(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】IFNコンピテント細胞においてRNAi又はI型IFNを誘導する組成物及び方法並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230623BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230623BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230623BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230623BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230623BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230623BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230623BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230623BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230623BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230623BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230623BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230623BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230623BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230623BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230623BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230623BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230623BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20230623BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20230623BHJP
C12N 15/47 20060101ALN20230623BHJP
C12N 15/46 20060101ALN20230623BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C07K16/00
C07K19/00
C12N5/071
C12N5/10
A61K31/7105
A61K35/12
A61K35/76
A61K39/395 D
A61K48/00
A61K9/127
A61K9/14
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/00
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/107
C12N15/44
C12N15/50
C12N15/47
C12N15/46
C12N15/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515225
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 CA2021050703
(87)【国際公開番号】W WO2021237344
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522457014
【氏名又は名称】ウィルフリッド ローリエ ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】デウィット-オア,ステファニー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
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4H045AA10
4H045AA30
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4H045FA74
(57)【要約】
ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含む二本鎖RNA(dsRNA)複合体であって、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々が、少なくとも300塩基対(bp)の長さを有し、ガイド鎖は、標的遺伝子転写物の標的核酸配列に相補的なセグメントを含む、二本鎖RNA(dsRNA)複合体が、提供される。脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングする方法、対象における病原体感染症を治療する方法、及び脊椎動物細胞若しくは対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性をそれぞれ低下させる方法であって、本明細書に開示されるdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物を対象又は細胞に投与することを含む、方法も提供される。
【選択図】
図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含む二本鎖RNA(dsRNA)複合体であって、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々が少なくとも300塩基対(bp)の長さを有し、前記ガイド鎖が標的遺伝子転写物の標的核酸配列に相補的なセグメントを含む、二本鎖RNA(dsRNA)複合体。
【請求項2】
前記ガイド鎖が、300bp~1000bp、例えば約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp又は約900bp、又は300~900bp、300~800bp、400~900bp、400~800bp又は400~700bpの長さを有する、請求項1に記載のdsRNA複合体。
【請求項3】
前記標的核酸配列に相補的なセグメントが、20bp~900bp、例えば約20bp、約25bp、約40bp、約50bp、約60bp、約75bp、約80bp、約100bp、約200bp、約300bp、約250bp、約400bp又は約500bp、又は20~800bp、40~700bp、60~600bp、80~500bp、100~500bp、200~500bp又は300~500bpの長さを有する、請求項1又は2に記載のdsRNA複合体。
【請求項4】
前記標的核酸配列に相補的なセグメントが、前記ガイド鎖の3'末端の近位又は3'末端にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項5】
前記標的核酸配列に相補的なセグメントが、前記ガイド鎖の5'末端の近位又は5'末端にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項6】
前記ガイド鎖が、同じ標的遺伝子転写物の異なる標的核酸配列に各々相補的な1以上のさらに異なるセグメントを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項7】
前記ガイド鎖が、異なる標的遺伝子転写物の異なる標的核酸配列に各々相補的な1以上のさらなるセグメントを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項8】
第1のセグメントが、前記ガイド鎖の3'末端の近位又は3'末端にありかつ第2のセグメントが、前記ガイド鎖の5'末端の近位又は5'末端にある、請求項6又は7に記載のdsRNA複合体。
【請求項9】
前記ガイド鎖が、前記標的核酸配列に非天然の1以上のミスマッチ配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項10】
前記ガイド鎖が、オーバーハングを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項11】
前記パッセンジャー鎖が、オーバーハングを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項12】
前記オーバーハングが、前記標的核酸配列又は標的遺伝子転写物に対し相補的である又はそれに対応する、請求項10又は11に記載のdsRNA複合体。
【請求項13】
前記dsRNA複合体が、1以上の化学的に修飾された塩基を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項14】
前記化学修飾が、2'Oメチル(2’-O-Me)、2’-O-メトキシエチル(2’O-MOE)、2'フルオロ(2'F)及びロック核酸モノマー(LNAM)から選択される、請求項13に記載のdsRNA複合体。
【請求項15】
前記RNA複合体が、非修飾RNAを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項16】
前記ガイド鎖及び/又は前記パッセンジャー鎖が、5'-三リン酸末端を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項17】
前記ガイド鎖及び/又は前記パッセンジャー鎖が、5'-二リン酸末端を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項18】
前記ガイド鎖及び/又は前記パッセンジャー鎖が、5'-一リン酸末端を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項19】
前記dsRNA複合体が、複製遺伝子、任意選択でウイルス複製遺伝子を含まない、請求項1~18のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項20】
前記標的遺伝子転写物が、ウイルス遺伝子転写物などの病原体遺伝子転写物に対応する、請求項1~19のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項21】
前記ウイルス遺伝子転写物が、任意選択でスパイク(S)タンパク質、膜(M)タンパク質又はヌクレオカプシド(N)タンパク質転写物をコードする、構造ウイルス遺伝子転写物である、請求項20に記載のdsRNA複合体。
【請求項22】
前記ウイルス遺伝子転写物が、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、デングウイルス、ロタウイルス又はラブドウイルス遺伝子転写物である、請求項20又は21に記載のdsRNA複合体。
【請求項23】
前記コロナウイルス遺伝子転写物が、ヒトコロナウイルスSARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERSr-CoV、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1遺伝子転写物などの、ヒトコロナウイルス遺伝子転写物である、請求項22に記載のdsRNA複合体。
【請求項24】
前記標的遺伝子転写物が、疾患遺伝子転写物、任意選択で癌遺伝子転写物である、請求項1~23のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項25】
前記疾患が、癌又は形質細胞増殖性障害などのリンパ増殖性障害である、請求項24に記載のdsRNA複合体。
【請求項26】
前記標的核酸配列を含む脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングすることにおける使用のための、及び/又はそれぞれ、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させることにおける使用のための、請求項1~25のいずれか一項に記載のdsRNA複合体。
【請求項27】
前記標的核酸配列を含む第1の脊椎動物細胞型において標的遺伝子転写物をサイレンシングすることおよび第2の脊椎動物細胞型においてI型インターフェロン(IFN)応答を誘導することにより混合細胞集団を標的化することにおける使用のための、請求項1~25のいずれか一項に記載のdsRNA複合体であって、任意選択で前記細胞集団が、脊椎動物対象中にある、dsRNA複合体。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載のdsRNA複合体を形成できる1以上の転写物(複数可)をコードする発現カセットを含むベクター。
【請求項29】
前記発現カセットが、前記ガイド鎖及び前記パッセンジャー鎖を生成するための、ポリメラーゼプロモーター、任意選択でT7ポリメラーゼプロモーターを含む、請求項28に記載のベクター。
【請求項30】
前記ベクターが、プラスミド、ウイルスコンストラクト又はウイルスである、請求項28又は29に記載のベクター。
【請求項31】
前記ウイルスが、レンチウイルス又はアデノ随伴ウイルスである、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
請求項1~27のいずれか一項に記載のdsRNA複合体、抗体、任意選択で一本鎖抗体又は結合断片などの、1以上のポリペプチド、又は標識を含むコンジュゲート。
【請求項33】
医薬的に許容される担体を任意選択でさらに含む、請求項1~27のいずれか一項に記載のdsRNA複合体、請求項28~31のいずれか一項に記載のベクター又は請求項32に記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項34】
前記組成物が、細胞培養培地、任意選択で無血清細胞培養培地をさらに含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物が、任意選択でリポソーム、ナノ粒子又はナノソームから選択される、脂質輸送粒子をさらに含む、請求項33又は34に記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物が、送達機構、任意選択で輸送粒子を欠く、請求項33又は34に記載の組成物。
【請求項37】
dsRNA複合体の濃度が、選択されたIFN誘導閾値を下回る投与量内にある、請求項33~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングする方法であって、請求項1~27のいずれか一項に記載のdsRNA複合体の量、請求項28~31のいずれか一項に記載のベクター、請求項32に記載のコンジュゲート又は請求項33~38のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞又は対象に投与することを含む、方法。
【請求項39】
投与されるdsRNA、ベクター、コンジュゲート又は組成物の量が、所定のIFN誘導閾値を下回る、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記所定のIFN誘導閾値が、細胞の比較集団を使用して決定され、前記細胞の比較集団が、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物とインキュベートされかつ所定のIFN誘導閾値が、それらから決定される、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、癌細胞などの、疾患細胞である、請求項38~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
それぞれ、前記脊椎動物細胞又は対象において病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させるための、又はそれを必要とする対象における病原体感染症を治療するための請求項38~41のいずれか一項に記載の方法であって、前記標的核酸配列が、ウイルス遺伝子転写物配列などの、病原体遺伝子転写物配列に対応する、方法。
【請求項43】
前記投与が、前記病原体への曝露前である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記投与が、前記病原体への曝露中である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記対象が、前記病原体感染症の治療を必要としている、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記病原体感染症が、感染の部位を有しかつ前記量が、前記感染の部位に投与される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記感染の部位に投与される量が、IFN誘導閾値を上回る、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
前記量が、全身的に投与されかつ前記量が、IFN誘導閾値を下回る、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物が、経鼻で、局所で、経口で、眼で、経腸で、経膣で、浸すことにより(by bath)、皮下で、静脈内で、腹腔内で、胸腔内で、筋肉内で投与される、請求項38~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物が、経鼻投与されかつエアロゾルの形態である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物が、局所投与されかつクリーム、ゲル、軟膏、ペースト、コロイド又は懸濁液の形態である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞又は対象が、IFNコンピテントである、請求項38~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記細胞又は対象が、それぞれ、魚の細胞又は魚などの水生脊椎動物細胞又は対象である、請求項38~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記魚が、真骨魚である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞又は対象が、地上脊椎動物細胞又は鳥などの対象である、請求項38~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記細胞又は対象が、哺乳動物の細胞又は対象である、請求項38~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記哺乳動物の細胞又は対象が、ヒト、牛、豚、馬若しくは羊の細胞又は対象である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記細胞が、癌細胞である又は前記対象が、癌を有する、請求項38~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記細胞が、免疫特権部位由来である、請求項38~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングする、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又はウイルス感染などの病原体感染の感染性を低下さるための、それを必要とする対象における病原体感染を治療するための及び/又は薬剤の調製のための請求項1~37のいずれか一項に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2020年5月25日出願の米国仮特許出願第63/029,632号の優先権に基づいて、米国特許法第119条の利益を請求する特許協力条約出願である。
【0002】
配列表の組み込み
2021年5月25日に作成し、EFS-WEBを介して提出した配列表「P58544PC00 Sequence Listing_ST25」(8,399バイト)のコンピュータ読み取り可能な形態は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、リボ核酸干渉(RNAi)を使用して標的遺伝子又は複数の標的遺伝子の発現を減少させるための組成物及び方法に関する。本開示はまた特に、細胞又は宿主におけるI型インターフェロン(IFN)応答を回避又は誘導するように調節され得る組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
長い二本鎖(ds)RNA(40bp又はそれより大きい)は、健常細胞には見出されず、ほとんど全てのウイルスによりそれらの複製サイクル中に作製されることがある(Jacobs-1996)。これらの長いdsRNA複合体は、細胞の表面(クラスAスカベンジャー受容体)、エンドソーム(Toll様受容体3)及び細胞質(RIG-I様受容体及び細胞質DNAセンサー)上のパターン認識受容体(PRR)によって感知される(DeWitte-Orr-2010b)。いったん活性化されると、PRRは、アダプタータンパク質を動員し、それは、I型インターフェロン(IFN)の増加された発現をもたらすシグナル伝達カスケードを活性化する。これらのIFNは、それらの同族受容体及び下流シグナル伝達カスケードを介して自己分泌及びパラ分泌様式で作用して、IFN刺激遺伝子(ISG)の発現を誘導する(DeWitte-Orr-2010b)。ISGは、感染細胞及び隣接する非感染細胞に蓄積して、細胞がウイルス感染に対して抵抗性である「抗ウイルス状態」を確立する。IFN経路は、I型IFNを生成する能力を有する、脊椎動物に存在する。
【0005】
RNA干渉(RNAi)はまず、抗ウイルス自然免疫応答として無脊椎動物及び植物において特徴付けられた。それは、ウイルス誘導遺伝子サイレンシングによりウイルスRNAを分解するための天然抗ウイルス防御機構である(Abediniら、2018)。複数の研究は、合成二本鎖RNA(dsRNA)がmRNAの配列特異的分解を誘導し、遺伝子サイレンシングをもたらすことを示した(Fireら、1998)。植物及び無脊椎動物において、長いdsRNA(>40bp)は、
RNAi経路を介して特異的遺伝子発現をシャットダウンする(Buchon-2005)。III型リボヌクレアーゼのダイサーは、長いdsRNA複合体を結合し、それを小さなdsRNA複合体(低分子干渉(si)RNA)へと切断し、それらはRISCに積み込まれ、結合する、およびまた立体干渉により又はmRNA分解によりその翻訳を阻害する相補的mRNA配列を見出すために使用される(Meister-2004)。植物及び無脊椎動物は、IFN生成を有しない。
【0006】
IFNは、転写と翻訳の両方のグローバルシャットダウンを誘導し、それは、RNAiの配列特異的効果をマスク又は阻害する(Maillard-2016)。長いdsRNA(少なくとも30bp)はIFN欠損である哺乳動物細胞においてRNAiを誘発できることが示されている(Maillard-2016)。
【0007】
dsRNAの長さはIFN生成に影響を及ぼし、より長い分子はより強いIFN応答を誘導する(DeWitte-Orrら、2010)。
【0008】
米国特許公開第20130330824号は、細菌を使用して哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのために長いdsRNAを使用する方法であって、長いdsRNAで細菌を形質転換すること、長いdsRNAをより小さいRNA二本鎖の混合物にプロセスさせ標的細胞の細胞質内に放出させることを含む、方法を開示する。
【0009】
WO2017136895は、IFN応答を有しない、植物においてウイルスを標的とする400塩基対超の長さのdsRNAを生成するコンストラクトを開示する。
【0010】
米国特許公開第20170253881号は、RNAポリメラーゼII(PolII)プロモーターから長い二本鎖RNAを発現するために、pDECAPと命名されたベクターを使用する、細胞における遺伝子サイレンシングのための長いdsRNA(30塩基対超)の導入を開示する。
【0011】
WO2018146557は、2つの異なる標的mRNA配列の発現を阻害できる、細胞中にトランスフェクトされる長いdsRNA二本鎖を開示する。
【0012】
米国特許第8299042号は、標的核酸と実質的な配列同一性を有する第1のdsRNA、及びdsRNA媒介毒性を阻害する短い第2のdsRNAの使用を伴う転写後遺伝子サイレンシングの方法を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
様々な態様で本明細書において提供されるのは、300塩基対超のdsRNA複合体を含む組成物、及び標的遺伝子転写物をサイレンシングするためのそれらの使用方法である。いくつかの実施形態では、組成物及び方法は、標的細胞におけるI型インターフェロン(IFN)応答を回避又は誘導するために使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書で実証されるように、本発明者らは、例えば、RNA干渉を除去するI型IFNを誘導することなく、標的遺伝子発現を減少させるための長いdsRNAを含む方法及び組成物を決定した。本明細書に記載されるように、IFNコンピテントである脊椎動物細胞においてRNAiを介して標的遺伝子転写物をサイレンシングできる長いdsRNA複合体及び方法が開発されてきた。例えば、長いdsRNA複合体の投与量及び/又は長さを調節することによって、I型IFNの誘導を回避又は誘導できることを発明者らは見出した。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様は、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含む二本鎖RNA(dsRNA)複合体を含み、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々が少なくとも300塩基対(bp)の長さを有し、ガイド鎖が標的遺伝子転写物の標的核酸配列に相補的なセグメントを含む。
【0016】
別の態様は、標的核酸配列を含む脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングすることにおける使用のための、かつ/又はそれぞれ、脊椎動物細胞若しくは対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させることにおける使用のための本明細書に記載のdsRNA複合体に関する。
【0017】
別の態様は、標的核酸配列を含む第1の脊椎動物細胞型における標的遺伝子転写物をサイレンシングすること、および第2の脊椎動物細胞型においてI型インターフェロン(IFN)応答を誘導することにより混合された細胞集団を標的化することにおける使用のための本明細書に記載のdsRNA複合体の使用に関し、任意選択で細胞集団は、脊椎動物細胞中にある。
【0018】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体、抗体、任意選択で一本鎖抗体若しくは結合断片などの、1以上のポリペプチド、又は標識を含むコンジュゲートである。
【0019】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体を形成できる1以上の転写物(複数可)をコードする発現カセットを含むベクターを含む。
【0020】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体、コンジュゲート、又はベクターを含む組成物を含む。
【0021】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングする方法であって、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート、又は組成物のある量を細胞又は対象に投与することを含む、方法を含む。標的遺伝子転写物は例えば、癌を促進する遺伝子転写物であり得る。また提供されるのは、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物のある量を、それを必要とする対象に投与することを含む癌を治療する方法であって、標的遺伝子転写物が、癌に関与する遺伝子の産物(例えば、遺伝子転写物)である、方法である。
【0022】
別の態様は、それぞれ、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させるための方法を含み、標的核酸配列は、ウイルス遺伝子転写物配列などの、病原体遺伝子転写物配列に対応する。
【0023】
別の態様は、病原体感染症を治療する方法であって、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物のある量をそれを必要とする対象に投与することを含み、標的遺伝子転写物が、ウイルス遺伝子転写物などの病原体遺伝子転写物である、方法を含む。
【0024】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象において標的遺伝子転写物をサイレンシングするための、細胞又は対象におけるウイルス感染などの病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させる、それを必要とする対象において病原体感染症を治療するための、かつ/又は薬剤の調製のための、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0025】
本開示の実施形態を、以下の図面に関連してこれから説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1A~Fは、長いdsRNA(700bp)で処理したときの細胞株の生存率を評価する一連のグラフである。dsRNAへの曝露が減少された細胞の生存をもたらさないことを確実にするために、5つの細胞株を、複数の濃度(3.13~800ng/mLの範囲)のdsRNAで処理し、生存率を、アラマーブルー(Alamar Blue)/CFDA-AMアッセイを使用して30時間後に評価した。生存は処理により負の影響を受けなかったが、より高い濃度のdsRNAは、代謝活性を増強した(アラマーブルーにより示されるように)。評価された細胞株は、THF細胞(
図1A、n=3)、M14メラノーマ細胞株(
図1B、n=3)、MRC5肺線維芽細胞株(
図1C、n=3)、SNB75膠芽腫細胞株(
図1D、n=3)、BT549乳癌細胞株(
図1E、n=3)、及びHepG2肝芽腫細胞株(
図1F、n=3)を含んだ。
【
図2】異なる長さのdsRNAの効果を示す、
図2Aは画像であり、
図2B及び2Cはグラフである。(
図2A)dsRNAは、異なる長さを有して生成でき、ここでは700bp、600bp、500bp、400bp、300bp、200bp及び100bpの長さが示される。(
図2B)テロメラーゼ不死化ヒト線維芽細胞(THF)細胞(50,000細胞/ウェル)と(
図2C)SNB75細胞(50,000細胞/ウェル)の両方を、500ng/mLの700bp、600bp、500bp、400bp、300bp又は200bpの長さのdsRNAに2時間曝露し、次いで、VSV-GFP(感染多重度(MOI)=0.1)に感染させた。感染の24時間後に、上清を、収集し、TCID
50を、HEL-299細胞を使用して計算した(両細胞型についてn=6)。400bp、500bp及び600bpの長さのdsRNAは、THF細胞中で一致配列(GFP)を使用した場合、VSV-GFPを制限するための700bpの長さとちょうど同じ程度に有効であった。SNB75細胞では、500bp及び600bpの長さは、700bpの長さと同等であり、400及び300bpは、対照と統計的有意差はなかった。mCherryとベータ-lacの両方は、ミスマッチの対照配列である。
【
図3-1】
図3A~3Cは、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)を誘導しない用量でのHEL 299細胞におけるdsRNAiを示す一連のグラフである。(
図3A~3B)ヒト胚性肺細胞(HEL-299;ATCC CCL-137)を、無血清培地中で500、1000、又は1500ng/mlのmCherry(ミスマッチ)、又はeGFP(一致)配列特異的二本鎖RNA(長さ700bp)、又はポリI:C(500ng/mL)のいずれかで2時間前処理した。総RNAを、処理後24時間の時点でTRIzol(商標)により抽出し、逆転写に供した。インターフェロン刺激遺伝子(ISG)ベータアクチン、CXCL10(
図3B)、及びISG15(
図3A)の発現を、qPCRにより測定した。ISG15及びCXCL10の発現を、アクチンに正規化した。ポリI:C(500ng/ml)での処理はISGの顕著な発現をもたらしたが、最大で1500ng/mlの、一致した又はミスマッチのdsRNAによる処理は、ベースラインを超えるISGの誘導をもたらさなかった。(
図3C)ヒト胚性肺細胞(HEL-299;ATCC CCL-137)を、無血清培地中で1000ng/mlのベータ-ラクタマーゼ(ミスマッチ)、又はeGFP(一致)配列特異的二本鎖RNAのいずれかで2時間前処理した。単層をその後、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。GFP蛍光を、モック処理細胞の感染が80%に達したとき(通常、感染後16~24時間)、プレートリーダーにより測定した。全ての処理した試料を、モック処理した細胞に対する倍数変化として計算した。提示される結果は、実験ごとに少なくとも4回技術的に反復した4つの生物学的複製物からプールしたデータである。保護が、ウイルスによりコードされる配列に一致するdsRNAで見られた。
【
図3-2】
図3D~3Gは、長い700bpのdsRNAで処理したTHF及びSNB75細胞がI型インターフェロン又はインターフェロン刺激遺伝子(ISG)を誘導しないことを示す一連のグラフである。細胞を、dsRNA(0.5、10μg/mL)又はポリIC(10μg/mL)で26時間処理し、その後RNAを、製造業者の指示に従いTRIzol(商標)により抽出した。混入したゲノムDNAを除去するために、RNA試料を、製造業者により概説されるように、ターボDNase(商標)キット(ThermoFisher)を使用してDNase処理した。相補的DNA(cDNA)を、製造業者の指示に従いiScript cDNA合成ミックス(Bio-Rad)を使用して500ngの全RNAから合成した。β-アクチン、IFN-β及びCXCL10の発現を、qRT-PCRにより測定した。IFNβ及びCXCL10発現を、β-アクチンに正規化した。
【
図4】
図4A~4Cは、dsRNAiがウイルス遺伝子のdsRNAを使用してウイルス増殖を抑制できることを示す一連のグラフである。テロメラーゼ不死化ヒト線維芽細胞(THF)(
図4A)とSNB75(
図4B)細胞の両方を、500ng/mLのGFP(陽性対照)、VSV Nタンパク質、VSV Mタンパク質、mCherry及びベータ-lacの700bp dsRNAに2時間曝露し、その後、VSV-GFP(MOI=0.1)に24時間感染させた。細胞をまた、250ng/mLのVSV Nタンパク質と250ng/mLのVSV Mタンパク質を含有する混合物にも曝露し、500ng/mLの総濃度をもたらした。mCherryとベータ-lacの両方は、ミスマッチ配列陰性対照として機能した。ウイルス遺伝子(N及びMタンパク質)のdsRNA複合体は、VSV-GFPの有意な阻害を誘導できたが、2つのdsRNA配列の500ng/mLの混合物は、相加効果を有するようには見えなかった。(
図4C)MRC5細胞を、700bpのHCoV-229E遺伝子のRdRp(RNA依存性RNAポリメラーゼ)、Mタンパク質、Nタンパク質、スパイクタンパク質、及びミスマッチ陰性対照mCherryのdsRNAで2時間処理した。細胞を次いで、HCoV-229Eに24時間感染させ、上清を、回収してTCID
50を決定した。HCoC-229EのMタンパク質、Nタンパク質及びスパイクタンパク質のdsRNAでの処理は、ウイルス数を顕著に減少できたが、mCherry及びRdRpは、保護効果を有しなかった。
【
図5】
図5A~5Cは、dsRNAiによる初代気管支上皮細胞(pBEC)のウイルス増殖阻害を示す一連のグラフである。700bpの配列特異的dsRNA(Nタンパク質)又は700bpのミスマッチ配列(mCherry)に2時間曝露した後、pBEC(健常ドナーから得られた)を、VSV-GFP(MOI=0.1)に24時間感染させ、上清を、回収して、TCID
50の定量を完了した(n=2)。VSV Nタンパク質の一致したdsRNA配列は、VSV-GFP力価の大きな低下を刺激した(
図5A)。pBEC細胞を、HCoV-229E Mタンパク質(0.5μg/mL)、ミスマッチmCherry配列(0.5μg/mL)の700bpのdsRNA又はポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリI:C、50μg/mL)で2時間前処理した。ポリI:Cは、強力なインターフェロン誘導剤であり、ウイルス感染からの保護を提供すると予想される(陽性対照)。前処理後に、pBECを、HCoV-229E(MOI=0.1)に24時間感染させ、上清を、収集し、TCID
50の定量に使用した。Mタンパク質dsRNA(0.5μg/mL)とポリI:C(50μg/mL)の両方は、ウイルス数の減少を刺激した(n=6)(
図5B)。FuGENEトランスフェクション試薬を使用して、dsRNAを、HCoV-229E Mタンパク質配列(0.5μg/mL)又はミスマッチmCherry配列(0.5μg/mL)の700bpのdsRNAでpBEC細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を次いで、HCoV-229E(MOI=0.1)に24時間感染させ、上清を、収集し、TCID
50の定量に使用した。Mタンパク質は、トランスフェクション試薬を使用しなかった
図5Bにおいて観察されたものと同様に、ウイルス数の減少を刺激した(n=2)(
図5C)。
【
図6】
図6は、感染の1~5時間前及び感染時にウイルスVSV-GFP複製を制限するのに有効なdsRNAを示すグラフである。M14細胞(75,000細胞/ウェル)を、VSV-GFP(MOI=1)の感染前の様々な時点で500ng/mLの各dsRNA(各々700bp;GFP(一致)又はmCherry(ミスマッチ)をコードするdsRNA)に曝露した。感染の24時間後に、上清を、収集し、TCID
50を、HEL-299細胞(n=3)を使用して計算した。有意差を、各個々の時点でmCherryとGFPの間で評価した。
【
図7】
図7A~7Dは、ウイルス増殖阻害が、哺乳動物細胞をトランスフェクトしたときにsiRNAでのみ観察できることを示す一連のグラフである。THF(
図7A)及びSNB75(
図7B)細胞を、GFP siRNA、長いGFP dsRNA(一致)又は長いmCherry dsRNA(ミスマッチ)で2時間処理(「浸漬」)し、上清収集の前にVSV-GFP(MOI=0.1)に24時間感染させた。ウイルス増殖の阻害は、長い一致配列(GFP dsRNA)曝露条件においてのみ観察された(両細胞株についてn=6)。GFP siRNAを、リポフェクタミンを使用してTHF(
図7C)及びSNB75(
図7D)細胞にトランスフェクトしたときに、VSV-GFPウイルス力価における有意な低下が観察された(両細胞株についてn=4)。これらの結果は、長いdsRNAは、siRNAとは異なり、ウイルス阻害を誘導するのにトランスフェクションを必要としないことを示す。
【
図8】
図8A及び8Bは、800bpのGFPが分子の3'末端又は5'末端のいずれかに見出され、かつ残りの100bpがミスマッチのプラスミド配列である、900bpのdsRNA複合体を使用するウイルス増殖阻害を示す一連のグラフである。THF(
図8A)とSNB75(
図8B)の両方の細胞を、このdsRNA複合体の両配向に2時間暴露し、次いで、VSV-GFP(MOI=0.1)に24時間曝露し、その後上清を、TCID
50の定量のために収集した(両方の細胞株についてn=6)。有意なノックダウンが、GFPがdsRNA複合体の3'末端にあるとき両方の細胞株で観察された。GFPが5'末端にある場合、VSV-GFPの顕著な阻害がTHF細胞においてのみ観察された。
【
図9】
図9A及び9Bは、配列一致dsRNAが魚の細胞において誘導性発光を減少させることを示す一連のグラフである。RTG-P1ニジマス性腺細胞は、ISRE(インターフェロン応答エレメント)の制御下でルシフェラーゼを安定的に発現し、したがってIFNの存在はルシフェラーゼ生成を活性化する。(
図9A)ルシフェラーゼ(Luc)(一致)又はGFP(ミスマッチ)をコードするdsRNA(700bp)を使用して、24時間様々な濃度(1~25ng/mL)でRTG-P1細胞を処理した。ルシフェラーゼ又はGFPをコードする1ng/mLの700bp dsRNAは両方ともIFNを誘導しなかった。(
図9B)RTG-P1細胞を、1ng/mL、10ng/mL及び25ng/mLのdsRNA(Luc(一致)又はGFP(ミスマッチ)のいずれか)で4時間処理し、その後32ng/mLのポリICで24時間処理した。1ng/mL及び10ng/mLの用量は、ルシフェラーゼの配列依存性ノックダウンを示し、一方で25ng/mLの用量は傾向を示すが、統計的に有意ではない。これは、dsRNAi効果は、IFN生成が増加すると減少することを示唆する。IFN生成がかなり多い100ng/mLのdsRNA及び上記の用量は、配列特異的なノックダウンをほとんど全く示さなかった(データ示さず)。
【
図10】
図10は、一致したdsRNA配列がRTG-2においてCSVウイルス力価を低下させることを示すグラフである。ニジマス性腺細胞のRTG-2を、無血清培地中で、長さが全て700bpである、1ng/mLのGFP(ミスマッチ)、又はCSVセグメント7(一致)又はCSVセグメント10(一致)配列特異的二本鎖RNAで4時間前処理した。単層をその後、1のMOIでCSVに4時間感染させ、次いで、2%FBS培地と置換した。細胞上清を、感染後7日目に収集し、TCID
50アッセイにより滴定した。データ(平均+SEM)は、4つの独立した反復の平均を表し、スチューデントのt検定によって統計的に分析され、アルファ=0.05。P値<0.05は有意:p≦0.05(
*)であるとみなされ、P値>0.05は有意でないとみなされる(ns)。
【
図11】
図11は、dsRNAi効果がRNAi経路を介することを示す画像である。ヒト胚性肺細胞(HEL-299;ATCC CCL-137)を、12.5μMのアウリントリカルボン酸(DICER阻害剤)の存在下又は非存在下の無血清培地中で、500ng/mlのmCherry(ミスマッチ)、又はeGFP(一致)配列特異的二本鎖RNAのいずれかで2時間前処理した。単層をその後、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。プレートを、蛍光顕微鏡によりスキャンした。以前のデータと一致して、eGFP dsRNAは、mCherry dsRNAに対して優れた保護を提供した(第3列と第5列を比較)。DICER阻害剤の存在は、保護効果を無効にした(第3列と第4列を比較)。
【
図12】
図12Aは、複数の一致配列を含有する700bpのdsRNA複合体の構造の概略図であり、
図12B及び12Cは、それぞれ複数の一致dsRNA配列を含有する500ng/mL又は1000ng/mLのいずれかの700bp dsRNで処理したTHF細胞を示す一連のグラフである。(THF)細胞(50,000細胞/ウェル)を、複数の一致配列を含有する500ng/mL(
図12B)又は1000ng/mL(
図12C)の700bpのdsRNAに2時間曝露し、次いで、VSV-GFP(感染多重度(MOI)=0.1)に感染させた。感染の24時間後に、上清を、収集し、TCID
50を、HEL-299細胞を使用して計算した。dsRNA複合体を、共に5'から3'方向(5'N-M-3')で350bp VSV N遺伝子配列と350bp VSV M遺伝子配列、又は共に5'から3'方向(5'-M-N-3')で350bp VSV M遺伝子配列と350bp VSV N遺伝子配列、又はNとMの50bp断片が交互に並んだ全700bpのいずれかを有して設計した。N-M Alt配列では、各断片は、N及びM遺伝子の異なる部分であり、すなわちdsRNA複合体に沿って繰り返される配列はなかった(
図12A)。複数の一致配列を含有する700bp dsRNAはウイルス増殖を効果的に抑制することが、見出された。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
特に定義しない限り、本開示に関連して使用される科学的及び技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、特に文脈によって要求されない限り、単数用語は複数用語を含み、複数用語は単数用語を含むものとする。例えば、「細胞」という用語は、単一細胞、並びに複数細胞又は細胞の集団を含む。一般に、本明細書に記載の細胞及び組織培養、分子生物学、及びタンパク質及びオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド化学及びハイブリダイゼーションと関連して利用される命名法並びにそれらの技術は、当技術分野で周知の一般的に使用されるものである(例えば、Green and Sambrook、2012参照)。
【0028】
本明細書で使用する場合、「二本鎖RNA複合体」又は「dsRNA複合体」は、2つの相補的な核酸鎖のガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含む二重構造を指す。ガイド鎖は、標的核酸配列に相補的なセグメントを含む。dsRNA複合体はまた、1以上のヌクレオチドオーバーハングを含んでよい。
【0029】
使用される「標的核酸配列」は、それに対しガイド鎖が相補的である、標的遺伝子転写物の一部又は全部を指す。標的核酸配列は、少なくとも20bpである。
【0030】
本明細書で使用する「標的遺伝子転写物」は、サイレンシングされることが望まれる標的遺伝子の転写中に形成されるmRNA分子を指す。
【0031】
本明細書で使用する「相補的な」又は「相補性」は、ガイド鎖がパッセンジャー鎖にハイブリダイズする能力、又はガイド鎖のセグメントが標的核酸配列にハイブリダイズする能力を意味する。セグメントと標的核酸配列の間の相補性は、完全(100%相補)であり得るが、いくつかのミスマッチが許容される。例えば、セグメントは、標的核酸配列に対して70%、80%、85%、90%又は95%相補的であり得る、または10モノマーストレッチ中に最大で1、2又は3個のミスマッチを含み得る。
【0032】
本明細書で使用する「ガイド鎖」は、RNA干渉を引き起こすために標的核酸配列に十分に相補的なセグメントを有する二本鎖核酸分子又は二本鎖核酸含有分子の一本鎖核酸分子を指す。
【0033】
本明細書で使用する「パッセンジャー鎖」は、ガイド鎖のセグメントに相補的な配列を有する二本鎖核酸分子又は二本鎖核酸含有分子の一本鎖核酸分子を指す。
【0034】
本明細書で使用する「平滑末端」は、オーバーハングヌクレオチドを有しないdsRNA複合体の末端を指す。本明細書に記載のdsRNA複合体は例えば、二重構造の一方又は両方の末端に平滑末端を含み得る。
【0035】
本明細書で使用する「オーバーハング」は、二本鎖核酸の5'末端又は3'末端のいずれかに2つ、3つ又は4つのフリー端を有する二本鎖の状況における不対ヌクレオチドを指す。オーバーハングは例えば、ガイド鎖又はパッセンジャー鎖又はその両方における3'又は5'オーバーハングであり得、かつ天然又は非天然であり得る。
【0036】
ガイド及びパッセンジャー鎖及びオーバーハング配列を含む、dsRNA複合体の状況において、本明細書で使用する「非天然」は、標的核酸配列又は標的遺伝子転写物に含まれないか、又はそれに対応しない(例えば、相補的でない)ヌクレオチド配列又は残基を指す。
【0037】
本明細書で使用する「化学修飾」は、例えば、ロック核酸(LNA)中で見出されるものであり得るか、又は6員モルホリン環が糖部分又はホスホロチオエート(PS)結合と置き換わり、硫黄がリン酸基中の非架橋酸素原子の1つと置き換わっているリボース部分若しくはモルホリノモノマーの2’位置での修飾である、2'-フルオロ(2'-F)、2'-O-メトキシエチル(2'-MOE)又は2’-O-メチル(2’-O-Me)であり得る。そのような修飾は、ヌクレアーゼの存在下で安定性を増強し得る。
【0038】
本明細書で使用する「コンジュゲート」は、本明細書に開示されるdsRNA複合体に、例えばリンカーを介して、連結された例えば抗体又は標識に共有結合される2以上の分子を含む複合体を意味する。
【0039】
本明細書で使用する「インターフェロン誘導閾値」又は「IFN誘導閾値」は、インターフェロンコンピテント細胞又は対象への投与の際に、細胞中のインターフェロン応答を誘発する、dsRNA複合体の濃度及び/又はdsRNA複合体の長さを指す。
【0040】
本明細書で使用する「インターフェロンコンピテント細胞」又は「IFNコンピテント細胞」は、I型IFNを生成できる細胞を指す。
【0041】
本明細書で使用する「インターフェロン刺激遺伝子」は、その発現がI型インターフェロンによって刺激される遺伝子を指し、例えば、ISG15、CXCL10などを含む。
【0042】
対象の文脈における「治療する」という用語は、臨床結果を含む、有益な又は所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益な又は所望の臨床結果は、検出可能であろうとなかろうと、感染性の低下、ウイルスの成長の阻害、1以上の症状若しくは状態の緩和又は改善、疾患の程度の低減、疾患の安定した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の拡散の防止、疾患進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、疾患の再発の減少、及び寛解(部分的又は完全)を含み得るが、これらに限定されない。「治療すること」及び「治療」はまた、治療を受けていない場合に予想される生存と比較して生存を延長することを意味し得る。本明細書で使用する「治療すること」及び「治療」はまた、予防的治療を含む。例えば、感染症にかかりやすい対象、例えば感染が存在する、又は感染時期中の農場の湖若しくは池の中の魚は、病原体感染性を予防又は低減するために、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物を投与することにより予防的に治療できる。細胞の文脈における「処理すること」という用語は、細胞を溶液に浸漬することによるなどの、細胞に投与する又は接触させることを意味する。細胞は、本明細書で実証されるようなトランスフェクション試薬を必要とせずに処理できる。
【0043】
本明細書で使用する「投与」という用語は、有効な経路を使用して、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート及び/若しくは組成物などの薬剤を細胞若しくは対象に提供する又は与えることを意味する。例えば、dsRNA複合体は、経鼻(例えば、エアゾールスプレー)、局所、経口、経腸、経膣、浸すことにより(by bath)及び/又は静脈内などで対象に投与できる。投与はまた、例えば、培地に懸濁されたdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート及び/若しくは組成物を含有する溶液中に細胞若しくは対象をおくことにより、又はdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート及び/又は組成物を含有する溶液を細胞若しくは対象の既存の環境に(例えば、魚類又は他の水生脊椎動物を収容する細胞培地又は液体に)添加することにより、対象(例えば、魚)又は細胞を治療することにより実施され得る。
【0044】
本明細書で使用する「医薬的に許容される担体」という用語は、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、及び/又は組成物などの薬剤の投与に適する担体を意味し、限定されないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組み合わせを含む。
【0045】
本明細書で使用する「サイレンシング」という用語は、例えば本明細書に記載の条件を使用する、例えばRT-PCRにより検出可能な標的遺伝子のmRNA発現のレベルを、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれより多く減少させることを意味する。RT-PCR条件は、例えば35サイクルを含み、本明細書に記載のdsRNA複合体で治療されていない対照において増幅されたcDNAのレベルと比較されてよい。
【0046】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、ヒト抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体及び他のキメラ抗体を含むことが意図される。抗体は、組換え源由来であってよく、かつ/又はトランスジェニック動物において生成されてもよい。実施形態の抗体は、重鎖可変領域又は重鎖相補性決定領域1、重鎖相補性決定領域2及び重鎖相補性決定領域3を含む重鎖、並びに軽鎖可変領域又は軽鎖相補性決定領域1、軽鎖相補性決定領域2及び軽鎖相補性決定領域3を含む軽鎖を含む。本明細書で使用する「抗体」はまた、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、scFab、dsFv、ds-scFv、それらの二量体(例えば、Fc二量体)、ミニボディ、ダイアボディ、及び多量体、多重特異的抗体断片及びドメイン抗体を含む、抗体結合断片を指す。抗体は、従来技術を使用して断片化できる。例えば、F(ab’)2断片は、抗体をペプシンで処理することにより作製できる。得られたF(ab’)2断片を処理して、ジスルフィド架橋を減らし、Fab’断片を生成できる。パパイン消化はFab断片の形成をもたらし得る。Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、scFab、dsFv、ds-scFv、ダイマー、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体断片及び他の断片もまた、組換え技術により合成できる。
【0047】
本明細書で使用する「対象」は、脊椎動物哺乳動物及び非哺乳動物、例えば、ヒト、魚類及び他の水生脊椎動物、牛、豚、馬、鳥(例えば、家禽類)、両生類、爬虫類などを含む全ての脊椎動物を含む。
【0048】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「その」は、特に内容が明確に示さない限り、複数参照を含む。そのため、例えば、「複合体」を含有する組成物は、2以上の複合体の混合物を含む。用語「又は」は、特に内容が明確に示さない限り、「及び/又は」を含む意味で一般的に採用されることにも留意されたい。
【0049】
この出願及び請求項(複数可)において使用される単語「からなる」及びその派生語は、述べられる特徴、要素、構成要素、グループ、整数、及び/又は工程の存在を特定するクローズドエンド用語であることを意図しており、また、他の述べられていない特徴、要素、構成要素、グループ、整数及び/又は工程の存在を除外する。
【0050】
本明細書で使用する「約」、「実質的」及び「おおよそ」という用語は、最終結果が顕著に変化しないように、修飾された用語の妥当な量の逸脱を意味する。程度のこれらの用語は、この偏差が修飾する単語の意味を否定しない場合、修飾用語の少なくとも±5%又は少なくとも±10%の偏差を含むものとして解釈されるべきである。
【0051】
特定の節に記載される定義及び実施形態は、当業者に理解されるように、それらが適する本明細書に記載の他の実施形態に適用可能であることが意図される。
【0052】
本明細書におけるエンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数及び少数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、及び5を含む)。全ての数及びそれらの少数は、用語「約」によって修飾されると推定されることも理解されるべきである。
【0053】
さらに、特定の節に記載される定義及び実施形態は、当業者に理解されるように、それらが適する本明細書に記載の他の実施形態に適用可能であると意図される。例えば、以下の節では、本開示の異なる態様がより詳細に定義される。そのように定義される各態様は、反対のことが明示されない限り、任意の他の態様又は複数の態様と組み合わされ得る。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましい又は有利であると示される任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わされ得る。表に列挙される任意の特徴は、別の表に列挙される任意の他の特徴と組み合わされ得る。
【0054】
本発明者らは、I型IFNを誘導することなく、長い二本鎖RNAを使用して脊椎動物の細胞又は脊椎動物対象における標的遺伝子又は複数の遺伝子の発現を減少させ(すなわち、発現をサイレンシングし)、それによりRNAiを防止するネガティブフィードバックループを遮断するための組成物及び方法を開発した。組成物及び方法は、堅牢であり、効率的なノックダウンを保証する複数の遺伝子転写物又は遺伝子転写物中の複数のセグメントを効果的に標的化するために使用され得る。
【0055】
したがって、第1の態様は、各々少なくとも300塩基対(bp)の長さを有する、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含み、ガイド鎖は、標的遺伝子転写物の標的核酸配列に相補的なセグメントを含む二本鎖RNA(dsRNA)複合体(例えば、天然に存在しない組換えコンストラクト)を含む。
【0056】
一実施形態では、ガイド鎖又はそのセグメントは、標的核酸配列と約70%、約80%、又は約90%相補的であり得る。ガイド鎖又はそのセグメントは、標的核酸配列と完全に相補的(100%相補的)であり得る。一実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、キメラであり、例えば2以上の化学的に別々の領域を含有する。例えば、キメラ鎖は、有益な特性(例えば、ヌクレアーゼ抵抗性の増加、細胞への取り込みの増加)を与える修飾ヌクレオチドの1以上の領域を含有し得る。
【0057】
IFN応答のみを誘導する他のdsRNA分子と比較して、標的核酸配列に対するガイド鎖の相補性は、dsRNA複合体が標的mRNA配列の分解又はmRNA標的配列の翻訳の阻害を促進することを可能にする。
【0058】
標的核酸配列は例えば、宿主遺伝子転写物配列(すなわち、宿主遺伝子転写物の一部)又は病原体又は非宿主遺伝子転写物配列であり得る。単一のdsRNA複合体は、例えば特定の標的遺伝子転写物に沿って連続的に異なる標的核酸配列に各々が相補的な複数のセグメントをそのガイド鎖中に含有するか、又は単一dsRNA複合体がRNAiを介して複数の遺伝子転写物を標的とすることを可能にする異なる遺伝子転写物中に見出され得る。一実施形態では、ガイド鎖は、同じ標的遺伝子転写物の異なる標的核酸配列に各々が相補的な1以上のさらなるセグメントを含む。別の実施形態では、1以上のさらなる異なるセグメントは、異なる標的遺伝子転写物の異なる標的核酸配列に相補的であり、任意選択で、標的核酸配列に相補的ではないバッファー配列(若しくはミスマッチ配列)、例えば、約50bp~約500bpの配列、又はそれ以上により分離される。一実施形態では、ガイド鎖は、標的核酸配列に各々が相補的な1以上のさらなるセグメントを含む。例えば、dsRNA複合体は、2つの異なる標的遺伝子転写物からの標的核酸配列を交互に含有してよい。標的核酸配列に相補的な各セグメントの長さは、例えば、約20bp~約800bpである、又はそれより長くてよい。dsRNA複合体全体の長さは、約300bp~約5000bp、又はそれより長い、任意選択で約3000bpであり得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、標的核酸配列に相補的なセグメントは、20bp~850bp、例えば、約20bp、約25bp、約40bp、約50bp、約60bp、約75bp、約80bp、約100bp、約200bp、約300bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp又は約800bp、又は20~800bp、40~700bp、60~600bp、80~500bp、100~500bp、200~500bp、300~500bp又は400~500bpの長さを有する。
【0060】
一実施形態では、標的核酸配列に相補的なガイド鎖のセグメントは、ガイド鎖の5'末端の近位(例えば、50塩基未満)であるか、又は5'末端にある。本明細書で使用する「5'末端の近位」は、3'末端よりも5'末端に近い、例えば、少なくとも3ヌクレオチド近いことを意味する。別の実施形態では、セグメントは、ガイド鎖の3'末端の近位であるか、又は3'末端にある。本明細書で使用する「3'末端の近位」は、例えば、5'末端より3'末端に近い、例えば、少なくとも3ヌクレオチド近いことを意味する。dsRNA複合体が複数のセグメントを含む実施形態では、1つのセグメントは、5'末端の近位又は5'末端にあり得、別のセグメントは、3'末端の近位又は3'末端にあり得る。dsRNA複合体に含まれる他のセグメントは、任意選択でバッファー配列によって分離されるガイド鎖の末端の近位のセグメント又は末端にあるセグメント間に配置される。
【0061】
一実施形態では、ガイド鎖は、同じ標的遺伝子転写物の異なる標的核酸配列に各々相補的な2つの異なるセグメントを含み、第1のセグメントは、ガイド鎖の3’末端の近位であるか又は3’末端にあり、第2のセグメントは、ガイド鎖の5'の近位であるか又は5'にある。別の実施形態では、ガイド鎖は、異なる標的遺伝子転写物の標的核酸配列に各々が相補的な2つの異なるセグメントを含み、第1のセグメントは、ガイド鎖の3’末端の近位であるか又は3’末端にあり、第2のセグメントは、ガイド鎖の5'の近位であるか又は5'にある。
【0062】
いくつかの実施形態では、ガイド鎖は、1以上の非天然配列を含む。例えば、非天然配列は、非天然RNA配列、例えばバッファー配列であり得る。
【0063】
dsRNA複合体は、一緒にアニールされた、相補配列-パッセンジャー鎖及びガイド鎖の2つの一本鎖(ss)RNA分子を含む。
【0064】
dsRNA複合体は、任意の所望の手順で合成されてよい。例えば、RNAポリメラーゼ(例えば、T7RNAポリメラーゼ)、細菌、大規模発酵プロセスなどを使用するインビトロ転写を含む、様々な手順が当技術分野で周知である。一実施形態では、dsRNA複合体は、ポリメラーゼプロモーターを含有するDNA鋳型、およびポリメラーゼにより作製された相補配列からのガイド鎖及びパッセンジャー鎖で合成されてよく、ポリメラーゼにより作製された相補配列がアニールして、dsRNA複合体を作製する。一実施形態では、ポリメラーゼプロモーターは、T7、T3又はSP6ポリメラーゼプロモーターである。一実施形態では、ポリメラーゼプロモーターは、T7ポリメラーゼプロモーターである。
【0065】
いくつかの実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、300bp~5000bp、例えば、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp又は約800bp、900bp、1000bp、1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、約1500bp、約1600bp、約1700bp、約1800bp、約1900bp、約2000bp、約2100bp、約2200bp、約2300bp、約2400bp、約2500bp、約2600bp、約2700bp、約2800bp、約2900bp又は300~900bp、400~900bp、500~900bp、600~900bp、700~900bp、300~800bp、400~800bp、500~800bp、600~800bp、700~800bp、300~3000bp、400~3000bp、300~2000bp又は400~2000bpの長さを有する。最小の長さは、300~400bpの任意の整数であり得る。長さは、300と3000を含む300~3000bpの任意の整数であり得る。より長い配列を使用してもよい。
【0066】
一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも300bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも400bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも500bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも600bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも700bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも800bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも900bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、少なくとも1000bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、それぞれ最大で2000bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、最大で1500bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、それぞれ最大で2000bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、最大で1500bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、最大で1300bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、最大で1200bpの長さを有する。一実施形態では、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の各々は、最大で1100bpの長さを有する。
【0067】
一実施形態では、dsRNA複合体は、少なくとも1つの平滑末端、任意選択で2つの平滑末端を含む。いくつかの実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、オーバーハングを含む。一実施形態では、オーバーハングは、標的核酸配列と相補的である。別の実施形態では、オーバーハングは、非天然である。
【0068】
一実施形態では、dsRNA複合体は、1以上の化学的に修飾された塩基を含む。一実施形態では、化学修飾は、2'Oメチル(2'-O-Me)、2’-O-メトキシエチル(2'O-MOE)、2'フルオロ(2’F)、及びロック核酸モノマー(LNAM)から選択される。別の実施形態では、dsRNA複合体は、キメラである。
【0069】
別の実施形態では、dsRNA複合体は、非修飾RNAを含む。
【0070】
一実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、5’-三リン酸末端を含む。一実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、5’-二リン酸末端を含む。一実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、5’-一リン酸末端を含む。一実施形態では、ガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖は、5'-三リン酸末端を欠く。
【0071】
一実施形態では、dsRNA複合体は、複製遺伝子、任意選択でウイルス複製遺伝子を含まない。
【0072】
いくつかの実施形態では、標的遺伝子転写物は、ウイルス遺伝子転写物などの病原体遺伝子転写物である。特定の関心のあるウイルス遺伝子は、構造タンパク質、非構造タンパク質、免疫回避タンパク質、及びポリメラーゼをコードする遺伝子を含む。ウイルス遺伝子は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ラブドウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、デングウイルス、ロタウイルスを含むがこれらに限定されない任意のウイルス由来であり得る。別の実施形態では、ウイルス遺伝子は、水疱性口内炎ウイルスインディアナ株ウイルス(VSV)遺伝子である。さらなる実施形態では、ウイルス遺伝子転写物は、膜(M)タンパク質遺伝子転写物である。さらなる実施形態では、ウイルス遺伝子はヌクレオカプシド(N)タンパク質遺伝子転写物である。さらなる実施形態では、ウイルス遺伝子はスパイク(S)タンパク質遺伝子転写物である。一実施形態では、ウイルス遺伝子転写物は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、デングウイルス、ロタウイルス又はラブドウイルス転写物である。例えば、コロナウイルス転写物は、ヒトコロナウイルスSARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERSr-CoV、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1転写物などの、ヒトコロナウイルス転写物である。
【0073】
RNAiサイレンシングのための標的遺伝子転写物は、特に限定されない。標的とされる核酸(例えば、遺伝子転写物)は、想定される治療の種類に依存する。いくつかの実施形態では、標的遺伝子転写物は、疾患遺伝子転写物、任意選択で癌遺伝子転写物である。一実施形態では、疾患は、癌である。別の実施形態では、疾患は、形質細胞増殖性障害などのリンパ増殖性障害である。
【0074】
標的遺伝子転写物のいくつかの非限定的な例は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる2014年4月15日発行の米国特許第8,697,359号に開示される標的遺伝子転写物を含む。標的遺伝子転写物の具体例は、例えば、発生遺伝子の転写物(例えば、接着分子、サイクリンキナーゼ阻害剤、サイトカイン/リンホカイン及びそれらの受容体、増殖/分化因子及びそれらの受容体、神経伝達物質及びそれらの受容体);癌遺伝子(例えば、ABLI、BCLI、BCL2、BCL6、CBFA2、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETSI、ETS1、ETV6、FOR、FOS、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCLI、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TALI、TCL3、及びYES);腫瘍抑制遺伝子(例えば、APC、BRCA1、BRCA2、MADH4、MCC、NF1、NF2、RB 1、TP53、及びWTI);酵素をコードする遺伝子(例えば、ACC合成酵素及び酸化酵素、ACP不飽和酵素、及び水酸化酵素、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ、ATPase、アルコール脱水素酵素、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、カルコン合成酵素、キチナーゼ、シクロオキシゲナーゼ、脱炭酸酵素、デキストリナーゼ、DNA及びRNAポリメラーゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、顆粒結合型澱粉合成酵素、GTPase、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、インテグラーゼ、イヌリナーゼ、転化酵素、イソメラーゼ、キナーゼ、乳糖分解酵素、ウパーゼ、リポキシゲナーゼ、リゾチーム、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、フィターゼ、植物成長調節因子合成酵素、ポリガラクツロナーゼ、タンパク分解酵素及びペプチダーゼ、プラナーゼ(pulanase)、リコンビナーゼ、逆転写酵素、RUBISCOS、トポイソメラーゼ、及びキシラナーゼ);及びケモカインをコードする遺伝子(例えば、CXCR4、CCR5)、テロメラーゼのRNA成分、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF受容体、腫瘍壊死因子核因子カッパB、転写因子、細胞接着分子、インスリン様成長因子、形質転換増殖因子ベータファミリーメンバー、細胞表面受容体、RNA結合タンパク質(例えば、核小体低分子RNA、RNA輸送因子)、翻訳因子、テロメラーゼ逆転写酵素)などの転写物を含む。
【0075】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体、抗体、任意選択で一本鎖抗体又は結合断片などの1以上のポリペプチド、又は標識を含むコンジュゲートである。
【0076】
一実施形態では、コンジュゲートは、dsRNA複合体及び抗体を含む。
【0077】
一実施形態では、コンジュゲートは、dsRNA複合体及び検出可能な標識などの標識を含む。
【0078】
核酸は、検出又は精製を可能にするための検出可能な標識で修飾され得る。標識の例は、放射性リン酸塩、ビオチン、フルオロフォア及び酵素を含む。核酸はまた、例えば、標的化送達又は固定化を促進するためのコンジュゲートの一部であり得る。例えば、核酸分子は、合成中にタグ又は他の修飾で標識できる。核酸分子はまた、合成後に標識できる。酵素的及び化学的方法は、クリック化学試薬と同様に利用可能である。
【0079】
抗体又はペプチドは、様々な方法を使用して本明細書に記載のdsRNA複合体にコンジュゲートできる。例えば、1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩であるEDC(EDACとも呼ばれる)を、使用できる。5'-リン酸基を含有する核酸分子は、任意選択でイミダゾールと組み合わせてEDCと反応させて、ヌクレオチドホスホルアミデートコンジュゲートを作製できる。抗体はまた、ビオチンアビジンをベースとしたクリック化学コンジュゲーションを使用してコンジュゲートされてもよい。メタ過ヨウ素酸ナトリウムを、
化学コンジュゲーション手順のための反応性アルデヒド基を生成するために、タンパク質炭水化物の酸化剤として使用できる。RNAヌクレオチド中のリボースのビシナルジオールもまた、過ヨウ素酸で切断でき、RNAに単一の3'末端タンパク質を付加するためにこの方法が使用されることを可能にする。本明細書に記載のdsRNA複合体をコンジュゲートするための他の方法は、Nanna,ARら 2020(Nucleic Acids Research,48巻,10号,04 June 2020,ページ5281~5293)に記載されるように、ベータ-ラクタムリンカー官能化siRNAへの部位特異的コンジュゲーションに適する反応性リジン残基を含有する二重可変ドメイン抗体を使用することを含む。dsRNA複合体はまた、Dovgan Iら 2020(Sci Rep 10,7691)に記載されているように、抗体-薬物コンジュゲートを形成する、薬物化合物などの他のペプチドに抗体を非共有結合で連結するリンカーとして使用されてもよい。
【0080】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体を形成する(例えば、自己アニールする)ことができる1以上の転写物(複数可)をコードする発現カセットを含むベクターを含む。いくつかの実施形態では、発現カセットは、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を生成するためのRNAポリメラーゼプロモーター、例えばT7ポリメラーゼプロモーターを含む。別の実施形態では、発現カセットは、dsRNA複合体を形成するために自己アニールできる転写物用のRNAポリメラーゼプロモーター、例えばT7ポリメラーゼプロモーターを含む。別の実施形態では、ベクターは、プラスミド、ウイルスコンストラクト又はウイルスである。さらなる実施形態では、ウイルスは、レンチウイルス又はアデノ随伴ウイルスである。ベクターがインビボでの使用のためである実施形態では、強力発現プロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが、使用され得る。
【0081】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体、コンジュゲート、又はベクターを含む組成物を含む。
【0082】
別の実施形態では、組成物は、医薬的に許容される担体をさらに含む。
【0083】
別の実施形態では、組成物は、脂質輸送粒子をさらに含む。さらなる実施形態では、脂質輸送粒子は、リポソームである。さらなる実施形態では、脂質輸送粒子は、ナノ粒子である。さらなる実施形態では、脂質輸送粒子は、ナノソームである。
【0084】
一実施形態では、組成物は、細胞培養培地、任意選択で無血清細胞培養培地を含む。
【0085】
一実施形態では、組成物は、脂質輸送粒子などの送達機構を欠く。
【0086】
別の実施形態では、組成物中のdsRNA複合体の濃度(例えば、体積当たりの重量)は、選択されたIFN誘導閾値を下回る投与量である。IFN誘導閾値は、投与の用途又は経路に応じて選択でき、細胞群の平均、中央値又は平均閾値に基づいてよい。IFN誘導閾値未満の濃度は、細胞及び対象の種類、並びに投与の経路に依存し得る。一実施形態では、濃度は、最高で5000ng/mLである。一実施形態では、濃度は、最高で1500ng/mLである。別の実施形態では、濃度は、1ng/mL~5000ng/mLである。別の実施形態では、濃度は、1ng/mL、2ng/mL、3ng/mL、4ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、200ng/mL、300ng/mL、400ng/mL、500ng/mL、600ng/mL、750ng/mL、1000ng/mL、1250ng/mL、1500ng/mL、1750ng/mL、2000ng/mL、2250ng/mL、2500ng/mL、2750ng/mL、3000ng/mL、3500ng/mL、4000ng/mL、4500ng/mL又は5000ng/mLである。別の実施形態では、濃度は、500ng/mL、1000ng/mL、又は1500ng/mLである。一実施形態では、100ng/mLのdsRNAが細胞に送達される場合、細胞当たりのdsRNA分子の数は、細胞当たり約55,800個のdsRNA分子である。
【0087】
様々な用途は、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート及び組成物から作製できる。例えば、上記のものは、病原体配列をコードする長いdsRNA複合体が、(1)IFN関連経路を誘導して病原体複製を遮断し、かつ感染部位における自然免疫細胞及び適応免疫細胞の動員並びに活性化を誘導し、かつ(2)RNAiを誘導して複製に必要な病原体遺伝子の発現を遮断する、抗病原体療法に用いることができる。ある濃度で細胞に投与されるdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は、IFNを誘導し得るが、異なる、例えばより低い濃度で同じ細胞に同じdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物を投与することは、RNAiを誘導し得る。2つの異なる細胞型に同じ濃度で同じdsRNA複合体を投与することは、一方の細胞型でIFNを誘導し、他方の細胞型でRNAiを誘導し得る。この治療は、予防的治療と感染治療の投与計画の両方に使用できる。
【0088】
別の例は、長いdsRNA複合体が、1以上の癌遺伝子転写物を標的とするように、および(1)IFNコンピテント腫瘍細胞又は腫瘍細胞の周りの細胞内でIFN関連経路を誘導し、腫瘍内又は腫瘍の周りに自然免疫細胞及び適応免疫細胞を動員し、活性化し、(2)RNAiを誘導して、IFNインコンピテント腫瘍細胞において癌遺伝子発現を遮断するように、設計され得る、抗癌療法である。
【0089】
また、本明細書に記載の複合体、ベクター、コンジュゲート及び組成物は、例えばIFN誘導閾値を特定すること、および所望の応答、IFN又はRNAiに基づき投与するためのdsRNA複合体の濃度を選択するために誘導閾値を使用することにより、調節可能なインターフェロン調節機構を提供する方法において使用できる。この出願は、例えば必要に応じてIFN又はRNAiに対する応答を後押しするために、抗病原体又は抗癌療法と組み合わされてよい。
【0090】
したがって、別の態様は、標的核酸配列を含む脊椎動物細胞又は対象において標的遺伝子転写物をサイレンシングする際に、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート及び組成物を使用して、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させることを含む。
【0091】
別の実施形態では、dsRNA複合体は、バクテリオファージを使用して細胞内に送達される。別の実施形態では、dsRNA複合体は、ベクター、任意選択でプラスミド、ウイルスコンストラクト又はウイルスベクターを使用して細胞内に送達される。別の実施形態では、dsRNA複合体は、ナノ粒子、ペプチド、リポソーム、又はウイルス様粒子を使用して細胞内に送達される。
【0092】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させるための、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0093】
別の態様は、それを必要とする対象における病原体感染症を治療するための、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0094】
別の態様は、薬剤の調製のための、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0095】
一実施形態では、薬剤は、ウイルス感染などの病原体感染の治療のためである。一実施形態では、薬剤は、癌の治療のためである。
【0096】
一実施形態では、薬剤は、RNAiサイレンシングを標的とする、本明細書に記載の標的遺伝子転写物に関連するか、又は関与する疾患の治療のためである。前述したように、RNAiサイレンシングのための標的遺伝子転写物は、特に限定されない。標的とされる遺伝子転写物は、想定される治療の種類に依存する。いくつかの実施形態では、標的遺伝子転写物は、疾患遺伝子転写物、任意選択で癌遺伝子転写物である。一実施形態では、疾患は、癌である。別の実施形態では、疾患は、形質細胞増殖性障害などのリンパ増殖性障害である。
【0097】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象において標的遺伝子転写物をサイレンシングする方法であって、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート、又は組成物の量を細胞又は対象に投与することを含む、方法を含む。脊椎動物は、哺乳動物及び非哺乳動物、例えば、ヒト、牛、豚、馬、魚、鳥(例えば、家禽類)、両生類、爬虫類などを含む。
【0098】
本方法は、病原体、例えば、ウイルス、細菌、真菌、原虫又は他の寄生虫(例えば、多細胞寄生虫(例えば、蠕虫)により損傷を受けている細胞を治療するために特に有用である。
【0099】
細胞型は、例えば、脂肪細胞、線維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、ニューロン、グリア細胞、血球、巨核球、リンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、白血球、顆粒球、ケラチノサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞、及び内分泌腺又は外分泌腺の細胞を含む。特に留意すべきは、幹細胞、癌細胞、腫瘍細胞、肺の細胞、皮膚の細胞、椎間板の細胞、眼の細胞、脳の細胞などである。
【0100】
本方法は、複数の異なるセグメントを含有するdsRNA複合体の使用を伴い、異なるセグメントの各々は、異なる標的遺伝子転写物をサイレンシングし得る。このようにして、単一dsRNA複合体を、より効果的な治療効果のために異なる遺伝子転写物を標的化し、かつ/又は個々の患者のニーズに対して治療を個別化するために使用できる。
【0101】
一実施形態では、投与されるdsRNA、ベクター、コンジュゲート、又は組成物の量は、所定のIFN誘導閾値を下回る。一実施形態では、投与されるdsRNA、ベクター、コンジュゲート、又は組成物の量は、所定のIFN誘導閾値を上回る。
【0102】
所定のIFN誘導閾値は、比較の細胞、対象、細胞の集団又は対象の集団に基づいて決定できる。一実施形態では、所定のIFN誘導閾値は、細胞の比較集団を使用して決定され、細胞の比較集団は、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物とインキュベートされ、所定のIFN誘導閾値が、それらから決定される。一実施形態では、細胞は、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物と約2時間インキュベートされる。他の時間も使用できる。IFN誘導閾値は、用途に応じて決定できる。例えば誘導閾値は、感染時、感染後又は感染前に、dsRNA複合体を細胞とインキュベートすることにより決定できる。別の実施形態では、細胞は、感染前に最大で約48時間、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物とインキュベートされる。別の実施形態では、細胞は、感染前に最大で約24時間、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物とインキュベートされる。さらなる実施形態では、細胞は、感染前に約1時間~5時間、任意選択で感染前に2時間、3時間、4時間、dsRNA複合体、ベクター、又は組成物とインキュベートされる。別の実施形態では、細胞は、感染時にdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物とインキュベートされる。
【0103】
本方法が対象を治療するためである実施形態では、所定のIFN誘導閾値は、対象(例えば、特定の感染症又は癌を有する)の比較集団に、異なる濃度及び/又は長さのdsRNA複合体を投与して、IFN応答を誘導できない投与量及び/又は長さ並びにIFN応答を誘導する投与量及び/又は長さを決定することによって得ることができる。対象の集団におけるIFN誘導閾値を決定することに、IFNを誘導しないがRNAiを誘導する投与量を決定するために、例えば、前臨床評価、例えば、前臨床動物試験が先行してよい。
【0104】
別の実施形態では、所定のIFN誘導閾値を決定する方法は、dsRNA複合体、若しくはベクター、300bp~900bp、例えば、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp若しくは約800bp、若しくは300~900bp、400~900bp、300~800bp若しくは400~800bpのdsRNA複合体を含む組成物と細胞の比較集団をインキュベートすること、又はそれらを対象の比較集団に投与すること、および細胞又は対象の比較集団においてIFN応答が生じるかどうかを特定することを含む。
【0105】
別の実施形態では、所定のIFN誘導閾値を決定するための方法は、IFN応答を誘導できないdsRNA複合体の投与量及び/又は長さ並びにIFN応答を誘導するdsRNA複合体の投与量及び/又は長さを決定するために、異なる濃度及び/又は長さのdsRNA複合体を細胞の比較集団に送達すること又は対象の比較集団に投与することを含む。比較集団は、細胞株、初代細胞培養物、初代組織培養物若しくは曝露動物、又は疾患若しくは病原体感染症を有する対象又はその危険性を有する対象のグループであり得る。
【0106】
投与量は、1以上の送達方法、例えば、使用される意図された送達方法を使用して決定され得る。一実施形態では、異なる濃度及び/又は長さのdsRNA複合体、ベクター、又は組成物が、dsRNA複合体、ベクター、又は組成物中の比較集団をインキュベートすることにより送達される。他の実施形態では、送達方法は、dsRNA複合体を含むか若しくは発現できるバクテリオファージ、ベクター、任意選択でプラスミド、ウイルスコンストラクト、又はウイルス、ナノ粒子、ペプチド、リポソーム、又はウイルス様粒子を含み得る。
【0107】
細胞の比較集団は典型的には、脊椎動物細胞、例えば、dsRNA複合体で治療される細胞と同じ細胞型である。対象の比較集団は、dsRNA複合体で治療される対象と同じ疾患若しくは感染症を有するか、又はその危険性がある。
【0108】
異なる細胞型は、本明細書に記載の複合体で同時に治療できる。各細胞型は、利用可能な異なるIFN誘導閾値を有し得る。例えば、第1の細胞は、dsRNA複合体のための第1の閾値濃度を有してよく、第2の細胞は、dsRNA複合体のための第2の閾値濃度を有してよく、ここで第1の閾値濃度は、例えば腫瘍微小環境又は混合細胞型の任意の組織において、第2の閾値濃度よりも低い。dsRNA複合体の濃度は、第1の閾値を上回りかつ第2の閾値未満であるように滴定でき、例えば腫瘍微小環境において、第1の細胞中でIFN応答を誘導しかつ第2の細胞中で遺伝子転写のサイレンシングを誘導することが、例えば望ましい。
【0109】
別の実施形態では、細胞の比較集団又は対象の比較集団におけるIFN誘導閾値を特定することは、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)の発現レベルを測定することを含む。一実施形態では、ISGの発現レベルは、qPCRを使用して測定される。別の実施形態では、ISGの発現レベルは、RT-PCR、RNAseq、及び/又は蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を使用して測定される。別の実施形態では、ISGの発現レベルは、dsRNA複合体とのインキュベーション又はdsRNA複合体での処理後約24時間の時点で測定される。
【0110】
一実施形態では、細胞は、脊椎動物細胞であり、癌細胞などの、疾患細胞である。
【0111】
別の態様は、標的核酸配列を含む第1の脊椎動物細胞型における標的遺伝子転写物をサイレンシングすること、および第2の脊椎動物細胞型においてI型インターフェロン(IFN)応答を誘導することにより混合細胞集団を標的化する方法であって、任意選択で細胞集団が、脊椎動物対象中にある、方法を含む。
【0112】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性をそれぞれ低下させる、又はそれを必要とする対象における病原体感染症を治療する方法であって、標的核酸配列が、ウイルス遺伝子転写物配列などの、病原体遺伝子転写物配列に対応する、方法を含む。
【0113】
一実施形態では、投与は、病原体への曝露前である。別の実施形態では、投与は、病原体への曝露中である。
【0114】
別の態様は、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の量を、それを必要とする対象に投与することを含む病原体感染症を治療する方法であって、標的遺伝子転写物が、ウイルス遺伝子転写物などの、病原体遺伝子転写物である、方法を含む。一実施形態では、病原体遺伝子(複数可)は、任意選択で、ヒトコロナウイルスSARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERSr-CoV、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-HKU1などの、ヒトコロナウイルスからの1以上のヒトコロナウイルス遺伝子(複数可)であり得る。さらなる実施形態では、1以上のコロナウイルス遺伝子(複数可)は、Nタンパク質、Mタンパク質及び/又はスパイクタンパク質をコードする遺伝子(複数可)であり得る。
【0115】
dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は例えば、感染前、感染時、及び/又は感染後に投与できる。一実施形態では、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は、予防的治療として使用でき、例えば、その場合ファミリーメンバーが、感染したと特定され、かつファミリーメンバーは、徴候を示す前に予防剤としてそれを摂取する。
【0116】
別の実施形態では、病原体感染症は、感染の部位を有し、量が、感染部位に投与される(例えば、局所的に)。いくつかの実施形態では、量は、鼻腔内、経口、局所、眼、経腸、経膣、浸すことにより、皮下、静脈内、腹腔内、胸膜内又は筋肉内で投与される。一実施形態では、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は、鼻腔内投与され、エアロゾル形態である。別の実施形態では、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は、局所投与され、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、コロイド又は懸濁液の形態である。
【0117】
別の実施形態では、感染の部位に投与される量は、IFN誘導閾値を上回る。
【0118】
別の実施形態では、量は、全身投与され、量は、IFN誘導閾値未満である。いくつかの実施形態では、投与は、局所的に及び/又は静脈内注射を介して及び/又は腫瘍内に行われる。
【0119】
別の実施形態では、細胞は、水棲脊椎動物細胞である。一実施形態では、対象は、水棲脊椎動物である。
【0120】
別の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。
【0121】
別の実施形態では、細胞は、癌細胞又は免疫特権部位の細胞である。「免疫特権部位」は、外来物質、限定されないが、例えば、眼、胎盤、胎児、精巣、中枢神経系、及び/又は毛包などの導入を許容できる部位を意味する。
【0122】
別の実施形態では、対象は、水棲脊椎動物である。一実施形態では、水棲脊椎動物は、真骨魚などの魚である。
【0123】
別の実施形態では、対象は、地上脊椎動物であり、一実施形態では、地上脊椎動物は、鳥である。
【0124】
さらなる実施形態では、対象は、哺乳動物、任意選択でヒトである。他の哺乳動物は、鳥、牛、豚又は羊の種などの任意の農業用種を含む。家畜もまた、企図される。別の実施形態では、哺乳動物は、牛、豚、馬又は羊である。
【0125】
一実施形態では、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物は、トランスフェクション試薬などの送達機構の存在下で投与されない。
【0126】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象における標的遺伝子転写物をサイレンシングするための本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0127】
別の態様は、脊椎動物細胞又は対象における病原体の複製又は病原体感染の感染性を低下させるための本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0128】
別の態様は、それを必要とする対象における病原体感染症を治療するための本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。
【0129】
別の態様は、薬剤の調製のための本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の使用である。一実施形態では、薬剤は、標的遺伝子転写物、任意選択で、本明細書に記載の標的遺伝子転写物に関連する又は関与する病原体感染症又は疾患の治療での使用のためである。
【0130】
上に列挙されていない、本明細書に記載のdsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物によって誘導されるIFN及び/又はRNAiの誘導を必要とする適用もまた、適切であり、dsRNA複合体、ベクター、コンジュゲート又は組成物の潜在的な適用に含まれる。
【0131】
上記の開示は一般的に、本願を説明する。以下の具体例を参照して、より完全な理解を得ることができる。これらの例は、説明のためにのみ記載されており、本願の範囲を限定することは意図していない。形態の変更及び等価物の置換は、状況が示唆するか、又は都合がよくなる可能性があるので企図される。本明細書では具体的な用語が採用されているが、そのような用語は、限定を目的とせず、説明的な意味で意図される。
【0132】
以下の非限定的な例は、本開示の例示である。
【0133】
実施例
方法
細胞株の維持
哺乳動物細胞株
哺乳動物細胞を使用する全ての手順は、5%CO2で、37℃で行われた。日常的な細胞の維持は、通気したT75フラスコ(BD Falcon)中で行った。
【0134】
ヒト胚性肺細胞(HEL-299)及びテロメラーゼ不死化ヒト線維芽細胞(THF)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Seradigm)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Sigma)中で日常的に維持した。特に断りのない限り、これらの細胞株を含む全ての手順は、この培地配合を使用する。細胞を、0.25%トリプシン(VWR)を使用して2~3日毎に1:6の比で継代して、細胞を解離した。
【0135】
ヒトメラノーマ細胞(M14)、ヒト乳癌細胞(BT549)及びヒト神経膠芽腫細胞(SNB75)を、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したロズウェルパーク記念研究所(RPMI)-1640培地(Corning)中で日常的に維持した。特に断りのない限り、これらの細胞株を含む全ての手順は、この培地配合を使用する。細胞を、0.25%トリプシンを使用して2~3日毎に1:4の比で継代して、細胞を解離した。
【0136】
ヒト肺線維芽細胞MRC5とヒト肝上皮細胞HepG2の両方を、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したイーグル最小必須培地中で日常的に維持した。特に断りのない限り、これらの細胞株を含む全ての手順は、この培地配合を使用する。細胞を、0.25%トリプシンを使用して2~3日毎に1:4の比で継代して、細胞を解離した。
【0137】
真骨魚細胞株
RTG-P1は、インターフェロン刺激応答エレメント(ISRE)の制御下でルシフェラーゼを安定的に発現するニジマス性腺細胞株であり、そのためインターフェロン(IFN)の存在は、ルシフェラーゼ生成を活性化する。RTG-2は、RTG-P1の遺伝子改変されていない供給源細胞株である。両方の細胞株を、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したライボビッツ-15培地(L-15,Gibco)中で日常的に維持した。特に断りのない限り、これらの細胞株を含む全ての手順は、この培地配合を使用する。細胞を20℃に維持し、日常的細胞維持は、栓をしたT75フラスコ(BD Falcon)中で行った。RTG-P1及びRTG-2細胞を、0.25%トリプシンを使用して隔週ベースで1:2の比で継代して、細胞を解離した。
【0138】
ウイルス増殖
水疱性口内炎ウイルス(VSV-GFP)のインディアナ血清型は、ウイルスのG遺伝子とL遺伝子の間に組み込まれたGFP遺伝子を含有する。結果として、細胞を、VSV-GFP蛍光緑にを感染させた。VSV-GFPを、HEL-299細胞の単層上で増殖させた。ウイルス感染を、37℃で、5%CO2で、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM中で実施した。ウイルス含有培地を、4分間の4000×gでの遠心分離により細胞デブリを除去した後、0.45μmフィルターを介して濾過滅菌した。ウイルスストックの50%組織培養感染用量(TCID50/mL)値を、以下に記載のように定量した。
【0139】
組織培養感染用量(TCID50)
ウイルス含有培地を、4000×gで4分間遠心分離して、細胞デブリを除去した。VSV-GFP生成を、96ウェルプレートに播種したHEL-299細胞上でTCID50/mLにより測定した(1.5×104細胞/ウェル)。感染後24~36時間の時点でウェルを、蛍光顕微鏡によりスコア化した(eGFP蛍光の存在を陽性感染と見なした)。得られたTCID50/mLの値を、リードとミュンヒの方法を使用して計算した。
【0140】
dsRNA複合体の合成
dsRNA複合体を、T7ポリメラーゼプロモーターを含有するDNA鋳型からのセンス鎖及びアンチセンス鎖で合成し、相補配列を、T7ポリメラーゼによって作製し、それらをアニールして、dsRNA複合体を作製する。この技術でのdsRNA複合体は、上記の合成方法に限定されないが、特異的配列を含有する長い(>100bp)のdsRNA複合体を合成する任意の方法を含み得る。
【0141】
目的の遺伝子を、T7プロモーターを含有するフォワードプライマー及びリバースプライマーを使用して増幅した。プライマーセット及びそれらの関連する鋳型を、表1で概説する。DNA産物を、10ngの適切な鋳型(表1)、2×GOTaq無色マスターミックス(Promega)、0.5μMのフォワードとリバースの両方のプライマー(表1、SigmaAldrich)、及び50μLの最終体積にするヌクレアーゼを含まない水を使用するPCRにより増幅した。以下のプロトコル:98℃-5分、98℃-10秒、50℃-10秒、72℃-50秒の34サイクル、続いて72℃-5分を、Bio-Rad T100サーマルサイクラーで実行した。両方のDNA鎖上にT7プロモーターを有する得られたDNAアンプリコンを、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。精製した生成物を次いで、dsRNA複合体を生成するために、製造業者の指示に従いMEGAScript RNAiキット(Ambion)で使用した。プライマー特異性を確認するために、100ngの全てのPCRアンプリコン及び最終dsRNA複合体を、1% GelGreen(Biotium社)を含有する1%アガロースゲルで分離した。
【0142】
表1:目的遺伝子の増幅のために使用されたT7プロモーター配列を有するプライマー。得られたDNAアンプリコンを次いで、dsRNA複合体合成のために使用した。各プライマーセットに使用される鋳型DNAもまた、概説する。
【表1】
【0143】
細胞生存率に対するdsRNA曝露の影響
THF(1.0×10
4細胞/ウェル)、M14(1.5×10
4細胞/ウェル)、MRC5(1.5×10
4細胞/ウェル)、SNB75(1.5×10
4細胞/ウェル)、BT549(1.5×10
4細胞/ウェル)を、96ウェル組織培養プレート(BD Falcon)に播種し、一晩付着させた。細胞を次いで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS,Corning)中で希釈した様々な濃度(800、400、200、100、50、25、12.5、6.25、3.13ng/mL)の700bp dsRNA複合体で処理し、対照ウェルを、PBSのみに曝露した。100ng/mLの濃度のdsRNA複合体で処理した細胞について、細胞あたりのdsRNA複合体分子の数は、55,800分子である。各希釈物について、8つの反復ウェルを使用した。30時間の曝露後に、培地を除去し、ウェルをPBSで1回洗浄し、その後2つの蛍光細胞生存率色素、アラマーブルー(ThermoFisher)及び5-カルボキシフルオレセインジアセテートアセトキシメチルエステル(CFDA-AM、ThermoFisher)を、添加した。アラマーブルーは、ミトコンドリア代謝活性を測定し、CFDA-AMは、細胞膜の完全性を測定する。暗所での1時間のインキュベーション後に、蛍光を、BioTek HT Synergyプレートリーダーを使用して測定した。プレートを、アラマーブルーについては530nmの励起と590nmの放出、及びCFDA-AMについては485nmの励起と528nmの放出で読み取った。全ての相対蛍光単位(RFU)を、PBS対照に正規化し、各細胞型のRFUを、パーセント対照として報告した。記載した6つの細胞株について、この実験手順を、3回繰り返した。結果を、
図1A~1Fに示す。
【0144】
dsRNAi経路によるVSV-GFPの阻害
プレートリーダーアッセイにより測定されるVSV-GFP阻害
HEL-299細胞を、7.5×104細胞/mLの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、単層を、無血清培地中1000ng/mLのβ-ラクタマーゼ(ミスマッチ)、又はeGFP(一致)配列特異的dsRNA複合体のいずれかで2時間前処理した。単層をその後、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。GFP蛍光を、モック処理細胞の感染が80%に達したとき(通常、感染後16~24時間)に、プレートリーダーにより測定した。全処理試料を、モック処理細胞に対する倍数変化として計算した。この実験を、3回繰り返した。
【0145】
TCID50/mLにより測定されるVSV-GFP阻害
VSV-GFPのdsRNAi阻害に対する異なる曝露時間でのdsRNAの影響
M14細胞を、7.5×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレート(BD Falcon)に播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。単層を次いで、1のMOIでVSV-GFPに感染させる前に、500ng/mLのmCherry(ミスマッチ)又はeGFP(一致)配列特異的dsRNA複合体(各々700bp)のいずれかで5時間、4時間、3時間、2時間、1時間及び0時間処理した。ウイルス感染の24時間後に、各ウェルからの上清を、収集し、上記のTCID50アッセイにより滴定した。この実験を、3回繰り返した。結果を、
図6に示す。
【0146】
VSV-GFPのdsRNAi阻害に対するdsRNAの長さの影響
THF及びSNB75細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。単層を次いで、0.1のMOIでVSV-GFPを感染させる前に、500ng/mLの700bp mCherry(ミスマッチ)、700bp β-lac(ミスマッチ)、700bp eGFP(一致)、600bp eGFP(一致)、500bp eGFP(一致)、400bp eGFP(一致)、300bp eGFP(一致)又は200bp eGFP(一致)のいずれかで2時間処理した。ウイルス感染の24時間後に、各ウェルからの上清を、収集し、上記のようにTCID50アッセイにより滴定した。この実験を、2回繰り返した。結果を、
図2B及び2Cに示す。
【0147】
VSV-GFPのdsRNAi阻害に対するウイルス遺伝子をコードするdsRNAの影響
eGFPはVSV中に天然には存在しないため、ウイルスのMタンパク質及びNタンパク質からのdsRNA複合体をまた用いて、天然ウイルス特異的遺伝子をコードするdsRNA複合体がdsRNAiウイルス阻害をもたらし得るかどうかを試験した。THF及びSNB75細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、単層を、無血清培地中500ng/mLのmCherry(ミスマッチ)、β-ラクタマーゼ(ミスマッチ)、M VSV遺伝子(一致)、N VSV遺伝子(一致)、N VSV遺伝子(一致)とM VSV遺伝子(一致)の混合、GFP(一致)配列特異的dsRNA複合体で2時間前処理した。単層をその後、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。細胞上清を、感染後24時間の時点で収集し、上記のようにTCID
50アッセイにより滴定した。結果を、
図4A及び4Bに示す。
【0148】
pBEC中の配列一致dsRNAによるVSV及びHCoV-229Eのウイルス阻害
健康なドナーからの初代気管支上皮細胞(pBEC)を、24ウェルコンパニオンプレート中で1ミクロンのインサートを使用して培養した。pBECを、3日ごとに定期的な培地交換を行いながら、それらが約7.5×10
4細胞/インサートのコンフルエントに到達するまで増殖させた。コンフルエントになったら(おおよそ30日)、細胞を、500ng/mLのmCherry(ミスマッチ)dsRNA複合体又はN VSV遺伝子(一致)dsRNA複合体のいずれかで2時間前処理した。細胞を次いで、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。ウイルス感染の24時間後に、上清を、上記のように各ウェルから収集し、TCID
50アッセイにより滴定した(n=2)。dsRNA複合体がまたpBEC上でHCoV-229Eを阻害できるかどうかを試験するために、細胞を、mCherry(ミスマッチ)dsRNA複合体、又はM HCoV-229E遺伝子(一致)dsRNA複合体又はポリI:C(50μg/mL)のいずれかで2時間前処理した。細胞を次いで、0.1のMOIでHCoV-229Eに感染させた。ウイルス感染の24時間後に、上清を、上記のように各ウェルから収集し、TCID
50により滴定した(n=3)。結果を、
図5A及び5Bに示す。
【0149】
長いdsRNA複合体のトランスフェクションがまたpBECにおいてウイルス阻害を誘導できるかどうかを決定するために、500ng/mLのHCoV-229E Mタンパク質dsRNA配列(一致)又はmCherry dsRNA配列(ミスマッチ)のいずれかを、FuGENEトランスフェクション試薬を使用してpBEC細胞に直接トランスフェクトした(n=2)。24時間のインキュベーション後、トランスフェクト細胞を、PBSで洗浄し、HCoV-229E(MOI=0.1)に24時間感染させた後、上清を、収集し、TCID
50の定量に使用した。結果を、
図5Cに示す。
【0150】
長いdsRNA複合体はノックダウンを誘導するためにトランスフェクションを必要としないが、siRNA分子は必要とする
THF及びSNB75細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。単層を次いで、2nMの700bp mCherry(ミスマッチ)dsRNA複合体、700bp eGFP(一致)dsRNA複合体、又はGFP siRNA(一致、Ambion Silencer(登録商標))のいずれかで2時間前処理した。細胞を次いで、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。ウイルス感染の24時間後に、各ウェルからの上清を、上記のように、収集し、TCID
50アッセイにより滴定した(n=6)。結果を、
図7A及び
図7Bに示す。
【0151】
使用したsiRNA分子がノックダウンできるが、細胞に入るためにトランスフェクションを必要とすることを確認するために、THF及びSNB75細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。eGFP siRNAと対照siRNA(ミスマッチ、Ambion Silencer(登録商標))の両方を、リポフェクタミンを使用してTHF及びSNB75細胞に直接トランスフェクトした。24時間のインキュベーション後、トランスフェクト細胞を、PBSで洗浄し、VSV-229(MOI=0.1)に24時間感染させた後、各ウェルからの上清を、収集し、TCID
50の定量に使用した。結果を、
図7C及び7Dに示す。
【0152】
長いdsRNAが誘導するウイルスノックダウンに対する配列の方向の影響
長いdsRNAiが分子の5'末端又は3'末端の選好を有するかどうかを試験するために、分子の5'末端又は3'末端のいずれかに800bpのeGFP配列がある、長さ900bpの長いdsRNA複合体を、作製した。THF及びSNB75細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。単層を次いで、500ng/mLの5'末端上にGFPを有する900bp dsRNA複合体(5'GFP)又は3’末端上にGFPを有する900bpのdsRNA複合体(3'GFP)のいずれかで2時間前処理した。対照として、追加のウェルを、700bp eGFP (陽性対照)及び700bp mCherry(陰性対照)で2時間処理した。2時間の前処理後に、細胞を、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。ウイルス感染の24時間後に、各ウェルからの上清を、上記のように、収集し、TCID
50アッセイにより滴定した(n=6)。結果を、
図8A及び
図8Bに示す。
【0153】
IFN誘導性発光に対する配列一致dsRNAの影響
所望のdsRNA複合体の用量がIFN応答を刺激しそれによりルシフェラーゼ生成をもたらすかどうかを決定するために、RTG-P1ニジマス性腺細胞を、2.5×10
5細胞/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、単層を、24時間様々な濃度(1~25ng/mL)で、ルシフェラーゼ(Luc、一致)又はeGFP(ミスマッチ)のいずれかをコードする700bpのdsRNA複合体で処理した。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を使用して、化学発光を、BioTek HT Synergyプレートリーダーにて測定した。いかなるルシフェラーゼ活性もIFN経路の刺激を示す。結果を、
図9Aに示す。
【0154】
上述の用量のdsRNA複合体を次いで使用して、それらが、ポリIC(強力なIFN誘導剤)で刺激したときにIFNにより誘導されるルシフェラーゼ生成を抑制できるかどうかを明らかにした。RTG-P1細胞を、上記のように播種した。一晩の付着の後で、単層を1、10及び25ng/mLのLuc(一致)又はeGFP(ミスマッチ)のいずれかのdsRNA複合体で4時間処理した後、32ng/mLのポリICで処理して、ルシフェラーゼ生成を刺激した。ポリICへの曝露後24時間の時点で、ルシフェラーゼ生成を、上記のように測定した。結果を、
図9Bに示す。
【0155】
配列一致dsRNAを使用するRTG-2における水生ウイルス病原体CSVの阻害
RTG-2ニジマス細胞を、2.5×10
5細胞/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、単層を、無血清培地中で1ng/mLのeGFP(ミスマッチ)、CSVセグメント7(一致)、又はCSVセグメント10(一致)のdsRNA複合体で4時間前処理した。全てのdsRNA複合体は、長さが700bpであった。単層をその後、1のMOIで4時間CSVに感染させ、次いで、2%FBS培地と交換した。細胞上清を、感染後7日目に収集し、TCID
50アッセイにより滴定した(n=4)。結果を、
図10に示す。
【0156】
dsRNAへの曝露の後のISGの転写物レベルの評価
IFN経路が選択した用量のdsRNA複合体によって刺激されていないことを確認するために、ISGの転写レベルを、曝露後に分析した。HEL-299細胞を、7.5×10
4細胞/mLの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、単層を、無血清培地中で500、1000又は1500ng/mLのmCherry(ミスマッチ)又はeGFP(一致)配列特異的dsRNA複合体、又はポリIC(500ng/mL)で2時間前処理した。処理後24時間の時点で、総RNAを、製造業者の指示に従いTRIzol(商標)(ThermoFisher)により試験ウェルから抽出した。混入ゲノムDNAを除去するために、RNA試料を、製造業者により概説されるように、Turbo DNaseキット(ThermoFisher)を使用してDNase処理した。相補的DNA(cDNA)を、製造業者の指示に従いiScript cDNA合成Mix(Bio-Rad)を使用して500ngの全RNAから合成した。β-アクチン、CXCL10及びISG15の発現を、qRT-PCRにより測定した。ISG15及びCXCL10発現を、β-アクチンに正規化した。結果を、
図3A及び3Bに示す。
【0157】
観察されるノックダウンがRNAiを介するということの確認
HEL-299細胞を、1.5×10
4細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、細胞を、12.5μMアウリントリカルボン酸(DICER阻害剤)の存在下又は非存在下で無血清培地中500ng/mLのmCherry(ミスマッチ)、又はeGFP(一致)配列特異的dsRNA複合体のいずれかで2時間前処理した。ウェルを次いで、0.1のMOIでVSV-GFP(Indiana)に感染させた。感染の24時間後に、プレートを、蛍光顕微鏡により可視化した。結果を、
図11に示す。
【0158】
ウイルス阻害を誘導するための、合成されたdsRNA複合体組合せの使用
1を超える単一のVSVウイルス遺伝子を含有するdsRNA複合体を合成するために、異なる標的配列を含有する700bpのdsRNA複合体を生成するために使用された3つのgBlock DNA鋳型を、生成した。生成された第1の分子は、5’N-3’Mであり、最初の350bpが、N VSV遺伝子配列(Genbank受託番号M15213.1)であり、最後の350bpが、M VSV遺伝子配列(Genbank受託番号X04452.1)であった。生成された第2の分子は、5’M-3’Nであり、最初の350bpが、M VSV遺伝子配列であり、最後の350bpが、N VSV遺伝子配列であった。第3の分子は、N-M Altと呼ばれ、700bp dsRNA配列全体に各遺伝子の50bpストレッチを交互(最初にN、次いでMなど)に含有した。これらの分子の代表的な画像を、
図12Aに示す。dsRNA複合体配列を、以下の表2に示す。dsRNA複合体配列はDNAとして表されるが、チミジン(T)は、配列中でウラシル(U)に置き換えられることが理解されるであろう。
【0159】
表2:複数の一致配列を含むdsRNA複合体
【表2】
【0160】
THF細胞を、5.0×10
4細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。一晩の付着の後で、全てのウェル中の培地を、新鮮な培地と交換した。単層を次いで、500ng/mL又は1000ng/mLの700bp mCherry(ミスマッチ)、700bp 5’N-3’M(一致)、700bp 5’M-3’N(一致)、又は700bpのN-M Alt dsRNA複合体のいずれかで2時間前処理した。細胞を次いで、0.1のMOIでVSV-GFPに感染させた。ウイルス感染の24時間後に、各ウェルからの上清を、上記のように収集し、TCID
50アッセイにより滴定した(n=3)。結果を、
図12B及び12Cに示す。
【0161】
結果
dsRNA配列はIFN生成レベルに影響を与えず、したがって、センス及びアンチセンスRNA分子を構成する配列は、RNAiによりシャットダウンされる必要があるものをみなコードできることが見出された。これは、宿主配列と非宿主配列の両方を含んでよい。RNAi対IFNに対するdsRNA媒介応答を促すために、少なくとも約100bpのdsRNA複合体を、使用する。エンドソーム及び細胞質中のDsRNA複合体は、IFNを誘導する。細胞質中のDsRNA複合体は、ダイサーにより切断され、RNAi用のRISCに積み込まれる。
【0162】
長いdsRNAは、700塩基対の長いdsRNA複合体で処理した正常細胞株又は癌細胞株の生存率を評価すると、生存期間は治療により悪影響を受けなかったことを考慮すると、毒性でないが、より高い濃度のdsRNAが、代謝活性を増強した(
図1A~F)。400、500及び600塩基対のdsRNA複合体もまた、一致した配列(GFP)を使用した場合にVSV-GFPを制限するのに有効であり、異なる長さのdsRNA複合体が正常(THF)細胞株と癌(SNB75)細胞株の両方においてRNAiへと進むことができることを示す(
図2A~2C)。
【0163】
ポリI:C(500ng/ml)での処理はインターフェロン刺激遺伝子(ISG)の顕著な発現をもたらした一方で、HEL-299細胞において最大で1500ng/mlの、一致する又はミスマッチのdsRNA複合体での処理は、ベースラインを超えるISGの誘導をもたらさず、dsRNAiがISG又はI型インターフェロンを誘導しない用量で生じ得ることを実証した(
図3A、3B及び3D~3G)。一致する配列(GFP、N又はM)を含有するdsRNA複合体は、ウイルス力価を低下させなかった対照のミスマッチ配列(mCherry、ベータlac)と比較してウイルス力価を低下させ、dsRNAiはGFP以外のウイルス遺伝子をノックダウンできることを実証した(
図4A~4C)。dsRNAiは、分極し、分化したヒト気道上皮細胞であるヒト初代気管支上皮細胞(pBEC)においてウイルスをノックダウンできる。抗ウイルス保護は、ラブドウイルス(VSV)とコロナウイルス(HCoV-229E)の両方で、ポリIC(IFN誘導剤)と同等である(
図5A~5C)。dsRNAiは、ウイルス感染前又はウイルス感染中に導入されると、ウイルスをノックダウンできる(
図6)。
【0164】
図7A~7Dに示されるように、GFP-dsRNA複合体はトランスフェクションを必要とせずに細胞に入ることができるが、GFP-siRNAはノックダウンを媒介するためにトランスフェクションを必要とする。VSV-GFPのノックダウンは、正常細胞株と癌細胞株の両方においてトランスフェクション試薬を使用しないGFP dsRNA複合体投与とGFP-siRNAトランスフェクションの間で同等である。
【0165】
図8A及び8Bに示すように、長い(700bp)dsRNAiは、一致配列がdsRNA複合体の3'末端にあろうと又は5'末端にあろうとウイルス阻害を誘導する。ある細胞型、例えばSNV75では、dsRNA複合体の3'末端の一致配列が好ましい場合がある。dsRNAiノックダウンがRNAi経路を介することも、実証された(
図11)。複数の一致配列を含有する700bpのdsRNA複合体がウイルス増殖を効果的に阻害することが、さらに見出された(
図12A及び12B)。
【0166】
本明細書に記載のdsRNA複合体を使用するノックダウンは、魚の細胞においても観察された。
図9A及び9Bに示されるように、魚の細胞では、dsRNAiは、低レベルのIFNの存在下であっても、誘導可能な内因性転写物をノックダウンできる。700bp dsRNA複合体の1ng/mL及び10ng/mLの用量は、ルシフェラーゼの配列依存性ノックダウンを示す一方で、25ng/mLは傾向を示すが統計的に有意でなく、dsRNAi効果はIFN生成が増加すると減少することを示唆する。
図10に示すように、一致したdsRNA複合体(CSV seg7-dsRNA及びCSV seg10-dsRNA)は、RTG-2細胞においてウイルス力価を実質的にノックダウンするが、ミスマッチ配列(GFP dsRNA)は、ノックダウンしなかった。ノックダウンは、ヒト細胞において観察される程度よりも魚の細胞において大きいことが見出された。
参考文献
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2023-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】