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特表2023-528087ミトコンドリア機能不全、癌、及び線維症の治療に使用されるUSP30阻害剤としての1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能不全、癌、及び線維症の治療に使用されるUSP30阻害剤としての1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20230626BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230626BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C07D487/04 137
A61K31/4439
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00
A61P25/00
A61P3/00
A61P9/00
A61P21/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P1/16
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575399
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2021065112
(87)【国際公開番号】W WO2021249909
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】2008598.1
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2016758.1
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517299582
【氏名又は名称】ミッション セラピューティクス リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー アンドリュー ラックハースト
(72)【発明者】
【氏名】マーク イアン ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】ポール ウィリアム トンプソン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン リー ストックリー
【テーマコード(参考)】
4C050
4C086
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB04
4C050CC04
4C050EE02
4C050FF02
4C050GG01
4C050HH04
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB03
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA22
4C086ZA36
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA94
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC21
4C086ZC51
(57)【要約】
本発明は、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、及び線維症を含む様々な治療分野に有用な脱ユビキチン化酵素USP30の阻害剤としての活性を有する以下のヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【化1】
【請求項2】
以下の式(IA)を有する請求項1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【化2】
【請求項3】
以下の式(IB)を有する請求項1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【化3】
【請求項4】
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリルである、請求項1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【請求項5】
医薬品として使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【請求項6】
ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症の治療又は予防に使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【請求項7】
ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症の治療又は予防に使用される医薬品の製造における、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩の使用。
【請求項8】
必要とする患者に対して請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩の有効量を投与する工程を含む、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症を治療又は予防するための方法。
【請求項9】
ミトコンドリア機能不全に関係する前記症状が、CNS障害、神経変性疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、虚血、脳卒中、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、ミトコンドリア脳症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群、難聴を伴う母性遺伝糖尿病、レーバー遺伝性視神経症;神経障害・運動失調・網膜色素変性症・母性遺伝リー症候群、ダノン病、糖尿病、糖尿病性腎症、代謝障害、心不全、心筋梗塞につながる虚血性心疾患、精神疾患、精神分裂病、マルチプルスルファターゼ欠損症、ムコリピドーシスII型、ムコリピドーシスIII型、ムコリピドーシスIV型、GM1-ガングリオシドーシス、神経セロイドリポフスチン症、アルパーズ病、バース症候群、β酸化欠損、カルニチン-アシル-カルニチン欠乏症、カルニチン欠乏症、クレアチン欠乏症候群、コエンザイムQ10欠乏症、ミトコンドリア複合体I欠損症、ミトコンドリア複合体II欠損症、ミトコンドリア複合体III欠損症、ミトコンドリア複合体IV欠損症、ミトコンドリア複合体V欠損症、チトクロームCオキシダーゼ(COX)欠損症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)I欠損症、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)II欠損症、グルタル酸尿症II型、カーンズ・セイヤー症候群、乳酸アシドーシス、長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、リー病又はリー症候群、リー症候群フランス系カナダ人変異型、致死性幼児心筋症;ルフト病;中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、ミオクロニーてんかん・赤色ぼろ線維症候群、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリア劣性運動失調症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群、筋神経胃腸障害・脳症、ピアソン症候群、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、POLG遺伝子変異、中鎖/短鎖3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、超長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、ペルオキシソーム病、マロン酸メチル血症、メバロン酸キナーゼ欠損症、加齢による認知機能と筋力の低下、並びにあらゆる神経変性及び神経精神障害に付随する認知障害から選択される、請求項6に記載の化合物、請求項7に記載の使用、又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、虚血、脳卒中、レビー小体型認知症、多系統委縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、並びにα-シヌクレイン、パーキン、PINK1、GBA、及びLRRK2の中の変異に関連するパーキンソン病、並びにパーキン又はPINK1に変異、短縮化、又は欠失がある場合の常染色体劣性若年性パーキンソン病又は早期発症パーキンソン病(EOPD)から選択される、請求項9に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患がリー症候群若しくはリー病、X連鎖性リー病、リー症候群フランス系カナダ人変異型、及び/又はリー病に付随する症状である、請求項9に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項12】
前記癌が、乳房癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頚部癌、膵臓癌、脳癌、黒色腫、骨癌、肝臓癌、軟組織癌、組織器官の癌、血液細胞の癌、CML、AML、マントル細胞リンパ腫、神経芽細胞腫、黒色腫、軟組織肉腫、脂肪肉腫、線維芽細胞肉腫、平滑筋肉腫、肝細胞癌、骨肉腫、食道癌、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、転移性癌、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、鼻咽頭癌、大腸癌、大腸癌、非小細胞肺癌、アポトーシス経路が調節不全になっているところの癌、及びBCL-2ファミリーのタンパク質に変異があるか又は同タンパク質が過剰発現若しくは過少発現しているところの癌から選択される、請求項6に記載の化合物、請求項7に記載の使用、又は請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記線維症が、外傷、炎症、組織修復、免疫反応、細胞過形成、及び細胞新形成の後に起こる細胞外マトリックス成分の蓄積に付随する線維症又は線維化障害から選択される、請求項6に記載の化合物、請求項7に記載の使用、又は請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記線維症が、主要臓器疾患、線維増殖性疾患、及び外傷に伴う瘢痕形成に付随する線維症又は線維化障害から選択される、請求項13に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項15】
前記線維症が、間質性肺疾患、肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、及び非アルコール性脂肪性肝炎、腎臓病、急性腎臓病、急性腎障害、慢性腎臓疾患、腎移植片機能遅延、心臓疾患又は血管疾患、眼病、全身性強皮病及び限局性強皮病、ケロイド、肥厚性瘢痕、アテローム性硬化症、再狭窄、デュピュイトラン拘縮、外科手術合併症、化学療法剤誘発性線維症、放射線誘発性線維症、事故による損傷及び火傷、後腹膜線維症、並びに腹膜線維症/腹膜瘢痕形成に付随する線維症又は線維化障害から選択される、請求項14に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項16】
間質性肺疾患に付随する前記線維症が、サルコイドーシス、ケイ肺症、薬物反応、感染症、膠原血管病、リウマチ性関節炎、全身性硬化症、強皮病、肺線維症、特発性肺線維症、通常の間質性肺炎、間質性肺疾患、特発性線維化肺胞炎、閉塞性細気管支炎、及び気管支拡張症から選択される、請求項15に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項17】
前記腎臓病が急性腎臓病、急性腎障害、又は慢性腎臓疾患である、請求項15に記載の化合物、使用、又は方法。
【請求項18】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を1種類以上の薬学的に許容可能な賦形剤と共に含む医薬組成物。
【請求項19】
以下の式(II)、式(III)、式(IV)、及び式(V)から選択される化合物であって、PGが、tert-ブチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、ベンジル、カルバメート、p-メトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、p-メトキシフェニル、トシル、トリクロロエトキシカルボニル、4-ニトロベンゼンスルホニル、及び2-ニトロフェニルスルフェニルから選択されることが好ましい保護基である前記化合物又は前記化合物の塩。
【化4】
【化5】
【請求項20】
以下の式(IIA)、式(IIIA)、式(IVA)、及び式(VA)から選択される請求項19に記載の化合物又は前記化合物の塩。
【化6】
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキチン特異的ペプチダーゼ30(USP30)としても知られる脱ユビキチン化酵素ユビキチンC末端ヒドロラーゼ30の阻害剤としての活性を有するヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、前記阻害剤の使用、前記阻害剤を調製するための方法、及び前記阻害剤を含有する組成物に関する。この阻害剤は、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、及び線維症を含む様々な治療分野に有用である。
【0002】
以下において引用される又は依拠される全ての文献は、参照により本明細書に明示的に援用される。
【背景技術】
【0003】
ユビキチンは、細胞内のタンパク質機能の制御に重要な76アミノ酸から構成される小タンパク質である。ユビキチン化及び脱ユビキチン化は、ユビキチンが共有結合し又はユビキチンが脱ユビキチン化酵素(DUB)により標的タンパク質から切断される酵素介在過程であり、そのうちヒト細胞には約100種類のDUBが存在し、それらのDUBは配列相同性に基づいて複数のサブファミリーに分類される。USPファミリーは、ユビキチン特異的ペプチダーゼのDUB活性にとって重要なCys残基及びHis残基を含有する共通のCysボックス及びHisボックスを特徴とする。ユビキチン化過程及び脱ユビキチン化過程は、細胞周期の進行、アポトーシス、細胞表面受容体の修飾、DNA転写の制御、及びDNA修復の制御を含む多くの細胞機能の制御に関与するとされている。したがって、ユビキチンシステムは、炎症、ウイルス感染、代謝機能不全、CNS障害、及び発癌を含む多くの疾患状態の発病に関係するとされている。
【0004】
ユビキチンはミトコンドリア動態の主要制御因子である。ミトコンドリアは、マイトフュージンなどの多数の重要な因子のユビキチン化を介した翻訳後調節により発生、融合、及び分裂が制御される活動的なオルガネラである。ヒトではUSP30は、ミトコンドリア外膜中に見られる517アミノ酸のタンパク質である(Nakamura et al, 2008, Mol Biol 19:1903-11)。このタンパク質はミトコンドリア移行シグナルを担持する唯一の脱ユビキチン化酵素であり、多くのミトコンドリアタンパク質を脱ユビキチン化することが示されている。USP30はパーキン介在性マイトファジーを妨害すること、及びパーキンが介在するマイトファジーの欠損がUSP30活性の低下により救済されること(Bingol et al, 2015, Nature 510:370-5; Gersch et al, 2017, Nat Struct Mol Biol 24(11): 920-930; Cunningham et al, 2015, Nat Cell Biol 17(2): 160-169)が実証されている。USP30の不活化は、おそらくTOMタンパク質のユビキチン化を介してミトコンドリアタンパク質の移入を増加させることもできる(Jacoupy et al, 2019, Sci Rep 9(1): 11829)。USP30の少ない割合がミトコンドリアとER小胞の融合を介して発生するペルオキシソームに局在しており、USP30は、おそらくPex2/ペキソファジー経路を妨害する(Riccio et al, 2019, J Cell Biol 218(3): 798-807)。E3ユビキチンリガーゼのMarch5と脱ユビキチン化酵素のUSP30は前記トランスロカーゼと結合し、ミトコンドリア移入を制御する。March5はミトコンドリア移入を妨害し、基質を分解させる一方で、USP30は基質を脱ユビキチン化してそれらの基質の移入を促進する(Phu et al, 2020, Molecular Cell 77, 1107-1123)。
【0005】
ミトコンドリア機能不全は、ミトコンドリア量(マイトファジー又はミトコンドリア発生)の減少、ミトコンドリア活性及び酸化的リン酸化の低下として定義可能であるが、活性酸素種(ROS)生成の調節としても定義可能である。したがって、ミトコンドリア機能不全には非常に多くの老化プロセス及び病態に役割がある。
【0006】
例えば、パーキンソン病は世界中で1000万人近くに発症しており(パーキンソン病財団)、黒質内のドーパミン作動性ニューロンの喪失を特徴とする。PDの根底にある正確な機序は不明であるが、ミトコンドリアの機能不全がPDにおけるドーパミン作動性ニューロンの感受性の重要な決定因子として認識されることが多くなっており、ミトコンドリア機能不全は、毒物誘発パーキンソニズムにおける特徴であるのと同様に家族性と孤発性の両方のパーキンソン病の特徴でもある。パーキンは、早期発症PDと関係があるとされている多数のタンパク質のうちの1つである。大半のPDの事例がα-シヌクレインの欠損と関連付けられているが、パーキンソン病の事例の10%は特定の遺伝的欠損と関連付けられており、それらの欠損のうちの1つがユビキチンE3リガーゼであるパーキンの欠損である。パーキン及びタンパク質キナーゼであるPTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)は、損傷したミトコンドリアのミトコンドリア膜タンパク質をユビキチン化するために共同作用し、それによりマイトファジーを引き起こす。マイトファジーの調節不全は酸化ストレスを増加させ、酸化ストレスの増加はPDの特徴として説明されている。したがって、USP30の阻害はPD治療の有望な戦略であり得る。例えば、活性低下を引き起こすパーキン遺伝子変異を有するPD患者は、USP30の阻害によって治療処置され得る。
【0007】
USP30の減耗によってマイトファジーによるミトコンドリアのクリアランスが増加し、パーキン誘導細胞死も増加することが報告されている。USP30は、パーキンの過剰発現と無関係にBAX/BAK依存性アポトーシスを制御することも示されている。USP30の減耗は、癌細胞をABT-737などのBH-3模倣物に対して感受性にし、それにはパーキンを過剰発現させる必要はない。このように抗アポトーシス的な役割がUSP30について実証されており、したがって、USP30は抗癌治療の潜在的な標的である。
【0008】
ユビキチン・プロテアソーム系は、プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))が多発性骨髄腫の治療用に認可された後に癌治療の標的として関心を持たれている。ボルテゾミブを使用する長期間の治療は、ボルテゾミブに付随する毒性と薬物耐性によって制限される。しかしながら、プロテアソームの上流に位置するユビキチン・プロテアソーム経路の特定の態様、例えばDUBを標的とする治療戦略は、忍容性がより良好であると予測される(Bedford et al, 2011, Nature Rev 10:29-46)。
【0009】
腎線維症、肝線維症、及び肺線維症を含む線維化疾患は、罹病及び死亡の主要な原因であり、あらゆる組織及び器官系を侵し得る。線維症は組織又は器官に対する急性の又は慢性的なストレスの結果と考えられており、細胞外マトリックスの沈着、血管/尿細管/導管/気道の開通性の低下、及び最終的には臓器不全を引き起こす機能障害を特徴とする。多くの線維化症状が生活様式因子又は環境因子によって促進されるが、一部の線維化症状は、遺伝的誘因を介して始まる可能性があり、又は実際には特発性である(すなわち、原因が知られていない)と考えられている。ある特定の線維化疾患、例えば特発性肺線維症(IPF)は、非特異的なキナーゼ阻害剤(ニンテダニブ)又は作用機序がよく分かっていない薬剤(ピルフェニドン)を使用して治療され得る。臓器線維症、例えば腎線維症又は肝線維症の他の治療法はその臓器自体に対する圧力を改善する(例えば、肝硬変にはβ遮断薬、慢性腎臓疾患にはアンジオテンシン受容体遮断薬)。生活様式因子に対する注意、例えば血糖管理及び食事管理も疾患の経過と重篤度に影響し得る。
【0010】
ミトコンドリア機能不全は多くの線維化疾患に関係するとされており、機能不全の下流に位置する酸化ストレスがATP産生の低下と並行して重要な病原性メディエーターである。前臨床モデルでは(パーキン又はPINK1のどちらかの遺伝子変異又はノックアウトを介した)マイトファジー経路の破壊が、酸化ストレス増加の証拠を示すと共に肺線維症及び腎線維症を悪化させる。
【0011】
Kurita et al, 2017, Respiratory Research 18:114は、線維化促進性筋線維芽細胞の蓄積がIPFにおける線維化リモデリングにとって重要な過程であることを開示している。近年の発見はリソソーム分解機構の一部であるオートファジー/マイトファジーがIPFの発病に関与していることを示していると言われており、マイトファジーがミトコンドリア活性酸素種(ROS)介在性血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)活性化を介して筋線維芽細胞の分化に関係するとされている。Kuritaの結果はピルフェニドンがPARK2介在性マイトファジーを誘導し、且つ、マイトファジーが不充分である背景では肺線維症の発症の抑制もすることを示唆しており、このことは少なくとも部分的にはIPF治療の線維化抑制機構を説明している可能性がある。
【0012】
Williams et al, 2015, Pharmacol Res. December; 102: 264-269は、損傷したミトコンドリアをマイトファジーによって取り除くことによるアルコール誘発肝臓損傷予防及びアセトアミノフェン誘発肝臓損傷予防におけるPINK1/パーキン介在性オートファジーの役割を考察している。USP8の薬理学的安定化又はUSP15及びUSP30の不活化は、パーキン誘導マイトファジーの上方制御及びそれによる薬物誘発肝臓損傷の予防のための有望な治療標的である可能性があることが示唆されている。しかしながら、DUBは転写段階でも翻訳後段階でも調節を受け、このことがこれらの特定の酵素を標的とする薬剤の開発を困難にする可能性があることが特筆されており、加えて、リン酸化ユビキチンはDUBに対抗することが示された。筆者らの結論は、PINK1安定化又はキナーゼ活性の上方制御はDUBの阻害よりも有効な標的であり得るというものである。
【0013】
Williams et al, 2015, Biomolecules 5, 2619-2642、及びWilliams et al, 2015, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 309: G324-G340は、肝臓におけるミトコンドリア恒常性の制御機構、及びこれらの機構がアルコール誘発肝臓疾患を予防し得る方法について説明している。
【0014】
Luciani et al, 2020, Nat. Commun. 11, 970は、最終分化細胞内のミトコンドリアネットワークの脱制御がマロン酸メチル血症(MMA)をはじめとする広範囲の障害の一因になることを報告している。MMAは最も一般的な遺伝性代謝障害のうちの1つであり、ミトコンドリアのメチルマロニルコエンザイムAムターゼ(MMUT)の欠損に起因する。MMUT欠損は、PINK1/パーキン介在性マイトファジーの異常によって悪化する代謝変調及びミトコンドリア変調を誘発し、上皮ストレス及び最終的には細胞死を誘発する機能不全ミトコンドリア蓄積の原因となる。最初のMMUT欠損、ミトコンドリア異常、マイトファジー機能不全、及び上皮ストレスの間の関連が示唆されており、MMAの潜在的な治療展望が提示されている。
【0015】
Kluge et al, Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2018, 28 2655-2659は、USP30の選択的阻害剤がマイトファジーを促進することを報告している。
【0016】
一連のN-シアノ置換複素環式誘導体が、各々が参照により本明細書に明示的に援用されるPCT出願の国際公開第2016/046530号パンフレット(米国特許出願第15/513125号明細書、米国特許出願第15/894025号明細書、米国特許出願第16/448066号明細書)、国際公開第2016/156816号パンフレット(米国特許出願第15/558632号明細書、米国特許出願第16/297937号明細書、米国特許出願第16/419558号明細書、米国特許出願第16/419747号明細書、米国特許出願第16/788446号明細書)、国際公開第2017/009650号パンフレット(米国特許出願第15/738900号明細書)、国際公開第2017/093718号パンフレット(米国特許出願第15/776149号明細書)、国際公開第2017/103614号パンフレット(米国特許出願第15/781615号明細書)、国際公開第2017/149313号パンフレット(米国特許出願第16/078518号明細書)、国際公開第2017/109488号パンフレット(米国特許出願第16/060299号明細書)、国際公開第2017/141036号パンフレット(米国特許出願第16/070936号明細書)、国際公開第2017/163078号パンフレット(米国特許出願第16/087515号明細書)、国際公開第2017/158381号パンフレット(米国特許出願第16/080229号明細書)、国際公開第2017/158388号パンフレット(米国特許出願第16/080506号明細書)、国際公開第2018/065768号パンフレット(米国特許出願第16/336685号明細書)、国際公開第2018/060742号パンフレット(米国特許出願第16/336202号明細書)、国際公開第2018/060689号パンフレット(米国特許出願第16/334836号明細書)、国際公開第2018/060691号パンフレット(米国特許出願第16/336363号明細書)、国際公開第2018/220355号パンフレット(米国特許出願第16/615040号明細書)、国際公開第2018/234755号パンフレット(米国特許出願第16/615709号明細書)、国際公開第2020/212350号パンフレット、国際公開第2020/212351号パンフレット、国際公開第2021/043870号パンフレット、国際出願PCT/EP2021/059032号明細書及び国際出願PCT/EP2021/064166号明細書の中で脱ユビキチン化酵素阻害剤として開示されている。参照により本明細書に明示的に援用されるPCT出願国際公開第2019/171042号パンフレット(米国特許出願第16/977019号明細書)は、線維化疾患の治療のためのUSP30の阻害剤としてN-シアノピロリジンを使用することを開示している。
【0017】
Falgueyret et al, 2001, J.Med.Chem. 44, 94-104、及びPCT出願国際公開第01/77073号パンフレットは、骨粗鬆症及び他の骨吸収関連症状の治療に利用される可能性があるカテプシンK及びカテプシンLの阻害剤としてのシアノピロリジンについて言及している。PCT出願国際公開第2015/179190号パンフレットは、潰瘍性大腸炎及びクローン病の治療に利用される可能性があるN-アシルエタノールアミン加水分解性酸アミダーゼの阻害剤について言及している。PCT出願国際公開第2013/030218号パンフレットは、癌、神経変性疾患、炎症性疾患、及びウイルス感染症の治療に利用される可能性があるユビキチン特異的プロテアーゼの阻害剤、例えばUSP7の阻害剤としてのキナゾリン-4-オン化合物について言及している。PCT出願の国際公開第2015/017502号パンフレット及び国際公開第2016/019237号パンフレットは、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び癌などの疾患の治療に利用される可能性があるブルトン型チロシンキナーゼの阻害剤について言及している。PCT出願の国際公開第2009/026197号パンフレット、国際公開第2009/129365号パンフレット、国際公開第2009/129370号パンフレット、及び国際公開第2009/129371号パンフレットは、COPDの治療に利用される可能性があるカテプシンCの阻害剤としてのシアノピロリジンについて言及している。米国特許出願米国特許出願第2008/0300268号明細書は、チロシンキナーゼ受容体PDGFRの阻害剤としての多環芳香族化合物ついて言及している。PCT出願の国際公開第2019/222468号パンフレット、国際公開第2019/071073号パンフレット、国際公開第2020/036940号パンフレット、及び国際公開第2020/072964号パンフレット、Rusilowicz-Jones et al, 2020, bioRxiv 2020.04.16.044206(2020年4月20日)、及びTsefou et al, bioRxiv 2021.02.02.429344(2021年2月2日)は、USP30阻害剤としてのシアナミド含有化合物ついて言及している。Yue et al, 2014, Cell Research, 24, 482-496は、ミトコンドリア融合を誘導するUSP30阻害剤としてのジテルペノイド誘導体15-オキソスピラミラクトンついて言及している。
【0018】
PCT出願国際公開第2015/183987号パンフレットは、癌、線維症、自己免疫疾患若しくは自己免疫症状、炎症性疾患若しくは炎症性症状、神経変性疾患若しくは神経変性症状、又は感染症の治療方法における脱ユビキチン化酵素阻害剤及びヒト血清アルブミンを含む医薬組成物について言及している。UCHL5/UCH37、USP4、USP9X、USP11、及びUSP15をはじめとする脱ユビキチン化酵素はTGF-βシグナル伝達経路の制御に関係するとされていると言われており、この経路の混乱によって神経変性及び線維化疾患、自己免疫機能不全、並びに癌が生じることが特筆されている。
【0019】
PCT出願国際公開第2006/067165号パンフレットは、インドリノン系キナーゼ阻害剤を使用して線維化疾患を治療するための方法について言及している。PCT出願国際公開第2007/119214号パンフレットは、エンドセリン受容体アンタゴニストを使用して早期肺線維症を治療するための方法について言及している。PCT出願国際公開第2012/170290号パンフレットは、THC酸を使用して線維化疾患を治療するための方法について言及している。PCT出願国際公開第2018/213150号パンフレットは、ミトコンドリア欠損に関係する症状の治療に利用される可能性があるスルホンアミド系USP30阻害剤について言及している。Larson-Casey et al, 2016, Immunity 44, 582-596は、マクロファージAkt1キナーゼ介在性マイトファジー、アポトーシス耐性、及び肺線維症に関係する。Tang et al, 2015, Kidney Diseases 1, 71-79は、腎臓の病態生理におけるマイトファジーの潜在的な役割を説明している。
【0020】
ミトコンドリア機能不全が関係する症状、癌、及び線維症、並びにそれらに関連する様々な症状及び状態の治療又は予防のための安全で代替的及び/又は改善された方法及び組成物が必要とされている。何か特別の理論又は機序に捉われることを望むものではないが、本発明の化合物はUSP30酵素を阻害するように作用し、それによりパーキン誘導マイトファジーを上方制御すると考えられる。
【0021】
急性腎障害(AKI)は、7日又はそれ以下の日数にわたる腎機能の急激な低下の発生として定義され、傷害の重症度は、国際的腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)のガイドラインに記載されるように血清クレアチニン(SCr)の上昇及び尿量の減少に基づいてステージ分類される。AKIは毎年約1330万人に発生し、その85%が発展途上国に暮らしており、毎年約170万件の死亡件数に寄与していると考えられている(Mehta et al, 2015, Lancet 385(9987): 2616-2643)。AKIはほぼ間違いなく恒久的な腎臓損傷(すなわち、慢性腎臓疾患、CKD)を引き起こし、腎臓ではない臓器に損傷を与える可能性もある。AKIは、特に偶発性CKD、進行性CKD、末期腎不全、及び心血管系イベントを発症している患者の絶対数を考慮するときに重大な公衆衛生上の懸念である。AKIは、COVID-19のために入院している患者の間で広まっていることが分かっており、院内死亡率と強く関連し、ミトコンドリアの損傷及び機能不全が病態生理学的機序及び治療標的として報告されている(Kellum et al, Nephrol Dial Transplant (2020) 35: 1652-1662)。
【0022】
AKI及びCKDは、同じ疾患スペクトラム上の連続体として見られている(Chawla et al, 2017, Nat Rev Nephrol 13(4): 241-257)。冠動脈バイパス移植(CABG)を受けている患者には腎障害の高いリスクがある。AKIの治療及び/又は予防のための医薬品の開発には明らかに満たされていない医学的要求が存在する。
【0023】
腎臓は代謝要求が高い部位であり、高いマイトファジー速度がインビボで示されている(McWilliams et al, 2018, Cell Metab 27(2): 439-449 e435)。溶質/イオンの交換のためにかなりのATPを必要とする細胞種である腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)はミトコンドリアを多く含み、腎臓近位尿細管上皮細胞は腎臓内の急性腎障害(AKI)の一次エフェクター細胞である。AKI機序/CKD機序の両方とも前臨床AKIモデル及び前臨床CKDモデルに由来する複数の系統の証拠から、並びに患者生検中の異常なミトコンドリア表現型を示すデータからもミトコンドリア機能不全と関係があるとされている(Emma et al, 2016, Nat Rev Nephrol 12(5): 267-280、Eirin et al, 2017, Handb Exp Pharmacol 240: 229-250)。さらに、主要ミトコンドリア病は、MELAS/MIDDの患者では腎臓の症状、例えば巣状分節性糸球体硬化症として現れることが多く(Kawakami et al, 2015, J Am Soc Nephrol 26(5): 1040-1052)、コエンザイムQ欠乏症の患者では主要腎尿細管病理として現れることも多い。ミトコンドリアDNA中の遺伝子変異が母性遺伝する尿細管間質障害の原因になる可能性がある(Connor et al, 2017, PLoS Genet 13(3): e1006620)。
【0024】
腎臓損傷におけるミトコンドリアの品質管理に関し(Tang et al, 2018, Autophagy 14(5): 880-897)、PINK1ノックアウトマウスとPARK2ノックアウトマウスの両方で虚血性AKIの後に腎臓損傷が悪化することが示され、腎臓ではPINK1/PARKIN介在性マイトファジーがIRI後に予防的役割を果たすことが示唆された。また、パーキン/PINK1マイトファジーはシスプラチン誘発腎障害を予防する(Wang et al, 2018, Cell Death Dis 9(11): 1113)。マイトファジーの研究に利用可能なCKDのモデルは限られており、線維症におけるミトコンドリアの品質管理についての裏付けとなる証拠がCOPD及びIPFなどの肺線維症状の研究に由来する。パーキンノックアウト動物はブレオマイシンに応答して肺線維症の悪化を示す(Kobayashi et al, 2016, J Immunol, 197:504-516)。同様に、パーキンノックアウト(KO)動物由来の気道上皮細胞はタバコの煙に対する線維化・老化応答の悪化を示す(Araya et al, 2019, Autophagy 15(3): 510-526)。
【0025】
前記ヒト健康状態と合致する線維症の病理(例えば、コラーゲン沈着)をモデル化する能力を通して潜在的な新規治療薬を研究するために前臨床モデルが利用可能である。前臨床モデルは毒素介在性モデル(例えば、肺線維症及び皮膚線維症にはブレオマイシン)、外科的モデル(例えば、急性尿細管間質線維症には虚血再灌流傷害モデル及び片側尿管結紮モデル)、及び遺伝的モデル(例えば、糖尿病性腎症には糖尿病(db/db)マウス)であり得る。例えば、表示されたIPF治療について以前に提示された両方の例(ニンテダニブ及びピルフェニドン)がブレオマイシン肺線維症モデルにおいて有効性を示す。
【0026】
以上より、USP30の阻害を適応する健康状態の治療又は予防のためのUSP30の阻害剤である化合物が必要とされる。具体的には、この標的疾患に対する有効性を最大にするために適切な及び/又は改善された特性を有するUSP30阻害剤が必要とされる。
【発明の概要】
【0027】
本発明は以下の式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明は、式(I)の前記化合物の使用、特にミトコンドリア機能不全が関係する症状の治療、癌の治療、及び線維症の治療における使用も対象とし、前記化合物の調製のための方法及び前記化合物を含む医薬組成物も対象とする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、前記標的疾患に対する有効性を最大にするために適切な及び/又は改善された特性を有するUSP30阻害剤を対象とする。このような特性には効力、選択性、物理化学的特性、PK(薬物動態学的)プロファイルを含むADME(吸収、分布、代謝、及び排出)特性、及び安全性プロファイル等が含まれる。
【0031】
患者に投与される効果的な/有効な投与量を下げるためには前記標的酵素に対する薬品分子の効力を適切なアッセイにおいて最大にすることが一般的に望ましい。本発明の化合物は、本明細書に記載されるインビトロ生化学的蛍光偏光(FP)アッセイを用いてUSP30に対する親和性について検査され得る。
【0032】
USP30は、細胞内に存在するエネルギー産生オルガネラであるミトコンドリアの外膜中に位置する膜貫通タンパク質である。したがって、USP30は、生理学的設定、すなわちUSP30阻害剤化合物が細胞に浸透することができる設定において標的と結合する高い能力を示し得る多くの成分のうちの1つであるので、インビトロで細胞活性を実証できることが有利である。USP30の細胞ウェスタンブロット(WB)アッセイは、USP30活性を監視するための不可逆的活性プローブを使用して細胞内のUSP30に対する化合物の活性を検査することを目指している。この細胞ウェスタンブロットアッセイと同様に、(生体外)標的結合アセスメントが、化合物投与動物に由来する脳組織試料又は腎臓組織試料について実施され得る。
【0033】
標的への結合についての知識を下流の薬力学にまで拡大するためにTOM20(ミトコンドリア外膜タンパク質)のユビキチン化が評価されることがある。
【0034】
一般に、薬品はその所望の標的酵素に対してできるだけ選択的であることが重要であり、それ以外の活性は副作用の可能性を生み出す。しかしながら、多くのDUBの的確な生理学的役割はまだ充分に分かっておらず、あらゆる薬品は生理学的機能が未知の近縁機械論的標的に対する選択性を有するということは、これらのDUBがどのような役割を果たし、果たさない可能性があるのかと無関係に、守るべき根拠がある医薬品化学の格言である。本発明の化合物についてスクリーニングされ得るDUB酵素の代表例は、UCHL1、UCHL3、UCHL5、YOD1、SENP2、SENP6、TRABID、BAP1、Cezanne、MINDY2/FAM63B、OTU1、OTUD3、OTUD5、OTUD6A、OTUD6B、OTUB1/UBCH5B、OTUB2、CYLD、VCPIP、AMSH-LP、JOSD1、JOSD2、USP1/UAF1、USP2、USP4、USP5、USP6、USP7、USP8、USP9x、USP10、USP11、USP12/UAF1、USP13、USP14、USP15、USP16、USP19、USP20、USP21、USP22、USP24、USP25、USP28、USP32、USP34、USP35、USP36、USP45、USP46/UAF1、USP47、及びUSP48である。本発明の化合物は、これらのDUB酵素のうちの1つ以上よりも良好な選択性をUSP30について有していることが好ましい。
【0035】
他のDUB酵素に対する選択性より高い選択性とは別に、薬品には他の標的への低い親和性を有することが重要であり、潜在的な標的外効果の可能性を評価し、潜在的な標的外効果を最小限にするために薬理学的プロファイリングが一群の標的に対して実施される場合がある。本発明の化合物についてスクリーニングされ得る標的の例は業界標準であるEurofins-Cerep SafetyScreen44パネルの標的であり、このパネルは選ばれた代表的なGPCR受容体、輸送体、イオンチャネル、核内受容体、並びにキナーゼ及び非キナーゼ酵素として44標的を含む。本発明の化合物はこのスクリーニングパネルの標的に対してわずかな親和性しか持たないことが好ましい。本発明の化合物についてスクリーニングされ得る標的のその他の例はThermo Fisher SelectScreenキナーゼプロファイリングパネルのキナーゼであり、このパネルは選ばれた代表的なキナーゼ酵素として39標的を含む。本発明の化合物はこのスクリーニングパネルの標的に対してわずかな親和性しか持たないことが好ましい。また、本発明の化合物についてスクリーニングされ得る特定の酵素分類の例はカテプシン(例えば、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンH、カテプシンK、カテプシンL、カテプシンL2、カテプシンS、カテプシンV、及びカテプシンZ)である。本発明の化合物は、これらの酵素のうちの1つ以上よりも良好な選択性をUSP30について有していることが好ましい。
【0036】
経口投与に適切であるように好ましい薬物動態学的特性を有する化合物も必要とされる。経口投与される薬品は良好な生物学的利用率を有することが必要であり、この生物学的利用率とは、容易に胃腸(GI)管を通過し、GI管から体循環中に通過するときに徹底的な代謝の対象とならない能力のことである。薬品が体循環に入ると、代謝速度も身体内でのこの薬品の滞留時間の決定に重要である。
【0037】
したがって、容易にGI管を通過することができ、身体内でゆっくりとしか代謝されない特性を有することが薬品分子にとって明らかに好ましい。Caco-2アッセイは、所与の分子のGI管を通過する能力を予測するための広く受け入れられているモデルである。薬品分子の代謝の大部分は肝臓で起こることが一般的であり、(動物又はヒトの)肝細胞の全細胞を使用するインビトロアッセイが、所与の分子の肝臓内での代謝されやすさを測定するための広く受け入れられている方法である。このようなアッセイは、肝細胞クリアランス計算値からインビボクリアランスを予測することを目指している。
【0038】
良好なCaco-2透過を有し、且つ、肝細胞に対しては安定な化合物は、良好な経口生物学的利用率(GI管全体での良好な吸収及び化合物が肝臓に向かって通過するときの最小限の浸出)、及びこの薬品が有効であるために充分な身体内での長期滞留時間を有することが予測される。
【0039】
化合物の溶解性は、予期される薬理学的応答のために体循環中で所望の薬品濃度を達成する点で重要な因子である。低い水溶性は新しい化学成分の製剤開発に関して直面する問題であり、薬品は、吸収されるためには吸収される場所で溶液の形態で存在しなければならない。化合物の動態学的溶解度は、濁度測定溶解度アッセイを用いて測定されることがあり、このアッセイのデータは、用量依存的なヒト腸管吸収を予測するためにCaco-2透過性データと併用される場合もある。
【0040】
化合物の曝露プロファイルを示す標準的なアッセイを用いて測定され得る他のパラメータには血漿中安定性値(半減期測定値)、血中AUC値、Cmax値、Cmin値、及びTmax値等が含まれる。
【0041】
アルツハイマー病、パーキンソン病、及び本明細書に記載される他の障害を含むCNS障害の治療は脳を標的とする薬品分子を必要とし、血液脳関門の適切な通過を必要とする。したがって、効果的な血液脳関門通過特性を有し、且つ、有効であるために脳内での適切な滞留時間を実現するUSP30阻害剤が必要とされる。化合物が血液脳関門を通過し得る可能性は、MDR1-MDCK細胞単層(ヒト排出輸送体P-糖タンパク質の過剰発現を引き起こすMDR-1を形質移入されたマディン・ダービーイヌ腎臓細胞)を利用するインビトロ透過アッセイにより判定され得る。また、インビボ動物モデルを使用して脳及び血漿において直接的に曝露を測定する場合もある。
【0042】
様々な標準的なインビトロ方法及びインビボ方法によって測定され得る好ましい安全性プロファイルを有する化合物も必要とされる。ミトコンドリア活性に応答したレザスリン(alamarBlue(商標))のレゾフリンへの変化の蛍光定量検出により特定の細胞系列(例えば、HCT116)における増殖抑制効果/細胞傷害効果をアッセイするために細胞毒性カウンタースクリーニングを用いることができる。
【0043】
毒性試験及び安全性試験も、有害効果の潜在的な標的器官を特定し、且つ、治療時の初期開始用量を設定するための治療指数を定義するために実施され得る。規制上の要件から、一般に、1種類はげっ歯類動物(ラット又はマウス)及び1種類は非げっ歯類動物(ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類動物、又は他の適切な種)の少なくとも2種類の実験動物種において試験を行うことが必要とされる。
【0044】
細菌復帰突然変異アッセイ(エームズ試験)を用い、一般的にアミノ酸であるヒスチジンの生合成についての変異体であるサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)の菌株を使用することにより本発明の化合物の変異原性を評価することができる。
【0045】
小核アッセイを用い、小核の存在を評価することにより化合物に遺伝毒性があるか判定することができる。小核は、DNA切断(染色体異常誘発物質)により作り出される染色体断片又は有糸分裂装置の混乱(異数性誘発物質)により作り出される染色体全体を含み得る。
【0046】
hERGプレディクターアッセイは、検査化合物のカリウムチャネルへの結合可能性及びエコー図上でのQT延長の可能性についての価値ある情報を提供する。hERG電流の抑制によりQT間隔の長期化が引き起こされ、それにより致命的である可能性がある心室性頻脈(トルサード・ド・ポワント)が生じる。典型的には、アッセイデータは、自動パッチクランプアッセイプラットフォームから生成され得る。
【0047】
したがって、本発明は、前記標的疾患に対する有効性を最大にするために適切な及び/又は改善された特性を有するUSP30阻害剤を対象とする。このような特性には効力、選択性、物理化学的特性、PK(薬物動態学的)プロファイルを含むADME(吸収、分布、代謝、及び排出)特性、及び安全性プロファイル等が含まれる。
【0048】
本発明の最も好ましい化合物は、本明細書に記載される生化学的アッセイにおいて測定されるとUSP30に対して非常に効力を有し、且つ、他のDUB及びカテプシンよりもUSP30に対して有意に選択的である。本発明の前記化合物の顕著で予期せぬ特性のため、これらの化合物はUSP30活性に関連のある疾患の治療及び/又は予防での使用に特に適切である。
【0049】
第1の態様によると、本発明は以下の式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0050】
【化2】
【0051】
第1の好ましい態様では本発明は以下の式(IA)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0052】
【化3】
【0053】
第2の好ましい態様では本発明は以下の式(IB)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0054】
【化4】
【0055】
第3の好ましい態様では本発明は以下の式(IC)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0056】
【化5】
【0057】
第4の好ましい態様では本発明は以下の式(ID)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を提供する。
【0058】
【化6】
【0059】
式(I)の好ましい化合物は、
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
(3aS,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
又は薬学的に許容可能なこれらの塩から選択される。
【0060】
式(I)のより好ましい化合物は、
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
(3aS,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
又は薬学的に許容可能なこれらの塩から選択される。
【0061】
式(I)の最も好ましい化合物は(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル又は薬学的に許容可能なその塩である。
【0062】
実施例1は本発明の最も好ましい化合物である。
【0063】
式(I)のこの最も好ましい化合物は単一の右旋性立体異性体として存在し、以下に示される絶対立体配置を有する構造を有するものとして特定されている。
【0064】
【化7】
【0065】
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
【0066】
式(I)の前記化合物は3か所の不斉中心を有し、したがって、同化合物は8通りの立体化学的配置で存在し得る。以下の実施例に従うこの二環式環の合成により、cis融合環系が生み出され、4種類の可能な立体異性体が発生すると考えられる。式(I)のこの最も好ましい化合物の立体化学的配置は実施例1の立体化学的配置であり、それは前記生化学的アッセイにおいてUSP30に対して最も活性が有る化合物である。
【0067】
以下に記載される実験、すなわち実施例1~実施例4によって4種類の立体異性体が調製された。実験条件下(c=0.05g/100cm、MeOH)で測定されると実施例1と実施例3は右旋性であり、実施例2及び実施例4は左旋性である。2種類の異なる方法により調製されたとき、実施例1は[α] 25=+208°及び+204°という旋光性測定値を生じた。このわずかな変化は実験の差異又は光学純度の差異によるものであり得る。実施例3は[α] 25=+166°という旋光性測定値を生じた。
【0068】
また、本発明は、記載されているように測定されると右旋性であり、且つ、おおよその旋光を+204°~+208°の領域に有する前記cis融合立体異性体に関する。この光学純度に依存して、この立体異性体は、実質的に純粋であるときに旋光を+190°~+220°の領域で生み出し得る。このような旋回は、本発明の化合物を同様に右旋性である他のcis融合立体異性体から明確に区別する。
【0069】
また、本発明は(+)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル(I)又は薬学的に許容可能なその塩に関する。
【0070】
また、本発明は実施例1の実験手順によって生み出される前記主要立体異性体に関する。
【0071】
薬学的に許容可能な式(I)の前記化合物の塩には前記化合物の酸付加塩及び塩基塩(二付加塩)が含まれる。
【0072】
適切な酸付加塩は、無毒の塩を形成する酸から形成される。酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物、リン酸水素塩、イセチオン酸塩、D-乳酸塩及びL-乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロト酸塩、リシノール酸塩、リン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、D-酒石酸塩及びL-酒石酸塩、並びにトシル酸塩が例に挙げられる。
【0073】
適切な塩基塩、無毒の塩を形成する塩基から形成される。アルミニウム塩、アンモニウム塩、アルギニン塩、ベンザチン塩、カルシウム塩、コリン塩、ジエチルアミン塩、ジオラミン塩、グリシン塩、リジン塩、マグネシウム塩、メグルミン塩、オラミン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、トロメタミン塩、及び亜鉛塩が例に挙げられる。
【0074】
適切な塩の概要についてはStahl and Wermuth, Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, Wiley-VCH, Weinheim, Germany (2002)を参照されたい。
【0075】
式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩は、式(I)の前記化合物と所望の酸又は塩基の溶液を適宜混合することにより容易に調製され得る。この塩は、溶液から析出され、濾過により収集されても、又はこの溶媒を蒸発させることにより回収されてもよい。
【0076】
本発明に従う薬学的に許容可能な溶媒和化合物には水和物及び溶媒和化合物が挙げられ、結晶化溶媒が同位体、例えばDO、アセトン-d、DMSO-dで置換される場合もある。
【0077】
また、前述の溶媒和化合物と対照的に、薬品とホストが非化学量論的な量で存在している薬品・ホスト封入複合体であるクラスレートも本発明の範囲内である。このような複合体の概要についてはHaleblian, J. Pharm Sci, 64 (8), 1269-1288(1975年8月)を参照されたい。
【0078】
以後、式(I)の化合物へのあらゆる言及は、それらの塩への言及、並びに式(I)の化合物の溶媒和化合物及びクラスレート及びそれらの塩への言及を含む。
【0079】
本発明は、これまでに定義されたような式(I)の前記化合物の全ての多形体を含む。
【0080】
また、式(I)の前記化合物のいわゆる「プロドラッグ」も本発明の範囲内である。したがって、それ自体には薬理学的活性がほとんど又は全くない式(I)の化合物のある特定の誘導体が体の中又は体の上に投与されて代謝されると前記所望の活性を有する式(I)の化合物になり得、このような誘導体が「プロドラッグ」と呼ばれる。
【0081】
本発明に従うプロドラッグは、H. Bundgaardの「Design of Prodrugs」(Elsevier、1985年)等の中に記載されるような「プロ部分」として当業者に知られるある特定の部分で式(I)の前記化合物の中に存在する適切な官能基を置き換えること等によって作製され得る。
【0082】
そして、式(I)のある特定の化合物は、それ自体が式(I)の他の化合物のプロドラッグとして作用する場合がある。
【0083】
窒素原子を含有する式(I)の化合物のある特定の誘導体も対応するN-オキシドを形成する場合があり、このような化合物も本発明の範囲内にある。
【0084】
本発明の範囲内には式(I)の前記化合物の全ての互変異性体が含まれる。
【0085】
個々のエナンチオマーの調製/単離のための従来技術にはキラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いる適切な光学的に純粋な前駆体からのキラル合成又はラセミ体(若しくは塩ラセミ体若しくは誘導体ラセミ体)の分離が含まれる。あるいは、ラセミ体(又はラセミ前駆体)を適切な光学活性化合物、例えばアルコールと反応させてよく、式(I)の前記化合物が酸部分又は塩基部分を含有している場合には1-フェニルエチルアミン又は酒石酸などの塩基又は酸と反応させてよい。その結果生じるジアステレオ異性体の混合物は、クロマトグラフィー及び/又は分別晶析法によって分離される場合があり、当業者によく知られている方法によってそれらのジアステレオ異性体の一方又は両方が対応する純粋なエナンチオマーに転換される。本発明のキラル化合物(及びそれらのキラル前駆体)は、0体積%~50体積%、典型的には2%~20%のプロパン-2-オールと0体積%~5体積%のアルキルアミン、典型的には0.1%のジエチルアミンを含有する炭化水素、典型的にはヘプタン又はヘキサンから成る移動相を使用する非対称性樹脂上でのクロマトグラフィー、典型的にはHPLCを用いてエナンチオマー濃縮体として得られることがある。この溶離液の濃縮によって前記濃縮混合物が生じる。本発明は、式(I)の前記化合物のラセミ体及びラセミ混合物(集成体)を含む式(I)の前記化合物の全ての結晶体を含む。立体異性集成体は、当業者に知られている従来技術によって分離され得る。例えば、E. L. Eliel及びS. H. Wilenの「Stereochemistry of Organic Compounds」(Wiley、ニューヨーク、1994年)を参照されたい。
【0086】
本発明の式(I)の最も好ましい化合物は、式(I)の前記好ましい化合物の1種類以上の他の立体異性体との混合物として存在し得る。例えば、この化合物はそのエナンチオマーと共に存在する場合、すなわちラセミ体として存在する場合があり、又はジアステレオマーと共に存在する場合がある。
【0087】
本発明の式(I)の前記好ましい化合物は、単一の立体異性体として存在することが好ましい。式(I)の前記好ましい化合物は単一の立体異性体として単離され、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば96%、97%、98%、99%、又は100%の立体異性体過剰率で存在する場合がある。この立体異性体過剰率はエナンチオマー過剰の尺度であり得、又はジアステレオマー比率の尺度であり得る。
【0088】
本発明は、式(I)の化合物の全ての薬学的に許容可能な同位体変種も含む。同位体変種は、少なくとも1個の原子が、同じ原子番号を有するが、自然界で通常見られる原子質量とは異なる原子質量を有する原子によって置き換えられている変種として定義される。
【0089】
本発明の前記化合物の中に含めるのに適切な同位体の例には水素の同位体、例えばH及びH等、炭素の同位体、例えば13C及び14C等、窒素の同位体、例えば15N等、酸素の同位体、例えば17O及び18O等、リンの同位体、例えば32P等、硫黄の同位体、例えば35S等、フッ素の同位体、例えば18F等、及び塩素の同位体、例えば36Cl等が挙げられる。
【0090】
重水素などの同位体を使用する本発明の前記化合物の置換によって代謝安定性の増強、例えばインビボ半減期の増加又は必要投与量の減少の結果生じる特定の治療上の利点が生じる場合があり、したがってそのような置換が幾つかの状況では好ましい場合がある。
【0091】
式(I)の前記化合物のある特定の同位体変種、例えば放射性同位体が組み入れられている変種は、薬品及び/又は基質の組織分布研究において有用である。放射性同位体であるトリチウム及び14Cは、これらの組み込みやすさと検出手段の便利さを考えるとこの目的にとって特に有用である。
【0092】
式(I)の前記化合物の同位体変種は、概して、当業者に知られている従来技術によって、又は適切な試薬の適切な同位体変種を使用する添付実施例及び調製例に記載される方法と類似の方法によって調製され得る。
【0093】
式(I)の前記化合物は脱ユビキチン化酵素USP30の阻害剤である。
【0094】
その他の態様によると、本発明は、医薬品として使用される本明細書において定義される式(I)の化合物、その互変異性体、又は前記化合物若しくは前記互変異性体の薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0095】
その他の態様によると、本発明は、USP30の阻害によって哺乳類動物において有益な効果が生じることが知られている、又は有益な効果が生じることを示すことができる障害又は健康状態を治療又は予防する方法であって、治療有効量の本明細書において定義される式(I)の化合物、その互変異性体、又は前記化合物若しくは前記互変異性体の薬学的に許容可能な塩を前記哺乳類動物に投与することを含む前記方法を提供する。
【0096】
その他の態様によると、本発明は、USP30の阻害によって有益な効果が生じることが知られている、又は有益な効果が生じることを示すことができる障害又は健康状態の治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において定義される式(I)の化合物、その互変異性体、又は前記化合物若しくは前記互変異性体の薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。医薬品の製造は、式(I)の前記化合物又はその塩の化学合成、又は前記化合物若しくは前記塩を含む組成物若しくは製剤の調剤、又は前記化合物を含むあらゆる医薬品の包装を特に含み得る。
【0097】
その他の態様によると、本発明は、患者におけるUSP30の阻害方法であって、治療有効量の本明細書において定義される式(I)の化合物、その互変異性体、又は前記化合物若しくは前記互変異性体の薬学的に許容可能な塩を前記患者に投与することを含む前記方法を提供する。
【0098】
USP30活性から利益を得る前記障害又は健康状態は、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、及び線維症から選択される。
【0099】
本発明の全ての態様の1つの好ましい実施形態ではUSP30活性から利益を得る前記障害又は健康状態は、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態である。
【0100】
ミトコンドリア機能不全は、赤血球を除いて身体の全ての細胞に存在する特別な区画であるミトコンドリアの欠損の結果として生じる。ミトコンドリアに欠損があると細胞内で作られるエネルギーが少なくなり、細胞損傷、又は細胞死さえもそれに続くことになる。この過程が全身で反復する場合、この過程が起きている対象の生命が著しく損なわれる。ミトコンドリア病は、非常にエネルギーを必要とする脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、内分泌系、及び呼吸器系などの器官において現れることが最も多い。
【0101】
ミトコンドリア機能不全に関係する前記症状は、マイトファジー欠損に関係する症状、ミトコンドリアDNA中の遺伝子変異に関係する症状、ミトコンドリア酸化ストレスに関係する症状、ミトコンドリア膜電位の欠損に関係する症状、ミトコンドリア発生の欠損に関係する症状、ミトコンドリアの形状又は形態の欠損に関係する症状、及びリソソーム蓄積の欠損に関係する症状から選択され得る。
【0102】
具体的には、ミトコンドリア機能不全に関係する前記症状は、神経変性疾患、多発性硬化症(MS)、ミトコンドリア脳症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様発作(MELAS)症候群、難聴を伴う母性遺伝糖尿病(MIDD)、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、癌(例えば、乳房癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頚部癌、膵臓癌、脳癌、黒色腫、骨癌、又は他の組織器官の癌、並びにリンパ腫及び白血病などの血液細胞の癌、多発性骨髄腫、転移性癌、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、鼻咽頭癌、大腸癌、並びに非小細胞肺癌を含む)、神経障害・運動失調・網膜色素変性症・母性遺伝リー症候群(NARP-MILS)、ダノン病、糖尿病、糖尿病性腎症、代謝障害、心不全、心筋梗塞につながる虚血性心疾患、精神疾患、例えば精神分裂病、マルチプルスルファターゼ欠損症(MSD)、ムコリピドーシスII型(ML II)、ムコリピドーシスIII型(ML III)、ムコリピドーシスIV型(ML IV)、GM1-ガングリオシドーシス(GM1)、神経セロイドリポフスチン症(NCL1)、アルパーズ病、バース症候群、β酸化欠損、カルニチン-アシル-カルニチン欠乏症、カルニチン欠乏症、クレアチン欠乏症候群、コエンザイムQ10欠乏症、ミトコンドリア複合体I欠損症、ミトコンドリア複合体II欠損症、ミトコンドリア複合体III欠損症、ミトコンドリア複合体IV欠損症、ミトコンドリア複合体V欠損症、チトクロームCオキシダーゼ(COX)欠損症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)I欠損症、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)II欠損症、グルタル酸尿症II型、カーンズ・セイヤー症候群、乳酸アシドーシス、長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症(LCHAD)、リー病又はリー症候群、リー症候群フランス系カナダ人(LSFC)変異型、致死性幼児心筋症(LIC)、ルフト病、中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症(MCAD)、ミオクロニーてんかん・赤色ぼろ線維(MERRF)症候群、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリア劣性運動失調症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群、筋神経胃腸障害・脳症、ピアソン症候群、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、POLG遺伝子変異、中鎖/短鎖3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(M/SCHAD)欠損症、超長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ(VLCAD)欠損症、ペルオキシソーム病、マロン酸メチル血症、メバロン酸キナーゼ欠損症、加齢による認知機能と筋力の低下、並びに神経変性及び神経精神障害に付随する認知障害から選択され得る。
【0103】
ミトコンドリア機能不全に関係する前記症状はCNS障害、例えば神経変性疾患であってよい。
【0104】
神経変性疾患にはパーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、虚血、脳卒中、レビー小体型認知症、多系統委縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及び前頭側頭型認知症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0105】
具体的には、本発明の前記化合物は、限定されないが、α-シヌクレイン、パーキン、PINK1、GBA、及びLRRK2の中の遺伝子変異に関連するPD並びにパーキン又はPINK1に変異、短縮化、又は欠失がある場合の常染色体劣性若年性パーキンソン病(AR-JP)又は早期発症パーキンソン病(EOPD)を含むパーキンソン病の治療又は予防に有用であり得る。
【0106】
具体的には、本発明の前記化合物は、アルツハイマー病及びパーキンソン病に付随する認知障害、AD及びPDの前臨床症状又は前駆症状、ハンチントン病、レビー小体型認知症、精神分裂病に付随する認知障害、気分障害に付随する認知障害、双極性障害に付随する認知障害、及び大うつ病性障害に付随する認知障害等を含む神経変性及び神経精神障害に付随する認知障害の治療に有用であり得る。
【0107】
本発明の前記化合物又は本明細書に記載されるようなそれらの医薬組成物は、ミトコンドリア機能不全が関係する症状の治療又は予防に使用されるときに1種類以上の追加の薬剤と組み合わせられる場合がある。これらの化合物は、レボドパ、ドーパミンアゴニスト、モノアミノオキシゲナーゼ(MAO)B阻害剤、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、抗コリン作動薬、リルゾール、アマンタジン、コリンエステラーゼ阻害剤、メマンチン、テトラベナジン、抗精神病薬、ジアゼパム、クロナゼパム、抗うつ薬、及び抗けいれん薬から選択される1種類以上の追加の薬剤と組み合わせられる場合がある。これらの化合物は、神経変性疾患での病原性のタンパク質凝集物を減らす/取り除く薬剤、例えばパーキンソン病、多系統委縮症、又はレビー小体型認知症でのα-シヌクレインを減らす/取り除く薬剤、アルツハイマー病又は進行性核上性麻痺でのTauを減らす/取り除く薬剤、又はALS若しくは前頭側頭型認知症でのTDP-43を減らす/取り除く薬剤等と組み合わせられる場合がある。
【0108】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態ではUSP30活性から利益を得る前記障害又は健康状態は癌である。この癌は、ミトコンドリア機能不全に関連付けられる場合がある。好ましい癌には、例えば、乳房癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頚部癌、膵臓癌、脳癌、黒色腫、骨癌、又は他の組織器官の癌、並びにリンパ腫及び白血病などの血液細胞の癌、多発性骨髄腫、転移性癌、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、鼻咽頭癌、大腸癌、大腸癌、並びに非小細胞肺癌が挙げられる。
【0109】
具体的には、本発明の前記化合物は、アポトーシス経路が調節不全になっているところの癌、より具体的にはBCL-2ファミリーのタンパク質に変異があるか又は同タンパク質が過剰発現若しくは過少発現しているところの癌の治療又は予防に有用であり得る。
【0110】
線維症とは、外傷、炎症、組織修復、免疫反応、細胞過形成、及び細胞新形成の後に起こる細胞外マトリックス成分の蓄積のことをいう。本発明の前記化合物及び組成物によって治療され得る線維化障害には間質性肺疾患(ILD)、肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)(肝線維症)、腎臓病(腎線維症)、急性腎障害(AKI)、急性腎臓病(AKD)、慢性腎臓疾患(CKD)、腎移植片機能遅延、心臓疾患又は血管疾患(心線維症)及び眼病などの主要臓器疾患に付随する線維症/線維化障害、全身性強皮病及び限局性強皮病、ケロイド及び肥厚性瘢痕、アテローム性硬化症、再狭窄、及びデュピュイトラン拘縮などの線維増殖性疾患、並びに外科手術合併症、化学療法剤誘発性線維症(例えば、ブレオマイシン誘発線維症)、放射線誘発性線維症、事故による損傷及び火傷、後腹膜線維症(オーモンド病)、及び通常は腎臓移植の後に腹膜透析を受ける患者における腹膜線維症/腹膜瘢痕形成などの外傷に伴う瘢痕形成が特に挙げられる。例えば、Wynn et al, 2004, Nat Rev Immunol. 8月; 4(8): 583-594を参照されたい。したがって、本発明は、肺、肝臓、腎臓、心臓、皮膚、眼、胃腸管、腹膜、及び骨髄等を含む主要器官の、及び/又は主要器官に付随する線維症/線維化障害並びに本明細書において記載される他の疾患/障害を治療又は予防する方法、並びに前記方法において使用される化合物及び組成物に関連する。
【0111】
これらの化合物は、抗糖尿病薬、抗心血管疾患薬、並びに酸化ストレス経路(限定されないが、nrf2/keap-1経路を含む)及び抗アポトーシス経路(限定されないが、抗p53薬を含む)などの疾患関連経路を標的とする新規薬剤を含む腎臓病の治療法として使用される薬剤と組み合わせられる場合がある。
【0112】
間質性肺疾患(ILD)は、肺炎症及び肺線維症が疾患状態の共通する最終経路である障害、例えば、サルコイドーシス、ケイ肺症、薬物反応、感染症、及び例えばリウマチ性関節炎及び全身性硬化症(強皮病)などの膠原血管病を含む。肺の線維化障害は、例えば、肺線維症、特発性肺線維症(IPF)、通常の間質性肺炎(UIP)、間質性肺疾患、特発性線維化肺胞炎(CFA)、閉塞性細気管支炎、及び気管支拡張症を含む。
【0113】
特発性肺線維症(IPF)は最も一般的な種類のILDであり、原因が不明である。
【0114】
これらの化合物は、IPFの治療法であり、潜在的にILDの治療法でもあるニンテダニブ及びピルフェニドンを含む薬剤と組み合わせられる場合がある。
【0115】
肝硬変の原因はILDの原因と類似しており、肝硬変には、例えば、ウイルス性肝炎、住血吸虫症、及び慢性アルコール中毒症に関連する肝硬変が含まれる。
【0116】
腎臓病は糖尿病を伴う場合があり、この糖尿病が、進行性の機能喪失を引き起こし、高血圧疾患をも引き起こすことになる損傷や瘢痕を腎臓に発生させる可能性がある。腎線維症は、受傷後の急性腎臓病(AKD)及び慢性腎臓疾患(CKD)、例えば偶発性CKD及び進行性CKD等から末期腎不全(ESRD)までの腎臓病のどのステージでも発生し得る。腎線維症は、高血圧又は糖尿病などの心血管疾患の結果として生じる可能性があり、高血圧又は糖尿病のどちらも腎機能に対して大変な負担をかけ、その負担が線維化応答を促進する。しかしながら、腎線維症は特発性(原因が知られていない)である場合もあり、ある特定の遺伝的ミトコンドリア病も腎線維症の兆候及び随伴症状を呈する。
【0117】
心臓疾患は、心臓のポンプ能力を弱める可能性がある瘢痕組織を生じさせる場合がある。
【0118】
眼病には黄斑変性症、網膜網膜症、及び硝子体網膜症等が含まれ、それらの眼病は視力を弱める可能性がある。
【0119】
好ましい実施形態では本発明は、特発性肺線維症(IPF)の治療又は予防を対象とする。
【0120】
別の好ましい実施形態では本発明は、腎線維症の治療又は予防を対象とする。
【0121】
別の好ましい実施形態では本発明は、急性腎障害(AKI)の治療又は予防、特にハイリスク患者での治療又は予防を対象とする。術後AKI、例えば臓器移植後の虚血再灌流傷害、移植片機能遅延などに起因するAKI、腫瘍学、例えば化学療法起因するAKI、直接的尿細管細胞傷害、血行力学性虚血、及び浸透圧作用などの造影剤腎症、薬物又は感染症などに起因する急性間質性腎炎、腎結石などの閉塞に起因するAKI、並びにCOVID-19誘発性AKIが例に挙げられる。特定のハイリスク患者小集団は、心臓手術、例えば冠動脈バイパス移植及び/又は心臓弁手術を受けている患者の小集団である。AKIには65歳以上の年齢、インスリン依存性糖尿病、CKD(推定糸球体濾過量[eGFR]が60ml/分/1.73m未満の成人には特別なリスクがある)、心不全、肝臓病、AKIの履歴といった確立した静的リスク因子が存在する。
【0122】
別の好ましい実施形態では本発明は、急性腎臓病(AKD)又はそのようなAKIから生じる尿細管間質線維症及び糖尿病性腎症等を含む慢性腎臓疾患(CKD)の治療又は予防を対象とする。
【0123】
別の好ましい実施形態では本発明は、限定されないが、NAFLD、NASH、肝硬変、門脈高血圧症、急性肝不全、及び肝細胞癌を含む肝臓病の治療又は予防を対象とする。NAFLD及びNASHなどの肝臓病は、代謝症候群及びII型糖尿病などの様々な代謝症状を伴う場合があり、それらの代謝症状は、糖尿病網膜症及び末梢神経障害を含む様々な糖尿病随伴症状のリスクを上昇させることにもなる。
【0124】
本発明の前記化合物又は本明細書に記載されるような前記化合物の医薬組成物は、肝臓病及び代謝機能不全に関係する健康状態の治療又は予防に使用されるとき、メトホルミン、スルホニル尿素、DPP-4阻害剤、GLP-1アゴニスト、PPARアゴニスト、SGLT2阻害剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、及びアンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)を含む1種類以上の追加の薬剤と組み合わせられる場合がある。
【0125】
リー症候群は、中枢神経系に影響する希少遺伝性神経代謝障害である。この進行性の障害は、幼児が3か月齢と2歳の間に発生する。10代の若者及び成人においてこの疾患が発生することは稀である。リー症候群は、ミトコンドリアタンパク質をコードする核DNA中の遺伝子突然変異、ミトコンドリアDNA中の遺伝子突然変異(母性遺伝リー症候群、すなわちMILS)、又はX染色体の短腕上に位置するピルビン酸デヒドロゲナーゼと呼ばれる酵素の欠損(X連鎖リー症候群)によって引き起こされ得る。リー症候群の症状は、通常、急速に進行する。最も早い兆候は吸乳能力不足並びに頭部制御及び運動能力の喪失であり得る。これらの症状には食欲不振、嘔吐、過敏、連続的啼泣、及び発作が伴う場合がある。この疾患が進行するにつれ、全身性脱力、筋緊張の喪失、及び乳酸アシドーシスエピソードも症状に含まれる場合があり、これにより呼吸機能障害及び腎臓機能障害が引き起こされることがある。
【0126】
母性遺伝リー症候群(MILS)ではミトコンドリアDNA中の遺伝子突然変異(90%を超える高い割合)により、運動において役割を果たす脳の領域中の細胞を働かせるエネルギー源が妨害される。ミトコンドリアDNA中の遺伝子突然変異によってこれらの細胞においてエネルギーが慢性的に不足し、この不足が次に中枢神経系に影響し、運動機能の進行性変性の原因になる。MILSの原因になるミトコンドリアDNA中の遺伝子突然変異があまり多くない(90%未満)であるとき、この症状は神経障害・運動失調・網膜色素変性症(NARP)として知られる。細胞代謝に重要な別のグループの物質を産生する遺伝子の中の遺伝子突然変異の結果であるリー病の一形態(X連鎖性リー病と呼ばれる)も存在する。LRPPRCと呼ばれる遺伝子の中の突然変異を特徴とする、フランス系カナダ人変異型と呼ばれるリー症候群のその他の変種が存在する。リー症候群の神経症状と同様の神経症状が現れるが、脂肪肝も共通してフランス系カナダ人変異型に見られる。
【0127】
好ましい実施形態では本発明は、X連鎖性リー病、リー症候群フランス系カナダ人変異型、及び/又はリー病に付随する症状等を含むリー症候群又はリー病の治療又は予防を対象とする。
【0128】
前記化合物は、限定されないが、ニコチンアミドリボシドを含むミトコンドリア病の治療法として使用され得る新規薬剤と組み合わせられる場合がある。
【0129】
「治療」への言及は、一時的又は恒久的な前記症状の改善のための方法、前記症状の緩和のための方法、前記症状の原因の除去のための方法を含む。本発明の前記化合物は、ヒト及び他の哺乳類動物における本明細書において開示される前記疾患の治療に有用である。
【0130】
別の実施形態では本発明は、本明細書において開示される前記疾患の予防治療を包含し、前記指定障害又は健康状態の症状の出現を防止又は遅延化する方法を含む。本発明の前記化合物は、ヒト及び他の哺乳類動物における本明細書において開示される前記疾患の予防に有用である。
【0131】
治療又は予防を必要とする患者は、前記健康状態に苦しんでいる又は前記健康状態に苦しむリスクがあるヒト又は他の哺乳類動物等であってよい。
【0132】
その他の態様によると、本発明は、本明細書において定義される式(I)の化合物又は前記化合物若しくは前記互変異性体の薬学的に許容可能な塩を薬学的に許容可能な希釈剤又は担体と共に含む医薬組成物を提供する。
【0133】
本発明の医薬組成物は、本発明の前記化合物のいずれかをあらゆる薬学的に許容可能な担体、アジュバント又はベヒクルと組み合わせて含む。薬学的に許容可能な担体の例は当業者に知られており、投与モード及び剤形の性質に応じて保存剤、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、殺細菌剤、殺真菌剤、滑沢剤、及び分散剤が例に挙げられるがこれらに限定されない。前記組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、エリキシル剤、ロゼンジ剤、坐剤、シロップ剤、並びに懸濁液剤及び溶液剤を含む液剤の形態であってよい。本発明の文脈の中の「医薬組成物」という用語は、活性薬剤を含み、且つ、その他に1種類以上の薬学的に許容可能な担体を含む組成物を意味する。前記組成物は、投与モード及び剤形の性質に応じて、例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤、ベヒクル、保存剤、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、殺細菌剤、殺真菌剤、滑沢剤、及び分散剤から選択される成分をさらに含んでよい。
【0134】
本発明の前記化合物又は本明細書に記載されるような前記化合物の医薬組成物は単独で使用されてもよく、1種類以上のそれ以外の医薬剤と組み合わせて使用されてもよい。これらの化合物は、追加の抗腫瘍治療薬、例えば、化学療法薬又は他の調節性タンパク質の阻害剤と組み合わせられる場合がある。1つの実施形態ではその追加の抗腫瘍治療薬はBH-3模倣物である。その他の実施形態ではBH-3模倣物は、限定されないが、ABT-737、ABT-199、ABT-263、及びオバトクラックスのうちの1つ以上から選択され得る。その他の実施形態ではその追加の抗腫瘍薬は化学療法剤である。化学療法剤は、限定されないが、オラパリブ、マイトマイシンC、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、電離放射線(IR)、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、テモゾロミド、タキサン、5-フルオロピリミジン、ゲムシタビン、及びドキソルビシンから選択され得る。
【0135】
線維化障害の治療又は予防のため、例えば、本発明の前記化合物又は本明細書に記載されるような前記化合物の医薬組成物は単独で使用されてもよく、抗コリン作用薬、β-2模倣物、ステロイド、PDE-IV阻害剤、p38 MAPキナーゼ阻害剤、NK1アンタゴニスト、LTD4アンタゴニスト、EGFR阻害剤、及びエンドセリンアンタゴニストからなる群より選択される1種類以上のそれ以外の医薬剤と組み合わせて使用されてもよい。
【0136】
具体的には、本発明の前記化合物又は本明細書に記載されるような前記化合物の医薬組成物は単独で使用されてもよく、コルチコステロイド、免疫抑制剤、若しくは細胞傷害剤などの総合免疫抑制薬又はピルフェニドン若しくは非特異的キナーゼ阻害剤(例えば、ニンテダニブ)などの抗線維化剤からなる群より選択される1種類以上のそれ以外の医薬剤と組み合わせて使用されてもよい。
【0137】
本発明の前記医薬組成物は、あらゆる適切で有効な方式で投与されてよく、例えば経口投与されてよく、非経口投与されてよく、局所投与されてよく、吸入により投与されてよく、鼻内投与されてよく、直腸投与されてよく、膣内投与されてよく、眼に投与されてよく、及び耳に投与されてよい。本発明の化合物の送達に適切な医薬組成物及びそれらの医薬組成物の調製方法は簡単に当業者に明らかになる。このような組成物及びそれらの組成物の調製方法は、例えば「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、第19版(Mack Publishing社、1995年)の中に見出され得る。
【0138】
経口投与
本発明の前記化合物は、経口投与される場合がある。経口投与は嚥下を伴う場合があり、それによって前記化合物は胃腸管の中に入り、又は前記化合物を口腔から直接的に血流の中に入れるバッカル投与若しくは舌下投与が用いられる場合がある。
【0139】
経口投与に適切な製剤としては錠剤、顆粒剤含有、液剤含有、又は粉剤含有カプセル剤、ロゼンジ剤(液剤充填ロゼンジ剤を含む)、チュワブル剤、マルチ粒子剤、及びナノ粒子剤などの固形製剤、ゲル剤、フィルム剤(粘膜接着フィルム剤を含む)、膣座薬、スプレー剤、並びに液体製剤が挙げられる。
【0140】
液体製剤には懸濁液剤、溶液剤、シロップ剤、及びエリキシル剤が含まれる。このような製剤は軟質カプセル剤又は硬質カプセル剤の中の充填成分として用いられる場合があり、担体、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、メチルセルロース、又は適切な油と1種類以上の乳化剤及び/又は懸濁化剤を含むことが典型的である。液体製剤は、固形物の再構成、例えばサシェ剤からの再構成によって調製される場合がある。
【0141】
本発明の前記化合物は、Liang and Chen、(2001)Expert Opinion in Therapeutic Patents, 11 (6), 981-986に記載される剤形などの急速溶解急速崩壊剤形の形で使用されてもよい。
【0142】
典型的な錠剤は、製剤化学者に知られている標準的な方法を用いて、例えば直接打錠、(乾式、湿式、又は溶融)造粒、溶融凝固造粒、又は押出しによって調製され得る。錠剤製剤は1層以上の層を含む場合があり、被覆されていても被覆されていなくてもよい。
【0143】
経口投与に適切な賦形剤の例にはセルロース、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、マンニトール、及びクエン酸ナトリウムなどの担体、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びゼラチンなどの造粒結合剤、デンプングリコール酸ナトリウム及びケイ酸塩などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸などの滑沢剤、ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤、保存剤、抗酸化剤、香味剤、並びに着色剤が挙げられる。
【0144】
経口投与用の固形製剤は、即時放出及び/又は放出調節するように製剤される場合がある。放出調節製剤には遅延放出、持続放出、パルス放出、制御デュアル放出、標的放出、及びプログラム放出が挙げられる。高エネルギー分散、浸透圧、及び粒子被覆などの適切な放出調節技術の詳細は、Verma et al, Pharmaceutical Technology On-line, 25 (2), 1-14 (2001)の中に見出される。他の放出調節製剤は、米国特許第6106864号明細書の中で説明されている。
【0145】
非経口投与
本発明の前記化合物は、血流中に、筋肉内に、又は内臓内に直接的に投与される場合もある。非経口投与のための適切な方法には静脈内方法、動脈内方法、腹腔内方法、髄腔内方法、脳室内方法、尿道内方法、胸骨内方法、頭蓋内方法、筋肉内方法、及び皮下方法が挙げられる。非経口投与用の適切な器具には針(マイクロニードルを含む)式注射器、針不使用注射器、及び輸液技術が挙げられる。
【0146】
非経口製剤は、塩、炭水化物、及び緩衝剤(好ましくは3~9のpHにするための緩衝剤)などの賦形剤を含んでもよい水溶液であることが典型的であるが、幾つかの用途では非経口製剤は、無菌非水性溶液として又は無菌発熱性物質非含有水などの適切なベヒクルと併用される乾燥形態として適切に製剤される場合もある。
【0147】
無菌条件下での、例えば凍結乾燥による非経口製剤の調製は、当業者によく知られている標準的な製剤技術を用いて容易に達成される場合がある。
【0148】
非経口溶液剤の調製に使用される式(I)の化合物の溶解性は、適切な加工、例えば高エネルギースプレー乾燥分散の使用及び/又は適切な製剤技術の使用、例えば溶解性向上剤の使用等によって上昇する場合がある。
【0149】
非経口投与用の製剤は、即時放出及び/又は放出調節するように製剤される場合がある。放出調節製剤には遅延放出、持続放出、パルス放出、制御デュアル放出、標的放出、及びプログラム放出が挙げられる。
【0150】
本発明の医薬組成物は、血液脳関門を迂回するための当技術分野において知られている組成物及び方法も含み、又は脳内に直接注入され得る。注射に適切な領域には大脳皮質、小脳、中脳、脳幹、視床下部、脊髄及び脳室組織、並びに頸動脈小体及び副腎髄質を含むPNS領域が挙げられる。
【0151】
投与量
化合物の有効用量の程度は、治療する健康状態の重症度及び投与経路といった性質によって変化することはもちろんである。適切な投与量の選択は医師の権限の範囲内にある。一日用量の範囲はヒト及び非ヒト動物のkg体重当たり約10μg~約100mgであり、一般的には1回の投与、1kgの体重当たり約10μg~約30mgであり得る。上記用量は一日に1回~3回の頻度で投与され得る。
【0152】
例えば、経口投与は5mg~1000mg、例えば5mg~500mgの合計一日用量を必要とする場合があり、一方で静脈内投与はわずかに0.01mg/kg体重~30mg/kg体重、例えば0.1mg/kg体重~10mg/kg体重、より好ましくは0.1mg/kg体重~1mg/kg体重を必要とする場合がある。この合計一日用量は一回の投与又は複数の分割投与で投与され得る。
【0153】
当業者は、ある特定の健康状態の治療又は予防では本発明の化合物が要求に応じて(すなわち、必要に応じて又は所望により)一回の投与で受領され得ることも理解する。
【0154】
合成方法
式(I)の化合物は、反応スキームの概略として以下で説明される方法及び代表例を用いて調製され得る。適切な場合、スキーム内の個々の変形を異なる順序で完成させてよい。本発明は、以下の略語及び定義を使用する次の非限定的な例によって例示される。液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)若しくはH NMR又はそれらの両方によって化合物の特徴を解析した。
【0155】
その他の態様によると、本発明は、式(I)の化合物を調製するための方法であって、標準的な方法を用いてPGが保護基である式(III)の化合物を脱保護して次に臭化シアンと反応し得るアミン(II)を提供し、それにより式(I)の当該化合物を生じさせることを含む前記方法を提供する。
【0156】
【化8】
【0157】
その他の態様では本発明は、式(II)及びPGが保護基である式(III)から選択される化合物又は前記化合物の塩を提供する。
【0158】
好ましい実施形態では本発明は、式(IIA)及びPGが保護基である式(IIIA)から選択される化合物又は前記化合物の塩を提供する。
【0159】
【化9】
【0160】
その他の態様によると、本発明は、式(III)の化合物を調製するための方法であって、標準的な方法を用いて、例えばm-クロロ過安息香酸を使用してPGが保護基である式(IV)の化合物を酸化して次にトリメチルシリルシアニド及びジメチルカルバモイルクロリドと反応し得るPGが保護基であるN-オキシド(V)を提供し、それにより式(III)の当該化合物を提供することを含む前記方法を提供する。
【0161】
【化10】
【0162】
その他の態様では本発明は、PGが保護基である式(IV)及び式(V)から選択される化合物又は前記化合物の塩を提供する。
【0163】
好ましい実施形態では本発明は、PGが保護基である式(IVA)及び式(VA)から選択される化合物又は前記化合物の塩を提供する。
【0164】
【化11】
【0165】
保護基は、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)、p-メトキシベンジルカルボニル(MeOZ)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)、ベンジル(Bn)、カルバメート、p-メトキシベンジル(PMB)、3,4-ジメトキシベンジル(DMPM)、p-メトキシフェニル(PMP)、トシル(Ts)、トリクロロエトキシカルボニル(Troc)、4-ニトロベンゼンスルホニル(Nosyl)、及び2-ニトロフェニルスルフェニル(Nps)から選択されることが好ましい。BOC及びCbzが最も好ましい。
【0166】
【表1】
【0167】
LCMS方法/HPLC方法/SFC方法
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
【表4】
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
【表7】
【0174】
【表8】
【0175】
【表9】
【0176】
【表10】
【0177】
【表11】
【0178】
【表12】
【0179】
【表13】
【0180】
【表14】
【0181】
【表15】
【0182】
【表16】
【0183】
【表17】
【0184】
【表18】
【0185】
【表19】
【0186】
【表20】
【0187】
【表21】
【0188】
【表22】
【0189】
中間産物A
5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチル
【0190】
【化12】
【0191】
(i)i-PrMgCl、THF、rt、(ii)TFA、DCM、0℃~rt、(iii)TEA、DCM、0℃~rt
【0192】
工程(i)
(2-オキソ-2-(ピリジン-4-イル)エチル)カルバミン酸tert-ブチル
4-ブロモピリジン塩酸塩(CAS番号19524-06-2、CombiBlocks社より、8.0g、41.2mmol)を5%NaCO水溶液(300mL)で処理し、DCM(2×100mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物を直ぐに乾燥THF(50mL)の中に溶解し、イソプロピルマグネシウムクロリド(THF中の2M、20.57mL、41.2mmol)をN下において室温で滴下して添加した。それにより生じた暗色溶液を室温で1.5時間にわたって撹拌し、その時間の間に沈殿物が形成した。一方、THF(50mL)中の(2-(メトキシ(メチル)アミノ)-2-オキソエチル)カルバミン酸tert-ブチル(7.1g、32.9mmol)の撹拌懸濁液にイソプロピルマグネシウムクロリド(THF中の2M、16.4mL、32.9mmol)を0℃で滴下して添加した。この溶液を10分間にわったって撹拌した後にピリジルグリニャール試薬に対して室温で滴下して添加した。この混合物を室温で16時間にわたって撹拌した後に水(200mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×200mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン中の30%EtOAc)により精製して(2-オキソ-2-(ピリジン-4-イル)エチル)カルバミン酸tert-ブチルを得た(4.8g、20.3mmol、49%の収率)。
【0193】
LCMS:方法C、1.40分、MS: ES+ 237.1; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 8.88 - 8.89 (d, J = 5.6 Hz, 2H), 7.77 - 7.79 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.49 (br s, 1H), 4.69 - 4.71 (d, J = 4.4 Hz, 2H), 1.52 (s, 9H)。
【0194】
工程(ii)
2-アミノ-1-(ピリジン-4-イル)エタン-1-オンTFA塩
DCM(50mL)中の(2-オキソ-2-(ピリジン-4-イル)エチル)カルバミン酸tert-ブチル(4.8g、20.34mmol)の撹拌溶液にTFA(2.4mL、5vol)を0℃で滴下して添加した。この混合物をゆっくりと室温まで温め、そして2時間にわたって撹拌した後に減圧下においてDCM(3×100mL)と共に濃縮して2-アミノ-1-(ピリジン-4-イル)エタン-1-オンTFA塩を得た(7.0g、収量)。
【0195】
LCMS:方法C、0.29分、MS: ES+ 136.96; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.91 - 8.93 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 8.36 (br s, 3H), 7.92 - 7.94 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 4.68 (t, J = 5.2 Hz, 2H)。
【0196】
工程(iii)
5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチル
この反応は、2回にわたり実施された。DCM(80mL)中の2-アミノ-1-(ピリジン-4-イル)エタン-1-オンTFA塩(3.0g、12mmol)の撹拌溶液にTEA(3.75g、5.17mL、37.2mmol)を室温で滴下して添加した。クロロシュウ酸エチル(1.63g、1.33mL、12mmol)を0℃で滴下して添加した。この混合物をゆっくりと室温まで温め、そして24時間にわたって撹拌した。これらの2バッチを混合し、水(200mL)の中に投入し、そしてDCM(2×200mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン中の40%EtOAc)により精製して5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチルを得た(0.45g、2.06mmol、2工程で10%の収率)。
【0197】
LCMS:方法C、1.29分、MS: ES+ 219.25; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.74 - 8.75 (d, J = 5.6 Hz, 2H), 8.29 (s, 1H), 7.79 - 7.80 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 4.40-4.45 (q, J = 7.2, Hz, 2H), 1.37 (t, J = 6.8 Hz, 3H)。
【0198】
中間産物B
rac-tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
【0199】
【化13】
【0200】
(i)EtOC(O)Cl、NaOH、DCM、0℃~rt、(ii)NaH、DMF、3-クロロブタ-1-エン、0℃~rt、(iii)HCOH、0℃の後に100℃、(iv)N-ベンジルグリシン、トルエン、110℃、(v)濃HCl、110℃、(vi)(BOC)O、TEA、4-ジメチルアミノピリジン、DCM、0℃~rt、(vii)クロマトグラフィーによる分離、(viii)Pd(OH)、MeOH、H、rt
【0201】
工程(i)
(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル
DCM(100mL)中の2,2-ジメトキシエタン-1-アミン(CAS番号22483-09-6、Combi-blocks社より、12.5g、118.9mmol)の撹拌溶液に水酸化ナトリウム(5.2g、130.8mmol)の水溶液(31mL)を0℃で滴下して添加した。クロロギ酸エチル(14.2g、130.8mmol)を添加し、この混合物を室温で16時間にわたって撹拌した。この混合物及び2回目の反応の混合物を水(500mL)の中に投入し、そしてDCM(3×500mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮して(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチルを得た(36.5g、収量)。
【0202】
H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 7.15 (s, 1H), 4.34 (t, J = 5.2 Hz, 1H), 3.98 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.24 (s, 6H), 3.05 (t, J = 5.6 Hz, 2H), 1.15 (t, J = 7.2 Hz, 3H)。
【0203】
工程(ii)
ブタ-3-エン-2-イル-(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル
DMF(50mL)中の(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル(12.1g、68.3mmol)の撹拌溶液にNaH(鉱物油中の60%、6.84g、170.9mmol)を0℃で2時間かけて少しずつ添加した。この混合物を0℃で2時間にわたって撹拌した後に3-クロロブタ-1-エン(7.6mL、75.2mmol)を添加し、この混合物を室温で20時間にわたって撹拌した。この混合物及び2回の複製反応の混合物を氷冷水(300mL)の中に入れて反応を止め、そしてEtOAc(3×500mL)で抽出した。混合した有機相を冷却水(3×150mL)及び塩水(2×150mL)で洗浄した。この有機相を無水NaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(塩基性酸化アルミニウム、n-ヘキサン中の5%EtOAc)により精製してブタ-3-エン-2-イル-(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチルを得た(15.5g、67.0mmol、2工程で28%の収率)。
【0204】
H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 5.88 - 5.94 (m, 1 H), 5.08 - 5.11 (m, 2H), 4.41 - 4.48 (m, 2H), 4.05 - 4.06 (m, 2H), 3.18 - 3.35 (m, 8H), 1.18 - 1.24 (m, 6H)。
【0205】
工程(iii)
ブタ-3-エン-2-イル-(2-オキソエチル)カルバミン酸エチル
ブタ-3-エン-2-イル-(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル(15.5g、67.0mmol)の撹拌溶液にギ酸(36mL)を0℃で滴下して添加した。この混合物を100℃で2時間にわたって加熱した後に室温まで冷却し、氷冷水(200mL)の中に投入し、そしてEtOAc(3×300mL)で抽出した。混合した有機相を飽和NaHCO溶液(3×100mL)で洗浄した。この有機相を無水NaSO上で乾燥し、及び減圧下において濃縮してブタ-3-エン-2-イル-(2-オキソエチル)カルバミン酸エチルを得た(11.3g、61.1mmol、91%の収率)。
【0206】
H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 9.47 (s, 1H), 5.75 - 5.85 (m, 1H), 5.10 - 5.15 (m, 2H), 4.65 - 4.77 (m, 1H), 3.80 - 4.07 (m, 4H), 1.10 - 1.18 (m, 6H)。
【0207】
工程(iv)
rac-エチル-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
トルエン(100mL)中のブタ-3-エン-2-イル-(2-オキソエチル)カルバミン酸エチル(4.7g、25.4mmol)の撹拌溶液にN-ベンジルグリシン(CAS番号17136-36-6、Combi-blocks社より、4.2g、25.4mmol)を室温で添加した。この混合物を110℃で16時間にわたって加熱した後に減圧下において濃縮した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(塩基性酸化アルミニウム、n-ヘキサン中の7%EtOAc)により精製してrac-エチル-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(3.2g、11.1mmol、43%の収率)。
【0208】
LCMS:方法C、1.33分、2つの幅広のピークが合同し、2種類のジアステレオマーのベースラインが分離しない、MS: ES+ 289.3。
【0209】
工程(v)
rac-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール塩酸塩
濃HCl(40mL、12.5vol)中のrac-エチル(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(3.2g、11.1mmol)の撹拌溶液を100℃で16時間にわたって加熱した。この混合物を室温まで冷却し、そして減圧下において濃縮してrac-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール塩酸塩を得た(3.72g、収量)。
【0210】
LCMS:方法F、4.45分及び4.92分、2種類のジアステレオマー、MS: ES+ 217.3。
【0211】
工程(vi)
rac-tert-ブチル-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
DCM(40mL)中のrac-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール塩酸塩(3.7g、14.65mmol)の撹拌溶液にトリエチルアミン(10.3mL、73.5mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(0.09g、0.73mmol)、及び二炭酸ジ-tert-ブチル(3.83g、17.58mmol)を0℃で添加した。この混合物を放置して室温まで温め、5時間にわたって撹拌した後に水(100mL)の中に投入し、そしてDCM(2×150mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物に対して工程(vii)でクロマトグラフィーによる分離を実施した。
【0212】
工程(vii)
rac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(主要異性体)及びrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(非主要異性体)
工程(vi)の残留物をカラムクロマトグラフィー(塩基性酸化アルミニウム、n-ヘキサン中の2%EtOAc)により精製して4.2:1の比率で2種類の分離した画分を得た。
【0213】
1番目に溶出する画分、すなわち画分1であるrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを無色の油として単離した(非主要異性体、0.50g)。TLC:Rf0.5(30%EtOAc/n-ヘキサン)。
【0214】
LCMS:方法C、1.46分、MS: ES+ 317.4、及び方法X、13.70分、MS: ES+ 317.3。
【0215】
2番目に溶出する画分、すなわち画分2であるrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを無色の油として単離した(主要異性体、2.10g、6.63mmol、45%の収率)。TLC:Rf0.4(30%EtOAc/n-ヘキサン)。
【0216】
LCMS:方法C、1.46分、MS: ES+ 317.4、及び方法X、13.37分、MS: ES+ 317.3、方法Xによるd.r.=99:1
【0217】
画分2を次の工程(viii)に送った。
【0218】
工程(viii)
rac-tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
MeOH(10mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボキシラート(画分2、主要異性体、0.50g、1.58mmol)の撹拌溶液に20%Pd(OH)(50%の水分、250mg、50%(重量/重量))を添加し、そして室温で4時間にわたってHガスでパージした。この混合物をセライトベッドに通して濾過し、MeOH(50mL)で洗浄し、そして減圧下において濃縮してrac-tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(0.33g、1.46mmol、92%の収率)。
【0219】
LCMS:方法C、1.29分、MS: ES+ 227.32。
【0220】
中間産物C
tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
【0221】
【化14】
【0222】
工程(i)
(2,2-ジメトキシエチル)-D-アラニン酸メチル
MeOH(100mL)中の2,2-ジメトキシアセトアルデヒド(97.01g、931.89mmol)の撹拌混合物にメチルD-アラニン酸HCl(100.0g、716.84mmol)を0℃で添加した。この混合物を室温で2時間にわたって撹拌した。シアノ水素化ホウ素ナトリウム(58.52g、931.89mmol)をN雰囲気下において0℃で少しずつ添加し、そして室温で18時間にわたって撹拌した。この混合物をセライトに通して濾過し、そしてMeOH(2×200mL)で洗浄した。この濾液を減圧下において濃縮し、残留物を水(1000mL)の中に投入し、そしてDCM(2×1000mL)で抽出した。混合した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥し、そして減圧下において40℃で濃縮して(2,2-ジメトキシエチル)-D-アラニン酸メチルを薄黄色の油として得た(135.0g、705.95mmol、98%の収率)。
【0223】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 4.41 - 4.54 (m, 1H), 3.75 (s, 3H), 3.47 - 3.50 (m, 1H), 3.38 - 3.46 (m, 6H), 2.76 - 2.81 (m, 1H), 2.64 - 2.68 (m, 1H), 1.31 - 1.35 (d, J = 7.2 Hz, 3H)。
【0224】
メチルD-アラニン酸HCl(500g、1200g、及び1200gの規模)を使用して前記方法を同様に3回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ680g、1625g、及び1625g)。3バッチ全てを混合した重量は4065gであり、21.25molであった。
【0225】
工程(ii)
N-(2,2-ジメトキシエチル)-N-(エトキシカルボニル)-D-アラニン酸メチル
水(810mL)中の炭酸水素ナトリウム(88.95g、1058mmol)の撹拌混合物にTHF(810mL)中の(2,2-ジメトキシエチル)-D-アラニン酸メチル(135g、705.95mmol)の溶液を室温で添加した。クロロギ酸エチル(91.93g、847.14mmol)をこの冷却二相溶液(-5℃~5℃)に添加し、この混合物を室温で2時間にわたって撹拌した。この混合物を水(1.35L)の中に投入し、そしてEtOAc(2×675mL)で抽出した。混合した有機相をKHSOの飽和溶液(675mL)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、そして減圧下において40℃で濃縮してN-(2,2-ジメトキシエチル)-N-(エトキシカルボニル)-D-アラニン酸メチルを油として得た(150.0g、569.71mmol、80%の収率)。
【0226】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 4.52 (m, 2H), 4.15 - 4.27 (m, 2H), 3.78 (s, 3H), 3.40 - 3.63 (m, 9H), 1.50 - 1.52 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 1.23 - 1.39 (m, 3H)。
【0227】
(2,2-ジメトキシエチル)-D-アラニン酸メチル(680g、1000g、1000g、及び1250gの規模)を使用して前記方法を同様に4回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ775g、1360g、1365g、及び1375g)。3バッチ全てを混合した重量は5025gであり、19.09molであった。
【0228】
工程(iii)
(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル
エタノール(1.8L)とTHF(200mL)の中のN-(2,2-ジメトキシエチル)-N-(エトキシカルボニル)-D-アラニン酸メチル(100g、379.8mmol)の撹拌混合物にLiBH(THF中の2M、949.5mL、1899.04mmol)を0℃で滴下して添加した。この混合物を室温で18時間にわたって撹拌した後に水(500mL)中の塩化アンモニウム(50g)の冷却溶液を2回にわたって添加することにより反応を止め、そして減圧下において濃縮して揮発性が高い有機溶媒を除去した。この残留物をEtOAc(500mL)の中に溶解した。有機相を分離し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、そして減圧下において40℃で濃縮して(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチルを油として得た(72.0g、306.01mmol、81%の収率)。
【0229】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 4.85 - 4.86 (m, 1H), 4.65 (m, 1H), 4.15 - 4.24 (m, 3H), 3.71 - 3.72 (m, 2H), 3.41 - 3.56 (m, 6H), 3.14 -3.19 (m, 1H), 2.99 - 3.05 (m, 2H), 1.28 - 1.34 (m, 3H), 1.13 - 1.15 (m, 1H), 1.03 - 1.05 (m, 1H)。
【0230】
N-(2,2-ジメトキシエチル)-N-(エトキシカルボニル)-D-アラニン酸メチル(500g、500g,1200g、1200g、及び1200gの規模)を使用して前記方法を同様に5回にわたって繰り返して小見出しの化合物(それぞれ336g、336g、929g、930g、及び930g)を得た。3バッチ全てを混合した重量は3533gであり、15.01molであった。
【0231】
工程(iv)
(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-オキソプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル
DCM:水の混液(1.04L、1:1)中の(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル(400.0g、1700.1mmol)の撹拌混合物にNaHCO(428g、5100mmol)及びTEMPO(2.6g、17.0mmol)を室温で添加した。次亜塩素酸ナトリウムの溶液(391.1g、2210.13mmolの固体NaOCl:5HOを4.98Lの水で希釈して1MのNaOCl溶液を新しく調製した)をこの二相溶液に0℃で添加した。この混合物を室温まで温め、18時間にわたって撹拌した後に10%(重量/体積)チオ硫酸ナトリウム水溶液(2.8L)を使用して注意深く反応を停止し、そしてDCM(2×4.0L)で抽出した。この有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥し、そして減圧下において40℃で濃縮して(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチルを油として得た(360g、1543.3mmol、90.78%の収率)。
【0232】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 9.59 (s, 1H), 4.46 - 4.48 (m, 1H), 4.16 - 4.24 (m, 2H), 3.84 - 3.89 (m, 1H), 3.52 - 3.56 (m, 1H), 3.42 - 3.47 (m, 6H), 3.30 - 3.40 (m, 1H), 1.38 - 1.41 (m, 3H), 1.22 - 1.34 (m, 3H)。
【0233】
(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル(1100g、840g、及び1200g)を使用して前記方法を同様に3回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ1026g、820g、及び1020g)。3バッチ全てを混合した重量は3226gであり、13.83molであった。
【0234】
工程(v)
(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル
THF(1.8L)中のメチルトリフェニルホスホニウムブロミド(137.7g、385.8mmol)の撹拌混合物にKHMDS(THF中の1M、401.26ml、401.2mmol)を0℃で滴下して添加した。この混合物を室温で1時間にわたって撹拌した後にTHF(576mL)中の(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル(72.0g、308.6mmol)の溶液をN雰囲気下において-78℃で滴下して添加した。この混合物を室温で18時間にわたって撹拌した後にMeOH(2.2mL)を使用して反応を停止し、そして室温で30分間にわたって撹拌した。この混合物を濃縮し、ヘキサン(3×1500mL)と共に共蒸留し、0℃まで冷却し、そして濾過してMePPhO沈殿物とPPhO沈殿物を取り除いた。この有機相を濃縮し、冷却し、そして再度濾過した。それにより生じた濾液を減圧下において40℃で濃縮し(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチルを黄褐色の油として得た(65g、1543.3mmol、91%の収率)。
【0235】
H NMR (400 MHz, CDCl) ppm: δ 5.92 - 6.03 (m, 1H), 5.11 - 5.16 (m, 1H), 4.52 (s, 2H), 4.17 - 4.23 (m, 2H), 3.45 (s, 6H), 3.27 (m, 2H), 2.67 - 2.72 (m, 1H), 1.26 - 1.33 (m, 6H)。
【0236】
(R)-(2,2-ジメトキシエチル)(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)カルバミン酸エチル(735g、1417g、及び1020g)を使用して前記方法を同様に3回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ644g、1262g、及び860g)。3バッチ全てを混合した重量は2831gであり、12.24molであった。
【0237】
工程(vi)
(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2-オキソエチル)カルバミン酸エチル
アセトン(6.0L)及び水(600mL)中の(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル(300.0g、1297.07mmol)の撹拌混合物にp-トルエンスルホン酸一水和物(78.9g、415.06mmol)を室温で添加した。この混合物を60℃で18時間にわたって加熱し、放置して室温まで冷却し、そして減圧下において濃縮した。この混合物を濃縮し、残留物を飽和NaHCO溶液(1500mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×1000mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮し(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2-オキソエチル)カルバミン酸エチルを薄黄色の油として得た(230g、1242.5mmol,96%の収率)。
【0238】
H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 9.55 (s, 1H), 5.79 - 5.86 (m, 1H), 5.05 - 5.25 (m, 2H), 5.00 - 5.05 (m, 1H), 4.12 - 4.22 (m, 2H), 3.70 - 3.92 (m, 2H), 1.24 - 1.31 (m, 6H)。
【0239】
(R)-ブタ-3-エン-2-イル(2,2-ジメトキシエチル)カルバミン酸エチル(1020g、670g、及び860g)を使用して前記方法を同様に3回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ795g、480g、605g)。3バッチ全てを混合した重量は2110gであり、11.39molであった。
【0240】
工程(vii)
(3aS,4R,6aS)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボン酸エチルとの混合物(約70:約30のジアステレオマー混合物)である(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボン酸エチル
ディーン・スターク装置を取り付けた10Lの丸底フラスコの中でトルエン(7.2L、36vol)中の(R)-ブタ-3-エン-2-イル-(2-オキソエチル)カルバミン酸エチル(200.0g、1079.7mmol)の混合物を室温で撹拌した。N-ベンジルグリシン(214.02g、1295.7mmol)をこの混合物に添加し、その後でこの混合物を120℃で18時間にわたって加熱し、放置して室温まで冷却し、そして減圧下において濃縮した。この残留物を飽和NaHCO溶液(2000mL)の中に投入し、そしてDCM(2×1000mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮して小見出しの化合物(約70:約30のジアステレオマー混合物)を褐色の油として得た(306.0g、1061.06mmol、98%の収率)。
【0241】
LCMS:方法H3、3.46分、ジアステレオマー混合物、MS: ES+ 289.2; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 7.16 - 7.40 (m, 5H), 4.16 (m, 2H), 3.91 (m, 2H), 3.65 (m, 1H), 3.49 (m, 1H), 3.32 (m, 1H), 3.18 (m, 1H), 2.92 (m, 1H), 2.64 - 2.72 (m, 1H), 2.40 (s, 1H), 2.33 (m, 1H), 2.10 (m, 1H), 1.30 (t, 3H), 1.20 (d, J = 5.2 Hz, 3H);キラルHPLC、方法Y26、5.23分が主要ピーク、5.61分が非主要ピーク
【0242】
(R)-ブタ-3-エン-2-イル-(2-オキソエチル)カルバミン酸エチル(515g、600g、及び760g)を使用して前記方法を同様に3回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ751g、880g、及び970g)。4バッチ全てを混合した重量は2907gであり、10.09molであった。
【0243】
工程(viii)
(3aS,4R,6aS)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロールとの混合物である(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール
HBr水溶液(48重量%、1988mL、16644.12mmol)中の工程(vii)の生成物(約70:約30のジアステレオマー混合物、300.0g、1040.25mmol)の撹拌混合物を6時間にわたって加熱還流した。この混合物を水(1.5L、5vol)の中に投入し、そしてトルエン(3×600mL、2vol)で洗浄した。この水層をKCO(約2.0kg、14563.5mmol)で約10のpHまで塩基性にし、そしてDCM(3×1.5L)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。この残留物をDCM(500mL)の中に溶解し、そして1NのNaOH溶液(150mL)で徹底的に洗浄した。この水層をDCM(200mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮して小見出しの化合物(約70:約30のジアステレオマー混合物)を褐色の油として得た(155.0g、716.49mmol、69%の収率)。
【0244】
LCMS:方法F、3.05分、ジアステレオマー混合物、MS: ES+ 217.2; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 7.21 - 7.40 (m, 5H), 3.63 - 3.87 (m, 1H), 3.42 - 3.59 (m, 1H), 3.08 - 3.23 (m, 1H), 2.83 - 3.09 (m, 3H), 2.77 (m, 1H), 2.65 (s, 1H), 2.20 - 2.36 (m, 2H), 1.99 (m, 1H), 1.49 (m, 1H), 1.02 - 1.21 (m, 3H);キラルHPLC、方法Y26、4.98分及び5.55分、2つの別々のピークだけが見られた。
【0245】
(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボン酸エチル(約70:約30のジアステレオマー混合物、1100g、及び1700g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ575g、及び838g)。3バッチ全てを混合した重量は1568gであり、7.24molであった。
【0246】
工程(ix)
(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール.0.5(L)-DBTA塩
工程(viii)の生成物(約70:約30のジアステレオマー混合物、2.5g、11.56mmol)にTHF中の2.5%の水(19.2mL)を添加した。THF中の2.5%の水(6.8mL、2.75vol)の中の(2R,3R)-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)コハク酸水和物(1.28g、3.57mmol、Angene社より)の溶液を室温で添加し、この溶液を室温で2.5時間にわたって撹拌した。沈殿した固形物を減圧下において濾過により収集し、フィルターケークをTHF中の2.5%の水(2×10mL)で洗浄して白色の固形物を得た(3.0g)。
【0247】
THF中の2.5%の水(36mL)の中のこの白色の固形物(3.0g)の懸濁液を1時間にわたって加熱還流して透明な溶液を得た。その後、この混合物を1時間にわたって放置して室温まで冷却した後にこの混合物を撹拌せずに1時間にわたってrtに維持した。結晶化した固形物を減圧下において濾過により収集し、フィルターケークをTHF中の2.5%の水(2×10mL)で洗浄し、そして減圧下において40℃で乾燥して(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール.0.5L-DBTAを白色の固形物として得た(2.4g、3.03mmol、26%の収率)。
【0248】
キラルHPLC:方法Y22、5.35分
【0249】
工程(ix):代替法
工程(viii)の生成物(約70:約30のジアステレオマー混合物、150.0g、693.38mmol)にTHF中の2.5%の水(1.2L)を添加した。この溶液に前もって合成したバッチに由来する(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール.0.5(L)-DBTA塩(700mg)を添加した。THF中の2.5%の水(412mL、2.75vol)の中の(2R,3R)-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)コハク酸水和物(79.50g、221.88mmol、Angene社より)の溶液を室温で添加し、この溶液を室温で3時間にわたって撹拌した。この反応混合物を3時間にわたって室温に維持した。沈殿した固形物を減圧下において濾過により収集し、フィルターケークをTHF中の2.5%の水(2×1500mL)で洗浄して黄色の固形物を得た(178.0g)。
【0250】
第1の結晶化:THF中の2.5%の水(2670mL)の中のこの黄色の固形物(178.0g)の懸濁液を1時間にわたって加熱還流して透明な溶液を得た。その後、この混合物を1時間にわたって放置して室温まで冷却した後にこの混合物を撹拌せずにそのようなものとして1時間にわたって室温に維持した。結晶化した固形物を減圧下において濾過により収集し、フィルターケークをTHF中の2.5%の水(2×1780mL)で洗浄し、そして減圧下において40℃で乾燥して(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール.0.5L-DBTAを白色の固形物として得た(113.0g、142.0mmol)。
【0251】
第2の結晶化:第1の結晶化に由来する固形物(113.0g)をTHF中の2.5%の水(1695mL)の中に再懸濁し、そして1時間にわたって加熱還流して溶液を形成した。その後、この混合物を放置して室温まで冷却し、そして撹拌せずにそのようなものとして1時間にわたって室温に維持した。結晶化した固形物を減圧下において濾過により収集し、フィルターケークをTHF中の2.5%の水(2×1130mL)で洗浄し、そして減圧下において40℃で乾燥して(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール.0.5L-DBTA塩を白色の固形物として得た(103.0g、130.22mmol、18%の収率)。
【0252】
キラルHPLC:方法Y22、5.31分
【0253】
(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロ-ピロロ[3,4-b]ピロール(約70:約30のジアステレオマー混合物、570g、及び838g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ478g、及び778g)。3バッチ全てを混合した重量は1359gであり、1.72molであった。
【0254】
工程(x)
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
THF:水の混液(1800mL、1:1.25)の中の(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ-[3,4-b]ピロール.0.5L-DBTA塩(100.0g、126.42mmol)の撹拌混合物を50℃で加熱した。NaHCO(31.86g、379.28mmol)を50℃で少しずつ添加した。この混合物を25℃まで冷却し、二炭酸ジ-tert-ブチル(66.14g、303.42mmol)を添加し、この二相混合物を室温で16時間にわたって激しく撹拌した。この混合物を水(500mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×1L)で抽出した。混合した有機相を飽和NaHCO水溶液(2×300mL)で洗浄し、無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。カラムクロマトグラフィー(100~200サイズのシリカゲル、n-ヘキサン中の20%EtOAc)を使用してこの残留物を精製してtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを灰色の粘性のある油として得た(45.0g、142.20mmol、61%の収率)。
【0255】
LCMS:方法H3、3.96分、MS: ES+ 317.2; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 7.23 - 7.36 (m, 5H), 3.79 (s, 1H), 3.62 (s, 1H), 3.42 (s, 2H), 3.09 - 3.14 (m, 1H), 3.02 - 3.05 (m, 1H), 2.81 (s, 1H), 2.34 (s, 1H), 2.18 - 2.25 (m, 1H), 1.96 - 2.04 (m, 1H), 1.46 - 1.55 (m, 1H), 1.40 (s, 9H), 1.08 - 1.10 (d, J = 6.0 Hz, 3H);キラルHPLC、方法Y23、4.31分、99.6%のe.e.、d.r.=99.5:0.5
【0256】
(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ-[3,4-b]ピロール.0.5L-DBTA塩(200g及び1000g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ134g及び685g)。3バッチ全てを混合した重量は864gであり、2.73molであった。
【0257】
工程(xi)
(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボン酸tert-ブチル
エタノール(1.6L)中のtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(200.0g、632.01mmol)の撹拌混合物に10%Pd/C(50%の水分、100.0g、0.5%(重量/重量))を添加した後に室温で4時間にわたってHガスでパージした。この混合物をセライトHyflow(登録商標)ベッドに通して濾過し、MeOH(2×500mL)で洗浄し、そして減圧下において濃縮して(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボン酸tert-ブチルを無色の油として得た(134.0g、592.08mmol、96%の収率)。
【0258】
LCMS:方法H3、2.22分、MS: ES+ 227.2; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 3.75 - 3.82 (m, 1H), 3.48 - 3.49 (m, 2H), 3.04 - 3.08 (m, 1H), 2.85 - 2.91 (m, 1H), 2.32 - 2.38 (m, 1H), 2.22 (s, 2H), 2.00 - 2.05 (m, 1H), 1.64 - 1.70 (m, 1H), 1.45 (s, 9H), 1.15 - 1.19 (d, J = 6.4 Hz, 3H);キラルHPLC、方法Y13、4.55分
【0259】
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(570g)を使用して前記方法を同様に繰り返して小見出しの化合物を得た(400g)。2バッチ全てを混合した重量は534gであり、2.36molであった。
【0260】
実施例1
(+)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル及び
実施例2
(-)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
【0261】
【化15】
【0262】
【化16】
【0263】
(i)TBD、THF、0℃~rt、(ii)m-CPBA、0℃~rt、(iii)TMSCN、ジメチルカルバモイルクロリド、MeCN、0℃~rt、(iv)TFA、DCM、0℃~rt、(v)KCO、BrCN、THF、0℃~rt、(vi)キラル分取HPLC精製
【0264】
工程(i)
rac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
THF(50mL)中の5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチル(5.0g、22.93mmol)とrac-tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(4.15g、18.35mmol)の撹拌溶液にTBD(4.78g、34.39mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、1時間にわたって撹拌した後に水(50mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×200mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM中の2%MeOH)により精製してrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(5.5g、13.82mmol、60%の収率)。
【0265】
LCMS:方法C1、1.14分、MS: ES+ 399.4。
【0266】
工程(ii)
rac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド
DCM(60mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(5.5g、13.82mmol)の撹拌溶液にm-クロロ過安息香酸(4.77g、27.64mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして24時間にわたって撹拌した。この反応混合物を飽和NaHCO溶液(200mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×300mL)で抽出した。混合した有機相を飽和NaHCO溶液(3×100mL)で洗浄し、10%チオ硫酸ナトリウム(200mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥し、そして減圧下において濃縮してrac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチル-オクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシドを得た(4.80g、11.58mmol、83%の収率)。
【0267】
LCMS:方法C1、1.15分、MS: ES+ 415.6。
【0268】
工程(iii)
rac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
アセトニトリル(50mL)中のrac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチル-オクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド(4.80g、11.58mmol)の撹拌溶液にジメチルカルバモイルクロリド(3.11g,2.68mL、28.97mmol)及びTMSCN(3.45g、34.74mmol)を0℃で滴下して添加した。この混合物を放置して室温まで温め、16時間にわたって撹拌した後に水(200mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×300mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM中の2%MeOH)により精製してrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(5.1g、12.05mmol、収量)。
【0269】
LCMS:方法C1、1.28分、MS: ES+ [M+18] 441.4。
【0270】
工程(iv)
rac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリル
DCM(50mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(5.1g、2.16mmol)の撹拌溶液にTFA(10mL、2vol)を0℃で滴下して添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして2時間にわたって撹拌した後に減圧下において濃縮してrac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルTFA塩を得た(5.0g、11.44mmol、2工程で98%の収率)。
【0271】
LCMS:方法C1、0.91分、MS: ES+ 324.3。
【0272】
工程(v)
rac-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
THF(6mL)中のrac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルTFA塩(0.14g、0.33mmol)の撹拌溶液にKCO(0.14g、1.00mmol)を室温で添加し、そして10分間にわったって撹拌した。臭化シアン(0.03g、0.27mmol)を0℃で添加した。この混合物を0℃で15分間にわたって撹拌した後に水(10mL)の中に投入し、そしてEtOAc(3×10mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をn-ペンタン(2×10mL)を使用する研和により精製してrac-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボニトリルを得た(0.08g、0.23mmol、2工程で88%の収率)。
【0273】
LCMS:方法H、2.49分、MS: ES+ 349.1; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.89 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.51 (s, 1H), 8.36 (s, 0.7H), 8.34 (s, 0.3H), 8.05 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 5.11 - 5.19 (m, 0.4H), 4.57 - 4.63 (m, 0.7H), 4.24 - 4.29 (m, 0.8H), 3.89 - 4.01 (m, 2H), 3.42 - 3.57 (m, 2.6H), 2.51 - 2.61 (m, 0.5H, 不明瞭), 1.85 - 2.05 (m, 2H), 1.30 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物
【0274】
小見出しの化合物(1.9g、5.45mmol、47%の収率)をrac-4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)-オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルTFA塩(5.0g)からも同様に調製した。
【0275】
工程(vi)
実施例1:(+)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル及び
実施例2:(-)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
実施例1及び実施例2のエナンチオマーへのラセミ体の分離
Chiralpak IC 250mm×21.0mm、5μmカラムとUV式検出器を取り付けたShimadzu LC-20AP装置を使用するHPLC クロマトグラフィーによる分離によりラセミ化合物であるrac-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル(1.5g)から2種類のエナンチオマーの各々を単離した。流速を20.0mL/分に設定した。移動相は(A)n-ヘキサン中の0.1%DEA及び(B)70:30IPA/MeCN混液中の0.1%DEAであった。295nmの最大吸収波長においてUVスペクトルを記録した。70分間の期間にわたって移動相のBとAが40:60の均一濃度を用いてクロマトグラフィーを実施して以下に記載される2種類のエナンチオマーをそれぞれ40.0分及び55.6分の溶出時間で供給した。
【0276】
早い方の溶出画分(実施例2)
(-)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
収量(0.44g、1.26mmol)、白色の固形物
LCMS:方法H、2.56分、MS: ES+ 349.2。
H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.89 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.51 (s, 1H), 8.35 - 8.37 (m, 1H), 8.06 - 8.07 (m, 1H), 5.12 - 5.17 (m, 0.4H), 4.59 - 4.62 (m, 0.7H), 4.25 - 4.29 (m, 0.7H), 3.91 - 4.02 (m, 2H), 3.42 - 3.59 (m, 2.7H), 2.57 - 2.61 (m, 0.5H, 不明瞭), 1.85 - 2.05 (m, 2H), 1.31 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物
キラルHPLC:方法Y11、12.89分;>99%のee.
融点=142℃~146℃
[α] 25=-208°(c=0.05g/100cm、MeOH)
【0277】
遅い方の溶出画分(実施例1)
(+)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
収量(0.48g、1.38mmol)、白色の固形物
LCMS:方法H、2.56分、MS: ES+ 349.2。
H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.89 (d, J = 4.4 Hz, 1H), 8.51 (s, 1H), 8.36 - 8.38 (m, 1H), 8.06 - 8.07 (m, 1H), 5.12 - 5.16 (m, 0.4H), 4.57 - 4.65 (m, 0.7H), 4.22 - 4.30 (m, 0.7H), 3.91 - 4.02 (m, 2H), 3.41 - 3.58 (m, 2.7H), 2.61 - 2.63 (m, 0.5H, 不明瞭), 1.82 - 2.07 (m, 2H), 1.31 (d, J = 6.0 Hz, 3H), 回転異性体混合物
キラルHPLC:方法Y11、15.09分;>99%のee.
[α] 25=+208°(c=0.05g/100cm、MeOH)。
類似の方法により調製された物質のバッチ:融点=144℃~146℃
【0278】
実施例1.代替的合成法
(+)-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
【0279】
【化17】
【0280】
工程(i)
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
THF(370mL)中の5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチル(37.0g、169.72mmol)及びtert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(30.70g、135.64mmol)の撹拌混合物にTBD(28.32g、203.47mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして2時間にわたって撹拌した後に水(370mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×370mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM中の5%MeOH)により精製してtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを薄黄色の固形物として得た(29.0g、72.78mmol、43%の収率)。
【0281】
LCMS:方法H3、2.79分、MS: ES+ 399.2; H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 8.72 - 8.82 (m, 2H), 8.20 - 8.24 (m, 1H), 7.76 - 7.77 (m, 2H), 5.10 - 5.11 (m, 1H), 4.56 (s, 1H), 4.03 (s, 1H), 3.57 - 3.85 (m, 4H), 2.09 - 2.14 (m, 1H), 1.73 - 1.86 (m, 1H), 1.36 (s, 9H), 1.21 - 1.10 (m, 3H);キラルHPLC、方法Y24、5.35分
【0282】
tert-ブチル-(3aS,4R,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(165g及び457g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ255g及び620g)。3バッチ全てを混合した重量は904gであり、2.27molであった。
【0283】
工程(ii)
4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド
DCM(435mL)中のtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(29.0g、72.82mmol)の撹拌混合物にm-クロロ過安息香酸(37.69g、218.46mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、20時間にわたって撹拌した後に飽和NaOH溶液(725mL、25vol)の中に投入し、そしてDCM(2×290mL)で抽出した。混合した有機相を10%チオ硫酸ナトリウム(290mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥し、そして減圧下において濃縮して4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシドを黄色の固形物として得た(28.30g、68.32mmol、94%の収率)。
【0284】
LCMS:方法H3、2.41分、MS: ES+ 259.0 (M-56); H NMR (400 MHz, CDCl) δ ppm: 8.25 - 8.26 (m, 2H), 8.08 - 8.11 (m, 1H), 7.78 -7.79 (m, 2H), 5.08 - 5.09 (m, 0.4 H), 4.54 (m, 0.6 H), 4.02 - 4.09 (m, 1H), 3.66 - 3.82 (m, 4H), 2.07 - 2.12 (m, 2H), 1.64-1.84 (m, 1H), 1.38 (s, 9H), 1.15 -1.19 (m, 3H);キラルHPLC、方法Y25、6.13分
【0285】
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(255g及び620g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ235g及び550g)。3バッチ全てを混合した重量は813.3gであり、1.96molであった。
【0286】
工程(iii)
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ-[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
アセトニトリル(1132mL)中の4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド(28.30g、68.32mmol)の撹拌混合物にジメチルカルバモイルクロリド(22.04g、18.87mL、204.96mmol)及びTMSCN(20.33g、204.96mmol)を0℃で滴下して添加した。この混合物を80℃で2時間にわたって加熱し、放置して室温まで冷却した後に水(280mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×280mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮してtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ-[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボキシラートを褐色の油として得た(28.0g、66.16mmol、97%の収率)。
【0287】
LCMS:方法H3、3.06分、 MS: ES+ 368.0 (M-56); H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.87 - 8.88 (m, 1H), 8.48 (s, 1H), 8.34 - 8.36 (m, 1H), 8.03 - 8.05 (m, 1H), 4.55 (s, 1H), 4.02 (s, 1H), 3.55 - 3.84 (m, 3H), 2.74 (s, 2H), 2.08 - 2.13 (m, 1H), 1.75 - 1.83 (m, 1H), 1.38 (s, 9H), 1.16 - 1.20 (m, 3H);キラルHPLC、方法Y4、4.67分
【0288】
4-(2-((3aR,4R,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド(235g及び550g)を使用して前記方法を同様に2回にわたって繰り返して小見出しの化合物を得た(それぞれ180g及び470g)。3バッチ全てを混合した重量は678gであり、1.60molであった。
【0289】
工程(iv)
4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩
アセトニトリル(560mL)中のtert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(28.0g、66.16mmol)の撹拌混合物にp-TSA(66.07g、383.72mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、5時間にわたって撹拌した後に減圧下において濃縮して4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩を黄色の油として得た(115.0g、収量)。
【0290】
LCMS:方法H3、1.97分、MS: ES+ 324.0;キラルHPLC、方法Y20, 5.17分
【0291】
tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(650g)を使用して前記方法を同様に繰り返して小見出しの化合物を得た(1000g)。2バッチ全てを混合した重量は1115gであり、3.44molであった。
【0292】
工程(v)
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
THF:水の混液(5.4L、2:1)の中の4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)-オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩(180.0g、363.22mmol)の撹拌溶液にKCO(145.26g、1052.63mmol)を室温で添加し、そして5分間にわたって撹拌した。臭化シアン(26.0g、245.61mmol)を0℃で添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして1時間にわたって撹拌した後にこの混合物を減圧下において濃縮し、残留物を氷冷水(2L)の中に投入して沈殿を形成した。この固形物を減圧下において濾過により収集した。この固形物を水(2L)の中に再懸濁し、室温で2時間にわたって撹拌した後に減圧下において濾過した。この固形物を冷却水(1L)で洗浄し、続いてn-ヘキサン(500mL)、ジエチルエーテル(100mL)、及びIPA(100mL)で洗浄して(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリルを得た(40.0g、114.83mmol、32%の収率)。
【0293】
LCMS:方法H3、2.50分、MS: ES+ 349.0; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.89 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.35 - 8.37 (m, 1H), 8.05 - 8.06 (m, 1H), 5.12 - 5.13 (m, 0.4H), 4.57 - 4.61 (m, 0.6H), 4.23 - 4.28 (m, 0.7H), 3.89 - 4.00 (m, 2H), 3.41 - 3.58 (m, 2.4H), 2.54 - 2.67 (m, 1H, 不明瞭), 1.89 - 2.06 (m, 2H), 1.27 - 1.30 (m, 3H), 回転異性体混合物; HPLC:方法X2、19.78分、99.96%;キラルHPLC、方法Y15、15.29分;>99%のe.e.、融点=147℃~149℃;[α] 25=+202°(c=0.05g/100cm、MeOH)。
【0294】
工程(v)(代替的合成法)
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
THF:水の混液(804mL、9:5)の中の4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)-オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩(115.0g、232.06mmol)の撹拌溶液にKCO(98.22g、711.76mmol)を室温で添加し、そして10分間にわったって撹拌した。臭化シアン(18.86g、177.94mmol)を0℃で添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして2時間にわたって撹拌した後に水(1150mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×1150mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をIPA(575mL)の中に懸濁し、80℃で2時間にわたって加熱して透明な溶液を形成した。この混合物を放置してゆっくりと室温まで冷却して結晶固形物を形成し、この結晶固形物を減圧下において濾過により収集し、冷IPA(115mL)で洗浄し、そして減圧下において乾燥して(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボニトリルを得た(15.0g、43.08mmol、19%の収率)。
【0295】
4-(2-((3aR,4R,6aR)-4-メチル-オクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)-オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩(1000g)を使用して前記方法を同様に繰り返して標記化合物(288g)を得た。THF(909mL、3vol)中の288g及び15gの(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボニトリルの溶液を室温で2時間にわたって撹拌して透明な溶液を形成した。溶媒を減圧下において除去して白色の固形物を得て、この固形物をさらにペンタン(300mL、1vol)で洗浄し、そして減圧下において45℃以下で4時間にわたって乾燥して(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボニトリルを得た(303.0g)。
【0296】
LCMS:方法H3、2.52分、MS: ES+ 349.0; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm: 8.87 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 8.48 (s, 1H), 8.30 - 8.38 (m, 1H), 8.04 - 8.05 (m, 1H), 5.12 - 5.13 (m, 0.4H), 4.59 - 4.60 (m, 0.6H), 4.23 - 4.27 (m, 0.6H), 3.91 - 4.02 (m, 2H), 3.41 - 3.56 (m, 2.4H), 2.54 - 2.61 (m, 1H, 不明瞭), 1.84 - 2.04 (m, 2H), 1.30 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物;キラルHPLC、方法Y15、15.11分; HPLC:方法E、27.87分; >99%のe.e.、d.r.=99.5:0.5;融点=161°C~162℃; [α] 25=+204°(c=0.05g/100cm、MeOH)。
【0297】
実施例3及び実施例4
(+)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
(-)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
【0298】
【化18】
【0299】
【化19】
【0300】
工程(i)
rac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(非主要異性体)及びrac-tert-ブチル-(3aR,4R,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(主要異性体)
DCM(700mL)中のrac-(3aR,6aR)-1-ベンジル-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール塩酸塩((中間産物Bの途中の工程(v)の生成物,68.0g、269.31mmol)の撹拌溶液にトリエチルアミン(136.0g、187.3mL、1346.55mmol)、4-ジメチルピリジン(1.64g、13.46mmol)、及び二炭酸ジ-tert-ブチル(70.51g、323.17mmol)を0℃で添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして6時間にわたって撹拌した後に水(1000mL)の中に投入し、そしてDCM(2×1000mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(100~200サイズのシリカゲル、n-ヘキサン中の7%~9%EtOAc)により精製して2つの分離した画分である画分1(非主要異性体、0.8g、2.53mmol、0.94%の収率)及び画分2(主要異性体、38.0g、120.25mmol、45%の収率)として小見出しの化合物を得た。
【0301】
画分1のLCMS:方法H1、4.19分、MS: ES+ 317.2. 画分2のLCMS:方法H1、3.87分、MS: ES+ 317.0. 非主要異性体画分1を次の工程(ii)に送った。
【0302】
工程(ii)
rac-tert-ブチル-(3aS,4S,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
エタノール(10mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-ベンジル-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボキシラート(画分1、非主要異性体、0.8g、2.53mmol)の撹拌溶液に10%Pd/C(50%の水分、0.8g)を添加し、そして室温で16時間にわたって水素ガスでパージした。この混合物をセライト(登録商標)に通して濾過し、エタノール(50mL)で洗浄し、そして減圧下において濃縮してrac-tert-ブチル-(3aS,4S,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(0.42g、1.85mmol、73%の収率)。
【0303】
LCMS:方法H1、2.25分、MS: ES+ 227.2。
【0304】
工程(iii)
rac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
トルエン(7mL)中の5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボン酸エチル(0.49g、2.25mmol)及びrac-tert-ブチル-(3aS,4S,6aR)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(0.41g、1.79mmol)の撹拌溶液を40℃で10分間にわったって加熱して両方の出発物質を溶解し、その後に0℃まで冷却し、続いてトルエン(2mL)中のTBD(0.15g、1.12mmol)の溶液を0℃で滴下して添加した。この混合物を放置して室温まで温め、3時間にわたって撹拌した後に水(50mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×50mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、濾過し、そして減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、n-ヘキサン中の80%~90%EtOAc)により精製してrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(0.43g、1.09mmol、48%の収率)。
【0305】
LCMS:方法H1、2.88分、MS: ES+ 399.2。
【0306】
工程(iv)
rac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド
DCM(7mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-4-メチル-1-(5-(ピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(0.43g、1.08mmol)の撹拌溶液にm-クロロ過安息香酸(0.37g、2.16mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして16時間にわたって撹拌した。この混合物を水(100mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×100mL)で抽出した。混合した有機相を飽和NaHCO溶液(2×100mL)で洗浄し、10%チオ硫酸ナトリウム(2×100mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥し、そして減圧下において濃縮してrac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシドを得た(0.39g、0.95mmol、87%の収率)。
【0307】
LCMS:方法H1、2.50分、MS: ES+ [M-56] 359.0。
【0308】
工程(v)
rac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート
MeCN(7mL)中のrac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピリジン1-オキシド(0.39g、0.94mmol)の撹拌溶液にジメチルカルバモイルクロリド(0.30g、0.26mL、2.83mmol)及びトリメチルシリルシアニド(0.28g、0.36mL、2.83mmol)を室温で滴下して添加した。この混合物を80℃で2時間にわたって加熱した後に10%NaCO水溶液(50mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×50mL)で抽出した。混合した有機相を無水NaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、n-ヘキサン中の80%~90%EtOAc)により精製してrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]-ピロール-5(1H)-カルボキシラートを得た(0.38g、0.89mmol、95%の収率)。
【0309】
LCMS:方法H1、3.15分、MS: ES+ [M-56] 368.0。
【0310】
工程(vi)
rac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリル
DCM(10mL)中のrac-tert-ブチル-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボキシラート(0.38g、0.89mmol)の撹拌溶液にp-トルエンスルホン酸一水和物(0.84g、4.45mmol)を0℃で少しずつ添加した。この混合物を放置して室温まで温め、そして6時間にわたって撹拌した後に減圧下において濃縮してrac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩を得た(0.52g、収量)。
【0311】
LCMS:方法H1、1.93分、MS: ES+ 324.0。
【0312】
工程(vii)
rac-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
THF(10mL)及び水(5mL)の混液中のrac-4-(2-((3aR,4S,6aR)-4-メチルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-1-カルボニル)オキサゾール-5-イル)ピコリノニトリルp-TSA塩(0.52g、1.01mmol)の撹拌溶液にKCO(0.70g、5.05mmol)を室温で添加し、そして5分間にわたって撹拌し。臭化シアン(0.13g、1.21mmol)を0℃で添加した。この混合物を放置して室温まで温め、1時間にわたって撹拌した後に水(50mL)の中に投入し、そしてEtOAc(2×50mL)で抽出した。混合した有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下において濃縮した。この残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、n-ヘキサン中の90%~95%EtOAc)により精製してrac-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリルを得た(0.18g、0.52mmol、2工程で57%の収率)。
【0313】
LCMS:方法H1、2.48分、MS: ES+ 349.0; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm 8.88 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.35 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 8.05 (dd, J = 5.2, 1.2 Hz, 1H), 5.06 - 5.10 (m, 0.6H), 4.56 - 4.60 (m, 0.7H), 4.16 - 4.21 (m, 0.7H), 3.44 - 3.95 (m, 4H), 2.81 - 2.93 (m, 1H), 1.77 - 1.99 (m, 2H), 1.25 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物; HPLC:方法E、28.58分;d.r.=98.8:1.2
【0314】
工程(viii)
実施例3:(+)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
実施例4:(-)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
Chiralpak IG 250mm×21.0mm、5μmカラムとUV式検出器を取り付けたShimadzu LC-20AP装置を使用するクロマトグラフィーによる分離によりラセミ化合物であるrac-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル(0.10g、0.29mmol)から2種類のエナンチオマーの各々を単離した。流速を20.0mL/分に設定した。移動相は(A)MeOH中の0.1%DEA及び(B)MeCN中の0.1%DEAであった。292nmの最大吸収波長においてUVスペクトルを記録した。35分間の期間にわたって移動相のBとAが50:50の均一濃度を用いてクロマトグラフィーを実施して以下に記載される2種類のエナンチオマーをそれぞれ8.03分及び12.95分の溶出時間で供給した。
【0315】
早い方の溶出画分(実施例3)
(+)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
収量(23mg、0.07mmol)。LCMS:方法H1、2.49分、MS: ES+ 349.0; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm 8.88 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.35 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 8.05 (dd, J = 5.2, 1.2 Hz, 1H), 5.06 - 5.11 (m, 0.6H), 4.56 - 4.61 (m, 0.7H), 4.16 - 4.22 (m, 0.7H), 3.43 - 3.95 (m, 4H), 2.81 - 2.95 (m, 1H), 1.77 - 1.98 (m, 2H), 1.25 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物; キラルHPLC:方法Y17、8.11分
【0316】
遅い方の溶出画分(実施例4)
(-)-(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル
収量(19mg、0.05mmol)。LCMS:方法H1、2.49分、MS: ES+ 349.0; H NMR (400 MHz, DMSO-d) δ ppm 8.88 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.35 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 8.05 (d, J = 4.8, 1.2 Hz, 1H), 5.06 - 5.11 (m, 0.6H), 4.56 - 4.60 (m, 0.7H), 4.16 - 4.21 (m, 0.7H), 3.43 - 3.95 (m, 4H), 2.81 - 2.95 (m, 1H), 1.77 - 1.99 (m, 2H), 1.25 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 回転異性体混合物; キラルHPLC:方法Y17、13.17分
【0317】
実施例3:白色の固形物;キラルHPLC:方法Y17、8.11分;>99%のe.e.;d.r.=99.5:0.5;融点=206℃~207℃;[α] 25=+166°(c=0.05g/100cm、MeOH)。
【0318】
実施例4:白色の固形物;キラルHPLC:方法Y17、13.17分;>99%のe.e.;d.r.=99.5:0.5;融点=206℃~207℃;[α] 25=-156°(c=0.05g/100cm、MeOH)。
【0319】
実施例1~実施例4のキラルHPLC
HPLC方法及びキラルHPLC方法を用いて実施例1~実施例4を分析した。これらの4種類の異性体のベースライン分離は単一の系では観察されず、そのためキラルHPLC(方法Y28)を用いてエナンチオマーの純度を決定し、一方でキラルHPLC(方法E)を用いてジアステレオマー比率を決定した。
【0320】
本発明の化合物の生物活性
【0321】
【表23】
【0322】
USP30生化学的IC50アッセイ
50%DMSO中に終濃度の21倍(100μMの終濃度では2100μM)の倍率で希釈プレートを96ウェルポリプロピレンV字底プレート(Greiner番号651201)に調製した。典型的な8点希釈シリーズは100μM、30μM、10μM、3μM、1μM、0.3μM、0.1μM、及び最終的に0.03μMになる。黒色384ウェルプレート(少量用、Greiner番号784076)の中で21μlの最終反応体積の反応を2組実施した。1μlの50%DMSO又は希釈化合物のどちらかをこのプレートに添加した。USP30(Boston Biochem、番号E582)を反応緩衝液(40mM Tris、pH7.5、0.005% Tween20、0.5mg/ml BSA、5mM β-メルカプトエタノール)の中に希釈して4nMの最終アッセイ濃度を実現し、10μlの希釈USP30をこの化合物に添加した。酵素及び化合物を室温で30分間にわたってインキュベートした。50nMのイソペプチド結合を介してTAMRA標識ペプチドに連結したユビキチン蛍光偏光基質として添加することにより反応を開始した。基質を添加したすぐ後とその後の2時間にわたって室温でインキュベートしている間に反応を読んだ。Pherastar Plus (BMG Labtech)上で読み取りを行った。励起光波長は540nmであり、放射光波長は590nmであった。
【0323】
USP30生化学的IC50アッセイにおける例となる化合物の活性
【0324】
【表24】
【0325】
参照例
USP30生化学的IC50アッセイにおける例となる化合物の活性
【0326】
【表25】
【0327】
オフターゲット薬理学
実施例1をEurofins CEREP SafetyScreen44パネル中の薬理学的プロファイリングの対象とした。10μMという単一の濃度ではこのパネルの中の全ての標的に対して50%未満の結合阻害又は酵素活性阻害が観察された。このアッセイの標的に対するこの低い親和性のため、実施例1はオフターゲット相互作用の可能性が低い。
【0328】
安全性薬理学
hERGカリウムチャネルを安定的に発現するCHO細胞においてこのカリウムチャネルに対する実施例1の効果について0.01μMと30μMとの間の濃度で評価した。実施例1は、30μMで27%というhERG電流振幅の最大阻害値を生じ、QT間隔に影響する傾向がほとんどないことを示した。
【0329】
遺伝毒性学
実施例1を細菌復帰突然変異アッセイ(エームズ試験)及びインビトロ小核アッセイにおいて評価した。細胞毒性又は不溶性によって制限されるまでの濃度を用いて、外因性代謝活性化を行い、又は行わずに全てのインビトロ試験を実施した。実施例1は、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)TA98株、TA100株、TA1535株、及びTA97a株、並びに大腸菌(Escherichia coli)WP2 uvrA pKM101株の復帰突然変異アッセイにおいて外因性代謝活性化を行い、又は行わずに5000μg/プレートの濃度まで検査されたときに突然変異を誘導しなかった。
【0330】
TK6細胞でのインビトロ小核アッセイを用いて染色体損傷の誘発を評価した。実施例1は、外因性代謝活性化が存在する状態で3時間にわたってインキュベートし、続いて27時間の回復期にわたってインキュベートしたときに小核の誘発についてネガティブであり、及びalso外因性代謝活性化が存在しない状態で27時間にわたってインキュベートし、続いて27時間の回復期にわたってインキュベートしたときにも小核の誘発についてネガティブであった。
【0331】
TOM20ユビキチン化アッセイ
TOM20のユビキチン化を誘導するためにヒト細胞株にミトコンドリア脱分極剤(イオノフォア(例えば、CCCP、バリノマイシン)、ミトコンドリア複合体阻害剤(オリゴマイシン、アンチマイシンA))を負荷することができ、続いてUSP30阻害剤が存在する状態でこのユビキチン化をさらに促進する。この後、TOM20ユビキチン化を細胞溶解物のウエスタンブロッティングにより評価し、付加された各ユビキチン分子について8kDaの分子量の増加があるためTOM20ユビキチン化付加物の検出が可能になり、その結果としてTOM20免疫反応バンドのラダーが生じる。標識された免疫反応バンドの化学発光強度測定を用いてTOM20のユビキチン化レベルを定量することができる。
【0332】
USP30内在性細胞標的結合アッセイ
YFP-パーキンを安定して発現するHela細胞を6ウェルディッシュの中に播種した。細胞が接着したところで37℃、5%COにおいて細胞を適切な濃度の被験化合物又はベヒクル対照で1時間にわたって処理した。これらの細胞を冷PBSの中に採取し、遠心分離し、そして溶解緩衝液(50mM Trisベース、pH7.5、50mM NaCl、1% NP-40/Igepal CA-630、2mM MgCl、10% グリセロール、5mM β-メルカプトエタノール、cOmplete(商標)ミニタブレットEDTAフリー(Roche)、PhosStopタブレット(Roche))の中で10分間にわったって溶解することにより全細胞溶解物を調製した。清澄化した細胞溶解物の20μgに等しい量のタンパク質を2.5μMの終濃度のHA-Ahx-Ahx-Ub-VMEプローブと共に室温でインキュベートした。5×SDSサンプル負荷緩衝液を添加することによりこの反応を停止し、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングによりタンパク質を分離した。抗USP30ヒツジS746D抗体(MRC PPU Reagents and Services)及びホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウサギ抗ヒツジIgG(H+L)二次抗体(Thermo番号31480)を使用してUSP30を検出し、ECL試薬(GE番号RPN2109)を使用してGE LAS4000イメージャー上で画像撮影した。USP30及びUb-VMEプローブに結合したUSP30に対応するバンドを定量することにより標的の結合を測定し、ベヒクル処理対照と比較した割合を表した。
【0333】
インビトロ細胞毒性(Cell Tox)
アッセイエンドポイントとしてalamarBlue(商標)を使用してHCT116ヒト大腸癌細胞において測定した。96時間の連続化合物曝露期間にわたって化合物の細胞毒性を測定した。
【0334】
その他の試験
logP:分配係数;親油性測定
logD:分配係数;親油性測定
TPSA:トポロジカル極性表面積
濁度測定溶解性:DMSO中に被験化合物溶液を調製し、水性緩衝液中に希釈する。濁度測定法を620nmでの吸光度測定によりエンドポイントとして使用する。
FaSSIF:pH6.5で測定される人工空腹時腸液
マウス肝細胞Cl:マウス細胞におけるインビトロ肝細胞クリアランス
ヒト肝細胞Cl:ヒト細胞におけるインビトロ肝細胞クリアランス
血漿fu,p:インビトロ平衡透析により決定される血漿調製物中の化合物の遊離画分。未結合(遊離)化合物のみが標的と結合できると理解される。
脳fu,br:インビトロ平衡透析により決定される脳ホモジネート調製物中の化合物の遊離画分。未結合(遊離)化合物のみが標的と結合できると理解される。
Cl:インビトロクリアランス。本明細書において定義されるClは、固有のクリアランスから計算されるスケール変更後のクリアランスである。固有のクリアランスは肝臓代謝反応から予測されるクリアランスであり、肝細胞調製物中で化合物をインキュベートすることから決定される。mL/分/kg単位の値が小さいほど化合物はより安定である。
Cl:インビボクリアランス。ある物質が単位時間当たりで完全に除去される血漿(又はあらゆるマトリックス)の体積の薬物動態測定値である。mL/分/kg単位の値が小さいほど化合物はより安定である。
Oral F:経口生物学的利用率
MDR1-MDCK(マディン・ダービーイヌ腎臓細胞単層)(インビトロ)透過アッセイ
WT-MDCK(野生型)インビトロ透過アッセイ
Kpuuは血漿中の未結合薬品に対する脳内の未結合薬品の比率であり、末梢適応症及び/又はCNS適応症に対する治療効力を表し得る。
【0335】
【表26】
【0336】
【表27】
【0337】
実施例1は、他の化合物よりも優れている可能性を示す有益な特性を有している。例えば、マウスで測定された場合の19mL/分/kgというIV投与時の血漿クリアランス観察値は、価値ある血漿中安定性を証明する低い値であり、この化合物は、87%という例外的な経口生物学的利用率を有する。
【0338】
実施例1は、マウス及びラットにおける30mg/kgの用量の投与後の脳の領域の微小透析試料採取によって決定される場合、経口投与後の優れたインビボCNS分布を示す。高濃度の実施例1が投与後数時間にわたって未結合状態で観察されたことからCNS内の標的適用期間が適切に推定されることになる。また、30mg/kgの用量でイヌに経口投与されたとき、実施例1は脳脊髄液(CSF)への高い分配率を示した。
【0339】
【表28】
【0340】
【表29】
【0341】
比較データ
参照例A、B、C、D及びEは、USP30の阻害剤と同程度に活性を有するものとして特定されており、且つ、シアナミド構造の特徴を有する本発明の前記化合物と構造的類似性を幾らか有する公知のDUB阻害剤である。参照例D及びEは、UCHL1阻害活性を有するものとして国際公開第2016/046530号パンフレットに開示されている。
【0342】
実施例1は、(マウス肝細胞において測定した場合に)参照例A、B、及びCと比較して、著しく改善された肝細胞代謝安定性を示す。実施例1は、(マウス血漿において測定した場合に)参照例A、B、及びCと比較して、著しく(少なくとも2~8倍)改善された血漿中安定性を示す。
【0343】
USP30に対する効力
本発明の実施例1は、前記生化学的アッセイにおいて測定した場合に参照例A、B、C、D、及びEよりも有意にUSP30に対して効力がある。実施例1は、参照例B及びCよりも6倍の効力があり、参照例A及びDよりも24倍の効力があり、参照例Eよりも400倍の効力がある。
【0344】
他のDUBを超えるUSP30への選好性
提示されたデータは、実施例1が、参照例A、B及びCと比較して、有意に高い選好性を7種類のDUB(USP2、USP6、USP10、USP16、USP21、USP25、及びUSP28)よりもUSP30対して有することを示している。実施例1は、これらの7種類のDUBの各々に対するよりもUSP30に対して2260倍を超える高い効力を有する。これは、それぞれ3.3倍の効力及び7.7倍の効力という低い効力を有する参照例A及びBを超える著しく有利な選好性である。参照例Cは56倍高い効力を別のDUBに対するよりもUSP30に対して有し、参照例A及びBよりも高い選好性を有するが、それでも実施例1よりも著しく劣っている。
【0345】
UCHL1を超えるUSP30への選好性
提示されたデータは、実施例1が、参照例D及びEと比較して、有意に高い選好性をUCHL1よりもUSP30に対して有することを示している。実施例1は、UCHL1に対するよりもUSP30に対して27000倍を超える高い効力を有し、一方で参照例D及びEはそれぞれわずかに0.8倍及び1.5倍である。
【0346】
カテプシンB、K、L、S及びVを超えるUSP30への選好性
提示されたデータは、実施例1が、参照例A、B、及びCと比較して、有意に高い選好性をカテプシン(B、K、L、S、及びV)よりもUSP30に対して有することを示している。実施例1は、これらのカテプシンに対するよりもUSP30に対して3800倍を超える高い効力を有する。これは、参照例A、B、及びCを超える著しく有利な選好性である。
【0347】
具体的には、実施例1は、効力がそれぞれ20倍及び16.7倍高いだけの参照例B及びCと比較して、カテプシンBに対するよりもUSP30に対して18000倍を超える高い効力を有する。実施例1は、効力がそれぞれ2倍及び6.1倍高いだけの参照例A及びCと比較して、カテプシンKに対するよりもUSP30に対して9900倍を超える高い効力を有する。
【0348】
先行技術の参照例を超える本発明の実施例1の上で特定された利点はどちらも有意であり、且つ予期せぬものである。これらの利点が単独のとき、特に組み合わせられたとき、この優越性がこの化合物をUSP30活性に関連する疾患の治療又は予防での使用に特に適切なものとしている
【0349】
前臨床インビボモデル
本発明の化合物の有効性について、例えば以下の文献を含む公開文献の標準的試験方法を用いて代表的なインビボ疾患モデルにおいて検査することができる。
【0350】
(a)特発性肺線維症の主要前臨床インビボモデルであるブレオマイシン誘発肺線維症モデル[Kobayashi et al, 2016, J Immunol, 197(2):504-516]
【0351】
(b)NAFLD及びブドウ糖恒常性の食事誘発モデル[Nishida et al, 2013, Lab Invest; Feb;93(2):230-41]
【0352】
(c)化学誘発ミトコンドリア機能不全によって引き起こされる脳ドーパミン作動系の神経変性を観察するための一般的に使用されるパラダイムであるパーキンソン病のMPTPモデル[Karuppagouner et al, 2014, Sci Rep. 2014 May 2;4:4874]
【0353】
(d)Ndufs4KOリー症候群モデル.[Kruse et al, 2008, Cell Metab. Apr;7(4):312-20]
【0354】
(e)海馬・認知・運動機能に対する効果の加齢げっ歯類モデル[Kobilo et al, 2014, Learn Mem. Jan 17;21(2):119-26; Creed et al, 2019, Neuroscience. Jun 15;409:169-179; Van Skike et al, 2020, Aging Cell. 19; e13057]
【0355】
加齢したげっ歯類動物は、認知能力の生化学的及び機能的変化を裏付ける海馬の神経変性を自然に発生させる。ミトコンドリアエネルギー産生の一部としての神経細胞におけるグルタミン利用との間の緊密な関係を考慮すると、グルタミン/グルタミン酸軸を海馬の健康状態の代用として捉えることができる。
【0356】
(f)一側性尿管閉塞性腎臓病モデル(UUO)[Chevalier et al, 2009, Kidney Int 75(11): 1145-1152]。
【0357】
UUOは、尿細管細胞傷害、間質性炎症、及び線維症を特徴とする腎臓損傷を引き起こす。これは不可逆的腎後性急性腎障害(AKI)のモデルとして機能する。実験的UUOによってアポトーシス、炎症、及び線維症の分子機構が示されており、これらの全てが、一次侵襲とはかかわりなく、腎臓損傷の重要な過程である。その結果、研究者はUUOモデルから閉塞以外にも情報を得る(Chevalier et al, 2009, Kidney Int 75(11): 1145-1152)。
【0358】
実施例1をUUOモデルにおいて評価して進行性尿細管間質線維症及び慢性腎臓疾患(CKD)を緩和する前記化合物の能力を決定した。
【0359】
試験の1日目に以下の投与計画のうちの1つ、すなわち1日に2回(BID)のベヒクル、1.5mg/kgの実施例1、又は5mg/kgの実施例1(経口投与)に従って強制経口投与によって成体C57BL/6マウスに投与を行った。1日目の投与から2時間後に試験マウスは左側の尿管を2点において結索するための手術を受けた。成功したUUO手術は後に水腎症に起因する腎盂の膨張の観察により確認された。処方計画に従って10日間にわたってこれらの動物に投与を行い、この時点で腎臓を組織病理学評価及びタンパク質/RNA評価のために採取した。ピクロシリウスレッド染色を実施してコラーゲン沈着の程度を評価し、IHCを用いてα-平滑筋アクチン(α-SMA)の相対的発現を評価した。
【0360】
1日に2回(BID)投与された1.5mg/kgの実施例1と5mg/kgの実施例1(経口投与)の両方が、結索手術を受けた腎臓でのピクロシリウスレッド染色の減少によって実証されるように、コラーゲン沈着を統計学的に減少させたことが結果から示された。1日に2回(BID)の1.5mg/kgの実施例1の経口投与によりベヒクル処理対照と比較するとUUO傷害腎臓においてα-SMAレベルの統計学的減少が引き起こされることがα-SMA染色の評価によって示された。
【0361】
(g)AKIは、腎機能の多大な損害、尿細管損傷、及び炎症を生じる虚血再灌流傷害(IRI)を引き起こす両側腎茎クランプによって誘発可能である[Lu et al. 2012. J Nephrol. 25 (5): 738-45]。
【0362】
本発明のパラグラフ
【0363】
1. 以下の式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0364】
【化20】
【0365】
2. 以下の式(IA)を有するパラグラフ1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0366】
【化21】
【0367】
3. 以下の式(IB)を有するパラグラフ1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0368】
【化22】
【0369】
4. 以下の式(IC)を有するパラグラフ1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0370】
【化23】
【0371】
5. 以下の式(ID)を有するパラグラフ1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0372】
【化24】
【0373】
6. 以下の
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
(3aS,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
から選択されるパラグラフ1に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0374】
7. 以下の
(3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aS,4S,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
(3aR,4S,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、及び
(3aS,4R,6aS)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリル、
から選択されるパラグラフ6に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0375】
8. (3aR,4R,6aR)-1-(5-(2-シアノピリジン-4-イル)オキサゾール-2-カルボニル)-4-メチルヘキサヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-5(1H)-カルボニトリルであるパラグラフ7に記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0376】
9. 医薬品として使用されるパラグラフ1~8のいずれか1つのパラグラフに記載の化合物 又は薬学的に許容可能なその塩。
【0377】
10. ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症の治療又は予防に使用されるパラグラフ1~8のいずれか1つのパラグラフに記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩。
【0378】
11. ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症の治療又は予防に使用される医薬品の製造におけるパラグラフ1~8のいずれか1つのパラグラフに記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩の使用。
【0379】
12. 必要とする患者に対してパラグラフ1~8のいずれか1つのパラグラフに記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩の有効量を投与する工程を含む、ミトコンドリア機能不全に関係する健康状態、癌、又は線維症を治療又は予防するための方法。
【0380】
13. ミトコンドリア機能不全に関係する前記症状が、CNS障害、神経変性疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、虚血、脳卒中、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、ミトコンドリア脳症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群、難聴を伴う母性遺伝糖尿病、レーバー遺伝性視神経症;神経障害・運動失調・網膜色素変性症・母性遺伝リー症候群、ダノン病、糖尿病、糖尿病性腎症、代謝障害、心不全、心筋梗塞につながる虚血性心疾患、精神疾患、精神分裂病、マルチプルスルファターゼ欠損症、ムコリピドーシスII型、ムコリピドーシスIII型、ムコリピドーシスIV型、GM1-ガングリオシドーシス、神経セロイドリポフスチン症、アルパーズ病、バース症候群、β酸化欠損、カルニチン-アシル-カルニチン欠乏症、カルニチン欠乏症、クレアチン欠乏症候群、コエンザイムQ10欠乏症、ミトコンドリア複合体I欠損症、ミトコンドリア複合体II欠損症、ミトコンドリア複合体III欠損症、ミトコンドリア複合体IV欠損症、ミトコンドリア複合体V欠損症、チトクロームCオキシダーゼ(COX)欠損症、慢性進行性外眼筋麻痺症候群、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)I欠損症、カルニチンパルミチントランスフェラーゼ(CPT)II欠損症、グルタル酸尿症II型、カーンズ・セイヤー症候群、乳酸アシドーシス、長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、リー病又はリー症候群、リー症候群フランス系カナダ人変異型、致死性幼児心筋症;ルフト病;中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、ミオクロニーてんかん・赤色ぼろ線維症候群、ミトコンドリア細胞症、ミトコンドリア劣性運動失調症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群、筋神経胃腸障害・脳症、ピアソン症候群、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、POLG遺伝子変異、中鎖/短鎖3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、超長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症、ペルオキシソーム病、マロン酸メチル血症、メバロン酸キナーゼ欠損症、加齢による認知機能と筋力の低下、並びにあらゆる神経変性及び神経精神障害に付随する認知障害から選択される、パラグラフ10に記載の化合物、パラグラフ11に記載の使用、又はパラグラフ12に記載の方法。
【0381】
14. 前記神経変性疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、虚血、脳卒中、レビー小体型認知症、多系統委縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、並びにα-シヌクレイン、パーキン、PINK1、GBA、及びLRRK2の中の変異に関連するパーキンソン病、並びにパーキン又はPINK1に変異、短縮化、又は欠失がある場合の常染色体劣性若年性パーキンソン病又は早期発症パーキンソン病(EOPD)から選択される、パラグラフ13に記載の化合物、使用、又は方法。
【0382】
15. 前記神経変性疾患がリー症候群若しくはリー病、X連鎖性リー病、リー症候群フランス系カナダ人変異型、及び/又はリー病に付随する症状である、パラグラフ13に記載の化合物、使用、又は方法。
【0383】
16. 前記癌が、乳房癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頚部癌、膵臓癌、脳癌、黒色腫、骨癌、肝臓癌、軟組織癌、組織器官の癌、血液細胞の癌、CML、AML、マントル細胞リンパ腫、神経芽細胞腫、黒色腫、軟組織肉腫、脂肪肉腫、線維芽細胞肉腫、平滑筋肉腫、肝細胞癌、骨肉腫、食道癌、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、転移性癌、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、鼻咽頭癌、大腸癌、大腸癌、非小細胞肺癌、アポトーシス経路が調節不全になっているところの癌、及びBCL-2ファミリーのタンパク質に変異があるか又は同タンパク質が過剰発現若しくは過少発現しているところの癌から選択される、パラグラフ10に記載の化合物、パラグラフ11に記載の使用、又はパラグラフ12に記載の方法。
【0384】
17. 前記線維症が、外傷、炎症、組織修復、免疫反応、細胞過形成、及び細胞新形成の後に起こる細胞外マトリックス成分の蓄積に付随する線維症又は線維化障害から選択される、パラグラフ10に記載の化合物、パラグラフ11に記載の使用、又はパラグラフ12に記載の方法。
【0385】
18. 前記線維症が、主要臓器疾患、線維増殖性疾患、及び外傷に伴う瘢痕形成に付随する線維症又は線維化障害から選択される、パラグラフ17に記載の化合物、使用、又は方法。
【0386】
19. 前記線維症が、間質性肺疾患、肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、及び非アルコール性脂肪性肝炎、腎臓病、急性腎臓病、急性腎障害、慢性腎臓疾患、腎移植片機能遅延、心臓疾患又は血管疾患、眼病、全身性強皮病及び限局性強皮病、ケロイド、肥厚性瘢痕、アテローム性硬化症、再狭窄、デュピュイトラン拘縮、外科手術合併症、化学療法剤誘発性線維症、放射線誘発性線維症、事故による損傷及び火傷、後腹膜線維症、並びに腹膜線維症/腹膜瘢痕形成に付随する線維症又は線維化障害から選択される、パラグラフ18に記載の化合物、使用、又は方法。
【0387】
20. 間質性肺疾患に付随する前記線維症が、サルコイドーシス、ケイ肺症、薬物反応、感染症、膠原血管病、リウマチ性関節炎、全身性硬化症、強皮病、肺線維症、特発性肺線維症、通常の間質性肺炎、間質性肺疾患、特発性線維化肺胞炎、閉塞性細気管支炎、及び気管支拡張症から選択される、パラグラフ19に記載の化合物、使用、又は方法。
【0388】
21. 前記腎臓病が急性腎臓病、急性腎障害、又は慢性腎臓疾患である、パラグラフ19に記載の化合物、使用、又は方法。
【0389】
22. パラグラフ1~8のいずれか1つのパラグラフに記載の化合物又は薬学的に許容可能なその塩を1種類以上の薬学的に許容可能な賦形剤と共に含む医薬組成物。
【0390】
23. 以下の式(II)、式(III)、式(IV)、及び式(V)から選択される化合物であって、PGが、tert-ブチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、ベンジル、カルバメート、p-メトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、p-メトキシフェニル、トシル、トリクロロエトキシカルボニル、4-ニトロベンゼンスルホニル、及び2-ニトロフェニルスルフェニルから選択されることが好ましい保護基である前記化合物又は前記化合物の塩。
【0391】
【化25】
【0392】
【化26】
【0393】
24. 以下の式(IIA)、式(IIIA)、式(IVA)、及び式(VA)から選択されるパラグラフ23に記載の化合物又は前記化合物の塩。
【0394】
【化27】
【0395】
【化28】
【国際調査報告】