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特表2023-528012空気中で安定なイミドアルキリデン錯体及びオレフィンメタセシス反応におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】空気中で安定なイミドアルキリデン錯体及びオレフィンメタセシス反応におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 11/00 20060101AFI20230626BHJP
   C07C 69/593 20060101ALI20230626BHJP
   C07C 67/475 20060101ALI20230626BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20230626BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20230626BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
C07F11/00 C CSP
C07C69/593
C07C67/475
C07F7/18 T
C07F19/00
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572735
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2021064232
(87)【国際公開番号】W WO2021239891
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】20176815.7
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519370544
【氏名又は名称】フェルビオ フェルアイニクテ ビオエネルギー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリック グヤーシュ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4H049
4H050
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA14
4H006BA33
4H006KA31
4H039CA29
4H039CL60
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ77
4H049VR23
4H049VR41
4H049VU33
4H049VW01
4H049VW02
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050AD17
4H050WB11
4H050WB13
4H050WB14
(57)【要約】
本発明は、フェナントロリン配位子を含むシュロック-アルキリデン錯体に関するものである。この錯体は、溶媒にさらすと解離し、配位子を除去するための塩化亜鉛などのルイス酸を必要とせずに、オレフィンメタセシス反応において触媒活性を有する錯体を放出することができる。したがって、フェナントロリン錯体は、自己活性型である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの錯体であって、
【化1】
M=Mo又はWであり、
Aが、N-R又はOから選択され、Rが、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
Bが、ピロール及びピラゾールから選択され、それぞれ任意に置換されている、又は
Bが、Cであり、
Cが、O-Rから選択され、Rが、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
Dが、中性二座配位子であり、前記配位子が、1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンであり、
及びRが、独立して、H、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル及びアリールが、任意にそれぞれ置換されており、R及びRのうちの1つだけが水素である、
錯体。
【請求項2】
式Iの錯体が、溶媒中の前記中性配位子に関する安定度定数Kによって特徴付けられ、D又はC又はD及びCの少なくとも1つに関する式Iの前記錯体の置換パターンが、式Iの前記錯体が前記溶媒中に溶解しているときに、298Kで測定したときに前記安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択され、好ましくは、D又はD及びCの少なくとも1つの前記置換パターンが、式Iの前記錯体が前記溶媒に溶解しているときに、298Kで測定したときに前記安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択される、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
が、それぞれ独立して、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、CN、及びCFのうちの1つ以上で置換されたC1~10アルキル又はフェニルである、請求項1又は2に記載の錯体。
【請求項4】
Bが、それぞれ独立して、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ又はフェニルの1つ以上で置換されたピロール及びピラゾールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項5】
が、独立してハロゲン又はフェニルのうちの1つ以上で置換されたC1~10アルキルから選択されるか、又は
置換されたフェニルであって、独立して、C1~10アルキル、1つ以上のハロゲンで置換されたC1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、前記フェニルと環状環を形成する-(CH-、若しくは前記フェニルと環状環を形成する-(CH=CH-CH=CH)-、のうちの1つ以上で置換されたフェニル、又は-O-シリルで置換されたフェニルである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項6】
フェナントロリンが、独立して、1つ以上の電子供与性置換基、好ましくはC1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニルから選択される1つ以上の電子供与性置換基で置換されている、又は
1つ以上の電子吸引性置換基、好ましくはハロゲン、CN、CF及びCClから選択される1つ以上の電子吸引性置換基で置換されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項7】
及びRが、独立してH、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル又はアリールが、独立してC1~5アルキル、1つ以上のハロゲンで置換されたC1~5アルキル、C1~5アルコキシ、フェニル、ハロゲン、のうちの1つ以上で置換されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項8】
Kが、10Lmol-1~150,000Lmol-1又は10Lmol-1~100,000Lmol-1又は10Lmol-1~50,000Lmol-1又は10Lmol-1~10,000Lmol-1又は10Lmol-1~5000Lmol-1又は10Lmol-1~500Lmol-1の範囲である、請求項2~7のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項9】
前記溶媒中の前記錯体の濃度が、0.0001~0.5Mの範囲である、請求項2~8のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項10】
1,10-フェナントロリン及び置換された1,10-フェナントロリンが、Kを調整するために選択される、請求項2~9のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項11】
A、B及びCに関して同じ置換パターンを有するが、前記二座配位子Dが非置換の1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較して、Kを増加させるために、1,10-フェナントロリンが1つ以上の電子供与基で置換されている、請求項2~10のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項12】
A、B及びCに関して同じ置換パターンを有するが、前記二座配位子Dが非置換の1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較して、Kを減少させるために、1,10-フェナントロリンが1つ以上の電子吸引基で置換されている、請求項2~10のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項13】
Cが、Kを調整するために選択され、Cがアルコキシドであることを条件として、Cが、そのアルコキシドコーン角の観点から特徴付けられ、前記アルコキシドコーン角及びその決定が、本明細書に規定される、請求項2~12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項14】
前記アルコキシドコーン角が、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを減少させるために、増加する;又は前記アルコキシドコーン角が、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを増加させるために、減少する、請求項13に記載の錯体。
【請求項15】
Cが、Kを調整するために選択され、Cがアリールオキシドであることを条件として、Cが、その立体バルクの観点から特徴付けられる、請求項2~12のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項16】
前記立体バルクが、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを減少させるために、増加する;又は前記立体バルクが、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを増加させるために、減少する、請求項15に記載の錯体。
【請求項17】
前記錯体が、以下の式であって、
【化2】
Rが、C(CH、C(CH、C、又はo-(C1~4)-アルコキシCであり、
好ましくは、Rが、o-(C1~4)-アルコキシCであり、
より好ましくは、前記錯体が、
【化3】
[O-TBS=O-Si(t-ブチル)(Me)]である、
請求項1~16のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項18】
錯体の製造方法であって、
式IIの錯体であって、
【化4】
A、B、C、R及びRが、式Iの前記錯体に関して記載の意味を有する式IIの錯体を、前記溶媒中で1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンにさらすことを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
【請求項19】
式Iの前記錯体を固体形態で単離することを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
式Iの前記錯体が、濾過によって単離される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
式Iの前記錯体が、前記溶媒を蒸発させることによって単離される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項22】
請求項1~17のいずれか一項に記載の式Iの錯体と、
請求項18に記載の式IIの錯体と、
を含む系であって、
式Iの前記錯体及び式IIの前記錯体が、前記溶媒中に溶解される、系。
【請求項23】
前記系が、ルイス酸を含まない、請求項22に記載の系。
【請求項24】
前記ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、請求項23に記載の系。
【請求項25】
請求項1~17のいずれか一項に記載の式Iの前記錯体を前記溶媒に溶解すること、
を含む、請求項18に記載の式IIの錯体の製造方法。
【請求項26】
前記方法が、ルイス酸の非存在下で行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
オレフィン二重結合を含む化合物のメタセシス反応を行う方法であって、
前記溶媒の存在下で、請求項1~17のいずれか一項に記載の前記錯体を前記オレフィン系化合物に添加すること、
を含む方法。
【請求項29】
オレフィン二重結合を含む前記化合物が、前記溶媒である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記メタセシス反応が、ルイス酸の非存在下で行われる、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14電子モリブデン又はタングステンアルキリデン錯体と、中性二座配位子としての1,10-フェナントロリンと、によって形成される18電子モリブデン錯体又はタングステンアルキリデン錯体に関する。本発明はさらに、18電子触媒の製造方法、18電子錯体及び14電子錯体を含む系、18電子錯体から14電子錯体を製造する方法、並びに当該錯体を使用してオレフィンメタセシス反応を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン又はタングステンアルキリデン触媒-いわゆるシュロック触媒-などの遷移金属触媒によって触媒作用を及ぼすオレフィンメタセシス反応は、有機合成化学の最も重要な反応の一つである。既知の触媒のうち貴重な種類は、金属イミドアルキリデン錯体のグループである。この触媒の有効性は、金属、アルキリデン基及び配位子の種類に依存する。このような触媒は、有効であることが証明されているが、空気中での安定性に欠けることが多く、これにより取り扱いがより難しくなり、多くの場合、有用性が制限される。
【0003】
空気安定性を向上させるために、WO2012/116695では、2,2’-ビピリジン(2,2’-bipryridine)及び1,10-フェナントロリンなどの二座の複素環で触媒を複合化することによって、このような触媒を安定化させることを提案している。例示された1,10-フェナントロリン錯体は、錯体5~8であり、
【化1】
24=メチル、フェニル;R25、R26=H、メチル、CF;Z=メチル、イソプロピル、ハロゲンである。
【0004】
しかしながら、このような空気中で安定な生成物は、触媒的に活性ではなく、触媒の活性形態は、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)などのルイス酸への暴露、及び任意に熱への暴露により放出されなければならない。ルイス酸の存在、及びフェナントロリンとルイス酸の付加体の形成は、メタセシス反応に悪影響を及ぼすことがあり、一般に、反応生成物を分離するために、反応混合物の複雑なワークアップをもたらす。
【0005】
EP 3 268 377 B1には、1,10-フェナントロリンで安定化させたタングステンイミドアルキリデン触媒が開示されている。この触媒は、塩化亜鉛などのルイス酸の添加によって活性化されなければならない。例示された錯体は、錯体III~VIである。
【化2】
【0006】
GB 2 537 416には、ルイス酸の添加を必要とせずに溶媒に溶解することで活性化することができる、2,2’-ビピリジンを錯体化したメタセシス触媒が開示されている。GB 2 537 416の発明者は、これらのビピリジン付加体が不安定であることを示し、活性触媒の自然遊離を「自己活性化触媒」と呼んでいる。当該発明者らは、これは、比較的少数の化合物の特性であると結論付けている。
【0007】
不安定なビピリジン付加体の概念もまた、科学文献に発表されている(Gulyas, H.ら「Air-stable 18-electron adducts of Schrock catalysts with tuned stability constants for spontaneous release of active species」,Commun.Chem.4,71(2021);https:/doi.org/10.1038/s42004-021-00503-4)。
【発明の概要】
【0008】
発明の目的
オレフィンメタセシス反応における触媒作用を及ぼすことに適したモリブデン及びタングステンのアルキリデン錯体を提供することが、産業界で継続的に必要とされており、当該錯体は、空気安定性が改善され、当該錯体は、化学的活性化を必要としない。
【0009】
発明の概要
本目的は、独立請求項1に記載の式Iの18電子錯体で達成されている。更なる独立請求項では、式Iの錯体の製造方法、式Iの錯体と式IIの14電子錯体との平衡状態を含む系、式Iの18電子錯体から式IIの14電子錯体を製造する方法、及び式Iの錯体を使用してオレフィンメタセシス反応を行う方法を規定する。好ましい実施形態は、それぞれの従属請求項に明記されている。
【0010】
理論に束縛されることなく、本発明者らは、式Iの錯体の置換パターンによって、特に少なくともD(1,10-フェナントロリン及び置換された1,10-フェナントロリン)又はC(アルコキシド、アリールオキシド)又はD及びCに関して、溶媒中の中性二座配位子に関する式Iの錯体の安定度定数Kは、式Iの錯体が溶媒に溶解しているときに、298Kで測定するときに5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整することができることを見出した。したがって、この有限な安定度定数Kは、二座配位子を含み、オレフィンメタセシス反応において活性でない18電子錯体と、二座配位子が解離により放出された14電子錯体との間の平衡に対して選択された溶媒中で役立ち、14電子錯体は、オレフィンメタセシス反応において触媒的に活性である。
【0011】
これとは逆に、実質的に無限大な安定度定数K、すなわち、所定の溶媒中での安定度定数が高すぎる錯体は、そこから活性型を放出するためには、安定性が高すぎる。このことは、背景技術の項で言及したように、先行技術から知られているように、二座配位子を除去するためにルイス酸の助けを必要とする錯体に当てはまる。
【0012】
安定度定数が低すぎる、すなわち、所定の溶媒中でゼロに近づく錯体は、中性二座配位子と18電子錯体を形成しない。
【0013】
本発明の発明者らは、研究プログラムにおいて、298Kで測定し、式Iの錯体が溶媒に溶解しているときに5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲の安定度定数を有する式Iのシュロック-アルキリデン錯体が、ルイス酸によって二座配位子を除去する必要がなく、したがって不必要に対応する副産物を形成せずに、オレフィンメタセシス反応において空気安定で触媒的に活性である、すなわち、このような錯体は、自己活性化することを見出した。これは、背景技術の項で論じた引用された先行技術を考慮すると、顕著な改善である。
【0014】
2,2’-ビピリジンを中性配位子として有するシュロック-アルキリデン錯体が、ルイス酸の添加を必要とせず、溶媒への溶解により活性化することができ、これが比較的少数の化合物の選択による特性である、というGB 2 537 416 Aの発明者らの発見が説明可能であることは言及に値する。理論に拘束されることなく、本発明者らは、2,2’-ビピリジンが1,10-フェナントロリン配位子と比較して錯形成能力が低いことは、ビピリジンのコンフォメーションの柔軟性から、及びビピリジンの熱力学的に最も安定な配座異性体では、ピリジン環のねじれ角が約40°であり、二座錯体形成に最適でないという事実から起因するものと推定している。このことは、上記のGulyasの文献でも確認されている。
【0015】
これとは逆に、1,10-フェナントロリンの強固な骨格は、二座の錯体形成に最適である。
【0016】
本発明は、以下の項目に関する。
[項目1]
式Iの錯体であって、
【化3】
M=Mo又はWであり、
Aが、N-R又はOから選択され、Rが、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
Bが、ピロール及びピラゾールから選択され、任意にそれぞれ置換されており、又は
Bが、Cであり、
Cが、O-Rから選択され、Rが、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
Dが、中性二座配位子であり、前記配位子が、1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンであり、
及びRが、独立して、H、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル及びアリールが、任意にそれぞれ置換されており、R及びRのうちの1つだけが水素である、
錯体。
[項目2]
式Iの錯体が、溶媒中の中性配位子に関する安定度定数Kによって特徴付けられ、D又はC又はD及びCの少なくとも1つに関する式Iの錯体の置換パターンが、式Iの錯体が溶媒中に溶解しているときに、298Kで測定したときに安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択され、好ましくは、D又はD及びCの少なくとも1つの置換パターンが、式Iの錯体が溶媒に溶解しているときに、298Kで測定したときに安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択される、項目1に記載の錯体。
[項目3]
が、それぞれ独立して、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、CN、及びCFのうちの1つ以上で置換されたC1~10アルキル又はフェニルである、項目1又は2に記載の錯体。
[項目4]
Bが、それぞれ独立して、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ又はフェニルの1つ以上で置換されたピロール及びピラゾールである、項目1~3のいずれか1つに記載の錯体。
[項目5]
が、独立してハロゲン又はフェニルのうちの1つ以上で置換されたC1~10アルキルから選択されるか、又は
置換されたフェニルであって、独立して、C1~10アルキル、1つ以上のハロゲンで置換されたC1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、前記フェニルと環状環を形成する-(CH-、若しくは前記フェニルと環状環を形成する-(CH=CH-CH=CH)-、のうちの1つ以上で置換されたフェニル、又は-O-シリルで置換されたフェニルである、
項目1~4のいずれか1つに記載の錯体。
[項目6]
フェナントロリンが、独立して、1つ以上の電子供与性置換基、好ましくはC1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニルから選択される1つ以上の電子供与性置換基で置換されている、又は
1つ以上の電子吸引性置換基、好ましくはハロゲン、CN、CF及びCClから選択される1つ以上の電子吸引性置換基で置換されている、
項目1~5のいずれか1つに記載の錯体。
[項目7]
及びRが、独立してH、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル又はアリールが、独立してC1~5アルキル、1つ以上のハロゲンで置換されたC1~5アルキル、C1~5アルコキシ、フェニル、ハロゲン、のうちの1つ以上で置換されている、項目1~6のいずれか1つに記載の錯体。
[項目8]
Kが、10Lmol-1~150,000Lmol-1又は10Lmol-1~100,000Lmol-1又は10Lmol-1~50,000Lmol-1又は10Lmol-1~10,000Lmol-1又は10Lmol-1~5000Lmol-1又は10Lmol-1~500Lmol-1の範囲である、項目2~7のいずれか1つに記載の錯体。
[項目9]
溶媒中の錯体の濃度が、0.0001~0.5Mの範囲である、項目2~8のいずれか1つに記載の錯体。
[項目10]
1,10-フェナントロリン及び置換された1,10-フェナントロリンが、Kを調整するために選択される、項目2~9のいずれか1つに記載の錯体。
[項目11]
A、B及びCに関して同じ置換パターンを有するが、二座配位子Dが非置換の1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較して、Kを増加させるために、1,10-フェナントロリンが1つ以上の電子供与基で置換されている、項目2~10のいずれか1つに記載の錯体。
[項目12]
A、B及びCに関して同じ置換パターンを有するが、二座配位子Dが非置換の1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較して、Kを減少させるために、1,10-フェナントロリンが1つ以上の電子吸引基で置換されている、項目2~10のいずれか1つに記載の錯体。
[項目13]
Cが、Kを調整するために選択され、Cがアルコキシドであることを条件として、Cが、そのアルコキシドコーン角の観点から特徴付けられ、アルコキシドコーン角及びその決定が、本明細書に規定される、項目2~12のいずれか1つに記載の錯体。
[項目14]
アルコキシドコーン角が、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを減少させるために、増加する;又はアルコキシドコーン角が、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを増加させるために、減少する、項目13に記載の錯体。
[項目15]
Cが、Kを調整するために選択され、Cがアリールオキシドであることを条件として、Cが、その立体バルクの観点から特徴付けられる、項目2~12のいずれか1つに記載の錯体。
[項目16]
立体バルクが、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを減少させるために、増加する;又は立体バルクが、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを増加させるために、減少する、項目15に記載の錯体。
[項目17]
錯体が、以下の式であって、
【化4】
Rが、C(CH、C(CH、C、又はo-(C1~4)-アルコキシCであり、
好ましくは、Rが、o-(C1~4)-アルコキシCであり、
より好ましくは、当該錯体が、
【化5】
[O-TBS=O-Si(t-ブチル)(Me)]である、
項目1~16のいずれか1つに記載の錯体。
[項目18]
錯体の製造方法であって、
【化6】
A、B、C、R及びRが、式Iの錯体に関して記載の意味を有する式IIの錯体を、溶媒中で1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンにさらすことを含む、項目1~17のいずれか1つに記載の錯体の製造方法。
[項目19]
式Iの錯体を固体形態で単離することを更に含む、項目18に記載の方法。
[項目20]
式Iの錯体が、濾過によって単離される、項目18又は19に記載の方法。
[項目21]
式Iの錯体が、溶媒を蒸発させることによって単離される、項目18又は19に記載の方法。
[項目22]
項目1~17のいずれか1つに記載の式Iの錯体と、
項目18に記載の式IIの錯体と、
を含む系であって、
式Iの錯体及び式IIの錯体が、溶媒中に溶解される、系。
[項目23]
当該系が、ルイス酸を含まない、項目22に記載の系。
[項目24]
ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、項目23に記載の系。
[項目25]
項目1~17のいずれか1つに記載の式Iの錯体を溶媒に溶解すること、
を含む、項目18に記載の式IIの錯体の製造方法。
[項目26]
当該方法が、ルイス酸の非存在下で行われる、項目25に記載の方法。
[項目27]
ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、項目26に記載の方法。
[項目28]
オレフィン二重結合を含む化合物のメタセシス反応を行う方法であって、
溶媒の存在下で、項目1~17のいずれか1つに記載の錯体をオレフィン系化合物に添加すること、
を含む方法。
[項目29]
オレフィン二重結合を含む化合物が、溶媒である、項目28に記載の方法。
[項目30]
メタセシス反応が、ルイス酸の非存在下で行われる、項目28又は29に記載の方法。
[項目31]
ルイス酸が、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である、項目30に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】O-C第3級結合及びO-A線分を有するアルコキシドの模式図であり、Aは、C第3級に結合するグループの一番外側の原子である。この図を使用して、アルコキシドコーン角を計算することができる。
図2】298KでのC(c=0.01M)における錯体A1のH NMRスペクトルを示す。
図3】298KでのC(c=0.01M)における錯体A2のH NMRスペクトルを示す。
図4】298KでのC(c=0.01M)における錯体A3のH NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様によれば、本発明は、式Iの錯体に関するものであって、
【化7】
M=Mo又はWであり、
Aは、N-R又はOから選択され、Rは、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
Bは、ピロール及びピラゾールから選択され、任意にそれぞれ置換されており、又はBは、Cであり、
Cは、O-Rから選択され、Rは、アルキル、好ましくはC1~10アルキル、又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されており、
及びRは、独立して、H、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル及びアリールは、任意に置換されており、R及びRのうちの1つだけが、水素であり、
Dは、中性二座配位子であって、前記配位子は、1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンであり、好ましくは、式Iの錯体が、溶媒中の中性配位子に関する安定度定数Kによって特徴付けられ、式Iの錯体の少なくとも1つのD又はC及びDに関する置換パターンが、式Iの錯体が溶媒に溶解したときに、298Kで測定したときに安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択される。
【0019】
本発明によれば、Mは、Mo又はWである。
【0020】
一実施態様では、Mは、Wである。
【0021】
本発明によれば、Aは、N-R又はOから選択され、Rは、アルキル、好ましくはC1~10アルキル、又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されている。
【0022】
好ましい実施形態では、Aは、N-Rであり、Rは、C1~10アルキル又はアリールであり、任意にそれぞれ置換されている。
【0023】
本明細書で使用する、例えばRの定義に使用する用語「アルキル又はC1~10アルキル」は、直鎖、分枝、環状及び脂環式アルキルを包含する。好ましいC1~10アルキルは、C1~5アルキルである。他の実施形態では、C4~10アルキルが好ましい。
【0024】
一実施形態では、Rは、t-ブチル又は1-アダマンチルである。
【0025】
本明細書で使用する、例えば、Rの定義に使用する用語「アリール」は、任意にそれぞれ置換されたフェニル、ナフチル、アントラセニル、及びフェナントリルを包含する。
【0026】
適切な置換基は、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、CN、及びCFのうちの1つ以上から選択することができる。
【0027】
アリールとしてフェニルが好ましい。
【0028】
一実施形態では、Rは、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、フェニル、ハロゲン、CN、及びCFのうちの1つ以上でそれぞれ独立して置換されたC1~10アルキル又はフェニルである。
【0029】
本発明によれば、Bは、任意にそれぞれ置換されたピロール及びピラゾールから選択され、又はBは、Cである。
【0030】
一実施形態では、Bは、それぞれ独立して、C1~5アルキル、C1~5アルコキシ又はフェニルのうちの1つ以上で置換されたピロール及びピラゾールである。
【0031】
本発明によれば、Cは、O-Rから選択され、Rは、任意にそれぞれ置換されたC1~10アルキル又はアリールである。
【0032】
一実施形態では、Rは、独立して、ハロゲン又はフェニルのうちの1つ以上で置換されたC1~5アルキルから選択されるか、又は
置換されたフェニルであって、独立して、C1~5アルキル、1つ以上のハロゲンで置換されたC1~5アルキル、C1~5アルコキシ、フェニル、ハロゲン、前記フェニルと環状環を形成する-(CH-、若しくは前記フェニルと環状環を形成する-(CH=CH-CH=CH)-、のうちの1つ以上で置換されたフェニル、又は-O-シリルで置換されたフェニルである。
【0033】
用語「シリル」は、ケイ素と酸素との間に共有結合を形成するシリル基であってもよい。
【0034】
適切なシリル基は、例えばt-ブチルジメチルシリル(TBS、TBDMS)、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、t-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、及びトリフェニルシリルである。
【0035】
本発明によれば、Dは、中性二座配位子であり、前記中性配位子は、1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンである。フェナントロリン骨格の両方のN原子がMに結合し、したがって二座配位子を形成する。
【0036】
一実施形態では、フェナントロリンは、1つ以上の電子供与基で置換されている。
【0037】
一実施形態では、1,10-フェナントロリンは、独立して、C1~5アルキル、C1~5アルコキシ、-O-(CH-O-(n=1又は2)、及びフェニルのうちの1つ以上で置換される。これらの基は、本発明の意味において、電子供与基を表す。
【0038】
他の実施形態では、1,10-フェナントロリンは、1つ以上の電子吸引基で置換されている。
【0039】
一実施形態において、1,10-フェナントロリンは、独立して、ハロゲン、シアノ、CF又はCClで置換される。これらの基は、本発明の意味において、電子吸引基を表す。
【0040】
市販のフェナントロリン類は、例えば、以下のとおりである。
【化8】
【化9】
【0041】
本発明によれば、R及びRは、独立して、H、C1~10アルキル又はアリールであり、アルキル及びアリールは、任意に置換されており、R及びRのうちの1つだけが水素である。
【0042】
一実施形態では、R及びRは、独立してH、C1~10アルキル又はアリールであり、C1~10アルキル又はアリールは、独立してC1~5アルキル;ハロゲン、C1~5アルコキシ、フェニル、ハロゲンのうちの1つ以上で置換されたC1~5アルキル、のうちの1つ以上で置換されている。
【0043】
本発明によれば、式Iの錯体は、溶媒中の中性配位子に関する安定度定数Kによって特徴付けられ、Kは、298Kで5Lmol-1~250,000Lmol-1(5M-1~250,000M-1)の範囲である。
【0044】
用語「安定度定数」は、用語「会合定数」と同義に使用される。それは、解離定数の逆数である。「結合定数」及び「形成定数」などの用語も、用語「安定度定数」と同義に使用されることがある。
【0045】
Kは、質量作用の法則を採用した既知の方法に従って決定することができる。
【0046】
適切な溶媒は、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン若しくはクロロベンゼンなどの有機芳香族溶媒、ジクロロメタン若しくはトリクロロメタンなどの塩素化炭化水素、又はメタセシス反応を受ける(to be metathesized)基質である。
【0047】
本発明によれば、式Iの錯体の少なくともD又はC及びDに関する置換パターンは、式Iの錯体が溶媒に溶解しているときに、298Kで測定したときに溶媒中の中性二座配位子に関する安定度定数Kを5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲に調整するように選択される。
【0048】
本発明によれば、Kは、式Iの錯体が溶媒に溶解しているときに、289Kで測定したときに5Lmol-1~250,000Lmol-1の範囲である。
【0049】
一実施形態では、Kは、10Lmol-1~150,000Lmol-1又は10Lmol-1~100,000Lmol-1又は10Lmol-1~50,000Lmol-1又は10Lmol-1~10,000Lmol-1又は10Lmol-1~5,000Lmol-1又は10Lmol-1~500Lmol-1の範囲に調整される。
【0050】
一実施形態では、溶媒中の錯体の濃度は、0.0001~0.5M(0.0001~0.5mol/L)の範囲である。
【0051】
一実施形態では、Kを調整するために、1,10-フェナントロリン及び置換された1,10-フェナントロリンが選択される。
【0052】
一実施形態では、1,10-フェナントロリンは、A、B、及びCに関して同じ置換パターンを有するが、二座配位子Dが非置換1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較してKを増加させるために1つ以上の電子供与基で置換されている。
【0053】
別の実施形態では、A、B及びCに関して同じ置換パターンを有するが、二座配位子Dが非置換1,10-フェナントロリンである式Iの錯体と比較してKを減少させるために、1,10-フェナントロリンは、1つ以上の電子吸引基で置換されている。
【0054】
他の実施形態では、Cは、Kを調整するために選択され、Cがアルコキシドであるという条件で、Cは、そのアルコキシドコーン角の観点から特徴付けられる。
【0055】
コーン角は、C.A.Tolmanによって、J.Am.Chem.Soc.,1970,92,2956-2965及びChem.Rev.,77,313(1977)において、頂点としての金属に関して画定されている。
【0056】
Cに関して本開示で使用されるコーン角は、図1に示されるように、アルキル部分をMに結合するC中の酸素が頂点となるように画定される。このコーン角αは、以下の工程1~4に従って決定される。
【0057】
1.所望の錯体におけるアルコキシド配位子の最も安定な確認を見出す。
【0058】
2.構造からβ角を決定する。β角とは、O-C第3級結合とO-A線分(AはC第3級に結合する基の一番外側の原子)の間(beetween)の角度のことであり、Aは、C第3級に結合する基の一番外側の原子である。(β角を決定することは、O、C第3級及びA原子の中心を考慮する)。
【0059】
3.O-A距離とAのファンデルワールス半径であるrからγ角を求める。Sinγ=r/A。
【0060】
4.アルコキシド中の3つの有機配位子が同じである場合、アルコキシドがC3v対称であるため、正常なコーンが配位子を覆うことになる。その場合α=2(β+γ)となる。
【0061】
3つの異なる配位子の場合、立体パラメータは、各配位子のC3v対称のアルコキシドコーン角の平均として画定される。技術的に、3つのβ+γ半角の平均をとり、その平均半角を次式のように2で掛けたものである。
【数1】
【0062】
コーン角は、アルコキシド配位子の嵩高さのための尺度として使用される。
【0063】
一実施形態では、典型的には、アルコキシドコーン角の増加は、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較して、Kの減少をもたらす。
【0064】
他の実施形態では、典型的には、アルコキシドコーン角の減少は、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較して、Kの増加をもたらす。
【0065】
したがって、好ましい実施形態では、Cがアルコキシドであることを条件として、Kは、そのコーン角に関してCによって調整することができる。
【0066】
好ましい実施形態では、アルコキシドコーン角は、140°~225°、好ましくは150~220°の範囲である。
【0067】
他の好ましい実施形態では、Kは、Cがアリールオキシドであることを条件として、その立体バルクに関してCによって調整することができる。
【0068】
用語「立体バルク」は、Cの空間的拡大を意味する。
【0069】
一実施形態では、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを減少させるために、立体バルクを増加させる。
【0070】
他の実施形態では、A、B及びDに関して同じ置換パターンを有する錯体と比較してKを増加させるために、立体バルクを減少させる。
【0071】
好ましい実施形態では、1,10-フェナントロリン、電子供与基及び電子吸引基に関して置換された1,10-フェナントロリン、及びそのアルコキシドコーン角又はアリールオキシド立体バルクに関して特徴付けられるCの両方が、Kを調整するために使用される。
【0072】
本発明によれば、Kが規定された範囲にあるとき、錯体から二座配位子を除去して、18電子錯体から活性化14電子錯体を形成するために、塩化亜鉛などのルイス酸を式Iの錯体に添加する必要はない。むしろ、式Iの錯体は、自己活性化、すなわち、化学的な活性化を必要としない。
【0073】
好ましい実施形態では、錯体は、以下の式であって、
【化10】
Rは、C(CH、C(CH、C、又はo-(C1~4)-アルコキシCであり、
好ましくは、Rは、o-(C1~4)-アルコキシCであり、
より好ましくは、錯体は、
【化11】
[O-TBS=O-t-ブチル-Si(Me)]である。
【0074】
WO2012/116695に規定される錯体5~8、及びEP 3 268 377 B1に規定される錯体III~VIは、自己活性化ではなく、ルイス酸による化学活性化を必要とするため、概要欄に開示したように、項目1から除外することができる。
【0075】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の実施形態のいずれか1つに規定される式Iの錯体を製造する方法に関し、
式IIの錯体に作用させること、
【化12】
を含み、
A、B、C、R及びRは、溶媒中の1,10-フェナントロリン又は置換された1,10-フェナントロリンに対して、式Iの錯体に関して規定される意味を有する。
【0076】
一実施形態では、当該方法は、
式Iの錯体を固体形態で単離すること、を更に含む。
【0077】
一実施形態では、単離は、式Iの錯体を溶媒から、好ましくは結晶の形態で沈殿させることによって達成することができる。したがって、式Iの錯体は、濾過によって単離することができる。
【0078】
他の実施形態では、溶液を濃縮することは、本質的に、付加体形成の方に平衡を移動させる結果となる。
【0079】
したがって、他の実施形態では、当該方法は、
溶媒を蒸発させることによって式Iの錯体を単離すること、を更に含む。
【0080】
第3の態様では、本発明は、
第1の態様の実施形態のいずれか1つで規定される式Iの錯体、及び
第2の態様で規定される式IIの錯体、
を含む系に関するものであり、
式Iの錯体及び式IIの錯体は、溶媒に溶解している。
【0081】
これは、式I及び式IIの錯体が互いに平衡状態にあることを意味することに過ぎない。この平衡は、濃度及び温度に依存する。典型的には、温度を上昇させると、この平衡は式IIの錯体の方に移動する。さらに典型的には、溶液を希釈させると、この平衡は式IIの錯体の方に移動する。
【0082】
本発明によれば、前記系は、ルイス酸を含まない。
【0083】
本明細書で使用される用語「ルイス酸」は、WO2012/116695及びEP 3 268 377 B1に規定される錯体のいずれかから1,10-フェナントロリンを除去することができる、ルイス酸を含む。
【0084】
ルイス酸は、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である。
【0085】
好ましい実施態様では、ルイス酸は、塩化亜鉛である。
【0086】
第4の態様では、本発明は、
第1の態様の実施形態のいずれか1つに規定される式Iの錯体を溶媒に溶解すること、
を含む第2の態様で規定される式IIの錯体を製造する方法に関する。
【0087】
第5の態様では、本発明は、
溶媒の存在下で、第1の態様の実施形態のいずれか1つに規定される錯体を、オレフィン系化合物に添加すること、
を含む、オレフィン二重結合を含む化合物のメタセシス反応を行う方法に関する。
【0088】
一実施形態では、オレフィン二重結合を含む化合物は、溶媒である。
【0089】
本発明によれば、前記メタセシス反応は、ルイス酸の非存在下で行われる。
【0090】
ルイス酸は、MgCl、MgBr、MgI、MnCl、MnBr、MnI、FeCl、AlCl、CuCl、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(CFSO又はZn(CFCOO)である。
【0091】
好ましい実施形態では、ルイス酸は、塩化亜鉛である。
【0092】
例示
スキーム1の付加体20~23は、本発明による錯体の代表例である。これらは、対応するビスピロリド前駆体から出発して調製し、単離することが容易である。実際に、14電子タングステン-アルキリデン16~19の単離、精製は、著しく難しくかつ収率も低く、したがって、付加体形成はまた、合成の観点からもかなりの利点がある。
【化13】
スキーム1:自己活性化1,10-フェナントロリン付加体20~23の合成
【0093】
18電子付加体20~23を溶解すると、1,10-フェナントロリンが放出され、すなわち錯体が解離する。所定の条件下では、解離の程度は、以下のスキーム2に示すように、付加体の安定度定数に依存することになる。この例は、アルコキシド配位子の立体バルクが、付加体の熱力学的安定性にどのように影響を及ぼすのかを示しており、配位子の立体バルクが大きくなると安定度定数が減少し、その結果、同一の条件下でより大きな度合いで解離することになる。
【0094】
平衡は、NMR分光法によって説明されたように、濃度及び温度のような広範な物理的特性で容易に制御することができる。
【0095】
例えば、安定度定数K22、d6-ベンゼン、298K=615M-1である不安定(自己活性化)錯体22は、0.01MのC溶液中で対応する活性MAP錯体18の34%を遊離させることになる。22のd-ベンゼン溶液を[W]=0.0025M濃度に希釈すると、14電子のMAP錯体の52%が遊離することになる。
【0096】
安定度定数K23、d6-ベンゼン、298K=255M-1を含む、より不安定なフェナントロリン付加体23は、同様の条件下でより大きく解離することになる。25℃において、23の0.01MのC溶液では、活性MAP錯体19の54%が遊離し、溶液の10倍希釈で実質的に19が完全に遊離する。
【0097】
また、会合のギブス自由エネルギーはゼロ付近(平衡)であり、エントロピー変化は負(会合)であるため、付加体形成のエンタルピー変化は、負になると予想できることも理解しておくことが重要である。(上記Gulyas文献を参照)。これは、フェナントロリンの18電子錯体からの解離、14電子MAP錯体の遊離は、温度を上げることによって促進することができる。
【0098】
【化14】
スキーム2:アルコキシド配位子の立体バルクの関数としての自己活性化1,10-フェナントロリン付加体20~23の安定度定数
【0099】
アリールオキシド配位子は、オレフィンメタセシス触媒において非常に重要な構造モチーフであることが証明されている。シュロック触媒の設計においては、一般に、活性及び(立体)選択性の両方に関してアルコキシドより優れているように思われる。本発明で開示した空気中で安定な自己活性化貯蔵錯体に対する「フェナントロリン法」は、同様に、この種類のシュロック触媒に適用できる。
【0100】
MAP24は、多くの非常に重要なクロスメタセシス反応において、非常に活性が高く、シス選択性が高く、かなり堅牢であることが証明されている。MAP24は、1,10-フェナントロリンと容易に反応する。対応する付加体25は、スキーム3に示されるように、反応及び単離の条件に依存して、70%から98%超の非常に高い収率で単離されることが可能である。
【0101】
重要なことは、以前の例とは異なり、24の場合、配位が完全に立体選択的でないことである。25のNMRスペクトルのアルキリデン範囲に基づいて、可能な立体異性体の少なくとも2つが形成されており、溶液相の平衡に存在している。キラルなアリールオキシ配位子あるいはアルキリデン配位子のシン-アンチ異性体の両方が、観察された立体異性体の形成を生じさせる可能性がある。
【0102】
【化15】
スキーム3:不安定な(自己活性化)1,10-フェナントロリン付加体25の合成及び溶液相での挙動
【0103】
錯体25は、自己活性化し、その安定度定数は、溶媒の性質に大きく依存する。同様の条件下で、それはC中よりもCDCl中でかなり容易に解離する。CDCl中では、解離が更に促進され、室温で0.01M未満の濃度では、スキーム3の安定度定数に示されるように、活性型MAP錯体は、実質的に完全に遊離する。それはまた、フェナントロリンの配位を効率的に反転させるため、24と二座のN-ヘテロ環との間の相互作用によって形成される全ての新しいアルキリデンが、所望の不安定な配位化合物の立体異性体になることを証明する。
【0104】
MAP錯体24は、より堅牢なSchrock触媒の一つであるが、1,10-フェナントロリンとの錯体形成により、空気中での安定性が著しく向上した付加体が得られた。24の0.01mmolサンプルは、空気中で2時間以内に定量的に分解するが、25の場合、同様の条件下で、5日間で5~10%のみの分解が観測された。
【0105】
最後に、錯体24の空気中で安定な18電子貯蔵錯体である錯体25はまた、ルイス酸系の活性化剤を必要としない、非常に効率の良い触媒であることが証明されている。特に植物油のエーテル分解による精製では、適切な条件下で24を凌ぐ性能を発揮する。この触媒の結果はまた、フェナントロリンが単なる保護剤ではなく、触媒性能を調整し向上させるための追加ツールになり得ることも証明している。
【0106】
以下のスキーム及び表では、コーン角に関して表されるCの嵩高さがKに与える影響を示している。
【0107】
【化16】
【0108】
【表1】
【0109】
Kは、コーン角が大きくなると減少し、逆の場合も同じである。これは、Cの嵩高さがKを調整するために使用できることを示す。
【0110】
自己活性化錯体25は、以下の式に従って、9-DAMEのホモクロスメタセシスで使用した。
【化17】
【0111】
以下の表に結果を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
要約すると、本発明の発明者らは、研究プログラムにおいて、1,10-フェナントロリンを効率的に使用して、14電子シュロック触媒のための新規な空気安定性自己活性化貯蔵錯体を合成できることを発見した。この錯体化により、空気安定性が向上するだけでなく、触媒合成の全体的な収率も向上させることができる。18電子フェナントロリン付加体は、塩化亜鉛などのルイス酸で配位圏からフェナントロリンを除去する必要がなく、オレフィンメタセシス反応の前触媒として直接使用することができる。それどころか、フェナントロリンは、実際にはアルキリデン錯体の触媒性能に影響を及ぼす追加ツールとして機能する可能性がある。
【実施例
【0114】
調製例
実施例1:20の合成
【0115】
ビスピロリド前駆体W(CHCMePh)(NArdiCl)(MePyr)(ArdiCl=2,6-ジクロロフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(137.4mg,0.207mmol)をトルエン(10mL)に溶解し、この溶液をダブルジャケット式反応器で-30℃に冷却した。PhMeCOH(28mg,0.207mmol)を固体として添加した。バイアルの壁からのアルコール残留物をトルエン(4×0.5mL)で反応混合物中に洗浄した。反応混合物を-30℃で一晩撹拌した。反応混合物のH NMR解析により、16への完全な変換が示された。反応混合物を0℃に温め、1,10-フェナントロリン(37.4mg,0.207mmol)を添加した。反応混合物は濃い赤色に変化した。冷却せずに6時間撹拌し、温度は室温に達した。反応混合物のH NMR解析により、MAP錯体とそのフェナントロリン付加体の間の平衡が示された。溶媒を除去し、固体残留物をペンタンで撹拌した。懸濁液を冷凍庫に2、3時間移し、その後、生成物を濾過により単離し、冷凍庫内で予冷したフリット上で行った。黄褐色固体。収量:152mg(83%)。
【0116】
16のNMR特性:H-NMR(C):δ1.50(s,3H,CH),1.56(s,3H,CH),1.57(s,3H,CH),1.63(s,3H,CH),2.34(s,6H,CHMePyr),6.16(s br,2H,CHMePyr),6.26(t,1H,N-ArCパラ-H),8.61ppm(s,1H,W=CH,WH=16.0Hz)。
【0117】
20のNMR特性:H-NMR(C):δ0.63(s,3H,CH),0.98(s,3H,CH),1.94(s,3H,CH ネオフィリデン),2.18(s,3H,CH ネオフィリデン),2.88(br,6H,CHMePyr),6.04(t,HH=8.0Hz,1H,N-ArCパラ-H),6.55(dd,JHH=8.1,4.9Hz,1H,C3-H PHEN),6.68(dd,JHH=8.1,5.1Hz,1H,C3’-H PHEN),6.74-7.41(m,16H,Cメタ-Hネオフィリデン,Cパラ-Hネオフィリデン,CH MePyr,N-Ar Cメタ-H,C4-H,C4’-H,C5-H,C5’-H PHEN,アルコキシPh),7.73(m,2H,Cオルト-H),8.99(dd,JHH=5.1,1.4Hz,1H,C2’-H PHEN),9.36(dd,JHH=4.9,1.4Hz,1H,C2-H PHEN),12.02ppm(s,WH=10.0Hz,1H,W=CH)。
【0118】
実施例2:21の合成
【0119】
ベンゼン(3mL)に溶解したビスピロリド前駆体W(CHCMePh)(NArdiCl)(MePyr)(ArdiCl=2,6-ジクロロフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(166mg,0.25mmol)に反応混合物を室温で撹拌しながら、ベンゼン(1mL)に溶解した対応アルコール(0.25mmol)を徐々に添加した。反応の進行は、反応混合物のH NMR解析で確認した。17のNMR収率98%超で、ベンゼン(約2mL)に溶解した1,10-フェナントロリン(0.25mmol)をin situで加え、反応混合物を1時間撹拌した。溶媒を真空中で除去し、残留物をトルエンに溶解し、生成物をトルエン及びペンタンの混合物から冷凍庫(-38℃)中で結晶化させることにより単離した。茶色がかった黄色の固体。収量:160mg(74%)。
【0120】
17のNMR特性:H-NMR(300MHz,C):δ0.65(t,HH=7.4Hz,3H,CHCH),0.70(t,HH=7.4Hz,3H,CHCH),1.66(s,3H,CH ネオフィリデン),1.72(s,3H,CHネオフィリデン),1.74-1.90(m,4H,CHCH),2.39(s,6H,CH MePyr),6.15(s br,2H,CH MePyr),6.28(t,HH=8.1Hz,1H,N-Ar Cパラ-H),6.91(d,HH=8.1Hz,N-Ar Cメタ-H),6.96(m,1H,Cパラ-Hネオフィリデン),7.03(m,1H,-OC(C)-Ph Cパラ-H),7.08-7.23(m,6H,Cメタ-Hネオフィリデン,OC(C)-Ph Cオルト-H,OC(C)-Ph Cメタ-H),7.44(m,2H,Cオルト-Hネオフィリデン),9.12ppm(s,1H,W=CH,WH=16.0Hz)。
【0121】
21のNMR特性:H-NMR(C):δ0.22(t,HH=7.4Hz,3H,CHCH),0.41(t,HH=7.4Hz,3H,CHCH),0.69(m,1H,CHCH),1.09(m,1H,CHCH),1.49(m,2H,CHCH),2.00(s,3H,CHネオフィリデン),2.22(s,3H,CHネオフィリデン),2.74(w br,3H,CH MePyr),3.21(w br,3H,CH MePyr),6.04(t,HH=8.0Hz,1H,N-Ar Cパラ-H),6.43-6.68(m,7H,C3-H,C3’-H,C4’-H,C5-H,C5’-H PHEN,Cパラ-Hネオフィリデン,-OC(C)-Ph Cパラ-H),6.79(s br,2H,CH MePyr),6.86-6.94(m,N-Ar Cメタ-H),7.08-7.21(m,4H,Cメタ-H,Cオルト-H),7.25(dd,JHH=7.9,1.2Hz,1H,C4-H PHEN),7.32(m,2H,Cメタ-H),7.73(m,2H,Cオルト-H),8.87(dd,JHH=5.0,1.2Hz,1H,C2-H PHEN),9.17(dd,JHH=4.8,1.3 Hz,1H,C2-H PHEN),12.09ppm(s,WH=10.0Hz,1H,W=CH)。
【0122】
実施例3:22の合成
【0123】
ベンゼン(6mL)に溶解したビスピロリド前駆体W(CHCMePh)(NArdiCl)(MePyr)(ArdiCl=2,6-ジクロロフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(296mg,0.45mmol)に、ベンゼン(2mL)に溶解したジシクロプロピル(パラトリル)メタノール(0.45mmol)を添加した。反応混合物を4時間撹拌した。反応混合物のH NMR解析により、18への完全な変換が示された。ベンゼン(約4mL)に溶解した1,10-フェナントロリン(0.45mmol)をin situで加え、反応混合物を1時間撹拌した。溶媒を真空で除去し、残留物をペンタン中で粉砕して茶色がかった黄色の固体を得た後、これを濾過し、ペンタンで洗浄し、真空で乾燥させた。収量:305mg(77%)。
【0124】
18のNMR特性:H-NMR(C)δ(ppm):0.1-0.7(m,8H,CH-シクロプロピル),0.95-1.1(m,2H,CH-シクロプロピル),1.58(s,3H,CH),1.66(s,3H,CH),2.13(s,3H,Ar-CH),2.33(s,12H,CH),6.17(s,2H,=CH MePyr),6.27(t,1H,N-Ar Cパラ-H),6.85-7.13(m,10H,芳香族),7.33(m,2H,Cオルト-Hネオフィリデン),7.44(m,2H,Cオルト-Hベンジル),8.67(s,WH=15.3Hz,1H,W=CH)。
【0125】
22のNMR特性:H-NMR(C):δ-1.70(m,1H,CH-シクロプロピル),-0.86(m,2H,CH-シクロプロピル),-0.65(m,1H,CH-シクロプロピル),-0.52(m,1H,CH-シクロプロピル),-0.40(m,1H,CH-シクロプロピル),-0.23(m,1H,CH-シクロプロピル),0.16(m,1H,CH-シクロプロピル),1.24(m,2H,CH-シクロプロピル),1.96(s,3H,CH ネオフィリデン),2.16(s,3H,CH),2.18(s,3H,CH),2.81(w br,6H,CHMePyr),6.06(t,HH=8.0Hz,1H,N-Ar Cパラ-H),6.57(dd,JHH=8.2,5.0Hz,1H,C3-H PHEN),6.78(dd,JHH=8.2,5.2Hz,1H,C3’-H PHEN),6.87-7.47(m,13H,C4-H,C4’-H,C5-H,C5’-H PHEN,Cメタ-Hネオフィリデン,Cパラ-Hネオフィリデン,CH MePyr,N-Ar Cメタ-H,Cメタ-H),7.52(m,2H,Cオルト-H),7.67(m,2H,Cオルト-H),9.20(dd,JHH=5.2,1.5Hz,1H,C2’-H PHEN),9.58(dd,JHH=5.0,1.5Hz,1H,C2-H PHEN),12.07ppm(s,WH=10.0Hz,1H,W=CH)。
【0126】
自己活性化錯体22の0.01M溶液は、C中に298Kで遊離した錯体18の33%を含んでいた。単離された自己活性化錯体22の0.0025M溶液は、C中に298Kで遊離した錯体18の52%を含んでいた。
【0127】
実施例4:23の合成
【0128】
ベンゼン(3mL)に溶解したビスピロリド前駆体W(CHCMePh)(NArdiCl)(MePyr)(ArdiCl=2,6-ジクロロフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(141mg,0.2125mmol)にPhCOH(55mg,0.2125mmol,0.85等量)を固体として加え、バイアルの壁からの残留物をベンゼン(2mL)で反応混合物中に洗浄した。反応混合物を室温で1時間撹拌した。反応混合物のH NMR解析により、19への完全な変換が示された。過剰のアルコールは検出されなかった。1,10-フェナントロリン(38mg,0.2125mmol)を加え、反応混合物を室温で30分間撹拌した。反応混合物のH NMR解析は、MAP錯体とそのフェナントロリン付加体の間の平衡状態を示した。全ての揮発分を真空中で除去した。残留物をペンタン中で粉砕し、生成物を茶色がかった黄色の粉末として得た。これを濾過により単離し、少量の冷ペンタンで洗浄し、真空中で乾燥させた。収量:182mg(87%)。
【0129】
19のNMR特性:H-NMR(300MHz,C):δ1.58(s,3H,CHネオフィリデン),1.60(s,3H,CHネオフィリデン),2.24(s,6H,CH MePyr),6.04(s br,2H,CH MePyr),6.28(t,HH=8.1Hz,1H,Cパラ-H N-Ar),6.91(d,HH=8.1Hz,Cメタ-H N-Ar),6.93(m,1H,Cパラ-Hネオフィリデン),6.97-7.10(m,11H,Cメタ-H OC(Ph),Cパラ-H OC(Ph),Cメタ-Hネオフィリデン),7.25-7.34(m,8H,Cオルト-H OC(Ph),Cオルト-Hネオフィリデン),7.92ppm(s,1H,W=CH,WH=16.5Hz)。
【0130】
23のNMR特性:H-NMR(C):δ1.96(s,3H,CHネオフィリデン),2.05(s,3H,CH ネオフィリデン),2.54(s,3H,CH MePyr),2.87(s,3H,CH MePyr),5.98(t,HH=8.1Hz,1H,N-Ar Cパラ-H),6.50(dd,JHH=8.2,4.9Hz,1H,C3-H PHEN),6.57(dd,JHH=8.0,5.2Hz,1H,C3’-H PHEN),6.33-7.41(m,24H,Cメタ-Hネオフィリデン,Cパラ-Hネオフィリデン,CH MePyr,N-Ar Cメタ-H,C4-H,C4’-H,C5-H,C5’-H PHEN,アリールオキシPh),7.52(m,2H,Cオルト-H),7.76(m,2H,Cオルト-H),8.77(dd,JHH=5.2,1.4Hz,1H,C2’-H PHEN),9.49(dd,JHH=4.9,1.5 Hz,1H,C2-H PHEN),12.29ppm(s,WH=10.5Hz,1H,W=CH)。
【0131】
自己活性化錯体23の0.01M溶液は、C中に298Kで遊離した錯体19の54%を含んでいた。単離された自己活性化錯体23の0.001M溶液は、C中に298Kで遊離した錯体19の95%超を含んでいた。
【0132】
実施例5:25の合成;合成手順A
【0133】
24(899mg,0.8mmol)及び1,10-フェナントロリン(144mg,0.8mmol)をベンゼン(15mL)に溶解させた。反応混合物を室温で撹拌した。
オレンジ色の生成物は、2時間以内に結晶化し始め、最終的に厚い懸濁液となった。反応混合物を室温で一晩撹拌した。生成物を濾過によって単離し、ペンタンで洗浄した。それを最初に、真空誘導窒素流中、フリット上で乾燥させた。それを風袋バイアル(tared vial)に移し、さらに室温、高真空で乾燥させた。明るいオレンジ色の粉末。収量:807mg(77%)。単一の構造異性体が1つあるが、立体異性体の混合物である。
【0134】
実施例5:25の合成;合成手順B
【0135】
24(674mg,0.6mmol)及び1,10-フェナントロリン(108mg,0.6mmol)をベンゼン(10mL)に溶解させた。反応混合物を室温で撹拌した。
オレンジ色の生成物は2時間以内に結晶化し始め、徐々に濃厚なオレンジ色の懸濁液に変化した。真空中でベンゼンを蒸発させると、オレンジ色の固体として生成物が得られた。収量:定量的。単一の構造異性体が1つあるが、立体異性体の混合物である。(手順A及びBで得られた生成物のNMR特性は、同一である)。
【0136】
25の選択されたNMRデータ:H-NMR(C6,δref 1H溶媒=7.16ppm):13.19ppm(broad s,1H,W=CH,メジャー構造異性体);12.99(broad s,1H W=CH,マイナー構造異性体)。
【0137】
化合物25は、2%未満のArOH(C、0.01M、298K)を含んでいた。
【0138】
5日間空気と接触させた後、化合物25は、約5%のArOH(C,0.01M,298K)を含んでいた。
【0139】
実施例6:錯体25を使用した9DAMEのHCM
【0140】
吸着処理による9-DAMEの基質精製:基質を塩基性酸化アルミニウム(20重量%)に3回濾過した。
【0141】
グローブボックスの雰囲気下で、乾燥した4mLバイアルに基質を自動ピペットで加え、そこに触媒原液を加えた。バイアルを穴あきキャップで閉め、反応混合物を室温で撹拌した。次に、サンプルを取り、EtOAc(GC用Suprasolv(登録商標))に溶解し、GCMSで分析し、変換率を決定した。
【0142】
GCMS-FIDシステム:島津製作所2010Plus、スプリットインジェクション方式、カラム:Zebron ZB-35HT INFERNO、30m×0.25mm×0.25μm、を出発原料及び生成混合物の分析に使用した。
【0143】
錯体24及び25を触媒として反応を行った。結果を以下の表に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
実施例7:FAMEのエテノリシス
【0146】
窒素ガス充填グローブボックス内で、脂肪酸メチルエステルを30mLガラスバイアルに計量し、トリエチルアルミニウムの原液(トルエン中23重量%)と混合した。最適なトリエチルアルミニウム量は事前に決定しており、700ppmであることが判明した。混合物を室温で1時間撹拌した。触媒25を原液(ベンゼン中0.01M)として添加した。このバイアルを、アルブロック(alublock)を備えたステンレス製オートクレーブに入れ、10気圧のエチレンガス過圧下で50℃、18時間撹拌した。ガス空間を共通にした同一のオートクレーブで5回反応を行った。過剰のエチレンは、外に出した。反応混合物から2.0μlを取り出し、n-ペンタンで1.5mlに希釈し、GCMS-FID(島津製作所2010Plus、カラム:Zebron ZB-35HT INFERNO、30m×0.25mm×0.25μm)で分析した。
【0147】
結果を以下の表に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
実施例8:錯体A1の合成
【化18】
【0150】
ビスピロリド前駆体Mo(CHCMePh)(NArdiiPr)(MePyr)(ArdiiPr=2,6-ジイソプロピルフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(118mg,0.2mmol)をベンゼン(2mL)中に溶解させた。Ph(CFCOH(30μL,43.6mg,0.179mmol)を加えた。反応混合物を室温で一晩撹拌した。NMR解析により、副生成物として少量の対応するビスアルコキシド錯体と共に、所望のMAP錯体が生成していることが確認された。1,10-フェナントロリン(32.3,0.179mmol)を反応混合物に添加した。フェナントロリンの残留物を、そのバイアルから少量のベンゼン(合計約1mL)を用いて反応混合物中にすすぎ入れた。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、全ての揮発分を真空中で蒸発させた。残留物をペンタン中で粉砕し、生成物をオレンジ色の粉末として得た。それを濾過により単離し、真空で乾燥させた。オレンジ色の固体。収量:151mg(92%)。H NMR:15.03ppm;19F NMR:-69.78(q),-75.87(q)ppm。完全なH NMR(C)は、図2を参照。
【0151】
実施例9:錯体A2の合成
【0152】
【化19】
【0153】
ビスピロリド前駆体Mo(CHCMePh)(NArdiiPr)(MePyr)(ArdiiPr=2,6-ジイソプロピルフェニル,MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(118mg,0.2mmol)をトルエン(3mL)中に溶解させた。この溶液をグローブボックス冷凍庫に移し、-30℃まで冷却して放置した。冷凍庫内で-30℃に予冷したPh(CFCOH(0.7mL,0.12M,0.084mmol)のトルエン溶液をMo-ビスピロリド前駆体の溶液に添加した。反応混合物を手で数秒間撹拌して均質化した後、撹拌せずに冷凍庫内に放置した。1時間後にPh(CFCOH溶液(0.7mL,0.12M,0.084mmol)をもう一部加え、反応混合物を撹拌せずに更に1時間冷凍庫内に放置した。その後、反応混合物を冷凍庫から取り出し、室温で3時間撹拌した。NMR解析により、反応混合物には未反応のMo-ビスピロリド及びアルコールの両方が含まれていることが判明した。室温で一晩撹拌し、再度NMRで分析した。アルコールは消費され、約8%のビスピロライドが未反応のまま残っていた。
反応混合物を-30℃に冷却し、Ph(CFCOH溶液(0.110mL,0.12M,0.0132mmol)の第3の部分を反応混合物に添加した。反応混合物を冷凍庫で1時間放置した後、室温で6時間撹拌した。NMR解析の結果、Mo-ビスピロリドの含有量は約3%に減少していることがわかった。MAP錯体の溶液に4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(47.1mg,0.189mmol;DCM溶液中、モレキュラーシーブを用いて注意深く乾燥したもの)を添加した。反応混合物は、濃い赤褐色になった。フェナントロリンの残留物を、そのバイアルから少量のトルエン(2×0.5mL)で反応混合物中に洗浄した。反応混合物をジクロロフェナントロリンが完全に溶解するまで(約30分)撹拌した後、全ての揮発分を真空中で蒸発させた。残留物をペンタン中で粉砕すると、生成物が黄褐色の固体として得られた。それを濾過により単離し、ペンタンで洗浄した。それを、最初は真空誘導アルゴン流中で乾燥させ、次に真空中で乾燥させた。黄褐色固体。収量95mg(53%)。H NMR:14.96ppm;19F NMR:-69.78(q),-75.87(q)ppm。完全なH NMR(C)は、図3を参照。
【0154】
実施例10:錯体A3の合成
【0155】
【化20】
【0156】
ビスピロリド前駆体Mo(CHCMePh)(NArdiiPr)(MePyr)(ArdiiPr=2,6-ジイソプロピルフェニル、MePyr=2,5-ジメチルピロリド)(59mg,0.1mmol)をトルエン(2mL)中に溶解させた。この溶液をグローブボックス冷凍庫に移し、-30℃まで冷却して放置した。冷凍庫で-30℃に予冷したPhSiOHのトルエン溶液(2mLのトルエン中に27.6mg,0.1mmol)をMo-ビスピロリド前駆体の溶液に添加した。反応混合物を手で数秒間撹拌して均質化した後、48時間撹拌せずに冷凍庫内に放置した。NMR解析により、Mo-ビスピロリド前駆体から目的のMAP錯体への完全かつ選択的な変換が確認された。トルエン(1mL)に溶解した1,10-フェナントロリン(17.1mg,0.095mmol)を反応混合物に添加した。フェナントロリンの残留物を、そのバイアルから少量のベンゼン(合計で約1mL)で反応混合物にすすいだ。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、全ての揮発分を真空中で蒸発させた。残留物をペンタン中で粉砕し、生成物を暗黄色の粉末として得た。それを濾過により単離し、真空中で乾燥した。暗黄色の固体。収量:68mg(75%)。H NMR:15.54ppm。完全なH NMR(C)は、図3を参照。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】