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特表2023-527943石炭から低密度炭素繊維を製造するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-30
(54)【発明の名称】石炭から低密度炭素繊維を製造するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/15 20060101AFI20230623BHJP
   D04H 3/002 20120101ALI20230623BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230623BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20230623BHJP
【FI】
D01F9/15
D04H3/002
D04H3/16
C01B32/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517828
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 US2021035286
(87)【国際公開番号】W WO2021243338
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/031,725
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522466289
【氏名又は名称】ラマコ カーボン, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】RAMACO CARBON, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】ターゲット, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ヤーチック, クリストファー エル.
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
4L047
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC28
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037FA04
4L037FA17
4L037PA31
4L037PC05
4L037PF07
4L037PF23
4L037PP02
4L037PP08
4L037PS02
4L037UA01
4L047AA03
4L047AB03
4L047BA08
(57)【要約】
本明細書で開示する実施形態は、石炭を処理する方法に関するものである。石炭を処理する方法は、原料石炭を液化工程にかけてピッチ樹脂を形成し、該ピッチ樹脂を可変結晶度紡糸工程にかけて原料繊維を形成し、該原料繊維を炭化工程にかけて低熱伝導性炭素繊維を形成することを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料石炭を液化工程にかけてピッチ樹脂を形成することと、
該ピッチ樹脂を可変結晶化度紡糸工程にかけて原料繊維を形成することと、
該原料繊維を酸素安定化工程にかけることと、
安定化された繊維を炭化工程にかけて低熱伝導性炭素繊維を形成することと、
を含む、石炭を処理する方法。
【請求項2】
該可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、該ピッチ樹脂にブレンド添加剤を加えることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ブレンド添加剤が、等方性ピッチと、種々の程度の異方性ピッチと、熱可塑性ブレンド添加剤とのうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該熱可塑性ブレンド添加剤が、フェノール樹脂とリグニンとのうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該可変結晶化度紡糸工程がメルトブローン溶媒和紡糸システムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該原料繊維を発泡させて該炭素繊維内に空隙を生じさせることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、該ピッチ樹脂に酸素含有添加剤を加えることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該酸素含有添加剤が酸素含有ポリマー材料を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、該ピッチ樹脂にヘテロ原子を含む1つ以上の化合物を添加することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該ヘテロ原子を含む1つ以上の化合物が酸素又は窒素を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該低熱伝導性炭素繊維を処理して炭素繊維断熱材を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該低熱伝導性炭素繊維が、該酸素安定化工程の温度と共振時間によって決まる熱伝導率を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
該原料繊維を酸素安定化工程にかけることが、該酸素安定化工程中にガス又は蒸気を導入して該低熱伝導性炭素繊維の熱伝導率を決めることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
電圧源と、該電圧源と電気的に接続されている石炭由来の電気活性ポリマーとを備え、該石炭由来の電気活性ポリマーに電圧を印加したときに、該石炭由来の電気活性ポリマーに二酸化炭素を結合させるようにされた、直接空気捕捉システム。
【請求項15】
該石炭由来の電気活性ポリマーは、低熱伝導性炭素繊維を含む、請求項14に記載の直接空気捕捉システム。
【請求項16】
該石炭由来の電気活性ポリマーが、グラフェンと、酸化グラフェンと、グラフェンナノチューブと、グラフェンドットとのうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の直接空気捕捉システム。
【請求項17】
より大きな断熱特性を促進させる追加の空隙をもたらすようにされたグラフェンナノチューブをさらに含む、請求項14に記載の直接空気捕捉システム。
【請求項18】
該石炭由来の電気活性ポリマーが、
原料石炭を液化工程にかけてアントラセンを形成することと、
該アントラセンを酸化してアントラキノンを形成することと、
該アントラキノンを塩素処理してジクロロアントラキノンを形成することと、
該ジクロロアントラキノンを重合して石炭由来の電気活性ポリマーを生成することと、
を含むプロセスによって石炭から得られる、請求項14に記載の直接空気捕捉システム。
【請求項19】
該アントラキノンが塩酸で塩素処理される、請求項14に記載の直接空気捕捉システム。
【請求項20】
電気活性ポリマーを、二酸化炭素を含むガス流に入れることと、
該電気活性ポリマーに電圧を印加して該二酸化炭素を該電気活性ポリマーに結合することと、
該電気活性ポリマーに印加された電圧の極性を反転させて、該二酸化炭素を放出させることと、
を含む、二酸化炭素を捕捉する方法。
【請求項21】
該電気活性ポリマーが、カーボンナノチューブと、グラフェンと、酸化グラフェンと、グラフェンドットと、該電気活性ポリマーの導電性を高めるように構成されたこれらの組み合わせとのうちの少なくとも1つを含むことができる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
二酸化炭素を収集することと、該二酸化炭素を合成ガスと、炭化水素材料と、高密度化液体とのうちの少なくとも1つに変えることと、を更に含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年5月29日に出願された「石炭から低密度炭素繊維を製造するためのシステム及び方法(SYSTEMS AND METHODS FOR MANUFACTURING LOW-DENSITY CARBON FIBER FROM COAL)」と題する米国仮特許出願第63/031,725号に基づく出願であり、その優先権を主張し、この仮特許出願の開示内容は参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載された実施形態は、概括的には、炭素製品及び炭素系材料の処理方法に関する。より詳細には、これら実施形態は、低密度炭素繊維、並びに石炭から低密度炭素繊維を製造するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
繊維材料は、商業航空、レクリエーション、工業、及び輸送産業などの広範な産業において多くの様々な用途に使用されている。炭素繊維は、高強度、高弾性率、高導電性などの優れた特性により、様々な複合材料に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱処理による有機繊維の炭化によって製造できる従来の炭素繊維(例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、又はセルロース系炭素繊維)等の、従来から知られている方法を用いて製造された炭素繊維は、低い電気伝導率を示し、また開発コストがかかる。そのため、炭素繊維の製造者及び使用者は、炭素繊維を製造する新規で改良された方法を求め続けている。本明細書に記載される多くのシステム及び方法は、従来の高コストで低収量のPAN系又はセルロース系の断熱性繊維よりも有利な、低コストで高収量の石炭系ピッチ前駆体を使用することができる。本明細書に記載のシステム及び方法はまた、現在ある炭素繊維に比較してコストを大幅に低減する低コストのピッチ系炭素繊維であって、全ての有用な用途に用いられることを可能とする炭素繊維を提供することができる。例えば、本システム及び方法は、ガラス繊維断熱材の代替として、建築環境におけるエネルギー効率を向上させるための手頃な価格の炭素繊維断熱材を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する実施形態は、石炭から低密度炭素繊維を製造するための方法に関するものである。本明細書における実施形態はまた、石炭由来の電気活性ポリマーを含む直接空気捕捉システム、及びガス流から二酸化炭素(CO)を捕捉する方法に関するものである。本明細書に開示される方法は、連続的なプロセスを含んでもよい。一例として、本明細書に開示される方法は、ガス流からCOを捕捉するための石炭由来の電気活性ポリマーを含む直接空気捕捉システムを含むことができる。
【0006】
いくつかの実施形態では、石炭を処理する方法は、原料石炭を液化工程にかけてピッチ樹脂を形成することと、該ピッチ樹脂を可変結晶化度(variable crystallinity)紡糸工程にかけて原料繊維を形成することと、該原料繊維を酸素安定化工程にかけることと、安定化された繊維を炭化工程にかけて低熱伝導性炭素繊維を形成することと、を含むことができる。いくつかの実施形態では、この石炭を処理する方法は、可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、ピッチ樹脂にブレンド添加剤を添加することをさらに含んでもよい。ブレンド添加剤は、等方性ピッチと、程度の異なる異方性ピッチと、熱可塑性ブレンド添加剤とのうちの1つ以上を含むことができる。いくつかの実施形態では、熱可塑性ブレンド添加剤は、フェノール樹脂とリグニンとのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態において、可変結晶化度紡糸工程は、メルトブローン溶媒和紡糸システム(melt blown solvated-spinning system)を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、当該石炭を処理する方法は、原料繊維を発泡させて炭素繊維内に空隙(ボイド)を生じさせることを含むことができる。実施形態において、当該石炭を処理する方法は、可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、ピッチ樹脂に酸素含有添加剤を添加することを含むことができる。酸素含有添加剤は、酸素含有ポリマー材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、当該石炭を処理する方法は、可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、ヘテロ原子を含む1つ以上の化合物をピッチ樹脂に添加することを含むことができる。ヘテロ原子を含む1つ又は複数の化合物は、酸素又は窒素を含む。当該石炭を処理する方法は、いくつかの実施形態において、低熱伝導性炭素繊維を処理して炭素繊維断熱材を生成することも含むことができる。いくつかの実施形態において、低熱伝導性炭素繊維は、酸素安定化処理の温度と共振時間(resonance time)によって決まる熱伝導率を有することができる。いくつかの実施形態では、原料繊維を酸素安定化工程にかけることが、酸素安定化処理中にガス又は蒸気を導入して低熱伝導性炭素繊維の熱伝達率を決めることを含む。
【0008】
一実施形態においては、直接空気捕捉システム(direct air capture system)が開示される。直接空気捕捉システムは、電圧源と、電圧源と電気的に接続されている石炭由来の電気活性ポリマーとを備えることができる。この直接空気捕捉システムは、石炭由来の電気活性ポリマーに電圧を印加したときに、石炭由来の電気活性ポリマーに二酸化炭素を結合させるようにすることができる。いくつかの実施形態では、石炭由来の電気活性ポリマーは、低熱伝導性炭素繊維を含む。この石炭由来の電気活性ポリマーは、グラフェンと、酸化グラフェンと、グラフェンナノチューブと、グラフェンドットとのうちの少なくとも1つを含むことができる。いくつかの実施形態では、直接空気捕捉システムは、より大きな断熱特性を促進させるために追加の空隙をもたらすようにされたグラフェンナノチューブを含むことができる。いくつかの実施形態において、石炭由来の電気活性ポリマーは、所定のプロセスによって石炭から得られる。この所定のプロセスは、原料石炭を液化工程にかけてアントラセンを形成することと、アントラセンを酸化してアントラキノンを形成することと、アントラキノンを塩素処理してジクロロアントラキノンを形成することと、ジクロロアントラキノンを重合して石炭由来の電気活性ポリマーを生成することと、を含み得る。いくつかの実施形態において、アントラキノンは、塩酸で塩素処理されるようにできる。
【0009】
いくつかの実施形態において、二酸化炭素を捕捉する方法が開示される。二酸化炭素を捕捉する方法は、電気活性ポリマーをガス流に入れることと、電気活性ポリマーに電圧を印加して二酸化炭素を電気活性ポリマーに結合することと、電気活性ポリマーに印加された電圧の極性を反転させて二酸化炭素を放出させることと、を含むことができる。ガス流は、ある量の二酸化炭素を含むことができる。いくつかの実施形態では、電気活性ポリマーは、カーボンナノチューブと、グラフェンと、酸化グラフェンと、グラフェンドットと、それらの組み合わせとのうちの少なくとも1つを含むことができる。この電気活性ポリマーは、当該電気活性ポリマーの導電性を増加させるように構成され得る。いくつかの実施形態では、二酸化炭素を捕捉する方法は、二酸化炭素を収集することと、二酸化炭素を合成ガスと、炭化水素材料と、高密度化液体とのうちの少なくとも1つに変えることと、を更に含むことができる。
【0010】
開示されるいずれの実施形態からの特徴も、限定されることなく、互いに組み合わせて使用することができる。加えて、本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付図面の検討を通して、当業者にとって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面は、本開示のいくつかの実施形態を示し、同一の符号は、図面に示される異なる視点又は実施形態における同一又は類似の要素又は特徴を示すものである。
【0012】
図1】一実施形態による、低密度炭素繊維を形成する方法のフローチャートである。
【0013】
図2】一実施形態による、二酸化炭素を捕捉する方法のフローチャートである。
【0014】
図3】一実施形態による、図2に例示された方法を実行し得る直接空気捕捉システムの概略図である。
【0015】
図4】一実施形態による、石炭から電気活性ポリマーを得る方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書は、本発明の実施形態の例を提示するものであり、特許請求の範囲に規定される範囲、用途、又は構成を限定するものでない。したがって、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、開示した要素の機能及び配置に変更を加えることができ、様々な実施形態では、手順又は構成要素を適宜省略、代替、又は追加することができる。例えば、説明した方法は、説明した順序とは異なる順序で実行することができ、様々な手順を追加、省略、又は組み合わせることができる。また、いくつかの実施形態に関して説明した特徴は、他の実施形態に組み合わせることができる。
【0017】
石炭から作られたピッチを処理するためのシステム及び方法、並びにそれらシステム及び方法によって形成又は製造される製品が提供される。本明細書に記載されるシステム及び方法は、低コストの低熱伝導性炭素繊維製品の製造を促す。例えば、本開示に従って製造される多くの炭素繊維製品は、類似の材料から製造される従来の炭素繊維製品よりも低い密度を有する。低密度の炭素繊維製品は、熱を保持し、熱伝達を低減するため、炭素繊維製品に、従来の炭素繊維と比較して熱伝導率を低下させる特性を付与する。本明細書に記載されるシステム及び方法の多くに従って製造される低熱伝導性炭素繊維製品は、当業者にとって予想外のものである。本明細書に記載のシステム及び方法の多くの実施形態は、石炭系ピッチ中間生成物の、低熱伝導率を有する高炭素含有ピッチ繊維製品などの有用な生成物への変換を向上する。これらの製品は、断熱材及び/又は低密度炭素繊維として好適であり得る。特に、本技術は、炭素化繊維の密度(比重)及び/又は熱伝導率の少なくとも1つの炭素繊維の物理的特性を調整するために、特別に設計されたシステム及び1つ又は複数のブレンド添加剤を利用する。
【0018】
図1は、実施形態による、低熱伝導性炭素繊維断熱材を製造するための方法100のフローチャートである。例えば、方法100は、原料石炭を、ピッチ樹脂を形成するのに有効な液化工程にかける工程102を含む。石炭の液化は、石炭が液体に変換されるプロセスである。この工程を行うために使用されるいくつかのプロセスがあり、最も一般的な2つのプロセスは、間接ルートと直接ルートである。いくつかの実施形態では、間接ルートは次の2つのステップで構成されている。まず、石炭を水蒸気と酸素でガス化して合成ガス(シンガス)を生成し、これを洗浄してダスト、タール、及び酸性ガスを除去する。次のステップでは、フィッシャー・トロプシュ法により、この合成ガスを触媒と反応させて、合成ガスをさまざまな炭化水素に変換する。例えば、炭化水素にはピッチ樹脂が含まれ得る。直接ルートでは、石炭を粉砕して触媒と反応させた後、溶媒の存在下での高温高圧下で水素を添加し、ピッチ樹脂などの炭化水素を生成する。
【0019】
実施形態において、ピッチ樹脂は、その後、工程104において原料繊維を形成するのに有効な可変結晶化度紡糸工程にかけられる。多くの実施形態において、本システム及び方法は、炭素繊維に関係する高密度化された結晶性グラファイト構造を破壊するための2つの工程のうちの少なくとも1つを含む。高密度化された結晶性グラファイト構造を破壊するための2つの工程は、可変結晶化度紡糸工程における紡糸条件を物理的に変更すること、及び1つ以上のブレンド添加剤を用いてピッチ組成を化学的に変えることを含むことができる。紡糸条件は、低結晶性紡糸工程において、液晶形成を崩壊させることをより促進するように物理的に変えることができる。いくつかの実施形態では、紡糸条件は、乱流紡糸口金設計、生紡糸繊維(green spun fiber)の低い延伸比、純樹脂溶融紡糸に対するメルトブローン溶媒和紡糸システム、紡糸口金毛細管チャネルにおけるフローインバータ又はフリットフロー再分配器の使用、発泡による紡糸繊維中の空隙(ナノサイズの気泡など)の生成、及び/又は1以上の横断面穴を有する中空繊維形成のための専用紡糸口の使用、又はこれらの組合せのうちの1又は2以上によって物理的に変えることが可能である。
【0020】
いくつかの実施形態では、可変結晶化度紡糸工程は、メルトブローン溶媒和紡糸システムを含むことができる。
【0021】
方法100はまた、工程106を含むことができる。工程106は、原料繊維を酸素安定化工程にかけることを含む。いくつかの実施形態では、原料繊維は、空気(酸素)、及び場合によっては追加のガス又は蒸気が導入されて繊維の線形原子結合(linear atomic bonding)をより熱的に安定な形態に変える安定化工程を受けることができる。原料炭素繊維は、後述する工程108でのプロセス全体の焼成ステップの前に、安定化させなければならない。この安定化により、焼成ステップ中に炭素繊維内の分子が緩和して不整列になるのを防ぐことができる。安定化は、分子の完全性を維持し、繊維が最終処理ステップを通してその固体形態に留まることを可能にする。
【0022】
いくつかの実施形態において、繊維の安定化は、200~300℃の温度で行うことができ、30~120分の共振時間を含む。この共振時間の間、繊維は、およそ21%の酸素を含む空気の雰囲気に曝されることができる。繊維のピッチ内で起こる反応を変化させるために、安定化雰囲気に追加のガス又は蒸気を加えることができる。安定化を含む工程106の間、繊維は、ピッチとの分子の緩和及び不整列を防ぐために、張力下で維持することができる。ピッチ系炭素繊維は、典型的には、工程106の間、ピッチ内にエステル及び無水物化合物を形成することができる。ピッチ系繊維はまた、工程106の間、芳香族含有量の損失を受けることができる。
【0023】
方法100はまた、工程108を含んでもよい。工程108において、安定化された繊維は、低熱伝導性炭素繊維を形成するのに有効な炭化工程にかけられる。いくつかの実施形態において、炭化は、安定化繊維が加熱され、揮発性生成物(液体及び気体)が追い出されて、固体の低熱伝導性炭素繊維が残されるプロセスである。
【0024】
いくつかの実施形態では、工程110に示すように、可変結晶化度紡糸工程の前又は間に、1つ以上のブレンド添加剤をピッチ樹脂に添加することができる。このピッチ組成物はまた、液晶形成を乱すことをより助長するように、1つ以上のブレンド添加剤で化学的に変化させることができる。1つ又は複数のブレンド添加剤を含む結果、従来形成されていた炭素繊維よりも低い密度を有する炭素繊維を得ることができる。この得られる炭素繊維は、より低い熱伝導率など、レーヨン炭素繊維の特性により類似した、又はより優れた特性を含むことができる。いくつかの実施形態において、このピッチ組成物は、高ディスコティック(discotic)液晶含有メソフェーズピッチの代わりに、ブレンド添加剤(又はニート(neat))として、等方性ピッチ及び/又は0%~80%の間の異方性の程度を有する異方性ピッチを利用することによって変化させることが可能である。いくつかの実施形態では、ブレンド添加剤は、様々な程度の異方性ピッチの1つ以上を含むことができる。ピッチは、1つ又は複数の熱処理の使用により異方性にすることができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、工程112に示すように、ピッチ組成物は、酸素含有ポリマー材料などの酸素含有添加剤を利用することによって変化させることができる。酸素含有添加剤は、可変結晶化度紡糸工程の前又は間にピッチ樹脂に添加することができる。いくつかの実施形態では、工程114に示すように、ピッチ組成物は、酸素又は窒素などのヘテロ原子を含む1つ以上の化合物を利用することによって変化させることができる。ヘテロ原子を含む1つ以上の化合物は、可変結晶化度紡糸工程の前又は間にピッチ樹脂に添加することができる。いくつかの実施形態において、ピッチ組成物は、酸素又は窒素などのヘテロ原子を含み得る1つ以上の熱可塑性ブレンド添加剤(例えば、フェノール樹脂、リグニンなど)を利用することによって変化させることができる。繊維を紡ぐ間にヘテロ原子(酸素など)を含む材料をピッチに混合すると、繊維の密度を低くすることができる。窒素又は酸素などのヘテロ原子を含む1つ以上の熱可塑性ブレンド添加剤の例としては、ポリフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、リグニン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリDLラクチド、ポリメチルメタクリレート、又はそれらの組合せが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。いくつかの実施形態では、ヘテロ原子含有添加剤の1つ以上は、石炭に由来し得る。以下に、繊維の結晶化度に影響を与えるためにピッチ樹脂に添加することができるブレンド添加剤のいくつかの例を示す。
ポリフェノール・ホルムアルデヒド樹脂

リグニン

ポリエチレンオキシド(PEO)

ポリビニルアルコール

ポリDLラクチド(PLA)
【0026】
上述した炭素繊維に関連する高密度の結晶性グラファイト構造を破壊するための物理的及び化学的プロセスは、ピッチ系炭素繊維を、セルロース系(レーヨン)炭素繊維に関連する微細構造特性及び結果として生じる密度及び断熱特性に近づくように変化させることが可能である。以下の表1及び表2は、PAN系、ピッチ系、及びレーヨン系炭素繊維の特性の比較を示すものである。

【0027】
いくつかの実施形態では、方法100はまた、工程116を含むことができる。工程116において、低熱伝導性炭素繊維は、炭素繊維断熱材を生成するために処理され得る。炭素繊維断熱材は、パネル、ボード、ロール、発泡体、フェルトなどのいくつかの形態を含むことができる。いくつかの実施形態において、方法100はまた、工程118を含むことができる。工程118は、原料繊維を発泡させることを含むことができ、これは炭素繊維内に空隙を作るのに有効である。いくつかの実施形態において、発泡させることは、炭素繊維をより低密度にして断熱特性を向上させることができる。
【0028】
本明細書に記載の1つ以上の方法及びシステムに従って形成された低密度炭素繊維は、直接空気捕捉(DAC)システム、例えば熱電DAC、又は石炭由来の電気活性ポリマー(EAP)を用いたDACなどで利用することができる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素(CO)を捕捉する方法200のフローチャートである。いくつかの実施形態では、方法200は、電気活性ポリマーをガス流に入れる工程202を含むことができる。ガス流は、二酸化炭素を含むことができる。いくつかの実施形態では、ガス流は、供給ガス流又は排気ガス流を含むことができる。方法200は、二酸化炭素が電気活性ポリマーに結合するように、電気活性ポリマーに電圧を印加する工程204をさらに含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、石炭由来のEAPはケトン官能性を保持することができ、これは、電圧がそこに印加されたときにEAPへの二酸化炭素の結合を促進する。方法200の工程206において、一旦EAP結合部位が結合した又は吸着した二酸化炭素で飽和したときに電圧の極性を反転させることができ、その結果、結合した二酸化炭素が脱結合する、すなわちEAPから多量に放出されるようにすることができる。EAPからなる電池などのシステムでは極性を反転させることができるため、システム内の陽極と陰極のために別々の材料は必要ない。これらの特性により、比較的低濃度の二酸化炭素(例えば、空気中の415ppm)を有する供給ガスを使用することができ、供給ガスをEAP上に複数回通過させることにより、結合する二酸化炭素の量を増加させることが可能である。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンドット、又はそれらの組み合わせ、及び/又は他の石炭由来の導電性炭素材料も、EAPを含む要素の導電性を高めるためにシステムに添加され得る。方法200は、工程208をさらに含むことができる。工程208において、二酸化炭素は収集されて、合成ガスと、炭化水素材料と、高密度化液体とのうちの少なくとも1つに変えられ得る。
【0031】
図3は、一実施形態にかかる、図2に例示された方法を実行し得る直接空気捕捉システムの概略図である。したがって、本明細書では、低密度炭素繊維を有するDACシステム300も開示され、これは、上述したシステム及び方法のいずれかによるEAP302を含むことができる。いくつかの実施形態では、石炭由来のEAP302を使用するDACシステム300は、低密度炭素繊維を含まず、追加的又は代替的に、石炭由来のグラフェン又は酸化グラフェンなどの他の石炭由来の材料を含むようにすることができる。DACシステム300は、電圧源304を含む。一例では、電圧源304は、発電機、電池、又はセルを含むことができる。いくつかの実施形態では、電圧源304は、直流電圧源又は交流電圧源を含むことができる。電圧源304は、電圧制御電圧源又は電流制御電圧源を含むことができる。DACシステム300は、ガス流306からの二酸化炭素を結合するように構成される。電圧が石炭由来のEAP302に印加されると、二酸化炭素が石炭由来のEAP302に結合する。EAPの結合部位が結合又は吸着した二酸化炭素で飽和すると、二酸化炭素が放出される。電圧の極性を逆にして、結合した二酸化炭素をEAP302及び/又はDACシステム300から放出させることができる。上述したように、電池では極性を反転させることができ、そのため、システム300では、陽極と陰極に別々の材料は必要ない。DACシステム300は、ガス流306よりも低い濃度のCOを有するガス流308を生成するように構成される。いくつかの実施形態では、ガス流308はCOを含まない。
【0032】
一実施形態では、石炭由来EAP302は、低熱伝導性炭素繊維を含む。いくつかの実施形態では、石炭由来EAPは、グラフェンと、酸化グラフェンと、グラフェンナノチューブと、カーボンナノチューブと、グラフェンドットとのうちの少なくとも1つを含むことができる。DACシステム300は、追加の空隙をもたらしてより大きな断熱特性を促進するように構成されたグラフェンナノチューブを含むことができる。
【0033】
熱電DACシステム又は石炭由来のEAPを用いたDACシステムは、様々な場面で使用することができる。例えば、熱電DACシステム又は石炭由来のEAPを用いたDACシステムは、新しい建物又は構造物の建設中に二酸化炭素の悪影響に対抗するために使用され得る。熱電DACシステム又は石炭由来EAPを用いたDACシステムを含むパネル状構造物を建築物に加えて、建築物の建設中及び建設後の二酸化炭素を捕捉するようにすることができる。その建物は、熱電DACシステム又は石炭由来EAPを用いたDACシステムにおいて、二酸化炭素を捕集するようにすることができる。建物に組み込まれた熱電DACシステム又は石炭由来のEAPを使用するDACシステムにおいて捕捉された二酸化炭素は、炭化水素材料又は二酸化炭素を合成ガス及び高密度化液体に変換する逆水性ガスシフトなど、多数の材料において利用し得る。
【0034】
図4は、一実施形態による、石炭から電気活性ポリマー(EAP)を生成する方法400のフローチャートである。石炭由来のEAPは、アントラセンから形成し得る。いくつかの実施形態では、方法400は、石炭がアントラセン及び/又は他の多環芳香族炭化水素(PAH)を生成するのに有効な液化を受けることができる工程402を含むことができる。方法400はさらに、石炭由来のアントラセンを次に効果的に酸化して、アントラキノン又は同様の生成物を形成する工程404を含むことができる。アントラキノンは、次に工程406において、ジクロロアントラキノンを形成するのに有効な、例えば、塩酸を用いて塩素処理され得る。ジクロロアントラキノンは、次に工程408において重合されてEAPを形成する。
【0035】
いくつかの実施形態では、石炭由来のEAPは、溶媒和メルトブローン工程から得られるようにすることができる。図5は、本発明の一実施形態による溶媒和メルトブローン工程500の説明図である。溶媒和メルトブローン工程は、活性材料の表面積を増加させて二酸化炭素分子を隔離する小径繊維の炭素繊維ウェブを生成する。溶媒和された炭素材料は、近接して流れる高速一次空気流を伴うダイヘッド502とダイ504とを通して供給することにより繊維にされる。繊維が形成室に入ると、繊維は(例えば、エアナイフによって)切断され、炭素材料を固化させる冷却空気流、すなわち二次空気流にさらされる。その後、炭素繊維及び炭素繊維の断片は、収集ローラ506上に蓄積され、材料の連続ウェブ508が形成される。
【0036】
本明細書において、用語「約」又は「実質的に」は、「約」又は「実質的に」によって修正された用語の±10%又は±5%の許容範囲を意味する。さらに、用語「未満」、「より少ない」、「超える」、「より多い」は、それら用語により修正される端点としての値を含む。
【0037】
本明細書では、本発明の様々な側面及び実施形態が開示されてきたが、他の側面及び実施形態も企図されている。以上では説明のために、実施形態の十分な理解を提供するために、特定の用語を使用した。しかし、説明された実施形態を実施するために、それら特定の用語に限られる必要がないことは、当業者には明らかであろう。すなわち、本明細書に記載された特定の実施形態の説明は、例示及び説明の目的で提示される。それらは、実施の形態を開示された形態にそのまま限定するものではない。当業者であれば、上記の教示に鑑みて、多くの修正及び変形が可能であることは明らかであろう。
【0038】
開示されたいずれの実施形態の特徴も、限定されることなく、互いに組み合わせて使用することができる。加えて、本開示の他の特徴及び利点は、詳細な説明及び添付図面の検討を通じて、当業者には明らかになるであろう。様々な発明が、特定の具体的な実施形態及び例を参照して本明細書に記載されてきた。しかしながら、以下の特許請求の範囲に記載された発明が、発明の精神を逸脱することなく、開示された発明の全ての変形及び修正をカバーすることを意図している点で、多くの変形が本明細書に開示された発明の範囲及び精神から逸脱せずに可能であることが当業者によって認識されるであろう。本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む」及び「有する」という用語は、包括的意味での「備える」という用語と同じ意味を有するものとする。
【0039】
程度の用語(例えば、「約」、「実質的に」、「一般的に」等)は、構造的又は機能的に重要でない変動を示す。一例として、量を示す用語に程度の用語が含まれる場合、程度の用語は、量を示す用語の±10%、±5%、又は+2%を意味すると解釈される。一例として、程度の用語が形状を修飾するのに用いられる場合、程度の用語は、程度の用語によって修正される形状が開示される形状の見かけを有することを示す。例えば、程度の用語は、形状が、鋭い角の代わりに丸みを帯びた角を有すること、真っ直ぐな縁の代わりに湾曲した縁を有すること、そこから延びる1つ又は複数の突起を有すること、長方形であること、開示された形状と同じであること、等を示すために使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】