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特表2023-5279241.54~1.58の屈折率を有する光学材料用重合性及びポリマー組成物、眼鏡レンズ、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】1.54~1.58の屈折率を有する光学材料用重合性及びポリマー組成物、眼鏡レンズ、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20230623BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20230623BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20230623BHJP
   C08G 18/66 20060101ALI20230623BHJP
   G02B 1/04 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
G02C7/00
C08G18/32 003
C08G18/38 076
C08G18/66 066
G02B1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574533
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021064786
(87)【国際公開番号】W WO2021245133
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】20315295.4
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
【住所又は居所原語表記】147,rue de Paris,F-94277 Charenton-le-Pont,France
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】ローリー マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール フロマンタン
【テーマコード(参考)】
2H006
4J034
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA03
2H006BD01
2H006BD03
2H006BE00
2H006BE02
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA32
4J034CD04
4J034DA01
4J034DG02
4J034DG04
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KE02
4J034QD02
4J034RA13
(57)【要約】
本発明は、眼鏡レンズの基材などの光学材料用ポリマー組成物を形成することが意図される重合性組成物、重合性組成物を重合して得られ、且つ1.54~1.58の屈折率を有するこのポリマー組成物、このポリマー組成物を含む眼鏡レンズ、及びこの光学材料の製造方法に関する。
重合性組成物は、1.54~1.58の屈折率を有し、
- 少なくとも2個の-NCO基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物と;
- 少なくとも2個の-SH基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物と;
- 少なくとも1種のポリオールとを含む。
本発明によると、前記少なくとも1種のポリオールは、ポリエーテルポリオールを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.54~1.58の屈折率を有する光学材料用のポリマー組成物を形成することが意図される重合性組成物であって、
- 少なくとも2個の-NCO基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物と;
- 少なくとも2個の-SH基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物と;
- 少なくとも1種のポリオールであって、
ポリエーテルポリオールを含む、少なくとも1種のポリオールと
を含む、重合性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオールが少なくとも3個の-SH基を含み、且つ前記組成物が少なくとも1個のジチオール化合物をさらに含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のジチオール化合物が、好ましくは1,5-ペンタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,2-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール及びこれらの混合物から選択される脂肪族ジチオールである、請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオールが、900g/molより大きく2000g/mol以下の分子量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルポリオールが3~5個のOH基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記ポリエーテルポリオールが、グリセロールプロポキシレート、グリセロール開始ポリオキシプロピレンポリオール、ソルビトール開始ポリオキシプロピレンポリオール、プロピレングリコール開始ポリオキシプロピレンポリオール、エチレングリコール開始ポリオキシプロピレンポリオール、スクロース開始ポリオキシプロピレンポリオール及びその混合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物が、好ましくは、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ブタメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ウンデカメチレンジイソシアネート、トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,4-ジイソシアナトブタン、1,12-ジイソシアナトドデカン及びこれらの混合物から選択される脂肪族又は脂環族ジイソシアネートである、請求項1~6のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物が、ジペンタエリスリトールヘキサキス3-メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート及びこれらの混合物から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項9】
前記重合性組成物中のモル比[SH]:[OH]は、5以上及び24以下であり、好ましくは10以上及び14以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項10】
前記重合性組成物が、
・ 35重量%以上、好ましくは45%~60%の前記少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物、
・ 20重量%以上、好ましくは25%~35%の前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物、及び
・ 1重量%以上、好ましくは1.5%~5%の前記少なくとも1種のポリエーテルポリオール
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項11】
1.54~1.58の屈折率を有する光学材料のためのポリマー組成物であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の重合性組成物の重合生成物を含む、ポリマー組成物。
【請求項12】
動的機械分析(DMA)又は示差走査熱量測定(DSC)によって測定される、100℃以上及び150℃以下であるガラス転移温度Tgを有する、請求項11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
動的機械分析(DMA)によって25℃で測定される、3.0GPa以上である貯蔵弾性率E’を有する、請求項11又は12に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む眼鏡レンズであって、前記組成物は、好ましくは前記レンズの基材を形成する、眼鏡レンズ。
【請求項15】
1.54~1.58の屈折率を有する光学材料を製造するための方法であって、
a)
- 少なくとも2個の-NCO基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物と;
- 少なくとも2個の-SH基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物と;
- ポリエーテルポリオールを含む少なくとも1種のポリオールと;
- 任意選択的に、前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオールが少なくとも3個の-SH基を含む場合、少なくとも1種のジチオール化合物と
を混合して、重合性組成物を形成すること;並びに
b)前記重合性組成物を金型内で重合させ、前記光学材料を形成するポリマー組成物を得ること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの基材などの光学材料用ポリマー組成物を形成することが意図される重合性組成物、重合性組成物を重合して得られ、且つ1.54~1.58の屈折率を有するこのポリマー組成物、このポリマー組成物を含む眼鏡レンズ、及びこの光学材料の製造方法に関する。本発明は、一般に、1.54~1.58の中間範囲の屈折率を有する光学ポリマー性材料、及びそれらが誘導される有機モノマーに適用される。
【背景技術】
【0002】
公知の様式において、眼鏡レンズ用の有機基材は、熱可塑性材料又は熱硬化性材料から製造され得る。
【0003】
有機レンズ基材のための熱可塑性材料は、一般に、ポリアミド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリカーボネート及びそのコポリマー;ポリ(エチレンテレフタレート)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択され得る。
【0004】
有機レンズ基材のための熱硬化性材料は、一般に、以下:
- エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエンコポリマーなどのシクロオレフィンコポリマー;
- ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のホモポリマーなどの直鎖状又は分岐状の脂肪族又は芳香族ポリオールのアリルカーボネートのホモポリマー及びコポリマー;
- ビスフェノールAから誘導され得る(メタ)アクリル酸及びそのエステルのホモポリマー及びコポリマー;
- チオ(メタ)アクリル酸及びそのエステルのポリマー及びコポリマー;
- ビスフェノールA又はフタル酸と、スチレンなどのアリル芳香族とから誘導され得るアリルエステルのポリマー及びコポリマー、ポリマー;
- ウレタン及びチオウレタンのコポリマー;
- エポキシのポリマー及びコポリマー;並びに
- スルフィド、ジスルフィド及びエピスルフィドのポリマー及びコポリマー
から選択され得る。
【0005】
そのような熱硬化性材料には、1.54~1.58(通称「中RI」)の屈折率(RI)を有するジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のホモポリマー及びコポリマー、アリル及び(メタ)アクリルコポリマーがより一般的に使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
約1.56のRIを有するそのようなアクリル又はアリルレンズ基材は、許容可能な光学特性を示す。それにもかかわらず、中RIレンズのそのようなアリル又はアクリル型の熱硬化性基材の主要な欠点は、それらが時間の経過とともに耐衝撃性に関する貧しい機械的特性を示すということである。そのようなアクリル/アリルレンズ基材の別の欠点は、モノマーを重合するために実施される、レンズ基材を得るためにいくつかの複雑なステップが故意に含まれる鋳造プロセスにある。
【0007】
或いは、脂環式ジイソシアネート化合物、ポリチオール化合物、並びに1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール及びジエチレングリコールから選択されるジオールを含む特定のモノマーからより高いRI(1.58より高く、通常1.60~1.74)を有するポリチオウレタンベースのレンズ基材を製造することが知られている。そのようなポリチオウレタンベースの基材は、例えば、欧州特許第1925629B1号明細書に開示されているが、常に1.59以上の高いRIを示し、したがって、高RIに限定され、1.54~1.58のRIを有する基材を得るために使用できないという主要な欠点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題は、特に中RI及び満足な機械的特性を同時に有するレンズ基材を提供することによって、少なくとも上記の欠点を克服することである。
【0009】
この目的は、本発明者らが、特にポリエーテルポリオール系のポリオールを他のモノマーとして非芳香族ポリイソシアネート及び非芳香族ポリチオールと組み合わせる場合、これらのモノマーを触媒の存在下で混合し、そしてモノマー混合物を金型内で重合することにより、変性ポリチオウレタンをベースとする1.54~1.58のRIを有するポリマー組成物を得ると同時に、驚くべきことに、以下に説明するように、ポリマー組成物に有意に強化された機械的特性が与えられることが可能であることを発見したという点で達成される。
【0010】
したがって、本発明による重合性組成物は、1.54~1.58の屈折率を有する光学材料用のポリマー組成物を形成することが意図され、重合性組成物は、以下:
- 少なくとも2個の-NCO基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物と;
- 少なくとも2個の-SH基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物と;
- 少なくとも1種のポリオールであって、
ポリエーテルポリオールを含むものと
を含む。
【0011】
「ポリエーテルポリオール」とは、本明細書中、少なくとも1個のポリエーテルブロックと、それに結合した少なくとも2個の-OH基(アルコール官能基)とを含む、ポリオールのポリエーテルを意味する。
【0012】
前記ポリエーテルポリオールは、ポリエーテルポリオールを含まない従来のポリチオウレタンベースの組成物の屈折率と比較して、この屈折率を有意に低下させることによって、ポリマー組成物の得られる屈折率に対するポリイソシアネート及びポリチオールモノマーの効果を相殺することを可能にするだけではなく、また予想外であることに、得られる変性ポリチオウレタンを強化することによって、以下の実施例で実証されるように、アリル及びアクリルモノマーの両方から誘導される「証明」組成物のものと比較して、ポリマー組成物の機械的特性を有意に改善することを可能にすることに注目されたい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオールは少なくとも3個の-SH基を含み、そして重合性組成物は少なくとも1種のジチオール化合物をさらに含む。
【0014】
前記好ましい実施形態に関連して、前記少なくとも1種のジチオール化合物は、好ましくは1,5-ペンタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,2-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール及びこれらの混合物から選択される脂肪族ジチオールであり得る。
【0015】
(前記好ましい実施形態を含む)本発明の上記特徴のいずれに関しても、前記ポリエーテルポリオールは、以下:
- 900g/molより大きく2000g/mol以下の分子量、及び/又は
- 3~5個のOH基
を有し得る。
【0016】
本発明において一般に使用可能なポリエーテルポリオールとしては、好ましくは、それぞれが例えば式(OC(式中、x及びyは整数であり、nはそれぞれのポリエーテルブロックに関するエーテル繰り返し単位の数である)である3個のポリエーテルブロックにそれぞれ結合した少なくとも3個の-OH基を有するポリオールのポリエーテルが挙げられ得る。好ましくは、x=3、y=6である。
【0017】
より好ましくは、前記ポリエーテルポリオールは、グリセロールプロポキシレート、グリセロール開始ポリオキシプロピレンポリオール、ソルビトール開始ポリオキシプロピレンポリオール、プロピレングリコール開始ポリオキシプロピレンポリオール、エチレングリコール開始ポリオキシプロピレンポリオール、スクロース開始ポリオキシプロピレンポリオール及びその混合物から選択される。
【0018】
さらに好ましくは、本発明の前記ポリエーテルポリオールは、次式(I)で示されるグリセロールプロポキシレートである。
【化1】
【0019】
また、前記好ましい実施態様を含むいずれの上記特徴に関連しても、
- 前記少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物は、好ましくは、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ブタメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ウンデカメチレンジイソシアネート、トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,4-ジイソシアナトブタン、1,12-ジイソシアナトドデカン及びこれらの混合物から選択される脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり得;且つ/又は
- 前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物は、ジペンタエリスリトールヘキサキス3-メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート及びこれらの混合物から選択され得;且つ/又は
- 重合性組成物中のモル比[SH]:[OH]は、5以上及び24以下であり得、好ましくは10以上及び14以下であり;且つ/又は
- 重合性組成物は、以下:
・ 35重量%以上、好ましくは45%~60%の前記少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物、
・ 20重量%以上、好ましくは25%~35%の前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物、
・ 1重量%以上、好ましくは1.5%~10%、さらに好ましくは1.5%~5%の前記少なくとも1種のポリエーテルポリオール、及び
・ 任意選択的に前記好ましい実施形態において、10%~25%の前記少なくとも1種のジチオール化合物
を含み得る。
【0020】
前記比[SH]:[OH]が、ポリエーテルポリオールを欠く多くの従来のポリチオウレタンベースの組成物のものよりも低いことは特に注目されるところである。これは、本発明の組成物の屈折率が1.54~1.58の中RI範囲に属するように低めたことに寄与している。
【0021】
本発明によるポリマー組成物は、1.54~1.58の屈折率を有する光学材料のためのものである。このポリマー組成物は、適切な触媒(例えば、「DMC」と呼ばれる二重金属シアン化物)、及び例えば離型剤、紫外線吸収剤などの型内重合のための他の通常の成分のおかげで、鋳型内で、そして従来のポリチオウレタンベースのレンズ基材に関して意図的に実施される硬化サイクル及びポスト硬化サイクルの後に得られる、上記に定義したような重合性組成物の重合生成物を含む。
【0022】
有利には、本発明のポリマー組成物は、動的機械分析(DMA)又は示差走査熱量測定(DSC)によって測定される、100℃以上及び150℃以下であるガラス転移温度Tgを有し得る。
【0023】
また、有利には、本発明のポリマー組成物は、動的機械分析(DMA)によって25℃で測定される、3.0GPa以上である貯蔵弾性率E’を有し得る。
【0024】
(以下の実施例を含む)本明細書において、
- DMA測定によれば、E’弾性率及びTgは、TA instrumentsからのDMA Q800を用いた動的機械分析(3点曲げ、23℃から160℃まで2℃/分で加熱)によって測定され;且つ
- DSC測定によれば、中点でのTgは、示差走査熱量計(DSC823e Module-Mettler Toledo)により、50mL/分のN下で23℃から180℃まで10℃/分の加熱範囲にて測定される。
【0025】
本発明で得られるそのようなTg及び/又は弾性率値は、「証明組成物」についての以下の実施例で実証されるように、アリル及びアクリルモノマーの両方から誘導される既知の組成物のものよりも有意に高く、このことが、本発明の組成物に機械的特性の改善を与えることに寄与する。
【0026】
本発明による眼鏡レンズは、上記で定義したようなポリマー組成物を含み、これは好ましくはレンズの基材を形成する。
【0027】
眼鏡レンズは、偏光レンズ、フォトクロミックレンズ又は太陽レンズなどの眼鏡レンズであってよく、着色されていてもいなくてもよく、矯正用であってもなくてもよい。
【0028】
この眼鏡レンズは、眼鏡フレームに挿入されてもよいし、或いは没入型又は非没入型であってもよい頭部装着デバイスに挿入されてもよい(特に、シースルーデバイス及びシーアラウンドデバイス)。
【0029】
好ましくは、本発明の眼鏡レンズは、目の前面で装着される矯正眼鏡レンズ又は非矯正眼鏡レンズであり、矯正レンズは、例えば近視、遠視、乱視及び老眼の治療に使用可能であり、単焦点眼鏡レンズ又は多焦点眼鏡レンズ(例えば累進付加眼鏡レンズ)のいずれかである。
【0030】
1.54~1.58の屈折率を有する光学材料を製造するための本発明による方法は、以下:
a)前記触媒(例えばDMC)及び場合により離型剤及びUV吸収剤などの他の添加剤の存在下で、
- 少なくとも2個の-NCO基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリイソシアネート化合物と;
- 少なくとも2個の-SH基を含む、少なくとも1種の非芳香族ポリチオール化合物と;
- ポリエーテルポリオールを含む少なくとも1種のポリオールと;
- 任意選択的に、前記少なくとも1種の非芳香族ポリチオールが少なくとも3個の-SH基を含む場合、少なくとも1種のジチオール化合物と
を混合して、重合性組成物を形成すること;並びに
b)前記重合性組成物を金型内で重合させ、前記光学材料を形成するポリマー組成物を得ること
を含む。
【0031】
有利には、得られたポリマー組成物を硬化させ、その後、例えば従来技術のポリチオウレタンベースの基材組成物に対して従来から実施されているような既知の様式で後硬化サイクルを行う。
【発明を実施するための形態】
【0032】
用語「含む(comprise)」(並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有する(having)」などのその文法的変形形態)、「含む(contain)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(containing)」などのその文法的変形形態)、並びに「含む(include)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(including)」などのその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上のその他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。結果として、1つ以上の工程又は要素を「含む(comprises)」、「有する」、「含む(contains)」、又は「含む(includes)」方法又は方法内の工程は、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0033】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。また、別段の指示がない限り、本発明による「X~Y」又は「XとYとの間」の値の間隔の表示は、X及びYの値を含むことを意味する。
【0034】
本発明による光学レンズの一般的な使用可能な特徴
既知の態様において、本発明による眼鏡レンズは、前記基材の前部主面を覆う多層コーティングを含み得る(基材の後部主面は、着用者の眼に隣接することが意図される)。
【0035】
特定の用途では、基材の前部主面は、前記多層コーティングの堆積の前に1種又は複数種の機能性コーティングで被覆されることが好ましい。光学系で従来から使用されているこれらの機能性コーティングは、非限定的に、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティング、偏光コーティング、フォトクロミックコーティング又は着色コーティングであり得る。一般に、基材のこの前部主面は、このように、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性コーティング及び/又は抗擦傷性コーティング、或いは耐摩耗性コーティング及び/又は耐擦傷性コーティングでコーティングされた耐衝撃性プライマー層でコーティングされる。
【0036】
これらの耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングは、好ましくは、一旦硬化したコーティングの硬度及び/又は屈折率を高めることが意図された1種又は複数種の鉱物充填剤を一般に含むポリ(メタ)アクリレート又はシランをベースとする硬質コーティングであり、それらは、例えば塩酸溶液による加水分解及び任意選択的に凝縮及び/又は硬化触媒によって得られる少なくとも1種のアルコキシシラン及び/又は1種のその加水分解物を含む組成物から好ましく製造される。仏国特許第2702486号明細書(欧州特許第0614957号明細書)、米国特許第4,211,823号明細書及び米国特許第5,015,523号明細書に記載されているようなエポキシシランの加水分解物をベースとするコーティングが挙げられ得る。
【0037】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティング組成物は、ディップコーティング又はスピンコーティングによって基材の主面上に堆積され得る。次いで、適切なプロセス(好ましくは熱的に、又はUV下で)を使用して硬化させる。耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングの厚さは、一般に、2μm~10μm、好ましくは3μm~5μmの範囲である。
【0038】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングの堆積の前に、最終製品における衝撃に対する耐性及び/又は後続層の接着を改善するプライマーコーティング(タイ層とも呼ばれる)を基材上に堆積させることが可能である。このコーティングは、眼鏡レンズなどの透明ポリマーで製造された物品に従来から使用されているいずれの耐衝撃性プライマー層でもあり得る。
【0039】
好ましいプライマー組成物の中でも、特開昭63-141001号公報及び特開昭63-87223号公報に記載されているものなどの熱可塑性ポリウレタンをベースとする組成物、米国特許第5,015,523号明細書に記載されているものなどのポリ(メタ)アクリルプライマー組成物、欧州特許第0404111号明細書に記載されているものなどの熱硬化性ポリウレタンをベースとする組成物、並びに米国特許第5,316,791号明細書及び欧州特許第0680492号明細書に記載のものなどのポリ(メタ)アクリルラテックス又はポリウレタンラテックスをベースとする組成物が挙げられ得る。好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンをベースとする組成物及びラテックスをベースとする組成物、特に任意選択的にポリエステル単位を含有するポリウレタンラテックスである。
【0040】
プライマー組成物において、これらのラテックスのブレンド、特にポリウレタンラテックスとポリ(メタ)アクリルラテックスとのブレンドを使用することも可能である。
【0041】
これらのプライマー組成物は、ポストベークで0.2μm~2.5μm、好ましくは0.5μm~1.5μmの厚さを有するプライマー層を形成するために、ディップコーティング又はスピンコーティングによって堆積させた後、2分~2時間、一般的には約15分間、少なくとも70℃、場合によっては100℃程度の温度、好ましくは約90℃で乾燥させてもよい。
【0042】
多層コーティングが、例えば耐摩耗性層で任意選択的にコーティングされた基材上に堆積される前に、コーティングの接着性を高めることを意図して、前記任意選択的にコーティングされた基材の表面に化学的又は物理的活性化処理を行うことが可能である。この前処理は、一般に真空下で行われる。これは、エネルギー種、例えばイオンビーム(イオンプレクリーニング又はIPC)による衝突、コロナ放電処理、電子ビーム、紫外線処理、又は真空下のプラズマ、一般にアルゴン又は酸素プラズマによる処理であり得る。また、酸若しくは塩基性表面処理及び/又は溶媒(水若しくは有機溶媒)による表面処理でもあり得る。
【0043】
多層コーティングの様々な層及び任意選択の下層は、好ましくは、以下の技術のうちの1つを用いた真空堆積によって堆積される。
(i)任意選択的にイオンビームによって補助される蒸発、
(ii)イオンビームスパッタリング、
(iii)カソードスパッタリング、又は
(iv)プラズマ強化化学気相成長法。
【0044】
これらの様々な技術は、著作「Thin Film Processes」及び「Thin Film Processes II」 Vossen & Kern,Ed.,Academic Press,1978及び1991にそれぞれ記載されている。特に推奨される技術は、真空蒸発の技術である。
【0045】
好ましくは、そして上記に示したように、前記コーティングの各層及び任意選択の下層の堆積は、真空蒸着によって実施される。
【0046】
本発明の眼鏡レンズは、前記多層コーティング中に少なくとも1層の導電性層を組み込むことにより、帯電防止、すなわち、明らかな静電荷を保持及び/又は発生させないようにされ得る。この導電性層は、好ましくは、前記コーティングの2層の間に位置し、且つ/又はこのコーティングの高屈折率層に隣接している。好ましくは、この導電性層は、前記低屈折率層の直下に位置し、理想的には、前記コーティングの最も外側の(低屈折率、例えばシリカベースの)層の直下に位置して、前記コーティングの下から2番目の層を形成している。
【0047】
導電層は、前記コーティングの透明性を変化させないように十分に薄くなければならず、好ましくは、高度に透明性の導電体から製造される。この場合、その厚さは、好ましくは1nm~15nm、より好ましくは1nm~10nmの範囲で変動する。この導電層は、好ましくは、インジウムの酸化物、スズの酸化物、亜鉛の酸化物及びそれらの混合物から選択される、任意選択的にドープされた金属酸化物を含む。インジウム-スズ酸化物(スズドープ酸化インジウムの場合はIn2O3:Sn)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:AI)、酸化インジウム(In2O3)及び酸化スズ(SnO2)が好ましい。さらに好ましくは、この光学的に透明な導電層は、インジウム-スズ酸化物(ITO)の層又は酸化スズの層である。
【0048】
本発明による眼鏡レンズは、非限定的に、以下:
- 前記多層無機コーティングの外部(すなわち露出した)表面上に形成され、その表面特性を変更することができるコーティング、例えば防汚性又は防曇性トップコート(外部コーティング);
- コーティング、ラミネート膜、基材中若しくは基材表面のウェハ内にあるか、又は着色によって若しくはポリマー中に密集して基材中に直接組み込まれた、例えばUV、ブルー-バイオレット(400nm~460nm)若しくはその他の可視波長、又はIRのフィルタリングなどの特定のフィルタリング機能;及び/又は
- 偏光機能
のような相補的な機能性を含んでいてもよい。
【0049】
典型的には疎水性及び/又は撥油性であり得、一般に10nm以下、好ましくは1nm~10nm、さらに好ましくは1nm~5nmの厚さを有する防汚性コーティングとして、好ましくは分子当たり少なくとも2個の加水分解性基を含むフルオロシラン又はフルオロシラザン前駆体を堆積することによって入手され得るフルオロシラン又はフルオロシラザン型のコーティングが挙げられ得る。前駆体フルオロシランは、好ましくはフルオロポリエーテル基、さらに好ましくはペルフルオロポリエーテル基を含む。
【0050】
したがって、本発明による眼鏡レンズは、例えば、その前部主面上に、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/又は耐擦傷性層、前記多層コーティング及び疎水性及び/又は疎油性トップコートによって連続コーティングされた基材を含み得る。
【0051】
基材の後部主面は、例えば、耐衝撃性プライマー層、耐付着性及び/又は耐擦傷性層、好ましくはUVの領域で低い反射率を有する反射防止コーティング、並びに疎水性及び/又は撥油性コーティングによって連続コーティングされ得る。
【0052】
以下の実施例は、より詳細であるが非限定的な様式で本発明を説明するものである。
【実施例
【0053】
実施例1
以下の表1に詳述する様式で、最初に、以下の成分(それぞれ、その機能、化学商標名、供給元、CAS番号及び重合性組成物を形成するモノマー及び他の添加剤の混合物全体における質量分率により特定される)からなる2つの別々の部分A及びBをそれぞれ調製することによって、本発明によるポリマー組成物を調製した。
【0054】
【表1】
【0055】
IPDI:イソホロンジイソシアネート
【化2】
PTMA:ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)
【化3】
1,6 ヘキサンジチオール
【化4】
Daltolac YT310
【化5】
【0056】
上記で特定した部分A及びBからなる重合性組成物を、以下の連続ステップに従って調製した。
1)ジイソシアネートと、離型剤、UV吸収剤及び触媒からなる添加剤パッケージとを、UV吸収剤が完全に溶解するまで一緒に混合することによって、部分Aを調製する。
2)ポリチオール、ジチオール及びポリエーテルポリオールを一緒に混合し、部分Bを調製する。
3)部分A及び部分Bを、真空下、11℃未満の温度で1時間混合する。
4)Nガスをパージして真空を置き換え、その後、部分Bを添加し、0℃で10分間攪拌を継続する。
5)低速攪拌しながら45分間脱気し、そして攪拌せずに15分間脱気する。
6)Nガスで真空を解除する。
7)洗浄したシリンジによってモノマー及び添加剤の混合物を金型に充填する。
【0057】
重合反応は、次のサイクルに従って調節された電子オーブン中で行った:約10~20℃で8時間、約5℃/時間~25℃/時間で9時間の間に20℃から130℃まで規則的に温度を上昇させ、約120~130℃で6時間。
【0058】
以下の表2は、屈折率n及びn並びにアッベ(Abbe)数V及びV(全てプリズム結合器によって測定したもの)の観点から、本発明によって得られたレンズ基材のいくつかの物理的特性を記載する。
【0059】
【表2】
【0060】
以下の表3は、Cary機によって測定された、本発明によって得られたレンズ基材の美容的特性評価を記載するものである。混合物にカラーバランスは加えられなかった。
【0061】
【表3】
【0062】
以下の表4は、本発明によって得られたレンズ基材のいくつかの機械的特性を記載する。
【0063】
【表4】
【0064】
本発明のレンズ基材の全ての測定された物理的、機械的及び美容的パラメータ、並びにプロセスの観点からのその鋳造性を、可能であれば以下の表5に記載し、そして上記で記載された特定の「証明」ポリマー組成物から製造された従来技術のレンズ基材「1.56市場選定」の同一パラメータ及び鋳造性と比較した。この「証明」ポリマー組成物「1.56市場選定」は、アリル及びアクリルモノマーの両方から誘導されたものである。
【0065】
【表5】
【0066】
これらの測定は主に、アリル/アクリル由来のレンズ基材「1.56市場選定」と比較して、約1.56のIRを有する本発明のポリチオウレタンベースのレンズ基材に関して全体的により良好な性能を示す。特に、本発明のこの第1の実施例の基材は、この「証明」アリル/アクリル由来の基材のものと比較して、衝撃に対する改善された機械的耐性を示す。
【0067】
実施例2
以下の表6に詳述する様式で、最初に、以下の成分(それぞれ、その機能、化学商標名、供給元、CAS番号及び重合性組成物を形成するモノマー及び他の添加剤の混合物全体における質量分率により特定される)からなる2つの別々の部分A及びBをそれぞれ調製することによって、本発明による別のポリマー組成物を調製した。
【0068】
【表6】
【0069】
上記で特定した部分A及びBからなる重合性組成物を、上記実施例1に規定した通りに調製した。
【0070】
以下の表7は、屈折率n及びn並びにアッベ(Abbe)数V及びV(全てプリズム結合器によって測定したもの)の観点から、本発明の第2の実施例によって得られたレンズ基材のいくつかの物理的特性を記載する。
【0071】
【表7】
【0072】
以下の表8は、Cary機によって測定された、本発明の第2の実施例によって得られたレンズ基材の美容的特性を記載するものである。混合物にカラーバランスは加えられなかった。
【0073】
【表8】
【0074】
以下の表9は、本発明の第2実施例によって得られたレンズ基材のいくつかの機械的特性を記載する。
【0075】
【表9】
【0076】
これらの測定も、アリル/アクリル由来のレンズ基板「1.56市場選択」と比較して、約1.56のIRを有する本発明のポリチオウレタンベースの第2の基材に関して、より良好な性能を示し、この「証人」のアリル/アクリル由来の基板のものと比較して、衝撃に対する機械的耐性が顕著に改善されたことを示す。
【国際調査報告】