(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】股関節インプラントシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/34 20060101AFI20230626BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230626BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20230626BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230626BHJP
A61L 27/30 20060101ALI20230626BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
A61F2/34
A61P19/02
A61L27/04
A61L27/40
A61L27/30
A61L27/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574631
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2021064374
(87)【国際公開番号】W WO2021244972
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】102020206954.9
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
【住所又は居所原語表記】Am Aesculap-Platz, 78532 Tuttlingen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ベイダー
(72)【発明者】
【氏名】ジャニーヌ フェクター
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス シュナイダー
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081BA15
4C081CA02
4C081CA021
4C081CF11
4C081CF112
4C081CG01
4C081CG04
4C081DA01
4C081DC03
4C097AA06
4C097BB01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC14
4C097CC16
4C097SC05
(57)【要約】
本発明は、人工寛骨臼カップ(10)と、金属または合金を含むか、またはそれらからなる人工寛骨臼ライナー(20)と、を備え、人工寛骨臼ライナー(20)が、セラミックコーティング(50)で少なくとも部分的に被覆されている、股関節インプラントシステム(1)に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工寛骨臼カップ(10)と、
金属又は合金を含む又はそれらからなる人工寛骨臼ライナー(20)と、
を備え、
前記人工寛骨臼ライナー(20)がセラミックコーティング(50)で少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする、股関節インプラントシステム(1)。
【請求項2】
前記人工寛骨臼ライナー(20)の外面(22)、特に凸状、円錐状、または円錐台状の外面のみ、または前記人工寛骨臼ライナー(20)の内面(24)、特に凹状、円錐状、または円錐台状の内面のみが、少なくとも部分的に前記セラミックコーティング(50)でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項3】
前記人工寛骨臼ライナー(20)が、前記セラミックコーティング(50)で完全にコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項4】
前記セラミックコーティング(50)が複数の層で構成されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項5】
前記セラミックコーティング(50)が、少なくとも1つの非酸化物セラミックを含むか、または少なくとも1つの非酸化物セラミックからなり、前記少なくとも1つの非酸化物セラミックが、好ましくは、窒化クロム、炭窒化クロム、窒化クロムジルコニウムおよび窒化ジルコニウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項6】
前記セラミックコーティング(50)が、少なくとも1つの窒化クロム層、少なくとも1つの炭窒化クロム層、少なくとも1つの窒化クロムジルコニウム層、および少なくとも1つの窒化ジルコニウム層を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項7】
前記セラミックコーティング(50)が、3つの窒化クロム層、2つの炭窒化クロム層、1つの窒化クロムジルコニウム層および1つの窒化ジルコニウム層を含むか、または、これら全ての層からなることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項8】
前記セラミックコーティング(50)が、第1の窒化クロム層(15a)が第1の炭窒化クロム層(15b)によって覆われ、前記第1の炭窒化クロム層(15b)が第2の窒化クロム層(15c)によって覆われ、前記第2の窒化クロム層(15c)が第2の炭窒化クロム層(15d)によって覆われ、前記第2の炭窒化クロム層(15d)が第3の窒化クロム層(15e)によって覆われ、前記第3の窒化クロム層(15e)が窒化クロムジルコニウム層(15f)によって覆われ、前記窒化クロムジルコニウム層(15f)が窒化ジルコニウム層(15g)によって覆われる多層の層システムとして形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項9】
前記窒化ジルコニウム層(15g)が、前記セラミックコーティングの外側被覆層を形成することを特徴とする、請求項7または8に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項10】
前記セラミックコーティング(50)、特に前記窒化クロム層または前記第1の窒化クロム層(15a)のうちの1つが、前記人工寛骨臼ライナー(20)上に直接形成されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項、特に請求項7または8に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項11】
前記セラミックコーティング(50)が、0.5μm~10μm、特に1.5μm~7μm、好ましくは2.5μm~5μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項12】
前記人工寛骨臼ライナー(20)の内面が≦0.5μm、好ましくは≦0.05μmの表面粗さを有し、および/または前記人工寛骨臼ライナー(20)の外面が≦1μm、好ましくは≦0.6μmの表面粗さを有し、および/または前記人工寛骨臼ライナー(20)が2mm~3mmの壁厚を有し、および/または前記人工寛骨臼ライナー(20)が15°~25°、特に16°~21°の円錐角θを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項13】
結合された状態の前記人工寛骨臼ライナー(20)および前記人工寛骨臼カップ(10)は、摩擦嵌めで互いに接続され、特に、円錐状に互いに挟持されることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項14】
前記合金が、コバルトおよび/またはクロムを含有する合金、特にコバルト-クロム-モリブデン合金であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【請求項15】
前記股関節インプラントシステム(1)が、好ましくは、ポリエチレン、好ましくは超高分子量ポリエチレン、および任意選択で抗酸化剤を含むかまたはそれらからなる人工大腿骨ライナー(30)と、および/または、特に人工大腿骨ステム(60)の有無にかかわらず、人工大腿骨ヘッド(40)と、をさらに含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の股関節インプラントシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、股関節インプラントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、股関節インプラントシステムは、損傷した、または弱った股関節を置換するために日常的に使用されている。人工寛骨臼カップの他に、対応する股関節インプラントシステムは、通常、人工寛骨臼カップに直接挿入することができる、例えば、プラスチック、セラミック、または金属合金で作られた人工寛骨臼ライナーを含む。金属製の寛骨臼ライナーは、多くの場合、コバルトおよび/またはクロムを含有する金属合金からなる。人工寛骨臼ライナーに直接挿入することができる人工大腿骨ライナー、および任意選択で、人工大腿骨ステムの有無にかかわらず、大腿骨ライナーに挿入することができる人工大腿骨ヘッドをさらに提供することができる。
【0003】
股関節インプラントシステムの移植後、動的負荷が原因で、人工寛骨臼カップと人工寛骨臼ライナーとの間で微小運動がしばしば起こり得る。これらの微小運動は、摩擦腐食、すなわちいわゆるフレッティングを引き起こす可能性があり、そのため、コバルトおよび/またはクロムを含有する金属合金で作製された人工寛骨臼ライナーの場合、コバルトイオンおよび/またはクロムイオンがその周囲の患者組織に放出される可能性があることが問題である。さらに、コバルトイオンおよび/またはクロムイオンは、一般に、寛骨臼ライナーの摩耗によって放出され得る。コバルトイオンおよび/またはクロムイオンの生体内放出は、アレルギー性および/または毒性組織反応をもたらし得、その結果、外科的再置換手術のリスクが増加する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、一般的なタイプの股関節インプラントシステムに関連して導入部に記載された欠点を部分的にまたは完全に回避し、特にコバルトイオンおよび/またはクロムイオンの生体内放出を低減または完全に防止する股関節インプラントシステムを提供することである。
【0005】
この目的は、本発明によれば、独立請求項1の特徴を有する股関節インプラントシステムによって達成される。股関節インプラントシステムの好ましい実施形態は、従属請求項および明細書の主題である。すべての請求項の文言は、明示的な参照により、本明細書の内容に含まれる。
【0006】
本発明は、股関節インプラントシステムに関する。
【0007】
股関節インプラントシステムは、人工寛骨臼カップおよび人工寛骨臼ライナーを備える。人工寛骨臼ライナーは、金属または合金、好ましくはコバルトおよび/またはクロムを含有する合金を含むか、または金属または合金、好ましくはコバルトおよび/またはクロムを含有する合金からなる。好都合には、人工寛骨臼ライナーは、人工寛骨臼カップ内に挿入され得る。
【0008】
本発明による股関節インプラントシステムは、特に、人工寛骨臼ライナーが、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にセラミックコーティングでコーティングされているという点で区別される。
【0009】
「股関節インプラントシステム」という用語は、本発明の文脈において、1セットの個別の構成要素を意味することが意図され、これらの構成要素は、特に外科的介入中に、天然の股関節を置換し、または部分的に置換するための股関節インプラントを形成するために、特にモジュール式に組み立てられるか、または結合され得る。このセットは、構成要素として、本発明による少なくとも1つの人工寛骨臼カップと、本発明による人工寛骨臼ライナーとを備える。このセットは、特に以下により詳細に記載されるように、さらなる構成要素を追加で備えていてもよい。
【0010】
「セラミックコーティング」という用語は、本発明の文脈において、セラミック、特に硬質セラミックを含むか、またはセラミック、特に硬質セラミックからなるコーティングを意味することが意図される。
【0011】
本発明は、特に、モジュール式に結合された股関節インプラント構成要素の隣接する表面における、健康に有害な金属イオン、特にコバルトイオンおよび/またはクロムイオンの生体内放出が、セラミック材料による少なくとも部分的なコーティングによって、(著しく)低減され得るか、または完全に回避さえされ得るという驚くべき発見に基づく。
【0012】
このようにして、特にアレルギー反応または毒性反応の形態での手術後合併症のリスク、したがって外科的再介入のリスクを低減するか、または完全に排除することさえできる。
【0013】
好ましくは、人工寛骨臼カップは、人工寛骨臼ライナーを受容するために少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状に構成された、受容領域を備える。少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の、人工寛骨臼カップの内面を含む。
【0014】
特に好ましくは、少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、人工寛骨臼カップの少なくとも部分的に凹状の内面と、少なくとも部分的に凹状の内面と境界を接する円周縁とによって画定または形成される。特に好ましくは、人工寛骨臼カップは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に、シェルセグメントの形態、特に球状シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工寛骨臼カップは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凸状の外面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の内面とを備え、これらはそれぞれ、人工寛骨臼カップの円周縁によって境界付けられる。
【0015】
代替的に、人工寛骨臼カップは、好ましくは、人工寛骨臼ライナーを受容するために、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形または円錐台形に構成された受容領域を備える。少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形または円錐台形の、人工寛骨臼カップの内面を備える。特に好ましくは、少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、人工寛骨臼カップの少なくとも部分的に円錐形または円錐台形の内面によって、および少なくとも部分的に円錐形または円錐台形の内面を境界付ける円周縁によって、画定または形成される。好ましくは、人工寛骨臼カップは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の外面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の内面とを備え、これらはそれぞれ、人工寛骨臼カップの円周縁によって境界付けられる。
【0016】
人工寛骨臼カップは、好ましくは生体適合性金属を含むか、または好ましくはそのような金属からなる。金属は、特にチタンであってもよい。さらに、人工寛骨臼カップは、外面、特に前段落で言及した外面のうちの1つにおいて、チタンおよび/またはチタン合金および/またはヒドロキシアパタイトを含むかまたはそれらからなる多孔質コーティングで、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にコーティングされることが好ましい場合がある。このようにして、改善されたオッセオインテグレーション、特に人工寛骨臼カップの二次安定性が有利に達成され得る。代替的に、または組み合わせて、人工寛骨臼カップの外面は、マクロ構造、例えば、歯状突起を有するように構成されてもよい。対応して構成された寛骨臼カップによって、高い挟持力および摩擦力が生体内で特に有利に生成され得、人工寛骨臼カップの十分な一次安定性が保証され得る。
【0017】
好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、人工大腿骨ライナーを受容するために、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状に構成された受容領域を備える。少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の人工寛骨臼ライナーの内面/関節面もしくは滑り面を含む。
【0018】
特に好ましくは、少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面によって、および少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面を境界付ける人工寛骨臼ライナーの円周縁によって、画定または形成される。特に好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に、シェルセグメントの形態、特に球状シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凸状の外面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の内面/関節面または滑り面とを備え、これらはそれぞれ、人工寛骨臼ライナーの円周縁によって境界付けられる。
【0019】
特に好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、人工寛骨臼カップの凹状に構成された受容領域と相補的な凸状外形を有する。
【0020】
あるいは、人工寛骨臼ライナーは、好ましくは、人工大腿骨ライナーを受容するために、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形または円錐台形に構成された受容領域を備える。少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形または円錐台形の、人工寛骨臼ライナーの内面/関節面または滑り面を含む。特に好ましくは、少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、少なくとも部分的に円錐形または円錐台形の内面/関節面または滑り面によって、および少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面を境界付ける人工寛骨臼ライナーの円周縁によって画定または形成される。好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の外面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の内面/関節面もしくは滑り面とを備え、これらはそれぞれ、人工寛骨臼ライナーの円周縁部によって境界付けられる。好ましくは、人工寛骨臼ライナーは、円錐形または円錐台形に構成された人工寛骨臼カップの受容領域に相補的な円錐形または円錐台形の外形を有する。
【0021】
本発明のさらなる実施形態では、人工寛骨臼ライナーの外面のみ、特に凸状、円錐状または円錐台状の外面のみが、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にセラミックコーティングでコーティングされる。
【0022】
本発明のさらなる実施形態では、人工寛骨臼ライナーの内面のみ、特に凹状、円錐形または円錐台形の内面のみが、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にセラミックコーティングでコーティングされる。
【0023】
本発明のさらなる実施形態では、人工寛骨臼ライナーは、セラミックコーティングで完全にコーティングされる。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティングは、複数の層で構成される。言い換えれば、本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティングは、多層の層システムとして形成される。
【0025】
本発明のさらなる実施形態において、セラミックコーティングは、少なくとも1つの非酸化物セラミックを含むか、またはセラミックコーティングは、少なくとも非酸化物セラミックからなる。少なくとも1つの非酸化物セラミックは、好ましくは、窒化クロム(CrN)、炭窒化クロム(CrCN)、窒化クロムジルコニウム(CrZrN)および窒化ジルコニウム(ZrN)からなる群から選択される。好ましくは、セラミックコーティングは、特に専ら、窒化クロムおよび炭窒化クロムを含む。より好ましくは、セラミックコーティングは、特に専ら、窒化クロム、炭窒化クロムおよび窒化ジルコニウムを含む。特に、セラミックコーティングは、窒化クロムジルコニウムを含まなくてもよい。特に好ましくは、セラミックコーティングは、特に専ら、窒化クロム、炭窒化クロム、窒化クロムジルコニウムおよび窒化ジルコニウムを含む。
【0026】
セラミックコーティングは、好ましくは、少なくとも1つの窒化クロム層(CrN層)、特に1つ(のみ)の窒化クロム層、2つの窒化クロム層、または3つの窒化クロム層を含む。代替的に、または組み合わせて、セラミックコーティングは、好ましくは、少なくとも1つの炭窒化クロム層(CrCN層)、特に1つ(のみ)の炭窒化クロム層または2つの炭窒化クロム層を含む。代替的に又は組み合わせて、セラミックコーティングは、好ましくは、少なくとも1つの窒化クロムジルコニウム層(CrZrN層)、特に1つ(のみ)の窒化クロムジルコニウム層を含む。代替的に又は組み合わせて、セラミックコーティングは、好ましくは、少なくとも1つの窒化ジルコニウム層(ZrN層)、特に1つ(のみ)の窒化ジルコニウム層を含む。特に、セラミックコーティングは、前述の層のうちの1つまたは複数、または前述の層のすべてからなってもよい。
【0027】
「窒化クロム層」という用語は、本発明の文脈において、特に主成分として窒化クロムを含む、または窒化クロムからなる層を意味することが意図される。
【0028】
「炭窒化クロム層」という用語は、本発明の文脈において、特に主成分として炭窒化クロムを含む、または炭窒化クロムからなる層を意味することが意図される。
【0029】
「窒化クロムジルコニウム層」という用語は、本発明の文脈において、特に主成分として窒化クロムジルコニウムを含む、または窒化クロムジルコニウムからなる層を意味することが意図される。
【0030】
「窒化ジルコニウム層」という用語は、本発明の文脈において、特に主成分として窒化ジルコニウムを含む、または窒化ジルコニウムからなる層を意味することが意図される。
【0031】
さらに好ましくは、セラミックコーティングは、(窒化クロム層と炭窒化クロム層との)交互配列を含んでもよい。
【0032】
本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティングは、少なくとも1つの窒化クロム層(CrN層)、特に1つ(のみ)の窒化クロム層、2つの窒化クロム層または3つの窒化クロム層、少なくとも1つの炭窒化クロム層(CrCN層)、特に1つ(のみ)の炭窒化クロム層または2つの炭窒化クロム層、少なくとも1つの窒化クロムジルコニウム層(CrZrN層)、特に1つ(のみ)の窒化クロムジルコニウム層、および少なくとも1つの窒化ジルコニウム層(ZrN層)、特に1つ(のみ)の窒化ジルコニウム層を含む。特に、セラミックコーティングは、前述の層からなってもよい。
【0033】
あるいは、セラミックコーティングは、少なくとも1つの窒化クロム層、特に1つ(のみ)の窒化クロム層、2つの窒化クロム層または3つの窒化クロム層、少なくとも1つの炭窒化クロム層、特に1つ(のみ)の炭窒化クロム層または2つの炭窒化クロム層、および少なくとも1つの窒化ジルコニウム層、特に1つ(のみ)の窒化ジルコニウム層を含んでもよい。特に、セラミックコーティングは、前述の層からなってもよい。
【0034】
本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティングは、3つの窒化クロム層、2つの炭窒化クロム層、1つ、すなわち1つのみの窒化クロムジルコニウム層、および1つ、すなわち1つのみの窒化ジルコニウム層を含む。好ましくは、窒化クロム層および炭窒化クロム層は、互いの上に交互に配置される。特に、セラミックコーティングは、前述の層からなってもよい。
【0035】
あるいは、セラミックコーティングは、3つの窒化クロム層、2つの炭窒化クロム層、および1つの、すなわち1つのみの窒化ジルコニウム層を含んでもよい。好ましくは、窒化クロム層および炭窒化クロム層は、互いの上に交互に並んで配置される。特に、セラミックコーティングは、前述の層からなってもよい。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティングは、第1の窒化クロム層が、好ましくは直接的に、第1の炭窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第1の炭窒化クロム層が、好ましくは直接的に、第2の窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第2の窒化クロム層は、好ましくは直接的に、第2の炭窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第2の炭窒化クロム層は、好ましくは直接的に、第3の窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第3の窒化クロム層は、好ましくは直接的に、窒化クロムジルコニウム層によって覆われ、またはコーティングされ、窒化クロムジルコニウム層は、好ましくは直接的に、窒化ジルコニウム層によって直接的に覆われ、またはコーティングされる、多階層または多層の層システムとして形成される。好ましくは、第1の窒化クロム層は、人工寛骨臼ライナーの表面、特に凸状、円錐状または円錐台状の外面/滑り面、および/または凹状、円錐状または円錐台状の内面/滑り面上に直接形成される。
【0037】
代替的に、セラミックコーティングは、第1の窒化クロム層が、好ましくは直接的に、第1の炭窒化クロム層によって覆われ、あるいはコーティングされ、第1の炭窒化クロム層は、好ましくは直接的に、第2の窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第2の窒化クロム層は、好ましくは直接的に、第2の炭窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第2の炭窒化クロム層は、好ましくは直接的に、第3の窒化クロム層によって覆われ、またはコーティングされ、第3の窒化クロム層は、好ましくは直接的に、窒化ジルコニウム層によって覆われ、またはコーティングされる、多階層または多層の層システムとして形成されてもよい。好ましくは、第1の窒化クロム層は、人工寛骨臼ライナーの表面、特に凸状、円錐状または円錐台状の外面/滑り面、および/または凹状、円錐状または円錐台状の内面/滑り面上に直接形成される。
【0038】
本発明のさらなる実施形態では、窒化ジルコニウム層は、セラミックコーティングの外側閉鎖層または被覆層を形成する。好ましくは、閉鎖層または被覆層は、窒化クロム層、炭窒化クロム層、または窒化クロムジルコニウム層上に直接、すなわち、直ぐ上に形成される。
【0039】
本発明の利点は、前述の段落に記載された非酸化物セラミックコーティングによって特に強く顕著である。前述の段落に記載された非酸化物セラミックコーティングが高い摩耗強度を示し、したがって特にコバルトおよび/またはクロムを含有する合金で作られた人工寛骨臼ライナーの場合に特に良好な接着性を示すことがさらに有利である。
【0040】
あるいは、セラミックコーティングは、少なくとも1つの酸化物セラミックを含んでもよく、または少なくとも1つの酸化物セラミックからなってもよい。少なくとも1つの酸化物セラミックは、好ましくは、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)および酸化クロム(III)(Cr2O3)からなる群から選択される。前述の酸化アルミニウムは、好ましくはコランダム型の酸化アルミニウムである。前述の二酸化ジルコニウムは、好ましくはバデレアイト型の二酸化ジルコニウムである。前述の二酸化チタンは、好ましくはルチル型の二酸化チタンである。前述の酸化クロム(III)は、コランダム型の酸化クロム(III)であることが好ましい。
【0041】
前述の段落に記載されたセラミックコーティングは、例えば、物理蒸着(PVD)によって人工寛骨臼ライナーに適用されてもよい。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、セラミックコーティング、特に窒化クロム層のうちの1つ、特に第1の窒化クロム層は、人工寛骨臼ライナーに直接、すなわち、直ぐ上に、すなわち、人工寛骨臼ライナーの表面、特に、凸状、円錐形、または円錐台形の外面、および/または凹状、円錐形、または円錐台形の内面/関節面または滑り面上に形成される。
【0043】
あるいは、セラミックコーティングと人工寛骨臼ライナーとの間、すなわち、セラミックコーティングと表面との間、特に、人工寛骨臼ライナーの凸状、円錐状、または円錐台状の外面/滑り面、および/または凹状、円錐状、または円錐台状の内面/滑り面との間に、特に、金属、合金、またはセラミック製の中間層が形成されてもよい。金属は、例えば、ニオブ、タンタルまたはジルコニウムであってもよい。合金は、例えば、ジルコニウム合金またはニオブ合金であってもよい。セラミックは、例えば、特に元素および/または金属形態のジルコニウムを含有するセラミックであってもよい。
【0044】
本発明のさらなる実施形態において、セラミックコーティングは、0.5μm~10μm、特に1.5μm~7μm、好ましくは2.5μm~5μm、特に好ましくは3μm~4μmの厚さを有する。特に、この段落に開示されたコーティング厚さによって、セラミックコーティングがその層厚さのために人工寛骨臼ライナーから分離するという(重大な)リスクを伴うことなく、コバルトイオンおよび/またはクロムイオンの放出に対する生体内バリアを、さらに増やすことができる。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、特に前段落に記載されるような人工寛骨臼ライナーの内面、特に凹状、円錐形または円錐台形の内面は、≦0.5μm、好ましくは≦0.05μmの表面粗さRa(DIN EN ISO 4287に従って測定される平均粗さ値を意味する)を有し、および/または特に前段落に記載されるような人工寛骨臼ライナーの外面、特に凹状、円錐形または円錐台形の外面は、≦1μm、好ましくは≦0.6μmの表面粗さRa(DIN EN ISO 4287に従って測定される平均粗さ値を意味する)を有する。特に、この段落に開示された表面粗さによって、人工寛骨臼ライナーおよび人工寛骨臼カップの表面の連結、ならびに/または人工寛骨臼ライナーおよび人工大腿骨ライナーの表面の連結が、特に有利に達成され得る。さらに、特に、本段落に開示される表面粗さは、セラミックコーティングが人工寛骨臼ライナーから分離するリスクを低減し、さらに、人工寛骨臼ライナーおよび/または人工寛骨臼カップおよび/または人工大腿骨ライナーが微小運動する場合に、摩耗が少なくなるという利点を有する。
【0046】
本発明のさらなる実施形態では、特にコーティングされていない状態、すなわちセラミックコーティングがない状態において、人工寛骨臼ライナーは、2mm~3mmの厚さ、特に壁厚を有する。この段落で開示される厚さ、特に壁厚は、人工寛骨臼ライナーの可撓性、特に弾性構成を可能にするという利点を有する。さらに、人工寛骨臼ライナーを人工寛骨臼カップに結合した後には、人工寛骨臼ライナーと人工寛骨臼カップは、人工寛骨臼ライナーおよび/または人工寛骨臼カップの微小運動のリスク、したがって摩擦腐食のリスクがさらに低減され得るように、より高い接触応力を有利に可能にする。
【0047】
本発明のさらなる構成では、人工寛骨臼ライナーは、15°~25°、特に16°~21°の円錐角θを有する。「円錐角」という用語は、この場合、対称軸(中心軸)と寛骨臼ライナーの円錐形外面との間の角度を意味することを意図する。特に、この段落に開示される円錐角によって、人工寛骨臼ライナーと人工寛骨臼カップとの間に高い挟持力が生成され得、その結果、人工寛骨臼ライナーと人工寛骨臼カップとの間の相対運動のリスク、したがって、望ましくない金属イオン放出、特にコバルトイオンおよび/またはクロムイオン放出のリスクが同様に低減され得る。
【0048】
本発明のさらなる実施形態では、組み立てられたまたは結合された状態の人工寛骨臼ライナーおよび人工寛骨臼カップは、力嵌めまたは摩擦嵌めで互いに接続される。好ましくは、組み立てられた又は結合された状態の人工寛骨臼ライナー及び人工寛骨臼カップは、互いに挟持され、好ましくは、互いに円錐状に挟持される。特に好ましくは、組み立てられたまたは結合された状態の人工寛骨臼ライナーおよび人工寛骨臼カップは、人工寛骨臼ライナーの円錐形または円錐台形の外面と、それに相補的な人工寛骨臼カップの円錐形または円錐台形の内面とによって互いに挟持される。
【0049】
本発明のさらなる実施形態では、合金は、コバルトおよび/またはクロムを含有する合金、特にコバルト-クロム-モリブデン合金である。コバルト-クロム-モリブデン合金は、62%~66%のコバルト質量分率、27%~31%のクロム質量分率、及び4%~5%のモリブデン質量分率を有することができる。コバルト-クロム-モリブデン合金は、さらに、炭素および/またはケイ素および/またはマンガンおよび/または鉄を、特に少量および/または不純物の形態で含むことができる。
【0050】
本発明のさらなる実施形態では、股関節インプラントシステムは、人工大腿骨ライナーをさらに備える。人工大腿骨ライナーは、好都合には、人工寛骨臼ライナーに挿入することができる。人工寛骨臼ライナーおよび人工大腿骨ライナーは、好ましくは、特に人工寛骨臼ライナーが人工大腿骨ライナーに挿入された後に、結合または取り付けられた状態で、球関節を形成する。
【0051】
人工大腿骨ライナーは、好ましくは、人工大腿骨ヘッドを受容するために、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状に構成された受容領域を備える。少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、好ましくは、人工大腿骨ライナーの少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の内面/関節面もしくは滑り面を含む。特に好ましくは、少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域は、人工大腿骨ライナーの少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面によって、および少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面を境界付ける円周縁によって、画定または形成される。
【0052】
人工大腿骨ライナーは、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に、シェルセグメントの形態、特に球状シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工大腿骨ライナーは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凸状の外面/関節面または滑面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の内面/関節面または滑面とを備え、これらはそれぞれ人工大腿骨ライナーの円周縁によって境界付けられる。特に好ましくは、人工大腿骨ライナーは、人工寛骨臼ライナーの凹状に構成された受容領域と相補的な凸状外形を有する。
【0053】
あるいは、人工大腿骨ライナーは、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形に構成された、人工大腿骨ヘッドを受容するための受容領域を備える。少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形または円錐台形の、人工大腿骨ライナーの内面/関節面または滑り面を含む。特に好ましくは、少なくとも部分的に円錐形または円錐台形に構成された受容領域は、人工大腿骨ライナーの、少なくとも部分的に円錐形または円錐台形の内面/関節面または滑り面によって、および少なくとも部分的に凹状の内面/関節面または滑り面を境界付ける円周縁によって画定または形成される。好ましくは、人工大腿骨ライナーは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の外面/関節面または滑り面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に円錐形もしくは円錐台形の内面/関節面または滑り面とを備え、これらはそれぞれ人工大腿骨ライナーの円周縁によって境界付けられる。特に好ましくは、人工大腿骨ライナーは、人工寛骨臼ライナーの円錐形または円錐台形に構成された受容領域に相補的な円錐形または円錐台形の外形を有する。
【0054】
好ましくは、人工大腿骨ライナーは、特に排他的に、プラスチック、好ましくはポリエチレン、特に超高分子量ポリエチレン、および場合により抗酸化剤、特にビタミンEを含む。
【0055】
本発明のさらなる実施形態では、股関節インプラントシステムは、特に、人工大腿骨ステムの有無にかかわらず、人工大腿骨ヘッドをさらに備える。好都合には、人工大腿骨ヘッドは、人工大腿骨ライナーに挿入され得る。好ましくは、人工大腿骨ライナーおよび人工大腿骨ヘッドは、特に人工大腿骨ヘッドが人工大腿骨ライナーに挿入された後に、結合されたまたは取り付けられた状態で球関節を(同様に)形成する。好ましくは、人工大腿骨ライナーは、(挿入される)人工大腿骨ヘッドの外側寸法よりも小さい挿入開口部を備える。言い換えれば、人工大腿骨ライナーの挿入開口部は、好ましくは、(挿入される)人工大腿骨ヘッドの外面/滑り面、特に凸状、円錐形、または円錐台形の外面/滑り面上の2点間の最大距離よりも小さい。好ましくは、人工大腿骨ライナーおよび人工大腿骨ヘッドは、したがって、特に人工大腿骨ヘッドが人工大腿骨ライナーに挿入された後に、結合または取り付けられた状態で、臼状関節を形成する。
【0056】
人工大腿骨ヘッドは、好ましくは、球状または部分的に球状に構成される。好ましくは、人工大腿骨ヘッドは、人工大腿骨ステムの円筒形または円錐形の部分を受容するための受容領域、特に、好ましくは円筒形または円錐形の受容凹部またはくぼみの形態の受容凹部またはくぼみを備える。受容領域は、円形又は非円形、特に多角形、例えば四辺形の断面を有してもよい。
【0057】
あるいは、人工大腿骨ヘッドは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にシェルセグメントの形態、特に球状シェルセグメントの形態で構成されてもよい。好ましくは、人工大腿骨ヘッドは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凸状の外面/関節面または滑り面と、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全に凹状の内面とを備え、これらはそれぞれ、人工大腿骨ヘッドの円周縁によって境界付けられる。特に好ましくは、人工大腿骨ヘッドは、人工大腿骨ライナーの凹状に構成された受容領域と相補的な凸状外形を有する。代替的に、人工大腿骨ヘッドは、好ましくは、人工大腿骨ライナーの円錐形または円錐台形に構成された受容領域に相補的な円錐形または円錐台形の外形を有する。
【0058】
さらに、大腿骨ヘッドは、セラミックもしくはプラスチックを含んでもよく、またはセラミックもしくはプラスチックからなってもよい。
【0059】
本発明のさらなる特徴および利点は、特許請求の範囲、および図面を用いて表される、本発明の好ましい例示的な実施形態の以下の説明から見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明による股関節インプラントシステムの実施形態の概略分解図を示す。
【
図2】
図1の領域Aにおける本発明による股関節インプラントシステムのセラミックコーティングの拡大詳細図を概略的に示す。
【
図3】本発明による股関節インプラントシステムの一実施形態を、取り付けられた又は埋め込まれた状態で概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、本発明による股関節インプラントシステム1の実施形態を概略的に示す。
【0062】
股関節インプラントシステム1は、人工寛骨臼カップ10と、人工寛骨臼カップ10に挿入することができる人工寛骨臼ライナー20とを備える。股関節インプラントシステム1は、人工大腿骨ライナー30、特に人工大腿骨ヘッド40をさらに備えてもよい。
【0063】
人工寛骨臼カップ10は、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、あるいは完全に球形シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工寛骨臼カップ10は、人工寛骨臼カップ10の円周縁16、17によってそれぞれ境界付けられた、少なくとも部分的に凸状の外面12と、少なくとも部分的に凹状の内面14とを備える。この場合、少なくとも部分的に凹状の内面14及び円周縁16は、人工寛骨臼ライナー20のための少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域18を形成する。
【0064】
人工寛骨臼カップ10は、好ましくは、生体適合性金属、例えばチタンから作製される。十分なオッセオインテグレーション、特に二次安定性を達成するために、人工寛骨臼カップ10の少なくとも部分的に凸状に構成された外側に、開孔チタンまたはヒドロキシアパタイトコーティングを形成することができる。
【0065】
人工寛骨臼ライナー20は、同様に、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、あるいは完全に球形シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工寛骨臼ライナー20は、人工寛骨臼ライナー20の円周縁26、27によってそれぞれ境界付けられた、少なくとも部分的に凸状の外面22と少なくとも部分的に凹状の内面または滑り面24とを備える。この場合、少なくとも部分的に凹状の内面または滑り面24および円周縁26は、人工大腿骨ライナー30のための少なくとも部分的に凹状に構成された受容領域28を形成する。
【0066】
人工寛骨臼ライナー20の少なくとも部分的に凸状の外面22は、好ましくは、≦1μm、好ましくは≦0.6μmの表面粗さRaを有する。このようにして、人工寛骨臼カップ10の少なくとも部分的に凹状の内面14と少なくとも部分的に凸状の外面22との連結が、有利に最適化され得る。
【0067】
人工寛骨臼ライナー20の少なくとも部分的に凹状の内面又は滑り面24は、好ましくは、≦0.5μm、好ましくは≦0.05μmの表面粗さRaを有する。このようにして、人工大腿骨ライナー30の外面または滑り面と少なくとも部分的に凹状の内面または滑り面24との連結が特に有利に最適化され得る。
【0068】
さらに、人工寛骨臼ライナー20および人工寛骨臼カップ10は、取り付けられた状態で互いに挟持され、好ましくは円錐形に挟持される。
【0069】
人工寛骨臼ライナー20は、コバルトおよび/またはクロムを含有する合金、好ましくはコバルト-クロム-モリブデン合金からなる。
【0070】
人工寛骨臼ライナー20は、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にコーティングされているか、またはセラミックコーティング50が設けられている。セラミックコーティングは、好ましくは、窒化クロム(CrN)、炭窒化クロム(CrCN)、窒化クロムジルコニウム(CrZrN)および窒化ジルコニウム(ZrN)を含む。特に、セラミックコーティング50は、前述のセラミック材料から成ってもよい。
【0071】
特に好ましくは、セラミックコーティング50は、少なくとも1つの窒化クロム層(CrN層)、特に1つ(のみ)又は複数の窒化クロム層、例えば2つ又は3つの窒化クロム層、及び/又は少なくとも1つの炭窒化クロム層(CrCN層)、特に1つ(のみ)又は複数の炭窒化クロム層、例えば2つの炭窒化クロム層、及び/又は少なくとも1つの窒化クロムジルコニウム層(CrZrN層)、特に1つ(のみ)又は複数の窒化クロムジルコニウム層、及び/又は少なくとも1つの窒化ジルコニウム層(ZrN層)、特に1つ(のみ)又は複数の窒化ジルコニウム層を含む。セラミックコーティング50は、特に、前述の層のうちの1つまたは複数、または前述の層のすべてからなってもよい。
【0072】
好ましくは、セラミックコーティング50は、0.5μm~10μmの厚さを有する。
【0073】
コーティングされていない状態では、人工寛骨臼ライナー20は、さらに、特に、2mm~3mmの壁厚を有することができる。
【0074】
セラミックコーティング50によって、コバルトイオンおよび/またはクロムイオンが周囲の患者組織に生体内放出されることが、有利に低減され得、または完全に回避され得る。これにより、特に感染症の形態の、手術後合併症のリスクが低減される。その結果、手術後の再介入のリスクが著しく低減され得る。
【0075】
人工大腿骨ライナー30は、同様に、好ましくは、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ球形シェルセグメントの形態で構成され、または完全に球形シェルセグメントの形態で構成される。好ましくは、人工大腿骨ライナー30は、人工大腿骨ライナー30の周縁36、37によってそれぞれ境界付けられる、少なくとも部分的に凸状部分の外側または滑り面32と、少なくとも部分的に凹状の内側または滑り面34とを有する。この場合、少なくとも部分的に凹状の内面又は滑り面34及び周縁36は、人工大腿骨ヘッド40のための、部分的に凹状に構成された受容領域38を形成する。
【0076】
好ましくは、人工寛骨臼ライナー20の少なくとも部分的に凹状の部分または滑り面24と、人工大腿骨ライナー30の少なくとも部分的に凸状の外面または滑り面32とは、股関節インプラントシステム1の埋め込み後に球関節を形成する。
【0077】
人工大腿骨ライナー30は、プラスチック、好ましくはポリエチレン、特に超高分子量ポリエチレン、および任意選択で抗酸化剤からなる。酸化防止剤は、例えば、ビタミンEであってもよい。
【0078】
人工大腿骨ヘッド40は、好ましくは、球状または部分的に球状または(同様に)少なくとも部分的に球状シェルセグメントの形態で構成される。人工大腿骨ヘッド40は、人工大腿骨ステムを受容するための、特に、人工大腿骨ステムの好ましくは円筒形または円錐形の部分を受容するための受容領域48を備える。受容領域48は、好ましくは、円形または非円形の断面を有するくぼみとして構成される。例えば、くぼみは、長方形の断面を有することができる。
【0079】
好ましくは、人工大腿骨ライナー30の少なくとも部分的に凹状の内面または滑り面34と、人工大腿骨ヘッド40の少なくとも部分的に凸状の外面または滑り面42とは、いわゆる臼状関節を形成する。このような臼状関節は、人工大腿骨ヘッド40の少なくとも部分的に凸状に構成された外面または滑り面42が、人工大腿骨ライナー30の少なくとも部分的に凹状に構成された内面または滑り面34によってその赤道43を越えて把持され、その結果、股関節インプラントシステム1のこれらの構成要素が互いから脱落することが防止されるという点で区別される。
【0080】
図2は、
図1による人工寛骨臼ライナー20の少なくとも部分的に凸状の外面22の領域Aにおける、本発明による好ましいセラミックコーティング50の拡大詳細図を概略的に示す。
【0081】
セラミックコーティング50は、人工寛骨臼ライナー20の少なくとも部分的に凸状の外面22に、以下の層配列を有する多層の層システムとして構成される。
【0082】
少なくとも部分的に凸状の外面22は、第1の窒化クロム層15aによって直接覆われている。第1の窒化クロム層15aは、第1の炭窒化クロム層15bによって直接覆われている。第1の炭窒化クロム層15bは、第2の窒化クロム層15cによって直接覆われている。第2の窒化クロム層15cは、第2の炭窒化クロム層15dによって直接覆われている。第2の炭窒化クロム層15dは、第3の窒化クロム層15eによって直接覆われている。第3の窒化クロム層15eは、窒化クロムジルコニウム層15fによって直接覆われている。窒化クロムジルコニウム層15fは、窒化ジルコニウム層15gによって直接覆われ、窒化ジルコニウム層15gは同時にセラミックコーティング50の被覆層を構成する。あるいは、第3の窒化クロム層15eは、窒化ジルコニウム(図示せず)の被覆層によって直接覆われてもよい。
【0083】
あるいは、例えばジルコニウム、ジルコニウム合金、またはジルコニウムを含むセラミックからなる中間層が、人工寛骨臼ライナーとセラミックコーティング50(図示せず)との間に形成されてもよい。
【0084】
図3は、取り付けられた又は埋め込まれた状態の股関節インプラントシステム1の実施形態を示す。
【0085】
股関節インプラントシステムは、人工寛骨臼カップ10と、人工寛骨臼ライナー20と、人工大腿骨ライナー30と、人工大腿骨ヘッド40と、人工大腿骨ステム60とを備える。
【0086】
人工寛骨臼ライナー20は、少なくとも部分的に、特に部分的にのみ、または完全にセラミックコーティング50でコーティングされる。人工寛骨臼ライナー20は、特に、15°~25°、特に16°~21°の円錐角θを有することができる。したがって、有利には、結合状態において、人工寛骨臼ライナー20と人工寛骨臼カップ10との間に高い挟持力が生成され得る。
【0087】
人工大腿骨ステム60は、円筒形または円錐形の部分61によって人工大腿骨ヘッド40内に挿入される。
【0088】
股関節インプラントシステム1、特に人工寛骨臼カップ10、人工寛骨臼ライナー20、人工大腿骨ライナー30、人工大腿骨ヘッド40、セラミックコーティング50、および人工大腿骨ステム60のさらなる特徴および利点に関して、
図1および
図2に関連する説明を完全に参照する。その特徴および利点は、
図3に示される股関節インプラントシステム1にも、それらが記載されている限りにおいて、同様に適用される。
【国際調査報告】