IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2023-528008排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法
<>
  • 特表-排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法 図1
  • 特表-排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法 図2
  • 特表-排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法 図3
  • 特表-排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法 図4
  • 特表-排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
G01N27/41 325D
G01N27/41 325L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572719
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2021061650
(87)【国際公開番号】W WO2021239401
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】102020206662.0
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-イェルク レンツ
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ グランツ
(72)【発明者】
【氏名】トールステン ザーム
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ ツォルン
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン ケラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス モーザー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ピヴォンスキ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ドターヴァイヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトヴィヒ リール
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ グラヴェ
(57)【要約】
排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子(10)に関する。セラミックセンサ素子(10)は、層形状に構造化され、細長く形成されており、セラミックセンサ素子(10)は、長手方向において排気ガスに面する端部領域を備え、セラミックセンサ素子(10)は、自身の内部において層方向に延在する空洞(30)を備え、セラミックセンサ素子(10)は、排気ガス(100)に曝露される第1の電極(16)と、空洞(30)内に配置された第2の電極(18)と、第1の電極(16)を第2の電極(18)に接続する固体電解質(14)とを有する電気化学ポンプセル(38)を備え、セラミックセンサ素子(10)は、排気ガスに面する端部領域に、層方向に対して垂直方向においてセラミックセンサ素子(10)内に延在しかつ空洞(30)を排気ガス(100)に連通させるガス導入孔部(64)を備え、セラミックセンサ素子(10)は、排気ガスとは反対側の端部領域に、ガス導入孔部(64)を覆う多孔質の熱衝撃保護層(62)を備える。本発明は、熱衝撃保護層(62)に向けてのガス導入孔部(64)が、空洞(30)に向けてよりも大きい断面積を有することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子であって、
前記セラミックセンサ素子(10)は、層形状に構造化され、細長く形成されており、
前記セラミックセンサ素子(10)は、長手方向において排気ガスに面する端部領域を備え、
前記セラミックセンサ素子(10)は、自身の内部において層方向に延在する空洞(30)を備え、
前記セラミックセンサ素子(10)は、排気ガス(100)に曝露される第1の電極(16)と、前記空洞(30)内に配置された第2の電極(18)と、前記第1の電極(16)を前記第2の電極(18)に接続する固体電解質(14)とを有する電気化学ポンプセル(38)を備え、
前記セラミックセンサ素子(10)は、前記排気ガスに面する前記端部領域に、層方向に対して垂直方向において前記セラミックセンサ素子(10)内に延在しかつ前記空洞(30)を前記排気ガス(100)に連通させるガス導入孔部(64)を備え、
前記セラミックセンサ素子(10)は、前記排気ガスとは反対側の前記端部領域に、前記ガス導入孔部(64)を覆う多孔質の熱衝撃保護層(62)を備えている、
セラミックセンサ素子において、
前記熱衝撃保護層(62)に向けての前記ガス導入孔部(64)が、前記空洞(30)に向けてよりも大きい断面積を有することを特徴とする、セラミックセンサ素子。
【請求項2】
前記熱衝撃保護層(62)に向けての前記ガス導入孔部(64)は、前記空洞(30)に向けての自身の断面積の少なくとも50倍の値を有する断面積を有する、請求項1に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項3】
前記ガス導入孔部(64)は、前記空洞(30)に向いた区分(64a)と前記熱衝撃保護層(62)に向いた区分(64b)とを有する段付き孔部として形成され、前記空洞(30)に向いた前記区分(64a)における前記段付き孔部の断面は、前記熱衝撃保護層(62)に向いた前記区分(64b)における前記段付き孔部の断面よりも小さい、請求項1又は2に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項4】
前記熱衝撃保護層(62)に向いた前記区分(64b)における前記段付き孔部の前記断面と、前記空洞(30)に向いた前記区分(64a)における前記段付き孔部の前記断面との商は、50以上である、請求項3に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項5】
前記空洞(30)に向いた前記区分(64a)における前記段付き孔部は、前記段付き孔部の前記熱衝撃保護層(62)に向いた前記区分(64b)の高さ(h)よりも大きい直径(d)を有する、請求項3又は4に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項6】
前記熱衝撃保護層(62)は、前記ガス導入孔部(64)の領域において外側に向けて膨隆している、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項7】
前記ガス導入孔部(64)と前記熱衝撃保護層(62)との間にブリッジ層(60)が配置されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のセラミックセンサ素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のセラミックセンサ素子(10)を製造するための方法であって、
-印刷ペーストを用いてグリーンセラミックフィルムを印刷するステップと、
-複数の印刷された前記グリーンセラミックフィルムの層状積層によって未焼結の積層体を製造するステップと、
-前記未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域にガス導入孔部(64)を導入するステップと、
-転写フィルム(110)にブリッジ層(60)を別個に印刷するステップと、
-前記ブリッジ層(60)が前記ガス導入孔部(64)を覆うように、前記転写フィルム(110)から前記未焼結の積層体に前記ブリッジ層(60)を転写するステップと、
-前記未焼結の積層体を焼結して焼結された積層体にするステップと、
-前記焼結された又は前記未焼結の積層体の排気ガスに面する前記端部領域に熱衝撃保護層(62)を被着するステップと、
を用いる方法。
【請求項9】
前記ブリッジ層(60)の転写前に、空洞形成器(64h)を前記ガス導入孔部(64)に充填し、それによって、前記空洞形成器(64h)は、転写の際に前記ブリッジ層(60)を支持する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ブリッジ層(60)の転写前に、前記未焼結の積層体を乾燥させる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記未焼結の積層体は、焼結前に水分を含み、それによって、前記ブリッジ層(60)は、焼結の際に外側に向けて膨隆している、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のセラミックセンサ素子(10)を製造するための方法であって、
-印刷ペーストを用いてグリーンセラミックフィルムを印刷するステップと、
-複数の印刷されたグリーンセラミックフィルムの層状積層によって未焼結の積層体を製造するステップと、
-前記未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域にガス導入孔部(64)を導入するステップと、
-前記ガス導入孔部(64)に空洞形成器(64h)を導入するステップであって、特に前記ガス導入孔部(64)を空洞形成器(64h)で充填するステップと、
-前記ガス導入孔部(64)を、ブリッジ層(60)を用いて加圧するステップと、
-前記未焼結の積層体を焼結して焼結された積層体にするステップと、
-前記焼結された又は前記未焼結の積層体の排気ガスに面する前記端部領域に熱衝撃保護層(62)を被着するステップと、
を用いる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
従来技術である独国特許出願公開第102014204124号明細書からは、排気ガスセンサ用のセラミックセンサ素子が既に公知であり、このセラミックセンサ素子は、層形状に構造化され、細長く形成されており、長手方向において排気ガスに面する端部領域を備え、自身の内部において層方向に延在する空洞を備え、排気ガスに曝露される第1の電極と、空洞内に配置された第2の電極と、第1の電極を第2の電極に接続する固体電解質とを有する電気化学ポンプセルを備えている。このセラミックセンサ素子は、排気ガスに面する端部領域に、層方向に対して垂直方向においてセラミックセンサ素子内に延在しかつ空洞を排気ガスに連通させかつ多孔質の熱衝撃保護層によって覆われているガス導入孔部を備えている。
【0002】
このようにして、ガス導入孔部の領域を含むセラミックセンサ素子の端部領域が熱衝撃から保護されており、即ち、例えば、加熱されたセラミックに水滴が当たったときに基本的に発生する恐れがあるセラミックの損傷から保護されている。
【0003】
排気ガス中の酸素濃度は、電気化学ポンプセルを用いて、ガス導入孔部を通って第2の電極に到達する酸素量をポンピング除去し、その際に発生するポンピング電流を検出することによって測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102014204124号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の利点
まず、本発明は、ガス導入孔部を通って第2の電極に到達する酸素量が、ガス導入孔部及び空洞の幾何学形状及び充填量の他に、ガス導入孔部を覆う熱衝撃保護層の特性にも依存するという発明者らの認識に基づくものである。
【0006】
さらに、本発明者らは、ガス導入孔部及び空洞の幾何学的寸法、並びに、拡散障壁などの場合によってはその中に含まれる多孔質要素の特性が、基本的に既知の方法を用いて、例えば、機械加工処理又は印刷ペースト用の個別に調整された処方を利用したスクリーン印刷を用いて、比較的容易に高い精度で実現できることも認識した。それに対して、ガス導入孔部を覆う熱衝撃保護層は、量産において経済的な有意性を示し得る手法(例えば、ディッピング、スプレーなど)を用いて被着させた場合、その厚さや多孔性に関する変動がより大きくなり、それに伴って酸素に対する透過性も低下する。その上さらに、熱衝撃保護層は、排気ガスセンサの動作中、特に露出されており、このこともさらにその寿命にわたる特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
このような熱衝撃保護層の変動は、センサ素子を用いて測定可能な排気ガス中の酸素濃度の測定精度を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この課題は、熱衝撃保護層に向けてのガス導入孔部が、空洞に向けてよりも大きい断面積を有することによって解決される。第2の電極への酸素搬送(拡散、流動)に関係する熱衝撃保護層の面積は、実質的には、隣接するガス導入孔部の断面積によって与えられる。本発明によれば、この面積が大きいので、熱衝撃保護層の関連する抵抗値(拡散抵抗値/流動抵抗値)は小さくなる。
【0009】
排気ガスと第2の電極との間の総抵抗値(総拡散抵抗値/総流動抵抗値)は、熱衝撃保護層、ガス導入孔部、及び、第2の電極より上流側に位置する空洞部分のそれぞれの抵抗値から加算的に統合される。
【0010】
上記で既に説明したように、熱衝撃保護層の抵抗値には、多くの場合、製造や動作に起因する相対変動が伴う。従って、熱衝撃保護層に面する側のガス導入孔部の断面が大きいことに基づく熱衝撃保護層の抵抗値の低減は、総抵抗値の絶対変動の他に総抵抗値の相対変動も小さくする。後者は、排気ガス中の酸素濃度の測定精度を向上させるものである。
【0011】
本発明の好適な発展形態においては、熱衝撃保護層に向けてのガス導入孔部は、空洞に向けての自身の断面積の少なくとも10倍の値(あるいは少なくとも50倍又は少なくとも100倍もの値)を有する断面積を有することが想定されている。熱衝撃保護層に向けてのガス導入孔部の直径は、空洞に向けてのガス導入孔部の直径より最低でも3倍、あるいは7倍又は10倍も大きい直径を有し得る。
【0012】
本発明の好適な発展形態においては、ガス導入孔部は、空洞に向いた区分と熱衝撃保護層に向いた区分とを有する段付き孔部として形成され、この場合、空洞に向いた区分における段付き孔部の断面は、熱衝撃保護層に向いた区分における段付き孔部の断面よりも小さいことが想定されている。例えば、空洞に向いた区分における段付き孔部の断面は、熱衝撃保護層に向いた区分における段付き孔部の断面の最大1/10であってよく、あるいは最大1/50又は最大1/100であってもよい。同様に、空洞に向いた区分における段付き孔部の直径は、熱衝撃保護層に向いた区分における段付き孔部の直径の最大1/3であってよく、あるいは最大1/7又は最大1/10であってもよい。
【0013】
好適には、熱衝撃保護層に向いた区分における段付き孔部の高さはわずかであってよく、例えば、空洞に向いた区分における段付き孔部の直径より小さくてよく、例えば、0.2mmより小さくてよい。従って、センサ素子の機械的強度の低下は、段付き孔部の挿入により比較的わずかになる。
【0014】
熱衝撃保護層が、ガス導入孔部の領域において外側に膨隆している場合、ガス導入孔部を覆っている領域における自身の安定性が向上する。特に、この膨隆は、熱衝撃保護層がガス導入孔部の内部に入り込むことを防止する。
【0015】
本発明の有利な効果は、熱衝撃保護層の材料が、ガス導入孔部内に浸入することを除外した場合に、特に大きく生じる。ガス導入孔部内への熱衝撃保護層の材料の浸入を防止し、製造中及び完成後のセンサ素子における熱衝撃保護層を安定化させるために、ガス導入孔部と熱衝撃保護層との間に、熱衝撃保護層とは構造的に異なる又は区別可能であるブリッジ層を配置することが有利となる場合もある。
【0016】
ガス導入孔部とは、基本的にはドリル(例えば機械式のステップドリル)によって製造可能な幾何学形状を意味するものと理解されるが、それが具体的なセンサ素子において実際には孔あけ加工によってもたらされたのか、フライス加工によってもたらされたのか、皿孔加工によってもたらされたのか、又は、類似の手法によってもたらされたのかには依存しない。
【0017】
それに応じて、本発明に係るセンサ素子は、以下のステップ、即ち、
-印刷ペーストを用いてグリーンセラミックフィルムを印刷するステップと、
-複数の印刷されたグリーンセラミックフィルムの層状積層によって未焼結の積層体を製造するステップと、
-未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域にガス導入孔部を導入するステップと、
-転写フィルムにブリッジ層を別個に印刷するステップと、
-ブリッジ層を乾燥させるステップと、
-ブリッジ層がガス導入孔部を覆うように、転写フィルムから未焼結の積層体にブリッジ層を転写するステップと、
-未焼結の積層体を焼結して焼結された積層体にするステップと、
-積層体の排気ガスに面する端部領域に熱衝撃保護層を被着するステップと、
によって製造することが可能である。
【0018】
これにより、熱衝撃保護層が被着されて焼結された積層体として、焼結セラミックセンサ素子が結果として生じる。この転写技術により、ガス導入孔部を、熱衝撃保護層の材料が当該ガス導入孔部に浸入することができないように、製造プロセス中にブリッジすることが可能になる。
【0019】
その際、一方では、未焼結の積層体を先に焼結し、それに続いて熱衝撃保護層を、焼結された積層体の排気ガスに面する端部領域に被着することも可能である。また、代替的に、未焼結の積層体に、熱衝撃保護層が形成される材料を被着することも可能である。次いで、その後の焼結においては、未焼結の積層体が焼結された積層体に移行し、当該材料は、熱衝撃保護層に移行する。
【0020】
空洞形成器がブリッジ層の転写前にガス導入孔部に充填されると、ブリッジ層は、先に空洞形成器に支持され、ガス導入孔部内に沈み込むことができない。空洞形成器とは、焼結の際(即ち、例えば1100℃を上回った際)に残留することなく揮発する材料(即ち、例えば黒鉛、ガラス状炭素、テオブロミンなど)を意味するものと理解される。
【0021】
本発明者らは、さらに、ブリッジ層、ひいては熱衝撃保護層の膨隆を所期のように形成することができることを見出した。ブリッジ層が未焼結の積層体に被着される時点で、空洞内及びガス導入孔部内又は未焼結の積層体内の溶媒又は水の含有量がかなり高くなるように選択されると、それに続く加熱の際、例えばブリッジ層の転写の際、又は、焼結の開始時点で、空洞内及びガス導入孔部において、空洞内及びガス導入孔部内の蒸気圧の上昇が生じ、それによって、ブリッジ層又は熱衝撃保護層の膨隆が生じる結果となる。膨隆のない、即ち、平坦なブリッジ層又は熱衝撃保護層は、未焼結の積層体を、そこにブリッジ層が転写される前に、乾燥又は脱バインダー処理にかけることによって得られる。従って、それに続く加熱の際に、例えば焼結の開始時点で、空洞内及びガス導入孔部内の蒸気圧の上昇はまったく又はほとんど生じることがなく、従って、ブリッジ層又は熱衝撃保護層の膨隆も生じない。
【0022】
上述した転写技術に対して代替的に、本発明に係るセンサ素子は、特に以下のステップ、即ち、
-印刷ペーストを用いてグリーンセラミックフィルムを印刷するステップと、
-複数の印刷されたグリーンセラミックフィルムの層状積層によって未焼結の積層体を製造するステップと、
-未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域にガス導入孔部を導入するステップと、
-ガス導入孔部に空洞形成器を導入するステップであって、特にガス導入孔部を空洞形成器で充填するステップと、
-ガス導入孔部を、ブリッジ層を用いて加圧するステップと、
-未焼結の積層体を焼結して焼結された積層体にするステップと、
-焼結された又は未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域に熱衝撃保護層を被着するステップと、
による印刷技術によって製造することも可能である。
【0023】
これにより、同様に、熱衝撃保護層が被着された焼結された積層体として、焼結セラミックセンサ素子が結果として生じる。この技術によっても、ガス導入孔部を、熱衝撃保護層の材料が当該ガス導入孔部に浸入することができないように、製造プロセス中にブリッジすることが可能になる。
【0024】
その際、再び一方では、未焼結の積層体を先に焼結し、それに続いて熱衝撃保護層を、焼結された積層体の排気ガスに面する端部領域に被着することが可能である。
【0025】
また、再び代替的に、未焼結の積層体に、熱衝撃保護層が形成される材料を被着することも可能である。次いで、その後の焼結においては、未焼結の積層体が焼結された積層体に移行し、当該材料は、熱衝撃保護層に移行する。
【0026】
ガス導入孔部に空洞形成器を導入するステップ、特にガス導入孔部を空洞形成器により充填するステップは、空洞形成器を外側からガス導入孔部内に押し込むことによって行うことができる。その際、空洞形成器は、好適には、未焼結の積層体の外周面に対して平坦に閉鎖される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るセンサ素子を示す概略図である。
図2】本発明に係るセンサ素子を製造するための本発明に係る第1の方法を例示的に示した図である。
図3】本発明に係るセンサ素子を製造するための本発明に係る第1の方法を例示的に示した図である。
図4】本発明に係るセンサ素子を製造するための本発明に係る第2の方法を例示的に示した図である。
図5】本発明に係るセンサ素子を製造するための本発明に係る第2の方法を例示的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施例の説明
図1は、排気ガスセンサ用の本発明に係るセラミックセンサ素子10の排気ガスに面した端部領域を通る断面を概略的に示す。
【0029】
センサ素子10は、層状にかつ細長く形成されており、この場合、図1における層方向は、左方から右方への平面内において像面に対して垂直方向に延在している。センサ素子10は、その内部に空洞30を備えている。
【0030】
センサ素子10は、電気化学ポンプセル38をさらに備えている。この電気化学ポンプセル38は、排気ガス100に曝露される、本例においては環状の第1の電極16と、空洞30内に配置された、本例においては環状の第2の電極18と、第1の電極16を第2の電極18に酸素イオン導通的に接続する固体電解質体14とから構成されている。
【0031】
第1の電極16及び第2の電極18と同心的に、本例においては盲孔段付き孔部として構成されたガス導入孔部64が、固体電解質体14を通って延在している。ガス導入孔部64の底部からは、外側に向けて多孔質拡散障壁36が分岐し、当該多孔質拡散障壁36には(再び外側に向けて)環状の空洞30がつながり、当該空洞30内には第2の電極18が配置されている。
【0032】
ガス導入孔部64は、図1において左方から右方へ示されているように、例えばセンサ素子10の全幅にわたって延在する多孔質ブリッジ層60により覆われている。ブリッジ層上には、図1に示されている断面において、センサ素子10の全側面に多孔質の熱衝撃保護層62が配置されている。熱衝撃保護層62の厚さは、例えばブリッジ層60の厚さよりも大きくてよい。
【0033】
ガス導入孔部64は、空洞30に向いた区分64a(図1においては下方)と、熱衝撃保護層62に向いた区分64b(図1においては上方)とを有する段付き孔部として形成されている。
【0034】
空洞30に向いた区分64aは、本例においては、焼結前に(焼結後に)210μm(168μm)の直径dを有する。熱衝撃保護層62に向いた区分64bは、本例においては、2100μm(1680μm)の直径Dを有する。空洞30に向いた区分64aの高さhは、本例においては145μm(116μm)である。
【0035】
センサ素子10の機能は、図1中に矢印で表されているように、排気ガス100とその中に含まれる酸素分子Oとが、熱衝撃保護層62を通りブリッジ層60を通ってガス導入孔部64と連通し、さらに拡散障壁36を介して空洞30と連通することにある。ここで、電気化学ポンプセル38に十分なポンピング電圧が印加されると、空洞30内に存在する酸素は、常に電気化学的に酸素イオンOの搬送によって除去される。既存の分圧勾配に従って、排気ガス100からの酸素は、熱衝撃保護層62、ブリッジ層60、ガス導入孔部64及び拡散障壁36を介して(流動的に/拡散して)空洞30内に到達し、そこで酸素は、再び電気化学的にポンピング除去される。
【0036】
即ち、結果として生じるポンピング電流は、排気ガス100中の酸素分圧に比例すると共に、酸素が空洞30内に到達する経路に沿った抵抗値(流動抵抗値/拡散抵抗値)に反比例する。
【0037】
排気ガス100中の酸素分圧を正確に測定することができるようにするためには、酸素が空洞30内に到達する経路に沿った抵抗値の製造や経年変化に起因する変動がわずかであることが必要とされる。本例においては、これは、拡散障壁36及びガス導入孔部64がわずかな変動を伴って製造可能であり、かつ、わずかな経年変化の影響を伴って動作可能であることによって、実現される。これに対して、ブリッジ層60及び熱衝撃保護層62は、非常に又は比較的大きい有効断面積を伴って構成されている。そのため、酸素が空洞30内に到達する経路に沿った抵抗値に対するそれらの寄与度は、拡散障壁36の抵抗値及びガス導入孔部64の抵抗値に比較して小さい。それゆえに、熱衝撃保護層62が製造に起因する変動や経年劣化の影響を受けるとしても、それは、酸素が空洞30内に到達する経路に沿った抵抗値の変動に対して、絶対的及び相対的にわずかな寄与度しか与えない。
【0038】
即ち、本発明に係るセンサ素子10は、寿命にわたって排気ガス100中の酸素濃度を正確に測定することができる。
【0039】
本発明に係るセンサ素子10の製造は、本発明の発展形態においては、ガス導入孔部64内への熱衝撃保護層62の材料の浸入が確実に排除されるように行われる。
【0040】
第1の例による個々の方法ステップは、図1に関連して図2及び図3に示されている。
【0041】
本例においては、第1の方法ステップV1において、複数のグリーンYSZフィルムが印刷ペーストにより印刷される。それに続いて(方法ステップV2においては)、印刷されたフィルムが未焼結の積層体に層状に積層される。未焼結の積層体の排気ガス100に面する端部領域に、例えば機械式の回転ステップドリルを用いてガス導入孔部64が導入される(方法ステップV3)。
【0042】
ガス導入孔部64は、(方法ステップV4において)空洞形成器、例えば、ガラス状炭素を含むペーストにより、又は、UVレジストにより充填される。任意選択的に、焼結後の完成したセンサ素子において、ガス導入孔部64の膨隆したカバーが望まれているか又は平坦なカバーが望まれているかに応じて、未焼結の積層体の乾燥を実施することができる。
【0043】
これに並行して(方法ステップV5においては)、別個のブリッジ層60が転写フィルム110上に印刷される。この印刷のために、セラミック成分と有機成分とを含むインクが使用される。このインクは、短鎖のバインダーと溶媒のジエチレングリコールを含み、ブリッジ層60は、このようにして高められた強度を取得し、転写可能になる。任意選択的に、ブリッジ層60の強度は、乾燥によってさらに高めることができる。転写フィルム110として、本例においては、PACOTHANE(商標登録)PLUSとの商品名で市販品として入手可能なフィルムが使用される。
【0044】
それに続いて、ブリッジ層60は、当該ブリッジ層60がガス導入孔部64を覆うように転写フィルム110から未焼結の積層体に転写される(方法ステップV6)。この転写は、例えば、加熱されたプレス120において、80℃、30kN/(200mm×220mm)のもとで成功する。
【0045】
セラミックの焼結後及び/又は焼結前に(方法ステップV7)、熱衝撃保護層62は、それ自体公知の方法(例えば、ディッピング、スプレー、ラミネートなど)でセンサ素子10の排気ガスに面する端部領域全体及びブリッジ層60に被着することができる(方法ステップV8)。ブリッジ層60の存在は、この場合、熱衝撃保護層62の材料をガス導入孔部64内に浸入することができないようにさせる。
【0046】
第2の例による個々の方法ステップは、図1に関連して図4及び図5に示されている。
【0047】
本例においては、第1の方法ステップV1において、複数のグリーンYSZフィルムが印刷ペーストにより印刷される。それに続いて(方法ステップV2においては)、印刷されたフィルムが未焼結の積層体に層状に積層される。未焼結の積層体の排気ガスに面する端部領域に、例えば機械式のステップドリルを用いてガス導入孔部64が導入される(方法ステップV3)。
【0048】
ガス導入孔部64は、(方法ステップV4において)空洞形成器64h、例えば、ガラス状炭素を含むペーストにより、又は、UVレジストにより充填される。任意選択的に、ガス導入孔部64は、空洞形成器64hが未焼結の積層体の外表面に対して平坦に閉鎖するように、例えばプレス120を用いて完全に充填することができる。
【0049】
それに続いて(方法ステップV14において)、ガス導入孔部64は、ブリッジ層60を用いて、例えば、センサ素子上に多孔質保護層を製造するためにそれ自体公知であるような印刷ペーストを用いて加圧される。
【0050】
セラミックの焼結後及び/又は焼結前に(方法ステップV7)、熱衝撃保護層62は、それ自体公知の方法(例えば、ディッピング、スプレー、ラミネートなど)によりセンサ素子10の排気ガスに面する端部領域全体及びブリッジ層60に被着することができる(方法ステップV8)。ブリッジ層60の存在は、この場合、熱衝撃保護層62の材料をガス導入孔部64内に浸入することができないようにさせる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】