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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】微粒子抗菌ハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20230623BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230623BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230623BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 37/025 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20230623BHJP
   B01J 23/50 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 Z
A01N25/12
B01J37/025
B01J37/12
B01J37/02 301N
B01J37/03 A
B01J37/02 301P
B01J23/50 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572490
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2021064115
(87)【国際公開番号】W WO2021239845
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20176476.8
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20189686.7
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20195711.5
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522457737
【氏名又は名称】エージーエックスエックス インテレクチュアル プロパティー ホールディング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランダオ、ウヴェ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー、カルステン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァグナー、オラフ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H011
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA02A
4G169BA07A
4G169BA08A
4G169BA13A
4G169BA14A
4G169BA17
4G169BA22A
4G169BA29A
4G169BA37
4G169BA38
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB05A
4G169BB08A
4G169BB09A
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC43A
4G169BC54A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC74A
4G169BE01A
4G169BE07A
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA03Y
4G169EA04X
4G169EA04Y
4G169EA09
4G169EA10
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC28
4G169EE06
4G169FB02
4G169FB03
4G169FB08
4G169FB11
4G169FB24
4G169FB39
4H011AA02
4H011AA03
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB18
4H011BC18
4H011BC19
4H011BC20
4H011DA02
4H011DF04
4H011DH01
4H011DH06
4H011DH10
(57)【要約】
本発明は、特に、抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を生じさせるための材料、物質及び/又はコーティング材料に関する添加剤として提供され、それぞれが少なくとも2つの異なる金属で少なくとも部分的にコーティングされた少なくとも1つの担体材料を含む粒子を含む、ハイブリッド材料に関し、少なくとも1つの第1の金属及び1つの第2の金属は、少なくともそれぞれの表面により互いに導電性接触している。本発明によれば、第1の金属は、複数の酸化状態を示し、触媒活性中心によって酸化状態の変化を可能にする少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を含み、第2の金属は、少なくとも1つの導電性銀半導体を含み、両方の金属は、水及び酸素の存在下で短絡される半電池を確立し、したがって抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を発達させ、担体材料は、物質及び/又はコーティング材料並びにそれらの使用に適合する少なくとも1つの材料を含む。本発明によるハイブリッド材料は、様々な材料、物質及び/又はコーティング材料、好ましくはラッカー、塗料、プラスター、ポリマー及び/又はセルロースのための抗菌添加剤として有利に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド材料であって、特に、抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を生じさせるための材料、物質及び/又はコーティング材料に関する添加剤として提供され、粒子を含み、その各々は、少なくとも2つの異なる金属で少なくとも部分的にコーティングされた少なくとも1つの担体材料を含み、少なくとも1つの第1の金属及び1つの第2の金属が、少なくともそれぞれの表面で、互いに導電性接触しており、前記第1の金属は、複数の酸化状態を示し、触媒活性中心による前記酸化状態の変化を可能にする、少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を含み、前記第2の金属は、少なくとも1つの導電性銀半導体を含み、両方の金属は、水及び酸素の存在下で短絡された半電池を確立し、結果として抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を発現し、前記担体材料は、物質及び/又はコーティング材料及びそれらの使用に適合された少なくとも1つの材料を含むことを特徴とする、ハイブリッド材料。
【請求項2】
前記担体材料が、セルロース、ガラス、ゼオライト、シリケート、金属又は金属合金、金属酸化物、セラミック、グラファイト、及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド材料。
【請求項3】
前記担体材料がセルロースを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のハイブリッド材料。
【請求項4】
有機ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、ポリドーパミン及び/又はキトサン、及び/又はアスコルビン酸若しくはアスコルビン酸の誘導体で修飾されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項5】
前記抗菌効果の強度が、前記粒子の表面上の両方の金属の少なくとも1つの量及び/又は両方の金属の割合を調整することによって特に調整可能であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項6】
前記遷移金属元素が、ルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、コバルト、セリウム、モリブデン、及びタングステンからなる群の少なくとも1つの金属であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項7】
前記第1の金属の遷移金属化合物が、酸化状態VI及びIVの一方又は両方で存在するルテニウムを含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項8】
前記第1の金属の遷移金属化合物が、前記遷移金属元素の、少なくとも1つの金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物、金属ハロゲン化物及び/又は少なくとも1つの金属硫化物を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項9】
前記銀半導体が、少なくとも1つの酸化銀、水酸化銀、ハロゲン化銀若しくは硫化銀、又は銀と対応する銀化合物との組合わせを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項10】
前記粒子が、球形又は多面体の形状を有し、最大100μm、好ましくは最大50μm、特に最大5μmの平均直径を有すること、並びに/あるいは前記粒子が、繊維状の形状を有し、最大1mm、好ましくは最大100μm、特に最大75μm又は最大60μmの平均長さを有することを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載のハイブリッド材料。
【請求項11】
以下の工程、
a)粒子形状担体材料を提供又は製造する工程と、
b)前記担体材料上に第1の金属を少なくとも部分的に適用する工程と、
c)前記担体材料及び/又は前記第1の金属上に第2の金属を少なくとも部分的に適用する工程であって、両方の金属は、少なくともそれぞれの表面で互いに導電性接触するように適用される、工程と、
を含む、抗菌効果を有するハイブリッド材料、特に請求項1~10のいずれかに記載のハイブリッド材料を製造するための方法。
【請求項12】
両方の金属の少なくとも一方が、クラスタ形状の形態、ナノ多孔性、微小亀裂状及び/又は単一粒子の形態で、前記担体材料及び/又は前記他の金属上に適用されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程a)及び/又は工程c)の後、前記担体材料及び/又は前記金属が、有機ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、ポリドーパミン及び/又はキトサン、及び/又はアスコルビン酸若しくはアスコルビン酸の誘導体で修飾されることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
ハロゲン化物、酸化物、及び硫化物からなる群から選択される、対応する金属の少なくとも1つの金属化合物を含む、少なくとも1つの金属上にリンク層が生成されることを特徴とする、請求項11、12、又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗菌効果の強度が、前記粒子の表面上の両方の金属の少なくとも一方の量及び/又は両方の金属の割合を調整することによって特に調整されることを特徴とする、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記それぞれの金属が、電気化学堆積、化学還元堆積、電気泳動コーティング、焼成、PVD、CVD及び/又はゾル-ゲルプロセスによって順次又は同時に適用されることを特徴とする、請求項11~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記担体材料及び/又は前記第1の金属への前記第2の金属の適用が、強力な酸化効果を有する少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、請求項11~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
両方の金属を適用した後、特定の酸化状態を調整するための熱的後処理が達成されることを特徴とする、請求項11~17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を生じさせるための材料、物質及び/又はコーティング材料に関する添加剤として提供され、それぞれが少なくとも2つの異なる金属で少なくとも部分的にコーティングされた少なくとも1つの担体材料を含む粒子を含む、ハイブリッド材料に関し、少なくとも1つの第1の金属及び1つの第2の金属は、少なくともそれぞれの表面により互いに導電性接触している。本発明は更に、抗菌活性を有する微粒子ハイブリッド材料を製造するための方法、及びそのような微粒子ハイブリッド材料の使用に関する。
【0002】
原則として、添加剤は、基材単独では達成できないことが多い多くの特性を有していなければならない。所望の特性プロファイルは、表面技術によって調整され得る。多くの場合、1つの材料のみでは達成できないが、異なる成分からなるいくつかの表面材料でのみ達成できる特性が必要とされる。そのような多成分システムは、ハイブリッド材料システムとも呼ばれる。
【0003】
抗菌デバイス及び製品は、しばらくの間、医療及び衛生技術並びに食品加工等の敏感な分野で使用されてきた。現在のSARS-CoV-2のパンデミックだけでなく、多くの以前の流行も、衛生及び病原性微生物に対する保護の話題を集団の意識に非常に深く浸透させ、抗菌保護の必要性を生活の全ての領域に広げた。世界経済に大きな悪影響を及ぼすため、現在の状況は抗菌保護の重要性を強調し、非常に効果的な抗菌保護材料の必要性が大幅に増加する。特に、マウスマスク等の頻繁に触れられるか、又は抗菌性保護手段として機能するアイテムでは、良好に加工され、製品に統合され得る、より強力かつ耐久性のある抗菌システムの必要性が高まっている。
【背景技術】
【0004】
抗菌添加剤の分野における従来の解決策は、浸出によって放出される従来の殺生物性物質の使用に限定されてきた。銀、銅又は亜鉛等の微量作用金属、それらの化学修飾、トリクロサン及びイソチアゾリノン等の有機物質、並びに亜鉛ピリチオン等の有機金属物質が使用される。これらの物質は、担体マトリックス中のデポーに貯蔵される。デポーが使い果たされると、担体材料の抗菌効果はもはや存在しない。抗菌性添加剤の分野における新たな発展は、主に、粉末コーティングのための粒子の製造、ポリマー担体マトリックス中の殺生物剤の分散の改善、添加された殺生物剤による担体マトリックスの変色の防止、及びカプセル化による殺生物活性成分の制御放出に関する。しかしながら、将来性のある抗菌システムは、微生物の増殖を防ぐのに十分な自発的作用を発揮すると同時に、毒性学的及び生態毒性学的に許容される量の活性物質をゆっくりと放出することによって長期間にわたって抗菌的に有効であることが期待される。
【0005】
国際公開第2008/046513号から、銀、ルテニウム及びビタミンを含有する生物活性金属コーティングが知られており、これは水又は水溶液の滅菌、消毒及び除染に使用される。銀とルテニウム及びビタミン、例えばアスコルビン酸との組合わせは、微生物のより迅速かつより効率的な死滅をもたらす。同時に、これらの生物活性金属表面は、微生物によるコロニー形成及びDNA、RNA又はタンパク質等の問題のある生体分子の付着又は安定した沈着を防止する。コーティングは、水又は水溶液と接触すると、非常に迅速かつ効率的にその無菌性を確立し、それを長期間維持する、自己洗浄表面を生成する。
【0006】
欧州特許第0677989号は、プラスチック製の製品のための添加剤として使用することができる抗菌活性粉末の調製を開示している。粉末は、抗菌活性金属又は金属化合物でコーティングされた無機材料のコアを含む。第2のコーティングは、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、シリカ、シリケート、ボロシリケート又はこれらの物質の混合物からなる。コーティングの多孔性は、使用されるプラスチックの起こり得る変色を防止するために抗菌活性物質の拡散を調節することを意図している。アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム又は希土類の含水金属酸化物の第3のコーティングは、粒子の凝集を低減し、プラスチック中の粒子の分散を改善することを意図している。抗菌コーティングの含有量は、担体材料に基づいて0.05~20重量%である。第2のコーティングの場合、含有量は、担体材料にも基づいて0.5~20重量%である。抗菌性粉末は、様々な脂肪族又は芳香族ポリマーに添加され得る。
【0007】
欧州特許第0270129号は、ゼオライトに基づく抗菌性粉末の製造プロセス及び樹脂用添加剤としてのその使用を開示している。天然ゼオライト及び合成ゼオライトの両方が使用される。抗菌機能は、アンモニウムイオン並びに銀、銅、亜鉛、水銀、スズ、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム及びタリウムの金属イオンとの完全な交換に基づく。金属含有量は、銀が0.1~15重量%、銅又は亜鉛が0.1~8重量%である。抗菌性ゼオライトは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン又はPVC等の樹脂に添加される。
【0008】
米国特許第5147686号は、担体材料として粉末酸化チタンを使用する抗菌性粉末の製造を開示している。粉末粒子は、0.01μm~3μmのサイズを有する。粒子は、抗菌活性コーティングを備える。コーティングは、銅、亜鉛及びそれらの合金、例えばCu-Zn、Cu-Ag、Cu-Sn、Cu-Al、Zn-Sn、Zn-Sn-Cu、Zn-Al-Cu-Mg又は同様の合金からなる。金属含有量は0.001~35重量%である。コーティングは、外部無電流堆積によって適用され、それによって担体粒子の表面は、最初にパラジウム又はスズで活性化される。その抗菌特性に加えて、粉末は様々な媒体中の添加剤として優れている。
【0009】
米国特許第2016/0369405号は、液体中で金属によりコーティングされた粒子を製造する方法を開示している。シリコン、スズ、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、亜鉛、アルミニウム又は炭素の粒子が、反応器内で金属によりコーティングされた基材粒子として使用され、金属は、銀、銅、白金、パラジウム、鉄、コバルト、ロジウム、ニッケル、バナジウム、ルテニウム、イリジウム又は金の元素である。還元剤、例えばアスコルビン酸を使用して、めっき反応を開始させる。特に、銀でコーティングされたシリコーン粒子の製造及び使用が記載される。
【0010】
必要な製品特性を確保又は向上させるために製品又は粒子形態の材料に組み込まれる材料はまた、それらを他の材料に統合してそれらの特定の粒子特性を所望の方法で付与するために、異なる表面組成及び構造を有するハイブリッドシステムとして設計される。したがって、多成分ハイブリッド粒子システムは、粒子材料、粒径及び構造、並びに追加的に適用される層系の正しい選択によって、又はハイブリッド粒子システムの1つ又は複数の成分の化学的後処理によって、所望の材料及び必要な材料特性に特に適合されなければならない。これは、製品又は材料にこれらの抗菌特性を導入することを意図した抗菌特性を有する微粒子システムにも当てはまる。しかしながら、粒子処理又は粒子-材料統合中に、それらの所望のコア特性である抗菌効果が弱まるか、又は更には失われるリスクが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、加工、材料統合の後であっても、及び/又は製品中の添加剤としても、その抗菌特性を維持することができる抗菌活性微粒子ハイブリッド材料を開発することである。
【0012】
本発明によれば、目的は、第1の金属が、複数の酸化状態を示し、触媒活性中心によって酸化状態の変化を可能にする少なくとも1つの遷移金属元素の少なくとも1つの半導体化合物を含み、第2の金属が、少なくとも1つの導電性銀半導体を含み、両方の金属が、水及び酸素の存在下で短絡される半電池を確立し、結果として抗菌、抗ウイルス及び/又は殺真菌効果を発達させ、担体材料が、物質及び/又はコーティング材料並びにそれらの使用に適合する少なくとも1つの材料を含む、上記のタイプのハイブリッド材料によって解決される。したがって、全体として、本発明は、成形プロセス、材料統合又はすぐに使用できる製品において抗菌特性を失うことなく、その広域スペクトル抗菌効果(簡単にするために、細菌、ウイルス、真菌、及び他の微生物に対する有効性を、以下「抗菌」と呼ぶ)を多種多様な材料、物質及び/又はコーティング材料に輸送することができる、異なる材料のハイブリッドで適応可能な微粒子多成分システムを提供する。成形プロセス又は材料統合及び最終抗菌製品の使用に必要な材料成分、特に担体材料は、ハイブリッド微粒子システムの抗菌特性に悪影響を及ぼさず、むしろそれを強化するように選択される。更に、本発明によるハイブリッド材料は、ハイブリッド粒子構造を介して調整可能であり、異なる製品又は一次材料又は物質及び/又はコーティング材料での使用に適した抗菌活性微粒子システムである。これに関連して、本発明によるハイブリッド材料は、例えば、物質及び/又はコーティング材料に統合することができる。ハイブリッド粒子システムとの組合わせは、製品又は一次材料に抗菌特性を付与し、担体材料は、本発明によるハイブリッド材料が物質及び/又はコーティング材料及びその使用に最適に適合するように選択、設計及び/又は修飾された少なくとも1つの材料を含む。したがって、抗菌効果を維持することに加えて、本発明によるハイブリッド材料の更なる利点は、例えば、粒子材料、粒径及び構造、並びに追加で適用される層系の正確な選択によって、又はハイブリッド粒子システムの1つ若しくは複数の構成要素の化学的後処理によって、材料、物質及び/又はコーティング材料並びに必要な材料特性並びにその所望の用途に特に適合させることができることである。
【0013】
本発明によれば、高い化学的安定性及び異なる電気化学的電位を有する2つの金属が担体材料上に堆積される。好ましくは、これらはd基の遷移金属、好ましくは貴金属である。本発明による金属の組合わせは、両方の金属が互いに導電性接触し、水相を介して短絡された複数のナノ又はマイクロガルバニ(microgalvanic)素子の形態で担体材料の表面上に分布するように、担体材料上に堆積される。したがって、本発明は、有利には、それぞれが半導体触媒活性遷移金属化合物(ガルバニ素子の半電池I)及び半導体難溶性銀化合物(例えば、酸化銀、水酸化銀、硫化銀、銀-ハロゲン化合物、又はそれらの組合わせ;ガルバニ素子の半電池II)からなり、両方が互いに直接導電性接触している、抗菌活性金属コーティングを含む。第1の半電池の遷移金属元素は、いくつかの酸化状態を有し、したがって触媒活性中心を介した(比較的容易な)酸化状態の変化を可能にするように選択される。したがって、特に適切な半電池は、複数の原子価を有し、広い電位範囲にわたって高度に可逆的な酸化還元反応が起こり得る半電池である。このような半電池の酸素還元に対する高い触媒活性は、半導体表面の活性中心で優先的に起こる酸化状態の容易な変化及び酸素の容易な交換に起因する。このプロセスでは、遷移金属元素の価数のみが変化し、実際の酸化還元反応が生じる。したがって、遷移金属化合物は消費も形成もされず、酸化状態のみが変化する。遷移金属化合物は分子状酸素に結合し、それを触媒的に還元することを可能にする。したがって、複数の原子価の存在は、触媒効果及び酸化還元反応のための前提条件である。したがって、遷移金属化合物を形成する必要はない。特殊な金属酸化物又は金属硫化物及び難溶性の銀化合物は、触媒特性、導電性及び水中での高い安定性を示す。材料の適切な組合わせにより、2つの金属が互いに電気的に接触し、それらは異なる電気化学的電位を有し、したがってガルバニ電池を形成する。この電池が水相を介して短絡すると、接触する2つの金属間の距離(nm又はμmの範囲)が小さいため、高い電界強度が生成される。これは、病菌除去に大きく寄与する。酸化還元反応は、マイクロガルバニ素子の両方の電極で起こり、それぞれが微生物を死滅させる。第1の半電池(カソード)では、分子状酸素が酸素ラジカルに還元され、次いで、酸素ラジカルが微生物に毒性作用を及ぼす。第2の半電池(アノード)では、電子が微生物から銀半導体に移動し、それによってそれらを酸化によって破壊する。
【0014】
それにより、担体材料上に堆積されたハイブリッドシステムの遷移金属の電気化学的電位差は、湿った環境に存在する酸素を酸化還元プロセスによって還元することができ、抗菌活性酸素ラジカルを形成することができるように調整される。抗菌効果が殺生物剤又は金属イオンの放出ではなく、好ましくは酸化銀/酸化ルテニウム及び/又は塩化銀/酸化ルテニウムの貴金属の組合わせでの酸素ラジカルの触媒支援生成に基づく、本発明によるハイブリッド抗菌粒子システムは、長期間の抗菌剤使用でもその組成を変化させず、殺生物剤又は微量作用金属とは異なり、殺生物剤又は金属イオンの放出を調節するデポー剤又は装置を必要としない。
【0015】
2つの金属(半電池)は、例えば、微粒子担体(担体材料)の表面上の層系として適用することができ、一方の金属の層は、他方の金属の層よりも少なくとも部分的に上にある。この場合、それぞれの上層は、水溶液又は水分が両方の半電池にアクセスし、ガルバニ素子が短絡されるように、他の金属に適用されるか又は堆積される多孔質(特にナノ多孔性)又は微小亀裂、特にクラスタ形状であり得る。しかしながら、代替的又は追加的に、2つの金属(半電池)はまた、例えば個々の粒子の形態で、微粒子担体(担体材料)の表面に適用され得る。これらは、例えば、両方の金属を含むバイメタル粒子及び/又は2つの金属のうちの一方のみをそれぞれ含む金属粒子であってもよい。後者は、連続的に、すなわち、第1の金属の第1の粒子、次いで第2の金属の粒子(又はその逆)として、又は両方の金属の粒子の混合物として同時に、それらが担体材料と導電性接触するように適用することができる。粒子は、単一層(互いに隣接して位置する)及び/又は少なくとも部分的に複数層(互いに重なって位置する)で担体材料に適用され得る。
【0016】
効果的であるために毒性物質を環境中に放出しなければならない殺生物剤及び微量作用金属とは異なり、本発明のハイブリッド材料が使用されるときに形成される酸素ラジカルから最終的に水のみが生成される。金属の組合わせは触媒的に支持されたシステムであるため、その抗菌効果は、有利には活性表面のみに依存し、殺生物剤又は微量作用システム(銀、銅及び亜鉛又はそれらの塩若しくは化合物)の場合のように、それらの浸出の量及び速度には依存しない。
【0017】
本発明の有利な実施形態では、セルロース、ガラス、ゼオライト、シリケート、金属又は金属合金、金属酸化物(例えばTiO)、セラミック、グラファイト、及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む担体材料が提供される。本発明によるハイブリッド材料は、他の材料との統合要件並びに特定の使用用途に関する担体材料の選択によって導かれ得る。例えば、プラスチックに組み込まれたときの温度抵抗(例えば担体としての銀粒子)、吸水/吸収性(例えば、担体としてのセルロース)、例えば磁石で外部からのみ粒子除去が可能な装置における分析又は製造用途のための磁性粒子(担体としての鉄粒子)、本発明のハイブリッド材料でドープされたセルロースが有機セルロース溶液に溶解し、セルロースフィラメントを紡糸することができるセルローススラリー中にハイブリッド材料粒子を微細に分配するリヨセルプロセスにおけるセルロース統合、又はカラーデザイン(例えば白色:担体セルロース)に関してである。驚くべきことに、本発明による抗菌ハイブリッドシステムの実施形態の1つにおいて、担体材料としてのセルロースの選択は、抗菌性テキスタイル繊維及びフィルムのための新たな製造可能性を提供した。
【0018】
例えば、セルロース(C)、微結晶(MCC)又はナノ結晶セルロース粉末(NCC)としてのその誘導体を担体材料として使用することができ、これはハイブリッド粒子システムの抗菌効果を支持する多数の固有の特性、例えばそれらの親水性及び乾燥状態で依然として約5~8%である高い水結合能力を提供する。セルロース繊維は、繊維長だけでなく、繊維断面積を著しく増加させることができる繊維断面においても変化させることができる。そのため、断面が雲型である「標準セルロース」の他、星型(Trilobal)やレター型(Umberto)の断面の繊維も入手可能である。セルロース担体表面はまた、その組織様の微細ネットワーク構造のために、いわゆる細菌セルロース(BC)によって著しく増加され得る。BCはまた、吸水能力が増加しているため、医療用途で人気がある。
【0019】
セルロースは地球上で最も豊富なバイオポリマーであり、年間1兆5000億トンの形成率を有し、世界で最も重要な再生可能原材料となっている。セルロースは、繊維、紙及び建材産業だけでなく、医療分野でも使用されている。セルロース材料の広範な使用、特に医療用途におけるそれらの使用は、抗菌セルロース粒子の開発をもたらした。セルロース自体は、感染症を予防し得る抗菌活性を有さない。抗菌セルロースの製造に関するこれまでの研究の大部分は、様々な堆積プロセスによるセルロース繊維上又はセルロース繊維内への殺生物性ナノ銀粒子の組込みに焦点を当ててきた。驚くべきことに、本発明は、銀だけでなくルテニウムも付着するようにセルロース上に堆積させることに成功した。これに関連して、銀-ルテニウム沈殿物上の触媒的に支持された酸素ラジカル形成がセルロース担体上にも与えられることが本発明による方法で達成された。
【0020】
本発明の更なる有利な実施形態では、ハイブリッド材料が有機ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)、ポリドーパミン及び/又はキトサン、及び/又はアスコルビン酸若しくはアスコルビン酸誘導体で修飾されていることがもたらされる。これに関連して、修飾は、例えばコーティングを容易にするために、金属を適用する前に担体材料を前処理すること、及び/又は金属を適用した後にハイブリッド材料を後処理することによって行うことができる。このようにして、本発明によるハイブリッド材料でドープされた生成物(材料及び/又はコーティング材料)の特定の特性を変更又は改善することができる。例えば、粒子又は粉末の流動性及び/又は分散性は、ハイブリッド材料を例えばポリドーパミン又はプロピレングリコール(PG)で後処理することによって具体的に調整することができる。
【0021】
本発明の有利な実施形態では、抗菌効果の強度は、粒子の表面上の両方の金属の少なくとも1つの量及び/又は両方の金属の割合を調整することによって特に調整可能であることが更に提供される。したがって、選択された抗菌ハイブリッド材料の抗菌強度は、粒子の量を変えるだけでなく、その構造を変えることによっても調整可能である。本発明によるハイブリッドシステムは、その抗菌効果の強度(多くの場合、最も高い効果は望ましくなく、成長曲線による調整)、並びに使用又は他の材料(複数可)との統合の要件、並びに使用の特定の用途に関して特に調整され得る。例えば、コーティングプロセスを変えることによって、少なくとも1つの金属層の厚さを調整することができる。例えば、担体材料の形状及び/又はコーティング中の還元プロセスを使用して、金属層の構造に選択的に影響を及ぼすことができる。更に、本発明によるハイブリッド材料の抗菌効果の強度は、例えば、規定量の少なくとも1つの金属(例えば、総ハイブリッド材料中の金属の割合(重量%))を使用することによって具体的に調整され得る。
【0022】
本発明の別の有利な実施形態では、ルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、コバルト、セリウム、モリブデン、及びタングステンからなる群の少なくとも1つの金属である遷移金属元素が提供される。
【0023】
本発明の特に有利な実施形態では、酸化状態VI及びIVの一方又は両方で存在するルテニウムを含む第1の金属の遷移金属化合物が提供される。ルテニウムは、複数の酸化状態を有し、その異なる原子価により、例えば、異なる酸化ルテニウムを形成することができる貴金属である。Ru(VIII)/Ru(VI)、Ru(VI)/Ru(IV)、Ru(IV)/Ru(III)、及びおそらくRu(III)/Ru(II)等の表面酸化還元遷移は、混合ルテニウム化合物の高い触媒活性及びそれらの良好な導電率の原因である。ルテニウム化合物の非常に顕著な触媒特性及び電極触媒特性は、酸化状態の変動に依存する。例えば、抗菌活性は、第1の半電池に酸化ルテニウム(VI)を含む本発明による組成物において特に高い。
【0024】
それにより、第1の金属の遷移金属化合物は、遷移金属元素の、金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物、金属ハロゲン化物及び/又は少なくとも1つの金属硫化物に対応する少なくとも1つを含み得る。
【0025】
本発明の有利な実施形態では、少なくとも1つの酸化銀、水酸化銀、ハロゲン化銀若しくは硫化銀、又は銀と対応する銀化合物との組合わせ(例えば、表面に酸化銀又は塩化銀等の銀化合物を有する金属銀)を含む銀半導体が更に提供される。
【0026】
本発明の更なる有利な実施形態では、球状又は多面体形状を有し、最大100μm、好ましくは最大50μm、特に最大5μmの及び平均直径を有する粒子が提供される。例えば、そのような球状粒子は、0.1~70μmの間、好ましくは0.1~50μmの又は0.1~10μm、特に1~5μmの平均直径を有し得る。代替的又は追加的に、粒子は、繊維様形状を有し得、最大1mm、好ましくは最大100μm、特に最大75μm又は最大60μmの平均長を有し得る。例えば、そのような細長い粒子は、0.1~100μm、好ましくは0.1~50μm又は0.1~10μm、特に0.1~1μmの平均長を有し得る。粒径及び形状は、例えば、ポリマー糸(例えば、微細な銀粒子)の紡糸中のノズル問題において、又は大きな表面積が必要とされる場合(例えば、異なるセルロース繊維断面又は微細な銀粒子に起因する)に重要な役割を果たす。本発明によるハイブリッド材料の抗菌効果は、粒子表面での触媒プロセスに基づくので、粒子効率は増加するが、粒子の表面分率は粒子体積に対して増加する。したがって、粒子効率は、より小さい粒径に対して特に有利である。
【0027】
本発明は、抗菌活性を有するハイブリッド材料、特に上記のハイブリッド材料を製造するための方法であって、以下の工程、
a)粒子形状担体材料を提供又は製造する工程と、
b)担体材料上に第1の金属を少なくとも部分的に適用する工程と、
c)担体材料及び/又は第1の金属上に第2の金属を少なくとも部分的に適用する工程であって、両方の金属が、少なくともそれぞれの表面で互いに導電性接触するように適用される、工程と、
を含む方法によって更に解決される。
【0028】
原則として、最初に言及した全ての材料、好ましくはセルロース、金属、金属酸化物(例えばTiO)、ガラス、セラミック、グラファイト及びポリマーを担体材料として使用することができる。特定の実施形態では、抗菌ハイブリッドシステムは、磁化可能粒子コアを備える。例えば、抗菌性コーティングは、強磁性コア(例えば、ニッケル、鉄、コバルト粉末)に堆積されてもよい。このような抗菌ハイブリッドシステムは、例えば、粒子の使用後、アクセスが困難な反応容器又は分析容器からの完全な除去が必要とされる場合に必要とされる。抗菌性の磁化可能粒子ハイブリッドは、強力な磁石を用いて反応器の外側から、それらを除去することができる反応器のアクセス可能な位置に引っ張ることができる。
【0029】
好ましくは、少なくとも1つの導電性銀半導体を含む第1の金属が担体材料に適用される。第2の金属はまた、担体材料及び/又は第1の金属に適用され、第2の金属は、複数の酸化状態を有し、触媒活性中心を介して酸化状態の変化を可能にする少なくとも1つの遷移金属元素を含む。あるいは、複数の酸化状態を有し、触媒活性中心を介して酸化状態の変化を可能にする少なくとも1つの遷移金属元素を含む第1の金属を担体材料に適用することができる。この場合、第2の金属はまた、担体材料及び/又は第1の金属に適用され、第2の金属は少なくとも1つの導電性銀半導体を含む。両方の代替において、第2の金属は、透過性の様式で担体材料及び/又は第1の金属に適用されて、2つの金属が少なくともそれぞれの表面で互いに導電性接触し、それぞれ電解質と接触し、それによって抗菌効果を発達させる(上記参照)。
【0030】
本発明によるハイブリッド材料の製造のために、例えば、銀を担体材料(例えばガラスビーズ)上に化学的に還元的に堆積させることができる。銀塩としては、硝酸銀(AgNO)を用いることが好ましい。種々の還元剤、例えばアルデヒド、アスコルビン酸、金属水素化物(好ましくは水素化ホウ素ナトリウム)、ヒドラジン及び/又はヒドラジニウム塩、及び/又はヒドロキシルアミン及び/又はヒドロキシルアンモニウム塩を還元剤として使用することができる。担体材料としてセルロースの場合、還元剤としてアスコルビン酸を用いることが好ましい。市販の銀コーティング担体材料(例えば、前銀コーティングガラスビーズ)が入手可能であり、使用される場合には、この第1工程を省略してもよい。次いで、例えば、ルテニウムを化学的還元によって銀層に適用することもできる。ルテニウムコーティングのために、銀コーティングされた担体材料(例えばガラスビーズ)は強撹拌下でアルカリ溶液に分散される。次いで、塩化ルテニウム(III)及び水素化ホウ素ナトリウムの溶液が還元剤として添加される。
【0031】
本発明による方法の有利な実施形態では、両方の金属の少なくとも1つが、クラスタ形状、ナノ多孔性、微小亀裂状及び/又は単一粒子の形態で、担体材料及び/又はそれぞれの他の金属上に適用されることが提供される。
【0032】
本発明による方法の有利な実施形態では、工程a)及び/又は工程c)の後に、有機ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、ポリドーパミン及び/又はキトサン、及び/又はアスコルビン酸若しくはアスコルビン酸の誘導体で修飾される担体材料及び/又は金属が更に提供される。その結果、ハイブリッド材料は、例えばコーティングを容易にするために、金属の適用前に担体材料を前処理すること、及び/又は金属の適用後に後処理することによって改質され得る。このようにして、本発明によるハイブリッド材料でドープされた生成物(材料及び/又はコーティング材料)の特定の特性を改質又は改善することができる。本発明によれば、例えば、化学的に生成された化合物層(以下を参照)の有無にかかわらず、抗菌性金属コーティングを有する担体材料は、ハイブリッド材料の特性を最適化するように修飾され得る。これは、例えば、流動性、分散性又は長期安定性に関する。本発明によれば、ハイブリッド粒子システムの改質にもかかわらず、その抗菌特性は維持されるか、又は更に改善される。
【0033】
本発明による方法の更なる有利な実施形態では、ハロゲン化物、酸化物、及び硫化物からなる群から選択される対応する金属の少なくとも1つの金属化合物を含む、少なくとも1つの金属上に生成されるリンク層が提供される。機能を高めるために、2つの金属は、それにより、金属の化学的に安定な化合物で活性化される。この目的のために、例えばハロゲン化物、酸化物又は硫化物からなり得る金属上にリンク層が形成される。微粒子表面の後処理の影響は、例えば、適切な微生物学的方法又は成長曲線等の測定手順を使用して、それに応じて決定又は調整され得る。
【0034】
本発明による方法の有利な実施形態では、粒子の表面上の両方の金属の少なくとも1つの量及び/又は両方の金属の割合を調整することによって特に調整される抗菌効果の強度が更に提供される。例えば、ハイブリッド粒子システムの抗菌効果の強度は、担体材料の表面上の2つの金属の堆積条件を適切に選択することによって制御することができ、ハイブリッド表面上の2つの金属の面積割合は互いに変化する。本発明のハイブリッド微粒子材料の所望の抗菌作用が求められる表面組成は、粒子組成及び構造の変動に基づいて、成長曲線等の適切な微生物学的方法によって決定され得る。
【0035】
本発明による方法の更なる有利な実施形態では、それぞれの金属が、電気化学堆積、化学還元堆積、電気泳動コーティング、焼成、PVD、CVD及び/又はゾル-ゲルプロセスによって順次又は同時に適用されることが提供される。これに関連して、2つの金属(半電池)は、例えば、担体材料の表面上に個々の粒子の形態で堆積させることもできる。粒子は、例えば、連続的に、すなわち第1の金属の第1の粒子、次いで第2の金属の粒子(又はその逆)として、又は同時に両方の金属の粒子の混合物として(若しくは場合によってはバイメタル粒子の形態で)、担体材料に適用され得る。
【0036】
焼成では、例えばアルコール(例えば、エタノール又はイソプロパノール)中に所望の遷移金属(通常は無水)を含む熱的に容易に分解可能な化合物を集中的に混合し、コーティングされる表面に適用し、次いで空気の存在下で高温(例えば、200~500℃)で熱分解する。このプロセスでは、2つの半電池金属の任意の所望の組成を、2つの金属塩を混合して適切な酸化化合物を得ることによって調整することができる。易分解性ルテニウム化合物としては、例えば、RuCl(ハロゲン化物全般)が挙げられる。
【0037】
本発明の特に有利な実施形態では、担体材料及び/又は第1の金属への第2の金属の適用が、強力な酸化効果を有する少なくとも1つの工程を含むことが更に提供される。例えば、ルテニウム/酸化ルテニウムは、二段階プロセスで適用することができ、第1の工程ではルテニウムは最初に酸化され、第2の工程でのみ酸化ルテニウムのルテニウム及びRuOxへの還元が達成される。強い還元剤によるRu(III)イオンの直接的な一段階還元とは異なり、この間接的な二段階プロセスは、Ru(III)イオンの酸化ルテニウム(VIII)(RuO)への酸化に依存する。RuOは、担体材料を酸化ルテニウム(IV)の層でコーティングする適切な還元剤によって酸化ルテニウム(IV)に変換される強力な酸化剤である。例えば、酸化ルテニウム(VI)の形成は、ルテニウム堆積が強力な酸化効果によるプロセス工程を含む場合、ルテニウムの電気化学堆積及びPVD堆積の両方で達成され得る。
【0038】
本発明の更なる有利な実施形態では、両方の金属を適用した後、特定の酸化状態を調整するための熱的後処理が達成されることが提供される。担体材料が耐熱性であれば、適用された酸化物金属コーティング又は金属化合物は、特定の酸化状態を設定するために、適切な雰囲気中で熱酸化又は還元を受けることができる。
【0039】
本発明は更に、上記の方法によって製造された抗菌活性を有するハイブリッド材料に関する。
【0040】
本発明はまた、任意の材料、物質及び/又はコーティング材料、好ましくはラッカー、塗料、プラスター、ポリマー及び/又はセルロースとの共同適用のための本発明によるハイブリッド材料の使用に関する。これに関して、ハイブリッド材料は、任意の方法で材料、物質及び/又はコーティング材料と関連付けられてもよい。例えば、材料、物質及び/又はコーティング材料は、ハイブリッド材料粒子でコーティング又はブレンドされてもよい。好ましくは、本発明のハイブリッド材料粒子は、材料、物質及び/又はコーティング材料に組み込まれる。
【0041】
セルロース-銀-ルテニウム粒子添加剤は、その触媒活性にもかかわらず、リヨセルプロセスで使用される溶媒(N-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO))の分解温度に決定的な影響を及ぼさず、したがってリヨセルプロセスで処理することができるため、本発明によるハイブリッド材料のハイブリッドセルロース-銀-ルテニウム粒子変種は、驚くべきことに、革新的かつ環境に優しいリヨセル技術の助けを借りて、本発明による抗菌ハイブリッドシステムに基づいて抗菌セルロース繊維及びセルロースフィルムを製造する可能性を提供する。リヨセルプロセスでは、担体材料セルロースはNMMOに溶解し、セルロース含有溶媒中に均一に分布したセルロース繊維上に堆積した銀-ルテニウム粒子を放出し、その結果、繊維産業のためだけでなく、不織布及び例えば包装用のフィルム等の他の技術的用途のためにも、それらから抗菌性リヨセル繊維を製造することができる。
【0042】
本発明はまた、抗菌活性粉末を形成するための微粒子、特にバイメタル粒子に関し、この微粒子は、第2の金属を含むクラスタ形状、ナノ多孔性及び/又は微小亀裂層でコーティングされた第1の金属の粒子を含み、第1の金属の粒子は、最大50μm、好ましくは最大10μmの平均直径を有する。本発明の特定の実施形態は、ハイブリッドシステムの2つの活性成分(金属)のうちの1つが同時に表面及び担体材料の両方である場合に確立される。経済的理由単独で、これは非常に小さい貴金属担体粒子(例えば0.1~50μm、好ましくは5μm未満)にのみ当てはまる。高温で行わなければならない、本発明によるハイブリッド抗菌粒子システムを統合するための処理操作(例えば、特定のプラスチックに)において、このハイブリッド系変形形態は任意である。この目的のために、担体材料として使用される金属粒子は、ハイブリッド粒子システムのコストが、より好ましい表面対体積比のために対応してより少量の貴金属によって過剰に補償され得るように適切に小さくなければならない。
【0043】
本発明による微粒子の有利な実施形態では、第1の金属が銀であり、第2の金属がルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、亜鉛、コバルト、セリウム、モリブデン、及びタングステンからなる群から選択される金属であること、又は第1の金属がルテニウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、鉄、亜鉛、コバルト、セリウム、モリブデン、及びタングステンからなる群から選択される金属であり、第2の金属が銀であることが提供される。
【0044】
本発明はまた、抗菌活性を有する微粒子、特にバイメタル粒子の調製方法に関し、以下の工程、
a)平均径50μm以下の銀粒子をアルカリ溶液中に分散させる工程と、
b)工程a)による分散液に塩化ルテニウム(III)溶液及び還元剤を添加する工程と、
c)工程b)に従って分散液から微粒子を分離する工程と、
を含む。
【0045】
本発明による方法の有利な実施形態では、還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン及び/又はヒドラジニウム塩、及び/又はヒドロキシルアミン及び/又はヒドロキシルアンモニウム塩であることが提供される。
【0046】
本発明は、上述の方法によって調製された抗菌性粉末を形成するための微粒子、特にバイメタル粒子を更に含む。
【0047】
本発明による微粒子又はバイメタル粒子は、任意の材料、物質及び/又はコーティング材料、好ましくはラッカー、塗料、プラスター、ポリマー及び/又はセルロースと共に有利に使用することができる。これに関して、微粒子は、任意の方法で材料、物質及び/又はコーティング材料と関連付けられてもよい。例えば、材料、物質及び/又はコーティング材料は、微粒子でコーティング又はブレンドされてもよい。好ましくは、微粒子は、材料、物質及び/又はコーティング材料に組み込まれる。
【0048】
好ましくは、本発明による微粒子又はバイメタル粒子は、本発明によるハイブリッド材料の成分であり、担体材料は、微粒子又はバイメタル粒子で少なくとも部分的にコーティングされている。
【0049】
したがって、本発明による微粒子又はバイメタル粒子は、それらを担体材料に適用することによって本発明によるハイブリッド材料を製造するために有利な方法で使用することができる。微粒子は、単層(並んでいる)及び/又は少なくとも部分的に複数層(互いに重なっている)で担体材料に適用することができる。
【0050】
本発明の微粒子材料は、例えば、抗菌特性を有するコーティング及び塗料、プラスター、ポリマー、テキスタイル及び包装材料を提供するのに適している。原則として、セルロース、金属又は金属酸化物(例えば、TiO)、セラミック/鉱物又はポリマー材料等の広範囲の材料が担体材料として利用可能である。ハイブリッド抗菌粒子システムは、活性成分に加えて、ハイブリッド系の他の成分が、所望の半最終製品又は最終製品への効果、加工又は統合を支持又は改善することができる追加の好ましい特性に寄与することができる場合に特に有利である。
【0051】
本発明の意味における「粒子」、「粒子状」又は「微粒子」は、他の粒子及びその周囲から全体として描写された単一の粒子形状体を指す。これに関連して、幾何学的形状及び質量にかかわらず、全ての可能な粒子形状及びサイズが本発明の範囲内に含まれる。粒子は、例えば、それらの形状、重量、体積及び/又はサイズ(例えば、長さ、直径、円周)によって特徴付けられ得る。
【0052】
本発明の意味における「半電池」は、少なくとも1つの更なる半電池と組み合わせてガルバニ素子を形成するガルバニ素子の一部を指す。これに関連して、半電池は、電解質中に少なくとも部分的に位置する金属電極を含む。
【0053】
本発明の意味における「ガルバニ素子」は、それぞれが共通の電解質中に電極(それぞれアノード及びカソード)を形成する2つの異なる金属の組合わせを指す。2つの金属電極が互いに直接接触しているか、又は電子導体を介して互いに導電性接続されている場合、酸化還元電位が低い(電子供与体、アノード)低貴金属は、酸化還元電位が高い(電子受容体、カソード)高貴金属に電子を供与し、続いて電極で酸化還元プロセスを開始する。
【0054】
本発明の意味における「電解質」は、イオンの方向性移動によって電場の影響下で電流を伝導する化合物(例えば、水溶液中のイオン)を指す。
【0055】
本発明の意味における「物質」は、物品又は製品の部品、構成要素、構造要素又はアセンブリが作製される材料を指す。特に、「物質」という用語は、少なくとも1つのポリマー(プラスチック;包装材としてフィルムを含む)、テキスタイル(天然及び/又は合成テキスタイル繊維;織られ、編まれ、かぎ針で編まれ、編組された布地)、不織布、金属、ガラス及びセラミックで作製された部品を含むが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の意味における「コーティング材料」は、物体又は製品が少なくとも部分的に覆われている又は覆われ得る材料又は物質を指す。コーティング材料は、1つ又は複数の(好ましくは薄い)層(複数可)で物体又は製品に適用されてもよい。特に、「コーティング材料」という用語は、とりわけ、ラッカー、塗料及びプラスター等の液体又はペースト状コーティング材料、並びに粉末及びフィルム等の固体コーティング材料を含む。
【0057】
本発明の意味における「金属」は、金属結合によって金属格子を形成する元素(非金属ではない全ての元素)の周期表の化学元素の原子を指し、それによってとりわけ、高い導電率及び高い熱伝導率を特徴とする巨視的に均質な材料を指す。「金属」という用語はまた、少なくとも2つの異なる金属、金属酸化物、金属オキシ水和物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物、金属ハロゲン化物及び金属硫化物等の金属化合物、並びに金属及び対応する金属化合物の組合わせを含む合金を含む。
【0058】
本発明の意味における「層」又は「層状」は、水平延長部を有し、層底部及び層頂部の少なくとも2つの表面によって境界付けられた2次元又は3次元構造を指す。これに関連して、層は、少なくとも部分的に互いに接触している一貫した材料又は物質及び/又は粒子を含んでもよい。本発明の意味において、層は、均質、不均質、連続(すなわち、中断されていない)、クラスタ化、ナノ多孔性、及び/又は微小亀裂であり得る。本発明の意味における「コーティングされた」は、その(外側又は内側)表面の少なくとも一部に「層」が設けられている場合、材料、粒子又は他の物体である(上記参照)。
【0059】
本発明は、以下の図及び例によって更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明によるハイブリッド材料の例示的な実施形態を示す概略図である。
図2】約40μmの平均直径を有するPotters Industries Inc.の銀コーティングガラスビーズS3000S上に調製された本発明によるハイブリッド材料の異なる抗菌性変種の写真画像を示す。
図3】Potters Industries Inc.の銀コーティングガラスビーズS3000Sの300倍の倍率(左上)及び10,000倍の倍率(右上)におけるREM画像である。ルテニウムコーティングサンプルを10,000倍の倍率で示す図である。サンプル513(中央左)、514(中央右)、515(左下)、及び516(右下)。
図4図3による微粒子抗菌ハイブリッド材料513、514及び515の表面における過酸化水素の触媒的形成を示す棒グラフである。
図5】阻害領域試験の写真画像を示す図である。大腸菌(E.coli)の懸濁培養物(DSM498)を寒天プレート上にプレートした。銀コーティングガラス粒子S3000S並びに抗菌ハイブリッド材料513、514及び515を、図3によるサンプルとして寒天上に播種し、37℃で18時間インキュベートした。次いで、サンプルを寒天プレートに添加した。
図6図3によるガラス粒子S3000S並びに抗菌ハイブリッド材料513,514及び515の存在下でのMRSA培養物(供給源:Robert Koch Institute)の増殖曲線である。
図7】本発明によるハイブリッド材料の例示的な実施形態の写真画像である。 a)コーティングされていないセルロース粉末; b)銀含有量が20重量%及びルテニウム含有量が1重量%のコーティング抗菌セルロース粉末; c)セルロース繊維上の2つの金属の分布;及び d)本発明に従って調製された阻害領域試験粉末。
図8図7に示す本発明によるハイブリッド材料(粉末)の存在下でのMRSA培養物(供給源:Robert Koch Institute)の増殖曲線である。 (a)最小阻害濃度の決定;及び (b)ルテニウム含有量に対するセルロース粒子の抗菌効率の依存性。
図9】リヨセルプロセスによって製造されたセルロースフィルム又は糸の抗菌効果に関する写真画像、棒グラフ及び表を示す図である。 a)セルロースフィルム; b)大腸菌(E.coli)(DSM498)に対する本発明に従って製造されたセルロースフィラメントの抗菌活性についての阻害領域試験;及び c)黄色ブドウ球菌(S.aureus)(DSM799)に対する微粒子セルロースベースの銀-ルテニウムハイブリッド(720b)の抗菌活性。
図10】SARS-CoV-2及びネココロナウイルス(FCoV)に対する本発明によるハイブリッド材料の一実施形態の有効性についてのウイルスプラーク試験のグラフ表示(曲線)の図である。 (a)ネココロナウイルス(FCoV);及び (b)SARS-CoV-2。
図11】本発明によるハイブリッド材料(微粒子又は抗菌性粉末)の例示的な実施形態の写真画像である。 a)コーティングされていない銀粉末; b)本発明に従ってコーティングされた抗菌性粉末; c)100,000倍の粉末粒子のREM画像。 d)本発明による微粒子又は粉末の抗菌活性についての阻害領域試験。
図12図11bに示す本発明による微粒子についてのMRSAの増殖曲線を示す図である。
図13】触媒ベースの本発明によるハイブリッド材料(微粒子又は抗菌性粉末)の更なる例示的な実施形態の写真画像である。 a)濾過、洗浄、及び乾燥後の粉末; b)モルタルで塗った黒色粉末; c)100,000倍の粉末粒子のREM画像;及び d)本発明による微粒子又は粉末の抗菌活性についての阻害領域試験。
図14図13による微粒子又は粉末の成長曲線を示す図である。
図15】ガラス粒子上に調製された本発明によるハイブリッド材料の例示的な実施形態の漸増濃度(0.1重量%、0.5重量%及び1.0重量%)が添加された市販のファサード塗料のいくつかのサンプルの写真画像である。
図16】セルロース粉末上に調製された本発明によるハイブリッド材料の別の例示的な実施形態の漸増濃度(2.0重量%、4.0重量%及び8.0重量%)が添加された市販の防汚塗料のいくつかのサンプルの写真画像である。
図17】市販の銀粉末を用いて調製された本発明のハイブリッド材料の例示的な実施形態の1重量%を含有するUltramid C33サンプルの写真画像である。 a)顆粒; b)プレート;及び c)大腸菌(E.coli)に対するサンプルの阻害領域試験。
図18】本発明の触媒系ハイブリッド材料の例示的な実施形態の3重量%を含有するポリアミドの繊維の写真画像(a)及びこれらの繊維の抗菌効果の棒グラフ(b)を示す図である。
図19】本発明に従って調製され、そのコアが強磁性鉄粉(a及びb)からなる抗菌ハイブリッド材料の写真画像、並びにこのハイブリッド材料によるグラム陽性菌B.スブチリス(B.subtilis)細菌の溶解を表す棒グラフ(c)を示す図である。
図20】激しく撹拌することによって水中に均一に分布する、本発明によるハイブリッド材料の例示的な実施形態の写真画像である。 a)後コーティングなしのハイブリッド材料の粒子;及び b)続いて室温でドーパミン塩酸塩溶液(2mg/ml)及びリン酸緩衝液(0.1M、pH8.5)で処理したハイブリッド材料の粒子。
図21】本発明によるセルロースベースのハイブリッド材料の例示的な実施形態の抗菌効果についての阻害領域試験の写真画像であり、その効力は後処理によって損なわれない。
図22】抗菌活性を付与するためにシロキサンに組み込まれたセルロースベースの抗菌ハイブリッド材料の写真画像である。 a)シロキサンコーティングH2084及びH5055;及び b)片面がシロキサンでコーティングされたポリプロピレン小板を有する寒天上の大腸菌(E.coli)の抗菌アッセイ結果。
図23】異なる粉末量に対して異なるルテニウム堆積プロセスによって調製された2つのルテニウム/酸化ルテニウム//銀/塩化銀(Ru/RuOx//Ag/AgCl)粉末(AP383及びAP823)を使用したMRSA細菌の増殖曲線を示す図である。
図24】電気めっきされたRu/RuOx//Ag/AgCl粉末サンプル825及び392並びにポリエチレンフィルム上のRu/RuOx//Ag/AgOx PVDコーティング(サンプルRu及びRuOx)のXPS表面分析(Ru3dスペクトル)を示す図である。
図25】サンプル825、392、Ru、RuOxのO1sスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明によれば、コア物質(担体材料)に基づいて微粒子のハイブリッド材料が製造されることにより、例えば、まず、本発明による2つの電極金属のうちの一方を有する第1の閉鎖層がコア材料(セルロース、金属、ガラス、セラミック、グラファイト、ポリマー)に適用される。続いて、第2の電極金属は、コア材料及び/又は第1の電極層上に、閉じていないクラスタ形状の多孔質又は微小亀裂の薄い第2の層として適用される。これらのコーティングは、従来の電解プロセス、化学的還元プロセス、又は蒸着によって適用することができる。好ましくは、金属が化学的還元によって選択された担体材料上に堆積される化学還元プロセスが使用される。適切な還元剤としては、アルデヒド、アスコルビン酸、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン又は金属水素化物が挙げられる。還元剤が、溶液を分解して金属損失をもたらすであろう粒子コア上ではなく溶液中に既に金属イオンを堆積させるのを防ぐために、経験豊富な電気めっき作業者に知られている適切な抑制剤を電解質に添加することができる。ルテニウム堆積では、例えば、適切な抑制剤としてエチレンジアミンを添加することができる。使用される還元剤に応じて、担体材料の表面は触媒で活性化されなければならない。銀は水素化ホウ素ナトリウムの分解を引き起こすため、この組合わせには追加の活性化は必要ない。
【0062】
担体材料上への2つの金属の堆積は、通常、両方の金属を異なる組成を有する電解質からガルバニに堆積させることができるため、例えば二段階プロセスで行うことができる。好ましくは、化学還元金属堆積はバッチ式で行われ、電解質に含まれる金属の量は粒子コア上に完全に堆積される。電解質の完全な仕上げの検証は、品質管理のためだけでなく、特に貴金属が抗菌性コーティング材料として使用される場合に不可欠なAAS又はICP等の古典的な分析方法によって行うことができる。粒子コア上への金属の均一かつ完全な堆積を達成するために、反応器への金属化合物、還元剤及び他の化学添加剤の計量添加は、例えば撹拌機又は混合機(セルロースの場合は混練機)によって、同時に高い電解質移動を伴って行われなければならない。温度制御又は冷却及びpH値の測定等の古典的な電解質制御は、ハイブリッド抗菌粒子の品質保証並びにプロセスの信頼性にとって重要である。
【0063】
抗菌ハイブリッド材料の後コーティングは、例えば反応物を含有する水溶液に均一に撹拌しながら添加することによって、別個の反応器で行われる。このプロセスでは、例えば、ハロゲン化物又はスルフィド含有水溶性化合物、アスコルビン酸、キトサン、ポリエチレングリコール、ポリドーパミンを使用することによって、ハイブリッド系の金属表面で本発明のハイブリッド材料上の金属の表面で化学反応又は化学吸着が起こる。
【0064】
図1は、微粒子抗菌ハイブリッド材料の構造を概略的に示し、その形状及びサイズは、粒子コア(1)によって大きく決定される。粒径は、通常<50μm、好ましくは<5μmである。繊維状粒子の場合、線状伸長は、用途に応じて、<1mm、好ましくは<60μm、好ましくは<1μmであり得る。
【0065】
第1のほぼ閉じた金属層(2)、好ましくは銀層がコア(1)に適用される。
【0066】
ハイブリッド系の第1の層(2)の上に、第2の金属、好ましくはルテニウムが非常に薄いナノ多孔性層(3)として適用される。コア(1)の上の第1の層(2)及び第2の層(3)は、湿った環境からの酸素がハイブリッド表面の適用材料のカソード部で減少し、酸素ラジカルが形成されるように構成される。
【0067】
第1の層(2)及び第2の層(3)の金属成分はそれぞれ、表面での化学反応によって金属化合物(4)、例えばハロゲン化金属若しくは金属硫化物に変換することができ、又は酸化溶液によって酸化物層を形成することができ、又は既存の酸化物層を変化した価数を有する混合酸化物層に変換することができる。あるいは、粒子上のハイブリッド層系には、化学吸着アスコルビン酸層(5)を設けることができる。
【0068】
ハイブリッド系には、抗菌効果を阻害しないキトサン、ポリエチレングリコール又はポリドーパミンのポリマー層(6)を更に設けることができる。
【0069】
必要な特性プロファイルに応じて、化学的に還元的に堆積された金属及び化学的に適用された無機層又は有機層は、それらの横方向分布、厚さ及び構造において可変的に調整され得る。
【0070】
図2は、平均直径が約40μmのPotters Industries Inc.の銀めっきガラスビーズS3000S上に調製された本発明によるハイブリッド材料の異なる抗菌性変異体を示す。銀はここではアノード材料として機能し、その上に触媒活性カソード材料として異なる層厚でルテニウムが堆積された。ルテニウムコーティングのために、ガラス球を激しく撹拌しながらアルカリ溶液中に分散させた。次いで、塩化ルテニウム(III)及び水素化ホウ素ナトリウムの溶液が還元剤として添加された。ルテニウムの層厚の異なる粒子を調製した。計算されたルテニウムの平均層厚は、サンプル513では約0.4nm、サンプル514では約0.8nm、サンプル515では約1.9nmである。サンプルの表面は、ルテニウムの層厚が増加するにつれてわずかに暗色になる。サンプル515は、淡い茶色がかった色相を示す。
【0071】
図3は、化学的-還元的にコーティングされた粒子のSEM画像を示す。銀コーティングガラス粒子S3000Sを300倍の倍率(左上)及び10,000倍の倍率(右上)で示す。更に、ルテニウムでコーティングされたサンプルを倍率10,000倍で示す。サンプル513(左中央)、514(右中央)及び515(左下)は、非常に均一なコーティングを示す。約9.4nmの平均コーティング厚を有するサンプル516(右下)について、触媒活性ルテニウムコーティングの多孔質構造が見られる。
【0072】
図4は、微粒子抗菌ハイブリッド材料513、514、及び515の表面上での過酸化水素の触媒形成を示す。各ビーズ50mgを二価鉄イオン及びキシレノールオレンジの溶液中で225rpmでシェーカー上で1時間インキュベートした。鉄(II)イオンは、過酸化水素の形成によって酸化された。生成した三価鉄イオンは直ちにキシレノールオレンジと着色錯体を形成し、その濃度を波長585nmで測光的に測定した。ルテニウム層の厚さが増加するにつれて、形成される過酸化水素の濃度が増加する。
【0073】
図5は、阻害領域試験後の粉末サンプルの抗菌効率の決定を示す。10/mlの大腸菌(E.coli)(DSM498)を含有する懸濁培養物を50μlでプレーティングした。サンプルを寒天上にプレーティングし、37℃で18時間インキュベートした。銀コーティングガラス粒子S3000Sは既に中程度の抗菌活性を示した。粉末513、514及び515の抗菌効率は非常に高い。これらのサンプル間の違いは、微生物寒天試験後には識別できない。
【0074】
図6は、粉末S3000S、513、514及び515の成長曲線を示す。30mlのMRSA培養物(供給源:Robert Koch Institute)を三角フラスコ内で光学密度0.1に調整した。続いて、異なるサンプルのそれぞれ200mgを37℃及び150rpmの振盪インキュベータ内でインキュベートした。次いで、サンプルの光学密度(OD600)を1時間間隔で決定した。この非常に高感度の抗菌アッセイ法の後、銀コーティングガラスビーズについてMRSA培養増殖の阻害は測定されなかった。ビーズ上のルテニウムの層厚が増加すると、成長阻害が著しく増加する。サンプル515では、選択された粉末重量に対して完全な成長阻害が観察される。したがって、この粉末の最小阻害濃度(MIC)は200mgである。
【0075】
図7は、60μmの平均繊維長を有するセルロース粉末に基づいて調製された抗菌性微粒子ハイブリッド材料を示す。まず、セルロース粉末を硝酸銀溶液に浸漬させた。次いで、アスコルビン酸を添加することによって銀イオンを還元した。灰白色の銀コートセルロース粉末を得た。次いで、銀化セルロース粉末を激しく撹拌しながらアルカリ溶液に分散させた。次いで、塩化ルテニウム(III)及び水素化ホウ素ナトリウムの溶液が還元剤として添加された。暗灰色粉末が得られ、その色はルテニウム含有量に大きく依存する。図7aはコーティングされていないセルロース粉末を示し、図7bは20重量%の銀含有量及び1重量%のルテニウム含有量を有するコーティングされた抗菌剤粉末を示す。図7cに示す10,000倍の繊維表面のSEM画像は、セルロース繊維上の2つの金属の均一な分布を示す。図7dによる阻害領域試験は、このプロセスによって製造された粉末の様々なバッチが高い抗菌活性を有することを示す。
【0076】
図8aは、MRSA増殖曲線を作成することによるコーティングセルロース上の抗菌性粉末の最小阻害濃度の決定を示す。抗菌性粉末を添加していないサンプルを対照とした。調製した粉末の最小阻害濃度はわずか15mgであった。図8bは、調製されたセルロースベースの抗菌粒子の抗菌効率がそのルテニウム含有量にも依存することを示す。ルテニウム含有量が0.2重量%の場合、決定された増殖曲線によればMRSAの細菌増殖のわずかな阻害しか見られないが、ルテニウム含有量が1.0重量%の場合、成長の完全な阻害が起こる。抗菌性粉末を添加していないサンプルを再び対照とした。粉末の重量はそれぞれ20mgであった。
【0077】
セルロース担体材料上の全てのハイブリッド銀-ルテニウム粒子は抗菌効果を示すが、MRSA細菌による増殖曲線に基づいて、その強度に関して抗菌効果を再度区別することができる。表1は、ルテニウム含有量及び銀含有量(量)の両方がMRSAに対する効力の強さに影響を及ぼすことを示す。両方の金属を使用して、必要とされる強度に関して本発明のハイブリッド材料の抗菌効果を制御することができる。表1は、ハイブリッド材料全体に関して分析された銀及びルテニウムの量[重量%]を示し、それぞれの抗菌強度は凡例に従って(x+)として評価される。原理的には、十分な量が存在する場合、最終的に全ての材料変異体が完全な抗菌効果を示すと言える。したがって、測定に関しては、全ての変異体が完全なMRSA死滅を達成するわけではないので、分化がなされ得るまで粒子量を減少させた。より低い重み付けで銀-ルテニウム変異体の100%の効果が依然として検出可能である場合、これは特に有効な組成物として分類された。したがって、表1は、重量に従って示された変異体の評価を示す。
【表1】
【0078】
図9aは、本発明に従って製造されたセルロースベースの抗菌ハイブリッド材料をリヨセルプロセスに添加することによって製造された、リヨセルプロセスによって製造された抗菌セルロースフィルムを示す。同様に、リヨセルプロセス後に抗菌セルロースフィラメントを製造することもできる。図9bは、細いフィラメントの周りに形成された阻害領域に基づいて、大腸菌(E.coli)(DSM498)に対する本発明に従って製造されたセルロースフィラメントの抗菌効果を示す。図9cは、微粒子セルロースベースの銀-ルテニウムハイブリッド(720b)の3%のみをセルロース紡糸溶液に添加することによってDIN EN ISO 20743に従って測定された黄色ブドウ球菌(S.aureus)(DSM799)に対する有意な抗菌活性を示す。
【0079】
図10は、阻害することが更に困難であるSARS-CoV-2及びネココロナウイルス(FCoV)に対する本発明に従って製造された微粒子抗菌ハイブリッド材料の有効性を示す。試験は、いわゆるプラークアッセイを使用してFU Veterinary Medicineで行った。ウイルスプラークアッセイは、ウイルスサンプル中のプラーク形成単位(pfu)の数を決定し、これはウイルスの量の尺度である。このアッセイは、ペトリ皿又はマルチウェルプレートで行われる微生物学的方法に基づく。ウイルスプラークは、ウイルスが固定細胞単層内の細胞に感染すると形成される。ウイルス感染細胞は溶解し、感染は隣接細胞に伝達され、そこで感染-溶解サイクルが繰り返される。感染細胞領域は、光学顕微鏡又は視覚的に可視化することができるプラーク(非感染細胞によって囲まれた感染領域)を形成する。図10aにおいて、プラーク減少アッセイは、本発明に従って調製されたセルロースベースの抗菌粒子が、既に約0.2mg/mlの濃度でネココロナウイルスに対して抗ウイルス効果を有することを示す(IC50:ウイルスの50%を死滅させる)。図10bに示すSARS-CoV-2に対する本発明による抗菌セルロースベースの微粒子ハイブリッド材料の抗ウイルス効果の場合、IC50は約0.05mg/mlで更に有意に低い。したがって、本発明による抗菌ハイブリッドシステムは、粒子を塗料、コーティング、プラスチックに組み込むことによってウイルスと戦うのに適している。
【0080】
図11は、1μm-100μmの粒径を有する市販の球状銀粉末がルテニウムでコーティングされた、本発明による銀粒子上に調製された微粒子(抗菌性粉末)を示す。銀粉末を激しく撹拌しながらアルカリ溶液に分散させた。次いで、塩化ルテニウム(III)及び水素化ホウ素ナトリウムの溶液が還元剤として添加された。ルテニウム含有量3.2重量%の暗灰色粉末が得られた。図11aはコーティングされていない銀粉末を示し、図11bはコーティングされた抗菌剤粉末を示す。図11cは、約1μmの直径を有する100,000倍の倍率での粉末粒子のSEM画像を示す。ルテニウムコーティングの多孔質構造がはっきりと見える。図11dは、本発明による微粒子又は粉末の高い抗菌効率を実証する阻害領域試験を示す。
【0081】
図12は、図11bによる銀粒子に基づく抗菌性微粒子についてのMRSAの増殖曲線を示す。粒子の最小阻害濃度は20mgである。抗菌性粉末を添加していないサンプルを対照とした。
【0082】
図13は、触媒ベースの本発明による微粒子(抗菌性粉末)を示し、ベースとして使用される銀粉末は、化学還元プロセスによって事前に調製された。還元剤としてアスコルビン酸を用いた。また、阻害剤としてアラビアゴムを用いた。調製した銀粉末を濾別し、洗浄し、濾過直後にルテニウムでコーティングした。再び、塩化ルテニウム(III)及び水素化ホウ素ナトリウムの溶液が還元剤として添加された。図13aは、濾過、洗浄及び乾燥後の粉末を示す。より大きな、硬い、金色の粒子が形成された。次いで、これらを粉砕した。図13bは、モルタルで塗った黒色粉末を示す。粉末の粒径は、0.1μm-5μmで異なる。ルテニウム含有量は3.2重量%である。図13cは、100,000倍での粉末粒子のSEM画像を示す。直径は約0.7μmである。
【0083】
図14は、図13による微粒子又は粉末の成長曲線を示す。粉末の最小阻害濃度はわずか5mgである。この小さい値は、小さい粉末粒子の大きい相対表面積に起因する。抗菌性粉末を添加していないサンプルを対照とした。
【0084】
図15は、本発明によるガラス粒子上に調製された漸増濃度の抗菌ハイブリッド材料が添加された市販のファサード塗料のいくつかのサンプルを示す。粉末の濃度は、0.1重量%、0.5重量%及び1.0重量%である。阻害領域試験後の大腸菌(E.coli)細菌に対するサンプルの抗菌活性を決定した。全てのサンプルは有意な抗菌効率を示し、これは粉末の濃度の増加と共に増加した。ハイブリッド材料の抗菌機能は、ファサード塗料によって阻害されない。ファサード塗料のフィルム保存は、顕著な長距離効果を必要としないため、この用途には、はるかに低い濃度のハイブリッド材料粉末で十分である。高い抗菌活性を有する参照サンプルを対照として用いた。
【0085】
図16は、セルロース粉末上に調製された漸増濃度のハイブリッド抗菌材料粉末が添加された市販の防汚塗料のいくつかのサンプルを示す。粉末の濃度は、2.0重量%、4.0重量%及び8.0重量%であった。抗菌性粉末を添加しない防汚コーティングは対照として機能した。サンプルを北海で6週間保存した。この時間の後、対照サンプルは既に有意な汚染を示したが、2.0重量%の抗菌性粉末は、孤立した領域でのみ汚染を示した。抗菌ハイブリッド材料粉末の濃度が増加するにつれて、低レベルの汚染が更に減少する。
【0086】
図17は、市販の銀粉末で調製した1重量%の抗菌性微粒子を含有するUltramid C33のサンプルを示す。図17aは顆粒を示し、図17bはプレートを示す。図17cは、大腸菌(E.coli)に対するサンプルの阻害領域試験を示す。両方のサンプルは、中程度の抗菌活性を有する。プレートの一方のサンプルを脱イオン水中で18ヶ月間インキュベートし、これを定期的に交換した。サンプルの抗菌活性は、その抗菌活性が殺生物剤の浸出によるものではなく、触媒プロセスによるものであるため、インキュベーション後に変化しない。
【0087】
図18は、3重量%の触媒系抗菌性微粒子を含有するポリアミド繊維を示す(図18a)。使用した微粒子粉末は、化学的還元プロセスで銀イオンを還元し、続いてルテニウムでコーティングすることによって製造した。粉末を繊維に組み込むためには、粒子のサイズは5μm未満でなければならない。繊維は良好な抗菌活性を有する(図18b)。
【0088】
図19aは、本発明に従って製造された抗菌ハイブリッド材料を示し、そのコアは強磁性鉄粉から作製されている。図19bは、強磁性コアを備えたハイブリッド粒子が、強い永久磁石を備えたガラス壁を通して外側からガラス容器内で完全に操作され得る方法を示す。このようなハイブリッドシステムは、例えば、生体測定装置に使用され得る。図19cは、グラム陽性B.スブチリス(B.subtilis)細菌に対するPCRゲノム分析のための本発明によるハイブリッド抗菌粒子システム(矢印)の結果を示す。本発明による抗菌粒子システムは、室温で15分間、PBSを含む21μl懸濁液中でB.スブチリス(約1×10exp6細胞)を溶解するタスクを有していた。ここで、磁石の助けを借りて実験終了後に粒子を器具から完全に除去することができた。
【0089】
図20は、本発明に従ってコーティングされ、激しく撹拌することによって水中に均一に分配された抗菌ハイブリッド材料を示す。(a)のハイブリッド材料の粒子は後コーティングなしであるが、(b)のハイブリッド材料の粒子はその後、室温でドーパミン塩酸塩溶液(2mg/ml)及びリン酸緩衝液(0.1M、pH8.5)中で処理される。ドーパミン塩酸塩処理は、粒子表面を以前の疎水性状態から親水性状態に変換した。これにより、撹拌後直ちに容器の底部に沈むドーパミン塩酸塩による後コーティングなしで疎水性であった粒子が得られたが、親水化された粒子のために安定した分散をより長時間維持することができる(図20b)。
【0090】
図21は、本発明に従って製造されたセルロースベースの抗菌ハイブリッド材料を示し、その抗菌効果は後処理によって損なわれない。図21aは、寒天上の顕著な阻害領域に基づいて、大腸菌(E.coli)(DSM498)懸濁培養物(200μlがプレーティングされた10exp7/ml)に対する後処理なしで本発明に従って製造されたセルロースベースのハイブリッド粒子の抗菌活性を示す。図21bにおいて、同じサイズのHemmhofは、アスコルビン酸で後処理されたセルロースベースのハイブリッド粒子が、本発明に従って調製された粒子の抗菌活性を負に変化させないことを示す。キトサン(図21c)及びポリドーパミン(図21d)による後処理にも同じことが当てはまる。
【0091】
図22は、ゾル-ゲルコーティング材料(例えば、シロキサン)に組み込まれ、ゾル-ゲルコーティングに抗菌活性を与えるセルロースベースの抗菌ハイブリッド材料を示す。2つのシロキサンコーティングH2084及びH5055(図22a)をゾルゲルコーティングとして使用した。ハイブリッドセルロースベースの粒子を抗菌添加剤として使用し、これを5重量%の濃度でシロキサンコーティングに添加した。混合後、分散液を噴霧によってサンプル支持体に適用した。次いで、コーティングを乾燥オーブン内で適切な温度で架橋した。粉末粒子は、サンプル表面に良好な分布を示した。図22bは、片面がシロキサンでコーティングされ、5重量%の本発明のセルロースベースのハイブリッド抗菌材料でコーティングされたポリプロピレンプレートの寒天上の大腸菌(E.coli)の抗菌試験結果を示す。大腸菌(E.coli)(DSM498)を用いた阻害ヤード試験は、2つのサンプルの高い抗菌活性を示す。これは、その後硫化カリウムの1%溶液中で5分間インキュベートしたサンプルにも当てはまる。部分的に不規則な抑制ハロは、不均一なスプレー適用によるものである。本発明に従って製造された抗菌粒子の抗菌活性は、シロキサンコーティングによってほとんど影響を受けないことが分かる。この場合、その後の硫化物後処理は、分散コーティング系の抗菌効果の増加にもつながる。シロキサンコーティングは、重合状態では硬く、引っかき抵抗性であるため、この抗菌性分散物コーティング系は、摩耗及び裂けを受ける表面に特に適している。
【0092】
図23は、2つのルテニウム/ルテニウム/銀/酸化銀粉末を異なる量の粉末で使用したMRSA細菌の増殖曲線を示す。ルテニウムは、例えば、銀表面上に直接的な一段階化学還元経路によって、異なる強還元剤(例えば、NaBH、N)を用いて堆積させることができ、それに応じてルテニウム/酸化ルテニウムを銀表面上に堆積させることができる。しかしながら、ルテニウム/酸化ルテニウムは、最初にルテニウムが第1の工程で酸化され、酸化されたルテニウムが第2の工程でのみルテニウム及び酸化ルテニウムに還元される2工程プロセスで堆積することもできる。銀粒子上へのルテニウム/酸化ルテニウム堆積のための異なるプロセス経路は、同等の抗菌効果をもたらすと予想された。しかしながら、驚くべきことに、二段階プロセスは、直接的な一段階ルテニウム堆積プロセスと比較して、黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)及び緑膿菌(P.aeruginosa)に対する銀/酸化銀/ルテニウム/酸化ルテニウムの抗菌活性がほぼ1桁高いことが見出された。強い還元剤によるRu(III)イオンの直接的な一段階還元とは異なり、間接的な二段階プロセスは、Ru(III)イオンの酸化ルテニウム(VIII)への酸化に依存する[Chen 2011]。RuOは、担体材料を酸化ルテニウム(IV)の層でコーティングする適切な還元剤によって酸化ルテニウム(IV)に変換される強力な酸化剤である。Ru(III)イオンのRuOへの酸化は、次亜塩素酸ナトリウムによって行われる。RuOを安定化するために、プロセスはアルカリ媒体中で行われる。RuOへの還元は亜硝酸ナトリウムによって行われる。
【0093】
ルテニウム堆積のための間接的な二段階プロセスを用いた銀粒子へのRu/RuOの化学還元堆積による半導体銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末の調製(AP383):
50gの銀粉(Toyo Chemical Industrial,SBA10M27)を、1000mlの脱イオン水を含む超音波浴中、2000mlの三口フラスコ中でスラリー化した。KPG撹拌機を用いて300rpmで更に撹拌した。2時間後、褐色懸濁液をデカンテーションによって別の2000ml三つ口フラスコに移した。超音波浴及びKPG撹拌機での撹拌において、10mlのRu(NO)(NO溶液(10.83g/l)を添加した。次いで、以下の溶液の混合物を懸濁液に添加した。
300mlのNaClO溶液(14%)、
100mlのNaOH溶液(10g/l)、
87.5mlのNaNO2溶液(10g/l)。
【0094】
銀粉末はすぐに暗色になった。次いで、懸濁液を超音波浴中で1時間撹拌した。コーティング粉末の沈降後、黄色上清をデカントした。粉末を脱イオン水に溶解し、濾別した。脱イオン水で洗浄した後、粉末をエタノールで溶解し、濾別し、60℃の温度の乾燥オーブンで乾燥させた。
【0095】
抗菌効果
驚くべきことに、酸化ルテニウムがそれぞれ一段階及び二段階化学還元プロセスによって堆積された銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末は、MRSA細菌(グラム陽性)に対する抗菌試験において著しく大きな差を示す。強還元剤水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いて銀粒子上に直接ルテニウム還元によって堆積させた銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP823)は、二段階法によって堆積させた銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP383)よりもほぼ1桁低い抗菌活性を示した。図23は、2つのルテニウム/酸化ルテニウム//銀/酸化銀粉末を異なる量の粉末と共に使用したMRSA細菌の増殖曲線を示す。増殖曲線の形状から分かるように、二段階銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP383)は、2.5mgの秤量粉末量でMRSA細菌の完全な死滅を示したが、一段階銀/酸化銀//ルテニウム/酸化ルテニウム粉末(AP823)は、15mgの粉末量でのみ完全な死滅を示した。したがって、8時間の実験期間全体にわたって完全な殺菌剤が必要としたのは、サンプル383については2.5mgの粉末のみ(392としてのRu堆積法と同等)及びサンプル823については>10mg、すなわち約6分の1~4分の1という事実によって示されるように、二段階ルテニウム堆積は、一段階法と比較して有意に増加した抗菌効果を有することが分かった。緑膿菌(P.aeruginosa)PA14(グラム陰性)に対する粉末(AP823)及び(AP383)の両方のタイプの抗菌活性の研究で、抗菌活性の比較的大きな差(約1桁)が見出された。
【0096】
抗菌効果は、第1の半電池に酸化ルテニウム(VI)を含むサンプルで特に高い(表2)。明らかに、酸化ルテニウム(VI)は、ルテニウム堆積(392及びRuOx)に強力な酸化効果を有するプロセス工程が存在する場合、ルテニウムの電気化学的堆積及びPVD堆積の両方で得ることができる。XPS表面分析は、おそらく特定の酸化ルテニウム(VI)/酸化ルテニウム(IV)比に応じて、抗菌効果と酸化ルテニウムの組成との間の相関を示す。いずれの場合でも、酸化ルテニウム(VI)の存在は、抗菌活性の増強に有益であるか、又は必要でさえある。
【表2】
【0097】
文献による結合エネルギー(eV):
・Ru(0):Ru 3d:280,2 eV;J.F.Moulder,W.F.Stickle,P.E.Sobol and K.D.Bomben:Handbook of X Ray Photoelectron Spectroscopy:A reference of Standard Spectra for identification and interpretation of XPS Data,J.Chastain and J.R.C.King,Editors,p.115,Physical Electronics Eden Prairie,Minnesota(1995)。
・RuO2:Ru 3d:280,66 eV;T.P.Luxton,M.J.Eick,K.G.Schekel;Journal of Colloid and Interface Science 359,(2011)30-39.
・RuO3:Ru 3d:282,5 eV;T.P.Luxton,M.J.Eick,K.G.Schekel;Journal of Colloid and Interface Science 359,(2011)30-39.
RuO3:Ru 3d:282.4eV;R.Kotz,H.J.Lewerenz and S.Stucki;J.Electrochem.Soc.130,No.4,1983,825-829.
【0098】
銀上への湿式化学的二段階Ru堆積に加えて、ルテニウム及び銀もPE箔上へのPVDコーティングによって堆積され、これは、PVDサンプル上に塩化銀が存在せず、検出され得る任意の差が、ルテニウム半電池により明確に起因し得るという利点を有する。
(A)PVD堆積:
・(a)銀に対するルテニウムスパッタリング(サンプル指定「Ru」)。
・(b)銀及びルテニウムの反応性スパッタリング(O)(サンプル指定「RuOx」)。
(B)化学還元ルテニウム堆積:
・(c)銀へのルテニウム堆積のための直接還元(サンプル指定「825」)。
・(d)既に記載された二段階プロセスでの銀上に堆積するルテニウムの還元(酸化+その後の還元、サンプル指定「392」)。
【0099】
これらの4つのサンプルを成長曲線及び表面組成(XPS分析)によって分析した。その結果、両方の調査において、XPS分析によれば、それぞれの群(A)又は(B)内だけでなく、群(A)と(B)との間でも差が生じ、表面組成の顕著な違いに対応する抗菌効率の増加が示された。
【0100】
図24は、サンプルRu(a)、RuOx(b)及び825(c)、392(d)のXPSスペクトルを示す。抗菌試験は、上記のように、Ru/RuOx//Ag/AgCl及びAgOx半電池の組合わせの化学還元的堆積及びPVD堆積にそれぞれ有意差があることを示した。XPS分析は、異なる抗菌効果に対応する顕著な方法での違いを示す。Ru3dスペクトル(図24)に見られるように、化学的に還元的に調製されたサンプルの群825(c)(曲線(1))、392(d)(曲線(2))及びPVDコーティングされたサンプルの群Ru(a)(曲線(3))、RuOx(b)(曲線(4))の両方において、1つの群内及び2つの群の間に以下の顕著な差がある。
・金属ルテニウム(BE=280.1eV)からの狭い信号がサンプル825(a)の曲線1に見られる。サンプルRuのスペクトルは大部分(65%)の金属ルテニウムからなり、約24%がRuO2に割り当てられる。
・RuOx(b)サンプル(曲線(4)-PVD酸化スパッタリング)は、有意に少ないRu(0)を含有し、炭素成分をより顕著にする。最大成分(BE=284.4eV)は金属炭化物に起因すると考えられる(Cは明らかにPEフィルムのPVD洗浄に由来する)。スペクトルのルテニウム成分は、BE=282.1eVの信号が支配的であり、これは約85%を占め、RuO3**に割り当てることができる。この成分の半値幅は非常に大きいため、シグナルへの他の化合物の寄与を排除することはできない。スペクトルの残りのRu成分は、Ru(VI)又はルテニウムのより高い酸化状態の酸化水和物によって引き起こされる。
サンプル392(d)の曲線(2)は、サンプルRuOx(b)の曲線4と同様であり、RuO3**も有意な濃度で含有する。しかしながら、更に、酸化水和物であり得る他の化合物が存在する。しかし、より大きな原子価を有するRu化合物も可能である。Ru(0)及びRuO2含有量は少ない。
**)文献データ(表1)によれば、282.2eV~282.6eVのRuOが位置する。
【0101】
酸素O1sスペクトル(図25)では、Ru3dスペクトルについて記載したサンプルのグループ分けが見られる。Ru及び825のサンプルは、実質的に同一のスペクトル形状を与え、これを3つの成分と一致させることができる。金属酸化物は、BE=530eVであると予想される。より大きいBEの成分は、水酸化物及び水和物を表し得る。しかし、これらのかなりの部分は、おそらく吸着剤に起因する。RuOxサンプルはおそらく吸着剤の影響を大きく受ける。更に、O原子は、酸化ルテニウム中に見られる。サンプル392は、ごくわずかな割合の酸化酸素原子を示す。主要部分は水和物中で結合している。その間に、水酸化物がおそらくまだ見出されていない。
【0102】
XPS分析は、試験したサンプルの酸化物組成のいくつかの違いを示す。顕著であり、おそらく抗菌効果の増加の主な原因は、高い抗菌効果を有するサンプル中のRuO及び金属Ru(0)に加えて、ルテニウムの六価酸化状態の存在であり得る。特に、AgClが存在しないPVDサンプルでは、抗菌効果を高めるためにこの側からの影響はない可能性がある。
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【国際調査報告】