子は5 μm未満の直径である。いくつかの実施形態では、凍結乾燥粒子は約1 μm~3 μmの直径である。
【0015】
いくつかの実施形態では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプロモータをさらに含む。いくつかの実施形態では、プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、第1のインサートと第2のインサートはプロモータに機能可能に連結されている。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0016】
(参照による組み込み)
本明細書の中で言及されているあらゆる刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、および特許出願が具体的かつ個別に参照によって組み込まれていることが示されているのと同じ程度に参照によって本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本開示の新規な特徴は添付の請求項に特に示されている。本開示の特徴と利点のよりよい理解は、本開示の原理が用いられている具体的な実施形態を示す以下の詳細な記述と添付の図面を参照することによって得られよう。
【0018】
図1A図1Aは、miR-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造を含むbi-shRNAフーリン(配列番号2)を示す模式図を示す;第1のステム-ループ構造は完全に相補的なガイド鎖とパッセンジャー鎖を持つのに対し、第2のステム-ループ構造は、パッセンジャー鎖の9~11位に3つの塩基対(bp)ミスマッチを有する。
【0019】
図1B図1Bは、配列番号3のmiR-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造を含むbi-shRNAフーリンを示す模式図を示す;第1のステム-ループ構造は完全に相補的なガイド鎖とパッセンジャー鎖を持つのに対し、第2のステム-ループ構造は、パッセンジャー鎖の9~11位に3つの塩基対(bp)ミスマッチを有する。
【0020】
図2図2は、発現用のGM-CSFと二機能性フーリンsh-RNAのほか、カナマイシンカセットとCMVプロモータを含有する5140塩基対(bp)(配列番号4)のプラスミドを示す模式図を示す
【0021】
図3図3は凍結乾燥手続きを示しており、発現ベクターが溶液の中にあり、迅速に凍結されて凍結乾燥される。凍結乾燥の後、凍結乾燥粉末は乾燥粉末になる。乾燥粉末は乾燥粉末吸入器の中でエアロゾル化される。
【0022】
図4A-B】図4A~4Cは、フーリンのノックダウンによって流行中の72B/CA/CALG株を用いたSARS-COV-2ウイルスRNAが減少することを示す。
【0023】
図4C図4A~4Cは、フーリンのノックダウンによって流行中の72B/CA/CALG株を用いたSARS-COV-2ウイルスRNAが減少することを示す。
【0024】
図5A-B】図5A~5Dは、凍結乾燥プラスミドの抗ウイルス効果を示す。
【0025】
図5C-D】図5A~5Dは、凍結乾燥プラスミドの抗ウイルス効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
特に断わらない限り、本明細書で使用される科学技術用語は、請求項の主題が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つ。
【0027】
定義
本明細書では、範囲と量は、特定の値または範囲に「約」を付けて表わすことができる。約には正確な値も含まれる。したがって「約5 μg」は、「約5 μg」を意味するとともに「5 μg」も意味する。一般に、「約」という用語には、実験誤差以内と想定される量が含まれる。いくつかの実施形態では、「約」は、記載されている数または値「+」または「-」その数または値の20%、10%、または5%を意味する。
【0028】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書では、治療している疾患または状態の1つ以上の症状をある程度緩和するか、治療している疾患または状態のその1つ以上の症状の発症または再発を予防するのに十分な、投与される薬剤または化合物の量を意味する。いくつかの実施形態では、結果は、疾患の徴候、症状、または原因の軽減および/または緩和、または生物系の他の望ましいあらゆる変化である。例えば治療に用いる「有効量」は、過度の有害な副作用なしに疾患の症状を臨床的に有意に軽減するのに必要な自家腫瘍細胞ワクチンの量である。別の一例では、治療に用いる「有効量」は、過度の有害な副作用なしに疾患の症状の再発を阻止するのに必要な本明細書に開示されている自家腫瘍細胞ワクチンの量である。任意の個々のケースにおける適切な「有効量」は、用量漸増試験などの技術を利用して決定することができる。「治療有効量」という用語には、例えば予防に有効量が含まれる。本明細書に開示されている化合物の「有効量」は、過度の有害な副作用なしに望む効果または治療上の改善を実現するのに有効量である。いくつかの実施形態では、「有効量」または「治療有効量」は、自家腫瘍細胞ワクチンの代謝、対象の年齢、体重、全体的な状態、治療する疾患、治療する疾患の重症度、および処方する医師の判断がさまざまであるため対象ごとに変化すると理解される。
【0029】
本明細書では、「対象」、「個体」、および「患者」という用語は交換可能に用いられる。これらのどの用語も、医学の専門家(例えば医師、看護師、医療資格者、病棟勤務員、ホスピス職員)の監修を必要とすると解釈されてはならない。本明細書では、対象は任意の動物であり、その中には哺乳類(例えばヒトまたは非ヒト動物)と非哺乳類が含まれる。本明細書に提示されている方法と自家腫瘍細胞ワクチンの一実施形態では、哺乳類はヒトである。
【0030】
本明細書では、「治療する」、「治療している」、または「治療」という用語と、他の文法的に同等な用語(その非限定的な例に含まれるのは、疾患または状態の1つ以上の症状を緩和する、軽減させる、または改善する、または疾患または状態の1つ以上の追加症状の出現、重症度、または頻度を改善する、阻止する、または低下させる、疾患または状態の1つ以上の症状の裏にある代謝上の原因を改善または阻止する、疾患または状態を抑制する(例えば予防的または治療的にその疾患または状態の進行を停止させる、その疾患または状態を緩和する、その疾患または状態の後退を引き起こす、その疾患または状態によって起こる状態を緩和する、その疾患または状態の再発を阻止する、またはその疾患または状態の症状を抑制する)である)。
【0031】
本明細書では、「核酸」または「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチド(デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA))、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成する断片、および連結、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成する断片を意味する。いくつかの実施形態では、核酸分子は、天然のヌクレオチド(DNAやRNAなど)である単量体、または天然のヌクレオチドの類似体(例えば天然のヌクレオチドのα-鏡像異性体)、または両方の組み合わせで構成される。いくつかの実施形態では、修飾されたヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジン塩基部分またはプリン塩基部分に変化を有する。糖修飾は、例えば、ハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基による1つ以上のヒドロキシル基の置換を含むか、糖を機能化してエーテルまたはエステルにすることができる。さらにいくつかの実施形態では、糖部分全体は、立体的または電子的に似た構造(アザ糖や炭素環類似体など)で置換される。塩基部分の修飾の例に含まれるのは、アルキル化されたプリンとピリミジン、アシル化されたプリンまたはピリミジン、または他の周知の複素環置換基である。いくつかの実施形態では、核酸単量体は、ホスホジエステル結合またはそのような連結の類似体によって連結される。ホスホジエステル結合の類似体に含まれるのは、ホスホロチオエート、ホスホロアニリデート、ホスホロアミデートなどである。いくつかの実施形態では、「核酸」または「核酸分子」という用語に、ポリアミド骨格に結合した天然の核酸塩基または修飾された核酸塩基を含むいわゆる「ペプチド核酸」も含まれる。いくつかの実施形態では、核酸は一本鎖または二本鎖である。
【0032】
本明細書では、「発現ベクター」は、宿主細胞の中で発現する遺伝子をコードする核酸分子を意味する。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、転写プロモータ、遺伝子、および転写ターミネータを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子発現はプロモータの制御下に置かれ、そのような遺伝子はそのプロモータに「機能可能に連結されている」と言われる。いくつかの実施形態では、調節エレメントとコアプロモータは、調節エレメントがコアプロモータの活性を調節する場合に機能可能に連結されている。本明細書では、「プロモータ」という用語は、適切な増殖条件のもとで宿主酵母細胞の中の構造遺伝子と会合したとき、その構造遺伝子にとって1)転写、2)翻訳、または3)mRNA安定性の1つ以上を、そのプロモータ配列なしでの転写、翻訳、またはmRNA安定性と比べて増大させる任意のDNA配列を意味する。
【0033】
本明細書では、「二機能性」という用語は、作用の2つの機械的経路(siRNAの経路とmiRNAの経路)を持つshRNAを意味する。「慣習的な」shRNAという用語は、作用のsiRNA機構によって作用するRNAに由来するDNA転写を意味する。「ダブレット」shRNAという用語は2つのshRNAを意味し、それぞれが2つの異なる遺伝子の発現に対して作用するが、「慣習的な」shRNAモードで作用する。
【0034】
本明細書では、「乾燥粉末」という用語は、粒子を空気流またはガス流によって運ぶことができる微粒子組成物を意味し、その乾燥粉末は、推進剤、担体、または他の液体の中に懸濁させたり溶解させたりされない。「乾燥粉末」は、その製剤から水分子が完全に消えていることを必ずしも意味しない。ある場合には、乾燥粉末は、1個の凍結乾燥された粒子、または複数の粒子である、
【0035】
本明細書では、「エアロゾル」または「エアロゾル化された」という用語は、固体粒子または液体粒子の雰囲気中の分散物を意味する。一般に、このような粒子は低い設定速度と相対的浮遊安定性を有する。ある側面では、粒径分布は0.01μmと15μmの間である。「薬剤」は、任意の小分子化合物、抗体、核酸分子、またはポリペプチド、またはこれらの断片を意味する。乾燥粉末は従来の乾燥粉末吸入器を用いてエアロゾル化することができる。
吸入可能な剤型
【0036】
本開示により、i.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;ii.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターと;b.少なくとも1つの安定化賦形剤を含む吸入可能な剤型が提供される。
【0037】
ポリヌクレオチドを含有する乾燥粉末製剤を対象の気道(肺を含む)の中に送達するための組成物と方法が開示されている。方法は、核酸(例えばDNAとRNA)発現ベクターを気道上皮細胞、肺胞マクロファージ、および気道の中の他の細胞(中咽頭 鼻 鼻咽頭が含まれる)の中に送達するのに使用される。RNAポリヌクレオチドには、shRNA、siRNA、miRNAと、これらの組み合わせを含めることができる。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできる二機能性の短いヘアピンRNAをコードする発現ベクターを含む粒子の投与により、RNA干渉を通じてフーリンの発現が阻害され、ウイルスの増殖が阻止されるか減少する。
【0038】
1つの側面では、吸入可能な投与粒子は、発現ベクターを含む安定なミクロン粒子とミクロン未満粒子を作製する方法を利用して作製される。ある側面では、方法は、薄膜凍結(TFF)技術(例えばアメリカ合衆国特許第10,092,512号を参照されたい)を利用する。TFFでは、液滴が典型的には所与の高さと衝撃で落下して広がり、冷却された固体基板の上で凍結する。操作中は、液滴は所与の高さから落下し、223 Kの温度を持つ回転している表面に衝突する。液滴が広がるにつれて、凍結した液体に先立って凍結前線が形成される。TFFを利用して水溶性が低い薬の比表面積の大きな粉末を形成することができる。TFFを利用して比表面積の大きなベクター粒子を形成することができる。TFF乾燥粉末製剤は吸入器を通じて肺に直接送達することができる。
【0039】
乾燥粉末製剤は、典型的には、乾燥形態、通常は凍結乾燥形態の発現ベクターを含んでいて、肺の肺胞領域内に堆積する範囲内の粒径であり、典型的には約0.5 μm~約15 μm、または0.5 μm~約5 μmの直径を持つ。このサイズの範囲内の発現ベクターを含有する呼吸可能な粉末は、多彩な従来の技術(凍結乾燥、薄膜凍結、ジェット-ミリング、スプレー乾燥、溶媒沈降など)によって作製することができる。その後乾燥粉末は、従来の乾燥粉末吸入器(DPI)(この装置を通過する患者の吸気を利用して粉末を分散させる)に入れて、または空気支援式装置(外部動力源を用いて粉末をエアロゾルのクラウドにする)に入れて、患者または対象に投与することができる。
【0040】
図3は凍結乾燥法100を示す。ここでは発現ベクターは溶液105の中にあり、その溶液を迅速に凍結させて凍結乾燥させることができる。凍結乾燥の後、凍結乾燥粉末は乾燥粉末110になる。乾燥粉末吸入器115が乾燥粉末をエアロゾル化することができる。当業者は、凍結乾燥が、組成物を凍結させた後に水を昇華させる凍結乾燥プロセスであることを認識しているであろう。凍結乾燥プロセスに付随する特別な利点は、水溶液中の生物学的製剤を温度を上げることなく乾燥させ(ることにより不利な熱効果をなくせ)ることと、その後乾燥状態で保管できて、安定性の問題がほとんどないことである。発現ベクターを含有する凍結乾燥ケーキは、本分野で知られている技術を利用して微細化し、約1 μm~約10 μm、または0.5 μm~約5 μmのサイズの粒子を提供することができる。
【0041】
乾燥粉末装置は、エアロゾル化された1回用量(「パフ」)を生成させるのに典型的には約1 mg~10 mgの範囲の粉末質量を必要とする。必要な用量の発現ベクターは一般にこの量よりも少ないため、粉末は、典型的には医薬として許容可能な乾燥増量粉末、または1つ以上の安定化賦形剤と組み合わされる。乾燥増量粉末または安定化賦形剤は、スクロース、ラクトース、トレハロース、ヒト血清アルブミン(HSA)、およびグリシンを含む。他の適切な乾燥増量粉末に含まれるのは、セロビオース、デキストラン、マルトトリオース、ペクチン、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトールなどである。他の安定化賦形剤に含まれるのは、グルコース、アラビノース、マルトース、サッカロース、デキストロース、および/またはポリアルコール(マンニトール、マルチトール、ラクチトール、およびソルビトールなど)である。一実施形態では、糖はトレハロースである。いくつかの場合には、粒子形成の前に適切なバッファと塩を用いて溶液中の発現ベクターを安定化させることができる。適切なバッファに含まれるのは、典型的には約5 mM~50 mMのリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、およびトリス-HClである。適切な塩に含まれるのは、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウムなどである。
【0042】
1つの側面では、発現ベクターは投与前に少なくとも1つの安定化賦形剤とともに凍結乾燥されることで、約0.5 μm~約15 μm、例えば約0.5 μm、1 μm、1.5 μm、2 μm、2.5 μm、3 μm、3.5 μm、4 μm、4.5 μm、5 μm、5.5 μm、6 μm、6.5 μm、7 μm、7.5 μm、8 μm、8.5 μm、9 μm、9.5 μm、10 μm、10.5 μm、11 μm、11.5 μm、12 μm、12.5 μm、13 μm、13.5 μm、14 μm、14.5 μm、および/または15 μmの凍結乾燥粒子が生成する。いくつかの側面では、少なくとも1つの安定化賦形剤はトレハロースである。いくつかの側面では、凍結乾燥粒子は直径が5 μm未満である。いくつかの側面では、凍結乾燥粒子は直径が約1μm~約3 μmである。いくつかの側面では、約1 mg~約4 mgの発現ベクターが個体に投与される。いくつかの側面では、投与は肺送達を含む。いくつかの側面では、投与は、吸入器または噴霧器から選択される装置を通じた個体または対象への発現ベクターの肺送達を含む。
【0043】
1つの側面では、発現ベクターの投与頻度として1日に1~10回、例えば1日に1、2、3、4、5 6、7、8、9、または10回、それどころかそれよりも多い回数が可能である。投与計画は、数日間(1~7日間など)、または数週間(1~4週間など)、または数ヶ月間(1~12ヶ月間など)にわたることが可能である。
【0044】
本開示の乾燥粉末エアロゾル組成物を用い、肺を通じてポリヌクレオチドを腫瘍、リンパ節、血液、およびマクロファージ、または身体の他の細胞の中に輸送することができる。本開示の方法では、送達は一般に、発現ベクターを含有するエアロゾル化された粒子のサイズを制御することによって実現される。いくつかの側面では、エアロゾル化されたポリヌクレオチドの乾燥粉末を肺深部、すなわち肺胞に送達する方法が提供される。これらの側面では、粒子を含有するエアロゾル化された発現ベクターの大半は、約0.01 μm~約10 μm、例えば0.1 μm、0.2 μm、0.3 μm、0.4 μm、0.5 μm、0.6 μm、0.7 μm、0.8 μm、0.9 μm、1 μm、1.1 μm、1.2 μm、1.3 μm、1.4 μm、1.5 μm、1.6 μm、1.7 μm、1.8 μm、1.9 μm、2 μm、2.1 μm、2.2 μm、2.3 μm、2.4 μm、2.5 μm、2.6 μm、2.7 μm、2.8 μm、2.9 μm、3 μm、3.1 μm、3.2 μm、3.3 μm、3.4 μm、3.5 μm、3.6 μm、3.7 μm、3.8 μm、3.9 μm、4 μm、4.1 μm、4.2 μm、4.3 μm、4.4 μm、4.5 μm、4.6 μm、4.7 μm、4.8 μm、4.9 μm、5 μm、5.1 μm、5.2 μm、5.3 μm、5.4 μm、5.5 μm、5.6 μm、5.7 μm、5.8 μm、5.9 μm、6 μm、6.1 μm、6.2 μm、6.3 μm、6.4 μm、6.5 μm、6.6 μm、6.7 μm、6.8 μm、6.9 μm、7 μm、7.1 μm、7.2 μm、7.3 μm、7.4 μm、7.5 μm、7.6 μm、7.7 μm、7.8 μm、7.9 μm、8 μm、8.1 μm、8.2 μm、8.3 μm、8.4 μm、8.5 μm、8.6 μm、8.7 μm、8.8 μm、8.9 μm、9 μm、9.1 μm、9.2 μm、9.3 μm、9.4 μm、9.5 μm、9.6 μm、9.7 μm、9.8 μm、9.9 μm、および/または約10 μmの範囲のサイズを持つ。
【0045】
いくつかの側面では、エアロゾル化された乾燥粉末発現ベクターポリヌクレオチドを中枢気道、すなわち気管支と細気管支に送達する方法が提供される。これらの側面では、乾燥粉末エアロゾルポリヌクレオチド含有粒子の大半は約4 μm~約6 μm(4 μm~6 μm)、または約4 μm~約5 μm(4 μm~5 μm)の範囲のサイズを持つ。さらに別の側面では、エアロゾル化された粒子を上部気道(口腔咽頭領域と気管が含まれる)に送達する方法が提供される。ある側面では、エアロゾルは、循環系への送達が望ましい場合には肺胞に送達することができる。この側面では、粒径は約1~約5ミクロンにすることができ、一般に球形が可能である。
【0046】
典型的には、エアロゾルは、薬製剤をサイズが約0.25~6.0ミクロンの範囲の複数の孔を持つ多孔性膜からなるノズルを強制的に通過させることによって作製される。孔がこのサイズを持つとき、形成される液滴は、孔のサイズの直径の約2倍の直径を持つことになる。抵抗の小さなフィルタがノズルの流れ抵抗以下であることを保証するには、フィルタの孔のサイズと孔の密度を必要に応じて調節してノズルの多孔性膜の孔のサイズと孔の密度に合わせねばならない。粒子のサイズは、熱を加えて担体を蒸発させることによって調節することもできる。エアロゾル化された粒子の形成から粒子が実際に肺の表面に接触するまでに時間差があるため、粒子のサイズは、周囲の雰囲気中の相対湿度が原因で製剤中の水の量が増減するため変化する。
【0047】
ある側面では、「担体」という用語は、投与されるポリヌクレオチドまたはプラスミドを、そのポリヌクレオチドの安全で効果的な作用に必要な他の賦形剤(増量媒体が含まれる)とともに含有する粒子を形成する材料を意味する。これらの担体は、増量媒体(水など)、エタノール、生理食塩溶液、およびこれらの混合物の中に溶かすこと、分散させること、または懸濁させることができる。他の増量媒体も使用できるが、製剤化して適切なエアロゾルを生成させることができて、活性成分またはヒト肺組織に有害な影響を与えないことが条件である。有用な増量媒体はポリヌクレオチドと有害な相互作用をすることがなく、製剤がその増量媒体を含むときに1.0~10ミクロン(0.1~10ミクロン)の範囲の直径を持つエアロゾル化された粒子の形成を可能にする特性を持つ。
【0048】
水溶液については、ポリヌクレオチドを水またはバッファに溶かして小粒子にし、対象に送達するエアロゾルを生成させることができる。あるいはポリヌクレオチドは溶液または懸濁液にすることができ、そこでは低沸点の推進剤を担体流体として使用する。適切なエアロゾル推進剤の非限定的な例に含まれるのは、クロロフルロカーボン(CFC)とヒドロフルオロカーボン(HFC)であり、そのさまざまな種類が本分野で知られている。ポリヌクレオチドは乾燥粉末の形態にすることができ、その乾燥粉末が空気流と混合されて対象にポリヌクレオチドが送達される。望むサイズ範囲内の呼吸可能な乾燥粉末は、従来の多彩な技術(ジェット-ミリング、スプレー乾燥、溶媒沈降などが含まれる)によって生成させることができる。
【0049】
乾燥粉末は一般に医薬として許容可能な乾燥増量粉末と組み合わされ、ポリヌクレオチドまたはプラスミドは、通常は重量で約1%~約10%、例えば約1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、および/または10%、またはそれよりも多い量が存在する。乾燥増量粉末の例に含まれるのは、スクロース、ラクトース、トレハロース、ヒト血清アルブミン(HSA)、およびグリシンである。他の適切な乾燥増量粉末に含まれるのは、セロビオース、デキストラン、マルトトリオース、ペクチン、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、マンニトールなどである。製剤に関係なく、標的とする領域の気道の直径に関係する望む範囲のサイズを持つ粒子を生成させることが好ましい。
【0050】
ある場合には、吸入のための乾燥粉末は、不活性な材料(ラクトースなど)の担体粒子とともに医薬として活性な物質として製剤化される。担体粒子は、その活性な物質よりも大きい直径を持つように設計して取り扱いと保管がより容易になるようにする。より小さな活性剤粒子は保管中に担体粒子の表面に結合するが、装置を作動させると担体粒子から引き剥がされる。
【0051】
いくつかの側面では、送達するポリヌクレオチドと発現ベクターをリポソーム製剤またはリポプレックス製剤として製剤化することができる。このような複合体は、正電荷(静電気相互作用)によって遺伝材料(DNAまたはRNA)に結合する脂質の混合物を含む。本発明で使用できるカチオン性リポソームに含まれるのは、3β-[N-(N', N'-ジメチル-アミノエタン)-カルバルノイル]- コレステロール(DC-Chol)、l,2-ビス (オレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニオ-プロパン(DOTAP)、リシニルホスファチジルエタノールアミン(L-PE)、リポポリアミン(リポスペルミンなど)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)-l-プロパナニミウムブロミド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、N(l,2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリエチルアンモニウム(DOTMA)、DOSPA、DMRIE、GL-67、GL-89、リポフェクチン、およびリポフェクタミンである。使用できる他の適切なリン脂質に含まれるのは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトールなどである。コレステロールも含めることができる。
ウイルス性呼吸器感染症を治療する方法
【0052】
ある実施形態では、ウイルスによって起こる呼吸器疾患の治療を必要とする個体においてそれを治療する方法が本明細書に開示されており、この方法は、a.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;b.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターを前記個体に投与することを含み、前記ウイルスはそのウイルスが前記個体の細胞に感染できるようにするのに前記個体によって産生されるフーリンを利用していて、前記発現ベクターの投与によって前記呼吸器疾患が治療される。いくつかの実施形態では、ウイルスは個体によって産生されるフーリンを利用してその個体の細胞に感染することを可能にする。いくつかの実施形態では、第2の核酸は配列番号2または配列番号3に従う配列を含む。いくつかの実施形態では、発現ベクターはbi-shRNAフーリン/GMCSF発現ベクターである。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプラスミドである。
【0053】
いくつかの実施形態では、ウイルスは糖タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、糖タンパク質はスパイク糖タンパク質である。いくつかの実施形態では、糖タンパク質が、ウイルスの侵入、タンパク質の組み立て、およびヒト細胞へのウイルスの出入りに利用される。いくつかの実施形態では、糖タンパク質は、宿主細胞に侵入するのに必要な融合配列活性化を可能にするため宿主フーリンタンパク質による切断を必要とする。いくつかの実施形態では、フーリンの阻害によりウイルスの増殖が阻止される。いくつかの実施形態では、フーリン阻害の投与によりウイルスの増殖が阻止される。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する二機能性の短いヘアピンRNAをコードする発現ベクターの投与により、糖タンパク質を含むウイルスの増殖が阻止されるか減少する。
【0054】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、またはMERS-CoVである。いくつかの実施形態では、呼吸器疾患はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。
【0055】
発現ベクター
【0056】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのshRNAは少なくとも1つの二機能性shRNA(bi-shRNA)である。いくつかの実施形態では、bi-shRNAは、siRNA成分を含む第1のステム-ループ構造と、miRNA成分を含む第2のステム-ループ構造を含む。いくつかの実施形態では、二機能性shRNAは、作用の2つの機械的経路(siRNAの経路とmiRNAの経路)を持つ。したがっていくつかの実施形態では、本明細書に記載されている二機能性shRNAは、慣習的なshRNA(すなわち作用のsiRNA機構によって作用するDNA転写由来RNA)、またはそれぞれが2つの異なる遺伝子の発現に対して作用するが慣習的なsiRNAモードで作用する2つのshRNAを意味する「ダブレットshRNA」とは異なる。いくつかの実施形態では、bi-shRNAには(切断に依存する)siRNAモチーフと(切断とは独立な)miRNAモチーフが組み込まれている。
【0057】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのbi-shRNAは、フーリンをコードするmRNA転写産物のより多くの領域の1つにハイブリダイズすることができる。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写産物は配列番号1の核酸配列である。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つ以上の領域は、配列番号1の塩基配列300~318、731~740、1967~1991、2425~2444、2827~2851、および2834~2852から選択される。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、フーリンmRNA転写産物のコード領域、フーリンmRNA転写産物の3'UTR領域配列、または同時にフーリンmRNA転写産物のコード配列と3'UTR領域配列の両方を標的とする。いくつかの実施形態では、bi-shRNAは配列番号2または配列番号3を含む。いくつかの実施形態では、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つ以上の領域にハイブリダイズすることのできるbi-shRNAを本明細書ではbi-shRNAフーリンと呼ぶ。いくつかの実施形態では、bi-shRNAフーリンは、mir-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造を含むか、それらからなる。いくつかの実施形態では、2つのステム-ループ構造の第1のステム-ループ構造は、相補的ガイド鎖とパッセンジャー鎖を含む(図1Aまたは図1B)。いくつかの実施形態では、2つのステム-ループ構造の第2のステム-ループ構造は、パッセンジャー鎖に3つのミスマッチを含む。いくつかの実施形態では、3つのミスマッチはパッセンジャー鎖の9~11位にある。
【0058】
ある実施形態では、吸入可能な組成物は、a.i.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;ii.フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)(ただしこのbi-shRNAには、切断に依存するsiRNAモチーフと、切断とは独立なmiRNAモチーフが組み込まれている)をコードする核酸配列を含む第2のインサートを含む発現ベクターと;b.少なくとも1つの安定化賦形剤を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、発現ベクターの中のGM-CSFはヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、発現ベクターはプロモータをさらに含み、例えばプロモータはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである。いくつかの実施形態では、哺乳類CMVプロモータは、CMV最初期(IE)5'UTRエンハンサ配列とCMV IEイントロンAを含む。さらなる実施形態では、発現ベクターはCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列を含む。
【0060】
発現ベクターの中の第1のインサートと第2のインサートはプロモータに機能可能に連結させることができる。特別な実施形態では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、発現ベクタープラスミドは、配列番号4の配列と少なくとも90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)一致する配列を持つことができる。ベクタープラスミドは、プロモータに機能可能に連結されていてGM-CSF cDNAをコードする第1の核酸インサートと、そのプロモータに機能可能に連結されていてフーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズすることのできる1つ以上の短いヘアピンRNA(shRNA)をコードする第2の核酸インサートを含むことにより、RNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害することができる。
【0062】
配列番号4では、太字下線部はGM-CSF配列であり、この配列のフーリンshRNA部分が波下線にされている。
【0063】
GM-CSFをコードする第1の核酸と、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズできることによりRNA干渉を通じてフーリンの発現を阻害する少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)をコードする第2の核酸を含む発現ベクターを、bi-shRNA フーリンGMCSF発現ベクターと呼ぶ。
【0064】
ある側面では、第2のインサートは配列番号3に従う核酸配列を含む。
【0065】
ある側面では、少なくとも1つの安定化賦形剤はトレハロースである。いくつかの側面では、発現ベクターはプラスミドである。
【0066】
ある側面では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。
【0067】
ある側面では、発現ベクターはプロモータをさらに含む。
【0068】
ある側面では、プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)哺乳類プロモータである。
【0069】
ある側面では、発現ベクターはCMVエンハンサ配列とCMVイントロン配列をさらに含む。
【0070】
ある側面では、第1のインサートと第2のインサートはプロモータに機能可能に連結されている。
【0071】
ある側面では、発現ベクターは、第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間にピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0072】
いくつかの側面では、GM-CSFはヒトGM-CSFである。ある場合には、GM-CSFをコードする第1の核酸はrhGM-CSF(組み換えヒト顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子)cDNAである。ホモ・サピエンスコロニー刺激因子2(CSF2)、mRNAのアクセッション番号はNM_000758であり、配列番号5である。いくつかの側面では、ピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチド配列をコードするヌクレオチド配列は第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間に挟まれている。
【0073】
ある実施形態では、ウイルスによって起こる呼吸器疾患の治療を必要とする個体においてそれを治療する方法が本明細書に開示されており、この方法は、a.顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)配列をコードする核酸配列を含む第1のインサートと;b.それぞれがmiR-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造(第1のステム-ループ構造は完全に相補的なガイド鎖とパッセンジャー鎖を持つのに対し、第2のステム-ループ構造は、パッセンジャー鎖の9~11位に3つの塩基対(bp)ミスマッチを有する)を含む第2のインサートを含む発現ベクターを前記個体に吸入によって投与することを含む。miR-30aループとその配列の記述は本分野で知られており、例えばRao et al., Cancer Gene Ther. 17(11):780-91, 2010;Jay et al., Cancer Gene Ther. 20(12):683-9, 2013;Rao et al., Mol Ther. 24(8):1412-22, 2016;Phadke et al., DNA Cell Biol. 30(9):715-26, 2011;Barve et al., Mol Ther. 23(6):1123-1130, 2015;Rao et al., Methods Mol Biol. 942:259-78, 2013;およびSenzer et al., Mol Ther. 20(3):679-86, 2012を参照されたい。いくつかの実施形態では、miR-30aループはGUGAAGCCACAGAUG(配列番号6)の配列を含む。いくつかの実施形態では、第1のステム-ループ構造の中のガイド鎖は配列番号7の配列を含み、第1のステム-ループ構造の中のパッセンジャー鎖は配列番号8の配列を持つ。いくつかの実施形態では、第2のステム-ループ構造の中のガイド鎖は配列番号7を含み、第2のステム-ループ構造の中のパッセンジャー鎖は配列番号9を持つ。
【0074】
顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(しばしばGM-CSFと略される)は、マクロファージ、T細胞、マスト細胞、内皮細胞、および線維芽細胞によって分泌されるタンパク質である。GM-CSFは、サイトカイン導入遺伝子として組み込まれるとき、自家腫瘍細胞系または確立された同種異系腫瘍細胞系からのがんワクチンペプチド、腫瘍細胞ライセート、または全腫瘍細胞の提示を増強する。GM-CSFは造血前駆細胞の分化を誘導し、それら細胞をワクチン接種部位へと引き付ける。GM-CSFは樹状細胞の成熟と活性化プロセスのためのアジュバントとしても機能する。しかしGM-CSFを媒介とする免疫感作は、腫瘍が産生および/または分泌するトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)の異なるアイソフォームによって抑制される可能性がある。多機能性タンパク質のTGF-βファミリーは周知の免疫抑制活性を有する。既知の3つのTGF-βリガンド(TGF-β1、β2、およびβ3)はヒトのがんに遍在している。TGF-β過剰発現は腫瘍進行および悪い予後と相関している。腫瘍微小環境内の上昇したTGF-βレベルはアネルギー性抗腫瘍応答と結びついている。TGF-βは、GM-CSFが樹状細胞の成熟を誘導することと、樹状細胞がMHCクラスIIと共刺激分子を発現することを阻害する。GM-CSFを媒介とする免疫活性化に対するTGF-βのこのマイナスの効果は、GM-CSFに基づくがん細胞ワクチンの中でTGF-βの分泌を枯渇させることの根拠を支持する。
【0075】
TGF-βの全成熟アイソフォームは、固有の活性のためフーリンを媒介とした限定されたタンパク質分解切断を必要とする。カルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼであるフーリンは、サブチリシン様前駆タンパク質転換酵素ファミリーの1つのメンバーである。フーリンは、TGF-βの機能的活性化と、対応する免疫調節結果で最もよく知られる。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0076】
GM-CSFをコードする第1の核酸と、フーリンをコードするmRNA転写産物の1つの領域にハイブリダイズすることのできる少なくとも1つの二機能性の短いヘアピンRNA(bi-shRNA)をコードする第2の核酸を含む発現ベクターを、bi-shRNAフーリン/GMCSF発現ベクターと呼ぶ。
【0077】
いくつかの実施形態では、第1の核酸と第2の核酸はプロモータに機能可能に連結されている。いくつかの実施形態では、プロモータはサイトメガロウイルス(CMV)プロモータである。いくつかの実施形態では、CMVプロモータは哺乳類CMVプロモータである。いくつかの実施形態では、哺乳類CMVプロモータは、CMV最初期(IE)5'UTRエンハンサ配列とCMV IEイントロンAを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、GM-CSFはヒトGM-CSF配列である。いくつかの実施形態では、ピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドをコードする核酸配列が第1の核酸インサートと第2の核酸インサートの間に挟まれている。
【実施例
【0079】
実施例1:凍結乾燥Vigil(登録商標)プラスミド粒子を生成させるための凍結乾燥手続き
【0080】
抗フーリン治療剤:GM-CSFbi-shRNAフーリンプラスミド(VP)配列番号4。
【0081】
Gradalis, Inc.(テキサス州、アメリカ合衆国)によって構成されたVPは、miR-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造からなる。図1Aまたは1Bに示されているこのbi-shRNAフーリンDNAは、mRNAの切断とP-ボディ(翻訳サイレンシング)および/またはGW-ボディ(貯蔵)への封鎖の両方を誘導するのに単一の標的部位を利用する。この独自のプロセスを利用することにより、コードするbi-shRNAは成熟shRNAを2つ以上のタイプのRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードすることができる。また、単一部位に焦点を当てたbi-shRNAフーリン分子設計により潜在的な毒性効果が低下する。多数の部位を標的にすると「種配列」が誘導される機会が増加してオフ-ターゲット効果につながり、臨床毒性が増加する結果になる可能性がある。DNA連結を通じた合成補完・相互接続オリゴヌクレオチドを用いて2つのステム-ループ二本鎖DNA配列を組み立てた。両端にBam HI部位を持つ構成のこの241塩基対のDNAを、以前に臨床で検証されたTAG と呼ばれるプラスミドのBam HI部位に挿入した。このTAGでは、TGFβ2アンチセンスDNA配列が除去され、bi-shRNAフーリン-GMCSF DNA配列が置かれている。挿入されたDNAの向きは、shRNAの挿入と向きをスクリーニングするために設計された適切なPCRプライマー対によって検証された。以前のTAG臨床治療剤を用いて規定された安全性プロファイルを用い、 FDAガイダンスの下での実験的がん管理試験におけるVPの臨床での進展をサポートした。Vigilは、カセットを駆動する哺乳類プロモータサイトメガロウイルス[CMV]を用いて設計される。
【0082】
(終止コドンを持つ)GM-CSF遺伝子とフーリンbi-shRNAの間には2Aリボソームリボソームスキップペプチドとそれに続くウサギポリ-A尾部がある。そのピコルナウイルス2A配列によってリボソームにその2A配列と下流配列の接合部のペプチド結合の形成をスキップさせることで、1つのオープンリーディングフレームから2つのタンパク質を産生することが可能になる。2AリンカーはTAGワクチンを用いて同様の発現レベルのGM-CSF転写産物と抗TGFβ転写産物を生じさせるのに有効であることが以前に実証されており、このプラスミド設計で発現する治療用エフェクタ成分の製品放出試験においてロバストな活性とともに臨床での利益と安全性が観察されているため、VPに関して同じ設計が維持された。患者におけるbi-shRNAフーリンGM-CSFプラスミドの一過性発現と希釈された発現細胞数がトランスジェニックモデルの連続的毒性効果に近づくとは考え難い。
【0083】
Gradalisは2009年以来このプラスミドの臨床試験をしてきた。Aldevron(ノースダコタ州、アメリカ合衆国)とWaisman(ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)はロット製造に参加してきた。bi-shRNAフーリンDNA配列とGM-CSF DNA配列からなる(図1B;配列番号3)このプラスミドは、がん患者に顕著な利益があるとして、ユーイング肉腫におけるワクチン(Vigil)構成のため(電気穿孔による)自家腫瘍へのトランスフェクションでの使用に関してFDA登録試験が認められている。追加の利益も第I相と第II相の試験における多彩な他のタイプのがん、特に卵巣がんで示唆されている。Vigilプラスミドの現在の活性なロットはWaismanによって2015年に製造された。バイアルごとのプラスミドの濃度は2.2 mg/mlであり、770 μgのプラスミドを提供する。経年安定性試験では、US FDA審査のあらゆる評価尺度をパスした。国内の25の高評価施設を含む最近の二重盲検無作為化対照試験により、OSの利点(HR:0.417、p=0.020)とRFSの利点(HR:0.459、p=0.007;層別コックス比例ハザードモデル)が公開されて明確にされた。
【0084】
図3は凍結乾燥法100を示す。ここでは発現ベクターは溶液105の中にあり、その溶液を迅速に凍結させて凍結乾燥させることができる。凍結乾燥の後、Vigilを含む凍結乾燥粉末は乾燥粉末110になる。乾燥粉末吸入器115が乾燥粉末をエアロゾル化することができる。当業者は、凍結乾燥が、組成物を凍結させた後に水を昇華させる凍結乾燥プロセスであることを認識しているであろう。凍結乾燥プロセスに付随する特別な利点は、水溶液中の生物学的製剤を温度を上げることなく乾燥させ(ることにより不利な熱効果をなくせ)ることと、その後乾燥状態で保管できて、安定性の問題がほとんどないことである。発現ベクターを含有する凍結乾燥ケーキは、本分野で知られている技術を利用して微細化し、1 μm~10 μmのサイズの粒子を提供することができる。
【0085】
実施例2:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症の治療においてVigilプラスミドを使用するための行動に関して提案する方法
【0086】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は中国の武漢の近くで2つの既存のコロナウイルス株(LとS)から自然に進化したと考えられる。起源は人畜共通感染と推定される:SARS-CoV-2のゲノムはコウモリRaTG13コロナウイルスと96.2%相同である。2019年12月31日から2020年4月4日までに世界全体でコロナウイルスが確認されたケースは1,133,373件であることが報告されており、その結果60,375件の死亡があった。元気づけられることに、235,999人の患者は回復が確認されている。SARS-CoV-2は、世界中で5億人が感染して5000万人が死亡するに至ったパンデミックのスペイン風邪よりも潜在的に大きな罹患率および経済的脅威として出現している。SARS CoV-2のウイルス再生数(R0)はスペイン風邪の1.8と比べて2を超える。SARS-CoV-2は感染性ははるかに大きいが、はるかに低い死亡率であり、主に合併症を有する老人に関係している。現在報告されている死亡率は世界中でほぼ2%を維持しているように見える(が、年齢と国による)。しかし分母が変動することを考慮すると、致死率はより低く、例えば検査で確認されている疾患を持つ人の1.4%である可能性がある。1918年のパンデミック以来、インフルエンザはエンデミックになっているが、ワクチンを用いることで感染率は低下し、致死率は顕著に低下して0.1%になった。SARS-CoV-2パンデミック、その感染率、関連死、医療システムの過負荷、およびその帰結としての(疾患、恐れ、および隔離に起因する)金銭的損害が、新たな治療剤のほか、このウイルスや将来における他の新たなパンデミックウイルスのアウトブレイクと戦うための迅速な対応技術を開発する緊急の必要性を浮かび上がらせている。
【0087】
特に、SARS-CoV-2から回復する患者は、ほぼ3週間以内に感染から治癒してウイルス排出が止まる有効な免疫応答の証拠を示している。これは特に重要である。というのもウイルスは一般に持続せず、ウイルス排除を実現できるからである。しかし感染して増殖する肺部位があるため再感染の可能性は未知である。既存の免疫応答を増強してウイルス増殖プロセスを遅延させることにより急性呼吸逼迫症候群(ARDS)のリスクを最小にするよう努めることができる。GM-CSFを発現してフーリン発現を低下させるVigilプラスミドの転用がこの実施例で議論される。このアプローチによりウイルス増殖の多数の工程(ウイルス侵入、タンパク質組み立て、および放出が含まれる)が阻害される一方で、GM-CSFは細胞免疫性の抗ウイルス活性と肺保護活性を提供する。臨床前データと臨床データを再検討して組み合わせアプローチの根拠と証拠を明確にする。
最近のヒトコロナウイルス感染症/エピデミック/パンデミックの簡単な歴史
【0088】
コロナウイルスは、上部気道感染症の患者で1960年に最初に同定された。このウイルスは2002年まで注目されずにいたが、この年に重症急性呼吸器コロナウイルス(SARS-CoV)の患者が1人、中国の広東で同定された。このウイルスは急速に病院の他の患者とスタッフに広がった後、世界の37カ国に広がった。診断された8448人のうちの800人が死亡した。初動の遅れの後に取られた措置により、1918年のパンデミックと比べて伝播の程度と死亡率が限定された。次のコロナウイルスのアウトブレイクは2012年に起こったもので、サウジアラビアで急性肺炎と診断された患者から始まっており、その原因は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)と同定された。2500件のMERS-CoV感染症が24カ国で診断され、そのうちの800人が、2014年に終息するまでに死亡した。その後、ヒトにおける別のアウトブレイクが2015年に韓国で起こり、186のケースと36人の死亡が生じた。
【0089】
SARS-CoV-2はCOVID-19の原因となるウイルスであり、SARS-CoVウイルスおよびMERS-CoVウイルスの両方とは遺伝子が明確に異なる。最初の患者は中国の武漢で診断され、その後このウイルスは局所的に急速に広がった後、地域封じ込めを逃れた。80,000超のケースと3000人の死亡が初期に観察された。拡散を遅延させ、そのことによって全世界での医療従事者と施設への負担を軽減させようとして世界的な旅行制限と社会的隔離措置がそれ以来実施された。しかし中国と韓国では地域封じ込めが報告されているものの世界的な広がりは起こり続け、これまでに十分な裏付けのある有効な治療アプローチは見いだされていない。だが迅速なSARS-CoV-2感染検査と抗体評価診断法の発見によってホットスポット領域の同定が容易になった。これら検査具の継続的な製造によってSARS-CoV-2感染者やSARS-CoV-2から回復した人と、抗体保護がなされている人の迅速な同定が可能になり、社会的隔離措置が容易になるであろう。
SARS-CoV-2罹患率/死亡率ウイルス排出および免疫応答
【0090】
金銀潭医院と武漢市肺科医院での最初の191人の患者の予備的研究から、54/191(28%)が死亡し、137/191(72%)が退院可能であることが明らかになった。最初のこれら191人の患者の分析から、いくつかの因子が死のリスクと有意に相関していることが明らかにされた(年齢が63歳超であること、大きなSOFAスコア(>1)、大きなD二量体(>1 ng/ml)、呼吸数>24 呼吸/分、リンパ球カウント数>.0.6×109/l、上昇したLDH(中央値521 u/l)、および上昇したIL6(中央値11 μg/ml)のほか、併存疾患、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、およびCOPDが含まれる)。死の93パーセントがARDSと関係しており、1人の患者からの生検は肺浮腫の領域を示していて、一方の肺にヒアリン膜形成があり(初期相ARDS)、他方の肺に肺細胞の落剥とヒアリン膜形成がある(後期相ARDS)。調節異常になった自然免疫応答と炎症促進サイトカイン(例えばIL-1、IL-6、およびIFNγ)の増加が肺の病状に寄与している可能性があるというSARS-CoVエピデミックからの示唆的な証拠がある。注目すべきことに、ARDSは、CD19抗原を標的としていてIL-6が迅速に誘導されるキメラ抗原受容体CD-19(CAR-T-CD19)療法でも観察される。SARS-CoV-2感染症で死亡した患者では健康な対照と比べてIL-6がより上昇しているため、IL-6を標的としていてCAR-T療法に関連するARDSを管理するのに用いられるモノクローナル抗体であるトシリズマブは、IL-6が上昇している患者のための治療成分になる可能性がある。
【0091】
南昌大学の第一附属医院の79人の患者から鼻咽頭ぬぐい液が得られ、PCR-RTによってウイルスの動態が順番に評価された。ΔCT法を利用すると、ウイルス量の推定値は、重症のケースでは軽症のケースと比べて60倍有意に大きく、後者の90%は発症後10日目までに陰性となったのに対し、重症のケースはすべて、その期間を超えて陽性であったため、より高いウイルス量と延長された排出時間の両方であることを示している。ミュンヘンの16人の患者でIgMとIgGの免疫蛍光(IFA)を用いると、検出可能な中和抗体(NA)が3日目と6日目の間に検出されることはなかった。NAは2週間後に検出され、臨床経過との相関の示唆は限定される。深セン市第三人民医院(2020年1月11日~2月9日)に収容されてCOVID-19が確認された173(rRT-PCR)のケース(161 のケースが経時的評価あり)に関する最近の研究では、重症が32人(18.5%)と軽症が141人(81.5%)であり、全Abに関する二重抗原サンドイッチELISAを利用してIgMとIgGを経時的評価(ELISA)した人での血清変換率は100%であった(11日目の中央値)。
フーリンに依存する重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)
【0092】
β-コロナウイルス属は、ウイルス性急性呼吸器症候群の原因となる病因媒体である;パンデミックをもたらすサルベコウイルスであるSARS-CoV とSARS-CoV-2、およびメルベコウイルスであるMERS-CoV。SARS-CoV-2はCOVID-19の現在のパンデミックの原因であり、他のコロナウイルス株とは明確に異なる。SARS-CoV-2はSARS-CoVと比べるとウイルス侵入時にS1/S2切断に依存する。受容体結合ドメイン(S1)が、SARS-CoVよりも親和性が10~20倍大きいACE2結合細胞部位に付着した後、S1サブユニットが排出される結果として安定でアクセス可能な融合ドメイン(S2)サブユニットになる。SARS-CoV-2は、SARS-CoVによって利用される免疫原性がより大きなエンドソーム膜融合経路よりも形質膜融合経路を利用する。SARS-CoV-2 HR2領域におけるアミノ酸配列の違いが7残基繰り返し-1(HR1)とHR2の間の結合親和性を増強することによってウイルス膜融合を加速する。S1/S2の境界に独自のフーリン切断部位(RRAR)が存在し、S2サブユニット上の融合ペプチド(FP)部位と内部融合ペプチド(IFP)部位の間にフーリン様S2'部位が位置することで機能が獲得され、ウイルス放出の間に切断が可能になることで、直接的または間接的に複製率、伝播、および疾患重症度の増大に寄与する。タンパク質分解によるS糖タンパク質の切断が、ウイルスが(例えばコウモリから)種を超えられるかどうかを決定できることに注意されたい。RaTG13/2013ウイルスはSARS-CoV-2と構造が似ているが、S1/S2の境界に独自のペプチドPRRA挿入領域を欠いている。さらに、ウガンダコウモリから単離されたMERS様コロナウイルスからのS糖タンパク質はヒト細胞に結合できるが、形質導入の前にトリプシンとともにインキュベートしてS糖タンパク質切断とウイルス侵入を可能にしないとウイルス侵入を媒介することはできない。これらの観察結果は、S糖タンパク質の切断がコロナウイルスの種間伝播の前提条件である可能性があることを示唆している。SARS-CoV-2に関する南開大学(天津、中国)からの最近の刊行物において、ゲノム配列分析から、遺伝子の中の1つの区画で、ヒト細胞膜にウイルス種が融合する活性に必要なウイルスタンパク質を持つHIVおよびエボラと似た切断部位を有するSARS-CoVには存在していない区画が明らかにされたことが報告された。活性化されるには、ウイルスが融合する表面糖タンパク質がフーリンによって切断される必要がある。前述のようにウイルスは表面糖タンパク質を含有しており、その表面糖タンパク質はフーリンまたは他の前駆タンパク質転換酵素(PC)によって切断されると活性化されてウイルス(すなわちトリインフルエンザ、HIV、エボラ、マールブルク、および麻疹ウイルス)の増殖が達成される。ウイルスの侵入に必要な別のPCは膜貫通セリンプロテアーゼTMPRSS2であり、これは細胞へのSARS-CoVの効率的な侵入に寄与することが知られており、SARS-CoV-2がTMPRSS2プライミングも利用することを示すインビトロのデータが生み出されている。しかし生体内フーリン切断をさらに評価することが適切である。というのも、エンドサイトーシスによるSARS-CoVとは異なり融合を媒介としたSARS-CoV-1の細胞侵入、SARS-CoV-2におけるS1/S2の境界の位置の独自のフーリン切断部位(RRAR)とフーリン様S2'部位の存在、および細胞膜侵入融合とSARS-CoV-1 HR1ドメインの違いの組み合わせが、SARS-CoVではほとんど報告されていない、感染した細胞における典型的な合胞体増殖パターンに寄与する可能性があるからである。フーリンの阻害は、フーリン切断ドメインを含有するSARS-CoV-2と他のウイルスにおける有効な治療アプローチである可能性がある。別の免疫療法的介入は、 GM-CSFの肺発現を増大させることであると考えられる。GM-CSFは生体内でマクロファージを活性化のM1状態からM2活性化状態に変え、抗炎症メディエータの発現を増強し、おそらく患者がSARS-CoV-2に対する有効な免疫応答を開始するのにより多くの時間をかけることを可能にする。
【0093】
ウイルスの動態に干渉することに加え、ウイルスエピトープではなくて療法が標的とする宿主プロテアーゼも、ウイルスが標的とする非必須抗原の変異によるワクチン耐性の獲得を減らすことができよう。両方の理由により、フーリンは魅力的な治療標的である。フーリンはよく保存されていて、ゲノムはウイルス複製機能および抗原ドリフトと無関係である。COVID-19の患者におけるNAの低い力価と、ヒト宿主RNAウイルスの抗原ドリフト特性が理由で、SARS-CoV-2に対してワクチン接種がどれほど有効であるかは知られていない。インフルエンザウイルスに対するワクチン接種は急速な抗原進化のため60%の人でしか有効でない。
フーリン
【0094】
フーリンは1986年に最初に記述されており、fur遺伝子の産物である。フーリンはサブスチリン様プロテアーゼドメインを含有するプロタンパク質変換酵素の進化的に保存されたファミリーのメンバーであり、ヒトで同定された最初のプロタンパク質変換酵素(PC)であった。フーリンは脊椎動物と非脊椎動物で遍在的に発現するI型膜貫通タンパク質である。フーリンはゴルジとトランスゴルジ網に局在化していてその場所で多くのタンパク質を切断するとともに、外膜にも位置していてその場所で病原体がフーリンを利用して糖タンパク質を切断する。これは宿主細胞への侵入に不可欠な1つの工程である。フーリンは可溶性の活性な短縮型酵素として分泌される可能性がある。フーリンの触媒ドメインの正確な折り畳みはN末端の83個のアミノ酸からなるプロペプチドの阻害機能に依存する。この阻害性プロペプチドは、酵素活性を得るため、小胞体からトランスゴルジ網へと輸送される間に除去される。細胞外空間に放出されるようにするため、膜局在化がC末端で切断される。フーリンの遍在的な発現と局在化が理由で、フーリンは大量かつ多彩なタンパク質(増殖因子、サイトカイン、ホルモン、接着タンパク質、コラーゲン、膜タンパク質、受容体のほか、他のクラスが含まれる)を処理することができる。フーリン切断は他のタンパク質も不活化させる可能性がある。その切断コンセンサス配列はArg-Xaa-(Lys/Arg)-Arg↓-Xaaである。
【0095】
多くのウイルス病原体(コロナウイルス、フラビウイルス、ニューモウイルス、トリインフルエンザ、インフルエンザA、およびHIVが含まれる)はフーリンを媒介とした膜糖タンパク質切断を利用してウイルスの侵入を容易にしており、いくつかのウイルスに関しては標的宿主細胞から放出される。HIV-1はフーリンを利用してウイルス膜タンパク質(Env)gp160を切断してgp120とgp-41にした後、成熟したビリオンアセンブリになる。逆に、フラビウイルスは、パッケージされたビリオンの形成後にフーリン切断に頼る。SARS-CoV-2は、上に指摘したように、2つの部位、すなわちS1/S2フーリン切断部位(PRRAR↓SV)とフーリン様S2'切断部位(KR↓SF)で切断される。
フーリンタンパク質阻害剤に対するウイルスの応答
【0096】
SARS-CoV-2などのRNAウイルスはプロテアーゼ活性に依存したいくつかの極めて重要な機能を有する。その帰結としてプロテアーゼ活性を変化させることで、SARS-CoV-2における治療機能を多彩な他のRNAウイルスで提供できる可能性がある。フーリンは治療的介入のための特に有望な機会である。以前に記載されているように、フーリンは多数の哺乳類、ウイルス、および細菌の基質を切断して活性化させる。いくつかのペプチド模倣フーリン阻害剤の最適化された臨床前治療性能と、実証された「インビトロ」での高病原性H7N1インフルエンザウイルスの増殖の有意な阻害。
【0097】
RNAウイルスは宿主細胞に侵入できるように機構が進化しているが、宿主の防御機構も進化している。自然免疫応答と適応免疫応答がウイルス抗原を標的とすることが示されている。それに加え、ウイルスの侵入、タンパク質組み立て、および放出にとって極めて重要な標的も、治療価値が大きい。これらは「ウイルス依存因子」である。さまざまな宿主タンパク質(IFI16やSAMHD1など)がRNA ウイルスとDNA ウイルス両方の遺伝子の発現と複製をそれぞれ阻害することが示されている。フーリンは、特にSARS-CoV-2に関し、ウイルス膜融合、タンパク質組み立て、および増殖にとって極めて重要である。
【0098】
多くのフーリン阻害剤が開発され、インビトロと動物モデルで試験されてきた。初期の標的は、活性部位を標的として結合部位を競合的に阻害するペプチド阻害剤とタンパク質阻害剤であった。例として、阻害性フーリン活性を持つ2つのIFNχ誘導性GTPアーゼ、すなわちグアニル酸結合タンパク質2と5(GBP2とGBP5)は、HIV Env前駆体gp160 の切断阻害が実証されており、HIVビリオンの感染性を低下させた。フーリンの発現をプロテアーゼ活性化受容体1(PAR1)で制御すると、HIV において下流フーリン機能とヒトメタニューモウイルスFタンパク質のプロセシングに影響する。関連する神経認知障害も、HIV-1の広がりを阻害している間に起こる可能性のある耐性機構の証拠を提供する。別の一例として、α-1アンチトリプシンPortland(α1-PDX)はPC5K5とフーリンの両方を阻害する。α1-PDXはHIV-1 Envと麻疹ウイルスFのプロセシングを阻害することが示されている。さらに、インフルエンザAウイルスのヘマグルチニンの切断部位に関与するペプチドはフーリン活性が競合する。MMP9の活性化はフーリンの自己阻害性プロペプチドによっても阻害される。これらのデータは、SARS-CoV-2に対するフーリン阻害が関与する治療剤の開発を支持する。
【0099】
興味深いことに、緑膿菌が関係するマウスの角膜損傷は、非D-アルギニン(D9R)と他のフーリン阻害剤によって軽減されることが示されている。非ペプチドフーリン阻害剤は、ナノモルの用量範囲での抗フーリン活性も実証されている。2,5-ジデオキシストレプトアミンは異常なフーリン阻害活性を示し、そのことによってフーリンとの間で別々の機能を持つ2つの分子が関与する複合体が形成される。その2つの分子が、触媒性トライアド構造と、隣接するペプチド鎖への結合に干渉し、フーリン活性を阻害する。
【0100】
フーリン阻害剤に関係する毒性効果が胚モデル以外で観察されたことはなかった。フーリン欠損マウスのある研究によって胚発生の間のフーリンの決定的に重要な役割が実証され、fur遺伝子のノックアウトは腹側閉鎖の失敗と胚反転(embryonic turning)が原因で11日目までに死亡した。したがってフーリン阻害は非妊娠集団に限定されるはずである。肝臓特異的インターフェロン誘導性フーリンノックアウトマウスは胚発生以外で有害な効果を示したことがない。これは、活性が重複している他のプロタンパク質変換酵素がフーリン欠損を補償している可能性があることを意味する。宿主の酵素であるフーリンを標的にすると、以前に記載されているようにフーリンのゲノムは高度に保存されていて安定なゲノム構造を維持しているためウイルス抗原ドリフトに起因する耐性の出現も回避される一方で、SARS-CoV-2標的部位はウイルスの寿命とパンデミックの期間を通じて変異による変化を受ける。フーリン阻害剤は、以前に言及されているようにRNAレベルでのノックダウンによっても機能する[すなわちレグナーゼ-1(ZC3H12A)、ロキン(RC3H1)]。しかしレグナーゼ-1とロキンの変化に伴う1つの懸念は、両方の薬剤がオフターゲット効果をもたらす可能性が非常に大きいことである。なぜならこれらの製品は両方ともオフターゲットmRNAを分解するからである。概説したこれらの結果と安全性プロファイルは、パンデミックにおいてと、おそらくはテロリストに対する政府の防御「道具箱」においてさえ、フーリン阻害剤の潜在的な役割をサポートする。
GM-CSFの抗ウイルス活性
【0101】
SARS-CoV-2と同様、肺胞上皮細胞はインフルエンザウイルス(IV)の第1の標的であり、侵入の第1の部位であり、ウイルスの増殖と複製を支援する。炎症促進免疫応答が迅速に開始されてウイルス細胞変性効果に向かい、肺胞上皮細胞(AEC)アポトーシスへとつながる。しかし感染が持続し、ウイルスの増殖が続いて炎症応答が増強されるに至るときには、毛細血管と肺胞での漏出が起こり、その後重度の低酸素血症になり、最終的に入院管理、酸素支援、そしてしばしば換気補助を必要とするARDSになる。免疫エフェクタ細胞による肺からのウイルス病原体の排除と、上皮修復プロセスの開始(上皮層の再接合を開始するための局所的な上皮前駆細胞の増殖が含まれる)が、IVによって誘導される肺損傷における医学的な回復と、入院、酸素、および換気補助の阻止にとって極めて重要である。SARS-CoV-2感染症に関係する死亡の大半は入院と換気補助につながるARDSと関係しており、われわれの医療能力が試されている。しかし気道と肺胞細胞に対する損傷を制限してARDSを阻止するには、ウイルスに対する炎症性免疫応答が、ウイルスの排除と免疫を媒介とした肺損傷の毒性効果の間でバランスが取れている必要がある。単核エフェクタ細胞(マクロファージ、樹状細胞、CD8+、好中球、およびリンパ球)が、IV排除と、IVに対する「バランスの取れた」免疫応答において負荷の多くを担っている。IVで実証されている同様の活性がSARS-CoV-2の排除にとって重要である。GM-CSFは、単球、顆粒球、マクロファージの増殖、分化、および免疫活性化を促進することが示されている。肺の中のGM-CSFは主にAEC II型細胞によって発現され、肺環境の保護、AECの生存と機能において最初に応答するサイトカインであり、IV感染の排除におけるプラスの予後因子である。肺分泌物の中で発現しているGM-CSFは気管支洗浄サンプル中の初期応答と耐性の印として使用できる可能性があり、そのことによってO2支援を含む医学的必要性に影響する。他のタイプの細胞はGM-CSFを産生するが、AECはIVに感染すると遠位肺柔組織においてGM-CSFを上方調節し、次いで肺胞周辺分泌物の中に高レベルのGM-CSFを生じさせることが示されている。IV感染症の治癒に伴うAEC GM-CSF分泌は、HGF/c-Met シグナル伝達とTGF-α/EGFRシグナル伝達によってさらに媒介されるように見える。
【0102】
がんとウイルス感染に対する免疫応答活性化とGM-CSFの関係はよく記述されている。GM-CSFは、肺胞マクロファージの分化、増殖、および活性化も調節する。インビトロでの研究は、GM-CSFが肺胞II型上皮細胞の急速な増殖を引き起こし、そのことによって急性炎症の初期段階で気道上皮の修復と障壁保護に寄与することを示している。肺胞II型上皮細胞からのGM-CSF発現が界面活性剤のホメオスタシスを容易にし、ウイルスによって誘導される病状からの保護をさらに増強することも知られている。GM-CSFは肺胞マクロファージの抗ウイルス応答も増強する。実際、上昇したレベルのGM-CSFは二相性のM1-M2応答パターンを誘導する可能性がある。多数の研究が、GM-CSFとI型インターフェロンが合わさって作用してマクロファージの極性化を変化させてM1状態の活性化に向かわせることを示しているが、最近の生体内研究は逆のことを結論している。GM-CSFはスカベンジャー受容体SR-AとMARCOの発現を通じてウイルスの排除を増強する。これら2つの受容体は、受容体TLR-3、TLR-9、NOD-2、およびNALP-3の活性化を通じてウイルス排除を助ける。GM-CSFは粘膜免疫応答とDNAワクチンの有効性を増強する。組み換えヒトGM-CSFが肺に送達され、IV感染に対する耐性を与えている。IVに曝露されてヒトGM-CSFを連続的に発現したトランスジェニックマウスは開始することができ、そして有効な抗ウイルス応答の結果、ヒト肺胞マクロファージの数が増加した。GM-CSF遺伝子導入マウスモデルにおいてIVウイルス感染による死亡が阻止された後、GM-CSFの過剰発現が見られた。IV-A肺炎に対するGM-CSFの保護効果が、GM-/-とGM +/+肺特異的プロモータ(SFTPC、SCGB1A1)をそれぞれ持つ肺胞II型上皮細胞トランスジェニックマウスの中の構成性と誘導性のGM-CSF発現モデルのマウスで見られた。このモデルは、SP-R210とCD11cを発現する単核細胞の発現増加によって示されるように、GM-CSFによる肺胞細胞活性の増強を示すことができた。GM-CSFによって調節される2つの受容体であるSR-AとMARCOを欠くマウスでは、MARCOは肺胞マクロファージの表面でSP-R210の発現の増加を示し、IVに対する耐性は低下することが示された。しかし連続的SP-C-GM+/+トランスジェニックマウスはIVによる初期の死亡に抵抗したものの、長期にわたる連続的な高GM-CSF曝露に対しては懸念が生じた。肺組織切片の後期評価から、29日目に進行性の剥離性間質性肺炎の組織学的特徴が明らかになった。肺胞構造と、剥離細胞を含有する大きな空間の変性は、高GM-CSFに曝露されたマウスの肺を特徴づけていた。この結果は、過度に高レベルのGM-CSFが適切な組織治癒を損ない、その結果としてIV肺炎に続いて間質性肺疾患が生じることを示しているため、初期の大型動物評価と、患者の安全性第I相モニタリングのガイダンスを提供する。しかし結果は、条件的にGM-CSFを発現するマウスが元気でIV感染に対して長期生存するという利点を持ち、治療なしの対照よりも有意に優れていることを支持する。トランスジェニック送達または肺送達を通じたGM-CSFの発現は、感染症から生き延びられなかった野生型マウスと比べてインフルエンザウイルスから生き延びるという利点を与える。肺胞食細胞が欠損していたとき、保護効果も減少した。これは、これらの細胞が自然免疫応答の誘導に必要であることを示唆している。
【0103】
記載したように、SARS-CoV-2の感染が進行してウイルス性肺炎とARDSを急速に誘導し、致命的な結果になる可能性がある。AECは肺抗ウイルス宿主応答の調整に極めて重要な役割を果たす。しかしIVとSARS-CoV-2の初期感染では、AECがGM-CSFを放出する。GM-CSFが肺胞細胞の免疫機能を向上させることで上皮修復プロセスの改善につながる。IV感染中、AEC由来のGMCSFは肺保護機構も増強する。同様の結果が、局所的rhGM-CSF適用で見られる。GM-CSFの発現増加を伴う免疫機能と肺胞保護のこの初期使用および/または増強は、臨床応答を圧倒的に利するように見える。しかし後期の炎症性肺応答におけるGM-CSF発現はそれほどよく特徴づけられていない。しかし組み換えGM-CSF(リューカイン、Bayer HealthCare Pharmaceuticals、ワシントン州、アメリカ合衆国)と、ロイシン(125 μg/回)を投与するためのAeroneb Solo噴霧器の使用は、感染性肺炎に関係するARDS の6人の患者のうちの4人(H1N1ウイルスの2人が含まれる)において有意な臨床上の利益を示した。免疫機能増強は、肺免疫応答の分析において、治療なしのARDS患者と比べてロイシンで治療した患者でも示され、臨床前の証拠(インビトロと動物モデル)と同様であった。GM-CSFで治療した患者は、増加した肺胞CD80+細胞とCD206減少によって評価したとき、肺胞細胞保護、ウイルス感染と他の感染の排除に向かう増強された肺胞細胞活性、およびM1応答へのシフトを示した。これらの結果は、ウイルス感染に対する肺での炎症応答の後期においてさえ、GM-CSF発現の増強に利益がある可能性があることを支持しているため、療法が後期段階のARDS患者にとって利益となることを示唆する。自己免疫性肺胞蛋白症の19人の患者における吸入療法によるGM-CSF の安全な投与も利益を示すことが実証された。気管支肺胞洗浄液の中の上昇したIL-17はGM-CSFによって誘導されたサイトカインであることが示されたため、利益と関連するバイオマーカーとして機能する可能性がある。
【0104】
GM-CSF欠損マウスにおけるIV感染と応答の悪化は、マクロファージによるIV排除の失敗に起因することが見いだされている。侵入した病原体の肺胞マクロファージによるFcγ受容体(FcγR)を媒介としたオプソニン食作用はGM-CSFに関係することが実証されている。T細胞が産生するインターフェロンγ(IFN γ)も肺胞マクロファージFcγR発現を生じさせ、それが今度はIFN γと他のサイトカイン(IL-18やIL-12など)の産生を刺激する。これは、自然免疫と適応免疫の両方が関与することを支持する。トランスジェニックマウスにおける上昇した肺胞GM-CSFレベルもIV感染に関係する肺胞細胞の耐性を改善する。GM-CSFはCD8+ Tリンパ球の重要な刺激因子であることも示されており、リンパ組織におけるDCプライミングを活性化する役割をさらに増強し、そのことによってCD8+ T細胞増殖のさらなる刺激において正のフィードバックを提供する。GM-CSFはCD8+ T細胞免疫の誘導に決定的に重要であることが示されているGM-CSFはB細胞成熟とIV特異的抗体の産生を促進することも示されている。IV肺炎の間は、広範な追加生体内データが、肺障壁保護因子およびプラスの免疫応答因子としてのGM-CSFの役割を支持する。AECによって発現されたGM-CSFは、損傷した上皮に直接利益をもたらすとともに、低酸素肺損傷の設定において障壁機能の修復、毛細血管漏出の減少、および組織のホメオスタシスへの復帰を通じた上皮増殖の増強にとって重要である。
【0105】
フーリンを標的とすることとGM-CSFの発現を増加させることに関して上に論じたデータは、SARS-CoV-2感染症を標的とするさらなる研究を正当化する。フーリンを標的とする二機能性shRNAと、プラスミド送達ビヒクルの中へのGM-CSF DNA配列の組み込みが組み合わされたVigil(pbi-shRNAフーリン-GM-CSF)は、臨床試験における最も進んだ抗フーリン技術であると記述されている。Vigilは自家腫瘍細胞ワクチンであり、下流タンパク質TGFβ1/2の発現低下に見られるようにフーリン発現をノックダウンするとともにGM-CSFを発現するという二重機能を持つ。Vigilは、いくつかのがん集団、特にユーイング肉腫と卵巣がんにおいて臨床での成功が実証されている。Vigilは実証された安全性プロファイルを持ち、233人のがん患者における1406回の投与の後にグレード3の製品関連毒性効果の証拠はない。COVID-19でのVigilの潜在的な有効性と使用は、指定された標的疾患から二次的な代わりの標的疾患へという薬の合理的な用途変更の一例である。このようなアプローチは、現在のCOVID-19パンデミックを考えると特に急を要する臨床開発プロセスを加速できる可能性がある。
抗フーリン治療剤:GM-CSFbi-shRNAフーリンプラスミド(VP)
【0106】
Gradalis, Inc.(テキサス州、アメリカ合衆国)によって構成されたVPは、miR-30a骨格を持つ2つのステム-ループ構造からなる。図1Aまたは1Bに示されているこのbi-shRNAフーリンDNAは、mRNAの切断とP-ボディ(翻訳サイレンシング)および/またはGW-ボディ(貯蔵)への封鎖の両方を誘導するのに単一の標的部位を利用する。この独自のプロセスを利用することにより、コードするbi-shRNAは成熟shRNAを2つ以上のタイプのRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードすることができる。また、単一部位に焦点を当てたbi-shRNAフーリン分子設計により潜在的な毒性効果が低下する。多数の部位を標的とすると「種配列」が誘導される機会が増加してオフ-ターゲット効果につながり、臨床毒性が増加する結果になる可能性がある。DNA連結を通じた合成補完・相互接続オリゴヌクレオチドを用いて2つのステム-ループ二本鎖DNA配列を組み立てた。両端にBam HI部位を持つ構成のこの241塩基対のDNAを、以前に臨床で検証されたTAG と呼ばれるプラスミドのBam HI部位に挿入した。このTAGでは、TGFβ2アンチセンスDNA配列が除去され、bi-shRNAフーリン-GMCSF DNA配列が置かれている。挿入されたDNAの向きは、shRNAの挿入と向きをスクリーニングするために設計された適切なPCRプライマー対によって検証された。以前のTAG臨床治療剤を用いて規定された安全性プロファイルを用い、 FDAガイダンスの下での実験的がん管理試験におけるVPの臨床での進展をサポートした。Vigilは、カセットを駆動する哺乳類プロモータサイトメガロウイルス[CMV]を用いて設計される。(終止コドンを持つ)GM-CSF遺伝子とフーリンbi-shRNAの間には2Aリボソームリボソームスキップペプチドとそれに続くウサギポリA尾部がある。そのピコルナウイルス2A配列によってリボソームにその2A配列と下流配列の接合部のペプチド結合の形成をスキップさせることで、1つのオープンリーディングフレームから2つのタンパク質を産生することが可能になる。2AリンカーはTAGワクチンを用いて同様の発現レベルのGM-CSF転写産物と抗TGFβ転写産物を生じさせるのに有効であることが以前に実証されており、このプラスミド設計で発現する治療用エフェクタ成分の製品放出試験においてロバストな活性とともに臨床での利益と安全性が観察されているため、VPに関して同じ設計が維持された。患者におけるbi-shRNAフーリンGM-CSFプラスミドの一過性発現と希釈された発現細胞数がトランスジェニックモデルの連続的毒性効果に近づくとは考え難い。
【0107】
Gradalisは2009年以来このプラスミドの臨床試験をしてきた。Aldevron(ノースダコタ州、アメリカ合衆国)とWaisman(ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)はロット製造に参加してきた。bi-shRNAフーリンDNA配列とGM-CSF DNA配列からなる(図2)このプラスミドは、がん患者に顕著な利益があるとして、ユーイング肉腫におけるワクチン(Vigil)構成のため(電気穿孔による)自家腫瘍へのトランスフェクションでの使用に関してFDA登録試験が認められている。追加の利益も第I相と第II相の試験における多彩な他のタイプのがん、特に卵巣がんで示唆されている。Vigilプラスミドの現在の活性なロットはWaismanによって2015年に製造された。バイアルごとのプラスミドの濃度は2.2 mg/mlであり、770 μgのプラスミドを提供する。経年安定性試験では、US FDA審査のあらゆる評価尺度をパスした。国内の25の高評価施設を含む最近の二重盲検無作為化対照試験により、OSの利点(HR:0.417、p=0.020)とRFSの利点(HR:0.459、p=0.007;層別コックス比例ハザードモデル)が公開されて明確にされた。
ウイルス性肺炎のためのエアロゾル化治療剤
【0108】
ウイルス性肺炎は、特に老齢であるか免疫力が低下した患者において、悲惨な医学的帰結と関係する可能性がある。エアロゾル化された系を通じた肺送達は簡単で、非発現性、非侵襲性であるため、治療剤を無痛で届けることと、起こりうる全身性副作用を最少にすることができる。エアロゾルは1~5 μmの範囲のサイズを持つプラスミドDNA液滴を送達することが示されているため、気管支と肺胞の上皮細胞に分散させることができる。こうすることでpDNAの侵入が可能になり、その後の遺伝子発現が最大になる。適切なサイズと安定性という特徴を持つエアロゾル化されたpDNA を生成させるためのSAW液体噴霧装置を使用すると特にIVワクチン接種のための有効な肺送達が容易になることが実証されている。生体内研究により、小動物と大動物の両方でpDNAの送達がうまくいくことが示されている。プラスミドワクチンの送達に利用されるSAW噴霧化により保護性抗ヘマグルチニン(HA)抗体が発現することが実証された。検出された抗HA抗体力価は、噴霧器を使用しない他の同様のpDNAインフルエンザワクチンのワクチン接種の結果と同等であった。これらの結果は、肺への分布を通じた有効な送達のために裸のpDNAを使用することを支持するとともに、製品の安定性と機能も実証している。ラットにおけるpDNAワクチン接種の後、より大きな血清ヘマグルチン化阻害(HAI)力価が明らかになり、それはWHOの基準に従うと保護的であると同定された。しかしこの時点では、SAW噴霧器のアプローチはパンデミックイベントで使用するためのスケールアップ能力が実証されていなかった。
【0109】
しかしエアロゾル化されたリバビリンは、大容積で十分なエアロゾル化送達力と、病的状態の患者での使用を含む臨床上の利益が実証されている。リバビリンは子供の重いRSV感染症が適応の療法である。18時間にわたる60 mgのリバビリン/ml という従来の連続的治療が有効であることが見いだされた。エアロゾル化されたリバビリン(20 mg/mlを2時間かけて1日に3回投与)も、RSVに感染したがん患者で有効であった。免疫が抑制されたRSF感染症の子供における同じスケジュールでの断続的な高用量(60 mg/ml)のリバビリン吸入法もよく忍容された。さらに、結果は、標準治療と比べて同様の改善された臨床応答を示した。医療従事者への有害な曝露もより少なかった。パラインフルエンザウイルスは重病患者(すなわち心臓-肺移植、同種移植片拒絶、閉塞性細気管支炎における潜在的に重い合併症と関係する。この集団で吸入されたリバビリンは臨床での改善と関係していた。エアロゾル化されたリバビリン(60 mg/ml)は、マウスのIV-AとBの感染に対しても有効であった。最近、エアロゾル化されたリバビリン(100 mg/ml)が致死的IV-A H3N2ウイルスに感染したマウスで有効であることが示され、感染後の初期(24~48時間以内)に与えられると0%超の生存率になった。エアロゾル化されたリバビリン治療がメタニューモウイルス肺炎に適用されて成功している。さらに、肺向性ヒトアデノウイルスの治療において、エアロゾル化されたリバビリンは静脈内リバビリンよりも優れていることが実証された。それは、静脈内リバビリン療法と比べてエアロゾル化された製品では肺胞内でよりロバストな薬濃度が実現することと関係している可能性が大きい。それに加え、エアロゾル化送達は細胞毒性効果に至らないように見えた。S-FLU免疫化は、保存されたウイルス抗原に、細胞を媒介とした広範な免疫応答を提供する。データから、よく合致したpdmH1N1ウイルス株を用いたエアロゾル化されたチャレンジの後、S-FLUを発現するH1 HA(H1 S-FLU)DNAを用いた免疫化によって肺におけるウイルス量が低下することが明らかである。ウイルス量の低下は、静脈内S-FLUと比べてエアロゾル化投与を利用すると最適になることが示された。しかしウイルスを中和するAbはS-FLUで免疫化したブタでは観察されず、H1におけるウイルス量の減少は、気管支肺胞洗浄液中にIFNgを産生するCD8またはCD4/CD8二重陽性細胞の存在と群相関しているは、十分な製品送達を示唆する。これらのデータは、S-FLU DNAをエアロゾルによって大型動物に効果的に送達できるという原理の証明を提供しており、患者を免疫化する方法として噴霧装置を使用できることを支持する。エアロゾル化送達は脂質-DNA複合体を用いてさらに最適化することができる。ヒトでの麻疹ワクチンのエアロゾル化送達、および/またはエキソソーム/ウイルス送達がうまくいくことも別の人によって示されている。
【0110】
このアプローチにとっての課題は、いかにしてプラスミドDNAをプラスミドの損失または損傷なしに肺の中に導入するかである。プラスミドDNAは非常に剪断されやすいため、剪断力の小さい方法が、超螺旋状DNAの有効な送達に必要とされる。噴霧器と乾燥粉末吸入器の両方とも小さな剪断力を利用している。しかし噴霧器はエアロゾル液滴を利用して粒子を肺に送達しており、DNAは適切に保管されないと分解するためプラスミドDNAを送達する有効な方法でない可能性がある。それに加え、噴霧器は、溶解度が理由で送達できる製品の濃度が制限される。乾燥粉末吸入器は溶解度の制限がなく、プラスミドDNAを溶液中に保管する必要はないと考えられる。この方法も剪断応力と熱分解を減少させ、その結果として高濃度の高品質プラスミドが肺に直接送達される。
結論
【0111】
細胞内ウイルスプロセシング、分子生物学、ウイルスの動態、宿主免疫機構、および免疫動態の知識が蓄積することで、肺機能の保護、ARDSの遅延または阻止、抗ウイルス耐性の増強、および予防的措置の実施のためのツールと方法を開発することが可能になろう。フーリンの独自の役割と、SARS-CoV-2感染症を生き延びた全患者におけるロバストなウイルス排除の実証が、Vigilを用途変更してCOVID-19の患者の治療に用いることの根拠と裏付けを提供する。Vigilを用いたフーリンのノックダウンはウイルス増殖の多くの工程(ウイルス侵入、タンパク質組み立て、および放出が含まれる)を標的とすると考えられる。GM-CSFの発現は治療上の利益をさらに提供し、免疫応答とAEC保護を増強すると考えられる。データは現状では限られているが血清転換とウイルス排除の間に明らかな相関はないことを示しており、COVID-19への多機能性治療アプローチ、言い換えるとウイルス侵入にとって極めて重要なプロテアーゼの阻害と、免疫応答モジュレータを用いた細胞から細胞への伝播の組み合わせに対する追加の支持を与える。Vigilは製品安全性プロファイルが知られていてすでにFDAによる特徴づけに関与している。SARS-CoV-2に対するインビトロでの活性評価と大動物での安全性を含むさらなる試験が必要となろう。
【0112】
実施例3:がんからSARS-CoV-2までのための二重bi-shRNAフーリン-GMCSFコンストラクトであるVigilプラスミド(VP)
【0113】
SARS-CoV-2のゲノムから、S1/S2接合部における独自のフーリン切断部位の変化と、ヒト宿主細胞への膜融合経路での出入りを促進するフーリン様S2'切断部位が明らかになる。自家腫瘍ワクチン(Vigil)で使用されるVPの臨床試験から、90%超のTGFβノックダウン、下流のフーリンプロテアーゼ産物、GMCSFの上昇、および固形腫瘍患者における安全性と利益が実証される。
【0114】
GFPと混合した凍結乾燥(Lyo)VPをw/vトレハロースで安定化させ、肺深部に侵入させるため5ミクロン以下の粒径にした。有意なGFP発現が実証され(Nexcelom Cellometer)、制限酵素マッピングにより分子構造が確認された。FDAが規定したがん臨床産物放出アッセイの性能に関して認証されたCCL247細胞系とRDES細胞系におけるGMCSFとTGFβの発現(Protein Simple ELLAサイトカイン産生)を実施した。機能を、電気穿孔(BioRad)と、脂質に基づく試薬[リポフェクタミン(Lipo)3000]の両方について求めた。
【0115】
電気穿孔(Zap)ありとなしの非Lyo VPとLyo VPのトランスフェクション効率とサイトカイン発現が表2に示されている。
【表2】
【0116】
実施例4:bi-shRNAフーリン-GMCSF Vigilプラスミド(VP)の抗ウイルス活性の測定
【0117】
細胞培養、トランスフェクション、およびウイルス感染:Vero E6細胞はAmerican Type Culture Collection(マナサス、ヴァージニア州、アメリカ合衆国)から購入した。SK-N-SH細胞は親切にもRichard Wozniak博士(アルバータ大学、カナダ国)から提供された。SK-N-SH細胞とVero E6細胞は、5%CO2雰囲気において、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS;Gibco;ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)、100 U/mLのペニシリンとストレプトマイシン、4.5 g/lのD-グルコース、2 mMのグルタミン、110 mg/lのピルビン酸ナトリウムを補足したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM;Gibco;ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)の中で37℃にて培養した。SARS-CoV-2の流行中の単離体72B/CA/CALG D614Gを使用した。ウイルスの取り扱いはバイオセーフティCL-3封じ込め手続きの下で実施した。下記の詳細な実験プロトコルに記載されているようにしてリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてSK-N-SH細胞にプラスミド(UMVCプラスミドとVigilプラスミド)をトランスフェクトした。UMVCプラスミドはAldevronから購入した。UMVCプラスミドについては、市販のUMVCベクターから出発し、GM-CSF、2aリンカー、およびTGFB2アンチセンスにクローニングしてTAGを作製した。
【0118】
トランスフェクションしてから24時間後の時点で細胞にSARS-CoV2/72B/CA/CALG D614GをMOI=0.1で24時間と48時間かけて感染させた。ウイルスを含有する上清を各時点で回収し、濾過し、アリコートに分け、-80℃に維持した。プラークアッセイを利用してウイルス力価を求めた。細胞をPBSで2回洗浄し、NucleoSpin RNAキット(Machery-Nagel)に提供されているRA1バッファに溶解させた。次いで全RNAを製造者のプロトコルに従って単離した。1日ごとのプロトコルを下に示す:
【0119】
0日目:SK-N-SH細胞を6ウエルのプレートに播種する(400,000個の細胞/ウエル、トランスフェクションの時点で約70~80%の細胞集密度であった)(0日目)。
【0120】
1日目:翌朝、3 μLのリポフェクタミン2000(Invitrogen)試薬を100 μLのOpti-MEM培地に希釈し、3 μgのDNAを100 μLのOpti-MEM培地に希釈し、希釈したDNAを希釈したリポフェクタミン2000試薬に(1:1の比で)添加することにより、リポフェクタミン2000を含む200 μLのOpti-MEM(Gibco)を用いてプラスミドUMVCとVPをトランスフェクトする。15分間インキュベートした後、DNA-脂質複合体を細胞に添加する。DNAトランスフェクションもUMVCプラスミドも陰性対照として使用しなかった。
【0121】
2日目:トランスフェクションの24時間後、SARS-CoV2/72B/CA/CALG D614GをMOI=0.1で1時間にわたって感染させ、ウイルスを除去し、PBSで2回洗浄し、新鮮な培地と交換する。24時間と48時間にわたって感染させる。
【0122】
3日目と4日目:感染してから24時間後と48時間後の時点で、ウイルスを含有する上清から細胞と細胞片を除去し、濾過し、アリコートに分け、-80℃に保持した。プラークアッセイを利用してウイルス力価を求めた。細胞をPBSで2回洗浄し、NucleoSpin RNAキット(Machery-Nagel)に提供されているRA1バッファに溶解させた。次いで全RNAを製造者のプロトコルに従って単離した。
【0123】
定量リアルタイムPCR(qRT-PCR):RNAを分析するため、NucleoSpin RNAキット(Machery Nagel;ベスレヘム、ペンシルヴェニア州、アメリカ合衆国)を製造者のプロトコルに従って用いて SK-N-SH細胞から全RNAを抽出した。ランダムプライマー(Invitrogen;カールスバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)とImprom-II逆転写酵素系(Promega;マディソン、ウィスコンシン州)を製造者のプロトコルに従って用い、0.5~1 μgの全RNAを42℃で1.5時間にわたって逆転写した。得られたcDNAを適切なプライマー(Integrated DNA Technologies;コラルヴィル、アイオワ州)およびPerfeCTa SYBR Green SuperMix Low 6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)(Quanta Biosciences;ビヴァリー、マサチューセッツ州)と混合した後、CFX96 Touch(商標)リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)の中で40サイクル(94℃で30秒間、55℃で40秒間、そして68℃で20秒間)にわたって増幅させた。内部対照としてヒトβ-アクチンメッセンジャーRNA転写産物を用い、2(-ΔΔCT)法を利用して遺伝子の発現(倍数変化)を計算した。以下の順方向プライマーと逆方向プライマーのペアをPCRで使用した:β-アクチン5'-CACCATTGGCAATGAGCGGTTC-3' (配列番号10)と5'-AGGTCTTTGCGGATGTCCACGT-3'(配列番号11)、SARS-CoV-2スパイク5'-CCTACTAAATTAAATGATCTCTGCTTTACT-3'(配列番号12)と5'-CAAGCTATAACGCAGCCTGTA-3'(配列番号13)、フーリン5’-GCCACATGACTACTCCGCAGAT-3'(配列番号14)と5'-TACGAGGGTGAACTTGGTCAGC-3'(配列番号15)。
【0124】
プラークアッセイ:
a.Vero E6細胞を24ウエルのプレートに1.0×105個の細胞/ウエルで播種し、37℃で一晩インキュベートした。各希釈液を二連で試験するため十分なウエルに播種する(10-1 から出発して10-6まで;10倍希釈)。
b.滴定するサンプルを96ウエルのプレートの中のDMEM培地に希釈する。一連の10倍希釈液を作製し、24ウエルのプレートの中のウエル1つ当たり100 μLを添加するのに十分な体積を用意する。
c.存在している細胞培地を24ウエルのプレートから除去し、ウエル1つ当たり100 μLの培地を添加する。100 μLの各希釈液を24ウエルのプレートの1つのウエルに添加する。
d.細胞が乾燥してしまうのを阻止するため15分ごとに揺すりながら、24ウエルのプレートを5%CO2の中で37℃にて1時間インキュベートする。
e.その間、溶液の粘性を低下させるためプレートをインキュベートし続けている状態で、1×MEM+2%FBS を0.75%メチルセルロースプラーク培地とともに37℃のインキュベータに入れる。
f.1時間インキュベートした後、ウイルスを除去し、1 mLのプラーク培地を24ウエルのプレートの各ウエルに添加する。プレートを5%CO2の中で37℃にて3日間インキュベートする。
g.3日目、メチルセルロースオーバーレイをそっと取り除き、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)を含む1 mL のPBSを各ウエルに添加することによって細胞を固定する。室温で30分間インキュベートする。
h.4%のPFAを適切な有害廃棄物容器に移す。ウエルをdH2Oで洗浄した後、0.05%(w/v)のクリスタルバイオレットを含む20%メタノールを1 mL 、各ウエルに添加する。30分間インキュベートする。クリスタルバイオレットをピペットで除去し、過剰なクリスタルバイオレットが除去されるまでdH2Oで洗浄すると、プラークが容易に可視化される。
i.5~30個のプラークが存在する希釈度でプラークをカウントする。力価(単位はPFU/mL)を以下の式を用いて計算する:力価(PFU/mL)=カウントされたプラークの数×10^カウントされた希釈×10(希釈したサンプルを100 μL添加したためmLになる)。
【0125】
図4A~4Cは、フーリンのノックダウンによって流行中の72B/CA/CALG株(0.1 MOI)w/SK-N-SH細胞を用いた SARS-COV-2ウイルスのRNAが減少することを示す、N=3。
【0126】
実施例5:凍結乾燥されたプラスミド
【0127】
凍結乾燥プラスミドの抗ウイルス効果も調べた。図5A~5Dに示されているように、薄膜凍結(TFF)からの凍結乾燥プラスミドは凍結/解凍Vigilプラスミドと同様の性能であった。これは、凍結乾燥プラスミドが抗ウイルス効果を持つことと、プラスミドが変性せず安定なままであることを実証していた。
【0128】
図5A~Bは、フーリンのノックダウンによってSARS-COV2ウイルスの力価が低下することを示す。それに加え図5Cは、フーリンのノックダウンによってSARS-COV2の複製が減少することを示す。図5Dは、TFF DNA によるフーリンノックダウン効率を示す。
【0129】
本開示の好ましい実施形態を本明細書に示して記述してきたが、当業者には、そのような実施形態が単なる例示として提供されていることが明らかであろう。今や当業者は、本開示から逸脱することなく多数のバリエーション、変化、および置換を想起することであろう。本開示を実施するにあたって本明細書に記載されている本開示の実施形態に対するさまざまな代替例を利用できることを理解すべきである。以下の請求項が本開示の範囲を規定していることと、これら請求項およびその等価物の範囲内の方法と構造がそれら請求項によってカバーされることが想定されている。
図1A
図1B
図2
図3
図4A-B】
図4C
図5A-B】
図5C-D】
【配列表】
2023527791000001.app
【国際調査報告】