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特表2023-527937抗CLDN18.2抗体及びその診断用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】抗CLDN18.2抗体及びその診断用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20230623BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230623BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230623BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230623BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230623BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230623BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230623BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230623BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230623BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230623BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
C12Q1/06
A61P35/00
A61K45/00
A61K48/00
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K35/17
A61K47/68
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
G01N33/543 545A
G01N33/543 597
G01N33/543 595
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515227
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2021095411
(87)【国際公開番号】W WO2021238831
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/092092
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522458778
【氏名又は名称】スーチョウ・トランスセンタ・セラピューティクス・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】キアン,シュエミン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,シンライ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,フアンフアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホンジュン
(72)【発明者】
【氏名】グー,イー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS33
4B063QS36
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA25
4C085AA27
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086NA05
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA05
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、本明細書では、抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメント、それをコードする単離ポリヌクレオチド、それを含む医薬組成物、及びそれらの診断的用途を提供するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLDN18.2に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントであって、抗体又はその抗原結合フラグメントが以下の特性の1つ以上を示す、抗体又はその抗原結合フラグメント:
a) ヒトCLDN 18.1に対して交差反応性を有さないこと;
b) 免疫組織化学アッセイ(IHC)による測定で、胃の上皮細胞を除く非がん細胞に対して交差反応性を有さないこと;
c) IHCによる測定で、非がん性ヒト肺組織に対して交差反応性を有さないこと;
d) CLDN18.2を発現する細胞に特異的に結合することができること、任意でCLDN18.2を発現する細胞は、CLDN18.2が変性されているか、さもなければもはやその天然立体構造にないように、前処理されている;
e) ヒトCLDN18.2の第一細胞外ループを含む融合ポリペプチドに、表面プラズモン共鳴(SPR)により測定して10 nM以下のKd値で、又は酵素結合免疫吸着法(ELISA)により測定して20 ng/ml以下のEC50値で結合可能であること;
f) フローサイトメトリー(FACS)アッセイによる測定で、細胞表面ヒトCLDN 18.2への検出可能な結合を示さないこと;
g) ELISAによる測定で、DQWSTQDLYN(配列番号19)のアミノ酸配列内のエピトープに特異的に結合することができること;及び/又は
h) ELISAによる測定で1nMの抗体濃度又はIHCによる測定で0.5ug/mlの抗体濃度で、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプル中のヒトCLDN18.1に交差反応を有さないこと。
【請求項2】
CLDN18.2に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体又はその抗原結合フラグメント:
a) X1X2YX3H(配列番号8)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、WIYPX4GX5X6X7X8YX9EKFKG(配列番号12)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及びNYX10STFGY(配列番号24)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;及び/又は
b) RSSQNIVHSNGNTYLE(配列番号2)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、KX11SNRFS(配列番号25)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及びFQGSHVPFT(配列番号6)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;
ここで、X1はR又はT、X2はN又はY、X3はF又はI、X4はG又はR、X5はF又はG、X6はD又はN、X7はI又はT、X8はE又はV、X9はS又はN、X10はG又はR、及びX11はV又はIである。
【請求項3】
請求項2に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体又はその抗原結合フラグメント:
a) 配列番号1及び配列番号7から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、及び/又は
b) 配列番号3及び配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び/又は
c) 配列番号5及び配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び/又は
d) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、及び/又は
e) 配列番号4及び配列番号10から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び/又は
f) 配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項4】
CLDN18.2に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体又はその抗原結合フラグメント:
g) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;又は
h) 配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体又はその抗原結合フラグメント:
a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体またはその抗原結合フラグメント:
a) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、以下を含む、抗体またはその抗原結合フラグメント:
a) 配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は
b) 配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
【請求項8】
ヒトCLDN 18.2に対する結合特異性を保持しながら、1つ以上のアミノ酸残基変異をさらに含む、請求項4~7のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
少なくとも1つの変異が保存的置換であるか、又は全ての変異が保存的置換である、請求項8に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項10】
少なくとも1つの変異が1つ以上のCDR配列、及び/又は重鎖可変領域もしくは軽鎖可変領域の1つ以上の非CDR配列に存在する、請求項8又は9に記載の抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下:
a) 配列番号1又は配列番号7に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR1(HCDR1)配列、及び/又は
b) 配列番号3又は配列番号9に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR2(HCDR2)配列、及び/又は
c) 配列番号5又は配列番号11に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR3(HCDR3)配列、及び/又は
d) 配列番号2に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR1(LCDR1)配列、及び/又は
e) 配列番号4又は配列番号10に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR2(LCDR2)配列、及び/又は
f) 配列番号6に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR3(LCDR3)配列
を含み、かつ、
その一方で、CLDN18.2に対する結合特異性を保持し、任意に、その親抗体と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する、抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントであって、配列番号1又は配列番号7に3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR1、配列番号3又は配列番号9に6個、5個、4個、3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR2、配列番号5又は配列番号11に6個、5個、4個、3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR 3、配列番号2に2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR1、配列番号4又は配列番号10に3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR2、及び/又は配列番号6に3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR3を含み、その一方で、CLDN 18.2への結合特異性を保持し、任意に、その親抗体と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する、抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
重鎖可変領域が、配列番号13又は配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は軽鎖可変領域が、配列番号14又は配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項8から12のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
免疫グロブリン定常領域、任意にIgGの重鎖定常領域、及び/又は軽鎖定常領域をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合性フラグメント。
【請求項15】
定常領域がマウス定常領域、ウサギ定常領域、又はヒト定常領域を含む、請求項14に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項16】
重鎖定常領域が、配列番号17のアミノ酸配列又はそれと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み、及び/又は軽鎖定常領域が、配列番号18のアミノ酸配列又はそれと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項15に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、組換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、標識抗体、二価抗体、抗イディオタイプ抗体、融合タンパク質、二量体化もしくは重合化抗体、又は修飾抗体(例えば、グリコシル化抗体)である、請求項1~16のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項18】
ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント (dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv (dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ (dsダイアボディ)、一本鎖抗体分子 (scFv)、scFv二量体 (二価ダイアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、又は二価ドメイン抗体である、請求項1~17のいずれか1つの抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項19】
1つ以上の部分に結合している、請求項1~18のいずれか1つの抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項20】
該部分が、放射性同位体、ランタニド、化学発光標識、発色性部分、金コロイド粒子、蛍光標識、酵素基質標識、ジゴキシゲニン標識、ビオチン/アビジン、ハプテン、検出又は粒子標識のためのDNA分子を含む、請求項19に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項21】
該部分がビオチン又はハプテンを含む、請求項20に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項22】
CLDN 18.2への結合について、請求項1~21のいずれか1項の抗体又はその抗原結合フラグメントと競合する、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項の抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項23に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項25】
請求項24に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項26】
請求項24記載のベクターが発現する条件下で、請求項25記載の宿主細胞を培養することを含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる方法。
【請求項27】
サンプル中のCLDN 18.2の存在又は発現レベルを検出する方法であって、ヒトCLDN 18.2に対する抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、サンプルを請求項1~22のいずれかの抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること、及びサンプル中のCLDN 18.2の存在又は発現レベルを決定することを含む方法。
【請求項28】
対象のCLDN18.2関連疾患又は状態(例えばがん)を診断するための方法であって、以下を含む、方法:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN 18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること:及び
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること、
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象がCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)を有すると診断される。
【請求項29】
CLDN18.2関連疾患又は状態を有するか又はそのリスクを有する対象の、CLDN 18.2標的化剤による治療に対する適格性を決定するための方法であって、以下を含む、方法:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること;及び
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること、
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値に達している場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格であると決定される、又は
CLDN18.2の存在が認められない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格ではないと決定される、方法。
【請求項30】
対象のCLDN 18.2関連疾患又は状態の治療におけるCLDN18.2標的化剤の治療効果を予測する方法であって、以下を含む:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること;
b) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
c) CLDN18.2標的化剤の治療効果を予測すること、
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象の治療では有効であると予測される、又は
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が認められない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象の治療において有効でないと予測される。
【請求項31】
CLDN18.2関連疾患又は状態を有する又はそのリスクを有する対象を治療する方法であって、以下を含む、方法:
a) 治療に適した対象を選択することであり、以下を含む:
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
iii) CLDN 18.2の存在が認められる場合、又はサンプル中のCLDN 18.2の発現レベルが閾値に達している場合に、CLDN 18.2関連疾患又は状態の治療に適しているものとして対象を選択すること;
b) 選択された対象に治療有効量のCLDN18.2標的化剤を投与すること。
【請求項32】
がんを有する又はがんのリスクがある対象を治療する方法であって、以下を含む、方法:
a) 以下を含む、対象を選択すること;
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
iii) CLDN18.2の存在が認められない場合、又はサンプル中のCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象をCLDN18.2標的化剤による治療に適さないものとして選択すること;
b) 選択された対象に、CLDN18.2標的化剤以外の標準治療薬を投与すること。
【請求項33】
サンプルが細胞サンプル又は組織サンプルである、請求項27~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
サンプルが、固定された組織サンプル、任意にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織サンプルである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
CLDN18.2が、細胞表面又は膜結合型CLDN18.2である、請求項27~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
CLDN18.2の存在又は発現レベルが、免疫組織化学(IHC)、免疫細胞化学(ICC)、免疫蛍光(IF)、酵素免疫測定(EIA)、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、又は免疫ブロッティングによって決定される、請求項27~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
発現レベルが、サンプル中の陽性に染色された細胞の割合に基づいて定量化される、請求項27~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
発現レベルが、サンプル中のCLDN18.2に対する染色強度に基づいて定量化される、請求項27~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
CLDN18.2が関連する疾患又は状態ががんである、請求項28~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
サンプルが腫瘍サンプルを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
腫瘍サンプルが、腫瘍組織又は循環腫瘍細胞を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
がんが原発性がん又は転移性がんである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
がんが、胃がん、肺がん(非小細胞肺がん又は小細胞肺がん)、気管支がん、骨がん、肝臓及び胆管がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん、卵巣がん、精巣がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頚がん、脊椎がん、脳がん、子宮頸がん、子宮体がん、子宮内膜がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、肛門がん、食道がん、胃腸がん、皮膚がん、前立腺がん、下垂体がん、胃がん、膣がん、甲状腺がん、膠芽腫、星細胞腫、メラノーマ、骨髄異形成症候群、肉腫、奇形腫、胆管がん及び/又は腺がんである、請求項39~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
がんが、胃がん、膵臓がん、胆管がん、又は肺がん(例えば、非小細胞肺がん又は小細胞肺がん)である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
CLDN18.2標的化剤が、CLDN18.2発現細胞に対する細胞毒性を誘導することが可能である、請求項29~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
CLDN18.2標的化剤が、治療用抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2結合分子(例えば、細胞毒性剤に結合した抗CLDN18.2抗体、又は二重特異性抗体)、CLDN18.2標的化細胞療法(例えば、CLDN18.2結合CARを発現するCAR-T、TCR-T又はCAR-NK細胞)、CLDN18.2標的化化合物、又はCLDN18.2標的化治療核酸である、請求項29~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
対象が、抗がん剤治療を受けているか、もしくは受けたことがあるか、又はがんの再発を患っている、請求項27~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項1~22のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合性フラグメントを含むキット。
【請求項49】
CLDN18.2に結合した抗体又はその抗原結合性フラグメントの複合体を検出するための試薬セットをさらに含む、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
試薬セットが、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントに結合する二次抗体を含み、任意に、二次抗体が検出可能に標識されている、請求項49に記載のキット。
【請求項51】
抗体又はその抗原結合フラグメントが検出可能に標識されている、請求項48に記載のキット。
【請求項52】
抗体又はその抗原結合フラグメントが間接的に検出可能な部分とコンジュゲートされている、請求項48記載のキット。
【請求項53】
間接的に検出可能な部分がビオチンを含む、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
試薬セットが、検出可能に標識されたアビジン又はストレプトアビジンを含む、請求項53に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
[0001] 本開示は、一般に、新規な抗CLDN18.2抗体及びその診断的使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景
[0002] クローディン-18(CLDN18)分子(Genbankアクセッション番号:選択的バリアント1(CLDN18A1又はCLDN18.1): NP_057453、NM_016369、及び選択的バリアント2(CLDN18A2又はCLDN18.2)NM_001002026, Np_001002026)は、分子量約27.9/27.72 kDの膜貫通型のタンパク質である。CLDN18タンパク質は、上皮や内皮のタイトジャンクション内に存在し、隣接する細胞間の膜内粒子の相互接続のネットワークを組織している。CLDN18とオクルーディンは、タイトジャンクションの最も顕著な膜貫通タンパク質成分である。これらのタイトジャンクションタンパク質は、その強い細胞間接着性により、溶質の細胞外輸送を防止し制御するための第一の障壁を作り、また細胞の極性を維持するために膜脂質及びタンパク質の横方向の拡散を制限している。そのため、タイトジャンクションは上皮組織の構造形成に重要な役割を担っている。
【0003】
[0003] 過去10年間、標的治療と免疫療法は様々なの全身治療に革命をもたらしたが、進行及び/又は転移したがんの管理は依然として大きな課題である。例えば、胃がん、膵臓がん、胆管がん、肺がんなどの進行性消化器がん患者の多くは、現在の標準治療ではまだ大きな効果が得られていない。このような進行期のがん患者のほとんどは、依然として化学療法が主流であり、予後は依然として非常に悪い。広範な種類の腫瘍において、CLDN 18.2の発現が高度に限定されていることおよび、その異所性活性化が頻繁にみられることから、CLDN 18.2は、GC/GEC、膵がん、胆管がん、肺がんなどを含むがこれらに限定されない、CLDN 18.2を発現する固形腫瘍の治療薬開発の治療標的と考えられている。
【0004】
[0004] CLDN18.2が発現している患者のスクリーニングや選択を可能にするために、高い特異性と親和性を有するIHC検出アッセイが望まれる。
【発明の概要】
【0005】
[0005] 本開示を通して、冠詞「a」、「an」及び「the」は、ここでは、冠詞の文法的目的語の1つ又は複数(すなわち、少なくとも1)を指すために使用される。例えば、「抗体」とは、1つ又は複数の抗体を指す。
【0006】
[0006] 本開示は、とりわけ、CLDN18.1と交差反応することなくCLDN18.2を特異的に認識する新規のモノクローナル抗CLDN18.2抗体を提供する。本開示はさらに、当該抗CLDN18.2抗体をコードするヌクレオチド配列、及び例えば診断目的での当該抗CLDN18.2抗体の使用を提供する。
【0007】
[0007] 一態様では、本開示は、CLDN18.2に特異的に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下の特性のうちの1つ以上を示す:
a) ヒトCLDN18.1に対して交差反応性を有さないこと;
b) 免疫組織化学アッセイ(IHC)による測定で、胃の上皮細胞を除く非がん細胞に対して交差反応性を有さないこと;
c) IHCによる測定で、非がん性ヒト肺組織に対して交差反応性を有さないこと;
d) CLDN18.2を発現する細胞に特異的に結合することができること、任意でCLDN18.2を発現する細胞は、CLDN18.2が変性されているか、さもなければもはやその天然立体構造にないように、前処理されている;
e) ヒトCLDN18.2の第一細胞外ループを含む融合ポリペプチドに、表面プラズモン共鳴(SPR)により測定して10 nM以下のKd値で、又は酵素結合免疫吸着法(ELISA)により測定して20 ng/ml以下のEC50値で結合可能であること;
f) フローサイトメトリー(FACS)アッセイによる測定で、細胞表面ヒトCLDN 18.2への検出可能な結合を示さないこと;
g) ELISAによる測定で、DQWSTQDLYN(配列番号19)のアミノ酸配列内のエピトープに特異的に結合することができること;及び/又は
h) ELISAによる測定で1nMの抗体濃度又はIHCによる測定で0.5ug/mlの抗体濃度で、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプル中のヒトCLDN18.1に交差反応を有さないこと。
【0008】
[0008] 一態様では、本開示は、CLDN18.2に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下を含む抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する:
a) X1X2YX3H(配列番号8)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、WIYPX4GX5X6X7X8YX9EKFKG(配列番号12)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及びNYX10STFGY(配列番号24)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;及び/又は
b) RSSQNIVHSNGNTYLE(配列番号2)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、KX11SNRFS(配列番号25)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及びFQGSHVPFT(配列番号6)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;
ここで、X1はR又はT、X2はN又はY、X3はF又はI、X4はG又はR、X5はF又はG、X6はD又はN、X7はI又はT、X8はE又はV、X9はS又はN、X10はG又はR、及びX11はV又はIである。
【0009】
[0009] 特定の実施形態では、単離された抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;又は
b) 配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列。
【0010】
[0010] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下をさらに含む:
a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0011】
[0011] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0012】
[0012] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は
b) 配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、重鎖可変領域。
【0013】
[0013] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトCLDN 18.2に対する結合特異性を保持しながら、1つ又は複数のアミノ酸残基変異をさらに含み、任意で配列番号19のアミノ酸配列を含む線形エピトープに対して結合特異性を保持する。
【0014】
[0014] 特定の実施形態では、少なくとも1つの変異が保存的置換であり、又は全ての変異が保存的置換である。
【0015】
[0015] 特定の実施形態では、少なくとも1つの変異が、1つ以上のCDR配列、及び/又は重鎖可変領域もしくは軽鎖可変領域の1つ以上の非CDR配列に存在する。
【0016】
[0016] 特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下:
a) 配列番号1又は配列番号7に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR1(HCDR1)配列、及び/又は
b) 配列番号3又は配列番号9に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR2(HCDR2)配列、及び/又は
c) 配列番号5又は配列番号11に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR3(HCDR3)配列、及び/又は
d) 配列番号2に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR1(LCDR1)配列、及び/又は
e) 配列番号4又は配列番号10に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR2(LCDR2)配列、及び/又は
f) 配列番号6に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR3(LCDR3)配列
を含み、かつ、
その一方で、CLDN18.2に対する結合特異性を保持し、任意に、その親抗体と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する。
【0017】
[0017] 特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号1又は配列番号7に3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR1、配列番号3又は配列番号9に6個、5個、4個、3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR2、配列番号5又は配列番号11に6個、5個、4個、3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR3、配列番号2に2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR1、配列番号4又は配列番号10に3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR2、及び/又は配列番号6に3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR3を含み、その一方で、CLDN18.2への結合特異性を保持し、任意に、その親抗体と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する。
【0018】
[0018] 特定の実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号13又は配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は軽鎖可変領域は、配列番号14又は配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
[0019] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、免疫グロブリン定常領域、任意にIgGの重鎖定常領域、及び/又は軽鎖定常領域をさらに含む。特定の実施形態では、定常領域は、マウス定常領域、ウサギ定常領域、ヒト定常領域、又は任意の他の適切な定常領域を含む。
【0020】
[0020] 特定の実施形態では、重鎖定常領域は、配列番号17のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み、及び/又は軽鎖定常領域は、配列番号18のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む。
【0021】
[0021] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、組み換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、標識抗体、二価抗体、抗イディオタイプ抗体、融合タンパク質、二量体化抗体又は重合体、又は修飾抗体(例えば、グリコシル化された抗体)である。
【0022】
[0022] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(二価ダイアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、又は二価ドメイン抗体である。
【0023】
[0023] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、1つ以上の部分に連結されている。特定の実施形態では、部分は、放射性同位体、ランタニド、化学発光標識、発色性部分、金コロイド粒子、蛍光標識、酵素基質標識、ジゴキシゲニン標識、ビオチン/アビジン、ハプテン、検出又は粒子標識のためのDNA分子を含む。特定の実施形態では、部分は、ビオチン又はハプテンを含む。
【0024】
[0024] 一態様では、本開示は、CLDN18.2への結合について、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと競合する、モノクローナル抗体又はその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0025】
[0025] 一態様では、本開示は、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。一態様では、本開示は、本明細書で提供される単離されたポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。一態様では、本開示は、本明細書で提供されるベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。
【0026】
[0026] さらに別の態様では、本開示は、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる方法であって、本明細書で提供されるベクターが発現される条件下で本明細書で提供される宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
【0027】
[0027] さらに別の態様では、本開示は、サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを検出する方法であって、ヒトCLDN18.2に対する抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、サンプルを本明細書に提供される抗体又はその抗原結合フラグメントに接触させること、及びサンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定することを含む方法を提供する。
【0028】
[0028] さらに別の態様では、本開示は、対象におけるCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)を診断するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;及び
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象がCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)を有すると診断される。
【0029】
[0029] さらに別の態様では、本開示は、CLDN18.2関連疾患又は状態を有するか又はそのリスクを有する対象の、CLDN18.2標的化剤による治療に対する適格性を決定するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値に達している場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格であると決定される、又は
CLDN18.2の存在が認められない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格ではないと決定される。
【0030】
[0030] さらに別の態様では、本開示は、対象のCLDN18.2関連疾患又は状態の治療におけるCLDN18.2標的化剤の治療効果を予測する方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
b) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
c) CLDN18.2標的化剤の治療効果を予測すること、
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が見出される場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象の治療において有効であると予測される、又は
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が見出されない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象の治療において有効でないと予測される。
【0031】
[0031] さらに別の態様では、本開示は、CLDN 18.2に関連する疾患又は状態を有する、又はそのリスクがある対象を治療する方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 治療に適した対象を選択することであり、以下を含む:
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
iii) CLDN 18.2の存在が認められる場合、又はサンプル中のCLDN 18.2の発現レベルが閾値に達している場合に、CLDN 18.2関連疾患又は状態の治療に適しているものとして対象を選択すること;
b) 選択された対象に治療有効量のCLDN18.2標的化剤を投与すること。
【0032】
[0032] さらに別の態様では、本開示は、がんを有するか又はがんのリスクを有する対象を治療する方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 以下を含む、対象を選択すること;
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
iii) CLDN18.2の存在が認められない場合、又はサンプル中のCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、CLDN18.2に関連する疾患又は状態の治療に適さないものとして対象を選択すること;
b) 選択された対象に、CLDN18.2標的化剤以外の標準治療薬を投与すること。
【0033】
[0033] 特定の実施形態では、サンプルは細胞サンプル又は組織サンプルである。特定の実施形態では、サンプルは固定組織サンプルであり、任意でホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織サンプルである。特定の実施態様では、CLDN18.2は、細胞表面又は膜結合CLDN18.2である。
【0034】
[0034] 特定の実施形態では、CLDN18.2の存在又は発現レベルは、免疫組織化学 (IHC) 、免疫細胞化学 (ICC) 、免疫蛍光 (IF) 、酵素免疫測定法 (EIA) 、酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) 、又はイムノブロッティングによって決定される。
【0035】
[0035] 特定の実施形態では、発現レベルは、サンプル中の陽性染色された細胞の割合に基づいて定量化される。特定の実施形態では、サンプル中のCLDN18.2の染色強度に基づいて発現レベルが定量される。
【0036】
[0036] 特定の実施形態では、CLDN 18.2に関連する疾患又は状態はがんである。特定の実施形態では、サンプルは腫瘍サンプルを含む。特定の実施形態では、腫瘍サンプルは腫瘍組織又は循環腫瘍細胞を含む。特定の実施形態では、がんは原発がん又は転移がんである。
【0037】
[0037] 特定の実施形態では、CLDN 18.2に関連する疾患又は状態はがんである。特定の実施形態では、がんは原発がん又は転移がんである。特定の実施形態では、がんは、胃がん、肺がん (非小細胞肺がん又は小細胞肺がん)、気管支がん、骨がん、肝臓及び胆管がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん、卵巣がん、精巣がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、脊椎がん、脳腫瘍、子宮頸がん、子宮体がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、直腸がん、肛門がん、食道がん、消化管がん、皮膚がん、前立腺がん、下垂体がん、胃がん、膣がん、甲状腺がん、膠芽腫、星細胞腫、黒色腫、骨髄異形成症候群、肉腫、奇形腫、胆管がん、及び/又は腺がんである。
【0038】
[0038] 特定の実施形態では、がんは胃がん、膵臓がん、胆管がん、又は肺がんである。特定の実施形態では、肺がんは非小細胞肺がん又は小細胞肺がん (NSCLC又はSCLC) である。
【0039】
[0039] 特定の実施形態では、CLDN18.2を標的とする薬剤は、CLDN18.2を発現する細胞に対して細胞毒性を誘導することができる。特定の実施形態では、CLDN18.2を標的とする薬剤は、治療用の抗CLDN 18.2抗体又はCLDN 18.2結合分子、CLDN 18.2を標的とする細胞治療、CLDN18.2を標的とする化学化合物、又はCLDN 18.2を標的とする治療用核酸である。
【0040】
[0040] 特定の実施形態では、治療用抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2結合分子を細胞毒性剤に結合させる。特定の実施形態では、治療用抗CLDN18.2抗体は二重特異性抗体である。特定の実施形態では、CLDN 18.2標的化細胞療法は、CLDN 18.2結合キメラ抗体受容体 (CAR) を発現するCAR-T (キメラ抗体受容体工学T細胞)、TCR-T (遺伝子改変TCR T細胞) 又はCAR-NK (キメラ抗体受容体工学NK細胞) を含む。
【0041】
[0041] 特定の実施形態では、対象が抗がん治療を受けているか、もしくは受けたことがあるか、又はがんの再発を患っている。
【0042】
[0042] さらに別の態様では、本開示は、ここで提供される単離された抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキットを提供する。
【0043】
[0043] 特定の実施形態では、キットはさらに、CLDN 18.2に結合した抗体又はその抗原結合フラグメントの複合体を検出するための試薬セットを含む。特定の実施形態では、試薬セットは抗マウス抗体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】[0044] 図1は、HEK293-hCLDN18.2細胞及びHEK293-hCLDN18.1細胞に結合する抗CLDN18.2抗体69H2F7E6、14G11G2D2のFACS解析を示している。陽性対照として抗体18B10D3G9F3及びEPR19202を用いる。
図2】[0045] 図2は、HEK293、HEK293-CLDN18.1、HEK293-CLDN18.2細胞ブロック切片でスクリーニングした抗体69H2及び14G11の免疫細胞化学 (ICC) 染色を示している。抗体GC182の染色を対照として用いる。
図3】[0046] 図3に、hCLDN 18.2ペプチド(hCLDN 18.2のアミノ酸残基28-37)と結合する抗CLDN18.2抗体69H2F7E6、14G11G2D2、GC182の結合プロファイルとEC 50を示している。
図4】[0047] 図4は、ELISAで測定した、抗CLDN18.2抗体69H2F7E6、14G11G2D2及びGC182の結合プロファイル及びEC50を、hCLDN18.2のECL1ループのアミノ酸配列を構成する組換えhCLDN18.2変異タンパク質(配列番号26) と結合することを示している。
図5】[0048] 図5は、ELISAによって測定された、hCLDN18.1のECL1ループ(配列番号27)のアミノ酸配列を含む組換えhCLDN18.1バリアント蛋白質と結合する抗CLDN18.2抗体、69H2F7E6、14G11G2D2及びGC182の結合プロファイル及びEC50を示している。
図6】[0049] 図6は、ForteBioによる、抗CLDN18.2抗体、69H2F7E6、14G11G2D2、GC182と組換えhCLDN18.2バリアントタンパクの結合親和性解析を示している。KD、kon及びkoffを示している。
図7-1】[0050] 図7A及び7Bは、それぞれ選択した抗体14G11G2D2、69H2F7E6、及びGC182の、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)正常胃、肺、腸、腎臓、扁桃、甲状腺、乳及び骨格筋組織切片上での免疫組織化学(IHC)解析を示している。矢印は、正常肺組織における GC182 の陽性染色を示している。
図7-2】[0050] 図7A及び7Bは、それぞれ選択した抗体14G11G2D2、69H2F7E6、及びGC182の、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)正常胃、肺、腸、腎臓、扁桃、甲状腺、乳及び骨格筋組織切片上での免疫組織化学(IHC)解析を示している。矢印は、正常肺組織における GC182 の陽性染色を示している。
図8】[0051] 図8は、胃と骨格筋における抗CLDN18.2抗体14G11G2D2とEPR19202のIHC画像を示している。EPR19202は胃の組織と骨格筋の両方で陽性に染色されたが、14G11G2D2は胃の組織でのみ陽性に染色された。
図9】[0052] 図9は、胃がん、膵臓がん、胆管がん、非小細胞肺がん(NSCLC)の様々な組織における14G11G2D2抗体の代表的なIHC画像で、強(++)、中程度(++)、弱(+)、陰性(-)染色強度を示している。
図10】[0053] 図10は、胃の切片における抗体14G11G2D2-と抗体コンジュゲート14G11G2D2-ビオチンとのIHC染色比較を示している。
図11-1】[0054] 図11は、本願の全配列を示している。
図11-2】[0054] 図11は、本願の全配列を示している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
[0055] 以下の本開示の説明は、単に本開示の様々な実施形態を例示することを意図したものである。そのため、議論された特定の修正は、本開示の範囲に対する制限として解釈されるべきものではない。当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な同等物、変更、及び修正がなされ得ることが明らかであり、そのような同等物の実施形態が本明細書に含まれることが理解されるであろう。出版物、特許及び特許出願を含む、本明細書で引用される全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0046】
定義
[0056] 本明細書で使用される場合、本発明の文脈(特に特許請求の範囲の文脈)で使用される用語「a」、「an」、「the」及び類似の用語は、本明細書に別途示されるか、文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方をカバーするように解釈されるものとする。
【0047】
[0057] 本明細書で使用される「抗体」という用語は、特定の抗原に結合する任意の免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、二価抗体、一価抗体、多重特異性抗体、又は二重特異性抗体を含む。天然のインタクトな抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖から構成されている。哺乳類の重鎖は、α、δ、ε、γ、及びμに分類され、各重鎖は可変領域(VH)及び第1、第2、第3の定常領域(それぞれCH1、CH2、CH3)からなり、哺乳類の軽鎖はλ又はκに分類され、各軽鎖は可変領域(VL)及び定常領域から構成される。抗体は「Y」字型をしており、Yの幹は、ジスルフィド結合を介して結合した2本の重鎖の第2及び第3の定常領域から構成されている。Yの各腕は、単一の軽鎖の可変領域及び定常領域に結合した単一の重鎖の可変領域及び第1の定常領域を含む。軽鎖と重鎖の可変領域は、抗原結合を担っている。両鎖の可変領域は、一般に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの高度に可変なループを含む(LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む軽鎖CDR、HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含む重鎖CDR)。本明細書に開示される抗体及び抗原結合ドメインのCDR境界は、Kabat、IMGT、AbM、Chothia、又はAl-Lazikaniの規約によって定義又は同定することができる(Al-Lazikani, B., Chothia, C., Lesk, A.M., J.Mol.Biol., 273(4), 927 (1997); Chothia, C.et al., J Mol Biol.Dec 5;186(3):651-63 (1985); Chothia, C.and Lesk, A.M., J.Mol.Biol., 196,901 (1987); N.R.Whitelegg et al, Protein Engineering, v13(12), 819-824 (2000); Chothia, C.et al., Nature. Dec 21-28;342(6252):877-83 (1989); Kabat E.A.et al., National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991); Marie-Paule Lefranc et al, Developmental and Comparative Immunology, 27: 55-77 (2003); Marie-Paule Lefranc et al, Immunome Research, 1(3), (2005); Marie-Paule Lefranc, Molecular Biology of B cells (second edition), chapter 26, 481-514, (2015))。3つのCDRは、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、CDRよりも高度に保存され、超可変ループを支える足場を形成する脇役の伸長部の間に挟まれている。重鎖及び軽鎖の定常領域は、抗原結合には関与しないが、様々なエフェクター機能を発揮する。抗体は、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいてクラス分けされている。抗体の5つの主要なクラス又はアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMであり、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、ミューの重鎖の存在によって特徴づけられる。主要な抗体クラスのいくつかは、IgG1(γ1重鎖)、IgG2(γ2重鎖)、IgG3(γ3重鎖)、IgG4(γ4重鎖)、IgA1(α1重鎖)、又はIgA2(α2重鎖)などのサブクラスに分割されている。本開示は、本発明の目的のために、用語「抗体」によって包含される、本明細書に記載される全ての抗体及び抗体の誘導体を含む。本明細書で使用される「抗体誘導体」という用語は、抗体の任意の改変形態、例えば、抗体と他の薬剤とのコンジュゲート、抗体フラグメント、又は抗体若しくは抗体フラグメントを含む融合タンパク質を指す。
【0048】
[0058] 本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という用語は、1つ以上のCDRを含む抗体のフラグメントから形成された抗体フラグメント、又は抗原に結合するが無傷のネイティブ抗体構造を構成しない他の任意の抗体部分を指す。抗原結合フラグメントの例としては、限定されないが、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、が含まれる。ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(二価ダイアボディ)、多指定抗体フラグメント、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、二価ドメイン抗体などがある。抗原結合性フラグメントは、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合することができる。特定の実施形態では、抗原結合フラグメントは、特定の抗体からの1つ又は複数のCDRを含み得る。
【0049】
[0059] 抗体に関する「Fab」は、ジスルフィド結合によって単一の重鎖の可変領域及び第1の定常領域に結合した単一の軽鎖(可変領域及び定常領域の両方)からなる抗体の1価の抗原結合フラグメントを指す。Fabは、ヒンジ領域の重鎖間のジスルフィド結合のN末端に近接する残基で抗体をパパイン消化することにより得ることができる。
【0050】
[0060] 「Fab」は、ヒンジ領域の一部を含むFabフラグメントを指し、ヒンジ領域の重鎖間のジスルフィド結合のC末端に近接する残基で抗体をペプシン消化することによって得ることができ、したがって、ヒンジ領域における少数の残基(1又は複数のシステインを含む)においてFabと異なっている。
【0051】
[0061] 「F(ab')2」とは、2本の軽鎖と2本の重鎖の一部を含むFab'の二量体を指す。
【0052】
[0062] 抗体に関する「Fc」とは、第1重鎖の第2及び第3定常領域と第2重鎖の第2及び第3定常領域とがジスルフィド結合を介して結合した抗体の部分を指す。IgG及びIgMのFc領域には、3つの重鎖定常領域(各鎖の2番目、3番目、4番目の重鎖定常領域)が存在する。抗体をパパイン消化することで得られる。抗体のFc部分は、ADCC、ADCP、CDCなどの様々なエフェクター機能を担っているが、抗原結合には機能していない。
【0053】
[0063] 抗体に関する「Fv」とは、抗原結合部位を完全に有する抗体の最小のフラグメントを指す。Fvフラグメントは、1本の軽鎖の可変領域と1本の重鎖の可変領域が結合したものである。「dsFv」とは、単一の軽鎖の可変領域と単一の重鎖の可変領域との結合がジスルフィド結合である、ジスルフィド安定化Fvフラグメントを指す。
【0054】
[0064] 「単鎖Fv抗体」又は「scFv」とは、軽鎖可変領域と重鎖可変領域が直接又はペプチドリンカー配列を介して連結された人工抗体を指す(Huston JS et al.Proc Natl Acad Sci USA, 85:5879(1988)).「scFv二量体」とは、2つの重鎖可変領域及びリンカーを有する2つの軽鎖可変領域を含む一本鎖を指す。特定の実施形態では、「scFv二量体」は、一方の部位のVHが他方の部位のVLと協調し、同じ抗原(又はエピトープ)又は異なる抗原(又はエピトープ)を標的とすることができる2つの結合部位を形成するように別のVH-VL部位と二量体化したVH-VL(ペプチドリンカーによって連結された)を含む二価ダイアボディ又は二価ScFv(BsFv)である。他の実施形態では、「scFvダイマー」は、VH1及びVL1が配位し、VH2及びVL2が配位するようにVL1-VH2(これもペプチドリンカーによって連結されている)と関連するVH1-VL2(これもペプチドリンカーによって連結されている)を含む二重特異性ダイアボディであり、各配位ペアは異なる抗原特異性を有している。
【0055】
[0065] 「一本鎖Fv-Fc抗体」又は「scFv-Fc」は、抗体のFc領域に接続されたscFvからなる工学的な抗体を指す。
【0056】
[0066] 「ラクダ化単一ドメイン抗体」、「重鎖抗体」、「ナノボディ」又は「HCAb」は、2つのVHドメインを含み、軽鎖を含まない抗体を指す(Riechmann L. and Muyldermans S., J Immunol Methods. Dec 10;231(1-2):25-38 (1999); Muyldermans S., J Biotechnol.Jun;74(4):277-302 (2001); WO94/04678; WO94/25591; U.S. Patent No.6,005,079)。重鎖抗体は、もともとラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ)から得られたものである。軽鎖を持たないが、ラクダ科の抗体は本物の抗原結合レパートリーを持つ (Hamers-Casterman C.et al., Nature. Jun 3;363(6428):446-8 (1993); Nguyen VK.et al.“Heavy-chain antibodies in Camelidae; a case of evolutionary innovation,” Immunogenetics.Apr;54(1):39-47 (2002); Nguyen VK.et al.Immunology.May;109(1):93-101 (2003))。重鎖抗体の可変ドメイン(VHHドメイン)は、適応免疫反応によって生成される最も小さな既知の抗原結合単位を表す(Koch-Nolte F.et al., FASEB J. Nov;21(13):3490-8.Epub 2007 Jun 15 (2007))。
【0057】
[0067] 「ダイアボディ」には、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントが含まれ、このフラグメントは、単一のポリペプチド鎖中のVLドメインに連結したVHドメイン(VH-VL又はVL-VH)を含む(例えば、Holliger P. et al, Proc Natl Acad Sci U S A. Jul 15;90(14):6444-8 (1993); EP404097; WO93/11161 を参照されたい)。同一鎖上の2つのドメインは、リンカーが短すぎるために対になることができず、したがって、ドメインは、別の鎖の相補的なドメインと対にならざるを得ず、それによって、2つの抗原結合部位が形成される。抗原結合部位は、同じ抗原でも異なる抗原(又はエピトープ)を標的としている場合がある。
【0058】
[0068] 「ドメイン抗体」は、重鎖の可変領域又は軽鎖の可変領域のみを含む抗体フラグメントを指す。特定の実施形態では、2つ以上のVHドメインがペプチドリンカーで共有結合されて、2価又は多価のドメイン抗体が形成される。二価ドメイン抗体の2つのVHドメインは、同じ抗原を標的とすることもあれば、異なる抗原を標的とすることもある。
【0059】
[0069] 1つの「(dsFv)2」とは、3本のペプチド鎖を含むジスルフィド安定化Fvフラグメントのことで、2本のVH部位がペプチドリンカーで結合し、2本のVL部位にジスルフィド架橋で結合したものである。
【0060】
[0070] 「二重特異性ds抗体」とは、2つの異なる抗原(又はエピトープ)を標的とする抗体のことである。VH1とVL1の間のジスルフィド結合を介してVL1-VH22(これもペプチドリンカーで結合)に結合したVH1-VL2(ペプチドリンカーで結合)から構成されることができる。
【0061】
[0071] 「二重特異性dsFv」又は「dsFv-dsFv」は、2つの異なる抗原(又はエピトープ)を標的とするジスルフィド安定化Fvフラグメントを指す。これは、3本のペプチド鎖を含むことができる:VH1-VH2部分は、重鎖がペプチドリンカー(例えば、長いフレキシブルリンカー)によって結合され、VL1及びVL2部分にそれぞれジスルフィド架橋を介して対になっている。ジスルフィド結合で対になった重鎖及び軽鎖はそれぞれ異なる抗原特異性を有する。
【0062】
[0072] 本明細書で使用される「ヒト化」という用語は、抗体又は抗原結合フラグメントが、非ヒト動物由来のCDR、ヒト由来のFR領域、及び場合によりヒト由来の定常領域から構成されることを指す。
【0063】
[0073] 本明細書で使用される「キメラ」という用語は、ある種に由来する重鎖及び/又は軽鎖の一部と、異なる種に由来する重鎖及び/又は軽鎖の残部とを有する抗体又は抗原結合フラグメントを指す。例示的な例では、キメラ抗体は、ヒトに由来する定常領域と、マウスなどの非ヒト種に由来する可変領域とから構成される場合がある。
【0064】
[0074] 本明細書で使用される「抗CLDN18.2抗体」又は「CLDN18.2に対する抗体」は、例えば、診断及び/又は治療のための使用を提供するために、十分な親和性でCLDN18.2(例えば、ヒト又は非ヒトCLDN18.2)に特異的に結合できる抗体のことを指す。
【0065】
[0075] 本明細書で使用される「親和性」という用語は、免疫グロブリン分子(すなわち、抗体)又はそのフラグメントと抗原との間の非共有結合相互作用の強さを指す。
【0066】
[0076] 本明細書で使用される「特異的結合」又は「特異的に結合する」又は「結合特異性」という用語は、例えば抗体と抗原との間のような、2つの分子間の非ランダムな結合反応を指す。
【0067】
[0077] アミノ酸配列(又は核酸配列)に関する「配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入し、最大の対応関係を達成した後に、参照配列中のアミノ酸(又は核酸)残基と同一である候補配列中のアミノ酸(又は核酸)残基のパーセントと定義される。アミノ酸(又は核酸)配列の同一性パーセントを決定する目的のアライメントは、例えば、BLASTN、BLASTp(米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイト上で入手可能)などの公的に利用可能なツールを用いて達成することが可能である。また、Altschul S.F. et al, J. Mol. Biol., 215:403-410 (1990); Stephen F.et al, Nucleic Acids Res., 25:3389-3402 (1997)), ClustalW2 (European Bioinformatics Institute;Higgins D.G.et al, Methods in Enzymology, 266:383-402 (1996); Larkin M.A.et al, Bioinformatics (Oxford, England),23(21): 2947-8 (2007)), 及び ALIGN 又は Megalign (DNASTAR) ソフトウェアも参照されたい。当業者は、ツールによって提供されるデフォルトのパラメータを使用してもよいし、例えば、適切なアルゴリズムを選択するなど、アラインメントに適切なパラメータをカスタマイズしてもよい。
【0068】
[0078] 本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、アミン(-NH2)及びカルボキシル(-COOH)官能基を、各アミノ酸に固有の側鎖とともに含む有機化合物を指す。また、本開示では、アミノ酸の名称は、標準的な1文字又は3文字のコードで表され、その概要は以下のとおりである。
【0069】
【表1】
【0070】
[0079] アミノ酸配列に関する「保存的置換」とは、アミノ酸残基を、同様の物理化学的特性を有する側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換することを指す。例えば、保存的置換は、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基間(例えば、Met、Ala、Val、Leu、Ile)、中性親水性側鎖を有する残基間(例えば、.Cys、Ser、Thr、Asn及びGln)、酸性側鎖を有する残基(例えば、Asp、Glu)、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、His、Lys及びArg)、又は芳香側鎖(例えば、Trp、Tyr及びPhe)を有する残基の間で置換することができる。当技術分野で知られているように、保存的置換は通常、タンパク質の立体構造に大きな変化を起こさないので、タンパク質の生物学的活性を保持し得る。
【0071】
[0080] 「単離された」物質は、自然の状態から人の手によって変化させられたものである。「単離された」組成物や物質が自然界に存在する場合、それは元の環境から変化しているか、除去されているか、又はその両方である。例えば、生きている動物に自然に存在するポリヌクレオチドやポリペプチドは「単離」されていないが、同じポリヌクレオチドやポリペプチドが、その自然の状態の共存物質から十分に分離されて、実質的に純粋な状態で存在する場合は「単離」されているといえる。単離された「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、互換的に使用され、単離された核酸分子の配列を指す。特定の実施形態において、 「単離された抗体又はその抗原結合フラグメント」とは、電気泳動法(SDS-PAGE、等電点電気泳動、キャピラリー電気泳動など)又はクロマトグラフィー法 (イオン交換クロマトグラフィー又は逆相HPLCなど) によって決定された、少なくとも60%、70%、、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86% 87%、88%、75%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の純度を有する抗体又は抗原結合フラグメントを指す。
【0072】
[0081] 「対象」という用語は、ヒト及び非ヒト動物を含む。非ヒト動物には、全ての脊椎動物、例えば、哺乳類及び非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウス、ラット及びモルモット)、猫、ウサギ、羊、犬、牛、鶏、両生類、及び爬虫類が含まれる。より好ましい実施形態では、対象はヒトである。特記する場合を除き、本明細書では、「患者」、「対象」及び「個体」という用語は互換的に使用される。
【0073】
[0082] 本明細書で使用される「エフェクター機能」という用語は、抗体のFc領域とC1複合体やFc受容体などのエフェクターとの結合に起因する生物学的活性を指す。例えば、C1複合体上のC1qと抗体との相互作用により誘導される補体依存性細胞傷害性(CDC)、抗体のFc領域とエフェクター細胞上のFc受容体との結合により誘導される抗体依存性細胞傷害性(ADCC)、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の食作用を引き起こす抗体依存性細胞媒介食細胞性(ADCP)、などが挙げられる。エフェクター機能には、抗原が結合した後に作用するものと、抗原の結合とは無関係に作用するものの両方がある。
【0074】
[0083] 本明細書で使用される状態の「治療する」又は「処置」又は「療法」には、状態を予防又は緩和すること、状態の発症又は発症速度を遅くすること、状態の発症リスクを低減すること、状態に関連する症状の発症を予防又は遅延すること、状態に関連する症状を軽減又は終了すること、状態の完全又は部分的退行を生じさせること、状態を治癒すること、又はそれらの何らかの組合せが含まれる。
【0075】
[0084] 「リスクがある」とは、一般集団と比較して、疾患、特にがんを発症する可能性が通常よりも高いことが確認されている対象、すなわち患者を指す。また、疾患、特にがんに罹患したことがある、又は現在罹患している対象は、疾患を発症し続ける可能性があるため、疾患を発症するリスクが高い対象である。また、現在、がんを有する、又はがんを有していた対象は、がんの転移のリスクも高くなる。本発明の文脈において、「保護」、「予防」、「予防的」などの用語は、対象における疾患の発生及び/又は伝播の予防又は治療又はその両方に関し、特に、対象が疾患を発症する機会を最小限にすること、又は疾患の発症を遅延させることに関するものである。例えば、上記のように腫瘍のリスクがある人は、腫瘍を予防するための治療法の候補となる。免疫療法は、抗原を発現する細胞を患者から除去する機能を有する薬剤を用いた様々な手法のいずれかを用いて実施することができる。
【0076】
[0085] 本明細書に記載される「標準治療」治療薬は、患者への標準治療治療薬の投与を含んでいる。本明細書で使用される「標準治療」という用語は、ある種の患者、疾患又は臨床状況に対して適切であり、受け入れられ、及び/又は広く使用されていると医療従事者によって認識されている、薬剤又は薬剤の組み合わせ、放射線療法(RT)、手術又は他の医療介入を含む治療過程である。様々な種類のがんに対する標準治療法は、当業者にはよく知られている。例えば、米国の21の主要ながんセンターの連合体である米国総合がんネットワーク(NCCN)は、多種多様ながん(NCCN GUIDELINES(登録商標), 2013参照)に対する標準治療に関する詳細な最新情報を提供するNCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology(NCCN GUIDELINES(登録商標)) を発行している。
【0077】
[0086] 治療法に関する「有効」「効果」という用語は、薬理学的有効性と生理的安全性の両方が含まれる。薬理学的有効性とは、患者のがん退縮を促進する薬剤の能力を指す。生理的安全性とは、薬剤の投与により生じる細胞、器官及び/又は生体レベルでの毒性、又はその他の有害な生理的作用(副作用)の程度を指す。
【0078】
[0087] 本開示の抗体などの薬物又は治療剤の「治療有効量」又は「治療有効用量」は、単独又は別の治療剤と組み合わせて使用した場合に、対象を疾患又は状態の発症から保護するか、疾患/状態の症状の重症度の減少、疾患/状態の無症状期間の頻度と期間の増加、又は疾患/状態の苦悩による障害又は障害の予防によって証明される疾患/状態の退行を促進する任意の量の薬物を指す。疾患退縮を促進する治療剤の能力は、臨床試験中のヒト対象、ヒトにおける有効性を予測する動物モデル系、又はin vitroアッセイにおける薬剤の活性のアッセイなど、当業者に知られている様々な方法を用いて評価することができる。治療上有効な量の薬剤は、「予防上有効な量」を含み、これは、癌などのCLDN18.2関連疾患又は状態を発症するリスクのある対象(例えば、前悪性状態を有する対象)又は疾患/状態の再発を被る対象に単独又は抗新生物剤と組み合わせて投与した場合、疾患/状態の発症又は再発を抑制する薬剤の任意の量である。好ましい実施形態では、予防的に有効な量は、CLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)の発生又は再発を完全に防止する。疾患/状態(例えば、がん)の発生又は再発を「阻害する」とは、疾患/状態の発生又は再発の可能性を低くすること、又は疾患/状態の発生又は再発を完全に防止することのいずれかを指す。
【0079】
[0088] 本明細書で使用される「ベクター」という用語は、遺伝的要素によってコードされるタンパク質、RNA又はDNAを産生するため、又は遺伝的要素を複製するため、その遺伝的要素の発現をもたらすように遺伝的要素が作動可能に挿入され得るビヒクルを指す。
【0080】
[0089] 本明細書で使用される「宿主細胞」は、外来性ポリヌクレオチド及び/又はベクターが導入された細胞を指す。
【0081】
[0090] 「CLDN18」という用語は、クローディン18を指し、CLDN18のCLDN18.1及びCLDN18.2のような任意の選択的バリアントを含む。CLDN18.1及びCLDN18.2は、第1膜貫通(TM)領域及びループ1を含むN末端部分が異なるが、C末端の一次タンパク質配列は同一である。
【0082】
[0091] 「CLDN18.2」という用語は、霊長類(例えば、ヒト、サル)及びげっ歯類(例えば、マウス)などの哺乳類に由来するクローディン-18選択的バリアント2を指す。特定の実施形態では、CLDN18.2は、ヒトCLDN18.2である。ヒトCLDN18.2の例示的な配列は、ヒトCLDN18.2タンパク質(NCBI Ref Seq No.NP_001002026.1, 又は配列番号20)を含む。CLDN18.2の例示的な配列には、Mus musculus(マウス)CLDN18.2タンパク質(NCBI Ref Seq No.NP_001181852.1)、Macaca fascicularis(蟹食猿)CLDN18.2タンパク質(NCBI Ref Seq No.XP_015300615.1) が含まれる。
【0083】
[0092] 「CLDN 18.1」という用語は、霊長類(例:ヒト、サル)やげっ歯類(例えばマウス)などの哺乳類に由来するClaudin-18スプライス変異体1を指す。特定の実施形態では、CLDN18.1は、ヒトCLDN18.1である。ヒトCLDN18.1の例示的な配列には、ヒトCLDN18.1タンパク質(NCBI Ref Seq No.NP_057453.1, 又は配列番号21)、Mus musculus(マウス) CLDN18.2 protein (NCBI Ref Seq No.NP_001181851.1)、Macaca fascicularis (crab-eating macaque) CLDN18.2 protein (NCBI Ref Seq No.XP_005545920.1) が含まれる。
【0084】
[0093] 「CLDN18.2」及び「CLDN18.2」という用語は、変異体、立体構造バリアント、アイソフォーム、対立遺伝子バリアント、種バリアント及び種ホモログなどの例示的な配列のバリアント、特に自然に存在するものも含む。
【0085】
[0094] 本明細書で使用される「CLDN18.2関連疾患又は状態」は、CLDN18.2の発現又は活性の増加又は減少によって引き起こされる、それによって悪化する、又は他の方法で関連する、任意の疾患又は状態を指す。いくつかの実施形態では、CLDN18.2関連疾患は、例えば、がんである。
【0086】
[0095] 本明細書で使用される「がん」は、悪性細胞の増殖又は新生物、異常増殖、浸潤又は転移によって特徴付けられる任意の病状を指し、固形腫瘍及び白血病などの非固形がん(例えば、血液悪性腫瘍)の双方が含まれる。
【0087】
[0096] 本明細書で使用される「固形腫瘍」は、腫瘍性細胞及び/又は悪性細胞の固形塊を指す。
【0088】
[0097] 「薬学的に許容される」という用語は、指定された担体、ビヒクル、希釈剤、賦形剤(複数可)、及び/又は塩が、製剤を構成する他の成分と一般に化学的及び/又は物理的に適合し、その受容者と生理学的に適合することを示す。
【0089】
[0098] 本明細書で使用される「転移」又は「転移性がん」という用語は、がん細胞がその元の部位から身体の別の部位に広がることを指す。転移の形成は非常に複雑なプロセスであり、原発腫瘍からの悪性細胞の剥離、細胞外マトリックスへの浸潤、内皮基底膜を貫通して体腔及び血管への侵入、そして血液によって運ばれた後の標的臓器への浸潤に依存する。最後に、標的部位で新たな腫瘍、すなわち二次性腫瘍や転移性腫瘍が成長するかどうかは、血管新生に依存する。腫瘍細胞又は成分が残存し、転移能を発現する可能性があるため、腫瘍転移はしばしば原発腫瘍の除去後にも発生する。一実施形態では、本発明による用語「転移」は、原発腫瘍及び領域リンパ節系から離れた転移に関連する「遠隔転移」に関連する。二次腫瘍又は転移性腫瘍の細胞は、元の腫瘍の細胞と同様である。これは、例えば、胃がんが肝臓に転移した場合、二次腫瘍は、異常な肝臓の細胞ではなく、異常な胃の細胞で構成されていることを指す。その場合、肝臓の腫瘍は、肝臓がんではなく、転移性胃がんと呼ばれる。
【0090】
[0099] 本明細書において、ある値又はパラメータについて「約」と言及することは、その値又はパラメータそれ自体に向けられた実施形態を含む(及び説明する)。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」についての記述を含む。数値の範囲は、その範囲を定義する数値を包含する。一般に、用語「約」は、変数の指示値及び指示値の実験誤差以内(例えば、平均値の95%信頼区間以内)又は指示値の10%以内のいずれか大きい方の変数のすべての値を指す。用語「約」が期間(年、月、週、日など)の文脈で用いられる場合、用語「約」は、その期間に次の下位の期間の1量を加算又は減算したもの(例えば、約1年は11~13ヶ月、約6ヶ月は6ヶ月プラス又はマイナス1週間、約1週間は6~8日など)、又は指示値の10%以内、いずれかが大きいほうを指す。
【0091】
[00100] 抗CLDN18.2抗体
[00101] 本開示は、抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントを提供する。
【0092】
[00102] CLDN18.2は、Claudin-18(CLDN18)の選択的バリアントである。CLDN18は、テトラスパニンファミリーのメンバーであり、4つの疎水性領域を有する。CLDN18はいくつかの異なる立体構造を示し、それらは抗体によって選択的に対応できる可能性がある(Sahin U et al. Clinical Cancer Research, 2008, 14(23):7624-7634 を参照されたい)。CLDN18-Conformation-1は、4つの疎水性領域すべてが膜貫通ドメイン(TM)として機能し、2つの細胞外ループ(疎水性領域1と疎水性領域2に抱かれたループ1、疎水性領域3と4に囲まれたループ2)が形成されており、大半のCLDNファミリーメンバーについて記述されている通りである。第2の立体構造(CLDN18-Conformation-2)は、PMP22について述べたように、第二及び第三疎水性ドメインが細胞膜を完全に横断しないため、第一及び第四膜貫通ドメイン間の部分(ループD3)が細胞外にあることを指す。第3の立体構造(CLDN18-Conformation-3)は、大きな細胞外ドメインと、第1及び第4疎水性領域に囲まれた2つの内部疎水性ドメインを示す。ループD3に古典的なN-グリコシル化部位があるため、CLDN-18トポロジーバリアントであるCLDN 18トポロジー-2及びCLDN 18トポロジー-3には、さらに細胞外N-グリコシル化部位が存在する。
【0093】
[00103] CLDN18には2種類の選択的バリアントがあり、マウスとヒトの双方に存在する。選択的バリアントのCLDN18.1とCLDN18.2は、最初のTMとループ1を構成するN末端の21アミノ酸が異なるが、C末端のタンパク質配列は同一である。これら2つのアイソフォームはアミノ酸配列で92%の同一性を持っているが、その発現パターンは相互に排他的で、CLDN18.1は正常肺に、CLDN18.2は正常胃組織に優位に発現する(Niimi T, et al. molecular and cellular biology, 2001, 21(21): 7380-7390を参照されたい )。ヒトCLDN18.1及びCLDN18.2のアミノ酸配列をそれぞれ以下に示す。
【0094】
[00104] ヒトclaudin18.2(アクセッション: NP_001002026.1)アミノ酸配列(配列番号20):
MAVTACQGLGFVVSLIGIAGIIAATCMDQWSTQDLYNNPVTAVFNYQGLWRSCVRESSGFTECRGYFTLLGLPAMLQAVRALMIVGIVLGAIGLLVSIFALKCIRIGSMEDSAKANMTLTSGIMFIVSGLCAIAGVSVFANMLVTNFWMSTANMYTGMGGMVQTVQTRYTFGAALFVGWVAGGLTLIGGVMMCIACRGLAPEETNYKAVSYHASGHSVAYKPGGFKASTGFGSNTKNKKIYDGGARTEDEVQSYPSKHDYV
[00105] ヒトclaudin18.1(アクセッション: NP_057453.1)アミノ酸配列(配列番号21):
MSTTTCQVVAFLLSILGLAGCIAATGMDMWSTQDLYDNPVTSVFQYEGLWRSCVRQSSGFTECRPYFTILGLPAMLQAVRALMIVGIVLGAIGLLVSIFALKCIRIGSMEDSAKANMTLTSGIMFIVSGLCAIAGVSVFANMLVTNFWMSTANMYTGMGGMVQTVQTRYTFGAALFVGWVAGGLTLIGGVMMCIACRGLAPEETNYKAVSYHASGHSVAYKPGGFKASTGFGSNTKNKKIYDGGARTEDEVQSYPSKHDYV
[00106] 正常組織では、CLDN18.2の発現は粘膜細胞の基底膜に限定されており、治療用抗体にはアクセスできない。病理学的状態 (腫瘍細胞など) では、胃粘膜細胞の極性が乱され、CLDN 18.2が細胞表面に露出する。CLDN18.2タンパク質は、胃、食道、膵臓、肺腫瘍やヒトがん細胞株など、いくつかのヒトがんタイプの原発巣や転移巣で発現する汎がんターゲットである(Sahin Ugur et al. Clin Cancer Res 2008;14(23); Matsuda Y et al. Cancer science, 2007, 98(7): 1014-1019を参照されたい )。CLDN18.2の異常な異所性発現は、複数の研究において、膵臓、卵巣、胆道及び肺腺がんにおいても報告されている(例えば、Karanjawala ZE et al, Am J Surg Pathol, 2008 Feb;32(2):188-96; Micke P et al, Int J Cancer.2014 Nov 1;135(9):2206-14; Keira Y et al, Virchows Arch.2015 Mar;466(3):265-77; Coati et al, Br J Cancer.2019 Jul;121(3):257-263; Dottermusch et al, Virchows Arch.2019 Nov;475(5):563-571; Rohde et al, Jpn J Clin Oncol.2019 Sep 1;49(9):870-876; Woll et al, Int J Cancer.2014 Feb 1;134(3):731-9; Espinoza et al, Histopathology.2019 Mar;74(4):597-607; Shinozaki et al, Virchows Arch. 2011 Jul;459(1):73-80)を参照されたい)。
【0095】
[00107] 一側面における本開示は、モノクローナル抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合性フラグメントを提供する。本明細書で提供されるモノクローナル抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)、CLDN18.2のフラグメント、又はCLDN18.2のフラグメントを含む融合ポリペプチドに特異的に結合することが可能である。特定の実施形態では、CLDN18.2のフラグメントは、ヒトCLDN18.2の最初の細胞外ループ、又はヒトCLDN18.2の最初の細胞外ループ内の配列を含む。特定の実施形態では、ヒトCLDN18.2のフラグメントは、配列番号26又は配列番号19に記載さのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、CLDN18.2のフラグメントのN末端及び/又はC末端に結合した追加のアミノ酸残基を含む。特定の実施形態では、融合ポリペプチドに含まれるCLDN18.2のフラグメントはループを形成する。
【0096】
[00108] ここで提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、CLDN18.2発現細胞に特異的に結合することができる。特定の実施形態では、CLDN18.2発現細胞は前処理細胞である。本明細書で細胞に関して使用される「前処理された」という用語は、CLDN18.2などのその表面タンパク質が変性しているか、さもなければもはやその天然立体構造にないように、細胞が処理されたことを指す。例えば、CLDN18.2発現細胞は、例えばホルマリン、パラフィン、アセトンなどの1つ以上の化学物質によって、又は凍結や加熱などの物理的介入によって前処理され得る。特定の実施形態では、CLDN18.2発現細胞は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)細胞である。
【0097】
[00109] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合性フラグメントの抗原への結合は、「半最大有効濃度」(EC50)値で表すことができ、これは、その最大効果(例えば、結合)の50%が観察される抗体の濃度を指す。EC50値は、当技術分野で公知の方法、例えば、ELISAなどのサンドイッチアッセイ、ウェスタンブロット、及び他の結合アッセイによって測定することができる。EC50は、抗体の連続希釈物が抗原への結合について試験され、最大結合の50%が決定される濃度が決定される適切な結合アッセイにおいて測定され得る。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトCLDN18.2、ヒトCLDN18.2のフラグメント、ヒトCLDN18.2のフラグメントを含む融合ポリペプチド、ヒトCLDN18.2発現細胞又は前処理したヒトCLDN18.2発現細胞に対して特異的に結合する。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合性フラグメントは、ヒトCLDN18.2の第1の細胞外ループを含む融合ポリペプチドに、ELISA法で測定した場合、50ng/ml以下(例えば、40ng/ml以下、35ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、18ng/ml以下、16ng/ml以下、15ng/ml以下、14ng/ml以下、13ng/ml以下、12ng/ml以下)のEC50で特異的に結合する。
【0098】
[00110] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントのヒトCLDN18.2への結合親和性は、例えば、解離速度と会合速度との比(koff/kon)を指すKDによって特徴付けることも可能である。KDは、表面プラズモン共鳴(SPR)法、マイクロスケール熱泳動法、及びHPLC-MS法を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の従来法を用いて決定することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、SPRによって測定される10-6M以下(例えば、10-7M、10-7.5M、10-8M、又は10-8.5M以下)のKDでヒトCLDN18.2の第1の細胞外ループを含む融合ポリペプチドに結合する。KD値が低いほど、親和性は高い。
【0099】
[00111] 特定の実施形態では、抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合性フラグメントは、ヒトCLDN18.1と交差反応しない。ヒトCLDN18.1「と交差反応しない」又はヒトCLDN18.1「と交差反応性を有しない」抗CLDN18.2抗体は、ヒトCLDN18.2に対する検出アッセイ(例えば、IHCアッセイ)において偽陽性などの望ましくない結果を生じない抗体である。特定の実施形態では、ヒトCLDN18.1への結合は、検出アッセイ(例えば、IHCアッセイ、又はフローサイトメトリーアッセイ)において検出不可能である。結合のレベルは、抗体の所定濃度及び抗原の所定濃度で形成される抗原抗体複合体のレベルとして決定することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、抗体GC182のヒトCLDN18.1への結合より低い(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%低い)レベル又は親和性で、ヒトCLDN18.1に結合する。
【0100】
[00112] 特定の実施形態では、ヒトCLDN18.1発現細胞の5%、4%、3%、2%、1%、0.8%、0.5%、0.3%、又は0.1%以下が、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントによってIHCアッセイで陽性検出される。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、IHCアッセイにおいてヒトCLDN18.1に対する検出可能な結合を示さない。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、IHCアッセイにおいて非がん性ヒト肺組織サンプル中のヒトCLDN18.1への検出可能な結合を示さない。
【0101】
[00113] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、ELISAで測定した1nMの抗体濃度、又はIHCで測定した0.5ug/mlの抗体濃度で、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプル中のヒトCLDN18.1に対して交差反応性を有しない。IHCは、実施例8又は9に概説したような手順及び条件に従って実施することができる
[00114] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、胃上皮細胞を除く非がん性細胞に対して交差反応性を有さない。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、肺組織、腸組織、腎組織、扁桃組織、甲状腺組織、骨格筋組織、又は乳組織などの非がん性のヒト組織に対して交差反応性を有さない。このことは、本明細書で提供される抗体を既存のモノクローナル抗CLDN18.2抗体と区別するものである。例えば、抗体43-14 AはヒトCLDN 18.1に結合することが示されており、そのため非がん性のヒト肺組織と交差反応性を示すことが示されている(Ventana CLDN 18 (43-14 A) Assay, Ref。790-7027、08504148001を参照されたい)。別の例として、抗体GC182は、CLDN18.1と交差反応することも判明しており、したがって、非がん性ヒト肺組織を染色する(本開示の実施例4及び図2参照)。別の例として、抗CLDN18.2抗体EPR19202(Abcamから製品名ab222512で入手可能)は、骨格筋組織と非特異的に結合することが示されており、したがって非がん性骨格筋組織と交差反応性を示す。
【0102】
[00115] 実例的な抗CLDN18.2抗体
[00116] 特定の実施形態では、本開示は、以下を含む、CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
a) X1X2YX3H(配列番号8) のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、WIYPX4GX5X6X7X8YX9EKFKG(配列番号12)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び/又はNYX10STFGY(配列番号24)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び/又は
b) RSSQNIVHSNGNTYLE(配列番号2)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、KX11SNRFS(配列番号25)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び/又はFQGSHVPFT (配列番号6)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
ここで、X1はR又はT、X2はN又はY、X3はF又はI、X4はG又はR、X5はF又はG、X6はD又はN、X7はI又はT、X8はE又はV、X9はS又はN、X10はG又はR、及びX11はV又はIである。
【0103】
[00117] 特定の実施形態では、本開示は、配列番号1~6からなる配列のセットから選択されるか又は配列番号2、6、7及び9~11からなる配列のセットから選択される1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、又は6)のCDRを含む、CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)に特異的に結合する分離抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0104】
[00118] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、配列番号5又は11の重鎖CDR3配列を含む。重鎖CDR3領域は、抗原結合部位の中心に位置するため、抗原と最も接触し、抗体の抗原に対する親和性に最も自由エネルギーを与えると考えられている。また、重鎖CDR3は、複数の多様化メカニズムにより、長さ、アミノ酸組成、および立体構造の点で、抗原結合部位の中で圧倒的に多様なCDRであると考えられている(Tonegawa S. Nature.302:575-81 (1983)).重鎖CDR3の多様性は、ほとんどの抗体特異性(Xu JL, Davis MM.Immunity.13:37-45 (2000)) 並びに望ましい抗原結合親和性(Schier R, etc. J Mol Biol.263:551-67 (1996)) を作り出すのに十分である。
【0105】
[00119] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、以下を含む:配列番号1及び配列番号7から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、及び/又は配列番号3及び配列番号9 から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び/又は配列番号5及び配列番号11から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び/又は配列番号2から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、及び/又は配列番号4及び配列番号10から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び/又は配列番号6から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0106】
[00120] 別の態様では、本開示は、CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)に特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合フラグメントであって、以下を含む抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する:
a) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;又は
b) 配列番号7を含む重鎖CDR1、配列番号9を含む重鎖CDR2配列、及び配列番号11を含む重鎖CDR3配列。
【0107】
[00121] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0108】
[00122] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は
b) 配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0109】
[00123] CDRは抗原結合に関与することが知られているが、6つのCDRのすべてが必ずしも不可欠であったり、不変であったりするわけではないことが分かってきている。すなわち、上記で提供された1個、2個、又は3個のCDR(例えば、配列番号1~6のいずれか1つ、又は配列番号2、6、7及び9~11に相当)を置換又は変更又は修正することが可能であり、かつCLDN18.2に対する特定の結合親和性を実質的に保持することができる。このような修飾又はバリアントCDRを有する抗体もまた、本開示に包含される。
【0110】
[00124] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下を含む:
a) 配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は
b) 配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、重鎖可変領域。
【0111】
[00125] 本明細書で使用される抗体「14G11」は、配列番号13の重鎖可変領域、及び配列番号14の軽鎖可変領域を有するマウス抗体を指す。
【0112】
[00126] 本明細書で使用される抗体「69H2」は、配列番号15の重鎖可変領域、及び配列番号16の軽鎖可変領域を有するマウス抗体を指す。
【0113】
[00127] 表1は、抗CLDN18.2抗体14G11及び69H2のCDR配列を示す。重鎖及び軽鎖の可変領域配列も、以下の表2に示す。
【0114】
[00128] 表1.CLDN18.2抗体のCDR領域の塩基配列
【0115】
【表2】
【0116】
[00129] 表2.マウス/リコンビナント抗体 VH/VL 領域の塩基配列
【0117】
【表3】
【0118】
[00130] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体及びその抗原結合フラグメントは、その抗体及び抗原結合フラグメントがCLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)に特異的に結合できる限り、適切なフレームワーク領域(FR)配列から構成される。表1に提供されるCDR配列は、マウス抗体から得られたものであるが、これらは、組換え技術などの当該技術分野で知られている適切な方法を用いて、マウス、ヒト、ラット、ウサギなどの任意の適切な種のFR配列にグラフト化することができる。FR配列は、CDR領域が可変領域において2つのFR領域によって挟まれることが当技術分野において周知であるため、上記表1のCDR配列及び上記表2の可変領域配列に基づいて当業者によって容易に同定され得る。
【0119】
[00131] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、免疫グロブリン定常領域をさらに含む。定常領域は、任意に、IgGの重鎖定常領域、及び/又は軽鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、ヒンジ、及び/又はCH2-CH3領域を含む。特定の実施形態では、重鎖定常領域は、Fc領域を含む。特定の実施形態では、軽鎖定常領域は、Cκ又はCλを含む。
【0120】
[00132] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びそのフラグメントは、マウスIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の定常領域をさらに含む。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、マウスIgG1アイソタイプの定常領域を含む。特定の実施形態では、マウスIgG1の重鎖定常領域は、配列番号17、又は少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)の配列同一性を有し、及び/又はマウスIgG1の軽鎖定常領域は、配列番号18のアミノ酸配列又は少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)の配列同一性を有するこれらの相同配列を含む。
【0121】
[00133] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、組み換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、標識抗体、二価抗体、抗イディオタイプ抗体、融合タンパク質、二量体化抗体もしくは重合体、又は修飾抗体(例えばグリコシル化抗体)であることが可能である。組換え抗体は、動物ではなく、組換え方法を用いてin vitroで調製された抗体である。
【0122】
[00134] 特定の実施形態において、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、2価、4価、6価、又は多価である。2価以上である任意の分子は多価とみなされ、例えば、3価、4価、6価などを含んでいてもよい。
【0123】
[00135] いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、重鎖可変ドメインの全部又は一部、及び/又は軽鎖可変ドメインの全部又は一部を含む。一実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、本明細書で提供される重鎖可変ドメインの全て又は一部からなる単一ドメイン抗体である。このような単一ドメイン抗体の詳細な情報は、当該技術分野で入手可能である(例えば、米国特許第6,248,516号を参照されたい)。
【0124】
[00136] 抗体バリアント
[00137] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、抗体14G11及び69H2の様々な種類のバリアントも含む。
【0125】
[00138] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、上記の表1で提供されるCDR配列、上記の表2で提供される重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の非CDR配列のうちの1つ又は複数、及び/又は定常領域(例えば,配列番号17又は18に規定されるFc領域)配列に対する結合特異性を保持しながら、CLDN18.2、特にヒトCLDN18.2、又はより具体的には配列番号19のアミノ酸配列内のエピトープに対する結合特異性を保持する。これらは、抗体14G11及び69H2のバリアント、又は抗原結合フラグメントのバリアントとも呼ばれる。特定の実施形態では、バリアントは、その親抗体(例えば、抗体14G11又は69H2)と同様のレベル又はそれよりも高いレベルで結合親和性を保持する。本明細書で使用される「変異」又は「変異された」は、アミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列における置換、挿入、及び/又は欠失を含む。特定の実施形態では、変異(複数可)の少なくとも1つ(又は全て)は、保存的置換を構成する。
【0126】
[00139] 特定の実施形態では、抗体バリアントは、抗体14G11及び69H2のCDR配列、FR配列、又は可変領域配列において、合計10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、又は1個以下の置換を含む。特定の実施形態では、抗体変異体は、表1に記載のもの (またはそれら) と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する1個、2個、又は3個のCDR配列を含み、その一方で、CLDN18.2への結合特異性を保持し、任意でその親抗体(例えば、抗体14G11又は69H2)と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する。
【0127】
[00140] 特定の実施形態では、抗体バリアントは、配列番号13又は15のそれ(又はそれら)と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)配列同一性を有する重鎖可変領域配列、及び/又は少なくとも80%(例えば、配列番号14又は16のもの(又はそれら)と少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有し、その一方で、CLDN18.2に対する結合特異性を保持し、任意でその親抗体(例えば、抗体14G11又は69H2)と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、配列番号13~16から選択される配列において、合計1~10個のアミノ酸残基が変異されている。いくつかの実施形態では、変異は、CDRの外側の領域(すなわち、FR内)で生じる。いくつかの実施形態では、変異の1つ以上は保存的置換である。いくつかの実施形態では、変異のすべてが保存的置換である。
【0128】
[00141] 特定の実施形態では、本開示は、抗体14G11又は69H2のバリアントを提供し、ここで、バリアントは、以下:a) 配列番号1又は配列番号7に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR1(HCDR1)配列、及び/又は
b) 配列番号3又は配列番号9に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR2(HCDR2)配列、及び/又は
c) 配列番号5又は配列番号11に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する重鎖CDR3(HCDR3)配列、及び/又は
d) 配列番号2に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR1(LCDR1)配列、及び/又は
e) 配列番号4又は配列番号10に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR2(LCDR2)配列、及び/又は
f) 配列番号6に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する軽鎖CDR3(LCDR3)配列
を含み、かつ
その一方で、CLDN18.2に対する結合特異性を保持し、任意でその親抗体(例えば、抗体14G11又は69H2)と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する。
【0129】
[00142] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体バリアントは、配列番号1又は配列番号7に3個、2個、又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR1、配列番号3又は配列番号9に6個、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR2、配列番号5に6個、5個、4個、3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するHCDR3、配列番号11に2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR1、配列番号4又は配列番号10に3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR2、及び/又は配列番号6に3個、2個又は1個以下のアミノ酸変異を有するLCDR3を含み、その一方で、CLDN18.2への結合特異性を保持し、任意にその親抗体と同様のレベル又はそれよりも高いレベルの結合親和性を有する(例えば、抗体14G11又は69H2)。いくつかの実施形態では、変異の1つ以上は保存的置換である。いくつかの実施形態では、変異のすべてが保存的置換である。
【0130】
[00143] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体バリアントは、その親抗体のCLDN18.2に対する特異的結合特異性を保持するが、変異(複数可)により付与された1つ以上の望ましい特性を有する。例えば、抗体バリアントは、いくつか挙げると、改善された抗原結合親和性、改善されたグリコシル化パターン、グリコシル化のリスクの低減、脱アミノ化の低減、エフェクター機能の低減又は枯渇、pH依存様式でのFcRn受容体結合の改善、薬物動態半減期の増加、pH感受性、及び/又は抱合(例えば1又は複数の導入システイン残基)への相容性、などを有することができる。このようなバリアントは、親和性バリアント、グリコシル化バリアント、システインバリアント、Fcバリアントなどとも呼ばれ、以下により詳細に説明する。
【0131】
[00144] a) 親和性バリアント
[00145] 親和性バリアントは、上記の表1に提供される1つ以上のCDR配列、本明細書に提供される1つ以上のフレームワーク(FR)配列、又は上記の表2に提供される重鎖もしくは軽鎖可変領域配列に修飾又は置換を含むことができる。
【0132】
[00146] 親和性バリアントは、親抗体のCLDN18.2に対する特異的結合親和性を保持するか、あるいは親抗体よりも改善されたCLDN18.2特異的結合親和性を有していてもよい。この目的を達成するために、当技術分野で知られている様々な方法を使用することができる。例えば、抗体バリアント(Fab又はscFvバリアントなど)のライブラリーを生成し、ファージディスプレイ技術で発現させ、次にヒトCLDN18.2への結合親和性についてスクリーニングすることができる。別の例として、コンピューターソフトウェアを使用して、抗体のヒトCLDN18.2への結合を仮想的にシミュレーションし、結合界面を形成する抗体上のアミノ酸残基を同定することが可能である。このような残基は、結合親和性の低下を防ぐために変異を避けるか、より強い結合を提供するために変異の対象とすることができる。
【0133】
[00147] b)グリコシル化バリアント
[00148] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、グリコシル化バリアントも包含し、それは、抗体又はその抗原結合フラグメントのグリコシル化の程度を増加又は減少させるために得ることができる。
【0134】
[00149] 抗体又はその抗原結合フラグメントは、グリコシル化部位を導入又は除去する1つ又は複数の改変を含んでいてもよい。グリコシル化部位とは、糖鎖部分(例えば、オリゴ糖構造)を結合させることができる側鎖を有するアミノ酸残基のことである。抗体の糖鎖付加は、通常、N-結合型又はO-結合型のいずれかである。N-結合型とは、例えば、アスパラギン-X-セリン、アスパラギン-X-スレオニンなどのトリペプチド配列中のアスパラギン残基の側鎖に炭水化物部分が結合することを指し、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸とする。O-結合型グリコシル化とは、N-アシルガラクトサミン、ガラクトース、キシロースのいずれかの糖がヒドロキシアミノ酸、特にセリン又はスレオニンに結合することである。ネイティブなグリコシル化部位の除去は、例えば、その配列中に存在する上記のトリペプチド配列(N結合型グリコシル化部位用)又はセリンもしくはスレオニン残基(O結合型グリコシル化部位用)のいずれかを置換するようにアミノ酸配列を変更することによって都合よく達成することが可能である。このようなトリペプチド配列又はセリンもしくはスレオニン残基を導入することによって、同様の方法で新しいグリコシル化部位を作成することができる。
【0135】
[00150] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、グリコシル化部位を除去するためにN297における変異(例えば、N297A、N297Q、又はN297G)を含んでいる。
【0136】
[00151] c)システイン改変バリアント
[00152] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、システイン改変バリアントも包含し、それは、1つ以上の導入されたフリーのシステインアミノ酸残基を含む。
【0137】
[00153] フリーのシステイン残基は、ジスルフィド架橋の一部でないものである。システイン改変バリアントは、例えば、マレイミド又はハロアセチルを介して、改変されたシステインの部位での、例えば、細胞毒性及び/又はイメージング化合物、ラベル、又は放射性アイソタイプなどとのコンジュゲーションに有用である。フリーのシステイン残基を導入するために抗体又はその抗原結合性フラグメントを操作する方法は当技術分野で知られており、例えば、WO2006/034488を参照されたい。
【0138】
[00154] d) Fcバリアント
[0001] 本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体及び抗原結合フラグメントは、例えば、ADCC(抗体依存性細胞傷害)、ADCP(抗体依存性細胞食作用)及びCDC(補体依存性細胞傷害)などのエフェクター機能の変化を提供するために、そのFc領域及び/又はヒンジ領域における1つ又は複数のアミノ酸残基修飾又は置換を含むFcバリアントもまた包含する。Fcバリアントの例は当技術分野で知られており、例えば、Wang et al.、Protein Cell 2018、9(1):63-73及びKang et al、Exp&Mol.、Med.(2019)51:138参照、これらはその全体が本明細書に組み入れられる。
【0139】
[00155] 抗原結合フラグメント
[00156] 本明細書で提供されるのは、抗CLDN18.2抗原結合フラグメントでもある。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体及び抗原結合フラグメントは、重鎖可変ドメインの全部又は一部、及び/又は軽鎖可変ドメインの全部又は一部を含んでいる。様々な種類の抗原結合フラグメントが当技術分野で知られており、例えば、CDR配列が表1に示されている例示的な抗体、及びそれらの異なるバリアント(親和性バリアント、グリコシル化バリアント、Fcバリアント、システイン改変バリアントなど)を含め、本明細書に提供される抗CLDN18.2抗体に基づいて開発することが可能である。
【0140】
[00157] 特定の実施形態において、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗原結合フラグメントは、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、バイセシフィックdsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(ds diabody)、単鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(二価ディアボディ)、二重特異性抗体、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、又は二価ドメイン抗体である。
【0141】
[00158] このような抗原結合フラグメントの作製には、様々な技術を用いることができる。例示的な方法としては、インタクトな抗体の酵素消化(例えば、Morimotoら、Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992); 及びBrennanら、Science, 229:81 (1985) 参照)、大腸菌などのホスト細胞による組み換え発現(例えば、Fab、Fv及びScFv抗体フラグメントについて)、上記で議論したようなファージディスプレイライブラリーからのスクリーニング(例えば、ScFvについて)、及び2つのFab'-SHフラグメントの化学結合によるF(ab')2フラグメントの形成(Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992))などが挙げられる。抗体フラグメントの産生のための他の技術は、当業者には明らかであろう。
【0142】
[00159] エピトープ
[00160] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、DQWSTQDLYN(配列番号19)のアミノ酸配列内のエピトープに結合する。
【0143】
[00161] 本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の特定の原子又はアミノ酸のグループを指す。エピトープは、立体構造エピトープ又は線状エピトープであり得る。本開示の特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体によって結合されるエピトープは、線状である。当業者は、本開示の抗体(例えば、ハイブリドーマ/マウス抗体14G11及び69H2)と同じエピトープ又は重複するエピトープに抗体が結合するかどうかを、両者がCLDN18.2抗原ポリペプチドへの結合について競合するかどうかを確認することによって、過度の実験なしに決定できることを認識されたい。
【0144】
[00162] 本開示は、CLDN18.1と交差反応することなく、CLDN18.2を発現する細胞の検出及び同定に有用な、CLDN18.2のN末端部分内に位置する特定のエピトープに対して指向性を有するモノクローナル抗体を提供するものである。ヒトCLDN18.1及びCLDN18.2の配列によれば、アミノ酸28~70(すなわち、第一膜貫通(TM)領域とループlを含むN末端部分)に位置するアミノ酸が8種類異なるが、ヒトCLDN18.1及びCLDN18.2のC末端の配列は同一である。ヒトCLDN18.2のN末端(第1細胞外ドメインのアミノ酸28~37、すなわち配列番号19)に位置する線状エピトープがSahin Uらによって報告されている。(Sahin Ugur et al, Clin Cancer Res 2008;14(23) December 1, 2008を参照されたい)。しかしながら、現在まで、このようなペプチドフラグメントに指向するモノクローナル抗体は報告されておらず、本発明者らの知る限り、本開示は、初めて、配列番号19のペプチドフラグメントに結合するモノクローナル抗体を提供するものである。
【0145】
[00163] 別の態様では、本開示は、14G11及び69H2などの本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと、CLDN18.2への結合について競合する、モノクローナル抗体又はその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0146】
[00164] 本明細書で2つの抗原結合タンパク質(例えば、抗体)に関して使用する「結合について競合する」という用語は、競合結合アッセイによって決定されるように、一方の抗原結合タンパク質が他方の抗原(例えば、ヒトCLDN18.2)への結合を任意の検出できる程度に遮断又は減少させることを指す。競合結合アッセイは当技術分野でよく知られており、例えば、直接又は間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA)、及びサンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al、1983,Methods in Enzymology 9:242-253).を参照されたい)などが挙げられる。典型的には、このようなアッセイは、固体表面又は抗原を有する細胞に結合した精製抗原、非標識試験抗体、及び標識参照抗体の使用を含む。競合阻害は、試験抗体の存在下で固体表面又は細胞に結合したラベルの量を測定することによって測定される。通常、試験抗体は過剰に存在する。2つの抗体がCLDN18.2への結合について競合する場合、2つの抗体は同一又は重複するエピトープ、あるいは立体障害が起こるためにもう一方の抗体によって結合するエピトープに十分近接した隣接エピトープに結合する。通常、競合抗体が過剰に存在する場合、共通抗原に対する被験抗体の特異的結合を少なくとも50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75% 75~80%、80~85%、85~90%以上阻害(例えば、減少)する。
【0147】
[00165] ポリヌクレオチド及び組換え方法
[00166] 本開示は、抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。本明細書で使用される「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びそのポリマーを指す。特に断らない限り、特定のポリヌクレオチド配列は、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮退コドン置換)、アレル、オルソログ、SNP、及び相補配列を暗黙に包含する。具体的には、縮退コドン置換は、1つ以上の選択された(又は全ての)コドンの3位が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al、Nucleic Acid Res.19:5081 (1991); Ohtsuka et al, J Biol Chem.260:2605-2608 (1985);及びRossolini et al、Mol Cell.Probes 8:91-98 (1994))を参照されたい)
[00167] モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の方法(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いる方法)で容易に単離及び配列決定することができる。また、コードするDNAは、合成法によっても得ることができる。
【0148】
[00168] 本開示は、本明細書で提供される単離されたポリヌクレオチドを含むベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。ベクターは、宿主細胞内でそれが担持する遺伝要素の発現をもたらすように、宿主細胞を形質転換、形質導入、又はトランスフェクトするために使用され得る。ベクターの例としては、プラスミド、ファージミド、コスミド、及び酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージ又はM13ファージなどのバクテリオファージ、ならびに動物ウイルスが挙げられる。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択可能な要素、レポーター遺伝子など、発現を制御するための様々な要素を含むことができる。さらに、ベクターは複製起点を含むことができる。また、ベクターは、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティングなど、細胞内への進入を補助する材料を含んでいてもよいが、これらに限定されるものではない。ベクターは、発現ベクター又はクローニングベクターであり得る。
【0149】
[00169] 特定の実施形態では、本明細書で提供されるベクターは、発現ベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供される発現ベクターは、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド配列に作動可能に連結した少なくとも一つのプロモーター(例えば、SV40、CMV、EF-1α)、及び少なくとも一つの選択マーカーから構成される。
【0150】
[00170] ベクターの例としては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピロマウイルス、パポバウイルス(例えば, SV40)、ラムダファージ、及びM13ファージ、pcDNA3. 3、pMD18-T、pOptivec、pCMV、pEGFP、pIRES、pQD-Hyg-GSeu、pALTER、pBAD、pcDNA、pCal、pL、pET、pGEMEX、pGEX、PCI、pEGFT、pSV2, pFUSE、pVITRO、pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、pUNO、pDUO、Psg5L、pBABE、pWPXL、pBI、p15TV-L、pPro18、pTD、pRS10、pLexA、pACT2.1、pCMV-SCRIP、pSV2、pSV2、pVITRO、pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、puno、pDUO、psg5L 2、pCMV-SCRIPT.RTM.、pCDM8、pCDNA1.1/amp、pcDNA3.1、pRc/RSV、PCR 2.1、pEF-1、pFB、pSG5、pXT1、pCDEF3、pSVSPORT、pEF-Bosなどのプラスミドが挙げられる
[00171] 抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターは、クローニング又は遺伝子発現のために宿主細胞へ導入することができる。本明細書におけるベクター中のDNAのクローニング又は発現に適した宿主細胞は、上述した原核生物、酵母、又は高等真核生物の細胞である。この目的のために好適な原核生物は、グラム陰性又はグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、エシェリキア、例えば、大腸菌、エンテロバクター、エルビニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えば、Salmonella typhimurium、Serratia、例えば、Serratia marcescans、及びShigella、ならびにB. subtilis及びB. licheniformisなどのBacilli、P. aeruginosaなどのPseudomonas、及びStreptomycesなどの細菌が挙げられる。
【0151】
[00172] 原核生物に加えて、糸状菌や酵母などの真核微生物も抗CLDN18.2抗体コード化ベクターのクローニング又は発現宿主として好適である。サッカロミセス・セレビシエ、又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用されるものである。しかしながら、多数の他の属、種、及び株が一般的に利用可能であり、本明細書において有用であり、Schizosaccharomyces pombe;例えば、K. lactis、K. fragilis(ATCC 12,424)、K. bulgaricus(ATCC 16,045)、K. wickeramii(ATCC 24,178)、K. waltii(ATCC 56,500)、K. drosophilarum(ATCC 36,906)、K. thermotolerans及びK. Marxianusなどのクルイベロマイセス宿主;ヤロウイア(EP 402,226);ピチア・パストリス(EP 183,070);キャンディダ;トリコデルマ・リージア(EP 244,234);ニューロスポラ・クラッサ;シュワニオマイセス・オクシデンタリスなどのシュワンノマイセス;及び糸状菌、例えば、Neurospora、Penicillium、Tolypocladium、及びA. nidulans及びA. nigerなどのアスペルギルス宿主などである。
【0152】
[00173] 本明細書で提供されるグリコシル化抗体又は抗原フラグメントの発現に適した宿主細胞は、無脊椎動物細胞、例えば植物及び昆虫細胞などの多細胞生物に由来するものである。Spodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ショウジョウバエ(fruiffly))、及びBombyx moriなどの宿主からの多数のバキュロウイルス株及びバリアントならびに対応する許容性の昆虫宿主細胞が特定されてきた。トランスフェクションのための様々なウイルス株が公的に利用可能であり、例えば、Autographa californica NPVのL-1バリアント及びBombyx mori NPVのBm-5株、及びこのようなウイルスは、本発明による本明細書のウイルスとして、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションに使用されることができる。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、及びタバコの植物細胞培養物もまた、宿主として利用することができる。
【0153】
[00174] しかしながら、脊椎動物細胞への関心が最も高く、脊椎動物細胞の培養(組織培養)中の増殖は日常的な手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓株(293又は293細胞を懸濁培養における成長のためにサブクローニングした、グラハムら、, J Gen Virol. 36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/DHFR(CHO、Urlaubら、Proc Natl Acad Sci USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol Reprod. 23: 243-251(1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸部がん細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34) 水牛ラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al, Annals N.Y. Acad Sci 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝がん株(Hep G2)などが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、宿主細胞は、CHO、BHK、NS0、293及びそれらの誘導体のような哺乳類培養細胞株である。
【0154】
[00175] 宿主細胞は、抗CLDN18.2抗体産生のための上記の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適宜変更した従来の栄養培地で培養される。別の実施形態では、抗体は、当技術分野で知られている相同組換えによって産生されてもよい。
【0155】
[00176] 本明細書で提供される抗体又は抗原結合フラグメントを産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養することができる。Ham's F10(Sigma)、最小必須培地(MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、Sigma)のような市販の培地は、宿主細胞を培養するのに適している。また、Hamら、Meth Enz.58:44 (1979)、Barnesら、Anal Biochem.102:255 (1980)、米国特許第4,767,704号;4,657,866号;4,927,762号;4,560,655号;又は5,122,469号;WO 90/03430;WO 87/00195;又は米国特許第30,985号に記載された培地のいずれかを宿主細胞のための培養培地として用いてもよい。これらの培地のいずれにも、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子など)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン、チミジンなど)、抗生物質(GENTAMYCINTM薬など)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義)、及びグルコース又は同等のエネルギー源を補充することができる。。その他の必要なサプリメントも、当業者に知られているような適切な濃度で含まれることがある。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前に使用されたものであり、通常の当業者には明らかであろう。
【0156】
[00177] 組換え技術を用いる場合、抗体は細胞内、ペリプラズム空間、又は培地中に直接分泌して産生することができる。抗体が細胞内で産生される場合、第一段階として、宿主細胞又は溶解したフラグメントのいずれかである粒子状の残骸が、例えば、遠心分離又は限外ろ過によって除去される。Carterら、Bio/Technology 10:163-167 (1992)は、大腸菌のペリプラズム空間に分泌される抗体を単離するための手順を記載している。簡単に言えば、細胞ペーストは、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分かけて融解される。細胞残渣は遠心分離により除去することができる。抗体が培地中に分泌される場合、そのような発現系からの上清は一般に、まず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmiconやMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを用いて濃縮される。タンパク質分解を阻害するためにPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を前述のいずれかの工程に含めてもよく、偶発的なコンタミネーションの増殖を防止するために抗生物質を含めてもよい。
【0157】
[00178] 細胞から調製された抗CLDN18.2抗体及びその抗原結合フラグメントは、例えば、ヒドロキシラパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、DEAE-セルロースイオン交換クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿、塩析、アフィニティクロマトグラフィーなどを用いて精製でき、精製技術としてはアフィニティクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0158】
[00179] 特定の実施形態では、固相に固定化されたプロテインAは、抗体及びその抗原結合フラグメントの免疫親和性精製に使用される。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するために用いることができる(Lindmarkら、J Immunol Meth.62:1-13 (1983))。プロテインGは、すべてのマウスのアイソタイプとヒトのγ3に対して推奨されている(Gussら、EMBO J. 5:1567 1575(1986))。アフィニティーリガンドを付着させるマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御された孔のあるガラスやポリ(スチレンデビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成できるよりも速い流速と短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、精製にはBakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, N.J.)が有用である。その他、回収する抗体によっては、イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカゲルでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSETMクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿等のタンパク質精製技術も利用可能である。
【0159】
[00180] 任意の予備精製ステップ(複数可)に続いて、目的の抗体及び汚染物質を含む混合物を、好ましくは低塩濃度(例えば、約0~0.25M塩)で行われる、約2.5~4.5間のpHの溶出バッファーを用いた低pH疎水相互作用クロマトグラフィーに付してもよい。
【0160】
[00181] 本開示は、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる方法であって、本明細書で提供されるベクターを発現させる条件下で本明細書で提供される宿主細胞を培養することを含む、方法を提供する。
【0161】
[00182] コンジュゲート
[00183] いくつかの実施形態では、抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、1つ又は複数の部分に連結又はコンジュゲートされている。そのような部分の例としては、治療剤(例えば、DNAアルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チューブリンバインダー、又は他の抗がん剤)、検出可能なラベル、薬物動態学的修飾部分(例えば、半減期を延長するPEGなどのポリマー)、又は精製部分(例えば、磁気ビーズ又はナノ粒子)などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0162】
[00184] 部分は、例えば、共有結合、親和結合、インターカレーション、座標結合、複合化、会合、ブレンド、又は付加などの方法によって、直接又はリンカーを介して、あるいは他の部分を介して抗体又はその抗原結合性フラグメントに付着させることができる。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、リンカーを介して1つ又は複数の部分に連結される。特定の実施形態において、リンカーは、ヒドラゾンリンカー、ジスルフィドリンカー、二官能性リンカー、ジペプチドリンカー、グルクロニドリンカー、又はチオエーテルリンカーである。
【0163】
[00185] 特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントは、エピトープ結合部分の外側に、1つ又は複数の部分への連結に利用され得る特定の部位を含むように操作されてもよい。例えば、そのような部位は、部分への共有結合を促進するために、例えばシステイン又はヒスチジン残基のような1つ以上の反応性アミノ酸残基を含んでもよい。
【0164】
[00186] いくつかの実施形態では、抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、(i)検出可能なシグナルを提供する;(ii)第2のラベルと相互作用して、第1又は第2のラベルによって提供される検出可能なシグナルを修飾する、例えば.FRET(蛍光共鳴エネルギー移動);(iii)電荷、疎水性、形状、又は他の物理的パラメータによって移動度、例えば電気泳動移動度に影響を与える、又は(iv)捕捉部分、例えば親和性、抗体/抗原、又はイオン複合体を提供するように機能する。
【0165】
[00187] このような部分には、イメージング、酵素反応などを介して直接検出可能なラベル又は部分(放射性同位体、ランタノイド、化学発光ラベル、発色性部分、酵素ラベル、コロイド金粒子及び蛍光ラベルなど)、ならびに例えば、分子相互作用を介した間接検出が可能な部分が含まれるが、これらに限定されるわけではない。間接的に検出可能なラベルの例としては、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ジゴキシゲニンラベル、ハプテン、検出用DNA分子、粒子ラベル(常磁性粒子、金属粒子ラベル、磁気粒子ラベル、ポリマー粒子ラベルなど)などがある。
【0166】
[00188] 放射性同位体の例としては、S、C、I、H、Iなどが挙げられ、抗体は、Current Protocols in Immunology, Volumes 1 and 2, Coligen et al, Ed Wiley-Interscience, New York, N.Y., Pubsに記載の技術を用いて放射性同位体で標識することが可能である。(1991)などに記載されている技術を用い、シンチレーションカウンティングにより放射能を測定することができる。その他の放射性核種としては、123I, 124I, 125I, 131I, 35S, 3H, 99Tc,90Y, 111In, 112In, 32P, 14C, 150, 13N, 18F, 86Y, 88Y, 90Y, 51Cr, 57To, 225Ra, 60Co, 59Fe, 57Se, 152Eu, 64Cu, 67Cu, 217Ci, 177Lu, 211At, 186Re, 188Re, 153Sm, 212Bi, 212Pb, 47Sc, 109Pd, 234Th, 40K, 157Gd, 55Mn, 52Tr及び56Feが挙げられる。
【0167】
[00189] 蛍光又は発光ラベルとしては、希土類キレート(ユーロピウムキレート)、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、イソチオシアナート、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、フルオレサミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェリン、ルミナルラベル、アイソラルミナルラベル、芳香族アクリジニウム・エステル・ラベル、イミダゾール標識、アクリジウム塩標識、シュウ酸エステル標識、イクオリン標識、2,3-ジヒドロフタレンジオン、テキサスレッド、ダンシル、リサミン、ウンベリフェロン、フィコクリセリン、フィコシアニン、あるいはSPECTRUM ORANGE(登録商標)、SPECTRUM GREEN(登録商標)等の市販の蛍光色素及び/又は上記のいずれか1つ以上の誘導体などが挙げられるが、それらに限定されない。。蛍光標識は、例えば、Current Protocols in Immunology, supra, に開示されている技術を使用して、抗体に結合させることができる。蛍光は、蛍光計を使用して定量化することができる。
【0168】
[00190] 別のタイプの有用な標識は、酵素基質標識である。様々な酵素基質標識が利用可能である(米国特許第4,275,149号参照)。酵素は一般に発色基質の化学変化を触媒し、その変化は様々な技術で測定することができる。例えば、酵素は基質の色の変化を触媒し、これは分光光度法で測定することができる。あるいは、酵素は基質の蛍光又は化学発光を変化させる。蛍光の変化を定量化する技術については前述の通りである。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起され、測定可能な光を放出するか(例えば、化学発光計を使用して)、蛍光アクセプターにエネルギーを供与することができる。
【0169】
[00191] 多数の酵素-基質の組み合わせが当業者に利用可能である(米国特許第4,275,149号及び第4,318,980号を参照)、例えば:(i)ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と基質としての過酸化水素、ここで過酸化水素は、例えば、3,3'ジアミノベンジジン(DAB)などの色素前駆体を酸化させ、それは茶色の最終生成物を生成する;3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)は酸化によりローズレッドの最終生成物を形成する;4-クロロ-L-ナフトール(CN)は青色の最終生成物として沈殿する;及びp-フェニレンジアミン二塩酸塩/ピロカテコールは青黒い生成物を生成する;オルトフェニレンジアミン(OPD)及び3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン塩酸塩(TMB);(ii)アルカリホスファターゼ(AP)及びパラ-ニトロフェニルホスフェート、ナフトールAS-MXホスフェート、ファストレッドTR及びファストブルーBB、ナフトールAS-BIホスフェート、ナフトールAS-TRホスフェート、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキサルホネート(BCIP)、ファストレッドLB、ファストガーネットGBC、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)並びにヨードニテトラゾリウムバイオレット(INT);及び(iii)β-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と発色性基質(例えばp-ニトロフェニル-P-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光性基質(例えば、4-メチルウンベリフェリル-P-D-ガラクトシダーゼ)。
【0170】
[00192] その他の有用な酵素標識としては、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及びバクテリアルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタレンジオン、マレートデヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ホースラディッシュパーオキダーゼ(HRPO)などのパーオキダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環式酸化酵素(ウリカーゼ、キサンチンオキシダーゼなど)、ラクトパーオキシダーゼ、マイクロパーオキシダーゼ等が挙げられる。酵素を抗体にコンジュゲートする技術は、O'Sullivan et al、Methods for Preparation of Enzyme- Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. ed J. Langbne & H. Van Vunakis), Academic press, New York, 73:147-166 (1981)に記載されている。
【0171】
[00193] CLDN18.2の検出及び使用方法
[00194] 本開示は、サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを検出する方法であって、抗体又はその抗原結合性フラグメントのCLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)への特異的結合を可能にする条件下で、サンプルを本明細書に提供する抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させ、サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定することを含む、方法を提供する。
【0172】
[00195] 別の態様では、被験体におけるCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)を診断するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;及び
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象がCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん)を有すると診断される。特定の実施形態では、サンプルは、胃の上皮組織ではない。
【0173】
[00196] 別の態様では、CLDN18.2関連疾患又は状態を有する又はそのリスクを有する対象の、CLDN18.2標的化剤による治療に対する適格性を決定するための方法であって、以下を含む方法を提供する;
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;及び
b) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;
ここで、CLDN18.2の存在が認められる場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値に達している場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格であると決定される、又は
CLDN18.2の存在が認められない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象がCLDN18.2標的化剤による治療に対して適格ではないと決定される。
【0174】
[00197] 別の態様では、被験体におけるCLDN18.2関連疾患又は状態の治療におけるCLDN18.2標的化剤の治療効果を予測するための方法であって、以下を含む方法を提供する;
a) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
b) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;及び
c) CLDN18.2標的化剤の治療効果を予測すること、
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が見出される場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値レベルに達している場合、対象の治療において有効であると予測される、又は
ここで、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2の存在が認められない場合、又はCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象の治療において有効でないと予測される。
【0175】
[00198] さらに別の態様では、CLDN18.2関連疾患又は状態を有する又はそのリスクを有する対象を治療するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 治療に適した対象を選択することであり、以下を含む:
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のヒトCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;及び
iii) CLDN18.2の存在が認められる場合、又はサンプル中のCLDN18.2の発現レベルが閾値に達している場合、CLDN18.2標的化剤による治療に適しているものとして対象を選択すること;及び
b) 選択された対象に治療有効量のCLDN18.2標的化剤を投与すること。
【0176】
[00199] さらに別の態様では、がんを有するか又はがんのリスクがある対象を治療するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a) 以下を含む、対象を選択すること;
i) 対象から得られたサンプルを、CLDN18.2への抗体又はその抗原結合フラグメントの特異的結合を可能にする条件下で、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合性フラグメントと接触させること;
ii) サンプル中のCLDN18.2の存在又は発現レベルを決定すること;及び
iii) CLDN18.2の存在が認められない場合、又はサンプル中のCLDN18.2の発現レベルが閾値未満である場合、対象をCLDN18.2標的化剤による治療に適さないものとして選択すること;及び
b) 選択された対象に、CLDN18.2標的化剤以外の標準治療薬を投与すること。
【0177】
[00200] 本発明によれば、「サンプル」は、本開示に従って有用な任意のサンプル、特に体液を含む組織サンプル、及び/又は細胞サンプルなどの生物学的サンプルであってよく、パンチ生検を含む組織生検、並びに血液、気管支吸引液、喀痰、尿、糞又は他の体液の採取などの従来の方法で得ることができる。本発明によれば、「サンプル」という用語は、生物学的サンプルの画分又は単離物、例えば核酸及びペプチド/タンパク質単離物などの処理されたサンプルも含む。
【0178】
[00201] CLDN18.2を含むと疑われる任意の生物学的サンプルは、本明細書で提供される方法において検出され得る。いくつかの実施形態では、適切なサンプルは、検出を必要とする対象から得られた細胞サンプル又は組織サンプルであり得る。例えば、サンプルは、胃、肺、乳房、結腸、腎臓、骨、脳、筋肉、膵臓、膀胱、卵巣、子宮の正常組織及びがん組織、並びに心臓、胚、又は胎盤組織を含むことができる。好ましくは、サンプルは、検査される器官、例えば、がんの診断の対象となる器官の細胞又は組織を含む。例えば、診断の対象となるがんが胃がんの場合、サンプルは胃から採取された細胞又は組織を含むことができる。ある実施形態では、サンプルは、腫瘍サンプルである。特定の実施形態では、組織サンプルは、CLDN18.2が関連する疾患又は状態を有するサンプルである。
【0179】
[00202] 好適なサンプルは、腫瘍又はがん細胞を含む、又は含むことが予想される患者由来の身体サンプルであってよい。身体サンプルは、血液などの任意の組織サンプル、原発腫瘍又は腫瘍転移から得られた組織サンプル、又は腫瘍もしくはがん細胞を含む任意の他のサンプルであってもよい。「原発性腫瘍」とは、がんの発生部位で増殖している腫瘍を指す。「転移性腫瘍」とは、がんの発生部位とは異なる部位に発生する二次的な腫瘍を指す。
【0180】
[00203] 組織又は細胞サンプルの供給源は、新鮮、凍結及び/又は保存された器官又は組織サンプル又は生検若しくは吸引物からのような固体組織;血液又は任意の血液成分;脳脊髄液、羊水、腹膜液又は間質液などの体液;対象の妊娠又は発達の任意の時期からの細胞であってもよい。いくつかの実施形態では、サンプルは体外組織又は細胞培養物から得られる。
【0181】
[00204] 本明細書におけるサンプルの例としては、腫瘍生検、循環腫瘍細胞、血清又は血漿、腹水、腫瘍由来の又は腫瘍様特性を示す初代細胞培養物又は細胞株、並びにホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍サンプル又は冷凍腫瘍サンプルなどの保存腫瘍サンプルがあるが、それらに限定されるわけではない。
【0182】
[00205] 特定の実施形態では、細胞サンプルは、細胞ブロックから作製される。細胞ブロック」は、組織学的切片として処理、切片化、染色、及び観察ができるように細胞学的材料を準備する方法である。細胞学的スライドから得られる情報に加えて、診断情報を提供することができる。特定の実施形態では、細胞ブロックは、残液、喀痰、尿沈渣、胃腸液、細胞掻爬、又は細針吸引液から調製することができる。細胞は、遠心分離又は膜濾過によって濃縮又は充填される。
【0183】
[00206] 細胞ブロック調製のための多くの方法が開発されてきた。代表的な方法としては、固定沈殿法、細菌寒天法、膜濾過法などがある。固定沈殿法では、細胞沈殿物をブアン、ピクリン酸、緩衝ホルマリンなどの固定剤と混合し、その混合物を遠心分離して固定した細胞をペレット化する。ペレットを採取して組織カセットに入れ、さらに固定剤を入れてジャーに入れ、組織サンプルとして処理する。寒天法は非常によく似ているが、ペレットを半分に切り、切った側をスライドグラス上の溶けた寒天の滴の中に入れる。寒天を硬化させた後、余分な寒天を切り落とす。又は、ペレットを65℃の2%液体寒天に直接懸濁し、サンプルを遠心分離することもできる。寒天細胞ペレットは、4℃で1時間固化させる。固形寒天は、遠心チューブから取り出し、半分にスライスしてもよい。これを組織カセットに入れ、組織処理を完了する。遠心分離は、膜ろ過に置き換えることができる。これらのプロセスのいずれかを使用して「細胞ブロックサンプル」を生成することができる。
【0184】
[00207] 特定の実施形態では、細胞ブロックは、Lowicryl樹脂、LR White、LR Gold、Unicryl、及びMonoStepを含む特殊な樹脂を用いて調製することができる。これらの樹脂は粘度が低く、低温かつ紫外線で重合させることができる。埋め込みは、脱水時にサンプルを徐々に冷却し、サンプルを樹脂に移し、最終的に低温で適切な紫外線波長でブロックを重合させることで行われる。
【0185】
[00208] 細胞ブロック切片は、細胞形態学的検査のためにヘマトキシリン・エオジン、ヘキスト染色又はDAPIで染色することができ、一方、追加の切片は、抗CLDN18.2抗体(すなわち、一次抗体)を、抗体が細胞ブロック切片中のCLDN18.2タンパク質に結合できるよう十分な時間及び適切な条件下に曝露してCLDN18.2の検査のために使用される。結合していない一次抗体や過剰量の一次抗体は、洗浄して除去してもよい。
【0186】
[00209] ある実施形態では、サンプルは、例えば、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、栄養剤、抗生物質などを含むことができる。特定の実施形態では、サンプルは、1つ又は複数の固定剤に曝露され、及び/又はそれを含む。本明細書で提供される方法に適した例示的な固定剤は、ホルマリン、グルタルアルデヒド、四酸化オスミウム、酢酸、エタノール、アセトン、ピクリン酸、クロロホルム、二クロム酸カリウム及び塩化水銀及び/又はマイクロ波加熱若しくは冷凍による安定化などを含む。
【0187】
[00210] いくつかの実施形態では、サンプルは、固定された組織サンプルを含む。いくつかの実施形態では、固定された組織サンプルは、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織である。FFPE組織切片は、約3~4ミリメートル、好ましくは4~40マイクロメートルであり得、これらは顕微鏡スライド上にマウントされ乾燥される。パラフィンの例としては、パラプラスト、ブロロイド、ティシューメイなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。FFPE組織サンプルなどの固定組織サンプルの場合、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させる前に、サンプルを脱パラフィンしてもよい。
【0188】
[00211] いくつかの実施形態では、脱パラフィン化したサンプルは、抗原検索を可能にするためにさらに処理されてもよい。抗原賦活化とは、エピトープのマスキングを逆転させ、エピトープ-抗体結合を回復させる任意の技術を指す。固定は組織形態の保存に不可欠であるが、この処理は抗体の結合や検出に悪影響を及ぼすこともある。固定化によってタンパク質の生化学的性質が変化し、目的のエピトープがマスクされ、もはや抗体に結合できなくなることがある。エピトープのマスキングは、エピトープ内のアミノ酸の架橋、エピトープ又はその近傍の無関係なペプチドの架橋、エピトープの立体構造変化、又は抗原の静電荷の変化により引き起こされる可能性がある。抗原の回収の必要性は、標的抗原、使用する抗体、組織の種類、固定の方法と時間など、複数の変数に依存するが、これらに限定されるものではない。抗原検索の技術は、一般に、プロテアーゼ誘導エピトープ検索(PIER、プロテイナーゼK、トリプシン、及び/又はペプシンなどの酵素の使用による)及び熱誘導エピトープ検索(HIER、電子レンジ、圧力調理器、野菜スチーマー、オートクレーブ、又は水浴の使用による)を含む。
【0189】
[00212] 特定の実施形態では、細胞表面又は膜結合型CLDN18.2の存在又は発現レベルは、本明細書に提供される方法において検出又は決定される。フレーズ「細胞表面又は膜結合CLDN18.2」は、CLDN18.2が細胞の細胞膜に関連し、そこに位置し、CLDN18.2の少なくとも一部が前記細胞の細胞外空間に露出し、前記細胞の外側から、例えば、細胞外の抗体によりアクセス可能であることを指す。特定の実施形態では、細胞外に露出するCLDN18.2の部分は、少なくとも4、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、又は少なくとも20個のアミノ酸残基を含む。胃の上皮細胞を除く正常組織では、CLDN18.2は上皮や内皮のタイトジャンクション内に存在し、細胞外から抗体にアクセスできないと考えられており、細胞表面又は膜結合型のCLDN18.2ではないと考えられている。
【0190】
[00213] サンプル中のCLDN18.2タンパク質の存在又は発現レベルは、本明細書に開示された抗体又はその抗原結合フラグメントが結合したCLDN18.2抗原の複合体の存在又はレベルに基づいて決定することができる。抗体-抗原複合体の検出には、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、免疫組織化学(IHC)、免疫細胞化学(ICC)、免疫蛍光法(IF)、免疫ブロッティング(例えば、, ウェスタンブロッティング)、フローサイトメトリー(FACSTMなど)、酵素免疫測定法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)などがある。免疫学的及びイムノアッセイの手順の概説については、Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr eds., 7thed 1991) を参照されたい。さらに、イムノアッセイは、Enzyme Immunoassay (Maggio, ed., 1980); 及びHarlow & Lane, supraで広範囲にレビューされているいくつかの構成のいずれかで実施することが可能である。一般的なイムノアッセイについては、Methods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology, volume 37 (Asai, ed. 1993); Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr, eds., 7thed 1991) も参照されたい。
【0191】
[00214] 特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合フラグメントは、検出可能に標識されているか(例えば、一次抗体)、又は標識されていないが、検出可能に標識されている第二分子と反応することができる(例えば、検出可能に標識された二次抗体)。
【0192】
[00215] 特定の実施形態では、サンプル中のCLDN18.2タンパク質の存在又は発現レベルは、IHC又はICCに従って決定される。IHCは、組織切片の細胞、例えば、本明細書に記載の組織の細胞において抗原(例えば、タンパク質)を検出する工程を指す。免疫組織化学染色は、がん腫に見られるような異常細胞の診断に広く用いられている。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、IHC又はICCにおける一次抗体として使用することができる。一般に、IHC又はICCは、サンプル中のCLDN18.2タンパク質(例えば、ヒトCLDN18.2タンパク質)の直接検出又は間接検出のために実施でき、CLDN18.2の発現は、適切なイメージング装置を用いて評価することができる。
【0193】
[00216] 抗原(例えば、CLDN18.2)の直接検出を可能にするために、検出可能な標識に連結された本明細書に開示された抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントを使用でき、これにより、さらなる抗体相互作用を必要とせずに直接可視化することが可能になる。
【0194】
[00217] 抗原(例えば、CLDN18.2)の間接的な検出のために、標識されていないが、検出可能に標識されている第2の分子(例えば、検出可能に標識された二次抗体)と反応し得る、本明細書に開示された抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントを使用することができる。例えば、本明細書に開示される抗CLDN18.2抗体又はその抗原結合フラグメントは、標識されておらず、検出可能な標識と結合した二次抗体(例えば、抗異型抗体)とさらに接触させて、抗原を間接的に検出できるようにしてもよい。別の例として、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体は、ビオチンとコンジュゲートすることができ、これは検出可能に標識されたアビジンと反応することができ、又はその逆もまた可能である。ビオチンはアビジンに選択的に結合するので、抗体-抗原複合体の間接的な検出を可能にする。さらに別の例では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体は、小さなハプテンと結合させることができ、これは、本明細書に記載の検出可能な標識に連結した抗ハプテン抗体と反応させることができる。例示的なタイプの標識は、本明細書において上述されており、任意の適切な検出可能な標識が使用され得る。
【0195】
[00218] ICC又はIHCアッセイは、自動病理システムを用いて行うことができ、それは、Rojaら、Review of imaging solutions for integrated, quantitative immunohistochemistry in Pathology daily practice, Folia Histochemica et Cytobiologica, Vol.47, No.3, 349-354, 2009に記載のように、自動染色(従来の染色、組織化学技術、免疫染色)、自動in situハイブリダイゼーションシステム、スライド自動作成(カバースリップ、スライド乾燥)ならびに統合スライドおよびカセットラベリングを含みうる。
【0196】
[00219] 例示的なIHCアッセイは、Dako Autostainer instrument(Dako, an Agilent Technologies Company, Glostrup, Denmark)と共に使用することを目的とする、市販のDako EnVisionTM FLEX検出システムを採用し得る。これらの試薬は、他のオートステイナーや、オートステイナーを使用しない手動による染色にそのまま使用することができる。
【0197】
[00220] 染色プロセスの完了後、サンプル(例えば、スライド)は、人間、例えば、病理学者によって、又は特異的染色結果と非特異的染色結果とを区別するようにプログラムされたコンピュータによって、CLDN18.2染色を分析される。分析は、サンプルを顕微鏡で低倍率、中倍率(10-20倍)、高倍率(40-60倍)で見ることによって直接行ってもよいし、低倍率、中倍率、高倍率で撮影したスライドの高解像度画像を見ることによっても行うことができる。
【0198】
[00221] サンプル中のCLDN18.2発現の存在は、陽性染色された細胞、例えば、抗CLDN18.2抗体染色に対して任意の強度の少なくとも部分膜染色を有する細胞の存在によって確認することができる。特定の実施形態では、正常なサンプルを対照サンプルとして使用することができ、試験サンプルにおけるCLDN18.2発現の存在は、対照サンプルと比較して決定することができる。「正常サンプル」又は「正常組織」という用語で使用される「正常」という用語は、健康な又は非がん性の対象からのサンプル又は組織、又は健康な又は非がん性の組織からのサンプル又は組織を指す。好ましくは、試験サンプルと対照サンプルは、サンプルの種類の点で比較可能であり、例えば、両方とも固定組織サンプルである。試験サンプルが対照サンプルよりも染色強度又は陽性染色細胞数の増加を示す場合、試験サンプルは、CLDN18.2の発現が陽性であると決定され得る。
【0199】
[00222] 特定の実施形態では、CLDN18.2の発現レベルは、例えば、陽性染色細胞の相対的割合及び細胞膜上の染色強度の決定によって、当該技術分野において公知の任意の適切な方法を用いて定量化することができる。
【0200】
[00223] 特定の実施形態では、CLDN18.2発現レベルは、サンプル中の陽性染色された細胞(すなわち、CLDN18.2陽性細胞)の割合に基づいて定量化される。CLDN18.2陽性細胞とは、抗CLDN18.2抗体染色に対して任意の強度の膜染色を少なくとも部分的に有する細胞である。例えば、サンプル中のCLDN18.2発現を評価するために、観察者は顕微鏡下で1つ以上の選択されたフィールド(複数可)における膜CLDN18.2+細胞の数を調べ、CLDN18.2に対して陽性である細胞の割合を計算又は推定することができる。サンプルが非常に不均一である場合、サンプルをゾーンに分割し、各ゾーンを別々に採点した後、1セットのパーセント値に統合することができる。
【0201】
[00224] 特定の実施形態では、発現レベルは、サンプル中のCLDN18.2(例えば、膜結合型CLDN18.2)に対する染色強度に基づき定量化される。例えば、4点HSCOREなどの強度スコアは、0(染色なし)、1+(弱い染色)、2+(はっきりした染色)、3+(強い染色)及び4+(極めて強い/飽和信号)に及ぶ染色の強度に基づいて計算し、各強度で染色する細胞のパーセント(0~100%)を掛けることができる(詳細は、McCarty, K.S.Jr, et al, Cancer Res.46(suppl 8):4244s-4248s(1986))に参照されたい)。別の例として、Alfredスコアは、割合スコア(PS)及び強度スコア(IS)を一緒に加算することによって、合計スコア(TS、範囲0~8)に基づいて計算することができる。PSは、0から5までの陽性腫瘍細胞の割合である(0=陽性細胞なし、1=1/100の細胞が陽性、2=1/10の細胞が陽性、3=1/3の細胞が陽性、4=2/3の細胞が陽性、5=全ての腫瘍細胞が陽性)。ISは、0から3までの陽性腫瘍細胞の平均染色強度(0=陰性、1=弱い染色、2=中間の染色、3=強い染色)を指す(詳細は、Alfred DC et al.Mod Pathol.11:155-168 (1998) を参照されたい)。
【0202】
[00225] 特定の実施形態では、サンプルは独立して動作する2人の観察者により評価され、その後、割合又はスコアが統合される。特定の他の実施形態では、陽性細胞及び陰性細胞の同定は、適切なソフトウェアを用いて実行又はスコア化される。
【0203】
[00226] 特定の実施形態では、CLDN18.2のレベルは、例えば、対照値又は標準曲線に正規化することによって決定することができる。対照値は、陰性対照サンプル又はブランク対照サンプルから予め決定され得るか、又は同時に決定され得る。
【0204】
[00227] 特定の実施形態では、診断又は臨床用途のために、試験サンプルにおけるCLDN18.2の発現レベル(例えば、細胞表面上に露出したもの)は、閾値と比較される。
【0205】
[00228] CLDN18.2発現に関する「閾値(threshold level)」又は「閾値(threshold value)」は、細胞表面CLDN18.2発現について陽性であることと陰性であることを区別できる発現レベル、又はCLDN18.2関連状態、例えば、がん、又は対象におけるがん発症もしくはがん発症に対するリスクを除外することができる発現レベル、又はがんの治療を受ける対象において治療反応をモニタリングすることができる閾値レベルを指す。特定の実施形態では、閾値は、対照発現レベルに対して決定される。
【0206】
[00229] 例えば、閾値は、サンプルがCLDN18.2の陽性発現を有するとスコア化されるレベル、したがってCLDN18.2標的化剤による治療の適格性を有するレベルとすることができる。サンプル中のCLDN18.2のレベルが閾値に達しているかそれを超える場合、CLDN18.2関連疾患又は状態の存在、及び/又はCLDN18.2標的化剤への反応の可能性を示し得る。
【0207】
[00230] 閾値は、例えば、サンプルの種類、検出方法、診断されるべき疾患又は状態、及び/又は使用されるべきCLDN18.2標的化剤を含む様々な要因を考慮して、当業者によって決定することができる。
【0208】
[00231] 特定の実施形態では、CLDN18.2又はCLDN18.2発現細胞の存在及び/又は閾値レベルと比較して、例えば、CLDN18.2関連疾患のない対象(例えば、非がん対象)と比較して増加しているCLDN18.2又はCLDN18.2発現細胞の量は、患者におけるCLDN18.2関連疾患又は状態(例えば、がん疾患)の存在又はリスク(つまり、開発の可能性)を示している。
【0209】
[00232] 特定の実施形態では、閾値は、任意の強度の少なくとも部分的な膜染色を有するCLDN18.2陽性細胞のパーセンテージ(%)である。ある実施形態では、CLDN18.2陽性細胞の割合(%)の閾値レベルは、1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、又は70%である。
【0210】
[00233] 特定の実施形態では、サンプルは、CLDN18.2関連疾患又は状態を有する、又はそのリスクを有する対象からのものである。本明細書で使用される「CLDN18.2関連疾患又は状態」という用語は、胃以外の健康な又は非がん性の組織又は器官における状態と比較して、疾患組織又は器官の細胞におけるCLDN18.2の発現が増加することを特徴とする疾患又は状態を指す。増加は、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、又はそれ以上による増加であり得る。特定の実施形態では、疾患組織又は器官の細胞におけるCLDN18.2の発現は、検出限界を超えており、及び/又は細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にするのに十分な高さである。いくつかの実施形態では、CLDN18.2の発現の増加は、疾患組織においてのみ認められ、正常組織におけるCLDN18.2の発現は検出不可能である。
【0211】
[00234] いくつかの実施形態では、CLDN18.2関連疾患又は状態は、細胞表面又は膜結合型CLDN18.2における発現の増加を特徴とする。
【0212】
[00235] いくつかの実施形態では、CLDN18.2関連疾患又は状態は、がんである。ある実施形態では、がん細胞はCLDN18.2を発現又は異常発現するが、対応する正常細胞はCLDN18.2を発現しないか、又はCLDN18.2を低レベルで発現している。タイトジャンクションタンパク質であるCLDN18.2は、腫瘍などのCLDN18.2関連疾患の良好な治療標的となり、CLDN18.2標的化剤による治療の対象となる患者の選択に利用できると考えられている。CLDNが結合して古典的なタイトジャンクションを形成する正常な上皮組織(胃の上皮細胞を除く)と異なり、腫瘍細胞に発現するCLDNはそのような古典的なタイトジャンクションを形成しないことが多く、その結果、腫瘍細胞には、細胞外の抗体結合や免疫療法が可能なフリーのCLDNが露出しやすくなると考えられている。
【0213】
[00236] CLDN18.2は、胃がん、肺がん(例.非小細胞肺がん(NSCLC、扁平上皮/非扁平上皮)、小細胞肺がん(SCLC))、気管支がん、骨がん、肝臓及び胆管がん、膵臓がん、乳がん(基底乳がん、管状乳がん、小葉状乳がんを含む)、肝臓がん、卵巣がん、精巣がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、脊椎がん、脳腫瘍、子宮頸がん、子宮体がん、子宮内膜がん、肝がん、胆嚢がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、肛門がん、食道がん、消化器がん、皮膚がん、前立腺がん、下垂体がん、胃がん、膣がん、甲状腺がん、グリオブラストーマ、星状細胞腫、メラノーマ、骨髄異形成症候群、肉腫、奇形腫、胆管がん、及び/又は腺がんなどの原発腫瘍、及び/又はその転移、特にクルーケンベルグ腫瘍などの胃がん転移、腹膜転移、及びリンパ節転移などの胃がん転移の予防及び/又は治療のための貴重な標的である。
【0214】
[00237] サンプルは、好ましくはがん細胞又は組織であり、特に、腫瘍性の胃がん、食道がん、膵臓がん、肺がん、卵巣がん、結腸がん、肝がん、頭頸部がん、及び胆嚢がん細胞又は組織からなる群から選択される。
【0215】
[00238] 特定の実施形態では、がんは、腎細胞がん、胃がん、中皮腫、メラノーマ、子宮頸がん、胸腺がん、骨髄腫、菌状息肉腫(mycoses fungoids)、メルケル細胞がん、肝細胞がん、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、その他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、リンパ系悪性腫瘍、基底細胞がん、汗腺がん、甲状腺髄質がん、甲状腺乳頭がん、褐色細胞腫 脂腺がん、乳頭がん、乳頭状腺がん、髄様細胞がん 気管支がん、肝細胞がん、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、セミノーマ、古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、T細胞・多球性B細胞リンパ腫、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症、肥満細胞由来腫瘍、EBV陽性及び陰性のPTLD、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、形質芽球性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻咽頭がん、HHV8関連原発性胸水リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、ワルデンストーム・マクログロブリン血症、重鎖症、骨髄異形成症候群、ヘアリーセル白血病及び骨髄異形成、CNS原発性リンパ腫。脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋膠腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、音響神経腫、乏突起膠腫、血管腫、メラノーマ、神経芽腫、網膜芽細胞腫などを含むが、これらに限定されない。
【0216】
[00239] 特定の実施形態では、がんは、CLDN18.2を発現するがんである。サンプルにおけるCLDN18.2の存在又は発現レベルは、がん細胞がCLDN18.2を発現しているかどうか、したがって、がんがCLDN18.2標的化剤による治療に反応しやすいかどうかを示す。
【0217】
[00240] 本明細書で使用される「CLDN18.2標的化剤」は、細胞、組織又は生体内のCLDN18.2タンパク質又は核酸(DNA又はmRNA)を標的とする1つ又は複数の薬剤を指す。CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2遺伝子産物の発現を減少/消失させ得る、CLDN18.2のシグナル伝達を阻害/破壊し得る、又はCLDN18.2を異常に発現する細胞に対する細胞毒性を誘導し得る。
【0218】
[00241] 特定の実施形態では、CLDN18.2標的化剤は、治療用抗CLDN18.2抗体、CLDN18.2結合分子、CLDN18.2を標的とする細胞療法、CLDN18.2を標的とする化学化合物、又はCLDN18.2を標的とする治療用核酸を含む。特定の実施形態では、CLDN18.2を標的とする薬剤は、CLDN18.2を発現する細胞に対して細胞毒性を誘導することができる。
【0219】
[00242] 特定の実施形態では、CLDN18.2標的化剤は、治療用抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2-結合分子を含んでなる。特定の実施形態では、治療用抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2結合分子は、CLDN18.2発現細胞に対してADCC、CDC又はADCPを誘導することができる。あるいは、治療用抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2結合分子は、例えば、細胞障害性薬剤に結合して、抗体-薬物結合体(ADC)を形成することができる。特定の実施形態では、細胞障害性薬剤は、細胞に有害であるか、又は細胞を損傷もしくは死滅させることができる任意の薬剤であり得る。特定の実施形態では、細胞障害性薬剤は、任意に、毒素、化学療法剤(DNA-アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チューブリン結合剤、成長阻害剤、又は他の抗がん剤など)、又は放射性同位元素である。他の実施形態では、治療用抗CLDN18.2抗体は、CLDN18.2タンパク質上の異なる抗原又は異なるエピトープに結合する二重特異性抗体であり得る。
【0220】
[00243] 特定の実施形態では、CLDN18.2標的化剤は、CLDN18.2-標的化細胞療法を含んでいる。特定の実施形態では、CLDN18.2-標的化細胞療法は、CLDN18.2結合キメラ抗体受容体(CAR)を発現するCAR-T(Chimeric Antibody Receptor Engineered T Cell)、TCR-T(Gene Modified TCR T cell)又はCAR-NK(Chimeric Antibody Receptor Engineered NK Cell)を含む。キメラ抗原受容体(CAR)は、抗体の抗原結合ドメインとT細胞活性化のための1つ以上のシグナル伝達ドメインを組み合わせた人工的なキメラ受容体である。T細胞やネイチャーキラー(NK)細胞などの免疫細胞は、CARや遺伝子組み換えTCRを発現するように遺伝子操作することができる(詳細は、D.Li et al, Sig Transduct Target Ther 4, 35(2019), S.Kloess et al, Transfus Med Hemother; 46:4-13(2019), Wang W.et al, Cancer Letters, 472:175-180(2020)) を参照されたい)。CARを発現するT細胞は、CAR-T細胞と呼ばれる。CARは、T細胞における抗原特異的細胞免疫活性を媒介し、CAR-T細胞が標的抗原を発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)を排除することを可能にすることができる。一実施形態では、本明細書で提供されるCAR-T細胞の、がん細胞などの細胞上に発現するCLDN18.2への結合は、前記CAR-T細胞の増殖及び/又は活性化をもたらし、前記活性化CAT-T細胞が細胞障害性因子、例えばパーフォリン、グランザイム及びグラニュリシンを放出でき、がん細胞の細胞溶解及び/又はアポトーシスを開始させることが可能である。
【0221】
[00244] 特定の実施形態では、CLDN18.2を標的とする治療用核酸は、CLDN18.2遺伝子配列、又はCLDN18.2発現細胞内の別の遺伝子配列に対してRNA干渉(RNAi)を媒介できる短干渉核酸(siNA)、短干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)及び短毛長RNA(shRNA)分子であり得る。
【0222】
[00245] 特定の実施形態では、CLDN18.2標的化剤は、被験体におけるがんの退縮を促進する。好ましい実施形態では、治療有効量のCLDN18.2標的化剤は、がんを消失させる点まで、がんの退縮を促進する。「がん退縮を促進する」とは、有効量の薬剤を単独又は抗新生物剤と組み合わせて投与することにより、腫瘍の成長又はサイズの減少、腫瘍の壊死、少なくとも一つの疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度と期間の増加、又は疾患苦悩による障害又は障害の防止がもたらされることを指す。
【0223】
[00246] 特定の実施形態では、対象が抗がん治療を受けているか、もしくは受けたことがあるか、又はがんの再発を患っている。抗がん剤治療としては、例えば、化学療法剤、抗がん剤、放射線療法、免疫療法、血管新生阻害剤、標的療法、細胞療法、遺伝子療法、ホルモン療法、緩和ケア、がん治療のための手術(例えば、腫瘍切除術)、又は化学療法から生じる合併症に対する一つ又は複数の制吐剤等の治療が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0224】
[00247] 再発・再燃とは、過去に罹患した病態に再び罹患することである。例えば、ある患者ががんの病気にかかり、当該病気の治療が成功した後、再び当該病気を発症した場合。当該新たに発症した疾患は、再発又は再燃と見なすことができる。しかしながら、本開示によれば、がん疾患の再発又は再燃は、元のがん疾患の部位で発生してもよいが、必ずしも発生する必要はない。したがって、例えば、胃の腫瘍を患い、治療が成功した場合、再発・再燃とは、胃の腫瘍の発生であってもよいし、胃とは異なる部位での腫瘍の発生であってもよい。また、腫瘍の再発又は再燃には、元の腫瘍の部位だけでなく、元の腫瘍の部位と異なる部位に腫瘍が発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が治療を受けた元の腫瘍は原発性腫瘍であり、元の腫瘍の部位とは異なる部位の腫瘍は二次性腫瘍又は転移性腫瘍である。
【0225】
[00248] キット
[00249] 特定の実施形態において、本開示は、本明細書で提供される単離された抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキットを提供する特定の実施形態では、本明細書に開示されるキットは、診断用キットである。キットは、生体サンプル中のCLDN18.2の存在又は量の検出において有用であり、又は本明細書で提供される診断方法において有用である可能性がある。
【0226】
[00250] 特定の実施形態では、キットは、任意選択で検出可能に標識された、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントを含む。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、間接的に検出可能な部分とコンジュゲートされている。
【0227】
[00251] 特定の実施形態では、キットは、例えば、IHC、ICC、又はELISA(サンドイッチ型又は競合形式)などのイムノアッセイを含む様々な検出アッセイにおいて有用な、CLDN18.2に結合した抗体又はその抗原結合フラグメントの複合体を検出するための試薬セットをさらに含む。
【0228】
[00252] 本発明のさらに別の実施形態では、FFPE腫瘍組織切片上で免疫組織化学を行うのに有用な試薬は、IHCアッセイを行うための指示書とともにキットで提供される。
【0229】
[00253] 本明細書に開示される間接的に検出可能な標識又は部分はいずれも使用することができる。特定の実施形態において、間接的に検出可能な部分は、ビオチンを含んでなる。そのような実施形態では、試薬セットは、検出可能に標識されたアビジン又はステップタビジンを含んでいる。
【0230】
[00254] 特定の実施形態では、検出可能な標識は、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメントにコンジュゲートされる。特定の実施形態では、キットは、本明細書で提供される単離された抗体又はその抗原結合フラグメントと、検出可能な標識が結合された二次抗体とを含む。一部の実施形態では、二次抗体は、一次抗体(例えば、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合フラグメント)に特異的に結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、二次抗体は、抗マウス抗体、抗ラビット抗体、又は抗ヒト抗体であり得る。
【0231】
[00255] 検出可能な標識は、使用前に1つ以上の成分、例えば、緩衝液、抗体-酵素コンジュゲート、酵素基質等との組み合わせを必要とする場合があり、そのような試薬は、キットに含まれ得る。例えば、検出部分が酵素を含む場合、キットは、酵素が必要とする基質及び補因子(例えば、検出可能な発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体)を含むことになる。さらに、固相表面への非特異的結合を低減するためのブロッキング試薬、洗浄試薬、酵素基質など、他の試薬が含まれていてもよい。種々の試薬の相対量は、アッセイの感度を実質的に最適化する試薬の溶液中の濃度を提供するために広く変化させることができる。特に、試薬は、通常、凍結乾燥された乾燥粉末として提供され、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含むことができる。検出系及び/又はアッセイ系調製のガイドラインを示す説明書(挿入物又はラベルとして)をキットに含めることもできる。
【0232】
[00256] キットの構成要素は、固形支持体に予め取り付けられていてもよいし、キットの使用時に固形支持体の表面に塗布されてもよい。固相表面は、チューブ、ビーズ、マイクロタイタープレート、マイクロスフィアなど、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドを固定化するのに適した材料の形態であってよい。
【0233】
[00257] このようなキットで使用するための容器は、典型的には、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、注射器又は他の適切な容器を含み、その中に1つ又は複数の検出組成物(複数可)が入れられ、好適には分注され得る。本明細書に開示されるキットはまた、典型的には、商業的販売のためにバイアル(複数可)を密閉して収容する手段、例えば、所望のバイアル(複数可)が保持される注入又はブロー成形されたプラスチック容器を含むであろう。放射性標識、発色性、フッ素原性、又は他のタイプの検出可能な標識又は検出手段がキット内に含まれる場合、標識剤は、検出組成物自体と同じ容器内に提供されてもよく、あるいは代わりにこの第2の組成物を入れ、適切に分注できる第2の異なる容器手段に入れられてもよい。あるいは、検出試薬は、単一の容器手段で調製されてもよく、ほとんどの場合、キットは、商業的販売及び/又は便利な包装及び配達のためにバイアル(複数可)を密閉して含むための手段も典型的に含むであろう。
【0234】
[00258] 本明細書に記載される検出又はモニタリング方法を実施するための装置又は器具も提供される。このような装置は、サンプルを投入することができるチャンバー又はチューブ、装置を通してサンプルの流れを誘導するバルブ又はポンプを任意に含む流体処理システム、任意に血液から血漿又は血清を分離するフィルター、捕捉剤又は検出試薬を添加するための混合チャンバー、任意に捕捉剤免疫複合体に結合した検出可能ラベルの量を検出する検出デバイスを含む場合がある。サンプルの流れは、受動的(例えば、毛細管力、静水圧力、又はサンプルが適用されると装置のさらなる操作を必要としない他の力による)、能動的(例えば、機械的ポンプ、電気浸透圧ポンプ、遠心力、又は空気圧の上昇を介して生成される力の適用による)、又は能動的力と受動的力の組み合わせによることが可能である。
【実施例
【0235】
[00259] 本開示は、特定の実施形態(そのうちのいくつかは好ましい実施形態である)を参照して特に示され、説明されてきたが、本明細書に開示される本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更がそこになされ得ることは、当業者によって理解されるべきである。
【0236】
[00260] 実施例1:免疫用抗原の調製
[00261] 1.抗原ペプチドの設計
[00262] CLDN18.1ではなくCLDN18.2に抗体のエピトープを限定するため、MabSpace Biosciences (Suzhou) Co., LimitedによりCLDN18.2固有のペプチド(Genbankアクセッション番号:NP_001002026)が設計された。このペプチドのコード配列(配列番号19:DQWSTQDLYN)は、CLDN18.2のアミノ酸残基Asp28~Asn37(D28~N37)に位置していた。
【0237】
[00263] 2.ペプチドの合成
[00264] 抗原ペプチドはSANGON BIOTECH(上海)で合成し、動物免疫に使用した。
【0238】
[00265] 実施例2:抗体作製
[00266] 1.免疫とハイブリドーマの融合
[00267] 6-8週齢の異なる系統のマウスに、40μg/マウスペプチド(KLH結合)をCFAをアジュバントとして免疫し、各マウスに週3回、4週間、11回のブースト(複数部位皮下注射)を行い、その後1週間間隔で2回、1次免疫の3日後にブーストを行った。血清力価の測定は、抗原ペプチドを塗布したプレートに、100μl/wellの連続希釈したマウス血清を加え、4℃で30分間インキュベートした後、洗浄液で3回洗浄し、100μl/wellのヤギ抗mIgG-HRPを加えて4℃で再度インキュベートした。プレートを洗浄液で3回洗浄した後、100μl/wellのヤギ抗mIgG-HRPを加え、4℃で再度インキュベートした。洗浄液で洗浄後、TMB を加え、プレート上の HRP と反応させた。その後、マイクロプレートリーダーでプレートのOD450nmを読み取り、Graphpad Prism 6ソフトウェアで力価を解析した。より高い力価を持つマウスを選択し、以下の融合手順を行った。
【0239】
[00268] 2.融合
[00269] 融合4日前に、各マウスに20μgのペプチドを腹腔内にブーストした。融合当日、脾臓を無菌的に摘出し、単細胞懸濁液に処理した。赤血球を溶解し、脾臓細胞を得た。生存可能な対数増殖期の骨髄腫細胞(SP2/0)とマウス脾臓細胞を1:1の割合で融合培地中で混合し、1分間電気融合させた。細胞は再懸濁し、96ウェル培養プレートで37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。7日間培養後、培地を新しい培地に交換した。ハイブリドーマ上清のスクリーニングは、新鮮な培地交換後2-3日目から開始した。
【0240】
[00270] 実施例3:結合スクリーニング、陽性ハイブリドーマクローンのサブクローニング、及び小規模抗体作製
[00271] 1. ELISAアッセイによる結合スクリーニング
[00272] 抗原結合スクリーニングのため、ハイブリドーマ上清を採取した。抗原ペプチドを塗布したプレートにハイブリドーマ上清を100μl/well添加し、4℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄液で3回洗浄した後、100μl/wellのヤギ抗mIgG-HRPを加え、4℃で再度インキュベートした。洗浄液で洗浄後、TMBを添加し、プレート上のHRPと反応させた。その後、マイクロプレートリーダーでプレートの OD490 nm を読み取った。ELISA結合陽性クローンを選択し、展開した。2日後、選択したクローンのハイブリドーマ上清の結合を同様に試験し、陽性クローンはサブクローニングに進めた。
【0241】
[00273] 2. 陽性ハイブリドーマクローンのサブクローニング
[00274] 所望の結合プロファイルを持つ陽性ハイブリドーマのウェルから細胞を選択し、96ウェルプレートで限定希釈を行った。希釈された細胞は7日間増殖させた。十分な細胞量に達した時点で、各ウェルから上清を採取し、上記と同じELISA結合アッセイを使用して再スクリーニングした。
【0242】
[00275] 各96ウェルプレートから、最も細胞結合活性の高いクローンを、1ウェルあたり200μlのハイブリドーマ増殖培地を含む96ウェルプレートに2次限定希釈で展開した。7日後、96ウェルプレートの細胞の上清を、同じELISA結合アッセイで分析した。サブクローニングは、90/96ウェル以上がポジティブな結合シグナルを示すまで2回以上行われた。各クローンの中で最も高い結合活性を有する2つのサブクローン(すなわち、69H2及び14G11)を同定し、精製抗体産生のために拡大し、培養した。アイソタイプは標準的な方法で決定した。
【0243】
[00276] 3.小規模抗体作製
[00277] ハイブリドーマ細胞を接種し、14日間培養した。ハイブリドーマ細胞培養液からプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(プロテインAハイパフォーマンス(バイオラッド社製))によりモノクローナル抗体(mAb)を精製した。
【0244】
[00278] クロマトグラフィー精製後、これらのmAbを透析によってPBSに配合し、次いで濾過のステップを経た。
【0245】
[00279] 実施例4:細胞ブロックの抗体免疫細胞化学スクリーニング
[00280] 1.細胞ブロック切片の作製
[00281] HEK293-ヒトCLDN18.2細胞(以下、HEK293-CLDN18.2)及びHEK293-ヒトCLDN18.1細胞(以下、HEK293-CLDN18.1)はMabSpace Biosciences (Suzhou) Co.Limited によって構築された。簡単に説明すると、HEK293細胞(上海生物科学研究所、Cat#GNhu43)にpcDNA3.1/hCLDN18.2又はpcDNA3.1/hCLDN18.1プラスミドをトランスフェクトし、G418で選択し安定発現細胞株HEK293-CLDN18.2又はHEK293-CLDN18.1を取得した。HEK293-CLDN18.1上のCLDN18.1の発現、及びHEK293-CLDN18.2上のCLDN18.2の発現をそれぞれ陽性対照抗体を用いてFACSにより試験、確認した。図1に示すように、HEK293-CLDN18.1細胞はCLDN18.1に結合する抗体EPR19203(Abcamから製品名ab222513で入手可能)に対して正の結合シグナルを示し、HEK293-CLDN18.2細胞はヒトCLDN18.2に特異的に結合する抗体18B10(PCT出願PCT/CN2019/101563 参照)に対して正の結合シグナルを示した.
[00282] ヒトCLDN18.2(HEK293-CLDN18.2)又はCLDN18.1(HEK293-CLDN18.1)の発現レベルが高いHEK293細胞及びHEK293細胞を採取し、4%中性緩衝パラホルムアルデヒド(PFA)で30分間室温で固定した。遠心分離後,細胞をPBSに再懸濁し,その後,57℃で200μlの溶融寒天に分散させ,直ちに4℃で固化させた。寒天-細胞ミックスを勾配アルコールで脱水し、キシレンで清澄化した。60℃でパラフィンワックスに浸漬した後、標準的な手順で寒天-細胞ミックスをパラフィンワックスに埋め込み、3μmの厚さで切片を作成し、直ちに正帯電スライドにマウントした。
【0246】
[00283] 2.細胞ブロック切片を用いた抗体の免疫細胞化学的スクリーニング
[00284] CLDN18.2特異的かつ高感度な抗体をスクリーニングするために、パラフィン包埋(FFPE)したHEK293、HEK293-CLDN18.2及びHEK293-CLDN18.1細胞ブロック切片を用いて免疫細胞化学(ICC)を実施した。脱パラフィン及び再水和後、すべての切片をEnVisionTM FLEX Target Retrieval Solution (Dako, K8002) で97-99℃、25分間煮沸して抗原賦活を行い、その後急冷し、EnVisionTM FLEX Peroxidase-Blocking Reagent (Dako, K8002) でブロッキングして適切に希釈した抗体でインキュベートした。抗体結合は、EnVisionTMFLEX+, Mouse (LINKER) で可視化し、EnVisionTM FLEX /hRP と EnVisionTM FLEX Substrate Working Solution (Dako, K8002)を使用した。切片は最後にヘマトキシリンで対比染色し、パーマネントマウントメディウムでマウントした。染色パターンに大きな違いは見られず、抗体間の染色強度は弱いものから強いものまで様々であった。
【0247】
[00285] 表3及び図2に示すように、抗体69H2及び14G11のクローンは、1nMでHEK293-CLDN18.2表面に強く特異的に染色されたが、HEK293及びHEK293-CLDN18.1には陰性であり、さらに感度を調べるために0.5nMに滴定された。69H2F7E6, 69H2D3B1, 69H2E1D3はいずれも抗体69H2のクローンで、69H2と重鎖、軽鎖の配列が共通であった。14G11G2D2, 14G11A4E1, 14G11F5E1は、いずれも抗体14G11のクローンであり、14G11と重鎖及び軽鎖の配列が共通であった。
【0248】
[00286] 対照として抗CLDN18.2抗体GC182の染色を用いたが、これはHEK293-CLDN18.2及びHEK293-CLDN18.1細胞の両方に陽性に染色された。抗体GC182は、配列番号22の重鎖可変領域配列と配列番号23の軽鎖可変領域配列を有し、WO2013167259に開示された配列に従ってMabspace Bioscience社により作製されたものである。表3の結果から、抗体GC182はCLDN18.1と交差反応する可能性があり、したがってCLDN18.2には特異的でないことが示された。
【0249】
[00287] GC182重鎖可変領域配列(配列番号22)
QIQLVQSGPELKKFGETVKISCKASGYTFTDYSIHWVKQAPGKGLKWMGWINTETGVPTYADDFKGRFAFSLETSASTAYLQINNLKNEDTATYFCARRTGFDYWGQGTTLTVSS
[00288] GC182軽鎖可変領域配列(配列番号23)
DIVMTQAAFSIPVTLGTSASISCRSSKNLLHSDGITYLYWYLQRPGQSPQLLIYRVSNLASGVPNRFSGSESGTDFTLRISRVEAEDVGVYYCVQVLELPFTFGGGTKLEIK
[00289] 表3 免疫細胞化学的染色による細胞ブロック切片の抗体スクリーニング
【0250】
【表4-1】
【0251】
【表4-2】
【0252】
[00290] 実施例5:クローニングと組換えによる厳選された抗体の作製
[00291] リコンビナント抗体の作製
[00292] マウス抗ヒトCLDN18.2抗体14G11及び69H2の軽鎖及び重鎖可変領域の配列は、候補ハイブリドーマ細胞株からポリメラーゼ鎖反応(PCR)増幅により取得した。塩基配列の解析と確認の後、マウスκ定常領域に融合した軽鎖可変領域(VL)の配列とマウスIgG1定常領域に融合した重鎖可変領域(VH)の配列を含む可変領域遺伝子を、抗体産生・精製用に組換え発現ベクターであるpcDNA3.1(+)にクローニングした。
【0253】
[00293] 14G11抗体及び69H2抗体の重鎖及び軽鎖は、以下に示すように、それぞれマウスIgG1重鎖定常領域及びカッパ軽鎖定常領域に連結した::
[00294] マウスIgG1重鎖定常領域(配列番号17):
AKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSQTVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTKPREEQINSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITNFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFVYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPGK
[00295] マウスKappa軽鎖定常領域(配列番号18)
RADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC
[00296] リコンビナント抗体の発現と精製
[00297] ExpiCHO細胞に、重鎖ベクターと軽鎖ベクターから等量のDNAをExpiCHOトランスフェクションキットを用いてトランスフェクションした。トランスフェクトされた細胞は、シェイクフラスコを用い、125rpm、37℃、8% CO2で培養された。10日目にCell Cultureを採取し、採取した抗体をアフィニティークロマトグラフィーで精製した。得られた抗体は、SDS-PAGEとサイズ排除クロマトグラフィー(TSK gel G3000SWXL、TOSOH)を用いて純度レベルを解析した。
【0254】
[00298] 実施例6:ELISA及びFACSアッセイによるhCLDN18.2とhCLDN18.1との結合選択性評価
[00299] ELISAによるhCLDN18.2ペプチド(aa28-37)との特異的な結合
[00300] 96ウェルプレートに1μg/mlのペプチド(100μL/ウェル)をコートし、ブロッキングバッファーでブロッキングした後、1μg/mlのペプチドを添加した。その後、ブロッキングバッファーで連続希釈した抗体(150から0.0732 ng/ml)を加え、室温で1.5時間インキュベートした。プレートを洗浄液で 6 回洗浄した後、100 μl/well の Goat pAb to Ms IgG(HRP) を添加し、室温で 1.5 時間インキュベートした。洗浄液で洗浄後、TMBを加え、プレート上のHRPと反応させた。その後、SpectraMax i3x (Molecular Devices) でプレートのOD450nm を読み取った。14G11G2D2 と69H2F7E6 は高い親和性でペプチドに特異的に結合し、GC182 は線状ペプチド中のエピトープを認識できないことがわかった(図3)。
【0255】
[00301] ELISA法によるリコンビナント抗Claduin18.2抗体とリコンビナントhCLDN18.2及びhCLDN18.1タンパク質の結合選択性解析
[00302] このアッセイには、ヒト・リコンビナント CLDN18.2(N-6His)バリアント(Novoprotein社よりカタログ番号 NC101で入手)及びヒト・リコンビナント CLDN18.1(N-8His)バリアント(Novoprotein社よりカタログ番号 CR54で入手)を使用した。ヒト組換えCLDN18.2(N-6His)バリアントは、ヒトCLDN18.2の細胞外ドメイン(残基Ala24-Ala81、配列番号26)を含む融合ポリペプチドであり、該細胞外ドメインは、ヒトCLDN18.2の細胞外ドメインがループを形成するように折り畳むか又は会合できる配列によって隣接されている。同様に、ヒト組換えCLDN18.1(N-8His)バリアントは、ヒトCLDN18.1の細胞外ドメイン(残基Asp28-Leu76、配列番号27)を含む融合ポリペプチドであり、該細胞外ドメインは、ヒトCLDN18.1の細胞外ドメインがループを形成するように折り畳むか又は会合できる配列によって隣接されている。
【0256】
[00303] 1μg/mlのヒト組換えCLDN18.2(N-6His)バリアント又はヒト組換えCLDN18.1(N-8His)バリアント(100μL/ウェル)を高結合の透明ポリスチレン96ウェルプレートにコートし、ブロッキング緩衝液でブロッキングした。ブロッキングバッファーで連続希釈した抗体(100~0.0244ng/ml)を添加し、室温で1.5時間インキュベートした。洗浄液(PBS+0.1%Tween)で6回洗浄し、100 μl/well のMs IgGに対するGoat pAb(HRP)を加え、室温で1.5時間インキュベーションした。洗浄液で洗浄後、TMBを加え、プレート上のHRPと反応させた。その後、SpectraMax i3x (Molecular Devices) でプレートの OD450nm を読み取った。14G11G2D2及び69H2F7E6は、いずれもヒトのリコンビナントCLDN18.2(N-6His)に高い親和性で結合でき、EC50はそれぞれ12.75ng/mlと13.87ng/mlであった(図4)。14G11G2D2及び69H2F7E6のいずれもヒト組換えCLDN18.1(N-8His)タンパク質に特異的な結合を示さなかった(図5)。対照として,GC182はヒト組換えCLDN18.2(N-6His)又はヒト組換えCLDN18.1(N-8His)に対して特異的結合を示さなかった(図4,5)このことは14G11G2D2と69H2F7E6はCLDN18.2の細胞外ドメイン内のエピトープに結合し,GC182はそのエピトープを認識していないことを示している.
[00304] HEK293-hCLDN18.2及びHEK293-hCLDN18.1細胞株に対するFACS解析
[00305] 対数期のHEK293-hCLDN18.2又はHEK293-hCLDN18.1細胞を回収、洗浄、再懸濁した。ブロッキングバッファーで希釈した抗体(20ug/mL)を加え、4℃、1時間インキュベートした。その後、細胞をブロッキングバッファーで2回洗浄し、ブロッキングバッファー中の2次抗体(Goat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488, ThermoFisher)を添加した。細胞を4℃で1時間インキュベートした後、ブロッキングバッファーで2回洗浄し、ブロッキングバッファーに再懸濁した。その後、細胞をFACSチューブに移し、フローサイトメトリー(BD Accuri C6)を用いて、細胞への抗体の結合を検出した。抗体18B10及びEPR19203は、それぞれHEK-hCLDN18.2細胞及びHEK- hCLDN18.1細胞での分析に陽性対照として使用した。図1に示すように、抗体14G11G2D2及び69H2F7E6のいずれも、細胞表面に発現したヒトClaudin18.2又はClaudin18.1を天然立体構造で結合することはできない。
【0257】
[00306] 実施例7:ForteBio社によるリコンビナントhCLDN18.2 タンパク質に対する抗 CLUDIN18.2の結合親和性の測定
[00307] 1×Kinetics Buffer((PBS+0.1%BSA+0.02% Tween20))中の100 nM ヒトリコンビナント CLDN18.2(N-6His) (Novoprotein, NC101) タンパク質をプレウェット Ni-NTA バイオセンサー (PALL, 18-5101) に200秒間ロードさせた。ベースラインとして1×Kinetics Bufferで平衡化した後(60秒間)、センサーを1×Kinetics Bufferで連続希釈した抗体(50nM , 25nM)にそれぞれ浸し、200秒間インキュベートして会合(kon)、その後1×Kinetics Bufferで200秒間解離(koff)させた。バイオセンサーを再生液で5秒間再生した後、中和液で5秒間中和する操作を3回繰り返した。すべての手順は、Octet RED 96 (PALL)を用いて30℃で行った。結合親和性KDはkoffとkonの比を用いて算出・解析した(図6)。69H2F7E6のKD値は1.48nMであり、14G11G2D2のKD値は0.213nMであった。
【0258】
[00308] 実施例8:正常組織を用いた抗体の特異性の検証
[00309] CLDN18.2は、CLDN18.1の発現が肺に限定されるのに対し、胃粘膜の短命な分化上皮細胞に発現が限定される、選択性の高い胃系抗原である。これに基づいて、選択された抗体は、CLDN18.2には結合するがCLDN18.1には結合しないことを確認するために、関連する様々な正常組織で分析した。免疫組織化学(IHC)は、4%中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)正常腸、腎臓、扁桃、甲状腺、骨格筋、胃、肺及び乳房の切片で行った。脱パラフィン及び再水和後、すべての切片をEnVisionTM FLEX Target Retrieval Solution (Dako, K8002) で97-99℃、25分間煮沸して抗原賦活を行い、その後急冷し、EnVisionTM FLEX Peroxidase-Blocking Reagent (Dako, K8002) でブロッキングして適切に希釈した抗体でインキュベートした。抗体結合は、EnVisionTMFLEX+, Mouse (LINKER) で可視化し、EnVisionTM FLEX /hRP と EnVisionTM FLEX Substrate Working Solution (Dako, K8002)を使用した。切片は最後にヘマトキシリンで対比染色し、パーマネントマウントメディウムでマウントした。
【0259】
[00310] クローン14G11G2D2と69H2F7E6を選択し、FFPE正常組織に対する特異性をさらに解析した。69H2F7E6と14G11G2D2は共に染色強度、パターン、選択性において良好な結果を示した。69H2F7E6と14G11G2D2はともにFFPE胃切片で強い染色強度を示したが、肺、腸、腎臓、骨格筋、扁桃、甲状腺、及び乳房切片では無視できる染色性を示した(表4、図7A及び7Bを参照)。染色された細胞はすべて上皮細胞であり、リンパ球、血管、線維芽細胞、平滑筋細胞など他の細胞種は染色されない。一方、抗CLDN18.2抗体GC182は、FFPE胃及び肺切片においてそれぞれ強い染色強度と中程度の染色強度を示し、CLDN18.2及びCLDN18.1両方に結合することが確認された。また、14G11G2D2は69H2F7E6よりも良好な結果を示し、さらなるIHC試験の候補として選択された。IHC染色の解析結果を表4、図7A及び図7Bに示した。
【0260】
[00311] さらに、選択した抗体の特異性と感度を、正常組織における既存の抗CLDN18.2抗体EPR19202(Abcam、ab222512)とも比較検討した。IHCは上記のように実施した。図8に示すように、0.374ug/mlの濃度の抗体EPR19202は、より低い濃度、すなわち0.15ug/mlの抗体14G11G2D2よりも胃組織上で弱い染色強度を示し、ERP19202は14G11G2D2よりも感度が低いことが示された。特に、抗体EPR19202は骨格筋に非特異的な染色を示したが(図8)、抗体14G11G2D2はCLDN18.2に対する特異性を保持し、CLDN18.2が存在しない正常組織とは交差反応を示さなかった。
【0261】
【表5-1】
【0262】
【表5-2】
【0263】
【表5-3】
【0264】
[00312] 実施例9:異なる腫瘍型の腫瘍組織サンプルを用いたCLDN18.2発現のIHCベース評価への同定抗体の応用
[00313] 日本人胃がん患者におけるCLDN18.2の発現率は、腫瘍サンプルの87%で検出可能であり、腫瘍サンプルの52%で中~強のCLDN18.2発現が認められたと報告されている(Rohde et al, Jpn J Clin Oncol.2019 Sep 1;49(9):870-876)。さらに、CLDN18.2の異常な異所性発現は、膵臓、卵巣、胆道及び肺腺がんを含む他のがん細胞でも報告されている(Sahin U et al. Clinical Cancer Research, 2008, 14(23): 7624-7634; Karanjawala ZE et al, Am J Surg Pathol. 2008 Feb;32(2):188-96; Micke P et al, Int J Cancer. 2014 Nov 1;135(9):2206-14; Keira Y et al, Virchows Arch. 2015 Mar;466(3):265-77)を参照。
【0265】
[00314] 14G11G2D2 は、染色強度、パターン、陽性度を確認するために、様々な関連するがん組織について追加で解析した。免疫組織化学(IHC)は、4%中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)胃がん、膵臓がん、胆管がん、非小細胞肺がん(NSCLC)の腫瘍切片で実施された。脱パラフィン及び再水和後、すべての切片をEnVisionTM FLEX Target Retrieval Solution (Dako, K8002) で97~99℃、25分間煮沸して抗原賦活を行い、その後クエンチし、EnVisionTM FLEX Peroxidase-Blocking Reagent (Dako, K8002) でブロックして、適切に希釈した14G11G2D2抗体とインキュベートした。抗体結合は、EnVisionTM FLEX+, Mouse (LINKER) で可視化し、EnVisionTM FLEX /hRP と EnVisionTMFLEX Substrate Working Solution (Dako, K8002)を使用した。切片は最後にヘマトキシリンで対比染色し、パーマネントマウントメディウムでマウントした。すべてのサンプルは、異なる強度の膜染色(陰性(-)、弱(+)、中(++)、強(++))を持つすべての可視腫瘍細胞に対する陽性染色腫瘍細胞の相対割合で解析された。膜染色のみを陽性とし、ヒト正常胃を各染色の陽性対照とした。胃がん、膵臓がん、胆管がん、NSCLCのがん組織では、それぞれ14G11G2D2によって弱から強の膜信号が生じ(図9参照)、陽性腫瘍細胞の割合は、異なる腫瘍型間で個々に異なる(胃がんは表5-1、膵臓がんは表5-2、胆管がんは表5-3、NSCLCがん組織では表5-4参照)。胃がん、膵臓がん、胆管がん、NSCLCの各組織におけるCLDN18.2発現陽性率及び有病率は、表6にまとめた。
【0266】
[00315] 表 5-1 14G11G2D2 マウスモノクローナル抗体を用いた胃がん組織における CLDN18.2 発現の解析
【0267】
【表6-1】
【0268】
【表6-2】
【0269】
[00316] 表5-2 組み換え型14G11G2D2マウスモノクローナル抗体を用いた膵臓がん組織におけるCLDN18.2発現の解析結果
【0270】
【表7-1】
【0271】
【表7-2】
【0272】
[00317] 表5-3 リコンビナント14G11G2D2マウスモノクローナル抗体を用いた胆管がんにおけるCLDN18.2発現の解析結果
【0273】
【表8-1】
【0274】
【表8-2】
【0275】
[00318] 表5-4 リコンビナント14G11G2D2マウスモノクローナル抗体を用いたNSCLCがん組織におけるCLDN18.2発現の解析結果
【0276】
【表9-1】
【0277】
【表9-2】
【0278】
[00319] 表6.異なるがん種におけるCLDN18.2発現の陽性率及び有病率解析
【0279】
【表10】
【0280】
[00320] 実施例10:ビオチン化14G11G2D2を用いた胃のCLDN18.2 IHC染色バリデーション
[00321] ビオチン化14G11G2D2(14G11G2D2-Biotin)を調製した。Biotinamidocaproate NHS ester (Sigma, B2643-10MG) を無水 DMF で 20 mg/mL に調製し、ストック液とした。1mgの14G11G2D2抗体に対して10μlのストック溶液を加え、室温で1時間穏やかに混合し、標識した。低分子量の反応生成物は、ZebaTMSpin Desalting Columns (ThermoFisher, 89890) でメーカーの指示に従い脱塩することにより除去した。
【0281】
[00322] 免疫組織化学(IHC)は、4%中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋胃サンプルのスライドで実施した。脱パラフィン後、EnVisionTMFLEX Target Retrieval Solution (Dako, K8002) で 97-99 ℃、25 分間煮沸して抗原賦活を行い、その後クエンチし、指示に従って IHC Biotin Block Kit (MaiXin, BLK-0001) でブロックし、3 ug/mL 自家製ビオチン化マウス抗claudin 18.2 (14G11G2D2-Biotin) 抗体と37℃で30分インキュベートした。抗体の結合は、西洋わさびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(MaiXin、SP KIT-D1)及びEnVisionTMFLEX Substrate Working Solution(Dako, K8002)で可視化された。切片は最後にヘマトキシリンで対比染色し、パーマネントマウントメディウムでマウントした。
【0282】
[00323] 図10に示すように、14G11G2D2-Biotinは、14G11G2D2と強度及び特異性に関して同一の染色パターンを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
【配列表】
2023527937000001.app
【国際調査報告】