(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】浮遊型波浪減衰デバイス
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
E02B3/06 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022541286
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 TH2020000047
(87)【国際公開番号】W WO2021242182
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517113277
【氏名又は名称】ブーンリキットチェヴァ、ピチット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブーンリキットチェヴァ、ピチット
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA11
2D118BA04
2D118BA07
2D118CA03
2D118DA04
2D118FA04
2D118JA06
2D118JA12
(57)【要約】
浮遊型波浪減衰デバイスが、浮遊体100と、水平面に対して或る角度で斜めに且つ下向きに配置された波受け板200であって、前述の波受け板200の第1の端部202が、前述の浮遊体100の前方部分102に取り付けられ、前述の波受け板200の第2の端部204が、水面下に沈められる、波受け板200と、前述の波受け板200の1つの部分を介して締結ストリング310を張り渡すことにより締結ストリング310を介して浮遊体100の後方部分104に連結及び締結されるフロート300であって、浮遊体100の前方に配置される、フロート300と、を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来波に向かって配置される前方部分(102)、及び前記前方部分と反対の後方部分(104)を有する浮遊体(100)と、
水平面に対して所定の角度(θ)で斜めに且つ下向きに配置された波受け板(200)であって、前記波受け板(200)の第1の端部(202)が、前記浮遊体(100)の前記前方部分(102)に枢動的に取り付けられ、前記波受け板(200)の第2の端部(204)が、水面下に沈められる、波受け板(200)と、
締結ストリング(310)を介して前記浮遊体(100)の前記後方部分(104)につながれる少なくとも1つの第1フロート(300)と
を有する浮遊型波浪減衰デバイスであって、
前記第1フロート(300)は、前記波受け板(200)の1つの部分を通して前記締結ストリング(310)を挿入することによって前記浮遊体(100)の前記後方部分(104)につながれ、また前記フロート(300)は、前記浮遊体(100)の前方に配置されることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記波受け板(200)が、前記水平面に対して約5~60度の角度で傾けられる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記波受け板(200)の前記第2の端部が、水底に固定される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記水面下に沈んだ前記波受け板(200)の前記第2の端部(204)に締結された少なくとも1つの第2フロート(400)をさらに有し、それにより前記少なくとも1つの第2フロート(400)の浮力が、前記浮遊体(100)に関して前記波受け板(200)の前記第2の端部に後ろ向きに及ぼされる、請求項1から3までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記波受け板(200)が、複数の床板モジュール(10)から組み立てられ、各床板モジュール(10)が、前記床板モジュール(10)の縁部を貫通して延びるボルト挿入穴(12)を有し、前記複数の床板モジュール(10)は、前記ボルト挿入穴(12)のそれぞれを通してボルト(24)を挿入することによって一体に取り付けられる、請求項1から4までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記波受け板(200)に組み立てられた前記床板モジュール(10)は、平坦な表面の形態である第1の表面と、前記第1の表面の反対の第2の表面とを有し、前記第2の表面は、前記第2の表面上に固定された複数の補強フィンも有する、請求項5に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工学の分野に関し、詳細には、浮遊デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
河川又は海における波及び風の作用による河岸又は海岸線の浸食は、その地域への、特に種々の観光名所及び港湾への経済的影響をもたらす、現在の主要な問題である。
【0003】
衝突波を減衰させるために、波浪減衰デバイスが開発されてきた。そのような波浪減衰デバイスの1つの型は、波及び風の作用による沿岸浸食の問題を抱える領域において海岸線に沿って波浪減衰壁を構築するための海岸線でのセメント壁の構築及び岩石又はバラストのピリング(pilling)などの、固定構造物である。
【0004】
固定構造物型の波浪減衰デバイスの特許及び小特許の実例は、以下の通りである。「Device for Breaking Wave and Trapping Sea Sand」と題されたタイ小特許第12289号、Santi Asawasakornは、海底に埋設されたセメント鋳造基礎(cement-cast base)と、衝突波の力に従って動揺可能であるコア部分として機能するために垂直に突き出され且つ前述の基礎に接続された鉄ばね板と、を有する波浪減衰デバイスを開示しており、ここで、鉄ばね板は、波を受け止める断面積を増大させるために、発泡体で包まれる。
【0005】
「Up/Down Gate Type Wave Breaking Wall」と題されたタイ特許第67696号、Hitachi Zosen Corporationは、津波発生時などの所望のタイミングで波破壊ゲート体を上昇させるためにゲート体ブロック内の空気チャネルに空気を押し込むための予備圧縮空気供給システムを有する、波破壊壁を開示している。
【0006】
「Dam for Dissipating Wave Power and Protecting against Estuarine Sediments」と題されたタイ特許第34752号、Chulalongkorn University and Thailand Research Fundは、堆積物及び波に対する保護のためのダムとして又は係留所として利用され得るように、沿岸線から離れるように複数の列の形態で位置し且つ交互に離間され且つ波の経路に面して鋭角を形成する複数の正三角形の柱を有する、防波堤を開示している。
【0007】
上記の特許による固定波浪減衰壁は、容易且つ迅速な構築及び低費用の利点を有する。しかし、これらの構造体の大多数は、海岸線浸食を相当に効率的に保護することができないことが多い。さらに、これらの構造体は、航法及び海水流れ方向の変化への影響をもたらし、且つ、海岸線環境、海岸線漁業、及び変化に影響し得る。さらに、これらの構造体は、長期運用における浸食及び/又は堆積物蓄積に起因して、波破壊線の後ろでの沿岸線の形状変化を生じさせる可能性があり、その結果、沿岸線は、でこぼこになるか又は延長される場合があり、これは、海岸線の景観に影響を及ぼす。さらに、波浪減衰壁の破壊又は再配置もまた、困難である。
【0008】
これらの波浪減衰デバイスの別の型は、浮遊型である。この型の波浪減衰デバイスは、デバイスが水に浮かぶことができるようなフロートと、フロート体に取り付けられた、波の衝突力を軽減するためのデバイスと、を有することが多い。浮遊型波浪減衰デバイスは、以下の通りの利点、即ち、デバイスが陸地において完全に組み立てられて、次いで設置のための所望の場所へ移送され得るという利点、及び、設置場所を変更するためにデバイスが便利よく破壊又は再配置され得るという利点を有する。
【0009】
独国特許第2140187号は、2つの連続的な部分に分割された平板を有する浮遊型波浪減衰デバイスを開示しており、ここで、板の第1の部分が、波を受け止めるために斜めに沈められ、板の第2の部分が、水面と平行に浮かべられ、板の2つの部分は、適切な位置での板の浮揚性を支援するための複数のフロートを有する。
【0010】
「Combined Floating Breakwater and Power Generator」と題された米国特許第1,507,461号は、波を減衰させ且つ波から電気エネルギーを生成するための浮遊型デバイスを説明しており、このデバイスは、波を受け止めて波の衝突力を減衰させるための下向きに傾斜した表面を有するフロートの形態をした第1の部分と、傾斜した表面に沿って移動した衝突波を受け止め、且つ、水タービン羽根を回転させて電気エネルギーを生成するために受け取った水を排出するための、水槽の形態をした第2の部分と、を有する。
【0011】
しかし、上記の特許によるデバイスもまた、前方傾斜部分上の強力な衝突波に起因して第2の部分が上方へ揺り動かされる場合があり、その結果、浮遊型波浪減衰デバイスが安定性を失い得るという点で、欠点を有しており、また、デバイスは、場合によっては非常に大きな波の影響に起因してひっくり返されることすらあり得る。
【0012】
一方で、「Floating Breakwater」と題されたタイ小特許第16122号、Kasetsart Universityは、互いに接続された複数の浮遊波破壊板から構築された防波堤を開示しており、ここで、浮遊波破壊板のそれぞれは、幾何学的フレームの形態であり、フレームは、外側から網で包まれ、複数の中空フロートが、波破壊板を浮揚性にするために、フレームの内側に収容され且つフレームに固定され、濾過繊維及びフィルタもまた、波を遮断するためにフレームの内側に収容され、その結果、波の衝突力が軽減され得る。しかし、タイ特許第16122号による浮遊防波堤は、中空且つ軽量であり、そのため、防波堤は、軽快に動かされ得るか、又は、強力な水の波に起因して容易にひっくり返され得る。さらに、防波堤を一定期間使用すると、堆積物、砂、又はごみがフィルタ板及び濾過繊維上に蓄積される可能性があり、その結果、波破壊板は、首尾良く浮かべられないか又は水没する可能性すらあり、そのため、波浪減衰の効率の低下がもたらされ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】タイ小特許第12289号
【特許文献2】タイ特許第67696号
【特許文献3】タイ特許第34752号
【特許文献4】独国特許第2140187号
【特許文献5】米国特許第1,507,461号
【特許文献6】タイ小特許第16122号
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、大波の影響下でも良好な浮遊安定性を有し、且つ、過度に小さいものであってはならない波受け板の傾斜した波受け角度を維持する能力も有し、したがって波浪減衰効率が向上される、浮遊型波浪減衰デバイスを提供することである。さらに、浮遊型波浪減衰デバイスは、便利よく且つ迅速に設置、分解、及び輸送され得るように、モジュールの形態である。
【0015】
本発明の1つの実施例では、浮遊型波浪減衰デバイスが、波に面して配置される前方部分及び前方部分に対向する後方部分を有する浮遊体と、水平面(horizontal level)に対して或る角度で斜めに且つ下向きに配置された波受け板であって、前述の波受け板の第1の端部が前述の浮遊体の前方部分に取り付けられ、前述の波受け板の第2の端部が水面下に沈められる、波受け板と、前述の波受け板の1つの部分を通して締結ストリング(fastening string)を挿入することにより締結ストリングを介して浮遊体の後方部分につながれる少なくとも1つのフロートであって、浮遊体の前方に配置される、フロートと、を有する。
【0016】
前述の構成に従ってデバイスを配置することにより、波が浮遊型波浪減衰デバイスに向かって移動するときに、第1フロートに及ぼされる波の力が、締結ストリングを介して浮遊体の後方部分に伝達され、且つ、浮遊体の後方部分を引っ張るための補償抵抗力(compensating resistive force)をもたらし、その結果、浮遊体は、ひっくり返され得るまでは持ち上げられない。波が強くなればなるほど、より大きな補償抵抗力が浮遊体の後方部分に及ぼされ、したがって、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、向上された安定性を有し、さらに、デバイスを安定させるために大きな浮遊体を設計する必要もなく、そのため、デバイスの製造費用が削減され得る。
【0017】
本発明の1つの実施例では、本発明による波受け板は、水平面に対して約5~60度の角度で傾けられてよく、波受け板の第2の端部は、好ましくは、衝突波によりデバイスが所定の位置を外れて移動されるのを防ぐために、水底(waterbed)、即ち海底(又は川底)に固定されるべきである。
【0018】
本発明の別の実施例では、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、第2フロートの浮力が浮遊体に対して前述の波受け板の第2の端部に後方へ及ぼされるように、水面下に沈む波受け板の第2の端部に締結された第2フロートをさらに有し得る。
【0019】
前述の構成に従ってデバイスを配置することにより、浮遊型波浪減衰デバイスの波浪減衰効率が向上され、ここで、第2フロートに及ぼされる波の力は、締結ストリングを介して波受け板の第2の端部に伝達されて、波の及ぼす力からもたらされるモーメントに対して反対方向に回転モーメントをもたらす方向に波受け板を引っ張り、その結果、波受け板に及ぼされる波の力が相殺され得、波受け板の傾斜した波受け角度も、(水平面に対して)過度に小さくならないように維持され得る。したがって、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、向上された波浪減衰効率を有する。
【0020】
さらに、本発明によるデバイスは、それぞれが硬質板の形態である複数の床板モジュールから組み立てられる波受け板を提供することもでき、ここで、各床板モジュールは、床板モジュールの長さにわたって延在されたボルト挿入穴を有し、また、床板モジュールは、前述のボルト挿入穴のそれぞれを通してボルトを挿入することにより、互いに取り付けられる。
【0021】
前述の手段により、波受け板は、波受け板を拡張するためにより便利よく交換されるか又は組み立てられ得る。
【0022】
さらに、本発明による波浪減衰デバイスの波受け板に組み立てられる床板モジュールは、平坦な表面の形態である第1の表面、及び、前述の第1の表面に対向する第2の表面を有することができ、第2の表面はまた、第2の表面上に固定された複数の補強フィンを有する。
【0023】
前述の手段により、波受け側として機能する第1の表面は、平坦な表面の形態であり、波が直接衝突しない第2の表面は、第1の表面に対向する。第2の表面上に固定された複数の補強フィンは、波受け板を補強するのに役立つ。
【0024】
本発明の上記その他の目的及び特徴は、添付の図面と併せて、本発明の以下の詳細な説明からより疑いなく明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施例による浮遊型波浪減衰デバイスの図である。
【
図3】本発明の別の実施例による浮遊型波浪減衰デバイスの一構成の図である。
【
図5】ボルト留めにより互いに組み付けられた2つの床板モジュールの図である。
【
図6】
図5によるボルト留めにより互いに組み付けられた2つの床板モジュールの背面図である。
【
図7A】本発明による浮遊型波浪減衰デバイスの動作を示す図である。
【
図7B】本発明による浮遊型波浪減衰デバイスの動作を示す図である。
【
図8】上げ潮及び下げ潮中の
図1における浮遊型波浪減衰デバイスの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の説明は、本発明の例示的な実施例として以下に記載され、且つ、実例を示し且つこの説明を明確にするために図面を参照し、添付の図面における同様の要素は、同様の参照番号によって識別される。しかし、本発明をこの説明に限定することは意図されておらず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲において定められる。
【0027】
図1は、本発明の一実施例における浮遊型波浪減衰デバイスを示し、
図2は、
図1に示された波浪減衰デバイスの上面図を示す。
【0028】
図1及び2によれば、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、高密度ポリエチレン(HDPE:high-density polyethylene)プラスチック、ステンレス鋼、アルミニウム合金などといった、強度及び好ましくは耐食性を有する材料で作られ、且つ、浮遊体100を浮揚性にするために浮遊体の内側の中空スペースの形態である、浮遊体100を有する。浮遊体100は、浮遊体100の前方部分102に向かって矢印によって示された方向に移動する波Wに面して配置された前方部分102と、前方部分102に対向して配置された後方部分104と、を有する。
【0029】
図1によれば、浮遊型波浪減衰デバイスはまた、水平面に対して角度θで斜めに且つ下向きに配置された波受け板200を含み、前述の角度θは、好ましくは水平面に対して約5~60度であるべきである。波受け板200は、波受け板200に向かう矢印方向における波の流れに抵抗する平面に配置される。波受け板200は、平板の形態であり、また、波受け板200は、好ましくは、水抵抗力(図示せず)を軽減するために、水が波受け板を通って流れることが可能とされるように、幾つかの部分において穿孔され得る。一部の波は、波受け板200の表面に沿って上方に流れることを強いられ、且つ、波受け板200の第1の端部202を越えて流され、波受け板200の第1の端部202は、波受け板200がピボット軸110の周りで枢動され得るように、ピボット軸又はヒンジ110などを使用することにより浮遊体100の前方部分102に枢動可能に取り付けられており、波受け板200上の衝突波の水塊は、時計方向において波受け板200の第2の端部204の周りに回転モーメントをもたらし、且つ、波受け板200の第1の端部202を押し下げ、一方で、押す力が生成されて、浮遊体100の前方部分102を後方及び下方に移動させる。
【0030】
図1によれば、波受け板200の第2の端部204は、波受け板200の一部分が水没するように、水面下に沈められ、また、波受け板200の第2の端部204は、波受け板上に衝突波からの水塊を受け止めるための傾斜面が形成されるように、浮遊体100に対して前方に延長される。波受け板200の第2の端部204は、好ましくは、浮遊型波浪減衰デバイスを所与の位置に固定するために、第2の端部を鎖、ワイヤ・ロープ・スリング、ロープ、などといった締結ストリング510を介して、いかり、又はコンクリート棒で作られて土壌に埋設された基礎、又はその端部が僅かに地面より上に延長されるように海底(川底)深くに埋設された橋脚60などに固定された環62に締結することにより、海底(川底)に固定されるべきである。
【0031】
波受け板200の第2の端部204は、波受け板に連結し且つ結び付くための環220、及び/又は、巻かれた締結ストリングが自由に前後に移動され得るように締結ストリングを巻回するための回転可能な軸を有する滑車210を備え得る。
【0032】
図1によれば、フロート300が、浮遊体100の後方部分104に固定された環120により、締結ストリング310を介して浮遊体100の後方部分104に連結及び締結される。締結ストリング310は、波受け板200の第2の端部204に配置された滑車(又は、環若しくはガイドなどであり得る)210に巻回され、また、前述のフロート300は、矢印方向に移動する波Wが波受け板200に衝突する前にフロート300に衝突するように、浮遊体100の前方に配置され、その結果、衝突力は、浮遊体100にさらに伝達され、浮遊体100は、継続的に後方に移動され、そして、浮遊体100の後方部分104に配置された環120に締結された締結ストリング310を介して、フロート300の浮力に逆らう方向に引張力が生じる。
【0033】
図2に示されるように、締結ストリング310を介して浮遊体100の後方部分104に連結及び締結される2つ以上のフロート300が、設けられ得る。
【0034】
図7A及び7Bは、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスの動作を示す図面である。
【0035】
図7Aによれば、波Wが波受け板200に衝突するときに、波受け板200は、衝突力を伝達して、浮遊体100の前方部分102を後方部分104に向かって押し、浮遊体は、後方に移動され、また、浮遊体は、押され且つ沈められ、その結果、浮遊体の後方部分104は、
図7Bに示された衝突する波がない場合の浮遊体100の後方部分と比較すると、さらに後ろに移動される。この衝突力により、締結ストリング310を用いてフロート300に結び付けられた浮遊体は、フロート300を下に引っ張って水没させ、その結果、フロート300の浮力に起因する抵抗力が、波Wの衝突力に逆らって及ぼされる。浮遊体にフロートが結び付けられていない場合、浮遊体100は、反時計方向に回転され得るか、又は、浮遊体100は、ひっくり返る可能性すらある。
【0036】
図7Bは、波が既にデバイスを通り越したときの浮遊型波浪減衰デバイスの浮遊体100及び波受け板200の配置を示す。フロート300は、水面へ上昇して、締結ストリング310を介して、浮遊体100に固定された環120を引っ張り、その結果、浮遊体100の後方部分104は、ピボット軸110の周りで枢動することにより、波受け板200に向かって移動される。したがって、波受け板200は、適切な角度で傾けられる。これは、浮遊型波浪減衰デバイスが安定されて波浪減衰を常に継続的且つ効率的に行えることを支援する。
【0037】
この態様におけるデバイスの配置は、波Wが浮遊型波浪減衰デバイスに向かって矢印方向に移動するときに、フロート300に及ぼされる波Wの力が締結ストリング310を介して浮遊体100の後方部分に伝達され、それにより、浮遊体100の後方部分104を下方に引っ張るための補償抵抗力が生じ、その結果、補償抵抗力が、転覆につながり得る上方への傾きをしないように浮遊体100を支援する、という利点を有する。したがって、波が強くなればなるほど、より大きな補償抵抗力が浮遊体100の後方部分に及ぼされる。したがって、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、良好な安定性を有し、さらに、デバイスを安定させるために大きな浮遊体100を設計する必要がなく、そのため、デバイスの製造費用が削減され得る。
【0038】
本発明の別の実施例では、浮遊型波浪減衰デバイスはまた、少なくとも1つの追加のフロート400をさらに有し得る。フロート400は、浮遊体100に対して波受け板200の第2の端部に後方へ力が及ぼされるように、水面下に沈められた波受け板200の第2の端部204に締結される。
【0039】
フロート400は、海底(川底)Eに埋設されたコンクリート基礎50又はいかり、橋脚、などといった同種のものに固定された環52を介して、波受け板200の第2の端部204の環220に連結及び締結される。
【0040】
前述の態様におけるデバイスの配置はまた、波浪減衰デバイスの波浪減衰効率を強化するのに役立ち、ここで、波受け板200の環220に締結されたフロート400に及ぼされる波Wの力は、締結ストリング410を介して波受け板200の第2の端部204に伝達されて、波Wの及ぼす力からもたらされるモーメント(時計方向)とは反対方向(反時計方向)の回転モーメントをもたらす方向に波受け板200を引っ張り、その結果、波受け板200に及ぼされる波の力も相殺され得る。さらに、フロート400はまた、波受け板200の環220に及ぼされる引張力を常にもたらし、波受け板200の波受け面の傾斜角度は、適切な水準であるように維持され得、したがって、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、常に良好な波浪減衰効率を有する。デバイスにフロート400が設置されておらず、且つ、大きな波Wがデバイスに向かって移動する場合、波受け板200の面は、少しの間、ほぼ水平面に又は過度に小さな傾斜角度に傾斜されるように押し下げられる可能性があり、その結果、波Wの水塊の大部分が波受け板200を越えて海岸線に向かって移動され得、したがって、デバイスは、期待された通りに波を効率的に減衰させることができない。
【0041】
図8は、上げ潮又はデバイスが大波の波頭に位置している間(破線)及び下げ潮又はデバイスが小波の谷に位置している間(実線)中の
図1における浮遊型波浪減衰デバイスの動作を示す図面である。フロート400は、浮遊体100及び波受け板200の高さが比較的一定であるように維持すること、並びに波受け板200の傾斜角度が完全な上げ潮(又は大波)期間と完全な下げ潮(又は小波)期間との間で大きく異ならないように維持することに役立つ。
【0042】
(破線で示された)完全な上げ潮期間では、浮遊体100及び(部分的に示された)波受け板200は、上方に移動され、波受け板200は、締結ストリング410を引っ張り、ひいてはフロート400を下方に引っ張る。(実線で示された)完全な下げ潮期間では、浮遊体100及び波受け板200は、下方に移動され、フロート400は、上方に移動され、その結果、引張力が、締結ストリング410を介して波受け板200に及ぼされる。この配置によれば、締結ストリング510を伴うフロート400は、浮遊体100及び波受け板200を所与の位置に保持することを柔軟に支援し、そのため、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、容易にはひっくり返らず、また、その全体的な安定性が向上される。
【0043】
フロート400は、上げ潮期間及び下げ潮期間の両期間中に波浪減衰デバイスの波受け板の傾斜角度を適切な位置に維持するのに役立つ。例えば、下げ潮中、浮遊体100は、水位に従って下方に移動され、それにより、波受け板200の傾斜角度が減少されるように、波受け板200の第1の端部202が下方に移動され得る。一方で、波受け板200の第2の端部204も下方に移動され、フロート400に結び付けられた締結ストリング410は、後方へ移動され、フロート400は、上方へ移動され、その結果、波受け板200の第2の端部204に及ぼされる引張力が、波受け板200を後方に引っ張り、波受け板200の傾斜角度は、第1の端部202の移動を相殺するために増大され、したがって、波受け板の傾斜角度は、特に変更されない。したがって、波浪減衰デバイスの波受け板200の傾斜角度は、適切な位置に維持され、波浪減衰デバイスは、穏やかな波の間は誤った方向に移動しないように支援され、一方で、波浪減衰デバイスは、自然の水位に従って上方及び下方に移動され得、また、波浪減衰デバイスは、効率的に動作され得る。
【0044】
次に、本発明の別の実施例が、
図3を参照することによって説明される。
【0045】
図3は、本発明の別の実施例による浮遊型波浪減衰デバイスの構成を示す。この構成は、橋脚又はコンクリート基礎50を設置するための領域における海底(川底)Eが橋脚又はコンクリート基礎60を設置するための海底(川底)Eよりも浅いことを除けば、
図1に示された浮遊型波浪減衰デバイスの構成と似ている。
【0046】
図3によれば、コンクリート基礎60は、コンクリート基礎60に固定された環62及び滑車64を有する。波受け板200は、締結ストリング510を介して、コンクリート基礎60に固定された環62に締結され、一方で、締結ストリング410は、コンクリート基礎50の環52(好ましくは、摩擦力を軽減するのを支援するための滑車であるべきである)を通して張り渡され、そしてより深い水位に配置されたコンクリート基礎60上の滑車64を通して張り渡されてフロート400に結び付けられるために、波面側に向かって折り返される。したがって、フロート400は、浮遊体100の前方に配置され、つまり、波Wは、浮遊体100の前にフロート400に衝突し、波の力は、適切な水準にあるべき波受け板200の波受け面の傾斜角度を維持するのを支援するように、フロート400の浮力と一緒に、波受け板200の第2の端部204に及ぼされる力を生成して、第2の端部204を浮遊体100に関して後方に移動させる。したがって、本発明による浮遊型波浪減衰デバイスは、
図1に示された第1の実施例の構成と同じ方法で、良好な波浪減衰の効率を有する。
【0047】
したがって、
図3に示された実施例によるデバイスの配置は、海底(川底)勾配を有する海岸線領域における浮遊型波浪減衰デバイスの設置に適しており、また、デバイスは、浅い水域に設置され、そのため、本実施例の設置はまた、フロート400がもつれること又は浮遊体100と干渉することを防止する。
【0048】
次に、波受け板200の1つの構成要素である床板モジュール10を説明するために、
図4~6を参照する。
【0049】
波受け板200は、好ましくは、波の強さを減衰させるために波衝突側に平坦な表面を有する硬質板であるべきである。波受け板200は、硬質材料、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、などといった良好な耐海水腐食性を有する金属で作られるか、又は、高密度ポリエチレン(HDPE)、ナイロン、などといった耐久性プラスチックで作られ得る。
【0050】
1つの例示的な実施例では、波受け板200は、複数の床板モジュール10-1、10-2を有することができ、ここで、床板モジュール10-1、10-2のそれぞれは、床板モジュール10の縁部を貫通して延在されたボルト挿入穴12を有し、また、床板モジュールは、
図5及び6に示されるように、前述のボルト挿入穴12のそれぞれにボルト24を挿入することにより、互いに取り付けられる。
【0051】
図4及び5に示されるように、床板モジュール10-1、10-2のそれぞれは、平坦な表面の形態である第1の表面、及び、第1の表面に対向する第2の表面を有する。床板モジュール10-1、10-2は、床板モジュール10-1、10-2を組み付けることにより、所望のサイズを有する波受け板200に組み立てられ得、ここで、各モジュールのボルト挿入穴12は、互いに位置合わせされ、少なくとも1本の(好ましくは2本の)ボルト24が、位置合わせされたボルト挿入穴12のそれぞれを通して挿入される。
【0052】
図6によれば、第2の表面は、第2の表面上に固定された複数の補強フィン30を有する。第1の列では、補強フィン30は、互いに平行であり、また、第1の列は、床板モジュール10-1及び10-2を補強するために、補強フィン30に対して垂直方向に補強フィン30を貫通して挿入され且つある間隔で離間された、補強部材26を有する。さらに、補強フィン30は、波が補強フィン30に直接衝突しないように、波受け板200の裏に位置し、したがって、補強フィン30は、全体としてデバイスの安定性に影響し得る水抵抗力をもたらさない。
【0053】
上述のように、浮遊体100、波受け板200、及びフロートは、高密度ポリエチレン(HDPE)、ステンレス鋼、アルミニウム合金、などといった軽量且つ耐腐食性を有する硬質材料で作られるべきである。浮遊体100は、中空体の形態であり、且つ、多面体形状を有し得る。一方で、常に水中に沈められる他の要素は、以下の通りである:環及び滑車は、金属合金などの硬質材料、又はナイロンなどといった良好な耐腐食性を有する強靱且つ滑りやすいプラスチックで作られるべきであり、締結ストリング310、410及び510は、ワイヤ・ロープ・スリング、鎖、ロープ、などといった良好な柔軟性及び耐腐食性を有する強靱且つ強固な材料で作られるべきである。
【0054】
本発明は、詳細な説明において説明され、且つ、添付の図面において実例として示されたが、様々な修正及び変更が、当業者により本発明においてなされ、且つ、本発明の範囲及び目的に含まれ得ることが、理解されるであろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲において提示される本発明の実施例に従う。しかし、本発明の範囲は、特に特許請求の範囲においてカバーされるのみならず、特許請求の範囲において提示される本発明の実施例のその利用及び実施などのものにおいてもカバーされる。
【手続補正書】
【提出日】2021-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来波に向かって配置される前方部分(102)、及び前記前方部分と反対の後方部分(104)を有する浮遊体(100)と、
水平面に対して所定の角度(θ)で斜めに且つ下向きに配置された波受け板(200)であって、前記波受け板(200)の第1の端部(202)が、前記浮遊体(100)の前記前方部分(102)に枢動的に取り付けられ、前記波受け板(200)の第2の端部(204)が、水面下に沈められる、波受け板(200)と、
締結ストリング(310)を介して前記浮遊体(100)の前記後方部分(104)につながれる少なくとも1つの第1フロート(300)と
を有する浮遊型波浪減衰デバイスであって、
前記波受け板(200)は、前記締結ストリング(310)をガイドするために、前記波受け板(200)の前記第2の端部(204)にガイド手段(210)をさらに有し、
前記第1フロート(300)は、前記
ガイド手段(210)を通して前記締結ストリング(310)を挿入することによって前記浮遊体(100)の前記後方部分(104)につながれ、また前記フロート(300)は、前記浮遊体(100)の前方に配置されることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記波受け板(200)が、前記水平面に対して約5~60度の角度で傾けられる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記波受け板(200)の前記第2の端部が、水底に固定される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記水面下に沈んだ前記波受け板(200)の前記第2の端部(204)に締結された少なくとも1つの第2フロート(400)をさらに有し、それにより前記少なくとも1つの第2フロート(400)の浮力が、前記浮遊体(100)に関して前記波受け板(200)の前記第2の端部に後ろ向きに及ぼされる、請求項1から3までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記波受け板(200)が、複数の床板モジュール(10)から組み立てられ、各床板モジュール(10)が、前記床板モジュール(10)の縁部を貫通して延びるボルト挿入穴(12)を有し、前記複数の床板モジュール(10)は、前記ボルト挿入穴(12)のそれぞれを通してボルト(24)を挿入することによって一体に取り付けられる、請求項1から4までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記波受け板(200)に組み立てられた前記床板モジュール(10)は、平坦な表面の形態である第1の表面と、前記第1の表面の反対の第2の表面とを有し、前記第2の表面は、前記第2の表面上に固定された複数の補強フィンも有する、請求項5に記載のデバイス。
【国際調査報告】