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特表2023-527976N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類によるシリコン系薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類によるシリコン系薄膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20230626BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20230626BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230626BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20230626BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C23C16/42
C23C16/24
C23C16/455
H01L21/318 B
H01L21/318 C
H01L21/31 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572442
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 US2021034322
(87)【国際公開番号】W WO2021242902
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】63/030,684
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】アラン イー カロイエロス
(72)【発明者】
【氏名】バリー シー アークルズ
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA29
4K030BA40
4K030BA41
4K030BA44
4K030FA01
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA10
5F045AA08
5F045AB33
5F045AC07
5F045AC11
5F045AC12
5F045AD06
5F045EE19
5F045EH18
5F045HA06
5F058BE01
5F058BF07
5F058BF22
5F058BF29
5F058BF30
5F058BF37
(57)【要約】
低中温気相成長処理が、窒化シリコン膜、炭窒化シリコン膜、酸化シリコン膜及びシリコン膜などのシリコン系薄膜の堆積のために提供される。処理は、1サイクルにおいて、基板を所定の温度に加熱するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体を、基板を含む反応領域に提供するステップと、基板表面への吸着によって前駆体の単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を共反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を含む。吸着された前駆体の単層膜は、ソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介してシリコン系薄膜の離散原子又は分子層への変換を受ける。そして、所望の厚さのシリコン系薄膜を形成するようにサイクルが反復される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積チャンバの反応領域内の基板上に窒化シリコン薄膜を堆積する方法であって、1サイクルにおいて、
基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、
前記基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、
蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で前記基板を含む前記反応領域に提供するステップと、
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、
前記反応領域内の前記基板上の前記吸着された単層膜を窒素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、
を備え、
前記吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜は、前記ソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、
前記変換の副生成物は、不活性ガス及び/又は前記真空によるパージステップを介して前記反応領域から除去される、方法。
【請求項2】
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの前記単層膜を形成するステップの後に、不活性ガス及び/又は前記真空による第2のパージステップを介して未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物を前記反応領域から除去するステップをさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板の温度は、約200℃~約350℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンは、1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素含有反応物は、NH、N、N及びHの混合物、メチルアミン並びに/又はヒドラジンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1サイクルは、所定の厚さの薄膜が実現されるまで反復される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板表面誘起処理は、エネルギー伝達、遠隔プラズマ印加、直接プラズマ印加、酸化及び/又は還元である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
堆積チャンバの反応領域内の基板上に酸化シリコン薄膜を堆積する方法であって、1サイクルにおいて、
基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、
前記基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、
蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で前記基板を含む前記反応領域に提供するステップと、
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、
前記反応領域内の前記基板上の前記吸着された単層膜を酸素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、
を備え、
前記吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜は、前記ソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して酸化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、
前記変換の副生成物は、パージステップを介して不活性ガスによって及び/又は前記真空によって前記反応領域から除去される、方法。
【請求項9】
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの前記単層膜を形成するステップの後に、不活性ガス及び/又は前記真空による第2のパージステップを介して未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物を前記反応領域から除去するステップをさらに備える請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板の温度は、約200℃~約350℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンは、1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記酸素含有反応物は、オゾン、水及び/又はOプラズマである、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記1サイクルは、所定の厚さの薄膜が実現されるまで反復される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記基板表面誘起処理は、エネルギー伝達、遠隔プラズマ印加、直接プラズマ印加、酸化及び/又は還元である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
堆積チャンバの反応領域内の基板上に炭窒化シリコン薄膜を堆積する方法であって、1サイクルにおいて、
基板を室温~約200℃の温度に加熱するステップと、
前記基板を室温~約200℃に維持するステップと、
蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で前記基板を含む前記反応領域に提供するステップと、
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、
前記反応領域内の前記基板上の前記吸着された単層膜を窒素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、
を備え、
前記吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜は、前記ソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して炭窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、
前記変換の副生成物は、パージステップを介して不活性ガスによって及び/又は前記真空によって前記反応領域から除去される、方法。
【請求項16】
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの前記単層膜を形成するステップの後に、不活性ガス及び/又は前記真空による第2のパージステップを介して未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物を前記反応領域から除去するステップをさらに備える請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンは、1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記窒素含有反応物は、NH、N、N及びHの混合物、メチルアミン並びに/又はヒドラジンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記1サイクルは、所定の厚さの薄膜が実現されるまで反復される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記基板表面誘起処理は、エネルギー伝達、遠隔プラズマ印加、直接プラズマ印加、酸化及び/又は還元である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
堆積チャンバの反応領域内の基板上にシリコン薄膜を堆積する方法であって、1サイクルにおいて、
基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、
前記基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、
蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で前記基板を含む前記反応領域に提供するステップと、
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、
前記反応領域内の前記基板上の前記吸着された単層膜を水素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、
を備え、
前記吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜は、前記ソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介してシリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、
前記変換の副生成物は、パージステップを介して不活性ガスによって及び/又は前記真空によって前記反応領域から除去される、方法。
【請求項22】
前記基板の表面への吸着によって前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの前記単層膜を形成するステップの後に、不活性ガス及び/又は前記真空による第2のパージステップを介して未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物を前記反応領域から除去するステップをさらに備える請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記基板の温度は、約200℃~約350℃である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンは、1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記1サイクルは、所定の厚さの薄膜が実現されるまで反復される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記基板表面誘起処理は、エネルギー伝達、遠隔プラズマ印加、直接プラズマ印加、酸化及び/又は還元である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は2020年5月27日出願の米国仮特許出願第63/030684号の優先権を主張し、その開示は参照によりここに取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
窒化シリコン(SiN)及び酸化シリコン(SiO)などのSi系薄膜に対する研究、開発及び製造への関心は、進化し続ける集積回路(IC)及び太陽電池産業におけるその歴史的な適用性拡大のニーズだけでなく、多数の新たな用途でのその潜在的な使用によっても空前の激しさで高まっている。その新たな用途は、例えば、フォトルミネッセンス用途のためのSiナノ結晶(Si-NC)及び量子ドット(QD)のホストマトリクス、電気通信のためのセンサ及びフォトニック素子のための非線形周波数コムにおける導波路、Si系モノリシック光電子集積化におけるSi系発光ダイオード(LED)のための調整可能な発光膜、化合物半導体デバイスのためのガリウム砒素(GaAs)との界面における不動態化/カプセル化ナノ構造体、並びに生化学及び医療用途の生体材料との集積のためのベースプラットフォームを含む。
【0003】
Si系薄膜の大きな魅力は、その物理的、化学的、機械的、電気的及び光電子的な特性の非常に有望な組合せによって惹き立てられ、それにより、Si系薄膜は多種多様な産業にわたって最も一般的に使用される材料の1つとなっている。これらの産業の多くは、熱的及び/又は化学的に影響を受け易い基板を用いる、より小さな構成サイズの異種デバイス構造体の組込みへ向かう流れの観点で、同じ進化の原動力を共有する。結果として、研究開発活動は、直接及び遠隔プラズマエンハンスト化学気相成長法(PE-CVD)、レーザーアシストCVD、ミラープラズマエンハンスト化学気相成長法(MPECVD)、多孔中空陰極高周波(RF)PECVD、並びに直接、遠隔及びグロー放電プラズマエンハンスト原子層堆積法などの低温堆積処理の開発及び最適化に注力してきた。
【0004】
これらの鋭意の研究開発努力にもかかわらず、それでもなお、異種デバイス用途に対するSi系薄膜の拡張性を可能とするには大きな課題が克服されなければならない。1つに、PE-CVD及びPE-ALD処理の大きな共通点は、シラン(SiH)及びシラン型前駆体の使用にある。この化学作用の使用に関連する特有の問題は、多数文書化されており、それらの自然発火性、高いサーマルバジェット及び高レベルの水素の取込みを含む。さらに、シラン型シリコン源を用いるPE-ALD処理には基板表面吸着及び核生成の問題があるため、複雑さ及びコストを追加してしまう基板表面前処理が必要となる。またさらに、結果として得られる膜は、高レベルの汚染物の混入によって高頻度でばらつく濃度のケイ素、酸素及び窒素、並びに/又は膜の界面、バルク及び表面領域の間でSiからNへの及びSiからOへの組成勾配の存在で構成される。
【0005】
これらの理由のため、基板表面前処理ステップの数及び複雑さを最小化することによって処理効率及び生産性を最大化しつつ、窒化シリコン(SiN)及び酸化シリコン(SiO)並びにSiCなどといったそれらの合金などの高品質のSi系薄膜を低温で堆積させることによって、従来の堆積技術の上記欠点を克服する薄膜堆積技術を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態では、本開示は、堆積チャンバの反応領域内の基板上に窒化シリコン薄膜を堆積する方法に関し、方法は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板の表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を窒素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物は不活性ガス及び/又は真空によるパージステップを介して反応領域から除去される。
【0007】
第2の実施形態では、堆積チャンバの反応領域内の基板上に酸化シリコン薄膜を堆積する方法は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板の表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を酸素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して酸化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介して不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。
【0008】
更なる実施形態では、本開示は堆積チャンバの反応領域内の基板上に炭窒化シリコン薄膜を堆積する方法を提供し、方法は、1サイクルにおいて、基板を室温~約200℃の温度に加熱するステップと、基板を室温~約200℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板の表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を窒素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して炭窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介して不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。
【0009】
他の実施形態では、本開示は堆積チャンバの反応領域内の基板上にシリコン薄膜を堆積する方法を提供し、方法は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板の表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を水素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介してシリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介して不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。
【0010】
本発明の好適な実施形態の以下の詳細な説明は、添付図面と併せて読まれることでより深く理解されることになる。本発明を説明する目的のため、図面では現在好適である実施形態を示す。ただし、本発明は図示される厳密な配置構成及び手段に限定されないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】TICZ実験蒸気圧データ及び0.14~760torrの範囲にわたるアントワン方程式の適合のグラフである。
図2】50~350℃を範囲とする各種基板温度についての最適化SiN処理のウインドウ模式図である。
図3】TICZ曝露時間0.4秒、1.0秒、2.0秒、3.0秒及び5.0秒での基板温度200℃についての膜厚対堆積時間の、in-situでのリアルタイムのエリプソメトリ測定値のグラフである。
図4】基板温度150、175、200、225、300及び350℃についての膜厚対堆積時間の、in-situでのリアルタイムのエリプソメトリ測定値のグラフである。
図5】SiN処理の最初の1分間付近の膜厚対堆積時間の、in-situでのリアルタイムのエリプソメトリ測定値のグラフである。
図6】200℃で堆積されたSiN膜におけるZn、Si、N、C及びO濃度対貫通深さのXPSプロファイルである。
図7】300℃で堆積されたSiN膜におけるZn、Si、N、C及びO濃度対貫通深さのXPSプロファイルである。
図8】200℃で堆積されたSiN膜におけるSi2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対貫通深さについての高解像度XPSスペクトルを示す図である。
図9】300℃で堆積されたSiN膜におけるSi2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対貫通深さについての高解像度XPSスペクトルを示す図である。
図10】50℃で堆積されたSiCについてのZn、Si、N、C及びO濃度のXPS深さプロファイルである。
図11】150℃で堆積されたSiCについてのZn、Si、N、C及びO濃度のXPS深さプロファイルである。
図12】50℃で堆積されたSiCにおけるSi2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対貫通深さについての高解像度XPSコアレベルスペクトルを示す図である。
図13】150℃で堆積されたSiCにおけるSi2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対貫通深さについての高解像度XPSコアレベルスペクトルを示す図である。
図14】基板温度150℃かつTICZパルス時間0.1秒、0.2秒、0.4秒及び0.8秒についてのSiC膜厚対堆積時間の、in-situでのリアルタイムの角度分解エリプソメトリ測定値のグラフである。
図15】基板温度30、60、90、120、150及び170℃についてのSiC膜厚対堆積時間の、in-situでのリアルタイムの角度分解エリプソメトリ測定値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の態様は、堆積チャンバの反応領域における基板上へのSi系薄膜の堆積のための低中温気相成長処理に関する。処理は、1サイクルにおいて、基板を所望の温度に加熱して基板をその温度に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体を、キャリアガスとともに及び/又は真空下で、基板を含む反応領域に提供するステップと、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を基板表面での吸着によって形成するステップと、任意選択的に、未反応ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物を、パージステップを介した不活性ガスを用いて及び/又は真空を用いて、反応領域から除去するステップと、反応領域における基板上の吸着された単層膜を他の化学種又は共反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を含み、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因する又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介してSi系薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介した不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。所望又は所定の厚さのSi系薄膜を形成するように、1サイクルが所望に応じて多数回反復される。以下に詳細を説明するように、適切な基板温度及びソフトプラズマの成分が、窒化シリコン、炭窒化シリコン、酸化シリコン又はシリコンなどのシリコン系薄膜の所望の化学組成によって決定される。
【0013】
用語「薄膜」は、当技術分野で良く理解されており、厚さ数ナノメートルから数ミクロンの範囲の膜を含み得る。上述したように、その膜厚は、実行されるサイクル数によって制御される。
【0014】
一部の実施形態において、吸着された単層膜から離散原子又は分子層への変換は、加熱基板などのエネルギー源から与えられるエネルギー伝達によって補助され又は可能とされ得る。例えば、基板からのエネルギー伝達(熱曝露)、遠隔若しくは直接プラズマ印加、酸化及び/又は還元などの表面誘起処理が、吸着された単層膜から最終堆積膜への変換を開始又は促進するのに使用され得る。
【0015】
用語「ソフトプラズマ」とは、膜及び基板に対して機械的、化学的、物理的又は電気的損傷をほとんど又は全くもたらさないように、対象膜又は基板に対して最小限のエネルギーしか付与しないプラズマ誘起処理のことをいう。同様に、ソフトプラズマとは、対象分子の破断、分断又は分解に対する閾値よりも低いエネルギーを対象分子に付与するプラズマ誘起処理のことをいう。その代わりに、ソフトプラズマは、好ましくは基板表面上の追加の熱エネルギー源と組み合わせて、充分な活性化エネルギーを前駆体に与えてその制御された分解を可能とするように設計される。
【0016】
ここに記載する処理は、Si源前駆体として、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類を採用する。N原子に対してメチル基を有する過水素環状シラザン類とは異なり、この分類のシラザン類は、各N原子に対して少なくとも2つの炭素原子を有するアルキルラジカルを含み、アルキル置換の排除による低中温SiN堆積のためのメカニズムを与える。一方、メチル置換過水素環状シラザン類における単純なメチル基は、膜形成のために高い温度を必要とし、結果として得られる膜に非常に高い炭素濃度を取り込む。これは、おそらくはそれらメチル基に対する低いエネルギー排除メカニズムの欠如に起因する。
【0017】
N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類の好適な化学構造及び結合構成は、低中温でのアルキル基の清浄な除去が純粋なSi系薄膜をもたらすことを可能とするように設計されてきた。またさらに、Si原子に対するH原子の存在は立体障害を最小化し、反応性基板の表面部位に対して、その部位がH-末端化(Siなど)又はHO-末端化(SiOなど)であるか否かにかかわらず、高いアクセス性を前駆体分子に与える。言い換えると、基板表面への前駆体吸着及びそのリガンドの一部の破断による可能な部分分解は、基板との接触に応じて直ちに起こる。この特徴は、重要な示唆を有する。それは、従来技術で報告されているものとは対照的に、膜核形成及び成長が潜伏期間の存在なしに初回サイクルで瞬時に起こり得るので、追加の複雑さ及び所有コストの付加をもたらす基板表面の前処理の必要を排除することができるためである。
【0018】
本開示による膜形成処理は、プラズマ活性化によるものであり、プラズマエンハンスト又はプラズマアシストによるものではない。プラズマ活性化処理では、共反応物(例えば、NH、N、N+H、ヒドラジン、酸素、オゾン、水又はHなど)が直接又は遠隔ソフトプラズマに導入される一方で、前駆体曝露ステップがプラズマの関与なしに熱的に実行される。このように、前駆体吸着ステップは、プラズマからではなく基板からの熱的及び化学的エネルギーによって活性化され、これにより、前駆体(又は基板との係合に応じた前駆体リガンド若しくは付着ラジカル及び基の一部の潜在的な排除に起因する部分的前駆体種)が、例えば、高いアスペクト比のビア及びトレンチ構造を含む種々の基板表面位相幾何形状に物理的又は化学的にコンフォーマルな態様で吸着することが可能となる。結果として、後続の遠隔又は直接共反応物プラズマは、非常にアグレッシブなデバイス幾何形状などにおいて、基板表面全体にわたって等しい厚さでコンフォーマルに所望の膜の形成をもたらすことになる。
【0019】
本開示による処理は、完全な前駆体の単なる物理吸着又は化学吸着反応に限定されているものとは対照的に、各曝露サイクル中での基板との係合に対するパルス印加前駆体の部分的又は完全な分解をもたらす基板温度で実行される。共反応物は、分解反応を完結し、及び/又は反応副生成物を除去してクリーンな膜を確保するように後に導入される。このように、前駆体は基板表面に達すると既に部分的に分解されているので、処理は、対象膜を成長させるのに、より低い熱的、化学的又はプラズマエネルギーしか必要としない。
【0020】
本開示に係る方法における前駆体の分解は、一部のリガンドの部分的除去による基板への前駆体吸着、基板からの熱エネルギー及びソフトプラズマ活性化の3処理が並行して作用することによって誘起される。
【0021】
適切な基板は、限定することなく、シリコン、酸化シリコン、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル及び窒化タンタルからなる群から選択される材料で構成されるものを含む。
【0022】
ここに記載する処理は、限定されるものではないが、窒化シリコン(SiN)を形成するための、直接又は遠隔のNH、N、N+H、ヒドラジン又はメチルアミンのソフトプラズマなどの窒素源、限定されるものではないが、酸化シリコン(SiO)を形成するための直接又は遠隔のオゾン、水又はOのソフトプラズマなどの酸素源、及び純Siを形成するための直接又は遠隔のHのソフトプラズマなどの反応性水素源とのN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類の反応に等しく適用される。処理はまた、窒素若しくは炭素含有化学種又は共反応物の直接又は遠隔ソフトプラズマへの曝露を介して、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類の分解を通じてSiC化合物薄膜の形成に適用され得る。膜におけるNに対するCの比(C/N)は、基板温度及び共反応物パルス幅を制御することによって変調される。
【0023】
具体的には、堆積チャンバの反応領域における基板温度の制御は、結果として得られるシリコン含有薄膜の化学組成に影響する。具体的には、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン類の化学構造及び結合構成の観点において、より高いが中程度の基板温度(約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃など)におけるソフトプラズマとソース前駆体の間の反応のエネルギー学はSiN膜の形成をもたらすが、低い基板温度(室温~約200℃、好ましくは約30℃~約200℃)はC-N結合のない単純なSi-C及びSi-N結合のマトリクスからなるSiC膜の形成をもたらす。本開示の目的のため、用語「室温」は、約20℃~約27℃の温度をいうものと理解され得る。両処理において、これに限定されないが、NH、N、N+H、ヒドラジン又はメチルアミンなどの窒素含有反応物の直接又は遠隔ソフトプラズマは、基板上の吸着された単層膜に曝露される。アセチレンなどの炭素含有化学種の直接又は遠隔ソフトプラズマも、炭窒化シリコン薄膜を形成するのに採用され得る。吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン単層膜は、ソフトプラズマと反応して、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して炭窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受ける。
【0024】
表面上の膜の形成はプラズマとの前駆体の蒸気相相互作用に関連付けられないので、本開示に係る処理はプラズマエンハンスト化学気相成長法(PE-CVD)とは明らかに異なる。パージステップ中、すなわち、吸着しない(未反応の)前駆体及び共反応物並びに真空又は不活性ガスフローによって蒸気相からの副生成物を除去するメカニズムは不要であるが、そのようなステップは、一部の実施形態では、望ましくない蒸気相反応に対する可能性を排除するのに好適である。そのような共反応物との親前駆体の反応及びその後の分解の副生成物は、例えば、親分子からのリガンド及び部分的リガンド並びに部分的に分解された前駆体を含む。副生成物は、部分的に分解された共反応物種並びに前駆体リガンド及び共反応物種から形成された物体も含み得る。
【0025】
一実施形態では、本開示の態様は、1つのペルヒドリドシクロトリシラザン、すなわち、プロピル基の形態において各Nに対して3個のC原子を含む1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザン(TICZ、C27Si)からのプラズマ活性化処理の開発及び最適化に関する。プロピル基は、スキーム1に示すように、気体副生成物プロピレンの形態で中温において排除される。
【0026】
【化1】
【0027】
そのようなペルヒドリドシクロトリシラザンを用いて、SiNの薄膜(0<x<1.33)が中温で生成され得る。これにより、処理は、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン前駆体及び窒素含有ソフトプラズマ共反応物を中温(約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃の基板温度)で用いて、好適な実施形態では、TICZ及びソフト遠隔アンモニア(NH)プラズマ共反応物を採用してSiN薄膜を形成するために提供される。基板温度の範囲は、その範囲内の全ての温度を包含するものであるため、約200℃~約650℃の温度は、約225℃、約250℃、約275℃、約300℃、約325℃、約300℃、約325℃、約350℃、約375℃、約400℃、約425℃、約450℃、約475℃、約500℃、約525℃、約550℃、約575℃、約600℃、約625℃及び約650℃などの温度並びにその間の全ての温度を含むものと理解され得る。
【0028】
そのような窒化シリコン薄膜を堆積チャンバの反応領域内の基板上に堆積させるこの例示的処理は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃に維持するステップと、蒸気相の1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンをキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板表面への吸着によって1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を窒素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着された1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物は不活性ガス及び/又は真空によるパージステップを介して反応領域から除去される。そして、このサイクルが、所望又は所定の厚さのSiN薄膜を形成するように所望回数だけ反復される。窒素含有化学種又は共反応物は、例えば、限定することなく、NH、N、N及びHの混合物、メチルアミン並びに/又はヒドラジンであり得、現在のところNHが好適である。
【0029】
一部の実施形態では、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成した後に、未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物が不活性ガス及び/又は真空による第2のパージステップを介して反応領域から除去される。
【0030】
結果として得られるSiN(0<x<1.33)薄膜の組成及び光学特性を、in-situでのリアルタイムの分光エリプソメトリ及びx線光電子分光法(XPS)によって分析し、それらのウェットエッチング速度を、標準的なIC業界のエッチング溶液を用いて特定した。その結果を以下に概説する。
【0031】
これにより、ここに記載する処理を採用することによって、高品質窒化シリコン(SiN)薄膜が、約200℃~350℃を範囲とする最適化基板温度ウインドウ内の酸化シリコン(SiO)などの基板上でソース前駆体1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザン(TICZ、C27Si)及び遠隔アンモニア(NH)ソフトプラズマによる遠隔プラズマパルス印加処理によって成長し得る。簡潔には、処理は、プラズマなしでのTICZパルス、任意選択的なNパージ、NHプラズマパルス及びNパージの4ステップからなる。以下に記載するように、ここに記載する処理によって調製された堆積したばかりの(as-deposited)SiN膜を、分光エリプソメトリ及びx線光電子分光法(XPS)で分析した。ウェットエッチング速度(WER)を、脱イオン水における0.5%フッ化水素酸(HF)からなる標準的な溶液を用いて特定した。XPS分析は、基板温度範囲内全体で約1:1のSi:N比をもたらし、SiN相の形成を確認した。in-situでのリアルタイムのエリプソメトリ測定値は、SiN成長が非自己制限的なパルス化の挙動を示したことを結論付けた。それらはまた、200℃以上の基板温度における膜成長について、成長したばかりの(as-grown)SiNの約1.8の平均屈折率をもたらした。
【0032】
NHプラズマとのソース前駆体TICZの反応を用いるSiN膜のための低温処理の開発及び最適化からの重要な知見は、以下の通りである。TICZは、プロピル基の形態で各Nに対して3個のC原子を含むものから選択され、それは気体副生成物プロピレンの形態で中温において容易に排除される。TICZはまた、以下に記載する直ちに入手可能な開始材料から高収率及び高純度で生成されるので、大量生産への適性を実証するものである。この研究は、高品質Si1.0:N1.0膜の形成のために200~350℃を範囲とする最適化基板温度ウインドウの特定に至った。脱イオンHOにおける0.5%のHFからなる標準的なIC業界の溶液におけるウェットエッチングの検討は、文献で報告されたものに対抗する実行可能なエッチング速度を生み出した。膜核形成及び成長特性のエリプソメトリ分析は、膜形成は、ALD及びCVDのSiNについての文献における多数の従来の報告とは対照的に、潜伏期間の存在なしに初回堆積サイクルにおいて瞬時に起こり得るので、追加の複雑さ及び所有コストの追加をもたらす基板表面の前処理の必要を排除することを示した。これらの結果は、シリコン源前駆体としてTICZを用いるSiNは、新たに出現する異種デバイス構造体の製造処理フローに取り込むための実行可能な選択肢となることを実証している。
【0033】
他の実施形態では、本開示は、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン前駆体及び窒素含有又は炭素含有ソフトプラズマ共反応物を低温(室温~約200℃の基板温度)で用い、好適な実施形態では、TICZ及び遠隔アンモニア(NH)ソフトプラズマ共反応物を採用してSiC(0.40<x<1.67及び0.67<y<0.86)薄膜を形成する処理に関する。炭窒化シリコン薄膜を堆積チャンバの反応領域内の基板上に堆積するこの例示的処理は、1サイクルにおいて、基板を室温~約200℃の温度に加熱するステップと、基板を室温~約200℃に維持するステップと、蒸気相の1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンをキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板表面への吸着によって1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を窒素含有又は炭素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着された1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して炭窒化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物は不活性ガス及び/又は真空によるパージステップを介して反応領域から除去される。そして、このサイクルが、所望又は所定の厚さのSiC薄膜を形成するように所望回数だけ反復される。窒素含有化学種又は共反応物は、例えば、限定することなく、NH、N、N及びHの混合物、メチルアミン並びに/又はヒドラジンであり得、現在のところNHが好適である。炭素含有化学種又は共反応物は、例えば、アセチレンであり得る。
【0034】
基板温度の範囲は、その範囲内の全ての温度を包含するものであるため、室温~約200℃の温度は、約20℃、約25℃、約30℃、約45℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃及び約200℃などの温度並びにその間の全ての温度を含むものと理解され得る。
【0035】
一部の実施形態では、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成した後に、未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物が不活性ガス及び/又は真空による第2のパージステップを介して反応領域から除去される。
【0036】
これにより、ここに記載する処理を採用することによって、高品質SiC薄膜が、1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザン及びソフト遠隔アンモニア(NH)プラズマ共反応物から成長し得る。簡潔には、処理は、低温(プラズマなしでのTICZパルス)での基板へのTICZの熱吸着、任意選択的な窒素(N)パージ、ソフトNH遠隔プラズマステップ及びNパージの4ステップを伴う。これらのステップは、所望の膜厚に達するまで反復される。膜におけるNに対するCの比は、室温~約200℃、好ましくは30℃~約200℃の範囲で基板温度を制御することによって変調される。堆積処理のin-situでの分析を、分光エリプソメトリ法を用いて行い、膜をx線光電子分光法(XPS)によって分析した。この検討の知見は、基板サーマルバジェットの軽減及びソフト遠隔プラズマの組合せが、プラスチック及びポリマーを含む熱的に脆弱であって化学的に影響を受け易い基板上のSiC保護コーティングの制御された堆積のための最適な低エネルギー環境を与えることを示している。
【0037】
以下に記載するように、TICZ及びソフト遠隔アンモニア(NH)プラズマを共反応物として用いる低温(室温付近)のSiC堆積は、30~150℃の基板温度範囲において0.40<x<1.67及び0.67<y<0.86のSiC薄膜をもたらすことが分かった。XPS分析は、SiC膜が大部分において単純な架橋Si-C及びSi-N結合の温度非依存性マトリクスからなることを示した。in-situでのリアルタイムの角度分解エリプソメトリは、全ての膜が、ALD及びP-CVD作業についての文献において報告されるのと同様の潜伏期間なしに膜核形成及び成長が瞬時に起こる状態でプラズマパルスレジームにおいて成長することを示した。この特徴によって、このSiC処理は、ex-situ又はin-situでの事前堆積基板表面処理の排除に起因して製造の観点から有望となり、処理効率の上昇並びに処理ステップ及び所有コストの双方の低減をもたらす。したがって、これらの知見は、TICZ及びNH共反応物が基板表面のみで反応するように方向付けられる基板サーマルバジェットの低減に合わせてソフト遠隔プラズマを適用することが、プラスチック及びポリマーを含む熱的に脆弱であって化学的に影響を受け易い基板を必要とする潜在的な用途のための低エネルギー環境内でのSiC保護コーティングの成長のための有望なアプローチを構成する。
【0038】
更なる実施形態は、堆積チャンバの反応領域内の基板上への酸化シリコン薄膜の堆積のための方法に関する。方法は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を酸素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介して酸化シリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介して不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。そして、このサイクルが、所望又は所定の厚さの酸化シリコン薄膜を形成するように所望回数だけ反復される。酸素含有化学種又は共反応物は、例えば、限定することなく、オゾン、O及び水であり得る。好適なN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンはTICZである。
【0039】
基板温度の範囲は、その範囲内の全ての温度を包含するものであるので、約200℃~約650℃の温度は、約225℃、約250℃、約275℃、約300℃、約325℃、約300℃、約325℃、約350℃、約375℃、約400℃、約425℃、約450℃、約475℃、約500℃、約525℃、約550℃、約575℃、約600℃、約625℃及び約650℃などの温度並びにその間の全ての温度を含むものと理解され得る。
【0040】
一部の実施形態では、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成した後、未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物が不活性ガス及び/又は真空による第2のパージステップを介して反応領域から除去される。
【0041】
更なる実施形態において、本開示は堆積チャンバの反応領域内の基板上へのシリコン薄膜の堆積のための方法を提供し、方法は、1サイクルにおいて、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃の温度に加熱するステップと、基板を約200℃~約650℃、好ましくは約200℃~約350℃に維持するステップと、蒸気相のN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンを含む前駆体をキャリアガスとともに及び/又は真空下で基板を含む反応領域に提供するステップと、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成するステップと、反応領域内の基板上の吸着された単層膜を水素含有反応物の遠隔又は直接ソフトプラズマに曝露するステップと、を備え、吸着されたN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜はソフトプラズマと反応し、基板表面誘起処理に起因して又はそれによって可能とされる解離及び/又は分解を介してシリコン薄膜の離散原子又は分子層への変換を受け、変換の副生成物はパージステップを介して不活性ガスによって及び/又は真空によって反応領域から除去される。そして、このサイクルが、所望又は所定の厚さのシリコン薄膜を形成するように所望回数だけ反復される。水素含有化学種又は共反応物は、例えば、限定することなく、Hであり得る。好適なN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンはTICZである。
【0042】
基板温度の範囲は、その範囲内の全ての温度を包含するものであるので、約200℃~約650℃の温度は、約225℃、約250℃、約275℃、約300℃、約325℃、約300℃、約325℃、約350℃、約375℃、約400℃、約425℃、約450℃、約475℃、約500℃、約525℃、約550℃、約575℃、約600℃、約625℃及び約650℃などの温度並びにその間の全ての温度を含むものと理解され得る。
【0043】
一部の実施形態では、基板表面への吸着によってN-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザンの単層膜を形成した後、未反応N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン及びその副生成物が不活性ガス及び/又は真空による第2のパージステップを介して反応領域から除去される。
【0044】
ここで本発明を以下の非限定的な実施例と併せて説明する。
【0045】
実施例1:SiN薄膜の形成
前駆体の合成
アルゴン雰囲気下で、冷却槽、オーバーヘッド撹拌機、ポット温度計、表面下浸漬管、及びドライアイス凝縮器を装備した5リットルの4つ口フラスコを909グラムのメチルt-ブチルエーテルで装填した。混合物を-40℃に冷却してから、303.0グラム(3モル)のジクロロシランを徐々にポットに添加した。そして、364.7グラム(6.0モル)のイソプロピルアミンを-30~-20℃の範囲の温度で2.5時間の期間にわたって浸漬管を介して添加した。添加が完了した後、反応混合物を25℃まで徐々に昇温させてこの温度で8~14時間撹拌した。このステップに、0~40℃の範囲の温度で177.4g(3モル)のイソプロピルアミンの添加、及びさらに227.3グラムのメチルt-ブチルエーテルの後続の添加が続いた。混合物を6~16時間撹拌し、ガスクロマトグラフィー(GC)によってモニタリングした。そして、反応溶液を濾過し、溶媒を50℃以下において減圧下で濾液から除去した。濾過処理を反復して透明濾液の分別蒸留が64.5g(24.66モル)のTICZをもたらした。
【0046】
TICZ蒸気圧を、蒸留温度、圧力読取り値(<10torr)及び圧力-セルDSC測定値(>10torr)の組合せによって決定した。これらは、Tzero Hermetic Pinhole(75μm)Lidsを利用するTA Instruments Pressure DSC25P測定器、2~5mgのサンプルサイズ及び15℃/分の傾斜率を採用した。図1は、蒸留及びDSC測定値からの実際の蒸気圧データ、並びに0.14~760torrの範囲にわたるアントワン方程式の適合[Log(P)=A-B/(C+T)]を与える。
【0047】
SiN薄膜堆積のための処理条件
反応チャンバの清浄度及び真空完全性を維持するサンプルロードロック及び遠隔誘導結合プラズマ(ICP)電源を装備したPicosun製R-200R&Dシステムを、処理開発及び最適化に採用した。全ての堆積を、Addison Engineeringから入手したnドープSiウエハ上で熱成長した1000nm厚の二酸化シリコンからなる基板に対して行った。受け取り次第サンプルを装填し、各堆積試験の前に、プラズマ周波数13.56MHz及びプラズマ電力2000Wにおいてin-situでのNHプラズマ清浄を5分間施した。
【0048】
TICZ前駆体を、Picosun前駆体マニホールドシステムに接続された特殊化気泡発生器に装填し、50℃に加熱した。全ての搬送ラインも90℃に加熱して、反応チャンバに入る前の早期前駆体凝集を抑制した。Nガスをキャリアガスとして用いて100sccmに設定した。
【0049】
TICZ及びNHプラズマの反応によるSiNについての処理開発及び最適化を2段階で実行した。第1の「概念実証」段階では、体系的セットのスクリーニング実験を行ってTICZパルス、パージステップ及びNHプラズマパルスの継続時間、並びにNパージガス流量、NH遠隔プラズマ流量及びプラズマ電力についての最適値を特定した。第2の「処理最適化」段階では、重要な実験的パラメータを図2に示すように設定し、基板温度を50℃~350℃に50℃間隔で変化させた。前駆体曝露時間及びプラズマパルス幅並びにパージ時間を、50、150、200、250、300及び350℃の基板温度について、350℃の試験では前駆体パージ時間を適用しなかったことを除き、特定した。NH遠隔プラズマ周波数、流量及び電力をそれぞれ13.56MHz、40sccm及び2000Wに設定した。サンプルをその後にロードロックシステムに移送し、Picosunシステムからの除去の前にN雰囲気において室温まで冷却させた。
【0050】
XPS分析について、SiNサンプルを約10~15nm厚の酸化亜鉛(ZnO)層でキャップして輸送及び取扱い中の表面汚染を防止した。ALDのZnO処理には、Zn源としてジエチル亜鉛(DEZ)及び酸素源としての水の100サイクルの反応を採用した。ZnOを、50℃のサンプルの場合を除き、SiN堆積の直後にかつそれと同じ温度でin-situで成長させ、温度をZnO堆積のために150℃まで上昇させた。処理を、0.1秒のDEZパルス、5秒のNパージ、0.1秒の水蒸気パルス、5秒のNパージの4ステップで構成した。
【0051】
分析技法
in-situでのリアルタイムの角度分解エリプソメトリを、Woollam iSEエリプソメータを用いて400~1000nmを範囲とする波長で行った。エリプソメータシステムを、入射光ビームが60.8°の入射角で石英ガラス窓を介して基板上に向けられて反射光ビームが検出器で捕捉される状態でP-CVD(パルス化CVD)反応チャンバ上に直接搭載した。結果として得られるデータを、CompleteEASEソフトウェアを用いて分析した。基板をSi上の約1000nm厚の熱SiO層としてモデル化した。SiO層の厚さを、各P-CVD試験の前にin-situで測定した。
【0052】
XPSを、PHI Quantum 2000システムに対してEurofins EAG Materials Science、LLCにおいて実行した。X線を単色化Alkα源から1486.6eVで発生させ、受入角±23°及び取出し角45°でサンプルに向けた。詳細な組成分析をArイオンガンを用いて2keV、4mm×2mmのラスター及び3.8nm/分のスパッタ速度で行った。Si、N、C及びOピークは相互から充分に分離されていたので、データに対するデコンボリューションは適用しなかった。全てのデータ処理(集計)をCasa Software Ltd.製のCasaXPSソフトウェアを用いて行った。モンタージュプロットを、Ulvac-phi,Incによって生産されたMultiPakソフトウェアを用いて生成した。深さプロファイルプロットを、Microcal Software,Incによって製造されたMicrocal Originを用いて生成した。高解像度XPSピークの帰属をISO15472:2010「表面化学分析-X線光電子分光計-エネルギースケールの較正」に記載される較正手順に従って行った。
【0053】
ウェットエッチングの検討を、室温において、脱イオン水における0.5%フッ化水素酸(HF)からなるIC業界で標準的な溶液を用いて行った。
【0054】
前駆体分析
1,3,5-トリ(イソプロピル)シクロトリシラザン(TICZ、C27Si)の1つの追加的な有利な効果は、上述したように、直ちに入手可能な開始材料からの高い収率及び純度で生成されたことである。これは、大量生産に対するその適性を確保する。TICZの関連する特性を表Iに示し、その蒸気圧対温度パラメータを図1に示す。なお、先述した前駆体合成レシピは、異なる揮発性及び堆積特性を有する1,3,5-トリ(エチル)シクロトリシラザン及び1,3,5-トリ(t-ブチル)シクロトリシラザンなどの他の類似体を生成することもできることが注記される。
【0055】
【表1】
【0056】
エリプソメトリ分析
図3は、0.4秒、1.0秒、2.0秒、3.0秒及び5.0秒のTICZパルス時間について、基板温度200℃で成長した膜についての膜厚対堆積継続時間のin-situでのリアルタイムのエリプソメトリプロファイルを示す。プロファイルに示すように、膜厚は、前駆体パルス時間とともに増加し続け、前駆体パルス時間にかかわらず飽和しない。この挙動は、TICZ吸着ステップが自己制限的ではないことを示し、SiN膜成長がALD処理を介しては起こらないとの断定を支持する。パルス時間に対する同じ膜厚依存性が、50℃~350℃で検証した基板温度範囲内全体で観察された。これは、全ての検証処理ウインドウ内でALD成長モードを介して膜形成が起こらないことを示している。
【0057】
同様に、図4及び図5は、150、175、200、225、300及び350℃の基板温度についての膜厚対堆積時間のin-situでのリアルタイムのエリプソメトリ測定値のプロットを表示する。図4は、予想通り、堆積時間が長くなると膜厚が増加することを示す。ただし、各膜厚曲線の傾斜の緩やかな減少も、より高い基板温度で観察された。この減少は、基板温度の上昇によるサイクルあたりの成長速度(GPC)の低下を示すものである。GPCの低下は、基板付近の反応領域内の前駆体の蒸気分圧の低減に起因することが示唆される。この減少は、おそらくは堆積チャンバの幾何形状に起因するものと考えられ、これは、基板温度の上昇により、反応器への前駆体の投入地点における追加の加熱を誘起し、反応領域に達する前の幾らかの前駆体分解をもたらす。あるいは、その減少は、サーマルバジェットの上昇及び基板表面からのそれらの後の分解により、より高頻度での前駆体種及び関連するリガンドの再結合によって引き起こされる場合があり、結果としてTICZ及びNH反応速度を制限する。
【0058】
またさらに、図5では、ALD及びCVDから生成されたSiNについての文献における従来の多数の報告とは対照的に、膜形成が、潜伏期間又は膜核形成及び成長における遅延の増大なしに初回堆積サイクルにおいて瞬時に起こる。この特徴は、基板表面の前処理の要求を打ち消すことで、異種デバイス構造の製造処理フローにおけるSiN堆積の取込みの際の複雑さ及びコストの追加を排除するので、重要である。さらに表IIは、膜厚についてのエリプソメトリ導出値、サイクルあたりの成長速度(GPC)及び堆積したばかりのSiN膜についての屈折率を基板温度の関数として示す。
【0059】
【表2】
【0060】
XPS分析
選択した膜厚もXPS深さプロファイル分析によって確認した。SiN膜におけるZn、Si、N、C及びO濃度対貫通深さを、200℃及び300℃の基板温度で成長した堆積したばかりのSiN膜についてそれぞれ図6及び7に示すように、XPS深さプロファイル分析によって評価した。
【0061】
測定により、50℃及び150℃の基板温度で成長した膜についてそれぞれ約42原子%及び約15原子%の減少するC濃度を得た。図6において分かるように、値は、基板温度200℃以上でXPSの検出限界を下回った。したがって、XPSの結果は、TICZ及びNHの効率的な反応に必要な最小サーマルバジェットが200℃で得られ、完全な前駆体の解離、及び堆積領域からの反応副生成物の除去をもたらす。同様に、約11原子%及び約6原子%のO濃度が、それぞれ50℃及び150℃の基板温度で成長した膜について記録された。この値は、図6に示すように、基板温度200℃以上で約5原子%まで低下した。酸素混入は、in-situでのP-CVD酸化亜鉛(ZnO)キャップ層堆積ステップ中のO拡散に起因する。
【0062】
表IIIは、約25nmの深さにおける200℃、250℃及び300℃で成長した膜のバルク内の代表的SiN原子濃度を与える。表III並びに図6及び7におけるデータは、200℃以上で堆積したサンプルが約1:1のSi:N比からなることを実証する。
【0063】
Si2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対貫通深さについての高解像度XPSスペクトルが、200℃及び300℃において堆積したSiN膜についてそれぞれ図8及び9に表示される。データは、低濃度のOでかつ実質的にC混入のないSiN相からなる膜の両セットを実証する。なお、N1sスペクトルは、Si-N結合、窒化物に起因するN(-Si)に起因する主ピーク、及び酸窒化シリコン(Si)に関連するO-N(-Si)に起因する小さなピークを含むことが注記される。
【0064】
【表3】
【0065】
ウェットエッチング速度
ウェットエッチングの検討を、脱イオン水における0.5%フッ化水素酸(HF)からなるIC業界で標準的な溶液を用いて行った。結果を表IIにまとめる。300℃において堆積した膜について観察されたウェットエッチング速度は、例えば、1:300のHF:HO溶液からなるマイルドなエッチング溶液においてエッチングされた770℃で成長したLPCVD膜及び250℃で堆積したPE-ALD膜、並びに270~350℃で成長して、より希釈された1:500のHF:HOからなるウェットエッチング溶液において処理したPE-ALD膜などについて、従来技術で報告されたものに対抗するものである。
【0066】
実施例2:SiC 薄膜の形成
実験的堆積条件
全ての実験を先述したのと同じPicosun製R-200R&D反応器において実行した。SiC膜成長実験を2段階で行った。第1のスクリーニング段階では、体系的なスコープ実験を行って処理作動圧力、遠隔NHプラズマ電力、並びに前駆体、NH及びN流量、そして、事前堆積プラズマ処理ステップの長さ、並びにTICZ、Nパージ及び遠隔NHプラズマパルスステップの継続時間を含む最適化試験パラメータを確立した。この段階が完了し、適切な実験的パラメータセットを特定すると、第2の処理最適化段階を実施してSiCの組成的、物理的及び化学的特性を30℃~200℃の範囲の基板温度の関数として決定した。この段階のために、NH流量を40sccmに一定に維持し、一方で遠隔プラズマ電力及び周波数をそれぞれ2000W及び13.56MHzに設定した。表IVに、重要な試験パラメータをまとめる。
【0067】
表IV.ソフト遠隔プラズマSiC堆積のための重要な処理パラメータ
【表4】
【0068】
SiC成長試験に続いて、in-situでの約10~15nm厚の酸化亜鉛(ZnO)キャップ層の堆積を行うことで、空気への曝露に対して並びに後続の輸送及び取扱い中のSiC汚染を防止した。ZnOステップについて、標準的なALD処理を採用した。50℃のSiC膜の場合を除き、温度をZnO成長ステップのために150℃に上昇させるSiC堆積ステップと同じ値に基板温度を維持した。ALDのZnO処理は、Zn源及びO源としてそれぞれジエチル亜鉛(DEZ)及び水(HO)の反応を採用した。それは、0.1秒のDEZパルス及び0.1秒のHO蒸気パルスを伴い、各々5秒のNパージによって分離した。
【0069】
各堆積試験の結論において、サンプルをロードロックシステムに移送して戻し、Picosunシステムからの除去の前にそれらが室温に冷却されるまでN雰囲気下に維持した。
【0070】
分析技法
SiC膜の組成及び化学結合特性を検討するため、前述と同じ分析技法を採用した。
【0071】
XPS分析
表Vは、50、150及び200℃において堆積した膜におけるSi、C、N及びOのそれぞれの原子濃度パーセンテージを示す。値を、50及び150℃においてそれぞれ堆積したSiCサンプルについて図10及び11に示すように、定量XPS分析によって決定した。
【0072】
【表5】
【0073】
膜の酸素含有率は、50℃において約10原子%であり、より高い温度において3~5原子%まで低下した。この低濃度のOの存在は、後のin-situでのALDのZnOキャップ層ステップ中にSiCとのHO反応に起因し得る。それはNH若しくはNにおける不純物、及び/又はICPプラズマ源に採用されるAl誘電体ライナのプラズマエッチングの周知の問題からもたらされることもある。表V並びに図10及び11で見られるように、より高い基板温度においてC濃度の緩やかな減少も観察された一方で、N含有率は一定の増加を示した。
【0074】
これらの傾向は、基板サーマルバジェットの低減及びソフト遠隔プラズマの組合せがアルキル基に対して最適な低いエネルギー環境を与えて、親分子による緩やかでかつ制御された解離反応を受けるという観測と一致する。基板温度の上昇により、より高い程度の結合解離並びにSiC膜内でのSi、C及びN結合の再分布のための熱活性化エネルギーが増加する。
【0075】
Si2p、N1s、C1s及びO1s結合エネルギー対SiCにおける貫通深さについての高解像度XPSコアレベルスペクトルを、図12及び13に示すように、50及び150℃においてそれぞれ堆積したサンプルについても編集した。XPS分析に基づいて、Si、N、C及びOのコアレベルピークの位置は、膜組成及び処理サーマルバジェットに依存しないものとして現れる。より具体的には、検証した30~150℃の基板温度ウインドウ内では、使用される基板温度にかかわらず、約283.3eVにおけるC1sピーク位置はC-Si結合に起因する一方で、約397.3eVにおけるN1sピーク位置はN-Si結合に起因する。同時に、Si2pピークは、おそらくは103eVにおけるSi-O結合による無視できる寄与とともに、約100.4eVにおけるSi-C結合及び約101.7eVにおけるSi-N結合による寄与からなる。
【0076】
高解像度XPS分析は、SiC膜が150℃以下の基板温度について大部分において単純な架橋Si-C及びSi-N結合のマトリクスかならなることを示すものと見える。Si2p及びN1sピークがSiN相に対応する状態で、200℃のXPS検出限界内での膜では、Cは観察されなかった。
【0077】
この結果は、前述の膜とは根本的に異なる。前述の膜では、SiCにおけるC1sピークはC-C型結合からC-Si型結合を経てC-N型結合への遷移を基板温度の増加に応じて受け、一方でN1sピークはN-C型結合による幾らかの寄与によるN-C結合から大部分においてN-Si結合への遷移を示すという展開が報告されている。同時に、Si2pは、Si-N及びSi-C結合とともに、Si-N、Si-O及びSi-C型結合から主にSi-Si結合に展開することが報告されている。これらの結果は、前述したSiC膜における種々の温度依存複素結合構成の存在に起因していた。以前に報告された膜とは異なり、温度に応じた結合構成又は化学構造の変化のない、発明のSiC膜における単純なSi-C及びSi-N結合は、プラスチック及びポリマーを含む熱的に脆弱であって化学的に影響を受け易い基板を必要とする用途における安定的かつ不変のSiCマトリクスを提供する。
【0078】
ここに記載及び実証した結果は、文献、例えば、Si、C及びN源としてのトリエチルシラン(HSiEt、TES)及びNによる大気圧プラズマCVD(AP-PECVD)における従来の知見とは異なる。従来の知見では、C1sピークはC-C型結合からC-Si型結合を経てC-N型結合までの展開を示す一方で、N1sピークはN-C型結合による幾らかの寄与によるN-C結合から大部分においてN-Si結合への遷移を示すことが報告されている。同時に、Si2pは、Si-N及びSi-C結合とともに、Si-N、Si-O及びSi-C型結合から主にSi-Si結合に展開することが報告されている。これらの結果は、種々の研究者による他の多数の報告において記載されるように、SiCN膜における種々の温度依存複素結合構成の存在に起因していた。
【0079】
したがって、XPS分析は、N-アルキル置換ペルヒドリドシクロトリシラザン前駆体及びNH共反応物が基板表面上のみで反応するように方向付けられるパルス化モードにおいて基板サーマルバジェットの低減に合わせてソフト遠隔プラズマを適用することは、(i)単純な架橋Si-C及びSi-N結合の温度非依存性の結合構成を有するSiCマトリクス、並びに(ii)増加する基板温度に対するC含有率の緩やかでかつ制御された低下をもたらす。
【0080】
エリプソメトリ分析
in-situでのリアルタイムのエリプソメトリの検討を、パルス化堆積処理の性質及び特性を決定するために、TICZ源前駆体及びNH遠隔プラズマの吸着及び反応経路並びに結果として得られるSiC膜核形成及び成長プロファイルについて実施した。この目的のため、図14は、0.1、0.2、0.4及び0.8秒のTICZパルス時間について堆積時間の関数としてSiC膜厚を表示する。基板温度を全ての試験において150℃に維持した。データは、より高いTICZパルス幅の一定の上昇を示し、ALD処理において想定されたように、増加を停止するプラトーに達することはないことを示す。なお、この傾向は検証される基板温度ウインドウ全体にわたって観察され、SiCのパルス化堆積はALDレジームではなくP-CVDにおいて起こることを示すものである。プラズマパルス化モードの1つの有利な効果は、基板表面への吸着に応じた親TICZ前駆体の潜在的な部分分解、及びNHとの反応前の、より低いサーマルバジェットウインドウにおける膜堆積に対して伝導性となる特徴である。
【0081】
同様に、図15は、30、60、90、120、150及び170℃の基板温度についての膜厚対堆積時間のin-situでのリアルタイムの角度分解エリプソメトリ測定値を与える。プロットは、第1の堆積サイクル内の膜厚における即座の上昇によって示すように、膜核形成及び成長が瞬時に起こることを示す。この特徴は、他のALD及びP-CVD作業についての文献において報告されてきたように、SiC膜形成の開始前の潜伏期間の欠如を実証するので重要である。そのような潜伏期間の欠如によって、プラズマパルス化SiCは製造の観点から、より有望なものとなる。これは、ex-situ又はin-situでの事前堆積基板表面処理を排除することによってSiC薄膜を成長させるのに必要な処理ステップ数を低減することになることによる。
【0082】
さらに、図15は、基板温度の増加に対する膜厚曲線の傾きの緩やかな減少及び結果としてのサイクル毎のSiC成長速度を示す。より高い基板温度でのGPCの低下は、(i)チャンバへの投入地点及び基板に達する前のその地点における前駆体の分解の緩やかな上昇を含む反応器の幾何形状に起因する基板付近でのTICZ蒸気分圧の低下、及び/又は(ii)サーマルバジェットの上昇に起因するNH共反応物のステップの前の基板表面からの前駆体及び関連する部位のより高い速度の堆積によって潜在的に引き起こされ得る。最後に、ex-situでのエリプソメトリ測定は、50、150及び200℃において堆積された膜について、それぞれ約1.49、約1.51及び約1.80の屈折率をもたらした。
【0083】
ウェットエッチング速度
ウェットエッチング速度(WER)の検討は、50、150及び200℃において成長した膜について、それぞれ2310、732及び99nm/分の値を生み出した。
【0084】
本発明の広範なコンセプトから逸脱することなく変更が上記実施形態になされ得ることが当業者には分かるはずである。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲内の変形例を包含するものであることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】