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特表2023-527927新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用
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  • 特表-新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230623BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230623BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230623BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230623BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 S
A61K39/395 D
A61K39/395 Y
A61P31/14
A61P11/00
A61K47/68
G01N33/569 L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574538
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 CN2021079568
(87)【国際公開番号】W WO2021244089
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】202010491549.0
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522470264
【氏名又は名称】シェンチェン イミュノウセラピー バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN IMMUNOTHERAPY BIOTECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジュンファン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC35
4C076EE41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA21
4C085AA33
4C085BA71
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用を提供する。該結合分子はSARS-COV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合することができ、少なくとも1つの免疫グロブリンの単一可変ドメインを含み、SARS-COV-2-Spikeタンパク質とヒト細胞ACE2受容体との結合を効果的に遮断することで、SARS-COV-2による細胞感染を遮断し、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制することができる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-COV-2スパイクタンパク質に特異的に結合し、少なくとも1つの免疫グロブリンの単一可変ドメインを含み、前記免疫グロブリンの単一可変ドメイン中のCDR1、CDR2及びCDR3が以下の組み合わせから選ばれるいずれか1群であることを特徴とするSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子:
1)SEQ ID NO: 1に示されるCDR1、SEQ ID NO:2に示されるCDR2及びSEQ ID NO:3に示されるCDR3;
2)SEQ ID NO:4に示されるCDR1、SEQ ID NO:5に示されるCDR2及びSEQ ID NO:6に示されるCDR3;
3)SEQ ID NO:7に示されるCDR1、SEQ ID NO:8に示されるCDR2及びSEQ ID NO:9に示されるCDR3;
4)SEQ ID NO: 10に示されるCDR1、SEQ ID NO: 11に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 12に示される CDR3;
5)SEQ ID NO: 13に示されるCDR1、SEQ ID NO: 14に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 15に示される CDR3;
6)SEQ ID NO: 16に示されるCDR1、SEQ ID NO: 17に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 18に示される CDR3;
7)SEQ ID NO: 19に示されるCDR1、SEQ ID NO:20に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 21に示される CDR3;
8)SEQ ID NO:22に示されるCDR1、SEQ ID NO:23に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 24に示される CDR3;
9)SEQ ID NO:25に示されるCDR1、SEQ ID NO:26に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 27に示される CDR3;
10)SEQ ID NO:28に示されるCDR1、SEQ ID NO:29に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 30に示される CDR3;
11)SEQ ID NO:31に示されるCDR1、SEQ ID NO:32に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 33に示される CDR3;
12)SEQ ID NO:34に示されるCDR1、SEQ ID NO:35に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 36に示される CDR3;
13)SEQ ID NO:37に示されるCDR1、SEQ ID NO:38に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 39に示される CDR3;
14)SEQ ID N0:40に示されるCDR1、SEQ ID NO:41に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 42に示される CDR3;
15)SEQ ID NO:43に示されるCDR1、SEQ ID NO:44に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 45に示される CDR3;
16)SEQ ID NO:46に示されるCDR1、SEQ ID NO:47に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 48に示される CDR3;
17)SEQ ID N0:49に示されるCDR1、SEQ ID NO:50に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 51に示される CDR3;
18)SEQ ID NO:52に示されるCDR1、SEQ ID NO:53に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 54に示される CDR3;
19)SEQ ID NO:55に示されるCDR1、SEQ ID NO:56に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 57に示される CDR3;
20)SEQ ID NO:58に示されるCDR1、SEQ ID NO:59に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 60に示される CDR3;
21)SEQ ID NO:61に示されるCDR1、SEQ ID NO:62に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 63に示される CDR3;
22)SEQ ID NO:64に示されるCDR1、SEQ ID NO:65に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 66に示される CDR3;
23)SEQ ID NO:67に示されるCDR1、SEQ ID NO:68に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 69に示される CDR3;
24)SEQ ID NO:70に示されるCDR1、SEQ ID NO:71に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 72に示される CDR3;
25)SEQ ID NO:73に示されるCDR1、SEQ ID NO:74に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 75に示される CDR3;
26)SEQ ID NO:76に示されるCDR1、SEQ ID NO:77に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 78に示される CDR3;
27)SEQ ID NO:79に示されるCDR1、SEQ ID NO:80に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 81に示される CDR3。
【請求項2】
前記免疫グロブリンの単一可変ドメインは単一ドメイン抗体であることを特徴とする請求項1に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項3】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82~108のいずれかの配列と少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項4】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82-108のいずれかの配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項5】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82-108のいずれかの配列と少なくとも99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項6】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO:82~108のいずれかのアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項7】
免疫グロブリンFc領域をさらに含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項8】
前記免疫グロブリンFc領域はヒト免疫グロブリンFc領域であることを特徴とする請求項7に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項9】
前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG1のFc領域であることを特徴とする請求項8に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項10】
前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 109であることを特徴とする請求項9に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項11】
SEQ ID NO: 110~136のうちの少なくとも1種のアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項10に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項12】
以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1~6、8~11のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
a、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値が1×10-8M未満であること
b、SARS-COV-2とヒト細胞受容体ACE2との結合を遮断すること
c、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制すること
【請求項13】
以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項7に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
a、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値が1×10-8M未満であること
b、SARS-COV-2スパイクタンパク質とヒト細胞受容体ACE2との結合を遮断すること
c、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制すること
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子をコードする核酸分子。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸分子及びその発現調節エレメントを含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸分子を含み、この核酸分子を発現させる宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の取得方法であって、
前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の発現を可能にする条件で請求項16に記載の宿主細胞を培養するステップaと、
ステップaの培養物から前記宿主細胞で発現させたSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を収集するステップbと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
治療的部分にコンジュゲートする請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含むことを特徴とする免疫コンジュゲート。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子及び/又は請求項18に記載の免疫コンジュゲートと、薬学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項20】
新型コロナウイルス肺炎を治療又は予防する医薬品の製造における請求項19に記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
SARS-COV-2を検出するキットであって、
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含むことを特徴とするキット。
【請求項22】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子とSARS-COV-2スパイクタンパク質とが複合体を形成し得る条件下で、検出サンプルと対照サンプルとを請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子に接触させ、複合体の形成を検出し、
前記検出サンプルと対照サンプルとの複合体の形成の違いによってサンプル中のSARS-COV-2の存在を判断することを特徴とする請求項21に記載のキットの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2020年06月02日に提出された中国特許出願CN202010491549.0の優先権を主張している。先行出願の開示内容は全体として本願に組み込まれている。
【0002】
本願は新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用に関し、医薬生物の技術分野に属する。
【背景技術】
【0003】
新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)は全世界で合計400数万人以上に感染し、しかも感染者数は依然として急速に増加しており、現在、臨床ではCOVID-19に対する特異的で有効な治療手段がない。中国の感染症は全面的に抑制されているが、海外の感染症は爆発的に発生しており、しかも急速に増加している。そのほか、ますます多くの研究により、新型コロナウイルス(SARS-COV-2)感染は慢性キャリア状態が存在する可能性があることが示され、退院した再陽性患者の一部もウィルスが長期的に人体に存在する可能性を示唆している。長期的にウィルスをキャリアするメカニズムや時期などの重要な要素は不明で、将来、SARS-COV-2の再発を防ぐことが重要である。COVID-19の影響により、中国及び世界各国ではこれにより発生した経済的損失、社会的負担、その他のマイナス影響は計り知れない。
【0004】
現在、COVID-19に対する特効薬はなく、効果的な薬の迅速な開発が急務となっている。中国の国内外の多くの研究開発機関は、COVID-19に対する治療戦略の研究に積極的に取り込んでいる。すでに開発されたレムデシビル、ファビピラビルなどの広スペクトル小分子抗ウィルス薬はCOVID-19に対して一定の治療効果を持つが、SARS-COV-2に対する特異性がないため、治療効果が限られ、COVID-19の特効薬として期待されにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新型コロナウイルスに対する特異性がなく、治療効果が限られ、SARS-COV-2の特効薬として期待されにくいという従来の抗ウィルス薬の問題に対して、本願は新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子及びその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1態様は、SARS-COV-2スパイクタンパク質に特異的に結合し、少なくとも1つの免疫グロブリンの単一可変ドメインを含み、前記免疫グロブリンの単一可変ドメイン中のCDR1、CDR2及びCDR3が以下の組み合わせから選ばれるいずれか1群である新型コロナウイルス(SARS-COV-2)スパイクタンパク質結合分子を提供する。
1)SEQ ID NO:1に示されるCDR1、SEQ ID NO:2に示されるCDR2及びSEQ ID NO :3に示される CDR3;
2)SEQ ID NO:4に示されるCDR1、SEQ ID NO:5に示されるCDR2及びSEQ ID NO:6に示される CDR3;
3)SEQ ID NO:7に示されるCDR1、SEQ ID NO:8に示されるCDR2及びSEQ ID NO:9に示される CDR3;
4)SEQ ID NO: 10に示されるCDR1、SEQ ID NO:11に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 12に示されるCDR3;
5)SEQ ID NO: 13に示されるCDR1、SEQ ID NO: 14に示されるCDR2及びSEQ ID NO:15に示されるCDR3;
6)SEQ ID NO: 16に示されるCDR1、SEQ ID NO: 17に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 18に示されるCDR3;
7)SEQ ID NO:19に示されるCDR1、SEQ ID NO:20に示されるCDR2及びSEQ ID NO:21に示されるCDR3;
8)SEQ ID NO:22に示されるCDR1、SEQ ID NO:23に示されるCDR2及びSEQ ID NO:24に示されるCDR3;
9)SEQ ID NO:25に示されるCDR1、SEQ ID NO:26に示されるCDR2及びSEQ ID NO:27に示されるCDR3;
10)SEQ ID NO:28に示されるCDR1、SEQ ID NO:29に示されるCDR2及びSEQ ID NO:30に示されるCDR3;
11)SEQ ID NO:31に示されるCDR1、SEQ ID NO:32に示されるCDR2及びSEQ ID NO:33に示されるCDR3;
12)SEQ ID NO:34に示されるCDR1,SEQ ID NO:35に示されるCDR2及びSEQ ID NO:36に示されるCDR3;
13)SEQ ID NO:37に示されるCDR1、SEQ ID NO:38に示されるCDR2及びSEQ ID NO:39に示されるCDR3;
14)SEQ ID NO:40に示されるCDR1、SEQ ID NO:41に示されるCDR2及びSEQ ID NO:42に示されるCDR3;
15)SEQ ID NO:43に示されるCDR1、SEQ ID NO:44に示されるCDR2及びSEQ ID NO:45に示されるCDR3;
16)SEQ ID NO:46に示されるCDR1、SEQ ID NO:47に示されるCDR2及びSEQ ID NO:48に示されるCDR3;
17)SEQ IDNO:49に示されるCDR1、SEQ ID NO:50に示されるCDR2及びSEQ ID NO:51に示されるCDR3;
18)SEQ ID NO:52に示されるCDR1、SEQ ID NO 53に示されるCDR2及びSEQ ID NO:54に示されるCDR3;
19)SEQ ID NO:55に示されるCDR1、SEQ ID NO:56に示されるCDR2及びSEQ ID NO:57に示されるCDR3;
20)SEQ ID NO:58に示されるCDR1、SEQ ID NO:59に示されるCDR2及びSEQ ID NO:60に示されるCDR3;
21)SEQ IDNO:61に示されるCDR1、SEQ ID NO:62に示されるCDR2及びSEQ ID NO:63に示されるCDR3;
22)SEQ ID NO:64に示されるCDR1、SEQ ID NO:65に示されるCDR2及びSEQ ID NO:66に示されるCDR3;
23)SEQ ID NO:67に示されるCDR1、SEQ ID NO:68に示されるCDR2及びSEQ ID NO:69に示されるCDR3;
24)SEQ ID NO:70に示されるCDR1、SEQ ID NO:71に示されるCDR2及びSEQ ID NO:72に示されるCDR3;
25)SEQ ID NO:73に示されるCDR1、SEQ ID NO:74に示されるCDR2及びSEQ ID NO:75に示されるCDR3;
26)SEQ ID NO:76に示されるCDR1、SEQ ID NO:77に示されるCDR2及びSEQ ID NO:78に示されるCDR3;
27)SEQ ID NO:79に示されるCDR1、SEQ ID NO:80に示されるCDR2及びSEQ ID NO:81に示される CDR3。
本願の一実施例として、前記免疫グロブリンの単一可変ドメインは単一ドメイン抗体である。
【0007】
本願の一実施例として、前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82~108のいずれかの配列と少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0008】
本願の一実施例として、前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82~108のいずれかの配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0009】
本願の一実施例として、前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82~108のいずれかの配列と少なくとも99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0010】
本願の一実施例として、前記単一ドメイン抗体のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 82~108の何れかに比べ1つ又は複数のアミノ酸置換、好ましくは保存的アミノ酸置換を含む。
本願の一実施例として、前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO:82~108のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
本願の一実施例として、前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は免疫グロブリンFc領域をさらに含む。
【0011】
本願のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子では、免疫グロブリンFc領域を含むことにより、前記結合分子は二量体となり、また、前記分子の生体内半減期がさらに長くなる。本願に用いられ得るFc領域は異なるサブタイプの免疫グロブリン、例えば、IgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE 又はIgMに由来してもよい。
本願の一実施例として、前記免疫グロブリンFc領域はヒト免疫グロブリンFc領域である。
本願の一実施例として、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG1のFc領域である。
本願の一実施例として、前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:109である。
本願の一実施例として、SEQ ID NO:110~136の少なくとも1つのアミノ酸配列を含む。
上記Fc領域に融合した結合分子は、安定性と生物学的活性がさらに向上し、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値がさらに低下する。
本願の一実施例として、前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は以下の特徴のうちの少なくとも1つを有する。
a、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値が1×10-8M未満であること
b、SARS-COV-2とヒト細胞受容体ACE2との結合を遮断すること
c、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制すること
【0012】
本願の第2態様は、前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子をコードする核酸分子を提供し、前記核酸分子はRNA、DNA又はcDNAであり、人工合成により得られてもよいし、適切な天然由来から単離されてもよい。
【0013】
本願の第3態様は、前記核酸分子とその発現調節エレメントを含む発現ベクターを提供する。該発現ベクターは通常少なくとも1つの本願による核酸分子を含み、この核酸分子は1つ又は複数の適切な発現調節エレメント(プロモータ、エンハンサターミネータ、インテグレート因子、選択マーカー、プリアンブル配列、レポーター遺伝子など)に作動可能に連結される。特定宿主細胞での発現について前記エレメント及びその配列を選択することは当業者にとって常識である。
【0014】
本願の第4態様は、前記核酸分子を含み、この核酸分子を発現させる宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は異種タンパク質を発現させる細胞であり、細菌細胞、真菌細胞又は哺乳動物細胞を含む。
本願の第5態様は、
前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の発現を可能にする条件で上記宿主細胞を培養するステップaと、
【0015】
ステップaの培養物から前記宿主細胞で発現させたSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を収集するステップbと、を含む前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の取得方法を提供する。
【0016】
特定の核酸分子を発現ベクターに組み換え、形質転換又はトランスフェクション方法によって宿主細胞に入れて発現させ、マーカーを選択して、タンパク質の発現を誘導する方法、培養条件などは本分野で公知のことである。また、タンパク質結合分子の単離及び精製技術は当業者に公知のことである。
本願によるSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は本分野で公知の別のタンパク質産生方法、例えば化学合成によって得られてもよい。
【0017】
本願の第6態様は、治療的部分にコンジュゲートする上記のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含む免疫コンジュゲートを提供する。
【0018】
本願の第7態様は、上記のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子及び/又は前記免疫コンジュゲートと、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本願の前記「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合する任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含む。この担体は、静脈内、筋内、皮下、胃腸外、脊柱又は表皮への投与(例えば、注射又は輸注による)に適している。投与経路によれば、活性化合物、すなわち結合分子、免疫コンジュゲートは、当該化合物を不活性化することができる酸及びその他の自然条件の作用から当該化合物を保護するための材料に被覆してもよく、これは当業者には周知のことである。
本願の前記医薬組成物は必要に応じて他のアジュバントや補助材料などを含んでもよい。
本願の第8態様は、新型コロナウイルス肺炎を治療又は予防する医薬品の製造における前記医薬組成物の使用を提供する。
本願の第9態様は、上記のいずれか1つに記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含むSARS-COV-2を検出するキットを提供する。
【0020】
本願の第10態様は、上記いずれか1つに記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子とSARS-COV-2スパイクタンパク質とが複合体を形成し得る条件下で、検出サンプルと対照サンプルを上記のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子に接触させ、複合体の形成を検出し、前記検出サンプルと対照サンプルとの複合体の形成の違いによってサンプル中のSARS-COV-2の存在を判断する前記SARS-COV-2を検出するキットの使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本願によるSARS-COV-2スパイクタンパク質(SARS-COV-2-Spikeタンパク質)結合分子はSARS-COV-2-Spikeタンパク質に特異的に結合し、SARS-COV-2-Spikeタンパク質とヒト細胞ACE2受容体との結合を効果的に遮断することで、SARS-COV-2による細胞の感染を遮断し、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制することができる。しかも、本願によるSARS-COV-2-Spikeタンパク質結合分子はSARS-COV-2-Spikeタンパク質に結合する特異性に優れ、生物学的活性及び安定性が高く、毒性や副作用がないなどの特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本願の実施例1において抽出された全RNAのアガロースゲル電気泳動図であり、M:DNA marker 2000、レーン1:全RNAである。
図2】本願の実施例1においてネストPCRにより単一ドメイン抗体遺伝子を増幅させたStepl-PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動図であり、M: DNAmarker 2000、レーン1:増幅産物である。
図3】本願の実施例1においてネストPCRにより単一ドメイン抗体遺伝子を増幅させたStep2-PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動図であり、DNA marker 2000、レーン1及び2:増幅産物である。
図4】本願の実施例1において目的単一ドメイン抗体遺伝子とベクターpHEN1 のSfiI/Not1二重酵素切断による産物のアガロースゲル電気泳動図であり、DNA marker 2000、レーン1: pHEN1;レーン2: sfil/notI酵素切断後のpHEN1;レーン3: sfil/notI酵素切断後の単一ドメイン抗体遺伝子である。
図5】本願の実施例1においてライブラリ挿入率を測定するコロニーのPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動図であり、M:DNA marker 2000;レーン1-48:選択された48個のコロニーである。
図6】本願の実施例2における治療群及び対照群のアカゲザルのウィルス量の経時的な変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
【0024】
別段の指示又は定義がない限り、使用される用語は全て当該分野における通常の意味であり、この意味は当業者にとって周知である。さらに、詳細に記載されていない全ての方法、ステップ、技術、及び動作は、特に断らない限り、周知の方法で行われてもよく、このような方法は当業者に周知である。
【0025】
特に断らない限り、交換可能に使用される用語「抗体」又は「免疫グロブリン」は、本明細書では、重鎖抗体又は従来の4鎖抗体を指すか否かにかかわらず、全長抗体、その単一鎖、及びその全ての部分、ドメイン又はフラグメント(抗原結合ドメイン又はフラグメントを含むが、これに限定されない)を含む一般用語として使用される。さらに、本明細書で使用される用語「配列」(例えば、「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「単一可変ドメイン配列」、「単一ドメイン抗体配列」、又は「タンパク質配列」などの用語)は、本明細書でより限定された解釈が必要でない限り、関連するアミノ酸配列と、当該配列をコードする核酸配列又はヌクレオチド配列とを含むものとして一般的に理解されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される用語「免疫グロブリン可変ドメイン」とは、当該領域と、以下でそれぞれ「フレームワーク領域1」又は「FR1」、「フレームワーク領域2」又は「FR2」、「フレームワーク領域3」又は「FR3」、及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と呼ばれる4つの「フレームワーク領域」とから実質的に構成される免疫グロブリンドメインを意味し、ここで、前記フレームワーク領域は、当該領域と、以下でそれぞれ「相補性決定領域1」又は「CDR1」、「相補性決定領域2」又は「CDR2」、及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と呼ばれる3つの「相補性決定領域」又は「CDR」によって間隔をあけて配置される。したがって、免疫グロブリン可変ドメインの一般的な構造又は配列は、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4として表され得る。免疫グロブリン可変ドメインは、抗原結合部位を有することにより、抗体に抗原に対する特異性を付与する。
【0027】
従来のIgG抗体分子は一般に、1つの可変領域(VL)と1つの定常領域(CL)を含む軽鎖と、1つの可変領域(VH)と3つの定常領域(CH1、CH2、CH3)を含む重鎖とから構成される。単一ドメイン抗体(sdAb:Single domain antibody)とは、抗体の軽鎖が欠損して重鎖の可変領域しかない抗体であり、分子量が小さいことからナノ抗体(Nanobody)とも呼ばれる。単一ドメイン抗体は、他の抗原結合ドメインを必要とせずにエピトープに特異的に結合する。単一ドメイン抗体は免疫グロブリン単一ドメインから形成された小型で安定かつ高効率な抗原認識ユニットである。
この分野のように単一ドメイン抗体中の各CDRにおけるアミノ酸残基の総数は異なる可能性がある。
【0028】
単一ドメイン抗体中のアミノ酸残基の総数は、通常110から120の範囲内であり、112から115の間である場合が多い。ただし、より短い配列及びより長い配列も、本明細書に記載された目的にも適用できる。
単一ドメイン抗体及びそれを含むポリペプチドの他の構造的特性と機能的特性は以下のようにまとめる。
【0029】
単一ドメイン抗体(軽鎖可変ドメインが存在せず、かつ軽鎖可変ドメインと相互作用せずに、抗原に機能的に結合するように自然に「設計」されている)は、単一の比較的小さな機能的抗原結合構造ユニット、ドメインやポリペプチドとして使用することができる。これは単一ドメイン抗体と通常の4本鎖抗体のVH及びVLドメインとを区別し、これらのVH及びVLドメイン自体は通常、単一抗原結合タンパク質又は免疫グロブリンの単一可変ドメインとしての実用化には適さないが、機能的抗原結合ユニット(例えば、Fabフラグメントのような従来の抗体フラグメントのような形、又は、VLドメインと共有結合したVHドメインからなるscFvの形で)を提供するために、何らかの形又は別の形で組み合わされる必要がある。
【0030】
このような独特の性質のために、単一ドメイン抗体の使用又はより大きなポリペプチドの一部としての使用は、従来のVH及びVLドメイン、scFv又は従来の抗体フラグメント(例えば、Fab-又はF(ab’)2-フラグメント)の使用よりも優れた多くの顕著な利点を提供し、例えば、単一ドメイン抗体は、抗原に高親和性及び高選択性で結合するために単一ドメインのみを必要とするので、2つの個別ドメインが存在する必要も、この2つのドメインが適切な空間的配座及び配置で存在することを保証する必要もない(例えば、scFvは一般的に特別に設計されたリンカーを使用する必要がある)。単一ドメイン抗体は単一遺伝子から発現可能であり、翻訳後の折り畳み又は修飾を必要としない。単一ドメイン抗体は多価及び多特異的フォーマットに容易に改変することができる。単一ドメイン抗体は高度に可溶化し、しかも凝集傾向がない。単一ドメイン抗体は、熱、pH、プロテアーゼ及び他の変性剤又は条件に対して高度に安定であり、したがって、製造、貯蔵又は輸送において冷凍装置を使用しなくてもよく、これにより、コスト、時間及び環境の節約を達成することができる。単一ドメイン抗体は、製造が容易で比較的安価であり、製造に必要な規模においても同様である。単一ドメイン抗体は、従来の4本鎖抗体及びその抗原結合フラグメントと比較して小さい(約15kDa又は従来のIgGの1/10の大きさ)ため、従来の4本鎖抗体及びその抗原結合フラグメントと比較して、より高い組織透過性を示し、より高い用量を投与することができる。単一ドメイン抗体はいわゆる腔内結合性を示すことができ(特に従来のVHドメインと比べて延長されたCDR3環のため)、それによって、従来の4鎖抗体及びその抗原結合フラグメントが到達できない標的及びエピトープに到達することができる。
【0031】
特定の抗原又はエピトープに結合する単一ドメイン抗体を得る方法は、次の文献に開示されている。R. van derLinden et al. , Journal of Immunological Methods, 240(2000) 185 - 195; Li et al., JBiol Chem .,287 (2012) 13713 - 13721 ; Deffar et al .,African Journal of Biotechnology Vol. 8 (12),pp. 2645-2652,17June, 2009とW094/04678。
【0032】
さらに、上記のCDRの1つ又は複数が、他の「ステント」(ヒトステント又は非免疫グロブリンステントを含むがこれに限定されない)に「移植」される可能性があることも当業者には理解される。前記CDR移植に適したステント及び技術は当該分野で公知のことである。
【0033】
一般に、「特異性」という用語は、特定の抗原結合分子又は抗原結合タンパク質(例えば、本願の免疫グロブリンの単一可変ドメイン)分子が結合し得る異なるタイプの抗原又はエピトープの数を意味する。抗原結合分子の特異性は、その親和性及び/又は親和性に基づいて決定することができる。抗原と抗原結合タンパク質の平衡解離定数(KD)で表される親和性は、エピトープと抗原結合タンパク質上の抗原結合部位との結合強度の尺度であり、KD値が小さいほどエピトープと抗原結合分子との結合強度が強い(あるいは、親和性は結合定数(KA)としても表されてもよく、1/KDである)。当業者が理解するように、親和性は、具体的に関心のある抗原にもよるが、既知の方法で測定されてもよい。親和性は、抗原結合分子(例えば、免疫グロブリン、抗体、免疫グロブリンの単一可変ドメイン、又はそれらを含むポリペプチド)と関連抗原との間の結合強度の尺度である。親和性は、その抗原結合分子上の抗原結合部位との親和性と、抗原結合分子上に存在する関連結合部位の数とに関係する。
【0034】
本発明に使用される「SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子(SARS-COV-2Spikeタンパク質結合分子)」という用語は、SARS-COV-2スパイクタンパク質に特異的に結合し得る任意の分子を意味する。SARS-COV-2スタンドプシン結合分子は、本願で定義されるようにSARS-COV-2スタンドプシンに対する単一ドメイン抗体又はそのコンジュゲートを含むことができる。SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子はまた、いわゆる「SMIP」(「小モジュール免疫薬」)、免疫グロブリンスーパーファミリー抗体(IgSF)又はCDR移植分子を含む。
【0035】
本願の「SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子」は、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合する少なくとも1つの免疫グロブリンの単一可変ドメイン、例えば、単一ドメイン抗体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本願の「SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子」は、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合する2つの免疫グロブリンの単一可変ドメイン、例えば、単一ドメイン抗体を含んでもよい。免疫グロブリンの単一可変ドメインを1つ以上含むSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は、「フォーマットされた」SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子とも呼ばれる。フォーマットされたSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合する免疫グロブリンの単一の可変ドメインに加えて、リンカー及び/又はエフェクター機能を有する部分、例えば半減期延長部分(例えば、血清アルブミンに結合する免疫グロブリンの単一可変ドメイン)、及び/又は融合配偶体(例えば、血清アルブミン)及び/又はコンジュゲートポリマー(例えば、PEG)及び/又はFc領域を含んでもよい。本願の「SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子」はまた、異なる抗原に結合する免疫グロブリンの単一可変ドメインを含む二重特異性抗体を含む。
【0036】
一般に、本願のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子は、Biacore又はKinExAアッセイで測定されるような好ましい10-8~10-12モル/リットル(M)、より好ましくは10-9~10-11モル/リットル、さらに好ましくは10-10~10-12、さらに好ましい10-11~10-12の解離定数(KD)以下である。10-4Mより大きいKD値は一般に非特異的結合を示すものとみなされる。抗原結合タンパク質の抗原又はエピトープに対する特異的結合は、例えば、本明細書に記載された表面プラズモン共鳴法(SPR)アッセイ、及び/又は競合的結合アッセイ(例えば、酵素免疫測定法(EIA)及びサンドイッチ競合アッセイ)を含む、公知の任意の適切な方法で測定することができる。
【0037】
アミノ酸残基は、当該分野で公知であり、かつ合意した3文字又は1文字のアミノ酸コードで表される。前記保存的アミノ酸置換は当該分野において公知であり、例えば、保存的アミノ酸置換は、好ましくは、以下の群(1)~(5)内の1つのアミノ酸が、同じ群内の別のアミノ酸残基によって置換されたものである。(1)小さい脂肪族の非極性又は弱極性残基:Ala、Ser、Thr、Pro及びGly;(2)極性負帯電残基及びその(帯電していない)アミド:Asp、Asn、Glu及びGln;(3)極性帯正電残基:His、Arg及びLys;(4)大きな脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、Val及びCys;及び(5)芳香族残基:Phe、Tyr及びTrp。特に好ましい保存的アミノ酸置換は、AlaがGly又はSerで置換されたもの;ArgがLysで置換されたもの;AsnがGln又はHisで置換されたもの;AspがGluで置換されたもの;CysがSerで置換されたもの;GlnがAsnで置換されたもの;GluがAspで置換されたもの;GlyがAla又はProで置換されたもの;HisがAsn又はGlnで置換されたもの;IleがLeu又はValで置換されたもの;LeuがIle又はValで置換されたもの;LysがArg、Gln又はGluで置換されたもの;MetがLeu、Tyr又はIleで置換されたもの;PheがMet、Leu又はTyrで置換されたもの;SerがThrで置換されたもの;ThrがSerで置換されたもの;TrpがTyrで置換されたもの;TyrがTrp又はPheで置換されたもの;ValがIle又はLeuで置換されたものである。
【0038】
2つのポリペプチド配列間の「配列の相同性」は、配列間の同一アミノ酸の割合を示す。アミノ酸又はヌクレオチド間の配列の相同性の程度を評価する方法は、当業者には公知である。例えば、アミノ酸配列の相同性は、通常配列解析ソフトウェアを用いて測定される。例えば、NCBIデータベースのBLASTプログラムを使用して、相同性を判定することができる。配列の相同性の判定については、例えば、Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G. , Academic Press, 1987 と Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J. , eds. , M Stockton Press, NewYork, 1991を参照してもよい。
【0039】
その天然生物由来の、及び/又は該ポリペプチド又は核酸分子を得るための反応媒体又は培地と比較して、その由来又は媒体(培地)中で一般的にそれに関連する少なくとも1つの他の成分(例えば、別のタンパク質/ポリペプチド、別の核酸、別の生体成分又は大分子、又は少なくとも1つの汚染物質、不純物又は微量成分)から単離された場合、ポリペプチド又は核酸分子は、「実質的に単離された」とみなされる。特に、ポリペプチド又は核酸分子は、少なくとも2倍、特に少なくとも10倍、より特に少なくとも100倍、1000倍以上、又は1000倍以上精製された場、「実質的に単離された」ものとみなされる。「実質的に単離された」ポリペプチド又は核酸分子は、好適な技術(例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動のようなクロマトグラフィー技術)によって決定され、実質的に均質であることが好ましい。
実施例1
SARS-COV-2-Spikeタンパク質に対する単一ドメイン抗体のスクリーニング
1.1 ライブラリの構築
1.1.1 免疫
新型コロナウイルスのSpike-RBDタンパク質でアルパカを免疫し、それぞれ1、2、4、6週目に、1回ずつ200μgの免疫量で計4回免疫した。
1.1.2 全RNAの抽出
【0040】
免疫6週間後のアルパカ末梢血50mlからリンパ球を単離し、Trizolを用いてリンパ球の全RNAを抽出し、紫外分光光度計によって抽出されたRNAを検出した結果、0D260/280=1.99、0D260/230=1.43であり、抽出されたRNAは顕著に分解されておらず、純度が高いことが示され、全RNAの濃度は809.3ng/μLである。抽出された全RNAを用いてアガロースゲル電気泳動を行い、その結果、図1に示すように、28Sと18Sの2本のバンドが見られた。
1.1.3 RNA逆転写
RNA逆転写系:
Step 1 (表1):
【表1】
均一に混合した後、65℃で5min保温し、迅速に氷浴処理した。
Step 2 (表2):
【表2】
均一に混合した後、逆転写してcDNAを得て、逆転写条件は、42℃、30 min; 50℃、15 min ; 70℃、15 minとした。
1.1.4 単一ドメイン抗体(VHH)遺伝子の増幅
ネストPCRによってVHH遺伝子を以下のように増幅した。
Stepl (表3):
【0041】
【表3】
均一に混合した後、PCR反応を行い、反応条件は98℃ 10 s、50℃ 30 s、72℃ 1minとし、合計20サイクルであった。増幅プライマーの配列:Primer For-1: 5'-GTCCTGGCTGCTCTTCTACAAGG-3' (SEQ ID NO: 138); Primer Rev-1: 5'-GGTACGTGCTGTTGAACTGTTCC-3' (SEQ ID NO:139)。
【0042】
PCR産物をDNA精製キットで精製濃縮した後、アガロースゲル電気泳動を行い、得たアガロースゲル電気泳動図を図2に示し、DNA産物ゲル回収キットを用いて750 bpバンドを回収し、紫外分光光度計で定量した。
Step 2 (表4):
【表4】
【0043】
均一に混合した後、PCR反応を行い、反応条件は、98℃ 10 s、55℃ 30 s、72℃ 30sとし、合計20サイクルとした。増幅プライマーの配列:Primer For-2: 5'- CTAGTGCGGCCGCTGGAGACGGTGACCTGGGT-3' (SEQ ID NO:140) ; Primer Rev-2: 5'- GATGTGCAGCTGCAGGAGTCTGGRGGAGG -3' (SEQ ID NO:141)。
【0044】
得たPCR産物についてアガロースゲル電気泳動を行い、アガロースゲル電気泳動図を図3に示し、DNA産物ゲル回収キットを用いて回収し、紫外分光光度計で定量した。最終的には、濃度400ng/μLの約500 bpの目的遺伝子(VHH)200μLを得た。
1.1.5 ライブラリの形質転換
【0045】
得た目的遺伝子とベクターpHEN1をSfiIとNot1で二重酵素切断し、酵素切断産物についてアガロースゲル電気泳動を行い、その結果を図4に示し、酵素切断後の目的遺伝子とpHEN1をT4 DNAリガーゼで連結した後、大腸菌エレクトロポレーションコンピテント細胞TG1に形質転換し、SARS-COV-2-Spikeタンパク質に対する単一ドメイン抗体遺伝子ライブラリを構築し、J2-Libと命名した。合計15回形質転換し、混合後、6個のΦ150 mm培養皿(アンピシリンを含むLB固体培地)に均一に塗布した。
【0046】
0.1μL、0.01μL、0.001μL及び0.0001μLをそれぞれ混合した形質転換液をΦ90mm培養皿(アンピシリンを含むLB固体培地)に均一に塗布し、ライブラリ容量の計算(コロニー数30~300のプレートを基準に計数)に用い、表5に示すように、算出したライブラリ容量は1.395×10 cfuである。
【表5】
【0047】
上記ライブラリ容量の計算用の培養皿から48個のコロニーをランダムに選択し、コロニーPCRを行い、PCR産物についてアガロースゲル電気泳動を行い、ライブラリの目的遺伝子挿入率を測定し、アガロースゲル電気泳動を図5に示し、ライブラリ挿入率は100%、ライブラリの実際ライブラリ容量は1.395×10 cfuであることが示された。
コロニーPCR系(表6):
【表6】
コロニーPCR反応条件:98℃ 10 s、 50℃ 30 s、72℃ 1min、合計30サイクル。
1.1.6 ライブラリレスキュー
【0048】
上記J2-Lib遺伝子ライブラリからライブラリ容量に対して10~100倍の生細胞を取って接種して培養し、対数成長期まで培養した後、M13K07ファージを用いてレスキューを行い、レスキュー培養後、遠心分離によりファージを収集し、PEG-NaClを用いてファージを精製すると、ファージディスプレイライブラリを得て、J2-PDLと命名し、その力価は3.4×1013 cfu/mLである。後の特異的ファージの親和性スクリーニングにそのまま用いてもよい。
1.2 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体に対するスクリーニング
【0049】
Spike-RBDタンパク質(Spikeタンパク質受容体結合領域タンパク質)を3μg/ウェルでプレートに被覆し、4℃で一晩放置し、1wt%脱脂粉乳を用いて室温で2hブロックし、ファージ(8×1011tfu、1.1.6で構築されたファージディスプレイライブラリJ2-PDL由来)100μlを加え、室温で1h作用させた。その後、PBST(PBSに0.05vt%トウェイン20含有)で5回溶離し、結合していないファージを洗い落とし、トリエチルアミン(100mM)を用いてSpike-RBDタンパク質に特異的に結合したファージを解離し、対数成長期の大腸菌TG1に感染し、ファージを産生して精製し、次のスクリーニングに用いた。同じスクリーニングを3~4回繰り返した。これによって、陽性クローンが濃縮され、ファージディスプレイライブラリを用いた抗体ライブラリ中のSpike-RBDタンパク質特異抗体を選別する目的が達成された。取得した陽性ファージについて配列決定を行い、抗体遺伝子配列を得た。
【0050】
得た抗体遺伝子配列をそれぞれpcDNA3.4ベクターに構築し、HEK-293細胞を用いて抗体を発現させ、proteinA媒体を用いて精製し、培地上清中の抗体を収集した。精製後の抗体をSpike-RBDを被覆したプレートとともにインキュベートし、ELISAアッセイを行った。Spike-RBDタンパク質に特異的に結合し得る抗体を得た。
【0051】
配列照合ソフトウェアVector NTIによって、得た抗体配列を分析した。CDR1、CDR2、CDR3配列が全て同じクローンを同一抗体株、CDR配列が異なるクローンを異なる抗体株とした。計27個の異なる単一ドメイン抗体株が得られ、単一ドメイン抗体配列はSEQ ID NO: 82~108、それぞれSEQ ID NO: 1~81の27群のCDR1-3配列を持ち、具体的には、表7に示される。
【表7】
1.3 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体の評価及び同定
1.3.1 単一ドメイン抗体の宿主菌としての大腸菌での発現、精製
【0052】
得たCDR1-3が異なる27個の単一ドメイン抗体の遺伝子コード配列をそれぞれ発現ベクターPET32b(Novagen、品番:69016-3)に組み換え、配列決定により正しいものとして同定された組み換えプラスミドをそれぞれ発現型宿主菌BL1(DE3)(TIANGEN社、品番:CB105-02)に形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレートに塗布し、37℃で一晩放置した。単一コロニーを選択して接種し、一晩培養し、翌日、一晩培養した菌種を移して増幅させ、37℃で0D値が0.5~1となるまで振とう培養し、0.5mM IPTGを加えて誘導し、28℃で一晩振とう培養した。翌日、遠心分離して菌体を収集し、収集した菌体を破砕して抗体粗抽出液を得た。次に、27株の単一ドメイン抗体タンパク質を精製し、その純度を90%以上にした。
【0053】
1.3.2 競合ELISAによるSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体のSpike-RBDタンパク質と受容体ACE2との結合への遮断効果の調査
【0054】
まず、HEK293細胞(pCDNA4、Invitrogen、Cat V86220)で発現させてSpike-RBDタンパク質とACE2タンパク質を得た。次に、Thermo社製のBiotinlytionキットを利用して、ビオチン化ACE2タンパク質を得た。
【0055】
Spike-RBDタンパク質0.5μg/ウェルを用いて4℃でプレートを被覆して一晩放置し、次に、ウェルごとに1.3.1で精製された単一ドメイン抗体100ng及びビオチン化ACE2タンパク質5μgを加え、対照群を設置し、対照群1のウェルには単一ドメイン抗体を加えず、対照群2のウェルにはビオチン化ACE2タンパク質を加えず、室温で2h反応させた。その後、SA-HRP(Sigma社より購入)を加え、室温で1時間反応後、発色液を加え、450nm波長で吸収値を読み取った。サンプルの0D値が対照の0D値よりも0.8小さい場合、単一ドメイン抗体には遮断効果がないとした。
その結果、表8に示すように、27個の異なる単一ドメイン抗体株はSpikeタンパク質/ACE2タンパク質の相互作用に対する遮断効果を示す。
【表8】
【0056】
バイオセキュリティレベルがP3の実験室にて、ウィルスを用いてVERO細胞モデルに感染し、精製した27個の単一ドメイン抗体をそれぞれ培養系に加え、具体的には、VERO細胞を10/ウェルで96ウェルプレートに加え、24時間後、PBSを用いて細胞を2回洗浄し、27個の単一ドメイン抗体をそれぞれウィルスと混合して、96ウェルプレートに加え、抗体初期濃度を100μg/mLとし、次に、それぞれ10個の勾配で2倍希釈し、重複ウェルを5個設置し、37℃で2時間インキュベートし、5日目にVERO細胞に病変が生じたか否かを検出した。単一ドメイン抗体処理後の細胞に病変が生じていない場合、単一ドメイン抗体はウィルスを中和し、VERO細胞のウィルス感染を遮断する効果を有することが示唆された。
【0057】
検出の結果、上記27個の単一ドメイン抗体で処理されたVERO細胞のいずれにおいても病変が生じておらず、一方、ウィルスだけを加え、単一ドメイン抗体を加えていなかったVERO細胞のほとんどは病変、死亡し、これは、得た27個の単一ドメイン抗体は全てウィルスの細胞感染を遮断し、抗体を効果的に中和することを示した。
実施例2
1.1 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体のFc融合タンパク質の製造
【0058】
タンパク質データライブラリUniprotにおけるヒト免疫グロブリン(IgG1)の定常領域のアミノ酸配列に基づいて、ヒトIgG1-Fc領域のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 109)を得た。逆転写PCRによって、ヒトPBMC全RNAからヒトIgGl-Fcをコードする核酸フラグメント(核酸配列はSEQ ID NO: 137)を得て、次に、overlapping PCRによってSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質をコードする核酸フラグメントを得て、ベクターpCDNA4 (Invitrogen、Cat V86220)に組み換えた。
【0059】
構築したSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の核酸フラグメントを含有するPCDNA4プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションして発現させた。具体的には、組み換え発現プラスミドをFreestyle293培地で希釈し、形質転換に必要なPEI (Polyethylenimine)溶液を加え、プラスミド/PEI混合物をそれぞれHEK293細胞懸濁液に加え、37℃、10%のCO、100rpmのシェーカーに入れて培養し、50μg/L IGF-1を添加した。4h後、EX293培地、2mM グルタミン及び 50μg/L IGF-1を添加して、120rpmで振とう培養した。24h後、3.8mM VPAを加えた。5日間培養後、発現培養上清液を収集し、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質を得た。
【0060】
得た27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の配列はSEQ ID NO:110~136に示される。
1.2 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の機能の同定
【0061】
SPR法によりSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の、SARS-COV-2-Spike タンパク質への結合能を同定した。具体的には、得た27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質のspike-RBDへの結合動力学を、表面プラズモン共鳴(SRP)方法により、BIAcoreX100器具を用いて測定し、spike-RBDタンパク質をCM5バイオセンサチップに直接被覆して、約1000応答ユニット(RU:response units)を得た。動力学的測定においては、SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質をHBS-EP+1×緩衝液(GE、cat#BR-1006-69)で3倍連続希釈し(1.62nm~1000nm)、25℃で120s注入し、解離時間を30minとし、10mMグリシン-HC1(pH2.0)を加えて120s再生した。1対1対応する簡単なLanguir結合モデル(BIAcore Evaluation Software version 3.2)を用いて、融合タンパク質のSARS-COV-2-Spikeタンパク質への結合速度(kon)、解離速度(koff)及び平衡解離定数(kD)(比率koff/konで計算)を算出した。計算結果を表9に示す。
【表9】
【0062】
表9から分かるように、SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質は、SARS-COV-2-Spikeタンパク質への結合速度が速く、解離速度が遅く、平衡解離定数KDが1.05E-9未満であり、融合タンパク質はSARS-COV-2-Spikeタンパク質により迅速に結合し、解離し難いことを示し、また、SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質は遮断型抗体として優れた遮断効果を有することを示した。
【0063】
1.3 競合ELISA法によるSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の、Spike タンパク質/ACE2の相互作用への遮断能の同定
【0064】
HEK293細胞で発現させてACE2タンパク質を得た。Thermo社製のBiotinlytionキットを用いて、ビオチン化タンパク質ACE2-Biotinを得た。
【0065】
Spike-RBDタンパク質0.5μg/ウェルを用いて4℃でプレートを被覆して一晩放置し、その後、ウェルごとに得た27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質200ngとACE2-Biotin 5μgを加え、対照群1には融合タンパク質を加えず、対照群2にはACE2-Biotinを加えず、室温で2h反応させた。洗浄後、SA-HRP(Sigma社寄り購入)を加え、室温で1時間反応させ、洗浄後、発色液を加え、450nm波長で吸収値を読み取った。結果を表10に示す。
【表10】
【0066】
その結果から明らかなように、SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質は、Spikeタンパク質とACE2との相互作用を効果的に遮断できる。
1.4 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の、Spikeタンパク質に対する結合特異性の分析
【0067】
ヒトHEK293細胞を用いて、瞬時トランスフェクションにより、現在知られている7種類のコロナウイルス(SARS-COV-2、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1、SARS-CoV、MERS-CoV)Spikeタンパク質全長遺伝子を持つプラスミド(pCDNA4、Invitrogen、Cat V86220)を得て、膜上でSpikeタンパク質を瞬時発現させた。該プラスミドによってSpikeタンパク質C末端にEGFPタンパク質を融合し、緑色蛍光強度によって膜上のSpikeタンパク質の発現レベルを調査できるようにした。構築した細胞を0.5%のPBS-BSA Bufferに再懸濁させ、SARS-COV-2-Spike タンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質を加え、また陰性対照を設置し、氷上で20minインキュベートした。洗浄後、eBioscience二次抗体anti-hIg-PEを加えて、氷上で20minインキュベートした。洗浄後、細胞を0.5%PBS-BSABuffer 500μlに再懸濁させ、フローサイトメータによって検出した。その結果、27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質はSARS-COV-2-Spikeタンパク質のみに特異的に結合し、他のコロナウイルスのSpikeタンパク質に結合しなかった。
1.5 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質によるSARS-COV-2細胞感染の遮断
【0068】
(SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質100μg/匹アカゲザル)を予め投与した健全なアカゲザル15匹と、予め投与していなかった健全なアカゲザル15匹を、SARS-COV-2感染アカゲザル2匹とともに、同じ環境にて10日間飼育した。10日間後に観察した結果、予め投与した健全なアカゲザル15匹のいずれにおいても異常が見られず、ウィルス核酸検出の結果、全て陰性であり、一方、予め投与していなかった健全なアカゲザル15匹のうち、12匹は感染症状が見られ、ウィルス核酸検出の結果、全て陽性であった。
【0069】
上記試験の結果は、本願によるSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体がコロナウイルス感染を効果的に遮断することができ、優れた予防作用を有することを示した。
【0070】
上記SARS-COV-2ウィルスに感染しており、症状が見られたアカゲザル12匹のうち、6匹(治療群)は本願によるSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質(SARS-COV-2-Spikeタンパク質単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質100μg/匹アカゲザル)を投与して治療し、残りの6匹(対照群)は投与治療が行われなかった。治療後6日間内、毎日ウィルス量を1回検出した。検出したところ、治療群の6匹のアカゲザルでは、図6に示すように血液1mlあたりコロナウイルスの平均量は対照群よりも有意に低下した。コロナウイルス量の検出は以下の通りである。投与治療を受けたアカゲザル(治療群)と投与治療を受けなかったアカゲザル(対照群)の血液をそれぞれ採取し、RNA抽出キット(Qiagen)を用いて取扱書に従って操作し、SARS-COV-2のRNAを抽出し、得たRNAを溶離buffer50μLに溶解してテンプレートとし、RT-PCR増幅を行うことにより血液中のウィルスの核酸を抽出して検出した。RT-PCR産物をテンプレートとして、プライマーRBD-qF1 (5'-CAATGGTTTAACAGGCACAGG-3',SEQ ID NO:142)とRBD-qRl(5'-CTCAAGTGTCTGTGGATCACG-3',SEQ ID NO: 143)を用いて、ウィルスのS領域の遺伝子を増幅した。HiScriptR II One Step qRT-PCR SYBRRGreen Kit (Vazyme Biotech Co. , Ltd)キットを用いて、キットの取扱書に従って操作し、PCR増幅条件として50℃ 3min、 95℃ 10s、60℃ 30s、40サイクルとし、使用したPCR増幅装置はABI定量PCR装置である。
【0071】
上記生体内実験の結果、本願のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質は、SARS-COV-2を感染したアカゲザルの体内で、SARS-COV-2が細胞に感染して増幅することを抑制する有意な効果を示す。
1.6 SARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の安定性の検討
500mM炭酸水素アンモニウムをアルカリ破壊試薬として、37℃で48h処理した。1%過酸化水素を酸化剤として、室温で10h処理した。
【0072】
競合ELISA法によって、処理前後の上記27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質の生物学的活性の変化を検出した。48hアルカリ処理後の競合ELISAによる活性は、アルカリ処理0時間に対して平均に107%であり、酸化10h後の競合ELISAによる活性は、0h酸化に対して平均に111%である。
本願による27個のSARS-COV-2-Spikeタンパク質の単一ドメイン抗体-Fc融合タンパク質は高い安定定性を有することが示された。
【0073】
以上は本願の好適な実施例に過ぎず、本願を制限するものではなく、本願の主旨及び原則を逸脱することなく行われる全ての修正、等同置換や改良などは全て本願の特許範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023527927000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-COV-2スパイクタンパク質に特異的に結合し、少なくとも1つの免疫グロブリンの単一可変ドメインを含み、前記免疫グロブリンの単一可変ドメイン中のCDR1、CDR2及びCDR3が以下の組み合わせから選ばれるいずれか1群であることを特徴とするSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子:
1)SEQ ID NO:31に示されるCDR1、SEQ ID NO:32に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 33に示される CDR3
)SEQ ID NO: 1に示されるCDR1、SEQ ID NO:2に示されるCDR2及びSEQ ID NO:3に示されるCDR3;
)SEQ ID NO:4に示されるCDR1、SEQ ID NO:5に示されるCDR2及びSEQ ID NO:6に示されるCDR3;
)SEQ ID NO:7に示されるCDR1、SEQ ID NO:8に示されるCDR2及びSEQ ID NO:9に示されるCDR3;
)SEQ ID NO: 10に示されるCDR1、SEQ ID NO: 11に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 12に示される CDR3;
)SEQ ID NO: 13に示されるCDR1、SEQ ID NO: 14に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 15に示される CDR3;
)SEQ ID NO: 16に示されるCDR1、SEQ ID NO: 17に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 18に示される CDR3;
)SEQ ID NO: 19に示されるCDR1、SEQ ID NO:20に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 21に示される CDR3;
)SEQ ID NO:22に示されるCDR1、SEQ ID NO:23に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 24に示される CDR3;
10)SEQ ID NO:25に示されるCDR1、SEQ ID NO:26に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 27に示される CDR3;
11)SEQ ID NO:28に示されるCDR1、SEQ ID NO:29に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 30に示される CDR3;
12)SEQ ID NO:34に示されるCDR1、SEQ ID NO:35に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 36に示される CDR3;
13)SEQ ID NO:37に示されるCDR1、SEQ ID NO:38に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 39に示される CDR3;
14)SEQ ID N0:40に示されるCDR1、SEQ ID NO:41に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 42に示される CDR3;
15)SEQ ID NO:43に示されるCDR1、SEQ ID NO:44に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 45に示される CDR3;
16)SEQ ID NO:46に示されるCDR1、SEQ ID NO:47に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 48に示される CDR3;
17)SEQ ID N0:49に示されるCDR1、SEQ ID NO:50に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 51に示される CDR3;
18)SEQ ID NO:52に示されるCDR1、SEQ ID NO:53に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 54に示される CDR3;
19)SEQ ID NO:55に示されるCDR1、SEQ ID NO:56に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 57に示される CDR3;
20)SEQ ID NO:58に示されるCDR1、SEQ ID NO:59に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 60に示される CDR3;
21)SEQ ID NO:61に示されるCDR1、SEQ ID NO:62に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 63に示される CDR3;
22)SEQ ID NO:64に示されるCDR1、SEQ ID NO:65に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 66に示される CDR3;
23)SEQ ID NO:67に示されるCDR1、SEQ ID NO:68に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 69に示される CDR3;
24)SEQ ID NO:70に示されるCDR1、SEQ ID NO:71に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 72に示される CDR3;
25)SEQ ID NO:73に示されるCDR1、SEQ ID NO:74に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 75に示される CDR3;
26)SEQ ID NO:76に示されるCDR1、SEQ ID NO:77に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 78に示される CDR3;
27)SEQ ID NO:79に示されるCDR1、SEQ ID NO:80に示されるCDR2及びSEQ ID NO: 81に示される CDR3。
【請求項2】
前記免疫グロブリンの単一可変ドメインは単一ドメイン抗体であることを特徴とする請求項1に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項3】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 92、SEQ ID NO:82~91、SEQ ID NO: 93~108のいずれかの配列と少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項4】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82-108のいずれかの配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項5】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO: 82-108のいずれかの配列と少なくとも99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項6】
前記単一ドメイン抗体はSEQ ID NO:82~108のいずれかのアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項7】
免疫グロブリンFc領域をさらに含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項8】
前記免疫グロブリンFc領域はヒト免疫グロブリンFc領域であることを特徴とする請求項7に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項9】
前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG1のFc領域であることを特徴とする請求項8に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項10】
前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 109であることを特徴とする請求項9に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項11】
SEQ ID NO:120、SEQ ID NO: 110~119、SEQ ID NO:121~136のうちの少なくとも1種のアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項10に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
【請求項12】
以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1~6、8~11のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
a、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値が1×10-8M未満であること
b、SARS-COV-2とヒト細胞受容体ACE2との結合を遮断すること
c、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制すること
【請求項13】
以下の特徴のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項7に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子。
a、SARS-COV-2スパイクタンパク質に結合するKD値が1×10-8M未満であること
b、SARS-COV-2スパイクタンパク質とヒト細胞受容体ACE2との結合を遮断すること
c、SARS-COV-2の伝染及び増幅を抑制すること
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子をコードする核酸分子。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸分子及びその発現調節エレメントを含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸分子を含み、この核酸分子を発現させる宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の取得方法であって、
前記SARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子の発現を可能にする条件で請求項16に記載の宿主細胞を培養するステップaと、
ステップaの培養物から前記宿主細胞で発現させたSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を収集するステップbと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
治療的部分にコンジュゲートする請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含むことを特徴とする免疫コンジュゲート。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子及び/又は請求項18に記載の免疫コンジュゲートと、薬学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項20】
新型コロナウイルス肺炎を治療又は予防する医薬品の製造における請求項19に記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
SARS-COV-2を検出するキットであって、
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子を含むことを特徴とするキット。
【請求項22】
請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子とSARS-COV-2スパイクタンパク質とが複合体を形成し得る条件下で、検出サンプルと対照サンプルとを請求項1~13のいずれか1項に記載のSARS-COV-2スパイクタンパク質結合分子に接触させ、複合体の形成を検出し、
前記検出サンプルと対照サンプルとの複合体の形成の違いによってサンプル中のSARS-COV-2の存在を判断することを特徴とする請求項21に記載のキットの使用方法。
【国際調査報告】