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特表2023-528129ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用
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  • 特表-ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230627BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230627BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230627BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230627BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230627BHJP
   C01B 35/12 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/052
C01B35/12 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556524
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 CN2022073037
(87)【国際公開番号】W WO2022237230
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】202110517419.4
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】王壮
(72)【発明者】
【氏名】張樹濤
(72)【発明者】
【氏名】李子▲たん▼
(72)【発明者】
【氏名】王亜州
(72)【発明者】
【氏名】馬加力
(72)【発明者】
【氏名】白艶
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用を提供する。該ホウ素酸化物被覆四元正極材料は、四元正極材料基体と、ホウ素酸化物被覆層とを含み、ホウ素酸化物被覆層は四元正極材料基体の表面に設けられ、四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)である。四元正極材料基体の表面に均一で完全なホウ素酸化物被覆層が存在し、上記被覆層がB被覆層であることにより、ホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四元正極材料基体と、ホウ素酸化物被覆層とを含み、前記ホウ素酸化物被覆層は前記四元正極材料基体の表面に設けられ、前記四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)である、ことを特徴とするホウ素酸化物被覆四元正極材料。
【請求項2】
四元正極材料の粒子径が8μm~12μmである、ことを特徴とする請求項1に記載のホウ素酸化物被覆四元正極材料。
【請求項3】
前記ホウ素酸化物被覆層の厚さが5nm~10nmである、ことを特徴とする請求項1に記載のホウ素酸化物被覆四元正極材料。
【請求項4】
四元正極材料基体とホウ素源とを含む混合物に第1酸化焼結を行い、前記ホウ素酸化物被覆四元正極材料を得るステップであって、前記四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)であり、前記ホウ素源はメタホウ酸及びピロホウ酸から選ばれる1種又は2種であるステップを含む、ことを特徴とするホウ素酸化物被覆四元正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1酸化焼結の焼結温度が150℃~350℃、時間が4h~12hである、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1酸化焼結は、順次行われる第1段階及び第2段階に分けられ、前記第1段階の焼結温度が前記第2段階の焼結温度よりも低い、ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1段階の焼結温度が150℃~200℃で、時間が1h~5hである、ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2段階の焼結温度が200℃~350℃で、時間が3h~7hである、ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素源と前記四元正極材料基体との質量比が、0.001~0.003:1である、ことを特徴とする請求項4~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記四元正極材料基体と前記ホウ素源とを混合して、前記混合物を得る混合工程をさらに含む、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合工程は、
前記四元正極材料基体と前記ホウ素源とを混合して、速度2000rpm~3000rpm、時間10min~20minの第1撹拌を行い、前記四元正極材料基体とホウ素源との混合物を得ることを含む、ことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記四元正極材料基体を製造する工程をさらに含み、
前記製造の工程は、NiCoMnAl(1-x-y-z)OHとLiOHとの混合物に第2酸化焼結を行い、前記四元正極材料基体を得ることを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項13】
前記LiOHと前記NiCoMnAl(1-x-y-z)OHとのモル比が1~1.5:1であり、好ましくは、前記第2酸化焼結の焼結温度が650℃~800℃で、時間が4h~12hである、ことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
四元正極材料基体を洗浄する工程をさらに含み、
前記洗浄の工程は、洗浄液と前記四元正極材料基体とを含む分散液に第2撹拌を行った後に乾燥することを含み、好ましくは、前記第2撹拌の速度が200rpm~400rpmで、時間が5min~15minであり、好ましくは、前記乾燥の温度が100℃~200℃で、時間が5h~15hである、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項15】
正極材料と、負極材料と、電解液とを含むリチウムイオン電池であって、
前記正極材料は四元正極材料を含み、前記四元正極材料は請求項1~3のいずれか1項に記載のホウ素酸化物被覆四元正極材料又は請求項4~14のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたホウ素酸化物被覆四元正極材料である、ことを特徴とするリチウムイオン電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池の分野に関し、具体的には、ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、現在最も広く応用されている電気化学動力源となっており、この電池の中で最も代表的なのはリチウムイオンの正極及び負極への吸蔵・放出により化学電位の変化が発生して電気エネルギーを生成するリチウム二次電池(LIBs)である。一方、正極材料はLIBsの性能に直接主導的な役割を果たすため、多くの研究者が、大容量で、充放電速度が速く、サイクル寿命が長いリチウムイオンの可逆的な吸蔵・放出が可能な正極材料の実現に取り組んでいる。現在、高ニッケル材料は、ニッケル含有量を増加させることでリチウムイオン電池の比容量を向上させることができるため、最も有望な候補材料と考えられている。しかし、ニッケル含有量の増加によるリチウムイオン電池のサイクル安定性の劣化は、この方法の成功を妨げる可能性がある。
【0003】
また、高ニッケル材料のうち四元多結晶材料は、三元正極材料に比べ、安全性とサイクル安定性の面でより優位性があり、現在最も将来性のある材料の一つとなっている。しかし、現在、高ニッケル四元正極材料の残留アルカリを下げる方式は、主に水洗プロセスによるが、水洗後、リチウム残渣は取り除かれ、格子中のリチウムイオンと格子外のリチウムイオンとでより大きな濃度差があるため、材料は電子移動のない脱リチウム反応を起こしやすくなり、従って、Ni3+/Ni2+の転化を起こしやすくなり、また、水洗後の材料は表面が粗く、比表面積が大きくなり、電解液との接触面積が大きくなり、副反応がより激しくなる。この問題を解決するために、よく使われる改質方法は、材料の表面を被覆することであるが、高ニッケル四元正極材料では、高温で被覆すると材料の表面にリチウムが析出し、pHが上昇し、このため、低温被覆が必要とされ、一般的な低温被覆剤は主にホウ酸であるが、ホウ酸と正極材料との高速混合過程で温度上昇による脱水が発生し、材料表面への被覆が不均一になるため、一部の高ニッケル四元正極材料は被覆されておらず、電解液と接触して副反応を起こし、結果として、電池のサイクル安定性劣化を招く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、従来技術において四元正極材料のサイクル安定性が悪いという問題を解決するために、ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成させるために、本発明の一態様によれば、四元正極材料基体と、ホウ素酸化物被覆層とを含み、ホウ素酸化物被覆層は四元正極材料基体の表面に設けられ、四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)である、ホウ素酸化物被覆四元正極材料を提供する。
【0006】
さらに、上記四元正極材料の粒子径が8~12μmである。
【0007】
さらに、上記ホウ素酸化物被覆層の厚さが5~10nmである。
【0008】
本発明の別の態様によれば、四元正極材料基体とホウ素源とを含む混合物に第1酸化焼結を行い、ホウ素酸化物被覆四元正極材料を得るステップであって、四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)であり、ホウ素源はメタホウ酸及びピロホウ酸から選ばれる1種又は2種であるステップを含む、ホウ素酸化物被覆四元正極材料の製造方法を提供する。
【0009】
さらに、上記第1酸化焼結の焼結温度が150~350℃で、時間が4~12hである。
【0010】
さらに、上記第1酸化焼結は順次行われる第1段階及び第2段階に分けられ、第1段階の焼結温度が第2段階の焼結温度よりも低い。
【0011】
さらに、上記第1段階の焼結温度が150~200℃で、時間が1~5hである。
【0012】
さらに、上記第2段階の焼結温度が200~350℃で、時間が3~7hである。
【0013】
さらに、上記ホウ素源と四元正極材料基体との質量比が0.001~0.003:1である。
【0014】
さらに、第1酸化焼結は第1酸素含有ガス中で行われる。
【0015】
さらに、上記第1酸素含有ガス中の酸素の体積濃度が20~100%であり、第1酸素含有ガスの流量が10~20L/minである。
【0016】
さらに、上記製造方法は、四元正極材料基体とホウ素源とを混合して、混合物を得る混合工程をさらに含む。
【0017】
さらに、上記混合工程は、四元正極材料基体とホウ素源とを混合して、第1撹拌を行い、四元正極材料基体とホウ素源との混合物を得ることを含む。
【0018】
さらに、上記第1撹拌の速度が2000~3000rpmで、時間が10~20minである。
【0019】
さらに、上記製造方法は、四元正極材料基体を製造する工程をさらに含み、製造工程は、NiCoMnAl(1-x-y-z)OHとLiOHとの混合物に第2酸化焼結を行い、四元正極材料基体を得ることを含む。
【0020】
さらに、上記LiOHとNiCoMnAl(1-x-y-z)OHとのモル比が1~1.5:1である。
【0021】
さらに、上記第2酸化焼結の焼結温度が650~800℃で、時間が4~12hである。
【0022】
さらに、第2酸化焼結は第2酸素含有ガス中で行われる。
【0023】
さらに、上記第2酸素含有ガス中の酸素の体積濃度が20~100%であり、第2酸素含有ガスの流量が5~10L/minである。
【0024】
さらに、上記製造方法は四元正極材料基体を洗浄する工程をさらに含み、洗浄工程は、洗浄液と四元正極材料基体とを含む分散液に第2撹拌を行った後に乾燥することを含む。
【0025】
さらに、上記第2撹拌の速度が200~400rpmで、時間が5~15minである。
【0026】
さらに、上記乾燥の温度が100~200℃で、時間が5~15hである。
【0027】
さらに、上記洗浄液は水を含む。
【0028】
本発明のさらなる態様によれば、リチウムイオン電池を提供する。該リチウムイオン電池は、正極材料と、負極材料と、電解液とを含み、正極材料は四元正極材料を含み、四元正極材料は、上記のいずれかのホウ素酸化物被覆四元正極材料又は上記のいずれかの製造方法によって製造されるホウ素酸化物被覆四元正極材料である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の技術的解決手段を用いると、メタホウ酸及び/又はピロホウ酸を含むホウ素源を四元正極材料基体とともに酸化焼結することにより、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも高温で放出する水分が少ないので、酸化焼結を行ってホウ素酸化物被覆層を形成する際に、ホウ酸が水分を放出することにより系の粘度が上昇してホウ素源と四元正極材料基体とが均一に混合されにくくなるという問題がなく、これによって、四元正極材料基体に対する均一な被覆を図ることができ、酸化焼結後のホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。また、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも除去する必要がある水が少ないので、上記酸化焼結の反応効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本願の一部となる明細書の図面は本発明をさらに理解するために提供されるものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は本発明を解釈するものであり、本発明を不適に限定するものではない。
図1】本発明の実施例1で製造される四元正極材料の走査型電子顕微鏡像を示す。
図2】本発明の実施例1で製造される四元正極材料の初回充放電曲線図を示す。
図3】本発明の比較例1で製造される四元正極材料の初回充放電曲線図を示す。
図4】本発明の実施例1で製造されるホウ素酸化物被覆四元正極材料の1段酸化焼結の温度上昇曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
なお、矛盾しない限り、本願の実施例及び実施例における特徴は互いに組み合わせられてもよい。以下、図面を参照して、実施例をもって本発明を詳細に説明する。
【0032】
本願の背景技術に記載の通り、従来技術においてホウ酸を原料として製造される被覆四元正極材料では、被覆の不均一さにより一部の四元正極材料が露出し、使用に際してこの部分の露出した四元正極材料が電解液と激しく副反応を起こし、リチウムイオン電池のサイクル性能低下を招く。上記の問題を解決するために、本願は、ホウ素酸化物被覆四元正極材料、その製造方法及び使用を提供する。
【0033】
本願の代表的な実施形態によれば、四元正極材料基体と、ホウ素酸化物被覆層とを含み、ホウ素酸化物被覆層は四元正極材料基体の表面に設けられ、四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1である。)であるホウ素酸化物被覆四元正極材料を提供する。
【0034】
四元正極材料基体の表面に均一で完全なホウ素酸化物被覆層が存在し、上記被覆層がB被覆層であることにより、ホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。
【0035】
本願のホウ素酸化物被覆層において活物質がほぼないため、ホウ素酸化物被覆四元正極材料は、ホウ素酸化物被覆層の割合の大きさがその電気特性に影響を与える。さらに好ましくは、四元正極材料の粒子径が8~12μmであり、好ましくはホウ素酸化物被覆層の厚さが5~10nmである。上記条件を満たすホウ素酸化物被覆四元正極材料は、ホウ素酸化物による副反応低下の効果を十分に果たす一方、材料に多くの活物質を含め、材料へ良好な電気特性を持たせる。
【0036】
当業者が本願の上記ホウ素酸化物被覆四元正極材料を容易に取得できるために、本願の別の代表的な実施形態によれば、四元正極材料基体とホウ素源とを含む混合物に第1酸化焼結を行い、ホウ素酸化物被覆四元正極材料を得るステップであって、四元正極材料基体はLiNiCoMnAl(1-x-y-z)(ただし、a=1~1.06、x=0.8~0.9、y=0.01~0.1、z=0.01~0.1)であり、ホウ素源はメタホウ酸及びピロホウ酸から選ばれる1種又は2種であるホウ素酸化物被覆四元正極材料の製造方法を提供する。
【0037】
メタホウ酸及び/又はピロホウ酸を含むホウ素源を四元正極材料基体とともに酸化焼結することにより、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも高温で放出する水分が少ないので、酸化焼結を行ってホウ素酸化物被覆層を形成する際に、ホウ酸が水分を放出することにより系の粘度が上昇してホウ素源と四元正極材料基体とが均一に混合されにくくなるという問題がなく、これによって、四元正極材料基体に対する均一な被覆を図ることができ、酸化焼結後のホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。また、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも除去する必要がある水が少ないので、上記酸化焼結の反応効率が向上する。
【0038】
いくつかの実施例では、第1酸化焼結の焼結温度が150~350℃で、時間が4~12hである。低温で上記酸化焼結を行うことにより、四元正極材料が高温で焼結されることによるリチウムの析出の問題を回避し、四元正極材料基体中のリチウムの損失を最低に抑える。一方、製造方法全体のエネルギー消費及びコストを効果的に低下させ、プロセスコストを低下させる上に、性能がより優れた正極材料が得られる。
【0039】
メタホウ酸及びピロホウ酸が高温では水を失うことを考慮して、水分を十分に除去しながら、水分除去中にホウ素元素と四元正極材料基体との混合均一性を確保するために、いくつかの実施例では、上記第1酸化焼結は順次行われる第1段階及び第2段階に分けられ、第1段階の焼結温度が第2段階の焼結温度よりも小さい。上記第1段階の低温焼結により、メタホウ酸及びピロホウ酸中の水分を除去してから、高温で酸化焼結反応を行う。好ましくは、上記第1段階焼結の温度は150~200℃で、時間は1~5hであり、好ましくは、上記第2段階焼結の温度は200~350℃で、時間は3~7hである。第1段階では、上記低い温度で酸化焼結を行い、均一な溶融体を形成して四元正極材料基体の表面に被覆した後、200℃以上に加熱して溶融体に酸化焼結反応を発生させて、強く被覆されたホウ素酸化物被覆層を形成することで、酸化物被覆層と四元正極材料基体との結合の安定性が向上しつつ、被覆層自体の均一性が高くなる。上記2段低温酸化焼結により、使用中に四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、副反応をさらに少なくし、正極材料の容量、サイクル維持率をさらに向上させる。また、か焼温度が低いので、省エネ化や効率化、低コスト化の有益な効果が得られる。
【0040】
前記の通り、ホウ素酸化物被覆層と基体との割合が正極材料の電気特性に影響するので、両方の割合をより正確に制御するために、好ましくは、ホウ素源と四元正極材料基体との質量比は0.001~0.003:1である。酸素含有ガスの流量及び酸素含有量が反応速度に影響を与えるので、被覆層の形成速度や緻密性をできるだけ向上させ、ガスの浪費を回避するために、好ましくは、第1酸化焼結は第1酸素含有ガス中で行われ、好ましくは第1酸素含有ガス中の酸素の体積濃度が20~100%で、第1酸素含有ガスの流量が10~20L/minである。上記数値の範囲内で、ホウ素酸化物被覆層の形成速度を適切な範囲に制御することで、被覆層の均一性及び基体との結合強度がさらに確保される。
【0041】
四元正極材料基体とホウ素源との混合物を焼結するに先立って、両方の混合の均一性を向上させるために、両方を機械的手段で予め混合してもよく、例えば、いくつかの実施例では、上記製造方法は、四元正極材料基体とホウ素源とを混合して、混合物を得る混合工程をさらに含む。好ましくは、上記混合工程は、四元正極材料基体とホウ素源とを混合して、第1撹拌を行い、四元正極材料基体とホウ素源との混合物を得ることを含み、好ましくは、第1撹拌の速度を2000~3000rpm、時間を10~20minとする。前記の通り、従来技術ではホウ酸を用いて被覆する場合、撹拌速度が速い場合、ホウ酸は脱水して高粘度の溶融物となり、四元正極材料基体への被覆が不均一になり、一方、撹拌速度が低下した場合においても、ホウ酸の適切な分散が得られない。本願で使用されるメタホウ酸及びピロホウ酸では水素、酸素の含有量が低いので、高速撹拌過程で、温度上昇による脱水がなく、材料の混合均一性が確保される。
【0042】
本願で使用されるLiNiCoMnAl(1-x-y-z)は、従来技術による既存の材料であってもよいし、従来技術における既存の方法で製造されたものであってもよく、いくつかの実施例では、製造方法は、四元正極材料基体を製造する工程をさらに含み、製造工程は、NiCoMnAl(1-x-y-z)OHとLiOHとの混合物に第2酸化焼結を行い、四元正極材料基体を得ることを含む。好ましくは、LiOHとNiCoMnAl(1-x-y-z)OHとのモル比が1~1.5:1であり、好ましくは、第2酸化焼結の焼結温度が650~800℃で、時間が4~12hであり、好ましくは、第2酸化焼結は第2酸素含有ガス中で行われ、好ましくは、第2酸素含有ガス中の酸素の体積濃度が20~100%で、第2酸素含有ガスの流量が5~10L/minである。四元正極材料基体を製造することにより、基体材料の形態や元素の割合を設計、制御して、本願のホウ素酸化物被覆により適した基体材料を製造し、正極材料の電気特性をさらに向上させることができる。
【0043】
本願では、焼結後の未反応物を除去するために、従来技術でよく使用されている方法で四元正極材料基体を洗浄してもよく、このため、いくつかの実施例では、好ましくは、上記製造方法は、四元正極材料基体を洗浄する工程をさらに含み、該洗浄工程は、洗浄液と四元正極材料基体とを含む分散液に第2撹拌を行った後に乾燥することをさらに含み、好ましくは、第2撹拌の速度が200~400rpmで、時間が5~15minであり、好ましくは、乾燥の温度が100~200℃で、時間が5~15hであり、好ましくは洗浄液は水を含む。上記洗浄方法によれば、残留アルカリをできる限り除去することができる。
【0044】
本願のさらなる代表的な実施形態によれば、正極材料と、負極材料と、電解液とを含み、正極材料は四元正極材料を含み、四元正極材料は上記いずれかのホウ素酸化物被覆四元正極材料又は上記いずれかの製造方法で製造されるホウ素酸化物被覆四元正極材料であるリチウムイオン電池を提供する。
【0045】
本願のホウ素酸化物被覆四元正極材料がホウ素酸化物で均一に被覆されているので、ホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。
【0046】
以下、実施例及び比較例を参照して、本願の有益な効果をさらに説明する。
【0047】
実施例1
(1)ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物(モル比:Ni:Co:Mn:Al=90:7:2:1)とLiOHとを、1:1.025のモル比でミキサーにて乾式混合し、乾式混合後の材料を、通常のボックス炉にて、700℃、酸素雰囲気(流量20L/min)下で8hか焼した後、冷却し、粉砕して篩にかけて、四元正極材料基体を得た。
【0048】
(2)得られた四元正極材料基体と蒸留水とを1:1の割合で混合し、300rpmで10分間撹拌した後、150℃の真空乾燥オーブンで10h放置し、乾燥させた後に取り出した。
【0049】
(3)乾燥済みの四元正極材料基体とHBOとを1:0.001の質量比で乾式混合し、乾式混合ステップでは、まず、四元正極材料基体とHBOとを10min(速度2500rpm)高速撹拌し、ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物粒子の表面にメタホウ酸粉末を均一に付着した。乾式混合後の材料を180℃、酸素雰囲気(流量10L/min)で3hか焼し(第1段酸化か焼)、300℃に昇温して5h保温し(第2段酸化か焼、昇温方法は具体的には図4参照)、冷却し、篩にかけてホウ素酸化物被覆正極材料を得た。
【0050】
実施例2
ステップ(3)では、乾式混合の撹拌速度が2000rpmであった以外、実施例1と同様であった。
【0051】
実施例3
ステップ(3)では、乾式混合の撹拌速度が3000rpmであった以外、実施例1と同様であった。
【0052】
実施例4
ステップ(3)では、乾式混合の撹拌速度が1000rpmであった以外、実施例1と同様であった。
【0053】
実施例5
ステップ(3)では、乾式混合の撹拌速度が4000rpmであった以外、実施例1と同様であった。
【0054】
実施例6
ステップ(3)では、第1段酸化か焼の温度が150℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0055】
実施例7
ステップ(3)では、第1段酸化か焼の温度が200℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0056】
実施例8
ステップ(3)では、第1段酸化か焼の温度が120℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0057】
実施例9
ステップ(3)では、第1段酸化か焼の温度が230℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0058】
実施例10
ステップ(3)では、第2段酸化か焼の温度が200℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0059】
実施例11
ステップ(3)では、第2段酸化か焼の温度が350℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0060】
実施例12
ステップ(3)では、第2段酸化か焼の温度が190℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0061】
実施例13
ステップ(3)では、第2段酸化か焼の温度が380℃であった以外、実施例1と同様であった。
【0062】
実施例14
ステップ(3)では、乾式混合後の材料を300℃、酸素雰囲気下で8hか焼し、冷却し、篩にかけてホウ素酸化物被覆正極材料を得た以外、実施例1と同様であった。
【0063】
実施例15
ステップ(3)では、第1段酸化か焼においてニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸化物とHBOとを1:0.003の質量比で混合した以外、実施例1と同様であった。
【0064】
実施例16
ステップ(3)では、第1段酸化か焼においてニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸化物とHBOとを1:0.005の質量比で混合した以外、実施例1と同様であった。
【0065】
実施例17
ステップ(3)では、HBOをHに変更した以外、実施例1と同様であった。
【0066】
実施例18
(1)ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物(モル比:Ni:Co:Mn:Al=90:7:2:1)とLiOHとを1:1.025のモル比でミキサーにて乾式混合し、乾式混合後の材料を、通常のボックス炉にて、650℃、酸素含有ガス(酸素の体積濃度20%、流量5L/min)を導入する条件下で12hか焼した後、冷却し、粉砕して篩にかけて、四元正極材料基体LiNi0.9Co0.07Mn0.02Al0.01を得た。
【0067】
(2)得られた四元正極材料基体と蒸留水とを1:1の割合で混合し、200rpmで15分間撹拌した後、100℃の真空乾燥オーブンで15h放置し、乾燥させた後に取り出した。
【0068】
(3)乾燥済みの四元正極材料基体とHBOとを1:0.001の質量比で乾式混合し、乾式混合ステップでは、まず、四元正極材料基体とHBOとを10min(速度2500rpm)高速撹拌し、ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物粒子の表面にメタホウ酸粉末を均一に付着した。乾式混合後の材料を、180℃、酸素含有ガス(酸素の体積濃度20%、流量5L/min)を導入する条件下で5hか焼し(第1段酸化か焼)、300℃に昇温して7h保温し(第2段酸化か焼)、冷却し、篩にかけてホウ素酸化物被覆正極材料を得た。
【0069】
実施例19
(1)ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物(モル比:Ni:Co:Mn:Al=90:7:2:1)とLiOHとを1:1.5のモル比でミキサーにて乾式混合し、乾式混合後の材料を、通常のボックス炉にて、800℃、酸素含有ガス(酸素の体積濃度80%、流量20L/min)を導入する条件下で4hか焼した後、冷却し、粉砕して篩にかけて、四元正極材料基体Li1.06Ni0.9Co0.07Mn0.02Al0.01を得た。
【0070】
(2)得られた四元正極材料基体と蒸留水とを1:1の割合で混合し、400rpmで5分間撹拌した後、200℃の真空乾燥オーブンで5h放置し、乾燥させた後に取り出した。
【0071】
(3)乾燥済みの四元正極材料基体とHBOとを1:0.001の質量比で乾式混合し、乾式混合ステップでは、まず、四元正極材料基体とHBOとを10min(速度2500rpm)高速撹拌し、ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物粒子の表面にメタホウ酸粉末を均一に付着した。乾式混合後の材料を、180℃、酸素含有ガス(酸素の体積濃度80%、流量20L/min)を導入する条件下で1hか焼し(第1段酸化か焼)、300℃に昇温して3h保温し(第2段酸化か焼)、冷却し、篩にかけてホウ素酸化物被覆正極材料を得た。
【0072】
比較例1
(1)ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物(モル比:Ni:Co:Mn:Al=90:7:2:1)とLiOHとを1:1.025のモル比でミキサーにて乾式混合し、乾式混合後の材料を、通常のボックス炉にて、700℃、酸素雰囲気下で8hか焼した後、冷却し、粉砕して篩にかけて、四元正極材料基体を得た。
【0073】
(2)得られた正極材料と蒸留水とを1:1の割合で混合し、300rpmで10分間撹拌した後、150℃の真空乾燥オーブンで10h放置し、乾燥させた後に取り出した。
【0074】
(3)モル比換算でNi:Co:Mn:Al=90:7:2:1のニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸化物とHBOとを1:0.001の質量比で乾式混合し、乾式混合ステップでは、まず、四元正極材料基体とHBOとを10min(速度2500rpm)高速撹拌し、ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物粒子の表面にホウ酸の粉末を付着した。乾式混合後の材料を300℃、酸素雰囲気下で8hか焼した後、冷却し、篩にかけて被覆四元正極材料を得た。
【0075】
比較例2
(1)ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム水酸化物(モル比:Ni:Co:Mn:Al=90:7:2:1)とLiOHとを1:1.025のモル比でミキサーにて乾式混合し、乾式混合後の材料を、通常のボックス炉にて、700℃、酸素雰囲気下で8hか焼した後、冷却し、粉砕して篩にかけて、四元正極材料基体を得た。
【0076】
(2)得られた正極材料と蒸留水とを1:1の割合で混合し、300rpmで10分間撹拌した後、150℃の真空乾燥オーブンで10h放置し、乾燥させた後に取り出した。
【0077】
(3)モル比換算でNi:Co:Mn:Al=90:7:2:1のニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸化物を、300℃、酸素雰囲気下で8hか焼した後、冷却し、篩にかけて四元正極材料を得た。
【0078】
ボタン電池の製造
上記実施例及び比較例で製造された正極材料をそれぞれ用いて、質量比が95:2.5:2.5:5の正極材料、カーボンブラック導電剤、バインダとしてのPVDF及びNMPを均一に混合して、電池正極スラリーを製造した。このスラリーを20~40μm厚のアルミ箔上に塗布し、真空乾燥及びロールプレスを行い、正極極板とし、リチウム金属片を負極とし、電解液の配合比を1.15M LiPF EC:DMC(1:1vol%)とし、ボタン電池を組み立てた。
【0079】
材料の電気特性の測定は、藍電科技創新中心製の電池測定システムを用いて45℃で行い、測定電圧の範囲は3V~4.3Vとした。フォーメーション容量、1週、20週及び50週目の容量及び容量維持率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
以上の説明から分かるように、本発明の上記実施例は下記技術的効果を達成させる。
【0082】
メタホウ酸及び/又はピロホウ酸を含むホウ素源を四元正極材料基体とともに酸化焼結することにより、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも高温で放出する水分が少ないので、酸化焼結を行ってホウ素酸化物被覆層を形成する際に、ホウ酸が水分を放出することにより系の粘度が上昇してホウ素源と四元正極材料基体とが均一に混合されにくくなるという問題がなく、これによって、四元正極材料基体に対する均一な被覆を図ることができ、酸化焼結後のホウ素酸化物被覆四元正極材料の四元正極材料基体と電解液との接触面積を効果的に減少させ、充放電中の四元正極材料表面での副反応を少なくし、正極材料のサイクル安定性を向上させる。また、メタホウ酸及びピロホウ酸がホウ酸よりも除去する必要がある水が少ないので、上記酸化焼結の反応効率が向上する。
【0083】
以上は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明に様々な変更や変化を加えることが可能である。本発明の主旨及び原則を逸脱することなく行われる修正、等同置換や改良などであれば、本発明の特許範囲に含まれるものとする。

図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】