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特表2023-528071ATP加水分解酵素と免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ、並びにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ATP加水分解酵素と免疫チェックポイントモジュレーターとの組合せ、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20230626BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230626BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230626BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230626BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/16 B ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/20 E
C12N7/01
A61K38/46
A61K45/06
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/74 A
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574669
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2021064659
(87)【国際公開番号】W WO2021245071
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/065357
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522470840
【氏名又は名称】エムヴィ バイオセラピューティクス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】グラッシ,ファビオ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050DD13
4B050LL01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084AA19
4C084AA20
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA04
4C084CA13
4C084CA53
4C084DC22
4C084MA02
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC30
4C087BC34
4C087BC35
4C087BC38
4C087BC43
4C087BC56
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)ATP加水分解酵素、ATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、かかるATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物又はウイルス粒子とからなる組合せを提供する。前記組合せは医術に使用されてもよく、特に、例えば癌の免疫療法などの癌の治療に使用されてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)ATP加水分解酵素と、の組合せ。
【請求項2】
前記ATP加水分解酵素が内在性CD39ではない、請求項1に記載の組合せ。
【請求項3】
前記ATP加水分解酵素が可溶性のATP加水分解酵素である、請求項1又は2に記載の組合せ。
【請求項4】
前記ATP加水分解酵素がアピラーゼである、請求項1から3のいずれかに記載の組合せ。
【請求項5】
前記アピラーゼが細菌又は植物由来のアピラーゼである、請求項4に記載の組合せ。
【請求項6】
前記ATP加水分解酵素が配列番号1に規定されているアミノ酸配列、或いは、前記アミノ酸配列と少なくとも70%、80%、又は90%の配列同一性を有する配列変異体含む、請求項1から5のいずれかに記載の組合せ。
【請求項7】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)請求項1から6のいずれかに記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸と、の組合せ。
【請求項8】
前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸がベクターである、請求項7に記載の組合せ。
【請求項9】
前記核酸が、前記ATP加水分解酵素の(異種)発現のための異種要素を更に含む、請求項7又は8に記載の組合せ。
【請求項10】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)請求項7から9のいずれかいに記載の前記核酸を含む宿主細胞と、の組合せ。
【請求項11】
前記宿主細胞が原核細胞又は真核細胞である、請求項10に記載の組合せ。
【請求項12】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)請求項7から9のいずれかに記載の前記核酸を含む微生物と、の組合せ。
【請求項13】
前記微生物が古細菌、細菌及び真核生物から選択される、請求項12に記載の組合せ。
【請求項14】
前記微生物が、Escherichia spp.Salmonella spp.Yersinia spp.Vibrio spp.Listeria spp.Lactococcus spp.Shigella spp.Cyanobacteria、及びSaccharomyces spp.からなる群から選択される、請求項12又は13に記載の組合せ。
【請求項15】
前記微生物がプロバイオティクスとして提供される、請求項12から14のいずれかに記載の組合せ。
【請求項16】
前記微生物の毒性が弱毒化されている、請求項12から15のいずれかに記載の組合せ。
【請求項17】
前記組合せが(組換え)細菌を含み、前記(組換え)細菌が前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項10から16のいずれかに記載の組合せ。
【請求項18】
前記細菌が前記ATP加水分解酵素を異種発現する、請求項17に記載の組合せ。
【請求項19】
前記細菌がグラム陽性菌、グラム陰性菌、及びシアノ細菌から選択される、請求項17又は18に記載の組合せ。
【請求項20】
前記細菌がEscherichia coliSalmonella typhiSalmonella typhimuriumYersinia enterocoliticaVibrio choleraeListeria monocytogenesLactococcus lactis、及びShigella flexneriから選択される、請求項17から19のいずれかに記載の組合せ。
【請求項21】
前記細菌がE.coli Nissle 1917株である、請求項17の組合せ。
【請求項22】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)請求項7から9のいずれかに記載の前記核酸を含むウイルス粒子と、の組合せ。
【請求項23】
前記ウイルス粒子がバクテリオファージである、請求項22に記載の組合せ。
【請求項24】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子、及び/又は前記免疫チェックポイント阻害剤が組成物に含まれている、請求項1から23のいずれかに記載の組合せ。
【請求項25】
前記組成物が、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に含む医薬組成物である、請求項24に記載の組合せ。
【請求項26】
前記組成物が、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌のペリプラズム抽出物を含む、請求項24又は25に記載の組合せ。
【請求項27】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、チェックポイント抑制分子の阻害剤(チェックポイント阻害剤)である、請求項1から26のいずれかに記載の組合せ。
【請求項28】
前記チェックポイント抑制分子が、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD40、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、PDL-1、PD-L2、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT、及びFasR/DcR3から選択される、請求項27に記載の組合せ。
【請求項29】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD40、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT又はDcR3の阻害剤、又はこれらのリガンドの阻害剤である、請求項1から28のいずれかに記載の組合せ。
【請求項30】
前記免疫チェックポイントモジュレーターがCTLA-4経路又はPD-1経路の阻害剤である、請求項1から29のいずれかに記載の組合せ。
【請求項31】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、PD-1、PD-L1、又はPD-L2の阻害剤であり、好ましくはPD-1又はPD-L1の阻害剤である、請求項1から30のいずれかに記載の組合せ。
【請求項32】
医術に使用される、請求項1から31のいずれかに記載の組合せ。
【請求項33】
癌の治療に使用される、請求項1から32のいずれかに記載の組合せ。
【請求項34】
前記使用が、養子(T)細胞療法における使用である、請求項32又は33に記載の使用のための組合せ。
【請求項35】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子とが、異なる投与経路により投与される、請求項32から34のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項36】
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子が、経腸投与経路により投与される、好ましくは経口投与される、請求項32から35のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項37】
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、非経口投与経路により投与される、請求項32から36のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項38】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子が、繰り返し投与される、請求項32から37のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項39】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子が、同日に投与される、請求項32から38のいずれかに記載の使用のための組合せ。
【請求項40】
(a)抗原、又は少なくとも1つの抗原エピトープを含む抗原断片、
(b)前記抗原又は前記少なくとも1つの抗原エピトープを含む抗原断片をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子を
更に含む、請求項1から39のいずれかに記載の組合せ。
【請求項41】
前記組合せが、宿主細胞又は微生物を含み、
前記宿主細胞又は前記微生物が、
前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む第一の核酸と、
前記抗原又は少なくとも1つの抗原エピトープを含む抗原断片をコードするポリヌクレオチドを含む第二の核酸と
を含む、請求項40に記載の組合せ。
【請求項42】
前記ATP加水分解酵素と、前記抗原又は少なくとも1つの抗原エピトープを含む抗原断片とを(異種)発現する宿主細胞又は微生物を含む、請求項40又は41に記載の組合せ。
【請求項43】
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と、
を含むことを特徴とする、キット。
【請求項44】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子とが、請求項2から31のいずれかに記載のものである、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子との組合せを使用して癌を治療する指示が記載された添付文書又はラベルを更に含む、請求項43又は44に記載のキット。
【請求項46】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子とが、それぞれ異なる容器で提供される、請求項43から45のいずれかに記載のキット。
【請求項47】
医術に使用される、請求項43から46のいずれかに記載のキット。
【請求項48】
癌の治療に使用される、請求項43から46のいずれかに記載のキット。
【請求項49】
医術に使用される免疫チェックポイントモジュレーターであって、
前記免疫チェックポイントモジュレーターが、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
組み合わせて投与されることを特徴とする、免疫チェックポイントモジュレーター。
【請求項50】
癌の治療に使用される、請求項49に記載の免疫チェックポイントモジュレーター。
【請求項51】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とが、請求項2から31のいずれかに記載のものである、請求項49又は50に記載の免疫チェックポイントモジュレーター。
【請求項52】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とが、請求項35から39のいずれかに記載されたように投与される、請求項49又は51に記載の免疫チェックポイントモジュレーター。
【請求項53】
前記(コードされた)ATP加水分解酵素が可溶性のATP加水分解酵素であり、
前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又はウイルス粒子が経腸投与経路により投与される、請求項49から52のいずれかに記載の免疫チェックポイントモジュレーター。
【請求項54】
それを必要とする対象の、癌の発症のリスクを軽減する、癌を治療する、改善する、又は軽減する、或いは抗腫瘍応答を開始、増強、又は延長する方法であって、
前記方法が、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
を前記対象に投与すること含むことを特徴とする、方法。
【請求項55】
癌の発症のリスクを軽減する、癌を治療する、改善する、又は軽減する、或いは抗腫瘍応答を開始、増強、又は延長する併用療法であって、
前記併用療法が、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
を投与することを含むことを特徴とする、併用療法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、癌免疫療法などにおける、免疫チェックポイントのモジュレーションによる免疫療法の技術分野に関する。本発明は、例えば、癌免疫療法において、免疫チェックポイントのモジュレーションにより免疫療法を向上させる新規の組合せ及び方法を提供する。特に、本発明は、免疫チェックポイントモジュレーターと、ATP加水分解酵素、ATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子との組合せ、及びそれらの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
癌免疫チェックポイント阻害剤を用いた癌免疫療法では、抑制性免疫チェックポイントを遮断することにより、抗腫瘍免疫が向上する。抑制性免疫チェックポイントは、通常、過剰な免疫応答を阻止する。これにより、免疫チェックポイントは、例えば、T細胞等の免疫システムが癌細胞を有効的に攻撃するのを阻止する。特に、癌細胞は、免疫抑制機能を利用して異なる免疫チェックポイント経路を活性化させる。したがって、免疫チェックポイントの遮断は、癌細胞に対する免疫応答を誘起させる又は強化するように免疫システムを「解除」する。T細胞又は癌細胞にみられるチェックポイントタンパク質の主な例としては、T細胞の抗腫瘍活性を抑制するプログラム細胞死タンパク質1(programmed cell death protein 1;PD-1)/プログラム死リガンド1(programmed death-ligand 1;PD-L1)、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(cytotoxic-T-lymphocyte-associated protein 4;CTLA-4)が挙げられる。近年、PD-1/PD-L1及びCTLA-4阻害剤は、期待できる治療結果を示しており、様々な癌治療のために認可されている一方、更なる免疫チェックポイント阻害剤は現在、開発中であり、臨床試験中である。
【0003】
最近、細胞外アデノシンが、抗腫瘍免疫応答を干渉する有力な免疫チェックポイントモジュレーターであると確認された。免疫抑制アデノシンは、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解により生成される。ヒトにおいては、ATP加水分解における律速段階の細胞外酵素はCD39であり、ATP加水分解酵素CD39の阻害が最近、癌治療として提案されている(非特許文献1及び非特許文献2)。ルシフェラーゼを発現するB16/F10メラノーマ細胞及びMCA-38結腸癌細胞を野生型あるいはCD39-/-マウスに門脈内投与することによって作成したマウス肝転移モデルを使って、制御性T細胞(Treg)によるCD39発現が、増殖促進の役割を果たすことが示されている(非特許文献3)。転移性メラノーマ(melanoma metastatic tumors)の成長は、CD39-/-マウス、又はCD39-/-骨髄由来細胞で再構成されたキメラマウスにおいて、強度に阻害される(非特許文献3)。また、薬理学的CD39阻害剤であるポリオキソメタレート1(POM1)を用いた治療は、腫瘍成長を顕著に制限することをも示されている(非特許文献4)。興味深いことに、CD39阻害を免疫チェックポイント阻害と関連付けた併用療法の相乗効果が、最近報告されている。肺転移モデルにおいて、POM-1によるCD39の特異的遮断が、抗PD1及び抗CTLA-4 mAbのNK細胞及びIFN-γに依存性抗腫瘍活性を顕著に強化した(非特許文献5)。更に、B16又はMCA205腫瘍が接種されたCD39欠損マウスにおける抗PD1及び抗CTLA4療法の強化された効能は、抗CD39抗体IPH5201(Innate Pharma)を用いたCD39標的遮断もまた免疫チェックポイント阻害剤と相乗効果を生むことを示唆している(非特許文献6)。
【0004】
様々な悪性腫瘍を患う患者が免疫チェックポイント阻害剤治療の恩恵を受けることができることが最近の報告で示されているなか、治療効果は、免疫チェックポイント阻害剤で治療された患者のうち、ごく一部の患者のみに見られる(非特許文献7)。免疫チェックポイント阻害(ICB)の治療効果への耐性は、大きく2つのカテゴリーに分けられる:(i)一般的に、ICBに全く応答を示さない患者を意味する原発性耐性;及び(ii)ICBへ初期応答を示したが、その後、疾患が進行した患者を意味する獲得性耐性。原発性耐性に拮抗するために、多数の併用療法(例えば、化学療法、チロシンキナーゼ及び成長因子阻害剤)が現在検討されている(非特許文献8、非特許文献9、及び非特許文献10)。しかし、ICBに対する獲得性耐性に至るメカニズムは解明されておらず、その過程を回復するための治療的アプローチは存在していない。
【0005】
免疫チェックポイント阻害(ICB)に応答を示す患者においては、腫瘍微小環境(TME)は、腫瘍外の部位から新しく、疲弊していないCD8T細胞及びT細胞クローンが補充されることが示されている。この現象は、癌免疫療法の臨床的利点を説明する上で主要な要因となると考えられる(非特許文献11)。実際、TME中の細胞傷害性T細胞による抗原認識は、疲弊しエピゲノム的に不応性となった機能不全細胞の増殖を進めるため、エフェクター機能を回復させるのは困難である(非特許文献12及び非特許文献13)。また、最近の研究では、細胞傷害性はTMEに浸潤している腫瘍特異性のないバイスタンダー細胞に限定されることが示されている(非特許文献14及び非特許文献15)。
【0006】
メモリーCD8T細胞は、抗原特異性に関係なく腫瘍に補充されることが示されている(非特許文献16、非特許文献17、及び非特許文献18)。これらのCD8腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、同種抗原認識を必要とせず活性化されエフェクター機能を果たし、ホストの予後を向上させる(非特許文献19及び非特許文献20)。
【0007】
異なる免疫チェックポイント阻害剤の組合せが、より高い、進行フリーの生存率及び全体的な生存率を提供するなか、皮膚関連事象及び深刻な胃腸症状を含む、治療に関連した有害事象が、ICB併用療法を行う患者に危険な脅威を与えている(非特許文献21)。
【0008】
或いは、免疫チェックポイント阻害剤の術前補助併用は、進行したメラノーマ及び他の癌を患う患者への有望な治療法を示しているかもしれない(非特許文献22)。しかし、かかる併用では、また、深刻な副作用が治療が完了するのを制限する可能性がある(非特許文献23及び非特許文献24)。
【0009】
要約すると、現在、癌を治療する免疫チェックポイント療法の開始は、おおむね、癌患者における低応答率及び免疫関連の有害事象により妨害されている。したがって、治療成績を向上することができる要素が必要である。例えば、切除可能な肺癌における単独のICB術前補助療法は、僅かな副作用だけをもたらし、外科手術を遅らせることがないと最近報告されている(非特許文献25)。したがって、免疫チェックポイント阻害剤(単剤)の術前補助効能を増強できる成分が、毒性を低減しつつ、有効な治療応答性を提供するかもしれない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Allard B, Longhi MS, Robson SC, Stagg J. The ectonucleotidases CD39 and CD73: Novel checkpoint inhibitor targets. Immunol Rev. 2017;276(1):121-144. doi:10.1111/imr.12528
【非特許文献2】Allard D, Allard B, Stagg J. On the mechanism of anti-CD39 immune checkpoint therapy. J Immunother Cancer. 2020;8(1):e000186. doi:10.1136/jitc-2019-000186
【非特許文献3】Sun X, Wu Y, Gao W, et al. CD39/ENTPD1 expression by CD4+Foxp3+ regulatory T cells promotes hepatic metastatic tumor growth in mice. Gastroenterology. 2010;139:1030-1040
【非特許文献4】Kunzli BM, Bernlochner MI, Rath S, et al. Impact of CD39 and purinergic signalling on the growth and metastasis of colorectal cancer. Purinergic Signal. 2011;7:231-241
【非特許文献5】Zhang H、 Vijayan D、 Li X-Y、 et al. . The role of NK cells and CD39 in the immunological control of tumor metastases. Oncoimmunology 2019;8:e159380910.1080/2162402X.2019.1593809
【非特許文献6】Perrot I, Michaud H-A, Giraudon-Paoli M, et al. . Blocking antibodies targeting the CD39/CD73 immunosuppressive pathway Unleash immune responses in combination cancer therapies. Cell Rep 2019;27:2411-25.10.1016/j.celrep.2019.04.091
【非特許文献7】Schoenfeld, A.J., and Hellmann, M.D. (2020). Acquired Resistance to Immune Checkpoint Inhibitors. Cancer Cell 37, 443-455
【非特許文献8】Gandhi, L., Rodriguez-Abreu, D., Gadgeel, S., Esteban, E., Felip, E., De Angelis, F., Domine, M., Clingan, P., Hochmair, M.J., Powell, S.F., et al. (2018). Pembrolizumab plus Chemotherapy in Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med 378, 2078-2092
【非特許文献9】Motzer, R.J., Penkov, K., Haanen, J., Rini, B., Albiges, L., Campbell, M.T., Venugopal, B., Kollmannsberger, C., Negrier, S., Uemura, M., et al. (2019). Avelumab plus Axitinib versus Sunitinib for Advanced Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med 380, 1103-1115
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【非特許文献11】Wu, T.D., Madireddi, S., de Almeida, P.E., Banchereau, R., Chen, Y.J., Chitre, A.S., Chiang, E.Y., Iftikhar, H., O’Gorman, W.E., Au-Yeung, A., et al. (2020). Peripheral T cell expansion predicts tumour infiltration and clinical response. Nature 579, 274-278
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【非特許文献13】Scott, A.C., Duendar, F., Zumbo, P., Chandran, S.S., Klebanoff, C.A., Shakiba, M., Trivedi, P., Menocal, L., Appleby, H., Camara, S., et al. (2019). TOX is a critical regulator of tumour-specific T cell differentiation. Nature 571, 270-274
【非特許文献14】Scheper, W., Kelderman, S., Fanchi, L.F., Linnemann, C., Bendle, G., de Rooij, M.A.J., Hirt, C., Mezzadra, R., Slagter, M., Dijkstra, K., et al. (2019). Low and variable tumor reactivity of the intratumoral TCR repertoire in human cancers. Nat Med 25, 89-94
【非特許文献15】Simoni, Y., Becht, E., Fehlings, M., Loh, C.Y., Koo, S.L., Teng, K.W.W., Yeong, J.P.S., Nahar, R., Zhang, T., Kared, H., et al. (2018). Bystander CD8(+) T cells are abundant and phenotypically distinct in human tumour infiltrates. Nature 557, 575-579
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【非特許文献17】Rosato, P.C., Wijeyesinghe, S., Stolley, J.M., Nelson, C.E., Davis, R.L., Manlove, L.S., Pennell, C.A., Blazar, B.R., Chen, C.C., Geller, M.A., et al. (2019). Virus-specific memory T cells populate tumors and can be repurposed for tumor immunotherapy. Nat Commun 10, 567
【非特許文献18】Simoni, Y., Becht, E., Fehlings, M., Loh, C.Y., Koo, S.L., Teng, K.W.W., Yeong, J.P.S., Nahar, R., Zhang, T., Kared, H., et al. (2018). Bystander CD8(+) T cells are abundant and phenotypically distinct in human tumour infiltrates. Nature 557, 575-579
【非特許文献19】Martin, M.D., Jensen, I.J., Ishizuka, A.S., Lefebvre, M., Shan, Q., Xue, H.H., Harty, J.T., Seder, R.A., and Badovinac, V.P. (2019). Bystander responses impact accurate detection of murine and human antigen-specific CD8 T cells. J Clin Invest 130, 3894-3908
【非特許文献20】Soudja, S.M., Ruiz, A.L., Marie, J.C., and Lauvau, G. (2012). Inflammatory monocytes activate memory CD8(+) T and innate NK lymphocytes independent of cognate antigen during microbial pathogen invasion. Immunity 37, 549-562
【非特許文献21】(Wolchok, J.D., Chiarion-Sileni, V., Gonzalez, R., Rutkowski, P., Grob, J.J., Cowey, C.L., Lao, C.D., Wagstaff, J., Schadendorf, D., Ferrucci, P.F., et al. (2017). Overall Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma. N Engl J Med 377, 1345-1356
【非特許文献22】(Versluis, J.M., Long, G.V., and Blank, C.U. (2020). Learning from clinical trials of neoadjuvant checkpoint blockade. Nat Med 26, 475-484
【非特許文献23】Amaria, R.N., Reddy, S.M., Tawbi, H.A., Davies, M.A., Ross, M.I., Glitza, I.C., Cormier, J.N., Lewis, C., Hwu, W.J., Hanna, E., et al. (2018). Neoadjuvant immune checkpoint blockade in high-risk resectable melanoma. Nat Med 24, 1649-1654
【非特許文献24】Blank, C.U., Rozeman, E.A., Fanchi, L.F., Sikorska, K., van de Wiel, B., Kvistborg, P., Krijgsman, O., van den Braber, M., Philips, D., Broeks, A., et al. (2018). Neoadjuvant versus adjuvant ipilimumab plus nivolumab in macroscopic stage III melanoma. Nat Med 24, 1655-1661
【非特許文献25】Forde, P.M., Chaft, J.E., Smith, K.N., Anagnostou, V., Cottrell, T.R., Hellmann, M.D., Zahurak, M., Yang, S.C., Jones, D.R., Broderick, S., et al. (2018). Neoadjuvant PD-1 Blockade in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med 378, 1976-1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に鑑み、本発明は、チェックポイント阻害剤を用いた現状の免疫療法の上述した欠点を克服し、且つ、チェックポイント阻害剤と、該チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増強する薬剤との新規の組合せを提供することを目的とする。これにより、(i)免疫チェックポイント阻害剤の治療に対して応答性を示す患者の割合が増加し、及び/又は(ii)前記免疫チェックポイント阻害剤の投与量を低減することができ、好ましくない副作用を低減又は予防することができる。
【0012】
これらの目的は、以下及び添付の特許請求の範囲に示す発明主題によって達成される。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書に記載の特定の方法、プロトコル、及び試薬は変わる可能性あり、因って、本発明は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。特段の断りがない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0014】
以下に、本発明の要素について説明する。これら要素は、具体的な実施形態と共に列挙されるが、これらを任意の方式で任意の数組み合わせて更なる実施形態を形成することができることが理解されるべきである。記載される様々は実施例及び好ましい実施形態は、明示的に記載した実施形態にのみ、本発明を限定するものではない。この記載は、明示的に記載された実施形態と、任意の数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせる実施形態をサポート及び包含すると理解すべきである。更に、特に指定しない限り、本願において記載された全ての要素の任意の入れ換え及び組合せが、本願の記載によって開示されるとみなすべきである。
【0015】
本明細書及びその後に続く特許請求の範囲全体を通して、特に必要としない限り、用語「含む(comprise)」、並びに「含み(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、言及された部材、整数、又は工程を含むことを意味するが、その他の言及されていない部材、整数、又は工程を除外することを意味するものではない。用語「からなる(consist of)」は、任意の他の指定されていない部材、整数、又は工程が除外される、用語「含む(comprise)」の具体的な形態である。本発明において、用語「含む(comprise)」は、用語「からなる(comsist of)」を包含する。したがって、用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、Xからなっていてもよく、追加の何かを含んでいてもよい(例えば、X+Y)。
【0016】
用語「a」及び「an」及び「the」、並びに本発明の説明(特に、特許請求の範囲)において使用される同様の参照は、本明細書に指定されているか又は文脈上明示的に否定されていない限り、単数及び複数の両方を網羅すると解釈すべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、範囲内の各別個の値を個別に参照する簡易的な方法として機能することを意図する。本明細書において特に指定しない限り、各個別の値は、本明細書に個々に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。明細書中のいずれの言語も、請求の範囲に記載されていないが、本発明を実施するのに必須である要素であることを示すと解釈されるべきではない。
【0017】
用語「実質的に」は、「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含んでいなくてもよい。必要な場合、用語「実質的に」は、本発明の定義から省略されることもある。
【0018】
数値xに関する用語「約」は、x±10%を意味する。
【0019】
チェックポイント阻害剤とATP-加水分解酵素とからなる組合せ
本発明の第一の態様は下記の組合せを提供する。即ち、
(i)免疫チェックポイント阻害剤と、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と、
の組合せ。
【0020】
添付の実施例に示されるように、本発明者は、驚くべきことに、ATP加水分解酵素(又はATP加水分解酵素をコードする宿主細胞/微生物)が免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効力を増加することを見出した。したがって、免疫チェックポイント阻害剤と、ATP加水分解酵素、又はATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、かかる核酸を有する(よって、ATP加水分解酵素を発現する)宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子と、からなる組合せにより効率的な癌治療をもたらす。これにより、チェックポイント阻害剤を用いた抗癌治療に応答性を示す患者の数が増えるかもしれない。また、深刻な副作用を低減させるため、チェックポイント阻害剤の投与量を減らすことができ、又はチェックポイント阻害剤の有害な組合せを避けることができる。
【0021】
以下、本発明の組合せの成分、即ち、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記核酸を含む宿主細胞、前記核酸を含む微生物、又は前記核酸を含むウイルス粒子の詳細を説明する。以下に説明される(i)前記免疫チェックポイント阻害剤の態様のいずれかと、以下に説明される(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記核酸を含む宿主細胞、前記核酸を含む微生物、又は前記核酸を含むウイルス粒子のいずれかとを、組み合わせることができる。
【0022】
免疫チェックポイントモジュレーター
ここで(即ち、本明細書中で)使用される用語「免疫チェックポイントモジュレーター」(「チェックポイントモジュレーター」とも参照される)は、少なくとも1つの(免疫)チェックポイント分子の機能を調節する(例えば、完全に又は一部低減する、阻害する、干渉する、活性化する、促進する、増加する、補強する、又は補助する)分子又は化合物を意味する。言い換えれば、「免疫チェックポイントモジュレーター」は免疫チェックポイント分子のモジュレーターである。したがって、免疫チェックポイントモジュレーターは、「免疫チェックポイント阻害剤」(「チェックポイント阻害剤」又は「阻害剤」とも参照される)、又は「免疫チェックポイント活性剤」(「チェックポイント活性剤」又は「活性剤」とも参照される)であってもよい。「免疫チェックポイント阻害剤」(「チェックポイント阻害剤」又は「阻害剤」とも参照される)は、少なくとも1つのチェックポイント分子の機能を、完全に又は一部低減、阻害、干渉、又はネガティブに調節する。「免疫チェックポイント活性剤」(「チェックポイント活性剤」又は「活性剤」とも参照される)は、少なくとも1つのチェックポイント分子の機能を完全に又は一部活性化、促進、増加、補強、補助、又はポジティブに調節する。免疫チェックポイントモジュレーターは、通常、(i)自己寛容及び/又は(ii)免疫応答の強度及び/又は持続時間を調節することができる。好ましくは、本発明において使用される前記免疫チェックポイントモジュレーターは、1つ以上のヒトチェックポイント分子の機能を調節するものであり、したがって、前記免疫チェックポイントモジュレーターは「ヒトチェックポイントモジュレーター」である。好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、ICOS、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA(CD272)、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、GITR、TNFR、TIGIT及び/又はFasR/DcR3から選択される少なくとも1つの免疫チェックポイント分子の活性剤又は阻害剤、或いはそれらの少なくとも1つのリガンドの活性剤又は阻害剤である。
【0023】
チェックポイント分子(「免疫チェックポイント分子」又は「免疫チェックポイント」とも言われる)は、通常、免疫経路に関与するタンパク質等の分子であり、例えば、T細胞活性化、T細胞増殖、及び/又はT細胞機能に関与するタンパク質等の分子である。免疫チェックポイント分子は、しばしば、免疫システムの「門番(ゲートキーパー)」と言われる。免疫チェックポイント分子は、通常、自己寛容に重要であると言われ、免疫システムが無差別に細胞を攻撃するのを予防する。しかし、癌によっては、免疫チェックポイント標的を刺激することにより、免疫からの攻撃に対して癌自身を防衛することができ、よって、免疫応答を阻止又は低減する。この点から、免疫チェックポイントモジュレーターの目的は、免疫応答が阻止又は低減されないように、更には、免疫応答が誘起又は強化されるように免疫チェックポイント分子を調節することである。したがって、チェックポイントモジュレーターにより調節された(完全に又は一部低減、阻害、干渉、活性化、促進、増加、補強、又は補助する)チェックポイント分子の機能は、通常、T細胞活性化、T細胞増殖、及び/又はT細胞機能(の調整)である。したがって、免疫チェックポイント分子は、自己寛容を調整及び保持し、生理学的免疫応答の持続時間及び強度を調整及び保持する。免疫チェックポイント分子の多くは、B7:CD28ファミリー又は腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーに属し、特定のリガンドに結合することにより、細胞質ドメインにリクルートされるシグナリング分子を活性化する(Susumu Suzuki et al.、2016:Current status of immunotherapy. Japanese Journal of Clinical Oncology、 2016:doi:10.1093/jjco/hyv201[印刷出版に先立つE書籍]参照;特に表1)。
【0024】
B7:CD28ファミリーは、免疫チェックポイントにおいて最も頻繁に標的とされる経路を含み、CTLA-4 - B7-1/B7-2経路及びPD-1 - B7-H1(PDL1)/B7-DC(PD-L2)経路を含む。前記ファミリーの他のものとしては、ICOS-ICOSL/B7-H2が挙げられる。前記ファミリーのその他のものとしては、CD28、B7-H3、及びB7-H4が挙げられる。
【0025】
CD28は、殆どのヒトCD4T細胞に、また、全てのCD8T細胞のうち凡そ半分のものに構成的に発現する。前記CD28は、樹状細胞に発現される2つのリガンドであるCD80(B7-1)及びCD86(B7-2)と結合し、T細胞増殖を促進する。前記チェックポイント共刺激分子CD28は、チェックポイント抑制分子CTLA4と、共通のリガンドであるCD80及びCD86を競合する(Buchbinder E. I. and Desai A., 2016:CTLA-4 and PD-1 Pathways-Similarities,Differences and Implications of Their Inhibition;American Journal of Clinical Oncology,39(1):98-106)。
【0026】
細胞傷害性Tリンパ球関連プロテイン4(CTLA4;CD152としても知られる)は、B7に対してより高い結合親和性を有するCD28相同体である。CTLA-4のリガンドは、CD28同様、CD80(B7-1)及びCD86(B7-2)である。しかし、CD28とは異なり、B7へのCTLA4の結合は、刺激シグナルを発生せず、CD28により通常発生される共刺激シグナルを妨げる。また、B7へのCTLA4の結合は、CD28:B7結合及びTCR:MHC結合の刺激シグナルを妨害する阻害性シグナルを発生するとも考えられている。CTLA-4は、自己反応する可能性のあるT細胞をナイーブT細胞活性化の初期段階で阻止、通常、リンパ節で阻止するため、CTLA-4は抑制性免疫チェックポイントの「リーダー」であると考えられている(Buchbinder E. I. and Desai A.,2016:CTLA-4 and PD-1 Pathways:Similarities,Differences and Implications of Their Inhibition;American Journal of Clinical Oncology, 39(1):98-106)。CTLA4の好ましいチェックポイント阻害剤には、モノクローナル抗体Yervoy(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)及びTremelimumab(Pfizer/MedImmune)が含まれる。更に好ましいCTLA-4阻害剤としては、WO2001/014424、WO2004/035607、US2005/0201994、及びEP1212422B1に開示されている抗CTLA-4抗体が含まれる。更に、本発明に使用することができる抗CTLA-4抗体としては、例えば、US5,811,097、US5,855,887、US6,051,227、US6,984,720、WO01/14424、WO00/37504、US2002/0039581、US2002/086014、WO98/42752、US6,682,736、及びUS6,207,156;並びに、Hurwitz et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95(17):10067-10071(1998);Camacho et al.、J.Clin.Oncology、22(145):Abstract No.2505(2004)(antibody CP-675206);Mokyr et al.、Cancer Res.、58:5301-5304(1998)、US5,977,318、US6,682,736、US7,109,003、及びUS7,132,281に開示されているものが含まれる。
【0027】
プログラム細胞死1受容体(PD1)は、PD-L1(B7-H1及びCD274としても知られる)と、PD-L2(B7-DC及びCD273としても知られる)との2つのリガンドを有する。前記PD1経路は、免疫応答の最終段階で、主に末梢組織において、既に活性化されたT細胞を調整する。したがって、PD1を標的とする利点は、腫瘍微小環境における免疫機能を回復できることである。前記PD1経路の好ましい阻害剤としては、Opdivo(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ;Merck)、Durvalumab(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI4736(AstraZeneca;WO2011/066389A1に記載の通り)、Atezolizumab(MPDL3280A、Roche/Genentech;US8,217,149B2参照)、ピディリズマブ(CT-011;CureTech)、MEDI0680(AMP-514;AstraZeneca)、Avelumab(Merck)、MSB-0010718C(Merck)、PDR001(Novartis)、BMS-936559(Bristol Myers Squibb)、REGN2810(Regeneron Pharmaceuticals)、MIH1(Affymetrix)、AMP-224(Amplimmune、 GSK)、BGB-A317(BeiGene)及びラムブロリズマブ(例えば、WO2008/156712;Hamid et al.、2013;及びN.Engl.J.Med.369:134-144に開示のhPD109A、並びにそのヒト化誘導体であるh409All、h409A16、及びh409A17)が含まれる。
【0028】
誘導性T細胞共刺激因子(Inducible T-cell costimulatory[ICOS];CD278としても知られる)は、活性化T細胞に発現する。前記ICOSのリガンドはICOSL(B7-H2;CD275)、であり、主にB細胞及び樹状細胞に発現する。この分子は、T細胞エフェクター機能において重要であると考えられている。
【0029】
B7-H3(CD276としても知られる)は、元々、共刺激分子として知られていたが、現在では、共阻害剤として知られている。B7-H3の好ましいチェックポイント阻害剤は、Fc最適化モノクローナル抗体であるEnoblituzumab(MGA271;MacroGenics;US2012/0294796A1参照)である。
【0030】
B7-H4(VTCN1としても知られる)は、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージにより発現され、腫瘍エスケープにおいて重要な役割を果たす。好ましいB7-H4阻害剤としては、Dangaj、D. et al.、2013;Cancer Research 73(15):4820-9、及びJenessa B. Smith et al.、2014:B7-H4 as a potential target for immunotherapy for gynecologic cancers:A closer look. Gynecol Oncol 134(1):181-189の表1及びそれに対応する記載に開示の抗体が挙げられる。その他のB7-H4阻害剤の好ましい例としては、例えば、WO2013/025779A1及びWO2013/067492A1に開示のヒトB7-H4の抗体、及びUS2012/0177645A1等に開示のB7-H4の可溶性組換え体が挙げられる。
【0031】
前記TNFスーパーファミリーとしては、特に、29のサイトカイン受容体に結合する19のタンパク質リガンドが含まれる。これらは、アポトーシス、炎症、細胞生存等の多くの生理学的応答に関与する(Croft、M.、C.A. Benedict、 and C.F. Ware、Clinical targeting of the TNF and TNFR superfamilies. Nat Rev Drug Discov、2013.12(2):p.147-68)。以下のチェックポイント分子/経路は、癌の認識に好ましい:TNFRSF4(OX40/0X40L)、TNFRSFS(CD40L/CD40)、TNFRSF7(CD27/CD70)、TNFRSF8(CD30/CD30L)、TNFRSF9(4-1BB/4-1BBL)、TNFRSF10(TRAILR/TRAIL))、TNFRSF12(FN14/TWEAK)、TNFRSF13(BAFFRTACI/APRIL-BAFF)、及びTNFRSF18(GITR/GITRL)。更に好ましいチェックポイント分子/経路としては、Fas-リガンド及びTNFRSF1(TNFα/TNFR)が挙げられる。また、B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)/ヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM)経路は、CTLA-4遮断のように、免疫応答の強化に好ましい。したがって、本発明において、かかるチェックポイントモジュレーターは、癌の治療及び/又は予防に使用されるのに好ましく、TNFRSF4(OX40/0X40L)、TNFRSFS(CD40L/CD40)、TNFRSF7(CD27/CD70)、TNFRSF9(4-1BB/4-1BBL)、TNFRSF18(GITR/GITRL)、FasR/DcR3/Fasリガンド、TNFRSF1(TNFα/TNFR)、BTLA/HVEM、及びCTLA4から選択される1つ以上のチェックポイント分子を調節する。
【0032】
OX40(CD134又はTNFRSF4としても知られる)は、エフェクター及びメモリーT細胞の増殖を促進するが、制御性T細胞の分化及び活動を抑制することもでき、サイトカインの生成を規制することができる。OX40のリガンドは、OX40L(TNFSF4又はCD252としても知られる)である。OX40は、T細胞受容体連結後に一過性発現し、炎症性病変において、抗原により直近で活性化したT細胞においてのみ発現上昇する。OX40の好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、MEDI6469(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI6383(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI0562(MedImmune/AstraZeneca)、MOXR0916(RG7888;Roche/Genentech)、及びGSK3174998(GSK)が挙げられる。
【0033】
CD40(TNFRSF5としても知られる)は、抗原提示細胞等の、多様な免疫システム細胞により発現される。CD40のリガンドはCD40Lであり、CD154又はTNFSF5としても知られており、活性化CD4T細胞の表面において一過性発現される。CD40シグナルは、樹状細胞が熟成することを「許可」し、それにより、T細胞活性化及び分化を誘起する。しかし、CD40は、腫瘍細胞によっても発現される。したがって、癌患者においてCD40の刺激/活性化は、有益にも有害にもなりうる。そのため、この免疫チェックポイントの刺激又は阻害性モジュレーターが開発された(Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Soerensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104)。CD40チェックポイントモジュレーターの好ましい例としては、(i)Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Soerensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104に記載のアゴニスト抗CD抗体であって、例えば、Dacetuzumab(SGN-40)、CP-870893、FGK4.5/FGK45及びFGK115等、好ましくは、Dacetuzumab、並びに(ii)Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Soerensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104に記載のアゴニスト抗CD抗体であって、例えば、Lucatumumab(HCD122、CHIR-12.12)等を含む。CD40の更に好ましい免疫チェックポイントモジュレーターとしては、SEA-CD40(Seattle Genetics)、ADC-1013(Alligator Biosciences)、APX005M(Apexigen Inc)、及びRO7009789(Roche)が挙げられる。
【0034】
CD27(TNFRSF7としても知られる)は、抗原に特異的なナイーブT細胞の増殖を援助し、メモリーT細胞の生成に重要な役割を果たす。CD27は、また、B細胞のメモリーマーカーでもある。CD27のリガンドであるCD70(TNFSF7又はCD27Lとしても知られる)のリンパ球及び樹状細胞での一過性のアベイラビリティが、CD27の活性を制御する。また、CD27共刺激は、Th17エフェクター細胞機能を抑制することが知られている。CD27の好ましい免疫チェックポイントモジュレーターとしては、Varlilumab(Celldex)が挙げられる。CD70の好ましい免疫チェックポイントモジュレーターとしては、ARGX-110(arGEN-X)及びSGN-CD70A(Seattle Genetics)が挙げられる。
【0035】
CD137(4-1BB又はTNFRSF9としても知られる)は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーの一員であり、活性化T細胞のための共刺激活性と関連があることが明らかになりつつある。特に、(CD137のリガンドであるCD137L[TNFSF9又は4-1BBLとしても知られる]を介した)CD137シグナルは、T細胞増殖を引き起こし、T細胞、特に、CD8T細胞が、活性化誘導細胞死することを防ぐ。CD137の好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、PF-05082566(Pfizer)及びUrelumab(BMS)が挙げられる。
【0036】
グルココルチコイド誘導TNFRファミリー関連遺伝子(GITR、TNFRSF18としても知られる)は、制御性T細胞(Treg)増殖を含むT細胞増殖を促進する。GITR(GITRL、TNFSF18)のリガンドは、主に、抗原提示細胞に発現する。GITRに対する抗体は、Treg系列の安定性喪失を介して抗腫瘍応答を促進することが示されている。GITRの好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、BMS-986156(Bristol Myers Squibb)、TRX518(GITR Inc)、及びMK-4166(Merck)が挙げられる。
【0037】
B及びTリンパ球減衰因子(B and T Lymphocyte Attenuator[BTLA];CD272としても知られる)は、特に、CD8T細胞により発現され、BTLAの表面でのBTLAの発現は、ナイーブ細胞表現型からエフェクター細胞表現型へのCD8T細胞の分化中に、次第に抑制される。しかし、腫瘍特異ヒトCD8T細胞は、高いレベルでBTLAを発現する。BTLAの発現はT細胞の活性化中に誘起され、BTLAはTh1細胞上では発現されたままで留まるが、Th2細胞上ではそうではない。PD1及びCTLA4同様、BTLAは、B7相同体であるB7H4と相互作用する。しかし、PD-1及びCTLA-4とは異なり、BTLAは、B7ファミリーの細胞の表面受容体のみではなく、腫瘍壊死ファミリー受容体(TNF-R)との相互作用を介してT細胞阻害性を示す。BTLAは、腫瘍壊死因子(受容体)スーパーファミリーのリガンドであるメンバー14(TNFRSF14)であり、ヘルペスウイルス侵入メディエーター(Herpesvirus Entry Mediator[HVEM]、CD270としても知られる)としても知られている。BTLA-HVEM複合体は、T細胞免疫応答をネガティブに(negatively)規制する。好ましいBTLA阻害剤としては、Alison Crawford and E. John Wherry, 2009: Editorial: Therapeutic potential of targeting BTLA. Journal of Leukocyte Biology 86: 5-8の表1に記載の抗体、特に、該抗体のヒト抗体が挙げられる。ヒトBTLAがそのリガンドと相互作用するのを阻止する、他の好ましい抗体は、WO2011/014438に開示されており、例えば、WO2011/014438に開示されている「4C7」等が挙げられる。
【0038】
他のチェックポイント分子ファミリーとしては、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の2つの主要なクラス(MHCクラスI及びクラスII)に関連するチェックポイント分子が挙げられる。前記ファミリーは、クラスIのためのキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、及びクラスIIのためのリンパ球活性化遺伝子(LAG-3)を含む。
【0039】
キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)は、MHCクラスIのための受容体であり、ナチュラルキラー細胞における受容体である。KIRの阻害剤の例としては、モノクローナル抗体Lirilumab(IPH 2102; Innate Pharma/BMS; cf. US 8,119,775 B2 and Benson et al., 2012, Blood 120:4324-4333)が挙げられる。
【0040】
リンパ球活性化遺伝子(LAG3、CD223としても知られる)シグナルは、CD8T細胞における直接的な効果と共に、Tregに対する作用により、免疫応答を抑制する。LAG3阻害剤の好ましい例としては、抗LAG3モノクローナル抗体BMS-986016(Bristol-Myers Squibb)が挙げられる。LAG3阻害剤の他の好ましい例としては、LAG525(Novartis)、IMP321(Immutep)、WO2009/044273A2及びBrignon et al.、2009、Clin.Cancer Res.15:6225-6231に開示されているLAG3-Ig、マウス又はヒト化抗体遮断性ヒトLAG3(mouse or humanized antibody blocking human LAG3)(例えば、WO2008/132601A1に開示されているIMP701)、及び完全ヒト抗体遮断性ヒトLAG3(fully human antibody blocking human LAG3)(EP2320940A2に開示)が挙げられる。
【0041】
他のチェックポイント分子経路としては、TIM-3/GAL9経路が挙げられる。T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3(TIM-3、HAVcr-2としても知られる)は活性化ヒトCD4+T細胞上で発現し、Th1及びTh17サイトカインを規制する。TIM-3は、TIM-3のリガンドであるgalectin-9(GAL9)との相互作用により細胞死を誘起することにより、Th1/Tc1機能の負の(ネガティブ)制御因子として作用する。TIM-3は、末梢性寛容の誘導を制御するTh1特異細胞表面分子(T helper type 1 specific cell surface molecule)である。最近の研究では、TIM-3抗体が抗腫瘍免疫を大幅に高めることができることが実際に示されている(Ngiow, S.F., et al., Anti-TIM3 antibody promotes T cell IFN-gammamediated antitumor immunity and suppresses established tumors. Cancer Res, 2011. 71(10): p. 3540-51)。TIM-3阻害剤の好ましい例としては、抗体標的ヒトTIM3(antibody targeting human TIM3)(例えば、WO2013/006490A2)が挙げられ、特に、Jones et al .、2008、J Exp Med.205(12):2763-79に開示されている抗ヒトTIM3ブロッキング抗体F38-2E2(anti-human TIM3 blocking antibody F38-2E2)が挙げられる。
【0042】
CEACAM1(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)は、更なるチェックポイント分子である(Huang, Y.H., et al., CEACAM1 regulates TIM-3-mediated tolerance and exhaustion. Nature, 2015. 517(7534): p. 386-90; Gray-Owen, S.D. and R.S. Blumberg, CEACAM1: contact-dependent control of immunity. Nat Rev Immunol, 2006. 6(6): p. 433-46)。CEACAM1の好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、CM-24(cCAM Biotherapeutics)が挙げられる。
【0043】
他の免疫チェックポイント分子としてはGARPが挙げられ、GARPは腫瘍が患者の免疫システムから免れる機能に重要な役割を果たす。現在、臨床試験において、候補分子(ARGX-115)が興味深い効果を示しているようである。したがって、ARGX-115は、好ましいGARPチェックポイントモジュレーターである。
【0044】
また、様々な研究グループにより、他のチェックポイント分子としてホスファチジルセリン(「PS」とも称される)が挙げられ、ホスファチジルセリンが癌治療のために標的とされ得ることを示している(Creelan, B.C., Update on immune checkpoint inhibitors in lung cancer. Cancer Control, 2014. 21(1): p. 80-9; Yin, Y., et al., Phosphatidylserine-targeting antibody induces Ml macrophage polarization and promotes myeloid-derived suppressor cell differentiation. Cancer Immunol Res, 2013. 1(4): p. 256-68)。ホスファチジルセリン(PS)の好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、Bavituximab(Peregrine)が挙げられる。
【0045】
他のチェックポイント経路としては、CSF1/CSF1Rが挙げられる(Zhu, Y., et al., CSF1/CSF1R Blockade Reprograms Tumor-Infiltrating Macrophages and Improves Response to T-cell Checkpoint Immunotherapy in Pancreatic Cancer Models. Cancer Research, 2014. 74(18): p. 5057- 5069)。CSF1Rの好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、FPA008(FivePrime)、IMC-CS4(Eli-Lilly)、PLX3397(Plexxicon)、及びRO5509554(Roche)が挙げられる。
【0046】
更には、子宮頸癌(Sheu,B.C.,et al.、Up-regulation of inhibitory natural killer receptors CD94/NKG2A with suppressed intracellular perforin expression of tumor infiltrating CD8+ T lymphocytes in human cervical carcinoma.Cancer Res,2005.65(7):p.2921-9)及び白血病(Tanaka,J.,et al.、Cytolytic activity against primary leukemic cells by inhibitory NK cell receptor(CD94/NKG2A)-expressing T cells expanded from various sources of blood mononuclear cells.Leukemia,2005.19(3):p.486-9)においてCD94/NKG2Aナチュラルキラー細胞受容体が果たす役割が評価されている。NKG2Aの好ましいチェックポイントモジュレーターとしては、IPH2201(Innate Pharma)が挙げられる。
【0047】
他のチェックポイント分子としては、IDO、即ち、キヌレニン経路のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ酵素が挙げられる(Ball,H.J.,et al.,Indoleamine 2,3-dioxygenase-2;a new enzyme in the kynurenine pathway.Int J Biochem Cell Biol、2009.41(3):p.467-71)。インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)は、免疫阻害性を有するトリプトファン分解酵素である。IDOは、T細胞及びNK細胞を抑制することが知られており、Treg及び骨髄由来抑制細胞を生成及び活性化し、また、腫瘍血管新生を促進する。IDO1は、多くの癌において過剰に発現され、免疫システムから腫瘍細胞を免れさせ(Liu,X.,et al.,Selective inhibition of ID01 effectively regulates mediators of antitumor immunity.Blood,2010.115(17):p.3520-30;Ino,K.,et al.,Inverse correlation between tumoral indoleamine 2,3-dioxygenase expression and tumor-infiltrating lymphocytes in endometrial cancer:its association with disease progression and survival.Clin Cancer Res,2008.14(8):p.2310-7)、また、局所炎症により誘起された際、慢性腫瘍進行を促進する(Muller,A.J.,et al.,Chronic inflammation that facilitates tumor progression creates local immune suppression by inducing indoleamine 2,3 dioxygenase.Proc Natl Acad Sci US A,2008.105(44):p.17073-8)。好ましいIDO阻害剤としては、Exiguamine A、epacadostat(INCB024360;InCyte)、Indoximod(NewLink Genetics)、NLG919(NewLink Genetics/Genentech)、GDC-0919(NewLink Genetics/Genentech)、F001287(Flexus Biosciences/BMS)、及び1-メチル-トリプトファン、特に、Sheridan C.、2015:IDO inhibitors move center stage in immune-oncology;Nature Biotechnology 33:321-322の表1に挙げられている1-メチル-[D]-トリプトファン及びIDO阻害剤が挙げられる。
【0048】
また、モジュレーションされ得る他の免疫チェックポイント分子としては、キヌレニン代謝経路の一要素であるトリプトファン-2、3-ジオキシゲナーゼ(TDO)が挙げられる。数々の研究で既に癌免疫及び自己免疫におけるTDOへの関心が示されている(Garber,K.、Evading immunity: new enzyme implicated in cancer.J Natl Cancer Inst,2012.104(5):p.349-52;Platten,M., W. Wick, and B.J. Van den Eynde、Tryptophan catabolism in cancer:beyond!DO and tryptophan depletion.Cancer Res,2012.72(21):p.5435-40;Platten,M.,et al.,Cancer Immunotherapy by Targeting IDOl/TDO and Their Downstream Effectors.Front Immunol,2014.5:p.673)。
【0049】
モジュレーションされ得る他の免疫チェックポイント分子としては、A2ARが挙げられる。通常、腫瘍微小環境ではアデノシン濃度が高く、該アデノシンはA2ARを活性化させるため、アデノシンA2A受容体(A2AR)は、癌療法において重要なチェックポイントであると考えられている。かかるシグナルは、免疫微小環境において、負のフィードバックループを提供する(Robert D. Leone et al., 2015: A2aR antagonists: Next generation checkpoint blockade for cancer immunotherapy. Computational and Structural Biotechnology Journal 13: 265-272を参照)。好ましいA2AR阻害剤としては、イストラデフィリン(Istradefylline)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)-509、ST1535、ST4206、トザデナント(Tozadenant)、V81444、プレラデナント(Preladenant)、ビパデナント(Vipadenant)、SCH58261、SYN115、ZM241365、及びFSPTPが挙げられる。
【0050】
モジュレーションされ得る他の免疫チェックポイント分子としては、VISTA挙げられる。腫瘍中の白血球におけるVISTAの一定した発現によりVISTA遮断が広い範囲の固体腫瘍で有効となるように、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation[VISTA];C10orf54としても知られる)は、主に、造血細胞に発現する。好ましいVISTA阻害剤としては、JNJ-61610588(ImmuNext)、及び、最近、第1相臨床試験が開始された抗VISTA抗体が挙げられる。
【0051】
他の免疫チェックポイント分子としては、CD122が挙げられる。CD122は、インターロイキン2受容体βサブユニット(Interleukin-2 receptor beta sub-unit)である。CD122は、CD8エフェクターT細胞の増殖を拡大する。
【0052】
最近、T細胞免疫グロブリン及びITIMドメイン(TIGIT)が、免疫チェックポイント分子として浮上した。TIGITは、リンパ球に発現する抑制性受容体であり、抗原提示細胞又は腫瘍細胞に発現するCD155と相互作用してT細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞の機能をダウンレギュレーションする。TIGIT活性及びTIGIT遮断の効果は、例えば、Harjunpaeae H、Guillerey C. TIGIT as an emerging immune checkpoint.Clin Exp Immunol.2020;200(2):108-119.doi:10.1111/cei.13407に開示されており、その全体が本明細書中に組み込まれる。TIGIT遮断は、PD1-経路の遮断と組み合わされていてもよく、単独のチェックポイント阻害剤治療として用いられてもよい。単独のチェックポイント阻害剤として用いられる、又はPD1経路の阻害剤(抗体)と組み合わせて使用されるTIGITの遮断のための抗体の例としては、Etigilimab(OMP‐313M32)、Tiragolumab(MTIG7192A; RG6058)、AB154(Arcus Bioscience)、MK‐7684、BMS‐986207、ASP8374、及びASP8374が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
免疫チェックポイント分子は、T細胞応答の共刺激又は抑制性相互作用が起こる要因である。したがって、チェックポイント分子は、(i)チェックポイント(共)刺激分子と、(ii)チェックポイント抑制分子とに分けることができる。通常、チェックポイント(共)刺激分子は、抗原刺激により誘起されたT細胞受容体(TCR)シグナルに合わせてポジティブに作用するのに対し、チェックポイント抑制分子はTCRシグナルをネガティブに制御する。チェックポイント(共)刺激分子の例としては、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、及びICOSが挙げられる。チェックポイント抑制分子の例としては、CTLA4と、PD1と、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2;更に、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT及びFasR/DcR3が挙げられる。
【0054】
好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、チェックポイント(共)刺激分子の活性剤、又はチェックポイント抑制分子、又はこれらの組合せである。例えば、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、(i)CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、及び/又はICOSの活性剤、或いは、(ii)A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD40、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、PDL-1、PD-L2、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT、及び/又はFasR/DcR3の阻害剤であってもよい。
【0055】
上述のように、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、ICOS、A2AR、B7-H3、B7-H4、CTLA-4、PD1、PDL-1、PD-L2、IDO、LAG-3、BTLA、TIM3、VISTA、KIR、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT、及び/又はFasR/DcR3の多数のモジュレーターが当業者に知られている。いくつかのものは臨床試験中であり、(一部の国における)行政機関により認可されたものもある。これらの公知の免疫チェックポイントモジュレーターに基づき、(近い)将来、他の免疫チェックポイントモジュレーターが開発されるかもしれない。特に、前記好ましい免疫チェックポイント分子の公知のモジュレーターはそのように用いられるかもしれなく、又はそれらの類似体、特に、それらのヒト化又はヒト型抗体、が使用されるかもしれない。
【0056】
好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、チェックポイント抑制分子の阻害剤である(しかしチェックポイント刺激分子の阻害剤ではない)。前記チェックポイント抑制分子は、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD40、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、PDL-1、PD-L2、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT、及びFasR/DcR3から選択されてもよい。ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、TIM-3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR、TIGIT及び/又はDcR3、或いは、これらのリガンドの阻害剤であってもよい。
【0057】
ある態様において、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、チェックポイント刺激又は共刺激分子の活性剤であってもよい(しかし、好ましくはチェックポイント抑制分子の活性剤ではない)。例えば、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR及び/又はICOSの活性剤、或いは、これらのリガンドの活性剤であってもよい。
【0058】
より好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、前記「CTLA4-経路」の阻害剤、又は前記「PD1-経路」の阻害剤であり、それぞれ、CTLA4とそのリガンドであるCD80及びCD86、並びに、PD1とそのリガンドであるPD-L1及びPD-L2を含む(CTLA4及びPD-1経路の詳細、並びに、経路の更なる分子は、Buchbinder E. I. and Desai A.,2016:CTLA-4 and PD-1 Pathways-Similarities,Differences and Implications of Their Inhibition;American Journal of Clinical Oncology,39(1):98-106に開示されている)。ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、CTLA-4、PD-1、PD-L1、及び/又はPD-L2の阻害剤であり、好ましくはPD-1、PD-L1、及び/又はPD-L2の阻害剤であり、より好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターはPD-L1、及び/又はPD-1の阻害剤であり、更により好ましくは、PD-L1の阻害剤である。
【0059】
したがって、前記チェックポイントモジュレーターは、前記CTLA-4経路及び/又は前記PD-1経路の公知の阻害剤から選択されてもよい。前記CTLA-4経路及び前記PD-1経路の好ましい阻害剤としては、モノクローナル抗体であるYervoy(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)及びTremelimumab(Pfizer/MedImmune)、並びに、Opdivo(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ;Merck)、Durvalumab(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI4736(AstraZeneca;WO2011/066389A1参照)、MPDL3280A(Roche/Genentech;US8、217、149B2参照)、ピディリズマブ(CT-011;CureTech)、MEDI0680(AMP-514;AstraZeneca)、MSB-0010718C(Merck)、MIH1(Affymetrix)、及びラムブロリズマブ(例えば、WO2008/156712;Hamid et al.、2013;N.Engl.J.Med.369:134-144に開示のhPD109A及びそのヒト化誘導物であるh409All、h409A16、及びh409A17)が挙げられる。より好ましいチェックポイント阻害剤としては、CTLA-4阻害剤であるYervoy(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)及びTremelimumab(Pfizer/MedImmune);及び/又はPD-1阻害剤であるOpdivo(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ;Merck)、ピディリズマブ(CT-011;CureTech)、MEDI0680(AMP-514;AstraZeneca)、AMP-224、及びラムブロリズマブ(例えば、WO2008/156712;Hamid O.et al.、2013;N. Engl. J. Med.369:134-144に開示のhPD109A、及びそのヒト化誘導体であるh409All、h409A16、及びh409A17)が挙げられる。
【0060】
ある態様では、本発明の組合せは、単独の免疫チェックポイントモジュレーターのみを含む。或いは、複数の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)を用いてもよく、特に、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の異なる免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)を用いてもよく、例えば、(ちょうど)2つの異なる免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)を用いる。ある態様では、組み合わせて用いられる前記異なる免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)は、異なるチェックポイント経路を調節(例えば、阻害)する。例えば、前記PD-1経路の阻害剤は、前記CTLA-4経路の阻害剤と組み合わされてもよい。他の態様では、組み合わせて用いられる前記異なる免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)は、同一のチェックポイント経路を調節(例えば、阻害)する。
【0061】
本発明の文脈において、本発明免疫チェックポイントモジュレーターは、上述のように、1つ以上のチェックポイント分子の機能を完全に又は一部低減、阻害、干渉、活性化、促進、増加、補強、又は補助するものである限り、どのような種類の分子又は試剤であってもよい。特に、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、チェックポイントタンパク質又はその前駆体等の1つ以上のチェックポイント分子に結合し、例えばDNA又はRNAレベルで、1つ以上のチェックポイント分子の機能を上述のように調整する(例えば、完全に又は一部低減、阻害、干渉、活性化、促進、増加、補強、又は補助する)。例えば、免疫チェックポイントモジュレーターは、オリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、リボザイム、アンチセンスRNA分子、イムノトキシン、低分子阻害剤、及びそれら断片に結合する抗体又は抗原(例えば、チェックポイント分子遮断抗体又は抗体断片、アンタゴニスト抗体又は抗体断片、或いは、アゴニスト抗体又は抗体断片)であってもよい。
【0062】
ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、オリゴヌクレオチドであってもよい。かかるオリゴヌクレオチドは、タンパク質の発現を低減するのに、特に、上述のチェックポイント受容体又はリガンド等のチェックポイントタンパク質の発現を低減するのに用いられてもよい。オリゴヌクレオチドは、短いDNA又はRNA分子であり、通常、2から50のヌクレオチド、好ましくは3から40のヌクレオチド、より好ましくは4から30のヌクレオチド、更により好ましくは、5から25のヌクレオチドを含み、例えば、4、5、6、7、8、9、又は10のヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、通常、固相化学合成により実験室で生成される。オリゴヌクレオチドは、一本鎖のものであってもよく、二本鎖のものであってもよいが、本発明の文脈において、前記オリゴヌクレオチドは、一本鎖であってもよい。ある態様では、前記チェックポイントモジュレーターであるオリゴヌクレオチドは、アンチセンス-オリゴヌクレオチドである。アンチセンス-オリゴヌクレオチドは、選択された配列、特に、チェックポイントタンパク質のDNA又はRNA配列(又はそれらの断片)から選択された配列に相補するDNA又はRNAの一本鎖である。アンチセンスRNAは、通常、メッセンジャーRNAと結合することにより、例えば、チェックポイントタンパク質のためのmRNA等の、mRNA鎖のタンパク質翻訳を防ぐのに用いられる。アンチセンスDNAは、通常、特異的な相補的(コーディング又はノンコーディング)RNAを標的とするのに用いられる。結合されると、かかるDNA/RNAハイブリッドは、酵素であるリボヌクレアーゼH(RNase H)により分解される。また、モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、脊椎動物における遺伝子ノックダウンに使用することができる。例えば、Kryczekらは、2006年に、マクロファージにおいて特異的にB7-H4発現をブロックするB7-H4-特異的モルフォリノを設計し、T細胞増殖を拡大し、腫瘍関連抗原(TAA)に特異的なT細胞により腫瘍体積を減少させている(Kryczek I、Zou L、Rodriguez P、Zhu G、Wei S、Mottram P、et al. B7-H4 expression identifies a novel suppressive macrophage population in human ovarian carcinoma.J Exp Med.2006;203:871-81)。
【0063】
ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、siRNAであってもよい。低分子干渉RNA(siRNA)、短い干渉RNA又はサイレンシングとしても知られており、通常、20から25塩基対の長さの、二本鎖RNA分子のクラスである。RNA干渉(RNAi)経路において、siRNAは、相補的ヌクレオチド配列により、チェックポイントタンパク質の遺伝子コーディング等の特定の遺伝子の発現に干渉する。siRNAは、転写後にmRNAの破壊を起こすことにより機能し、翻訳が起こらなくなる。外因性のsiRNAは遺伝子ノックダウンに用いられるが、特に急速に分割する細胞においては、その効果は一時的なものに限られるかもしれない。この効果の一時性は、例えば、RNA修飾により、又はsiRNAの発現ベクターを用いることにより克服することができる。siRNA配列は、二本鎖間に短いループを導入することにより修飾されてもよい。これにより得られる転写産物は、短ヘアピンRNA(shRNA、また「小ヘアピンRNA」とも称される)であり、shRNAは、通常の方法に従って、Dicerにより機能性siRNAに加工することができる。shRNAは、分解率及びターンオーバー率が比較的低いことから、RNAiの有利なメディエーターである。したがって、前記免疫チェックポイントモジュレーターはshRNAであってもよい。shRNAは、通常、発現ベクター、例えば、プラスミド、ウイルス、又は細菌ベクターを用いる必要がある。
【0064】
ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターはイムノトキシンであってもよい。イムノトキシンは、毒素に連結している標的結合部位(例えば、抗体)を含むキメラタンパク質であり、前記標的結合部位は、通常、癌細胞等の特定の細胞における抗原を標的とする。ある態様では、前記イムノトキシンは、チェックポイント分子を標的とする標的結合部位を含んでいてもよい。前記イムノトキシンが、例えば、前記チェックポイント分子等の抗原を有する細胞と結合する際、前記イムノトキシンはエンドサイトーシスにより取り込まれ、前記毒素が前記細胞を死滅させる。イムノトキシンは、毒素(又は毒素の断片)に連結する(修飾された)抗体又は抗体断片を含んでいてもよい。連結の方法は公知である。前記イムノトキシンの標的結合部位は、通常、特定の細胞種を標的とする抗体のFab領域を含む。前記毒素は、通常、細胞毒素であり、前記細胞毒素は、例えば、細菌又は植物に由来するタンパク質であり、前記タンパク質からは、前記イムノトキシンの標的結合部位が前記毒素を、標的とする細胞上の抗原に誘導できるように、本来の結合ドメインが取り除いている。しかし、イムノトキシンは、成長因子等の、抗体又は抗体断片以外の標的結合部位を含んでいてもよい。例えば、毒素と成長因子とを含む組換え融合タンパク質も、また、組換えイムノトキシンと称される。
【0065】
ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーターは低分子医薬品(「低分子阻害剤」とも称される)であってもよい。低分子医薬品は、通常、生物学的過程(の調整)に作用する、低分子量(900ダルトンまで)の有機化合物である。本発明の文脈において、免疫チェックポイントモジュレーターである低分子医薬品は、分子量が900ダルトン以下の有機化合物であり、上述のように、1つ以上のチェックポイント分子の機能を完全に又は一部低減、阻害、干渉、又はネガティブに調節する。分子量の上限値900ダルトンは、低分子医薬品が急速に細胞膜を超えて拡散することを可能とし、経口バイオアベイラビリティを可能とする。場合によっては、免疫チェックポイントモジュレーターである前記低分子医薬品の分子量は500ダルトン以下である。例えば、公知の多様なA2ARアンタゴニストは、500ダルトンに満たない分子量を有する有機化合物である。
【0066】
好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、抗体、又は抗体の抗原結合断片である。前記免疫チェックポイントモジュレーターである抗体、又は抗体の抗原結合断片は、特に、免疫チェックポイント受容体に結合する抗体又は抗体の抗原結合断片、或いは、免疫チェックポイント受容体リガンドに結合している抗体に結合する抗体又は抗体の抗原結合断片を含む。免疫チェックポイントモジュレーター抗体、又は抗体の抗原結合断片は、免疫チェックポイント受容体又は免疫チェックポイント受容体リガンドのアゴニスト又はアンタゴニストであってもよい。抗体型チェックポイントモジュレーターの例としては、現在認可されている免疫チェックポイントモジュレーター、即ち、Yervoy(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)、Opdivo(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、及びKeytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ;Merck)、並びに、上述の抗チェックポイント受容体抗体及び抗チェックポイントリガンド抗体が挙げられる。
【0067】
好ましくは、本発明の組合せに用いられる前記免疫チェックポイントモジュレーターは、PD-1経路を、特に、PD-1、PD-L1、又はPD-L2経路を、一部又は完全に遮断する抗体又は抗原結合断片(例えば、PD-1経路の部分又は完全アンタゴニスト)であってもよい。前記経路及び前記経路を遮断する抗体の例は、Ohaegbulam KC, Assal A, Lazar-Molnar E, Yao Y, Zang X. Human cancer immunotherapy with antibodies to the PD-1 and PD-L1 pathway. Trends Mol Med. 2015;21(1):24‐33. doi:10.1016/j.molmed.2014.10.009に記載されている。一般的に、前記PD-1経路を遮断する抗体又は抗原結合断片は、抗PD-1抗体、ヒト抗PD-1抗体、マウス抗PD-1抗体、哺乳類抗PD-1抗体、ヒト化抗PD-1抗体、モノクローナル抗PD-1抗体、ポリクローナル抗PD-1抗体、キメラ抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗PD-1Adnectins、抗PD-1ドメイン抗体、一本鎖抗PD-1断片、重鎖抗PD-1断片、及び軽鎖抗PD-1断片を含む。例えば、前記抗PD-1抗体は抗原結合断片であってもよい。好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーター抗体は、ヒトPD-L1に結合し、一部又は完全に(ヒト)PD-L1の活動を遮断することができ(例えば、PD-1経路の部分又は完全アンタゴニスト)、よって、特に、PD-1又はPD-L1を発現する免疫細胞の機能を解放する。PD-1を標的とする抗体の例としては、CT-011(ピディリズマブ;CureTech)、MK-3475(ラムブロリズマブ、ペムブロリズマブ;Merck)、BMS-936558(ニボルマブ;Bristol-Meyers Squibb)、及びAMP-224(Amplimmune/GlaxoSmithKline)が挙げられる。PD-L1を標的とする抗体としては、BMS-936559(Bristol-Meyers Squibb)、MEDI4736(MedImmune)、MPDL3280A(Roche)、及びMSB0010718C(Merck)が挙げられる。
【0068】
ある態様では、本発明の組合せに用いられる前記免疫チェックポイントモジュレーターは、前記CTLA-4経路を一部又は完全に遮断する抗体又は抗原結合断片(例えば、前記CTLA-4経路の部分又は完全アンタゴニスト)であってもよい。前記抗体又は抗原結合断片は、抗CTLA4抗体、ヒト抗CTLA4抗体、マウス抗CTLA4抗体、哺乳類抗CTLA4抗体、ヒト化抗CTLA4抗体、モノクローナル抗CTLA4抗体、ポリクローナル抗CTLA4抗体、キメラ抗CTLA4抗体、MDX-010(イピリムマブ)、Tremelimumab、抗CD28抗体、抗CTLA4Adnectins、抗CTLA4ドメイン抗体、一本鎖抗CTLA4断片、重鎖抗CTLA4断片、及び軽鎖抗CTLA4断片を含む。例えば、前記抗CTLA4抗体は抗原結合断片であってもよい。好ましくは、前記抗CTLA4抗体は、ヒトCTLA4に結合し、CTLA4の活動を一部又は完全に遮断することができ(例えば、CTLA-4経路の部分又は完全アンタゴニスト)、よって、特に、CTLA4を発現する免疫細胞の機能を解放する。
【0069】
ATP加水分解酵素及びATP加水分解酵素をコードする核酸
本発明の第一の態様において、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターは、(ii)ATP加水分解酵素と組み合わされる。
【0070】
本明細書において、用語「ATP加水分解酵素」は、ATPからADPへの加水分解、ATPからAMPへの加水分解、及び/又はADPからAMPへの加水分解を触媒するあらゆる酵素を意味する。前記酵素としては、アピラーゼ、ATPアーゼ、ATP-ジホスファターゼ、アデノシンジホスファターゼ、ADPアーゼ、ATP-ジホスホヒドロラーゼ、及びCD39(エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1、ENTPD1)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の文脈において、いかなるATP加水分解酵素が用いられてもよい。
【0071】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素は内在性CD39(エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1、ENTPD1)ではない。内在性CD39は、カルシウム及びマグネシウム依存性に、ATP及びADPを加水分解し、AMPを産生する膜内在性タンパク質である。グルコシル化及び細胞表面膜への局在変化により活性化され、エクトヌクレオチダーゼとしての酵素活性を示す。CD39は2つの膜貫通型ドメインにより形質膜に付着する(Grinthal A,Guidotti G.CD39、NTPDase 1、is attached to the plasma membrane by two transmembrane domains.Why?.Purinergic Signal.2006;2(2):391-398.doi:10.1007/s11302-005-5907-8)。しかし、上述のように、本発明の文脈においては、可溶性(膜結合性ではない)ATP加水分解酵素が好ましい。膜結合性の内在性CD39とは異なり、CD39を可溶形態のCD39を得るように改変することができる(Gayle RB 3rd、Maliszewski CR,Gimpel SD,Schoenborn MA,Caspary RG,Richards C,Brasel K,Price V,Drosopoulos JH,Islam N,Alyonycheva TN,Broekman MJ,Marcus AJ.Inhibition of platelet function by recombinant soluble ecto-ADPase/CD39.J Clin Invest.1998 May 1;101(9):1851-9.doi:10.1172/JCI1753)。
【0072】
好ましくは、前記ATP加水分解酵素は可溶性であり(分泌されたものであり)、即ち、(形質)膜に結合又は付着していない。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本願発明者は、膜結合酵素と比較し、可溶性ATP加水分解酵素は様々な箇所(例えば、体内における様々な箇所)により効率的に到達することができると考える。特に、いかなる理論にも拘束されるものではないが、腸管腔において、(チェックポイント阻害剤と組み合わされた際)前記ATP加水分解酵素はその有益な効果を媒介すると考えられ、即ち、腸内の細菌叢から放出された細胞外ATPを分解することにより、前記効果を媒介すると考えられる。本明細書の実験データは、前記チェックポイント阻害剤の活性に有益な効果を媒介するために、腸内の細菌叢から放出されたATPに前記ATP加水分解酵素が重要な役割を果たすことが示している。内在性CD39等の膜結合ATP加水分解酵素は、該膜結合ATP加水分解酵素が存在する組織という限られた範囲にしか活性を示さないため、腸内細菌叢から放出された(大部分の)細胞外ATPには影響を与えることができず、よって、前記ATP加水分解酵素は(形質)膜に付着していないことが好ましい。したがって、前記ATP加水分解酵素は好ましくは可溶性ATP加水分解酵素である。
【0073】
可溶性ATP加水分解酵素の例としては、細菌由来(例えば、Shigella flexneri)及びポテト由来アピラーゼ、並びに、(組換え)可溶性CD39が挙げられる。
【0074】
好ましくは、前記ATP加水分解酵素はアピラーゼである。アピラーゼは、ATPからADPへの及びADPからAMPへの一連の加水分解を触媒し、無機リン酸塩を放出するATP-ジホスホヒドロラーゼである。特に、アピラーゼは、ATPに加えて、ADP及び他のヌクレオシド三リン酸及びヌクレオシド二リン酸に作用してもよい。アピラーゼは、膜結合状態及び/又は分泌された可溶性の状態で、様々な真核生物中に見つけることができる。
【0075】
一般的に、前記アピラーゼは、あらゆる生体からの自然発生するアピラーゼ配列を有してもよい。ある態様では、前記アピラーゼは内在性アピラーゼではない。言い換えると、前記アピラーゼは、投与対象である生体の内在性アピラーゼとは異なる。ある態様では、前記アピラーゼはヒト内在性アピラーゼではなく、例えば、前記アピラーゼは、非ヒトアピラーゼであってもよい。ある態様では、前記アピラーゼは哺乳類アピラーゼではない。好ましくは、前記アピラーゼは細菌又は植物由来のアピラーゼである。例えば、前記アピラーゼはShigella flexneriのアピラーゼ又はSolanum tuberosum(ポテト)のアピラーゼであってもよい。また、前記アピラーゼは、自然界に存在するアピラーゼと、少なくとも50%又は60%、好ましくは少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それよりも更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を示す自然発生アピラーゼの配列変異体であってもよい。特に、前記配列変異体は機能性を示すものであってもよく、即ち、前記配列変異体において、前記アピラーゼのATP加水分解機能が保持されている。当業者は、アピラーゼを含み、且つ、特定のアピラーゼのATP加水分解機能に重要な活性部位、ドメイン、及び領域(ヌクレオチド結合領域等)を認識する、アノテーションされたタンパク質の配列を提供する多様なバイオインフォマティクスのツールを認識している。したがって、当業者は、ATP加水分解機能を保持するためには、アピラーゼにおいてアミノ酸の位置が保持されるべきであることはよく承知している。好ましくは、前記アピラーゼは配列番号1のアミノ酸配列を含む。また、上述したように、配列番号1の機能性配列変異体を含み、即ち、自然界に存在するアピラーゼと、少なくとも50%又は60%、好ましくは少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それよりも更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を示す配列番号1の機能性配列変異体を含む。配列番号1の配列変異体において、機能を確実なものとするためR192は保持されなければならない。
【0076】
前記ATP加水分解酵素は如何なる方法により得られたものでもよい。好ましくは、前記ATP-加水分解酵素は組換えにより生成される。好ましくは、前記ATP-加水分解酵素は組換えにより生成されたアピラーゼである。好ましくは、前記アピラーゼは、組換えにより生成された配列番号1の配列を有するアピラーゼ、又は、上述のように、例えば、少なくとも70%又は75%、より好ましくは少なくとも80%又は85%、更により好ましくは少なくとも90%又は95%、それより更により好ましくは少なくとも97%又は98%、例えば、少なくとも99%の配列同一性を有する前記アピラーゼの配列変異体であって、R192が好ましくは保持されている。組換え体生成のため、前記ATP加水分解酵素は、自然界において前記ATP加水分解酵素を発現する細胞又は生体には存在しない核酸によりコードされてもよい。例えば、前記ATP加水分解酵素の組換え体生成は、(1)異種発現(前記アピラーゼ配列が、発現に使用される生体とは別の生体に由来する)、(2)発現ベクターに基づく発現(自然界には存在しない;例えば、前記ATP加水分解酵素の過剰発現のために)、(3)自然界には存在しないATP加水分解酵素(例えば、上述の機能性配列変異体)、又は(1)から(3)のいかなる組合せにより行われてもよい。例えば、ATP加水分解酵素を発現する(異種)細胞は、天然の状態では存在していない前記ATP加水分解酵素に翻訳後修飾(PTM;例えば、グルコシル化)を付与してもよい。かかるPTMは、機能的差異(例えば、低減された免疫原性)を引き起こす。したがって、前記ATP加水分解酵素は、自然界に存在するATP加水分解酵素とは異なる、翻訳後修飾を有していてもよい。或いは、前記アピラーゼは自然界の原材量から直接使用されてもよい。前記アピラーゼは植物源、動物源、又は細菌源から得られてもよい。前記アピラーゼは精製されたものであってもよく、細胞抽出物(細菌細胞のペリプラズム抽出物)が用いられてもよい。
【0077】
前記ATP加水分解酵素はタンパク質/ポリペプチドとして用いられてもよく、また、本明細書において記載されている前記ATP加水分解酵素は、核酸に含まれるポリヌクレオチドによりコードされるものでもよい。したがって、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸とからなる組合せも提供する。核酸(分子)は、核酸成分を含む分子である。通常、用語「核酸分子」は、DNA分子又はRNA分子を意味する。核酸分子は、用語「ポリヌクレオチド」と同義語として用いられてもよく、即ち、前記核酸分子は、前記ATP加水分解酵素コードするポリヌクレオチドのみからなっていてもよい。或いは、前記核酸分子は、前記ATP加水分解酵素コードするポリヌクレオチドと併せて更なる要素を含んでいてもよい。通常、核酸分子は、糖/リン酸骨格のホスホジエステルによりそれぞれ共有結合しているヌクレオチドモノマーを含む又はからなるポリマーである。前記用語「核酸分子」は、また、改変された塩基、改変された糖、又は改変された骨格等からなるDNA又はRNA等の、改変された核酸分子をも意味する。核酸分子及び/又はポリヌクレオチドの例としては、例えば、組換えポリヌクレオチド、ベクター、オリゴヌクレオチド、rRNA、mRNA、miRNA、siRNA、及びatRNA等のRNA分子、及びcDNA等のDNA分子が挙げられる。
【0078】
遺伝コードの冗長性のため、本発明はまた、同じアミノ酸配列をコードする核酸配列の配列変異体を含んでいてもよい。例えば、前記配列番号1のアミノ酸配列を有するアピラーゼをコードするポリヌクレオチドは、同配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号3のヌクレオチド配列又はその配列変異体を(遺伝コードの冗長性のため)有していてもよい。
【0079】
前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド(又は核酸分子全体)は、前記ATP加水分解酵素の発現のために最適化されていてもよい。例えば、前記ヌクレオチド配列のコドン最適化を行って、前記ATP加水分解酵素の作成のための発現システムにおける翻訳の効率を向上してもよい。したがって、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、コドン最適化されたものであってもよい。当業者は、コドン最適化の多様なツール、例えば、Ju Xin Chin, Bevan Kai-Sheng Chung, Dong-Yup Lee, Codon Optimization OnLine (COOL): a web-based multi-objective optimization platform for synthetic gene design, Bioinformatics, Volume 30, Issue 15, 1 August 2014, Pages 2210-2212に開示のもの;又はGrote A, Hiller K, Scheer M, Munch R, Nortemann B, Hempel DC, Jahn D, JCat: a novel tool to adapt codon usage of a target gene to its potential expression host. Nucleic Acids Res. 2005 Jul 1;33(Web Server issue):W526-31に開示のもの;又は、例えば、ジェンスクリプト(Genscript)のOptimumGeneTMアルゴリズム(US 2011/0081708 A1に開示)を認識している。
【0080】
また、前記核酸分子は、例えば、前記ATP加水分解酵素の発現(異種発現)のために、異種の要素(即ち、前記ATP加水分解酵素のためのコード配列として、自然界では同じ核酸分子に存在しない要素)を含んでいてもよい。例えば、核酸分子は、異種プロモーター、異種エンハンサー、異種非翻訳領域(異種UTR)(例えば、最適翻訳/発現のための)、異種ポリAテール等を含んでいてもよい。ある態様では、前記核酸分子は、抗生物質に対する耐性を付与する要素を含んでいてもよい。他の態様では、前記核酸分子は、抗生物質に対する耐性を付与する要素を含んでいない。
【0081】
一般的に、前記核酸分子は、特定の核酸配列を挿入、削除、又は変更するように操作されたものであってもよい。かかる操作による改変としては、これらに限定されるものではないが、制限酵素切断部位を導入する改変、コドン使用頻度を修正する改変、転写及び/又は翻訳調整配列を追加又は最適化する改変等が挙げられる。また、コードされたアミノ酸を変更するように前記核酸を改変させることもできる。例えば、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10等)のアミノ酸置換、削除及び/又は挿入を前記ATP加水分解酵素のアミノ酸配列に行うことも好適である。このような点変異は、安定性、翻訳後修飾、発現量等を変更することができ;共有結合基の付加(例えば、ラベル)のためのアミノ酸を導入することができ;又はタグ(例えば、精製のための)を導入することができる。或いは、核酸配列における変異は、「サイレント」、即ち、上述したように遺伝コードの冗長性のため、アミノ酸配列に反映されていなくてもよい。一般的に、変異は特定の部位に導入され、又は任意に導入され、その後、選択(例えば、分子進化)される。例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸は、任意に又方向性をもって変異させ、前記コードされたアミノ酸に異なる特性を付与してもよい。かかる改変は、最初の改変が保持され、新たな改変が他のヌクレオシド部位に導入される反復プロセスの結果であってもよい。更には、単独の工程により得られた改変が組み合わされてもよい。
【0082】
ある態様では、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子は、例えば、発現ベクター等のベクターであってもよい。ベクターは、通常、組換え核酸分子、即ち、自然界では存在しない核酸分子である。したがって、前記ベクターは、異種要素(即ち、自然界の他の起源の配列要素)を含んでいてもよい。例えば、前記ベクターは、マルチクローニングサイト、異種プロモーター、異種エンハンサー、(ベクターを含んでいない細胞と比較し、該ベクターを含む細胞を識別する)異種選択マーカー等を含んでいてもよい。本発明の文脈において、ベクターは、所望の核酸配列を組み込む又は保持するのに好適なものである。かかるベクターとしては、収納ベクター、発現ベクター、クローニングベクター、転写ベクター等であってもよい。収納ベクターは、核酸分子を便利に収納することができるベクターである。したがって、前記ベクターは、例えば、前記ATP加水分解酵素に対応する配列を含んでいてもよい。発現ベクターは、RNA(例えば、mRNA)、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質等の発現物を作成するのに用いられてもよい。例えば、発現ベクターは、(異種)プロモーター配列等の、前記ベクターの一連の配列の転写に必要な配列を含んでいてもよい。クローニングベクターは、通常、核酸配列をベクターに組み込むのに用いられるクローニングサイトを含むベクターである。例えば、クローニングベクターは、プラスミドベクター又はバクテリオファージベクターであってもよい。転写ベクターは、例えば、ウイルスベクター等、細胞又は生体に核酸分子を転写するのに好適なベクターであってもよい。本発明の文脈において、ベクターは、例えば、RNAベクター又はDNAベクターであってもよい。例えば、本願の文脈において、ベクターは、クローニングサイト、選択マーカー、及び複製起点のようなベクターの増殖に好適な配列を含んでいてもよい。本願の文脈において、ベクターはプラスミドベクターであってもよい。
【0083】
ある態様において、前記ベクターは発現ベクターである。発現ベクターは、ベクター内に挿入された又はクローニングされた1つ以上のポリヌクレオチドの発現を増強できるものであってもよい。かかる発現ベクターの例としては、バクテリオファージ、自律複製起点(ARS)、セントロメア、及びインビトロ又は細胞内で複製できる又は複製させることができる、或いは、動物又は人間の細胞内の特定の位置に核酸セグメントを運ぶことができる他の配列が挙げられる。本発明に使用される発現ベクターとしては、染色体誘導ベクター、エピソーム誘導ベクター、及びウイルス誘導ベクター(例えば、細菌プラスミド又はバクテリオファージから誘導されたベクター、及びコスミド、ファージミド等の、それらの組合せから誘導されたベクター);及びアデノウイルス、AAV、レンチウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0084】
前記発現ベクターは、プラスミドであってもよい。ホスト(宿主)内で複製及び生存できる如何なるプラスミド発現ベクターが使用されてもよい。
【0085】
細菌における前記ATP加水分解酵素の発現のために、前記発現ベクターは、細菌、例えば、大腸菌(E.coli)でのタンパク質発現に最適化されたベクターであることが好ましい。かかる発現ベクターは、公知であり、市販されている。例えば、細菌において組換えタンパク質を発現するのに信頼性があり調節可能なシステムを提供するpBADベクターシステムを用いてもよい。前記システムは、大腸菌(E.coli)L-アラビノースの代謝を調節するaraBADオペロンに基づく。前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、pBADベクターのaraBADプロモーターの下流に配置され、L-アラビノースに応答して前記ATP加水分解酵素の発現を発動させ、グルコースにより阻害される。
【0086】
ある態様では、前記発現ベクターは、ミニサークルDNAであってもよい。ミニサークルDNAは、持続的に高いレベルの核酸に有用である。前記サークルベクターは、発現-サイレンシングの細菌配列が欠けていることにより特徴付けられる。例えば、ミニサークルベクターは、複製起点が欠けている点、及び、例えば、β-ラクタマーゼ、tet等の一般的に細菌プラスミドにみられる薬剤選択マーカーが欠ける点において、細菌プラスミドベクターとは異なっている。したがって、ミニサークルDNAはサイズが小さくなり、より効率的な送達を可能とする。
【0087】
ある態様において、前記発現ベクターは、ウイルスベクターであってもよい。いかなるウイルスに基づくいかなるウイルスベクターが試剤の担体として用いられてもよい。遺伝子治療に用いられるウイルスシステムの典型的に用いられるクラスは、そのゲノムが宿主細胞のクロマチンに挿入されるか(オンコレトロウイルス及びレンチウイルス)、又は主に染色体外のエピソームとして細胞核中に存続するか(アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、及びヘルペスウイルス)に基づき、2つのグループに分類することができる。したがって、前記ウイルスベクターは、上述のように、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。また、前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、又はヘルペスウイルスのいずれかから誘導されたものであってもよい。
【0088】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルス(AdV)ベクターであってもよい。アデノウイルスは、26Kbpから48Kbpの線状ゲノムを有する、中型2本鎖の非エンベロープDNAである。アデノウイルスは、受容体を介した結合及び内部移行により標的細胞に侵入し、非分割細胞及び分割細胞の両方の核に侵入する。アデノウイルスは、その生存及び複製を宿主細胞に大きく依存し、ホスト(宿主)の複製機構を用いて脊椎動物の細胞の核中で複製することができる。
【0089】
前記ウイルスベクターは、パルボウイルス科のものであってもよい。前記パルボウイルスは、約5,000ヌクレオチドの長さのゲノムを有する、小さい1本鎖の非エンベロープDNAウイルスの科である。前記ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)であってもよい。AAVは、一般的に、生産的な感染サイクルを開始及び維持するためには他のウイルス(通常、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)と共感染する依存性パルボウイルスである。かかるヘルパーウイルスが不在であっても、AAVは依然として受容体を介した結合及び内部移行により標的細胞を感染又は形質導入することができ、非分割細胞及び分割細胞の両方の核に侵入する。ヘルパーウイルスが不在ではAAV感染から子孫ウイルスは生成されないことから、形質導入の範囲は、前記ウイルスが感染した最初の細胞のみに限られる。レトロウイルス、アデノウイルス、及び単純ヘルペスウイルスとは異なり、AAVはヒト病原性及び毒性がないようである。
【0090】
レトロウイルス科のウイルスに基づくウイルスベクターが用いられてもよい。レトロウイルスは、2つの独特な特徴に特徴付けられる1本鎖のRNA動物ウイルスを含む。第一に、レトロウイルスのゲノムは、RNAの2つのコピーからなる二倍体である。第二に、前記RNAはウイルス粒子内在酵素である逆転写酵素により2本鎖DNAに転写される。前記2本鎖DNA、すなわちプロウイルス、は宿主ゲノムに組み込まれ、前記宿主ゲノムに安定して組込まれた成分として親細胞から子孫細胞へ移される。
【0091】
好ましくは、前記発現ベクターはプラスミドである。或いは、前記発現ベクターは好ましくはバクテリオファージである。前記発現ベクターがプラスミド又はバクテリオファージである場合、前記発現ベクターは細菌細胞及び本発明の組成物に含まれる前記細菌細胞中に形質転換される。前記細菌細胞は、大腸菌(E.coli)であってもよい。或いは、前記細菌担体は弱毒化されたサルモネラ菌(Salmonella enterica)であってもよい。前記弱毒サルモネラ菌(Salmonella enterica)は、チフス菌(serovar Salmonella Typhimurium)のものであってもよい。
【0092】
ある態様では、上述のATP-加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子は、例えば、ゲノムDNA(例えば、染色体DNA)であってもよい。言い換えると、前記ATP-加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドは、前記ATP-加水分解酵素を(異種)発現する生体の遺伝子に組み込まれてもよい。
【0093】
ある態様では、DNA断片は、例えば、細菌等の宿主細胞/微生物のゲノムに組み込まれるために、細菌等の宿主細胞/微生物に導入されてもよい。このため、前記DNA断片は、例えば、細菌等の宿主細胞/微生物のゲノムに組み込むため、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素の発現するヌクレオチド、特にアピラーゼ(例えば、フレキシネル菌(S.flexneriphoN2遺伝子)を含んでいてもよい。例えば、かかるDNA断片は、大腸菌Nissle株(E.coli Nissle(EcN))ゲノムにおけるフレキシネル菌(S.flexneriphoN2遺伝子に組み込まれるものであってもよい。大腸菌Nissle株(E.coli Nissle(EcN))ゲノムにおけるフレキシネル菌(S.flexneriphoN2遺伝子への組み込むのためのDNA断片の例示は、図39に示されている。ある態様では、前記DNA断片は、マルトデキストリンホスホリラーゼ(malP)のためのEcN遺伝子を含んでいてもよく;クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)のためのE.coli遺伝子を含んでいてもよ;アピラーゼのためのS.flexneri遺伝子(phoN2)を含んでいてもよく;マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤(malT)ためのEcN遺伝子を含んでいてもよく;フリッパーゼ認識標的(Flippase Recognition Target[FRT])配列を含んでいてもよく;前記cat遺伝子のプロモーター(Pcat)を含んでいてもよく;前記phoN2遺伝子のプロモーター(PproD)を含んでいてもよく;前記phoN2遺伝子のリボソーム結合部位(BBa_BB0032 RBS)を含んでいてもよく;及び/又は前記phoN2遺伝子の転写ターミネーター(TphoN2)を含んでいてもよい。ある態様では、前記EcN malP遺伝子部位のヌクレオチドは、配列番号4によるもの又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体である。ある態様では、前記EcN malT遺伝子部位のヌクレオチドは、配列番号5によるもの、又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体である。ある態様では、前記PproDプロモーター、BBa_BB0032 RBS、S.flexneri phoN2遺伝子、又はphoN2転写ターミネーターを含む前記DNA断片は、配列番号6によるもの又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体であってもよい。ある態様では、前記FRT配列に隣接するE.coli cat遺伝子を含むDNA断片は配列番号7によるもの、又は少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するその配列変異体であってもよい。
【0094】
宿主細胞、微生物、及びウイルス粒子
更なる態様において、本発明はまた、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の核酸を含む宿主細胞、即ち、上述のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、との組合せを提供する。
【0095】
宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であってもよい。かかる細胞の例としては、真核細胞(例えば、酵母細胞、動物細胞、又は植物細胞等)及び原核細胞(E.coli.等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ある態様では、前記細胞は、哺乳類細胞株等の哺乳類細胞であってもよい。例としては、ヒト細胞、CHO細胞、HEK293T細胞、PER.C6細胞、NS0細胞、ヒト肝細胞、及び骨髄腫細胞が挙げられる。
【0096】
前記細胞は、上述のように、(発現)ベクター等の核酸により形質転換又はトランスフェクションされてもよい。前記用語「トランスフェクション」は真核動物/ヒト細胞にDNA又はRNA(例えば、プラスミド)等の核酸分子を導入することを意味し、前記用語「形質転換」は、通常、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞又は真菌細胞にDNA又はRNA(例えば、プラスミド)等の核酸分子を導入することを意味する。本発明の文脈において、前記用語「トランスフェクション」及び「形質転換」は、例えば、哺乳類細胞及び細菌細胞等の細胞に核酸分子を導入する、当業者に公知の方法のいかなる方法をも包含する。前記方法としては、例えば、エレクトロポレーション、例えば、カチオン性脂質及び/又はリポソームに基づくリポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ナノ粒子に基づくトランスフェクション、ウイルスに基づくトランスフェクション、又はDEAE-デキストラン、ポリエチレンイミン等のカチオン性ポリマーに基づくトランスフェクション等を含む。ある態様では、前記導入は非ウイルス性である。細菌細胞の場合、コンピテント細菌を形質転換に使用することができる。
【0097】
また、本発明の細胞は、前記核酸(ベクター)、例えば、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素を発現する核酸により安定的に又は一時的にトランスフェクション又は形質転換されてもよい。ある態様では、前記細胞は、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸(ベクター)により安定的にトランスフェクションされる。他の態様では、前記細胞は、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸(ベクター)により一時的にトランスフェクション/形質転換される。
【0098】
したがって、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素を異種発現する組換え宿主細胞とからなる組合せも提供する。例えば、前記細胞は、前記ATP加水分解酵素とは異なる種の細胞であってもよい。ある態様では、前記細胞の細胞種は、自然界では(かかる)ATP加水分解酵素を発現しない。また、前記宿主細胞は、天然の状態では存在していない前記ATP加水分解酵素に翻訳後修飾(PTM;例えば、グルコシル化)を付与してもよい。かかるPTMは、機能的差異(例えば、低減された免疫原性)を引き起こす。したがって、前記ATP加水分解酵素は、自然発生したATP加水分解酵素とは異なる、翻訳後修飾を有していてもよい。
【0099】
更なる態様において、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記核酸分子を含む微生物、即ち、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸ととからなる組合せも提供する。前記微生物は、生きた微生物であってもよい。
【0100】
本明細書において用いられる用語「微生物」は、単独の細胞形状で又は細胞のコロニーとして存在していてもよい微生物を意味する。通常、用語「微生物」は全ての単細胞生物を含む。したがって、前記微生物は、古細菌及び細菌等の原核生物、並びに、単細胞原生生物、原生動物、菌類、及び植物等の真核生物から選択されてもよい。
【0101】
好ましくは、前記微生物は、細菌等の原核微生物、又は酵母等の真核微生物である。ある態様では、前記微生物は、エンテロバクター属菌(Escherichia spp.)、サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、エルシニア属菌(Yersinia spp.)、ビブリオ属菌(Vibrio spp.)、リステリア属菌(Listeria spp.)、ラクトコッカス属菌(Lactococcus spp.)、シゲラ属菌(Shigella spp.、赤痢菌)、シアノ細菌(Cyanobacteria)、及びサッカロミケス属菌(Saccharomyces spp.)からなる群から選択される。本明細書中で使用される、微生物に関連する表現「属菌(spp.)」は、種、亜種、及びその他等、記載された属に含まれる全てのものを包含することを意図している。
【0102】
ある態様において、前記微生物は、プロバイオティクス(例えば、生菌のプロバイオティクス)として提供されてもよい。本明細書中で使用される用語「プロバイオティクス」は、細菌及び酵母等の生きた微生物であって、消費されることにより、例えば、腸内細菌叢を改善又は回復することにより健康上の利益を提供するものを意味する。提供される健康上の利益から、上記生菌は食品添加物として用いることができる。例えば、前記生菌は、顆粒、錠剤、又はカプセル中の凍結乾燥されたものであってもよく、或いは、消費される乳製品に直接混合することができる。健康上の利益があることが示された微生物の例としては、これらに限定されるものではないが、LactobacillusBifidobacteriumSaccharomycesLactococcusEnterococcusStreptococcusPediococcusLeuconostocBacillusEscherichia coli、特に、Fijan S. Microorganisms with claimed probiotic properties: an overview of recent literature. Int J Environ Res Public Health. 2014;11(5):4745-4767. doi:10.3390/ijerph110504745、に記載されたそれらのプロバイオティクス株が挙げられ、参照により本明細書に援用する。
【0103】
有毒微生物の場合、前記微生物の毒性を弱毒化させていてもよい。細菌の毒性を弱毒化させる方法としては、公知であり、例えば、WO2018/089841に記載されている。通常、毒性の弱毒化は、毒性病原体から毒性因子を変異することにより達成することができる。
【0104】
特に、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記核酸分子(即ち、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸)を含む細菌(細菌細胞)と、からなる組合せを提供する。したがって、上述の宿主細胞は細菌細胞であってもよく、上述の微生物は細菌であってもよい。
【0105】
前記細菌は、組換え細菌、即ち、自然界で発生しない細菌、であってもよい。特に、前記組換え細菌は、例えば、前記ATP加水分解酵素の異種発現又は過剰発現のための、自然界の細菌には存在しない核酸配列を含んでいてもよい。したがって、前記細菌は前記ATP加水分解酵素を異種発現してもよく(即ち、発現されたATP加水分解酵素は細菌において自然には存在しないものであってもよく、異なる株や系統等に由来するものでもよい);又は前記細菌は前記ATP加水分解酵素を過剰発現してもよい。本明細書において用いられる用語「過剰発現」は、標的とする(例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする)遺伝子の人工的な増量された発現を意味する。過剰発現は、例えば、標的とする遺伝子をコードする(例えば、前記ATP加水分解酵素をコードする)核酸分子の数を増やすことにより、及び/又は発現を増加させる調節要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、又は遺伝子調節要素)を用いることにより等、多様な方法により行うことができる。
【0106】
前記細菌としては、生きた細菌であってもよい。前記細菌が病原体の場合、前記細胞の毒性は、上述のように弱毒化させてもよい。一般的に、前記細菌は、グラム陽性菌又はグラム陰性菌により選択されてもよい。ある態様では、前記細菌は、大腸菌(Escherichia spp.)、サルモネラ属菌(Salmonella spp.)、エルシニア属菌(Yersinia spp.)、ビブリオ属菌(Vibrio spp.)、及びシゲラ属菌(Shigella spp.、赤痢菌)から選択された細菌等のグラム陰性菌であってもよく、又は、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)、エルシニア・エンテロコイチカ(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、及び赤痢菌(Shigella flexneri)から選択された細菌等のシアノ細菌であってもよい。ある態様では、前記細菌はグラム陽性菌であってもよい。グラム陽性菌の例としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属菌(Lactococcus spp.)、及びリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア属菌(Listeria spp.)が挙げられる。好ましくは、前記細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又はサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)であってもよい。特に好ましくは、前記細菌は、特に、アピラーゼを(異種)発現する大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又はサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)であってもよい。
【0107】
前記細菌は、上述のように、プロバイオティクス特性を提供するものであってもよい。特に、前記プロバイオティクス・細菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又は大腸菌Nissle1917株(Escherichia coli Nissle 1917 (EcN))等の大腸菌(Escherichia coli)のプロバイオティクス株であってもよい。大腸菌Nissle1917株(Escherichia coli Nissle 1917)は、便秘(Chmielewska A., Szajewska H. Systematic review of randomised controlled trials: Probiotics for functional constipation. World J. Gastroenterol. 2010;16:69-75)及び炎症性腸疾患(Behnsen J., Deriu E., Sassone-Corsi M., Raffatellu M. Probiotics: Properties, examples, and specific applications. Cold Spring Harb. Perspect. Med. 2013;3 doi: 10.1101/cshperspect.a010074)を治療し、消化器疾患、潰瘍性大腸炎、及びクローン病(Xia P., Zhu J., Zhu G. Escherichia coli Nissle 1917 as safe vehicles for intestinal immune targeted therapy-A review. Acta Microbiol. Sin. 2013;53:538-544)を緩和することが示されている。
【0108】
更なる態様では、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記核酸分子を含むウイルス粒子、即ち、本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子を含むウイルス粒子とのからなる組合せも提供する。本明細書で用いられる用語「ウイルス粒子」は、ウイルス様粒子、ならびにビリオンを含む。「ビリオン」(「ウイルス」)は、通常、核酸を1つの細胞から他の細胞へ移行させることができる構造体であり、「エンベロープ」を有したものでもよく又は「無エンベロープ」のものでもよい。
【0109】
本明細書で使用される用語「ウイルス様粒子」(又は「VLP」)は、特に、様々なウイルスに由来する非複写性のウイルス殻を意味する。VLPは、ウイルス複製に必要なウイルス成分が欠如しており、よって、ウイルスが高度に弱毒化した状態を示している。VLPは、一般的に、1つ以上のウイルスタンパク質からなっており、前記タンパク質としては、これらに限定されるものではないが、カプシド、外皮、殻、表面等と称されるタンパク質、及び/又はエンベロープタンパク質、或いは、これらタンパク質から誘導された粒子形成ポリペプチドが挙げられる。VLPは、適切な発現システムにおいて、タンパク質の組換え発現によって自発的に形成される。ウイルス様粒子及びその製造方法は、公知であり、当業者は熟知しており、複数のウイルスから得られるウイルスタンパク質がVLPを形成するとして知られており、前記ウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス、HIV(Kang et al.、 Biol. Chem. 380: 353-64 (1999))、セムリキ森林熱ウイルス(Notka et al.、 Biol. Chem. 380: 341-52 (1999))、ヒト・ポリオーマウイルス(Goldmann et al.、 J. Virol. 73: 4465-9 (1999))、ロタウイルス(Jiang et al.、 Vaccine 17: 1005-13 (1999))、パルボウイルス(Casal、 Biotechnology and Applied Biochemistry、 Vol 29、 Part 2、 pp 141- 150 (1999))、犬パルボウイルス (Hurtado et al.、 J. Viral. 70: 5422-9 (1996))、E型肝炎ウイルス(Li et al.、 J. Viral. 71: 35 7207-13 (1997))、及びニューカッスル病ウイルスが挙げられる。上記VLPの形成は、好適な方法により検知することができる。媒体中のVLPを検知する公知の好適な方法の例としては、例えば、電子顕微鏡技術、動的光拡散法(DLS)、選択的クロマトグラフィー分離法(例えば、VLPのイオン交換、疎水性相互作用、及び/又はサイズ排除クロマトグラフィー)及び密度勾配遠心分離法が挙げられる。更には、VLPは、公知の方法で分離することができ、例えば、密度勾配遠心分離法により分離し、特徴的な密度での帯形成により特定される。例えば、Baker et al. (1991) Biophys. J. 60: 1445-1456;及びHagensee et al. (1994) J. Viral. 68:4503-4505; Vincente、 J Invertebr Pathol.、 2011; Schneider-Ohrum and Ross、 Curr. Top. Microbial. Immunol.、 354: 53073 (2012)を参照。
【0110】
前記ウイルス粒子はヒトに感染性のものでないことが望ましい。特に、バクテリオファージ等の、細菌において感染及び複製するウイルスベクターが用いられてもよい。したがって、本発明は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の核酸を含むバクテリオファージ、即ち、前述のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むバクテリオファージ、との組合せも提供する。バクテリオファージは、細菌及び古細菌中で感染を起こし、複製をするウイルスである。バクテリオファージは、通常、DNA又はRNAゲノムをカプセル化したタンパク質からなり、単純または精巧な、様々な異なる構造で存在する。ファージは抗細菌効果を提供するものであってもよい。前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む前記核酸を含むバクテリオファージは、細菌により前記ATP加水分解酵素が発現されるように、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を細菌に容易に運ぶことができる。
【0111】
組成物
上述の本発明の組合せの免疫チェックポイントモジュレーターは、組成物に含まれていてもよい。したがって、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、及び前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子は、それぞれ、組成物中に含まれていてもよい。前記組成物はワクチンであってもよい。
【0112】
例えば、前記組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を任意に含む医薬組成物であってもよい。前記担体、希釈剤、又は賦形剤は投与を容易にするものであるが、これらは、前記組成物の授与対象にとって有害又は有毒なものであってはならない。通常、担体、希釈剤、及び賦形剤は、前記組成物の「有効」成分ではない。したがって、前記免疫チェックポイントモジュレーター、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子は、前記組成物の単独有効成分(即ち、特に、治療される病気に対して、薬学的に活性を有する)であってもよい。好ましい担体としては、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体、及び不活性ウイルス粒子等の、分子量が大きく、ゆっくりと代謝される高分子が挙げられる。
【0113】
薬学的に許容される塩が使用でき、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、及び硫酸塩等の鉱酸塩、又は、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、及び安息香酸塩等の有機酸塩が使用できる。
【0114】
前記組成物は、媒介物(vehicle)を含んでいてもよい。媒介物は、通常、薬学的に許容される化合物等の化合物を保存、輸送、及び/又は投与するのに好適な材料であると理解されている。例えば、前記媒介物は、薬学的に活性な化合物を保存、輸送、及び/又は投与するのに好適な材料であり、生理学的許容される液体であってもよい。前記組成物が処方されると、前記組成物は直接投与対象に投与することができる。ある態様では、組成物は、哺乳類(例えば、投与対象人)に投与するために調整される。
【0115】
ある態様では、前記医薬組成物は、特に複数の投与容量でパッケージ化されている場合、抗菌剤を含んでいてもよい。前記医薬組成物は、例えば、Tween80等のTween(ポリソルベート)のような界面活性剤を含んでいてもよい。通常、界面活性剤は低レベル、例えば0.01%以下で存在している。組成物は、強壮性を付与するためにナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)をも含んでいてもよい。例えば、10±2mg/mlの濃度のNaClが典型的である。
【0116】
更に、医薬組成物は、特に凍結乾燥される場合又は凍結乾燥された材料を戻して得られた材料を含む場合、糖アルコール(例えば、マンニトール)又は二糖類(例えば、スクロース又はトレハロース)を、例えば、15~30mg/ml程度(例えば、25mg/ml)を含んでいてもよい。凍結乾燥する組成物のpHは、凍結乾燥前に、5から8の間、又は5.5から7の間、又は6.1程度に調節されてもよい。
【0117】
医薬組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、更に、水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノール等の液体を含んでいてもよい。更に、湿潤又は乳化剤、或いは、pH緩衝剤等の補助剤が前記組成物に存在していてもよい。前記担体は、投与対象が摂取するため、前記医薬組成物が錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー及び懸濁液として処方されるのを可能とする。薬学的に許容される担体の細論はGennaro(2000) Remington:The Science and Practice of Pharmacy、 20th edition、ISBN:0683306472に開示されている。
【0118】
医薬組成物は、多様な形状で用意されてもよく、多数の経路により投与されてもよい。前記投与経路としては、これらに限定されるものではないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、皮下、経腸、舌下、及び経直腸が挙げられる。好ましくは、前記医薬組成物は、経口投与のために錠剤、カプセル等として用意されてもよく、注射可能なように、例えば、液状溶液又は懸濁液として用意されてもよい。注射前の液状媒介物における溶液又は懸濁液に好適な個体形状が更に含まれ、例えば、前記医薬組成物は凍結乾燥された形状のものであってもよい。
【0119】
前記組成物は、例えば、錠剤又はカプセルとして、スプレーとして、又は(任意に風味付けされた)シロップとして経口投与用に調整されてもよい。経口的に許容される剤形としては、これに限定されるものではないが、カプセル、錠剤、水性懸濁液又は溶液が挙げられる。経口用の錠剤の場合、典型的に用いられる担体としては、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤も添加されていてもよい。カプセル形状での経口投与のための好適な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口用に水性懸濁液が必要な場合、有効成分、即ち、前記免疫チェックポイントモジュレーター、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子は、乳化及び懸濁剤と併用されてもよい。必要に応じて、特定の甘味料、香味料又は着色料が添加されていてもよい。前記有効成分は、それ自体では、胃腸管において分解されやすいものであることがある。したがって、前記組成物が胃腸管を用いる経路で投与されるものである場合、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素又は前記チェックポイントモジュレーターが分解されることを防止するが、一度胃腸管から吸収されると前記ATP加水分解酵素又は前記チェックポイントモジュレーターを放出する成分を含んでいてもよい。前記組成物は、組合せられた組成物が、投与対象に投与させる直前に再構成されるように設計されたキット形状のものでもよい。例えば、凍結乾燥されたATP加水分解酵素又は免疫チェックポイント阻害剤が、滅菌水又は滅菌緩衝剤と共にキット形状で提供されてもよい。
【0120】
様々な投与経路のために調整された多数の形状の組成物が本発明の範囲含まれ、前記形状としては、これらに限定されるものではないが、注射又は注入等、例えば、ボーラス投与による注射又は持続注入等の非経口投与に好適な形状が含まれる。前記製品が注射又は注入のためのものである場合、油性又は水性媒介物中で懸濁液または乳化液の形状を取っていてもよく、懸濁剤、保存剤、安定剤及び/又は分散剤等の調合剤を含んでいてもよい。或いは、前記ATP加水分解酵素又は前記チェックポイントモジュレーターは、乾燥状態のもので、適当な減菌液と共に用いると再構成可能なものであってもよい。ある態様では、前記組成物は注射可能な溶液又は懸濁液として調整されてもよい。液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に好適な、注射前の固体形状として調整することもできる(例えば、保存剤を含む減菌水で戻される凍結乾燥組成物)。例えば、静脈注射、皮膚注射、又は皮下注射、或いは、疾病部位への注射等の注射のため、前記有効成分は、パイロジェンフリーで好適なpH、等張性、及び安定性を有する許容される非経口水性溶液の形状であってもよい。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液等の等張性媒介物を用いて好適な溶液を調整することが十分可能である。必要であれば、保存剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤が含まれていてもよい。注射用としては、前記医薬組成物は、例えばシリンジ中にあらかじめ準備した状態で提供されてもよい。
【0121】
医薬組成物は、通常、pHが5.5から8.5の間であるものであってもよく、ある態様では、pHは6から8の間であってもよく、例えば、7であってもよい。前記pHは、緩衝剤を用いることにより保持されていてもよい。前記組成物は無菌及び/又はパイロジェンフリーであってもよい。前記組成物はグルテンフリーであってもよい。前記組成物は人間に対して等張のものであってもよい。ある態様では、医薬組成物は、密封容器で提供されてもよい。
【0122】
対象に与えられるのが上述のタンパク質、ペプチド、核酸分子、宿主細胞、微生物、ウイルス粒子、又は他の医薬的に有用な化合物である場合、投与は、通常、「予防有効量」又は「治療有効量」(場合により)投与され、これら量は個人に効果を発現させるのに十分な量である。実際の投与量、及び投与の速度及び経時変化は、治療対象の特徴及び重度により異なる。したがって、1つ以上の有効成分の「有効」量は、通常、対象疾患又は症状を治療、改善、減弱、低減、又は予防するのに十分な量、又は検出可能な治療効果を示すのに十分な量である。治療効果としては、病原体の効力又は身体症状の低減又は減弱をも含む。特定の対象に対する厳密な有効量は、対象のサイズ、体重、健康状態、症状の特徴及び程度、並びに投与のために選択された治療法又は治療法の組合せによる。特定の状況における有効量は、日常的に行われる試験によって決定され、医療従事者の判断に委ねられる。
【0123】
ある態様では、本発明の医薬組成物は、前記免疫チェックポイントモジュレーター、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、及び前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子以外の、更なる有効成分を含んでいてもよい。前記更なる有効成分は、通常、同じ疾患(例えば、癌)に対して薬剤的に有効なものである。癌の治療のための更なる有効化合物の例としては、抗がん剤(細胞増殖抑制剤等)、腫瘍関連抗原又は腫瘍特異抗原に対する抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。したがって、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの前記更なる有効成分を含んでいてもよい。
【0124】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子とは、前記更なる有効成分が含まれている医薬組成物に含まれていてもよく、或いは、前記更なる有効成分が含まれている医薬組成物とは別の医薬組成物に含まれていてもよい。したがって、各更なる有効成分は異なる医薬組成物に含まれていてもよい。好ましくは、(i)成分と(ii)成分と(即ち、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子と)は、それぞれ異なる(医薬)組成物に含まれていてもよい。かかる異なる医薬組成物は、組み合わせて/同時に、又は異なる時に、又は異なる箇所(例えば、人体の異なる箇所)に、又は異なる投与経路により投与されてもよい。例えば、前記免疫チェックポイントモジュレーター(を含む組成物)は非経口投与経路により投与されてもよく、一方、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、又は前記核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子(を含む組成物)は経腸投与経路により投与されてもよい。
【0125】
ある態様では、前記免疫チェックポイントモジュレーター又は前記ATP加水分解酵素は、前記組成物中のタンパク質の合計の少なくとも50重量%(例えば、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上)を占めていてもよい。
【0126】
ある態様では、前記組成物は、前記免疫チェックポイントモジュレーター、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸ウイルス粒子を精製した形態で含んでいてもよい。
【0127】
ある場合においては、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む、細胞抽出物を含んでいてもよい。例えば、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素を発現する細胞、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞からの細胞抽出物を含んでいてもよい。かかる細胞は、前述のように、細菌細胞であってもよい。例えば、前記組成物は、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細菌のペリプラズム抽出物を含んでいてもよい。この文脈において、好ましい細菌(細菌細胞)は上述の通りである。
【0128】
ある態様では、前記組成物はナノカプセルでの投与のために処方されてもよい。好ましくは、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子を含む前記組成物は、ナノカプセルでの投与のために処方されてもよい(一方で、前記免疫チェックポイントモジュレーターを含む組成物は、ナノカプセルでの投与のために処方されても、処方されていなくてもよい)。したがって、本発明は、本明細書に記載の組成物を含むナノカプセルも提供する。特に、本発明は、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチド含む核酸を含むウイルス粒子(を含む組成物)を含むナノカプセルを提供する。
【0129】
ナノカプセルは、通常、無毒のポリマー/脂質から形成され、成分を有害な環境から守ることができる。ナノカプセルは、通常、ナノスケールで内部の液体コアをカプセル化するポリマー膜からなる小胞系である。カプセル化の方法は公知であり、前記カプセル化の方法としては、ナノ沈殿、エマルジョン拡散、及び溶媒蒸発が挙げられる。ある態様では、前記ナノカプセルは、経腸投与、特に、経口投与のためのものであってもよい。ナノカプセル及びナノカプセルの作成方法は公知であり、例えば、Erdogar N、 Akkin S、 Bilensoy E. Nanocapsules for Drug Delivery: An Updated Review of the Last Decade. Recent Pat Drug Deliv Formul. 2018;12(4):252-266. doi: 10.2174/1872211313666190123153711に記載されており、その全体を本明細書に援用する。
【0130】
本発明はまた、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子用意する工程と、(ii)1つ以上の薬学的に許容される担体と混合する工程とを含む、(医薬)組成物を調製する方法も提供する。
【0131】
組合せ
本発明によると、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子と組合せられる。前記核酸によりコードされるATP加水分解酵素は、前記組成物がその効果を発揮する作用箇所(例えば、人体又は動物体内)で前記免疫チェックポイントモジュレーターとATP加水分解酵素とが組み合わされるように、発現される。
【0132】
一般的に、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記ATP-加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子との「組合せ」は、組み合わされた状態で両成分がそれぞれの効果を発揮することができることを意味する。このため、両成分の効果の時間窓は通常重なり合っている。したがって、両成分の効果は、人体又は動物体内で同時に現れる(1つ又は両方の成分が物理的にもはや存在していないとしても)。ある態様では、両成分は、人体又は動物体内で同時に(物理的に)存在していてもよい。
【0133】
したがって、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターは、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子を用いた治療と好ましくはオーバーラップする。1つの成分(i)又は(ii)が、例えば、他の成分((i)又は(ii)の他方)が投与された日と同日に投与されないとしても、これらの治療スケジュールは通常から絡みあわされる。
【0134】
ある態様では、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)本明細書に記載の前記ATP-加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子は、繰り返し投与されてもよい。例えば、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターの投与後、(ii)本明細書に記載の前記ATP-加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、並びに、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子が投与され、そしてその後、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターが更に続いて投与されてもよい。同様に、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、並びに、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子の投与後、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターが投与され、そしてその後、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、並びに、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子が更に続いて投与されてもよい。このようにして、(i)及び(ii)の両成分の治療スケジュールが絡み合わされていてもよい。
【0135】
前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子と組み合わされた前記免疫チェックポイントモジュレーターは、相乗的治療効果等、追加的な治療効果を提供してもよい。用語「相乗的」は、個々の有効成分の効果を合計した効果よりも大きい、2つ以上の有効成分の組み合わされた効果を表現するのに用いられる。したがって、2つ以上の成分の組み合わされた効果が活性又はプロセスの「相乗的阻害性」をもたらす場合、活性又はプロセスの阻害性は、それぞれの有効成分の阻害性効果の合計よりも大きくなることが意図されている。用語「相乗的治療効果」は、2つ以上の治療を組み合わせて得られる治療効果を意味し、その(多数のパラメーターのいずれかで計測された)治療効果は、それぞれ単独の治療により得られたそれぞれ単独の治療効果の合計よりも大きいものである。
【0136】
ある態様では、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子とからなる組合せは、抗原又は少なくとも1つのエピトープ含む前記抗原の断片、前記抗原又は前記抗原の断片をコードする核酸、或いは、前記抗原又は前記抗原の断片をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子等の更なる(「第3の」)成分を組み合わされてもよい。
【0137】
言い換えると、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子とからなる組合せは、
(a)抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片、
(b)前記抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片をコードする核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子
のいずれか1つ(又は組合せ)を更に含んでいてもよい。
【0138】
本明細書中、「抗原」は、適応免疫応答の受容体の標的となるいかなる構造物質をも含み、特に、抗体、T細胞受容体、及び/又はB細胞受容体の標的となる構造物質である。「抗原決定基」としても知られる「エピトープ」は、免疫システム、特に、抗体、T細胞受容体、及び/又はB細胞受容体によって認識される抗原の一部(又は断片)である。したがって、1つの抗原は少なくとも1つのエピトープを含む、即ち、単独の抗原は1つ以上のエピトープを有していてもよい。本発明の文脈において、前記用語「エピトープ」は、主に、T細胞エピトープを指すのに用いられ、前記T細胞エピトープは抗原提示細胞に表面に存在し、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と結合している。MHCクラスI分子により提示されるT細胞エピトープは、限定されるものではないが、典型的には8から11のアミノ酸の長さのペプチドであり、一方、MHCクラスII分子はより長いペプチド、限定されるものではないが、通常、12から25のアミノ酸の長さのペプチドである。
【0139】
好ましくは、上述の(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、上述の(ii)前記ATP-加水分解酵素、前記ATP-加水分解酵素をコードする核酸、或いは前記ATP-加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子とからなる組合せは、更に、抗原の断片と組み合わされていてもよく、前記断片は前記抗原の少なくとも1つのエピトープを含む。本明細書中、抗原の「断片」は、抗原の少なくとも10連続アミノ酸を含み、好ましくは抗原の少なくとも15連続アミノ酸を含み、より好ましくは抗原の少なくとも20連続アミノ酸を含み、更により好ましくは抗原の少なくとも25連続アミノ酸を含み、最もこのましくは抗原の少なくとも30連続アミノ酸を含む。
【0140】
更に、抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む抗原の断片の「配列変異体」が用いられてもよく、前記配列変異体は、参照配列(例えば、自然界に存在する抗原又は断片)と少なくとも70%又は少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%又は少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%又は少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも97%又は少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%同一の(アミノ酸)配列を有する。「機能性」配列変異体が好ましく、抗原/抗原断片/エピトープの文脈において、機能性配列変異体とは、例えば抗原(断片)に含まれるエピトープの機能が損なわれない又は消失されない、即ち、免疫原性であることを意味し、好ましくは、無欠損の完全な長さの抗原に含まれるエピトープと同様/同一の免疫原性を有している。ある態様では、例えば、本明細書に記載の癌/腫瘍抗原(断片)に含まれるエピトープのアミノ酸配列は変異しておらず、したがって、(自然界に存在する)参照エピトープ配列と同一である。
【0141】
前記抗原は、通常、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記ATP-加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子との組合せにより誘起又は強化される所望の免疫応答の観点から選択される。言い換えると、前記選択された抗原(断片)が本発明の組合せにより誘起又は強化された免疫応答の標的/方向性を決定してもよい。
【0142】
例えば、癌/腫瘍の文脈において、前記抗原(又はその断片)は、癌/腫瘍抗原であり、特に、癌/腫瘍関連抗原、又は癌/腫瘍特異抗原である。多くの癌/腫瘍抗原が少なくとも1つの特定の癌又は腫瘍に関連するものとして公知であり、抗原又はその断片は、癌/腫瘍のタイプ、及び/又は所望の治療効果により適宜選択できることが知られている。
【0143】
本明細書中に記載される「癌/腫瘍抗原/エピトープ」は、癌/腫瘍細胞により生成される抗原/エピトープである。かかる抗原/エピトープは、通常、特定の種類の癌/腫瘍に特異性(関連性)を有する。
【0144】
癌/腫瘍関連(また、癌/腫瘍相関)抗原(TAA)は、通常、癌/腫瘍細胞及び正常細胞の両方により発現される抗原である。例えば、TAAは、腫瘍細胞により発現される1つ以上の表面タンパク質又はポリペプチド、核タンパク質又は糖タンパク質、又はそれらの断片であってもよい。例えば、ヒト腫瘍関連抗原は、分化抗原(例えば、メラノサイト分化抗原)、変異抗原(例えば、p53)、過剰発現細胞抗原(例えば、HER2)、ウイルス抗原(例えば、ヒトパピローマウイルスタンパク質)、及び精巣及び卵巣における生殖細胞では発現するが、正常な体細胞(例えば、MAGE及びNY-ESO-1)では発現していない癌/精巣(CT)抗原を含む。多くのTAAは、癌又は腫瘍に特異的ではなく、正常組織でもみられる。したがって、これらの抗原は、出生時(又はそれ以前)から存在していてもよい。したがって、これらの抗原に対し、免疫システムが自己寛容性を有する可能性はある。
【0145】
反対に、癌/腫瘍特異抗原(TSA)は、正常細胞ではなく、癌/腫瘍細胞により特異的に発現される抗原である。TSAは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介して、ネオ抗原特異的T細胞受容体(TCR)により特異的に認識される。したがって、TSAは、特に、ネオ抗原を含む。一般的に、ネオ抗原は、それ以前は存在していなかった、したがって免疫システムにおいて「新しい」抗原である。ネオ抗原は、通常、体細胞変異によるものである。癌/腫瘍において、癌/腫瘍特異的ネオ抗原は、通常、癌/腫瘍発生前には存在しておらず、癌/腫瘍特異的ネオ抗原は、普通、癌細胞/腫瘍細胞における体細胞遺伝子変異によりコードされる。免疫学的観点から、腫瘍ネオ抗原は、真に、外来タンパク質であり、正常ヒト器官/組織に完全に不在である。ウイルス性病因なしの大半のヒト腫瘍では、腫瘍ネオ抗原は、例えば、一塩基バリアント(SNV)、挿入及び欠失(indel)、遺伝子融合、フレームシフト変異、及び構造変異(SV)等を含む多様な非同義遺伝子変異から誘導されたものである。例えば、腫瘍ネオ抗原は、Trends in Molecular Medicine、November 2019、 Pages 980-992に開示されるような公知のイン・シリコ(in silico)予測ツールを用いて、或いは、癌ゲノムシーケンシング、(癌)ゲノムのタンパク質コード部位内での変異を特定するディープシーケンシング技術等の当業者に公知の方法により特定されてもよい。
【0146】
好適な癌/腫瘍エピトープは、例えば、癌抗原ペプチドデータベース(Vigneron N, Stroobant V, Van den Eynde BJ, van der Bruggen P. Database of T cell-defined human tumor antigens: the 2013 update. Cancer Immun. 2013;13:15)、又はデータベース「Tantigen」(Zhang G, Chitkushev L, Olsen LR, Keskin DB, Brusic V. TANTIGEN 2.0: a knowledge base of tumor T cell antigens and epitopes. BMC Bioinformatics. 2021;22(Suppl 8):40. Published 2021 Apr 14. doi:10.1186/s12859-021-03962-7)等の癌/腫瘍エピトープのデータベースから得ることもできる。
【0147】
ある態様では、前記癌/腫瘍抗原、又は前記癌/腫瘍エピトープは、組換え癌/腫瘍抗原、又は組換え癌/腫瘍エピトープであってもよい。かかる組換え癌/腫瘍抗原又は組換え癌/腫瘍エピトープは、ネイティブ癌/腫瘍抗原、又はネイティブ癌/腫瘍エピトープの全体のアミノ酸配列における特定のアミノ酸を改変(追加、欠失、又は置換)させる変異を導入することにより設計されたものであってもよい。変異の導入は、哺乳類である対象、好ましくは、ヒト又は犬である対象に亘って普遍的に適用できない程、癌/腫瘍抗原又は癌/腫瘍エピトープを変化させるものではなく、アミノ酸配列が寛容を崩す、又は免疫応答を惹起しうる外来抗原であると認識されるのに十分な程度変化をもたらす。他の方法としては、対応するネイティブ癌/腫瘍抗原又はネイティブ癌/腫瘍エピトープと少なくとも85%から99%までのアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも90%から98%までの配列同一性、より好ましくは少なくとも93%から98%までの配列同一性、更により好ましくは少なくとも95%から98%までの配列同一性を有するコンセンサス組換え癌/腫瘍抗原又は癌/腫瘍エピトープを作成することであってもよい。ある場合、前記組換え癌/腫瘍抗原又は前記組換え癌/腫瘍エピトープは、対応するネイティブ癌/腫瘍抗原又はネイティブ癌/腫瘍エピトープと、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。前記ネイティブ癌/腫瘍抗原は、通常、特定の癌又は腫瘍に関連する抗原である。癌/腫瘍抗原によっては、前記癌/腫瘍抗原のコンセンサス配列は、哺乳類種に亘ってもよく、種のサブタイプのものでもよく、又はウイルス株又は血清型に亘るものであってもよい。ある癌/腫瘍抗原では、癌/腫瘍抗原の野生型アミノ酸配列と大差ない。前述のアプローチは、最終的な組換え癌/腫瘍抗原又は癌/腫瘍エピトープが前述のネイティブ癌抗原アミノ酸配列と同様の比率(percent)を有するように組み合わされてもよい。ある態様では、本明細書に記載の前記癌/腫瘍抗原のエピトープのアミノ酸配列は変異されていなく、したがって、参照エピトープ配列と同一である。
【0148】
前記ATP加水分解酵素と同様に、前記抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片も、タンパク質/ペプチドとして投与されてもよく、又は核酸にコードされてもよく、或いは、宿主細胞、微生物、又はウイルス粒子が(かかる核酸の)デリバリーに用いられてもよい。前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、及び前記ウイルス粒子の(前記ATP加水分解酵素の文脈における)詳細な説明は、そのまま前記抗原又は少なくとも1つのエピトープ含む前記抗原の断片にも適応される。前記ATP加水分解酵素と、前記抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片との投与形状はそれぞれ独立して選択されるが、両者は対応した形状で投与されてもよく、例えば、両者、タンパク質/ペプチドとして、又は核酸として投与されてもよい。ある態様では、前記組合せは、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む第一の核酸と、前記抗原又は少なくとも1つの抗原エピトープを含む前記抗原の断片をコードするヌクレオチドを含む第二の核酸とを含む宿主細胞又は微生物を含んでいてもよい。したがって、前記組合せは、前記ATP加水分解酵素と、前記抗原又は少なくとも1つの抗原エピトープを含む前記抗原の断片を(異種)発現する宿主細胞又は微生物を含んでいてもよい。
【0149】
ある態様では、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子とからなる組合せは、バンコマイシン(又は抗生物質)を含まない。言い換えると、本明細書に記載の本発明の組合せが投与されると、バンコマイシン(又は抗生物質)の投与を避けることができる。
【0150】
キット
更なる態様では、本発明は更にキットを提供する。即ち、
(i)免疫チェックポイント阻害剤と、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
を含むキットである。
【0151】
ある態様では、かかるキットは、(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素をコードする核酸とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物とを含む。ある態様では、かかるキットは、(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子とを含む。したがって、上述の免疫チェックポイントモジュレーターの詳細な態様は、そのまま、本発明のキットに適用される。したがって、上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、又は上述のウイルス粒子の詳細な態様は、本発明のキットのそのまま適用される。特に、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、又は上述のウイルス粒子は、上述の通り、組成物として(又はそれぞれ異なる組成物として)提供されてもよい。
【0152】
また、前記キットは、
(a)上述の抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片、
(b)上述の抗原又は少なくとも1つのエピトープを含む前記抗原の断片をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)上述の核酸を含む宿主細胞
(d)上述の核酸を含む微生物、又は
(e)上述の核酸を含むウイルス粒子
のいずれか1つ(又はそれらの組合せ)を更に含んでいてもよい。
【0153】
上述の抗原又はその断片の詳細な説明はそのまま適用されると理解されるべきである。
【0154】
前記キットの様々な成分は、1つ以上の容器に包装されてもよい。ある態様では、異なる成分、特に、(i)成分及び(ii)成分、即ち、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び(ii)本明細書に記載の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、それぞれ個別の容器で提供されてもよい。前記成分の個別の容器は、例えば、箱/容器の中に一緒に提供されてもよい。前記成分は、凍結乾燥又は乾燥形状で、或いは適当な緩衝剤に溶解された状態で提供されてもよい。例えば、前記容器は、上述の免疫チェックポイントモジュレーターを含む(医薬)組成物と、上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、又は上述のウイルス粒子のいずれかを含んだ(医薬)組成物とを、例えば、それぞれ異なる容器に含んでいてもよい。前記キットは、また、前記免疫チェックポイントモジュレーターと、上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、又は上述のウイルス粒子のいずれかとの両方を含んだ(医薬)組成物を含んでいてもよい。
【0155】
前記キットは、更に、上記成分を保存及び/又は戻すための緩衝剤、洗浄溶液、等の追加の試剤を含んでいてもよい。
【0156】
更に、本発明のパーツのキットは、任意に、取扱説明書を含んでいてもよい。好ましくは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、又は上述のウイルス粒子との組合せを使用して癌を治療する指示が記載された添付文書又はラベル。例えば、本発明の組合せを使用説明は投与指針を含んでいてもよい。
【0157】
医学的療法及び使用
上述の本発明の組合せ及び上述の本発明のキットは、例えば、癌の治療等の医術に用いることができる。
【0158】
(i)上述の免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述のATP加水分解酵素、上述のATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の宿主細胞、上述の微生物、上述のウイルス粒子との組合せは、実施例で示されたように、チェックポイントモジュレーターの効能を誘起又は強化することができる。
【0159】
したがって、本発明は、更に、対象の癌の発症のリスクを軽減する、癌を治療する、改善する、又は軽減する、或いは抗腫瘍応答を開始、増強、又は延長する方法を提供し、前記方法は、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
を前記対象に投与すること含む。
【0160】
また、本発明は、更に、癌の発症のリスクを軽減する、癌を治療する、改善する、又は軽減する、或いは抗腫瘍応答を開始、増強、又は延長する併用療法を提供し、前記併用療法は、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと、
(ii)(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子と
を投与することを含む。
【0161】
したがって、本発明は、更に、医術に使用される免疫チェックポイントモジュレーターを提供し、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、
(a)ATP加水分解酵素、
(b)前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、
(c)前記核酸を含む宿主細胞、
(d)前記核酸を含む微生物、又は
(e)前記核酸を含むウイルス粒子
と組み合わされて投与される。
【0162】
好ましくは、上述の組合せに用いられる前記免疫チェックポイントモジュレーターは、癌の治療に用いられる。
【0163】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター及び(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子(「組合せ」の文脈において)、並びに、対応する組成物及び投与形態についての上記(詳細な)説明は、組み合わせて使用される、本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターにもそのまま適用されると理解されるべきである。同様に、更に(上述の形態のいずれかで投与される)前記抗原又はその断片と組み合わされてもよい。また、更に、上述の詳細な説明がそのまま適用される。
【0164】
前記癌の治療は、予防処置(例えば、癌の発生リスクを低減する予防処置)であっても、治療処置であってもよい。本明細書中、前記用語「治療処置」は、病気の発症後の処置を意味し、一方、「予防処置」は、疾患の発症前又は初期症状が現れる前の処置を意味する。特に。「治療処置」は、疾患の発症前に行われる予防手段を含まない。疾患の発症は、しばしば、前記疾患の症状と関連しているため、ヒト又は動物対象は、しばしば、診断後、又は少なくとも、前記対象が特定の疾患に罹っていると(強く)想定される場合、「治療」処置される。治療処置は、特に、(1)疾患(の状態)を改善する、向上する、又は治すこと、又は(2)疾患の進行を妨げる又は遅らせること(例えば、癌患者の平均生存期間を増加させることにより)を目的とする。しかし、通常、疾患の発症予防は、治療処置によって達成することはできない。
【0165】
前記組合せは、癌疾患の治療のため(の薬剤の調整のため)に用いられてもよい。本発明の文脈において用いられる前記用語「疾患」は、一般的に、症状を意図するものであり、用語「障害(disorder)」及び(医学的状態のような)「状態(condition)」と同義的に用いられ、それら用語全て、正常機能が損なわれたヒト又は動物の体、或いはその部分の一部の異常状態を表し、通常、症状や兆候を識別することにより明らかにされ、ヒト又は動物の生命の長さ又は質を低減させることを意味する。
【0166】
癌疾患(又は「癌」)は、特に、身体の他の部位に侵入又は伝播する可能性がある、異常細胞増殖を伴う疾患群である。癌細胞/組織は、通常、癌の6つの特徴、即ち、(a)適切なシグナル不在下での細胞成長又は分裂;(b)逆のシグナルが与えられているのにもかかわらず継続的な成長及び分裂;(c)プログラム細胞死の回避;(d)無限の細胞分裂;(e)血管構築の促進;及び(f)組織浸潤及び転移(メタスタシス)の形成を示す。
【0167】
癌疾患は、アポトーシスの欠損により引き起こされた疾患を含む。前記癌は、固形腫瘍、血液がん、又はリンパ癌であってもよい。本発明の文脈において、治療される癌は、固形腫瘍であることが好ましい。前記治療される癌は、転移性のものであってもよい。
【0168】
好ましくは、癌の治療において、本発明の組合せは、腫瘍(又は転移)の進行中の成長/更なる成長を、阻害させる、低減させる、又は遅らせる。本発明の組合せは、また、腫瘍のサイズ(又は転移の数)を低減させるものであってもよい。ある態様では、本発明の組合せは、腫瘍及び/又は転移のリスクを低減するもの、又は再発を予防するものであってもよい。
【0169】
これに限定されるものではないが、癌疾患の例としては、メラノーマ;小腸の腫瘍、及び結腸癌、結腸直腸癌、結腸腺癌などの胃腸腫瘍、を含む腸癌;肛門癌;神経膠腫等の脳腫瘍;乳癌;腺癌(例えば、結腸腺癌);前立腺癌等、尿生殖器官の癌を含む生殖器腫瘍;肝臓癌及び肺癌が挙げられる。
【0170】
上述のように、(i)上述の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、上述の前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の前記宿主細胞、上述の前記微生物、又は上述の前記ウイルス粒子との「組合せ」は、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターを用いた処置と、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、上述の前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の前記宿主細胞、上述の前記微生物、又は上述の前記ウイルス粒子を用いた処置とが組み合わされることを意味する。言い換えると、前記成分(i)及び(ii)((i)前記チェックポイントモジュレーター、及び(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、上述の前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、或いは、上述の前記宿主細胞、上述の前記微生物、又は上述の前記ウイルス粒子)のうちの1つが、例えば、他の成分((i)又は(ii)の他方)と同日に、投与されなくても、これら治療のスケジュールは絡み合わされている。これは、本発明の文脈において、「組合せ」が、特に、前記成分(i)及び(ii)のいずれか一方を用いた治療が既に終了している時、他方の成分(i)又は(ii)を用いた治療を開始する態様を含まないことを意味する。より一般的には、前記成分(i)及び(ii)の「絡み合わされた」治療スケジュールは下記、即ち、構成要素(i)及び(ii)の組合せ、を意味する:
(i)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子の最初の投与が、前記免疫チェックポイントモジュレーターを用いた(最終)治療(例えば、前記免疫チェックポイントモジュレーターの最終投与)後、1週間以内(好ましくは、3日以内、より好ましくは、2日以内、更により好ましくは、1日以内)に開始する;又は
(ii)前記免疫チェックポイントモジュレーターの投与が、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子を用いた(最終の)治療(例えば、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子の最終投与)後、1週間以内(好ましくは、3日以内、より好ましくは、2日以内、更により好ましくは、1日以内)に開始する。
【0171】
例えば、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子との組合せにおいて、1つの成分((i)又は(ii))(例えば、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター)が1週間に1回又は2回投与されてもよく、一方で、他方の成分(例えば、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子)が毎日投与されてもよい。この例の場合、1つの成分の連日投与における任意の日に、他方の成分も投与される。しかし、他の例では、もし両成分が週毎に投与される場合、任意の週において両成分が投与される(同日に投与されないとしても、治療スケジュールは依然として重なり合っている)。一方の成分が1回だけ投与され、他方の成分は繰り返し投与される場合、1つの成分の単一投与は、組合せが達成されるように、通常、(同日に投与されないとしても)他方の成分の治療サイクル内に行われる。一般的に、組合せを達成するため、1つの成分は、その効果が他の成分の効果と重なり合っている間に投与されてもよい。
【0172】
上述のように、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターの投与、及び/又は(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子の投与は、例えば、複数回の注射、及び/又は複数回の経口投与等、繰り返し(複数回、即ち、1回を超える)投与が必要でもよい。したがって、投与は、例えば、一次免疫注射として一回、その後、ブースター注射として、少なくとも2回繰り返されてもよく、又は、毎日投与されてもよい。したがって、(i)本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子とは、繰り返し又は継続的に投与されてもよい。本明細書に記載の前記免疫チェックポイントモジュレーターと、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子とは、少なくとも1、2、3、若しくは4週間;2、3、4、5、6、8、10、若しくは12か月間;又は2、3、4、若しくは5年間、繰り返し又は継続的に投与されてもよい。例えば、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、1日に2回、1日に1回、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1月に1回、又は2か月毎、投与されてもよい。例えば、前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードする核酸、又は前記ATP加水分解酵素をコードする核酸を含む宿主細胞、微生物、若しくはウイルス粒子は、1日に2回、1日に1回(例えば、毎日)、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1月に1回、又は2か月毎、投与されてもよい。
【0173】
ある態様では、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、同日に投与される。ある態様では、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、繰り返し投与される。例えば、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は、前記ウイルス粒子は毎日投与されてもよく、一方、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、週に1度又は2度、他の成分(前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子)が投与される日に投与されてもよい。
【0174】
ある態様では、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、略同時に投与してもよい。本明細書中、「略同時に」とは、特に、同時投与、或いは、成分(i)の投与直後に成分(ii)投与されること、又はその逆を意味する。当業者であれば、「直後」が第二の投与を準備するのに必要な時間、例えば、「投与器具」(例えば、注射器、ポンプ等)の適切な準備と共に、第二の投与を行う部位を露出させ殺菌するのに必要な時間、を含むことを理解するであろう。同時投与は、また、両成分の投与の期間が重複する場合、又は、例えば、1つの成分が、例えば、注入により、30分、1時間、2時間、又はそれ以上等長時間にわたって投与され、他方の成分が前記長時間内に投与される場合を含む。
【0175】
好ましくは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、連続して投与される。例えば、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子が投与される前に(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターが投与されてもよく;又は、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子が投与された後に(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターが投与されてもよい。連続投与において、両成分(i)及び(ii)の投与間の時間間隔は、好ましくは1週間以内、より好ましくは3日以内、更により好ましくは2日以内、最も好ましくは24時間以内である。(i)前記チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とが同日に投与されるのが特に好ましい。両成分(i)及び(ii)の投与間の時間は12時間以内であってもよく、好ましくは6時間以内、より好ましくは3時間以内であり、例えば、2時間以内、又は1時間以内である。
【0176】
前記免疫チェックポイントモジュレーターと、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、多様な投与経路により、例えば、全身に又は局部的に投与されてもよい。一般的に、全身投与の経路は、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、及び腹腔内経路等を含む、経腸及び非経口経路が挙げられる。一般的に、局部投与の経路は、例えば、腫瘍内等の患部での直接投与が挙げられる。
【0177】
好ましくは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、異なる投与経路を介して投与される。
【0178】
特に、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、好ましくは、経腸投与経路を介して投与される。経腸投与経路は、胃腸管を介した投与を意味し、胃管を介した投与と共に、例えば、経口、舌下、及び直腸投与を含む。前記ATP加水分解酵素、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む宿主細胞、前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む微生物、又は前記ATP加水分解酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含むウイルス粒子の経口投与が好ましい。いかなる理論にも拘束されるものではないが、前記ATP加水分解酵素は、(チェックポイント阻害剤と組み合わせられた際)腸管腔において、すなわち、腸内の細菌叢から放出される細胞外ATPを分解することによって、その有利な効果を媒介すると考えられる。本明細書の実験データは、前記チェックポイント阻害剤の活性における前記ATP加水分解酵素の有益な効果を伝達するため、腸内の細菌叢から放出される前記ATPにおける前記ATP加水分解酵素の重要な効果を示している。前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子の経腸投与が前記ATP加水分解酵素を胃腸管(腸)に送達するため、この投与経路は、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子にとって好ましい。
【0179】
例えば、前記(コードされた)ATP加水分解酵素は可溶性ATP加水分解酵素であってもよく、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子は、経腸投与経路を介して投与されてもよい。
【0180】
前記免疫チェックポイントモジュレーターは、好ましくは、非経口投与経路を介して投与される。非経口投与の非限定の例としては、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、節内、腹腔内、及び、皮下投与経路が挙げられる。好ましくは、前記免疫チェックポイントモジュレーターは、静脈内投与又は皮下投与される。前記チェックポイントモジュレーターは、例えば、腫瘍内等、患部に投与されてもよい。
【0181】
ある態様では、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、同一の投与経路により投与され、前記投与経路は、例えば、上述の経腸又は非経口経路のいずれか等である。
【0182】
前記免疫チェックポイントモジュレーターと、前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、同じ組成物として提供されてもよく、それぞれ異なる組成物として提供されてもよい。好ましくは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とは、例えば、上述のように、それぞれ異なる組成物として提供される。それにより、例えば、異なる媒介物等の、異なる他の成分を、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とのそれぞれに用いることができる。また、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子とはそれぞれ異なる投与経路を介して投与することができ、投与量(特に、投与量の関係)は、実際の必要性に応じて調節することができる。
【0183】
(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子との本発明の組合せは、「単独の(stand-alone)」併用療法として(即ち、抗癌剤(例えば、細胞増殖抑制剤)又は腫瘍関連抗原に対する抗体等の更なる成分又は有効成分を併用することなしに)投与されてもよい。或いは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)上述の前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子との本発明の組合せは、抗癌剤(例えば、細胞増殖抑制剤)又は腫瘍関連抗原に対する抗体等の1つ以上の更なる有効成分と組み合わせて投与されてもよい。
【0184】
ある態様では、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子との上述の本発明の組合せは、養子細胞療法と、好ましくは、CART細胞療法と、又はインビトロで増殖された腫瘍浸潤T細胞の注入と組み合わされてもよい。養子細胞療法(「細胞免疫療法」としても知られる)は、ヒト免疫細胞を癌の治療に用いる。前記免疫細胞は、好ましくは自家細胞(即ち、細胞のインビトロ処理後にその細胞を受け取る同じ患者から分離される細胞)であるが、同種細胞(即ち、他のヒト患者から分離される細胞)であってもよい。分離後、前記免疫細胞は、インビトロで増殖及び/又は(例えば、抗腫瘍効果を強化するため)遺伝子操作される。養子細胞療法の例としては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、遺伝子改変T細胞受容体(TCR)療法、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法、及びナチュラルキラー(NK)細胞療法が挙げられる。
【0185】
好ましくは、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物又は前記ウイルス粒子とからなる、前述の本発明の組合せは、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、遺伝子改変T細胞受容体(TCR)療法、又はキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法等の養子T細胞療法と組み合わされてもよい。
【0186】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法において、既に患者の腫瘍に浸潤している自然発生するT細胞が捕獲される。前記腫瘍浸潤T細胞を活性化及び増殖した後、多数の活性化された前記T細胞が患者に再注入される。
【0187】
遺伝子改変T細胞受容体(TCR)療法において、T細胞は、遺伝子改変T細胞受容体(TCR)を導入して前記細胞が特異癌抗原を標的とするために、インビトロで遺伝子改変される。これにより、各患者の腫瘍に最適な標的を選択し、異なる種類のT細胞が遺伝子操作され、更に治療を改善し、個々人に合わせてパーソナライズできる。
【0188】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法において、CARの主要な利点は、抗原がMHCを介して癌細胞表面に存在していない場合であっても、癌細胞に結合できるCARの能力であり、これにより、T細胞からの攻撃に対して、前記癌細胞をより脆弱なものとすることができる。CART細胞療法は、養子移植されたT細胞を直接、腫瘍細胞に誘導するため、効果的で恒久的な抗腫瘍応答を提供する。前記CARは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の発現とは独立して、前記CARが移植された細胞に、細胞表面抗原への高い結合親和性を与え、屈強なT細胞活性及び抗腫瘍応答を引き起こす。
【0189】
養子細胞療法において、(i)前記免疫チェックポイントモジュレーターと、(ii)前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子との、上述の本発明の組合せの投与は、(前記(T)細胞のインビトロ処理後)前記(T)細胞が患者に投与されるのと同日に開始されてもよい。これは、本発明の組合せの前記2つの成分(i)及び(ii)の少なくとも1つ(例えば、上述された前記ATP加水分解酵素、前記核酸、前記宿主細胞、前記微生物、又は前記ウイルス粒子)が、患者がインビトロ処理後の(T)細胞を受け取るのと同日に、初めて、投与されることを意味する。或いは、本発明の組合せの前記2つの成分(i)及び(ii)の少なくとも1つ(又は両者)は、患者がインビトロ処理後の(T)細胞を受け取る前に、初めて投与されてもよい。この場合、本発明の組合せを用いた治療は、患者がインビトロ処理後の(T)細胞を受け取る間、継続されていてもよい。本発明の組合せの前記2つの成分(i)及び(ii)の少なくとも1つ(又は両者)を、患者がインビトロ処理後の(T)細胞を受け取る後に、初めて投与することも可能である。特に、本発明の組合せの前記2つの成分(i)及び(ii)の両者が、患者がインビトロ処理後の(T)細胞を受け取る後に、初めて投与される場合、インビトロ処理後の(T)細胞の投与から、本発明の組合せの前記2つの成分(i)及び(ii)の最初の投与までの期間は2週間を超えないのが好ましく、好ましくは、1週間を超えなく、より好ましくは、5日を超えなく、更により好ましくは、2又は3日を超えない。
以下では、添付図面の簡単な説明が与えられる。これらの図面は、本発明をより詳細に説明することを意図している。しかし、これらの図面は、本発明の主題を何ら限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0190】
図1図1は、ペリプラズムATP-ジホスホヒドロラーゼ(アピラーゼ)をコードするphoN2遺伝子を有するpHND10プラスミドのマップを示す。
図2図2は、野生型phon2タンパク質のアミノ酸配列(アピラーゼ;配列番号1)を示し、機能喪失型アイソフォームにおけるR192P置換の位置(配列番号2)を示す。
図3図3は、pHND10プラスミドの作成に用いられるphoN2遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。
図4図4は、実施例2における、腫瘍サイズの経時的な発達を示す。1×10のB16-OVAメラノーマ細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(B16-OVA)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr又はE.coli pHND19(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を経管投与された。実験の終了時点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=15(B16-OVA);19(B16-OVA+aPDL1);20(B16-OVA+aPDL1+E.coli pHND19又はE.coli pAPYR)。***p<0.001、****p<0.0001。
図5図5は、実施例2における生存率を示す。1×10のB16-OVAメラノーマ細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(B16-OVA)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr又はE.coli pHND19(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与され、生存がモニタリングされた。生存曲線の統計分析にはマンテル・コックス(Mantel-Cox)ログランク検定が適用された。n=18(B16-OVA);20(B16-OVA+aPDL1及びB16-OVA+aPDL1+E.coli pHND19又はE.coli pAPYR)。p<0.05、**p<0.01。
【0191】
図6図6は、実施例3における、腫瘍サイズの経時的な発達を示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr又はE.coli pHND19(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=15(MC38);22(MC38+aPDL1);23(MC38+aPDL1+E.coli pHND19);24(MC38+aPDL1+E.coli pAPYR)。**p<0.01、***p<0.001。
図7図7は、実施例3における生存率を示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr又はE.coli pHND19(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与され、生存がモニタリングされた。生存曲線の統計分析にはマンテル・コックス(Mantel-Cox)ログランク検定が適用された。n=9(MC38);16(MC38+aPDL1及びMC38+aPDL1+E.coli pHND19);15(MC38+aPDL1+E.coli pAPYR)。*p<0.05。
図8図8は、実施例4における、腫瘍サイズの経時的な発達を示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、及び14日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli Nissle1917又はE.coli Nissle1917pApy(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析には二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=9(MC38);11(MC38+aPDL1及びMC38+aPDL1+E.coli Nissle1917);12(MC38+aPDL1+E.coli Nissle1917pApyr)。*p<0.05。
図9図9は、実施例5における、腫瘍サイズの経時的な発達を示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、及び14日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr又は100μlのペリプラズム抽出物(APY抽出物)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=5(MC38及びMC38+aPDL1);6(MC38+aPDL1+APY抽出物又はE.coli pAPYR)。**p<0.01。
図10図10は、実施例6において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)又はE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、TCRβCD8TILのCXCR5発現をフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムで示す。数値は、表示されているマーカーを超える陽性細胞のパーセンテージを示す。
【0192】
図11図11は、実施例6において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)又はE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、TCRβCD8TIL中のCXCR5細胞の頻度、及びフローサイトメトリーで平均蛍光強度(MFI)として計測されたCXCR5発現レベルの統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。****p<0、0001。したがって、E.coli pApyrの投与はCXCR5細胞の増加及びCD8TIL中のCXCR5発現レベルの上昇をもたらす。
図12図12は、実施例6において、抗PD-L1及びE.coli pApyrにより治療されたマウスのMC38腫瘍内の電子的ゲーティングにより得られたCD8TIL集団における、CXCR5(空曲線)及びCXCR5(灰色曲線)サブセットでのTCF1発現を代表的なフローサイトメトリーヒストグラムで示している。右側は、MC38腫瘍を有し、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19又はE.coli pApyrにより治療されたマウスのCD8TIL中のCXCR5及びCXCR5細胞におけるMFIの統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。****p<0.0001。
図13図13は、実施例7において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたマウスにおけるCXCR5発現のため、回腸パイエル板のTCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムを示す。数値は、表示されているマーカーを超える陽性細胞のパーセンテージを示す。
図14図14は、実施例7において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたマウスにおける、回腸パイエル板のTCRβCD8細胞中の回腸パイエル板(PP)におけるCXCR5細胞の頻度、及びMFIとして計測されたCXCR5発現レベルの統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図15図15は、実施例8において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されMC38腫瘍を有するマウスにおけるICOS発現を、TCRβCD8TILのフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムにて示す。数値は、表示マーカーを超える陽性細胞のパーセンテージを示す。
【0193】
図16図16は、実施例8において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、フローサイトメトリーで検出されたTCRβCD8TIL中のICOS細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。***p<0.001。したがって、E.coli pApyrの投与は、CD8TILにおけるICOS細胞の増加をもたらす。
図17図17は、実施例9において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyr.で治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおけるIFN-γ分泌を、TCRβCD8TILのフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムにて示す。数値はIFN-γ分泌細胞のパーセンテージを示す。
図18図18は、実施例9において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、フローサイトメトリーで検出されたTCRβCD8TIL中のIFN-γ分泌細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05、**p<0.01。したがって、E.coli pApyrの投与は、CD8TILにおけるIFN-γ分泌細胞の増加をもたらす。
図19図19は、実施例9において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、IL-21分泌を、TCRβCD8TILのフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムにて示す。数値は、IL-21分泌細胞のパーセンテージを示す。
図20図20は、実施例9において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、フローサイトメトリーで検出されたTCRβCD8TIL中のIL-21分泌細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05。したがって、E.coli pApyrの投与は、CD8TILにおけるIL-21分泌細胞の増加をもたらす。
【0194】
図21図21は、実施例10において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたマウスにおけるIL-21分泌を、パイエル板(PP)からのTCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラムにて示す。数値はIL-21分泌細胞のパーセンテージを示す。
図22図22は、実施例10において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたマウスの回腸PPからのTCRβCD8細胞中のIL-21分泌細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。**p<0.01。したがって、E.coli pApyrの投与は、回腸パイエル板から分離されたCD8細胞におけるIL-21分泌細胞の増加をもたらす。
図23図23は、実施例11において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおけるCD11cMHCII細胞を、CD3細胞のフローサイトメトリー上で電子的にゲーティングしたプロットを示す。数値は、表示された象限(quadrant)における陽性細胞のパーセンテージを示す。
図24図24は、実施例11において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、フローサイトメトリーで検出されたCD3細胞中のCD11cMHCII細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。**p<0.01、***p<0.001。したがって、E.coli pApyrの投与は、CD3腫瘍浸潤白血球におけるのCD11cMHCII細胞の増加をもたらす。
図25図25は、実施例11において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおけるCD103CD70細胞を、CD11cMHCII細胞の代表的なフローサイトメトリー上で電子的にゲーティングしたプロットを示す。数値は、表示された象限(quadrant)における陽性細胞のパーセンテージを示す。
【0195】
図26図26は、実施例11において、抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pHND19E.coli p19)、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおける、フローサイトメトリーで検出されたCD11cMHCII細胞中のCD103CD70細胞の頻度の統計分析を示す。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。**p<0.01。したがって、E.coli pApyrの投与は、CD11cMHCII腫瘍浸潤細胞におけるCD103CD70細胞の増加をもたらす。
図27図27は、実施例12において、E.coli pApyrが、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける、抗PD-L1療法を組み合わされた腫瘍特異CD8細胞の養子移植の治療成績を向上することを示す。0日目、MC38結腸直腸腺癌細胞を発現するOVA(1×10)がマウスの皮下に移植された。8日目、8×10のTCRトランスジェニック抗OVA CD8 OT-I T細胞がマウスの静脈内に注射された。10日目、14日目、17日目、及び20日目に、マウスは、100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、8日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=7、***p<0.001。
図28図28は、実施例13において、E.coli pApyrが、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける、抗CTLA4療法の治療成績を向上することを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗CTLA4抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=5(MC38);6(MC38+aCTLA4);7(MC38+aCTLA4+E.coli pAPYR)。**p<0.01、***p<0.001。
図29図29は、実施例13において、E.coli pApyrが、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける、抗CTLA4投与による生存期間の改善を示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗CTLA4抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与され、生存がモニタリングされた。生存曲線の統計分析のためのマンテル・コックス(Mantel-Cox)ログランク検定が適用された。n=5(MC38);6(MC38+aCTLA4);7(MC38+aCTLA4+E.coli pAPYR)。p<0.05、**p<0.01。
図30図30は、実施例14において、E.coli pApyrが、MC38腫瘍を有するマウスにおける、抗PD-L1及び抗CTLA4併用療法の治療成績を向上することを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体と100μgの抗CTLA4抗体とを含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=5(MC38);7(MC38+aPD-L1+aCTLA4);7(MC38+aPD-L1+aCTLA4+E.coli pAPYR)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0196】
図31図31は、実施例14において、MC38腫瘍を有するマウスにおける抗PD-L1及び抗CTLA4併用療法により、E.coli pApyrが生存期間を改善させることを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体と100μgの抗CTLA4抗体と含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与され、生存がモニタリングされた。生存曲線の統計分析のためのマンテル・コックス(Mantel-Cox)ログランク検定が適用された。n=5(MC38);7(MC38+aPD-L1+aCTLA4);7(MC38+aPD-L1+aCTLA4+E.coli pAPYR)。**p<0.01、***p<0.001。
図32図32は、実施例15において、E.coli pApyrが、CT26結腸直腸腺癌を有するBalb/cマウスにおける抗PD-L1治療成績を向上することを示す。1×10のCT26結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(CT26)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr、又は空ベクターE.coli pBAD28による形質転換体(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=12(CT26);19(CT26+aPDL1+E.coli pBAD28);20(CT26+aPDL1+E.coli pAPYR)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図33図33は、実施例15において、CT26結腸直腸腺癌を有するBalb/cマウスにおける抗PD-L1により、E.coli pApyrは生存期間を改善することを示す。1×10のCT26結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(CT26)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr又はE.coli pBAD28(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与され、生存がモニタリングされた。生存曲線の統計分析のためのマンテル・コックス(Mantel-Cox)ログランク検定が適用された。n=12(CT26);19(CT26+aPDL1+E.coli pBAD28);20(CT26+aPDL1+E.coli pAPYR)。p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
図34図34は、実施例16において、E.coli pApyrの投与が、CD8TIL画分におけるCCR9細胞を増加させることを示す。(A)抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pBAD28又はE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスにおけるCCR9の発現を、TCRβCD8TILのフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラム。(B)示されたマウスにおけるTCRβCD8TIL中のCCR9細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。***p<0、001。
図35図35は、実施例17において、E.coli pApyrの投与が、回腸パイエル板におけるCD8T細胞中のKi-67細胞の増加をもたらすことを示す。(A)抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pBAD28又はE.coli pApyrで治療されたマウスにおけるKi-67発現を、TCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラム。数値は、表示されたマーカーにおける陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)示されたマウスにおけるTCRβCD8細胞中の回腸パイエル板におけるKi-67細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05、**p<0.01。
【0197】
図36図36は、実施例18において、E.coli pApyrの投与が、回腸パイエル板におけるCD8T細胞中のT-bet細胞の増加をもたらすことを示す。(A)抗PD-L1、抗PD-L1及びE.coli pBAD28又はE.coli pApyrで治療されたマウスにおけるT-bet発現を、TCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラム。数値は、表示されたマーカーにおける陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)示されたマウスにおけるTCRβCD8細胞中の回腸パイエル板におけるT-bet細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。**p<0、01、***p<0、001。
図37図37は、実施例19において、Lactococcus lactis.nisAnisin A誘導プロモーター;usp45遺伝子の1本鎖配列(SP usp45);S.flexneriアピラーゼ遺伝子(phoN2);複製遺伝子C(repC);複製遺伝子A(repA);クロラムフェニコール耐性遺伝子(camR(cat))を形質転換するのに用いられる、phoN2遺伝子をコードするアピラーゼを有するpApyrプラスミドのマップを示す。
図38図38は、実施例20において、Lactococcus lactis pNZ-Apyrが、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける抗PD-L1療法の治療成績を向上することを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010L.lactis pNZ-Apyr又は空ベクターL.lactis pNZによる形質転換体(示された通り)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=9(MC38);6(MC38+aPDL1);17(MC38+aPDL1+L. lactis pNZ);20(MC38+aPDL1+L.lactis pNZ-Apyr)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図39図39は、実施21における、EcNゲノムにおけるS.flexneri phoN2遺伝子の組み込みのためのDNA断片挿入を示す。malPは、マルトデキストリンホスホリラーゼのためのEcN遺伝子であり;catは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのためのE.coli遺伝子であり;phoN2は、アピラーゼのためのS.flexneri遺伝子であり;malTは、マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤のためのEcN遺伝子であり;FRTは、フリッパーゼ認識標的配列であり;Pcatは、cat遺伝子のプロモーターであり;PproDは、phoN2遺伝子のプロモーターであり;BBa_BB0032 RBSは、phoN2遺伝子のリボソーム結合部位であり;TphoN2は、phoN2遺伝子の転写ターミネーターである。
図40図40は、実施例21におけるEcN malP遺伝子部位のヌクレオチド配列(配列番号4)を示す。malP終止コドンは太字で示されている。
【0198】
図41図41は、実施例21における、EcN malT遺伝子部位のヌクレオチド配列(配列番号5)を示す。malT開始コドンは太字で示されている。
図42図42は、実施例21における、前記PproDプロモーター、前記BBa_BB0032 RBS、前記S.flexneri phoN2遺伝子、及び前記phoN2転写ターミネーターを含むDNA断片のヌクレオチド配列(配列番号6)を示す。前記PproD配列には下線が付与されている。前記BBa_BB0032 RBSはイタリック体で示されている。前記phoN2開始及び終止コドンは太字で示されている。前記phoN2転写ターミネーターは太字のイタリック体で示されている。
図43図43は、実施例21において、FRT配列が隣接(flanked)されたE.coli cat遺伝子を含むDNA断片のヌクレオチド配列(配列番号7)を示す。前記cat開始及び終止コドンは太字で示されている。前記FRT配列はイタリック体で示されている。
図44図44は、実施例21において、EcN::phoN2malP-phoN2-malT組換え遺伝子部位を示す。malPはマルトデキストリンホスホリラーゼのためのEcN遺伝子を示し;phoN2はアピラーゼのためのS.flexneri遺伝子を示し;malTはマルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性剤のためのEcN遺伝子を示し;FRTはフリッパーゼ認識標的配列を示し;PproDphoN2遺伝子のプロモーターを示し;BBa_BB0032 RBSはphoN2遺伝子のリボソーム結合部位を示し;TphoN2phoN2遺伝子の転写ターミネーターを示す。
図45図45は、実施例21において、EcN::phoN2ペリプラズム抽出物におけるアピラーゼ検出を示す。EcN及びEcN::phoN2クローン1(cl 1)菌は、LB培地において37℃で2.5時間培養され、遠心分離により集菌された。各培養菌のペリプラズム断片は、トリクロロ酢酸(TCA)で分離及び沈殿され、Laemmli緩衝液で安定化され、ポリクローナル抗アピラーゼ・ウサギ血清を用いたウェスタンブロット法により分析された。
【0199】
図46図46は、実施例21において、EcN::phoN2ペリプラズム抽出物によるATPの用量依存分解性を示す。EcN及びEcN::phoN2クローン1(cl 1)菌は、LB培地において37℃で6時間培養され、遠心分離により集菌された。各培養菌のペリプラズム断片は、分離され、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水で透析され、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水で段階希釈された。ペリプラズム抽出物(PE)におけるアピラーゼ活性は、1倍(1×)のリン酸緩衝生理食塩水対する50μMのATPの分解のパーセンテージとして計測された。PEにおけるアピラーゼ活性は、組換えホタルルシフェラーゼ及びその基質であるD-ルシフェリンを用いたATP依存性生物発光アッセイにより、製造業者のプロトコル(Life Technologies Europe B.V.)に従って評価された。
図47図47は、実施例22において、E.coli Nissle 1917::phoN2がMC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける抗PD-L1療法の治療成績を向上させること示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli Nissle 1917(EcN)又はphoN2遺伝子がゲノムに組み込まれたE.coli Nissle 1917(EcN::phoN2)、或いは、リン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=5(MC38);7(MC38+aPD-L1+EcN);6(MC38+aPD-L1+EcN::phoN2)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図48図48は、実施例23における、pBAD-OVAプラスミドの模式図を示す。pBADはアラビノース誘導プロモーターを示し;ovaはcDNAコードニワトリオボアルブミンを示し;araCはアラビノースオペロン調節遺伝子;f1 oriはf1バクテリオファージ複製起点を示し;pBR322 oriはpBR322プラスミド複製起点を示し;kanRはカナマイシン耐性遺伝子を示す。
図49図49は、実施例23にいて、pBAD-OVAプラスミドの生成に用いられるニワトリオボアルブミンをコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号8)を示す。
図50図50は、実施例23における、ニワトリオボアルブミンタンパク質のアミノ酸配列(配列番号9)を示す。
【0200】
図51図51は、実施例24において、弱毒Salmonella ThypimuriumpApyr-OVAによる免疫化が、MC38-OVA結腸直腸腺癌を有するマウスにおける抗PD-L1療法の治療成績を向上させることを示す。マウスは、1×10のオボアルブミンをトランスフェクションされたMC38結腸直腸腺癌(MC38-OVA)が皮下接種され、腫瘍生着から5日目及び10日目に、1×10OVA発現Salmonella ThypimuriumpBAD-OVA(S.TmpBAD-OVA)又はアピラーゼ/OVA発現Salmonella ThypimuriumpApyr-OVA(S.TmpApyr-OVA)を経口経管投与することにより免疫化された。腫瘍接種から8日目、11日目、及び14日目に、マウスは100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。腫瘍の存在は17日目に確立された。腫瘍拒絶の統計分析のため、カイ二乗検定が適用された。N=9(S.TmpBAD-OVA);9(S.TmpApyr-OVA)。p<0.05。
図52図52は、実施例25において、リンパ器官からのT細胞放出の遮断が、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおけるE.coli pApyrによる治療成績の向上を無効化させることを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種された。腫瘍接種から7日目に、マウスは、リン酸緩衝生理食塩水又は1mg/kgのFTY720を腹腔内投与され、8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=10(MC38);15(MC38+aPD-L1);15(MC38+aPD-L1+FTY720);15(MC38+aPD-L1+E.coli pApyr);17(MC38+aPD-L1+E.coli pApyr+FTY720)。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図53図53は、実施例26において、リンパ器官からのT細胞放出の遮断が、E.coli pApyrの投与により誘起された、CD8中のCCR9及びICOS細胞の増加を消失させることを示す。(左)MC38腫瘍を有し、抗PD-L1、又は抗PD-L1及びFTY720で治療されたマウスにおける、TCRβCD8TIL中のCCR9細胞の頻度の統計分析。マウスは、また、腫瘍接種から5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。(右)同マウスにおいて、TCRβCD8TIL中のICOS細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。**p<0.01、***p<0.001。
図54図54は、実施例27において、MC腫瘍を有し、抗PD-L1で治療されたマウスへのE.coli pApyrの投与が、回腸細菌叢のIgA被覆の増加をもたらすことを示す。(A)側方散乱光(SSC-A)のためのSYTO BCグリーン蛍光核酸色素(Syto)染色と、IgA被覆(IgA)検出の為の抗マウスIgA抗体染色とを施された細菌のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした等高線プロットを示す。細菌は、MC38腫瘍を有し、抗PD-L1(Ctrl)、又は抗PD-L1及びE.coli pBAD28(+E.coli pBAD28)、又は抗PD-L1及びE.coli pApyr(+E.coli pApyr)で治療されたマウスの回腸から、実験終了時に分離された。数値は、表示された象限(quadrant)における陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)示されたマウスの回腸におけるIgA結合細菌の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。***p<0.001。
図55図55は、実施例28において、E.coli pApyrの投与による、パイエル板におけるCD8T細胞中のKi-67細胞の増加がIgAに依存することを示す。(左)抗PD-L1(Ctrl)又は抗PD-L1及びE.coli pApyr(+E.coli pApyr)で治療された野生型及びIgA -/-C57Bl/6マウスからのパイエル板におけるKi-67発現を、TCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラム。数値は、表示マーカー内の陽性細胞のパーセンテージを示す。(右)示されたマウスにおけるTCRβCD8細胞中の回腸パイエル板(PP)におけるKi-67細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05。
【0201】
図56図56は、実施例29において、E.coli pApyrの投与による、パイエル板におけるCD8T細胞中のT-bet細胞の増加が、IgAに依存することを示す。(左)抗PD-L1(Ctrl)又は抗PD-L1及びE.coli pApyr(+E.coli pApyr)で治療された野生型及びIgA -/-C57Bl/6マウスからのパイエル板におけるT-bet発現を、TCRβCD8細胞のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした代表的なヒストグラム。数値は、表示マーカー内の陽性細胞のパーセンテージを示す。(右)示されたマウスにおけるTCRβCD8細胞中の回腸パイエル板(PP)におけるKi-67細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05。
図57図57は、実施例30において、E.coli pApyrが、MC38結腸直腸腺癌を有するIgA -/-マウスにおける抗PD-L1療法の治療成績を向上しないことを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞が、野生型及IgA -/-C57Bl/6マウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、リン酸緩衝生理食塩水(MC38)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=3(MC38);7(IgA -/-中のMC38);7(MC38+aPDL1+E.coli pApyr);11(IgA -/-中のMC38+aPDL1+E.coli pApyr)。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図58図58は、実施例31において、IgAが欠如したマウスにおけるE.coli pApyrの投与による、CD8TIL中のCCR9及びICOS細胞の増加の欠如を示す。(左)MC38腫瘍を有し、抗PD-L1により治療された野生型及びIgA -/-C57Bl/6マウスにおけるTCRβCD8TIL中のCCR9細胞の頻度の統計分析。マウスは、また、腫瘍接種後5日目から毎日、1×1010E.coli pApyr(示された通り)又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。(右)同マウスにおけるTCRβCD8TIL中のICOS細胞の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05。
図59図59は、実施例32において、回腸におけるIgA被覆細菌の頻度が、MC38結腸直腸腺癌を有し、抗PD-L1で治療されたマウスにおける腫瘍サイズと相関関係を有することを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び18日目に、100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pBAD28(黒色円)又はE.coli pApyr(灰色円)を経管投与された。腫瘍生着から20日目における、腫瘍サイズと、回腸中のIgAh被覆細菌のパーセンテージとの相関関係。相関係数rと対応するP値とは、ノンパラメトリック・スピアマン検定(Spearman test)により計算された。グラフにおける各点は個々のマウスを表す。
図60図60は、実施例32において、回腸におけるIgA被覆細菌の頻度が、MC38結腸直腸腺癌を有し、抗PD-L1で治療されたマウスにおける腫瘍サイズと相関関係を有することを示す。1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞がマウスに皮下接種され、腫瘍接種から8日目、11日目、14日目、及び17日目に、100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli Nissle 1917(EcN)(黒色円)又はShigella flexneriからの遺伝子(phoN2)をコードするアピラーゼが組み込まれた染色体を有するEcN Ecn::phoN2)(灰色円)を経管投与された。腫瘍生着から18日目における、腫瘍サイズと、回腸中のIgA被覆細菌のパーセンテージとの相関関係。相関係数rと対応するP値とは、ノンパラメトリック・スピアマン検定(Spearman test)により計算された。グラフにおける各点は個々のマウスを表す。
【0202】
図61図61は、実施例33において、バンコマイシンの投与が、MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける、E.coli pApyrによる治療成績の向上を撤廃させることを示す。マウスは、バンコマイシン(200mg/L)を含む飲料水により15日間(示された通り)治療され、1×10のMC38結腸直腸腺癌細胞が皮下注射された(0日目)。実験終了時まで、飲料水中のバンコマイシンは維持された。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(MC38、及びMC38+バンコマイシン)又は100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。マウスは、また、5日目から実験終了まで毎日、1×1010E.coli pBAD28又はE.coli pApyr(示された通り)、又はリン酸緩衝生理食塩水を経管投与された。実験の終了点まで、腫瘍成長がモニタリングされた。腫瘍成長の統計分析のための二元配置分散分析(two-way ANOVA)が適用された。n=4(MC38);4(MC38+バンコマイシン);5(MC38+aPD-L1+E.coli pBAD28);7(MC38+aPD-L1+E.coli pBAD28+バンコマイシン);7(MC38+aPD-L1+E.coli pApyr);8(MC38+aPD-L1+E.coli pApyr+バンコマイシン)。p<0.05、**p<0.01。
図62図62は、実施例34において、バンコマイシンの投与が、E.coli pApyr.で治療されたマウスの回腸におけるIgA被覆細菌に影響を与えることを示す。(左)A)側方散乱光(SSC-A)のためのSYTO BCグリーン蛍光核酸色素(Syto)染色と、IgA被覆(IgA)検出の為の抗マウスIgA抗体染色とを施された細菌のフローサイトメトリーを電子的にゲーティングした等高線プロットを示す。細菌は、MC38腫瘍を有し、飲料水におけるバンコマイシンが(示された通り)存在又は不在の状況で抗PD-L1及びE.coli pBAD28(+E.coli pBAD28)、又は抗PD-L1及びE.coli pApyr(+E.coli pApyr)で治療されたマウスの回腸から、実験終了時に分離された。数値は、表示された象限(quadrant)における陽性細胞のパーセンテージを示す。(右)示されたマウスの回腸におけるIgA結合細菌の頻度の統計分析。両側マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定。p<0.05、**p<0.01。
【実施例
【0203】
以下に、本発明の様々な実施形態及び態様を説明する具体例を提示する。しかし、本発明は、本明細書に記載する特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。以下の調製及び実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施することができるように与えられるものである。しかし、本発明は、例示される実施形態によって範囲が限定されるものではなく、前記実施形態は、本発明の1つの態様を説明することのみを意図し、機能的に等価な方法は、本発明の範囲内である。実際、本明細書に記載するものに加えて本発明の様々な変形例は、上述の記載、添付図面、及び以下の実施例から当業者に容易に明らかになる。すべてのかかる変形例は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【0204】
実施例1:アピラーゼ発現細菌の設計及び作成
アピラーゼを発現する細菌を得るため、ヘマグルチニン(HA)断片をタグとして有するShigella flexneri(配列番号1)のペリプラズムATPジホスホヒドラーゼ(アピラーゼ)を発現する、phoN2::HA融合の全長を、PBAD L-アラビノース誘導プロモーターの制御下で、プラスミドpBAD28(ATCC 8739387402)のポリリンカー部位にクローニングした。これにより、概ね、下記の論文に従って作成された。Santapaola, D., Del Chierico, F., Petrucca, A., Uzzau, S., Casalino, M., Colonna, B., Sessa, R., Berlutti, F., and Nicoletti, M. (2006);Apyrase, the product of the virulence plasmid-encoded phoN2 (apy) gene, is necessary for proper unipolar IcsA localization and for efficient intercellular spread; Journal of bacteriology 188, p。1620-1627.
【0205】
コントロールとして、pHND19プラスミドを概ね下記の論文に従って作成した。Scribano、 D.、 Petrucca、 A.、 Pompili、 M.、 Ambrosi、 C.、 Bruni、 E.、 Zagaglia、 C.、 Prosseda、 G.、 Nencioni、 L.、 Casalino、 M.、 Polticelli、 F.、 et al. (2014);Polar localization of PhoN2, a periplasmic virulence-associated factor of Shigella flexneri, is required for proper IcsA exposition at the old bacterial pole.;PloS one 9、 e90230。pHND10プラスミドとは異なり、pHND19プラスミド(コントロール)は、R192P置換を有するアピラーゼの機能喪失型アイソフォームをコードするphoN2 R192P::HA融合を含む。
【0206】
図1は、ペリプラズムATP-ジホスホヒドロラーゼ(アピラーゼ)をコードするphoN2遺伝子を有するpHND10プラスミドのマップを示す。このマップは、通常、pHND19コントロールプラスミドにも適用され、唯一の違いは、R192P置換を有するアピラーゼの機能喪失型アイソフォームが、野生型アピラーゼの代わりにコードされていることである。図2は野生型phon2タンパク質のアミノ酸配列(アピラーゼ;配列番号1)を示し、機能喪失型アイソフォーム(配列番号2)におけるR192P置換の位置を示す。pHND10プラスミドを生成するのに用いられるphoN2遺伝子のヌクレオチド配列が図3に示される(配列番号3)。
【0207】
Escherichia coli DH10Bは、pHND10(E.coli pApyr)又はpHND19R192PE.coli pHND19)で形質転換され、L-アラビノース(0.03%)及びアンピシリン(100μg/ml)が添加されたLB培地で増殖された。
【0208】
実施例2:アピラーゼを発現する細菌がメラノーマの抗PD-L1療法を向上する。
メラノーマ治療における、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされた、アピラーゼを発現する細菌(実施例1に記載のようにして得られた)の投与の効果を調査するため、オボアルブミンでトランスフェクションされたB16F10メラノーマ細胞(B16-OVA)をC57BL/6マウスに皮下移植し、腫瘍ネオ抗原の発現を模倣した。方法は下記の論文に概ね従った。Bellone、 M.、 Cantarella、 D.、 Castiglioni、 P.、 Crosti、 M.C.、 Ronchetti、 A.、 Moro、 M.、 Garancini、 M.P.、 Casorati、 G.、 and Dellabona、 P. (2000);Relevance of the tumor antigen in the validation of three vaccination strategies for melanoma;J Immunol 165、 2651-2656.簡潔には、メラノーマB16F10(B16-OVA)細胞を発現するオボアルブミンは10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長している時点で収穫され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)にて皮下移植された。
【0209】
抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、実施例1で記載したように、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)又はその機能消失アイソフォームであるR192Pアミノ酸置換酵素を発現するE.coliE.coli pHND19)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(clone:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)を、マウスに腹腔内接種した。示されたEscherichia coli形質転換体(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0210】
結果を図4に示す。驚くべきことに、抗PD-L1単独又はコントロールプラスミドで形質転換されたE.coliE.coli pHND19)と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の顕著な減弱が示された。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者は、アピラーゼ酵素活性が、免疫チェックポイント阻害剤での治療中に腸内生態系を調整し、能力のある抗腫瘍応答の形成を向上させたと考える。
【0211】
マウスの生存率が図5に示される。B16-OVA腫瘍生着後のマウスの生存期間の分析により、抗PD-L1単独又はコントロールE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスにおいて生存期間が有意に延長したことが明らかとなった。
【0212】
実施例3:アピラーゼを発現する細菌が結腸直腸腺癌の抗PD-L1療法を向上する。
異なる腫瘍モデルにおける、免疫チェックポイント阻害剤が組み合わされた、アピラーゼを発現する細菌(実施例1に記載のようにして得られた)の投与の効果を調査するため、結腸直腸腺癌MC38細胞がC57BL/6マウスに皮下移植された。
【0213】
異なる腫瘍細胞(MC38結腸直腸腺癌細胞)が用いられたという相違以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0214】
実施例2と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、実施例1で記載したように、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)又は機能喪失アイソフォームであるR192Pアミノ酸置換酵素を発現するE.coliE.coli pHND19)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)を、マウスに腹腔内接種した。示されたEscherichia coli形質転換体(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0215】
結果を図6に示す。実施例2と同様、抗PD-L1単独又はコントロールプラスミドで形質転換されたE.coliE.coli pHND19)と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が示された。
【0216】
マウスの生存率が図5に示される。MC38腫瘍生着後のマウスの生存の分析により、抗PD-L1単独又はコントロールE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスにおいて生存期間が有意に延長したことが明らかとなり、よって、アピラーゼを発現する細菌の投与が免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の効能を向上することが確認された。
【0217】
実施例4:アピラーゼを発現するプロバイオティクス細菌が腫瘍の抗PD-L1療法を向上する。
プロバイオティクス微生物によるアピラーゼ伝搬を調査するため、野生型アピラーゼを発現するEscherichia coli Nissle 1917株のプロバイオティクス細菌を、概ね実施例1に記載されているようにして得た。簡潔には、実施例1に記載されたように、Escherichia coli Nissle 1917はpHND10(Nissle pApyr)で形質転換され、L-アラビノース(0.03%)及びアンピシリン(100μg/ml)を添加したLB培地で培養された。
【0218】
アピラーゼ(Nissle pApyr)を発現するEscherichia coli Nissle 1917株のプロバイオティクスは、実施例3に記載されているようにMC38腫瘍モデルで、即ち、MC38腫瘍を有するマウスに対し抗PD-L1抗体を組み合わせて、調査され、未処置MC38コントロール群、抗PDL-1のみが投与されたMC38コントロール群、及び抗PDL-1と、E.coli Nissle 1917(アピラーゼ発現のためのpHND10なし)とが投与されたMC38コントロール群と比較した。
【0219】
結果を図8に示す。抗PD-L1単独の治療効果の改善は認められなかった。しかし、E.coli Nissle 1917におけるphoN2の発現は、抗PD-L1又は、抗PD-L1及びE.coli Nissle 1917で治療されたマウスに対し、腫瘍成長の有意な阻害をもたらした。この結果は、プロバイオティクス微生物を介したアピラーゼ伝搬が、癌免疫療法の治療成績を向上したことを示している。
【0220】
実施例5:アピラーゼを含む組成物の投与が腫瘍モデルにおける抗PD-L1療法を向上する。
アピラーゼを発現する生菌の投与が上記実施例2~4で得られた効果の要件であるのか、又はアピラーゼの投与で十分であるのかを調査するため、アピラーゼを含む組成物、即ち、E.coli pApyrからのペリプラズム抽出物の投与が、上述のように、MC38腫瘍モデルにおいて調査された。
【0221】
ペリプラズム抽出物を用意するため、上述のように(実施例1参照)E.coli pApyrが得られ、培養され、遠心分離により集菌された。洗浄後、細菌は、30mMのTris-HCl(pH8.0)、4mMのEDTA、1mMのPMSF、20%のショ糖、及び0.5mg/mlのリゾチームと共にリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁(1010CFU/ml)され、30℃で2分間インキュベートされた。MgCl(最終10mM)が前記細菌溶液に添加され、インキュベーションが30℃で1時間継続された。インキュベーション期間の終了時に細菌懸濁液を4℃で10分間、11,000×gで遠心分離し、上清を保存した(ペリプラズム抽出物)。
【0222】
結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(clone:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)を、マウスに腹腔内接種した。100μlのペリプラズム抽出物又はE.coli pApyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0223】
結果を図9に示す。実施例2及び3と同様、抗PD-L1単独で治療されたマウスと比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が示された。抗PD-L1とアピラーゼを含む組成物、即ち、上述のペリプラズム抽出物との組合せは、E.coli pApyrで治療されたマウスで見られるように、腫瘍成長の同様な阻害をもたらす。これは、アピラーゼタンパク質の投与が、免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の効能を高めるのに十分であることを示す。
【0224】
実施例6:E.coli pApyr の投与がCD8 TILのうちのCXCR5 細胞の増加をもたらす。
C57Bl/6マウスのMC38腫瘍における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の免疫表現型を分析するため、実施例3のマウスの腫瘍性組織が消化され、白血球が濃縮された。このため、腫瘍は小さい片に裁断され、1.5mg/mlのI型コラゲナーゼ(Sigma)、100μg/mLのDNase I(Roche)、及び5%のFBSを含むRPMI-1640に再懸濁され、穏やかな攪拌下、37℃で45分間消化された。その後、消化物を70μmのセルストレーナーに通過させ、単一の細胞懸濁液を得た。その後、製造業者のプロトコルに従い、Percoll密度勾配によってリンパ球を濃縮した。
【0225】
CD8TILは、CD8TILの電子的なゲーティングのためにCD8及びTCRβ鎖特異的抗体と、様々な蛍光標識抗体により染色され、フローサイトメトリーで分析された。簡潔には、細胞は下記のモノクローナル抗体で染色された:ビオチン結合抗CXCR5(クローン:2G8;BD)、PE標識抗ICOS(クローン:7E.17G9;BD)、AF488標識抗TCRβ(クローン:H57-597;BioLegend)、APC標識又はAPCy7標識抗CD8α(クローン:53-6.7;eBioscience)、PeCy7標識抗CD25(クローン:PC61;BioLegend)、AF-647標識抗TCF1(クローン7F11A10;Biolegend)、PECy7標識抗CD11c(クローン:N418;BioLegend)、AF405標識抗MHC class II(クローン:M5/114.15.2;BioLegend)、ビオチン結合抗CD70(クローン:FR70;eBioscience)、及びPE標識抗CD103(クローン:2E7;BioLegend)。FITC標識ストレプトアビジンはBioLegendから、efluo405標識ストレプトアビジンはeBioscienceから購入した。細胞内染色は、BD Cytofix/Cytoperm及びPerm/Washバッファーを用いて行われ、或いは、細胞内FoxP3(FITC標識、クローン:FJK-16s;eBioscience)染色には、eBioscience FoxP3染色バッファーセットを用いて行われた。サンプルはLSRFortessa(BD Bioscience)フローサイトメーターで取得した。FlowJoソフトウェア(TreeStar)又はFACS Divaソフトウェア(BD Bioscience)を用いてデータを分析した。
【0226】
抗CXCR5抗体で染色された細胞の分析により、驚くべきことに、抗PD-L1単独又はコントロールプラスミドで形質転換されたE.coliE.coli pHND19)と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスの腫瘍におけるCXCR5CD8TILが増加していることが明らかとなった。結果を図10に示す。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者は、このTIL成分の濃縮が、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1により治療されたマウスにおいて観察された、腫瘍成長の制御の向上とより良い予後に寄与した可能性があると予想する。
【0227】
図11に示されるように、異なる動物の腫瘍におけるCXCR5CD8TILの頻度の統計分析では、抗PD-L1単独又はコントロールプラスミドで形質転換されたE.coliE.coli pHND19)と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これらの細胞の有意な増加が示された。また、CD8 TILの形質膜内のCXCR5の発現レベルをフローサイトメトリーで分析した結果では、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1を用いて治療されたマウスにおいて成長した腫瘍から分離された細胞において、平均蛍光強度(MFI)の顕著な上昇が明らかとなった。これは、免疫チェックポイント阻害剤及び細菌発現アピラーゼの併用投与によるCXCR5タンパク質発現のポジティブな制御を示している。
【0228】
CXCR5CD8細胞は、T細胞消耗の主要制御因子である転写因子TCF1の発現で特徴付けられ、前記主要制御因子はCD8T細胞において消耗促進因子を抑制してBcl6を誘導し、これにより幹細胞様の自己再生を促進する。そこで、MC38腫瘍において、電子的にゲーティングされたCD8TILのCXCR5及びCXCR5サブセットにおいて、TCF1発現が分析された。図12は、代表的なフローサイトメトリーヒストグラムを示す。TCF1は、未治療マウスの腫瘍微小環境(TME)で優位を占めるCXCR5CD8細胞と比較して、抗PD-L1及びE.coli pApyrで治療されたMC38腫瘍を有するマウスで増加しているCXCR5CD8TILにおいて発現上昇されることが分かった。
【0229】
実施例7:E.coli pApyr の投与は回腸のバイエル板におけるCD8 T細胞のうちCXCR5 細胞の増加をもたらす。
次に、T細胞を介した免疫応答が腸内生態系により調節されるので、E.coli pApyrの投与が、小腸のパイエル板(PP)のCXCR5CD8細胞に影響を与えるかどうかを調査した。パイエル板(PP)が回腸粘膜内の二次リンパ器官であり、T細胞依存性IgA応答の起点となる。PPに局在するほとんどのリンパ球は胚中心(GC)に存在し、そこで、濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞はB細胞と相互作用してB細胞の増殖、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)誘導とその結果としてIgクラススイッチ組換え(CSR)、体細胞超変異(SHM)、及び親和性成熟を促す(Crotty, S. (2011). Follicular helper CD4 T cells (TFH). Annual review of immunology 29, 621-663)。パイエル板(PP)におけるTfh細胞がGC反応及びIgA親和性成熟に必須であるため、Tfh細胞は、腸内微生物群の構成及び機能のモジュレーションに重要な役割を果たす(Kawamoto, S., Maruya, M., Kato, L.M., Suda, W., Atarashi, K., Doi, Y., Tsutsui, Y., Qin, H., Honda, K., Okada, T., et al. (2014). Foxp3(+) T cells regulate immunoglobulin A selection and facilitate diversification of bacterial species responsible for immune homeostasis. Immunity 41, 152-165)。
【0230】
この目的のため、実施例3のマウスのPPは消化され、白血球が濃縮され、概ね腫瘍性組織について実施例6で記載したように、CD8T細胞をフローサイトメトリーで分析した。
【0231】
結果を図13に示す。腫瘍組織と同様、CXCR5CD8細胞は、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1で治療されたマウスのパイエル板(PP)において増加した。一方、抗PD-L1をアピラーゼの機能喪失変異体を発現する細菌と併用して治療したマウスと細菌なしに抗PD-L1が投与されたマウスでは、この細胞群の量はほぼ同等であった。これは、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1の投与が、回腸パイエル板におけるCD8T細胞のうち、CXCR5細胞の増加をもたらすことを示す。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者はアピラーゼが仲介する腸内生態系の調整が、細菌叢由来抗原によって常に刺激を受けている局所二次リンパ器官におけるCXCR5CD8細胞の誘導をもたらしたと考える。
【0232】
図14に示されるように、異なる動物のパイエル板(PP)におけるCXCR5CD8T細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はコントロールプラスミドで形質転換されたE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。また、フローサイトメトリーによる、CD8T細胞の形質膜内のCXCR5の発現レベルの分析は、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1を用いて治療されたマウスのパイエル板(PP)から分離された細胞において、平均蛍光強度(MFI)の顕著な上昇を明らかにした。これは、パイエル板(PP)CD8T細胞において、アピラーゼがCXCR5タンパク質発現のポジティブな制御を行うことを示している。
【0233】
実施例8:E.coli pApyr 投与がCD8 TILのうちICOS 細胞の増加をもたらす。
実施例6において記載されたように、電子的にゲーティングしたCD8TILのフローサイトメトリーによりICOS発現が分析された。
【0234】
結果を図15に示す。驚くべきことに、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスから切除されたMC38腫瘍から分離されたTILは、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウスと比較し、電子的にゲーティングしたCD8TILにおけるICOS細胞の増加を示した。
【0235】
図16に示されるように、異なる動物の腫瘍におけるICOSCD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいてこれら細胞の顕著な増加を示した。
【0236】
実施例9:E.coli pApyr の投与がCD8 TILのうちIFN-γ分泌細胞及びIL-21分泌細胞の増加をもたらす
次に、E.coli pApyrにより増強された抗PD-L1の投与に対する応答性が、IFN-γの分泌増加に関連するものであるのか、又はCD8TILによるIL-21の産生増加に関連するものであるのかが検討された。このため、MC38腫瘍を有するマウスのCD8TILにおけるIFN-γ及びIL-21の分泌が、概ね実施例6に記載されているように分析された。IL-21(R&D Systems)およびIFN-γ(PeCy7標識、クローン:XMG1.2;eBioscience)の細胞内染色のため、腫瘍浸潤細胞は、イオノマイシン(750ng/ml)及びPMA(20ng/ml)を含む培地で37℃で5時間培養された。最後の4時間、モネンシン(1000Xの溶液、eBioscience)を培養物に加えた。IL-21は、組換えマウスIL-21Rサブユニット/ヒトIgG1 Fcキメラ(R&D Systems)とAF488に結合したヤギ抗ヒトFcγ(Jackson ImmunoResearch)とを用いて検出された。
【0237】
分析の結果を図17に示す。MC38腫瘍を有し、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1により治療されたマウスのCD8TILにおけるIFN-γ分泌の分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウスと比較し、IFN-γ分泌細胞の頻度の向上を明らかにした。図18に示されるように、異なる動物の腫瘍におけるIFN-γ分泌CD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1で治療され、E.coli pApyrが経管投与されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0238】
IL-21分析の結果を図19に示す。驚くべきことに、E.coli pApyrの毎日の経管投与と組み合わされた抗PD-L1の投与は、CD8TILのうちIL-21分泌細胞の頻度の顕著な増加をもたらした。図20に示されるように、異なる動物の腫瘍におけるIL-21分泌CD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいてこれら細胞の有意な増加を示した。
【0239】
実施例10:E.coli pApyr の投与が回腸パイエル板から分離されたCD8 細胞のうちIL-21分泌細胞の増加をもたらす。
次に、T細胞を仲介した免疫応答が腸内生態系により調整された小腸のパイエル板(PP)におけるIL-21分泌細胞にE.coli pApyr投与が影響を与えるかどうか調査した。
【0240】
結果を図21に示す。腫瘍組織と同様、IL-21分泌細胞は、E.coli pApyrと組み合わされた抗PD-L1で治療されたマウスのパイエル板(PP)において増加した。一方、抗PD-L1をアピラーゼの機能喪失変異体を発現する細菌と併用して治療したマウスにおける存在比、及び細菌なしに抗PD-L1が投与されたマウスにおける存在比は同等のものであった。これは、アピラーゼを仲介した細菌叢のコンディショニングがIL-21分泌細胞の誘導をもたらすことを示す。
【0241】
図22に示されるように、異なる動物のパイエル板(PP)におけるIL-21分泌CD8細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1で治療されE.coli pApyrを経管投与されたマウスにおいてこれら細胞の顕著な増加を示した。
【0242】
実施例11:E.coli pApyr の投与がCD3 腫瘍浸潤細胞のうち樹状細胞の増加をもたらす。
腫瘍細胞を認識し、死滅させるエフェクターT細胞の生成には、プロフェッショナル抗原提示細胞(APC)が必要である。樹状細胞(DC)は、最も有力なAPCであり、腫瘍抗原を取り込み、処理し、提示して腫瘍特異T細胞を活性化する。MHC-IIのアップレギュレーションは、有力な殺腫瘍性T細胞応答の発生に寄与する。そこで、樹状細胞(DC)を、実施例6に記載のように、フローサイトメトリーにより、C57Bl/6マウスのMC38腫瘍を浸潤するCD3細胞から、CD11c及びMHCIIを用いて識別した。
【0243】
結果を図23に示す。C57Bl/6マウスのMC38腫瘍を浸潤するCD3細胞のうちCD11c及びMHCIIにより識別された樹状細胞(DC)の分析では、E.coli pHND19ではなくE.coli pApyrが抗PD-L1抗体と組み合わされた時に、MHCIIを高発現する樹状細胞(DC)が堅調に増加することが明らかとなり、アピラーゼが腫瘍の樹状細胞(DC)浸潤にポジティブな影響を与えたことを示した。
【0244】
図24に示されるように、異なる動物のMC38腫瘍を浸潤する樹状細胞(DC)の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1で治療されE.coli pApyrを経管投与されたマウスにおいてこれら細胞の有意な増加を示した。
【0245】
CD11c、MHC-II、及びCD103の発現により特徴付けられるcDC1移動性DCサブセットは、腫瘍に対する細胞性免疫を誘起する。したがって、樹状細胞(DC)のサブセットを、実施例6に記載されたように、フローサイトメトリーにより更に解析した。
【0246】
結果を図25に示す。驚くべきことに、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わされた際と比較し、E.coli pApyrが抗PD-L1と組み合わされた際、E.coli pApyrはCD103CD70DCのMC38腫瘍への浸潤を増強し、よって、ICB療法の効能を向上した。
【0247】
図26に示されるように、異なる動物のMC38腫瘍を浸潤するCD11cMHCIIDCのうち、CD103CD70細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pHND19と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0248】
実施例12:CAR T細胞療法に実験モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果の増強
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、腫瘍細胞に直接養子移入されるT細胞を標的とし、効果的及び強固な抗腫瘍応答を提供する(June, C.H., O’Connor, R.S., Kawalekar, O.U., Ghassemi, S., and Milone, M.C. (2018). CAR T cell immunotherapy for human cancer. Science 359, 1361-1365)。CARは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の発現とは独立して、移入された細胞に細胞表面抗原への高い結合親和性を付与し、強固なT細胞活性及び抗腫瘍応答を始動させる(Sadelain, M., Brentjens, R., and Riviere, I. (2013). The basic principles of chimeric antigen receptor design. Cancer Discov 3, 388-398)。この治療は、化学療法に応答しない血液悪性腫瘍を患う患者に良好な成績を収めている(Park, J.H., Riviere, I., Gonen, M., Wang, X., Senechal, B., Curran, K.J., Sauter, C., Wang, Y., Santomasso, B., Mead, E., et al. (2018). Long-Term Follow-up of CD19 CAR Therapy in Acute Lymphoblastic Leukemia. N Engl J Med 378, 449-459; Schuster, S.J., Svoboda, J., Chong, E.A., Nasta, S.D., Mato, A.R., Anak, O., Brogdon, J.L., Pruteanu-Malinici, I., Bhoj, V., Landsburg, D., et al. (2017). Chimeric Antigen Receptor T Cells in Refractory B-Cell Lymphomas. N Engl J Med 377, 2545-2554)。しかし、CART細胞療法は、固形腫瘍にはそれ程効果的に適用することができなかった。
【0249】
固形腫瘍へのCAR T細胞療法の成功を制限する要因としては、腫瘍への限られた輸送、及びTMEの免疫抑制機能による移入された細胞の機能の存続が挙げられる。したがって、CAR T細胞自身により外部から持ち込まれた又は産生された免疫チェックポイント阻害剤との組合せは、TMEにおける炎症誘起現象を促進することによりこれらの要因に対抗すると考えられる(Grosser, R., Cherkassky, L., Chintala, N., and Adusumilli, P.S. (2019). Combination Immunotherapy with CAR T Cells and Checkpoint Blockade for the Treatment of Solid Tumors. Cancer Cell 36, 471-482)。前臨床試験では、CAR T細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤との組合せが、それぞれの薬剤単独による治療よりも効能が高いことを示しており、よって、患者へのこの方針の適用が支持される((Cherkassky, L., Morello, A., Villena-Vargas, J., Feng, Y., Dimitrov, D.S., Jones, D.R., Sadelain, M., and Adusumilli, P.S. (2016). Human CAR T cells with cell-intrinsic PD-1 checkpoint blockade resist tumor-mediated inhibition. J Clin Invest 126, 3130-3144; Hu, W., Zi, Z., Jin, Y., Li, G., Shao, K., Cai, Q., Ma, X., and Wei, F. (2019). CRISPR/Cas9-mediated PD-1 disruption enhances human mesothelin-targeted CAR T cell effector functions. Cancer Immunol Immunother 68, 365-377; John, L.B., Devaud, C., Duong, C.P., Yong, C.S., Beavis, P.A., Haynes, N.M., Chow, M.T., Smyth, M.J., Kershaw, M.H., and Darcy, P.K. (2013). Anti-PD-1 antibody therapy potently enhances the eradication of established tumors by gene-modified T cells. Clin Cancer Res 19, 5636-5646; Strome, S.E., Dong, H., Tamura, H., Voss, S.G., Flies, D.B., Tamada, K., Salomao, D., Cheville, J., Hirano, F., Lin, W., et al. (2003). B7-H1 blockade augments adoptive T-cell immunotherapy for squamous cell carcinoma. Cancer Res 63, 6501-6505)。
【0250】
この観点から、CAR T細胞療法と、免疫チェックポイント阻害剤及びアピラーゼ(を発現する細菌)との組合せが抗腫瘍効果を更に増加させるか調査した。このため、MC38結腸直腸腺癌細胞はオボアルブミン(MC38-OVA)でトランスフェクションされ、0日目に、1×10のOVA発現MC38細胞がC57BL/6マウスに皮下移植された。8日目に、8×10のOT-I TCRトランスジェニックT細胞(類遺伝子的にマークされたOT-I Rag1 -/-CD8細胞であって、H-2K制限OVAペプチド257-264に特異的なトランスジェニックTCRを発現し、二重変異OT-I Rag1-/-マウスの脾臓及びリンパ節から分離された)がマウスに静脈内接種された。10日目、14日目、17日目、及び20日目に、抗PD-L1抗体(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種し、8日目から実験終了まで毎日1×1010E.coli pApyr又はリン酸緩衝生理食塩水をマウスに経管投与した。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0251】
結果を図27に示す。驚くべきことに、(OT-I TCRトランスジェニックT細胞及びチェックポイント阻害剤に加えて)リン酸緩衝生理食塩水で治療されたマウス群と比較し、E.coli pApyrを経管投与されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。したがって、アピラーゼ(を発現する細菌)の投与は、CART細胞を用いた治療アプローチ、又はインビトロで拡大した腫瘍浸潤T細胞の注入を再現する実験モデルである、腫瘍特異的細胞傷害性T細胞が養子移入されたマウスにおいて、チェックポイント阻害剤の治療効果を有意に増進させた。
【0252】
実施例13:アピラーゼを発現する細菌は結腸直腸腺癌の抗CTLA4療法を向上する。
異なる免疫チェックポイント阻害剤と組合せたアピラーゼを発現する細菌(実施例1に記載のようにして得られた)の投与の効果を調査するため、結腸直腸腺癌MC38細胞がC57BL/6マウスに皮下移植された。
【0253】
異なる腫瘍細胞(MC38結腸直腸腺癌細胞)及び異なる免疫チェックポイント阻害剤(抗CTLA4)が用いられたという相違以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0254】
実施例2と同様に、抗CTLA4の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗CTLA4モノクローナル抗体(クローン:9H10;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0255】
結果を図28に示す。実施例2と同様、抗PD-L1単独で治療されたマウス群と比較し、チェックポイント阻害剤(抗CTLA4)とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が示された。マウスの生存率が図29に示される。MC38腫瘍生着後のマウスの生存期間の分析により、抗CTLA4単独で治療されたマウス群と比較し、抗CTLA4とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて生存期間が有意に延長したことが明らかとなり、よって、アピラーゼを発現する細菌の投与が免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の効能を向上することが確認された。
【0256】
実施例14:アピラーゼを発現する細菌は抗PD-L1と抗CTLA4免疫チェックポイント阻害剤との組合せを用いた結腸直腸腺癌の治療を向上する。
2つの免疫チェックポイント阻害剤と組合せたアピラーゼを発現する細菌の投与の効果を調査するため、結腸直腸腺癌MC38がC57BL/6マウスに皮下移植された。
【0257】
異なる2つの免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-L1及び抗CTLA4)が同時に投与され、MC38結腸直腸腺癌細胞が用いられた相違以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0258】
実施例2と同様に、抗PD-L1及び抗CTLA4の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗PD-L1(クローン:10F.9G2;BioXCell)及び抗CTLA4モノクローナル抗体(クローン:9H10;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0259】
結果を図30に示す。実施例2と同様、細菌無しで抗PD-L1とCTLA4との組合せで治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1及びCTLA4aとE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。マウスの生存率が図31に示される。MC38腫瘍生着後のマウスの生存の分析により、細菌無しで抗体により治療されたマウス群と比較し、E.coli pApyrと共に抗PD-L1及び抗CTLA4の組合せで治療されたマウスにおいて生存期間が有意に延長したことが明らかとなり、よって、アピラーゼを発現する細菌の投与が免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の効能を向上することが確認された。
【0260】
実施例15:アピラーゼを発現する細菌はBalb/cマウスにおける結腸直腸腺癌の抗PD-L1療法を向上する。
異なるマウス系統の腫瘍モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたアピラーゼを発現する細菌の投与の効果を調査するため、結腸直腸腺癌CT26細胞がBalb/cマウスに皮下移植された。
【0261】
異なるマウス系統及び同系の腫瘍細胞が用いられた違い以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌CT26細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のBalb/cマウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0262】
実施例2と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)又は空ベクターを有する形質転換体(E.coli pBAD28)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び18日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr又はE.coli pBAD28(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0263】
結果を図32に示す。実施例2と同様、抗PD-L1単独で又はE.coli pBAD28との組合せで治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。マウスの生存率が図33に示される。CT26腫瘍生着後のマウスの生存期間の分析により、E.coli pBAD28と組み合わせて抗PD-L1で治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、生存期間が有意に延長したことが明らかとなり、よって、アピラーゼを発現する細菌の投与が免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の効能を向上することが確認された。
【0264】
実施例16:E.coli pApyr の投与がCD8 TILのうちCCR9 細胞の増加をもたらす。
T細胞の移動性表現型は、腫瘍に対する免疫監視機構に寄与する。CD8CCR9細胞の高い頻度は、メラノーマ患者及び自然発生メラノーマを有するマウスにおける全生存期間の延長と相関している。この結果と一致して、排他的CCR9リガンドであるケモカインCCL25の中和が腫瘍の増殖を促進した(Jacquelot, N., Enot, D. P., Flament, C., Vimond, N., Blattner, C., Pitt, J. M., Yamazaki, T., Roberti, M. P., Daillere, R., Vetizou, M., et al. 2016. Chemokine receptor patterns in lymphocytes mirror metastatic spreading in melanoma. The Journal of clinical investigation, 126, 921)。CCL25の腫瘍内伝達により誘起されたCD8CCR9T細胞の活性増強およびリクルートメントは、抗腫瘍免疫を誘導した(Chen, H., Cong, X., Wu, C., Wu, X., Wang, J., Mao, K., Li, J., Zhu, G., Liu, F., Meng, X., et al. 2020. Intratumoral delivery of CCL25 enhances immunotherapy against triple-negative breast cancer by recruiting CCR9 T cells. Science Advances 6, eaax4690)。
【0265】
この観点から、CCR9発現は、実施例6に記載されているように、電子的にゲーティングしたCD8TILをフローサイトメトリーにより分析した。結果を図34に示す。驚くべきことに、抗PD-L1と、E.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスから切除されたMC38腫瘍から分離されたTILは、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28との組合せで治療されたマウスと比較し、電子的にゲーティングしたCD8TIL中のCCR9細胞の増加を示した。図34に示されるように、異なる動物に由来する腫瘍におけるCCR9CD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0266】
実施例17:E.coli pApyr の投与が回腸パイエル板におけるCD8 T細胞のうちKi-67 細胞の増加をもたらす。
CD8CCR9細胞は、腸関連リンパ組織(GALT)で生成され、選択的に小腸上皮に存在する。
【0267】
E.coli pApyr投与が、小腸のパイエル板(PP)におけるCD8細胞の増殖に影響を与えるかどうか検討するため、その増殖活性を調査した。細胞増殖に厳密に関連した核タンパク質Ki-67が染色された、電子的にゲーティングしたCD8細胞をフローサイトメトリーにより分析した。結果を図35に示す。驚くべきことに、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスから採取されたパイエル板(PP)から分離されたCD8細胞は、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28との組合せで治療されたマウスと比較し、電子的にゲーティングしたCD8T細胞の中の、Ki-67細胞の増加を示した。図35に示されるように、異なる動物に由来するパイエル板(PP)におけるKi-67CD8T細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0268】
実施例18:E.coli pApyr の投与が回腸パイエル板におけるCD8 T細胞のうちT-bet 細胞の増加をもたらす。
CD8T細胞の生成及び機能は、T-box転写因子T-bet(Tbx21)に依存している(Sullivan, B. M., Juedes, A., Szabo, S. J., von Herrath, M., and Glimcher, L. H. 2003. Antigen-driven effector CD8 T cell function regulated by T-bet. Proceedings of the National Academy of Sciences 100, 15818)。チェックポイント阻害処置中の効果的な抗腫瘍応答は、IFN-γ産生およびTILの細胞傷害性に必要なT-bet誘導に依存している(Berrien-Elliott, M. M., Yuan, J., Swier, L. E., Jackson, S. R., Chen, C. L., Donlin, M. J., and Teague, R. M. 2015. Checkpoint Blockade Immunotherapy Relies on T-bet but Not Eomes to Induce Effector Function in Tumor-Infiltrating CD8 T Cells. Cancer Immunology Research 3, 116)。
【0269】
この観点から、E.coli pApyr投与が、小腸パイエル板(PP)CD8細胞におけるT-bet発現に影響を与えるか調査を行った。T-betが染色された、電子的にゲーティングされたCD8細胞は、フローサイトメトリーにより分析された。結果を図36に示す。驚くべきことに、抗PD-L1と、E.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスから採取されたパイエル板(PP)から分離されたCD8細胞は、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28との組合せで治療されたマウスと比較し、電子的にゲーティングされたCD8T細胞中の、T-bet細胞の増加を示した。図36に示されるように、異なる動物に由来するパイエル板(PP)におけるT-betCD8T細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1単独又はE.coli pBAD28と組み合わせて治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0270】
実施例19:アピラーゼを発現するLactococcus lactisの設計及び産生
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NZ900株における赤痢菌(Shigella flexneri)アピラーゼの発現のため、アピラーゼをコードするphoN2遺伝子は、S.flexneriゲノムからPCR増幅され、pNZ8123プラスミド中にクローニングされ、pNZ-Apyrプラスミドを生成した(図37)。pNZ-Apyrプラスミドにおけるアピラーゼの発現は、ナイシン抗菌ペプチドによって誘導されるPnisAプロモーターによって制御される。phoN2遺伝子は、L.lactisの主要分泌タンパク質Usp45のシグナル配列と共にインフレームにクローニングされ、アピラーゼの分泌を可能としている。L.lactis pNZ及びL.lactis pNZ-Apyr株は、グルコース(0.5%w/v)とナイシン(4ng/ml)を添加したM17培地で培養された。
【0271】
実施例20:アピラーゼを発現するラクトバシラス(Lactobacillales)目のプロバイオティクス細菌は結腸直腸腺癌の抗PD-L1療法を向上する。
免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされた際の、回腸にアピラーゼを運搬する異なるプロバイオティクス細菌の投与の効果を調査するため、結腸直腸腺癌MC38細胞がC57BL/6マウスに皮下移植され、マウスは続いてアピラーゼを発現する又は発現しないLactobacillalesLactococcus lactisを経管投与された。
【0272】
実施例19に記載されたLactococcus lactisが用いられた違い以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57BI/6マウスに1×10細胞/100ml(0日目)で皮下移植された。空ベクターを有するL.lactis形質転換体(L.lactis pNZ)又はアピラーゼを発現するL.lactisL.lactis pNZ-Apyr)は、クロラムフェニコール(10μg/ml)、グルコース(0.5%w/v)、及びナイシン(4ng/ml)を添加したM17培地で増殖された。
【0273】
実施例2と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、L.lactis pNZ又はL.lactis pNZ-Apyrをマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。L.lactis pNZ又はL.lactis pNZ-Apyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0274】
結果を図38に示す。実施例2と同様、L.lactis pNZと組合せた抗PD-L1で治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とL.lactis pNZ-Apyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。
【0275】
実施例21:ゲノム中にアピラーゼ遺伝子を組み込んだ、アピラーゼを異種発現する組換え細菌(EcN::phon2)の生成
実施例1及び実施例19に記載のように設計及び生成されたアピラーゼ発現細菌は、アピラーゼを発現するプラスミドで細菌を形質転換することにより得られた。かかるプラスミドは、形質転換体の選択のため、抗菌耐性を有していてもよい。このような形質転換体である細菌は、通常、アピラーゼを発現するプラスミドの複数のコピーを有する(抗生物質耐性のために選択されてもよい)。異種のアピラーゼをコードする組換え細菌において、染色体外プラスミドの複数コピーではなく、ゲノム中の単一コピーで同様の効果が得られるかどうかを調べるために、(非伝達性)細菌染色体(抗生物質耐性無し)に、(異種)アピラーゼ(phoN2)遺伝子の単一コピーを有する細菌を生成した。
【0276】
このため、EcNゲノム(GenBankアクセッション番号:CP007799.1)への赤痢菌(Shigella flexneriphoN2アピラーゼコード遺伝子の染色体組み込みが、λ Red組換えのアプローチ(λ Red recombineering approach)により行われた(Datsenko K.A. and Wanner B.L. 2000 One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl Acad Sci U S A. 97, 6640)。
【0277】
図39は組み換えに用いられるDNA断片を概略的に示しており、前記DNA断片は下記のものを含む:
・マルトデキストリンホスホリラーゼ酵素をコードするEcN malP遺伝子の一部;
・抗生物質クロラムフェニコールに対する耐性を与えるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ酵素をコードするE.coli cat遺伝子と、それに隣接するフリッパーゼ認識標的(FRT)配列;
・上流ではPproD合成プロモーター(Davis J.H., Rubin A.J. and Sauer R.T. 2011 Design, construction and characterization of a set of insulated bacterial promoters. Nucleic Acids Res. 9, 1131)及びBBa_BB0032リボソーム結合部位(RBS; iGEM Parts Registry)と融合され、下流ではphoN2転写ターミネーターと融合されたShigella flexneri phoN2アピラーゼコード遺伝子;
・マルトース及びマルトデキストリンオペロンの転写活性化因子をコードするEcN malT遺伝子の一部。
【0278】
図40及び41は、それぞれ、EcN malP及びmalT遺伝子部分のヌクレオチド配列を示す(それぞれ、配列番号4及び配列番号5)。図42は、PproDプロモーター、BBa_BB0032 RBS、S.flexneri phoN2遺伝子、及びphoN2転写ターミネーターを含むDNA断片のヌクレオチド配列を示す(配列番号6)。図43は、FRT配列が隣接したE.coli cat遺伝子を含むDNA断片のヌクレオチド配列を示す(配列番号7)。
【0279】
EcNゲノムにおいて遺伝子組み換えを行うため、挿入DNA断片は、pKD46プラスミドを有するEcN株において形質転換され、前記pKD46プラスミドはファージλ Redリコンビナーゼを発現するものである。malP及びmalT部位におけるλ Red仲介相同組換えは、EcNのmalPmalT遺伝子間領域への挿入DNA断片の組み込みを促進した。pKD46除去後、ゲノムに前記挿入DNA断片を有するEcNクローンは、クロラムフェニコール耐性の点から選択され、ゲノムにおいて正しい組み込みが行われたかPCRで確認された。DNA断片の正しい組み込みの点から選択されたEcNクローンは、酵母Flpリコンビナーゼ(フリッパーゼ)を発現するpCP20プラスミドで形質転換され、ゲノムからクロラムフェニコール耐性カセットを除去した。pCP20の除去後、ゲノムにクロラムフェニコールカセットを含まない組換えEcNクローンは、クロラムフェニコール感受性の点から選択され、ゲノムから正しくカセットが切除されているかPCRで確認された。上述により得られた、malPmalT遺伝子間領域にS.flexneri phoN2遺伝子を有する組換えEcNクローンはEcN::phoN2と命名された。図44は、得られたEcN::phoN2クローンのmalPphoN2malT組換えゲノム領域を概略的に示す。図45は、ペリプラズム抽出物のウェスタンブロットにおける、選択された1つEcN::phoN2クローン(cl 1)でのアピラーゼの発現を示す。また、EcN::phoN2 cl 1における酵素の活性が確認された。図46は、インビトロATP-分解アッセイにおける、ペリプラズム抽出物による用量依存のATP分解を示す。両アッセイにおいて、EcN野生型株(EcN)はネガティブコントロールとして用いられた。EcN野生型及びEcN::phoN2細菌株はLB培地で培養された。
【0280】
実施例22:異種発現のためのゲノムにアピラーゼをコードする組換え細菌は結腸直腸腺癌の抗PD-L1療法を向上する。
ゲノムに組み込まれたphoN2遺伝子を有するE.coli Nissle 1917(EcN)プロバイオティクス細菌(上述、実施例21に記載のように得られた)の投与が、免疫チェックポイント阻害剤による腫瘍成長の制御を増強するのに有効であるかを調査するため、結腸直腸腺癌MC38細胞がC57BL/6マウスに皮下移植され、マウスは続いてEcn又はEcN::phoN2株により経管投与された。
【0281】
上述の細菌(実施例21:EcN及びEcN::phoN2)が用いられたという相違以外は、概ね実施例2に記載されているように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57BI/6マウスに1×10細胞/100ml(0日目)で皮下移植された。EcN及びEcN::phoN2はLB培地で増殖された。
【0282】
実施例2と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、Ecn又はEcN::phoN2をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。Ecn又はEcN::phoN2(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0283】
結果を図47に示す。実施例2と同様、EcNと組合せた抗PD-L1で治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とEcN::phoN2株との組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。
【0284】
実施例23:腫瘍抗原(ニワトリオボアルブミン)及びアピラーゼを発現するSalmonella enterica serovar Typhimurium株の生成
弱毒サルモネラ血清型ティフィムリウム(Salmonella enterica serovar Typhimurium)ΔaroA(S.Tm)株におけるニワトリオボアルブミンの発現のため、オボアルブミン(ova)をコードするcDNAが、pcDNA3プラスミドからPCR増幅され、pBAD18-Kanプラスミド中でクローニングされ、pBAD-OVAプラスミドを生成した(図48)。アラビノース誘導pBADプロモーターがS.TmpBAD-OVA株におけるオボアルブミン発現を制御する。オボアルブミンcDNA及びタンパク質配列を、それぞれ、図49及び50に示す(それぞれ、配列番号8及配列番号9)。
【0285】
ニワトリオボアルブミン及びShigella flexneriのアピラーゼの両者を発現するS.TmpApyr-OVA株を生成するため、S.TmpBAD-OVA株は、pHND10プラスミドで形質転換された。S.TmpBAD-OVA株は、カナマイシン(25μg/ml)及びアラビノース(0.1%w/v)が添加されたLB培地で培養された。S.TmpApyr-OVA株は、アンピシリン(100μg/ml)、クロラムフェニコール(30μg/ml)、カナマイシン(25μg/ml)、及びアラビノース(0.1%w/v)が添加されたLB培地で培養された。
【0286】
実施例24:アピラーゼ及び腫瘍抗原(OVA)を発現する細菌による免疫が、抗PD-L1療法による結腸直腸腺癌の拒絶をもたらす。
アピラーゼ及び腫瘍抗原(OVA)の併せた発現が、腫瘍抗原としてOVAを発現するS.Tmの経口免疫により誘起された結腸直腸腺癌の拒絶を増強されるかどうか検討するため、結腸直腸腺癌MC38-OVA細胞が、C57BL/6マウスに皮下移植され、マウスは続いて、経口胃経管投与によりS.TmpApyr-OVA又はS.TmpBAD-OVAで免疫が付与された。
【0287】
結腸直腸腺癌MC38-OVA細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57BI/6マウスに1×10細胞/100ml(0日目)で皮下移植された。S.TmpBAD-OVA株は、カナマイシン(25μg/ml)及びアラビノース(0.1%w/v)が添加されたLB培地で増殖された。S.TmpApyr-OVA株は、アンピシリン(100μg/ml)、クロラムフェニコール(30μg/ml)、カナマイシン(25μg/ml)、及びアラビノース(0.1%w/v)が添加されたLB培地で増殖された。腫瘍生着後5日目及び10日目に、マウスに1×10のS.TmpBAD-OVA又はS.TmpApyr-OVAで経口経管投与することにより免疫された。腫瘍接種後8日目、11日目、及び14日目、マウスは100μgの抗PD-L1抗体を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与された。腫瘍の存在は17日目に確認された。
【0288】
結果を図51に示す。抗PD-L1で治療され、腫瘍抗原のみを発現する細菌(S.TmpBAD-OVA)により免疫化されたマウス群と比較し、抗PD-L1により治療され、アピラーゼ及び腫瘍抗原(S.TmpApyr-OVA)の両方を発現する細菌で免疫されたマウス群において、腫瘍の兆候を示さない動物のパーセンテージの有意な増加が観察された。
【0289】
実施例25:アピラーゼを発現する細菌が、新たに生成されたT細胞の腫瘍浸潤を誘起することにより結腸直腸腺癌の治療を向上する
上述のように、CD8CCR9細胞は、腸関連リンパ組織(GALT)で生成され、選択的に小腸上皮に存在する。抗PD-L1と、E.coli pBAD28ではなく、E.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスの腫瘍微小環境におけるCD8CCR9細胞の増加(実施例16;図34)は、腸関連リンパ組織(GALT)、例えば、パイエル板(PP)において、殺腫瘍機能を有するこれらの細胞の生成をアピラーゼが促進する可能性を示唆している。フィンゴリモド(FTY720)は、リンパ器官からT細胞の排出を阻止するS1P1受容体の機能性アンタゴニストである(Matloubian, M., Lo, C.G., Cinamon, G., Lesneski, M.J., Xu, Y., Brinkmann, V., Allende, M.L., Proia, R.L., and Cyster, J.G. 2004. Lymphocyte egress from thymus and peripheral lymphoid organs is dependent on S1P receptor 1. Nature 427, 355)。そこで、腫瘍に移入し、腫瘍成長を制御することができるCD8CCR9細胞のパイエル板(PP)における生成をアピラーゼが促進しているか検討するため、抗PD-L1抗体での治療を開始する1日前、マウスはFTY720で治療され、T細胞のパイエル板(PP)からの排出が阻止された。
【0290】
腫瘍生着後7日目から実験終了まで2日毎にFTY720が腹腔内投与されたという違い以外は、概ね実施例3に記載のように実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0291】
実施例3と同様に、7日目及びそれから2日毎に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)をマウスに経口経管投与し、引き続き1mg/kgのFTY720の腹腔内接種が行われた、又は行われなかった。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0292】
結果を図52に示す。実施例3と同様、抗PD-L1単独で治療されたマウス群と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて腫瘍成長の有意な減弱が観察された。しかし、FTY720でも治療されたマウス群においては、腫瘍成長におけるE.coli pApyrの有益な効果は消失していた。既報では(Chow M.T., Ozga A.J., Servis R.L., Frederick D.T., Lo J.A., Fisher D.E., et al. 2019 Intratumoral activity of the CXCR3 chemokine system is required for the efficacy of anti-PD-1 therapy. Immunity 50, 1498.)、抗PD-L1による腫瘍制御は、主に、抗PD-L1治療開始前に既に腫瘍微小環境に存在するT細胞によって仲介され、新たに生成された細胞傷害性T細胞には依存しないため、FTY720の影響は受けなかった。
【0293】
実施例26:リンパ器官からのT細胞排出の遮断が、E.coli pApyr により仲介される、CD8 TIL中のCCR9 及びICOS 細胞の増加を阻害する。
抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスの腫瘍微小環境におけるCD8CCR9細胞の増加がGALTからのT細胞の排出に依存するかどうかを検討するため、抗PD-L1抗体での治療を開始する1日前、マウスはFTY720で処置によりGALTからのT細胞の排出が阻止され、実験終了時に腫瘍微小環境におけるCD8CCR9細胞をスコア化した。
【0294】
実施例6に記載されたように、電子的にゲーティングしたCD8TILにおいて、フローサイトメトリーによりCCR9発現を分析した。図53に示されるように、異なる動物に由来する腫瘍におけるCCR9CD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1で治療されたマウス群と比較し、予想された通り、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。しかし、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せに追加してFTY720治療が行われたマウスから摘出されたMC38腫瘍から分離されたTILにおいては、この細胞サブセットの有意な増加は消失していた。驚くべきことに、抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療されたマウスを特徴付ける(図15)、CD8TILにおける、ICOS発現の増加もまた、FTY720治療により消失しており、これは、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せがGALTにおいて、機能的能力のある細胞傷害性T細胞の生成を誘起したことを示している。
【0295】
実施例27:腸へのアピラーゼの細菌伝達が回腸細菌叢のIgA被覆を強化する。
細菌叢由来ATPは、ATP依存性イオノトロピック受容体P2X7を介して小腸のパイエル板におけるT細胞依存性IgA応答を制限することが示されている。P2X7受容体はT濾胞性ヘルパー(Tfh)細胞の機能を阻害し、これによりIgA分泌細胞の増殖を阻害する(Proietti M, Cornacchione V, Rezzonico Jost T, Romagnani A, Faliti CE, Perruzza L, Rigoni R, Radaelli E, Caprioli F, Preziuso S, Brannetti B, Thelen M, McCoy KD, Slack E, Traggiai E, Grassi F. 2014. ATP-gated ionotropic P2X7 receptor controls follicular T helper cell numbers in Peyer’s patches to promote host-microbiota mutualism. Immunity 41, 789)。この観点から、抗PD-L1で治療された、腫瘍を有するマウスにE.coli pApyrを投与することにより回腸細菌叢のIgA被覆が増強されるかどうか調査を行った。
【0296】
小腸の内容物を採取し、細菌を遠心分離により分離し、洗浄し、結合されていないIgAを除去した。細菌ペレットは、5%のヤギ血清を含むリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁され、氷上で15分間インキュベーションされ、遠心分離が行われ、APC結合ラビット抗マウスIgA抗体(Cat.#:SAB1186; Brookwood Biomedical、 Birmingham、AL、USA)で染色するため、1%のBSAを含むリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁された。30分のインキュベーション後、細菌は2回洗浄され、フローサイトメトリーで分析された。前方及び側方散乱光パラメーターは対数モードで用いられた。細菌サイズ粒子であって、且つ、核酸を含む粒子を識別するため、SYTO BCが添加された。
【0297】
図54に示されているように、フローサイトメトリー及び統計分析のデータは、抗PD-L1と、E.coli pBAD28ではなく、E.coli pApyrとで治療されたMC38腫瘍を有するマウスの回腸におけるIgAで被覆された細菌の顕著な増加を明らかとし、これは、アピラーゼを発現する細菌の投与が回腸細菌叢を認識する分泌型IgAの産生を促進したことを示している。
【0298】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者は、アピラーゼを発現する細菌無しの抗PD-L1の投与ではなく、アピラーゼを発現する細菌と抗PD-L1との投与が分泌型のIgAの産生を促進しるとの所見に基づき、アピラーゼ(腸管内腔に存在する)が共生細菌叢より放出されたATPを加水分解し、これがT細胞依存性IgA応答を制限すると考える。したがって、アピラーゼは、腫瘍を有するマウスにおける分泌型IgA応答を促進し、チェックポイント阻害薬と併用して有益な効果を発揮すると考えられる。
【0299】
実施例28:E.coli pApyr による回腸パイエル板のCD8 T細胞中のKi-67 細胞の増加は分泌型IgAに依存する。
MC38腫瘍を有し、抗PD-L1により治療されたマウスのパイエル板(PP)における細胞増殖の分析は、E.coli pApyr投与がCD8細胞増加を促進することを示した(図35)。この現象において分泌型IgAが重要であるかを検討するため、抗PD-L1、又は抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療された、MC38腫瘍を有する野生型又はIgA -/- マウスのパイエル板でのKi-67発現を、電子的にゲーティングしたTCRβCD8細胞のフローサイトメトリーで分析した。
【0300】
結果を図55に示す。驚くべきことに、抗PD-L1と、E.coli pApyrとの組合せで治療された野生型マウスから採取されたパイエル板(PP)から分離され電子的にゲーティングしたCD8T細胞中のKi-67細胞の増加は、IgA -/-マウスでは消失していた。図55に示されるように、異なる動物からのパイエル板(PP)におけるKi-67CD8T細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1のみで治療された対照物と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療された、IgA -/-マウスではなく、野生型マウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。
【0301】
実施例29:E.coli pApyr による回腸パイエル板のCD8 T細胞中の、T-bet 細胞の増加は分泌型IgAに依存する。
エフェクターCD8T細胞の生成及び機能はT-box転写因子T-bet(Tbx21)に依存する(Sullivan, B. M., Juedes, A., Szabo, S. J., von Herrath, M., and Glimcher, L. H. 2003. Antigen-driven effector CD8 T cell function regulated by T-bet. Proceedings of the National Academy of Sciences 100, 15818)。チェックポイント阻害治療中の有効な抗腫瘍応答は、IFN-g産生およびTIL細胞毒素性に必要なT-betに依存する(Berrien-Elliott, M. M., Yuan, J., Swier, L. E., Jackson, S. R., Chen, C. L., Donlin, M. J., and Teague, R. M. 2015. Checkpoint Blockade Immunotherapy Relies on T-bet but Not Eomes to Induce Effector Function in Tumor-Infiltrating CD8 T Cells. Cancer Immunology Research 3, 116)。図36に示すように(実施例18)、E.coli pApyr投与により、MC38腫瘍を有し、抗PD-L1で治療されたマウスのパイエル板におけるCD8T細胞中のT-bet細胞が増加する。この現象において分泌型IgAが重要であるかを検討するため、抗PD-L1、又は抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療された、MC38腫瘍を有する野生型及びIgA -/-マウスのパイエル板におけるT-bet発現を、電子的にゲーティングしたTCRβCD8細胞のフローサイトメトリーにより分析した。
【0302】
結果を図56に示す。驚くべきことに、抗PD-L1と、E.coli pApyrとの組合せで治療された野生型マウスから採取されたパイエル板(PP)から分離され電子的にゲーティングしたCD8T細胞のうちのT-bet細胞の増加は、IgA -/- マウスでは消失していた。図56に示されているように、異なる動物からのパイエル板(PP)におけるT-betCD8T細胞の頻度の統計分析は、抗PD-L1のみで治療された対照物と比較し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療された野生型マウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示したが、IgA -/-マウスではそのような結果は得られなかった。
【0303】
実施例30:MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおけるE.coli pApyr による抗PD-L1療法の改善はIgAに依存する。
分泌型IgAsは共生細菌叢の組成及び機能を調節するのに重要な役割を果たし、結果として、腸内免疫システムを調節する(Weis A.M. and Round J.L. 2021. Microbiota-antibody interactions that regulate gut homeostasis. Cell Host Microbe. 29, 334)。MC38腫瘍を有し、抗PD-L1により治療されたマウスにE.coli pApyrを投与することにより観察される腫瘍成長の制御の促進において、分泌型IgA産生の増強が重要かどうかを検討するため、IgA欠損マウスが用いられた。
【0304】
このため、アピラーゼを発現する細菌(実施例1に記載のようにして得られた)を、結腸直腸腺癌MC38が皮下移植された野生型及びC57BL/6マウスに、抗PD-L1免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与された。
【0305】
概ね実施例3に記載されているように、実験が行われた。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢の野生型又はIgA -/-C57BI/6マウスに1×10細胞/100ml(0日目)で皮下移植された。
【0306】
実施例3と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0307】
結果を図57に示す。IgAの欠如は、抗PD-L1と組合せたE.coli pApyrの投与により野生型マウスに付与された腫瘍成長制御の強化の消失をもたらした。抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療されたIgA -/-マウスは、無治療のマウスと抗PD-L1単独で治療されたマウスとを比較したときと同様に、腫瘍サイズの減少がみられ、これは、IgAの欠如により抗PD-L1の治療効果は有意には損なわれないことを示唆している。したがって、E.coli pApyr投与により誘起された分泌型IgA産生の強化は、抗PD-L1抗体の治療効果を増強するのに重要である。
【0308】
実施例31:MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおける抗PD-L1と組合せたE.coli pApyr の投与による、CD8 TIL中のCCR9 及びICOS 細胞の増加はIgAに依存する。
抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより治療されたマウスの腫瘍微小環境におけるCD8CCR9細胞の増加が、分泌型IgA産生増強に依存するかを検討するため、抗PD-L1又は、抗PD-L1とE.coli pApyrとにより治療された、MC38腫瘍を有する野生型及びIgA -/-マウスにおけるTCRβCD8TIL中のCCR9細胞がスコア化された。
【0309】
実施例6に記載の通り、CCR9発現は、電子的にゲーティングしたCD8TILにおいてフローサイトメトリーにより分析された。図58に示されるように、異なる動物からの腫瘍におけるCCR9CD8TILの頻度の統計分析は、抗PD-L1で治療されたマウス群と比較し、予想された通り、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療された野生型マウスにおいて、これら細胞の有意な増加を示した。しかし、IgA -/-マウスから分離されたTILにおいて、この細胞サブセットの有意な増加は見受けられなかった。驚くべきことに、抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療されたマウスを特徴付ける(図15)、CD8TIL中のICOS発現の増加も、また、IgAが欠損するマウスでは見られなく、これは、腫瘍微小環境を浸潤する機能的に有能な細胞傷害性T細胞の生成を誘起するのに、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せにより誘起された分泌型IgAの産生増強が重要であることを示している。
【0310】
実施例32:回腸におけるIgA被覆細菌の頻度は、MC38結腸直腸腺癌を有し、抗PD-L1により治療されたマウスにおける腫瘍サイズに相関する。
共生細菌叢のIgA被覆が、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスにおけるT細胞の殺腫瘍機能の増強を促進するのに重要であるかを検討するため、MC38腫瘍を有するマウスの回腸におけるIgA被覆された細菌のパーセンテージと実験エンドポイントでの腫瘍サイズとを関連付けた。
【0311】
図59は、実施例3に記載のように、抗PD-L1とE.coli pBAD28又はE.coli pApyrとで治療された、MC38腫瘍を有するマウスにおけるこの分析結果を示し、図60は、実施例21に記載のように、抗PD-L1と、EcN又はEcn::phoN2とで治療された、MC38腫瘍を有するマウスにおける同様の分析を示す。いずれの実験設定においても、回腸内のIgA被覆細菌の頻度と腫瘍のサイズとの間に負の相関が認められ、これは、回腸細菌叢のIgA被覆が、腫瘍成長を制御する動物の能力に有益な影響を与えたことが示されている。
【0312】
実施例33:MC38結腸直腸腺癌を有するマウスにおけるE.coli pApyr による治療成績の向上はバンコマイシンに対して感受性を有する共生細菌に依存する。
細菌叢の組成は、免疫チェックポイント阻害剤に対する癌患者の応答性を調整するのに重要な役割を果たす。治療応答性を示す患者の糞便の細菌叢の移植は、腸粘膜固有叢及び腫瘍微小環境の両方で免疫細胞浸潤及び遺伝子発現プロファイルにおいて好ましい変化をもたらすことにより、無応答患者を応答性へと転換することができ、これは、腸内細菌叢が、これらバイオ医薬品により誘起された、癌細胞に対する免疫応答を規制するのに重要な役割を果たしていることを示唆している(Davar D, Dzutsev AK, McCulloch JA, Rodrigues RR, Chauvin JM, Morrison RM, Deblasio RN, Menna C, Ding Q, Pagliano O, Zidi B, Zhang S, Badger JH, Vetizou M, Cole AM, Fernandes MR, Prescott S, Costa RGF, Balaji AK, Morgun A, Vujkovic-Cvijin I, Wang H, Borhani AA, Schwartz MB, Dubner HM, Ernst SJ, Rose A, Najjar YG, Belkaid Y, Kirkwood JM, Trinchieri G, Zarour HM. 2021. Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti-PD-1 therapy in melanoma patients. Science 371, 595. Baruch EN, Youngster I, Ben-Betzalel G, Ortenberg R, Lahat A, Katz L, Adler K, Dick-Necula D, Raskin S, Bloch N, Rotin D, Anafi L, Avivi C, Melnichenko J, Steinberg-Silman Y, Mamtani R, Harati H, Asher N, Shapira-Frommer R, Brosh-Nissimov T, Eshet Y, Ben-Simon S, Ziv O, Khan MAW, Amit M, Ajami NJ, Barshack I, Schachter J, Wargo JA, Koren O, Markel G, Boursi B. 2021. Fecal microbiota transplant promotes response in immunotherapy-refractory melanoma patients. Science 371, 602)。
【0313】
抗PD-L1にE.coli pApyrを組み合わせることにより誘起される治療の向上が腸内細菌叢に依存するのかを検討するため、抗PD-L1単独、抗PD-L1とE.coli pBAD28と、又は抗PD-L1とE.coli pApyrとで治療された、MC38腫瘍を有するマウスにバンコマイシンを投与し、腸内細菌叢を枯渇させた。
【0314】
結腸直腸腺癌MC38が皮下移植されたマウスに、アピラーゼを発現する細菌(実施例1に記載のように得られた)は、抗PD-L1免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされて投与された。バンコマイシン(200mg/L)を含む飲料水で15日間、腫瘍生着前に、マウスを前処置したという違い以外は、概ね実施例3記載されているように実験が行われた。E.coliはバンコマイシンに対して耐性があるため、実験終了まで、前記抗生物質は飲料水中に含まれたままで維持した。簡潔には、結腸直腸腺癌MC38細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、及び100U/mLカナマイシンを添加したRPMI-1640で培養された。細胞は37℃で5%CO中に維持された。腫瘍細胞は、指数関数的に成長した時点で採取され、8週齢のC57Bl/6マウスに1×10細胞/100μl(0日目)で皮下移植された。
【0315】
実施例3と同様に、抗PD-L1の腹腔内投与と組み合わせて、アピラーゼを発現するE.coliE.coli pApyr)又は空プラスミドを有するE.coli形質転換(E.coli pBAD28)をマウスに経口経管投与した。8日目、11日目、14日目、及び17日目に、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン:10F.9G2;BioXCell)(100μg/100μl)をマウスに腹腔内接種した。E.coli pApyr又はE.coli pBAD28(1×1010CFU)は、5日目から実験終了まで毎日、経口胃経管投与により投与された。最大腫瘍直径とその直交線を計測して平均を求めることにより、腫瘍成長をキャリバーでスコア化し、面積を(平均/2)πとして計算した。
【0316】
結果を図61に示す。バンコマイシンの投与は、リン酸緩衝生理食塩水又はE.coli pBAD28を経管投与されたマウスにおける抗PD-L1への応答に影響を与えなかったが、抗PD-L1と組み合わされたE.coli pApyrの投与により付与された腫瘍成長制御の増強を完全に消失させた。これらの結果は、バンコマイシン感受性細菌が、抗PD-L1への応答には影響を与えないが、腫瘍成長の制御にE.coli pApyrがもたらす有益な効果を発揮するのに必要であったことを示している。
【0317】
実施例34:E.coli pApyr により治療されたマウスの回腸におけるIgA被覆細菌はバンコマイシンに対し感受性を有する。
抗PD-L1と組み合わされたE.coli pApyrの治療効果への関連性の観点から、次に、バンコマイシンの投与が回腸におけるIgA被覆細菌の存在量に影響を与えるかが検討された。
【0318】
小腸の内容物を採取し、細菌が遠心分離により分離され、洗浄され、結合されていないIgAが除去された。細菌ペレットは、5%のヤギ血清を含むリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁され、氷上で15分間インキュベーションされ、遠心分離が行われ、APC結合ラビット抗マウスIgA抗体(Cat.#:SAB1186; Brookwood Biomedical、 Birmingham、AL、USA)で染色するため、1%のBSAを含むリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁された。30分のインキュベーション後、細菌は2回洗浄され、フローサイトメトリーで分析された。前方及び側方散乱光パラメーターが対数モードで用いられた。細菌サイズ粒子であって、かつ、核酸を含む粒子を識別するため、SYTO BCが添加された。
【0319】
図62に示されているように、フローサイトメトリー及び統計分析のデータは、バンコマイシンは、MC38腫瘍を有し、抗PD-L1とE.coli pApyrとの組合せで治療されたマウスの回腸においてIgA被覆細菌の有意な減少を引き起こしたが、E.coli pBAD28で治療されたマウスにおける細菌のIgA被覆はバンコマイシンの影響を有意には受けないことを明らかにした。抗PD-L1と組み合わされたE.coli pApyrによる腫瘍成長制御の改善にIgAが必要であるため、これら結果は、E.coli pApyrがアピラーゼの治療効果を仲介するバンコマイシン感受性共生細菌を標的とする分泌型IgAの産生を増強することを示している。
【0320】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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【配列表】
2023528071000001.app
【国際調査報告】