(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】発射体のスピンを判定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
G01S13/58 210
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573325
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2021064210
(87)【国際公開番号】W WO2021244943
(87)【国際公開日】2021-12-09
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522287765
【氏名又は名称】トップゴルフ スウェーデン エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,ジョニー
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC08
5J070AC20
5J070AE20
(57)【要約】
発射体のスピンを推定するための方法であって、レーダートランシーバに対する発射体の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列をレーダートランシーバから取得することと、第1の時系列から発射体の中心速度を計算することと、計算された中心速度の周りの第1の時系列の変動を含む第2の時系列を第1の時系列から抽出することと、第2の時系列の周波数を推定することと、第2の時系列の推定周波数に基づいて発射体のスピンを判定することとを含む、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射体(110)のスピンを推定するための方法であって、前記方法は、
レーダートランシーバ(100)に対する前記発射体(110)の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列(201)を前記レーダートランシーバ(100)から取得すること(S1)と、
前記第1の時系列(201)から前記発射体(110)の中心速度(202)を計算すること(S2)と、
前記計算された中心速度(202)の周りの前記第1の時系列(201)の変動を含む第2の時系列(203)を前記第1の時系列(201)から抽出すること(S3)と、
前記第2の時系列(203)の周波数を推定すること(S4)と、
前記第2の時系列(203)の推定周波数に基づいて前記発射体(110)のスピンを判定すること(S5)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、
前記第2の時系列(203)を複数の時間間隔(210a、210b、210c)に分割すること(S31)と、
前記複数の時間間隔(210a、210b、210c)における各時間間隔に対応する、前記第2の時系列(203)の複数の周波数を推定すること(S41)と、
前記複数の推定周波数に基づいて前記発射体(110)のスピンを判定すること(S51)と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の推定周波数に基づいて前記発射体(110)のスピンを判定すること(S51)は、前記複数の推定周波数の分布(300)を得ることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の時系列(201)における観測値間の時間間隔は、最高期待スピンにおける前記発射体(110)の期待回転周期の多くとも半分である、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の時系列(201)における観測値間の時間間隔は一定である、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の時系列(201)における観測値間の時間間隔は可変である、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記中心速度(202)は、ローパスフィルタの使用を通じて計算(S2)される、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記中心速度(202)は、前記第1の時系列(201)への関数の区分的当てはめを通じて計算(S2)される、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の時系列(203)は、前記計算された中心速度(202)を前記第1の時系列(201)から減算することを通じて抽出(S3)される、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の時系列(203)の周波数を推定すること(S4)は、前記周波数の最尤推定の基礎として前記第2の時系列(203)から計算されたパワースペクトル(400)を使用することを含む、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記周波数は基本周波数である、いずれかの先の請求項に記載の方法。
【請求項12】
レーダートランシーバ(100)に対する発射体(110)の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列(201)を取得(S1)し、前記第1の時系列(201)から前記発射体(110)の中心速度(202)を計算(S2)し、前記計算された中心速度(202)の周りの第1の時系列の変動を含む第2の時系列(203)を抽出(S3)し、前記第2の時系列(203)の周波数を推定(S4)し、前記第2の時系列(203)の推定周波数に基づいて前記発射体(110)のスピンを判定(S5)するように構成された、レーダートランシーバ(100)。
【請求項13】
前記第2の時系列(203)を複数の時間間隔に分割(S31)し、前記複数の時間間隔(210a、210b、210c)における各時間間隔に対応する、前記第2の時系列(203)の複数の周波数を推定(S41)し、前記複数の推定周波数に基づいて前記発射体(110)のスピンを判定(S51)するようにさらに構成される、請求項12に記載のレーダートランシーバ(100)。
【請求項14】
前記レーダートランシーバ(100)は、周波数変調連続波、FMCW、レーダートランシーバである、請求項12又は13に記載のレーダートランシーバ。
【請求項15】
発射体(110)のスピンを測定するためのシステム(600)であって、前記システムは、請求項12~請求項14のいずれかに記載のレーダートランシーバ(100)と、前記判定されたスピンを表示する少なくとも1つの手段(601)とを含む、システム。
【請求項16】
補助センサ(602)を含み、前記レーダートランシーバ(100)からのスピン推定値は、前記補助センサ(602)から得られたデータと組み合わされる、請求項15に記載のシステム(600)。
【請求項17】
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法を実行するように構成されたプロセッサ(701)。
【請求項18】
レーダートランシーバ(100)と請求項17に記載のプロセッサ(701)とを含むシステム(700)。
【請求項19】
発射体(110)のスピンを判定するべくレーダートランシーバ(100)を動作させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、レーダートランシーバ(100)の処理回路上で実行されるときに前記レーダートランシーバ(100)に請求項1~11のいずれかに記載の方法を実行させるコンピュータコードを含む、コンピュータプログラム。
【請求項20】
請求項19に記載のコンピュータプログラムと、前記コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読記憶媒体とを含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発射体のスピンを判定するためのレーダートランシーバの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発射体の経路を監視するとき、発射体の全体的な経路に影響するため、発射体の回転速度又はスピンを判定することができると有利な場合がある。これは、例えば、野球又はゴルフボールなどのスポーツボールの経路を監視するときに重要な場合がある。
【0003】
US8845442は、反射レーダー信号の変調周波数及び前記変調周波数の高調波からスピンを計算することを含む、スポーツボールのスピンを判定するための方法を開示している。
【0004】
US9868044は、反射レーダー信号の周期成分から発射体のスピンを判定するための方法を開示している。
【0005】
しかしながら、発射体のスピンを判定するためのより洗練された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
発射体のスピンを判定するための方法を提供することが、本開示の目的である。
【0007】
この目的は、発射体のスピンを推定するための方法であって、その方法は、レーダートランシーバに対する発射体の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列をレーダートランシーバから取得することと、第1の時系列から発射体の中心速度を計算することと、計算された中心速度の周りの第1の時系列の変動を含む第2の時系列を第1の時系列から抽出することと、第2の時系列の周波数を推定することと、第2の時系列の推定周波数に基づいて発射体のスピンを判定することとを含む方法によって達成される。
【0008】
発射体の中心速度の周りの第1の時系列の変動は、スピンに起因して発射体の特徴がレーダーに向かう方又は離れる方に回転する際の、前記発射体の特徴からのレーダー信号の反射により生じる。したがって、第2の時系列の周波数はスピン速度に依存し、スピンは周波数から容易に判定することができる。
【0009】
この方法はまた、第2の時系列を複数の時間間隔に分割することと、複数の時間間隔における各時間間隔に対応する、第2の時系列の複数の周波数を推定することと、複数の推定周波数に基づいて発射体のスピンを判定することとを含み得る。
【0010】
有利なことに、第2の時系列を複数の時間間隔に分割することで、スピンのより信頼できる最終推定値を得ることができる。或る時間間隔に対応する周波数の推定値は、測定ノイズ又は測定誤差の影響を受けることがあり、信頼できないものとなる可能性がある。複数の推定周波数であれば、統計的方法を適用して、単一の推定周波数から導出される推定値よりも信頼できるスピンの最終推定値を得ることができる。
【0011】
いくつかの態様によれば、複数の推定周波数に基づいて発射体のスピンを判定することは、複数の推定周波数の分布を得ることを含む。
【0012】
他の態様によれば、この方法は、第1の時系列における観測値間の時間間隔は、最高期待スピンにおける発射体の期待回転周期の多くとも半分であることを含み得る。これは、発射体の1回転につき、半径方向速度の少なくとも2つの観測値が得られるという利点を有し、スピンに起因する半径方向速度の変動が確実に第1の時系列に取り込まれる。
【0013】
いくつかの態様によれば、第1の時系列における観測値間の時間間隔は一定である。他の態様によれば、第1の時系列における観測値間の時間間隔は可変である。
【0014】
中心速度は、ローパスフィルタの使用を通じて、又は第1の時系列への関数の区分的当てはめを通じて計算され得る。有利なことに、これらの方法は両方とも、中心速度の信頼できる推定値をもたらすことができる。
【0015】
いくつかの態様によれば、第2の時系列は、計算された中心速度を第1の時系列から減算することを通じて抽出され得る。
【0016】
いくつかの態様によれば、第2の時系列の周波数を推定することは、周波数の最尤推定の基礎として第2の時系列から計算されたパワースペクトルを使用することを含み得る。有利なことに、パワースペクトルは、信号に存在する各周波数に関連したパワーの測度を提供し、これは周波数の推定を容易にする。
【0017】
いくつかの態様によれば、周波数は信号の基本周波数であり得る。有利なことに、基本周波数は、一般に、スピン速度に相当する。
【0018】
この目的はまた、レーダートランシーバに対する発射体の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列を取得し、第1の時系列から発射体の中心速度を計算するように構成されたレーダートランシーバによって達成される。レーダートランシーバはさらに、中心速度の周りの第1の時系列の変動を含む第2の時系列を抽出し、第2の時系列の周波数を推定し、第2の時系列の周波数に基づいて発射体のスピンを判定するように構成される。
【0019】
レーダートランシーバはまた、第2の時系列を複数の時間間隔に分割し、複数の時間間隔における各時間間隔に対応する、第2の時系列の複数の周波数を推定し、複数の推定周波数に基づいて発射体のスピンを判定するように構成され得る。
【0020】
いくつかの態様によれば、レーダートランシーバは、周波数変調連続波、FMCW、レーダートランシーバであり得る。
【0021】
この目的はさらに、発射体のスピンを測定するためのシステムであって、そのシステムは、前述のレーダートランシーバと、判定されたスピンを表示する少なくとも1つの手段とを含む、システムによって達成される。有利なことに、判定されたスピンを表示する手段を組み込むことで、システムを使用する人が判定されたスピンの情報をより容易に得られるようになる。
【0022】
いくつかの態様によれば、システムは、補助センサを含むことができ、レーダートランシーバからのスピン推定値は、補助センサから得られたデータと組み合わされる。有利なことに、スピン推定値を補助センサから得られたデータと組み合わせることで、システムを使用する人による発射体軌道の評価が容易になる。
【0023】
本明細書で開示されるレーダートランシーバ及びシステムは、異なる方法に関連して前述したのと同じ利点と関連付けられる。
【0024】
いくつかの態様によれば、この目的はまた、前述の方法に係る方法を実行するように構成されたプロセッサによって、又はレーダートランシーバと、本明細書に記載の方法のうちの1つを実行するように構成されたプロセッサとを含むシステムによって達成され得る。
【0025】
最後に、この目的はまた、発射体のスピンを判定するべくレーダートランシーバを動作させるためのコンピュータプログラムであって、そのコンピュータプログラムは、レーダートランシーバの処理回路で実行されるときにレーダートランシーバに本明細書に記載の方法のいずれかを実行させるコンピュータコードを含むコンピュータプログラムによって、及び、前述のコンピュータプログラムと、コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読記憶媒体とを含むコンピュータプログラム製品によって達成される。
【0026】
一般に、特許請求の範囲で用いられるすべての用語は、本明細書で別途明示的に定義されていない限り、技術分野でのそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど」へのすべての言及は、特に明記されていない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つの事例を指すものとして広く解釈されるべきである。本明細書で開示されるどの方法のステップも、明記されていない限り、開示された正確な順序で実行される必要はない。本発明のさらなる特徴及び利点は、付属の請求項及び以下の説明を見れば明らかとなるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明する実施形態以外の実施形態を作成できることを当業者は理解するであろう。
【0027】
ここで、添付図を参照しながら本開示をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】レーダートランシーバによる発射体の観測を概略的に例解する。
【
図2】発射体の半径方向速度の経時的変化を概略的に例解する。
【
図3】発射体のスピンの推定値の分布を概略的に例解する。
【
図5】本開示に係るレーダートランシーバの方法を例解する流れ図である。
【
図6】レーダートランシーバを含むシステムのブロック図表である。
【
図7】レーダートランシーバとプロセッサとを含むシステムのブロック図表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで添付図を参照しながら本開示の態様がより十分に説明されることになる。しかしながら、本明細書で開示される様々なデバイス及び方法は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書に記載される態様に限定されると解釈されるべきではない。図中の同様の番号は、全体を通して同様の要素を指す。
【0030】
本明細書で用いられる用語は、本開示の態様を説明するためだけのものであり、本発明を限定することを意図していない。本明細書で用いられる場合の単数形(「一」、「一つ」、及び「その」)は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形も含むことを意図している。
【0031】
レーダートランシーバによる発射体軌道の測定は、レーダートランシーバがレーダー信号を放出し、レーダー信号が発射体によって少なくとも部分的に反射され、反射信号をトランシーバが受信することを含む。発射体に対する反射を通じて信号に導入された変調から、発射体の位置及び速度などの軌道パラメータを、当該技術分野ではよく知られている方法で抽出することができる。具体的には、レーダートランシーバに対する発射体の半径方向速度は、反射信号のドップラーシフトから得ることができる。
【0032】
レーダー信号の最も強い反射は、発射体の非対称又は不均一な部分で頻繁に生じる。それ以外の例えばスポーツボールなどのほぼ球対称の発射体の場合、反射は、2つに分割されたスポーツボールが接合、例えば、接着された箇所で生じることがある。多くのポリマーベースの材料と同様に、発射体の材料が電波を少なくとも部分的に透過する場合、反射はまた、発射体内の材料の不均一性から生じる可能性がある。レーダートランシーバ又は他のセンサによる観測及び追跡を支援するためにスポーツボールにマークがつけられることがあり、これらもレーダー信号を反射させる場合がある。一部のスポーツボールはまた、電磁信号を使用してスピンの判定を容易にするように構成され得る。例えば、スポーツボールの内部に電気伝導性の材料が配置され得る。
【0033】
例として、球形の発射体、例えば、軸線を中心として回転しながらレーダートランシーバから離れる方へ移動するボールを考える。この場合、観測半径方向速度に最大に寄与するのは、発射体の中心半径方向速度、すなわち、発射体が回転していなかった場合に観測されたであろう半径方向速度である。この中心半径方向速度は、普通は、レーダートランシーバに対する発射体の質量中心の半径方向速度と一致する。しかしながら、回転する発射体の場合、レーダートランシーバに対する発射体の瞬間観測半径方向速度は、回転軸の周りの発射体の最も強い反射を生じる部分の移動に依存する。発射体の最も強い反射を生じる部分がトランシーバから遠ざかる方に回転しているとき、瞬間観測半径方向速度は、中心半径方向速度よりも高くなる。逆に、発射体の最も強い反射を生じる部分がトランシーバに向けて回転する側にあるとき、瞬間観測半径方向速度は、中心半径方向速度よりも低くなる。中心半径方向速度の周りの観測半径方向速度のこの周期的変動を、発射体のスピン速度を抽出するために用いることができる。このようにして、回転軸のほとんどの配向にわたってスピン速度を求めることができる。例外は、発射体軌道のすべてのポイントで回転軸がトランシーバの方を向いているシナリオである。しかしながら、そのようなシナリオは非常に稀である。
【0034】
図1は、放出レーダー信号101及び反射レーダー信号102によって発射体110の経路を監視するレーダートランシーバ100を示す。レーダーは、レーダートランシーバに対する発射体の半径方向速度に関する情報を含む、発射体の経路の一連の観測値を生成する。発射体110は、或る回転周波数又はスピン速度112で軸線111を中心として回転する。ここで、スピンは、典型的には、単位時間あたりの発射体の回転軸の周りの全回転数、例えば1分あたりの回転数(RPM)又は1秒あたりの回転数(RPS)で測定されるスピン速度である。
【0035】
図2aは、中心半径方向速度202と共に、例えばm/sで与えられる、半径方向速度の観測値の第1の時系列201を示す。半径方向速度の観測値は、中心半径方向速度の周りで変動を呈することに注目されたい。実際には、中心半径方向速度は、レーダートランシーバに対する発射体の平均半径方向速度とみなすことができるが、半径方向速度の観測値はこの中心速度の周りで変動する。
図2bは、観測半径方向速度と中心速度との経時的差異を概略的に示す、すなわち、中心半径方向速度の周りの半径方向速度の変動を含む第2の時系列203を示す。
【0036】
ここで開示され、
図5に示される、発射体110のスピンを推定するための方法は、レーダートランシーバ100に対する発射体110の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列201をレーダートランシーバ100から取得することS1と、第1の時系列201から発射体110の中心速度202を計算することS2を含む。この方法は、中心速度202の周りの第1の時系列の変動を含む第2の時系列203を抽出することS3と、第2の時系列203の周波数を推定することS4と、第2の時系列203の周波数に基づいて発射体110のスピンを判定することS5をさらに含む。発射体110は、野球、サッカーボール、又はゴルフボールなどのスポーツボールであり得る。
【0037】
第2の時系列203の周波数と発射体110のスピンとの間の関係は、一般に、第2の時系列203の周波数は回転周波数でもあり、したがって、スピン速度に相当するということである。しかしながら、第2の時系列203の周波数はまた、例えば、回転周波数の高調波であり得ることに留意されたい。第2の時系列203に回転周波数の高調波又は整数倍が存在し、回転周波数とその各高調波との両方は信号強度と関連付けられる。回転周波数の強度に対する高調波の強度は、発射体の1つよりも多い部分がレーダー信号の反射を生じているかどうかなどに依存し得る。高調波の信号強度はゼロである場合があることに留意されたい。
【0038】
発射体がどのように発射されるかに応じて、ゴルフクラブなどの用具で打たれるゴルフボールなどのスポーツボールの場合と同様に、その軌道の一部で一時的変形が生じる可能性がある。衝撃はスポーツボールの一時的圧縮を引き起こす可能性があり、その結果、飛行中にスポーツボールの一時的変形が徐々に減少する可能性がある。次いで、この変形は、レーダー信号の反射に影響を与え、スピン速度に直接関係しない周波数での第2の周期的変動を導入する可能性がある。
【0039】
随意的に、この方法はまた、第2の時系列203を複数の時間間隔210a、210b、210cに分割することS31と、複数の時間間隔210a、210b、210cにおける各時間間隔に対応する、第2の時系列203の複数の周波数を推定することS41と、複数の推定周波数に基づいて発射体110のスピンを判定することS51を含み得る。時間間隔の長さは、発射体が設定距離を移動する時間である場合があり、時間は、発射体の既知の中心速度を使用して計算される。設定距離は、例えば30~40mであり得る。時間間隔の長さはまた、推定周波数にわたって所望の信号対ノイズ比及び分解能が得られるように設定され得る。随意的に、時間間隔の長さは、250~500ミリ秒であり得る。
【0040】
第2の時系列203を複数の時間間隔に分割することで、複数の初期推定周波数を得ることが可能となる。第2の時系列203の周波数の推定値は、測定ノイズ又は測定誤差の影響を受けることがあり、第2の時系列203の単一の推定周波数は信頼できないものとなる可能性がある。複数の推定周波数であれば、統計的方法を適用して、単一の時間間隔から導出される推定値よりも信頼できる周波数の最終推定値を得ることができる。
【0041】
複数の推定周波数に基づいて発射体110のスピンを判定することS51はまた、複数の推定周波数の分布300を得ることを含み得る。複数の推定周波数の分布から、周波数の最終推定値を抽出することができる。
【0042】
例として、周波数の最終推定値は、随意的にカーネル、随意的にガウスカーネルによる複数の推定周波数のヒストグラムの重畳として、複数の推定周波数についての確率密度関数310を計算することを通じて抽出することができる。その後、確率密度関数310の結果として得られる極大値311のうちの1つに対応する周波数が、周波数の最終推定値として識別される。適正な極大値311の選択は、例えば、各極大値に関連する確率質量に基づいて行うことができる。確率質量は、極大値を含む区間312での確率密度関数の積分に対応する。区間は、確率密度関数が固定閾値を下回る、又は極大値の高さのパーセンテージに対応する値を下回る、極大値に最も近い点によって制限され得る。
【0043】
適正な極大値311の選択はまた、複数の推定周波数のうちのいくつの推定周波数が極大値に対応する周波数に等しい又は近いかに基づいて、極大値に対応する周波数の高調波に対応する他の極大値に関連する周波数の推定数を考慮して行うことができる。
【0044】
スピンに起因する観測半径方向速度の周期的変動が、第1の時系列201と第2の時系列203で検出可能である場合、時系列201における観測値間の時間間隔は、スピンに起因する発射体の回転周期を超えることはない。スピンの最高期待値が既知である場合、第1の時系列201における観測値間の時間間隔は、最高期待スピンにおける発射体110の期待回転周期の半分に設定され得る。時間間隔はまた、期待回転周期の半分未満であり得る。
【0045】
例として、第1の時系列201における観測値間の時間間隔は一定であり得る。別の例として、第1の時系列201における観測値間の時間間隔は可変であり得る。
【0046】
第1の時系列201から発射体110の中心速度202を計算することS2は、例として、ローパスフィルタの使用を通じて行われ得る。次いで、ローパスフィルタのカットオフ周波数が、発射体軌道に沿った速度の期待変動に応じて構成され得る。別の例として、中心速度202は、第1の時系列201への関数の区分的当てはめを通じて計算され得る。次いで、第2の時系列203を抽出することS3が、求めた中心速度202を第1の時系列201から減算することを通じて行われ得る。
【0047】
第2の時系列203の周波数を推定することS4は、周波数の最尤推定の基礎として第2の時系列203から計算されたパワースペクトル400を使用することを含み得る。パワースペクトルは、例えば、第2の時系列203のフーリエ変換の絶対値の二乗として求めることができる。随意的に、ピリオドグラムなどの、異なる周波数での信号の出力密度の別の表現を用いることができる。
【0048】
周波数の最尤推定は、例えば、以下のように得ることができる。例えば、パワースペクトル400が極大値401を有する周波数に基づいて、複数の候補周波数を得ることができる。各候補周波数について、候補周波数の対応するピーク及び整数倍(すなわち高調波)のピークの高さが加算され、候補周波数に関連する信号の総パワーの測度が得られる。次いで、総パワーの測度が最も高い候補周波数が、第2の時系列203の推定周波数として選択される。周波数、特に基本周波数の最尤推定は、当該技術分野ではよく知られている。
【0049】
随意的に、周波数は基本周波数であり得る。基本周波数は、本明細書では、高調波分析の分野で、すなわち、周期信号に存在する最低周波数として定義され、信号は、この場合は第2の時系列203である。
【0050】
レーダートランシーバ100に対する発射体110の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列201を取得S1し、第1の時系列201から発射体110の中心速度202を計算S2し、中心速度202の周りの第1の時系列201の変動を含む第2の時系列203を抽出S3し、第2の時系列203の周波数を推定S4し、第2の時系列203の推定周波数に基づいて発射体110のスピンを判定S5するように構成されたレーダートランシーバ100も本明細書で開示される。
【0051】
レーダートランシーバはまた、第2の時系列203を複数の時間間隔に分割S31し、複数の時間間隔における各時間間隔に対応する、第2の時系列203の複数の周波数を推定S41し、複数の推定周波数に基づいて発射体110のスピンを判定S51するように構成され得る。
【0052】
前述のレーダートランシーバは、例として、周波数変調連続波、FMCW、レーダートランシーバであり得る。別の例として、レーダートランシーバは、パルスドップラーレーダーであり得る。スピンに加えて、レーダートランシーバは、異なる時点での発射体110の速度及び位置などの発射体軌道の他の特性を測定するように構成され得る。
【0053】
発射体110のスピンを測定するためのシステム600であって、前述のレーダートランシーバ100と、判定されたスピンを表示する少なくとも1つの手段601とを含む、システムも本明細書で開示される。判定されたスピンを表示する手段601は、LED又はLCDディスプレイなどのディスプレイであり得る。判定されたスピンを表示する手段はまた、判定されたスピンを表示することができるコンピュータプログラムを実行するコンピュータであり得る。随意的に、異なる時点での発射体110の速度及び位置などの発射体軌道の他の特性が、判定されたスピンとともに表示され得る。
【0054】
システム600はまた、補助センサ602を含むことができ、レーダートランシーバ100からのスピン推定値は、補助センサ602から得られたデータと組み合わされる。例として、補助センサはカメラであり得る。別の例として、補助センサは、LIDAR又はソナーセンサであり得る。
【0055】
レーダートランシーバ100に対する発射体110の半径方向速度の観測値を含む第1の時系列201を取得S1し、第1の時系列201から発射体110の中心速度202を計算S2し、中心速度の周りの第1の時系列201の変動を含む第2の時系列203を抽出S3し、第2の時系列203の周波数を推定S4し、第2の時系列203の周波数に基づいて発射体110のスピンを判定S5するように構成されたプロセッサ701も本明細書で開示される。
【0056】
プロセッサ701はまた、第2の時系列203を複数の時間間隔に分割S31し、複数の時間間隔における各時間間隔に対応する、第2の時系列203の複数の周波数を推定S41し、複数の推定周波数に基づいて発射体110のスピンを判定S51するように構成され得る。
【0057】
レーダートランシーバ100と前述のプロセッサ701とを含むシステム700も開示される。
【0058】
最後に、発射体110のスピンを判定するべくレーダートランシーバ100又はプロセッサ701を動作させるためのコンピュータプログラムであって、レーダートランシーバ100の処理回路上で実行されるときにレーダートランシーバ100に前述の方法を実行させるコンピュータコードを含むコンピュータプログラム、前述のコンピュータプログラムと前述のコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読記憶媒体とを含むコンピュータプログラム製品が本明細書で開示される。
【国際調査報告】